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虐待・虐殺小説スレッドPART.4

102ちびギコバトルロワイアル:2007/06/02(土) 11:03:50 ID:???
今回は、以上になります。
ちびギコだけのバトルロワイアルネタを書きたいと思い書いてみました。
バトルロワイアルネタですが、短めにする予定です。

尚、参考までに生徒表を。

―生徒表―

No1 デル坊      No9  フサ朗
No2 レコ造       No10  テッチ
No3 びぶ朗      No11  ナブラ
No4 ちび太        No12  キャッキャ
No5 ミケ代         No13 ムー
No6 しぃ子       No14 クロスケ
No7 デチデチ(死亡) No15 フトマシ
No8 フサ美

103:2007/06/17(日) 00:15:17 ID:???
(関連作品>>36〜 >>74〜)
※今回は、>>36からの話の続きになります

天と地の差の裏話




メイの目を奪った青い加虐者。
ギコもやはり、この話の歯車だった。
虐殺はいつも陰湿なやり方で、仲間からもあまりいい奴とは思われていない。
そのことは本人も自覚していた。
気に入らない事は己の暴力で片付けてきたし、
今の仲間だってその暴力を使って繋がっているだけにすぎない。

己が正義。それがギコの全てを表す言葉だった。




ギコからナイフを奪ったメイは、即座に後ろを向き駆け出した。
武器を手に入れたとはいえ、この体格差ではまず勝ち目はない。
反撃に移り、失敗して死んでしまうよりずっといい。

(絶対に生き延びる!)

メイは己にそう言い聞かせ、自身の持つポテンシャルを超えた速度を出し始める。
だが、子供の身体能力ではほんの少し限界を突破しただけでは大人には勝てない。
ナイフのこともあり、加速が遅れたメイはギコに追い付かれてしまう。

「糞ガキがああァ!!」

鬼の形相となり、獣の咆哮ともとれる声をあげメイに迫る。
突き出した右手は鮫の顎のように禍々しく、そのまま喰らいついてしまいそうな程。
メイはギコが放つ憎悪と殺気に気付いたのか、後ろを見るや否やナイフを振るった。

「う わあああぁぁっ!」

そのナイフは軍用の大きいものでなく、おもちゃに近いサイズであった。
それがギコにとって仇となり、メイにとって嬉しい事となる。
重いとはいえ、全く使い物にならない程ではない。
本人は闇雲に振ったつもりが、その刃はギコの人差し指を綺麗に切断したのだ。

「なっ・・・が、ああぁぁぁぁあああッ!!?」

自分の指が空を舞った事に戦慄し、遅れてきた痛みに絶叫。
ギコは倒れ込むように転倒、手を押さえてその場にうずくまった。
メイもナイフを振り切った時に転倒していたが、相手を怯ませたことを確認しすぐに立ち上がる。
そして、一目散に芝のあるところへと駆け、林の中に身を隠した。




雑木林を切り拓いてできたこの公園。
『自然を大切に』という謳い文句に違わず、それの規模は大きい。
子供が一人で入ってしまえば、ほぼ間違いなく迷子になってしまうだろう。
逆に言えば、追っ手から見つかる確率はかなり低くなるわけである。

メイは必死で雑木林の中を走った。
加虐者の叫びと、それに慌てる仲間の声が聞こえなくなるまで。
完全に逃げ切るまで、ひたすら脚を動かした。




「はあっ・・・はあっ・・・」

風に煽られる木々の音と、自分の息遣いしか耳に入らなくなった所で、メイは足を止めた。
手に持っていたナイフをその場に落とし、それに続いて土の上に倒れ込む。
虐待で疲弊していた身体に、流石に鞭を打ちすぎたようだ。

息を整えることを最優先とし、メイはこの後どうするかを考える。
家は勿論あるはずがなく、あてになるAAすらいない。
が、片目は失ったものの、四肢は守ることができた。
更には加虐者から奪ったナイフもある。
ならば、課題はもう一つしかない。

(・・・強く、ならないと)

ナイフという力。意志という力。
メイはそれらを使い、生きている限り続く地獄、
一日一日を、確実に生き延びる事を誓った。

104:2007/06/17(日) 00:16:22 ID:???

メイがそんな事を考えている時、公園では凄まじい事が起こっていた。
まだ生かされていた被虐者は既に挽き肉となり、肉片は辺りに撒き散らされている。
メイに喉笛をちぎられ死んだ者も、どうしてか原形を留めていない。
破裂したかのように砕けた頭蓋骨は、やはり同じように公園を汚していた。

犯人はギコだった。
指を切り落とされ、始めは痛みにのたうちまわったが、それを超える憎悪で持ち直した。
獲物は既に逃げているし、やり場のない怒りを誰にぶつけろというのか。
切り替えしが恐ろしく早いギコは、躊躇せず仲間を殴り飛ばす。
今もなお、モナーの胸倉を掴み執拗に拳を打ち込んでいた。

「っぎ、ギコ! もうやめてくれモナ! 落ち着・・・げぶっ!!」

抑止を請うモナーの顔は、血と涙でぐしゃぐしゃだった。
鼻の骨は折れ、奥歯は砕け口からは赤い液体を溢れさせている。
頬も血に塗れているが、これはギコのものだ。
止血もしないまま、指がそこにない事を忘れてモナーを殴る。
感情という麻酔で動いているものだから、自らが醒めないといつまでもこの状態である。

「煩ぇよ。他に怒りをぶつける奴がいねぇから、こうしてるまでだ」

「じ! じゃあなんでモララーを狙わないモナ?! こんなの・・・」

モナーは涙声でギコに反論し、モララーの方を指差す。
指した場所にいたのは、血を吐いて白目を剥いているモララーだった。
腹部には大きく、痛々しい痣ができている。
やはりそこにもギコの血が付着していて、傷痕を嫌らしく彩っていた。

「あいつは後でじっくり殺す・・・だから気絶させてんだよ」

「で、でも! モナは何もしてない! なのに・・・ぶぐぅ!」

喚くモナーの腹に一発、刔るように打ち込む。
内臓を揺さ振られて胃液と血が口から漏れ、びしゃという音と共に地面を汚す。

「今のお前は鎮静剤だよ。怒りで発狂しそうな俺のな」

「ひ・・・!」

表情こそ見えなかったものの、その声色は悍ましかった。
言葉だけで心臓を貫かれたような気分になり、モナーは痙攣と見て取れる程恐怖に震えた。
内股になり、後少しで成人になる歳だというのに失禁してしまう。
ギコはそれに嫌悪せず、嘲笑もしない。
心の奥底で怒りの業火を焚きながら、冷ややかな目でモナーを見ていた。




「お前は指が五本あるんだよな・・・」

「えっ?」

ギコはモナーの顔を掴み、眼前へと持っていく。
そして、もはや常識に等しい事を問う。

モナーは質問の意味がわからなかった。
というより、ギコの怒気のせいで何も考えられなかった方が正しいのかもしれない。
が、次に来た言葉を聞いて、それが何を示しているのかを理解してしまう。

「俺には四本しかないんだよ・・・不公平だと思わないか?」

指の切断面を見せびらかし、纏わり付くような声で続けてきた。
ゆらゆらと目の前で、骨の見えるギコの短い人差し指が踊る。
血は際限なく流れていて、その青い腕へと赤い色をつけていく。

モナーはそこで、二つ悟ってしまった。
一つはギコがいつも糞虫をああまで壊してしまえるのは、ギコが心を扱うのが得意なわけではなく、ギコ自身が壊れていたからだ。
そうであれば、自分色に染めあげるのは至極簡単である。
そしてもう一つは、今から壊れたギコに自分は壊されしまうのだと。

105:2007/06/17(日) 00:17:35 ID:???

信じたくはなかった。
虐殺に心残りがあるだけで、顔の形が変わるまで殴られたし、
友達をやめようとすれば、その日の記憶はそこで途切れもした。
だからといって殺したり、社会に出られない程になるまで暴力を振るうことはなかった。
ギコのそばにいるのは嫌だったけど、失敗さえしなければ凄くいい奴だ。
いつも素晴らしい方法で、虐殺を楽しくさせてくれる。
斬新なアイデアも、どこから湧いてくるのかという程沢山あって・・・。

そのギコに、自分は今から壊される。
身体か精神か、どちらかはわからない。
モナーは怯えることを忘れ、絶望と死の恐怖に硬直した。

だが、その硬直すらギコは許してはくれなかった。




ギコはおもむろにモナーの指を束ねるように持ち、握り締める。
瞬間、何かが潰れる音に固い物が割れる音が重なり、そこから血肉が溢れた。

「ぎゃああッッぁぁぁあああ!!!」

握り潰した、と表現した方が正しいのだろうか。
一般AAであるモナーの手を、いとも簡単に肉の塊にしてしまう。
ギコの力はどこぞの神様から授かったのかと問いたくなる程、凄まじかった。
実際、本人の手の平にはモナーの指の骨が刺さっている。
が、やはりギコは怒りで痛覚が麻痺していて、気がついてない様子。
痛みに悶え苦しむモナーに、追撃を加えにいく。




「て、手が!・・・モナの手があっ!?」

グロテスクな装飾と化した自分の手を見て、崩れ落ち泣き叫ぶモナー。
もはや一つ一つの判別は骨からすら不可能で、動く度に肉やら爪だったものやらがぽろぽろと落ちていく。

「・・・そういえば、お前ってやたらと目ェ細いよな」

二度目の質問。
モナーは次に自分が狙われる所を察知し、立ち上がり逃げようとする。
しかし、畏怖の象徴となったギコの言葉だ。
蛇に睨まれた蛙が易々と動ける筈がなかった。

今度は顎を掴まれ、嫌が応でもギコを向いてしまう。
モナーはいつも開いているかどうかわからない程細い目に、力を込めて強く閉じる。
暴君への、ささやかで尚且つ一番の抵抗。

「ばぁカ」

ギコはその抵抗を、無意味なものとして扱う。
狙ったのは、眼球でなく瞼。
爪を立て、自分にとって薄皮に等しいそれをむしり取った。

「ああぁぁがああアアァアァ!!!」

顎から響く、篭った叫び。
瞼を取り除いたそこには、血の涙を流し見開いたモナーの目があった。
比喩なんかではなく、文字どおりの血涙だ。
下の方はむしっていないものだから、どこかいびつな感じである。
ギコにはそれが妙に滑稽に見えた。

顎から手を離すと、目を押さえて倒れ込みうずくまるモナー。
がくがくと、今度は本当の痙攣を始めたようだ。




「どうした、もう終わりか?」

上から下から、様々な液体を垂れ流すモナーに問う。
それに対する返答はなく、寧ろ声すら発さない。
まあ、やる前から酷く怯えていたし、すぐに壊れるのは目に見えていたが。
つまらない。そう思ったギコは、モナーの首に手をかける。

そこで、自分がやっと落ち着いたことに気が付く。
ふう、と満足げに息を吐き、手に力を込めた。
モナーは首から不快な音をたて、奇妙な方向を向いたと同時に痙攣を止めた。

106:2007/06/17(日) 00:18:51 ID:???


暗闇。
モララーがいた場所は、黒い世界だった。
瞼もしっかりと開いていたのは自分でも理解している。
しかし、首を振っても仰ぎ見ても、身体すら見えない。

(なん・・・だ?)

手足を動かそうとすると、奇妙な感覚。
その場から全く動けず、それどころかあるはずのものがないような。
モララーはそこでギコに殴られ気絶させられたことを思い出す。

すると、一気に考えたくもない事が湯水の如く溢れ出した。
じわじわと上昇する心拍数。
冷や汗が頬を伝い、顎から一つ零れ落ちる。
心臓の鼓動が聞こえる程になった頃、目の前に明かりが灯った。




「お早う。ぐっすり眠れたか?」

そこにはギコの姿があった。
小さな照明ではそれ以外に何も確認できず、モララーは少し歯痒くなる。

「ギコ、ここは一体・・・」

「俺の部屋だよ。虐殺専用のな」

その言葉には、含みは何もなかった。
怒りをぶちまけるでなく、鋭く冷たい刺のあるものでもない。
まるで自分達が糞虫に当たり前のことを告げるかのような、
ただ純粋に、『虐殺』の二文字をモララーに投げ掛けていたのだ。

「ど、どういう、ことだ?」

加速度的に膨張する恐怖。
それからくる焦りに、変に吃ってしまう。
ギコはそれを聞いて、口の端だけで笑った。
そして、その青い暴君の化けの皮が剥がれていく。
明かりからギコが離れると、スイッチを押す音が空間に鳴り響いた。




一言で表すなら、『悪趣味』。
先程の明かりの正体は蝋燭で、天井からぶら下がっている裸電球がそれを照らしていた。
壁は汚く、一概に赤黒いだけでは言い表せない。
棚には奇怪な形をした瓶に、蛍光色の液体が入っているものが複数。
その端には、糞虫のものと思われる頭蓋骨が乱雑に置かれていた。

どうやら部屋の真ん中のテーブルに、自分はいるようだ。
何かに固定させられている感覚と共に。
そして、モララーは自分の身体を見てしまう。
本人としては、まだ拷問器具に縛り付けられていた方がまだ幸せだったかもしれない。

「う、嘘・・・嘘・・・だろ」

四肢が、無い。
肩には見慣れた黄色い手が置いてあり、それが自分を固定していたとすぐにわかった。
腕と脚がそれぞれあった所には、雑に縫合された跡があり、赤く染まっている。
出来の悪いクッションのような身体に、モララーは全身から脂汗が吹き出るのを感じた。

「お前が目覚めるまで半日かかった。麻酔せずに行ったが、痛みはないだろ?」

「ぉ、俺の・・・腕が・・・脚が・・・」

「お前、遠目から見たらなかなかいいオブジェになってるぞ。」

そう言いながら、ギコは棚にあるものを物色していた。
その背中は憎悪と、矛盾した嫉妬で塗りたくられているように見える。
モララーは達磨にされた事に憤慨するよりも、ギコを怒らせたことへの後悔の念で頭がいっぱいだ。




普通は、加虐者にここまですれば犯罪なのだが、
どうしてか、モララーはギコに謝罪したいと、許して貰いたいと願ってしまう。
そしてここで、一緒にいた仲間の事をやっと思い出す。

「モ、モナーは・・・どこに・・・」

「殺した」

107:2007/06/17(日) 00:19:58 ID:???

突き刺すような声で即答。
ギコは棚から探していた物を取り出すと、向き直り続けた。

「案外、一般AAって簡単に壊れるんだぜ? アイツは手と瞼潰しただけでイキやがった」

「・・・ぁ・・・う、ぅぁ」

聞かなければよかった。
モララーは、その言葉で心が埋め尽くされたような感覚になる。
一応様々な惨状を目の当たりにして生きてきたし、ちょっとやそっとの事では気が触れる筈がない。
それなのに、自分が被虐者と同じ扱いになるだけでこうも怯えるとは。

思考を張り巡らすモララーの傍で、ギコは手に持った物を弄る。
スイッチを入れ、暫くして次の行動に移った。

「これ、何かわかるよな?」

ギコが手にしていた物。
ペンのような形をしており、先端の丸い鉄の棒が先っぽについている。
尻からは何かコードのようなものが伸びていて、床の方に垂れていた。
大掛かりな道具ではないのだが、モララーにはそれが死神の鎌のように見えた。

震えるだけで、答えようとしないモララー。
ギコはそれに失望し、細い溜め息をつく。

「はんだごてっつーヤツでさ。はんだっていう金属を熔かしたりするモノだ」

手の中でそれを回し、テーブルの縁に押し付ける。
少し間を置いて、押し付けた所が黒くなった。

「いちいち火に鉄の棒焼べるのが面倒だったからな。コレは手間が省けていい」

「っ、ま、まさか・・・っああああああああァァッッ!!」

全てを言い切る前に、ギコははんだごてをモララーの腹に押し付ける。
じゅう、と小さく焼けた音がして、そこから細い煙が立ち上った。
切るよりも、刺すよりも長く続く激痛が全身を駆け巡る。
モララーは唯一動かせる首をこれでもかという程振り、その痛みを紛らわそうとする。
が、やはりそんな小さい事で和らぐモノではない。

「うああああああああああ!!!」

はんだごてを押し付けている限り、首を振り続けるモララーを見てギコは笑った。
被虐者の阿鼻叫喚を、しっかりと聞き取りたいが為に開けない口。
だが、その愉快さにおもわず裂けそうな程吊り上がってしまう。
狂気に満ち、それでいて満面の笑みをするギコ。
本気で虐殺を楽しむギコの悍ましさは、異常の二文字だけでは表せなかった。

108:2007/06/17(日) 00:21:03 ID:???

筆を持つように丁寧に。
雑に握って乱暴に。
様々な持ち方をしても、ギコが行うことは一つ。
『はんだごてを、モララーに押し付ける』事のみ。
黒く焦げ、少しだけ穴が開いたら箇所を変えて、休みなく虐待を続けた。

皮膚を焼き切り、じわじわと熱い鉄が入り込む感触にモララーは唯叫ぶばかり。
ある程度入り込んだら、神経がやられ痛みはなくなるのだが、また新しい所を狙われれば意味がない。
首を振る度に大粒の涙が空を舞い、大きく開いた口からは涎が糸を引いた。




はんだごてを押し付ける事数十回。
モララーの腹はパッと見、蜂の巣のような風貌になっていた。
穴という穴は全て炭化していて、一部はまだ細い煙が立ち上っている。

「が、っ・・・はぁ、あ、ああ・・・」

叫び続けたことにより、まともな言葉を発することができない。
眉間にしわをよせ、涙をぼろぼろと零しながら鳴咽を漏らす。

「蓮コラみてぇな身体になったな。ははッ」

ギコはモララーの汚くなった顔と、腹部を交互に見てそう笑った。
はんだごての電源を切り、湿らせたスポンジの上に置く。
じゅう、と心地よい音がしてスポンジの水分が飛んだ。

再度棚を物色し、更にモララーをいたぶる為の道具を探す。
当の本人はえづいてばかりで、虐待に怯える事すら忘れているようだ。

「記念によ、その皮貰っていいか?」




えげつない質問に返ってきたのは、言葉ではなく濁った呻きのみ。
もとより、壊れかけている者からの返事など、ギコは期待していなかった。
詰め寄りながら、棚から取り出した物をモララーに見せる。
それは裸電球に照らされ、銀色に光るメスだった。

「ッげ、ぇ・・・うぁ、ぁ」

潰れかけた喉からは、己の有様とこの先の地獄に嘆く声。
泣きじゃくる子供のような顔になっているモララーを見て、つい口元が緩む。
それは嘲笑などではなく、自分がその表情を見て興奮しているのだと、ギコはすぐに理解した。

モナーも、モララーも、種族として虐殺するのは今回が初めて。
指を無くし、被虐者を逃がした者への罰としての虐殺だったが、
こうやってしっかりと向き合ってヤってみると、普段とは違った愉快さがあった。




理解に苦しむ思考を持つ、ちびギコを調教するよりずっといい。
生物として自分と同じ立ち位置にいる命を、糞虫と同等のものとして扱う。
虐殺のやり方については殆ど出し尽くした感があったが、
対象を変えることで、新たな快楽を見つけだすことができた。

「・・・くくっ」

また新鮮な感覚で、今までで思い付いた数々の虐殺を楽しめる。
そして、糞虫達とは違う反応が返ってくることで更に拍車が掛かっていく。
こう見ると、モナーをあっさりと殺した事に少し後悔してしまう。
が、今はとりあえずモララーを使って遊ぶことに集中しようと、ギコは思った。

109:2007/06/17(日) 00:22:12 ID:???

利き腕の指は一つ既になくし、精密な作業をするのには向いていない。
だからといって、多少雑にした所で全てが台なしになるわけでもなかった。
寧ろ、乱暴に扱った方がより苦痛を与えられる事など、ギコはとうに知っていた。
メスを握り、モララーの腹に宛がう。
そして、ゆっくりと自分なりに丁寧に刃を走らせた。

「ッ! い・・・痛、ぅ・・・ああッ!」

メスのあまりにも鋭い刃は、普通は感じる痛みを最小限に抑える為にある。
だが、ゆっくりと皮を裂き、かつ左右に揺れながらでは意味を成さない。
何度も刃を入れ直し、納得のいくラインを通るまでギコは止めなかった。




「悪ィ、手元が狂いまくったな」

「ぅ・・・」

モララーの身体には、無数の火傷を囲う赤い線が描かれていた。
線は所々枝別れしていて、酷い有様である。
これがもし手術だとしたら、どうあがいても痕を消すのは出来そうにない。
更に、切り込みを入れる時にギコはほんのお茶目をし、外周にわざとメスを刺したりもした。

その時に見せる、モララーの表情がまた堪らない。
刃が皮膚を貫く時、一瞬だけ身体を跳ねさせ、小さく声を漏らす。
事に怯える加虐者だった者が滑稽で仕方なく、つい何度も繰り返した。

「さて、次にやる事は範囲も痛みも半端じゃねェ・・・覚悟はできてるか?」

皮を剥ぐというのに、何故かメスを棚に置くギコ。
モララーはそのことに疑問を抱くより先に、自分が何をされるのかをすぐに理解した。

ここまでされれば、次にくる虐待のメニューを安易に想像できる。
恐怖で妄想が加速し、自分なりのやり方をつい考えてしまうからだ。
しかし、たとえ想像と同じであっても、苦痛が和らいだり、それから逃れられるわけではない。
更に、違ったとしても糞虫のようにすぐ『開放してくれる』だの『今日の分は終わり』だのと思考が簡単に変わる筈がない。

もっとも、モララーは今喉が殆ど使えない状態だから、ギコにメニューを問うことすらできないのだが。




「ゃ・・・っ、め・・・やめ・・・」

それでも、モララーは必死に抑止を願った。
空気が通過する度に、壊れた笛のような音を出す喉。
必死の思いで出た二文字は、しっかりとギコに届いていた。
が、そこで止まるギコならば、モナーを殺すことはなかっただろう。

「止めて欲しいのか? じゃあ俺が受けた屈辱は、怒りは誰が鎮めてくれるんだ?」

「ぐ、っ・・・ぇ・・・げほ、ぅ」

「指を元通りにする事なんざどうでもいいんだよ。俺はお前等にムカついてんだ」

吐き捨て、モララーの胸元にある赤い線に指を入れる。
傷口を開かれ、更に拡大させていく事にモララーはまた悶え始める。
ポケットに手を突っ込む感覚で、ギコは皮を剥がしていく。
筋肉から皮膚が離れる、べりべりといった音が心地良い。

「っああ!! ああがあああぁぁぁァ!!!」

一般AAの頑丈な身体も、ギコの力の前では意味を成さなかった。
被虐者と何等変わりない勢いで、しかしゆっくりと剥がされていく皮膚。
血に濡れた肉が露になってくると、モララーの叫び声は一層大きくなる。

110:2007/06/17(日) 00:23:14 ID:???

半分ほど剥いだ所で、ギコは手を止めた。
どんなに握力があっても、血で濡れてしまっては意味がない。
上手く虐殺することができないのは、被虐者にとっては苦痛を加味させられる事と同じ。
しかし、くどいようだがギコはそれよりも、まず自分が満足できないと不満で仕方がないのだ。
できることなら一気にしたかったが、粘って失敗するよりはまだマシだ。

近くにあった、小汚い布で手を念入りに拭く。
ついでに軍手をはめてしまおうと思ったが、その位の理由で席を外すのはモララーに安心感をもたらしてしまいそうである。
なにより、右手の人差し指の部分が情けなく見えそうだったので、止めることにした。

「ぐ、うううぅぅぅ・・・っあァ、がああぁぁ!」

ギコがそんな事を考えている間も、モララーは激痛に悶えている。
胸から腹部にかけて、そこが空気に触れるだけで痛みが全身を駆け巡っているようだ。
モララーの首の振り方だけで、ギコはそう読み取った。

こうなってしまっては、いっそ楽にしてしまうか、或いは・・・。




とりあえず、やるべき事をやってしまおうと、ギコは行動に出る。
血糊が付いた布を捨て、モララーのめくれた皮膚を掴む。

「ぎゃあっっ!!」

完全に身体から離れていない為か、触れただけで悲鳴をあげるモララー。
もう少しこのまま弄ってやりたいが、他にも試したい事がある。
今の虐待に別れを惜しみ、新しい虐待に期待の念を込め、手に力を入れる。
そして、一気にその黄色い皮を剥ぎ取った。

「あああああああぁぁぁぁアアアアァ!!!」

天を仰ぎ、絶叫。
肉と皮が力強く離れる爽快な音。
その感触。
それらから来るとてつもない気持ち良さに、ギコは腹を抱えた。
が、やはり笑い声は絶対に出さない。
この空間に響き渡るのは、モララーの凄まじい叫びのみだった。

立ち直り、剥ぎ取った皮をまじまじと見詰める。
表側は血を吸い取り、ほぼ全体が赤みを帯びていた。
ギコが『蓮コラ』と称した、はんだごてで創った焼け跡もその不気味さを増幅させている。
裏返すと、自身の脂と血でぬらぬらと嫌らしく光っていた。
親指で押すように揉むと、そこそこの厚みと弾力があるのがわかる。
暫くギコは皮を揉みながら、モララーの狂気と苦痛に満ちた歌声を聴いていた。




その歌声が途切れ途切れになってきた所で、ギコは動いた。
モララーの様子を見れば、白目を剥き、口の端には泡がついていた。
それでも首を降り、激痛に悶える事は忘れていない。

(そろそろか・・・)

ギコは軽く溜め息をつくと、棚にある薬品のようなものを漁り始める。
沢山ある小さいガラス瓶の列の中から、一つだけ取り出す。
そして、注射機に瓶の中身を慎重に入れ、モララーの頸動脈に突き刺した。

111:2007/06/17(日) 00:25:02 ID:???

「ああ、ぁ・・・?」

まるで火が消えたかのように、おとなしくなるモララー。
というよりも、身体中から生気を奪われたと表現した方が正しいかもしれない。
疑問の表情を浮かべながらも、少しだがなおも悶え続ける。
ギコはそんなモララーに注射機を見せながら、答を説いた。

「鎮静剤だよ。発狂して死なれたらつまらないからな」

「っ、な・・・ぁ」

飽くまでも、モララーの声と絶望した顔が見たいというギコ。
人権もへったくれもない、容赦なきギコの虐待。
我を取り戻したモララーが最初に見たものは、この先延々と続く地獄だった。
自害は疎か、精神を破壊することも出来ず、唯々『痛み』と戯れる事だけが許されている。
死ねば楽になるという未来に、モララーは希望も何も持つことができなかった。




モララーが死んだのは、それからかなりの時間が経ってからだった。
時計も窓もない空間では、詳しい所はわからない。
かなり、とだけ表現できたのは、モララーの遺体が凄まじい事になっていたから。

自身の脚を背もたれに、太腿には両腕が打ち付けられ、それらが達磨のモララーを固定している。
身体は、剥がされた皮を始め、筋肉、性器、膀胱、大腸から小腸と、順を追って解剖されていった。
一つの臓器を取り出す度に、鎮静剤やら何やらを頸動脈に打たれ、首元には内出血の痕がある。
その何かの中に、出血を抑える効果のある薬品があったのか、臓器達はそこまで血に濡れていなかった。

あまりにも丁寧に行われたそれは、活け作りにでもするつもりなのかと思ってしまう程。
結局、モララーが死ねたのは、肋骨を砕いた先にある、肺を摘出してからのことだった。
見事なまでに空洞になったモララーの腹。
苦痛に満ちた首はうなだれ、自身の腹を覗き込むかのような状態になっていた。




「・・・フン」

暴力的でありながら、病的なまでに器用に事を熟すギコ。
モララーをこのような姿形にしたのには、理由があった。

新しい快感を見つけたとはいえ、指を奪われた屈辱は癒えたわけではない。
冷静さを取り戻したギコが、次に狙うのはそれを犯したAA。
生意気に、『メイ』と名乗った糞虫に、矛先は向いていた。

「絶対に見つけ出して、コイツの腹ン中に挽き肉にしてブチ込んでやる・・・」

自分のプライドを傷つけた事は、命だけでは償えない。
頭のてっぺんから爪先まで、細胞一つ一つまでも虐待してやる。
言葉にできない程、負の感情で心を埋め尽くしてやる。
全てにおいて絶望させて殺すと、ギコはそう決意した。

青い暴君は、復讐の為にと牙を研ぐ。

128:2007/07/22(日) 15:50:24 ID:???
(関連作品>>36〜 >>74〜 >>103〜)
※今回は、>>74からの話の続きになります

天と地の差の裏話




例えば、暗闇。
光というストレスのない世界。
聴覚だけを頼りにしなければ、そのまま死へと突き進む。
全ての恐怖が『見えない恐怖』と化す世界。
そんな所に、覚悟もなしに行く奴なんていない。
自分以外の誰かが、その世界へ行く切符を持っているのだ。

そして、その切符を切られた者は・・・。






慣れ親しんだ者が、首から上だけをこちらに向けていた。
苦痛と恐怖で酷く歪んだ表情をし、口を大きく開けている。
少し前に、そこから断末魔の悲鳴をあげていたというのはすぐに理解できた。

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

フーは、こちらを睨むノーネの生首を見て、身体に電流が流れるような感覚を覚える。
その奥にノーネを殺した者がいる事すら忘れ、盛大に叫んだ。

罰なのだろうか。
浮浪していた二人が出会い、そのまま一緒に生活をする。
それが、いけない事だったのだろうか。
家族がいない命が、他人と共に生きる事は駄目なのだろうか。
いや、違う。
油断した自分達が悪いのだ。
糞虫とほぼ同じ立ち位置にいるのだから、常に死と隣り合わせだった筈だ。
それを忘れ、自分は虐殺という娯楽に目を向けてばかり。
気が付けば、既に死神に肩を叩かれていたのだ。




もはや自分にすら理解できない思考を張り巡らす程、フーは混乱していた。
もう少し冷静であれば、その場からすぐに逃げ出すことが出来たというのに。

「あら、あら。アナタは逃げたりしないの?」

血と臓腑の床を歩き、化け物が近付いてくる。
フーは化け物が言うように、今この場から離れたい。
逃げたい。
しかし、その意志に反して下半身が全く動かない。
蛇に睨まれた蛙でもあり、大切な者の死というショック。
フーをその場に縫い付ける事柄は、十二分に揃っていた。

それでも、フーは必死で逃亡を謀る。
全身は脂汗で濡れ、目には涙が溜まっていた。
がくがくと震える脚を、少し後ろにずらすだけで吐き気が込み上げる。

「う・・・く・・・」

歯を食いしばり、一歩ずつ後ろに下がる。
路地裏から抜け出せば、誰かが見つけてくれるかもしれない。
だが、この化け物を退治してくれる保証はない。
それでもフーは可能性に縋り付き、酷くゆっくりとその場から離れていく。

どのくらい下がればいいのだろうか。
先が見えない。
ほんの少しの距離が、果てしなく長く思える。
まるで両端のコンクリの壁が、永遠に続いているようで。
更に、一歩下がる度に化け物もこちらに迫ってくる。
恐怖に怯える自分を見て、嫌らしく笑いながら。

血に塗れた爪を翻し、化け物はノーネの上を歩く。
気配を殺して獲物に近付く虎のように、身を低く置いている。
しかし、表情はそれに反して、面白そうな物を見つけ、それをつついて遊ぶ子供のようなものだった。
ゆらゆらと靡くねこじゃらしに飛び付かんとするような子猫の目。

「こういうのも、いいわ。かたつむりのように、ゆっくり、ゆっくり・・・」

それでいて、裂けているのかと思ってしまう程吊り上がった口。
そこから意味不明な言葉を発し、更に化け物の目がぐるりと瞼の中で回転した。

「ひ・・・!!」

あまりの悍ましさに、フーは背筋が凍りつく。
そして、産まれたての子馬のように覚束なかった脚は、持ってきたちびギコに引っ掛かってしまった。

129:2007/07/22(日) 15:51:23 ID:???


「う、わっ!?」

縮み上がった心臓を一突きされたような感覚。
フーはそれほどまで驚き、尻餅をつく。
視界は一瞬で仰ぎ、そこには焼けた空が広がっていた。
慌てて上半身だけ起こすと、既に化け物は消えている。

何処に消えたのか。
普通なら辺りを見回し、相手の、化け物のいる場所を見つけるのが正しい。
だが、フーは何故か捜そうとしなかった。
目の前には、ノーネの生首と肉塊。
足元にちびギコの死体が二つ。
フーには今、それらしか見えていない。
起き上がると同時に後ろから聞こえてきた声。
化け物は、目ではなく耳で見つけ、かつ奴の方から場所を教えていたのだ。




「コケたら駄目じゃない。折角ゆっくり遊んでたのに」

頬に化け物のものと思われる吐息がかかる。
首の後ろで、爪がカリカリと音をたてているのが聞こえる。
たった、たったコンマ数秒目を離しただけで、音もなく退路を絶たれた。
ここまできて、フーはやっと理解した。
自分は、既に奴の射程範囲内にいたのだと。

殺される。
このまま、ノーネみたいに崩れた泥人形のようにされて死ぬ。
奴の手が肩に置かれ、そのまま胸へ、腹へと進んでいく。
触手のように纏わり付く、火傷だらけの褐色の腕。
その先端にある爪が身体を撫でると、つうと赤い線が滲み出る。
フサ種特有の長い毛も、それにあわせ綺麗に削ぎ落ちていった。




パッと見ただけではわからないが、フーは確実に傷を負っていた。
剃刀を扱うのに失敗した程度のものだったが、精神はそれ以上に傷つけられている。
爪が皮膚をなぞる度、身体が真っ二つにされるような感覚。
助けを呼ぼうにも、声が全く出てこない。

目を閉じたら、余計に恐怖が増大するような気がした。
だから、フーはずっと路地裏の惨状を網膜に焼き付けてしまっていた。
嫌が応でも、赤や茶に塗れた緑が視界に入ってくる。
ふと、ノーネの首に目線が行く。
心なしか最初に見た時よりも、口の開き方が酷くなっている。
更に、見開いた眼がしっかりとこちらを睨んでもいた。
腰が抜け、視線が下に落ちたことからそうなったのかもしれない。
その眼の奥にある感情はわからなかったが、フーの罪悪感と恐怖感を煽るのには十分な題材だった。




「まあ、まあ。今度は動かなくなったわ。こんなヒト、初めて」

小刻みに震えてはいたが、フーは化け物の言う通りに固まっていた。
失神寸前、といった感じだろうか。
化け物はそんな状態のフーを気に入ったのか、笑みがいっそう深くなる。

「でもね、静かになったコを起こすのってどうすればいいか、私知ってるわ」

フーの腹に宛てていた両手を、這うようにして上へと持っていく。
胸から首へ、頬まで上った所で動きを止めた。
妖艶に頬を撫で、反応を確かめる。

「・・・ふふっ」

やはり、何も返ってこなかった。
寧ろその方が化け物にとって好都合のようだ。
喉から声を漏らした後、自慢の爪をフーの眼球に這わせる。
そして―――

130:2007/07/22(日) 15:52:25 ID:???


フーが襲われる少し前、街中を一人のAAが歩いていた。
闇に溶けそうな黒い身体をしていて、耳には赤いラインが走っている。
男はウララーという名前を持ち、警察の『ような』仕事をしている。

この治安の悪い街では、本物の警察は殆どいない。
なぜかというと、何処もかしこも虐殺厨と糞虫で溢れているからだ。
いちいち一人ずつ、一匹ずつ捕まえて裁いていてはキリがない。
そういう理由で、本物の警察はこの街での活動を『大きな犯罪があった時』だけに限定した。

だが、それでは小さな犯罪だらけで街はより混沌としてしまう。
だから、国はいくらか良識のあるAAを採用し、擬似警官として扱う事を決めた。
その擬似警官のルールは一つ。

『虐殺ではなく、裁く為に引き金を引け』

至極簡単で、かつ難しい内容である。




「・・・はァ」

右腿に巻いたホルスターに収めた、擬似警官を示す銃。
それと、毎日の精神的な苦労から重く感じる身体に、ウララーは溜め息をついた。

虐殺に溺れたAAにも、銃口を向けなければならない日々。
秩序を乱すのであれば同じ種であれ、その頭を撃ち抜く事が約束されている。
ストレス解消だとかの為に命を奪っているのではなく、仕事の為。街の為。

虐殺厨に成り下がったからといって、ウララーは決して見下す心を持たなかった。
その性格が災いしてか、糞虫と呼ばれる者達にすら哀れんでしまう事がある。
『俺ってなんて優しいんだろう』と、自惚れている訳ではない。
ただ純粋に、裁く為に殺す事が心を傷めるばかりであった。

命という尊いものが軽い現実。
虐殺というストレス解消法が通用しない身体。
ウララー自身はまだ若いし、探そうと思えば別の道を歩む事はできる。
しかし、彼は絶対に職を変えようとはしなかった。

―――その理由についてはここでは記述しない。
謎は謎のまま、歯車は歯車として噛み合い、廻る。




「・・・ぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

「ッ!?」

突如、前方から地を裂く程の悲鳴が聞こえた。
声色からして、おそらく一般AAのもの。
ウララーはそれに気付くや否や、弛緩しきっていた筋肉を引き締める。
次にほんの数秒前に起きた事を何度も反芻し、持ち前の洞察力で探る。
そして、アスファルトを力強く蹴り、声のした方へと一気に駆けた。

(どこだ―――!)

厨と成り果てた仲間を裁く事は心が痛む。
だが、罪なき者が無抵抗に殺される事は、なによりも許せないこと。
ウララーは矛盾する心と身体に舌打ちし、走りながらホルスターに収めた銃に手をかける。

131:2007/07/22(日) 15:53:41 ID:???


ウララーは路地裏へ飛び込むように入り、銃を構える。
同時に、恐らく加害者である者が奥の暗がりに身を隠す物音がした。
一瞬遅れて臓物と血の臭さが鼻をつき、その臭いのモトが目に映る。

「厄介だな・・・!」

こういった狂気に満ちた虐殺は、仕事柄よく目の当たりにしていた。
真っ赤に染ったアパートの一室だとか、街の至る所に部位をばらまいたり。
それらは己の勘と閃きで解決してきたし、その後の処理だって人差し指を動かすだけで済む。

ウララーが厄介と言ったのは、そのことではなかった。
暗がりに、犯人は目の前に居る。
アタマなんかを使わなくても、この事件は解決する。
だが・・・。




「うぁ・・・く・・・あああああっ!!」

両目を押さえ、のたうちまわるフサギコが一人。
手と顔の隙間から滲み出る血からして、眼を潰されたようである。
えげつないやり方だとか、今はそんな事を想っている場合ではない。
ウララーは暗がりに銃口を向け、グリップを握る手に力を込める。

自分が来た事に咄嗟に身を潜め、かつこちらの様子を伺っている加害者。
視認してはいないが、その気配は十二分にあった。
そのまま逃げればいいものの、獲物がそんなに名残惜しいのか。

「出てこいよ!」

声を荒げ、威嚇する。
すると、加害者はあっさりと姿を見せた。
戸惑う気配も怯えも全くなく、堂々と物影からはい出る。
その異形を、惜しみ無くウララーに見せ付けるように。

一歩一歩なまめかしく、ふらりと揺れながら近付いてくる。
血に濡れた爪で腹を撫で、性欲を逆なでするかのよう。
ウララーもそれなりの歳だし、あっさりと挑発に引っ掛かってしまいそうだ。

尤も、そいつが化け物でなければの話だが。




「びっくりして思わず隠れたけど・・・邪魔しないで」

風貌からは想像もつかない、しっかりと女性と思われる声を発する喉。
それでいて、身体の色や耳の形など、一般AAとは程遠い姿。
見た目に一番近い種だと、でぃやびぃが妥当だろう。
だが、これ程自我を綺麗に保っている者は、でぃですら見た事はない。
考えるだけ無駄、化け物は既に化け物という種族なのだ。
ウララーは思考を張り巡らせた後、そう無理矢理結論づけた。

「相手が、お前さんの獲物がアフォしぃだったらな。俺だって何も言わねェ」

強気に言い放ったつもりだが、声が震えているのは自分でもわかった。
眼で殺気を放っても、顎から滴る冷や汗は拭えない。

「アフォしぃ? 知らないわ、そんなの」

「・・・なんだと?」

「最近、ピンク色のいきものに飽きたから他のを狙ったのに。駄目なの?」

信じがたい事を問う化け物に、ウララーは一瞬目眩がした。
治安の悪いこの街でも、ここまでぶっ飛んだ考えを持ったAAは初めてだった。
絵に描いたような狂気を、そのまま持ち出した虐殺厨よりも質が悪い。
その濁った眼とエメラルドの眼というオッドアイから読み取れた感情は『無垢』。
含みも何もない、奴にとって唯の素朴な疑問だ。

(こいつ・・・)

132:2007/07/22(日) 15:54:11 ID:???


と、ここでウララーはある事を思い出す。

聞いた事がある。
身体能力、或いは生態など、AAの持つ何かを実験、観察していた団体があると。
目的は不透明だったが、ある日、被験体が研究員のミスで暴走してしまう。
最終的には研究所を抜け出し、皆の生活に溶け込んでしまっているという話だ。

尾鰭のついた怪談、もしくは都市伝説の類だと思っていた。
だが、この化け物はその話に出てくる被験体と特徴が酷似している。
何故早く思い出さなかったのか。
こいつはちびギコを喰らい、研究員を喰らい、そして母体であるびぃを喰らった―――

「邪魔した上、黙って突っ立ってるのはどういうこと?」

その言葉を聞き、ウララーは我に返った。
直後、全身が凍り付いたような感覚に陥る。
殺気。
化け物の表情は一変し、眼は自分の喉笛をしっかりと見据えている。
ビリビリとした空気が四肢を麻痺させ、身体をアスファルトに打ち付けているようだ。

「・・・っ!」

出かかった悲鳴を無理矢理押し殺し、しかしわずかに喉から漏れる。
化け物は、そのほんの一瞬の隙を逃さなかった。
地を一蹴りすると、血と臓を越え、フサギコを跨ぎ、一気に距離を詰める。
二人の間隔はそれなりにあった筈だが、化け物はそれを簡単に無かった事にした。
常識を超越した存在が、文字通り目の前に迫る。

だが、ウララーの身体能力も馬鹿にはできない。
こと瞬発力に関しては、人一倍優れていると自他共に認めていた。
それと、己のプライドが、『命を甘く見る奴らへの怒り』が、ウララーを突き動かす。

刹那、冷静さを取り戻したウララーは、素早く後方へ跳躍した。
しかし、それだけでは化け物の爪は回避できない。
ならばと、ここで初めて威嚇だけに留めていた銃を『殺す』為に扱う事を決意。
AAでないAAを裁く事など、誰が出来ようか。




化け物の爪が肩に触れる。
皮膚を裂き、肉を刔っていく。
熱いものが頬に当たり、鋭い痛みが身体を貫く。
持ち手の肩をやられたので、引き金はまだ引かない。
互いの顔が、目と鼻の先まで近付く。
狙いが定まっていないので、引き金はまだ引かない。
空いた手で化け物の腕を掴み、背中から倒れ込む。
ほぼ同時に腹を蹴り上げ、後方へと投げ飛ばす。
目標が視界から消えたので、引き金はまだ引かない。
直後に鈍い音と短い悲鳴が聞こえ、それに併せ立ち上がる。
化け物はガードレールにぶつかったようで、まだ俯せていた。

目標は視界に完全に捉らえた。
銃口も完璧に相手を狙っている。
切り裂かれた肩口は空いた手でしっかりと握り、反動に備える。

もう何も問題はない。





化け物が顔を上げるのと、ウララーの銃から銃弾が吐き出されるタイミングはほぼ同じだった。
増薬した訳でも、弾頭に切り込みを入れている訳でもない唯の鉛弾。
そんなものが、この化け物に通用するのか。
誰にもその答えはわからない。
鉛はそんな事を気にすることなく、目標の右胸を貫き、身体の中で進む事を止めた。

133:2007/07/22(日) 15:55:12 ID:???

「っっ!!・・・はあッ・・・!」

全力を出し切った、ほんの一秒にも満たない攻防。
ウララーにとっては、それが一分とも十分とも感じ取れた。
張り詰めた神経を緩めると、全身から脂汗が吹き出た。
脳と筋肉は酸素を求め、必死に取り込もうと肩で息をする。
更に追い打ちを掛けるように、肩の傷が自己主張を始めた。
受け身をとっていない為か、背中も悲鳴をあげている。

こんな状態で、また飛び掛かって来たら自分はもう何もできない。
二度も幸運は続かないし、己で手繰り寄せる気力も既にない。
しかし、

(・・・?)

化け物の様子がおかしい。
弾丸が胸を貫き、ガードレールにもたれ掛かる状態で奴はいる。
首はうなだれ、表情を汲み取る事はできない。
だが、二秒、三秒・・・十秒かかっても、その体制のままだ。




(仕留めた・・・のか?)

銃口を向けたまま、にじり寄る。
もしかしたら、気絶していたフリだとか、奴の仕組んだ罠かもしれない。
万が一の事もあるし、真っ直ぐに近付くのは危険である。

その時だった。
化け物の首が急に持ち上がり、痙攣を起こし始めたのだ。
眼はぐるぐると、虫のようにせわしなく動いている。
突然の出来事に、ウララーは心臓が跳ねたような感覚を覚える。
そして、己の悲鳴の代わりとして、再度銃が吠えた。
鉛弾は化け物の腹に潜り込み、内臓を潰す。

「キイイイイィィィィィィイイイ!!!」

それに併せ、化け物は狂ったかのように金切り声をあげた。
天を仰ぎ、眼を踊らせ、口からは噴火とも取れる程血を吐き出す。

ウララーは咄嗟に耳を塞いだ。
しかし、屋外だというのに、空気が揺れる程凄まじい雄叫び。
まるで直に鼓膜を揺さ振られているようで、頭痛さえ感じてしまう。
あまりの酷さによろめくが、ここで化け物を視界から外せば己の命はない。
歯を食いしばり、残り少ない気力をかき集めて踏ん張る。




叫び声が止み、化け物が急にこちらを向いた。
ぐるぐると回る眼球と、吐血を撒き散らす様はその異形さに拍車をかける。
ウララーはそれに驚き、一手遅れて発砲する。
が、着弾した場所は目標の後ろにあるガードレール。
不快な金属音がした時には、化け物は既に頭上を陣取っていた。

(殺られる!!)

化け物の影は大きく映り、酷く恐ろしく見えた。
ウララーは両腕で顔を庇い、力いっぱい目をつむる。
だが、聞こえたのは壁をテンポよく蹴る音と、はるか遠くで響く金切り声だった。




「・・・?」

恐る恐る目を開けると、既に化け物の姿はなかった。
後ろを振り向けば、壁に血が点々とついており、奥の方ではかなり高い所にある。
三角跳びとはいえ、かなりの幅があるここでやってのけるとは。

だが、化け物は何故あのように発狂したのだろうか。
まさかとは思うが、奴は銃という物を知らなかったのだろうか。
銃口を向けていても平気な顔、撃たれた時のあの有様。
常識はずれな能力を持っていても、化け物も未知なる物が恐ろしいのか。

「にしても、あの声は無いだろ」

ウララーはそう呟き、頭を小突いて頭痛を紛らす。
そして、もはや痙攣しかしていない被害者、フサギコに目を遣った。

134:2007/07/22(日) 15:56:25 ID:???


最後に見たのはノーネの顔だった。
直後、化け物の爪が俺の眼を覆い、潰したんだ。
俺はその痛みに耐え切れなくて、叫ぶしかできなかった。
途中で誰かの声がして、化け物は俺から離れた。
後は殆ど覚えていない。
その誰かが、化け物を追い払った時から、既に意識は朦朧としていたから。
ただ、俺に掛けてきた言葉と、その手の温もりは覚えてる。
どうしてかはわからないけど。






「・・・」

ふかふかのシーツの感触。
フーが最初に感じたものは、それだった。
身体に掛かる重力の向きからして、どうやら自分は寝ているようだ。
上半身だけを起こし、目を開けようとする。
だが、開かない。
何かと思い目元を触ると、ちくりとした痛みと包帯の手触り。
必死で記憶の糸を手繰り寄せ、自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。
と、そこで扉が開く音がして、フーは一旦思考を止めた。

「お、起きたか。一晩だけ気絶するなんて、いい体内時計持ってんな」

聞き慣れない声は、いい匂いを纏いながら近づいてくる。
おそらく、食べ物を持ってきたのだろう。
ことり、と食器を置く音がした所で、フーは問う。

「ア、アンタ誰だ?」

「ウララー。ここは俺の家」

「・・・助けてくれたのか?」

「一応『擬似警官』って職持ちだからな」

あっさりとした返答の中に、自分の語彙にはない単語が一つ。
それが気になり、再度質問を投げ掛けた。

「ぎじ警官?」

「国がな、犯罪の数に追いつけなくなったが為に置いた救命措置みたいなモンだ」

「・・・???」

まるでインコを彷彿とさせる程、フーは首をかしげる。
ウララーはそれに対し、額に手をついて軽く溜め息をついた。
と同時に、意識が回復しても取り乱さない神経の図太さに少しだけ感心した。

「あ、あとそれと・・・」

「待て」

「?」

「お前だけ質問するってのは不公平だからな。次は俺だ」

「あ・・・うん」




自分が質問をする。
自らがその状況を作ったというのに、ウララーは黙ったままだ。
風がカーテンを撫で、衣の擦れる音だけが部屋に響く。
一分程してから、ウララーは口を開いた。

「名前と、路地裏にいた理由を教えてくれ」

その声は、何かに怯えているように少しだけ震えていた。

「俺はフー。あそこにいたのは、家がないから」

「浮浪者か」

「うん・・・あの化け物は、俺が帰ってきた時にはもう・・・」

語尾が消え、俯くフー。
言葉にしていくに連れ、あの惨劇が脳裏に浮かび上がる。
時間にすれば対したものではないが、心に負った傷はかなり深い。
目を開けられない中、瞼に映るのはノーネの首だけ。
身体が震え出した所で、何かが膝の上に置かれた。

「?」

「飯だ。一人でも食えるようにパンにしといた」

少し待っててくれ、とウララーは言い残し、部屋を後にする。
扉の閉まる音がしてから、フーは膝の上のものを探り始めた。

取っ手のついた板の上に、ふんわりとした手触りの球体が一つ。
温かく、持ち上げてみると思ったよりも軽い。
それを少しずつちぎり、口の中へと運んでいく。

135:2007/07/22(日) 15:58:42 ID:???

パンを食べ終えたら、静寂が部屋を包み込んだ。
あまりにも静か過ぎるせいか、カーテンの靡く音が先程よりも大きく聞こえる。
今のフーには、それが夜のコオロギよりも、夏の蝉よりも煩く感じた。

目を潰され、見えるものは暗闇だけ。
その為、嫌が応でも意識が耳に走ってしまう。
化け物に襲われた時の恐怖も、そんなに直ぐに拭いきれるはずがない。
ノーネという心の依り所も、亡くなった。

怖い。
風の音も、衣すれも、なにもかもが自分を嘲笑っているようで。
こうなる位なら、せめて目でなく耳を削いで欲しかった。
フーはそう思いながら、わざと爪をたてて耳を塞ぐ。

不快な音達は、テレビに映る砂嵐のように視覚化されていく。
恐らく、不安と恐怖のせいで見える幻覚なのだろう。
無数の光の粒は、縦横無尽に暗闇を駆け巡り、それを埋め尽くした。
夢なんかじゃない。
はっきりとした意識の中、そんなものを見続けられる筈なんてない。
幻覚に幻覚が重なり、鼓動がじわじわと加速する。
誰か、これを―――

「どうした?」

扉の開く音がして、続いてウララーの声。
フーはそれに驚いて、耳を押さえていた手を掛け布団の下に捩込む。
跳ね上がった心拍数は、ゆっくりと下がっていった。

「あ、いや・・・なんでも・・・」




ボタンを押す音の後、電子音が一つ。
突如、部屋が騒がしくなる。

「っ!? な、なに!?」

掛け布団を首元まで引っ張り、縮こまるフー。
ウララーはその反応に、少しの間だけ呆気に取られた。
ノイズ混じりに喋り始めたスピーカーと、フーを交互に見遣る。

「・・・唯のラジオなんだが」

「ラジオ?」

「知らないのか?」

「・・・」

まるで電子レンジを怖がる老人のようなリアクション。
ウララーは、その初々しさだか何だかに、どこかくすぐったい気持ちになる。
ベットの傍に腰掛け、フーの頭を優しく撫でた。

「ぼーっとするだけなのは辛いだろ?」

「う、うん・・・」

それから少しの間、二人はラジオを聞きながら話し合った。
フーの心から、不安を取り除く為のウララーの配慮だ。
リスナーからのハガキを、意味不明なテンションで読み上げるDJ。
笑い声のSEが聞こえると同時に、二人もつられて笑う。
時折、フーの知らない単語が出て来ては、ウララーが解りやすく説明する。

曲が流れると、話題を変えて自分の事などを話した。
なるだけ内容を明るい方向に持っていき、互いに打ち解けていく。




番組がある程度進んだ所で、ウララーが腰を上げる。

「さて、時間だし出掛けるかな」

タイミングよく、ラジオが今の時間を知らせた。
早い人は既に仕事場に、学生は登校中の時間である。
軽くストレッチをして、棚から拳銃をホルスターごと取り出す。

「いつ頃戻ってくるの?」

フーがそう聞いてきて、天井付近に掛けている時計を見て踏み止まる。
目が見えないのに、壁掛け時計で時刻を教える事はできない。
どうしようかと少し考えた後、ウララーはスピーカーを見て閃いた。

「あー、ラジオが12時って言った頃には戻れるから」

「うん」

136:2007/07/22(日) 16:00:05 ID:???


自分は何をやっているのだろうか。
ウララーの心は、その言葉で埋め尽くされていた。

フーを助けた時、現場はそのままにして帰った。
あの時は日も落ちかけていたし、それしかすることが出来なかったからだ。
彼等は浮浪者でもあるし、何もそこまでするかと思う奴も出てくるだろう。
それでも、ウララーは化け物に襲われた命を、助けたかった。
路地裏に置いて来たフーの友人を、弔いたかった。




死体が、無いのだ。
業者が片付けたのならば、血の跡も綺麗に落とす筈だ。
だが、ここにはしっかりと赤黒く汚れたコンクリがある。
砕けた骨だって、真っ白になって一箇所に纏められていた。

誰かが、この死体を食べた。
そう思うしか、他になかった。

「・・・くそっ」

あの時、化け物は食べる事もせず遊んでいたことから、奴の可能性は殆ど無い。
骨が纏められている件に関しては、カラスや獣の類でない事も読み取れる。

ウララーが思考を張り巡らしていると、路地裏の奥からひたひたと足音が聞こえた。
何かと思い視線を向けると、薄暗い所をちびギコが歩いている。

だが、どこかおかしい。
普通のちびギコより大きめの体格で、片耳がない。
左腕は真っ黒に汚れていて、手元に目線を落とせば、ナイフが光っていた。
身体は所々血で塗れ、右手は緑色のボールを抱えていて―――。

違う。
ボールなんかじゃない。
折れ曲がった耳と、下部にあるささくれた部分に残っている血の跡。
紛れも無く、あれはここにあった死体の、首だ。




「おい!」

焦りと怒りで、必要以上の声が出た。
ちびギコの影はそれに驚き、振り向く事もなく走りだす。
ウララーは舌打ちし、同じように路地裏の奥へと駆け出した。

決して広くない空間を、ちびギコは易々と駆け抜ける。
大人のモノと思われる首と、身体と釣り合わない大きさのナイフを持ちながら。
対するウララーは、腕や脚が木材や粗大ゴミに引っ掛かり、持ち前の能力を発揮できない。
じわじわと距離を離され、その影を見失う回数が増えていく。




入り乱れ過ぎている路地裏の中、ウララーは影を追う事を止める。
息もあがり、あのまま策もなしに追っても意味がないと判断したからだ
一旦路地裏を出ようと光のさす所に向かえば、そこは鬼ごっこを始めた場所だった。

(・・・何やってんだ、俺)

落ち着いてみれば、何処か馬鹿らしくなってきた。
死んだ者は死人にならず、死体になる。
どこぞの偉い学者が言った言葉かは忘れたが、取り敢えずそう考えておく事にする。
骨の山から、なるだけ形が綺麗なものを取り出し、その場を後にした。




今日見たちびギコは、近いうちにまた出会う事になる。
ウララーは、この時点ではまだ気付いていなかった。
あの影が、治安の悪いこの街を更に混沌とさせる要因の一つということに。


―――続く

137:2007/07/31(火) 01:06:23 ID:???
私は幸せだった。
世間は私達をゴミや糞程の価値しかない害虫だと思っていたが、彼だけは違った。
彼…タカラ君はダンボールの中で縮こまっていた私達を家に持ち帰り、守ってくれた。
暖かい寝床をくれた。
たくさんダッコしてくれた。
ある晩、タカラ君はしぃに尋ねた。
「しぃちゃんの一番欲しい物は何だい?」
私は子供達を寝かしつけながらこう言った。
「シィチャンハツヨイカラダガホシイナ」
私はその時、この言葉が永遠に私達を苦しめるとは夢にも思わなかった…。



しぃは目を醒ました。
辺りを見渡すと、直ぐに異変に気付いた。
汚らしい壁、粗末な板の様なベッド、湿っている床、厳めしく、頑丈な扉、それは昔に、ゴミ箱の中に棄てられていた漫画を読んだ時にみた『独房』という所に似ていた。
「タカラ…クン…?」
辺りを見渡してもタカラギコも、可愛い我が子もいなかった。
しぃは扉を叩きながら叫んだ。
「チョット!!カワイイシィチャンヲコンナトコロニトジコメルナンテドーユーシンケイシテンノヨ!!」
それでも扉は開く気配は無い。
「ハニャァァ!!タカラクントベビチャンタチニアワセナサイヨォ!!コノギャクサ…」
急に勢い良く扉が開き、しぃに強烈なビンタを食らわせた。
「シィィィィ!?」
しぃの体は吹っ飛び、後頭部から壁に叩きつけられた。
「五月蝿いぞ!一体何時だと思ってんだ!!」
白衣を纏ったモララーが怒りを露わに入ってきた。
「ハギャァァァ!!クソモララーガシィヲイジメルヨォ!!!」
後頭部を押さえ、湿った床を転がりながらしぃが喚く。
「静かにしろと言っているだろが!!」
モララーが転がっているしぃの脇腹を革靴で蹴った。
「ンフグッ!!?」
しぃは脇腹を押さえうずくまった。
「これでもぶち込んでやろうか?」
モララーは懐から拳銃を取り出すと、しぃの眉間に銃口を当てた。
「何事だ?」
聞き慣れた声が扉の向こうから聞こえた。
しぃが顔を上げると、あのニコニコ顔が両手に2匹のベビしぃを抱えて扉の前に立っていた。
「タ…カラ…クン…」
しぃは喘ぎなから立ち上がるとタカラギコに這っていった。
「やぁ、調子はどうだい?」
いつものニコニコ顔のままタカラギコが尋ねる。
「タスケテ…、ダ…ダッコ…」
「もっと丁寧に扱ってくれよ、死んだりしたらどうするんだ。」
タカラギコはしぃを抱き上げて近くにいたモララーに注意した。
「す、すいません主任。」
モララーは縮まっておとなしくなった。
「うむ、まぁ、こっちもその程度で死なれてもらったらこまるからね。」
「ハニャァ!ザマーミロ!!クソモララー!!!」
しぃがモララーに罵声を浴びせる。
「それが『サンプル』モナ?」
新たな声が聞こえた。
「やぁ、所長、遅いですよ」
タカラギコは『所長』…モナーに軽く挨拶すると、
「じゃぁ、実験の成果をお見せしましょう」

138:2007/07/31(火) 01:06:50 ID:???
「ハニャーン♪マターリダネ」
しぃはさっきまでの事をすっかり忘れてタカラギコに抱きついている。
タカラギコは片手でしぃを、片手で白衣のポケットを弄っている。
その怪しい行為にも目をくれずに、しぃとベビ2匹は耳障りな歌を歌い始めた。
「キョウモゲンキニシィシィシィ〜♪ミンナナカヨ…」
『ターン…』
室内に突如響いた銃声。それと同時にしぃの歌が止まった。
ズキンとしぃは腹部が痛むのを感じた。
タカラギコの片手には大口径の拳銃が握られており、銃口から白煙が立ち上っている。
しぃは不振に思い、ゆっくりと腹部を見た。
しぃの腹部にはポッカリと15センチ程の穴が開いており、血にまみれた白い腸がズルリとはみ出している。
しぃは緑色の瞳がその光景を確認するや否や、一気に襲いかかってきた激痛に耐えきれず、どうと倒れた。
「ッアァアァアアァァア!!」
しぃは言葉にならない叫び声を上げ、自分の出した血の海の中を転がった。それをまるでいつもの事の様に慣れた目で見るタカラギコ達。
「ハッ…ハーッ…ハーッ…ハーッ…」
しぃは口をパクパクさせて何かを伝えようとしているが、口から漏れるのは、荒い息だけだった。
「チィ♪アニャーン♪」
産まれて間もないベビしぃ達は、今の状況を理解せずに、親しぃの真似をして床をコロコロと転がっている。
「ほう、まだ息があるモナ。普通のしぃなら即死なのに、大した生命力だモナ。」
「まだまだ驚くのは早いですよ。ご覧下さい!」
タカラギコがしぃの腹部を指差した。そこには何か、蚯蚓の様な物が多数蠢いている。
「おぉ!!何と自己再生能力もあるモナか!」
モナーが驚きの声をあげた。
「えぇ、恐らく、あれくらいの傷ならば15分程で完治するでしょう」
タカラギコは満面の笑みを浮かべている。
「一体何をしたらあんなしぃが作れるモナ?」
モナーが興奮しながら尋ねた。
「ポロロの遺伝子を移植したのです。ポロロは元々被虐AA、被虐AAの遺伝子は多少似通った所があるのです。」
タカラギコが自信たっぷりに説明した。
「チィチィ、ナッコ♪ナッコ♪」
ベビしぃが転がるのに飽きて、所構わずダッコを強請ってきた。
「ベ…ヒ…チャン…ニゲ…テ…」
しぃは痛みを堪えながら、ベビしぃ達に警告したが、2匹のベビしぃは白衣の裾を引っ張り、ダッコを要求している。
「…五月蝿いゴミだ…」
モララーは、白衣の裾を引っ張っているベビしぃを一瞥した。
「これでも使うかい?」
タカラギコが取り出した厳ついショットガンを見て、しぃは目を見開いた。
「ベ、ベビチャン!!ニゲテ!!!」
しぃが幾ら叫んでも、ベビしぃは何の警戒もしないで、いや、寧ろ図々しくもごね始めた。
「カワイイチィチャンヲナンデナッコチナイノヨゥ!!!」
「マンマニイイチュケマチュヨゥ!!」
「あ〜、どっちから殺ってやろっかな〜」
怒りのボルテージがMAXまで到達したモララーは、銃口を右に左にとベビしぃ達に向けて選んでいる。
「チィ?コレハナニデチュカ?」
片方のベビしぃがショットガンに興味を持ったらしく、銃口の中を覗き込んだ。
「よし!貴様に決定!!」
モララーはピタリとベビしぃに狙いを定めた。
「チィ?ナンデチュカ?」
ベビしぃは次に何が起こるのかと期待の眼差しで銃口を見つめている。
「ヤメテ!!オナガイ!タカラクン!!!」
しぃが懇願しても、誰一人聞き入れた者はいなかった。
「ナニモオコリャナイジャナイデチュカ!!チィヲヴァカニチュルヤチハ…」
「もう何も言ってくれるな!!」
モララーが勢い良く引き金を引いた。

139:2007/07/31(火) 01:07:22 ID:???
『ズドン!!』
モララーが引き金を引くと同時にベビしぃの顔面に、無数の銃弾が浴びせられた。
しぃとは違った、小ぶりの耳を、まだ母親の母乳しか飲んだことのない小さな口を、純粋無垢な緑色の瞳を、まだ丸みの帯びた、あどけないほっぺたを、容赦なく銃弾は破壊していった。
頭部を破壊し終わった銃弾は、次に小さな体を壊しにかかった。
銃弾は柔らかい肉にめり込み、肋骨や背骨をいとも簡単に粉砕し、肺をズタボロにし、心臓を一瞬にしてミンチにし、白い、生暖かい腸を体外に引きずり出し、小さい手足を弾け飛ばして独房の壁に紅い華を探せた。
「ヂブシッ!!?」
ショットガンの洗礼を受けたベビしぃは1秒足らずで、もの言わぬ血溜まりと化した。
弾き飛ばされた手足が、生きている芋虫みたいに蠢いている。
「ベビチャン…シィノベビチャン…」
我が子が一瞬にして血肉に変わったのを、しぃは只見ているしかなかった。
「チ、チィィィィッ!!!」
もう一匹のベビしぃが姉妹の変わり果てた姿を見て初めて危機を悟った。
「もう一匹はどうします?」
スッキリした声でモララーが尋ねた。
「じゃ、私が殺るモナ」
モナーは懐から注射器を取り出すと、腰を抜かして失禁しているベビしぃの頸部に突き刺し、中の液体を注入した。
「チィニイッタイナニ…ヲ…ウッ…」
罵声を急に止めて、ベビしぃは口に手を当てた。
「ゲェエェェエエエェッ!!!」
声と同時に短い指の隙間から、紅い鮮血を勢い良く吹き出した。
「ゲェェェッ!!グブェェェェ!!!」
ベビしぃの目は大きく見開かれ、大粒の涙が頬を伝って血と混ざる。
やがてベビしぃの穴という穴から出血し、ベビしぃは顔面から倒れ込んだ。
「一体何を挿れたのですか?」
ビクンビクンと激しく痙攣しているベビしぃを横目に、タカラギコが答えた。
「なに、最近発見された新種のウイルスの改良種をちょっと挿れてやっただけモナ。」
モナーの言葉にモララーの顔が青ざめる。
「ウイルスって……感染の危険性は…?」
モララーが恐る恐る尋ねた。
「只のお遊び用だから感染力はないモナ」
「シィノベビチャンガ…フタリトモシンジャッタ…」
しぃが涙を流しながら呟いた。無惨な姿の我が子を見つめながら。
「大丈夫だよ。死ぬことはないから、君もベビも。」
タカラギコが微笑みながらしぃに話し掛ける。
「シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…」
しぃは壊れたオーディオみたいに同じ言葉を繰り返した。
「…五月蝿いよ」
タカラギコが言う。それでもまだしぃは呟く。
「シィタチハタダマターリシタイダケナノニ…シィタチハ…」
タカラギコの表情が変わった。
「黙れっていってんだよ!!」
タカラギコが塞がりかけの穴を蹴飛ばした。
傷口の治りかけの皮膚がいとも簡単に破けて、血の滲む真っ赤な肉が露出した。
「ハギャァアァアァアア!!」
しぃは傷口を押さえてうずくまった。
押さえている手の間から血が流れて下に血溜まりを作り始めた。
「まったく…何がマターリだ!抱いてやったらつけあがりやがって…!!」
タカラギコの豹変ぶりにしぃはただ震えるだけであった。
「ゴフッ…コン…ナノ…マタ…リジャ…ナ…ヨ…」
「マターリとかほざく口はこの口かぁ?」
タカラギコはモララーからショットガンを引ったくると無理矢理しぃの口に銃口をねじ込んだ。
「ヤ…ヤヘテ…オナハイ…」
銃口はまだ熱を帯びており、銃口に口腔をつけずに懇願した。
「はっ!!僕は今まで何をしてたんだろう!!!」
タカラギコは我に返った様に銃口を口から離して、しぃを抱き締めた。
「ごめん!ごめんよ!!しぃちゃん!!」
タカラギコは左手でしぃを一層強く抱き締めた。
「ハニャン…タカラクンノダッコ…アタタカイ…」
しぃは安堵の笑みを漏らし、静かに目を閉じた。
しかし、しぃは気付かなかった。タカラギコの右手の人差し指はしっかりと引き金に掛かっていたことを…。

140:2007/07/31(火) 01:07:42 ID:???
突如響いた轟音。それと同時にしぃの両脚が吹き飛んだ。
「シィィィッ!!?」
しぃの身体はタカラギコの腕をすり抜け、血溜まりの中に落ちた。
しぃは何が起こったか理解出来ず、起き上がろうとした時に、ようやく両脚がなくなった事に気付いた。
「シィノ、シィノアンヨォォォォ!!」

その光景を見て、3人の科学者は腹を抱えて笑った。
「HAHAHA!!『アンヨォォォォ』だってよ」
「なーにが『タカラクンノダッコ…』だよ、あまりにキモかったから思わず引き金を引いちまったよ」
タカラギコが口を尖らせ、しぃの声を真似た。
「アンヨォォォォ!!!アンヨガァァァァッ!!!!」
しぃは緑色の目から大粒の涙を流しながら、脚のあった所を手で押さえている。
「やかましい!!この生ゴミがぁ!」
タカラギコは銃身を持ち、柄でしぃの頭をスイングした。
「ハギャグェッ!!」
しぃの頭は『バキバキ』と頸の骨が砕かれていく音と共に、180゜回転した。
「ハガァッ…ア…アガ…」
普段なら死んでいる程の重傷を負っているが、しぃに移植されたポロロの遺伝子の効果で、しぃは死ぬ事を許されなかった。
「うわっ、こんなになってもまだ生きてるよ」
「今更ながらぞっとするモナ」
モナーが目を細めて言い放った。
タカラギコは銃を持ち替えて、銃口をしぃの口に再びねじ込んだ。
「ハ…ハカラフン…」
しぃは痛みと恐怖で目に涙を浮かべていた。瞳にはにっこりと微笑みかけているタカラギコが写っている。
『ズガン!ズガンズガン!!!』
タカラギコは何の容赦も無くショットガンの引き金を連続して引いた。
何十もの小さな鉛弾がしぃの口腔を貫き、しぃの肩から上を消し飛ばした。
最早胴体だけと化したしぃの残骸は、堅いベッドの上に落ちた。
ベッドの上の薄汚い布が、しぃの胴体から流れ出る赤黒い液体によって塗り替えられていく。
しぃの胴体はベッドの上でまな板の上の魚の様にのたうち回っている。自身の血で白い毛皮が紅く染まり、活きの良い鯛の様にも見える。
「口が無くなっても五月蝿いものですね。」
タカラギコが目を細めてそれを一瞥した。
「激しいボディランゲージモナね。」
モナーが呆れた様に呟いた。
「ですが、こうも五月蝿かったらまともに寝れませんよ。」
モララーが困った顔をする。
突然、タカラギコが立ち上がって、廊下に掛けてあった手斧を取り、ベッドの上でもんどり打っているしぃの残骸に叩きつけた。
手斧はしぃの腹部に突き刺さり背骨を砕いた。

141:2007/07/31(火) 01:08:33 ID:???
しぃの胴体は腹筋をする様に、上半身を折り曲げた。痛がっているのだろうか、身体が小刻みに震えている。
「痛いのかい?それは可哀想に(笑)?」
タカラギコが笑いながら、無言の胴体に話しかけた。
胴体に口が残っていたならば、その口は凄まじい叫び声を上げていただろう。
…脳が消し飛んでも痛みを感じる身体とは…、我ながら素晴らしい発見をしたものだ…、タカラギコは心の中で神に感謝した。
痛みに貫かれて悶えている身体から、タカラギコは手斧を乱暴に引き抜こうとした。だが、手斧は腹部を貫いて、下のベッドにしっかりと固定されていた。
タカラギコは更に力を入れ、手斧を上下に動かして無理矢理引き抜こうとした。
『グヂョッ…ニヂュッ…』と血だらけの臓物が手斧に擦れて粘着質な音をたてている。
胴体は激痛から身を捩ったり痙攣したりしている。
『ニチャァ…』と、粘っこい血液と腸と共に、やっと手斧が抜けた。
「面白そうですね。俺にもやらせて下さいよ。」
タカラギコはモララーに手斧を渡した。
モララーは手斧を片手に、独房に入っていき、芋虫の様に蠢いている上半身に向かって、手斧を叩きつけた。
手斧は丁度、上半身の中心に命中した。手斧は肋骨を砕き、その衝撃で折れた肋骨が体外に突き出てきた。手斧は心臓を抉り、2センチ程の切り込みを入れた。
脳が無くなっても動いていた心臓から勢い良く血が噴き出した。
傷口から血が噴出し、モララーの身体を血だらけにした。それでもモララーは何度も何度も手斧を叩きつけた。肋骨の幾つかは肺に突き刺さり、背骨は形もない。首があった所からは、叩きつけられる度に、露わになった気道から血が溢れ出る。
「アヒャヒャヒャヒャ!!!」
斧がベッドを叩く音と、モララーの奇声、そして血肉や臓物がたてる陰湿な音が独房の中に響いている。
5分後、独房から全身血まみれのモララーがぬっと現れた。その姿は、今し方、戦場で敵兵を惨殺してきた兵士の様だった。
「どうだった?」
タカラギコが訊いた。
「いやぁ、楽しかったです。骨を全部粉砕してやりました。これで、暫くの間は身動きが取れないでしょう。」
モララーが息を切らしながら言った。
『コン』独房の内側から何かが聞こえた。
「…アケテヨゥ…イヂャーヨゥ…」
ぼそぼそと何かが呟いている。
タカラギコが扉をゆっくりと開けた。扉の前にいたのはベビしぃだった。
「イチャーヨゥ…イチャーヨゥ…」
ベビしぃは血と涙の混ざった液体を目から流して這いずってきた。
「大した生命力モナ!あのウイルスをもう無力化したのかね?」
モナーが興奮して叫んだ。
「オヂ…タン…ナ…ゴ…」
ベビしぃはモナーの白衣の裾を弱々しく掴み、ダッコを要求した。
モナーは無言で、ベビしぃを掴み上げた。だが、抱き締める事はせず、汚れた雑巾を持つ様に背中の毛皮を摘んでいる。
「チィ…ナッコ…ナ…ゴ…」
ベビしぃは宙に浮いたまま、泳ぐ様手足をばたつかせ、モナーに近づこうとしている。
モナーはそれを一瞥し、白衣の下から拳銃を取り出した。
「研究材料は背中の皮膚と血液だけで結構モナ。残りは独房に入っておくモナ。」
モナーはそう言うと、立て続けに4発、発砲した。
「フヂジッ!!?」
雷鳴に似た轟音が鳴り響き、ベビしぃの身体は宙を舞った。モナーの片手には煙を吐く拳銃、もう一方には、血にまみれた毛皮があった。
ベビしぃの身体は壁に激突し紅い華を咲かせた後、バウンドして床に叩きつけられた。
ぱっくりと割れた頭から夥しい量の血が溢れ、頭蓋骨の一部や脳漿が紅い川の中に点在している。
ビクンビクンとうつ伏せのまま痙攣しているベビしぃを後目に、モナーは扉を閉めた。
「バイバイ、また明日モナ」
扉が閉まると、ガチャガチャと鍵の掛かる音がする。モララーが鍵を閉めたのだろう。しぃは段々と構成されていく感覚器官で、それを察知した。
「イヤ…オイテカナイデ…タカラ…クン…」
構成されかけの脳でしぃは叫んだ。しかし、その声は誰の耳にも届かなかった。

続けるつもりです・・・。

143:2007/08/06(月) 23:32:49 ID:???
(関連作品>>36〜 >>74〜 >>103〜 >>128)

天と地の差の裏話
『まとめ』




最初はメイがモララーに捕まる事から、最後はウララーが路地裏で何かを見つける事まで。
全ての出来事が終わってから、一ヶ月が経った。
昨今、この街は『片腕が黒い少年』の話で悪い方向に賑わっている。
しかし、彼等は、この物語の歯車達はそんな話なんて露ほどにも思わない。
唯、自分のしたいこと、目標、目的の為だけに生きた。
そして今、歯車は更に噛み合い、隣り合う歯を牙に変えて互いを傷つける。

一ヶ月の間に、それぞれの牙を研ぎ、磨いてきた。
一ヶ月の間に、それぞれの念いは膨らみに膨らんだ。

誰が生き残るかなんて、誰も知る筈がない。




街の一角にある、寂れた商店街。
平日でさえ、殆どの店にシャッターが下りている。
人気があまりない事から、被虐者が身を潜めるのに良い環境である。
逆に言えば、加虐者にとっても良い環境でもある。

今日もまた、この商店街で虐殺が行われようとしていた。




「ヒギャアアアア!! 誰か、誰かぁぁぁ!!」

尻尾があった所から鮮血を撒き散らし、何者かから逃げているちびギコ。
恐らく、加虐者に襲われたが、代償は尻尾だけに留まったので、ここに隠れようと走ってきたようだ。
前述の通り、被虐者にとってここは防空壕のようなもの。
店と店の間に入り込めば、たやすく身をくらます事も可能だ。
しかし、ちびギコは必死になりすぎて、自分の犯したミスを知らないでいた。

「アヒャ! やっぱり糞虫は糞虫だナァ!」

ちびギコの後方で、追う者の影が見える。
赤い身体をしたAAが、種特有の笑い声を発しながらちびギコを追い掛けていた。
彼はアヒャという名前で、加虐者でもあり、ちびギコの尻尾をもぎ取った犯人でもある。
何故、被虐者を見つけておいて、そのまま虐殺せずこのような事をしているのか。

答えは至極簡単である。
逆『ヘンゼルとグレーテル』だ。
童話の中で、彼等は森の中で迷わないようにと、パンくずを進路に撒き目印にしていた。

この場合、趣旨は違えど、ちびギコの尻尾の付け根から溢れる血が、パンくずの役割を果たしていた。
アヒャはこうする事によって、尻尾をもいだ被虐者の後を追い、その住家と家族を見つける。
鴨が葱を背負うというより、鴨自身が葱の在りかを教えてくれているようなものだ。

必死になっているちびギコは、それに全く気付いていない。
振り切ったと思っても、また現れる事に吐き気を感じながら、商店街を縦横無尽に駆ける。




命懸けの鬼ごっこは、あっさりと幕を閉じた。
商店街の地理を把握しきれていないちびギコは、ついに袋小路に入り込んでしまった。

「あ・・・あぁ・・・」

上を見上げると、その場にあるものを積み上げれば登れる位の場所に屋根があった。
どう考えても、そんな事をする前に捕まってしまう。
真後ろでは、死神が不快な笑い声を響かせている。
恐怖で脚は震え、溜まりに溜まった涙はぼろぼろと流れ出す。

振り向けば、滲んだ視界の中央に嫌らしく笑う者がいた。
そいつの手には鈍く光る包丁がある。
つい先刻、簡単に尻尾を切り離したあの忌ま忌ましい得物。
次にそれで切り離されるのは何処だろうか。
想像しただけで、腰が抜けてしまった。

「ナんだ、闇雲に逃げてタだけかア」

「や、やだ・・・やだぁぁ・・・」

いつもは傲慢で鈍いちびギコでも、アヒャからだだ漏れる狂気にすぐに侵された。
だから、振り向いた今やっと、自分が撒いた血の痕に気付いたのだ。
誰がこんな頭の悪そうな奴に猿知恵を与えたのか。
そう心の隅で毒づきながら、必死で命乞いをする。
もはや助かる事よりも、一分でも、一秒でも長くこの地の息を吸っていたいと。

144:2007/08/06(月) 23:34:39 ID:???

既に下半身は恐怖でガチガチになり、両手を使って後ろに下がるしか他にない。
尻尾の血が、まるで失禁したかのように見え、酷く情けなく思えた。

不意に、アヒャが一気に距離を詰めてきた。
大きな二本の赤い脚が間近に迫り、それだけで心臓が跳ねる。
見上げると、何故か吊り上がった口に包丁の柄をくわえていた。
ふらふらと揺れる銀色の刃は、まるで自由落下を行おうとするギロチンのよう。
それが処刑で扱われるならば、苦しみは少ない筈。
だが、今から行われるこれは、紛れも無い虐殺だ。

「ヒャ」

間抜けな笑い声と共に、包丁が落ちた。
すとん、という心地良い音がして、それは地面に刺さった。
ちびギコの脚を、そのまま輪切りにして。

「ぇ、ぁ、ひ、ヒギャアアアアァァァ!!!」

鋭い刃物で素早く切られると、直ぐに痛みを感じない。
そんな事よりも、脚を切断されたショックの方がはるかにでかかった。
赤く濡れた包丁の奥で、自分の腿が転がるのが見える。

身体を動かすことだけが、彼等被虐者にとっての娯楽であり、全てでもある。
同じ種でも、達磨は疎かカタワですら恥さらしとして扱われてしまう。
それは、彼等にとっての暗黙のルールなのか、単に慈しむ心を持っていないだけなのか。

どちらにせよ、ちびギコはもう仲間と一緒に遊べなくなった事にただ絶望する。
宝物を壊された子供のように喚き、次に来る虐殺の恐怖に身を震わせた。

「アーッヒャヒャヒャ! 腹に刺サんなくてよかったなぁ!」

包丁を拾い、刃の腹についた血を舐めとるアヒャ。
自分の得物の切れ味に恍惚の表情を浮かべ、かつこちらを睨んでくる。
銀色のそれの奥にある、細く歪曲した眼が悍ましくてしょうがない。
再度包丁をくわえ、剥き出しになった牙が笑う。
今度は先程よりも、わざとらしく刃を揺らしている。

もう駄目だ。
このまま、細切れにされて死ぬのか。
何回包丁が身体を通過するのだろうか。
そんなの、嫌だ。

「誰かぁ・・・」




弱々しく呟いた時、光が見えた。
涙で滲んだ視界の事だし、最初は見間違いかと思った。
だが、今のちびギコでもそれは包丁の刃とは別のものと理解できた。

アヒャの口元で鈍く光るそれのはるか上、登ろうとした屋根。
その上で、小さな影が銀色に輝く何かを持っている。

「・・・ン? ドうした」

ぴたりと泣き叫ぶのをやめたちびギコを見て、アヒャは違和感を覚えた。
包丁を握り、口から離して、じっくりと観察をしてみる。
どうやら自分を見ていて、失神したわけではなさそうだ。
涙に濡れたつぶらな瞳は、自分より上の空間を見詰めている。

そこにあるものに怯えているわけではない。
ただ純粋に『何だろう』といった気持ちのようだ。

「なンナんだぁ?・・・」

ちびギコの心を掴んだ何かが、気になってしょうがない。
疑問は膨らみ、我慢できなくなって空を仰ぐ。
と、視界の端に、何か黒い影が動くのが見えた。

そして、アヒャが最後に見たものは、空から降ってきた小さな殺人鬼だった。




どすん、と鈍い音がその場に響き渡る。
アヒャに飛び付いた影は、その手に握っていた光るものを眉間に突き立てていた。
刀身はわからなかったが、柄まで減り込んでしまっていたので、恐らく即死だろう。

「ア ヒャ」

間抜けな笑い声を一つあげると、アヒャは白目を剥いて仰向けに倒れた。
眉間にあるナイフを手放すのが遅れたようで、影も一緒に地面に投げ出される。
尻餅をついた影は、身体についた砂を掃い次の行動に移った。

145:2007/08/06(月) 23:39:05 ID:???


普通のちびギコより少し大きい身体。
顔の左、彼から見て右半分は、綺麗な茶色をしている。
真っ黒に透き通った目は、刔られたのか片方しかなかった。
立派な耳も、同じく片方だけもがれている。

「あ・・・」

そして、彼の身体で一番の異彩を放つ部位があった。
左肩から指先にかけて、どろどろに黒く汚れていたのだ。
しかしそれはよく見ると、重度の火傷だとわかった。
炭化した皮膚と、所々で血と膿が混ざって固まっている。

助かった事による安堵の溜め息と、奇妙な風貌のちびギコに驚いた声が重なった。
アヒャの眉間からナイフを抜こうとした彼はそれに気付き、こちらに目を向ける。

「・・・なに?」

「いや、あの・・・助けてくれて、ありがとうデチ」

同じ種族のようだし、やはり感謝位はしなくては。
そう思ったのだが、やはり見てくれの酷さに目を逸らしたくなる。

「助けたつもりは、ないよ」

ナイフを抜くのに苦戦しながら、彼は意外な返答を返してきた。

「え?」

「僕は、このヒトを食べたかったから」




衝撃的な言葉に、脚が切断された事なんてどこかへ吹っ飛んでしまった。
それでも一応、止血の為に傷口を押さえるのだけれども。
ナイフをアヒャの頭蓋から抜き取った彼は、刃についた体液を舐めながら続ける。

「このヒト達はね、虐殺に夢中になると注意力が散漫になるんだ」

建物の上に居たのは、先程のように頭を狙い打つ為とのこと。
入り組んだこの商店街では、今のようなケースはそれなりにあるらしい。
つまり僕、被虐者達は彼にとって『仕掛けていないエサ』。
ここの他にも、地の利を活かした自分用の狩場があるんだ。と彼は言った。

「な、なんでこんなヤツを食べたがるんデチか?」

もしかして、自分をこんな姿に変えた虐殺厨への復讐なのか。
そう問い質してみたが、彼は首を横に振り、アヒャの腕に刃を入れてこう返してきた。

「生きたいんだ」

その時、彼の黒い瞳の中に、更に黒い何かが垣間見えた。
負の感情ではなかったが、その悍ましさに身震いしてしまう。

死体から腕を切り離した彼は、決して綺麗ではない肉の切り口をかじる。
もぐもぐと少し嬉しそうに咀嚼する様は、野性児とか浮浪者とかを彷彿とさせた。

暫く彼の食事を眺めていた時、不意に、商店街の通りの方から話し声が聞こえた。
段々と大きくなってくることから、こちらに近付いてきているようだ。
声色からして、虐殺厨かもしれない。

「!」

彼はその声に気付いた途端、肉を食べる事を止め、置いていたナイフを乱暴に掴む。
そして、脱兎の如くその場から消えた。

「あっ!?」

片脚の僕を、置き去りにして。

『うわっ! な、なんだ?』

『お、おい、今のって『片腕』じゃね?』

『って事は、まさか・・・!』

奴らの慌てたような声から、どうやら彼は虐殺厨を正面突破したようだ。
奴らはかなり近くまで来ているようで、会話の内容をしっかりと聞き取る事ができた。
しかし、奴らは彼を追い掛けることなく、こちらに迫っている。

「ああっ!」

「アヒャ君!」

複数の足音が消えた時、既に視界にそいつらはいた。
真っ先に死体に飛び付き泣きわめく者と、その場でオロオロする者。
そして、僕を睨んで青すじをたてている者の三人だ。

正直、どうでもよくなった。
一分でも一秒でも長く生きたいという願いは叶ったし、これ以上何も望まない。
脚もないし、希望も潰えた今、最期に面白いものが見れた。
そんな不思議な気持ちになった僕は、三人に向かってこう言ってやった。

「そこの奴ら、僕を殺せデチ」

146:2007/08/06(月) 23:39:45 ID:???


折角仕留めたのに、戦利品は腕一本だけ。
無理をして死ぬよりは大分マシではあるが、少々勿体なかったかもしれない。

「・・・」

アヒャを殺したちびギコは、そう思いながら商店街をひた走る。
彼の名前は『メイ』。とあるモララーから、その名前と傷を貰った過去がある。

ひょんなことから虐待の監獄を抜け出す事ができたメイは、必死に生を求めた。
雑菌だらけでも、喉を潤すのなら川の水だって飲む。
カラスに交ざって被虐者の死肉を食べる他、獲物を自分から仕留める事もあった。

何故、メイが肉に固執するのか。それには理由がある。
あの時モララーがちびギコの肉を持て成してくれたのと、逃げ出した初日の食事がそれだったからだ。
空腹という至高のソースもあったし、それに魅了されてしまうのは仕方のないこと。
更に、AAでなく肉が街を歩いていると考えれば、飢える事はおそらくない。

「ふう」

ヒトの気配が全くしなくなった所で、メイは走ることを止める。
持ってきた腕から血が垂れていない事を確認し、辺りを少し見回す。
と、ちょうど良い閉所を見つけ、そこに入り腰を下ろした。

早速戦利品に口を付けようとしたら、逃げて来た方角から悲鳴が聞こえた。
独特な声色のそれは、多分さっき出会ったちびギコかもしれない。

(・・・仕方ないよね)

自分には負傷者を助ける余裕もないし、寧ろこちらが助けてもらったようなもの。
虐殺厨をその場に留める撒き餌にもなった名も知らぬちびギコに、メイは軽く黙祷した。

しぃや、加虐者等の身体の大きい奴を仕留めると、やはり処理に困る。
今回のようなケースは何度もあったし、その都度死体を残してしまっていた。
自分の姿を見た者も数え切れない程居ただろう。
その中に、捕まえてしまおうといった考えを持った奴もいる。

メイは、そいつらに対しては酷く敏感でいた。
とにかく日の当たらない所で生活し、屋根のない所で夜を明かすことは当たり前。
人気がすれば、それが自分を狙っているか否かを観察。
そうであれば逃げ、違った場合は狩りに移行したりと忙しい。
だから、自分が『片腕の少年』として噂になってる事なんて気にしている暇はない。

被虐者として、生き延びる為にしている行動に過ぎない。
それなのに。




肉を食べ終わり、骨をかじって遊んでいた時のことだった。
物影から、一匹のちびしぃが出てきたのだ。

「・・・誰? ここで何をしてるの?」

桃色の毛並みに赤いアスタリスク、エメラルドグリーンの瞳。
外見だけならば美しく見える、至って普通のちびしぃだ。
口調はしっかりしたものだったが、その目には既に軽蔑の念があった。
彼女はメイに問い掛け、近付こうとする。



『弱き者は、強き者に弄ばれる』
この街では被虐者でも、自分より弱い者には虐殺をする。
メイだって、街の住人に変わりはない。
やり手が誰だとか、相手がどの種族かなんて関係ない。
理由すら無視されて、街では毎日虐殺が行われるのだ。



メイはくわえていた骨を手に持ち直し、ちびしぃに投げ付ける。

「ぎゃッ!?」

軽快な音とともに骨はちびしぃの額に当たり、跳ね返ってメイの足元に落ちた。
それを拾いあげ、今度はナイフで斜めに切り込みを入れ、二つに割る。
ちびしぃはその場にへたりこみ、額を押さえて泣いていた。

「ちょっと! 何す・・・っっ!!」

喚き散らす前に、メイは即座に距離を詰め、その小さな顎を掴む。
間髪入れずそのまま押し倒し、先程割った骨をちびしぃの手の平に突き立てた。

147:2007/08/06(月) 23:40:48 ID:???

「―――!!」

地面は舗装されておらず、しかも軟らかい土であった為か、綺麗に打ち付ける事ができた。
ちびしぃは目を見開き、大粒の涙を撒き散らしながら叫ぼうとする。
が、メイがしっかりと顎を掴んでいるせいで、悲痛の声は口の中で消えた。
それに重ね、駄々をこねるようにバタバタと手足を動かし、必死で抵抗をする。
メイはそれも気にせずに反対側の手も押さえ、更に力を込めて骨を突き刺した。

「ッッ!!! ーーッ!!!」

既に腹の上に乗っかかっていたので、ちびしぃが暴れるのを幾らか抑えることができた。
さるぐつわの代わりになるものがあれば、安心して行えるのに。
そう思いつつ、メイはちびしぃの顔色を観察する。

普通ならば、頭の弱そうな暴言ばかりを吐く種族ではあるが、
口を押さえてみると、涙でぐしゃぐしゃになりつつもこちらを睨む眼。
その中には何か力強いものがあるような気がした。

「君達って、喋らなかったら美人なのにね」

哀れみを込めた一言。
その言葉にちびしぃの眼は緩み、穏やかな表情を見せた。
呆気にとられた、といった方が正しいのかもしれないが、メイにはそう見えたのだ。

表情を崩し、再び暴れてしまう前に首に手をまわす。

「っ!? か・・・ぁ・・・」

あっさりと泡を吹き、白目を剥いてちびしぃは動かなくなった。
しかし、ゆっくりと手を離せば、腹部が再度上下動を始めた。

実はメイは首を絞めたのではなく、頸動脈を押さえただけ。
そうする事により、脳に酸素が行き渡らなくなり、すぐに意識を失わせることができる。
道具もなしに簡単に気絶させるには、この方法が手っ取り早い。

叫び声に気を配る心配もなくなり、メイは次の行動に移った。
まずはその場に置いていたナイフを拾い、刃を指で摘んで汚れを落とす。
そして辺りを見回し、さるぐつわの代わりになるものを探した。




今いる所のほんの少し先に、水場があるのがわかった。
ナイフを一旦ちびしぃの足元に置き、そこへ向かう。
コンクリでできた柱に、取って付けた様な蛇口。
それの裏側に、泥水の入った錆びかけたバケツと、虫喰いのようにちぎれたホース。
メイはバケツを覗き、音をたてずにゆっくりと傾ける。

(・・・あった)

どろどろとした水の中に、手頃な大きさの灰色の布が落ちている。
それを拾い、一応ではあるが蛇口を捻って水にさらし、洗う。
ついでに蛇口に口をつけ、喉を潤すことにした。
少し臭かったし、清潔感が全くない所なのであまり飲めなかったが。

布を緩く絞り、ちびしぃの元へと戻る。
ひゅうひゅうとかすかに鳴る咽と、合わせるように上下動する腹。
まだ気絶しているようで、だらし無く開いた口からは涎が垂れていた。

捻った布には後頭部までまわす位の余裕はない。
なので、すぐに吐き出せないように口の中に詰め込んだ。
顎をこじ開け、ぐいぐいと小汚い布を入れていく。
窒息されてはまずいので、半分程詰めた所で手を止める。
と、ちびしぃはしたぶくれのお世辞にも、いやお世辞でも美人とは言えない顔になってしまった。

「・・・うわ」

白目も剥いてしまっているし、これでは新しい妖怪である。
メイは見た目だけの美人を自分で崩した事に、少しだけ後悔した。

とりあえずだがさるぐつわを噛ませることができたので、早速虐殺を始める。
ナイフを手に取り、ちびしぃのか細い右腿に刃を宛がい、引いた。

「・・・」

血がいくらか吹き出るが、ちびしぃに反応はない。
桃色の脚はぱっくりと割れていて、見るだけで痛々しいというのに。
まだ脳の酸素が足りていないのか、はたまた鈍いだけなのか。
メイはちびしぃの様子を伺いながら、更に刃を進めた。

148:2007/08/06(月) 23:42:18 ID:???

三、四回と滑らせ、骨が見えた所で異変が起こった。
わずかだが、桃色の身体が痙攣している。
恐らく、覚醒し始めているのだろう。
ならば、もっと大きい刺激を与えれば起きるはず。
メイはそう考え、ナイフを骨に刺す形で振り下ろした。

「ーーーッ!!!」

ばきん、と骨が割れる乾いた音とともに、ちびしぃの身体が跳ね上がる。
口を押さえていた時と同じ声をあげ、ばたばたと暴れだした。

頬が膨らむまでに布を詰め込んだので、そう易々と吐き出せはしない。
とてつもない痛みの中、そのうえ叫びながらそれを行うのも困難だ。
声にならない声を精一杯あげ、ちびしぃは酷く発狂した。

実はというと、骨を割った時にもう脚は切り離していた。
ここでその脚を見せてしまえば、更に煩くなることはやらなくてもわかる。
寧ろ、メイからすると暴れるのを止めて欲しいところ。
もう片方の脚は激しく動き、押さえ込むのも面倒だ。
静かにしてもらおうと、半ば投げやりに手を打つ事にした。




「見て」

ちびしぃの横でしゃがみ、眼前に自分の左腕を持っていく。
すると、一瞬にしてちびしぃの顔は青ざめ、暴れるのを止めた。

炭化し、焼けきれなかった個所は血と膿でドロドロになった腕。
やはり他人からすると、この腕は生理的に不快感をもたらすものらしい。
自分でもグロテスクだとは思うが、そこまで嫌がられると正直遺憾だ。
ただ、見せた者は皆黙り込むから、便利といえば便利である。

そんな左腕でも、メイは一つ気掛かりな事があった。

「・・・この火傷はね、一ヶ月前に虐殺厨から貰ったんだよ」

自分に問うように、ちびしぃに囁く。
黒い掌を桃色の頬に宛て、艶かしく指を這わせる。
すると、ちびしぃの身体はメイの悍ましさと恐怖感で一気に震えだした。

一ヶ月もの間、全く治らない怪我なんて聞いたことがない。
炭化した所はともかく、血が未だに止まらないというのはおかしい。
壊死しないだけ、使えるだけマシではあるが―――。

「ム・・・ムゥ、ウ・・・」

メイの心とは裏腹に、ちびしぃはひたすら震えている。
焦げた指から逃げるように首を傾け、強く閉じた瞼からは大粒の涙。
布の詰まった口からは、抑止を願っているらしき声が漏れていた。




「哀れむことすらしてくれないんだね」

溜め息まじりに小さく言い放ち、立ち上がる。
自分に手に穴を開けられて、かつ脚を切り落とされた者にそんなことを願う方が無理があった。
が、やはりこの傷だらけの身体を否定されると、僅かながら怒りが込み上げてくる。

痙攣とも取れる程震えているちびしぃの左脚。
今度は股の部分、胴体に一番近い関節に刃先を突っ込んだ。

「!!!」

同時にその桃色の脚は暴れだし、爪先をぴんと伸ばすような状態になる。
ナイフを刺したままなので、ちびしぃが脚を動かす度に切り込みがじわじわと広がっていく。
流れ出る血の量も増え、美しい毛並みは体液と土の混ざった泥で汚れていった。

このまま観察するのも一興だが、それでは苛立ちを残して終わってしまいそうだ。
メイは暴れ狂う脚を、その汚らしいと見られた左手でわしづかみ、押さえる。
そしてナイフを鋸のように前後に走らせ、肉を切り裂いていった。

「ムゥ!! ムゥゥー!!!」

まだ叫び続けるちびしぃに、どこにそんな元気があるのかと問いたくなる。
打ち付けた両手からは血が溢れているものの、外れる気配は全くない。
首を左右に振り続け、頬を地面にこすりつけているせいか顔まで泥塗れになっていた。

149:2007/08/06(月) 23:43:07 ID:???

切り込みを入れること数回、ちびしぃの脚に異変が起きた。
地面に穴を開けそうな勢いで暴れていたのが、段々動きが鈍くなってきている。
上半身は相変わらずだし、疲労してきたわけではなさそうだ。

左手を離し、ナイフを浮かせた所で理由がわかった。
ちびしぃの脚の筋肉の、大半を切断していたからだ。
こうなれば、後は引っ張るだけでちびしぃの両足はなくなってしまう。
メイはナイフを置き、傷口の両端を掴んで一気にちぎった。




「・・・?」

ちびしぃが変だ。
脚は既に切り離したのに、叫びのトーンに変化がない。
もしかして、神経も一緒に切断していて、感覚はとうの昔になくしていたのだろうか。
そう思ったメイは、両足を持ってちびしぃの眼前に置いた。

「これ、君の」

「・・・!! ムゥゥゥゥゥ!!!」

切断面から見せたせいか、その発狂っぷりに拍車が掛かる。
エメラルドグリーンの瞳は、血走った目と奇妙なコントラストを醸しだしていた。

(頃合い・・・かな?・・・)

流石にこれ以上痛め付けてしまえば、ちびしぃはいろんな意味で飛び立ってしまうだろう。
味のなくなったガムを噛みつづける余裕はないし、仕上げに取り掛かる。

脚をその場に置き、ちびしぃの後方にまわる。
次に脚のあった所の真ん中にある秘部に、ナイフの刃先を上にして入れる。
二種類の体液が漏れだすが、ナイフはもう血で塗れているので気にしない。

更に奥深くに入れ込むものの、未だに反応は変わらない。
多分、痛覚神経を刺激し過ぎて感覚が麻痺しているのだろう。
或いは、錯乱の度合いが痛みを感じない程までになっているのか。

刃を押し上げ、秘部から腹を裂いていく。
ちびしぃの体液が手を濡らし、その生臭さにうっすらと吐き気を覚えた。
と、胸の辺りで刃が止まってしまい、それ以上先に進まなくなる。
考えるまでもなく、そこには肋骨があった。

「・・・このまま喉までヒラキにしてやろうと思ったのに」

引くだけでは切れない骨に重ね、ぬるぬると滑る手とナイフ。
そのような状態では、いくら力を入れようが意味がない。

忘れかけていた苛立ちが募り、冷静さが失われていく。
半ば投げやりになったメイは、ちびしぃの身体からナイフを抜き、逆手に持ち直す。
そして、血だらけの桃色の胸目掛けて、殴り付けるように振り下ろした。

「グ、ブッ!! ブギャエエェェェ!!!」

と、口から布を飛び出させ噴水のような吐血をするちびしぃ。
その様はほんの少し美しく、とてつもなくグロテスクだ。

心臓と肺を貫き、なおかつ拳も加わった一撃。
穴があき、圧迫された胸から体液と空気が一気に口へと向かった。
そうなれば、詰め物も何もかもが口から飛び出る。
命の灯を爆発させられたちびしぃは、空に撒いた吐血を顔に浴びて事切れた。




釘ではなく骨が掌を穿ち、十字架でなく土への張り付け。
まるでキリストのようではあるが、神々しさなんてどこにもない。
腹を槍で貫かれるどころか、グシャグシャに裂かれているし、後光は唯の汚い血。
哀れといえば哀れである。

「・・・そうだ」

凄まじい姿になったちびしぃを眺め、何かを思い付いたメイ。
ナイフを再度持ち直し、露になった臓器に手をかける。

くすんだ色をしていても、しっかりと光を反射するはらわたは、気持ち悪い事この上ない。
だが、それは大元を探れば『肉』の一つである。
旨い不味いの理由から、一般ではお目にかからないものだって一応食べられる。

ちびしぃだから証拠を放置してもいいのだが、アヒャの腕だけでは満足していない胃袋がある。
水場もあるし、どうせなのでとメイはちびしぃを食べることにした。

150:2007/08/06(月) 23:43:42 ID:???


摘出したのは、肝臓と小腸、大腸の一部。
消化器官は食べやすい部類には入るが、まるまる取り出すのは無理があった。
だだ長いそれを一々引っ張り、更に中を洗浄するのは骨が折れるからだ。

臓器と布を抱え、ナイフを口にくわえて水場に向かう。
メイとしては早くそれを洗い、胃袋におさめたい所だったが、その前に身体が汚れている。
形だけでも清潔にしておかないと、雑菌のせいで訳のわからない病気を発症しては本末転倒だ。

蛇口の下に屈み、水を浴びる。
生ぬるい水が全身を包み、ちびしぃの体液を落としていく。
腕だけならまだしも、腹にも体液がついてしまっているので、少々面倒である。
自分の毛の色が見えた所で、今度は虐殺で使用した布を洗う。
そして水気を絞り、身体を拭いていった。

準備が整った所で早速、小腸の中に水を注ぎ、洗浄する。
消化されかけた物や排泄物が押し出され、やがて透明な液体だけが流れてくる。

(こういう所に、必ず蛇口があったら嬉しいんだけどな)

水の流れる音を聞きながら、メイはそう思った。




全てを洗い終え、食事にかかる。
小さい布の上に、山のように置かれたはらわたから、まず肝臓を取る。
次に食べやすくする為、ナイフで器用に切り込みを入れていく。
皮や筋肉とは違った感触と切れ味に、楽しさすら感じた。

「・・・ん」

一切れを口に運べば生臭さと鉄分が鼻をつき、柔らかくとも固い歯ごたえが口の中に広がった。
加虐者の腕や脚とは違い、決して美味ではないが独特の味がある。
メイは更にナイフを走らせ、せわしなく肝臓にがっついた。

小腸や大腸は非常に固いせいか、刃も入りづらいしより細かくしないと噛み切れない。
だから、肝臓は全部平らげたものの、腸だけは半分近くを残してしまった。

(洗い損しちゃった、かな)

メイは布で口を拭き、余った腸はちびしぃに投げ付けた。




その時だった。
べしゃり、と腸がちびしぃに当たると同時に、通りに人影が見えた。
メイは『しまった!』と思うより先に、猛ダッシュでその場から逃げ出す。
とはいえ、この閉所の最奥までは確認していないし、運が悪いと袋小路だ。

「っ! みんな!! こっちだ!!」

だから、AAに見つかろうが何だろうが、メイは通りの方へと駆けた。
どうやら影は先程の虐殺厨の仲間のようで、その形相は凄まじかった。

股をくぐるのが二回目となると、相手もやすやすと逃がしてくれはしない。
そいつは仲間を呼びつつ、その手と目はこちらを捕らえんとばかりに構えていた。

「あああぁぁぁァァ!!」

対するメイは、自分に鞭を打つことを兼ねた咆哮を響かせた。
姿勢を低くしたまま駆け、ナイフの切っ先を相手に向ける。
そして、すれ違い様に襲ってきた手を切り付けた。

「ぎゃあっ!?」

相手はよろめき、道を開けてしまう。
そこからはメイの土壇場であり、忍者か兎かの如くその場から姿を消した。






その後、救急車から本物の警察が来る程までに、事件は発展する。
アヒャの仲間は、友人が殺されたことに理性を失いかけるまで怒り、悲しんだ。
そのせいか、アヒャに襲われていたちびギコを、片腕が黒い少年とグルだったと決め付けてしまう。

警察も報道陣も、そのことを追究せずに鵜呑みにしてしまった。
それ以降、住人は被虐者が片腕が黒い少年と繋がりがないかを気にしながらの虐殺しかできなくなった。
『一人で虐殺は行うな』。『警戒心を怠らず、みんなで楽しい虐殺を』。そんな用語まで生まれてしまう始末。
最終的に、この商店街は街から破棄され、洗浄という名の大虐殺が行われる。

―――これはまた、別の物語。
   もし機会があれば、またその時に。

151:2007/08/06(月) 23:44:53 ID:???


今は、日が最も高い位置に昇り、下降していこうとする時間だ。
朝と昼の兼用として、アヒャの片腕とちびしぃの内臓を食べたメイ。
場所を移し、今度は夜の為の食べ物と寝床を探していた。

商店街からそれなりに距離のある、田舎っぽさが残る地域にメイは来た。
家より畑の方が目立ち、起伏の激しいところから、より身を隠しやすい。
その分、毒をもった虫や蛇など、虐殺厨以外の危険も増えてくる。
狩場としてはあまり利用もしていないここで、多少のリスクを背負いながらの探索。




隣り合わなかった歯車は、新しく噛み合っていく。




「・・・」

聞こえるのは、風が木を撫でる音と、虫の声だけ。
虐殺厨が歩き回っていないのは嬉しい事だが、少しでも騒げばすぐに見つかりそうだ。
細心の注意を払いながら、メイは地理を把握するためひたすら歩く。

土でなく、芝生のように雑草が生い茂る公園についた。
遊具は大半が錆び付いていて、とてもだが遊べる状態ではない。
そんな公園にメイは入り、警戒しながら辺りを散策する。

と、視界の中で公園にそぐわない何かを見つけた。
端の方に視線を移すと、そこにやたらと大きい段ボールがあった。
遊具とは正反対にまだ新しめのそれは、小さい鳴き声を漏らしてかすかに揺れている。

覗くまでもなく、あの中にはしぃの親子がいる。
ナイフをにぎりしめ、早速その段ボールへと近付く。
が、二、三歩と歩み寄った所で、メイは足を止めた。

(・・・まだ、様子見だけにしておこう)

身に降り懸かる危険が殆どない所で、こういった者を発見するのは幸運ではある。
しかし、その幸運を全て拾わなければ死ぬというわけではない。
とりあえずこの家族は保留として、他の場所へと移動する。




公園よりさほど離れていない所に、廃屋があった。
蔦で被われた壁と窓に、瓦の重みにすら堪えていない屋根。
フェンスと木に囲まれ、ボロボロの木材が積まれた庭。
近くにはAAが住んでる家屋があまりなく、寝床として利用するにはいいかもしれない。
それまで、虐殺厨にバレなかったらの話だが。
メイは建て付けの悪い扉を出来るだけ静かに開き、足を運んだ。

中に入ってみると、外観よりもあまり形を崩していなかった。
たいした大きさではなかったのに、家具がないせいか広く感じる。
奥の方は畳と大黒柱が主なつくりで、仕切りとして扱われる戸や襖は全部取り払われていた。

(かくれんぼは、できないかもね)

押し入れを覗き、天井裏は潰れているのを確認すると、メイはそう思った。
更に案の定ではあるが、台所やトイレ、風呂場などの蛇口を拈っても、水はでなかった。

雨と風をしのぐだけしか、他にこの廃屋の使い道はなさそうだ。
とりあえずここも保留とし、外に出ようとする。

「・・・あれ?」

入り口の扉が、何故か閉じていた。
もしかして、既に誰かがここに目を付けていたのか。
考えるより先に、踵を反し中庭へと駆ける。

おかしい。
ちゃんと警戒し、他人の気配がないかを確かめてここに来た。
今だって、他人の気配も何もない。
なのに、それなのに―――。

「ッ!?」

中庭に飛び込んだ所で、やっと他人の気配がした。
それも、血の匂いと殺気を醸し出しながらの凄まじいもの。
メイは即座に向き直り、ナイフを構える。

まるで呪いか何かをかけられたかのように、身体が上手く動かない。
普通なら、ここで対峙なんて馬鹿なことはしない筈なのに。
『逃げられない』。
もしかすると、思考よりも素早く動き、更に速く身体はその答を出していたのかも。
でも、折角手にした『生』を、もう手放す事になるなんて。
そんなの、認めたくない。

152:2007/08/06(月) 23:46:16 ID:???

破裂しそうな心臓と、粗い呼吸を必死で整えながら、メイは考える。
どうにかすれば、この状況から逃れ出る方法がある筈だ、と。
だが、目の前にいる相手を、

自分は、この『化け物』を相手に出来るのだろうか。

「やっと見つけた・・・お会いできて嬉しいわ」

艶かしい動きと声色の、奇妙な風貌の女はそう言った。
全身は痂と火傷で茶褐色になっていて、見るだけで痛ましい。
それに対し、指先に一つ一つ刃をつけたかのように、鋭い爪を持っている。

メイは、そいつに殺されかねないというのに、どこか自分と重ねてしまう。
傷だらけの身体と、ナイフ代わりの爪。
もしかしたら、このヒトも生きる為にこうしているのでは、と。

「入り口を閉めたのは、キミなの?」

恐る恐る、問い質してみる。

「ええ、そうよ。いつもあなたの事、見ていたわ」

「・・・殺さないの?」

「殺してほしいの?」

「・・・ごめんなさい」

「あはっ、面白いコね」






あっさりと打ち解けてしまった。
どうやら、先程の威圧は自分をその場に縫い付ける為のようだった。
メイは殺気に怯えた事を恥じ、女は驚かせた事を謝罪した。

女がしたことは、予想とほぼ同じであったが、目的は正反対だった。
AAをおもちゃのように扱い、種族を無視した虐殺を生き甲斐としているようだ。
というのも、女曰く『種族なんて知らなかった。いろんな色をしているのはそのせいだったの』。とのこと。
少しどころか、物凄い勢いで世間知らずの女に、メイは別の意味で恐怖した。

質問してばかりでは相手に失礼なので、何か知りたい事はないかと聞いてみる。
すると、女は一瞬悩んだ後、目を輝かせながらこう言った。

「私ね、私、あなたのこと、好きなの」

「え?」

「『片腕が黒い少年』って、いろんな所で聞いたの。ほら、あなたの腕、黒い」

聞き慣れた言葉を放ちつつ、女はメイの左腕をつつく。
世間知らずでやりたい放題な考えを持つ者にまで、噂は広まっているのか。
メイは落胆するが、女は逆に喜びを隠せないという態度だ。

「ちいさい身体なのに、いっぱいおおきいいきものを殺してるんだもの。凄いわよ」

と、女は今までにメイがしてきた事を話していく。
ほんの数時間前の、屋根から飛び降りて虐殺厨を殺したことから、逃げ出してすぐの殺人まで。
断片的ではあったが、生き証人のような女の記憶力とストーカーぶりに身震いしてしまう。

「一応、気配とかに気をつけてたのに・・・」

「遠くから眺めていた時もあるわ。いきものと遊ぶより、あなたを見ていた方が楽しかった」

隙を見つけておいて、殺さなかった理由はそれのようだ。
彼女の言う『遊ぶ』、つまり虐殺をしている時、やり方などが自分好みだとか。
それに加え、死体となったAAを解体し、食事をする様がかわいくて仕方ないとのこと。
その事に、メイは苦笑いしかできなかった。

「今日は、もう遊ばないの?」

何の含みのない、純粋な質問。
もう警戒する意味もないので、そのままの気持ちを言ってみた。

「いや、夜の分の肉が必要なんだ。どこにあるかはもう見つけてるけど」

「じゃあ、私がとってくるわ」

「・・・えっ?」

意外な返答に、片方しかない自分の耳を疑った。

「お礼とお詫びを兼ねて、お手伝いがしたいのよ」

153:2007/08/06(月) 23:47:28 ID:???

「お詫び?」

「実はね・・・」

申し訳なさそうに目を逸らし、彼女は続ける。
自分がしてきた虐殺と、それが一般の世界に与えた影響を。

『物陰に身を潜め、襲い掛かる』、と虐殺と行動のあり方が酷く似ている二人。
しかし、彼女の場合は、現場に立ち寄った者をも殺している事が多い。
ということは、証拠は残しても目撃者はいないということになる。

後は至極簡単に考えつく流れだ。
ろくすっぽに捜査しない警察は、似たような事件とそれをごちゃまぜにする。
彼女の話題が表に出なかったのも、おそらくそれが原因だろう。

「じゃあ、行ったこともない所でも噂が流れてたのは、キミだったの」

「そうかもしれないわ。ごめんなさいね、あなたの邪魔しちゃって」

確かに、迷惑だったかもしれない。
初めてやって来た地域でも、何もしていなくても追われている時は最悪だった。
どうしてここの住人が知っているのかと、見出だすことができない答を探すのにも神経を擦り減らした。

「知らず知らずの内に、嫌がらせまがいのことをしたのだから、ね」

「・・・」

彼女の思考や、その心内は口から出た言葉が全てだった。
疑心暗鬼になる必要もなく、これなら任せても良いかな、とメイは思った。

「この近くの公園で、しぃを見つけたんだ」

「?」

「子供がいたようだし、僕一人だと手に余りそうだから、それをお願いしたい。かな」

「わかったわ。我が儘聞いてくれて、ありがとう」

「こちらこそ」



日も傾き、木々の影が伸び始める時間。
その影は暑さを凌ぐには十分過ぎるどころか、薄暗ささえ感じる公園に二人は来ている。
入り口から五メートル先に、その段ボールはあった。

「アレね?」

「うん」

大胆に公園を横切る女に対し、メイは端の方をこそこそと走る。

天敵となる虐殺厨がいないとわかっていても、やはりああいった真似はできなかった。
背後から襲われただけで、隙をつかれてしまっただけでも終わってしまう命。
彼女のように、殺気だけで獲物を捕えたり、虐殺厨を簡単に返り討ちにできるような力があれば。

(もっと・・・強くならないと)

そんなことを考えながら、ひたすら気配を殺し、歩く。
段ボールとの距離は縮まり、女はそれの前に立ち、メイは近くのベンチに身を隠す。

「こっちで見ないの?」

「周りのこととか、念のため」

「ふうん」



どこに基準を定めたらいいのかはわからないが、とりあえず女が段ボールを覗き込んだ所から。

―――虐殺が、始まった。

「あら、あら・・・かわいい子達ね」

すやすやと寝息をたてて、一匹の親しぃと三匹のベビしぃが丸くなっている。
そんなほほえましい光景に、不本意ながら笑みがこぼれる。

早速段ボールの中に手を突っ込み、先ずは親しぃの首根っこを掴み、ひょいと持ち上げた。
皮に爪が食い込んでも、それでもまだ寝息をたてつづけている。
あまりの熟睡っぷり、或いは神経の図太さに、少し呆れてしまう。
が、この可愛い寝顔が血と涙でぐしゃぐしゃになるのを想像すると、先程とは違う意味で笑ってしまう。

「ふふっ」

女は親しぃの頬にキスをすると、そのまま後方に投げ捨てる。
桃色のAAは、物凄い勢いで芝生の上を滑り、公園の端にある木にぶつかった。

「シィィィィッ!?」

どうやら木に衝突したショックで覚醒したようで、親しぃは急に泣き叫ぶ。
状況を把握するどころか、草と土塗れになった擦り傷だらけの身体ばかりを見て悶えているばかりだ。

その隙を狙い、女は段ボールの中のベビを次の目標にする。
どうやらこちらも目を醒ましたようで、三匹共に覗き返していた。
親は外で酷い目にあっているというのに、小さく「チィ」と鳴き擦り寄ろうとしてきている。

154:2007/08/06(月) 23:48:07 ID:???

(まあ、まあ。綺麗なオメメ)

幼い頃であればひたすら清らかであるベビしぃ。
それだけを切り取って見てしまえば、何故こんな可愛い者達が殺されなければならないのかと考えたくなる。
が、今ベビの目の前にいる者は『化け物』である女だ。
慈愛の心なんて、母性なんてかけらも持っていない女は、もはや虐殺の二文字しか頭になかった。

「それ」

爪を翻し、一薙ぎ。
轟音と共に段ボールは爆発し、形を失って辺りに散らばった。
中に居たベビ達も、同じように様々な大きさの肉片となって投げ出される。

(うわ・・・!)

小道具もなしに、瞬きをする間にそれを細切れにした。
その瞬間を見ていたメイは、女の持つ力に、恐怖と興奮という二つの感情が重なる。
笑う様とその見てくれは畏怖の象徴でもあり、また目標でもある。

メイの求める『生き延びる』という願いは、彼女が全てを体言していた。




女はまだ悶えていた親しぃの前に立ち、こちらに気付くのを待つ。

「イタイ、イタイヨゥ・・・ハニャッ?」

「おはよう、お寝坊さん」

親しぃは女に顔を向けた途端、一気に青ざめた。
次にそいつの後方に広がる赤と、ぐしゃぐしゃになった段ボールを見て、絶望した。

「ア、アァ、ソンナ・・・ベビチャ・・・」

「あなただけは形を残してあげる」

呟き、鯉のようにぱくぱくと動く親しぃの口の中を覗く。
タイミングをあわせ、それが大きく開いたところで、爪を突っ込み舌をちぎった。

「ッ!!? ギャブアアァァァ!!」

血が噴水のように口から溢れ、言葉でない声がこだまする。

「ゆっくり遊ぶ暇はないわ。さあ、さあ、噛み締めましょう」

顔を押さえ突っ伏す親しぃを無視するように、桃色の肩に手をまわす。
そして、肩甲骨ごと引きはがすように、腕をもいだ。

「ギャッ!! ブアアアァァッ!!! ガ―――」

突っ伏した状態から、飛び上がるような形で海老反りになる。
二、三回叫んだかと思うと、急に声をあげるのを止め、仰向けに倒れた。

どうやら上を向いたせいで、口内に残っていた舌が落ち、気道を塞いでしまったようだ。
両腕なしにがくがくと暴れる様は、まるで新しい生き物のよう。
呼吸をしたくて必死になり、泣くことすら忘れてしまっているようだ。

「まあ、まあ、面白い動きね」

そんなことを言いつつも、虐殺の手は休めない。
もぎ取った腕を丁寧に置き、暴れ狂う脚を押さえ付ける。
しかしなかなかに抵抗してくるので、多少荒く脚の付け根を潰した。

と、親しぃは身体を弓のように張り、痛みに酷く悶絶する。
喉に落ちた舌のせいで、苦しさに苦しさが重なっていく。
段々とその動きは鈍くなっていき、ついには肉塊となった。

「・・・ふふ、お疲れ様」




(・・・凄い)

その一連の流れは鮮やかでもあり、指先一つ一つの動きすら美しかった。
冷静に見れば、奇形とも化け物とも取れる姿である彼女に、メイは心を奪われていた。
巷では本当に化け物と呼ばれている、あの女に。

「これでいいかしら?」

親しぃの腕と脚をまとめて抱え上げ、女はメイに問う。

「うん。できれば、身体の方も持ってきてほしいかも。腕は僕が持つから」

「まあ、まあ。見た目よりも食欲旺盛なのね」

と、二人はそんなやり取りをして、廃屋へと向かった。
公園には、嵐が通ったかのような跡を残しつつ・・・

155:2007/08/06(月) 23:49:13 ID:???


夜になり、望月が廃屋を照らす。
青白く光る自分の身体と、彼女の横顔がなかなか幻想的だった。

持ってきたしぃの遺体は、残さず綺麗に食べてしまった。
二人居たからというのが原因でもあるし、なにより寝床の近くで腐らせてしまったら不快でしかない。
文字通り骨と皮だけになったしぃは、庭に散らしておいた。




「今日は楽しかったわ。ありがとう」

横になろうとした時、女は唐突に話し掛ける。
振り向けば、自分に背を向けて月を眺めている彼女の姿があった。

「どこか行く場所があるの?」

「ないわ。ただ、一緒に居たら目立っちゃうかもしれないでしょ」

まだお話したいけど、と彼女は続け、俯く。
メイだって、その通りとは思いつつ、まだ彼女と一緒に居たいと心のどこかで願ってしまっていた。
だが、それではお互いの為にならない。

「・・・」

「またいつも通り、それぞれ違う場所で生きましょう」

そう言って、彼女はゆっくりと歩き始める。

「待って!」

「・・・何?」

「名前・・・教えてなかったから。僕は、メイって名前があるんだ」

風が、頬を撫でる。
ほんの少しの間だけ、同じ時間を過ごしただけなのに。
何故こうも惹かれてしまったのか。
それは、メイにも、女にも、誰にもわからなかった。

「・・・私ね、子供の頃、白くて、ガラス一枚しかない部屋で育ったの」

「えっ?」

「大きくなって、自分からその部屋を出た時、ガラスの下に『V』って彫られてた」

「それが、君の名前?」

「わからないわ。その頃はずっと、遊ぶことと食べることしか頭になかったから」

「・・・」

「メイ君・・・だっけ。また、機会があれば、その時は一緒に遊びましょ」

そう言うと、Vはその場で跳躍して夜の闇に消えた。






僕が、被虐者でなければ。
Vが、化け物でなければ。
この街に、虐殺がなければ。

いろんな者に不思議な体験をもたらす少年は、そんなことを想っていた。
生き延びる事以外にも、新しい願いが湯水の如く溢れ出す。

―――また、会えるかな。
   いや、次は僕から逢いに行こう。

片腕が黒い少年は、次に叶えるべき事を定め、床についた。


続く


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