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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第98話☆

1名無しさん@魔法少女:2009/04/04(土) 13:25:44 ID:7HzUR6lY
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_避難所☆
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12448/#2

834こっちのがよっぽど厳罰だわ 6 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:18:59 ID:j74/SNOs
「何故だ!? 何故なんだ!? お前等一体何がしたいんだよぉぉぉ!!」

 スカリエッティは叫ぶしか無かった。こんな悔しさは今まで感じた事が無かった………。
しかし、なのははもとより他の局員もまたそんな彼を笑顔で見つめていた。

「貴様は今日から高町一等空尉殿の夫となり、高町ジェイルとして生きるのだ。
下手な刑罰等よりこっちの方が貴様にはよっぽど厳罰に値すると分かったからな。」
「私はシングルマザーでも構わなかったんだけど〜、こっちの方が面白いと思ってOKしちゃった!
この子にとってもパパがいた方が良いと思うしね。」
「な…なんだと…。」

 これで分かった。今までのなのはの正気の沙汰とは思えない奇行の数々を初めとした
スカリエッティに対する仕打ち…。全てはこの日の為。変に艱難辛苦を与えるより、
むしろ幸せを提供した方がスカリエッティに対しては毒になると管理局は考えたのだ。
人間…苦痛には耐えられても…快楽には…脆い。

「さらに貴様がその頭脳を管理局の為に尽くしてくれると言うのならば…ある程度の自由も約束しよう。」
「そんな勝手に私を信用しても良いのかな…? 私は管理局を内側から壊滅させるかもしれないぞ。」
「だから〜! そうさせない為に私がいるんじゃない! ねぇ! あ…な…た…。」
「うあああああ!! 私に寄るなぁぁぁ!! 触れるなぁぁぁぁぁ!!」

 何でこんな事になっちまったのか…とても正気の沙汰では無く得体の知れない
なのはの行動は彼にとって何者以上に恐ろしい物となっており、その慌てふためく姿に
管理局も安心と言わんばかりの顔をしていた。

「やはりな。高町一等空尉と暮らす事は奴にとって何よりの刑罰の様だ。精々仲良くするんだぞ!」
「じゃあ行こっか! これから貴方を私達の愛の巣に案内してあげる! これからも頑張ろうね!
クローン研究なんて二度とさせないけど…その代わり私が貴方の子供沢山産んであげるから!」
「うあああああ!! やめろぉぉぉ!! 離せぇぇ!! 嫌だ! そんな事するならいっそ殺せ!
私を殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 高町ジェイルと改姓させられたスカリエッティは…こうしてなのはに引張られるまま…軌道拘置所から姿を消した。

 こうして、美しくも恐ろしい若妻を手に入れたジェイル=スカリエッティ改め高町ジェイルは、
彼女に見張られ、また愛されながら管理局の為の研究に生涯を捧げざるを得なくなり…

 なのはの産んだ沢山の子供達もまた、二人の子供に相応しい才能豊かな人材に育ち
管理局の様々な分野で活躍しているそうな………

                   おしまい

835 ◆6BmcNJgox2:2009/05/23(土) 18:23:49 ID:j74/SNOs
スカ陣営側に捕まっちゃった管理局側の人達が色々やられちゃう様なパターンは
結構ある様な気もしない事もありませんが、逆に管理局に逮捕されたスカとかが…
ってパターンはあんまり無い様な気がしたので思い切ってやってしまいました。

836名無しさん@魔法少女:2009/05/23(土) 22:11:58 ID:9tFKXvLE
>アルカディア氏
オッス兄弟、相変わらず貴兄の話は良いな。お陰でコッチは涙目だよコノヤロウ!GJ!
ドロドロした展開もそれはそれで楽しみだが・・・互いに裏の無いエロ展開にも期待してますぜ
しかしグリフィスw生真面目で優等生だった君は何処に行ったww

>◆6BmcNJgox2氏
ちょ、ドクター(デフォ:DT)代われw
ユーノが滅茶苦茶黄昏れた顔で飲んだくれてる有様が幻視できたよ

しかし、実際の所スカリエッティは、他人を愛することができるのだろうか?
他人に愛されることを、受け入れることができるのだろうか?
ナンバーズを「最高傑作」とは呼んだものの、そこには自分の描いた名画を眺めるような感覚しかなかったのならば、
悲しいくらいに歪んでるね。そんな奴には最高の刑罰だ。幸せになれよ

>>恐怖のズンドコに
ちがーう!

837B・A:2009/05/23(土) 23:22:13 ID:AvRlB5jM
ようやっと書けたので投下します。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公はスバル(とエリオ)
・SSXネタもたまに含まれます
・ご都合主義
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

838UNDERDOGS 第二十五話①:2009/05/23(土) 23:23:08 ID:AvRlB5jM
駆動炉の破壊に成功したことで防衛システムの機能が大幅に低下し、クロノ達は膠着していた戦況を一気に巻き返すことができた。
抵抗は未だ根強いものの、ガジェットの連携にも乱れが生じており、彼らは道中で孤立してしまった仲間を回収しながら態勢を立て直し、
一丸となってスカリエッティのもとへ進軍していく。

「敵は浮き足立っている。怯むな、突撃!」

「うおおおおぉっ!」

ギャレットの号令で十数人の魔導師達がガジェットの群れへと切り込み、無数の攻撃魔法が鋼の戦闘機械を鉄くずへと変えていく。
被害は多いものの、立て続けにゆりかごの要所を制圧できたことや、クロノやユーノのようなエース魔導師が体を張って前に出ていることで、
彼らの士気はかつてないほどに高ぶっていた。ガジェット達はその勢いを止めることができず、無様な鉄の塊を増やしていくばかりだ。
だが、圧倒的な物量差だけはどうしようもない。50の敵を薙ぎ払ったところで、後ろには100の兵力が待ち構えているのだ。
いくら士気が高くても、その物量差を覆すのは容易なことではなかった。

「クロノ、僕が押さえている間に!」

非魔導師をバリアで庇いながら、ユーノは無数のチェーンバインドを発動させてガジェットの群れを拘束する。
それを見たクロノはギャレットに部下を下がらせるよう命じると、自身も後衛へと後退し、
デュランダルに登録されている中で最も威力のある魔法の詠唱を開始する。

「ぐっ………AMFが濃い。クロノ、早く!」

「後2秒保たせろ! よし、ユーノいくぞ!」

詠唱を終えたクロノが無数の氷柱を頭上に出現させると、ユーノはガジェットの拘束を自ら解除する。
そして、バインドの維持に回していた魔力の全てを防御魔法へと集中させ、来るべき衝撃に備える。

「クロノ、撃て!」

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

撃発音声と共に無数の氷柱がガジェットの群れに降り注ぎ、身を裂くような冷気が通路を満たしていく。
いつもより余分に魔力を込めたそれはデュランダルの氷結強化機能によって生み出された本物の氷柱であり、
着弾するとごく狭い範囲ではあるが凍結作用を持った冷気をまき散らすように改良された破格の対AMF仕様だ。
例え全滅させることができなかったとしても、敵の大部分を無力化できるはずである。

「やったか?」

全員が固唾を飲んで見守る中、視界を遮る白い靄が少しずつ晴れていく。その向こうから現れたのは、
装甲をズタズタに引き裂かれて氷漬けにされたガジェットであった。張り詰めていた空気が僅かに弛緩し、
何人かは歓声を上げてクロノを称えた。だが、その安堵は次の瞬間、絶望へと塗り替えられた。

「何………だと……?」

凍り付いたガジェットの後ろには、傷つきながらも未だ稼働している大量のガジェットが蠢いていた。
その数はクロノが予想していたよりも遥かに多く、凍り付いた仲間を無慈悲に破壊しながらこちらに向かってきている。

「こ、これは!?」

クロノの攻撃の余波から仲間を守るために張っていたバリアが音もなく消失していき、ユーノが驚愕の声を上げる。
それだけでなく、シャマルが張っていた治癒の結界も消えており、飛んでいた者も次々に墜落している。
ゆりかご内部を包み込むAMFの濃度が増していっているのだ。それによって氷柱の凍結効果が無効化され、
後方にいたガジェットは被害を免れたのである。

《聖王陛下、反応ロスト システムダウン。艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします》

無機質な合成音のアナウンスが流れたかと思うと、今までに体感したことのない濃度までAMFが高められていく。
艦の要である聖王が消失したことで、ゆりかごのメインコンピューターが自身の安全を最優先とするプログラムを
発動させたのであろう。それはつまり、生死は別として聖王が無力化されたことを意味する。

(フェイトがやったのか!? くっ、彼女は無事なのか? エリオ達は?)

飛来した熱線が、クロノの思考を中断する。咄嗟にただの鈍器と化したデュランダルで襲いかかってきたガジェットを叩き潰すが、
その後ろから更に数体のガジェットが赤いケーブルを触手のように振り回しながら飛びかかってくる。
その距離は致命的で、防御魔法も加速魔法も使えぬ現状では左右から繰り出される敵の攻撃から逃れることができない。

839UNDERDOGS 第二十五話②:2009/05/23(土) 23:23:54 ID:AvRlB5jM
「クロノ!」

ユーノの悲鳴が遠くから聞こえて、クロノは自分が酷く冷静でいることに気がついた。もうすぐはやて達と同じ場所に逝くというのに、
死が訪れる瞬間を観察する余裕すらある。まるで泥の中にいるかのように、世界の動きがゆっくりだ。

《エイミィ………フェイト…………》

逃れようのない死の運命を前にして、クロノの脳裏に大切な家族の笑顔が思い浮かんだ。
最早、これまでなのか。そんな後悔すら胸をよぎる。
その時、眩い緑の輝きが、襲いかかるガジェットを焼き払った。

「提督、伏せてください」

背後から飛び出たディードが、クロノの体を引きずり倒して被害を免れたガジェットのコアに強烈な蹴りを叩き込む。
そして、すぐさまクロノを連れて大きく後退、前線指揮官であるギャレットの名を呼ぶ。

「ギャレット」

「はっ!? じ、実弾デバイス隊、撃てぇっ!」

ギャレットの号令で鉛玉の雨が降り注ぎ、接近していたガジェットの装甲に蜂の巣模様を描いていく。
無論、魔法のように一撃必殺とはいかないが、弾幕を張ったことでガジェットを足止めすることはできる。

「すまない、オットー、ディード。助かった」

「お気になさらずに」

「みんな、これを。ありったけ持ってきた」

実弾デバイス隊の側に着地したオットーが、ライディングボードで牽引してきたケースを開錠する。
そこには爆弾やミサイルなどの質量兵器こそないものの、大小様々な実弾デバイスとそれに用いる弾薬が詰められていた。
どうやら、クラウディアに備蓄されていたものを全て持参したようだ。

「ユーノ、魔法は?」

「ダメだ、盾もバインドも作れない。バリアジャケットを維持するのが精一杯だ。君達は?」

「…………ダメです、回復は十分とは言えない。レイストームは撃てて後2発、
ディードの腕も、くっついているだけで使いものにならない」

魔法は封じられ、戦闘機人である2人も消耗が激しい。
実弾デバイスがあるとはいえ、それだけでスカリエッティがいると思われるラボまで進撃するのは難しいだろう。
一度撤退し、態勢を立て直すべきかともクロノは考えた。だが、この機を逃せばスカリエッティはゆりかごを捨て、
どこか別の次元世界に逃亡するかもしれない。敵側についていたナンバーズが全て倒された今が、
彼を捕縛する最大のチャンスなのだ。
打開策が浮かばぬまま、ただ弾薬だけが無意味に消費されていく。
その時、クロノの懐の通信機が受信を告げた。

『提督、聞こえますか?』

「グリフィスか?」

『まずいことになりました。ゆりかごがミッドの重力に引きずられています』

「何だって?」

『事実です。僕達は派手にやりすぎたのかもしれません。今のゆりかごに、ミッドの重力から逃れる術は…………』

「駆動炉を破壊したことが裏目に出たか。グリフィス、地上への被害は?」

『待ってください、今、ルキノが概算を………えっ、そんな…………』

通信機の向こうから息を呑む音が聞こえ、場違いな静寂が訪れる。

「グリフィス? グリフィスどうした?」

『クラナガンが…………』

「なに?」

『ゆりかごの落下予想地点は、首都クラナガンです』

「なっ……………」

『事実です。バリアが弱体化しているので、大部分は大気圏の摩擦熱で燃え尽きますが、
残った部分が首都を直撃…………クラナガンは、この世から消滅します』

ゆりかごがクラナガンに堕ちる。それは文字通り悪夢のような光景だ。そこにいる誰もが、性質の悪い冗談であることを望んでいた。
だが、グリフィスはこんな時に冗談を口にするような人物ではない。ならばそれは、嘘偽りのない事実なのだろう。

840UNDERDOGS 第二十五話③:2009/05/23(土) 23:24:54 ID:AvRlB5jM
「グリフィス、本局へ………いや、地上本部に打診しろ! すぐに住民の避難とゆりかごの迎撃を…………」

『無理です、地上も戦闘機人の攻撃を受けていて、とてもゆりかごの落下に対応できる状態じゃありません』

「だが、クラウディアの砲撃だけでは……………」

アルカンシェルを搭載していないクラウディアでは、ゆりかごが大気圏に突入する前に破壊し切ることができない。
ゆりかごに搭載されている質量兵器を、内部から爆破させようかともクロノは考えた。
だが、肝心の質量兵器がどこにあるのかわからなければ意味がない。
そうなってくると、自分達に残された手段はたった1つであった。

「グリフィス、今からクラウディアの炉心を暴走させるのにどれだけかかる?」

その言葉の意味を、傍らにいたユーノとオットーはすぐに理解することができなかった。
だが、グリフィスは最初からその質問が来ることをわかっていたかのように、即座に返答する。

『30分…………25分で炉心が臨界を迎え、誤差5分以内に大爆発を起こします。
アルカンシェルには遠く及びませんが、それでも十分な破壊力です』

「すぐに準備しろ。クラウディアを自爆させる」

「待って! クロノ、本気なのかい? クラウディアは君の艦だろう?」

「言っただろう、クラウディアは片道だと! 他に方法がない時は、自爆させてでもゆりかごを沈めるプランだった。
それにクラナガンには、この戦いと無関係な人々が大勢いるんだ。昨日と変わらぬ今日が来ると信じていた人達が! 
死なせる訳にはいかないだろ!」

世界の変革は、大多数の人々には無関係な出来事である。彼らが気にかけていることは、次元世界の安寧や聖王の復活などではなく、
今日一日を平穏に、幸福に過ごすことなのだ。例え正義が成されずとも、深い絶望がなければそれで良い。
明日の到来が約束されているなら、不条理に涙する者がいても構わない。戦争も政治も犯罪も、
彼らからすれば遠い別世界で起きた事件のようなものなのである。そして、大衆とは鈍感で無関心で、それ故に正直な生き物なのだ。
だから、何かが変わってしまった世界を前にしても、何事もなく朝を迎えられるのなら、自分達の幸福が脅かされないのなら、
大衆は日常の裏に潜む不条理から目を背けようとする。労働や勉学に勤しみ、友達や恋人と語らい、家族と団欒し、
ちょっとしたトラブルに悩み、傷つき、些細な出来事に笑い、涙する。そんな退屈ではあるが平穏な毎日を、
クロノ・ハラオウンは彼らから奪ってしまった。自らが掲げる正義に反するという身勝手極まりない理由から、
武力による変革を実行してしまったからだ。
かつて違法された技術を研究する施設を襲撃し、輸送列車を襲い、軍事拠点を破壊し、プロパガンタを流す。
それらは全て、世に蔓延る外道を打ち倒し、世界を正すための行いであった。
だが、その過程で今の生活を守ろうとする者達を排除せねばならず、周囲の街や自然に被害が及ぶことがあった。
その思いがどれだけ尊く、正しいものであったとしても、正義に殉じる覚悟があったとしても、
自分達がしてきた行いは社会の秩序を乱す暴力でしかないのである。
しかし、それでも彼らは生きている。
不条理に怯え、秩序を乱す者達を憎みながらも、明日はもっとより良い生活をと日々を懸命に生きている。

「僕達は、みんなから平和な昨日を奪った。その上、明日まで奪うなんて…………そんなのはご免だ!」

「明日か…………そうだね、ここにいるみんなは、明日を取り戻すために集まった仲間だ。
ミッドを見捨てるなんて、そんな選択肢は選べない」

「ユーノ」

「君に従おう。僕だって思いは同じだ」

そう言って、ユーノはクロノから視線を逸らす。
ただそれだけで、クロノはユーノの胸中を察することができた。
彼は残りたかったのだ。この混沌とした最終決戦の場のどこかにいるであろう、高町なのはと再会するために。
不可抗力とはいえ魔法の力を開花させてしまい、その運命を捻じ曲げてしまった女性に償うために。

(すまない、ユーノ)

心の中で親友に詫び、クロノは通信機で撤退命令を出すよう管制を勤めているティアナに命じる。
その命令は即座に電波となってゆりかご内で戦う者達に伝えられ、押されつつあったレジスタンス達は逃走を開始した。
無論、万が一にもスカリエッティがこの場を去らぬよう、転送ルームを制圧していた部隊には転送装置の破壊を命じることも忘れない。

841UNDERDOGS 第二十五話④:2009/05/23(土) 23:26:29 ID:AvRlB5jM
「グリフィス、コードを送るから彼女達にも伝えてくれ。『帰宅時間だ』と」

『了解しました。炉心臨界まで残り25分、ご武運を』





救いたい命があった。
守りたい魂があった。
やり直したい過去があった。
果たしたい復讐があった。
償いたい罪があった。
そして、貫きたい正義があった。
7年前、あの眩しい星空の下で大好きな人に抱かれながら、自分は強くなりたいと思った。
弱いままの自分でいたくない、炎の中から救い出してくれた人のように強くなりたいと、魔導師の道を志した。
やがて、憧れは尊敬へと代わり、自分だけの正義が胸の中に生まれた。
もちろん、辛いこともたくさんあった。自身の出生と能力、才能の有無、救えなかった命、過信から起きた過ちと挫折、
憎しみによる正義の喪失、大切な家族との死別。
その度に、あの星空を思い出して戦い続けた。それはまるで、飛べない鳥が大空を夢見て懸命に羽ばたいているようで、とても痛ましい姿であった。

(間違い…………だったのかな? あの人みたいに、強い思いを束ねれば、どんな理不尽にも負けないって。
今度こそ、この熱い思いを貫けるって…………あたしなりに、頑張ってみたのに…………)

義憤の拳は欲望の糸で絡め取られ、完膚無きまでに叩きのめされた。マッハキャリバーも半壊し、
全身の至る所でスパークが起きている。左目も機能を停止したのか、視界の半分が暗闇に包まれている。
言わば半死半生。今の自分は機能停止寸前の機械が奇跡的に稼働し続けているようなもので、いつ止まったとしてもおかしくはない。
そして、ここで抗うことを諦めたとしても、誰も咎めはしないであろう。
その死を嘆くか無謀と罵るかはわからないが、力及ばずに倒れたのだと誰もが認めてくれるはずだ。

(けれど…………)

それを是とせぬ思いが、胸の片隅でくすぶり続けていた。
辛くて苦しくて、涙が出るくらい痛いのに。叫び出したいくらい怖いのに。
魔力も体力も尽きて、リンカーコアが壊れそうなほど軋みを上げているのに、この機械仕掛けの体は倒れてはくれなかった。
それどころか、苦痛の奥から戦うための闘志が沸々と湧き上がってくる。
限界のはずなのに、まだ戦えるとこの魂は叫んでいる。

「ああ、そっか」

呟いたスバルが見たのは、倒れそうになる自分の体を支える死者の腕であった。
それも1人や2人ではない。今日までに散っていった無数の英霊達が、挫けそうになる心を必死で鼓舞してくれている。

『大丈夫よ、スバル。あなたは1人じゃない』

『そうよ、母さんの娘で、ギンガの妹なんだから』

『こんな老いぼれでも良ければ、いくらでも力を貸すぜ』

『信じてください、自分の力を。その思いを』

『忘れるな、あたしが鍛えたお前の力は守る力だ』

『届かぬのなら、届く距離まで駆けろ、スバル』

『ここで諦めたら、きっと後悔するよ。部隊長からの忠告や』

『生憎、こっちは定員だ。だからよ、もう少しだけ粘ってみろよ。俺の代わりに』

『約束がある限り、私達はいつまでも一緒です、スバル』

1人1人の言葉に込められた力は、決して大きくない。だが、無限に束ねられた言葉は太陽の光のように全身へ染み渡り、
疲れ果てた体に尽きぬ闘志が湧き上がる。

842UNDERDOGS 第二十五話⑤:2009/05/23(土) 23:27:15 ID:AvRlB5jM
(ギン姉、母さん、父さん、キャロ、ヴィータ副隊長、シグナム副隊長、八神部隊長、ヴァイス陸曹、
イクス……………みんな、一緒にいたんだ。ずっと、ずっと一緒に……………)

壊れかけの体に力が漲る。
動かぬ足が地面を捉え、握り拳が空を切り、鋭い眼差しが白い空間を睨みつける。
自分の自惚れが情けなかった。いくら思いが強くても、たった1人では底が知れている。
どんなに重ねたところでそれはただの独り善がりでしかない。
けれど、今は違う。この戦いは自分1人のものではないし、自分だけで戦っていたわけでもない。
たくさんの人々が支え、導き、護ってくれている。束ねられたその思いこそが、戦うための原動力なのだ。

「例え血で汚れた腕でも、誰かを抱き締めることはできる。こんな人殺しでも、側にいてくれた人たちがいる。
なら、この戦いはあたしだけのものじゃなくて、みんなの明日を守るための戦いなんだ。
ここまであたしを支えてくれた、この瞬間まであたしを生かしてくれた全ての人達の辛い記憶を閉ざすための」

傍らに1人の女性が降り立つ。
亜麻色の髪に白い衣装。手には深紅の宝石が取り付けられた金色の杖。
スバルが憧れ、その背中を追いかけ続けた恩師。
かつての姿と意思を取り戻した高町なのはは、この世の全ての罪科を背負ったかのような
辛い表情を浮かべながら、頭を垂れた。

『ごめんなさい、スバルに全部押し付けてしまって。本当なら、わたしが…………わたし達が終わらせるはずだったのに』

自分は現実を見失い、フェイトは戦いに敗れ、はやてはこの世を去った。
みんながこんなはずじゃなかった人生を歩まぬことを願い、戦う力をその手に取った少女達は、
志半ばにして挫けてしまった。その無念は教え子達へと引き継がれ、苦難の道を歩ませることとなった。
こんなはずではなかったのだと、なのはは我が身の未熟さと引き起こしてしまった悲劇に懺悔しているのだ。

『あの時、わたしがヴィヴィオを………………』

「良いんです、なのはさん」

悔やむ恩師の言葉を遮り、スバルは決意のこもった瞳でなのはを見上げる。

「やり直しましょう。まだ、間に合います。みんな一緒に…………あたしが終わらせますから」

辛いことも苦しいこともたくさんあった。けれど、その中で見つけた答えもある。
それを実行するためにも、散っていったみんなの無念を晴らすためにも、長く続いた戦いは終わらせなければならない。
新しい自分を始めるためには、今までの自分を終わらせねばならない。
だが、なのはは静かに頭を振った。あなたとは逝けないと。

『あの娘が泣いちゃうから。だから、スバルとは逝けない。傷つけるだけかもしれないけど、
悲しむだけかもしれないけど、それでも1人にはできない。ずっと一緒にいるって決めたから。
だから、スバルとは逝けない。わたしはヴィヴィオと逝かなくちゃ』

なのはがそう答えることを、スバルは最初からわかっていたような気がした。
彼女はいつもそうだ。自分1人で勝手に決めて、手の届かないところに逝ってしまう。
いつかは彼女のいる場所まで逝けると思っていた時もあった。しかし、自分と彼女は違う。
どんなに追いかけたところで、その高みまで昇ることはできない。
けれど、彼女と同じものを目指すことはできる。別々の道を歩きながら、同じ目標に進むことができる。
だから、ここでお別れだ。
新しい明日を始めるために、今日まで続いた悲しみを終わらせよう。

843UNDERDOGS 第二十五話⑥:2009/05/23(土) 23:28:19 ID:AvRlB5jM
『覚えている、スバル? 努力の時間は決して自分を裏切ったりしない。回り道したのなら、それだけ何かを得たはず。
だから、後は自分らしく…………自分なりに羽ばたくだけ。不屈の心は、その胸に……………』

「はい、なのはさん。私は空を飛べないけれど……………駆け抜けることはできる」

力強い頷きと共に、蒼い翼が雄々しく羽ばたく。
それを形作っているのは、ここにいる全ての英霊達の思いであった。
そして、尊敬する恩師が見守る中、たくさんの人達の思いに支えられたスバルは、白い闇の向こう側へと駆け出していった。





どんな人生においても予想外の事態とは起こり得るものである。
例えそれが、スカリエッティのような生まれる前から己の生き方を決定付けられていたとしても、
時に神は気紛れを起こしたかのように有り得ない事象を引き起こす。
その最たる具現を、人はこう呼ぶ。
奇跡と。

「バ、バカな…………」

殴られた頬を押さえながら、スカリエッティは自分の前に立ち塞がる理不尽を睨みつける。
痛みはなかったが、酷い屈辱感が湧き起こった。例えるなら、チェックメイトの宣言を終えた瞬間に
チェス板を引っくり返されたような気分であろうか。確定した勝利を有耶無耶にされることほど腹立たしいことはない。
だが、それ以上に疑問なことがあった。それは、どうして目の前の少女が立ち上がっているのかということだ。

「何故だ、確かに致命傷だったはず! 圧倒的な絶望を前にして、何が君を突き動かす!?」

「それは………あたしが1人じゃないからだ!」

怒涛の如く繰り出されるコンビネーションの勢いに圧され、スカリエッティは思わず防御しようと身構えた。
しかし、スバルの攻撃は鉄壁のはずのフィールド防御を揺るがし、不定形なはずの力場に見えない亀裂を走らせる。
AMFによって完全に魔法を封じられた状況で、絶対防御たる自身の障壁が崩れようとする有り得ない出来事を前に、
スカリエッティは動揺を隠せなかった。その僅かな隙をこじ開けんとスバルは殴りかかり、スカリエッティは益々追い込まれていく。
だが、彼とて伊達に天才と呼ばれている訳ではない。すぐにスバルの瞳が金色に染まっていることに気づき、
普段の冷静さを取り戻してスバルから距離を取る。

「なるほど、機人エネルギーか。源は違えど、魔力と機人エネルギーは類似した点が多い。
瀕死の体を一時的に立ち上がらせることもできるだろう。だが、疑問が1つ残る。
私の絶対防御は君の振動破砕が天敵だ。理論上、君の攻撃を受け止めた時点でこの体はバラバラに砕け散るはず。
だからこそ解せない。どうして、私は生きている?」

触れたものを瞬時に粉砕する彼女のISは、手加減などできる代物ではない。仮に直撃を免れたとしても、
振動エネルギーを少量でも流し込まれれば全身の骨や筋肉がズタズタに引き裂かれてしまう。
彼女は振動エネルギーを拳に纏うことで触れた箇所のみを破壊する技を有していたが、
それにしたって肉体に密着しているフィールド魔法だけを傷つけるなど不可能なはずだ。
科学者として不可解を許容できないスカリエッティは、当然の如く疑問を投げかけた。
すると、スバルは足下に転がっていた金属片を床に零れた培養液の水たまりへと蹴り込み、小さな波紋を立てて見せる。

「振動エネルギーは波紋と同じだ。小石を落とせば水たまりいっぱいに広がっていく。
けれど、大海原に小石を落としても、波紋は広がり切らない」

「流し込むエネルギー量を減らしたというのかい? そんな芸等ができる訳が……………まさか?」

ある仮説に思い至ったスカリエッティは、まだ波紋が広がっている水たまりに別の金属片を投げ入れた。
すると、水面にできた2つの波紋が互いにぶつかり合い、波打ちながら消えていく。程なくして、水たまりは元の静寂を取り戻した。

844UNDERDOGS 第二十五話⑦:2009/05/23(土) 23:29:34 ID:AvRlB5jM
「波は波で消える。自身の内部で振動エネルギーを拡散、相殺させることで放出するエネルギーを調節したのか!?
私を傷つけず、絶対防御のみを砕けるように。そんなことをすれば、君自身の体に途轍もない負荷がかかるはずだ。
体内で爆発が起きているようなものなのだよ? 立っているのも辛いはずだ。そこまでして不殺を貫くのは何故だい?
君の言う、管理局の魔導師の誇りとやらかい?」

「それもある。けど、それ以上に大切なことを思い出せたんだ、あたしが何をしたかったのかを。
この力は誰かを傷つけるためのものじゃなくて、守る力。何かを守れる自分になりたくて、あたしは魔導師になったんだ。
だから、あたしはお前を殺さない。叩きのめして、捕まえて、そして全て終わらせる。あたしの、機動六課の、
いや時空管理局とお前の因縁を、ここで終わらせる! でないと、あたしは前に進めない。あたしは1人じゃないから、
力を貸してくれているみんなの因果をここで断ち切らないと、新しい自分を始められない! この戦いは、あたし達の戦いだから。
あたし達が明日を取り戻すための戦いだから!」

「そして、君は何を得る? 私を倒したたところで、君が多くの命を奪ってきたテロリストであるということは変わらない。
そして、罪は正当化されることはあっても消えることはないのだよ。例え君が正義を成したとしても、
君を憎む者は存在し続けるだろう。どれほどの命を救ったところで、君に家族を殺された者は君を恨むだろう。
この私が、世界を変えて見せたこの私がその証明だ。それでも君は戦うと言うのかい? 取り戻した世界は、
果たして君の存在を許してくれると思うかい?」

「もしも世界があたしを拒絶するなら、それでも良い。あたしは法の裁きを受ける。
八つ裂きにされるのならそれも構わない。けれど、それはこの戦いが終わってからだ。
お前を倒して、あの懐かしかった日々を…………もう戻らないあの時間を、
みんなが取り戻した後のことだ。だから、みんなの魂をこの拳で預かる」

再び振動エネルギーが流し込まれ、フィールド魔法が歪む。
だが、冷静さを取り戻したスカリエッティは防御を抜かれる前に彼女の目が利かない左側へと回り込み、
右腕のカギ爪を振るう。スバルは横っ飛びに避けようとしたが、左足のデバイスが破損していたために
ジャンプのタイミングが崩れ、頬に一文字の傷が走る。

845UNDERDOGS 第二十五話⑧:2009/05/23(土) 23:30:15 ID:AvRlB5jM
「動きが鈍いなぁ、ゼロ・セカンド」

「くっ……………」

転がるように着地したスバルは、起き上がりながら右拳を作って身構える。
残されたエネルギーが少ないのか、スバルは反撃してこなかった。
対するスカリエッティも、荒い呼吸を吐きながらカギ爪に魔力を込めていく。
本来ならばバインドや射撃魔法で牽制したいところではあるが、AMFによって無効化されてしまうため、
魔力を飛ばす攻撃は使用できないのだ。そして、互いに消耗も激しく、次の一手が最後の攻撃となるだろう。
その一撃を凌ぐことさえできれば、目の前の憎たらしい小娘の顔を粉々に打ち砕くことができる。

(これは試練だ。私自身が運命に打ち勝てという過去からの試練だ。君は私の生み出した技術によって造られながら、
私に牙を剥く存在。私自身が過去に犯した唯一の汚点であり失敗だ。それを修正した時こそ、
私は求めていた自由な世界を手に入れることができる。君を打ち負かした時こそ、我が悲願の成就の時だ!)

最初にわざと攻撃を食らった時のような真似はもうしない。
あの時は彼女が自らの感情を押し殺していることに興醒めして攻撃を許してしまったが、
今の自分にそのような油断や慢心は微塵も存在しない。
その忌々しい社会正義をへし折って敗北感を刻みつけるために、全身全霊を賭けて放たれた一撃を捌いてみせよう。
確固たる決意を胸に、スカリエッティはカギ爪を振り上げる。
その時、彼の背後で小さな爆発音が響いた。





自分が刻一刻と別のものへと変化していくのを、カルタスはヒシヒシと感じ取っていた。
体内に埋め込まれたマリアージュの核は傷ついた体を修復せんと活性化しており、
全身の至る所が変化に伴う激痛で苛まれている。既に呼吸や脈拍は停止しているのか、
水たまりに顔が半ば浸かっているのに息苦しいとは感じなかった。
それでもカルタスは起き上がろうとしたが、どの筋肉も言うことを聞いてくれず、
指先一つ動かすこともできない。
仇敵と愛した女の妹が熾烈な戦いを繰り広げている中で、何もできないでいる自分がとても悔しく、
カルタスは血の涙を流しながら歯嚙みした。
いつかは終わるとわかっていた。
元々、この体はマリアージュの核を埋め込まれた時点で既に力尽きていたのだ。
ただ、心が死んでいなかったから動くことができただけ。死すらも喰らう執念が、
燃え尽きかけた精神をギリギリのところで繋ぎ止めていたのである。
だが、それもここまでだ。限界まで酷使された肉体は綻び、人ではない何かに変化していっている。
程なくして、自分は繁殖するだけの低能な存在へと成り果てるであろう。
復讐を果たすことも、大切な人を守ることもできずに。

(嫌だ…………それは、それだけは…………地獄に堕ちようと、辱しめを受けようと、
それだけは…………心だけは、折れたくない)

尚も諦めずに四肢を動かそうとするが、痛みが邪魔をしてうまくいかない。
ラッド・カルタスでは目の前の戦場に飛び込むこともできない。
こうしている間にも、彼女は追い込まれていっているのに。

(俺だけじゃ…………ダメ………なら、お前らの力を……………ああ、良いさ。全部くれてやる。
この体も魂も、全部食わせてやる。だから、少しだけ俺の言うことを聞け。俺が俺でいられる時間を、ほんの少しで良い)

必死で戦うスバルにギンガの姿が被る。
カルタスにはわかった、彼女も共に戦っているのだと。
妹を守るために、その魂が力を貸しているのだと。
ならば、自分も何かしなくてはいけない。どんなに惨めでも、何もせずに息絶えることだけは避けねばならない。

846UNDERDOGS 第二十五話⑨:2009/05/23(土) 23:31:01 ID:AvRlB5jM
「そんな格好悪いことしたら、あの世で呆れられるかも………ね」

そして、カルタスは抗うことを止めた。
生きようとする意思を手放し、朽ちた体が急速に死へと加速する。
最早、激痛すら感じなくなったカルタスの心に、マリアージュの意思が侵蝕を開始する。
楽しかった思い出も辛い記憶もかき消され、屈強な肉体が麗しい女性のものへと変わっていく。
すると、用途を成さなくなった外骨格が次々と弾け飛び、金属板が辺りに散らばっていく。
その中には、常に両足に装着していたギンガの形見も含まれていた。





その時、スバルはカルタスの声を聞いた気がした。
今から預かっていたものを返すから、受け取ってくれと。
それが何なのかはすぐに思い当たった。この重くなった左足を、見えぬ左目と無防備な左腕を守ってくれる武具。
そして、目の前の仇敵を叩きのめすことができる最後の武器。今こそ、幾年の月日を隔てて欠けていた半身が
母のもとへと戻ってくる。

「あれは、デバイスか?」

宙を舞う紫紺の宝石を認めたスカリエッティが、スバルに先んじてその手を伸ばす。
本能的に、あれを取られてはまずいと思ったのであろう。だが、スバルは咄嗟にウィングロードを伸ばして
スカリエッティの跳躍を阻むと、自身は渾身の力でウィングロードの壁を蹴って待機状態のブリッツキャリバーを掴み取り、
己の魂が命じるままに左腕を高々と掲げて両の拳を打ち鳴らせた。

『さあ、いくわよスバル』

『ぶつけなさい、あなたの全てを』

「ギン姉、母さん…………キャリバーズ、フォース・ドライブ!」

《Ignition》

《Get set》

衝撃波が大気を震わし、純白のローラーが半壊したマッハキャリバーに代わって左足に装着される。
正規の主を得て全ての機能を取り戻したブリッツキャリバーは、即座に右足のマッハキャリバーとデータをリンクさせ、
互いに不完全な面を補完しあう。そして、自身に備えられたリボルバーナックルとのリンク機能を発動させると、
空拳であったスバルの左腕に鋼の拳を転送させた。

《データ共有完了、ギア・エクセリオンとの同調率82%》

《ライトナックル、レフトナックル、共に異常なし》

《限界稼働時間まで残り120秒》

《問題ありません、いつでもいけます》

二対のデバイスの言葉を受け、スバルの意識は覚醒する。
初めて装着したにも関わらず、左半身に違和感は感じられなかった。
満身創痍の体は呼吸すら苦しかったが、不可思議な力が全身に漲り、自分の闘志を鼓舞している。
これは姉と母の魂の鼓動だ。2つのデバイスに込められていた想念が、自分の中に流れ込んできているのである。
ならば負ける道理はどこにもない。怒りも憎しみも捨て去り、偽りのない思いのままにこの拳を振るう。
ただそれだけだ。

847UNDERDOGS 第二十五話⑩:2009/05/23(土) 23:34:55 ID:AvRlB5jM
「いくよ、キャリバーズ」

《All right buddy》

《Yes sir》

二対の羽根が羽ばたき、着地と同時に水色の羽根をまき散らしながらスバルはウィングロードを駆け降りた。
時間にしてほんの一瞬。互いを隔てる距離をゼロへと縮めたスバルは、加速によって勢いがついた拳から
行使できる最後の振動エネルギーを放出する。

「4機のデバイスの、同時起動だと……………」

一拍遅れて、驚愕したスカリエッティが両腕を交差させる。
だが、立て続けに攻撃を受けて魔力を削り取られたことで、スカリエッティの絶対防御は
明滅を繰り返すまでに弱っていた。残された全ての力をそこに叩きこめば、突破することは可能なはずだ。

「一撃、必倒ッ!!」

「くっ、魔力が………」

右の拳が交差した腕を崩し、左の手刀がフィールドに亀裂を走らせる。
そして、間髪入れずに水色の球体をひび割れた魔力の壁に押し当て、スカリッティの態勢を突き崩す。
解き放たれるは何度も苦境から自分を救ってくれた水色の閃光。
憧れの魔導師を真似、思考錯誤を繰り返しながら編み出した自分だけの砲撃魔法。
大地を駆ける疾風の蒼。

「ディバイィィィンバスタァァァァァァッ!!!」

無限とも言える熱量が駆け巡り、苦悶しながらもスバルは機人エネルギーを放出する。
だが、押し切るためには僅かに足りない。明滅する不可視の力場は軋みを上げながら削り取られていくが、
それでもスカリエッティの本体にダメージはない。態勢を崩され、激痛でその身を焼かれながらも、
スカリエッティは渾身の魔力を込めたカギ爪で砲撃を切り裂きながら迫ってくる。

「私の勝ちだ、ゼロ・セカ………なっ!?」

砲撃を切り裂き、カギ爪を振り上げたスカリエッティが再度驚愕する。
何故なら、砲撃は一発だけではなかったからだ。先ほど放ったディバインバスターとは別に、
スバルの左手にはもう1つのディバインスフィアが保持されている。スバルは一発目を放ちながら、
左手に二発目の砲撃をチャージしていたのだ。

「砲撃の二連射だと!? どこにそれだけの力が!?」

「お前には、わからないだろう! これが不屈の………闘志だぁっっ!!」

両腕に装填されている全てのカートリッジを炸裂させ、不足しているエネルギーを補う。
もちろん、AMFによって魔法は無効化されてしまうが、スバルは構わず魔力をナックルスピナーで凝縮していく。
結果、溢れんばかりのエネルギーの奔流は暴風のようにスバルの左腕を蹂躙すると、
半ば暴発するかのよう肘から先を破裂させ、スバルの体を吹き飛ばした。
そして、全方位に向けて解き放たれた水色の渦は近くにあるものを手当たり次第に破壊していき、
視界を青く焼いていく。
全ての力を出し切って第一射を耐え切ったスカリエッティは、今度こそ防御も回避もできず、
魔砲の直撃を受けて爆炎に呑み込まれていった。








                                                         to be continued

848B・A:2009/05/23(土) 23:36:17 ID:AvRlB5jM
以上です。
自爆はやっぱりお約束だよね。
本当なら煙が晴れたところまで持っていきたかったけれど、
尺の都合でここまで。
下手したら後1話で収まらないかもしれない

849名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 00:40:51 ID:swkZKvH2
おお! 遂に永い激闘に終焉が!
今まで散っていった者達を幻視しながら奮い立つ様は実に素晴らしいですなぁ。

GJでした、物語の終末まであと少し、応援してます!

850名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 02:22:03 ID:.WA2PBAg
a

851名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 05:59:56 ID:P5q9JIsM
結局はこの展開
このラストの為にみんな死んだみたいで可哀想に思える

852名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 07:43:25 ID:c/37H/GU
>>851
結局あんたら無駄死にでしたってされるよかいいだろw

853名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 08:27:24 ID:DMJ7Ld2s
 管理世界中で戦闘機人は人を殺しまくってるし、このままじゃ、もろターミネーターの世界だぜ。
 それに管理局の実態が、こうもあからさまになったんじゃ、質量兵器に回帰する管理世界も出るだろうし
 このどさくさにロストロギアを持ち出す馬鹿も確実にいるだろうね。
 その上、聖王協会の権威も3年間も偽聖王様を担いでせいで地に落ちたし、カリムたちを聖王を否定した
異端者だと反旗を翻す原理主義者の過激派も出てくるかも・・・・・・
 スカが死に、ゆりかごが仮にクラナガンに落ちる前に破壊できても、こんなはずじゃなかった世界が後に
残るだけだろうね。
 クロノとその協力者は、テロリストとして死刑またはそれに準ずる刑罰を受けるだろうし、無印時代からの
メンバーで無傷で残りそうなのは、ユーノとフェイトくらいだが、この二人も、どの面下げて97管理外世界に
行けるかって状況だからな。

854名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 10:09:32 ID:9.LjsRn2
>>835
高町ジェイル…ご愁傷様です。
でも、成り行きの結婚だとしても幸せになれるさきっと!
子供ができていくうちにジェイルも親としての自覚となのはへの愛が目覚めたという展開をキボン
GJ!

>>848
これで全ての決着がついたのか…?
でもまだゆりかごの破壊という任務が残っている。
もう誰も死なずにすませたいけど…
そしてエリオはこれからの道どう歩んで行くんでしょう
とにかく次回も期待してます
GJ!

85526-111:2009/05/24(日) 18:10:04 ID:JziwV30Q
>>B・A氏
いよいよクライマックスですねぇ、GJでした
結末はどうなるのか。“負け犬”は“負け犬”のままなのか。続きを楽しみにしてます

一昨日からこっち涙目になりそうなくらいの良作ラッシュですねぇ。怖い怖い
さて、じゃあ覚悟ができたのでgkbrで涙目になりましょうか。投下予告です

・メインはディエチ、なのはさん。あとカルタスとか丸いのとか
・以前に投下した、ノーヴェ“隊長”とのこれから、から続く展開になります
・非エロ
・オリキャラ注意
・使用レス数24レス。投下間隔長めで落とします
・タイトル:ディエチが全力全開に目覚めた様です

それでは、投下を開始します

856ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:11:30 ID:JziwV30Q
今日も今日とて平和な海上隔離施設・・・
授業が捌けて、食事や掃除も終えてしまうと、後は就寝時刻を待つばかりとなる
昼間の賑やかな自由時間と違って、流石に夜は静かに過ごしているようだ

「・・・ふぁ」

小さな図書室でディエチは生欠伸を漏らしながら、読んでいた、というよりも眺めていた風景画集を閉じた
活字を読むのも好きだが、最近はこうした画集を眺めることにハマっている彼女である
時計に目を向ければ、時刻は既に就寝時間15分前・・・ディエチは書架に本を戻すべく立ち上がり、ぐぐっと背伸びをしてから本を手に取った

不意に、図書室のドアが開けられて、姉妹達の監督官でもある人物:ギンガが顔を覗かせた

「あ、ディエチ。ここに居たんだ」
「うん。どうかした?」
「ディエチ宛てに通信があってね。部屋に居なかったから探してたの。今、大丈夫?」
「大丈夫だけど・・・こんな時間に。誰が・・・?」



○ディエチが全力全開に目覚めた様です



ギンガに伴われて通信室に向かう
慣れた手付きで端末を操作し、通信を繋ぎ直すと・・・モニターの向こうには明るい色の髪をサイドテールに結わえた女性の姿があった

『あ、夜遅くにゴメンね。ディエチ』
「いえ、私は大丈夫です・・・なのはさん」

高町なのは一等空尉。平時に於いては航空戦技教導官として教導隊に籍を置くS+ランクの空戦魔導師。又の名を、誰が呼んだか『エースオブエース』
当人としては、そんな少々大袈裟な二つ名が面映ゆいらしいのだが、先の事件・・・JS事件を解決に導いた獅子奮迅の大活躍を鑑みれば、けして大袈裟でもない

『最後にお話できたのがいつだったっけ・・・もう一月くらいになるのかな?』
「そう、ですね。そのくらいです」
『ゴメンね。もう少し、お話できる機会があれば良いんだけど・・・』
「いえ、そんな・・・忙しいのは、知ってますから」

同じ“砲手”として、何か通じるものがあったのだろうか
事件終結後、更正プログラムを受講するようになったディエチの事を、なのはは少々気に掛けている様子である

余談ではあるが、その事を知った四女:クアットロが恐怖の余り失神してしまったこともあったりするが、まぁどうでも良い話であろう

857ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:12:30 ID:JziwV30Q
『実は、その忙しい仕事の事で、ディエチに手伝って貰いたいことがあるんだけど・・・』
「何ですか?」
『えと、その・・・ディエチ、一日教官、やってみない?』
「・・・は?」

突飛な言葉に、思わず問い返してしまうディエチであった

『実は、今度、教導を受け持つ部隊の訓練に、“重層防壁展開訓練”っていうのがあるんだけどね』
「はぁ」
『要するに、複数人数で同時にバリアを展開して、それを重ね合わせて硬い防壁を作る訓練なんだけど』
「・・・その、防壁の強度を確かめる手段が ――― 」
『うん、そういうこと・・・砲撃を撃ち込んで、抜かれなかったら合格。っていう訓練』

今頃、訓練生達は遺書をしたためているに違いあるまい。内心でそんな風に考えてしまうディエチである
教導隊の訓練がスパルタであるとは聞き及んでいたが、まさか、真正面からエースオブエースの砲撃を受け止める訓練が有るとは

「・・・でも、それならどうして私にそんな話を?なのはさんの方が適任なんじゃ・・・?」
『んー、そうなんだけど・・・実は、ちょっとリハビリ中なんだ。今、全力の砲撃を撃ったことがシャマル先生にバレたら・・・』

おっかなそうに首を竦めるなのはの姿に、ディエチは戦慄さえ感じていた
あのエースオブエースにも、敵わない人が居るんだ。と
一体、その『シャマル先生』とやらは、どれほどの剛の者なのだろうか ―――

「それじゃ、なのはさんの代役として、訓練に参加を。という事ですか?」
『うん。日程は一週間後。その日だけ付き合って貰えたら助かるんだけど・・・どうかな?』
「えっと・・・」

ディエチは、ギンガの方を振り返える
視線を巡らせた先に居る監督官殿はにっこり笑顔で頷いてみせた

「なのはさん?ギンガです。7日後でしたら大丈夫ですよ。特別な授業も無いですし」
『ありがと、ギンガ。ディエチはどう?お願いできないかな?』
「・・・わかりました。頑張ります」
『ありがとう。ディエチ。それじゃあ、夜遅くにゴメンね。詳しいスケジュールは明日にでも送るから目を通しておいて。
ギンガ、出向するのに書類仕事が必要だったら 早めに送ってくれないかな?』
「了解です。ちょっとややこしい手続きが必要ですが、まぁ、教導隊からの要請でしたらゴネる人もいないでしょう。明日の朝一番に教導隊のオフィスに送りますね」
『あはは、だと良いけど・・・それじゃ、二人共ありがとう』
「はい、失礼します。おやすみなさい」
『うん、おやすみなさい。みんなにもよろしくね』

858ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:13:30 ID:JziwV30Q
通信ウィンドウを閉じ、端末の電源を落としてディエチは席を立った
通信室を退室し、ギンガが施錠を確認して、二人は就寝時間を迎えた所為で照明の落ちた暗い廊下を歩く
ギンガがにっこりと、いつもの、どこか眠たげにも見える無表情なディエチに笑いかけた

「ディエチは、なのはさんと仲良しなのね」
「えと、そうかな・・・?仲良し、って言えるほどでも無いと思うけど」

照れ笑い、と言うにはもっと淡い。照れと恐縮と微かな喜色が混ざった、微妙な表情をディエチは俯かせた
なのはが自分に向けてくれる明るい笑顔を思い出せば、“仲良し”と言っても差し支えないと思うのだが、先の事件の中では砲口を向け合った間柄である
そのお陰で、どこか分かり合える部分があるのかも知れないが・・・命の取り合いが切っ掛けというのは、少々、複雑な心境だ

「でも、こんな風に訓練のアシスタントに抜擢されるなんて。相当に認めてくれてる証拠だと思うわよ?あのエースオブエースの代役だなんて」
「それは、嬉しいけど・・・でも、なのはさんがリハビリ中なのは、私の所為でもあるんだし・・・」

ブラスターモードの事はディエチも知っている
聖王のゆりかごの中で撃ち負けた時の事で、『どうやってあんな大出力を?』と、なのは本人に尋ねた時に教えて貰った
そして、その後遺症が今も彼女の身体とリンカーコアを蝕んでいる事を、マリエルが教えてくれた

『ディエチの所為じゃないよ。私が必要だと判断したから、全力全開を出し尽くしただけ・・・前に倒れた時に比べたら全然へっちゃらなんだし、そんなこと気にしないでね』

なのははそんな風に笑っていたけれど・・・

「私が、無茶させた分まで、頑張らないと」
「うん・・・でも、あんまり気負い過ぎちゃ駄目だよ。ディエチ」
「わかってる・・・それじゃ、おやすみなさい。ギンガさん」
「はい、おやすみなさい」

部屋に辿り着いた二人は就寝の挨拶を交わし、それぞれ別れた
寝室の中は当然真っ暗で、カーテン越しに差し込む月明かりが僅かに部屋の様子を浮き上がらせている
尤も、機人の目は暗視が利くので真っ暗だろうが何だろうが、些かも関係無いのだが
あまり広くもない部屋に二段ベッドが6つ、少々窮屈そうに並んでいる
トーレとウェンディの高鼾に混じって、姉妹達の穏やかな寝息が聞こえてくる・・・ディエチは足音を忍ばせて、自分の寝床にそっと歩み寄る

「む、ん・・・あら、ディエチちゃん・・・?今、戻ってきたの?」

起こしてしまったのか、眠っていなかったのか。二段ベッドのハシゴに手を掛けたディエチに、階下の住人が声を掛けてきた

「あ、ごめん、クアットロ。起こしちゃった?」
「ん・・・ウトウトしてたところだったけど・・・ディエチちゃんこそ、どうかしたのぉ?夜更かしなんて珍しいじゃない」
「うん、ちょっと通信室でお話しを」
「・・・こんな時間に非常識ねぇ。一体どこの常識知らずよ?」

859ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:14:30 ID:JziwV30Q
半分寝惚けているような、むにゃむにゃした声音のクアットロに、ディエチは言った

「なのはさんだけど?」
「なの

ぷっつりと言葉が途切れた事に首を傾げながら、下のベッドに横たわっている姉の顔を覗き込めば・・・どういう訳か、クアットロは一瞬で寝入ってしまっていた
ディエチが口にした名前の恐ろしさに失神していた。という方が正解なのかも知れないが、見事な寝入りっぷりである

「・・・そんなに怖がらなくても良いのに」

四女の姿に苦笑を漏らしながら、ディエチはベッドに上がると、タオルケットに潜り込んだ ―――



深夜、クアットロの絶叫(寝言)に全員が叩き起こされたりもするのだが、まぁ、どうでも良い話である



そんなこんなで、七日後・・・

転送ポートには小さな鞄を胸に抱えた平服姿のディエチと、監督官として同行することになった、ラッド・カルタス二等陸尉。そして丸っこい巨体・・・
ナンバーズのインテリジェントデバイスであるマスター型ガジェット:サンタの姿があった

「それじゃ、行ってきます」

見送りに来てくれた姉妹達とギンガにそう挨拶するディエチである

「お土産期待してるッスー!」

開口一番にそう叫ぶウェンディには、最早苦笑しか出てこない
“肩の力を抜くスキル”に関しては、やはり彼女が姉妹の中でも飛び抜けて優秀である。只の天然とも言うが

「しかし、サンタの運用許可まで下りるとはな・・・」

丸い装甲を撫でてやりながら、チンクは首を傾げて呟いた

「精密観測員としてレポートを出して欲しいらしい。君達の力は、既存の技術では量り切れない部分があるからだろうね」

カルタスの言葉に、なるほど。と頷く姉妹達である

「そういう事ならしっかりやってこいよ、サンタ。“隊長”に恥かかせるんじゃねぇぞ」
(りょ、了解です・・・頑張ります)

860ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:15:30 ID:JziwV30Q
額の、『Ⅸ』と刻印されたプレートをべしべし叩きながら、ノーヴェが物騒な口調で発した台詞に、サンタはピカピカでそう返す

「よし、それじゃあそろそろ出発しよう。ギンガ、留守中よろしく頼むよ」
「了解。お気を付けて」

にっこり笑顔で敬礼するギンガに、カルタス生真面目な答礼を返してポートを起動させた
二人と一機の姿が掻き消える・・・向かった先は、遙か彼方の訓練場だ

「・・・さ、私達も戻りましょう」

ギンガに促されて、姉妹達はそれぞれ喋りながら踵を返す・・・一人だけ、クアットロだけが、誰も居ない転送ポートの前に立ち尽くしていた

「・・・?クアットロ、どうかしたの?」
「・・・ドゥーエ姉様・・・ど、どうしましょう!?」
「はぁっ?」

いきなり、狼狽しきった叫びと共に抱き付かれて、ドゥーエは目を丸くした
周囲の驚きに反して、胸に縋り付くクアットロの、涙ぐんでさえ見える瞳はどこまでもマジである

「な、何?どうしたのよいきなり?」
「ディエチちゃんが・・・あのディエチちゃんが、悪魔に毒されちゃったら!クアットロは、どうしたら・・・!!」
「あ、あくまぁ?」

言うまでもなく、クアットロ的には「悪魔=高町なのは」である

「な、なぁ、ギン姉・・・その、ディエチが言ってた“なのはさん”ってのは、クア姉があんなにビビる程、非道い奴なのか?」

“あの”クアットロの思い掛けぬ狂態に、少々腰が引けた口調でノーヴェが尋ねてきた
彼女の問い掛けに、ギンガはそんなわけないじゃないと首を振り、

「厳しい人だって言う話はスバルからも良く聞いたし、実際その通りだったけど、それ以上に優しくて強い人だったわよ?
ディエチの事は前々から気に掛けてくれていたみたいだし、決して悪い人なんかじゃないわ」
「そうなのか・・・?」

ギンガの答えに首を傾げながらも頷くノーヴェである。が、二人の会話を聞きつけたクアットロはドゥーエの胸に縋り付いたまま猛然と食って掛かる

「心根の問題じゃないのよ!あの女は性質が悪魔なのよ!!」
「いや・・・それならクア姉も他人の事言えないんじゃない?」

呆れ混じりのセインのツッコミに、クアットロは妹がいぢめるーっ!という泣き言と共にドゥーエにぎゅーっと抱き付いてくる
困り顔になりつつも、しゃくりあげる妹の頭を撫でてやれるのが嬉しい次女殿であった

861ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:16:30 ID:JziwV30Q
――― さて、海上隔離施設から飛んだディエチ達は、クラナガンの地上本部を経由し、長距離転送で本局の訓練施設に辿り着いた
やけに物々しい視線が向けられるのは・・・主にサンタの所為であろう。局のエンブレムがプリントされたステッカーで、アピールはしているものの・・・

(・・・俺はただのインテリジェントデバイスなのに・・・)
「まぁ、こればっかりは仕方が無いよ」

ず〜ん、と落ち込むサンタを慰めるように撫でてやりながら、苦笑を浮かべるディエチである

「ん、どうかしたのか?」
「何でもないよ、カル兄。サンタがちょっと落ち込んでただけ」

沈んだ調子でカメラアイをピカピカさせているサンタには、カルタスも苦笑を禁じ得ない
姉妹達のように直接、彼の高速有意信号(ピカピカ)が読み取れるわけでは無いカルタスだが、付き合いがそこそこ有る所為だろうか
何となく、彼の言いたいことが解るような、サンタの妙に人間臭い一面に共感を抱く時がある
ちなみに、サンタのピカピカが解せる人物としては、12姉妹の他にはギンガとスバルの二名。それに、どういう訳かマリエル技官もそこそこ解読できるようだ
彼女が言うには、『相手が機械(デバイス)でも、顔を見れば解るよ?』との事だが、サンタの『顔』がどの辺なのかは判断に迷う所である
カルタスは励ますように、サンタの装甲を掌で軽く叩いてやりながら、

「まぁ、偏見なんて真面目に任務をこなしていれば、すぐに覆るものさ」
(だと良いんですがねぇ・・・)
「だと良いんですが。だって。そう言えば、カル兄とサンタって妙に仲が良いよね。何で?」
「何で?って・・・言われてもなぁ?」
(妙に気が合う感じはありますが・・・その理由を論理的に説明するのは難しくあります)

ちなみに、サンタはゲンヤとは反りが合わないらしく、口があったら噛み付きそうなくらいに顔を合わせた時は喧嘩腰だったりする。彼には腰も無いが

「ふぅん。そう言えば、弄られキャラ同士気が合うのかも、ってセインが言ってたっけ」
「弄・・・ゴホン、ディエチ。そろそろ私語は慎むように。それと、ここは隔離施設じゃないんだから“カル兄”は禁止だ。良いね」
「了解。カルタス監督官、又は二等陸尉殿」



広大な訓練場が見渡せる観戦スペースにある制御室に、カルタスはディエチを伴って入室した
ちなみにサンタはドアをくぐれないので、廊下の隅でオブジェと化している
事情を知らない局員が腰を抜かすかも知れないが、額には局のステッカーも貼り付けてあるので大丈夫だろう。多分

「失礼します。ラッド・カルタス二等陸尉。入ります」
「あ、カルタス君。それにディエチも。いらっしゃい。今日はごめんね、無理言って」

まぁ、座って座って。と促すのは12姉妹とサンタの調整官でもある、管理局でも指折りの精密技術官。マリエル・アテンザ技官である
あまり広くはない制御室を見回すが、ここに居るのは彼女一人のようだが・・・?

「あの、マリエル技官。高町教導官は?」
「ん、なのはちゃんならまだ下に居るわよ。予定時間よりも少し早いから、お茶でも淹れるね」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます、マリーさん。いただきます」

勧められた椅子に腰掛け、眼下の訓練場に目を向けるが・・・まだ訓練中では無いらしく、整列している人影の端の方が見えるだけである
そうしている間にも、マリエルは慣れた手付きで急須に茶葉を入れ、適温の湯を注ぎ、時間を置いて湯飲みに注ぐ・・・
何気ない所作だが、“精密”技術官のサガなのか。茶葉の分量も抽出時間も、目分量ながらきっちり“いつも通り”で、湯飲みに注いだ茶は計ったように三等分である
茶を注ぎ終えたところで、マリエルは肩越しに振り返って二人に訊ねた

862ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:17:30 ID:JziwV30Q
「二人共、お砂糖とミルクは?」

ガキッと表情を強張らせたカルタスが、シュガーポットを手にしているマリエルを慌てて制止する

「じ、自分はどちらも結構ですので!」
「あら、そう?男の人はみんな苦手なのかな?美味しいのに・・・じゃあ、ディエチは?」
「あ、その・・・私も、そのままでお願いします」
「あれ、ディエチも?」

少しだけ残念そうに首を傾げながら、自分の湯飲みに角砂糖2つとミルクを入れて掻き混ぜるマリエルである

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」

ずずっ、と深く澄んだ色味の緑茶を啜り込む・・・適温の茶は、爽やかな苦味とまろやかな甘味のある、馥郁たる味わいである
そんな茶を啜る二人を尻目に、マリエルも自分の湯飲みに唇を付けた。こちらは半端に白く濁った、少々過剰に甘いお茶を、ずずっと啜り、

「美味しいと思うんだけど、そんなに駄目かなぁ?」
「いえ、自分は、その、どちらかと言うと、コーヒーでもブラックが好きな質なので」
「う〜ん、ディエチもお茶は何も入れない方が好き?」
「・・・その・・・どちらかと、言えば・・・」
「そっかぁ。残念。今のところ同士はリンディ提督とエイミィ先輩とギンガと・・・」

余談ながら、12姉妹の中では、

「セッテだけかぁ」

セッテがハマっていたりする。長女を筆頭に紅茶党が大勢を占めるナンバーズ12姉妹では唯一、お砂糖ミルク緑茶派である
余談ながら、ドゥーエは紅茶よりもコーヒーを愛飲しており、クアットロはブラックコーヒーの苦さに顔を顰めながらも次女殿の嗜好に合わせるべく日々努めているようだ

「――― ところで、マリーさんは今日はどうしてここに?」

空になった湯飲みを置きながら、ディエチはマリエルにそう訊ねた
今ではスカリエッティから押収した機人技術の研究主任でもある彼女が、まさか単に訓練のアシスタント。ということはあるまい

「うん。実は、なのはちゃんから今日の訓練にディエチが出てくるって聞いたから。砲撃のデータ採取と、ついでにテストして欲しい物があってね」
「テストって・・・何かの試射を?」
「正解。ずっと前に、ディエチが落としてったカノンがあったでしょ?もう1年と半年くらい前の事になるけど、覚えてない?」

思わず口元がヒクついてしまうディエチである
廃棄都市区画で初出撃した時のことは、未だに忘れられない。機動六課の隊長陣:なのは、フェイト、はやての三人を相手にしたあの一戦の事である
フェイトに追い掛け回され、はやての広域魔法を辛くも凌ぎ、そうかと思えばなのはとフェイトの砲撃が ―――

863ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:18:30 ID:JziwV30Q
「・・・えぇ、まぁ。忘れたくても忘れられません・・・」
「あ、あはは・・・えと、実はその時に、ディエチのカノンを回収してたんだ。
鑑識から技術部に回ってきて、バラして保管してたんだけどね。もう保管しておく必要も無くなったから、改造して魔力砲の試作機を組んでみたの。
その試作機を、ディエチに撃って貰いたくて」
「はぁ・・・わかりました」

不意に、制御室のドアが開けられ、息せき切らした女性が飛び込んできた

「ゴメンね、お待たせ!」

明るい色の髪をサイドで結わえた女性・・・ディエチをここに呼び出した張本人。高町なのは一等空尉だ
カルタスは椅子から立ち上がって敬礼をし、ディエチも彼に倣って立ち上がり、見よう見まねで敬礼した

「はぁ、はぁ・・・うん。二人共お疲れ様。今日は、無理言ってごめんね」
「いえ、そんな事無い、です・・・なのはさん」

久しぶりに対面したなのはに、どこか照れた表情でディエチはそう呟いた

「どの様な形であれ、外部への積極的な協力は早期更正にも繋がります。こちらこそ、本日はよろしくお願いします。高町教導官」
「ありがとう。協力に感謝します、カルタス二尉」

生真面目な口調のカルタスに答礼を返し、なのははほやっと笑ってみせた

「それじゃあ、早速なんだけど。訓練場の方に来て貰えるかな?廊下のあのガジェットは、貴女達のデバイスなんだよ・・・ね?」
「え?えぇ、サンタは、あ、あのガジェットの名前なんですけど、あの子は局の認定も受けた、私達のデバイスです」
「そっかぁ。良かった、走ってここに来る途中に見掛けたときは吃驚しちゃって」

吃驚した結果どうするところだったのか。やはり、ガジェットドローンが一般社会に溶け込むにはまだまだ時間が掛かりそうだ

「あの、警戒する気持ちはわかるんですけど、サンタは良い子ですし、あんまり邪険にしないでください」
「了解。それじゃあディエチ。カルタス二尉も付いて来てね」
「「了解!」」
「マリーさん。結界の準備だけお願いします。今日は特に動き回る訓練じゃないから、障害物の設定は要りません」
「オッケー。みんな、怪我しないように頑張ってね」

ひらひら手を振るマリエルに見送られて制御室を退室し、なのはに伴われて廊下を進むディエチとカルタスである
途中、廊下の隅に鎮座在しているサンタが、妙に怯えた様子でカメラアイをピカピカさせていたが、彼と某教導官殿の名誉の為に、ピカピカの内容は伏せておこう

「あの、なのはさん」
「ん、何?」
「今日の訓練のこと・・・訓練生の皆さんは知ってるんですか?」

864ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:19:30 ID:JziwV30Q
緊張の為か。少々強張った口調でディエチはなのはに訊ねた

「うん、大体話してあるよ」
「なのはさん達、教導隊が訓練を受け持つ生徒さんは、みんなエリートなんですよね。頑張らないと・・・」
「エリート、って言うか・・・まぁ、短期での集中的な技能訓練がメインだから。“専門技能のステップアップ”を目標にしてる部隊が多いのは確かだね。
今日、受け持ってる陸士243部隊は、ちょっと珍しい気質の部隊。あと、生徒さんって言っても、今日の部隊はみんな良い歳だよ?」

説明を聞きながら、ふとディエチは首を傾げた

「・・・あれ?なのはさんの所属って、“航空”戦技教導隊なのに、どうして陸士の部隊が?」

尤もな疑問に、なのははどこか諦観の混じった乾いた笑みを浮かべて、

「砲撃が入り用なら私の出番。っていう風潮が、教導隊にはあるみたいでね・・・」
「・・・納得。それで、珍しい気質って言うと、どんな部隊なんですか?」
「そうだね・・・どう説明しようか・・・」

首を捻るなのはに、カルタスが助け船を出した

「243は“常に最前線に投入される部隊”だね。戦場だったら防衛ラインの構築。事件・災害現場なら現場の封鎖。
武装隊風に言うと、部隊全員がフロントアタッカーで編成されてる部隊と言える。攻める事は不得手だが、“防衛”と“遮断”に関しては精鋭集団だよ」
「うん、そうそう。そんな感じの部隊。ちょっと荒っぽいのが多いね」

なのはの言葉に、少々苦笑を浮かべながらカルタスは“荒っぽい”彼らを弁護してやる

「陸隊には、努力肌の魔導師が多いですからね。荒っぽいのが多いというのは確かですが・・・心根が荒んだ輩は少ないですよ」
「・・・そうだね。陸隊の人は、付き合ってみればさっぱりした人が多いね。空隊のエリート部隊なんかには時々とんでもないのが居るから・・・」

珍しく、渋面を浮かべるなのはである。過去に、よほど不愉快な部隊があったのだろうか

そんな風に話し込みながら、三人と一機は訓練場に辿り着いた
243部隊は50人ほどの部隊で、各自グループに別れて基礎体力訓練に励んでいた。筋トレ、走り込みなど、空隊には縁の薄い光景である

そんな中、なのはの白い制服に気付いたらしい、大柄な男・・・243の部隊長:プラド二尉が駆け寄ってきた

「高町教導官。申し訳ありません、ただボサッと待たせる時間が勿体なかったもので基礎体をやらせておりました。
すぐに集合させることもできますが、如何いたしましょうか」
「いえ、折角ですからキリの良いところまでお願いします。今日は特別な講師を招聘していますからね。しっかり暖機しておいてください」
「了解!野郎共!ダッシュ10本追加!!」

イエッサー!という返事が50人分、綺麗に揃って返ってきた。243部隊は全員、こんなノリなのである

865ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:20:30 ID:JziwV30Q
ひたすら駆けずり回って汗を流す筋肉ダルマ達を尻目に、ディエチは少しそわそわした様子でなのはに訊ねた

「あの、なのはさん。私も準備運動とか、しておいた方が良いですか?」
「うん。必要だと思うことをしていれば良いよ。出番が来たら呼んであげるし・・・あ、その前に着替えて来なきゃだね」

バリアジャケットを身に纏える魔導師とは勝手が違うことを失念していたなのはとカルタスである
勿論、戦闘機人であるディエチはバリアジャケットが要らないくらいに頑丈なのだが、借り物の制服を汚させてしまうのも忍びない

「カルタス二尉。申し訳ないんだけど・・・購買部で彼女の着替えを見繕ってあげてくれないかな?代金は私の名前でツケておいてくれれば良いから」

なのはのそんな申し出に、ディエチは慌てて手を振って、

「なのはさん。大丈夫です。着替えなら持って来てますから、更衣室だけ貸してください」
「あ、そうだったの?それじゃあ・・・??」

女子更衣室に案内しようとして、なのはは怪訝な顔を作った
着替えを持って来ている。とディエチは言ったが、彼女は精々、ハンドバッグ程度の大きさの鞄を持ってきているだけだ
なのはの頭上にでっかい疑問符が浮かび・・・そして、何かに気付いた様子で彼女はディエチに詰め寄るとこっそり訊ねた

「・・・ねぇ、ディエチ。まさか、用意した着替えって・・・ナンバーズのスーツじゃないよね・・・?」
「え?でも、任務の時はいつも「カルタス二尉!購買までこの子を連れてってあげてください!」あの、でも「良いから!遠慮しないで!」

何処か引き攣った、沈鬱な表情を浮かべたままカルタスはぎこちなく敬礼し、ディエチを伴って訓練場を出て行った

「・・・高町教導官。何か問題でも?」
「問題、というか、何というか・・・あ、あははは・・・」

厳つい顔立ちを怪訝そうに歪ませるプラド二尉に、これまたぎこちなく乾いた笑いで無理矢理誤魔化そうとするなのはであった



今更言うまでも無いように思うが、ディエチが用意していたのはナンバーズ用のボディスーツであり、
それはつまり身体のラインが激しく浮き出る類の、全身タイツって言うかボディペインティグに近いレベルの、或る意味、真ソニックよりも過激な格好だ。露出は少ない?だから何?
本人が平気だとしても、同性としては傍で見ている方が恥ずかしいし、ちょっと気弱なところもあるディエチを好奇の視線に晒すのは忍びない

(上申しよう。あの娘達の為にも!上着くらい付いたまともな戦闘服を作ってあげなきゃ・・・!!)

羞恥、という要素には未だに鈍感らしい機人の姉妹達の為に、なのはは堅く決心したそうな



――― しばらくして、武装局員向けの訓練服に着替えたディエチとカルタスが訓練場に戻ってきた
黒いハイネックのシャツに、袖を捲り上げたカーキ色のツナギ。頑丈そうなショートブーツで足元を固めた姿は、ナンバーズのボディスーツよりも遙かに「まとも」である

866ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:21:30 ID:JziwV30Q
「うん、よく似合ってる。強そうだよ」
「ありがとうございます・・・でも、良いんですか?お金とか・・・?」
「全然平気だよ。心配しないで。それじゃあ、みんなにも紹介しておこうかな」

整列していた243部隊の方に向き直り、ザッ!と姿勢を正すゴリラ共になのはは言った

「今日の重層防壁展開訓練の砲手を務めてくれる、ディエチ教官です。総員、敬礼!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

野太い合唱と共に敬礼を向けられたディエチは、突然の事に慌ててしまい、取りあえず真っ赤な顔を隠すようにぺこっとお辞儀をした
そんな彼女の姿に、なのはは励ますように肩を叩いて笑顔を作った

「まぁ、見ての通り、ディエチ教官はちょっと照れ屋さんなので、みんな、優しくしてあげてね」
「「「「「了解であります!!」」」」」

243部隊は全員がこんなノリなのである・・・とは言え、今日は少々いつもよりテンションが高い

――― そりゃそうである。エースオブエースの砲撃を真正面から受け止める訓練だった筈が、予定が変わって代役になり、
ましてそのリリーフが、妙に初々しくてしかも可愛らしい教官殿と来れば盛り上がらぬ筈が無い。明日の命が無いかも知れぬと覚悟を決めていただけに

弾むような駆け足で訓練位置に着く子分共を睥睨しながら、部隊長であるプラド二尉は憮然とした溜息を吐き出した
厳しく顰められた顔を見上げながら、なのはは訊ねる

「何かお悩みですか?プラド二尉」
「・・・解っているのでしょう、教導官殿。あの、ディエチ教官というのは何者なのですか?
自分とて教育隊や教導隊の隊員の顔を完全に網羅している訳ではありませんが、あんなにも自信なさげな教官は見たことがありません。それに ―――」

顔を上げたその先では、愛銃を抱えたディエチの後ろで、サンタがコネクションケーブルをイノーメスカノンの基部に接続しているところだった

「『本局訓練場にガジェットドローン襲来』・・・こんな報告を上げたら、自分は間違いなく正気を疑われるでしょうな・・・
素性に関してはおおよそ見当が付きますが、そんなことよりも「教官たるに相応しい実力があるのかどうか?ですね」

台詞を先取られたプラド二尉は、ぽりぽりと顎先を掻いて、盛大な溜息と共に言葉を吐き出した

「・・・そういう事です。教導官殿の肝いりだと言うのであれば間違いは無いのでしょうが・・・」

準備が終わったらしい。訓練のルールについて説明し終えたカルタスが励ますように背中を叩いて離れてゆく
そして、ディエチの後ろに控えているガジェット・・・サンタがカウントダウンを投影し、砲口の先では5人掛かりの重層防壁が展開された
陸士243部隊のトレードマークとも言える、身体を覆い隠すほどの大盾を構えた5人の姿に、なのはは息を呑んだ

「え?5人単位なの!?」

867ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:22:30 ID:JziwV30Q
なのはが驚愕している理由を“逆”に考えたプラドは、呆れたように嘆息する

「やはり、その程度の実力しか無いのでありますか。教導官殿、折角ですが本日の訓練は早めに切り上げ「違、そうじゃなくて!あぁ、ディエチ、ストップ!すとーっぷ!!」

大慌てに慌てるなのはの姿に気付いて、え?と視線を振り向けた時には、既にディエチはカノンのトリガーを引き絞っていて、


砲口から迸ったエネルギーの奔流は5人掛かりの重層防壁を紙の如く貫き、立ち並ぶ大盾を弾き飛ばし、驚く暇さえ与えられなかった隊員5名を薙ぎ倒していた


あれ?とディエチは首を傾げ、なのはは手遅れだった事に頭を抱え、プラド以下243部隊のゴリラ共は、揃って顎が落ちそうな顔をしていた

「・・・サンタ。さっきの砲撃。そんなに高出力だった?」
(いいえ?フルチャージでの砲撃に比べれば、エネルギーゲインはおよそ7割というところです。抜き撃ちよりはマシという程度ですよ?)
「あの人達、調子でも悪かったのかな?非殺傷設定にはしてあるから、怪我は無いと思うけど・・・大丈夫かな・・・?」

おろおろと気を揉んでいると、なのはとプラドが駆け足でやって来るところで、

「あ、なのはさ「ゴメンね、ディエチ。ちょっと後で」「済まんな。あの馬鹿共なら心配無用だ」

そんな台詞を置いて、ディエチの横を素通りし、ざわついている243の隊員達の方に走り去る二人を、呆然と見送り・・・

「ね、ねぇ、カル兄。私、何か失敗した?」

不安そうな表情で問い掛けてくるディエチに、笑いかけてやりながら、カルタスはポンと頭を撫でてやる

「いや。失敗してたのはむしろ、アッチだろうね」

防壁を展開していた彼らが何を失敗していたというのか。意味がわからないディエチの耳に、プラドの怒号が届いた


『この馬鹿野郎共がッ!!!!!!!』


「ぅわっ?凄い声・・・」



ディエチの砲撃と、プラドの怒声に腰を抜かしていた隊員達を一度整列させて、なのはは溜息を吐き出した

「そう言えば、事前に彼女の実力を教えていなかったね」

868ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:23:30 ID:JziwV30Q
先程の砲撃に薙ぎ倒された5人の中の一人が、震える腕を挙げて、なのはに尋ねた

「あ、あの、ディエチ教官は一体何者なんですか・・・?」

ついさっき、プラドが口にしたのと同じ台詞を震える声音で紡ぎ出した
震えているのは腕や声音だけでは無く、ここが極寒の極点であるかのように、彼らは身体中、歯の根が合わない程にガタガタ震えていた

「あの子は・・・そうね、一言で言うと・・・」

人差し指を頬に当てて考え込むなのはの姿に、一同はぐびりと固唾を飲み下し、

「『高町なのはにブラスターモードを使わせた女の子』って言えば、大体実力は判るかな?」

嘘は言っていない。確かにディエチは、聖王のゆりかごの中でなのはと砲火を交わし、彼女の切り札:ブラスターシステムを使わせていた
つまりそれは、分かり易く書き表すと、

『エースオブエースに命ギリギリの死力を尽くさせた女の子』(正しくはその中の一人)という事になる

数分前までのハイテンションは何処へやら
何もしていないのに真っ白に燃え尽きようとしている隊員達を励ますように、なのははにっこりと笑顔を浮かべると、

「それじゃあ、次。頑張っていこうか。彼女の砲撃を10人くらいで止めることが今日の合格ラインかな?」

あまりにも過酷な訓練の幕開けに誰もが胸の裡では悲鳴を上げ、11年前に鉄槌の騎士が呟いたのと同じ台詞を心の中で呟いていたそうな



「さて、お待たせ。ディエチ」
「あの、さっきの人達、大丈夫でした?怪我とかしてたら、ちゃんと手当しないと・・・」

砲撃の過激さに反して、心配性な言葉を漏らすディエチに苦笑を浮かべながら、なのはは彼女の肩をばんばん叩いた

「平気平気!ディエチは遠慮しないで、全力全開の砲撃をお見舞いしてあげてね」
「全力全開。ですか・・・頑張ってみます」

難しい顔で頭を捻るディエチに、首を傾げるなのはである
彼女の口癖であり、信条でもある四文字は、これ以上無いくらいに単純な理論だと思うのだが・・・?

「あ、向こうの準備ができたみたいだから・・・なのはさん、もう少し離れていてください」
「う、うん。頑張ってね」
「サンタ、データはちゃんと取れてる?転送はできた?」
(問題なくこなせていますよ。射線補正のサポートくらいはできる余裕がありますが?)
「大丈夫、私も実射は久しぶりだから、練習する・・・第二射用意。サンタ、カウントを」
(了解)

869ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:24:30 ID:JziwV30Q
そんな風に、ディエチが一日教官を務める「重層防壁展開訓練」は始まり、なのはは彼女の傍で、彼女が砲撃を放つ姿をじっと眺めていた
243部隊の部隊員達が必死の形相で防壁を重ねるが、拮抗の末にディエチの砲撃が撃ち勝つ・・・
回数を重ねる内に、段々コツが掴めてきているようだが・・・合格を得るには、今しばらく掛かりそうだ

そんな姿をしばらく眺めながら、訓練室には砲声と気合の声と悲鳴が飛び交い・・・

「次、第二十三射用意。サンタ、カウントを」
(了解。しかしディエチさん、向こうがすっかりバテてしまってるようですが?)
「え?あ・・・あの、なのはさん。こういう時はどうすれば・・・?」
「・・・」
「あの、なのはさん?」
「え?あ、うん。全くだらしないね、少し休憩にしてあげよう ――― プラド二尉、15分間休憩を取ります」

隊員達に混ざって訓練を受けていたプラドから了解の返答を念話で受け、なのはもぐぐっと背伸びをした
普段ならば自分が砲手を務めている訓練だから、こうして他人に任せてしまってそれを眺めているだけというのは、身体は楽だが妙に気疲れする

「ん〜・・・はぁっ」

両腕を上げ、胸を反らした背伸びに溜息を吐き出すなのはである。内心では、教導官がこんな事で良いのかな?などと思っていたりもするが、
下手を打ってシャマル先生にでも嗅ぎ付けられようものならば、彼女はリンカーコアをぶち抜いてでもベッドに連行してゆくだろう

「・・・あの、なのはさん。妙に顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「え?あ、ううん。ダイジョブ。何でもないよ。ディエチこそ疲れてない?全力砲撃を23連発なんて、流石に私でも息が続かな

ぷっつりと、なのはの言葉が途切れた。ディエチは、表情を強張らせているなのはの顔を不思議そうに見上げる・・・


――― ディエチは、全く呼吸を乱していなかった。汗の一粒も浮かべていない ―――


「・・・どうして・・・?」
「へ?」
「あ、ご、ゴメンゴメン。ディエチが全然平気そうだったのがちょっと不思議だったんだ」

全力砲撃を、ほぼ立て続けに23連射。流石に息一つ乱さないという事は有り得ない
アグレッサーモードではジャケット能力の都合上フルポテンシャルは発揮できない為、多少は消耗を抑えられるが・・・それでも、息が上がるだろう
改めて、戦闘機人のスペックに驚くなのはだが、ディエチは少し困った顔で頭を掻いた

「全然、疲れないわけじゃないんだけど・・・ただ、通常、私達は、その・・・“全力”を出せないんです」
「え?」
「どう説明すればいいか、ちょっと難しいんだけど・・・」

870ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:25:30 ID:JziwV30Q
「・・・でも、教えて欲しい」
「はい・・・じゃあ、少しだけ。
私達姉妹の頭の中には、セーフティルーチンって言うプログラムがあって・・・要するに、“禁則事項”の事です。
エネルギーを戦闘運用する場合、“指揮官”の承認を経た作戦行動で無い限り、100%の出力は出せなくなってるんです」
「どうして、100%のエネルギー運用が、禁則事項に引っ掛かるの?」
「自分にダメージが返ってくるような、反動を受けるエネルギー運用が、プログラム上、自傷・自殺行為に引っ掛かるみたいで。
だから、普段は大体80%くらいのエネルギーゲインがリミット。“指揮官”の承認があれば、100%のエネルギー運用が可能、です」

ちなみに、ナンバーズ姉妹の中で“指揮官”の権限を持つのは、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロの4名。それに創造主であるスカリエッティも指揮官権限を持っている
同時に指揮官権限持ちの姉妹にはセーフティルーチンも組み込まれていない

「聖王のゆりかごでなのはさんと撃ち合ったあの時は、勿論100%の、全開出力でした・・・それでも、勝てなかったけど・・・」
「・・・まぁ、あの時は限界突破のブラスターを使ったしね・・・使わざるを得なかったんだし。手強かったよ」

なのはは苦笑を浮かべていたが、その反動が今も彼女の身体を蝕んでいるという事実を知っているディエチとしては、少々心苦しい

「その、理論上は、100%以上のエネルギー運用をすることだって、不可能じゃ無いんです。
自己ブースト、魔力回路を通して出力を高める魔導師と違って、私達、機人のエネルギー運用は、もっと単純な仕組みですから」
「でも、セーフティルーチンのお陰で、自分の身体を壊すことはできないんだよね・・・シャマル先生が聞いたら、私にも付けてあげてって絶対言うよ。それ」
「あ、あはは・・・」

乾いた笑いを返してしまうディエチである

「でも・・・なのはさんのブラスターシステムに関しては・・・私も、理解できません。
結果的には、それが必要な事態になっちゃったけど、それでも、そんなにも自分の身体にダメージが残る手段を、どうして選んだんですか?」

セーフティルーチンで縛られている自分だから、わからないのかもしれない
それでも、悪く言えば、最悪の転び方をすれば自殺と同義であるシステムを用意しておいたなのはの思考は理解できない。正気を疑いさえした

そこまで言っておいて、怒られるかな?とディエチは思ったが・・・意外にも、なのはは笑っていた。澄んだ笑顔で

「ねぇ、ディエチ。私はね、きっと凄く単純で、貴女達の予想を遙かに上回るくらいに馬鹿なんだよ?」
「へ?」
「ブラスターを使った理由なんて、凄く簡単・・・『全力を出さずに負けたくなかったから』。ただ、それだけ」

開いた口が塞がらないディエチに、なのははクスクス笑いながらも言葉を続ける

「理論とか、打算とか、確率とか、そんな難しい事は何一つ考えて無かったの。
やらなきゃならない事があって、助けてあげたい子供が居て、それを全部やり通す為に必要な物を揃えていったら、こうなっただけなんだ」
「・・・あの子、ヴィヴィオの、事・・・ですか?」
「うん。それも大きい理由の一つ」

871ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:26:30 ID:JziwV30Q
清々しいほどにあっけらかんとした口調で、彼女は言った

「ヴィヴィオやフェイトちゃんと約束してたことも有ったしね。結果として、それがミッドを救う大活躍になったのかもしれないけど」
「え、えぇと、でも、それだけの理由で、死力を尽くしたんですか・・・?」
「うん、そういう事になるね。それだけの理由だったから」

にっこりと笑うなのはの笑顔に、ディエチはこっそりと溜息を吐き出した
“命”を賭ける事ができない自分と、“命”を賭ける事ができるこの人・・・どう足掻いても、勝てないわけだ
呆れたような、諦めたような顔をしているディエチの頭をぐりぐり撫でながら、なのはは少しだけ不敵な笑みを浮かべて見せる

「でも・・・いつか見てみたいな。ディエチの“全力全開”」
「それは、流石に・・・ごめんなさい」
「うん、判ってるよ。身体は大事にしなきゃね・・・あ、休憩時間。そろそろおしまいだね。ったく、いつまでへたり込んでるつもりなの・・・?」

未だに死屍累々たる有様を晒している243部隊の方に、なのはは歩いてゆく・・・彼女の背中を眺めながら、ディエチはもう一度盛大な溜息を吐き出した

「・・・“全力全開”。かぁ・・・ちょっとだけ、憧れるかな・・・?」

なのはの背中には、その呟きは届かなかった・・・けれど、すぐ後ろに控えていた丸いデバイスの耳には届いたらしい

(憧れますか・・・?)
「うん。ちょっとだけ、ね。私に、なのはさんみたいな力があったら・・・今よりもっと、みんなの力になれるんだけど」
(・・・)

憧憬の眼差しで、ディエチはなのはの背中を見詰めている・・・そんな姿に何を思うのか。サンタは何かを沈思している様だ
意を決して、彼はディエチに言った

(・・・出せますよ。ディエチさんの“全力全開”)
「え?」

サンタの言葉に、彼女は驚いて振り返った
驚きの中に、少しだけ期待と興奮が混じった視線を受けながら、サンタはカメラアイをピカピカさせて説明する

(・・・ずっと前の、俺が壊れた時の事件。覚えてますか?)
「うん。サンタが、命懸けでマナクリスタルの暴発を食い止めてくれた、あの時だよね」
(はい。セーフティルーチンは、隊長やディエチさん達、ナンバーズの皆さんだけに組み込まれてる物じゃなくて、俺達ガジェットにも入ってるんです)
「あ、そうだったんだ・・・え?」

サンタのピカピカに頷き、そしてディエチは首を傾げた
セーフティルーチンは、ガジェットにも組み込まれている・・・しかし、サンタは件の事件の際に、“命を賭けて”、マナクリスタルの暴発を食い止めた
“指揮官”の認証さえない、己の判断のみで、それを為せたというのは、辻褄が合わない話だが・・・?

872ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:27:30 ID:JziwV30Q
(ゆりかごが墜ちて、隊長やドクターが逮捕されたあの時に・・・俺は、自分でリプログラムしたんです。
勿論、致命的なバグが発生する可能性もありましたけど。セーフティルーチンなんかに縛られたままじゃ、隊長達を助け出せない。そう思ったから・・・)

結果的に、その判断は間違いではなかった
絶体絶命の場面で、彼はノーヴェ達を救うことができたのだから

「それじゃあ、つまり・・・?」
(はい。流石に、ディエチさんのセーフティルーチンそのものを削除してしまうことはできないでしょうけど、
基礎プログラムに接触して、ルーチンのプログラムをバイパスすれば、限界突破のエネルギー運用を可能にすることができると思います)
「本当に!?」

期待を露わに詰め寄るディエチだが、サンタは慌てて彼女を制した

(し、しかしですね!設計限界を超えたエネルギー運用をすれば、間違いなく自分にもダメージが返ってきます!それをさせない為の“安全装置”を外すんですから!)
「・・・それでも、サンタ。私は確かめてみたいんだ」

いつになく強い輝きを瞳に宿して、ディエチはもう一度、正面に振り返った
視線の先を歩いている、なのはの姿。彼女の背中・・・

「・・・あの背中に、追い付きたい・・・!」

余計な事を言ったかも知れない
そんな溜息を廃熱ダクトから吐き出しながら、サンタは提案した

(それじゃあ・・・この訓練が終わったら、高町一尉とマリーさんに相談してみましょう。“全力”での試射を)
「うん。ありがと、サンタ」
(お礼を言われるのも、何だか複雑です・・・今は訓練に集中してくださいよ?)
「了解。わかってる」

そう言いながらも、口調が弾んでいるのが聞けばわかる
もう一度、こっそりと溜息を廃熱するサンタであった



その後、再開された訓練は、ディエチの第四十五射を数えた時点で、一応の成果を上げる事に成功した
防壁展開の術式を最適化してやれば、もっと安定した高い防御力を得ることができるだろう。なのははそんな風に結論付けて、すっかり疲れ切った243部隊員を労った

「さて、それじゃあ・・・ディエチ。マリーさんから話は聞いたよ。そっちの子・・・サンタのサポートを受ければ、全力が出せるかも知れないって」
「はい。自分でも、確かめてみたいんです」
「・・・危険を伴う。それはわかってるんだよね?」
「承知の上です」

873ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:28:30 ID:JziwV30Q
はっきりと頷いたディエチに、なのはは嬉しそうな溜息を吐いて、制御室のマリエルに呼び掛けた

「マリーさん、なのはです。射撃用の計測ターゲットを出して貰えますか?」
『うん、わかったわ』

予め準備をしていたらしい
返答とともに、ドミノのように並んだターゲットが訓練場に現れた

「これが、破壊力計測ターゲット。結果に関しては、大体の目安っていうところだけど・・・沢山撃ち抜けた方が強い。そう思って間違いじゃないよ」

一枚一枚が分厚い魔力障壁で作られたターゲットは、真っ直ぐに100枚、等間隔で並んでいる
ちなみに、極平均的な武装隊の砲手ならば、全力射撃で30枚撃ち抜ければ一人前とされる。40枚抜けたなら一流だ

「なのはさんは、何枚抜けたんですか?」
「自己ベストは63枚。エクシードモードで、カートリッジを使っての結果だけど・・・一応、現役局員の記録ではトップなんだよ」

少しだけ得意げな顔で、えへんと胸を張るなのはである
おお、とディエチは小さく拍手を送る。が・・・

「まぁ、はやてちゃんの広域空間攻撃なら、100枚全部を一度で消滅させちゃうんだけどね・・・」

そんな溜息混じりの台詞に、機人の少女と彼女のデバイスの心は一つになった

((お二人とも、本当に人間ですか・・・?))

勿論、真っ当にターゲットを撃ち抜いたわけでは無いので、はやての記録は公式には残っていないのだけど
そんな風に話し込んでいると、一同の顔の前に投影モニターが現れ、マリエルの顔が映し出された

『お待たせ、計測準備完了。そっちは大丈夫?』
「はい、大丈夫です・・・あの、ごめんなさい。マリーさん。試作機の試射は・・・」
『あぁ、良いの良いの。ちゃんとしたデータを取る方が大事だし・・・結果によっては、改良しなくちゃならないかもなんだし』
「ディエチの全力が、私やマリーさんの想像以上だったら、大変な事故が起こるかもしれないからね。それじゃ、こっちに来て」

一直線に並ぶターゲットの真正面。50m程の地点にサークルが描かれ、なのはに呼ばれたディエチはその中に立った

「一応、ルールを説明するね。このサークルの中から、ターゲットの列を真っ直ぐに撃つこと。射撃はワントリガーのみの記録を有効とします」
「了解」
「これ以外には、特にルールは無いね・・・私が、こんなこと言ったって説得力が無いのはわかってるけど、無理しちゃ駄目だよ。ディエチ」

心配そうななのはに、ディエチは小さく笑みを浮かべて、こくりと頷いた

「大丈夫です。サンタも付いてくれますし、心配しないでください。それじゃ、サンタ。お願い」

874ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:29:30 ID:JziwV30Q
ディエチの呼び掛けに、こっそり溜息を吐き出して、彼はコネクションケーブルを展開した
4本をイノーメスカノンの基部に、3本をディエチの首筋の辺りに押し付ける・・・そこから、サンタはディエチの基礎プログラムに侵入した

(・・・同調完了。セーフティルーチンに接触します)
「お願い」

現状で、特に自覚できる事は何もないディエチである
ただ、傍で見ているなのはと243部隊員達は、ガジェットの接続を受けるディエチの姿に、少なからぬ衝撃を受けていた
付き合いが長いカルタスやマリエルは、さほど驚きもしなかったが

基礎プログラムの深部、コマンドの全てを監視しているセーフティルーチンを迂回するコマンドラインを作り、サンタはテストプログラムを走らせる
特に問題は無いようだ
頭の中に何かノイズのような物が走ったディエチは、怪訝そうに首だけを後ろに振り向けた

「ん?・・・サンタ、今何かした?」
(バイパスにテストプログラムを流しました。実害は無い筈ですが、大丈夫ですか?)
「うん、ちょっと吃驚したけど、それだけだよ・・・それじゃ、もう、セーフティルーチンは外れてるの?」
(はい。試してみてください)
「わかった・・・IS:ヘヴィバレル。発動」

サンタのピカピカに小さく頷き、ディエチはISを発動させ、チャージを開始した
正しく一体と化したカノンに、身に宿る全てのエネルギーを注ぎ込む・・・そして、出力80%・・・
いつもならば、ここがリミットとなる数値だが、何の遅滞も無く、エネルギーゲインは順調に高まってゆく

「凄い。本当に、出力が上がってく・・・!」
(100%以上の高出力になると、機体にもかなりの負担が掛かり始めます!気を付けてください!)
「了解・・・!」

出力、100%オーバー・・・その数値はディエチにとって未知の領域だ。決して出せなかった数値を超えた時、自分の身体はどうなるのか?
痛いかも知れないし、苦しいのかも知れない・・・そんな風に思っていたが、最初に襲い掛かってきたのはどちらでも無かった

「えっ・・・!?」

出力、120%
いきなり、視界が霞み、四肢の感覚が無くなった・・・いや、一瞬の事だ。目の前のターゲットは見えているし、ちゃんとカノンを抱えている
だが、その感覚が段々希薄になってくる・・・

「これが、限界突破・・・!?こんなの、良く・・・!」
(ディエチさん!)
「・・・まだ行ける。まだ!」

出力、130%
胸の奥、身体の芯が赤熱するような熱を帯びた
灼け付く喉から、彼女は掠れた叫びを上げるが、感覚の薄い手足は氷に突っ込んでいるかの様に冷たい

「ぅぁぁぁああっ・・・!!」
(出力140%突破!ディエチさん、これ以上は危険です!)
「ぐ、うぅっ・・・・・!」

カノン本体の集束器では扱いきれないほどの膨大なエネルギーをヘヴィバレルで強引に束ね、霞む視界でターゲットを睨み付ける
頬を流れ落ちる生温い脂汗の感触だけが妙にリアルな意識の中で、我知らず、彼女の唇が言葉を紡ぎ出した

「 ――― 全力、全開・・・ッ!!」

875ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:30:30 ID:JziwV30Q
私の記録、抜かれちゃうかな?となのはは呟いていた
かもしれませんね。とカルタスは苦笑を浮かべていた
いや、それは無いだろう。とプラドは憮然と言い放ち、243部隊員達は何枚抜けるかで賭けをしていた
モニターの照り返しを眼鏡に宿したマリエルは、医療班・救急チームに出動を要請していた

そして、ディエチは、本当に動かせるのかどうか自分でもあまり自信が無い指先で、トリガーを、


「ぅ、あああぁぁぁっ!!!!!」


いつもは凜と引き結ばれている、物静かな唇から獣の様な絶叫が迸る
放たれた魔力砲撃は真昼の太陽の様な、強烈な光と共に炸裂し、そして、衝撃と轟音が意識を ―――










「・・・あれ?」

ぱちっ、と目を醒ましたディエチは、見慣れた天井を見上げてそんな風に呟いた
上掛けを蹴飛ばして身を起こせば、隔離施設で着ているいつもの白いシャツとズボンを着込んでいる
訓練服を着て、なのはの訓練に参加したのは・・・

「夢、だったのかな・・・?」
「何を言ってるの、ディエチ」
「あ・・・ウーノ姉」

ベッドの傍に座り、難しい顔で投影表示されているレポートを睨んでいた長女:ウーノは盛大な溜息を吐き出して、取りあえずディエチの脳天に拳骨を落とした
ごちっ、と炸裂した握り拳に、思わず涙目になるディエチである

「痛っ!?な、何で?」
「ディエチ、自分が何をしたのか憶えていないの?訓練に参加したのは夢なんかじゃないわよ」
「え、えぇっと、確か、243部隊の人達との訓練に出て、それから、サンタに頼んで全力砲撃の試射を・・・」

ごちっ、と二発目が炸裂した

876ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:31:30 ID:JziwV30Q
「それよ。それが悪いのよ。下手をすれば命に関わるような危険な真似をどうしてしたの!?」
「・・・自分の力を、確かめてみたかったから・・・」
「その結果、取り返しの付かない事態になっていたら!?」

常の物静かな麗貌をかなぐり捨てて、ウーノはベッドに座って項垂れているディエチを猛然と叱り飛ばした
拳骨の痛みよりも、初めて見る長女殿の凄まじい剣幕に涙を浮かべてしまう彼女である

「今回に関しては、特に障害が何も残らなかったのが不幸中の幸いだけど・・・良いこと!?もう二度と、絶対にこんな事はしでかさないように!」

“叱られた”という初めての衝撃に、言葉も無く震えるディエチの姿に、ウーノは再び盛大な溜息を吐き出した

「ごめんなさい、少し言い過ぎたわ。ともかく・・・どうしてセーフティルーチンが組み込まれているのか、その意味を良く考えなさい」
「・・・うん、ごめんなさい。ウーノ姉」
「データとしては興味深いけれど・・・この手のテストは最低限、自分の身体を壊さないだけの手立てを構築した上で行いなさい。全く・・・」
「データ・・・そうだ、あの、私の、成績は!?」
「先に言っておくけど、貴方は正規の局員ではないのだから、公式記録には残っていないわよ」

そう前置きをして、ウーノはディエチの目の前にとあるデータを投影して見せた
トップには相変わらず、高町なのは一等空尉の名が躍っている・・・そして、自分の名前は何処にもない・・・なのはの記録は『71枚』とある・・・?

「あれ?なのはさんの自己ベストは、確か63枚でトップだったんじゃ・・・?」
「さぁ?記録は71枚になってるわね」
「・・・どうして?」
「知らないわよ。自分で考えなさい」
「え?え?どういうこと・・・?」

唸りながら首を傾げているディエチを残して、ウーノは席を立った

医務室を出ると、ドアの陰に隠れるように、クアットロが佇んでいた。隠れているつもりなのか、壁にぺったり張り付いている

「・・・何をしているの?」
「あ、あぁらウーノ姉様。ち、ちょぉっとお散歩というところですわぁ?」

眼鏡の奥の視線は何やら明後日を向いており、如何にも白々しく、苦しい言い訳である

「ディエチならもう起きているわよ。見舞いなら構わないわ」
「お、お見舞いなんてそんな、私は何一つ心配していませんし、ここに居るのもただの散歩なので「わかったわ、わかったわよ。好きになさい」

何やら必死な四女を押し止めて、ウーノは足早に医務室の前から去ってゆく
しばらく、クアットロはその場をウロウロし、廊下の向こうに誰の気配も無いことを確かめ、念のため曲がり角の向こうまで確認し、ようやく医務室のドアをくぐった

「・・・あ、クアットロ」

877ディエチが全力全開に目覚めた様です:2009/05/24(日) 18:32:30 ID:JziwV30Q
「は、はぁい、ディエチちゃん。随分お馬鹿な真似をしたみたいねぇ?」
「・・・馬鹿は酷いなぁ・・・まぁ、否定はできないけど」
「ウーノ姉様じゃ無いけど、全くその通りよ。そんなに、“あの人”みたいになりたかったの?」

“あの人”みたいに強くなりたかったのか?
“あの人”みたいに身体を壊してしまいたかったのか?
クアットロの口調からは、どちらの意味で言っているのかを推し量ることはできないけれど・・・ディエチは、彼女なりの答えを口にした

「うん・・・あの人みたいに、なのはさんみたいになりたかった」
「・・・本ッ当に馬鹿ね」

クアットロにまで真剣に嘆かれた事は、割と衝撃である

「あの人くらい、必死になってみたかったんだ・・・でも・・・ねぇ、クアットロ」

呼び掛けられた四女は、呼び掛けた十女の顔を見る
そこにあったのは、眩しいほどの笑顔と、微かに滲む不敵さと、自信と・・・

「あの手応えなら・・・私はきっと、なのはさんにも負けないよ」
「だから何?」
「もしも、クアットロが悪い事を企んで、なのはさんに狙われる事になっても・・・私が、守ってあげられる。今度こそ、絶対・・・!」
「・・・付き合ってられないわね」
「あ、ちょ、クアットロ!?」

振り返りもせず、クアットロは結わえた髪を翻して医務室を去ってゆく


ドアをくぐり、そして、その陰に隠れるように佇んでいたニヤニヤ笑顔なドゥーエの姿に心臓が口から飛び出そうなほど驚いた


「ド、ド、ドゥーエ姉様!?な、何故ここに?」
「さぁ?お散歩ってところかしらねぇ?」

何処までも白々しい次女殿の言い分に、クアットロは赤く染まった頬を隠すように俯けたまま、ずかずかと歩み去る

「ちょっとちょっと、お姉様を置き去りにするような妹に育てた憶えは無いわよー?」

背中に投げ掛けられたそんな言葉に足を止め、ぽんと後ろからクアットロ肩を叩いて、ドゥーエは優しく微笑んだ

「良かったじゃない、クアットロ。貴方がちゃんと妹から慕われてるって解って、私も嬉しいわよ?」
「・・・あの娘に、あんなディエチちゃんに慕われても・・・私は、ちっとも嬉しくありませんわ」

俯けた顔を隠すように、クアットロは振り返るとドゥーエの胸に抱き付いた

「あんな、あんな・・・悪魔に毒された妹なんて、もう、使い物になりませんもの」

肩口に顔を押し付けてきた妹の背中を撫でてやりながら、ドゥーエは苦笑と共に呟いた

「・・・はいはい。全くその通りね。あんな、悪魔の優しさに毒された可愛い妹なんて、もう捨て駒にできないものね。大事にしなくちゃ」
「なっ!?ち、違いますドゥーエ姉様!私は、その、」
「あら、照れなくても良いじゃない?」
「て、照れとかそう言うのじゃなく!えぇと、つまり・・・あぁ、もう、ちゃんと聞いてくださいドゥーエ姉様!」
「ほらほら、可愛い妹に食事でも運んであげないと」
「ちゃんと話を聞いてくださってばドゥーエ姉様ぁ!」


――― 廊下から微かに聞こえてくるドゥーエとクアットロの話し声に耳を傾けながら、ディエチはベッドに寝そべった・・・口元に、淡い微笑を浮かべたまま

878ディエチが全力全開に目覚めた様です・おまけ:2009/05/24(日) 18:33:30 ID:JziwV30Q
ディエチが一日教官を勤めた日から、明けて翌日のこと

「え、えへ、えへへへへ」

誰の台詞だか全くわからないだろうが、高町なのは一等空尉殿の台詞である
どういうわけか本局医務室のベッドに緑色のバインドで縛り付けられた格好の彼女は、自分の顔を覗き込んでいる人物に愛想笑いを見せていた
額にぶっとい青筋が浮かべつつにっこり笑顔という器用な顔芸を演じながら、なのはを見下ろしているのは本局医務官:シャマル先生である。敬称を忘れぬように

「さて。一応、弁明の機会はあげるわね。どういう理由で、全力砲撃を、敢行したのかしら?」

ペンダルフォルムのクラールヴィントを弄びながら呟いたシャマルの台詞に、なのはは喉の奥で悲鳴を漏らしながらも、
細心の注意を払って愛想笑いを維持しながら、震える唇と舌を酷使して言い訳を始めた

「え、え、えぇと、その、個人的な面子の問題・・・と言うところでして・・・ヒィッ!?」

ヒュン、とクラールヴィントの紐が輪を描いた。『旅の鏡』と呼ばれる彼女独自の魔術を行使する準備が整ったという事である

「だ、だって、だって、悔しかったんですよぉ!確かに、あの子の全力全開が私のブラスターに匹敵するのはわかってたけど・・・」
「その辺りの話は私も聞いてるわよ?破壊力計測テストの記録で、抜かれちゃったのよね?」
「70枚抜きなんて前人未踏の記録を打ち立てられちゃったら、エースオブエースの名が泣くじゃないですか!」
「なので思わず、ブラスターを使っちゃいました。と言う訳ね?」
「でも、その甲斐あって遂に新記録の樹立に成功しました!記録:71枚。ディエチにも負けてませんっ!!」

得意満面で言い放つ砲撃バカ一代に、シャマルは優しく笑い、ふっと溜息を吐き出し、問答無用の素早さで『旅の鏡』に繊手を埋める
――― 次の瞬間、なのはの胸元からリンカーコアを掴み出した腕が現れた
ベッドに縛り付けられているなのはの身体が、打ち上げられた魚の様にのたうち回る・・・のたうち回ろうとして必死に藻掻く

「いぃっ?!い、痛いですっ!?シャマル、先生ぇっ!」
「約束したわよね・・・?リハビリ期間中は大人しくするって・・・少なくとも、全力は出さないって」
「は、はいぃ!しましたぁっったい痛い痛いぃ!!」
「その痛みは、自分の無茶が招いた結果・・・リンカーコアが傷付いているから、そのくらいのことは勿論理解してるわよね?なのはちゃん?」
「ご、ごめんなぁぁっ!?ひっ、きゃぅぅっ?!」
「もう一つ、約束したことも、憶えてるわよね・・・?」

悲鳴を上げながらベッドを軋ませて見事な肢体を暴れさせるエースオブエースに、シャマルはにっこりと優しい笑みを浮かべてみせる

「約束を守れない悪い患者さんには、しっかり休養を取るためのお仕置きをします。って、約束したのよね?」

きゅっと、リンカーコアを弄り回してた白い指先が、光るコアを握り込んだ
じわじわとその掌に力が籠められ、なのはの悲鳴が大きくなって行く・・・

「きゃああぁっ!!!ご、ごめんなさいゆるしてくださいいたいたいいたぁぁぁっ!!!!」
「ごめんなさぁい、その言葉を何度も信じてあげられるほど、“お医者さん”は甘くないの」
「ひ、ひぃぃぃっ!!?や、やめてとめてやめてとめてやめてとめて ――― !!!」

くすんだ色味の金髪で俯けた表情を隠し・・・しかし、その下。三日月の様に吊り上げた唇で、湖の騎士は小さく囁いた

駄目、と



「とめった!!?」

879ディエチが全力全開に目覚めた様です・おまけ:2009/05/24(日) 18:34:30 ID:JziwV30Q
隔離施設の廊下を、ノーヴェとディエチが並んで歩いていた
それぞれの手には、デッキブラシやバケツにタワシ、スポンジ等々・・・掃除当番、という訳ではない。強いて言うならばこれは“洗浄”の準備だ

「しっかし・・・アイツにあんまり無茶させんなよなぁ」
「うん、ゴメン。正直、軽率だった」
「いや、サンタのバカが言い出したらしいし、アイツも特に壊れてないから良いんだけどよ・・・心配、しちまっただろ?」
「・・・どっちを?」
「両方だよ!サンタはアタシの子分だし、ディエチは、稼動歴は随分長いけど、ナンバリング上は妹になるんだし・・・」

赤く染めた頬を隠すようにそっぽを向きながら、何やら言い訳じみた口調でブツブツ呟くノーヴェの赤毛を、ディエチはぽんと撫でてやった

「ありがと、ノーヴェ。お詫びにもならないと思うけど、サンタの洗浄手伝うよ」
「お、おぅ。まぁ、使った分はきっちり綺麗にしてやってくれよな」

そんな風に、二人は廊下を歩く・・・向かう先は、勿論浴場・・・なわけない
サンタの巨体を洗えるスペースなど、レクリエーションルームの片隅に水溜まりを作る覚悟で確保するしかないのだ
芝生の上なので、さほどに泥が跳ねるわけではないが、ウェンディ辺りが乱入してくると碌な事にならない

そんな心配をしていると、丁度、その心配の種である十一女の声が聞こえてきた・・・どうやら、他の姉妹達も揃っているらしい
何となく、ドアの前で足を止めて耳をそばだてて居ると・・・

『・・・でも、サンタに限界突破させてもらっても、前衛組はあんまり意味無いッスよね』
『と言うか、まともに役立つのはディエチとオットーくらいだな』
『一応、射撃能力持ちのノーヴェとウェンディも、まぁ、無意味とは言えないじゃん・・・ディープ・ダイバーなんか何の意味も無いよ』
『スローター・アームズにも、有意とは言い難く』
『私とセッテについては、高速戦の邪魔になるというだけで足枷にしかならんさ。ディードも同じだな』
『はい。そう思います・・・そもそもサンタはガジェットドローン。戦い方次第ではAAランク程度の相手にも遅れを取るかもしれない存在です』
『最前線に出すなら、まぁAMFによるプレッシャーがメインだよね』
『・・・でも、折角、限界突破の性能が発揮できるってんなら、何かしたいッスよ』
『・・・気持ちは判るが、何とする?ケーブル接続が必須という時点で、機動力の大幅な低下は免れんのだぞ?』

うーん、と熟考している気配がドア越しに伝わってくるような気がする二人である
どうやら、サンタの限界突破プロセスを上手く活用して、何かできないかを模索しているらしい。声から察するに、面子は直接戦闘向きの姉妹達のようだ

「・・・ったく、揃いも揃って、人の子分に無茶させる相談かよ?」
「頼りにしてるって事だよ。きっと」

ドアの前から立ち去ろうとした二人の耳に ―――


『こうなったら、鉄球入魂しか無いッスね』


聞き捨てならん台詞をほざいたウェンディを成敗すべく、ノーヴェは問答無用でドアを蹴破り部屋に飛び込んでいったそうな

880ディエチが全力全開に目覚めた様です・おまけ:2009/05/24(日) 18:35:30 ID:JziwV30Q
「しかし、お前も無茶をしたものだな」

レクリエーションスペースの片隅に転がっていたサンタの傍らで、詩集を眺めていたチンクはそんな風に呟いた

(・・・限界突破プロセスの事ですか?)
「それもある。もう機能不全は直ったのか?」
(えぇ、自己修復でどうにかできる範囲内でしたからね・・・ディエチさんのエネルギーゲインを少々見くびっていました)

何でも無かった、とでも言うようにサンタはカメラアイをピカピカさせる・・・実際の所は、結構ヤバかったのだ
最終的に計測されたエネルギーゲインは153%。この数値は、機人の設計限界を僅かに上回っている・・・つまり、ディエチは壊れてしまってもおかしくなかった
否。はっきりと言ってしまえば、壊れていない事の方がおかしいくらいなのだ

「・・・コマンドラインの増設、エネルギー回路のバイパス・・・下手をすれば、お前が吹っ飛んでいたかも知れなかった。
それに、誰も気付いていないと思ったのか?サンタ」
(・・・マリーさん、ですか?)
「あぁ」

ディエチが今も生きている理由。それは、サンタがオーバーロードを肩代わりしていたからに他ならない
万が一の際にも、姉妹達を護れるように・・・彼はガジェットとして、デバイスとして、いつもその事を第一に考えている

「叱り飛ばすべきなのだろうが・・・お前が居てくれたお陰で、ディエチは壊れずに済んだ。
オーバーロードを吸収し、お前が内的にカノンのトリガーを引いていなかったら二人揃って爆発していただろうし。全く、ディエチも無茶をする・・・」
(・・・ごめんなさい、チンクさん)
「お前はお前なりのベストを尽くしてくれた。謝ることは無い・・・今までの無茶を考えれば、今回の無茶など可愛い物だしな」

溜息混じりに、チンクは隻眼で丸い巨体を睨み付けた
気圧されたように、サンタは丸い身体を身動ぎさせ、とぼけるように明後日の方向を向いた

「・・・はぁ・・・ディエチは高町一尉に憧れ、お前はあの人のデバイスに、レイジングハートにでも憧れたのか?
マスターが全力を出す為ならば自己を犠牲を惜しまない姿勢は、良く似ているように思うが・・・アレの真似は丸さだけにしておけ」
(・・・俺も、少しはデバイスらしくなりたかったのですが・・・今後は、善処します)
「それで良い。ノーヴェを悲しませるような事はするなよ」
(はい、チンクさん)

そうしていると、さくさくと、芝を踏む足音が二人分聞こえてきた・・・掃除道具を両手に持った、ノーヴェとディエチだ



授業の無い、平穏な隔離施設の昼下がりは、華やかな歓声と、水音と、微笑みと、浮かぶ小さな虹に彩られて、ゆっくりと過ぎてゆく ―――

881ディエチが全力全開に目覚めた様です・おまけ:2009/05/24(日) 18:36:30 ID:JziwV30Q
投下は以上です。そして色々突っ込まれそうな事を先に書いておくぜ!

◆更生中のディエチとなのはって面識があるん?
→何度かなのはと面会しており、何か通じ合うものがあるらしくなのはに対しては心を開いており、心からの笑顔を見せる事もある。(wikiより)

◆なのはのリハビリって?
→六課解散後に、主治医ことシャマルからの猛烈な勧めを受けて、半年間、緊急時以外は魔力の全力運用を控えていた
 特に体調を崩していたわけでは無いのだが、その為に今回の様なお話と相成る

◆セーフティ・ルーチンって何ぞ?どうしてそんな物を?
→ドクター曰く、「大事な娘が姉妹喧嘩で全力を出しても困るだろう?」

◆砲撃の記録に関しては一体何が?
→なのはの記録:63枚。全力全開ディエチの記録:70枚。なのはさん涙目でブラスターリリース。新記録樹立もシャマル先生にとっ捕まって「とめった!!?」
 ディエチの記録が残っていないのは彼女が正規の局員ではないから。決して嫉みが理由じゃありません

◆はやてがターゲットを100枚抜いたって、幾ら何でも無理じゃね?
→100枚並んだターゲットの総延長上、中間地点を魔力焦点にデアボリック・エミッション→「はやてちゃん、それ、反則だから・・・」「え?そうなん?」

◆とめった?
→世にも珍しい断末魔の一言です。詳しくはググってみてくださいませ

◆セッテも射撃系なのに、どうして強化する意味が無いんだよ?
→投擲能力が強化されてもブレードの強度が変わらないからとか、そんな感じで・・・なー?

◆鉄球入魂って?
→ワレコソハー♪ワレコソハー♪
 ・・・まぁ、要するに、ハンマー投げよろしくぶん投げようとしていたみたいです。サンタを。ノーヴェの大暴れによって未然に阻止されました

◆サンタ×レイジングハート?
→無い無い

◆カルタスって誰?何コイツ?
→108部隊の隊員で、ギンガの上司。ゲンヤの副官のようなポジションに居ることも多く、恐らくは有能で実直な為人なのだろう。階級は二等陸尉
 JS事件終了後は、ギンガと共に更正プログラムの監督官を兼任し、ナンバーズ達からは「頼れるお兄さん」扱いで慕われている。姉妹からの愛称は「カル兄」
 男同士だからか弄られキャラ同士だからか、ガジェット:サンタとは妙に気が合う所があり、天真爛漫な姉妹達の振る舞いには揃って溜息を吐いている様子
 ポジションはセンターガード、或いは射撃型ガードウィング。所持デバイスは支給品のミッドチルダ式汎用射撃長杖
 A+ランクの陸戦魔導師ではあるが、直接戦闘よりも捜査や探索、偵察など、フィールドワークでこそ本領を発揮するタイプ
 ベルカ式アームドデバイスの声真似が得意、なんて特技は無い筈である
 ・・・こんな設定を考えてやると、非常に扱いやすく描きやすいのだが、本編中での扱いは所謂モブキャラ並の不遇。N2Rの現場指揮官とか、そういうポジションなら・・・!

どうでも良い話ではありますが、
なのはさんの上申によって、ナンバーズの戦闘服が新規に設計されました
当初、マリーさんに話が持ち込まれ、シャーリーを経由し、フェイトが相談を受け、はやてが決定稿を持ち込んだ結果がN2Rのアレだとか、
そんな裏話は一切存在しない筈です、多分


色々と捏造が過ぎる展開であります。セッテがどうしてこんなキャラに・・・そろそろ、更正プログラムの修了を描きたいところですねぇ
エロ展開も色々考えてはいるのですが、どうも最近は非エロ脳が活性化されているようで、あまり筆が進みませんチクショウ
ソープナンバーズ+JS通販とか誰得w何処のどいつですかこんな電波送ってきやがったのは。プロット切ったけどさぁ!

それでは、長文失礼しました

882名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 18:49:35 ID:2TSghMkI
>>881
GJ!いいね。氏の描くクアットロは可愛くて困るw
負けず嫌いななのはさんにも萌え。
>次の瞬間、なのはの胸元からリンカーコアを掴み出した腕が現れた
シャwwwwマルwwwwww恐えええええwwww

883名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 19:40:15 ID:KaeEUTiM
GJ!
やはり、ディエチ×クアットロはジャスティスと再認識した。

884名無しさん@魔法少女:2009/05/24(日) 21:35:51 ID:WCoyWPQs
とめったググって把握ワロタwww
ちなみに強制静養は何日だったんで?

885名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 00:35:06 ID:unjOwwes
GJ!!です。
おぉ!ディエチを量産して使い捨て兵器として完璧に扱うなら、
相手の戦術一切無視で敵部隊も建築物も遠距離から簡単に破壊できる固定砲台になるのか。
それにしても、スカ博士は完璧に兵器として作っていないwだが、それが良いと感じるときもある。

886名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 10:23:10 ID:6kugxiUA
>→なのはの記録:63枚。全力全開ディエチの記録:70枚。

スマソがAMF展開されてる状態での話だよねこれ?
AMF常時展開されてるゆりかごの中じゃブラスター使って初めて勝てたなのはだけど
非AMFなら基本形態でもなのはのが遥か上みたいなイメージあるんだけど。

887名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 11:27:29 ID:Vb3VzKNI
それはなのは強すぎじゃね?
ま、作者それぞれなんだろうけど

888名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 18:12:54 ID:4pG1fWvQ
            /)
           ///)
          /,.=゛''"/
   /     i f ,.r='"-‐'つ____   細けぇ事はいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゛フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /

889名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 20:24:23 ID:unjOwwes
限界突破後の能力の跳ね上がり方は戦闘機人に分があると考えれば良いさ。
なのはも跳ね上がるが脆弱な人間の肉体のまま、ディエチは強化改造されている肉体のおかげで肉体限界値が高い、
もしくは魔導師より能力(IS)が簡略化されているのでっと内容にあるし丈夫とか。
個人的には、ここのなのははティアナに怒れないだろと思ったがw

890名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 20:41:54 ID:xIGCkm8s
>>889
個人的には、本編のなのはもティアナに(ry

891名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 21:02:05 ID:unjOwwes
そういえば、この作品の中で限界を超えても意味が無い個体が複数いると言っていたが、
そう言い切れるだろうか?ディードなんかはツインブレイズの速度は上げずに二回連続使用したり、セッテはブーメランブレード制御数が少し増えそう。
80パーセントで4つのブーメランだから、100の時は5、120の時は6、140の時は7と……まぁ、これ以上上がるとディエチみたいに気絶して終わりそうw

892名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 21:03:46 ID:vYNPbi/A
>>889
なかなか可愛らしいなのはさんだ。

893名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 21:12:29 ID:unjOwwes
>>892
まぁ、確かにちと可愛かった。笑ってんじゃねぇよとシャマルに静かに切れられたらどうするんだろう?w
シャマルがいくら言っても言うことを聞いてくれないなのはに、模擬戦時のTV版なのはと同じ顔して、なのはのリンカーコアを指でカリカリしながら、
左手に持ったカオスの根源としか言いようが無い、黒い粘性液体が入った注射器を頭冷やそうかとリンカーコアに注入しようと近づけてくるのさw

894246 ◆mQRQhBgEu6:2009/05/25(月) 23:04:36 ID:sUH0HdF.
前回感想レスありがとうでした。246です。
冨樫投下を何とか隔週くらいにもっていきたい今日この頃。話は四月真っ盛りなのに、気づけばもうすぐ
六月を迎えようとしていた……すみません、出来るだけ頑張りますorz
とりあえず以下ご注意を。
・ユノフェイ、フェイトさん←なのはさん、なのはママとヴィヴィオなお話です。
・鬱展開鬱エンド。誰も助かりませんし誰も救われません。
・物語の進行上、亡くなってしまう方もいらっしゃいます。
・オリキャラ注意報発令。
・フェイトさんは病みます。なのはさんは少しだけ病みます。
ではでは。

895名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 23:05:35 ID:fRC6NxG.
>886
ディエチ150%オーヴァが70枚…たぶんゆりかごで使ってただろう100%前後での発射は単純に2/3すると50枚弱。
なのはが63枚破ったのが、所詮局内の記録の話なのでブラスターまで使ってたのかどうか不明(71枚はブラスター3としても、後遺症残ってる中、賭ける物は面子だけ)の状態。

…やっぱりよく分からんという結論が出たw

896Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:05:39 ID:sUH0HdF.
 トクン、トクンといつも以上に高鳴る胸と、感じる息苦しさ。
 現在、新しい制服に身を包んでいるヴィヴィオが見つめる先にあるのは、これから通い続けるザンクト・ヒル
デ魔法学院の大きな門。
 その校門を、ヴィヴィオと同じ背丈の子供達が父や母と一緒に通り過ぎていく。
 視線をすぐ横に動かせば、あるのは”入学式”の三文字だ。意識せずともヴィヴィオが緊張してしまうのは致
し方ない事だった。

「ね、ねぇヴィヴィオママ変なところないかなっ? お化粧とか大丈夫!?」

 そしてこの母の緊張は娘と同様か、それ以上。
 管理局の制服ではなく一般のスーツに身を包み、先ほどまで手鏡を前髪を整えていた母は、若干青くなってい
る顔をファンデーションで覆っている。
 ヴィヴィオも緊張しているのだから本来母の事を気にしている余裕など無いのだが、自分以上に硬くなってい
る姿を見ていると、緊張を感じている余裕すら無さそうだと思ってしまう。

「ほらっ、早く行かないと遅刻になっちゃう」
「ちょっ――引っ張らないでよっ、まだ準備が!」
「いいから行くの!」

 お化粧なんかしなくてもなのはママは綺麗だよ、とは言わなかった。慌てている母が珍しから、少し意地悪を
したくなってしまったのかもしれない。
 娘の悪戯は思いの他効果的で、なのはは会場の後方にある席に向かう為ヴィヴィオと別れる直前も、イヤイヤ
とヴィヴィオの手を放そうとはしなかった。
 その姿があまりにも六課で見たフェイトと似てしまっていて、母の手を払ったヴィヴィオにも苦笑いが。

「ママ大丈夫かなぁ……」

 基本的に道順を示した矢印に従うだけの道中、別れた後母は暴れていないだろうかと、本人にはとても聞かせ
られない事を考えながらもヴィヴィオは入場まで待機するべく指定された教室へ向かう。
 自分の小さな胸へと手のひらを当ててみれば、いつもよりも断然早い鼓動が感じられた。母のおかげで抑えら
れていたに違いない。そうやって気づいてしまえば心細さは急に顔を出し始めてしまって。
 教室の扉を開けたその時に、それはヴィヴィオの身体が強張る程に顕著になった。
 見開いたオッドアイの先にあるのは、ヴィヴィオと同じく今年入学する子供達。恐らくは、これから何年か共
に勉強をするクラスメイト。
 意識した瞬間に呼吸がしづらいものへと変わり、教室へ進める一歩を躊躇ってしまう。
 出席番号順に並ぶ机の、自分の名前が貼り付けられていた席に座るのに数分。恐る恐る周りの子供達に視線を
巡らせる事が出来たのは、席に座ってからしばらく時間が経ってから。
 目の前の黒板には、入学を祝う言葉が色とりどりのチョークで書かれていて、エリオよりも小さい男の子達が
黒板に落書きをしていた。
 周りの子供達がやけに親しげに会話をしているのは、幼稚舎の頃から一緒の子が多いためなのだろう。勿論、
ヴィヴィオに話しかけられる友達など一人もいない。
 次第に緊張に耐え切れなくなり、チリチリと胃の辺りに痛みがさす。
 痛みから逃れようと腹を抱えて俯き始めたヴィヴィオに、追い討ちを掛けるように複数の視線が集う。それが
余計に苦しくて思わず母の元へ逃げ出したいと考えてしまった程。
 それをしなかったのは、緊張に勝つことが出来たからではなく、

「――大丈夫? お腹、痛いの?」

 たまたま前に座っていた女の子が、そう声をかけてくれたから。

「保健室とか、先生呼んだほうが良い? あっ、わたしの名前はエクジェスって言うの」

 紡がれた名前に、高町ヴィヴィオと慌てて自分の名前を口にする。女の子はニッコリと微笑むが、ヴィヴィオ
は戸惑う事しか出来なかった。
 だが、自分の手を包む手は母の手よりも小さくて、母とは違う暖かさを持っている不思議な手。その暖かさを
感じているうちに、段々と緊張が和らいでいく気がした。

「あ、あのっ……ちょっと、緊張してて……具合悪いとかそういうのじゃなくて……」
「そっか。良かったぁ……この子、緊張してるだけだったみたい」

 そう言って、女の子は周囲の皆に笑いかける。全てその女の子の友達らしい。手を握ってくれている女の子と
同じ様にヴィヴィオの体調を伺っていたが、緊張しているだけだと分かり一斉に肩の力を抜いていた。
 緊張しているだけと分かれば、子供達も何ら気にすることではない。始まったのは、ヴィヴィオを中心にした
数名による自己紹介。そしてヴィヴィオへの質問攻め。
 スバルにティアナにエリオにキャロ。他の六課の局員達と一緒の時。ヴィヴィオの知っているどれとも違う状
況がここにあった。

897Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:07:14 ID:sUH0HdF.
Cursed Lily
-第2話-


「――はい、確かに。これでティアナの今日の仕事は終わりね。お疲れ様」
「えっ……は、はい了解です」

 そうフェイトがティアナに声をかけたのは、まだ定時よりも少し早い時刻。ティアナに宛がわれた仕事部屋で、
提出するように命じていた報告書の出来を一通り確認してからの事だった。
 仕事の終わりとなるや脱力し、机に突っ伏したティアナにフェイトは苦笑い。
 ここ数日、慣れない環境の中で頑張っているのだから相当疲れているだろうと思っていたが、やはり間違いで
は無かったのだろう。

「ティアナ、私も上がっちゃうから少し艦内でお茶していこうか。丁度定時になるだろうし」
「良いんですか?」
「休めるときに休んでおかないとね」

 はぁ、と曖昧に相槌を打つティアナの背を叩き、揃って休憩所へ。
 適当に空いている席に座って、先ずは揃ってコーヒーを一口。喉を鳴らすと共に身体の力を抜けば、自然と溜
息が飛び出してしまう。久しぶりの艦での仕事は、フェイトにとってもそれなりの疲労を感じるものだっのだ。

「最近どうかな? ここ来て一週間だけど、あまりそう言うの聞いてなかったから」
「えっと、皆さんには良くしてもらってます。シャーリー先輩には分からないところ教えて頂いて、クロノ館長
にはたまに執務官試験の勉強も見ていただいて……」

 どうやらコミュニケーション的には全くといって良いほど問題は無いよう。
 仕事中から気をつけているが、仕事の忙しさに比例して目の届かないところが増えてしまう。そうなる前にと
考えていたのだが、杞憂だと分かりフェイトの口元に安堵の笑み。
 その様子に気づいたティアナが眉を下げ、申し訳無さそうに礼を言った。

「私は大丈夫です。まだ色々大変な事もありますけど何とか頑張ってます……ただ、ちょっと仕事に慣れないの
が」
「そうだね、六課でも似たような仕事はあったけどこう言った報告書は全部私かシャーリーが作ってたから。そ
う思って今回作ってもらったんだけど……そうだ、報告書」

 途端、ティアナの表情が険しくなる。ティアナの仕事中に感じるピリッとした空気は、隣にいても気持ちが良
い。六課入隊したての時も似たようなものがあったが、あの時よりも少しだけ柔らかい。なのはが認めたとおり、
人を引っ張っていく才能がある。
 しかし、それ以上に必要なものだってある。人を引っ張る事よりも前に、徹底的にこういった仕事を完璧にこ
なして欲しかった。

「報告書ね、今回はあれでいいけど次からもう少し分かりやすくって思いながら書いたほうがいいかな。読む相
手は事件の概要しか知らないような人達だから」
「分かりやすくですか?」
「うん、ティアナも気をつけてはいたと思うけどね。その事件を直接見た人間と見ていない人間じゃ、結構違う
ものだから」
「……そうですか……すみません、次からは」
「あぁっもう、落ち込まないで。怒ってるわけじゃないんだから」

898Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:08:02 ID:sUH0HdF.
 落ち込んでしまった部下を、フェイトがどうにか励まそうと試みるが、中々上手くいってはくれない。むしろ
益々ティアナは落ち込むばかり。
 終わりと言いながら、仕事の話をする必要も無かったと後悔しても後の祭り。
 この辺り、シャーリーだったならば笑って済ませる事が出来るのだが、そんな事をいくら考えたところで解決
になんてなってはくれなかった。

「あー、ごめん。ほんと、落ち込ませたりするつもりは無かったんだ」
「すみません……なんか、上手く出来ないなぁって……」
「ティアナはちゃんとやってるって。今のだって誰でも言われることだし、私もクロノに何回も言われてる」
「フェイトさんが? ほんとですか?」
「ほんとだって。クロノは凄い細かいんだ。私が執務官補佐になりたての時だって」

 話は何故か、過去の失敗とたびたび感じる色々なものへの不満に変わっていた。
 ティアナも食い入るようにしてフェイトの話を聞き、時折大げさに頷いている。ちなみに彼女の愚痴は六課時
代、妙に自分にだけ厳しかったような気がしたらしい、なのはへの不満にもならない些細な愚痴だ。
 もうとっくに、ティアナは落ち込むのを止めてくれている。だが、フェイトの口は止まらない。次第に苦笑へ
と変わっていく部下の表情にようやく気づいたのは、飲みかけのコーヒーが完全に冷えてしまってから。

「なんか、フェイトさんも大変なんですね……」
「はぁ……私、何言ってるんだろ……ごめん」
「でも、あれですね――」

 ん、と伏せていた顔を上げてティアナを見た。
 ティアナは何か難しいことを考えるように顎に手を当て、小さく唸っている。
 何事かと、聞こうと口を開いたその瞬間。

「なんか、殆どなのはさん関連の話なんですね……なのはさんが怪我したとか、なのはさんがまた無茶しただと
か」
「……そういえば、そうかも」

 別にはっきりと意識していたつもりはこれっぽっちも無いが、考えれば考えるほど愚痴その他諸々の言いたい
事は、なのはが何かしてかした時の事がほとんどだ。
 もしかしたら、非常にまずい事を言ってしまったのかもしれないとフェイトは考える。ティアナを信用してい
ない訳ではないが、一応釘を刺しておく必要がある。
 息を吸い、いつもより気持ち真剣な表情でティアナを見つめる。何事かを察したティアナが喉を鳴らす。肺に
溜めていた息を吐き出すと共に、フェイトは言った。

「お願いだからなのはには内緒ね? 私がなのはに怒られる」

 その時を想像して、背筋に寒気が走った。
 ティアナは何が面白いのかそんなフェイトを見て笑いを堪えている。コーヒーを口に運び必死に笑いを堪えよ
うとしている様だったが、震えている肩は隠せていない。

「ち、ちなみにこれ、もしなのはさんに言ったらどうなるんですか?」

 上司としてこれは良くない。上司たるもの部下に舐められたら終わりである。つまりは何かティアナの口を塞
ぐ話題でも振って見ればいいのだが、そんな事をすれば大人げ無いと言われるのがオチだが、そんな事を気にし
ている余裕なんて恐らくどこにもない。

「私もティアナがなのはに言ってた愚痴を言う。お互い様でしょ?」
「それは、ちょっと……ご勘弁を」

 すぐに声を出し合って笑った。あまりに笑った為か、目尻には涙目で滲んでしまっている。荒い呼吸と涙に痛
む目が余計におかしくなってしまう。こんなにも声を出して笑ったのは、中学生の時くらいだっただろうか。
 どうにか呼吸を落ち着け、涙を拭いながらふと時計を見れば定時前。ティアナも察してか、カップを載せたト
レイを手に立ち上がろうとしていた。

899Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:08:36 ID:sUH0HdF.
「ティアナ、これからどうするの? せっかくだし、どこかに遊びに行って来れば?」
「まだ特に決めてはいないんですけど……そうですね、それもいいかもです」
「スバルも予定空いてればいいけどね」
「駄目ですよ。スバルは今日、家族で食事って言ってましたから。邪魔なんて出来ませんよ」
「あっ、一人暮らし」

 そう言えばと思い出す。
 きっと今頃、スバルも一人暮らしの準備で忙しいのだろう。クラウディアにティアナが来てから数日、スバル
に連絡を取る様子が無かったのもきっとその為。

「スバルも頑張ってるみたいだね。たまには連絡してあげないと、寂しがっちゃうよ」
「大丈夫ですよ、スバルは」
「へぇ、分かるんだ」

 結構長い付き合いですから、とティアナが顔を赤くしながら言った。
 その反応が妙に初々しくてからかって見たい気がしてしまうのは、自分に対するシグナムの癖でもうつってし
まったのかもしれない。

「でも、なのはさんとフェイトさんには適わないです」
「そんな事ないよ。なのはだって、ティアナとスバルはいいコンビって褒めてたし。私から見ても、お互い長所
と短所を補ってる様に見えたよ……だから、これからもちゃんとスバルの事支えてあげてね」

 一番最初を思い出す。もし、自分がなのはと出会っていなかったらどうなっていたかを。
 今ある幸せも、これから掴む幸せも、全てなのはが自分の親友になってくれたからだと思っていた。
 お礼と言う訳じゃない。けれどなのはの親友として、出来る限りの事はしてあげたい。ティアナもスバルに対
してそう思ってくれていると嬉しかった。

「今は自分の事で精一杯ですけど、余裕が出来たら。スバルがいなかったら、自分はここまで来れなかったと思っ
てますから」

 自分が言うまでも無い事だったのだろう。少しだけからかってみる。ティアナは真っ赤になりながらも自分の
言葉を否定しようとはしなかった。
 別れ際、ティアナの今日の予定について考えてみた。邪魔はしないと言っていたが、そわそわとした様子を見
る限り話くらいはするのかもしれない。

「予定か。私は……」

 どうしようかと悩む。早くに上がるのは良いが、これと言う趣味がある訳ではない自分に予定らしい予定があ
る訳も無く。
 どうせ帰ってもやる事が無いのなら、何か仕事を見つけてやってしまおうかと考えていた矢先の事。
 場所はティアナ以外のもう一人の部下の部屋。
 確か今日は、六課解散の時になのはに渡せなかったレイジングハートの調整を行っていた筈だ。その部屋の中
で一体何が行われているのか。
 何故か、懐かしすぎる彼女の声を耳にした。


* * *

900246:2009/05/25(月) 23:13:48 ID:GEGEhrqM
自分で支援

901名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 23:14:58 ID:94iZY9Us
>>881
クアットロ×ディエチが美味しいなぁ。
セッテが地味に可愛いかった!

902Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:16:11 ID:sUH0HdF.
『ディバイ――ンッ、バスタァァァァッ――!!!』

 思わず身を仰け反ってしまうような気合の入った声と共に、モニター一面に桜色が広がった。
 眼鏡のレンズに桜色を反射させ、同色に頬を染めているシャーリーの妙に艶かしい吐息に、思わずフェイトは
距離を置く。
 フェイトが訪れた時には既に始まっていた”子供の頃のまだ可愛かったなのはさん”の鑑賞会は、新たな観客
を置き去りに、いい感じのクライマックスになっているようだった。

『まだこの頃は魔力が高いだけでしたけど、どうですか? 可愛いものでしょう?』
「えぇ、ほんとに……みんなにも見せてあげたいですね。フェイトさん」
「い、いや……前に一度みんな見てるし……」

 そんな事よりも、文句を言いたいのは今上演中のシーン。
 なのはの砲撃にさらされ、息も絶え絶えになっている可愛そうな少女は、”子供の頃の小さくて可愛いフェイ
トさん”に他ならない。
 これが私の全力全開なんて物騒な声と共に、やたらと男気溢れるなのはの表情がアップになる。条件反射で思
い出してしまうのは、その時の恐ろしさ。

「何でこんなの見てるの? レイジングハートまで一緒になって」
「レイジングハートさんのバックアップが終わるのを待ってるんです。もしもって場合もありますし、いつでも
レイジングハートさんを治せるようにバックアップだけは欠かせません。ちょっと時間がかかってしまうので大
変なんですが」

 言うや否や、シャーリーがセットしていたらしきディスクが端末から吐き出された。中に入っているのはマス
ターであるなのはとレイジングハートの十一年分の思い出だ。
 休む事なくシャーリーは次のディスクをセットする。十一年は決して短い時間なんかじゃない。バックアップ
を取るのも一苦労である事は容易に分かる。
 それでも疲れを全く見せないシャーリーの横顔は、映像を見ていた時とは打って変わって真剣だ。理由は簡単。
今扱っているものが掛け替えの無い大切なものだとシャーリーが思っているから。

「凄いですよねー。こうやって大切な思い出を残しておけるっていうのは。それが出来ない私達からすれば、羨
ましくなってしまいます」

 不意に、シャーリーが表情を変えぬまま呟く。その言葉に、フェイトは何と返して良いかは分からなかった。
 普段に無いシャーリーの言葉に共感してしまって上手い言葉が見つからない。その代わりの様に、なのはの紅
い宝石が瞬いた。

『――確かにそうなのかもしれませんが、それが出来ないかったからこそあなた達は記憶を大切な物としている
のではないのですか? いつまでも失くしたくないからこそ、あなた達は色々な物を生み出した。私がこの様に
存在しているのも、そのおかげです。忘れると言う事が悲しい事を知っているからこそ、忘れたくないと思った
のでしょう?』

 例えば写真。その発展が映像記録。
 技術の進化と共に人の記憶を留める術も進化して、今では完全に記憶を残しておける術も見つかっている。フェ
イトの幼い時の記憶もそうした技術の結果だ。
 だが、FATEプロジェクトが禁忌であるように、人の記憶のコピーは許されるものではない。
 それは、自分だけではなく他者の記憶が人を形作っているものだから。フェイトであれば、フェイト自身が経
験した十数年間以上に、他者のフェイトに関わる記憶が今のフェイトという存在を形成している。記憶とはそれ
程のもの。それ程に大切なもの。
 どれだけ時が流れてもそれだけは決して変わるものではない。

「すみません、なんか変な空気にしちゃったみたいで」

 皆が閉口してしまった空気に耐えかねたシャーリーが、いつもの様に明るい笑顔を見せてくる。
 レイジングハートがそれ以上何も言う事は無かった。再び九歳の頃のなのはの映像を映し出し、興奮するシャー
リーと共にその映像を眺めている。それに倣ってフェイトもなのはの映像に視線を戻した。
 今上映されているのは、なのはのヴィータ初戦。悲鳴と共に、なのはがビルに突っ込んだところだ。

「あ、ここ! フェイトさんがカッコいい所ですね!」
『はい。マスターのお気に入りです』
「いやっ、ここはユーノの方が凄いんだよっ? 実際なのはを助けたのだって、ユーノが探索魔法使ったからだ
し、他にももっと――って、シャーリー聞いてるの?」
「あっ、ごめんなさいフェイトさん。何でしたっけ……?」
「いいよ、もう……それより、バックアップいつ頃終わるの?」
「えーと、後一時間ほどで」
「そ。私は先に上がるから、シャーリーも適当なところでね」

903Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:17:12 ID:sUH0HdF.
 はーい、と返ってくるシャーリーの能天気な言葉に小さくため息を吐いて、フェイトが退室した。
 扉の向こうからは、フェイトがいなくなったからか先ほど以上に白熱しているシャーリーの声。
 聞こえた声には自分の名も混じっていた。多分、シグナムと戦っている辺りの映像でも見ているのだろう。当時を思い出し、僅かに顔が熱くなる。
 あの時は、シグナムに全く歯が立たない状況だった。
 過去の失敗を思い出すのは良い気がしない。今ならもっと上手く立ち回れると思うからなお更に。

「後悔したって仕方ないよね……よし――」

 一人頷いて、フェイトがクラウディアを出る。
 時間も丁度良いくらい。空腹を感じる腹を撫でながら、フェイトは通信ウインドウを立ち上げる。
 通信の相手は夜にでも連絡しようと思っていた相手。
 今日はとことん、娘の話を聞かせてもらうとしよう。


* * *


 心地よいエンジン音が鼓膜を揺らす。アクセルを気持ち強めに踏めば車が加速すると共に、夕日に染まった背
景の流れる速度が速くなる。
 窓を全開にし、入り込む夜風の冷たさを感じながら、フェイトはステアリングを握っていた。隣にはなのはが。
 特に目的地がある訳ではない。なのはに入学式の時の話を聞くついでの、久しぶりのドライブだった。

「風気持ちいいね。六課にいる時は全然だったけど、やっぱりたまには良いね」
「うん」

 なのはの口数は意外な程に少ない。てっきり、興奮した様子で入学式の事を話してくれるのかと期待していた
のだが、フェイトが話しかけてそれに相槌を打つ程度。
 初めての事になのはも疲れてしまっているのかもしれない。ヴィヴィオも熟睡してしまっているそうだから恐
らくは。
 自然、交わす言葉の数は減り次の言葉までの間は伸びていく。苦ではない。口数は少なかったけれど、なのは
の横顔は笑っていたから。

「もっと凄い嬉しそうなのを予想してたんだけどなぁ」
「にゃはは、さすがに何時間も経ってるからね。もうちょっと早く連絡してくれれば良かったのに」
「しょうがないよ。仕事だったんだから」
「うん、お疲れ様。そうだ、ティアナはどう? ちゃんとやってる?」

 全く心配していない様子でなのはが言う。心配していないのはどうでもいいからではなく信頼の表れだ。

「まだちょっと環境に慣れきってないみたいだけど、頑張ってるよ。優秀な子だし、やる気もあるから助かって
る」
「慣れかぁ……確かに、ティアナはその辺りはちょっと苦手かもだね」
「緊張って感じじゃないんだけどね、頑張りすぎてるのかな。スバルくらい力抜いてくれたら理想なんだけど。
なのははどうだったの? 今日緊張したりとか」

 うーん、となのはが考え込む。何故か困ったように眉を下げ、何かを言いあぐねているている様子。どうした
のとフェイトが言葉を投げかけても、なのはの様子は変わらない。
 そのまま待つこと数分。溜めていたらしき息を吐き出して、なのはが言った。

「実は緊張し過ぎて、いつの間にか終わってた感がありまして……」
「もぅ、何それ。せっかくのヴィヴィオの入学式だって言うのに――」
「で、でもっ、ちゃんとヴィヴィオの事見てたもん! ヴィヴィオ、凄い頑張ってたんだから!」
「覚えてないとか言ってるくせに」

 なのはが悔しそうにこちらを睨みつけてくる。何やら良い訳があるようだが聞く耳なんて持っていない。
 そのままなのはの反論を適当にやりすごし、頬を膨らませる姿に声を出してフェイトが笑う。
 怒りを露にして顔を真っ赤にしているなのはは、母親である事を忘れそうな程に可愛らしい。仕事中はあまり
こう言った表情を見せる事は少ないけれど、そんな子供っぽいなのはの反応が好きだった。

「こっちの話聞きもしないでニヤニヤして……話聞かないなら、ヴィヴィオ寂しがるし帰っちゃうんだからね?」
「どうやって? ここ、どこだか分かってる?」
「……なんか、今日のフェイトちゃん凄い意地悪だよ」
「そんな事ないよ。いきなり何言ってるの」
「いーや、意地悪だ」

904Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:17:52 ID:sUH0HdF.
 そうやって互いに言い合って、気づけばすっかりと辺りは暗くなってしまっていた。
 久しぶりの長時間の運転に疲労を感じ、休憩がてらたまたま見つけた公園の横に車を停めれば、なのはまっす
ぐブランコへ。もう公園で遊ぶような年ではないだろうと苦笑しながらも、フェイトはなのはを追う。
 大分小さく感じてしまうブランコに身を預ければ、錆びた鉄の擦れあう音がした。大きく揺らしはせず、地面
に足をつけて前後させる。
 懐かしいというよりは、不慣れな玩具で遊んでいる感覚。隣にいるなのはもそんな感じだったらしい。

「ブランコなんて、数えるほどしか遊んだ事無かったね」
「そうだね、暇さえあればなのはも私も魔法の練習だったし。でも、なのははアリサやすずかと遊んでたんじゃ
ないの?」
「あんまり無いよ。塾あったし、遊んでてもアリサちゃんの家でゲームとかばっかりだし……ヴィヴィオも、外
で遊ぶより本読んでる方が好きみたい」
「あ、ヴィヴィオ。入学式の話、まだ殆ど聞いてない」

 忘れていたのか、なのはもそうだったと苦笑する。
 なのはが一度大きく地面を蹴ってブランコを揺らした後、入学式の話がようやく始まった。勿論、なのはが覚
えてる範囲内でだ。

「最初はほんとに緊張して全然余裕無かったの。ドキドキしながらヴィヴィオが入場してくるの待って、子供達
が入場してからはずっとヴィヴィオを探して……ようやく慣れのは、ヴィヴィオ達が一人ずつ名前呼ばれう辺り
だったかな。ヴィヴィオ、全然緊張なんかしてなくてね……まだちっちゃいのに立派に見えて、緊張してるのが
情けなくなっちゃったんだ」
「情けなく?」
「うん、ヴィヴィオが頑張ってるのにママが何やってるんだろうって。ヴィヴィオのママとしてもっとしっかり
しないとって」

 なのはの話を聞きながらフェイトは思った。自分はあの子達の母親としてちゃんと出来ているのかと。
 エリオとキャロが自分の事を母親としてあまり慕ってくれていない気がしたから。母親よりも助けてくれた人
と感じてる方が強いのではないか。
 言葉にはせず表情にも出さず、なのはのヴィヴィオを本当に愛していることが分かる表情と口調を目の前にし
て、不安と疑問がフェイトの中で巡っていく。
 隣ではフェイトちゃん、と訝しげに視線を送っているなのはの声。それに何でもないと笑って、続くなのはの
話を聞いた。
 今は入学式で初めて見た、ヴィヴィオと親しげに話していた女の子の話だ。

「凄い可愛かったんだ。ヴィヴィオが一人でいるところに声かけてくれたんだって。その子、他にも友達がいて
ね、みんなと仲良くなったって話してくてたの」
「そっか」
「もうびっくりしちゃったよ。友達の話なんて今日聞くとは思わなかったし、ヴィヴィオと同い年の女の子なん
て今まで、近くてもキャロくらいだったし……ほんと、びっくり」

 静かな口調で言うなのはの声が震えていた。声にはなのはの感情が込められている。娘への愛情と、娘に友達
が出来たことに対する喜びで。

905Cursed Lily:2009/05/25(月) 23:18:28 ID:sUH0HdF.
「大丈夫?」
「う、うん……平気。ごめんね」
「いいよ。私も分かるから」

 自分の事に苦笑を隠せないでいるなのはは、頬を紅く染めている。一年前は考えもしていなかった母親として
のなのはの表情だ。
 見ているだけで心が温かくなっていく。なのはの手を握り、その手が握り返してくるのを感じながらフェイト
も自分の子を想った。

「私ね、ヴィヴィオのママになれて良かったなぁ」
「それ、ヴィヴィオに言ってあげたら喜ぶよ」
「恥ずかしくて言えないよ……フェイトちゃんだから言うんだからね。私、フェイトちゃんのおかげでヴィヴィ
オのママになれたと思ってるから」
「私の?」
「うん……フェイトちゃんが、ヴィヴィオがいなくなった時抱きしめてくれたから。多分、私フェイトちゃんが
いなかったらヴィヴィオの事助けられなかったかもしれない……」
「私はそんな大それた事してないよ。それに、なのはの事励ましたのだって私だけじゃないでしょ? 六課のみ
んなとかユーノだって。他のみんなもなのはの力になってたと思うけどな」

 返事は聞かずに、フェイトは立ち上がる。
 夜も大分本格的になり、風も肌寒さを伴いはじめている。運転し続けて重たさを感じていた肩や腕も大分楽
になっていた。休憩は、そろそろ終わりで良いだろう。

「そろそろ帰ろうか。あまり遅くなっちゃうとヴィヴィオも心配するかも」

 そう言いなのはに背を向けて歩こうとして、

「あっ、フェイトちゃんあのっ――」

 何故か、なのはに腕を掴まれていた。

「なのは? そろそろ帰ったほうが……」
「う、うん……ヴィヴィオも心配してるよね……帰らないと……」

 不意に腕を掴んできたなのはの手には、痛いくらいの力が込められていた。
 帰ると言いながら、なのはは中々手を放してくれない。どうしたのと首を首を傾げてみても、何も応えようと
はしてくれない。
 なのはの突然の様子の変化に、フェイトは対処しきれなかった。俯きがちななのはの顔を隠す前髪から覗くこ
とが出来た表情は、何か大きな不安を感じている。
 思い出すのはエリオがまだ幼い時。何か言いたい事があるのに、それでも自分を困らせる事を恐れてしまって
言い出せないでいるのを見ているような感覚。
 だから黙って、なのはの言葉を待つことにした。急かしては駄目だ。なのはの勇気が出てくるまでいくらでも
待つと、そう意思を込めて大丈夫だよとフェイトは微笑む。
 そして、ようやくの事。
 なのはが、静かに言葉を紡ぎ始めた。

「あ、あのね……フェイトちゃん――」

906246 ◆mQRQhBgEu6:2009/05/25(月) 23:20:17 ID:sUH0HdF.
すみません。途中書き込めなくなってしまい焦ってしまいました。>>900は無視してあげてください。

なのはさんが親友にマジで告白する五秒前な一方、ティアナは親友のフラグ立てに励んでいました。そしてさり
げなくユーノ君の名前を強調するフェイトさん。ユーノ君は四話あたりで登場する予定。
オリキャラがでしゃばる展開は出来るだけ避けるつもりです。登場したからには役目がありますが、元々モブ
キャラでやっていた事なのでいてもいなくても良かったり……ちょっとしたスパイス程度な扱いの子です。
ちなみに、なのはさんとフェイトさんのまともな会話シーンはもうありません。
ではでは。

907名無しさん@魔法少女:2009/05/25(月) 23:54:32 ID:unjOwwes
GJ!!です。
くそぅ!バットエンド確定なんて。
もう、こうなったらなのはさんはユーノとフェイトに私も混ぜて(フェイト狙いですと正直に言う)と言うしかねぇw

908名無しさん@魔法少女:2009/05/26(火) 00:35:38 ID:J89PHEfU
>>906
グッジョォォォォブ! 待ってましたぁ!
あぁ、このあとみんなが病んでいくと思うと・……堪らないぜ……!
次回もwktkして待ってます。がんばってください


>>895 >>901
書き込み前のリロードを心がけよう

909名無しさん@魔法少女:2009/05/26(火) 15:36:52 ID:fvb8dS12
>>908
>>895
リロードしても1分以内じゃコピペでもきついんじゃね?

910名無しさん@魔法少女:2009/05/26(火) 22:48:56 ID:tBiyphO6
>>906
>なのはさんとフェイトさんのまともな会話シーンはもうありません
よしよし、次回以降は鬱展開まっしぐらですね。期待
GJ!でした

911シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:20:25 ID:6xFuXPOk
こんばんは。以前は司書長〜orトーレ姉SSと言ってましたが、
去年の八月投下の長編の続きを投下します。
注意事項は
・STSアフター
・機動六課、ナンバーズに死者が出たりしている。
・そのため全体的にダークです。残酷表現多数。
・というか今回の話はナンバーズの無残死を描写しています。
・ナカジマハーレムことSSXの空気が好きな人は要注意。あの人がスプラッタに死にます。
・捏造設定も多数
・冲方先生の影響を受けたため、今回から「/」多用文体に。

以上の事項に注意してください。去年の八月のですから、一応あらすじも。
あらすじ
新暦75年の<ゆりかご>浮上事件は惨劇に終わった。機動六課・ナンバーズともに死者を出した戦場……
失ったものは多く、高町なのはは友と家族を。
スバル・ナカジマは親友と仲間を失った。
それでも、彼女らは闘い続ける。

管理局側
・スバル・ナカジマ:執務官
・ヴァイス・グランセニック:武装隊に復帰
・ゼスト・グランガイツ:超法的措置で実戦投入
・ルーテシア・アルピーノ:嘱託魔導師

敵側
・ジェイル・スカリエッティ:科学者/テロリスト。
・戦闘機人ナンバーズ(残留組):人造生命
・エリオ・モンディアル:元機動六課隊員
・フリードリヒ:強化竜

???
・高町なのは:追跡者/復讐者
・チンク以下、ナンバーズ投降組:不明

912嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:26:29 ID:6xFuXPOk
―――幼年期の終わりに。

ばんっ。ぐちゃ。どろり。
ポップコーンみたいに白いものが飛び散る。

「あ……ぁ?」

何が起こっているのかわからなかった。
何が自分達を襲っているのか理解出来なかった。
何がウェンディとディードを貫いたのか、見当もつかなかった。

――おいおい、なんで血が出てるんだよ。なんで、魔法で肉が抉れているんだよ。
魔法って人殺しが出来ないように、非殺傷設定ってのが当たり前なんだろ?
だったらさ、どうして―――二人とも動かないんだ?

「……ぉい? ウェンディ? 無視するなよ……」

ふらふらとウェンディの倒れている方向へ歩む、しゃがみ込む。
酷い有様だった。どす黒く濁った血が流れ、ゴポゴポと血の泡が立っている。
ウェンディの何時も笑っている顔は、上顎から下が綺麗に吹っ飛んでいて、歯は折れ飛んでいる。
肉と骨が吹き飛んだ彼女の顔――もうそこらのスプラッター映画より酷い有様。
どんよりと死んだ魚のように濁り動かない眼球。ノーヴェはやっと、ウェンディに呼びかけても返事がない理由を知った。

――ああ、死んじまったんだ。
ディードの方はもっとわかりやすくて、延髄ごと首の肉がごっそり無くなっている。
殆ど皮一枚で繋がっているような状態だから――生きているはずがなかった。
それを為した張本人たる機動六課の魔導師に、漸くノーヴェの意識が向く。
不思議と怒りは湧いてこない。いや、事象に現実感が伴わない。どうしてだよ――そんな言葉が胸に飛来する。
茫然自失の表情で己のデバイス=拳銃型を眺めていた少女――ティアナ・ランスターが、呟いた。

「……どうして……“クロスミラージュ”!?」

「……ぁあ?」

こいつは何を言っている? 
そう思った瞬間、カチリ、とノーヴェの中でスイッチが入る。
冷徹な機械音声が聞こえた。

《ああしなければ、貴方が死んでいました》

「――あたしは殺したくなんか無かったッッ!」

本能で理解する/コンマ刻みの思考/燃え上がる感情=殺意と同義。

――殺したくなかった? 
そうやってお前は、二人を殺したって“事実”から逃げるのかよ?
くくく、と涙を流して笑う/嗤う。回り続ける焔の車――止まらない感情の暴走。
ティアナ・ランスターがこちらを向き、カタカタと震える腕で銃口をこちらへ。

「……殺す覚悟もねぇのに、殺したのかよ?」

「え……ぁ」

爆発/加速=烈火の勢い。

「―――ふざけんなァァァァ!!」

激突必至/回し蹴りが弾丸の如く―――。

ぐしゃり。



913嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:27:08 ID:6xFuXPOk
―――新暦77年

多くのものが失われた。
空の天蓋が抜けたように降り注ぐ雨は、仄暗い地上に潤いをもたらす為に弾け散り、流水となって染みこんでいく。
墓石も、傘も差さずに立ち尽くす人影も濡らしていくそれ――冷たいシャワーを浴びながら、スバル・ナカジマの思考は停滞していた。
青紫のショートカット、母から受け継いだ髪の毛が雨粒に濡れ、白い肌に張り付く。

「あれほどの戦いだ、死んでも仕方がなかったんだ――」

その言葉に、顔を上げた。見れば、その人は泣いていた。
泣き続けている自分が馬鹿に思えるほど、無表情に前を向いて泣いていた。
声が溢れ、雨音と一緒に流れていく。涙と雨粒の違いなど――さしてあるまい。

「シグナム副隊長……貴方は――」

「死んだんだ。主も、テスタロッサも、小さな二人も――ヴィータも」

誰もがもがき苦しみ、最悪の戦場で逝った。
通信途絶から百数十秒――その僅かな時間は、死の連鎖が続く悪夢の如き凄絶な時間だった。
最初に誰が死んだのかなど、わかるはずもない。
死屍累々の戦場で、受け継がれたもの――受け継がれなかったもの――。
その痛みは、人が耐えるにはあまりに大き過ぎた。ゆえに、多くの人間が忘れようとし、<ゆりかご>浮上から二年経った今、
墓参りに来ているのはほんの僅かな人数だけだ。スバルとシグナムはその数少ない者達であり、死者を悼める立場にある人間だった。
まだ、手を伸ばし続けている理想へはほど遠く、友の死を受け入れるには幼すぎた少女は成長し、すべてを飲み干して見渡せるようになった。
だが――目の前の女性は、かつて烈火の将と言われた守護騎士の生き残りは、何を望んでここに立つのか?
それを問おうとした瞬間である。シグナムは天上へ目を向け、ふと言葉をもらした。

「なぁ、スバルよ。主達は――笑って逝けたと思うか?」

「え―――」

答えも出ずに立ち尽くす少女に微笑みかけると、シグナムは一刀を抜いた。
その身体を包むべく騎士甲冑が展開され、声もなく泣いていた顔に凛とした表情が浮かぶ。
悲しいくらい冴え渡った剣先。機構内蔵式騎士剣レヴァンティンが鋼の白銀も露わに雨粒を弾いた。
その切っ先がスバル――生き残った最後のフォワードメンバーに向けられ、蒸気の噴出とともに、鳴いた。

「私はな、主達がどう逝ったにせよ――お前に授けねばならない。
我が秘技――古代ベルカ最後の騎士、シグナムが必殺“紫電一閃”を!!」

無言が返答。
スバルの純白のバリアジャケットが展開され、ローラーブーツと黒鉄色の籠手が装着される。
デバイス――マッハキャリバー、リボルバーナックル。
機械音声が具足たるマッハキャリバーより放たれ、警告を発する。

《相棒! 騎士は本気です、対象の疑似リンカーコア活性化》

「本当にな、どうでも良いことなんだ。ただ私の騎士としての最後の義務は――」

火炎を纏った灼熱の刃が神速の斬撃を降らせる。

「――お前という存在に、“伝える”ことだけだからっ!」

「ならば! 高町なのはの弟子、スバル・ナカジマは! 最後の一刀まで――」

その必殺を、真っ向から剣の腹を拳で叩くという形で避けたスバルは、反撃。
下段から手首を返しさらに迫る一撃をリボルバーナックルで払い落とし、左の拳でシグナムの頬を狙いすまし左ストレートパンチを放った。
所詮拳、剣の間合いに敵うはずもないとシグナムは判断したが――瞬間、インヒューレントスキル<振動破砕>が発動。
発生した振動波が空間を震わせ、その余波がシグナムを構成する疑似人体の大脳を揺らす。
平衡感覚が狂っていく――目眩に似た感覚を覚えながら後方へ飛び退り、飛行魔法を発動。
上空へ飛び上がり、カートリッジを消費して鞭状連結刃へ変形させたレヴァンティンを振るいながら、シグナムは戦闘狂の笑みを浮かべる。
楽しい、楽しいとも――剣友との戦舞のように、心躍る。
対するスバルの瞳は、緑眼。
人間としての、色。

「――受けきってみせる!」



914嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:31:29 ID:6xFuXPOk
―――新暦79年 ミッドチルダ

木立を爆走するローラーブーツの走破音。
走って、走って、走り続ければあの人に会えるだろうか――馬鹿げた話だ。
きっと誰一人として戻ってこないだろう。そんな奇妙な確信を持ちながら、スバル・ナカジマ執務官はマッハキャリバーに訊く。

「マッハキャリバー、敵の位置は?」

《オートスフィアの撃墜地点、前方五百メートル。推測ですが、遭遇まで僅か》

言わば、勘だった。
ローラーの軌道をねじ曲げ、急速旋回。
たったそれだけの動作で、湿った土を焦がすエネルギー弾を避けた。
左手のクロスミラージュを叩き起こし、引き金を引いた。
弾殻の多重化は今のスバルでも難しい技術だから、発射されたのはごくありふれたスタンバレット。
音速で放たれた魔力弾は、跳躍からの鮮烈な蹴撃によって打ち砕かれ、どす黒いプロテクターとジャケットを装着した人影が降り立つ。
白いコートのバリアジャケットを纏ったスバルとは、何処までも対照的な姿。
それでいて、容姿は似通っている。つまり……

「……ノーヴェ」

揺れる赤い髪、金色の瞳――ぎらついた獣のような雰囲気。
ベースとなった遺伝子を同じくする“姉妹”へ向けて、スバルは銃を構える。
インテリジェントデバイス『クロスミラージュ』。親友が遺した射撃武装。
それを眺め、戦闘機人ナンバーズのⅨは笑う。

「ハッ。懲りないなァ、“セカンド”」

「……違う」

「なぁにが違うんだよ、あたしたちは戦闘機人、ぶっ殺すための兵器だろうがァ!」

「あたしは――」

ミッドチルダ式の円形魔方陣を展開、人造リンカーコアが生み出す圧倒的な魔力を銃身に注ぎ込む。
エネルギーの莫大な集束が純粋魔力の槍を生成し――虚空を穿つ灼熱の白刃と為す。
放射、開始――純粋砲撃魔法『ディバインバスター』。

「――スバル・ナカジマ、“人間”だッ!」

自身に直撃する弾道――光の槍を、嘲りながら跳躍で躱す。
同時にインヒューレントスキル『エアライナー』起動=宙に展開される光の帯。
ローラーブレード『ジェットエッジ』の推進炎と動輪によって、爆発的加速を得る。
音速に迫る上面からの突撃――回避不可能。

「――ハァッ! なら証明してみせろよォォォ!!」

915嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:32:26 ID:6xFuXPOk
体重/加速を乗せた飛び蹴り――足首のスピナーが回転、螺旋刃として破壊をもたらす。
触れれば如何なるバリアジャケットも貫通する。そんな確信を持った一撃を受け止める“魔法”=奇跡と呼ばれる技術体系。
マッハキャリバーの車輪を固定、足を踏ん張りながら慣性制御によって慣性質量を打ち消し、鋼鉄の右腕でそれを受け止めた。
人外の膂力でジェットエッジの爪先を掴み、片手でノーヴェの身体を放り投げる。まるでゴミのように放り投げられた彼女は、推進器によって姿勢制御、
漆黒のプロテクターで衝撃を受け止めながら、右腕を軸にして身体を回転させ、猫科の猛獣のように着地した。
その顔にはぎらついた笑みが宿り、両腕の籠手=ガンナックルから弾丸の雨を吐き出す。
それをスバルは強固なシールドで弾き、動輪の逆回転で後退しながら、魔力スフィアを幾つも生成した。

「チィッ! テメエ、前よりも魔法精度が上がってやがるな?」

「これだけが! あたしがティアから受け継いだ魔法だ!」

“ティア”――連想される名前は、ウェンディとディードを殺した魔導師=ティアナ・ランスター。
この手で初めて“ぶっ殺した”人間の名前だった。ぞくぞくと背筋を駆け抜ける寒気、殺意。
嗚呼、これは――“悪意”だ。吐き気がするほど粘っこく、苦くて甘い地獄のような感覚。
沸き上がる感情によって塗り潰される視界。紅く、紅く、興奮で染まっていく。
歓喜の声が零れた。

「はぁっ……」

「……? 何が――」

嗚呼、抑えきるなんて無理だ。

「はぁっはっはっはっはっはっは! ああ、あたしがぶっ殺したんだよ、ティアナ・ランスターは!
ウェンディとディードはあいつにやられちまって、何も残せずに死んじまった……なぁ、お前は知ってるよな――」

金色の瞳から涙を流しながら、彼女は吼えた。

「――クロスミラージュッ!」

誘導射撃の詠唱をしていたスバルは、その言葉に凍り付く。

「本当、なの――?」

《肯定。私はマスターを思って行動したまでです》

無口な拳銃型デバイスが、珍しく言葉を発した。
あまりに無機質な言葉にスバルの思考が数瞬停止する――ノーヴェが頭を掻き毟りながら哭いていた。
こぼれ落ちる涙は透明で、ただひたすらに悲しかった。戦闘機人であり、兵器であることを選んだ少女が、叫んだ。

「あたしとお前はわかり合えないっ! どっちかが消えるしかないんだよ、セカンド――」

静かにスバルへ歩み寄ろうとした瞬間、ノーヴェの強化視覚は、きらり、と光るものを捉えた。
刹那、銀光乱舞/降り注ぐスローイングナイフの群れ/電磁加速によって超音速の速さを持った弾丸の如き投擲。
衝撃波を撒き散らして周囲の地面に突き刺さる寸前、その性質を変化/爆薬に等しい偉大なる炸裂/絨毯爆撃の圧倒的殺意。
爆風で何もかもを否定しながら、罪人の短剣は爆弾と化してスバルとノーヴェを吹き飛ばす。
遙か後方の地面へ尻から叩きつけられたノーヴェ/プロテクションで爆風をやり過ごしたスバル。
二人の視線は、それが飛来した空の彼方へ注がれた。

――このISは……真逆……!
ノーヴェの心臓が何処までも早く心音を刻む。空の向こうから響く、輸送ヘリのローター音。
それが高速でノーヴェの頭上に差し掛かった瞬間、青いコートを身に纏う、小柄な少女の影が舞い降りた。
揺れるのは長い銀髪/右目を隠す眼帯/金色の瞳/群青の防御コート=時空管理局技術復興部奇兵師団の証。
防御コートの機能の一つ、重力制御で自身の質量を無効化(キャンセル)する、人形のような戦闘機人。
ナンバーズの姉として慕った人との再会に、ノーヴェは悲嘆に満ちた叫びを発した。

「チンク姉ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

技術復興部奇兵師団――旧暦の怪物達、質量兵器の運用を行う異端の者ども。
その尖兵であり、かつてナンバーズのⅤ番目だった少女は自嘲するように微笑んだ。

「久しぶりだな……まだ私を姉と呼んでくれるか、ノーヴェ」


第6話 了。

916シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/05/26(火) 23:38:52 ID:6xFuXPOk
今回はこれまでです。
いや、うん、言いたいことはわかります。
去年の八月のSSを今更やられても、話忘れたわ、と。
それでも読んでくださった方、ありがとうございます。

ちなみに、あっけなく無残死してしまった二人ですが、これは一応私なりのこだわりで、
「死んでしまう人間が何かを残せるのは稀」というある人の言に感動したせいです。
……でも、ウェンディとディード好きな人ごめんなさい。
本編準拠の暖かい関係をノーヴェとスバルが築けるか、非常に微妙です。

長くなりましたが、次回は何時になるか未定。長い目で見守ってくださいorz

917名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 00:54:31 ID:cvdMH.xI
GJ!!です。
復讐の連鎖を断ち切るなら、断ち切る人は感情を捨てて、
人間を辞めなきゃ行けませんよね。精神的な意味で超人にならないと。
大局を想像して、仲間や家族を無残に殺した敵を許し、仕方がないと割り切り、
手を取り合おうとする、人間を越えたナニカに。

918名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 08:46:34 ID:VY1vpQRQ
このSS、ずっと続きを待ってたんだぜ。
投下乙です。
ナンバーズ間での確執に復讐の念、次回も気になる。
首を長くして待ちますよ。

919名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 13:57:43 ID:nxcKDRyk
>>917
話は変わるが、復讐の連鎖を防ぐには強大な上位権力が必要ということかいな。

920名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 17:29:45 ID:cvdMH.xI
状況にもよりますが、(仕方がないといわれる場合は、バトロワのような状況に理不尽に放り込まれた、殺さなきゃ殺されるなど。このSSだとティアナのケース)
組織の場合だと明確な大きい利益が敵対者を許すことで得られるならそうではないでしょうか?
トップ達が下に許せ、そして彼らに手を出すなと厳命すれば、組織に残ることを選択しているものは、恨むでしょうが我慢すると思います。
納得できない人は組織を辞めたり、復讐に走るが、組織としては命令を下していたのに違反した復讐者が悪いのでとできて、組織のダメージは最小限にできそう。
これが、利益だけでは推し量れない人間の心の部分が割合的に多く関係する個人間だと上記ほど上手くはいかないかない気が。
前提として相手を殺しても罪に問われない、尚且つ相手を潰すだけの力はある時。例えば、家族や大切な人を強姦され殺された。でも、復讐の連鎖は止めなければと個人的感情を殺して許す、
許さないけど加害者の能力が何かしら社会に役に立つから殺さないとできる人は人間を越えた超人ではないだろうか?と思いまして。私は、そんな超人がいたら怖いです。人間ではない気がします。
復讐に走る人間に、復讐は何も生まないから止めるんだ。君の恋人を七日間監禁し、むごい暴行と強姦を繰り返したけど、彼はとても頭がよく今後の社会に役に立つので殺さないで許せとか言い出しそうですし。
僕もできたんだから君もできるはずとかもいいそう。

921名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 17:44:19 ID:TamDWBi2
3行でおk

922名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 17:54:38 ID:cvdMH.xI
すまん。
書いている内に書きたいことが増えてきて凄いことに。

923ザ・シガー:2009/05/27(水) 21:15:30 ID:DkGeKUJ6
>>26-111
ああ、相変わらずサンタ可愛いっすねぇ。
そしてディエチも実に良い。
氏のナンバーズ愛が伺えます。
GJです!

>>246
おお、遂に始まった欝スパイラルの序曲!
こっからどう絶望世界が動くのか見ものです。
次回もお待ちしております。

>>シロクジラ氏
うわぁ、物凄い欝世界。
でもこういうの大好き、もってして!
そして、ユーノちゃんやトーレ姐御のSSもお待ちしております。
心の底から。
次回も気長に待ちますよ! GJ!!


っと、 久しぶりにスレに顔を出したら感想入れるだけでも一仕事。
うふふ、皆さん頑張り過ぎですよ。

そして感想ついでに息抜きで書いたSS投下します。
鉄拳シリーズで登場した敵役のスピンオフ、すごく外道な話です。
キャラ死・陵辱耐性のない方はご注意を。
タイトルは『外道流れ旅』です

924外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:20:39 ID:DkGeKUJ6
外道流れ旅 SWORD&BULLET


 テッド・バンディ、魔銃の二つ名を持ち暴虐と陵辱をこよなく愛する外道。
 ジャック・スパーダ、魔剣の二つ名を持ち剣戟と死闘をこよなく愛する外道。
 とある仕事をきっかけに知り合ったこの二人の外道は今、どういう訳か行動を共にしていた。
 魔銃と魔剣、世に悪鬼よ羅刹と疎み蔑まれる人殺しのろくでなし共。
 これは、血と暴力を求めさすらう二匹の外道の物語である。





「こーれーで……二百匹目っと」


 言葉と共に、森の色濃き緑を引き裂いて一筋の赤い閃光が高速で射出された。
 それは魔力の塊、攻撃し殺傷する為の術式、射撃魔法の光だ。
 魔法と呼ばれる広く世界に普及した術理、行使したのは一人の男。
 レザー調の血のより赤いバリアジャケットを纏い、手に巨大な拳銃型デバイスを持った金髪の美男子、テッド・バンディ。
 広き管理世界で外道の殺人者として指名手配されている犯罪者である。
 高位のミッド式射撃魔法の使い手であるバンディは、先ほど自身の放った魔弾の餌食に飛行魔法を行使して近づいた。
 深い森の中、そこには鮮やかな虹色の羽を持つ一羽の鳥が胴を撃ち抜かれ、血の泡の中に沈み身体をピクピクと痙攣させている。
 その死に際の哀れな鳥に、外道の男は酷薄な笑みを浮かべてとどめの一発を撃ち込み、息の根を止めた。
 鳥の名はエピオルニス、この世界、61番目の管理世界スプールス固有の生物で絶滅危惧種に指定されている希少動物。
 もはや言うまでもないが、これはつまり禁じられた狩猟行為、密猟である。
 厳しく密猟は規制されているエピオルニスであるが、その剥製は好事家によりかなり高値で取引されており密猟は後を絶たない。
 そしてバンディもまた、そんな裏ルートでつく魅力的な値段に釣られてここに狩りをしに来た犯罪者の一人である。
 血に濡れた鳥の尾を掴み持ち上げると、彼は自分の後ろにいたもう一人の男に声をかけた。


「おーい、さっさと袋持って来い」

「はいはい。まったく、人使いが荒い人ですねぇ、まったく」


 と、呆れたような口調で外道の相棒が血染めの麻袋を手に現れる。
 首の後ろで結んだ黒い長髪、白い詰襟の聖職者のようなバリアジャケットを纏う、揺れる左袖から右腕のみの隻腕と分かる長身痩躯の男、ジャック・スパーダ。
 魔剣の名で恐れられた最強最悪の殺人鬼にして殺し屋、人を斬り殺しそして殺し合う事にしか生き甲斐を見出せない圧倒的な狂人にして、今はバンディの相方を務める犯罪者である。
 隻腕の男は片手に持った麻袋の口を緩めると、それをバンディに差し出す。
 外道の銃使いは、それに先ほど仕留めた鳥の骸を放り込んだ。


「これで袋も20個目ですねぇ、総じてざっと」

「200匹ジャストだ。こりゃあ随分な稼ぎになんぜぇ」


 バンディは己がデバイス、全体的に角ばったデザインに十字架のあしらわれた拳銃型の愛機を指先でクルクルと回す。
 鍛えられた腕が成す高速のガンスピン、さらに男はそのまま腕を跳ね上げ、宙に放る。
 華麗な曲線を描く得物を反対の手で掴む、まるで曲芸師のように熟練の芸を披露。
 そして、口元に邪悪な笑みを嬉しそうに浮かべ、言う。


「はは! こんだけありゃあ、しばらく金には困らねえ」

「ですねぇ。しかし」

「しかし?」


 相方の隻腕の言葉を反芻するように男は問う。
 ジャック・スパーダは一度頷くと、言葉を続けた。


「この世界、動物や自然保護の為に管理局員が常駐してるらしいじゃないですか。こんな堂々と狩りをしてて大丈夫ですかね?」

「ああ? んなもん大した事ねえだろうが。こんなへんぴな辺境世界にいるようなヤツぁ高が知れてんだろ。
それに……てめえとしちゃ、手応えのあるヤツがいた方が嬉しいんじゃねえか? え? 戦闘狂(バトルマニア)」


 問われ、スパーダは笑みで答えた。
 まるで子供がするような、無邪気ささえ感じる屈託ない微笑。
 だがそれ故に怖気を感じるような薄ら寒い表情。

925外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:21:53 ID:DkGeKUJ6
 顔に浮かべたそこには、決して常人、まともな感性を持つ人間にはない正気を欠落した者の色があった。


「言うまでもないでしょう? 私の唯一の生き甲斐ですよ、殺し合いは」

「はっ。そう言うと思ったよ、このぶっ壊れが」

「ははは、あなたには言われたくないですよ。いつも女性を犯す事ばかり考えてるよりかはマシじゃないですか?」

「うっせえ、バァカ」


 一見するとまるで悪友同士の語らいのように、外道は言葉を交わす。
 ただし語らう内容は殺戮や陵辱の、正常な価値観や規範を逸脱した悪徳ばかりではあるが。
 と、そんな時だった。
 唐突にバンディが視線を対面のスパーダから外し、宙を仰ぐ。
 視線のその先、遥か遠方の空から飛来する物体を彼の知覚が捉えたのだ。
 射撃型魔導師として常に半径2キロメートル、自身の射程内を索敵し照準する術式、魔力知覚(マギリングセンサー)。
 それが今、一個の外敵要素を感知した。
 バンディは感知した対象の方向を見据え、視力も術式を行使して強化する。
 常ならば霞んで見えぬ距離、米粒程度にしか見えぬ相手の姿を視認。
 それは竜、翼で空を飛ぶ大きな竜とそれに跨る少年少女だった。


「ああ、なんかこっち来るぞ」

「ほぉ、管理局の方で?」

「わかんねぇ。でもまあ、たぶんそうだろうな、結構派手に撃ちまくってたし」


 本日、既に三桁に昇る数の希少動物を射撃魔法で狩っている。
 魔力波動にしろ銃声や銃火にしろ、人の興味を引くのには十分すぎるだけの事をした。
 当然といえば当然である。
 飛来する竜の影、それは確実に管理局かそれに類する者なのだろう。
 だが、二人には少しの緊張もない。
 むしろ口元には薄ら笑いすら浮かべている。
 それは邪悪な、どす黒く濁ったような笑みだった。
 無理もない、こちらに来るのはたった一匹の竜と二人の少年少女なのだ。
 自分たちは数多の次元世界で悪鬼羅刹と恐れられ、管理局の魔導師だろうがなんだろうが目の前に立ちはだかる全てを蹂躙してきた猛者である。
 あんな小さな子供らに負ける道理などどこにもなかった。
 あえて言うなれば、彼らは贄。
 獰猛な肉食獣の前に哀れにも飛び出してしまった子ウサギのようなもの。
 二匹の魔獣は、眼前に現れた餌に口元から涎を垂れ流し、喜悦に胸躍らせ小さく笑った。
 嗚呼、久しぶりのご馳走だ。と。





 スプールスの自然保護隊が状況を察したのは、今から数時間前の事だった。
 上手く隠蔽されていたが、空間転移魔法の微弱な反応があり、射撃魔法のものと推測される銃声や銃火が確認された。
 これれらの要素から導き出される事象、それは即ちこの世界で発生する最も多いそして唯一の犯罪、密猟が行われている事を示す。
 J・S事件終了後から保護隊メンバーとしてこの地で任務に従事してた少年少女、エリオとキャロは事態を解決すべくすぐさま保護隊施設を発った。
 召還師であるキャロの使役竜フリードリヒに跨り、二人は現場に急行する。
 そこで目にしたのは、森の中に立つ二人の男だった。
 長身痩躯を白い衣服に包んだ、黒髪で隻腕の男。
 金髪を揺らした美貌の、赤いレザーを着た男。
 金髪の男が手に持つ銃、周辺の魔力残滓から察するに恐らくは拳銃型の射撃タイプのデバイスと判断できる。
 それを認識したエリオとキャロは警戒心を強め、表情の険を宿す。
 凶悪な密猟者には今までも何度か遭遇してきた、二人は油断せぬよう気を引き締めて眼前の男達の前に降り立った。
 エリオは手に愛槍、ストラーダを構え。
 キャロは自身の召還竜フリードの背に乗ったままで。
 竜の羽が巻き起こす風が止むと同時、最初に声を発したのはキャロだった。


「私たちはこの周辺の自然保護隊の者です、少しお話を伺ってもよろしいですか?」


 問われ、答えたのは金髪の男。

926外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:23:00 ID:DkGeKUJ6
 まるでこちらを小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべて美貌を歪め、男、テッド・バンディは言う。


「ああ、何か用かい?」


 その言葉に、今度は槍を持つ少年、エリオが問う。


「あなた方はここで何をしているんですか?」

「んー、観光? かな」

「ならその袋の中身はなんですか」

「さあね」

「見せていただけませんか。もしあなた方が密猟者でないのなら、ですが」


 少年は単刀直入に、嫌疑の眼差しを向けて言う。
 銃を手に、血溜まりの元で血濡れの袋を持った男二人。
 これを“観光”などと言われ、信用できるほどエリオも抜けてはいない。
 この要求に、金髪の男はどこかおどけたような笑みを浮かべて答える。


「ああ、ハイハイ、じゃあよ〜く見ておいてくれよ?」


 瞬間、紅き閃光が煌めいた。
 バンディの手にした銃が瞬く間に跳ね上がり、その銃口から鮮紅の魔力弾が射出される。
 大気を切り裂き突き進む魔弾が狙うは、竜に跨る召還師の少女の眉間。
 バリア破壊術式を纏う貫通特化の直射弾、喰らえば絶命必至の閃光がキャロ目掛けて撃ち放たれる。
 が、それがその目的を果たす事はなかった。
 着弾直前、少女の手前で爆音と衝撃を伴い、紅き魔弾は両断された。
 勇敢なる槍騎士によって。


「ヒュ〜、ヤルじゃん坊主」


 少年との会話で彼に注意を向けると見せかけて、召還師の少女から殺そうとしたバンディは口笛交じりに言う。
 抜き撃ちで放たれた射撃魔法を、高速移動で射線に回り込み、刃で絶つ。
 若き槍騎士、エリオの成した技前に男は純粋な驚きと賞賛を送った。
 だが、対する少年の瞳には鮮やかな程の怒りが燃えていた。
 自分ではなく隣りの少女を狙ったという相手の卑劣さに、エリオの眉根が正義感から来る怒りに歪む。


「局員への障害未遂現行犯であなたを逮捕します。大人しく武装を解除してください」


 と、猛る心を抑えつつ、少年は理性的な言葉と共に槍の穂先をバンディに向け構える。
 言葉に出さぬ怒りを代弁するかのように、エリオの愛機ストラーダの刃には幾筋もの電撃が走った。
 大気を焼く電撃がオゾン臭を殺気と共に漂わせ、少年の身らしからぬ気迫をかもし出す。
 だが、これに対し眼前の男二人はまるでエリオを嘲笑うかのように口元に微笑を浮かべる。


「だとさ、どうするよ?」

「うーん、そうですねぇ。逮捕されるのは嫌なので、とりあえず抵抗しますか」


 日常の瑣末な事柄を語るような、本当に軽い口調で隻腕の男、ジャック・スパーダは言うと一歩前に進み出る。
 同時、彼の一本しかない腕が翻ったかと思えば、そこに一振りの刃が顕現した。
 それは切っ先から柄尻まで、使い手であるスパーダの身の丈を超えるような長剣型のデバイス。
 浅く弧を描くそれはさながら刀のようであるが、ブレードの両サイドに刃を有する諸刃の形状から剣であると分かる。
 長大な得物を軽々と振り上げ、肩の上に乗せながら男は少年に微笑を浮かべた。
 戦闘を前にした張り詰めた空気の中で浮かべるとは思えぬ、心の底からの喜悦の笑みで。


「さて、では始めますか。私はあの少年を頂きますよ」

「はっ、好きにしろ」

「ええ、好きにさせてもらいましょう。では……」


 言の葉の残響が空気を揺らした刹那、隻腕の男の姿は掻き消える。

927外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:24:05 ID:DkGeKUJ6
 まるで霞と消えるように、先ほどまで立っていた大地に土煙だけを残して視界から消失。
 だがエリオは確かにその鋭敏な感覚で察知した。自身の上方からナニかが迫るのを。
 意識の外、肉体に覚えこませた無意識と第六感に従い、少年の身体は愛槍の穂先を縦一文字に斬り上げる。
 瞬間響いたのは凄まじく甲高い金属音。
 刃と刃の狂想曲(ラプソディ)が空気を彩る。
 ストラーダを軋ませ視線を向ければ、そこには隻腕の男が狂気に染まりきった瞳でこちらに笑いかけていた。


「さあ、では始めましょうか♪」


 狂った剣鬼が言うや次なる刹那、超速の剣舞が幕をあげた。
 隻腕の剣士と幼き槍騎士の剣戟演舞が甲高い刃の音色と共に始まり、二人の身体は高速移動によりさながら風の如くその場から消えた。
 剣と槍との睦み合いが生む火花の光と残像が生死を賭けたダンスを刻む。
 エリオとスパーダはそのまま刃を交えつつ側方へと跳び、森の中の開けた場所へと落ちる。
 パートナーの後を追おうとキャロもまたフリードを駆ろうとするが、それは一筋の閃光に阻まれた。
 紅い、血のような朱の魔力弾。
 放ったのは言うまでもなく先ほどの外道、テッド・バンディ。
 男はさながら餓えた獣のように、その瞳をギラつかせ、笑う。


「おいおい、嬢ちゃんの相手はこっちだぜ?」


 その眼、まるで地獄の底のような眼。
 そして大気を伝播する気迫、空気が凍てついたかと思うような、想像を絶する殺気と魔力が五体から滲み出る。
 瞬間、キャロは感じた。
 自分の跨る竜、フリードリヒの硬い皮膚が震えているのに。
 召還師である少女には分かる、竜の身体を震わせるものの正体が“恐怖”だと。
 飛竜は怯えているのだ、目の前にいるたった一人の人間が、自分とは隔絶した次元の戦闘存在である事を本能で知ったが故に。
 それを認識し、キャロは背筋に氷塊を流し込まれたような怖気を感じる。
 青ざめ、震える少女に、バンディは悪魔のような微笑みを浮かべ、告げた。


「さぁて、じゃあお楽しみと行こうか」


 地獄の始まりの合図は、そのたった一言だった。





 森の中の開けた地、青々と草の茂る原を少年と剣鬼が駆ける。
 隻腕の鬼が振るう刃、長剣が織り成す剣閃がエリオの首を薙がんと右から真一文字に振るわれた。
 スパーダの放つ右からの、自分からすれば左方向からの刃を、少年は魔力強化された反射速度で防ぐ。
 愛鎗ストラーダを手中で巧みに回転、物理保護と加速、そして魔力刃の鋭利化を施したそれで、襲い来る魔剣を掬い上げるように上方へと斬り上げた。
 魔力によって成された物理保護術式がぶつかり合う閃光、次いで今度は甲高い金属音と火花が生まれ、鮮やかな戦場の演舞を彩る。
 絶命必死の魔刃をなんとか防いだエリオだが、しかし彼には安心する暇などない。
 次なる刹那には既に二撃目、上段から振り下ろす刃が放たれた。
 縦一文字に少年の五体を両断せんと、高速の兇刃が振り下ろされる。
 天の陽光に銀色と輝く白刃、エリオの正中線を断とうと放たれた魔剣。
 若き槍騎士は、先ほどの防御動作の慣性を利用してストラーダの穂先をさらに一回転させ、再びその穂先で敵の刃を防いだ。
 魔力と硬質な刃同士が激突し、その衝撃に空気が爆ぜる。
 デバイスとデバイス、刃と刃、狂気と正気。
 二つの存在がぶつかり合い、人の神経を逆撫でする耳障りな金属音を立てて互いの得物を軋ませる。
 エリオは額に嫌な汗を流しながら、顔に苦渋を浮かべた。
 鍔競っている相手からの圧力が尋常でないのだ。
 足元の草地、その存外に硬い地層の大地に深く足がめり込み、全身の筋肉と骨格が悲鳴を上げている。
 隻腕、相手は腕がたった一本しかないというのに、まるで巨人か人外の魔物でも思わせるような金剛力を誇った。
 魔力による身体強化の気配も薄い。
 これが剣鬼の純粋な肉体の力だと知り、少年の身体から余計に汗が溢れる。
 怖気の、恐怖からくる汗だ。
 親代わりになってくれたフェイトに、かつての上司であるシグナム。
 エリオは多くの、強く気高い戦士を知っていたが、今目の前にいる相手はその全てと決定的なまでに“違う”。

928外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:26:05 ID:DkGeKUJ6
 少年は、闘争の場でここまで楽しげに嬉しげに、そして壊れた笑みを浮かべられる者など知らなかった。


「ふふ、良いですねぇ、良いですよあなた。その年でよくそこまで鍛えたものです……久しぶりに楽しめそうですよ♪」


 まるでプロムの夜に、最高の美少女とダンスできる少年のような。
 まるでクリスマスにサンタさんから最高のオモチャをもらった子供のような。
 嬉しくて嬉しくて堪らない、そんな無邪気で毒気のない笑顔を、隻腕の男、ジャック・スパーダは浮かべていた。
 ありえない。
 それはエリオの常識から考えてありえない事だった。
 普通の人は戦いの場でこんな明るい笑みは見せない。
 普通の人は命のやり取りの場でこんな嬉しそうに喋らない。
 普通の人はこんなに壊れていない。
 異常だ。
 目の前のこの男は明らかに常軌を逸していた。
 人間が人間であるための正常性、正気をどこまでも果てしなく欠いていた。
 それを認識し、恐怖と嫌悪が混ざり合った感情がふつふつと心を侵食する。
 もし許されるなら逃げ出したいとさえ思う。
 だがそれは許されない、少年の心が、そこにある正義感が許さない。
 自分が成す事は背を向けて逃げ出す事でなく、相手を打ち倒し、勝利する事だ。
 胸中で自身を叱責、幼い騎士は体内のリンカーコアを燃焼させ魔力を搾り出す。
 ストラーダの物理保護に五体にかけた身体強化術式へとさらなる魔力を流し込み、強大な敵の膂力へと押し返した。
 押されつつあった鍔競り合いを五分の状態へと持ち直す少年の気概に、剣鬼は笑みを喜悦でより深く染める。
 と、そんな時だった。
 二人が斬り結ぶその場よりいくらか離れた場所で音がした。
 爆音ともとれる高出力射撃魔法の射出音、そして人にあらざる獣、恐らくは竜の断末魔に似た叫び。
 それがフリードと先ほどの金髪の男の戦闘音だと、エリオが察するのにそう時間はかからなかった。
 パートナーの窮地を感じ、少年は思わず狼狽を見せた。


「くっ! キャロッッ!!」


 視線を音のした方向へと向け、少女の名を叫ぶ。
 が、それは決して闘争の場において、眼前に敵のいる状況でして良い行為ではなかった。
 少年の身体から力が僅かに抜けた瞬間、鍔競る刀身に火花と共に凄まじい圧力が生まれる。
 今まで感じていた力が嘘のような、超絶の金剛力。
 瞬間的に四肢に魔力を流し、燃焼させ、身体強化術式が行使されたのだ。
 その力はエリオを、物理保護・デバイス・肉体、それら一切合財をひっくるめて吹き飛ばした。
 フワリと感じる無重力的な感覚。
 自分が、浮いた、という自覚を得る間もなく、少年の意識が寸断された。
 エリオの思考力を奪った正体、それは蹴り。
 鍔競りから少年を吹き飛ばし、そのまま流れるように放たれた前蹴りが中空の彼の鳩尾を捉えたのだ。
 金属製レガートを装着したブーツ、その爪先が魔力による物理保護を施され、エリオの肉体をバリアジャケットなど無いかの如く蹂躙。
 内臓はおろか背筋に埋まる背骨までへし折りそうな力で行われた蹴撃に、少年の意識は霧散した。
 意識を失った肉体は宙を数メートル舞い、草と硬い土の上に落ちる。
 まだ成長しきらぬエリオの身体が柔らかな草で数回バウンドし、まるで投げ捨てられた人形のように面白いくらい転がった。
 その衝撃に意識が戻ったのか、少年は転がる慣性に従って身体を制御、槍を支えに制動をかけた。
 ストラーダを杖代わりにエリオはなんとかその場に踏みとどまったが、蹴られた箇所から激痛が全身を駆け巡る。
 苦痛に顔をしかめ、血を吐き漏らしながらも少年は強靭な意志でそれを捻じ伏せ、視線を敵に向けた。
 瞬間、目の前に長剣の刃が翻った。


「ッッ……」


 目の前に切っ先を突きつけられ、エリオは言葉にならない声を零す。
 日の光を反射し、銀色に妖しく輝く魔剣の刃。
 もし相手にその気があるならば、エリオは瞬きする間に絶命し果てるだろう。
 剣を交え、この剣鬼がそれだけの実力を有しているという事は嫌というほど味わった。
 息吹を感じるほど間近な“死”の気配。
 少年の背筋が、本能的な恐怖により滝のように流れた汗で濡れる。
 額に脂汗を浮かべ、表情を強張らせるエリオ。
 だが、対する隻腕剣鬼は残念そうなというか、なんともいえない表情で少年を見下ろしていた。


「あぁ〜、もう何してるんですか。せっかく良い戦いだったのに、よそ見して油断するなんて、減点ですよ?」


 さながら教え子を優しく叱るように、狂った男はエリオを嗜めた。
 明らかにこちらを殺す気だというのに、発露する感情はどこまでも穏やか。
 再認識させられる異常な狂気性、壊れた人間の情緒。

929外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:27:21 ID:DkGeKUJ6
 今まで感じたものを上回る恐怖が心を染めるが、それは一瞬だった。
 次なる刹那、エリオは己が目に映った光景に恐怖も苦痛も忘れ、声の限りに叫ぶ。


「キャロッッ!?」


 愛するパートナーの名を。





「あー、こっち終わったかぁ?」


 気の抜けたような問う声と共に、金髪の男がやって来た。
 各所にベルトや鋲のシルバーを有する紅いレザー調のバリアジャケットを纏い。
 右手には十字架の刻まれた拳銃型デバイスを持ち、そして左手にはボロボロになった桃色の髪の少女を引きずっていた。
 白を基調としたバリアジャケットのあちこちを穿たれ、引き裂かれた哀れな形(なり)の召還師の少女。
 パートナーのその様に、少年は声を張り上げ彼女の名を叫ぶ。
 キャロ、と。
 名を呼ばれ、少女は顔を上げる。
 幾分か血の気は引いた顔で少年を見つめ、乙女もまた彼の名を呼んだ。


「……エリオ、くん」


 か細い、消え入りそうな儚い声。
 そして自分を見つめる涙で潤んだ瞳に、少年は細胞一つ一つに至るまで刻まれた恐怖を跳ね除け、奮い立った。
 先ほどまで震え上がる寸前だった脚は磐石と立ち、力を失いかけた腕は力強く槍を構え穂先を敵に向け、眼光はカミソリのように鋭い気迫を帯びる。
 これに、二人の外道はそれぞれに別種の嗜虐的笑みを浮かべた。
 金髪の美貌を持つ悪鬼は、左手で襟首を掴んだ少女を掲げ、邪悪に笑む。


「安心しろよ坊主、かる〜くボコっただけで“まだ”何もしてねえ」


 それは悪魔のまるで弱い獲物を嬲り殺すのを楽しむ魔獣のような、獰猛な笑顔だった。
 獲物は言うまでもなく手にした少女。
 その穢れ無き純潔、雄を知らぬ未成熟な女体に、外道の獣は嬉しげに楽しげに笑う。
 と、金髪の悪鬼に、相方であるもう一人の鬼がふと問う。


「こっちはまだお楽しみの最中、ってところですが。さっきの竜はどうしました?」

「ああ、もうとっくの昔にバラしたぜ。綺麗に脳天ぶち抜いてな。ま、火力はそこそこあるが所詮はケダモノ、トロイ動きしてやがったから軽いもんよ」

「左様で」


 フリードリヒの死、それをエリオは認識し血が出るほど歯を噛み締めた。
 二人の会話、そしてキャロが捕まったという事実からも明らかだろう。
 機動六課入隊当初、キャロと初めて出合った時もあの竜と一緒だった。
 思わず目元を一筋の涙が流れるが、少年騎士はそれを首を振って払う。
 今は悲しみ暮れる間などない、この悪鬼のような二人の男を倒し、キャロを救わなければならばいのだ。
 たった一人を相手にしても絶望的戦力差を有する悪魔、それを今度は二人同時である。
 劣悪を通り越して最悪とも呼べる状況。
 そうエリオが認識した瞬間、唐突に隻腕が相棒に語りかけた。


「バンディさん、そのお嬢さんにまだ手は出さないでくださいよ?」

「あ? 指図する気かよ?」

「いえいえ、ただの相談ですよ」


 そう言うや、剣鬼はクルリと視線をエリオに向ける。

930外道流れ旅:2009/05/27(水) 21:27:57 ID:DkGeKUJ6
 ギラギラと、まるで遊ぶのに夢中な子供のように喜色と輝く瞳が少年をまっすぐに捉えた。
 そして、狂った剣鬼は嬉しげに言う。


「こうしましょう、もし私を倒せたらあのお嬢さんは解放します」

「おいおい、俺は了承してねえぞ?」

「しかし、もしあなたが負けた場合はあちらのバンディさんがとてもとても酷い目にあわせます」

「って、聞いてねえし」


 苦言を漏らすバンディを無視し、スパーダはニッコリと笑って問うた。


「どうですか? 素敵な提案でしょう?」


 まるで意中の女性をデートに誘うように、心の底から嬉しそうな問い掛けを男はした。
 エリオはその狂気に気おされながらも、唾を飲み込み、答える。


「……分かりました。約束、してくれますね?」

「ええ、もちろんです」


 答えが出るや否や、それを合図として再び剣戟の舞踏が始まった。
 一人の少女の純潔を賭け、正気と狂気がぶつかり合う。
 狂った刃の宴が。


続く

931ザ・シガー:2009/05/27(水) 21:32:24 ID:DkGeKUJ6
投下終了。

純愛もある、非エロバトルもある、イチャラブもある。でも……
陵辱がないでしょッッッ!

と、俺の中の泣き虫サクラが叫んだので書いた。
後悔はしてない、次回するつもり。

たぶん陵辱とかレイプになるので、嫌いな人は目を瞑り、好きな人は歓喜する準備を。

で、前後構成の短編になるか、長編になるかは未定。
一応現段階では長編の可能性があるのでそっちでカテゴライズしてください。


あと、会議室の方で少し問題提起したので、住人・職人の方はどうかご意見を。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1237287422/l50

932名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 22:28:36 ID:aeMySJVk
やった!待ちに待った凌辱モノだ!
エリオのアナルバージンも破っちゃってくださいな
wktkがとまらない!

933名無しさん@魔法少女:2009/05/27(水) 23:23:15 ID:nxcKDRyk
個人的にはキャロよりもそっちのほうが興味深かったり。




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