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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ
1
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0
―― ― ―― ― ―――
恐らく私は。狂ってしまったのだ。
穴ぐらから飛び出て。
あの夜に浴びた。青い青い月の光で。
透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ
だから私は。私では無い。
私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
同じ形をしただけの。
私ではない。誰かだ。
斜視のこの目に。乱視のこの目に。
映るこの景色は。当然に狂っていて。
焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。
正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。
寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。
唇に優しさが欲しかったのはきっと。
今宵の月も青かったからなのだ。
―― ― ―― ― ――
261
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:53:10 ID:gpa8a09A0
「流石くん、来たまえ」
ダイニングの調査を打ち切り、呼ばれたままクールの元へ。
彼女がいたのは、階段裏の廊下。
一見して何かがあるようには見えないが、熱心に壁を探っている。
「ここ、恐らく隠し扉になっている」
「本当だ。床板と壁に妙な隙間がありますね」
「開けられるか」
「こういうのは、見つけるのは難しくても仕掛け自体は簡単にしてあるのが定石なんですが」
壁の下部に、何やら頻繁に擦ったような、すり減った跡がある。
恐らくこれだろう。問答無用で蹴りつける。
閂が外れるような重い音がして、壁にまっすぐな線が入った。
仕掛けが外れたようだ。手をかけて引くと、扉となって地下への入口が現れる。
「流石だな流石くん。君に大泥棒の称号を与えよう」
相変わらず抑揚も感情も存在しない言葉を口から垂らしながら、クールが階段を下り始めた。
黴の匂いがする。肌に触れる空気も冷たく、中々吸血鬼の根城らしい空間だ。
クールの履くヒールが、高質な音を立て、響く。
深さは地下1.5階相当といったところか。階段を降り切ると、もう一枚扉があった。
木の板に、鉄製の輪の付いた古風なものだ。
262
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:56:09 ID:gpa8a09A0
「行くぞ」とクールの唇が動く。
俺は銃と懐中電灯を構え、頷いた。
クールが扉をゆっくりと開け、俺が銃を差し込むように中へ。
まず見えたのは石造りの壁と、壁に飾られた造花。
階段よりもさらに冷たい空気が、頬を撫でる。
背筋が震えた。単純な寒さでない何かを感じる。
現在視認できる範囲には誰もいない。
クールが勢いよく扉を開け、自分も銃を構えた。
二人で銃と懐中電灯を突き出し、部屋をぐるぐると見渡して、同じ一点で動きが止まる。
「流石くん、どう思う」
「まず真っ先に、悪趣味だな、と」
地下室は、壁を飾る造花だけでなく、床には派手な色の絨毯が引かれていた。
所々、真鍮の冷たさを造花で隠した燭台が置かれている。
そうか。ここは。俺は、胸の内で納得する。
同時に、どこかぼやけてはっきりしない乙鳥ロミスという存在の片鱗を見た気がした。
電燈の光の先には、棺を模した、小さなベッドが二つあった。
模した、というのは、この場合不適切になるやもしれない。
そこには、各一つずつ、白骨化した死体が寝かされている。
263
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:58:11 ID:gpa8a09A0
まぎれも無く、人の骨だ。しかも子供。身長は推定で130未満。
幼年期の骨格からは性別の判断が難しいが、恐らくは少女だったのだろう
頭には長い髪の鬘がかぶせられ、体にはドレスを着せられている。
標本と同様の加工を施され、艶のあるアイボリーに輝くそれぞれの骨。
被せられた鬘は人間の髪の毛だ。本人の髪から作ったものと推測される。
死後いくら時間が経ったのかは分からないが、瑞々しさを失わず、電燈の光に輝いている。
「異常性癖にしても少し行き過ぎているな」
「悪意は感じませんが、なおさら悍ましいですね」
「クロゼットの主は、この二人だと思うか」
「仮にそうだとして、クロゼットの中身を持ち去った人間が他にいることになりますが」
少女の首に、ロケットが下がっている。
卵を半分に割った形の、写真を収納できるものだ。
クールに目配せして開く。中にあったのは、少女の写真。
生前の彼女だろうか。美しい。幼いが、人の目を惹く魅力がある。
ロケットの裏側には、「愛しき娘、ここに眠る」と彫られていた。
なるほど、これが墓標代りというわけだ。
「攫ってきた娘を洗脳し飼い殺しにしていたといったところかな」
「被害者は二人以上。少なくとも乙鳥の犯行とはばれていなかった」
「どうやら乙鳥への認識を改めなければならないようだ」
264
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:00:13 ID:yFy/OhgA0
乙鳥は恐らく誘拐した少女を家畜として飼っていた。
成人した女であれば色恋の感情を利用することも出来ただろうが、少女となれば別。
一時的に丸め込むことはできても、そう長くだまし続けることはそう簡単では無い。
ほぼ確実に、暗示の能力で洗脳したのだろう
長期的に暗示にかけるとなると、相当に強い能力だったと予測できる。
乙鳥の付いての情報が少ないもの、強力な暗示の能力で存在をごまかし続けてきたと考えれば辻褄は合うのではないか。
「流石くん、一旦戻ろう。地雷に含めて乙鳥の調査となれば、人手が要る。上に掛け合うぞ」
「動員してもらえますかね」
「そもそも地雷の捜索の人員が足りていない。意地でもさせる」
珍しくやる気だ。クールも、この件の不気味さに気づいている。
資料に記載されていた、脅威度の低い貧弱な「乙鳥ロミス」は偽りの姿だ。
別の個が存在していたのか、真の実力を隠し通してきたのかはまだ確定できないが、後回しに対処して良い存在では無かった。
地雷女が乙鳥ロミスを狙った理由はそこに起因する可能性がある。
さらに言えば、今現在草咲に留まる理由も。
「行くぞ、流石くん」
「ちょっと待ってください」
乙鳥をさらに調べるにあたって、この二人の少女についても調べなければ。
誘拐されたならば、警察に捜索願が出ているはずだ。
胸の墓標のロケット。写真だけで無く裏には名前も彫ってあった。
控えておけば役に立つだろう。そう思い名前をメモする俺の手が、二人目で止まった。
265
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:01:17 ID:yFy/OhgA0
「どうした、流石くん」
「いえ。ロケットに記されていたこの綴り、名前かと思ったんですが」
「違うのか」
「二人とも同じなんです。『Dere Shizunome』。ロケットのメーカーでしょうか」
「それも含めて、戻って調べるしかあるまいね」
足早に階段を上がるクールに続き、俺も地下室を出た。
散々彷徨った屋敷を、まっすぐ玄関へ突っ切る。
不法侵入についてどう言い訳しようか。
屋敷を出て扉を閉めた時に、思い出す。
吸血鬼の一匹でもいれば、始末するために侵入したと言い訳が立つのだがそうはいかない。
結果として収穫は悪くなかったが、むしろだからこそ上司にはねちねちと説教を受けるだろう。
無意識にため息が出る。
「どうした流石くん」
「いえ、有能な上司を持つと大変だなと」
「流石の私も嫌味だと分かるぞ、流石くん」
相変わらず無感情な言葉。
分かっているなら、少しは改めて欲しいものだ。
眉間の皺を揉みほぐしながら、俺はクールと共に件の屋敷を後にした。
266
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:02:00 ID:yFy/OhgA0
おわり
三行
ホーン
デッド
マンション
267
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:10:37 ID:TTI6h67o0
乙
無機質なやり取りがいいね
268
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 01:39:11 ID:dpkZv5eo0
色々繋がってきたな
乙
269
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 10:34:51 ID:tEDCmOiM0
おつ
270
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 13:32:00 ID:mn9bRbd.0
激しく乙
二人のキャラが面白いね
271
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:22:33 ID:lsKCHDgk0
乙
272
:
名も無きAAのようです
:2014/04/02(水) 21:36:59 ID:YtyGnbik0
おつ
273
:
名も無きAAのようです
:2014/04/03(木) 15:46:47 ID:JQARjULAO
乙
ロミスは何者なんだ
274
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:11:39 ID:bz.gAPiE0
Place: 草咲市 戸津釜町 字上弦 122-119
○
Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 南茂ネーノ 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────────────――
275
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:12:30 ID:bz.gAPiE0
ξ,゚⊿゚)ξ あんたもおかしいと思うでしょ、ブーン。
何のことだか、全く分からなかったが、僕はとりあえず「はい」と返事をしておいた。
いつものことだ。分かっても分からなくても間違いでも関係ない。僕はどうせ「はい」としか言わない。
もし仮にここで僕が「でも」なんて口走ったらツンはみるみる不機嫌になって唇を尖らすだろう。
彼女がご機嫌でいる。僕が守るべき正義は、その一つだけだ。
ξ,゚⊿゚)ξ 私らの目的ってさ、密かに殺人を犯してるやつらのおびき出しじゃない?
なんでこんな、巡回の真似事みたいなこと……。
( ^ω^) 仕方有りませんお。緊急事態なんですから。
ああなるほど。合点がいった。
杭持ちと一言で言っても、仕事にはいくつかの種類がある。
僕たちが今応援に出されているのは、街中を警邏し、通報や目撃証言にその場で対応、吸血鬼を撃破する「警邏」。
吸血鬼と対する機会が多く、一般に「杭持ち」というとこれに当たる。
本来僕たちは、密かに吸血鬼の情報を集めあぶり出す「特務」。
直接真っ向から吸血鬼と戦うのには慣れていない。
ツンは、そこに不満があるのだ。「こんなのは私たちのやり方じゃない」と憤慨している。
( ^ω^) 先輩、まだそいつ生きてます
ξ,゚⊿゚)ξ ああ、もう、しつこい。
276
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:13:39 ID:bz.gAPiE0
ツンの足元には、一人の吸血鬼が倒れている。
背中に大きな傷。僕が斧で殴ったものだ。
頭は半分が抉れている。これはツンが散弾で撃った。
運が良かったのか悪かったのか、まだ辛うじて息がある。
ここからの蘇生は無理だろうが噛まれて血を吸われては大変だ。
ツンは面倒くさそうに、弾丸を一発、残った頭部に撃ちこんだ。
ξ,゚⊿゚)ξ ブーン、清掃呼んでおいて。
( ^ω^) もう連絡しておきました。5分くらいかかるそうです。
ξ,゚⊿゚)ξ はー、もう、最悪。
( ^ω^) あ、先輩。
ξ,゚⊿゚)ξ 何よ。
( ^ω^) 顔、血がついてます。
ξ,゚⊿゚)ξ マジ?
( ^ω^) あ、手で擦っちゃダメですお。じっとしててください。
僕はポケットからハンカチを取りだして、ツンの頬に就いた返り血を拭い取る。
大人しく顔を差し出したツンは憮然として、明後日の方向を見ていた。
( ^ω^) ウェットティッシュもありますけど。
ξ゚⊿゚)ξ いらない。帰ったらすぐにシャワー浴びるわ。
277
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:15:18 ID:bz.gAPiE0
吸血鬼の血は、凶器だ。
硬質化して武器にする者から、遠隔操作する者。
最近では、毒を作り出す吸血鬼も現れた。
今回の相手は硬質化すらできない雑魚だったから、特別害は無いだろうけれど
やはり血がついたのをそのままというのは気分がよくない。
( ^ω^) まだ戻れませんし、一応拭いておきましょう。
ξ゚⊿゚)ξ いいって、もう。しつこい。
どうにもご機嫌が斜めなようだ。
これ以上何を言っても無駄だろう。
仕方なく、僕は使った武器類(特にツンが散らかした薬莢)の片づけを始めた。
放っておいても清掃の方々が処分してくれるが、そこまで世話になるのはちょっと申し訳ない。
ξ;゚⊿゚)ξ げえ、シャツにもついてる。買ったばっかなのに。
( ^ω^) 仕事に新しいの着てくるから……。
ξ゚⊿゚)ξ 仕事用に買ったんだもん
( ^ω^) じゃあ別にいいじゃないですかお。
ξ゚⊿゚)ξ 良くないの。それと汚れるのは別なの。
よくわからない。
もしかしたら彼女の言葉に納得できたことの方が少ないかもしれない。
278
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:16:41 ID:bz.gAPiE0
やってきた清掃班にいつものように文句を言われながら、僕らはその場を後にした。
清掃班と一緒に居る姿を見られるのは好ましくない。
子子子ギコ達には存在がばれてしまったけれど、あくまで僕らの仕事は「釣餌」なのだから。
裏路地を抜けて、比較的広い通りに出た。
人はまばら。吸血鬼には慣れているこの街だけれど、やはり日が沈むと皆外出を控えるようになる。
見かける人も、どこか不安げで、足早に目的地を目指しているように見えた。
ξ゚⊿゚)ξ ……どうする?
( ^ω^) 何をですか?
ξ゚⊿゚)ξ 正直、一人狩ったし、もう戻ってもいいでしょ。
( ^ω^) ……そうですね。僕らは、仮にも未成年ですし。
警察官に見つかると、厄介だ。
吸血鬼から街を守っているのは杭持ちだけでは無い。
直接的な実力行使はできないものの、警察各位もまた、各々の仕事の範囲で市民の保護に努めている。
奴らの活動が活発になる夜間にどう見ても未成年の僕たちが歩いていれば、確実に声をかけてくるだろう。
僕らは正式でありつつも、本来表に出る杭持ちでは無い。
身分を証明すれば警察の補導を突っぱねることが出来るが、その分存在が明るみに近づくことになる。
既に一部にばれたとはいえ、開き直るにはまだ早い。
279
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:17:59 ID:bz.gAPiE0
ξ゚⊿゚)ξ ……結構前から、思ってたんだけど。
( ^ω^) はい?
ξ゚⊿゚)ξ なんであんた、私たちが杭持ちってバレるのそんな嫌がるの?
( ^ω^) いや、僕らは正体ばれたら仕事になりませんし。
ξ゚⊿゚)ξ そうだけど。後輩は順調に育ってるし、仮にばれても問題ないじゃん。ぶちょーもそこまで厳しく言ってないしさ。
( ^ω^) ……。
確かに、そうだけれど。
僕たちの代りは、既に数組育成が終わり、試用段階に入っている。
そして餌の任が終われば、僕たちは先人と同じく、堂々と杭持ちを名乗ることになるだろう。
今回、警邏に回されたのは、そう言った先を見据えてのことだと、僕は睨んでいる。
だから、だから問題なのだ。
仮に餌の任を解かれるとして、その最後は正体を明かされる形であってはならない。
( ^ω^) だって、先輩だって警邏の仕事嫌がってるじゃないですか。
ξ゚⊿゚)ξ 畑違いだから嫌なだけ。ちゃんと任命されれば、ちゃんと訓練して、文句言わずにこなすわよ。
「あんた、私のことどんだけ舐めてんのよ」と、ツンは僕の足を優しく蹴りながら付け足した。
あなたがそういう人だから、僕がこんなに気を使ってるんです。
喉まで出かけた言葉を引っ込める。僕の正義は、彼女のご機嫌を保つことだ。
280
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:18:57 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) 部長に連絡して、指示を仰ぎますか。
ξ゚⊿゚)ξ そうして。もう、足がパンパンよ。
( ^ω^) つか、いい機会なんでちゃんと体鍛えてくださいよ。
ξ゚⊿゚)ξ うっせ、ブーンの癖に生意気。
端末を操作して部長への電話番号を探す間、ツンが執拗に僕の脇腹を殴る。
僕は警邏の先輩に混ざって日頃から訓練しているので、ツンに小突かれたところでまったく平気だ。
まあ、ツンも僕が痛がらないのを分かってやっているのだけれど。
( ^ω^) ―――――失礼します。内藤です
呼び出し音が止まり、女性の声が応えた。
部長だ。僕は空いている手でツンを制し、現在の状況と、今後の行動の指示を仰ぐ。
しつこいのでツンに背を向けた。少しして攻撃が止む。
気が済んだらしい。
( ^ω^) ――――――はい。わかりました。ありがとうございます。
部長との通話を終える。
一先ず部屋に戻ってもいいらしい。
( ^ω^) 先輩、部長から許可が出たので帰りましょ……う。
振り返った視線の先に、ツンの姿は無い。
サラ金のチラシが張られた電柱があるだけだ。
僕の背筋を、電流とも冷気とも取れない何かが駆け巡った。
281
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:20:20 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) 先輩!
ツンは、たしかにバカだ。
聞き分けが無いし、我ままだし頑固だし自分勝手だ。
けれど、トイレであろうとなんであろうと、僕に一言も告げず姿を消したことは今まで一度も無い。
そうなれば、可能性は一つ。
( ;^ω^) 糞ッ
端末を取り出し、操作。
地図を起動して、ツンの端末情報を入力する。
( ;^ω^) いた!まだ遠くない!
いかにも杭持ちな仕事をしていたせいで、失念していた。
僕たちは他者から見て「普通の」、「どこにでもいる」、「ちょっと頭の悪そうな」、「高校生」だ。
不審者や、吸血鬼には、絶好の的。
通話に集中する僕と、それにちょっかいを出すツンは、いい獲物に見えたはずだ。
油断していた。愚かだった。
一体吸血鬼を狩り、いつもの癖でつい仕事を終えた感覚になってしまっていた。
( ;^ω^) これだから、僕は!
鞄を開け、すぐにでも斧を取りだせるようにして、ツンを追う。
僕らは常にGPS付きの端末を持ち歩いている。
ツンが攫われたのなら、その反応をたどれば追いつける。
282
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:21:22 ID:bz.gAPiE0
セオリー通りに、裏路地へ入ってゆく。
旧家の間を縫うように道が走り、さらに隙間を埋めるようにビルや新興住宅が立ち並ぶ草咲市街外円。
まさに意図せず作られた都市迷路だ。吸血鬼が好む理由の一つだろう。
相手は、この地形に慣れているようだ。
小柄とはいえ人一人抱えて移動しているのに、全く追いつけない。
ツンも杭持ちの端くれ。むざむざ殺されたりはしないはずだけど、こうも大人しく引っ張られているとは。
何かされているのか?
地面を見る。暗くてはっきりしないが、血痕は無い。
手傷は負っていないと期待しよう。
路地の向こうから、けたたましい音が聞こえた。
自転車が倒れた音、だろうか。
端末を見る。敵方の動きが止まった。
チャンスだ。
車一台通るかどうかの細い路地をまがった先。
自転車と、それに乗っていたと思しきサラリーマンが倒れている。
塀の壁に消えるツンの足を見た。
やっぱり誰かに抱えられている。
斧を引き抜く。
自転車を飛び越える。
角を曲がる。
見えた、ツンを肩に担ぎ、走る男。
283
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:22:38 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) こんっ
斧を横に振りかぶる。
( #゚ω゚) のっ!!
地面すれすれを、這うように投擲する。
回転しながら飛んだ斧は、男のアキレス腱に直撃した。
血が吹き出し、男が倒れる。
ツンの体が投げ出された。地面を転がる。力が無い。意識を失っている。
僕は足を止めず、立ち上がろうとした男の背中に、
( #゚ω゚) どっせ!!
跳び蹴りを叩き込む。
力強い感触。男は倒れたが、僕も蹴り抜くことはできず、反動でやや後退する。
だが、勢いを止めるつもりはない。
空中で後転し着地。屈んだまま、裾から僅かに除く金属に手を伸ばす。
引き抜いたのは、短杭。
通常の杭よりもやや短く、隠し持つのに優れている。
僕は杭を逆手に持ち、再び男に迫った。
狙いは背中。肋の隙間から心臓を突く。
284
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:23:58 ID:bz.gAPiE0
( # ω ) ッ!
完全に決まると油断した僕の腹に、男の左足が突き刺さる。
咄嗟に筋肉を固めたが、余り効果が無い。
喉の奥に酸性の臭いが込み上げた。
その隙に。男は腕で体を支え上げる。
カポエイラ。あるいはストリートダンスのように体を回転。
振り回した足で僕の顎を蹴り抜きに来る。
躱せない。
蹴りを見切り、足の直撃する寸前、頭を自ら横へ流す。
衝撃。ダメージは軽減できたが、それでも直撃には変わらない。
ふらつきながら、下がる。
体の力が、一瞬、眠りに落ちるあの瞬間のように消えた。
すぐに取り戻すが、杭が手から落ちかける。
( `ー´) ……本当に厄介な街じゃネーノ。まさかガキの杭持ちがいるなんてナ。
よろりと、男が立ち上がった。
上下そろいの黒のジャージ。
足の傷は、既に血が止まっている。
( #^ω^) ……ツンを返せ。
( `ー´) つってもガキはガキじゃネーノ。大人しく下がれば見逃してやるんじゃネーノ?
( # ω ) ……聞こえなかったのか。
285
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:25:45 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) ツンを返せ!
( `ー´) んべぇ
ふらつく足を無理やり動かし、踏み込む。
男の顔が、笑顔に歪んだ。
しまった、と思った時には遅い。
僕の突き出した杭は空を切り、すり抜け間を詰めた男の手が、顔面に迫る。
迅い。堅い掌が、鼻を、頬骨を押しつぶす。
男の手は、そのまま僕の頭を鷲掴んだ。
頭蓋を締め付ける、骨ばった長い指。
抗いがたい痛みが意識を支配する。
( `ー´) 俺が逃げたのは、あくまで悪目立ちしねえためよ。お前にビビったわけでもなんでもねえ。
( ω ) が、ぐ……。
( `ー´) あんま舐めんなよ。お前程度の雑魚が俺に食いつくこと自体が間違いなんだぜ?
足が地面から離れた。
頭を締め付ける力がより強くなり、意識が赤と白に明滅する。
口が閉まらない。涎が顎を伝って落ちるが、僕の手は男の腕を掴む以外の動きをできない。
( `ー´) まあ、斧で足を狙ったのは正解だよ。お前が真面に戦って俺に勝てていたならな。
286
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:26:38 ID:bz.gAPiE0
男が、僕を軽々と振り、民家のブロック塀に叩き付けた。
衝撃。体を伝って聞こえた何かの砕ける音は、壁か僕の骨か。
痛みで意識が濁る。堪えることすらできず、はね返るまま地面に倒れた。
( `ー´) つか、お前と一緒に居たってことはこの娘も杭持ちか?随分起伏のねえ旨そうな体してるんだが。
ツンの体に起伏が無いのは狙ったものだ。
過度に筋肉や脂肪をつけた人間を吸血鬼は嫌う。
餌としての使命を全うするため、ツンは少女然とした細くも太くも無い体型を維持している。
なので当然戦闘力は下がる。
故に多少筋肉質でも違和感のない男の僕が、護衛兼戦闘役として付き添っていたというのに。
( `ー´) ま、いいや。とりあえずお前は死ね。
男の爪が伸びる。
コイツ、膂力の高さと良い、血刑よりも身体改造に秀でたタイプ。
格闘戦を挑んだのは失敗だった。未熟な僕が単体で挑んで何とかなる相手じゃない。
( `ー´) 安心しな。お前の相棒は、俺が吸い殺して、ちゃんと吸血鬼に作り替えてやるからよ。
男が腕を振り上げた。
日が沈みきり、点灯した街灯が、その鋭い人外の腕を黒い影に代える。
体に力が入らない。
悔しさに歯を食いしばることすら、できない。
287
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:28:21 ID:bz.gAPiE0
「 大 天 福 ト ル ネ ー ド ! ! 」
.
288
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:29:49 ID:bz.gAPiE0
死を覚悟した僕の目の前、何かに驚き横を向いた男が、慌てて大きく飛びのいた。
長い杭を振り回し入れ替わりに現れた別の人影は、僕に一瞥もくれず男の後を追う。
( ;^ω ) お……?
何が起こったのかを理解したのは、
( ・∀・) 大丈夫かい内藤君
天主堂モララーの優しい笑顔を見た時だった。
彼は腕にツンを抱き、僕の前に屈み込む。
( ・∀・) 間に合ってよかった。怪我は……動けるかい?
( ;^ω ) モララーさん?どうして、ここに?
( ・∀・) 君の叫び声がね、聞こえたんだ。うちの先生はそこらの獣より五感が優れているから。
視線で、もう一人の人影を追う。
見覚えのある背中。最強と名高い杭持ち、大天福ショボン。
吸血鬼と格闘戦を行って圧倒する、数少ない強者の一人だ。
( ・∀・) ここいらの路地は不慣れで、辿り着くのに時間がかかってしまった。申し訳ない。
( ;^ω ) あの、モララーさん
( ・∀・) なんだい?
( ;^ω ) ツンは、僕が預かりますから、大天福さんの援護に……
( ・∀・) 今の君じゃ無理だろう。それに…………
289
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:30:32 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 必要ないよ。援護なんてね
( ;^ω ) で、でも、あの吸血鬼たぶんA級並の……ッ
言いかけた僕の目に映ったのは、いたるところから血を吹いて立ち尽くす吸血鬼の姿と。
杭に付いた血を払いながら既に背を向けている、大天福の姿だった。
(´†ω・`) ……大天福アイアンメイデン。
男は全身に無数の刺し傷があった。ただ乱雑に刺したわけじゃない。
人体の前面にある急所の一つ一つ、そして動作の起点となる腱や筋を的確に断っているのだ。
心臓と脳は避けているが、これではいくら生命力の高い吸血鬼でも身動きが取れない。
男が白目を剥いて崩れ落ちた、。既に意識が無い。血刑を持っていたとして、これでは使えないだろう。
速い。あの男は、確実に強かった。
仕事上B級の武闘派を狩ることもあるからわかる。あいつはそれ以上だったはずだ。
それを一人で。
しかもこの短時間に、こうも正確に。
(´†ω・`) ……無事かホライゾン。
( ;^ω ) あう、はい。
(´†ω・`) よくやった。恐らくあれは最近の吸血鬼頻出のカギを握っている。この段階で捕らえられたのは重畳。
( ;^ω ) ……。
(´†ω・`) お前は元来の囮の役目を果たし、俺をこの場へ呼んだ。それで十分よ。
290
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:31:31 ID:bz.gAPiE0
そんなことは無い。僕は、ツンをみすみす攫われ、役目を見失って単独行動に走り、結果負けた。
大天福さんたちが傍にいたのは運が良かったに過ぎない。
もし彼らが居なければ、僕は殺され、ツンも死に、吸血鬼は意気揚々と逃げ延びていた。
( ; ω ) ……申し訳、ないです
(´†ω゚`) 大天福は正義でなければならない!! ド ン !!
( ;^ω^)そ ビクッ
(´†ω・`) 大天福に救われることを恥じることも感謝することも必要ない。
( ;^ω^) ……
(´†ω・`) お前が自分の正義に反したと自覚するならば、それは俺に謝ることではないだろう。
( ; ω ) ……はい。
(´†ω・`) モララー。回収班に生体捕獲の連絡を。
( ・∀・) しておきました。入り組んでいるので時間はかかるでしょう。
(´†ω・`) 咲名か?
( ・∀・) はい
(´†ω・`) ならすぐに来るだろう。ここは俺に任せて、お前はホライゾンと津雲を病院へ連れて行け。
291
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:32:37 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 動けるかい内藤君。さすがに、君と津雲ちゃんの二人を運ぶのはちょっと難しい。
( ;^ω^) ハイ……なんとか、大丈夫です。
( ・∀・) 近くに僕の車がある。そこまで辛抱してくれ。
モララーさんに手を取られ、何とか立ち上がった。
肋骨の、背中側が痛んだ。恐らく折れているのだろう。
鈍く耐え難い痛みが、深い呼吸を阻害する。
( ・∀・) 無理はするんじゃないよ。救護班を呼んでも構わないんだから。
( ;^ω^) 大丈夫です、動けます。
ツンを軽々と抱えるモララーさんの後ろを、ゆっくりとついて行く。
呼吸を調え、痛みを緩和しようと試みるけれど、むしろ痛みが増す。
モララーさんの車は、僕にとっては酷く長い道のりだったけれど、確かに近くにあった。
杭持ちが借り上げている月極駐車場。
普段警邏の人たちの移動車の駐車や、救護、処理班の待機場としても利用されている。
ツンを助手席に座らせて、モララーさんは僕のために後部のドアを開けてくれた。
292
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:33:35 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 病院までそうかからないだろう。もうしばらくの辛抱だ。
( ;^ω^) あの、モララーさん。
( ・∀・) ん?
( ;^ω^) ツンは、一体、何をされたんでしょう。
( ・∀・) ああ、恐らく、吸血鬼の催眠術で意識を封じられたんだろう。
( ;^ω^) それは……。
( ・∀・) 大丈夫、と迂闊には言い切れないけど、しばらくすれば目を覚ますと思うよ。
( ;^ω^) そう、ですか。
( ・∀・) だから君は、自分の身を案じていたまえ。度合いで言えば君の方が重体だ。
( ;^ω^) ……はい。
車は細い路地を抜け、比較的広い道に出た。
時々路面が荒れたところで車が跳ね、息が詰まるほどの痛みが襲う。
歯を食いしばるが、それすら痛みに繋がる。
多少慣れてきて、痛みの発生元が分かってきたが、左の肋が折れている。
恐らく二本。完全に断裂しているというよりは、罅が入っている感覚だ。
293
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:36:34 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) ……すいません。ご迷惑を、おかけして。
( ・∀・) そうだね。キミがもう少し慎重に行動していれば、同じ結果をいくらか少ない代償で得られただろう。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) 僕は先生と違って、そこは厳しくさせてもらうよ。一応、君に戦闘技術を教えている立場でもあるし。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 足を潰したのは、良い判断だ。お蔭で、敵は先生相手でも逃走という選択肢を選べなかった。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) だけど、それだけだね。キミのことだから、津雲ちゃんを攫われて頭に血が上ったんだろうけど。
( ;^ω^) ……はい。
( ・∀・) 常々言っているように、吸血鬼と相対したら誰よりも冷静でいなければならない。
どれだけ奮起しても、激昂しても、根っこの思考回路は冷たくあらねばならない。
君にとって、津雲ちゃんが特別な存在であることはわかるけれど、だからこそ、それを忘れてはならない。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 津雲ちゃんを、守りたいなら、ね。
294
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:37:45 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) なんて、君は賢いし、素直だから態々こんなことを言わなくても自分で反省できるだろうけど。
( ;^ω^) えっと……
( ・∀・) それに、僕らも人に偉そうな説教言える身分でもないんだよね。こないだは油断して死にかけたし。
モララーさんの口調が、柔和なものに戻る。
そこからは、他愛のない世間話だけになった。
学校はどうか、とか。友達とは上手くやっているのか、とか。
モララーさんは、所属こそ違え、僕とツンに非常に世話を焼いてくれている。
杭持ちとしての訓練はもちろん、私生活の相談にも乗ってもらったことが何度かあった。
僕に斧を使うように指示したのも、ツンに精密な射撃の腕を仕込んだのもモララーさんだ。
病院に着くと、すぐに診察室に通された。
杭持ちが多大な寄付をしている病院で、融通が利くのだと、モララーさんに教えてもらったことがある。
僕はやはり肋骨に罅が入っていた。
幸いにして骨にずれは無く、内臓の損傷も無いため、数日の入院で済むとのこと。
ツンも、モララーさんの予想通り、速ければ今日の内にも目を覚ますだろうとのことだった。
近くに僕がいたこと。そして杭持ちの警戒が高まっていたことから、十分に催眠をかける余裕が無かったのだろう。
今は、僕とは別の棟で眠っていると、後から来た部長に知らされた。
モララーさんは、僕が診察を受けている時点で大天福さんの元へ戻った。
事後処理などもあるのだろう。よく、ぼやいているのを聞いたことがある。
295
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:38:49 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) (そう言えば)
深夜の病室。僕は肋骨の痛みで上手く眠ることが出来ず、カーテンを開けて外を見ていた。
月が出ているので、かなり明るい。五階にあるこの病室からは、ある程度街を見下ろすことが出来る。
( ^ω^) (大天福さんは、アイツを最近の吸血鬼頻出事案のカギだと言っていた……)
( ^ω^) (あの、リストにすら載っていない無名のことを……なぜだ?)
自慢では無いけれど、僕は吸血鬼のリストをすべて頭に入れている。
脅威度が低い者たちについてはうる憶えであることは否定しないけれど、B以上となれば絶対に間違いは無い。
どんな敵がいるのかを把握しておくことは、僕たちにとって最上の護身術になるからだ。
でも、今日のあの吸血鬼は、そのリストの中には存在しなかった。
だから僕は下等な吸血鬼と思い込んで、応援を呼ばず自ら追跡した。
言い訳では無いけれど、もし初めからB以上と分かっていれば、その段階で応援を要請している。
そんな、リストに乗らない、把握されていない吸血鬼が「カギ」。
( ^ω^) (いや、むしろ、だからこそアイツが鍵であると予想が立つのか?)
( ^ω^) (突如現れた無名の想定脅威度Aクラス。確かに、異常の原因であると睨むのは間違った解釈じゃない)
( ^ω^) (けど……)
既に把握されている吸血鬼たちへの捜査もまだ4割すら進んでいないと聞く。
その中で大天福さんは「無名でありながら脅威度の高い吸血鬼」が原因であると断定しているようにすら見えた。
彼は、少し抜けているところこそあるけれど、モララーさん込みで考えれば下手な思い込みなどしないはず。
あの人間離れした動物的直感によるものだろうか。なんにせよ、なんだかはっきりとしない。
296
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:39:51 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) (子子子ギコが僕らを知っていた件もあるし、なんだか、きな臭いな……)
( ^ω^) (杭持ちを悪い組織だとは思わないけれど、でも、やっぱり僕は……)
ガラス窓越しに、遠い銃声が聞こえる。
やっぱり、まだ吸血鬼との戦闘はあるんだ。
今回は何とか助かった。でも、次はどうなる。
僕が油断せず、実力をつけていけば、何とかなるのだろうか。
本当に僕は、ツンを杭持ちにさせてしまっていいのだろうか。
< コンコン
( ^ω^)´
外の明るさとは対照的に、陰りはじめた僕の思考を止めたのは、か弱いノックの音だった。
看護師の巡回、にしてはなんだか気配が違う。そもそも、足音がまったくしなかった。
僕は反射的に枕の下に手を伸ばした。
「武器が無いと不安でしょう?」と上司が置いて行ってくれた銃と短杭を取りだす。
傷には確実に響くが、有事に何もできないよりはいい。
扉が、ゆっくりと開いて、金色の髪が、差し込む月光の中で揺れる。
|⊿゚)ξ ブーン、起きてる?
( ;^ω^) センパイ?!どうして!
ξ;`⊿´)ξ ちょ、しーっ、しーっ、
b
297
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:40:54 ID:bz.gAPiE0
「病室を抜けだしてきた」と簡潔かつ理解しがたい言葉を吐いてツンは僕のベッドに腰を掛ける。
顔を見て安心した。催眠を受けた後遺症のようなものは一切無い様だ。
むしろぐっすり眠って元気いっぱいですらある。
ξ゚⊿゚)ξ 正直記憶は飛んでるんだけど、枕元に部長の置いてったメモがあったから大体は把握しているわ。
そう言って、ツンは僕の鼻に、自分の鼻を突きつける。
どきりと心臓が跳ねて、傷がずくりと痛んだ。
ξ゚⊿゚)ξ 怪我の具合は、どうなの?
( ;^ω^) 大したことは無いみたいです。激しい運動しないでいれば、一か月かそこらで治るって。
ξ゚⊿゚)ξ ……そう。
安心したように、ツンは僕から離れる。
心配してくれていたのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ 悪かったわ、迂闊にも吸血鬼に攫われるなんて。
( ^ω^) それは、僕のセリフです。むざむざ先輩を危険な目に……
ξ゚⊿゚)ξ それでも、怪我をしてまで助けてくれたじゃない。
「怪我をしたのは自業自得だし、そもそも真の意味であなたを救ったのは僕では無く大天福さんです」と、言わなかった。
少しだけ、彼女に感謝されるという、あり得ない恩恵を味わいたい欲が出た。
彼女の言葉は僕を締め付けていた後悔と自責の念を、次へ繋がる力に変えてくれる。
298
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:44:59 ID:bz.gAPiE0
ξ゚⊿゚)ξ でも、こんなんじゃ、私たち囮役失格かな。
( ^ω^) そんな……
ξ゚⊿゚)ξ だって、囮として吸血鬼を釣って殺すのが仕事なのに、本当に攫われてんのよ?
( ^ω^) まあ
ξ゚⊿゚)ξ 相手が所構わず殺しをするような奴だったら、きっと私は死ぬだけで終わってた。
( ^ω^) ……
そろそろちゃんと覚悟決めないとね。
あまりに小さい声だったけれど、ツンは多分そう言った。
そんな必要はない。
子子子ギコたちにしか顔を知られていない今なら、まだ。
ξ゚⊿゚)ξ じゃ、戻るわ。バレて騒ぎになっても嫌だし。
( ^ω^) そうですおね。
ξ゚⊿゚)ξ あんたはちゃんと怪我直しなさいよ。あんたいないと私のこと守る奴いないんだから。
( ^ω^) 分かってますって。
ツンが部屋を出てゆく。
僕は何も言わずそれを見送って、布団にもぐりなおした。
そうだ。早く怪我を治さなくては。
僕の仕事は、知恵熱で頭を湯立たせることでは無く、彼女の傍で、彼女を守ることなのだから。
299
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:46:06 ID:bz.gAPiE0
おわり
三行
拉致昏睡
惨敗骨折
乱入圧勝
300
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 19:02:23 ID:8Xlh0aGk0
乙
杵持ちメインの話は健全だな
301
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 19:19:58 ID:SO5cxzy60
大天福先生はださかっこいいな!
302
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 21:50:02 ID:PACmpjDwO
ω・)乙。流石は大天福先生
303
:
名も無きAAのようです
:2014/04/30(水) 02:52:36 ID:uCDPBYDg0
乙でした
大天福先生は格好いいんだか悪いんだか
304
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:52:11 ID:D90ZIRLo0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ 棺桶死オサム
─────────────────────────────
305
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:53:19 ID:D90ZIRLo0
扉が開いて閉まる音で、目が覚めた。
静かにしようという心はは感じられたが、周囲があまりに静かなので嫌でも耳につく。
どこか覚束ない足音。妙な胸騒ぎがして、体を起こした。
ミセ* ー )リ 「もしかして、起こしちゃった?悪いな、トソン」
薄暗く顔がよく見えないが、間違いなくミセリだった。
息が荒い。努めて明るくしているようだけれど、強がりなのが寝ぼけた頭でもすぐに分かる。
(゚、゚トソン 「どこ行ってたんですか?こんな夜中に」
ミセ* ー )リ 「ちょっと寝付けないから、散歩にね」
嘘だ。
寝付けなくて散歩に行ったならば、私に声をかけるはずだ。
急にいなくなれば私が無暗に心配することを、彼女は理解しているから。
ミセ* ー )リ 「悪いついでに、一口、飲ませてくれね?渇きが、辛いんだ」
半ば倒れ込む形で、ミセリがベッドへ。
返答を待たず手を私の肩へと伸ばす。
余裕が無い。いつものように、ただ空腹になったという風には感じられなかった。
そもそも、昨日の晩、寝る前に少し多めに飲ませていたはずなのに。
(゚、゚トソン 「……私も貧血になってしまうから、あまり飲まないでくださいよ」
本当であれば、抜け出していた理由を含め、色々と事情を聴きたいところだったけれど、
あまりに辛そうなので血を飲ませることを優先した。
苦悶の中に、安心を滲ませた表情で、ミセリが私に凭れかかる。
パジャマの胸元をはだけさせ、ミセリの牙を、そこに受け入れた。
306
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:54:13 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン (体が、いつも以上に冷たい)
一度だけ、この体温に触れたことがある。
初めて会った時だ。
そして、血を多く失っていた時の温度だ。
(゚、゚トソン 「ミセリ、何をしたんですか」
ミセ* ー )リ 「何もしてないって言ったら、信じてくれる?」
(゚、゚トソン 「いいえ」
ミセ* ー )リ 「トソンは、厳しいからな」
思考に薄い靄がかかり始めた。
寝不足や病による衰弱とは少し違う脱力感。
少しづつだけれど、かなりの血を飲まれている。
(゚、゚;トソン 「ちょっと、ミセリ」
ミセ* , )リ 「……悪い飲み過ぎた」
(゚、゚;トソン 「いや、そうじゃなくて、そんなに血が要るって、本当に……」
ミセリが離れ、そのままベッドに倒れ込んだ。
驚いたが、眠っているだけのようだ。
ただ、あまりにも死体じみていて安心できない。
307
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:55:06 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……また、蚊帳の外ですか」
ミセリをちゃんとベッドへ引き上げる。
動かしても起きる気配が無い
血を失って、疲労して、本当に何をしてきたというんだろう。
とりあえず服を着替えさせなくては。
外出着のままでは寝疲れしてしまう。
(゚、゚;トソン 「……なに、これ」
一番上に着ていたパーカーを脱がせて、手が止まった。
中のキャミソールには、いくつも血の斑がついている。
よく考えたら、このパーカーは初めて見る服。
きっと、この血の跡を隠すため、それまでの服を捨て、代わりに盗むか何かして身に着けたんだ。
恐る恐るキャミソールを捲りあげる。
いつも通りの、白くて滑らかな、綺麗な肌。
滲んだ血が擦れた跡こそあるけれど、怪我は無い様だ。
少しほっとした代りに、また別の不安が沸いてくる。
(゚、゚;トソン 「返り血……?」
ミセリの血でないのなら間違いなくそれだ。
308
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:56:52 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「……」
キャミソール脱がせ、とブラを外す。
肌に付いた血は、ウェットティッシュで拭った。
血の跡は、キャミソールの下以外にもあった、
恐らく目立つ部分は帰る前に洗ってきたのだろうけれど完全には落せていない。
爪の間にもこべりついている。
戦ったんだ、きっと。
相手が杭持ちか、同族のどちらかは分からないけれど。
(゚、゚;トソン 「……」
最近、ミセリは無暗に戦わず逃げることに専念するようにしている。
杭持ちを返り討ちにするほど追跡は酷くなるし、何より血を消耗する。
基本的に私以外の血を飲まない今のミセリにとって、血を使って戦うのは自殺行為に近いのだ。
それでもミセリが戦ったとするなら。
きっと、何か大事な理由があったんだ。
たとえば、この街に残っていた本当の理由、とか。
(゚、゚トソン 「一体、何をしているんですか、あなたは」
疲労の色が濃く浮き出る頬を、指でなぞる。
少し体温が戻ったようだ。貧血になった甲斐がある。
309
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:57:42 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……」
寝る前に、サプリメントを飲まなければ。
ミセリとの生活は貧血との戦いだ。
日に少量とはいえ、毎日与えていれば当然血は足りなくなる。
もちろんサプリメントで補ったところで焼け石に水なのだけれど、なにもしないよりははるかに体調が良い。
ベッドから降りる。
サプリはテーブルの上だ。
寝る前に飲んだ時、放置しておいてよかった。
これなら、貧血でも何とか手が届く。
水も、夜に飲んだミネラルウォーターが残っているからそれで間に合うだろう。
身を起こす。
その時点で、頭がくらくらとし、意識が朦朧とする。
不味い。この状況で意識を失ったら、そのまま昏睡してしまいそうだ。
ベッドに這いつくばって耐える。
今日は講義を諦めよう。
元々受講科目は少ない日だし、真面目に受けてきたので出席に欠けは無い。
友人がいるからあとでノートを見せてもらうこともできるはず。
何より、この状態で家を出ても死ぬか病院送りだ。
( 、゚トソン 「ぅく……今までで一番辛い……」
動こうとすればするほど、力が抜けていく。
意識を保つのが精いっぱいだ。
せめてサプリを飲めば、そのまま眠って回復を待てるんだけれど。
310
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:58:58 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚)つ日 「大丈夫かい、お嬢さん。ほら、これが欲しいんだろう」
日と( 、゚トソン 「あ……ありがとうございま……」
【+ 】ゞ゚) 「いやいや、困っているときはお互い様だ」
( 、゚トソン
【+ 】ゞ゚)
( 、゚;トソン 「ッだれですかあな……」
【+ 】ゞ゚) 「静かに、大人しくしたまえ」
いつの間にか、あまりに唐突に現れたその男は、穏やかな面持ちのまま私の目を見据えていた。
深いグレーの瞳。自然と言葉が詰まる。
私の体は、私の反射的な意志よりも、この男の言葉に従った。
【+ 】ゞ゚) 「体が辛いのだろう。早くその栄養剤を飲みたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
やはり、体が勝手に動く。
ゆるんでいた蓋を開け、普段よりも多くのサプリを手に溢す。
腹這いのまま、口に含んで軽くかみ砕き、水で流し込んだ。
不思議と貧血が辛くない。
実際は相変わらず意識が朦朧としているのだけれど、自分で考える必要も無く動くので、比較的楽に感じる。
311
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:00:42 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚) 「水は全て飲んでしまいたまえ。脱水を起こしては意味が無い」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「よし、飲んだね。今から君に発言を赦すが、いきなりまくしたてて、貧血を悪化させるようなことはしないように」
(゚、゚;トソン 「あ、あ」
【+ 】ゞ゚) 「改めましてお初にお目にかかるお嬢さん。私は棺桶死オサム。突然の訪問、失礼するよ」
(゚、゚;トソン 「つ、都村トソンです。こんな姿勢で申し訳ありません」
【+ 】ゞ゚) 「いやはや、こちらこそ申し訳ない。本当は娘の顔をちらりと見て帰るつもりだったのだがね、
君があまりに辛そうだったので、つい余計な節介を焼かせてもらったよ」
(゚、゚;トソン 「……娘?」
【+ 】ゞ゚) 「ああ、そこで涎垂らして寝ているアホ娘の、父に当たるのが私なのだよ」
(゚、゚;トソン 「……」
朦朧としていて、驚くこともできなかった。
いや、驚いていたのだけれど、驚き過ぎて今の脳みそでは発するべき言葉が思いつかなかった。
ミセリの父。この人が。
312
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:01:48 ID:D90ZIRLo0
無礼を承知でまじまじと顔を見る。
後ろに撫でつけたグレーの髪と、同色の瞳。
目じりは優しげに垂れ、年齢を思わせる深い皺が刻まれている。
服装は、礼服にコート。
どちらも高級そうだ。夏場にも関わらず暑苦しい印象を覚えないのは彼の表情の涼しさゆえだろうか。
老紳士。形容するにあたって最もしっくりとする。
ただ、そこらにいる老人とは異なる、強い精力のようなものを感じた。
眼力であったり、穏やかながら覇気のある声であったりから、ひしひしと伝わってくる。
【+ 】ゞ゚) 「ああ、吸血鬼における親子というのは、人間のそれとは異なる」
【+ 】ゞ゚) 「我々は生殖の能力は持たないからね。あくまで、私が彼女を吸血鬼にした、という意味だ」
それは、ミセリから聞いて知っている。
吸血鬼は人間の名残で生殖器は持っているが、それを繁殖のためには使わない。
代わりに、吸血し殺すことで(正確にはいくつかの条件をクリアして)、人間を同族に変えるのだ。
彼が、ミセリの父。吸血鬼としての祖。
私が知らない、ミセリの過去を知る人物。
【+ 】ゞ゚) 「先に言っておこう。私は君にこれ以上何かをするつもりはない。
元々娘に会って、あわよくばいくらか言葉を交わせればよいと思ってきただけだからね。
なにより、君に下手なことをすれば、私の頭がこの子に吹き飛ばされかねない」
カラカラと笑う、棺桶死オサム。ミセリとは別のベクトルで、食えない人格だ。
本心を語っているようで、全くそうでは無く、かといって裏の真意が透けて見えるようなことも無い。
敵対したくないけれど、心から信用することはできない、そんな感じだ。
313
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:02:36 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「あ、あの」
【+ 】ゞ゚) 「なにかね?」
(゚、゚;トソン 「ミセリは、何をしようと、何をしているんですか?」
【+ 】ゞ゚) 「……」
(゚、゚;トソン 「今日だって、血を失って、血まみれになって……」
【+ 】ゞ゚) 「娘は、それを君には話していないのだね?」
(゚、゚;トソン 「はい」
【+ 】ゞ゚) 「なら、私の口からは言えないね。申し訳ないが」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「……戦っているのだよ。倒さねばならぬ者とね。私に言えるのは、それだけだ」
(゚、゚;トソン 「……そうですか」
【+ 】ゞ゚) 「手前勝手な頼みであると承知でお願いするが、どうか彼女を信じてやってくれたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「この子は、他者と深く長く交わることが苦手でね。人間の番を持つのは、とても珍しいのだ。
君を傍にぽくということは、それだけ君に信愛を覚え、信頼を置いているのだろう。
ならば、きっと君に不義理を立てるようなマネはしない。
事情を君に話さずにいるのは、己の中でそれが君の為であると信じているからだと私は思う。」
314
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:03:35 ID:D90ZIRLo0
そんなことは、分かっている。
ミセリが私を悩み苦しませるために秘密を持っているわけでないことくらいは。
それでも心配だから、知りたいのだ。
私のことは、確かにミセリが守ってくれるのかもしれないけれど、ミセリのことは誰が助けてくれるのか。
知らないどこかで、彼女が流星のように飛び去り消えてしまうことを、私は何より畏れている。
【+ 】ゞ゚) 「さあ、今は眠り、体を養いたまえ。私もそろそろ行かねばならない」
(゚、゚;トソン 「……」
まただ。オサムの言葉に、体が勝手に従ってゆく。
瞼が重くなり、意識がぐにゃりぐにゃりと歪み始めた。
元から、眠気は強かったからなおさらだ。
抵抗することもできず、意識が深層に沈んでゆく。
【+ 】ゞ゚) 「さらばだ都村君。君がこの子とある限り、いずれまた会うこともあるだろう」
細まる視界の中で、棺桶死オサムの体が蝋燭の火のようにふっと消えた。
代わりに灰色の霧がたなびき、エアコンの中へと吸い込まれてゆく。
「君たちのこれからに、淀みなき幸があらんことを」
何処からか聞こえた、その言葉を最後に、私は深い深い眠りに落ちた。
315
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:04:20 ID:D90ZIRLo0
三行
女二人暮らしの部屋に
不法侵入する
自称お父さん
316
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 23:03:58 ID:jqfrCaEA0
乙!次回も楽しみにしてる
317
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 23:58:43 ID:QM.lLUkw0
乙 傍にぽく…?
318
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 01:14:22 ID:bZ0CIlCEO
乙
安定した面白さだな
319
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 08:03:09 ID:O5/ByOWE0
乙
>>317
おく のタイプミスじゃないかな
320
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 18:16:48 ID:sZbO2taI0
おつ
321
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 20:30:31 ID:aVjOnblE0
更新来てたのか
おもれえ乙
322
:
名も無きAAのようです
:2014/07/10(木) 08:50:19 ID:nGnrTQxEO
続きが待ち遠しいな
323
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:26:55 ID:UfHVjZBo0
Place: 草咲市 宗郷一丁目 1 正十字協会草咲支部地下資料室
○
Cast: 棺桶死オサム 流石兄者 素直クール 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────────────――
324
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:28:05 ID:UfHVjZBo0
「これはこれはクール嬢。熱烈な歓迎を感謝するよ」
その男は、白い歯を見せ、笑って見せた。
初老の紳士だ。夏場であるにも関わらず、礼服にロングのコートを羽織っている。
室内は確かに冷房のため肌寒いくらいではあるが、冬服を着込むほどでは無い。
「何をしに来た、棺桶死」
対するクールの声は、珍しく熱を持っているように聞こえた。
困惑と焦りと、ほんの少しの畏怖、と言ったところか。
滲ませる程度とはいえ、この女が感情を露わにするのは珍しい。
てっきり、感情の類を一切失っているのだとばかり思っていた。
だが同時に、この状況では仕方ないと納得もしている。
「流石くん、人を呼べ、ベストは大天福とモララーだ。最悪杭持ちなら役職者でも管理者でもなんでもいい」
「すいません、クールさん。もう暗示で動けません」
「今日の流石くんはあまり流石ではないな」
硬直する俺の目の前。
クールは、倒れた老紳士に馬乗りになり、その眉間に銃を突き付けていた。
脅しでは無いのが、銃を握る手からも伝わってくる。
むしろ乱射癖のある彼女が良く撃たずに我慢しているものだ。感心する。
325
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:30:11 ID:UfHVjZBo0
「いやはや、どうもクール嬢には嫌われてしまっているね」
かっかっかっと、木を打ち合わせたような笑い声。
老齢であり、穏やか。日当たりのよい趣のある喫茶店の店主などが似合いそうだ。
しかし、銃口を目で覘きながらの態度では無い。
クールがいつになく取り乱すわけだ。
棺桶死オサム。現存する中では最古とされる吸血鬼。
その能力、脅威度はその他の比にならず、俺たちの資料の中でもただ一人特別な扱いをされている。
「もう一度聞く。何をしに来た、棺桶死」
「なに、クール嬢も草咲にいるというから、茶でも一杯やろうかとね」
棺桶死オサムは、署の資料室に篭っていた俺とクールの前に霧を纏って颯爽と現れた。
少なからず動揺し、驚いた俺をしり目に、クールは機敏に反応。
銃を抜き棺桶死に躍りかかると、全体重をかけて押し倒し、今に至る。
俺が暗示によって金縛りを喰らったのは、恐らく倒れる最中だ。
一瞬目が合い、その瞬間に体が動かなくなった。
どうやらクールは無事のようだが、どうにもこちらが有利には見えない。
引金を引けば、確実に弾は棺桶死の頭蓋を貫く。
両の腕はクールの膝に抑えられているため、いくら吸血鬼でも俊敏に動かせはしないだろう。
それでもなお、この場の優位は棺桶死にある。
「そろそろどいてくれんかね。ここからの眺めも悪くは無いが、床が硬くてね。年寄りには辛い」
「貴様を目の前にして、銃口を逸らすと思うか」
「なら、なぜ今すぐにでも撃たないのかね」
326
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:31:52 ID:/kKWDpNY0
帰ってきた……だと……
支援
327
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:32:06 ID:UfHVjZBo0
クールが黙り込む。
一方の棺桶死は自らが訊ねた言葉への返答を、聞くまでも無く理解しているようだ。
穏やかに、悪ぶる子供を見つめるような目でクールを見ている。
圧倒的優位を自覚してい無ければ、こんな態度は取られないだろう。気分が良いものでは無い。
「あまり手荒な真似は控えたいが、やむなしか」
その時、俺は目を疑った。
俺の、金縛りによって固定された視野には、倒れる棺桶死と、馬乗りになるクールが写っていたはずだ。
それが、ほんの瞬きの間に逆になっている。
腕を逆手に取られ、うつ伏せで抑え込まれるクールと。
その腰に足を組んで座る棺桶死。
一体何が起きたのか、全く分からない。
ただ、この男が俺たちよりもはるかに上位に立っていることだけは、確認が出来た。
「やあ、流石くんと言ったかな」
「はい。お初にお目にかかります、ミスター」
「どけ、棺桶死」
「クール嬢の相棒には何人か会ってきたが、君は中々見込みがありそうだ」
「それはどうも、複雑な心境ですね」
快活に笑う棺桶死。
その下でもがくクールの姿はいつになく滑稽なのだが、状況が状況なので嗤えない。
328
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:34:20 ID:UfHVjZBo0
「金縛りを解いていただいてもよろしいですか。安物しかありませんが、何か淹れさせてください」
「ふむ」
「この期に及んで、貴方に銃を向けるつもりはありません。そんな無様を晒すのは嫌ですし」
「クール嬢、中々よい片腕を見つけたようだね」
「ああ、肝心な時に役に立たないことを今確認したがな」
酷いことを言う。
そもそも、杭持ちの中では棺桶死オサムに対する手出しは無用、と暗黙の内に定められている。
彼を本格的に敵に回した場合、太刀打ちする手段が無いからだ。
仮に何とか討伐したとしても、俺たちにその他の吸血鬼と戦い続ける余力は残らない。
つまり問題行動を起こしたのはクールの方であり、俺はむしろ正当な応対をしているのだ。
己のミスで窮地を招いた際は、個々に責任を取り、もう一方はは自身の任務を全うする。
それが俺とクールの間で契られた数少ない掟の一つ。
今の俺に、彼女を救う責任は無く、むしろ少なからず気分を害した恐れのある棺桶死をもてなさなければならない。
結果的にクールに無様で愉快な姿を晒させ続けることにはなるが、致し方あるまい。
いやはや、実に心苦しい。
329
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:35:51 ID:UfHVjZBo0
「どうぞ。安物ですので、お口に合うかは分かりませんが」
「いやいや。元々私は農民の出でね。それほど舌が肥えているわけでないから、気にせんでくれ」
「素直さんもどうぞ」
「流石くんは本当に流石だな」
コーヒーを淹れ、棺桶死に渡す。
一応クールの分も注いだので、動けずにいる顔の前に置いた。
安物とはいえ、香りは悪くない。
資料室に篭ると決めた時点でコーヒーの準備をしておいて正解だった。
「それで、今日はどういったご用件で」
「ああ、娘のことでね」
娘。その一言で、俺も背筋を正す。
吸血鬼は生殖を行わない。
代りに、吸血行為によって同族を増やす。
彼の言う娘とはつまり、彼が吸血鬼化させた女ということ。
俺とクールが追う、「地雷女」のことに相違ない。
「君たちは、私の娘にどこまでたどり着いているのかね」
クールの目を見ると、視線で白を切れと言う指示を受けた。
大人しく従い、返答はしない。
俺の胸中を見透かしたように、棺桶死の口元が笑みを湛えた。
330
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:38:45 ID:UfHVjZBo0
「その様子では、まだあまり具体的なことはわかっていない様だね」
図星だ。
乙鳥ロミスの屋敷を捜索してからしばらく、人員も増やし調査を行っているが、進展はほとんど無い。
人間だったころまで遡っても、地雷女とロミスの間にどんな因縁があったのかは不明だ。
「地雷女は、一体なぜ、この街にいるのでしょう」
「それを私が答えると思うかね」
「いえ。ですが、何らかの目的を持って現れたのならば、こちらの要求も多少は聞いていただけるかと」
「クール嬢。本当にいい拾い物をしたな。どうだ、この男と娘をこさえて、私に養子として差し出してみないか」
「あいにくだが、私はこれでも乙女な気質だ。好きでもない男と、吸血鬼にさせるための子供なぞ作らん」
「乙女」のあたりで棺桶死がまた快活に笑った。
当のクールは、無様な姿のまま平常時の無感情さを取り戻している。
目の前のコーヒーが妙な構図だ。
もう少し余裕があれば父の形見の銀塩を持ち出してシャッターを切っていただろう。
「いいだろう流石くん、君の質問に答えよう」
棺桶死はコーヒーを一口啜る。
旨そうにも見えないが、吸血鬼が血以外の物を口にしているのを初めて見た。
「娘は、ある吸血鬼を殺そうとしている」
「それは、乙鳥ロミスですか」
331
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:41:26 ID:UfHVjZBo0
「そうだ。だが違う」
「それはどういった意味合いでしょうか」
棺桶死オサムは答えない。
相変わらずの笑みだが、少しの逡巡が見えた。
何かある。やはり、乙鳥ロミスに目をつけたのは間違いでは無かった。
「乙鳥ロミスは死んだ。しかし、娘が乙鳥ロミスを殺したかった理由は、死んではいない」
「意味が通らん。乙鳥ロミスが何か、地雷女の求めるものでも持っていたというのか」
「流石だなクール嬢。大よそ、その考えで違いはないよ」
「それは」
オサムは、指で自分の口を横になぞる。
口にファスナーをかけるようなその動きと同時に、俺の口は真一文字に結ばれた。
言葉が出せない。これ以上の質問には答えないということか。
「流石くんあっさり暗示にかかりすぎだ」
「んんんんんんっんんーんんんんんんんんん」
「何を言っているかまったくわからん」
俺も暗示に対抗する訓練は受けているし現に暗示にかかったことなど無いのだが、棺桶死のそれには全く通用しない。
抵抗する間も無いのだ。俺の能力以前の話である。
332
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:45:07 ID:UfHVjZBo0
「私が言えるのはここまでだ。これ以上は、娘に怒られてしまうからね」
棺桶死がクールから立ち上がる。
解放された我が上司は海老のように体を弾けさせ棺桶死から距離を取った。
俺の目が追いついた時には既に銃を構えている。
しかし、長時間腕を取られていたためだろう。腕が震え銃口がぶれている。これでは弾が当たらない。
「兎角、娘の目的は君たち人間にとって害となるものでは無い。むしろ益になると考えて貰って構わんだろう。
であるからして、二人には少しの間娘を見逃してやってほしいのだ。今日はそれを頼みに来た 」
「そんな要求を、私たちが聞くと思うか」
「聞かんだろうね。むしろ私がこう言うことでむしろムキになって娘を探すだろう」
余裕のある笑み。
気のいい老人の皮に騙されてはいけない。
この男は俺たちの思考の外で何かを画策している。
「ま、用は済んだ、そろそろお暇させてもらおう、か」
棺桶死の指が鳴る。
白樺の細枝のような、骨ばったしかし美しい指だ。
そこから発せられた音を聞くと同時に、縫い合わされたかのように動かなかった口が自由になる。
「ではな、クール嬢。別れの挨拶くらい、銃を仕舞っておくれ」
扉の前に立ち困ったように笑う棺桶死。
俺はその瞬間に、気付きの声を漏らしそうになった。
閉めていたはずの扉が開いている。丁度、人一人がなんとか通れる程度に。
333
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:47:54 ID:UfHVjZBo0
俺がそれを認識した瞬間に、棺桶死の胸から杭が生えた。
素早く、されど血が噴くような荒々しさは無く。
するりという音が似合うほど滑らかに、棺桶死の体が貫かれている。
「大天福シノビブレード」
棺桶死の陰から聞こえた声に、俺は状況を把握する。
彼ほどの吸血鬼に杭を突きつけられる人間は、そうそういない。
杭が横に滑る。
伴って肉が切り裂かれ血が噴出する。
肋骨の間を縫った、的確な捌き。
棺桶死は「今気づいた」と言う風に自身の体を見て驚く。
「大天福エッジエンド」
風の鳴る音と共に、無数の光線が煌めいた。
それは振るわれた杭の斬撃であり、洗練された殺意の閃き。
棺桶死の体に幾重もの線が走った。
それが血の飛沫に変わったその時、棺桶死の体は細切れの肉片となる。
しつこく漂う血煙の向こう。立っているたのは一人の杭持ちだった。
黒いスーツを着込み、右目を塗りつぶすように黒い十字架の刺青を入れた、面妖な出で立ち。
血に塗れながらもなお冷たく輝く杭が、彼の人の領域を抜けた雰囲気を強調していた
大天福ショボン。
優秀過ぎる杭持ちの一人として数えられる、奇人である。
334
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:49:49 ID:UfHVjZBo0
「大天福さん、いらしたんですか」
「素直の端末から着信があった。一切の会話はできなかったが、状況を察するには十分だ」
なるほど。棺桶死が話す間、自由だった腕の方で端末を操作していたということか。
棺桶死からの情報収集と、クールの滑稽さのあまり気づかなかったが、素直に見直すべきだろう。
「というわけで僕もいます」
扉の隙間から顔立ちの整った、いかにも好青年が顔を覗かせる。
天主堂モララー。大天福の弟子であり、相棒でもある。
俺より二年後輩だが、恐らく実力では俺よりも上だ。
「遅いぞ大天福、せっかく呼んだのだからさっさとこい」
「すぐに来たが、お前があまりに愉快な格好をしているので笑いをこらえるのに苦労した」
大天福の目は、未だに肉塊と化した棺桶死に向けられていた。
死体は慣れているが、流石にこれほど刻まれたものは初めてだ。
キュビズムの絵画のような半端に残る原形が余計に不気味さを生んでいる。
完全に形を失う分、榴弾や散弾で吹き飛ばされた方がまだマシな見てくれをしているだろう。
335
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:51:28 ID:UfHVjZBo0
「流石、下がれ。まだ終わりでは無い」
「やあ、久しいな大天福」
大天福の言葉に答えたのは、俺では無く棺桶死だった。
繋がっていない上の唇と下の唇が同時に動き、血で溺れる肺から声が聞こえる。
「ますます腕を上げたようだね。ここまで私を壊せるのはお前か百々(どうどう)くらいのものだろう」
棺桶死の死体が動いた、と思った時には、大天福の体が吹き飛ばされていた。
背後にいたモララーを巻き込み、扉を叩き開けて資料室から退場させられる。
「いやあすまんね流石。君は賢いので手を出す気は無かったのだが、私にも面目がある」
落ちていた棺桶死の腕が俺の喉に掴みかかる。
腕だけの力とは思えない。
体が浮き上がり資料棚に叩き付けられた。
暗転する視界に火花が散る。
落ちてきた資料の高質な角にしこたま体を打たれ、流石に気が滅入った。
「いえ。所詮人と吸血鬼ですし、こうなるのは必然でしょう」
「哀しいな。哀しいが、その諦めの早さは羨ましくもある」
細切れの肉塊が人に成る様を始めて見た。
両の腕を残し、目の前で棺桶死オサムが組み上がって行く。
白い霧を伴うその体は、服まで含めて元のままだ。
336
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:53:58 ID:UfHVjZBo0
一陣の風の如く、大天福が再び中へ。
音速の剣技。しかしその刃は全て目に見えぬ力に防がれ、逆に横殴りの衝撃波を受け吹き飛ばされる。
俺よりも激しく資料棚に突っ込んだが、まだ動けるようだ。
落ちた杭を取ろうとした大天福の腕に棚の鉄柱が絡みつく。
そのまま軋む音を立てて大天福の体を巻き込み、完全に動きを封じる。
この隙に扉に体を隠し銃を撃つモララー。
弾は命中するが、霧に変化した棺桶死を素通りする。
白樺の指が横に動くと同時、銃が弾かれ、モララーは廊下の壁に打ち付けられた。
「やれやれ。まあ、これで斬られて何もせずに帰ったなどと言う噂は立たんだろう。な、クール嬢」
クールが棺桶死を睨む。
その手の中の銃は、既に限界まで分解されていた。
「私も難しい立場でね。侮られては意味が無いのだ。分かっておくれ」
腕が離れ、俺も解放された。
脳がうっ血しているのが分かる。全身の感覚が鈍い。
「ではな、杭持ちの諸君。娘のことを、くれぐれもよろしく頼むよ」
棺桶死の体が霧の如く消えた。
ため息が漏れる。
身体的にダメージを受け。予定していた作業は著しく妨害され。
挙句の果てにはこの有様だ。あの上司のことだから始末書で済めば運が良いくらいだろう。
「素直さん。減俸になったら、毎昼食奢ってくださいね」
「流石くん、君はもう少し動揺というものを覚え給え」
337
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:55:24 ID:UfHVjZBo0
おわり
長い文章が読めない人用の三行
|::::l †:::|ゞ^) 舐
|::::|┃([:::::〉 め
|::::|:::::::|::イ プ
338
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:02:03 ID:G6Vn5Z0o0
おつ
最強ポジションだった大天福さんがボコボコにされてた・・・
339
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:05:55 ID:/kKWDpNY0
オサム強え
乙
340
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:15:17 ID:pHqRz.Ik0
更新来てまじで嬉しいぜ
だんだんと結びついていく感じがたまらん
乙
341
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 03:31:30 ID:9lzwrwzc0
乙乙 流石だなオサム
342
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 05:58:55 ID:HtiT7I5AO
流石な回だったな
343
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 12:30:13 ID:S/0nf7/E0
乙
これで舐めプとか強いな
344
:
名も無きAAのようです
:2014/07/18(金) 18:12:46 ID:ELJgwkwg0
乙!
345
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:23:08 ID:JUgNWWnY0
Place: 草咲市 灰木町 字 祇路 166-3 とある橋の下。
○
Cast:子子子ギコ 志納ドクオ 間アザム 久部ギヤン
──────────────────────────────────――――――
346
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:24:52 ID:JUgNWWnY0
空には、うっすらと雲がかかっている。
子子子ギコは橋の下で川の流れを眺めていた。
主要な道路の通る、大きな橋だ。
舗装された川原はそれなりに広い。
しかし、暗く湿った空気と、こびり付くような黴の臭いが人を寄せ付けない。
周囲はそれほどでもないが、昨日から今朝にかけて降った雨の痕跡がまだまだ濃く残っていた。
ギコは人を待っていた。
自分から呼び出したのだが、相手がギコの連絡に応じるかどうかは分からない。
なにせもう三日ほど待っている。
携帯電話などの連絡先も知らないので仕方のないことだ。
それに、特別急いで生きている身でもない。
たった数日の待ち人など、苦にもならなかった。
頭の上を車が過ぎてゆく。
そこに、質の違う足音が聞こえた。
ただ急ぐのとは違う、忍ばせた駆け足。
ギコは息を吐いて立ち上がる。
待ち人が来た。もう少し待つかもしれぬと思ったが、案外に早かった。
(,,゚Д゚) 「久しいな。急に呼び出してすまなかった」
橋から直接飛び降りてきたその男には、黒い服で全身を覆っていた。
トレーナーに備えられているフードを目深に被っているので、顔をはっきりとは見えない。
いかにも不審者だ。日陰者の身ではあるが、流石にらしすぎる。
('A`) 「……あんな伝言で、来ると思ったのか」
(,,゚Д゚) 「来なかったらそれまで、だな。こちらから出向いても良い話ではあるし」
347
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:26:50 ID:JUgNWWnY0
彼は志納ドクオ。ギコと同じく吸血鬼だ。
歴は非常に浅いが、どうやら才能があったらしい。
本人からの連絡は無くとも、噂は嫌と言うほど耳に入る。
('A`) 「どうやって俺の居場所を知った」
(,,゚Д゚) 「簡単な話だ。お前が居そうな場所に目星をつけ、仲間に張り込んでもらった。
幸いお前の顔は既に有名になっているし、見つけるのは簡単だったと聞いている」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「外歩きする際は、もう少し気を付けた方がいいだろう。杭持ちに見つかれば住処ごとやられるぞ」
('A`) 「……俺を態々呼び出した要件はなんだ」
前置きに飽きたらい。
ドクオの視線は嘘や誤魔化しを一切許さぬという気迫があった。
(,,゚Д゚) 「……順を追って話そう。まず、今のお前の現状についてだ」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「お前の脅威度が、AAに設定された。この意味は、分かるか?」
('A`) 「……ああ」
杭持ち……対吸血鬼のための武力組織、正十字協会は吸血鬼に脅威度を設定している。
単純な話だ。この脅威度が高ければ高いほど危険とみなされ、討伐を優先される。
そしてAAというのは、事実上最高の脅威度。
ギコが知る限りで、吸血鬼化から半年も立たずにここまで引き上げられた者はいない。
348
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:29:10 ID:JUgNWWnY0
実質の最高位であるAAは未満のランクに比べると杭持ちの対応が大きく異なる。
細かく挙げれば多々あるが、吸血鬼としてもっとも厄介なのが、『追跡者』の存在だ。
『追跡者』とは読んで字の如く、対象の吸血鬼を専属で付け狙う杭持ちのことだ。
地雷女に対する素直クール、棺桶死オサムに対する百々クックル、鴨志田フィレンクトに対する盛岡デミタスなどが該当する。
彼らは戦闘集団である杭持ちの中でも特に実力を認められた猛者達だ。
当然その他の杭持ちとは格が違い、人と吸血鬼という種族の差を容易く埋めてくる。
そんな超人たちが、土地も選ばず延々と追いかけてくるのだからたまったものではない。
過去、凶悪性だけでAAに認定されたような実力不足の者たちは、蝋燭を吹き消すより容易く殺された。
('A`) 「……俺に当てられる杭持ちは誰か分かっているのか?」
(,,゚Д゚) 「流石にそこまではわからん。が、追跡者足りうる杭持ちで今手が空いているのは……」
ギコは、スラックスのポケットから、数枚の写真を取り出し、ドクオに渡す。
映っているのは枚数と同数の杭持ちの写真。
この中の誰かがドクオの追跡者になる可能性が非常に高い。
(,,゚Д゚) 「その写真はやろう。予め頭に入れて、見かけたらすぐに逃げろ。下手に戦おうと思うなよ」
('A`) 「そんなにヤバい奴らなのか」
(,,゚Д゚) 「人間と思わない方がいい。血刑がばれ、対策を練られた状態で勝ち目は薄い」
('A`) 「……わかった、忠告はありがたく受け取る」
349
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:30:17 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「で、だ」
ドクオの目がギコを見据えた。
疑りと言うよりも確信を持っている。犯人を問い詰める探偵のようだとギコは苦笑する。
('A`) 「何故、俺にここまでする?あんたは確かに親切屋ではあったが、それ以上に平和主義者だ。
杭持ちと諍いを起こしている俺に親身になるほど状況の読みができない奴では無いと思ってたが」
そうである。
脅威度AAというのは単なる強さでは無く、凶悪性を込みにした物。
人間に協力することで安全を確保しているギコにとっては最も避けるべき存在だ。
彼に情報を流していることが杭持ちに知られ、仲間であると判断されれば危険はギコの仲間にも及ぶ。
人の信頼を得、今の立場にたどり着くには相応の苦労があった。
些細なことで失って、笑って済ませられることでは無い。
('A`) 「それに、だ。この街の、仲間の吸血鬼の安否を気遣うあんたに取っちゃ、脅威を招く俺は邪魔なはずだ。
なぜ、逃走を促さない?あんたの言葉尻には、俺をこの街に留めようという意識さえ感じたぜ? 」
(,,゚Д゚) 「やれやれ、勘のいい男だとは思っていたが……」
('A`) 「……今、この街に起きている異常か?」
(,,゚Д゚) 「そうだ。お前の力を、借りたい」
できればギコに優位な流れで話したいことではあったが、やむを得ない。
ギコは居直って、ドクオに事情の説明を始めた。
350
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:31:46 ID:JUgNWWnY0
現在、草咲市ではいくつかの異常が起きている。
特別大きな案件では無い。一つ一つはこの街では比較的当たり前に起きることだ。
ただし、それが同時に、平時よりも明らかに多い頻度で起きている。
(,,゚Д゚) 「今、この街で意図的に吸血鬼を生み出している奴がいる」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「人の生殖機能を失った吸血鬼にとって、同族を生むことは性欲に似た強い衝動を孕む。
俺ですら、時々衝動に駆られるからな。野良生活で孤独に怯えるものが子を作ろうとするのは珍しくは無い」
('A`) 「だが、それにしては数が多すぎると」
(,,゚Д゚) 「そうだ。ほとんどの事案で、手口が似ていることから、犯人は同一犯だと思っていた。
俺たちも、杭持ちもな。だが…… 」
数日前、一人の吸血鬼が杭持ちに捕らえられた。
杭持ちの吸血鬼リストから洩れた、想定脅威度A並の異分子。
実力、強力な暗示で意識を奪ってから攫うという手口、判明した住処の状態から、犯人はその仮想Aであると半ば断定されていた。
しかし、仮想Aが捕らえられた翌日に、また同様の事案が発生する。
それも数件だ。一安心していた杭持ちを嘲笑うように粗悪な吸血鬼が量産され、人を襲った。
('A`) 「模倣犯、か」
(,,゚Д゚) 「ああ、だが、少し様子が変なのは、お前も分かるだろう」
('A`) 「『強力な暗示の力』……ね」
351
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:33:22 ID:JUgNWWnY0
吸血鬼には多少の暗示能力が必ず備わっている。
だが、瞬く間に相手の意識を奪うレベルとなるとかなり希少だ。
普通の性能では精々自分をから意識を逸らさせる程度が限界。
それ以上しようとすれば面倒なプロセスが必要となる。
だから、大概の吸血鬼は吸血後に記憶を飛ばしたり、意識を逸らして目撃者を減らすため程度にしか使わない。
(,,゚Д゚) 「一瞬で相手を意のままに出来るとなると、相当に強力な能力でなければならない。
一人目だけならばまだ分かるが、もう一人現れるというのはいくらなんでも違和感がある」
('A`) 「確かにな……」
(,,゚Д゚) 「正十字も人員を増やす動きはあるようだが、そこにお前に差し向けられる追跡者も加われば
少なくとも犯人も迂闊はできないはずだ。現に一人目が捕まった直後に数人を吸血鬼化した後、
杭持ちの警戒が高まるのに準じて被害は抑えられている 」
('A`) 「……俺に、その話に乗る旨みがあると?どっちかと言えば、逃げた方がお得なわけだが」
(,,゚Д゚) 「……この件には、地雷女も絡んでいるようだ」
地雷女、の名を聞いた瞬間に、ドクオの気配が変わった。
これがあるから、ギコは素直に事情を話したのだ。
きっと乗る。彼にとって、彼女との関わりは何よりも得たいはずだ。
しばしの思案、ドクオが顔を上げた。
言葉を聞かずとも答えが分かる。
乗ってくれるようだ。内心安堵の声をあげると同時に、ギコはドクオの言葉を制する。
('A`) 「?」
(,,゚Д゚) 「しまったな……少々油断したか」
352
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:34:50 ID:JUgNWWnY0
ギコの視線は川の中へ向けられている。
増水気味のやや濁った水の中。明らかに周囲とは違う点が二つ。
目立たぬよう、近場を仲間に見張らせていたがまさかそこから来るとは。
ギコは息を吐く。厄介なところを見られてしまった。
(,,゚Д゚) 「出てきたらどうだ。息もそうもつまい」
('A`) 「……?」
ギコの言葉に、少々遅れて水面が応えた。
ブクブクと泡が立ち、水が爆ぜる。
水の中から現れたのは二人の男だった。
どちらも黒いスーツを着て、顔にゴーグルとシュノーケルを被っている。
杭持ちだ。それも、中々厄介な。
( ‐=ll=-) 「……流石は『親猫』と言う訳か」
〈 十〉 「しかしまあ、偶然見つけた『蠍』をつけて巣穴を探ろうと思えば、面白い状況に出会えたものだ」
ギコは舌を打つ。
ドクオと関係性があることがばれてしまった。
他の低脅威度の者たちならともかく、AAのドクオとだ。
下手な言い訳は立つまい。
ドクオがただただ危険な吸血鬼でないことは確かなのだが、杭持ちはそう思ってはいない。
彼らからすれば親人間派のギコはドクオと敵対して当然であるし、こうして同盟を結ぶような行為は裏切りに等しい。
353
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:35:40 ID:CtMjQLN60
更新きてる!
支援
354
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:36:08 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「待て、早まるな『親猫』」
〈 十〉 「会話の内容は聞いている。『蠍』を庇おうというような発言は問題だが、
それもあくまでこの街の異変を憂いてのことと理解している。同じく、貴様の微妙な立場も、な」
( ‐=ll=-) 「まだ、我々は貴様を敵とは認識していない。故に貴様に手を出すようなマネはしない」
〈 十〉 「我々の狙いは『蠍』の志納ドクオ。直接的に庇う真似さえしなければ、われわれの盟約は保たれる」
つまりは、今からドクオを殺すが邪魔するな、ということだろう。
既に何らかの連絡をされている可能性もある。
この二人を屠ったとして、仲間の安全を保てるとは限らない。
いざとなれば策はある。ここは一応杭持ちに従う態度を見せておいた方がいいだろう。
ギコはちらりとドクオを見た。
彼は草臥れた顔で唾を吐く。
('A`) 「勝手に変な名前付けて、勝手に話進めやがって」
ドクオは自分の首の後ろをおもむろに親指の爪で刺す。
杭持ち二人が構えた。
後頭部付近から流れ出た血はそのままヒモのように伸び、2m弱の長さで空中に留まる。
先端は爪状の刃になっており、これを鞭や触手のように操って戦うのだろう。
丁度いい。
この短期間に最高脅威度に認められたその力、一度見て見たいとは思っていた。
355
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:38:35 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「ギヤン、血刑には気をつけろよ
〈 十〉 「分かり切ったことを」
一人が構えるのは短機関銃。拳銃よりも連射性に優れ、近接戦闘に置いては驚異的な優位性を誇る。
吸血鬼が人間よりも頑丈とはいえ、あれを格闘戦に盛り込まれると非常に辛い。
もう一方、ギヤンと呼ばれた方が背中から引き抜いたのは、剣のような長杭。
通常の杭と異なり、肉厚の両刃。鍔が椀状の西洋のサーベルを思わせる拵えだ。
逆の手には、丸いブリキ張りの盾を備えている。吸血鬼狩りと言うよりも剣闘士のようだ。
どちらの装備も杭持ちの標準とは異なる。
こういった装備が許されるということはつまり、この二人がそれだけ実力を認められているということ。
〈 十〉 「行くぞ、『蠍』!!」
水から飛び出すギヤン。
抵抗の大きい中から飛んだとは思えぬ大きな跳躍でドクオに飛び掛かる。
腕を畳んだ構えから、鋭い突きを放つ。
ドクオは大きく後退して回避。
しかし、その体を銃弾の群れが襲う。
二発がドクオの腹を穿った。腹筋で止め出血は微小。
衝撃で体がよろける。
着地したギヤンは、水で残像が出来るほどの速さで前へ。
盾を前に出し、反撃を封じながらの突進だ。
ドクオは倒れるように横へ逃れる。
地面に手を付き、覗き込むような形から、血の触手をギヤンの脇腹へ。
356
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:39:33 ID:JUgNWWnY0
飛び掛かる蛇の如くであったが、追ってきた盾に弾かれる。
追撃の暇も無く、ドクオは転がってその場を逃れた。
激しい銃声と共に舗装のコンクリートが爆ぜる。
(,,゚Д゚) 「……」
ギコは手を出さずに離れた。
ドクオの協力は確かに欲しいが、杭持ちとの無用な対立は避けなければならない。
申し訳なく思うが、自分の撒いた種だ。自身で何とかしてもらうほかあるまい。
短機関銃の銃口がドクオを追う。
数で圧倒するのがミソの火器であろうが、無駄玉は使っていない。
外れた弾も回避されているだけでなく、誘導の意志をもって使われている。
ギコであればいくらでも対応できるが、元々戦闘技術など持たないドクオがどれだけ出来るのか。
味方の銃弾が飛ぶ中を、再び突進するギヤン。
流れ弾を恐れる様子は無く、銃手信頼度の高さが見える。
ドクオは後退で距離を保ちながら、触手を上方から回り込ませた。
盾が引きつけられれば、空いた胴を狙うつもりだったのだろう。
しかしそれはギヤンも読んでいた。前傾姿勢で体を捩じり、杭で触手を弾く。
そのまま螺旋を描いて回転。
うつ伏せる状態に戻ると同時に地面を蹴って、自らの体をミサイルのようにしてドクオに飛び掛かる。
回避が間に合っていない。
盾による突進で体を突き飛ばされ、尻を付くドクオ。
ギヤンは膝立ちで耐え、完全に体勢を崩すことは避けている。l
弾かれた位置から、咄嗟の判断でギヤンを狙う触手。
しかし、それも半ばから斬り飛ばされた。ドクオは唯一の武器を手放すことになる。
357
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:41:32 ID:JUgNWWnY0
無防備なドクオ。
片足をギヤンの下半身の下敷きにされ、逃れることも難しい。
盾を作るような量の血を急に流すほどの余裕も無い。
ギヤンが小さく剣を振り上げる。
頭か心臓か、一旦首か。
瞬殺は出来なくとも、自由を奪うだけでも十分だ。
〈 十〉 (貰った!!!)
突き出される剣。
激しい音と共に、その切っ先が。
(,,゚Д゚) 「!」
〈 十〉 「?!」
コンクリートの地面に弾かれる。
ドクオが躱したのではない。ギヤンの攻撃が外れたのだ。
戸惑うギヤンを、ドクオは封じられていない足で蹴り飛ばした。
後ろに転がされすぐさま立ち上がろうとするギヤン。
しかし、膝から下を失ったかのように地に伏せた。
神経系の毒が回っているのだ。こうなっては真面に戦闘の継続は出来ない。
〈 十〉 「なッ、呼吸は止めていた!どうやって毒を……!」
確かに、血の触手は当たってはいないし、ドクオは血の毒を揮発させていたわけでもない。
358
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名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:42:31 ID:JUgNWWnY0
〈 十〉 「くッ……アザム!なにをしている!!」
( ‐=ll=-) 「……済まない、ギヤン……」
〈 十〉 「何ィ?!」
川の中から銃撃による後方支援をしていたもう一人、アザムが銃を落とす。
どこか不安定な視線と、川の流れの中立つのが精一杯の下半身。
ギヤンと同じ毒のようだが、症状はより進んでいる。
〈 十〉 「いつの、間に……!」
('A`) 「……」
立ち上がり、服に付いた汚れを払うドクオ。
勝負はついたのだ。解毒剤を持たなければ、この状態からの回復は不可能。
偶然見かけて追跡していたのならば、そんな物は持ち合わせていないだろう。
('A`) 「……御大層に『蠍』なんてあだ名をつけてくれたんだ。使わねえ理由はねえだろ」
そう言いながら、ドクオは自分の指を舐めた。
爪で浅く切り裂いた跡がある。唾液が触れたことですぐに塞がったが、周囲には血が残っていた。
('A`) 「杭持ちに対策を練られてるのは、自覚していた。だから、ちょっとブラフを立てさせてもらった」
〈 十〉 「……そう言う、ことか」
ギヤンが歯ぎしりを立てた。
理解したのだろう。自分たちがそもそも勘違いさせられたことに。
359
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名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:43:55 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「お前らはきっと、ここ数回俺が逃した杭持ちの話から、あれが俺のスタイルだと思ったんだろ?」
('A`) 「だから、『蠍』。毒の尻尾っぽいしな。お役所派生にしちゃセンスあるよ」
ドクオは、いかにも目立つ触手を囮に、僅かな隙を狙って毒針を撃っていたのだ。
針は極小。致死性とは縁遠いものだが、戦闘不能にするには十分な量だった。
見ればギヤンは剣を持つ親指の付け根に、アザムは顎のすぐ下に、虫刺されのような跡がある。
('A`) 「過去に針で殺した奴はいないしな。触手で戦う吸血鬼と勘違いしてもらえてうれしいよ」
ドクオは切り落とされ、地面にこべりついた血に人差し指をつける。
渇いておらず、酸化もしていない一部の血だけを集め、指先に長い爪を作り出す。
('A`) 「……ここまで話したし、ま、話すまでもなく気づいただろうけど、もうしばらく俺に楽をさせてくれ」
〈 十〉 「くッ……」
もはや剣を持つことすらできなくなったギヤンにドクオが近づく。
撒いた餌の効果を維持するには、針に気付いた者は殺さねばならない。
(,,゚Д゚) 「待て、志納」
('A`) 「……さっきの話、乗ってやる。がお前の傘下に入るわけじゃない。命令は聞かん」
(,,゚Д゚) 「分かっている。だから礼代わりにここは俺に任せてくれ」
360
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名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:44:56 ID:JUgNWWnY0
ドクオに歩み寄っていたギコの姿が唐突に消えた。
風が吹き抜け、小さな打撃音と共にギヤンが白目を剥く。
アザムが驚きの顔を見せたが、数秒遅れて彼も意識を失った。
水面を水切石の如く走ったギコが、鞭のごとき手刀で首筋を打ったのだ。
崩れ水に沈みそうなアザムの体を担ぎ上げて、ギコが川原へ戻る。
(,,゚Д゚) 「解毒剤は作れるのか?」
('A`) 「……どうするつもりだ」
(,,゚Д゚) 「介抱して、回復したならばしいに記憶を改竄させる。杭持ちはしいがそこまでの暗示を使えることは知らん」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「俺とお前の関わりも誤魔化せるし、お前と戦った内容もいくらでも改竄できる」
('A`) 「……なら、いい」
ドクオはパーカーのポケットから栄養ドリンクのビンを取りだした。
茶色いピンの中には半ほどまで粘度の高い液体が入っている。
('A`) 「俺の血で作った中和剤だ。そもそも死ぬようなもんでは無いが、回復を早めることは出来るだろう」
(,,゚Д゚) 「恩に着る」
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