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( ^ω^)ヴィップワースのようです
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タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html
無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす
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(;"ゞ)「……んなッ」
('A`)「………ご名答」
見れば、右手に握られていたはずのククリナイフは、忽然と消えている。
その代わりにデルタの胸元に向けて、逆手に握られた左の一撃が突き立てられようとしていた。
左から右、そしてその逆へと、まるで手品のように持ち手を入れ替えながら攻撃しているのだ。
フォックスの言葉で、それに辛うじて気づくことが出来たデルタだが、左方に仰け反らせた
身体を反転させる間など与えてくれない、あまりに絶妙なタイミング。
もはや運任せとばかりに、ただがむしゃらに自らの小さなナイフで致命打を防ぐ他なかった。
(;"ゞ)(〜〜〜〜〜〜ッ!!)
目の前がぼんやりと真っ白になる程の衝撃と、遅れてやって来た恐怖。
しかし、自らのナイフから伝わってきた確かな感触に、デルタは生を実感する事が出来た。
デルタのナイフの持ち手の合間を縫って穿たれたククリナイフの刃は、
デルタの持つナイフの”柄”により、辛うじて受け止められていた。
('A`)「どうだ……”暗殺の一撃”は?」
───「一瞬でゼロから加速する殺意に、死を連想出来たか?」───
(;"ゞ)「─────野郎ッ!!」
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ナイフの刃と柄を交わした状態で、なおも言葉を紡ごうとしていた男から、
強引にナイフを弾いて大きく飛びのくと、デルタは再び距離を取った。
思わず身に着けているベストから露出した腕をさすり、肌が粟立ちはじめていたのを抑え込む。
爪'ー`)y-(今ので分かったろ、デルタ……こいつ)
(;"ゞ)(えぇ………かなり使いやがる)
気を抜いたらすぐにでも肩で息をしてしまいそうな程の疲労感、それが、
たった1合の立会いで、今デルタの身に一瞬で押し寄せていた。
('A`)「これが殺しの本職の力量……って奴さ」
(;"ゞ)「………褒められたもんじゃあ、ねぇさな」
('A`)「どうでもいい……さてお二人さん。俺の前に、無残な死骸を晒すとするか?」
爪'ー`)y-「………」
やはり、どうあっても引き下がるつもりは無いらしい。
たかだか数ヶ月分の生活費の銀貨の為か、それとも、暗殺者としての矜持か。
そんなものの為に、自分が死ぬのも相手が死ぬのも馬鹿らしい、フォックスはそう感じていた。
( "ゞ)(どうします…?)
だから、最大限にリスクを軽減し、誰もが損をしないようにこの場を収めようと、
再び口を開く。目配せを送ってきたデルタを手で制し、ナイフを持つその手を下ろさせて。
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今度は駆け引きからではない、本日三度目となる交渉を、男に持ちかけた。
爪'ー`)y-「なら……最後に、もう一度だけ交渉をしたい」
('A`)「聞き入れると、思うのか?」
爪'ー`)y-「あんまりな……だけど、今のあんたにとって悪い話じゃないはずさ」
爪'ー`)y-「そして、交渉の前にもう一度だけ言っておくぜ?」
爪'ー`)y-「この最後の交渉が決裂して殺し合いになっても、そりゃ確かに俺達は素人だ、
あんたの言ってたとおり、どっちかは道連れにされて死ぬかも知れねぇ」
('A`)「………」
爪#'ー`)y-「だがな……例えどちらかがあんたに刺されても、そいつはあんたの動きを止めて、
もう一人が確実にあんたの喉首を掻っ切る。断言するぜ───これだけは」
('A`)「………ふぅん」
強い意志が込められたフォックスの瞳と、言葉。
しばしその言葉にじっと耳を傾けていた様子の男だったが、
最後にはおどけたように、肩をすくめて見せた。
( "ゞ)「お頭、何を……?」
爪'ー`)y-「いい、デルタ。お前今いくら持ってる?」
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唐突に交渉を打ち出したフォックスの様子に戸惑うデルタをよそに、
その腰元に付けられた銀貨入りの麻袋をひったくると、その中身を確認していた。
爪'ー`)y-「ひぃ、ふぅ…ま、ざっと250spってとこか」
(;"ゞ)「ちょ、お頭?」
('A`)「………?」
さらに、自分の腰元に結び付けられていた銀貨入り袋を取り出すと、
それら二つを束ねて男の方へと投げ渡した。空いた方の手でそれをはし、と掴む。
('A`)「何のつもりだ?」
男の様子を気に掛ける事もせず、フォックスは続けた。
爪'ー`)y-「しめて、450spって所か……そいつを受け取って、ゴードンの所に帰ってくれ」
爪'ー`)y-「そんで、今日ここで見た事は全て忘れるこった」
(;"ゞ)「ちょ、それじゃあ俺の今月の生活が……!」
('A`)「ハッ……臆したか」
爪'ー`)y-「いーや、違うな。仮に俺らと刺し違えたところで、どう上手く事が
運んでも、安いプライドだけを抱えたまま、あんたはあの世行きだ」
爪'ー`)y-「それなら、何事も無くその450spと追加報酬を持って立ち去った方が利口ってもんだろ?」
('A`)「追加報酬だと?」
-
爪'ー`)y-「あぁ、ゴードン=ニダーランの奴にはこう報告すればいい」
爪'ー`)y-「”アンタの家に忍び込んでいたのは、盗賊ギルドのグレイ=フォックスだ。
ギルドの金だけでは飽き足らず、夜な夜な街の人間の家に忍び込んで、
金品をせしめていた”────とかかな」
(;"ゞ)「お頭!?何言ってんです、そんな事したらお頭だけじゃなくウチの
ギルドの奴らも治安隊の奴らにしょっぴかれるんじゃないですかい!」
爪'ー`)y-「なぁに、そこでアンタが一芝居打ってくれりゃあ全て丸く収まるさ。
俺個人が盗みを働いていたのを目撃して、とり逃がした事にすりゃあいい」
('A`)「……面白い事考えるな、お前」
爪'ー`)y-「んで、翌日には俺がこの街から消えりゃあ、万事オッケーだろ?
上手くすりゃ、あんたはゴードンの奴からも報酬がもらえるって訳だ」
(;"ゞ)「消えるって……なーに言ってやがんですかいッ!」
つらっとして、淡々と自らが即席で考えた筋書きを語るフォックス。
自分が置き去りにされたまま話は進んでいき、デルタは狼狽するしかない。
そんな中で、手元の銀貨入りの袋をじっと眺めながら、男は考えこんでいる様子だった。
部下三人の身を案じながら、自分一人でこの男と渡り合っていた先ほどならば
要求を呑む事は有り得なかった。だが、部下達を逃がした今となっては、
自分とデルタの二人を倒した所で、300spの報酬しか手に入らないのだ。
──デルタと一緒の今ならば、決して勝てない状況ではない。
たとえどちらかが死んでも、負けはしないという確信めいたものがあるからだ。
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数の上では有利なこちらだが、それでも、臆することなくククリナイフを携えるこの男は、
やはり明らかな凄腕。依然こちらへ牙を向いてくるのも、プロの暗殺者としてのプライドだ。
だからこそ、自分やデルタの命が脅かされるたった僅かなリスクも、見過ごす事は出来ない。
現在の盗賊ギルドの支柱として欠いてはならない存在は、自分よりもデルタの方なのだ。
フォックスやデルタにとって、もはや故郷と言ってもいいこの街の人々。
今は貧しさに身を寄せ合うこの街の皆が、いつか笑って暮らせるようにしたかった。
だからこれから、リュメの盗賊ギルドはより成長し、発展に貢献しなければならない。
豪族気取りのゴードン=ニダーランなんかに今ここで自分達の尻尾が捕まえられて
しまえば、その日々が訪れるのも遠い先の事になってしまうだろう。
いつしか自分達の中に生まれていた、故郷を想うという気持ち。
それは、貧民窟で置き去りにしてしまった親達の姿を、
圧制に苦しむ街の人々に投影していたからなのかも知れない。
男が、やがて長らくつぐんでいた口を開いた。
('A`)「まぁ、悪くない」
内心、聞きたかったその言葉。
しばしの長考の後、男はそう言ってククリナイフをふところへしまった。
リスクとプライド、そして金を天秤に掛けて、納得がいくだけの交渉内容だったようだ。
爪'ー`)y-「ご納得、頂けたかな?」
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('A`)「ま、いいだろう……交渉成立だ」
爪'ー`)y-「そうか。なら確認だ………”俺達はここから無事に逃がしてもらう”」
爪'ー`)y-「そして、”ここで起きた本当の出来事の他言は一切無用”」
(;"ゞ)「………!」
デルタがフォックスの肩をぐっと手で掴み、強い視線を投げかけていた。
だが、フォックスはそれを意図して無視し続ける。
('A`)「ま……いいだろう。こっちもさっきの獲物を取り逃がした損失を埋められるしな」
('A`)「だが、こちらにも条件がある」
('A`)「俺はあと二日間、このリュメで滞在するつもりだ。その間に一度でも
この街でお前の姿を見かけたなら、確実に殺す……いいか?」
爪'ー`)y-「解ってる、さっきも言っただろ?今夜の内に行方を眩ますさ」
('A`)「それでいい。依頼人に俺が話す言葉と矛盾が生じては、信用も失墜するからな」
('A`)「それと、お前さんに対しての個人的な感情だが」
今まで殺意を向けてきた相手が、一時的に敵では無くなる事への安堵か、
自分の中で張り詰めていた部分を逃がすかのように、フォックスは大きくため息を漏らした。
爪'ー`)y-「これで話は終いだな……さて、どこかへ行ってもらえるか?」
「やれやれ……」と、男もまたため息をつくと、部屋の入り口の脇へと逸れて、
そのまま腕を組みながら壁に背をもたれた。顎を引いて合図を指し示し、通行しろと促す。
-
('A`)「背中にナイフを突き立てられたらかなわんからな……先に行け」
爪'ー`)y-「なるほど…でもまぁ、さすがにそんな卑劣なマネはしないけどな」
('A`)「盗人がよく言うぜ…」
何事もなかったように、フォックスは前だけを見て出口へと歩く。
かたやデルタは警戒を完全に取り払う事なく、半身になりながら男の目を睨みつける。
男とすれ違う瞬間、ぼそりと一言だけ呟いた。
('A`)「ドクオ」
爪'ー`)y-「?」
('A`)「俺の名前だ。いつかどこかで会う事があれば、殴られた礼はする」
爪'ー`)y-「───あんた、根に持つタイプだろ」
互いに一言だけ交わすと、視線を合わせる事も無く
正面のドアを押し開け、堂々と外へ出た。
────
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────────────
-
地面を踏みしめて久々の外気に触れると、火照った生傷の部分に痛みを感じる。
この小さな倉庫の中で繰り広げられた戦闘が嘘のように、外の世界はただ日常だ。
そして、デルタがフォックスへと詰め寄る。
(;"ゞ)「お頭……本気ですかい!?どうするつもりなんです、これから」
爪'ー`)y-「どーするもこーするも、あいつ絶対どっかの暗殺ギルドの奴だぜ?」
爪'ー`)y-「約束守らなきゃ、俺が暗殺されちゃうよ」
(;"ゞ)「って、無茶苦茶言い出したのはお頭じゃないですか!」
( "ゞ)「またなんだって、こんなこと……」
ぶつぶつと文句を垂れるデルタの様子から、やはり相当な不満が見て取れる。
”お前を失えないからさ”そう思ってはいても、おどけて適当にはぐらかす。
言葉を掛けても、かえってデルタ自身に重圧を掛けてしまう事になるだろう。
爪'ー`)y-「まぁ、マイナス450spの思わぬ赤字になっちまったけど…」
(# "ゞ)「お頭……?大半はあっしの金ですからね」
爪'ー`)y-「いやぁ、まぁ、お互いに転機じゃない」
爪'ー`)y-「とりあえず俺は、しばらく旅に出るさ……道すがらで、
昼間の酒呑み話みたいな事があったら面白ぇなぁとか思いつつ」
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( "ゞ)「ふぅむ、まだ腑に落ちやせんが、当て所ない旅はいいですねぇ。あっしも───」
( "ゞ)「………と、言いたいのはやまやまなんすが、今回みたいな事が無いように、
ウチの奴らをまだまだしっかり面倒見ないといけやせん」
爪'ー`)y-「解ってんじゃんか、デルタ。自分がギルドにとって必要な人材だって事をさ」
( "ゞ)「………留守の間、街の皆の事はあっしに任せて下さい」
爪'ー`)y-「おう、頼もしいな。ま、ほとぼりの冷めた頃に帰って来るよ」
爪'ー`)y-「ゴードンの親父の土地を店ごと買い上げられるぐらいの金を持って、さ」
爪'ー`)y-「じゃあ、ここでお別れだ」
街の西口で、交易都市ヴィップへと続く道と、ギルドのアジトへと続く道。
枝分かれした岐路で、二人はやがて立ち止まった。
( "ゞ)「ひとまずは、どちらへ?」
爪'ー`)y-「まずはヴィップでも目指すさ」
( "ゞ)「二日の道のりですぜ……文無しでですかい?」
デルタの心配も尤もだ。街へ着いても、野垂れ死んでは元も子も無い。
だが、その心配をよそに、フォックスは胸元からそっと何かを取り出した。
月光を受けて光輝く宝石、それは大粒の翡翠だ。
持っていく所へ持って行けば、200spは下らぬであろう。
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爪'ー`)y-「道中で行商人とでも出くわしたら、こいつを安値で捌くさ」
( "ゞ)「ヘヘッ、抜け目ねぇなあ…」
翡翠を懐へしまい、くるりと背を向けたフォックスは、
ニ、三度後ろ手に手を振ると、深い暗闇が包む森の奥へと消えていく。
その背中が見えなくなるまで、デルタはその場所で見送っていた。
( "ゞ)「……お元気で……!」
最後にその背中に声をかけると、自らもすぐに踵を返し帰路へと着く。
あまりに唐突に、呆気なく訪れた別れ。だが、またいつか会える。
その確信があるから、変に湿っぽい別れ方だけは避けた。
いずれフォックスがリュメに帰ってくる時の為、部下達をまとめ、鍛え上げる。
この時すでに、ギルドと街の繁栄の為に注力しようという意志が固まっていた。
たとえフォックスが居なくても、やっていく。
その決意が、彼の足取りにも現れていた。
────
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暗い森を往く。
持っている物といえば、一振りのナイフと、大粒の翡翠。
爪'ー`)y-「”冒険者”って響き……悪い気はしないね」
だが、自然とその足取りは軽い。
妙な開放感に期待ばかりが膨らみ、不思議と旅への不安は無かった。
爪'ー`)y-「大陸全土を股にかけて冒険たぁ、ロマンがあって結構結構」
爪'ー`)y-「さぁて。風の向くまま、気の向くまま……ってね」
20と数年の歳月を生きてきて、初めて臨む自分一人だけの冒険の旅路。
フォックスは、今その生まれて初めての経験が生む期待に、心を躍らせていた。
デルタや街の皆としばらく会えない寂しさがあるといえば嘘になる。
だが、それ以上に生まれてからこれまで、貧民窟、そしてリュメの街しか知らない
閉塞的な生活を送ってきた彼にとって────
───街からの一歩を踏み出した風景は、目の前の何もかもが新鮮に彩られていた。
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(3)
「力無きゆえに」
─了─
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再投下ながら途中ちょこちょこ場面を増やしたり加筆したのでageさせて頂きやした。
投下間隔しくったのでPCでもえれぇー読み辛い!
とろとろ作業してっから前投下した分すいこーしてる間に、
下手したら3話ぐらいまで書けちゃうような気がしてきたぞ。
さ、2話の書き溜めに戻りやす……
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乙
-
乙
読み応えがある
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乙!
今から読ませてもらうぜ
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FMVの糞PCが熱暴走でぶっ壊れた。
なので急遽新糞FMVをゲッツ。書き進めていた1話は
外付けHDDに残っていたので、ここ2〜3日ぐらいまた作業を進めとりやす。
手直しを含めてあと1〜2日で1話が投下できると思うので、
とりあえずすいこーなしで0話の残り投下しちゃいますわ。
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この広大な大陸中、至る所で”聖ラウンジ”の教えが伝え広められている。
200年以上もの長きに渡り、依然として最大の宗教派閥として君臨する彼らは、
特別外界の宗教とは交流を持たず、ただただ来る日も来る日もラウンジの神に祈りを捧げ続ける。
いつ報われるとも解らない信仰を持ち続け、やがて神に見初められた者だけが、
聖ラウンジの秘術、飽くなき信仰がもたらす、善なる精神に宿った奇跡の数々を起こすと言われる。
数ある聖ラウンジ教会の建物の中でも一際大きなものは、ここ聖教都市ラウンジの街にあった。
ラウンジ大聖堂。身寄りの無い子供や、身体の不自由な老人などが多く訪れる。
この大聖堂にあって、今は修道女として聖ラウンジの神に仕える子羊である
”ツン=デ=レイン”は、今日も決まった時間、決められた動作で、神に祈りを捧げていた。
ξ-⊿-)ξ 「(聖ラウンジの神よ…我が声に耳を傾け、御言葉をお聞かせ下さい……)」
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「神よ…どうか、この地で苦しむ全ての人々を救いたまえ…」
「我らが信仰をその御力と為し、奇跡を…どうか…」
ツン=デレインの周りでは、彼女と同じように祈りを捧げる一般人の姿も多数ある。
修道士達も同様に、皆、本当に神の存在を心から信じ、口々に教典通りの言葉を囁く。
未だ、誰もその御姿を見た者はいないというのに。
ξ゚⊿゚)ξ「(はぁ…本当に、こんな自分が嫌になる)」
それは、ツン=デ=レインも同様だった。
赤子であった自分が当時の司祭に拾われ、それから今に至るまで、およそ20年の歳月が流れていた。
やがて司教となった育ての親は、結局神の姿を見る事も無くツンが18になると同時にこの世を去る。
棺に収まった司教の姿を見た時には、ツンの目からは確かに涙も流れた。
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「全ての人々には、等しく神の寵愛を受ける権利があるんだよ」
司教が常日頃から言っていたのは、自分を育ててくれたのは、そんな理由。
今にして考えれば恩着せがましいとさえ、ここ最近は思うようになっていた。
そんな邪な考えが邪魔をしているのか。はたまた、父であった司教が
この世を去った事が影響しているというのもあるかも知れない。
彼女の日々が変わる事は何一つ無い、きっと、このまま変化が訪れる事も無いのだろう。
外の世界を知らない彼女にとって、聖堂に訪れる街の人々と話す事が唯一の楽しみだった。
ξ;-⊿-)ξ「(おっと…いけない。仮にも私は聖ラウンジの信徒として
神に使える身なんだからね。今のはナシ…今のはナシ…)」
ふと、後ろの方からひそひそと話し声が漏れてくる。
祈りの最中だというのに、こちらへ聞こえるのもお構いなしだ。
「ねぇ、ツン様の話…聞いた?」
「えぇ…司教様の遺言では、今年に次期司祭として賜るって話ね」
「ふん…あんな小娘が。捨て子だったくせに」
「ちょ、ちょっと、聞こえるわよ」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
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投下し辛いんで一旦ageます
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一通りの礼拝を済ませた後、すぐに二階の父が使っていた部屋へと上がっていった。
今日は一般の礼拝も無い日で、外の世界の話を人々から聞ける楽しみも無かった。
──いつからだろう、祈る事が、こんなにも嫌になってしまったのは。
──どうしてだろう、同じ神を信じる人たちが、こんなにもいがみ合うのは。
窓から外の風景を眺めながら、時間が空いた時にはこうした物思いに耽るようになった。
育ての父を失った事や、時折親の七光りを指差す人々のそうした視線に耐え切れず、
最近では礼拝自体にも嫌気がさす事さえあった。
聖職者として、あってはならない事だ。だが、それでも
いつしか外の世界に飛び出したいという気持ちは、否応無しに膨らんでいった。
司祭の座なんて、本当はツン自身どうだっていい事だ。
祈りを捧げていくだけの毎日、それが、この先の自分に何をもたらすというのか。
いるかどうかもわからない神の御姿を拝見するためか、はたまた、奇跡に触れるためか。
漠然とした不安を抱えたまま、今日も自分の気持ちに正直になり切れない自分に、辟易する。
思った事をそのまま伝えられたら、行動できたらどれほど楽になれるのだろう。
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だが、父が残した十字架の重みは、容赦なく自分の背に圧し掛かってくる。
父のように一生を祈りに捧げていった先──果たして何を得る事が出来るのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「(……うん?)」
何気なく開いた、木机の引き出しの中から、見慣れない一冊の本が姿を覗かせた。
父が亡くなった時、一度身辺の物は整理したはずだ。
その時には、こんな物はなかった。
あるいは奥の方に入っていた為か、鬱屈していた自分が机の引き出しを
引く動作に、無意識で力がこもっていたのかも知れない。
ぱらぱらと、そのページをめくってみる。
煤けていて、長年に渡って使い込まれた感じの出ているその一冊。
最初の数ページを捲ってみて、すぐに解った。
父親が羊皮紙以外に残した文面は初めて見る。これは、日記だ。
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「○月×日 ぎこちないながらも、ツンはようやく様々な作法が解ってきたようだ。
飲み込みは良い方ではないが、どこか祈りの仕草にも気品を感じる」
ξ゚⊿゚)ξ「これは……お父様の」
「×月△日 教会に訪れる人々も、皆ツンに親しく接してくれているみたいだ。
また、ツンもそれを楽しみにしている様で、話を聞いている最中は
目が爛々と輝いているように感じる……退屈な日常を、私は彼女に
押し付けてしまっているのかも知れない」
その日記には、ツンが司祭に迎え入れられて、この教会で祈りを捧げるようになった
当初の様子、また教会での日常がほぼ毎日に渡って書き綴られていた。
流行病で呆気なくこの世を去ってしまった父は、まだ53歳という若さだった。
日記の最後の日付が2年半前になっている事から、病を得たのはつい最近だった様だ。
「△月○日 どうやら、ツンを快く思っていない修道士達もいるようだ。
確かにツンはまだ不慣れで、聖典の内容すらまともに覚えてはいないが…
それでも私は言ってやりたい。幼くして天涯孤独となった子供たちの
両親に向けて、心からの祈りを捧げている彼女の無垢な横顔を見ても
まだそんな事を言えるのか、と」
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ξ ⊿ )ξ「………これも」
「▲月△日 ツンが病を得てしまった。つきっきりで看病したお陰か、はたまた
彼女自身の若さゆえの回復力だろうか。どうにか全快してくれて何よりだ。
だが、今度は私が寝込んでしまっている……年は取りたくないものだ」
文面からだけでも、伝わってくる。
父が、神の名の下という、それだけの感情で自分を育てていたのではないのだと。
父である司教は神の名を借り受けた上で、自分を忠実な信徒に育てようとしていた、
そう誤解していたのだと、今頃になって初めて気付かされた。
「○月凹日 本当に、彼女の祈りは人々の荒んだ心を清らかにしてくれるほどに美しい。
今日も、父上が天に召された娘子が、彼女が祈る聖母のような姿に感動すら覚えていた。
──これなら、いずれツンに司祭を任せてもいいかも知れない」
ξ ⊿ )ξ「本当に…私の事を見ていてくれたんだ…お父様」
そう、最初の気持ちはそうだったのだ。
心からの祈り、亡くしてしまった人達が、この世界に何一つ思い残す事なく旅立てるように、と。
心から、精一杯の祈りを捧げる事、本当は、苦だなんて思った事も無かったはずだ。
やはり、父を亡くした時から、自分は少しずつ最初の気持ちというものを忘れてしまっていたのかも知れない。
-
失ってしまった今になって到来する、胸をちくりと刺す痛み。
鼻腔の奥がつぅんとしたかと思えば、眼からは自然と、頬へと伝う冷たい雫がこぼれた。
「凹月凸日 どうやら、私は流行病に侵されてしまったようだ。神の忠実なる信徒が、
その奇跡に触れる事もなくこの世を去ってしまうのは、いかにも恥ずべきか。
だが、今の私にはそれ以上にツンのこれからの事が気に病んでならない。
どうか私がこの世を去っても、気を落とさないで欲しいものだ。
そして人々を思いやる優しい気持ちと、清らかな祈りだけは、忘れないでいて欲しい」
ツンの心中には、この時様々な想いが交錯していた。
たとえ神などいなくても、自分を愛してくれている人がいたという事への、喜び。
そして、父の胸中を理解しようともしなかった自分の愚鈍さへの、後悔。
これから、この自分に出来る事は、一体何なのだろう。
それを考えた時、カーテンを時折はためかせながら自分の顔を撫でるそよ風が、
まるで今初めて体験したものかのように、一層新鮮味のあるものに感じられた。
そして、決断する。
ξ゚⊿゚)ξ「(なんだか、すっきりしたわ)」
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ξ゚⊿゚)ξ「(私達がこんな安全な場所で、安穏と祈りを捧げる日々の中で……
本当に困っている人たちはこのヴィップの外にいくらでも居る)」
ξ゚⊿゚)ξ「(疫病、飢饉で命を落とした人たち、親を亡くした戦災孤児なんて、
それこそこの乱れた世の中じゃあ計り知れない)」
ξ゚⊿゚)ξ「(それなのに、私達教会の人間は、主に救いを求めるために祈る……?)」
「…馬鹿らしいわね!」
一人窓の外に向かってそう叫んだ彼女は、すぐに持てるだけの荷物を持って、身支度を始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「神様なんて、どっかりとあぐらをかいて私達を見下ろしてるばかり」
ξ゚⊿゚)ξ「それなら、私の方から出て行ってやるわ」
自分が神の信徒として出来る事を、やれるだけやってみたかった。
その一心だけが、今のツンを支える活発な原動力の源だ。
-
きっと自分にだって、本当に困った人々の力になれる事だってあるはずだ。
父が言っていた言葉を借りれば、愛情は全ての人に等しく注がれるべき。
自分が、父からそうしてもらっていたように。
なら、親を亡くした子供たちや、孤独に死に逝こうとしている人々は、
誰からその愛情を受け取れるというのか。誰が、彼らの為に祈りを捧げて
くれるというのか。教会で礼拝している自分達は、そんな事に気づく事も無く、
ただただ、誰の為でもなく形式ばった祈りを捧げているだけではないのか。
吹っ切れた今の彼女には、これまでうじうじとしていた過去の自分を
省みる時間すら惜しいほどに、旅立ちへの気持ちが溢れ出しそうな程だった
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(3)
「誰が為の祈り」
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───旅立ちを決めたあの日から、すでに一週間もの月日が流れていた───
ξ;゚⊿゚)ξ「ぜぇ…はぁ…」
登りの坂道、白を基調とした修道服の裾は、見る影もなく土ぼこりに塗れていた。
手ごろな木の枝を支えのステッキにしながら、険しい山道を登る、昇る、上る。
愚痴をこぼす余裕も無いほどに疲弊し、箱入り娘で培われた自身の体力不足を痛感する。
やがて、勾配のなだらかな頂上付近にまで辿りついた時、木々に囲われた
近くの原っぱを目にして、身体をどっかりと地面へと預けた。
どこまでへも続いている空を見上げて寝そべる。
身体の疲労は非常に深刻なものだが、それ以上に今は心地よい開放感が得られた。
ξ゚⊿゚)ξ「(あ〜…いいわ)」
-
目を瞑ると、何だか今まで住み暮らしてきた聖教都市での出来事が、遠い昔の
日々の事のように感じられた。
もちろん、周囲へは多少強引にだが説得を済ませてきた。
引き止める者や仰天する者など反応は様々だったが、口を差し挟ませる余地もなく、
最後には脱兎の如く逃げて来た。今頃、自分を探しているのだろうか。
街を出る前に、毎週礼拝に来ていた家族連れなどには一声を掛けてきた。
そちらの人たちは、旅に出る旨を告げると驚かれこそしたが、自分を激励してくれた。
その激励のおかげで、2日目以降の野宿を乗り切れたようなものだった。
日中であればまだいいが、獣道のような森の中を通り、人里へと通じる道を
外れてしまってうす暗闇に迷いこんでしまった時には、べそをかいて彷徨い歩いたものだ。
・・・・
旅慣れた今ならそんなヘマはしないぞと、少しだけ自信がついている。
ξ゚⊿゚)ξ「あ………」
-
もうしばらくこの心地よさを味わっていたかったが、不意に、頬に落ちたのは
冷たい雨粒ひとつ。ふたつ、みっつと続くと、次第にますますその勢いは増した。
こんな山奥で夕立に見舞われるとは思わなかった。
ろくに冒険などしたことの無いツンにとって、明らかに不測の事態である。
ひとまずは雨が止むまで木陰にでも身を寄せるしかないとは思うが、それで
下山するのが明日の明朝以降になってしまっては、道中で野垂れ死ぬかも知れない
怖さがあった。来るまでに街で手に入れてきた食料もあるが、ほんの微々たる量なのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「…どうしよう、かな」
いつになったら止むのか、そんな事は知る由も無い。
先ほどまでかいていた汗が嘘のように引くと、この雨が
周囲を冷やしてしまった。身体をぶるると震わせる。
ξ;-⊿-)ξ「…さむっ」
生憎と暖を取れるような準備など整えてはいない。
過ぎ去るまで、身を縮こまらせて待つしかないのか、と不運を嘆いた。
-
が、周囲を見渡したある時、木々に紛れた岩陰にぽっかりと口を開いた
洞穴のようなものがある事に気がついた。
どれだけの奥行きがあるかは解らないが、この中に入れば風雨や
寒さはある程度凌げるだろう。不幸中の幸いに、思わず主の名を口にした。
ξ゚⊿゚)ξ「これぞ神の思し召し…ね」
ξ;゚⊿゚)ξ「(はっ…でも、もし熊とかいたらどうしよう!)」
ξ;゚⊿゚)ξ「(う〜ん…羆に村を襲われた人の話とか聞く限り、
私みたいにか弱い少女はイチコロだろうし…)」
あれこれと思案する内、木の葉から伝わり落ちる雨の雫が
首元から背中を伝わり落ちて、小さく悲鳴を漏らしてしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ「しゃあない、この際背に腹は代えられないか…」
野生動物や、話にしか聞いた事のないゴブリンなどの妖魔が
中に居ないかを警戒しつつ、じりじりと洞窟の中へと歩みを進める。
思ったよりも奥深い。
-
次第に入り口から聞こえる雨音は、しんしんと遠いものになっていく。
中は暗いが、獣臭がしたりはしない事に安堵した。
それどころか、かすかに薪を炊いた燃えかすなどがあった事に驚く。
ξ゚⊿゚)ξ「人が……居たの?」
そうとしか思えない痕跡が、少しずつ暗さに慣れてきた視界に次々と映り込む。
火を起こした場所のすぐ近くの壁面には、固い土壁を石か何かで削り文字を刻んだ跡。
どういう規則性になっているのかよくよく見てみると、暦を描いたもののようだった。
ξ゚⊿゚)ξ「(こんな場所に住んでる人なんているのかしら。
もし帰って来ちゃったら、どうしよう…)」
こんな場所で山賊にでも襲ってこられたら、逃げようも無い。
今度は恐怖から来る寒気が、またツンの身を震わせた。
その折に、不意に人の声とも物音ともつかぬ何かが、奥から聞こえてきた。
ξ;゚⊿゚)ξ「…!!」
慌てて、2、3歩を後ずさり、壁を背にした。
聞こえてきたのは、やはり人の声だったようだ。
少しずつ、こちらにその人影が近づいて来る。
-
だが、やがて姿を現したのは、想像よりもずっと危険のなさそうなものだ。
目をこすりながら、うわごとを唱えるかのように喋るそれは、子供だ───
(ノoヽ)「おあ…うああ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「(なんで、子供がこんな所に…?)」
目やにだらけで、こちらの姿がおぼろげにしか見えていないのかも知れない。
衣服ともいえないようなぼろの布切れを身体にくくりつけている。
そして、ラウンジでよく見かける、元気に走り回る子供達とは対照的なその姿。
年の頃は同じくらいであろうが、その身体はあばらの骨が浮き出る程に痩せ細り、
顔は煤けていて、ろくに衛生的な暮らしなど出来ていないのだろう。
しかし、驚かされはしたが、山賊や熊なんかよりもずっと可愛らしい。
なぜこんな場所にいるのかを尋ねようとしたが、ある事に気づいた。
(ノoヽ)「うあ…う。おうあぁ」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「(そうか…聞こえないんだ、私の言葉)」
聾唖なのだ。耳が聞こえないばかりか、それに付随してものを喋る事も出来ない。
その子供が、こんな山深い場所で一体どうやって生きていたのかと、呆然とした。
ξ;゚⊿゚)ξ「……君は一人、なのかな?」
(ノoヽ)「ううんあ。あうおあ」
ξ゚⊿゚)ξ「違う…って?唇の動きで言葉が解るの?」
ツンの問いかけに、子供はツンの衣服の端あたりを掴み、奥へと連れて行こうと
しているようだ。白い衣服は触られた箇所がたちどころに真っ黒く汚れたが、
そんなことを気にかけることもせずに、子供に先導されるまま、ツンは奥へ奥へと歩いていく。
やがて、壁に背を持たれた人影の姿がその先にはあった。
それを指差し、ツンの顔を見ながら子供は飛び跳ねる。
(ノoヽ)「おあう!おあう!」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「………!」
思わず、悲鳴をあげてしまいそうになった。
子供が指差すそこには、眼を見開いている一人の男の姿。
明らかに、死んでいる。
ξ-⊿-)ξ「(………そうか)」
この子の親なのか、それはわからない。
だが一緒に暮らしていた同居人は、命を落としてしまった。
一人残されて、ずっと亡骸の傍で泣いていた子供の姿を一瞬想像する。
言葉も満足に喋れないこの子にとっては、あまりにも過酷な現実だ。
その無垢な表情を見ているこちらが、悲痛な面持ちを浮かべてしまう程に。
そんな自分が、この子の親にしてやれる事はたった一つしかなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……主よ、聖ラウンジの神よ」
ξ-⊿-)ξ「その御許に、この魂をお導き下さい」
ξ-⊿-)ξ「道半ばで力尽きたかの者が、悔いを残して彷徨う事のない様に……」
ただ、それだけを願った。
あいも変わらず主は声を聞かせてなどくれないが、それでも
亡骸の前に膝まづくと、両手を合わせてただただ一心の祈りを捧げた。
様子が変わったツンを見て、子供はきょとんとしているばかりだ。
ただ純粋に、願った。
力ない幼子を残して、自分がこの世を去ってしまうという事。
それが親ならば、どれほど悔いを残す事なのか察するに余りある。
だから、せめて天上からこの子を見守ってくれているようにと───
-
どれほどの間祈りを捧げていただろう。
やがて眼を開いた時、ツンの顔を恐る恐る覗きこむ、子供と目が合う。
(ノoヽ)「んん〜……あう?」
事実を告げるのは、酷だろうか。
多少逡巡はしたが、いずれにしてもこれからこの子が生きていく上で、
どこかで必ず受け止めねばならない事実なのだ。
生命を失う事が、どういう事なのかを。
ξ゚⊿゚)ξ「…あなたのお父さんはね、お星様になったの」
伝わっているだろうか、出来るだけ大きく唇を動かす事を意識して
語りかけながら、空が閉ざされた洞窟の上空へと指差す。
子供は首を傾げながらも、一生懸命理解しようとツンの口の動きを読んでいる。
ξ゚⊿゚)ξ「これが…生命を失う、という事なの」
-
ξ-⊿-)ξ「お父さんとは…もう二度と会うことは出来ないのかも知れない」
(ノoヽ)「んんん…うあう」
少しは伝わっているのかも知れない。
子供なりに理解しようと、先ほどよりは神妙な面持ちに感じさせる。
息を少し多めに吸い込んでから、励ますようにして、続けた。
ξ゚⊿゚)ξ「でも……安心するのよ」
ξ゚⊿゚)ξ「”お空からずっと君を見守っていてくれるように”って
……お姉さんが、君のお父さんにお願いしといたから」
ξ゚ー゚)ξ「……ねっ?」
(ノoヽ)「……うう、うん」
完全には理解できなくとも、これからの自分の置かれる境遇について、
なんとなく感じているのかも知れない。ツンが胸元に抱き寄せた時、
不安げな様子が、小さな肩の震えから見てとれた。
ξ ー )ξ「よしよし……大丈夫、だからね」
本当は父の死を知っていたのかも知れない、などと思う。
だが、天上の主との結べているかどうかも分からない約束を、
自分勝手に嘯いてしまった自分だ。
-
勝手な約束をしてしまった以上、この子が人里で今後の面倒を見て
もらえるような場所までは連れて行く。
この時ツンは、そう決心を固めていた。
外に目をやると、どうやら先ほどまでの夕立もぱたと止んだようだった。
それならば、この子を連れて今の内に下山してしまおう。
だがその手を引こうとした時、何人かの人の声がした。
思わず動きを止めてしまった。
「あぁ〜あ!ようやく雨宿り出来る場所を見つけたと思ったのによぉ!」
「ったく、ふざけやがって……今頃になって止みやがるたぁ」
「全く神様ってのはクソッタレだぜ。ま、ちょっとここで休んでいくとしようかい…」
数人の男達の声。
荒っぽい口調、野太い声。
知性の欠片も感じさせないその会話から、ツンは本能的に
危機感を察知した。すぐに子供を自分の後ろへと追いやる。
ξ;゚⊿゚)ξ「(喋っちゃ、だめ)」
-
(ノoヽ)「(………あう)」
ξ;゚ー゚)ξ「(いい子ね……)」
子供がこくりと頷いたのを確認すると、自分の元へと抱き寄せながら
洞窟の奥の方へと、じりじりと音を立てないように下がっていく。
どうやら、全部で3人の男がこの中に入ってきた。
一際大柄な男と、中肉中背、そして小柄な三人。
先ほどの荒っぽい口調も頷けた。
その三人のいずれもが、鉈や剣をぶら下げているのが見えてしまったからだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「(本当に山賊なんかと出会っちゃうなんて……ツイてないわね)」
雰囲気で察する事が出来た。恐らく、こちらの存在に気づかれたら、
たちまちこの三人は自分達を襲ってくるだろう。
「ケッ、きったねぇとこだなぁオイ」
「やっぱ雨上がりは湿気がひでぇや」
「いやぁ…こうジメジメしてるとよぉ…スカーッと、女抱きたくならねえか?」
「オメェは年がら年中だろうがよ!ひゃひゃひゃ!」
-
「おぉよ……こないだの上玉みてぇに、無茶苦茶に犯してやりてぇぜ」
「オイオイ、またケツに棍棒突っ込むのは無しだぜ?後から使う俺たちが困らぁ」
「ちげぇねぇ」
ぞっとしない会話が、少しだけ前方で飛び交っていた。
ξ;ー )ξ「(……大丈夫、大丈夫……)」
子供の頭をそっと撫でながら、そう言い聞かせる。
それは、気をしっかり保つ為に自分に対しての言葉だったが。
洞窟内の暗さが幸いしてか、山賊と思しき連中たちには
奥の方で身を縮こめる自分達の存在には、まだ気づかれていない。
しかし、少し目を凝らせば違和感に気づくだろう。
ましてや、自分が纏う白の衣服ならば、余計に目立ちやすい。
”早く出ていって”───そう願うも、一人は寝転がって
うだうだと一休みを始めている光景から、当分出ていく雰囲気はなさそうだ。
それならば、とツンは腹をくくった。
ξ;゚⊿゚)ξ「(いい……?合図をしたら、外まで走るの)」
(ノoヽ)「(……うん、あう)」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「(お姉さんの手を離したら駄目だからね)」
(ノoヽ)「(……うう?)」
ξ;゚⊿゚)ξ「(でも、もし手が離れたら…絶対に振り返らないで走るの)」
ξ;゚⊿゚)ξ「(そして、人のたくさんいる場所を目指すのよ?)」
(ノoヽ)「(うあ、ううん……)」
ツンの顔から滲み出る不安感が子供にも伝わってしまっているのか、
今にも泣き出しそうな顔をしながらも、ツンの小声一つ一つにしっかりと
首を縦に振ってくれた。どうやら、大丈夫そうだ。
ばきっ
ξ゚⊿゚)ξ「(───焚き……木……?───)」
ツンはその一瞬、足元から聞こえてきたその音に、
頭の中が全て真っ白になってしまった。
火を起こした後の燃えかすを踏んでしまったのだった。
それは、自分が思うよりもずっと大きな音を立てて、
しつこいくらいに洞窟内で反響してしまっていた。
正しく、痛恨の極みだった。
-
「おぉ?」
「んぁあ?」
さすがに気づいた。完全には視認していなかったようだが、
やはり白い聖職服は目立つようだ。目元をしかめながら、違和感に首を傾げた。
確認しようと男が一人、こちらへとゆっくり近づいてきている。
とても作戦ともいえないものだが、今となっては先ほどの
考えを実行に移しても成功率は格段に下がってしまうだろう。
だが最悪、せめてこの子供だけでも逃げてくれれば良い。
ξ;゚⊿゚)ξ「………今よッ!!」
-
しっかりと子供の手を離さぬように、衣服の裾をたくし上げて全力で出口を目指した。
突然聞こえた大声と走り来る人影の姿に、姿を確認しに来ていた男は低い呻き声を
上げてツン達の進路を飛びのいた。
「うぉッ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハァッ……ハァッ……!」
無我夢中で、子供の手だけを離さぬように全力で走った。
今まで生きてきた中でも、これほどの緊張感に苛まれた事はあっただろうか。
体中から冷や汗が吹き出し、血が冷たく
凍りついたかのように、体温は瞬く間に下がっていた。
ほんの数フィートの距離。だがたったそれだけを進む間に、
まるで数十秒、数百秒もの間、秒針が時を刻んでいるかのように感じられる。
「おっ……女ァッ?!」
素っ頓狂な声を上げたその山賊は、通り過ぎる間際に腕を伸ばしてきた。
だが、走りながらその腕を振り払う事に成功する。
あともう少し、あと数秒でたどり着く距離に、
洞窟の出口がぽっかりと口を覗かせているのだ。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「(もう少しで……外に!どこかの草木で身を隠せば……!)」
だが、最後。
ξ゚⊿゚)ξ「(もう、少………ッ!!)」
「女」という単語に敏感に反応したのか、洞窟の出口前で寝転がっていた
その男に、脇から腕をがっしりと掴まれてしまった。
振り払う事も出来ないぐらいの、強い力で。
子供の手を掴んでいたその手が離れる、いや、離した。
一瞬子供がこちらを振り返った時、力の限りを振り絞ってツンは叫ぶ。
ξ#゚⊿゚)ξ「何してんの……行きなさい!!早くッ、走るのッ!!」
(;ノoヽ)「……う、うぅ……うあぁぁぁぁーっ!!」
そこに鬼面の如き表情を浮かべていた怒声混じりのツンの叫び。
子供はびくっと驚きながらも、ツンの身を案じてか一度二度振り返り、
やがて野山のいずこかへと、走り去っていった。
「うほぉぉっ!!極上の上玉だぜ、こいつぁよぉーッ!?」
「さぁさ、中に戻ってさ……楽しもうじゃねえか嬢ちゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ「(無事に人里に辿り着けると……いいね……)」
-
───
──────
─────────
一人の旅人は、たまたまそこへ通りがかっただけだった。
外套の下、僅かにはだけた胸元の下には、覆い隠すようにして
包帯がびっしりと巻かれている。
”ショボン=アーリータイムズ”
大陸全土の魔術師がその場所に籍を置く者を羨望の眼差しで見るという
かの魔術研究機関”賢者の塔”にその名を連ねていた男だ。
それも、つい最近までの話だが。
(´・ω・`)「(………何事だ?)」
ξ#゚⊿゚)ξ「…その汚い手を離しなさいよ!小悪党どもッ!」
そう叫びながら、洞窟内へと数人の男に押し込まれていく女性の姿に、
はた、とその歩みを止めた。明らかにただならぬ雰囲気を感じ取り、
洞窟内の様子を伺える木陰へと身を隠し、死角になるよう位置取りをした。
-
(´・ω・`)「(襲われている……のか?)」
(´・ω・`)「(野盗だな……数は……3人)」
ショボン=アーリータイムズは、自分の手の平をじっと見つめた。
武器と言えるような一切を所持していない。だがいざとなれば
凶暴極まりない妖魔、オーガですらも撃退できる程の魔術を使えるのだ。
常々冴え渡った勘を見せる彼だが、この時ばかりは思案にあぐねていた。
(´・ω・`)「(……助け出そうというのか、この非力な身で……?)」
自分の心に芽生えた正義感の為とは言え、3人の野盗と渡り合えば
命の危険を伴うだろう。最悪、身包みを剥がされて亡骸を野に晒されるだけ。
本来強力な”魔術”を使う彼ならば、その限りではない筈なのだが───
-
「離し……離してッ!!」
どうやら、けたたましく喚く彼女の様子から、事は一刻を争うようだ。
先ほどちらりと覗いた薄汚れた修道服を見る限り、教会の人間だろう。
穢れを知らぬ彼女らが、このままでは卑怯な野盗どもの慰みものとして、
いずれ抵抗する気力すらも根こそぎ奪われる程の憂き目に遭ってしまうのは、
苦々しくも想像に易かった。
(´・ω・`)「(……だが、見過ごせるはずもない)」
周囲に助けを求められる場所などないが、一度だけ見渡してみる。
そこで、手近な場所に落ちていた自然石の存在に気づいた。
両手にすっぽりと収まる程度のその石を手に取ると、一度頷く。
-
(´・ω・`)「(使えるな)」
「いいの……!?それ、食いちぎってやるわよ!?」
(´・ω・`)「(やれやれ……威勢の良い事だ)」
「やッ!やめ…あんたらッ!死んだら絶対地獄に落ちるんだから!!」
(´・ω・`)「(ならそれに甘えて、もう少しだけ機を待たせてもらうとしよう)」
野盗どもに女が浴びせる罵倒の数々に、ショボンは思わず苦笑を覚えた。
だが、必ず助け出す。一度決めた事は必ずやり遂げる性分だからだ。
いずれ訪れるであろう好機だけを狙い済まして、
ショボンは洞窟の入り口へと、少しずつ近づいて行った。
-
───
─────
───────
どうにか子供だけでも逃す事が出来た。
だが、この野山をぼろの布切れ一枚羽織って駆け回るというのは、
年端もいかぬ幼子だというのに、随分と辛い事を強いてしまったか。
しかし、こちらも今はそれ以上に大変な状況だった。
結局自分だけ逃げ遅れてしまったツンは、一番の体格を誇る大男に、
軽々と片手で洞窟の中へと押し込められてしまっていた。
すぐに地面へと組み伏されると、子分格らしき二人が腕を伸ばして、
じたばたと抵抗し続けるツンの四肢を拘束する。
ξ#゚⊿゚)ξ「や、やめなさい! 本当にただじゃおかないんだからねッ!」
「えひゃひゃひゃ、随分と元気が有り余ってるじゃねぇか」
「こんなひらひらした服で俺たちから逃げようなんて、相当イキがいいぜぇ?」
-
「ひゃひゃ……こいつぁいい。しかもこの女、どうやら修道女だぜ?」
ツンが纏うは修道服、所々に黄金色の装飾やワッペンが施されている。
その為、そこらの庶民と比べるとかなり特異ななりをしていた。
三人の山賊達は、それにようやく気づいたのだった。
物珍しそうに唸りながら、気丈に抗うツンの顔からその足先までもを
じろじろと舐めるようにして眺め始める。
その視線にさえ激しい嫌悪感を露にして、ツンは毅然と睨み返す。
「いやぁ……たまんねぇ、まさか神様の使途とヤレるなんてな」
「ってこたぁ勿論、初物なんだろうなぁ……うひゃひゃ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「(……下劣極まりない……本当に、同じ人間なの?)」
若さという目に見えぬもの、さながらそれ自体が光沢を放っているかのように
瑞々しさが溢れるツンの柔肌を、欲望のままに力づくで貪ろうとする山賊達。
食欲が性欲に置き換わっただけで、傍目から見るには低級妖魔の
オークらと、この山賊達には大きな相違はないだろう。
ツンの瞳に映されている男たちの下卑たニヤつきに、思わず、
救われるべき人間ばかりではないのか、という疑問が頭を過ぎた。
-
薄汚い手が、ツンの衣服の裾を捲り上げようと次々に伸びる。
必死に手で押さえながら、足で何度も蹴り上げ、全力で抵抗した。
だが、自分の力ない攻撃では、怯ませる事すらも出来ない。
「へっへ……まさかこんな山奥に、こ、こんな良い女がいるたぁよぉ」
「そら、祈ってみなよ! 案外助けてくれるかも知れねえぜ?」
「そりゃあいい、ひゃっひゃひゃッ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「い、いやッ……」
───助けて、誰か。助けて、神様!───
その願いが聞き届けられる事はないのだろうと、心は既に挫けつつあった。
いよいよ気色の悪い感触が、ツンの白い太腿へとのたうちながら入り込んでくる。
身体全体をびくっと硬直させ、そうして抗う事も忘れてしまった。
何も考えられない、身体を這いずりまわる、恐怖だけが──
ξ ⊿ )ξ「い……」
ξ;⊿;)ξ「……いやぁッ……!」
-
自身の身体が蹂躙され、穢されていく恐怖に震える。
短い悲鳴と共に、自然と瞳からは涙がこぼれていた。
「がぁっ」
ξ;⊿;)ξ「……?」
自分の太腿へ手を這わせていた一人の男が、突然素っ頓狂な声を上げた。
そして、白目を向いてゆっくりとこちら側へ倒れてきた為、怯えながら身をかわす。
その自分の元へごろごろと転がってきたのは、手の平大の大きさの岩だ。
「な、なんでぇ!?」
どこからからか飛んできた石が見事に男の頭部を直撃し、
そのまま一人は失神したようだった。
ツンの衣服を捲くりあげていた一人が大男に目で促されると、
周囲の様子を確認する為、恐る恐る入り口まで歩いていった。
そして外にまで出た時、突然叫び声を上げる山賊の一人。
-
「な、なんでぇ! おまッ……!」
ごつん。
こちらまで響くほどの鈍い音の直後、そこで男の言葉は途切れた。
頭を抑えながら地面へと力なく倒れこむと、すぐに気を失ったようだ。
「チッ……なんだぁ、テメェ?」
残された一人の山賊、大男は思い切り顔をしかめながら舌打ちした。
同時に腰元にぶら下げた剣を、すらりと抜き出す。
そして睨みつける視線の先に、男は、居た。
(´・ω・`)「……もっと他愛無いと思ったけど、案外難しいものだね」
洞穴内に差し込む逆光を背に立っていたのは、外套に身を包む一人の旅人風の男。
両手に大きな石を抱えている。先ほどの男は、脳天にそれを振り下ろされたのだろう。
こんな人気の無い場所で助けが来るなど、そうある話ではない。
諦めかけていた折のこの事態に、ツン自身も驚きを隠せなかった。
「……何モンだッ、テメェ!!」
(´・ω・`)「ま、立場上は君達以上の悪党なんだけど……」
-
(´・ω・`)「卑劣な真似を見過ごすことが出来ない、損な性分とだけ」
そう言って石を顔の近くで構えると、重心を少し落とした。
戦うつもりなのだ。そんな、武器と呼ぶにはあまりに可哀想な石ころ一つで。
一方の大男はろくに手入れもしていないであろうが、剣を持っている。
体格でも武器でも劣るその男がやられてしまうのは、火を見るより明らかだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……無謀よ!……逃げてぇっ!」
「御託並べてんじゃねぇッ!」
ツンの叫び声と同時に、山賊は剣を手に突っ込んで行った。
上半身に向けて振るわれたそれから、旅人は辛くも身を逸らす。
(;´・ω・`)「ふッ!!」
続けざまに一振り、二振り。
もみ合うようになりながら、懐に潜り込んでそれらも避けた。
だが、その直後に膝で腹を蹴り上げられる。
(;´・ω-`)「…ぐぉッ」
低く呻き怯んだそこで、間髪入れず山賊の拳が顔面に振り下ろされた。
勢い良く吹き飛ばされると、そのまま地面にずざ、と引きずられる。
ξ;゚⊿゚)ξ「…危ないッ!」
(;´・ω・`)「!!」
-
旅人はまだ立ち上がれない。だが、山賊はその顔に向けて
容赦の無い剣の一撃を、一直線に振り下ろしたのだ。
眼前で血の飛沫が舞うのを想像し、ツンは思わず目を背けてしまった。
直後に、金属が叩かれる破裂音。ややあって、恐る恐る瞼を開けた。
「……おぉ。しぶてぇなぁ」
(;´・ω・`)「ふぅッ……ふぅッ……」
だが、まだ聞こえる荒い息遣いの方を覗いたツンの瞳には、
顔の中心で石を構え、剣の打ち込みを辛うじて弾いた旅人の姿があった。
だが、たった一度凌げた所でここから巻き返す事など出来やしないだろう。
顔の前で掲げていた石を取り落とし、その両手を力なく垂れる旅人。
もはや、諦めてしまったのだろうか。
だが、仕方の無い事だ。たった一人で二人の山賊までをも
石ころだけで倒してのけた、その事実だけで賞賛に値する。
「さてと……喉か、心臓か、目か。どこをえぐられてぇんだぁ?」
そう言って山賊は旅人の肩を踏みつけながら、
剣の先端でぺたぺたとその頬を叩く。
(;´・ω・`)「………」
ξ;゚⊿゚)ξ「だ……駄目……!」
-
今度こそ、自分を助けようとしてくれた旅人は殺されてしまうだろう。
光景を目の当たりにしたツンは立ち上がり、山賊の背中へと叫ぶ。
ξ#゚⊿゚)ξ「私なら、どうなってもいい……」
ξ#゚⊿゚)ξ「だから、その人をすぐに離しなさい!」
力一杯に怒気を孕んだツンの叫びも、山賊からしてみれば
まるでその場に漂う空気のようなものぐらいにしか感じていないだろう。
肩越しに冷たくツンを一瞥する、濁った瞳。
「駄目だな」
ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうすればッ──!」
「こいつが死ぬまで大人しく待ってな、すぐに可愛がってやるからよ」
それだけ言うと、山賊はすぐに視線を戻してしまった。
この状況では旅人自身が逃げ出す事も不可能。
ましてや、ツンの柔腕では何一つ力になれる事など無い。
自分を助けてくれようとした人間が殺される、そんな場面に
あっても、ツンにはただ指を加えて見ている事しか出来ない。
そして、その後で自分は辱めを受け、身も心も汚されてしまうのだ。
俯いて肩を落とし、ぼそりとツンは呟いた。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……何も出来ないじゃない……私なんて……」
そんな無力感が、今回の旅の出立を決意した自分自身への
自責の念となって、心を押しつぶしそうなほどの重圧で、圧し掛かっていた。
顔を両手で覆うと、感情が昂ぶり、こみ上げてくる。
指の隙間からは、またも涙の雫が地面へと伝い落ちた。
ξ ⊿ )ξ「(なーんだ……)」
ξ ⊿ )ξ「(結局自分なんか……誰の役にも立てないんだ)」
(´・ω・`)「………」
膝から地面へと崩れ込んだツンを、一瞬だけちらりと気にかける旅人。
剣を突きつける山賊の頭を通り越し、どこを見るでもなく天を仰ぎながら
淡々とした口調で、ツンにゆっくりと語りかける。
(´・ω・`)「……どうやら、君は優しい心の持ち主のようだね」
ξ ⊿ )ξ「………?」
(´・ω・`)「普通の人間ならば、まず自分が助かる事に血眼になる状況だ」
「うるせぇぞ」と、剣の切っ先を彼の喉へと向ける山賊だが、
極めて平静を保ったまま、彼はなおも語り続ける。
-
(´・ω・`)「それを、自分が助かるなどどうでもいい、とばかりに君は言う」
(´・ω・`)「なればこそ命を投げ打つ……その覚悟を決める、価値もある」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
「お喋りの時間は終わったぜ?そろそろ、死んでもらおうかい」
山賊が、いよいよ頭の後ろまで剣を振り上げる。
だが、命を投げ打つと、そう口にした今の旅人の顔は、
これから死にゆく覚悟を決めた人間のそれには、思えなかった。
一頻りを語り終えた後、これまでよりも数段素早い口調で、
それでも一言一言をはっきりと口にしながら、何事かを捲くし立てた。
(´・ω・`)「……【我が身体を奔る魔力の奔流よ】」
そう唱えて、垂れていた手を胸の前でかざした。
(´・ω・`)「【力を容と為し 魔を以って撃ち貫け】」
指を形作り、自分に剣を突きつける山賊の方へと指した。
(´・ω・`)「……【魔法の矢】ッ」
ξ゚⊿゚)ξ「ッ!?」
-
一瞬の閃光が、洞窟の内部を一瞬照らした。
その光の源───光の帯が束なったかのようなそれは、
まるで光で模られた、一本の矢のようなものだった。
「……!? うぎゃあぁッ!」
その矢は、男の肩口あたりを目掛けて文字通り貫いた。
質量を持たぬはずの光が、誰の目にも明らかな外傷を負わせたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「これは……」
肩を撃ち貫かれた痛みに喘ぎ、苦痛に顔を歪める山賊は、
すぐに剣をその場にからころと取り落とす。
「がッウぐぅッ……て、てめぇ……魔術師か!?」
(´・ω・`)「やれやれ……」
地面に片膝をつき、傷口を手で押さえながら、山賊は顔を歪める。
事もなげに、旅人は外套の土ぼこりを手で払いのけながら、立ち上がった。
(´・ω・`)「……さっき自分でも言ったが、僕は君達なんかより
よっぽどタチの悪い悪党なんだ。手配書が出回る程にね」
(´・ω・`)「君の心臓を今のように射抜いた後……物言わぬ屍にした
後でも、自分の意のままに君達の死体を操る事が出来る」
-
その手から放った光の矢によって瞬く間に形勢を逆転させた男は、
途端に饒舌になって喋りだした。その内容は、随分と物騒なものだが。
(´・ω・`)「だが、今は君達なんかに興味は無いんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
そう言って、ちらりとツンの方へと視線を送る旅人。
片目をぱち、と一度だけ深く閉じこみ、合図を送っているのだ。
垂れ眉のこの旅人が、ツンの目にはそれほどの悪漢には見えなかった為に
すぐにその合図に気づく事が出来た。
(´・ω・`)「それよりも、そこにいる心の綺麗なお嬢さんが、
僕の実験の、実に良い素体になってくれそうなんでね……」
(´・ω・`)「だが、どうしてもこの場を退けないというのなら、仕方ない」
(´・ω・`)「君達の身体の器官一つ一つを取り出して、実験材料にさせてもらうとするか」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
唖然としながらも、どこか台詞めいた言葉を語るその光景をただ見ていた。
先ほどのこの旅人の様子から見ても、どうにも嘘くさい話にしか聞こえない。
一応は自分も怯える素振りなど見せて、山賊達へのポーズを取った方が
良いのかとも思ったが、どうやらそれは杞憂だった。
「ひッ、や、やめてくれッ!」
-
予想以上の反応だった。肩を穿たれた大男は、本気の怯えを見せる。
その豹変ぶりではなく、先ほどの力に対しての畏怖が芽生えたのだろう。
山賊の反応を見て、手の平を返したかのようになおも旅人は続けた。
(´・ω・`)「それなら、お仲間を連れてここから立ち去るといい」
(´・ω・`)「その出血量だと、下手をしたら3刻もすれば命に関わるよ」
(´・ω・`)「すぐに山を降りて、どこかで手当てをお勧めするなぁ……」
口元を手で隠しながら、小さく笑みをこぼした。
これが演技だとするならば、ツンの目にはいまいちなものだが。
しかし、その顔を見上げる山賊には、自分の目の前に立っている
不敵に笑うこの旅人が、よほどの大悪党に見えているのだろう。
「お、おい!お前らッ、起きねぇか!」
頭に石を叩きつけられて気を失っていた子分達は、意識も朦朧とした中
強引に引きずり起こされ、連れ出されて行く。
目が覚めたものの、リーダー格のただならぬ慌てふためきように、
一人、二人とたたき起こされると、混乱を抱きつつも、そのままこちらを
振り返る事も無く脱兎の如く洞窟を飛び出すと、山中へと消えていった。
-
自分達が居る以外、からっぽとなってしまった洞窟の中で、
しばらくの間ぽかんと口を開け、呆然としていた。
(´・ω・`)「……大丈夫かい?」
その問いかけに、ツンはハッと現実へと意識を戻す。
先ほどまで抱いていた絶望感は、今や見事に打ち消されたのだ。
突然自分を助けに現れた、この一人の旅人によって。
ξ;゚⊿゚)ξ「は、はい!」
ξ゚⊿゚)ξ「危ない所を助けて頂いて、本当にありが──」
ぺこりと頭を垂れるツンの仕草は、手で遮られた。
窮地をたった一人で救ったというのに、見ればその表情は晴れやかなものではない。
(´・ω・`)「いいのさ、自分が好きでやったことだ」
(´・ω・`)「それより……よく聞いてくれ」
(´・ω・`)「これから、僕は死ぬかも知れない」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
-
(´・ω・`)「正確には”死ぬ程の苦痛にのた打ち回る”だろう」
(´・ω・`)「だが、あいにくと君ではどうする事も出来ない。
だから、僕の事は気にせず下山するといい」
ξ;゚⊿゚)ξ「へ?」
(´・ω・`)「……発症するまでの感覚がこれまでに無く長いな。
これは、いよいよ覚悟が必要そうだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あのそれはどういう……」
まるで事態の飲み込めていないツンを置き去りにして、
男は一人ごちる。胸元に手を置き、身体の節々を見て、
何かを確かめるように厳しい表情を崩す事はない。
完全に置き去りにされ、状況の理解が出来ぬツンを傍目に
旅人が再び口を開きかけた、その時に異変は起きた。
(´・ω・`)「さっき僕が、命を賭ける価値があると言ったのは、こういう……」
-
(;´ ω `)「ッ!? ……ぐぅッ、ごほぉッ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ」
突如として胸を押さえ、旅人の膝は地面へと崩れ落ちてゆく。
手足はぶるぶると痙攣し、手の平を一心に見つめて、正気を保とうとしているようだ。
(;´ ω `)「がはッ!ぐぶぅッ」
だが、すぐに地面へと横ばいになると、口からは夥しい量の血を吐き出した。
声にならない声を上げて、先ほど言っていたようにのたうち回り始めたのだ。
何が原因なのか、医学的な知識を持ち合わせていないツンには理解が出来ない。
だが、命が危機的状況に晒されているのだという事だけはすぐに分かった。
ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫ですか!?しっかり……しっかりしてッ!」
苦しそうに押さえている胸元の手を握り、その身体を
寄り起こして、背中をさする程度の事しか出来ない。
口からは血泡を吹き、胸を掻き毟るようにして苦痛に喘ぐ旅人。
一目に異常な状態だというのは分かったが、解決すべき策は見当たらない。
薬もなく、医者も居ない。
今ここに居るのは、自分の身一つだけ。
そう、今この旅人を救えるのは自分しかいないのだ。
祈ることしか出来ない、この自分だけしか。
-
(;´ ω `)「ぅ……うぅッうぅ……ッ!」
獣のようにうなり声を上げ、目はもう白目を剥いている。
意識すらないのかも知れないその彼の手が、偶然なのかは分からないが
ツンの白く小さな手を、ぎゅっと握りしめた。
ξ;゚⊿゚)ξ「そっか……苦しいんだよね……死にたく、ないよね……」
強くツンの柔指を握り締めるその手からは、体温とともに、徐々に
力も抜けていっている。死の淵で、必死にもがいているのだ。
ツンの手がまるで生死の境目であるかのように、離さない。
ξ゚⊿゚)ξ「……そうよ」
ξ゚⊿゚)ξ「祈る事しか出来ない私でも、たった一つ可能性はあるじゃない」
力ない手を握り締めながら俯くツン、そう呟いた彼女が
再び顔を上げたそこに、まだ諦めの色はなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ただただ来る日も来る日も一心に祈りを捧げて……?」
ξ゚⊿゚)ξ「やがて神に見初められた信徒だけが起こせる”聖ラウンジの奇跡”?」
ξ#゚⊿゚)ξ「……舐めんじゃないわよッ!」
-
ξ#゚⊿゚)ξ「私はこの人に助けられたんだから……だから、絶対助ける」
ξ#゚⊿゚)ξ「普段からいいだけ沢山の人たちに祈らせてるんだから、たまにゃあ
こっちの言い分を聞いてくれたって、罰は当たらないわよね!?」
この大陸で儚く消えていく命たちに対してしてやれる事はないのかと、
教会の窓から物憂げに外を見ながら浸っていたような、弱い想いではない。
自分の窮地を救ってくれた人間が自分の目の前で命の危機に瀕して
いるというのに、自己の力不足に脱力していたさっきの自分ではない。
今はただ、現実を変えたいと───
そう、”奇跡を起こす”という事を、己に課して祈った。
ξ゚⊿゚)ξ「(……私の声に、耳を傾けて下さい)」
ξ-⊿-)ξ「(そしてどうか、お聞き入れ下さい……)」
ξ-⊿-)ξ「(聖ラウンジの神よ、”ヤルオ・ダパート”よ……)」
ξ-⊿-)ξ「(この地に住まう、救いをもたらす我が主よ……)」
ξ゚⊿゚)ξ「(もうすぐ死にそうなこの人の命を……どうか、助けてあげて下さい)」
心の中で呟きながら、ツンの柔腕に力なく身体を預ける旅人の顔を見る。
呼吸も困難になってきたようだ。唇は震えて顔は青ざめ、その瞳は
もはや空ろで、意識も失っていた。
-
懇願したそれは、自然と口に出ていた。
今、救いが必要なのは”みんな”じゃない。
危険を顧みずに必死に自分を救い出してくれた、ここにいる旅人なのだ。
ξ-⊿-)ξ「一生の……お願いです」
数十年に渡って従順な聖ラウンジの信徒であり続けた父ですら、
実際に主、ヤルオ・ダパートの声を聞けた事は無いというのにだ。
今、彼女は真に神の信徒として見初められた存在でなければ
獲得する事の出来ぬという聖ラウンジの奇蹟を起こすため、ただ祈った。
呟いた後、空虚な沈黙が支配する。
木霊する自分の祈りは、まだ届いていない。
ξ-⊿-)ξ「………(すぅぅぅぅぅ)………」
大きく息を吸い込んだあと、心を落ち着かせて、また一心に強く、強く祈った。
体温が冷たく引いていく旅人の手を両手で握りながら、その手ごと額に当てて祈った。
ξ ⊿ )ξ「奇跡を、起こして───」
今一度、願いを言葉にしたその瞬間、ツンの意識は───空を飛んだ。
-
───
──────
─────────
気がつけば、真っ白な空間に自分が居る事に気づいた。
身体の感覚がないのか、それとも、この場には自分の身体自体がないのだろうか。
ただただ真っ白に、うすぼんやりと光がそこかしこを照らす場所。
まるで夢を見ているかのようだ。だが、そんな事すらも認識できない程に、
現実との境があやふやな、不可思議な場所だ。
ややあって、頭の中に直接語りかける声が、近づいて来るように感じた。
耳を澄ますように意識してみれば、確かに声が聞こえるのだ。
-
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──我こそはヤルオ・ダパート──
\ ` ⌒´ /
それは、煌びやかな白い光たちに引き連れられるようにして、
ぼんやりとその大きな顔を浮かび上がらせた。
この場に自分の身があるのであれば、あまりの驚きに大声を上げてしまうだろう。
限りなく非現実的なこの状況だが、一つだけ確信できていた事があった。
今自分は、聖ラウンジが崇める神、”ヤルオ・ダパート”の声を聞いているのだと。
-
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──そなたの、一点の曇りなき想いは届いた──
\ ` ⌒´ /
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──他者の誰かを助けたいと真摯に願うそなたにならば、施そう──
\ ` ⌒´ /
語りかける声は、どこかやさしく自分の存在を包んでくれるような、
そんな暖かさすら感じる。心地よい安心感だが、すぐに現実へと
帰らなければならない、というような焦燥も、同時に抱いていた。
-
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──聖ラウンジの秘術、奇蹟を起こす術を、そなたは望むか──
\ ` ⌒´ /
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──そなたが願えば、切なる祈りは確かな力となる──
\ ` ⌒´ /
”聖ラウンジの秘術”、”奇跡を起こせる力”
聖ラウンジの神、このヤルオ・ダパートを信仰するものならば、
きっと信徒以外にも誰もが欲する”力”となり得るだろう。
それを何と言ったか、この自分に授けると言ったのだ。
自分は”力”などいらない、だが、それで誰かを救えるというのなら──
”救い”をもたらす”力”ならば、欲すると、無意識でツンは願った。
-
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──そうか、確かに授けた………我が名はヤルオ・ダパート──
\ ` ⌒´ /
そしてどうやら、ヤルオ・ダパートはその願いを聞き入れたようだった。
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (●) (●) \
| (__人__) | ──かつてヴィップの地で生まれし、善なる神──
\ ` ⌒´ /
____
/⌒ ⌒\
/( ●) (●)\
/::::::⌒(__人__)⌒::::: \ ──いずれまた会おうお 心きれいな娘さん?──
| |r┬-| |
\ `ー'´ /
最後に、その屈託ない笑みと、少しどころでなくくだけた神の言葉を耳にした。
身体全体が、真っ黒な渦に吸い込まれていく。
来た時と同じように、意識は暗闇の世界へと飛ばされる───
-
───
──────
─────────
ξ ⊿ )ξ「………ん!」
ツンが意識を再び取り戻した時、そこはなんら変わらぬ景色だった。
(;´ ω `)
腕の中には、まだ旅人が辛うじて息をしている。
意識を失ってはいるが、なんとか呼吸だけはしているのだ。
今、自分は、一瞬だけ夢を見ていたのか──
今しがたの夢現の出来事と現状とが混ざり合い、記憶に
混乱が生じていた。一つ一つ紐解こうと思案を始めたところで、
視界に映った光景に更なる混乱を得る。
ξ;゚⊿゚)ξ「な……何?」
自身の身体から、きらきらと時折煌びやかな光がじんわりと
周囲に放射されている。やがて細い線となり消えていくそれだが、
あとからあとから、次々と泉のように湧き出てくるように。
ξ゚⊿゚)ξ「まさか、本当に……」
-
これならば、いける。
この時、ツンは確信を得た。
迷うことなく、抱きかかえていた体を地面へとそっと横たえると、
彼の胸元を全面に渡って覆っていた包帯を取り払った。
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
そこで彼女が見たのは、胸板を突き破ろうとするようにして
暴れるどす黒い発光体が、皮膚のすぐ下で縦横無尽に動き回っている光景。
だが、実際に体内に何かが入っている訳では無さそうで、
実体も無さそうで、まるで何らかの呪いをかけられたかのようだった。
ξ;゚⊿゚)ξ「生き物、なの?それとも……」
(;´ ω `)「………ッ……!」
あれこれと詮索を入れている時間は、もうほとんど無さそうだった。
胸の中で何かが暴れるたび、彼の身体はびくんびくんと上下している。
こんな状況では、たとえ医者であっても快癒させる事は不可能だろう。
だがもし仮に、”奇蹟”が起こり得るのならば───
ξ゚⊿゚)ξ「……どうみたって悪性の物よね、これは」
ξ゚⊿゚)ξ「なら、てっとり早くこの人の身体から出て行きなさい」
-
ξ゚⊿゚)ξ「(……見てなさいよ)」
ξ-⊿-)ξ「(今の私になら……出来ると信じるのよ)」
黒の発光体が怪しく蠢くその胸部へと、そっと両手をかざした。
そして目を閉じ、心の中で祈りを捧げながら、数言を唱える。
ξ-⊿-)ξ「……【聖ラウンジの偉大なる名の下に 命ずる】」
ξ-⊿-)ξ「【消え去れ 聖者の命を脅かす 悪しき存在よ】」
ξ゚⊿゚)ξ「【そしてこの者の生命に 再びの光があらん事を】”ッ!!」
一点の曇りなき願いの塊を、心の中で一息に爆発させた。
─────そして、辺りは光に包まれる。
とても眩く激しい光が、暖かく優しい光が、満ちる。
手をかざしていたツン自身が驚いてしまうほどだったが、
怯む事なく、蠢く発光体を消し去る事だけを念じた。
ξ;゚⊿゚)ξ「苦しんでいるの……?」
ツンが創造した奇蹟の前に、今まで以上に暴力的に這い回る胸の影。
もう、すぐにでも胸を突き破って飛び出てきそうなほどに。
(;´ ω `)「………かはっ!」
旅人は呼吸を取り戻したのか、深く息を吐き出すように一度咳き込む。
それが、きっかけになったかのようだった。
-
ついにその影は、奇蹟の光に吸い上げられるようにして、
ゆっくりとツンの目の前にまで姿を現した。
ξ;゚⊿゚)ξ「こんなものが……身体の中に……」
ピギョォッ ギョォーッ
浮かび上がった不定形が、蠢く。
やはりこの気色の悪い影は、ある種意思を持っているのか、
小さな声ともつかぬ奇怪な音を、どこかから発しているのだ。
聞いているだけで、肌に怖気が走ってしまう程に不快な、その声。
(;´ ω `)「………ハァ………ハァ……」
ξ ⊿ )ξ「(良かった……本当に)」
ふと旅人の様子を気に掛けると、胸から異物が取り除かれた為か
徐々に肌は赤みを取り戻しつつあり、呼吸も先ほどよりか落ち着いていた。
後は、”これ”を完全に消し去るだけだ。
ピギョォッ ピギャァッ
ξ゚⊿゚)ξ「さて……なんだか可哀想な気もするけど」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたは、きっと育っちゃいけない存在なの」
ξ-⊿-)ξ「だから───さよなら」
-
眼前に浮かび上がったそれに向けて、両手を突き出す。
たったそれだけの事で、光の中で影は一層もがき苦しんだ。
光の粒に溶け込んでいくようにして、やがて───それは完全に消え失せた。
────
────────
────────────
(;´・ω・`)「こいつは、驚いたな」
それから程なくして意識を完全に取り戻した旅人は、
意識を失っていた間の事の顛末をツンから聞き、驚きに
自分の身体と、ツンのその表情を幾度も見比べていた。
ξ゚⊿゚)ξ「信じられ……ませんか?」
確かににわかには自分でも信じがたいと、ツンは思う。
父がそうであったように、幾年、幾歳月を信仰に使い果たした
名のある信徒であっても、かの聖ラウンジの秘術を用いる術を
得られる者など、ほんの一握りの人間だけなのだ。
-
まだ齢にしてたった20の自分がその中の一人に選ばれた。
その事実に対して、未だ実感が沸いて来ていなかった。
(´・ω・`)「いや……勿論信じるよ。この胸にあったはずの
烙印が、嘘のように無くなっているのが何よりの証拠さ」
(´・ω・`)「そして───本当にありがとう」
ξ゚ー゚)ξ「こちらこそ……お互い様です!」
そこで、二人に初めて笑みがこぼれた。
お互いがお互いを助け合い、誰も死なずに住んだ。
聖ラウンジの秘術を授けられた、ツン=デ=レイン。
笑みが浮かぶと共に、彼女の中でようやくその事への実感が、
それが誰かを救えるという事への喜びとして芽生えつつあった。
(´・ω・`)「(それにしても……封魔の法───そういう事だったか)」
-
(´・ω・`)「(人の身に、魔力を食い物にする妖魔の類を封じ込める……)」
(´・ω・`)「(それにより、魔術を使う際の精神力を糧に成長し、
やがては対象の術者を死に至らしめるという訳か……)」
(´・ω・`)「……やはり恐るべき才能だな、モララー・マクベイン」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
考え事をしていたかと思えば、ぼそりと何事かを呟いた
旅人の様子に、ツンが一瞬怪訝な表情を浮かべた。
(´・ω・`)「いや失礼、ただの独り言さ。それより──」
そう言って、すっくと立ち上がり外套の砂埃を払って、
ツンの正面へとしっかり向き直った。
(´・ω・`)「自己紹介がまだだったね……”ショボン=アーリータイムズ”、
ご周知かとは思うが、これでも魔術師の端くれさ」
ξ゚ー゚)ξ「”ツン=デ=レイン”、聖ラウンジの信仰者です。
大陸の各地を旅して、少しでも自分が力になれればな、って」
(´・ω・`)「そうか……きっとなれるさ。その力は、何物にも代え難い」
-
ξ゚⊿゚)ξ「あなたも……旅を?」
(´・ω・`)「まぁ、今の所はね。同じ屋根の下で研究していた同僚に
一杯食わされて、貴重な研究時間を取り上げられてしまったのさ」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん……よくわからないけど、大変ですね」
(´・ω・`)「君も、ね」
うん、と頷き、ショボン=アーリータイムズは洞窟の外を眺めた。
天候が既に落ち着いているのを見て、下山の準備をしようと外へ
投げ出してきた自らの手荷物を取りに行きかけた所で、出口に立ち止まる。
(;ノoヽ)「あう……?」
(´・ω・`)「……おっと」
おずおずと洞窟の入り口から覗き込んできた子供の目が、ショボンのものと合った。
少しうろたえ気味に、背後のツンの表情を伺った。
ξ゚ー゚)ξ「……心配して、見に来てくれたんだ?」
(´・ω・`)「……なるほど、こやつめ」
そう言って子供の頭に手を置こうとしたショボンの脇を素早く通り抜け、
奥に立つツンの傍へと駆け寄ると、その背後に隠れた。
ξ゚ー゚)ξノoヽ)「おあう〜」
-
ξ゚ー゚)ξ「大丈夫、怖い人はもう居ないから」
(´・ω・`)「ふふ、懐かれているようだね……どうやら、耳が聞こえないようだが──」
ξ゚⊿゚)ξ「──私、この子を連れて街に行きたいと思います。
聖ラウンジ教会なら、きっと預かってくれると思うから」
恐らくはやり遂げるだろうという、強い精神力の篭ったツンの一言。
それにショボンは、一度だけ大きく頷いた。
(´・ω・`)「承知した……それなら、ここからだとヴィップの街が近い。
早ければ一日、遅くとも、まぁそれに加えて数刻だろう」
ξ゚⊿゚)ξ「ヴィップの街ですか……一度、行ってみたかったんです。
ヤルオ・ダパートはかつてその地で生まれたって話だし」
(´・ω・`)「うん。少し休みたい所だろうが、山の天候は崩れやすいと聞く。
途中で山小屋の一つくらいはあるだろうから、そこで休もう」
(´・ω・`)「もしさっきの野盗共と出くわしたら、本来の力を取り戻した
この僕が、より華麗に撃退してお目にかけるとしよう」
ξ゚⊿゚)ξ「…えっと?ショボンさんは……」
-
(´・ω・`)「僕の胸の烙印、”封魔の法”を打ち消してくれたお礼とでも
考えてくれればいい。女性と子供の二人では、危険過ぎる」
ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとう、ございます!」
(´・ω・`)「さて、出立しよう」
ショボンが支度を整え終わるのを待って、ツンの後ろで
隠れていた子供は、一瞬だけショボンの前に立って、一言。
(ノoヽ)「あ……”あうがおうっ”」
(´・ω・`)「………?」
ξ゚ー゚)ξ「………!」
耳が聞こえないために、正しく声を発音する事ができない子供の
その一言は、どうやらツンの方にだけは伝わったらしかった───
-
─────
──────────
───────────────
こうして、奇妙な取り合わせの三人は山を降りるために、
”交易都市ヴィップ”を目指すために、ゆっくりと歩き始めた。
疲労感が、なぜだか心地よい。
充足感が、澄んだ風と共に頬を撫ぜる。
(´・ω・`)「あまり走り回って、滑落するなよ?」
少し砂埃で黄色みがかった修道服の裾をぎゅっと結び、
あちこちへと興味津々に駆け回り、ショボンとツンの後を
あとからついて来る聾唖の子供の姿を目で追いながら、想う。
ξ゚ー゚)ξ「(そうよ……救いを求めるばかりが信仰じゃない)」
ξ-ー-)ξ「(私は救われるよりも……こうやって、誰かを救いたい)」
───彼女の胸の中を今、鮮やかに彩られた清風が駆け抜けていた───
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(3)
「誰が為の祈り」
─了─
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(5)
「行く手の空は、灰色で」
-
少女は、閑散としたダイニングにただ一つだけ置かれた
食卓の上に腰掛けながら俯き、膝を抱えて一人佇んでいた。
この空間の空気を、打ち捨てられた廃墟の景色を、懐かしむように。
この場所に来たのは、たまたまだった。
彼女が受けた地質調査の依頼で、偶然この場所を通りがかった。
──────生家だった。
確かに、彼女はこの家で生まれて、そして育って来たのだ。
人里の離れに建てられた家だが、建て構え自体は頑強に作られている。
物取りの輩が押し入ったような形跡も無い。尤も、取る物も残されてはいないのだが。
ここには、住み暮らしていた両親達との微かな想い出が残されているばかりだ。
物思いに耽るのを中断し、あたりをぐるりと見渡してみた。
-
視界に入った煤ぼけたイーゼルには、風化した紙切れが残されている。
腰掛けていた食卓から降りると、そのイーゼルに挟まれた羊皮紙の表面を、
ささっと手で払ってみた。長きの歳月で積もった埃が、地面に落ちる。
その下からは、人肌のような赤みが少しだけ見て取れた。
ところどころが風化しているが、全体像にはどことなく想像がついた。
満面の笑みを浮かべて、こちらを真っ直ぐと見つめる瞳。
絵心もさほど無いはずの父親が、幼少時代の彼女自身を描いた油絵だった。
ぼんやりと、その油絵を眺める。
知らず知らずの内に、再び彼女は空想に耽っていった───
-
─────10年前 大陸東部 ロアリアの町─────
この頃、この地で旗揚げされた一つの宗教が、
大陸東部各地に、大きな争いの種を蒔くことになった。
火種となったのは、”極東シベリア教会”
そして、それを弾圧した聖ラウンジ教会の過激派により、
血塗られた宗教戦争の火蓋は、切って落とされる事になる───
東部、ロアリアの街───元々は聖ラウンジの教えが広まっていたこの地に、
シベリア教会がこの地を聖地と定め、土足で巡礼を始めたのがきっかけだった。
だが、当時から最大の宗教派閥である聖ラウンジに、シベリアの信徒達は迫害を受ける。
幾度もそれがつもり重なっていく内、シベリアの信徒達はその弾圧に対し、
いつしか武器を手に取って立ち向かうようになっていった。
幾度にも及ぶ小さな小競り合いから発展した
宗教戦争の火の粉は、やがては街の民衆にも飛び火する。
-
ロアリアには聖ラウンジの信徒だけではなかったが、無神論者もシベリア信徒も、
闘争が過熱の一途を辿る程に、自らの信仰をひた隠すようになっていった。
それというのも、聖ラウンジ過激派の異端審問官の存在によるものだ。
ラウンジの異端審問団は日ごとに各家々を巡回し、自らが”異端”と認定した
シベリア教会の信仰者を、ことごとく審問という名の拷問に処した。
それが無宗教の人間であっても、追求し、弾圧した。
日ごろより、一つの神を信じ、全ての民の救済を願う。
それが聖ラウンジ教であるはずだが、必ずしも一枚岩ではなかった。
決して、このロアリアの地に限った話ではない───
この時、既に大陸各地で数多の信徒達を抱えていたラウンジ。
”一つの神を信じる”という信仰は、いつしか内包した莫大な
思念の渦に揉まれて、歪んだ一面を見せるようにもなっていった。
-
地元の領主達も、暴徒と化した教会から反感を買うのを恐れ、口出しすら出来ない。
それほどに、自らの信仰を盲信した一部の過激派の暴走は、留まる所を知らなかった。
総本山である聖教都市ラウンジの大聖堂の信徒達の預かり知らぬ所で、
”魔女裁判”と称した、更なる尋問も行われるようになっていったのだ。
───ルクレール家 屋敷───
ルクレール家の当主は、熱心な研究者だった。
自然に群生する、珍しい植物や生物、それらを持ち帰って来ては、
その生態や特性を、自らの屋敷の一室で、じっくりと研究した。
中でも、一家の当主が一番打ち込んだのは、魔術の研究だった。
かの”賢者の塔”のアークメイジでさえも深遠の一端にも触れえぬという魔術。
だが、一介の魔術師ですらないこの当主は、5年ほど以前より独学で始めた
研究を進める内、ある時を境に冷気を操る魔術を身につけていた。
もっとも、瓶入りの飲み物を手元で冷やす事が出来る、という程度。
本職の魔術師が使うそれと比べてはあまりにちゃちな”手品”だったが、
それでも、愛娘の”クー=ルクレール”に笑顔を与えるには十分な”魔術”だった。
-
「今夜はよく冷えた葡萄酒で乾杯といこうか、アンナ」
川 ' ー')「あら、またご自慢の手品をお披露目したいだけなんでしょ?」
「はは、見破られたな……」
貯蔵庫から取り出してきた一本の葡萄酒の瓶を抱えながら、
妻であるアンナの鋭い指摘に、クーの父親は気さくな笑顔を見せた。
娘のクーの目は、両親達の晩餐のお供である、その葡萄酒に釘付けだ。
川゚-゚)「ちちうえー、私もぶどうしゅ飲みたい」
「いいとも!待ってろよ、今お父さんの魔術で……」
川 ' -')「駄目よあなた!クーにはまだ刺激が強いんだから」
川;゚-゚)「えー!」
「堅い事を言うなよアンナ〜…」
少し肩を落とした様子のクーと、その父親を尻目に
母は少しだけつん、とした様子で食卓の上に料理を並べ始める。
談笑が始まると、食卓を囲んで暖かな空気が広がる。
-
夕刻、屋敷一階の食堂は団らんに賑わっていた。
───だが、ナイフやフォークを動かす手は、突然はた、と止まる。
唐突だった。
雨音混じりに、門扉を激しく叩く音が、鳴り響いたのだ。
どんどん、どんどんと。幾度も、次第にその音は強まっている。
川゚-゚)「……だれかきたっ」
不意の訪問者に、娘のクーは戸口へ出て行こうとしたが、
母親のアンナはすぐにその腕を引き掴んで、静止する。
川 ' -')「待ちなさい、クー」
「………」
手に持っていた葡萄酒の瓶をことりと食卓の上に置くと、父は
無言で門を叩くその音の方へと振り返り、ゆっくりと立ち上がった。
川 ' -')「……あなた……」
「大丈夫だ……二人とも、そこに居なさい」
-
心配そうな面持ちのアンナと、小首を傾げたクーの視線を
背中に受けながら、依然として叩かれ続けていた門扉の鍵を、開けた。
そこに立っていたのは、そぼ濡れた黒の外套に身を包む、数人の男の姿。
その彼らを極力入り口でせき止める為、体を割り込ませて父親は問いかけた。
「………何だね、君達は」
(≠Å≠)「随分と待たせてくれたものだな……見られて困るものでも隠していたか?」
クーの両親にとっては、ある程度予想がついていた事でもある。
───聖ラウンジ教会東部ロアリア支部”異端審問団”の一団だ。
「あなた達は聖ラウンジの……?」
(≠Å≠)「いかにも。敬愛なるヤルオ=ダパートの信仰者にして、
神の声の代弁者……いや、”執行者”というべきか……」
「………っ」
内心、クーの父親は審問官のその言葉を、鼻で笑った。
自分達の持つ力に酔い、頭がどうにかなってしまっているのだと。
同じ信仰を持つ人間に対して、教会直属の人間である自分達の方が
力が上だと誇示せんばかりに横暴な、その態度。
-
その時、クーの父親は少しばかり蔑む瞳をしてしまっていたのかも知れない。
(≠Å≠)「……ふん、随分とご立派な屋敷じゃないか?」
どかどかと、審問官はクーの父親を押しのけるようにして
家の中にまで上がりこみ、鼻を鳴らしながらそこらを見渡した。
その背中に、父は毅然とした態度で言い放った。
「もういい……帰ってくれ」
(≠Å≠)「なにぃ……?」
「この十字架を見れば、私が君達と同じ聖ラウンジの
信徒だという事がわかるはずだろう?」
そう言って、首から下げたチェーンを衣類の外へと押しやると、
銀の十字架を覗かせて、審問官の目の前でそれを握りこんだ。
審問官は少しばかりくすんだその十字架をしばし凝視した後、
(≠Å≠)「……”信徒の振りをしているッ!”」
「!?」
-
(≠Å≠)「……と、まぁそんな場合もあるのでな……しっかりと、
入念に、貴様の邸宅内を見回らせてもらおうか」
「………くっ」
再び、審問官は引き連れた従者らと共に、屋敷内の物色を始めた。
そこらを引っ張りまわし、物が転げ落ちて壊れたりするのもお構いなしだ。
やがて、一団はクーとアンナの居る食堂の隣に面していた
父の研究室の扉を開けた。食堂と研究室は扉一枚に隔てられており、
状況を把握していない二人の存在を隠し通す事は、難しかった。
(≠Å≠)「……ほぉ。なんだ? この部屋は」
「私は昔学者を目指していてね、日ごろから趣味半分に
動植物に関する様々な研究をしている……その、研究室だ」
扉の向こうにいるクーとアンナの存在に気づかず引き上げてくれる事を、
一心に心の中で願っていた───ここで、帰ってくれ、と。
だが、審問官の顔色は、この部屋に入るなり変わった。
ふむ、ほぉ、と一人頷きながら、書棚の中身や、卓上に転がった
器具などを一つ一つ、入念に手に取って見て回り始めた。
(≠Å≠)「フン……臭うな……実に臭うぞ」
-
確かに、硝子製の様々な器具が置かれ、薬漬けにした薬草や
木の根っこ、果ては昆虫類の標本まで乱雑に置かれたこの部屋は、
傍目からにはあまり一般的なものには見えないだろう。
だが、クーが生まれてすぐに魔術の研究を諦め、今や大陸に住む
動植物の観測や、生態調査だけに研究を切り替えた父親にとって、
聖ラウンジへの信仰に疑いが漏れるような物は、この研究室の中には
何一つない、そのはずだった───ただ一冊の書物を、覗いては。
一見して研究の範疇という物ならば、さして問題のなさそうなその一冊。
初級者へと向けた、基本的な事項を綴った入門用とされる魔術書だ。
そして、疑わしきは裁くという方針が、このロアリア異端審問団のやり方だった。
(≠Å≠)「魔術書だと……? なんだ、これは」
「そ、それは……」
(≠Å≠)「言え、このような物、一体何に使おうというのだ?」
「違う!それは昔していた研究の資料で、私の興味本位で……!」
(≠Å≠)「だ・ま・れ!」
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