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仮投下スレ

276 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:09:31 ID:3NVYLIzY0
そこまで言って、ファヌソがずい、と一歩前に踏み出る。
ファヌソとA-10神の距離、およそ十数メートル。

「あなたがお探しの、ひろゆきを跡形も無く吹っ飛ばせるような武器……心当たりがありましてね」
「なにぃ!?」

もし、A-10神に表情というものがあるのならば、まさしく目を丸くしていただろう。
概ね想像通りの反応が返ってきたことで、ファヌソはますますその笑みを濃くしていく。

「よーし、キサマの話は分かった。それではさっさとその武器とやらを……」
「おっと、その前に」

身を乗り出すようにわずかに車輪を前に進ませたA-10神をファヌソが手で制する。
そして、次に放った言葉が二人が決して手と手を取り合うような関係でないことを浮き彫りにした。



「誰かに物を頼む態度というものを示していただけませんかねぇ?」



ファヌソとしてはA-10神の軍門に下る気などさらさらない。
むしろ、A-10神を自分が乗り回して、この下らぬ催しにさっさとピリオドを打ってしまってもいいと思っていた。
しかし、神の子としてのプライドにかけて軍門に下るどころか、対等な関係すらも拒絶する。
ファヌソからしてみれば、自分以外の参加者はすべからく自分の意のままに動くものと考えている。

神の子ファヌソとA-10神。
互いに神の名を冠する者同士は、似た者同士である故に激しく反発しあう。
まるで磁石の同じ極を近づけた時のように。



「……ふざけるなよ」

A-10神はその怒りの限界をついに突破した。

「この俺に頭を下げろだと? 俺がいなければ戦場で戦えない人間風情が!? 舐めるなッッ!!」
「この私を人間風情と同列に扱うとは、戦闘機風情が大した度胸ですね。
 所詮弾薬の尽きたあなたは鉄屑に片足突っ込んでるようなものだというのに……」
「鉄屑……!? キサマ、許さんぞ……上官命令に背いたものに命があるとでも思ったか!!」
「自分の立場もわきまえずに命令などと……しかるべき罰を加えてやる必要がありそうですねえ」

277 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:12:51 ID:3NVYLIzY0
前哨戦となる舌戦が幕を閉じる。
最初に動いたのは……兵装の無いA-10神だった。

「ミンチにしてやらあっ!!」

その巨躯を以って、一直線にファヌソへと突っ込んでいく。
アヴェンジャーもMINIMIも使えないA-10神に唯一残されたのは己が体だけである。

「おぉ、危ない危ない」

しかし、決して小回りが効くとは言えない。
おまけにほぼ停止した状態からの発進である。
ファヌソがこれを易々とかわしたのも当然の帰結であった。

「ちっ、どいつもこいつもちょこまかと……!!」

怒りに身を任せるA-10神はすぐさま方向転換を仕掛ける。
その速度は、ファヌソが想定していたよりもずっと速いものであった。
再び突っ込んでくるA-10神の前に、ファヌソの顔から余裕の色が若干失われた。
今度は機敏な動きで横に飛んでその突進を避ける……が、それをA-10神は織り込み済みだった。

「この俺から逃げられるとでも思ったか!!」

ファヌソが避けたかどうかというタイミングで、既にA-10神は方向転換の動作に入っていた。
180度回転をかける拍子に、その胴体も大きな弧を描いてファヌソに追撃をかける。

「おぉっと!」

素早く屈んでファヌソがこの攻撃もかわす。
しかし、立ち上がる前にA-10神が次の攻撃態勢に入る。

「しゃらくせえっ!!」

三度、突進を仕掛けるA-10神に対し、ファヌソの取った行動は……

「はっ!!」
「んだとぉ!?」

まっすぐ後方にジャンプして距離を取る事であった。
普通に考えれば無理な体勢であるが、神通力を使えば造作も無いこと。
風の流れを作り出し、それに身を任せる形でA-10神から離れる。

278 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:17:13 ID:3NVYLIzY0

「ケッ、そんなことをしたところで、キサマの死ぬのがちょっとだけ延びただけだ!!」

それでもA-10神は怯まない、止まらない。
ますます速度を上げ、ファヌソに迫る。
そのファヌソはというと、病院の壁を背負うような格好であった。

「死ねやぁっ!!」

これまでの最高速に達したA-10神の巨躯。
それをファヌソはギリギリまで引き付け……そして再び風の流れに乗って横へと飛び去った。
さながら、猛牛を相手にする闘牛士のごとく、猛るA-10神をあしらってみせる。

もうA-10神は止まらない。
そのまま一直線に病院の壁へと突っ込み……



ドカーン!



轟音を上げて病院の壁の一部が崩れた。
コンクリートの破片が、ガラスの破片も交えて辺りに飛び散る。
それを冷静にファヌソは避けていった。

「やれやれ、まったくたいしたじゃじゃ馬です。これで少しは大人しくなってくれれば……」

呆れた笑いを浮かべながら、ファヌソがゆっくりとA-10神へと歩み寄ろうとしたその時だった。

「逃がさねえぞ、このオカマ野郎がっ!!!」

声とともに沈黙したはずのA-10神の機体が動き始める。
周りの壁が崩れるのもお構いなしに、その期待をぐるん、と一回転させて再びファヌソと正対する。

「!?」

さすがのファヌソも驚愕の表情へと変わる。
なにせ、目の前のA-10神の機体は、ぶつけた所の塗装があちこち剥がれていたり、少し凹んでいるとはいえ、普通に動いているのだ。
どうしてか意思の疎通が図れるとはいえ、ここまで目の前の戦闘機をただの戦闘機としてしか見ていなかったからだ。
コンクリートの壁に突っ込みさえすれば機能を停止させる、そこで神通力をもってして自らの忠実な僕へと変える。
その手はずだったところで、わずかに計画に狂いが生じる……そこでファヌソの顔に一筋の汗が伝う。

「テメエも、さっきのクソ野郎もそうだ!! ちょこまかと逃げることだけは出来るようだがな……」
「さっきのクソ野郎?」

ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

279 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:19:54 ID:3NVYLIzY0
ファヌソが聞き返すと、A-10神は矢継ぎ早に言葉を返す。

「白い服にジーパンを着込んだ妙な野郎だ! 奴も口だけは回る奴だが、俺をどうこうすることは出来なかったがな!!」

A-10神が忌々しそうに先刻の出来事を思い出す。
……だが、それを聞いてファヌソの顔に再び笑みが戻った。
そのまま腹を抱えて笑い転げそうになる。

「……おい、キサマ何のつもりだ」

いきなり目の前で笑い出したファヌソを前に、さすがのA-10神も気味悪さを感じずにはいられなかった。
一方、ファヌソは愉快で愉快で仕方ない。
白い服にジーパンを着込んだ……こんな妙ちくりんな格好をした男はそう何人もいるわけではない。

(そうですか、そうですか、竹安佐和記……お前もコイツと出会っていたのですね!!)

全てを救えと命じた男が、この猛々しい戦闘機と出会っていた。
そればかりか、激昂させるような行動を取っていたという。
恐らくは、竹安もまた安易にこの戦闘機の軍門には下らなかったのだろう、ファヌソはそう推測する。

(全てを救うには強大な覚悟が必要、少なくともこのような野卑な戦闘機の言うことなど聞いている時間などありません!)

竹安が自分の意のままに動いているということを、この戦闘機を通じて知ることが出来た。
それがファヌソには愉快で愉快で仕方なかったのだ。

一方で、その反応からA-10神も目の前の優男と先刻の男に何らかの繋がりがあるであろうことを察した。

「キサマ……まさかさっきのクソ野郎の知り合いじゃねえだろうなぁ!?」
「そうだ、と言ったらどうします?」
「知れたこと!!」

結果として、日に油を注ぐような格好となった。
車輪から土埃を巻き上げ、A-10神が再び突進を仕掛ける。
鬼ごっこ第2ラウンドの開幕である。

しかし、戦況は変わらない。
追いかけるA-10神をヒラリヒラリとかわし続けるファヌソであるが、ファヌソにもまた攻め手は無い。

(しかし弱りましたね……私の神通力も少なからず封じられています。
 下手な攻撃ではあの戦闘機に傷を負わすことは出来ないでしょう……むしろその際の隙を突かれかねません)

ファヌソの手元にあるのはお医者さんカバンと、幾ばくかの弾薬だけ。
その弾薬も、仔羊に与えてやるためのもので、ファヌソ自身にそれを打ち出す手段は無い。
神通力もあるにはあるが、戦闘機に通じるとは考えづらかった。

(かと言って、ここでそのまま逃げるのは私のプライドが許しません……なにより)

それまでの柔らかな表情に、一瞬だけファヌソは真剣味を込めた。

280 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:24:27 ID:3NVYLIzY0
(哀れな仔羊が頑張っているのならば、少しだけ手を差し伸べてやろうではありませんか)

ファヌソは、A-10神を手なずけることを諦めた。
それならば、後々の憂いをここで絶ってしまおうと決めたのだ。
相手が見た目は無生物であるということも、ファヌソにその道を選ばせる一因となった。
……もっとも、この遊びに飽きたらファヌソも全員を手にかけるだけの意思はあったのだが。



ファヌソが再び風の流れに乗って距離を取る。
それを舌打ち混じりにA-10神が見据える……が、様子がおかしい。

「……何のつもりだ?」

目の前のファヌソは何やらロープのようなものを手にしていた。
これまで避けることだけしかしていなかったファヌソが初めて見せた行動である。

「そんなチンケな縄なんかで俺が止められるかよっ!!!」

構わずに突っ込むA-10神。
それを避けながら、ファヌソがロープの一端をA-10神に投げつける。
が、それは胴体にかすることも無かった。

「ハッ! このヘタクソが! 西部のカウボーイの方がもっとマシな……」

一笑に付そうとして、A-10神は違和感を覚えた。
その脚部に僅かに重さを感じたのだった。

「まさか……」

UターンしたA-10神の目に映ったのは、自分の脚からロープが一直線にファヌソへと伸びていたことだった。
だが、A-10神は怯まない。

「それがどうした!! その程度で俺が止められるとでも……」

再び前進しようとしたその瞬間だった。
ファヌソが再び風に乗ってまっすぐ後方へと飛ぶ。
もう何度も見てきた光景だった。

「馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか出来ねえのかよっ!!」

突進ひとつしか出来ない自分を棚に上げ、A-10神が再び攻撃態勢に移ろうとする。
その瞬間、ファヌソの手にしたロープが、ピン、と張り詰めた。

281 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:26:29 ID:3NVYLIzY0





次の瞬間だった。





ブーッ! ブーッ! ブーッ!



「!?」

けたたましいアラーム音が鳴り響く。
それも、A-10神の足元からだった。
前を見ると、してやったり、といった表情でファヌソがこちらを見ていた。

「き、キサマ何をしやがった!!」

種明かし、とばかりにファヌソが口を開く。

「何、って分かりませんかねぇ、首輪ですよ、く・び・わ。
 もっとも、あなたの場合は首……機首ではなく脚の付け根にかかっているようですがね」

その一言でA-10神は何が起こったのか、そして何が起ころうとしているのかを察する。

「私が神通力で生み出したこのロープの先端には強力な磁石を付けています。
 本当なら首輪にロープを巻きつけて引っ張れればよかったんですけどねぇ、そんな隙間はありませんでしたし」

何度も何度も自分のすぐ近くを通り過ぎるA-10神の機体。
その脚に付けられていた首輪に、ファヌソは目を付けたのだった。

「確か、無理やり外そうとすれば爆発するんでしたっけ?
 いくらあなたの機体が頑丈でも……」

ファヌソの演説が続く。
だが、A-10神の耳には決して届かない。

(この俺が……爆破だとぉ? ハッ、そんなこと出来るわきゃねえだろ!!)

こんなちっぽけな首輪ひとつで自分を破壊できるなど露とも感じていない。
それは、神の名を冠するが故の驕りだったのかもしれない。

282 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:28:55 ID:3NVYLIzY0
けたたましくアラームが鳴り響くが、それがどうしたと言わんばかりに、悠然とA-10神は佇む。
それは、ファヌソの浅知恵などその体で打ち砕いてみせようという意思の表れ。



……だが。
バトルロワイアルの鉄則は、たとえ神が相手でも容赦なく牙を向く。



三十秒間にわたり、アラームが鳴り響いたその果てに、一つの轟音が駐車場に轟いた。
その爆発は、A-10神を呆気なく飲み込むほどの強さであった。



【A-10神 死亡】
【残り 47人】



 *      *      *





轟音とともに爆風が駐車場を包む。
もっとも、それそのものはファヌソにとって決して脅威ではない。
A-10神の攻撃をあしらうために何度も風の流れを作り出したのと同じ。
自分の周囲には決して累が及ばないように神通力を使ったのだ。

……だが。
ファヌソは肩を押さえ、息を荒げていた。
爆風の衝撃も、熱風も、飛び散ったA-10神の残骸さえも受けていないのに、どうして?

「……どういうことです?」

ファヌソは怪訝そうな表情で、自分の手を見つめる。
その手のひらからは自分の生み出したロープが伸びている。
そして、すぐ数メートル先で焼け落ちて跡形もなくなっていた。

「……まさか」

一つの仮説をファヌソは立てた。
そして、再び神通力で新たな物体を生み出す。



それは小さな小さなシャボン玉。
吹けばすぐに飛んで行ってしまいそうな小さなシャボン玉を、ファヌソはおもむろに指で突いてみる。
パチン、と音を立ててシャボン玉が割れたその瞬間だった。
ファヌソはなにか引っぱたかれるような感触を覚えた。

「……おのれひろゆき」

これまで余裕の表情だったファヌソが憤怒の表情へと変わる。
制限されているとはいえ、苦も無く使えると思っていた自らの神通力。
当然、何を生み出しても問題なく使えるだろうと考えていた……それもまた、神の名を冠するが故の驕りであった。
神の力を制限できている時点で、もう少しファヌソはひろゆきを警戒すべきであった。
他の参加者と同じく、ひろゆきを過小評価していたツケが回ってきたのである。

283 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:30:41 ID:3NVYLIzY0
神通力にも制限がかけられていた。
それは強力な力の行使が出来ないというだけのことではなかった。
先刻、竹安に行ったような装備の製作が可能であれば、無尽蔵に兵器を生み出すということに等しい行いである。

しかし、A-10神との戦い、そして今の実験。
これを通じてファヌソは悟る。



"神通力で生み出したものが損傷を受けると、生み出した自分もまたダメージを受ける"



ファヌソの背中を冷や汗が伝う。
なにせ、ロープと磁石が吹き飛んだだけで肩に痛みを覚えるほどだ。
そこでファヌソは嫌な予感を感じ取る。



「……もし、竹安の身に何かあったならばどうなります?
 身を覆う装備の全てが崩されたその時……私の命に保障はあるのでしょうか?」

ここにきて六時間あまり。
ファヌソが初めて焦りの色を前面に見せる。
目の前で燃え上がるA-10神の機体が、その焦りを加速させる。
明日はわが身、これを目の前で見せられているのだ。

「こうしてはいられません……!」

痛む肩を押さえてファヌソが駆け出す。
こうなった以上目的はただ一つ。



「竹安を早く見つけて保護せねば……! 最悪、装備にかけた神通力だけでも解き放ってしまえば私に怖いものなど……!」

並の参加者が自分に襲い掛かってもどうにかできるだけの自身がファヌソにはある。
だが、竹安ならどうかと問われた時に、全幅の信頼を置けるほどではなかった。
今や、ファヌソと竹安は一蓮托生、そんな存在へと自分が誘ってしまったのである。

284 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:32:21 ID:3NVYLIzY0
ファヌソはヘリコプターをすぐさまデイパックへと仕舞い込んだ。
空からはA-10神のような存在は見つけられても、人一人を見つけ出すのは困難である。



朝焼けに染まる街をファヌソが駆け出す。
全てを救え、そう命じた男を自分が救わねばならない。
そんな皮肉な運命を自らに課すような形で。



【C-3 病院・駐車場/1日目・朝】

【髪の子ファヌソ@ゲームサロン】
[状態]:肩に痛み、疲労感(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、お医者さんカバン(4/5)@ドラえもん、ヘリコプター@現実
    12.7mm弾×25、25mm弾×5
[思考・状況]
基本:気まぐれに行動する
1:竹安を探し出して保護する
2:ひろゆきをゆくゆくは地獄に落とす
3:手に入れた弾薬は、相応しい仔羊に与える
4:『裏ワザ』(死体やヘリをデイパックに収納できること)を誰かにひけらかしたい

※神通力が制限されています。自分が生み出したものが損傷を受けると、ファヌソにもダメージが及びます。
 竹安の装備が損傷を受けた際のダメージの程度については次以降の書き手の方にお任せします。

※ファヌソが立ち寄った小さな公園の中に、弾薬箱とわさび@オラサイトが放置されています。
 ファヌソが入手した物以外にも弾薬はあるようですが、種類と量は不明です。
※デイパックに参加者の亡骸を入れて持ち運べることを知りました。生者にそれが適応するかは次の書き手の方にお任せします。

※C-3の病院を発信源とする爆音が響き渡りました。

285 ◆shCEdpbZWw:2013/06/17(月) 23:34:07 ID:3NVYLIzY0
仮投下は以上となります
どなたか代理投下をいただければ幸いです

しばらくは参加できないかと思いますが、そのうち必ず戻ってきますので では

286ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/06/18(火) 00:20:07 ID:tkjzUYCk0
仮投下お疲れ様です
問題は無いと思います
それでは代理投下を承ります

287 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:31:31 ID:Lxg7rqi60
予約分を仮投下します

288 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:31:48 ID:Lxg7rqi60

(……"私に任せろ"と孔明は言ったが、さて、どのような手を用いるのか……)

 表情一つ変えずに良策を練る孔明を、スターリンは黙ったまま観察していた。
 孔明は――――使える男なのかどうか。それとも、役に立たぬ者であるのか。
 それを見極めんと、目の前の獣……サバンナを如何にして配下に加えるかを観察していた。
 しかし孔明は、時折むむむと唸るだけで、今の所、行動を起こしてはいなかった。
 だが、そんな孔明に対して、スターリンは何も言わずに、ただ見ているだけであった。

(しかし……つくづく不可解な事ばかリだ……)

 自身の知らぬ物ばかりに触れて来たせいか、スターリンの思考対象が孔明から少し離れる。
 ……今まで、見たこともないような街並みに、建造物群。
 本来ならば、こんな所にいるはずでも、いるべきでもない猛獣。
 改めて考えてみれば、奇妙なものだ。

(ライオンはまだ分からなくもない。動物園からでも連れてくれば良いだけのこと。だが……この建物はどうだ?
 これほどの物を建築するにはかなりの時間と労働力、それと相当な量の金を要するだろう。
 果たして、それらはどこから調達してきたのか? 見る限り、あの男にそれらを調達する力は無さそうだが……)

 しかし、それらの事よりも、不可解な事がスターリンにはあった。

(――――とうの昔に死んでいるはずの孔明が、何故生きている? あの本の記述が正しいのならば、
 孔明は1500年以上前の人物と言う事になる……。そのような人間が、現代まで生きているはずもない。
 ならば、奴は"孔明"の名を騙る偽物か?)

 もしそうならば、スターリンは迷わずトカレフの引き金を引くだろう。
 だが……それをやるにはいささか早いとも思っていた。
 目の前にいる孔明が偽物なのか本物なのか、判別できない以上は……。

「……まだ掛かりそうなのか」
「もう少しお待ち下さい」

 表情を崩す事なく、孔明は返した。

289 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:07 ID:Lxg7rqi60

「……ならば、その身に付けている奇怪な物を少々私に貸してみろ。暇を潰すのには役に立ちそうだからな」
「分かりました」

 孔明からiPodと説明書を受け取り、説明書通りに操作してみる。
 曲のタイトルに1つづつ目を通してみるが、どれもスターリンの記憶にはない曲であった。
 それもそうだ、入っている曲はどれもスターリンの生きていた時代にはなかった曲なのだから……。
 だが、そんな中でも、少しだけスターリンの興味を引いたタイトルがあった。
 それは……。

(……"巫女みこナース・愛のテーマ"?)

 音楽である以上、聴いてみなければどんな物かは分からない。
 誘われるように、スターリンの指が、再生ボタンを押した。
 それと同時に、曲が再生されて……。




 "皆さーん、元気ですかー!?それではさっそく行ってみよー!"




「――――!? これはッ……!?」





 今まで聴いたことのないようなメロディーが、スターリンの耳を、そして心を刺激する。
 誰なのかも分からぬ声で歌われる、そこはかとないいやらしさも感じさせる歌詞。
 何もかもが初体験の中、スターリンは暫し呆然としながらもその曲を聴いていた。


(ズキズキ恋煩い……きっと変われる素敵な私……愛のリハビリ……セクシャルバイオレット……)


 気がつけば、心の中でいくつかのフレーズを、スターリンはくり返していた。
 何故なのかは、本人にしか分からない。
 だが、気がついた時にはそうしていた。
 もしかしたら、存外この曲を気に入ったのかもしれない。
 それとも、ただ単に珍しい歌詞を反復しているだけなのか。
 そこの所は、やはり本人にしか分からないのだ。

(…………ふむ、なかなか悪くない曲だ……他には何があるのか……)

290 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:24 ID:Lxg7rqi60

 適当にリスト内に目を通すスターリン。
 幾つものタイトルが流れて行く中、スターリンの目に留まったのは。

("Southern Cross"……南十字星か。何故このタイトルなのか分からないが、聴いてみるとしよう)

 ――――再生ボタンを押すと、先程の曲とはうってかわって力強い曲調が、スターリンの耳に。
 早口故に、先程の曲と違い歌詞をはっきり聞き取れなかったが……。
 (別段何かを恐れているわけではないが)スターリンの心に"勇ましさ"を注入してくれた。

(たまには、音楽に耳を傾けるのも悪くはない……さて、そろそろ準備も出来た頃であろう)
「孔明、用意は出来たか」
「ええ」

 少し緩んでいたスターリンの目元が、一瞬の内に鋭くなる。
 ――――孔明の力量を……いや、本人なのかどうか、見極めようとしているのだ。

「やる前に、内容を聴かせて貰おうか」
「分かりました。それでは、説明いたします」


 孔明の計画は、こうだ。
 ……まず、眠っているライオンに近づく。もちろん、警戒を怠らずに。
 そして、先程手に入れた"黒の教科書に掲載されている毒物"を使う……。


「……その、"黒の教科書に記載されている毒物"とやらは一体何だ」
「仔細は不明ですが、おそらくこれは、嗅いだ者を気絶させるような効能を持つのではないかと思われます
 ……それで、この薬を用いてライオンを気絶させるのです」
「ふむ……それで、どうする」
「ここに、紐があります。スターリン殿が音楽を聴いている間に、あそこの机より拝借しました。
 これで……手足を縛るのです。目覚めた時には……自分の置かれている状況を見て、
 "力"の差を理解するでしょう」



 ……少しの沈黙の後、スターリンが口を開いた。

291 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:32:45 ID:Lxg7rqi60
「なるほどな。"支配する者"と"される者"を教えてやろうと言うのか……悪くない。ところで、縄はどこだ?
 見た所、持っているようには見えないが」
「私の鞄の中に入っております……それでは、さっそく」
「ああ……」



(さて、これからが本番だ……。お前の力を見せてみろ、"孔明"よ……)

 瓶を片手に、足音を立てずに。
 依然小さないびきをたてて、眠ったままのライオンに近づく孔明。
 ……もちろん、いつ目覚めても良いように、もう片方の手には、武器が握られている。
 外から入るおぼろげな光が、その刀身を光らせる。

「……」

 瓶の口を、ライオンの鼻の近くまで近づける孔明。
 そして……一気に、鼻のすぐ下まで近づける!
 丁度鼻から息を吸う時であったライオンは……グーッと一気に、空気ごと吸い込んで。






「……エンッ!!」






〜〜〜〜

292 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:24 ID:Lxg7rqi60




「うが……」

 ……俺が目を覚ました時には、手足がひものようなもので縛られていた。
 おい、これじゃ動けねえじゃねえか。

「しかし、まさかこのライオンにまでこの首輪が嵌められているとは、驚きでしたな」
「うむ。……もしや、このライオンも"参加者"の一人かも知れぬな」

 誰だ、こいつら。人間が2人か。
 何か俺の方を見て、ベラベラ喋ってるな。

「……スターリン殿、ここに鞄がありますが……」
「ああ、おそらくこやつの物だろう。……役に立つ物があるかもしれんな。調べてみるか」

 クソッ、そいつの中にはあの旨そうな肉が入ってるんだ。
 勝手に他人の鞄の中身を検めるなんて、非常識だぜ!

「他人の鞄、勝手に開けるとかマジないわー」

 ……俺がそう言った途端、2人の人間は鳩が豆鉄砲食らったような顔して、急に黙ってしまった。

「お前ら常識ってもんがねぇのかよ……これだから人間は駄目だわー」
「喋るライオンか……孔明、聴いたことはあるか?」
「まさか」

 だが、人間2人はすぐに落ち着きを取り戻した。
 ……案外、肝が据わってるわ、こいつら。

「言葉が話せるのか、ならば知能も……よし」

 そう言うと、ちょびヒゲの男は、何かを取り出した。
 黒光りするそれは……間違いねえ、拳銃だ。
 それが、俺の頭に……ゆっくりと、迷う事無く突き付けられた。

293 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:40 ID:Lxg7rqi60

「――――私に従うか、ここで斃れるか。話せる程の知能があるならば、"正しい"判断が下せるはずだな」
「……ッ!!」

 やべーわ。
 ……手足が縛られてなけりゃ……いや、縛られてなくても、この状況じゃキツいわ。
 先にこの銃をもった奴を仕留めるにしても、その隙にもう片方の奴にやられるかもしれねえし。逆も然り。
 ……流石に、まだまだ死ぬ気はないぜ。
 易々と頭下げるのは、俺のプライドが許さねえが……。
 手段を選んでちゃ、サバンナじゃ生き延びられねえからな!

「……滅茶苦茶気に食わねーけど、従ってやるよ」
「ならば良し。孔明、こやつの鞄の中身をそこの机の上に出せ」
「かしこまりました」

 結局、こいつらに俺の荷物は取られるのか。
 まあ、まだ信用しきっていない相手に、武器になりそうな物を持たせるはずもないよな。

「……それは銃か? ライオンには過ぎた物だ」
「この生肉はいかがいたしましょうか」
「おそらく、こやつの食糧か何かだろう。持っていけ。あと、その銃は私が使う……こまごました物は捨てて構わん」




〜〜〜〜




(思いもよらぬ収穫だったな。新しい武器も手に入ったしな)

 先頭にサバンナを立たせ、校舎を出る一行。
 ……サバンナの背には、スターリンの持つUZIの銃口が向いている。
 もしサバンナが妙な行動を起こそうとすれば、その瞬間に……。
 それが分かっているからこそ、サバンナも下手な行動を取れずにいたのだ。
 もっとも、未だに腕は縛られたままなので、普通の行動すら取りにくくなっているのだが。

(……そう言えば、孔明の力量を上手く図り損ねてしまったな。惜しい事をした)

 だが、少なくともただの凡人では無い事だけは分かった。
 ……いつ目覚めるかも分からぬライオンに近づいた度胸は、確認できたのだから。

294 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:33:52 ID:Lxg7rqi60

「孔明、今は何時か分かるか?」

 不意に、スターリンが孔明に声をかける。
 その声に反応するように、手早く鞄からPDAを取り出し、時間を確認する孔明。

「丁度、6時でございます」

 その返事に、分かったとだけ返事をし、黙ってしまったスターリン。
 打倒ファシストを目指すスターリン、それに付き沿う孔明。
 そして、嫌々ながらも生きる為に従わされているサバンナ……。



 何とも言い難い組み合わせの一行が、何処に向かうのかは……分からない。



【A-1・学校/一日目・朝】
【孔明@三国志・戦国】
[状態]:健康
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、黒の教科書の毒物@コピペ(現地調達)、ビニール紐@現地調達
    ぞぬの肉@AA
[思考・状況]
基本:蜀に帰る
1:スターリンに従い、対主催の策を練る。
※共産主義の素晴らしさを刷り込まれつつあります。

【スターリン@軍事】
[状態]:健康
[装備]:UZI@現実(32/32)、iPod@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜2、トカレフTT-33(7/8)、UZIの予備マガジン
[思考・状況]
基本:ファシストを倒す集団のトップに立つ
1:疑わしきものは粛清する。
2:喋るライオンか……暫くは警戒を解かないようにせねばな
3:孔明が本物なのかを見極めたい
※1942年初めあたりの参戦です。日本人はファシストとみなされる可能性があります。
※図書室で三国志@現実を読みました。孔明の出自をある程度把握しましたが、誇張もあるかもしれないと考えています。
※死んだはずの人間が生きている事に疑念を抱いているようです。

295 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:34:04 ID:Lxg7rqi60

【サバンナ@AA】
[状態]:健康、屈辱感、手を縛られている
[装備]:なし
[道具]:なし
基本:生き残る
1:悔しいが、今は従うしか無いわ
2:とっととこいつらから逃げ出したいけど……今は無理だわー


※サバンナの鞄(基本支給品、サバンナのPDA)が、学校の給食室に放置されています



≪支給品・現地調達品紹介≫
【脇差@現実】
特に変哲のない、ただの脇差。
切れ味はまあまあある。
少なくとも、多少乱暴に扱っても壊れない程の強度はある。

【ビニール紐@現地調達】
普通のビニール紐。
キツく縛れば、解くのは容易な事ではない。

296 ◆i7XcZU0oTM:2013/07/09(火) 22:34:30 ID:Lxg7rqi60
仮投下終了です
指摘点などあったら指摘お願いいたします

297ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/07/09(火) 22:52:31 ID:1ZHX164k0
仮投下お疲れ様です
特に問題点などは無いと思います

298 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:23 ID:7kSsahpA0
仮投下致します

299 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:39 ID:7kSsahpA0
あぁ……マッマの元を飛び出してからしばらく経ったんやけど、どうも頭がズキズキと痛むわぁ。
痛い。割とホンマに痛い。頭痛ってレベルじゃないでホンマ。矢でも刺さってるような感じやで。
いや、実際に刺さったこと無いからわからへんけど多分このくらい痛いと思う。痛い。

謎の痛みに頭を抑えながらヨロヨロとやきうのお兄ちゃんは歩いていた。
もう冗談抜きで痛い。頭痛が痛い。本気で矢が刺さってるようなアレ。
いや、本当には矢なんて刺さってないよ。さっききのこが乗っかってただけ。それも既に抜いた。
仮に刺さってたら触れば気付くから。そこまでアホじゃないよ。
心当たりはあるか。ある。
チハであの軍人を懲らしめた時にマッマがハンマーでガッと殴ってきた。
もしかしてその反動で脳に異常が起きたのかもしれない。ファッキューマッマ。

「血ィ出てる様子も無いけど、怪我してるかもしれへん……。
 鏡かなんかで見たほうがええな……うぅ……」




           ¶¶¶¶¶
         (。)(。) ¶¶¶
        ノ    ) ¶¶
       <__   l¶¶¶
        ___)  l¶¶
       <__ノ  /¶
「うわあああぁぁぁぁなんやこれええぇぇぇぇ」

鏡に映る自分の姿を見て思わず悲鳴を上げた。
後頭部にフサフサと生えていたはずの髪(?)は全て、さっき抜いたはずのエノキのような気持ち悪いものでビッシリ覆われていたのだから。
やきう兄はクッソ気持ち悪い毛を掴み、思い切り引っこ抜く。
しかし、どうしたことか抜いても抜いてもキリがない。次から次へと¶が生えてくる。

「ひいいぃぃぃぃ」

¶を引き抜いた手の平にも、¶が次々と根付き、瞬く間に腕を¶に侵食されていく。
足からも、腹部からも、背中からも、¶¶¶¶で埋め尽くされる。
やがて¶きう¶お兄¶¶んの目の前が¶¶¶¶¶¶¶¶¶に……。

「ンアーッ!!!」






―――数分後、そこにあったのは¶の塊だった。


    ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶  ¶¶

   ¶¶   ¶ ¶¶ ¶   ¶



 ◆

「すっかり夜も明けちまったなァ…。夜通しで歩いたり走ったり、流石にクタクタだぜ」

300 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:50:51 ID:7kSsahpA0
ぼやきながらも足を止めず、オフィス街を歩くポルナレフ。
レストランを飛び出してから2時間、誰かしら他の参加者に会えないか期待して片っ端から探索をしていた。
他者にもスタンド使いにもスタンドが見えるかどうか知りたかったのと、承太郎たちの誰かを見つけたかったのがその理由だ。
しかし結局、路地裏やコンビニ、果ては公衆トイレに至るまで回っても、誰かがいる様子は無かった。

「チッ… 太陽が出る前に誰かに会えりゃ良かったんだがな…。
 まぁ仕方あるまい。おれ一人でも吸血鬼の相手くらいなら何とかなるだろう」

吸血鬼のいるであろう工場へと戻るべきかと考えた。
しかし、その前に少し気になっている施設に立ち寄っておきたかった。

「これがテレビ局か…。この目立つ外観、地図に書いてあるだけのことはあるな」

鏡のように磨かれたガラス張り、近未来的な形状、屋上から空へ伸びる電波塔。
他のオフィスビルとは一線を画くような巨大な建造物。
あれだけのデカさなら、きっと誰かしらいるに違いない。
彼は数秒ほど悩んだ末に、先にそこへ向かうことにした。



ぐるりと囲まれたフェンスに沿って歩き、空いている入口があったのでそこから敷地内に入る。
さらにそこから階段を上り、正面玄関から中へと入る。

ロビー。
受付があり、革製のソファと小さなガラステーブルが並び、観葉植物が置かれている。
壁には番組の宣伝ポスターがいくつも掛けられており、いくつかのテレビモニターが設置されてるところにテレビ局らしさを感じる。
モニターには番組が放送されておらず、誰もいないニューススタジオのみが映っていた。
電灯は全て消えており、何故か周囲全てのカーテンが閉められているため非常に薄暗い。
テレビや非常灯は点いているため、おそらく電気は通っているだろう。
ポルナレフはキョロキョロと周囲を見回し、歩きつつ声を張り上げる。

「おい、誰かいないのか!?」

案の定返答はどこからも来ない。声は虚しく響き渡るだけ。
よく見ればガラスが粉々に割れている箇所がある。
誰かいるのは間違いない。どこかに潜んでいるのだ。

「フン! ま、これだけの広さだ。地道に探っていくしかねぇ…」

そう言って1階をうろうろと歩き回る。
受付の裏側……パソコンや書類が積まれている事務所のようなもの。誰もいない。
社員食堂……木製の座席が多数。調理場の冷蔵庫には食料が保管されている。
そして窓ガラスが一枚、破壊されていた。少なくとも闘争があったことが裏付けられる。
守衛室……彼は扉に手をかけた。

するとその瞬間、バンッと勢いよく扉が開いた。

「うおぉっ!?」

吸血鬼田代は素早い身のこなしで逃走を図る。
一瞬呆気に取られたポルナレフだが吸血鬼の姿を見るやいなや、すぐさま追いかける。

「てめー、待ちやがれッ!!」

田代は吹き抜けとなっているロビーの2階まで飛び上がる。
あいにくポルナレフにそこまでの身体能力は無く、エスカレーターを駆け上がるしかなかった。

「逃げやがって! チクショー」

舌打ちをする。
テレビ局ならおそらく誰かいるとは思ったが、まさかあの吸血鬼が逃げ込んでいたとはな。
建物内のカーテンが片っ端から閉められているのはコイツの仕業だろう。
ならば、吸血鬼を倒す術は決まっている。

『シルバー……』

銀の鎧を纏いし騎士が姿を現す。
騎士は風を切り裂くかの如くレイピアを振り回し。

『チャリオッツ!!』

カーテンを次々と貫いていく!
紙のように容易き引きちぎられ、朝の日差しが差し込んでいく。
これで吸血鬼は1階ロビーに立ち入ることは出来ない。
そう、このままじわじわと追い詰めてやればいい!!

301 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:01 ID:7kSsahpA0
「さぁどうした? かかってこい吸血鬼!
 逃げれば逃げるほど、てめーを殺す聖域は広がっていくぜ」

吸血鬼を追い、2階の廊下へと走る。
一部屋ずつしらみ潰しに立ち入り、窓を開けてやる!
ポルナレフは撮影スタジオへの扉を開けた。



           、、、、
            | | | |
           _|_|_|_|
          〈〈〈〈 ヽ
          〈⊃  }
   ∩___∩  |   |
   |        ヽ/   ! クマアアアアァァァァ!!!
  /  ○   ○ |  /
  |    ( _●_)  ミ/
 彡、   |∪|  /
/ __  ヽノ /
(___)   /

                ムヾ 川 /////〃〃/// /
              タ´`ヾリ////〃〃// .彡 /
             タ   `"""´´´`ミ ニ 彡彡/
            /   〃    J ミ ニ彡彡/
            { __{(( .._   ミ ニ 彡 /
            }どo ゞ‐`ヱo~ゞ ヾミ彳う)   うわあああぁぁぁぁぁぁ
            ,'   /   ```     りノ    嘘だろ!? 何故ここにクマがッ!?
            !  ({ 、       ├タ<
         /|  ィニ‐-、      /〃リ
        r'´}! }   __ ',      / r'")
      ,r==、Zノ| レ三‐ -フ   / <ノ
    /  ハ {      ̄  /    |リ
  _../ ヲ /_ ノ) \ -‐-       リ
/´/ 〉ー "/ー‐ ヽ |`==‐ '"     ト、


そりゃビックリするよ。突然グリズリー並のデカさの熊が目の前にいたんだから。
身の丈2.5メートル程、それも敵意むき出し。これが恐れずにいられるか!?
クマは直立状態から、体重のこもったテレフォンパンチを叩き込んできた。
間一髪、横に転がって回避する。
ドガンッ、という音と共にコンクリートの壁にヒビが入る。

「な、なんて…怪力なヤローだ…」

302 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:16 ID:7kSsahpA0
コンクリにヒビは流石に怪力過ぎるのでは? と思う方もいるかもしれない。
しかし、体重93kgのヘビー級ボクサーの平均的パンチ力は約454kgと言われている。(ソース:yahoo!知恵袋)
さらにごく一般的なヘビィゲーマーがパンチングマシンで測っても、100とか普通に出すのだ。(ソース:ネ実板)
クマーの体重は推定300kg! それだけの体重を持ち、かつ鍛え抜かれた筋肉から放たれる威力はどれほどのものか。
もはや諸君の想像に難くないだろう。エルメスの首がパンチ一発でぶち抜かれるのも頷ける。

「たかだか森のクマさん如きに負けるかよ! 軽く突き殺してやる!」

レイピアを振るい、クマーの肉体に突き刺すッ!
腹部、胸部、腕、物体を切り裂く手応えを感じる……だが……。

「クマアアアァァァァァッッ!!!」
「なっ…ほとんど効いていないだとッーっ!?」

コンクリートを殴っても腕が破壊されない程の筋力、そして骨格ッ!!
殺し合いにおいて能力制限が掛かってないのが明らかにおかしいレベル!
逆に制限の掛けられたチャリオッツのパワーとスピードでは、簡単には致命傷に持ち込めない!

クマーは床を蹴り、甲胄の騎士へと飛びかかる。
すぐさま回避行動を取るも、スピードが少しだけ足りない……!
チャリオッツの足を思いきり掴まれ、強靭な顎、そして牙により噛み付かれる。

「うわあああああ!!」

ポルナレフの右足に穴が空き、噴水のように血が吹き出す。
続いて『ゴキッ』という鈍い音が走る。骨を砕かれたのだ。

「ぐああああああああーーーッ!!」

痛みのあまりにポルナレフは絶叫、その場に転倒した。
クマーには一切の容赦無い。倒れ込んだポルナレフに飛びかかり、重傷を負った右足に食らいつく。
左手でしっかりとポルナレフを押さえることで、身をよじって逃げることも許さない。
そのままバリバリ、グチャグチャと音を立ててポルナレフのふくらはぎを咀嚼する。

(ぐっ…マズイ、マズイ…!!)

そこで問題だ!このえぐられた足でどうやって打開するか?
3択―ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムのポルナレフはチャリオッツで反撃を図る。
答え②仲間がきて助けてくれる。
答え③打開出来ない。現実は非情である。

(やはり答えは……………①しかねぇようだ!)

レイピアを構え、クマーの尻に思いっきり突き刺すッ!!
体勢上正確な位置はつかめないが、その卓越した技術は見事尻を捉える!

「グマアァァァァッ!!?」

悲鳴をあげるクマー、そして放たれるカウンター!
 ___
(     ヽ∩___∩
  ̄ ̄\ | #\   /ヽ
      /  ○   ○ |
      |    ( _●_)  ミ
     彡、   |∪|  、` ‐- _
     /    .ヽノ   .)  \ \
    /      /   /  \|   |
   /     /    /   ヽ|   |
  /    _/     |    |  / |
    ∠//:::/::::::|:::l:i    /  / |
      |/;;;;/;;;;;;;/;;;|,,|   /  /  |
      //|/::::/|//  / /|  /|
    ./  // /    // / / .|
      /      /  // | /
                /  /
「うっ…うああああああああ!!」

チャリオッツが思いきり吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
ポルナレフの肉体にも衝撃が走る!

(肋骨が…………折られた……!! ダメだ、歯が立たねぇッ……クソッ)

303 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:51:32 ID:7kSsahpA0



―――答え:③
            _
【ポルナレフ@AA タヒ亡】























―――それが望んだ結末なのか―――

【ポルナレフ@AA 生存確認】

彼の主観的目線により、本当に死んだと錯覚した。
しかし、それは現実とは異なっていたのだ。

プシュウウウウウゥゥゥゥ!!! という音と共に視界が白い煙に包まれる。

「ゲホッ、ゲホッ、な、なんだこりゃあ……!」
「クッマアアァァァァ!!」

クマーは顔を手で覆い、のたうち回っている。
この隙ならどうにか抜け出せる……!

「こちらです! さぁ早く逃げましょう!」

眼鏡をかけた初老の男性が現れ、ポルナレフに肩を貸した。
そばに転がっているのは栓の抜かれた消火器。
おそらくこの男性が消火器をクマの顔に発射して助太刀をしてくれたのだろう。
抉られた右足を引きずりながら、どうにかその場を逃れる。
エレベーター前に猫が一匹待機しており、あらかじめ2階に来ていたため、すぐさま階を移動することが出来た。

「すまない、助かった…!」
「いえ、当然の事をしたまでですよ。……やはりあの熊を野放しにしてはいけませんね……」


 ◆


――5階。比較的広めの撮影用スタジオへと入った。

「俺の名はジャン・ピエール・ポルナレフだ」
「申し遅れました。私は、いわっちと申します」
「そのあんたの後ろに隠れている子猫は、あんたのペットか?
 さっきエレベーター止めておいてくれてたみたいだが、随分と賢いんだな…」
「いいえ、彼女も参加者です。名前をしぃさんと言います」
「コ、コンニチハ……」
「こいつ…喋れるのかッ!?」
「ええ、彼女は普通の猫とは違うみたいです、そして彼女以外にも言葉を話す猫がこの殺し合いに参加しています。
 ……ところで、先ほど鎧を着た方がいたと思うんですが、あなたのお連れでしょうか?」
「鎧を着た方………こいつのことか?」

そういってポルナレフは、自分の背後にシルバーチャリオッツの姿を現した。
いわっち、そしてしぃはそれを見て驚いていた。
(やはり"スタンド使い"以外にもチャリオッツの姿が見えているようだ…………)
ポルナレフは確信した。この驚き方は演技とは思えない。
念のためスタンドについて知っているか尋ねてみた。
案の定、答えはNOだった。

304 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:12 ID:7kSsahpA0
ポルナレフはスタンドについての知識をいわっちに説明する。
意外にもいわっちはその話に驚くことなく、すんなりと信じ、理解した。
突飛なことへの適応力が高いのか、人を疑わない性格なのか……おそらく前者だと推測する。

「剣が使える……それもかなりの実力を伴っているというのは非常に心強く思います。
 お願いがあります、あの熊を押さえ込むのに協力していただけないでしょうか?」
「助けてくれた礼だ、俺に出来ることなら力を貸すぜ。……だが一つだけ理解出来ねぇな。
 何故いわっちサンはそうまでして、テレビ局に居座りたいんだ?
 そりゃ外には殺し合いに乗ってるヤツがいるかもしれねぇが、ここにいるよりはマシじゃねーの?」
「ええ、それについては今から説明します。簡単に言えば、主催者との交渉を、そしてバトルロワイヤルの停戦を持ちかけるつもりなのです」
「バトルロワイヤルの停戦…!? ど、どうやってやるつもりなんだ?」

いわっちはひと呼吸置き、ポルナレフの質問に対し丁寧に解説を始めた。

「1階ロビーのテレビモニターは目にしていただいたと思います。
 あの映像はこのテレビ局のどこかのスタジオ……おそらく報道フロアの隣、ニューススタジオじゃないかと予測しています。
 あそこから映像を発信することで不特定多数の参加者、そして主催者にメッセージを送れるんです。
 私は殺し合いの停止を呼びかけると同時に、主催者と対話を試みるつもりです。
 このバトルロワイヤルの目的、思惑、それらを知る事が出来れば我々から解決の糸口を提示することも出来るかもしれません」
「な、なるほど……。でもよ、主催者が対話に応じなかったとしたらどうするんだ?
 俺はDIOってやつとの戦闘中に連れてこられた、つまり主催者が持つ能力は生半可なもんじゃねぇ…
 そういう大物…少なくとも自分を大物と思っているヤツが、あんたのような一般人の話に耳を傾けるかと言われれば……」
「ええ、決して一筋縄ではいかない、それは勿論わかっています。
 しかし、このテレビ放送は参加者たちにも殺し合いを止めるよう訴える事も目的としています。
 少しでも被害を縮小するきっかけになれば、決して無駄な行為では無い、私はそう考えています」

いわっちはそこまで話すとひと呼吸を置いてから、ポルナレフに尋ねた。

「この案にはきっと、まだ改善の余地があるのは否めません。
 しかし、私にこの作戦の指揮を任せて欲しい。協力してくれますか?」
「…………俺はよ、ここに飛ばされてからゴタゴタ続きで、何もわからないまま闇雲に進んできた。
 目の前の敵をどうするか、そして主催者に必ず報いをくれてやる、考えていたのはただそれだけ…。
 だが、あんたのおかげである程度、この現状に対する理解がついた。
 そう、俺はきめたぜ。このバトルロワイヤルの間、あんたに協力しよう。
 この殺し合いのを停戦、そして……不本意だが和解を目指す。
 それが俺の倒すべき真の相手、DIOにたどり着けるのであれば、その道を選ぶッ!」
「……ありがとうございます。共に力を合わせましょう」

いわっちとポルナレフは握手をかわす。
彼らの同盟関係がここに結ばれたのだ。

「さて、まずは熊の始末か……自然に出て行ってくれりゃあいいんだがな」
「いいえ、贅沢な事ではありますが、あの熊を外へ出してしまえば、犠牲者の数が増える一方です。
 だから私としてはどこかに隔離してやりたいのですが……この際殺すのもやむを得ないかもしれません」
「あぁ、殺す方が楽だ。………だが、この殺し合いに来てからどうにもスタンドが全力を発揮出来ないんだ。
 おかげであんな野生の熊ですら、倒せやしない。いっそ猟銃でもぶっぱなした方がいいと思うんだが……」
「そうですか……。しかし、私の持ち物にもしぃさんの持ち物にも、武器と言えるようなものはありませんでした」

しぃの支給品は『トランシーバー』『https://www.hellowork.go.jp/』である。
トランシーバーは通信可能なように二つセット。ハローワークの方はなんなのか不明だが、とりあえず叩きつけやすい形状だった。

「チッ…確かにこれで熊をどうにか出来るとは思えねーな……。
 さっきみたいに消火器とかで目潰しをして、その間に猛攻撃を繰り出すのがいいんじゃねーの?」
「フン……あの背丈の熊の目を狙って攻撃か? そう簡単にはうまくいかんだろうよ」

その時、上の方から低い声がした。
天井からぶら下がる照明、そこに掴まっていたのは吸血鬼、田代まさし。

305 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:27 ID:7kSsahpA0
「なッ……てめー! 出やがったな吸血鬼! 降りてこいッ!」

ポルナレフはすぐさまシルバーチャリオッツを出現させ、戦闘態勢に移る。
しかし田代は両手を上げ、敵意を持っていないことを示した。
彼の右腕は、肘より先のあたりでブッツリと切り落とされていた。

「待ってくれ、降参だ。私はあの熊に右腕をやられた。お前と戦っても勝ち目は無い。
 それに日が差している間は外へ逃げることも出来ない。言わば私の詰み状態だ」
「あぁ、ロビーに落ちていた右腕はあなたのものでしたか……」
「生き残るためだ、しばらくの間お前たちに協力させてくれないか? あの熊をどうにかしたいんだろう?」
「協力だァ? おれたちに吸血鬼を信用しろってのかよ」
「吸血鬼は本能的な行動がより強く出るからな……自分が生き残るためであればお前らを裏切るようなマネはせんよ。
 まずは熊だ、熊を処理さえ出来れば、あとは私に戦いを挑むなりなんなりするのは自由、どうだ?」

冷静な口調で田代はそう語った。
ポルナレフは苛立ちを露わにする。

「わかりました。でしたら、私の指示に従ってください」
「おい、いわっちさん!」
「日光のある場所にさえいれば彼は手を出せません。それに熊を捕まえる、または倒すことが今優先されるべきです」
「クッ…わかったよ」
「話がわかる者がいて助かるな」
「あ?」

揉め事が勃発する寸前にいわっちが間に入る。

「それでは私から行動指針を提示致します。まず熊を3階にあるプールまでおびき寄せます。
 プールは閉鎖空間であり、壁も分厚いコンクリートで覆われているため、閉じ込めるのに有効です。
 お二人は3階の入口で待ち構えていただくため、熊をそこまで誘導する役割は私が担います。
 プールまで誘導する戦い方はこちらから口出ししません。プールも3階から4階にかけて吹き抜けとなっております。
 私は4階の見物席からはしごを下ろしますので、プールの入口を塞いで閉じ込めたらはしごから離脱を図ってください。
 これで熊を封印することが出来ると思います。これでいいでしょうか」

二人は了承する。
すぐにいわっちの作戦は実行に移される。

306 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:39 ID:7kSsahpA0



     \ピシッ……/
    ¶¶¶¶¶¶   ¶¶¶¶¶
   ¶¶¶¶¶¶¶¶ ¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶ ¶¶¶¶¶¶¶¶¶
  ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
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   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
 ¶   ¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶  ¶¶

   ¶¶   ¶ ¶¶ ¶   ¶




―――ピシピシッ、ピシッ……




                    パカッ!!
                   .....:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:.....
                 . .:;:;:;:;:;:;:;:;:;:.:;:..;:.:..:;:.:;:;:;:;:;:;:;:;:;:. .
               ,:;:;:;:;:;:;:;:;:.:.:.:.:.. .:. .:. .:. ..:.:.:.:.:;:;:;:;:;:;:;:;:.
            .:;:;:;:;:;:;:.:.:.:.:.:... .. .. . . .. .. .. ...:.:.:.:.:.:;:;:;:;:;:;:.
            .:;:;:;:;:;:.:.:.:.:.:.:... ..         .. ...:.:.:.:.:.:.:;:;:;:;:;:.
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   ` ∴',+:; . , .:;:;:;:;:.:.:.:... .                . ..:.:.:.:;:;:;:;:.    , +: ∵
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         ¶¶¶¶ ¶ ¶   〈 (・)》 ((・)〉|     
         ¶¶¶¶ ¶ ¶  "" ̄≡|≡≡|     「いったいあたしの身に何が起こっているんだ!?」
         ¶¶¶¶ ¶ ¶≡ / ... |||≡≡|  
         ¶¶¶¶ ¶ ¶ 《    .ヽ 〉 ≡| 
         ¶¶¶¶ ¶ ¶  ゛ γ⌒〜≡/
         ¶¶¶¶ ¶ ¶    ..L_」≡/
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          ¶¶¶ ¶ \   _≡/ 
              ¶¶ノ    ー、¶
              /   ¶¶人 `i
             ¶ ,ソ.   / ) |
            ¶ / |¶¶  / (メ
 ___    ¶¶/  / ⌒ 、ヽ¶
(___二二二)ミリ ( <   ¶¶ヾ )
           ⊂_)  ⊂_)

おめでとう! やきうのおにいちゃん は エルメェス に しんかした!

307 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:52:53 ID:7kSsahpA0
エルメェスは大混乱していた。
普通の混乱ではなく大混乱。

記憶が正しければグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所でシールの効果に気がついて……。
収容所を出たら廊下じゃなくてひろゆきの前で……。

あと殺された。黄色い化物に銃で闇討ちされて、脳天をバキューンとやられた。
そう、彼女の記憶はそこからだった。

(ゆ、夢なのか…? いや、確かに私は殺され…た……いったいどうなって…………)

腹部からとめどなく流れる赤黒い鮮血、向けられた銃口、化物の歪んだ笑み、そして……。
エルメェスは全身に汗をかいていた。殺された恐怖が鮮明に蘇る。
そして、己の手のひらを見て彼女は愕然とした。

「あの、化物の……」

毒々しい黄色い肌、それが指の先、腕、胴体、足、肉体がそっくりそのままやきうのお兄ちゃんになっていた。

「うわぁあああああああああああああ!!!」

誰か…誰かどうなっているのか説明してくれ……!!

エルメェスは闇雲に走る。誰でもいい、誰かにあって自分の身に何があったのか聞きたい。
目の前にたちそびえる巨大な建物、彼女はその中へ駆けていく。

【やきうのお兄ちゃん@なんでも実況J 転生】
【エルメェス@エルメェス菌 降臨】




いわっちは2階降り、1階ロビーを見下ろして驚愕した。
何故なら異様に頭のでかいスパゲッティヘアーの女性が熊と戦っていたのだから。

「ふざけるな! ふざけるなぁあああああああ!! 意味不明な事ばかり起きやがってよォ〜〜〜〜!!
 この熊ヤローがァ!! こんなとこでおまえに食われて終わってたまるかよクソッタレが―――ッ!!!!」

女は何故かわからないが、ものすごい勢いでキレているようだった。
キレているというより、自暴自棄になっているのかもしれない。

「これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!
 これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!
 全部理不尽への八つ当たりだァアアアアアアアアア!!!」

その凄惨な運命に対する悲しみが、苦痛が、怒りが、熊の腹にパンチを叩き込む。
熊が押しつぶそうと倒れこむのをかわして、オラァッ! と言う掛け声と共に蹴り上げた。

『キッス!!』

手のひらを広げ、クマーを叩くと同時にシールを貼り付けた。

        ∩__  _∩
        | ノ    | |  ヽ
       /  ●  | |  ● |
        |    ( _| |●_)  ミ
       彡、    | | ||  、`\
      / __ ヽ| |ノ /´>  )
      (___) | | / (_/
       |□    | | /
   ペタッ |  /\| | \
       | /     )  )
       ∪    (  \
              \_)

     !?                !?
   ∩___∩三 ー_        ∩___∩
   |ノ      三-二     ー二三 ノ      ヽ
  /  (゚)   (゚)三二-  ̄   - 三   (゚)   (゚) |
  |    ( _●_)  ミ三二 - ー二三    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、` ̄ ̄三- 三  彡、   |∪|  ミ
/ __  ヽノ   Y ̄) 三 三   (/'    ヽノ_  |
(___) ∩___∩_ノ    ヽ/     (___)


クマーの肉体が二つに分裂ッ!!
さらに戸惑うクマーに飛び蹴りをぶつける。
なんなんだこの怒涛の攻撃は。
いわっちはその光景に唖然としていたが、やがて我に返った。

308 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:16 ID:7kSsahpA0
「やめなさい! 武器も一つも無しに危険です! こっちへ逃げてください!!」

先ほどからのエルメェスの徒手空拳は、ダメージとしては皆無に近かった。
クマーとの体格差の時点で既に人間の腕力では絶望的、それに加えて毛皮と筋肉の鎧を纏っているのだ。
そう、生身の人間に勝ち目なんて無い。

「武器ィ? 武器ってのは……」

混乱するクマーに張り付けられたシールを……。

「これの事かぁあああああああ!!!」

思いきり剥がすッ!!
こだまする衝撃音!! 二つのクマーの肉体が結合する!
そしてその結合は同時に、破壊を伴う……ッ!!

「グマアアアァァァァァッ!!」

胸部の皮膚が裂け、鮮血がはじけ飛んだ。

「ハァ…ハァ………って人ッ! 人いるじゃねーか!! な、なぁアンタ、一体ここは……」
「まだ! まだ死んでない!」
「ハッ!?」

シールによる一撃は、一瞬だけ怯ませただけに過ぎない。
すぐさま飛びかかるクマーに、エルメェスは押し倒される。
いわっちは咄嗟にリュックの中から『http://www.hellowork.go.jp/』を取り出し、クマーに投げつけた。
ベキッ、と音を立ててクマーの頭に直撃! 頭を抑えた隙にエルメェスはクマーから抜け出す。

「クソッ……これじゃ倒せねぇか……ッ!」
「その熊を地下駐車場へ誘導してください! 今援軍を呼んできます!」

エルメェスが無事なのを確認するといわっちはそう言って階段を駆け上がっていく。

「行っちまいやがった……ホントに来るのかよ援軍なんてよぉ!?」

あのメガネのおっさんがいなければ自分はやられてたに違いない。
しかし、どう見ても非力な見た目。援軍と言われて簡単に安心出来るはずもない。
何よりどうして地下なのだろうか、援軍がいるなら上に逃げて合流するという手もあるはずなのに。

「クマアアアァァァァァァァッッッッ!!!」

自分が熊から離れるためにアタシに地下へ誘導させようとしている可能性もある。
……あぁ、もう考えている時間は無い……!

エルメェスは地下へと階段を降りた。



「クッ……流石に疲れが……」

前半で死力を尽くしたエルメェスの体力に限界が訪れる。
熊の一撃をかいくぐって、シールを貼り付けて剥がす、そこまで出来る体力は無い。
故に彼女は柱を盾にぐるぐると逃げ回っていた。

「い、いつまでこれをやってれば……」

エルメェスがそうぼやいた時に、エレベーターの扉が開く。
天高くそびえ立つ銀髪の男、そして黒縁眼鏡の髭親父がそこにあった。

「やっと来たか……! って、なんだこの変な奴らはッ!!」
「このやろー……助太刀しに来たおれらになんてこと言いやがる!」

ポルナレフは怒鳴りながらもシルバーチャリオッツの姿を現した。

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」

先陣を切って飛び出したのは田代。

「血管針攻撃!!」

309 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:30 ID:7kSsahpA0
クマーによって切り落とされた右腕の切断面を向ける。
そこから無数に発射される血管針ッ!
毛皮を突き抜け、皮膚に突き刺さり、そして血液を吸収する……!

しかし本来よりも弱体化された針は、クマーが暴れることで引き千切られる。

『チャリオッツッ!!』

ヒュンッ……と音を立ててレイピアは風を切り裂く。
その鍛え抜かれたスタンドの技術、高速の乱れ突きがクマーの肉体を次々に穴を穿つッ!
怪物のように強靭な力を携えて振り払われる腕、甲胄の騎士へと放たれる。

刹那―――シルバーチャリオッツの鎧が四散、その重量から解き放たれる。
羽の如く軽やかな動作で、その腕をスレスレで回避していくッ!

「目に焼き付けるがいい、吸血鬼の優れた肉体を、人間だった時のそれとは違うパワーをッ!!」

田代まさしの両腕、両足に切れ込みが入る。
人差し指と中指の間から、肩口に至るまで2つに割れる。

『奥義・細き八本足(ミニにタコ)ッ!!』

四肢が全て枝分かれすることにより、両腕、両足の手数を100%上昇させる技。
右腕が切り落とされた田代は、この能力により従来と同じ二つの道具を持つことが可能となる!
彼の手に握られるのはポルナレフのデイパックに入っていた支給品『トールの剛弓』、いわっちの支給品『モデルガン』。
"片腕"に二つの武器をそれぞれ握り……

それを思いきり叩きつけるッ―――!!

「クマァッ……!」

四本の足による踏み込みは、その一撃の重さをより強固なものとする……!
矢が無ければ無用の長物となるはずの弓も、吸血鬼の力をもってすれば武器へと変わるのだ。

クマーの鍛え抜かれた拳が振るわれ、田代へと叩きつけられようとする。
だが、インパクトの瞬間、クマーの視界がブレたッ!

「HEY!! シールにはこんな使い方もあるんだぜェェェェ!!」

貼り付けられたキッスのシールにより、クマーの肉体が分裂、そのため振り降ろされた位置は大幅にずれることとなる。
二度目と言えども不意を突かれたクマーには、状況を把握するための隙が生まれる。
そしてその瞬間を逃さぬチャリオッツによる連続攻撃ッ!!
甲胄の重量から開放されたその速度は、先ほどとは比にならぬほど上昇しているッ!
もう一つ、突きの威力はスピードと比例する。
つまり、上昇した速度から放たれるレイピアが、貧弱なものであるだろうか? いや、無いッ!

ここで攻撃はまだ止まない。エルメェスの手により、シールが剥がされる。

―――肉体の結合 それすなわち 肉体の損害

アンダーグラウンドの世界に、血の雨が降り注ぐ。

「グッ……マアアァァァァアアアァァァッ!!!」

クマーの咆哮が地下駐車場に響き渡る。
続けてその巨体が地面に倒れる音。
力の権化が、野生の災害が、今ここに倒れ伏したのだ……!

310 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:53:41 ID:7kSsahpA0


「……や、やったのか……ついに、倒したんだな……!」
「あぁ、そうだ。勝ったんだぜ俺たちはよ…!」
「アハハハハハッ…………勝利ィ――――ッッ!!!!!!」




ぐちゃり

「は…………?」

エルメェスの後頭部は、強靭な握力によりトマトのように潰される。
そうして彼女は力なく倒れる。

「お、おい………………あ、あんた………」

ポルナレフは突然倒れたエルメェスの名を呼ぼうとして、まだ名前を知らないことに気がつく。
そして呆然とした表情はすぐさま、エルメェスを殺した者への怒りに変わる。

「田代……てめぇ…………!」
「ククク、さっき言った通り、戦いと洒落こもうか? ポルナレフ君」

田代は血管針をエルメェスの頭に突き刺し、その血液を食す。

「あぁ、若い女の血だ……いい、いいぞ。素晴らしい!
 酒なんかよりもよっぽど美味だ! 力が溢れるようだ、気分が上昇していく!」
「絶対に、絶対に許さねぇ! やはりてめーは裏切るって最初からわかってたんだ」
「元々熊を倒すまでの話だ! それに私は初めから"若い女の血"を飲みたいと考えていたのだ!
 そのチャンスをここでおちおち逃すのはあまりにも勿体無い。
 ここには日光は差し込まん、さぁ正々堂々と戦おうじゃないか! ハハハハハh」

田代は笑い声を止めた。
己の肉体に異変を感じたのだ。
体の奥底を、何かに侵食されているような……。



        ¶


「な、なんだこれは!?」
     ¶   ¶
田代の体からエルメェスの髪の毛を構成していた『エルメェス菌』が生え始めた。
そう、血液を吸った時に彼女の体内にある菌をも取り込んでしまったのである。

「な………なんだ……? こいつ」
「くそおおぉぉ、ハメられたのか!? 何故私がこんな不可解な事にいいぃぃぃ!!」

¶¶¶¶¶を強引にむしり取る。しかし、その数は一向に減る様子が無い。
しかし、次の瞬間に二人のどちらも予測していなかった事が起きた。

「クマアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」

311 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:09 ID:7kSsahpA0
悪魔が目を覚ましたのだ。
雄叫びとほぼ同時に、田代の首を軽く撥ね飛ばす。

「くそ……情けねぇ最後だ……これが人間をやめた者の末路か……畜生」

クマーは生首に齧り付き、肉を貪る。
滴り落ちる唾液、己の血と獲物の血で酷く赤黒く染まる毛。
ポルナレフはその様子を見て、底知れぬ恐怖を感じた。

階段を駆け下りる音、只ならぬ異変を聞き付け、1階で待機していたいわっちが顔を出す。

「いったいこれは……!? ポルナレフさん、田代さんとあの女性は……」
「死んだ……おい、もはやどうしたらアイツを殺せるんだ……?」
「に、逃げましょう……!」

いわっちは足を負傷したポルナレフに肩を貸し、逃げようとする。
しかし、そのあまりにも遅く、クマーによって容易く追いつかれてしまう。
クマーは目を光らせ、じわじわといわっちたちに距離を詰める。
そしてその鋭い爪で、無慈悲に二人を引き裂く……。


  エイチティーティーピーレーザー!!
      ∧∧
     (,,゚ー゚)//
   〜(__つhttps://llllllll.llllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll
        \

階段からしぃが青い光線を放ち、それはクマーの目に直撃した。

「クマアァッ!?」

クマーは視界を奪われたこと、予期せぬ痛みを受けたことにより驚いて撤退をする。
地上へとつながる駐車場の出口へと一目散に向かっていく。
逃げようとする怪物を止める術は、いわっちたちには無かった。



クマーの頭にぶつかったことで『https://www.hellowork.go.jp/』は割れてしまった。
しぃはその文字列『https://』を見て、かつて自分の仲間が行っていた技を思いついたのだった。

「……結局、二人も味方を殺してしまい、熊にも逃げられてしまいましたね……」
「いわっちサン……」
「あぁ……情けない限りです……」
「……いわっちサンよ、味方だったのは一人だけだぜ?
 それにあの熊はどっちにしろ簡単には殺せやしない。
 準備も不十分な俺らじゃどうしようもなかったんだよ」
「ポルナレフさん……」
「さぁ、どうする? 熊がいなくなってテレビ局に平穏が取り戻されたんだぞ?
 ここからがあんたの仕事だろ。さぁ、言ってくれよ。どうすればいいかを」

312 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:21 ID:7kSsahpA0
「……E-3エリアに市役所があります。そこで街全体に町内放送をかけるのです。
 今から2時間後、テレビを見るように、と」
「なぁ、そのまま町内放送では交渉出来ないのか?」
「あなたは得体のしれない声だけが『殺し合うな』と言われて信用出来ますか?」
「…………」
「姿を晒すことはリスクを伴います。 しかし私の姿をテレビ越しにダイレクトに見てもらうこと……。
 それは私の一挙一動、雰囲気、それら声だけではわかりえない私の情報をお届けすることが出来るのです。
 ですから、私はそこにこだわりたい。参加者にもひろゆきにも、私の全霊を"直 接"伝えることに意味があるのですから」

言わば、それは彼の誠意の現れである。
例えば拡声器を使って殺し合いの停止を呼びかけたところで、主催者は見向きもしないだろう。
なんの考えもない短絡的な、平和主義の訴え。そんなのは愚かなことに過ぎない。
テレビを使うことは違う。それも、本来であれば町内放送の機械で済むものを、あえて映像にこだわる事は、拡声器とは大きく違うのだ。
誠意を、こだわりを、意思の強さを、訴えかけなければきっと主催者は振り向かない。参加者も振り向かない。

それが、今この場で指揮を執るいわっちの持論である。
そして彼を信じるしぃも、ポルナレフも、その考えに対して反対をしない。

「し、しかしよ…おれは足が負傷しているぜ。誰が市役所へ向かうんだ?」
「そうですね……やはりここは私が走って……」
「いわっちサン、……ソノ……ワタシが行くヨ?」

少し不安げな顔を隠しきれていないが、しぃはそう言った。
思いがけぬ発言にいわっちは驚いた。

「い、いいのでしょうか? 外を単独で行動するのはかなり危険ですよ……?」
「ワタシ、いわっちサンに助けられてばかりデ、まだ何も出来てない……。
 だから、少しでも手伝いたいノ。怖いケド、なんとか上手くやるカラ……」
「しぃさん……」

常に戦いに怯えていわっちに守られていて、いわっちを慰めるくらいしか出来なかった。
そんなしぃの手伝いたいという想い、それを無下にするのは憚られた。
いわっちはしぃに片方のトランシーバーを手渡す。

「それで私といつでも通信が出来るます。いざという時はそれで私にいつでも知らせてください。
 クマーもまだ近くにいるかもしれません。なるべく隠れながら、襲われないようにしながら向かってください。いいですか?」
「ウン」
「泣かせるじゃねぇか子猫ちゃんよ……。足さえやられてなければ一緒に行ってやれたんだが……」
「イイノ。それじゃあ、行ってクル」

しぃはそう言って朝の柔らかな日差しが溢れる、戦場へと向かっていった。
先ほどのしぃよりも不安そうな顔を浮かべながら、いわっちはそれを見送る。

「私たちも行動しましょう。まずは救急箱でポルナレフさんの怪我の応急処置を、そうした報道フロアで機材の調整、放送の準備をしましょう」
「あぁ、わかった」

エレベーターに向かおうとした彼らの耳に、第三者の声が聞こえた。

「う、う〜ん……な、なんやもう……」

潰れたエルメェスの頭の中に、やきうのお兄ちゃんの頭がそっくりそのまま残っていた。
エルメェスの頭は気がつけば造形を失い、まるで¶¶¶で構成された被り物と化していた。

313 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:54:38 ID:7kSsahpA0
「なんで先ほどの息子さんがここに……」
「…とりあえず、こいつも上に運ぶしかねぇな……」
「背負うのは私しかいないのですが……」
「…あぁ、おれに肩を貸しながら背負うのは重労働だよな…置いていくか…」
「いえ、連れて行きましょうか……」


【エルメェス@エルメェス菌 死亡】
【田代まさし@ニュー速VIP 死亡】

【やきうのお兄ちゃん@なんでも実況J 復帰】


【E-2 テレビ局・地下駐車場/1日目・午前】

【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、救急箱@現実、不明支給品(0〜1・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1:ポルナレフの応急処置
2:準備を整えて2時間後にテレビから"直接"停戦の意思を主張する
3:情報や人を集めたい。"異世界"の事も調べたい……


【ポルナレフ@AA】
[状態]:疲労(大)、首元に血を吸われた跡、足を重傷(骨折&噛みちぎられた肉)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品(0〜2・打撃武器は無し)、トールの剛弓@斬撃のレギンレイヴ
[思考・状況]
1:いわっちに協力する
2:承太郎たちがいれば合流を目指す


【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康、気絶
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本:生き残る
1:……
2:もうマッマに会う気はない。次に出会ったら……
※H&K USP@現実(6/16)、基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、PSP@現実、木製のバット@現実、釘バット@現実、
 ひかりのこな@ポケットモンスター、台風コロッケ(残り11個)@現実、不明支給品×1〜3(確認済み)
エルメェス化して混乱していたため、これらの支給品をデイパックごと置き忘れました。


【E-2 テレビ局周辺/1日目・午前】

【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:httpレーザー@AA
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、トランシーバー@現実
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1:E-3にある市役所の町内放送で、テレビを見るように呼びかける
2:ギコ君、大丈夫カナ……?
3:カイブツ(ネメア)がコワイ……できればもう遭いたくない


【クマー@AA】
[状態]:右腕骨折 、全身にダメージ(極大)、左目喪失
[装備]:鍛えぬかれた肉体
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:野生の本能に従うクマー
1:ク
2:マ
3:|
4:!
※重傷を負ったので体を休めます。

314 ◆m8iVFhkTec:2013/08/05(月) 10:55:00 ID:7kSsahpA0
仮投下は以上です
問題点、修正点、意見などがあればご指摘お願いします

315ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/05(月) 19:50:51 ID:oP4AepL20
仮投下乙です。
内容等は問題無いと思います。

316ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/07(水) 23:20:52 ID:b9ZinuNc0
仮投下から4日くらい経つのですが、大丈夫ですか?

317 ◆m8iVFhkTec:2013/08/07(水) 23:39:59 ID:r/lwWYic0
遅れてすみません。只今投下致しました。

318 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:04 ID:NNuiU0tQ0
予約分の仮投下を致します

319 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:18 ID:NNuiU0tQ0


 碌に辺りも見ずに、歩き続けたせいだろうか。
 気がつけば、月はあの忌わしい砂糖工場から、かなり離れていた。
 道中、微かに声が聞こえて来たが、声の発信源から離れ過ぎていたためか、上手く聞き取れなかった。
 あれは一体何だったのか……普段ならば、いくつも候補が出てくるようなこの問題。
 だが、今の月の精神状況では、とても普段の頭脳を生かすことができそうにない。
 何かを考えようとするたびに、チラチラと頭の中に浮かぶものが、月の思考を妨げる。

(……いつまで、お前は僕の頭の中に居座るつもりなんだッ……!)

 ダディクールを、自分の手で、殺した瞬間の光景。
 自分の手で、直接手を下した時の、手に伝わってきた感覚。
 あの瞬間の全てが、月の脳裏に、消える事なくくっきりと残っている。

 どれほど、振り払おうとしても。どれだけ、忘れようとしても。
 やればやるほど、それはより強く脳裏に刻まれてゆく。
 それこそが、他人の命を奪った、否定しようのない事実であり、証拠だ。
 今までも、デスノートで命を奪いはしたが、あくまで間接的でしかないのだ。

「…………!」


 どれだけ逃げ続けたとしても、罪からは逃げられない。
 目を逸らそうが、逃げ出そうが、罪はどこまでも追いかけてくる。
 いつかは、逃げ切れなくなる時が来る。
 逃げ切れなくなった結果、どうなるかは……分からない。

320 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:37 ID:NNuiU0tQ0




「ここは……地図で言うと、どの辺りになるんだ……?」

 PDAと地図を取り出し、簡単に現在位置を把握する月。

(C-4……結構な距離を歩いたようだ……)

 自分のいる場所。
 何でもない情報ではあるが、それを改めて確認したお陰なのか、月の心は今の所平穏を保てている。
 これが続くならば、冷静に物事を考えられる筈。
 月自身も、そう考えていた。






「……へぇ、何だか変わった奴が来たね」

 ここで生き延びる為には、できれば遭遇しない方が良い相手。
 そいつに、出会いさえしなければ。




〜〜〜〜




(やっぱり、誰もいないなぁ……人っ子一人いないや)

 閑散とした街中を闊歩するモララー。
 一見、スキだらけの行動だが実際はそうではない。
 傍目からはそうとは見えないが、常に周囲を警戒しつつ進んでいるのだ。
 並大抵の相手であれば、襲い掛かった所で返り討ちにされるのがオチだろう。

「声のした所に行くと、百貨店に戻る事になるなぁ。まあ、得られるかもしれない成果に比べたら、小さいものだけどね」

 どう行動するにしろ、考え無しに動く訳にはいかない……。
 百貨店を"襲撃"するならば、その時が来るまでに用意をせねばならない。
 どのような手段を用いるのか、どこから攻めるのか、どの武器を使うのか。
 どれかが不完全であれば、そこから崩れてゆく。

321 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:51 ID:NNuiU0tQ0

(方向はこっちでいいよね、多分)

 だが、襲撃を実行に移すのであれば、当然百貨店へと行かなければならない。
 モララーのいるこの街からでも、百貨店は少し見える。
 そこを目指して進めば、到着までそう時間は掛からないだろう。
 だが、この場では何が起こるか分からない。
 ……もしかしたら、何者かに襲われる可能性も十分ある。
 百貨店で起こるであろう戦いの前に、負傷等は避けたい……。
 そんな考えが、モララーの頭の中にあった。

(場所や大きさによっては……動けなくなる可能性も十分にある以上、極力負傷は避けたいな)

 もちろん、相手によってはそんな事も言ってられないのだが。
 ……多少の負傷を覚悟で、全力で殺しにいかねばならない相手。
 そんな相手が、いないとも限らない。
 今の所、そんな相手にはモララーは遭遇していないが……。今後、遭遇する可能性はある。
 その想像を、モララーは首を横に振って振り払う。

「とにかく、今やるべきことに集中した方がいいや」

 それほど強大な相手なら――――出遭った時に、確実に殺せばいいだけのこと。
 この場にいないのであれば、被害を受ける事などないのだから。
 それより、今やらなければならない事に集中した方がいいに決まっている……。

322 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:48:18 ID:NNuiU0tQ0





「大きい十字路だなぁ」

 またスタスタと歩き続けていると、普通の十字路に差し掛かった。
 確か、あの街にもこんな感じの交差点が……沢山あったような。
 それほど古い記憶ではないのに、ぼんやりとしたビジョンしか頭に浮かばない。
 あまり、重要と言う訳ではない記憶だからなのかもしれない。
 その証拠、になるかは分からないが、自身の行った戦闘の記憶は、しっかりと頭に残っている。

(……何やってるんだろう。こんな所で、油売ってる場合じゃないや)

 そう思って、百貨店目指して、足を進めようとした時。
 別の道から誰かが歩いてくるのを、モララーは確認した。
 作業着のような物を着て、肩に鞄をかけている。

「……へぇ。何だか変わった奴が来たね」

 モララーの発した声に反応して、男――――夜神月は、垂れていた頭を上げた。
 頭を上げ、視界にモララーの全身が映った瞬間。
 月の表情が、一瞬で凍り付く。

「……な……」
「何をそんなに驚いてるの? ずいぶんと失礼な人だなぁ。ただ、出遭っただけじゃないか。
 自己紹介でもしようか、僕はモララー。アンタの名前は?」

 月の脳裏に、PDAを確認した時の光景が蘇る。
 ……殺人者の中に、"モララー"と言う名前は……あった。それも、一番目立つ上の方に。

「う……嘘だろう……? こんな所で……こんな奴に、遭遇するなんて……ッ」
「嘘な訳ないじゃん。僕は実際にここにいるし。アンタもそうだろ?」

 危機を察知したのか、月の頭脳が急加速する。
 ……こいつに対抗できる何かはないのか?
 月の持っている武器は、牛刀にスタンガン。鞄の中に、ブラックジャックにガスバーナー。
 弾切れの56式自動歩槍に、(使い方を理解していないが)毒霧の杖。
 一方、モララーの武器は突撃銃一丁に狙撃銃一丁。
 月は今の所知る由もないが、これに加えて赤い刃も持ち合わせている。
 その上、元々の身体能力でも、月はモララーに引け目を取っている。

323 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:48:43 ID:NNuiU0tQ0

(どうすればいい……!? どうすれば、この緊急事態を乗り越えられる……!?)

 どれだけ考えた所で、1つの答えに収束するだけだ。
 ――――戦うしかない。戦い、倒すしかない。こいつは、"善良"とは程遠い存在だ。

(……でも、どうすれば?)

 戦った所で、勝ち目がないのは分かり切っている。
 牛刀で切りかかっても、辿り着く前に蜂の巣になるのが関の山。
 ならば、手持ちの武器を投げてみるか?それも、おそらく無駄な抵抗になるだろう。
 モララーと月の距離は4メートルほど。投げれば届くだろうが、あくまでそれだけだ。
 ……傷をつけ、命を奪くまでには到底行かないだろう。
 万事休すか、八方ふさがりか。どちらの言葉も、今の月の状況を現すには丁度良い言葉だ。

「ずいぶん驚いてるね。まあ、こんな姿の奴に出会えば別段おかしい反応でもないからな」

 右肩に巻かれた、白い……いや、白と赤のツートンカラーに塗られた布。
 体の所々に付着する、赤黒い斑点。右手に持つ突撃銃……。
 確かに、モララーの言う事にも一理ある。

「それより……こうやって出遭った以上、アンタを生かしておく訳にはいかないからな」

 チャキッ、と小さな音を立てて、突撃銃が構えられる。
 ……標的は、もちろん月。

「あ……」
「それじゃ……これでお別れだからな!」

 引き金が引かれる寸前。
 何もかもを捨てて、走り出す月。
 ……何をどうする、これをああする、そんな考えよりも、本能が勝った。

324 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:49:06 ID:NNuiU0tQ0
















 ――――死にたくない 生きていたい

(……僕は、まだ死ぬ訳にはいかな――――)














 静かな街に、銃撃音が木霊した。




〜〜〜〜〜

325 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:49:27 ID:NNuiU0tQ0




「ちょっと時間と銃弾を浪費しすぎたかな……?」

 何食わぬ顔で、百貨店を目指し歩を進めるモララー。

(時間も弾も、有限。無くなってしまったら、終わりだからな!)

 来たるべき"時"が来るまでは、なるべく無駄ははぶいていきたい。
 だが、今回の様に、誰かに遭遇した時は、そうも言っていられない状況になる可能性も、大いにある。
 そのためにも、先程仕留めた男から、有用な武器が手に入れば良かったのだが……。

(微妙なモノしか持ってなかったな。あれくらいの武器じゃ……ちょっと頼りないね。銃もあったけど、
 弾が切れてちゃ役立たずだよ)

 結局、収穫は忍法帳のポイントが入ったPDAのみだった。
 それでも、1人仕留めただけで2も忍法帳のレベルが増えるのだから、大きい収穫だ。

(でも……レベルが上がってたってことは、アイツも誰かを一人殺してたってことだよね。まあ、別段興味もないけど)

 とにかく、今は百貨店を目指そう。
 辿り着いて、準備を整え次第に……行動する。

(肩の傷もあるし、直接交戦するのは避けたかったけど……このチャンスをフイにする訳にはいかないからな)



【C-2・北西付近/1日目・朝】
【モララー@AA(FLASH「Nightmare City」)】
[状態]:右肩に銃創、赤い刃使用可能(残量小)
[装備]:H&K G36(10/30)@現実、根性ハチマキ@現実(肩に巻いてます)
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=04】)、夜神月のPDA(忍法帳【Lv=01】)ランダム支給品0〜2、
    モシン・ナガンM28(4/5)@現実、H&Kの予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝狙い
1:百貨店を襲う。そのためにも、まずは百貨店へ
2:傷が癒えるまでは直接的な戦闘を避けたいけど……チャンスを逃したくはない
3:殺し合いに乗る、強者はなるべく後回し
※出典元により、自在に赤い刃を作り出す能力を持っていますが、連続して使用するとしばらく使えなくなります
※日本鬼子、鬼女の姿のみ覚えました。一条三位に関しては正確な姿を覚えられませんでした
※八頭身、モナー、ギコ、しぃ等を、ナイトメアシティに関係する者だと思っています

326 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:50:25 ID:NNuiU0tQ0



〜〜〜〜〜





 モララーも鞄の物色を終え、この場を立ち去ったあと。


(…………嫌だ…………死にたく、ない…………)


 足に、肩に、背中に銃弾を受け、もはや生きているのが精一杯な状態で、月は倒れていた。
 ……もう助かる見込みなどない状態で、ただ何も出来ずに終わりの時を待つ。
 それが、月にとってどれほどの屈辱なのかは、計り知れぬほど。

「…………誰か…………助、け…………」

 残った力を振り絞り、精一杯絞り出した言葉を、聴く者は誰もいない。
 何かを掴むかの様に、月は手を前に伸ばすが、手を取る者は誰もいない。
 たった一人で、孤独に飲まれながら、月は死ぬ。
 その事実を悟った瞬間、月は狂おうとした。叫ぼうともした。
 だが、もう狂う力も、叫ぶ力も、残されてはいない。













(…………新世界の、神になる、はずだった、のに…………どう、して…………)











 新世界の神を自称した青年は、おおよそ神には似つかわしくない終わり方で――――あっけなく、斃れた。


【夜神月@AA 死亡確認】

※夜神月の所持品は、夜神月のPDAが無くなった状態で遺体の傍に放置されています。

327 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:50:44 ID:NNuiU0tQ0
仮投下終了です。
指摘点など、あればお願いいたします

328ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/11(日) 17:50:17 ID:Z0.N69SUO
仮投下お疲れ様です
問題点は無いかと思います

329 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 22:12:39 ID:NNuiU0tQ0
ただ今本投下を行いました

330 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:17:44 ID:Pd6dF.8.0
予約分の仮投下をさせていただきます

331 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:18:14 ID:Pd6dF.8.0
先程死んだ二人の代わりになりそうなものは早く見つかった。
百貨店とは別方向に歩いていると、ふらふらとした足取りをした男が前方にいた。
背中には円状の物体がついており、その周りに18個の物体が浮いている。
創作の魔王と呼ばれるハルトシュラーは、その武器が何であるか瞬時に分かった。

(あれは……、エルシャダイのガーレか……使えるな)

近距離では使い物にはならないが、遠距離からなら一方的に相手を痛めつけることができる。
しかも盾としても使用することができる。威力が小さいとはいえ、ここまで魅力的な武器はない。
先程のおっさん二人と同じくらいの年齢だが、それでもあの武器があるだけあの二人のおっさんよりはマシだ。
普通に考えれば分かる弱点に気付かないデブに、愚かにも自らの命を差し出したガリ。
それに比べれば武器を持っている分マシであろう。
もっともハルトシュラーにとっては、それもほんの些細な現象に過ぎないが。
さて、ハルトシュラーは早速ガーレを持つその男を仲間にしようと近づいた。
見たところ彼はとても疲れているようだから、心配そうに声をかけよう。
いたいけな少女を装って、口調にも気をつけて。

「あ、あの……大丈
「……ッ!!」

ヒュン、とハルトシュラーの頬を何かが通り過ぎた。
目には見えなかったが、ガーレの弾を射出したのだろう。
(どうやらハズレを引き当ててしまったらしい……)
ハルトシュラーは心の中で舌打ちをする。

「く、くるなッ! お前も殺し合いに乗っているんだろう!」
「ち、違いますよ! 私が殺し合いなんて……、そんな……」
「嘘つけ! 10代の少女の振りをして、不意をついて俺を殺すつもりだな!? だがそうはいかねえ!」
「……ッ!」

(私の正体を見抜いた!? バカな……)
ハルトシュラーは虚を衝かれた顔をしたが、瞬時に持ち直した。
(いや、ありえないな。初対面だぞ? 分かるはずがあるまい)

「他の人間は騙せても、俺は騙せないぞ!! 分かったらコッチに来んじゃねぇ!! さもなくば殺す!」

332 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:19:38 ID:Pd6dF.8.0

(眼が泳いでいる……しかも、声が震えているな……)
ガーレを持つ男―――キユは少女の正体には気付いてはいなかった。
疲労、恐怖、焦り、怒り、たまりにたまった精神疲労は疑心暗鬼を助長させた。
善意は悪意に見え、疑いは確信に変り、目に映るものを敵に見る。
故に彼は例えそれが純真無垢の可愛らしい少女でも、疑う。
ハルトシュラーは理解した。
(そうか、この男。疑心暗鬼に陥っているな……)
なぜそうなっているかは分からないが、この男は全てを疑ってかかっている。
そうなってくると、あながちハズレでは無さそうだ。
原因をつきとめてそれを解消すれば、仲間になってくれるだろうし、まだ話し合いの余地はあるからだ。
(もっとも、一歩間違えれば死んでしまう可能性もあるのだがな)

「はっ……はっ……来るな、来るんじゃねぇぞ……」

ガーレを持つ男はかなり疲れており、さらに興奮した様子である。
行動、言動、全てに注意をしなければガーレで瞬殺されてしまうだろう。
今の自分の状態は、10代の少女なのだ。当然体力も10代の少女並み。
さらに持っている武器が、全て近距離で使わなければならないもので、どう考えてもコチラが不利であった。
(だが、折角見つけた駒だ。何とかして手に入れたい)
この先、このような殺し合いに乗っていない人物に会えるかどうかは分からないので、ハルトシュラーは早急に駒を手に入れたかった。
まだ、自分を襲った猫がいるのかもしれないのでそれに対する守りが欲しいというのもあるが。
そうと決まれば早速、ハルトシュラーは行動に移した。

「あ、あの……何かあったんですか? そんな疲れた様子で……」
「うるせぇ! てめえには関係ねえだろ! そんなに死にたいのか!?」
「え、えっと……だって、その、困っている様子ですし。あと、凄く震えているので……」
「……!!」

言われて自分の様子に気付いたのか、男は必死に震えを抑えようとする。
しかしその震えは一向に収まることは無く、余計に震えは増していった。

「やっぱり何かあったんですか? 例えば……怖い思いをしたとか……」
「っ……ち、違う……俺は悪くないっ、俺は悪くないんだ!」

急に男が頭を抱え、ぶんぶんと振り出した。
(ふむ? いきなり確信を突いたか? どうやら何かをしでかしたようだが……)
考えうるにこの男は誰かを、ガーレで攻撃してしまったのだろうか。
だとしても、疑心暗鬼になるには薄すぎる。誰かに攻撃されたから反撃をした。その類だろうか?

「あ、あの……「あ、アイツラがっ! 銃を持っているからいけないんだ! だから俺は勘違いしたんだ! 俺は悪くない!」……あの」

男はさらに興奮した様子で、その行動に対する弁明をずっとしていた。
ぐちゃぐちゃした内容であまり分からないが、男は襲われたのではなく襲った側だということが分かった。
(嗚呼、うるさい……。だが、もう一押しかな……)
恐らく、疑心暗鬼の原因は大方これだろう。
ならそれを解消すればいい。相当混乱している様子だから、まずは静めなければ。

333 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:20:20 ID:Pd6dF.8.0

「俺は悪くないんだ! なぁ、お前もそう思うだろう! な、な!?」
「えぅ……でも、その人達は別に貴方を殺そうとしたワケじゃないんですよね?」
「あ、あ……た、確かにそうだが……」
「だったら、どっちも悪くないんじゃないと思います…… その……この状況なら仕方ないと思うんです。
 その人達が殺しにきた、って勘違いしてしまうことも」
「…………あ」

(やっと静かになってくれたか。さて)
興奮も収まった、今なら冷静に物事を考えてくれているだろう。
疑心暗鬼の原因はこの非現実的な状況と、この男の勘違いによるものらしい。
ならば解決する方法は一つ。

「あの人達に謝りに行きましょう! きっと、許してくれるはずです!」
「で、でも俺は……三人を襲って……」
「でもそれは誤解だったんでしょう? それならあの三人もきっと許してくれますよ!」
「そ、そうかな……でも」
「でもじゃない! 大丈夫です! それに仲間は多いに越したことは無いでしょう? 行きましょ!」
「うわっ! ちょ、分かった! 分かったから! 引っ張らないでくれ!」
「あ、そういえば名前を聞いてませんでしたね。私はハルトシュラーです。貴方は?」
「お、俺は…………、っ」
「?」

ここにきて、男が自分の名前を言い淀んだ。
誰かに知られたくない名前なのだろうか。ならば、ここは無理に聞かないほうがいい。

「言いたくないなら別にいですよ。あとで、教える気になったら教えてくださいね?」
「……分かった」


□□□


思わぬ収穫だった。
新しい駒を手に入れたことに加えて、上手くいけば3体も駒が増えるかもしれないのだ。
しかもその内の一人は銃を持っているのだとか。
(これなら……あの猫に対抗できるな)
記憶が確かならば、あの猫が持っていた武器は薙刀と草刈り鎌とボウガン。
こちらにはガーレと銃、近距離用の警棒がある。
戦力差でいえば、ややこちらのほうが有利だろうか。
(さて、ゆっくり行こうじゃないか……)
口角がゆっくりと上がる。
キユはそのことを知る由も無い。

【A-4/1日目・朝】

【ハルトシュラー閣下@創作発表】
[状態]:健康
[装備]:警棒@現実、毒薬(青酸カリ)@名探偵コナン(?)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)
[思考・状況]
基本:10歳の少女を演じながら、ステルスマーダーに走る
1:キユと行動
2:百貨店には近づかない
※身体能力の一切が10歳の女の子並みに制限されています。召還術も、自分の設定を変えることも出来ません
※拳法の技術や、剣技は体が覚えていますが、筋力などがついていきません
※毒薬は青酸カリです。説明書は「文字を入れ替える系」ネタが使われております

【キユ@週刊少年漫画】
[状態]:健康、人間不信、疲労(中)、精神疲労(小)
[装備]:ガーレ@エルシャダイ
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、靴墨@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない……?
1:ハルトシュラーと行動。
2:攻撃した3人と和解する。
3:俺の名前……どうしよう……
※A-5のどこかの民家一帯がボロボロになっています

334 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:22:16 ID:Pd6dF.8.0
仮投下終了です。
問題点などがあれば指摘をお願いします

335ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/13(火) 12:47:58 ID:Q1Hue/GQ0
仮投下お疲れ様です
内容は問題ないと思いますよ

336 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/13(火) 14:30:44 ID:IcMxgPsE0
本投下終了致しました

337 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:17 ID:bf5RQd8w0
ミルコ・クロコップ、モナー、ウラー、クタタン、やる夫、チハ、畜生マッマを仮投下致します

338 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:43 ID:bf5RQd8w0
「ここで大人しくしてるんだ、いいな」
「ええ、もちろんです。6時間後、キチンとお話致しますので……」
「どうだか……アンタの言うことは信じれるようなモンじゃない。
 そう言うなら今すぐにでも情報を提供したらどうだ?
 どうせ、もうそこから動けないことが確定しているんだ。
 さっさと殺し合いを脱出出来たほうがアンタも下手に殺されるリスクが減るぞ」
「いいえ、そういうわけには参りません。情報を話せばそのまま殺されるかもしれませんから」
「俺はアンタをお情けで生かしてやってんだぞ? それに応えようと思わないのか?」
「私は慎重なものでして。本当に私の命が保証されたと確信したらすぐにでもお話します」
「面倒くさいやつだな……」

クタタンは得体の知れない愛想笑いを浮かべる。
ミルコ・クロコップはそれを憎たらしげに睨みつけた。

ここは病院1階にあるロッカールーム。
ベンチが2台ほど並べられ、壁にずらりとロッカーが固定されている。
それ以外には何もない、窓すらもない単純な構造の部屋。
クタタンはそこに両手をロープで縛られた状態で閉じ込められた。
抉られた右腕は止血され、包帯を巻いて応急処置を施されている。

「ところでこの赤と白の球、説明書はどこにやった?」
「それがですね、付属されてなかったんですよ。不備なものですよね。
 ……あぁ、それは爆弾です。かなりの威力を持ったとなっております。
 知らずにそのボタンを押したところカウントダウンが始まったので、慌てて投げ捨てたのですが、建物が一つ壊れてしまいました」
「既に一つ使ったということは、そんなシロモノがいくつも入ってたってことか?」
「二つです。それが最後の一個となっております」
「どっちにしろ、こんなものを取っておくにはリスクが大きすぎる。後で破棄するぞ」
「フン、勿体無いですね……」
「もう一つ、この白い棒が何なのか答えろ」
「それはアーチという武器です。端を引っ張ると物体を浄化させるエネルギーが放出されます。
 私を襲ってきた老婆と男性一人には、それを使って対応したんですよ」
「そうか。もうこれ以上聞くことは無い。寝てろ」

病院に到着した時に、まずその惨状に驚愕したものだ。
表側のほうはそれほど目立った状況ではないが、駐車場側が破壊され尽くしているのだ。
黒く焼け焦げた中規模のクレーターがあり、焦げている何かの残骸が散らばり、さらにはアスファルトがひっくり返された跡も見受けられる。
ここに向かう途中、大きな爆発の音を聞いていたが、ここが発信源だったのだろう。
窓ガラスは爆風や破片によってほとんどが粉々に砕かれ、壁には銃痕が残されており、さらには低階層の壁の一部が崩落している。

ここで大規模な闘争が行われていたのには違いない。
一つ不思議なことといえば、駐車場側以外が全くと言っていいほど被害を受けていないところだろうか。
とりあえずミルコは、ウラーとモナーに病院内の探索を頼んでおいた。
構造の把握が必要なことと、そして闘争の生き残りが中にいる可能性があったからだ。
その間にミルコが、一人でクタタンの見張りを行う。

「ただいまモナ」
「一通り把握してきたウラ」
「なんかところどころで戦闘の跡が残っていたモナ……」

しばらくして、モナーとウラーが戻ってくる。
話を聞く限り、誰かが隠れている様子はなかったそうだ。


「ご苦労様。しばらくはそこの病室で休息を取ってくれ」
「了解しましたモナー」

殺し合いの開始から既に7時間が経過している。
目覚めてから現在まで、3人とも一睡もしていない。
ミルコはそれでも全く問題がない、しかし一般人である猫二人はそうはいかない。
今のところ身体的な疲労は少なくとも、後々響かないように休んでもらったほうがいいだろう。

安全を考慮して、なるべく近くの部屋に指定した。
なるべく自分の目の届く範囲に集まってもらったほうが安全だからだ。




そうして、1時間程経過しただろうか。
外から奇妙な音が響いてきた。

キュラキュラキュラキュラ……

車椅子を漕ぐような車輪の音が、徐々に大きくなってくる。

キュラキュラキュラキュラ……

ロビーの窓から外を覗き込む。
そしてその音の正体には、流石に驚きを隠せなかった。

339 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:58 ID:bf5RQd8w0
「戦車だと……!?」

病院の前の道を、一台の戦車と一人の男が歩いていた。
明らかに重厚な車体にそぐわないほど軽快な音を共にキャタピラが回る。
ミルコはすぐさまモナーとウラーの元へ行った。

「起きろ、今すぐそこに得体の知れない奴らが来ている」
「まさか……襲撃モナ……!?」
「わからないが、相手は戦車を所有している。仮に敵意があった場合、この建物も容易に破壊出来るだろう。
 俺が奴らの様子を見てくるからその間、ここでクタタンの見張りを頼んだ。
 あと、もし何かあった時は荷物を持って、自分たちだけでもすぐさま逃げるんだ」
「わ、わかったモナ。気をつけるモナ……」

護身用としてアーチのみを持ち、表側の方へと向かう。
防具といえるものが無い以上、身軽な方が都合がいいからだ。


 ◆


(……さん……お姉さん……)

チハの呼ぶ声が少し遠くに聞こえた。



(お姉さん、そろそろ起きてよー)
「……ついウトウトしてしまったわね。今どの辺にいるのかしら」
(もう病院の近くだよ)
「……あのさ、少し離れた場所って言わなかったっけ?」

目覚め早々、マッマの機嫌が悪くなる。
というのも、彼女はもっと慎重に行動したいと考えていたのだ。

マッマとやる夫、そしてチハは地図に書かれていた『病院』に足を運んでいた。
病院、それは先ほどの爆発が起こった場所。危険人物がいる可能性が高く、出来れば近づきたくないと考えていた場所。
しかし、爆発音を聞いてわかることはあくまで"方向"だけである。
どの程度の距離なのか、といった細かい位置情報は、高地から見ない限り特定するのは難しい。
だから爆心地である可能性を考慮し、ある程度離れた位置でこっそりと様子を伺ってから行く、という話だった。

(え、てっきり入口付近かと……。僕は中に入れないし……)
「もし中に危険な奴がいたら狙われるかもしれないじゃない! それくらいわかるでしょ!?」
(ご、ごめんなさい……)
「あーもう、私は疲れやすいトシだっていうのに、誰かさんがわがまま行って私を歩かせるから……」
「なんでやる夫に八つ当たりするお……」

度々こちらに飛び火してくるのに、やる夫はげんなりする。
完全にストレスのはけ口として扱われている気がする。正直嫌である。
でも文句は言えない。ここからあのやきう兄みたいに一人で出て行く勇気がないから。
少なくとも頭の働くマッマと、安全な戦車と行動すれば安心を得られるのだから。

「まったく、仕方ないわ……見た感じ病院に壊されてる様子とか無さそうだし、こっそりと忍び込もうか。
 本当だったらもう少し慎重に行きたかったんですけどね? はぁ……」
(面目ない……。気をつけてね)

マッマはチハの蓋を開け、外に出る。
と、その時、すぐそばから駆け寄る足音。
反応も間に合わず、突如ガタイのいい男にやる夫の体は押さえつけられる。

「ウワアアァァァ」
「あんたら、殺し合いには乗っているか?」

男は低い声で問いかけてきた。


 ◆


「……とりあえず、荷物を整理しておくウラ……」
「そうモナね。いらない物は捨てるモナ」

ミルコが持っていったアーチ以外の物を取り出す。
ロープ、普通の縄だ。クタタンを縛るのにも使用している。便利。
工具セット、知識が無い自分たちには使えないが、おそらく分解や組立に役立つだろう。。
バスタードソード、自分でも正直持て余してるが、一撃ぶつければノックダウン出来るはずだ。
赤いシューズ、キック力を増強させるというがサイズが合わない。
というのも、自分たちの足のサイズは異様にデカイ。

   A_A 
  ( ´∀`)
  (    )
  | | |
  (__)_)←このように太ももよりも足のサイズが大きい。

ツボを刺激して脚力を向上させる仕組みらしいので、改造すれば自分らに役立つ物となるかもしれない。
ちくわ大明神、小腹が空いた時に食べることで満足を得られる。
オレオ、小腹が空いた時に食べることで満足を得られる。
ポイントカード、お餅の絵が描かれている。該当する店で使えばお得だろう。

340 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:44:46 ID:bf5RQd8w0
そして、赤と白の球。クタタンの持ち物。

「おっさん、これは一体なんだウラ?」

ウラーはロッカールームの扉越しにクタタンに尋ねた。

「そのカプセルですか。フフ、それこそがですね、この殺し合いからの脱出に必要な道具なのですよ」
「モナ!? 今それを話すって、どういう風の吹き回しモナ!?」

平然と答えるクタタンに思わず驚愕の声をあげた。
本来の約束であれば、6時間後に教えてくれるという話だったはずだ。
今それを教えてしまうのは明らかに怪しい。

「ミルコさんには既に話しましたが、それは所謂、収納箱なんですよ」
「収納? こんな小さなボールに入るわけないウラ! いい加減にしろウラ!」
「これは特別なカプセルなんです。大きさとか形状とか、"普通のカプセル"というくくりでは考えてほしくないんです。
 もちろん、その中に入っている道具の使い道や、具体的にどうすればいいかの情報は黙秘させてもらいますが」
「ふむ……」

つまり、脱出のためのヒントがこの中に収められているということだ。
クタタンがやけに落ち着いた様子だが、その道具を見ただけで方法がわかるものではない、という自信があるのかもしれない。

「ミルコさんが帰ってくるのがちょっと遅いモナ……。本当に"いざ"という時が来ちゃった、なんてことはないモナよね……?」
「ええ、私もヒヤヒヤしますよ。彼のような力強い人がいないと、私も身の安全が確保出来ませんからね。
 お二人も荷物確認はさっさと済ませた方がいいかもしれませんよ」
「そうやって媚を売っても、心を許したりしないモナよ。私はなるべくミルコさんの指示に従うつもりだからモナね」
「媚を売るだなんてそんな。私はあなたがたを信用出来れば、脱出策をお教えるつもりなんですから」

二人の社長がドア越しに言い合っていた。
ウラーはそれを横目に見て、そして赤と白のカプセルを手にした。

「まぁ、ちょっと中身は気になるからなウラ。ちょっと見せてもらうウラ」
「ええ、どうぞどうぞ」
「ウラーさん、あんま勝手なことをしないで欲しいモナ!」



 ◆



病院の玄関で、ミルコとマッマたちは情報交換を行う。
脱出のために首輪を外す、そしてそのために技術力のある者を探す。
その目的にマッマはおおむね賛同し、さらにそれに対する問題点を指摘した。
少なくとも首輪の構造を把握するために、実験用の首輪が必要だと言うこと。

「流石に人の首に着いてる物を、ぶっつけ本番でいじるわけにはいかないでしょ?
 申し訳ないことだけど、既に死んだ人のから調達する必要はあると思うわ」
「あぁ、おそらくそれもやむを得ないだろう。外をある程度探索すればすぐに見つかるかもしれないな」

生きている者を救うためには、既に死んだ者には犠牲になってもらわねばならない。
そしてそれを行えるだけの覚悟は持っていた。

「……おっと、連れを待たせてしまっていた。一旦奥へ来て欲しい」
「他にもいたのね」
「モナーとウラーだ。見た目はちょっと妙だが驚かないで欲しい」
「大丈夫よ、慣れてるわ」
「それなら安心だ」

なんだこの会話、と蚊帳の外にいるやる夫は思った。

……と、その時。

「ひぃぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

悲鳴、とてつもなく長い悲鳴。
続けて男の声。何かを語りかけるような声。
ミルコ・クロコップはすぐさま駆け出した。
あの悲鳴はウラーのものだった。そして男の声は、クタタン。
今、あの場で最悪のことが起きているのだ。



奥へと走り去るミルコの姿を見て、

「何!? 何なの!? あっちで誰か襲われているの……!?」

あまりに突然の出来事に、マッマは大きく戸惑った。
ミルコの"連れ"が何者かに襲われたのは間違いないだろう。
ではどうするべきか。自分たちも助けに向かうべきだろうか。

いや、自分たちは大した武器を持っていない。
ここで感情に任せてミルコの後を追ったところで、何が出来るというのだろう
相手がとんでもなくヤバイ奴だった場合、きっと自分の命も危機に晒されるだろう。
果たして、出会って数分の者のために、危険を冒してまで助けに出るべきか。

341 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:01 ID:bf5RQd8w0
「……ごめんなさい。私たちが行ったところで何も出来ないわ……」

出てきたのは謝罪の言葉。
不用意にリスクのある行動を取りたくなかった。
例え、助けたいという気持ちが本物であっても、自分の方が大切だった。

「やる夫、逃げるわよ」
「わ、わかったお……」

やる夫もまた、その意見に反対しようとはしなかった。
薄情な行為かもしれない。しかし、わざわざ死地に飛び込みたいとは思わない。

二人は黙って外へと走り出した。
すぐにチハに乗り込んで、その場を離れる。
彼の身が無事であることを祈りながら。


 ◆


廊下を全力で駆け抜け、奥のロッカールームの方へと進む。
そして、そこに広がる光景は、想像しうる中で最悪のものだった。

赤、赤、赤。
生き物という容器に目一杯詰められた、血液という液体。
その大量の液体が溢れ出て、廊下に大きな池を作っている。

ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
肉を貪る黒い怪物の姿あった。
内臓を引きちぎり、牙でさらに滅茶苦茶に咀嚼されていく。
怪物が食しているのは、ミルコが知っている顔。
タレ目を少しだけ引きつらせた驚愕の表情を携えたまま、ピクリとも動かない。

「ネメア、アイアンヘッド」

クタタンの声に反応し、化物はすぐさま食事を中止する。
赤く――文字通り血のように赤く、ナイフのように尖った鋭い角が、ミルコの方に向けられる。
そして突撃。
ミルコはその動きを捕捉する。そしてギリギリまで引き寄せ、左側へと抜ける。
真横の位置から、強烈なキックを叩き込む。確かな手応え、怪物の体が僅かに軋む。

急停止をした怪物はこちらへ居直ろうとする、そこへもう一撃蹴りを叩き込む。

「てっぺきだ!」

クタタンの指示、刹那、ネメアの体が水銀のような光を放つ。
顔面へと叩きつけられた蹴り、それが金属的な音を響かせた。

「―――ッ!?」

その硬さの変化に、体が予測出来なかず、己の足の骨が嫌な音を奏でる。
この鈍い痛みは、ひびが入ったに違いない。襲い来る苦痛にミルコは顔を歪ませた。

ネメアはそのまま覆いかぶさり、マウントポジションを取る。
ミルコはアーチをネメアの口内に押し付け、必死に牙を押さえつける。
その時、頭に強烈な衝撃を受けた。
巨大な鈍器で殴りつけられた。視界が大きくブレた。
そばには、バスタードソードを構えたウラーの姿があった。

その顔は恐怖に満ち溢れ、たった今自分が行なった行為にも焦りをあらわにしていた。

「ウラー、一体何を……」
「悪くない、俺は悪くない、悪くないんだ、殺さなきゃ俺が殺される、だから悪くないんだ。
 これは正当防衛なんだ、悪いことじゃないんだ、仕方ないんだ、自分の命を優先していいんだ」
「お前は、何を言っているんだ」
「あんな殺され方したくない、だから仕方ないんだ。俺が生きるためだから、悪くない。
 きんきゅ、緊急き、ひ、避難法、緊急避難法が、ついて、ついてるんだ、俺には」

もはや気が動転して、言っていることが完全に曖昧だった。
だがわかった。きっと、クタタンに恐怖を刷り込まれたのだろう。
モナーが殺される様を間近で見て、自分もこうなりたくなければミルコ・クロコップに襲いかかれと。

ネメアのアイアンクローが、ミルコの胸を思い切り貫く。
湧き上がる嘔吐感、喉から溢れ出てきた血が、口から吐き出される。

「フフフフ、いいお姿ですねぇ。自分が虐げた人物に逆襲される気分はどうですか?」
「てめぇ……どうやって抜け出しやがった……このモンスターは……」
「赤と白のカプセルに入ってたんですよ、私の従順な下僕としてね。
 ついでに言えば、ご丁寧にネメアを出してくれたのはウラーさんですよ、ありがたいですね」
「やはり、殺しておく、べきだった……か……」
「今更そんなこと言っても遅いですよ。甘かった自分をせいぜい恨みなさい」

そう嘲り、そして笑った。
あぁ、この憎らしいクソッタレに今から制裁を下せる。
散々侮辱しやがった罰を与えられる。
考えるほどに愉快な気持ちが湧き上がってくる。

「ネメア、そいつをしっかりと押さえておきなさい」

ネメアの前足が乱暴に顔面を押さえつける。
動けない様を見て、クタタンはその傍へと近寄り、思い切り蹴りつけた。
何度も、何度も、まるでサッカーボールを蹴るように放っていく。
叩かれた痛み、プライドを傷つけられた怒り、それら全てを足に込める。
頭部の形が徐々に変わっていく様を見るうちに、愉悦が溢れ出していく。

342 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:11 ID:bf5RQd8w0
「ははは、はははは、ははははははっ!! どうだ? 何も出来ずに一方的にやられるのは?
 痛いか? 悔しいか? 私が憎いか? ははははははははははははは!!! ざまを見ろ!!」

なんと清々しい感覚だろうか。なんと爽快なのだろうか。
一撃ごとに心に渦巻いていたストレスが発散されていく。
曇天の空に大砲をぶち込んで、風穴を開けて青空を拝むような、そんな感覚だ。

「あはははははははははは!!!」

人間の中にある残虐性、それを解き放つことはこれほど素晴らしいことなのか。
罪悪感や背徳感、報復に対する恐怖が無ければ、こんな面白いものはないだろう。
笑いが止まらない。


その時、クタタンの足の動きが止まる。
彼の足首を、ミルコの手ががっしりと掴んでいた。
そして。

「放しなさ……ぐがああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

人間離れした握力によって、足を砕かんと強く握られる。
骨がミシミシと悲鳴を上げる。血液がみるみる鬱血していく。
痛みに顔を歪めながら、クタタンはすぐさま指示を下す。

「ネメア、こいつの腕を切り落とせ!!」

メタルクロー。
ミルコの丸太のように太い腕が容易く引きちぎられる。
噴水のように、大量の血が吹き出して、床をベッタリと染める。

「ひぃいいいぃぃぃ!!」

離れて見ていたウラーは耐え切れず悲鳴を上げる。
白い壁や床を赤黒い液体が染め上げ、鉄臭い空間が出来上がっていた。
スプラッタ映画そのもののような光景が、眼前に広がっているのだ。

ミルコは、息も絶え絶えな様子で口を開いた。

「ウラー……聞け……」

名指しで呼ばれ、ウラーは飛び上がった。
何を言われるのかという恐怖で、ガタガタと体が震えだす。

「――いいか、聞けよ!!!?」
「ひ、はいィッ!!」

突然、病院に響き渡るような力強い怒号が放たれる。


「間違ってもお前は助かっちゃいねぇ、次がお前の番だ!! 肝に銘じろ!!!」


「五月蝿いですよ。病院では静かにするものです」

クタタンは足首を掴んでいた手を引き剥がし、思い切りミルコへと投げつける。
そして平坦な声で指示を下す。

「ネメア、殺しなさい」
「グオオオオォォォォン!!」

咆哮を上げ、ミルコを首筋から噛み千切った。



 ◆



カプセルが開かれ、中から現れたのは禍々しい怪物だった。
獅子のようで悪魔のようで、とにかくおぞましい外見をしていた。
俺もモナーもその場で腰を抜かして、ただ震えていた。
その怪物が俺たちを獲物として見ている、このまま殺されてしまうと思った。

と、その時クタタンはドア越しに囁いた。

『ウラーさん、そのカプセルを私に渡してください。
 その最強の生物を使役出来るのは私だけなのですから。
 この生物、ネメアを使ってあなたを殺し合いから守り抜きます、どうですか?』

343 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:21 ID:bf5RQd8w0
それは悪魔の囁きだった。
そして俺は、それに応じてしまった。
『最強の生物が俺を守ってくれる』というのに期待を抱いたのもあるかもしれない。
しかし、このままでは怪物に食われるかもしれない、という恐怖が俺の背中を押したんだ。



『ウ、ウラーが裏切ったモナ……』
『すまないウラ。でも俺はどうしても死にたくないウラ……。
 生き残らせてもらいたいウラ……本当に許して欲しいウラ……!』
『……どっちにしろ同じモナ、このまま死ぬのはきっと……』
『さぁネメアさん、アイアンヘッドです』
『オマエモナー!!』

鋭い角で突き上げられ、モナーの臓器は破壊された。

『俺は……俺は……』

モナーの言葉が耳に張りついていた。
そうだ、間違えてしまった。きっと用済みな自分は、このまま殺されるんだ。
ネメアの爪によって拘束を解いたクタタンが、笑みを浮かべながらこちらに近づく。

殺される。

『ひぃぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
『落ち着いてください、私は約束を守ります!! あなたを殺す気はない!!』

俺は悲鳴を止め、クタタンの次の言葉を待った。

『我々が生き残るために、邪魔をするであろうミルコ・クロコップも排除します。
 チャンスを見て、思い切りミルコ・クロコップに攻撃をしなさい。
 彼を倒せば、あなたの行いを攻める者は誰もいない。それに、最強の味方を得ることが出来るんです』

クタタンの言葉を断る勇気は、俺の中にはなかった。
そして、その通りに実行した。今までの仲間を死に様をただ見ていた。


 ◆


耐え難い嘔吐感。
ウラーはその場で胃の中の物を吐き出した。
目の前の惨状が、仲間を裏切った罪悪感が、俺の中で蠢いていた。

「俺は、俺は、うわああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

ボロボロと涙を流す。
この殺し合いから生きて返してくれると行ったミルコが、もう動かない。
まるで兄弟のように容姿が似ていたモナーが、もう動かない。
自分がどれほど取り返しのつかない行いをしたのか、それを痛感した。

「ウラーさん、あなたの判断は正しかった。
 あなたは生きるために何かを犠牲にする決断をしたのです。
 それを恥じる必要がどこにあるのでしょうか」

クタタンはそう言って俺の背中をさすった。
先ほど、ミルコを蹴りつけていた時とは全く違う、とても優しげな口調だった。

「アンタが……アンタさえ居なければ俺はこんな……」
「選択したのはあなたでしょう。安心してください、私の頭脳とネメアの力があれば、あなた一人くらい背負うのは容易ですよ。
 生き残りたいんでしょう? 生き残るのがあなたの願いですよね?」
「あぁ……」
「なら、死んだ彼らのことは忘れてしまいなさい。自分の命だけを考えればいいのです」
「…………」
「そうそう、あなたにご褒美を与えましょう。
 私たちが生き残るのに、最高に有利になるものです。
 ちょっとPDAを使わせていただきますよ」

クタタンは自身のPDAと、ウラーのPDAを同時にいじる。
何かしらの通信を行い、そしてウラーにPDAを操作していた。
これでOKです、と言って、その画面をこちらに見せる。

「私の殺害レベルをそちらに移し、忍法帖プログラムの"専用ブラウザ"をインストール致しました。
 周辺にどのくらいの参加者がいるのかを、完璧に把握出来る画期的なアプリです。
 これで不意打ちを受けることも無くなります、死のリスクがグッと減らすことが出来るのです」
「……俺はホントに、これで良かったウラか……。
 ホントにあんたは俺を助けてくれるんだろなウラ……?」
「もちろんです。私の下に着いたからには、相応の待遇を与えますとも。
 殺し合いを終わらせるためのあなたの手伝い、期待させていただきますよ」

344 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:32 ID:bf5RQd8w0
正直に言うと、クタタンは信用出来るとは思えなかった。
モナーの言葉が、ミルコの言葉が脳内にこだまする。
きっと必要があれば、コイツはさっさと俺を殺すだろう。
自分が殺される番を、次に回しただけに過ぎない。

でも、もう後には戻れない。
クタタンと共に行動する以外に、自分が生きる道は残されていないのだから。



【C-3/病院内/一日目・午前】

【クタタン@ゲームハード】
[状態]:右腕に切り傷(中)、健康、束縛状態
[装備]:ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス、PDA(忍法帖【Lv=02】、ちくわ大明神@コピペ、アーチ@エルシャダイ
[道具]:PDA(忍法帖【Lv=00】、ちくわ大明神@コピペ、アーチ@エルシャダイ、
[思考・状況]
基本:優勝し、世界を美しいモノへ創り上げる
1:相手を見極め、出来るならば他の参加者に「協力」を呼びかける
2:ウラーを利用する
3:いわっちには自分の思想を理解してもらいたい


【ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス】
[状態]:支給品、健康、ボールの中
[思考・状況]
基本:クタタンの指示に従う
※使える技は、アイアンヘッド、悪の波動、メタルクローの他にもう1つあるようです。
 何があるかは次の書き手の方にお任せします。


【ウラー@AA】
[状態]:死に対する恐怖、悲しみ、罪悪感
[装備]:バスタードソード@FF&ドラクエ(FF7)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】"専用ブラウザ"をインストール済)、オレオ@イタチコラ画像、ポイントカード@当店のポイントカードはお餅ですか
[思考・状況]
基本:生存最優先
1:クタタンに着いていく
2:とにかく死にたくない……
3:化け猫(お断りします)とライオン(サバンナ)を警戒

※忍法帖プログラム"専用ブラウザ"をインストールしたため、周囲の参加者の位置がわかるようになりました。




【C-3/病院付近/一日目・午前】

【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、テンションsage、擬似賢者モード
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲喪失。とりあえず今は生き延びる
1:病院から離れる、ミルコたちに罪悪感
2:アイツ(やきうのお兄ちゃん)は怖いけど……でもマッマの言う通りにする
3:チハからは離れたくないけど、畜生マッマから離れたい。今のとこ出来そうにないけど
4:やらない夫がちょっと心配。でもやっぱりおにゃのこには会いたい
※擬似賢者モードによりテンションが下がり、冷静になってます。性欲が回復すれば再び暴走するかもしれません。

【畜生マッマ@なんでも実況J】
[状態]:健康
[装備]:ぬるぽハンマー@AA
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1(治療に使えそうなものは無いようです)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:病院から逃げる、ミルコたちに罪悪感
2:あのバカを追いかける。
3:とりあえず、やる夫を戦闘要員兼弾除けにする。グンマーはどうしようか……
4:やる夫の友達のやらない夫に親近感

※ミルコ・クロコップと情報を交換しました。
※爆心地が病院だと知りましたが、原因はわかりません


【チハ@軍事】
[状態]:損傷無し、燃料残り77%、内部が少し醤油臭い
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:マッマの言う通りにする
2:殺し合いに乗った人には会いたくない
3:やきう兄に強い警戒。グンマーは……
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※チハは自分の武器の弾薬が無い事にまだ気づいていません。

345 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 23:00:59 ID:bf5RQd8w0
以上で投下終了です

あと、一部表記を挿入し忘れてしまったので、
状態表の上あたりにこれを追加してください
↓↓























【モナー@AA 死亡】
【ミルコ・クロコップ@AA 死亡】

346ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/11/13(水) 23:02:17 ID:eI.j.C8o0
仮投下乙です
内容は問題ないかと思われます
後は、投下の際に初出の支給品の説明を入れれば良いかと

347 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:15:41 ID:vgpbOQzo0
予約文を仮投下します

348 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:10 ID:vgpbOQzo0


「うぐ…………」

 民家のブロック塀にもたれかかるファヌソ。
 左手で胸の辺りを押さえ、青ざめた表情で脂汗を浮かべている。
 どうして、このような事態に陥っているのか?

(胸が……痛い)

 ファヌソを突然襲った、胸の痛みのせいである。

「一体なぜ……まさか」

 ファヌソの頭の中に浮かんだのは、1つの仮説。

(竹安の身に、何かあった? …………その上、あまり想像したくない出来事……)

 ……この予想は、当たっていた。
 だが、今のファヌソには、それを確かめる術はない。

(このままじゃ碌に移動もできませんね……ああ、頭がクラクラする)

 こうしている内にも、鋭い痛みが胸から頭へと伝わっている。
 油断すれば、そのまま気を失って地面へと倒れ伏してしまいそうなほどに。
 ……こんな所で倒れるなんて、危険にも程がある行為だ。
 それが分かっているからこそ、ファヌソは何とか意識を保とうと努力している。
 ……それでも、胸から迫り来る痛みが、ファヌソの意識を遠ざける。

(ああ、そうだ……お医者さんカバン、を……つかえ、ば……)





 背負っていた鞄を地面におろそうとしたところで、ファヌソの意識はプツリと途絶えた。

349 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:36 ID:vgpbOQzo0









「…………」
「ぽぽ……」

 街の真ん中を目指して、ただ歩き続ける内藤ホライゾン一行。
 時折八尺様が「ぽぽぽ」と呟いたり、3ゲットロボが良く分からない事を言ったり……。
 会話らしい会話は、ほぼ無いに等しかった。
 唯一の会話は、道中、爆発音らしき物が聞こえた時のものだけ。
 それでさえ、非常にさっぱりしたものだったのだが。
 それほど、内藤の気持ちは沈んでいるのかもしれない。
 ……同行者1人+1体とは、会話が成り立たないと言う理由も、あるかもしれないが。

(いつまでもこんな調子じゃ、Tさんに申し訳ないお……でも……)
「ぽぽ、ぽぽ……」

 そんな様子の内藤の肩に、まるで励ますかのように、八尺様の手が触れる。
 おおよそ恐ろしさとはかけ離れた、しなやかで美しい手が。

「……」
「ぽ、ぽぽっぽ」

 何を伝えようとしているのか、相変わらず理解できなかった。
 だけれど、何だか、少し元気が出たような気がした。
 少なくとも、悲しみを一人で抱えて歩むよりは……。


「慰めてくれた……のかはわからないけど、ありがとうだお……」
「ぽ」


 殺伐とした空気が、少しだけ緩んだ。
 まるで一陣の風のように、内藤の心にかかった雲を、少し吹き払ってくれたような気さえした。
 もちろん、Tさんの事を乗り越えることが出来た訳ではない。
 だが、この八尺様の行動が、もしかしたらその手助けになる、かもしれない。



『がしゃーん、がしゃーん』
「ど、どこにいくんだお! ……って、あれは……!」

350 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:54 ID:vgpbOQzo0

 突然、3ゲットロボが内藤の傍を離れ、走り出した。
 その先には……男が一人、倒れていた。
 いち早く男の存在に気づいた3ゲットロボは、内藤にその存在を教える為に行動を起こしたのだ。
 ……会話で意思疎通を図れないが故の行動である。

「こ、こんな所になんで倒れてるんだお…………?」
「ぽぽぽ……」

 恐る恐る首元に手を当ててみると。
 ……予想とは裏腹に、生命の鼓動が、伝わって来る。つまり……死んでいない!
 しかし、仰向けに倒れた男の胸の辺りは、しっとりと血のようなもので濡れている。

(ち、血が出てるお……!)

 傷を確認しようと、内藤は男の服の胸の辺りをはだけさせた。
 そこには、銃弾を受けたかのような"傷跡"が……。
 これは、一体どういうことなのか?
 どうして、この"傷跡"が胸にあるのか?
 この男は一体誰なのか?
 一瞬にして、内藤の脳内にいくつも疑問が浮かぶが、その1つ1つを考えている暇はない。
 ……どんな事情があるにしろ、この男をここに放置していくのは危険だ。

「とにかく、ここに寝かせたままじゃダメだお……! どこか、安全な場所に運んだほうがいいお!」
「ぽぽっぽ」

 自身より大きい男の体をなんとか抱え、フラフラと近くの民家に入っていく内藤だった……。






351 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:11 ID:vgpbOQzo0




 ……目を開く。
 見えるのは、見慣れない天井だけ。

(ここは……?)

 首を動かさず、目だけをキョロキョロと動かして辺りを見る。
 どうやら、何処とも知らぬ民家の一室のようだ。
 上半身を起こして辺りを窺う……今まで、私はベッドの上に横たわっていたようだ。
 ……おかしい。私は、不覚にも道端で気を失ってしまったはず。
 なのに、どうしてこんなところにいるのだろうか……?

「……そうだっ、胸は!?」

 ガバッと、自分の服をはだけさせて胸を見てみるが……。

(……何ともない……妙な痕があるだけで、おかしいところは何も無いですね……)

 一体、何がどうなっているのだろうか?
 不可解な事ばかりで、流石の私でも少々混乱してしまいました。
 ……とにかく、もう何とも無いのならば、引き続き竹安を探しに行かなければならない。
 こんなところで時間を食って、竹安に何かあれば、私にも何かあるかもしれない……。
 ならば、こんな所で寝ていられない。今すぐにでも出発しないと。
 そう思ってベッドから降りようとした時……。
 閉まっていた部屋の扉が開いて、何者かが入ってきた。

「目が覚めたかお?」

 入ってきたのは、何とも言えぬ体型の青年(?)だった。
 私を、心底安心している目で見つめている。

「道端で倒れてた所を、僕がここまで運んでベッドに寝かせたんだお……」
「なるほど。だから私はここに」
「ついでに……怪我もしてたから、きちんと手当てしておいたお」

 ……怪我?
 少なくとも、気絶するほどの怪我は負っていないはず。
 状況がいまいち飲み込めずに少々困惑する私の事などお構い無しに、青年は話を続ける。

「それで……その、手当てする時に、お兄さんの荷物にあった道具を、使わせて貰ったお……」
「道具……」
「お兄さんの物を勝手に使って申し訳ないお! でも、手当てしなきゃどうなってたか……」

 そう言うと、青年は深々と私に頭を下げた。
 ……確かに、勝手に私の持ち物を探られてなおかつ無断使用されたのは少々気になりますが。
 ですが、そのお陰で私が助かった……。

352 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:27 ID:vgpbOQzo0




「…………私を助けてくれて……」




 ポツリと、柄にもない一言を呟いて、私は、足早に部屋を出た。









「……あの人、すぐに出てっちゃったお」
「ぽぽ」

 リビングの椅子に腰掛け、八尺様に話しかける内藤。
 ……特に礼を言うでも無く、出ていってしまった男。
 一体、あれは誰だったのだろうか。
 今の内藤や八尺様に、それを知る術はない。

(でも……不思議と、悪い人とは思えなかったお……)

 出て行く前に見せた、あの和やかな笑顔。
 そして、ぽつりと呟いたあの一言。

「……また、どこかで会えたら……」
「ぽっぽ、ぽぽ」

 ほんの少し、気分の晴れた内藤だった。

353 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:42 ID:vgpbOQzo0


【C-3とC-2の境目付近/一日目・朝】
【内藤ホライゾン@AA】
[状態]:健康、絶望感、クマーに対する強い恐怖と敵対心、少しばかりの希望
[装備]:木刀@現実
[道具]:Tさんの基本支給品一式、注射器@現実、ハロゲンヒーター@AA、ドーピングコンソメスープ@魔人探偵脳噛ネウロ
[思考・状況]
基本:生き残り、Tさんの父に謝る
1:クマーは必ず倒す
2:少し休憩したら、街の真ん中の方へ向かう
3:ドーピングコンソメスープを使う……?
※彼自身のデイパックは依然どこかに放置されています。

【八尺様@オカルト】
[状態]:健康、深い悲しみと後悔
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エルメスの基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モナーの銅像@FLASHゲーム「密室船」、釣り竿@現実、3ゲットロボ@AA
[思考・状況]
基本: ぽっぽぽ……
1:“悲しみ”を少しでも減らす

【3ゲットロボ@AA】
[状態]:支給品、異常無し
[思考・状況]
基本:持ち主の命令に従う。内藤ホライゾン、八尺様に同行。









(あんな事を言うとは、私らしくもない……)

 歩きながら、私は先程の事に考えを巡らせる。




『私を助けてくれて、ありがとう』




(こんなセリフを言おうとは……まあ、感謝はしていましたがね)

 それを言葉にして出すとは、私も随分と変わったことをするものだ。
 だけれど、たまにはこういうのも良いでしょう。

(さて……竹安はどこにいるのか……)

 まだまだ、私は死なない。
 まだ、死ぬには早い。



【C-3とC-2の境目/1日目・朝】
【髪の子ファヌソ@ゲームサロン】
[状態]:肩に痛み、疲労感(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、お医者さんカバン(3/5)@ドラえもん、ヘリコプター@現実
    12.7mm弾×25、25mm弾×5
[思考・状況]
基本:気まぐれに行動する
1:竹安を探し出して保護する
2:ひろゆきをゆくゆくは地獄に落とす
3:手に入れた弾薬は、相応しい仔羊に与える
4:『裏ワザ』(死体やヘリをデイパックに収納できること)を誰かにひけらかしたい

※神通力が制限されています。自分が生み出したものが損傷を受けると、ファヌソにもダメージが及びます。
 竹安の装備が損傷を受けた際のダメージの程度については次以降の書き手の方にお任せします。

※ファヌソが立ち寄った小さな公園の中に、弾薬箱とわさび@オラサイトが放置されています。
 ファヌソが入手した物以外にも弾薬はあるようですが、種類と量は不明です。
※デイパックに参加者の亡骸を入れて持ち運べることを知りました。生者にそれが適応するかは次の書き手の方にお任せします。

354 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:18:15 ID:vgpbOQzo0
仮投下終了です
指摘点などあれば指摘お願い致します

355ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/11/20(水) 23:40:15 ID:hPZZd9GA0
仮投下お疲れ様です! 問題無いと思いますよ〜

356 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:26:12 ID:cKg5QjWc0
予約分を仮投下いたします

357 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:26:43 ID:cKg5QjWc0


 太陽は、既に天高く上っている。
 だが、照英一行の雰囲気は、まるでそこだけ影の中に入っているが如く暗い。
 ……数時間前の出来事の時点で、少なからず心に影は差していた。
 それに追い討ちをかけてしまったのが、定時更新だった。
 そこに名前が載っている事実が、そんな心に追い討ちをかける形となってしまったのだ。
 ……だが、それと同じように気まずい空気が漂っているところもあった。

(やっぱり、まだまだこの2人の間には、わだかまりが……)

 そう、T-72神と801の姐さんの間に……。
 幾度と無く、照英が間をとりなそうとしたのだが、どうにも上手く行かず。
 結果、今の時間までこの微妙な空気が続いているのだ。

(……いつまでも、このままじゃいけない。でも、どうすれば)

 焦れば焦る程、思考は絡まってしまう。
 それでは駄目だ、落ちついて1つづつ解いて行けば、必ず答えは出る。
 ……そう、分かっていても。
 不安が焦りを生んで、育ててしまうのだ。

(時が、解決してくれる……のを、待つ訳にもいかない)

 これが日常の一幕であったなら、その選択をするのも1つの手。
 だが、その手は…………使えない。
 いつ襲われ、いつ命を落とすかわからないこの状況で、"時が解決する"のを待つ事は、できない。

(僕が……どうにか……)

 そんな照英の悩みをよそに、801の姐さん達は道を進んで行く。
 ……どちらも、もしかしたら。
 一歩踏み出すだけで、元に戻れるのかもしれない。
 だけれど、その一歩は。果てしなく、大きい。

「……照英さん、PDAに反応が……」

 黙っていた801の姐さんが、唐突に口を開き、PDAを指差す。
 ……確かに、参加者の存在を現す光点が、前方に1つある。
 今の探知機の走査範囲は……約50メートルほど。
 光点は……少し離れた位置にある。実際の距離にすれば、30メートル程度。

「他の道を通ってるんだ」
「今も動いてる。このまま進んでいくと、僕らに遭遇しますよ」
(……一応私の後ろへ……)
「いや、予想以上に早いです! もうすぐそこに――――」

358 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:05 ID:cKg5QjWc0





「……あ、照英さんじゃないですか。奇遇ですねぇ」





 出て来たのは――――禁断の味に、魅せられてしまった男だった。










 数分程度、時は戻る。


「アシハモウダイタイイイカンジダロ……デモナァ……(足の怪我ももう随分と良くなったな……だが、まだ……)」

 素早く、存在を気取られないように。
 グンマーは、市街地を進む。
 ……1時間ほどの休養を挟んだ後に、グンマーはとりあえず東に向かっていた。
 負傷していた足の具合も、先程までに比べれば十分なほど回復していた。
 だが、それでも万全な状態からは程遠かった。
 現に、現在のグンマーの走行速度は、普段の半分も無い。

「トットトナオレッテノ……ジャネェト、マジデヤレナイダロ……」
(もう少し早く傷が治ってくれれば……でなければ、全力を出せない……)

 依然走り続けながら、グンマーは一人愚痴をこぼす。

「カンガエテミリャア、オレッテイママデダレモタオシテネェシ。イイトコマデイッタコトハアッタケドナ」
(考えてみれば、今まで誰も倒していないな。あと一歩の所まで行った事はあったが)

 そう呟いて、グンマーは今まで遭遇した相手を思い出す。

359 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:20 ID:cKg5QjWc0


 ――――最初に遭遇した2人組。
 ――――建物で不意打ちしてきた奴。
 ――――自身をとっ捕まえた集団。


 ……どれもこれも、本気でいけば、倒せたかもしれない相手たち。
 だが、そのチャンスを、ことごとく逃してしまった。

「モウチットマジメニヤレヨ、オレ……(もう少し、真剣にならないと……)」

 こんなことでは、とても村を守る戦士にはなれない。
 むしろ、このままでは守られる側になってもおかしくはない。

「……ヤッテヤル、ヤッテヤルゾォ!」









「あなたは……川越さん。まさか、あなたもここに連れてこられていたなんて……」
「ええ、散々ですよ」

 そう言って、川越さんはいつも浮かべている笑顔のまま、肩を竦める。
 ……目が、全く笑っていないように見えるのは僕の気のせいだろうか?
 恐る恐る、僕は川越さんに尋ねた。

「……お一人ですか?」
「ええ……何度か、人に出会ったのですが、同行はしてませんね。……僕の料理の素晴らしさを、
 理解してくれませんでしたから、する必要もないでしょう」

 心底残念そうに語る川越さん。
 ……どこかで、料理をしていたらしい。
 この状況では、確かに分かって貰えないかもしれない。
 ……嫌が応でも人を疑ってしまうような、ここでは……。

「その人達は、今どこに?」
「知りませんよ」

 ……言葉の後に、興味なんかない、と続いてもおかしくない口ぶり。
 僕の知る川越さんは、こんな人だっただろうか?
 それとも、この状況に長く置かれていたせいで、変わってしまったのだろうか……。

360 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:36 ID:cKg5QjWc0

「ねぇ、照英さん……この人、何か変じゃない……?」

 小声で、お姐さんが僕に訊いてくる。
 お姐さんも、僕と同じような事を感じていたようだ。
 ……今の川越さんは、どこかおかしいような気がする。
 コクリと小さく頷いて、お姐さんの意見に同調する。

「ところで、今は何を?」
「あぁ……今は、料理に使う食材を探していたんですよ」
「食材?」
「えぇ……とびきり美味しいものを、ね」

 ……僕は、ここであることに気がついた。
 さっきから、川越さんが僕の体をじろじろと観察している。
 一体、何のためにそんなことを?

「……なら、百貨店に向かえばいいんじゃないですか?」
「いえいえ、僕の求める味は、そんな所じゃあ手に入りませんよ」
「じゃあ、どこで……」

 僕がその言葉を言い終わるか終わらないか、その瞬間。
 ――――川越さんの目の色が、変わった。


「はあッ!」
「うわっ!?」


 シュッ、と風を切る音と共に……僕の着ていた服の胸元が、一文字に切り裂かれた。

「照英さんッ!」
『照英ッ!』

 T-72神とお姐さんの声が、ほぼ同時に聞こえてきた。
 その声など意にも介さない様子で、川越さんは僕に刃物を向ける。
 ……川越さんの握っていたものは、包丁だったようだ。
 こんな、料理人の命を武器に使うなんて!

361 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:55 ID:cKg5QjWc0

「……お姐さんは下がって! T-72神、お姐さんを中に入れてあげて下さい!」

 お姐さんは拳銃を持っているけれど、使い慣れないものを無理に使ったら、どうなるか分からない。
 それに……もし、戦うようなことになれば、僕が戦うと決めたんだ。
 だからこそ、とりあえずは安全だと思うT-72神の中に入るように言ったんだ。
 そうすれば、もし僕に何かあっても、お姐さん達は助かる。

(……分かりました)
「でも、照英さんはどうするの!?」
「……とにかく、川越さんをどうにかしないと! さあ、早く!!」

 横目でお姐さんが中に入るのを確認してから、僕は再び川越さんと相対する。
 ……川越さんが、どうしてこんな事をするのかは分からない。
 でも、このまま川越さんを放っておくのは、あまりにも危険すぎる!

「どうして、こんな事を!?」
「……ついさっき言ったばかりじゃないですか。僕は今、"食材"を探してるって」

 食材?それと、襲い掛かってきた事になんの関係があるのだろう。

「それとこれと、何の関係があるんです!」
「何度言わせるんですか? ――――食材探しです。調理するには、まず〆なきゃ駄目ですからね」
「……!! ま、さか」

 この川越さんの一言で、一体何を使用としているのかが、分かってしまった。
 ……まさか、まさか。




 川越さんは、人を、調理しようとしているのか?





「あの素晴らしい味、食感、舌触り……一度味わえば、やみつきですよ。あれ以上に美味しい物、存在しませんよ。
 僕の料理で殺し合いを止めるには、あの味が不可欠なんですよ。ですから……」

362 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:06 ID:cKg5QjWc0
「――――何を考えてるんですか、あなたは!!」

 ……気がつけば、僕の口から、怒号が飛び出していた。
 川越さんは……人として、越えてはならないラインを越えている。
 この状況でどうにかなったにしろ、そうじゃないにしろ……赦されることじゃない。
 しかも、川越さんの口ぶりから察するに、既に一度――――。

「……うぷっ……」


 不意に、酸っぱい物がこみあげてくる。
 その不快感に耐え切れず、僕はこみあげて来たものを地面へと吐き出した。


「うえ……っ」
「照英さんも随分と失礼ですね。人の話を聞いておいて吐くなんて……まあ、いいでしょう。それよりも、
 そろそろカタを付けないといけませんね。下準備の必要もありますから……」

 頭がクラクラする。
 川越さんの言っている事が、理解できない。
 ……いや、"理解したくない"と言った方が、正確かもしれない。
 とにかく、今の川越さんは、おかしい。こんな状況でさえ、いつもの笑顔を崩していない。
 だけど、目だけは違った。
 "狂気"と形容するのが正しいくらいに、ギラギラと……輝いている。

「さぁ、大人しくしてください。暴れられても――――困りますからねッ!!」
「くぅッ!!」

 キィン、と鉄同士がぶつかり合う音が辺りに響く。
 ……恐るべき速度で振るわれる包丁を、僕はただ金属バットで防ぐことしかできない。
 そんな僕の様子を嘲笑うかの様に、川越さんは攻撃を続ける。

「どうしたんです照英さん、その程度ですか?」

 じわじわと、僕の体に細かい切り傷が刻まれて行く。
 ……どうして、この期に及んで僕は、川越さんを攻撃できないんだろうか?
 川越さんを、傷つけてしまうのを、恐れているから?
 今現在、命を狙われているのに、どうして僕は……。
 僕は、守らなければならないんだ。
 自分を、お姐さんを、T-72神を……。
 その為に、僕がやらなければならない事は。
 川越さんを――――。

「……うおおぉぉぉぉッ!」

363 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:22 ID:cKg5QjWc0

 攻撃が少し緩んだ隙を突いて、僕は。
 手に持った金属バットを……川越さんの腕を目掛けて、思いっきり振った。
 当たった瞬間、まるで、時が止まったかのような感覚がした後に。




 言葉にしたくない感覚が、金属バットを通して、手に伝わってきた。




「――――ッッ!!」

 当たった部分を押さえ、地面をのたうち回る川越さん。
 ……攻撃の当たった右腕は、あらぬ方向に曲がっている。
 おそらく……骨が折れたか、砕けたかしているだろう。

「……今の内に、逃げましょう!!」
(分かりました!)

 とにかく、今は……逃げよう。
 無我夢中でT-72神に乗り込んで、僕達はここから逃げ出した……。









「うぐ、ぐぁ……腕、がぁ……」

 激しい眩暈で、立ち上がることもできない。
 今まで体験した事のない痛みが、川越の痛覚を休み無しに刺激する。
 その度に、気絶しそうになるのをグッと堪え、川越はなんとか意識を繋いでいた。
 ……そうしなければ、何があるか分からない。
 それは、川越も重々承知の上だった。
 だからこそ、立ち上がって安全な場所へ逃げなければならない。
 この状態では、とても"食材"を探しに行ける状況ではない。
 ――――川越が、常人であったなら。

364 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:37 ID:cKg5QjWc0

(この程度で……諦めて、なるものか……!)

 普通なら、当の昔に気絶していてもおかしくない。
 だが、川越は……"執念"で、意識を繋ぎ止めていた。
 全ては、自分の料理で殺し合いを止める為に。
 そのために人を殺めようとした、矛盾した意思のために。

「……ヤレヤレ、ノコッタノハイカレタヤツダケカヨ(……やれやれ、残ったのはおかしな奴だけか)」

 気がつけば、大柄の男――――グンマーが、川越の傍に来ていた。
 ついていない、と言った表情で、川越を見下ろしている。
 今の今まで乱入するタイミングを伺っていたのだが、丁度行動しようとした時に……。
 ……照英が、逃げ出したのだ。

「……今度は、ずいぶんと筋肉質ですねぇ……」
「ソノウエ、シニゾコナイトキテヤガル……マア、ラクショーダナ。ラッキー」
(その上、手負いと来ている……まあ、幸運と言う事にしておこう)

 川越へ、ゆっくりと銃口が向けられる。
 そんな状況でも、川越は動揺しない。
 むしろ、先程と同じ"目"に……。

「……ッ!!」
「ナッ……!」


 一瞬の出来事だった。
 突然起き上がった川越は、迷う事なく……。
 ――――グンマーの指に、齧りついた。
 眼をギラギラと輝かせながら、グンマーの指を――――。

365 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:51 ID:cKg5QjWc0





「ア゙アァァッ!?(ぐあァァッ!?)」
「少々硬いですが、まあ、下ごしらえすればなんとかなるでしょう」





 ……ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
 わざと、咀嚼音を立てながら、川越はグンマーの指を咀嚼する。


「……だが、他の肉には無い旨味がある! これはぜひとも――――」
「シニ、ヤガレェェェェェェェッ!!」

366 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:08 ID:cKg5QjWc0















 川越の台詞は、銃声によって遮られた。












【川越達也@ニュー速VIP 死亡】










367 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:27 ID:cKg5QjWc0





(今、銃声がしました)
「……どっちからしましたか?」
(先程まで、私達がいた方向です)

 そうですか、とそっけない返事を返して、またうつむく照英。

「照英さん……」
「……僕は……」

 あの状況ではやむを得なかった。
 自分を、同行者を守るためにはしかたなかった。
 例えそうだったとしても、照英が川越を負傷させたのは事実……。



(僕のやっていることは……正しいのだろうか……)



 襲われたから、応戦した。当然のことだ。
 だが、それでも。
 人を直接傷つけると言う事は、想像以上に恐ろしい事だ。
 ましてや、今までそんな経験のなかった人間が急に経験すれば、ショックも大きい。

(……分からない……何も)




 心にかかる影は、さらに濃くなっていく。




【D-3/1日目・午前】
【801の姐さん@801】
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:グロック17(16/17)
[道具]:基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ドクオのPDA(参加者位置探知機能搭載)、出刃包丁@現実
     アイスピック@現実、うまい棒@現実、不明支給品×2(801の姐さん視点で役に立ちそうに無い物)
[思考・状況]
基本:生き残って同人誌を描く
1:……
2:照英さん……この気持ちは一体なんだろう? まさか恋?

【照英@ニュー速VIP】
[状態]:健康、使命感、悲しみ、上半身に複数の切り傷
[装備]:金属バット@現実
[道具]:基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、首輪×2、麻雀牌@現実、出刃包丁@現実
     冷蔵庫とスク水@ニュー速VIP、サーフボード@寺生まれのTさん、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:殺し合う気は無い。皆で生きて帰る
1:自分のやっている事は、正しいのだろうか……
2:801の姐さんとT-72神を仲直りさせないと……
3:いざ闘うとなると、やっていける自信がない……けど、やるしかない

【T-72神@軍事】
[状態]:装甲の一部にヘコミ、燃料消費(残り約85%)、カリスマ全開、悲しみ
[装備]:125ミリ2A46M滑空砲(0/45)、12.7ミリNSVT重機関銃(0/50)
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、煙幕弾@現実×3、親のダイヤの結婚指輪のネックレス@ネトゲ実況
[思考・状況]
基本:人民の敵たるひろゆきを粛清し、殺し合いを粉砕する
1:手に入れた首輪を解析しましょう
2:私は、保護対象を守れなかった……
3:弾が欲しい……
※制限により、主砲の威力と装甲の防御力が通常のT-72と同レベルにまで下がっています。
※制限により、砲弾及び銃弾は没収されました。

※ドクオのデイパックは801の姐さんが、麦茶ばあちゃんのデイパックは照英がそれぞれ回収しました
※スーパーの鮮魚コーナー作業所から出刃包丁を2本回収しました 801の姐さんと照英が1本ずつ持っています
※801の姐さんの恋心は現時点では一方的なものです

368 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:40 ID:cKg5QjWc0









「ハァ、ハァ……クソッタレガ(はぁ、はぁ……何てことだ)」

 血の滴る手を押さえ、苦悶の表情を浮かべるグンマー。
 ……噛み千切られた部分は、衣服の一部を裂いて応急処置がなされている。
 だが、それでも出血はジワジワと続いている。

「アンニャロー、ヨケイナコトシヤガッテ……(あの男、余計な事をしてくれた……)」

 肩で息をしながら、グンマーは近くの壁に寄り掛かる。
 ……例えグンマーと言えど、痛みは感じるのだ。

「アシガヨクナッタカトオモエバ、コンドハ、テカヨォ……カンベンシテクレヨ……」
(足が回復したかと思いきや、今度は手、か……これ以上は勘弁してほしいな……)

 フラフラと、グンマーはまた歩き出す。
 ……左手の傷の、まともな手当てが出来る場所を求めて。



【D-3/一日目・午前】
【グンマー@まちBBS】
[状態]:健康、首筋に血を吸われた痕、足負傷(中程度・回復中)、左手指欠損(応急処置済み)
[装備]:熱光学迷彩服(所々破れている)@攻殻機動隊、サイガ12(7/8)@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=01】)、洗顔クリーム、予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝して、村を守る戦士になる
1:指のまともな治療が出来る場所を探す
2:頃合いを見て、戦場に赴く
※チハが喋ることを半信半疑に思っています
※やる夫を自分と同様に成人の儀を受けているグンマー出身者だと思っています

369 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:30:14 ID:cKg5QjWc0
仮投下終了です
指摘すべき点やおかしな点があれば指摘お願いいたします

370ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/12/03(火) 00:09:00 ID:jZrNmRIo0
仮投下お疲れ様です!
今回はちょっと指摘点なんですけども

>「……ヤッテヤル、ヤッテヤルゾォ!」
この部分にも翻訳文があったほうがいいと思います。
あと、照英の嘔吐する部分ですが、吐くにしては要因がちょっと弱いかなぁと。
その他は特に問題無いと思います。

371 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/05(木) 23:13:25 ID:GLSMoPTs0
指摘点を修正して、本スレに投下いたしました。
指摘ありがとうございました。

372ちょww和田がNANASHIに!?ww:2014/10/07(火) 23:33:35 ID:fZ/JrTGM0
はじめまして。
髪の子ファヌソ、ブロンドさんを投下します。
タイトルは「大神と3匹の子羊」です。

373◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:34:29 ID:fZ/JrTGM0
「これはまずいことになりましね…」
深刻な表情を浮かべそう言うファヌソは焦っていた。
さきほどの青年が、お医者さんカバンを使用してくれたおかげで一命は取り留めた。
しかしファヌソは自身の体の異変を感じていた。
神通力で自身をスキャンして細部まで確認した結果、ファヌソは詳細を理解した。
外傷は癒えたが全身から神通力そのものが失われていっている。
急激にではないが、常温に置かれた氷の塊がじわじわと溶け出すように、少しずつ神通力は失われていった。
おそらく竹安の装備が大きく破損するか消滅するような事態が起きたのではないかとファヌソが推理する。
それが原因で神通力そのものの根底の部分に致命的な損傷を受けた。
そして、このまま放置すれば自分は消滅する。
神族である彼にとって、神通力の源泉は魂そのものであり、それが傷付くことは生命に関わる緊急事態だった。
この状況を打開する方法が一つだけあった。
神通力ではなく、肉と血の力で生命を維持する存在になる。
つまり神格を捨てて生身の人間になることだった。

ファヌソは手強いローグ型ダンジョンRPGをプレイしているときのように頭をフル回転させて考えを巡らせていた。あまり時間はない。
今のうちに何かできることはないのだろうかと。
どうせ消えてしまう神通力だ。これを使って今後の展開を有利にするには…
「名案が浮かびました!同僚の神々の力を借りればよいではありませんか!」
そもそも自分が力を思うように使えないのは、この忌々しい首輪のせいだ。
ならば外部に助けを求めて彼らの力を借りれば良いだけの話だった。
本来であれば相手の都合などお構いなしに強制召喚して参戦させてやりたいのだが、神を召喚するには神通力がまったくと言って良いほど足りない。
そこで手紙を送ることにした。向こうからこちらに来る分には自分の神通力が不足していてもまったく問題はなかった。
神通力を使えば手紙の10通や20通、次元の壁を超えてでも発送可能だった。
さっそく手紙を送る。
返事はすぐに帰ってきた。
他の神々曰く。

元祖神「新作ゲームプレイ中。だめだめ( `・ω・´)ノシ」

紙様「事務用品A4普通紙の生産が急ピッチ。行けそうにない。ごめん」

武田徹夜神「101回目のプロポーズ リメイク版の主演俳優になった。忙しいから無理」

をーでぃん「斬鉄剣とグングニル修理中。また今度」

「…はぁ」
ファヌソはため息をつきながら返信されてきた誠意のかけらもない手紙をまとめてビリビリと破り捨てた。
「自宅のゲーム機が全部煙を吐きながら爆発してしまいなさい」
憎しみを込めてファヌソが他の神々を呪った。

374◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:35:43 ID:fZ/JrTGM0
他に頼れる者がいないか、ファヌソが思案する。
「仕方ない子羊で我慢しますか」
ファヌソは神通力で召喚の印を結び、魔法陣を空中に描く。
すると空間に亀裂が入りそこから子羊たちが1匹、2匹、3匹と召喚される。
眠いときに眺めて数えたりしたら、そのまま眠ってしまいそうな光景だった。
「ん?ここはどこ?さっきまで自宅でテレビゲームをしていたのに」
「僕、徹夜でレベル上げしてて、ちょうど寝てたのに…誰こんな朝早くから?」
「来ましたね、子羊たちよ」
ファヌソが声をかけると、彼の存在に気が付いた3匹の子羊たちがファヌソに挨拶をする。
「あ、髪様!お疲れ様です!」
「あの〜僕たち今日は何で羊の姿なのでしょうか〜?」
「神通力節約のためです」
「はあ」
ファヌソが神通力をケチって負荷の少ない方法で子羊を召喚したため、彼らは本当に雲のような羊毛に覆われた羊の姿だった。
だが人間だった頃の名残りが、全員二足歩行をしている。
彼らはファヌソが在中しているスレで、懺悔する側の子羊たちだった。
子羊たちが懺悔し神々が裁くというのが、懺悔するスレの基本的な流れだ。
「では早速懺悔しますね。ええと海外の暴力ゲームで…」
「いえ、今日は懺悔と裁きはお休みです。実は、今私は面倒なことに巻き込まれていましてね。そこで貴方たちの助力を得るために貴方たちを召喚したわけです」
「面倒なことって何ですか?」
「実はかくかくしかじかの事情で…」
ファヌソはかいつまんで、殺し合いに巻き込まれてしまい戦力増強のため子羊たちを召喚したことを彼らに簡単に説明した。
「そんなことになっていたのですか。ひろゆきって野郎、許せませんね」
「ひろゆきに髪様の裁きを下しましょう」
「それがいいと思います。殺っちゃいましょう、髪様」
「話が早くて助かります。私もそうしようと考えていたのですよ」
そしてファヌソは召喚した子羊に命令を行う。
「では、ひろゆきを地獄へ落とすために私に貴方たちの力を貸しなさい。いいですね?」
ファヌソがそう言うと、子羊たちは足をそろえビシッ!と敬礼し次々に返事を返す。
「わかりました!僕たち全身全霊、粉骨砕身の覚悟で髪様を支援いたします!」
「僕たち、いつも髪様にお世話になっている身です。今度は僕たちが髪様をお助けしてみせます!」
「僕たちを髪様の目標達成のための尖兵として使役してください!」
実はファヌソは見た目弱そうな彼らを見て内心あまり当てにはできないだろうと感じていたが、なけなしの神通力を消耗してまで召喚した子羊をタダで返すのも惜しいという思惑と、それにこれから危険な戦いが待っている、多少弱くても仲間は不可欠だと考えた。
言葉には出さないが、そういった打算もあった。
「よしよし、良い心がけです。頼りにしていますよ」
「「「はっ!おまかせください!」」」
3匹の子羊の声がはもる。
いつも面倒を見てあげた子羊たちが、ファヌソの援助要請を快く受け入れる。
まさに子羊の恩返しだ。
私の人望(神望?)をもってすればこんなものである、私の人徳(神徳?)による彼らとの絆はとても深いのだとファヌソは内心自己陶酔していた。

375◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:36:09 ID:fZ/JrTGM0
「さて、とりあえず仲間の頭数はそろいましたか…次に準備するのは…」
ファヌソの計画は神通力を失う前に、可能なかぎり次の戦いの準備をすることだった。
ゲーマーとしての経験がファヌソに告げる。今のうちに仲間、装備、消耗品をなるべく充実させておくべきだと。
どうせあと数十分で失ってしまう神通力だ。今ここで惜しまずにガンガン使ってしまうべきだと。
「武器や防具に始まり、薬草、毒消し草、聖水、あとMP回復アイテムと状態異常回復アイテムも…」
綿密な計画を立てるファヌソに対し子羊たちは呑気に雑談を始める。
「そうは言ったものの、僕たちって何をすればいいんだろう?」
「何もしなくても大丈夫なんじゃね?髪様の後ろに黙ってついて行くだけで良いよね?」
「そうそう、だって髪様がジゴスパークやアルテマ、メテオ連打して、無双すれば全部問題解決じゃん」
「もしくは核ミサイルを1ダースくらい召喚して黒幕ごと消し炭にして一掃っていうのもありだよね?」
「じゃあ次の回で最終回だよね?僕たちすぐお家に帰れるよね?」
小声のヒソヒソ話ではあったが、神の聴力を持つファヌソには丸聞こえだった。
普通の人間には聞き取れないような小さな音でも聞き逃すことはない。
「ああ、そうそう。いま私はそういった大掛かりな力は使うことができないので、期待しないでくださいね」
「え?どういうことですか?」
理不尽な殺し合いに巻き込まれたことは話したが、自分の能力の事を話し忘れたファヌソは子羊に大まかに説明することにする。
「この首輪のせいで不本意ながらフルパワーで力を使えません。しかも神通力の使い方を間違えて、神格を捨てて、さらに力をセーブする必要があるのです。これから先は強さ的には普通の人間と大して変わらなくなってしまいます。まったく参りましたよ」
「じゃあ、髪様って相当弱体化しているのですか?」
「残念ですがそうなりますね。ですから生き残るには貴方たちの力を借りなければなりません。頼みますよ」
その言葉を聞いた子羊達は互いにアイコンタクトを交わして、最後にコクリと頷くとファヌソに向かってニコリとほほ笑んで言葉を放つ。
「ざ…」
「ザ?」
”ザ”から始まる言葉でゲーム脳のファヌソの頭に真っ先に浮かんだのはジオン軍の最下級モビルスーツだったりしていた。
だが子羊らから帰った答えは
「「「ざまあああああああっ!」」」
「!」
ざまあみろと言う意味の言葉である。
もちろん誠意もクソもあったものではない。


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