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仮投下スレ

1 ◆ME3hstri..:2009/04/05(日) 21:43:33 ID:5UembPjM0
何らかの事情で本スレ投下が出来なかったり、本スレ投下の前に作品を仮投下するためのスレです。

2 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:23:45 ID:QeyRIrMg0
さるうざいよ。 さる。
というわけで続きはこちらで。

3 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:23:58 ID:QeyRIrMg0
「油断した…。」

サンジはデイパックを持つと、旅館の出口へと向かった。
彼女はきっと外へと逃げているに違いないと思ったからだ。

「やはり殺し合いに乗っていなかったようだった。 しかし、あのままにしておくと、いつか溺れて死ぬかもしれない。 その前に俺が注意しなければ…! 」

旅館の戸を開け、外へと出ると、彼女はそこにいた。

ナギは運動神経がまったくよくなく、50m走っただけでも疲れる人であった。
そんな彼女がここまで走ってこれたのはまさに奇跡であった。
だが、やはり疲れきっていたようだった。

「大丈夫かよ?」
サンジが彼女に話す。

「もう来たのか!」
ナギは最後の力を振り絞り、逃げようとする。
だが、サンジが彼女の手を押さえる。

「触るな・・・! 今すぐ私を逃がしてくれ!」
「だから俺は殺し合いに乗ってないし…」
「嘘をつけ!」
「本当だ。」

ナギが彼を見ると、彼は真剣な表情で見ていた。
それを見る限り、決して悪そうな人ではなさそうだった。

「守ってくれるんだな?」

4 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:24:22 ID:QeyRIrMg0
「…え?」
「私を守ってくれるんだな?」
「ああ。 どんな怪物がきても守ってやるよ。」
「それなら…一緒に行動してもいいぞ。」

誤解が解けて、新たなペアが結成された瞬間であった。

【G-8/旅館付近/1日目 深夜】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ノートパソコン@現実
[思考・備考]
1:ハヤテ達を探す。
2:しょうがないので目の前の人と行動することにする。

【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・備考]
1:ナミなどの仲間を探し、守る。
2:目の前の人と行動する。
3;どうしてスケスケの実があったんだ…?

【スケスケの実@ONE PIECE】
自分の体、およびその体に触れた物を透明にする。
なお、触れたものだけなど一部だけを透明にする事も可能。
ただし、透明になる時間は限られている。
原作ではアブサロムがその能力者。

【ノートパソコン@現実】
バトロワではお馴染みのアイテム。
中には参加者のデータとかが入っているかも…?

5 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:27:15 ID:QeyRIrMg0
不安はありまくりですが、一応投下終了です!
半角なのに、全角で打ってたのでああいう鳥になってしまったんですね。

タイトルは「ハヤテ…改め ナギのごとく!」です。

6 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:42:26 ID:z9PHLzQY0
規制されましたので、こちらで続き投下いたします

7 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:43:04 ID:z9PHLzQY0
(……キリコも、必要な道具は確実に奪われている。
だとすれば、何処か医療設備のある施設かで出会える可能性は高いな……)

キリコも恐らくは、治療と安楽死に必要な道具を調達に走るだろう。
ならばこのまま病院を目指していれば、そこで出会える可能性がある。
彼に安楽死をさせるわけにはいかない。
ブラック・ジャックは、この事をガッツへ告げようとして振り向く……しかし。

「……ガッツ……?」

ガッツの様子がおかしい。
彼は目を大きく見開き、驚愕の表情で名簿を覗き込んでいる。
それは、キリコの名を見たブラック・ジャックよりも更に酷い反応であった。
余程の人物が名簿に載っていない限り、起こりえない反応。


――――――そう、余程の人物が載っていたのだ。


「……おい……どういうことだよ、こいつは……ッ!!」

やがてその表情は、憤怒が入り混じったものへと変質する。

―――彼にとって、誰よりも憎むべき名がそこにはあった。

―――彼にとって、誰よりも倒すべき名がそこにはあった。

―――彼にとって、全ての発端と言える人物の名がそこにはあった。

8二人の黒い疵男 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:43:31 ID:z9PHLzQY0
「何でテメェがいやがんだ……グリフィスッッッッッッ!!!!」


――――――ガッツの最大の宿敵、グリフィスの名がそこにはあった。


【B-5/競技場内/深夜】
【ガッツ@ベルセルク】
 [状態]:健康
 [装備]:キリバチ@ワンピース
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
 [思考]
 基本:殺し合いの主催者を叩き潰し、仲間の下へ帰る
  1:グリフィス……!?
  2:ブラック・ジャックと共に病院を目指す
 [備考]
  ※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
  ※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。

【キリバチ@ワンピース】
魚人海賊団の団長アーロンが扱っていた、巨大なノコギリ刀。
その全長はアーロンの身の丈程ある(恐らくは2メートル程度)。


【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック】
 [状態]:健康
 [装備]:ヒューズの投げナイフ(10/10)@鋼の錬金術師
 [道具]:基本支給品一式
 [思考]
 基本:主催者を止め、会場から脱出する。
  1:ガッツの驚き様に戸惑っている
  2:ガッツと共に病院を目指し、医療器具を入手する。
  3:キリコと合流し、彼が安楽死をせぬ様に見張る。  
 [備考]
  ※コートに仕込んでいるメス等の手術道具は、全て没収されています。

【ヒューズの投げナイフ@鋼の錬金術師】
マース・ヒューズ中佐が愛用していた投げナイフ。
掌に収まるほどの小さなサイズだが、刃には十分な鋭さがある。

9二人の黒い疵男 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:45:08 ID:z9PHLzQY0
以上、投下終了です。
ガッツの性格が丸く感じられるかもしれませんが、イシドロ達と出会った後ということで、この様になりました。

10目指す者、守る者、殺す者 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:22:05 ID:wlBo6G0M0
「(つまり……超常現象というわけか)」
ゴルゴ13は片手に持った、握りこぶしより小さめの石を見つめた。
血のように赤い、宝石とも異なる鉱物……鉱物かすら怪しいソレは。
「賢者の石……」

大エリクシル、第五実体、哲学者の石。多くの呼び名と形状を持つ等価交換の原則を無視する奇跡の結晶。
ウィンリィの話に出た、賢者の石そのものだった。
「(可能性はある、か)」
ウィンリィの話をすべて鵜呑みにはしていない。
だが、ゴルゴ13とて、地球上の全てを知るわけではない。

実際ルフィは人間ではありえないゴムの体を持っていた。
そして、超能力者、自我を持つプログラムなど、常識外の存在と対峙したこともある。
もちろん、中にタネのある呪術師などもいたので、錬金術師なるものがどちらに当てはまるのかはわからない。
実際に会い、真偽を確かめることは無駄ではないと彼は判断を下した。
この首輪を外せる可能性を一つでも多くするために、ゴルゴ13は行動を開始する。

だがしかし、なぜゴルゴ13はゲームに乗らなかったのか。
ゴルゴ13は、超A級のスナイパーである。
彼に消された命は数知れないが、その多くが依頼によるものだった。
ゲーム感覚で人の命を奪うことはしない。
もちろん、彼を狙った瞬間にそのルールは対象外となるのだが。
そして何より、自身の命を見世物感覚で奪おうとする輩を、ゴルゴ13は許さない。

「(この見世物の目的が何であれ……あいつは俺の心に火を灯した。
久しぶりに……俺の全てをかけるとしよう……この見世物に対する報復に……)」
先ほど貰ったジャスタウェイを一つ、宙に放る。
地面にジャスタウェイが落ちた瞬間、光、爆音、土煙が起こる。

11目指す者、守る者、殺す者 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:22:46 ID:wlBo6G0M0
「威力は上々……だが扱いには危険が伴う、か」
火薬の匂いから、それが爆弾だと理解したゴルゴ13。
メスとジャスタウェイは、武器を支給されなかったゴルゴ13にとって大いに助けとなる。

いつもの癖で背後の相手に殴りかかってしまったが、無駄な敵を作らずに済んだのは僥倖だった。
「(あのコートは、重量から防弾繊維が使われていたようだが……動きの邪魔となる)」
爆弾の性能を把握したゴルゴ13は、他者が爆発音に近寄ってくる前にその場を離れる。

地球上最強の狙撃手、ゴルゴ13。
だが、彼の想像を超える怪物が多く存在するこの殺し合い。
彼は、報復の対象……ムルムルと再び合間見えることができるのだろうか。


【D-9/協会付近/1日目 深夜】
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[装備]:ブラックジャックのメス(10/20)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、不明支給品0~1(武器ではない)
[思考・備考]
1:ムルムルに報復する。
2:首輪を外すため、錬金術師に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。

※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※奇妙な能力を持つ人間について実在すると認識しました。


【賢者の石@鋼の錬金術師】
様々な呼び名を持つ錬金術法増幅器。
錬成陣無し及びノーモーションで、「等価交換」の法則を無視した練成が可能となる。
莫大な人間の魂を材料としており、この石も大きさからかなりの人数を使用している。
それでも不完全な賢者の石であり、大規模練成の連続使用で壊れる可能性がある。
制限があるため、首輪を外すことができるかは不明。

【ジャスタウェイ@銀魂】
円柱に2本の棒の手、上部の半球型の突起物に目・口が描かれただけというシンプルな外見。
その実体は接触式の高性能爆弾。
ジャスタウェイの組み立てに関して銀時は高い技能を持っている。

12 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:23:42 ID:wlBo6G0M0
投下終了です。
残念ながら規制を食らってしまいました。
どなたか代理投下お願いします。

13Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:14:13 ID:RW1ozSEI0
やるのか?

脳内でそう反芻する。できるのか?
見た目こそ普通の人間だが、彼はどちらかと言えば今までの自分とは異なる世界に生きてきた人間だ。
殺し屋より―――具体的に名を出すなら、あの『蝉』よりの人間と言っていい。
しかし。
―――もう俺だって、足を突っ込んだんだ。
既に、潤也の心にためらいは、なかった。
日常を捨て、危険に足を踏み入れる覚悟は、人を殺す覚悟は、既に、した。
本当なら、蝉も自分が殺しているはずだったんだから。

「……なあ、聞きたいことがあるんだ」
少年の頭に向けて、銃口を突きつけながら。
「……まったく最近のガキはしつけがなってなくて困るぜい、人に質問するときはまず名乗ってからってお袋さんに教わらなかったのかい?」
少年は、全く動揺する気配を見せない。
むしろどこか哀れむように、潤也の顔を見て苦笑う。
むっときたが、ここで感情的になるべきではないと考える。
こいつが兄の情報を持っているかもしれない、まだ、まだ殺すべきではない。
「……安藤潤也だ」
「ふうん……立派な名前をお持ちのこって。せっかくだし、俺も名乗っておきますかねい」
少年はやはりペースを崩さず、にやりと笑って口を開く。
それは、潤也にとってわずかに聞き覚えのある名前だった。
「俺は土方十四郎」
土方、歴史にそんな名字の人物が存在していた気がする。
しかし、さほど成績がいい訳ではない潤也には、『聞いたことがある』程度に過ぎない。
更に言うなら、あまつさえ潤也がその歴史的に聞いたことのある人物の名字を聞いて、彼を江戸時代の人間だ、などと判断できるはずもない。
よって、珍しい名字だな、程度の思考でそれは終わった。
「……土方さん、でいいか?……名乗ったしいいだろ。一つ質問させてくれ」
もう面倒なことは早く終わらせたい、と言わんばかりにグリップを握り直す潤也。
少年もそれを見ていたが、やはり、微動だにしない。
やはり彼も、蝉と同類、殺しに慣れた人間に違いないと潤也は確信した。
「……言ってみろい」
拒まれるかとも思ったが、意外にも男はあっさりと質問を承諾してくれた。
もし拒まれたら恒例のじゃんけん勝負にでも持ち込もうと思っていたのでやや拍子抜けしたが、許可が出たならありがたい。
おとなしくその権利を使わせて貰おう。
「……お前は、俺の兄貴について知ってるか?どんなことでもいい、何か知っていたら教えて欲しい」
緊張が高まる。
自然と、心音が高まるのを感じた。
もし、彼が兄のことを知っていたら。
いやそれどころか―――この少年が兄を殺した人物だったら?
そううまくは行かないだろうと分かってはいるが、それでも期待せずにはいられない性。
そして、少年の口から言葉が紡がれる。
「……何か知っていたら、どうするんでい?」
立て板に水を流したが如き、さらりとした回答だった。
「―――っ、し、知っているのか!?それなら教えてくれ!どうして兄貴は死んだ!?お前は兄貴と知り合いなのか!?それとも―――」
思わず声が高くなる。落ち着けと何度も言われていたが、冷静でいられるはずもない。
それが簡単な挑発だということにも潤也に気づかせない。
「おっと、質問に答えろよ。俺は『どうするんだ』、そう聞いたんだ」
土方は潤也を横目で見て嘲笑い(にしか潤也には見えなかった)、再び問いかける。
「どうする……?」
首をかしげる潤也に、土方は意地悪く笑う。

14Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:15:01 ID:RW1ozSEI0
「日本語が分からないとは言わせねえ。つまり、―――俺を殺す気なのかどうか、ってことだ」
土方の性格の悪そうな口角をつり上げての笑みに、潤也は黙る。
「……」
土方は潤也の顔を探るように見、そしてため息をついた。
「……言えねえってことは、殺すつもりがあるってことかい?悪いが、そんなに見え見えな態度じゃ人殺しなんてでき―――」

刹那。
沖田の頬を、銃弾がかすめた。
「……」
もちろんそれは、潤也の撃ったもの。
「……あんたは……」
「ああ、そうだ」
自分の『覚悟』を見せつける。
それが、潤也の選んだ方法だった。
今ので相手が死ぬなんて思っていなかった。外すつもり、威嚇のつもりだった。
自分が舐められている、というのは薄々感じ取っていたからこその行動。
本気で自分が彼を殺すこともある、そう示すためにやったことだ。
『まだ』死んでもらっては困る。少なくとも、兄のことを聞き出すまでは。
しかしまだ銃など数回しか使っていないため、手元がぶれて沖田の頬をかすめてしまったのだ。
しかし、潤也はそれにも動じず、口を開く。
どこか穏やかな気持ちになって、自然と口元が緩んだ。
「……答えによっては、死んで貰うさ」
目の前の土方の表情が、変わる。
その顔は、発砲した潤也に対する怯え―――などは全くなく、獰猛な獣を思わせるものだった。
舌舐めずりでもしそうな調子で、土方は潤也の言葉に一言、返す。
「……へえ、やってみろよ。ただし、やるからには、覚悟が、理由があるんだろうなあ?」

「ああ―――俺は兄貴を殺した仇を取りたい。だから、何か情報を持っていたら教えてくれ。……お願いだ、頼む!」
今度は、先ほどより冷静に頭を下げることができた。
土方の腹だたしい態度が原因に違いない。なんとも皮肉な話だが、潤也に気に留めている余裕などない。
―――本当に、こいつが兄貴のことを知っているなら―――
一縷の望みをかけて、土方の顔をちらりと見る。
土方は、つまらなさそうな顔をしていた。
そして、潤也の視線と土方の視線が交差し、そして―――
「兄?馬鹿じゃねえの?たかが兄貴のために人を殺すなんざ―――馬鹿のすることだぜい」
土方は、言葉を吐きだした。
何の躊躇いもなく、さも当たり前のように。
今の潤也に対する、最高且つ最悪な侮辱の言葉を。

「……たかが、だって!?」
だから、潤也が、その言葉に反射的に反応してしまっても無理はないのかもしれない。
いくら多少『平凡』とは外れているとはいえ、彼のスペックは平均的な高校生男子以外の何者でもないのだから。
挑発されれば頭に血が上っても、彼を責めることはできないのだ。
「ああ、そうだ。くだらねえ、何でたかが血繋がってるだけでムキになってんでい。
死んだんだかなんだか知らないが、死んだらそこまでだ。それ以上何もねえよ。運がなかっただけだ、諦めな」
土方の言葉に、潤也はふつふつと怒りがわき上がるのを感じた。
土方は、確実に潤也の中の何かの熱を上げていく。

15Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:16:23 ID:RW1ozSEI0
たかが、だって?運がなかった、だって?
自分はずっと、ずっと兄と共に暮らしてきた。他に家族なんておらず、家のことは兄に頼りっきりだった。
兄が大変なことに首を突っ込んでいる気はうすうすとしていた。なのに。
自分は最後まで、兄貴が死ぬまで、それに気づいてやれなかった。
結果として兄は理由も分からないまま、無惨な姿で死体として帰ってきた。
もちろん、大切な人は他にもいる。学校に行けば沢山の友人がいるし、可愛くて少し抜けているけど心優しい彼女もいる。
しかし、家族は兄一人しかいないのだ。
潤也にとって安藤は―――唯一の大切な家族だった、のに。
それを否定するこの少年に、冷静に反論できるほど、潤也は大人ではなかった。
「……れ」
「あんた何でい?ブラコンかい?兄貴がいないと生きられないのかい?……気持ちわりい」
瞬間。
「……黙れっ!」
潤也はついに、激昂した。
他人に、自分と兄のことが分かるはずがない。
優しくて、優しすぎて、自分を危険に巻き込むまいとし続けて死んでしまった兄のことなど。
だから自分は、兄の敵を討ちたい。そして、兄の無念を晴らしたい。
「お前に何が分かる!俺が……兄貴は、兄貴はっ!」

だから潤也は、気づかない。
潤也が怒りで視界から土方しか見えなくなったその瞬間、彼の姿が視界から消失した事実に。
「……っ!?」
「遅えんだよ」
しゅん、と風を切る音。
同時にみしり、という嫌な不協和音がはっきりと潤也の耳に届いた。
「……ぐうっ!?」
続いて襲う痛み。しかし潤也は未だ自分の状況が把握できていない。
どういうことだ。何が起こった?
しびれるような痛みが右手首から走る。
「子どもが武器持ち歩くんじゃねえよ。仕方ない、責任もって俺が預かっておくとしやしょう」
そして、ようやく認識した光景は。
土方が、木刀を握ったまま自らの武器である銃をその手に握り、くるくると楽しそうに回し弄んでいる様子だった。
「ふ、ふざけ、っ!?」
潤也は理解した。
先ほどの鈍い痛みは、木刀が潤也の銃を握る右手首に直撃したからのものなのだと。
がむしゃらに打ってきたわけではなく、それが銃を弾き飛ばしたのだと。
危険を感じるより早く、怒りと本能が潤也を突き動かす。
気づいた潤也はすぐさま土方から銃を取り返そうと動く、が全てが遅すぎた。
「やっぱり、遅え」
そして―――
「っ!?」
普通の高校生と、常日頃から修羅場を潜る荒くれもの集団の隊長。
どちらの動きがより早いかは、一目瞭然で。
土方が、潤也の目の前にいつの間にか現れ―――
「ガキは、大人しくおねんねしてな」
潤也の腹に、木刀の柄が高速で突っ込んできた。

そして、潤也の意識は―――闇に消えた。

16Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:17:14 ID:RW1ozSEI0


「……っ、う……」
視界が、ぼやける。
どうやら意識を失ってしまっていたらしい。
……情けない。こんなことでいいのか。
俺は、兄貴の仇を討たなきゃいけないのに。
こんなんじゃ、駄目じゃないか―――
「気が付いたかい。……ちっ、とどめさしてやろうと思ったのに」
土方の聞き捨てならない言葉に、潤也はむっとして顔をわずかに持ち上げる。
そこには、腹立たしいくらい爽やかな土方の笑顔があった。
「……てめえっ……!」
気に入らない。
自分の兄との関係を、今までの絆を、死を否定したこの土方という少年を許したくない。潤也はその顔を一発殴ってやろうと、体を起こすため右手に力を込め―――

「……っがあああああ!?」
叫んだ。
理由は、実に単純明快。
起き上がろうと力を入れた右の手から、激痛が走ったからである。
「…………な、っ……な……」
嫌な予感がした。瞳に涙さえ滲む。高校生にもなってかっこ悪い、と自嘲している余裕もない。
この痛みは何なのだ。潤也は、そっと右手を持ち上げ首を傾ける。
『じゃらり』、と金属音がその後を付いてきた。
なんだこれは、と口にするまでもなく、潤也はすぐにそれを『触って』理解した。
「な……なんじゃこりゃああ!?」
それは、平和な日本でごく普通の学校生活を送ってきた潤也にとって、にわかに信じられない事態だった。
自分の首には、確か銀色の首輪が初めからはまっていたはずだ。
しかし、今は―――その上に、何か別の金属が重ねられている!
もしかしたら、一つ目よりずっと頑丈そうな代物が。
首輪、だ。二つ目の。
しかも―――
「……俺はこう見えても警察のはしくれでねい、悪人はしょっぴく権利があるんでい、悪く思うなよガキ」
今度の首輪は、一つ目とは一味違う。
首輪につながれた、長い鎖。
その先を握っているのは、目の前の憎たらしい笑顔を向ける土方だった。
鏡で見てこそいないが、すぐに分かった。
さながら今の自分の姿は―――飼い主に拘束された狂犬、と言ったところか。
何だ、この悪趣味な展開は。
友人が貸してくれたビデオにあったそういうプレイみたいじゃないか。相手が可愛い女の子でなく男で、しかも腹立たしい相手だなんて、罰ゲーム以外の何者でもないが。

「が、ガキガキ言うな!これはどういうことだ、説明し、」
「俺より年下ならガキに決まってんだろ。それにどういうことも何もねえよ。ただ、お前さんを捕獲させてもらった。それだけだ」
捕獲、だって?
まるで潤也のことを家畜のように言う土方に腹が立って仕方無い。そのへらへらした笑顔をぶん殴ってやりたい衝動に襲われる。
しかし、右手がいかれている以上、それもかなわない。銃まで取られてしまった。
持ちあげるだけで激しく悲鳴をあげる右手を下ろさざるを得ない。
間違いなく、骨が折れている。きっと気絶している間に腕を捻ったのだろう。
悪夢にうなされていたのはこういうことだったのか。
「……冗談じゃねえ!お前に何の権利があって―――」
ごきり、と地面に置いた右手を踏みつけられた。
「……っ、が……あ……」
「言っただろ?俺は警察なんだ。人殺ししようとしている奴を黙って見過ごすわけにはいかねえなあ。大人しくしときゃ命は勘弁してやらあ」
邪悪な笑顔を浮かべながらそういう姿は、どう考えても警察というよりチンピラにしか見えなかった。
嘘吐け、と内心毒吐きながらも、潤也は口をつぐむ。
首輪で身体を拘束され、利き腕をへし折られた今、自分に勝ち目はない。
「ほら、行くぜい、家畜」
ぐ、と首輪を引っ張られ、潤也は土方に見られないように舌打ちすることしかできなかった。

17Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:18:24 ID:RW1ozSEI0


(ったく、何で俺がこんなことしてるんでしょうねい、近藤さん……)
沖田は後ろでわめいている潤也を無視して、虚空に視線を向ける。
思い浮かべたのは、底抜けにお人好しでどうしようもなく愛すべき馬鹿である自らの長のこと。
どうやら、自分も近藤のすっかり汚い褌色に染まってしまったようだ。
殺せばいい。それは言われずとも分かっている。

これはきっとすぐに諦めるタマではない。武器は取り上げたとはいえ、油断していると殺されるかもしれない。
潤也は間違いなく、『やばい』。
どこがどうやばいのか、はうまく言葉にできないが、強いて言うなら野生の獣のような危険さだ。
土方や自分のような人種というより、こちらに笑顔で引き金を引いてきた際のあれは―――どちらかといえばテロリスト・高杉晋助のような香りさえ感じさせた。
決して頭が回るタイプではない。容易に挑発に乗り、感情を爆発させると周りが見えなくなる、典型的な子ども。
しかし、少年の態度は決してそれだけではない、何か闇のようなものを感じさせる。
いくら自分が多少油断していたとはいえ、自分の居場所を初めから特定していたかのような出会いといい。
躊躇うどころか笑顔さえ浮かべて、自分に銃を向け、撃ってきたことといい。
殺し合いに積極的なことも含めて、活かしておいても沖田に利は全くない。

それを分かっていながら、沖田は今のところこの少年を殺す気になれなかった。
もし、時期が違えば。
もし、これが姉を看取った直後でなければ、迷わなかったかもしれない。
とはいっても、既に鬼の真選組に所属して人斬りは何度もしている。タイミングさえあれば、殺人など造作もない。
しかし、今の沖田には、爪の先ほどに小さいものながら、普段とは違う感情が芽生えているのもまた事実だった。
もしかしたらそれは、感情を爆発させた少年の身の上に、何か感じるところがあったからかもしれない。
少年への挑発は、うまくいった。
それはほぼ当然で、何故ならそれは自分が言われても怒るであろうことを並べたからだった。
本当に兄弟思いの人間ならば―――その兄と、姉と自分の生きざまを否定されて、黙っていられるはずがない。
しかし、何故自分はあんなことを言ったのか?
考えても良い答えは出てこない。
たった間違いないのは、自分はすっかり近藤の思い通りらしいということだけだ。
ひりひりと、近藤に殴られた頬がまだ疼いた。

18Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:20:04 ID:RW1ozSEI0

(土方さんの名前を使わせてもらいやしたが、別に問題ないでしょう。あいつがそんな簡単に死ぬとは思えねえ)
沖田が自らの名前を偽り、土方の名を騙ったのには理由がある。
一つは、仮に自分が誰か(潤也のように)に恨まれた場合、土方も被害を被るように。
沖田が少しでも動き回りやすくするためだ。仲間なんだから苦労を分かち合うのは当然ですよねえ、が沖田の持論もとい主張である。かなり無理矢理な。
どうせ自分があれだけ殺しても死なない男だ、どれだけ悪評がついても死ぬまい。むしろ死なれては困る。殺すのは自分なのだから。
姉が愛した男が、自分以外の人間に殺されていいわけがない。
そして、もう一つの理由。
これは沖田が聞けば、間違いなく認めない理由だろうが。
沖田は、姉の願いを叶えると、姉の期待を裏切らないと約束した。
だからこそ彼は―――姉の愛した男の名前を使ったのだ。
屈辱的でも認識しなければいけない一つの事実――-姉を幸せにできるのはあの男だと。
だから、自分もあの男になりたいと思った。
姉を幸せにできる、立派な男に。
それは、沖田自身も全く気づくはずもないことなのだが。

何にせよ、一つ確かなことは。
(まあ、何はともかく、ここで一発で死ぬより、足掻いて抵抗する姿を見ている方が楽しいですからねい。まさか俺に私物が支給されるとは思いやせんでしたが……まあいいぜ、せいぜい足掻いてくれよ、潤也くうん?)
……沖田総悟は、自他共に認めるドSだということだけであった。

ここで、沖田が気づいていない事実が存在する。
後ろですっかりおとなしくなった少年が、不思議な能力を持ち合わせているということに。
それは刃を振るう力でも、炎を操る力でも、精霊を召還する力でもない故に、弱くて一見役立たずに思えるが―――
「10分の1を1にする」という、使い方次第ではあらゆる刃ともなる、狂気に満ちたものだということを。
それに気付かないことが、沖田にとって吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からない。

19Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:20:41 ID:RW1ozSEI0


(くそ、くそ、くそ……こんなとこで足止めなんてふざけるなよ!俺は……)
一方。
沖田に引きずり回される潤也は、心の中で恨み言を繰り返す。
骨をへし折られた右手首は激しく痛む。放っておいても強烈な痛みなのに、たまに沖田にわざと足をひっかけられると更に軋む。抵抗すると首輪――-余談だが、鎖付き首輪を付けられた後だと、はじめに付けられた爆弾入り首輪が可愛いものに思えてくるから不思議だ―――を引っ張られる。どうしろというのだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
―――油断した。
間違いなく、自分の失敗だ。
一番の間違いは、土方に対する態度を、蝉のときのそれと同じようにしてしまったこと。
蝉に銃を渡されたときは、蝉は逃げなかったし抵抗もしなかった。反撃もしてこなかった。それは潤也の行動を試すためだったのだから当然だろう。
それ故にどこか失念していた。……実力者ならば、銃弾を避け抵抗するに違いないと。
(まともに渡り合っちゃだめだ、蝉さんみたいな人と俺じゃ実力が違いすぎる……俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだから)
二重にはめられた首輪の位置を忌々しげに見つめながら、潤也は兄を思う。
(でも……分かった。分かったよ、兄貴……慎重にやらなきゃだめだって。少し遅くなるけど、このままじゃだめだ)
このままでは、兄の二の舞だ。それだけは避けたい。
仇を取るためには、自分が死んでは何の意味もないからだ。
自分はまだ生きている。自由こそ拘束されているが、土方は自分を殺さなかった。
それならば、まだうまくやれるはずだ。

情報を得るためには、他の連中と合流する必要がある。
しかし、彼らと出会い、話を聞いて、兄の仇がその場にいて、自らが銃を向けたらどうなるか。
それで相手を殺せたら構わない。大成功だ。
しかし、敵が土方のようにとんでもなく強かったら?
相手を殺すどころか、自分が返り討ちにあって終わりだ。兄が倒せなかった相手に、自分が真っ向で勝てるだろうか?
まず、無理だ。
自分の特殊な力は、戦闘には全く役に立ちはしない。
(それなら、機会を伺うんだ。殺せそうな時に、そいつを殺す)
そもそも、この場に兄の仇がいるかどうかも分からないのだ。
いないならば、自分はさっさと本来の家に帰り、兄の仇を捜し出す必要がある。
そのためには、人を殺して回ることが手っ取り早い。悠長なことを言っているうちに、情報は逃げていってしまう。
だからうまく殺していくしかない。
いきなり銃を向けてはだめだ。初めは殺しなどするつもりのない人間として振る舞えばいい。
そして情報を可能な限り絞り取り、兄貴のことやマスター、犬養の情報を握っていないと分かったらタイミングを見計らって殺す。
本当は他の人間が罪を被るようにしたいか、そううまく思いつくかどうか。
やっかいなのは目の前の土方だが―――武器を取り上げられている以上迂闊に動けない。殺すなんてもっての他だ。
今のところは大人しく従うべきだろう。いずれ、始末してやる。この屈辱を晴らさないと気がすまない。
兄の仇を討つため、自分の知らない世界に首を突っ込む準備は―――人を殺すための覚悟は―――とうにできていた。
あとは、実行に移すだけ。
いざという時には、この能力もあるのだから。

ここに、潤也が気づいていない事実が存在する。
この殺し合いに、『死んだはずの』兄が参加しているということを。
主催者は、何でも願いを叶える、という形で死者の蘇生も可能である、という可能性もたしかにほのめかしてはいた。
しかし、潤也は信じてなどいない。だから考えようともしない。死人が生き返るなど。
ましてや、兄がこの場にいるなどと、気付くはずもない。
そんなことは、この現実ではありえないことだったから。
そんなことが可能なら、自分は兄と二人暮らしなどしていなかっただろうから。
気づかないが故に、潤也は沖田に従いつつ、虎視眈眈と模索する。
兄ほどの頭脳は持ち合わせていない故に、兄よりも本能的で、且つ兄よりも残酷な手段を。

(兄貴、待っててくれ。俺が必ず、兄貴のできなかったことをやり遂げてやる!)

20Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:22:44 ID:RW1ozSEI0
【G-2/中・高等学校裏】
【沖田総悟@銀魂】
【状態】健康、わずかな悲しみ
【装備】なし(首輪の片方を握っている)
【所持品】支給品一式  木刀正宗@ハヤテのごとく! 首輪@銀魂 
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:この場にいるなら近藤や銀時達知り合いと合流したい。土方?知らねえよ
2:しばらくは潤也を虐めて楽しむ
3:……姉さん、俺は―――

※沖田ミツバ死亡直後から参戦

【首輪@銀魂】
沖田と土方が地愚蔵に閉じ込められた際 (実際は沖田の策略だったが)、二人をつないでいた首輪。鎖部分がやや長め。人間をペットにしたい、ドSな貴方にお勧めです。

【木刀正宗@ハヤテのごとく!】
伊澄の家に伝わる名刀。
デザインが少し凝っている以外、見た目は普通の木刀。
持ち手の身体能力を極限まであげる力を持つが、同時に感情が高ぶりやすくなる。

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】右手首骨折、首輪で繋がれている
【装備】なし
【所持品】支給品一式  イングラムM10@現実 未確認支給品1〜2(本人確認済み、武器はない)
【思考】
基本:兄の仇を討つ。そのためには手段も選ばない。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、できるだけ早急にここから脱出する。
2:初めは殺すつもりがないようにふるまう……?
3:土方に対する激しい怒り
4:兄貴……

※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。自分の能力をどこまで把握しているかは次にお任せします。
※沖田の名前を土方と理解しました。

21Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:25:37 ID:RW1ozSEI0
投下終了です。
潤也の能力に関してはどうしようか(知る前か、知った後か)迷ったのでぼかしてみました。
指摘ありましたらお願いします。

22 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:44:43 ID:BMr8xaZ20
すいません、本スレさるさん食らったので続きをこちらに落とします

23 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:45:01 ID:BMr8xaZ20
「さて……と」
思わぬところで時間を食ってしまったが現状やることは変わらない。
子分達を見つけてこの島から抜け出すのだ。
そう言えば、ここに飛ばされる前に見た影の中に麦藁帽子のような形の頭をした人影を思い出す。
もしもあれが自分の思っている人間だったとしたら、彼らも一緒に捕まってしまったのかもしれない。
そうだとしたら協力出来ないかとも考えていた。
あくまで居ればの話だったが。

地図を広げて地形や建物などを確認し子分たちが集まりそうなところを考えてみた。
「とりあえずはホテルかしらねえ……」
ホテルならバーがあるかもしれないし、そこで自分の気も知らず暢気に一杯やっているかもしれない。
一人ごちりながら地図を仕舞い込み、北へと向かって歩き始めた。



【 F-6中央街道 / 一日目深夜 】
【Mr.2ボンクレー@ONE PIECE】
 [状態]: 健康
 [服装]: アラバスタ編の服 森あいの眼鏡
 [装備]:
 [道具]: 支給品一式 / 不明支給武器(x1〜2)
 [思考]
  1: 待ってなさい、可愛い子分たち!
  2: とりあえずホテルに向かう
  3: 殺し合いなんてどうでも良いけど自分の邪魔する奴は許さない
 [備考]・アラバスタ脱出直後からの参戦
    ・グランドラインのどこかの島に連れて来られたと思っており、脱出しようと考えています
    ・マネマネの実の能力の制限に関しては現状未定
     (一応直接顔を触れた人物→西沢歩)

24 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:46:41 ID:BMr8xaZ20
支援してくださった方ありがとうございました
タイトルは「西沢歩の受難 〜私と、変態と、変態と〜」でお願いします

25二人の黒い疵男(修正部分2) ◆AO7VTfSi26:2009/04/13(月) 23:02:56 ID:z9PHLzQY0
「そうか……それなら、すまないが少し私に付き合ってはもらえないか?
 向かいたい場所があるんだ」

ブラック・ジャックはデイパックから地図を取り出し、ある場所を指差した。
それは彼にとって、必要な物資を入手できる貴重な施設―――病院である。

「C-2にある、病院に向かいたい。
 ここならば恐らく、医療器具や薬は一通り揃っている筈だ」
「病院……?
 何だそりゃ?」
「ん、病院を知らないか……?
 そうだな、かなりでかい診療所と言えば分かるか?」
「ああ、成る程な……そう言われりゃピンと来るぜ」

病院が何なのか分からない。
普通に考えればおかしい発言なのだが、ブラック・ジャックは然して驚く様子も無く、いたって普通にガッツへと返答した。
と言うのも、彼にとって病院どころか診療所ですら知らぬ相手というのは、別に初めてではなかった。
未開のジャングルに住む原住民族、人語を話せぬ野生児、挙句の果てには宇宙人や幽霊が患者になった事すらあったのだ。
ならばこの程度、どうという事は無い。

「だとすりゃ、俺達以外の誰かが目指してくる可能性は十分にあるな」
「ああ、接触さえ出来れば何かしらの情報も収集できるだろう……引き受けてはもらえるか?」

目的は二つ、治療道具の入手並びに他の参加者との接触。
後者はこの殺し合いをどうにかする為。
そして前者は、治療行為をいつでも行えるようにする為だ。
この舞台では、誰がいつ致命的な傷を負うかは分からない。
一介の医師として、彼はそれを見逃す訳にはいかなかった。
言うなれば、これは医師としての使命感だろう。

26リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:27:11 ID:XZbewnBU0
さるさんに引っかかってしまったので、こちらに投下します。

27リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:27:53 ID:XZbewnBU0
「証拠は?」

王子が話し始めてから初めて、杜綱が言葉を口にした。
声色に感情はなく、背を向けたままの為に表情も読めない。

「証拠はあるのかよ?」

「そう、ですね……」

王子が口の端を僅かに上げて、ふ、一息を吐き出す。

「貴方が偽杜綱さんだから、でしょうか?」

同時。


「え?」


目の前に蛇の体がある。
風を斬りながら、風すら砕きながら、幾百の像を残してブレる。
俺の体を打ち据えた。
ごき、ぼりゅ、ぐちゅ、と肉と骨がひしゃげる音がした。

「が……!」


杜綱は、動いていない。
数十メートルも先にいながら、銃を向けてもいない。
こちらを向いてすらいない。

けれど、たったの一撃で俺を地面に這い蹲らせた。
動きへの備えなど全く無意味に、俺は捻じ伏せられていた。

そのままうねる蛇は止まらない。
俺を先に潰したのは、見たままに俺が戦闘に長けているから。
次に打ち据える対象は只一つ。

――しまった、とでも言いたげな顔で、あまりにも無力に立ち尽くす少年がいる。

「――王子!」


……体が軋む。
内臓がかき回されるような気持ち悪さと、コンクリート塊に上から潰されたような重さによる痛みが混ざり合う。
意識が切り刻まれ、理性が判断を歪ませる。

だが、それがどうした。

――俺は、決めたんだ。
あの人のように生きると。

28リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:28:51 ID:XZbewnBU0
……ニコ兄。
泣き虫リヴィオにだって、きっとやれるよな。

なあ、ラズロ。
お前に押し付けなくたって、俺はやっていけるさ。

どんな生き方だってできるって、それを二人に見せてやる。


「お、あああぁぁあぁああああぁぁああぁぁあああぁぁあぁあぁぁ……っ!」

意識や理性を超えたところにある闘争本能任せに、肉体を行使する。
そう、この肉体はミカエルの眼の極地。到達点。
いかなる傷も再生させ、いかなる攻撃も覚え凌ぐ。
そして、いかなる敵も粉砕する。

手に握るのは一見長いスーツケース。
だが、これはそんなものではない。
これこそ怨敵の使う悪魔の武装。
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの杭打機に他ならない。

何故、こんなものが俺の元にあったのかは分からない。
俺の体を穿った武器を使う事に躊躇いもある。
……だけど。

頭上の感触を確かめる。大丈夫、ここに一撃も食らってはいない。
預かった大切な帽子の感触は確かにある。

――ここに来る直前、これを渡してくれた少年と、目の前の少年が重なった。

縦横無尽に跳ね回る蛇の姿を、初めて捉える。
……異常な長さの鞭が、まるで生きているかのように跳ね回っていた。
少年に迫る鞭を見据え、杭打つ先を狙い済ます。

守ろう。守りたい物を護っていこう。

撃った。
踊る鞭の先に杭が重なり、双方が弾き飛ばされる。


*************************


「逃げたか……」


――危なかった。もし偽杜綱がこれ以上交戦をするつもりだったら、僕が命を落としていた可能性もある。
あんな事を彼に言っておいてなんだけど、僕も少し慎重さを欠いていたかもしれない。

だが、あそこまで彼が攻撃的だとは想定外だった。
いや、攻撃的――というより、情緒不安定の印象を受ける。
それならばそれで説得次第で彼をこちらに引き込めるかもしれないと思ったのだけど、目論見が甘かったようだ。

29リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:29:49 ID:XZbewnBU0
……僕は、彼を慎重で理性的な人間と評した。
ならば、協力関係のメリットとデメリットを推し量り、互いに支障のない範囲で共闘を検討するくらいはすると考えたのだ。
現実にはそこまで話を持っていくことすらできなかったのだけれど、彼は基本的に理性的な人間なのは間違いない。
が、何らかの原因で狂気に取り憑かれているようだ。慎重さと行動のちぐはぐさはそれの表れだろう。
そこが人間の厄介な点であり、また魅力でもある。

……いや、それは今は関係ない。
彼のおかげで永らえたのだから、それに謝意を示さなければならない。

「リヴィオさん、大丈夫ですか?」
「……ああ、心配するな。もう動ける」
「……え?」

返答は予想外だった。
――何故、あんな攻撃を受けてもう動ける?

「俺の体は特別でね、再生速度が普通の人間とは比べ物にならないの、さ……。ぐ……」

成程、確かに傷の治りが早いみたいだ。
――非常識ばかりで驚かされるが、こんな状況でいちいち見入っていても仕方がない。
順応しないといけないな。
それに、

「完治している訳じゃないでしょう、無理はしない方がいいと思いますよ」
「……すまない。いつもより遥かに体の治りが遅いんだ、っ……」

『ただし少しでも公正さをきす為に細工をさせてもらっておる。
身体の動きが鈍いと感じているものはおらんか? 力が使えないと思っているものは?』

――そういう事か。

「何はともあれ、早めにここを離れよう。じっとしてる訳にもいかないだろ?」
「確かに、その通りですね」

今は早急にここを離れなければいけないだろう。
……杜綱と名乗っていた男が戻ってきたら、まず良い結果にはなるまい。
何故あの男が撤退したのか、その理由も分からない以上非常に不気味だ。
あの武器ならば僕達を殺すことなど造作もなかったろうに。
考えられるのは……

「使用に際して、何らかのリスクを追っている……?」
「ん? 何のことだ?」
「いえ……」

言葉を濁す。不確かなことを言っても仕方ない。
……だが、どうやらリヴィオさんには何を考えているのか通じたようだ。

「……そうだな、考えても仕方ないさ。
 おまえはむしろ考えすぎだぜ」
「これでも僕には世界的な探偵になるって夢があるんですよ」

苦笑交じりに答えれば、彼は人好きのする笑みを見せてゆっくり立ち上がった。

30リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:30:29 ID:XZbewnBU0
「王子……、お前って輝いてるぜ」
「それは本物の高坂君に言ってあげるべきですね、喜びますよきっと」

苦笑が続く。
ほんの少し呆けたリヴィオさんを再度、じっくりと見る。
……彼ならば信用に足るだろう。

「――偽名ですよ。偽杜綱さんと同じでね。
 生憎ながら、僕は出会ってすぐの人を信用できる性格ではないんです」
「偽名ね……。そう言えば、杜綱に対してさっき……」
「開始して6時間は、名簿を読めない。
 要するに、6時間は参加者が偽名を名乗っても参加者にその人物がいるか確認する術がないんですよ。
 ……慎重な彼の事ですからね、それに気付かないはずはないと思ってカマをかけたんです」
「……まあ、こんな殺し合いにいきなり連れて来られたら無理もないが……」

頷きつつ、しかし腑に落ちないように彼は僅かに口をもごもごと動かしている。

「それにしては……、いや……」
「――貴方を騙したことは謝罪します。
 ですが、僕は先ほどの貴方の行動で貴方が信用できる人間だと判断しました。
 あらためて自己紹介ですね」

……雪輝君以外の、僕の協力者。
戦闘にも長けるとなれば礼を尽くしておくに越した事はない。
心底丁寧に一語一句を発していく。

「――秋瀬或。探偵です」

考える事は山ほどある。
『神』についての事だけでなく、この会場や、参加者の人選。
あるいは殺し合いの意義や、もっと身近なところでは何故この明らかに外国人であるリヴィオと話ができるか、など。

だが、今すべきはそうではない。
彼と手を取り、探偵として、僕はこの殺し合いの謎に挑んでいこう。
その為に僕は手を差し出した。

「僕と共に、『神』とのゲームに臨んでいただけますか?」

手が取られ、互いにしっかりと握り合う。

「ああ、こちらこそ、だ。或」


【C-02南部/市街地/1日目 深夜】

31リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:31:16 ID:XZbewnBU0
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、各種医療品、不明支給品×2
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
 1:雪輝の捜索及び合流。また、雪輝以外の日記所有者と接触。合流するかどうかは状況次第。
 2:探偵として、この殺し合いについて考える。
 3:リヴィオに同行しつつ、放送ごとに警察署へ向かう。
 4:偽杜綱を警戒。
 5:アユム、蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
[備考]
 ※参戦時期は原作7巻終了時以降のどこかです。
 ※病院のロビーの掲示板に、『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』というメモが張られています。
 ※リヴィオの関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。


【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:左肋骨三本骨折(治癒中・完治まで約4時間)
[装備]:エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。

【エレンディラの杭打機@トライガン・マキシマム】
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの使うスーツケース型の杭打機。
今回用意された杭の数は30本。

32リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:31:53 ID:XZbewnBU0
*************************


「……くそ」

――ちくしょう、ドジったな。
まさかこんな鞭が、予想以上にオレの力を持っていきやがるとは、な。
たった一発でこんなに食うとは燃費悪ィにも程があらぁ……。

まあ、試し撃ちと思えばこんなもんだよなァ。
オレになら使いこなせるさ、そういうもんだからな。

……くそったれ。
あの帽子のヤツ、リヴィオっつったか。
まるで……、まるで、あいつのような顔しやがって……。

全く、何やってんだかなァ。
さっさとあいつらを殺してくればよかったのに、オレはよぉ……。
何でわざわざあいつらの前に出て行ったんだ?

…………。
ああ、そうか。
オレは裏切り者だからなァ、どこのどいつだろうと裏切るって事をうしおに見せ付けてやるのさ。
顔見知りになっておいて、後で思いっきり裏切ってやるつもりだったのによ。

いいさ。とりあえずは、ふんぞり返った連中を喜ばせてやらぁ……。
オレぁ、最低の裏切り者なんだからよ……。


――ああ。
風が、強くなってきやがった。


【D-03西部/森/1日目 深夜】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 1:うしお及びとらの捜索。
 2:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 3:6時間後までは杜綱悟を名乗る。
 4:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮の絶叫を確認しています。その他の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。

【禁鞭@封神演義】
離れた敵を打ち据える事に特化した、聞仲の持つシンプルながら強力なスーパー宝貝。
本来ならば数km先の敵も打ち砕く代物だが、制限の為射程がおよそ100m程度になり、威力も低下している。
その分使用者への負担も減少している。

33 ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:33:31 ID:XZbewnBU0
以上で終了です。
ご支援くださった方々、ありがとうございました。
それと、本スレ>>541にミスがあったのに気づいたのでそこの差し替えだけ投下します。

34>>541差し替え ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:34:24 ID:XZbewnBU0
*************************


――あの人のようになりたい。
……いや、違う。

あの人のようになろう。
そう決めた。

たとえ始まりがヤケクソで、外道の産物でしかない技と体だとしても。
血ヘドを吐いて、友であり兄弟であるあいつと共に練り上げてきた力は、きっと裏切ることはない。

この力で僕は何かを守りたい。
ああ、そうだとも。
あの人の所まで、僕は駆け上ろう。


*************************


風が、吹いていた。
いつも耳の奥で聞こえる、風の――音。

風が吹くのは、何でだろうなあ……。

まあ、分かりきったことだわな。
何でもできるからだ。
オレは何でも簡単にできる。周りの連中が努力して超える壁を、あっさりと。
だから本気を出しちゃあいけねぇ。
何もかも、何もかもがカンタンすぎて面白みもねぇ。

ああ……、ったく。
そんなつまんねー奴を信頼しきってよぉ、間抜けにも程があらァなあ。
見物だったよなァ、俺が裏切ったと知った時の顔はよォ。

……なあ、あんたらよぉ。オレをここに招いたフザけた野郎ども。
オレに何を望む?
……あの甘ちゃんのガキまで呼び寄せて、何をさせようってんだ?

……なんてな。
オレは何でもできるからな、分かっちまうのさ。
どう足掻いてもそれしかできないし、オレ自身がそうしたがってるってのはな。

悪人だよなァ、裏切り者だよなァ。
こんな外道が楽しくてしょうがねえ最ッ低の野郎だよなァ!
ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!


ああくそ。
風が、冷てぇなあ……。


風が……。

35643>>差し替え ◆bUcoocG73Q:2009/04/15(水) 02:01:19 ID:/lWGc2Lg0
 灰がかった黒髪をツインテールに結った少女、竹内理緒は混乱していた。

 突如、己がこのような不可解な事態に巻き込まれたことが第一の疑問点だった。
 『最後の一人の生き残りを決めるための殺し合いゲーム』というこの状況。
 いや、まず何よりも己が選定された理由よりも、疑いを持つべきなのは有り得ない"力"について、だった。

 あの雷の力は何だ?
 ワープとは何だ?
 このまるで漫画やアニメのような超能力は一体?

 そして、この宿命に希望を示すことが出来る存在はただ一人――鳴海歩ただ一人。彼だけだったはずなのに。

 しかし、そのような疑問点を解決するためには、今、乗り越えなければならない障害があった。

「……」
「……」

(これは……まずいことになりましたね)

 静寂。
 最初の場所から一歩も動くことが出来ないまま理緒は相対する少女を見つめた。
 そして同様に彼女も理緒を見る。
 見つめ合う、二人。
 だが両者を結ぶ線は赤い糸でも運命の環でもなく、剣呑な視線の矢だった。
 行き場所をなくした瞳が彷徨い、そして全く同じタイミングで一つの箇所にてピタリ、と止まる。
 そして、またも全く同じタイミングで二人は自分達の置かれた状況を理解した。

(……悪趣味、ですね)

 どちらも表情には一切の変化はなかった。
 いや、二人が顔を合わせた瞬間に、相手へ声を掛けなかった時点で、両者が対峙へと緒至る構図は半ば決まっていたのかもしれない。
 理緒としても擬態を用い、彼女へ接触するという選択肢は十分にあったはずなのだ。
 だが、理緒は一瞬の直感でもってその必要ない、と判断した。いや、むしろソレは決定的な悪手であるという思考にさえ至ったのだ。

 ――つまり、それは完璧なまでに仕組まれた遭遇だった。

 由乃と理緒、彼女達は会場に送られた瞬間、支給品を確認する暇もない鉢合わせをする羽目になった。髪を結い、服装を正し、小さくため息を付く時間さえ彼女達には与えられなかった。
 だが――それは共に"普通"ではない理緒と由乃に関して言えば、些細な問題だったのかもしれない。
 熟考と即断。どちらの選択を行ったとしても、彼女達が取るべき行動は一切変わらなかったはずなのだから。

 そう、身につけた技術は、心に宿した妄執は、彼女達に多くを求めない。極めて最適解に等しい動作と思考を与えてくれる。
 全天候型の大型スタジアム。空は星、雲は揺らぎ、星が煌めく。
 この状況で、二人にとって何より問題であったのは、参加者に対して均等に支給されるはずのデイパックが――

 眼前にて、『二つ』、寄り添うように並べてあったということ。

36>>662>>664差し替え ◆L3YPXWAaWU:2009/04/15(水) 02:04:41 ID:/lWGc2Lg0
「…………ふぅ」

 理緒は長いため息を吐き出した。
 我妻由乃との戦闘を回避出来たのは大きい。
 何とか口八丁で彼女を煙に巻いたが、彼女は拳銃があれば完璧に勝利を収めることが出来るほど柔な相手ではなかった。
 単純な戦闘力ではブレードチルドレンの一人であるカノン・ヒルベルトに比肩するレベルかもしれない。
 まだまだ理緒が自分から積極的な行動を取るには情報が足りなさ過ぎる。
 夜は始まったばかりだ。慎重に事を運ばなければ。

「理緒ちゃん、どうしたのっ☆ 元気ないよっ☆」

 傍らの喜媚が理緒の顔を覗き込んだ。
 結局、二人はしばらくの間行動を共にする事にしたのである。

「あ、いいえ。何でもないです」
「ロリッ☆ だったら喜媚と一緒に妲己姉様を探しに行きッ☆」
「……姉様? 喜媚ちゃん、お姉さんもここにいるんですか?」

 姉、という事はその彼女も特殊な力を持っているのだろうか。

「うんっ☆ 妲己姉様ならぜーーんぶ、何とか出来っ☆」
「……なるほど」
 
 確かに喜媚が信用出来る相手なのかどうかは非常に疑わしい。
 だが自らを妖怪であると自称し、宝貝と呼ばれる不可思議な道具を自由自在に扱う彼女は極めて異端の存在だ。

 例えば、彼女が持っていた『如意羽衣』という宝貝を理緒も見せて貰ったが、手にするだけで身体中の力が抜けていくような危険な感覚を覚えるほどだった。
 おそらく理緒がこれを用い、自由自在に他の物体へ変化することはおそらく難しいだろう。
 技術を必要とする宝貝は道士や仙人ではない人間には扱いにくいと喜媚は言っていた。
 
 そんな彼女が本気になれば、理緒を殺害することなど容易いようにも思える。
 事実、あの時由乃と理緒は共にこの胡喜媚の動向にも細心の注意を払っていたのだ。

 が、そうしないという事は、彼女に人殺しをする意志がない裏付けであるように思えた。
 完全に気を許すことは出来ないが、一時の同行者としては問題ないように思える。
 彼女が何を考えているかは分からないが、互いが利用出来る内は協力関係は成立する。
 重要なのはその分岐点を見極める事だ。
 
 そう、ブレードチルドレンは殺戮の使者と成り得る呪われた子供であるが、あくまで人間に過ぎない。
 ――人間が、人外の存在に打ち勝つことが出来るのか。

(あたしが、ここでやるべき事は……何なのだろう) 
 
 神の作り出した絶対的な運命に囚われた存在、ブレードチルドレン。
 たとえ、決して有り得ない可能性だとしても神の掌の中から抜け出す事は適わない。
 
 それが――抗えぬ螺旋の創り出した宿命なのだから。


【B-2/競技場前/一日目 深夜】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
 [状態]:健康
 [服装]:月臣学園女子制服
 [装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
 [道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
 [思考]
  基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
  1:第一放送までは生存優先。殺し合いを行う意志は無し。
    名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
  2:喜媚と行動を共にする。妲己という人を一緒に探す。
 [備考]
  ※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。

【胡喜媚@封神演義】
 [状態]:健康
 [服装]:原作終盤の水色のケープ
 [装備]:如意羽衣@封神演義
 [道具]:デイパック、基本支給品
 [思考]
  基本方針:???
  1:妲己姉様とスープーちゃんを探しに行きっ☆
  2:皆と遊びっ☆
 [備考]
  ※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。

【如意羽衣@封神演義】
 ありとあらゆるものに変身出来るようになる宝貝(素粒子や風など、物や人物以外でも可。宝貝にも可能)

37 ◆9L.gxDzakI:2009/04/15(水) 15:42:11 ID:5A6vmjKY0
ギリギリ4KB余るはずだったのに一杯になっちまったァァァァ!orz

本スレに投下した「その口はあまたの灯」、あれで投下は以上です。申し訳ない

38名無しさん:2009/04/15(水) 15:45:07 ID:Jsl7CsGk0
乙w

39 ◆9L.gxDzakI:2009/04/15(水) 23:50:28 ID:JYtEa7LoO
拙作「その口はあまたの灯」における地の文を、一部以下のように修正します。

(第1巻>>723
 この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
 そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
 困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
   ↓
 この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
 そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
 困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
 そもそも現在地につく前に、どうやらここで戦闘があったらしいのだが、それにすらも間に合わなかった。
 鞭と大砲のような轟音は聞いている。それでも音の主達を見失ってしまった。のっけからミスを犯しているというわけだ。

40 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:23:31 ID:uuwVtYpE0
規制されたのでこちらに投下します。

41 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:24:22 ID:uuwVtYpE0
(何より……私はまだみんなと別れたくない!!)

そう思い、森は走り出した。
信じられる仲間を探すために。
絶対にいると信じながら。
森あいは暗闇の中をかけて行った。


     ◇


今同じ時、同じエリアで、同じことを思った少年少女がいた。

少年はいないかもしれない幼馴染と自分の兄、信頼できる知り合いを探すために。

少女は絶対いると思っているチームのメンバーを探すために。

もしこの二人が出会うことができれば、心強い味方が出来たかもしれない。

だが、運命とは時に残酷である。

彼らこの時出会うことはなかった。

ひょっとしたら、いずれ出会うことになるかもしれない。

ひょっとしたら、二度と出会うことはないかもしれない。

でもそんなことは、誰にも分からない。

それが例え……「神様」であっても……。

42 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:24:56 ID:uuwVtYpE0
【I-6 南西/市街地/1日目 深夜】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
 ※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【I-6 北東/市街地/1日目 深夜】
【森あい@うえきの法則】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・備考]
基本:植木チームのみんなを探し、この戦いを止める。
 1:とりあえずみんなを探す。
 2:できれば「1st」も探してみる。
 3:能力を使わない(というより使えない)。
 4:なんで戦い終わってるんだろ……?
 ※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
 ※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
 ※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。

43 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:28:29 ID:uuwVtYpE0
投下終了です。
ずいぶんと時間がかかってしまったことをここでお詫びします。
ちなみに本スレでもタイトルは乗っていますが、ここでも一応書いておきます。

タイトルは「2つの想い……重ならず」です。

44 ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:58:31 ID:TSjuqWlE0
仮投下します。
プロバイダの規制に巻き込まれているので誰か代理投下してもらえると嬉しいです。

45ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:59:25 ID:TSjuqWlE0


まだ夜も明けぬ空。
静かに揺れる海岸の前に一人の男が佇んでいた。

彼の名は金剛晄。彼はずっと海の向こうを見つめていた。
平然としているようにも見えたが、彼の心の中はあの薄暗い中で起きた陰惨な光景に対し、
怒りの炎をふつふつと燃え上がらせていた。

「これも親父と兄貴の計画の一つなのか……?いや、それは考えにくい」

晄は多くの番長たちが東京都23区を統一するまで戦いあう、バトルロワイアル
『23区計画』にこのゲームを重ねようとしたが、すぐに否定する。

周りには23区計画に参加していそうな屈強な人影を幾人か見かけたものの、
23区計画参加者の目印である刺青を彫っている人物を見つけることはできなかった。
それになにより、明らかに戦いには向いていないかよわい女性や子供までもがあそこに連れてこられていたからだ。

「だが、これだけは分かる。このゲーム……スジが通ってねぇのは明らかだ」

晄はあの部屋の中で犠牲になった少女と少年を思い出す。
彼らは何の罪があって殺されたというのだろうか。ただ、彼らは殺し合いに反対しただけだ。
それに、彼らは戦う術を持たないただの一般人だ。彼らとは違う力を持つ自分たちはまだしも
彼らを巻き込み、あまつさえ知り合いの目の前で虫けらのように殺してしまうような行為を目の当たりにして
怒りを抑えることは晄には到底不可能なことだった。


晄は砂浜からむき出している大きな岩を見る。
彼はそれに近づくと大玉サイズくらいの岩を両手でつかみ、ゆっくりと持ち上げる。


「ムルムル、申公豹……貴様らの殺し合いなぞ……」

46ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:59:49 ID:TSjuqWlE0







     「 知 っ た こ と か  ―――――――――――――  !  !  ! 」







晄は持ち上げた岩をそのまま海の方へ放り投げるかのように勢いよく投げる。
岩はまるで砲丸投げの鉄球のようにきれいな放物線を描き、飛んでいく。
そして、はるか向こうに着水し、大きな水柱が上がる。
それは彼なりの主催者達への宣戦布告だった。

だが、何故か晄の顔は釈然としなかった。
岩を投げたようと試みた時、自分の体に違和感を覚えたのだ。

「……いつもより力が入りにくくなっている。いつもならもっと遠くに飛んだはずだ」

晄は自分の首筋に巻かれている銀色に光る首輪をそっと触る。
あの少女の話によると、首輪に細工がしてあるらしい。

「全力が出せないのもこれが原因か……こいつもどこかではずす必要があるな」

晄が次に気にかけたのは仲間のことだった。
念仏番長や剛力番長のような仲間たちや、陽菜子や月美たちもここに巻き込まれているかもしれない。
もしも、彼らがこのゲームに巻き込まれているとしたら真っ先に合流する必要がある。と晄は考え、
彼はデイバッグから地図を取り出した。
今、自分がいる地点はH-2。海岸の砂浜のようだ。

「近くに学校があるな。誰かがあそこにいるのかもな……」

47ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 06:00:41 ID:TSjuqWlE0

小学校と中・高等学校のどちらかに行くか。
ひとまず、晄は北の学校の方に向かうことに決めた。
陽菜子や他の番長がここにいるのなら、ここを目指すだろうと推測したのだ。

「待ってろ、ムルムル、申公豹。このスジの通らねぇゲームは俺がブッ潰す。」

静かな怒りの炎を灯しながら金剛番長、金剛晄は
新たな戦いへと挑む決意を固めた。


【H-2/海岸/深夜】
【金剛晄(金剛番長)@金剛番長】
[状態]:健康
[服装]:学ラン
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合い?知ったことか!!
 1:ゲームを潰す
 2:施設をまわり、情報を集める。
 3:このゲームの参加者にスジを通させる
 4:陽菜子や他の番長たちはいるのか……?
[備考]
※自分の力が制限されている可能性を持ちました。

48 ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 06:01:24 ID:TSjuqWlE0
投下終了です。
問題点・疑問点などありましたらレスお願いします

49 ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:31:01 ID:wycRPsV60
規制に引っかかったので、残りをこちらに投下します。

50カタハネ -クロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:31:46 ID:wycRPsV60
「わ、私は西沢歩っていうんだけど、あなたの名前は?」

口を開きかけ、そのまま閉じた。
後ろを振り向かず、そのままにただ、進み続ける。
名前など教える必要はない。

俺は、今もまだ俺の答えを捨てたくはないのだから。


――――ふと、いつかを思い出した。
青い青い夏の空。
汚物の壺を斬り開いた陽光の下の邂逅、出会い。
あの時も人間が、俺の背後に続いて歩いていた。

無為なことだ。やはり俺はどうかしている。
……いや。お前に狂わせられたようだ、ヴァッシュ。
人間の、それも死んだ男の事など思い返すとは。

なあ、どう思うんだろうな?
……お前の殺したあの男が、今の俺を見たのならば。

――既に亡き男の行動という、答えの出るはずのない問い。



【F-04研究所付近/森/1日目 深夜】

【チーム:12−3(トゥエルブスリー)】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化進行
[服装]:普段着にマント
[装備]:支給品一式、不明支給品×2
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:――償う事など、何もない。
1:搾取されている同胞を解放する。
2:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
3:歩達がついてくるのを止めるつもりもないが、守るつもりもない。
4:レガートに対して――?
[備考]:
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。

51カタハネ -クロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:32:36 ID:wycRPsV60
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:五光石@封神演義
[道具]:支給品一式、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則
[思考]
基本:死にたくない。ハヤテや知り合いに会いたい。
0:な、名前くらいは教えて欲しいんだけどな……。
1:……もう、レッドでいいや。
2:殺し合いって何?
3:ハヤテくんに会いたい。
4:とりあえず、平坂と二人きりは嫌。
[備考]:
※参戦時期は明確には決めていませんがハヤテに告白はしています。


【平坂黄泉@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:烏避け用の風船の様なマスクと黒の全身タイツ、腰にはおもちゃの変身ベルト
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:支給品一式、正義日記@未来日記
[思考]
1:コノ怪シイ悪人ヲ監視スル!
2:悪ハ許サナイ!
3:弱キ物ヲ守ル!
4:シカシ、ドウシテ私ハ生キテイルノダロウ?
5:コレデメンバーガ三人揃ッタ!
[備考]:
※御目方教屋敷にて死亡直後からの参戦。

【正義日記@未来日記】
未来日記所有者12th、平坂黄泉の持つボイスレコーダー型の未来日記。
全盲の彼は己の善行を事細かに声という形で残していたため、ボイスレコーダーが未来日記となった。
道のゴミ捨てや老人の荷物持ちからカルト宗教討伐まで『正義』の内容は幅広いが、報告されるのはあくまで彼自身の解釈上での『正義』である事に留意する必要がある。
本来は90日先までの未来が記録されているが、今ロワでは見通せる未来が制限されている模様(詳細は不明)
また未来日記の例に漏れず、このボイスレコーダーを破壊した時点で平坂黄泉は死亡する。

52 ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:33:10 ID:wycRPsV60
以上で投下終了です。

53 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:18:15 ID:kSdBChBo0
規制されたので続き投下します。

死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc

「じゃあ、おじさんも気をつけてな!あ、さっきは殴ってゴメン!でも、あんな言い方、もうやめた方がいいぜ。」
「あぁ、せいぜい気をつけるよ。おまえさんたちも気をつけてな。
 あんまりカリカリしなさんなよ。クックック。」
「うるっさい、死ね!大っ嫌い!」

最後まで騒々しく、バラバラに、3人の男達は別れた。

1人きりになり、ドクター・キリコは夜空を見上げて思う。
人はだれもいつか死ぬものだ。それが自然の摂理であり、抵抗するのは人間だけ。
だからキリコは殺す。自然に逆らい、苦しんでまで生きるくらいなら、いっそのこと穏やかな死を与えることが幸せだと信じている。

だが、だからこそ、こんな殺し合いは認めない。

(こんな事が自然な「死」なもんかね…これでも医者の端くれだ、命が消えるより、助かる方がずっと良いさ。)


この殺し合いの場でも、彼らの生き方は変わらない。

誰かを守れるなら、立って戦う、立ち向かう。それがどんなに苦しく、悲しい道でも…
迷い、悩み、素直になれないけれど…死んだように生きないために、満を持す。
望むのなら、辛いのなら、死を与える。その根底に、命を尊ぶことを忘れることなく。


彼らは出会えるだろうか。
自分の生き方を変えた、定めた、共に歩んだ…半身とも言うべき存在に…


【F-5/神社/1日目 深夜】
 【蒼月潮@うしおととら】
 [状態]: 健康
 [服装]:
 [装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
 [道具]:支給品一式 不明支給品1つ
 [思考]
 基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
  1: 蝉と一緒に病院に向かい、ブラックジャックと会う。
  2: 病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
  3: 殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
 [備考]
  ※ 参戦時期は27巻以降、白面によって関係者の記憶が奪われた後です。流が裏切った事やとらの過去を知っているかは後の方にお任せします。
  ※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
  ※ 悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。

54死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:19:36 ID:kSdBChBo0

 【蝉@魔王 JUVENILE REMIX】
 [状態]: 健康
 [服装]:
 [装備]: バロンのナイフ@うえきの法則
 [道具]:支給品一式 不明支給品1つ
 [思考]
 基本: 自分の意思に従う。操り人形にはならない。
  1: これが仕事なのか判断がつくまで、とりあえずキリコの依頼を受ける。
  2: うしおと一緒に病院を目指す。
  3: 襲ってくる相手は撃退する。殺すかどうかは保留。
  4: 市長を見つけたらとりあえずそっちを優先で守る…つもり。岩西がいたら…?
 [備考]
  ※ 参戦時期は市長護衛中。鯨の攻撃を受ける前です。
  ※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。


 【ドクター・キリコ@ブラック・ジャック】
 [状態]: 健康 ほほに殴られた跡
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 不明支給品2つ
 [思考]
 基本: いつも通り、依頼してくる人間は安楽死させる。かつ、主催者に一泡吹かせる。
  1: ブラックジャック探しと医療道具探しの為、診療所に向かう。
  2: ブラックジャックと会えたらうしおの事を伝え、神社で合流させる。
  3: 助かる見込みもなく、苦しんでいる人間がいたら安楽死させる。
  4: ただし、自殺志願者や健康な人間は殺さない。重傷者も、ある程度までは治療の努力をする。
   [備考]
  ※ 参戦時期は少なくとも「99.9パーセントの水」と「弁があった!」の後。
  ※ 「治療の努力」の程度はわかりません。彼の感覚です。



【エドの練成した槍@鋼の錬金術師】
国家錬金術師の試験等でエドワード・エルリックが練成した槍。
割と頻繁に練成している。しかし、特に秀でた力はなく、登場のたびに壊されているような気も…
彼が練成したものにしては比較的センスがいいと思うのだが…

【バロンのナイフ@うえきの法則】
ごく普通の軍用ナイフ。バロンは能力の基点として使ったが、これ自体に特殊な力は無い。

55死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:20:49 ID:kSdBChBo0
以上で投下終了です。
問題点ありましたらお願いします。

56 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:12:44 ID:RW1ozSEI0
【F-7/森/一日目深夜】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(小)、頭痛
【装備】なし
【所持品】支給品一式  ハヤテの女装服@ハヤテのごとく! メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:しょうがないので少女(宮子)の面倒を見る。学校に向かう。
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

【ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!】
ハーマイオニーのあれ。
可愛いだけで特殊効果はありません。

【メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX】
安藤兄のクラスメイト・要が好きなキャラクターのフィギュア。金髪おかっぱ眼帯メイド服。
ただのフィギュアだが、どうにも不気味な印象を与える。
余談だが、このフィギュア、コミック表紙にまでなっている。

【柳生九兵衛@銀魂】
【状態】健康
【装備】
【所持品】支給品一式  不明支給品0〜1 改造トゲバット@金剛番長
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
0:マップの東側に向かい、知り合いを探す
1:とりあえず新八と合流したい。
2:卑怯な手を使う者は許さない
3:妙ちゃんもこの会場に……?
※参戦時期は柳生編以降。

【改造トゲバット@金剛番長】
唐鰤 三信が使う釘バット。
改造済みなので普通の釘バットより威力はあると思われる。

57 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:13:38 ID:RW1ozSEI0


ああ、夢か。
少女・宮子が出した結論はそれだった。
きっと夢なんだ。
また屋根の上で寝すぎちゃったのかなー。
うん、きっといつかゆのっちが起こしてくれるさ。
だから、きっと夢。
そうじゃなくっちゃおかしいってば。
だって、人が死ぬなんてありえない。
あんなサツマイモみたいな髪をした人が現実にいるわけないって。
優しい人みたいなのは分かったけど。

彼女は、どこまでもマイペースに思考する。
真に彼女はそう思っているのか、それともただの現実逃避なのか。
それは、おそらく彼女にしか分かるよしもない。

ああ、でも次に見るなら、もっといい夢が見たいよ。
ヒロさんと沙英さんとゆのっちと三人で、落書きする夢がいい。
そう願いながら。
宮子は再びの眠りについた。

その『夢』から、彼女はいつ目覚めるのだろうか?

【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、ZZZ
【装備】なし
【所持品】支給品一式  不明支給品1〜2 
【思考】
基本: ???
1:ZZZ……お腹空いたあ……
2:これって夢の中だよね?

※現実をいまいち理解していません。目覚めた後に考え方が変わるかもしれません。

58 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:14:51 ID:RW1ozSEI0
投下終了です。
何か指摘ありましたらお願いします。

……さるったOTL

59 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:46:16 ID:9o5UxPTU0
「何故あやつらはこのようなことをする?」

太公望は、何故申公豹が殺し合いを開催したのか理解できなかった。
彼は道化師のような格好を悪く言う者を嫌う、一風変わった美学の持ち主である。
だが、彼の美学が無力な女子供に殺し合いをさせることになるのは、彼の性格上考えられない話である。
仮に殺し合いをさせることを美学としても、自分でわざわざ大掛かりなことをすることも考えられないのである。
封神計画のときもそうであった。彼は殷や周の双方に助言や忠告をする程度で、仙界大戦や牧野の戦いのような大規模の戦いのときも傍観者という立場にいた。
そのため、突然殺し合いを開催すること自体何か裏がない限り信じられないことである。
しかし、彼は常に傍観者の位置にいたため、彼との深い関わりが分からない。結局、結論が出ないままである。

「……とりあえず移動するかのう」

申公豹に対する考察を終了して移動しようと立ち上がった。だが、すぐに動こうとはせず、近くにある木のほうを振り向いた。

「おぬしがそこにいるのは最初から分かっておる。姿を現したらどうじゃ?」

60 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:47:40 ID:9o5UxPTU0

太公望は、自分の後ろにいる人物に語りかけた。
すると、木の陰から一人の少年がでてきた。少年は自分と同じくらいの背丈で、顔つきはどことなく女の子ともとれるような顔であった。

「よく分かりましたね、音は立てないようにしたんですけど」
「姿が見えずとも気配だけで感じていたぞ」
「そうですか。ところでその声、もしかして……」
「いかにも、わしの名は太公望。このようなふざけたことには乗っていないから安心していいぞ」
「僕の名前は綾崎ハヤテです。僕もこの殺し合いには乗っていません。よろしくお願いします」



情報交換を済ませた二人は、近くにある博物館を目指して歩いていた。
二人とも他の人に会うのが目的で、建物に人が集まると考えていたからである。
そのうえ、博物館はいろいろなものが展示されているため、有力な情報が手に入れやすいのである。

61 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:48:31 ID:9o5UxPTU0
(あの人、何か胡散臭いんだよな、そもそも二千年以上も前の人なんて……。でもこの状況だし、信じるしかないのかな。)
ハヤテは、中国の周という時代から来た道士である太公望の話が信じられなかった。
彼を疑っているわけではないが、古代の中国にも関わらず、現代技術を超越する技術のようなものが存在しているなどという話を信じることは出来なかった。
もしこのような状況でなかったら、彼は太公望のことを「頭のかわいそうな人」と思っていただろう。

(それにしても、最初に会った人があのピエロみたいな人の知り合いだなんて……。)
ハヤテは運命と戦う決意をした後、とりあえず他の人に会うため、一番近い建物である博物館を目指して歩いていた。その途中で太公望を見つけたのだ。
だが、その男が殺し合いに乗っていて襲い掛かってくる可能性も否定できなかった。そのため、近くにある木の陰に隠れていたのだ。すぐに見つかってしまったが。
まさか主催との関係者とは思ってもいなかった。情報交換の際にそのことも聞いてみたが、特に有力な情報はなかった。

(……とはいえ、武器が手に入ったのは良かったな。あのままじゃ、戦うこともできないし。)
ハヤテの手には一つの木刀が握られており、柄の部分に『洞爺湖』と書かれている。
その木刀は太公望に支給されたものであるが、武器を持っていないというと、その木刀を渡してくれたのだ。
その代わりに自分に支給された手配書の一枚を太公望に渡した。一人で捕まえるのは難しいので、協力してもらうためである。
また、600億という大金なので、半分に分けても問題ないだろうと判断したからでもある。

(でも大丈夫かな、あんな丸腰で。)
武器である木刀をハヤテに渡してしまったので、太公望の手にはボールのようなものしかない。それでも、太公望は「問題ないぞ」といって渡してくれた。
……気にする必要はないか。ハヤテはそう結論付けた。

62 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:49:17 ID:9o5UxPTU0


(……まさかわしにこのようなものが支給されるとは。)
太公望は、両手にあるボールのようなものを見つめながら歩いていた。だが、それは彼がよく知っている人物のものだった。
このボールのようなものは『太極符印』という元素を操る宝貝である。状態変化や化学反応、挙句の果てには核融合も可能とする、ある意味危険な宝貝でもある。
この宝貝の持ち主は崑崙十二仙の一人、普賢真人であり、太公望のことを「望ちゃん」と呼ぶほどの仲である。
だが、普賢真人はすでに死んでおり、『太極符印』もそのときに自爆したはずである。
最も多くの仙道が死亡した仙界大戦によって。

(そういえばあやつは話し合いで解決しようとしておったな。)
彼は戦いというものを嫌っており、話し合いによって解決策を出そうとしていた。
もし彼がこの状況に巻き込まれたら、同じようなことをしているのだろうか。そう考えると少し笑みがこみ上げてくる。

(だが、わしにはそのようなことは出来ぬ。わしはわしのやり方でやらせてもらうぞ、普賢。)
太公望は大した才能を持ち合わせていないありきたりの道士である。そんな彼が主な武器としているのが策略である。
これによりこれまでの妖怪仙人との戦いや殷郊との戦いを制してきたのだ。そして、この殺し合いでも策略で乗り越えるつもりでいる。
だが、彼は多くの仙道とは戦ってきたが、申公豹とは本格的に戦ったことはない。当然、勝つ確証などない。
そして、そこに至るまでに多くの犠牲があるのかもしれない。

(それでもわしがやらねばならぬ。覚悟しておれ、申公豹!)
これまで多くの犠牲を目の当たりにした道士、太公望。
彼の戦いが今、ここから始まった。

63 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:50:06 ID:9o5UxPTU0

【B-8/西部/1日目 深夜】

【太公望@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:太極符印@封神演義
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×1@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:殺し合いを潰し、申公豹を倒す。
1:ハヤテと行動する。
 2:博物館へ向かい、有力な情報を探す。
[備考]
 ※殷王朝滅亡後からの参戦です。
 ※手配書は渡されただけで詳しく読んでいません。
※ハヤテと情報交換をしました。

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[服装]:トレーナーとジーンズ(第1話終了時の服装です)
[装備]:銀時の木刀@銀魂
[道具]:支給品一式、若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:運命と戦う、当面は殺し合いには乗らない
1:とりあえず太公望と行動する
 2:博物館へ向かい何か使えそうな道具を手に入れる
 3:西沢さんを含めた友人達が心配
 4:出来ればヴァッシュを捕まえて賞金を手に入れたい
 5:少年(火澄)の言っていた『歩』は西沢さんなのか、東城歩って人のことなのか、それとも他の歩という名前の人なのか……?
 6:金髪でツインテールの少女(ナギ)が心配
[備考]
 ※第1話直後からの参戦、つまりまだナギの執事となる前です。
 ※参戦時期からわかる通り、西沢・ナギ以外のハヤテキャラとの面識はありません。また、ナギも誘拐しようとした少女としか認識していません。
 ※太公望と情報交換をしました。また、その際に封神演義の世界についておおまかなことを聞きました。ただし、そのことについては半信半疑です。

【銀時の木刀@銀魂】
銀時がいつも通販で購入する愛用の木刀。柄の部分に『洞爺湖』と書かれている。

【太極符印@封神演義】
崑崙十二仙の一人、普賢真人の宝貝。元素を操ることが出来る。

64 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:50:41 ID:9o5UxPTU0
以上で、投下終了です。

65 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:53:00 ID:9o5UxPTU0
失礼しました。タイトルを載せるのを忘れてしまいました。
タイトルは「序章の始まり」です。

66 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:02:02 ID:kSdBChBo0
由乃、鳴海歩、安藤兄を仮投下します。

67 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:02:42 ID:kSdBChBo0
ユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー…




実に52回。B-6の道路を走る我妻由乃が一分間に頭の中で彼の名前を呼んだ回数である。
これは彼女が特別優れている訳ではなく、誰もが1人の人間を頭の中でひたすら呼び続ければこうなるだろう。
とはいえ、普通は1人の人間にここまで執着することが難しいのだが…
彼女の、ユッキーこと天野雪輝への愛はそんなことはものともしない。

そんな彼女が、今一生懸命に走っているのは、他でもないユッキーを見つけるためだ。
こんな殺し合いの場で、彼がいつまでも生きていられる保証は無い。
早く自分が見つけて、守ってあげなければ。そうだ、自分が守るんだ。
だってユッキーと私は恋人同士、うぅん、それ以上。家族、そう家族だもの。
守るんだ、ユッキーを、大好きなユッキー、いつでも優しいユッキー、側にいたい、ずっとずっといつまでも…
ユッキーを守れるのは私だけ、私が守るんだ、ユッキーを、大好きユッキー…
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー…

68 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:05:24 ID:kSdBChBo0

ふと、そこで足を止める。一刻も早く彼を見つけたいが、この広い会場で闇雲に走っても非効率的だ。
なんとしても彼を守る、その一心で彼女は脳内を冷やし、解決策を練る。
そうだ、私の手元には「日記」がある。
ユッキーの行動を逐一記録し続けた「雪輝日記」。彼への愛の結晶。二人を繋ぐ絆の証。
それも、ただの日記ではない。記している内容の未来が読める「未来日記」だ。これがあれば、ユッキーを探すのも容易い。
言ってしまえば、彼の未来はすべて自分の手の中にあるといっても過言ではないのである。
しかし、忌々しいことにこの日記も今はまだ読むことが出来ない。彼と再会するまで使用できないという制限が課されたのだ。
だが、制限されたのは「日記」の能力のみ。
そして、彼女や天野雪輝が持つ未来日記は、俗に言う「ケータイ」に記録されていた。


    ◇     ◇     ◇

場所は変わってD-9教会の中。主催者との対決を決意した二本の剣が、支給品の確認を済ませていた。

「さて、まず最優先で考察すべきは、これだろうな。」

もみあげが特徴的な少年、鳴海歩がそう言って掲げたのは、携帯電話だった。

「だろうな。」

向かいに座る安藤も異論は無いとうなずく。
勘違いしないで欲しい。彼らとて少々変わってはいるが現代を生きる男子高校生。携帯電話くらい知っているし、特に珍しくもない。
今は没収されているようだが、自分用の携帯電話だって持っている。
考察すべきは、そこに添えられていた説明書だった。


【無差別日記】
1st天野雪輝の未来日記。
彼が見たもの、聞いたこと、あらゆる周囲の出来事の未来が書き込まれる。
あくまで傍観者である為、天野雪輝自身の未来は記録されない。
使用するためには、一度本人の手元に渡る必要がある。


これがその全文だった。

69 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:06:11 ID:kSdBChBo0

「ほんと…かなぁ」
「一応それらしい機能があるんだが、ロックがかかってる。そこの注意書きと同じ文章が出てくるよ。」

そういって歩は『日記』を安藤に投げ渡した。

「…ほんとだ。となるとやっぱり本当だと判断すべきか…けどもし…」
「ストップ。現状でそれ以上考えても無駄だ。今は両方の可能性を踏まえて考察しよう。まず、本当だった場合だ。」

安藤の考察を遮り、歩が議論の方向性を戻す。安藤も一端そちらの考察を打ち切った。

「その場合、これは『天野雪輝』に渡すべきか否か。答えは『彼次第』、だな。」
「あぁ、もしこの殺し合いに乗っているんなら、絶対に渡しちゃいけない。逆に反撃するつもりなら、これを届ければ戦力になってもらえる。」

『天野雪輝』がどんな人物かわからない以上、この使い方次第では最強ともいえるアイテムの処遇は決められない。それが二人の結論だった。
情報、特に未来の情報というのは最強の武器であると主張する人間もいる。
それだけの価値が、この支給品にはある。

「この1stってのも気になるな。確か最初の説明の時に…」
「あぁ、呼ばれていた。かなり今回の殺し合いに深く絡んでいるのかも知れないな。コイツは。
 さて、次はこれが偽者の場合だが…」

ブルルッ

そこで『ケータイ』が着信を知らせる振動を起こす。
さすがに二人とも驚いて目を合わせる。どちらともなく頷きあうと、手に持っていた安藤が『ケータイ』に出る。

「も、もしもし…?」

70 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:06:42 ID:kSdBChBo0
    ◇     ◇     ◇

『も、もしもし…?』

ユッキーじゃ、無い。
もちろんこの可能性を考えていなかった訳じゃない。
自分の「日記」とて最初から自分に支給されていたかはわからないのだ。
彼の日記が本人に支給されている保証なんて無かったし、本人支給だったとしても、
危険人物に拘束され奪われていることも考えられる。
だから、電話の向こうの声が愛しい彼の声でなくても冷静に対処する…つもりだった。
だが無理だった。大好きな彼の大事な大事な「未来日記」を、見知らぬ人間が使っているというだけで耐え難い怒りが湧いてきた。

「だれ…あんた。どこにいるの?」
『え、あ、ここは、教会だけど…俺は安…』

そこで相手が電話をひったくられたらしく、会話の相手が変わった。

『失礼、俺はミズシロ・ヤイバ。さっきのヤツは安西。あんたは?』
「どうでもいいでしょ。あんたたちが何でユッキーのケータイを持ってるの?」

相手が変わったのでもしや、と思ってしまったことが、彼女の怒りに拍車をかける。

『すまない、これは俺たちのバッグの中に支給されていた。持ち主は今近くにいないと思う。信じてくれ。』

信じるもなにも、と由乃は思った。
電話の向こうから、彼の声は聞こえない。捕まっているとしても、なんらかの動きを示すだろう。
ユッキーの出す声や音を、自分が聞き逃すことはありえない。
実は、彼が電話の向こうですでに殺されている場合がありえるのだが、彼女にとってそのような未来は絶対にあってはならないこと。
そんな思考になることこそありえない。

71 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:07:21 ID:kSdBChBo0

『俺たちはこれを持ち主に届けたいと思っている。「とても大事なもの」だろうからな。
 少し情報交換をしないか?その感じだとあんたもまだ持ち主の「ユッキー」ってヤツとは会えてないんだろ?』
「…ユッキーはすぐ私が見つける。あんたらが探す必要なんてないから。」

痛いところをつかれ、更に苛立ちが増す。だが、今はそんなことで冷静さを欠いてる場合ではない。
必死で頭を冷やし、今時分がするべき行動を考える。だが、先手を打ってきたのは相手のほうだった。

『そうか。なら、提案がある。こいつは俺たちが責任もって預かる。
 変わりにあんたが「ユッキー」とやらを見つけたらこいつに連絡してくれ。そこで合流場所を決めて渡す。
 下手に合流優先で動き回ると手遅れになりかねない。あんたもそれは御免だろう?』

相手の提案に先をいかれたのはまずかったが、内容は悪くなかった。
話の感じからして、このミズシロという男は殺し合いにのっていないらしい。
少し考え、返答する。

「いいよ、それで。そのケータイ、失くさないでよ?」
『あぁ、わかってる。じゃあ電池ももったいないし、切るぞ。』

話しもまとまり、相手が電話をきろうとする。

72名無しさん:2009/04/24(金) 20:07:53 ID:kSdBChBo0
「待って。そっちも誰か探してる人間がいるなら、聞いておいてあげる。」
『…それはありがたいな。なら竹内理緒ってヤツに会ったら、俺が参加していること伝えてくれ。
 ついでに「落ち着いて、冷静に考えろ」と。』
「…そいつになら会った。競技場にいるから会いに行けば?」

嫌な名前を聞いた。こいつ、あの女の関係者なのか。

『…そうか。ありがとう。また会うようなことがあれば伝えてくれ。「安西」、お前は誰かに伝言はあるか?』

電話口の相手が黙る。同行者の伝言を聞いているのだろう。程なくして、答えが返ってきた。

『…それでいいんだな?じゃあ潤也、って名前の男に会ったら、伝えてくれ。
 「流されるな、考えろ」とな。』

その時、電話の向こうから何かの爆発音が聞こえた。

「なに、今の?」
『わからない。近くで爆発が起こったようだが…危険人物が近づいてるのかもしれない。
 移動するから切らせてもらうぞ。』
「わかった。じゃあね。」
『あぁ、そっちも…』

プツン

通話終了を継げている画面を見つめて、由乃は考察を開始する。
今の電話でわかったことは、ユッキーの未来日記が他人の手にあること。
そしてその機能を相手が一部理解しているらしいことだ。
ミズシロはユッキーのケータイを「とても大事なもの」と表現した。この命のかかった状況で、ただの電話ならこんな言い回しはしない。
自分の未来日記同様、制限や機能に関しての何らかの注意書きが添えられているのかもしれない。あるいは制限が無く既に使えるのか…
だが、相手は多分未来日記のもう1つの重要な秘密には気づいていない。

73 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:09:33 ID:kSdBChBo0
トリ忘れ失礼しました。改めて

「待って。そっちも誰か探してる人間がいるなら、聞いておいてあげる。」
『…それはありがたいな。なら竹内理緒ってヤツに会ったら、俺が参加していること伝えてくれ。
 ついでに「落ち着いて、冷静に考えろ」と。』
「…そいつになら会った。競技場にいるから会いに行けば?」

嫌な名前を聞いた。こいつ、あの女の関係者なのか。

『…そうか。ありがとう。また会うようなことがあれば伝えてくれ。「安西」、お前は誰かに伝言はあるか?』

電話口の相手が黙る。同行者の伝言を聞いているのだろう。程なくして、答えが返ってきた。

『…それでいいんだな?じゃあ潤也、って名前の男に会ったら、伝えてくれ。
 「流されるな、考えろ」とな。』

その時、電話の向こうから何かの爆発音が聞こえた。

「なに、今の?」
『わからない。近くで爆発が起こったようだが…危険人物が近づいてるのかもしれない。
 移動するから切らせてもらうぞ。』
「わかった。じゃあね。」
『あぁ、そっちも…』

プツン

通話終了を継げている画面を見つめて、由乃は考察を開始する。
今の電話でわかったことは、ユッキーの未来日記が他人の手にあること。
そしてその機能を相手が一部理解しているらしいことだ。
ミズシロはユッキーのケータイを「とても大事なもの」と表現した。この命のかかった状況で、ただの電話ならこんな言い回しはしない。
自分の未来日記同様、制限や機能に関しての何らかの注意書きが添えられているのかもしれない。あるいは制限が無く既に使えるのか…
だが、相手は多分未来日記のもう1つの重要な秘密には気づいていない。

74 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:09:51 ID:kSdBChBo0

未来日記が壊されると、その持ち主も死んでしまうということ。

これが由乃にとって最大の心配事だった。
いくら自分がユッキーを守ろうと、未来日記が壊されたら彼は死んでしまう。それだけは絶対にダメだ。
すぐに奴らのいるという教会に向かうことも考えたが、場所が少し遠い。間に合わないだろう。合流を持ちかけても、時間がかかるのは間違いない。
なにより、最優先はユッキーとの合流だ。
幸いなのは、おそらく奴らはこの事実には気がついていないことだ。
相手の話しぶりや、ケータイの受け渡しではなくユッキーの捜索を優先したこと。
それらを総合的に考えて未来日記の能力はまだ使えないし、破壊=死の法則も気がついていない。
だから、大事に扱うように誘導すればユッキーの身に危険が及ぶ可能性は少ない。彼らの探し人を聞いたのは、その為だ。
彼らが少しでもこちらとの連絡手段を失いたくないと思うことで、ユッキーの未来日記の、つまりは彼自身の命の安全に繋がる。
それでも彼ら自身の安否などの不安は尽きないが、やはりユッキーとの直接の合流が優先だ。
由乃自身の未来日記が使えるようになれば、ユッキーの未来日記に迫る危険も自然と察知できる。そうすれば対処もしやすい。

75 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:10:23 ID:kSdBChBo0

とにかく、今はユッキーを探すんだ。そう思い、再び走り出そうとする。
そこでふと、何かにひきつけられるように向く方向を変えた。
その方向をじっと見つめて、呟く。

「ユッキー…」

理由なんて、考える必要すらない。ただ、その言葉で十分だった。
この方角に、彼はいる。
なんの確証も無かったが、彼女は迷わず方向転換し、走り出した。
どこかの『少女』が見たら言うだろう。

『恋する乙女の直感ですね☆』


【B-4/道路/一日目 深夜】

【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:雪輝日記@未来日記、降魔杵@封神演義
 [道具]:デイパック、基本支給品
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  1:ユッキーを探す。強力な武器の入手。
  2:ユッキーを見つけたらユッキーの未来日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  3:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  6:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※制限により、由乃の「雪輝日記」が使用可能になるのは彼女が次に天野雪輝と再会して以降。
   また能力自体に他の制限が掛かっている可能性も有り。
  ※電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。
  ※彼女がどの方角に走り出したかはお任せします。

76 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:11:10 ID:kSdBChBo0

    ◇     ◇     ◇

「とまぁ、こんな感じだろう。」

謎の爆発音を警戒して教会から離れる道中で聞いた鳴海歩の考察に、安藤は感心していた。
よくもまぁ、あれだけの電話でそこまで考えられるものだ。
歩が話した内容はざっとこんな感じである。

・言動などから考えて、相手は殺し合いも辞さないような考えを持っている。
少なくともユッキーという人物(おそらく天野雪輝)に対して執着とも言える強い感情を抱いている。

・こちらでした爆発音が、電話の向こうでは聞こえなかったし、相手も聞いていない。電話相手の現在地はそれなりに遠い。

・ただの電話に使った「とても大事なもの」という表現に何の反応も示さなかった。おそらく電話相手は未来日記について何らかの情報を持っている。

・「1st」や天野雪輝「の」未来日記という表現から、未来日記という道具が複数ある可能性がある。
上記のことと合わせて、電話相手が別の未来日記の所持者である可能性もある。

・相手がこちらの探し人を訪ねてきたのは、おそらくこちらとの繋がりを絶たないようにするため。
この未来日記はメリット以上にどうしても失うわけにはいかない理由があるらしい。

加えて、携帯電話の登録情報から相手の名前が「ユノ」というらしいことだけわかった。
名簿が無い以上確認しようが無いが、女性であることも間違いなさそうなので、多少は判断の材料になるだろう。

77 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:11:49 ID:kSdBChBo0
「彼女が危険人物であることは間違いないだろうが、天野雪輝までそうと判断するにはまだ早い。
 彼との接触の為にも、この携帯は手放すわけにはいかないな。多少のリスクは背負うが、それくらいしないと戦えそうにない。」

安藤もそこに異論は無かった。今の話からするとこの未来日記の信憑性はかなり高まる。
だとすれば、味方にできればとてつもなく頼れる力だ。

「しかし、鳴海。本当によくそれだけのことがわかるな。」

安藤の感心の言葉に、歩は照れもせずに返した。

「わかったわけじゃない。穴だらけの推論さ。それにアンタも十分頭は回ってるじゃないか。
 探し人の情報を聞いたとき、フルネームでなく名前だけ伝えた。遠まわしに危険も伝えてある。」

歩自身も理緒に混乱を与えない為に死人の名前を語り、落ち着いて考えろというメッセージを添えた。
安藤もそれにすぐ気がついて彼女に自分や知り合いが危険になるような情報は洩らさなかった。

「あぁ、苗字を伏せたのはそうだけど、メッセージはその、本当に伝えたかったんだ。
 いるかはわからないし、いないでほしいけど、もし潤也がいるなら…状況や周りに流されておかしな行動をとって欲しくない。」

安藤が伝言を託したのは唯一の肉親である弟、安藤潤也だった。
彼は自分と違って楽観的で、前向きな男だ。とてもこんな殺し合いに乗るとは思えない。
だが、人間心理の恐ろしさなどは、自分もよく知っている。
一人の人間の言葉が、別の人間の生き方を180度変えてしまうこともある。
そんなことになっていないことを祈るばかりだ。

78 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:12:14 ID:kSdBChBo0

「さて、これからどうするかな。理緒を探しに競技場に行ってもいいが、アイツも一箇所に長々と留まっているとは思えない。
移動中にユノと遭遇する危険性もある。できるだけ別の場所がいいだろう。
となると、人の集まりそうな病院がデパート…あるいは警察署か。近いところだと工場かな。なにか案はあるか?」

歩の質問に、安藤は少し考え込むと、1つの提案をしてきた。

「神社…はどうかな。最初の説明の時、ヤツら神がどうこう言ってたろ?かなり核心に近そうな所で。しかも「もういない」とか、「別の神」とか…。
 表現からすると一神教の神だ。そこへもってきて、会場の中央に神社がある。何か妙だと思う…」

やや自信なさげな安藤だったが、歩は真剣に考察する。

「面白い考えだな。その発想は無かった。やっぱりアンタも十分すごいよ。」

歩が顔を上げ、夜空を見上げながら続ける。

「このゲーム、殺し合いに乗っている強者なら人の多い場所に行くのが当然。あるいは武器の入手が優先だろう。
生き残りを求める弱者も同じ。道具の確保と人との接触が最優先。
それをしないでなんの関係も無い施設に行くやつは、よほどの馬鹿か殺し合いからの脱出を考えている奴の可能性が高い。そういう意味でも、神社は悪くないな。」

本来なら、弱者を救う為にそういった危険地帯に飛び込むべきなのかも知れない。一瞬そう考える。
歩も同じ事を考えたのだろう。

「生憎俺たちの手元には戦える武器も情報も無い。
本物なら唯一使えそうなこの『バラバラの実』ってのも、川や湖が点在して周囲を海に囲まれたこの会場で脱出を目指すなら、リスクが高すぎる。
なら、今は俺たちに出来ることをするのが一番だ。」

その言葉に安藤も頷き、方針が固まる。
今自分に出来ること…ちっぽけな自分になにが出来るかはわからないが、今はこの鳴海について行こう。
魔を断つ剣は、まだその役割に気がつくことなく刃を磨く。

79 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:12:36 ID:kSdBChBo0
【E-9/北部/1日目 深夜】

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:健康
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、バラバラの実@ONEPIECE 不明支給品×1(確認済み)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留
1:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
2:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
3:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 4:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 5:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい
 6:潤也が巻き込まれていないか心配。
[備考]
※ 第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です
※ 我妻由乃の声と下の名前を認識しました。警戒しています。
※ 無差別日記の効力を知りました。

【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記 不明支給品×1 (確認済み)
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
 1:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
 2:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
 3:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 4:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 5:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
 6:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
 ※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
 ※我妻由乃の声と下の名前を認識しました。警戒しています
 ※無差別日記の効力を知りました。

【無差別日記@未来日記】
1st天野雪輝の未来日記。
彼が見たもの、聞いたこと、あらゆる周囲の出来事の未来が書き込まれる。
あくまで傍観者である為、天野雪輝自身の未来は記録されない。
制限の為、使用するためには、一度本人の手元に渡る必要がある。
また、開放された後も本来の機能を有しているか、破壊されると持ち主が死亡するかもまだ不明。
他の連絡先などが記録されているかも不明。

【バラバラの実@ONEPIECE】
食べると体をバラバラにし、足を中心とした一定範囲内で操ることができる悪魔の実。その為斬撃は無効。また、食べると一生カナヅチとなる。
ただし、移動範囲やどの程度バラバラになれるかなどは制限されている可能性がある。
本来ならぶつ切り程度までバラバラになれる。作中では道化のバギーがその能力者。

80 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:14:52 ID:kSdBChBo0
以上です。
本スレに投下しなかったのは、以前チラっと話題になった無差別日記を他人に支給するのがOKかどうかが第一です。
あと、携帯で通話しちゃうのもありかとか…もちろん他にも指摘があったらお願いします。

81 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:26:26 ID:kSdBChBo0
タイトル忘れてた。「電波は電波にのって」です。

82 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:02:56 ID:kbP/GsaA0
仮投下お疲れ様です、この場を借りて感想を。

頭脳派コンビと由乃の歪みっぷりの対決、いやあ素晴らしいですw
雪輝は自分の命が見えないところで握られている事を知ったら気が気じゃないだろうなあ。
不幸中の幸いは無差別日記を手に入れたのがこの二人である事ですか。
しかし偽名は多分判断ミスだ、由乃は容赦がないぞー……w
ミズシロヤイバと安西が名簿にいないことを知ったときの反応がガクブルものですw


そして、自分も投下を。
アクセス規制に巻き込まれたのでこちらに投下します。
どなたか本スレに代理投下してくだされば幸いです。

83アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:06:21 ID:kbP/GsaA0
みんな! 元気にしてるかい?
大変なことになってるけど、それでもオレは相変わらず元気だぜ!

「うっわあ、参ったぞ! まさか転校早々にバトルロワイアルに巻き込まれるなんて!」

オレの名前は夢小路サトル、ハプスブルグ家の血を引く生粋の江戸っ子(元仏貴族)さ!
ワールドカップを目指すどこにでもいる男子高校生だけど、たくさんのライバルに囲まれて非日常な毎日を送ってる!
やれやれ、アンニュイ学園は地獄だぜ、フゥハハ〜!

「目指せ甲子園のスローガンでようやく不良のバドミントン部の人たちと応援団になれたってのに、すぐにこんな事になるなんて困った事だなぁ!
 はやく帰らないとユミコが家の前で素振りを続けているはずだ!
 北海道名産の『パンチラ』がタダで鑑賞し放題になってしまったら、相馬くんが『パンチ』ド『ラ』ンカーになってしまうに違いないぞ!
 ん? あれはなんだ!?」

「ゾッフィー! ゾフィ、ゾフィ、ゾッフィー!(ゲボッ)」

鳥のようなひょろ長い生命体が口から謎の汁を吐いている!

「とても気持ちの悪い生物! そうだ、ボールは友達、何でも試してみるのさ」

くらえ、シングルスカイラブハリケーンッ!
ッ、がポイントのスーパードリブルさ!

「ゾッフィ〜〜〜〜〜〜!」

直撃!
ん!? 何故かこっちに向かってキリモミ回転んをぉおぉおおお!

「ゾッフィ〜〜〜〜〜〜!」

ごっちーん!

「いててててて、失敗したなあ」
「ゾッフィー?(ゲボッ)ゾフィゾフィゾフィ!!」
「やあごめんごめん! 君も参加者だったのか! よし、お詫びにチームを組もう!」
「ゾフィ!」

そうしてオレたちはチームを組んだのさ!

「ゾフィ? ゾフィ……、ゾフィゾッフィ!」
「やはりスープーくんもそう思うのかい!?」
「ゾフィ〜〜〜、ゾフィ」
「その通り! ピンクの象は青い鳥だってオレは信じてる!」
「ゾフィ!(ゲボッ)」

出会ってすぐに百年来の親友より深い絆を築くオレ達!
自分の出会い運が恐ろしいぜ!

84アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:06:52 ID:kbP/GsaA0
「ゾ……ッフィ〜! ゾフィ!」
「ミックスベジタブルの豆がマズくて嫌いなのは分かった、だがオレは鯨カツの方が好きなんだ!」
「ゾフィ〜……!(ゲボッ)」 
「S県の煎餅の町も嫌い? オレは生協に組み込まれたくない!」
「うはー、もれには何言ってるかわかんねっす」
「ゾッフィー……」
「ドンマイさ!」

いつの間にか一人増えてるぞ、だがそれがいい!
友達たくさんで今日もハッピー×2ダンス!

「よし、みんなでオフサイドの練習だ!」
「ゾフィ!」
「よく分かんないけど、もれ神さまの為にがんばるっす!」
「結城くん結城くん結城くん結城くん結城くん……」

おっと、可愛い女の子もいつの間にか増えてるぞ!

「結城夏野くんはドコッ!? 教えてくれなきゃ血をひでぶっ!」

ぎゃあ! 女の子の頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えた優しそうなお兄さんが立っていた!

「危なかった、そいつは起き上がりなんだうわらば!」

ぎゃあ! お兄さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えた不気味なお兄さんが立っていた!

「あ、危なかったね、そいつは起き上がちにゃ!」

ぎゃあ! お兄さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えたダンディなお医者さんが立っていた!

「……危なかったな、そいつは起きばわ!」

ぎゃあ! お医者さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えたお坊さんが立っていた!

「間違えました、そいつは起き上がりではない」


そして世界は核の炎につつまれた!!!!!


【夢小路サトル@国立アンニュイ学園 死亡】
【四不象@異説・封神演義 死亡】
【シオ@W?qw?q 死亡】
【清水恵@屍鬼 最初から死亡済】
【武藤徹@屍鬼 最初から死亡済】
【村迫正雄@屍鬼 最初から死亡済】
【尾崎敏夫@屍鬼 死亡】
【室井静信@屍鬼 死亡】

85アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:07:39 ID:kbP/GsaA0
だが……人類は死滅していなかった!!

「NOォ――――――――ッ!」
「あぁ……っ、素晴らしい地獄絵図だわ大統領! さあテツ、貴方の灯火が輝く様を見せて頂戴……!」


【NO-13/上空・プラグマティズム艦橋/1日目 深夜】

【NO!と言える日本国大統領デューイ@サクラテツ対話篇】
[状態]:健康
[服装]:スーツ
[装備]:旗艦プラグマティズム@サクラテツ対話篇、大統領専用?ボタン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:NO!
1:NO!
2:NO!
3:NO!
4:NO!
5:NO!
6:NO!
[備考]:
※会場全域に核爆撃が敢行されました。放射能汚染が深刻です。

【出井富良兎@サクラテツ対話篇】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服にスカーフと帽子
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考]
基本:桜テツを観察する
1:大統領をけしかけてテツをいぢめる
[備考]:
※特になし

86カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:08:42 ID:kbP/GsaA0
***************



「うわぁぁぁ―――――――――ッ!?」


叫び声とともに、一人の男ががばりと身体を起こす。
男の髪の色は、黒。
鴉の様な、宵闇の様な黒の束の中に、金の流星が幾筋も光を放っている。

残滓とも呼べる黄金の髪の煌きは、人工の真白い光源に照らされて確かにその存在を主張していた。

「はぁッ、はぁ、はぁ、はぁッ、はぁ、はぁッ……」

話を始めよう。
一人の男(ガンマン)の話を。
そして思い出せ、その男の名を。その男の伝説を。

「はぁ〜〜〜〜〜〜……っ」

ヴァッシュ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード!

「な、なな、なんちゅう夢を見てるんだ僕は……」

――その首にかかった賞金額は『元』600億$$!
人類初の極地災害指定を受けて賞金こそ取り消されたものの、関わった事件は200を越え被害総額は20兆$$オーバー!
しかし、その正体を知る者はごく少ない。

彼は、彼こそは歴史の生き証人。
150年にも渡る長きにおいて、ただひたすらに愛と平和を謳い続けたヒトならざるヒト!

「……で、」

彼の人生は波乱に満ちている。
だが彼は決して信じる事を止めたりなどはしないのだ!
たった一人の兄と道を分かち、友を失い、それでもなお不殺を貫く柔らかな笑顔の青年は――――、」

「サッキカラドウシテ横デ人ノ事ペラペラ喋リマクッテルンデスカ、ソコノ人?」

「ハァーッ、ハハハハハハッ! ようやく目覚めたようだねヴァッシュくん!」

……ヴァッシュ・ザ・スタンピードは確信する。
倒れている自分のすぐ横で、こんな調子でずっと喚かれていたからこそあんな酷い夢見だったのだと。
よくよく見てみれば、自分の叫び声のすぐ直前からつい今しがたまでカギカッコで閉じられているではないか。
ラー、ラー、ラーと何処からともなく聞こえてくる豪華な音楽が嫌でも耳に入り込んでくるのは、もはや洗脳と言っても過言ではあるまい。

かつての自分の様な金の髪を持つ青年は、くどい顔を尚更くどく微笑ませて名乗りを上げる。

「僕の名は趙公明。麗しい名だろう? さあ、楽しく華やかに一時を過ごそうじゃあないかっ!」

87カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:09:31 ID:kbP/GsaA0
***************


――デパート2階、地上を臨むカッフェー。
ヴァッシュと趙公明はコーヒーを啜りながら、それぞれの現状を確認していく。
……いや、していきたいとヴァッシュが思っているだけという方が正しい。

「……で、趙公明。君はどうして僕の名前を知っていたのかな?」
「ノンノンノン、急ぐのは良くないな、ヴァッシュくん!
 もっとエレガントに、優美に話を進めていこうじゃないか」

こんな調子でかわされてばかりで、ずっと話が軌道に乗らないのだ。
はぐらかされているのだな、とヴァッシュは思うも敢えて口にはしない。
向こうから接触してきた以上何らかの目的があるはずだ。
少なくとも寝ている間に攻撃されなかったのは確かであり、敵意は無い、と信じたい。
警戒して相手のペースに呑まれない様にすることは怠らなかったが。

食えない男だ、とヴァッシュはひしひしと感じる。
今まで出会ったどんな人間とも異質な存在だ。
自身の兄やその狂信者レガート・ブルーサマーズと手足たるGUNG-HO-GUNS。
……命を散らしていった掛け替えのない戦友や、彼の遺した新たな仲間。
メリル・ストライフやミリィ・トンプソン、ブラドといったノーマンズランドのタフな住人達。
形こそ様々だが、彼らに感じていた何か――、敢えて近い言葉を捜すなら、必死さの様なものを何一つ感じない。

だからこそ、恐ろしい。

たくさんの出会いを思い出すに当たって、ヴァッシュの身体がほんの少しだけ震える。
本当なら今ここでこんな事をしている場合ではないのだ。
方舟――、いや、かつて方舟と呼ばれていたモノすら飲み込んだ、ミリオンズ・ナイブズがもうすぐ砂漠の星に残された最後の街にやってくるのだ。
自分の兄であり、自立種プラントであるナイブズが。
地球からの救いの船を人の目の前で滅ぼし、全てのプラントを吸い上げ去っていく為に。

止める、と、そう誓った。
だがその一方で、譲れない決意がある。

――今そこで人が死のうとしてる。僕にはその方が重い。

あの砂漠の星も、この殺し合いに巻き込まれた人々も。
そのどちらをも見捨てる事なんて出来はしない。
それが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードなのだ。

だからこそ、彼はこの無惨な殺し合いを止めようと心に刻む。
刻み、その為に真剣という言葉すら陳腐に思わせる瞳で趙公明をじぃ、と見つめた。

「僕は――、」
「OK、OKヴァッシュくん! 皆まで言わずとも君のハートフルな想いはよぅく伝わってくるよ!
 非常に心残りだけど、二人きりのお茶会はここまでにして本題に入ろうか」

告げると、趙公明は懐に手を伸ばし、一つのものを取り出す。
鈍く光る黒金の塊、それは――、

88カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:10:19 ID:kbP/GsaA0
「……ッ、俺の、銃……ッ!」

「フフ……、君と出会う前に話した男から譲り受けたのさ」

手に慣れた銃とその弾丸が、趙公明の手の上で踊っている。

「……交換条件か? 何が望みなんだ」

ごくり、とヴァッシュは唾を飲み込む。
あれがあるなら、確かに非常に心強い。
……だが、果たしてそれを聞いていいものか。
真意も何も読めない男の言動に迷わされはしないのか。
どうする、の四文字が何度も何度も浮かんでは消え――――、

「はーッはははは! 心配はご無用さ、ヴァッシュくん!」
「……はい?」

ずっこけた。
何と、あろうことかあまりにも無造作に趙公明は銃と弾丸を机の上に放り出したのだ。

「……えーと」

引きつった顔でヴァッシュは趙孔明を見るも、胡散臭い笑いとともに彼は自分の方を見るのみだ。

「何か仕掛けてあるんじゃないかという顔だねヴァッシュくん!
 よろしい、煮るなり焼くなり好きにいじって確認してみたまえ!」
「は、はぁ……」

訳の分からない展開に頭がついていけないまま、それでもこそこそと店の奥にブツを運んで色々と確かめてみる。
――まったく問題ない、愛用の銃そのままだ。
暴発しかねない危険性も感じられない。

うん、と頷き、距離を保ったまま改めてヴァッシュは趙公明を見定める。

「……あらためて言おうか。何が目的だ」

確認の間のわずかな時間。
ほんのそれだけで、趙公明の身を包む空気が一変している。
ヴァッシュの直感が告げている。
今からここは、戦場となる。

「……フフ」

笑う。陰惨さも卑近さも何もなく、ただ華麗に壮麗に、変わらぬ口調で。
それ故に――、何より傲慢に。

「フフ、ハハハハ、ハハハハッ! ハァーッハハハハハハハハッ!」

趙公明は高笑う。
それが、彼なのだから。

89カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:10:51 ID:kbP/GsaA0
「トレビアーン……、素晴らしいよヴァッシュくん!
 カノンくんの時と同じ様式美で君を彩ろうと思ったのに、それすらさせてもらえないなんてね!
 いいだろう、最初からクライマックスでお相手しよう!
 君相手に手加減は――――、」

趙公明の周囲に、無数の黒球が浮かび上がる。

「失礼というものだ!」

ボコリボコリと泡立つような音を立てて、粘つくように黒球が互いに繋がりあっては離れていく。

「……それは!」

――ヴァッシュはその道具に覚えがある。何を隠そう、それがヴァッシュをしばらく眠らせた原因なのだ。
ヴァッシュが倒れていたのは此処に連れてこられた時の事が原因ではない。
支給されたこの黒い球に触れていたら、いつの間にか意識がトんでいたのが実情だった。
この道具の名前は、そう。

「――――盤古幡。僕の宿敵、元始天尊くんの持つスーパー宝貝さ!」

ビリビリと空間そのものが震える印象すら受ける。
掛け値無しに、ヤバいとヴァッシュは直感した。せざるを得ないほどに、危険な代物なのだ。

「ひ、卑怯だぞ……! 俺が眠ってる間に勝手に持ち出すなんて、それこそ優美とは程遠いんじゃないか!?」

虚勢を張り、言葉で相手の弱い所を突こうとするも、趙公明にそれは通じない。
最初から話を聞くつもりなどないといった方が正確だろう。

「フフフ、残念だったね! 僕は実は悪の貴公子、ブラック趙公明だったのさ!」
「な、なんだって――!」

バサリ、とマントを翻し、その一瞬で趙公明が黒に染まる。染まっただけではあるのだが。
いかんいかんと相手にペースを握られている事を自覚したヴァッシュは敢えてそれ以上ツッコまない。
少しだけ寂しそうな趙孔明を無視し、事態を見据える為に、ぎゅう、と愛銃を握る手に力を込める。
対する趙公明もまた、即座に笑みを取り戻し講釈を垂れ流す。

「本来僕は宝貝を持たない相手に宝貝を使う信条を持ち合わせてはいないのだけどね。
 今回みたいな催しにおいてはまた事情が別さ!
 ……何故ならヴァッシュくん、君のような、宝貝を使わずとも宝貝以上のチカラを持ち合わせる存在が闊歩しているのだから!
 そうした優れた存在に僕は敬意を払う! 敬意を払って、僕の全力をお見せしてあげよう。それが今の僕の役割でもある。
 もちろん特殊なチカラを持っていない存在に対しては話が別だけどね」
「……やだなあ、僕は普通の人間だよ?」
「嘘はいけないよ、ヴァッシュくん。さあ、美しい闘争をしようじゃないか!」

……やはり、と言うべきか。
この趙孔明は、『何故か』こちらの事についてよく知っている。知りすぎている。
もしや……、と何か嫌な予感が頭を掠めたが、今はそれどころではない。

趙公明は既に動き出している。
あまりにも重過ぎる絶望が振り被られた。

「出し惜しみ無しで行こう! 重力百倍、アン・ドゥー・トロワ!」

趙公明の覇の声が、周囲に響き渡る。

90カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:11:29 ID:kbP/GsaA0
だが、それだけだ。

張り詰めに張り詰めた威圧が、その瞬間消滅した。
沈黙が満ち満ちる。
何一つ、何一つとして変化はない。

「……何だって?」

――否。
たった一つ、たった一人だけ、動きを終えた者がいた。
真紅のコートに金と黒の髪。

いつの間にかヴァッシュ・ザ・スタンピードが銃を抜いていた。
趙公明にすらその瞬間が理解できない、神速を更に超えた速度。
銃口から既に立ち昇っている煙が示すのは知覚外の抜き撃ち。

ようやく、銃声が趙公明の耳に届く。

成程、数多の仙人、十天君さえ下す金鰲最強の一角であろうとも出し抜く銃の腕は認めよう。
慣れない武器の扱いに手間取った事も確かだ。

……だが。
ただの銃の一発で、スーパー宝貝が何故無力化される?

「……ハハ、ヴァッシュくん。一体……、キミは何をしたのかな?」

焦りとともにある問いに対し、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは不敵に笑う。
チッチッチ、と指を振り、銃口の煙に息を吹きかける。

「ひみつ。暴れるのやめたら教えてやるよ」

ゆらりと落ち着いた佇まいで、くるくると銃を廻しホルスターに収めた。
いつでもそれを抜ける体勢のまま、趙公明を睨みつける。

対する趙公明は苦笑を隠す事無く、それ以上の表情で顔を塗り潰した。
即ち――、歓喜。

「ハ、ハハッ! ハハハハハハハハッ!
 アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

両腕を天に掲げ、静かに窓際へと歩いていく。
身体に盤古幡を纏わせたまま遠ざかる趙公明に、ヴァッシュは最早警戒を隠さない。

「……何をしたのかはわからないけど、どうやら僕が不利そうだってのは何となく分かる。
 だからとりあえず一旦撤退させてもらうとしよう!」
「……逃げられると思ってるのかい?」

じり、とヴァッシュは摺り足で間合いを詰める。
頭の中に警報が鳴っているのだ、この男を取り逃がしてはいけないと。
殺しはしないが、縄で縛るなり何なりしておかねば甚大な被害が出る、確実に。
それを許す事など出来はしない。

91カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:12:05 ID:kbP/GsaA0
聞いているのかいないのか。
趙公明は芝居がかった動きで頭を押さえ、もう片方の手でヴァッシュに向けて五指を突き出す。

「ストーップ、勘違いはよしてくれたまえヴァッシュくん。
 僕は逃げる訳じゃあないさ、キミの様な素晴らしき好敵手と巡り合えたのにそんな事をする筈がないだろう?
 ……キミは、期待を超えすぎていたんだよ。
 やはりメインディッシュは最後にとっておくべきだ!
 今ここでキミを殺してしまっては、せっかくの殺し合いなのに今後満足を得られなくなってしまうに違いない!
 キミと殺り合うのは――、そう! エクセレントなシチュエーション、物語のフィナーレこそが相応しい……!」

ああ、とヴァッシュは嘆息する。
話し合いの余地は、どうやら全く無さそうだ。

「オー・ルヴォワール、ヴァッシュくん! それでは僕は麗しく脱出させてもらおう!」

言葉と同時。
デパートの階下から爆発音が轟いた。
地面が揺れ、ほんの一瞬だけヴァッシュの姿勢が崩れる。

「!?」

焦げ臭さを認識すると同時、ヴァッシュはすぐに新たに趙公明のいた場所に注意を傾ける。
だが、それは既に意味がない。
一瞬、ほんの一瞬で十分だったのだ。

「ハーッ、ハハハハハハッ!」

何処からともなく、高笑いが響き渡る。
趙公明の姿は最早何処にもない。

ただ、漫画のように人の形に穴の開けた硝子窓がその痕跡を語るのみだ。

「…………」

ふう、と一息をつき、ヴァッシュはその場に座り込む。

「参ったな」

――どうにか、助かった。
もちろん趙公明を逃したくなどなかったが、何の準備もしていない状況ではどうにか一発を凌いでハッタリに頼るのが精一杯だった。
もしかしたら趙公明もそれを分かっていて、だからこそ今は退却したのかもしれない。
生粋の戦闘狂であるなら十分あり得る選択肢だ。

92カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:12:40 ID:kbP/GsaA0
「本当に、参ったな」

趙公明に渡された己の銃を確認するその時間。
その時に1発だけ、銃弾にエンジェル・アームの力を込めておかなければどうなっていた事か。
重力場の発生する出掛かりに対し、その領域が拡大する前にプラントの力で相殺する。
本来は対ナイブズの為に考えていた戦法だが、ぶっつけ本番で成功したのは何よりだ。

今すぐにでも趙公明を追いたい所だが、無闇に追っても何処に行ったか検討もつかない。
あの口調からして、後々自分を狙ってくるというのが分かっているのだけでも行幸だろう。

「……どうか、誰も死なないでくれよ……!」


――――応える声は、何処にもない。


【I-07/デパート2Fバルコニー/1日目 黎明】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(5/6うちAA弾0/5(予備弾24うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
2:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
3:先刻のデパート階下の爆発音が気になる。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。


***************


デパートからは東に当たる街道上。
丁度、地図上ではIの07〜08の境目に当たるその場所で。

趙公明は、ワクワクしていた。
ワクワクしながら夜空を見つめ、悦に浸っていた。

この歓びを誰かと分かち合いたい――その感情のままにゆっくりと振り向き、虚空の如き暗闇に向かって呼びかける。

「コングラチュレイション――、ヴァッシュくんは実にコングラチュレイションだ。
 そう思わないかな? キンブリーくん!」

その声に応え、まるで黒い水が染み出るようにゆらりと漆黒が形を持った。
……紅蓮の錬金術師、キンブリー。

「やれやれ、全く以って度し難い酔漢ですねぇ、貴方も」

まあ、私も人の事は言えませんがね、と続けてキンブリーは趙公明に並ぶ。
この男の趣味に付き合って、華麗な脱出とやらを演出してやったのだから。

93カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:13:26 ID:kbP/GsaA0
「……彼、私の存在に気付いてましたね。いやあ、素晴らしい人材(じっけんざいりょう)です。
 そして貴方のその道具を完全に相殺した謎の力――、あのまま殺さなくてよかったですよ。
 何より素晴らしいのが、決して人を殺そうとしないあの態度。
 この戦場の中、どんな風に動いてくれるのか実に楽しみです」

――盤古幡を手にして気を失ったヴァッシュ。
それを最初に見つけたのは、他でもないこのキンブリーだった。
デパートの探索を始めてまもなく、満ちに倒れ伏しているヴァッシュを発見したのだ。
どう扱うか逡巡する間にこの趙公明が声をかけてきたため、ひとまず彼にヴァッシュの処遇を一任する事にしたのだが。
……いずれにせよ拾った銃一つを失っただけの取引としては非常に上々だったろう。
何せ――、

「さて。これから貴方はどう動くおつもりですか?
 『この殺し合いを開いた“神”の手の一人』としては」

趙公明はただ朗らかに微笑を返す。

「ノンノンノン、もっと洒落た呼び名で呼んで欲しいのだけどね。
 そうだな。カードの鬼札にちなんで、ジョーカー、なんてどうだろう!」

このゲームを開いた者たちが、殺し合いを促進する為に仕込んだ触媒。
艶やかに咲き誇る食虫花こそがこの催しにおける趙公明の役割。

彼はそれを隠すつもりもなく、出会って早々にキンブリーはこの男に協力する事を心に決めた。

「やる事はシンプルさ、僕が楽しみながらこの殺し合いを掻き回す。
 いや、掻き回しながら僕が楽しむ、の方が正しいかな?
 別に僕は彼らの走狗になったつもりはないのだからね!」

――情報を聞き出そうとしたものの、趙公明はそれについては答えはしない。
何でも今話したら殺し合いが面白くなくなる、との事で、キンブリーもそれには同意せざるを得なかった。
まあ特に急ぐ事もないので今追及するのは止めておこう。
キンブリーは確信している。
この男は、必要になれば自ずからベラベラと“神”の陣営について話し出す事だろう。
その『必要』が趙公明の価値観に則ってのものであるのが多少厄介だが、この男は性質上自己顕示せざるを得ないに違いないのだから。
そう、情報を得るならただ待ってさえいればいいのだ。

「ハハハハハハッ、ハァーッハハハハハ!」

――おそらくはこの男のそんな悪癖を知っていて、それでも敢えて自らの手駒として使う。
姿も見えぬ『神』に僅かに身体を震わせて、それでもキンブリーの表情に陰りはない。
さて、色々楽しくなりそうだ。

ニィィ……、と、紅蓮の錬金術師の片頬が静かに歪む。
趙公明とは似ても似つかない笑みの形。
両者に共通するのは、月の光に禍々しく映える事だけ――――。

94カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:13:53 ID:kbP/GsaA0
【I-07〜08境目/街道/1日目 黎明】

【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。


【盤古幡@封神演技】
元始天尊、竜吉公主、燃橙道人と次々に持ち主を変えたスーパー宝貝の一つ。
重力を操る機能を持ち、(封神台も起動させた状態の)元始天尊で1000倍、燃橙道人で1万倍まで重力を操作可能。
最大出力ならばブラックホールまで作り出すことを可能とするが、本ロワではその機能がどの程度まで制限されているかは不明。

95 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:15:24 ID:kbP/GsaA0
以上、投下終了。やり過ぎた気もするけれど後悔はしていない。
富良兎はマジメにジャンプ漫画最高のヒロインだと思います。

96名無しさん:2009/04/25(土) 13:48:51 ID:5m6wNXVw0
さるさんなので誰か代わりに投稿願います

97名無しさん:2009/04/25(土) 13:59:01 ID:5m6wNXVw0
とりあえず感想を

最初の部分を見た時は荒らしのSSだと思ったが夢落ちかよw
そして人間台風が珍しく真価は見せた場面ですがロワで誰も死なないは無理なんだよな・・・・
ニコ兄死亡から来たのならニコ兄はいると知った時はどういう行動をするか
そして趙はお前ジョーカーかよと言いたくなったがこいつの性格ならさもありなんw
そしてキンブリーは悪趣味全開だな。確かにこいつならこうするだろうがキンブリーに魅入られるなんて災難だなw
一筋縄ではいかない展開で先が楽しみです

98 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 14:37:43 ID:kbP/GsaA0
この場を借りて。
仮投下及び感想、ありがとうございました。

◆lDtTkFh3nc氏の作品ですが、自分は問題ないと思うので移してかまわないに一票です。

99 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:55:48 ID:uz5PWvZk0
あっさりとさるさん食らったのでこちらにorz

100 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:56:14 ID:uz5PWvZk0
みるみるうちに弾丸の軌道がマシン番長へと近づいていた。

「……0.002秒」

マシン番長の足元を追うように土が瞬く間にえぐられていく。

「……0.17秒」

舞い上がる砂埃を気にも留めずにブツブツと呟きながら走り続けるマシン番長。

「さっきから何ブツブツ抜かしとるんじゃ!」
「体温……ヤヤ高メ、呼吸……大キク乱レアリ、カナリノ興奮状態ト推測」
「ああ? そりゃそうや! お前をぶっ壊したろうとアドレナリン出まくっとるからのう!」
「速度収集完了。視因可能ナ全データノ収集終了。現状ノ勝率100%……問題ナシ」

突如、横へと走る一方だったマシン番長が縦へ……すなわちウルフウッドへと急転換する。

「100%とは舐めた事言ってくれるやないけ!」

ウルフウッドも迎え撃つようにバニッシャーを構えなおす。
弾丸の雨を止ませると同時に大きく左へ地を蹴り、空中で再び引き金を絞った。
だがマシン番長も負けてはいない。
蛇行しながら一瞬で間合いをつめ、着地寸前のウルフウッドの背後へと回りこむ。
不快な異音と共にマシン番長の右腕が回転し始めた。

(あかん!)

本能的にウルフウッドは身体を捻っていた。
今までウルフウッドの身体が存在した空間をマシン番長の手刀が通り抜ける。
手に持ったバニッシャーをマシン番長へと叩き付けると、同時にマシン番長の左腕が空間を薙ぎ払う様にウルフウッド目掛けて回され激しくぶつかり合った。
両者の間に激しく火花が散り、反動でお互いの身体が大きくはじかれる。

ウルフウッドは宙を舞いながらもバニッシャーの引き金を絞り
マシン番長も飛ばされながら左腕で地面を掴み、大きく跳ねながら右腕を構える。
学ランを少し吹き飛ばされながらもウルフウッドへとめがけ再び放たれる右腕――ライトニング・フィスト。

「ちいっ!」

眼前に迫り来る拳。
バニッシャーを盾に防ごうと今度は金属音が響くことは無かった。
予想と反し寸前で拳が開かれバニッシャーの銃身を掴むマシン番長の右腕。

「奪い取りにきおったか!」

反射的にウルフウッドがバニッシャーを強く握り締めたその瞬間――ウルフウッドの全身に猛烈な痺れと痛みが襲いかかっていた。
マシン番長の掌から流れ出る200万Vの高圧電流がウルフウッドの全身を覆い尽くす。
間髪入れずに伸ばした腕を巻き取りながら加速するマシン番長。

「『クライシス・キャノン』」

101 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:56:57 ID:uz5PWvZk0

抗うことも出来ずに絶叫を吐き出すウルフウッドの鳩尾に、マシン番長の両膝がめり込んでいた。
身体をくの字に曲げ、ウルフウッドの身体が宙を舞った。

「ゴフッ……」

後ろに聳え立っていた一本の木へと一直線に叩き付けられその衝撃に大きく咳き込む。
意識が飛びそうになるのをかろうじて堪えたものの、戦況は圧倒的にウルフウッドに不利だった。

(ドリルに電気にブースターかい……やりたい放題やなほんま……)

全身がバラバラになりそうな痛みに襲われる。
ゆっくりと立ち上がろうとするも膝が笑って思うように立つことが出来ない。
それでも一切表情を変えることなく近づいてくるマシン番長に対して必死に銃口を向ける。

「諦メロ。ソノ損傷率デハモウ逃ゲルコトモ不可能ダ」

最終通告とも言えるマシン番長の言葉。
だが当のウルフウッドは意にも返さずと言わんばかりに不適に笑っていた。

「何故笑ッテイル。ヤハリ俺ニハオ前ノ行動ガ理解不可能ダ」
「さっきも言ったやろ……機械風情に理解ってもらおうなんて思っとらんわ!」
「……コレ以上オ前トノ会話ニ得ラレル情報ハ無シト判断。コレデ終ワリニスル」
「上等じゃ! ワイもオンドレの顔なんかこれ以上見とう無いわい!」

震える膝を殴りながら自身を奮い立たせるように雄叫びを上げながらウルフウッドが立ち上がる。
そしてバニッシャーを構え、合わせる様に突き出されるマシン番長の拳。
時が止まったかのように静まり返る。
時間にしてみればほんの一瞬しか存在しなかった空間が、一陣の風が吹き、木々が小さくざわめくのを合図に消滅した。

ウルフウッドの指先に力が入るのを見るや否や、マシン番長の姿が掻き消える。
木々を盾にするように移動するマシン番長。
彼の通った後の木々が銃弾に煽られ、木の葉を舞い散らせながら次々と倒れていく。
打って変わって鳴り響く轟音。
降り注ぐ銃弾の嵐。
それをバックミュージックにウルフウッドの拳が、蹴りが。そしてマシン番長の拳が、蹴りがダンスのように交錯し合う。

近づいては離れ、そしてまた離れては近づく。
その都度繰り出される攻撃にお互いが決定打を与えれない。
だが痛みも疲れも感じないマシン番長とは裏腹に、ウルフウッドの身体には確実に疲労とダメージが蓄積されていた。

そしていつの世も終わりが来るのは突然で――決着の時は訪れる。

距離を取ろうとウルフウッドが地を蹴り、空中に飛び上がりながらパニッシャーの狙いを定める。
……だが。

「ちいっ……玉切れかいっ」

今まで絶え間なく降り注ぎ続けた銃弾の雨がピタリとやみ、その言葉に瞬時にして反応して伸ばされた『ライトニング・フィスト』
ウルフウッドはその反応に小さく口元を歪ませ――あろう事かバニッシャーを手放した。

102 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:57:38 ID:uz5PWvZk0


☆    ☆    ☆    ☆    ☆


自分の武器を手放したウルフウッドに疑問を感じるマシン番長。
だが、それについて計算し終わる頃には決着はついている。
何故なら自分の計算ではこの右腕が伸ばしきられれば全てが終わるのだから。
先程防御された分の誤差も含めたスピードで繰り出したライトニング・フィストだ。
計測したデータに間違いは無い。
ウルフウッドが指先に力を込めてから引き金を絞るまでの時間。
弾丸が発射されてから自分へ到達するまでの時間。
咄嗟での切り返しの速度。
その他視てきた全てのデータを総合しても絶対に交わすことは不可能だ。
さらには相手の武器は弾切れ。
この状態からの反撃の要素が無い。
だから彼は計算するのを止め、目の前の障害を排除する点のみに切り替えた。

「なんてな」

……それが誤算。
人間の言う所の油断と言う奴だ。
彼自身は油断などしたつもりは無いだろう。
ただ自分が勝つために何をするのが効率が良いのかを考えた結果だ。
彼がコンピュータであるが故の、経験と言うものを知らなかったため起きた結果だ。
もし計算をし続けていればウルフウッドの狙いが何かわかったのかもしれない。
だが止めた。

ウルフウッドの経験はコンピュータの計算を上回ったのだ。

バニッシャーでガードしようとすれば掴まれてまた電撃が来る。
かと言って防がなければ致命傷になりかねない。
ならば方法は一つ。
バニッシャーで防ぎつつ電流を流されないように仕向ければいい。
全身を縮めると、足の裏がこれから拳が来るであろうコースへと置かれる。
そして彼の両足と右拳が重なる瞬間、その空間に投げ捨てたはずのバニッシャーが現れていた。

「ナニ?」

マシン番長が気づいた時にはすでに彼の右腕はバニッシャーへと当たり、挟み込むようにウルフウッドの足が反対側から蹴りつけられる。
響き渡る重厚な金属音。
同時にウルフウッドの両足に激痛が走る。

(こりゃイっちまったようやな……しゃーない……かっ!)

反動を利用し宙を回りながら浮かんだままのバニッシャーを掴む。
マスター・Cのバニッシャーにつけられた切り札とも言っては過言ではないだろう。
普通の人間が振り回すには余りにも重いパニッシャー。
殴りつけただけでもただではすまない凶器となりうるそれの銃身を覆った部分そのものが弾となり一直線に射出された。

103 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:58:12 ID:uz5PWvZk0

「ナンダトッ」

マシン番長は咄嗟に残った左腕を前に出しガードの構えを出すものの、銃身は左腕ごと彼の身体を大きく吹き飛ばして行った。

「おまけや!」

残された細身の銃身から再び放たれる銃弾。
ウルフウッド渾身のブラフが、マシン番長の身体へと吸い込まれていった。



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



激痛に受身を取ることも出来ず、マシンウッドの身体は地面へと叩き付けられた。

「ごっ……」

衝撃に思わず噎せ返る。

「ったくポンコツのクセに調子に乗りくさりおって、ほんだらぁ」

粉塵で周囲がよく見えないが何かが動く様子は無い。
さすがにこれで終わらなければ今の身体の状況では手詰まりだった。
だが一向に変化が無いことに安堵し、脱力感に襲われ大きく息を吐く。
口元からこぼれる血を乱暴にぬぐいながら先程逃がした少年の姿が思い出されていた。

「あいつ無事やろうなあ」

逃がすためとは言え少々強引な手段をとったことは否めない。
今みたいな奴が他にも居ないとも限らないのだから。
丸腰の身体で同じようなことになったらひとたまりも無いだろう。
それにあの性格だ。一人逃げたことを悔やんでいるかもしれない。

「さっさと追いついて安心させてやるかいな」

新八の逃げた方角に目を見やる。
今から全力で追いかければ自分の脚力ながら追いつけるはずだ。
そう考え立ち上がろうと力を込めるが、足に激痛が走り力が入らない。

「やっぱイっとったかいな……」

軽く触ってみる……が、やはり激痛が走る。
両足の骨が折れているのは間違いなかった。

「あっちゃ……こりゃしばらくは動けへんか」

104 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:58:43 ID:uz5PWvZk0

再生速度がどのくらい落ちているかはわからないがここでしばらく足止めを食らうのは間違いないようだ。
こうなると名も知らぬ少年の事はもう神様にでも祈るしかしょうがなかった。

「けったクソ悪い神なんやろうけどな」

自分達をこんな場所に呼んだ者に祈るのもおかしな話か、とウルフウッドは苦笑する。
強く風が吹き始め、無事だった木々が大きく揺れる。
覆っていた粉塵がようやく晴れ、視界がようやく見渡せるようになって来た。

(……んなアホな)

パニッシャーは直撃した。
終わったはずだ。
ウルフウッドの目が驚愕に見開かれる。
粉塵が完全に晴れた地には、辺りかまわず抉られた地面と、そして左腕を無くしたマシン番長が立ち竦んでいたのだから。

「損害状況32%確認。損害ニオケル影響微々。対象排除ヘノ影響――問題ナシ」

言うや否やマシン番長がウルフウッドへと間合いをつめる。
パニッシャーを探す――が先程の激突でどこに飛ばされたのか、見当たらない。

(ちいっ!)

足を引きずりながらも交わそうとするが、一歩遅かった。
残った右手でウルフウッドの頭を持ち上げるとギリギリと握り締める。

「ぅが……」

締め付けられる痛みに襲われながらも、ウルフウッドは右拳をマシン番長へと叩き付ける。
不十分な体勢からの拳に、何の力も入らなかったのは別っていた。
それでも何度も、何度も、何度も繰り返す。

「無駄ダ、モウ終ワル」

締め付けられる力が強まり、全身から力が抜ける。
嗚咽すら出せないし、意識も遠くなってきた。

(終わる時はこんなあっさりなんなんか……)

白みがかる視界にゆっくりと目を閉じようとした。
刹那、ドンっと自分の頭に広がる振動。
潰されたものではない。
そうだとすれば最早こんなことを考えていられるはずも無いだろう。
そして頭から圧迫感が無くなりそのまま地面へと落とされた。

揺れる頭を抑えながらウルフウッドは思わず目を開け……そして叫んだ。

「なんで戻って来たんやっ!!」

105 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:59:40 ID:uz5PWvZk0

今まで自分を掴んでいたマシン番長の右腕。
それは大空へと向けて仰ぐようにまっすぐと伸ばされていた。
だが、その伸ばされた腕に掴まれ抱えられていた一人の少年の姿。
見覚えのあるその姿は今しがた別れた少年、新八の身体。
両手で抱えた大きな石がドサリと地面へと落ちる。
先程の衝撃はこれでマシン番長を殴りつけでもしたためか……ウルフウッドはそう推測しながらも理解出来ない新八の行動に毒づいていた。

「クソガキが……逃げろ言うたやないか……あんなんでわいを助けに来たつもりか? 大馬鹿やでホンマ」
「マッタクダ、オ前ノ行動モ全ク理解出来ナイ」

問われた新八はと言うと、罰が悪そうにウルフウッドから視線をそらし

「逃げましたよ、全力で……。
 怖くて……助けてもらって……逃げて……」

ボソッと呟くと一転、抱えながら不思議そうに呟いたマシン番長を鋭く睨み付ける。

「でもそんなんじゃ姉さんに怒られるって事に気づいたんです。
 こんな情けない姿を見せるために僕は万事屋に入ったんじゃない。
 あの人に少しでも追いつきたかった! 彼のような侍になりたかった!」
「……オ前ノ回答ハ理由ニナッテイナイ。理解不能」

新八の言葉にメモリー内で何かが暴れだす感覚を受けた。

「うるさい! ここで逃げたら命は助かっても僕の魂は死ぬって事に気づいたんだよ!」
「命……魂……同意義。死……生命活動ノ停止。統合性……0。理解不能理解不能」

そのままガタガタとマシン番長の身体が痙攣する。
いきなりの挙動に暴れていた身体を休め、マシン番長の姿を覗き込んだ……瞬間。

「……大量ノ不安因子発生……可能性ヲ排除スル」

ギロリと新八を睨み付け、同時に新八の身体が開放される。
重力のままに地面へと落ちる新八の身体。
だが彼の身体は地面に付く事も無く、回転されたマシン番長の右腕が新八の腹を突き破っていた。

「ガキイイイィィィッ!!」

スローモーション再生のように真っ赤な鮮血が周囲に飛び散る。
目の前の光景にウルフウッドの絶叫が響き渡った。
同時にマシン番長は腕を振り払い、新八の身体をウルフウッドへと叩き付ける。
衝撃に二人の呻き声が重なり、開いた目に飛び込んだ新八の姿。
一目で致命傷なのがわかった。

咽返り、口から血反吐を吐きながらも新八の目は強く光っていた。
ウルフウッドの胸倉を強く強く掴みながら、新八は謝罪の言葉を告げる。

「僕が最初っから逃げずに戦っていればこんなことにはならなかったかもしれないですよね……」
 本当に……ごめんなさい……」

106 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:00:24 ID:uz5PWvZk0

耳に届いた新八の言葉に二の句も出ない。
自分に対して恨み言を言うわけでもなく、紛れもなく訪れている死の恐怖に怯えるわけでもなく、
出てきたのは自分の不甲斐無さを恥じる言葉。

そこでようやく自分が新八を助けようと取った行動が、結果彼の信念を殺す道だった事に気づいた。
恐怖と戦い、自分の弱さに絶望しながらも新八はそれに抗い、戦う道を選び戻ってきた。
それを否定することは彼への侮辱だとウルフウッドは悟った。

「……おいガキ、そういやお前の名前聞いとらへんかったな。……聞かしいや」
「……え?」
「名前や、名前」
「……志村……新八です」
「そうか……なあ新八。すまんがわいには侍ちゅうのがなんなのかようわからん。けどやな、少なくともお前が目指してるもんにはなれてると思うで」

その言葉に新八は目を見開きながら驚いた表情を見せ、薄く微笑む。
同時に彼の身体から力が抜けていったのがわかった。

そして――

一切の表情の変化を見せず二人を観察していたマシン番長が歩を進め、ウルフウッドを見下ろすように立ち止まった。

「オ前ニハ今ノ言葉ノ意味ガ理解ッタノカ?」
「当然やろ」
「何故ダ。私ノデータベースニ一切該当シナイ」
「説明したところで機械風情に理解るわけあらへんわ。もっとも説明する気もさらさら無いけどな」
「……ソウカ。ヤハリオ前トノ会話ハ時間ノロスト判断スル」
「ああそうしとき。せやかてワイももう動けそうにない。好きにしたらええわ」

新八を貫いた手刀が同じようにウルフウッドの身体へと迫る。
逃げようにも自分の意思ではピクリとも動かない身体。

(トンガリ……お前ならどうしたんやろな、ああ言う場合)

鈍い衝撃と共にマシン番長の手刀がウルフウッドの胸を貫いていた。
胸を貫かれた衝撃に全身を震わせながら彼は思う。
自分と正反対だった青年のことを。

(まあ今更考えてもしゃああらへんか……先に行っとる。お前はしばらく来るんやないで……)

その思考を最後にウルフウッドの意識は闇に落ちていった……。


☆    ☆    ☆    ☆    ☆

107 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:00:44 ID:uz5PWvZk0

「対象沈黙生体反応0――任務継続……可能」
このまま続けるのに支障は無いものの、左腕の損傷がやはり気になる。
どこか修理出来そうなところがあれば良いのだが、そう判断した彼は地図を取り出し開く。
「データベース照合……研究所……該当」

二人に背を向けると彼は歩き出した。
任務を遂行するために、目的はただそれだけ。
一刻も早くこのノイズを取り除かなくては。

「死トハ何だ? 生体反応ガ停止スル以外ニ何カ意味ガアルノカ?」

夜空を見上げボソリと呟きながら闇に消えるマシン番長。
彼はまだ気づいていない。
死の間際の二人のやり取りを見てノイズが以前より強くなっていることを……。




【I-4/中心部/黎明】
 【マシン番長@金剛番長】
 [状態]:左腕損失 メモリー内にノイズ
 [装備]:
 [道具]:不明支給品1〜2(未確認)基本支給品一式
 [思考]
  1:殺し合いに勝ち残り脱出。Dr.鍵宮の指令を遂行する
  2:研究所へと向かう
 [備考]
  ※参戦時期は四番長(居合、卑怯、剛力、念仏)殺害後、Dr.鍵宮の指示で月美の部屋に行くまでの途中。


☆    ☆    ☆    ☆    ☆

108 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:01:16 ID:uz5PWvZk0

マシン番長が立ち去ってから数分後――

「これは酷い事になってるわぁん」

凄惨な戦場と化した森の中に響き渡る暢気な声と共に現れた妲己。
言葉とは裏腹に荒廃した惨状を見回しすその目は凛々と輝いており、愉快気にスキップさえ踏んでいる。

「あらあらん?」

一際被害の大きな一角に横たわる二人の人間の姿が目に留まった。
何の躊躇も無く近づくと、まずは小さな身体の方からつんつんとつついてみる。
まったく反応がない。

「ご愁傷様かしらん」

けして死者に向けるべきものではない笑みをうっすらと浮かべながら続けてもう一人の身体をも試してみる。
やはり反応はない。
小さくため息を吐くと興味を失ったように二人の身体から離れようとした直後。

「……ぅ……」

微かに響いた声に思わず振り返っていた。

「驚いた……そんなのでまだ生きてるのん?」

呼吸は荒く、息も絶え絶え。
胸には大きな風穴を開け、全身は細かい傷と火傷で無事な部分など残ってもいない状態でありながらも
ウルフウッドの身体はまだ彼が休むことを許さなかったようだ。
開かれる瞳がうつろに翳りながらも彼は口を開く。

「……奴は?」

その問いにどう反応すべきか少し考え込み……悲しげに表情を一転させた。
怪我をした人間を不安に思い気遣う仕草も忘れない。

「うぅん? 誰のことかは知らないけど、ここにはわらわしかいないわよん?」
「……そうなんか」
「あなたも殺し合いをしてたのん?」
「するつもりなんかさらさら無かったわい。けど向こうさんに殺る気満々で襲ってこられたらしゃあないやろ」

ともすると少なくとも自分の敵ではないと言う事か。
でもこの様子では負けたんだろう。
生き残ったのは良いが弱いんじゃどうしようもないと妲己は溜息を漏らす。

「ふぅん、で負けちゃったのん?」
「うっさい」

苦々しげに呟くウルフウッドを見て悲しそうな演技を続けながら妲己は言う。

109 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:02:05 ID:uz5PWvZk0

「やっぱり殺し合おうなんて考える人もいるのねん」
「あんたはちゃうんか?」
「まさかぁん? こんなか弱いわらわがそんなこと出来るわけないわん」
「嘘やろ」

一瞬眉をひそめかけるが、そ知らぬ顔で妲己はとぼけ続ける。

「嘘? なんのことかしらぁん?」
「隠しとったって空気でわかる。弱いようには感じられへん」
「買い被り過ぎよん。わらわは弱いから誰か強そうな人を探してるのん。心当たりとかないかしらん?」

平静を装う妲己にたいし、呆れ返りながらウルフウッドは答えた。

「……まあええ、強い奴だったら赤いコート着たつんつんした金髪の頭の目立つ奴探せばええ。勿論いたらの話になるけどな」
「あらぁん意外ねえ。そんな素直に教えてくれるなんてえ。その人の事嫌いなの?」
「大っっっっっ嫌いやな!」
「あらぁん可哀想」
「んま……そうじゃなくても隠す必要も無いと思ったからや。ワイの知る限り人間であいつに勝てる奴はまずおらんやろ。
 殺し合うつもりならあいつがあんたを止めるやろうし、そうで無いなら教えても問題ない、それだけのこっちゃ」
「ふうん、そのお友達のお名前は?」
「友達ちゃう、ただの腐れ縁や。……まあええわ。有名人やから名前ぐらい知っとるはずやろうけどな。ヴァッシュや。ヴァッシュ・ザ・スタンピート」
「知らないわねん……でも、ありがとぉん」

ウルフウッドの首筋をなでるような感覚が伝わる。
遅れて襲い掛かった鋭い痛みと同時に噴出す鮮血。

「やっぱりかい……」

反射的にそれを抑えようと両手で首を押さえるが、隙間から流れる血は留まる事を知らない。
自身の手についた血を舐め取りながら妖艶な笑みをこぼす妲己の顔。
一瞬美しいとさえ思ってしまった自分を卑下しながら。
それがウルフウッドの見た最後の光景となった――。

動かなくなったウルフウッドを見ながら妲己は微笑む。

「そう言う訳じゃないけどねぇん。ただ、わらわって壊れた玩具にも使えない兵士にも興味ないのよん」

その言葉を聞くものは最早誰も居ない。
返ってこない返事に少し不満げな表情を見せながら妲己はその場を後にした。


【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム)】死亡
【志村新八@銀魂】死亡

110 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:02:41 ID:uz5PWvZk0

※以下のものは二人の死体のそばに、妲己が回収したか放置のままかはお任せします
 マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身発射済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数8/12)@現実
 支給品セットx2(ウルフウッドと新八の分)
 上記の中にパニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット 不明支給品0〜2



【I-4/中心部/黎明】
【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:支給品一式、再会の才@うえきの法則
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。

【獣の槍@うしおととら】
春秋・戦国時代に中国で作られた、白面の者を殺すための槍。
両親を白面の者に殺されたギリョウ、ジエメイの兄妹が命を込めて作成した。
(妹、ジエメイが溶鉱炉に身を投げ、それを材料に剣を打った兄の体が融合し槍となった)
獣の槍に選ばれた者が使うことで、使用者の魂と引き換えに身体能力、治癒能力が向上する。
ただし、魂を与えすぎると使用者は、とらや紅煉同様の字伏という妖怪に変化する。
選ばれていない者以外が使用した時、選ばれた者でも妖以外と戦う時はその変化は起きない。
妖怪のみを殺す槍であり、人間を刺してもダメージは普通の槍より少ない。
(正確には斬れないため人間を強打や無機物を切り裂くことはしていた。)
ただし、上記の性能がロワ中でなんらかの変更が加えられているかは不明。
獣の槍を封印する布は巻きついている。

【再会の才@うえきの法則】
植木耕助が神の座を争う戦いに勝利した際に、優勝者に与えられる空白の才に書き込んだ才。
文字通り、再会する才能を得ることが出来るが、あくまで才能であって絶対ではない。

111 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:04:59 ID:uz5PWvZk0
以上です
タイトルは「イノチ/タマシイ/ココロ」で
長めで申し訳ありませんが、お手すきな方代理お願いします

ご指摘ご意見ありましたらお願いします

112 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/26(日) 01:28:29 ID:kSdBChBo0
だー!最後でさるった!
どなたかここの>>79を本スレに投下してもらえるとありがたいです。
まぁここにあるのと変わらんわけですが…

ちなみにいじったのは偽名のところです。
指摘を受けてそう考えると鳴海らしからぬミスだな、と自分で思ったので、
鳴海っぽいミスに変えてみましたw

113名無しさん:2009/04/26(日) 01:47:42 ID:RW1ozSEI0
すまん、規制中だ……誰か頼む

114名無しさん:2009/05/04(月) 00:07:47 ID:RW1ozSEI0
正義。
正義とは、どのようなものなのだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼女が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
もっと明白な、精神的な―――正義という存在を求めていた。
「………………」
その正義を掲げて―――ひたすらに歩く少女。
名は、白雪宮拳―――剛力番長。その手には、可憐な外見には似合わぬ、巨大な武器が握られている。
「……正義……正義……正義のために……」
何かにうなされたように、ぶつぶつと呟きながら剛力番長は進む。
その顔は晴れやかとはほど遠く、今にも泣き出しそうにも見えた。しかし、彼女の中の『決意』と『罪悪感』が、ひたすた彼女の足を動かす。
「……私は……キンブリーさんを優勝させなければなりません」
それだけ、呟き前を向く。
ただずっと、道が永遠に繋がっているように思えた。
『本当にそうか?』
問う。誰かが、彼女に囁きかける。
『本当に、お前のそれは正義なのか!?』
知らない、知らない、知らない。誰なのかも分からない。
人間とは思えぬ巨体の、奇妙な髪型の男が、自分の頭の中で叫んでいた。
それは、彼女の『未来』で彼女に真の正義を教えてくれる男。
しかし、今の剛力番長にはそれが誰か、分からない。

―――知らない人が、私の正義の邪魔をしているようですわね。
―――私は、人を殺してしまったことを償うためにも、彼を優勝させなければいけないのです。

幻聴、あるいは、人を殺したことからくる罪悪感故の妄想だろう。
もう、剛力番長は立ち止れない。
正義を成すために進む、彼女にできるのはそれだけだ。
そうでもしないと―――彼女は、今にも壊れてしまいそうだったから。

はた、と足を止める。
視界の片隅、わずかに見知らぬ人間の姿が映った。
首輪をしていたかどうかまでは見えなかったが、この場にいる以上、自分と同じような参加者に違いない。

―――優勝、しなければ。
―――優勝して、あの子を生き返らせないと―――
―――それが、……私の、そしてキンブリーさんの……正義!

唾を呑みこみ―――彼女は、その人影に向かってそっと歩み寄る。
できるだけ、苦しめたくはない。相手に気づかれないように近寄り、心臓か脳を貫いて一発で殺してあげたい。
甚振り痛めつけるなど、剛力番長の『正義』が許さない。
だから、慎重に。
剛力番長は、そっと足を一歩踏み出し―――

「……僕をつけるなんて……何のようかな?お嬢さん」

その男に、声をかけられた。

115Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:08:58 ID:RW1ozSEI0
上も自分です、鳥忘れてました。



運命。
運命とは、どのようなものだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
運命とはいかに『確実』なのか―――それが知りたいだけなのだ。
「………………」
目の前であっさりと変わった『運命』に翻弄されるがまま、森の中を進む少年。
名は、カノン・ヒルベルト―――ブレード・チルドレンの一人。その手には、麻酔銃が握られている。
「……火澄……」
思わず口から、一人の少年の名前が漏れた。
死なない運命だったはずの少年。ここに来る前に、謎の少女と男に『殺された』少年。
―――どうすればいい?
カノンは思考する。なまじ賢く、天才的故に、カノンは今のありえない状況に対して冷静な判断ができずにいた。

―――運命は変えられる?そういうことなのか、清隆?
―――しかし、それなら、それならアイズを殺した僕はどうなる!?何のために今まで戦ってきた!何のために仲間を手にかけたと言うんだ!
―――そんなの、分からない、……理解できるはずがない!

不意に、何者かの視線を感じた。
カノンはそっと麻酔銃の引き金に手をかけ、振り向こうともしない。
振り向けば、自分がその人間の気配に気づいたことがばれてしまう。
あくまで平静に、何も知らないふりを装う。
一歩進む。相手も、それに呼応するかのように一歩、出る。
……明確な殺意、狂気は感じ取れない。
ほんのわずかな足音などから考えて、相手はおそらく女性。敵意があるとは限らない。
しかし、カノンの本能は告げていた。
この相手は、きっと殺し合いに『乗っている』。
このまま背を向けていたら、相手に隙を見せることになる。
こうなれば仕方ない。……先にこちらから手を打とう。
カノンは警戒を怠ることなく背後に向きなおり、自らをつけていた相手をしっかりと確認した。
慌てて木の陰に隠れようとしていた彼女は、しかし少し遅かった。

「……僕をつけるなんて……何の用かな?お嬢さん」

それは、小柄な少女だった。
柔らかな金髪ショートヘアーに花型のリボンという女性らしい容貌とは裏腹に、その身には男子用の学ランを羽織っており、更に手には巨大な得物を握っている。
普通に考えれば、目の前の少女に到底振り回せる代物ではない。
しかし、カノンは知っている。人の見た目は強さと比例するはずがないということを。
そう例えば、あの竹内理緒のように―――

「……用事……というほどでもありませんが……」

少女は、すっと何の労もなく巨大な武器を構えて、言った。
あまりにも、当然のように。
「……私の『正義』のために―――死んでいただきたいのです」

刹那。
少女は、――-動いた。
そもそも武器など存在していないかのように、跳躍し。
質量が存在するのかすら疑ってしまいたくなるほどの速度で。

『それ』を―――カノンの脳天に向けて振り落とした。



命。
命とは、どのようなものだろう?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
自分は、『命』に関してはすでに定義に当てはまらないイレギュラーな存在なのだから。

「……ニーサン、大丈夫かなあ……ここにいないといいけど……」
アルフォンス・エルリックは、いるかどうかも分からない兄の姿を探していた。
そして、幼馴染のウィンリイも。
アルが向かう先は、東。
特に理由があった訳ではない。強いて言うなら、図書館になら今の状況を判断するための情報があるかもしれない、と思った程度だ。
とにかく自分が今すべきことは、知り合いを探すこと。
地図を見る限りかなりの広さがありそうではあるが、だからと言って待っているわけにはいかない。
……自分が能天気にしている間に、知り合いの命が奪われてしまうかもしれないのだから。
もう一時間ほど歩いているのだが、今のところはだれにも
「……ん?」
そして、アルは、視界の先に見た。
それは本当に、偶然だった。
しかし、その偶然も、ある男にかかれば『運命』なのかもしれないが。

それは。
「……え―――!?」
少女が、青年に切りかかるその光景だった。

116Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:11:05 ID:RW1ozSEI0


「……っ!」
それは、カノンの長い経験が生きた形となった。
人間の限界ぎりぎりの反応速度で繰り出されたドラゴンごろしは、カノンによって寸でのところでかわされ、カノンの脇を滑り抜けた。
「……いきなり攻撃してくるなんて……穏やかじゃないよ」
やはり、自分の勘は正しかった。
カノンはそう思う。やはり彼女は、殺し合いに乗っていた。
一瞬たりとも目を離さず、用心し続けて正解だったか。
「殺し合いに乗るのが、君の正義なのかい?」
少女の攻撃を回避しながら、カノンは問う。
その顔は涼しげに―――内心焦りながら。

―――これは、まずいな。

少女の実力は、先ほど対面した相手―――趙公明に匹敵するかもしれない。
そう簡単に抜ける相手ではない。
そしてまず、彼女は自分を逃がしてくれない。
公明は殺人鬼というよりは戦闘狂だった。だからこそ、自分のことを再び追おうとはせずに、後に再戦するということに喜びを見出していた。
おそらく―――初めに会った時も、全力ではなかったのだろう。それは、殺意よりも戦意が上回っていたから、と考えるのが自然。
しかし、彼女は違う。
彼女は、殺し合いに『乗って』いるのだ。
彼女の目的は戦いを楽しむことではなく、カノンを殺すこと。自分が一旦引いても、追ってくる可能性も高い。
そして何より、彼女は『全力』だ。

もちろん、相手が殺し合いに乗っているというのなら、反撃もやむを得ない。
もっとも―――相手を殺すつもりはない。
カノンは鋼よりも硬い意志で決めている。……ブレードチルドレン以外の人間は、何があっても殺さない。
だから、目の前の少女が自分を殺すつもりであったとしても、カノンは彼女を殺すわけにはいかない。
うまく彼女を捲いて逃げたいが、実力的にそれも難しい。
この麻酔銃で眠らせるのが得策だろう。
しかし、カノンはそれを躊躇っていた。
より正確に言うならば。

―――こんな化け物が、ここにはごろごろいるのか……!

―――カノンは、『現実』に戦慄していた。
決して、自分は弱い存在ではない。
それどころか、ブレード・チルドレン最強と常に謳われ、それだけの戦績も上げてきた。
負ける要素など、ないと思ってきた。
なのに、今の自分はどうだ?
いくら武器が心もとないとはいえ、

―――公明に、この少女に、防戦一方ではないか。

「……そうですわ……」
少女は、剣を振るう。
物理法則を軽く無視した高速攻撃が、細腕の少女の手から繰り出される。
「……これが……私の『正義』です!」

だから、方法は一つだ。
―――隙を作り、その一瞬を見計らって麻酔銃を打ち込む。
それ以外に、彼女を殺さずに止める方法が見つからない。

―――彼女に、精神的な揺さぶりをかけることだった。

「……正義?人を殺すのが正義だなんて―――立派な正義だね」
「何とでもおっしゃってください。……私は既に人を殺した―――殺してしまった彼女のために、私は優勝させなければならない人がいるのです!」
ドラゴンごろしが、宙を切る。
それをひたすらかわし、カノンはとん、と両足を地につけた。
もしカノンが普通の人間であったならば―――きっと、既に10度は殺されているだろう。
知らず、呼吸が上がる。今まで攻撃を受けずにいられたことが奇跡なのだ。
対して少女は―――息一つ乱していない。
体力?この違いはそんなものではないだろう。
根本的に、彼女にあって自分にない何か、努力や才能では埋められない何かがある。

(そう言えば―――何かの本で見たことがあるな)
通常の人間の数十倍筋肉を使うことのできる人間。
もしかして―――彼女もその類なのだろうか?

「……優勝させなければ、ならない……人……?」
その言葉が、引っかかった。
彼女は、『自分が優勝したいのではないのか?』
少女が続いて口にしたのは、衝撃的な一言だった。
「……ええ、そうですわ。……私はあの方を優勝させ、『彼に全ての参加者を生き返らせてもらう!』そのために私は人を殺すのです!」

―――全ての参加者を、
―――生き返らせる、だって―――?

117Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:11:38 ID:RW1ozSEI0

「……そんなこと……できるはずがないよ。君は騙されているんだ」
きわめて冷静に、言葉を紡ぐ。
カノンからすれば、それは当然の回答だった。
しかし、剛力番長はそれを否定する。
「いいえ、彼は言いました。できる、と。その証拠に、彼は何もない場所から、人型を作り出したのですよ!彼は、不思議な力を持っている!」
本当は、土を対価として、なのだが、等価交換を知らない剛力番長からすれば無から作り上げたように見えても仕方あるまい。
「……手品の類じゃないのかい?君は気付いていないだけで、そこには何かトリックがあるかもしれな……」
ドラゴンごろしが―――カノンの肩を貫いた。
「……っ!?」
走る激痛。人の首さえ切り落とせそうな大剣に切り裂かれ、肩から赤い鮮血が吹き出す。
しかしこの程度、まだカノンの行動を止めるには至らない。
そう重大な怪我でもない。止血さえすれば数時間で回復できるだろう。
「……貴方が私の言葉を信じないのは構いませんが……どちらにせよ死ぬのならば、納得して死んでいただきたいのです。……貴方は私の正義のために死ぬのだと」

―――何が、正義だ。
少女の言葉に、カノンは言葉にならない苛立ちを覚えていた。
人を殺すことが正義?
この少女は、いつまでそんな戯言をほざくのか。

「……それが、正義?……笑わせるないでくれ」
気づけば。
そんな言葉が、カノンの口から零れ出ていた。
ずきりと肩に痛みが走るが、構っていられない。
「……な、貴方……これ以上私の正義を愚弄すると……」
「何が正義だ……君は知らないからそんなことが言えるんだ。
全ての人間を生き返らせるだって?本当にそれが幸せだと思うのか?
『死んでいた方がいい人間もいる』、それくらい君だって分かるだろう!?」
思わず、語気が荒くなる。

―――そう、例えば。
―――生きていても、人を殺す道しか進めない人間ならどうなる?
―――そんな人間に、生きている価値があるというのか?

「……!?」
少女の顔が、歪んだ。
心当たりがあるとでも、言いたげに。
「君は『悪』もろとも蘇らせるつもりなのか?それで正義と言えるのかい?」
「……そ、そんなこと……死んだ方がいい人間なんて……」
「いない?そう思うかい?じゃあもし、存在するとしたら?このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?」

「……君の行為は、『正義』じゃない―――ただの『エゴ』だ」
それは、まるで自分に呟くように。
そっと、カノンは麻酔銃を抜き取り―――
「……ち、ちが、違います……私は……私は『正義』を……!」
じり、と自分から一歩後ずさる少女に向け、光の速度で引き金を引いた。
それは少女の右胸を貫き―――少女は、そのまま声もあげずに倒れ込んだ。

118Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:12:33 ID:RW1ozSEI0


「……っ……はあ……」
カノンは、草叢に倒れ伏した少女を見、大きく息を吐いた。
何とか、なったのか?
とりあえず、殺さずに済んだ。
さすがに少女が並外れた力を持っているとはいえ、麻酔は効くようだ。
すぐにでも立ち去っても良かったが、しかしカノンはそうしなかった。
その理由は―――

―――くそ……思ったより怪我の状態がよくないな……。

それは、少女に負わされた傷のため。
右肩に受けた斬撃は、一般人なら悲鳴をあげて泣き叫んでもおかしくない程度に深かった。
重要な血管は無事らしいことには安堵したが、それでも少しでも早く治療をした方がいいことには変わりない。
その瞬間は大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、思った以上に事態は深刻だ。
……恐らくは、疲労もあるのだろう。常なら、ここまで吐き気と似た気分の悪さを催しはしない。
止血をしようにも、ふさわしい道具が何一つない。武器は麻酔銃と盾、基本支給品は食べ物とランタン、地図と何も書かれていない白紙の紙。
このままの状態でも今はまだ、いい。しかし再び彼女のような強者と出会ってしまった時に、これでは逃げることも難しくなる。
ましてや―――ブレードチルドレンを殺すのも。
彼らの実力をかい被るつもりはない。もっとも、自分の方が彼らより強い自覚も自負もあるが、100%などとは思えない。体調が万全でないなら尚更だ。
であるから。

―――彼女は、何か道具を持っているかもしれないな。

わずかな可能性かもしれないが、見てみる価値はある。
そして可能なら、少女の武器・ドラゴンころしも奪っておきたい。
銃が一番使い慣れているものの、カノンに使えない武器など存在しない。
見た目通りの重量がネックだが、少なくとも麻酔銃よりは役に立つだろう。
仕組みはよく分からないが、このディパックは入れたものの重さを感じない作りになっているようだ。この中に入れておいて非常時にいつでも取り出せるようにすればいい。
……この武器では、ブレードチルドレンを殺すこともできやしない。

「……」
彼女が起きないことを確認して、カノンはそっと彼女に近づいた。
そして、その支給品を確認しようとし―――

ここで、たった一つ、イレギュラーが存在していた。
彼の銃撃の腕は完璧だった。
外してなどいない。支給品の説明に嘘が書いてあった訳でもない。麻酔銃の威力は理解しているし躊躇いも手抜きもしていない。
問題など、何一つなかった。―――カノンの方には。
完璧で、本人もそれを理解していたが故に、気付かなかった。
問題だったのは―――

「…………な、」

―――針の莚に落下しても死なない剛力番長に、『銃弾など効くはずがない』という、その事実だった。

本能が、一瞬にして全身を駆け巡る。
コンマ0.000数秒の間に、カノンの脳に警告を鳴らした。

―――殺される、と。

「……っあああああああああああああああああああああああ!」

それは、幸運だったのか。
不幸だったのか。
少女は、叫び声を上げ、ただがむしゃらにドラゴンころしを振るい。
カノンは、それに研ぎ澄まされた『経験』で気づき。

そして。
攻撃行動と退避行動が同時に行われた結果。
残ったのは―――



轟音が、鳴り響く。
それを知覚したのは、誰か。

少女の剣が、男の首を切り飛ばそうと刃物を振るい。
男は、それを並外れた直感で回避しようとした。

その瞬間。
それと―――全く同じタイミングで。

『土』が―――隆起した。
それは人間の握りこぶしの形に変わり、そして。

武器を握る少女の体を―――その大剣ごと弾き飛ばした。

119Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:13:21 ID:RW1ozSEI0


「……っ……く…………」
数十分後。
森の中を、一人の人物が歩いている。
「……!」
がくり、と。
その影は、膝を折って草むらに崩れ落ちた。
「……なんだ……これは……どういうことなんだ……」
影―――カノン・ヒルベルトは、常の冷静さを欠いた、青ざめた顔で呟いた。
確かに、怪我は負っている。しかし、そんなことではない。
それが、彼に暗い影を落としている理由になどなりえるはずがない。
このくらいの怪我で追い詰められるほど、彼は柔ではない。
カノンが絶望しているのは、『傷を負った』その事実ではなく。

「…………本当に……本当に彼女の言っていたように……人間を蘇らせる術があるなら……それなら……」
「それなら……僕は何のためにこんなことを……」
自分の前に突きつけられた、『前提』を根本から覆す現実だった。

もはや、否定などできない。
この場には、人間の領域を超えた連中がいるのだということを。
少女は銃をもろともせず―――明らかに人間とは思えない戦いをしてきた。
そしてこの目でしかと見た―――鎧の男が、数秒にも満たない時間で土の物体を作りだしたその瞬間を。
イギリス人と日本人のクオーターであるカノンは、当然というべきか、イギリスの書物はほとんどと言っていいほど読みこなしている。
(錬金術……か……?)
そしてその中には、先ほどの現象を思い起こさせる知識も存在していた。
しかし、それにしても、『あれ』は錬金術と呼ぶには化け物的すぎる。
錬金術、賢者の石、ホムンクルス―――あんなのは書籍上、伝説上の産物にすぎない。証拠とするには弱いだろう。
確かなのは、『自分の目の前で、人間には到底できると思えぬ光景が繰り広げられたこと』、それだけだ。
今思えば―――公明もそうでなかったのか、とすら思える。彼の纏うオーラは、明らかにただの戦闘狂とは一線を画していた。

これも、清隆の仕業だというのか?
これが、『運命』だというのか?
例え清隆であっても、死者を蘇らせることなど、できるはずがない。そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
火澄は死んだ。清隆が言っていた運命は、たやすく覆された。
あの男は―――化け物なのか?
まさか、そんなことはない。いくら清隆でも、そこまでは―――

『本当に、そうか?』
本当にそうなのか?
清隆でもそこまでは不可能だと―――言えるのか?
あの、現実的に起こりえない光景を目の当たりにしてからも?
ブレード・チルドレンだとか、ミズシロ・ヤイバだとか、そんな次元でない、何かだと言う可能性は?

そして、もし本当に人が生き返るのだとしたら。
清隆が本当に、そんなことができるなら?
いや、本人がする必要はない。そのようなことのできる『何か』を、清隆が手中に入れていたとすれば。
ここで自分がブレードチルドレンを殺して―――『何になる?』
ここで、だけではない。自分が殺したアイズも、全て。
全て、何の意味もないのだとしたら。
この『殺し合い』のゲーム自体に、初めから『勝利』などないのだとすれば。

―――自らの『覚悟』は、はじめから無意味なものだったとしたら。

運命は、覆される。

「……そんな……馬鹿なことが……!」
ただの、少女の虚言?
動揺の仕方からして、とてもそうは思えなかった。
それにあの少女は、自分の目的のためには手段を選ばないタイプだった。真っ直ぐで、頑固な―――どこか自分とも通じる信念の持ち主だ。
彼女はきっと、その『正義』を曲げることを許さないだろう。
自分が、病的だと言われようと『ブレードチルドレン以外の不殺』を心がけているように。

かつて、とある国家錬金術師は、とある女にこう説いた。
『翼』を持った人間は、太陽にその翼を焼かれて死んでしまうのだ、と。

それでは。
「……あって、……あってたまるか……っ!」
『片翼』になってしまった『呪われた子供』は、太陽から身を焼かれてしまうのだろうか?

【H-6/道路/1日目 黎明】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康、混乱(大)、右肩裂傷(中)
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×17、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
1:僕は―――
2:歩を捜す
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?

※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。

120Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:14:33 ID:RW1ozSEI0


……油断、しましたわ―――
剛力番長は、強烈な眠気に襲われながら、先ほどの行動を反省する。
自分は動揺して―――あの男に隙を見せてしまった。
その結果がこれだ。……確かに剛力番長の体は丈夫だし、銃弾ごときで倒れはしない。
しかし、―――それは麻酔銃が効かないこととは別問題だ。もしかすると、これも制限によるものなのかもしれないが。
今眠ってしまったら殺されるかもしれない―――その精神力で、剛力番長はインドゾウさえ三秒で眠りに落ちる麻酔に耐え、少年に完全復活は困難だと言える怪我を負わせることに成功した。
殺すことはできなかったが、あれなら止血しなければ近いうちに死ぬだろう。
あの少年が天才的ともいえる銃の腕前の持ち主なのはすぐに分かった。だから剛力番長は、銃弾が当たって眠ったふりをしたのだ。

―――私の正義は……私の我儘だと……?

ずきり、と頭痛がする。
意識が、呑まれる。

―――違います、私は、私の正義は―――

(このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?)

剛力番長は、確かに『正義』のためなら何でも行ってきた。
諸悪の根源はすべて叩きつぶし、笑顔と共にその『正義』を行使してきた。
しかし、彼女は、人を殺したいと思ったことなどなかった。
たとえ悪人であっても、人を殺すことは正義ではない。
邪魔をする人間には、自分の『正義』を分からせてやればいいだけだ。そう思ってきた。

だから、考えたこともなかった。
生きているだけで、『悪』である人間がいるなんて。

本当に、彼の言った通りだとしたらどうだろう。
人を殺して回るような人間は、『悪』だ。
それは今更問わずとも分かっている。正義の名のもとに粛清しなければならない。
そして、その人間に加担するものも悪。当然だ。
……だとすれば。
自分が、その『悪』を生き返らせてしまったら。
それは、自分が『悪』だと言えるのではないだろうか?

悪と善を判別して生き返らせてもらえばいい?
そんなことができるのか?
人のよさそうな外見でも、『悪』を振るうものは数多くいる。
分かるはずがない。

―――そんな、私は―――
ただ、正義のために。
正義のために、人を殺して、生き返らせようとして―――

彼女の思考は、そこまでで。
剛力番長は、糸の切れた人形のように―――意識を失った。

121Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:15:00 ID:RW1ozSEI0


「……どうしよう……この子……」
アルフォンス・エルリックは、こんこんと眠る少女の前で途方に暮れていた。
自分が先ほど、錬金術で吹っ飛ばしてしまった少女―――剛力番長である。

「……困ったなあ……あの人はどこかに行っちゃったし……」
少女が、男に武器を振るう。
それを見て見ぬふりをできるほど、アルは冷血ではなかった。
少女は殺し合いに乗り、男は乗っていないのか。
二人とも乗っており、少女の方が有利であっただけか。
二人とも殺し合いにのっておらず、ただ誤解が生じただけなのか。
アルにはそこまでは分からない、だが、少なくとも身に危険が及んでいる方を助けよう。
そう判断したアルは―――地面にその両手を押し付け、土の拳を錬成し、少女の体を吹き飛ばした。
もちろん、殺さない程度に多少の加減はして。

「……」
今見た状況からして。
この子は、少なからず危険人物であることは確かだろう。
先に考えたように誤解が誤解を呼んであんなことになってしまったとも考えられるが―――そうだとしても、彼女は刃物を人に向けて平然と振るえることには間違いない。
「……だからと言って、放っておくのもなあ……」
ウィンリイや兄と言った知り合いがいるなら、一刻も早く見つけたい。
その気持ちはある。正直、今すぐにでも走り出したい。
しかし、この子を置き去りにしていいのか。

この子を置いて、あとで死なれてしまったら名前も知らないとはいえさすがに心が痛む。殺し合いに乗っているかも定かではないのだから。
……それに、この子が危険人物であるなら、尚更この場に残してはおけない。
目覚めた後再び別の人間を襲い、殺そうとするかもしれない。
そしてそれが―――ウィンリイかもしれないのだ。
兄や自分なら少女に対処できるだろうが、彼女のような一般人には無理だろう。
「……うーん……」
そして、アルの出した結論は。

ちょい、と少女に触る。
つんつんとつついてみる。
……完全に眠っているようだ。いつになったら目覚めるのかも分からない。
「……よいしょ、と」
そしてそれを確認し、アルは―――自らの鎧の頭部を外し、その少女を中に『入れた』。
大人でも入るサイズだ、小柄な少女など造作もない。
そして少女から少し離れた所にあるドラゴンころし(その名前をアルは知らないが)を回収する。
「…………うーん……僕には必要ないかもしれないけど……預かっておいた方がいいよね」
鎧のアルにとって、その剣の重量など全く関係ない。
ただ、ここに残しておくと悪人に利用されるかもしれない、そう思ったが故に、それを拾って自らのバックに詰めた。
「……よし、と。……早く皆を探さないと」
不安要素は、ある。
鎧の中の少女が、暴れ出す可能性だ。
アルの生命は、鎧の中にある兄の地で書かれた錬成陣によって保たれている。もし彼女がそのことに気づき、刻印を破壊したりすれば、アルは死んでしまう。

―――まあ、錬金術師じゃなさそうだし、そこまでの心配はないかな。

いくら彼女が強者とはいえ、武器がなく身動きも取れなければそう危険はないはずだ。
そう信じて、アルフォンスは再び歩き出す。
―――いるかもしれない仲間を探すために。
自分が抱えているものが、爆弾なのか宝箱なのかまだ分からずに。

122Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:16:32 ID:RW1ozSEI0
【I-6/道路/1日目 黎明】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
0:仲間を探しながらひとまずこの子を保護する
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:精神的疲労(中) 、睡眠中、アルの鎧の中
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
0:(睡眠中)
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……?でも……
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。

123Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:17:18 ID:RW1ozSEI0
以上です。
規制中なのでこちらに落としました。
何かありましたらお願いします。

124 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 14:57:09 ID:RW1ozSEI0
>>117差し替え
「……そんなこと……できるはずがないよ。君は騙されているんだ」
きわめて冷静に、言葉を紡ぐ。
カノンからすれば、それは当然の回答だった。
しかし、剛力番長はそれを否定する。
「いいえ、彼は言いました。できる、と。その証拠に、彼は何もない場所から、人型を作り出したのですよ!彼は、不思議な力を持っている!」
本当は、土を対価として、なのだが、等価交換を知らない剛力番長からすれば無から作り上げたように見えても仕方あるまい。
「……手品の類じゃないのかい?君は気付いていないだけで、そこには何かトリックがあるかもしれな……」

「……っ!?」
その刃が、自らのすぐ横にまで迫っていた。
先ほどよりも、更に早い。
常に冷静なカノンとて、一瞬ひやりとしても仕方ないことだろう。
……もしあれを買わせていなければ、きっと今ごと自分は五体満足ではなかっただろうから。
「……貴方が私の言葉を信じないのは構いませんが……どちらにせよ死ぬのならば、納得して死んでいただきたいのです。……貴方は私の正義のために死ぬのだと」

―――何が、正義だ。
少女の言葉に、カノンは言葉にならない苛立ちを覚えていた。
人を殺すことが正義?
この少女は、いつまでそんな戯言をほざくのか。

「……それが、正義?……笑わせるないでくれ」
気づけば。
そんな言葉が、カノンの口から零れ出ていた。
全身が痛む。直接の攻撃を受けたわけではないのだが、それでもあれだけの攻撃を受けて無傷であるはずがない。
「……な、貴方……これ以上私の正義を愚弄すると……」
「何が正義だ……君は知らないからそんなことが言えるんだ。
全ての人間を生き返らせるだって?本当にそれが幸せだと思うのか?
『死んでいた方がいい人間もいる』、それくらい君だって分かるだろう!?」
思わず、語気が荒くなる。

―――そう、例えば。
―――生きていても、人を殺す道しか進めない人間ならどうなる?
―――そんな人間に、生きている価値があるというのか?

「……!?」
少女の顔が、歪んだ。
心当たりがあるとでも、言いたげに。
「君は『悪』もろとも蘇らせるつもりなのか?それで正義と言えるのかい?」
「……そ、そんなこと……死んだ方がいい人間なんて……」
「いない?そう思うかい?じゃあもし、存在するとしたら?このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?」

「……君の行為は、『正義』じゃない―――ただの『エゴ』だ」
それは、まるで自分に呟くように。
そっと、カノンは麻酔銃を抜き取り―――
「……ち、ちが、違います……私は……私は『正義』を……!」
じり、と自分から一歩後ずさる少女に向け、光の速度で引き金を引いた。
それは少女の右胸を貫き―――少女は、そのまま声もあげずに倒れ込んだ。

125 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:03:15 ID:RW1ozSEI0
>>118



「……っ……はあ……」
カノンは、草叢に倒れ伏した少女を見、大きく息を吐いた。
何とか、なったのか?
とりあえず、殺さずに済んだ。
さすがに少女が並外れた力を持っているとはいえ、麻酔は効くようだ。
すぐにでも立ち去っても良かったが、しかしカノンはそうしなかった。
その理由は―――

―――くそ……思ったより怪我の状態がよくないな……。

それは、少女に負わされた傷のため。
その瞬間は大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、思った以上に事態は深刻かもしれない。
多少の怪我とて侮ってはいけない。そのわずかな隙が命取りになることはよく分かっている。
少女は決してドラゴンころしのみで戦っていたわけではないのだから。
……恐らくは、疲労もあるのだろう。常なら、ここまで吐き気と似た気分の悪さを催しはしない。
軽い治療しようにも、ふさわしい道具が何一つない。武器は麻酔銃と盾、基本支給品は食べ物とランタン、地図と何も書かれていない白紙の紙。
このままの状態でも今はまだ、いい。しかし再び彼女のような強者と出会ってしまった時に、逃げることも難しくなる。
ましてや―――ブレードチルドレンを殺すのも。
彼らの実力をかい被るつもりはない。もっとも、自分の方が彼らより強い自覚も自負もあるが、100%などとは思えない。体調が万全でないなら尚更だ。
であるから。

―――彼女は、何か道具を持っているかもしれないな。

わずかな可能性かもしれないが、見てみる価値はある。
そして可能なら、少女の武器・ドラゴンころしも奪っておきたい。
あれだけの代物―――おそらく、人の首など一振りで落とせるだろう。
少なくとも麻酔銃よりは役に立つだろう―――持てるのならば、だが。
いくら武器の扱いにおいては天才的なカノンとて根本的な武器の重さはどうにもならない。……まともに持つことで精一杯だろうが。
しかし、それでも持っておいて悪いことはないはずだ。
仕組みはよく分からないが、このディパックは入れたものの重さを感じない作りになっているようだ。
この中に入れておいて非常時にいつでも取り出せるようにすればいい。
……この武器では、ブレードチルドレンを殺すこともできやしない。

「……」
彼女が起きないことを確認して、カノンはそっと彼女に近づいた。
そして、その支給品を確認しようとし―――

ここで、たった一つ、イレギュラーが存在していた。
彼の銃撃の腕は完璧だった。
外してなどいない。支給品の説明に嘘が書いてあった訳でもない。麻酔銃の威力は理解しているし躊躇いも手抜きもしていない。
問題など、何一つなかった。―――カノンの方には。
完璧で、本人もそれを理解していたが故に、気付かなかった。
問題だったのは―――

「…………な、」

―――針の莚に落下しても死なない剛力番長に、『銃弾など効くはずがない』という、その事実だった。

本能が、一瞬にして全身を駆け巡る。
コンマ0.000数秒の間に、カノンの脳に警告を鳴らした。

―――殺される、と。

「……っあああああああああああああああああああああああ!」

それは、幸運だったのか。
不幸だったのか。
少女は、叫び声を上げ、ただがむしゃらにドラゴンころしを振るい。
カノンは、それに研ぎ澄まされた『経験』で気づき。

そして。
攻撃行動と退避行動が同時に行われた結果。
残ったのは―――



轟音が、鳴り響く。
それを知覚したのは、誰か。

少女の剣が、男の首を切り飛ばそうと刃物を振るい。
男は、それを並外れた直感で回避しようとした。

その瞬間。
それと―――全く同じタイミングで。

『土』が―――隆起した。
それは人間の握りこぶしの形に変わり、そして。

武器を握る少女の体を―――その大剣ごと弾き飛ばした。

126 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:07:09 ID:RW1ozSEI0
>>119



「……っ……く…………」
数十分後。
森の中を、一人の人物が歩いている。
「……!」
がくり、と。
その影は、膝を折って草むらに崩れ落ちた。
「……なんだ……これは……どういうことなんだ……」
影―――カノン・ヒルベルトは、常の冷静さを欠いた、青ざめた顔で呟いた。
確かに、体調もすぐれなければ、疲労もたまっている。しかし、そんなことではない。
それが、彼に暗い影を落としている理由になどなりえるはずがない。
このくらいの怪我で追い詰められるほど、彼は柔ではない。
カノンが絶望しているのは、その事実ではなく。

「…………本当に……本当に彼女の言っていたように……人間を蘇らせる術があるなら……それなら……」
「それなら……僕は何のためにこんなことを……」
自分の前に突きつけられた、『前提』を根本から覆す現実だった。

もはや、否定などできない。
この場には、人間の領域を超えた連中がいるのだということを。
少女はまともな人間では扱えそうもない剣を平然と振り回し、銃をもろともせず―――明らかに人間とは思えない戦いをしてきた。
そしてこの目でしかと見た―――鎧の男が、数秒にも満たない時間で土の物体を作りだしたその瞬間を。
ドイツ人と日本人のクオーターであるカノンは、外国の書物はほとんどと言っていいほど読みこなしている。
(錬金術……か……?)
そしてその中には、先ほどの現象を思い起こさせる知識も存在していた。
しかし、それにしても、『あれ』は錬金術と呼ぶには化け物的すぎる。
錬金術、賢者の石、ホムンクルス―――あんなのは書籍上、伝説上の産物にすぎない。現実に、しかも現代に存在する証拠とするには弱いだろう。
確かなのは、『自分の目の前で、人間には到底できると思えぬ光景が繰り広げられたこと』、それだけだ。
今思えば―――公明もそうでなかったのか、とすら思える。彼の纏うオーラは、明らかにただの戦闘狂とは一線を画していた。

これも、清隆の仕業だというのか?
これが、『運命』だというのか?
例え清隆であっても、死者を蘇らせることなど、できるはずがない。そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
火澄は死んだ。清隆が言っていた運命は、たやすく覆された。
あの男は―――化け物なのか?
まさか、そんなことはない。いくら清隆でも、そこまでは―――

『本当に、そうか?』
本当にそうなのか?
清隆でもそこまでは不可能だと―――言えるのか?
あの、現実的に起こりえない光景を目の当たりにしてからも?
ブレード・チルドレンだとか、ミズシロ・ヤイバだとか、そんな次元でない、何かだと言う可能性は?

そして、もし本当に人が生き返るのだとしたら。
清隆が本当に、そんなことができるなら?
いや、本人がする必要はない。そのようなことのできる『何か』を、清隆が手中に入れていたとすれば。
ここで自分がブレードチルドレンを殺して―――『何になる?』
ここで、だけではない。自分が殺したアイズも、全て。
全て、何の意味もないのだとしたら。
この『殺し合い』のゲーム自体に、初めから『勝利』などないのだとすれば。

―――自らの『覚悟』は、はじめから無意味なものだったとしたら。

運命は、覆される。

「……そんな……馬鹿なことが……!」
ただの、少女の虚言?
動揺の仕方からして、とてもそうは思えなかった。
それにあの少女は、自分の目的のためには手段を選ばないタイプだった。真っ直ぐで、頑固な―――どこか自分とも通じる信念の持ち主だ。
彼女はきっと、その『正義』を曲げることを許さないだろう。
自分が、病的だと言われようと『ブレードチルドレン以外の不殺』を心がけているように。

かつて、とある国家錬金術師は、とある女にこう説いた。
『翼』を持った人間は、太陽にその翼を焼かれて死んでしまうのだ、と。

それでは。
「……あって、……あってたまるか……っ!」
『片翼』になってしまった『呪われた子供』は、太陽から身を焼かれてしまうのだろうか?

【H-6/道路/1日目 黎明】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康、混乱(大)、疲労(大)、全身にかすり傷
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×17、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
1:僕は―――
2:歩を捜す
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?

※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。

127 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:09:19 ID:RW1ozSEI0
>>120



……油断、しましたわ―――
剛力番長は、強烈な眠気に襲われながら、先ほどの行動を反省する。
自分は動揺して―――あの男に隙を見せてしまった。
その結果がこれだ。……確かに剛力番長の体は丈夫だし、銃弾ごときで倒れはしない。
しかし、―――それは麻酔銃が効かないこととは別問題だ。もしかすると、これも制限によるものなのかもしれないが。
今眠ってしまったら殺されるかもしれない―――その精神力で、剛力番長はインドゾウさえ三秒で眠りに落ちる麻酔に耐えたのだ。
あの少年を殺すことはできなかったのが残念だが―――焦る必要はない。
最終的にキンブリーが優勝できればいいのだ。まだ、時間はある。
あの少年が天才的ともいえる銃の腕前の持ち主なのはすぐに分かった。だから剛力番長は、銃弾が当たって眠ったふりをしたのだ。

―――私の正義は……私の我儘だと……?

ずきり、と頭痛がする。
意識が、呑まれる。

―――違います、私は、私の正義は―――

(このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?)

剛力番長は、確かに『正義』のためなら何でも行ってきた。
諸悪の根源はすべて叩きつぶし、笑顔と共にその『正義』を行使してきた。
しかし、彼女は、人を殺したいと思ったことなどなかった。
たとえ悪人であっても、人を殺すことは正義ではない。
邪魔をする人間には、自分の『正義』を分からせてやればいいだけだ。そう思ってきた。

だから、考えたこともなかった。
生きているだけで、『悪』である人間がいるなんて。

本当に、彼の言った通りだとしたらどうだろう。
人を殺して回るような人間は、『悪』だ。
それは今更問わずとも分かっている。正義の名のもとに粛清しなければならない。
そして、その人間に加担するものも悪。当然だ。
……だとすれば。
自分が、その『悪』を生き返らせてしまったら。
それは、自分が『悪』だと言えるのではないだろうか?

悪と善を判別して生き返らせてもらえばいい?
そんなことができるのか?
人のよさそうな外見でも、『悪』を振るうものは数多くいる。
分かるはずがない。

―――そんな、私は―――
ただ、正義のために。
正義のために、人を殺して、生き返らせようとして―――

彼女の思考は、そこまでで。
剛力番長は、糸の切れた人形のように―――意識を失った。

128 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:10:17 ID:RW1ozSEI0
あと状態表をミスしてたので修正です。

【I-6/道路/1日目 黎明】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)、 ドラゴンころし@ベルセルク
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
0:仲間を探しながらひとまずこの子を保護する
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:精神的疲労(中) 、睡眠中、アルの鎧の中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
0:(睡眠中)
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……?でも……
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。

129 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:07:48 ID:cAo9lDdA0
深夜の市街地を一人の少女がただ只管に駆ける。
自分が頼れる仲間達を求め、当ても無く……。

「…って、私は何処に向かうつもりなのよ!!」

少女の突っ込みが虚しく木霊する。
自分がどこに向かうのかも決めてなかった事、そしてこの舞台がどんな所であるか確認してなかった事に気付き、デイパックから地図を取り出そうとする。
ガサゴソとディパックを漁ると、まず出て来たのは白紙の名簿。
今は別に気にする必要も無いと思い、地図を探す為に脇にどけようとして思いとどまる。
これが神様を決める戦いの延長だとしたら、そもそも名簿を何故白紙にする必要があるのか?
三次選考でバロウチームとの戦いが終わった今、自分のチーム以外の20人の顔と名前と能力は既に把握済み。

(…あれ、そういや李崩の能力ってなんだっけ?)

訂正、一名の能力以外把握済み。
そんな現状で、名簿を白紙にする意味は?
まず考えられるのは、チーム全員が参加している訳じゃ無い。
……これはどうなんだろうか、確かにあり得るが特に意味のないような。
そうなると、もともと一人しかいないアノンと李崩は強制参加になる上、最悪…

(下手すると、植木チームからの参加って私一人だけ可能性もあり?)

最悪の展開を予想して、森の顔は真っ青になった。
孤立無援で死亡、そんな未来がありありと想像できてしまう。

「い、いいい、いくらなんでもそんな事はありえないよね」

ブルブルと首を横に振り虚勢を張るが、明らかにその声は震えていた。
その予想を覆すべく、何か他の理由が無いか必死で知恵を巡らせる。

(―っ、そうだ、名前)

この殺し合いの説明の時に殺されてしまった人の名前、麻子とミズシロの二つ。
三次選考の中にこの二つの名前と、同じ名前の人物はいなかった。
つまりそれは、一次選考での脱落者もしくはこの殺し合いで新たに参加する事になった能力者がいる、それを気付かせない為に名簿が白紙になっている。
それだ! とばかりに森の顔が綻ぶ。
始めの考察が最悪過ぎた為に、十分に納得できる次の考察を確定事項にしてしまう森。
最も両方とも正しくないのだが、そんな事森が知る由も無かった。

名簿の考察が一段落つくと、ディパックの中を漁り地図を見つけ出す
まずは自分の現在位置を確認する。
自分が居るのはI−6とI−7の境目辺りだろうか、近くにはデパートがある。

130 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:08:37 ID:cAo9lDdA0
「佐野や鈴子ちゃんなら、ここに向かってくるかもしれないよね」

神様を決める戦いに選ばれた中学生、彼らに与えられた異能『変える能力』。
何かを何かに変えるであるのなら、元になる物が必要になるのは当然の事。
最も、中にはヒデヨシの声を似顔絵に変える能力の様に、自前で直に用意できる物もあるが。
だが鈴子のビーズを爆弾に変える能力も、佐野の手ぬぐいを鉄に変える能力もそうはいかない。
後者の場合は民家を何件か漁れば、それなりの量の手ぬぐいを確保できるだろう。
しかし前者であるビーズは、流石に民家にあるとは限らない。
だがデパートならば確実にある。
ビーズや手ぬぐいがそれぞれに支給されているどうか分からない。
なら、デパートの近くに居る自分がある程度確保しておけば、合流した時に皆の戦力もぐっと上がるはず。
そう考えて森は気がついた、そういや自分には何が支給されたんだろう? と。
そう考えてディパックを漁った所、出て来たのは棒状の物体。
武器には見えなくもない……、それなりにリーチがある事から剣の代わりに出来そうだ。
元々殺し合いに乗るつもりのない森にすれば、日本刀が出てくるよりはましであった。
これならばよほど当たり所が悪くないかぎり、相手を殺してしまう事は無いから。

「よしっ、これなら一応私でも戦え……ないよねやっぱり」

相手がただの一般人なら、当たりではないものの外れでもない支給品だろう。
だが、相手が天界人や能力者などの常識を逸した存在では、ただの棒では話にならない。
そこで森は、自分の握っている棒状のものに張り付けてある、一枚の紙に気がついた。
何だろうと思い、手を伸ばそうとして……

「もしかして、そこにいるのは森か?」

声をかけられ振り向くと、そこには自分の探していた人物の一人、植木耕介が立っていた。



「―にしてもまずいなこの果物」

もしゃもしゃと果物らしきものを食べながら歩く少年の名は、植木耕介。
神様を決めるバトルの際、最も成長した人物として空白の才を貰い。
そこに『再会』をかき込み、再会の才を手に入れた少年。

それから約二年後、人間界において繁華街の人間により、人間界の人々の大切な人の記憶が入った、『キューブ』と呼ばれる物が盗まれると言う事件が発生した。
キューブ自体は、自称『犬』である羊のウールの中に封印され、元に戻すには繁華街の唯一絶対の聖地メガサイトと呼ばれる場所へ行く必要があった。
繁華街と言っても、パッと頭に思い浮かぶような繁華街の事ではない。

131 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:11:37 ID:cAo9lDdA0
植木の住む世界、それは人間界・天界・地獄界からなる三界。
それとは元々は一つであったが、遥か昔に三界とは別の道を辿る事になってしまった、『パラレルワールド』である―繁華街。
この二つの世界で構成されていた。
そのパラレルワールドの繁華街に向かう必要があったのだ。

自分の親友達が次々と自分の記憶を忘れて行く中、ただ一人記憶を奪われなかったのが植木であった。
彼の持つ『再会の才』、それは別れた物を再び繋ぐ強力な“出会いの才能”。
それ故記憶を奪われなかった植木は、植木を新たな主人と定めたウールの導きにより仲間達のキューブを取り返すべく繁華街へ向かう。

繁華街の人口の約3/4は能力者である。
繁華街に着いて直に、ミリーという見も知らずの少女を助ける為に能力者と相対した植木だが、手も足も出なかった。
その場はウールのアシストも有り、何とか逃げる事に成功した。
だが変える能力はおろか、天界力を失い神器を使えなくなった植木は、その能力者の前にあまりにも無力だった。
ある特定の道具に特定の効果を付与する『加える能力』である職能力。
植木は職能力の必要性を痛感し、苦難の末に見事職能力を手にする事が出来た。
その後ハイジやソラ、ナガラといった新しい仲間。
彼らの協力もあり決選の場・メガサイトにおいて、人間界で記憶を奪うように指示した人物・プラスからキューブを奪い返す事が出来た。

だがそこで問題が発生した。
プラスはキューブを初期化してそこに『自分のイメージ』を入れる事で、人間界の人間とって唯一自分自身が『大事な人間』となろうとした。
その為にメガサイトでキューブを解放したのだが、それがいけなった。
キューブは人間界で開放しなければならなかった、メガサイトで開放してしまって人間界に持っていけない。

そんな中、ウールから一つの打開案が出される、それは三界と繁華街を再び一つにする事。
その為には、強力な出会いの才能を持つ植木が、100年間メガサイトで二つの世界を繋ぎ留めなくてはならなかった。
植木の性格を知っている者ならば、その後の結末は簡単に想像できるだろう。
植木はメガサイトに残り、100年の時を過ごし二つの世界を一つにしたのだった。

メガサイトで100年の時を過ごした植木、その姿は年老いて見る影も無い……等と言う事は全くなかった。
メガサイト内では全然老けない、お腹もすかない、だからボーとしていたら100年経ったと言うのは本人の談だ。
さらに言えば、繁華街と人間界では100倍の時間差がある、つまりメガサイトでの100年は繁華街と融合した人間界において、一年の時しか経っていなかったのだ。

人間界の時間で一年後、植木は仲間達と再会する――筈だった。
だが植木が人間界に戻った直後、彼はこの殺し合いに連れてこられてしまう。

132 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:12:58 ID:cAo9lDdA0
ならばこの植木と言う少年、元の場所に戻る為殺し合いに乗るような人物であろうか?
それはありえない。
道路に飛び出した子供を助けて車に轢かれ、悪質な借金とりに絡まれた少女を身を呈して助ける。
自分の身を呈して人を助ける。
幼い頃ビルの屋上のヘリから足を滑らせた時、墜落死しかけた自分を救ってくれた恩師がいた。
その恩師の様に、他人の為に身を投げだせる人でありたいと。
そう志して行動してきた、そんな彼が殺し合いに乗る筈も無い。
ましてや自分の仲間達がいるかもしれない現状でだ。
この殺し合いを止め為まずは自分の仲間達を探すべく、人の集まりそうな市街地を進んでいた。

(いくらハイジやソラ達に職能力があるからって、道具を取られてたらやばいだろうし。
 ミリーや今の佐野達は能力自体がねぇし、早く合流しないとあいつらがあぶねぇ。
上手い事、俺みたいに変な力を持ったアイテムが支給されてればいいんだが)

植木の職能力、モップに『掴』を加える能力。
その職能力で使う道具は、普段右手の道具紋の中に納められているのだが、その道具紋の中にモップは無かった。
そんこで植木が初めに目指したのはデパート、自分の職能力に必要なモップ。
他に仲間が必要とするであろう、洗濯機、砂時計、ハンバーガー等を手に入れるためだ。
偶然にも、森と同じ様に仲間が必要とする物を求め、デパートにむかっていた。

支給品の一つである果物を食べながらデパートに向かう途中、前方にどこか見た事ある様な後姿を見つけた。
植木は即座に声をかけた。

「もしかして、そこにいるのは森か?」
「植…木?」

その声に反応する様に目の前の人物が振り返る。
どこか戸惑った様な声で返事をした少女、それは植木が予想したとおり森あいであった。
だが、

(…あれ?)

その森の姿に植木は微妙な違和感を感じた、何というかこう何か微妙に小さいと言うか幼いと言うか。
実際に森は、植木がメガサイトで別れた時から約二年前の時間軸から連れてこられている、少々幼く見えるのは当たり前だ。
だが植木にとっては100年ぶりの再会、森の姿が最後に見たものより少々若返っている事に気がつかなくても、誰も責められはしまい。
しかもそんな些細な違和感など、森と無事に会えた安心感と嬉しさにあっと言う間に押し流されていった。

133 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:14:11 ID:cAo9lDdA0
「よかった、無事だった…」
「そんな始まって早々、訳も分からないまま死ねるか!!」

どこか懐かしいやり取りに、植木の表情が綻ぶ。
だが、直に真剣な顔つきに戻る。

「…それは兎も角、大変な事になっちゃったね。やっぱ神様を決める戦いと何か関係があるのかな?」
「ああ三年前のアレか、……けどな、犬丸がこんな事をするとは思えんが」
「え、三年…前? 犬丸?」
「ん? 三年前だろ、俺達今高一であん時は中一だったから、うん三年前だ。それに新しい神様決める時は、全員一致で犬丸だったじゃねえか」

植木からすれば正確には百二年前なのだが、それはこの際置いておく。
植木は話を続ける、すぐ傍にいる森の表情がどんどん険しくなっていくのに気付かずに。

「いくら佐野や鈴子でももう能力がねぇからかなり危険な筈だ。早く合流しねぇと」
「あんたは…神器があるか」
「神器? 神器はアノンとの決戦で天界力を殆ど使いきっちまったから、使えねぇぞ?」
「じゃあ、あんたも能力なしなんじゃ……」
「いや俺には職能力がある、森もメガサイトで見たろ」

植木と森の間には、連れてこられた時間軸の違いによる時間差がある。
故に森が知らない事を、植木は森も知っている様に語る。
だがそれは仕方のない事、植木の認識ではその事も森は知っているのだから。
そして今その認識の違いから、隣にいる森に自分がどれ程不信感を増大させているか植木は気が付いていない。

「佐野や鈴子、ヒデヨシ以外にも、ハイジやソラ、ナガラが居ればきっと力を貸してくれる。……プラスは微妙だな」
「誰よ……それ……」
「おいおいどうしたんだよ森、ハイジやソラ達ならお前もメガサイトであって……森?」

そこでようやく植木は気がついた、森がどんな顔で自分を見ているのか。
恐怖に怯えながらも明確に敵意の混じった、そんな表情で自分を見ている事に。
その森の口から、震える口調で紡がれる

「あんた……誰よ?」



「もしかして、そこにいるのは森か?」

聞き覚えのあるその声に反応して、森はとっさに振り返る。
そこに居るのは自分の探していた仲間の一人・植木耕介……だと思うのだが何か違和感がある。
微妙に背が伸びているような、逞しくなっているような、些細だけど見逃せない違和感。

「植…木?」

134 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:17:33 ID:cAo9lDdA0
だから自然と言葉が疑問形になる。
はっきり植木だとは断定できない。
それが森には何となくもどかしい。
しかし

「よかった、無事だった…」
「そんな始まって早々、訳も分からないまま死ねるか!!」

そう言った植木と思われる人物の本当に安心した顔に、とりあえず森は警戒心を和らげる。

「…それは兎も角、大変な事になっちゃったね。やっぱ神様を決める戦いと何か関係があるのかな?」
「ああ三年前のアレか、……けどな、犬丸がこんな事をするとは思えんが」

とりあえず目の前の人物を植木と仮定して、森は自分の考えを聞いて見た。
植木があまり考察に向いてないのは分かっているが、植木自身がどう考えているのかも確かめるついでに尋ねてみた。
だが帰ってきた答えは、完全に森の予想外の物だった。

「え、三年…前? 犬丸?」
「ん? 三年前だろ、俺達今高一であん時は中一だったから、うん三年前だ。それに新しい神様決める時は、全員一致で犬丸だったじゃねえか」

神様を決める戦いが、三年前に終わっている?
そんな馬鹿な……あり得ないわ、私はついさっきまでバロウチームと戦っていたのよ。
いつの間にか終わっていたとしても、三年前だと言う事はあり得ない。
それに私は中一だ、高一じゃ無い。
とりあえず三年前の事は置いておくとしても、新しい神様が犬丸? 全員一致で決まった? 嘘だそんなはずは無い。
確かにコバセンより犬丸の方が神様になった方が良いけど、私はそんなの投票した覚えが無い。

「いくら佐野や鈴子でももう能力がねぇからかなり危険な筈だ。早く合流しねぇと」

三年前かどうかはおいとくとしても、バトルが終わっただから能力はもう使えない。
盲点だ、あの戦いに関係ないのならそれもありなのだろうか。
だがそうすると目の前の植木も……

「あんたは…神器があるか」
「神器? 神器はアノンとの決戦で天界力を殆ど使いきっちまったから、使えねぇぞ?」

そういや、植木には能力とは関係なしに神器が……って、えええぇぇぇぇ!!
なによ神器が使えないって、天界力を使い切った? 何時・どこで?
そもそもいつの間にアノンと戦ってんのよ、バロウチームとの戦いの後から今までの間に、そんな時間なんてなかったはずよ。
あれ? でもだとしたら……

135 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:21:22 ID:cAo9lDdA0
「じゃあ、あんたも能力なしなんじゃ……」
「いや俺には職能力がある、森もメガサイトで見たろ」

職能力・メガサイト…私の知らない単語。
こいつはいったい何の事を言っているの。
わからない、そもそもこいつは本当に植木?
たまたま同じ名字の、そっくりさんとか言うオチじゃないよね?

「佐野や鈴子、ヒデヨシ以外にも、ハイジやソラ、ナガラが居ればきっと力を貸してくれる。……プラスは微妙だな」
「誰よ……それ……」

また私の知らない単語、ううん名前よね。
ハイジやソラ、ナガラって誰よ? あとプラス。
知らない、私そんな人達見た事も会った事も無いよ。
ねぇ、貴方は誰?
貴方は私の知っている植木?
それとも貴方がモリって私のそっくりさんと、勘違いしているだけなの?

小さな疑念が積み重なり、目の前の人物を森は植木と認められなくなっていく。
目の前の人物は間違いなく、植木耕介であり目の前人物が言う森は彼女自身である。
だが時間軸の差による、情報の違いから相手の事が他人に思えてしまうのだ。

「おいおいどうしたんだよ森、ハイジやソラ達ならお前もメガサイトであって……森?」

分からない、けど少なくともこいつは植木ではない事は確かだ。
あまりにも言ってる事がめちゃくちゃだし、話がかみ合わない。
もしかして、こいつ能力で姿だけ植木に変えているとか?
さしずめ、自分の姿を他人に変える能力かしら。
前の戦いでは全く役に立ちそうにないけど、今みたいな戦いならある意味かなり脅威よね。
チームを内部崩壊させたり、悪評ばら撒いたりと、色々やりようがあるわ。
そっか、じゃあ神器が使えないと言う話は、自分が植木ではない事をばれない様にする作り話。
天界人じゃ無かったら神器が使えないから、戦闘で神器を使わなかったら凄く怪しくなる。
けど、前もって使えないと理由を添えて離しておけば、それほど怪しまれなくなる。
つまり、こいつは植木になり済まして、何かする気でいるんだ。
戦闘力自体は無いんだろうけど、仲間と思って油断している所を後ろからナイフとかで刺せば、弱くても佐野や鈴子ちゃん達を十分に殺せる。

……させない、そんな事絶対に。

もし森がもっと落ち着いていたなら、いや殺し合いと言う状況でなければ、もっとしっかり話し合う事で、目の前の植木の疑惑を晴らす事が出来ただろう。

だが、下手に特殊な状況下に離れしてしまっていた事が。
互いの持つ情報に齟齬があった事が。
そこから目の前の人物に不信感を抱いてしまった事が。
間違った考察をしていた事が。
森に仲間を守る為に体を張る勇気があった事が。

幾つもの要因が重なり、二人の道は違えてしまった。

「あんた……誰よ?」

136 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:24:01 ID:cAo9lDdA0
一方植木は、先程に森の指摘に答えが出せぬままだった。
だが、理由は分からないが森と自分の間には、何か致命的な齟齬があるのを感じ取っていた。
そのせいで、自分は誤解されているのだと。
とりあえず森を何とか落ち着かせて、誤解を解こう。
そう思いながら、迫りくる棒状の物をよけようとした。
森を抑え込むために、ギリギリで。

ここで二人にとって共通の誤算が発生した。
森の振るう棒は、ただの棒では無かった事。
青雲剣、かつて魔家四将の一人、魔礼青が使用していた宝貝。
その能力は複数の斬撃を発生させる事。

ギリギリでかわすつもりであった植木は、斬撃が分裂した事に虚を突かれ一瞬回避が遅れた。
そして剣を途中で止める等と言う芸当ができるはずも無く、悲鳴を上げ何とか棒を植木から逸らせようとする森。
だが植木はその斬撃をかわし切れずに――

次の瞬間、宙に大量の紅が舞った。



寒い。
植木が感じたのは、まるで体中の熱が奪われていくような、そんな寒さだった。
傷口からはとめどなく血が噴き出し、目の前の森を赤く染める。
目が霞み、体中の力が抜けていく。

(やべぇな)

森は顔を真っ青にしながら、カチカチと歯を鳴らしながら震える。
何で? ただの棒じゃ無かったの? 等、聞き逃してしてしまいそうな小さな声で、ブツブツと呟いている。
きっと、支給品の効果を確認してなかったのだろうと、植木はひどく落ち着いて考えていた。
森が人を殺して平然としていられる性格でない事を、植木は知っている。
もしこのままにしておけば、ショックで混乱したまま、この殺し合いの舞台を彷徨いかねない。

「森……俺の…事は気…にするな。……大丈…夫……死には……しな……い」

だから植木は森に微笑みかける、残っている力を振り絞って。
落ち着く様に、安心する様に、自分は大丈夫だと言う確信持ちながら。
次に目を開けた時にも森はまだそこにいて、今度こそ誤解を解こうと。
そう願いながら、植木の意識は深い深い闇の中に落ち、心臓はその鼓動を止めた。
植木は死ぬその瞬間まで、自分より他人の事を優先した。

【植木耕介@うえきの法則 死亡確認】

137名無しさん:2009/05/05(火) 22:25:31 ID:cAo9lDdA0
【I-7 北西/市街地/1日目 深夜】
【森あい@うえきの法則】
[状態]:健康 混乱 血まみれ
[装備]:血濡れの眼鏡(頭に乗っています)
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1
[思考・備考]
基本:植木チームのみんなを探し、この戦いを止める。
0:私……植木を殺しちゃった!?
1:とにかくこの場から去りたい。
2:とりあえずみんなを探す。
3:できれば「1st」も探してみる。
4:能力を使わない(というより使えない)。
5:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、もしかしたら本当かもしれないと思いました。

138 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:26:25 ID:cAo9lDdA0


森が立ち去ってから数分後。

血溜まりの中に倒れ伏す少年。
彼の体は確実に生命活動を停止していた。
だがいかな奇跡か、その心臓は再び生命活動を開始した。

【植木耕介@うえきの法則 蘇生確認】

「すげぇな、本当に生き返った……」

植木が蘇生した理由、それは彼が食べた支給品・ヨミヨミの実の効果によるものである。
ヨミヨミの実、それは死後に一度だけ復活を約束された悪魔の実である。
そのヨミヨミの実の力で、植木は蘇生したのだ。
最も、その実の能力も制限により首輪が爆発した場合と、首を切断された場合には効果を発揮しない様にされていたが。
だからあの時、植木の首が切断されていたなら、植木はそのまま死んでいただろう。
幸い、青雲剣の斬撃は首を切断するまでには至らなかった。

そもそもヨミヨミの実は、残機が一つ増えるだけで何か特殊な力を得る事もなく、カナヅチになると言う変わった実だ。
普通ならあまり食べたくは無いが、植木は迷わずに食した。

植木は自分の性格をよく分かっている。

『何が他人の為だ、お前の身勝手な考え、他人に押し付けるな!!』
『死ぬな!! あんたの考えてるコトくらい……見え見えなんだから…!!』
『いつもいつも…自分一人で何とかしようとするな!!』
『みんなが助かればそれでいいとかそんなの…いい加減にしろバカヤローーー!!』
『一人で駄目なら私だっている!! みんなだっている!! あんたはひとりじゃない!!』


『だから…だから消えないでよ…』

かつて植木が森に言われた台詞、それらが植木の性格を物語っている。
自分が仲間の命を守る為なら、どんな無茶だって平気な事を。
どんなに止められても、それを聞かない事を。
そして、それが直せと言われても直らない事を。

その結果仲間を悲しませる事になる事も。

だが、それでも植木は無茶をする事を止めはしないだろう。
何よりも仲間を守りたいから。
それ故、無茶をして死んだとしても一度だけ生き返れるこの実は、植木にとって当たりだった。
例え代償に一生カナヅチになっても、そんな事は些細な事なのだ。

首の傷はとりあえず塞がってはいた、蘇生した時に一緒に塞がったのだろうか?
だが、傷のあった辺りが激しく痛む事から、完全に治った訳ではない事を物語る。

辺りを見回すが森はいない。
おそらくこの場を立ち去ってしまったのだろう。
森が持っていた支給品が落ちている。
自分の身を守れる武器を放り出しているから、おそらく酷く混乱しているのだろう。
すぐに追いかけねば。
幸い方向だけは、血で出来た足跡のおかげで分かる。
もっとも、途中で方向転嫁されればおしまいだが。

139名無しさん:2009/05/05(火) 22:28:30 ID:cAo9lDdA0
植木は青雲剣を拾いながら立ち上がり、そのまま駆け出そうとする。
だが体はふらつき力は入らず、思うように歩く事さえままならない。
それもその筈、首の傷は塞がりはしたが、失われた血は戻っていないのだ。
悪魔の実の力故か、意識はあるものの本来なら絶対安静なのだ。
走る何てもってのほかだ。

「……くそっ、血が足りねぇ」

それでも植木は、青雲剣を杖の代わりにして進む。
今にも倒れそうな足取りで、ゆっくりとだが一歩ずつ。
だがその足取りは、確実に森が去った方向に向かっていた。

【I-6 北東/市街地/1日目 深夜】
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:極めて重度の貧血、カナズチ化
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1、青雲剣
[思考・備考]
基本:佐野やハイジ達の仲間と共にこの戦いを止める。
1:森を追いかける。
2:血が足りねぇ。
3:森と話が合わない、何でだ?
4:モップが欲しい。
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【青雲剣@封神演義】
魔家四将の一人、魔礼青が使用する宝貝。
複数の斬撃を発生させる魔剣。

【ヨミヨミの実@ワンピース】
悪魔の実の一つ、一度死んだ後に生き返る事が約束されている。ただし制限の為、首輪の爆発で死んだ場合と、首を切断した場合は効果が無い。原作ではブルックがその能力者。

140 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:34:36 ID:cAo9lDdA0
すいません、誤爆した為に一部抜けてしまいた。
>>136>>137の間にこれが入ります。

熱い。
熱くて赤い何かが私の身を濡らしている。
この赤い液体は何? って、そんなの考えるまでも無い。
現実をしっかり見ろ、私の身に降りかかっているのは――血だ。
誰の? 目の前の植木の偽物のだ。
何で? 私の振るった棒から出た斬撃の一部が、相手の動脈を切り裂いたから。
治療は? って無駄かぁ、こんなにドバドバ血が溢れたんじゃねぇ、医療器具も無いんじゃお手上げだぁ。
つまりあなたは――そう、私は……人殺しだ。

ガチガチガチガチ
森には自分の歯が鳴る音がやけに大きく聞こえていた。
殺すつもりは無かった、そんな言葉はもはや言い訳にしかならないだろう。
手から滑り落ちた棒―青雲剣に目を向ける。

「何で? ただの棒じゃ無かったの?」

そんな事を問いかけても、返事は返ってくる事は無い。

「森……」

名前が呼ばれる、今にも消えてしまいそうな声で。
植木の偽物が自分を見つめている、血の気の失せた真っ青な顔で。
これから彼が発するであろう言葉に、森は恐怖する。
彼が断末魔に残すのは、恨みの言葉か憎しみの言葉か。
だが聞こえて来たのはどちらでも無かった。

「俺の…事は気…にするな。……大丈…夫……死には……しな……い」

そして微笑む、いつも自分を安心させる植木の笑顔で。


だからこそ、森の心を深く深く抉る。


何時も何時も自分の事より他人を優先する、そんな植木の笑顔がそこにはあった。
森は戦慄と共に気が付く、もしかしたら自分は取り返しのつかない事をしてしまったのではないか。
確かにこの男の話す事は信じられない事が多すぎる、だがもっと落ち着いてしっかり話し合えば納得した答えが出たのかもしれない。
そしたらこいつは本当に植木なのかもしれない。
だって、

自分が死ぬかもしれないのに、他人を優先して笑える大馬鹿なんて……植木以外居ないじゃ無いか。


「いやあああぁぁぁぁぁ!?」

森はディパックをひったくる様に掴むと、脇目を振らずその場から駆け出した。
植木を殺したかもしれないと言う恐怖に駆られ、今はただ一秒でも早くこの場から立ち去りたくて。
自分がどこに向かっているかもわからないまま、ただただ我武者羅に。

141 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:37:19 ID:cAo9lDdA0
仮投下終了しました。

少々話の展開が強引かなと思いましたので、判断の方をお願いします。
また、そのた指摘や意見の方がありましたらお願いします。

142 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/06(水) 07:36:36 ID:E4vLzGPo0
さるさん喰らってしまいました。
どなたか残りの代理投下と次スレのテンプレをお願いします。

143 ◆JvezCBil8U:2009/05/08(金) 23:58:50 ID:UcGJK6AA0
規制中なのでこちらに太公望、ハヤテ、ミッドバレイ、ひよのを投下。
内容的な面で仮投下と言う意味合いもありますが……。
問題あるようならご指摘いただければ。

144地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/08(金) 23:59:48 ID:UcGJK6AA0
 
 
――――死体が二つ、転がっていた。


動揺することもなく、見慣れたものとばかりにその光景を彼女は冷静に判断する。

「……もう始まっていると、そういう事ですか」

結崎ひよの――今はこう呼称しよう――が博物館に足を踏み入れたとき。
既にそこには、肉塊が二つ、血の海に沈んでいるのが見えた。

広い、広い博物館。
雑多なモノの織り成す、知識と知恵を体現する文明の集積地。

あたかもその場の展示物であるかのように、動かぬ肉塊は実にその場に馴染んでいた。
ひとつは中心に位置する大ホールから、放射状に分岐する展示室に。
もうひとつはそこから離れて間もない外縁上のギャラリーに。
ちょうど――それぞれがお互いに視界に入る位置で。

鉄錆の香りと静寂が辺りを満たし、結崎ひよのは警戒しつつも展示室の死体に触れる。
触れながら、違和感がないか探り始める。

……一応体温は残っているが既に右手の脈はない。
何故右手かといえば、左手は胴体と泣き別れしているからだ。

展示室とホールをつなぐスペースは防火シャッターによって遮断されており、
向こう側のホールに左手を忘れてきてしまっているのは確認済みだ。

心臓は完全に停止しているし、瞳孔も開いたまま眼筋運動を仄めかす事もない。
彼女の見立てに間違いはなく、目の前の元・ヒトは自分が死体であることを主張するのに余念がないようである。

死因はおそらくは左腕の喪失での多量の出血による外傷性ショック。
その上でトドメとばかりに胸に一撃ブチ込まれている。
凶器は銃器。銃創から判断しておそらく38口径。

「――38口径? ……まさか」

いや、と首を振り、結崎ひよのは検証を進める。
憶測は後だ。今は事実確認を早々に終えなければこちらの身が危ない。
体温が残っている以上、犯行を終えてまだ間もない時間のはずだ。
下手人がまだ近くにいる可能性は少なくない。

「エグいですね。ご丁寧に足に鉛玉をプレゼントしてからシャッターを閉じ、逃走経路を潰したわけですか。
 ……この分だと、シャッターで腕がちょん切られてしまったのは偶然かもしれませんね」

展示室のもう一端、外縁部に近い場所から血の川がホール付近のこの位置まで続いている。
また、そちらの入り口付近にはシャッターの開閉装置が、樹脂製の保護カバーを破壊されてレバーを外気に曝しているのが見えた。

145地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:00:24 ID:UcGJK6AA0
先ほど脈を取った時に気づいたが、あらためて死体を見つめなおすと手に握ったままの道具がどうしても目に付く。

「携帯電話、ですか」

しっかり握り締めたままのその手の指をほぐそうとするも、なかなかに難儀する。
死後硬直はまだ始まっていないのだが、よほど強い力で握り締めていたようだ。
どうにか携帯電話から指を引き剥がして中を確認してみると。

「……ダイイングメッセージでしょうか?」

――ひとつの名前が、血に塗れたディスプレイに浮かび上がっていた。

結崎ひよのに答える声はない。
死者は何も語らない。

だが、だからこそ語るとしようか。
二つのイノチが二つの肉塊に変わるまでの顛末を。



********************



この博物館の構造は、二重円を想定すれば分かりやすい。

内側の円は大ホールだ。
正面入り口から入ればまず、ここに展示された巨大な模型群が出迎えてくれる。
このホールは一番上の階まで吹き抜けになっているため、各展示室とは比較にならない大きなものを飾ることが可能なのだ。
たとえば、そう――ミニチュア封神台とか。

そして外側の円はギャラリーになっている。
ここには絵画が展示されており、モチーフも技法も全部バラバラだが見る人が見れば気づくだろう。
これは、参加者たちの経験してきた様々な物語の1シーンを切り取ったものであると。
――崑崙十二仙が聞仲に手も足も出ず撃破される様が絵の一つに克明に描かれていた。

この2つの円を繋ぐように、内側の円から放射状に伸びているのが各展示室である。
各階を移動するには大ホールに設置されたエレベーターと、ギャラリーに設置された階段を使用する。

……と、ここまでが太公望が把握したこの建物の概要だ。


「うーむ……、しっかしけったいなモノばかりじゃのう」

どうやらこの博物館は自分たちに縁のあるものばかり展示しているらしい。
太公望がそれに気づくまで大して時間はかからなかった。

とはいえ、情報がない以上説明を見ても部分的にしか分かるものがない。
綾崎ハヤテがいるなら――と思うも、彼も似たり寄ったりなものだろう。
それでも別行動をとったのは失敗だったかもしれない。

今太公望がいるのは3F、秘密結社バロックワークスとやらを扱った一角だった。
その設立経緯や構成員について列挙されてる他、等身大の蝋人形や実際に用いた武器までもが展示されている。
何でもこの蝋人形はドルドルアーツとやらの能力で再現されたのだとか。

146地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:01:14 ID:UcGJK6AA0
ただ、何故かMr.2という人物についての記述や情報だけがすっぽり抜け落ちており、
博物館をある程度見終えた太公望はその怪しさから再度ここに訪れたのだが。

「……む?」

そのMr.2に関する欠落以上に、あからさまなおかしさを太公望は感じる。
何だろうか、先刻訪れたときには感じなかった違和感。
つまり――、先ほどから今この時までに、何か変化が起こったという事だ。

あらためて周囲を見渡しつつ、記憶と現在を照合していく。

説明文の書かれたパネル――変化なし。
ガラスケース内部の展示物――変化なし。
構成員の蝋人形――、

じり、とそのうち一体ににじり寄り、にらめっこする。

「……ぷっ」

口を押さえて笑いをこらえる。
何とも見事なカールを描いたその髪に、ついつい笑いが漏れてしまった。

その人形の説明書きに記された名前は、Mr.8。
太公望の感じた変化は、人形の持っていた道具の喪失。

その、失われた道具の名前は――――、


********************


ぶじゅり、と足を動かす度に激痛が走る。
ぼとぼとと血溜まりが足元に広がり、臓腑の奥底から譬えようもない嘔吐感が込み上げて、
しかし口から吐き出すこともできず肉の中をかき回すようにぐっちゃぐっちゃに意識と吐き気が混濁する。

膝の皿を見事にブチ割り、尚且つ体の中に弾をとどめる絶妙な射撃。
いわゆる盲管射創は自分の機動力を大幅に削いでいる。
自慢の健脚は、いまや見るも無残な棒切れだ。

一歩踏みしめると関節のお肉の内側で銃弾の冷たい感触がゴリゴリと自己主張する。
骨と神経とが擦れあっては頭を真っ白にさせ、激痛は中身の異物の形を否が応でも意識させる。

それでも、立たねばならない。
立って逃げねばならない。
たとえたった一歩前に進むのが幾千里幾万里の砂漠行軍に匹敵する過酷だとしても、そうせねばならないのだ。

だけど辛いものはどうしようもなく辛くて、仕方ないから声を上げる。
大きく、大きく。
誰かに自分はここにいると知らしめるように。


「      !」

尤も、その声が誰にも届くことはないのだけれど。
そう――、自分のこの耳も含めて、だ。

147地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:01:49 ID:UcGJK6AA0
どれだけ声を軋めても。
どれだけ叫びを震わせても。

何故か、何処にも届かない。
いや、声だけでなく歪んだ自分の脚の挙げる悲鳴すらもが、この耳に届かない。

――完全な無音の世界。

自分の呼吸の音も、やや五月蝿い空調の音も、とうとう堪えきれずに今こうして無様に地面に転がったその音すらも。
何一つ、ここには存在しない。

騒がしくも奏でられる尋常の世界がどれだけ音に満ち満ちていたのか。
今こうして真の静寂に纏わりつかれていることで、ようやく実感できる。

顔を涙でぐちゃぐちゃにして、引きつる頬を抑えても状況はただ続くばかり。

助けを呼ぶことは叶わない。
それどころか、自分が今ここでこうしていることすら全く気づかない。
誰も、誰一人とて。

だからこそ、仲間のところへたどり着かねばならない。
這ってでもいい、匍匐するように後ろも見ずただ、前に進む。

ただ前へ、前へ。
その意思で綾崎ハヤテは呪わしき運命に立ち向かう。


――つい先刻。
天球の鏡の前で思い出したひとつの誓い。

その直後に一つの出会いがあり、それが終わりの始まりだった。
客人と情報を交換した矢先の事。
客人から得た情報はやはり訳の分からない事ばかりで混乱するだけだったものの、一つ得た利益がある。
自分の持っていた賞金首の手配書を見せたら驚かれ、なんとご丁寧にもその賞金は取り消されていると教えてくれた。
そのことに非常に落胆したのは確かだが、それ以上に客人の仄暗く淀んだ瞳が印象的だった。

だが、何にせよ自分にそのことを教えてくれたのは確かだ。
とりあえず同行者のところまで案内しようとハヤテは背を向ける。
自分も素人ではない、何かあれば対応できるはずだと警戒は怠らずに。

そして、数歩歩いて気づく。

何故か自分の脚が血に塗れていた。


眼に映るのは、膝の裏から開いて表面に僅かに盛り上がりを見せる真ん丸い傷跡。
途端、肉を抉られ血と組織のミックスジュースを作るとき特有の鮮烈な痛みが脳髄を揺るがした。
一気に力が抜け、その場に哀れに倒れ込む。

148地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:02:16 ID:UcGJK6AA0
何故、どうして、と問うも、この明らかな異常事態に頭がついていかない。
銃声は、全く聞こえなかった。
いつ撃たれたのかすらも分からない。
苦悶の叫びを上げようとして、そこでようやく気づいた。
喉に全く異常はないのに声が耳に届かないことに。

「    」

戦場において音が聞こえないというのがどれほど恐ろしく、おぞましい事か。
確かに五感で最も情報が多いのは視覚ではある。
だが、聴覚というのはその視覚で物事を把握するためのきっかけなのだ。
何処で何が起こっているかを知らせてくれる、頼もしい門兵であり、斥候なのだ。
それが働かない事は、即ち無条件でまな板の上に体を横たえるのにも等しい。

警鐘が延々と、延々とやかましいほどに頭の中で鳴り響く。
震えそうになる手を握り締めて、背後を懸命に振り向く。


「  ……!?」

そこにはもう、誰もいない。

それを確認したとき、本当の恐怖を思い知る。

「     !  ……?
 ……    。    !!」

何処に客人――いや、敵が潜んでいるのか。
何処に自分の安息の場があるのか。
一度でも眼を離したが故に、足音も聞こえないが故に、それを知る術はもはやない。

そしてまた、音がない故に対話は完全に絶たれた。
選択肢は二つ。
逃げるか、立ち向かうかだ。

何を迷う必要がある。先ほど、決めたではないか。
ここは立ち向かわなければならない。
失った少女を取り戻すために戦うと、そう決めたのだから。

……けれど、感情は決意をねじ伏せる。

逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、
逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい。

ガクガクと体が震える。
だって、そうだろう?
いきなり脚を潰されて、痛みで朦朧とする頭で戦うなどそれこそ勝ち目は万一ですらない。

そして同時にこうも思う。
この異常を、誰かに知らせなければならない。
声が伝わらない以上、あの太公望もこちらに全く気づいていないはずなのだから。

こんな恐ろしい相手がこの博物館を跋扈している事を、誰かが彼に知らしめなければならないのだ。

そう、だから今から行うのは絶対に逃走などではない。
理に適った行動だ。そのはずだ。

149地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:02:46 ID:UcGJK6AA0
博物館の構造を思い出す。
太公望がいるのは確か階上。
この脚では階段を昇るのは不可能だ。
使えるのはエレベーターのみであり、それはホール側にしか存在しない。

だから使い物にならないはずの脚を必死に動かして、どうにか前に進もうとする。
高いところから一気に落ちたときのような浮遊感ある気持ち悪さと、
病気のときに感じる悪寒を何十倍にも濃縮したような気だるい寒さと、
灼熱した針を千本、同じ箇所に繰り返し突き刺したような余りにも鮮烈な痛みが、立ち上がった瞬間に襲い掛かる。
そして、ミリ単位で足を動かすのと同期してその波が幾度も襲い掛かるのだ。

だけど。

「……   。    。……       !
     !      !!」

前へ、前へ、ひたすら前へ。
びっこな片足を引きずって、口の中に吐瀉物を溜め込んでは飲み込んでの繰り返しをしながらも。


********************


「む。……やっぱり、妙じゃな」

――静か過ぎる。

この博物館とやらはそれなりの広さを持つ事もあり、最上階まで見て回るのにそこそこの時間を要した。
地図に名前が記載されている以上ランドマークとしての役割もあるからだろうが、非常に目立つ建物だ。
だから、自分たち以外にも新たな客人が訪れても全くおかしくはない。

おかしくはないし、実際にその痕跡がある。

だからこそ、妙なのだ。
自分以外に二人もこの建物にいる可能性が高いというのに、そんな騒がしさが全く感じられない。

人というのはそこにいるだけで案外五月蝿いものだ。
流石に呼吸音や心音などといった微細な音は、ヒトの域を超越した音の世界の主でもなければ聞き取れはしないだろう。
だが、たとえば足音などは存外響く上に個性的だ。
人によっては独り言が友であるものもいるし、空気の震えは嫌でも肌に響く。

「不味いの。……少し、様子を見てみんといかんか」

もしかしたら綾崎ハヤテや客人は何事もなく、平穏無事に展示物を眺めているかもしれない。
だが、太公望の策士としてのカンが遠目からワァワァと警報を鳴らしているのだ。
今は警戒に警戒を重ねてなお足りない事態であると。

選択肢は3つ。

このまま息を潜めてやり過ごすか、気づかれぬように逃げ出すか。
そして、どうにかして危機に立ち向かうか。

「わしとしては、出来れば逃げたいトコなんじゃがのー……」

150地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:03:24 ID:UcGJK6AA0
――それが最も賢い選択だ。
未知の恐怖、とはよく言われるが、何故それが恐ろしいかといえばそれこそ『未知』だからだ。
知らないからこそ、人はそれを恐れる。

知らないが故に理解できない。知らないが故に対処できない。知らないが故に抗えない。

単純な話、何がどうなっているか分からないならば手の打ちようがないのだ。
そしてそれこそが太公望のような策を武器とするものにとっての天敵なのである。

「……まいったの」

ここには、誰もいない。
元始天尊も、楊ゼンも、普賢真人も、黄飛虎も、誰も彼も。
太公望にとっては彼らのもたらしてくれる情報こそが要の一つであり、
今の様な全く情報のない事態は正味な話彼にとって明らかに辛い状況なのだ。

「だがのう、未知を未知のまま放っておいてもいずれは正対せねばならんしの」

――この殺し合いが最後まで続けられるならば、たとえどんな相手でもいずれは相見えよう。
望む望まずに関わらず、だ。

……たとえ救えずとも、偵察のつもりで様子を伺っておくべきかもしれない。
綾崎ハヤテには悪いが、救えない公算は少なくない。
だがそれでも、救えるならばそれに越した事はない。

気づかぬうちに歯の根に力を込めながらも、太公望は太極符印を手に一人歩き始める。
友の形見を頼りにして。


********************


「  ……!   ……! ……   !!」

息を切らせて、嘔吐を耐えて、痛みを堪えて、ただただただただひた走る。
否、ひた歩く。
ジグザグにジグザグに、どうにか狙いをつけさせない様に。
それが脚の負担になると分かっていても、自分を侵食する寒さを振り払いながら。

――アテネを、取り戻す。その一念で、ただ綾崎ハヤテは進んでいく。
虎視眈々と今も自分を狙っているはずの狩人は、どうしてか追撃の気配を見せない。
それがあまりにも不気味で、だからこそその手を叩き落とすためにひたすらに。
もし弾丸が不足しているなどの理由で慎重になっているならば、そこに付け入る隙はある!

「      ……!」

その希望に縋る事への当て付けであるかのように。
優しさすら感じさせる無情さでシャッターが静かに道を閉ざしていく。
エレベーターまではほんの十数メートルだというのに、あともう少しだというのに。
脚がどうなろうともかまわないとその覚悟で持って更なる一歩を踏み出した、その時。

「……   !?」

どてっと、ギャグ漫画のように思いっきり転倒した。

151地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:03:50 ID:UcGJK6AA0
ああ、そんなつまらないミスをした自分が、悔しくてたまらない。

霞む頭でもそれでも奮起し、歯の根が合わなくともギリ、と唇を噛む。
血がだくだくと溢れ、口に流れ込んでいく。
立ち上がろうとしても、脚には力が入らない。

まだだ。まだ、諦める訳にはいかない。
だから、這ってでも前に進むのだ。

手を伸ばす。その先にある何かを掴むかのように。
芋虫のように体をくねらせて、閉まり行く扉の向こうへと体を伸ばす。

その先へと、恥も外聞も無視してひたすらに進む。
――ハヤテのごとく。
ハヤテのごとく、誰かの居場所に辿りつく為に。


そんな想いは、決して現実には届かない。
物理的事実は頑としてここに立ち塞がる。

「…………    !!」

伸ばした手の二の腕に、シャッターの冷たい縁が食い込んだ。
ぐりぐりと、ぐりぐりと、皮膚が、血管が、筋が、骨が、神経が圧迫されていく。
急いで引っこ抜こうとした――いや、力で無理やりシャッターの下降を抑え、潜り抜けようとしたその瞬間。

「    !」

もう一度、今度は胸に激痛が走った。
やはり音はなく、……しかし、確実に銃撃と分かる痛み。

心臓が、バクバク言っている音が骨を伝って聞こえた。
久しぶりに聞く音は、自分の命の際を伝える音だった。

動いているということは、心臓は無事だったのだろう。
だが、それだけだ。
信じられない量の血が大量に流れ出している。
動脈を思いっきりやられたようだ。
まるで降りしきる雪に埋もれていくかのように、体が冷えていく。

それと同時に、ごりゅごりゅと自分の腕の皮膚が、血管が、筋が、骨が、神経が切断されていく感触がした。
嘔吐感などともはや呼べない、体の中の臓物が全部表に出てくるような息苦しさだけを感じている。

痛いイタイいたいいたいイタイ痛いいたいいたいイタイいたい痛いイタイ――!

気がつけばシャッターは降りきっており、自分の腕は壁の向こうに消えて無くなっていた。
既に痛みすら感じない。
ただただ、喪失感だけが自分を満たしている。


********************

152地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:04:22 ID:UcGJK6AA0
――――吹き下ろしとなったホール。
そこを臨む通路に出てみれば、異変は一目瞭然だ。

見下ろす階下には、あからさまな異常がしっかと居を構えている。

「いつの間にあんなものが降りておったのだ?」

無骨な鋼色のシャッター。
先ほど見た時には、あんな物が道を塞いではいなかった。

「――――!?」

警報が、いつの間にか警鐘へと成り代わっていた。
耳が痛いくらいに、空気が張り詰めるほどにワンワンと唸りをあげている。

「……腕、じゃと?}

遠目からでも分かる。分かってしまう。
切り落とされた腕が、ついさっきまで生きた人間の体にくっついていた腕が、余りにも無造作に遥か下に転がっていた。

シャッターの向こうからじくじくとじわりじわりと、赤い血溜まりが少しずつ広がっていく。

「く……っ!」


予想を遥かに超える速さで、事態は刻々と悪化していた。
気づかぬうちに転移し再起不能なまでに体を蝕む病巣のように、太公望の知らぬところで早取り返しのつかぬところまで。


それでも見捨てられないと判断した太公望は、果たして賢者とは呼べぬ愚妹の輩だったのか。

それを判断するのは、読者諸氏に任せるとしよう。


********************



どろどろと、どくどくと、だらだらと、びちゃびちゃと、じゅぶじゅぶと。

あかいみずが、たっぷりとながれでていた。

ひとのからだってこんなにみずがはいっていたんだと、それはそれはしんじられないりょうだった。



直感した。

――――ああ、自分はここで終わる。
この出血量は間違いなく、充分だ。
死ぬ為に。

153地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:04:44 ID:UcGJK6AA0
何も出来ないまま、ここで終わる。

絶望が、綾崎ハヤテの心を満たす。


いいのだろうか。

本当に、ここで終わっていいのだろうか。


「……  」

違う、と、そう言ったつもりだった。
だが相変わらず、音は聞こえない。

――その事から、一つ気づいた。
敵は、まだ近くにいる。
自分が死に絶えるのを、待っている。

ごろり、と、力尽きたかのように横転する。
それを警戒したかのように、何かがぴくり、と動くのが見えた。

天球の鏡の、すぐ横で。
その隣に飾られていた、あるものの影に隠れるように。

思い浮かべる、かつて袂を別ち失った一人の少女の事を。
せめて、自分が彼女のことを忘れていないとそれを伝えたくて。


「    ――――!」

片足に力を込めて、渾身の力で飛び掛る!
たとえどれだけ少ない確率でも、失ったものを取り戻すために!
せめて、せめて一太刀ぐらいは浴びせられる様に――!


そして、そこまでだった。


敵は身を隠していた『それ』ごと、飛来してきた綾崎ハヤテを殴り飛ばした。
蹴りか、掌打か、はたまた体当たりか。
綾崎ハヤテからは、『それ』が陰になっていて、何をしたのかも見えなかった。
本当にそこにいたのが敵だったのかも、見えなかった。


ぼきゅごりゅぼき、と、色々と大切なものがイッた感触が妙に生々しく感じた。



********************


結論から言えば。

どうしようもなく、遅すぎた。

154地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:05:10 ID:UcGJK6AA0
「ハヤテ――――!?」


まあ、仕方あるまい。
見えないところで起こった事を知ることができる人間などいない。
ましてや見えないどころか、聞こえないという条件すら加わったのならばなおさらだ。
否、人間に限らず、すべての存在は自分の知覚出来ない場所で達せられた事を知る術などないのだ。
それは仙道であろうとまた然り。

我々に許された感覚情報というのは僅かに5つに過ぎないという事を実感している人は決して多くない。
視覚聴覚嗅覚触覚味覚、我々が外の世界を感じ取るのはこの5つでしかない、
知識ではそう知っていても、世界はそれ以上の情報に満ち満ちているという錯覚は決して拭えない。

だって、そうだろう?
この世界がたった5つの感覚の組み合わせで再現できるなんて、君たちは信じられるか?
脳に電極を繋いで5種類の刺激を送り込みさえすれば、どんな夢物語でも再現できると信じられるか?

話を戻そう。
要するに、自分の見えぬ場所、目の前で起こったのではない事という視覚情報の欠如。
そして、その場で何が起こったかを空気という媒介を通して伝えるはずの聴覚の欠如。
この2つが足りないだけで、人間はあまりに無知なる動物と化すのだ。
残っている感覚情報は嗅覚と触覚と味覚。
この内、触覚と味覚はそれこそ直に接しなければ全く意味のない情報。
少しでも離れた場所のことを教え得るのは、嗅覚だけなのだ。

太公望も良く馴染んだ血の匂いと、彼の時代には存在しない硝煙の匂い。
たったそれだけの情報でどう立ち回れるというのだ?

例えば、そう。

こんな風に心臓狙いの一発が、見事胸のど真ん中を撃ち貫いていた場合には。


「…… 、  ……   ?」


音がない世界――、死の宣告の前兆が全くない世界。
目の前に現れて、あるいは自分の体を貫かれて、はじめて脅威に気づける世界。

血の池に仰向けに浮かぶ綾崎ハヤテを見て、どう動くべきかを思案したその一瞬、だと思う。

確証できないほど静かに、そしていつの間にか、太公望の胸にまあるく一つ孔が開いていた。


肺腑に漏れた血液が流れ込んでいく。
約五億にもも計上される肺胞のひとつひとつを満たすまで、
あたかも雪が降り積もるように見た目にはゆっくりと、実質的にはとても早く、速く。

155地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:05:35 ID:UcGJK6AA0
ごふ、と血を吐いた。
急激な貧血で、目の前がまっしろになった。
今度はまっくろになった。
その次はまた、まっしろになった。
黒と白とが、交互に目の前に現れた。

そして、そのままゆらりと倒れた。
ごとりという音すら、音界の覇者は許さなかった。

ぽっくり、と、そんなオノマトペが良く似合った。

ころころとすぐ傍に転がる太極符印に手を伸ばそうとして――、諦める。
もう済んだ事だ、どうしようもない。

すまんのう、と、形だけ口を動かして、太公望の瞼は花が萎むように閉じられていく。


血の池がもう一つ、健康なエキスに満ち溢れた山水画を作り出した。



********************


ただ空を仰いで横たわる。
いや、空どころか低い天井でしかない。
『それ』を体の上にのしかからせたまま、綾崎ハヤテは自分の呼吸が徐々に小さくなっていくのを実感していく。

のしかかっているものは、立派なトルソーとそれに掛けられた執事服だった。
なんとなく、ちょっと重く感じたので無造作にそれをどかす。
下半身はもう動かないけど、どうにかそれくらいは出来た。

と、その執事服の中に何か硬いものがあるのに気がついた。
ポケットを探ると、その中からプラスチックの塊が一つ。
携帯電話が、転がり落ちてきた。

どうしてそうしようと思ったのかは分からないが、それを開いて電源をつける。
電話帳の一番最初を見てみると、そこには知らない少女の名前が表示されている。
何故か迷うことなくそれを選択し、ゆっくりと耳に当てた。

『――あ、おいお前! どうして私の執事の服と携帯をパクったりなんてしたんだ!』

――覚えのある少女の声が、いきなり自分を弾劾した。
気が強そうだけれど、それでもどこか優しそうな可愛らしい少女の声。
いつのまにか世界に音が戻っていると、その事を知らしめてくれた。
……これは、誰の声だったろう。

そしてもう一つ、いつもどこかで聞いているようで、やはり思い当たらない声の持ち主が電話の向こうに現れた。

『……お嬢様、いきなりそれはマズいんじゃないですかねー、もしかしたら善意の人かも……』

……この少年は誰なんだろう。
知りたいけれど、知りたくもないという矛盾した感情がせめぎ合う。

156地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:06:07 ID:UcGJK6AA0
『だ、だってこいつ怪しいぞ! さっきからなんかハアハア言ってばかりで一言も喋らないんだ』
『ちょっ、お嬢様、切ってくださいそれは! 
 携帯なら契約を切って買い換えればすみますし、それより不審者の手元にお嬢様との連絡手段があるのは危険ですって!』
『……う、うむ。でも、あの携帯は……』
『大丈夫ですって、携帯電話がなくても呼んでくれれば僕はすぐに駆けつけますから』
『ふふ……、そうだな。お前はいつだってそうだもんな』
『え、あ……』
『照れるな照れるな、もっとお前は自信を持っていいんだぞ?』

聞いている内に、何とはなしに少女誰なのかを思い出した。
ああ、この声は――、

『何せお前は、この私――、三千院ナギの執事なのだからな!』


とても嬉しそうに事実を告げるこの声は、自分が誘拐しようとした少女の声だ。

……何故か、安堵の吐息が出た。
誘拐などという最低の行為をしようとしていたのに、その安否を知ったらほっとしたなんておかしいなと思う。

そしてもう2つばかり、湧き上がった感情がある。
嫉妬と羨望。
どうしようもない程に、少女と一緒にいるらしい執事の少年にその感情を抱いてやまなかった。
やっぱり、理由は分からない。
分からない事だらけだ。

どうしてこんな事になったのだろう。
どうして自分はこんなところにいるのだろう。
どうして自分のそばには、誰もいないのだろう。

天王州アテネの事を想い、悲しさを中心とするたくさんの感情がごちゃごちゃになっては消えていった。
西沢歩を始めとする、学校の友人たちがあまりにも懐かしかった。

最後に残ったのは2つだけ。
ただ寂しくて、悔しくて、上を向いて表情を変えないままぼろぼろと涙をこぼす。
後から後から、どれだけ泣いても涙が枯渇しない。
同時に、意識が溶けていく感触がする。
混沌とした暗闇の中に一人、原型もなくどろどろにトロけていく。

自我とやらはもうとっくにはっきりしない。
もしかしたら、今の電話も幻聴だったのかもしれない。


「せめて――、」

最後にたった一つ思ったことは。

「せめて君たちは、幸せに……」

157地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:06:37 ID:UcGJK6AA0
たとえどれだけ望もうと、足掻こうと、過去は過去。
綾崎ハヤテは前に進んでいるようで、結局は既に存在しない絆に縋り付こうとしただけでしかない。

綾崎ハヤテは執事である。
執事とは、他の何に変えても主を護りぬく者である。

だが、彼が選んだ選択は、今ある大切なものを『護ること』ではなく。
失ったものを取り戻そうと『戦うこと』だった。

彼がほんのわずか未来からこの場所に訪れたのなら。
運命と戦うと、執事の本分を忘れた世迷言を望まなかったなら。
新たな誓いを胸に、大切な何かを絶対に護り抜くと、その決意が出来ていたなら。

可能性を論じることに意味はない。
今はただ、一人の少年の結末を淡々と語るとしよう。

殺し合いに招かれた、この綾崎ハヤテは死んだ。
それだけの事だ。

そしてまた、今この場にいる彼の縁者たちはその多くが生きている。
ここに招かれた三千院ナギも、生きている。



Hayate the combat butler  BAD END

158地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:07:08 ID:UcGJK6AA0
********************



デイパックを確認し終えたところで、長い、長いため息を結崎ひよのはゆっくりと吐く。

結局、この仏さんからは重要そうな情報を得る事は出来なかった。
当然のことながら、デイパックの中身もよく分からない文書と手配書という外れであろう組み合わせだ。
もしかしたら武器も入っていたのかもしれないが、たとえそうだとしても持ち去られたのだろう。

「まあ、完全な無駄足ってわけでもないという事にしておきますか」

少なくとも柳生九兵衛という人物の性格や行動傾向、
そして、ヴァッシュ・ザ・スタンピードという人物の顔と、『平和主義者』という備考が分かったのは確かなのだ。
まあ、ヴァッシュという人物は平和主義者という割に何故か高額の賞金首だという意味不明な矛盾が存在してはいるが。

「……600億、ですか。ハイパーインフレの国のご出身なんでしょうか?」

いずれにせよ、だ。
わざわざこれらが支給されたということは、彼らがこの殺し合いに巻き込まれている可能性は決して少なくない。
罠かもしれないという疑いがある以上どこまで信頼できるかは怪しいところだが、情報は武器である。
そして結崎ひよのは情報を扱う事に関してはエキスパートだ。

伝手が出来れば、人の繋がりを作れれば、それだけで取れる手段は大きく増える。
この情報を生かすも殺すも扱い手次第であり、自分や、自分が力となるべき少年の手で紛れもなく力となる。


そしてもう一つ得たものといえば、故人の握っていた携帯電話。
そこに示されていた名前はとりあえず要注意だろう。
この少年を殺した人物の可能性は低くないし、そうでなければ間違いなく縁者なのだろうから。

もしこの電話が使えれば、その人物と連絡が取れるかもしれない。
そう思ってリダイヤルしようと画面を開いてみれば。

「……あら?」

血に濡れたのがまずかったのか、それともバッテリーでも切れたのか。
携帯電話はいつの間にかうんともすんとも言わなくなっていた。
ショートでもして壊れてしまったのなら直しようがないし、バッテリー切れでも充電する道具がない。

「あっちゃぁ、マズりましたね。仕方ないですからとりあえず保留、と」

自分のデイパックにそれを放り込み、パンパンと手を叩く。

「それではあちらさんの方も確認しておきますか。
 死体漁りなんて趣味の悪い事せざるを得ないとは、なんて私は不憫なんでしょう。
 まあ、それもある意味では献身的に尽くしてる事になるんですかね?」

相変わらず警戒は怠らず、静かに、だが迷いなくもう一つの肉塊ににじり寄っていく。
見れば、どことなく中華風の服を着た少年のようである。
すぐ側に転がっているボールが印象的だが、まずは少年の方からだ。

159地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:07:34 ID:UcGJK6AA0
「少年二人が赤い空間で一緒に寝ている、なんて言うとなんか耽美な雰囲気ですねー、私にはそっちの趣味はないですけど」

と、寝ている少年の横まで近寄り、あらためて検分を開始する。

「凶器は……やっぱり38口径弾ですか。
 まあ芸術的なほどに胸のド真ん中をブチ抜いてます、ね……?」

と、そこまで確認したところで疑念の唸りを上げた。

「んー?」 

腕を組み、眉をひそめる。

「んー……」

こくり、と可愛らしく首をかしげる。

「んん?」

軽く額に指を当てる。

「えいや」

肉塊に適度な力加減で蹴りを入れる。

「のわっ!」

肉塊が気の抜ける叫び声を上げた。

「おはようございます」

にこにこと、百点満点の笑みを浮かべる。

「…………」

肉塊はまた沈黙して、面倒臭そうにごろりと体の向きを変える。

「お、は、よ、う、ございますっ!」

にこにこにこにこと、百二十点リミットオーバーな笑みを突きつける。

「……う、うむ。おはよう」

肉塊がちょっぴり面食らったような顔で挨拶を返した。

「……どうして、わしが死んでおったのではないと分かったのだ?」

肉塊――、もとい、少年が疑問を呈す。
それに対する答えは女のカンが第一なのだが、そう答えるのもいま一つ芸がないのでこう答える事にした。

「企業秘密、です♪」

「あー……、うむ。成程な、うむ」
「はい♪」

160地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:00 ID:UcGJK6AA0
「…………」
「…………」

絶句。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「さて、聞かせてもらえますよね?
 ……貴方たちは何者で、一体何があったのか、を」

貴方たち、の、たち、という部分に反応してほんの少しだけ少年――太公望は顔を歪める。
本来は72歳ととても少年などと呼べない年齢なのだが、それはこの際気にしない事にしておこう。

「あやつは……、いや、その口調ならば問うまでもないことであったな。
 ……そうじゃよなあ」

悔しそうに歯噛みし、だが立ち止まってはいられない。
骸の方に敢えて顔を向ける事はせず、太公望は僅かに眼を閉じ、うなずく。

普賢が、わしを護ってくれたのかもしれんのう。

そう心の中で呟く。

銃、という概念は太公望にはない。
だが食らった一撃からどのような攻撃かは類推する事が出来る。
おそらくは金属製の弾丸が、何かの推進力により高速飛翔してくる武器だろう。
殺傷力は高いが直線的で、単発だ。

だから、太極符印の斥力場を直感的に展開させる事でどうにか生き延びられた。
直線的な攻撃ならば、軌道を逸らしてやればいい。
特に急所に正確に向かってくるならば尚更だ。少しズラすだけで急所から外れるという事なのだから。
『心臓狙い』のはずが、『胸のど真ん中』を貫いたのはその為だ。

後は死んだフリをしてどうにかやり過ごす事が出来た。おそらく敵は心臓に命中したと思っていることだろう。
隣でデイパックをガサゴソやられていた時は冷や汗物だったが。
うつ伏せのまま動く事も出来ないのは中々の苦痛だったとはいえ、死よりはよっぽどマシだ。
結局何一つ持っていかれなかったのは、武器らしい武器もなかったからか。
よもやボールにしか見えない太極符印が武器とは確かに思えまいし、まあ、たとえそれが分かっても使えないだろうが。

とにかく、だ。
どうにかしてあの音なき攻撃に対処せねばなるまい。
足音や衣擦れ、飛来物が風を切る音すら聞こえないのはあまりに危険すぎる。
攻撃のタイミングが、つかめないのだ。

例えば、番天印の様な宝貝を思い浮かべよう。
押印したものを100%殺傷するという危険な代物だが、逆に言えば押印という前兆に合わせて相殺すれば無傷で対処できる。

だが、それとは全く反対に、音を奪われた上で死角から攻撃されたとあっては反応する術がない。
だからこそ、その『いざ』を万全にしておかねばならない。

161地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:24 ID:UcGJK6AA0
……すまんのう、ハヤテ。

口には出さずとも、何度も何度も謝罪する。
助けられなかったという重い事実は、太公望の心に確かに刻まれる。
――何度経験しても、死の別離というものには慣れる事はない。

だが、彼のおかげで打開の糸口は少しだけ見えつつある。
それを実行するためあらためて太極符印を手に取り、密かに命令を入力する。

「……と、自己紹介がまだであったの。
 わしはとりあえず太公望と名乗っとく。他の名前もあるがの」

ニョホホ、と笑い、目の前の少女に名乗りを促してみれば。

「そうですねー、それも企業秘密ということでお願いできませんか?」

またも必殺スマイルで回避された。フレンドリィに接したつもりだったのだが。

自分が向こうに転がっている死体を作った犯人でない保証がどこにある?
まあ、信用されないのも無理はない。
少女が自身について迂闊に話さないのは実に鉄則通りと言える。
そこまで修羅場慣れしているようにはとても見えない外見なのが末恐ろしい。

「……食えんのう、お主。どこぞの女狐を思い出させるわい。妲己という名前なんじゃがな」
「あら、そんな傾城の美女に喩えられるなんて、貴方は分かっている人ですね」

――あやつめ。後世にまで存分に悪名を伝えおって。

服装からハヤテと同年代の人間だと充分解るだけに、そんな未来まで残った悪行三昧に嘆息を隠し得ない。
思い切り、息をついた。

「……まあ、信用を得るのは一苦労なのは分かっておるしな。
 当面は聞かぬ事にしておくよ」
「ふむ。当面、という事は人を集めてらっしゃるわけですか。
 どうやら少なくとも、殺し合いを積極的に肯定している立場ではないようですね」
「……中々回転は速いようじゃな。
 おぬしの様な相手に一体どこまで語っていいものやら」
「さぁて、それを決めるのは貴方自身ですからね。
 ただ、出来る限り多くを話してくれた方が、私が貴方を信用する確率は高いですよ?」

にこり。
少女の笑みに、仕方なしに太公望は語り始める。
とりあえず出来る限り多くのことを語らねば信用を得ることはできないようだ。
下手すればハヤテ殺しの下手人として吊るし上げられる可能性すらある。
ここは正直が一番だ。

仙人界を揺るがす、一世一代という言葉すら矮小に思える、演義という名の大河の流れを滔々と、滔々と。

そして、僅かな時間だけの同道者であった、健気な少年に関する口伝を。
全てを伝えるために、語っていく。

162地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:45 ID:UcGJK6AA0
【B-8/博物館 外周ギャラリー/1日目 黎明】

【太公望@封神演義】
[状態]:胸部に貫通銃創、貧血(大)
[装備]:太極符印@封神演義
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×1@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:殺し合いを潰し、申公豹を倒す。
 0:……おぬしの死は無駄にはせん。
 1:目の前の少女の信頼を得る。
 2:申公豹の目的は……?
[備考]
 ※殷王朝滅亡後からの参戦です。
 ※手配書は渡されただけで詳しく読んでいません。
 ※ハヤテと情報交換をしました。
 ※ひよのと情報交換をしました。ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。


【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]: 健康 おさげ片方喪失
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式×2、不明支給品1、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
[思考]
基本: 『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。
 0: 言ってる内容がいちいち胡散臭いですねー……。
 1: 鳴海歩がいるか確かめ、いるなら合流したい。
 2: あらゆる情報を得る。
 3: 2の為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
 4: ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
[備考]
 ※ 清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
 ※ 不明支給品1は、少なくともミッドバレイには役に立たないと判断されたアイテムです。
 ※ 手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
 ※ 太公望と情報交換をしました。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
   ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
 ※ 太公望の言動を疑っています。

【綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!】
博物館の展示物である執事服のポケットから転がり落ちてきた携帯電話。
動作不良を起こしており、現在は使い物にならない。
少なくともロワに参加したハヤテの持ち物ではないが……?

163地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:09:25 ID:UcGJK6AA0
********************


「……と、そうそう。一つ注意しておかねばならん事があっての」

「はい?」

「……わし達に襲い掛かってきた敵なんじゃがな。
 あ奴が攻撃してくるその直前は、ほんの一瞬だけ何もかもが無音にな」


りおる、と、結崎ひよのには太公望がそう口を続けたように見えた。

まさしく、それこそが無音だった。


太公望の体が、見えない鉄槌に殴り飛ばされた。
全身のあちこちからただでさえ少なくなった血を飛び散らせて。
生ゴミの詰まったビニール袋が車に轢かれて何度も何度も撥ねるかのように。

「  」

つい一瞬前まで太公望だったモノが、何か口を動かしたように思えたけど、何一つ聞こえない。

え? と、自分も口を動かしたと思う。
気づいた時には自分のドテッ腹に腕が通るくらいの孔がこじ空けられていた。

かふ、と、口から真っ赤な湧き水と砕けた臓物の一部がせり上がっては零れ落ちていく。

何一つ思う間すらなくどてりと倒れた。
次の瞬間、ぷっつりと意識が途切れた。
目の前が真っ赤に染まる、というありきたりな表現ですらない。

考える為の脳ミソがそっくりそのままブチ撒けられたのだから当然だ。
大切な誰かを思い出すことすらなく、一人の少女が死肉と化した。


まるで、出来の悪い映画のように。
起こっている出来事が全て唐突すぎて、前後の繋がりが理解できない代物だった。


********************


誰が言った事だったろうか。

銃で撃てば、人は死ぬ。


********************

164地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:09:54 ID:UcGJK6AA0
自動展開した太極符印の斥力場も虚しく、無数の鉄くれが次々と自分の体を蹂躙していく。
それをまるで他人が眺めるような心持ちで、淡々と受け止める事にした。

太極符印の特性として、攻撃パターンを記憶し、それに対処できるように力場を展開するという物がある。
これにより、前回と同じ攻撃ならば完璧に防ぐ事が出来るはずだった。
かつて自分の親友が用いた技だからこそ、太公望はそれに十全の信頼を置いていた。
だが。
銃、というらしい綾崎ハヤテと自分を襲った武器に対し、それを無力化できるよう設定したのがかえって仇となった。

太公望の生きる時代は銃の生まれ出る14世紀末より遥か2500年も前、紀元前11世紀である。
飛び道具など、宝貝によるそれを除けば弓矢や投石といった程度のものだ。

だから、銃といっても先刻自分たちを襲った拳銃以外に、様々な種類が存在する事までは知り得なかった。
狙撃銃、機関短銃、自動小銃、重機関銃、そして――散弾銃。

『高速で正確に急所に飛来する単発の金属弾』という攻撃パターンを防ぐための対策では、
『点でなく面で襲い掛かる無数の小粒弾』を防ぐ事は出来なかったのだ。

いやむしろ、なまじ斥力場で急所を、急所だけを守ったが故に、
それ以外のありとあらゆる部位に弾が食い込む結果となってしまったのかもしれない。

八大地獄すら生温い鮮痛が太公望を刻み尽くし、未知が理不尽に命を刈り取っていく。

――――大量に、血を失ったのがまずかったのかもしれない。
普段の太公望ならば、たとえ未知の武器であっても拳銃の特性から散弾銃を思い描き、対策を練れたのかもしれない。
だが、先刻の胸部への銃撃はたっぷりと太公望から血液を奪っていった。
貧血によって脳への酸素の供給量が低下すれば、当然判断力や発想力は低下するものだ。

全身といっても過言ではない程にあちらこちらで身体が軋む。
肉の内側で弾と弾が擦れる感触が、痛覚神経を直に刺激してある種の快感をもたらすほどの鋭い痛みをもたらす。

苦悶を飲み込んだその瞬間。
何一つ音がないからこそ、少女の胴体が、そのキレイな顔がフッ飛ばされる様がよく見えた。
脳漿交じりの血煙が辺りに立ち込める。
鉄臭い匂いがとても不快だ。
無音の状態が厄介なのは、一度でも無音になった後はいつ次の攻撃がくるか分からないという事だ。
分かっていても、どうしようもない。

相手はプロだ。プロフェッショナルだ。
こうも念入りに殺しに来るとあっては、今度こそ助かるまい。
このタイミングで殺しに来たのは、おそらくもう用済みだと判断されたのだろう。
……自分が話した情報は全部聞かれたと思って間違いあるまい。

一つ、仮説が浮かんでくる。
どうして一度はやり過ごせたはずの敵が、わざわざ自分たちを殺しにかかったのか。

――心音や呼吸音といった、身体の僅かな音すらも拾える耳の持ち主だとしたらどうだろう。

拳銃による一撃は、確かに心臓を貫く軌道だった。
そして太公望による死の偽装もほぼ完璧だったはずだ。
だから、太公望の生存を見抜くには何らかのファクターが必要なのだ。

165地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:10:18 ID:UcGJK6AA0
太公望はそのファクターが音であると推測する。
異常なほどの聴覚が自分の生存を筒抜けに知らせていたのだと。

そして、その耳で以って、この無音の状況を作り出しているのではないか、と。

音とは空気の波であり、逆の位相の波をぶつけてやれば相殺できる。
この一帯のありとあらゆる音を聞き分ける事が仮に出来たならば、それら全てを0にする事は不可能ではない。

宝貝も使わずそんな真似ができたのならば、神技とすら呼べぬ魔技の使い手に相違あるまい。

そして、聞き分けるという事は、それは任意の音だけを選出して響かせる事も出来るという事だ。
敵自身の痕跡だけを消して、自分たちの会話内容を把握する事さえも。

だがそれでも打開する方法は存在する。
例えば今この時のように。

ようやく太極符印が散弾銃を記憶した。
自分に止めを刺さんとする見えざる相手の攻撃は、とうとう完全に防がれた。
取り落として、ほんの数歩先に転がっていても、確かにそれは自分を護ってくれている。

だが、結局はもうとっくに――意味がないのだ。
自分もとうに致命的に血を流しすぎてしまっている。
少女にいたっては絶命しているのが明らかだ。

今までに出会ってきた、様々な人物の顔が頭をよぎる。
自らの師である元始天尊や崑崙十二仙の面々、武王を始めとする周の人々。
黄一家の頼もしい背中や、自分を師と慕う武吉。
ずっと自分の相棒であり続けた四不象に――、いまだ立ち塞がり続ける妲己。

殷王朝も討伐し、これからという時じゃというのに、なあ……。
皆、すまんの。

心の中で謝ろうとして、苦笑する。

――そう思うのは感傷かもしれない。
楊ゼンやナタクたちなら、自分がいなくなってもきっとどうにかしていくことだろう。

この場所で封神台は機能しているのだろうか。
自分が死んだら、魂魄が封ぜられるのだろうか。

……心残りなのは申公豹めを問い詰められんかった事じゃな。
あやつめ、本当に何を考えておったのだ。

ひとり、それだけをごちる。
周の今後はともかく、この場所での後の事があまりにも不安だ。
こんな訳の分からぬ戦いを放って逝くのは少々心苦しい。

166地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:10:44 ID:UcGJK6AA0
だが、希望はまだ、ある。


  ん? おぬし……、珍しいものを持っておるのう。

  これですか? 武器にもならなさそうですし、胡散臭い代物にしか思えないんですけどねー。
  

たった数分前の記憶が懐かしい。
だが、今はそれが唯一の命綱だ。

けれど――、このまま何もしなければ、すぐに敵はそれに気づいて一切合財を台無しにしてしまう事だろう。


「……    」

……残さねば。

「    」

残さねば。

「    ……!」

残さねば……!


転がったままの太極符印まで、血反吐を吐きながらにじり寄る。
一寸がまるで千里のようだ。

それでもゆっくりと、近づく。
近づく。
近づいていく。

そして手を伸ばし――、しっかりと掴む。
指の一つ一つを堅固に絡ませ、引き寄せる。

にぃ、と口端を歪ませて、指運を神速で走らせる。
そして終わりに、確かにこう呟いた。


「後は、頼むぞ」



【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく! 死亡】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜 死亡】
【太公望@封神演義 死亡】

167地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:11:15 ID:UcGJK6AA0
B-8/博物館周辺/1日目 黎明】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲、イライラ
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
 1: どんな手段でも情報と武器を得る。役に立たないと判断したら足がつかないように殺す。
 2: 強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
 3: 愛用のサックスが欲しい。
[備考]
 ※ 死亡前後からの参戦。トライガン関係者の存在にはまだ気がついていません。
 ※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
 ※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ※ 呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
 ※ 右足の打撲は綾崎ハヤテの最後の攻撃によるものです。

【イガラッパ@ONE PIECE】
 博物館のイガラム人形に持たされていた、散弾銃を組み込んだサックス。
 ミッドバレイ愛用のサックスより出力が遥かに劣るため、衝撃波による攻撃は不可能。
 また展示品のため、予備弾も用意されていない。

168地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:11:50 ID:UcGJK6AA0
********************


ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「おい……フザケんなよ?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「てめえ、それでもオレの――かってんだ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「こんなつまんねぇトコでくたばりやがって」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「――そこまで貴方がイラつく必要もないでしょう。予想された結末です」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「あァ? ……なんでてめえはそんなに落ち着いてんだよ。一応ライバルだって思ってたんだろ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「別に肉体の死など大した意味などないですからね。
 かつてあの計画の影の実行者だった貴方なら当然よく知ってるはずでしょう?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「……チッ。理性と感情は別モノだろうがよ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「尤も――、肉体の、血の二重螺旋という頚木に囚われた方たちもこの場にはいますけどね。
 はてさて、肉体イコール血とするならば、彼等にとっての肉体の死は何を意味するのやら」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「“神”に対する駒としての“悪魔”の子か。皮肉なこったな」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「まあ、確かに私の予想は大幅に狂ってしまいましたけどね、それはそれで。
 ……導なき道に新たに澪標と成り代わった"神”の振る賽は何を示すか。
 座して楽しむとしましょうか」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「地獄とは神の在らざることなり。そして、神は此処に在り。
 ならば、神のおわす今この時は何なのか。
 ……存外、答えを出すのは人間かもしれませんよ。
 神の子を信じて待つ事こそが、信仰であり、希望であり、愛なのですから。
 そして、その中で最も大いなるものは――――」

169地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:12:41 ID:UcGJK6AA0
********************


ぺちぺちと、自分の身体を撫でたり摘まんだりしてみる。
ぼろ切れどころかヒモ水着の方がまだマシなんじゃないかと思うくらいあちこち破れた服は、どうにも寒くてスカスカする。

「……むう」

眉根を詰めて、嘆息する。

「信じがたいですが。
 ほんっとうに信じがたい事ですが、信じざるを得ないようですね」

結崎ひよのは、確かに健在だった。

「……まさか死人を蘇らせるなんて眉唾物が本物だとは。
 これは、自称太公望氏の言動も全て本物と思って行動すべきかもしれませんね」


  それはこの世に二つとはあるが三つとはない代物でな。
  効果は――、まあ、後でとくと話すとしよう。
  今はそれより敵の話をせねばの。


太公望が話を切り替えたあの時、もしもあの道具――復活の玉について詳しく踏み込んでいたら危なかった。
それこそ、蘇生した瞬間にまたも殺されていた事だろう。

「頼まれちゃったなら、まあしょうがないですよね。
 とりあえずは善処するとしか言えませんけど」

今わの際の太公望の最後の力によって太極符印が空気を振動させて伝える、彼のメッセージ。

復活の玉の発動には大量の光が迸り、また、敵の異常聴覚はおそらく蘇生したひよのの生体反応を捉えるであろう事。
それらでひよのの生存を悟られないようにする為に、太公望は太極符印で大気と光の操作を行い、外に漏れないよう押さえ込んだ。

だから、希望的観測に縋るならば、今度こそ見えざる敵は自分たちが全滅したと判断してくれたのだろう。

そしてまた、残されたメッセージがいくつかの推測をひよのに伝えていく。
さらに太公望は、とあるプログラムを太極符印に組み込んでくれていた。
まさしく至れり尽くせりだ。
いつかきっと役に立つ事だろう。

本当は彼への返礼をしたいところだが、死人に返せるものは何もない。
せいぜいが、出来る限り彼の目指したものを推し進める事くらいだ。

「まあ、本当に出来る限りの範囲でしかお手伝いできませんけど、ね」

自分は死者への手向けよりも、生者への尽力を優先する。
たとえ彼に助けられようと、自分が鳴海歩につくという方針はブレる事はない。
覆せない優先順位というのは確かに存在するのだ。
尤も、あの鳴海歩が安易に殺し合いを肯定するはずはないし、その意味では結局太公望の意に沿う可能性は高い。

170地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:09 ID:UcGJK6AA0
そして太公望の言に信憑性が出てきた以上、いくつかの疑問が呈される。


「……封神計画。神の一字の符号は、果たして偶然なんでしょうか?」

彼が実行者だと言うその計画が、どうにも気になってやまない。
今回の殺し合いに関係しているのではないかと女の勘が告げている。

乱れた国を滅ぼし、新たな国を作る。
その為に邪魔な仙人を封じ、妲己という悪女を倒す。
そこまではいい。
彼女も知っている、中国四千年の歴史の一ページだ。

だが。
だが何故、殺すのではなく――封印なのだ?
それも、敵味方を問わず死んだもの全てに等しく行われるのは。

ホールに飾られている、ミニチュア封神台をじっと見る。
けれどそこはただ沈黙したまま、答えを返すことはない。

「……いろいろ裏がありそうですね、その計画は。
 出来れば関係者に当たりたいところですが……」

とりあえずは太公望一人から見た情報だけではとても足りない。
真実とは人の数だけ、彼らの見る方向だけ存在する。
あらゆる方向からの真実を突きつけ合わせる事で、はじめて浮かび上がってくるのが事実だ。

「とりあえず、今は何とも言えませんか。
 未だにさっきの襲撃者が近隣をうろついている可能性も高いですし、とっとと離脱すべきですね」

だが、この場所は後ほど戻ってくる必要があるだろう。
あのミニチュア封神台とやらは、いかにも怪しすぎる。

……それを置いておいても、まだまだ考えるべきことはとても多い。

綾崎ハヤテの殺害に用いられた38口径の拳銃。
自分が灯台で出会った男の拳銃もまた、同じ口径ではなかったか。

携帯電話に名前の浮かんだ三千院ナギ。
綾崎ハヤテのダイイングメッセージだとするならば、彼女(彼?)が襲撃者の可能性もある。

太公望の遺したプログラム。一度きりとはいえ条件さえ満たせば勝手に発動するというのは心強い。
宝貝とやらは、肉体的に一般人の彼女には使えないからだ。

そして――復活の玉。
もしや、の可能性ではあるのだが、あれは一つの希望になりうるのではないか。

171地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:35 ID:UcGJK6AA0
太公望は言った。
あの道具は、二つ存在すると。
一つは今壊れてしまったが、もう一つ手に入れられる可能性があるということではないか?
死んだはずの肉体を、生前以上の状態にまで回復して蘇生させるという道具が、もう一つ。

そして、あの道具を仮に鳴海歩に使ったのなら。
クローン体特有の問題――、寿命や免疫関係の拙さをどうにかできるのではないか?

鳴海歩はクローンとして生み出された存在だ。
行く先が短い運命が決定付けられており、覆す事は叶わない。
叶わないはずだった。
だが、超常の力ならばそれすら克服できるのではないか。

――もちろん、鳴海歩はそれを受け取る事を拒むだろう。
彼は絶望の中でこそ足掻く事を誓ったのだから。

「……でも。それでも……」

ぎゅう……っ、と、握り拳を『結崎ひよの』は俯きながら形作る。
それが役として作ったものなのか、本心からのものなのか。
語るのはやめておくとしよう。

「まあ、さしあたってするべきは……」

俯きをやめ、結崎ひよのは前を見据える。
その顔には既に満面の笑みが花開いていた。

「服の調達ですね♪」

笑みの裏に、弔いの言葉と確かな決意を隠しながら。

「鳴海さんにこんなあられもない格好を見せてしまったら、……うぅむ、それはそれでアリかもしれませんね。
 面白い反応を返してくれそうです♪」


【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜 蘇生】

【B-8/博物館/1日目 黎明】

172地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:57 ID:UcGJK6AA0
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康、絶好調
[服装]:髪紐の喪失によりストレートのロングヘア、上半身の服が破れて使い物にならない
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、太極符印@封神演義
[思考]
基本: 『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。 蘇生に関する情報を得る。
 0: 服を調達する。
 1: 鳴海歩がいるか確かめ、いるなら合流したい。
 2: あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
 3: 安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
 4: 三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
 5: 襲撃者は先ほど出会った男(ミッドバレイ)ではないか?
 6: 機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
 7: 復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
 8: 太公望達の冥福を祈る。
[備考]
 ※ 清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
 ※ 手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
 ※ 太公望と情報交換をしました。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
   ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
 ※ 超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
 ※ 太公望の考察を知りました。
 ※ 太極符印@封神演義にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
   また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
   結崎ひよのには太極符印@封神演義を任意で使用することはできません。

【復活の玉@封神演義】
四不象がいつも手に持っている玉。
実は仙人界に二つだけ存在する秘宝であり、持ち主が死亡した際に肉体を最高レベルまで引き上げて蘇生させる効力を持つ。
ただし使用できるのは1回限り。
また、本来は発動時の光が及ぶ範囲全てに効果があるのだが、制限により効果が反映されるのは持ち主のみ。


※博物館にはミニチュア封神台が設置されています。機能しているかどうかは不明です。

173 ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:15:52 ID:UcGJK6AA0
以上、仮投下終了。

蘇生ネタが被りましたが偶然です、本当に。
少々長いのと主催関連が心配なので、ご指摘があればお願いします。あと、本投下も可能なら。
分割点は>>162>>163の間です。

174代理:2009/05/09(土) 01:01:32 ID:qXH9dOxA0
さるってしまいました。
誰か残りの投下をお願いします。

175本スレ>>44差し替え ◆JvezCBil8U:2009/05/10(日) 13:40:49 ID:UcGJK6AA0
【B-8/博物館周辺/1日目 黎明】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲、イライラ
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
 1: どんな手段でも情報と武器を得る。役に立たないと判断したら足がつかないように殺す。
 2: 強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
 3: 愛用のサックスが欲しい。
[備考]
 ※ 死亡前後からの参戦。トライガン関係者の存在にはまだ気がついていません。
 ※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
 ※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ※ 呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
 ※ 右足の打撲は綾崎ハヤテの最後の攻撃によるものです。

【イガラッパ@ONE PIECE】
 博物館のイガラム人形に持たされていた、散弾銃を組み込んだサックス。
 ミッドバレイ愛用のサックスより出力が遥かに劣るため、衝撃波による攻撃は不可能。
 ただし、ミッドバレイが使用する事を想定されていたのか幅広い音域をカバーできるようチューンされている。
 また展示品のため、予備弾も用意されていない。

176本スレ>>45差し替え ◆JvezCBil8U:2009/05/10(日) 13:41:51 ID:UcGJK6AA0
********************


ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「おい……フザケんなよ?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「てめえ、それでもオレの――かってんだ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「こんなつまんねぇトコでくたばりやがって」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「――そこまで貴方がイラつく必要もないでしょう。予想された結末です」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「あァ? ……なんでてめえはそんなに落ち着いてんだよ。一応ライバルだって思ってたんだろ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「別に肉体の死など大した意味などないですからね。
 かつてあの計画の影の実行者だった貴方なら当然よく知ってるはずでしょう?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「……チッ。理性と感情は別モノだろうがよ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「尤も――、肉体の、血の二重螺旋という頚木に囚われた方たちもこの場にはいますけどね。
 はてさて、肉体イコール血とするならば、彼等にとっての肉体の死は何を意味するのやら」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「“神”に対する駒としての“悪魔”の子か。皮肉なこったな」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「まあ、確かに私の予想は大幅に狂ってしまいましたけどね、それはそれで。
 ……因果をも操るからこそ、自身を因果の外に置いたが故に、自らの寿命だけは覆せなかった機械仕掛けの神。
 彼の居るべき場所に新たに“神”と成り代わったものの振る賽は何を示すか。
 座して眺めるとしましょうか」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「地獄とは神の在らざることなり。そして、神は此処に在り。
 ならば、神のおわす今この時は何なのか。
 ……存外、答えを出すのは人間かもしれませんよ。
 神の子を信じて待つ事こそが、信仰であり、希望であり、愛なのですから。
 そして、その中で最も大いなるものは――――」

177 ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:28:12 ID:kSdBChBo0
マスタング、妙、BJ、ガッツ、紅煉を仮投下します。
結構長めなのでとりあえずこちらに…

178焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:29:12 ID:kSdBChBo0
男は倒れ伏していた。
それを見下ろす女性。見下しているわけではない。口に手を当て、悲しみと後悔を感じさせる表情を浮かべている。
しかし、男は立ち上がろうとしていた。目の前の女性を、悲しませない為に。
なぜ、このような事態を招いたのか。それは、数分前の話になる……


浴室での首輪の確認を終え、ひとまずマスタングはキッチンに戻った。
この家のキッチンはテーブルが配置され、その場で食事が出来る仕様になっていた。
そのテーブルの上に、何かが置かれている。

「あら、おかえりなさい。何か収穫はありましたか?」
「いや、残念ながら特に…!?」

先ほど出会い、ひとまず行動を共にする事となった女性、志村妙が笑顔で迎えてくれた。
しかし、それどころではない。テーブルに置かれたものは、それどころではないのだ。
言葉を返しながら、目は完全にテーブルの上の物体に釘付けになる。

(これは…一体…?)
「腹が減っては戦は出来ぬと申しますから、とにかく食事でもと思って…
 ごめんなさい。本当はもっと豪華にしたかったんですけど…卵焼きしか作れなくて」

妙の発言から察するに、これは一般に料理と呼ばれるものだろう。
更に言えば、原料は卵であるらしい。
「らしい」というのは、目の前の真っ黒なそれが果たして卵から出来ているのかわからなかったからだ。
ロイ・マスタングは国家錬金術師である。その中でも特に優秀な部類に入る男だ。
それゆえ錬金術に重要な物質の「理解」に関しては人よりも優れた五感と分析力を持つ。
それでも先ほどの首輪のように材質がわからないものはあるが、この目の前の物体もまたその1つだった。

(これを卵から生み出したというのか?一体どんな練成をすればこう…危険な雰囲気を出せるのだ…
 漂う匂いや色が、既に等価交換の法則を無視しているではないか!賢者の石でも持ってるんじゃないだろうな…
 あれを「卵焼き」と呼べるのか?そもそも「卵」と呼んで良いのか?「卵だったもの」の方が近いんじゃないのか!?)

179焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:29:57 ID:kSdBChBo0

様々な考えが頭を巡る。世に知れた「焔の錬金術師」である彼の頭脳をもってしても、この物体は理解しがたいものであった。
これを食せというのは遠まわしに、いやある意味一直線に「死ね」といっているようなものではないか。
そんなことを考えてしまっていると…

「……あの、無理をなさらなくても結構ですよ。自覚はありますから…」

少しうつむいて、妙が言ってきた。
この意味がわからないほど、マスタングは野暮ではない。
そしてこの言葉を無視できないくらいには、彼はフェミニストだった。

「…頂きましょう。確かに、支給された食料は少ないようですからね。現地調達で腹を満たすのは良策です。」

そう言って席に着くと、目の前にあったフォークで物体をすくい、意を決して口に運んだ。

結果は、冒頭の4行である。

絶望的な「刺激」が一通り口の中を駆け巡り終え、一端落ち着くとマスタングは立ち上がった。
無防備な口の中で劇薬を練成された気分だったが、何とか意識を失わずに飲み込むことが出来た。
これもひとえに様々な死線を乗り越えてきた経験の賜物だろう。厳しい部下の叱責にさらされ続けたのも効いたかもしれない。
なんだか視力が落ちた気がするが…気のせいだろう。視力は自分の生命線だ。大事にしたい。
とにもかくにも流れる汗を軽く拭い、引きつりながら笑顔を作り彼女に向けた。

「……この卵焼きは、治療したばかりの私の歯の治療痕には少しばかり甘すぎたようです。ははは…」
「……紳士ですのね、増田さん。どこかのバカ共とは大違いだわ」

見え透いた嘘でも何とか彼女を傷つけずに済んだようだ。
ひとまず安心しようとした、その時…
ゾクリ、と背に走る悪寒。

180焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:31:39 ID:kSdBChBo0
「伏せろっ!」

言うが早いか彼女を伏せさせ、自分も身をかがめる。
二人の頭上を、黒い影が走った。

それはリビングに突っ込むと、もうもうと上がる粉塵の中から、4mはあろうかという真っ黒な姿をあらわした。
虎と人を合わせたような、禍々しい獣だった。

(合成獣かっ!?)

マスタングの世界には様々な動物を人工的に組み合わせ生み出された合成獣(キメラ)という生き物が存在する。
それは大抵自然に存在する生物より強力で、危険な性質を持っていた。
加えてこの目の前の獣、首に自分達と同じ首輪をつけている。

「クク…人間の匂いに惹かれて来てみりゃあ…手を抜いてやったとはいえ、この紅煉様の一撃をかわすとはよぉ…ちったぁ楽しめそうじゃねぇか」

言葉まで発した。どうやらこの馬鹿げた殺し合いの参加者とみて間違いない。
しかも紅煉と名乗るコイツは、ただの合成獣ではなさそうだ。
もしかすると…

「んじゃあ次は、コイツでどうだぁ!!」

紅煉は大きく息を吸い込むと、口から猛烈な炎を吐き出した。
マスタングは妙を反対側に突き飛ばし、自分も転がるようにして炎をかわすと、隣の部屋に身を潜めた。
妙も反対側の廊下の方に隠れられたようだ。

「なんだよぉ、おい。かくれんぼかぁ…?」

先ほどの攻撃で確信した。マスタングが知る限り、炎を吐く生物など実在しない。
奴は現実の獣を合成しただけの合成獣とは違う。特殊な力を付加された存在だ。
そうなると、「ホムンクルス」である可能性がある。

ホムンクルスというのは、錬金術によって人工的に生み出された生命体である。
数多の人間の命を原料に作られた高エネルギー体、賢者の石を核とし、特殊な力と高い再生能力を備えた人造人間だ。
目の前の化け物は人間の形こそとっていないが、その一種である可能性は高い。
だとすれば、願ったりだ。
マスタングは賢者の石を欲している。自分の油断から下半身不随となった部下を治すために。
目の前にそれを持つ可能性がある化け物がいるのだ。対応しない手は無い。
そもそも既にこの家は先ほどの攻撃で燃え出しており、自分のいる部屋は窓もない袋小路。
逃げや待機は「生存」に繋がらない。生き残る為には、戦うしかないのだ。

181焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:34:55 ID:kSdBChBo0

「動くな!」

バッグから取り出した支給品を構え、マスタングは獣の前に立った。

「…クックック…お前、そんなモンがオレに通じると本気で思ってんのかよ?
 それを使ってちいせぇ鉛弾を何発ぶち込もうと、オレは殺せねぇぜ?」

そう笑いながら紅煉が身を低く構えた。獲物を狙う虎のように、鋭い殺気で部屋を満たす。
バカめ、と心中で呟いた。これは時間稼ぎに過ぎない。
紅煉の後ろでマスタングの目の合図を確認した妙が、家の外に飛び出していた。

「死ねぇぇぇ!!!」

咆哮と共に獣が駆け出した瞬間、マスタングが引き金を引く。
その武器の先端から、小さな炎が出現する。そしてその炎を基点として、不思議な光が走っていく。
その光に触れた瞬間、紅煉の周りが爆炎に包まれた。


   ◇     ◇     ◇

「すごいんですねぇ…レンキンジュツシって。」

妙に肩を支えられつつ、マスタングは市街を歩いていた。
マスタングが先ほどおこなったのは「焔の錬金術」。
可燃物周辺の酸素濃度を調節し、爆発や炎上を引き起こす秘伝の錬金術だ。
あらかじめ手の甲に記しておいた練成陣によってそれをおこない、後は点火源があればいつでも発動できる。
しかし、火は彼の背後にあった。そこから練成によって正確に相手の所まで焔を運ぶには少々骨が折れる。
そこで支給品であった拳銃型ライターを使用したのである。

結果は上々。あの化け物はとりあえず焔に包まれ、崩れた天井の下敷きだ。
脱出の際にこちらも手傷は負ったが、たいしたことは無い。
いかに再生能力が高かろうと、あの瓦礫の下で炎に焼かれ続ければただでは済むまい。
このまま相手が死んでしまう可能性は高く、そうなれば賢者の石を手に入れるのは難しいだろう。
本来は生け捕りが望ましかったのだが、そうも言っていられない状況と相手だった。
この結果に満足しないわけにはいくまい。

「とりあえず、遠くに逃げますか?」
「いや、あのくらいの炎ならしばらくすればおさまるでしょう。悪趣味と思われるかもしれないが、死体を確認しておきたい」

妙は一瞬驚いたものの、すぐにその真意を汲み取った。倒しきった確証が欲しいのだろうと。
実際は首輪の回収と、賢者の石が残っているかもしれないという願いが含まれていたのだが…
妙から離れ、マスタングは近くにあったベンチに腰掛ける。なんとか一息ついた。

「お強いんですねぇ…おかげで助かりました。ありがとうございます」
「いや…私も自分の身を守るためにしたようなものです。お気になさらずとも。
 私もここで死ぬわけにはいかないのですよ。大事な目的が待っていますから。
 それに…怖い部下もね」

そこで初めて、妙はマスタングの本音と本当の表情を垣間見た気がした。
先ほどまでに、何度かお互いの状況を話し合った。彼は役人であり、部下や同僚が多くいるらしい。
すかしたナンパ男のように思っていたが、この男もまた大事なものを持ち、その為に戦っているのだろう。
自分や弟が、父から継いだ道場や魂を守って生きているように。

「大変でしょうね、その生き方は…」
「よく甘いと言われますよ」

苦笑しながら答える男の目は、どこかで見た煌きと似たものがある気がした。

182焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:36:48 ID:kSdBChBo0

ガシャーン!

「え?」

そこで聞こえた、奇妙な音。
立ち位置の都合から妙にしか見えていないが、異常が発生していた。
燃え盛る炎をかき分け、黒い物体が姿をあらわす。

「増田さんっ!!!」

妙の叫びでマスタングが異常に気づき振り返ったときには、もう獣は迫っていた。

「くっ、ぐぉぉぉっ!!」

とっさに身を逸らしたものの、傷の影響か今度はかわしきる事が出来なかった。
鋭い痛みが、マスタングの右目に走る。三本の傷痕が刻まれ、鮮血が飛び散った。
右目を押さえ、マスタングも武器を構える。
そこには先ほど仕留めたはずの黒い化け物が、ニヤリと嫌らしい笑いを浮かべて立っていた。

「貴様…あの焔を浴びて…」
「生憎オレは雷と炎の化生でねぇ?あの程度で死んでたまるかよ!」

マスタングのミスは二つある。
1つは相手をホムンクルスのような化け物であると考えた時、無意識にホムンクルスと同じ性質を持っていると思ってしまった事。
紅煉のような化け物、「字伏」は彼が言うように雷と炎の化生。炎に対する耐性はすこぶる高い。
加えて再生能力こそホムンクルスに及ばないが、腕力や耐久力といった身体能力は人間離れしている。
瓦礫の下敷きにされても、脱出できるくらいの能力は持ち合わせているのだ。

そしてもう1つのミスは、紅煉の先ほどの攻撃から彼のステータスを想定してしまった事である。
彼の発言は慢心でもなんでもなく、真実だった。すなわち、手を抜いていたのである。
それは紅煉が戦う上で相手をいたぶる事を好む、残虐な嗜好の持ち主であるからだ。

「俺が手加減してやったのもわからずに…人間風情が、調子にのるなよぉ!」

(クソ、目をやられるとは…最悪だ…)

マスタングは視界を奪われた右目に舌打ちする。
彼の「焔の錬金術」は、発動の際に「距離感」が非常に重要になる。
いわば射程と威力を自在に調節出来るバズーカのようなものだから、射程がわからなければ無関係な場所を攻撃してしまう。
普段なら、離れた相手が咥えている煙草に火をつけるくらい正確に射程を調節できる。
だが突然に片目を奪われ距離感を失った彼に、普段どおりの「焔の錬金術」は使えなかった。

いや、正確に言えば使う事は出来る。しかし、犠牲を払う必要があるのだ。
この状況で焔の錬金術を喰らわせるには、ある程度の距離は関係なく相手を巻き込める爆発を起こせばいい。
かつてイシュバールの殲滅戦でやったように…
しかし、紅煉のすぐ側には妙がいる。そのような爆発を起こせば彼女を巻き込むのは避けられない。
そして今回は、彼女を遠くに逃がす隙など与えてくれそうになかった。

(それが…どうした…!)

183焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:38:53 ID:kSdBChBo0

自分は、死ぬ訳にはいかない。絶対に。
それは、国家の頂点に立ち、全てを守るという野望の為に。
それは、自分の野望を信じてついて来てくれた部下達の為に。
それは、その野望に准じて倒れた、亡き友の為に。

マスタングは引き金を引かねばならない。
先ほど出会ったばかりの女性の為に、全てを諦めるわけにはいかないのだから…


 がこーん!
「ぐぇぇぇ!?」

突如響いた、間抜けな打撃音。
見れば、紅煉の頭を奇妙な棒でぶん殴る、妙の姿があった。

「ふざけんな、ボケェェ!!!てめぇ、2度も後ろから不意打ち決めといて何偉そうにしとんじゃコラァ!!」

呆気にとられたのはマスタングばかりではなく、紅煉もだった。

「増田さんはねぇ、まっすぐ自分の信念貫いて生きてんのよ!お前みたいに中身すっからかんの、武士道もなにもない奴とは違うの!
 あんたみたいなヤツにはね…誰もついてこないわよ!孤独なだけの、魅力のない男!!」

あまりの迫力に黙ってしまう。更に棒を振り回し、紅煉の頭をぶっ叩こうとする妙を見て、
マスタングは少し……笑った。

「…おもしれぇなぁ、女……おもしれぇから先にお前を引き裂いて喰らってやる」

禍々しい笑みを浮かべて、紅煉が妙の方へ向き直す。
鋭い爪が炎の光を照り返し、きらりと光る。
しかし、そこで横槍が入った。

「そんな余裕があるのか、化け物!この程度で私の力を封じたと思うなよ!」

ゆっくり振り返ると、再び右手に拳銃型ライターを構えたマスタングの姿。
片方だけ覗くその目に浮かぶのは、決意と信念。

「チッ、その力はメンドウだな…やっぱり先にてめぇが死ねぇ!」

バチバチッ、と紅煉の額周辺に電気が発生する。雷の化生でもあると言っていたのだ、おそらく稲妻も操れるのだろう。
炎を放ってくれば対策もあったのだが…やはり焔使いにそう何度も炎は使ってこないようだ。
最後の可能性も尽きた。もう、これしかない。
ギリ、と歯を食いしばると、マスタングは引き金にかけていた自分の指を…離した。

「おおおおおおお!!!!!」

左手に構えていた鉄製のナイフ(民家の台所で頂戴していた)を一斉に紅煉目掛けて投げつける。

(思えばお前の十八番だったな、ヒューズ!)

亡き親友の思い出を込めた投擲。それは本当に微かな、だが今の自分に出来る最大限の抵抗だった。
しかし、その願いもあっさりと弾かれる。紅煉の高笑いが響いた。

「ハーッハッハッハ!!女に気をつかったなぁ!?なら、死ねぇぇぇ!!」

幾本もの稲妻が走る。それは無慈悲に…「焔の錬金術師」の身を焦がした。

184焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:40:57 ID:kSdBChBo0


「増田さんっ!!!」

妙の悲痛な叫び…しかし、片膝をつきながらもマスタングはまだ倒れなかった。
全身が焼け爛れ感覚もない。黒焦げの体は、意識が飛ばないのが不思議なほどのダメージ。

しかし、生きる事を諦めるわけにはいかない。なさねばならないことがある。
全てを守ると誓った、青臭い理想が胸にある。

……その為にも、彼女を巻き込むわけにはいかなかった。

あらゆる苦しみを飲み込んで、野望に邁進すると誓った。
多少の犠牲だって乗り越えていく覚悟があった。
だが、それでも絶対に譲れぬ一線があった。

二度と悲劇を起こさぬために、自分が守れる限りの人間を守り、その守った者たちがまた守れる限りの人間を守っていく。
そうやって誰も悲しまぬ世界を作ろうという青臭い理想。それが彼の行動の原点。
その男が、目の前の守れる女性を見捨てるなどという選択肢をどうして選べようか。
その原点を思い出させてくれた、この強き女性を…

生き残る為に、野望を達成する為に、誰かを犠牲にする…
そんな情けない男に部下達が、友が……ついてきてくれるハズがないのだから。

「ほう?粘るじゃねぇか…だがもういい、死ねよ!」
(倒れてたまるか…私は、まだ…)

生きる事を諦めない…マスタングにとって、それは生きるために他の全てを犠牲にすることではない。
譲れぬ理想を守って生きるために、あらゆる手段を尽くすことだ。


彼の決意をあざ笑うかのような咆哮をあげ、闇を纏った獣は迫る。
だが、どれほどの絶望に包まれようとも…マスタングの瞳は、まだ理想を諦めていなかった。
その瞳に、見慣れたきらめきが映る。

ザクッ!
「ぐぁぁぁぁ!!??」

きらめきの正体はアメストリス軍の投げナイフ。それが紅煉の片目を、正確に貫いていた。
そのナイフは、彼の親友、マース・ヒューズ愛用のナイフだった。

(な…に…?)

185焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:43:45 ID:kSdBChBo0

そのきらめきに続くように、轟音をあげ巨大な刃が紅煉を襲う。
振り下ろされた一撃目はかわすも、地面が抉られる。
さらに人間離れした腕力によってすぐさま横なぎに振るわれた刃が、紅煉の顔面に襲い掛かる。
携えた3本の霊刀でなんとか受け止めたものの、軽く後ろに押し込まれてしまう。
刃を振るうは漆黒の剣士。ナイフを放ったのは真っ黒な闇医者。
その姿を捉え、またしても笑みを浮かべると、紅煉は飛び退き周囲を見渡した。

「いいじゃねぇか、とび入り大歓迎だぜぇ…面白そうな連中だしなぁ!」

二人の男が、見知った男によく似て見えて…紅煉は楽しくてしょうがなかった。
なにより、彼らの心が手に取るようにわかる。

「お前ら…こんだけ人数がいりゃあなんとかなると思ってんだろ?カワイイったらねぇよなぁ…!」

下卑た笑いに怯むことなく、剣士は刃を構えなおす。
しかし、紅煉の次の行動は、彼らの予想外だった。

「もう少しいたぶってやろうかと思ったが気が変わったぜ!まとめて消し炭にしてやる!!!」

大きく息を吸い込むと、周囲の敵に向けて放たんと膨大な炎を口元に浮かべる。
何をするのか察した黒い二人組も、身をかわそうとするがもう遅い。

「あばよぉぉ!!!」

叫びと共に放たれる炎。それは周囲を飲み込み、4つの焼死体を生み出す…はずだった。
だが焔は彼の管理下を離れ、口内で爆発を巻き起こす。

「な、なにぃぃぃぃ!!???」

予想外の焔の暴発に、全身と口内を焼かれた紅煉がうろたえる。
ちらりと眼に映った瀕死の男が、してやったりと笑っているように見えた。

そこに一本のナイフが飛び込み、紅煉の腹部に突き刺さる。
不意の攻撃に気を取られた一瞬、ほんの一瞬をついて振るわれる鋸状の刃、キリバチ。
その一太刀は、暗闇のように真っ黒な獣の左腕を…叩き落した。

「ぐおぉぉぉぉ!!キ、キサマら〜〜〜〜!!!」

怒り心頭の声をあげ、しかし状況不利と悟ったか、追撃のキリバチをスレスレでかわしながら紅煉は切り落とされた左腕を拾う。
そして猛スピードで飛び上がると、そのまま漆黒の闇空の中に消えていった。

186焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:45:18 ID:kSdBChBo0


その場に残された4人の中で、真っ先に動いたのは妙だった。

「増田さん!しっかりして!!」

獣の雷を浴びて、全身に傷を負ったマスタングに駆け寄る。
その後を追うように、黒い闇医者も近づいてきた。

「動かすなっ!私は医者だ!私が診る!」

そう言われ、ひとまず妙も動きを止める。
闇医者は患者に近づき、その容態を窺う。

(これは…)

普通人体は表面の2割以上が火傷すると危険だと言われる。
しかし、目の前の患者はその体の7割近くが火傷を負っていた。

(せめて、道具が揃っていれば努力のしようがあったというのに…)

悔しさがこみ上げる。普段の自分なら必ず何かしらの道具を持ち歩いている。
この戦いを開催し、自分から商売道具を取り上げた連中が心底恨めしかった。

「…やめとけ、ブラックジャック。そいつはもう…」

黒い剣士、ガッツの言葉が耳に痛い。わかっている。彼はもう、手遅れだ。

「…先程の攻撃は、君が?」

ブラックジャックが尋ねたのは先程の不可解な爆発。あれによって今自分達は無事であると言ってもいい。
口も動かせないのか、患者は微かに頷いた。

(助けるつもりが、助けられたというわけか…なんとも情けない話だ)

先程の紅煉の炎の暴発は、マスタングの「焔の錬金術」である。
距離感の調節が利かなくとも、火種が相手の元にあるのなら話は別だ。
微妙な射程の調整はせず、可燃性物質を火元近くに適量発生させれば良い。おまけに口の中の無防備さは先刻実感している。
あれが、最後の最後まで狙っていたマスタングの賭けだった。

187焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:47:44 ID:kSdBChBo0
うなだれるブラックジャックの襟首を、マスタングは弱々しくも力強く、掴んだ。

「な…!?」

そのまま何かを訴えかけるような目でブラックジャックを見る。かすかに、口を動かした。

「まだ…死ね…ん……生きね…ば…なら…ない…」

それは、助けて欲しいという意志だった。だが、決して情けない命乞いではない。
むしろ、ここで死ぬわけにはいかない、助けろ、生きたいのだ、という激しい感情だった。
それを真正面からぶつけられたブラックジャックは、激しい衝撃を感じた。

(私は…何を考えた?道具がないからどうにもならない?もう手遅れだと…?)

それは強烈な自責の念。目の前で死に掛けている患者を、助けられない状況を受け入れた自分への怒り。
マスタングは未だ諦めることなく、必死で生きようとしていた。
一度は消えかけた命。しかし、それを救ってくれた亡き友の刃。
それが再び、生への渇望を叫ぶ力となった。
そんな諦めない生命力を前にして、ブラックジャックは先程の自分の思考を恥じた。
グッと拳を握り締め、患者をその背に負う。

「ブラックジャック!なにをする気だ!?」
「この患者を病院まで連れて行く!」
「無駄だ、もたないに決まってるぜ」

ガッツの意見はもっともだ。だがブラックジャックの中にある信念が、それを良しとしない。

「まだわからん!この患者は生きようとしている!それを医者の私が先に諦めてしまう訳にはいかないんだ!!
 それではあの死神にも劣る…医者として生きていくことが出来なくなる!」

そういって患者を背負おうとするブラックジャックを、支える手があった。

188焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:49:09 ID:kSdBChBo0

「あなたは…」
「手伝わせてください。増田さんは、命の恩人です。」

気丈な瞳に強い意志を込め、妙が懇願する。
無言で頷きあうと、協力してなんとかマスタングを背負う事に成功した。

「チッ」

1人そっぽを向くガッツ。だが、彼もこれ以上は止める事をしなかった。
周囲への警戒を行いつつ、共に病院への道を歩みだす。

「諦めん、諦めんぞ…君が決して生を諦めないように、私も君を救うのを諦めない…」

力強く語るブラックジャック。妙は頷き、ガッツはそれをただ眺める。
各々が覚悟を決めて歩み出した、その直後だった。

フッ

「えっ…?」

ズンッ、と突如ブラックジャックの背中の重みが一気に増加した。
まるでその体から、何かがガクンと抜け落ちたように…
妙が、声を震わせる。弱々しくも必死にしがみついていた腕に、力が感じられない…

それは、彼の背中で命が抜け落ちた瞬間だった。

背中の重みに目を見開いて立ち止まり、わなわなと震えだすブラックジャック。
顔を覆い、涙を流し出すお妙。
ただ、視線を逸らすガッツ…

最後の一瞬まで生を諦めず、理想を目指した男の命が今、消え去った。
それは守れる者を守り通した…うつむくことなき、有能な最期…

「私は、なんと無力なんだ…」

それでも闇医者の顔に浮かぶのは悔しさと、憤りばかり…

189焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:52:05 ID:kSdBChBo0

【B-3/道路/1日目 黎明】
【志村妙@銀魂】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 、クリマ・タクト@ワンピース、不明支給品(0〜1(本人確認済))
 [思考]
  0:増田さん…
  1:増田さんを手厚くを埋葬
  2:新ちゃんはいるのかしら?
  3:この黒い二人組みと同行するか考える
 [備考]
  ※ロイ・マスタングと情報交換をしました。 お互いの世界の情報について一部把握しました。
  ※参戦時期は28巻以降です。

【ガッツ@ベルセルク】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:キリバチ@ワンピース
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
 [思考]
 基本:殺し合いの主催者を叩き潰し、仲間の下へ帰る
  0:くそったれ…胸クソ悪いぜ…
  1:ブラック・ジャックと共に病院を目指す
  2:あの黒い獣(使徒?)は絶対に殺す
 [備考]
  ※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
  ※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
  ※紅煉を使徒ではないかと思っています。

【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック】
 [状態]:疲労(小) 強い無力感
 [装備]:ヒューズの投げナイフ(8/10)@鋼の錬金術師
 [道具]:基本支給品一式
 [思考]
 基本:主催者を止め、会場から脱出する。
  0:この場での私は無力なのか…
  1:死者(マスタング)を埋葬する
  2:ガッツと共に病院を目指し、医療器具を入手する。
  3:この女性(お妙)の処遇を考える。
  4:あの黒い獣は許さない
    
 [備考]
  ※コートに仕込んでいるメス等の手術道具は、全て没収されています。


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師】死亡

190焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:53:09 ID:kSdBChBo0


「クソがぁぁぁ…!絶対にゆるさねぇ…」

激しく悪態をつきながらその身を海辺におろす紅煉。
左腕は肘から切り落とされ、右目と腹にはナイフの傷痕が。全身、特に口内には激しい焔によるダメージがあった。
いかに妖といえどこれだけの焔や刃物にさらされては、衰弱は避けられない。

なにより、普段より傷が治る速度が格段に遅い。これが、最初に言っていた制限のようなものだろうか。
そればかりか炎や稲妻も大分威力が落ちていた。それが先程の不愉快な苦戦に繋がっている。
そう、これが彼を怒らせる原因だった。

「このオレの力を制限しやがるとは…フザけやがってぇぇ…!!!おかげで余計な怪我をしちまったじゃねぇか!!
 奴ら…絶対に許さねぇ…この殺し合いが終わったら、必ずぶっ殺してやる…!!」

傷を負わせた者たちよりも、己の快楽の邪魔をする主催者への怒りを募らせる紅煉。
こんな状況でも、彼は自分が負けるとは思っていない。ただ、圧倒的な実力差で相手を蹂躙できないのが不満なのだ。

「ひとまず、体を回復させないといけねぇな…適当に弱そうな人間を見つけて、喰っちまうか。
 それが手っ取り早いだろ。今度は遊ばねぇ…とにかく人を喰らうのが優先だ」

そう呟くと、左腕を布で巻きつけてくっつける。
殴ったり引っ掻いたりは出来ないが、しばらく放って置けばこれでくっつくだろう。
右目のナイフも抜いた。腹のナイフは…自分にここまで傷をつけた連中への褒美として、つけたままにしておいてやろう。

怒りを胸に、空腹を抱えた黒き獣が空を舞う。次の獲物は、誰になるのか…

191焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:53:58 ID:kSdBChBo0

【A-3/海岸線/深夜】
 【紅煉@うしおととら】
 [状態]: 疲労(中) ダメージ(中) 全身、特に口内に激しい火傷 右目、左腕欠損(回復中) 腹部にナイフ
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2個(未確認)
 [思考]
 基本: 他の参加者を皆殺しに、殺し合いとやらを楽しむ。最後に主催者も殺す。
  1:適当に弱そうな参加者を見つけて喰らう。
  2:傷が回復したら皆殺し再開。自分に傷をつけた黒い二人組みと、焔使いは殺すのが楽しみ。
  3: ひょうは自分の手で殺したい
 [備考]
  ※参戦時期は原作32巻、ひょうとの最終決戦以前の時期。
  ※ひょうの存在はOPの場所で確認しました。うしおやとらなどは未だ未確認です。
  ※左腕はくっついてはいますが振り回せば取れます。右目は現在完全に視力を奪われた状態です。どちらもしばらくは回復しません。

192焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:54:36 ID:kSdBChBo0
間違えた。
>>191はこっちです。



【A-3/海岸線/黎明】
 【紅煉@うしおととら】
 [状態]: 疲労(中) ダメージ(中) 全身、特に口内に激しい火傷 右目、左腕欠損(回復中) 腹部にナイフ
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2個(未確認)
 [思考]
 基本: 他の参加者を皆殺しに、殺し合いとやらを楽しむ。最後に主催者も殺す。
  1:適当に弱そうな参加者を見つけて喰らう。
  2:傷が回復したら皆殺し再開。自分に傷をつけた黒い二人組みと、焔使いは殺すのが楽しみ。
  3: ひょうは自分の手で殺したい
 [備考]
  ※参戦時期は原作32巻、ひょうとの最終決戦以前の時期。
  ※ひょうの存在はOPの場所で確認しました。うしおやとらなどは未だ未確認です。
  ※左腕はくっついてはいますが振り回せば取れます。右目は現在完全に視力を奪われた状態です。どちらもしばらくは回復しません。

193焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:56:19 ID:kSdBChBo0
以上で投下終了です。
そんなに大佐好きなわけではないのですが、気がついたらこんな話に…


問題点の指摘など、ご意見あればよろしくお願いします。

194焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/14(木) 23:29:00 ID:kSdBChBo0
案の定おさるさんでした。
よろしければどなたか>>186以降を本スレにお願いします。

195ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:31:37 ID:kSdBChBo0
すみません、規制されたのでどなたか…



    ◇     ◇     ◇

旅館の暗い廊下で、サンジとスズメバチが攻防を繰り返していた。
いや、正確には一方が「攻」を繰り返し、もう一方が「防」を繰り返している。
無論、守りに徹するのがサンジだ。
これは彼のポリシーのみならず、ある作戦の為でもあった。

  『いいかい、奴はおそらく君と同じ悪魔の実の能力者。弱点は水ってことになる』

「うふふふふ、兄様、せっかく帰ってきてくれたんですもの。もっと積極的になって!」

すれすれで攻撃をかわした…つもりが、頬に痛みが走る。
いつの間にか、彼女の靴には一本ずつ針がセットされていた。

(クソ、ますます戦いにくくなりやがったか…ナギちゃんの準備は…?)

  『それなら、風呂に落とすのはどうだ?ここには大きな浴場があったはずだぞ!』

一方、旅館一階の大浴場ではナギが下準備を進めていた。

作戦は単純明快。スズメバチを大浴場におびき出し、隙を突いて浴槽に突き落とす。
囮役はもちろんサンジが務め、姿を消したナギが突き落とす担当だ。
問題は、いかにして彼女をここに導き、浴槽に落とすか。

能力を理解していたという事は、弱点も理解しているだろう。
水場には近づきたがらないはずであるが、もちろんその為の策は練った。


ナギは、正直ワクワクしていた。
よく自分の非力が憎いと思っていた。少年漫画の主人公のように強くなりたかった。
嘘みたいな冒険の中で、かっこいい活躍がしたかったのだ。
その夢が今、叶う。自分は特別な力を身につけ悪に立ち向かうのだ!

これが私の、冒険の夜明け……!!

196ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:32:19 ID:kSdBChBo0


「紳士な兄様!そろそろ鬼ごっこは終わりにして、窒息プレイのお時間よ!」

先ほどまでとは別人のように、瞳孔の開いた目で獲物を追うスズメバチ。
仕込み針によっていたるところに小さな傷がつけられるが、サンジはかろうじて攻撃を回避、距離を絶妙に保つ。
近づきすぎてはやられる。離れすぎれば見失う。
階段を駆け登っても一度停止し、姿が見えるのを待った。

真っ暗な階段から、徐々に徐々に姿を現すスズメバチ…
目が、鼻が、口が…少しずつ見えてくるその全てが、狂気を彩る。

「兄様、あまり逃げ回るようなら…遊び相手を変えてもいいのよ?」

痺れをきらしたか、スズメバチが告げる。
それはつまり、ナギを狙うという宣言だった。

「させるかよ…ここで俺が相手してやる」

覚悟を決め、サンジも身構えた。
お互いにグッと地面を踏みしめると、スズメバチは高く舞い上がり、サンジは右足を振り上げて停止する。

ひゅっ…と風が吹き、スズメバチの針が肩に突き刺さる。一瞬苦悶の表情を浮かべるサンジ。
一方スズメバチは追撃の為か、すぐに針を引き抜き着地の態勢に入る。

それを待っていたかのように、サンジが掲げた足を振り下ろした。
狙いはスズメバチではなく…その着地点の床!

がしゃぁぁぁぁん!!!

木製の床が蹴り抜かれ、地面にぽっかり穴があく。
着地するはずだった地面を失い、蜂は一階へと落下していった。
一階の、大浴場へと…

197ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:32:43 ID:kSdBChBo0

「くっ…」

落下の途中、スズメバチは舌打ちする。
下は浴場、水の宝庫だ。
自分が食べた「スベスベの実」の注意書きにはこうも書いてあった。
「これを食したものは、海に嫌われ永遠にカナヅチになる」と。
『海』には『水の張られた場所』全てが含まれる。

だが、真下は浴槽ではない。タイル張りの床だった。
伊達に空中戦を得意としているわけじゃない。普通に着地をして、さっさと離れればいいだけの話だ。
いつも通りに着地をしようと試みて、足が地面についた…しかし

つるんっ
「きゃう!?」

スズメバチは足を滑らし、バランスを失った。

(そんなっ!こんな普通の着地を失敗なんて…)

それもそのはず、この大浴場の床にはナギの手で一面にファ○リーピュアが撒き散らされていたのである。
タイルの上に大量の洗剤。これで滑らないハズがなかった。。

「やあああああああ!!」

なにもない空間から叫び声が聞こえる。
バランスを保とうと必死になっていたスズメバチの腹目掛けて、透明状態のナギが突進していた。

「落ちろ、蚊トンボォォォォ!!!」

198ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:33:04 ID:kSdBChBo0


やった、うまくいったぞ!           ハァ…驚いちゃった…

私だってやれば出来るんだ!          小さな姉様ね…かわいい…

サンジめ、驚いてるかな?           嬉しそうな顔してる…

ハヤテにも絶対自慢してやるんだ!       私の弱点、知ってるのね?

マリアも、みんなびっくりするぞ!       でも、ご愁傷様…

このまま浴槽に落とせば…           集中して…上下を認識

し、死んだりしないよな            少しだけ加速をつける

まぁ、なんとかなるだろ…ん?         自ら半回転、これでいい

なんでコイツのヒザがここに?         姉様の顔を挟んであげる

うわ、なんだ、どうなってる?         さらに加速して半回転…

あ、あ、体が…浮いてる…!?         お風呂には一緒に入りましょう、姉様?



『ばっしゃーん!!!』



激しい水音と共に、29kgの軽い体が水中に投げ込まれた。

「ナギちゃん!!!」

二階から、事の顛末を見ていたサンジの叫び声が響く。

199ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:33:56 ID:kSdBChBo0

スズメバチは突き落とされる瞬間、自ら体を回転させる事で天地を逆転させたのだ。
それによりヒザでナギの頭を挟み、プロレス技のフランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばしたのである。
完全に油断し、透明化を解除したのがナギの失敗だった。

ナギは彼女のふとももの間で水中に沈み、動けなくなっている。
スズメバチもヒザから下は水に浸かっているので力が抜けているようだが、ナギは全身だ。とても抵抗できそうにない。

「あら、小さな姉様…もしかしてあなたも『実』を食べたのかしら?うふふ、お仲間ね」

余裕たっぷりで笑うスズメバチ。
サンジはすぐに2階から飛び降りた。

つるんっ

「ぬがっ!?」

ファ○リーピュアに足をとられてコケる。
しかし、そんなことはものともせずにすぐ立ち上がった。今はレディの大ピンチ。
ここで立たねば、自分の中の騎士道精神が…

グラァ

「な…?」

だが、意思に反してサンジは倒れる。今度はファ○リーピュアのせいではない。
全身が痺れたように動かなかった。

「うふふ、やっと効いてきたのね。ありあわせで作ったから、随分効くのが遅くなっちゃった」

ハァハァと息を荒くし、スズメバチが動けないサンジを嬉しそうに見ている。

(毒…か…しまった…)

悪魔の実の能力者であることに気を取られすぎて失念していた。
思えばスズメバチの名前で、針を武器に使うのである。最初に毒を警戒すべきだったのだ。

「私が大事に調合した毒を針につけたの…この旅館の周りにいろいろ毒草が生えていたわ。
 紳士な兄様に使ったのは麻痺毒だから死なないの、安心して」

スズメバチの下では、ナギが苦悶の表情を浮かべていた。
最初こそ彼女のスカートの中身に驚いて顔を真っ赤にしていたが、次第にそんな余裕もなくなっていた。
もがこうにも、水の中では力が入らない。

200ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:34:25 ID:kSdBChBo0

甘かった。ナギは後悔していた。
ただ泳げなくなるだけだと思っていた。それなら今までと変わらない、と。
だがこれはそんな生やさしいものじゃない。水に力を、命を吸われているような感覚だった。
必死で止めていたが、少しずつ息が漏れていく…

(苦しい…苦しい…怖い…怖い!!死んでしまう…誰か…だれか!!)

おかしい、なぜこんなことになった?とナギは思う。
無敵の力を手に入れたはずなのに…私は、漫画のように強くなったはずなのに…

怖い…死ぬのは怖い!
死ぬなんて聞いてない!こんな、こんなことって…

徐々に、意識が遠のいてゆく…

ナギは勘違いしている。
まるで漫画のような状況に陥り、自分もまた漫画のような力を得た。
そこで彼女は自分を…「漫画やゲームの主人公」と重ねてしまった。重ねすぎてしまった。

漫画のキャラクターは、死んだ後も元気に雑誌の表紙を飾るし、読み返せば元気に生きている。
だが、現実の死がもたらすのは「無」に他ならない。

そういう意味で、彼女には「死」に対する現実感が不足していた。

201ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:34:46 ID:kSdBChBo0

「ガハッ!」

大きく息を吐き、意識を失ったナギ。
すかさずスズメバチが彼女を浴槽から抱えあげる。

「ねぇ、怖かった?苦しかった…?
 じわじわ『死』に近づいていく小さな姉様、とっても素敵な表情だった……うふふふふ……」

うっとりとした顔で意識のないナギを抱きとめる。

「私、あなたのこと好きになっちゃったわ」

告白と共に両手でナギの頬を挟み、触れ合いそうな距離でじっと見つめる。

「もっともっと遊んであげる…だから、死んではダメよ」

そう言うと、ナギを背負って出口に向かった。

「ま…て…クソ…」

毒によって体がほとんど動かないサンジが必死ですがる。

「ごめんなさい、紳士な兄様。私、この子と遊ぶ事にしたの。遊び終わったら、また会いに来てあげるわ」

それだけ言い残すと、彼女は大浴場、そして旅館を飛び出していった。
その背に夢見る少女を乗せて…

「クソッタレ……!!」

大浴場に響くのは、残されたサンジの悲痛な声のみ…

202ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:35:39 ID:kSdBChBo0


「ハァ…かわいい姉様。意地っ張りで怖がりで…強くて、弱い。とっても楽しく遊べそう。
 やる事はいっぱいあるけど、今はあなたと遊んであげる。ゆーっくり、たっぷり…ね」

そんなことを呟きながらスズメバチは息をきらせて夜を駆ける。

どこか素敵な遊び場はないかしら。道具も要るわ。毒を調合しなきゃ。
ここに生えてるものだけじゃ強力なものは作れないかも知れないけど、遊ぶのには十分。

どうやって遊んであげようかしら。すぐ痛くしちゃうのはつまらないわ。
苦しくして、怖くして、じっくりじわじわ………追い詰めたい。
「死めくくり」は、なんとでもなるもの。

「あぁ…とっても楽しみ…」


夢を…夢をみていた。
自分は不思議な力を持った海賊となり、船と仲間を集めて財宝を探していた。
麦わら帽子を被り、楽しそうに船首に跨っている。
お姉さんのようなしっかり者の航海士…一般人で生意気な狙撃手…喋るペットに、ナンパなコック。
そして最強の執事、もとい剣豪を目指す、1人の少年と共に…
それはそれは楽しく、現実感のある夢をみていた。

目覚めた彼女を待ち受けるのは、現実の夜明けか、日没か…

「ハヤテ……」

彼女の執事はここにはいない。



【G-7/森/1日目 黎明】
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、実の力で美しくなっている。 下半身びしょぬれ
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式
[思考・備考]
基本:皆殺し。帰って仕事を続け、優しい兄様と遊んであげる。
 0:うふふふふ…
 1:小さな姉様(ナギ)と遊ぶ。
 2:姉様と十分遊んだら、他の遊び相手を探してみる。
 3:旅館に残した紳士な兄様(サンジ)とも遊びたい。
 4:興味の無い相手は、遊ばないですぐ殺す。

 ※ スカートはギリギリで見えません、履いてるか履いてないかは…ご想像に(ry
 ※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。


【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)全身びしょぬれ 気絶中
[装備]:なし
[道具]:
[思考・備考]
基本:ハヤテ達やサンジと協力して脱出
 0:ハヤテ…
 1:漫画の主人公のように、この状況を乗り越える。
 2:サンジと一緒にお互いの仲間探し。

 ※ サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。

203ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:36:19 ID:kSdBChBo0



かぽーーーーん


旅館内の大浴場で、1人の男が湯に浸かっていた。

「クソ…俺のせいで…」

先ほど不覚を取った、サンジその人である。
だが、別にただ呑気に風呂に浸かっているわけではない。
苛立った表情が、それをよくものがたっていた。

彼は毒で麻痺した状態で、こんな看板に気がついたのである。

『ここはムルムル温泉じゃ!効能は美容と疲労回復!
 疲労以外にも小さな怪我や軽い毒なら、15分ほど浸かっとればなおるぞ』

這うように動く事しか出来なかったサンジは、藁にもすがる思いでこの温泉に浸かった。
眉唾ものだったが、どうやら効いているらしい。少しずつ体の一部が動くようになってきた。

「ナギちゃん、待ってろよ…」

サンジはこの事態の原因が、逃げを選ばなかった自分にあると責任を感じていた。
このままではナギが危ない。体が動くようになれば、すぐにも助けに行くつもりだった。

「守るって…約束したからな」

大浴場の床に転がる空っぽのファ○リーピュアを見つめて、サンジが拳を握り締めた。


【G-8/旅館内 大浴場『ムルムル温泉』/1日目 黎明】
【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:疲労(中) 左肩に小さな刺し傷(回復中) 毒による麻痺(回復中) 入浴中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ノートパソコン@現実 旅館のパンフレット 不明支給品1〜2
[思考・備考]
基本:仲間や女性を守り、脱出する
 0:ナギちゃん、待ってろ…
 1:スズメバチを追いかけ、ナギを助ける。
 2:その後は彼女を守りながら、一緒にお互いの仲間探し。
 3;どうしてスケスケの実やスベスベの実があったんだ…?

 ※ ナギからパラレルワールド仮説を聞きました。半信半疑です。
 ※ 「ハヤテのごとく」関係の情報を得ました。
   参加者ではハヤテ、咲夜、伊澄について詳しく聞いています。
 ※ 毒は15分ほど浸かっていれば完璧に治ります。途中であがるとどうなるかはわかりません。


【ムルムル温泉】
G-8に存在する旅館の一階にある大浴場。源泉かけ流しの混浴天然温泉。
効果は美容と回復で、疲労の回復を早める他、小さな傷や軽い毒なら15分ほどで回復する。
ただし、この会場に来る前の怪我や病気、あるいは大怪我や強力な毒も治せない。
飲んでもおいしく効果的らしいが、ファ○リーピュアが入っている可能性があるので注意。

※G-8旅館一階の大浴場の床が、ファ○リーピュアで大変滑りやすくなっています。

204ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:39:44 ID:kSdBChBo0
以上、投下終了です。参考資料:クッキング○パと餓○伝w

何かご指摘ありましたらお願いします。

205 ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:15:16 ID:5A6vmjKY0
規制食らってるので、浅月、宮子分をこちらに投下します

206ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:15:54 ID:5A6vmjKY0
 ざくり、ざくりと足踏みする音。
 暗闇の隙間から差し込む月明は、さながら針穴をくぐる糸のごとし。
 生い茂る木々の合間から漏れる薄光が、少年の足元を照らしていた。
 ざくりと音を立てるのは、木の葉混じりの茶色い地面。
 時折木の根を踏みながら。時には枝を踏み折りながら。
 これぞ森林といった地面を、赤紫の髪の少年が踏破していく。
 出発から約3時間。
 大きな道を逸れるところまでは来た。いいペースと言えるだろう。
 この分なら、夜明け頃には目的地たる高校にたどり着けそうだ。
「……やれやれ……何やってんだ俺は……?」
 にもかかわらず、少年――浅月香介の顔色は冴えない。
 眉間に寄せられた不機嫌そうな皺に、心底うんざりしたような目付き。
 面白くないというその心境を、顔面全体で物語るような顔立ちだ。
 無理もない。
 背中に見知らぬ女の子を背負いながら、しかも起こさぬように気を配りながら森を突っ切るのだ。ストレスが溜まらぬわけがない。
 今でこそ幸せそうに寝息を立ててはいるが、一度目を覚まそうものなら、いきなり騒ぎ立てられてもおかしくないだろう。
 この金髪の娘――宮子はそういう奴だ。少なくとも、浅月の知る限りでは。
 放り捨てるとまではいかずとも、その辺に置き去りにしたいと何度思ったことか。
 だがそれでも、思うだけで行動には移せない。
 九兵衛と交わした約束が、幼馴染の亮子の口うるささが、何より自身の僅かばかりの良心が、最後の一歩で踏み留まる。
 恐らくこいつが自然に起きるまで、自分はずっとこのままなのだろう。
 もう、何となく分かってしまった。これまでの経験に基づいて。
(まぁ、今更嘆いても仕方がねぇ)
 その辺りの切り替えの早さは、やはり彼の苦労人たるが故の慣れなのだろうか。
 そう考えると、また少しだけ、己が情けなく思えた浅月であった。
 敵をいたぶることを好むサディストの傾向こそあるものの、彼は基本的には常識人だ。
 何かと自分を振り回す亮子や変人揃いの仲間達に囲まれた環境では、自然と彼が損な役回りになる羽目になる。
 こんな展開には慣れっこだ。普段からみんなして、あれやこれやと役割を押しつけるのだから。
 閑話休題。
 情けないエピソードはこれくらいにしておいて、今後の予定へと思考の射程をを伸ばしていく。
 現在の目的地は高校。
 幼少より前線に立ち続けた浅月とは違い、最重要ターゲットの亮子は普通の高校生だ。目をつける場所があるとすればそこだろう。
 鳴海歩の方は正直微妙だ。あいつほど頭の回る奴ならば、むしろより実用的な、研究所や病院の方に向かう。
 仮にここに呼ばれていたらの話だが、竹内理緒が来る可能性は五分五分。
 一応月臣学園に通ってはいたが、それ以前の学歴があるかどうかはかなり怪しい。アイズ・ラザフォードはまずいるまい。
 となると高確率で合流できそうなのは、亮子1人だけということだ。
 他の参加者はどうだろう。
 地図上にその存在を明記されている以上は、やはりこの手の施設は他より目立つ。
 自分が神社をそうしたように、何らかの集合場所として用いられる可能性もある。
 そうなれば自分と同じように、殺し合いから脱出を図る面子と出会えるかもしれない。
 ブレード・チルドレン以外と協力するというのは、何ともむずがゆいものだが、今は状況が状況だ。
 使えそうな人間がいたならば、共同戦線を張るのもやむなし、といったところだろう。
 どちらにしても、首にかけられた爆弾を解除できる人間がいるといいのだが。
(こんなことなら、理緒に構造くらい聞いとけばよかったぜ……)
 ため息と共に思い出すのは、かつて歩と対峙した時の記憶だ。
 以前理緒は歩と戦った時、これと同じような爆弾を作ったことがある。
 せめてその内部構造を教えてもらっていれば、解体の時に応用が利いたかもしれないのだが。
 この首輪が外れないことには、あまり派手な行動に出ることはできない。
 いずれあの主催者連中と対決することを考えると、優先すべきは首輪の解除だろう。

207ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:16:33 ID:5A6vmjKY0
 そして、警戒すべきは爆弾だけではない。
 むしろ今真に注意すべきは、殺し合いに乗った連中だ。
 名前の載っている施設は溜まり場にちょうどいい。浅月の読みだ。
 そして殺し合いでの優勝を狙う連中も、遠からず同じ結論に行き着くだろう。
 故に目的地にたどり着いた瞬間、そういった奴らと遭遇し、そのまま戦闘に雪崩れ込む可能性だって大いにあり得るのだ。
(やべ……武器の1つでも分けてもらうべきだったな)
 顔をしかめ、己の思慮の浅さを恥じた。
 現在の浅月の持ち物は、コレクションフィギュアに女物の衣装、それから背中でぐうすか寝ている宮子のみ。
 要するに、丸腰だ。
 先ほど九兵衛と別れる時に、その支給品を確認しておけばよかったと後悔する。
 もう1つ何か武器でもあれば、借りることもできたのだろうが。

 ――こーすけ君のばーか。
 ――香介……お前何アホなミスやらかしてんのさ。
 ――期待通りのヘタレさんですねぇ。
 ――何だ、お前意外と馬鹿だったんだな。
 ――だからお前は間が抜けてるんだ、アサヅキ。

(だーもううるせぇなチクショウッ!)
 脳内で五重奏を奏でる罵倒に、これまた脳内で叫び返す。
 ブレチル3人はまだいいだろう。百歩譲って歩も許そう。ただしおさげの新聞部、何でお前まで出てくるんだ鬱陶しい。
 こっちだって変態扱いされたり投げ飛ばされたりと、それなりに悲惨な目に遭っているんだ。
 あんまりいじめると泣いちゃうぞ、そのうち。
(と……いつまでも馬鹿やってる場合じゃねえな)
 悪態をつくのもこの辺にしておこう。
 優先すべきは武器の確保だ。
 香介自身が持っているはずもない。こんな森の中では現地調達などできやしない。頼みの九兵衛はここにはいない。
 となると、彼が武装するために残された手段は1つ――背中の宮子だ。
 適当な木の幹にもたれさせると、その背中からデイパックを拝借。
 彼が選んだ調達手段――それは宮子の持ち物から、武器になりそうなものをいただくということ。
 正直ギャンブル性も高いし、人の物を盗むようで良心も咎める。
 だが、万が一強力な武器があったならば万々歳だし、この程度の良心の痛みで命が救われるなら安いものだ。
 鞄の口を開け、中を探る。
 2つのランダム支給品のうち、片方は戦闘には使えなさそうなものだった。
 そして残されたもう片方が、見事お目当ての武器だったわけだが。
「……何だこりゃ……」
 最初のリアクションがそれだ。
 彼の右手に握られていたのは、無骨な印象を受ける重厚なピストル。
 それなりに威力もある方だろう。使い慣れた銃器が得物だというのも利点。
 だが、どうしても腑に落ちない部分が1つある。
 その銃の上下に折りたたまれた、アーミーナイフのような刀身だ。
 少し弄ってみる。がちゃん、と音を立て、2つ同時に展開された。
 まるで鋏のような構造。恐らく設計理念もそんなところなのだろう。
「……趣味悪」
 心底そう思った。
 大体何でピストルに銃剣がついているのだ。しかも1つではなく2つも。
 こんな得物で敵を挟み斬るなんて、そんな器用な真似ができてたまるか。漫画の世界じゃないんだし。
 喜ばしい状況には変わりないはずなのだが、素直に喜べない浅月であった。

208ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:17:31 ID:5A6vmjKY0
「……ん……」
 と。
 その時だ。
 どこからともなく、女の声が微かに漏れる。
 いいや、出所は分かっていた。彼のすぐ傍の木の幹だ。その声色にも聞き覚えがある。
 金髪の少女の瞼の睫毛が、ふるふると僅かに震えていた。
 意識の覚醒を迎えたのだろう。
 事実として、ゆっくりと開かれていく瞳。
 眼鏡の奥の浅月の目と、視線が重なる。
「よう、起こしちまったか。悪いな」
 極力警戒させないように、フレンドリーに応じた。
 相手だって人間だ。対応のし方さえ間違わなければ、騒ぎ立てるような真似はするまい。
 おかげで目覚めは穏やかだ。先ほどはあれほどパニックに陥っていた宮子も、今は随分と静かなもの。
「んー……?」
 その、はずだった。
 彼女の視線が下がらなければ。



 ――ここで思い出してほしい。
 宮子がこの浅月という少年を、一体どのように認識しているのかを。
 そして今の浅月が、一体いかなる状況に置かれているのかを。
 宮子にとっての浅月は、イモ色の頭を持った変人だ。
 そして彼の手元には、ぎらぎらと輝く刃物が納まっている。
 変人に武器。
 さて、この状況から導き出される結論は――?



「……うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱり変な人だあああああああぁぁぁぁぁぁ!?
 変な人がナイフ持ってるううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「どぅわあっ!? い、いきなり何だよ心臓に悪ぃ!」
「いやーいやー! 殺されるー! こーろーさーれーちゃーうーぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「だああぁぁぁ落ち着け落ち着け! 誤解だ誤解ぃぃぃぃ!」


【F-4/森/一日目黎明】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(中)
【装備】レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
【所持品】支給品一式 、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!、メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:少女(宮子)を落ち着かせ、学校に向かう。
2:学校に着いたら、できれば爆弾を解除できる人間に会いたい
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、パニック
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、不明支給品1(武器ではありません)
【思考】
基本: ???
1:いやああー! 殺されるー!!
※現実をいまいち理解していません。

209 ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:18:06 ID:5A6vmjKY0
以上です。どなたか代理投下よろしくお願いします

210 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:44:44 ID:u4pKbbmY0
さるさんに引っかかったのでこちらで。
可能ならば、代理投下をお願いしたく思います。

211Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:45:24 ID:u4pKbbmY0
一念を込めて見据える先に。
ドラゴンころしを肩に、少女の皮を被った狂信者が悠然と歩み寄る。


答えは簡単だ。
例えば、首輪の探知機の様な物を持っていたのだとしたら。

いや、それでは無傷である事の説明がつかない。
この道を上がってきたということは、経路上間違いなく地雷原に突っ込んでいる。
なのに何故、煤一つ泥一つ被っていないのか。

それを説明できる道具を、雨流みねねは知っている。


「お前、日記……所有者かぁぁあぁぁッ!」


「――あの道具は、つい今しがたキンブリーさんの協力者に預けてきました。
 私を応援して、手伝うといって下さった方です。
 貴方があの道具を悪用したくとも、ここにはありません……っ!」

ざく、ざくとゆっくり一歩一歩を踏みしめて、狂った正義はにじり寄る。
何を勘違いしたか自分は日記の奪取を狙っているとでも思われたようだ。
まずい、とみねねは感じる。
感じるなどというのは生易しいか、警報が針となってただひたすらに全身を刺し貫いているような感覚すらある。

協力者、それも日記を見ている者がいるとするならば逃亡日記のない自分はまず逃げる事は出来ないだろう。
そしてまた、この女が日記所有者なのだとしても手元にないならば日記の破壊を狙う事はできない。
……まあ、日記所有者でなくとも日記は利用できる。
たまたま主観情報に因らない日記を手に入れただけという可能性は否定できない。

どうする、と、ただひたすらにその事だけを思考。
回答はコンマ単位で弾き出される。
応えは明朗、己が足を用いて疾走。

――疾走! 疾走! 疾走!

「……! また逃げるのですか!? 無駄な足掻きを!」


バーカ、日記所有者相手に逃げられるなんざ考えてねえ。

心の内でそう呟き、背を向けて走り出す。
狙うのは布石。
逃走か戦闘か、決断はそれを果たした後にすればいい。
現状打破の勢い以ちて、みねねは薄ら暗い木々の影へと身を躍らす。
木陰に入りて三々打つ。

瞬間。

「……っ!」

びゅう、と右頬を風が掠める。
ぼこりと、すぐそばの木に真ん丸いクレーターが出来上がった。

212Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:45:50 ID:u4pKbbmY0
散らばる木片が頬に傷を作り出す。
みねねは知る由もないが、それはアルフォンスの残骸を剛力番長が投擲した結果できた物だった。

手ごろな鉄くれは、エネルギー保存の法則の通り投げて当たればとても痛い。
少なくともそこらの硬球なんかよりもよほど暴力的で、当たり所が悪かろうが良かろうが死んでもおかしくない。
だから、使いやすそうなのを幾つか見繕って剛力番長は印地撃ったのだ。
彼女の膂力を持ってすれば、ただの投石でも銃弾より恐ろしい代物となる。

「ちぃぃいいいいい……!」

バケモノが、と口の中の愚痴を押し込めてその瞬間を察知するのに全力を注ぐ。

――二投目。
頭に当たれば即死。
胴体に当たれば内臓破裂。
足に当たれば転倒、追撃が防げない。
唯一腕になら当たってもまだ保険が利くが、片腕になれば余計不利になるのは火を見るより明らかだ。

まあ要するに、どこに当たろうが致命傷モノな訳だ。

ふ、ふ、と走りながらの精神集中は意外にキツい。
特にこの宵闇の中ではいつ転倒してもおかしくない。
どこに木の根が張り出し、石コロが鎮座しているかも分からない状況は、追われる物にとって余りにも厄介すぎるお膳立てなのだ。

だがそれでも逃走のプロフェッショナルたる雨流みねねにとっては瑣事にすら値しない。障害とはなりえない。
意識を研ぎ澄まし、辺りの現象を全て脳髄に叩き込んでいく。

木の葉が擦れて、ざぁ……と微風が凪いだ。
踏み込む腐葉土の感触は柔らかく、湧き出た湿気は汗と交じり合い体の表面を撫でていく。
呼吸はやや荒く、次の息継ぎでどうしてもペースダウンする事だろう。

だから、その瞬間横に跳べばいいだけだ。

「ふッ……!」

回避。
十二分な余裕を持って、あらぬ方向へ砲弾は飛んでいくよ。

「――な、今のは当たっていた筈ですのに……!」

……タイミングの調整は完璧。
十分の一秒前にソコにいたはずのみねねは掻き消えて、瞬間移動したかのようにその隣で足をひたすら前へ前へ。
剛力番長にはそんな光景が見えているに違いない。

とはいえ、追うモノ追われるモノ、彼我の有利不利が覆ったわけではない。
回避行動という余計な動作の有無は間隙を確実に満たしている。
……そもそもが、身体能力に差がありすぎるのだ。
そんな一動作があろうとなかろうといずれは距離をつめられ、背中を刺される事だろう。
刺されるよりも叩き潰されるの方が正しいか。

ざ、ざざざ、ざ、と、藪を駆け抜けていくその間にも距離はじりじりと縮まる。
縮まっていく。

213Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:46:17 ID:u4pKbbmY0
この射程でも先刻同様の投擲へ緊急回避は可能。
されど、回避したとて剛力番長の肉体そのものによる連続追撃の対処は不可。
鉄屑をいなしても次の瞬間には剛力番長が目の前にいる。
それは決定された抗えぬ未来。

――故に、雨流みねねは剛力番長の暴力に踏み潰される。
――故に、齎されるべき必然の結末は死。
――故に、最初の最初から彼女の取ったいかなる行為も無意味。

そう、だから雨流みねねはここで散る。
鉄屑に身を貫かれて脳ミソと内臓と血液とリンパと肉片をブチ撒け惨めに死ぬか。
ドラゴンころしで髄を臓器を砕き割られ、黄色く汚らしい汁を垂れ流して死ぬか。
大して変わりはしまい。

投擲されたならばそれで仕舞いだ。
日記を確認するまでもないDEAD ENDフラグがそこにある。


そして順当な流れのまま、剛力番長が慈悲深い殺意を振り被った。

轟、と、物騒すぎる音と共に鉄くれが金切り声をあげて猛進してくる。
水蒸気の尾さえひいて突き進むそれは余りにも圧倒的な暴力だった。


「……!」

ただそれでも、こんなものでくたばってたまるかよと意地を張る。
当たってやるものかとばかりに、死がその直後に控えていると分かっていながらもみねねは全身のバネを使って回避。
服の一部をフッ飛ばしながら、暴力の塊はみねねの腹のすぐ隣を訪ね貫いていった。

そして、そこまでだ。
暴力の塊すらも生み出す、チカラそのものの権化がみねねの息の届く範囲に“い”る。

それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。

鉄くれすら赤子に感じられる大きさの剣を、チカラの権化は振り被っていた。
逃れる術は、どこにもない。

「……この白雪宮拳が、引導を渡して差し上げます」

哀しそうに目を細め、涙すら浮かばせてそれでも強く強く彼女はこう言い切った。

「お別れですわ」


対するみねねはただ、ぼう……と、鉄塊を見上げている。
そして、辞世の句でも告げるかのように、静かにこう零した。

214Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:46:45 ID:u4pKbbmY0
「やなこった」


にぃ……、と、みねねの口端がしたたかに吊り上げられる。
その掌に握っていた白い物を鞠で遊ぶのと同じ動きで、宙に投じた。

剛力番長には、それが血に染まった紙切れのように見えた。


静かな森の中に、綺麗な爆華が花開いた。
香ばしい火薬のにおいと、瀑布の如き烈音が響く。



「あああぁぁぁああぁぁあぁぁぁああああぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!」

それすら跳ね除けて、剛力番長の拳が華を散らせた。
拳を振れば、風が起こる。
風は炎を散らし、道を作り出す。

針や剣すらものともしないヒュぺリオン体質。
しかし電気や炎に対しては、完全に防ぐ事はできない。
だというのに、剛力番長はそれを撥ね退けた。

右手の肉を焼け焦げさせ、真皮を露出させながらもブチ抜いた。

「私はッ! 負けないッ! これで負けたなら殺した方に申し訳が立たないッ!
 私は正しい人々を生き返らせるまで勝ち続けるのですわッ!」

「ああクソが! だからトチ狂った奴は嫌なんだよ……!」

窮鬼の如きその表情に苦虫を噛み潰した表情を返しながらバックステップ。
みねねは後退しながら、血を染み込ませたメモを自分の目の前に次々投じていく。
願いましては一枚なり二枚なり、三枚なり四枚なり五枚なり六枚なり。

出来上がるは爆炎のライン。

星座を形作るかのように美しく、焔が暗闇を彩っていく。

「負けない……! 負けない……!
 負けない! 負けない! 負けない負けない負けない負けなぁぁぁぁぁいっ!」 

それら全てを、剛力番長は蹂躙した。
叩き割り、踏み潰して一直線にみねねに突き進んだ。
その姿はあたかも不死鳥。
全身に炎を纏い、熱風とともにひたすら翔け続ける。
たとえ幾度その身を痛めつけられようと、純粋さ故に止まる事を知りはしない。

215Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:47:18 ID:u4pKbbmY0
「そうかい」

――テロリスト、雨流みねねはその生き様を見ても何一つ表情を変えず。
ただ、こう告げた。

「それじゃあ、」

一直線に進む剛力番長。
その足元、脛の辺りに鋭い痛みが走った。

「てめえは夢を見たまま死んでいけ」

仕掛けられたワイヤーが、皮膚に食い込んでいく。
同時、そのワイヤーに巻き付いた紙切れが特大の花火を引き起こす。

「――――!」

悲鳴すら聞こえず、剛力番長は足元から白い灯火に包み込まれた。


――機動力を削ぐ。
みねねの想定していた布石は、初めからそれだけだった。

あらかじめ仕掛けたトラップによる、脚部へのワイヤーによる切断と爆炎の波状攻撃。
ここに誘い込む事だけを最初から想定し、どうにかここまで辿り着いた。
もしこれが日記を持っていた上での行動ならばそれは十分な余裕で回避されていたはずである。

だがこの白雪宮とやらは、自分を探し当てるのに使っていた未来日記をどうしてか誰かに預けたらしい。
なるほど、彼女ほどのヒトを超えた身体能力の持ち主ならば、ちまちま日記に頼るよりもその暴力を存分に振るった方が効率的だろう。
事あるごとに日記を手にしていてはかえって集中力も散らばるし、片手が塞がってしまう。
白雪宮の剛力を考えるならば実に勿体無い。
また、もし本物の日記所有者ならば、日記は剥き出しの弱点ともなりかねないのだ。
これらのリスクを回避する為に安全なところに隠すのは十分考えられることである。
あと、性格面でも日記に頼って策を巡らすほど頭が回るとは思えないというのもあるが。

……だからこそ、そこに付け入った。
自分の突破口は機動力を削いだその先にしか存在しないと、みねねの頭脳はその数多の戦場の経験から導き出していたのだ。
足を斬られて爆破されたならば、どんな人間だろうと最早まともに動けまい。


すわ、想定外だ。
予測の斜め上にも程があった。

「正義はァァアアアァァァアァァアァァアァァ……ッ!!」

それこそ、ワイヤーが全く通じていないとは。

足の肉は半ば炭化しており、表皮に至ってはグジュグジュに崩れて炭屑とすら呼べない有様だ。
なのにそれでも、正義の狂信者はしっかと大地を踏みしめて前進する。
漸進する。
進軍し、蹂躙する。


「必ずゥゥゥ、勝ァぁぁぁァつのですわぁぁぁあああああぁああ……ッ!」

216Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:47:48 ID:u4pKbbmY0
風を切る音は急降下爆撃機のそれにも等しい。ジェリコの喇叭を掻き鳴らせ。
ソニックブームすら発して振り下ろしたドラゴンころしの狙いは力いっぱいのあまり逸れ、みねねの左肩に掠る。
それだけで、彼女の左腕は全て全てハンバーグに丁度いい按配の挽き肉となった。

「ぎ、」

鮮烈な熱さと、体が凍り付いていくという矛盾した感覚が同時にプレゼントされる。
悲鳴が肺腑の奥の奥の奥からせり上がってくる。
それでも唇を血が滲むほどに噛み締め、文字通り生きながらに肉を抉られる苦痛を飲み込んだ。

「畜生、がぁぁぁッ!」


――嗚呼、それはまさしく神の思し召しとやらだったのだろうか。
そんな筈はない。
神は、まつろわぬモノに寛容を示す事はない。

だから、純然たる雨流みねねの意思の行使の結果なのだ。
彼女が純然たる己の力のみで切り開いた、未来への糸口なのだ。



世間に報道されるテロリズムとは、当然の如く非常に歪められた一側面にしか過ぎない。

誰が好き好んで人を殺す?
誰が好き好んで自爆する?
誰が好き好んで――非難されると分かってそれでもテロリズムを敢行する?

偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。
そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。

ルカ福音書、6章42節より。

……テロリズムとは、力の絶対量がどうしても大きくない者がそれでも何かを訴えたいからこそ、
命に代えてでも伝えたいことがあるからこそ最後に取り得る手段。

しかしそんな必死な主張もメディアを通じる際に検閲される。
漉し取られた後、お茶の間に届くのはトチ狂った凶悪犯罪者が酷いことをやってのけました、
そう淡々と惨状を伝えるだけのリポーターと、さも憤っていると言わんばかりの偽善そのもののコメンテーターの声のみ。

どうして誰もが、そのフィルターの向こうにある必死な嘆きを聞き届けようとしないのか。
誰も彼もが、彼らに毛ほども興味を示してさえくれないからだ。

……届かぬ声の無力さに落胆しつつも、それでもなおきっと誰かが自分達を見てくれると信じて声を張り上げる者。
それこそが、そんな意思を強く持ち続けられる者こそがテロリストなのだ。

217Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:48:29 ID:u4pKbbmY0
吼え上がるその大きく開いたクソガキの口に、直感的に握り締めたそれを突き出し引っ掛ける。

「――――!!!???」

剛力番長の目端に映ったのは、アルフォンス・エルリックの首輪だった。


「散ィィり、やがれ――――――――!」


――外そうとしたり強い衝撃を与えても爆発するから気をつけるようにしたほうがいいのう――

そう、首輪は立派な武器をその内側に仕込んである。
この会場にいるどんな存在であろうと、首一つを軽々吹っ飛ばすのに十分な程の爆薬を。

残った右腕に意識を集中。
皮膚を。筋肉を。血管を。血液を。神経を。爪を。
細胞を。骨格を。骨髄を。体液を。産毛を。毛根を。

腕のありとあらゆる構成要素を爆弾と変えて、フッ飛ばす。
たとえそれが、制限によって自滅当然の結果をもたらすのだとしても。
 
 
――新星の煌きが、満ち満ちた。

218鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:49:29 ID:u4pKbbmY0
仰向けで地面に倒れ伏したまま、みねねは静かに息を吸い……、吐く。
それだけで生きている事を実感する。
ただ、ぼう、と、空を仰いだ。
起き上がろうにも腕が両方ともなくなっていて、どう立ち上がったらいいものやら。
流れ出す血が生温いのに体は冷えていて、気持ち悪い感触だな、と感じた。

自分と白雪宮、どちらが正しかったのかとなんとなくそんな事を思う。
正義とやらを否定して人殺しを躊躇わない自分と、
正義とやらを妄信して人殺しを躊躇わない白雪宮。

――そんなことは考えるまでもない。


『勝ッタモノコソ正義!』

「オイ」

……なんであの変態野郎なんだ。
本気でイラついた口調で舌打ちした後、それでも頭を振った後にその言葉に同意した。

「その通りだよ、12th」

決まりきった結論を一人、呟く。

「私も、お前も――、間違ってたのさ」

勝者など、何処にもいない。

……正義は本当はあるのかもしれない。
だけど、剛力番長の言う正義はそんな正義ではない醜いエゴイズムだ。

「救えねぇ」

テメェ自身も含めて誰一人な、と続けようとして――、知らぬ間に横に立っていた一つの影に気づく。


「お久しぶり……でもないわねぇん」

「……協力者って、お前の事かよ」
「やっぱり察しがいいのねぇん、嫌いじゃないわん」

この殺し合いに招かれ最初に出会った女――妲己。
再会の才のもたらす効果だろうか、こんな瀬戸際に出会うことになるとは。

「勘違いしないでねぇん、その子がトチ狂ったのはわらわのせいじゃないのん。
 面白そうな道具をもってたからちょちょいと献上してもらっただけよん」


白雪宮をけしかけたのは自分ではないと言いたいのだろう。
まあ、嘘をついているかいないかはどっちでもいい。
この言動の要旨は、妲己が自分に敵意を持っていないというアピールなのだ。
とりあえず何か目的があるようだし、そっちを優先した方がどちらにとっても得なはずである。

219鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:50:10 ID:u4pKbbmY0
そして、その手でくるくると弄んでいるのは携帯電話。

「……やっぱりかよ」
「あなたに話を聞いておいて正解だったわぁん♪」

――どんな手練手管、口八丁手八丁を用いたものやら。
それを想像することはできても考えるだけ無駄という物だろう、真相は闇の中だ。
見れば、妲己のしばらく後方に犬が三匹、忠誠を誓うかのように座り込んでいる。
それがおそらく日記の特性なのだろう、自分の知らない日記所有者の物のようだ。

「……で、気づいた事とかはあるかしらん? 役立ちそうな情報があれば聞かせてほしいのん」

苦笑する。

「直球だな」
「わらわとあなたが別れた短い間でも、少しは収穫があるかもと思ってねぇん。
 せっかく助けてもらえるかもしれないんだから、チャンスは有効活用しないと勿体無いでしょぉん」

やれやれ、だ。苦笑にさらに苦笑を上書き。
だいぶ血が抜けてきて、口を動かすのも億劫になっているというのに。
さっさと止血でもしてくれればいいのにと思うが、でもまあ、この女はまず情報を吐かなければ動きはしないだろう。

せっかく生き延びる機会が降ってきた、ならばそのくらいは願ったり叶ったりだ。

「プラ爆だ」
「ぷらばく? それは何かしらん?」
「首輪に使われてる爆薬だよ。あの爆発の仕方は十中八九プラスチック爆薬だ、威力は滅茶苦茶だがな。
 ――粘土みたいに自由に成型できて、なおかつ信管の刺激がなきゃまず起爆しない。
 首輪に使うにはもってこいのアイテムだな」
「成程ん、ハンバーグの種みたいにコネコネできる爆薬な訳ねん」
「……ま、そうだな。
 だから、外そうと思うならセンサーか信管を探して取り除け。出来れば信管だ。
 おそらく衝撃や振動、熱とか電気とかに反応するセンサーが信管に信号を送るって構造になってる。
 それを突き止めんのは……、まあ、新しい首輪がないと無理だな」

「……いい仕事したわよん、みねね。ありがたく使わせてもらうわん」

 
ふう……、と、十数秒かけてゆっくり息を吐く。
まだまだ余力はある、他に話すべきことはないだろうか思案する。 

『自分のことは自分で守るしかない。困っても誰も助けてくれない。
 未来は自分の力で掴み取るしかないんだ。私は今までずっとそうやって生きてきたんだからね。
 誰かが何とかしてくれる、神様が助けてくれる。そんなのは幻想でしかないんだよ』


――つい先刻、見知らぬガキンチョに言い放った言葉だ。
全く、その通りだとその思いを更に強める。
現にこの通り、自分は未来を打開した。

220鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:50:40 ID:u4pKbbmY0
たとえ精神的なものであろうとも物質的なものであろうとも。
神様や正義に縋るばかりで、自分の意思と力で障害を打ち破る事を放棄した人間のその末路はあまりにも哀れだ。

とはいえ――、ひとりは、少ししんどいとも思う。
だからだろうか。
なぜか自分に付き纏う、一人の刑事の姿を思い出してしまった。

「そうだ、妲己」
「何かしらん?」

雨流みねね様ともあろうものが、と自嘲する。

「いるかどうかも分からんが、頼みがある。西じ――」


ぽき。

首が180度回転して、後ろ前が逆になってしまっている。
体は仰向けのまま、首から上だけが地面とキスをしている形だ。



そのまま何一つ続きを告げる事無く、あっさりと雨流みねねは死んだ。
最後までその顔には自嘲を浮かべたままだった。



「他人の惚気話なんか聞いてても面白くないのん、時間の無駄よねぇん」

せっかく未来への糸口を切り開いて突き進んでも、扉の向こうは奈落の底になっていた。
良くありすぎる陳腐な話だ。
皮肉にも――みねねの死に方は、ついさっきバラバラに引き裂かれたアルフォンスのそれと全く同種の物だった。
まるで、いくら藻掻いても結局は同じ結末にしか辿り着かないと言わんばかりに。

いくら頑張って頑張って頑張って、結果を出したって立ちふさがる現実には全くの無意味。
どんな想いも自己陶酔でしかない。

この麗しの妲己ちゃんには、そんな役に立たない感傷に付き合ってやる必要などないのである。




【雨流みねね@未来日記 死亡】

221鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:51:18 ID:u4pKbbmY0
 
 
こきこきと手首と指を動かして、一仕事終えた時の気持ちいい伸びをする。

「……とりあえず、重要そうな情報は首輪の事だけねぇん、現状じゃ手に入れられる情報に限界があるわん。
 きっとこのままだと情報量がそのままジリ貧になるわねぇん」

……と、なれば。
やはり今後のプランに少しでも多くこのゲームの情報を増やす方向性を加えるべきだろう。

思い当たるポイントの一つは、やはり“放送”だ。
おそらくゲームの進行に従って、その放送の内容で参加者の行動を制御するつもりなのだろう。
そこを逆手に取る。
つまり――、

「ゲームの進行が早ければ早いほど、“神”から手に入れられる情報は増えていくわん。
 だったら、わらわもそのスピードを加速させてやればいいのよん」

このゲームのスピードの加速とは、即ち参加者の死亡の増加だ。
妲己がみねねやウルフウッドを殺害したのも、そういう思惑が存在したからである。

……とはいえ、死にかけを探して殺しまわるだけでは効率が悪いし、何より華がない。
それは非常に不満の溜まることなので、やはり別の一手を打っておくべきだろう。
積極的に参加者を減らすその為の一手が。

「まあ、わらわ自らが手を下しちゃえば、それはそれで動きづらくなるのよねぇん」

さてどうするべきか。
基本方針は変わってはいないので、下手に参加者を殺してしまうのは信用の面で宜しくない。
思案する為にも、とりあえずみねね達の道具を回収しておこう。
彼女らの支給品次第では妙案が浮かぶかもしれない。

「……この金属の糸を然るべき持ち主に返したら、面白い事になりそうねぇん」

呟きながら、まずはみねねの持っていた金属糸をデイパックに入れなおす。
ついでにメモ爆弾が残っていないかと探したが、どうやら先刻の攻防で使い切ってしまっていたようだ。
なので、次は剛力番長――白雪宮拳のところに向かおうとして、気づく。

「あはん」

「……! ……っ!」

「すごい生命力だわん」


――――白雪宮拳は、生きていた。
両足は焼け焦げて一部は炭化しているし、上半身はそれ以上に酷い。
下顎が半分以上吹っ飛んでなくなっており、顔面は完全に焼け爛れている。
とっさに庇ったのか目の周りだけは綺麗なものだが、その代わり両腕もボロボロだ。
万一生き延びても、きっと顔全体に火傷の痕が残って二目と見られないことだろう。
また、胸付近へのダメージもそれなりだ。
学ランは最早服としての呈をなしておらず、つつましい胸の膨らみが痛ましいくらいに真っ赤に染まって露出している。

222鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:51:54 ID:u4pKbbmY0
そんな有様の剛力番長を見て、いいことを思いついたとばかりに妲己は口を三日月にする。

「……運が良ければ、生き延びさせてあげるわぁん。
 わらわに感謝して、しっかりお仕事に努めて頂戴?」

くすくす、と、まさしく女狐の表情をした妲己がゆっくりと近づいた。
その懐から取り出したるは、小さな瓶。

「さっきの男のところで拾ったものが、こんなにすぐに役立つなんてわらわってラッキーだわん」


――その小瓶の中には、赤い液体金属のような物がぷるぷると蠢いている。

ある人はそれの試作品を、 黒い核鉄と呼んだ。
ある人はそれを、柔らかい石と呼んだ。
ある人はそれを、赤きエリクシルと呼んだ。
ある人はそれを、第五元素と呼んだ。
ある人はそれを、哲学者の石と呼んだ。


――賢者の石。

つい先刻砕け散った鎧の少年、その父親が生み出したホムンクルス。
その分け身たる大罪の一つ、憤怒。

かつてとある男に注入されたはずのそれは、なぜか今ここに形を持って存在していた。


妲己は焼け爛れた剛力番長の胸の、特に深い傷を、尖った爪を差し込みこじ開ける。
そのまま、ちゅうぅぅぅ……っ! と、ぶじゅう……っ! と、静かに、ゆっくりと。
一滴残さず、賢者の石を剛力番長という器に注ぎきった。


沈黙。

沈黙。

……沈黙。

そして。

「キャァアあアァパぱぱパッパパびゃぎゃきゃくあけけぎキキキキきぐぐぐぐばっばば
 ぺきゃっつばびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃじゅじゅぶぐぁがががっががががが
 しししししぎきけってててぶぴゃぅぱぐぅぐぎゃァアアアァアアアアァア――――!」

白目を剥いた。
四肢が吊ったようにピンと張った。
バタバタと、アヒルの玩具のように忙しなく動き始めた。
口から漏れる涎は溢れて止まらず、しまいには蟹の如く後から後から泡を吹いて止まらない。

まるで何かの映画のように、十字架で自慰を始めるような、そんな光景が妲己の目の前で繰り広げられる。

「さて、それじゃわらわは行くわねぇん」

うんうんと満足げに頷いた後、妲己は踵を返してさっさと立ち去る事にする。

223鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:52:33 ID:u4pKbbmY0
……そんな悪魔の所業に反応したのだろうか。

「……っ!」

獣の槍が、またもや妲己目掛けて飛び掛ってきた。
尤も、本来の力を発揮できないこの状況ではやはりあっさりと妲己に止められはしたのだが。

「この槍、やっぱり怖いわぁん」

妲己の手の中で、びくびくと獣の槍が唸りを上げている。
その様子を見ていて、妲己は気づいた。
どうやら槍は、とある方向に向かって飛び去ろうとしているようにも見えるのだ。

……もしかしたら、そちらの方向に本来の持ち主がいるのかもしれない。
それに留意してしばらくそのままにしておくと、ようやく槍はその激情を治めたようだ。

「さて、ちょーっとばかり寄り道をしたけどぉん、あらためてゴージャスにデパートに向かうわよん♪」


剛力番長から妲己が騙し取った、“飼育日記”。
その示す情報によれば、デパートの方には騒動の種がたくさん転がっているらしい。
……実に楽しみだ。

その後は獣の槍の本来の持ち主に会ってみましょうかしらん、と一人呟いて、妲己は今度こそ歩みを再開した。


正義もテロリズムも踏み潰し蹂躙して、威風堂々と我欲の象徴が闊歩していく。



【H-5南東/森林/1日目 黎明】

【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら、飼育日記(α1:健在、α2:健在、α3:健在)@未来日記
[道具]:支給品一式×5、再会の才@うえきの法則、
    マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    金属糸×4@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数8/12)@現実、
    パニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット、不明支給品×3    
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。その後、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極める。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得るために、自分の信用に傷がつかない範囲で積極的にゲームを促進する。
7:金属糸の持ち主を探してみる。

224鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:53:06 ID:u4pKbbmY0
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。

【金属糸@トライガン・マキシマム】
レガート・ブルーサマーズが人体強制操作に用いる微細な金属糸。
これを人体に刺して電流を流すことで、たとえ自壊しようともなお人体を意のままに操る事が可能となる。
また、特殊な電磁場が存在するとこの金属糸は弾かれてしまう。

【飼育日記@未来日記】
未来日記所有者10th、月島狩人の持つ未来日記。
月島の飼育する狩猟犬は3つのグループを作っており、それぞれの群れにはリーダー(α1、α2、α3)が存在する。
この3頭のリーダーへの命令と、そのレスポンスを記録したのがこの飼育日記である。
本来は数十頭もの犬の報告を受け取ることが出来るのだが、今回は制限により群れのリーダーである3頭しか会場には存在していない。
なお、月島はこの殺し合いに参加させられていないため、ここで飼育日記が破壊されれば全く関係ないどこかの世界で月島狩人が人知れず死ぬことになるだろう。
ご愁傷様。


【H-5南西/山道/1日目 黎明】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:下顎半分喪失、眼球付近を除く顔面及び上半身前面に火傷(大)、両足に火傷(中)、両腕に火傷(中)
    精神的疲労(中) 、悶絶中、賢者の石(憤怒)注入
[服装]:学ラン焼失、上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6
[思考・備考]
0:あびゃびゃびゃびゃぐぐぐうぶばが、ァ――!
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……? でも……
5:悪はとりあえず殺す。
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がキンブリーの協力者だと信じています。
※剛力番長が賢者の石の注入に耐えられるかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師】
かつてキング・ブラッドレイに注入された賢者の石。
注入されて、なおかつ生き延びることが出来ればその人間はホムンクルスとなる。
ただし、自我が残っている保証はない。


※H-5を中心とした一帯に無数の爆発音と閃光が確認されました。付近の参加者が感知している可能性があります。
※H-4〜H-5の山道付近に無数のワイヤートラップが仕掛けられています。
※アルフォンスの残骸がH-5〜I-5境界付近の森林部に転がっています。

225 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:53:53 ID:u4pKbbmY0
以上、投下終了です。
本スレの方で支援してくださった方に感謝の意を。

226 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:07:28 ID:Zd54ubqQ0
いつになっても規制解けず・・・
議論中のところすいません、短文ですが秋山優・桂雪路・とらを投下します
お手すきの方、代理投下お願いします

227 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:08:25 ID:Zd54ubqQ0
(…………何なんだこの人達は…………?)

目の前の女性二人を不可思議に眺める。
自分の事をなにやら言っている様子だが、特に敵意が感じられるわけでもない。
状況は良くわからないのだが少なくとも戦おうとかそう言った内容ですらなんでもないようだ。
改めて内容を聞いていると男としての自分を値踏みされているようで良い気分がするものではない。

(……え?)

そこで唐突に。
向かい合い言い争っていた二人の視線が秋山に移る。
そして片方の――明らかに自分に対して不満を漏らしていた女性が睨み付けて来た。

「お、おい……」

隣の同じ顔をした女性が制止の声を上げているのも聞かず、ゆっくりと秋山に向かって歩を進めた。

「な、なんだ君は?」

背筋をまっすぐと伸ばし、堂々とした態度でまっすぐ近づいてくる目の前の女性。
視線は自分を睨み付けて全く離そうとしないその態度に秋山は思わず身構えていた。
それでも一切の迷いも見せずさらに近づいていく。
そして目の前でぴたりと足を止め……一言。

「何その格好?」
「……は?」

何をするのかと思えば。
両手を腰に当て、伏目がちに目を細めながら放たれた言葉。
緊張した自分が馬鹿らしくなりながらも、向けられた態度に思わずむっとする。
睨み返した秋山を気にも留めずに再び足を動かし、秋山の周りをゆっくりと回りだす。

「その……学ラン? 何でそんな短いの?
 サイズぐらい合わせたら? それともそれが格好良いとでも思ってんの?」

丁度一周した所で再び足を止めるとビシッと秋山の顔面に指差し――

「そもそも何よ、その変なマスクは。趣味が悪いったらありゃしない」
「み、見ず知らずの人間にそんなことを言われるいわれは無い」
「はあ? 馬鹿じゃないの? 外見なんて他人に見せる為にあるんでしょうが。
 それが変だから変って指摘してるわけ。
 何も疑問に感じてないんだったらあんたの周りの人間は誰も言ってくれなかったんでしょ?
 むしろ感謝して欲しいぐらいよ!」

228 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:08:56 ID:Zd54ubqQ0

喧嘩を売られているんだろうか……。
未だかつてこんなことを言われたことは無い。
自分では格好良いと思っていたしポリシーだって持っている。
だがこれでも秋山も年相応の男であった。
妙齢の女性に自信満々に否定されてしまったことにショックを隠しきれない。
もしやみんな、本当に自分に気を使って言い出さなかっただけなのか?
否定的な意見が頭の中にもやもやと浮かび上がりだした。

「ほら、とりあえずその仮面外してみなさいよ」

呆然とする秋山の顔から一瞬でマスクを奪い去る。

「ちょ、ちょっと!」

慌てて素顔を隠そうと顔をそらす秋山だったが腕を掴みそれを許さない。
整った顔立ち、切れ目に少し下がった細目に高い鼻。
顔に自信が無いから隠してるわけでは絶対にないと確信できる。
むしろ美形としか言えないにも関わらず、何故それを隠しているのかが雪路には理解できなかった。

「なによこれ! 素材は良いのにもったいないったらありゃしないじゃないの」

金切り声と共に憤慨した言葉を吐き捨てると、グッと秋山の腕を引っ張りだした。

「っ、なんのつもりだ?」
「つもりもタモリもないわよ。あんたに少しファッションって言うものを教えてあげるわ。
 いいから黙ってついて来なさい」

連れの女性に助けを求めようとチラリと視線を移した……が、肝心のとらはと言うと

「あー、まあなんだ。……諦めろ」

頭をポリポリと掻きため息をつきながら、同情するような生暖かい目で秋山を眺めるだけだった。



☆ ☆ ☆

229 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:09:32 ID:Zd54ubqQ0
コンビニより少し離れた一軒の居酒屋に場所は移る。
店員も客もいないフロアーの一席に座る女性二人と男性一人。

「……大体ねえ、なんで誰も私の魅力に気づかないのよ!?」

すでにテーブルの上には数本の酒瓶が転がっていた。
完全に出来上がっている雪路のテンションを止める事も出来ず、マシンガンのように飛び出す単語の羅列に相槌を打つばかりの時間がただ過ぎていた。

自分は何故ここでこんな事をしているのだろうと項垂れながらただただ雪路の愚痴を聞き続けている秋山。
いつまでここでこうしていなければならないのか。
幾度と無く席を立とうとしたがそのたびにしがみつく様に絡まれ止められる。
無理やり飛び出しても良かったのだが、少し情報が欲しかったのもあった。
自分を騙していると考えを除けば、この雪路と言う女性は番長ではない。
おそらく一般人の部類だ。
そうするとこれは23区計画ではないのかと言う疑問が湧き上がる。
それともただ巻き込まれただけ…・・・?
突っ込んだ話をしようにも男がどうたら酒がどうたらで会話にならない。
まったくどうでも良いのだが、そもそも自分にファッションの指南をするとかで連れて来たんじゃないのか……?
隣に座っているとらと言う女性も見た目は普通なのだが相当酔っているようだ。
化け物だとか二千年生きているとかまともな情報が手に入らない。

秋山が途方に暮れ、なかば自暴自棄になりかけていたその時だった。

ドオオオォォォォン!!

と。
大きな音と共に店全体が大きく揺れた。

「なんだっ!」

とらと秋山が同時に席を立つ。
警戒するように外へ飛び出そうとした秋山の学ランのすそを掴みながら、少しも慌てたそぶりも見せずに雪路はつぶやく。

「でっかい地震でしょ?」
「いや……今の音は何かが爆発したような」
「んじゃガス爆発? 大変ねえ。まあここは何も問題ないみたいだから気にしない気にしない」

まったく危機感を感じさせず、コップに酒を注ぎながら雪路がのほほんと答えた。

230 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:10:12 ID:Zd54ubqQ0

「それより!」

全力で掴んだ学ランを引っ張る。
物凄い力に秋山の身体はバランスを崩し……そして雪路の膝の上へ座る形になった。

「あたしばっかり呑んでさあ、あんた全然呑んでないでしょ!?
 良いから付き合いなさいよ!!」

言いながら一升瓶を手に持つと、秋山の口に押し付けごぶごぶと流し込んだ。

「……ぐっ、ゲホッ」

自分の意思とは無関係に酒が流し込まれていく。
入りきらずに口から漏れ、器官を浸食した液体の感覚に思わずむせ返るが、それを見ても意にも関せず雪路は大笑いを続ける。

顔を引きつらせながらその様子を見ていたとらだったが

「あんたもよ!」

……と、酒瓶を投げつけられた。

下手に機嫌を損ねても、この男の二の舞だなと。
目の前の光景も面白いし酒もうまいからまあ良いかと。
付き合うように酒を浴びるように呑みながら、合わせる様に目の前の光景を楽しむことにした。



☆ ☆ ☆



――数時間後。

酒の匂いで充満した店内で眠りにつく三人の姿があった。

その表情は三者三様に笑顔で満ち溢れていた。

すでに何人もの人間が戦い合い死んでいる中、楽しい日常とも言える時間を過ごせたのは幸せだったのかもしれない。

だが、現実を知らしめる放送が流れているのを聞くことが出来なかった。

それが彼らにとって不幸としか言えないだろう事は間違いないだろう。

231 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:10:39 ID:Zd54ubqQ0


【J-8/居酒屋/1日目 朝】

【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[状態]:泥酔
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、激辛せんべい@銀魂
[思考・備考]
基本:どのような状態でも、自分のスタンスを変えない
 1:雪路のテンションについていけてない
 2:金剛晄(金剛番長)と合流する。
 3:できれば自分の武器も回収したい。
 4:とりあえず、今は脱出することを考える。
 5:もし、金剛番長が死んだ場合は……。
 ※登場時期は、マシン番長が倒される〜23区計画が凍結されるまでの間のどれかです。
 ※金剛番長がいることに気づきました。
 ※桂雪路ととらを双子の姉妹だと思っています。

【とら@うしおととら】
[状態]:泥酔、雪路に変身中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(中身は一切確認せず)
[思考]
基本:自由気ままに楽しむ。
 1:とりあえず飽きるまで雪路に付いていく。
 2:秋山に対して同情心を抱いてます

【桂雪路@ハヤテのごとく!】
[状態]:泥酔
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(中身は一切確認せず)、大量の酒(現地調達)
[思考]
基本:酒を飲む。
 1:覆面外したら少し格好いいじゃないの
[備考]
 1:殺し合いを本気にしてません。酒に酔ったせいだと思っています。



※三人とも眠っていたため第一回放送を聞き逃しました
※殺し合いに関する事や人間関係に関する話はしておらず、どうでもいい雑談しかしていません



【衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE】
空島に存在している貝(ダイアル)の一つ。
衝撃を蓄え、それを自在に放出することができる。
ただし、使用後は体を痛める可能性があります。

【激辛せんべい@銀魂】
沖田の姉・ミツバが真選組に送ってくる、とても辛いせんべい。
しかし隊士曰く「辛すぎて食えない」らしく、評判は良くない。

232 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:12:40 ID:Zd54ubqQ0
以上です、タイトルは『秋山優――続・卑怯番長の女難』で
放送を越えさせてしまうと言う点に関して不安が残るのですが
その辺の指摘も含めて何かありましたらお願いします

233 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:12:07 ID:glUOAtsQ0
PCが相変わらず規制中なのでこちらに
竹内理緒、胡喜媚で投下します

234 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:13:26 ID:glUOAtsQ0


これからどう動くべきか――。

競技場の壁に寄りかかりながら理緒は考えふけっていた。
少し離れた場所で喜媚が無邪気に走り回っているのを微笑ましく思いながらもため息が漏れていた。
なんと言うか能天気だなあと。
卑下したつもりも無く、純粋に羨ましいと思った。
あんな風に楽観的になれればどれだけ楽なんだろうと自分の性分に嫌気がさす。


(とりあえず――)

視線を空に移し、思考を戻す。

現実的に考えるならここに留まっているのが一番安全だとは言える。
何らかの目的が無ければこの様な所に来ようとは誰も思うまい。
少なくともまず自分なら目指さない。

喜媚の探し人と出会えれば状況が一気に良い方向へ向く可能性はある。
自分の知り合いにしたってそうだ。
清隆様ならこんな状況でも簡単に解決してくれるに決まっている。
仮にどちらの知り合いもいなかった場合や、居た場合は合流するためにどこへ向かうか。
今のうちに候補を絞っておくのは必要と考えた。

自分の知りうる人間が居た場合、彼らはどこへ行こうとするか。
それを想像することが重要となる。
もしも清隆様がいたら? 鳴海歩がいたら?
人の集まりそうな所……たとえばここのように地図に載っている施設が候補に挙がるだろう。
その点で考えると数点の候補は導き出せる。

一番の候補に挙がりそうなのはデパートだ。
必要なものが手に入る、そう考える人間が多いのは間違いないだろう。

次に病院、もしくは診療所。
怪我をした時に備えて薬や医療品を手に入れたいと考える。

この三つは間違いなく人と会うためにならうってつけの場所だろう。
何よりその中の二つが自分達のいる場所から近いのが幸いとも言える。

だが問題もある。
先程遭遇した人間、我妻由乃の事を思い返す。
もしも偶然出会ったのが揚々と襲い掛かってくるような人間だったら?

そんな事を言ったら何も始まらないのはわかっている。
これがもしもはじめに出会ったのが、いかにも私は殺人鬼ですよとでも言わんばかりの容貌の人間だったら理緒も深く考えることも無かっただろう。

235 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:14:52 ID:glUOAtsQ0

自分が抱いてる疑問、『殺し合いとはなんだ?』と言うこと。
まずここにつながる筈だ。
だからまず情報を得ようとするはず、しかしその有用性を気にせずいきなり殺意を剥き出しにしてくる人間が居た。
しかも見た目にはただの女学生としか思えない人間が……だ。
あの時は例に漏れず情報を得ると言う前提でうまく戦闘を回避できたが
一歩間違えれば殺し合いを強制されていたところだったかもしれないのだ。

集まりすぎるところも逆に危険、行くとするなら十分な警戒が必要と考える。

そして他にも理緒には個人的に行きたい場所もあった。
圧迫されたままの首に手をやる。
鉄のひんやりとした感触が全身から血の気を引かせていた。
この首輪を爆破された少年の姿。
弾け飛んだ首に噴出す血しぶき。
その光景を思い返すだけでもぞっとし胃の中のものが逆流しそうになる。
鳴海歩に同じような事をしもしたが、いざ自分がその立場に立たされたとなるととても生きた心地がしない。

この首輪を一刻も早く外したい。
地図を見る限り、工場やら研究所やらが記されている。
ここにいけば使えそうな工具でも見つかるのではないだろうか。

「理緒ちゃん、どうかしたっ?☆」

無言で考え続けていた理緒に、喜媚が屈託の無い笑顔ではにかんできた。
その笑顔の下には同じようにつけられている首輪が光っていた。

ハッと。
ある考えが理緒の頭を駆け巡る。

「喜媚ちゃん、さっき熊の石像に変身してたよね?」
「うんっ☆」

喜媚が自分の前に姿を現した時は見上げるほどの……確かにそうだった。
そして今は……自分で言うのも悲しいが、お世辞にも大きいとは言えない自分と大して変わらないほどの小さな身体。

……何故?

「喜媚ちゃん小さな動物とかにはなれる? 例えば……猫とか鼠とか」
「簡単なのっ☆」

言うや否や先程と全く同じように変てこな呪文を唱え、そして喜媚の姿がぶれたかと思うとその姿がみるみる縮み

――現れたのは真っ白い一匹の子猫。

「どうっ?☆」

そして目の前の子猫から発せられるのは間違いなく喜媚の声。

「凄いですね……」

236 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:15:40 ID:glUOAtsQ0

そう言いながら子猫と化した喜媚の身体を抱きかかえる。
耳の付け根を軽くなでてやると、首をごろごろと鳴らしながらうっとりとした視線を理緒に送っていた。

(本当に凄いです……けれど)

理緒が先程から感嘆しているのは変身に関してではなかった。
それに関してはもう嫌と言うほど感想を出し尽くした。

今理緒が抱いている感情――感嘆と、そして不安。
その正体は彼女の視線の先を追えばすぐにわかるだろう。
一点に向けられているのは、喜媚の首についたままの首輪。
その体型にぴったりと合わせる様にサイズが縮んでいるのだ。
熊だった時の首のサイズと先程の人間サイズでは間違いなく取れてしまうだろうに。
つまりはこの首輪はその時の状況に合わせて大きさを変えると言う事。
これもなんらかの、普通の人間には出来ない力の一つだと言う事で間違いないだろう。

その力に驚くと共に、こんなものに自分の命を握られていると言うことに愕然とした。
そしてそれを自分にどうにか出来るのか不安に駆られる。
急激に得も知れない恐怖に襲われ、身体の奥底から震えが走る。

「理緒ちゃんどうしたのっ?☆」

突然顔を青ざめさせる理緒を抱きかかえられながら心配そうに見上げる喜媚。

(この子だって今は何も考えてないかもしれないですけど、本当なら凄い化け物だって……)

腕の中に抱える小さな身体、でも今なら……。
不意に自分の意思ではない黒い感情が浮かび上がった。

――そのまま力を込めてしまえ。

信号が脳から送られ……握った手に力を込めようと身体が勝手に動いていた。

「え……?」

理緒の顔にザラっとした感触が広がる。
ゆっくりと目を見開くと、落ち着かせるように喜媚が理緒の顔をペロペロと舐め上げていた。
驚きに思わず抱き抱えていた手を離し……支えが無くなった喜媚の身体が地面へと落下する。
衝撃で変身が解け元の姿に戻っていた。

「いたっ☆」
「ご、ごめんなさい。大丈夫……ですか?」

痛そうにお尻をさすりながら、理緒に対して笑顔を向けると

「だいじょうぶぃっ☆ 
 でもどうしてかわからないけど理緒ちゃん悲しそうなのっ☆
 笑わないと何も楽しくないよっ!☆」

237 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:16:23 ID:glUOAtsQ0

「うん……そう……ですよね」

喜媚のはにかんだ笑顔にも心が震える。
作り笑いがどれほど簡単かを知っているから。

自分の中に芽生えた恐怖を打ち消すように理緒も笑い返しす――が

――自然に笑えているだろうか?

そんなことを思う時点で拭い切れてないのは明白なことに気づく。

喜媚を知るものなら彼女の行動に何の裏もないことがわかる。
だが理緒は喜媚の事を何も知らない。



知らないゆえに人は恐れを抱くものだ。
根源が大きければ大きいほど、それはまた強くなっていく。



  この子の心が見えない。
  この子と一緒にいても大丈夫なの?



それを確かめる勇気が理緒にはなかった。
ゆっくりと時が過ぎるのを沈んでいく月の位置だけが教えてくれる。

時折無邪気に話しかけてくる喜媚への対応に、精神を磨耗させていった――

238 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:17:00 ID:glUOAtsQ0

【B-2/競技場前/一日目 黎明】



【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的に多少の疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:第一放送までは生存優先で現状待機。殺し合いを行う意志は無し。
  名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
2:異能力に恐怖を感じています
3:喜媚と行動を共にしても平気か、信用しても大丈夫かを図りかねています。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました


【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様とスープーちゃんを探しに行きっ☆
2:皆と遊びっ☆
3:元気の無い理緒ちゃんが心配なの☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。


【如意羽衣@封神演義】
 ありとあらゆるものに変身出来るようになる宝貝
(素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化については
「制限で出来ない」or「外れた瞬間爆破」等考えましたが、話の中では明言してないので後続の方にお任せします)

239 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:18:55 ID:glUOAtsQ0
投下は以上ですが指摘等ありましたらお願いします
タイトルは「それは小さな小さな『棘』」で
お手すきの方代理投下お願いいたします

240本スレ>>343差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:12:52 ID:mSY3smPc0
煙幕。
黙々と、モクモクと立ち込める黒と灰色の実体なき壁は、確かに自分たちを別ってくれる。

駆ける。
駈ける。
――翔ける!

クソガキが動揺した、僅かな隙。
虚を突いた今しか出来ない事がある。

みねねの片目に映るはゴミの様に転がった、鎧の欠片がくっついたままのアルフォンスの首輪と彼のデイパック。
一心不乱で少女の傍を走り抜け、その二つをデイパックに放り込みつつ勢いを殺さず突き抜ける。

どんな道具でも、この相手の傍に置いておいてはロクな事になりはしない。
本当は大剣――ドラゴンころし――も回収したかったが、みねねにそんな代物を持ち上げている余裕はない。


結果として。
雨流みねねは何一つ判断を過つ事無く、このガラクタ置き場からの離脱に成功した。




――しばし、後。

煙がゆっくりと晴れていく中に、仁王立ちする影が消えずただ存在を誇示している。

「……逃がし、ません……っ」


テロリストを倒す、と、その事だけを考えていないと、余計な不安がまた鎌首を擡げそうだったから。
故に、名も知らぬ隻眼の少女を殺す事だけを考えて、考えて、ただただひたすらに考える。
今涙が出ているのは決して殺人を決意した自分が悲しいのではなく、煙に目が染みたから。
自らのデイパックに手を伸ばし、とある道具を手に取り頷く。

――不意に思い出したのだ。

もしや、という疑念はいかづちに等しい直感と混ざり合って少女に強い強い確信を抱かせる。

ああ、思い返してみるならば。
自分がテロリストの単語を聞いてすぐに覚醒する事ができたのは、その事が常に引っかかっていたからかもしれない。


雨流みねねというテロリスト。
彼女の名前が記された、この道具を手にしたその時から。



それから、彼女の背後で藪を揺らす、がさり、という音が聞こえた。

241>>347差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:13:50 ID:mSY3smPc0
一念を込めて見据える先に。
ドラゴンころしを肩に、少女の皮を被った狂信者が悠然と歩み寄る。


答えは簡単だ。
例えば、首輪の探知機の様な物を持っていたのだとしたら。

いや、それでは無傷である事の説明がつかない。
この道を上がってきたということは、経路上間違いなく地雷原に突っ込んでいる。
なのに何故、煤一つ泥一つ被っていないのか。

それを説明できる道具を、雨流みねねは知っている。


「お前、日記……所有者かぁぁあぁぁッ!」


「――あの道具は、つい今しがた私の同志に預けてきました。
 私を応援して、手伝うといって下さった――テロリストを絶対に許せないと仰ってくれた方です。
 貴方があの道具を悪用したくとも、私から逃げ出そうとしても、貴方はもはやそれを手にする事もできません。
 ええ、今ここで、私たちが倒すのですから!
 私が追い詰め、あの方が行く手を塞ぐのですから……っ!」

ざく、ざくとゆっくり一歩一歩を踏みしめて、狂った正義はにじり寄る。
何を勘違いしたか自分は日記の奪取を狙っているとでも思われたようだ。
まずい、とみねねは感じる。
感じるなどというのは生易しいか、警報が針となってただひたすらに全身を刺し貫いているような感覚すらある。

協力者、それも日記を見ている者がいるとするならば逃亡日記のない自分はまず逃げる事は出来ないだろう。
そしてまた、この女が日記所有者なのだとしても手元にないならば日記の破壊を狙う事はできない。
……まあ、日記所有者でなくとも日記は利用できる。
たまたま主観情報に因らない日記を手に入れただけという可能性は否定できない。

どうする、と、ただひたすらにその事だけを思考。
回答はコンマ単位で弾き出される。
応えは明朗、己が足を用いて疾走。

――疾走! 疾走! 疾走!

「……! また逃げるのですか!? 無駄な足掻きを!」


バーカ、日記所有者相手に逃げられるなんざ考えてねえ。

心の内でそう呟き、背を向けて走り出す。
狙うのは布石。
逃走か戦闘か、決断はそれを果たした後にすればいい。
現状打破の勢い以ちて、みねねは薄ら暗い木々の影へと身を躍らす。
木陰に入りて三々打つ。

瞬間。

「……っ!」

びゅう、と右頬を風が掠める。
ぼこりと、すぐそばの木に真ん丸いクレーターが出来上がった。

242>>352 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:15:01 ID:mSY3smPc0
風を切る音は急降下爆撃機のそれにも等しい。ジェリコの喇叭を掻き鳴らせ。
ソニックブームすら発して振り下ろしたドラゴンころしの狙いは力いっぱいのあまり逸れ、みねねの左肘から先を掠めて数え切れない風の刃をつくりだす。
それだけで、彼女の左腕はずたずたのぐちゅぐちゅで、肉の中身の白い骨まであちこちから見えている有様となった。

「ぎ、」

鮮烈な熱さと、体が凍り付いていくという矛盾した感覚が同時にプレゼントされる。
悲鳴が肺腑の奥の奥の奥からせり上がってくる。
それでも唇を血が滲むほどに噛み締め、文字通り生きながらに肉を抉られる苦痛を飲み込んだ。

「畜生、がぁぁぁッ!」


――嗚呼、それはまさしく神の思し召しとやらだったのだろうか。
そんな筈はない。
神は、まつろわぬモノに寛容を示す事はない。

だから、純然たる雨流みねねの意思の行使の結果なのだ。
彼女が純然たる己の力のみで切り開いた、未来への糸口なのだ。



世間に報道されるテロリズムとは、当然の如く非常に歪められた一側面にしか過ぎない。

誰が好き好んで人を殺す?
誰が好き好んで自爆する?
誰が好き好んで――非難されると分かってそれでもテロリズムを敢行する?

偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。
そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。

ルカ福音書、6章42節より。

……テロリズムとは、力の絶対量がどうしても大きくない者がそれでも何かを訴えたいからこそ、
命に代えてでも伝えたいことがあるからこそ最後に取り得る手段。

しかしそんな必死な主張もメディアを通じる際に検閲される。
漉し取られた後、お茶の間に届くのはトチ狂った凶悪犯罪者が酷いことをやってのけました、
そう淡々と惨状を伝えるだけのリポーターと、さも憤っていると言わんばかりの偽善そのもののコメンテーターの声のみ。

どうして誰もが、そのフィルターの向こうにある必死な嘆きを聞き届けようとしないのか。
誰も彼もが、彼らに毛ほども興味を示してさえくれないからだ。

……届かぬ声の無力さに落胆しつつも、それでもなおきっと誰かが自分達を見てくれると信じて声を張り上げる者。
それこそが、そんな意思を強く持ち続けられる者こそがテロリストなのだ。

243本スレ>>353差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:16:21 ID:mSY3smPc0
吼え上がるその大きく開いたクソガキの口に、直感的に握り締めたそれを叩きつける。

「――――!!!???」

剛力番長の目端に映ったのは、アルフォンス・エルリックの首輪だった。


「散ィィり、やがれ――――――――!」


――外そうとしたり強い衝撃を与えても爆発するから気をつけるようにしたほうがいいのう――

そう、首輪は立派な武器をその内側に仕込んである。
この会場にいるどんな存在であろうと、首一つを軽々吹っ飛ばすのに十分な程の爆薬を。
あんまり派手に自己主張して他人を巻き込むのはよろしくないため、爆発は内へ内へと指向性を抱かされているものの。
内側の肉を抉る事だけに専心した仕様のその威力は最小のコストと最大の効果を両立させる。

かろうじてまだ動く左腕、その先端の拳に意識を集中。
皮膚を。筋肉を。血管を。血液を。神経を。爪を。
細胞を。骨格を。骨髄を。体液を。産毛を。毛根を。

拳のありとあらゆる構成要素を爆弾と変えて、フッ飛ばす。
たとえそれが、制限によって自滅当然の結果をもたらすのだとしても。


――新星の煌きが、満ち満ちる。





そして。
デイパックに放り込まれた首輪、その周りに癒着していた鉄くれの内側の血印。
かろうじて魂をこの場に留めていたアルフォンス・エルリックは、今度こそ完全にこの世から消滅した。
生存を気づいてもらう機会すらなく、言い残すべき事すら言えず。




【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師 死亡】

244本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:18:29 ID:mSY3smPc0
仰向けで地面に倒れ伏したまま、みねねは静かに息を吸い……、吐く。
それだけで生きている事を実感する。
ただ、ぼう、と、空を仰いだ。
起き上がろうにも片方の腕が吹っ飛んでしまっていて、どう立ち上がったらいいものやら。
流れ出す血が生温いのに体は冷えていて、気持ち悪い感触だな、と感じた。
不幸中の幸いか、肘の半ばから先が消し飛んだ割には出血は少ない。
爆炎が肉を焼いたのだろう、荒療治だが失血死の可能性は僅かだが減ったわけだ。


自分と白雪宮、どちらが正しかったのかとなんとなくそんな事を思う。
正義とやらを否定して人殺しを躊躇わない自分と、
正義とやらを妄信して人殺しを躊躇わない白雪宮。

――そんなことは考えるまでもない。


『勝ッタモノコソ正義!』

「オイ」

……なんであの変態野郎なんだ。
本気でイラついた口調で舌打ちした後、それでも頭を振った後にその言葉に同意した。

「その通りだよ、12th」

決まりきった結論を一人、呟く。

「私も、お前も――、間違ってたのさ」

勝者など、何処にもいない。

……正義は本当はあるのかもしれない。
だけど、剛力番長の言う正義はそんな正義ではない醜いエゴイズムだ。

「救えねぇ」

テメェ自身も含めて誰一人な、と続けようとして――、知らぬ間に横に立っていた一つの影に気づく。


「お久しぶり……でもないわねぇん」

「……協力者って、お前の事かよ」
「やっぱり察しがいいのねぇん、嫌いじゃないわん」

この殺し合いに招かれ最初に出会った女――妲己。
再会の才のもたらす効果だろうか、こんな瀬戸際に出会うことになるとは。

「勘違いしないでねぇん、その子がトチ狂ったのはわらわのせいじゃないのん。
 面白そうな道具をもってたからちょちょいと献上してもらっただけよん」


白雪宮をけしかけたのは自分ではないと言いたいのだろう。
まあ、嘘をついているかいないかはどっちでもいい。
この言動の要旨は、妲己が自分に敵意を持っていないというアピールなのだ。
とりあえず何か目的があるようだし、そっちを優先した方がどちらにとっても得なはずである。

245本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:18:49 ID:mSY3smPc0
そして、その手でくるくると弄んでいるのは携帯電話。

「……おい、それ」
「あなたに話を聞いておいて正解だったわぁん♪」

――どんな手練手管、口八丁手八丁を用いたものやら。
それを想像することはできても考えるだけ無駄という物だろう、真相は闇の中だ。

いや、そんな事はどうでもいい。
気付く。気付いてしまう。
気付いてしまったが故に、みねねの顔が白く染まった。
ただでさえ流れ出る血液に青くなっていたその顔が、まるでペンキでもぶちまけるかのように。

「……ァ」

「……で、気づいた事とかはあるかしらん? 役立ちそうな情報があれば聞かせてほしいのん」


――みねねは絶望する事すら許されず、ただただ思い知らされる。

自分は最早確固たる自我を持って行動する事など、出来はしないのだと。
それは操り人形ですらない。奴隷ですらない。

イノチも尊厳も何もかもを蹂躙され搾取される、ただそれだけの――家畜となるのだと、ひたすらに暴力的な事実がそこにあった。

「……ァ、あ、…………」


「早くぅん、わらわを焦らすのは許さないわよん。
 わらわとあなたが別れた短い間でも少しは収穫があるかもと思うのん」

みし、と、妲己の手の中の携帯電話が軋みをあげた。
それは即ち、自分の体が『そうなっている』のと同じ意味を持つ。

未来日記とは、逃亡日記とはそういうものなのだ。
みねねの未来を示すのではなく、みねねの未来そのもの。
みしみしぎしぎし、それがいい感じで悲鳴をあげている。

「やめ、」

「余計な言葉なんて必要ないのぉん、……ね?」

「――――!」

ぎり、と歯を噛んだ。
残った右手はぷるぷる震え、握り締めすぎたせいで白くなっていた。
そのくせ足に入る力はなきに等しくて、もし今立ち上がったらまるで豆腐の上に立ったかのようにぐずぐずと沈んでしまう事だろう。

「ほらほらァ、ほらほらぁん」

そして、その一言をきっかけに。
ふっ……、と、全てが一瞬で切り替わった。
憤りも無力感も悔しさも哀しさも、全ての感情のゲージが0となった。

雨流みねねは、雨流みねねとしての動作を全てやめた。

246本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:19:06 ID:mSY3smPc0
能面、と呼ぶべきだろうか?
……否。
能面にだって、表情はある。
般若だって翁だってお多福だって皆、笑っているのは確かだろう?
能面のような表情というのは、つまりそういうことだ。
たとえ空虚なものであっても、何かの表情を形作れてはいるのだ。

だが、今のみねねはそれすら叶わない。
完璧なまでの無表情で、ただただ淡々と情報を搾取される。

……分かっている。
妲己の今の行いはポーズだ、自分を手にかけるつもりは全くない。
ただ、自分に思い知らせるには、日記を弄ぶ行為はあまりにも充分すぎた。
家畜とはそういうものなのだ、と。

淡々と。
淡々と。
……淡々と。

ただ、言葉を放っていく。

「プラ爆だ」
「ぷらばく? それは何かしらん?」
「首輪に使われてる爆薬だよ。あの爆発の仕方は十中八九プラスチック爆薬だ、威力は滅茶苦茶だがな。
 ――粘土みたいに自由に成型できて、なおかつ信管の刺激がなきゃまず起爆しない。
 首輪に使うにはもってこいのアイテムだな」
「成程ん、ハンバーグの種みたいにコネコネできる爆薬な訳ねん」
「……ま、そうだな。
 だから、外そうと思うならセンサーか信管を探して取り除け。出来れば信管だ。
 おそらく衝撃や振動、熱とか電気とかに反応するセンサーが信管に信号を送るって構造になってる。
 それを突き止めんのは……、まあ、新しい首輪がいるな。
 仮にあのボムボムの実のような不思議パワーが関わってたら私にはどうしようもねえ」

それきりみねねは沈黙する。
何一つ洩らす事はなく、それ以上はなすべき事は思い当たらない。

「……いい仕事したわよん、みねね。ありがたく使わせてもらうわん」



『自分のことは自分で守るしかない。困っても誰も助けてくれない。
 未来は自分の力で掴み取るしかないんだ。私は今までずっとそうやって生きてきたんだからね。
 誰かが何とかしてくれる、神様が助けてくれる。そんなのは幻想でしかないんだよ』


――つい先刻、見知らぬガキンチョに言い放った言葉だ。
全く、その通りだとその思いを更に強める。
現にこの通り、自分は未来を打開した。

247本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:19:28 ID:mSY3smPc0
たとえ精神的なものであろうとも物質的なものであろうとも。
神様や正義に縋るばかりで、自分の意思と力で障害を打ち破る事を放棄した人間のその末路はあまりにも哀れだ。

だが。

せっかく未来への糸口を切り開いて突き進んでも、扉の向こうは奈落の底になっていた。
良くありすぎる陳腐な話だ。

いくら頑張って頑張って頑張って、結果を出したって立ちふさがる現実には全くの無意味。
どんな想いもどんな信念も、自己陶酔でしかない。

それでも。

――――それでもみねねは信じている。
信じたいのだ。

無表情の下で、きっと何か、まだ自分を貫ける方法があるのだと。
白面金毛九尾とも呼ばれる女でさえも、出し抜く事ができるのではと。

無表情は絶望ですらない虚無の感情を示す。偽物なんかじゃない。
それは本心だ、みねねは今の状況を哀れなまでに理解してしまっている。

だが、たとえ心の真ん中が虚無になってしまったとしても。
その周りにへばり付く形だけの、表面上だけのどこかで確かに。
たとえ心のほんの一部、皮一枚程度の想いではあっても、みねねは諦めていなかった。

(……まだだ。まだ、終わった訳じゃねえ。
 ここで人生くれてやってたまるかよ、私の命は私のモンだ……ッ!)

「そのくらいでないとわらわが使ってやる価値もないわねぇん、上出来よん」

「…………!」

ただまあ、そんな誰もが考えそうな事は、当然の如く妲己も把握している、というだけの話で。



「それじゃあ引き続き、お仕事の完遂頼むわねん?」

相変わらず悠然と泰然と轟然と、その言葉を言い放つ。


想いなどいくらあっても、現実は、変わらない。



【H-5北東/森林/1日目 黎明】

248本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:06 ID:mSY3smPc0
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:左拳喪失(火傷のため出血は少ない、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[装備]:メモ爆弾×4
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム
[思考]
基本方針:神を殺す。
0:…………。
1:研究所方面、もしくは工場方面に向かう。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返したい、しかし……。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:出血を利用して、メモ帳の残っている限りメモ爆弾を製造する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※未来日記所持者は全員参加していると思っています。死んだ12thが参戦しているとは思っていません。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。

【単分子鎖ナノ鋼糸@トライガン・マキシマム】
レガート・ブルーサマーズが人体強制操作に用いる微細な金属糸。
これを人体に刺して電流を流すことで、たとえ自壊しようともなお人体を意のままに操る事が可能となる。
また、特殊な電磁場が存在するとこの金属糸は弾かれてしまう。


***************


ゆっくりと、とぼとぼと、森の闇にみねねが消えていく。


これでいい。
どうせ自分は治療に役立つような道具など持っていない。
軽い手当てをしてから旅立たせてやっただけでも充分だろう。

どうせみねねに何かあったとしても、その予兆が手にした日記で分かるのだ。
いつまでも仲良しこよしで一緒にいるより、
さっさと当初の使命を果たす――自分の下に人を集める事に専心してもらった方がよほど効率的である。
それ以外に面白い使い道が思いついたなら、彼女の向かう場所に先回りする事も出来るわけだし。

行動を逐一把握できる上に、その生死さえ自由に可能。
あまりにも使い勝手のいい手駒を手に入れたわけだ。
いや、駒を手に入れたというよりは、駒が昇格したといったほうが正しいだろう。

「やっぱり人命救助なんてわらわには似合わないものねぇん」

こきこきと手首と指を動かして、うーん、と、一仕事終えた時の気持ちいい伸びをする。

「……とりあえず、重要そうな情報は首輪の事だけねぇん、現状じゃ手に入れられる情報に限界があるわん。
 きっとこのままだと情報量がそのままジリ貧になるわねぇん」

……と、なれば。
やはり今後のプランに少しでも多くこのゲームの情報を増やす方向性を加えるべきだろう。

249本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:29 ID:mSY3smPc0
思い当たるポイントの一つは、やはり“放送”だ。
おそらくゲームの進行に従って、その放送の内容で参加者の行動を制御するつもりなのだろう。
そこを逆手に取る。
つまり――、

「ゲームの進行が早ければ早いほど、“神”から手に入れられる情報は増えていくわん。
 だったら、わらわもそのスピードを加速させてやればいいのよん」

情報とは、何も口頭で伝えられるものでなくとも構わない。
主催の一挙手一投足全てが状況の判断材料になり得るだろう。
そして、このゲームのスピードの加速とは、即ち参加者の死亡の増加だ。
妲己がウルフウッドを殺害したのも、そういう思惑が存在したからである。

とはいえまあ、あくまでそういう状況が考え得るというだけで、確実なものでないのも確かだが。
あくまでそうなったらいいな、というだけの宝クジ。
しかも死にかけを殺すだけでは効率が悪いし、何より華がない。


それに加えて、いかに自分を信用させるかが問題だ。
人を集めて“神”と渡り合う。そこまではいい。
だが、自分の目的を果たすためにはその集団の長となることが望ましい。
主導権を握るのでなくては自分から人を集める意味がないのだ。
ただ馴れ合いたいだけなのならば、適当な集団を見繕って入り込めばいいのだから。

……とはいえ。
自分はどうしても胡散臭さが消えないらしい。
少なくともそれは先刻のウルフウッドとやらには嗅ぎつけられてしまったようだ。
となると彼と同程度、あるいはそれ以上の実力者が同じことを繰り返す可能性は決して低くない。
強者こそ、妲己が一番欲しい人材こそが、妲己を信頼しない。
往々にしてよくある話で、強者とは我が強い連中が非常に多いのは事実である。
自分が旗印となるならば、彼らから絶対的な信頼を得る手段がどうしても必要だ。

今ここが殷であったのなら、全く問題はない。
妲己のネームバリューは彼女に従うに充分な魅力を持つだろう。
だがここはみねねの様な未来の人間や、ウルフウッドのような知らない世界の人間が跋扈する異相だ。
妲己という存在を知らしめるために、何らかの手を打たねばなるまい。


だから、その為に妲己は考える。
考えて、そのうち思いついた一つに目を向ける。

人間には共通の敵を倒すときに、最も強く結束するという習性がある。
これをどうにか利用できないだろうか?
参加者を無差別に殺し廻る悪者の脅威を、自分が知らしめ協力を呼びかけたならば。
場合によってはだが、その悪者を踏み台に自分の実力を見せつけたのならば。
自分が信頼に足り、皆を指揮するに相応しいとアピールすることにならないだろうか?

とあるSF(すこし・ふしぎ)のお話のタイトルを借りるとするならば。
イヤなイヤなイヤな奴――憎まれ屋が、必要なのだ。

……その人選と、悪役たる悪役と成り代わらせる手段。
そこが一番のネックではあるのだが。

250本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:51 ID:mSY3smPc0
たとえばまず、殺し合いに乗っていない参加者全員の敵として“神”を思い浮かべる。
だが、“神”は憎まれ屋を務めさせる相手としては不適格だ。
そもそもが彼ないし彼女と戦うための戦力として人員を募るのであり、その中で実権を握るために憎まれ屋が必要なのだから。
“妲己”という存在をアピールする踏み台はもっと御しやすい相手でなければならない。
それでいて、つわものどもに脅威を与える程度の実力も、兼ね備えていなければならない。

かといって、ここで架空の強力な敵をでっち上げるのも悪手だ。
信頼を得るために行う手であるからして、虚言こそ一番の大敵であるからだ。
それに、たとえば憎まれ屋が襲われた相手が逃げおおせたとすれば、生存者の証言は自分の言葉が嘘ではないという追い風になる。

……とはいえ、憎まれ屋の実力が高すぎれば自分に被害が及ばないとも限らない。
万一の事どころか億一京一の事とはいえ、それを視野に入れない妲己ではない。
難儀な事だ。

けれど、何もその存在に自分が直接相対する必要はないのだ。
自分の知らない所で勝手にくたばってもらっても構わないし、暴れてくれれば強者の選別にもなろう。
要するにお題目でさえあればよく、その裏づけとして適度に証拠を残してくれさえすればいいのだ。

話を戻そう。
結局は、誰に憎まれ屋を任ずるかという問題だ。

「わらわ自らが手を下しちゃえば問題点だけはクリアできるけどぉん、それじゃあ本末転倒よねん」

ならば他の参加者にそれを任せるか?
なるほど、確かに勝手に殺し合いに乗る連中が出てくるのは確かだろう。
だがそれは確実ではなく、自分でも布石くらいは確保しておきたい所である。
そう、対策を充分練ることができるくらいには情報を得ている存在が。

まず該当者として思い浮かぶのはみねねだが、

「……単純にパワー不足よねぇん、それにこんな大味な役を任せるにはもったいないくらい小回りが利くしぃん」

ならば、やはり別の相手を用いて一手を打っておくべきだろう。
参加者に具体的な脅威を知らしめる、その為の一手が。

では、どうするべきか。
思案する為にも、とりあえずそこで倒れてる死体の道具を回収しておこう。
彼女の支給品次第では妙案が浮かぶかもしれない。

哀れな小娘だ、と思う。
みねねを出汁に近づいてみれば、簡単に自分が彼女の敵であると信じてしまったのだから。
みねねに止めをさすのは自分がやりたいと言ったところ、あっさりと逃亡日記を手渡してくれた。

そして剛力番長――白雪宮拳のところに向かおうとして、気づく。

251本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:22:08 ID:mSY3smPc0
「あはん」

「……! ……っ!」

「すごい生命力だわん」


――――白雪宮拳は、生きていた。
両足は焼け焦げて一部は炭化しているし、上半身はそれ以上に酷い。
下顎が半分以上吹っ飛んでなくなっており、顔面は完全に焼け爛れている。
とっさに庇ったのか目の周りだけは綺麗なものだが、その代わり両腕もボロボロだ。
万一生き延びても、きっと顔全体に火傷の痕が残って二目と見られないことだろう。
また、胸付近へのダメージもそれなりだ。
学ランは最早服としての呈をなしておらず、つつましい胸の膨らみが痛ましいくらいに真っ赤に染まって露出している。


そんな有様の剛力番長を見て、いいことを思いついたとばかりに妲己は口を三日月にする。

「……運が良ければ、生き延びさせてあげるわぁん。
 わらわに感謝して、しっかりお仕事に努めて頂戴?」

くすくす、と、まさしく女狐の表情をした妲己がゆっくりと近づいた。
その懐から取り出したるは、小さな瓶。

「さっきの男のところで拾ったものが、こんなにすぐに役立つなんてわらわってラッキーだわん」


――その小瓶の中には、赤い液体金属のような物がぷるぷると蠢いている。

ある人はそれの試作品を、 黒い核鉄と呼んだ。
ある人はそれを、柔らかい石と呼んだ。
ある人はそれを、赤きエリクシルと呼んだ。
ある人はそれを、第五元素と呼んだ。
ある人はそれを、哲学者の石と呼んだ。


――賢者の石。

つい先刻砕け散った鎧の少年、その父親が生み出したホムンクルス。
その分け身たる大罪の一つ、憤怒。

かつてとある男に注入されたはずのそれは、なぜか今ここに形を持って存在していた。


妲己は焼け爛れた剛力番長の胸の、特に深い傷を、尖った爪を差し込みこじ開ける。
そのまま、ちゅうぅぅぅ……っ! と、ぶじゅう……っ! と、静かに、ゆっくりと。
一滴残さず、賢者の石を剛力番長という器に注ぎきった。

この少女なら。
これだけおつむの方がシンプルで、これだけ並外れたチカラを持っていて。
しかも殺し合いに最初から乗っているのならば、まさしく“憎まれ屋”として適格だ。

252本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:22:55 ID:mSY3smPc0
――妲己は理解している。
賢者の石というものが魂魄の塊であり、これを人体に注入した場合、
自我を侵食して死をもたらす事も多い――むしろ器が耐えられないことが殆どなのだと。
だから彼女は、みねねにこれを使わなかったのだ。使い勝手が非常にいいからこそ、こんな賭けで死んでしまっては勿体無い。

だが、剛力番長の場合は別にそれでも構わないのだ。この少女でなくとも憎まれ屋は務まるのだから。
ただ、賢者の石を大人しく注入させてくれる相手などはいないだろうし、いても出会えるとは限らない。
だけど目の前にちょうど無条件でそれを行える相手がいたから、勿体無いとばかりに利用させてもらっただけ。
どうせ、放っておけば死ぬのは間違いないのだから。

それで生き延びて暴れてくれれば裏付けとしては御の字だし、たとえ死んでも賢者の石はどうせ拾いものだ。
知った事ではない。

あとは、剛力番長が危険な敵であると吹聴して廻るだけ。
嘘は言っていないし、唯一自分が彼女と面識があると知っているみねねも命を握られている以上迂闊な事は喋りはしまい。
仮に反旗を翻したとて、協力すると騙って場を切り抜けただけと言えば充分説明できる。
むしろそっちの方が自分が剛力番長の危険性を知っていることに説得力を付加できるだろう。


沈黙。

沈黙。

……沈黙。

そして。

「キャァアあアァパぱぱパッパパびゃぎゃきゃくあけけぎキキキキきぐぐぐぐばっばば
 ぺきゃっつばびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃじゅじゅぶぐぁがががっががががが
 しししししぎきけってててぶぴゃぅぱぐぅぐぎゃァアアアァアアアアァア――――!」

白目を剥いた。
四肢が吊ったようにピンと張った。
バタバタと、アヒルの玩具のように忙しなく動き始めた。
口から漏れる涎は溢れて止まらず、しまいには蟹の如く後から後から泡を吹いて止まらない。

まるで何かの映画のように、十字架で自慰を始めるような、そんな光景が妲己の目の前で繰り広げられる。

「さて、それじゃわらわは行くわねぇん」

うんうんと満足げに頷いた後、妲己は踵を返してさっさと立ち去る。
もし生き延びた時のことを想定して、ドラゴンころしだけは武器として置いていってあげる事にしよう。

253本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:23:14 ID:mSY3smPc0
……そんな悪魔の所業に反応したのだろうか。

「……っ!」

獣の槍が、またもや妲己目掛けて飛び掛ってきた。
尤も、本来の力を発揮できないこの状況ではやはりあっさりと妲己に止められはしたのだが。

「この槍、やっぱり怖いわぁん」

妲己の手の中で、びくびくと獣の槍が唸りを上げている。
その様子を見ていて、妲己は気づいた。
どうやら槍は、とある方向に向かって飛び去ろうとしているようにも見えるのだ。

……もしかしたら、そちらの方向に本来の持ち主がいるのかもしれない。
それに留意してしばらくそのままにしておくと、ようやく槍はその激情を治めたようだ。

「さて、ちょーっとばかり寄り道をしたけどぉん、あらためてゴージャスにデパートに向かうわよん♪」

その後は獣の槍の本来の持ち主に会ってみましょうかしらん、と一人呟いて、妲己は今度こそ歩みを再開した。


正義もテロリズムも踏み潰し蹂躙して、威風堂々と我欲の象徴が闊歩していく。



【H-5南東/森林/1日目 黎明】

【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら、逃亡日記@未来日記
[道具]:支給品一式×5、再会の才@うえきの法則、
    マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数8/12)@現実、
    パニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット、不明支給品×3    
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。その後、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極める。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得たい。
7:剛力番長を具体的な脅威としての槍玉に挙げて、仲間を集める口実にする。

254本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:23:33 ID:mSY3smPc0
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。


【逃亡日記@未来日記】
未来日記所有者9th、雨流みねねの持つ未来日記。
未来の逃走経路を示すため、自分を生存させる為の手段としてはみねねのサバイバル能力も相まってトップクラス。
逆に言えば、これが敵の手に渡ってしまうとみねねとしてはほぼ詰み状態と言える。
また人海戦術に弱く、4thの捜査日記や6thの千里眼日記、8thの増殖日記などとは相性が悪い。


【H-5南西/山道/1日目 黎明】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:下顎半分喪失、眼球付近を除く顔面及び上半身前面に火傷(大)、両足に火傷(中)、両腕に火傷(中)
    精神的疲労(中) 、悶絶中、賢者の石(憤怒)注入
[服装]:学ラン焼失、上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6
[思考・備考]
0:あびゃびゃびゃびゃぐぐぐうぶばが、ァ――!
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……? でも……
5:悪はとりあえず殺す。
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がみねねの敵だと信じています(妲己の名前は知りません)。
※剛力番長が賢者の石の注入に耐えられるかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師】
かつてキング・ブラッドレイに注入された賢者の石。
注入されて、なおかつ生き延びることが出来ればその人間はホムンクルスとなる。
ただし、自我が残っている保証はない。


※H-5を中心とした一帯に無数の爆発音と閃光が確認されました。付近の参加者が感知している可能性があります。
※H-4〜H-5の山道付近に無数のワイヤートラップが仕掛けられています。
※アルフォンスの残骸がH-5〜I-5境界付近の森林部に転がっています。

255本スレ436修正版 ◆lDtTkFh3nc:2009/06/08(月) 11:45:26 ID:kSdBChBo0
改めて簡単な自己紹介を終えると、Mr.2の提案で二人は支給品の確認に移った。
九兵衛のほうは既に1つ確認済みだったのだが、Mr.2のほうが未確認だという。

「Mr.2殿は、武器を必要とするタイプではないのだな?」
「やーねい、堅苦しいからボンちゃんでいいわよう」

(やや一方的に)打ち解けた二人は、まず未確認のバッグから調査する。
最初に出て来たのは奇妙なコインケースだった。
中にはコインが12枚入っているが、うち4枚が半分欠けていた。

「5枚目と7枚目…それに10、11枚目が欠けているな。誰かが持っているか、どこかに隠されているか…」
「全部揃えると、何かがおこるのかしらねい。いいわねい、お宝っぽくてワクワクするわ!」

次に出て来たのは、妙に軽いフードと剣。
フードの方はひとりでにフワフワと動いており、普通のものではないのがすぐわかった。

「こっちには説明書がついてるわねい…なになに…」

説明書によると、このフードと剣は風の精霊の力を宿しており、不思議な力を操れるという。
剣は羽箒のようで頼りなかったが、実際に振るってみると数m先の木の枝を切り落とした。
どうやら風を操りかまいたちの類を発生させる武器らしい。
直接攻撃に使うと相手を殺しかねないが、風を巻き起こす力は相手の抑止に役立ちそうだ。
改造バットと上手く使い分ければかなり戦力になるだろう。

今のところ殺さずの決意を曲げるつもりは無い。
胸を張って、護りたい人たちの笑顔を見るために……

「これはあちしには必要ないわねい。アンタにあげるわ」

ボンちゃんはそう言うと、ためらうことなく思考していた九兵衛にそれを投げ渡す。

「お、おいボンちゃん、いいのか…?」
「いいわよう、さっきいろいろヒドイ事言ったお・わ・び!
 それに、アンタの支給品であちしに使いやすそうなものがあったらそっちを貰うわよう」

勝手に九兵衛のバッグをあさりながら返事をしてくる。
彼女の持ち物の1つであるバットは趣味じゃないと既に拒否されている。
彼は「スワンちゃんが欲しい」とよくわからない事を言っていたが…
九兵衛は自分のバッグに、彼にとって役立つものが入っている事を願った。

256 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:53:37 ID:okmMVaXQ0
さるさんくらいました・・・
時間もないので続きこちらに投下します

257それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:54:03 ID:okmMVaXQ0

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。


【エドの練成した槍@鋼の錬金術師】
国家錬金術師の試験等でエドワード・エルリックが練成した槍。
割と頻繁に練成している。しかし、特に秀でた力はなく、登場のたびに壊されているような気も…
彼が練成したものにしては比較的センスがいいと思うのだが…

【バロンのナイフ@うえきの法則】
ごく普通の軍用ナイフ。バロンは能力の基点として使ったが、これ自体に特殊な力は無い。

【禁鞭@封神演義】
離れた敵を打ち据える事に特化した、聞仲の持つシンプルながら強力なスーパー宝貝。
本来ならば数km先の敵も打ち砕く代物だが、制限の為射程がおよそ100m程度になり、威力も低下している。
その分使用者への負担も減少している。



☆ ☆ ☆





――――――――――――――――――――――――――――――――――――

3:10

ユッキーが必死に走ってる。
でもあの男はもう追ってないよ、安心してユッキー!


3:20
疲れきった顔をしてるけど、それもかっこいい!
抱きしめたくなっちゃうけど我慢しなくちゃ。
ユッキーまた困っちゃうよね。


3:30
ユッキーが私のことを心配してくれてる。
嬉しいよユッキー、すぐ行くから待っててね!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

258それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:54:36 ID:okmMVaXQ0

「はあ……はあ……」

グリードさんがこちらを追ってくる様子は無い。
書き変わった予知を見る限りじゃ完全に逃げ切れた……しばらくは安全に休めそうだ。

でもグリードさんが追っていったのは由乃だと言うことを考えると気が気じゃない。
DEADENDが消えたことがせめてもの救いだけどそれでも不安は拭えない。

あの時愛沢さんを撃ったのは由乃の意思じゃない事はわかっている。
少なくとも由乃自身殺すつもりが無かったのはあの慌て方を見ればわかる、反射的に撃ってしまったのだろう。
だからそれは仕方が無いと割り切った。
これは愛沢さんが死んでいなかったから割り切れたのもあったけど、少なくとも由乃を責める事だけはしなかった。
結局ここまで予知通りになってしまったのだから。

そして日記は変わらかなかった。
ならばもう手段は一つしかなかった。

『僕がグリードさんに襲われ、由乃がそれをかばうという状況自体を無くす』

つまり僕らが一緒に行動すること自体がまずいわけでしかない。
由乃は最後までごねていたけれど日記で僕の安全は保障できるからと言う理由でしぶしぶ納得してくれた。

結果論だけ見ればうまく行った訳ではあったけれど、正直自分自身の行動に釈然としない。
別行動を取ったことにじゃない……その後だ。
別れてすぐ未来が書き換わって由乃のDEADENDが消えた時点で、由乃の所に戻ることだって出来たはずなのに。

"僕は弱い"から。
足手まといになることを避けてそのまま逃げた。
その時は最善の選択だと思っていたのに、身体を休めながら冷静になってみると自己嫌悪に踏み潰されそうになる。

『女のピンチに火中だって飛び込むのが男ってもんだろ!?』

7thの言葉が不意に頭をよぎった。
本当に最善の選択だったのかな?
これでもし由乃が死んだら、僕は……僕は……。


携帯を握り締め僕は立ち上がった。
今更ここでこうして悔やんでいたってどうしようもない。
無事合流できることを信じるしかない。
ならばこまねいているよりも可能性が高い行動を取った方が良いに決まってる。

合流場所は中・高等学校と話し合っていた。
グリードさんが病院を気にしていたから向かうのは危険と判断した為だ。
高町さんの事も気になるが今は由乃と合流する方が優先だ。

疲労の抜けきっていない身体に鞭打ちながらも僕は力の限り駆け出した。





僕は由乃を……信じる――




☆ ☆ ☆

259それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:55:13 ID:okmMVaXQ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


5:20
ユッキーが私のことを探してくれてる。
疲れてるよねユッキー。
すぐ行くから休んでてくれて良いんだよ!


5:30
ユッキーが笑顔で手を振りながら出迎えてくれたよ! 
ううん、由乃は大丈夫。どこも怪我なんてしてないよ。
待たせちゃってごめんね?


5:40
ユッキーってばぐっすりと眠っちゃった。
今はゆっくり休んでね

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【G-3/西/1日目 早朝】

【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [装備]:雪輝日記@未来日記 違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
 [道具]:支給品一式x2、不明支給品1〜2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  1:由乃の制御。
  2:拡声器を使った高町亮子が気になる。
  3:咲夜の生死が気になる
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。
  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。

【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾75%・75%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  1:ユッキーの未来日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  5:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※ 電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。

【ダブルファング@トライガン・マキシマム】
リヴィオ・ザ・ダブルファングの用いる二丁揃って一つの短機関銃。
しかも一丁が二つの銃を前後両方に発射できるように組み合わせた物であるため、実質四丁の銃を使用できるに等しい。
使い手の力量次第では片方を左右方向、片方を前後方向に向けることで四方全てを同時に射撃可能であるため死角が存在しない。
気配察知や直観力に長けた者が使うならば非常に強力な武装となる。
今回支給されたマガジンは八つと多めに感じる数だが、四つの銃口それぞれに個別にセットすることを考えると実質予備マガジンは二つである。
小型化され、一般人でも使用可能なようにされているがその分殺傷能力は落ちている。

260 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:58:37 ID:okmMVaXQ0
結構な人数予約したのにつなぎに近くて申し訳ないですが、以上で投下終了です
支援と新スレ立てありがとうございました
転載もお手すきの方いましたらお願いします

咲夜の状態表に傷の度合い書き忘れていたのですが
「急所は外れているが何らかの処置をしないと失血死するレベル」ぐらいに考えています

261前スレ>>582->>583  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:36:02 ID:YBVTLCtg0

「ちっ……逃げ足が早ええっ!」

溢れ出る怒りを撒き散らしながらグリードは叫ぶ。
だがそのそばに、守ると宣言した少女の姿は無い。

『あんまり離れるとあの子が危ないゾ?』
「わかってんよ!」

パニックに陥る咲夜に注意を逸らしていた一瞬の隙に、雪輝と由乃は忽然と姿を消していた。
そしてその結果、咲夜の混乱はさらに増して行ったのだ。


「狙われとるんや。どこからもわからずいきなり攻撃される……もう嫌や嫌や……」

半狂乱になりながら手に持った銃をやたらと振り回す咲夜を制止しせめんとその腕を掴む。
だがそれを振りほどきながら咲夜は叫び続ける。
口吐き出され耳に届くのは、最早言葉にはなっておらず、音と表現した方が正しいかもしれない。
咲夜の表情は涙と鼻水にまみれ、とても見れたものではなかった。

(しょうがねえ……)

顔をしかめ右拳を軽く握り締めると――咲夜の鳩尾へ叩き付けられた。
一瞬の呻き声を零しながら咲夜の身体が支えを失ったようにグリードの身体へと倒れこんできた。

『おイおイ』
「気絶させただけだ、このままだとどうしようもねえだろ?」

咲夜の身体を抱き抱え、近くの木の根元へ横たわらせる。
(俺様の部下にしようとしたことをそのまま返してやるよ)
そう考え、手にした降魔杵を握る手がブルブルと震える。

『で……どうすルつもりダ?』
「決まってんだろうがっ! さっさと奴らがどこに逃げたか教えやがれ!」

そんなやり取りが合った。
冷静さを欠いたグリードの態度に彼の意識の中、リンは呆れた様なため息を漏らす。
されど傍若な理由ではありながらも彼の目的に賛同できないと言うわけではない。
殺し合いと言う行動を遂行している輩を黙認できないと言う点では二人の利害は一致していた。
目を離して一分も立ってない。
遠くへ逃げれるはずは無いのだ。

『左手の方角ダ。二つあった気が離れて一つがこっちに近づいてきていル』
「一人でこっちに向かってきているってか? いい度胸してやがる」
『気を抜くなヨ。もう近いゾ』

その刹那。

断続的な銃声が鳴り渡り、グリードの足元の土がはじけ飛んだ。
反射的に下半身を硬化させながら右へ向かって地を蹴る。
硬化が間に合わず交わしきれなかった数発がグリードの右足をかすめ肉片が弾けとび
今まで居た空間を銃弾が通過し真後ろにあった木へと突き刺さっていた。

「ちっ――」

悔しげに漏れ聞こえてきた女の声が苛立ちを募らせる。
先程の由乃とか言う女の声に間違いは無かった。
そして草木を踏む音が小さく消えていく。

素早く体勢を立て直すと、残響のした方角へと向かって地を蹴ろうと立ち上がろうとする――が
普段なら一瞬で治るはずの足の傷がなかなか再生されるそぶりを見せない。

(……うざってえ。悉く奇襲が好きなようだがな……だが逃がさねえ!)

262前スレ>>592- ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:38:08 ID:YBVTLCtg0

『こっちじゃないナ』
「んあぁ?」
『別の二つの気が合流しタ。そしてあの子が置いてきた場所から動いてル……その二つの場所ニ』
「ふっざけんじゃねえぞ!」

じゃあなにか? 
見当違いの奴を追ってたってことか?
……使えるようで使えない能力だぜ。
示されたのはリンの言うとおりに進んでいた方向とは逆方向……つまりは真後ろ。
慌てて180度身体を反転させると再び駆け出す。

「もっと早く言えよそう言う事はよっ!!」
『無茶言うナ、ただでさえ中から神経磨り減らしてやってるんダ。だったら外に出せって話だろうウ?』
「……けっ」

ウダウダ言い争っていてもしょうがねえのはわかっていたが、俺達が黙りこくったのはそんな理由からじゃない。
ここではない彼方から響いたその音は、リンの奴を、そしてこの俺様をも黙らすには大きすぎる音だった。

『良い予感はしないナ……』

いちいち余計なことばかり言いやがる。
だがリンの奴の言うとおりだ。
自分の想像に苛立ちばかりが募る。


そして暗闇の中、微かに浮かんだ人影に目が留まり……。

雪輝ってガキと由乃って女。

そして二人が見下ろすのは――横たわる咲夜の姿。

「てめえらあああああっっ!!」

己が胸の中に湧き上がる衝動に身体が震える。
叫ばなければその勢いに頭の中が弾け飛んでしまいそうなぐらいにゆでって熱い。

(許さねえ許さねえ許さねえ! 貴様ら二人とも絶対殺してやる!!)

「由乃!」
「でも、ユッキー・・・」
「大丈夫、僕を信じて!」

目の前の二人が言うや否や雪輝が一方へと跳ね、一瞬の躊躇を見せながらも由乃もまったくの逆方向へと駆け出した。

『何か狙ってるゾ、気をつけロ』
「ああ? 関係ねえよっっ!」

作戦なんぞ立ててようが知ったことじゃねえ。
追いついてぶっ殺す、ただそれだけだ。
どちらを追うか一瞬だけ迷った。
二人とも姿はもう見えなくなってたが、由乃って女が少しだが出遅れていた。
女の足だしこっちを追うほうが捕まえやすい可能性が高い。
足に力を込め、全力で地を蹴った瞬間、横目でチラリと咲夜を見やる。

『おい待てヨ、あの子をあのままにしていくつもりカ?』
「あいつらぶっ殺したらすぐ戻る!」
『そんな悠長な事言ってる場合じゃないだロ?』
「うるせえ! お前はいいから黙ってあいつらの場所を教えてりゃいいんだよ!」

生きているのか死んでいるのかわからない。
グリードの中にあったのは、どちらにしろそれ以上の苦しみを味あわせてやる、と言う感情。
頭に血が上りすぎているグリードに対する説得をリンは諦めた。
無作為に自分達が争っても身体の主導権を握っているのは結局グリードなのだ。
彼が咲夜を見捨てる気が欠片も無いことだけはわかっているのだから……。

『……勝手にしロ』


☆ ☆ ☆

263前スレ>>597と>>598の間に差し込み  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:40:05 ID:YBVTLCtg0

一向に姿を捕まえることの出来ない標的に、グリードの苛立ちは頂点を突きぬけていた。
降魔杵を振り回し、周囲の森林に八つ当たりをするようになぎ倒しながら進む。

怪我の影響もあるだろう。

だが一番の誤算は由乃と言う少女をグリードもリンも甘く見すぎていたと言う事だ。
先に出会った咲夜という少女と同じようなただの一般人だと思い込んでいた事。
今追っている少女が殺し合いと言う非日常の世界を生き抜いていた事実を甘く見ていた。
雪輝から聞いたこともどこか子供の戦争ごっこみたいなものを想像していた。
自分達のやっている戦いに比べたら……と言う驕りがあった。

そして追いつけない今もそのことに気づくことは出来てはいない。
怪我と言う責任転嫁をする明確な理由が出来てしまっていたのだから。
さらに不運な事に、現状を深く考えることまでも許さない事が二人の前に起こってしまっていたのだ。

『まずいぞグリード……一……二、三……一人と二人組があの子の所に近づいてル』
「んだとっ!?」
『今追っている気があの女なのはおそらく間違いなイ。
 ただ、お前も足を負傷しているし向こうの足も早すぎル。
 あの子から探知できないぐらい離れたらまずいしこのままだとこっちも離される一方ダ』



何もかもが自分の思い通りに進まない現実。
全てのものが自分の支配物を勝手に弄繰り回す屈辱に耐えられず『強欲』は雄叫びを上げる。
全身を駆け巡る屈辱感をふるい落とす様に身体を震わせながら再び方向を変え走り出した。



(くそっ……どいつもこいつもふざけんじゃねえぞ!!)




【D-3/南/1日目 黎明】

【グリード(リン・ヤオ)@鋼の錬金術師】
 [状態]:右足が銃弾による軽症、グリードの意識
 [服装]:
 [装備]:降魔杵@封神演義
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の所有物を守る為、この殺し合いを潰す。神に成り代わる。
  1:咲夜の安否を確かめる
  2:自分の部下(咲夜)を狙った由乃も雪輝も許さない。
  3:病院に向かいたい。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※咲夜を自分の部下だと認識しました。
  ※異世界の存在を認識しました。
  ※感情優先のグリードと人命優先のリンとの間で多少の摩擦が発生しています
  ※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません


☆ ☆ ☆

264 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 21:10:53 ID:YBVTLCtg0
蝉と流の状態表の変更

【蝉@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]: 健康
[服装]:
[装備]:バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:なし
[思考]
基本: 自分の意思に従う。操り人形にはならない。
0:目の前の流と呼ばれた青年に不審感。
1: これが仕事なのか判断がつくまで、とりあえずキリコの依頼を受ける。
2: うしおと一緒に病院を目指す。
3: 襲ってくる相手は撃退する。殺すかどうかは保留。
4: 市長を見つけたらとりあえずそっちを優先で守る…つもり。岩西がいたら…?
[備考]
※ 参戦時期は市長護衛中。鯨の攻撃を受ける前です。
※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。


【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 0:潮にあっさりと会えた事に興奮
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。


潮に関しては前述の通り割愛させていただきました

265セイギニッキ ◆lDtTkFh3nc:2009/07/02(木) 23:40:30 ID:kSdBChBo0
すみません、本スレが規制されたのでこちらに…

投下終了です。マシン番長の状態表を少し弄りました。マズイようでしたら直します。
その他ご指摘、ご意見、ご感想等頂けたら幸いです。

あと、剛力番長の持ち物から支給品一式を消すのを忘れてました。すみません。
前の話で妲己の支給品一式が×5になってたので、もっていかれてるって事ですよね?
だとしたら持ち物はボイスレコーダーのみです。違っていたなら本文もあわせて修正します。

266 ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:39:33 ID:LGCp2ato0
また巻き添え規制……、今年何回目だろう。
蒼月潮、蝉、秋葉流、愛沢咲夜、グリード、エドワード・エルリック、高町亮子、聞仲をこちらに投下させていただくので、どなたか代理していただければ幸いです。
人数が多いのと調子に乗って書いてたらかなり長くなってしまったので、できれば自分で投下したかったんですが……。

267贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:40:58 ID:LGCp2ato0
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

死んでるみたいに生きていたくない。


**********
 
 
ただ、自分の無力さを痛感していた。
 
 
とらと組んでいない自分が、白面の者というあまりにも圧倒的な存在に敵う事などありえないのだと。
獣の槍、ギリョウさんがいなければ、自分など本当にちっぽけな力しか持たないのだと。
二つ――いや、二人がいない自分は、ほんとうにたいせつなたった一人すら助ける事ができないのだと。
今までどれほど、二人の相棒に助けられていたのかと、それを思い知った。

とらは、自分勝手に見限ってしまった。
獣の槍は、自分が憎しみに囚われたが故に砕け散った。


「は、はははははは……」

だから、なのだろう。
少なくとも彼らと路を違える要因となった原因が、実は嘘っぱちだったと、それが分かったのだから。
今の彼にとってはそれこそが真実に思えて、真実に思いたくて仕方なかったのだから。

「あはは、は、は……。なんだよ、とらぁ……。どうして嘘なんかついたんだよ、全く……」

そう、だからこそ蒼月潮は笑うのだ。

「生きてたんだ……。生きてたんだ。生きてくれてたんだ……、流兄ちゃん!
 な、がれ、兄ちゃ……、あ、ああ……」

今まで自分を助けてくれた、大切な人が一人でも生きてくれていた事が、とても嬉しかった。
そしてまた、とらを嫌う理由がなくなったことに安堵して、もはや泣いているのか笑っているのか分からない。

そんなうしおに相対するは、照れたような苦笑で人好きのする顔を綻ばせる青年。

「おいおいひでぇなあ、うしお……。勝手に人を殺すなよ。
 この秋葉流がそう簡単にくたばるかっての」

その心中は、如何ばかりか。
秋葉流は静かに薄笑ったまま、さぞや心配したという口調でうしおに語りかける。

「災難だったな、うしお。……ツレぇよな? ツラくねえはずは、ねえだろ。
 ……あの嬢ちゃんがあんな事になっちまったんだからな」

じぃ、と見つめられ、うしおはびくりと体を震わせる。
たいせつな帰る場所だった、一人の少女の結末を思い出してしまう。

268贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:03 ID:LGCp2ato0
「構えるこたぁねぇ。……お前はよ、泣いて当然なんだ。
 ここに来る前、俺は婢妖に乗っ取られちまっててよ……。
 悪い事しちまった分、オレがそれを受け止めてやるさ」

申し訳なさそうに、悔しそうに眉根を詰める流に、うしおは気丈にも両手を振って気にするなとの意思表示。

「やっぱり……なんだ。え、へへぇ。婢妖に操られていたのか、そうだよな、そうだよなぁ……。
 流兄ちゃんがあんなことする筈、ないもんなァ……」

言葉を言い終える前から、うしおからは堰を切ったように涙がどんどんと零れ落ちてくる。
これまで二回遭遇した、豹変した流の姿は全部嘘っぱちの悪夢だったのだ。
それが、今この瞬間のうしおにとっての真実となる。

「ほら、こっちに来い。……肩ァ貸してやるからよ。
 こんなムサい男ので悪ぃけどな、我慢してくれや」

だって、そうだろう?
こんなにも彼は、こちらを案じてくれているのだから。

「流兄ちゃ……、あ、あ、わぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁ……!」

二度と見られないと思っていた、頼りになる兄貴分のその顔が、言葉が、縋らせてくれるその態度が。
知り合い一人いるかどうかすら分からず、人々の記憶からも、とらからも、獣の槍からも見放され。
――母親からすらも頬を打たれて、大切な幼馴染……それ以上の存在を失ったうしおにとって。
流が生きて今ここにいてくれる事が、ほんとうに心の底から嬉しくて嬉しくて、救いに思えて仕方なかった。
 
 
だから、ぼろぼろと雫を落として駆け寄って――、
 
 
「そこまでにしとけよ。そっちのヤロウも、蒼月もな」


鋭い一声が、感動の抱擁に楔を入れる。
妨げられる。

「……蝉兄ちゃん」

今まさに流の懐に飛び込もうとする体勢で、うしおはぎこちなく声の主へ顔を向ける。
流もうしおを受け止める格好をやめ、ゆっくりと中腰を直立へと移行。
その顔に浮かぶのは、無表情と不快感。

「そいつは誰だ?」

蝉の通り名を持つ殺し屋は憮然と、しかし油断なく淀みなく流を見据え、言い放つ。
その声色には不審と警戒が色濃く漂い、お涙頂戴の雰囲気など雪が溶けるかのように消え失せた。
うしおは一息に緊張したその空気を悟り、慌てつつも名残惜しそうに蝉に相対する。
丁度、流と蝉との中間で。

「話してなかったっけ? 流兄ちゃんって言って、俺の大切な仲間なんだ」

申し訳なさそうな小さな声で放つのは、流にも蝉にも申し訳ないことをしたと思っているから。
流が死んだと思い込んでいたとはいえ、仲間だと伝えなかったのはどちらにも失礼だろう。

「…………」

269贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:27 ID:LGCp2ato0
無言で蝉は流を見定める。
流がうしおにとってどのような存在なのか、蝉にも何となく分かる。
死別した――、そう思い込んでいたのだろう。
それも、何らかの不和の会った形でだ。
だからこそ生存にあれだけ歓喜し、また殺し合いの最中でも信頼を寄せるのだろう。
いや、こんな場だからこそ、だ。

その事がどうしてか蝉には少し妬ましく思え、そう感じる自分に気付かぬ程の嫌気が差す。
だから嫌気を振り払うかのように、少しばかり乱暴に口を開く。

「おい蒼月、知り合いだからってホイホイ引っ付くな。
 油断させてブスリ! かもしれねーぜ。
 ……こんな状況じゃあ、どう考えたって信用できねえよ」

……誰かの操り人形みてえに、何にも考えず殺しに乗った連中もいるに違いねえんだ。
そう続けようとして、蝉はしかし言葉を飲み込んだ。

それは、自分に戒めるべき言葉であるからだ。
少なくとも蒼月はそんな類の人間ではなく、彼に着いていくという依頼をこなすに当たって余計な軋轢を生むのは喜ばしくない。

「でも、流兄ちゃんなんだぜ……?」
「……オレはそいつがどんな人間か知らねーんでな」

無造作に告げると、蝉は音一つ立てずナイフを握り、ゆらりと構えを取る。
怪しげな事をしたのならすぐに処理すると、威圧を込めて眼光迸らせる。

そんな態度に怯えたのを隠したのか、あるいは余裕の表れか。
老若男女、家族単身問う事無く幾十幾百幾千の人を殺め、
数え切れない修羅場を潜ってきた蝉にすらそれを悟らせることなく、流は肩を竦めて一歩引く。

「おいおい、こえーなぁ。んな警戒しなくてもいいだろうよ」

……一瞬。
ほんの一瞬だけ、流れが舌打ちをしたように蝉には見えた。
しかし蛍の光よりなお儚く消えたその光景の真偽を確かめることなどできず、はや残滓も残らない。
その不自然な自然さにますます疑心を育んで、蝉は構えを崩すことをしなかった。

嫌な予感がする、と蝉は歯の根を噛み締める。
嫌な予感がするのに――、不気味な事に、まったく頭の中で警報が鳴ってはいないのだ。
今のところ流の態度を見る限り、疑う要素はゼロなのだから。
それが余計な不安となって、蝉の落ち着きを静かに奪っていく。

「そ、そうだぜ、蝉兄ちゃん……、信じてくれよ。
 大丈夫だって。警戒するのは分かるけど、この人はそんな人じゃねぇんだよ!」

うしおは蝉の態度に気が気でない様子を見せている。
一触即発のその空気が、流に不快さを与えていないか不安、いや、恐怖すら抱いていたのだ。

もし流が、自分たちを敵と見なしてしまったら。
もし流が、自分たちと戦うことになってしまったら。
……その時流は、また豹変してしまうのではないか。

それがうしおは、怖くて怖くてしょうがないのだ。
流の狂気に歪んだ表情ばかりが脳に浮かんで仕方ない。
まるでそれが、確定した未来であるかのように。

270贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:55 ID:LGCp2ato0
だが、当の流と言えば。

「……と、そうだった。すまねえ、うしおにゃ悪いが、こんなことしてる場合じゃねぇんだ」

蝉の殺気に近い威圧すら無視し、彼らしくもない慌てた声を上げる。
自分が疑われる事など瑣事でしかないと言わんばかりに、もっと別の、優先すべき事に注目しろと。

「おいうしお。それに蝉っていったか、そこの兄ちゃん。
 手ェ貸してくれ、オレ一人じゃ手に負えねェかもしれねえんだ」

真剣に誰かを案ずるかの如き声色を向けた先は、うしおでも蝉でもない。

「……う、ぁ。ひでぇ……」

――絶句したうしおの前には、見知らぬ少女が息も絶え絶えと言った様子で転がっている。
腕を失い、意識すらも定かでないその少女にうしおは駆け寄り、自分の身内であるかのように泣きそうな顔をした。
おそらく聞こえてなどいないだろうにもかかわらず、だからこそ死の縁から呼び戻すかのように必死になって。

「おい、大丈夫かよ! 死んだらダメだ、絶対死んだらダメなんだぞ!
 もう、誰一人死んだらダメなんだよぉ……ッ!」

そんなうしおに苦笑をこらえ、蝉は視線を流から外して俯き思う。

(嫌な予感は、コレか?)

成程、確かに厄介事だ。
自分たちの目的地が都合よく病院とはいえ、うしおの性格を考えればこれからどうなるかは非常に分かりやすい。
そんな面倒ごとを抱え込むのは、依頼にしてもご勘弁願いたいのだけれども。

ただ、もう一つの懸念は消えていない。
流が危険人物であるという目が出る可能性もある。
だから蝉は、見知らぬ少女を見つめながら鋭く問うた。

「……テメエが殺ったんじゃねえだろうな」

「オレが殺ったんだったらこんなとこでグズグズしてねえって。
 それよりまだこのコは生きてんだ、滅多なこと言うんじゃねえよ」

静かに流に諭され、言葉を失う。

確かにその通りであり、言い返せる台詞はない。
疑念が渦巻き、思考と身体の両方が停止する。

流を信じていいのか、疑うべきなのか。

しばらくの間同道するはずのうしおは、明らか過ぎる信頼を寄せている。
そして、自分にこの男を信じるよう懇願してもいる。
当のこの男も先ほどからうしおと見知らぬ少女を気遣ってばかりで、嘘をついている素振りをはっきりとは見せてくれない。

対し、疑う理由は自分の予感……、直観という不確かな代物だけだ。

(……蒼月のガキの言いなりになってもいいのか? オレは人形じゃねえのによ)

271贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:43:18 ID:LGCp2ato0
……人形であることと、自分の意思で頼まれごとをこなすことは、全く違うのを蝉は知っている。
この場合は果てさて、どっちなのか。
答えを出したくとも――、どうやら依頼の護衛対象は、そんな時間を与えてくれないようだ。

「せ、蝉兄ちゃん! はやくこのコを病院に連れてかねぇと!」

やれやれ、と深く深く溜息を吐いて、それでも蝉は確かに頷いた。

「……分かったよ、しゃーねえな」

それを見届けるなり、うしおは焦って病院に向かおうと立ち上がる。
いまはグダグダしているよりも、一人でも多くの命を救いたいからと、そんな想いを心に刻んで。

握り拳を作るうしおは、しかし歩みを止めざるを得ない。

「おいおいお前ら、勝手に話を進めるなっての。誰が病院なんかに行くって言ったよ」

……そんな、予想すらしていなかった静止の声があがったからだ。

「流兄ちゃん……? な、なにを言ってるんだよ! こんな傷、病院でしか手当できねえよ!」

戸惑いと困惑。
その2つの単語を表情にありありと滲ませながらうしおは踵を返して訴える。
流のことを信じたくてしょうがないから、人を救わない選択肢を告げる彼の言葉を打ち消すために。

そんなうしおに、流は落ち着けというゼスチャーをして苦笑した。
そして目と目を合わせ、告げるのだ。

「うしお、よぅく考えろ。……怪我をしたら病院に行くなんて選択肢はな、誰だって考え付く。
 そんな場所、殺人鬼にとっちゃ格好の餌場じゃねえかよ。
 ……薬だって、全部毒に入れ替えられてるかもしれねえ。
 包帯やガーゼだって、とっくに誰かが持ってっちまってるかもしれねえ。
 だったら行っても危険なだけだ」

「あ……」

……もう少し事態を把握しろと言わんばかりに、冷静で理に適った意見。
それはまさしく、うしおのよく知るキレ者で頼りになる流の姿だった。

蝉もそうだと頷かざるを得ない。
これまでの流の言動はすべて正しくて、信用はできなくても信頼はできるかもしれない。
そんな風に思えるのは、確かなのだ。

272贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:03 ID:LGCp2ato0
ならば、これで見極めよう。
秋葉流という人物が信ずるのに足りるのか、いつまでもグダグダ考えていても仕方ない。
ナイフを下ろして、しかし手から外すことはしないまま、一つのことを問う。

真正面から向き合って、どんな形でも対決するのだ。

「じゃあどーするってんだよ。何かアイデアでもあんのか?
 どっちみちオレと蒼月は病院で人探しする予定なんだぜ」

具体的な解決策を。
そして、自分と蒼月の当初の予定は、どうするのかと。
それに具体的な解答を示せるなら、ひとまず協力的だと見ていいだろう。

「……ああ。ひとつオレに考えがある」

どうすれば少女を助けられるのかと苦悩するうしおを安堵させるかのように、ぽんぽん、と肩を叩く。

「そ、そっか。良かった……」

溜め込んでいたものが開放されたからか、うしおの体から力が抜けて頬が緩む。
よかった、と小さく呟いて、流がいる事に感謝をして、とびっきりの信頼を込めてうしおが秋葉流に笑いかける。

「それで流兄ちゃん……、どうするつもりなんだ?」
 
対する流も、極上の笑みを浮かべて優しく優しくこう語るのだ。
 
 

  
「お前らもこのガキもブチ殺して首輪を奪うんだよ」
 
 
 
 
**********
 
 
 
僅かに、3秒ほどで全ては決着した。
 
 
 
**********

273贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:30 ID:LGCp2ato0
蝉は刹那の間に辺り一帯を飽和させるほど膨れ上がった殺意に、ぞく、と骨の髄まで寒気を覚える。

思考が停止し、視界が真っ白に染まる。

息が詰まるような圧倒的暴力の予兆は、動物の本能に訴えかけて意識の全てを平伏させる。

ヒトがヒトである限り、本質的に逆らえない生まれつきの才能と言う名の絶望の壁。

狂気を糧に限界知らずに練り高められた秋葉流という個の強大さに、蝉の意識は完全に飲み込まれていた。



だが、培った技と業は意識など歯牙にもかけず完璧に仕事をこなす事を蝉に許す。

流が何かをしようと動くのを視界の端に捉えた。

させない、と、一息すらつかず紫電の疾さで踏み込む。

うしおが何か叫んだような気もするが、聞こえない。

むしろ、目の前にいられては邪魔だから、突き飛ばした。

力なくうしおが数歩下がり、座り込む光景すら今の蝉には見えはしない。

躊躇いも迷いも葛藤もなく、糸に操られるかのように。

蝉は、殺し屋としての仕事を全うする。

機械の正確さで氷より冷たく雪より真白く突き出される白刃は、風を切りながら何一つとて障害物に邪魔されることはない。

ただただ、ヒトをコロスものとして秋葉流の全存在を消滅させる。

その為だけに、今の蝉のすべては在る。

そして、ヒトゴロシはその意義を十全に発揮した。

すとんと服と肌を抉じ開け、肉に金属が埋まっていく。

ずぶりずぶりと、胸の中へ中へ。

鏡として使えるほどに研ぎ澄まされた刃の表面が、血の赤と肉のピンクと脂肪の黄色に染まっていく。


そして――――、


とうとう胸の奥の奥の奥を突き破り、背の側からナイフの先っちょがぴょこんと生えてくる。
 
 
愛沢咲夜という銘柄の、肉の盾の胸から。
 
秋葉流が首根っこを掴んで持ち上げた、肉の盾の胸から。

274贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:54 ID:LGCp2ato0
「――――!」

なにか、妙な家畜の鳴き声のような音が聞こえた。
 
だが、そんな物に構っている暇はない。

今は一刻も早くナイフを引き抜いて、こんどこそ秋葉流の息の根を断たねば。

撃滅せよ! 撃滅せよ! 撃滅せよ!

自分の意思で彼奴のイノチを奪い、自分たちを騙し、弄び、嘲笑った男に自分は玩具ではないと知らしめねばならない。

自分は自由だ、玩具でも人形でもない!

コンマより短い単位の時間でナイフを引き抜き、そのまま追撃せんと僅かに切っ先を引いた所で、ようやく気付く。


ああ、まだ響き続ける家畜の鳴き声は自分の口から漏れていて。

引き抜いたと思ったナイフは肉に突き刺さったままで、自分の手からすっぽ抜けただけなのだ、と。

夜明けは近い。

いつの間にか仰いでいた空は白み始めていて。

幾十重にもブレる鞭のような影が、せっかくの光景を台無しにしていた。

そして蝉は一つのことを悟る。
 
 
やべ

内臓割れた
 
 
蝉にとってその感触は、あまりにも現実味が感じられなかった。

275贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:45:23 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
うしおはただ呆然としたまま、すべてを見ていることしかできなかった。
否、見ていることしか許されなかった。

……誰に?

当然、決まっている。
秋葉流に――だ。

かたかた、かたかたと、肩を震わせて、泣きそうな半笑いで呟く。

「な、なが……れ、兄、ちゃん?」

「おう」

肉の盾を無造作にぶら下げ、手にした鞭をしまいながら流はへらへらと頷いた。
これは確かに現実なのだと教えるために、何度も何度も。

「え? あ……、せみ、兄ちゃん、は? ……その子は?」

――ようやく、当の蝉が地面にぶつかって転がる音が、うしおの背後から響いてくる。
おむすびころりん、すっとんとん。
幻覚と割り切るにはあまりにも生々しい音だった。

「死ぬぜ、どっちも。オレが殺すんだけどな」
 
呟くようにあっさりと口にすると、流はいきなり口元を吊り上げ、肩を竦める。
僅かに目線を上げ、何もない虚空を見つめ――笑った。

笑った。笑った。笑った。

大きな声で、笑った。

「あァひゃははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははは、」

276贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:45:50 ID:LGCp2ato0
「……ぅ、あ」

「ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははァッ」

ぞくり、と体を震わせる。
耳に届くのは、狂った哄笑だけ。
目に見えるのは、薄明かりの中の歪みきった兄貴分の笑顔だけ。
縋り付いて泣き出したくなるほどに頼もしいはずのその声が、どうしてか一秒たりとも聞いていたくない。
じわじわと、じわじわと、静かにうしおの精神を削り磨耗させていく。

「……どう、して」

つう、と、堪えきれなくなった涙が目の端から流れ、
しかしそれでも、流を信じていると言わんばかりに笑いだけはどうにか形骸を残したまま。
うしおは、恥も外聞もなく懇願した。取り乱した。

「どうして、どうしてだよ、どうしてなんだよ流兄ちゃん!
 いつだってかっくいーバイクに乗って、オレたちを助けてくれたじゃんかよう!
 悪ふざけはやめてくれよォ、婢妖に操られてたんだろ!?
 やめろよ、やめろよ、やめてくれよぅ!
 もう、嫌なんだ! 誰かが死ぬのは御免なんだよォ!」

不気味なまでにぴたりと、哂い声が止んだ。
流はスイッチを切り替えたように無表情になり、うしおを見つめる。

まるで自分を取り戻したかのように目を見開き、うしおの後ろにいるはずの蝉の方へ視線を動かす。
そして、信じられないと、何てことをしてしまったのだと、申し訳なさそうな顔を形作りつつもう一度うしおと目と目を合わせる。

「……オレが、婢妖に操られて……?」

その表情にうしおは、まだ婢妖が取り付いたままなのかもしれない、と、蜘蛛の糸のような希望を見つけ出し――、
 
 
 
「嘘に決まってんだろォォォがよぉぉぉぉ、馬ァぁァァぁぁァァァ鹿!」
 
 
そしてまた、にィぃィィィいィ、と狂気に染まる流の表情に、積み木よりも脆く春の雪より早く一切合切を壊された。


「ああああぁあぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、
 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だぁぁぁぁぁぁ! 流兄ちゃんは嘘をついてるんだよぉぉおぉ!」

277贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:46:20 ID:LGCp2ato0
ああ、そうだ。
今もずっと、認めることが出来ていないのだ。
流が裏切ったのは何かの間違いだ、と、愚直なまでにうしおは流の事を信じ続けているのだ。
このどこまでもまっすぐな少年は、最後まで流の心と向き合う事はなかったのだから。
――秋葉流と相対したのは、彼の相棒である化け物だけだったのだから。

うしおが知っているのは、二度の邂逅だけ。
流が自分たちを裏切ったと告げた、HAMMRに向かう時の奇襲。
そして、とらが流を殺したと『嘘をついた』、“仙嶽”でのやり取り。

そのどちらともが僅かな応対を交わしたに過ぎず、うしおはただひたすらに流が裏切るはずはないと喚いていただけだった。

「だぁからそう言ってんだろ? 相変わらずあったま悪ィよなァ、本ッ当に救えねぇ救えねェようしおぉぉぉ。
 あの時オレはご丁寧に説明してあげたよなあ、秋葉流は白面の側についたってよ!」

ああ、と、うしおはつくづく思い知る。
 
とらは、こんな理不尽をオレに浴びせたくなかったのかもなあ、と。
似合わねえけど、庇ってくれたのかもしんねぇなあ、と。

最高の相棒に絶縁を言い渡したことを、これほどに悔やむことになるとは予想もしなかった。

悪意の泥沼の中で希望を見出して寄りかかった柱こそが、実は腐りきって蛆の涌く汚物の集積だったと知ったとき。
人の心は、真実ぽっかりと穴を開ける。

まだ中学生であるにもかかわらず、うしおはそんな悲しい現実を刻み込まれてしまった。
がくりと膝をつき、生気の抜けた表情で、流に雨中の子犬の表情を向けるだけのモノに成り果てた。
哀れささえ感じる程に顔をくしゃくしゃに歪めさせて、だけど、この表情は確かにまだどこかで流を信じているもので。

「……お願いだよ、流兄ちゃん。やめてくれよぉ……」


そんな少年の無残な有様を見て、流は実に気分がいい。この上ない悦に浸る。絶頂すら感じそうになる。

これだ。これが、見たかったのだ。
すごく、いい。

同時に、まだどこかで自分を信じているうしおのその態度に、妬ましさと悔しさと腹立たしさが湧き上がってくるのを止められない。
それはどうしようもなく卑劣で外道で人でなしな行動に走らせる衝動となって、流を突き動かす原動力となる。

「そうそう、救えねェと言えばよぉ……」

だからそんな想いをまるで見せる事無く、さも平然としているような態度で、腕にぶら下げたソレを無造作に突き出した。

「このガキ、どうしたいよ?」

右胸からナイフの柄を生やして、ゲロと血を吐いて白眼を剥く少女がだらりと四肢、もとい三肢を垂れ下がらせ、それでも生きている。
まだ、生きてしまっている。

――だから、まだ生きているから、うしおはそれを失いたくなくて何一つ為す事が出来ない。

「な、流兄ちゃん……なにを、」

278贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:47:09 ID:LGCp2ato0
うしおはようやくその事に気付いて、涙目で声に鳴らない声を洩らすだけ。
まるで赤ん坊のように、今のうしおはあまりに無力だった。

とらもおらず、獣の槍もなく、母には打たれ、幼馴染は死に、蝉は虫の息で、流に奈落に突き落とされた。
それでも救える命を救いたいと心の底から思う、思ってしまう真っ直ぐな存在こそが、うしおなのだ。

ただ、キリコと名乗った医者の言葉が、何度も何度も脳内で木霊して止むことがない。

本当に、死なせない事が正しいのだろうか?
あんな有様で、生きている方が辛くてしょうがないんじゃないか?
キリコとの邂逅が、最悪の形となってうしおを拘束する鎖となっている。

くるくると、幾十の苦悩の感情が渦巻くうしおは、それを素直に表情に出してしまっている。

「いい事を教えてやるぜ、俺が首輪を集めてる理由をよォ。
 伝えたきゃ他の奴にも伝えていいんだぜ?
 まあ、お前がこの場を生き延びられたら、つまりはこのオレをブチ殺すことが出来たらの話だがなァ」

うしおが流を殺して生き延びる、と、そんな言動にうしおは自分を抱きしめた。
次いで、哀れなうしおを眺めてニタニタと、実に上機嫌に流は伝言ゲームを始めるのだ。

「この殺し合いな、白面のヤロウが裏で手を引いてるのよ」

「……え、」

もちろん嘘っぱちだ。口から出任せ、うしおにある一線を越えさせるための方便でしかない。
少なくとも流は、白面がこの殺し合いに一枚噛んでいるなんて事実は全く記憶にない。
もしかしたら嘘から出た真という可能性もあるが、そんな可能性は知ったことじゃあない。

……だが、効果は覿面だ。

「……また、白面かよォ。なんで……、なんで、皆奪っていくんだよ。
 ちくしょォ、ちくしょォ、ちくしょオちくしょオちくしょオちくしょオぉぉぉ!!」

泣き笑いが歪み、憤怒と激昂と苦渋に彩られる。
それらを統べるのは、いーい具合に熟成された憎悪。
深く理由を考えることもなく、純粋であるが故にうしおはただただ怒りを爆発させる。

そんな、だん、だんと膝をついたまま地面を握り拳で何度も叩くうしおを上から見下ろして、流は淡々と虚言を弄す。

「……でな? この首輪を集めた数だけよ、白面が功績として扱ってくれるのよ。
 生き延びる保障もくれるし、願いだって叶えてくれるかもしれねえ。
 だったらよぉ、やる事は一つしかねぇだろ?」

ああ、そんな理由で酷いことをするのかと、うしおは理解する。
理解しても納得は出来なくて、いろいろな感情でごちゃごちゃになって、もう何をすればいいのか分からなかった。

「まあそういう訳で首輪を集めてるんだがよ、オレ一人じゃ効率が悪ィだろ?
 だからうしお、つるんだよしみで手伝ってくれや」

うしおが地面を向いたまま、耳を塞いで叫びを上げる。

「聞きたくねえ、聞きたくねえよ! 流兄ちゃんの顔でそんな事言うんじゃねえよこの婢妖野郎!
 そうだ、婢妖だ、婢妖なんだよぉ! お前は流兄ちゃんじゃなくて取り付いた婢妖なんだぁぁぁぁ!」

279贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:47:40 ID:LGCp2ato0
うしおが現実逃避をし始めた。
そろそろ、まともに流の言動を聞かなくなる。

次だ。
次の言葉で、うしおにさせたいことを言葉の暴力で叩きつけてやる。
 
 
「そこの男を殺せ。テメエがその手でよぉ、うしお。
 そしたらこのガキだけは助けてやる」
 
 
その台詞を聞いたときのうしおの百面相ったら、もう!
筆舌に尽くしがたい芸術品で、文章に書き起こすのは筆者程度の力量では全く以って不可能だ。
 

「それか、このガキを殺すかだな。
 好きな方にしろよ。どっちを生かすのか選ぶのはお前さんだぜ?」
 
もちろんこれも、嘘。
うしおが実際に少女か男かどちらかを殺そうが、あるいはどちらも殺すまいが、結局残ってれば自分が殺す。
もちろん、うしおの目の前で、だ。

「……まあ、どっちも長く保たねえしなあ、それが優しさってモンだろ?」

ぼそりとうしおに聞こえない小ささで呟いて、クックと含み笑う。

ただ、出来ることならうしおに手を汚して欲しいと、そう願って止まない。
そして、うしおが人を手にかけたその時に、全部全部嘘だと告げたのなら、彼はどんな表情をするのだろう。
ああ、それが楽しみで楽しみで、ゾクゾクワクワクしてしょうがない。
だからその為に、秋葉流は全力を以ってうしおの殺人を支援するのだ。
うしおのいちばんたいせつだったモノを踏み躙って、トラウマをほじくり出して塩水にさらすのだ。

「なぁーあ、うしおー。いーのかよ? 許せんのかよ? 
 このお前らと同じくれーのガキが、テメエの大事な大事な中村麻子みてえによぉ、
 惨めに! 何の意味もなく! 何一つ残さず!
 生きてるときゃどんな姿だったのかすら分からねーくらいに、肉もミソもハラワタもぐっちゃぐっちゃになっちまってもよぉぉぉ!」

そう言うと、ぶるん、と手に持った肉の盾を振り回した。

「あ……!」

衝撃で肉の盾が、ゆっくりと目を開けていく。
が、は、と、溜まっていた血を吐いて、次の瞬間肉の盾は絶叫した。

「あ゛ァぁぁがぁががっががががががが、ぎぎぎがぁぁぁぁ、い゛だだだだああああぁぁぁぁい゛ぃぃぃぃい゛ぃ!
 どぼじ、どぼじでぇっぇ、う゛ぢ、な゛んでごんな゛め゛に゛あ゛っでる゛んや゛ぁぁぁぁ、い゛だい゛、い゛だい゛よ゛ぉぉぉぉぉ、
 な゛ぎ、じゃっぎんじづじ、い゛ずみ゛ざん、ま゛ぎだ、ぐに゛え゛だ、だれ゛でも゛い゛い、゛だずげでぇぇぇぇぇ……」

涙と鼻水と血と吐瀉物とでぐちゃぐちゃになりながら、少女は喚くことしかできない。
腕は半ば消し飛んで血が止まらず、右胸にナイフを突き立てたまま。

「心配すんな嬢ちゃん、右の肺が潰れても左が残ってりゃ息はできるさ。
 死ぬかもしれねえけどそこはご愛嬌だな」

280贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:48:03 ID:LGCp2ato0
暴れることすら出来ない少女をぶら下げるのは気楽な仕事なのか、流は平然と飄々と取り合わない。
ああ、つまりこの子を救えるのは自分だけなのだ、と、うしおはその事を思い知らされる。
だが、それでも。

「殺すなんて、……できねえ。できねえよ……。
 なんで、そんな事しなきゃあならねぇんだよぉ」

現実逃避すら、許されることはなかった。
どう足掻いてもこの少女が目の前にいる限り、流と相対することを選ばなくてはならない。
そして、そんな目に遭ってまで少女を救えないのが悔しくて惨めで腹立たしくて――、
もう、うしおの精神は限界寸前だった。

だから、仕上げとばかりに流は追い討ちをかけるのだ。

「ほらほらほらほらァ、あと3秒数える間に殺らなきゃどっちもお前の目の前で殺すぜ。
 二人殺して自分も殺されるか! 一人殺して自分ともう一人が生き延びるか!
 うしお、選ぶんだよォぉおおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!
 さァぁぁああぁぁぁぁあんんんんン!
 にィぃぃいいいぃぃいぃいいいぃィ!
 いィぃいいいいぃいぃぃちぃぃぃィ、」


考える時間を一切与えない、3秒カウント。
それが、止めだった。
  
とうとう、ぽき、と心の折れる音が、確かに響く。
 
 
「麻子……、あさこ……。麻、子ぉ……っ。
 もう、嫌だ……。
 死んで欲しく、ねぇよ……」


――――木のうろの様に、何一つ、詰まってない。
ぽっかと空ろな表情で、幽鬼じみた挙動で、ようやくうしおがゆらりと立ち上がる。
手にはしっかと槍を携えて。

スーパーの生鮮市場の魚の目で、死体になりかけている蝉を、じぃ……と眺めた。
ああ、そうだ。
キリコも言っていたではないか。
楽にしてやるのも、一つの幸せなのだ、と。

頼りないおぼろげな足取りで、音一つ立てずに蝉に近寄り、見下ろす。
ぎゅう、と、槍を握り締めるのが流の瞳にはっきり映り込んだ。

ケタケタケタケタ、ゲテゲテゲテゲテ。

流の狂った嗤い声が、漣のように木の葉擦れのように、処刑のBGMとしてよく馴染む。

281贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:48:31 ID:LGCp2ato0
「そうだよ、それでいいのさうしおぉぉぉぉ……。
 テメエもよ、獣の槍で散ッッッッ々! ぶっ殺してきたんだろうが!
 いくら取り繕おうが、いくらイズナとか鎌鼬の兄妹に懐かれようが!
 てめーが連中の仲間を喜び勇んで殺してきたことにゃ変わりねえのさ。
 だったら別に人間一匹殺そうが大した違いなんてねえよ。
 なあうしお、認めちまえよ。
 てめーもオレも、所詮は人殺しの同類なんだよ、なあ!」
 
 
ああ、それこそが本心だったのかもしれない。
うしおも自分と同じで、どこまでもまっすぐ突き進める訳じゃあないと、それをうしお自身に認めさせたかったのかもしれない。
たったそれだけの光景を、見てみたかったのかもしれない。
  
そして流の思惑通り、ゆらりとうしおが槍を振り上げた。
幽かな朝の月の光が刃に反射する。


――そして。


「できねえ……っ! できねえよぉ! 蝉兄ちゃんを殺すなんて、できねえに決まってるだろ!
 その子だって、流兄ちゃんだって、知らない人だって!
 人殺しなんか、できるはずねえよぉ……」

からん。

槍を取り落とす音がする。
うしおはそれでも、人を殺すことを認めなかった。

どれだけ痛めつけようとも、こころを刻まれても、水面のように透き通っていて、太陽のように輝いていた。
それが、蒼月潮だった。

興が冷めた。
急速に失望感が漂ってくる。


もういい、さっさと全員殺す。
皆殺す。
  
鏖す。
  
そう決めた。

目を瞑りながらゆっくりゆっくり息を吐いて、丹田に力を入れる。

そして、あらためて目を見開いてみれば――――、
 

見知らぬ少女が二人の男を従えて、怒鳴っている光景が見えた。
 
  
「……ッなに、殺し合いなんか乗ってんだよあんたらぁ……っ!」

羽蟲を見る目で、流は闖入者たちをぼう、と眺めていた。

282原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:08 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

隙間を探せ。
 
 
**********
 
 
高町亮子、聞仲、エドワード・エルリックの3人は花狐貂から下りた後、人目につかない森の中でしばらく待機をすることにした。
花狐貂に乗り続けてどこか遠くまで向かう、と言う選択肢もあり、エドが興奮してそれをプッシュしたものの結論は却下。
こんな目立つものに乗っていては対空砲火のいい的だし、聞仲の体力もどれほど保つか制限下では不明確。
何より当のエドワード本人の疲労を鑑みて、少しは落ち着く必要がありそうだったからだ。

亮子と聞仲の交代制で見張りながら、エドワードの回復を待つ。
当初は完全に回復するまで動くつもりもなく、しかし場合によってはすぐ動けるよう体制を整える。
もちろんその間に簡単な情報交換も終わらせていた。

三者三様の世界の在り方に困惑し、頭を悩ませ、時には脳をショートさせながらも、
とりあえず自分たちの知らない不思議パワーのある世界と言うことで納得した。することにした。
特に亮子には訳の分からない事ばかりだったものの、エドの錬金術や聞仲の宝貝という能力が実在することははや疑えないのだから。

だから、重視するのは今のところはそれ以外。
人間関係や技術的要素。地理的知識といった物だった。
特に聞仲の言動は、“神”の手の一人である申公豹に関することもあり、一句一字足りとて聞き逃すことは出来はしない。

そして、2時間弱といった所か。

疲労回復とまではいかないものの、エドワードも戦闘に協力できる程度――流石に矢面に立てるほどではないが――には回復した頃。
周囲の警戒をするために斥候を行うことにして、その最初の偵察でのことだった。

大怪我を負った少女を亮子は遠目に見つけたのだ。
いや、それだけではない。
そのすぐ傍で、見知らぬ男二人と一人の少年が何か言葉を交わしていた。

声は届かず、様子を伺ってから協力できるなら歩み出よう、と、そう思ったのだが――、
応酬の最中、男の一人が突然ナイフでもう一人の男に襲い掛かった。

しかし、瞬きするほどの間に全ては決着していた。
ナイフの男の攻撃は、もう一人の男に届かない。
なんともう一人の男は、死に掛けの少女を身代わりにした。
そして彼はナイフの男に鞭の様な何かを叩きつけ――、それで終わりだった。

亮子には、どうしてそうなったのかは分からない。
ただ、どっちの男も危険だと思えて仕方なかった。
機先を制して奇襲を仕掛けた男も、平気で女の子を盾にする男も、傍から見てればどっちもヤバい。

だから気付かれないうちすぐにそこを離脱して、聞仲とエドと、より人目につかない場所へ向かう心積もりだったのだ。
……最初だけは。

283原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:31 ID:LGCp2ato0
一瞬の戦場から離れれば離れるほど、盾になった女の子と、そして呆然とした男の子の表情がチラついて仕方ない。
そして一度気になり始めたらもう、我慢できなかった。
高町亮子のブレード・チルドレンとしての異端さにして信念が、彼らを放っておくことを許さなかった。
だから聞仲たちと合流するとすぐ、彼らに加勢に行く旨を告げて彼らを強引に引っ張り出す。

意外な事に、聞仲はあっさりと乗ってくれた。
どうしてか元々覇気がなくて虚無感すら漂わせている彼のこと、ただ漠然と亮子の勢いにつられたのかもと彼女自身も考え、
その不安定さ故の賛同なら別についてこなくともよい、と告げたのだが。
実の所、彼には彼なりに亮子の話に興味を示す所があったらしい。

それは、迎撃した男の使った鞭について、だった。

その鞭は聞仲の思う通りのものならば、本来は彼の使うべき道具らしい。
……名を、禁鞭。

彼はその武器の特性と威力を、余す所なく亮子たちに語って聞かせた。
そんな重要な、戦力を丸裸にするような――、
軍事機密にも匹敵するようなことを話してしまっていいのかと問えば、彼は苦笑してこう答える。

もはや自分に戦力を口外してはならない理由などないのだ、と。
その言葉の奥に踏み込むことは、亮子にもエドワードにも出来はしなかった。
少なくとも、今の彼らには。

……そして、たとえ武器の能力が知られていようとそうでなかろうと、禁鞭という武器の前には大差ない、と、そうも告げられた。
シンプルで強大なその力は、分かっていてもどうしようもないほどに圧倒的なのだ、と。

だがそれ以上に不気味なのは、件の男が禁鞭を使えるというその事実だった。
その事実が皮膚のすぐ上でぶよぶよと蠢くような、そんな不快感を伴って皆に圧し掛かる。

何故ならば、禁鞭とはあまりにも強力で気位が高い宝貝が故に、生半な力量では扱うどころか持っただけで衰弱死するような代物なのだから。
封神フィールドを張り続けた状態とはいえ、崑崙の主たる元始天尊ですらそれは変わらない。

「もし支給品として与えられただけにもかかわらず、そこまで禁鞭を使えているのならば。
 ……その男は、間違いなく天才だ。
 たとえ制限がかけられたとしても、主足るに見合う才がなければあの禁鞭が認めるはずはない。
 ――警戒して損はないな」

ごく、と、聞仲の言葉に誰ともなく唾を飲み込んだ。


ちなみに、エドワードは文句を言いながらも何だかんだで積極的に彼らに関わる意志を見せている。
良くも悪くも、根っこの所ではお人好しなのだろう。
何となく自分と通じる所があるような気がして、亮子は少しばかり気が安らいだ。
そういえば、病院に彼が訪れたのも自分に警告をするためだった。
少なくともこういう人間が自分以外にいると分かっただけで、希望のようなものが幽かながら浮かんでいる気になれる。

「……なあ、あたし達仲間だよな?」

「この殺し合いぶっ潰す心意気が本物ならな」

ぶっきらぼうなエドの物言いに苦笑するも、それが今は頼もしい。

そして先ほどの死地に飛び込み、場を支配するために咆哮をあげる。

284原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:50 ID:LGCp2ato0
「……ッなに、殺し合いなんか乗ってんだよあんたらぁ……っ!」
 
 
―――― 一喝。
 
 
さて、次に来るのは何か。
左右の二人のどちらが殺し合いに乗っているのか、はたまた二人ともがそうなのか。
どちらにせよ攻撃が来るのを覚悟し、三者三様に身構える。
亮子はパニッシャーを盾のように構え、エドは即座に土壁を作れるよう両手を合わせ、聞仲は花狐貂を繰り出さんと。


されどそれは、無為と化す。

「わああ待った待った、誤解だ誤解!」

人の良さそうな飄々とした立ち振る舞いの男が、いかにも困ったと言わんばかりに慌ててみせていたのだから。


「……は?」

訝しげな顔をみせて観察すれど、男の風体からは何一つ読み取れない。
特に、腕の中の少女がそのあやふやな印象を際立たせている。
誰が見ても分かる大怪我を負っており、自分で動くことなど出来そうもない。
人質にも思えるが、助けるために抱えているようにも見えるのだ。

「あたしは高町亮子。こっちはエドワードと聞仲。……あんたは?」

構えた武器を下ろすことも出来ず、さりとてこちらから仕掛けることも出来ず。
一見敵意はないように思えるが、どうしたものかと思案にくれる余裕もない。
気を抜いたら奇襲されるかもしれない状態ではとにかく主導権を握って会話をし続ける必要がある。
だから、とりあえず名乗るのだ。
もしこの男が本当に殺し合うつもりがないのなら、余計な事で関係をこじらせたくなどないのだから。
そしてこの男が殺しあうつもりなら、人質であろう少女の身が危ないのだから。

「オレか? オレは……秋葉流っつってよ、そこの蒼月潮の、まあ、保護者っつーか、時々面倒見てるような感じだな」

流、と名乗った男は遊びに誘うかのような気楽さで膝をついたままの少年に振り向き、なあ? と確認を促した。
それはまさしくよく知った間柄でしかない所作であり、嘘を吐いている印象は全く感じられない。

「え? あ、う、うん……。間違っちゃいねぇけど、よぉ……」

うしおと呼ばれた少年は、僅かに沈黙したあと力なさげに、何かを堪えるようにそう答える。
その目線は、流という男と、もう一人――、
やはり瀕死で転がっている青年の間を交互に行き来して、そして縋るような瞳で亮子たちへと顔を向けた。

その様子から、何となく事情を亮子は察する。
確かに嘘はついておらず、保護者のような存在ではあるはずだ。
うしおの肯定の言葉からも、流という男を信じたくてしょうがない、そんな願いが感じられる。
だが、転がっている男をその様な状態にしたのも、間違いなくこの男だ。

「あんた……っ」

285原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:11 ID:LGCp2ato0
ぎり、と歯の根を噛み合わせて詰め寄れば、少女を抱きかかえる様にして後ずさる。
その様は確かに善良な兄貴分そのもので、

「だ、だから言ってるだろ。誤解だよ誤解。
 殺し合いなんざ乗ってねえって、確かにそこの男を返り討ちにはしちまったけどさ」

本気なのか、嘘なのか。
泥水を入れた風呂の底が覗けないように、何一つ見通すことは能わなかった。

ぼりぼりと頭を掻きながら、参ったとばかりに流は嘆息する。

「そこの男がな、企んでたんだよ。
 集団に入り込んで、隙を見せたら一網打尽――ってシナリオをな」

「……そ、んな。ほんと、なのか? 蝉兄ちゃんが……?」

力ない声で、認めたくなくて、だけども流の言葉を信じたくて。
そんな矛盾した想いがうしおの口から漏れ出てくる。

そんなうしおの方に向き直り、流はすまないとばかりに頭を下げる。
戻した頭には、申し訳なさと少しばかりの悔しさを絶妙に入り混じらせた表情が匠の業で彩られていた。

「うしお、俺があんなことするわきゃねえだろ?
 ……お前ならいくら騙されててもぜってえその男を庇うだろうからな、俺が悪役になるしかなかったのさ。
 まあ、確かにちょっとノリノリになっちまって酷い事言っちまったけどよ」

――そこで、はじめて少しだけ頬を綻ばせる。
この仕草と表情が計算と演出によるものなら、流は役者としても充分やっていけるだろう。

「俺は悲しいぜ、演技だって見破ってくれなくてよ。
 ……自分の体を見てみてくれよ。証拠にお前には怪我一つ負わせちゃいねえじゃねえか」

「あ……」

はっとして、思わずうしおは体を抱きしめる。
だけど一度折れた心は流を疑ってしまい、うしおにはそれが物凄い哀しかった。
流を信じたくとも信じきれず、信じたところでそれは蝉を疑うことになる。

苦しくてこころが痛くてしょうがないけど、それでも流が許してくれるのなら、それはまさしく感動の場面。
真相が明らかになり、悪役を買って出たそのいじましい想いも報われ一件落着、めでたしめでたし。

それをコンプリートする為に流が口を開こうとした、その瞬間。

「百歩譲ってそれが本当だとしてもだ。
 何故、お前にそこの男が計略を企てていると分かった?」


ぴくり、と、流がその動きの全てを止める。

言葉の主は、聞仲。
かつて、殷の太師と呼ばれた男だった。

286原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:38 ID:LGCp2ato0
沈黙。

沈黙。

沈黙を三度重ね、ごう、と風が吹き抜けた。
木の葉が擦れる音が空気を満たし、重く苦しい威圧が地面から滲み出す。

「あァ、それはなぁ……、」

苦笑し、流が肩を竦める。

余りにも空虚なその苦笑に、禁鞭での一撃に警戒を警戒を重ねたその瞬間。


「――――!!?」


聞仲の目の前に、胸にナイフの刺さった、白眼を剥いて血反吐を吐き散らす少女があった。

「な、」

思わず両手を突き出し受け止めようとすると、その瞬間少女が加速。

背骨の折れる、ごき、という嫌な音とともに、“少女ごと”殴り飛ばされた。
自分には脇腹への一発という、オマケつきで。

「か……!」

吹ッ飛ばされるその瞬間、エドワードの叫びが届く。

「バカ、下がれ……ッ!」

やけに長く感じられる浮揚の間隙にそちらを伺ってみれば。

――流は既に、禁鞭をふりかぶっている。
高町亮子がパニッシャーを慌てて流に向けようとするも、自分と少女の存在を気にして撃てず。
そんな亮子を守るために、エドワードが必死になって防壁を作り上げているところだった。

三人と流とのそれぞれの間に、無数の壁が屹立する。

が、がが、が、と、ものの数発で岩の群が打ち砕かれるのを確認した所で、砂煙を立てて地面に墜落した。
 
 
秒の時間すら、保たなかった。

287原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:59 ID:LGCp2ato0
**********


簡単に説明するならば、流は禁鞭が警戒されているのを逆手に取った。

肉の盾にしていた愛沢咲夜を、ブン投げたのだ。
それが人一人分の重さを持っているとは信じられないくらいの剛速球。
恐るべきはその身体能力だ。
その踏み込みは投げた肉の盾に追いつき、一撃叩き込む事すら可能とする。

自分が危険人物として警戒されてるのなら、都合のいい人質を最大限に利用するのは非常に理に適っている。
そしてそれが相手が思いも寄らない形なら、対応が遅れるのもまた道理。
特に命を粗末に、ぞんざいに扱う場合なら尚更である。

人質をとって、脅すのではなく。
ただのモノとして、投擲する。

相手が思わず助けようということを一瞬でも考えてしまったならば、充分すぎる隙が作り出せる。
肉の盾を一番厄介そうな男に投擲したらその背後に隠れて接近し、それごと先制の一撃をブチ込んでやればいい。

女とガキは大した手間じゃない、あえて言うなら女の得物に撃たれれば厄介ではあるが。
女の細腕では即座にあのデカい得物を振り回すのは不可能だし、ガキの方は全くの無手。
どちらにせよ、禁鞭を叩き込む方がよほど早い。

要するに、蝉の時と全く同じ展開だった。

亮子たちは主導権を握っているつもりで、その実いつの間にか流のペースに乗っていた。乗らされていた。
聞仲が流に切り込んだとて、それも充分想定されていたこと。

そして、蒼月潮。

少年は、悔しかった。
なのに、何も出来なかった。

何故、彼は動かない?
どうしても流に攻撃できないから?
流一人と殺しあいたくないから、みすみす他の人間を危険に曝したのか?

いやいや、そんな事はない。
うしおは本当に真っ直ぐで、だからこそ純粋すぎるきらいがあるけれど。
やっぱり、誰一人傷ついて欲しくないという思いを強く強く持っていて、その為なら自分を盾にすることも厭わない。

だから、流と戦いたくないという理由以上に、彼の行動を阻むものが一つ。
それは動かないのではなくて――、

「う、ごけねぇよ……! 流兄ちゃん、オレに、何したんだよォ……」

「今更気付きやがるなんて鈍いにも程があるぜ?
 さっき何の為にぺちゃくちゃクソつまんねえお喋りに付き合ってやったと思うのよ。
 テメエを結界でグルグル巻きにして、ちょっとやそっとで動くことが出来ねえよう仕込むために決まってるだろが」

288原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:51:27 ID:LGCp2ato0
それは独鈷などの基点となる武法具がない為に広域に張れはしないものの、ヒトを束縛するのには充分な多重結界。
獣の槍を持たない今のうしおを押さえ込むなど、造作もない代物だった。

加えて人質と、禁鞭と、話術。そしてタイミングと呼吸。

使えるものを徹底して使い機先を得続けることで、自分自身への被害を避けて一方的に攻撃する。
なるほど、実にシンプルかつ合理的。かつ、大胆。

まさしく秋葉流は、天才だった。
 
 
唯一誤算があったとすれば――、

「へぇ……、面白い技使うじゃねえか、チビジャリ」

「誰が豆粒どチ……! ……ッ、これでも、修羅場は相当くぐってきてるんでな。
 あんたみてえな卑怯な事する奴だってそれなりに出会ってきてるのさ」


エドワード・エルリック。

彼の用いる錬金術の防壁さえなければ、3人ともミンチに変えられていたものを。
小ささを揶揄するあからさまな挑発にブチ切れそうになるのを押さえながら、エドワードは冷や汗をかく。

「エド……、ごめん」

「……死んでなきゃそれでいい。それより今は切り抜ける方法をフル回転で考えろ!」

亮子の謝罪は、助けられたことへ向けたもの。
もしあの時少しでも流の方に踏み込んでいたならば、エドの練成した岩ごと無残な有様になっていただろう。

「禁鞭、か。くそ、さっきのヤローといいこいつといい、ホムンクルス以上の化け物ばっかりかよここは!」

本気で、マズい。
もし少女を投げつけられたのが自分だったのなら、まず間違いなく練成が間に合わなかった。
しかも、岩を盾にしてもあまりにあっさりと砕かれる。
聞きしに勝る恐ろしさの源は、実際に相対して身に染みた。

「……だが、付け入る隙はある」

「聞仲……、平気なのか?」

無言で頷き、少女をそっと横たえて立ち上がるのは禁鞭の本来の主。
金鰲島最強と歌われた実力者は、核融合を超える自爆や千倍の重力でようやく有功打を与えられる程の猛者。
肉の投擲と拳の一撃でくたばるほどに弱くはない。

「やはり私ほど使いこなせている訳ではない。
 使っても数秒……十秒未満で、暴れ始めるているな?」

「……よく見てやがるじゃねえか。なるほど、こいつはお前さんの武器ってことだな。
 道理でそこのチビガキの対策が周到すぎる訳だぜ」

「テメ……!」

289原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:51:52 ID:LGCp2ato0
それは如何ともしがたい経験の差。
聞仲が全面的に信頼を置く腹心、張奎ですら禁鞭をまともに使うことは出来ないのだ。
つまりは、使い始めてからの約9秒さえ耐え切れば、再始動するまで付け入る隙が生まれてくる。

――だが、その9秒が果てしなく、長い。
本来スーパー宝具の威力は、僅か数秒で焦土を作り出すことすら出来るのだから。

「あんたはきっと、この鞭をすげえ苦労して使いこなせるようになったんだろ?
 それがどうだよ、オレはちょっと触っただけでもうこんなんだぜ」

げてげてげて。
嘲笑が嫌に耳に障る。

「オレは、何でもできちまうのさ」

心外だが、聞仲は認めざるを得ない。
自分の三百年以上に渡る研鑽の日々。
肉が腐るほどに修行を積んだ過去。

「あんたなら、もしかして分かるんじゃねえか……?」

それら一足飛びに超える速度で禁鞭に認められつつあるこの男の脅威を。
そしてこの男が、自分とどこか似ている匂いを漂わせていることを。

「これ程僅かな時間で武器として実用できている。
 ……大した才覚だ、天才と言ってもいいかもしれんな」

だが、その賞賛ですらある言葉を聴いたとたん、流の顔からニヤニヤ笑いが消え失せた。
凄まじい鬼の形相をほんの一瞬だけ浮かばせ、吐き捨てる。

「オレは天才なんかじゃねえ」

ゾッ……、と、その圧だけで亮子は鳥肌が立つのを実感してしまう。
だから、声を振り上げる。

虚勢を張って、張り上げて、そしてその勢いをホンモノにする為に。

「こいつは……、この男は、野放しにできないよ。
 聞仲、禁鞭ってのを取り返せばあんたなら使いこなせるんだろ!?」

「そうだな」

「……上等! どうせ逃がしてくれるつもりはなさそうだし、逃げられる気もしないし。
 取り返すんだ、殺し合いに乗った連中の戦力が減ってこっちの戦力は増えて一石二鳥!
 幸いこっちは3人いる、どうにかしてやろうじゃない」

「ったく、しょうがねぇ。その賭けに乗るしかねえか」

ガシガシと頭を掻きながらも腰を低くし、準備を整えるエドに苦笑してパニッシャーを構える。
その銃口は、しっかと流の体へと向かう。

290原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:52:22 ID:LGCp2ato0
「口では何とでも言えるよなァ、嬢ちゃん。
 いいぜェ、やってみろよ。やれるんならな」

ごく、と余裕綽々の流に息を飲む。
頼りの戦術は突入前に聞仲が立案した作戦。
本来の持ち主である彼だからこそ見つけ出せた突破口。
こういう状況を想定し、禁鞭の脅威を取り去るために備えておいたものだ。

だが、それでも足が震えそうになるのは変わらない。
なにせ一撃でも当たれば死は確定。
ブレード・チルドレンとはいえ、足が速い以外はなんら特殊な能力も持っていない亮子は間違いなくこの中で最弱だ。

だが、それでも、譲れないものがある。

ツンツン髪の生意気な少年の顔を思い浮かべ、呼吸を整える。

大丈夫だ、と自分に言い聞かせ、さん、にぃ、いち、と声に出さずに数えた。
流に仕掛けるタイミングを読ませないためだ。

On Your Mark,

Get Set,

Ready――
 
 
「GO!」
 
 
亮子の掛け声とともに、時を同じくして3名が一列に並び走り始めた。

先頭を行くのは聞仲。次いで亮子、エドの順番だ。
だが、第一陣を仕掛けるのは先頭の聞仲ではなく、最後尾のエドワード。

ぱん、と両手を合わせ、練成するのは無数の針山。
一部が崩れると用を成さなくなる壁ではなく、硬度を練り高めた針を無数に向かわせることで、
防御力の上昇と攻撃を同時に行うのだ。
ネーミングは当然というか、微妙なものだったが。

「貫け、ハリセンボン!」

だが、既に流は涼しい顔で禁鞭を振り終えている。
ただの一撃で針の殆どはあっさり砕け散った。
木の根や土塊が舞い散り、泥の粉が鼻に入ってくしゃみをしたい衝動に駆られる。

「温ぃなあ」

「……まだだあっ!」

汗を迸らせ、疲弊の苦痛を押し殺してエドワードが剣山を強化。
僅かに残った針の一部が、禁鞭を挟むように急激に肥大。
砕け散った針の残骸を全て飲み込んで、悪趣味な彫刻の施された2列のレイラインが檻の様に取り囲む。
休憩で得た僅かな体力など、台風の中のビニル傘よりあっさりとどこかへ行ってしまった。

291原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:52:42 ID:LGCp2ato0
「だからどーしたよ」

禁鞭の先端がブレると柱全てがひび割れ、一瞬で粉微塵に。
勢いを僅かに弱まらせただけだ。
稼いだ時間はそれぞれコンマ秒単位でしかなく、前後合わせても精々が2秒弱、いや、それにすら満たない。

「……クソ、後は頼んだぜ」

だが、次に繋げる事は出来た。
ただでさえレガート戦の疲労が残っているが故に、エドワードはそこで膝をつく。
吐き気を堪え、苦しさの涙で滲む視界で以って、それでも流を見据えることを止めはしない。
最後の力でこちらに向かう禁鞭と自分たちとの間に、未開の民族の呪術に用いられるような巨大な像を作り出し、蹲った。

「邪魔臭、ぇ……?」

風船が弾ける速度で像の四肢を砕き、脳天から股間までを断ち割る。
そこまでは全て未来予想図の通り。
だが像の向こうにはひとつ、流の予想だにしない光景があった。


「花狐貂……!」

――二番手、聞仲。

像を砕いてすぐ彼の脳漿を撒き散らそうと思っていた流には、本当に伏兵としか表現しようがなかった。
エドワードの時間稼ぎの間に10mもの大きさに伸張し終えた鯨のオブジェから、なにかがひしゃげる無数の激突音が、が、がが、が、と響き始める。
刹那の間だけ何十何百に重なって聞こえた音は、即座に滝の落ちるような連続した一音に変化した。

その裏、流からは目の届かぬ領域で、高町亮子が加速する。

疾走。

疾走!

(……っし、あたしが行くまで耐えてくれよ……!)

――亮子からの報告を聞いたそもそもから、聞仲は件の男が禁鞭を制御できる時間は殆どない、と想定していた。
仙人界ですらまともに使えるものは殆どいないスーパー宝貝。
ここに招かれいきなりそんな物を手渡されたとて、たとえ三大仙人であろうと認められるには時間が到底足りない。
むしろ、数秒もの間制御できる流が異常すぎるのだ。

しかしそんな異常な事態にすら思考が及ぶのが殷の太師としての聞仲だ。
剛性と弾性を兼ね備え、熱兵器や光学兵器すら弾く頑丈さを持つ花狐貂の装甲。
だから数秒を、無理矢理耐え切る。制限された禁鞭ならば一発や二発なら耐え切れない筈はない。
それができずとも、花狐貂に隠れ、回り込み、至近の死角からパニッシャーの銃撃を食らわせる。

亮子は誰かを殺す覚悟なんて持ち合わせてない。
それでも、被害が広まらぬよう立ち向かう覚悟はある。
だから、至近距離から流に致命傷を与えない角度で、流の手か禁鞭本体を撃ち抜く。
そうすれば流石に禁鞭を手放さずにいられまい。
近づかなければいけないのは、中遠距離からの銃弾やロケットランチャーは、禁鞭で叩き落される可能性があるからだ。

――範囲全体に満遍なく襲い掛かってくるようでいて、禁鞭の攻撃は目に見える大部分が目眩まし。
だから、ほんのわずかな間ならば、それを掻い潜って近寄ることは出来るはず。

292原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:53:18 ID:LGCp2ato0
だが、それでもあまりに危険すぎる。
聞仲は、最初は禁鞭の男を仕留める様指示したのだ。
わざわざ相手を生かすなどと高い難度の選択肢を選ぶより、殺した方が安全を確保できる。
それにパニッシャーの殺傷力は充分すぎて、むしろ殺さない方が難しい。
だが亮子は頑なにそれを拒み、どんな殺人鬼であっても生かす事を曲げなかった。

彼女がこの戦術の仕上げを志願したのは、だから当然なのだ。

それがブレード・チルドレンという呪われた運命に反逆するものとしての、彼女の在り方だったのだから。

「――通る!」

目標はちょうど花狐貂の目の前にいるはず。
だから花狐貂の外周から少し離れた円周コースが、流の死角になっているはずだ。

ざぁ、と五月雨の打ちつけるような音とともに、花狐貂がボロボロと崩れていく。
破片が手榴弾のように高速で飛散し、亮子の右肩に浅い切り傷を作った。
さしもの巨体すら上下左右に揺さ振られるその有様は、人間など掠っただけで死を免れない事を否応にも想起させる。

怖い。
亮子は、その感情を正直に顔に出さざるを得なかった。

それでも薄暗い森の中、木の根を踏みしめ石を蹴飛ばし腐葉土を撥ねさせ走る。
翔けて、駈けて、駆けて、そして――、

「ただの時間稼ぎかよ、つまらねェ」

想定していたより遥かに早く。
半壊してもなおそびえ立っていたはずの花狐貂の巨体が、あっさりと空に放り出された。

ふわり、と、まるで紙風船で遊ぶように跳ねて、あっという間もなく小さな小さな元の大きさへ。
音もなく、静かに転がった。

「え?」

まだ、道程の半分も達していない。
一気に開いた間隙に、見つかってはならない男の姿があった。
手には未だに禁鞭が健在。

流と亮子の目と目が、合う。

ぐにゃあ、と、その目を見た瞬間、亮子の世界は捻じ曲がる。

この時、亮子の号令からは僅かに4秒強。

パニッシャーが打ち据えられ、白い破片が鳳仙花のように割れ散った。
亮子ははじめて己の身一つで空を飛ぶ。

293原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:53:43 ID:LGCp2ato0
**********


それは、花狐貂を操っている時に突然起きた。
聞仲の体が突然、がくりと沈んだのだ。

「な、」

先ほど拳を食らった脇腹が全身の動きを一瞬掌握。
力が入らず、聞仲ほどの仙道であろうと1/100秒単位だけ花狐貂の制御を失った。
それだけで禁鞭が花狐貂を打倒するには充分すぎる時間だった。
下から上へ、花狐貂が天に跳ね飛ばされる。

その向こうに見えた流は、蕩けるほどに破顔していた。


――不動金剛力。

法力のこもった流の拳を一度でも受ければ、力はどんどん漏れ出て行くのだ。

理解。
秋葉流は、間違いなく天才だ。

黄飛虎が、人間を超えた力を持つものだとするならなら。
レガート・ブルーサマーズが、人間の力を限界を超えて無理矢理引き出すものだとするなら。
秋葉流は自分と同じ、人間の限界そのものを遥かな高みに更新し続けるものなのだ。

「くぅ、」

聞仲の目の前には招かれざる客、幾十にも分身して見える禁鞭の先端が迫っていた。
着弾。
あまりにも禍々しいその威容に、自分が撃破してきたもの達はこんな代物に立ち向かってきたのかと奇妙な敬意と感動すら覚える。
 
 
 
視界が白く、染まった。
 
 
 
**********

ああ、もう終わりか、と、流は奇妙な喪失感を覚える。
本気を出してみたい、と、流は虚しい寂寥感を感じる。

この心に吹く風を止められるのは、やはり“あいつ”しかいないのか、と。
その“あいつ”を思い出そうとした瞬間、目の端に何かが映るのを確認した。

そちらを見て流は、ほんの少しばかり目を見開く。

ありえない筈の人影が、静かにこちらに歩み寄ってきていた。

禁鞭で以って、打ち倒さんとする。
いざ、薙ぎ払わんとする。

294原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:03 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
蝉は、自分のアパートの台所にいることを自覚した。

窓の外は夕方だ。
車が排気ガスを撒き散らす音、部屋の中にいても聞こえてくるおばちゃんの話し声、
季節外れの石焼き芋屋の拡声器、子供たちが野球か何かを仕出かしている騒ぎ、
遠くから聞こえてくる何かの鳥が鳴く響き、そして、ほんとうに小さな泡の弾ける音。

目の前にはしじみを入れたボウルがあって、ぷかりぷかりと二酸化炭素を吐き出していた。
しじみの砂抜きだ。

蝉は、この光景を眺めているのがとても好きだった。
落ち着くのだ。穏やかな気分になる、と言い換えてもいい。
呼吸という現象が目に見えるだけで、命というのが確かにあることを実感できる。

「ああ、ずっとこうしていてえなあ」

「残念だけどな、そりゃ叶わねえ相談だ」

いい気分が、一瞬で消え失せてしまう。

「岩西」

――気がつけばそこは自分のアパートではなく、見知った岩西の事務所に切り替わっていた。
当然のこととしてそれを受け止め、蝉は不機嫌に憮然と告げる。

「依頼か?」

西日が射す部屋の中で、疑問に対する応答は予想外のものだった。

「知らねえよ。俺はただ忠告に来ただけだ。
 ジャック・クリスピンも言ってるだろうが、人生から逃げる奴はビルから飛んじまえ、ってな」

「は?」

何が言いてえ、と、困惑よりも不快感を表して眉根を詰める。

「取ったんだろ? 依頼。俺のいねえところでよ」

「ああ……」

そんなこともあったなあ、とようやくその事に思い当たる。
あの医者からの依頼は、結局どうしたんだったか。
途中で投げ出したのかもしれないし、あるいは失敗したのかもしれない。
いずれにせよ依頼を遂げることは出来なかった、それだけは確かだ。

「依頼を受けたんならちゃんと最期までこなせよ。
 そうすりゃ、少しは俺の自慢になる」

295原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:32 ID:LGCp2ato0
ふざけるな、と、蝉は思う。
依頼の完遂がもう出来ないのは分かりきっている。
どうしてかは知らないが、それだけは分かるのだ。
それに、いちいち岩西の言動は癇に障ってしょうがない。

「なんでてめえの為に俺が動かなきゃならねぇんだ、俺は人形じゃねえよ」

最期までなんて表現など、まるで自分が死ぬその時まで依頼をこなし続けろと強要しているようだ。

「馬鹿野郎、そうじゃねえ。俺が勝手に自慢に思うだけだ。
 そもそもおまえは、ずっと前から自由だろうが」

散々こき使ってきてそれかよと、蝉は憤慨。
だけど、顔に出すだけで何も言いはしなかった。
岩西に背を向け、入り口へ方向転換。

「見せてくれよ。俺がいなくてもお前が依頼を一人で受けて、最期までこなそうとするその姿をよ」

決めるのは蝉自身だ。
岩西は、ただそれだけを告げていた。
決断という行為は、人形には出来ないのだ。

「ち……」

一歩、歩みだす。
行き先は決まっている。面倒にも程があるが、しょうがない。

「なあ蝉」

岩西に言われたから向かうんじゃない。

「なんだ?」

これは、自分で決めたことなのだから。
 
 
「負けんなよ」
 
 
**********
 
 
「殺すな、殺すなよォ! 命はひとつしかねえんだぞ! 殺すなよ、もう戻ってこねえんだよ!
 やめろよォ……! 流兄ちゃんもそっちの人たちも、殺し合いなんてやめてくれよォ!
 死にたがるような真似なんて、しちゃあいけねえんだよ!
 殺すなよぉ、殺すな、殺すなぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!
 なんで誰かが死んじゃったら、その誰かも周りも悲しいだけなんだってわかんねぇんだよぉぉぉ!
 馬ッ鹿野郎ぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」


蒼月潮が、何かに向かって泣き喚いていた。

蝉が起き上がるその前から、ずっとずっと誰にも聞かれない訴えを繰り返し続けている。
正確には蝉一人がしっかり聞いていたのだけど。

296原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:52 ID:LGCp2ato0
こいつはよく分かっているな、と、蝉は素直に感心する。
ただ、殺しちゃいけないって所には仕事柄賛同は出来ないけど。
だけど、その意見の根っこにあるものには、大いに共感できるのだ。

ああ、そうだ。
命は誰にも一つしかなくて、失ったら二度と戻ってこない。
男だろうが女だろうが、年寄りだろうが子供だろうが。
例えば、そんな理由で特定のカテゴリの人間だけは殺さない、なんて言ったら差別になるんじゃないだろうか。
たった一つの命は誰とだって対等なのだ。平等ではないかもしれないが。
この程度の当たり前のことを今の時代、こんなご時勢、実感すらせず無意味に生きている連中が多すぎる。
流されながら考えることを放棄して、誰かの言うなりに動くだけで。

そんな連中は、ほんとうに生きているのだろうか。


頭の中がいやにすっきりしすぎていて、何か大切なものがどんどん削げ落ちているのだろう、と見当をつけた。
目に映るもの全てが静止画のようで現実味がなく、その分どんな微細な変化でもはっきりと捉えられる。

一時期話題になったスカイフィッシュというのがあったが、その正体はハエやカとかの羽虫の残像が写真に入り込んだだけらしい。
今の蝉には目に映る全てがそんな残像を残してゆっくりと動くように感じられる。

「うしお、自分を信じて対決していけ」

音もなく近寄って、それだけを告げた。
ぷっ、と口の中に溜まった血を吐き出せば、砕けた内臓の欠片が思ったより大量に零れてくる。

「……蝉、兄ちゃん? 生きて……」

その先の言葉を聞く事無く、蝉はその通り名に相応しい、飛翔する速度で暴風の中に突っ込んだ。
 
 
5秒。
 
 
秋葉流が目端にこちらを捉える。
躊躇わず鞭を振るい、五月雨のよりなお多く間断なく、何十何百もの鉄槌が降り注ぐ。

流しそうめんみてえだな、と、蝉は思った。


6秒。


その流しそうめんの、全てを掻い潜る。
流を挟んだ反対側では、信じられないといった面持ちでこちらを眺めている誰かの姿が見えた。
どうしてそんな顔をしているんだろうなあ、と蝉は疑問を持つ。
こんなものよりドッジボールを避ける方がよっぽど難しいのに。
少なくとも今の自分にはそう感じられる。

297原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:55:18 ID:LGCp2ato0
7秒。


どうやら向こうの連中よりもこちらに興味が湧いたらしい。
薄笑いを浮かべた秋葉流が真面目な表情となり、そして鬼の形相となって、3人へ回していた分まで流しそうめんをこちらに打ち付けてくる。
対岸は、完全に手透きになったようだ。

「ああ」

だが遅い。
すでに自分は、流の首根っこを掴める位置にいる。
 
 
8秒。
 

そして、急激に目の前に黒ペンキがぶち撒けられた。
体がいきなり、動かなくなった。
口の中にとうとう、鉄臭い味が広がった。
全くもって、唐突な限界だった。
 
「しじみに生まれ変わりてえな」

言い終えた直後。
ぱん、と、軽快な音とともに蝉の頭蓋、鼻から上が弾け飛んだ。

脳ミソとか、眼球の水晶体とか、真っ白な骨とか、リンパとか、脂肪とか、表皮とか、髪の毛とか、
たくさんのいろんなものが咲いた。

ぱくぱくと、しじみのように何度か口を開けては閉じ、蝉だったものは前のめりに倒れ込む。
それきり、ぴくりとも動かなかった。
 
 
 
――――9秒。
 
 
 
【蝉@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】


 

「蝉兄ちゃぁぁああああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁん!!」


うしおの叫び……、いや、嘆きと時を同じくして。
禁鞭が異常な動きでぶるぶると震え、流の手からすっぽ抜けた。

298原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:55:46 ID:LGCp2ato0
**********


「……くぅ、」

顔を僅かに流はしかめ、そしてほぼ同時に察知する。

「好機――――!」

バックステップで禁鞭直撃のダメージを軽減した聞仲と、疲労しつつも一撃も食らってはいないエド。
まだ動ける二人による挟撃だ、両者とも既に攻撃態勢に入っている。

亮子から弾き飛ばされたパニッシャーを空中で強引に掴み取り、砲口を向けて引き鉄に手をかける聞仲。
そして大地より無数の岩の手を創造せしめ、こちらを叩き潰さんとするエドワード。

禁鞭を失った時点で両者の織り成す完璧なる連携、必中必滅の斉射を許せばいくら流でも対処は出来はしない。
たとえどちらを潰そうと最早、この場における命運は確定してしまうのだ。

「おおおぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉ……!」
「らぁぁあああぁぁぁああああああぁあぁぁ……!」

聞仲とエドの烈覇の雄叫びが重奏し、命運を確定させるその時を招き寄せる。
先んじるはエドワード・エルリック。
岩の手の群で包み込み逃げ場を完全に奪う初手。
直後の聞仲のパニッシャーで詰みだ。

両手を地面に捺して願えば、土の色の森林が屹立し――、
 
 
「土は黄、黄は中なり、節なり人なり。木剋土、木気を以って土を剋す。方角北西より東南へ」
 

――いくら努力しようとも、いくら偶然に恵まれようとも、なお天才による蹂躙という命運は、覆されることはない。
希望を込めた斉射が日の目を見る事すらなく、圧倒的な奸智と暴力に踏み躙られるという命運は。
 
 
「は?」 
 
エドワードの練成した岩の群が、流を華麗にスルーした。
傍らを通り過ぎては知らぬ所で存在を確定させ、多くは木々や草本に突き刺さって静止した。
そのうち一つが聞仲への直撃コースを取り、聞仲は慌てず回避するも銃口の狙いをブレさせる。


「光覇明宗単独滅殺封印」
 

そして、聞仲の耳に流の紡ぐ呪言が突き刺さった。


「弧月――――」


数え切れない三日月が、聞仲とエドワードにどす、どすと杭打っていく。

299原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:56:13 ID:LGCp2ato0
三日月にぶち当たるごとに、脳を揺さぶられる衝撃が体を走る。
そして三日月は接触した場所に固定され、動きを完全に束縛するのだ。

秋葉流の法力行使は陰陽五行思想に基づくもの。
故に五行に精通する流には、五行のいずれかの属性を強く備えた攻撃は通用しない。
全て逸らされ、撥ね返されるのみだ。
例えばつい今しがたなどは、土の気を持つエドワードの攻撃に対し、周りの木々そのものである木気にて軌道を変えたのだ。

そして、弧月。
それは打撃と封印拘束を周囲全体に対し行う、光覇明宗の法力僧でも天性の才あるものにしか使えぬ術。


禁鞭も策も言動も結界もなにもかも、なにもかもがこの為の布石。
拾った道具に頼ったとて吹く風が止むことなどない。
最初っから秋葉流にとって、己の力を出す事以外の目的にして手段などありはしない。
最初っから複数同時に攻め込んでくるそのタイミングに弧月を叩き込む、それだけが狙い。

聞仲がくの字に体を曲げて沈黙している。
エドが仰向けに空を向いて動かない。
亮子はただただ静かに横たわるのみ。
うしおは顔面を涙でぐちゃぐちゃにして、殺すなと叫ぶだけ。
咲夜は虫の息で、もう目覚めることがあるのかすら不明確。
蝉は何も語ることなく死んでいる。

立っているのは、流だけだ。
たったひとりで6人相手を、傷一つつくことなく圧倒した。


「言っただろ?」 

何度でも言おう。
秋葉流は、天才なのだ。
 
 
「俺にできねえことは、ねえのさ」


「流……兄ちゃぁぁん……」

うしおの声に頬を緩めながら、流は脳ミソがくっついたままの蝉の頭蓋の欠片に足を乗せ、ぐりぐりと踏み躙って嘲った。
そのままゆらりと、流は三日月に囚われ動けぬ聞仲の前に立つ。

「なあ」

呼びかけに聞仲は無言を返す。
それに全く気を害す事無く、独り言のような調子で淡々と静かに、どこか遠くを見ながら流が語る。

「さっき……言ったけどよ。お前にゃオレと同じ匂いがするんだわ。
 空っぽになって、何もできることがなくて、心の中に吹く風を止められねぇ……。
 有り余る力も存在意義も、全部が全部無駄に思えて道に迷ってやがる」

返す言葉も、何もなかった。
聞仲はこの時はじめて秋葉流という男を確認する。

300原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:56:53 ID:LGCp2ato0
自分達をうちのめした筈のその姿は、禍々しい薄笑いを浮かべているのにあまりにも哀しげに感じられた。
どこを見ているか、という事にようやく気付く。

あらぬ方向を向きながら、流の目だけはしっかと蒼月潮に向いていた。

「……お前、ホントはすげえ強ェんだろ? だったら、手ェ抜くなよ。
 オレをあっさりブチ殺すくらいしてみせろよ。惨めじゃねえのか!?
 こんな最ッ低の卑怯者にコテンパンにされてよォ!
 本当は……、自分の力を信じたくてしょうがねえんだろが。
 なりたかった理想の何かがあるんだろうがよ……!」

聞仲が思い浮かべるのは若い風。
理想と聞いて思い浮かべたのは、かつての殷と敵の長。

ああ、そうなのか。
聞仲は理解した。

この男は、その眩しさに耐え切れなかったのだ、と。
夢幻のかつての殷に、自分が歪んでしまったように。

「……あァ、残念だぜ。
 お前が本気で立ち向かってくれてたら、オレは……」

ふ、と息を吐き、そこで言葉を切ると続きを告げることはない。
そして、一拍。


「んじゃ、殺すわ」


まったく唐突に、流の拳が聞仲の顔面にめり込んだ。


「……!」

引き抜くと同時、ぶ、と聞仲が鼻血を噴き出す。

「ひゃ……、ひゃひゃひゃ、」

殴った。
殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。

肩を、顔を、腹を、足を、脚を、腕を、掌を、首を、肘を、胸を。
その剛力で、人体の考えうる全ての場所を殴り抜いた。

301原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:57:18 ID:LGCp2ato0
殴るたびに聞仲の体が震え、弧月の拘束すら流自身の手でひしゃげさせられていく。


「ァアひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ひゃひゃ!
 ひゃぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!
 ひゃァはははははははははははははははははははははは、
 ははは は  はは    は は    はは は
    は  は  は はは    は  はは   
 はは  は     は     は   は
  は     は    は  は   は  は
 は  は は  は は    は   は   は
   は    は    は    は   は
 は    は       は はは      は
  は   は  はは は      はは  は
         は   は は        は
 は  は   は  は    は  は  は  
   は  は     は は   は  はは  
 ははは は は は は  は      は は 
 は   は      は はは はは   は は
   は  は   はは      は  は  は
 は  は   は   は   は  はは は は
   は  は      は   は  は  は 
 は     は   は  は  は     は 
 は   は   は   は は  は は    
   は  は   は はは   は   は  は
 は  は は  は   は  は   は  はは
   は    は    は  は は はは   
 は  は はは  は   は  は  は  はは
    は   は   は  は  はは は   
 は  はは  は は   は  は  はは はは」

哄笑が次第に狂笑へと変じ、は、の一音ごとに拳が突き刺さる。
拳の壁、突きのラッシュ。
誰かの奇妙な冒険でよくある光景が、再現されていた。

302追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:57:57 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

やったら、逃げろ。
 
 
**********


「くそ。やられっぱなしで……たまるかっての」

痛む背中を抑えながら、高町亮子は様子を伺いつつ静かに起き上がる。
――酷い有様だ。
すえた血の鉄臭い臭いが鼻につく。
脳ミソが無造作に散乱している光景は、全く以って教育によくない。

「う……、見るんじゃ、」

なかった、という言葉を続けず、静かに飲み込んだ。
人が死んだ、その結果が目の前にあるのだ。
人を殺すというのはこういう事なのだ。
目を背けてはならない。
蓋をしてはならない。
それは、呪いに負けた自分が起こす光景でもあるのだから。

現状を確認する。
蒼月潮とエドは、それぞれ種類は違うものの結界とやらに捕縛され、動けない。
蝉も、見知らぬ女の子も死んでいる。少なくともそう見えており、全く動くことはない。
聞仲はサンドバックとしてご活躍中だ。

「……あたしだけ、か」

ごく、と唾を飲み込む。
絶望的な状況だ。自分ではここから逆転する目が思い浮かばない。

「このまま、順番に殺されるのを待つだけしかできない?」

……違う。

違う!

まだ、何か出来ることがあるはずだ。
まだ、繋げることが出来るはずだ。

どんな絶望を与えられても、何一つ持たずとも、たった一人暗闇の中で前を向く少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「は、はは……」

脚が、がくがくと震える。
今から自分がやろうとしていることは、ある意味酷い裏切りだ。
今この場にいる全員を見捨てる、という事でもあるのだから。

303追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:58:26 ID:LGCp2ato0
……だが。
それが出来るのは、自分しかいない。
ここで無闇に特攻して死ぬよりも、遥かに後に残せるものは大きいはずだ。
これから後、たとえどれ程、自責の念に駆られるとしても。

「……ッ。あ、ぁぁぁああああぁぁぁあぁぁあああ……!」

陸上部の脚を以って、駈けた。

走る、走る、走る。

そして掴み、今まで以上の速度でひたすらに加速を続けた。
その手に握り締めるのは、流の手から宙に舞った禁鞭。

「こんなモン、これ以上あいつの手に持たせとけないって……!」

後ろを振り向くことはしない。
今こうして、前を向いて走っている間ですら後悔が洪水となって押し寄せてくるのだ。
一度でも止まったら、多分もう戻らずにはいられない。

そんな風に他の人間を心配している余裕など、すぐに消え失せる。

「……な、」

がく、と、一気に体の力が抜けた。

「なん……、これ、ちょ、冗談……ッ!」

信じられなかった。
持っているだけで意識が遠くなる。
自分という存在そのものすべてが、この禁鞭とやらに吸い取られそうな気さえする。

こんなモノをあの男は九秒も振り回し、その上であれだけの立ち回りを見せたというのか?
聞仲の言が、ようやく真実味を帯びてくる。

「〜〜〜〜! ……負け、るかぁっ!」

だったら、だからこそ。
禁鞭を再度流の手に渡すことだけは避けなくてはならない。
今後どれだけの犠牲者がでるか、想像するだに恐ろしい。

トびそうになる意識を理性と根性でねじ伏せて、裂帛の気合で力を体の下部へ。
腰を捻る運動エネルギーを、大腿から膝、脛、アキレス腱、踝、踵、そして爪先へと浸透。

走るだけの機械となるために、全身全霊を費やす。
死んでもいい、できる限りあの男の目の届かぬ所まで、この兇器を持ち去るために。

だから、

「頑張るじゃねーか嬢ちゃん。このオレだって、持ってるだけでもちぃとばかりツレえんだぜ?」

すぐ背後からそんな軽薄な声が届いてきた時、高町亮子は彼女らしくなく泣きだしそうになってしまった。
感動したからでは、もちろんない。

304追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:58:45 ID:LGCp2ato0
**********


「高町亮子は正しい選択をした。
 私達を見捨てたのではなく、この島にいる他のすべての人間を守るためだったのは、充分に分かる。
 ……だが、だからこそ助かったのは私達の方だというのは、皮肉でしかない、な……」

よろりと膝を崩し、その場に座り込むは聞仲。
力が殆ど入らず、既に去っていった彼らを追うのは不可能だろう。
その全身に拳を浴びていない場所はなく、顔はアンパンマン状態だ。

秋葉流は、自分達に止めをさすよりも禁鞭を回収することを選択した。
ある意味当然だろう。
僅か9秒、されど9秒。
それだけの時間行使できるのなら、禁鞭以上に強力な武装はまず存在しまい。
少なくともこの島で有数の武器であるのは間違いないはずだ、手放す選択肢は存在しない。

とはいえ、禁鞭の行使ですらあの秋葉流にとっては数ある戦術の一つでしかないのだ。

全く以って――、腑抜けている。
自分はそんな事にすら気が回らなかったのかと自嘲して止まない。

「ぐ……、」

頬の肉を僅かに動かしただけで痛みが走った。
いくら仙人として最上級の頑丈さを誇るとはいえ、禁鞭の直撃に加えて拳の連打は流石に響く。

こうなったのは宝貝のみに意識を奪われ、流がそれ以外の術理に精通している可能性に思い当たらなかったからだ。

「随分と仙道である事に浸っていたようだな、私は」

かつて、殷の祖である朱氏とともに、そしてある時期より先は一人で積んだ研鑽と鍛錬の日々。
あの頃は自分は普通の人間であり、天然道士ですらなかった。

想いを侍らせ、苦笑する。

305追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:11 ID:LGCp2ato0
今の秋葉流を打倒するには、二段階、あるいはそれ以上のステップを経なければならなかったのだ。
まず第一段階として禁鞭を9秒耐えるか、あるいは流の手から弾き飛ばすか。
彼の成長次第では使用限界時間はより長くなる事だろう。

それを経て、はじめて流本来の戦闘スタイルと相対できるのだ。
おそらくは術と策を駆使したその上で、純粋な暴力を叩きつけるというスタイルと。
どれほど奥の手を残しているのか、推定する事は出来ない。

また、宝貝と術を同時に使用する可能性もある。
とはいえ流石に禁鞭の制御中はそれだけで手一杯だろう。
余程追い詰めない限りは使うまい。

いずれにせよ、しばし体を休めねば。
流の法力の影響が抜けるまでは、満足に戦う事は出来はしないのだから。
その一方で流が戻ってくる可能性を考えるとここに長くいる事も望ましくない。
とりあえずは移動をせねば、と、半壊した花狐貂を回収する。
そして周囲の惨憺たる有様に目を向け、生きているものには退避を促す事にした。

まずは近くにいるものからと、流の結界に囚われた少年を助け出す。
少年は泣き疲れ、それでも悔しそうに手を震わせている。

「ちくしょう、どうしてなんだよ、流兄ちゃん……」

次にエドワード、そして見知らぬ少女を助けようと体を翻した、その時。


「手前らッ! 俺の部下達に何しやがった――――」
 
 
闖入者が助けようとした二人の前で、凄まじい形相で睨みつけてくるのを確認。
 
拙いな、と、聞仲は直感。
本当に拙い事態になった、と。

306追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:33 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
まず、これ、いしき、きえる

くるし、めのまえ、まっしろ、こーすけ 
 
「……なあ、どうしてそんなにまでして頑張るよ?」
 
あきらめたくない、から
まけたく、ない、から

「負けたくねェなら、そんなモン持って走る必要はなかったろうが。
 あのでけえ十字架で後ろからオレを撃ちゃあ、勝てる可能性は0じゃなかったんだぜ?
 ま、その前にツブすけどなァ」

あたし、だれも、ころさない
のろいで、みんな、あたしら、さつじんきになる、おもってる、けど、
そいつらに、ちがう、みとめさせて、やる

おんなじなかまに、あたしのことを、ささえてくれる、やつ、いるんだ
あと、どんなぜつぼうでも、ひとりになっても、わらってみせるやつが、いるんだ
のろいにまけず、あたしだって、まっすぐにいきて、みせてやりたいから

だから、はしる

「誰かの為にどんな絶望でも諦めないってか。あいつに似てやがるな、そいつらもお前も」

まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない

「……嬢ちゃんはよくやったよ。もう楽になれや。安心しろ、痛くはしねぇよ」

いたいの、こわくない、こわいけど、こわくない
あきらめるのと、うしなうののが、もっとこわい

「そーか」

307追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:57 ID:LGCp2ato0
**********


グリードは、怒り心頭になりながら苦虫を噛み潰した顔をする。

「くそ……、逃げたか。畜生ッ」

額に目のある男と、槍を持った子供の二人組。
顔はしっかり記憶した。
だが、今はそれどころではない。ここを離れる訳にはいかない。
連中がこの事態を引き起こした可能性は非常に高いが、もっと優先しなければならない事がある。

「どうして、こうなりやがった……! ふざけるなッ、ふざけるなァッ!」

愛沢咲夜。エドワード・エルリック。
彼の部下が二人、意識を失って倒れ伏している。
この二人をどうにか生かさねばならない。
特に愛沢咲夜の容態は、ひどい。

片腕はもう完全に千切れている。
胸のナイフは背の側まで貫通しており、しかもまだ引き抜かれてすらいない。いや、抜くと余計に血が溢れてくるのか。
背骨が折れて胴が捻じ曲がり、腰から下の後ろ前が逆になっていた。
あちらこちらに色々なモノの破片が突き刺さり、激しい戦闘に巻き込まれた事を物語っている。

生きているのが不思議なくらいだ。
ついさっきまで、これ程に助かる可能性が絶望的と思わせる傷は負っていなかったのに。

だがそれでも、グリードは足掻く。諦めない。

「もう二度と、俺の部下は失わせはしねえよ……!」

グリードの脳裏に、前世――タブリスの街の合成獣たちが浮かび上がる。
かつて、部下だったものたち。
今は昔、この世にいないものたち。

もうあの時のように失う事は、御免なのだ。

何か、何かないかと辺りを見渡し、一つのアイデアが浮かぶ。
目線の先に止まるのはエドワード、そして自身の体を順繰りに。

錬金術。
それを用いた、治療の可能性。

ホムンクルスに拉致されるまで、ドクター・マルコーは賢者の石を医学に役立てていたという。
ならば自分の中の賢者の石も、どうにかして治療に使えるのではないか。
エドワードならば可能性はある。

医学は専門ではないとはいえ、エドワードには人体練成の経験があり、役に立たないはずはない。
駄目で元々、賭ける価値はあるはずだ。

ならば一刻も早く、咲夜が死神に連れて行かれる前にエドワードを覚醒させねば。
そう思い立った所で呻き声が耳に入る。

308追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:00:36 ID:LGCp2ato0
「う……」

「咲夜!? おい動くな、そこでじっとしてやがれ!」

すぐに近寄り、体を抑えて安定させる。
顔を覗き込むと、死人の顔のままゆっくりと、咲夜が目を開けるところだった。

「ぅ、ぃーぉ……?」

ぱくぱくと金魚の様に開く口からは、聞き取れぬほどにあまりにも幽かで力のない確認の声。
グリード? と、そう動かしたように見えた。

「ああ、俺はグリード様だぜ。すまねぇ、遅れ、」
 
 
さくり。
 
 
「た」

つい今しがたまで咲夜の胸に突き刺さっていたナイフの柄が、今度はグリードの脳天から生えていた。



**********
 
 
「      」
 
 
わずか数文字の言葉を、秋葉流は静かに呟いた。


――いつしか、川縁にたどり着いていた。
戦闘をこなしてここまで走り続けてきたことで、流石の彼も息が上がってきていた。

目の前の川には、学生服を着た茶髪の少女が背を向けてぷかぷかと浮かんでいる。
  
しばらく見ている間に学生服はどんどん流され、視界から遠ざかっていく。
と、不意にその影が沈み込み、ぽちゃんと水の中へと消えていった。

後に残るのは、男の影が一つのみ。
こぽこぽ、ちょろちょろと、水音だけが静かに染み渡る。
  

 
明けの光が射してきて、眩しいくらいに水面で反射した。
本当に綺麗な光景だった。

309追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:00:56 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
どうして――、と薄れゆく意識の中で自問するも、グリードに答えが出る事はない。
どうして、の答えたる過程ではなく、何故、の答えたる原因が提示されるだけだからだ。

「は、はは、は、ウチ……を、裏切った、罰やぁ……。あは、あは。
 タダじゃ……、死なんよぉ。死ねんよぉ。はははは、は。
 あは、は、ウチな、何一つ、残さないなんて、耐えられへん。
 だから、道連れに、したる。は、あは、あはは、あはははははは。
 悔しいやろ、悔しい……やろ、こんな、騙したつもりの、小娘に、タマぁ取られる、なんてぇ、な」

ただ、これだけは分かる。
またも部下を守りきれず、一人にしてこんな目に遭わせてしまった自分が招いた結果がこれなのだ、と。

「あっはははははははははははははは、あはははははははははははははははは!」

咲夜の虚ろな笑い声が、とても寒々しくやるせなく感じられた。

どうにかナイフを引き抜いたけれども、体の制御が利かない。
制限された状況下ではホムンクルスの回復力でも致命傷には追いつかない。
思考能力が低下して、もう、まともにモノを考える事が出来なくなってきている。

……しゃあねえか。惜しいけど、返すぜ。
感謝しろよ? この強欲のグリード様が自分のモノを手放すなんて、滅多にねえ事なんだからよ。

「なあ、咲夜。すまなかったな、守れねぇでよ。
 ……その分は黄泉路で清算してやる。だから、今度こそ俺について来い。
 あっちにいった他の部下連中ともども、閻魔相手に地獄の国盗りしよう、じゃ、ねぇ、か……」


ぷつ、と、スイッチが切れた。
まっくらになる。

父親に還る事無く、本当の意味での死を迎えたのはこれが最初で最後だった。
 
 
 
【グリード@鋼の錬金術師 死亡】

310追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:01:21 ID:LGCp2ato0
**********


ぎゅう、と抱きしめられ、守れなくてすまないと耳元でささやかれた。

「ぁ、あ、あぁ……」

それだけで、咲夜は裏切られてなどいなかった事を悟った。悟ってしまった。
だから、自分が何をしでかしてしまったのかは、聡明な咲夜には明々白々だ。
 
 
「あぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁ
 ぁああああぁぁあああぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ
 あああああああぁぁぁああぁああぁぁぁあああぁぁあああぁああぁあ
 ああぁぁぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁぁあああああぁぁ
 ぁぁぁああぁぁああぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁああぁ
 ああああぁぁぁああぁぁぁぁああああぁぁああぁぁああああぁぁっ!」
 
 
咲夜に最後に残った感情は、この上ない自分への嫌悪と絶望の2つ。

そして、しばらく。
ぷつりとある一時を以って絶叫が途絶える。

後はただ、静かな森が広がるばかり。
グリードの抜け殻と少女の残骸が、転がっているだけだった。
 
 
 
【愛沢咲夜@ハヤテのごとく! 死亡】
 
 
 
**********
 
 
今もこの手に、人を殺した感触が残っている。


「やっちまった……なァ」

朝の陽光が木漏れ日として射す、木の葉の擦れる音と水音以外は何もない森の傍。
枝や葉っぱ、何かの木の実といった雑多なものが時折渓流を流れ落ちていくその様を、秋葉流は畔の岩に座り込んでただ眺めている。

思い描くのは、つい今しがたまで追いかけていた少女のその表情。
それがどうにも、自分を慕う蒼月潮に重なってしょうがなかった。

「男って、一生のうちに何人の女の子の涙をとめてやれるんだろ、か……」

盾にしてしまった少女と、追ってきた少女の二人を脳に留め、刻む。
身勝手な自分が巻き込み、死に臨ませた事を何があろうと忘れないように。

311追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:01:59 ID:LGCp2ato0
「おめえならきっと、望んだ数だけで……」

くく、とここではないどこか遠くを見て――寂しげな笑いを洩らす。

「オレならきっと、誰一人だって無理なんだろうさ」


そうだ、自分は蒼月潮ではなくて、蒼月潮になる事も出来ない。
あれだけ痛めつけても、あれだけ裏切っても。
それでもなお、

「どうして……、まだ、あんな目でオレを見れるんだよ」

最後に見たうしおの表情は、自分を信じたくても信じきれない、というもの。
馬鹿だなァ、と思う。
それはつまり、まだ、『流兄ちゃん』を諦めていない、のだろうから。

「……もう少しだけ、夢を見させてやってもよかったかね」

蝉という男に邪魔されなければ、もう少しだけ優しい流兄ちゃんの演技をしてやっても良かった。
そうすればその分だけ、うしおを絶望させられたかもしれない。

もっと痛めつけるには、どうすればいいだろう?
ふと、一つの妙案を思いつく。

いくら自分でも流石に少し、疲れた。
自分に与えられたもう一つの支給品で多少の回復を図ったとはいえ、焼け石に水だ。
だから、作戦を少しばかり切り替える。

しばらくは戦闘を温存して、うしおの悪評を広めるのはどうだろうか?
蒼月潮とその仲間はペテン師だと、殺し合いに乗っていない振りをして皆殺しを企む凶悪な連中だと。
どこか人の良さそうなグループを取り込んでそんな噂を流してもらうのも悪くない。
うしおはこれから自分が守るべき善良な人々から拒絶され、疑われ、怨まれるのだ。


そうしてうしおを追い詰める算段をする一方で、心のどこかが悲鳴を挙げている。

……演技だったのだろうか?
中村麻子が死んだ事への気遣いも、ニセモノだったのか?

流は、自分の心を確かめる事をそれ以上やめた。

もしかしたらほんとうに、うしおの涙を受け止めてやるつもりだったのかもしれない。
たとえそのあとに裏切る事を決めてても、せめて泣き止むその時までは。

だけどそれを認める訳にはいかない。
それは自分が今までしてきた事すべて、ひいては自分が殺した人間の生き様までも否定する事なのだから。

はじめて殺した相手、蝉という男は何と言っていたか。

「自分を信じて、対決しろ……、か」

312追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:18 ID:LGCp2ato0
いいなあ、と、その言葉を羨んだ。
そんな真っ直ぐな生き方をしてみたかったなあ、と。

流は願う。

自分を信じて対決する。
こんな自分でもそんなことの出来る相手が、現れてくれないかと。

つい今しがた邂逅した聞仲という男は、どこか自分と同じ匂いがした。
もしかしたらどこか切望していた相手かもしれないと、あの男が本気を出す事を心から望んだ。
けれど今のあの男はあまりにも腑抜けすぎていて、自分の期待には適わなかった。

結局互いに本気でぶつかり合える相手として思い浮かぶのは、たった一人、いや、一匹のバケモノだ。

「とらぁ……、今、どこで何してやがる」

風は止まない。
風は吹き抜けていく。

「てめえをぶち殺さなきゃ、うしおだってオレを見限ってくれねぇだろうがよ……」


木の葉を散らせて川面に細波をよせながら、風は、どこか遠くへと。


【E-04/森に面した川辺/1日目 早朝・放送直前】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(中)、法力消費(中)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 0:興奮と虚しさが同居。
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
 3:高坂王子、リヴィオを警戒。
 4:聞仲に強い共感。
 5:体力が回復するまではどこかの集団に紛れ込むのもいいかもしれない。
 6:とらと戦いたい。
[備考]
 ※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。

313追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:38 ID:LGCp2ato0
【仙桃エキス@封神演義】
体力回復効果のある錠剤。一日3回2錠ずつ服用する事で、体力を約5割回復できる。
つまり1回服用するごとに回復するのは2割弱程度。
連続して服用しても効果は出ず、数時間置きに摂取するのがよい。
また、休息と併用すれば効果はより高まる。
注意点は怪我の治療はできないこと。
あくまで効果は体力や魔力、霊力、法力といったエネルギーの補給のみ。


**********


ふらふらとした力ない足取り。
座り込み眠る聞仲を背後に、蒼月潮は一人どこかへ向かおうとしていた。
ぎゅう、と槍を握り締め、歯を噛み締めて食い縛る。


「……どこへ行く、少年」

眠った、と思ったのは錯覚だったのだろうか。
あるいは眠っていてもほんの僅かな違和感で覚醒できるのかもしれない。

「止めなきゃ、流兄ちゃんを。……おじさん、引き止めないでくれよ」

「今更行っても、無駄だ。私達の現状の戦力で彼に向かっても皆殺しにされるだけだ。
 近づくのは只でさえ愚策なのだし、向かうにしても体勢を整えてから行くべきだろう」

そうだ。
少なくとも、うしお一人で立ち向かって勝てる相手ではない。
だからこそ逃走の一手を打ったのだ。
 
「それじゃあ、あそこにいた人たちが助からねぇじゃんか!
 どうしてそう簡単に諦めちまうんだよ! もう、人が死ぬのは嫌なんだよぅ……」

「ならば尚更だ。向かえば少年自身が死ぬ。それこそ命の無駄遣いだぞ」

諦めた訳ではない。生かせる命を生かしたら、この少年しか残らなかっただけの話だ。
殷の大師として様々な局面で、たくさんの命を切り捨てる選択を聞仲は何度も行ってきた。
そしてまた、自分の手で数々の命を殺めてきた。
だからこそうしおを眩しく思う。
青く、真っ直ぐだな、と。

この少年は生きねばならないと、そう感じさせられる。

なのに、うしおはこう告げるのだ。

「蝉兄ちゃんが、最後に言ったんだ。自分を信じて対決していけ……って」

遺言だから、一人煉獄に身を投げ出すと。

314追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:57 ID:LGCp2ato0
「だったら、止めるしかないだろ!?
 ああそうだよ、オレはちっぽけで、獣の槍やとらや、みんなの力をオレ一人の力って思い込んでたよ!
 ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお!
 麻子も、蝉兄ちゃんも、あの女の子も、みんな助けられなかったんだよ!
 だったら、だけど、このちっぽけな力だけでできることをするしかねぇじゃねえか!
 何もできてねえ自分が、許せねえんだよォ……ッ!」

彼の責任などどこにもないのに、ただひたすらにうしおは自責している。
小さな体が闇に押し潰れそうで、なのにそれでも立って歩くうしおの背中に、思わず聞仲は声を大きくしていた。

「あの青年の言っていたのはそういう事ではないだろう!」

「でも、我慢できねぇんだよ!
 誰かが殺されるのも、流兄ちゃんが誰かを殺すのも!
 オレが死ぬって分かってても、救えるんだったら惜しくねえよ!」

――そうか、と納得する。
あの流という男が歪んだ理由を、今自分は目にしているのだ。
こんな少年を自分と見比べてしまったら。
こんな風に生きてみたいと思ってしまったら。
そして、そう生きるのにあまりに自分は道を進みすぎてしまっていた事に気付いたなら。

似ている。
あの男は、自分とよく似ている。

これまでの生き方を全て否定されているように感じられて、自分が自分である事に固執して。
だから狂ってしまったのだ。
自分のアイデンティティたる殷が滅びに向かうが故に、新しい風を否定した自分と同じ様に。

ああ、だからこそ。
理解できるからこそ。

「そのやり方では、誰一人救えない!」

「だったらどうしろって言うんだよぉぉぉぉっ!」

今もまだ信じたがっているからこそ、この少年にはあの男を止める事はきっとできないだろうから。


「――私が、力を貸す。少年」

自分こそが秋葉流を止めねばなるまい。あの青年はかつての自分なのだから。
そしてこの鮮烈な息吹を守りたいと、そう思う。


「だ、駄目だよ。おじさんまでオレに巻き込めねえよ。
 オレ一人だから、構わねぇんだよォ……」

誰よりも優しく、意地っ張りな少年を。

「少年。あの様な理不尽を許せないのが、少年だけだと思うのか?」

――この少年の行き先を、見てみたいのだ。

315追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:17 ID:LGCp2ato0
「え……?」

「お前には人を惹きつける才がある。
 先ほど皆の力は自分一人の力ではないと言ったな?
 なるほど、確かにそうだろう。
 ……だが」

彼ならば、何かを成し遂げられそうな気がしている。
かつての自分は認めたがらなかった、太公望に感じたものと同じ強さだ。

「皆の力を少年のところへ集わせることはできるだろう」

殷を育て上げてきたのは何のためだったか。
自分が失ってしまった何かを感じ、それでもまだできる事があるのではないか、そう思わされた。

「少年の力が小さなものであっても、正しき矛先を信じ抜くならば、それは叶う。
 ……あの青年も、それを言いたかったのではないか?
 それが、少年の力の用い方ではないか?」

蒼月潮を見ていて感じるのは、自分もまた何かを為したいという願いだ。

――何が変わったわけでもない。
殷は確かに滅びに向かい、黄飛虎ももういない。
かつての夢幻は取り戻せず、それでいてまだ諦めたくないのに結末に理解も納得もしてしまっている。
自分自身が何をすればいいのか、何故ここにいるのかも分からないままだ。

だが、ただ迷って下を向いているのだけは、もう嫌だった。
前を向いてみたいと、秋葉流と、蒼月潮の二人にそう思わされた。

自分を信じて、対決する。

覚悟の行き場を失った自分でも、それができるだろうか。


「……おじさん」

おずおずと、うしおが歩み寄ってくる。

「……できるかな、オレに」

「自分を信じて、対決するのだろう?」

不安げな声にそう告げれば、うしおははっとして顔を上げる。
それからゴツンと額を叩き、彼は思い切り雄叫びを上げた。

「お、おおぉぉおおぉ、おおおおおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおお……!」

316追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:36 ID:LGCp2ato0
――それを見て頷き、うしおに近づく聞仲の足に、何かがこつんと当たる。
うしおが持ってきていた蝉のデイパックだ、口が開いて中身が零れ出ている。

何があるのか、と、何気なしに下を見てみて、驚愕。

「――禁鞭?」

馬鹿な、と続けてそれを手にとってみる。流が持っていた筈の物が何故ここにあるのか、と。

そしてすぐに納得した。
模造品なのだ、本物に比べて負担はさほどなく、また出力もだいぶ低そうである。
制限のない禁鞭本来の威力に比べれば、1/10くらいか。
それでも充分すぎる破壊力はあり、制限下のこの状況では本物との差は縮まっているだろう。

巡り会わせなのかどうなのか。
ただ、ニセモノであれ禁鞭が今ここにある事実を、何も言わず聞仲は受け止めた。
自分の力は、今確かにここにある。
自分を信じて対決しろと告げた男から、確かに受け取っている。

「おおおぉおぉおおおおおおぉおおおおおおぉおおおおぉおおおおぉおおおぉおぉおぉおぉ……!」


――二つの咆哮が、唱和した。

二人は思う。
もう立ち止まっているのは終わりにしよう、と。
何が出来るかは分からない。だが、何かを成し遂げていこう、と。
 
 
 
長い夜は、明けたのだ。
 
 
 
【C-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、精神的疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式x2 不明支給品×1

317追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:56 ID:LGCp2ato0
[思考]
基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
1:病院に向かい、ブラックジャックと会う。
2:病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
3:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
[備考]
※ 参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
  とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
※ 悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。
※ 黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。


【聞仲@封神演義】
[状態]:疲労(中)、右肋骨2本骨折、全身に打撲痕、不動金剛力で力がしばらく入らない
[服装]:
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:うしおを手助けしていく
1:流を自分が倒す。
2:エドの術に興味。
3:何をしたいか目標はないが、何かを成せるようになりたい。
4:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。


【ニセ禁鞭@封神演義】
陽ゼンに指南を与える際、元始天尊が太乙真人に作らせた禁鞭のコピー。
再現度は高く、威力が1/10程度な以外はほとんど本物と見分けがつかない。
その威力にしても充分実用に耐えるので、なかなかに強力な宝貝だろう。

318追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:04:17 ID:LGCp2ato0
**********


朝の日差しに、森の中も赤に染まる。
きれいな朝焼けが二つの影を浮かび上がらせた。
周りの影は木が風にそよぐ度に遷ろうのに、その二つだけは髪の毛以外揺れ動く事はない。

片方は立ったまま、沈黙を続けるもう片方の傍らで立ち尽くす。

「エド。グリードが、死んダ」

答えが返ることはない。
エドはいまだ、気を失ったままだ。

「……不思議な奴、だったナ。もう話す事もないと思うと寂しくなル」

どうして最後に己が消滅してまで賢者の石の力を搾り取ったのか。
その理由は、今自分がここに生きているという事実が物語っている。

「目覚めたら話を聞かせてくレ。
 ここで何があったのか、アイツの部下はどうして死んだのカ。
 俺も俺なりにアイツに借りがあっタ。仇くらいは、とってやるつもりダ」

赤の光が次第に真昼の白へと移り変わっていく。
その美しさをぶち壊すかのように、放送が鳴り響き始めた。

「なあエド……、これから、どうすル?」
 
 
眠るエドワード・エルリックは答えない。
 
 
 
【D-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
 [状態]:健康
 [服装]:
 [装備]:降魔杵@封神演義、バロンのナイフ@うえきの法則
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の仲間を守る為、この殺し合いを潰す。
  1:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
  2:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
  3:病院に向かいたい。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※異世界の存在を認識しました。
  ※グリードの意識が消滅しました。ホムンクルスとしての能力もなくなっています。
  ※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません

319追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:04:44 ID:LGCp2ato0
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ、気絶
[服装]:
[装備]:機械鎧
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:この殺し合いを止める。誰も殺させはしない
1:…………。
2:首輪を外すためにも工具が欲しい
3:白コートの男(=レガート)はなんとかしないと……。
4:秋葉流もヤバい。どいつもこいつもバケモンばかりかよ。
5:亮子と聞仲は大丈夫だろうか。
[備考]
※遅くとも第67話以降からの参戦です
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。


※リンたちのすぐ近くに、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマムと
 亮子のデイパック(支給品一式、拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1)が落ちています。
 
 
**********
 
 
ざぁぁぁああぁぁぁ、と、辰砂を転がすような水の音が心地よい。

ここはどこだろうと疑問に思うも、目を開けるのが億劫だ。
今はただ、この気持ちよさにまどろんでいたい。

そうしていると、すぐにまた眠気が訪れた。
意識が流されるままに任せて再度の眠りに身を浸す。

夢の世界への切符を買う直前、ひとつだけ気がかりな事を思い出した。
 
 
どうしてあの男は自分に「生き延びろよ」などと言ったのか、と。
殺す素振りも見せず、ただ武器を取り返しただけで川に放り込んだのだろうかと。
 
 
 
【B-04/河口岸/1日目 早朝・放送直前】

320追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:05:05 ID:LGCp2ato0
【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲、背中に打ち身、ずぶ濡れ、気絶
[服装]:月臣学園女子制服(ずぶ濡れ)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:とにかく仲間を集める。
2:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
3:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
4:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
5:そういや、傷が治ってる……?
6:勝手に身体が動いた?
7:エドの力に興味。
8:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
9:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。

321 ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:07:38 ID:LGCp2ato0
以上、投下終了です。
序盤にしては長文すぎだったかも、後悔はしてないけど。

322名無しさん:2009/07/04(土) 20:35:44 ID:g/RVFTjo0
俺もさるさんだ
誰か投下お願い
感想は本スレに書ける時に書きます

323第一回放送 土屋キリエの憂鬱 ◆JvezCBil8U:2009/07/25(土) 21:12:38 ID:fualpYKc0
朝の日差しは眩しく、レンブラント光が目を射抜く。
釣りやハイキングにもってこいのいい天気だ、今日は洗濯物がさぞやよく乾くだろう。

然してさわやかな朝を台無しにするかのような、重苦しい雰囲気の女の声が響き渡った。
マイク特有の雑音とともに、放送は皆に等しく現実を突きつける。

――正確には放送に入る際にリストの"孤独の中の神の祝福"という曲が前置きとして流れたのだが、人の記憶とは後から耳にしたものの方が強く残るものだ。
お茶にごしにすらなりはすまい。

『……第一回の放送を始めるわ。
 今回の死亡者は、……以下の通り。

 

 次に、進入禁止エリアを指定……ね。
 

 以上よ』

必要事項以上のことを口にもせず、放送席にいた女性はそこで沈黙した。

――だが、まだ放送のスイッチ入れられたまま。
すう、はあ、と、何度も呼吸を繰り返す音だけが増幅され、皆に届けられる。

沈黙は続く。
一分だろうか、二分だろうか。
それとも、もっとずっと多くの時間だろうか。

いずれにせよ、10分はかかっていないだろう。
そして唐突に、怒鳴りつけるような声が島中へ轟いていく。


『……ッ、こんな事言っても、連中に組してる私の言うことは信じられないかもしれない。
 でも、聞きなさい! そして生き延びるために考えなさい!
 死ぬな! みんな、生き残れ!
 そして真実を告げるわよ、この殺し合いは、このゲームは――、」


たぁん、という軽いくせにやけによく響く音が、マイクを通じて届く。


そして、それきりだった。
ぶつり、という耳障りなノイズを残して、急に放送が途切れて終わる。


後には木の葉を散らして風が吹き渡るばかり。

324第一回放送 土屋キリエの憂鬱 ◆JvezCBil8U:2009/07/25(土) 21:13:06 ID:fualpYKc0
********************



銀の髪を持つ少年が、放送室に立っていた。
肩を壁に預けて、放送席に座った女性に向かい静かに言葉を紡いでいる。

女性は少年の方すら向かず、静寂を守っていた。


「……どうしてこんなつまらない反逆を試みたのか、俺は知らないし、知るつもりもない。
 ただ、これだけは言える。
 もはや、動き出したドミノの牌を止める術はない。
 結局、俺たちは二重螺旋の運命に縛られた駒でしかなく――、お前の行動も、全て予定調和だったようだ」

「語るのー、詩人じゃのー」

背後からの声に少年が振り向くと、年端も行かない童女がニヤニヤとトウモロコシを加えてコチラを眺めていた。

「どういう心変わりなんじゃろうな、お前は連中の中ではこういう立場とは一番縁遠いと思っとったのにの。
 今更我らに身を委ねた、というのもしっくりこないぞ」

「…………」

「ま、別にええの。お前さんが語った通り、新しい“神”にとっちゃ全て予定通りなんじゃろうしな。
 我々がルールを決め、あの道化師どもが遊戯盤を用意し、そしてお前たちは――、」

「ムルムル」

分かっているとばかりにムルムルと呼ばれた童女を睨みつけ、少年、アイズ・ラザフォードは踵を返した。
ちらりと背後を見れば、そこには彼が兄と呼んだ少年、死んだはずの少年がモニターに映し出されている。

「……運命はもはや、生と死すら弄ぶのか」

言葉には何の感情もこめられていなくて、だからこそアイズがどんな気持ちを抱いているのかはあまりに分厚いカーテンの向こう側に隠されている。

「お前が生きてここにいるのは――、」

その呟きと同時に、放送席に座っていた女性がずるりと崩れ落ちる。
彼女の頭蓋の真ん中には、ちょうど真ん丸な穴が前から後ろまで貫通していた。

アイズは手に持った拳銃をしまいながら、言いかけていた言葉を飲み込み別の台詞を形作る。

「さようならだ、ツチヤキリエ」


【土屋キリエ@スパイラル〜推理の絆〜 死亡】

325 ◆UjRqenNurc:2009/07/26(日) 13:48:20 ID:koPsQxks0
さるさんなのでとりあえずこちらに

【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:左肋骨三本骨折(治癒中・完治まで約2時間)
[装備]:エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
 4:ロストテクノロジーに興味
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。


【F-8北西/森/1日目 黎明】

【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記 不明支給品×1 (確認済み)
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
 1:ゴルゴ13と情報交換する。特に錬金術について聞き出したい。
 2:秋瀬或と情報交換する。 天野雪輝、我妻由乃の情報と錬金術について聞き出したい。
 3:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
 4:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
 5:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 6:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 7:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
 8:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
 ※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
 ※我妻由乃の声と名前を認識しました。警戒しています
 ※無差別日記の効力を知りました。


【天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真@未来日記】
天野雪輝と我妻由乃の結婚式の予行演習の写真
ウエディングドレス姿の由乃とモーニングコートの雪輝が写っている

【携帯電話@現実】
警察官の私物だろうか。結構新型。
島内の主な施設の電話番号と、ブログのアドレスが登録済み。


【探偵日記@ブログ】
パスワードを入力することで更新出来るブログ
コメントは管理者の認可がなければ公開されない
自分の名前はまだ明かしておらず、とある参加者とだけ書かれているが、関係者にはわかるだろうとも書かれている。
今のところ、偽杜綱についての情報がうpされている。

326 ◆UjRqenNurc:2009/07/26(日) 13:49:11 ID:koPsQxks0
以上です。
ご意見、ご感想、ご指摘などありましたらよろしくお願いします。



探偵日記の内容はちゃんと文章にして書いておいたほうがいいですかねぇ?

327 ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:17:46 ID:pHhzymDI0
さるさん食らったので続きをこちらに

328Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:18:44 ID:pHhzymDI0
***************

生い茂る木々にバラバラに切り裂かれた夜明けの光を受けながら、体を引きずって歩く異形の影が一つ。

「あの、クソガキィ……」

影――紅煉は怒りと憎悪に満ちた怨嗟の言葉を吐く。
ルフィの最後の一撃と爆発によって死にはしなかったものの、被った損害は甚大だった。
体表の大部分が炭化し、右足は半分千切れかけている。霊刀も二本は半ばから折れ、残った一本もヒビが入っている。
おまけに左腕は装備していた宝貝、番天印ごと消し飛んでいた。
もはやこれ以上の戦闘は不可能。それは紅煉にも解っている。
だが、だからといって怒りが収まるわけではない。

――クソがアァ。
まだだ。まだ殺し足りねェ。
ここは退くが……待ってやがれ人間ども。
このオレを本気にさせてただで済むと思うなよ。
殺して殺して殺して殺し――。


「十五雷正法、『四爆』」


突如、紅煉の左脚が付け根から吹き飛んだ。
苦悶の声と共に地に転がる紅煉。その顔は驚愕の色に染まっている。
完璧な不意打ち。
いつの間にか黒尽くめの死神が朝日を背負って紅煉の背後に立っていた。

「て、てめえは……」
「ふ、ふ」

死神――ひょうは底冷えのする笑みを浮かべながら紅煉に一歩、また一歩と近付く。

「ふ、ふふ、はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははは。
 何があったのかは知らないがいい格好じゃあないか。どうした。紅煉。笑って見せろよォ」
「邪魔だアァァ!!」

叫ぶと同時に紅煉は雷を放つ。しかし、

「おまえの自慢の雷もその程度か。力が尽きかけているのは演技じゃなさそうだな」

左手で構えた一枚の符によってあっさりと無効化される。
ひょうは流れるような動作で更に懐から符を取り出し、今度は右脚を膝から吹き飛ばす。
愕然とする紅煉。

「……クソォ。てめえなんぞに、この紅煉がァ」

そんな紅煉を冷然と見下ろしながら更なる符を懐から取り出す。

329Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:20:02 ID:pHhzymDI0
「ダルマにしてやるよ、紅煉」

四肢のうち残った一つ、右腕に狙いを定めたそのとき、

「ちょっと待ってよ。やり過ぎだって!」

たまらずパックがひょうのデイパックから飛び出し、ひょうと紅煉の間に割って入った。
パックにしてみれば紅煉は単なる一参加者に過ぎない。それも人間よりも同族に近いと感じている。
ひょうが紅煉にただならぬ感情を抱いていることは察しているが、だからといって黙っていられるわけはない。

「どけ、妖。さもなくばお前も滅する」

抑えた、それでいて強烈な殺気に、パックがじり、と後ずさる。
しかしパックも伊達にガッツにくっついていたわけではない。負けじと言い返す。

「こいつが何やったのかは知らないけどさ。こんな拷問みたいなことは良くないって」

符を構えながら無言で一歩詰め寄るひょう。その表情は帽子と逆光で読めない。

「だ、だからさ、もう少しやり方ってもんが……」

言葉に詰まるパック。
僅かな沈黙。
何か思うところがあったのか、ひょうは構えた符を懐に収めた。
パックがほっとしたその瞬間、

「馬鹿がァァァ!!!!」

いきなり、紅煉は口から強力な炎を吐き出した。
紅煉に残された力を全て振り絞った炎。この至近距離で不意打ちでは回避する方法も防御する方法も無い。
あっという間にひょうとパックは炎に包まれた。

「げはははははははははははははははははは――」

勝利を確信した紅煉の高笑いが響き渡る。だが、

「――――は?」

ひょうとパックは変わらずそこにいた。
ひょうは驚愕で声も出ないパックをデイパックに放り込みながら淡々と告げる。

「キサマのやりそうなことくらい見当はつくさ。
 既に地面に結界が張ってあったことにすら気付かなかったのか? 滑稽だなァ。
 ――ああ、そうだ。その表情を見たかった。
 数々の絶望を与えてきたお前が絶望する、そのカオをなァ」

にィィ、と口の端を大きく歪めるひょう。
ここに至り、捕食者と被捕食者の関係は完全に逆転した。
憎悪と歓喜が程よくブレンドされたひょうの瞳が昏く輝く。

「ク、クソ。おい黒炎。来い! 何してやがる。オレを助けやがれ! 早くしろクソがァ!!」

そう、黒炎はもう一体存在する。うまくいけば黒炎を囮にして逃げおおせるかもしれない。
藁にもすがる思いで叫ぶ紅煉。

330Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:20:43 ID:pHhzymDI0

「黒炎? ああ、それは『こいつ』のことか?」

ひょうはデイパックから巨大な十字架を取り出し、紅煉の目の前に落とす。
それの意味するところを理解し、紅煉は絶句した。

「あ……グ、ク、クソ、クソォ……」
「はは。あんな木偶に頼るとは、本当に万策尽きたようだな。
 さて……もういいだろう。絶望に死ねよ、紅煉」

凍りついた死刑宣告。

次の瞬間、霊力を練り込んだありったけの符が紅煉の体中に突き刺さった。
ひょうの瞳はもはや現を映していない。

「おい、待てよォ。分かった。分かったって。何でもするからよォ」

――天地より万物に至るまで気をまちて以て生ぜざる者無き也。

「悪かった。もう人は喰わねぇよ。心を入れ替えるって。
 なァ、助けてくれよ。お前人間だろ? な、なァ」

――邪怪禁呪悪業を成す精魅。

「や、やめろ。た、頼む。おい。お、おいって!」

――天地万物の理をもちて微塵と成す。

「ちくしょオォォォ!!!! 死にたくねェェェ!!!!!!」












――禁。













【紅煉@うしおととら 死亡】

331Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:21:58 ID:pHhzymDI0
【E-6/工場/1日目 早朝】

【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、右頬に痣、頭に軽い裂傷
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのコート@ブラックジャック、ブラックジャックのメス(10/20)@ブラックジャック、ルフィの麦わら帽子@ONE PIECE
[道具]:支給品一式×2、工具一式、金属クズ、ひしゃげたパニッシャー(機関銃:80% ロケットランチャー0/1)@トライガン・マキシマム、不明支給品0~1
[思考]
基本:この島から脱出する。
1:エドたちがいるならば探したい。
2:ルフィの仲間を探す。
3:他にもここから脱出するための仲間を探したい。
[備考]
※ルフィ、ゴルゴ13と情報交換をしました。
お互いの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※名簿は白紙ですが、エドとアルもいるだろうと思っています。
※ゴルゴ13の名前をデューク東郷としか知りません。
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。


【D-7/路上/1日目 早朝(放送直前)】

【ひょう@うしおととら】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク
[道具]:支給品一式(メモを多少消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー1/1)@トライガン・マキシマム、不明支給品×1、パック
[思考]
基本:???
1: 符術師として、人に仇なす化け物を殺す。
2: 蒼月潮を探す。場合によっては保護、協力。
3: 子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。

【パック@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式 不明支給品×2
[思考]
基本:生き残る。
1: ひょうについて行く。
2: ひょうが無茶をしないか気がかり。
3: アイツもいたりして…
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えるかどうかは、後の書き手さんにお任せします。
※参戦時期は少なくともガッツと知り合った後、ある程度事情を察している時です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。


【番天印@封神演義】
対象に「番天」と書かれた印を付け、その印に向けて誘導ビームを放つ宝貝。マルチロック可能。
本ロワでは仙人でなくても使える代わりに威力減少、チャージ時間有りとなっている。


※工場の一部が爆発により機能停止しました。
※爆音が周囲一マス程度に響き渡りました。
※工場内部のどこかに番天印、乾坤圏が落ちています。
※ウィンリィの近くのどこかにパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/1)@トライガン・マキシマムが落ちています。

332Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:23:14 ID:pHhzymDI0
以上、投下終了です。

333 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:20:04 ID:9Jfx9i7w0
規制されたので、とりあえずこっちに投下します。

334Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:20:32 ID:9Jfx9i7w0
「そいつさ、なんかメガネっぽい顔してなかった?」
「メガネっぽい顔ってなんですか!なんかメガネかけた人をバカにしてません?」
「いや、いい意味でメガネっぽいってことよ?」

そんな銀時と少女…冴英の会話に、ヴァッシュは少しだけ心癒される想いだった。

「うーん、顔はよくわからなかったからなぁ」
「……面白い子達ね」

少しだけ、ロビンも笑う。
なんだ、ちゃんと笑うことも出来るじゃんか。

初めて会った時から、この女性には何か不安を感じさせられていた。
情報も巧みに隠し、警戒心も強い。
最初はこんな状況ではそれも仕方がないと思っていた。
だが、一緒に居るうちにわかってきた。彼女は、何かに突き動かされるように動いている。
よく言えば使命感、悪く言えば強迫観念というか……
そんな表れが、先程銀さんたちと対峙した時の行動なのだろう。
だが、今の彼女の笑顔には偽りが無い。彼女も根っからの危険人物というわけではないのだろう。
何より彼女は、そんな使命感を自制できるだけの冷静さを持っているのだ。

最初に会った相手が相手だっただけに、この殺し合いにはかなりがっくり来ていた。
だが、こうしてバカな真似はしないでいてくれる人もいる。それが彼には嬉しかった。
そんな喜びを少し感じて、ヴァッシュは進む。
願わくは、これから会う少年もそんな心の持ち主であって欲しい。

程なくして、少年は発見された。
先程双眼鏡で確認した位置からそれほど離れていないようだ。あれからすぐ力尽きたのだろう。気を失っている。
ロビンが彼の容態をうかがう。

335Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:21:08 ID:9Jfx9i7w0

「……私は医者じゃないからはっきりとは言えないけど、重度の貧血、って感じね」
「鼻血でも出したんじゃねーの」
「……銀さんじゃあるまいし」

少年に外傷はなかったが、顔色が驚くほど青白い。

「輸血用の血液でもあれば理想的だけど」
「さすがにそれはデパートにもなさそうですね」
「肉食うだけじゃダメなの?ル○ンみたいに」

銀時の発言に冴英はふざけないで下さい!と怒ったものの、他に対処法も浮かばない。

「とりあえず病院に連れてったほうがいいんだろうけど、栄養補給もいいかもね」

このヴァッシュの発案で、ひとまず銀時と冴英が物探しの為デパートに引き返すこととなった。
広い建物内でお目当てのものを探すには、デパートという施設にいくらか知識のある彼らが適任だ。
少年をむやみに動かすのは良くないだろうと、ヴァッシュとロビンが付き添う事にした。

ここから動かない、動く場合は行き先を残す、という約束をして銀時たちを見送る。

「私は少し周囲を見回ってくるわ」
「えぇ!女の子1人じゃあぶないよ」

ロビンの提案にヴァッシュが慌てて手を振る。

「ふふ、ありがとう。でも私、これでも身を守るくらいは出来るの。
 狩人さんは彼を守っていてあげてね。すぐ戻るわ」

そう言って、ロビンも闇の中へと消えていった。

「……ちょっと寂しかったりして」

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

336Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:21:51 ID:9Jfx9i7w0
★   ★   ★   ★   ★

「とまぁ、こんな感じですか」

自己紹介と現状の報告を終え、キンブリーが立ち上がる。

「そこで、私にも貴女のお名前と事情を話して頂けたら嬉しいのですが」

少女は少し悩み、口を開いた。

「私は……森あいっていいます」
「なるほど、あいさんですか。よい名前ですね」

優しい口調で話しかけるキンブリーだが、少女の表情は暗いままだ。
そこへ趙公明がどこからか例のティーセットを持ち出し、紅茶を運んできた。

「ははは!お目覚めかい、お嬢さん?僕の紅茶を飲んで、一息つくといいよ」

彼は紅茶を二つテーブルに置くと、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「彼は私の仲間です。変わってはいますがあなたのような人間には無害なのでご心配なく」

次々に起こる出来事に目覚めたばかりの森はついていけず、思わず出された紅茶に手を伸ばした。
暖かい紅茶を飲み、少し落ち着きを取り戻すと、少女は堰をきったようにこれまでの経緯を話しだす。

はじめは、殺し合いに巻き込まれる前に関わっていた戦いの話。
それから、この会場に来てから考えた事。
そして、大事な友人を……傷つけた話。
自分でも初対面の相手に、どうしてこんなに話してしまうんだろうと思ってしまうほど。

キンブリーはじっくりと落ち着いた態度を崩すことなく、話を聞き続けた。
時々うんうんと頷きながら、彼女が口篭っても促したり質問したりすることもなく。
相手のペースに合わせて……
やがて話が終わると、耐え切れなくなった少女の目から涙がこぼれ始める。

「わたっ、私っ……そんなつもりぜんぜん、無くって……ただ、話が合わないの……が怖くって…」

そこで初めて、キンブリーが口を開く。

「非常に申し上げにくいのですが……貴女が目を覚ます少し前に、『放送』がありました。
 そこで確かに、『植木耕助』という名前が呼ばれていましたね」
「!!!!!」

337Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:22:27 ID:9Jfx9i7w0

その言葉に、森の瞳が開き、絶望の色を滲ませる。
わかっていたこととは言え、事実として突きつけられると凄まじく心が痛い。
もはや声すらあげられず、彼女はボロボロと泣き続ける。
うえきぃ、うえきぃ、と嘆きながら……

「私には事情はよくわかりません。ただ、これはどうしようもなかったと思います。
 いくら貴女が非日常に身を置いていたとは言え、こんな異常な状況下に突然置かれては精神が揺らぎます。
 そこへ追い討ちのように友人の異変。仕方のない事でしょう」

喋り終えるとキンブリーは立ち上がり、バッグから乾パンを取り出した。

「少しお腹に入れておいたほうがいいですよ。ゆっくりよく噛んでお食べなさい」

差し出された乾パンを思わず受け取り、戸惑いながらも森は食事を始めた。
再び沈黙に入る。
食事を終え、紅茶を飲み干すと、森は会話を再開した。

「私、気づいたんです。あんな風に、し、死ぬ間際に、人の心配が出来るのなんて、植木くらいしかいないって……
 だからあれはきっと本物の植木で、でも、だとしたら私は……最低のこと、しちゃって……
 もう、どうすればいいのかわかんなくって……それで、ちょうど目の前にあった川に……」

そこで目を伏せる。
重力によって少女の涙は落下し、握り締めていた紅茶のカップに落ちる。

「私、死んじゃえばよかったんです!植木は私をすごく心配してくれてたのに!
 疑ってばっかりで、おまけに、こ、殺しちゃった…・・・」

弱々しい声から急にヒステリックな大声へ。そしてまたか細い声へと。
不安定な彼女の精神を物語るかのように、彼女の声の性質は起伏する。

「私なんかが生きてたって、どうせなんにも出来ないのにっ……!
 いつもいつも守られてばっかりでっ!そのくせ自分から首を突っ込んでっ……
 植木が生きてれば、きっとこんな戦い止めてくれたのにっ!
 あたしなんかがっ!あたしなんか…」

パチン

響いたのは森の頬が叩かれた音。
キンブリーが弱くだが、彼女の頬をはたいたのである。

338Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:23:04 ID:9Jfx9i7w0

「おやめなさい」
「キンブリーさん……」
「自分の生を冒涜するということは、その裏で起こったあらゆる死を冒涜する事です。
 貴女が望むと望まざるとに関わらず、今この場は戦場。他人に死を強制し、強制される場です。
 だからこそ、自らが奪った命を悔やみ、自分の死を望むなどという甘ったれた行為は許されない。
 私は、死への冒涜は絶対に許しませんよ」

今までとうって変わっての厳しい表情に、少女は気おされてしまう。
キンブリーは手を組みなおし、少し声を抑えて言葉を続ける。

「失礼、私も少し感情的になりました。ですが、あいさん。先ほどの言葉は忘れないで下さい。
 貴女は生きている。生きている以上、戦場では戦わなくてはならない」
「戦うって……」
「彼の死を無駄にしないように、主催者に反逆するのもいいでしょう。 いっそのこと、ゲームにのってしまってもかまいません。
 あるいはそんなことすら考えず、ひたすら死なないよう行動するというのも立派な戦いです。
 なんであれ貴女は、生きている限り戦う義務がある。覚悟を決めなさい」

キンブリーの言葉が、杭のように森の心に突き刺さる。
だがその杭に支えられ、ぐらぐらと揺れていた彼女の心は安定を取り戻しつつあった。

「なに、存外やってみるとやりがいのある素晴らしい仕事ですよ。
 死を身近に感じるというのは、生きている実感を与えてくれる。
 それに……もし貴女が戦う覚悟を決めるなら、頼みたいことがあるのです」

泣くのをやめ、森が顔をあげる。
疲れきった、なんとも頼りない表情だが、先程までの死人同然の顔よりはマシだった。

「私に……?」
「えぇ、実は私、優勝を狙っているんです」
「えっ!」

突然の告白に、森が立ち上がる。
いきなり体を動かしたので制御がきかず、よろめいてまたソファーにしりもちをついた。
親身になって相談にのってくれたので、てっきり彼は人殺しなんて考えていない人間だと思っていたのだ。

「1つ言っておきますが、私には目的があります。その為に『戦う』と決めただけです。
 それに、なにも考えず全員を殺そうというわけではない」

キンブリーは、剛力の少女に伝えた自分の計画を目の前の少女に伝える。
自分が優勝することで、最終的に全員を蘇らせる算段。

「私はここにいる人が憎いわけではない。生き返らせることが出来るなら、それにこしたことはありません」
「でも、そんな…そんなことって…」
「言っておきますが、確証はありません。優勝者が無事で済む保証もありませんし、
 賢者の石をもってしても出来ないことはあるかもしれない。
 ですがあいさん。貴女の話を聞いて、私はますますこの思惑が有効である確信を得ました」
「私の?」

不思議そうに森は聞き返す。

「えぇ、あなたたちの戦い、すなわち神を決める戦いの話です。
 全能の神になること。あるいはそれでなくとも、望んだ『才』を手に入れる権利。
 この殺し合いがその戦いの延長なら、それらを駆使すれば作戦は成功するでしょう」

なるほど、確かに彼の言うことには説得力がある。
自分達の戦いの延長にあるのなら、この戦いの勝者は神になる、あるいは神になるものの恩人となる。
神が万能なら、あるいは万能でなくとも強大な力を持つなら、人を蘇らせる事も出来るかもしれない。
あるいは彼の言う『錬金術』の『才』を見返りとして入手できれば……

彼を優勝させることが出来れば、あるいは誰も犠牲になることなく戦いは終わるかもしれない。
だが……

339Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:24:00 ID:9Jfx9i7w0

「でも、それじゃあ……そんなやり方じゃ、多分植木は、喜ばないと思います」
「ふむ…?」

森から発せられたのは、否定の言葉。

「全員を救うために、全員を犠牲にするなんて……誰も傷つかないことを望むアイツなら、
 きっと否定すると思います。だから……」
「貴女は、植木君に喜んで欲しいから戦うんですか?」
「えっ?」

キンブリーの返事に、森は言葉に詰まる。

「それって……」
「私に言わせれば、死者は喜びもしないし、悲しみもしない。それは生きている人間の特権です。
 本当に彼の幸せを祈るなら、彼には生きていてもらわなければならないでしょう?」
「で、でも…それはっ」
「あなたの言い分は、まるで自分のことしか考えていないように思えます。
 蘇らせたとしても、植木君に嫌われたくないという気持ちが見え隠れしている。
 『誰かの為にではなく、自分の為に』といった具合でね」
「そんなっ!違いますっ!」

思わず声を荒げてしまう。
だが、男はその態度を崩すことなく、少女に残酷な道を示し続ける。

「例えば植木君が貴女を庇って死んだとします。貴女は彼を怒るでしょう。
 なぜ人を助けて自分が死ぬのだと。残される側の気持ちはどうなる、と」
「……」

「ですが、それは彼が『自分よりも誰かを優先した』結果です。相手に恨まれようと、怒られようと……
 誰かを助けて、その人の幸せの可能性を繋ぐ。これこそが『人の為に自分を捨てる』ということではありませんか?」
「!!」

その言葉は、今までの何よりも少女の心を抉る。

「先ほどの貴女の言い分は、『皆を助けても自分は嫌われてしまうから、自分だけ生きていたい、あるいは死にたい』
 という事でしょう。それでは、『自分よりも誰かの為に』最後まで行動した植木君の生き方を……」
「やめてっ!」

耳をふさぎ顔を伏せ、森が叫ぶ。
一瞬、キンブリーの顔に笑みが浮かんだ。

「死者であるうちは、彼は喜びも悲しみもしない。ですが、彼の生き方は残る。
 自分が殺してしまった人間の死から目を逸らしてはいけない。向かい合いなさい。
 彼の生き方を否定しないつもりなら、貴女も『誰かの為』に生きねばならないのでは?」

頭を抱え、見た目どおり少女は悩む。

340Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:24:25 ID:9Jfx9i7w0

「……私に、できることなんてあるんですか」
「あります。貴女のような人が私と行動してくれれば、私が優勝を狙っていると思う輩は少ないでしょう。
 少なくとも、攻撃を躊躇させることが出来る。交渉などの際にも、相手を欺きやすい」
「そんな!そんなの卑怯じゃないですか!」
「あるいは、はっきり申し上げてしまえば貴女を盾にだって出来る。これは出来れば避けたいですが……」
「ひどい……!」

思わず顔を挙げ、大声を出してしまう。

「確かに、卑劣かもしれません。ですが卑劣な真似も辞さない覚悟がなければ、確実な優勝などありえないでしょう。
 私は全員が幸せに終わるためならば、卑怯者の汚名でも喜んで受け入れましょう」

全員の幸せの為……
口の中で呟き、またしても俯いてしまう。

思い起こされるのは、とある少年が必死で戦ってきた日々。
自分よりも誰かを優先し、感謝されなくとも、褒められなくとも……
誰かの幸せの為に本気で怒り、必死で戦った少年の面影。
それを誰より側で見つめ続けた、おせっかいな少女の人生。

やがて、少女はゆっくりと顔を挙げた。
その顔は先ほどの頼りなさが消え、思いつめたものとなっていた。

「……わかり、ました。私も協力します。でも、約束してください。
 みんなを救うって……その為なら、私も一緒に……卑怯者になります」
「誓いましょう。必ず優勝し、『みんなの為に』尽力することを」

キンブリーが手を差し出す。
迷った末に、顔をしかめたまま森はその手を握り返した。
キンブリーが反対の手を伸ばし、森の手首の当たりで合わせる。
パリッ、という音と光が発生し、気がつくとキンブリーがつけていた腕輪が森の手首に移動していた。

「これは……」
「同盟の証、といった所です。心が揺らいだ時、眺めてみてください」

そうですか、とだけ呟き、森はその腕輪を撫でた。

「理解していただけて、とても嬉しいです。では私は外の同行者に事情を説明してきます。
 あなたはここで待っていてください。もう一度気持ちを落ち着かせたほうがいい」

そう言って紅茶を注ぐと、キンブリーは部屋を後にした。

★   ★   ★   ★   ★

341Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:25:39 ID:9Jfx9i7w0
☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「とまぁ、こんな感じ」

自己紹介と現状の報告を終え、ヴァッシュが立ち上がる。

「そこで、僕にも君の名前と事情を話してもらえると嬉しいんだけど」

少年の前に移動し、語りかける。少年は少し悩み、口を開いた。

「えっと、とりあえず助けてくれてありがとう」
「いやー、ぶっちゃけまだ助けられてないけどね」

いきなり敵意満点で返されることも覚悟していただけに、少年の言葉は嬉しかった。

「俺は植木耕助。ちょっと事情があって、友達の森って奴を追いかけてたんだけど……
 アイツ、川に落ちたみたいで……そうだ、森を追わなきゃ……」

言い終える前に無理やり立ち上がろうとし、ふらつく植木。ヴァッシュがゆっくりとそれを制する。

「今はやめといた方がいい。詳しくはわからないけどその血、何かあったんだろう? そういう時は焦らない方がいい」
「でもっ!俺のせいでアイツは……」

なおも立ち上がろうとする少年を、今度は力ずくで制す。

「ダメだ!君のその優しさは素晴らしいと思う。でもそれで君が倒れたら、誰も救えない!」
「……ちきしょう。結局俺は、弱いままじゃないか……あれから、少しは強くなれたと思ってたのに……!
 肝心な時に、何にも出来ない……!」

拳を血が出んばかりに握り締め、植木は歯噛みする。

「そんな事はないよ。君がこうしてその子を追ってきたから、僕たちは君に会えた。そして、その子の事を聞けたんだ。
 僕たちも協力する。みんなで探せば、きっとすぐ見つかるさ!だから今は休んだ方がいい。それに……」
「それに?」

ふ、っと夜空を見上げるヴァッシュ。

「どうやらそろそろ、趣味の悪い番組のスタートみたいだぜ」

342Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:26:02 ID:9Jfx9i7w0

【H‐7/森の中の川辺/一日目 早朝(放送直前)】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(6/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:放送を聞く
2:植木君と情報交換。銀さんたちを待ち、合流後は植木君のお手伝い(予定)
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:ちょぉーっとロビンちゃんが心配

[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:極めて重度の貧血、カナズチ化 、首に大ダメージ
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1、青雲剣
[思考・備考]
基本:佐野やハイジ達の仲間と共にこの戦いを止める。
1:放送を聞く
2:ヴァッシュと話す
3:森を追いかける。
4:血が足りねぇ。
5:森と話が合わない、何でだ?
6:モップが欲しい。

※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

343Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:27:09 ID:9Jfx9i7w0
★   ★   ★   ★   ★

「やぁ、うまくやったもんだね」
「人聞きの悪い言い方はやめて下さい。私はほとんど嘘は言っていません。
 実際に優勝したら、働き次第では彼女の願いを叶えてあげてもいい。出来るかどうかは別としてね」

やれやれ、といった動作を見せる趙公明。

もちろん、放送は終わるどころか始まってすらいない。
植木が死んだかどうかなんてまだわからなかった。
ただ彼女を引き込むのに都合がよかったので利用させてもらったのだ。
防音の地下室に彼女を追いやったのは、放送を聞かせない為だ。

「後の放送で彼が呼ばれて、彼女が気がついたらどうする?」
「その時には、もう彼女は引き返せませんよ。念のため保険もかけておきました」

キンブリーが腕の辺りを撫でる。

「むしろ、私はその少年と会ってみたいくらいです。
 さすがに直接接触させるのはマズイですが……意志を貫き通す人間は好きでしてね。
 むしろ意外なのは貴方だ。止めないのですか?」

キンブリーの問いに、趙公明は笑顔のまま答えた。

「さっき君が言ったとおりさ。全てが嘘なわけじゃない。嘘から出た真、ってしってるかい?
 それに、僕は君との戦いも楽しみだしね」
「なら、なぜ今仕掛けてこないんです……?」

その言葉を合図とし、二人の間にかつてない緊張が走る。
ピリピリとした空気が、その場にいるものに突き刺さるようだった。
だが、すぐに表情どおりの雰囲気となった趙公明が言葉を続ける。

「君のようなタイプは、じっくり準備をして、確実に美しく勝てると判断した時が、一番強い。
 僕はそんな万全の準備が出来た君と戦いたいのさ。君が勝てると思ったら、いつでも僕に決闘を申し込みたまえ!
 その為には、彼女も必要だろう?ヴァッシュ君とは別の意味で楽しみじゃないか!」
「……余裕、とは思いませんよ。まったく、やはり貴方は度し難い人だ」

344Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:27:33 ID:9Jfx9i7w0

彼らは図書館を出て、話しながら少し歩く。始まるであろう放送をしっかりと聞く為だ。
付近の市街地の一部は、先ほど彼らが訪れた時と同様、ひどく荒れていた。
何者かが戦闘をおこなったとみて間違いないだろう。
その凄まじさは、戦った両者の実力の高さを感じさせる。

「楽しみだね……誰かは知らないが、早くこんな戦いがしたいものだ」

その光景を見て、心から嬉しそうに趙公明が呟く。
強者と強者が命を削りあい、ぶつけ合った美しき舞台。彼にはこの光景がそう見えているのだろう。
自分も早くその舞台に上がりたい。これから訪れる楽しみが、待ち遠しくて堪らない。
そんな気持ちのこもった、美しくありながら歪んだ、笑顔だった。

そして、もう1人の異端者もまた、同じ感情を抱いていた。
しかしそれはこの荒れ果てた光景に対してではない。
先程会話を交わした、実に前途有望な役者(じっけんざいりょう)の少女。

『火種』なんて、人間なら誰でも心に持っている。
それが燃え上がるには、『境遇』という燃料がよく燃える物であること。
彼女を見つけた状況と表情、時々漏れ出る寝言……全てが彼女の『境遇』の可燃性の高さを物語っていた。

自分は少し、風を送り込んであげただけ。
火種は自然と燃え上がり、それは素敵な『爆発』を引き起こしてくれるだろう。
自分の愛するものとはまた別の、だが同じように魅力的な『狂気』という、爆発。
想像するだけで、笑みが浮かんでくる。

「そろそろ放送のようだね!」

その笑顔を言葉にするには……

「えぇ、まったく……楽しみです」


 『歪み』ですら、生ぬるい。

345Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:28:24 ID:9Jfx9i7w0


【H-08/図書館/1日目 早朝】
【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指す(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2 小説数冊、錬金術関連の本
   学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいを利用して他の参加者を欺く
5:参加者に「火種」を仕込みたい
6:入手した本から「知識」を仕入れる
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。

【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大) 精神的疲労(大)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:とりあえずキンブリーに同行。
2:彼が約束を破らないか心配。
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました
※キンブリーの話をどこまで信じているかはわかりません



【悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑ほか】
 図書館に収められていた本。それぞれの能力種類と、詳しい説明が載っている。
 ただし、各能力の説明が書かれているだけであり、共通ルールのようなものは記されていない。
 (悪魔の実「泳げない呪い」宝貝「体力消耗」未来日記「破壊=持ち主の消滅ルール」
  職能力「道具紋と効果紋」など)

346Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:10 ID:9Jfx9i7w0
○   ○   ○   ○   ○

「銀さーん!まだですかー!」

デパートのとある階に、冴英のあきれかえった声が響く。

「ちょっと待て……さっき飲んだイチゴ牛乳……多分あれがダメだったんだ……」

声はとある部屋の、とある個室の、とある便座の上から聞こえる。
銀時は今、トイレの中で苦しんでいるのであった。

「もう!せっかく役に立ちそうなもの、見つけたのに……」

冴英たちはデパート内を捜索し、まず念のため医務室によった。
そこはロビンが探索済みのはずだが、見落としがあるかもしれない。
そして案の定、なんとも都合よく輸血パックを見つけたのである。
そもそもデパートの医務室に輸血用血液なんてあるのか、と驚いたが、今はありがたく使わせてもらおう。
彼の血液型がわからなかったので全てバッグに入れたが、不思議なことに鞄が一杯になる気配はなかった。
これなら食料もたくさん入るだろう。何が貧血に聞くのかはさっぱりわからないが。
そこまでは順調だった。しかし……

「その後、調子に乗って冷たいほうじ茶をがぶ飲みしたのも悪かったんじゃないんですかー?」
「そーかもしれん」

売り場の飲み物を拝借しいろいろと飲んでいた銀時が、突如腹痛を訴え、トイレに駆け込んだ。
それからずっとこんな調子である。

はぁ、とため息をつき、冴英はその場にしゃがみこんだ。
さっき会った二人組のことを思い出す。
女性のほうは少し怖い雰囲気だったが悪い人ではなさそうだった。
何よりヴァッシュさんはとてつもなくいい人だった。お人好し過ぎるほど。
一瞬、ここが殺し合いの場であることを忘れそうになった。
倒れていた男の子も、自分より年下に見えが、悪人とは思えなかった。

ふと、真っ暗な売り場に何かが転がっているのを見つける。

「!!」

それは首だった。

ただし、マネキンの。

驚きがすぐに安堵に変わる。
だがそこで急に、自分が今おかれている状況を思い出し、怖くなった。
こうしてのん気にしている間にも、死は自分に襲い掛かってくるかもしれないのだ。
いつ自分が、あのマネキンのような状態になるかもわからない。
ガクガクと体全体が震えだす。グッと拳を握り、歯を食いしばり、耐えようとする。

だが、怖い。
1人になると、どうしようもなく恐怖が襲ってくる。
自分はここで死ぬんじゃないか、大切な友達に、会えなくなるんじゃないか。
怖い、怖い、怖い……
全身が制御を離れガクガクと震え、止まらなくなっていく。
抱え込んだ両膝を更に強く抱きしめ、小さく体を丸める。
転がったマネキンの首が、光のない目でこちらをじっと見つめている気がした。
まるで、自分をそちら側に引き寄せようとするように……

347Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:37 ID:9Jfx9i7w0

ぽんっ

ふと頭にのせられる、暖かい掌。

「夜の建物ってこえーよな。ぜってー出るって」

相変わらずやる気のない目で周囲を見渡す男の姿が目に入る。
だがその細くおろされたまぶたの向こうには、確かな煌き。
優しい瞳が、少女を見下ろしてくれた。

「おでれーたぜ、トイレットペーパーがなくてよ、また千円の出番かとヒヤヒヤしちまった。
 ここは優秀だな、ちゃんと予備があったけど」
「……ちゃんと手、洗いましたか?」

全身の震えが止まる。
彼は何を言うでもなく、するでもなく、側に立ってくれた。

そっか。
自分の側には、頼れる人がちゃんと居てくれているんだ。
どうなるかなんてまだわからないけど……

今はこの出会いに感謝しよう。
願わくは……大切な友人達にも良い出会いがありますように……

「さて、と。夜も終わりみてーだな。スッキリしたところで、悪趣味な放送とやらを聞くとするか」


【I‐7/デパート/一日目 早朝(放送直前)】
【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:健康
[装備]:九竜神火罩
[道具]:支給品一式 、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲
輸血用血液パック
[思考・備考]
1:銀さんと協力して、ヒロを見つけたい。
2:いるかどうかわからないけど、後輩たちがいたら保護したい。
3:貧血に効きそうな?食料を探す
4:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る
5:銀さんが気になる?
6:宝貝?仙人?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れたい



【坂田銀時@銀魂】
[状態]:ちょっと腹痛
[装備]:和道一文字
[道具]:支給品一式 、大量のエロ本、太乙万能義手
[思考・備考]
1:沙英を守りながら、ヒロを探すのを手伝う
2:ヒロを見つけたら、二人を守る
3:ヴァッシュ達と合流する

348Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:58 ID:9Jfx9i7w0

●   ●   ●   ●   ●

森を抜け、ロビンは市街地に足を踏み入れていた。

(やはり、私たちとは違う文化……古代ではないわね。なら未来か、あるいは……)

ヴァッシュや銀時たちとの情報交換で明らかになった、世界観の相違。
その差は笑って無視できるような小さなものではない。
学者としての好奇心も刺激されたが、なによりこの殺し合いからの脱出のヒントになりえると確信していた。

(最初の説明で、あの少女に話しかけていた1stという男の子……
 あるいは道化と話していた、『スース』と呼ばれていた男……この辺りとの接触は必須ね)

顔見知りであること、それすなわち、同一の世界から来たと見て良いだろう。
彼らと接触できれば、少しは主催者の背景を知ることが出来る。

(狩人さんといい、あのお侍さんといい……腕が立ち、頭のきれる真っ当な人もいる。
 もしかしたら、脱出も容易なのかもしれないわね……)

あるいは自分を闇から引き上げてくれた、彼らのように。
何に変えても守りたい、彼らのように。

少しだけ笑みを浮かべ、ロビンは足を止める。
時間だ。
噂の主催者様の、最初の放送……

「さぞ悪趣味な放送なんでしょうね」

【H‐7/市街地と森の境/一日目 早朝(放送直前)】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ダーツ(10/10)@未来日記、んまい棒(サラミ×2、コーンポタージュ×2)@銀魂
   双眼鏡、医薬品、食料、着替え、タオル、毛布、包丁
[思考]
基本:麦わら海賊団の仲間が会場にいた場合、何を犠牲にしても生還させる
1:放送を聞き、今後の方針を決定
2:更に情報収集。主に主催者について。特にそれぞれが居た世界の違いを考察する
3:可能なら、能力の制限を解除したい
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。



こうして彼らの夜は明ける。そこには無数のしがらみがあるが……

夜明けを待つだけの今日が遮るなら、新しい明日を生きればいい。

349代理:2009/08/02(日) 01:33:09 ID:2yxtINz20
俺もさるさんです
誰か代わりに投下お願いします

350Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:33:30 ID:9Jfx9i7w0
以上で投下終了です。
人数使って長いくせに内容が繋ぎ程度で申し訳ないです。
代理をしてくださってる方、支援してくださってる方、ありがとうございます。

wiki収録の際には、わかりやすいようにタイトルで分けたほうがいいでしょうかね。

351名無しさん:2009/08/02(日) 01:39:47 ID:2yxtINz20
分けた方がいいかもね

352 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:44:54 ID:9Jfx9i7w0
ゴール間際で再びさる……
たびたびすみません、どなたかお願いします。
代理してくれた方、助かりました、ありがとうございます。

353>>519修正 ◆28/Oz5n03M:2009/08/08(土) 02:17:10 ID:hGX11kGk0
「やーめーてー!殺されるー!殺されるー!」
「だーかーらー!殺さないって言ってるだろうが!」

本日二回目のやり取りである。
もうホントついてねぇよ。殺さないって言っても、全然聞きやしねーし。

「はーなーせー!」
「落ち着けって!!殺さねぇから!ほら!何も持ってねえだろ?
な?殺さねぇってわかっただろ?」

とりあえず、怖がられるから拳銃はデイパックに戻しておいた。もちろん俺のにな。

「でも、そんな変な色の髪の…「これは地毛だ!」うう…」

失礼な奴だな。たかが髪の色が変なぐらいで。
はぁ…。しかし、やっと黙った。こいつを見捨てずによくやったよ、俺。

「とりあえず、自己紹介からだ。俺は浅月香介。お前は?」
「……宮子……」

うん、知らない名前だ、って当然か。この殺し合いの場に来て始めて会ったんだしな。

「ねぇ…」
「ああ?」
「これって夢なんでしょ?」
「はぁ?」
「いや、だから夢なんでしょ?そうだよね、人の首が飛ぶなんてあるわけないもんね」

まさか、殺し合いのこと理解してない?どんだけバカなんだよこいつ!
頭のネジ抜けてんじゃねーのか!
だが、どうする?
こいつにこの場は殺し合いで生き残るのは一人だけなんですよーって教えるべきか?
教えたらまた暴れるんじゃないか?
でもここで教えなかったらさらに厄介なことに…。
ああ、もうメンドクセー!

「おい…」
「なに?」
「いいか、よく聞け。これは夢でも何でもない。本物の殺し合いだ。
一人しか生き残ることのできないデスゲームだ」
「またまた〜、そんなわけ「嘘じゃねえ!」…え?」

354状態表修正 ◆28/Oz5n03M:2009/08/08(土) 02:18:58 ID:hGX11kGk0
【F-4/森/一日目黎明】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(小)
【装備】
【所持品】支給品一式 レガートの拳銃@トライガン・マキシマム、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく! 
     メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:宮子といっしょに学校に向かう
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

355放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:02:38 ID:.zfe5Zcg0
朝の日差しは眩しく、雲間から漏れるレンブラント光が目を射抜く。
暖かさを感じさせながらも鋭く地表を貫くその光がもたらすのは釣りやハイキングにもってこいのいい天気。
今日は、洗濯物がさぞやよく乾くだろう。

風、というものは、海と陸それぞれの上に漂う空気の密度差――即ち温度差によって生じる。
昼は陸がより熱されるが故に海から潮の香りを届けられ、夜は海が熱を保つ故に陸から木々の匂いを渡す。
互いに行きかう二つの風は、昼と夜の境目にその役目を交代するのだ。
人はそれを凪と呼ぶ。
風が沈黙し、心乱す何事も起こるはずのない安息地。

今の時間は、まさしく朝凪。
たとえどれ程憎みあう間柄とて、振りかざした武器を下ろす事が約束される時。
……然して。
さわやかな朝を台無しにするかのような、重苦しい雰囲気の女の声が響き渡る。
マイク特有の雑音とともに、放送は皆に等しく現実を突きつける。

この時間はまさしく凪でしかなく、この終わりとともに誰彼かまわず暴風に身を曝すことになるのだと。

――正確には、放送に入る際にリストの"孤独の中の神の祝福"という曲が前置きとして流れてはいた。
しかし大抵、人の記憶とは後から耳にしたものの方が強く強く残り、偉大なる先人の記憶はすぐに薄れ行く。
そこに意味を見出すものを覗くならば、殆どの子羊たちにはお茶にごしにすらなりはすまい。


『……第一回の放送を始めるわ。
 新たなる神にいいように踊らされていて気に食わないでしょうけど、我慢して聞いて頂戴。
 運命の螺旋に屈するのも立ち向かうのも、あなた達それぞれの意思ひとつ。
 掴めるものは、私たちのような存在だって利用しなさい』

話者の女は、そこで一旦言葉を区切る。
何かを誰かに伝えたがるかのように、今の言葉を吟味させるように。

『まず、配られていた白紙の名簿を見なさい。参加者全員の名前が読み取れるはずよ。
 知っている人の名前が少ない事を祈るわ。
 ……そして、そこから更に名前は削れるの。悲しんでも進み続ける覚悟はできている?
 今回の死亡者は、……以下の通り。

 
 眼を背けず、現実を直視して。
 そしてその先も見据えなさい、自分と近しい人たちが生き残る為にどうすればいいのか。
 進入禁止エリアを指定するわ。
 指定した時刻になるまで猶予があるから、そのエリア近辺にいる人は時間に注意して離脱しなさい。
 どういう意図でそこが封鎖されるのか、それも一つの手がかりよ。

356放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:03:38 ID:.zfe5Zcg0
 7:30よりI-6。
 9:00よりF-7。
 10:30よりB-4。 

 以上よ』

放送席にいた女性は、それだけ告げると再度沈黙した。
――だが、まだ放送のスイッチ入れられたまま。
まるで何かを試し、様子を伺っているかのように。

すう、はあ、と、何度も呼吸を繰り返す音だけが増幅され、皆に届けられる。

静寂は続く。
一分だろうか、二分だろうか。
それとも、もっとずっと多くの時間だろうか。

いずれにせよ、10分はかかっていないだろう。
そして唐突に、怒鳴りつけるような声が島中へ轟いていく。


『……ッ! こんな事言っても、連中に組してる私の言うことは信じられないかもしれない。
 でも、聞きなさい! そして生き延びるために考えなさい!
 死ぬな! みんな、生き残れ!
 真実を告げるわよ、この殺し合いは、このゲームは、新たなる神なんて名乗るヤツの――、」


たぁん、という軽いくせにやけによく響く音が、マイクを通じて届く。


そして、それきりだった。
ぶつり、という耳障りなノイズを残して、急に放送が途切れて終わる。


後には木の葉を散らして風が吹き渡るばかり。
凪は、終わりを告げたのだ。



********************



銀の髪を持つ少年が、放送室に立っていた。
肩を壁に預けて、放送席に座った女性に向かい静かに言葉を紡いでいる。

抑揚の少ない台詞の中、女性は少年の方すら向かず、静寂を守っていた。
ただじっと、座り続けていた。


「……どうしてこんなつまらない反逆を試みたのか、俺は知らないし、知るつもりもない。
 ただ、これだけは言える。
 もはや、動き出したドミノの牌を止める術はない。
 結局、俺たちは二重螺旋の運命に縛られた駒でしかなく――、お前の行動も、全て予定調和だったようだ」

357放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:04:36 ID:.zfe5Zcg0
「語るのー、詩人じゃのー」

全くの、不意。
ついさっきまでそこにいなかったはずの、在り得ない存在の声。
しかしそれすら驚くに値しない。
思った通りとばかりに背後からの声に少年が振り向くと、年端も行かない童女がニヤニヤとトウモロコシを加えてコチラを眺めていた。

「どういう心変わりなんじゃろうな、お前さんは連中の中ではこういう立場とは一番縁遠いと思っとったのにの。
 今更我らに身を委ねた、というのもしっくりこないぞ?」

「…………」

「ま、別にええの。お前さんが語った通り、新しい“神”にとっちゃ全て予定通りなんじゃろうしな。
 我々がルールを決め、あの道化師どもが遊戯盤を用意し、そしてお前たちは――、」

「ムルムル」

分かっているとばかりにムルムル――ソロモン72柱の悪魔が公爵の名を持つ童女を睨みつけた少年、アイズ・ラザフォードは踵を返す。
嘲笑うその目つきから逃れるようにちらりと背後を見れば、そこには彼が兄と呼んだ少年、死んだはずの少年がモニターに映し出されている。

「……運命はもはや、生と死すら弄ぶのか」

言葉には何の感情もこめられていなくて、だからこそアイズがどんな気持ちを抱いているのかはあまりに分厚いカーテンの向こう側に隠されたままだ。

「お前が生きてここにいるのは――、」

その呟きと同時に、放送席に座っていた女性がずるりと崩れ落ちる。
彼女の頭蓋の真ん中には、ちょうど真ん丸な穴が前から後ろまで貫通していた。

アイズは手に持った拳銃を収めるべきところに収め、言いかけていた言葉を飲み込み別の台詞を形作る。

「さようならだ、ツチヤキリエ」



じくじくと人の運命を飲み込んで、血の池は静かに広がりつつあった。



【土屋キリエ@スパイラル〜推理の絆〜 死亡】

358 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:38:02 ID:mF0FEiXk0

生い茂った暗い夜の森の中を一組の男女が歩く。
枯れ葉や枯れ枝を踏みしめる音が暗闇の中で意外なほど響いた。
しかし二人ともそれには気に掛けずに先に進む。
そして森の中で、男女の二人組が会話しながら歩いていた。

「そしたらヒロさんったら凄い剣幕で怒るんだよ。こっちから見たらちょっと大人げないと思うのよ」
「おい、さすがの俺もひとんちの体重計に細工とかどうかと思うぞ」
「でもヒロさんは気にしすぎなんだよ。ほら、女は少し太ってた方が抱き心地がいいって言うし」
「いや、そんなこと男の俺に言ってどうするんだよ……」

適当に相槌を打ちつつ、浅月は内心、嘆いていた。
宮子を担ぎながら起こさないように歩く手間が省けたまではよかったがここまでお喋りだとは思わなかった。
念の為に彼女の知り合いが参加してる可能性もあったのでそれを聞こうと水を向けたまではよかったが
そこからマシンガンのように喋る喋る。
やまぶき高校の美術科に所属してること、ゆのっちと言う渾名のゆのという少女のこと、沙英やヒロという先輩のこと。
高校の担任の先生のこと、彼女らが住んでるアパートの大家さんのこと。
ただ容姿や性格など重要な点だけを言ってくれるならともかく普段の付き合いから些細なことまで延々と喋る喋る。

(あー何で俺、こんな時にここまで女のお喋りに付き合ってるんだ?)

さすがにこの広い森で他の参加者にばったり会う可能性は低いだろうが0という訳ではない。
正直、怒鳴りつけてでも止めさそうかと何度も思わなくもなかった。
だが下手に刺激して怯えさせたり落ち込ませるのも得策ではない。
それに、何時また何かのはずみで恐怖で錯乱するかわからない。
この状況で一般人でしかない彼女をまたパニックになって暴れられたら厄介なことこの上ない。
それなら大声でなければ好きに喋らせてそちらに気を反らせてた方がまだマシだ。
そう割り切ってはいた。いたのだが……。
ハタから見れば女の子と二人切りなこの環境も、宮子のマシンガントークに付き合わされる浅月とってはこの上なくキツイ。

359 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:40:03 ID:mF0FEiXk0

(そりゃあ、亮子や理緒に何度も振り回されたけどよ、あいつらもここまで姦しくはなかったはずだ……多分)

――まったく、鳴海さんといいあなたといい、本当に女性の扱いが不慣れなんですねぇ。

(だからなんでお前が出てくるんだチクショウッ!)
脳内で思い浮かぶおさげの少女の茶化しに律儀に脳内で叫び返す。
どうして俺の周りには癖のある女ばっかり集まるんだ?
まあ、担いで歩くよりはだいぶマシだけどよ。

「しかしお前、意外と体力あるな。こんな森の中じゃ男だって歩くのに一苦労するだろうによ」
「へへん、こんな風に夜の森の中を歩くのひっさびさ♪」
「久々?」
「ちっさい頃に夜の山で山菜取りとかよくしたからね♪」
「……なあ、それって泥棒って言わねえか?」

こいつ、どんだけ野生児なんだよ?
それともこいつの田舎じゃ当たり前なのか?
まあ、おかげで遅れずに済みそうで助かるけどな。
この分なら、夜明け前には高校にたどり着けそうだ。

だが高校にたどり着いたと言ってそこで亮子に会えるとは限らない。
あくまでもそこなら会える可能性が高いというだけ。
或いは他の参加者に出会うかもしれない。それが殺し合いを否定してるのか殺し合いに乗ってるのかはともかくとして。
自分一人なら素手でも戦える自信があるし銃器も手に入れた。これなら大抵の相手なら身を守る自信がある。
だが今は宮子という一般人を抱えてる。本来なら人が一人や二人死のうが何とも思わないが守ると約束した手前もある。
浅月にはそれを反故にして彼女を見捨てる選択肢もあるがそれをしたいとは思わなかった。
人を殺すのには躊躇は無かったが彼女を見捨てるのは彼の僅かばかりのプライドが許さなかった

(それに万が一、後で亮子や九兵衛にばれたら最悪だからな)

360 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:41:04 ID:mF0FEiXk0


◆ ◆ ◆


「ところでさ、あさっちの言う知り合いって友達のこと?」
「はあ?あさっちって誰のことだよ?まさか俺のことじゃないだろうな?」
「あさっちはあさっちだよ。はい、今日から浅月くんはあさっちに決定!」
「……はぁ」

……マジで疲れる。
ぶっちゃけこんな風に女と喋るなんて俺のキャラじゃねえぞ。
それに人殺しの俺が一般人とお喋りなんてよ。

だけど。
いつの間にか浅月は胸の内が暖かくなっていたことに気づいた。
変なテンションでも、ぶっちゃけうざくても、相手がただの一般人でも何故か安心出来た。
いや、ただの一般人だからこそ安心出来たのかもしれない。足手まといになる可能性は今のところあるが
裏切られる可能性は低い。

(しかし普通、この状況で初対面の相手にここまで打ち解けられるか?まあ変に警戒されるよりマシだけどよ)

出会いは最悪でその後もごたごたしたが最初に出会ったのが宮子だったのは悪くなかったかもしれない。
これで亮子と鳴海歩、更に上手く物事が進んで理緒と合流して首輪を外す手掛かりが手に入ることが出来たのなら……

「あさっち〜 お〜い 聞いてるのか〜?」
「あ? ああ、俺の知り合いか」
「あさっちの知り合いもここにいると思ってるの?」
「ああ、声しか確認出来なかったがよ、確かにあれは亮子だった。間違いねえ」
「ふうん、亮子さんって言うんだ。ねえ、あさっち……やっぱり心配だよね?」
さっきのテンションと違って恐る恐ると尋ねてくる。

361 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:42:52 ID:mF0FEiXk0


「大丈夫だって、あいつは殺したって死なねえよ。女のくせに気が強くてよ。学校じゃ熊殺しだのなんだの言われてるし」
「へえ、すごいんだね。ところで名前からして女性なんだけど恋人?」
「ぶっ! おま、何言いやがるんだよ! あんな凶暴な女、恋人の訳ない!」
「あは、あさっちって女の子より弱いんだ」
「な、俺だってオオアリクイと戦って倒したことがあるんだぞ!」
「え、オオアリクイと? すごいすごい! その話、詳しく聴かせて〜」
「へ? あ、ああ、別にかまわないけどな……」
(それにしても、この話に喰い付いてきたのはこいつが初めてじゃないのか?)

口では心配してない風だが本当は亮子のことが心配で不安だった。
だがここで同行者へいたずらに不安を煽るようなことを言っても何の得もない。
今は早い段階で合流できると信じて足を速めるしかない。そう割り切るしかなかった。

だから、とりあえず西を目指すことにした。
大きな道や海岸線などに突き当たりさえすれば、大体の場所は分かるだろう。

木立ちの合間を縫うように二人は歩いた。
未だ太陽の光射さぬ森の中、漫才のような会話をしつつも確実に西に向かっていた。
浅月は内心では殺戮者の襲撃を気にしていたが幸いなことにそれらと出会うことはなかった。
時々、短い休憩を挟みながら歩くこと数時間、ようやく二人は深い暗闇の森を抜けた。
やっと森を抜けることが出来たので二人ともほっと一息つくことが出来た。
さすがの浅月も長時間の歩きにうんざりしてたので顔を緩ませた。
だが宮子に油断するなと釘を刺すまでは忘れなかった。
見晴らしが良くなった分、危険人物に見つかる可能性が高くなるからだ。
宮子もそれが理解出来たのか口数を減らし周りに注意を向けつつ学校を目指す。
もっともそれでもライフルのようなもので狙撃されたらひとたまりも無いがそこまで気にしていたら何もできない。
だから浅月はその時はその時と割り切って危険を承知しつつも先を急いだ。

362 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:44:42 ID:mF0FEiXk0

やがて大きな道にぶつかった。
地図や遠くに映る市街地から照らし合わせて学校の北に出たのだと把握する。
そこから道にそって学校へと向かう。
そしてとうとう目標だった高校が見えてきた。


「やっとたどり着いたね。でも夜の学校って怖くない?幽霊とか出そうだし……」
「幽霊ねえ……」

(おいおい、この状況で幽霊とかなに呑気なこと言ってるんだよ?まあ、確かに不気味だけどな)

問題は幽霊よりもここにいるかもしれない参加者と遭遇すること。この殺し合いに否定的な人間ならそれでいいがもし
ゲームに乗ってたらやっかいなことこの上ない。こっちはただの女の子を抱えてる。この状況で戦闘に
雪崩れ込むのは避けたい。

(こいつと一緒の方が信頼されやすいかもしれないが、ひとまずこいつをどこかに隠してから俺一人で
 探索した方がいいかもな。さて、何処がいいか……)
(ここでぼおっと立ってるのも危険だよな。一度、校内に入ってから何処か隠れる場所を見つけるか)

校内に入ってすぐの廊下の壁に学校の案内板があった。
各教室、職員室、校長室、音楽室、美術室、保管室、宿直室、体育館、工具室、プール、etc…
これで大体の場所はわかった。浅月はそれを頭に入れると……

「おお、美術室がある♪」
「お前なぁ、こんな時に何を、こら、一人で行くな」
「いやあ、つい体が勝手に動いちゃって」
「たく、勝手に……そうだな、美術室でもいいか。行くぞ」
「え、いいの?」
「ああ、俺はこれから一人で探索してくる。お前はそこで隠れてろ」
「え、でもあさっち一人だと危ないよ。もし殺し合いに乗った人に会ったらどうするの?」
「だから俺一人で行くのさ。こういうのは戦うにしても逃げるにしても俺一人の方が動きやすいし、
 それに探し物があるからな」
「探し物って何なの?」
「まあ、ちょっとな。とにかく行くぞ」
「あ、ちょっと待ってよ!」

階段を上り薄暗い廊下を歩くこと少し。用心しつつ歩く浅月の後ろを恐る恐るついていく宮子。

363 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:46:37 ID:mF0FEiXk0

窓から差し込む月明と僅かな非常灯の明かりを頼りに美術室へ向かう。
そして目的の部屋に辿り着きドアに手を伸ばし力を込める。
カギはかかってなかった。ゆっくりとドアを開ける。
壁には有名な画家の肖像画や長細い鏡、絵のモデル用の石像やキャンバスの山、筆に絵の具にクレパス、デッサン用の鉛筆や木炭
缶スプレー塗料に彫刻刀や粘土など。特に学校の美術室に普通にあるのもばかりで不審な物はなかった。
宮子は興味深そうに室内を見渡す。浅月も見渡したがやはり変わった物とかは特になかった。

「よし、それじゃあ、俺は学校内を調べてくるからお前はここに隠れてろよ」
「ねえ、あさっち、本当に一人で行くの?」
「ああ、その方が動きやすいからな。それとお前のデイパックと俺のデイパックを交換してくれ」
「え、何で交換するの?」
「俺のデイパックが支給品のせいで空きが少ないからな。必要になりそうな物も確保してくるから空きが
 大きいそっちと変えてくれ」
「なるほど。じゃ、いいよ」

364 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:47:36 ID:mF0FEiXk0

実は空きにかかわらずデイパックより大きな物体を大量に収納することは可能だったが二人とも支給された品が
普通にデイパックに収納出来るサイズの物ばかりだったので二人はデイパックの異常性に気がつかなかった。
こうしてデイパックを交換する二人。無論、浅月のデイパックに入れた拳銃は宮子のデイパックに入れ直す。
それなら中の荷物を交換すればいいだけの話だがそれはしたくなかった。

(こいつならこんなフィギュアやこんなひらひらな服を俺が持ってるのをからかうだろうからな)

「いいか、俺が帰って来るまでここで待ってるんだぞ。下手にうろついて逸れたりしたらシャレにならないしな」
「わかった。気をつけてね、あさっち」
「ああ、それじゃあ行ってくる」

美術室から出てドアを閉めて宮子の視界から外れるとデイパックから拳銃を取り出す。
さて、せっかく学校に来たんだ。他の参加者を探すだけでなく必要な物資を確保しておいた方がいいだろう。
まずは理科室
理緒なら理科室にある薬品で爆薬の一つや二つぐらい作れるだろう。
浅月本人は爆弾を作ったことは無いが理緒といた時に火薬作成にはどんな薬品が必要なのかある程度は知っている。
理緒と合流した時の為に確保しておいた方がいい。
無論そう上手く行くかどうかわからないが確保してて損はないだろう。
次に保健室
医療品を確保しておくのも得策だろう。

(とりあえず必要な物を確保できるだけ確保しておいた方がいいな。何時必要になるかわからないし。
 まず、ここから近い方から先に行くか)

地平線から太陽が姿を現し始め、朝日の光が窓から射し始める。
少しだけそちらに興味を向ける。

(そういえばこんな風に朝日を見るなんて久しぶりだな)
しばし朝日を眺めいたがやがて浅月はしばし目を閉じると深呼吸する。
そして目を開くともう朝日には目を向けず目標の物資のある部屋を目指した。
生きて自分や亮子や他のみんなと共にこのゲームから脱出する為に。

365 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:48:10 ID:mF0FEiXk0



◆ ◆ ◆


あさっちが行っちゃった…
やっぱり一緒に行った方がよかったかな?
でも足手まといになるのは嫌だし…
…あさっち、さっきはあんなこと言ってたけど亮子さんのことが心配なんだよね…
だって心配そうな顔してたし、それにやっぱりゆのっち達もここにいるのかなぁ…
…暗いことばっかり考えてちゃ駄目だ…
そうだ、ヒロさんと沙英さんとゆのっち、それにあさっちや亮子さんとも一緒に落書きすることを考えよう。
道具とかいっぱいあるし。
うん、少しぐらい貰ったっていいよね。


よし、これだけあれば色々出来るな。
それにしてもこれってけっこう物が入るんだ。
あれ?何だろうこれ?
なにか布みたいな……うわ、なんだこの服は。
あはは、あさっちたらこんな服、持ってたんだ。
…どうしよう、この服かわいいな…
…着てみたいな…

いいよね、着ちゃっても。
あさっちも居ないし着替えるなら今のうち……

366 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:48:37 ID:mF0FEiXk0

【G-2/中・高等学校・廊下/1日目 早朝】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、
【装備】 レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
【所持品】支給品一式、不明支給品1(武器ではありません)
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:必要な物資を確保しつつ他の参加者を探す
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後
※宮子から「ひだまりスケッチ」関係の情報を得ました。
 参加者ではゆの、沙英、ヒロについて詳しく聞いています。
※中・高等学校の大体の見取り図を把握しました


【G-2/中・高等学校・美術室/1日目 早朝】
【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、精神的疲労(小)
【装備】なし
【所持品】支給品一式、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!、メイドリーナのフィギュア@魔王 
     JUVENILE REMIX、 筆と絵の具一式多数、クレパス一式多数、スケッチブック多数
     デッサン用の鉛筆や木炭多数、缶スプレー塗料数種類多数、彫刻刀一式多数、粘土多数
キャンバス多数
【思考】
基本: 殺し合いには乗らない
1:この服(ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!)を着てみる
2:ゆのっち達いるかなぁ…
3:みんなで落書きしたいなぁ…
※殺し合いについて理解しました。
※浅月から亮子について詳しく聞いています。
 鳴滝歩や他の知り合いまで知ってるかどうかは次の書き手に任せます。
※デイパックの性質に気づいたかどうかは次の書き手に任せます。

367 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:49:25 ID:mF0FEiXk0
矛盾点があるかもしれないのでまずこちらに投下します

368修正版 ◆JvezCBil8U:2009/09/11(金) 21:55:16 ID:FY7jOmbA0
朝焼けももうじき終わり、立ち込める霧も霞んでゆく。
夜は明けた。
――周りには、誰一人とていない。
自分と彼の二人だけ。
ここには、自分たちだけしかいないのだ。

ふう……、と、一息つく。
背負ってきた愛しい愛しいひとをしずかにゆっくりとその場に下ろし、
眠れる王子を起こさぬよう慈しみをもって自分の膝の上に頭を落ち着かせる。

「……ユッキーに膝枕してる。
 ユッキーに膝枕っ♪ ユッキーに膝枕っ♪
 えへへ……」

口元から漏れる笑いを隠す事などなく、安心しきった彼の寝顔を見てニヤニヤする。
こんなに自分を頼りにしてくれて、本当にうれしい。
ぽう、と頬を染めて呟く。

「ユッキー……、大好きだよ」

そして、ごめんね、といたずらっぽく呟く。
ほんとうはただ寝るなら保健室のベッドにでも寝かせてあげるべきなんだけど、
ちょっとだけ役得を楽しみたい。
それに、自分が近くにいた方が安全なんだからこのくらいいいよね、と自己弁護。

くんくんと鼻を利かせる。
大丈夫、誰も近づいてきていない。
もしかしたらさっきまでこの校舎にも人間がいた可能性はあるが、とりあえず今は誰もいないのは確かだ。

……眠った雪輝を背中におんぶしながら歩いてみると、合流したすぐ近くに都合のいい建物が2つ。
中学校と高校、それぞれの校舎だ。
最初は他人の臭いを嗅ぎ分けたから、この学校に落ち着くのはやめようと思った。
特に高校校舎からはよく臭う。
それが残り香なのか現在進行形で誰かいるのかは分からなかったが、そんな所に入り込むのは御免だった。
だけど背中の“恋人”を休ませてあげたかったから、とりあえずは妥協。
それに、放送まであと十数分。
下手に動き回るよりは落ち着いて聞いておきたいところだ。
特に、あのミズシロとかいう胡散臭い人間がどこまで信頼に値するか、名簿を見て確認しておきたい。
なあに、いざという事があれば自分が排除すればいい。

――携帯電話を開く。
やはり、放送について特筆すべき未来は記されていない。
雪輝がぐっすり眠り込んでいるからだろう、ひたすらに雪輝の寝顔の観察日記と化している。
雪輝日記の特性上自分自身が厄介ごとに巻き込めれる可能性こそあれ、雪輝が自然な目覚めを得るまで眠り続けるのは確定事項だ。
今ここで雪輝を起こせば雪輝の放送に対する反応も分かるのだろうが、そんな酷いことはしない。
放送内容や名簿とかいう他人の生死に関わる情報なんかより、雪輝の一分一秒の惰眠の方がずっとずっと価値がある。
ううん、比べる事すらおこがましいというものだ。

それに今ここにあるのは雪輝日記。
これが無差別日記なら誰が参加していて誰が死んでいるのか全部把握できるのだろうけど、自分の未来日記にはそんな機能はない。
……やはり、無差別日記を出来る限り早めに取り戻しておきたい。

とはいえ、雪輝との合流時にミズシロたちの事を話したら、必ず自分に電話を代わって欲しいと言われてしまった。
だとするなら、選択肢は雪輝が起きたその後に連絡を入れる事しかない。
雪輝の意志を踏み躙る事なんて、考え付きもしない。
だって雪輝は自分の事を探し回って疲れたからこそ、これまでの経緯を話し合っている最中にうつらうつらとし始めてしまったのだから。

とりあえず、雪輝日記の記述を見る限りはしばらくの雪輝の生存は保障されている。
ミズシロたちは少なくとも無差別日記を破壊するなんてヘマはやらかさないようだ。

369修正版 ◆JvezCBil8U:2009/09/11(金) 21:57:25 ID:FY7jOmbA0
放送後しばらくまでは、雪輝は眠っている。
今はただ、彼といるこの時を堪能しよう。

「ん……、むっ、ちゅ、んん……。ふぁ、んちゅ、んぁ。
 ユッキー、ゆっきぃ……」


我妻由乃は僅かに体を折り曲げ、そうっと雪輝の唇に自分の唇を重ねるのだった――――。


【H-3/中・高等学校中学校舎1F教室/1日目/早朝(放送直前)】

【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康、睡眠中
 [装備]:違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
 [道具]:支給品一式x2、不明支給品×2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  0:ZZZ……。
  1:由乃の制御。
  2:拡声器を使った高町亮子が気になる。
  3:咲夜の生死が気になる
  4:由乃の代わりにミズシロ達に連絡を入れたい。
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。
  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。
  ※雪輝日記によると、放送後もしばらくの間は眠り続けるようです。


【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾75%・75%、100%・100%)@トライガン・マキシマム、雪輝日記@未来日記
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  0:ユッキーの寝顔を堪能しながら体力回復に努める。
  1:ユッキーが起きたら無差別日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  5:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
  6:ユッキーを寝かせてあげるため、邪魔者は即排除(雪輝の睡眠を相手の命より優先、逃げるなら追わない)
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。

370 ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:41:18 ID:FY7jOmbA0
あー……、やっぱり引っかかりましたね。
支援してくださった方、ありがとうございます。
とりあえず続きをこちらに。

371銀の意志Ⅱ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:41:43 ID:FY7jOmbA0
それは、自分が本当に鳴海歩だという真実だ。

「了解だ。少し長くなるし、到底信じられないかもしれないが、いいか?」

切れるカードを失ったとはいえ、これは相手から十全の信頼を得る機会でもある。
鳴海歩だからこそ、言える言葉。

相手に語るのはブレード・チルドレンの概要と、ヤイバと清隆の所業。
そして自分と火澄の対応関係について。
これならば個人の持つスキルなどを洩らす事はなく、情報流出によるリスクは非常に低い。

話しても痛くない情報を話す事で信頼を勝ち取れるのだから、利用しない手はない。

『え? え、ええ……。
 あなたが歩さんだと確信できれば、それでいい訳ですからね』

淀みない返答に、秋瀬或は戸惑いを隠しきれていない。
いくらこの相手でも、こちらが本当に歩だったとは想定外だったのだろう。
情報の信頼性を高める為、わざわざフルネームで名乗り直す事にする。

「そういや、自己紹介がまだだったな。鳴海歩だ。
 ……いくつかの名前を使い分けてるから、あのユノって子にはミズシロ・ヤイバと名乗ったけどな」

ユノが或に追求しても余計な疑惑を得ないよう予防線を張り、そして改めてミズシロ・ヤイバに端を発する呪われた血脈と神の兄弟の構図について語り始める。


**********

372銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:42:35 ID:FY7jOmbA0
**********


『…………』

「嘘だとでも思うか?」

話を終えても反応がない相手に、軽い口調で話しかける。
とはいえ、その心配はあまりしていない。

『……いえ、こんな嘘をつくのはリスクが高すぎますからね、あなたがそうするとは思えない。
 それに、作り話にしては適度にあやふやで適度に的を射ています。
 これでもう少し設定を作り込みすぎていたり、あるいは破綻していたりしたら遠慮なく突かせてもらっていたんですが』
「それは怖いな。まあ、とっさの創作にしては中々上出来だと思わないか?」
『意地の悪い事を。
 僕があなたを歩さんだと指摘してからの僅かな間に作ったにしては真実味がありすぎますよ。
 ……やれやれ、どうやらあなたを歩さんだと認めざるを得ないようです』

呆れたような口調の相手は予定が外れて心外だとでも言いたげだ。
よほどこちらに対して優位に立ちたかったと見える。
仮定はどうあれ、相手に十分すぎるほどの信頼を与える事は出来ただろう。

『しかし、火澄氏の殺害には示威的なものを感じますね。
 “神”があなた達にとって火澄氏の死がどういう意味合いを持つのか知らなかったとは考えがたい』
「……やはり、あんたもそう思うか」

語調を切り替え、秋瀬或は歩から聞いた話についての素朴な疑問を口にする。
戯れ合いは終わりという事だろう。
歩もまた、自身と同じ結論に或が思い至った事に頷きを返す。

『当然です。しかし、僕にはその意味を推し量るだけの情報が足りない。
 どうです? 全てを語ってしまっては?』
「さあな」

もっと情報をくれという或に対し、素っ気無く返す。
どうやらまだ秘匿している情報があるのはバレているらしい。
自分たちがクローンである可能性や、それを通じて見える兄の目的などについては一切を黙秘している。
当然、個々のブレード・チルドレンの名前や人物評もだ。
ただ、殺し合いに乗っているか否かは別として、或なりに“神”について考えようとしているのは事実のようである。
とは言え、これ以上は流石に迂闊に話すわけには行かない。

と、クスクスと小さな笑いを見せて或はそれ以上追求しない。
最初から期待はしていなかったらしい。

『警戒する事はありませんよ、僕も引き際というものは知っています。
 それに、この情報は秘匿すべき類のものだ。
 とくにあなたを希望と信じている、つまり火澄氏の存在すら知らないブレード・チルドレンに聞かせたならば、彼らの暴走を招きかねません。
 そして、彼らが殺し合いに参加している可能性は非常に高い。
 どこから耳に入るともしれない以上、僕は誰にもこれを語るつもりはありませんし、聞きだすつもりもありませんよ』
「話が分かるな、助かるよ」
『いえ、ただのリスクマネジメントです。
 ……持っている情報から考えても、僕よりあなたの方がこの殺し合いの動機面に関して迫る事には適任そうですね。
 どちらかといえば論理――ロジックの分野ですから、そちらに関してはお任せします。
 僕は危険人物や首輪などについての、具体的な証拠のある目前の脅威の方が得意ですし』

373銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:43:33 ID:FY7jOmbA0
意外な反応だった。てっきり自分で踏み込んでいくかと思ったが。
いや、所詮は口約束だ。おそらく今は、彼にとって直接的に利のある事をより優先させているだけだ。
秋瀬或ならば、言葉面ではこう言っていても彼なりのやり方で“神”について踏み込んでいくだろう。
……場合によっては、彼にもう少し詳しい事を話してもいいかもしれない。
ただ、今がその時でないことは確かだ。

『……そろそろこちらも改めて自己紹介させていただきましょうか。
 秋瀬或。そうですね、世界一の探偵を目指す前途有望な若者、と名乗っておきましょう。
 さて、早速ですがひとつ頼みがあります』

やはり食えない相手だ、と歩は苦笑する。
向こうがこちらを信じた事を示す意思表示として、堂々と頼み事をしてくるとは。
損して得取れを忠実に実行している。
おそらくその頼み事は、今度はこちらに向こうを信じさせる手段でありつつ、なおかつ向こうに多大なメリットがあるものだろう。

「まだ天野雪輝と未来日記のことについて聞いてないんだけどな。
 こっちが鳴海歩である事を示したら、話してくれる約束じゃなかったか?」

先約の確認をして、こちらのペースに乗せられないか試みる。
効果は期待していない。
あくまで単純に先方に唯々諾々と従いはしないという牽制だ。

『もちろんお話します。
 こちらの頼みというのは、まさしくその天野雪輝君と未来日記の話題の核心に関わる事なんですよ』

やはり思ったとおりの展開だ。
王道というのはいつも回避しづらく、そして存外重い。
多分、こちらが聞いてもいない情報まで教える代わりに、頼みを聞かせようとする算段だろう。

「……分かった、聞かせてもらおうか」
『――感謝します。
 頼みというのは他でもない、ガサイユノから彼女の未来日記――“雪輝日記”を手に入れてもらいたいのですよ』

“雪輝日記”――? と、口の中で反芻する。
今の言葉だけでも重要な情報が2つも手に入った。
一つは、ガサイユノも未来日記を持っていると言う事。
もう一つは、
 
「……やっぱり、未来日記ってのは複数あったのか」
『ええ、未来日記所有者は全部で12人。正確には11人+2人1組、ですね。
 その内、ガサイユノは未来日記所有者2ndです。
 彼女の持つ未来日記、“雪輝日記”の能力は無差別日記に比べれば遥かに弱い、と言っても過言ではありません。
 ですが、』

他の所有者について語るつもりはもちろんないのだろう。
しかし、未来日記の数が分かったのは収穫だ。
12〜13個。加えて+αがいくつか。
それだけの数の未来予知の出来る道具が、この会場内にばら撒かれている可能性がある。
相手の言動の内容を分析しつつ、言葉を区切った向こうの言葉の続きを促す。

374銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:44:12 ID:FY7jOmbA0
「どうした? 秋瀬」
『歩さん、あなたは無差別日記の弱点をご存知ですか?』

唐突な問い。
それに対し、コンマ秒単位で答えを見つけ、口に出す。

「――そういう事か」
『ええ、そういう事、です』

雪輝自身の未来は予知できないと言う説明書き。
それは明らかな弱点であり、わざわざこの場でそれを持ち出すという事から導かれるのは実にシンプル。

「……“雪輝日記”、と銘打つだけあって、天野雪輝の予知に特化しているんだな?」

弱点をカバーできる能力についての説明でしか有り得ない。

『ご明察。彼女と話した事があるなら、どんな性格の持ち主かはおおよそ気付いているかと思います』
「……そうだな、言い方は悪いがストーカー気質、って感じだったな」

苦笑して同意する。
殺し合いも辞さず、雪輝のためならばなんでもする、といった印象だった。

『……気質、は付かないんですよね、異常なことに。
 まあ、雪輝君への想いだけは本物ですし、彼もそれを受け入れてしまいましたので元と付けるべきかもしれませんが』

絶句。

「あー……、なんだ。それは確かに警戒すべきだな」
『……言葉になにか実感が篭っていますね。女性関係で苦労しておいでで?』

おそらく天野雪輝は相当に苦労性だろう。
タイプこそ違えど、似たようなのに付き纏われている事から非常に彼に共感できる。
そして同時にそういう女の厄介さも身に染みて理解できるのだ。
とりあえず、地味に人間関係を聞き出そうとする或はしたたかだと判断しつつ、無視する事にする。

『雪輝日記は無差別日記と組み合わせる事で周囲の完全予知を実現します。
 ……そして、あなたからお聞きした限りガサイさんは最初から雪輝日記を手にしている。
 雪輝君の動向は完全に把握されていると思っていいでしょう。
 そう遠くないうちに、雪輝君とガサイさんは合流する事に違いありません』

ここまで聞いて、思い当たった事が一つ。
やはり或は無差別日記に使用制限がかかっている事までは気付いていない。
あるいは気付いていない振りをし、敢えてこちらにどんな使用制限がかかっているかを言わせようとしているのだろう。

「悪い、一つ黙っていた事があるんだが。実はこの無差別日記は制限がかけられてるんだ。
 一度雪輝が所有しないと効果を発揮できないらしい」

仕方ない、その思惑に乗る。
とりあえずは制限については話しておく事にした。
誰に対しても不利益にしかならない情報なら、共通認識として持っておくべきだからだ。

375銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:44:54 ID:FY7jOmbA0
『成程、合点がいきました。
 ある程度の雪輝君の安全は確保できたと思っていたんですが、雪輝日記にも似たような制限がかけられていたならガサイさんの探索効率は著しく落ちる。
 最初から雪輝日記が使用可能なら、彼女と雪輝君にとってアドバンテージが大きすぎますからね。
 ……いい事をお聞きしました。これは僕の方でも何らかの対策を考えねばならないようです。
 あ、お礼代わりにもう一つ未来日記についてお教えしましょう。
 未来日記は所有者の主観情報を反映します。
 従って前提となる主観が誤情報を与えられていた場合、事実と相違する予知がなされるようです』
 
おそらく、未だに雪輝がユノまたは自分と合流していない理由を把握したかったのだろう。
少なくとも一つ分かった事がある。
秋瀬或は意外と律儀だ。信頼度を少しだけ上げる。
しかし、予断は許さない。警戒を緩めることなく疑問を呈す。

「……感謝する。ガサイユノの持つ未来日記については分かったが、一つ聞いていいか?」
『ああ、分かっています。それも今から説明しますから』

先んじられた。
事あるごとに機先を制そうとするのは、秋瀬或にとっては当然のことなのだろう。
この流れで聞こうとしたのは、彼が無差別日記と雪輝日記を交換させたがる理由そのものだ。
何一つ言葉にしていないのに、秋瀬或は的確に端的に説明をしてみせる。

『彼女に対する抑止力が欲しいんですよ』

「抑止力……?」

思わず聞き返した歩に、或は語調を改めてきた。

『……これは、あなたを信頼しているからこそ話す事です。
 僕以外に絶対に他言はしないで下さい。あなたのお仲間も含めてです』

頷く。
これは、相手にとっての切り札だ。
これを聞いたらおそらく自分はこの相手の要求を受け入れねばならないだろう。
だが、その価値はある。
これまでの応答は、良くも悪くも秋瀬或は情報の価値を知っている人間だと理解するに十分だ。
心して、頷いた。

「ああ」

沈黙。
その僅かな間隙の意味するものは何か。
よもや躊躇いという事もあるまいが、それだけ口にしづらい内容なのか。


『……未来日記の破壊は、本来の所有者の死を意味します』


耳に届いた内容は、まさかとは思っていたが流石に実際に耳にすると重みが違う。

376銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:45:23 ID:FY7jOmbA0
「…………成程な。……確かにそれは、十分すぎる理由になる」

この事から分かる事がもう一つ。
秋瀬或は、それだけガサイユノを危険視していると言う事だ。
だが、彼女はそこまでの脅威なのだろうか。

『未来日記……未来の記述を傷つける事は、自分の未来を傷つけるのと同義。
 あなたが今握っているそれは雪輝君の命そのものであり、ガサイさんに関しても同様です。
 あなたが雪輝日記のオーナーとなるなら少しは彼女も自制するでしょう。
 無論、無差別日記と雪輝日記がひとところにあるのは危険だというのも理由のひとつですが』

……嘘は言っていない。だが、全部を話したわけではないとも感じている。
自分だって同じ事をしている以上、それを指摘するつもりはないが。

「俺の事をそこまで信じてしまっていいのか?
 例えば今この場で無差別日記を破壊するかもしれないぞ?」
『そんな無意味な事をあなたはしませんよ。メリットが全くないですしね。
 いい加減、自分を疑えと言わんばかりの言い方はよした方がいいと思いますよ?』

お節介に苦笑する。

「……やれやれ」

とりあえずは、納得のポーズを示す事にした。
今はそれで妥協する――、落とし所としては適当だろう。
真実を全て追究する必要がないのはお互い同意の上だ。

「手段はどうする? 悪いが力づくなんてのは俺には無理だからな」

戦闘能力がこちらにない事を示し、具体案を提示させる。
当然、向こうも織り込み済みだろう。

『無差別日記との交換の形が一番無難でしょう。
 彼女の行動原理は雪輝君を至上としている。実際、彼の為なら平気で命を投げ出した事もあります。
 それに、雪輝君は未来日記を用いた戦闘を一番多くこなしている所有者です。
 日記の使用のエキスパートと言っても過言ではない。間違いなくあなたより有効に活用できるでしょう。
 確かにあなた達が無差別日記を持ち続けるメリットもありますが、それ以上に彼に無差別日記を渡した上で協力関係を築いた方が得るものが大きいはずです』

……言動に綻びがある。命を平気で投げ出すなら、他者による日記の保持は完全な抑止力には成り得ない。
同一人物から発せられた、取ってつけた理由と性格の差異――どちらがより正しいかと言えば後者だろう。
まあ、案そのものはこちらにとっても利点が確かに存在しているので黙っている事にする。
おそらく、少々の矛盾ならこちらは飲み込むと分かっていて相手も論を展開しているはずだ。

『それと、僕とあなたの繋がりは極秘裏に……。
 特に、ガサイさんに対しては気取られないよう気をつけて下さい。
 当然、あなたが未来日記のルールについて詳細を知っている事は伏せた方がいいでしょう。
 偽名ももう使わず、正直に鳴海歩と名乗った方がリスクは減ります』

……そんな黙秘は発覚したときに恨みを買う事に繋がらないか。
一から十まで相手の提案を鵜呑みにするわけにはいかない。逐一検討していく。

377名無しさん:2009/09/13(日) 13:45:43 ID:lnP5bg1Y0
向こうで支援してたら俺も猿喰らったw

378銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:45:53 ID:FY7jOmbA0
「あんたが彼女に電話して直接交渉するって手はどうだ?
 あんたを仲立ちに取引できれば、むしろ余計な誤解を生まずに交換できそうなもんだが」

『それは僕も最初考えたのですが、難しいですね。
 もし僕が彼女に電話したならばいやに敏い彼女のこと、必ずこう考えます。
 “あの秋瀬或が自分の携帯電話に電話する前に、雪輝の携帯電話に電話しないはずがない”とね。
 既に彼女があなたと連絡を取ってしまっている以上、僕たちの繋がりが見えてくるのは自明。
 即ちあなたが先刻よりも未来日記について知っている事まで彼女に悟られてしまいます』

確かに、ちょっとでも頭が回れば誰でも思いつくことだ。

『最大の問題は、あなたの手に無差別日記――雪輝君の命が握られてしまっている事ですね。
 そしておそらく、彼女はあなたが未来日記の破壊=死亡というルールを知らないからこそあなたとの一時協調に乗ったんです。
 だから、ここで僕があなたに未来日記についての情報を与えたと彼女が知ったらどうなるか、全く読めないんですよ。
 僕が恨まれるだけならまだいい。ですが、あなた達まで相当危険な橋を渡る事になるでしょう。
 少なくとも良い方向にはならないのは確かです。
 そして同時に、日記破壊=死亡のルールを把握したあなたに雪輝日記を渡す事も彼女の選択肢から消失します。
 あなたがガサイさんと無差別日記と雪輝日記を交換できるのは、日記破壊のルールを知らない事が前提なんです』

歩は口を挟まない。
ガサイユノとは少し話しただけの彼には、彼女の行動傾向について言えることは何もない。
秋瀬或の話しぶりから、まさしく爆弾のような存在だと窺い知るので精一杯だ。
どこまで本当かはともかく、一度きりの会話から得たプロファイリングにおいては否定する要素は何もない。

『――歩さん。
 いずれ彼女たちから合流の知らせがあった際、あなたから僕のこの番号に連絡して取引場所を教えていただければ幸いです。
 ……僕達は有事に備えてすぐ近くに潜むつもりですので、できれば今僕たちのいる北西エリアから向かえる距離で取引して欲しいですね。
 彼女の暴走を抑えるには雪輝君がどうにかするか、彼女以上の暴力で押さえ込むかしかありませんから。
 幸い、僕には非常に心強い仲間がいます。彼ならばガサイさんを止める事も可能でしょう』

或は取引現場に近づきたがっているとの言質を取った。その意味を考える。

ガサイユノを警戒しているから、取引における暴走を未然に防ぐ?
……それは確かだろう。しかし、この言動が心から自分を心配してのものとは考えづらい。
ただ、自分を騙まし討ちする可能性は、おそらくないとは思う。
それならば無差別日記と雪輝日記の交換の場を設けるよう薦めるなどという回りくどい方法を取る必要はない。
そして、完全な抑止力とならない以上ガサイユノの命である雪輝日記を自分が握る事にも大した意味はないだろう。

ならば答えは一つ。
雪輝日記の直接的な効果こそを、秋瀬或は警戒している。
懸念しているのはおそらく、ガサイユノの雪輝への裏切りの可能性だ。
その一方で、警戒しているガサイユノを殺すという選択肢を匂わせてはいない。
これはおそらく、雪輝からの感情を考慮したものか。
取引現場に近づきたがるのは、その辺りの微調整を場合によっては行う為だろう。
……大きな収穫だ。
少なくとも、秋瀬或は雪輝の敵に回りたがってはいない。
ならば、彼の動向が大きくスタンスを左右するはずだ。

379>>377氏ありがとうございます ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:47:22 ID:FY7jOmbA0
「……そんなに彼女は好戦的で狡猾なのか?
 確かに危うい感じはしたが、雪輝を裏切りそうにはなかったけどな」

だとするともう一人の雪輝に近しい人物、ガサイユノについてのより詳細な情報を聞き出さねばなるまい。
雪輝を愛しているのに裏切りの可能性があるとはどういうことか、カマをかける。


無言。

おそらく、不意打ちだったのだろう。
少しだけ引き攣った声で、秋瀬或が続ける。

『……僕の言動からそこに気付くとは、本当あなたには驚かされます。
 裏切る可能性は……0ではない、といったところです。
 彼女は、自分の記憶を自分の意志で改竄できるんですよ。
 都合の悪い事を、なかった事にできるんです。彼女の中ではね。
 つまり、雪輝君が彼女を拒絶すれば……、後は言うまでもないですね』

「……精神的に相当キてるやつだな」

……そこまでヤバい相手だったとは、流石に想定外だった。
そんな女を受け入れている雪輝にも相応の警戒が必要かもしれない。
その心配を見越しているのだろう、秋瀬或は雪輝のフォローに入る。

『ついでに雪輝君の性格についても、もう少しだけ詳しくお教えしましょう。
 彼は確かに臆病ですが、決断力には欠けてもいざと言うときの行動力はガサイさんに勝るとも劣りません。
 彼もまた必要ならば殺人すら辞さない性格と言えます。
 とはいえ、基本的に彼は常識人です。あまり倫理観に触れる事は望まないでしょう。
 殺人を犯すのは、あくまで必要だと判断したときだけ、です。
 直接的にガサイさんを制御できる唯一の人間という事もあり、彼に的を絞って交渉するのが無難だと思います。
 よほどの事がないと生存を第一に考える人ですから、まずこの殺し合いに乗ってはいないと思いますよ』

雪輝の心配をするなら当然の配慮だ。
しかし、おそらく色眼鏡が入っているとはいえ、作り事とは思い難い。
雪輝がガサイユノに比べ話の通じる人間なのは確かだろう。

『先ほども言いましたが、一応、ガサイさんの愛情だけは本物です。
 それだけが彼女を一つの人格として繋ぎとめているといっても過言ではありません。
 もうお分かりでしょうが、僕は雪輝君の味方として立ち回っているんですよ。
 その意味で彼女は頼りがいのある仲間であり、それ以上の具体的な脅威でもあるわけです。
 下手に殺したくはありませんが、こちらを噛む危険性だけは出来る限り少なくしておきたい。
 これから相対する事になるであろうあなたに警告しておきます。
 彼女には躊躇いというものが存在しません。その癖、判断力や直感は異常に冴えています。
 しかも雪輝日記がある以上尚更危険です。
 予知対象は雪輝君限定とは言え、雪輝君がその場に居合わせるならまず彼女を助けるよう動くでしょう。
 つまり、状況は常に彼女に追い風が吹く形で流動する事になります。
 ですから僕でも次の展開が読めない。
 歩さん、たとえあなたに仲間がいたとしても彼女相手では油断は出来ないんです。
 いや、むしろ仲間がいたならば立ち合わせない方がいいかもしれません。
 こうして僕と対等以上に立ち回れるあなたならともかく、他の方は彼女を刺激しかねない。
 危険な状況になった時、あなたの命も守れるよう尽力します。
 ……僕が取引現場付近で待機する事を許可していただけますか?』

380銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:48:01 ID:FY7jOmbA0
今ともにいる2人を考える。
安藤は信用できる。
……しかし、話の通りのガサイユノ相手では間違いなく場慣れしていない彼を危険に晒す事になる。
東郷はどうか。
彼の性格を考えれば、危険と見なしたら容赦はしないだろう。
先刻の自己紹介で自分の事を臆病だと言っていたが、それはつまり危険の芽を優先して潰す事でもある。
ガサイユノは真っ先に排除対象となるに違いない。
彼はキレ者ではあるが、融通の利かない人間だ。柔軟な立ち回りは期待できない。
生存という優先順位に勝るものはないはずだ。

それらの事から、とある決断を歩はする。

その上で、秋瀬或の提案を検討した。
結論は一つしかない。

「……分かった。その申し出を受ける事にする」

この秋瀬或が信頼を寄せるほどに、相当の実力を持つ仲間がいるのだろう。
そしてまた、約束を破るとも思い難い。

『……ありがとうございます。
 本当は、何事もなく日記の交換を終えられるのが一番なんですけどね。
 その方が僕としても雪輝君と合流しやすいですし』

婉曲的に雪輝を心配していると言う事を仄めかす。
なるほど、合流を目的としているなら自分との繋がりは確かにないほうがいい。
どうやら雪輝に関して心配しているというところだけはかなり信用してよさそうだ。
つまり、一連の提案に関しても嘘の可能性は限りなく低いだろう。
ならば、取引に際して詰めておかねばならない穴も存在する。

「俺が雪輝日記の存在を知った経緯はどう説明するんだ?
 あんたの人物評通りなら、ガサイユノは間違いなくそこを不審に思うぞ」
『ガサイさんも日記所有者であろうというのはムルムルと雪輝君の言動、
 そして無差別日記の存在とガサイさんが己の携帯電話を持っていることから十分推測できる事ですよ。
 カマをかけた事にしておけば不自然ではありません。
 雪輝日記と明言しなくとも、ガサイさんの未来日記と引き換えと言えばまず問題ないでしょう。
 無差別日記はその存在だけで相手にプレッシャーを与え得るアイテムです、無償で手渡すと言うのはむしろ怪しまれる原因になるかと』
「こっちは未来日記という事は推測できても雪輝しか予知できない日記だとは知らない事になるはずだからな。
 ……向こうにとっても利点の方が大きく感じられるわけか」
『……ええ。とにかく、僕との会話は存在しなかったというフリを徹底してください。
 そして、僕との会話で得た情報を最大限に活かせるよう、立ち回ってください。
 あなたならそれが出来るでしょう』

皮肉気に笑う。

「随分と買われたもんだな」
『当然です。この僅かな時間の会話であなたは僕を何度も出し抜いた。
 それだけで賞賛に値する事ですよ。
 いや、尊敬と言ってもいいかもしれませんね』
「それじゃあ、尊敬ついでにもう一つだけ聞いていいか?
 ちょっと有事の際に必要になるかもしれない事なんだが」

381銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:48:27 ID:FY7jOmbA0
未来日記所有者と交戦することになった際に、備えておきたい事。
慎重に慎重を期して損はない。

『…………。どうぞ。
 ただ、質問次第ではこれ以上の情報は差し上げられないかもしれませんが、それでもいいですか?』
「ああ、駄目元で聞くだけだ。
 俺も認めるよ、あんたは賢い。賢すぎるくらいにな。
 だから未だに――、あんたという個人そのものは要警戒だと思ってる。
 情報の確度は別としてな」

……鳴海歩は最後の最後まで、疑う姿勢を崩さない。
そう、だからこそ。

『く、くくくくくくく……!
 よく本人の前でそんな事が言えるものです!
 いや、あなたは本当にもっと自信を持つべきだと思いますよ』

……だからこそ、秋瀬或からすら信頼を勝ち取ったのかもしれない。
敵でもなく、単純な味方でもなく。
敢えて言葉にするならば、敵の敵、という関係だからこそ築ける信頼を。

「褒め言葉と受け取っておくよ。それで、だ。聞きたい事は簡単な事なんだ。
 未来日記に示される未来ってのは、覆す事が出来ないのか?
 例えば死が明示された場合、確定した未来しか示されないのならどんなに足掻いても死ぬ事から逃げられない。
 それじゃあ、ゲームの要素がない。なのに“前のゲーム”とやらでは殺し合っていた。
 その辺りの説明が欲しいんだ」
『“前のゲーム”、と来ましたか。ムルムルの言葉からの推測ですか?』 
「ああ。……これは俺の予想でしかないから話半分に聞いてくれ。
 新しいゲームは前のゲームの見立てになっているんじゃないかと俺は考えてる。
 だったら、前のゲームについての情報を少しでも知っておきたい」

前のゲームと新しいゲームについて、見立てである可能性を言及する。
これは、色々情報をくれた相手への置き土産のようなものだ。
もしかしたら、秋瀬或も見立ての可能性から何かを思いつくかもしれない。

『おそらくは、あなたの推測通りですよ。
 未来日記に示される未来は、記述と異なる行為をした時点で書き換わります。
 未来は可変性です。絶対の運命だって、奇跡を引き寄せたなら覆せるんですよ』


――その言葉が歩にとってどれだけの意味合いを持っていたのか。
多分、僅かなりとも推し量れる人間は多くない。
ただ、歩はこう告げた。

「……ありがとう」

或は気付いていないだろう。
運命は覆せる、という事が保障されるその意義に。

382銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:49:08 ID:FY7jOmbA0
『それでは僕も最後にもう一つだけ。
 今から言うURLにその携帯電話やPCなどの端末からアクセスしてみてください。
 きっとあなたの手助けになるかと。ちなみに、この携帯電話はとある施設で調達しました。
 ……それでは、取引場所に関する連絡を期待していますよ』

置き土産への返礼だろうか。
英字の列を並べ置いた後――、秋瀬或はぷつりと電話を切った。

「自信を持て――、か」

つー、つー、と電子音を呟き続ける携帯電話を耳から遠ざけ、鳴海歩は一人ごちる。


「そいつは無理な相談だ。だって、俺の強さは奪われてきたものの強さなんだからな」


**********


「さて、しばしのお別れだな。お互い無事に再開するまで頑張ろうじゃないか」

風が吹き、少年の髪を揺らした。
すきとおったその瞳はどこまでも真っ直ぐに、ただただ高みを見据えている。

「本当に、大丈夫なのか……? 殆ど丸腰だし、一人なんだぞ」

すぐ傍で安藤は、名残惜しそうに心配そうに、立ち竦んでいた。

「……さあな。何度も言うが、まあ、何とかなるだろ。
 それに、俺が死んでも俺の論理が生き残ればそれは俺の勝利だ。
 必要なのはそれを固める為の手段だ。だったら俺に躊躇いはない。
 じゃあな、弟と再会できるのを祈ってるよ」

片手を挙げて僅かに振り、歩は静かに踵を返す。


――これが、歩の決断だった。

歩がガサイユノ達との取引を終えるまでの、しばしの別行動。
自分が彼らとの交渉役を負う代わりに、彼らには街を探索してもらう。
携帯電話の複数確保も含めて、だ。

或から聞いたURLの行き着く先は、探偵日記という名のblogだった。
おそらく管理人は或本人だろう。
文章からして知り合いには隠すつもりがないようだし、いくつか有益な情報も得られた。

そしてインターネットが機能している事を知った歩は、ネット接続と会話のできる携帯電話の有用性も理解する。
或は携帯電話を“調達”したとわざわざ言っていた。
それはつまり、この会場内でも携帯電話の確保はできるという事だ。
ならば、情報戦を見越して携帯電話を一定数保持していた方が今後は有利に立ち回れる。
仲間が増えるなら重要性は更に増す。連絡手段として一人一台は持っておいた方がいい。

383銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:49:46 ID:FY7jOmbA0
元々東郷はこれから街へ向かうところだった。
ならば、彼と、彼に同行させるつもりの安藤に携帯電話や他の有益な道具の確保を早い内に行わせるべきだ。
リソースは有限なのだ、誰かに独占される前に手に入れておかねば後々の行動に著しい制限がかかる。

神社の探索などは一人でも出来るだろう。
ならば自分が神社に向かい、その後は竹内理緒の足取りを追う事などを目的に動けばいい。
或たちのいるという北西に向かうのも一つの手だ。
とりあえず、安藤は雪輝の携帯電話の番号を記録している。
最初の一台を入手次第連絡を入れてもらえれば、電波が届く限り近況報告は容易なはずだ。
合流も難しくなくなる。
一応、第三回放送の頃に神社に集合、といういざという時の約束事もしておいたが。

こうした、携帯電話を用いた連絡網の構想と、未来日記というアイテムに関する基本的なルール及び所有者の情報。
そして、仮に参加しているならば協力できるかもしれない知人たちの個人情報。
これらの情報を全て用いた交渉で、東郷はようやく安藤への同行へ首を振ってくれた。
これで、安藤の安全はある程度保障される事だろう。

後は、それぞれの役割を果たすだけ。


「……鳴海!」

――背後から、呼びかけられる。

「ん……?」

振り返ってみれば、ぱしりと掌の中に何かが納まった。
確認してみれば、小さな筒状の道具が存在を誇示している。

「これ! お前が持っていってくれ!」

それは武器でも情報でもない、自分たちに支給された支給品。
しかし、いざという時には確かに役に立ってくれるだろう。

――チェシャキャット。

小型キルリアン振動機――いわばバリアーのような物だ。
攻撃力は期待できない、専守防衛の道具。
それでも何もないよりは、持っていた方がずっといい。

「安藤?」
「いや……、お前だけ丸腰ってのは、納得できなくて……」

何故か下を向く安藤に、歩は呆れたような溜息をつく。
きっと何か深い理由があった訳ではないのだろう。
ただ、この別れが永劫のそれになる可能性に思い至って、純粋な心配として身を守る道具を渡したかっただけかもしれない。

「分かった。預かっておくよ」

だからこそ、笑みを浮かべて敢えて歩はそれを受け取った。
自分が丸腰に近いのは確かなのだから。

384銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:10 ID:FY7jOmbA0
「気をつけろよ、鳴海……」

……あるいは安藤は、後ろ暗い思いから逃げるように、そうすれば罪悪感を減らせるとでも言うように。
少しでも彼の力になる事で自己嫌悪から解放され、安堵したかったのかもしれない。
しかし、それは歩には知る由もない。

「そうだな、これはお節介なんだが」

それを悟っているのかいないのか、歩は話題を唐突に切り替える。
“彼女”はブレード・チルドレンの直接の関係者ではないが故に、東郷にも語ってはいない内容だ。

「おさげ髪で胡散臭くてやたらに行動力のある、企業秘密が口癖の見た目幼い変な女と出会ったらの話だけどな。
 まあ、頼りになりすぎるくらい鬱陶しいやつだから、一緒に行動して損はないだろ。
 ……あいつの事だから変装でもしているかもしれないけどな」

台詞とは裏腹のその表情に、自分の弟が恋人と共にいるときの顔を連想する。
穏やかな日々を思い出すと、久方ぶりに安藤は少し明るい気分になった。
その話題に乗って、面白がるような口調で聞きただす。

「へぇ、随分信じてるんだな。もしかして鳴海の彼女か?」
「……安藤、冗談はよしてくれ。
 実際あいつみたいなのが好みだったなら、俺自身余計な苦労を背負い込む事はなかったんだどな」

返事は期待したものとは違い、心底疲れたといった態度がアリアリと。
それでも歩の言葉には確かに信頼が篭っており、安藤はそれを照れ隠しと解釈した。
歩本人にとっては、それは真実有難くなかったかもしれないが。

「じゃあ。――またな」
「ああ。潤也に会ったら、助けてやってくれ」

そして、それきり言葉もなく二人は背を向ける。
きっとこの会話の続きをできるのだと、それを信ずるが故にもはや躊躇いはない。
後ろを向くことなく、数十メートル。
それだけの歩みを経てぽつりと呟く。

「……名前、聞き忘れたな。鳴海の彼女の」

鳴海にしてはらしくない失敗だなと僅かに苦笑を得る最中、安藤の背中に無骨な言葉が静かに届く。
 
「用は終わりか? 行くぞ」
「分かった」 

最初に向かう先は近場の旅館。
その次は未定だが、北か南かの2択ではある。
北に向かえば教会。神社と同じく神にまつわる建物である為、改めて探索してみる価値はあるだろう。
教会を出るきっかけとなった爆発は東郷が原因だったが故に、むしろ安心して行動できる。
南に向かえば街だ。デパートなどもあり、携帯電話などのリソース確保にはもってこいといえる。
ただし、その分危険は大きいだろう。


そして二人の姿は朝の霧に霞み、消えていく。


……安藤の心の中に、黒々とした汚泥を静かに落としこみながら。

385銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:30 ID:FY7jOmbA0
【G-8/旅館付近/1日目/早朝】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
 1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
 2:第一目標として旅館に向かう。その後に北上して教会に向かうか、南下して市街地に向かうかは状況次第。
 3:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
 4:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
 5:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※奇妙な能力を持つ人間について実在すると認識しました。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
 歩の参戦タイミングで生存している人間に関しての個人情報やスキルについても含まれます。
 ただし、鳴海歩自身のクローン仮説や清隆の狙いなど、歩にとっても不確定な情報については黙秘されています。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、
 未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。

386銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:50 ID:FY7jOmbA0
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(小)
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、バラバラの実@ONE PIECE
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
 1:とりあえず、東郷と同行。
 2:携帯電話の調達のため、市街地などに向かう。第一目標は旅館。
 3:軽度の無力感。
 4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 6:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい。
 7:潤也が巻き込まれていないか心配。
 8:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 歩の参戦タイミングで生存している人間に関しての個人情報やスキルについても含まれます。
 結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
 また、鳴海歩自身のクローン仮説や清隆の狙いなど、歩にとっても不確定な情報については黙秘されています。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、
 未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。


**********

387銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:17 ID:FY7jOmbA0
**********


「――そろそろ、十分離れたか」

未だ薄暗い森の中、鳴海歩は一人立ち止まる。
辺りを見渡し、誰もいないことを確認。
そして、そっと自分の懐に手を入れた。


これまで自分と安藤はずっと同行をしてきた。
それは自分の安全の為というのも確かにある。
目や耳は一つよりも二つ、二つよりも四つあった方が警戒にはちょうどいい。
だが、それ以上の狙いとして安藤の保護というのがあった。
初対面の人間の前で迂闊に自分の能力を喋ってしまう、場馴れの少なさ。
放っておいたり、一人で行動させたりするわけには到底行かなかったのだ。

――しかし、東郷という同行者が現れてくれたおかげで、一先ずそれを解決する事はできた。
だから、ようやくある程度安心して冒険できる。
そもそもが携帯電話という連絡手段が『2つ』ある以上、出来る限り情報を得る為にはどう考えても分散して行動した方が効率がいい。
警戒に関してこそメリットがあるとはいえ、二人ともほぼ丸腰である以上は固まって行動してもひとまとめに殺される可能性が高いのだ。


さて、秋瀬或との駆け引きを思い出そう。
その思考の中で、何故歩は先刻、
『12〜13個。加えて+αがいくつか。
 それだけの数の未来予知の出来る道具が、この会場内にばら撒かれている可能性がある』
と断言できたのだろうか?

答えは単純だ。
鳴海歩は、携帯電話を二つ持っている。

この殺し合いが始まったとき、安藤は直接に教会に転送されたわけではなかった。
……つまり、だ。
安藤が協会を訪れる前、最初から教会にいた歩には時間があったのだ。
至急品を確認し、考察する時間が。

しかしこの事を安藤は知らない。歩が知らせていない。
安藤は、『歩の支給品が無差別日記一つだ』と思っているのだ。
ルール上それは不自然なことではない。

歩のもう一つの支給品。
それは全てを疑う歩の切り札であり、だからこそ現時点で最も信用している安藤にすらそれを伏せている。

「本当に悪いな、安藤。だけど俺は……お前の信用を失う事だって選べるんだ。
 何一つ無くなっても立っている。そんなやせ我慢が、俺の武器なんだから」

……安藤が携帯電話を入手して連絡を入れた後に、歩はこの携帯電話の存在を教えるつもりだ。
いずれ譲渡する事になるであろう無差別日記の代わりの、純粋な連絡手段として。
未来日記などではない、そこらで調達したただの携帯電話と偽って。

『コピー日記』

無差別日記の能力を全てコピーしたが故に、今もまだ沈黙を守り続けているその携帯電話の存在を。

388銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:39 ID:FY7jOmbA0
“コピー日記”を手に取り、再度その能力を確認する。

『日記所有者8thの未来日記、“増殖日記”の効果で未来日記と化したレンタルblogにアクセスできる携帯電話。
 本来の孫所有者は難波太郎。任意の未来日記の内容を現在進行形でコピーできる。  
 ただし、コピーできるのは現在自分が所持している未来日記のみという制限がかかっている。
 一度コピーした未来日記は、別の未来日記に上書きされるまで機能を保持する。
 新しく未来日記をコピーした場合、それ以前に記された内容は全て失われる。
 もちろん通常の携帯電話としても使用可能』

――現在、歩は既に無差別日記のコピーを行っている。
安藤との邂逅前に試したときにblogにアクセスしたら、当然のことながら何も記されていないblogが示されるのみだった。
つまり、いずれにせよ雪輝の手に無差別日記が渡らなければ何一つ効果を発揮しないということだ。
そして今、先刻より深い森の中に入り込んだら今度はアクセスすら出来なくなった。
おそらくは電波が届かなくなったからか。
秋瀬或からの連絡が、あまり森の深い所に入り込む前に繋がったのは僥倖だったろう。
説明にある通りblogこそが未来日記の本体であり、ここにあるのはアクセス権があるだけの携帯電話なのだ。
“増殖日記”が何を指すかは現時点では不明。ただし、blogに干渉できる電脳関係の何か、とは理解できる。

「……出来る限り電波の届く街や道の近くにいたいところだが、そうすると森とか地下に隠れるのは難しくなる、か。
 全くよく出来てるな」

やれやれ、と毒づき、駆け足で今いる森の中を離脱。
山頂に近づく一直線のルート上、いきなり開けた道に面する。
――不意に携帯電話に表示されたアンテナの数が増えた。

「推測通り、道の近くでは使えるみたいだな。
 ……かといって馬鹿正直に道を歩くなんてのはもっての他か。
 罠でも仕掛けてあれば飛び込んでくださいって言ってるようなもんだ」

地図に記された山道から遠すぎず、近すぎず。
そんな距離を保って、歩はようやく座り込む。

直接道からは見えないその場所で、鳴海歩は次なる一手をコトリと打つ。

「悪いがアイデアを盗用させてもらうぞ? 秋瀬或。
 俺はプライドなんて物をかなぐり捨てるのに抵抗はないからな」

呟き、歩は手に持つ携帯電話を操作する。
そしてその手で、“探偵日記”でも“コピー日記”でもない、新たなる電脳世界を立ち上げる。


銀の意志は、揺らがない。

ただただ空の軌跡を追い続け、追い越すために。


【F-6北東/森(山道付近)/1日目/早朝】

389銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:59 ID:FY7jOmbA0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記、コピー日記@未来日記
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
 1:天野雪輝とガサイユノからの連絡を待ち、無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
 2:ガサイユノから連絡が入ったら、或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
 3:神社を目指し、主催に関する情報などを探索。その後北上し竹内理緒を追ってみる。
 4:島内ネットを用いた情報戦に関して、もしいるなら信頼できる相手(結崎ひよの)と接触したい。
 5:首輪を外す手段を探す。
 6:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。場合によっては合流。
 8:第三回放送の頃に神社で安藤たちと合流。
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
  また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません。
 ※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
 ※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
 ※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
 ※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
 ※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
 ※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
  言動から雪輝の味方である事は推測しています。
 ※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
 ※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
  未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
 ※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。

【鳴海歩の考察】
1:24時間ルールや参加者への制限の存在、ムルムルの言動、優勝への言及がないことなどから、
  誰か一人が勝ち残ることに意味はなく、殺し合いという状況そのものが目的であると推理。
2:実力者と常人が混合して参加している事から、常人こそがゲームにおいて
  鍵となる可能性があると思考。(ただし、現状では妄想程度だと判断)
3:ムルムルの言動や竹内理緒の存在などから首輪の解除や主催者への反逆は可能であり、言論も自由だが、
  そうした行動も最初から殺し合いに組み込まれていると推理。
4:『新しいゲーム』は『前のゲーム』に見立てて行われていると推測。
  『前のゲーム』とは、未来日記を用いた殺し合いである。
5:内通者が存在する可能性を想定。
6:火澄が見せしめにされたのは、火澄がヤイバの弟である事を知る人間へのメッセージと推測。

【未来日記の交換方法についての或の提案】
 無差別日記と雪輝日記の交換を要求する。その際、雪輝日記の存在は状況証拠から推測した事にする。
 歩と或の繋がりは極秘にし、或から得た情報については知らない振りを徹底する。
 偽名も使用しないようにし、有事の際に備えて或とその仲間を取引場所付近に潜伏させる。


※携帯電話用の電波は島の全域をカバーしているわけではなく、町やランドマーク周辺のみが範囲となっています。

390銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:52:19 ID:FY7jOmbA0
【小型キルリアン振動機“チェシャキャット”@うしおととら】
 HAMMR機関の開発した、対妖怪用小型結界発生装置。
 うしおととらにおける結界は物理的強度も有するが、それ以上に霊的存在への効果が高い。
 効果範囲こそ直径3メートル強程度だが、その強度は白面の者を後退させる決め手になるほどのもの。
 本来はPCから遠隔制御する事で使用できる装置だが、今ロワでは専用の簡易リモコン一つで起動できるようになっている。
 ただしバッテリー切れには注意。連続使用した場合、効果は長くとも数十分程度だろう。

【コピー日記@未来日記】
 日記所有者8thの未来日記、“増殖日記”の効果で未来日記と化したレンタルblogにアクセスできる携帯電話。
 本来の孫所有者は難波太郎。任意の未来日記の内容を現在進行形でコピーできる。  
 ただし、コピーできるのは現在自分が所持している未来日記のみという制限がかかっている。
 一度コピーした未来日記は、別の未来日記に上書きされるまで機能を保持する。
 新しく未来日記をコピーした場合、それ以前に記された内容は全て失われる。
 もちろん通常の携帯電話としても使用可能。


**********


かたかたかたかた、かたかたかたかた。

蛍光灯の真白い光の下、打鍵の音が慎ましやかに響く。
ぼんやりとディスプレイが照らし出すのは少年の顔。
眦の中にいくつものウィンドウを映して、ただただ成すべきことを為してゆく。

「……ふむ、どうやら中々目ざとい方がいたようですね」

少年――、秋瀬或は己の開いたblogに目を通し、一人呟く。
既に何件かコメントが寄せられていた。
ファックスを探偵日記の喧伝に使ったのは無事功を奏しているようだ。

寄せられたコメントの多くは、当然のことながら情報の開示を要求するもの。
つまりはコメントの公開だ。
或という蛇口を介すことなく情報を毟り取ろうとしているのだろう。
あるいは、コメント欄という対話の場に縋りつきでもしたいのか。

「――当然、こういう反応も予想通り、と。
 ですが、僕は自らの優位を手放すほど楽観的じゃないんですよ」

或は、確かに殺し合いに乗っているわけではない。
だがそれはあくまで現時点に限っての話だ。
集まった情報次第ではスタンス変更も十分に視野に入れている。
だからこそ、明確な意思の元にコメントの公開を拒絶する。

もちろん積極的に殺し合いを肯定するつもりは毛頭ない。
問題が生じなければこのまま“神”に対抗する手段を探し、人的被害を防ぐ事に尽力するつもりだ。
その為にも一方的に情報を得て選別し、発信する事が必要なのである。
つまり、情報のコントロールだ。
情報を制することで間接的にこの殺し合いに介入し、被害の拡大を止めて脱出路を模索する。
下手にコメントの公開を許してしまえば、必ず誤情報に惑わされる存在が生じる。
特に、悪意を以って偽の情報を流す輩がいる可能性を考えると尚更だ。

或としては、どう転ぼうとも自分が確実な情報ソースとして信頼される事が必要なのだ。

391銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:52:53 ID:FY7jOmbA0
そういう確度の高い情報のみをblogに公開するつもりであり、それ以上の情報が欲しいならば
個人的に連絡を取ってほしいという旨を新たに“探偵日記”の一ページに書き込んでいく。
連絡先にはblogを作成する際に必要だったメールアドレスを使えば問題ないだろう。

ちなみに“探偵日記”を公開しているのは島内ネットワークであり、インターネットには接続できない。
また、blogを作成したサービスは、自分にも見覚えのある代物だった。
未来日記所有者8th、上下かまどの有する“増殖日記”にも用いられているレンタルblogサービスだ。

今のところ、この“探偵日記”は警察署のPCをサーバーとして利用している為に未来日記として働く事はない。
だが、あえてこのサービスがblog作成用に登録されていたのは、何か意味があるかもしれない。
たとえば、上下かまどが“神”の手の物に取り込まれている、とか。

まあ、ひとまずはblogの更新を優先する事にする。
雪輝日記がおそらく機能していない以上、雪輝を探す手段として手を広げなければならない。
その為の文面を書き込もうとして――、気付く。

「……?」

コメントが一つ、新たに加わった。
見れば、URLとともに、ついさっき電話越しにやりあった相手を思わせる口調の一文が並んでいる。

『あんたのやり口を参考にさせてもらった。こいつをリンクに登録しておいてくれ』

――慎重に、そのハイパーリンクをクリックする。
よもやブラクラやウィルスという事もあるまいが、念のため作業に使っていたPCとは別のPCでアクセス。

表示されたページを眺めて、秋瀬或は笑みを浮かべた。
けっして明るい性質の物ではない笑みを。

「ふふ、ふふふ……。やってくれますね……、歩さん」

まさか、こういう手で自分を介さない情報公開の場を設け、こちらの戦略を潰してくるとは。
……これでは、blogはもはやただ情報の提供を受けて発信するだけの窓口としてしか機能しない。
それはそれで十分に意味があるものだが、当初の想定よりも大分重要性は低下しているだろう。

「いいでしょう、あなたの思惑に乗って差し上げます。
 ……あなたならいずれ、僕に頼らなくても“これ”を広める方法を思いつくでしょうしね。
 だとするなら、むしろここであなたに貸しを作っておく方がいい」


先刻のやり取りを思い出す。
鳴海歩は、実に見事な相手だったと言えるだろう。
日記所有者を含めてすら、頭脳と言う点で彼に及ぶものはそういまい。
敢えて挙げるなら我妻由乃だが、冷静さと言う点で彼には数段劣る。
その分彼女は何をやらかすか全く計算できないところが恐ろしくあるのだが。

……だが、自分が負けたわけではない。
勝敗はまだイーブンだ。

392銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:20 ID:FY7jOmbA0
――例えば。
歩は未来日記に関しては、根本的なルールをいくつか知っただけだ。
未来日記の所有者や能力についての情報もないし、DEAD ENDについての知識もない。

何より、“前のゲーム”の目的についての知識すら鳴海歩は知らない。
未来日記に関する一連の事象に関して、自分は彼より遥かに多い情報を握っている。

確かに、自分が由乃の裏切りを警戒していることに気付かれたのは想定外だった。
しかしまだ、我妻由乃が偽者である事についての情報を握っているのは自分だけなのだ。
あの雪輝を直接動かしうる情報を握っている事は、自分の最大のアドバンテージと言えるだろう。

「……ですがね、歩さん。
 僕はあなたに全面的に協力するつもりはありませんよ?
 ただ、あなたの作ったアイデア宣伝の場を紹介するだけです。
 まあ、そのアイデアを実行する人の心当たりが、あなたには無きにしも非ずなようですが……」

その人物がここにいる事を確信している訳ではないのだろう。
つまり、このアイデアはまだ実行に移されていない。
その段階から観察していけば、自分にとっても多くの情報が得られるだろう。
たとえば、彼と自分に同時にタレ込みがあれば、それを示し合わせる事で確度を高められる。
自分と歩の繋がりを内密にするからこそできることだ。

――と、その時。

「或、いくつか使えそうな物を調達してきたんで渡しとくぞ。
 最低限の護身にはなるだろうしな」

ガチャリとドアノブが回り、リヴィオが姿を現す。
手持ちぶたさだと言って、彼は周囲の哨戒を行っていたのだ。
そのついでに使えそうな物を見繕ってきたのだろう。

「助かります。……ふむ、こんな物まで残ってたんですか。
 これは確かに色々と使えそうですね、特に護身には事欠かない」
「ああ、流石にあのオカマの武器は物騒すぎるんでな。もう少し融通の利く武器を選んで持ってきた。
 ――しかし、ここは警察なんだろ? それにしちゃあ備えてある武器が貧弱すぎる気もするが……」
「いえ、十分すぎるほどですよ。それに本来は治安が良かった証拠です」

立ち上がってリヴィオのほうへと向かう或。
彼の持ってきた品物を物色し、その中の一つを手に取る。
目をすがめ、はあ、と嘆息する。

「……ニューナンブですか。成程、やはりここは日本国内のどこかであるようですね。
 まあ、建物の建築様式や使用している文字からしてそうだとは思っていましたが……」
「こいつの名前か? ニッポン……てのはお前さんの生まれたとこだったよな、俺たちはそこにいるのか」

くるくるとリボルバーを弄び、すぐに抜ける位置に収める。
リヴィオの問いに頷いて説明。

「この銃は僕の出身国の官公品なんですよ。お上謹製だけあって、外国にはあまり出回っていないんです。
 性能面でもまあ、そこまで需要がある銃じゃありません。
 ついでに言えばこの銃は生産終了しているので、この島は最新型が配備されていない僻地と見ていいでしょう」
「うーん……。俺はその、ニホン語ってのを喋ってるつもりはないんだがなあ。
 このポスターの文字とかも普通に読めるし」

393銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:39 ID:FY7jOmbA0
リヴィオの目線の先にはにっこり笑みを浮かべる○ーポくんのポスターが張られている。
日に焼けて色褪せたピー○くんは、正直全く役割を果たしているようには思えない。
……それだけのどかな島だったのだろうか、ここは。

「ただ、いずれも状況証拠に過ぎません。
 現状、日本によく似ているだけの平行世界だと言っても信じてしまえそうなくらいですからね」

肩をすくめ、それから再度席に着く。
PCに向かって更新作業の続きを行うのだ。

「どうした或、不機嫌なんだか楽しいんだかよく分からない顔だな」
「いえ、どちらでも正解ですよ。
 ……まさかここまでキレる方がいたとはね。世界は、広い。
 ですが――、」

不敵な笑みを浮かべ、秋瀬或は淡々と告げた。
あたかもそれが確定した未来であるかのように。

「僕の探偵としてのプライドにかけて、鳴海歩さん、あなたより先んじて突き止めてみせますよ。
 このゲームの真実に関してをね」


【C-02/警察署/1日目/早朝】

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、不明支給品×1(確認済み。説明書が付属するような類のアイテムではない)、
    携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
 1:雪輝たちから連絡が来たら歩に自分にも連絡してもらい、日記取引場所に潜伏。
   雪輝以外の日記所有者と接触、合流するかどうかは状況次第。
 2:我妻由乃対策をしたい。
 3:探偵として、この殺し合いについて考える。
 4:雪輝と連絡がつかなければ従来の方針通りリヴィオに同行しつつ、放送ごとに警察署へ向かう。
 5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に張って置く。
 6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
 7:探偵日記を用いて雪輝達の情報を得る。
[備考]
 ※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
 ※病院のロビーの掲示板に、『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』というメモが張られています。
 ※リヴィオの関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
 ※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
 ※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
  並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
  ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
 ※螺旋楽譜に記された情報を得ました。管理人は歩であると確信しています。
 ※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
 ※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。

394銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:59 ID:FY7jOmbA0
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2、エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、詳細不明調達品(警察署)×1〜3
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
 4:ロストテクノロジーに興味
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。


※島内では接続できるのはローカルネットワークのみです。
 また、上下かまどのblogサービスと同様のサービスが提供されています。


【ニューナンブM60(5/5)@現実】
 警視庁や公安、海上保安庁御用達の日本国製リボルバー。
 S&W M36をベースとして開発しており、装弾数を6発から5発に減らす事で軽量化を図るという設計思想を受け継いでいる。
 シングルアクションとダブルアクションどちらも備えてはいるが、ダブルアクションの性能は良くないらしい。
 威力や命中精度はさておき、使用した時の安定感は日本人にとってはちょうどよく調整されている。
 グリップが大きすぎる、という話もあるが……。

【.38スペシャル弾@現実】
 S&W M36やニューナンブM60に使用できる弾薬。

【手錠@現実】
 手首と手首を連結させ、ある程度の自由を拘束する道具。
 官公品には鋼鉄製のものアルミ合金製のものがあるが、これは前者。
 もちろん鍵とセット。特殊な性癖を持つ人にも大人気。

【警棒@現実】
 アルミ合金製で伸縮可能。
 人を殴る為の道具だけあって扱いやすい。

395銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:54:20 ID:FY7jOmbA0
**********


探偵日記 管理人名:HN:coin_toss

一日目 早朝

こんばんわ。いや、もうおはようございますかな?
とりあえず第二回目の更新となる今回だけど、残念な事に僕の方に目ぼしい収穫はない。
もうすぐ放送と言うこともあって迂闊に動けないしね、生存報告代わりの更新だ。
強いて言えば、この島がどこに位置しているかの手がかりを少し手に入れたことくらいか。

この島の建築様式や生活物資の特徴、使われてる文字の体系から考えて、僕はこの島を日本のどこかでないかと考えている。
日本を知らない人は、知っている人に出会ったら教えてもらえばいいだろう。
住みやすいし治安もいいから、一度は本土を訪れてみて欲しい。
刃傷沙汰を起こす事だけは勘弁して欲しいけどね。

それと、どうやら耳の早い人たちがいたようなのでコメントを抜粋して紹介しよう。
原文そのまま、改変が加わっていない事をコメントを送ってくれた諸君は確認して欲しい。

ああ、ちなみにコメントの抜粋は、このコメントは公開しないでほしい、と言うような内容が含まれていれば一切しないつもりだ。
情報ソースはしっかり守るよ。
抜粋したコメントは公開設定に変えているので、ソースが欲しい人は前の記事を参照して欲しい。


『管理人さんへ。
 面倒なのでコメント欄公開しません?
 情報は共有した方がいいと思いますよ☆』

『俺はフェアな取引を望む
 まずは全てのコメントを公開しろ』

……確かに、君たちの言い分も一理ある。
だけど、出来る限り僕はこのblogを“確度の高い情報”の発信場所として位置づけたいと考えているんだ。
君たちのように情報の扱い方が上手い人ばかりじゃない以上、ここは安心して記述を信じられる場所でありたい。
そして、安心して情報を託せる場所でもありたいんだ。
可能ならば裏を取ってから――それが出来なくとも十分信頼できると判断したらここに記すつもりだ。
画像や音声、動画も場合によっては組み込んでね。
だから、確度の低い情報であっても欲しいならば、出来れば僕に直接メールを送って欲しい。
個人的な依頼も受け付けているからね。
もちろん、情報ソースとなってタレ込んでくれる場合でも大歓迎だ。
ただしその場合は目に見える形のソースをこのblogで提示できないから、皆に知っておいて欲しい情報はコメント欄に書き込むべきだろうね。


そうそう、君たちに耳寄りな情報を。
この会場では、探せば結構物資を補給できるようだよ。
現に僕も携帯電話を調達できた。ネットにアクセスするには手に入れておいたほうがいいと思う。
……これで、少しは信用してもらえたかな?

396銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:54:44 ID:FY7jOmbA0
『あんたのやり口を参考にさせてもらった。
 こいつをリンクに登録しておいてくれ』

……ふむ、確かに僕以外にも情報発信の場はあったほうがいいかもしれないね。
一方的に与えられる情報を危険視するのは上の二人に限らないだろうし。
僕は僕で信頼性の高い情報を発信し続けるつもりだけど、この新たなblogの管理人さんの記事も役に立つかもしれない。
という訳で、リンクに“螺旋楽譜”を登録させてもらったよ。
こんな状況下だからこの人の情報を信頼しろと言えないのが残念だけど、もし情報発信の気概が本物なら頑張って欲しい。


P.S.
君たちはここに招かれた際、シルエットの一人があのムルムルと話していた内容を覚えているかい?
そう、1stと呼ばれていた彼ないし彼女だ。声からして男性だとは思うけどね。
そしてシンコウヒョウと呼ばれた男と対峙した男性も、だ。
僕は彼らがこの状況に関して何らかの手がかりを握っているのではないかと考えている。
だから、彼らについて情報を持っている人は僕に連絡を入れて欲しい。
このゲームに関する重要な手がかりが手に入れば、随時ここで公開していくつもりだ。
代わりに、君たちが欲しい情報があれば優先的に、更に場合によっては独占的にそれを伝える事を確約しよう。


Link:
螺旋楽譜


**********


螺旋楽譜 管理人名:HN:水濁

一日目 早朝


まず最初に言っておくと、このblogは不定期更新だ。
先の“探偵日記”の主みたいにまめに更新していくつもりはない。
もしかしたらこれっきり更新しない可能性もあるわけだが、まあ、沈黙してるからって死んでるとは限らないって事だ。

ついでに言うならここのコメントは全部公開する設定だ、意見があるなら勝手に書き込んでくれて構わないぞ。
代わりに返信するかどうかも期待しないでくれ。

さて、前置きを無駄に喋っても仕方ないしな、伝えるべき事だけ伝えておく事にするよ。

単刀直入に言えば、この殺し合いは首輪を外したり、“神”に反逆する可能性すらも組み込まれて運営されている節がある。
だから、あんたらもこの首輪をどうにかしたり、脱出する為の方策をひたすらに考え続けてくれ。
表面上起こっている事に流されるな。そして、それを実行に移せ。
俺みたいなのでもいいから人手が欲しいんだったら、連絡を入れろ。
ただし役に立つ保証は無いんだけどな、まあ駄目元で頼ってみろとだけ言っておくよ。

397銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:55:28 ID:FY7jOmbA0
保証、と言えばどうしてそんな事が言えるのかっていう保証を求められそうだな。
まあ、確かに確実な保証は無い。
だが少なくとも、あんた達がこれを目にしているって事は、反抗的な言動すらも検閲されてないって事だ。
そして、あの最初の場所でムルムルってやつが言っていた、
『我等二人を除く、この中の人間が最後の一人になればそこでゲーム終了。その過程においては何の反則も無い』
という台詞。
『その過程においては何の反則も無い』
これは暗に、首輪を外したりするような、一見すぐにでも粛清されかねない行動すらも許可される、とも取れるだろ?

あとは、そうだな。
具体的に首輪を外せそうな技術とその持ち主が、この会場には何人か存在している。
たとえばそれが工作技術だったり爆発物知識だったり、錬金術なんて物だったりな。
あんた達の中にも心当たりがある奴がいるはずだ。
あたかも、首輪を外してください、と言わんばかりにな。

その上で、あの時言われたルールを検討してみてくれ。
それぞれのルールがどういう意図の下設定されているのか。
なぜルールにあって然るべきルールが存在していないのか。
そして、どうしてわざわざ言う必要のないことまで連中は口にしたのか、を。
そうすれば、この殺し合いが何を目的としているのか、輪郭が見えてくるはずだ。

……自分でも分かるが、不確かな推測だな。
だが、それでもこの文章を見て多少なりとも希望を持った奴がいるかもしれない。
そういう奴に言っておく。

甘えは捨てろ。
この程度の事は、最初っから仕組まれてる茶番に過ぎない。
全ての情報、全ての虚実、全ての状況は、そう推測できるように敢えて配置されているだけだろう。

与えられた情報で辿り着ける真実なんて、更なる真実を覆う殻に過ぎないんだ。
そしてその殻は、マトリョーシカのように何重もの入れ子になっている。
確かに、首輪の解除や反逆は可能かもしれない。
脱出すらも可能かもしれない。
だが、それだけだ。
単純にここから脱出できたからといって、これまで以上の絶望がその先に待ち構えている可能性は限りなく黒に近い。

結局、俺に言えるのはこれだけだ。
俺たちは全員、運命に絡め捕られた操り人形に過ぎない。

情報を握った事に慢心して、絶対者にでもなったつもりにはなるな。
自分の思った通りに事が推移したからといって、支配者にでもなったつもりにもなるな。

それらが全て、誰かの手で踊らされているだけである事を心に刻め。
そういう事すら可能にしかねない人間を、俺は知っている。

俺の言葉を全て信じるな。
そして存分に考えろ。
自分を救えるのは、自分だけなんだからな。

398銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:55:50 ID:FY7jOmbA0
……ああ、最後にこれは宣伝を兼ねた私信みたいなものなんだが。
もしあんたがここにいるなら、掲示板を作って管理人に納まってくれ。
俺がやるよりもあんたの方が適任だろうしな。
あんたなら十分それを生かせるだろ。
心当たりがあるなら行動に移してくれ、連絡をくれたらここにリンクを張る。


Link:
探偵日記


**********


……さて、唐突な話題ではあるが、一つの事について考えてみよう。

秋瀬或の天野雪輝評には一つ間違いがある。
それは、“よほどの事がないと生存を第一に考える人ですから、まずこの殺し合いに乗ってはいないと思いますよ”と言う一文に関してだ。
成程、確かに『今ここに呼ばれた雪輝』ならば、その言葉の通りだろう。
だが、『今ここに呼ばれた秋瀬或』もまた、知らないのだ。
父母の死により何かのネジの外れてしまった天野雪輝のことを、この秋瀬或は知らない。
変貌を遂げた彼と出会う直前の時間軸から、彼は呼び寄せられているのだから。

例えば、だが。
もし何かの因果によって天野雪輝が父母の死をその耳に吹き込まれたなら。
あるいは、未来に起こる父母の死を知ってしまったなら。
……あるいは。
今度こそ信じ通すと決めた誰かを、目の前で失ったなら。

その時、雪輝はおそらく鳴海歩や秋瀬或を含むこの会場にいる全ての人間にとって、最悪の伏兵となるだろう。
その全知の力を持ってありとあらゆる相手を迷いも躊躇いも容赦もなく陥れ、地獄に引きずり込むに違いない。
新たなる神とやらを蹴落とし、自分がその高みに成り代わる事を目的として。

399銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:56:22 ID:FY7jOmbA0
なに? 対策がある、と?
鳴海歩が切り札としてコピー日記を隠し持っているではないか、と?

いやいや、そんな都合のいい話があるはずないだろう?

たとえ鳴海歩が無差別日記を写し取り、“覗き見る”道具を手にしていても、実はそれは全く以って頼りにならないゴミクズだ。
未来日記とは、元々はただの日記の延長機能でしかない。
つまり、手動で偽りの内容へといくらでも書き換える事が出来る。
残るのは本来の所有者だけが一方的に未来の情報を得て、覗き見る出歯亀が哀れにも誤情報に踊らされる惨めな様だけ。
日記本来の所有者でない鳴海歩は、それを知らない。
しかもコピー日記は、その本体である“増殖日記”を破壊されても機能を止める。
彼が切り札と確信する道具は、奈落の上に張った薄氷でしかないのだ。


警告する。
天野雪輝に、無差別日記を渡してはならない。


――しかし、この警告は誰一人にとて届く事はない。
事態は確実に雪輝の手に無差別日記が戻る流れに乗っている。

果たして雪輝の変貌は殺し合いの中で起こるのか。
それが鳴海歩と天野雪輝の邂逅の直後に起こるのか、殺し合いの終焉を目前としたその時に起こるのか。
あるいは、全ては杞憂に過ぎないのか。


未来を語るはずの日記は、今もまだ沈黙を続けている。

400 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:31:56 ID:vXfvemNU0

グリフィスとゆのの二人は当初の目的である旅館を目指し、道に沿いながら北上しつつあった。
あれから、しばらくゆのが落ち着くまで時間がかかったが何とか落ち着きを取り戻していた。


「ぐす……すみません、グリフィスさん。あの牛のおばけを見たら怖くなって……ぐす」
「仕方がない。あんなモノが突然現れれば大の大人でも震え上がる。寧ろ、君は立派だ。あんな出来事があってもこうして毅然としてる」
「い、いえ! 全然立派じゃありません! あんなでっかい牛のおばけに一歩も引かなかったグリフィスさんの方がずっと立派です!!」
「私は何もしていない。ただ向こうが勝手に何処かに行ってくれたおかげだ」

グリフィスはゆのの手放しの称賛を止めさせようとする。

「で、でも、グリフィスさんが居なかったらどうなってたか……本当に凄かったです!」

だがそれでもゆのは称賛するのを止めず、心底尊敬したような眼差しを向ける。
巨大な魔物と睨み合って一歩も引かなかったグリフィスを見て感銘を受けたと言うべきか。
彼女自身が美化してる部分も多分にあっただろがゆのの心を掴んだのは確かだった。
グリフィスは彼女の称賛の言葉に困ったように苦笑を浮かべる。

「それよりゆの、少し聞きたいことがあるのだが?」
「はいっ、何ですか、グリフィスさん?」
「君がさっき言ってた日本のことについて聞きたい」
「え? は、はい。いいですよ」

401 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:33:14 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


グリフィスさん、外国人だから日本のとこが知りたいのかな。
でも日本語がこんなに上手なのにどうして……
あ、日本人から日本のことを直接聞きたいからだよね。
そうだよね。私も英語がペラペラなら一度外人さんにお話したいと思うし。
こんな時だけどこんな風に男の人とお喋りするなんて初めてだな……
もしかしたら生まれて初めてかもしれない……

確かにゆのが男性と、しかもこのように年上の男性と二人きりで会話する機会は彼女にとって初めてだった。
最初の出会いは恐怖に囚われて彼に殺されると思いこみ、酷いことを言ってしまった。
それなのに、そんな酷いことを言った自分に君を守ると言ってくれた。
こんな殺し合いの渦中に放り込まれて、一人ぼっちで震えてた自分を。
もし彼がいなかったら今頃、自分はどうなってたか。
先程も突然、巨大な牛の魔物が現れた時も自分はショックで何も出来なかった。
人は急に思い掛けないことが起きると震えることすら出来ないのだと初めて知った。
でも彼は、グリフィスは違った。
魔物と対峙し剣を突き付ける姿は本当に物語の英雄のようだった。


つり橋効果と言うべきだろうか。もし今のゆのの様子を冷静に見てる者が居ればそう断定したかもしれない。
もっとも、そうなってしまったのもある意味仕方のないことかもしれない。
グリフィスのまるで神がその手で自ら創造したような整った容姿、人を魅了する穏やかで爽やかな口調、
気高い意思を秘めた眼差し、そして本人からまるで滲み出るかのようなカリスマ。
彼女の平凡な、そしてそれほど長くない彼女の人生の中で関わったことのある他人の中で
突然彼女の目の前に現われた彼はそのどれとも違った。
それにゆのは人を憎んだり疑ったりする負の部分が限りなく小さい。
どちらかといえばお人よしな善人を絵に書いたような少女である。
実際に今もグリフィスがゆのを守るのも彼女を利用する為だとは欠片も思いもしていなかった。

402 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:35:54 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


「うう……すみません、グリフィスさん。私、そこまで詳しくなくて……」

グリフィスにゆのの普段の生活や親友のことを聞かれ、最初はゆのも喜んで普段の生活を語ったのだがグリフィスの質問が

『その学校で普段学んでる学問の内容は?』
『皆が皆、この携帯という物を持っているのか?』
『ゆののご両親の御身分は?』

など質問の内容のレベルが上がり始めてから雲行きが怪しくなりさらに

『民主主義? それはどういったモノなのだ?』
『日本にも王族がいるがどうやって政治もしてないのに君臨しているのだ?』

質問が日本の一女子高校生の範疇を超え出すし、ただの少女のゆのにとっては難しい質問になると
ちゃんと答えることができずあたふたするしかなかった。
内容の中には幾ら何でも現代人なら知ってるような内容も含まれていたがゆのがグリフィスを外国人と思いこんでいた為
『日本はこんな国なんだと誤解してるのかな?』『日本にも○○や△△とかあるのに』と思うくらいで特に不審とは思わなかった。

「いや、ゆののおかげで日本のことを色々と知ることが出来た。礼を言うよ」
「いえいえ! 私がもっと詳しく知ってたらちゃんと説明出来たんです! ああ、沙英さんかヒロさんか居てくれたら……」
「ゆの、その二人は君と同じ日本人だね。………その言いにくいことだが………君の知り合いも………」

その言葉を聞いた途端、それまで和気あいあいとグリフィスとお喋りしてたゆのが青ざめた表情で俯いた。

「………グリフィスさん、私、私、………」
「わかってる、ゆの。わかっているよ………だが今は旅館へ向かおう。そして他の参加者を探して合流しよう。
 今できることはそれだけだ………」
「………はい」


………宮ちゃん、沙英さん、ヒロさん………みんな大丈夫だよね………

403 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:36:52 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


こうして二人が歩くことしばし、目的地である旅館に着いた。
やっと着いた。ゆのはほっとした顔をして旅館内へと向かい……その肩をグリフィスに掴まれ止められた。

「どうしたんですか、グリフィスさ……」
「静かに。人が居た形跡がある。私の後ろに下がっているんだ」

グリフィスの低く鋭い声を聞き、ゆのが顔を緊張で引きつらせる。
剣を何時でも抜けるようにしながらグリフィスは旅館内に踏み込む。
ゆのも恐怖でびくびくしながらそれに続いた。



結論から言えば旅館内には誰も居なかった。
館の床には靴が激しく擦れた様な跡、壁に何かがぶつかった様な傷跡があり何か騒動が起こったことを想像させた。
台所には二人分の料理、だが手がまったく付けられていない。
おそらく食事をしようとした。だが手をつける前にここを出て行かざるえなかった。
第三者の襲撃を受けて逃走したのだろうか。だが旅館には大きな血痕や死体らしきものは無かった。
そして料理はすでに冷えきっていた。
旅館を出てから数時間経ったという所だろう。

404 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:37:28 ID:vXfvemNU0

「どうして出て行ったんでしょうね……」

ゆのは力無くそう呟く。
死体やゲームに乗った参加者に出会わなくてほっとした反面、
他の参加者、特にひだまり荘の面々と合流出来るのではという期待が外れてがっかりしたようだ。

「ゆの、この様子ではここに居た人間は帰ってこないだろう。だがここに別の参加者が来るかもしれない。
 私が外で見張るから君は体を洗って来るといい」

そんなゆのにグリフィスは当初に目的を行うよう促す。

「え、でもいいんですか? もし、その……」

だがこの状況でお風呂に入ることを優先出来るほどゆのに度胸がある訳がなく。

「安心したまえ。君を置いて行くような真似はしない。少しは私を信用して欲しいな」
「い、いえ! グリフィスさんを信用しないなんてそんなことしません!」

だがグリフィスに優しく諭されれば反対出来る訳もなく。

「そう言って貰えると嬉しいな。ではまずは君の代わりの服になる物を探そう」
「は、はい!」

結局、グリフィスの言い分が通ることとなった。

405 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:38:06 ID:vXfvemNU0


***


あの大きな牛のおばけはなんだったんだろう……
それに私達を拉致して殺し合えと命令したあの女の子とピエロの人は何者なんだろう……
確かに気がついたらあそこにいてそしたら今度は森の中にいつの間にかいて……
まさか宇宙人? 宇宙人なの?
宇宙人が地球で地球人を拉致して変な金属を埋めこんだりモルモットにしたりするって聞いたことある……
だから私やグリフィスさんを拉致したの!?
で、でもテレビや本で見た宇宙人とは姿形が全然違ってたし……
それにあの牛のおばけも宇宙人なの?
あれ? あれれ?


それに宮ちゃん、沙英さん、ヒロさんもここに連れてこられてるの?
宮ちゃんも沙英さんもヒロさんも私よりしっかりしてて、でも私と同じただの高校生で……
……大丈夫だよね?……私なんかが大丈夫だからみんなもきっと大丈夫だよね?

うん、きっとそうだよ。殺し合えと言われて殺し合うなんて出来っこない。
みんなできっと無事にひだまり荘に帰れる。そして、またみんなで学校に行って絵を描いて遊んで……
絶対、何とかなるよ。うん。

406 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:38:55 ID:vXfvemNU0

着替えの探索は着替えになる浴衣はすぐに見つかったのだがやはり下着までは無かった。
ただ銭湯の入り口付近に無料コインランドリーがあったので洗濯と乾燥は思ったより早く済みそうだった。
ゆのが入浴する段取りが出来るとグリフィスは『では私は外で待っていよう。ここに来る参加者がいないとも限らない』と
言って外で見張ってくれることになった。


グリフィスさんって本当に頼りになる人だなぁ……
強くて、かっこよくて、何でも出来て……
グリフィスさんに比べたら私なんか……
ううん! そんなことない! 私にだって何か出来ることはあるはず……
でも、私に何が出来るんだろう……
グリフィスさんの足手まといになってばっかり……

とりあえずお風呂から上がってから考えよう。


脱衣所で服を脱ぐと汚れた衣服を洗濯機に放り込み、石けんとタオルを持って大浴場へのドアを開ける。

「うわぁ、すごい……絵に描いたような温泉だ(はぁと」

少なくともこの時だけはゲームのことを忘れることが出来た。
そして入ろうと大浴場に一歩足を踏み入れ……ファ○リーピュアに足をとられてコケた。

つるん〜 
「え?」

ゆのは足を滑らし、後ろにひっくり返り……

びったーん。

転倒、半回転してしたたかに後頭部を打ちつける。
しかも、頭から思いっきり、漫画のような擬音語付きで。

「きゅう……」

407 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:39:40 ID:vXfvemNU0

【G-8/旅館内 大浴場『ムルムル温泉』/1日目 早朝】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:朦朧、後頭部に大きなたんこぶ
[服装]:全裸
[装備]:タオルと石けん
[道具]:支給品一式 未確認支給品0〜1、PDA型首輪探知機
[思考・備考] 温泉に入って奇麗になった後、自分に何が出来るか考える
1:きゅう……
2:宮子、沙英、ヒロに会いたい
3:グリフィスさんに守ってもらう。
4:でも守られるだけじゃ嫌。私に出来ることって何かな?
5:まさか私達を拉致したのは宇宙人?


※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします
※脱衣所に彼女のデイパックと浴衣があります。彼女の服は洗濯機の中で洗濯中です

※G-8旅館一階の大浴場の床が、ファ○リーピュアで大変滑りやすくなっています。

408 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:40:38 ID:vXfvemNU0


×       ×       ×


グリフィスはゆのと別れた後、これからのことを思案することにした。

ここに最低二人の誰かは居た。だがすでに数時間前にはここを出て行った。
ここで誰かと出会えるのではと思っていたがあくまでも不確定だったのでそれほど失望はしてはいない。
可能なら合流したかったのは事実だ。しかし当ても無く探索するのは時間の浪費でしかない。
そろそろ夜が明ける。出来れば第一放送までの期間までにどこかの大集団に潜り込むか他の参加者を加えて戦力を充実させたかったが
今まで出会ったのはあの少女と不死のゾッドだけ。
放送が始まれば名簿に参加者が浮かび上がり死亡者と禁止エリアが放送される。

そうなれば自らの仲間や知人を保護しようとやっきになる者、殺された者の敵を討とうと血道をあげる者、
親しい者を殺されて混乱し絶望する者、参加者が減ったことでゲームに乗る決意をする者、
例え、これまでに上手く参加者を纏めることが出来た集団がいたとしても綻びが生まれる。
ゾットのような化け物もいる。その中で生き残るにはその分裂し、混乱しそうな他の参加者らを利用し、あるいは欺き、それらをまとめること。
そして出来るならその集団を指揮するのは自分であるのが望ましい。

グリフィスにはそれが困難であっても不可能だとは思わなかった。
自分には、それらを従えさせられるという自信が、確信があった。

409 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:41:30 ID:vXfvemNU0

それにしてもあの少女、最初はただの娘だと思っていた。いや、実際にはただの娘なのだろう。
だが彼女が語った日本という国、その国での彼女の普段の生活や未知のテクノロジーは彼の知識や想像を遥かに超える。
自分が知らない世界、この世のものとは思えない世界の住人、信じがたいがそういう存在が実在し参加者としてここに
居ることを前提にして行動した方がいいだろう。
そしてもっとそれらの情報を集める必要がある。
更にそんな存在を召還した神と名乗る存在。あのゾッドすらこのゲームの参加者として引っぱり込めるほどの力量だ。
連中はただ神を気取るだけの愚昧な輩では無いのか? 見世物の為にこのようなことをしたのだろうか?
正直、興味を掻き立てられると同時に戦慄を覚える。伊達に神を名乗ってるわけではないと言うところか。
上手く首輪を外すことが出来たとしてもこの島から脱出しようとするなら主催者は必ず立ちはだかるだろう。

(侮れないということだろうな……だが奴らが本当に全知全能の神だと言うのなら私がそれを試してやろう。
 私やガッツをこのようなことの駒にしてくれた礼をしなくてはな)

グリフィスは心中でそう呟く。
例え相手が巨大であろうとも、本当に神であろうとも鷹は羽ばたくのを止めない。
何故なら彼が望むのは神に頭を垂れることでは無く「夢」に向かって羽ばたくことなのだから。


さて、放送までまだ時間がある。
そして放送と同時に名簿に名前が表示される。
ガッツ以外の鷹の団メンバーやゆのの知り合いの日本人の存在を確認する必要がある。
メンバーの再集結や『ゆのの名前』を利用して他の日本人との交渉などやるべきことが幾らでもあるからだ。
そして死亡者にそれらが何人含まれるのかも知らなければ。
本来なら参加者を確認してから行動しても遅くないだろうが足手まといな彼女と一緒で行動するより単独行動の方が何かと都合がいい。
だから彼女に風呂に入るように勧めたのだ。これまであの娘と共に居るのはあくまでもその方が脱出するのに有利だったからだ。
幸いあの娘の心を掴みつつある。もう少しあの娘の信頼を獲得してから単独行動をしたかったが仕方ない。

ゆのが脱衣所へ姿を消すのを確認するとグリフィスは旅館の入り口に出るとデイパックからある物を取り出す。
それは一対の石貨みたいな輪、宝貝人間である哪吒が使っていた風火輪という貝宝。
グリフィスがこれまでこれを使用しなかったのは彼の世界の常識から見れば魔法の道具にしか見えなかった為、そんな物が本当に存在
するとは信じられなかった。

410 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:42:22 ID:vXfvemNU0
だがゆのとの会話や携帯電話のような道具を見てこれが『そういうものがあっても、おかしくはない』と思えるようになった。
説明書には使用すれば疲労すると書いてある。どのぐらい疲労するか不明だがこれを使えば短時間で遠くへ移動することが可能だろう。
時間を掛ければ掛けるほど状況は悪くなる。危険ではあるがここで勝負を賭ける必要がある。


グリフィスは説明書にある手順どおりに風火輪をセットする。
左右の足の下の風火輪が地面から浮きあがる。そしてグリフィスが前に進めと念じたとおり彼の体を上空へと飛ばす。
一瞬、驚きの表情を浮かべたがすぐに平常を取り戻すと南へ向けて飛行する。

ゆのから用途を聞いた設備、西の工場か研究所に興味があったが専門知識まで持ち合わせてない自分が行ってもどれだけ
有益なのかわからない。

北は市街地から離れるうえに『ガッツが教会へ向かうなどありえないな』という思いがあったので南へと決めたのだ。

風火輪でかなりの速度を出しながらグリフィスは南へと向かう。
その先にあるのは破滅か? それとも……


*****


さて、グリフィスはゆのと同行して利用するよりも単独行動を選んだわけだがそれなら何故ゾットと出会って恐慌に陥った
時点でゆのを放置しなかったのか?
彼女から情報を聞き出したかったから?

それもあるだろう。

411 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:43:28 ID:vXfvemNU0

だがそれだけではない。グリフィスはある手を打ってから彼女と別れたのだ。
グリフィスは彼女が脱衣所に姿を消したのを確認してから目に付く場所にあるメモを置いてから去っている。

そのメモの内容は

『唐突で申し訳ない、これから他の参加者や君の親友を保護する為に探索へ向かう。
 危険なので君はここへ隠れて私の帰りを待ってて欲しい。
 もしここが危険だと感じたら北の教会へ向かってくれ。
 可能なら出来るだけ早く君とまた合流出来ることを祈ってる。
 念の為に読み終えたらこのメモは君が持っていて欲しい。私達が再会出来ることを信じて。
 
 追伸 
 支給品には一日分の食料しかなかった。私達や合流出来た参加者の為に料理を作ってくれたらありがたい。
 君や君の親友と共に食事を迎えられたらいいと思ってる』


メモにはゆのの親友を含めた他の参加者を保護することと再会したいことを望む言葉が書かれている。
少なくともこのメモには嘘は書かれていない。
だが何故一緒に行かないのか、何時帰って来るのかまでは書かれていない。
これから放送があり、その放送に彼女の親友の名前があった場合、また彼女が恐慌に囚われる可能性があったのにだ。

グリフィスにとってこの時点でわざわざケアしなければならない足手まといなど要らない。
もし彼女が殺し合いに乗ってない参加者と出会えるのならそれでよし。
上手く行けば彼女の口とメモから『彼女を保護し、他の参加者も保護しようとする参加者』の宣伝が出来る。
だが殺し合いに乗った参加者と出会い、殺されるのなら彼女の運命もそれまで。

412 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:44:03 ID:vXfvemNU0
メモにはグリフィスの名前や行き先までは書かれていないからメモを奪われて読まれてもそれほど痛くはない。

彼女を利用して他の参加者を味方に引き込むのなら、一緒にいて彼女を守る手間よりも危険に巻き込みたくないから別れたという言い訳の方が
グリフィスにとって労力が少ないし相手を丸めこむ自信は幾らでもある。
それに相手がゆのの存在を疑っても彼女とその親友の詳しい情報を知ってるので納得させる自信もある。
無論、不安要素は幾つかあったし彼女が死亡した場合、その判断を他者から責められる可能性はあった。

だがグリフィスは敢えてこの手段を選んだ。
これはこのゲームを制する為の最初の賭け。そう割り切って。

413 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:44:47 ID:vXfvemNU0

【H-8北部/上空/1日目 早朝】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考] 南の施設を回り、他の参加者を探しまとめる
1:ガッツと合流
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける
3:役に立ちそうな他の参加者と合流しまとめる。ゆのとの再合流は状況次第
4:未知の存在やテクノロジーに興味
5:ゾッドは何を考えている?
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。


※脱衣所の目の付く場所に彼のメモがあります。
※グリフィスは旅館の南へ向かいましたが
 どの施設へ(デパート、図書館、診療所)向かうか次の書き手へ任せます。

【風火輪@封神演義】
宝貝人間である哪吒が最初に持っていた貝宝
一対の石貨みたいな輪。両足で踏みしめて使用し高速で空中移動することが出来る。

414 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:54:42 ID:RINegf7I0
「……やはり一度市街地に向かうしかないですわね」

捻挫した左足首を氷水で冷やすという、応急処置をとりながら鈴子は呟いた。
捻挫を治療する道具を求め教会内を探したが、運悪く救急箱の類を見つける事が出来なかった。
その代り手ぬぐいを十枚ほど確保できた、もし佐野と合流したなら彼に渡しておこう。
医療品を見つけられなかったので、仕方が無く所で見つけた鍋に水を張って氷を入れ、その中に左足首を突っ込んで冷やす事にした。

しばらくこのまま動けそうにないので、とりあえずこれからの事について考えてみる。

(まずロベルトを生還させるのが最優先ですわね)

この殺し合いが自分達の戦いであろうがなかろうが、ロベルトが参加させられていたならば、彼だけは生還させなくてはいけない。
その為にロベルトや十団の団員と合流して、自分達の戦力をまとめる必要がある。
それと同時に、能力を使用する時に使う道具も十分な量を、出来るだけ早く確保しておきたい。


植木に団員を倒されていき、ロベルト十団も残り六人。
その内の一人、明神の『口笛をレーザーに変える能力』の様に、特に道具を必要としない団員を除いて、私が必要とするビーズの様に確保しておいた方が良い道具は……
佐野―『手ぬぐいを鉄に変える能力』―手ぬぐい
ベッキー―『BB弾を隕石に変える能力』―BB弾とそれを撃ち出す為の銃
鬼―『竹みつを大ばさみに変える能力』―竹みつ
マルコ―『トマトをマグマに変える能力』―トマト……って、六人中明神を除く全員が道具が必要じゃないですか!?


神様を決める戦いに参加している中学生は、基本的に多種多様な才能を持った少年少女である。
まあ、大人顔負けの武術家や暗殺者、兵士や天界人等いたりするが、基本的に参加者は普通の中学生である。
よって、最初に支給されたアイテムによっては、自分に武器がなく相手が強力な武器を支給されていたならば、能力者としてはかなり格下の相手だったとしても、あっさりと殺される可能性が出てくる。

415 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:55:15 ID:RINegf7I0
ロベルトには神器があるので特に道具はいらないから心配ない。
参謀指令のカルパッチョについては能力自体が不明だ。
だが佐野の手ぬぐいの様に比較的手に民家などで入れ易い物ならともかく、自分のビーズやトマトははっきり言って微妙だし、竹みつやBB弾はかなり厳しいだろう。
最悪十団は、全員が合流する前に半壊する恐れが強くなってきた。
いや、いくら佐野の手ぬぐいが手に入れ易くても、スタート地点が森の中だったりしたら話が違ってくるかもしれない、ならば状況なお悪くなる。


これは一度デパートに立ち寄り、必要な道具を手に入れておかなければなりませんわね。でも…


だがそれには一つ問題点があった。
デパートの近くに飛ばされた能力者が、自分に必要な道具を確保した上で、自分の様に道具を求めに来た参加者を狙って待ち伏せしているという可能性だ。
いくら他の十団の団員も向かっている可能性があるとはいえ、わざわざ虎穴に入る様な真似をするべきだろうか?
別の市街地に向かう手もあるが、この地図からでは何処にそう言った手の物が売っている店があるか分からない。
下手に当てもなく彷徨うよりは、素直にデパートに向かった方が良いだろう。


そうね、デパートで道具を確保出来るかどうかが、今回の戦いの最初の分かれ目。
この先の展開を有利に進める為にも必要な事ですわ。
どの道この足では、6時までにデパートに辿りつくは些か厳しいですし。それなら放送後の行動方針の決定に差し支えがありませんわ。
結局の所、後の事を考えればビーズの確保に一度は向かわなくてはなりませんものね。


鈴子にとって最悪なのは、この殺し合いにロベルトが参加しておらず、尚且つ前の戦いと全くの無関係である事である。
鈴子はあくまで自分勝手な他人が信頼出来ないのであり、他人がどうなろうと構わないという非情な人間ではない、むしろ仲間に対する憧憬は十団の中で一番強い。
故に、脱出不可能で他の人間を全員殺していく事には、どうしても抵抗があるのだ。
24時間死者無しの相討ちは、自分の手に負えないロベルトの脅威になるかもしれない能力者を葬る為と、無関係な人間を巻き込む事に対して自分の心を納得させる理由があるからいいが。

416 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:55:43 ID:RINegf7I0
だが脱出を目指すなら目指すで、不安な部分が鈴子にはある。
脱出するには首輪の解除は必須事項だ、その為に爆発物に詳しい人物や装置を解体出来る技術者の協力が必要不可欠になる。


ですが十団の団員以外の人間に信用がおけますでしょうか?


自分の事ばかりしか考えない人間を、一体どれほど信用していいのか。
彼らは十団の様な仲間では無い、自分が不利になれば容易に相手を見捨て裏切るに決まっている。
そんな人物を頼りにしても、こちらの寝首をかかれるだけではないのだろうか?
でもそれはある意味仕方のない事、誰だって命は惜しいのだ。
生きる為なら裏切りの一つや二つ位、平気で行いかねない。

でも自分達は違う。
自分たちロベルト十団は一致団結し、命がけでロベルトを優勝または共に脱出を成功させ……

命? 命がけで…?

ふと、鈴子は自分が何かとんでもない思い違いをしているのに気が付いてしまった。

まず前の戦いでは相手を必ずしも殺す必要はなかった。
気絶させてしまえば、それでリタイアなのだから。
だがこの殺し合いはそうではない。
この場からの脱出が不可能な場合、自分が生き残る為には最後の一人になるまで他の人間を皆殺しにしなくていけない。
そう、例えそれがロベルトであったしてもだ。

そもそも十団は、能力を使うと寿命が一年削られるロベルトの為に、自分達を含めロベルト以外の能力者を排除する事が主な仕事だ。
その代価として、一人勝ち残ったロベルトが空白の才を用いて世界を無にし、団員がそれぞれ理想の地位を与えられるというものだ。

一見何も問題がなさそうなこのシステム、実は幾つも問題があったのだ。
ただ、前の戦いでは無視できるものであって、この殺し合いでは無視できなくなってしまっただけ。

417 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:56:13 ID:RINegf7I0
まず一つ目、最後に残るのはロベルトである必要が無いと言う事。
空白の才―これを手にする権利が誰にあるのかそれを最初に決めておかなければ、お互いに相手を出し抜こうとして纏まった行動はとれないだろう。
幸いロベルトには、誰もが最強の能力者として認められるだけの実力があった。
故に空白の際の権利も、十団の頂点に立つ事もだれも異論が無かった。
だが逆に十団の頂点がロベルトである必然性がないのも確かであった。

二つ目、それは十団として働いた報償はその団員自身が生きていなければ、貰う事の出来ないと言うごく当たり前の物。
まあ、十団には入れ替え制と言う物があるから、ロベルト以外の能力者を全滅させるまで生き残っていなくてはいけないが。

さてここで一番の問題なのが、残りの十団の団員がどれ程ロベルトに忠誠を誓っているかである。
具体的に言えば、自分の命を差し出してでもロベルトを優勝させる気があるかと言う事だ。


私には自分の命を差し出してでも、ロベルトを優勝させる覚悟があります。でも、他の団員は……


そう、他の団員は自分がロベルトに敵わないと知り、それでも自分の欲望を叶えたいと十団に集った自分勝手な人間達。
実際の所は本人に聞いてみないと分からないのだが、今の鈴子は団員がそうであると決めつけてしまっている。
そう、自分の命惜しさにロベルトを裏切るのではないかと。


なんて事ですの……、この殺し合いで心から信頼できる仲間はロベルトしかいないじゃないですか。


単純な戦闘でロベルトが負けるとは微塵も思えない、だがロベルトにも弱点はある。
能力の限定条件だ、後ロベルトの寿命は何年残っているだろうか?
50年それとも10年? どちらにしても残りの寿命が無くなればロベルトは死ぬ、例えどれだけ健康で無傷であろうと死ぬ。
そのリスクを回避する為に十団は存在しているのだから。
しかしロベルトに武器が支給されていない状態で、何にもの能力者に襲われたら?
団員に裏切られ、罠にはまり無駄に能力を使わせられたら?
直接倒される事は無くても、能力の使い過ぎによる死はあるのではないか。

418 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:56:43 ID:RINegf7I0
これはあまりのんびりと行動している時ではないですわ。
とりあえずロベルトが参加していると仮定し、合流したら彼の代わりに戦える状態で無いととても拙いですわ。
ならば……


鈴子はディパックからスパスパの実を取り出す。
応急処置を施したとは言え捻挫した左足はまだ痛む、敵に襲われれば逃げ切るのは難しいだろう。
加えて、いざ敵に遭遇してからこの実が本物かどうか試すのは危険すぎる。
もし偽物だったら、相手に対して致命的なスキを見せる事になるし、使い方が分からなくては碌に戦う事も出来ない。
ならば今この場で効果のほどを確認し、基本的な使い方だけでも覚えておいた方が良いだろう。
そう思い、鈴子はスパスパの実を食べる事にした。

「……うっ!」

一口食べて思わず吐き出しそうになる鈴子。
毒がある訳ではない、悪魔の実は共通して不味いのだ、もの凄く。
吐き出したいのを堪えつつ、鈴子は悪魔の実を完食した。


あれから少しして、スパスパの実の基本的な使い方を覚えた鈴子は、E-9の道路をすべる様に移動している。
いや、実際に滑ってはいるのだ。
スパスパの実は指・肘・膝・足・腕等、四肢の至る所を刃物に変える事が出来た。
能力の関係上、基本的に接近戦を苦手とする鈴子にとっては中々良い能力と言えた。
今はその能力を利用し、左足の足の裏を刃物に変えスケートの様に地面を滑って移動している。
これならば、歩くよりかは左足に負担がかからず、移動速度も上昇して一石二鳥であった。


待っていて下さいねロベルト、直に合流して貴方の敵は私が蹴散らします。
ですから無駄に命を減らさないでください、例え私の想いが片思いだとしても、私はすっとあなたと一緒にいたいのですから……


鈴子はただ只管に、想い人であるロベルトの為に行動する。
だが、この殺し合いにロベルトが参加してないと知れば、彼女はどうするのだろうか?
それはまだ分からない……

419 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:57:04 ID:RINegf7I0
【E-9/道路/1日目 早朝】

【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10
[思考]
基本:このゲームが自分達の戦いの延長ならロベルトを優勝させる、そうでないならロベルト及び十団の団員と合流して脱出(最悪ロベルトは脱出させる)
1:ロベルト以外の人間(十団も含む)は信用できない。
2:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
3:ビーズやその他十団の道具を確保する為に、デパートに向かう。
4:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
5:(この場にいるなら)ロベルト及び佐野等の十団の団員と合流。
6:(この場にいるなら)植木、ヒデヨシ他の能力者を倒す。特に植木は確実にこの場で倒しておきたい。
7:ロベルトがこの場にいない場合、倒せない能力者がいるなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※このゲームが自分達の戦いとは関係ない可能性を考えています。名簿にロベルトや十団の団員及び自分の知る未だ失格になっていない能力者の名前が1つでも無ければ関係ないと判断するつもりです。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。

420 ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:54:55 ID:MH65b4W.0
巻き添え規制食らったのでこちらに投下ー。

421繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:57:39 ID:MH65b4W.0
 
「……あった――――」

あたしは“それ”を手に取り、ごくり、とつばを飲み込む。
……さすがに、これは殺し合いに乗った参加者の罠とは思いにくい。
この場所に拉致されてから、もうすぐ6時間。
それだけの間あたしたちはここにいて、誰の姿も確認してない。
つまりは、この競技場に何かを仕込むのは誰にも出来ない。

これがここにある、という事は、考えられる可能性は2つ。
あのblogの主が今のところ殺し合いに乗っていない人物であるか、あるいはこのゲームの運営に関わっている人物であるか、だ。
殺し合いに乗っただけのいち参加者が、このアイテムがこんなにも簡単に入手できる事を広める理由はないように思える。
確かにこれを上手く使えば一時的な撹乱はできるだろうけど、それでも最終的なリスクを考えると……自分の喉を絞めかねないはず。

見つけた物品、つまり『携帯電話』を握り締めて、思索に入る。
もちろん警戒は解かない。解けない、といった方が正しいかな。
……自分の中での不安がどんどん膨らんでくるのが身に染みる。
特にあの――喜媚ちゃん、の得体の知れなさについて。

息を吸う。思考を整調化するために。

落ち着け。
少なくともあの子は最初にあたし達を殺すことが出来たろうに、それをしていない。
あたしを殺すメリットも現状思いつかない。
……妲己とスープーという人たち、少なくともその二人を見つけるまでは、向こうにとっても協力しない手はない。
ない、ない、ない。
ないを3つ重ねて、無理やり心の奥底に不安を仕舞い込む。

それに、さっき聞いた話では喜媚ちゃんはあのシンコウヒョウ(申公豹と書くらしい)の知り合いだという。
あからさまに怪しい情報だけど、だからこそ信用できるとは言えないかな。
こういうのは黙っていたら後々絶対にこじれるしね。
それをあたしに教えたという事は、後ろめたいことはない、と言いたいのかも知れない。
……何も考えてない可能性も大きいけど。

競技場は無音が耳に痛いくらいだけど、むしろこの方が音も響いて危険を察知しやすい。
カノン君ほどではないにせよ、あたしだってブレード・チルドレンとして修羅場はくぐってきてる。
喜媚ちゃんみたいに空でも飛んでこない限りは足音の接近は察知できる。
そして、喜媚ちゃんにしてもあの騒がしさだから、猫を被ってるのでもない限りまず接近に気付けるはず。
大丈夫、ここはまだ安全圏。
当の喜媚ちゃんもあたしがblogを閲覧しているあいだ、後ろから覗いてると思ったら散歩と称してどこかへ行ってしまった。
この近くに姉様たちがいないか探しっ☆――なんて言ってたから、それ程遠出はしていないとは思う。
単独行動させるのは色々な意味で不安だけど、あの子があたしと敵対するつもりがないならばとりあえず静観しよう。
今はこの電脳空間を利用して情報を得るのが先だし、機嫌を損ねるのはマズい。
それに酷な言い方だけど、もしそれが原因で死んでしまっても彼女自身の責任だ。

けど。
最初の我妻由乃との駆け引き以後は全く以って静かなものだ。
それはあたしの読みどおりにここに誰も注目していないからだろう。
運良く、平穏にありついているだけなんだ、あたしたちは。

422繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:58:09 ID:MH65b4W.0
……多分、とっくにこの島のどこかは戦場になっている。
照明や空調といった競技場の設備を運用する部屋や事務室――そこで発見したFAXに記された要注意人物が、きっとその証。
備え付けのPCが生きていたのはとても助かった。
そのおかげでここにいながらにして、あたしはいくつかの情報を手に入れられている。

ただ、ほんの少しだけ先陣を切るのには出遅れたみたいだけど。
この手のサイトというのはたいてい古参のサイトほど集客率が大きいから、その意味ではあたしには最初からアドバンテージがない状態といえる。
アイデアを思いついたこの管理人は、その意味で確かにキレ者だ。

この人たちが信用に値するかどうかは別問題として、まずはこの情報が真という前提に立って行動してみよう。
偽だと決め付けて書かれた内容を無視するのはどう考えても得策じゃない。
たとえ撹乱する為の偽情報だとしても、そうするからには必ず裏の意図があるはずなんだ。

あたしとしては、何もせずじっとしているよりこの機会と道具を積極的に生かしていきたい。
特に、参加者全員の名前を把握できない今だからこそ出来る行動があるはずだ。

「……とはいえ、具体的にどう動こうかな」

……あたしの方針上、下手にたくさんの情報を公開して不特定多数にここを特定されるのは避けたい。
場合によっては放送後にここに篭城するのもいい一手になるだろうし。
だからこの二人(自演していなければ、だけど)のように、blogを開設して自ら情報を発信するというのは今のところナシだ。

だから、何か動くとしたらblogになにかコメントを書き込むか、メールでこの人たちに直接連絡を取るか。
つまりこの管理人さんを経由して皆になにかを伝えるか、管理人さんと個人的に連絡を取るか、となる。

要はどっちにしろ、管理人さんたちがどんな人か、が鍵になる。

“探偵日記”と“螺旋楽譜”。
二つのblogを閲覧して得られた情報を吟味してみよう。

まず、探偵日記。
ここの管理人は――、実利的な情報が主みたい。
参加者全員に広めておくべき情報を取捨選択し、送り届ける。
そしてその為に、状況を打開する為の情報を募る。
なるほど、確かに言っている事は理に適っているし、実際役立ちそうな情報が散見できるね。

撹乱情報である可能性は0じゃないけど、それでも要注意人物とか携帯電話とかの物資補給とか、
そういう持っておいて損はない、っていう情報をいくつもくれている。
妖怪の存在を示唆してるあたり、喜媚ちゃんの存在を知っているあたしには当面の状況証拠として十分だ。
そしてそれらの根拠となるソースの提示の確約もしている以上は、とりあえず載っている情報だけは信じてもいいと思う。

けど、人格的な問題には不安が残るかな。
コメント公開の要求をした人たちのコメントを抜粋して、その上で堂々と自分は情報を掌握するのをやめませんよと言っている。
これはこれである種の信頼をできるのは確かだけど、腹の内は読みにくい。
要警戒……だね。

けれど、それでも欲しい情報を優先的、または独占的に提供してくれる、という言葉はあまりに魅力的だ。
だって、絶対にいるはずなのだ。
あたしみたいに相手の思惑に乗っていると承知したその上で、この管理人に接触してみようという人間が。
そうした人々から情報を得られる立場にこの人はいる。
だとしたら。

……踏み込みすぎるのは危険だけど、見返りも大きい。

423繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:58:32 ID:MH65b4W.0
まずはジャブを仕掛けてみるのが吉、かな。

とりあえず、こういうコメントをblogの記事に送ってみよう。
1stや申公豹といった人物の情報を求めているのなら、確実に食いついてくる。


『私は申公豹と面識のある、妲己という女性を探している。
 このコメントを公開した上で、妲己の情報を集めてくれるよう依頼したい。
 今後更新した記事で有力な情報を得た旨を示したら直接連絡を入れる』


……これなら、文体や内容からあたしが特定される事はない……はず。
ついでに、喜媚ちゃんの尋ね人探しにもなって一石二鳥だ。
運が良ければ妲己さん本人がこの探偵日記の管理人に連絡を取るかもしれない。

ぴ、ぴぴ、と携帯電話を操作して、送信。
ふう、と思ったよりも大きく溜息が出てきた。
PCを使わなかったのはIPとかで場所を特定される可能性があるからだけど、少し神経質になりすぎかもしれない。

ただ、あたしが神経質になる理由は十分すぎるほど、ある。
その理由とはもう一つのblog――“螺旋楽譜”の存在だ。

たった1Pの記事をくまなく目を通しただけで、ディスプレイの向こうにはある一人の男の子の姿が浮かんでくる。

「……弟さん、だよね? どう考えても」

徹底して自分を信じるなと告げて、それでも論理に基づいた推測を並べていく。
放任主義なまでに自分の事は自分で面倒を見ろといっておきながら、どうしてか他人を見捨てることもしない。

あたしの知っている“希望”の姿とこのblogの管理人の言動は、確かに重なっている。

「でも――」

でも、と繰り返す。
重なりはするんだけど、

「本当にこれは、あの弟さんなの?」

――微妙な違和感が、完全な一致を許していない。

画面の向こうに見える弟さんらしき人の態度は、確かに自信に満ちているわけじゃない。
奪われ続け、下を向き続けた過去を抱いている姿はよく覚えがある。
だけど。……だけど。
弟さんの持つ未熟さというか、甘えのようなものが感じられないんだ。
気のせいかもしれないけど、あたしが知るよりも多くの戦場を踏み越えたかの様な――、
そして、何か絶対に失わない支えのようなものを手に入れたかのような。
そんな印象を、あたしは感じた。

だから、信じ切れない。
この管理人は、本当に弟さんなんだろうか、と。

424繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:04 ID:MH65b4W.0
……もちろん赤の他人がたまたま弟さんのような文章を書いた可能性もある。
だけど、この内容を鑑みると、その可能性は高くはない、と言える。

「……この首輪解除の下り。あからさまにあたしを意識しているよね。
 他のメッセージもブレード・チルドレンを鼓舞するような事ばっかり。
 そして何より――、」

静かに呟く。

「……弟さん。あなたがこんな事を頼む相手なんて、あの人しかいませんよね?」

――結崎ひよの。
彼女に向けて、掲示板を作り管理しろ、という内容の、分かる人にはすぐ分かるメッセージだ。
同時に、弟さんやひよのさんを知る人たちへの身元保証も兼ねている。

なるほど、確かにひよのさんなら情報戦では無敵といってもいいだろう。
あの人は底の知れないところがあるし、尋ね人や危険人物の所在を書き込んだりできる掲示板があれば鬼に金棒なのは確か。
スペックで言えば弟さんがこういうことを頼んでもおかしくはない。

そう、スペックだけで言うなら、なんだ。

「弟さんは、ひよのさんをむしろ遠ざけたり無関係を装ったりする方向で動いてたはず。
 ……なのに、これは一体どういうことなんだろう」

分からない。仮にこのblogの管理人が本当に弟さんだとして、ひよのさんをここまで頼りにできる理由が分からない。
まるで、あたしの知らないところで弟さんとひよのさんに何かあったかのようだ。
だけどそれは多分ありえない。
弟さんはまどかさんに心を向け続けているし、あのひよのさんへのぞんざいな扱いがたった数日で変わるとも考えにくい。

結局はあたしが文章から勝手に感じ取った事でしかないから、確かな保証はないけれど。
……それでも、自分の記憶と文章のイメージの食い違いを敢えて気のせい以外の理由に求めるのなら。

導かれるのは、何者かが弟さんを騙っている可能性。
blogで管理人=弟さんであると明言してるわけじゃないから、騙っている、というより装っている、の方が正しいかも。

そして、もし誰かが弟さんを装っているとするならば、その誰かというのはかなり絞る事ができる。

まず真っ先に思い浮かぶのは、当然清隆様。あの方なら弟さんを装うのは児戯にも等しいはず。
……でも、間違いなくこれは違う。
だって、清隆様なら違和感を感じさせる事なんてなく弟さんを演じきるはずだ。
それに、何というか……この文章は、清隆様らしくない。
こんなに自分を信じるなと繰り返すのは、たとえ弟さんを演じていても清隆様ならやらないだろう。

だから考えられるのはそれ以外の人。
かつ、あたしと弟さんの対決の中身を知る事ができるくらい近くにいる人だ。
そうでなければ、首輪解除に関する文であたしの存在を匂わせる事なんてできない。
そして多分、その人は首輪が装着者に合わせて大きさが変わる特異な物であることを知らない。
だから、工作技術で解除できるかも、などと書いているのだ。
あるいは、知っていて敢えてそれを書いていないか。

425繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:31 ID:MH65b4W.0
とにかく、それに当てはまりそうな人は数えるほどだ。
ピックアップすると、5人ほどが思い浮かぶ。

こーすけ君、亮子ちゃん、アイズ君、カノン君、……ひよのさん。
多分、弟さん本人以外だとすれば、この5人の誰か。
ただ、こーすけ君と亮子ちゃんはこんな回りくどい手を使うとは考えにくいから、候補は実質三人。

……ただ、アイズ君も可能性は低いかな。
アイズ君はある意味一番弟さんに入れ込んでる。
だからこそ、“希望”である弟さんを装う事があたしたちにはどんな意味を持つかってのもよく知ってるはず。

そうなると、カノン君かひよのさんの二人が黒に近いグレーだ。
この二人なら理由も十分つけられる。
カノン君なら、ブレード・チルドレンをおびき出す為。
流石にこの状況下なら協力し合える余地は残ってるとは思うけど、それでもカノン君の信念はそう簡単に揺らがないはず。
ひよのさんなら、弟さんを装う事でブレード・チルドレンと協力体制を作る事と、弟さんの囮となって彼の動きやすい環境を作り上げる事。
そして、単純に弟さんへの呼びかけ、アピールの為、というので説明可能だ。

……もちろん、あたし達の事を一方的に知っている第三者である可能性も否定できないけど。
果たして画面の向こうにいるのは弟さん本人なのか、カノン君か、ひよのさんか。
可能性は低いけどアイズ君やこーすけ君、亮子ちゃんか。

ただ確かなのは、あたし達の関係者である可能性は、そうでない可能性より遥かに高い、という事。

「……よし!」

だったら、ここで勝負してみよう。
攻めなきゃ、何も得られない。

メール画面を立ち上げて、文字を一つずつ確かに打っていく。
探偵日記の管理人に送ったようなblogへのコメント形式じゃない。
メールによる直接連絡だ。


『このメールを確認したら、折を見て電話で直接連絡してください。
 電話番号は次の通りです。
    ×××-××××-××××  竹内理緒』


――竹内理緒の名前を出して、電話越しとはいえ直接話す段取りを整える。

これが、受け身な今のあたし唯一の攻め手。

この携帯電話はどうせ拾った物だから、電話番号を曝しても痛くも痒くもない。
それに竹内理緒という名前も、どうせ放送が終われば皆に知られる事になる。
だったらむしろ、名簿で確認できるようになる前に自分から竹内理緒を名乗る事で、適当な偽名ではない事をアピールしてしまったほうがいい。

わざわざあたしを暗喩する文章をblogに載せたくらいだから、あたし達からの連絡を待っているはず。
声を聞いて話し合えるならそれに越した事はないし、あたしとしても知り合いとは早めに連絡を取っておきたい。
電話の向こうが誰だったとしても、かなりの収穫が期待できると思う。

426繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:57 ID:MH65b4W.0
……もうすぐ、放送。
どう転ぶ事になるかは分からないけれど、とにかく今は迂闊に動かず返事を待とう。

願わくば。
願わくば、希望が潰えることなく続きますように。


【B-5/競技場/一日目 早朝(放送直前)】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的に多少の疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、携帯電話(競技場で調達)
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:第一放送までは生存優先で現状待機。殺し合いを行う意志は無し。
  名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
2:異能力に恐怖。
3:喜媚をとりあえず信用すると判断。しかし、どこか信じ切れていない。
4:申公豹の名前を餌に、“探偵日記”を通じて妲己を捜索。
5:“螺旋楽譜”の管理人が電話連絡してくるのを待ち、直接会話してみる。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました。
※早朝時点での探偵日記と螺旋楽譜の内容を確認しました。
※螺旋楽譜の管理人は、鳴海歩、結崎ひよの、カノン・ヒルベルトの誰かが有力と考えています。
 ただし、鳴海歩だと仮定した場合、言動の違和感とそこから来る不信感を抱えています。


***************


「ロリッ☆ 姉様や貴人ちゃん、スープーちゃんは何処っ☆」

ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪ とファンシーな音程の鼻歌が静謐な大気を割っていく。
歌い手の名前は、喜媚。
朝の赤い日の中を踊るように足を踏み踏み、ホップステップターンにジャンプ。
くるんと一回転して、着地。
舗装されてない道土に二つの穴が開く。

「ついでにたいこーぼーも探しっ☆ スープーちゃんは太公望と一緒かもっ☆」

良くも悪くもどんな状況でもマイペースを崩さない彼女は、ある意味この状況に全く似つかわしくない存在かもしれない。
天衣無縫、天真爛漫、縦横無尽。
妲己の陣営の中でも特異な存在の彼女にとって敵味方の区別はあまり意味がなく、
運命の相手の主が太公望というのは彼女の縛られざる気質を最も表している事柄だろう。
それ故に彼女は己の考えで気ままに出歩く事を許される。彼女自身が許す。
ことに、競技場を出てからずっと“こんな変化”をしたままであるなら尚更だ。

「理緒ちゃん、ずっと篭りっきりで心配っ☆ 
 喜媚がこんな変な格好しても、眉毛の間に皺つくったままなのっ☆」

427繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 19:00:52 ID:MH65b4W.0
難しい顔をし続けたままの理緒を笑わせてあげたくて、見つけた面白いものに変化してみたものの。
それでも、理緒はほんの少し笑っただけでまた顎に手をついて考え込んでしまったのだ。
そんな顔を見ているとこっちまで不安になってしまう。
ならやる事は一つ。喜媚は思い付きを口にする。

「だったら、喜媚は理緒ちゃんの友達と弟さんも見つけりっ☆」

――そんな事を、野太い男の声で呟くのだ。

まだ出会ったばかりではあるけれど、新しい遊び相手の為にできる事を。
理緒からはどんな人が友達にいるのかは聞いていないけれど、弟さんと呟いているのは聞こえていた。
理緒ちゃんの弟さんはどれだけちっちゃい子なんだろうと頷いて、心配するのも当然だよねと握りこぶしを作る。
だから、自分が理緒の弟を見つけた上で、新たに仲良くなれる友達を増やせばいい。

「? 何かが流れてくるっ☆」

そして、運命は奇妙な縁を呼び寄せる。
西に向かった喜媚の前には、ご都合主義にも程がある邂逅がもたらされた。
それはつい先刻の理緒と由乃の遭遇のごとく、まるで、誰かに仕組まれた出来事であるかのように。

「喜媚、もう知らない女の子を発見しっ☆ あの子に理緒ちゃんの友達になってもーらいっ☆」

その少女――高町亮子の方に、喜媚は迷いも躊躇いもなく駆け寄っていく。

偶然見つけたFAXに記されるモンタージュ、そこに描かれた“秋葉流”の格好を写し取ったままで。

理緒の仲間である高町亮子。彼女が再度見えるのは、巡り巡って喜媚が変化するに至った“秋葉流”。

果たして、この出会いの向こう側には何がもたらされるのだろうか。


喜媚の耳には、流れ始めた放送の音すら届いていない。


【B-4/河口付近/一日目 早朝(放送直前)】

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康、秋葉流に変化
[服装]:顔は秋葉流だが、服装は不明(変化していない状態では原作終盤の水色のケープ)
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:皆と遊びっ☆
3:元気の無い理緒ちゃんが心配なの☆ 弟さんや友達を探しっ☆
4:あの女の子(高町亮子)を理緒ちゃんの友達にするっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※放送の導入部を聞き逃していますが、どこまで聞き逃しているかは後続の方にお任せします。

428 ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 19:01:52 ID:MH65b4W.0
以上、投下終了。
流の顔でロリータ台詞というのは書いてる自分でも怖気が……w

429 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:17:04 ID:9Jfx9i7w0
すみません。こちらに投下します。
どなたか代理していただけると助かります。

430 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:17:36 ID:9Jfx9i7w0

「へいへい、と。それよりも…あれ、何でしょうかね?」
「む…」

特に気にした様子も無く、沖田は話題を逸らす。
促された先には、またしても学校のような建物があった。
おそらくこちらは地図に載っていた小学校だろう。校庭に遊具がならび、花壇まであった。

「出番だぜィ、潤也くぅん?」
「…わかってる。あそこに人は……『いる』」

潤也の能力。十分の一を一にする力。
『目の前の小学校に人がいる』『いない』の二択なら、確実に当てることが出来る。
さらに彼が『当てる』事が出来るのはそれだけではなかった。

「次に会う相手は『女』、殺し合いにはのって『いる』」

その言葉と同時に、彼らを包む空気が一気に変わっていった。
高まらせた緊張感を維持しつつ、三人は夜の学校へと踏み込む。
止める、捉える、見極める。バラバラな目的を胸に秘めて。



潤也の能力で小学校への侵入者は2階にいることがわかった。
校舎は三階建てでごく普通の小学校。二階にはいくつかの教室が並んでいた。
ここまでくれば能力等に頼るまでもない。人の気配のする教室へと三人が忍び寄る。

…いや、間違っていた。
「忍び」寄っていたのは二人まで。その潤也と沖田の制止を振り切り、あとの一人、
金剛はずかずかと教室の入り口まで突き進み、全力で扉を開いた。

「!!!」

驚きの表情で固まり、明らかに動揺する金剛。その姿を見て、何事かと二人も駆け寄る。
彼らの視界に飛び込んできたのは、今しがた着替えを終えたばかりであろう体操着姿の少女だった。

431 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:18:21 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

またまた、グー

    ◇     ◇     ◇


金剛達が踏み込んだ教室には、少女がいた。
沖田と潤也がまず驚いたのはその服装。おそらくは現地調達したと思われる、上下の組み合わせ。
上は白の体操服。しかしここは小学校だ。そのサイズはかなり小さい。
少女もかなり小柄ではあったが小学生という感じでもない。少しきつそうであった。

そして下。
今や絶滅種となった紺色のブルマ。もはや語るまい。
これをわざわざ用意したとするならば、この殺し合いの主催者は何を考えているのだろう。
そう思わざるをえないある意味極上の一品だった。

それを着込んだ当人は三人の侵入者に対応しきれず、口をぽかんと開き立ちつくしていた。
幸い着替えの真っ最中という状態ではなかったが、驚かすには充分なタイミングだろう。

「あ、あの…」
「知り合いですかィ、旦那?」

何かを言いかけた少女を遮るように問いかけたのは、沖田だった。
金剛の表情から察するに図星だろう。唐突な質問だが根拠はあった。彼の動揺具合だ。
短い付き合いだが、この男はわかりやすいので性格は多少把握できた。
彼は煩悩の類とは縁遠いタイプだ。
例え遭遇した相手が水着のお姉さん軍団であろうと彼はこれほどまでに動揺することはないだろう。

そんな彼を動揺させる要素があるとすれば何か?
考えられるのは、相手が知り合いであるという可能性。
潤也の能力で次の遭遇相手が殺し合いに『のっている』ことが明示されている。
特殊なケースを除いて、誰もが今だけは知り合いと遭遇したくないと心から思うだろう。
中学校にいた時点で既に地図上に示された施設に自分達の関係者はいないことを確認していた。
しかしあの後に相手が小学校にたどり着いた可能性や、うっかり金剛が挙げ忘れていた知り合いの可能性も充分にある。
それらを考慮して尋ねてみたが、当たっていたようだった。

なんにせよ、ただでさえ複雑なこの状況での仲間との再会は、より微妙な形で起きてしまった。

「……あぁ、俺の仲間だ。剛力番長、お前も巻き込まれていたか」

未だ複雑な表情を浮かべたまま、金剛が一歩踏み出す。
しかし、剛力番長と呼ばれた少女から返ってきた言葉は予想外のものだった。

432 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:18:50 ID:9Jfx9i7w0

「……あの、一体どなたですか?私には貴方のような知り合いはいないのですが……?」
「な、何!?」

そんなバカな、といった表情を浮かべる金剛。
沖田はなんだか面白そうなものを見つけた、といった顔つき。
潤也は潤也で、微妙な表情を浮かべている。

「何を言っている!?俺たちは共に暗契五連槍と戦っただろう!いや、それ以前にお前と俺は一度拳をまみえたはずだ!」
「そんなことを言われましても…暗契五連槍ってなんのことですの?
 そういえば先ほどの方も私をご存知のようでしたけど…あ、もしかして、貝裏鬼のお知り合いか何かでしょうか?」

かみ合わぬ会話。
傍から見れば男女の痴情のもつれのようにも思えるだろうか。
実際にその類だろうと判断し、ニヤニヤと笑っている男もいる。
だが実は、このいさかいはそんな単純な構造ではない。

当人達は知る由もないが、彼らは呼び出された時間が違うのだ。
剛力番長は金剛番長と出会う前から呼び出されており、金剛番長は彼女と共闘した後から来ている。
そのズレが二人の会話をおかしくしているのだ。

「一体どうした!?卑怯は?念仏は?居合いのことは?忘れちまったのか?」
「!! 忘れてなどいません!!私は何一つ忘れていません!!」
「ならなぜだ!!」

ムキになって否定する剛力番長と、思わず大声をあげる金剛。

「忘れてなどいませんが…あなたのことは知りません!!私の記憶は確かです!!
 嘘をついているのは…あなたでしょう!!」
「ちょ、ちょっと待ちなって」

ドンドンヒートアップする二人の会話に、とうとう沖田が横槍を入れた。

「なんだかよくわかんないけど、これだけは言わせてもらうぜ」

そういって息を吐くと、沖田は笑みを浮かべる。
なんとも意地汚そうな、笑みを。

「昔の女にいつまでもこだわるのは男らしくないですぜ」
「……」

433 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:19:24 ID:9Jfx9i7w0

沈黙。
いつもなら誰かしらのツッコミがとんでくるところだが、今はない。
ツッコミ不在の居心地悪さを、彼は実感していた。

「土方」
「わかってますよ。ったく…面白味のない連中だぜィ。
 とにかく旦那、今はそれより確認すべきことがあるんじゃねーですかィ?」

促されて金剛は、複雑そうな表情のままあらためて剛力番長に向き合う。

「……そうだな、その前に確認したい。剛力番長…お前はこの殺し合いに、のったのか?」

駆け引きも何もない、直球の問いかけ。
その瞳に迷いはなく、その言葉に淀みはない。
威圧するような態度でもなく、だが答えねばならない様な気にさせられる。
言葉を無理にあてるなら、威風。そんな聞き方だった。

「……えぇ、そのとおりですわ」

伏し目がちに返される言葉に、金剛の拳がギュウと握りこまれる。

「…なぜだ!!なぜこんなスジの通らねぇ殺しあいに…」

ジャラ

金剛の叫びとも言える問いかけは、奇妙な鎖の音によって中断される。

「えっ…!?」
ゴッ!

剛力番長の背後に回り込んだ沖田が、木刀の柄を彼女の首筋に叩きこんだ。
そのままうつ伏せに倒れこむ剛力番長。鎖の音は彼が握っていた首輪のものだった。

「土方!!何をする!!」
「旦那ァ、さすがに言わせてもらいますぜ。この女は殺し合いにのっていると自分で言ったんだ。
 潤也くんの能力を完全に信頼したわけじゃないが、さすがに言い訳はきかない」
「だが、なにか事情があるのかも知れねぇ」

睨みつけるように、金剛が言葉を続ける。

「事情もわからず相手をぶちのめすのは、あまりスジが通っているとは言えないぜ」
「その事情とやらを聞くのは、こいつをふんじばってからでも遅くはねぇ、違いますかィ?」

沖田は先ほどまでと違い、かなり真剣な表情となっていた。
彼にしてみればこれでも譲歩したほうである。いつもの彼ならこんな生温いやり方ではすまない。

まず、一撃で気絶はさせないだろう。間違えたフリをしながら4〜5発は相手を殴る。
適度に間隔をあけ、相手が何か言い返そうとするタイミングを見計らって叩き込む。
相手が本物の土方であれば4〜5発では済まず、顔面にも叩き込むに違いない。
それでも平然と「間違えた」などと言いながら。

一発で気絶させてやっただけマシでしょう、沖田がそう言おうとした時だった。

434 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:20:11 ID:9Jfx9i7w0

「その必要はありませんわ」

首の裏をさすりつつ、剛力番長は立ち上がった。
ゆっくりと振り返る少女の視界に、しかし沖田は映らない。
その時にはもう既に、彼は敵の背後に回りこんでいた。

ガッ

二発目も躊躇無く叩き込んだ…はずだった。
しかし今度は倒れることなく、逆に振り返り際に裏拳を繰り出してくる。

「やっ!」
「チッ」

相手の反撃をかわし、ひとまず距離を置く。
さすがに二発目がなんの効果も見せなかったことには驚きを隠せない沖田。
彼女が常人よりはるかに頑丈な体質であることを知っている金剛は、多少落ち着いている。

「止せ!落ち着け剛力番長!」
「そちらから手を出しておいて何を!」

今度は金剛のほうに振り返る剛力番長。
その隙を突こうとした沖田を、金剛が制す。

「お前も止せ!土方!」
「旦那、そうはいかないぜ。俺はこれでも警察の人間なんでね。
 これから人殺そうって奴をほっとくなんざ、職務怠慢で減給ものでさァ」

本人は減給なんてなんのその、といった生き方をしていることを棚に上げ、一応は正論を述べる。

「け、警察!?あなたがですか??なんだか納得いきませんわ…」

場違いな驚きを示している剛力番長は放っておき、二人は会話を続ける。

「それは俺も同じだ!こんな場面で人殺しなど、認めてたまるか!!」
「ならいいじゃねーですか」
「だが、ぶちのめすにしても、反省させるにしても、相手の理由は聞いておく!」
「だから、なんでですかって…」
「スジが通ってねぇからだ!!!!!!!!!!!!」

大絶叫。
沖田はもちろん、おもわず潤也も体が固まり、耳をふさぐ。
それを納得とでもとったのか。金剛は剛力番長への質問を再開した。
彼女は彼女で、金剛の迫力に気圧されしたのか、おとなしくなっている。

「さぁ、説明してもらうぞ、剛力番長。一体なぜこんな馬鹿げた殺し合いにのっているんだ」
「……いいでしょう。私の正義をお聞かせして、理解していただければそれに超したことはありません」

まさにやれやれ、といった具合で、沖田もひとまず木刀をおろす。
だがその目はまだ、油断無く真剣さを残していた。

435 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:20:53 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

いかりやチョーすけ、頭はパー

    ◇     ◇     ◇


「アンタ、全然ダメだよ」

剛力番長の告白を聞いて真っ先に口を開いたのは、意外にも潤也だった。

少女の告白―――

全てを壊し、全てを蘇らせる。
錬金術師を名乗ったその男の計画の実現が、彼女の正義。

沖田や、金剛にもなんとなくわかっていた。その男は嘘をついているか、隠し事をしている。
だがその少女の語りには希望というか、なにかすがる様な気持ちを感じさせた。
金剛は警戒心から、沖田は自分に被害がこないように指摘する方法を考えて、言葉を選んでいた。
だがそんな事はおかまいなしとでも言うように、潤也は言葉を放つ。

「ソイツの言ってる事はデタラメだよ。少なくともいくつかはさ」
「なっ…!失礼な!キンブリーさんは…」
「じゃあなぜ俺たちは生きてる?」

潤也の発言に、剛力番長はビクッと体を震わせた。

「俺や土方はともかく…金剛ははっきりと、殺し合いにはのらないって宣言してる。
 さっきの叫び声なんて、気づかなかったなんて言えないぞ。なのに化物に変えられる様子は無い」

さらに潤也は続ける。

「大体、人形を作れたからって人間も蘇らせることが出来るなんて思えないだろ」
「それはっ!先ほども言いましたが、キンブリーさんが言うには賢者の石とかいう…」
「実物、見たのかよ?」
「え?」

不安そうな顔で、言葉に詰まる剛力番長。
少しうつむき気味に話す潤也の表情は、前髪に隠れてうかがえない。

「その賢者の石ってのが実在するか、アンタは確かめてない。たとえ本当に存在するとして、
 それがソイツの言うような力を持ったシロモノかはわからない」

苛立ちを我慢できず、潤也は足をタンタンと地面に打ちつける。
リズムは一定だが、とても心地よいものとは言えなかった。

「そもそも、どれだけアンタが殺してまわろうとも、そのキンブリーってヤツが死んだら意味がないだろ?」
「なっ!」
「結局アンタは、何一つ自分で選んじゃいないんだ。
 ただ自分の失敗を誤魔化したくて、都合よく現れたその男に思考を預けた。
 そいつのいいようにつかわれても、楽だからってそっちを選んだんだ。
 ……それは死んだも同然の、生き方だ」

少しずつ声のトーンが下がっていく。
言いたい放題言われ、剛力番長のほうも黙ってはいられない。
必死で考えを巡らし、あまり得意ではない舌戦を挑もうと試みる。

436 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:21:29 ID:9Jfx9i7w0

「そんなことはありません!私はキンブリーさんの作戦が一番だと思ったんです。
 お話した時間は短かったですけれど、貴方たちと違ってとても紳士で素敵な方でした。
 私は、あの人の言うことなら信じられます!」

「考えろ!!!!」

突如出された大声。
先ほどの金剛の叫びとは違った迫力を秘めた一言だった。
その場にいた3人が、思わず身を強張らせる。

「考えろ、考えろ、考えろ!!!自分の頭で!!!誰かに任せるんじゃなくて!!!
 何も考えないで任せるのは信じてるとは言わない。流されてるってことだ。
 考えろよ!!それをしないで自分のことを正義だの何だの言って暴力を振るうのは……
 俺は、絶対に……許さない」

顔をあげた潤也の目は、修羅場慣れした三人にも恐ろしさを感じさせるものだった。

自分で言っていて、イライラしてくる。潤也は強烈な自己嫌悪に襲われていた。
自分は先ほどまで、この殺し合いからさっさと離脱する方法を考えていた。
兄貴の仇がここにいれば探し出す。いないなら他の全員を殺してでも脱出すると。
だが、それは自分で考えた方法だろうか?

『御主等にはこれから最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう』

無意識にこの言葉に流されていなかったか?
それが、本当にベストな選択か?

自分は土方にあっさりと捕まった。
その土方すらこの金剛に対して警戒感のような、ある種実力を認めているような、そんな態度をとっている。
遠慮や敬意などはほとんど感じられないが、潤也に対する舐めきった態度とは大違いだった。
そしてその金剛と一緒に戦ったという目の前の少女。土方の攻撃にも怯まず反撃してみせた。

こんな連中を、どうやって殺すというのだ。

一人ひとり罠にはめる?
この狭い会場で、既に警戒心を抱かれているのに?
この状況じゃ、罠にはめた一対一だって勝てるかは五分以下だ。
潰しあいをさせる?
バカバカしい。結局は最後の一人をこの手で殺さねばならない。
たとえ疲弊しきっていようとも、そこまで生き延びた実力者をあっさりと殺せるものか。
長い時間をかけて、不意打ちが出来るくらい絶対的な信頼関係を築けていればそれも可能かもしれない。
だが、そんな時間をかけている暇は無い。
それに万一にも失敗は許されない。精神論で『何とかする』なんて言えない。

俺は、一刻も早く、絶対に、兄貴の仇を討たなきゃいけないんだから。

考えろ、考えろ、考えろ。

自分の頭で、誰かの言葉に流されるのではなく……
一番『速く』、『確実』に脱出できる方法を……

437 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:21:55 ID:9Jfx9i7w0


安藤潤也は金剛とは別の方向で一直線な男だ。
自分の決めたことはしっかりと信じるし、流されない。
金剛が濁流を遡る魚なら、潤也は根を張って決して倒れない木、という感じだ。

何一つ離さぬよう、撃ち抜く事に特化した拳。
あらゆる方向に広げられた、全てを掴む可能性のある掌。

潤也は後者。手段にこだわらないからこそ、迷わない。
一度定めた目標の為ならば、あらゆるものを賭けてでも邁進していくことが出来る。
柔軟であるが故の強靭さ。それはさながら風にそよぐ柳のように。
剛力番長の告白を聞き、彼はあらためてその思考の強靭さを発揮しつつあった。

「………!」

ではもう一方の少女に浮かぶのはなにか?
怒りではない。混乱と恐怖の混ざったような顔をしている剛力番長。
今彼女の頭の中にはグルグルと様々な感情が駆け回っているのだろう。
いかにも折り合いがつかないといった感じで、表情が見るに耐えないものへ変わっていく。
思わず声をかけようとでも思ったのか、金剛が一歩前へ踏み出た、その時だった。

「私は、自分が正義だと思ったことを信じて実行してまいりました」

剛力番長は語りだす。顔を伏せているので表情はわからないが、口調は落ち着いていた。
金剛も沖田も、彼女がパニックを起こし暴れだすのではと思っていたので少し安心する。

「私は私です。ここに来てからも何も変わってはおりませんわ。
 ですから、考えるまでもありません。いえ、充分に考えられているんです」

だが、吐き出されたのは決して落ち着いた回答とは言えないもの。
今までしてきた事が正義であるなら、これからすることも正義である。
そんな理不尽な理屈ともとれる発言だった。

「私の正義の実行を妨げようというのでしたら……
 可哀想ですが、力ずくでも納得して頂きます!!」

強く握りこまれた拳が突き出される。
気づいた時には、金剛の体が宙に浮いていた。

438 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:22:45 ID:9Jfx9i7w0

沖田は刹那の中で気がつく。
自分の立っている位置。潤也の立っている位置。その関係性。
金剛の肉体。不可解なほど強い剛力番長とやらの腕力。
このままだと金剛が自分と潤也の間を通って吹っ飛んでいく。
おそらく窓を突き破って校庭へ飛び出すだろう。
不思議と金剛の心配はしなかった。彼ならこの程度なんとも無い。そんな無根拠な確信があった。
だが、自分と潤也の間には鎖が張られていた。一端は自分の手に。もう一端は潤也の首に。
二人の適度な距離が、ある程度の高さを保たせてその鎖を張らせている。
ここで自分が何もしなければどうなるか。それを考えた時、刹那の中で沖田は鎖を手放していた。

目の前を金剛の巨体が吹っ飛んでいく。
それを追う様に、体操着姿の少女が駆け抜ける。
そしてその二つの向こう側に見えるのは、ただの『ヤバイ』少年か、それとも。

沖田は、出会った時のように潤也と対峙する。今の潤也は丸腰だが、彼を拘束するものはない。
鎖を持つ手は離してしまった。
だが、離さなければ鎖は金剛の体で引っ張られ、潤也は首に重大な損傷を負っただろう。

「チッ」

沖田は苛立つ。なぜ自分は手を離したのか。
彼の中に根付く、とある男の性格か。あるいは姉への想いが彼を優しくしたのか。それは本人にもわからない。
確実なのは、それが今の状況を作り出してしまったということ。
鎖で繋がれた狼と、自由な犬。どちらが恐ろしいのだろう。
潤也が口を開いた。

「これで、対等だ」
「あァ?」

沖田が、少し不機嫌そうに返す。

「これで俺とアンタは対等だ」
「寝てるのかィ?寝言が聞こえるぜ。これのどこが対等だって?」

沖田の手元には潤也から取り上げた銃と支給品の木刀がある。
一方潤也の手元にある武器と呼べそうなものは首からぶら下がる鎖と首輪くらいだ。
普通に考えれば、とても対等とは言えない状況。
校庭から轟音が聞こえる。金剛達が派手にやっているらしい。
なんとなくわかっていたが、やはり彼はかなり強いのだろう。

「俺は鎖で繋がれてない。アンタは、もう一度俺を捕まえなきゃいけない」
「それがどうした」
「アンタにとって道具同然だった俺が、今は敵になってる。だから、対等だ」

確かに、先ほどまでと比べれば状況は幾分潤也優位に動いている。
だが身体能力の違いは先の戦闘ではっきりしているし、沖田は潤也の精神を乱す術もわかっている。
沖田は余裕の態度を崩さない。それがこの状況で必要な事をよく知っていた。

「やっぱり寝てるらしいや。今叩き起こしてやるぜ」

木刀を握りこむ。
先ほど剛力番長にしたのと同じように、背後に回りこんで一撃。これで終わりだ。
ヤツはあの女のように頑丈ではない。咄嗟に対応できるような反射神経も、経験もない。
楽なものだ。そうわかっていても、少しも気を緩めないのは経験からか、無意識に相手の危険性を感じ取ったか。

439 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:23:16 ID:9Jfx9i7w0

「アンタの挑発は効いた」

突然喋りだす潤也。
心理戦にでも持ち込むつもりかと、一瞬警戒する。
そんなものに付き合う理由は無い。だが、このまま力でねじ伏せても同じことを繰り返しそうな気がする。
一度完膚無きまでに精神から叩きのめし、従順な犬にでもなってもらうか。
相手の心を乱すキーワードは既に掴んでいる。
なにより相手の精神を責める事に関して、沖田は自信があった。

「俺にとって、兄貴は引き合いに出されたら冷静じゃいられない存在だ。詩織もそうだけど…」
「あぁ、彼女だったか?そいつももしかしたらここにいるかもしれないぜィ」

兄の話題を自分から出してきたので、あえて別の方面から責める。
だが、潤也は無視して自分の話を続ける。

「ずっと考えてた。なんであんなにムカついたのかって。
 きっと、アンタの言い方が凄く巧かったからだ。俺の嫌なところばっかり突いてきた」
「彼女が泣いてるぜ。自分をほっといて彼氏が人殺ししようとしてるなんて知ったらな。
 それとも……もう生きてないかもな?」

沖田も無視して、責める。
非情。我ながらひどい事を言っていると思うが、罪悪感は無い。
今大事なのは気遣いではないのだから。沖田は冷静に、潤也の精神を乱そうとする。

「いつだったか見たテレビで言ってた。人の悪口を言うとき一番巧く言えるのは……
 同じ悪口を言われた事がある人だって」

ピク
沖田が少し反応する。
すぐにそれを隠し、次の言葉をつなげようとした、一瞬の躊躇。
それが潤也に連続の発言を許してしまう。

「それとは違うかもしれないけど…似たようなことなんじゃないかと思った。
 アンタ……家族が、それもたった一人の家族が……」

ドクン
ヤロウ…と心の中でだけ沖田は呟く。
潤也の表情は見えない。うざったい前髪だと、妙な怒りが湧き上がる。
次に出てくるであろう相手の言葉。これは勝負どころだ。
取り乱してはいけない。絶対に。
俺は……真撰組の隊長なんだから。


「その家族が、死んでたりしないか?それも、ごく最近……」

440 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:24:01 ID:9Jfx9i7w0


体中を、怒りが駆け巡る。
無神経な物言い。自分の触れられたくないところに触れてくる図々しさ。
今まで圧倒的にこちらが優位であっただけに、より腹立たしい。

だが、沖田は冷静だった。
握りこんだ木刀を振り回すこともせず。銃を乱射することもなく。
姉にとって自慢の弟は、そんなことをする奴じゃない。
だから、つとめて冷静にこの場を取り繕う。

「『死んでねーよ』。適当なこと言うもんじゃないぜィ」
「それ、『嘘』だ」

『十分の一=一』

潤也の発言を聞いて沖田の頭の中に浮かんだのはその言葉。
途端に彼の体中を巡っていた血が、頭へ昇っていく。
怒りが、集まる。

「てめェ…」
「兄貴か、姉貴…それともそれ以外かはわかんないけど…今の言葉は『嘘』だ」

潤也の質問は、最近家族が死んだかどうか。
そして彼が当てられたのは相手の言葉が『真実』か『否』か。

沖田の失敗は1つ。嘘をついてしまったこと。
しらばっくれれば、はぐらかせば、あるいは黙っていればよかった。
「なんのことだ?」「さて、どっちでしょうかね」「答える必要はない」
そんな言い方をすれば問題は無かった。それを判別する力は潤也には無い。
だが、嘘か真かなら二択。何が嘘かはわからないが、単純な質問と答えならそれも特定できる。
特に、今回のように前フリをしておけばなおさらだ。

なぜ、自分は答えてしまったのか。なぜ、嘘をついてしまったのか。
あるいは真実を述べて、堂々としていれば良かったのかもしれない。
それがどうした、俺は乗り越えたんだ、と。
だが、冷静であろうとしすぎた事、それでありながらも姉の事を指摘されたことで気が昂ぶってしまった事。
相反する二つの感情を整理できるほど、今の彼は完成していなかった。
そしてそれを補ってくれる大切な『友人』も、今はここにいない。

現状はなにも変わっていない。ただ、相手に心を見透かされた。それだけ。
だが、人の心のデリケートな部分というのは、それだけでひどく脆くなる。
相手の罠にまんまと引っかかり、醜態をさらした。
その事実がただ、沖田には腹立たしい。握りこんだ木刀が、『戦え』と命じているように思えた。
沖田は走り出していた。

441 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:24:34 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

正義は、勝つ

    ◇     ◇     ◇

少しだけ前、窓から落ちた金剛とそれを追った剛力番長。
両者なにごともないかのように地面に両の足で着地。
剛力番長はまっすぐ金剛に突っ込んでいく。

「やぁぁぁぁぁ!!!」
「打舞流叛魔(ダブルハンマー)――――――!!!!」

それを迎え撃つのは、鉄の如き高度となった金剛番長の両拳。
必殺の一撃を叩き込まれ、剛力番長は真逆の方向へと吹っ飛ぶ。
本校舎の横にある別棟にぶつかり、止まる。

「お前の事情はわかった」

相手が気を失っていないことを確信しているのか、すぐに話しかける金剛。

「だがな、剛力番長。俺もお前の言ってる事がスジが通っているとは思えねぇ。
 お前にとって辛いこともたくさんあったのかもしれないが、知ったことか。
 それが他人を傷つけていい理由にはならん。悪いが…ぶちのめしてでもお前を止めるぞ」

剛力番長の告白を聞き、潤也の怒りを聞き、出した結論がそれだった。
おかしなこと、わからないことはいろいろとある。
だが、今通さなければならないスジは、彼女を止めることだ。そう思った。

「私は…止めるつもりはありません。私やキンブリーさんに失礼なことを言ったあの人も含め、皆さんを倒します。
 でも、まずは貴方です!!私の記憶を勝手に偽ろうとする貴方を、私は倒すんです!!」

そういって別校舎から姿を現した剛力番長は、巨大な剣を携えていた。剣というよりもはや鉄塊か。
それを片手で持ち上げているのだから、やはりアイツは剛力番長だと、金剛は思った。
反対の手に持っている何かに、少女が呟く。

「今から目の前の男を倒します。彼は私に偽りの記憶を語るなど、非道な男です。
 正義の鉄槌をくだし、絶対にこの手で倒してみせますわ!」

それを鞄にしまい、今度は両手で剣を構える。

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

またしても力任せな突進。だが今回は剣を伴っての突進だ。
さすがにまともに受けるわけにはいかない。金剛は周囲を見渡すと、手ごろな『それ』を引っこ抜く。

442 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:25:39 ID:9Jfx9i7w0
「ぬぅぅぅぅぅん!!!」

『それ』……ジャングルジムを片手で振り回し、突進を受け止める。
さすがの剛力番長も、すこし驚いた表情を見せた。

「くっ」
「こうしてお前と戦うのは二度目か…お前はあの時、力の正しい使い方を知ったはずだ!」
「!! ですから、嘘は、お止めな、さい!!」

距離をとって剣を一度ひき、上段の構えへ。そこから力任せに振り下ろそうという作戦。
剣の重量と少女の力。単純だが、これには遊具などではとても耐えられない。

「キンブリーさん優勝の為…礎になっていただきます!」

しかし構えを変えた一瞬の隙に、金剛番長は既に行動を始めていた。

「知った…」

ジャングルジムを放り投げ、再び鉄と化した拳を握る。
相手が剣を振り下ろすより速く。
そう、単純に速く、力強く、拳を突き出した。

「ことかァぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

本気を出した打舞流叛魔が、叩きこまれる。

443 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:26:30 ID:9Jfx9i7w0

再び教室内。
沖田が動くより一瞬だけ速く、潤也は動いていた。
それでも身体能力の差は歴然。すぐに追いつかれるだろう事は潤也にもわかった。
だから少し遠い廊下への出口ではなく、先ほど金剛が吹き飛んでいった先、割れた窓のほうに向け全力で走る。
一切の躊躇も無く、潤也は飛び降りた。残っていたガラスで少し傷を負う。
ここは2階。下は確か花壇だった。体を丸め、頭だけ守りながら落ちていき、土の上で受身を取る。

「〜〜〜〜〜〜!!!」

全身が痛んだが、耐えられる、なんの問題も無い。
体育の授業は楽しかったから、少し真面目に受けててよかった。そんな事を思った。
だが、すぐに体を転がしてその場から離れる。
予想通り、自分の落ちた花壇の上に、銃弾が降り注ぐ。後を追う様にして沖田が降り立った。
銃と木刀を握りしめ、先ほどまでとは違う意味で嫌な目をしていた。

もう逃げ場は無い。戦っても勝ち目は無い。
コイツは口八丁で煙にまける相手ではないし、騙したりもできない。
自分の能力では相手を逆上させることは出来ても、出し抜いたり、無力化したりは出来ない。
潤也がパーなら、相手はチョキ。どう頑張っても勝ち目は無いのだ。
だから…

「短い鬼ごっこだったぜィ」
「あぁ、もう逃げないよ。俺は目的の為に、戦う」

だから頭を使うんだ。

グーを、味方につけて。

「…どういう事だ、土方」

立ち上がる潤也の背後に、一人の男が姿を見せた。
人呼んで、金剛番長。
スジの通らぬ話が許せない、強くて硬い男だった。

「……チッ」
「答えろ」
「どーもこーも…見たまんまですぜ?」

見たまんま。
それは沖田が丸腰の相手に銃を乱射していることか。
それとも潤也が土と血に塗れて立っていることのほうか。

444 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:27:10 ID:9Jfx9i7w0

あるいは素直に事情を説明していれば、金剛とてバカではない。
喧嘩両成敗とでも言って、なんとか場を収めただろう。
だが、沖田にはそれが出来なかった。今の自分は、人生で一番見られたくない一瞬であると思う。
ひねくれた性格が悪い方へと働いてしまう。強がるように、本音をひた隠す。
そんな態度をとってしまうことまで潤也にはお見通しであったのだろうか。

悔しいが、おそらくそうだろう。ヤツの狙いはこれだ。
自分と金剛の間に亀裂を生じさせること。だが、わかっていても態度というものは中々変えられない。

「旦那、そいつはマジでヤバイ。俺は確信したぜ」
「例えそうだとしても、丸腰の相手に武器使って殺そうとするなんぞ…」
「スジが通らねぇ、ですかィ」

金剛の目は真剣だった。
事情を説明しなければ、共に行動することは適わないだろう。
だが、何を言っても言い訳がましくなるのは目に見えていた。
潤也は一言も発しない。沖田を貶めようとする言葉も、救おうとする言葉も。
あるいはそれは、審判を待っているようだった。
金剛によって、自分と相手の罪を量ってもらっているかのように。
やがて、沖田が口を開く。

「お互い納得できないなら仕方がねぇ…悪いが、別行動させてもらいますぜィ」

クルリと背を向けて、沖田は歩き出す。入ってきた正門ではなく、別の場所にあった門に向かった。

「土方!」
「旦那ァ、忠告しとくぜ。あんまし甘いことばっか言ってると、バカを見るぜ。
 どうしてもそれを貫くんなら…ひねくれた仲間を2人くらい、見つけるんだな」
「……気をつけろよ」
「『警察』にそんなこと言うのは、お門違いですぜィ」

そう言い残して沖田はその場を去った。

445 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:27:45 ID:9Jfx9i7w0
「……」

潤也は、黙っていた。
審判は下された。ただしそれは、正義や悪を比べるものではなかった。
潤也が考えに考えた末に選んだ道は、脱出。
ただしそれは確実で、最速の脱出。

殺し合いに勝ち残るのは難しい。
だが全員で仲良く脱出するのも難しい。
難しいということは、時間がかかるという事だ。失敗の可能性があるという事だ。
だからそんな手段はとっていられない。自分のこのちっぽけな力でも出来る、最大限のことはなにか。
それは強い参加者を何人も味方につけ、自分の能力で導くこと。
無駄を省いた、最速確実の道へ。

沖田の力も役立つものではあった。しかし、彼はこちらを疑いすぎている。
最初の出会いの際にもう少し落ち着いて対処が出来ればまた違ったのだが…
とにかく、これ以上ヤツと一緒に行動していると、思ったように動けない。
しかも本当にいざとなったら、おそらく彼は自分を見捨てられる人間だ。
だから排除する必要があった。
都合よく自分を拘束していた鎖がはずれ、生まれたチャンス。それを最大限に活かし、成し遂げた。
ヤツの性格からして、この状況で言い訳がましく事情を説明するなど、耐えられないはずだとふんでいた。
それがあたった。

だが、今唯一の味方となった金剛もバカではない。自分に対して疑念を抱いているだろう。それでもいい。
それでも彼は潤也を守る。スジとやらを通す為に。それがわかったから選んだ道だ。
兄貴の仇の情報を得る目的も含めて仲間はもっともっと欲しい。
金は無いけど、この状況で必要なのは多分金じゃない。
金じゃない『何か』がきっと仲間を増やす。その『何か』を考えるんだ。

俺は兄貴の仇を討つ。潤也の考える基本的なことはなにも変わっていない。
ただ、『今』一番適した方法が『のる』ではなく、『逆らう』だと判断しただけだ。
その為なら、善意だろうが悪意だろうが利用してやる。
生き延びたい奴ら、帰りたい奴ら、勝ち残りたい奴ら、そして、主催者。
みんな利用して…脱出する。仇を討つ。
そう考え抜いて、決めた。

446 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:28:47 ID:9Jfx9i7w0

「おい、潤也」

金剛が潤也に向き直り、声をかける。
なんとなく察してはいるのだろうが、金剛は事情を聞きたかった。はっきりしないのは好きではない性分。
だが、そこで彼の視界に入ってきた潤也の表情は、驚愕。

「金剛後ろーーー!!!」

振り向けば、大剣を構えた少女の姿。

「正義は、勝ぁぁぁぁぁつ!!ですわーーーーー!!」


    ◇     ◇     ◇

とは、限らない

    ◇     ◇     ◇


金剛は本気の打舞流叛魔を叩きこんだ時点で、相手を無力化したと思っていた。
以前戦った時はそうであったし、なにより確かめる暇もなく仲間の諍いが起きた。
らしくない油断ではあったが、仕方のないことだったのかもしれない。

とにかく、剛力番長はまだ倒れてはいなかった。
それはホムンクルス化の影響か、金剛への制限が原因か。
再び立ち上がるまでには少し時間がかかったものの、彼女はその身を起こし戦闘を再開した。
今度こそ、正義の鉄槌を下す…その一心で、振りかぶった剣を叩き込んだ。

「ぬおぉ!」

間一髪、潤也の指摘で振り向くと、握りこんだ拳で剣を受け止める。
剣自体はそれほど切れ味のあるものではないようで、切断されることはなかった。
だがその重量と力、無事ではすまない。

447 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:29:16 ID:9Jfx9i7w0

「ぐぅぅ!」
「く、まだまだぁぁ!!!」

痺れる両拳を酷使し、金剛は剛力番長の追撃をかわす。
これではしばらく打舞流叛魔は使えない。しかも近くには潤也がいる。
彼を安全なところに逃がさねばならない。
金剛は潤也を脇に抱え、ひとまず逃走を図る。

「ま、待ちなさい!!」

すぐさま相手も追いかけてくる。ところが……

「あ、あらー!?」

打舞流叛魔のダメージか、それとも単純に躓いたか、少女はこの大事な場面でよろめく。
わずかに崩したバランスは、力はあっても小さな体格に不釣合いな剣によって大きな影響を生んだ。

どってーん

古いギャグのような音をたて、少女は思い切り転倒した。


相手が一人コントをしている間に、金剛はとりあえず体育館へと駆け込んでいた。
どこか潤也が隠れられそうな場所は無いか探す。1つの扉が目についた。

「とりあえずあそこに隠れていろ」
「え、ちょ、金剛、あれは…」

そういって金剛がずんずんと扉に近づき、ドアを開く。
そこへ一歩踏み込んだ、その時だった。

「もう逃がしませんわ!!!」

体育館の扉を開き、体操着の少女が入ってきたのは。
よく似合っている上に校庭以上に違和感のない場所にいると、普通のことのように見える。
転んだ際に打ったのか、鼻が赤くなっていた。
しかし、彼女は目を見張る。男達が確かにここに逃げ込んだのは見えた。
だが、ここには誰もいない。自分が入ってきた以外の扉は二つ。
1つは体育倉庫だろうか。そしてもう1つ。こちらが開いていた。

「非常口……またしても外へ…?どこまで逃げるおつもりかしら!」

448 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:29:52 ID:9Jfx9i7w0

そういってその扉に駆け寄ろうとするも、そこでスピーカーから音楽が流れ始める。
ハッ、と気がつき、思わず館内の時計に目をやると、時間は午前六時。

そう、最初の放送が始まる時間だった。
どうするか迷うものの、先ほどの男の言葉が頭をよぎる。

『そのキンブリーってヤツが死んだら意味がないだろ?』

まさか、彼が死んでいるとは思わないが……それでも、ここで放送を聞き逃すのはマズイ。
そう自分に言い聞かせるように、少女は立ち止まった。鞄から『日記』を取り出す。

「……これから、放送が始まります。先ほどの男達は取り逃がしてしまいましたが…
 大丈夫、全てうまくいきますわ…」


【H-3小学校/体育館/1日目 早朝(放送直前)】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(中) ダメージ(中) ホムンクルス 『最強の眼』
[服装]:キツめの体操服、紺のブルマ
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6  ボイスレコーダー@現実
[思考・備考]
0:全員を救うため、キンブリーを優勝させる、という正義を実行する
1:放送を聞く
2:先ほどの男達を追跡する?
3:キンブリー以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
6:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す
7:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できるとかろうじて信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報に、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がみねねの敵だと信じています(妲己の名前は知りません)。
 二人の会話も聞こえておらず、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。

449 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:30:16 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

潤也は金剛に、その扉は非常口だと伝えようとしていた。
ところが…いざくぐってみれば、たどり着いたのは外ではなく、どこかの室内。
それもかなり広い場所のようだった。何かの店なのか、いろいろなものが並んでいる。

「む、随分と広いな。まぁ隠れるには丁度いい。ここで待って…」
「ちょ、ちょっと待てよ金剛。ここどう見ても学校じゃないって」

金剛の脇から下ろされ、周囲をあらためて確認しながら潤也は告げる。
おかしい。非常口に飛び込んだはずが、なぜ室内、それもまったくつくりの違う建物に繋がるのか。
考えろ、そう思った時、彼の考察を邪魔するかのように音楽が流れ出す。

「これは…まさか、やつらの言っていた放送か?」
「……音楽なんか使って、いい気なもんだな」

暗い室内に、メロディだけが響き渡る。

【I-7デパート/1日目 早朝(放送直前)】

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】疲労(中)、右手首骨折(応急処置済み)、たんこぶ一つ、体の数箇所に軽い切り傷
【装備】首輪@銀魂(片方の首輪をはめている)
【所持品】
【思考】
基本:兄の仇を討つ。そのためには手段も選ばない。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、確実で最速なやり方でここから脱出する。
2:ひとまず脱出の為に、金剛を始めとした殺し合いにのっていない参加者を集め、協力してもらう
3:その集団を、能力を活かして確実最速な脱出方法へ導く
4:土方に対する激しい怒り?
5:兄貴……


※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※沖田の名前を土方と理解しました。
※能力は制限されている可能性がありますが、まだ気付いていません(少なくとも3分の1は1に出来ます)
※キンブリーを危険人物として認識しました。



【金剛晄(金剛番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(中) 両拳に軽い痺れ(数分で回復します)
[服装]:学ラン
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、確認済み支給品×2(武器である事は確認済み)
[思考]
基本:殺し合い?知ったことか!!
 1:ゲームを潰す
 2:施設をまわり、情報を集める。
 3:このゲームの主催者たちにスジを通させる
 4:陽菜子や他の番長たちはいるのか……?
 5:仲間たちにもスジは通させる
 6:剛力番長の様子がおかしいことが気にかかる
 7:土方のことも気がかり
[備考]
※自分の力が制限されていることを知りました。
※主催の用意した武器を使うつもりはありません
※キンブリーを警戒対象として認識しました。



※H3小学校体育館の非常口と、デパートのどこかがワープで繋がっています。

450 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:30:54 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

まぁ、丁度良かったのかもしれねぇや。
夜道を一人歩きながら、沖田は少し冷静さを取り戻した頭で考える。
潤也の策略にのってしまい、結局彼らから離れざる得なくなった。
これは正直痛いし、悔しい。

あの場で金剛に事情を説明すれば事態は収まったかもしれない。
だが、そうすれば自分の姉の話や、それによって激情してしまった事を伝えねばならなかった。それは我慢ならない。

安藤潤也は危険だ。だが、その危険さは即効性のものではない。
あぁいうタイプが厄介になるのは状況が混乱してからだ。
むしろ今危ないのはさっきのガキみたいな、深く考えずすぐ暴れまわっちまうタイプの方。
金剛の旦那もバカではない。いざとなればヤツをなんとかするだろう。
無理に自分がついている必要もない。

言い訳半分、本気半分という感じで考えていた。
そういえばあのガキはどうなっただろう。
旦那の知り合いらしいが、ちゃんとぶっ飛ばせたのか。
まぁ問題ないだろう。あぁいう男は、身内だからこそ遠慮なく拳をふるえる。
そいつの間違いを正してやる為にも。
数時間前に殴られた頬をなで、うっすらと、今日で一番素直な笑みを浮かべる。

勢い飛び出てしまったが、自分はやるべきことを、否、やりたいことをやるだけだ。
今の目的地は警察署。彼自身に警察としての自覚はほとんどないも同然だ。
しかしそこには武器があるだろうし、いるのなら真撰組の他の隊士も集まる可能性がある。
武器と仲間。このふざけたゲームを壊すのにどちらも必要なもの。
と同時に、今しがた失ってしまったものでもあるのだが。
また当面の危険であるゲームにのって暴れる連中に対処するのにも有効なものだ。

デパートにいるという万屋の旦那のことも気になった。
しかしデパートには金剛達が向かうはず。これも彼らを放って置く理由の一つだった。
あの旦那なら、危ういあの二人もなんとか運転してくれそうな気がする。
そんな期待があったのかもしれない。

(まぁ、あんまり気にしすぎても仕方ねぇや。
 でもな、礼はいつかきっちりするぜ、潤也くぅん?)

やっとらしさを取り戻し、沖田が笑う。
だがその笑顔もまだ、少しぎこちない気がした。


【H-2/大通り/1日目 早朝(放送直前)】

【沖田総悟@銀魂】
【状態】疲労(中)、わずかな悲しみと苛立ち
【装備】木刀正宗@ハヤテのごとく! 
【所持品】支給品一式×2 イングラムM10(10/19)@現実 未確認支給品0〜1(確認済み、武器はない)
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:警察署に向かい、武器と仲間を探す。特にこの場にいるなら近藤や銀時達知り合いと合流したい。土方?知らねえよ
2:金剛と潤也が気がかり
3:……姉上、俺は――


※沖田ミツバ死亡直後から参戦
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです
※キンブリーを危険人物として認識

451 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:34:50 ID:9Jfx9i7w0
以上、タイトルは「夜明けだョ!全員集合」
タイトルに偽り有。体操服?趣味です。

長いのに投下をミスってすみません。
代理してくださってる方、ありがとうございます。

452代理:2009/10/05(月) 22:40:17 ID:isuiz1lM0
俺もさるった

453本スレ>>403以降差し替え ◆L62I.UGyuw:2009/10/09(金) 01:19:56 ID:pHhzymDI0

首に嵌められた鈍色の枷をさすり、

「――こいつ、か?」

ボソリと低い声。

「首輪?」

リンも自分の首元を確かめる。

「ああ、この首輪に錬金術が通用しないことは確認した。練成エネルギーが通らないんだ。
 いや、というよりは『首輪に練成エネルギーが吸収されてる』って感じだな。
 リン、お前、気の動きが分かるってんなら、首輪周りのエネルギーがどう動いてるか探れないのか?」

肩を竦めて、リンが答える。

「残念だけど、そこまでは判らないヨ。ここに来てから調子が悪くてサ。
 ……でも、そういえばグリードも首の周りが硬化出来ないって言ってたナ」

やっぱりかと呟くエド。
グリードの『炭素硬化』も錬金術の一種であり、発動するためにはエネルギーが必要だ。
首輪周辺のエネルギーを吸収されれば当然硬化は不可能。理屈は合っている。
考えてみれば、首輪の機能が単なる爆弾に過ぎないというのは不合理だ。
エドは慎重に思考を展開し、リンに理解出来る形で必要な部分を説明する。

「それで……もしこいつにエネルギーの吸収機能があるなら、だ。放出機能もあるんじゃないか?
 つまり吸収したエネルギーの情報をヤツらに送るような機能ってことだ。
 その方法ならオレ達の生死を判定するのは簡単だからな。
 ……もしかしたら制限ってやつもこの首輪で一括制御してるのかもな」
「ふーン。……要するに、やっぱりまずこの首輪を何とかしろってことカ?」

リンが簡潔に要点を纏めて、すっくと立ち上がった。
デイパックを腕に掛け、エドが続く。

「ま、そういうこと。オレの予想が合ってようとなかろうと、な。
 どっちにしろこれ以上は情報不足だ。まずは行動あるのみ、だぜ」
「よシ。それじゃ、今度こそ行くとするカ」

木々の隙間から零れる朝の陽射しに向かって、二人の反逆者が歩み出す。

454本スレ>>403以降差し替え ◆L62I.UGyuw:2009/10/09(金) 01:20:33 ID:pHhzymDI0
【E-3/1日目 朝】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:なし
[思考]
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:ウィンリィの保護を優先する。
3:首輪を外すためにも工具が欲しい。
4:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

【かどまツリー@ひだまりスケッチ】
ひだまり荘の前に飾ってあった、クリスマスツリーと門松の合体事故で発生しそうな物体。名称は適当。
一応凶器として使えないこともない。

455マリオネットラプソディー ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:55:57 ID:hGX11kGk0
そして何でか知らないけど気絶している。
ふと、腰に差している銃を見てみる。

銃――人を×す凶器――――

ああ。私気付いちゃった。

これがあれば――――

そう。私が思ったのは。

「すいません、少しこれ、借ります」

外人さんの腰に差している銃を抜き取って。
私は銃口を頭に向ける。

自殺。

これで頭を撃ち抜けば終わる。

いつ死ぬかわからない恐怖が。

一人という孤独が。

そして。

「ハヤテ君に会える……!」

うん、逃げだってことはわかってる。
でもね。もういやなんだ。
痛いのも。怖いのも。
だから。
ごめんなさい。

ヒナさん。おとうさん。おかあさん。一樹。……ハヤテ君。

456マリオネットラプソディー ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:57:24 ID:hGX11kGk0
「もう疲れちゃったんだ、何もかも」



◇ ◇ ◇



『運命』は皮肉にも彼女を生かす。

西沢歩は知らない。

この銃は麻酔銃で命を刈り取るものではないことを。

そして翼ある銃はいまだに目覚めない。

この先、どうなるのか。

この哀れな少女の行く末は――


【H-5/山道入り口/1日目 朝】

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:肉体疲労(大)、自暴自棄、睡眠中
[服装]:制服
[装備]:五光石@封神演義 
[道具]:支給品一式(一食分消費)、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー
[思考]
基本:???
0:???

[備考]:
※参戦時期は明確には決めていませんがハヤテに告白はしています。
※理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜が歩の手に握られています。

【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:気絶、潜在的混乱(大)、疲労(中)、全身にかすり傷
[装備]:麻酔弾×16、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
0:――?
1:マシン番長の残骸から使えそうなパーツと、デイパックを回収したい。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?
[備考]
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱は収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。

457 ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:59:14 ID:hGX11kGk0
投下終了です。
途中からさるった……
すいませんが代理投下してくださると助かります。

458パロロワ版スパイラル〜ひよのの電脳開拓史〜 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:34:17 ID:5A6vmjKY0
規制に巻き込まれてしまったので、どなたか代理投下をお願いします。



>1:
>管理人さんへ。
>掲示板の件、了解しました。ご覧の通り、早速立ち上げてきましたよ!
>メールもレンタルサーバーを利用したので、インターネットが繋がっていれば、どこの端末からでも受付可能です。
>そちらも更新頑張ってくださいね。

>Link:みんなのしたら場

>私はいつでも、管理人さんを信じてますよ☆

459 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:35:41 ID:5A6vmjKY0
【B-8/博物館/1日目 朝】

【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康、絶好調
[服装]:カーテン一枚、髪紐の喪失によりストレートのロングヘア
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、太極符印@封神演義、秋葉流のモンタージュ入りファックス
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:まともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:まずは市街地へと向かう。
3:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
4:安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
5:三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
6:襲撃者は先ほど出会った男(ミッドバレイ)ではないか?
7:機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
8:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
9:太公望達の冥福を祈る。
10:探偵日記を利用する。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望と情報交換をしました。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※太公望の考察を知りました。
※ 太極符印@封神演義にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
 また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
 結崎ひよのには太極符印@封神演義を任意で使用することはできません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。

[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、
 最新の放送で発表された死者の一覧、禁止エリアの一覧、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。

460 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:36:57 ID:5A6vmjKY0
最低のタイミングで規制食らっちまったなぁ……ともあれ、投下は以上です。
タイトルの元ネタは、「映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史」です。
デフォルト名無し名は、後続の書き手さんにお任せします。

あと、修正した方では「掲示板の使い方 / 新着をメールで受信 / 過去ログ倉庫 / スレッド一覧 / リロード」の一行が消えていますが、
コピペミスですので、まとめWiki収録の際には追加をお願いします。

461 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:52:55 ID:5A6vmjKY0
それからついでで恐縮ですが、したらば掲示板のIDが10文字ではなく9文字だったのを失念していたので、
作中でのひよののIDを、「vIpdeYArE」に修正お願いします。

462 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 17:06:48 ID:5A6vmjKY0
えーっと、すいません。投下自体は自力でできました。
お騒がせして申し訳ありませんでした。

463運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:30:17 ID:Sp8loFX60
変身した喜媚ちゃんは速かった。
翼もないというのに、その身体は風を切り宙を舞う。
あたしたちは、あっというまに市街地に入ると病院を目指して突き進む。
あまり高く飛ぶと発見されてしまうかもしれなかったので、高度は5M程度に抑え
民家の隙間を縫うように飛んでいた。

ここに来て、初めて見る競技場以外の世界。
夜のうちにどれだけの戦いが起きたのだろう。
街のあちこちに残された戦いの爪痕が、戦いの激しさを物語る。

やはり、あそこにいたのは正解だった。
受動的ではあったが、何の脅威もなくこの夜を過ごせた事がどれだけ幸運な事だったか。
亮子ちゃんは、どんな夜を超えてきたんだろう。
あの亮子ちゃんがこんなに消耗して、こんな姿になって。

「絶対、守るから」

あたしは亮子ちゃんの湿った髪の毛を撫でる。
そう、あたしたちは同じ血を分けた姉妹。
運命を共にするもの。
こんなところで死なせないよ。
絶対、みんな揃って未来を掴むんだ。

ビルを、商店街を、民家を飛び越える。
そして遠くに見えるのは病院の赤十字。
でもそのとき、あたしの視界の端に黒い影が映った。


振り向く。
あたしたちを追走するように、屋根の上を走る黒い影。
その手にあるのは冗談じみた大きな剣。
喜媚ちゃんは、ソレに気付く様子もなく楽しげに飛んでいる。

「喜媚ちゃん、避けてぇ〜〜〜〜!!!」

失礼を承知で、スープーちゃんに変身した彼女の角を握りしめ、飛行機を操縦するように
大きく捻りこむ。
急速旋回。
だが、そうはさせじとばかりに黒い影も宙を駆ける。
振り下ろされる大剣。

間に合えっ!

「ガッツ!!」

誰かの叫び声。
剣の勢いが緩む。
これならっ!

避け……きれたっ!

でも、その代償は地面との熱いキス。
目前に迫る大地、あたしは意識のない亮子ちゃんを庇うように抱きしめる。
無茶な回避の結果、すっかり体勢を崩し切ったあたしたちは地面に叩きつけ

ボヨン

られなかった。

464運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:30:53 ID:Sp8loFX60
一瞬早く、地面に投げつけられたクッションが、あたしたちを救ってくれたのだ。
それは子供が使うような、ビニール製のプール。
十分に空気の入ったそれがあたしたちの身体を柔らかく受け止める。

「あなたたち、怪我はなかった? ごめんなさいね。あの人、あの放送で少し気が立っているみたいなの」
「いえ、大丈夫です……このプールはあなたが?」
「ええ、支給品の中にあったから、咄嗟にね。間に合ってよかったわ」

声をかけてきたのは優しそうな着物の女性。
さっきの黒い影……黒い鎧の男の人は、同じく黒いコートを着た男の人と激しく言い争っている。
使徒がどうとか、グリフィスがどうとか言ってるけど、どうやらすぐ襲われる事はなさそうだ。
あたしは現状確認に努めることにする。

まず喜媚ちゃんに、人前で変身をしないよう耳打ちしようとしたが、それは遅かった。
彼女は既に元のロリータな姿に戻り、プールをトランポリンのように使って遊んでいた。

着物の女性は少し驚いているようだったが、おびえる様子は特にない。
彼女もまた、こういう不可思議な体験になれているのだろうか。
どこか憂いを秘めた笑顔で、遊ぶ喜媚ちゃんを眺めている。

男の人たちが戻ってくる。
どうやら話し合いは終わった様子。

鎧の人が凄い眼で喜媚ちゃんを睨んでいるけど、喜媚ちゃんは素知らぬ様子だ。
思わず笑いがこみ上げるが我慢。
コートの人があたしに話しかけてきた。

「突然すまなかったな。
 私はブラック・ジャックという。あの男はガッツ、彼女は志村妙さんだ。」

向こうの自己紹介に対し、話を受け入れるという意思を示すように軽く頷いておく。
とりあえず、先方の話を聞いてみよう。

「突然襲いかかった非礼は詫びるが、我々も先ほど空を飛ぶ化け物の襲撃で仲間を一人失ったところでね。
 彼も気が立っていたのだ。
 君たちのような少女が乗っていることは知らなかったしな」

そこで言葉を切ると、ブラック・ジャックさんは喜媚ちゃんをちらりと見る。

「もっとも、彼女の能力を見るに、君らも普通の人間かどうか私にはうかがい知れんが……」

やっぱり、あれは見逃しては貰えなかったか。
どうしよう、この状況で戦闘になるのは回避したい。
さっきの男の剣は凄かった。
この間合いで次は避けられないだろう。

「だが、君たちに特殊な力があるとしても、それだけの事で殺し合いに乗っているとは私は思わない。
 もし殺し合いに乗っているのであれば、そのように動けない仲間をかばったりはしないだろう。
 だから、君たちが殺し合いに乗っていないのであれば、この手を握り返して欲しい。
 私たちは仲間を欲している。
 このふざけた殺し合いを企画した、あの主催に反旗を翻す仲間をな」

あたしに向かってさし出される右手。
……これは同盟の申し出と受け取っていいのかな?
どうしよう。
確かに突然襲われはしたけど、この人の制止の声と、あの女性の助け船に救われたのは事実だ。
ガッツと呼ばれた男の人もどうやらブラック・ジャックさんたちの制止を押し切ってまで戦う気は
ないみたいだし、信用してもいいかもしれない。

465運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:31:36 ID:Sp8loFX60
もちろん、この一連の流れが彼らの仕組んだ狂言ということも考えられる。
簡単に気を許す事は出来ないが、すぐに襲ってこないなら仲間に入って様子を伺うのも得策だろう。
何しろこちらには自力で動けない病人がいるのだから。
あたしが握り返した手は清隆様みたいに大きくて、温かかった。

「ところでそちらの女の子は大丈夫かね?
 よければ、少し診せてくれ。これでも医者のはしくれでね」



       ◇       ◇       ◇


ブラック・ジャック先生の指示で亮子ちゃんの濡れた服を脱がして、近所の家から持ってきた毛布で包む。
先生の診断は軽度の低体温症と細菌性肺炎との事だった。
とりあえずの応急処置を済ませると、再び喜媚ちゃんがスープーちゃんに変身して亮子ちゃんを乗せてくれる。

「……首の太さの変化に応じて、首輪も大きさを変えているな。
 継ぎ目がない事といい、私たちの知る金属物質とは違うようだ」

「たぶん、いったん輪を広げて頭を通して首に掛けたんでしょうね。
 その制御用の信号が判れば、首輪も外せるんでしょうが……」

先生たちが仲間の犠牲の上、手に入れたという首輪を見せて貰いあたしも自分の知る情報を提供する。
先生は病院でこれをX線にかけたり、聴診器で調べてみるという。
いいアイディアだと思う。
解体が出来ない以上、信管を抜くなどの手段は取れないと思うが内部の様子を
調べておくのは無駄ではないだろう。

「でも一体どんな素材で出来てるんでしょうね……」

誰に問うでもなく発せられたあたしの独り言に、意外な人物が解をくれる。

「そんなの、宝貝合金に決まってりっ☆」

スープーちゃんに変化した喜媚ちゃんが、当然のように答えたのだ。

「!?
 宝貝合金って、この首輪もあの宝貝っていうものの一種なんですか!?
 じゃあ、喜媚ちゃんはこれをなんとか出来るの?」

思いもかけぬところから判明した首輪の情報に色めき立つ面々。
喜媚ちゃんに7つの視線が集中する。
だが、そんな視線をものともしない満面の笑み。
元の姿であれば可愛らしかったであろうそれも、珍獣の顔ではただただ間抜けなだけで……

「喜媚、わかんないっ☆」

この瞬間、皆が一斉に心中で「駄目な子……」と呟いた。


       ◇       ◇       ◇

466運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:32:38 ID:Sp8loFX60
辿り着いた病院もまた、酷い有り様だった。
赤十字。
非戦闘区域として有名な聖域も、このゲームの中にあってはたった数時間でこのありさま。
だが見回りの結果、とりあえずここには誰もいない事がわかりあたしたちは一時の安息を得る。

だがここで一つの別れがあった。
ガッツさんがここでの別れを宣言したのだ。

「やはり行くのか、ガッツ……」

「ま、元々病院までって約束だったしな。後は勝手にやりな。
 俺は俺で好きにやらせてもらうぜ」

「復讐か……」

「……」

「復讐を否定はせんよ。そうしなければ、前に進めないという事もある。
 だが、それ以外の方法でも過去は精算出来る。
 おまえさんの目の前には、常に別の道もあるということだけは忘れずにいてくれ」

「……」

黒い医師の言葉をどう受け止めたのか。
黒い剣士は外套を翻し、あたしたちの元を去る。

だけど、すれ違いざまに彼が呟いた一言は、

「おい、あの化け物女とは早いとこ別れといたほうがいいぜ。
 人間と、化け物じゃ所詮生きる世界が違うんだからな」

あたしの心に呪いじみた楔を打ち込んだのだった……



       ◇       ◇       ◇


仲間たちと別れ、黒い剣士は一人仇敵を探す。
名簿を見た瞬間、ガッツの心を満たした感情。
それは歓喜。
状況を正しく把握してみれば、これはチャンス以外の何物でもなかった。
忌々しくも鷹の団を名乗る新たなるグリフィスの軍団も、この地ではゾッドを始め数人いるかどうか。
そして主催の言葉を信じるのであれば、強者の力には制限がかかっているという。
更には守らなければならない女もこの地にはおらず、後顧の憂いもない。

これ以上は考えられないほどの好条件。
この機を見過ごす手はなかった。

病院に残してきたつかの間の仲間たちの事を、最後に少しだけ思う。
どこか自分と同じ匂いがした黒い医師。
連れを亡くしても毅然としていた女。
そして新たに仲間となった三人の少女たち。
らしくもなく忠告などとは、少しだけ仲間というものに慣れすぎたか。
だがここから先にそんな甘さは必要ない。
結局のところ、極限の場では自分の事は自分でやってもらうしかないのだ。
力が足りなければ、望みを果たす事も出来ずに死ぬしかない。
それがガッツの経験から得られた人生観であった。

467運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:33:03 ID:Sp8loFX60

まぁ、せいぜい上手くやるんだな。
あばよ。

病院に残してきた仲間に手を振ると、黒い剣士は街角に消えていった。


【E-2/道路/1日目 朝】

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:キリバチ@ワンピース
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む
0:グリフィスを殺す
1:グリフィスの部下の使徒どもも殺す
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。


       ◇       ◇       ◇

468運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:34:22 ID:Sp8loFX60
ガッツさんを見送った後、病院の一室で亮子ちゃんの治療を施すと、あたしとブラック・ジャック先生、妙さんは首輪の解析を試みるべくレントゲン室へと赴く。

ナース役を買って出た喜媚ちゃんだけを亮子ちゃんの傍に残していくのは少し不安だったが、この期に及んで
喜媚ちゃんを疑うのは、あたしの臆病な心の発露でしかないだろう。
状況的に考えて、喜媚ちゃんが亮子ちゃんを手に掛ける必要性など微塵もないのだ。
むしろ爆発物を扱う現場に連れて来て、彼女の持ち前の無遠慮さでデリケートな作業を邪魔される可能性のほうが
ずっと高かった。

宝貝合金についてのノウハウも聞き出したかったが、本当に知らないみたいで彼女にとっては身近な金属であるという事だけしかわからなかった。
彼女の姉である妲己さんと接触出来たら、この事もわかるのだろうか?


そういうわけでしばらく三人であーでもない、こーでもないと首輪をいじってみたのだが……
医療機材による測定は全滅。
あとはブラック・ジャック先生の聴診器での調査を残すのみとなったが、その前に腹ごしらえをすることを
先生が提案する。

なにせ、根のいる作業だから作業中に腹の虫がならないように……
とのことだった。
確かにここに来てから何も食べておらず、もしおなかが鳴ったりすると非常に恥ずかしい。

というわけで支給された食糧を取りだすが出てきた物は三者三様。
あたしの支給された食糧はすぐに食べられるサンドイッチ
妙さんのはおむすび。
だが、ブラック・ジャック先生の食糧だけは、なぜかレトルトのボン・カレーだった。

ボン・カレーはどう食べてもうまいのだと言いながら、温めもせずに食べようとする先生を
妙さんが止め、温めに厨房に行く。

その隙にあたしは少しデリケートな問題をブラック・ジャック先生に相談することにした。
亮子ちゃんの身体の問題である。

「ふむ、若返りの奇病……か」

「はい……そんな事が本当にあるんでしょうか……」

「ない……とは言い切れん、私は何十年も老化しなかったクランケを知っている。
 もっとも、失っていた意識を取り戻した瞬間、それまで止まっていた老化現象が一気に襲ってきて亡くなられたが」

「じゃあ、亮子ちゃんも意識を取り戻せば元に戻る可能性が……」

「どうかな、私が診た所、意識を失ったのは肺炎と疲労が原因だ。
 若返り現象との間に因果関係はないように思えるが……
 まぁ、気長に見てみようじゃないか。
 命にかかわる奇病というほどのものでもあるまい」

「はぁ……まぁそれもそうかもしれませんが……」

先生はどうやら頭の柔らかいお医者のようで、あたしの荒唐無稽な相談を笑いもせずに聞いてくれた。
でも老化しない病気だなんて、そんな症例も世の中にはあったんだ。
あたしをあんまり心配させないためのジョークかもしれないけど。

「……でも、妙さん遅いですね。あたし、少し見てきましょうか?」

レトルトカレーを温めるにしては、少し遅い。
ちょっと神経質になっているのかもしれないけど、こんな場所ではふとしたことで不安の種が育つものだ。
椅子から腰を浮かすあたしを、先生は止める。

「いや、もう少し、一人にしておいてあげよう。
 ……さっきの放送で、彼女の弟さんの名が呼ばれているのだ」

469運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:35:28 ID:Sp8loFX60
       ◇       ◇       ◇

コトコトと、沸き立つ鍋の音だけが厨房を支配する。
湯せんすればいいだけのレトルトカレーを直接火にかけているため、あたりにはカレーの香りが漂っていた。
ゆらめくガスの炎を、椅子に座った妙が呆と見つめている。

一人になれば思いっきり泣けるかと思ったが、長年培ったこの鉄仮面は存外に剥がれないものだ。
ほろりと、申し訳程度に流れる一粒の涙が精いっぱいだった。

「新ちゃん……」

放送で呼ばれた、たった一人の家族。
増田さんの名前も同じ放送で呼ばれた為、信憑性は高いだろう。

侍が不要とされる時代。
それでも侍を志し、真の侍と見込んだ銀さんの元で真の侍道を模索していた自慢の弟。
どんな苦労を買ってでも一人前の侍にしてあげたかった。

その彼が、こんな場所で自分より先に死んだ。
じゃあ、自分はこれからどうすればいい?
復讐?
婿を取り、道場を再興する?

だが、何をどうしたところでこの空白はもはや埋まる事はないだろう。
それが死というものがもたらす永別。
あの優しい弟は……新八は、もういないのだ。

「あなたは……あなたの思う道を貫けましたか……?」

虚空に呟いた声は誰に聞かれることもなく立ち消えた。


       ◇       ◇       ◇


それからしばらくして、妙さんがカレー皿を持って戻ってきた。
その表情は笑顔だが、目の周りが少し赤い。
……同情はしない。
この環境では、いつだれが同じ境遇に置かれるかわからないのだ。

「ほう、スープカレーにしてくれたのか。妙さんは料理が上手いんだな。
 ピノコの奴もこれくらいできるようになってくれればいいんだが……」

――もし、妙の知り合いがこの料理を見たら驚愕するだろう。
いつもの彼女であれば、作る料理全てはブラック・マターと呼ばれる暗黒物質と化すのだが
何の奇跡か、机に置かれた皿からは食欲をそそる香りが漂っている。

「まぁ、先生ったら、お上手なんですから。厨房にあったお野菜も入れてみたんですよ。
 ピノコさんって先生の恋人さん? もしかしたら奥様かしら?」

「とんでもない、まぁ娘みたいなものかな。こまっしゃくれた娘だが、いないと妙にさびしくてね……
 天涯孤独の私だが、それでも支えてくれるような人間はどこかにいるものさ」

「先生……」

「そんな人たちのためにも、私たちはこんなところで死ぬわけにはいかんのだ。
 この首輪を我々に残してくれた、あの勇敢な青年に報いるためにもな……
 さぁ、飯を食ったら首輪の解析を続けよう。」

「……はいっ!」

470運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:36:25 ID:Sp8loFX60

ブラック・ジャック先生の不器用な励ましに、少しだけ妙さんの顔に生気が戻る。
妙さんにもまだいるのだろう。
支えになってくれるような誰かが。

やっぱりお医者さんって凄いな。
心身共に傷付いた人を救う事の出来る癒し手たる職業。
あたしも、あたしに出来る事でそんなお仕事が出来たなら……


ドッ! ガシャッッアアアアアアッ!!


それまでの平穏をぶち壊すような、金属のひしゃげる轟音。
音の出所は、レントゲン室の重い金属扉。
その扉が、まるで事故にあった自動車のようにひしゃげていた。

それをしたのは一目瞭然。
扉の前に立つ男が握るもの。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。

隻眼の黒い剣士。
さきほど別れたガッツさんがそこにいた。


       ◇       ◇       ◇

声をかける暇もなかった。
竜巻のように振るわれたガッツさんの大剣が、扉の一番近くにいた妙さんの頭に撃ち込まれる。

爆ぜた。

仲間を、弟を失いながらも、尚強くあろうとした女性の綺麗なかんばせが西瓜のように砕かれる。
ピンク色の綺麗な何かが、カレー皿の中にポチャポチャと落ちる。

わぁ、おいしそう。

場違いな感想が頭を埋め尽くす。
でも半生を危機とともに生きてきたあたしの身体は、脳が命じなくても適切な行動をしてくれた。

機械の隙間に身を隠し、ベレッタを抜く。
だが、撃つところがない。
異常に巨大な大剣は、盾のように身体を隠す。

「ガッツ!」

それでも牽制するように先生はナイフをガッツさんに投げつける。
キィンと、金属同士が弾きあう音。
翻る黒い外套。
横薙ぎに振るわれる鉄の塊。
室内に破壊の騒音が響きわたる。
バラバラに打ち砕かれる医療機械。
あぶり出されるあたしたち。

騒音をかき消すように狂戦士が叫ぶ。

「LOOOoooッッッ!! ッliイイイイイ!!!!」

471運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:37:17 ID:Sp8loFX60

振り回す。
ブラック・ジャック先生を刀身で貫いたまま。
室内にあった機材を力任せに鉄の塊が叩き壊す。

部品が飛び散る。
それと引き換えのように、むき出しの機械の破片に肉の破片がコーティングされる。
室内は、一瞬にして地獄絵図。
酷すぎる。
狂気のような光景と、悪臭で思わず吐きそうになるのをあたしは必死にこらえる。


身体のあちこちを削り取られた先生は、まだ息があった。
ぴくぴくと痙攣する肉体が最後に机に置かれていた首輪に叩きつけられる。

目と耳を塞ぐ。
爆発。

時計の長針がわずか一回りする間の出来ごと。
あたしが眼を開けると、そこにはもう誰もいなかった……


       ◇       ◇       ◇
あたしは廊下を走る。
なぜ、あたしを見逃したのかわからないが、亮子ちゃんや喜媚ちゃんをも彼が見逃すかはわからない。

ボテっと転ぶ。
演技ではない。

まるで悪夢の中を走っているかのように、身体が上手く動かないのだ。


這うように、病室の前までたどり着く。

祈るように扉を開けると、そこには平穏があった。
薬が効いたのか、健やかな寝息を立てる亮子ちゃん。
そして、その布団にもたれかかるように眠る喜媚ちゃん。



その光景に、なぜか涙腺が緩んであたしは泣いていた。

472運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:38:00 ID:Sp8loFX60
【D-2/病院/一日目 午前】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的にかなりの疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、携帯電話(競技場で調達)
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:ガッツに対し恐怖
2:異能力に恐怖。
3:恐怖に負けず喜媚を信じてみる。
4:申公豹の名前を餌に、“探偵日記”を通じて妲己を捜索。
5:“螺旋楽譜”の管理人が電話連絡してくるのを待ち、直接会話してみる。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました。
※早朝時点での探偵日記と螺旋楽譜の内容を確認しました。
※螺旋楽譜の管理人は、鳴海歩、結崎ひよの、カノン・ヒルベルトの誰かが有力と考えています。
 ただし、鳴海歩だと仮定した場合、言動の違和感とそこから来る不信感を抱えています。

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康、いねむり
[服装]:疲労(中)
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:理緒ちゃんと亮子ちゃんは喜媚が守りっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです

473運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:38:21 ID:Sp8loFX60
【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲&背中に打ち身(処置済み)、肺炎(処置済み)、睡眠中、若返り
[服装]:裸
[装備]:毛布
[道具]:月臣学園女子制服 (乾かし中)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:なんで子供に……
2:理緒や喜媚と協力してこの殺し合いを止める
3:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
4:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
5:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
6:そういや、傷が治ってる……?
7:勝手に身体が動いた?
8:エドの力に興味。
9:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
10:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。
※竹内理緒より若干小さくなっています。中1くらい? 元に戻るかどうかは後続の書き手さんに任せます。


※ブラック・ジャックと妙の荷物がレントゲンルームに放置されています。

【ビニールプール@ひだまりスケッチ】
宮子の持っていたビニールプール。
お風呂にも使える?

474運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:42:53 ID:Sp8loFX60
以上です……ってここで終わりにしちゃっても大丈夫かな?
舞台裏もきっちり説明しとかないと不味いかな


おっと>>472の前に死亡表記入れ忘れてた…
【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック 死亡】
【志村妙@銀魂 死亡】

475代理:2009/10/14(水) 23:48:21 ID:QngjxeCo0
さる喰らいました
誰か代わりにお願いします

476名無しさん:2009/10/14(水) 23:54:24 ID:QngjxeCo0
舞台裏というかネタがあっての展開なら書き手同士で茶でこっそりお話したら?

477 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:35:12 ID:c2RPz3ts0
さるさんが……。
続きはこちらに。

478 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:35:26 ID:c2RPz3ts0
爽やかな朝の風が吹き抜ける。
空は青く、まるで南国の海のよう。
走る街を見下ろして、のんびり雲が泳いでく。
さわさわとコンクリートの上に必死に根を張る雑草が揺れるなか、金剛の首輪から流れる女の声がそれを告げた。

『貴方は進入禁止エリアに入り込んでいるわ。
 この警告が終了してから一分以内に当地区から退避しないと、首輪が爆発してしまう。
 至急、退避してちょうだい』


そして、一分。


ぼぉん。

肺を潰されて、臓物を掻き回されて、脳ミソをシェイクされて。
それでもなお意識を失うことのなかった金剛は、ようやく生き地獄を抜け出す事が出来た。

おめでとう。


【金剛晄(金剛番長)@金剛番長 死亡】



**********


爆発は小規模。
しかし、普通の人間相手なら十分に致命傷だろう。

少なくとも金剛の損傷は思ったより少なくて、死体はだいぶ綺麗ではあるけれど。
首の肉が一部こそげ取られただけとはいえ延髄が吹っ飛んでいるのは確実だ。
どうやらその部分に重点的に爆薬が仕掛けられているらしい。
傍目から見ても間違いなく死んでいる。

「バカジャナイノー」

その余りにもあっけない死に様を見て、何故か潤也はそう呟いていた。
まだ、生臭い。金剛の脳ミソフレーバーは、一生口の中から消えてくれる気がしない。

まるで料金未満の価値しかない映画の感想でも吐き出すかのような潤也とは対照的に、
妲己は依然として今にも鼻歌でも始めそうな調子を変えることはない。
手に持つ名簿をためつすがめつ、一人推論を呟いてみせる。

そこでは、金剛の名前が確かに赤く染まっていた。

「……思ったとおりだわぁん。
 この名簿の死人の名前は、『本人が確かに死亡したのを確認した』その時点で赤く染まるのねぇん。
 つまり、実際に死体をその目で見るか、放送を聞くかしない限りこの名簿は黒字のままってことぉん。
 伝聞情報とかは確度が低いからきっと色は変わらない。死んだ人の名前を知らない場合もきっと同じでしょうねぇん。
 放送を聞き逃しちゃったらそれまでってことかしらん」

479僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:36:58 ID:c2RPz3ts0
知らないところで生き返った場合とかはどうなるのかしら、と洩らすも、考えても分かるはずはない。
それよりもこの名簿は、黒字の上から赤いペンでなぞったり、あるいはその逆をすることで面白い使い方ができるかもしれない。

けれど、今は情報整理が先だ。

「くすくすくすくす。金剛ちゃんのおかげで他にもいろいろ面白い事が分かったわぁん。
 たとえばこの槍の力ねぇん。
 上手く使えば人体に全く影響を与えず、首輪の宝貝合金だけに干渉できるみたいん。
 でも、どこが貫いてもいい場所か、ってのはまだまだ分からないわねぇん。

延髄付近に爆薬がセットされていることは分かったが、斬ってはいけないコードとかが他の場所にある可能性も高い。
破壊に着手するのは時期尚早が過ぎるだろう。
金剛の死に様を見る限り、制限さえ無効化すれば爆破されても耐え切れる見込みは結構高い。
とはいえ肝心の制限を無効化する方法が問題だ。

「この槍を使った方があるかないかも分からない太極図を使うより確実かもねぇん。
 でも、まだまだ情報を集めないとぉん」


如何せん、それは不意打ちに過ぎた。

妲己の背中に影が差す。


たとえ内臓が全部零れて、腹の中が空っぽになっていたとしても。

潰れた肺のせいで酸素が行き渡らず、四肢が壊死し始めていたとしても。

考える為の前頭葉が、破壊しつくされていたとしても。

運動系を支える延髄が、吹っ飛ばされていたとしても。

プラント融合体すら押さえ込む、砂虫の切り札たる筋弛緩系の毒が回っていたとしても。

生物学的に、間違いなく死んでいるのだとしても。


「知った……ことかァ――――ッ!!」


この女だけは、生かしておくわけにはいかないと――――!


「蛮漢魔王陀(バンカラバスター)ぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ」


回避不能。
防御不可。
迎撃無視。
必殺必滅。

潤也にも、妲己自身にも、最早かつて金剛番長と呼ばれたソレを、止めるはおろか減衰させることすら出来はしない。

だから、妲己が生き残る道理はない。

480僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:37:52 ID:c2RPz3ts0
……ただ、まあ。

「死人は動かないものよぉん? 金剛ちゃん。
 それこそ貴方の一番嫌いなスジが通らないことよねぇん」

そんな奇跡が許される道理の方が、よっぽど認められるよーな代物でもないという。


「終わりですわ」

ドラゴンころしが生ける屍にめり込んだ。
それが、今回のお話の終わり。


単純な話だ。
金剛の巨体を禁止エリアに運び込むなんて力仕事、妲己がすると思うかい?
手首を骨折した潤也に出来ることと思うかい?


【I-6〜I-7境界/デパート付近/1日目/朝】

【妲己@封神演義】
【状態】:健康
【服装】:
【装備】:獣の槍@うしおととら、逃亡日記@未来日記
【道具】:支給品一式×6、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム
    マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数7/12)@現実、
    マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×4(うち2つは武器)
    詳細不明衣服(デパートで調達)×?
【思考]】
基本方針:神の力を取り込む。手駒を集める。
1:旅館に向かって潤也の兄と接触するか、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極めてみるか考える。
2:対主催志向の仲間を集める。
3:喜媚たちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得たい。
7:剛力番長を具体的な脅威としての槍玉に挙げて、仲間を集める口実にする。
【備]】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。

481僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:39:10 ID:c2RPz3ts0
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(特大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折(応急処置済み)、たんこぶ一つ、体の数箇所に軽い切り傷
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:首輪@銀魂(片方の首輪をはめている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄の仇を討つ……? 妲己に屈服。
0:旅館に向かって兄の名を名乗る人間が本物か見極めたい。本物なら取引通り妲己に兄を守らせる。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、確実で最速なやり方でここから脱出する。
2:ひとまず脱出の為に殺し合いにのっていない参加者を集め、協力してもらう。
3:その集団を、能力を活かして確実最速な脱出方法へ導く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※土方が偽名であることに気付きました。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
【状態】:疲労(中) ダメージ(中) ホムンクルス 『最強の眼』
【服装】:キツめの体操服、紺のブルマ
【装備】:ドラゴンころし@ベルセルク
【道具】:支給品一式、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実
【思考】
基本:全員を救うため、キンブリーか妲己を優勝させる、という正義を実行する。妲己に心酔。
1:自らの意思のままに行動し、自分が剛力番長であるという確信を得る。
2:見知らぬ人間とであるたびに、妲己の集めた仲間であるかどうかを聞く。
3:キンブリーと妲己の同志以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す。
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録。
【備考】
※キンブリーか妲己がここから脱出すれば全員を蘇生できると信じ直しました。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報にだけは、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※妲己がみねねの敵であり、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。

482僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:39:40 ID:c2RPz3ts0
【砂虫の筋弛緩毒@トライガン・マキシマム】
GUNG-HO-GUNSが12、ザジ・ザ・ビーストの切り札。
ミリオンズ・ナイブズ融合体やエレンディラ・ザ・クリムゾンネイルを完全に無力化できるほどの筋弛緩系の毒。
ただしレガートのように無理やり肉体を操作する力の持ち主は封じることは出来ない。
また、ナイブズもプラントの力で毒素そのものを消去することにより行動が可能になった。
投与された場合、意識は僅かに残るが体を動かす事が殆ど出来なくなる。
エレンディラの場合投与されてから約12時間後には後遺症もなく動き回れるようになっているので、持続時間は数時間程度だろう。
注射器に入れられたものが3本セットで支給されているが、直接注射する以外にも食べ物に混入させる、武器に塗布する、などの使い方もできる。


**********


くすくすくすくす。地図なんか取り出してなァにをやってるのん?

あらあらん、どういうつもり? そんな怖い目で睨んじゃってぇん。
わらわ臆病だから、そんな目をされると暴れちゃうかもん。
仲良くしましょう? 貴方の首と胴体みたいに、ね。

さて、もう一度聞くわねぇん。『貴方は誰で、何をやっている』のかしらぁん?


ふぅん、そうなのぉん。正直者でわらわ嬉しいわぁん。
運が良かったわねぇん、気が変わったわん。
あなたのそのチカラ、わらわの為に役立てて頂戴ぃん?


ぅん? 気が変わったとはどういうことかって聞きたいのん?

……もうすぐ、7:30よねぇん。
そしてここからすぐの所に禁止エリアがあるでしょぉん。
つまり、そういう事。
平凡なつまらないコだったら、足手纏いなりに役に立ってもらおうかと思ってたのぉん。

でも困ったわねぇん。時間が圧してるのに、都合のいいモルモットちゃんがいないのぉん。
貴方、何かしら心当たりはないかしらん?


……いいわねぇん、そんな態度、素敵よぉん。
と、なると。貴方には同行者がいるって見た方が自然よねぇん。それも相当の実力者。
貴方一人じゃあ出来ることなんて限られてるのに、わらわ相手に強気に出てくるってだけで十分それくらい分かっちゃうのよぉん?

でも、あなたはもっと賢くなった方がいいわぁん。
わらわにだって選択肢はたくさんあるのぉん。

わらわのご機嫌を損ねたら、決していい事が起こらないのは貴方や同行者の人だけじゃないわぁん。
た・と・え・ば。
これから先、わらわが貴方のご家族――この名簿の同じ苗字の人に出会ったとして。
“偶然不幸な事故を目撃”しちゃう可能性は0じゃないのよん?

483僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:40:18 ID:c2RPz3ts0
なるほど、ねぇん。
あなたの兄貴さんとやら、もしかしてもうとっくに死んでるはずなのぉん?

くすくすくす、ドンピシャリみたいねぇん。
ついさっき名簿を確認してみて、そのせいで動転している、ってとこかしらぁん?

ひとつ、アドバイスしてあげるわん。
たぶんソレ、本物の貴方のお兄さんよぉん。
理由はカンタン。わらわの時代には人を生き返らせる手段が実際にあるんだもぉん。

……まあ、こんな言葉が信用できないのも当然だけどねぇん。
でも、信じようと信じなかろうとどっちでもいいのぉん。
貴方、偽者なら追い詰めて殺してやる、って考えてるでしょう?
負の感情はわらわにはぜぇんぶ、お見通しなのぉん。


なるほど、金剛ちゃん、ねぇん。
そんなに強いなら、首輪の爆発力を試すいい素材かもん。

あらん、金剛ちゃんに義理でも感じているのぉん?
安心して頂戴ん。
わらわ、まだその金剛ちゃんとやらに会ったことないからモルモットちゃんになってもらうと決めたわけじゃないわぁん。
ただ、話を聞く限り、どうにもわらわのお邪魔虫になりそうな予感がするのは確かねぇん。


さぁて、ようく考えてぇん?
考えて、考えて、考えて。
どっちがお得なのか、をねぇん。

わらわを満足させて、空気を吸える喜びを噛み締めて、お兄さんを助ける心強ぉい味方を手に入れるか。
わらわを悲しませて、考えることすらできなくなって、お兄さんに二回も死ぬ恐怖をプレゼントするか。


貴方は、ちゃあんとモノを考えられる子よねぇん?


**********


あらん、また会えて嬉しいわぁん。無事に生き延びられたのねぇん。
もしかして、この“再会の才”とやらのおかげかしらぁん。


……迷うことは無いわぁん。
わらわがあなたの邪魔になると思うなら、好きにして結構よぉん、くすくす。
だって、あとあと生き返らせてくれるんでしょぉん?


他の人はみんな否定したのに、どうして蘇りを信じてくれるのかって?
あたりまえよん。
だって、わらわはあなたの言うことが全部、本当だってわかってるんだからねぇん。
信じるとか信じない、とかじゃなくて、わらわの時代にも蘇らせる力は存在してるのよん。
錬金術、とやらとはまた別にねぇん。

484僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:40:39 ID:c2RPz3ts0
……どうしたのぉん、不安そうな顔をして。
自分の記憶が信じられないのぉん?

わらわが保証してあげるわぁん。
貴方は、貴方。
思う存分貴方の正義を執行なさいん、それは決して誰にも咎めることなど出来ないのぉん。

誰が否定しても、世界中が敵になっても、わらわ“だけ”は貴方の行いを認めてあげるわぁん。
でもねぇん、だからと言ってわらわは貴方に同行しろとも言わないし、指図なんてするつもりもないわよぉん。
ただ、いくつかの選択肢を教えるだけ。
どの真実をその中から選ぶのか、それは貴方次第なのん。

そうすれば、ちゃんと貴方が自分の意思で決めたことになるでしょぉん?
だったらわらわが口を挟む権利なんかないじゃなぃん。


くすくす、そう、今はわらわを殺さないでいてくれるのねぇん、ありがとぉん。
それでもわらわが貴方を助けた借りには全然足りない?
あはん、それじゃあ数時間前と今――貴方を助けた回数と同じだけ、2つだけお願いを聞いてくれないかしらぁん。

一つは、もしこれから貴方が知らない相手と出会うたびに、
『もしかして妲己の集めた仲間か』、って聞いて欲しいのぉん。
聞くだけよぉん、それ以上は余計な気を利かさなくっていいわぁん。


そしてもう一つは、ちょっとした雑用なのぉん。
今から7:30くらいになるまで付き合ってもらうことになるんだけど、構わないかしらぁん……?
それから後は、貴方の好きにしていいからぁん。

それじゃあ、よろしく頼むわねぇん。

485 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:46:37 ID:c2RPz3ts0
以上、投下終了です。

名簿の仕様と首輪などについて、ご意見を伺いたいところ。
特に名簿ですが、放送と同時に死者が自動で浮かび上がるという仕様だと、キンブリーの森への作戦などが台無しになりかねないので……。
なので、いつでも正確な死亡者を知る事はできないようにしておきたいな、と。放送の意味合いも薄れますし。
これはポータルサイトの名簿機能にも共通する懸念ですね。

486 ◆9L.gxDzakI:2009/10/31(土) 14:59:41 ID:5A6vmjKY0
遅くなりましたが、拙作「パロロワ版スパイラル〜ひよのの電脳開拓史〜」の修正を。

 レンタルサーバーにメール機能と、死者や禁止エリアの情報。天気予報なんてものもあった。
 しかし情報サイトでありながら、検索エンジンと思しきものがない。
 これは恐らく、検索するほど多くのサイトがない、ということなのだろう。
 外界から隔絶されたこの島では、インターネットも外界とは別物ということか。
 ともあれ今は、その辺りを気にしている暇はない。



 レンタルサーバーにメール機能、天気予報なんてものもあった。
 その他使いようによっては役立ちそうに見えなくも無い機能から、本当にどうでもいいものまでごった煮状態になっている。
 しかし情報サイトでありながら、検索エンジンと思しきものがない。
 これは恐らく、検索するほど多くのサイトがない、ということなのだろう。
 外界から隔絶されたこの島では、インターネットも外界とは別物ということか。
 ともあれ今は、その辺りを気にしている暇はない。
 とりあえず、後で天気予報くらいは確認しておくことにしよう。


[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。



[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。

487 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 22:59:09 ID:yt6YM8gA0
どうやら例の影響で本スレに書き込めないらしく……。
こちらに投下させていただくので、代理してくださる方がいらっしゃればお願いしたく思います。

488Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:06 ID:yt6YM8gA0
「…………」

「…………」

重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。

ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。

やはり、あまりにも不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。

直径は約9km。
全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。

要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。

いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。

そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。

いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。

これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。

その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。

489Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:37 ID:yt6YM8gA0
斃すべき相手でしかない“神”の人となりを慮るなど余計な考えに至ったのは、放送と二つのblogという情報源に当たったからか。
……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。

ただまあ、それでも。
価値は認めてやるとしよう。

放送の女は“神”に反逆を試みて――、消された。
何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。

そして、この『螺旋楽譜』。
ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。
だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。
“神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。
少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。

ただ、いずれにせよ彼らの行動の意味を推し量り、信じなければ何の価値もない代物にすぎない。

「――人間を信じる、か」

何という皮肉だろうか。
今の自分は、あまりに無力。
人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、
いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。

その無様さに不思議と嫌悪感は抱かなかったが、ただただ空虚な笑いを堪えるので精いっぱいだった。

ふと立ち返り、静かに目を瞑る。
人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。

――名簿に、目を通す。
見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。
人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。

“ヴァッシュ・ザ・スタンピード”

「お前は今――何処にいる?」

良く馴染みのあるゲートの拓いた感覚を得てからおよそ4時間。
それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。
『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。
コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。
当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。

「……度し難い」

本当は無視してしまいたいところだが、しかしヴァッシュが関わっている可能性もある以上そうはいかない。
とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。
ならば、どうするか。

490Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:56 ID:yt6YM8gA0
答えは情けないことだが、様子見の一手だ。
いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。
『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。
あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。
放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。
ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。
ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。
今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。
屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。
――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。

それに利用されているのがヴァッシュとも限らない。
自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。
そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。

“チャペル”

どういうことなのだ、と、一人口の中でその単語を転がす。
いや、彼だけではない。

レガート・ブルーサマーズ。
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。

最後まで自分への忠義を貫き続けた男と、自分を怖れ逃亡兵となることを選んだ男の二人の名が、確かにここにある。
――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。

偽物かと疑るも、そうである意味はない。
悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。
死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。

“神”は蘇生の力でも持っているというのか?

可能性は0ではない。
……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。
その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。

それよりも現実味がありそうなのは、と一つの考えがナイブズの脳裏に浮かぶ。
かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。
時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。

――並行世界。
そこから彼らは連れてこられたのではないか。
蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。
蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。

ほんのわずかな間だけ、呼吸を止める。
理解している。これはただの逃げだ。

いずれこの殺し合いの場で彼らと巡り会ってしまったその時に――どう向き合えばいいのか。答えは出ない。

いや、そもそも自分は彼らと向き合ったことすらなかったのだ。
ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。

491Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:01:19 ID:yt6YM8gA0
向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。
あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。
その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。

それでも見知らぬ人間としてぞんざいに扱う事の出来る連中はまだ楽だ。
逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。

しかし、しかしだ。
――レガート・ブルーサマーズ。
あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい?
まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。

……既に自分には、人間を滅ぼそうという気もない。
だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。
もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。
今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。

得体の知れない不安のようなものを飲み込む。
馬鹿馬鹿しい。
仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。
きっと、それだけのことでしかない。

そのまま名簿をデイパックに放り込もうとして、最後に一つの名前に目が行った。
西沢歩――確か、そう名乗っていたか。
良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。
あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。
ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。

あの道化男を始末した後、一瞬だけでもあの娘の後を追うなどと考えたこと自体がおかしいのだ。
今更人間とともに歩む道はない。
そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。
いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。

あの男が無事ならば、それでいい。

たとえここに招かれたのが並行世界のヴァッシュであっても、彼はただLOVE & PEACEを高らかに響かせ続けている筈だ。
どこであろうと弟は変わらないという確信がある。
あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。

……いつ以来だろうか、誰かの無事を願ったなどというのは。
ヴァッシュは、生きるべきなのだ。


「あー……、ヤツを殺ったのは、アンタか?」

先刻からずっと、敢えて無視していた存在からようやくのお声がかかる。
自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。
そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。
情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。

道化男の死体の周りをウロチョロしていたようだが、彼奴の同類だというなら先んじて始末しておくべきだろうか?
小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。
人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。
奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。

492Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:01:42 ID:yt6YM8gA0
***************


「おい、無視かよ。このみねね様相手に――」

ぞく……、と。

空気が変質し、雨流みねねは呼吸ができなくなる。
かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。
みっともなく、尻餅をつく。
震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。
抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。
痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

「……人間か。さっさと立ち去れ、俺の機嫌が変わらんうちにな」

それきり興味を失ったかのように、みねねの目の前の男はPCの画面に向き直った。

呼吸が荒い。心臓の音が鐘のように五月蠅く鳴っている。
目の前に血の河が流れたように見えた。
生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。

這いつくばって、ずるずると部屋を離脱しようとして――、

「……逃げ出せるかよ」

このままほうほうのていで裸足で出ていったりすれば、みねね様の名が廃る。
ああ、怖い。確かに怖い。
けれどそれを抑え込む。
自分の人生は戦いの連続だった。
立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。

それに考えようによっては、これは好機だ。
この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。
しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。
ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。

どうすればいい? どうすれば引き込める?
考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。


「生憎だが、私は人間を辞めたのさ」

そう呟いて手近にあった適当な本を手にし――爆破。
男が、目だけをこちらに向けてきた。

493Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:12 ID:yt6YM8gA0
自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。
その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。
一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。

「お互い人外同士、情報交換といこうじゃないか。
 立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。
 そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」

見返りは十二分。
男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。
そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを知っているか?」

ちぃ、と舌打ちする。
おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。

「生憎だが心当たりは――、」

と、仕方なしにそれを告げようとして、何かが引っ掛かった。

「……いや、待った。確かに聞いた。どっかで聞いたぞ」

ある一人の女の顔と、失った自分の手がフラッシュバック。
耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。

「……そうだ。あの女が手当の時に訊いてきやがったんだ。
 どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」

「女? ……何者だ」

目つきを変え、男が俄然と食いついてくる。
態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。

――これは、千載一遇のチャンスだと。
妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。

「妲己っていう自称妖怪のクソいけ好かねぇ女さ。性格的にも実力的にもあいつはヤバい。
 自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。
 今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。
 飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」

「そいつが、ヴァッシュの名を口にしたのか?」

「そうだよ。ついでにそいつの特徴も私に教えて、探すよう言付かったぜ?
 金髪の赤いコート、だっけか」

ニィ、と口端を歪めて証拠を提示。
うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。
妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。

494Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:33 ID:yt6YM8gA0
「何度も言うが、あの女は掛け値なしにヤバい。
 なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。
 ……イカれた命令だよ。
 自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。
 そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」

最後の一言に、男は何を思ったのか。
全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。
みねねを全く無視する形でだ。

「――行くんだったらデパートだ。とりあえずそっちに向かうって言ってたぜ」

そうは問屋が卸さない。あの女を御すために、もう少しこの男に踏み込んでおかねば。

「これだけ教えたんだ。
 見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか?
 ちょっと大切なもんが入ってるのさ」

返事はない。
ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。
二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、

気付いた時には男の姿は影も形もなくなっており、滝のように流れ落ちる汗が自分が生きている事を教えてくれている。
思うのはシンプルなたった一つの事。

……助かった。それだけだった。

「……手はとりあえず、これで一つか。悪くない取り引きだったとは思うが、いかんせん心臓に悪すぎる」

はあ、と思いっきり息を吐き、くずおれる。

「つっても、まだまだこれじゃ足りないな。
 打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」

目線の先にあるのは、男が使ったまま電源が付きっぱなしのPC。
その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。
利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。

「妲己。あんたの知らない私の世界の技術で、あんたを出し抜いてやる。
 のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」

汗まみれで口にしても我ながら説得力はないな――とみねねは愚痴を零し、苦笑した。

それが、命を握られてもなお立ち向かえる強さの証。
生きているから、戦えるのだ。


【F-05地下/研究棟/1日目/朝】

495Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:54 ID:yt6YM8gA0
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。


***************


――たぶん、だけど。
夢を見ていたと思う。

どんな夢だったかは思い出せない。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。

痛い夢。辛い夢。苦しい夢。

……怖いよ。

ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。

――孤独。

そう、だ。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。

私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。

496Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:03:16 ID:yt6YM8gA0
ナギちゃんはどうしているだろう。
わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。
大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。

そして、ハヤテくん。
……やめよう。大切だけど、大切だったけど。
だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。

私は、強くない。ぜんぜん強くない。
大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。
大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。

そう、私は強くないんだ。
気絶しちゃって、目が覚めて。
こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。

……普段の私は、自分から死を選べるほども強くない。

この手で命を捨て去ろうとした激情に、体が震えだす。
ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。
私は一体、何をしようとしていたんだろう。

死を選んだんじゃなくて、生を諦めた。
でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。

死ぬってどういう事?
今考えているこの私が、消えてなくなるの?
私は、どこへ行くの?
どこにも行かないの?

まっくろな闇の中でまどろんでいるような感じ?
それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く?
ううん、きっと違う。
そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。
もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。

痛いのと怖いのが嫌だから、私は死のうとした。
確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。

……でも、きっとそこには誰もいない。
私すらいない。
ハヤテくんだっていない。

ごめん、ハヤテくん。
あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。


「私――、まだ、死にたくないよぉ」


…………、皮肉だなあ。

今度こそ助からないって、まさにその時になって気付くなんて。

497Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:03:33 ID:yt6YM8gA0
知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。
5たす5。
十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。

気がついたら、もうこんな状態だった。

自分が死ぬって事がまるで他人事のよう。
だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。
人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ?
なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。
ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。

あはは。
これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。
“神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。

あはは、はは、は……。
私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。

何かがこきりと鳴った。
目の前が薄暗くなってくる。
苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。
ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。
それに驚いても、手は勝手に動く。
お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。
血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。

口から泡が出てきた。つばを飲み込みたくても出来ないんだ。
私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。
少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。
考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。
息ができないって、こんなに苦しかったんだ。

お兄さんは焦点の合わない目で、私でない何かを見つめている。
今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。
なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。

だから、私はぱくぱくと口を動かす。
何を伝えたかったのかは、分からない。

でも、声が出なくても、意識が朦朧としていても。
確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。

――本当に突然だった。
お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。

ごほごほと、咳が出る。
いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。
痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。
もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。

でも生きてる。
まだ私は――、生きてる。

498Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:02 ID:yt6YM8gA0
お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。
頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。
そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。
さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。

「ひ、ぃ……っ」

まだぜんぜん覚束ないのに、お酒を飲んだお父さんのように千鳥足で逃げ出す。
走ろうとする。
早速転んだ。
膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。
また走り始めた。
すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。
後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。
――私は、また逃げ出す。
森の道へと。逃げていく。
体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。

……誰でもよかった。
私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。

「ヒナさん! ボンさん! 平坂さん! ブランドンさん! ハヤテくん!」

涙で顔をぐちょぐちょにして、喉に手形の青あざを作って。どんなにみっともない姿でも。

私は強くないから、素直に気持ちを吐き出してしまう。
ただ、死にたくないから。

「助けてよぉ……っ!」

その瞬間、目の前がオレンジ色に染まった。
花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。

いつの間にか、私は空を飛んでる。
片方の耳が何にも聞こえない。
ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。
鼓膜が破れたのかもしれない。

あ、爆発したんだ。

そう気付いたのは、地面に思いっきりぶつかってごろごろ転がった後だった。
なあるほど、といやに冷静にうなずく。
あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。
燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。

寒い。
服が燃えていたのに、寒い。

何気なく頭に手を持っていってから目の前にかざすと、

べちょ。

「わあ、真っ赤……」

499Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:19 ID:yt6YM8gA0
火が消えたのは、泥のせいなんかじゃなかった。
泥に見えたのは、

「私の……血だぁ」

血で濡れたから、火は燃えなくなった。子供でも知ってる当たり前のこと。
なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。
口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。
ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。
ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。
見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。

なのに、体が何かに触っている感覚が全くない。
触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。

「あは、あはは……」

ずたぼろで使い物にならない服が、血に浸した雑巾になっただけ。
なのに、なぜか涙がこぼれてくる。
私だって、女の子だもの。
ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。
こんな酷い恰好は嫌だった。
こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。

辛すぎて――、なんでか笑ってしまう。
おかしいな。何がおかしいんだろ。
ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。

「あはは、あは、あは。あは……、あははははっ!
 あはっ! あははは、あははははははははっ!」

こんな終わりじゃ、さっきのお兄さんに殺してもらった方がまだましだった。
だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。

こんな誰にも見つけられないような暗い森の中で、おかしくなって独り死んでいく。
それが私の、最期。

……死にたく、ないよ。
でも、生きたいわけでもない。
独りで生きたくなんてない。

「あはははっ! あはは、あは……は……は……、う、ぁは、はぅ、
 ……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」

なんにもなかった私が、今更何を望んでいるんだろう。

「ひ、……ひっ、ひっ、うぇ……、やぁ、うっ、ぁ、やだぁ。
 やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ!
 わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ!
 わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」

……笑い続けるのも限界だった。
自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。

結局私は――、おかしくなれるほどさえ、強くなかった。

500Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:52 ID:yt6YM8gA0
ざり、と、まだまともな方の耳に砂の擦れる音が届く。
カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。
相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。

「ぅあ……、あ、ブランドン、さん」

呼びかけても返事はない。
血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。
それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。

「良か……た、まだ、生きて、たん、ですね」

「脆いな」

上から悠然と見下ろされて、一瞬痛みや苦しみを忘れるくらいに圧倒された。
物凄い存在感に、押し潰されそう。
……それも当然か。
ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。

「あは、死んじゃう、みたい……です、私」

けれど、最後の最後で少しだけ、ツキが回ってきたのかも。
嬉しいな。だって――、

「あ、の……お願、いです。私が、死ぬまで、見てて、ほしいん、です。
 独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」

そういうの嫌いだってなんとなく分かりますけど。
そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。

この人はきっと冷徹で恐ろしい人で、もしかしたら平坂さんが言っていたみたいに、悪い人でもあるかもしれない。
でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。
役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。

ゆっくりと、何も言わず。ブランドンさんは手を掲げていく。

「…………」

ブランドンさんの手が、歪んでいく。
目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。
――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。
一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。

「綺麗……」

……ありがとう。って、うまく言えてるかな。
楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。


最後が一人でなくって、よかった。


***************

501 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:06:26 ID:yt6YM8gA0
どこでもない虚空を見つめたまま、カノン・ヒルベルトは頭を抱えて震えている。

「……今。僕は、何を……して、いた?」

途切れ途切れに、口を動かすことすら覚束ず。
まるで冷たいプールに放り込まれた時のように、ガタガタと歯の根がぶつかり合って落ち着いてはくれない。

誰が信じられることだろうか。
こんな捨て猫のような表情でうずくまっているのが、翼ある銃と呼ばれ、全てのブレード・チルドレンの中でも最強と謳われた男だと。

カノンの精神はもはや崖っぷちに立たされている。
……いや、そんな余裕のある状況じゃない。
崖の端っこに手をかけて、どうにか腕一本で奈落に落ちないよう踏ん張っているというべきか。

なにもしてないのに、と、あの女の子は呟いた。
そのおかげで正気に立ち返ることができたのに、自分の行動が原因で怯えた彼女は、文字通りの地雷原に突っ込んでいってしまった。
自分はその間ただ呆けていただけで――、結果起こったのは身も蓋もない爆発だ。
自分が殺したのだ。
殺したのだ。
殺したのと同じ事だ。

助かった見込みは、極めて低い。
だって、今も隣に転がっているカラクリ人形を破壊できるほどの威力なのだ、あのトラップは。
爆発音や目に見えた爆炎、火薬の臭いから、カノンの戦場での経験はまず助かるまいと断言している。

いやいや待て待て。
彼女は、ブレード・チルドレンの可能性が存在した。
だから彼女が死んでも、自分の“ルール”には抵触しない。

そうだ、そうだ!
失礼ながら女の子とはいえ触診させてもらった時、肋骨が一本足りなかったじゃあないか!

「……そうだ、ブレード・チルドレンだ。あの子はブレード・チルドレンなんだ」

何度も何度も、誰かに言い聞かせるように穏やかな口調で繰り返す。
……誰に?
そんな事は言うまでもない。
けれどもカノンは、そうせずにはいられない。

だって、彼女の名前も容姿も、カノンの知る如何なるブレード・チルドレンにも該当しないのだから。

彼女を調べた時に制服から零れ落ちた生徒手帳に記された名は――西沢歩。
何にも知らない、巻き込まれただけの、ごくごく普通に幸せな人生を送るべき少女にしか見えなかった。

分かっている、彼女がブレード・チルドレンである可能性が極めて低い事なんて。
自分たちと同年代で、肋骨の感触が一本足りなかった。
疑う理由はそれだけで、難癖と言っても過言ではない。
でも、そんな理由だけで今の自分を殺人衝動に駆らせるには十分すぎた。

薄っぺらい思い込みと理解していてそれに縋るのは、予感がするからだ。
もし自分が“ルール”を破っていたのなら、蜘蛛の糸が千切れるのにかかる時間はあまりに若い――と。
きっとそのままあたまのなかのたいせつななにかが弾け飛んで、自分が最も忌み嫌い恐れる殺戮者に堕ちてしまう。

502 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:06:50 ID:yt6YM8gA0
ぼう、と少女の落としていったデイパック、その脇に落ちた名簿に目を落とす。
いくつかの名前が真っ赤に染まっていたが、カノンが手に取った瞬間それらは消えてしまった。
代わりとでもいうかのように、西沢歩、と、その名前だけが血の色へと変わる。

「……っ!」

赤い色の名前の意味は、何となくだがわかってしまう。

もう、限界だった。
彼女がブレード・チルドレンである保証が欲しい。
ブレード・チルドレンの中でも年長であるこの自分にも知らないブレード・チルドレン。
そんな都合のいい可能性が存在するのだろうか?

存在する。

カノンは、その可能性を知っている。

名簿の片隅に、その可能性はしっかりと鎮座していらっしゃる。

「“ミカナギファイル”だ……」

セイバー・ハンター・ウォッチャーのいずれの勢力にも所在不明となった13名のブレード・チルドレン。
その行方や個人情報を記し、『オルゴール連続殺人事件』の発端となった禁断の果実“ミカナギファイル”。
その“ミカナギファイル”を受け継いだ所持者が、この殺し合いにも招かれている。

浅月香介。

彼こそが、雨苗雪音より託された“ミカナギファイル”の後継者。

もし“ミカナギファイル”の中に西沢歩の名前がなければ、その時は――、

「浅月に僕を殺してもらおう」

ルールを破ったことを理解してからスイッチが入るまでのわずかな猶予。
だが、浅月ならばその刹那とも呼べる隙に自分を仕留めることは不可能じゃないだろう。
亮子には申し訳ないが、彼女にはできないことでもある。

ブレード・チルドレンの皆殺しを宣言しておいて、ブレード・チルドレンに引導を渡してもらう、なんて虫のいい考えだ。
けれどもうそれしか頼れるものはない。
目標を全く達成できてないのは心苦しいが、それでもただの血に飢えた獣と化すよりは――、


「人間として、兄弟の手で死にたいんだ」

それはきっと、誰にも看取られない獣の死よりもずっとしあわせなこと。




運命はそこまで優しくなんてないけれど。


【H-5/山道入り口/1日目/午前】

503 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:07:10 ID:yt6YM8gA0
【カノン・ヒルベルト@スパイラル?推理の絆?】
[状態]:潜在的混乱(大)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、“スイッチ”入りかけ
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16、パールの盾@ワンピース、五光石@封神演義
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない……?
0:浅月を、探そう。
1:浅月香介から“ミカナギファイル”を訊き出し、西沢歩の名と照会する。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?
5:マシン番長の残骸から使えそうなパーツを回収したい。
[備考]
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱は収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。

***************


どこでもない虚空を見つめたまま、ミリオンズ・ナイブズは腕を組んでただ静かに息を吐き出す。

「俺は、何をしている……?」

……自分の行動が理解できない。
わざわざ死にかけた人間一匹の為に、時間を無駄に使ったなどと。
放っておけば勝手に死ぬだろうに、わざわざ手を煩わせたとはどういう了見なのだろうか。
単なる気まぐれと片付けるにはいささか干渉しすぎた。
それも、残り少ないプラントの力を用いてやる――など、自分のことながら正気の沙汰とは思えない。

……這いつくばって苦しんでいたから楽にしてやろうとでも考えたのだろうか?
人間相手にそんな慈悲が浮かんだとは、全く、弟に毒されすぎている。


『私ノ『正義日記』ノ告ゲル未来ニ間違イハナイ!
 今カラ貴様ヲ倒ス我々コソガ勝者デアリ、正義ナラバ。
 我々ニ倒サレル敗北者ノ貴様は間違イナク、悪ッ!
 引導ヲ渡シテクレルッ!』

『私ガ倒スノハ悪ダケダ! 私ノ未来日記『正義日記』ニAM2:43ヲ持ッテ貴様ガ悪トナルト予知ガデタノダ。
 ダカラ、ソノ前ニ貴様ヲ倒ス!』


ああ、成程と嫌々ながら納得する。
道化者のほざいた通り敗北者が悪というならば、まさしくあの時、AM2:43を以って自分は悪となったのだ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードがこの場に招かれていると確信したその時に。

504 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:07:31 ID:yt6YM8gA0
「なんで……私、生きてるの?」

――ほんの少しだけ馬鹿な戯言につきあってやるなどと考えてしまう程度に。
弟に負けたことを、あらためて認めてしまった。

傷一つないからだでこちらの方を唖然と見ている少女を完全に無視して、ナイブズはそれでもやはり眉をしかめる。

LOVE & PEACEを唱える気は更々ないが、ヴァッシュならばあの場面で少女を放っておくことはしないだろう。
そんな事を思ってしまい、魔が差したのだ。
最後の戦いでヴァッシュの胸を貫いた、即死確定の致命傷を塞いだ時のように――、

プラントの力を用いて、傷を癒した。
あるいは少女の独りは嫌だという嘆きが、またも誰かの言葉と重なったのが原因だろうか。

ナイブズを……、孤独(ひとり)にしないで。

そんな台詞を聞いた事などなかったのに、あたかも耳元に語りかけられたかのよう。
確かに“彼女”はそう誰かに託したのだと、生々しく“彼女”の声で再生された。

気まぐれはそこまでだ。
後の事は知ったことではない。

戸惑いと混乱を含んだ目で、ボロボロの服―服の体はもはや整っていないが―を着た少女はナイブズの方を向き続けている。
何を尋ねればいいのか、そもそも尋ねるという行為すら許されるのかも分からず、意味もなく手を上げては下げての繰り返し。

これ以上付き合っても時間の無駄だ。
そう判断して背を翻すナイブズに、慌てた様子で少女は声をかけることにした。
内容は何でもよかった、そう、例えば姿の見えない同行者について。

「平坂さんは、どうしたんですか?」

「始末した」

「……っ」

びくりと怯えを露わにし、少女はそのまま動きを止める。
だけど疑問は尽きないようで、目をつぶったまま何事か口にしようとして……呑み込んだ。
なぜ自分を生かしたのか、聞きたくて踏みとどまったといったところだろうか。

まあ、それを聞かれてもナイブズ自身にもよく分からないのは確かだ。
いちいち返事をする義理もないし、無駄口を叩くつもりもない。

少なくとも言えることは、今回の事はこの少女の為にやった事などでは決してない。
ヴァッシュという存在と彼に敗北したこと。その2つに対しての何がしかの想いが引き起こした奇行なのだろう。

少女は明らかに自分に恐怖している。
その事に何の感慨もなく、ナイブズは早々に立ち去ることを決めた。
この後少女が生き恥を曝そうが垂れ死のうが、それはナイブズとは無縁の話なのだ。

505 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:07:58 ID:yt6YM8gA0
……だと、言うのに。

「ブランドンさん。恩返し……させてください」

少女ははだけかけた服を抑えて、とことことハムスターのように後ろをついてくる。
その表情には確かに理解できない存在への畏れと不信が渦巻いているのに、だ。

「私、死にたくないだけだけど。もう生きる目的なんてなくなっちゃったけど。
 それでも命を助けられたのは、事実だから……」

嘘ではないのだろうが、上っ面の体のいい綺麗事だ。
ナイブズはその眼の奥に存在するのが、
『単にこれからどうすればいいのか分からないから、とりあえずついていく――』
なんて雛鳥のような未熟な思考でしかないことを見通している。
少女の目は、それだけ空虚な代物だった。

返答はここにきて出会ったときとまったく同じだ。

「好きにしろ」

どうせ自分の周りにいれば戦いに巻き込まれる。
死に場所がそこでいいというのなら、自分が口を出してやることもない。

その時だった。

『Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy!』

女のがなり立てる騒音が、二人の耳に届いてきたのは。
はっとして少女がそちらの方を振り向いてみれば、目に届くのは信じられないほどに大きいけれど見た事のある誰かの姿。

「ヒナさんの、お姉さん……?」

一瞬全ての状況を忘れてきょとんとするも、訳のわからない馬鹿をやらかす友人の姉がどれだけ危険な事をしているのかをすぐに悟る。
……想い人を失い、姉さえ亡くした友人の悲嘆にくれる姿が、少女の脳裏に浮かぶ。

いてもたってもいられなくなった。
だから少女は、ナイブズの方に一歩踏み出す。

「……あの、ブランドンさん」

「ナイブズだ」

え? と聞きなれない単語を耳にして立ちつくす事数秒。
ようやくそれが彼の名前なのだと気づく。

「勘違いするな、別に貴様の為などではない」

そう呟いたナイブズは少女の方を見ようともせず、すでに天をも覆う人影の方に歩み出していた。

「お人好しの弟がまた進んで馬鹿を見ようとはしていないか、確かめてくるだけだ」


【H-6西端/森林/1日目/午前】

506 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:08:19 ID:yt6YM8gA0
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行
[服装]:普段着にマント
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:……俺は何をしている?
1:騒いでいる馬鹿2人にヴァッシュが引き寄せられる可能性があるため、デパート方面に向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約4回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康、無気力
[服装]:焼け焦げた制服の残骸、血塗れ、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:死にたくないけど、生きる目的もない。一人でいたくない。
0:ハヤテくん、まだ死にたくないよ……。
1:ナイブズとその力への恐怖と恩義。
2:デパート方面に向かって、ヒナギクの姉と合流したい。
3:孤独でいるのが怖い。
4:恥ずかしいので、できれば着替えたい。
[備考]:
※明確な参戦時期は不明。ただし、ヒナギクと友人になった後のどこか。

507 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:09:01 ID:yt6YM8gA0
***************


1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:5?)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!

 2 名前:厨二病な名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 書き込みの確認を行う。

 3 名前:ブレードハッピーな名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 かつて道を別った俺の片割れに聞く。あの砂漠の星を離れ、お前は今、何処にいる?

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 4? 名前:ゲンスルーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 妲己って女が腕に自信のある奴を集めてる。あんたらの探し人もあいつに近づくかもしれねえ。
 だが、あいつは厄介だ。警戒しとけ。

 5? 名前:Legato Bluesummers 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 ナイブズ様がつい先ほどまでここにいらっしゃったことをこの肌で感じています……!
 僕に忠誠を示す機会をお与え下さい。
 すぐにでもナイブズ様の下へ馳せ参じ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードをはじめとする御身の敵を必ずや葬って御覧にいれます。


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2:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:3?)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 殺し合いのゲームに巻き込まれたのなら、危険な人に襲われたり、裏切られたりすることも多々あります。
 ここはそんな危険人物に関することを書き込み、注意を促すためのスレです。
 もちろん、扱う話題が話題なので、書き込まれたこと全てを鵜呑みにせず、
 詳しいことを質問するなどして、特に慎重に真偽を判断するようにしてくださいね。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 2? 名前:キラークイーンな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 妲己には注意しろ。隙を見せたら平気で人質やモノ質を取ってくるぜ。
 単純な戦闘能力も多分ヤバい。始末できる実力者なら早々に始末しといた方がいい。

 3? 名前:ニアデスハピネスな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 ふざけるなよ畜生畜生ちくしょぷなんだよなんあんだよこいつはかrらだだが勝手にうgおいてきnkにくがねじmがあっr1stこんおレgアーtってきtガイニハ気をちゅk

508 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:09:35 ID:yt6YM8gA0
***************


しとしと、ぽたぽた。
しとしと、ぽたぽた。
しとしと、ぽたぽた。

リノリウムに紅の雫が僅か一瞬の王冠を作り出す。

壁にはおおきなおおきなあかいはな。
真っ赤な花が、咲いていた。

ううん、咲いているんじゃない。
実に見事な大輪の押し花が作られているのだ。

原形を留めないほどに叩き潰され広がった命の残骸は、かつて2本の根っこと2本の枝と一つの果実と、
それらをつなぐ幹に分かれていたとは俄かには信じられないだろう。
それだけ細かく薄皮の裏側から何もかもがミンチになっていた。
べっとりとへばりついたそれは、人間一人分の重さがあるのに一向にずり落ちる様子を見せない。
信じられない力でぎゅうぎゅうに叩きつけられたのだろう。
未だに電源が付いたまんまのPCの画面、その向こうの『探偵日記』とメールソフトは黄色とピンクの何かと赤い汁にお隠れ遊ばされている。

「あの方が貴様のような人間と――虫ケラと“取り引き”をしただって?」

圧倒的なまでの、暴力。
絶対的なまでの、狂信。

「口を慎め。小人如きがあの方と対等であるような戯言をさえずるだなんてね。
 生かしておくにはどうにも許しがたい……否。万死億死兆死――京死を以っても償えない重罪だ」

戦場を潜り抜けて得た経験も、一夜漬けで得た人外の力も。
口にするのもおぞましいなにかの前では、日の目を見ることさえ認められなかった。

その男は、自らの両手を眺めながらぶつぶつと独り言をつぶやいている。

僕ですら、あの方に認めてもらえた事などないというのに。
絶大なる忠誠を持ちながらも、一度として顧みて貰えてすらいないのに。

「もしあの方が僕以外の人間を認めることがあるとしたら。
 僕は、それを見て僕でいる自信がない」

先刻ようやく拾った己の得物を両の指で弄ぶ。
数はこれで計五本。
ただ、自分に課された制限により、同時に4人も操れば精度も持続時間も本来のそれに比してみすぼらしいことこの上ないだろう。
せいぜい数秒足を止める程度だろうか。

だが、それで充分だ。
己の忠誠こそが、何人たりとも防ぐ事叶わない唯一無二の鉄槌となるのだから。

レガート・ブルーサマーズは誰にも知られることなく恍惚を得て――、

ただ、嗤った。


【雨流みねね@未来日記 死亡】

509 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:09:54 ID:yt6YM8gA0
【F-05地下/研究棟/1日目/午前】

【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:全身にダメージ(小)、左拳骨折(応急処置済み、能力で動かせる)、異能の者たちへの興味と失望
[服装]:
[装備]:単分子鎖ナノ鋼糸×5@トライガン・マキシマム FN P90(50/50) パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、不明支給品1(武器ではないようです)
    拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1
[思考]
基本:ナイブズの敵を皆殺しにし、ナイブズに自分の忠誠の強さを知ってもらう。
1:ヴァッシュ・ザ・スタンピードを探して殺す。
2:ナイブズを探し、合流する。
3:未知の異能を警戒。
[備考]
※11巻2話頃からの参戦です
※自分に使用している単分鎖子ナノ鋼糸が外れると、身動き一つできなくなります
※単分子鎖ナノ鋼糸の相手へ使用する際の最大射程は、後続の書き手さんにお任せします
※自分の技能の制限内容に気付きました。精度や効果時間は操る人数に反比例します。


※みねねが朝に『探偵日記』の管理人に向けてメールを送った痕跡がありますが、その内容は不明です。

510 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:16:10 ID:yt6YM8gA0
以上で投下終了。
>>501からのタイトルは『The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew』です。

作中の掲示板でのレス番号に?がついているのは時間帯上別の作品で書き込みが生じる可能性があるからなので、
一通りキャラの行動時間帯が出揃ったら修正します。

アライヴネタは出し渋らずもっと早く書いておけばよかったかも、まあ一応この時間帯ではまだこーすけは存命中ではありますがw

511名無しさん:2009/11/03(火) 16:10:16 ID:pHhzymDI0
さるったので誰か続きを

512本スレ>>217差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:05:48 ID:yt6YM8gA0
「…………」

「…………」

重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。

ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。
女は女でナイブズに声をかけづらいのか、片手でカードキーを弄んで沈黙していた。
先刻まであの道化男の死体を矯めつ眇めつしていた事から、まず間違いなくこちらが下手人と踏んでいるだろうから当然だ。
もう片方の手は、存在しない。つい先刻失ったばかりのように見える。
おそらくあの女も居住区でこの研究棟へのカードキーを見つけでもしたのだろう。
だけどいくら探しても肝心の医療棟へのチケットは見つからず、仕方なしにこちらに先に来たのだ。

まあ、邪魔をしないなら意識するだけ時間の無駄だ。
それよりもあまりに不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。

直径は約9km。
全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。

要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。

いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。

そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。

いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。

これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。

その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。

513本スレ>>224差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:06:56 ID:yt6YM8gA0
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム、研究所のカードキー(研究棟)
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。


***************


――たぶん、だけど。
夢を見ていたと思う。

どんな夢だったかは思い出せない。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。

痛い夢。辛い夢。苦しい夢。

……怖いよ。

ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。

――孤独。

そう、だ。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。

私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。

514本スレ>>231差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:08:18 ID:yt6YM8gA0
ぼう、と少女の落としていったデイパック、その脇に落ちた名簿に目を落とす。
いくつかの名前が真っ赤に染まっており、カノンが手に取った瞬間新たな彩が花開く。
西沢歩、と、その名前が血の同盟へと仲間入り。

「……っ!」

赤い色の名前の意味は、何となくだがわかってしまう。

もう、限界だった。
彼女がブレード・チルドレンである保証が欲しい。
ブレード・チルドレンの中でも年長であるこの自分にも知らないブレード・チルドレン。
そんな都合のいい可能性が存在するのだろうか?

存在する。

カノンは、その可能性を知っている。

名簿の片隅に、その可能性はしっかりと鎮座していらっしゃる。

「“ミカナギファイル”だ……」

セイバー・ハンター・ウォッチャーのいずれの勢力にも所在不明となった13名のブレード・チルドレン。
その行方や個人情報を記し、『オルゴール連続殺人事件』の発端となった禁断の果実“ミカナギファイル”。
その“ミカナギファイル”を受け継いだ所持者が、この殺し合いにも招かれている。

浅月香介。

彼こそが、雨苗雪音より託された“ミカナギファイル”の後継者。

もし“ミカナギファイル”の中に西沢歩の名前がなければ、その時は――、

「浅月に僕を殺してもらおう」

ルールを破ったことを理解してからスイッチが入るまでのわずかな猶予。
だが、浅月ならばその刹那とも呼べる隙に自分を仕留めることは不可能じゃないだろう。
亮子には申し訳ないが、彼女にはできないことでもある。

ブレード・チルドレンの皆殺しを宣言しておいて、ブレード・チルドレンに引導を渡してもらう、なんて虫のいい考えだ。
けれどもうそれしか頼れるものはない。
目標を全く達成できてないのは心苦しいが、それでもただの血に飢えた獣と化すよりは――、


「人間として、兄弟の手で死にたいんだ」

それはきっと、誰にも看取られない獣の死よりもずっとしあわせなこと。




運命はそこまで優しくなんてないけれど。


【H-5/山道入り口/1日目/午前】

515本スレ>>234差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:09:24 ID:yt6YM8gA0
……だと、言うのに。

「ブランドンさん。恩返し……させてください」

少女ははだけかけた服を抑えて、とことことハムスターのように後ろをついてくる。
その表情には確かに理解できない存在への畏れと不信が渦巻いているのに、だ。

「私、死にたくないだけだけど。もう生きる目的なんてなくなっちゃったけど。
 それでも命を助けられたのは、事実だから……」

嘘ではないのだろうが、上っ面の体のいい綺麗事だ。
ナイブズはその眼の奥に存在するのが、
『単にこれからどうすればいいのか分からないから、とりあえずついていく――』
なんて雛鳥のような未熟な思考でしかないことを見通している。
少女の目は、それだけ空虚な代物だった。

返答はここにきて出会ったときとまったく同じだ。

「好きにしろ」

どうせ自分の周りにいれば戦いに巻き込まれる。
死に場所がそこでいいというのなら、自分が口を出してやることもない。

その時だった。

『Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy!』

女のがなり立てる騒音が、二人の耳に届いてきたのは。
はっとして少女がそちらの方を振り向いてみれば、目に届くのは信じられないほどに大きい誰かとバケモノの姿。

「……え? あの人、なんで、あんな……」

一瞬全ての状況を忘れてきょとんとするも、訳のわからない馬鹿をやらかす一人と一匹がどれだけ危険な事をしているのかをすぐに悟る。
少女の脳裏に浮かぶのは、失ってしまった平穏という名の夢幻。

「ナギちゃんと、カラオケ一緒にしたこともあったよね」

能天気に陽気に騒ぐその姿に、むかしのじぶんを垣間見た。
そう昔の話でもないのにどうしてか涙が零れてしまう。

だから、もしあの宴が凄惨な処刑場となってしまえば、そんな思い出が泡と消えてしまう気がして。
今もまだ人生を楽しんでいる一人と一匹を、辛くて寂しい世界に踏み込ませたくなくて。

まだ生きているはずの恋敵(ライバル)が、もしかしたら同じ事を考えているんじゃないかって、会いに行けないかって思ってしまって。

自分でもそんな事言える立場でも状況でもないってわかってるけど、それでもいてもたってもいられなくなった。
だから少女は、ナイブズの方に一歩踏み出す。

「……あの、ブランドンさん」

「ナイブズだ」

え? と聞きなれない単語を耳にして立ちつくす事数秒。
ようやくそれが彼の名前なのだと気づく。

「勘違いするな、別に貴様の為ではない」

そう呟いたナイブズは少女の方を見ようともせず、すでに天をも覆う人影の方に歩み出していた。

「お人好しの弟がまた進んで馬鹿を見ようとはしていないか、確かめてくるだけだ」


【H-6西端/森林/1日目/午前】

516本スレ>>235差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:10:07 ID:yt6YM8gA0
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行
[服装]:普段着にマント
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:……俺は何をしている?
1:騒いでいる馬鹿2人にヴァッシュが引き寄せられる可能性があるため、デパート方面に向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約4回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康、無気力
[服装]:焼け焦げた制服の残骸、血塗れ、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:死にたくないけど、生きる目的もない。一人でいたくない。
0:ハヤテくん、まだ死にたくないよ……。
1:ナイブズとその力への恐怖と恩義。
2:デパート方面に向かって、カラオケをしている人たちを止めたい。ナギがいるなら合流したい。
3:孤独でいるのが怖い。
4:恥ずかしいので、できれば着替えたい。
[備考]:
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。

517本スレ>>238差し替え ◆JvezCBil8U:2009/11/04(水) 20:11:03 ID:yt6YM8gA0
【F-05地下/研究棟/1日目/午前】

【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:全身にダメージ(小)、左拳骨折(応急処置済み、能力で動かせる)、異能の者たちへの興味と失望
[服装]:
[装備]:単分子鎖ナノ鋼糸×5@トライガン・マキシマム FN P90(50/50) パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、不明支給品1(武器ではないようです)
    拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1、研究所のカードキー(研究棟)×2
[思考]
基本:ナイブズの敵を皆殺しにし、ナイブズに自分の忠誠の強さを知ってもらう。
1:ヴァッシュ・ザ・スタンピードを探して殺す。
2:ナイブズを探し、合流する。
3:未知の異能を警戒。
[備考]
※11巻2話頃からの参戦です
※自分に使用している単分鎖子ナノ鋼糸が外れると、身動き一つできなくなります
※単分子鎖ナノ鋼糸の相手へ使用する際の最大射程は、後続の書き手さんにお任せします
※自分の技能の制限内容に気付きました。精度や効果時間は操る人数に反比例します。


※みねねが朝に『探偵日記』の管理人に向けてメールを送った痕跡がありますが、その内容は不明です。

518 ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:28:47 ID:qHg3gen60
悲しくなるくらいに規制が解ける様子がないので、こちらに投下します。
代理投下していただければ幸いです。

519こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:29:22 ID:qHg3gen60
浮草。
泡。
ペットボトル。
油。
チラシ。
木の葉。
野菜くず。
小枝。
魚の遺骸。

細波に小滝に揺れて、コンクリートの四角い皿にたくさんのものがぷかぷかり。

ちょろちょろと流れるのはあたまのうえの水口からの、まれびと。川という名の旅人。
だけど、峠を越えたくても通れない。
……どうしてだろう?

通せん坊の相場はもののけと決まってる。
ひとをやめたものは、ひとでなくなったものは、ひとだったものは。
旅人たちの頑張りで、だから退治されるのだ。

通せん坊はその図体からは信じられないほど静かに、どぽ……、と水勢に負けて転がり落ちる。

とたんにざぁぁ……と、連なるひとつの音。
川のさ中の貯水池に、絶え間なく注がれる水の群れ。

たくさんのものがぷかぷかり。通せん坊もぷかぷかり。

その光景を――ただ、眺めているひとがいた。


一陣の風が吹く。

びょお、と叩きつけるように。
ごう、となぐり飛ばすように。
だれでもないものがだれかを打ちのめしていく。

木がざわめいている。
木の葉のすれる音が、まるでいのちの砂がこぼれ落ちるようにただ重なっていく。

いっぱい人の名前の書かれた紙がはためいて、ついには手から吹き飛ばされた。

赤くそまった名前たちは日の光に透けて、青の中へ溶けていく。
高く、高く――空のかなたへと。しろいしろい雲の向こうにかすんでいく。

まるで子どもの手をはなれた風船のように、もうにどととりもどせない。

けれど、女のひとは気にしない。ためらわずに水の中へと体をおどらせる。
じゃばじゃばと水をかき分けて、泳げない事を忘れたかのように。
むねの近くまで水いっぱいで、転んだりしたらただじゃあすまないのに、ただともだちだったひとのところへまっすぐに。

520こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:29:53 ID:qHg3gen60
かたほうの目はつぶれて、自まんの脚はどこかに落っことしてて、からだの中の大切なものをいっぱいなくしてしまっていたともだちは――、

ただ、くやしそうだった。

ふだんからは想像もつかないほど真剣で、やくそくを守れなくてごめんと今にもあやまりそうな顔だった。

自分の体が汚れるのも気にせずに、ぎゅうっとともだちだったものを抱きしめる。
そうすればいつものように、楽しげに自分をくどいてくれるんじゃないかと、そんな気がしたのかもしれない。

たぶん、その顔は、なみだでボロボロだったんだろう。
だれにも見せないし、だれも見てもいないけど、そうだったんだろう。

その顔を映していくはずだった水面は、どこまでもあかくにじんでいく。



********************


積み重なる嗚咽は――、真っ青な空へと。
あんまりにも青くて優しいその空が、だからこそ全てを嘲笑っているかのよう。


同じ空の下、誰かもまた遠くに想いを馳せている。


********************


座り込んで空を見ている。
朝焼けもすっかり治まって、まばゆいほどに白い雲が良く映える青空を。

こんなにも青い空の下で、友は何を想い――そして逝ったのだろう。
ただぼうっと口を開けて、そんな事を思う。

……不思議と、その名前が偽りであるとは考えなかった。
どんなデタラメが起こっても、大抵の事は飲み込んでしまえる。
先刻出会った少年の語った通り、人を蘇らせる力を“神”は持っているのだろう。

ただ、仮にあの男が真実生き返ったのだとしたら、一目でいいから会いたかった。
会って、あの子どもに好かれる笑みをもう一度だけ記憶に焼きつけたかった。

しかしそれももう叶わない。
“神”は殺し合いをさせるためだけに先に逝った人々を呼び寄せて、躊躇いもなくそれを散らせた。
友を弄んだ事へのわだかまりがしこりとして淀んだ感情を蓄積させる。

いや、友だけではない。
誰ひとり死なせないと誓ったのに、こんな狭い場所で今も誰かが失われ続けている。
真っ赤に染まったその名前がまるで彼の血の涙のようだ。

「……何が、悪趣味な放送だ」

悲哀さえ帯びた目で、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは遥か高みを仰ぐ。

521こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:30:10 ID:qHg3gen60
「僕はたった一人で戦った顔も名前も知らない仲間さえ、見殺しにしてしまった……」

仰ぎ――、不意にその目が鋭く引き締まる。
戦っているのは自分たちだけではなかった。
あの“神”の陣営も一枚岩ではない。放送の女性は、それを教えてくれたのだ。
それぞれの想いを抱え、確かに自らの意思を持てる人が確かにどこかにいる。
ならば、やる事は一つ。

「償いにはならないかもだけど、僕はこの手の届く限り立ち向かうよ。運命の螺旋とやらに誰ひとり殺させないために」

太陽に手をかざしてから、強く強く握り込む。

この手で止めるべき相手は“神”と、その思惑に乗せられているものたち。
そして、血を分けたもう一人の己。
誰よりもまっすぐで、だからこそ“神”の掌に留まらず――しかしそれ故に己の意思とぶつかり合うべき相手。

「ナイブズ。……今、どこで何をしているんだ」

名簿に確かにその名が記されているのに、あの巨大な融合体の圧迫感がどこからも感じられない。
……否。それどころか、ゲートが開いた感触さえこの身に届いていない。

どういう事なのだろう、と自らに問う。
けれどいくら考えても答えは出ない。頭の中の住人たちは、皆揃って沈黙を続けている。
いや……、その答えを認めるのが恐ろしいだけだ。

あの力を存分に振るえるなら、こんなに死人が少ないはずはないのだ。
20人に届こうかという人数を少ない、と言ってしまいたくはないが、それでも理にそぐわないのは確か。
いくら踊らされる事に甘んじる性格ではないとはいえ、あのナイブズがこの場に招かれた人類を前に手を下さない理由はないのだから。

なのに、その痕跡はない。不気味なまでにナイブズの存在を感じ取れない。

だから、分かる事が二つある。
ひとつはナイブズが何らかの理由でプラントの力を十全に行使できる状況にないという事。
もうひとつは“神”の力があの融合体ナイブズでさえどうにかして抑え込めるほどだ、という事だ。

……その仮定すらしっくりこない。
力を封じられているにしても、それでもナイブズの気配がここまで沈黙している、という事がどうしてか納得できていない。
もしかしたら力などではなくて、もっと根本的なところで何かが自分の知るナイブズと異なっているのではないだろうか。
意味もなくそんな事を考えてしまう。

だからこそ、ヴァッシュは目を閉じて兄の事を脳裏に描く。意識する。
一度でも力を行使したのであれば、すぐにその事を感じ取れるように。

耳に聞こえる風の音が、吹き下ろす夜の風から駆け上がる昼の風になったのを存分に教えてくれている。
そして合間に届く心地よいほどの木々の語らい、その中に混じるは人の声。

「森も鈴子も、どうにか生きてるみたいだな。……よかった」

植木耕介と、そう名乗った少年がゆっくり立ち上がってこちらへと。
慌てて手を振り制止を試みる。

「ちょっと、駄目だって座ってなきゃ! まともに動ける出血量じゃないんだぞ」

522こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:30:30 ID:qHg3gen60
おおまかにここまで至った事情は聞いている。
仲間を案ずる気持ちは痛いほどに伝わってくるが、だからこそどうにも放っておけない少年だとヴァッシュは思う。
どこかその理由は共感できて、しかし背負うものが身近であるが故により純粋さが際立っているのだろうか、と。

「大丈夫……だ。俺、普通のヤツより頑丈にできてるし、回復も早、っ……」

……ヴァッシュには知る由もない、というより植木が話し忘れていることではあるが。
天界人という特殊な出生を秘めた植木は、回復力が常人のそれに比べて遥かに高い。
だからこそ多少の無茶を承知で行動しようとしているのだが――それでも限度というものはある。
多少動きまわれる程度にはなったとはいえ、植木はまだまだ横になって安静にしているべき状態だ。

はあ、と大きく溜息を吐き、ヴァッシュは説得の文を首を抑えてうずくまる少年に綴る。

「……じきにあの二人とロビンも戻ってくるはずだよ。動くにせよ、彼らが戻ってきてからの方がいい。
 集団でまとまってればそれだけ危険も減るはずだ。
 敵襲でもない限り、今は動くべきじゃない」

悔しい話だけど、と話を結び――、そして彼らは気付く。

ざり。
ざり。
ざり。

……ざり。

静寂の中の足音は、まるで白雪を踏みしめるかのよう。
妙に淡々と、無機的なテンポで近づいてくる。

びくりと植木ともども動きを止め、しかしすぐにこころを落ち着ける。
足音というのは存外個性的なもので、意外に人によって違いがあるのだ。
だからヴァッシュは安心して誰が来たのか特定し、明後日の方角へと振り向かんと。

「良かった、無事だったんのかロビ……」


――ずぶぬれの少女が、そこにいた。
植木とヴァッシュ、二人の声が唱和する。

「「…………え?」」

たぶん、少女とは呼ぶべき年頃ではないのかもしれない。
だけれども彼らには、そうとしか見えなかった。その背が、あんまりにも小さすぎるように感じられて。
妖艶ささえ漂わせていたついさっきまでのニコ・ロビンとは別物すぎると、二人共にそう思うしかなかった。

「私は――」

名前も知らない誰かの死体を背負ったニコ・ロビンの表情はあまりに寒々しくて、がらんどうだった。
ほんの少しだけ見せてくれたついさっきの笑みが幻のように記憶から掻き消されていく。
切り揃えられた前髪の向こうにあるはずの瞳は、うつむいているからか陰に隠れて表に出ない。

「私は、夢を見ていたの。……楽しい夢だったわ」

静かに誰かだった肉の塊を横たえて、うわ言のように小さく呟くロビン。
聞いてほしいのか、独りごとのつもりなのか。
本人にすらそれが分かっていないのかもしれない。

523こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:30:55 ID:qHg3gen60
「あんまりに楽しくって――二度と目覚めたくなんてなかった。
 こんな私でも、生きたいって思えたのよ」

ごくり、と唾を飲み込む音だけを植木が漏らす。
かけるべき言葉も浮かばず、いや、許されさえせず。
彼女が危うい綱渡りをしている事だけが、嫌になるほど突き刺さった。

ただ、彼女の握りしめた包丁のその白刃の輝きが、銀雪に跳ね返る日の光のようにやけにぎらぎらしている事だけは覚えている。
いつの間にか汗が途切れることなく流れていて、ガチガチに拳が握り締められている。
……緊張感が疲弊を急速に誘い、意識がトびかけた。

意識がないその刹那の直後、目前に迫るは包丁の切っ先。
ロビンはとっくに、気狂い染みた瞬発力で自分たちを仕留めにかかっていた。

十分だ。
気づきさえできるならば、自分はこの程度は回避できる。
弱っているとはいえ腐っても新天界人、長時間の運動でなければ体力を余計に消耗することもない。
気がかりだったヴァッシュの方も、余裕で対応できる様相だ。

……けれども、その判断力こそが命取りだったと思い知らされることになる。

「“十二輪咲き”(ドーセフルール)」

六本の腕が、植木の体から生えた。
ヴァッシュの体からも生えた。

「え」

包丁に気を取られ、それだけに対処するつもりだった植木には――この不意打ちを何とかする方法がない。
理解。
首と、肩と、足と。それら全てを奪われれば、関節を極めて処理される。

ヴァッシュの方を見れば、彼は目を眇めて表情を崩していない。
何が起きたのか分かっていないのだろうか。
ちくしょう、と歯噛みする。なにもできない弱いままの自分が悔しくてしょうがない。
せめて戦えずとも何か口にしたい事があるのに、貧血は確実に体力も思考能力も植木から奪い去っている。

血が出るほどに、唇を噛み締めた。

どうしてこんなに理不尽なのだろう。
戦いたかった。
守りたかった。
森を救いたかった。
ロビンを止めたかった。
“神”に文句をつけてやりたかった。
かつて小林という教師に抱いた憧れを、彼の正義を全うしたかった。

「負けたく、ねぇんだ……っ!!」

けれど無情にも執行の合図は下される。
彼の意思は、願いは、信念は、想いはロビンに聞き入れられる機会などなく――、

「“クラッチ”……!」


しかし。

524こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:31:19 ID:qHg3gen60
しかし、一人の男に確かに届く。


「負けないさ。負けさせない」


からん。からから、からん。
薬莢が三つ、零れ落ちた。

「――――」

感情を無くした消え入りそうな彼女の声は、事実銃声に掻き消され覚えられる事はない。
たった――たった一発の銃声に。

確かに落ちた薬莢の数は三つなのに、あり得ないはずの一発だけの銃声に。

狩人の銃は、抜き放たれている。

「……すげぇ」

孔が開き、ヘシ折れた包丁がくるくると宙を舞って――どすりと地面に突き刺さる。

植木の声は端的で、それ以外の何も一つも浮かんでこなかった。

三つの発射音が一つに聞こえるほどの高速連続精密射撃のその果ては、最小の消費で完璧な結果を叩き出す。

一発は植木を捉え始めていた肉の蔦に。
もう一発は、彼自身の体から生えてきた腕の群れに。
最後の一発は、ロビンの手にしていた抜き身の包丁に。

また、風が吹いた。

誰も何も言わず――、ほんの一時の沈黙がその場に満ちる。
万物の織りなす風琴の音色が治まると同時、静寂を破ったのは他でもないヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。

「うわぁっ、ごめんっ! 君の能力がそんな代物だなんて知らなかったんだっ」

まるで場にそぐわない慌て顔と、情けない声。
しかしその内容は決して看過できるものではない。
今の一瞬の交錯で、この男は完全にロビンの能力を見極めたのだ。
だというのに。そのあまりの自然体に、彼女は芯からぞっとするものを覚える。

「教えた覚えはないから……それが当然よ」

上擦りを抑えた声を絞り出し、どうにか平静を演じる。
ただでさえ自覚できる程に精神が不安定なのに、そこに来てこの予想外は流石に少し刺激が強い。
……ヴァッシュの行動の結果として、彼女の左腕には二つの銃創がぽっかりと暗い孔を開けていた。

彼女の能力“ハナハナの実”の効果は任意の場所に自らの体の一部を生やすというものであり、
だからこそ生やした部位を傷つけられれば同じ場所に報いが課せられる。
攻勢に出ているうちこそ圧倒的な手数と縦横無尽の不意打ちで一方的な戦闘ができるものの、守勢に回れば俎上に体を差し出しているにも等しいのだ。

525こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:31:41 ID:qHg3gen60
ロビンは落ち着けと自分に命じて、“敵”の実力の分析を行っていく。

怖気さえ覚えるほどの早撃ちすら、大した脅威ではない。
いや、早撃ちのその速度さえ神域を踏み越えた代物だが、
生えた腕と腕を結ぶ直線を縫う、あまりにも正確無比な射撃精度こそが真なる危険。

“六輪咲き”(セイスフルール)による二人同時への“クラッチ”は、首、腕、足を同時に掴む事で成立する関節技だ。
だが、それ故に技が成立する直前の一瞬だけに、斜め角度から腕が一列に重なり合う霞の道が浮上する。
刹那にそれを見切り、自分の背中側という完全な死角へと、不自然な体勢を強制されながらの迎撃を。
植木耕介へは――敢えてその足元を狙い、跳弾で無理矢理に入射角を変えての一撃を。

ヴァッシュ・ザ・スタンピードはこんな曲芸を、包丁による止めの一撃にも対処しながらやってのけた。

ロビンの不運はこの人間台風を相手取ったことに他ならない。
相手がヴァッシュと並び立つニコラス・D・ウルフウッドであったならば、まだ勝利の目を出す確率を上げることが出来ただろう。
彼の一番の得物たるパニッシャーは、その重量故に取り回しに難がある。
だが、ヴァッシュの相棒は拳銃だ。故に反応は高速と呼ぶすら生温い。

無論、彼女とてバロックワークスでクロコダイルの右腕を務め、8000万ベリーをその首に掛けられた身だ。
並みの使い手であるはずもなく、この失態は放送と死体との謁見という二重のショックによる心理的動揺に端を発するものであるのも確かだろう。
しかしたとえ彼女が平常心であったとしても――、ヴァッシュの実力の見込みには大幅に裏切られていたに違いない。
むしろヴァッシュの反射速度に対処して左腕“だけ”を何本も束ね、右腕をどうにか生かしたその判断力は称賛に値する。
左腕はたぶん、もう使い物にならないだろうが。
まともな治療を受けても数週間は動かせまい。当然ハナハナの実の力を行使し、左腕を生やす事も出来なくなった。


「ロビン。……どうしてこんなことを」

今まさに襲われた身であるのに、ロビンの事を案じる眉尻さえ下げた表情でヴァッシュは問う。

「…………」

彼女に答える義務は、ない。
腕から流れる血と、額から滴る汗の感触の気持ち悪さがやけに脂っこく感じられた。
けれどそんな沈黙に意味はなく、狩人にはおおよその理由が悟られていたらしい。
先刻の僅かな会話と放送と、再開際の行動がそれを伝えでもしたのだろうか。

「復讐、かい? 君の仲間たちを殺した連中と、そもそもこんな殺し合いを強要した神様たちへの!」

森の空気を引き裂くようなその言葉は、一気に時を進ませる。
呆然としていた植木がその言葉を聞いてハッと我を取り戻し、呟いた。

「この島にいる限り、そいつらに逃げ場はないって事か……?」

ああ、とヴァッシュは頷いて、その言葉に続けるべき台詞を引き継いでいく。
目を閉じて、こんな事は告げたくない、とでも言いたげに。

「そんな事をしても君の仲間は帰ってこない。それ以上に、彼らをこんな事をする理由にはしてはいけないんだ。
 君は仇を討ち漏らさないためだけに――この島の全員を殺し尽くすつもりなのか!?」

悲痛なまでのヴァッシュの叫び。
それでも俯いたままのロビンには、きっと届かない。届いていない。

526こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:32:02 ID:qHg3gen60
「……口ではそんな事を言っていても、私と出会う前にあなたが何をしていたかなんて知る術はないわ。
 だからもしかしたら、あなたたちが彼らを殺したのかもしれない」

「……ッ!!」

対話を打ち切られ、ヴァッシュは泣き出しそうな顔で歯噛みする。
植木も、そのこころの内が身を刻まれるほどに分かってしまった。

ふざけやがって。
そうして口の中で言葉を転がしても、どうしようもないほど力ない。
そんな理由で皆を傷つける事など認めてたまるものか。
許さないとは言わない。仲間を失ったその衝撃は、慮ることすら出来はしない。
迂闊に自分にも分かる、とさえ言う事だって傲慢なのだ。
だがそれでも、その人たちが関係ない他人を皆殺してまでの復讐を望んでいるかと言えば、きっと違うだろう。

それを伝える手段も力もない事に、自分の無力さに、植木は腹が立ってしょうがない。
そんな惨めさが、明確な決裂のやり取りで一層浮き彫りになってしまった。

「その子を守りながら、あなたはいつまで凌げるかしら?」

「いつまでも、だ。僕が君を止めれば済む話なんだから」

足手まとい――。
そんな事実が、淡々と植木の心に楔を打ち込んでいく。
味方であるヴァッシュの放つ心強ささえ、眩しすぎて身を焼くかのようだった。

悔しくて、譲れないものがあって、怒りがあって。
植木は静かに己のデイパックへと手を伸ばしていく。
しかしそんな所作は、対峙するロビンとヴァッシュの裂帛の気合の前では霜の様に微細なものでしかない。

その場の圧迫感のほどは、まるで下降気流が吹き下ろすかのように近づき難く。
質量さえ感じられる静寂が満ち、ただヴァッシュの赤いコートが風にはためいている。


無言で先手を取ったのは、ロビンだった。
ヴァッシュはひたすらに迎撃に徹する。彼女の命を奪う意思は、全く存在しないのだから。

銀閃が煌めき、その手から紫電が飛び放たれる。
ひょう、と風を切る音がした。
だがヴァッシュは余裕さえ見せて回避。
ダーツの直線的な投擲など、銃で撃ち落とすまでもない。

問題はむしろ、その直後。
上半身をスライドさせながら横目で後ろを伺えば、樹に突き刺さったダーツを引き抜いて、ヤドリギのように生えた右腕が再度の投擲態勢を構え終えている。
だが、そちらだけに気を取られているわけにもいかない。

「……っとぉ!」

コントの転び方のように、思い切り身を沈ませる。
時間差で放たれたロビン本体からの二投目が頭上を掠めて飛んで行った。
前屈をするような姿勢を見逃すはずもなく、初撃に使われたダーツがリサイクルされて宙に舞う。

527こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:32:22 ID:qHg3gen60
「ほわちゃっ!」

ヨーガの達人のように跳躍し、空中で奇妙なポーズをキメるヴァッシュ。
脚の下を潜っては、ダーツはまたも樹に突き刺さった。

ロビンの追撃は止まらずに、彼方の二投目と手元の三投目の同時投擲による挟撃を仕掛ける。
跳躍などという回避手段を選んだのが運の尽きだ、足場がなければ碌な回避行動を取れるものでもない。
そんな不安定な状態では、前後から同時に襲い来るダーツの格好の的だ。

……これで詰みだとは到底思えないけど。
そう内心呟いて、ロビンはまだまだ手を抜かない。
これからどう戦場を構築するかだけを念頭に置き、常人ならば対処不能の同時攻撃すら時間稼ぎとして策を練る。

――断言してしまうなら。
彼女のハナハナの実と、ヴァッシュの相性は最悪だった。
なにせ、最も得意とする相手の体に直接腕を生やしての関節技が通用しないのだ。
彼の凄まじい反応速度の前では、技を極める前に銃弾を腕に撃ち込まれてしまうのは文字通りに身を持って刻み込まれた事実。
そうなるとハナハナの実の最大の弱点である、ダメージが本体に帰ってくるという点が剥き出しの心臓となって彼女を縛り付ける。
更に言うなら、植木を人質に取ろうとしても銃の前には間合いは意味がない。彼が剣士ならまだ戦いようはあったのだが。

基本的に彼女の能力は、本人の言う通り暗殺や奇襲、そして雑兵の制圧戦向けなのである。
量と質でいうならば、量を相手取る事こそ本領なのだ。
条件さえ整えば絶大な効力をもたらすものの、純粋に彼女の速度を超える存在に真っ向勝負というのはあまりに無謀と言える。

だったら、どうする?
尻尾を巻いて逃げだすか?

いやいや、それはない。真っ向勝負で勝てないなら、勝てる状況を作り出してやればい。
すなわちヴァッシュの反応速度が役に立たない状況を、だ。

だから、ロビンはダーツで布石を打っていく。
彼の反応速度を超える連続攻撃によって、銃を撃たせた直後の僅かな隙に関節技を極める。
これがロビンが単独でヴァッシュを屠れる唯一の勝利条件なのだ。

無論ヴァッシュもそれは分かっている。
下手に銃を撃てば、その反動の分だけ次の攻撃への対応が遅れてしまう。
遅れが蓄積すればいつか必ず対処できなくなる瞬間が訪れる事だろう。
だからこそ、彼は迂闊に銃を撃たないのだ。
それ以上にロビンを傷つけたくないという理由が大きいのも確かであり、彼らしいやり方ではあるのだが。

彼女の予想通りブーツと銃底で二本のダーツを軽々と弾き飛ばし、ヴァッシュは砂埃を立てて着地する。
その頬を、チッ……と掠めていくのは一番最初に用いられたダーツ。

いつしか、無数の矢が縦横無尽にその場を飛び交っていた。
このまま座しているならば事態は彼の敗北の形で収束に向かう。
だから彼女の情動を受け止めて、言葉の応酬を始めよう。

「……頼む! これ以上、俺に君へと銃を向けさせないでくれ」

十字砲火の中央にて、僅かの一歩で射線を離れ声を張り上げて懇願する。
その眼の炎は青く静かに燃え盛っており、台詞とは裏腹にただただ揺るがない。

528こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:32:48 ID:qHg3gen60
「狩人さん、何故あなたは私に迷いを強制するの?
 ……私を止めたいのなら、殺して止めれば簡単でしょう」

仲間を失った迷い子はしかし、彼の雄姿を目にしない。見ようともしない。
俯きの角度は地面と向き合ったまま、己と二つの衛星とで三角の檻を作らんと。
赤いコートのその背後と左右を縫い、次に向かうべき空白を埋めて断ち切る。

「そうやって生きることから逃げるつもりなのか!?
 君は怒りと悲しみを堪えるのを諦めてるだけだ。
 癇癪もいい加減にしようよ。復讐か死か、どっちかを選べば確かに楽にはなるだろうけど……」

たくさんの人々を見つめ続けてきた男は、告げる。

「そんなのは悲しすぎる。今の君はまるで、土砂降りの中で泣いている子供みたいだ」

ロビンの口端が、ぎちりと鳴った。
何かを抑え込むかのように、低い低い唸りが漏れる。

「知ったような事を言わないで……! その余裕が命取りと知りなさい。
 後ろの少年ともども、ここで始末しておいてあげるわ」

ダーツの速度が上がった。
人を貫く乱舞が陽光に煌めいて、あたかも光の五月雨のよう。
植木の傍を着かず離れず、赤いコートのガンマンは少年への蹂躙を一切合財許さない。

「君は誰も殺せないさ。それがたとえ、君の仲間を殺した人間であっても。
 僕が殺させない。彼らだって望まずして手を汚してしまったかもしれないんだ。
 そんな事をさせた奴が、確かにどこかで僕たちを嘲笑っている。君が思い通りに殺し合いに乗った事がそいつを喜ばせてるのさ。
 ロビン、共に戦おう。君が戦うべきはこの島にいる人々じゃない。
 ……大丈夫。大丈夫だ、僕も力になるから」

ほんの少しだけ彼女の口元が力なく緩んで――あっというまもなくぎゅう、と引き締められる。
感情の全てを切り取った口調で、その手に更に追加一本。

「……私はもう選んでしまった。
 この覚悟が緩む事を私自身が許せないし、そもそもどんな事情があったって大切な仲間を殺した連中を許すことはできないの……!」

腕が、伸びる。
一本二本三本四本、五本。
鎖のように五倍の長さになったその腕をしならせて振り降ろせば、遠心力により単純計算で先端の速度も5倍となる。

ただ、渾身の力を込めて。
幻想を、甘言を撃ち貫く。

その指先から放たれた高速の一投をヴァッシュは――、

「君だって、彼らだって、まだ引き返せる。やり直せない事なんてないよ」

?む。
避けず弾かず、真正面から掴み取る。
その手で握りしめたダーツを掲げ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは高らかに。
穏やかな顔で謳い上げる。


「……望みさえすれば、誓いさえすれば、いつだってどこからだって望む場所へと行ける。
 未来への切符は……いつも白紙なんだ」

529こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:33:11 ID:qHg3gen60
……静謐が訪れる。
ニコ・ロビンは痛みを堪え、肩で息をしている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは頬の擦り傷以外は何も変わらない。その表情でさえ、普段のままだ。

勝敗は明らかだ。
でも、だけど、だからこそ――、

「へらへらとずっと笑ったままで、綺麗事ばっかり口にして――、
 あなたは、私の仲間の死を何だと思ってるの!?」

ニコ・ロビンは許せない。
悲愴なまでの彼女の想いが、この男の言葉の前に朽ちる事を認められない。

ヴァッシュの生きた一世紀を超える年月を、彼女は知らないのだ。
彼の言葉がどれほどの重みを帯びたものか、彼女は知らないのだ。

「……く、何をっ?」

彼女らしくもなく感情のままに身を任せれば、地面に何かが叩きつけられた。

「煙幕!?」

周囲に煙が霧のごとく立ちこめる。
まるで未来を閉ざし、行き場を無くした彼女のこころの具現でもあるかのように。
ヴァッシュの視界は閉ざされる。
ロビンの姿もまた、靄の向こう側に霞んでいく。

風斬り音。

「……っ! やめるんだ、ロビン!」

小槍を握りしめたままの義手の左手をそちらに動かせば、チィンという鉄と鉄のぶつかり合い。
五感の一つを奪い、じわじわと削り殺していく結界が出来上がっていた。

「このための布陣か……!」

苦い表情をはじめて浮かべ、絞るように目を閉じる。
見えないのなら、見開いていても大した違いはない。
神経を研ぎ澄まして植木以外の周囲の変化を意識する。

……もしかしたらこれは逃走のための時間稼ぎではないか。
そんな考えがちらりと脳を掠めたけど、届くと信じて言葉を紡ぐ。

ただ、彼女が心配なのだとそれだけを伝えたくて。

「ロビン、君は強い。戦場次第では、僕よりも君の方が遥かに強い事だってあるはずだ。
 ……だけど、たぶん今の君じゃあこんな酷いところで生き延びられない。僕はみすみす君を見殺しにできないよ」

無しのつぶても止むを得ないと思っていた矢先にしかし、確かに彼女のいらえを受ける。

「どうして?」

その言葉に安堵を得るも、彼女の無事を祈るが故に。
軋むこころをどうにか堪え、たったひとりの兄を思い浮かべる。
ああ、彼女とは違って僕はまだ失っていないのに、どうしてその顔を思い浮かべるのが悲しいのだろう。

530こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:34:09 ID:qHg3gen60
「……僕は君以上に容赦のない連中を、一人の男を知っている。
 がむしゃらに復讐を望むなら、君はきっと――その男に殺される」

不意に、ゆらりと人影が目の前に現れる。
正対を望んだのだろうか、それに希望を託してヴァッシュは油断を無くさず歩み寄る。

そして彼は見るのだ。

「私が聞きたいのは、そんな事じゃあないわ」

そこにいたのは、腕を編み上げて造られた案山子。
張りぼて、人形、でくのぼう。

ぞくりと背中が震える。
彼女は今、真後ろに。

急ぎ振り向き銃を突きつけ――、

「それだけ強いのなら、どうして。
 どうして私のたいせつなひとたちを守ってくれなかったの?」

ヴァッシュの動きが、ぴたりと止まる。
表情すら作れず、完全に固まっている。

「……ぁ、」

流れ落ちる汗が目に入り込む。
けれどそれでも、ようやくロビンの目が瞳に映り込んだ。

涙でぐちょぐちょになっていて、悲しみに染まっていて、がらんどう。
その先に繋がるのは希望などどこにも見えない、深い深い深淵へ。

だらりと、ヴァッシュの銃がぶら下がった。
彼もまた、今にも泣きだしそうだった。

「すまない」

いきをするのがくるしくて。
たったそれだけのことばをしぼりだすだけでせいいっぱい。


「救えなくて、すまない……」

――既にヴァッシュの痩躯からは、異形の腕が花開いていた。

頼るべき縁を失ったひとは、一瞬助けてほしいと叫び出しそうで、だけどすぐにその色が失われていく。
竜の顎のように柔らかな笑顔の青年を折り、喰らい尽くそうとし――、

「未来への切符は白紙、なんだよな?
 だったら、立ち止まんな!」

それを阻むのは不敵な笑みを湛えた少年。
モップなどこの場にありもしないのに、ただ己の腕で『掴』み取る。

531こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:34:32 ID:qHg3gen60
「「……!?」」

それは、あまりにも予想外の出来事で。
ヴァッシュとロビンの動きはスイッチしたかのように止まる。

先に立ち直ったのは、ロビン。
生やした腕を掴まれた感触のおかげだろうか。

「ごめんなさい、狩人さん……」

その言葉とともに再度煙幕を張り巡らせる。
一拍。
それだけの間で、雪が融けるようにニコ・ロビンは見えぬ世界の向こう側へと消えていく。

たった一人ぶんの足音を響かせて、夜の街の迷い子のように。

「あ、待て! 待つんだ、ロビンっ!」

一歩踏み出そうとするヴァッシュ・ザ・スタンピードはしかしその場で踏みとどまる。
迸る感情を無理矢理抑え込む顔で、振り向く相手は植木耕介。

視線の先にある顔は当然ながら蒼褪めている。
されどそれより目に付くのは、彼の着込んでいた漆黒の鎧だった。
戸惑うヴァッシュを無視し、植木は声を張り上げ命じる。

「何してんだ、早く追わなきゃだろ!」

はい? と間抜けな呟きを漏らして見つめてみれば、先刻までの様相からは想像もつかない覇気が感じられる。
そのギャップが不気味に過ぎて、鎧から黒々としたものが立ち昇ってさえいるようだった。

「俺はこいつのおかげで多少はマシに動けるようになったから。
 先にデパートでさっきの人たちと合流しとくから、さっさとあいつを連れ戻すんだ」

急展開にどう応じたものか戸惑っている間に、植木もその背を翻す。

「ちょっ……! 君はまだ動けるはずは……!」

その呼びかけに反して、邪悪ささえ感じるほどの強い圧力を伴って植木の姿もまた薄れていく。
彼の唐突な懇願と行動には何故か、焦りさえ感じられた。

彼の意思の通りロビンを追うか、それとも植木本人を追うか。
こころがあまりに揺れ動いてて壊れそうなひとと、弱り切っていたはずなのにおかしいほどに元気になったひと。
ヴァッシュが進むべき道を選ぶのを躊躇う理由には、十分すぎた。
彼の手の届く場所には、限界が存在しているのだから。

霞が晴れていく。
そこには最早ニコ・ロビンの姿はどこにも見当たらない。
それは突き刺さっていたダーツや彼女の仲間だった人物と思しき死体もろともで、植木耕介に関しても同じこと。

先刻の残滓は、未だに手に握ったままのダーツが残るのみだった。

532こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:35:12 ID:qHg3gen60
「く……、どっちに向かえばいい?」

逸るこころを押し留め、口端を噛んで決断せねば。

――そして、その傍らのどこかで安堵。
ちらりと、右腕を見る。今は翼も生えていないその右腕を。

かつてある街で、不意に放たれた銃弾を右腕の翼が反射的に受け止めた事があった。
あの時は片鱗のようなものでしかなかったが、おそらくより強力な自動防御機構が自分にはまだ眠っているのだろう。
あそこで植木が介入していなければ、自分の力の末端が――“尖翼”がロビンを打ちのめしていたかもしれない。
そうならなくてよかったと、心から思う。

「……戦うべきは、彼女のような殺し合いに乗せられた人々じゃない。
 止めよう、こんな争いを……!」
 
懸念事項はいくつもある。
怪しい動きをする趙公明と姿の見えない彼の仲間。
デパートに向かったままの銀時たち。
不自然すぎる復活を果たした植木。
あまりに危うい心理状態のロビン。
そして、何をしているのか行動の残り香さえ感じ取れない双子の兄。

――進むべき道は、どのようなものだったか。


【H-7/森の中の川辺/一日目/朝】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:救えなくて、すまない。
1:ロビンと植木、追うべきは――?
2:ウルフウッドをはじめとする死者たちを出した事への悲しみ。
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:動きの不透明なナイブズが色々な意味で心配。
6:ナイブズが“力”を行使したならばすぐに駆け付けられるよう、感覚を研ぎ澄ます。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

533こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:35:33 ID:qHg3gen60
********************


いつだってやり直せるのだと、自分を殺さず訴え続けた男の言葉が脳裏にいつまでも反響している。

その言葉に縋りたくなる自分が悔しくて、そんな自分を見限ろうとしない男に感謝と憎悪を同時に向けて。

強く心に決めたはずなのに揺らいでしまう脆さの存在を、潰れそうになりながらも確かに認める。

とにかく、ひとりになりたかった。

ひた走る中、森の中、無意識のうちに見て覚えた地図が脳裏に描写されていく。

確かこの先は――神社だ。

落ち着くために一休みするならば、もってこいの場所だろう。

【G-5南東/山中/一日目/朝】

【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失)、精神不安定、動揺
[装備]:ダーツ(9/10)@未来日記
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂
    双眼鏡、医薬品、食料、着替え、タオル、毛布、サンジの死体
[思考]
基本:麦わら海賊団の復讐。
0:……ごめんなさい。
1:ルフィたちを殺した可能性がある相手は逃がさず殲滅……?
2:殺す前に情報収集。主に主催者について。特にそれぞれが居た世界の違いを考察する。
3:可能なら、能力の制限を解除したい。
4:ヴァッシュに申し訳が立たない。
5:ひとまず神社で体を休める。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※冷静さと判断力は少しずつ戻ってきていますが、代わりにヴァッシュの言葉に動揺しています。

534こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:35:51 ID:qHg3gen60
********************


きがくるいそうだ。

なんではしっているんだろう。

ああ、そうだ。なにもできないのがくやしかったからだ。

はしって、はしって、はしって、だれかとであって、とめなきゃ。

とめるために、たたかわなきゃ。

……あれ?

たたかうために、とめるんだっけ?

あれ、あれ?

そもそも、なにをとめるんだっけ。

ああ――、たたかいたい。


動けないのが悔しくて、守られる弱さが嫌で、だからこそ躊躇わずに黒い鎧を身に纏った植木耕介は――、
実のところ、結局のところ、ヴァッシュの前で強がったのが精いっぱい。

でも、だけど、あの言葉に後悔も疑念も何一つない。
だって、あの女の人が見ていられなくて、どうしても助けてあげたいと思ったのだから。
けれどもともと自分は限界が近づいていたから、だからこそ素直に凄いと思ったヴァッシュにそれを託したのだ。

ゆだねろ。
ゆだねろ。

絶えず頭の中に直接そんな声が聞こえてきて、出血であやふやになった自我に入り込もうとしてくるのを無様なくらい必死な形相で飲み下す。

自分でも気付かぬ間にその手に魔剣を携えて、ひとをころす武器を握りしめて。
植木耕介はただひたすらに、デパートの方へ、森あいの消えた方へ。

もうすぐ、7:30。

植木の向かうその先では、金剛晄の公開解体ショー、そのクライマックスを迎える頃合いである。


【I-7/市街地/一日目/朝】

535こんなにも青い空の下で ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:36:26 ID:qHg3gen60
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:重度の貧血、カナヅチ化 、首に大ダメージ、自我への浸食、破壊衝動
[装備]:青雲剣@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:仲間と共にこの戦いを止める。
1:もり
2:でぱーと
3:もっぷ
[備考]
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【狂戦士の甲冑@ベルセルク】
かつて髑髏の騎士が着用し、魔女フローラが封印していたドワーフ製の呪いの鎧。
使用者に合わせて形状を変える。
凄まじい防御力を誇り、物理攻撃で破壊する事は困難。ただし、内部に衝撃は伝わる。
……とは言っても、着用中は痛みを感じることすらないのだが。
また、着用者の身体能力を限界以上まで引き出すため、超人的な膂力と俊敏さを与える効果もある。
当然そんな代物がノーリスクであるはずもなく、力を振るった反動のダメージは惨憺たるもの。多種の副作用も。
着用者は肉と骨が崩れても鎧自体が変形して強引に体を動かすため、死ぬまでひたすら戦闘を強制される。
それどころか使用者の憎悪や破壊衝動を際限なく高め、まともな思考力と自我さえ奪われる事になる。
最悪、敵味方の区別なしにその場にいるものを殺戮する事だろう。

536 ◆JvezCBil8U:2009/11/13(金) 01:37:07 ID:qHg3gen60
以上、投下終了です。

537名無しさん:2009/11/13(金) 18:06:43 ID:pHhzymDI0
どなたか代理投下の続きをお願いします。

538 ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:21:35 ID:RwaP6N1c0
い、一か月たっても規制が解除されない……。
非常に心苦しいのですが、今回も代理投下をお願いしたく思います。

539Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:22:31 ID:RwaP6N1c0
はるかおおぞらよりだれもをみおろす

このだいちのうえをひとりただあるく


***************


《運命とは眼前を切り開くもの》

鷹の世界は、遥か雲の領域にまで足跡を刻み込んでいた。

生きとし生けるものが、命の息吹の残滓が、そこに在るよろづ全てのものが睥睨されている。
はや永きの眠りに沈んだものは多く、未だ目を閉じるのを渋り続けるものはなお多い。

天空は高く、広く。
雲海の切れ目に見える数々の人の在り様が、鷹の進むべき道を照らし出す。

眼下、彼の影と時折交わるのは転がった3つの死体。
いや、男女2つの屍と不気味なカラクリ人形だ。
少し離れた所には鎧の残骸のようなものも散らばっている。
……死体に用はない。

――デパートの方角を振り返る。
つい先ほど言葉を交わした二人の姿は、とうに見えない。
その屋上を通り越す。
ずっと先の地上には、ぽつりと米粒のように黒い人影がひとつ見受けられた。
遠目にはよく分からないが、何かの建物からちょうど出てきたところのようである。
その眼の周りはやけに黒っぽく染まっており、何かマスクのようなものでも付けているのかもしれない。
デパートの方に向かいじわじわ寄ってきているのが見て取れる。

しかしそれより目立つのは、デパートのすぐ近くで開演されている凄惨な宴だ。
思わず鷹は、口元に手を添え目を背けてしまう。
……アレには、近づいてはならない。
つい先ほど見た『悪夢のような光景』を思い出してしまい、怖気がする。
それは確かに『それ』そのものについて感じ入るものでもあるが、それ以上に『それ』に陶酔せんとする自分の中の何かが恐ろしい。
本来ならデパートで出会った二人に、警告に戻るべきなのだろう。
だが、臓物の祭典に近づくと自分が自分でなくなるような気がして――、鷹はどうしても踏み切る事が出来なかった。
大丈夫だ、と頷く。
あの剣士はそれなりの使い手のようだった。ならば、わざわざ危険に身を曝すような愚行はすまい。
そう口の中で繰り返した。

《運命は迷いを断つ》

そこから北に目をスライドさせてみれば、赤に身を包む金と黒の髪の男の姿が届いてくる。
どうやら交戦中のようで、鷹ですら感嘆させるほどの立ち回りを見事に披露していた。
木立に隠れてその男以外の姿はよく見えないが、どうやら彼を含め3人ほどが入り混じった乱戦であるらしい。
……いや、4人か。
通りすがった不気味な風体をした男が、彼らに気付かれぬままに、まるで医者が診療をするかのようにじっと脇から観察していた。
四人に声をかけようかと思うも、しかし鷹は思い直す。
あの赤い男は、強い。『現時点の』鷹の親友や、鷹本人すら超えるほどに。
もしかしたら不死のゾッドに並び立つ――あるいはそれ以上でさえあるかもしれない。
仮に彼が殺し合いに乗った人物であれば、下手な接触は危機を招くだけだ。
そうでないなら是非鷹の団に誘いたいが、その手を打つのは背中を任せられる仲間と合流してからにすべきだろう。

540Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:23:00 ID:RwaP6N1c0
されど、先刻確認した通りあの朋友たる威丈夫は影も形も見当たらない。
この島の南部にはその気配がない。

《運命とは進み行くもの》

だから鷹は、北を目指す。

北へ。

北へ――。


***************


《運命とは自ずと向かって来るものなり》

薄暗く、黴臭く。
剥き出しの木地が経年にも負けず磨き上げられたその中に。
光の帯の差し込む中に、舞い踊る埃が風に遊ぶ。
風の由来するは一人の男。
ごそごそ、がさがさ。
無造作に適当に、何かを探すために体を動かせば、停滞し淀んだ空気は僅かながらに流動をはじめるのだ。

「なーにをオレぁやってんだろーね……」

呟くその声には強い溜息が付帯しており、息は風となって壁の御幣を揺らしどこかへと抜けていく。

《運命とはその糸で人をとらえるものなり》

『ちょうどいい、手伝ってくれ』

顎に手を当て、暢気すぎるほどの歩みで石段を上ってきた少年の、自分を見るなり放った第一声がそれだった。

『は? いきなりなに言ってんだ?』

とらという名の化生と戦うのに備え、体力を温存しようと考えていた男――秋葉流。
どうせ一瞬で殺せるとの見積もり通り、ならば適当に情報でも聞き出そうと近づいたものの、どうも勝手が良くない。
少年は自己紹介すらせず、こちらの喋る機会を失わせるかのように言葉を次々と吐き出していく。

『殺し合いが始まってからもう大分経つ。
 なのにこんな――普通なら来ようともしない場所にいる時点で目的は同じだろ。
 だったら四の五の面倒臭い事言ってるよりも手を動かした方が得だと思わないか?
 別に言葉を交わすのは、探し物をしながらでだって出来るんだしな』

合理的だが、あまりにマイペース。流石の流も唖然と口を開ける。
直後、『俺はあっちを調べてみるが、妙なもの以外に何か探しとくべきものはあるか?』などと告げてすたすたと本殿の方向へ行こうとする。
どうにか独鈷杵などの金剛杵や錫杖のような神具法具の類を見繕うよう声をかけるのは間に合ったが、少しばかり調子が狂う。

結局そのやり取りに毒気を抜かれてしまい、また得物を探す人手として利用させてもらうという目論見も加わって、とりあえずは放っておく事にしたのだ。
こちらが殺気を放っているのに全く動じなかった態度からするに、見た目通り脳が茹だっているか修羅場慣れしているかのどちらかだろう。
とはいえ、腕っ節が強い様子もないし、やはり前者か――、などと考えながら手を動かす。

山の中にあるこの神社は、その立地条件にもかかわらずかなりの大きさだ。
とりあえず目に付く施設を並べてみるだけでも、
本殿、拝殿、社務所、手水舎、宝物殿、神木、鳥居――といくつも挙げる事が出来る。
石碑や狛犬などといった細かいものまで含めれば、さらに数は増える。
その中には『赤薔薇を咥えた黒き白鳥の像』などという突っ込みどころ満載の代物まである始末だ。

541Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:23:12 ID:RwaP6N1c0
それぞれの施設の全てを見て回ったわけではないが、いくつかの施設は既に流は探索を終えている。
まず手始めに向かったのは、やはり一番目につく拝殿だ。
拝殿とはその名の通り、拝むための場所である。
つまり賽銭箱などが置かれている場所であり、祭礼を取り行うためのスペースでもあるのだ。

よく誤解されることではあるが、賽銭箱の向こう側――拝殿の中には御神体は存在しない。無論、例外はあるが。
御神体などの神の宿るヨリシロは、本殿という拝殿より一回り小さい専用のスペースに収められているのが通例だ。

当然流もその辺りの事は熟知しており、拝殿では大したものは見つかるまいと思っていた。
そしてその予測は見事的中。
備え付けられた種々の祭具は武器にするにも心もとないものばかり。
完全に儀礼の為だけに存在しているのだろう。
ただ、祭壇の中央にある二重螺旋の彫り込まれた御柱だけが、やけに力を放っているように感じられる。
……持ち運べるような代物でもない以上、役には立たないが。

拝殿を一通り眺めた流が次に向かったのは、2本並び立った神木だった。
それぞれ『はじまりの樹』『絶園の樹』という名が看板に銘打たれたそれらの樹から、細い注連縄を頂戴したのだ。
広域結界を作るための手助けをする道具としては、まずまずの品だろう。

そしてこの神木のすぐ近くに、特記しておくべき一つの建造物を発見する。
ちょうど滝とは反対側の位置に石造りの小さな階段が備え付けられていたのだ。
そこを下っていくと、どうやら西の方――地図で言う研究所の方に繋がっているらしい。
それらしき建物は見えないが、地形の起伏にはところどころ不自然な箇所がある。
おそらく研究所は山体をくり抜いて造られており、石段の先はそのどこかに繋がっているのだろう。
神社は避難所として利用されるのも珍しくはない。ならば、研究所からの非常口として機能しているのかもしれない。

そして今流が探索をし始めたのは、宝物殿とは名ばかりの倉庫だ。
大抵のものが箱に仕舞い込まれているため、探索には一苦労しそうである。
試しに一つ箱を開けてみたところ、『念仏くんストラップ』などというインチキ臭い上に全く売れそうもないゴミが束になって詰め込まれている。
こんなイロモノばかりの箱に入っているのだとすれば、目ぼしいものを見つけるのも面倒くさい。
なのでとりあえず箱に手をつけるのはやめ、剥き出しになっているものから調べることにした。
使いやすさを考慮してなのか入り口近くによく使うであろうものが、奥の方に物々しい箱の群れが積まれているという配置になっている。

その、『よく使うであろうもの』が、流にとっては非常にありがたい。
錫杖や法螺貝の笛、鈴、注連縄、御幣に破魔矢。神道というより修験道系の道具だが、こういう所にあってもおかしくはない。
どれも法力を通すにはそれなりに適した神具である。
適当にデイパックに放り込んでは眇目で辺りを見回す流のその耳に、不意に声が届く。
先刻の少年の声で間違いない。

「――ちょっといいか?」


***************

542Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:23:34 ID:RwaP6N1c0
《運命は閉ざされた門を開ける》

見た事のないはずの光景がフラッシュバックしていた。

そのイメージはどこから来たのだろうか。今のこの時点と、とてもよく似た風景だ。

そう――、『あの時』も、こうして石段を登り続けていた。

歩み続けていた。

電車を乗り継ぎ、緑溢れる片田舎へと足を延ばす。

歩いて歩いて昇りつめた先に、不意に声が耳に届いた。

それはよく知る男の声。

森に囲まれた社の入り口。やけに記憶に残る赤の鳥居。

一人の男が本を読みつつ、缶を口元へと持っていく。

傍には誰もいない。

もう、いない。手放した。

きっとそうなるだろうという予感が、渦巻いていたのだ。

彼女はただ、奪われるためにだけ与えられたものだったのだ、と。

それでも自分の支えとなっていたのは、誰にも決して奪えないとても佳いもの。

すなわち――、


「悪いがそれは、企業秘密だ」


《運命は救世者の道となる》

ペチンと頬を叩き、意識を揺り戻す。
――先刻、石段を上っている時垣間見たあの光景は、きっとただの白昼夢。
特に意味があるとも思えないあのビジョンに気を取られ、現実を忘れては話にならない。
今為すべきは、行動だ。

鳴海歩は周囲の状況を捉えるために意識を先鋭化させながら、手元の携帯電話を操作する。
今はとにかく、よろしくない状況だ。
そういうスキルがないから仕方ないとはいえ、まさかあのblogに載っていた危険人物と鉢合わせしてしまうとは。

……不安も不振もおくびにも出さず、『あの男が危険人物だと知らない自分』を演じきる事にはおそらく成功した。
多分、疑われてはいないだろう。距離を取った以上はこのまま逃げ出すのも可能かもしれない。
けれど、その手はマズい。
あの殺気はカノン・ヒルベルトにも匹敵、いや上回ってさえいるかもしれない。とにかくヤバい。
このまま野放しにすれば、確実に被害は拡大していく。
ならばそれを食い止めるための手をひとつ、打っておきたい。
確かにそれには自分が死ぬ可能性というリスクもあるだろう。
だが、自分一人の危険程度で被害を抑え込む――あるいは遅らせられる可能性があるならば、打たない手はないのだ。

543Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:23:53 ID:RwaP6N1c0
と、その前に済ませておくべきことも多々あるのも確かだが。

「……あいつ、やっぱり趣味が悪いな」

本殿の柱に寄りかかりながら、あの男の気配がないことを確認して画面を覗き込む。
はあ、という思い切りのいい溜息は、掲示板に書かれた内容に関してだ。
よもや自分の義姉の名を語るとは、色々な意味で心臓がキリキリと痛む。
執筆者はおそらく、してやったりとばかりに笑っている事だろう。

『私はいつでも、管理人さんを信じてますよ☆ 』

まあ、それでも頼りにしてしまっているのは間違いない。
渋々ながら、とりあえず今のうちに返事でもしておこう。
そう思ったのだ――気が変わった。

意趣返しだ。
今連絡をするのは、敢えてやめておく。
考察はまだ確証のないあやふやなものばかりで、最低限の事はblogに書いてしまっている。
現時点で彼女だけに伝えておくべき情報はない。
ならば、然るべきタイミングまで放置しておこう。ちょっとばかりの嫌がらせだ。
どうせ殺したくらいじゃ死なない少女だ、しぶとく生き残っているに違いない。

それに、信じている、というのなら――、別にわざわざ礼を言うまでもない。
当然のこととして成された事であるのなら、形にせずともきっと分かる。分かってしまう。

……こんな自分の反応まで見透かされている気がして、しょうがなくもあるのだが。
もう一度大きく長くゆっくりと、気疲れを隠さず息を吐く。

どうやら『結崎ひよの』は、この殺し合いの中では自分の味方として立ち回ってくれるのは変わらない。
それが確かめられただけでも収穫だ。
たとえ『結崎ひよの』が幻想だとしても、『彼女』は自分を信じると告げている。なら、十分だ。

「秋瀬或の方は、とりあえず無難な内容だな。
 貪欲に情報を握り込もうとしてるが……、まあ、こいつに関しては手の打ちようがないか」

それよりも、と再度掲示板に目を通す。
今現在は訪ね人のスレッドに2件の書き込みがあるにすぎない。
警戒を幾重にも張り巡らせているのだろう、最低限の情報しか記されていない代物だ。
おそらくは先に秋瀬或のblogにコメント公開要請を寄せたのと同一人物か。

『2 名前:厨二病な名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 書き込みの確認を行う。

 3 名前:ブレードハッピーな名無しさん 投稿日:1日目・朝 ID:NaiToYshR
 かつて道を別った俺の片割れに聞く。あの砂漠の星を離れ、お前は今、何処にいる?』

とはいえ、ここには個人を特定できるだけの重要なキーワードが記されているのは確かだ。
そうでなくては呼びかけの意味がない。
重要なのはおそらく『片割れ』『砂漠の星』だろう。
またも秋瀬或曰くではあるが、参加者の中に砂漠の星出身の人物がいるのは確かなようだ。
そして片割れ、という表現には、兄弟姉妹といったイメージが存在する。
――その兄弟のどちらかに接触できれば、もう片方とも繋がりを作れるかもしれない。

544Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:24:12 ID:RwaP6N1c0
最後に。
本来なら先刻送られてきたメールの送り主、すなわち竹内理緒と連絡をすぐにでも入れたい。
だが、あの危険人物に竹内理緒の存在を知られるのはマズい。
メールで済ませられれば良かったのだが、結崎ひよのとは違って竹内理緒はblogの文章の主が自分以外の誰かではないかと疑っているようだ。
その為にわざわざ直接の通話をご所望している訳で、しかし彼女との接触はそれなりに長い時間に及ぶものになる事が予想される。
……となると、やはり迂闊に連絡を入れる訳にはいかないだろう。
幸い、竹内理緒からのそれには、折を見てで構わないとある。

とりあえず、ネット上の情報確認はこの程度でいいだろう。
あまり電脳世界に入れ込み過ぎれば、現実で手痛いしっぺ返しが来る。

じぃ、と、胸元を見つめる。
そこに収められているのは、『医療棟ID』と書かれたカードキーだ。
社務所の中で見つけたそれは、他に見繕ったいくつかの小品と共に並べられた、あからさまに怪しいお守りの中に隠されていた。
どこのカードキーかは分からないが、見当は多少はつく。
時間を見繕って調べてみるのもいいかもしれない。

勢いをつけ、柱に預けていた背を起こす。
無言で歩き始め、ゆっくりと本殿の前に回っていく。
木造で白塗りのその建物は、拝殿より一周り二周り小さいながらもそれ以上の圧を以って、島の中央に君臨していた。
この島で最も高い場所に、荘厳ささえ伴って鎮座していた。

入り口にはごつい錠前やお札のようなものなどで厳重な封印が施されており、中に入る事は叶わない。
その如何にもといった風体が、歩に自然と唾を飲むという行為をさせていた。

おそらくここには何かがある。
だが、今は時期ではない。

――分かるのはただ、それだけだった。


***************


《運命とは戦うことに他ならず》

「――ちょっといいか?」

がさごそと小さいながら良く響く音を洩らしていた、宝物殿の前に立つ。
聞き咎められないほど小さく息を吸い、出来る限り自然に声を。
返事を待たずに言葉を連ねる。

「なあ、あんた……」

「あん?」

こちらとあちら。
外と内。
明所と暗所。

壁を挟んで対話する。

545Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:24:36 ID:RwaP6N1c0
「しばらくは表に出ない方がいい。
 あんたの目的は知らないけど、参加者の頭数が多いうちはもう動くべきじゃない」

ぴたり、と宝物殿の中の動きが止まった。

「……何が言いてえ」

この機会を作るために、共同で探し物などという提案をしてみせた。
向こうに相手がいる以上こちらに直接危害を加えるのは壁をブチ抜いてでなければ不可能だし、そんな無茶が罷り通るにしても正確な位置は掴めていない。
たとえ日の下に出て追おうとしても、暗闇に慣れきった目ではこの場所はあまりに眩しすぎる。
多少の時間は稼げるはずだし、森の中に逃げ込めば逃げのびる可能性は更に上がる。

そうした布石を打った上で、この男の動きをしばし封じるべく言葉を紡いでいく。
これが成功すれば、多少の時間稼ぎはできるはずだ。
戦術的でなく戦略的な意味合いを持つそれは、きっと自分たちにとって有益に働くはず。

「あんたはもう他の大多数の参加者にマークされてる。今はそうじゃないかもしれないが、いずれ必ずそうなるはずだ。
 ……ネットにあんたの情報や似顔絵が曝されてるんだよ。
 多分、その情報の載ったページのURL記したファックスとか音声情報とかがこの島中にばら撒かれてる。
 殺し合いに乗ってようが乗ってなかろうが、参加者全員にあんたの顔や能力が知られるのは時間の問題だ」 

沈黙。
じりじりと突き刺すような朝の光が痛いくらいに眩しい。
玉の汗がぷくりと浮かび始めるのは、しかし暑さのためなどでは決してない。

「そんなに殺られてーのか? んなハッタリが通用するとでも思ってんのかよ」

不意に投げ掛けられたその言葉は起伏も何もあったものではない。
あまりにも無感動かつ無感情に、ただ『邪魔をするなら殺す』という意思だけを実直に示していた。

「ん? わざわざ真偽を問わなきゃならないほど頭の回転遅くないだろ、あんた。
 疑うのは別にいいけど、そうしてくれた方が俺もあんたも得だってだけの話さ。なんなら言伝くらいは請け負ってもいい。
 伝えるだけ伝えた後で、その言葉の受け取り主を説得するくらいはさせてもらうかもしれないけどな」

……そう。
こんな言葉を投げかけられる時点で、何らかの情報ソースがあるはずだというのはあの男にも分かっているはずだ。
同時にそれは、ネットという媒体に彼の情報が流れている証明にもなる。

相手の立場で考えてみよう。こちらが提示している情報は、主に2つある。

・島中に男が危険だという情報がばら撒かれている。
・逃げられるはずなのに逃げず、男がしばらく動かない事を誓う代わりに言伝を行うという交渉を行おうとする。

まず、前者の情報は、時間が立てば男にも気付く機会があるはずだ。
だから真偽を確かめるのは非常に容易。つまり嘘を吐くメリットがこちらになく、信憑性は高いと考えるだろう。
しかも、男は一方的に情報を知られたままという不利な条件で戦う事を回避できることになる。
そもそもこの情報を知っていた可能性は、歩を見て平然としていたところをみると低い。故に、交渉の取っ掛かりとして十分機能する。

そして、後者の条件は互いにメリットしかもたらさない。
『探偵日記』に書かれた記述が正確ならば、男は無差別に殺戮をしているのではないことが読み取れる。
だから男はしばらく動かず潜む事で目的を達成できる可能性が上がるし、自分たち殺し合いに載っていない面子にとっても余計な争いを減らす事が出来る。
男自身が動かない事によるデメリットは、言伝という形である程度解消できるはずだ。

546Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:24:53 ID:RwaP6N1c0
「言伝をちゃんとするって保証はどこにあんだよ」

「ないな。だけど、不必要にあんたからの信用を落とすメリットはこっちにはない。
 あんたとしても、情報ソースとして俺を確保しておけば使い道はあるだろ?
 共闘なんて甘い事は考えてないが、情報交換の機会を残しておくのは損にはならない。
 誤情報に踊らされる、なんて幼稚な事態には陥らないくらいに分別がなきゃ、あんたみたいなやり口はできないはずだからな」

場合によっては情報提供を行うという意思表示。
殺し合いに乗った相手にそんな事をするとはいかにも矛盾しているようだが、これが成功すれば多少は動きを封じられるのもまた事実。
そうなったら儲けもの、程度の口約束でしかないのも事実ではあるが、しないよりはずっといい。

《運命とは力に曲げられぬもの》

「俺の武器は論理だ。言ってみりゃそれ以外に取り柄なんてないんだ。
 訳の分からない超能力も持っていないし、身体能力もとてもじゃないがあんたにゃ勝てない。
 あんたを殺せるような道具だって持ってはいない。
 あくまでも、お互いにメリットのある行動指針を提示しているだけさ。
 ま、さっきから再三言ってるように俺の言葉が真実だと思う必要はないけどな」

……そろそろ、潮時だろう。
撤退に行動を移さねば、激昂に触れる可能性もどんどん上がっていく。
いつでも森に逃げ込めるよう意識を壁の向こうに集中させて、鳴海歩は静かに問う。

「それじゃあ聞いとくが、誰かへの言伝はあるか?」


《運命とは出口を見せぬもの》

「……兄様と姉様に、伝えたい。もっともっと、私を愉しませてほしいの。
 まだまだ体が疼いて止まらないわ……」


ぞく、と震えが走る。

ただ直感に任せ、体を沈めた。

ぶゥん、と死神の鎌が頭上を駆け抜ける。

「兄様……。賢い兄様、遊びましょ?
 ほうら、蜂がやってきたのよ……」

若い女の声がすぐ後ろに。
こんな時に――と歯噛み。
けれど歩は、振り返らない。
蹲ったまま状況分析。
背後からの奇襲を行ってきたという事は、おそらく相手はこちらが振り向いたその隙を狙うはず。
カノン・ヒルベルトとの交戦の経験が役に立った。
場数を踏んだ相手の反応速度には、一度動いてしまえば対応できないのは身に染みている。

考える猶予はコンマ秒。
地面に落ちた影を見て推測。
おそらく相手は無手か、仕込み武器などを用いている。
この間合いを離れられれば僅かながら余裕が出来るだろう。

547Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:25:07 ID:RwaP6N1c0
来るのはどちらだ?
左? 右?
どちらに避ければ正解なのか?

「――正面だ」

膝の伸縮を用いての低空バックステップ。

「あら……!?」

鼻先を、艶めかしい白さの肢が掠めていく。

――相手の初手は、首を狙ったハイキックだった。
得意はおそらく足技と推測。
ならば低い姿勢を保ったまま、相手の蹴りに合わせて股下を潜り抜ければいい。

見事それは叶えられ、軸足に一撃をお見舞いせんと。
転ばせでも出来れば逃げる時間は余計に稼げる。
しかし、

「な、」

つるりと足払いが滑って有効打は与えられず。
異常な現象に戸惑うも、動きの流れを止めはしない。
背後を取り、更に距離を稼いで息を吐く。

「兄様、積極的……。でも駄目よ、スカートの中を覗いたりしちゃあ。
 それはもっともっと後のお楽しみなの」

ふっ、ふっ、ふっ、ふ、と小刻みに肺に空気を満たす。
あらためて襲撃者を眺めてみれば、見目も麗しい令嬢だった。
だが、鳴海歩はそんな事はどうでもいいとばかりに脇に寄せておく。
まあ、このような姿形が彼の女性の趣味ではないというのも事実だが、重要な問題ではない。警戒すべきは今の出来事、だ。
どういういう理屈かは分からないが、この少女にはまともに打撃が通用しないという事を理解。
それだけを念頭に置いて、現状打開を開始する。


――いや、しようとした。


「飛んでさされ」


《運命とは一直線に落ちるもの》

ザク。

「ぐ、あ……っ」

肩が、イッた。

548Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:25:21 ID:RwaP6N1c0
体内に異物がめり込み奥へ奥へ奥へと沈んでいく嫌な感触と、吐き気すら感じるほどの激痛。
にじむ、と呼ぶにはいささか早く、されど噴出と呼ぶには静かすぎるほどにじわじわと、歩の服が血に染まる。
鳴海歩の顔が、この島へ来て初めて歪んだ。
歯を食いしばって思考力が持って行かれないよう、踏み止まる。

「――やっぱ、軽ィなあ。微妙に狂っちまったぜ。
 独鈷の要領で飛ばせるって見込みは間違いじゃなかったけどな。
 ホントなら今頃そのいけすかねぇツラのド真ん中に、その肩にプレゼントした破魔矢が突き刺さってたはずだったのによお!」

ケタケタケタケタ、ケタケタケタケタ。
人間性を排除した笑いが場に沁み渡る。
砂利を蹴飛ばす無造作な歩みの足音が、これ以上ない戦慄をもたらした。

「……ま、いいさ。どうせ今のは試し撃ちだ。
 次は外さねえ。
 その次は2本同時だ。
 更にその次は3本か、4本か? まあ何本でも同時に飛ばせるだろうさ」

俺は、何でもできちまうんだからよ。

いつの間にかお外に出てきていた男の口がそう告げている。

――そんな言葉でも、必死になって現実に自分をつなぎとめるよすがへと。

マズい。
あまりに、マズい。

前門の虎、後門の狼。

この状況から逃げる算段が悉くブチ壊された。

あの『探偵日記』には、何やらとんでもないムチとやらの情報が記されていた。
今回の攻撃がそれでなかったのは僥倖だが、しかし向こうに飛び道具の選択肢が増えたのはあまりにまずい。

こちらには安藤から預かった結界発生器――バリアがある。
しかしそれは、バッテリーという形の制限時間の課せられた代物だ。
だからこそ、いざという時にはそのムチにカウンターの形で用い、相手の油断を誘った隙に逃走する心積もりだった。

だが、今は相手はここで調達した破魔矢を武器に用いると語っている。
……語調からして、それは切り札などというにはほど遠い。
ならばたとえバリアで跳ね返したとしても、逃げ出せるほどの隙を誘うのは難しいだろう。
必殺の一撃でなければ動揺は望めない。

どうする?

どうする!?

目の前の少女の奇襲が、今ではなかったなら。
男との交渉だけに、専心出来ていたなら。
そのどちらでも、まだ逃げられる目があった。

けれどその二つが組み合わさって、歩の自由を雁字搦めに奪い取っていく。

549Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:25:48 ID:RwaP6N1c0
「なぁにがオレノブキハロンリダー、だ、くっだらねえの。そんなモンがどうやって今のてめーを助けてくれるよ?
 いーいザマだなァ、どうだよ一番の頼りにしてたもんに裏切られた気持ちはよ。
 てめーの信じた論理とやらは、それこそクソの役にも立ちゃしねえ!」

げひゃひゃひゃひゃひゃ。

口が裂けんばかりに歯を剥き出した下品な笑いが木霊していた。

一通り嘲りを済ませた後、男は人形めいた動きでぐるりらと体を、顔を近づけてきた。
一片たりとも喜の表情は含まれていない、ただ不快感だけを前面に押し出した凄まじい形相がそこにある。

「……おい。そのドタマん中ぁ、腐ったカボチャみてーに空っぽなんじゃねえだろうな。
 今てめえは絶体絶命の窮地なんだぜ?
 休戦協定取りつけたと思った矢先に裏切られたってのに、どうしてんなツラしてんだよてめえはよ!
 ちったあ泣き叫んで喚いて悔し涙でボロボロになって見せやがれよ。んなつまんなそぉー……な顔で澄ましてんじゃねえよ。
 俺を愉しませるのがてめえの役割だろうがッ! サボってんじゃねえやァッ!」


《我が運命は未だ死を告げず》

――鳴海歩は、まだ、諦めには達していない。どんな時でも一人で立ってみせると、そう心に刻み込んだ。

だからこんな状況でも、ただひたすらに戦局を見極め切り抜ける術を模索する。

「お口の良くない兄様……、横取りはずるいわ。
 賢い兄様、こっちを見てほしいの。二人相手だなんて興奮しちゃう……」

……状況は、三つ巴。
二人を上手く潰し合わせられれば、そこに隙は生まれるはずだ。
その為にはとにかくこちらに興味を持たせなければ。
あまり切りたくはなかった札だが、仕方ない。
秋瀬或から得た利益、存分に使わせてもらうとしよう。

「……やれやれ。酷い言われようだな。
 まあ、それは水に流しとくとして。……本当に俺を殺してもいいのか?」

言葉を以って、論理を以って。
この絶望を打開する。孤独のままに立って、笑ってみせる。
たとえ一度それを否定されようとも、己が揺るぐ事はない。
それが――、ブレード・チルドレンを巡る一連の事件で育んできた彼の在り様だ。

「俺は、“神”の陣営の関係者と繋がりがある。その情報やコネを手に入れたくはないか?」

持てる知恵と道具を全て駆使して、生き足掻く。


《運命は救世者を見捨てない》


その言葉そのものではなく――生き様に。

『決して人の夢にすがったりはしない……、誰にも強いられることなく自分の生きる理由は自らが定め進んでいく者……。
 そして、その夢を踏みにじるものがあれば全身全霊をかけて立ち向かう……。たとえそれがこの私自身であったとしても……』

――鷹は、友と成りうる資質を見出すのだ。

550Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:26:04 ID:RwaP6N1c0
《運命とは駆け抜けるもの》

銀の閃光が煌めいた。

瞬くその間に少年の姿は消え失せる。

光の鷹は、すでに遥か空に。
そのかいなに気高き少年を掻き抱いて、何処までも高く、ただ高く。

男と少女は僅かに呆然。然るに驚愕。
続く言葉は興奮主と成す数多の感情。

「蒼月潮ととらに伝えとけ!
 とらぁ、てめーをメタクソにすり潰してグチャグチャにして、うしおの前でぶっ殺してやる!
 てめーらが腰抜けじゃねーってんなら、広い場所――、そう、競技場で待っていやがれ、ってな!」

去りゆく彼らの背に投げ掛けられる声は、やる気が全くないようでいてどことなく事態を楽しむ調子が含まれている。
その気になれば鷹を撃ち落とす事も出来るだろうに、それをしないのはいかなる心積もりか。

「逃げられちゃった」

ヘラヘラ笑う男とは逆に、少女は少しばかり不機嫌そうに眉をひそめる。
この展開は面白くないのだろう、その眼には欲求不満がありありと浮かびあがっている。

「貴方が邪魔しなければ、もう少し楽しめたのに……。
 責任取ってくれるかしら? 蜂を怒らせたら怖いのよ……」

されど、男は――秋葉流は少女を歯牙にもかけず、ただ見下ろすのみ。


「おもしれぇじゃねえか、暇潰しに遊んでやるよ」


***************


《運命は人を皇帝に変えるものなり》

空の上。雲の世界。
巻く風が吹き渡る青と白の中を、光の鷹はただ北へ。

「少年、大丈夫か?」

投げ掛けられた言葉に対し、鳴海歩は実に平然とした態度で冗談を返す。

「生憎と大丈夫じゃないな。助けるならもっと早く助けてほしかったよ」

……表情からは想像もつかないが、恐らくは強がりだろうとグリフィスは判断する。
額にいくつも浮かび上がっている汗の雫がその証拠だ。
突き刺さったままの矢が痛々しいが、ここで抜けば出血が激しくなる。
取りあえず安全に処置できる場所に到達するまでは、このままにした方がいいだろう。

「……君たちがそれぞれどういう立場なのかを把握したくてね。
 あの少女の奇襲がなければ、もう少し穏便に介入したかったんだが。
 とりあえず、君に接触するのが一番得るものが多いと判断した」

551Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:26:32 ID:RwaP6N1c0
成程、と歩は頷く。
救出のタイミングから考えるに、“神”陣営との繋がりを示唆した言葉にこそこの男は反応したのだろう。
どうやら殺し合いに載っているようでもないようだし、仲間を確保しておけるならそれに越したことはない。
とはいえ、未来日記の情報は迂闊に漏らしてもいいものでもなく、果たしてどこまでこの男を信じていいものか。

「悪いが、そう簡単に手の内を明かすつもりはないぞ?
 下手したら俺に構うのは時間の無駄になるかもしれないが……」

そう、あらかじめ断っておく。
すると先方も歩の考えに思い至っていたのか、返す言葉は少しばかり意外なものだった。

「ああ、君の性格は先刻のやり取りでよく分かった。
 だが、オレは人を見る目はあるつもりだ。いずれ君は、オレに協力するようになる。
 なら、その機が訪れるまでオレなりのやり方で君を捕らえておこうと思ってね」

なんとまあ、自信過剰な男だろうと嘆息。
けれど嫌な感じはしない。生まれつきの気質というものなのだろう。
とりあえず頭は切れるようだし、友好関係を結べるならそれに越したことはない。

「……やれやれだ。
 いずれ使い物にならなくなるかもしれない体とはいえ、この腕じゃちょっとピアノを弾くのは難しいな」

……とはいえ、やはりモノのように言われて黙っているつもりもないので少しばかり嫌味っぽく独り言を。 
ただ、この言葉は本心からのものでもある。
もしこれからピアノに触れる機会があったなら、片手だけで弾けるような編曲を考えなければいけないな、と、そんな事を少しだけ心に燻らせた。

「力がない事を理解しているなら、あまり無謀はしない方がいい。
 力ある者への牽制は確かに戦略的には意味があるが、命を賭けてまでする事か?」

打ちつける風を切り裂きながら、鷹は試すように問いを投げかける。
器を見極めんとするその言葉に、しかし少年は鷹揚と。

「……まあ、その辺りは企業秘密だ。
 それに自分から胸を吹っ飛ばすようなどこぞのお嬢さんよりはまだマシさ。
 俺にも虎の子があるかもしれないと、それを心に留めておいてくれ」

《運命は皇帝を人に変えるものなり》

にぃ、と、グリフィスの口端が上がった。
食えない。底が見えない。が、この少年には確かに何か感じ入るものがある。
まるであの時――ガッツと初めて会った時にも似た、それでいて静かに蒼く燃えるような、そんな高揚が心の内のどこかに湧いている。

これもまた運命なのだろう。
そんな鷹の感慨など知る由もなく、少年は事務的に要求を。

「助けてもらってなんだが、いったん下ろしてもらってもいいか?
 ちょっと早めに連絡しておきたい相手がいるんだが」


***************

552Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:26:47 ID:RwaP6N1c0
「……ふん。所詮こんなモンかよ」

実に期待外れだったと言わんばかりに、秋葉流は『それ』の方を見もしない。
どこでもない遠くを見つめ、独り言のようにブツブツ言葉を連ねるのみ。

「殴る事も斬る事も出来ないって利点を前に出して長期戦を仕掛け、毒でも仕込んだ針を掠らせる。
 そんな能力と体術頼りのゴリ押し戦法じゃオレに汗をかかせることもできねーぞ。
 ま、着眼点は悪くねぇけどな、見破られたらそれで終わりだ」

明後日の方向を向いたまま黒眼だけをぎょろりと動かせば、目線の先には不可思議な力でグルグルに縛られた一人の少女。

「物理的な攻撃や拘束が不可能なら、そうでない手段を選びゃそれで済む。
 嬢ちゃん一人を縛る結界を作るなんて朝飯前なのさ、オレにはな」

そんな独白にも近い文句を聞いているのかいないのか、少女は頬を赤らめて口を開く。

「毒は多分とっくにどこかへ消えてるの……。水につかって流れちゃった」

何を考えているのだろうか、どうせ碌な事になりはしないだろう。

「強くて歪んだ兄様……、気に言ったわ……。
 この蜂を連れていって。貴方の臨む場所へ、どこへなりとも……」

そうら来た。実に面倒臭い展開だ。
……だが、別にそれでもいい、と流は考える。
この女が生きようが死のうが知った事ではないし、自分が全力を出す状況を作るのに役立つかもしれないのも確かだ。
その逆もまた然りだが、その時は始末すればいいだけの話である。

ネット上に自分の情報がばら撒かれてるとすると、成程確かにしばらくは潜んでおくべきだ。
そしておそらく、あの少年の言葉も本当だろう。
なら、今後の方針としてはそうしたインフラを逆に利用してやればいい。

秋葉流が生きるのはかの往年の名OS、Windows95がリリースされ、インターネットの普及が加速した時代だ。
ネットがどういうものかは大体把握できている。
故に、それを用いた情報撹乱を主眼に据える事にしよう。

なら、電脳世界に介入しようとする自分にとって、現実での手足が増えるに越したことはない。
それに仲間と書いて手駒と読む存在がいれば、警戒されることも少なくなるだろう。

……だとするなら、そうした手駒を抱える苦労は別に一人でも二人でも変わらない。

「よう……、あんたもオレと組まねーか?
 構える事ぁねえ。どーせこの殺し合いに乗った最悪のクソ野郎同士なんだからよ」

当てずっぽうのカマかけとともに、秋葉流は一人の女性に声を投げかける。
片腕に開いた穴から血を流し続ける、考古学者の女性へと。


【F-5/神社/1日目/午前】

553Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:27:00 ID:RwaP6N1c0
【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(中)、法力消費(中)
[装備]:錫杖×2、破魔矢×15
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:休息中の手駒を増やすため、目の前の女を口八丁で引き入れる。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:体力が回復するまではどこかの集団に紛れ込むのもいいかもしれない。
6:万全の状態でとらと戦いたい。
7:しばらくは積極的に戦わず、ネットを利用して誤情報などをバラ撒いて撹乱する。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の名乗った「高坂王子」が偽名だと気付いたかは不明です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※研究所への石段を発見しました。

【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、実の力で美しくなっている、結界でグルグル巻き
[服装]:ゴスロリドレス
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式(コンパス以外)
[思考]
基本:皆殺し。帰って仕事を続け、優しい兄様と遊んであげる。
0:強くて歪んだ兄様に付いていく。
[備考]
※ スカートはギリギリで見えません、履いてるか履いてないかは…ご想像に(ry
※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。

554Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:27:23 ID:RwaP6N1c0
***************

《天さえも運命の糸からは逃れられず》

むなしくコール音だけが繰り返される携帯電話を耳から離し、ゆっくりと目を瞑る。

「…………。返事はなし、か」

竹内理緒に連絡するもいらえはまったく返ってこない。
悪い予感がしてしょうがないが、話したい相手の現状を確かめる術もない。
虫の知らせとでもいうのだろうか――、もう二度と竹内理緒の声が聞けないなどと、そんな妄想ばかり浮かんでくる。
ずきり、と肩口が軋む。
矢を抜いて布をぎゅっと縛っただけの杜撰な応急処置だ。痛むのも無理はない。

……とはいえ、その痛みは肉体的な痛みではないだろう。
もしや、と質量すら感じさせるほどに肥大化した疑念が、精神的に負荷をかけているのだ。
それが分かっているけれど、だから軋みを見なかった事にする。
成すべき事を把握し、それを支えとして潰されないように。

竹内理緒は、ひとまず後回す。反応がない事には動きようがない。
ならば次は予定通り我妻由乃だ。

秋瀬或から重々聞かされた危険性を再認識しつつ、もう一度接触しようと電話帳機能を開いた、その時。

「――そろそろ話を聞かせてもらいたいな。
 きっと有意義な時間になると、オレの直感は告げているんだが」

天上のラッパのような、よく響く声が歩の耳に入ってくる。
けれど、物事には優先順位がある。
目に見える不安と目に見えない恐怖では、後者の方があまりに重い。
ならば、眼前にいる男には少しだけ待ってもらわねば。

「悪い。先にこれだけは終えさせてくれ。
 交渉先がいささか『ヤバくて重要な相手』なんだが、以前の交渉でひとつ手痛いミスを犯しちまったんだ。
 とりあえずそいつをリカバリーしておかないと、事態がどんどんこじれる可能性がある。
 『あんたにも会話内容は聞かせてやる』から、しばらくは静観しててほしいんだ」

……言葉の裏の意味は、通じただろう。それこそが目の前の男が欲しがっている情報のひとつなのだから。
だから男は頷いて、一歩歩みを後ろに戻す。

「分かった。なら、厄介事が終わるまでオレはそばに控えさせてもらうぞ?
 だが、その前にひとつだけ済ませておくとしようか」

クエスチョンマークを浮かべる歩に、美麗な青年は威風堂々と告げていく。


「グリフィス。それが、オレの名だ」

「……鳴海歩だ。よろしく」


《舞踏における運命とは手をとり合うことなり――》

555Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:27:50 ID:RwaP6N1c0
運命を確信し誰も彼もを巻き込んで、燦然と煌めく未来へと己が道を突き進むもの。
運命を否定し誰も彼もを突き放して、重ささえ持つ暗闇へと己が道を一人歩くもの。

光と闇。
祝福と苦難。
転生と死の旅路。

絆と絆。

彼らの持つ要素はどれもこれも正反対なようでいて、あまりに良く似ている、似過ぎている。
けれど、決定的に違うのはその向かう方角だ。
青年は愚直な程に、自分の夢を叶えるために。
少年は疑いながら、人々に希望を残すために。
似ているのはあくまで手段。けれど、行きつく先は全くの正逆。

大切な何もかもを、これから自らの意思で手放す筈だった二人は――、こうして出会った。


【D-4北部/川岸/一日目/午前】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
 1:北へ向かい、ガッツと合流したい。
 2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
 3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
 4:未知の存在やテクノロジーに興味。
 5:ゾッドは何を考えている?
 6:あの光景は?
 7:鳴海歩が連絡を終えるのを待って情報交換と仲間への勧誘。彼本人に強い興味。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。

556Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:29:53 ID:RwaP6N1c0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記、コピー日記@未来日記、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
 1:我妻由乃への連絡を入れ、本物のカノン・ヒルベルトがこの殺し合いに参加していることを告げる。
   その後、無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
 2:我妻由乃との連絡後、グリフィスと名乗った男とあらためて交渉。出来れば仲間に勧誘する。
 3:我妻由乃との連絡後、或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
 4:北上し竹内理緒を追ってみたいが、嫌な予感がする。
 5:島内ネットを用いた情報戦に関して、結崎ひよのはしばらく放置。何か懸念が生じればメールを送る。
 6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
 8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
 9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
 10:『医療棟ID』について考察。
 11:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
 12:肩のまともな手当てをしたい。
 13:神社の本殿の封印が気になる。 
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
  また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
 ※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
  また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
 ※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
 ※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
 ※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
 ※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
 ※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
  言動から雪輝の味方である事は推測しています。
 ※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
 ※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
  未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
 ※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。
 ※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。


※神社の本殿には封印が施されています。
※神社には研究所のどこかに通じる石段が存在します。
※神社のお守りには、医療棟のカードキーが隠されています。

557Eingeweide Schwert "Gelegenheit" ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:30:23 ID:RwaP6N1c0
***************


――最後に、少しだけ挿話を語るとしよう。
時は僅かに巻き戻り、二人の魔人から鷹が少年を救いだした、まさにその瞬間のお話だ。

これはミッドバレイ・ザ・ホーンフリークが病院に至り――、語るも無惨な一連の惨劇の引き金を引く、その直前の掌編である。


彼の耳には、確かに声が届いていた。
そこは病院と呼ばれる建物の前で、何があったのか、命を救うための場所にしてはあまりに酷い有様を見せつけている。
けれど、この中には確かに人がいる。
音界の覇者に聞きとれぬ音はなく、故にどれだけ沈黙を守ろうとも全ての人間の居場所は彼の前に丸裸だ。

自棄にも近い心情のまま、音界の覇者は赤十字の社に踏み入ろうとし――、しかし、何故かそこで立ち止まる。
どうしてかは分からないが自分のすぐ近く、いや、まさに彼の懐にとてつもなくおぞましい何かを感じ取ったからだ。

デイパックを開き、中から二つのものを取り出す。

ひとつは、片手で演奏できるよう編曲された誰かの手書きの楽譜だ。
それだけなら別に、取るに足るものでもない。

しかし――、取り出したるもうひとつはあまりに不気味にすぎた。
深紅の卵のようなそれは、ただじっと、その楽譜を見つめていた。
前に確認した時には確かに目や鼻、口が無造作に配置されたアクセサリーでしかなかったはずだ。

なのに、今は。
いつのまにか、まるで人の顔を模すように在るべき姿へと変化したそれは、楽譜から全く目線を動かさない。

その様相がまるで生きているかのように感じられて、覇者は肌を引き攣らせる。。
あんまりにも不気味なその光景に耐えかねて、唾を飲み込み乱暴な所作でそれらをまたデイパックに放り込んだ。

……何も、見なかった。
単なる夢幻、白昼夢。
自分にそうだと言い聞かせて、瓦礫を蹴飛ばし歩き始める。

人外の少女の巻き起こす惨劇の、その扉を開くために。


――『人の身では覆せない運命に屈した男』が握るのは、『人の身で運命に立ち向かう少年』と『人の身を捨てる運命に選ばれた青年』の未来の象徴。
果たして彼らの道が交錯する事はあるのだろうか。
そして、道が交錯したならば、その時に何が起こるのだろうか。

確かに言えるのはひとつだけだ。

これはきっと、偶然ではない。

558 ◆JvezCBil8U:2009/11/28(土) 16:31:18 ID:RwaP6N1c0
以上、投下終了です。

559名無しさん:2009/11/28(土) 17:17:50 ID:7fLWwZz60
さるった
可能なら残りの投下をお願い

560 ◆JvezCBil8U:2009/11/29(日) 14:16:25 ID:7QMUMk8c0
解除がいつになりそうかも分からないので、この場を借りて感謝。
代理投下して下さった方、本当にありがとうございました。

561Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:52:17 ID:Sp8loFX60


鈴子は、こういうなれなれしく近づいて来る人間が大嫌いだった。
こういう人間は、必ず鈴子を利用する為に近づいて来るのだ。
お金、名声、力……そんなものだけが目当てで、声をかけてくる人たち。
そんな人たちは結局、鈴子の気持など考えておらず、自分の都合のいい道具としてしか扱われる事はないのだ。

大方、鈴子の力を利用しようというのだろう。
もしくは、ロベルトがいない事をいい事に十団に対する恨みでも晴らそうというのか。


「そうは参りませんわ……」

スケートの要領で右脚首を捻り、方向転換。
進路を別に取る。

「ま、待ってよ、鈴子ちゃーーーん!!」

妙に後ろ髪を引かれる、切羽詰まった声。
もし相手が少女一人であれば、鈴子は立ち止まって話くらいは聞いてしまっていたかもしれない。
鈴子・ジェラードは基本優しい人間なのだ。
だが、相手は三人。
もし襲われでもしたら、抵抗は難しい。
うかつに近づくわけにはいかない。
そして続く絶叫が、鈴子の心境を決定付ける。

「わ、わた……私……私、植木を殺しちゃったのぉーーーーー!!」

――っっ!!

殺した……植木耕助を?

十団を内部から壊すべく仲間入りした男とはいえ、顔見知りの人間が死んだという情報は鈴子の心を大きく揺さぶる。

(どこで十団内部の事情を聞きつけたか知りませんが……そんなことで私に取り入ろうだなんて……
 下種としか言いようがありませんわ)

接触する価値なし。
少女に侮蔑の眼差しを送ると、そう断じて鈴子は滑るスピードを速める。
そして角を曲がろうとした瞬間――――そこに人がいる事に鈴子は気付く。

その場に響きわたる二つの悲鳴。

一方は喪失と絶望に慄く悲鳴であり……
一方は驚愕と悔恨に彩られた悲鳴であった。


遠目にその光景を見ていた森たちが駆け付けた時、その場に残されていたのは白い裸身を血に染めてのたうち回る少女と、
一本の切断された腕だけだった。


       ◇       ◇       ◇

562Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:53:15 ID:Sp8loFX60

「どうしましょう……私、なんてことを……」

鈴子は動揺していた。
さきほどの、交錯の一瞬。二人が起こした反応は同一。
ぶつかりそうになったから、手を出して衝撃を抑えようとした。
ただの反射行動だ。そこに悪意や害意が存在するはずがない。
身の軽い少女同士の激突など、悪くてもしりもちをつく程度。
何の問題もなかったはずなのだ。

そう、鈴子の四肢が刃となってさえいなければ。

まるで切れ味の鋭い包丁で、大根でもぶっ切ったかのような感触。
初めて人を切った感触は、残酷なほど味気なかった。
鈴子の腕には血糊一つついておらず、ともすれば先ほどの事は幻ではなかったのかとさえ思ってしまう。

「ロベルト……私は一体、どうすれば……」

そうだ、私の持ち物の中には血止めに使える手ぬぐいや、どんな怪我にでも効くという妖精の鱗粉があります。
さすがに腕を繋げるほどの効力は見込めないでしょうが、命だけは取り留める事が出来るはずです。
今すぐに戻って彼女の手当てをしましょう。
鈴子の中の感情的な部分が囁く。
そんなつもりはなかったとはいえ、あれは自分の過失。
例え許してもらえずとも、誠心誠意償うのが当然の事だと。

だが、鈴子の理性はそんな感情論には流されず、反論を試みる。
いいえ、確かに治療をすれば彼女は助かるかもしれません。
ですが今戻れば、あの三人組とはち合わせるのは確実。
あの殺し合いに乗った三人組と戦いながら、彼女の手当てをするつもりですの?
それにこの身はロベルトに「空白の才」を届けると誓った身ではありませんか。
覚悟を決めなさい、鈴子・ジェラード。

心中を苛む二つの意見。
滑走しながら思い悩む鈴子は目の前にひと際大きな建物を見つける。
図書館。
落ちついて思案するには打って付けの建物だった。

「そう……ですわ、まずは落ちついて……良く考えてから決めましょう……」



【H-08/図書館前/1日目 午前】

【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10
[思考]
基本:このゲームの優勝賞品が空白の才ならそれをロベルトの元へと持ちかえる
1:あの女の子をどうするか考える
2:他人は信用できない。
3:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
4:ビーズやその他の道具を確保する為に、デパートに向かう。
5:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
6:この戦いが空白の才を廻る戦いであり、自分に勝てない参加者がいるようなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。

563Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:53:51 ID:Sp8loFX60



       ◇       ◇       ◇



「そんな……どうして? 鈴子ちゃん……」

気絶した少女を前に、森は呟く。
その呟きに答えたのは、少女の容態を見ていたキンブリー。

「彼女も殺し合いに乗った……ということなのではありませんか?」

「そんなっ! 嘘ですっ鈴子ちゃんが……」

「ですが……実際血止めはしましたが、この少女はもはや死に体。知っていますか?
 戦場でもっとも有効なのは、敵を生かさず殺さず、負傷兵を生み出して相手の行動の自由を奪う事。
 なるほど、あいさんのお話通り、実にクレバーなお嬢さんだ」

自分なら全てを完璧に吹き飛ばしますがね。と心の中でキンブリーはつぶやく。
まぁ、実際のところただの偶発的な出来ごとだったのだろう。
この裸の少女にとっても不幸だっただろうが、彼女にとっても恐らく不幸な出来事。

「素晴らしい切断面だね。これがスパスパの実の能力って奴かな
 鈴子・ジェラードくん……面白いね、是非戦ってみたくなったよ」

少し遠くに切り飛ばされた少女の腕を持って、趙公明が近づいて来る。

「止めてよっそんな……鈴子ちゃんと戦うだなんて……」

森が趙公明をポカポカと叩く。

「ハハハ。やめたまえ、ガンスリンガーガールあいくん」

「変なあだ名で呼ぶなぁーーっ!」

「ではガンスリあいくん」

「略しすなーっ!」

趙公明の軽口に思わず激昂する森だったが、彼の持つ少女の腕を見て我に帰る。

「そうだ、キンブリーさんお願いっ! この子の腕を錬金術で治してあげて」

「……あいさん、私は優勝狙いなのですよ。確かに哀れではありますが、結局全員死んで頂かねばならないのですが……」

「だってっ! 私、まだその錬金術って奴見てないもんっ! 本当に生き返らせる事が出来るなら、腕くらい治せるでしょ!?」

……生き返らせるにも、色々条件があると説明したのを忘れたのでしょうか。
まぁ、所持品どころか、身ぐるみすら剥がされた上に片腕の欠損した少女など、さすがに利用価値すらないと思っていたが
森あいがそれで完璧に私を盲信するようになるなら、それはそれで使い道が出来たと言えるでしょうか……
この切断面であれば、合成獣と少女を融合させた時の要領で、細胞同士を融合させればなんとかくっつけることは可能でしょうし。
動くかどうかまでは保障できませんがね。

「……いいでしょう、ではその腕を持ってきてください。」

キンブリーはゆのの身体と腕の接合面の下の大地に、小さく練成陣を描く。
迸る練成光。

564Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:54:50 ID:Sp8loFX60

「凄い……これが錬金術……」

血の気が引いた白皙の肌には、傷一つ残っていなかった。
森が初めて目にする錬金術の奇跡。

(おや、血がコートに……)

先ほどの練成の時にでも、袖口に付着させてしまったのか白いコートに赤い染みが付着していた。
キンブリーはそれがスーツにまでしみ込まないように素早く脱ぐと、ゆのの上に被せてやる。
見る見るうちに、血を吸って赤く染まっていくコート。

「……ありがとう、キンブリーさん。私のお願い聞いてくれて……」

「いいのですよ、錬金術師よ、大衆の為にあれ。
 錬金術師としての常識です。
 ……ですが、その娘をこれからも連れ歩く事は出来ませんよ。我々にはやらねばならない事があるのですから」

「……わかっています」

森の顔つきが変わる。
堕ちたな、とキンブリーは感じた。

その時である。

『Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy! Tough Boy!』

彼らが後にしてきた南の地より、混乱と混沌を感じさせる風が吹く。
その風に乗り、彼らはどう動くのか。
一つだけ言えるのは、彼らがその風に乗った時、風は嵐となり、台風をも超える暴風がこの島に吹き荒れるかもしれない
ということだけである。

【H-08/三叉路付近/1日目 午前】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶
[服装]:キンブリーの白いコート
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:???
1:ひだまり荘に帰りたい。
2:
[備考]
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが付近の路地裏に放置されています。
※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。

565Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:55:36 ID:Sp8loFX60
【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指す(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:白いスーツ姿
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2 小説数冊、錬金術関連の本
   学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいを利用して他の参加者を欺く
5:参加者に「火種」を仕込みたい
6:入手した本から「知識」を仕入れる
7:ゆのの腕がちゃんと治ったかどうか森が知る前にこの場を離れる
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。

【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(中) 精神的疲労(中)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
[思考・備考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました
※キンブリーの話をどこまで信じているかはわかりません

【M16A2(30/30)@ゴルゴ13】
アメリカ軍が現場の意見を採り入れ、旧型化したM16A1に近代化を施した傑作突撃銃。
ゴルゴ愛用の物かどうかはわからない。

566Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:56:27 ID:Sp8loFX60
       ×       ×       ×


罰が当たったんだ……人殺しの私に。

どうしよう……お母さん。
腕が、利き腕が、なくなっちゃったよぉ……

ささやかに夢見ていた私の未来。
今はまだ、何をしていいかもわからないけど、美大に入って……やりたい事を見つけて……
それでみんなともずっと一緒……


でも、ヒロさんが死んじゃって……私も腕がなくなっちゃって……
もう、無理なんだ。
私の夢は、形を持つことすら許されなかった……

「無理じゃないよ……ゆのさんには出来る。信じて……」

えっ? 誰?
突然掛けられた声に、ゆのは振りむこうとするが身体が動かない。

背中に当たる、柔らかい感触。
風に揺れる、見覚えある髪の毛が先っぽだけ見える。

「え、ヒ……ロさん?」

ゆのの問いかけに、くしゃりと笑う声が応える。
そっか、夢の中まで会いに来てくれたんだ。
ありがとう、ヒロさん……

明晰夢。
沙英さんあたりからかな、聞いた覚えがあるよ。
夢を夢と自覚する夢。自分の都合のいいようにコントロール出来る夢だって。
神様からの、最後の贈り物なのかな……
それとも、私ももう……

私は力を抜いて、甘えるようにヒロさんにもたれかかる。
普段なら、さすがにこんな事は出来ないけど……えへへ、夢だしいいよね。
私が本当に寝ちゃうまで……死んじゃうまでずっと一緒に居て貰おう。

「ごめんね……それは出来ないの。私はもう行かなきゃいけないから……
 それにゆのさんはまだ死なないわ」

私の手に、ヒロさんの手がそっと重なる。
あ、なくなったはずの腕がある……夢って凄い。

「きっと、大丈夫……だから、信じて。
 絶対生きて帰れるって」

祈るように、信じるように、ヒロさんは囁く。
握られた手が暖かい。
そんな温かさに溶かされるように、私は心の中の重荷を口に出した。

「ヒロさん……でも、私は人殺しなんですっ!
 それが凄く苦しくて……辛くてっ!
 もうこんな嫌な思いしたくない。痛いのも、怖いのも、もう嫌なんです。
 このままずっとヒロさんと一緒にいたい……」

567Guilty or Not Guilty ◆UjRqenNurc:2009/12/02(水) 00:57:28 ID:Sp8loFX60
「……それでもゆのさんには生きていて欲しいな……そして、沙英の事を助けてあげて」

「沙英さんを、私が? そんな、無理です。
 それに私なんかが助けなくても、沙英さんならきっと……」

「ううん、あの子は強そうに見えるけど繊細な子だから……誰かが傍にいて上げなきゃなの。
 こんなこと、もう……ゆのさんにしか頼めないから……」

ヒロさんの身体が離れていく。
振りむこうとしても、私の身体は動かない。
どうして!? 明晰夢なのに、思い通りになるはずの世界なのにっ!

「いかないでっ!! いっちゃやだぁ!!」

「ごめんね……私も、もっとみんなと一緒にいたかったな……
 一緒におしゃべりして、みんなに私の作ったご飯を食べて貰って……凄く幸せだったよ、ありがとう」

「ヒロさんっ! 待ってっ!」

動かない……身体が動かないよぉ。
もう会えないのに、お話出来ないのに、どうしてぇっ!

私はこれが夢だって事も忘れて、もがいて、もがいて……そして……何も聞こえなくなった。

568名無しさん:2009/12/02(水) 00:58:13 ID:Sp8loFX60
以上、投下終了……もう寝るぅ

569 ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:24:16 ID:0n2wRd4s0
冗談抜きで規制が解かれない気が……。間違いなく一ヶ月たってるのに。
毎度毎度本当に申し訳ないのですが、代理投下をお願いしたく思います。

570弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:25:25 ID:0n2wRd4s0
風が吹く。 
轟と鳴く。
道を駆る。
地を穿つ。
空に踊る。

切り裂く大気に舞う木の葉は弾け飛び、決死の挟撃を巨躯は腕の一振りにて薙ぎ払う。
死合いを望む兵(つわもの)の妄執はつとに強く、渾身万力の痛恨撃はまたも果たせず。

これより先に、一切合財の言葉は不要(いら)ず。
ただ己が肉体を以って討ち克つのみ。
そこに在る事実を以ってして、命の炎を瞳の奥に焼き付けよ。



真っ直ぐに掘削し続ける右の剛槍。
それは跳躍した踊り手に触れる事はなく、彼であり彼女でもある者は静かにその上に降り立った。
Ta,tatatata,ta! とそのままに腕の上を助走し跳べば、真上から流星が降り注ぐ。

だから、不死の名を冠するものは左手を閃かせた。
左の白刃を宙の一点へと投擲する。打ち上げる。

流星は落ちず、踊り手は無様に体を捻る。
その脇を通りすがって、銀の閃光は遥かな青の向こうへ消えていく。

しかし、好機。
獣の視線は高みに向けられて、その左の腕には掲げられたまま武器もない。
土手っ腹のすぐ側ががらんどう。

侍は駆け抜けながら一閃を振り抜く。
されどその手に手応えはなく、転換する最中に不意に影が頭上に満ちた。
獣は空を支配して、砲弾の如き剛腕にて侍ごとに大地を抉る。

土くれの爆ぜる有様は、まるで大輪の花火のよう。
しかしその中に赤の色はなく、薄紙のように侍は風の上を走る。

飛翔。

ふわりと浮かびて木立に乗れば、空飛ぶ獣と視線がカチあう。

大上段に剣を構え――断ち割らんと。

その行為を見ると、獣の口端が吊り上がり歪んだ。
振り下ろされるその直前に、びきびきと獣の右腕が膨れ上がる。
握られた剛槍を独楽の如く振り回し、今まさに鎌鼬を繰りださんとする侍へ。

速い。
ひた速い。

防御は不能。受ければ即死。
されば、許されるは後退撤退逃げの一手に他ならず。

眼前を鉄の塊が掠めゆく。
良し、と頷いた。
円周運動は速く強いが、しかし生まれ出る隙もまた大きい。

背中が見えて、枝から駆ける。
獣の背後へ回り込むのは容易く、死角よりその心の臓を縫う。

571弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:25:47 ID:0n2wRd4s0
……それを叶えようとした瞬間、気付いた。

ごき、という嫌な音がする。
天より堕ちる最中の踊り手に、剛直が叩き付けられていた。
独楽回しはこの為に。
一石にて二鳥を撃ち落とすその為に。

ロケットでも付けたように横に吹っ飛び、ギャグ漫画のように壁にめり込む。
濛々と立ち込める白煙は防火対策の漆喰の残骸か。
工場の壁としての役割は、十分果たしているだろう。
その壁の白も、じくじくと赤に染まっていく。
白煙の中は見通せず、しかし投げ出された左脚はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。
ひしゃげ、潰れた肉の残骸からは、砕けた骨の先端が突き出し、千切れかけてさえいる。
おまけと言わんばかりに、崩れた壁の残骸が踝から先を押し潰していた。

もう二度と、両の脚で大地を踏みしめる事はない。

侍の一つ目顔が、歪む。叫ぶ。
滞空中に自由が効かぬはまさしく道理。
故に獣は、笑ったのだ。
仲間を助ける事を忘れ、自分に一撃を入れる事に専心した侍の心に。

責められる事ではないだろう。
むしろ、そこに思い至る方が難しい。
ただそれでも、獣が嗤うには十分すぎる理由だった。
侍が己の判断力を鈍らせるには、十分すぎる理由だった。

獣の嘲りは止まらない。

よくもまあ、こんな空前の機会に攻撃を仕掛けぬとは!


侍が状況を思い出すと同時。
獣は空に左手を掲げ、丸太より太く鋼より強いその掌を叩き付ける。

既に覚え見たリーチを考慮。
避けることが可能と判断。
カウンターする転換点を把握。

バックステップ。
爪をぎりぎりで掠めて跳躍回避。
振り戻しを警戒しつつ、こちらからの反撃の起点とする。

それを成さんと一歩踏み込み、気付く。


振り抜かれた獣の拳に、眩く煌めく星ひとつ。


彼の手に握られるは先刻虚空へと消えた、秋水という名の希代の業物。
真っ直ぐ上昇して最高到達点まで辿り着いたものは、重力加速に従い落ちる。
従って、獣がその場を抑え続けていれば、当然の如くそれは空に掲げた手に収まる。

さてさて。
獣の爪の間合いを把握していたはずだったから、ぎりぎりで避けられた『はずだった』。

572弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:26:20 ID:0n2wRd4s0
……けれど。
もし、獣のリーチが刀一振り分追加されていたとしたら?

嫌な想像を振り払うために、侍は恐る恐る目線を下に向けていく。


真っ赤だった。
それでいて、いろんな赤がそこにあった。


ぱっくりと、横一文字に腹が裂けていた。
皮一枚でなく中身ごと。


一人はずるりとただ呆然と、力なく弱々しく尻をつく。
一人は血まみれの頭で目を剥き出して、怒りとも悲しみともつかぬ顔。
一人は肉の感触に喜色を浮かべ、狩りの充足に雄叫びを。

三者三様の反応はしかし、共通理解に由来するもの。

嗚呼。
放っておけば、もう長くない。


――不意に。
崩れた壁の向こうから、か細くも強い意志を込めた声が挙がった。

そこにいたのは、少女だった。
麦わら帽を抱き締めて、息絶えた少年をせめて埋めようと背負っていた少女だった。

少女は涙を零しながら、それでも懸命に立っている。

少女は、臓物を押さえ込む侍を見る。
少女は、二度と歩けぬ踊り手を見る。
少女は、彼女の闖入に水を差され不快を露わにする獣を見据える。

そして、躊躇いなくひしゃげた十字架を構え、放った。

直撃。

ロケットランチャーの爆炎が不死なるものを浄化する。
野太い赤子のような絶叫が轟いた。

炎の森が屹立し、不死の獣がその向こうに消えていく。


黒い煙が漂うその中で、踊り手はただ呆気に取られてオレンジ色に照らされる少女を見つめる。
そしてようやく、麦わら帽に目を止めた。
目線を下げて、静かに下ろされた一人の少年の眠る姿に息を呑む。

少女は踊り手の思わず呟く名前に耳聡く、絡まる視線と僅かな会話。
二言三言のやり取りで、十二分に互いの状況を把握した。
“彼”を知っているならば簡単に想像がつく。

そして“彼”の友であったからか、その生き様に感じ入るものがあったのだろう。
少女が毅然と告げるのは、紛れもない守る決意。戦う決意。
出会った時点から、彼ら彼女らは既に友としての絆を持っていた。
それが“彼”の残した最後の秘宝。

573弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:26:42 ID:0n2wRd4s0
踊り手の瞳に涙が浮かぶ。
友は逝った。だけど、その意思は自分たちの中に確かに息づいている。

安堵の吐息。
……そして、命の灯火の弱りつつあるもう一人の友を救わんがために、そちらの方に目を向ける。

その瞬間。
侍は目を見開いて、必死の形相で言葉を口に。
力なく片手で振るわれた風の刃が、少女に向かって突き進んだ。
碌な握力もない故に、すっぽ抜けた剣はざくりと踊り手のだいぶ手前に刺さって止まる。

爆発。

風と鉄がぶつかって、少女の数歩手前で花開いた。
オレンジの膜のあちら側から、手榴弾のプレゼント。

少女の肢体が、フッ飛ぶ。
直撃は防がれた。しかし無傷なはずもなく。
ごろごろ転がり泥に塗れて、ぴくりと痙攣を繰り返す。


おおぉうるろろろろろぉおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉぉおおおおぉおおおぉぉっ!

歓喜の咆哮が満ち満ちた。

橙の薄膜に黒い影が映し出される。
その身を炎に包みつつ、ずるりとそこを抜け出てきたのは言うまでもなく、狂戦士たる獣の巨躯。
剛槍ごとに右腕の半ばから先は行方が知れず、しかしだからこそより凄惨な威圧を伴って、蹂躙者は闊歩する。

あちこちに破片が付き刺さったままの少女は傷だらけ。
耳から血さえ流れている。鼓膜が潰れたのだろう。
下手をすれば三半規管さえイカれたのかもしれない。
がくがくと体を震わせて、立とうとしてもその場にすっ転ぶ。

そんな有様でも、彼女は、この場にいる四者では最も軽傷だった。
腹から見えてはいけないものが覗いている侍と、
武器であるはずのその足さえ使い物にならなくなった踊り手と、
傷つきなお覇気を昂ぶらせる獣と。

故に彼女が戦わねば、守りきれない。
そして、既に彼女を戦士と認めた不死の獣も、逃がす気などとうにない。

立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。

吐いた。
自分の吐瀉物の中に倒れ込んで、すえた臭いが少女を打ちのめす。

574弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:27:00 ID:0n2wRd4s0
無駄だ。
所詮は人の身だ。
これ以上の戦闘の継続は全くもって不可能。

なのに少女は、自分にできる事を望む。
ボロボロと涙をこぼしながら、子供のように嗚咽を漏らして。

あまりにもみっともなくて無様なのに、踊り手はどうしてかそれが美しく思えて仕方なかった。

そう、そうだ。

“彼”が命を賭して守りきった少女を、生かさなければならない。
自分と同じ曖昧な存在である侍を、救わなければならない。

友とは、そういうものだったろう?

友だから助けるのではない。
助けたいと思える相手こそが、真の友なのだ。

こんなところで這いつくばって何をやっている。
足が潰れた?
それがどうした。
勝ち目が見えない?
それがどうした。

己を立ち上がらせるのは肉体などでなく友情の力だ。
使えぬ足などくれてやる。

ぎり、と歯の根を噛み締めた。

潰れた足を、壁の破片で切り落とす。
ぐちょり、ぐちょり。
筋繊維が削られる嫌な音がして、赤い水溜りに肉片が混じっていく。
使うのは切れ味などナイフに及ぶべくもない石の塊だ。
文字通り自らの体と命を削る度に、この世のものと思えない痛みが走る。
一往復の度に意識が深い闇の中に沈んでいきそうになる。

ごきゅ、と硬い感触がする。
砕けかかった骨の残骸だ。

はぁ、はぁ、はぁ、と荒い呼吸が踊り手本人の耳にやたらと響いた。
もうこれを砕けば、二度とこの足は戻ってこない。
腕が震えて、振り下ろせない。

――途端。
幽かな力ない音が、踊り手の下へ届いた。

中身が零れるのを手で抑え、侍が立ち上がろうとして失敗した音だった。
無理をしたからだろう、意識もなくうつ伏せに倒れているのが目に入る。


何かの切れる音がした。
全力で右手の石を、意思を、意志を、振り下ろす。

砕け千切れた。
自分の体だったモノが、もう自分ではないモノとして打ち捨てられていた。

575弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:27:21 ID:0n2wRd4s0
切断面から温かい血が流れ出ていく。
寒い程の喪失感が、沸きたちかけていた頭を完全に冷却した。

するべき事は明確だ。
匍匐するかのように地に伏せリ、進む。
這いずり、這いずり、這いずり――“彼”の友の傍らへ。

土と血に塗れて、炎に身を焼かれながらも血反吐を吐いて辿り着き、掴む。

それは先刻、侍の手放した風の剣。
精霊の力を担い手に与える不可思議の舶来品。

その剣を失った左脚の代わりにするかのように――、

豆腐のようにぐずぐずになった切断面へと躊躇いもなく突き刺した。

奥へ、奥へ、奥へ。
肉を貫き骨にめり込み神経を断ち割り、砂に指を埋めるように剣と脚が癒合していく。

それは足と言うにはあまりにも醜すぎた。
醜く、細く、軽く、そして大雑把すぎた。
それは正に“赫足”だった。

残る右足を楔として、地面を叩き勢い付けて体を起こす。
ぐらり、と軸がブレた。

……が、倒れない。
ぶしゅう、と切断面から流れる血の勢いが、なお増した。

剣の柄が――、しっかと大地を踏みしめている。


獣と踊り手の、目と目が合った。

途端、獣の姿がブレた。

ほぼ同時に、柱が踊り手にめり込んだ。
否、柱ではなく太い尾だ。翼の加速を用いての粉砕撃。
またも踊り手は吹っ飛んだ。

歓喜の表情を獣は浮かべ、あろうことか激さえ飛ばす。
立ち上がり、楽しませて見せろと。

大の字で宙を飛ぶ踊り手の勢いが、不意に弱まった。
風が渦巻き、木の葉がその背の後ろに集まる。その場所だけは周囲の部分より確かに明るい。
光の屈折力を歪めるほどに高密度に圧縮された、空気のクッションだ。
白い空気の渦はそこだけでなく、剣本体の周りにも纏わりつき――、ガラスのように足の形状を形作る。

みるみる速度を落とし、ふわりと降り立つ踊り手。
鼻は潰れ、右手の指は木の枝のように折れ曲がり、アバラも半分近く砕けた。
それでも闘志は衰えない。
肉の足と空気の足、両の足を踏みしめ、駆ける。

576弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:27:43 ID:0n2wRd4s0
あぎとを大きく開いた獣の口が、眼前に迫っていた。
その上を越えるように、跳躍。
獣の額に右の手刀を繰り出すも、相手の動きは止まることなく。
勢い任せに突っ切られ、嫌な音と共に右の腕が千切れ飛んだ。

にぃ、と、表情だけで踊り手は笑う。
それでいい。
どうせもともともう使い物にならなかった右腕だ。
なら、こうして『方向転換』する起点の役目を果たしてくれただけで十分だ。

今自分がいるのはまさしく頭上、完全な死角。
無駄な思考はこれ以上は余計に過ぎる。
今はただ、全身全霊で穿つのみ。

旋風が吹いた。

踊り手の左足に、周囲の空間全ての大気が収束していく。
竜巻とも呼べる勢いで構築された左足が伸長し、白鳥の形状を織り成した。

“爆撃白鳥――ボンバルディエ”

アラベスク、と踊り手の口が動く。


獣の残った右角が、半ばから砕け散った。

右腕の残骸が、塵と化した。

左の掌から、指が2本消え去った。

左の脛に、嘴の鋳型が刻まれた。

右足の裂傷が、抉られ赤霧を生み出した。

両の頬肉が、何処かへと失われた。

右の胸の背に、クレーターが作られた。

左の眼と耳が、完全に潰された。

翼がまるで、チーズのように穴だらけになった。


気体を圧縮して作られた白鳥は、鋼鉄製のそれの欠点である「返り」すら克服。
引導を渡す一撃を左胸に狙い澄まし――、


だが、それでもまだ足りない。


砕け散った角の先端が、獣の掌に握り込まれる。
急降下して地面に脚を着けば、鋭角ターンが成立する。

音速超過の水蒸気の帯を引きずって、投擲。

白鳥と角が正面衝突した。

凄まじい圧がその場の全てを薙ぎ払う。

577弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:28:06 ID:0n2wRd4s0
炎の最後の残り香が、白く煙り虚空を満たした。
焦げる血の臭いが澱のように降り積もり、全ての生物の嗅覚はとうに機能しない。


風が吹く。
停滞した全てをリセットするかのように。

鉄と漆喰と森と土に囲まれた焼け野原が、姿を露わにされていく。

屠殺場のような血溜まりだらけのその光景の中央に。

まさしく、不死(ノスフェラトゥ)と呼ぶべきバケモノは、轟然とそこに屹立していた。
膝をついて砕けた臓器の欠片を血とともに吐く、踊り手を見下ろして。


僅かな呟きの時間が訪れる。
不死の獣は、悦びのあまりつい口を緩めるのだ。

奇しくも己の体に傷を付けるほどの足技使いと、一日の内に二度も巡り会う希有への感慨を。
そう、先に戦ったあの男の生き様と散り様を、独りごちる。


踊り手は、それを聞き届けた。

顔を、かつて己を打ち破った料理人のそれへと変える。
確かめの言葉を問う。
果たしてあの友の命を奪ったのは貴様なのかと、普段の口調からは想像できぬ程の重く静かな声で。

肯定の言葉を獣が告げると同時。


踊り手は、不死の狂戦士を完全に凌駕した。


気がつけばその生身の足が、獣の胴に突き刺さっている。
ぐらり、と獣の体が揺れた。
更に深く深く踏み込み、通りすがりながらにオーバーヘッドキック。
顎を打ち上げ、獣の顔は天を見上げる。
左拳を更に腹に撃ち込んだ。
弾かれる勢いを利用し、回し蹴り。
頭突きに繋げ、更に蹴る。
蹴る! 蹴る! 蹴る!
蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!
体を沈め、脚をバネと変える。
跳躍。
しかしそれは高く跳ぶ為ではない。
体全体を使っての突撃行。
インファイトによる超高速連続攻撃を実現させる。
先刻までのヒットアンドアウェイではなく、獣に攻撃する暇も与えず倒しきる!
鎌鼬が踊る。
真空の刃が、一度の蹴りで十を超える裂傷を生む。
その一度は一度で止まず、流れるように五月雨をもたらす。
わずか数度の交錯で、軽く百を超える傷が獣に刻まれた。
回復速度をはるかに超える連撃に、さしもの獣の鉄の腹もとうとう保たず裂けていく。
――思い出す。
あの煙草を咥えた料理人の事を。
蹴りと蹴りの交換を行い、絆を深めた友達の事を!

578弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:28:29 ID:0n2wRd4s0
肉体の動きがさらに加速した。
視界がまっしろに霞んでいく。
跳び上がり、“首肉”に一撃を。
続けざまに“肩肉”を破断する。
落ち様に死角に回り込み、“背肉”を叩き潰した。
止まらない。鈍い音が“鞍下肉”から響く。
股下を潜る。無警戒な真下より“胸肉”を強襲。
反動を利用した勢いにより、“もも肉”が砕ける。
イメージはより精細に正確に。
あの戦いの時を再現するならば、それの再来も必然か。
場の全てのそれを集束した大気の塊が、獣の背の向こう側に確かなヒトカタを構築していた。
それは虚ろな幻にすぎず、しかし確かな質量を以って料理人の影を成す。
散った漢の想いを背負い、涙流して有漏路発つ。
いつか旅の行き着く先にて、共に愛でよう艶花を。
“爆撃白鳥羊肉ショット 追加一人分”
踊り手と料理人による必滅の挟撃。
爆散。
不死の獣の胴体が1/3以上、ごっそりと持っていかれた。
終わらない。終わらない。
まだまだフルコースは終わらない。
踊り手と料理人は宴にてともに舞い踊る。
“肩ロース”血と汗とが青い空に跳ねる様は、まるで桜吹雪のよう。
“腰肉”斬る風は鋭く、しかし決して荒々しくはなく。
“後バラ肉”実に雅で儚い一瞬を描き出している。
“腹肉”この巡り合わせが運命の糸というならば。
“上部もも肉”手繰り寄せられた幸運にだけは感謝を。
“尾肉”残していくものへの懺悔もある。それだけが心残りだ。
“もも肉”だが、それでも信じよう。
“すね肉”この場を切り抜けさえすれば、助かる目はまだ残っているのだから。
だから、全力を以ってこの化け物を倒すことこそ自分の役目。
友よ、友よ!
すぐそちらに行く。
その時にはきっとまた、ともに歌い、杯を交わし、楽しく語り明けよう。
だから、その為にも――、
料理人が下拵えをしていた内臓肉へ、とっておきの“最高の一皿(スペシャリテ)”を。
“アラビア風(アラベスク)爆撃白鳥仔牛肉ショット 二人前”
散華せよ。










すべてのいろがしろにそまるなかで、むぎわらぼうとたぼこのけむりのふたつがみえた。










**********

579弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:29:07 ID:0n2wRd4s0
 
『ボンちゃんが最後の一撃を叩きこむと同時、地響きを立てて化け物の体が倒れ込んだ。
 そして、ボンちゃん本人も受け身も取らず地面に激突して、それきり何も喋る事はなかった。
 身動き一つさえ、する事はなかった。

 伝えるべき事はもう少ない。
 どうやら僕の命が尽きる前に、この手記を記しきる事が出来そうでなによりだ。
 時間がない。もう手を動かすことさえ厳しくなってきている。
 詳細な事も書けないし、妄想さえ含んでいるかもしれないけど、とにかく簡潔にその後の事を書いておく。

 喪失感に包まれるも、悲しみが麻痺したままの僕が、倒れていたままの少女―ウィンリィと名乗った―と目を合わせた時、それは起こった。
 凄まじい咆哮が周囲に満ちたんだ。
 僕とウィンリィは顔をひきつらせ、まさかという思いで体を震わせ、その方角を向く。
 そこでは、満身創痍で全身ボロボロ――僕以上に内臓が酷い事になり、右足を完全に引きずって、両腕さえ潰されているにもかかわらず――、
 あの化け物が空に雄叫びをあげていた。

 一度あの技を見ていなければ斃れていた、という内容の化け物の哄笑が響き渡る。

 もう、僕たちに出来る事はなかった。
 僕たちに許されていたのは、諦めだけだった。
 ウィンリィは座り込んで虚ろな目を何処かへ向けている。
 ……僕も、心情的にはほとんど同じだった。それでも体だけは、戦おうと動く。
 それが剣の道を生きてきた誇りだからだ。それだけが、よすがだった。
 ずるずると這いつくばりながらも、鞄の中に手を入れてバットを握り締める。

 その時だった。
 不意に、肩に手が回されたのは。
 ウィンリィが僕の体を引っ張って、強引に工場の中へ連れ込んでいく。
 僕が何を言っても聞こうとしない。いや、もう耳が聞こえていないのか。
 麦わら帽子を僕の知らない少年の上に被せて、どんどん暗闇の中へと。
 
 工場の孔が破壊され、こじ開けられる音が背後でしていた。
 あの化け物の巨体では小さな穴を潜り抜ける事は出来なかったのだろう、しかし時間の問題だ。
 ウィンリィは、とある部屋の前で立ち止まる。
 力がもうまともに入らない僕をその部屋――給湯室へと押し込め、彼女はごん、がたんと何か重いものを部屋の前に置く。
 鍵をかけるように僕に言うだけ言って、そのまま脇目もかけず走り去って行った。
 給湯室のドアに備え付けられた窓から見えるその背が、僕の見た最後のウィンリィの姿だった。

 そして、化け物の目の前に突撃し――銃撃。
 揺らいだ化け物に挑発の言葉をかけると、振り回される尾をかいくぐって背後へと回り込み、再度機関銃を撃つ。
 様々な機材が邪魔となって、化け物の行動を阻害していたから出来る行動だ。
 あるいは、ボンちゃんの与えたダメージがかなりの枷となっていたのかもしれない。

 そのまま化け物の拡げた穴に飛びこんで、日の光の下へ駆けていく。

 化け物もまた、躊躇わない。
 機材やらなにやらを全て力で吹き飛ばして、しかし脚を引きずりながらウィンリィを追っていく。
 かつての豪風のような速度は見る影もなく落ちていて、しかしじりじりと距離が縮まっていった。

 走って、走って、走って、何度も転びながらウィンリィは一心不乱に駆けていく。
 膝がボロボロになり、血が止まらずにズボンまで完全に真っ赤に染まった。
 けれど、やっぱり逃げ切る事は不可能だった。
 圧倒的な力で振るわれた腕と爪が、ウィンリィをとうとう捉える。
 木に叩きつけられたその時に、ウィンリィの腰から下はもうどこかに消え去ってしまっていた。

580弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:29:36 ID:0n2wRd4s0
 はぁ、はぁ、はぁ、と半分になったウィンリィの息が次第に弱まっていき、目から光が失われていく。
 けれど、それでも口元には笑いが残っていた。してやったり、と言わんばかりの悪戯めいた笑みだ。

 その事に化け物は気付かない。
 勝利に酔いしれ、天高く凱歌を謡っている。

 けれどどちらの耳も完全に潰れていて、誰にもその声は聞き咎められることはなかった。

 だから、それに気付いたのはもう、事が起こってからだったんだ。

 ウィンリィが小さく誰かの名前を呟いたと同時。
 ずる、と化け物の視界がズレた。

 疑問に思う化け物は、傾いでいく視界の中に、首から上を失った自分の体を発見する。

 ウィンリィの首から上も、胴体と泣き別れしている。

 そこはF-7、禁止エリアと呼ばれる場所だった。
 時刻は9時。

 とうとう今度こそ、完全に化け物は沈黙した。

 その場にあったのは一人の少女と化け物の、首なし死体。
 静かに日に照らされて、森の中は何ひとつ動く事はなかった。

 こうして――怪物退治は終わりを告げた。
 ボンちゃんと、ウィンリィ。二人がその命に代えて成し遂げた。
 
 そして最初に致命傷を負ったはずの僕が、こうしてどうしてか長らえている。
 けれど、やっぱりもう時間のようだ。

 せめて二人の事を残しておきたくて、僕はこうして筆を取った。
 これを誰かが読んでいるなら、どうか彼らの事を覚えておいてほしいと僕は願う。

 それでは、これで筆を置こう。
 確かな二人の生き様を記して僕も逝く。




 ……ああ、一連のそれが本当に起こった事だったら、まだ救われたのに。

581弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:30:00 ID:0n2wRd4s0
 僕にはもう、どちらが実際の出来事なのか見極められる判断力がない。
 こんな、悪夢としか思えない現象を書き記すのはやめておこうと何度も思った。
 だけど幻と片付けるには余りにも現実味がありすぎる。
 2つの記憶が混ざり合って混乱して、妄想と現実の区別がつかなくなっている。
 これから書いていく出来事と、これまで書いてきた出来事のどちらが正しいのかは、これを読む人に任せたい。
 

 ――そう、あれはボンちゃんが倒れた直後の事だった。
 山の頂上、神社の上を鷹のような何かが飛んで行くのを、その場にいる誰もが見つめていた。

 そしてまさしくその瞬間だ、世界が切り変わったのは。

 いきなり霧が湧いてきて、このあたり一帯を包み込んだ。
 おそらく、ボンちゃんと二人で確認した湖からの霧だったんだろう。
 目の前の化け物が歓びを露わにするかのように、この世のものとは思えない声で吼える。

 白一色に森と工場の中が満たされると、まるで日蝕が起こったかのように急激に暗くなり、周囲が冷え始めた。

 すると。
 濃霧の向こう側に、化け物の呼び声に応えたようにいくつもいくつもの異形の影が■れた。

 巨大な蛇のようなもの、ナ■クジのようなもの、蝶のよ■なもの、人のような馬のような■の、
 竜■よう■もの、一つ目■狼と人■■うなもの、形容■■ないもの、その他たく■■の怪物に取り囲■■■いた。
 さっきまで戦っていた化け物は、それらを指揮するかのように■■■■■■

 僕とウ■■リィは圧倒されて、そのおぞま■さに後ずさる。
 今■■■じた事のな■■怖が僕に満■た。
 それしか心の■■残っ■■■ず、ただひ■■らに逃げ■事を■んだ。

 ■■ンリィと手を取■■■■■■、工場の中■■■込む。
 ……■こから先の流れ■先刻書き記し■■■■同じ■。
 ウィン■■■■■給湯室に僕を■■■れると、一人奴らに向か■■■った。
 僕も■おうとした■■ど、もう■■■リィの力に■う事も出来■、されるがまま■■じ込められてしまった。
 銃声が連続し■■■、けた■ましい■■と金属■が響く。
 そして、嫌になるほどの静寂が満ちた。

 ……いや、■寂のようで、実はそうじゃな■■■。
 ぴ■■■ちゃと舌鼓を打つ■■■、子供■水たまりで跳ね■■うな音がしていた。
 その音が■■■■■■■ないから、僕は■くがくと脚を震わせ■■■■立ち■がって、壁に寄り掛■■。
 ■■してドアの窓までにじり■■、その光景をガラス越しに見た。
 見てしまった。

 そこではウィンリィが■され、嬲ら■■いた。僕は目の前■■■■■■■■■■を見て、■■■と■かできな■■た。
 ■を流して■■されるウ■■■ィは、強■■■を剥ぎ■■■■押し■さ■■■
 そ■■■て命ま■奪わ■■■■■く、■だの慰み■■■■■辱が、何も出来■■僕■無力■■■■
 ■在進行■でそれは■■■■■る。

582弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:30:26 ID:0n2wRd4s0
 こんな■■書くの■■■■■■■■■■緑色の■■■■■■■■■
 ■■こじ開け■■■孔へ■■■■血■■■■■■■■■■■白■粘液■■■■■■
 ■■■■産卵■■■■■■■■■■■■■■■だ。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■茸のよ■な肉の■■■■■■■■■■■何百も■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■イボ■■いた■■■■■■■■■■■イソギ■■ャク■■■■■■■■
 ■■■ビク■と■■■浮き■■太い血管■■■■絡み■■て■■■■■■■触手■■■■■
 ■■■■■■■肉の■■■■■■■■■器官■■■■■■■赤ん坊■■■■■
 ■■■■犯■■■■■掻き回■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■臭■汚泥■■■■■■■■■■
 ■■■■■恍惚の■■■■■■■■■■■■■■滴って■■■■■脳髄■■■■■■
 ■■捕まっ■■僕もあんな■■■■■■■■■女に生まれ■■■■■■■■■■■■■
 逃げら■■■■このバットで■■■■■■■限度が■■■■■■■■無理■■■■
 ■■■■■■■■■■玩具に■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■自決しか■■■

 覚悟は決ま■■。奴ら■■こに入って■る前にこの命■終わ■■■う。

 ■の前に、こ■だけは書■■おか■いと■■■■■
 ■■を読ん■人は志■妙と坂■■■、■田■■■いう人■伝え■■■■■■■■
 妙■ゃ■■■特に■■■■■■■僕■先に■■■■■■■■■■ごめ■■■い、さよ■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■生きて■■■■

 あ
 窓の外に




 目




 』



【Mr.2 ボン・クレー@ONE PIECE 死亡】

【ゾッド@ベルセルク 消息不明】
【柳生九兵衛@銀魂 消息不明】
【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 消息不明】


※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
 また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクは、Mr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままになっています。
 また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※シルフェのフード@ベルセルク、ブラックジャックのコート@ブラックジャックは、工場内に九兵衛やウィンリィの服とともにズタズタに切り裂かれて散らばっています。
 修復は不可能です。
※ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)が工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
※工場内の生産ライン付近に、デイパック(支給品一式×2、工具一式、金属クズ、不明支給品×1)と
 ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、が転がっています。 どちらも血や体液に塗れています。
※番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマムに手が触れられた様子はありません。
※工場内の給湯室に、デイパック(支給品一式、柳生九兵衛の手記)と改造トゲバット@金剛番長が転がっています。どちらも血や体液に塗れています。
 また、柳生九兵衛の手記には、簡単な彼女のプロフィールや人間関係、ここにきて得た情報、湖の霧について、一連の出来事の概略などが記されています。

583 ◆JvezCBil8U:2009/12/06(日) 00:31:36 ID:0n2wRd4s0
以上、投下終了です。
見たまま問題作と成りうる可能性があるので、ツッコミどころがあれば容赦なく指摘していただきたく。

584名無しさん:2009/12/06(日) 12:15:57 ID:pHhzymDI0
さるったのでどなたか続きお願いします。

585 ◆UjRqenNurc:2009/12/07(月) 00:29:35 ID:Sp8loFX60
エロSS投下してもよかとですか
採用案多数の場合のみ、本スレ投下します

586宴の、後 ◆UjRqenNurc:2009/12/07(月) 00:30:29 ID:Sp8loFX60
太陽は既に南中へと至り、鬱蒼と茂る若葉の隙間を木漏れ日が射す。
どこまでも広がる緑の中、300メートル四方ほどの空隙があった。
湖。
上空の霧は、既にない。
彼女にとっての、始まりの地。
悪夢はここに降り立った時から始まっていたのだろうか。

ストレートに伸ばした艶やかな薄い金髪が、陽光をはね返して柔らかく煌めく。
ばしゃばしゃと飛び散る水滴が水面を激しく揺らめかせると、無数の波紋が生まれて
水鏡に映る影が砕けた。


ウィンリィ・ロックベル。
異界へと引きずり込まれてしまった、機械鎧技師の少女。
結論だけを言ってしまえば、彼女は未だ生存していた。
この<宴>の正式な主賓ではない、異界からの稀人たちに彼女の命を奪う権利は許されてはいないのだ。
今は、まだ。


だが。
それでも今再びの<宴>を前に、稀人たちの気は逸る。
“主”の命が下る前に“味見”を済ませてしまうのも、無理からぬことであった。
望むがままを行う。
それだけを唯一の戒律とする彼らを御せるものなど、ただ、純粋な暴力のみなのだから。


胸元まで水に浸かる。
水面下に隠された白磁の肌に、いくつも走る緋色の線。
発育不良の幼馴染とは違い、健やかに成長を遂げた二つの膨らみや、柔らかな腹部に刻まれたのは彼女の知るどのような生き物の歯型
とも一致しない、おぞましい噛み痕。
そして、まるで身体に入ったものを全て吐き出してしまえと言わんばかりに、途切れる事無くあふれ出てくる月経が、
どろりと周囲の水を赤く濁らせる。
足がガクガクと震えた。

「やだ……やだよぅ……エドォ……」

湖と同色の瞳を硬く閉ざすと、一筋の涙が頬を伝う。
絞り出される、か細い声。
普段は無造作に晒している肌を、羞じいるように抱きしめる。
閉ざされた瞳の奥で、縋りつくのはようやく恋を自覚したばかりの幼馴染。
もはやこの島で、ただの一人となってしまった彼女の味方。

どくん、どくんと、臍の奥が疼く。
身の内を焦がす、汚辱感。
出来る事なら、この身を引き裂いて、肉片を裏返して、隅の隅までも擦り洗いしたい衝動に駆られる。
でも、それが実行出来るほどには彼女の精神は壊れてなくて。
ウィンリィはそれが堪らなく不思議で、悲しかった。

どくり

遠くなる、赤い背中。
手に馴染んだ、鋼の感触が思い出せない。

どくり

587宴の、後 ◆UjRqenNurc:2009/12/07(月) 00:31:03 ID:Sp8loFX60
代わりに彼女の上を通り過ぎて行った、幾多の異形たちの姿がフラッシュバックで蘇る。
大きな口のついたカエル。
醜悪な触手を突きだしたウミウシ。
無数に足の生えた芋虫。
そんなものがごちゃまぜになったような、言葉では言い表せない左右非対称のデザイン。
自然の生物ではあり得ない、悪夢の中ですら見た事のない化け物たち。

どくり

そんな悪夢がどれほど続いたのだろうか、時間の経過が判らない。
一日経ったのか、二日経ったのか、もしやすると、今この会場で残っているのは自分だけなのかもしれない。
音の消えた世界。
生の気配の、消え果てた世界。
ウィンリィは、そっと血を流し続ける陰部をそっと撫ぜる。

「は……ぁ……」

……柳生九兵衛さん。
束の間の、仲間。
元より致命傷を負っていた彼女は、むしろ幸せだったのかもしれない。
自分と同じ扱いを受けたとしても、それは既に肉塊となり果てた後の事。
女として、最悪の屈辱を感じずに済んだのだから。

そう、彼女には見られてしまった。
思い出す。その片方しかない瞳が、あたしを見てこれ以上ないほど見開かれた瞬間を。
異形に貫かれる魔悦に、あたしが恍惚の声を上げてよがり狂う姿を。

「ふぁっ!!」

洗う。
丹念に、丹念に。
汚れを全て洗い流す。
お腹の中の、熱ごと全部。

「エドォ、エド、エド、エドッ!!」

頭の中の、化け物の姿を必死で打ち消し、赤い背中を思い出す。
短いサイクルで吐かれる呼吸。
朱の色に紅潮する白く、艶めかしい肌。
はしたないほどの、 音の饗宴。
だが、無音の世界にいる彼女がそれに気付く事はない。
だから、そんな事で我に返ったりは、しなかった。
一心不乱に、エドの名前を呼ぶウィンリィ。
その意識がやがて白く弾けた。

588宴の、後 ◆UjRqenNurc:2009/12/07(月) 00:32:45 ID:Sp8loFX60


       ◇       ◇       ◇


「エド……たすけて……わたし、こわれちゃうよ……」

もう、とっくに、こわれているのかもしれないけど。
湖に、ぷかぷかと浮かびながらウィンリィはそっと呟いた。



【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 生存確認】
【柳生九兵衛@銀魂 死亡】

【D-7/湖/1日目 昼】

【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(極大)、精神疲労(極大)、右頬に痣、頭に軽い裂傷、体中に傷(命に別条はありません)、鼓膜損傷?、月経中
[服装]:全裸
[装備]:
[道具]:なし
[思考]
基本:
1:エド……
2:
3:
[備考]
※ルフィ、ゴルゴ13と情報交換をしました。
お互いの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※ゴルゴ13の名前をデューク東郷としか知りません。
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です


       ◇       ◇       ◇

ゾッドは生きていた。
もはや使徒の姿を維持する余力すらなく、その姿はヒトとしての姿を取り戻している。
ここまで追い詰められた事はかつてなかった。
あの髑髏の騎士との、数百年来の戦いにおいてすらも……

間違いなく、互いの死力を尽くした勝負であった。
であったが、ゾッドの不満げな表情の理由は最後の横入りにある。

同胞たちの先走り。
あまりにも消耗していたが故に、止める事が敵わなかった。

あのまま戦いが進んでいても、恐らく負ける事はなかっただろう。
だが……

生涯最高の名料理。その、最後の一口を食べ残したかのような苛立ちをゾッドは覚える。
遅々として進まぬ回復の速度。
ゾッドは、小さく不満の唸り声を上げた。

589宴の、後 ◆UjRqenNurc:2009/12/07(月) 00:33:14 ID:Sp8loFX60



【E-6/工場付近/1日目 昼】

【ゾッド@ベルセルク 生存確認】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(極大)、全身のダメージ(極大・再生中)
[服装]:
[装備]:穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品(0〜1個)
[思考]
基本:強者との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:グリフィスが再び覇王の卵を手にしたら……
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。

※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
 また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクは、Mr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままになっています。
 また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※シルフェのフード@ベルセルク、ブラックジャックのコート@ブラックジャックは、工場内に九兵衛やウィンリィの服とともにズタズタに切り裂かれて散らばっています。
 修復は不可能です。
※工場内の生産ライン付近に、デイパック(支給品一式×2、工具一式、金属クズ、不明支給品×1)と
 ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、が転がっています。 どちらも血や体液に塗れています。
※番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマムに手が触れられた様子はありません。
※工場内の給湯室に、デイパック(支給品一式、柳生九兵衛の手記)と改造トゲバット@金剛番長が転がっています。どちらも血や体液に塗れています。
 また、柳生九兵衛の手記には、簡単な彼女のプロフィールや人間関係、ここにきて得た情報、湖の霧について、一連の出来事の概略などが記されています。

590 ◆JvezCBil8U:2009/12/14(月) 02:25:40 ID:HSFlsEp20
本文そのものは投下し終えているのですが、終了宣言で引っかかったのでこちらに。

とりあえず、投下終了です。

……で、状態表で一つミスを。
前作の読み込みが足りず、理緒の死体を喜媚が持ったままだと勘違いしていたので、そこを訂正するのを忘れていました。
今気付いたのですが、本スレ>>548の冒頭でも転がっている死体は4つとすべきですね……。

591勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 00:53:38 ID:anfAzFH.0
 勇気を持つ人間には、翼を与えられる。輝く空へ、空気を掴んでは風を巻き起こし、
高く強く飛び立つような力が“勇気”なのだ。だが授けられた翼をおごってはいけない。
集められた人間達の何人かは知っているだろう。こんな昔話が伝わっていることを。
* * *
魔獣が閉じ込められていた迷宮に、父子が無実の罪で投獄された。
既に魔獣は倒されていたが、一度入ったら出られない入り組んだ迷宮は死への入り口に変わりない。
父は落ちていた羽やあり合わせの蝋と膠で二人分の翼を作る。
父子は空へと脱出した。地上にいた人々は、その影を見て叫んだ。

「神が飛んでいる!」

子供は自分が神だと言われていることに舞い上がり、父親の忠告を忘れてどんどん上昇していった。
哀れ、太陽の熱に蝋は溶け、子供は海へ墜落死したのだった。
      * * *
何千年も前の、言い伝えの域から出ない話だ。なのにどことなく、このイカれた運命に導かれた物達に似ている。
太陽はこの地を照らしている。
太陽はこの地の全てを知っている。
太陽は自分に抗う者の愚かな姿を見ている。
近づこうとする者の羽をもぎとり、傲慢な態度を肉体ごと滅ぼす。
そうして太陽は何事も無かったように、頂点を守って空を闊歩しているのだ。
主催者は神と名乗り、参加者の上に君臨する。
そいつが太陽に値するものであるかは、各々の解釈次第だろう。

さて、神にも悪魔にも翼はあるのだが。
これから登場する少年らにどちらの翼が生えるかは、それもまた運命の知るところであった。

592勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 00:59:50 ID:anfAzFH.0
+ + +

「最悪だ」
 放送後、第一声がそれだった。脱衣所が大破した旅館で、俺と東郷さんは放送を聞いた。
名簿には唯一の肉親の名がしっかり刻まれていた。
不幸中の幸いと言うべきか、死者を表すおぞましい色には引っかかっていない。
きっと今頃、潤也は危険を顧みず自分を探しているだろう。
自分にボールを当ててきたギャングに丸腰で向かっていくような、無鉄砲で正義感の強い奴だ。
たった数時間でこれだけ死んだ人たちがいる中で、
もしそんな行動していたら結果は目に見えている。
両親を失って、潤也も死んだら? やっと掴み取った平穏なんて消えてしまう。
それは潤也にも同じことが言える。自分が死んだらあいつは一人ぼっちだ。
潤也は優しい。一人きりになったら、あいつは立ち直れなくなるだろう。

――死ねない。死にたくない。生き残るんじゃない、生き切るんだ。
 考えろ考えろマクガイバー。リスクを減らす方法を。

 鳴海は限られた情報から推理して、真相はともかくひとつの道を見つけた。
俺に推理は出来ないし、推測も出来ない。それでも考えなきゃならない。
思索、憶測、模索。なんでもいい、考えるのを止めてはいけない。

考えろ考えろマクガイバー。

 もう一度、名簿を確認した。鳴海は無事らしい。
知っている名前はもう一つ記されていた。ナイフを使った殺し屋だ。
明らかに偽名である名前『蝉』は既に変色していた。裏の世界で生きてきた人間があっさり死ぬ。
腹話術なんて小さい力しか持たない自分が第一放送を乗り切っているのは、もう奇跡としか言いようがない。
 名簿には、何となく気になる名前がもう一つあった。
『スズメバチ』
 確実に偽名だ。あの殺し屋は『蝉』と名乗っていた。
この毒虫も要注意人物の可能性が無くはない。
考えすぎかもしれないが、鳴海と落ち合う約束がある以上、用心は重ねるべきだ。
 同名の名前も注意しよう。
歩とユノは二人づついる。
秋瀬と秋葉(名前は二人とも一文字)という似たような奴もいる。
勘違いで名前をとらえ違いをして誤解を招いたら、起爆剤になりそうだ。
もっとも、こうして名簿が浮かび上がってきた時点で、自分を「安西」として認識している奴には信頼されないだろうが。
名簿上の気になる人物に印をつけていった。
仲間には☆、危険人物には●、要注意人物には◎、要注意人物とまではいかないが、気をつけておきたい人には○。
気をつけておきたい人と要注意人物が危険人物だとわかったら、すぐに継ぎ足して◎か●にできるようにしておく。

593勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:00:39 ID:anfAzFH.0
また地図の裏に小さく、簡単に暗号化してこれまでの行動を書いた。日記のつもりだ。
日記と呼ばれる携帯を見てから考えていた。
今まで「予測される未来と殺し合い」に遭ってきた人たちにも、それまで日記をつけてきた人となりがあった。
自分もこんな環境に遭ったことを残していかなければ、と思ったまでだ。
どうも異世界の人間とも同じ言葉を話せるらしいので、日本の文化をつついた言い回しで書いておく。
これなら最悪見られても日本人以外にはわからないし、たとえ異国の人でも自分が事前に相応のやり取りをしていれば解ける。
そして火の粉をかけないため、自分の行動しか記さない。誰にどう会ったかは書かないようにしよう。

「え、あのどこへ行くんですか」
「時間を潰す訳にはいかない。旅館から使えるものだけ持っていく」
 そうだ、目的は街へ携帯電話やらの調達に行くことだった。
旅館にも工夫次第で役に立つものがあるかもしれない。
身を守るものは現地調達した包丁ぐらいだ。水の塊を投げつける化け物みたいな相手にはリーチが短すぎる。
東郷さんはもうデイパックにいくつか詰め込んでいた。
「あの、俺キッチンに行ってきます」
「・・・」
東郷さんは無言で後ろを向いた。了解の意だろうか。

まだあの女の子の仲間がいたら困る。包丁を片手にキッチンへ回った。
進む足がおぼつかない。平凡でいたかった。それだけなのに。
犬養に似たオーラを放つ鳴海も、遊園地にいたドゥーチェのマスターの雰囲気に似ている東郷さんも、信用しているとはいえ本音を言えば怖い。
似ている世界から来ているとはいえ、あまりにも境界がちがう場所に住んでいる。
蝉さんに感じた、身にまとわりつく嫌な空気があるのだ。
でも、平凡だった自分が、包丁を本来の用途ではない使い方で持っている。
「なんだかんだで、他の人と変わりないことしてるのかもなぁ…」
自嘲した。

万が一のため、キッチンにあった使えそうなものはデイパックに詰めまくった。底なしかよ、このカバン。
散らかってた浴衣、鞘つきの刺身包丁、冷蔵庫の食料数個、固形燃料、あとチャッカマン。
 ――頼りなさ過ぎる!
 そうだ、地下のボイラー室は壊れていない。そこにもう少しまともなものがあるかもしれない。

594勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:01:45 ID:anfAzFH.0
   + + +


「リン、気配の察知とかに制限はあるのか」
「あァ、だが霞がかってやがル。近くにいる人間の場所は大体察知できるガ、誰だか特定すんのは無理ダ」
 そうか。オレはそう頷いた。体のスジがギリギリ引き絞られるように痛む。
それでも前に進まなきゃいけない。神だがなんだか知ったこっちゃねーが、そいつの頭をぶっとばす。
けど、意気込んで出発したもののウィンリィはおろか、敵にも味方にも遭遇していないままだ。
地図をみる限り、この島は修行時代にいたところの二、三倍程度の大きさだろう。
オレもまた、こんな小さい島の中でのちっぽけな人間、世界の流れのうちに過ぎない。
逆にいえば奴らも流れのひとつだ。
そう思えば、神とやらも立場は一緒だ。
こんなふざけた神なんざ、真理の扉の中にもいる価値はない。
どこぞの太陽神よりもタチが悪い死神だろ。
「オイ、エド聞いてるカ?」
「は?」
 リンはまだ喋りつづけていたようだ。
「悪ィ、考え事してた」
「ちょっと注意シロ。近くはないんだが、ざわざわした気配が動いてル」
 気の流れがおかしいのか。
「人間か?」
「何とも言えなイ。今まで感じたことがナイ不思議な感覚ダ」
 背を低くし、音を立てないようにリンの後を追う。
水分を含んだ空気が流れだした。足元が下り道になる。
やっぱり、川が現れた。ここを跨がないと工場にはいけない。周りに橋もいかだも見当たらない。
が、まだ木陰に隠れてほとんど見えないにしろ、工場らしき建築物は対岸にあった。
川は股下ぐらいの深さだろうか。流れは割と緩く、川底の泥は厚ぼったいが渡るのに苦労はなかろう。幅もせいぜい三十歩程度だ。
「極力錬金術は使わねーでおきたいし、いっちょこのまま渡るか」
「バカ言エ、その体で渡るとか死にたいノカ。肩車してやるカラ」
 野郎に肩に跨りたくねーが、こっちの心配をしてくれているんだ。
もうリンはズボンの裾を限界までたくし上げて準備万端だった。
リンが川に足首を浸した。深さの確認か、足をかき回して川底をたたく。
「相当川底は緩いナ。多分ズボズボいくゾ」
「無理ならやめとけよ」
「ウィンリィのとこに早く行きたいんだロ・・・・オイ! 誰かガ凄い勢いで近づいてくル!」
 周囲を見回す。
森は沈黙し、葉も揺れない。
風すら黙っている。
誰だ。バケモンみたいなあの野郎が追ってきたのか!?


   + + +


どこだここは。
ここで、俺はこんなところで死ぬのか
頭から順に潰れていく
眼球が飛び、
首の骨が皮膚を破り、
両腕が蔦のごとく曲がり、
肺と腸が綺麗に混ざり合い、
かろうじて脚だけは残るが、それも一瞬
首輪が爆発して四方八方に砕け散る
考えたくないのに、
そんな未来が見える

もう駄目だ
白だ
真っ白だ
違う!
風だ青だ緑だ光だ空だ壁だ死だ

「ゔああああぁぁぁあぁぁあああぁぁあああ!!」

595勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:06:30 ID:anfAzFH.0
   + + +


   上だ!
 人間が堕ちてくる!

「エド!」
「待、なななな!?」
 時間がない!
 両手を合わせ、地面に押し当てる。川の水面が隆起した。
流れを遮り、泥を集めてできた山が空へ、いや人間へ伸びる。
このままならあの人間は川に落ちていただろうが、30メートル以上の高さからのダイブでは、
水面はコンクリート並みの硬さになる。落ちたら確実に死ぬ。
落ちてきた人間は頭から泥に突っ込んだ。
腹まで差さったところで、泥の山は持ちこたえられずに崩れていく。
向こう岸へ泥と共に雪崩れていった。

 川は堰き止められ、水深が膝程度になった。
泥まみれになった人間はどうにか立ち上がった。口の中の泥を吐く。
顔の泥を払おうとしているが、その手には汚れてもなお光る物が握られている。
包丁だ。未だに悲鳴を上げながらも包丁を放さない。
男なのはわかるが、いかんせん顔が見えない。誰だこいつは。
目の周りの泥を拭い取ったそいつは、右手の平を口に当てて包丁を前に突き出した。
切っ先は宙を彷徨うが、やがてこっちに焦点を合わせた。
「アイツ、奇襲のつもりだったのカ!?」
「正直あんま強くなさそうだが」
「強くないカラ奇襲するんダヨ」
 リンは武器を手に川を走った。
細い目に宿る鋭い光。
水の抵抗を感じさせない瞬発力。
「く、る、なあぁぁぁ!!」
 泥男が右手に力を込める。包丁はリンに向けたままだ。リンの警戒が強まったのが見てとれる。
 突然リンが走るのを止めた。対岸に着く直前で仁王立ちになる。
「おおお…」
「リン!?」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 あたり一帯にリンの蛮声が轟く。
幹が揺れ、川面を波立たせ、皮膚を震わせるような喚声。
息継ぎをせずに出し続ける哭声。
泥男が口を押さえたままリンに走り寄る。奴の右手は泥にまぎれて真っ赤に染まっていた。
……鼻血?
それより! あいつ意識を飛ばされてるのか!?
「リン逃げろおぉぉ!!」
 オレの叫びもかき消される。
泥男をこれ以上近づけたらダメだ。川に勢いつけて飛び込む。
こんな体くれてやる、これ以上仲間を見殺しにできるか!
 包丁を持った手がリンへと届く。間に合わねぇ!

 泥男は――リンに体当たりした。

596勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:07:01 ID:anfAzFH.0
「は?」
 リンは水飛沫を高く舞わせ、うつぶせて水中に倒れた。
包丁を使わないのか?
同時に泥男は右手を放して大きく息継いだ。鼻血が滴ってるが、包丁には血の一滴もついていない。
リンの背中が思いっきり引きつった。
「げはあぁぁあぁ!!! っ、げっ……」
さっき食べていた物も、鼻水も、涙も、胃液も、顔から出る全てのものが気泡と共に川面に垂れ流された。
水ん中で息を吸い込んだらしい。肺にも水が入ったかもしれない。
「こんのクソ野郎がぁ!!!」
 ぶちぶちと血管が立つ。苛立ちと怒りにまかせて、泥男の腹に拳を一発ブチこんだ。
機械鎧を刃へ錬成する。包丁より長く伸ばす。
対岸に逃げうずくまる泥男を追う。
「――れん、きん、術!?」
「な、!?」
 オレはとどめの一撃を抑えた。一瞬の隙を作ってしまう。
また泥男は口を覆った。











 目いっぱい息を吸った。口を塞いだ泥男を見た瞬間から、記憶がない。
ただ、それほど長い時間では無かったようだ。
リンが岸でむせている。なぜか泥男は気絶していた。


   + + +


 あの少年はボイラー室に向かったようだが、消えた。悲鳴だけを残してだ。
ボイラー室は電気のスイッチが切れているのか、暗い。
適当な石をボイラー室に投げ込む。床に当たった音は無い。
今度は壁に叩きつけるように投げてみる。反響する音すら無い。
広くて大きい落とし穴でも空いているのか……

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
 1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
 2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
 3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
 4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
5:消えた安藤(兄)を探す。安藤の生死を確かめるため、下に降りるロープを調達したい。

[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※ボイラー室に大きな穴が空いていると思っています。

597勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:07:42 ID:anfAzFH.0
   + + +


 ボイラー室に入った途端、空にいた。
空中を何回転もしながら、考え癖の頭で自分の死に様を描いてしまった。
泥の山に突っ込んだときには、その想像通りに死んだかと思った。
自分が生きているんだか死んでいるんだかわからない状況の中、目つきの悪い人間が
武器を持って向かってきた。
浴場の恐怖がフラッシュバックする。
こいつはオレを殺しに――!!!
とっさに腹話術を使ってしまった。
気を失う寸前まで空気を吐き出せてから水中に突っ込めば、
あとは酸素を求めて息を吸い、勝手に大量の水を飲む。
人は殺したくない。
死にはしないが、確実にダメージを与えられる打開策だった。
糸目の方は上手くいった。
追ってきた金髪の奴にも腹話術をかけて、その隙に逃げようと思ったのだが、
心臓がいきなり締め付けられるように滅茶苦茶な鼓動をしだした。
呼吸ができなくなって、ぶっ倒れた。

起きたときにはどこから持ってきたやら、大きな鳥籠に閉じ込められていた。
まだ足りないつもりなのか、手も体の前で拘束されている。
糸目と金髪はギリギリ腹話術有効範囲内にいた。
逃げなきゃヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ

考えろ考えろマクガイバー。
複数の人間へ同時に腹話術をかけたためしはない。
よしんば気絶させられたとしても、鳥籠から出るのは無理だ。
――いや、脱出する手段はあるにはあるのだが。
バラバラの実を食べれば、鳥籠の隙間から逃げられる。
ただ、目の前に川が横たわる以上、相当ハンデをかけることになる。

ああ、先にやらなきゃ殺されるとはいえ、能力を使ったのは軽率だったんだ。
自分の撒いた種が今ここに、当然の報いとして返ってきている。
金髪が錬金術を使えること、その金髪に腹話術を見られていたことが特にマズい。
鳴海は腹話術を『切り札』扱いしていた。
当然、切り札=知られると警戒される暗器。
この首輪を外せるかもしれない重要人物に危険人物扱いされるのは、鳴海や東郷さん、
何より潤也まで信用されなくなる可能性がある。

二人組は逃げもせず、かといってとどめを刺しにも来ない。

「泥兄ちゃんよ、これやるからツラ見せろ」
 金髪の奴が、水で濡らした布を渡してきた。顔はまだ泥だらけだから、拭けってか。
布はすぐに真っ黒になった。顔だけはぬぐえたけど、まだ全身は汚い。
「んー、会ったこと無い奴だ」
「こんなの閉じ込めッぱなしで放っとケ。せっかく気絶してたのニなんでわざわざ危険ナ真似をするんダ」
「こいつ、錬金術を知ってる。ウィンリィかアルか大佐か…キンブリーに会ってるかもしれねぇ」
錬金術を聞いたソースを探しているようだ。
すなわち、情報。金髪が俺の命を握っている今、情報を一方的に搾り取られるかもしれない。
「天秤にかけるものが違うダロ、今は生きる方が先ダ。奇襲するやつの大半はろくでもないのダ」
「はぁ!? ちょっと待った全然違います!
包丁だって護身用だし、気づいたら空中にいた理由知りたいのは俺のほう!
だいたい、殺気立って先に突進してきたのはそっち!」
大人しかった俺がまくしたてたので、二人組は身構える。
でもすぐにお互いの顔を見合わせて、こっちに聞こえないようこそこそ話し出した。
気まずそうな顔して金髪が振り向く。
「おい兄ちゃん、まずあんた何者なんだ」

598勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:08:39 ID:anfAzFH.0
 + + +


昇る太陽は、少年らを照らしている。
小さな偶然が少しだけ重なった奇跡を、食い入るかのように見つめている。
ここに登場した二人の少年は、それぞれを繋ぐ糸が張り巡っていることをまだ知らない。

両親はおらず、たった一人の弟を持つ。
正義の集団の裏の顔を知ってしまったがために、闇へ立ち向かう。
 何よりも、

『ならば、前に進むしかないじゃないか。
もし目の前で誰かが犠牲になりそうになったらオレが守る』
『それなら、進むしかないじゃないか。
平穏も恐れも安泰も、今までの自分を全部捨てて前へ』

 対決する意思を現したとき、二人はこう答える運命があった。
それが過去交わした誓いだろうが、本来予定されていた未来だろうが変わらない。
一人の孤独な戦いか、軍をも巻き込んだ戦争かと規模の違いを述べるのは
あまりにも酔狂である。
大衆のトップへ挑む決意に、大小は関係ない。

勇気と覚悟の歯車は噛み合いつつある。
決意の翼はまだ太陽に向かって羽ばたきを始めたばかりだ。



【E-4/1日目 朝】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:結構な量の水を飲む
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:なし
[思考] :
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:ウィンリィの保護を優先する。
3:首輪を外すためにも工具が欲しい。
4:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
5:空から降ってきた男(安藤(兄))から情報を聞き出す。

[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

599勇気ひとつを盾にして  ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:09:25 ID:anfAzFH.0
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:殴られた腹がまだ痛い。In the鳥籠+手かせ。
[服装]:泥だらけ 。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、包丁、バラバラの実@ONE PIECE
泥まみれの制服、刺身包丁×2、食糧3人分程度、釜用固形燃料×10、チャッカマン
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
 1:東郷と合流したい。
 2:携帯電話の調達のため、市街地などに向いたいが…ここはどこ?
 3:軽度の無力感。
 4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 6:巻き込まれた潤也が心配。合流したい。
 7:第三回放送頃に神社で歩と合流。
8:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
9:。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※腹話術・副作用の予兆がありますが、まだまだ使用に問題はありません。

※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※安藤(兄)の落下時間はせいぜい7秒程度なので、周辺の人物は気づいていない可能性が高いです。
また、落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※旅館のボイラー室からE-4上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は卵型ドームの頂上部を移動中。移動の仕方に法則があるかどうかは
次の書き手さんにまかせます。ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。

600 ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 01:12:22 ID:anfAzFH.0
以上、投下終了です。
場所間違えて投下してすみません。

矛盾が無いか確認お願いします。

そういえばハガレンも魔王もカバー裏暴走組だと今気付いた

601 ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 11:27:53 ID:anfAzFH.0
規制食らいましたので、修正版+ゴルゴ状態表の抜け落ちミス含め
こちらに投下します。




錬金術を聞いたソースを探しているようだ。
すなわち、情報。金髪が俺の命を握っている今、情報を一方的に搾り取られるかもしれない。
「天秤にかけるものが違うダロ、今は生きる方が先ダ。奇襲するやつの大半はろくでもない奴ダ」
「はぁ!? ちょっと待った全然違います!
包丁だって護身用だし、気づいたら空中にいた理由知りたいのは俺のほう!
だいたい、殺気立って先に突進してきたのはそっち!」
大人しかった俺がまくしたてたので、二人組は身構える。
でもすぐにお互いの顔を見合わせて、こっちに聞こえないようこそこそ話し出した。
気まずそうな顔して金髪が振り向く。
「おい兄ちゃん、まずあんた何者なんだ」


 + + +


昇る太陽は、少年らを照らしている。
小さな偶然が少しだけ重なった奇跡を、食い入るかのように見つめている。
ここに登場した二人の少年は、それぞれを繋ぐ糸が張り巡っていることをまだ知らない。

両親はおらず、たった一人の弟を持つ。
正義の集団の裏の顔を知ってしまったがために、闇へ立ち向かう。
 何よりも、

『ならば、前に進むしかないじゃないか。
もし目の前で誰かが犠牲になりそうになったらオレが守る』
『それなら、進むしかないじゃないか。
平穏も恐れも安泰も、今までの自分を全部捨てて前へ』

 対決する意思を現したとき、二人はこう答える運命があった。
それが過去交わした誓いだろうが、本来予定されていた未来だろうが変わらない。
一人の孤独な戦いか、軍をも巻き込んだ戦争かと規模の違いを述べるのは
あまりにも酔狂である。
大衆のトップへ挑む決意に、大小は関係ない。

勇気と覚悟の歯車は噛み合いつつある。
決意の翼はまだ太陽に向かって羽ばたきを始めたばかりだ。

602 ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 11:29:40 ID:anfAzFH.0



【E-4/1日目 朝】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:結構な量の水を飲む。
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:なし
[思考] :
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
4:安藤(兄)を警戒。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:ウィンリィの保護を優先する。
3:首輪を外すためにも工具が欲しい。
4:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
5:空から降ってきた男(安藤(兄))から情報を聞き出す。

[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

603 ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 11:31:46 ID:anfAzFH.0
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)。殴られた腹がまだ痛い。In the錬成鳥籠+手かせ。多少の混乱。
[服装]:泥だらけ 。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、包丁、バラバラの実@ONE PIECE
浴衣×2、刺身包丁×2、食糧3人分程度、釜用固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
1:東郷と合流したい。
2:携帯電話の調達のため、市街地などに向いたいが…ここはどこ?
3:軽度の無力感。
4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい。
5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:巻き込まれた潤也が心配。合流したい。
7:第三回放送頃に神社で歩と合流。
8:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※腹話術・副作用の予兆がありますが、まだまだ使用に問題はありません。



※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※安藤(兄)の落下時間は15秒程度。周辺の人物は気づいていない可能性があります。
また、落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※旅館のボイラー室からE-4上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
移動の仕方に法則があるかどうかは次の書き手さんにまかせます。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※E-4の川に泥の山が残っています。

604 ◆RLphhZZi3Y:2009/12/24(木) 11:33:09 ID:anfAzFH.0
ゴルゴ状態表


【G-8/1日目 朝】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
5:消えた安藤(兄)を探す。安藤の生死を確かめるため、下に降りるロープを調達したい。

605 ◆L62I.UGyuw:2010/01/06(水) 22:13:17 ID:pHhzymDI0
さるさん食らったのでこちらに投下します。

606未来視たちのアンガージュマン ◆L62I.UGyuw:2010/01/06(水) 22:14:03 ID:pHhzymDI0
【D-4北部/川岸/1日目/午前】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:部下を集め、主催者を打倒する。
1:ガッツと合流したい。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味。
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
7:鳴海歩を中学校まで運びつつ情報交換と仲間への勧誘。彼本人に強い興味。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。

607未来視たちのアンガージュマン ◆L62I.UGyuw:2010/01/06(水) 22:14:38 ID:pHhzymDI0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、無差別日記@未来日記
[道具]:支給品一式、コピー日記@未来日記、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
1:無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
2:グリフィスと名乗った男とあらためて交渉。出来れば仲間に勧誘する。
3:或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
4:後で竹内理緒に連絡を入れる。
5:島内ネットを用いた情報戦に関して、結崎ひよのはしばらく放置。何か懸念が生じればメールを送る。
6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
10:『医療棟ID』について考察。
11:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
12:肩のまともな手当てをしたい。
13:神社の本殿の封印が気になる。
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
 また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
 また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※我妻由乃、天野雪輝の声とプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
 言動から雪輝の味方である事は推測しています。
※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。


※天気予報
 06:00〜12:00:晴
 12:00〜18:00:曇のち雪

608 ◆L62I.UGyuw:2010/01/06(水) 22:15:42 ID:pHhzymDI0
以上で投下終了です。

609燃えよ剣(上) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:22:54 ID:9Kvq5J5A0
さるさんなのでこちらに

610燃えよ剣(上) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:23:23 ID:9Kvq5J5A0

グシャッ

選択の余地などなかった。
着地した瞬間、吹き飛ばされる剛力番長。
ガッツの振るった一撃をまともに受け、その小さな体は地面を転がり、這いつくばる。


だが、難敵を下したはずのガッツの表情に、勝利を喜ぶ色など微塵もない。
その理由は、剛力番長を斬った時の感触にあった。
ノコギリ状の大剣キリバチ。そのノコギリの刃のいくつかが潰れていたのだ。

立ち上がる剛力番長。
鮫にでも噛まれたかのように、引き裂かれた体操着が痛々しい。
しかし、その白い素肌には傷一つ付いていなかった。

ヒュペリオン体質。
剛力番長の強靭な筋繊維の鎧は、並大抵の刃など通さない。
とはいえ、それはどんな攻撃を受けても平気というわけでは決してない。
彼女とて、ダメージは受けるのだ。
西洋鎧を纏った騎士が、打撃武器によって骨や内臓を損なうように。

そう。
金剛番長との闘い、そして今の一撃を受け、剛力番長の身体は限界を迎えつつあった。


     ◇     ◇     ◇

611燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:24:46 ID:9Kvq5J5A0
マラソンはまだ続いていた。
侍は小刻みに角を曲がり、なんとか隙を見て民家のドアを蹴破り、中に踏み込む。
息が荒い。
痛みはもはや、無視しきれぬものになっている。
一分……否、三十秒でいい。
事態を打開するための時間が必要だった。

だが。

ドォッ――ゴオオオオーーーーンッ!!

そんな余裕は与えぬとばかりに炸裂する主砲。
その大部分が可燃物で出来た住宅は、砲弾にたっぷりと詰め込まれた火薬によってあっという間に炎上する。
先ほどからあちらこちらで起こる火災は止まる所を知らず、市街のあちこちは火に包まれていた。
それは全て、銀時と妲己の鬼ごっこの副産物であった。

爆風と煙に巻かれて、たまらず民家から飛び出した銀時を機関銃が狙う。
銀色の残光を描く剣閃はそれを全て斬り払うが、もはや限界も近いだろう。
煙は視界を奪い、さらには銀時の呼吸をも妨げる。
銃弾に砕かれたコンクリの破片がこつりと額に当たった。
流れ出る一筋の血が、汗と混じって銀時の顔を戦鬼のように赤く染めた。


     ◇     ◇     ◇


蘇生の可能性というものを知った時、沖田がまず考えたのは姉の気持ち。
姉は果たして蘇生を望むだろうかという事だった。
だが姉の気持ちなど、不肖の弟に判るわけがない。
なにせ、彼は死んだ事などないのだから。
だからそれは、推測と言うのもおこがましい、ただの弟の身勝手な願望。


あの若さで人生を終えた姉上に、未練がないはずがねェ。
生きられるなら、もっと生きていたかったはずだ。
やりてェ事が、まだまだあったはずだ。
それを笑顔と強がりで塗りつぶして、嘆きなんておくびにも出さず――
姉上は残された命の全てを、俺らの為に使った。

剣に生きるあの野郎の事を必死で諦めて、
俺を安心させるために縁談なんて受けて、
でもそんな姉上の最後の努力まで、俺らは自分のスジ通す為にぶっ潰した。


……。
ひでェ話だ。
ああ、俺ァろくでなしの弟だ。
姉孝行の弟って奴だったら、どんな事をしてでも姉上を生き返らせて、今度こそ幸せな人生を望むんだろうなァ。
だけど、姉上はこんなヤクザな弟を自慢に思ってくれた。
自分で決めた道をまっすぐ歩く。
そんな奴らと一緒にいるのが、幸せだったと言ってくれた。
だったら、その想いは裏切れねェ。
それだけは、裏切っちゃならねェ。

……考えるのはそこで終わりだ。
病院のベッドで、奇跡的に息を吹き返した姉上と、あの野郎が感動の抱擁なんぞを交わしてる胸糞悪い光景。
そんなものは頭の片隅にすら上る事はねェ。
迷う事なく揺らぐ事無く、俺ァどこまでも傲岸にてめェの道を行く。

612燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:26:15 ID:9Kvq5J5A0




――意識が浮上する。
むくりと、沖田は起き上がった。

手元に残された、潤也を繋いでいた首輪。
その鎖は途中で破壊されていた。
潤也の姿は既にない。
たぶん、大慌てで兄の所にでも行ったのだろうと沖田は見当を付ける。

……不覚だったぜィ。

沖田は顔を手で覆う。
完全に抵抗力を奪ったと思っていた。
槍なんて持ったところで、何が出来ると油断していた。
今の今まで隠していたとでもいうのか。
以前とはまるで違う、獣の如き俊敏な動き。
鳩尾を一突きされて、沖田は気を失った。
もし槍に刃が付いていたら、気絶などでは済まなかっただろう。

恐らく気絶していたのは数分の間。
だが、それは戦場なら命を百は奪われるに十分な時間。
だというのに、なぜか命も荷物も奪われなかった。
それが逆に沖田の屈辱に火を注ぐ。しかし――

ふう、と息をつく。
どうにも締まらない。
万屋の旦那を巻き込んでまで、あのガキにちょっかい出した結果がこれ。
あいつが絡むと、自分らしくもない事をしてしまう。
自分らしくもない事を考えてしまう。
それはどこかで、あいつを自分に重ねて見てしまっているからではなかったか。
そう思うと、沖田は苦いものを感じる。

ヤバさを増したあのガキを、このまま放置するわけにはいかない。
いかないが……。
あいつの事は、万屋の旦那にでも依頼したほうがいいのかも知れない。
別にあいつを叩き直してやるような義理は、自分にはないのだし、柄でもない。
そんなものは、金剛の役割だった。
それをこっぴどく撥ねつけた以上、あいつにそんな救いは必要ないはずだ。


「……さて、とりあえず旦那方の手伝いにでも行くか」

613燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:27:46 ID:9Kvq5J5A0

市街地から火の手が上がっているのが、ここからでも確認出来る。
ずいぶん派手にやっているようだが、いまだ砲撃音が続いている所を見るとまだ戦いは続いているようだ。
この辺に火消しの詰め所でもあれば、消防車でもかっぱらってくるのだが……

よっこらせと腰を上げて歩きだそうとした所で、沖田はこちらにやってくる男に気付いた。
金剛と同じような学ラン姿……ただし、鍛えこまれた腹筋を見せつけるように露出させた超短ランを身に纏い、
素顔を覆面で隠したその少年は、一言で言って不審人物だった。

「ハァ……次から次へと、仕事が山積みだぜィ」

誰かに押し付けたい衝動に駆られるが、ここには仕事を押し付ける相手もいない。
沖田は渋々少年に近付くと、手でメガホンを作り呼びかける。

「ちょっと待ちなさーい、そこの変質者ー」

そんな失礼な決め付けにも少年は反応を見せない。
その歩みは一直線に、視線はただ一点に注がれている。

「おい、それ以上進むと禁止区域って奴に入っちまうぜィ」

そのいでたちから、少年が金剛の関係者である事は薄々気付いているが、沖田は一応忠告する。
金剛の死体は、剛力番長にぶっ飛ばされた事で再び禁止区域に戻っているのだ。
金剛の最後を見届けた沖田には、大体の禁止区域の境界線が判っていた。
だが、その忠告を無視して少年は禁止区域へと侵入する。

首輪から警告の音声が流れる。
沖田はやれやれと頭を掻いた。


     ◇     ◇     ◇

614燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:29:48 ID:9Kvq5J5A0


携帯電話の入手など、後回しにすれば良かったのか。
いや、それ以前にあんな酔っ払いに捕まったのが不味かったのか。

卑怯番長は目前に広がる光景に絶句する。
彼の到着が遅れた事を責めるように、金剛番長の身体はまだ温かかった。
普段の金剛らしくもなく、だらしなくはみ出た内容物。
それを手で拭ってやってから、ぐちゃぐちゃにされた内臓を体の中に戻してやる。

君らしくもないじゃないか。
日本番長を止めるんじゃなかったのかい?

この世で最硬を誇った頑健な肉体は、見る影もなく破壊されていた。
かつてマシン番長に、その生命活動を停止させられた時とは比べ物にならないほどに。

死は誰にでも平等に訪れる。
いわんや命を賭して日本を変えようとする、番長計画の参加者においておやだ。
そんな事は判っていたはずだ。
彼は自らの命を惜しむような漢ではない。
当然、命の危機に晒される可能性もまた常人の比ではなかったと言うのに……
なぜ、彼が死なないなどと楽観していたのか。
自分の盲目的な過信こそが、彼を殺したのではないか……

いくら悔やんでも、時間は巻き戻らない。
悔恨の情を糧にして湧きあがる感情は――憤怒。
かつてと同じく、冷たく静かな怒りの感情が
金剛番長を殺した犯人と――そして、自分へと向けられる。

しかし今は――今は彼を弔おう。

卑怯番長は、金剛番長の巨体を背負う。
重量で足が大地に沈み込む。
ここに来た時、首輪から告げられた猶予時間は一分間。
もはや時間はさほど残されてはいない。
だが、彼は二つ名を卑怯番長。
卑怯こそを旨とする番長である。
当然、まともに移動するつもりなどない。

怪鳥の声が大気を裂く。
唸りをあげ、絡み合う二匹の大蛇。
一匹は卑怯番長が、禁止区域圏外にいた男……沖田に向けて振るった拷問鞭。
沖田を禁止区域へと引きずり込み、逃れようとする力を利用しようと放ったもの。
一匹は沖田が、卑怯番長の首に向けて投げつけた鎖付きの首輪。
禁止区域へと入り込んだ卑怯番長を助け、そのついでにひっ捕えようと放たれたもの。

偶然絡み合った鞭と鎖の意味を、二人は瞬時に理解し顔を顰めたが……
ひとまず協力して禁止区域を脱した。

「……とりあえず、サンキューと言っておこうかな。
 僕に首輪をはめようとした事は不愉快だけどね」
「なぁに、拷問用の鞭を巻きつけようとするのに比べりゃ可愛いもんだぜィ」
「カハハッ」
「へっへっへっ」

二人はとてもいいエガオで互いの健闘を称え合う。
互いの心に渦巻くのは、こいつは信用出来ねェという思いである。
だが抜け目のない男ほど、その利用価値は高い。
とりあえず、後ろに回した手に武器を握りながらも二人は協力関係を結ぶ算段を考える。

そして金剛番長の遺体を地面に横たえ、その眼を閉じさせようとした卑怯番長は気付く。
金剛番長の、見開かれた瞳が閉じない事に。
それは金剛類の並みはずれた筋力による、ただの死後硬直だったのかもしれない。
だが卑怯番長はそれを、この戦いの行方を見届けたい金剛番長の意思と感じた。

デパートの壁に、金剛の背をもたれさせる。

615燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:30:21 ID:9Kvq5J5A0

君はそこでゆっくり休みながら、見ていればいい。
僕はこの島を脱出して東京に戻る。
そして日本番長を倒し、日本の権力をこの手に握る。
弟妹のためにね。
もし、それが気に入らないなら……戻ってくればいい。
自分のスジは自分で通す。
それが君だろ、金剛番長……。

【I-6〜I-7境界/デパート付近/1日目/午前】

【沖田総悟@銀魂】
【状態】:疲労(小)、腹部に鈍痛、わずかな悲しみと苛立ち
【服装】:真撰組制服
【装備】:木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【道具】:支給品一式×2、イングラムM10(10/19)@現実、工具数種、不明支給品0〜1(確認済み、武器はない)
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:不審者への対応
2:旦那たちを手伝う
3:火災をなんとかする
4:潤也への対策を考えておく
[備考]
※沖田ミツバ死亡直後から参戦
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです
※キンブリーを危険人物として認識
※デパートの事件の顛末を知りました。


【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
【状態】:健康
【服装】:超短ラン
【装備】:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE、拷問鞭@金剛番長
【道具】:支給品一式、激辛せんべい@銀魂、不明支給品1(卑怯番長が使えると判断したもの)
     カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、携帯電話
【思考】
基本:どのような状態でも、自分のスタンスを変えない。
1:金剛への弔い
2:金剛を殺した者への怒り
3:沖田を警戒
【備考】
※登場時期は、23区計画が凍結された所です。
※桂雪路ととらを双子の姉妹だと思っています。
※放送をカセットテープに録音した事により、その内容を把握できています。
 また、放送の女性の造反は“神”の予定外の事だったと考えています。


【拷問鞭@金剛番長】
チタンスパイクが仕込まれた特殊ワイヤー製の太く長い拷問鞭。


     ◇     ◇     ◇

616燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:31:34 ID:9Kvq5J5A0


その頃、剣で斬る事の出来ない剛力番長相手に、ガッツは少々攻めあぐねていた。

剣が通じねえ。
ならどうする?

決まってらあ。何度だって、叩きつけてやるだけだ。頭をカチ割るまでな。

ガッツの出した攻略法は単純明快。
要するに、いつもと同じ。己の全てを叩きつける、それだけだった。

しかし、剣の消耗は無視出来ない。
これ以上ドラゴンころしとまともに打ち合えば、かつてのゾッドのように先に剣が壊れてしまうだろう。

ガッツはキリバチを肩に担ぎあげると、そのまま半身の構えで、剛力番長ににじり寄る。
まさに隙だらけ。
どこからでも打ってくださいと言わんばかりのスタイルだ。

だが、剛力番長とてガッツの意図に気付かないほど馬鹿ではない。
互いの間合いを侵す攻撃圏内で、隙を窺い合う視殺戦が始まる。

ドゴォォォォォンッ!

先ほどから響く砲撃音。
至近距離に着弾したのか、近くの民家が炎に包まれる。
パチパチと爆ぜる木の音。硝煙の臭い。
ガッツが馴染んだ、戦場の臭い。



髪を撫でる熱い風。剛力番長の額を嫌な汗が伝う。

動かない。

彫像のように、黒い剣士は動かない。

じっとこちらを見据える隻眼から受ける重圧はただ事ではない。
先ほどのカウンターの記憶は、ともすれば現実感を失う剛力番長の記憶にあっても生々しく残っている。
体の内側まで響く大砲の如き一撃は、金剛番長の拳にも匹敵するだろう。

休息を欲する肉体に、渇を入れて剛力番長は敵を見据える。

どうしましょう……私の攻撃が当たりませんわ……
……だったらっ!

当たるまで、頑張るだけですわっ。例え、この身がどうなろうとも!

肉を切らせてなんとやら。
少女が覚悟を決めると同時に、黒い剣士がわずかにみじろぐ。
反射的に、その動きを追う剛力番長の眼に――光が飛び込んだ。

網膜が焼ける。
剣士は、わずかに剣を傾ける事で太陽の光を刀身に反射させたのだ。

「ひ、卑怯なっ」

617燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:32:54 ID:9Kvq5J5A0

少女の戯言を鼻で笑い、ガッツは剣を袈裟懸けに振り下ろす。
体に捻りを加え、加速する斬撃。
重爆。

「が――ふっ」

覚悟を決めていなければ、崩れ落ちていただろう両足を踏ん張る。
攻撃の位置から推測した敵の居場所に、お礼ですわと刃を返す。

鴉の翼のようにはためく漆黒の外套。
目が見えないまま放たれたその反撃を、ガッツは剣の遠心力を利用して避ける。
そしてそのまま上段に構え――しゃがみこむほどの勢いを持って、脳天唐竹割りを繰り出した。

それを大きく後方にステップする事で、剛力番長は避ける。
目を瞬かせる。

「オオッ!!」

しゃがんだ態勢から、剄力を溜め込んだガッツが突進を仕掛ける。
この機を逃さぬとばかりに仕掛けられる、怒涛の如き連続攻撃。

しかし。

(見えますわっ!)

目くらましから回復した剛力番長の眼は、その動きを見切る。
ガッツの突進に合わせて放たれる、相討ち覚悟の渾身の一撃。

「やああっ!!」

撃ち込みの速度は、ほぼ同時。
だが、剛力番長は確信する。
先に届くのは自分の剣である事を。

剣の軌道が、そのままであればそれは現実となっただろう。
そのままであれば。

短く吐きだされる気合。
ガッツは歯を強く噛み締める。
巧妙に変化するガッツの剣。
その剣先が狙うのは、剛力番長ではなく、ドラゴンころしの背の部分。
撃ち落とし。
相手の剣を撃ち、剣が下がっている時に斬りつける剣技の一つ。
これこそが、ガッツの狙いだったのだ。

「きゃっ!」

アスファルトにめり込むドラゴンころし。
撃ち落としの反発力を得て、ガッツの剣は再び走る。
剛力番長の首目掛けて。

死の予感がちらつく。
首に掛けられた死神の鎌は、今度こそ白雪宮拳の命を絶つだろう。

618燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:34:25 ID:9Kvq5J5A0

少女の戯言を鼻で笑い、ガッツは剣を袈裟懸けに振り下ろす。
体に捻りを加え、加速する斬撃。
重爆。

「が――ふっ」

覚悟を決めていなければ、崩れ落ちていただろう両足を踏ん張る。
攻撃の位置から推測した敵の居場所に、お礼ですわと刃を返す。

鴉の翼のようにはためく漆黒の外套。
目が見えないまま放たれたその反撃を、ガッツは剣の遠心力を利用して避ける。
そしてそのまま上段に構え――しゃがみこむほどの勢いを持って、脳天唐竹割りを繰り出した。

それを大きく後方にステップする事で、剛力番長は避ける。
目を瞬かせる。

「オオッ!!」

しゃがんだ態勢から、剄力を溜め込んだガッツが突進を仕掛ける。
この機を逃さぬとばかりに仕掛けられる、怒涛の如き連続攻撃。

しかし。

(見えますわっ!)

目くらましから回復した剛力番長の眼は、その動きを見切る。
ガッツの突進に合わせて放たれる、相討ち覚悟の渾身の一撃。

「やああっ!!」

撃ち込みの速度は、ほぼ同時。
だが、剛力番長は確信する。
先に届くのは自分の剣である事を。

剣の軌道が、そのままであればそれは現実となっただろう。
そのままであれば。

短く吐きだされる気合。
ガッツは歯を強く噛み締める。
巧妙に変化するガッツの剣。
その剣先が狙うのは、剛力番長ではなく、ドラゴンころしの背の部分。
撃ち落とし。
相手の剣を撃ち、剣が下がっている時に斬りつける剣技の一つ。
これこそが、ガッツの狙いだったのだ。

「きゃっ!」

アスファルトにめり込むドラゴンころし。
撃ち落としの反発力を得て、ガッツの剣は再び走る。
剛力番長の首目掛けて。

死の予感がちらつく。
首に掛けられた死神の鎌は、今度こそ白雪宮拳の命を絶つだろう。

619燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:35:50 ID:9Kvq5J5A0

超新星の輝き。
吹き飛ばされる肉片。
自分の肉の焼ける匂い。
          
――そんなモノは知らない

「あ――あああ――――ああぁあああっ!」

まだ、死ねない。死ぬわけにはいかない。
剣の柄から手を離し、無意識のまま剛力番長は技を出す。
ディバイン・ハンド(神の張り手)。
ただ、剛力のまま繰り出された掌底が、ガッツの剣とぶつかり合う。
互いの存在を否定し合う一撃は、両者共に弾き合う事で決着を見た。


凌がれたか。
ガッツはもはや鈍器と化した己の得物を見ながら、思考を廻らせる。
予想外の抵抗。
とは思わない。

(総じてしぶといものだ。バケモンってェのは)

だが、今の攻撃でドラゴンころしを手放させる事が出来たのは大きい。
一気呵成に攻め立てれば、時をおかずして勝利を得る事が出来るだろう。

再び突進を仕掛けようとして、ガッツは地面に出来た不自然な影に気付く。
頭上を見上げる。
火が回り、煙が立ち始めた商店街の屋根に立つ、その姿。

「な……に?」

ガッツの思考が一瞬止まる。
それは、自分だった。
怒りと激情を糧として、見境無しに破壊を撒き散らす狂戦士。
あの甲冑を纏った姿が、陽炎の中にあった。

狂戦士が飛ぶ。
振り下ろされる木刀。
一瞬の自失から立ち直ったガッツは、それを紙一重で避ける。

バリッ

飛び散る黒衣。
一瞬遅れて噴き出す鮮血。
ガッツの胸に、大型肉食獣の爪痕の如き傷が刻まれる。

「……んだとっ!?」

それは青雲剣と呼ばれる宝貝の効果。
一回振るうだけで、複数の斬撃を生み出す仙人界の武器。
思わず膝を屈するガッツ。

そして剛力番長も見た。
大きくバク転をして、自分に襲い掛かってくる鎧武者の姿を。

歪み果てた正義の残骸が激突する。
その行方を知る者は誰もいない。

620燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:36:20 ID:9Kvq5J5A0


【I-07/市街地北部/1日目/午前】

【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:重度の貧血、カナヅチ化 、首に大ダメージ、自我への浸食、破壊衝動
[装備]:青雲剣@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:仲間と共にこの戦いを止める。
1:もり
2:でぱーと
3:もっぷ
[備考]
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[服装]:黒い外套(胸のあたりが破けてる)
[装備]:キリバチ(刃がほとんど潰れてます)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、不明支給品1個
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む
1:グリフィスを殺す
2:グリフィスの部下の使徒どもも殺す
3:ドラゴンころしを取り戻す
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
【状態】:疲労(大) ダメージ(大)、ホムンクルス 『最強の眼』
【服装】:キツめの体操服(ところどころ破けてる)、紺のブルマ
【装備】:
【道具】:支給品一式、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実
【思考】
基本:全員を救うため、キンブリーか妲己を優勝させる、という正義を実行する。妲己に心酔。
1:自らの意思のままに行動し、自分が剛力番長であるという確信を得る。
2:見知らぬ人間とであるたびに、妲己の集めた仲間であるかどうかを聞く。
3:キンブリーと妲己の同志以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す。
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録。
【備考】
※キンブリーか妲己がここから脱出すれば全員を蘇生できると信じ直しました。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報にだけは、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※妲己がみねねの敵であり、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。

※ドラゴンころし@ベルセルクが剛力番長の足元に突き刺さっています。


     ◇     ◇     ◇

621燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:37:33 ID:9Kvq5J5A0


沙英は炎に包まれた市街を走っていた。
デパートを離れれば離れるほど、火の勢いは強くなる。
段々、騒動の中心地へと向かっているのだ。
顔が火照る。
ハンカチで口元を覆いながら沙英は侍の姿を探す。

ドゴオオオオオン!!

またもや炸裂する砲撃音。
炎上し、崩落する民家の屋根。
空気を振動して伝わる衝撃が、沙英の足を竦ませる。

銀さんの言いつけを破ってしまった。
凄い音と、火の手を見て思わず飛び出してきてしまったけれど。
やっぱり今からでも引き返して、デパートに隠れていた方がいいのかもしれない。
こんな爆発を起こすような相手、自分にはどうしようもない。
自分は何の力もないただの高校生。少し文章が書けるだけの、駆け出しの小説家でしかないのだから。

でも。
沙英は怖かった。
守ってやるなんて言ったくせに、いつもボケてばかりの銀髪の侍。
ずっと傍にいてくれた人。
そんな彼がいたから、こんなところでも笑っていられた。
その彼が、自分の知らない所で命を落とすのが、火事よりも砲音よりも怖かったのだ。
沙英の足は再び動き出す。音のする方向へと。



そして見つけた。
もうもうと立ち込める熱気。
火の粉の舞う中に、あの人は居た。
怪我でもしてしまったのか、脇腹を片手で押えて。
それでもその眼は戦車を見据え、諦めを知らないように立っている。
肩で息をしているくせに、それでも銀色に鈍く光る刀の切っ先を、戦車に向けて立っている。

戦ってるんだ、あんな刀一本で。
たった一人で、あの戦車と。
沙英は胸の前で手を握り締める。心臓が痛いほど動悸していた。

「銀さん……銀さーんっ!!」
「沙英っ!? 馬鹿野郎っ! 来るんじゃねぇーっ!!」

やだ。
銀さんが死んじゃう。誰かが死ぬのはもう嫌だ。
ヒロが死んだって聞いた時、凄く後悔した。
私にもっと勇気があれば、ヒロが死んじゃう前に会う事が出来たんじゃないかって。
せめて看取ってあげるくらいの事は出来たんじゃないかって。
最後に話す事も出来ないまま、お別れなんて嫌だ。

だから。

だから私も守りたい。
何もしないで怯えてるだけじゃ、大切な人は守れない。
銀さんも、ゆのも、宮子も、私が自分で守るんだっ! 銀さんみたいにっ!

622燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:38:34 ID:9Kvq5J5A0

戦車のキャタピラが動き出す。
銀時を踏みつぶそうとするその動きに対し、もはや一歩も動けないのか。
立ちつくすだけの侍は微動だにしない。

だから。

侍に向けて一歩踏み出した少女を、銀時は止める事が出来なかったのである。


     ◇     ◇     ◇


もう、諦めるつもりだった。
諦めて、楽になるつもりだった。
だと言うのに、少女がこちらにやってくる。

来るんじゃねぇーっ!!

声を張り上げるだけで、終わりそうになる。
侍は、最後の力を振り絞る。
だが、動けない。動く事が、出来ない。
……いや、この場を凌げたところで何になる。
もはや、崩壊は止める事は出来ない。
ならば、もう潔く終わろうではないか。
侍らしく、潔く終わろうではないか……





侍らしく……

終わ……れるかぁあああああああっ!!

蘇る気力。
再び精神と肉体が拮抗する。
生き物が生きている限り、決して抗えぬ肉の宿命(サダメ)。
それを無理やり覆さんと、侍は最後の闘いを決意する。
だが、間に合うのか。
こちらに向かってくる少女と戦車。
まず、少女を抱き止める。あくまでもソフトに。
しかる後に戦車をかわしながらキャタピラを斬り、そのまま逃走。
そして……そして……
プラン自体は可能だ。身体が自由に動きさえすれば。

「ぬぅっ――ぐぉおおおおおおおおーーーッッッ!!!」

吠える。
はらわたを苛む激痛を、精神の力だけで押し戻す。
精神が肉体に押し勝った、奇跡の一瞬。
侍の肉体が最後の小康状態を得る。
おそらくはこれがラストチャンス。
今を逃したら、もはや次はないだろう。

スカートをはためかせ、銀時を突き飛ばす勢いで突っ込んでくる少女。
その肩口から二つのパーツが射出される。

623燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:39:03 ID:9Kvq5J5A0

いや、不味いから。
今、そんなタックル受けたら銀さん不味いから。
何? 押し倒す気? お前俺を押し倒す気?

本来なら柔らかいはずの少女の肉体。
身にまとった鎧のおかげでゴツゴツしたそれを、銀時はなんとか受け止める。

よし、次は戦車を……

そう考えた瞬間、巨大化した二つのパーツが、二人を包み込んだ。

おい、待てェー!
これ待てェー!
何これ、もしかしてこのまま受けるの?
戦車の体当たり、これで受けるの?
はい、終わったぁー
俺のロワ人生終わりましたよコレ!

硬質の金属同士がぶつかり合う音が響く。
本来の数千分の一であろうが、中の人間にも僅かに衝撃が伝わる。
銀時には、それが城壁の崩壊を告げるジェリコのラッパにも聞こえた。








そうして、
ブピッブリリッ

          銀時の肛門は
             ブリョッ! ブピピッポパッ!


                      静かに決壊したのだった……
                              ブボブバババババババーーッッ!!









     ◇     ◇     ◇

624燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:40:49 ID:9Kvq5J5A0


侍の元へと駆け寄る少女。
それを見て、妲己は微笑む。最高の舞台演出が整ったと。

「まだ仲間がいたのねぇん。いいわん、一緒に踏みつぶして上げるん。
 もう、限界のはずよん、大人しく……」

全部ぶちまけちゃいなさいん。
そう呟くと、アクセルを踏み込む。
無限軌道が甲高い軋み声をかき鳴らす。
数十トンに達する、その重量で二人の人間をぐちゃぐちゃの挽肉に変えるために。

だが、その直前にて顕現したのは九竜神火罩。
崑崙十二仙の一人。宝貝造りの匠たる、太乙真人が宝貝。
激突。
凄まじい衝撃で、戦車の前面がへこんでしまった。

「ただの人間が、宝貝を? ……でも、長い間維持は出来ないはずよん」

籠城など、好きなだけさせてやればいいのだ。
戦略的な優位さえ押さえておけば、戦の趨勢が変わる事などない。
彼女は戦車を後退させる。
二人が顔を出した瞬間、戦車による主砲を撃ち込む為に。





  ソレはずっと彼女を監視していた。
  常に身近にいながらも、課せられた制限に耐え、自らの復讐を果たす時を待っていた。
  その身に少年が触れた時、ソレは歓喜する。
  自らの波長に極めて近い、奪われた肉親に執着する、昏い想念。
  彼が喰らい、力と変えるのに相応しいこころ。

  この少年を仮の主とし、奴を滅ぼそう。
  恐怖と絶望を振りまくあの存在を、今こそ貫こう。
  そして時は満ちた。

  我が前方に在る、ヒトが造りし鉄の城。
  そこに奴はいる。
  小賢しくヒトの中に潜もうとも、我が刃から逃れる事あたわじ。
  さァ、今こそ、今こそ、今こそ――


                            ――滅びよ、白面ッ!!

625燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:41:20 ID:9Kvq5J5A0
妲己は砲撃手用の席に昇る為、運転席から立ち上がる。

ぞぶり

瞬間、腹部を凄まじい衝撃が貫いた。
運転席の視界を確保する為の、小さな窓。
唯一、鋼鉄に覆われていないそこを、ピンポイントで狙われた。

「ハァッ! ……ぁん」

ななめ上から刺し入れられたソレは、胎内の奥深くまで届いてる。
柔らかな腹から生えているのは、見覚えのある槍の柄。
その柄を握る震える手を、妲己は引っ張る。

槍の主の顔が、戦車の小窓の淵にゴツリと当たる。
安藤潤也。
ガチガチと、歯を鳴らす少年と、妲己の目が合う。

「夫に操をたてた未亡人の……こんな奥深くまで、無理矢理押し入って来ちゃうなんて……いけない子ぉん」

夜行性の動物のように爛々と輝く妲己の瞳に、鏡のように写る自分の顔。
ほっそりとした指に、顎を撫でられる。
それでスイッチが入ったかのように、潤也の喉がぐびりと鳴り、妲己の手を振りほどいた。

槍が引き抜かれる。
支えがなくなったかのように、妲己の尻がすとんとシートに落ちた。
そのまま猿のように飛び去る潤也の姿を見送ると、妲己は戦車を転進させる。
貝の口のように閉じられた宝貝の、開城を待つ時間が惜しい。

ごっそりと、持って行かれた。
たったの一撃で。
下腹部から競り上がる熱い塊が、口腔から溢れる。
かつて殷の太師、聞仲と四聖にやられた時ですら、ここまで酷くはなかっただろう。
この身体は、あと数時間も持つまい。

「――は、思った以上に……」

だが操縦者の体調など、関係なしに戦車は走る。
炎上する市街地を脱出するのに、大した時間はいらなかった。


     ◇     ◇     ◇

626燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:41:47 ID:9Kvq5J5A0


妲己が去った後、九竜神火罩がパカリと口を開く。
同時に周囲に漂うのは、猛烈な臭気。

「臭っ! 銀さん最ッ低ッ!!!!」

縮小し、再び沙英の肩当てに収納される二つのパーツ。
飛び出した少女は、侍と距離を離し、真っ赤になってがなり立てる。

「なんで!? 信じらんないっ! なんでこの流れでこのオチ!?
 ありえないんですケド! マジありえないんですケド!!」

侍の下半身は、まるで何かを詰め込んだように膨れ上がり、茶色い染みがその一張羅を汚していた。
犯してしまったのだ。
大人が、いや、人間が、人前で決してしてはならない――最大の禁忌を。

(はは……畜生……殺せよ、もう殺せよぉぉぉぉおおっ!!)

天を見上げる侍の目から、一筋の雫が零れおちた。

【H-07/市街地/1日目/午前】

【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:疲労(小)、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:銀さん臭っ! くっさーっ!!
2:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する。
3:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?

【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、まるで・だめな・おとな 1001位までランクダウン
【服装】:下半身の汚れ、
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
【思考】
1:お風呂に入りたい。服を洗いたい。
2:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
3:ヴァッシュ達と合流する。
4:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。


※デパートの北側の市街地(I-07北、H-07)が炎上しています。


     ◇     ◇     ◇

627燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:43:31 ID:9Kvq5J5A0


橋の欄干で、潤也は吐いていた。
沖田に会心の一撃を与えた後の記憶はあいまいで、よく思い出せない。
気付いたら、妲己に槍を突き刺しており……彼は恐怖のあまり、そこから逃げ出したのだった。

死んだ……よな?

最高級の和牛にナイフを突き立てるよりも、滑らかな手ごたえだった。
金剛の時とはまるで違う感触に、潤也の背筋は震える。
その震えは恐怖ゆえか、それとも――

妲己が死んだのであれば、首輪解除の大きな手掛かりを失う事になるが……とりあえず、兄への脅威は
一つ減った事になる。
だが、もし生きているなら……とんでもない相手を敵に回した事になる。

どっちだ。
生か死か。
二者択一。
わからない。
嫌な予感しかしない。

「兄貴……」

とにかく、兄貴を探そう。
それで逃げるんだ。
どこまでも。どこまでも……。

左手に握った槍が不満げに小さく震える。
いつのまにか軽度の怪我が癒えている事にも気付かず、潤也は旅館へと走り出した。


【H-07/橋の上/1日目/午前】

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄貴に会いたい
0:旅館に行って兄貴と会う

【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。


     ◇     ◇     ◇

628燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:44:01 ID:9Kvq5J5A0


ザァ――
懐に仕舞った逃亡日記から聞こえるノイズ。
妲己は、みねねが死んだ事を知る。
この地でせっかく手に入れた手駒をなくし、
自身の為した悪行を他の参加者に知られ、
自分の身体には回復不可能なほどのダメージを負った。

だと言うのに、妲己の表情に陰りはない。
彼女には夢がある。
地球と同化して、地球の真の支配者……『大母(マザー)』になるという夢が。
妲己は疑わない。自分がこの戦いで生き残り、その夢が叶う事を。
否、失敗する事など考えることすらない。
なぜなら自分は妲己ちゃんなのだから。
ジャンプ史上究極にして至高。不滅のミラクルヒロインなのだから。
当然、この状況を覆す策も既に考案済みである。


妲己の名が悪の象徴として知られてしまったならば
                ――自らの手で、その悪の象徴たる妲己を討てばいい。


身に付けた、借体形成の術がそれを可能とする。
自身の器となる者を探し出し、その体を乗っ取るのだ。
問題は、自分を受け入れられるほどの器がこの島にあるかどうかだが……

『あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

突如、聞こえてくる大音量。
何事かと、窓から外を窺う妲己の視界にその映像が飛び込んでくる。
女性の姿から、化け物の姿へと。
じょじょにメタモルフォーゼを遂げる妖怪の映像。
それを見て、妲己の肉感的な唇が薄く開かれる。

「……あはん、ナイスよぉーん」

どこか懐かしささえ感じる黄金のケモノ。
その妖の中は、とても棲み心地が良さそうに思えたのだった。

629燃えよ剣(下) ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:44:28 ID:9Kvq5J5A0


【I-08/道路/1日目/午前】

【妲己@封神演義】
【状態】:腹に大穴(次の放送まで持ちそうにない)
【服装】:
【装備】:ブリッグズ製戦車(主砲17/30・機関銃残弾数60%)逃亡日記@未来日記
【道具】:支給品一式×6、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム
    マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数7/12)@現実、
    マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×3(うち1つは武器)
    詳細不明衣服(デパートで調達)×?
【思考】
基本方針:新しい身体を手に入れる
1:あの妖怪の身体を乗っ取る
2:獣の槍を警戒
3:対主催志向の仲間を集める。
4:喜媚たちと会いたい。
5:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
6:“神”の側の情報を得たい。
【備考】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。


【ブリッグズ製戦車@鋼の錬金術師】
ブリッグズの砦で開発された戦車。
車長、操縦手、副操縦手、砲手の四人乗り。

630 ◆yuVy4gPLQo:2010/01/11(月) 22:46:28 ID:9Kvq5J5A0
以上です。
支援ありがとうございました。

なお>>618はミスです。

631名無しさん:2010/01/11(月) 23:38:17 ID:zrux9VOw0
代理人
>>623の途中まで、あげましたが猿さんに引っかかりました

632 ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:51:49 ID:ie3rMips0
またも規制中なのでこちらに。
代理投下をお願いしたく思います。

633天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:52:49 ID:ie3rMips0
 
暗く、眩い星の海を、硝子の階段が一直線に割っている。

いや、硝子と見えたのは錯覚か。
蛍のような淡く白い光の粒子が、階段の形を描き出しているのだ。
その輪郭は薄らと滲み、虚空の闇へと溶け消えていく。

ここには天も地もない。
ただ黒一色の空間に、彩光の渦が配置されているのみだ。
もしかしたらそれらは星ですらないのかもしれない。
生き物のように細動を繰り返す煌めきは、重力から解き放たれた雪とも呼ぶべき幻想的な光景を見せつけてやまないのだから。


例外は一つ。
何処から続いているとも知れない儚い道、高みへと続く梯子だけ。

その行き着く先に――在り得べからざるモノが現出していた。
本来そこに鎮座しているべき宮殿、あるいは聖堂は、今は白い霧に包まれ姿を隠している。

その霧は、まるで意志を持つかのように感情を大いに表して、昂ぶっていた。


――しばしの沈黙と蠢き。

そして、不意に。
霧を構成する水滴の一つ一つが、何かを穿つかのように一点に凝集する。
豪風を生む。
天災が降誕する。
凄まじい勢いで、天の果てを貫く。

同時――世界を埋め尽くす雷の帯が、この空間を支配した。
地獄の猛犬の叫びすら赤子の声にも等しく感じられる咆哮が、耳に聞こえる全てとなる。

霧の白と、雷の白。
二つの意志によって生み出された、二つの白。
闇がしばし塗り替えられ、然る後に静寂を取り戻す。


――何一つ変わらない光景が、ただそこに存在していた。

彼らの試みは大いなる流れに呑み込まれ、塵一つとて残さない。


**********


シンセサイザーと歌い声のハーモニー。
あるいは、遠目より響く唄への不協和な伴奏。

嵐を呼ぶ風と共に訪れた不意の客。
大きな大きな女性の像の、その作り出す異常な状況に傾注していた4人――いや、3人にとって、闖入してきた電子音は唐突に過ぎた。

634天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:53:12 ID:ie3rMips0
ある者は悠然と笑い、
ある者は目を細め、
ある者は口を開け、
三者三様の反応は、目を細めた一人に収束される。

視線を受けてひとまずの治療を終えたゾルフ・J・キンブリーが懐に入れて取り出したるは、2つの携帯電話。
その片割れが、この場で最も避けるべき騒音を奏で続けている。

――キンブリーに支給された物品の一つこそ、これら一対の携帯電話である。

「う、うわ、うわわわぁ……っ! き、キンブリーさん!
 それっ、取れっ……じゃなくて、取って下さいっ!」

「はて、『取る』……と言いますと?」

慌てふためく森あいは、そこでようやくキンブリーが『携帯電話』の知識がないという事に思い当たる。
見ればキンブリーは形容しがたい種類の笑みを浮かべ、目の前の物体を矯めつ眇めつしているようだ。

……このまま放っておけば相手が諦めて電話を切ってしまうかもしれない。
となると、その人に迷惑がかかってしまう。こんな状況で電話をかけてくる程度には友好的な相手が、だ。
それは、この心細い状況で自ら蜘蛛の糸を振り払ってしまうように思えて――、

「ちょ、ちょっと貸して! ……下さいっ!」

仕方なく森は、キンブリーの弄ぶカラクリの小箱、その片方に手を伸ばす。

『なぜキンブリーが携帯電話を持っているのか』
『持ち主が使い方も知らない携帯電話に掛けてくる相手とはいったい誰なのか』
『どうして、この図ったようなタイミングで電話をかけてきたのか』

そんな事に思い至る暇もないまま、日常の習慣で森はぱかりと画面を開く。
そこに示された名前は、彼女の知らない外国人の名。

「じょん、ば……?」

何も知らない森は、ついついその名を読みあげようとして――、

「あっ……!」

更に横から、掻っ攫われた。
趙公明が胡散臭いほどに爽やかな笑みを浮かべ、ウィンクしつつ通話ボタンを押す。

と、ぽん、と小さな風とともに自分の肩に手が置かれた。
ようやく気付く、ウィンクをして見せた先は自分ではないのだ、と。

「ふむ……、分かりました。
 あいさん、どうやら私たちではなく彼が担当すべき事案のようです。
 邪魔をしてしまうのも悪いですし、少し離れたところでこちらの――彼女の処遇をどうするか決めるとしましょうか」

635天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:53:36 ID:ie3rMips0
振り返れば、キンブリーが狐のように目を細めて微笑を浮かべている。
肩に置かれた手の存在感が、何故か気持ち悪い。
大した力は入っていないのに、まるで万力で締め付けられるかのように伸ばした手が動かない。
首元の手がまるで刃物のように感じられて、森は自分でも気付かないうちにキンブリーの言う通りに動いている。

動かされている。


**********


「……やあ! 数時間……いや、既に半日ぶりだね」

橋の方に向かったキンブリー達が十分に離れたのを確認し、ようやく趙公明は第一声を放つ。

「“彼”の部下としての役職名と、君自身の持つ能力と――、
 二重の意味で“ウォッチャー”である君がわざわざどうしたんだい?」

電話の相手が、何がしかを囁いた。
轟、と、吹きつける風の音に掻き消され、声の主の台詞は趙公明以外の誰にも聞き咎められることはない。

「……御挨拶だね。あそこにあるだろう映像宝貝は僕が千年もかけて作った舞台装置だよ?
 所有物を取り戻しに行って、何が悪いのかな」

巻く風は朝方に比べ次第に、着実に強くなってきている。
見れば、空の彼方に黒雲の帯が手繰り寄せられつつあるのが確認出来た。

雨か、雪か、はたまた嵐か吹雪か。

遠からず、この島は天の気まぐれに付き合わされることになるのだろう。

「あそこで起こるであろう舞踏会への招待状を握り潰すなんて!
 普段の僕ならば聞き入る耳を持たないが、“彼”のお達し……という訳ならば話は別か。
 トレビアーンな美的センスの同志の言葉とあらば、確かに僕も無視はできないからね!」
 
――そう。
天候を統べることこそ、“神”にとっては古来より最も普遍的に弄ぶ力の一端だ。
遥か悠久の昔から、人は天の神に祈る。

雨をもたらし、豊かな恵みを下賜したまえと。
岩戸を開けて、陽光を眼下に与えたまえと。

「だが――、華やかなるステージを見て僕に動くな、というのはあまりに残酷!
 無碍に断るのも好ましくないから、様子を見る段階は確かに踏まえよう。
 だが、最終的に僕がどう動くかは僕が決めさせてもらう!
 僕はあくまで利害の一致に基づく協力者、という事を忘れた物言いは感心しないな」

神を覆う薄靄のヴェールは、今まさに着々と剥がれ続けている。

636天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:54:04 ID:ie3rMips0
「……まあ、“彼”の事だ。
 こう告げる事で結果的に僕がどう動くのかすら、最初から織り込み済みなのだろう?
 要するに、僕がどれだけ好き勝手にやろうと予定に狂いはあり得ない。そして、僕もそれで構わないよ。
 何故なら“彼”は“ユーゼス”や“ゴルゴム”、そういう次元に佇む存在なのだからね!」

趙公明が言葉を切る。
すると電話相手はそれを待っていたのか、別の話題を新たに振った。
彼の妄言はその殆どが聞き流されていたのだろう。
あからさまに疲れたような溜息が、確かに受話器の向こうから届く。

天に太陽は輝いているのに、張り付くように辺りの気温は一向に上がらない。
心なしか、吐く息が白く色づいてきてさえいるかもしれない。

「……成程ね。“ネット”も思惑通りに軌道に乗り始めているのか。
 となると、その掲示板とやらに麗しき僕の動画をリンクとして張り、皆に知らしめるのも面白いかもしれない!
 いや、blogとやらを拓いてみせるのも面白いかもしれな――、ん?」

電脳の海を使ったロクでもない催しを脳内に展開する趙公明の耳に、少しばかり予想外の話が届く。

「……ふむ。いいだろう、代わってみたまえ。
 一体僕にどういう用事かな?」

聞けば、電話を代わって自分と話したい御仁がいるらしい。
見知った相手の名前を聞かされ、趙公明は鷹揚と頷いた。

そして耳に入るは、まさしく最強の道士と謳われる傍観者のその声が。


『何時如何なる時でもあなたは全く自分というものがブレませんね、趙公明。
 それは確かに、あなたの強さではありますが』

「申公豹! 君がわざわざ僕に連絡を取るとはどういう風向きだい?」

旧友と出会った時のように声に喜色を滲ませて、気取ったポーズを虚空に見せる。
様にはなっているものの、いちいちその所作は演技臭く、くどいと言わざるを得ない。

『……いえ。いくつか不測の事態が発生しましてね。
 あくまで我々にとっては、ですが。
 王天君などは不満を隠すどころか苛立ちを露骨に表に出していますが……、おそらく分かっているからこそでしょう。
 口では予定が狂った、などと言いつつも、その実掌の上で駒を踊らせているだけの“彼”の性格を』

なんでも紅水陣を用いての雑用に赴かされたのだとか。
封神計画の裏の遂行者であった頃からの苦労人ぶりに、ぶわっと趙公明は目の幅の涙を流す。

「――なるほど、確かに“彼”ならば僕たちにさえ全てを告げないのはむしろ当然だろう。
 おそらくあのムルムルであっても全貌は知らされていないだろうね。
 それどころか、僕たちがそれぞれに知らされた断片情報を持ち寄ってさえ、その意図にたどり着けないかもしれない!
 全く、実に素晴らしい脚本家だよ、“彼”は!」

637天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:54:26 ID:ie3rMips0
まあ、そんな気遣わしげな所作が長続きするはずもなく、趙公明はコロコロ表情を切り替える。
既にその眼の中にはキラキラと輝く星が散りばめられていた。
“彼”とやらによほど近しいものを感じているのだろう、美的センスの相性もあって親愛すら抱いているらしい。

そんな奇矯者に対する反応も手慣れたもので、申公豹は相手の言葉を遮って話を切り出した。

『まあそれは置いておいて、本題に入るとしましょうか。
 ……私は現時点を以って主催者を辞め、傍観者に戻ります』

――沈黙。

珍しく、趙公明が顔の表情全てを消す。
僅かに言葉を口の中で転がして、平坦な口調で紡ぎ出した。

「…………。
 太公望くんが斃れたからかい? それとも、他に理由があるのかな。
 このバトルロワイヤルに僕や王天君を誘った当人が、最大の目的が消えてしまったから手を引くというのは――、
 いささか、身勝手に過ぎないかな?」

また――一迅。
強く、鋭く、寒風が吹き付け走り去った。

貴族衣装が音とともにはためいて、ふわりと棚引いては落ち着いていく。

『無論、太公望の肉体の喪失が理由の大きな部分を占めているのは確かです。
 始まりの人に戻る前の太公望と戦える――、それがまたも難しくなった以上はね。
 ですが理由は、それだけではない』

一拍の静寂を置いて、申公豹は語る。

『……見届けてみたくなったのですよ、あなた達全員の行く末を。
 その為には当事者よりも傍観者――“観測者”と言い換えてもいいですが――が望ましい。
 その意味では、私は今しばらくこの祭事に関わり続けます。
 場合によっては、また積極的に関わらせて頂くことになるかもしれませんね。立場は変わるかもしれませんが。
 その時はあなたたちと敵対する可能性すらあるかもしれません』

台詞の最後の一文に、趙公明は僅かに表情を取り戻す。
そこに現れたのは紛れもない、羨望だった。

「“彼”に牙を剥いたのかい? 申公豹」

敵対の可能性の示唆。即ち『戦い』がそこに生まれ出るという事は。
因果の因となる何らかを、申公豹は試みたのだという事。
そして戦いを至上とする趙公明にとって、それは胸を焦がすほどに手を伸ばしたい代物なのだ。

『そこまでのものではありません。ただ、“彼”という存在を試してみたくなったのですよ。
 なにせ、『太公望が早期に退場する』という事を分かった上で敢えて私に協力を要請したとあらば、
 “彼”は最初から利用するためだけに私に近づいたという事なのですからね』

「そしてそれは、ほぼ確実なことである――、と」

638天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:54:46 ID:ie3rMips0
口端だけを、歪めて答える。
申公豹の機嫌を損ね、しかしこの催しに何ら障害が出ていないという事は。
申公豹が、淡々と事実だけを連ねているという事は。

『……ええ。
 なので私と、タイミング良く彼に意見を申し立てようとするもう一人とで“彼”と相対することになったのですが。
 やはりといいますか、私では――私たちでは、“彼”に傷を与える事にすら手が届かないようです』

「ほう?」

まさしく、思った通り。

『雷公鞭を放ったところで、雷の全てが“彼”の横を通りすがって行くのですよ。
 まるで、十戒の導き手が海を割るように。
 その中で“彼”は悠然とただ立っていました。指一つ動かさずにね』

素晴らしい、と、その一言しか思い浮かばない。
“彼”との接点を作ってくれたこと。
それはまさしく申公豹に感謝すべき事で、だからこそ身勝手さと相殺して進ぜよう。
極上の笑みを浮かべながら、趙公明は一人頷いた。

『“彼”の前に力は無意味です。
 手を届かせることが出来るとすれば、それは力ではなく――』

そして、受話器を手にしたまま、ゆっくりと首をを動かしていく。
視線の先に在るものをしっかと捉えながら、呟くように話を打ち切った。

「……失礼。どうやらエルロック・ショルメくんが来訪してしまったようだ」

言葉だけ見れば、唐突な闖入者に対応する字面。
されどその態度は穏やかに過ぎて、分かっていて敢えて聞かせたのかとさえ勘繰る事が出来てしまう。

一連の、会話を。

「さて、招かれざるマドモアゼルこと、ガンスリンガーガールあいくん。
 キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?」

優雅な一礼を披露しながら、趙公明は携帯電話の電源を落とす。
そのまま念を押すかのように告げた言葉には、一切の温かみが存在していなかった。

酷薄な笑みとともに、金の髪持つ男は少女を見下ろして動かない。

――何処から聞いていたのだろう。何時からそこにいたのだろう。
森あいも、ガクガクと体を震わせたまま動かない。

彼女は、知らないのだ。
キンブリーが、趙公明が“神”の陣営に座する事を知った上で、敢えて手を組んでいた事を。

「彼は持っている異能も頭脳の聡さも特別だからね。
 こうして僕のようなものが近くにいるのも――、全く以って不思議ではない、と思わないかい?」

639天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:55:09 ID:ie3rMips0
だから、こんなにも簡単な口車で勘違いをしてしまう。
『善良かつ蘇生の力を持つキンブリーを監視するために、趙公明が彼を騙して側にいたのだ』と。
趙公明は、嘘を吐いてはいない。
だからこそ、その言葉の響きが確からしさを伴って森に突き刺さった。

幾重もの雑多な考えが、森の脳内を乱舞する。
それは取り留めもなく拡散し、これからどうすべきかというのも纏まらない。

「……ぁ、」

ただただ、目の前の男が自分たちをここに放り込んだ連中の一味だと、それを知ってしまった恐怖が膨れ上がり、渦巻いている。

ごく、という唾を呑む音がやけに生々しく響いた。
キンブリーに頼りたい、という選択肢が真っ先に浮かび、しかしそれは趙公明の第一声が否定し尽くしている。


  キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?


何度も何度もその一声がリフレイン。

もう、彼女にキンブリーを疑う余地はなくなっており――、だからこそ、彼の下に戻る事はできなくなった。
趙公明を出し抜かねば未来はないと、彼女の脳は勝手に決断を下してしまう。
植木を蘇らせるという小さな願いを叶えるために、キンブリーをこの男の魔の手から助けねばならないのだ、と。

押し潰されそうな重圧の中、一人ぼっちの彼女は息を荒くする。
不意に、じり、と音がした。
気がつけば静かに、趙公明はこちらににじり寄ってきていた。

「……う、ぁ、やだぁ……っ、ひゃ」

ずい、と押し出された手が禍々しく、トマトを握り潰すように脳天を掴もうとしている。

そこが、限界だった。
訳の分からない衝動が風船を割るかのように弾け飛ぶ。

「ひ、ぁ、わぁぁぁああぁぁあぁああぁぁあぁぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁ……っ!」


何処へ向かうとも知れず――、森あいは、駆けだした。

キンブリーを趙公明から救い、優勝させ、皆を蘇らせることだけをよすがとして。
そんな儚い砂の城だけが、今の彼女を彼女たらしめる唯一の頼り。

その幻想がぶち殺された時、彼女は果たしてどこへ落ちていくのだろうか。
知るとするならば、それはきっと“神”だけだろう。



【H-08/三叉路付近/1日目/午前】

640天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:55:33 ID:ie3rMips0
【森あい@うえきの法則】
【状態】:疲労(中) 精神的疲労(中)、混乱
【装備】:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
【道具】:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
【思考】:
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
5:趙公明からキンブリーを助け出したい。
6:趙公明に恐怖。何処でもいいから急いで逃走。
7:安藤潤也に不信感。
【備考】
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※キンブリーの話を大方信用しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
※どの方角へ向かったかは次の書き手さんにお任せします。



小さくなる彼女の背を一瞥し、趙公明はやれやれと嘆息する。
淑女たるものもっと優雅に振舞うべきだというのに。
少し脅し過ぎたとはいえ、せめてその銃で自分を打倒しようという気概くらいは見せて欲しかった。

聞かれてしまったのは少し注意不足だったかもしれない。
だが、フォローのおかげでこれはこれで面白い事態になったと言えるだろう。

戦闘快楽主義たる趙公明は、だから再度電話を手にすることにした。
掛ける先はWatcherでも最強の道士でもなく――、


**********


見よう見まねで電話を取ったキンブリーが趙公明と待ち合わせたのは、橋の手前。
――灰色づき始めた空を見渡せる、拓けた空間に二人の男が集い合う。

「……やれやれ。
 だから勝手な事はするなと言ったのに」

あらぬ方向を見ながら独りごちるキンブリーの言葉は、無論森あいという少女に向けたものだった。

「おや、反応が薄いね。
 少しばかり残念がるか、あるいは僕に憤ってくれた方が面白いのに!」

道化じみた態度を崩さない趙公明への対応も最早手慣れたもの。
眉を下げたうすら笑いを返しつつ、両手を開いて肩を竦める。

641天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:55:55 ID:ie3rMips0
「その状況ではあなたの対応は及第点ですよ。
 要は私に信を預けたという状態がクリアされてれば良い訳ですからね。
 しかし――、これはあなたに同行することがやや難しくなったという事でもある。
 今しばらくは平気でも、場合によっては後々別行動を考えなくてはいけないでしょう」

つまり、これからどうするか。問題はそこに集約される。
ひとまず趙公明は、向こうに見える巨大な女性の立体映像に関しては静観するよう釘を刺されたらしい。
が、この男の事だから、首を突っ込むのも時間の問題だろう。果たしてどこまで言いつけを守るやら。

他にも聞かされた話のいくつかでは、ネット、とやらにも興味が惹かれる。
この携帯電話という道具でも接続できるらしく、後で試してみようと心中呟く。

そして、それ以上にいろいろ楽しめそうな玩具が一つ。

「それにこちらとしても面白い素材を見つけましてね。
 まあ、これ以上あの少女に構っても時間対効果は低いですし、丁度いい頃合いですよ」

目を向けた先には、倒れ伏した血塗れの少年が転がっていた。
肉体的にも精神的にも疲れ切ったのか今はぐったりとしており、しばらく目を覚ます事はないだろう。

正直な話、森あいにはこの少年との遭遇当初の険悪な雰囲気をもう少し耐えて欲しかったところだ。
血塗れで言動も支離滅裂なこの少年に恐怖を感じたのも仕方ないとはいえ、自分が彼と相対したほんの少しの隙に勝手に趙公明に助けを求めたとは。
その試みも何の意味もなかった上に、仕込みの仕上げを完了させることも出来なかった。

けれど、過去を振り返っていても得るものは何もない。
さしあたって今は目の前の少年――安藤潤也でどう面白おかしく遊ぶかを焦点にしよう。

邂逅のその瞬間を思い出す。
錯乱さえ感じさせる言動とともに覚束ない足取りでこちらの方へと駆けてきたこの少年は、
妲己や兄貴、金剛などと気になる単語をいくつも吐いていた。

どうやら何処の誰かは知らないが、下拵えを完璧に整えてくれていたらしい。
キンブリーでさえ舌を巻くその手腕は実に大したものだ。

また、この少年はキンブリー自身の事をどこかで聞きつけていたらしく、
自己紹介の折に『蘇生が出来るのは本当か』などと凄い剣幕で詰め寄ってきた。
無論、と鷹揚に頷いてやったら、その場で力尽きたらしくがくりとへたり込んでそのまま沈むように眠ってしまったのだ。
恐らくは先に仕込みを終えた白雪宮拳経由の情報だろう、種が育ってまた新たな種を育む様は見ていてとても嬉しいものである。

まさしく文字通り、糸を切ったように唐突に眠り込んでしまった少年。
まだまだ詳しい話は全く聞いていないが、それは目覚めてからのお楽しみにしておこう。

もう一つの問題として、さて、この治療を施した少女をどう扱うか、というものがある。
こちらもまた目覚める様子はなく、予定通り打ち捨てておくのが賢明か。
なにせ森あいがいなくなったとあれば、まさしく不要な代物でしかないのだから。

どうせはぐれるのなら、せめて無駄に力を使う前にしてほしかったですね、と内心愚痴をこぼすキンブリー。
まあ、一見ガラクタにしか見えないものにも使い道が残っている時もあるのも確かだ。
ひとまずこちらは保留とすべきか。

642天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:56:19 ID:ie3rMips0
「――話を戻しましょう。
 やっと合点がいきましたよ、私にこんなものが支給された理由がね。
 あのカタログにあった“交換日記”――それがこの、ケイタイデンワ、とやらの機能だったとは」

この鬼札と彼自身の遭遇さえ予定されたこと。
そのサポートの道具まで目の前にある事に嘆息するも、悪い気はしない。
つまりはそれだけ、自分は“神”の陣営に近しいと見込まれているということなのだから。
頬肉をわずかに吊り上げ、く、と快を漏らす。

「まさしくお誂え向きに僕たちのために用意されたものだろうね!
 たとえ別行動をしたとしても互いに連絡し合い、フォローをしあうことが出来るアイテムだ!」

未来日記所有者7th――戦場マルコと美神愛。
本来は彼らが持っていた未来日記こそが、今、キンブリーと趙公明がそれぞれ手に持つ“交換日記”だ。
その機能は簡潔に説明すると、お互いの未来を予知し合うというものである。
片方だけ用いるならば“雪輝日記”とさほど性能に差はないが、二つ組み合わせることで所有者たちの“完全予知”を行う事が可能となる。
総合的な情報量が多いが雪輝中心の未来のみを予知する“無差別日記”+“雪輝日記”と違い、
情報量そのものは少ないものの使用者たち双方の未来をカバーすることが出来る性質を持つ。

逆に言えば。
所有者自身の未来を予知する事は出来ず、有効活用するためには相方との連携が必須とされる未来日記でもある。

「……加えて、使用にはリスクが伴う。
 使用者の首輪から半径2m以内でこの“プロフィール欄”を編集し、本人の名前を入力することにより機能を解放することが出来ますが――、」

本来ならばマルコと愛専用の未来日記をこの殺し合いで用いることが出来るようにする措置なのか、
手順を踏むことで予知対象を変更することが可能だと説明書きには記されている。
“マルコ”の携帯電話からは“愛”の携帯電話の使用者の、“愛”の携帯電話からは“マルコ”の携帯電話の使用者の予知が可能となるようだ。

一見便利にもほどがあるアイテムだが、しかしキンブリーは使用に躊躇する。
そうは問屋が卸さないとばかりに説明書きの続きには無視など到底できない記述が存在していたのだ。

はあ、と心底渋い顔で長い長い息を吐く。

「……止めておきましょうか。現状そこまでの危難も存在しませんし、使う必要はないでしょう」

研究対象としても非常に興味深いし、未来予知によるリターンは非常に魅力的だが、致し方あるまい。

何より、この未来日記を使用するには相方への絶対の信頼が必要不可欠だ。
自分の未来を予知されては、いざ敵に回った時に確実に詰む。

……特に。
現在の自分の相方のような、絶対に油断のならない存在に対しては、尚更。
向こうの行動を予知できるのはこちらも同じだが、地力の差が圧倒的だ。
策を弄してもその策まで知られてしまうようではお話にならないのだから。

確かに感性の近さなどから親近感のようなものは無きにしも非ずだが、流石に自分の未来を預けられるほどではない。
そもそもが唐突な出会いだったのだ、何時この協働関係が崩れてもおかしくない以上、身を委ねるには不安が過ぎる。

内心の不信を押し隠しながら、ちらり、と横目で趙公明を見る。


「……な、」

絶句。
さしものキンブリーであろうと、ただ、絶句するしかない事態がそこにはあった。

643天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:56:41 ID:ie3rMips0
珍しく口をあんぐりと開け固まったキンブリーの耳に、ゲーム版封神演義のカラオケで披露された麗しき子安ボイスが入り込む。

「この電話が破壊された時、プロフィール欄に記された名前の持ち主もまた、死亡する……?
 構わないじゃないか、戦いにはリスクが付き物だ!
 自身が敗れる可能性もないまま力を振るうのは断じて僕の望む闘争などではない――、ただの子供の癇癪さ」


趙公明は目の前で、己自身の名前をプロフィール欄に入力して見せていた。
そして――、にこやかにそれを自分に放り投げてよこすのだ。

動けない。
目の前の奇行に理解が及ばず、時が完全に凍りついている。

だってそれは、心臓を手に握らせるのと同じこと。
キンブリーが今、受け取った携帯電話をちょいと割り折っただけで、たったそれだけでこの男は死ぬことになるのだ。

だと言うのに、趙公明は静水の如く全く揺らがない。
態度の意味が、分からない。

絞り出した声は途切れ途切れで、キンブリーの脳内は白に塗り潰されそうなのが目に見える。

「……一体、何を……考えている、のですか?
 仮に今ここで私がこの携帯電話を破壊したら、あなたはあっさり死ぬことになるのですよ?
 正面からあなたを倒すのは難しいでしょうが、握った電話の破壊だけならやってやれない事はない。
 折しも今、あなた自身の言った通りに」

困惑を通り越し、狼狽とさえ呼べる反応を返すキンブリー。
趙公明はそれを見て満足したのか破顔し――、

「ハァーッハハハハッ! 愛さ、愛だよキンブリーくん!」

場違いな単語で、疑問の全てに答えて見せた。

「愛……?」

「そうとも。僕は君がそんな事をしないであろうという事を確信している。
 親愛、信愛、友愛、人愛、敬愛、恩愛……。
 僅かな時間の付き合いながら、君の嗜好は僕がそれらの感情を抱くのに十分だった。
 僕は君のその美学に敬意を払い、同時に親近感を抱いているのさ。
 数多ある感情の全てに共通する一字があるのなら、それこそが真実。
 これを愛と呼ばずに何と呼ぶのだろう!」

ブワリと趙公明の周りに何処からともなく黄金の花弁が舞い散った。
じぃ、と星を抱いて自分を見つめる真摯な瞳。

意識せずに、キンブリーの頬が思わず朱に染まる。
顔が熱を持つのを、自覚してしまう。

644天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:57:05 ID:ie3rMips0
「愛――それは一なる元素。
 僕はその愛を、これからも君と深めていきたいと思う!」

飛び込んで来いとばかりに鷹揚と両手を広げる趙公明。
何処までもまっすぐな視線は、確かにキンブリーへの十全の信頼を証明していた。

「……やれやれ。そうまで言いきられてしまっては、ね。
 此方としても断ったら立つ瀬がなくなってしまうではありませんか」

キンブリーは、その強さに耐えられない。
目線を逸らす――、きっとそれは陥落を意味していたのだろう。
キンブリーは照れを隠すように頬を掌で隠し、自分自身の携帯電話を取り出した。

慣れない手つきで一字一字、慈しむように自分の名前を打ち込んでいく。

「……この催しを更に楽しむために最適な手段だと思ったからこそ、こうするだけですよ。
 決して、あなたの為にした訳ではありませんからね」

相変わらず目線を合わさないキンブリーに、趙公明は静かに頷いた。

「無論、今はそれでいいとも。今は……ね」

「――ッ……!」

不意の言葉に息を呑み込む。
ようやく名前を打ち込むと、そこには確かに、手を取り合った自分たちの未来が示されていた。

「……ご自愛を。
 流石に自分自身の命くらいは、己の手に収めておくべきですよ」

ゆっくりと歩み寄り、パートナーに電話を返す。

手と手で受け渡されるそれは、まるで指輪の交換のようだった。


観測者はここに、薔薇の花を幻視する。
いつしか真っ赤な花が、確かに咲き乱れていた。


【H-08/橋の手前/1日目/午前】

645天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:57:18 ID:ie3rMips0
【趙公明@封神演技】
【状態】:健康
【服装】:貴族風の服
【装備】:オームの剣@ワンピース、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
【道具】:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
【思考】:
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:映像宝貝を手に入れに南に向かいたいが、お達し通り様子見。
  しかし、楽しそうなら乱入する。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:映像宝貝を手に入れたら人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指したいが……。(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
10:ネットを通じて遊べないか考える。
【備考】」
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
【状態】:健康
【服装】:白いスーツ
【装備】:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
【道具】:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本
   学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
【思考】
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいが火種として働いてくれる事に期待。
5:参加者に「火種」を仕込みたい。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:ゆのは現状放置の方向性で考える。
8:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。
9:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
【備考】
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。

646天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:57:38 ID:ie3rMips0
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折、泥の様に深い眠り
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄貴に会いたい。
0:……。
1:旅館に行って兄貴と会う。
2:キンブリーから蘇生について話を聞く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。


【ゆの@ひだまりスケッチ】
【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶
【服装】:キンブリーの白いコート
【装備】:
【道具】:
【思考】
基本:???
1:ひだまり荘に帰りたい。
【備考】
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが三叉路付近の路地裏に放置されています。
※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。


【交換日記@未来日記】
未来日記所有者7th、戦場マルコ&美神愛の所有する未来日記。
我妻由乃の“雪輝日記”の様に、特定の一人だけを予知する機能を持つ二つで一つの未来日記である。
使用者自身の予知は出来ないが、互いに未来を予知し合う事で完全予知を実現する。
今ロワには7thが参加していないため、携帯電話のプロフィール機能を用いることで予知の対象を変えることが出来る措置がなされている。
具体的には、使用者の首輪から半径2m以内でプロフィールの名前欄に本人の名前を入力することで機能が解放される。
予知の対象はもう片方の交換日記のプロフィールに記された名前の相手となる。
ただし未来日記のルールに則り、名前を入力した時点から携帯電話の破壊=使用者の死亡となる。
“無差別日記”や“逃亡日記”などで予知の対象変更が可能かどうかは不明。

647天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:58:00 ID:ie3rMips0
**********


1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:6)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 6 名前:ポテトマッシャーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:mIKami7Ai
 森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。
 ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。


**********


光の飛沫が形作る独演会。

半透明なパイプオルガンから噴水のように吹き上げては降り注ぐ金粉の流れが、天上の舞台を描き出している。
同心円状に拡散する煌めく粒子は、円盤の端に辿り着くと滝に呑まれて眼下に降り注いでいった。

まるで古代人の描いた地球のような円盤状の大地。

全天を闇と彩雲に包まれたその場所で、二つの影が世界を睥睨する。

木枠と扉だけが無数に宙に漂っており、その開いた向こう側には数多の人の生き様が映し出されていた。

ひとつは、純白のスーツに身を包み、長髪を後頭部で括った青年。
ひとつは、異形の剣を異形の身に佩く髑髏の男。

「事象を一面から捉える事は叶わぬ。
 誰もが悪夢と罵る催事であろうと、兆しを待つ者には深淵へと渡された蜘蛛の糸として、千載一遇の好機となる折さえ在る。
 我等の様に」

馬上の騎士が呟いたその声に、青年は応えを返さない。
ただ、その手に摘まんだ一輪の花を鼻に近づけ――、

「この美しく整った盤面に、願わくば」

虚空へと、投じた。

「なるべくなら良き日々が多くありますよう――」


花は光の濁流に飲み込まれ、千切られ、翻弄され――見えなくなる。

そして、誰も見届けることのない流れの中で、闇の中へと融け消え入った。

花の名前は曼珠沙華。またの名を彼岸花。
意味する花言葉は――、

648 ◆JvezCBil8U:2010/01/16(土) 22:58:59 ID:ie3rMips0
以上、投下終了です。
いろんな意味でやりすぎたかもしれませんが、ご指摘等あればよろしくお願いします。

649名無しさん:2010/01/17(日) 10:14:17 ID:pHhzymDI0
さるさん食らったのでどなたか代理投下の続きをお願いします。

650 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:28:09 ID:vYw7w26M0
規制食らったのでこちらに投稿します。
本スレ241の続きです。

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 リヴィオは急襲をかけてきたミッドバレイを信頼するには程遠い心境だったが、
しかしながら、戦闘面においての彼の支援は無碍にできないものがあるとも考えていた。
 こと近接戦闘において、ミッドバレイはリヴィオの敵ではない。
しかし、気配を感じさせずに致命的な一打を与えてくる彼の手腕は恐ろしいし、味方にすれば頼もしいだろう。
 或の身体の脆さが予想以上だったのも、リヴィオにミッドバレイとの共闘を決意させる一端だった。
さっき被弾した銃創程度なら今でも数分で皮が張るリヴィオとは比べるべくもないが、
それにしてもたかだかあの程度ですぐには歩けなくなるほどのダメージに或がなるとは思わなかった。
偽杜綱のときといい、相手の殺意と危機に関する察知能力も低い。
或の世界では、生き延びるためだけにそういった感性を研く必要も、理不尽で不合理な暴力にさらされることもなかったのだろう。
 近接戦闘で敵ではないならば、不意打ちをおそれて汲々とするよりもあえて近づけた方が安心だろう。
ミッドバレイの射撃の腕前も、『能力』もアテになる。ビジネスライクに考えられればこれ以上ないパートナーだ。
 或は小さくて弱い。自分の手が唯一守った少女のように。
 ホーンフリークは、信頼できる仲間とは到底言いがたい。
 或はリヴィオにしか守れない。
 ミッドバレイは或を人間かと尋ねたが、それなら身体強化を重ねた自分の体の方がよほど化け物(フリークス)だろう。
だが血に染まりきったこの手でも守れるものがあると教えてくれた。
――コインはどうする。
ラズロのささやいた。いや、ラズロではない。リヴィオの弱さをラズロのせいにしてはいけない。
彼のコインの行方が気になってしかたがないのはリヴィオ自身だ。
 目的を思い出せ。リヴィオは再度自身に言い聞かせた。
 自分は或を守り抜く。悪趣味なこの殺しあいを生き延びて、或をもとの平和で安全であんな感性など必要のない世界に帰してやろう。
リヴィオがおった痛みを、ラズロに押し付けた苦しみを或には味わってほしくない。
 できるはずだ。
師とラズロを敵に回しても孤児たちを守りぬいた彼のように。
血みどろになっても決して諦めなかった彼のように。
 彼――。彼の、コインはどこだ?
 ヴァッシュに会いたいと思った。
守るには大きすぎるものを抱えて、それでいてなにひとつ落としはしない彼に会いたいと、心の底から思った。

651 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:28:48 ID:vYw7w26M0



或がそんな提案をしたのは、当然思惑のあってのことだ。
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは、間違いなく人を殺すことに抵抗がない。
現に躊躇なくリヴィオへ鉄杭を発射した。或もその弾丸で撃ち抜かれている。
急所ではないからといって、それが或を殺すつもりがなかったとはどうしても思えない。
彼の行動の基本は、情報源の確保と他者の排除。展開がこうならなかったら、
彼はリヴィオを仕留めて或から必要な情報を聞き出し、止めを刺すか放置するかしただろう。
どちらでも同じことだ。リヴィオの的確な処置がなければ或は血の海でみじめに死んでいたから。
 そして、立ち入り禁止区域を把握していなかったことから彼がこの異常な島を単独行動していることが分かる。
これからも武器や情報を得るために平気で一般人を殺すことだろう。
 鳴海歩や『普通』の人間と思われる掲示板の管理人が遭遇したらどうなるか。
彼らが命を拾う可能性は皆無だ。それは何としても避けたい事態だった。
幸いなことに彼は、殺人に快楽を見出すタイプでもなくかなり理性的な人物と読み取れる。
 ならば、懐柔してしまえばいい。
リヴィオを使えば砂漠の星の住民という大きなくくりで、おおまかな思考傾向をつかみ取るのにさほど時間はかからないだろう。
しかもリヴィオとミッドバレイは同じ組織に属していたという。彼がほしい情報は明らかだし、或にはそれを獲得する自信がある。
 ――もちろん、或が第一義に考えているのは身の安全だ。
戦況や戦時の人物把握についてはリヴィオの方が圧倒的に長けている。だから彼が渋れば或は即撤回するつもりだった。
けれど、リヴィオは諾とした。ということは、彼にとってミッドバレイは脅威ではない、もしくはなんらかの勝機が見込まれるのだろう。
 ――それに。
 こめかみは春雷のように痛んだが、その内部は冴えわたる。
 ある人間と別の人間。別の人間はある人間が死んだ後の時間軸を生き、ある人間はただ死んでいた。
 或がミッドバレイを手元に置いておきたかったのは、有力な手掛かりになると直感したからだ。
23%が死んだ中で、手持ちのカードにこの両者を入れられるとはなんという幸運か。
 或は首筋の毛がぞわぞわと逆立つのを感じた。口角はくっきりと上がり、薄い唇は完全に笑みを形づくる。
 謎だ。謎がある。それもとびきり大きな謎が。
 探偵にとってこれ以上の悦びはあるだろうか。
 ――包み隠されたその姿はきっと陶然とするほど魅力的だろう。
 『神』よ、この僕がお前を解き明かしてやる。
 或は強く強く思った。それはもしかしたら、最後の一人になってでもと願うほどに。

652 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:30:25 ID:vYw7w26M0



 まともな嘘をつくのも面倒になって、ミッドバレイは適当にごまかした事実を伝えた。
 立ち入り禁止区域と交換で、或が子供に化ける剣士の話を聞きたがったからだ。
 なんならそのままを話してしまってもよかったのだが、
或によく似た年齢・服装の子供(注:竹内理緒)を殺したことは伏せたほうがいいと判断した。
オトモダチの可能性が高い。ここで揉めるのは厄介だ。
 昔の自分なら、笑顔を浮かべればいくらでも偽りの言葉が流れ出たし、ついでに気のきいた一言も付け加えたかもしれない。
洗練された容姿と相まって、確かにそういった如才のなさは彼の武器の一つだった。
他のGUN-HOにはない強みだ。そこをナイブズに見込まれたのだとしたら、そんなもの初めからいらなかったと思う。
 疑いたいのなら疑えばいい。クソを塗り固めたこのゲーム、どうせあと二日ほどだろう。
 わりあい完璧主義者だったはずの自分のずさんさに、人間捨て鉢になれば大概の事はどうでもよくなるんだな、という感想がぼんやり浮かんだ。
なんでもいいからさっさと終わってほしい。これが最も正直なミッドバレイの心中だった。
――サックスがあれば
 仮定なぞ無意味と知りつつ思わずにはいられない。
――華麗に迅速に殺しつくしてみせるのに。
 彼も長年殺しを生業にしてきた男だ。その辺のギャング程度なら話にもならずに叩きのめすことができる。
しかし、リヴィオや黒い剣士が相手ともなるとそうはいかない。
残念ながらミッドバレイは楽観主義者ではななく、頼みの打杭機も傷が響いて精巧な照準を定めることは難しい。
虚をついての奇襲、HIT AND RUNしか選択肢のない今の彼にとって、これは大きな痛手だった。
 ミッドバレイが或の提案を受けたのは、もう一つ理由がある。
 『あれ』らの情報を取得するのともまた別の理由だ。
 賞金首の手配書のような紙。秋瀬或とリヴィオが作成したものだ。
詳細な容貌や攻撃能力が記され、ご丁寧にも危険人物ゆえ気をつけろと注意書きがある。
なるほど、冒頭の一戦でリヴィオの呼びかけにこたえなければ、
子供に不意打ちをかける危険人物としてミッドバレイの似顔絵が流布されていたに違いない。
 リヴィオは緊張をたたえた様子でこちらを見据えている。すでに自分は警戒されている。
今ここで立ち去っても同様だろう。
強者とまみえる可能性が、これからは否応なしに高まる以上手の内を明かされるのはどうしても避けたい。
 ミッドバレイはリヴィオを見返した。GUN-HO-GUNSのひとつならば、この男もどこかいびつに違いない。
だが少なくとも、ダブルファングはいきなり魔牛に化けたりはしない。
 わけのわからない『神』共がはびこるこの島で、それは極めて心強い真実に思えた。

653 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:30:59 ID:vYw7w26M0

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕、興奮状態
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、不明支給品×1、
    携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、A3サイズのレガートモンタージュポスター×10、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
1:『神』の謎を解く
2:リヴィオと共に中学校付近に潜伏して、歩と雪輝達の取引を監視する。
3:我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記を用いて参加者から情報を得る。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:ミッドバレイの懐柔。
10:ヴァッシュに話を聞きたい。
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※螺旋楽譜に記された情報を得ました。管理人は歩であると確信しています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
 詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
 みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※名簿の仕組みを認識しました。

654 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:31:28 ID:vYw7w26M0

【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×1、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、詳細不明調達品(警察署)×0〜2、警察車両のキー 、No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。
1:ウルフウッドのコインはどこに?
2:或を守る。
3:或と共に、知人の捜索及び合流。
4:偽杜綱を警戒。
5:ロストテクノロジーに興味。
6:死者の復活……?
7:ミッドバレイをやや警戒
8:ヴァッシュと合流したい。
[備考]
※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
※妲己を危険人物と認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※ミッドバレイとの時間軸の違いを認識しました。困惑しています。
※名簿の仕組みを認識しました。

655 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:31:59 ID:vYw7w26M0
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、背中に裂傷(治療中)
[服装]:白いスーツ
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:支給品一式×4、真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
銀時の木刀@銀魂、月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
エンフィールドNO.2(1/6)@現実、クリマ・タクト@ONE PIECE、ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
エレンディラの杭打機(26/30)@トライガン・マキシマム 、No.7ミッドバレイ@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、レガートに対する強烈な恐怖。
1:怪我が癒え十分と判断される情報が集まるまで、或とリヴィオに同行
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
3:愛用のサックスが欲しい。
4:或の情報力を警戒。
5:ゲームを早く終わらせたい。
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※放送の後半部分の内容を知りました。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※リヴィオとの時間軸の違いを認識しましたが、興味がありません。
※名簿の仕組みを認識しました。

656 ◆23F1kX/vqc:2010/01/23(土) 01:38:37 ID:vYw7w26M0
【C-2/警察署/1日目/午前】

タイトルは「それぞれの妥協点」です。

以上です。ありがとうございました。

657 ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:57:18 ID:xXiaLB6g0
……どうしていざ投下する段になって見計らったように規制がかかるのでしょうか。
本スレには無理だったので、こちらに投下します。

658この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:58:09 ID:xXiaLB6g0
《 Ayumu Narumi -神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの- 》


何もかもを冷たい白に染める冬の足音が、確かに近づいてきている。
一足早くに同色に染まる吐く息は、掌に当ててみれば確かな温かさをそこに感じる。

――俺がまだ生きてここにいる証。
けれど数秒も待てば熱は霧散し、ただ刺すような大気が身に凍みた。

この手を取るものは誰もいない。
俺は、一人でここに立っている。

高みを仰げば白亜の建物の頂きに、鷹のような男が鎮座している。
鋭い眼光はまるで獲物を狙うかのように俺を射抜いていた。

用意万端、これでこちらの準備は整った。
ポケットを叩き、そこにあるモノを確かめて、一息。

視線を更に上げ――、暗雲渦巻き始めた曇天を見据えた。
紫色にも似た、何とも言えない不吉な空だった。

「……寒いな」

利用し、利用されるだけの関係。
結局のところ俺はそんな関係の中にしか落ち着くところが無いらしい。
いや、分かっていて自らその中に飛び込んでいく。

……それさえも違うか。
俺は、自分が利用されるに足る価値を、何もないところから生み出すために立ち続けている。
誰かを利用するための通貨を、錬金術の様に捻り出す。
俺が一人で笑う限り、俺の論理は証明され続けるのだから。

だから俺は、誰からの手も振り払おう。
支えるものもなく、この先に続く足場が今すぐにでも、ふっ、と消えてしまいそうでも――、
それでも運命が変えられるのだと、足掻く事で示すんだ。

「くそ……」

だけどそれは、利害の一致のみの繋がりよりなお苦しい事だ。
使い道という言葉は、遍く人に逃げ道を残す。
依りかかるべき柱があれば、何もかもの重さをそこに押し付ける事が出来る。

左肩が軋んだ。
ここに来る前、グリフィスと名乗った男の言葉が伸しかかる。
前を見据えれば、未だ顔も知らない天野雪輝と我妻由乃の影に呑み込まれそうになる。
ずきずきと痛み続ける傷に手をやれば、ぐちゅりという湿った音とともに赤い汁がこびりついた。

脆いな、と声に出さずに口の動きだけで呟く。
そう、人は簡単に死ぬ。
俺も兄貴も義姉さんも、結崎ひよのも誰も彼もが終わりは避けえない。
そしてその訪れはいつも突然だ。
ミズシロ・ヤイバが兄貴に殺された時も、彼は己の死を全く信じられなかったらしい。

今すぐにでも自分は消えてもおかしくない。
そんな、吐きそうになるほどの緊張感は、たとえどれだけ場数を踏もうと絶対に消える事はない。

659この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:05 ID:xXiaLB6g0
……怖い。
そう、俺は死が怖いんだろう。
俺は決して超人なんかじゃない。
たまたま奇矯な構図に配置されただけの、何一つ持たない人間だ。
論理を頼りに蜘蛛の糸に飛び付いているだけの、どこにでもいる存在だ。
今までの事件と比べてもとびきりに異常なこの状況で、おかしくならないのが信じられないくらいなんだから。
生まれた世界の常識や物理法則の通じないこの異界は、論理に縋るしかない俺にはあまりに心細い。

死者の蘇生に、未来予知、バラバラの実。摩擦係数0の肌に、ひとりでに飛ぶ矢。
住み慣れた故郷ではありえない現象――未知という名の恐怖。

殺し殺され、奪い奪われ、犯し犯され。
交わす言葉は常に相手を出し抜こうとする謀りで、全てが生き延びるというお題目のもとに正当化されてしまう。
委ねられるのなら、狂ってしまった方が楽だと心から思う。

自分を取り囲む風景が、今にもおぞましい殺戮と肉欲の狂宴に変わってしまいそうな錯覚を抱く。
それこそ、取り乱して泣き喚いてしまいそうになるほどだ。

思えば、安藤と出会った事は不幸中の幸いだったのだろう。
誰かが俺に望む姿があるならば、俺は平然とした顔でやせ我慢する事が出来る。
だからこそ俺は、ここまで進むことが出来たんだ。

それでもそろそろ、泣き言が漏れてしまう頃合いかもしれない。

土屋キリエは死んだ。
竹内理緒も死んだ公算が高い。

彼女たちと共に過ごす時間が二度と戻らないという喪失感。
もう怒った顔も、悲しそうな顔も、笑った顔も、まだ見た事のない表情も闇に葬られた。
他愛ない会話さえ、新たに交わすことは出来はしない。
彼女たちが剥落した後に残る空洞は、他の何で埋めることも不可能だ。

それが――死。
己の死は自らに永劫の無をもたらし、他者の死は周りの人から故人との未来を奪っていく。
それは人が毎日を一生懸命に生きる理由でありながら、後悔と悲しみ、そして孤独を運命づける。
遺されたものは、想い出だけで自分を慰める事しか許されない。

できるなら俺は、今すぐにでも短くも濃密だった彼女たちとの時間を振り返りたかった。

なにより――、ミズシロ・火澄の死。
あれは、ことのほか俺の精神を軋ませていたらしい。

何故なら俺は、確かにあいつに共感を――それ以上の繋がりを感じていたんだから。
臭い言葉で言うならば、多分それは友情というものだったんだろう。

加えて、どうやら俺は馬鹿げたファンタジーを少なからず頼りにしていたようだ。
自分と火澄は誰にも殺されないという幻想を砕かれた時の動揺は、正直言語化するのは難しいだろう。
あまりにあっけない火澄の死は、数えるのも嫌なほどに脳内で繰り返されている。
いつしかそれは、登場人物が俺に挿げ替えられた映像になっていた。

具体的すぎるにも程がある俺の死が、そこにあった。

……もちろん俺は、自分が絶対に死なないなんて慢心は一度も抱えていたつもりはない。
自分がファンタジーのごとき構図の下に配置されていると知らされる前、俺は常に自分の命を張ってブレード・チルドレンと相対していたんだから。

けれど世界という概念が土台から崩れた今、俺はそんな構図に縋ってすらしまいそうになっている。

660この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:25 ID:xXiaLB6g0
まったく、無様で笑える話だ。
……また怯えで体が震える。

まだまだ俺は甘い。
この場所では、構図というルールすらも本来は疑わなきゃならない。
なのに今そこに固執するのは、ただの現実逃避だ。

分かっていても、分かっているからこそ、ひたすらに心細い。

一人の少女の姿を思い浮かべる。
俺は、無性にあいつに――、


パン、と頬を打つ。

俺は元々、あいつを手放した上で独り生き続けなければいけないんだ。
頼りにならない幻に今から寄り掛かっても、示せるものは何もない。

策はいくつかあるし、実際に手も打った。
この取引だって、横槍でも入らない限りはまず無事に終えられるはずだ。
天野たちからは少し気になる情報が入ったが、あれから連絡がない事を見ると恐らく問題はクリアできたのだろう。
連中が何か企んでいる可能性もあるが、それらについても秋瀬との検討の上で対応済みだ。

ここを乗り切ればひと段落といったところだろう。
……だから、かもしれない。

「この一件が終わったら、あいつに連絡でもしてみるか……」

これは先を見据えた連絡網の強化の為。
確かなメリットを不自然なほどに意識しても、心の奥底に押し込めきれないものがあった。
少しでも俺なりのいつも通りを取り戻そうと、抱いてはならないはずの甘えを自覚する。

らしくない。
鳴海さんは私がいなければ何も出来ないんですね、と、そんな声を聞きたいなんて、実に不覚だ。
まったく、頭が痛いにも程がある。
……そして、そんな頭の痛さに少しだけ落ち着きを取り戻している自分が、余計に悔しい。

「あまり放置プレイが過ぎればうるさいだろうしな。放送が終わった後にでも……、な」

たとえ死が二人を別とうと、誰にも奪われないものはある。
けれど、それは別として――、

……あいつが死んでなければいい。そんな事を想った。

そして俺は、足を踏み出す。
学校という名の狩り場へと。

661この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 21:59:46 ID:xXiaLB6g0
**********


《 Yukiteru Amano -Novus Deus Pater- 》


僕の背後から飛んできた声は、頼もしいながらも正直あまり心臓によくないものだった。

「そこで止まれ。ユッキーに近づく前に、一つしてもらわなきゃいけない事があるわ」

雲行きが怪しくなり始めた空の下、だだっ広い校庭のど真ん中。
そこに立つ僕を挟んで、背中には由乃、視線の先には茶色い髪の少年が立っている。
校門で立ち止まった僕より少し年上の彼が、きっと鳴海歩さんだろう。
彼は僕に目を向けてから、すまんな、と口にして視線を僕の更に後ろに向けた。

「……その物騒なものはしまってほしいんだけどな。
 まあ、言っても聞きそうにないか」

……由乃がどんな顔で彼を迎えているか想像がつくだけに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
僕としても頼りになる人がもっと欲しいのに、どうして由乃は、ほんとにもう……。

「ご、ごめんなさい……」

「ユッキーは謝らなくていいよ。だって、これは当然の自衛なんだから。
 銃じゃなくて剣を持ってるのが最大の譲歩。
 銃に怯えたあんたに無差別日記を持ち逃げされても困るしね」

由乃の言っている剣とは、僕が自分の支給品から渡したものだ。
由乃は銃より刀剣の方が使い慣れているし、あんな物騒なものを由乃に持たせたら交渉が成り立たなそうだったんだ。
いざという時の為に銃は僕が預かったけど、剣を僕からの贈り物だって喜んでくれた由乃にはちょっとだけ複雑。
……今度何か贈り物をするときは、もっといいものをプレゼントしたい。

「……OK、とりあえず話してみてくれ。
 それと順番が逆になったな。あらためて自己紹介をしておくよ。
 鳴海歩だ、よろしくな」

鳴海さんは頭を掻きながら礼儀正しく名乗ってくれる。
由乃に睨まれてるのに実に堂々としていてすごいと思う。
こう言うのもなんだけど、流石由乃が警戒するだけはある。
こんな人が力になってくれたら確かに心強いはずだ。
だから僕もどうにか笑みを作って、頭を下げた。上手く笑えてるといいんだけど……。

「え、えっと……天野雪輝です。よろしく……」

「よろしくする必要なんてない。
 でしょ、カノン・ヒルベルト?」

いちいち言動が挑発的な由乃に胃がキリキリする。顔も引き攣ってるかもしれない。
……さっきの取引時間の変更といい、由乃は何を考えているんだろう。
最終的には殺し合いになるにしても、協力関係を築いている間はメリットの方が大きいって来須さんや9thの事で知っているはずなのに。
もちろん裏切られた時はツラいけど、その時に由乃を信用できるからこそ僕は仲間を求めてるんだ。

……そう、僕は由乃を信じると決めた。背中を任せたんだ。
だったら今は、目の前の事に集中しよう。

662この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:06 ID:xXiaLB6g0
「まったく……、意地が悪いな。
 素直に身元は明かしたんだし、容赦してほしいよ。
 俺だって想定外だったんだ、死んだはずのカノンがここにいるなんてな」

はあ……、と、心なしに付いた溜息が思ったより大きくて自分でも驚く。
鳴海さんが大人で助かった、っていうのもある。
だけどそれ以上に、きっと彼の語った内容に安心したんだ。
ムルムル達から話には聞いていたけど――、

「誰かを生き返らせる事は、やっぱり可能なんだ……」

――さっきまで寝ていた時、僕は夢を見ていた。
由乃にも話していないけど、多分その夢はきっといいものじゃなかったんだと思う。
思いだそうとすると良く分からない恐怖が湧き起こる。
その度に記憶の詮索をやめてしまう、あのイメージは何なんだろう。

崩れ落ちるタワーと、シーツの掛けられた担架。
ぽつんと乗せられた、母さんの眼鏡。

ズキン、と脳の奥の奥が痛んだ。

そして――神社。神社だ。
そこで僕は穴を掘って、望遠鏡を、包丁、質屋、柄杓の水、約束……。

駄目だ、と無理に蓋をする。
正確に思い出してしまっては――いけない。
神社に行ってはいけない。
行ってしまったら僕はきっと、今の僕じゃなくなってしまう。

「耳を貸したら駄目ユッキー、情報提供する事でユッキーを取り込もうとしているよそいつ。
 ……そんな無駄話はどうでもいいの。さっさと無差別日記を置いてこの場を退きなさい。
 その為にも――、」

……きびきびとした声なのに、由乃の声はとてもあったかく僕の心に沁み入っていく。
だから僕はすぐに、ここに立ち戻ることが出来るんだ。
眼を見開けば、遠くの鳴海さんが肩をすくめて由乃の話を聞いている。

「あんたの持ってるもう一台の携帯電話。
 それを、校門の上に置きなさい。私たちに見えるようにね」

……ここまでは、予定通り。
由乃と僕がもう一台の携帯電話の存在を聞いて真っ先に警戒したのは、ある可能性についてだった。
つまり、その携帯電話が新たな未来日記の可能性がある――ということ。

疑いすぎかもしれないとは思う。僕だって、仲間になってくれるかもしれない人にこんなことはしたくない。
けれど、それが未知の未来日記だとしたら、能力が分かるまでは放置しておく訳にもいかなかっだ。
そもそも携帯電話があるというだけで危険だって由乃は主張する。
今の携帯電話はボタン一つで連絡を取れるから、土壇場で仲間を呼ばれても厄介だって。
もちろん三台目の携帯電話を所有している可能性もあるけど、それは大した問題じゃないという。
肝心なのは、相手がそれを手放すかどうかを見極めること――こちらの意思をどれだけ飲み込むのか、という話らしかった。

「了解だ。これでいいか?」

663この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:28 ID:xXiaLB6g0
その言葉が来てすぐに、鳴海さんはポケットから見覚えのない携帯電話を取り出す。
……まるでこの展開をあらかじめ知っていたみたいだ。
彼は内心、どう思っているんだろう。
顔には何も出てなくても、もしかしたらすごく焦ってるのかもしれない。
だってどう考えても携帯電話の存在は知られない方がいいんだから。
どちらにせよ、動揺のあまりに由乃を暴走させかねない言動が飛び出ない事を祈る。

「時間がないわ。さっさと交換を終わらせましょう。
 その為に時間を早めたんだしね」

わざわざこっちの指示にしたがってくれたのに、一向に険の取れない由乃の声が耳に痛い。
淡々と作業をするかのような口調は、僕でさえ何を考えているのか読み取ることが出来なかった。
――さっきみたいに。



ここに至る前、電話で最後の交渉を行った時の事を思い出す。
あの時はこちらから連絡を取ったんだけど、それは雪輝日記にこんな予知が表示されていたからだった――。




11:50
校庭でユッキーと鳴海が出会った瞬間に変な男が乱入してきたよ。
いきなりユッキーたちが動けなくなって、無差別日記が変な男の手に渡っちゃったよ。
どうしようユッキー。


12:00
ゆ、ユッキーが突然消えちゃった……。
ウソでしょ、ユッキー。日記があんなのに破壊されちゃうなんて。
ねえ、出てきてよ、ユッキー。
笑ってよ、ユッキー。
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、
ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー、ユッキー……。

 】

由乃がじっと文面を眺めていたのが、やけに強く印象に残っている。
何を考えているんだろう――。
自分の死の表示に取り乱すこともなくそんな事を考えられるくらいには、僕も場数を踏んでいた。
けれど、いきなり由乃がすごい勢いでどこかに電話をかけた挙句、

『取引場所への第三者の襲撃のせいで、“12:00”にユッキーが死んじゃうって予知が出ているの。
 だから取引開始時刻を10分早めたいんだけど。
 あんたの言った放送に近い時間ってメリットも多少は享受できるし、問題はないでしょ』

コール音が終わった直後に一気にそんな事をまくしたてた。
早口で一気に用件を伝えていたのは、多分相手にペースを握らせないためだったんだろう。
それに気づいて僕が電話相手を把握した直後、その予想を裏付ける声が受話器から漏れてきた。

『……やれやれ、いきなり無遠慮だな。
 第三者の介入の有無が分かるなら、もっと早い時間でもいいんじゃないか?』

664この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:00:48 ID:xXiaLB6g0
鳴海さんは絶対に呆れてたけど、その言葉は即座に交渉モードに切り替わっていた。
内容も的確で、僕も疑問に思っていた事だ。

『下手に予知を書き変えるより、できる限り既定の未来に沿った方が安全なの。
 あんたはどうなの? 同意する?』

『……了解だ。その案に乗るよ』

成程、と僕も納得。
と、同時。
ジジッと恒例のノイズ音がして未来が書き変わった。

スムーズに交渉も終わり、僕もほっと一息ついた所で――、

『何を企んでいる? 取引を10分前にする事でのあんたの利点は?』

由乃はむしろ、鳴海さんの素直さを疑っていた。
どうしてこうなんだろう、本当に。
僕たちは由乃に振り回されてばかりだ。

『そっちから話題を振ってきたってのに、疑り深いんだな。
 もっと余裕を持たせても大して変わらないだろ?
 むしろ、あんまり早くにされても備えを膨らませる事ができなくなるしな』

眉を詰めて渋い表情をする由乃だけど、上手い反論が思い付かなかったらしい。
それから二言三言交わして電話を切ると、再度二人で雪輝日記を覗き込んだ。


書き変わった未来は、確かに僕の生存を証明していた。
けれど、もうひとつ大事な――、


『私を信じて、ユッキー』

より一層浮き彫りになった不安を拭うように、僕の手を握った由乃。

『ユッキーの無事は保証されてる。だから大丈夫、ユッキーは生き延びるよ。
 でも、ごめんね。ほんとうにごめんね。
 ユッキーには苦しい思いをさせちゃうかもしれない……』

言葉も僕を安心させるようなもので、傍から見れば勇気づけられているのは僕にしか見えないはずだ。
けれどあの由乃が、いつも我が道を行く由乃が、珍しく頼りなげな顔を見せていた。
……多分それは、書き変わった予知内容が原因だったんだろう。
僕は、こんな由乃の表情を見ていたくなかった。
だから僕の手でそれを消し去ってあげたくて、思うままに言葉を紡いたんだ。

『……なにか考えがあって、こうしたんだよね?』

『うん……』

『だったらいいよ。うん、平気だ。僕は、由乃を信じてるから』

にこりと微笑むと、由乃の頬が可愛らしいピンク色に染まった。

665この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:01:27 ID:xXiaLB6g0
『ユッキー……』

えへへ、とはにかむように微笑み返すと、由乃は確かにこう言ってくれた。

『ありがとうユッキー、絶対に……ユッキーは“私が”守るからね』

……この笑顔の為なら、ちょっとくらいの痛みは我慢できる。
今思い出してみても、そう思う。



「そうだな。襲撃が分かっている以上、こんな所から早く撤退したいのはこっちも同じだ。
 ま、それなら場所を変えても良かったとは思うけどな」

「下調べした地の利を手放すほど愚かじゃないの。
 それに、あんたこそそれを思いついたなら無差別日記をどこか別の場所に置いて、私を取りに行かせるとかも出来たはずでしょ。
 そっちの方がずっと安全なのに、どうしてそうしなかったの」

――気がつくと、僕を放置したまま由乃と鳴海さんの舌戦はどんどんエキサイトしていた。

「それは思い付かなかったな。あんたのその発想力、是非仲間に引き入れたいよ」

鳴海さんが気を使って少しでも場の雰囲気を良くしようとしているのに、

「ふざけないで。あんたがそれを思いつかないはずがない。
 時間のことといい、交換手段といい。
 ……いちいちユッキーに媚びる意思が見えて反吐が出るわ」

由乃は全く聞く耳を持ってくれない。
打算に満ちたギスギスした雰囲気が、辺りを包む。

「正解だけど、酷い言い様だな……。
 余計な事をさせて心証を悪くしたところで、協力関係を築く障害になるだけだろ?
 別に一緒に行動しろとは言わないさ、時折電話で情報交換をする程度の繋がりでいい。
 それに、だ」

こほん、と鳴海さんが言葉を仕切り直す。

「あんたを単独行動させるよりは天野の近くにいてもらった方がいい。
 それがあんたの望みだろうし、天野の望みでもあるだろうしな。
 ついでに言うなら、場所を言った時点で撃たれるのだって御免なんだ」

……多分恋人として、という意味じゃなく、ストッパーとして、という意味なんだろう。
確かに由乃なら無差別日記を回収した後、鳴海さんの背中を撃ちかねない。
けれどそれでも、由乃の口撃をひとまず収めることには成功したみたいだ。

「……ふん」

由乃が口を噤んだのを肌で感じ取って、長く静かな溜息をもらす。
目を開けてみれば、鳴海さんが大変だなとでも言わんばかりに苦笑していた。
愛想笑いを返しつつ、頭を下げる。
……何故か知らないけど、この人にはとても親近感を感じる。
由乃の扱いといい、もしかしたら女性関係で相当苦労してるのかもしれない。
だからきっと、仲良くなれると思う。

666この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:01:50 ID:xXiaLB6g0
そして僕は、交換に臨む。
願わくば、無事に終わりますように。


雪輝日記を鳴海さんに渡す直前、念のために僕は歩きながら最後の確認をしておくことにした。
もちろんそれは、予知の内容についてだ。雪輝日記にはこう記されている。




11:40
予定より早く来た鳴海とユッキーが日記の交換をしてるよ。
あんなヤツにもしっかりと立ち向かうユッキーに見惚れちゃった。
雪輝日記を渡したことで申し訳なさそうな表情を私に向けてくれたけど、そんな顔しないでユッキー。
すぐにこの手で取り返してみせるからね。ユッキーの動向は誰にも監視させないんだから!

11:50
乱入してきた二人の男がユッキーを狙ってる!
一人はユッキーたちの動きを糸みたいなもので操ってる。
ユッキーが無理矢理筋肉を動かされて凄く痛そうな顔してるよ。
……こうなるのは分かっていたけど、あの男だけは許せない。
もう一人はそんなユッキーを助けに来たみたい。
見事にユッキーを抱き抱えて糸男の射程距離から逃れたよ。
無事でよかったユッキー。

12:00
件の男がユッキーにやけに馴れ馴れしく近づいて放送を聞いてる。
ユッキー、こいつを仲間にしたいって、どうして?
乗せられちゃ駄目、ユッキーの側にいるのは私だけでいいんだから。

 】


**********


《 Midvalley The Hornfreak -音界の覇者- 》


数十メートルで行われていた、訳の分からない取り引きを見届ける。
先刻出会った子供が何やら説明していた気もするが、理解しようとする気など起きはしない。
ケイタイとやらの端末を互いに渡し合い、至極詰まらない会話を交わし、
端末の挙動を確認し、そのまま互いに背中を向け、静かに離れて――、
その終わりは、実にあっさりとしたものだった。

終わったのは取引じゃない。
全部だ。
全部、全部、全部……、そう、全部だ。

「……おい、嘘だろ」

ダブルファングの呆然とした声。
それに俺も、似たような感情を得る。

崩壊は、常に一瞬だ。

667この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:02:15 ID:xXiaLB6g0
絶望という親友は、俺を見放すことなくいつもいつも親切に面倒を見てくれる。
全く、嫌になるほど素晴らしいセッションだ。

ああくそ、そうだ。俺はよく知っていたはずじゃあないか。
これが、これこそが運命だ。
鋼鉄の処女にも劣る最低で最悪な、絶対に逃れる事の出来ない首枷だ。

彼奴の名前を、俺の口は勝手に紡ぐ。

「レガート・ブルーサマーズ……」

悠然と、泰然と、轟然と。

誰もが気付かないうちにそこにいたにもかかわらず、圧倒的な存在感を持つ男。
誰が見間違うものか、自分を殺した男を。
相も変わらず凄惨なほどに狂った笑み。闇よりもなお黒く燃える炎を押し込めたその瞳。

俺に諦念を刻み込んだ時の姿のまま――、いや、その時よりもなお禍々しくさえ感じる風貌だ。
どういう仕掛けか、まともに動かないはずの体を強く強くただ強く暴力の気配を纏わせて、あの男はひた動かしている。
トラックの中心に向けて、ただ歩く。

俺をGUNG-HO-GUNSにブチ込むきっかけとなったこの耳が、皮肉にもヤツの言葉を逐一俺にプレゼントしてくれていた。
その言葉は直接俺に向けられたものではないというのに、いとも簡単に俺の心をまた折った。


「果たして――君達は僕のこの忠誠を示すに値する強者だろうか。
 そうである事を僕は欲するし、そうでないなら汚い肉と血と化すべきだ。
 ……踊ってくれ、僕の手で。僕の力で」

――もう何もかもがどうでもいい。
結局俺は、くそったれの神様に汚物のような愛を注がれているのだろう。

「そんな、馬鹿な。襲撃は12時ちょうどのはずじゃ……」

上擦った囀りがとてもやかましかった。
よくもまあ悪夢そのものを目の前にして、こうまで五月蠅くいられるものだ。

「く……! 雪輝君の無事が保証されてるからと、襲撃者の正体を楽観視していました。
 そもそも襲撃者の情報が我妻さんから伝えられてなかったのが致命的すぎる!
 雪輝君はどうにかして助かるにしても、これでは歩さんが……!」

首を振り、今はそれどころじゃないと口にする子供を――、俺は養鶏場の鶏を見る目で見下ろしている。

「リヴィオさん、彼らの救出を――!」

「分かってるッ、くそ、最悪の相手だ!」

駆けだしていくダブルファングのその先を向くまでもない。
筋肉の異常な軋みが告げている。餓鬼どもはとうにあの男の支配下だ。

発射音が届く。
奴の杭打機から飛翔する特大の弾頭は、甘い事に脚狙い。
……よほど温い世界に浸ってしまったか、ダブルファング。
殺す気であったならば、一糸くらいは報い得たかもしれんのに。

668この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(上) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:02:40 ID:xXiaLB6g0
「……ダブルファング。よもやここで出会うとはね。
 だが――、」

グルリと人形めいた動きで首を回したブルーサマーズは、一歩動いただけで奇襲の一撃を避けきった。
だからこれで、唯一の勝機は潰える。
たとえ殺す気であったとしても――、そんなものがあったかは定かでないが。

魔人は、正門の陰から駆けだしたかつての手駒に顔色一つ変えず対処する。
あたかもそれは、水溜りを避けて進む手間と同じ程度の面倒臭さだと言わんばかりに。

「トリップオブデスならいざ知らず、貴様では力不足だというのが分からないかい?
 背信者には芥も残さず消えてもらうとしよう。
 あのお方に牙を剥くなど、屈服のあまりにただ逃げようとする愚者より救い難い」

……そしてまた、一人。

「逃げろ、あんた……!」
「く、ぅぅぅううぅぅ……っ! 一体何が起こってるんだよぉっ!」

餓鬼どもが喚く最中、虫が一匹蜘蛛の糸に絡め取られていく。
棒立ちになったダブルファングは、でかい図体のおかげで実に見事な案山子となった。

「……どうして……ッ、俺は、くそぉ……ッ」

「リヴィオ、さん――ッ!」

分かりきった寸劇だ、予定調和にも程がある。
これを演じるというならば、逆に金を払ってさえ見物客はつくまい。
笑いのネタとして見るならばそれなりかもしれないが。

如何にダブルファングがヒトを超えた力を持っていても、あの男の技には逆らえない。
それは、タンパク質で構成された肉体を持つ存在ならば避けえないことだ。
あのプラントさえ制御し得るそれの前では、俺達はただ蹂躙されるのみ。

そうだ。
もう、どうにもなりはしない。


たとえ今この俺の手の中に、ようやく取り戻した愛用のサックスがあるのだとしても。


こいつと引き換えにする代わりに、杭打機と仕組みも分からない妙な棒きれを手放した。
そんな小さな事で少しだけ落ち着きを取り戻していた自分があまりにも矮小で惨めに思えて仕方ない。
……だから。

「そうか、そういう事か。我妻さんか……っ!」

この子供が何に思い至ったのか、それだってどうでもいい事だ。

669この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:03:25 ID:xXiaLB6g0
どうせ、俺がこいつらに同行したのは消極的な理由によるものでしかない。
ダブルファングとの交戦を避けるためと、俺自身の情報を流布されないため。
要するに、面倒事を避けるためだけだった。

その程度の理由なぞ、無慈悲なだけの現実の前では塵の如く霞む。

結局――、俺のする事など最初からこれしかなかったのだ。


せめて何を理解する事もなく逝け、少年。

唇をマウスピースに触れさせれば――、


「……か、ッ!!」


最後の声さえ打ち消され、探偵を名乗る子供は地面に眠る。
本当に、実にあっけないフィナーレだ。

……やれやれだ。つまらない小細工ばかりしてくれたな。
だが、今度こそ――終わりだ。もう兎の逃げる道はない。
あの時のように、頼みの綱のダブルファングの助けも入る事はない。

これもまた運命だろう。
お前達と俺が出会った時点で決定された、避けえない結果。
俺の枷にならんとして同道を申し出るなど、思い上がりに過ぎなかったわけだ。

恨むなよ、少年。その矛先を向けるべきは自らの慢心なのだから。
あるいは――、襲撃者がレガート・ブルーサマーズであったその運命こそが、真に唾棄すべき事実だったかもしれない。


「ホォォォォンフリィィィィイィクゥゥッ!」


少し遠くから聞こえるのは、悔しさと怒りの入り混じったダブルファングの咆声。
……音は相殺可能であろうと、俺は視覚まで自在にすること能わない。

だからそれが紛れもない失策だった事を悟るのは、既に手遅れとなった後だった。
ぞくりと体が芯から震える。
凍てつくような悪寒の正体は考えるまでもない。
気持ちの悪い汗が滝のように流れる最中、俺はただ自嘲の笑みを浮かべるのみ。

狂信者の昏い眼が、嘗めつけるように俺を串刺しにしていた。

670この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:02 ID:xXiaLB6g0
否が応でも悟らされる。
俺は永遠に被食者なのだ、と。

ゆっくりと、絶望が唇を動かしていた。

こ・ん・ど・は・か・し・づ・く・だ・ろ・う・?

音界の覇者――、と付け足して、その口元がニィ……、と歪んだ。

自分の意思とは無関係に、俺の脚は気付かぬうちに背後に歩を進めている。
睨まれれば、ただ逃げる事しか思い浮かばない。
……惨めだった。

そして気付く。
〝制限”のおかげか、あの男の支配がここまで及んではいない事に。
だからその場にへたり込み、地面に尻を吐いて――動けなくなってしまった。

それは安堵であり、どうしようもない敗北主義の負け犬根性からくる代物で。

「く、くく……はは、ははは……。
 はは、はははははははっ! ははははははははは!
 無様だなあ、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク!」

――泣きたくなるほどに滑稽な、道化者の末路がそこにあった。
俯き地面を向いて、ただ自分を笑う。
笑って、嗤って、哂って、嘲って――、どれだけ経ったろう。
おそらく数十秒だったろうが、それは無限に等しい自傷の時間だった。
死んだ魚の目のままに顔を上げる。


そしてそこに、俺は、全く信じられない光景を見た。

笑う事さえできない、完全な静止。

何故、どうして。

あの少女は――、



「あはっ♪」



――ブルーサマーズの支配圏にも拘らず、自らの意思で動いている……!?


愕然とした顔で、ブルーサマーズはその少女を見つめている。
絶対の信を預ける自らの技が通じない異常中の異常に、目を大きく開いている。
そんな、一度たりとも他人に許した事のないはずのブルーサマーズの表情すら意識に留まらない。
俺はただその光景に打ちのめされるだけだった。

671この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:25 ID:xXiaLB6g0
少女はひらひらと舞い踊るように、整い過ぎて怖気のするステップを踏み続けている。

この耳が、そこで何が起こっているかを教えてくれた。


あの少女は直感と異常なほどの察知能力だけで、ブルーサマーズの糸を全て掻い潜っている――!


「待っててねユッキー。私はずっと、この時を待ってたんだよ」

極めつけのイレギュラー。現実の光景とは思えない狂気の剣舞。
その在り様は醜悪なまでに歪で、それ故に奇妙な美しさを見るものに感じさせていた。

「だって――、」

慈愛に満ちた聖母の笑みを浮かべ、ブルーサマーズに勝るとも劣らない異形の精神がトン、と大地を蹴る。

「全員の動きが一斉に止まるこの時こそ、あいつを始末するチャンスなんだから」

上半身を下げた低い疾走体勢を維持したまま、ひたすらに糸を回避し続ける。
ブルーサマーズの事など一切眼に入っておらず、ただ愚直なまでに自分の意志を成し遂げんとする。

「雪輝日記を取り返す、絶好のチャンスなんだから――!」


彼女の言動を聞き入れたその瞬間、訳の分からない恐怖が湧き起こる。
胸が、苦しい。
どうしてかと思ったら、息をしていなかった。
体が完全にそれを忘れていた。

……この、少女は。
“あの”ブルーサマーズが乱入する事を知って、逃げるのでもなく利用すらした……とでもいう、のか?
あんな……小さな端末の為だけに、こんな狂気を平然と行ったとでもいうのか!?

それを成し遂げるとするならば、それは最早人間の所業ではない。
魔人の範疇ですらない。

……怪物だ。

壊れた笑みを崩さぬままに、怪物は疾駆する。
大刀を振り上げて、突き進む。
あまりに無力なたった一人の少年の下へと。
ピアスをしたただの少年は、覚悟でもしたかのようにぎゅう、と瞳を閉ざす。

その顔は戦場でこそ見覚えのあるものだ。
故に、確信した。

間違いない。
あの少年は死ぬ。
あの少女に殺される。

672この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:04:47 ID:xXiaLB6g0
心音から分かる。
あの少年は、この事態を――少女が己に殺意を向ける事を、想定していたはずだ。
どういう推論からかは分からないが、襲撃者さえ利用して己を消そうとする事を、理解していたはずだ。

だが、そこに一つ誤算があったのだ。
それこそ即ち、襲撃者がレガート・ブルーサマーズであったこと。
襲撃者があの男でさえなければ、切り抜ける手筈が整っていたのだろう。
その為の策をいくつも用意しておいたのだろう。
されど、指一つ動かせないという未知の暴力が故に――、全ての備えが意味が為さなくなった。

――運命が、少年の死を望んでいる。
俺にはそうとしか思えない。

それでも、きっ、と眼を見開いた少年の顔には、足掻けるだけ足掻く人間の表情が刻まれていた。
目前の死を認めながらも、ただ仕方ないと甘んじて受け入れるのではない――泥に塗れた者しかできない眼。

だが、音は全てを語る。
心理、感情、身体能力、行動意図。
少女の実力と少年の状況を考えるならば、不可避の死こそ自明の理。

どれだけ少年が生の為に尽力しようとも、この運命は覆せない。


『その人は、自分を信じているわけでもなく、ただ負けてたまるかと意地を張ってるだけです。
 でも、決して諦めることなく、人の手ではどうしようも無い運命に立ち向かっています』

何故か――、この場で初めて声を交わした、あの女の言葉が脳裏に響いた。
そら見た事か、どれだけ諦めなくとも全ては無為だ。

『その人はあらゆる絶望を与えられて、なおうつむかない覚悟をしているんです。
 これは怖いですよ。そんな人、いったいどうすれば倒せるんですかね』

簡単だ、暴力で蹂躙すればいい。
それだけの話だ。

「駄目だ、由乃――!」

痛みに顔を引き攣らせていたもう一人の少年が、悲痛な叫びを上げる。
だがもう遅い。動き出した流れは止まらない。

少年の運命は死に収束する。
どれだけ立ち向かっても、再演は始まらない。


始まるはずが、ない。


その時だった。
白き鷹が、眼前を掠めて翔けたのは。

673この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:11 ID:xXiaLB6g0
**********


《 Griffith -落日の国の白き鷹- 》


機は熟した。
オレの求める力が、あの場にこそ集っている。

遥かな空から視線を向ける先は一人の少年。

彼を救う事こそが、更なる高みに繋がる道。
だからオレは邁進しよう。
愛しき仲間たちと共に、戦場を駆け抜けた時のように――、

風となって、飛んだ。

青の世界から茶の世界へと、身を浸す。
霞み、滲む景色と身を切る大気に快を得る。

この手に未来を抱き抱える為に。



――事態の全ては、鳴海歩の予測通りに進んでいた。
空から睥睨する限りではそのように見える。
あの少年は、このオレでさえ脱帽するほどに頭が切れる。
……素晴らしい。手に入れたいと、ただそう思う。

鳴海歩が我妻由乃の意図を看過したのは、彼女と電話で最後の交渉をした時だ。
『襲撃によって12時ちょうどに雪輝が死亡する』と我妻由乃は告げていた。
それはあたかも12時ちょうどに襲撃があるかのような言い回しで、敢えて意識しなければ誰もそれを疑わないだろう。

おそらく我妻由乃は嘘はついてはいなかったろう、天野雪輝に不信感を持たれない為にも。
しかし、実際に襲撃があったのは今現在――11:50だ。
要するに、襲撃があってから本来雪輝が死ぬまでの時間のタイムラグを利用し、鳴海歩を嵌めようとしていたのだ。
最初から我妻由乃が雪輝日記を取り戻す為に行動する事を前提で考えていたからこそ、鳴海歩はその可能性に思い至る事が出来た。

……本来ならば、協力者と聞く秋瀬或とやらにこの事を伝えるべきだったのだろう。
だがそれをしなかったのは、最悪の可能性として秋瀬或達が襲撃者そのものであるケースを疑っていた為だ。
取引の時間を知っているのは鳴海歩とオレ、天野雪輝と我妻由乃、そして第三者である秋瀬或たちだけであり、
偶然危険人物が介入をしてくるのでないとしたら、間違いなく秋瀬或の手引きが背後に存在すると推測できる。
実際の襲撃者が秋瀬或と繋がりがあるか否かは現時点では不明確であり、検証の必要があるだろう。

……そして鳴海歩は、本来の10分前という一方的な時間変更を呑んだことで、向こうの計略を看過した事を気付かれないようにする。
全く以って頭の回転が速く、加えて底意地も悪い。

なぜならあの僅かな交渉時間で、鳴海歩は罠を仕掛けてさえいたのだから。


未来日記とやらの性質上、交渉を10分前にするのを了承した事で未来が書き変わったはずだ。

この時『オレが天野雪輝の味方であり、いざという時にその命を襲撃者から助ける』という事態を想定に組み込んでおく事で、
予知の記述上ではオレの存在がアピールされると鳴海歩は推測した。
本来の未来では襲撃者の手で天野雪輝の命が消されている以上、その事態を防ぐキーとして、彼らはオレを受け入れざるを得ない。

674この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:37 ID:xXiaLB6g0
そして秋瀬或曰く、未来日記は主観情報を反映するという。
……つまり。オレが鳴海歩の仲間であるという情報は、口を滑らせない限り決して伝わらない。
鳴海歩は交渉の時点で既に警戒されている為、オレが天野雪輝たちに仲間として入り込む――、それが鳴海歩の罠だった。

つまり、命を救った恩によって天野雪輝たちと強い協力関係を作る駒。
鳴海歩はそうオレを盤上に配置した訳だ。
主導権を握られるのはいささか不満だったが、確かにこれは全員にメリットのある策ではあった。

……鳴海歩を守るものがおらず、身一つの彼が命を危険に曝すこと以外は、だったが。
自らの生を張った策に反対する理由もなく、オレは彼に乗る事にした。

鳴海歩がどうやって我妻由乃と襲撃者から身を守るのかは聞いていない。
ただ、それについてもいくつも手は打っているのだろう。
それにしてもリスクが高すぎるのは事実であり、だからこそ強い興味が彼自身に湧く。

だからかもしれない。
オレは先刻、彼に一つ問いを投げかけた。
内容は、何故――、

『何故君はオレの助けすら振り解き、自らの命を投げ出そうとする?
 オレには自己犠牲に酔っているとしか思えないんだがな。
 ……偽善の果てに掴めるものなど、そこにつけこむ浅ましい豚の視線だけだ。
 己の為に生きてこその命だろう。少なくともオレは、オレ自身の夢の為に前へと進む。
 遥かな高みに手を届かせられると信じてな』

 『……さあ、何故だろうな。
  一つ言えるのは、俺は聖人でもなんでもないってことさ。
  御大層な悟りを開いた訳じゃない、見栄っ張りなだけの常人だ。
  ――だから、現に。あんたを見てると、眩しくてしょうがないよ。
  本当に……、苦しくて堪らないくらいにな』

『なら、何故未来を掴もうとしない?』

 『俺なんかに希望を託す連中がいる。望まれたのなら、答えてやらなくちゃあな』

『それこそ聖人の所業だろう。そうまでしても君の得るものは何もない。
 むしろ彼らは、君に寄り掛かって何もかもを毟り尽くそうとしているんだ。
 気に障ったら申し訳ないが、結果的に見ればそれは明らかだ。
 君の言葉には、論理はあっても動機がない。完全に破綻しているぞ』

 『……つまりは、俺のその動機が知りたいのか』

675この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:05:55 ID:xXiaLB6g0
『その通りだ。君の動機さえ掌握すれば、それを下賜してやることもできる。
 つまり君自身を手に入れる事に等しい訳だ』

 『本当に真っ直ぐに、壁さえ壊して欲しいものを掴むんだな、あんたは』

『オレが掴むんじゃない。掴むからこそ、オレなんだ』

 『……凄いな、あんたは。……けれどそれは、企業秘密――教える事は出来ないな。
  俺自身、認めたくない動機なのさ』

ふっ、と柔らかな笑みを浮かべてさえ、あの少年はただ口にした。
その勢いは強くもなく弱くもなく、まさしくそれが当然なのだと言わんばかりの自然体で。

この少年を手に入れたい――その想いは更に強くなる。
そして、この少年すら危険視する二人の予知能力者を手中に収めたのなら、オレの国にはどれだけの豊穣がもたらされるだろうか。

オレは今、まるで初めてあの城を見上げた時のように――子供のようにワクワクする心を抑える事が出来ない。
そしてその城の門は、今まさに目の前に迫ってきているのだ。
石畳のすぐ向こうに、駆けて数秒の距離にあるのだ。

天野雪輝――彼こそが完全予知を実現する要。
我妻由乃を抑え、オレと彼らを繋ぐ光。
さあ、オレの国の礎となれ。オレが栄光を見せてやる。

天を庭とする一羽の鷹となり、オレは輝く星へと手を伸ばす。
掻き抱く。

そしてそのまま、遥かな高みへと昇り詰め、何処までも何処までも高く飛ぼう。
世界の全てが、このオレの背に吹く風となる。
祝福と賛美がオレを包む。
その美声は確かに、こう告げていた。



「ちょろいっ」



ザザ、と、二台の携帯電話からノイズが走るのがいやにはっきりと聞こえた。

676この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:06:18 ID:xXiaLB6g0
空を飛ぶよりなお強い浮遊感が訪れた。
両腿から下を、吐き気すら感じる喪失感が襲った。
天野雪輝の体に引っ張られて、体が勝手に思い切り前傾姿勢を取った。
衝撃で倒れた天野雪輝が、この手から零れ落ちていくのを感じた。
赤い雫が、どこからかオレの頬を濡らしていた。

自分の息さえ跳ね返ってきそうな距離に、土の壁があった。
地面に顔がめり込んだ。
鼻が潰れる感触がした。
顔の肉がこそげ落とされる様を自覚した。
制動を期待して伸ばした左手から、ごきりと嫌な音がした。
左眼と小枝か何かがキスをした。
ずるずると、引き回される罪人のように体が地面を擦った。
天と地が何度も何度も回転して、二桁を超えてしばらくした所でようやく止まった。

最後の最後にようやく――激痛がオレを満たしていく。
両足と、左腕と、顔面と。
猛烈な吐き気と共に、腹の奥から何かがせり上がってくる。
堪える間もなく口から漏れた。
血と吐瀉物の入り混じった、正視に耐えないカタマリだった。

すっぽりと――、思考する、という行為が俺から完全に抜け落ちた。
目の前のモノを認識して対応する事は出来ても、何故そうするのか、その意味だけが受け止められなかった。
他人の脈絡のない悪夢を覗いているようで、心と体が完全に乖離していた。

まだ動く右腕を、震えながらどうにか右の膝へと伸ばす。

そこには、何もない。

続いて、まるで機械仕掛けの人形のように、左の膝を確認する。

そこにも、何もない。

妙な方向に曲がった首を、激痛を押し殺してゆっくりと上げていく。
左の視界がやけに暗く、そこから流れ出ていく何かが気持ち悪い。
だから、右眼にだけ、その光景が刻みつけられた。

――自分の体からだいぶ向こう側に、ついさっきまでオレの一部だった右脚と左脚が転がっている様を。

ようやく精神と肉体がカチリと填まる。

「……ァ?」

オレは、

「ア、……ア、」

オレは、

「アアぁ、ああ、ぅああ……」

……オレは、

677この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:06:43 ID:xXiaLB6g0
「うぁああぁぁああああぁぁぁあぁあぁああぁぁぁぁッ!」


足下――高みへと続く階段が、崩れ落ちる音をただ呆然と聞いていた。

背中にあったはずの翼が羽一枚残さず毟られた事を、抗いも納得もする暇もなく――ただ、理解させられていた。


自由に駆けられたはずの空は奈落の底に続く闇で。

優雅な飛翔と思っていた行為は、その実無様に突き落とされている最中でしかなかったのだ――、と。


誰の言葉だったか。どこかで聞いた気もするし、“オレは”聞いていない気もする。

『信じるもの、奪えないものを持っていると思う者は無敵だ。
 だが逆を言えばそれを失えばおしまいだ』


この世の全ての闇を押し固めた黒の中で、オレは絶望を初めて理解する。

オレの翼は、今この時に奪われる為だけに与えられたのだ、と。
誰にも奪えないと思っていたオレの夢を、オレをオレたらしめる夢を。
――最も悲惨な形で奪う為だけに。


涙する余地すら残らないほど、オレの中も外も黒いモノで満ち満たされていた。

そして、オレの五感は深淵に呑み込まれる。
意識が紐を切るようにぷつりと途切れていく。


**********


《 ???? ?????? -The Watcher- 》


間に合わなかったと呟いて、突撃の対象をグリフィスへと切り替えた少女を観察しつつ思案する。
彼女の言葉は、グリフィスの介入前に鳴海歩を始末しきれなかった――という意味であろう。

――端的に言えば。
鳴海歩の誤算は一つではなかった、という事だ。

レガート・ブルーサマーズの魔技という誤算は、確かに彼の策の全てを砕き尽くした。
故に彼の死は、最初に書き換わった未来――交渉の開始時間を10分前に変更した時点の未来では決定づけられていた。

だが、それを超える更なるイレギュラーこそが我妻由乃。
鳴海歩は彼女の天野雪輝への想いの在り様を、秋瀬或から聞かされてなお完全な把握に至らなかったのだ。
そもそもが、彼女を理解できるものなど存在しないのかもしれないが。

皮肉なものだとは思わないかね?
レガート・ブルーサマーズという誤算さえ存在しなければ、ただ彼の策をぶち壊しにするだけの我妻由乃の暴走が――、
誤算が二つ重なったことで、彼の命を一時でも永らえさせる結果をもたらしたとは。

678この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:05 ID:xXiaLB6g0
彼女は雪輝日記を鳴海歩の手から切り離す事よりも、天野雪輝を連れ去られないようにする事を選んだのだ。
たとえそれが天野雪輝の命を救う存在であったとしても、天野雪輝を守るのは自分だけいい、と。
結果、我妻由乃の攻撃対象は鳴海歩から、天野雪輝を懐柔せんとするグリフィスへと転じた。
仮に鳴海歩が自身を助けて逃走してほしいとグリフィスに頼んでいたのならば、彼らは重ね切りで纏めて両断されていたろう。


見方を変えるならば。
グリフィスの手すら振り解き、孤独の中で笑うという意思が――、
あの場に集う全員の思惑を超えて鳴海歩を生かした。
そのように未来を書き変えたのだと言う事が出来るかもしれぬな。
そして、見据えるべきはもう一人。

クク……。
一度は私を殺したのだ、この程度はやってもらわねば私の面子が立たぬ。
やはり鍵は貴様か? 我妻由乃。
未来は少しずつ変わりつつあるぞ。

……さて、観察に戻るとしよう。
今の私はしがない“ウォッチャー”。見届け観察する事しか許されぬ身。
直接介入は“ハンター”や“セイバー”に任せるべき事案なのだから。


**********


《 Livio The Double Fang / Razlo The Tri-Punisher of Death -Chapel's Brother- 》


有り得ないはずの異常に呆気に取られ、立ち尽くしていた俺の耳に耳障りな音が突き刺さる。

――唐突な、レガートの哄笑だった。

「面白い……。面白い!
 君が、君こそがこの僕の技の真価を問うべき存在なのか?
 僕の忠誠を計るべき存在なのか!?」

おそらくは、ナイブズですら聞いた事がないだろう壊れた笑いが響き渡ってる。
目頭を押さえながら背を思い切り反らすその姿に、ゾッ……、とする。
これが、人間に出せる声だとでも言うんだろうか。

そしてもう一つのとびっきりの異常の塊は、レガートとは正逆の態度だった。

「忠誠とか技とか、あんたの事情なんてどうでもいい。
 私はただユッキーが好きなだけ。
 ユッキーを傷つけ、私の愛を邪魔するというなら――、切り捨てるだけよ」

魔人の極北たるあのレガートに向かって、由乃という少女は面倒臭そうに言い捨てる。
その扱いはまるで、積もった生ゴミが臭くて邪魔だとでも言わんばかりだ。

……狂ってる。
どちらも俺の理解を超えている。

679この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:26 ID:xXiaLB6g0
「いいだろう。
 ならば、君のその愛と僕の忠誠、どちらが強いか試させてもらうよ。
 僕はこの体を使わず、ただ技だけで君を凌駕する――」

「あっそ」

レガートの口元がおぞましい三日月の形を取った瞬間、少女の舞いが再開した。
その動きは先刻とは比べ物にならないほどに、時として鋭く、時として緩やかで、規則性が存在しない。
あたかもそれは観劇者の心をとても不安定にさせる、邪教の儀式のようだった。
肉と肉との交わりのようにも思えて、ただひたすらに不気味な挙動だった。

存分に膨れ上がった究極と至高の狂人のぶつかり合いは、何もかもを贄として呑み込みそうだ。

――肉体の行使では間違いなくレガートに分があるはずだ。
だが、奴はそれを行わない。
結末の分かりきったジャンルで勝利を収めても、彼の歪んだこころは満たされないんだろう。
だから――糸で彼女の動きを意のままにするために、磨き抜いた技を試そうとしているんだ。
それは不幸中の幸いと呼ぶべき時間の猶予を与えてくれたが、しかしこのままではジリ貧だ。

由乃が右手の大刀を、棒切れでも振るかのように一振りする。
同時、レガートの哄笑が完全に狂笑へと変化した。
おそらく、あの金属糸をひとつ断ち切ったんだろう。

忠誠と愛。
表面上は美しく聞こえるその二つの言葉がこれだけどす黒く凄惨な代物だなんて、俺は全く知らなかった。

……くそ!
なあ、リヴィオ。俺は、何のためにここにいる!?

目を凝らし、背後を振り向く。
ホーンフリークの姿はとうに消え失せていて、そこにはピクリとも動かない――或が転がっているだけだった。

ぎり、と歯を噛み締める。目を強く強く瞑る。
そうしなければ、何かがそこから零れて落ちてしまいそうだった。


『僕と共に、“神”とのゲームに臨んでいただけますか?』


小さな友人とのあまりにも短い時間が、何度も脳内で繰り返される。

僕は――、守れなかった。
あの人のようになりたいと思ったのに、守るべきはまた掌をすり抜けていってしまった。
外道に落ちた身じゃあ、そんな綺麗事は許されないのか?
俺の手はただ、血に浸す為にしか存在しないのか!?

……畜生。
畜生、畜生、畜生、畜生!

なんて俺は、無力なんだ……ッ!

握り締めた手の皮が破け、赤い雫が滴り落ちていく。
……地面に打ち付ける音は、聞こえなかった。

  哀れな自分に酔ってボサっとしてんじゃねえよ、チンカス君よォ。
  テメェの自問なんざ、とっくに答えを出した人間がいるだろーが。

……え?

680この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:07:52 ID:xXiaLB6g0
  暢気に突っ立ってないで、こんな時にあの男ならどうするかでも考えてろ。
  お前はアレか、こんなことにも気づいてねーのか?
  テメー、その拳を握り締められるってどういう事か、足りない頭でも分かるよな。  

え? あ……、あ、あ……!

  あの変態ホモ野郎が小娘に浮気してるから、テメーら全員の拘束はとっくに解けてんだよ。
  野郎、全ての糸を小娘に集中させてやがる。
  それでもまだ捉えきれない小娘も大概だがな。
  
ラ、ズロ……。どうしてお前が、こんな?

  ……馬鹿が。言ってたのはテメェだろうがよ。
  あの人みたいになりてぇんだ、ってガキみたいによ。
  だったら、俺を押し込めてる分くらいは果たしてみやがれ。
  甘ちゃんなりに出来ることだってあるだろうさ。

でも、どうやって。俺なんかが近付いても、また糸に囚われるだけじゃ……。

  ……ヒントはあそこの乳臭そうな小娘が十分実践してるだろが。
  少しはテメェで考えろ。

出来るのか? ……俺に。

  だからチンカス君なんだよ、ったく。
  しゃあねぇ、俺がやる……と言いてーがな。

…………?

  制限とやらがキイてるのか、俺が表に出るのはキツいっぽいぜ、くそったれが。
  ……だからよ、リヴィオ。

「お、」

  俺が見る。
  その代わりお前は――、死ぬ気で凌げ。

「おぉ、ぉあああああぁぁぁああぁぁああああぁぁぁあぁああ……ッ!」

ラズロの声に背中を押されるように――、俺は走りだしていた。
レガートの頬のこけた形相が、お楽しみを邪魔されたとばかりに胡乱にこちらを捉えてくる。

その場所へ向かって一歩踏み込む度に、気違い染みた殺気が叩きつけられる。
ヴァッシュさんはこんな代物をずっとその身に浴びていたのか。

いかにも面倒くさそうにレガートが片手を動かす。

それが、合図だった。

世界の流れが急激に遅滞する。
全てが蝸牛よりゆっくりと動き、皮膚に当たる風は物体の動きを雄弁に語る。
感覚機器は鋭敏過ぎて痛いほどで――、まるで自分を取り巻く環境そのものが己の体になったかのようだった。

681この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:08:16 ID:xXiaLB6g0
モノクロームの世界の中で、レガートの“糸”が静かに、確かに俺に近づいてきたのを感じる。
……ラズロの能力なのか、制限のおかげなのか。
その存在感は明確に認識できるくらいに強く――、

姿勢を低くし大地を思い切り蹴る事で、矛先を十分に回避する事が出来た。

「……!?」

レガートの驚く顔に、ざまあみろ、と漏らす。
しかし優位は一瞬。
レガートは少女に回していた糸の一本を新たに追加し、俺を木偶にしようとしてくる。

駄目だ、この姿勢ではもう避けきれない。
……察知能力に加えて常軌を逸した直感まで備えたあの少女とは違って、俺はここまでが限界だった。

……だから、俺は俺たちにしかないものを活かす。
レガートの糸が俺の腕に絡みついた、その瞬間。

「……ぐ、……らああぁぁっ!」

電流が流される直前に、“その部分の肉ごと”糸を毟り取った。
ぐじゅ、と嫌な音がして黄色い汁が一瞬滲み、血が噴水のように吹き出てくる。

「……はは。いってえ、なあ……」

再生がいつもより遥かに遅い事に舌打ちする。
だが、――いずれにせよ十分だ。

だってもう、俺の拳は見事にレガートの顎をブチ抜き、砕いているんだから。

「ご、あ……」

アッパーカットで宙に浮くレガートに、続けざまに追撃を。
片足をばねに、丸太を突き込むように足刀を抉り込む。

吹っ飛ぶ。

校舎に叩きつけられ、レガートはずるりと崩れ――なかった。
頭から血を流しながら薄ら笑いを浮かべ、幽鬼の如く立ち上がる。

「……この程度じゃあ、やっぱ倒れてくれないか」

けれど、いける。
俺は、戦える。
いや――、俺たちが、戦えるんだ。

682この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:08:46 ID:xXiaLB6g0
なあ、ラズロ。

  あん?

情けないよな、俺……。
カッコつけた事ばかり言っておきながら、結局はいつもいつもお前を頼ってばかりで。
それが悔しくてたまらないんだ。

  ハッ、ようやく自分の弱さに気づいたかよ。
  だが先は――まだ長ェぞ?
  そう簡単には追い付かせてやらねぇ。

ああ、だから駆け上がろう――二人で。

ラズロの物言いに苦笑しながら、背後を意識。
そこには三人の少年少女がいるはずだ。

先刻まで一緒にいた大人びた少年を思い浮かべながら。
守れなかった後悔を胸に、それでも足掻くと心に誓う。

「――逃げろ! こいつは僕が引き受けた!
 或の友達を、みすみすこんな所で死なせてたまるものか……!」

張り上げた声への返答は、三者三様異なるもの。

「あ、ありっ、ありがとうございますっ! 由乃……っ!」
「……秋瀬或の差し金? 感謝なんてしないわよ」

手と手を取り合い立ち去る音と、

「……すまない、必ず、必ず応援を呼んでくる。
 その時まで俺を守ってくれ。
 そしてそれまで、持ち堪えていてくれ……!」

たった一人の駆け出す音が、確かにここから離れていった。

「……なるほど、確かに僕に一矢報える力はあるようだ。
 だが――、特例を許されたとはいえ一介のGUNG-HO-GUNSが僕に敵うと思っているのか?
 今この場で背信者として処刑を行おう。
 悲しいよ、わざわざナイブズ様が手塩にかけて集めた人員をこの手で消さねばならないなんてね」

砕けた顎にもかかわらず、無理矢理己の力で言葉を捻り出す狂人。
その在り様に唾を飲み込みながらも、もう僕は自分を疑わない。逃げ出さない。

片手には杭打機、もう片手には握り拳。

血みどろになりながらも蜘蛛の糸の全てを薙ぎ払い、俺はここに誰かを守れることを証明する。


  構える事ぁねぇ。
  ……証明するぜ、チンカス。俺の最強を――、俺達の、お前の最強を!


「ああ――、行こう、ラズロ」

683この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:09:24 ID:xXiaLB6g0
**********


《 Vash The Stampede -The Humanoid Typhoon- 》


僕は道を駆けている。
それは闇雲に突き進む為じゃない。
今そこで独り死地に身を曝す、大切な友人を助けるためだ。

焦りは判断力を奪うと分かっていながらも、冷静さを取り戻すことが出来ない。
同道者の少年を置き去りに走ってしまいそうになるのを、ぐっと堪える。

彼がいたからこそ、リヴィオの所在を知る事が出来たのだから。
そして、リヴィオが身を呈して守ったこの少年を、絶対に見捨てる訳にはいかない。
まだほとんど会話も交わしていないけれど、それは確かな事実。

「……彼が俺を逃がしてくれたのはほんの数分前だ。
 だからきっと、まだ間に合うはずだ。いや、間に合わせる」

そう呟くこの少年――鳴海歩と僕が邂逅したのは、舗装された道路上でのこと。
地図上で言うなら、おそらくG-2とH-2の境目辺りでだった。

あれから僕は、ずっとナイブズとロビンの姿を探し続けていた。
けれど一向に音沙汰はなく、ただひたすらに無為な時間を費やしてしまう。
そんな折、偶然森を抜けた向こう側に見えた建物のおかげで、ようやく自分の所在を把握出来たんだ。
その建物は小学校。そして、そのすぐ近くには綺麗に整った道が造られていた。

ようやく迷子から解放されて一息ついた、まさにその時だった。
――北西の方角から、奇妙な音楽のようなものが聞こえてきたのは。

なんだろう?
疑問に思った僕は、素直にそちらの方へと近づいてみることにした。
罠という可能性もあったけど、むしろそれなら積極的に向かうべきだと考えたからだ。
あれに引き付けられた人が他にもいたら、と考えるといてもたってもいられなかった。

そして、彼を見つける。
僕との出会い頭こそ警戒したものの、二言三言のやり取りでこちらが殺し合いに乗っていない事を理解してくれた。
彼の、手早く仲間の救出の協力要請をした年齢に似合わぬ冷静さにも驚かされたが――、それ以上にリヴィオの名前が僕を即座に走らせた。

「――あそこには大怪我を負った俺の協力者もいる。
 もしかしたら、まだ助かるかもしれない。
 死人が増えるのは御免なんだ」

……全く同感だよ。
だから僕たちは、更にその足を速めひた進む。

……間に合え。

リヴィオは、僕の親友が命をかけて取り戻した、掛け替えのない弟分なのだから。

愛用の銃をすぐ放てるよう握り締め、校門を駆け抜ける。
勢いを殺さぬまま広い広い校庭に飛び込んだその先には――、


「……リ、」

684この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:09:45 ID:xXiaLB6g0
肉片と血溜まりが描く地図の真ん中に。

「リヴィオ……?」

かろうじて原形を留めているだけの、リヴィオが倒れていた。

「……その、声。ヴァ、シュ、さ……」

駆けよって抱き寄せると、まだその体は温かい。
今にも掻き消えそうでも、生きている。
その事実が、嬉しいのにとても悲しい。

「はは、ついてる、な。俺……。
 後、託せ、る人……こんなに心強、」

こちらを心配させたくないと、リヴィオが笑う。
僕と出会えたことが幸運だと笑う。

僕は、君がこんなに傷つくまで間に合わなかったんだぞ。
なのにどうして、どうしてそんな顔で?
責めてくれる方が、ずっとマシだ……。

「喋るな、喋らないでくれリヴィオ!
 どうして、こんな……!」

自分でも分かる。
声が震えて、言葉にならない。
こんな時こそ、相手を不安にさせちゃいけないのに!

「……ドジっち……まい、ました。手傷、負わせ、ので、精、一杯……。
 ハハ、再生、もう少しだけ、早かったら、勝て……」

ぎゅうっとリヴィオの手を握り締める。
……血に汚れてはいても、大きくて頼りがいのある男の手だった。

「勝ったのは君だリヴィオ、だって、確かに君は守り抜けたじゃないか……」

少しだけ視線を上げる。
そこには、歩と言う少年が俯いてただ立っていた。
表情を完全に消したまま、彼は、何も言わない。
きっと理解しているんだろう。してしまっているんだろう。
だからきっと、僕たちの話に何も口を挟もうとしないのだ。

「……そこに、いるん、すか。或の……友達。助かったん、すね。
 だったら早く、ここから逃げ……さい。まだ、すぐ、近くに……」

「リヴィオ、もしかして、目が……」

その先の言葉を、呑み込む。
……悲しかった。
逃げろと呼びかけたその先に、リヴィオ自身が含まれていない事に、泣きそうになってしまう。

「分かった……。分かったから、君も行こう。
 君も一緒に、この場所から脱出するんだ!」

685この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:00 ID:xXiaLB6g0
……だけど。
せり上がる涙を堰き止めて、苦労して安心させるよう笑顔を見せる。
たとえ見えてなかったとしても、それでもこうせずにはいられない。

「最後に、一つ……頼み事……。
 俺の、帽子……、持ってって、下さ……。
 返してあげ……んです……。あの子、と……ジャスミンに」

……傍らに落ちたデイパックを傷だらけの手で弄って取り出された、その帽子は。
リヴィオ自身がこれだけ悲惨な姿になっているというのに、とてもきれいなままだった。

僕はもう、叫ばずにはいられなかった。

「最後なんて言うんじゃない!
 リヴィオ、自分で返すんだ。
 あの星に帰って、君の手で……!」

聞こえているのか、いないのか。

リヴィオは見えないはずの目で遥かな空を見上げ――、
少しだけはにかんで、呟いた。

「ニコ兄……、褒めて、くれるかな」

ボロボロと、塩辛い水で瞳が濡れる。
僕は笑ったまま、みっともなく涙を零す。

「ああ、絶対だ! だけど死んだら悪態をつくのがあいつだぞ。
 だから生きろリヴィオ、最後まで守りたいものを守りきれ!
 あいつだってそうだったじゃないか、君を守りきって、か、ら……?」

泣き笑いで親友を出汁に檄を飛ばしている最中で――、ふと、気付いた。

「……リヴィオ?」

……腕の中が、軽かった。

「リヴィ、オ?」

命の音が、聞こえなかった。

「リヴィオ――」

――もうその声を聞くことは、二度となかった。

「う、」

ああ、もう無理をして笑顔を作る必要はないのだと。

「うぁあ、うぁあぁぁぁああぁああああああぁぁぁぁぁああああああぁぁああっ!
 くぅ、あ、あああぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁ! うわぁぁああぁああああぁぁぁぁ!」

その事実に悲しいという感情を当てはめた途端、
笑顔の仮面は、弾け飛んだ。

――涙が、止まらなかった。
子供のような泣き叫び方。

686この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:23 ID:xXiaLB6g0
「畜生……っ。畜生、畜生、畜生っ、畜生ぉ……っ!
 どうして俺は、いつも間に合わない?
 どうして友達がみんな、俺より先に逝く!?
 なんでこんな、命が粗末に扱われなきゃならないんだ!
 もう、人が死ぬのは嫌なのに……!」

リヴィオを膝に乗せたまま、何度も何度も地面を叩く。
それが無意味だと分かっていても、溢れる何かをぶつけていないと壊れてしまいそうだった。


「……だったら、力を貸してくれ。
 立ち止まれば、それこそ何もかもが無駄になる」

不意に、俯いたままの少年が口を動かす。
その言い様には全く感情が籠もっていなくて、僕は行き場のない勢いのままに怒鳴りつけてしまいそうになった。

だけど、気付いてしまう。
膝の上に置いた彼の握り拳は震えていて、その甲には小さな水滴の痕が残っている事を。

「……あそこに見える俺の協力者は、まだ生きてる。
 だけど、出血がひどくてこのままじゃ間違いなく保たない。
 もしかしたら研究所に行けば助かるかもしれない。医療棟がありそうなのはあそこくらいだ。
 だからもう一度言う、手を貸して欲しい」

――そうだ。
目の前に消えかけている命があるなら、手を伸ばす。
そうして生きていくと、誓ったんじゃなかったか、僕は。

涙声で、みっともない顔で、僕はそれでも言葉を返す。

「……もちろんだ。僕はこれ以上、誰ひとり死なせたくない」

同時。
ざり、という音が耳に届く。

――上げた視線の向こう側に、人影がいつしか佇んでいた。


**********


《 Legato Bluesummers -狂信者- 》


ずる……ずる……と耳障りな音が止まらない。
全くの不意に背中側から急激な痛みが襲ってきて、咳込めば臓器の欠片が口から漏れる。

使い物にならない右足を引きずりながら、僕は薄暗い物影を進む。
このコンクリートの建物の裏庭に当たる部位だろう、ジメジメとした雰囲気は嫌いじゃない。

「……まさかダブルファングがここまでやれるとは、ね。
 だが……まだ足りない。僕は限界を超えていない。
 僕のナイブズ様への忠誠心は、この程度では測れない」

687この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:11:44 ID:xXiaLB6g0
本来の再生力さえ備えていれば、限界を測る一助になったかもしれないが――、
結局、終わりは予定調和に過ぎなかった。
右足と元々壊れた左手は失ったが、それだけだ。
砕けた内臓のいくつかも、僕の力ならばいくらでも補える。

問題はない。何一つ。
痛みなど問題なく動けるよう体を調整しているし、今すぐにでも僕は戦える。

だから僕は、あの少女を欲す。

制限を施されていたとはいえ、どういう理屈か初めて僕の技から逃れ得たあの少女は、
僕の忠誠を測る相手として間違いなく期待した成果を出すだろう。

彼女の語る愛が如何ほどのものか、どれだけ大きいのかは僕には肌で感じ取れる。
中々に素晴らしい。
彼女の抱くそれを凌駕してこそ、僕があの方に向ける思いを示せるのだ。
あの、ヴァッシュ・ザ・スタンピードと同様に。

「ナイブズ様……、今、何をしていらっしゃるのですか?」

あの研究所で残り香は確かに感じたものの、それ以後の足取りは庸として知れない。
果たしてあの御方は、どうしてこうも糞どもを放置しているのだろう。
かの全能たる力を奮えば、僕が目にした有象無象などいとも簡単に一掃できるだろうに。

……ああ、だからこそか。

便所掃除など、あの御方に最もさせるべきでない下賤の仕事だ。
だからこそあの御方はGUNG-HO-GUNSを結成したというのに、僕は何を呆けていたのだろう。

あの程度の戦闘で判断力を低下させるとは、それでもナイブズ様にお仕えする身か?

目を閉じて、あの御方の御姿を思い浮かべろ。
脳裏に刻まれた記憶を総動員して、触れるくらいに強く具現化を。
そうすれば――ほら。

「……僕は、あなたに尽くします」

こんなにもはっきりと、ナイブズ様の御尊顔が目の前に。
相変わらずの鋭利な刃の如き眼光は、僕を畏怖させ虜にする。
思い描きさえすれば、声さえ僕の心に届く。

  ――よくやった。しばし休み、いつでも俺の力となる備えをしろ。
  お前にはまだまだやってもらう事がある。


……馬鹿な。

ナイブズ様が、その様なことを仰る筈がない。
見れば、ナイブズ様の像も――うっすらと微笑みかけている。

たとえ僕の妄想でも、けっして“こんな事”は有り得ない。

688この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:12:10 ID:xXiaLB6g0
ならば、この幻影は何だ? この幻聴は何だ?

惑う僕の眼前で、ナイブズ様が次第に薄れ――、
代わりに僕自身の顔が浮かび上がる。

そこにあったのは、鏡だった。

……鏡?

いや、違う。
これは――剣だ。
剣の刃が、僕の顔を写し込んでいるのだ。

その剣は僕の胸を貫いて、無慈悲にただ輝いていた。

色と言う色の欠落した声が、淡々と背後から告げられる。

「……ユッキーに痛い思いをさせたお前を、私は許さない。
 あんたが私に何を望んでいようが、知ったことじゃないわ。
 私に何かを望めるのはユッキーだけ。お前の言う事なんて、決して聞いてやるものか」

何時から? 何時からこの剣は僕の胸に――?

口を開いてもかすれた息が漏れるだけ。
言葉にしたはずが、形を全く為していない。

「足りないとか限界を超えていないとか云々を独りで喚いた直前よ。
 あんた、気づいてなかったの」

ずるり、と剣が引き抜かれる。体の中を異物が擦る感触がする。
力が入らず、目眩がする。
吐き気の割りに何も込み上げるものがない。圧点が完全に麻痺しているのか。

「有り得……ない。この僕が、接近に全く……気付かなかった、だと?」

ごふ、と。告げると同時に口から血が噴出する。
言葉に違わない勢いで、赤い汁は数メートルは飛翔した。

背中を蹴り飛ばされ、体は頼りなく膝をつく。
白濁した思考は集中力を欠いていて、まともに糸を飛ばせない。
自身の体さえ操れない。

無様に前のめりになって、倒れ込んだ。

「私達があんたに近付いたんじゃない。あんたが私達に近づいたの。
 ……馬鹿なやつ。
 お前が殺られたのは私にじゃない。無差別日記を持つユッキーによ」

「…………」

辺りに血の池が広がっていく。
掻き集めようとしても腕すら動かない。
それでもどうにか、もぞもぞと惨めに蠢いて仰向けになった。

「私のユッキーへの愛は絶対。
 絶対ってのは、疑いようもなくそこにあること。
 だから私は、あんたと違う。私の愛を測る必要なんてないもの。
 いちいち比べなきゃ確かめられないあんたの忠誠なんて、所詮ゴミクズでしかないわ」

689この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:12:42 ID:xXiaLB6g0
砂蒸気に轢かれた野良犬の死骸を見る目を僕に向け、少女はその背を僕に向ける。
僕に一抹の価値も感じてないのは明白だ。

「とどめなんて上等なものはあんたにはもったいないわ。
 そこで這いつくばって死んでいけ」

抜けるような青空を求めて天を仰いでも、そこは濁った灰色で埋め尽くされていた。

僕が生まれ直せたあの砂漠の星の夏の日は、片鱗すらも見える事はなかった。

冬の寒空が、僕の思い出を蹂躙していく。

汚泥の底のあの街のようなこの閉塞感に、耐えられなかった。

僕は今、あの御方に救って欲しかった。

もう一度でいいから、名前を問うて欲しかった。

「僕は……ただ。
 認めて、欲しくて……」

手を伸ばしても、近づけなくて、触れられなくて。

だから、それをすれば、もしかしたら。
ねぎらいの言葉を下さるかもしれないと――、最後の糸を、少女に放つ。

「汚らわしいものを私に近づけるな」

虫でも払うかのように、ぞんざいに切り飛ばされた。
少女は、一瞥すらしなかった。

――ナイブズ様。

僕は何のためにあの砦街を生き延びて、何のためにお側に仕えたのでしょう。

僕の忠誠は……、お役に……。

「何のために? 役に立つ?
 ……そんな考えるまでもないことを気にしている時点で論外よ。
 あんたの主とやらは、さぞやあんたを疎ましく思っていたでしょうね」

…………。

そうか。ぼくがあのひとにみとめてもらえなかったのは。

ぼくが、いきているだけでうっとうしかったからなんだ。
うっとうしさがふくをきてあるいていたのがぼくなんだ。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ないぶずさま。

うまれてきてごめんなさい。

たすけさせてしまってごめんなさい。

おそばにつかえてしまってごめんなさい。


みとめてほしいとねがってしまって、ごめんなさい。

690この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:13:04 ID:xXiaLB6g0
**********


《 Hit? -Inteligence Sword- 》


――飛虎の野郎から引き剥がされ、訳の分からない場所に連れてこられて。
ここでの最初の仕事は最悪だった。
何が最悪かって、使い手も斬った相手もどっちもイカレてるって事だ。
後味が悪すぎるぜ。

……この嬢ちゃんの心の在り様は全く理解出来ねぇ。
どんな風に理解できないかって? たぶん、言葉にするだけ無駄だと思うぜ。
敢えて言うなら、だ。
俺が如何にこいつの望む幻を見せようと、それ以上の妄想を脳内で構築して記憶を改竄しちまうんだ。

その意味じゃあ、そんな器用な真似の出来なかったあの男の方がずっと人間らしかったな。
……嬢ちゃんの手でヤツをぶっ刺しちまった時、せめていい夢を見せてやろうと思ったんだが――逆効果だったみたいだ。
イカレ嬢ちゃんはメタクソに扱き下ろしてたけど、都合のいい幻想を否定するのは確かに一種の強さだったと思うぜ、俺は。
あいつ、確かに狂ってはいたが……、正直見てらんなかったね。
ナイブズっつー男も、せめて一度くらいは認めてやりゃあよかったのに。

……まあ、ただの剣に過ぎない俺に、これ以上何ができる訳でもないんだけどね。
やっぱ長いものには巻かれろだよな。
嬢ちゃんに目を付けられたくなんてないし、ずっと普通の剣のふりしてよーっと。

で、だ。

あの男を消してから校庭に戻ったこいつらは、やっぱりというかなんというかまたもギスギスした空気を作ってた。
……胃に悪ぃなあ、胃なんてないけどさ。
キンパに赤いコートの男が、片手に銃をぶら下げて何か言ってる。

「……もう、狼藉はよしてくれ。
 身内が死んだんだ。これ以上彼らを狙うなら、僕が君達を止める」

……こいつ、強ぇな。
あのレガートって男は妙なこだわりを見せていたからこそ、嬢ちゃんでも立ち回る事が出来た。
けど、真正面から戦ったらまず負けていたはずだ。
そしてこの男もあのレガートと同じか、それ以上に強い。
勝てる見込みは0だ。

「由乃。もう、いいよ。
 僕たちだって敵は作らない方がいいに決まってるじゃないか。
 行こう。ひとまずそっちの人が目を覚まさないうちにさ……」

雪輝って坊ちゃんも同意見らしい。
嬢ちゃんをどうにかできるのは、やっぱりこいつだけか。
そういう意味じゃ、この坊ちゃんにだけなら後で正体を明かしてもいいかもしれない。
……そんなチャンスがあればだけどな。

「……ユッキーがそう言うならいいよ。でも――」

案の定素直に頷く嬢ちゃん。けれど、険のある目で歩って兄ちゃんをじっと見つめている。
目的はアレか、雪輝日記ってやつか。

691この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:13:29 ID:xXiaLB6g0
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《 Hito -Inteligence Sword- 》


――飛虎の野郎から引き剥がされ、訳の分からない場所に連れてこられて。
ここでの最初の仕事は最悪だった。
何が最悪かって、使い手も斬った相手もどっちもイカレてるって事だ。
後味が悪すぎるぜ。

……この嬢ちゃんの心の在り様は全く理解出来ねぇ。
どんな風に理解できないかって? たぶん、言葉にするだけ無駄だと思うぜ。
敢えて言うなら、だ。
俺が如何にこいつの望む幻を見せようと、それ以上の妄想を脳内で構築して記憶を改竄しちまうんだ。

その意味じゃあ、そんな器用な真似の出来なかったあの男の方がずっと人間らしかったな。
……嬢ちゃんの手でヤツをぶっ刺しちまった時、せめていい夢を見せてやろうと思ったんだが――逆効果だったみたいだ。
イカレ嬢ちゃんはメタクソに扱き下ろしてたけど、都合のいい幻想を否定するのは確かに一種の強さだったと思うぜ、俺は。
あいつ、確かに狂ってはいたが……、正直見てらんなかったね。
ナイブズっつー男も、せめて一度くらいは認めてやりゃあよかったのに。

……まあ、ただの剣に過ぎない俺に、これ以上何ができる訳でもないんだけどね。
やっぱ長いものには巻かれろだよな。
嬢ちゃんに目を付けられたくなんてないし、ずっと普通の剣のふりしてよーっと。

で、だ。

あの男を消してから校庭に戻ったこいつらは、やっぱりというかなんというかまたもギスギスした空気を作ってた。
……胃に悪ぃなあ、胃なんてないけどさ。
キンパに赤いコートの男が、片手に銃をぶら下げて何か言ってる。

「……もう、狼藉はよしてくれ。
 身内が死んだんだ。これ以上彼らを狙うなら、僕が君達を止める」

……こいつ、強ぇな。
あのレガートって男は妙なこだわりを見せていたからこそ、嬢ちゃんでも立ち回る事が出来た。
けど、真正面から戦ったらまず負けていたはずだ。
そしてこの男もあのレガートと同じか、それ以上に強い。
勝てる見込みは0だ。

「由乃。もう、いいよ。
 僕たちだって敵は作らない方がいいに決まってるじゃないか。
 行こう。ひとまずそっちの人が目を覚まさないうちにさ……」

雪輝って坊ちゃんも同意見らしい。
嬢ちゃんをどうにかできるのは、やっぱりこいつだけか。
そういう意味じゃ、この坊ちゃんにだけなら後で正体を明かしてもいいかもしれない。
……そんなチャンスがあればだけどな。

「……ユッキーがそう言うならいいよ。でも――」

案の定素直に頷く嬢ちゃん。けれど、険のある目で歩って兄ちゃんをじっと見つめている。
目的はアレか、雪輝日記ってやつか。

692この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:13:49 ID:xXiaLB6g0
「……安心してくれ、悪い様にはしない。
 手痛い損害は受けたけど、それでもまだ俺はあんた達とは友好的でありたいんだ。
 そのうちまた連絡する。だから今は、退いてくれ」

流石に歩の兄ちゃんも完全に表情を消して、用件だけを静かに告げる。
雪輝の坊っちゃんはそれを受けて頭を下げると、嬢ちゃんの手を取って歩き出した。

「行くよ由乃。……どうにか脱出する手段を見つけよう。
 僕達二人で、探すんだ」

雪輝の行動に喜んで、とても可愛らしく嬢ちゃんは微笑んだ。
仕草だけを見たんなら、誰もがそう思うだろう。

「分かったわ、ユッキー。私、頑張るね。
 ユッキーを絶対に守って見せるからね」

……幻覚を見せる為に記憶を読む俺だからこそ分かる。
この嬢ちゃん、あっちの歩の兄ちゃんの仲間を人質に取ろうとしてやがる。
安藤とかいうのとか、竹内理緒とかそういう名前の奴らだ。
それ以外でも、関係者と分かったら絶対容赦はしないだろうな。
雪輝日記とやらを取り戻すためには、どうやら手段は選ばないらしい。

……おっかないことこの上ない。

そうして、歩き出そうとするその直前の事だった。
――どうやら、放送とやらが始まるらしい。

その最中。
読み上げられる名前の最初の方で、雪輝がぴたりと固まった。

「――そんな、秋瀬君まで……?」

それは、どっかで聞き覚えのある名前だった。
歩の兄ちゃんも、沈痛な表情をして目を瞑っている。
金髪赤コートの表情も似たようなもんだ。


敵対感情とか、利害の一致とか、そんなのを全部抜きにして。
ここに集った全員が、静かに放送に耳を傾ける。

彼らはみんな、沈黙のうちに思い思いの感情を整理しているんだろう。
たった一人――我妻由乃を除いては。


嬢ちゃんがじっと見つめる視線の先には、一つの鞄が落っこちている。
誰のものかも分からないそれの破れた穴からは、白い楽譜と禍々しい程に赤いアクセサリーが覗いていた。


【G-2/中・高等学校校庭/1日目/昼(放送中)】

693この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:14:09 ID:xXiaLB6g0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、貧血(小)左肩に深い刺創(布で縛って出血を抑えている)
[服装]:月臣学園の制服(血に染まりつつある)
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、雪輝日記@未来日記
[道具]:支給品一式、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
0:放送を聞き、その内容を検討。
1:結崎ひよのに連絡を取り、今後の相談をしたい。
2:グリフィスを研究所に連れて行き、医療棟を探して自分の肩もろとも治療する。
3:ヴァッシュに同道してもらい、グリフィスと自分の護衛として動いてほしい。
4:少し時間をおいた後、天野雪輝に連絡。
  グリフィスが納得する形での協力関係を模索する。
5:島内ネットを用いて情報収集。
6:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。第三回放送の頃に神社で、場合によっては即座に合流。
8:自分の元の世界での知り合いとの合流。ただし、カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
9:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
10:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
11:神社の本殿の封印が気になる。
12:コピー日記の紛失について苦い思いと疑念。
13:リヴィオや或の死について――?
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
 また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
 また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。

694この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:14:43 ID:xXiaLB6g0
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:ショックによる重度意識障害、疲労(小)、両脚を大腿部から喪失、
    全身(特に顔面)に擦過傷(中)、鼻骨粉砕、左手首骨折、左眼球失明、
    頸椎捻挫(中)、内臓にダメージ(小)、貧血(大)
[服装]:血塗れでボロボロの貴族風の服
[装備]:居合番長の刀@金剛番長
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:部下を集め、主催者を打倒する。
0:…………。
1:ガッツと合流したい。
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける。
3:役に立ちそうな他の参加者と繋ぎをつけておく。ゆの、沙英、銀時との再合流は状況次第。
4:未知の存在やテクノロジーに興味。
5:ゾッドは何を考えている?
6:あの光景は?
7:鳴海歩へ強い興味。
8:喪失感による強い絶望。
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※沙英、銀時と軽く情報交換しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※風火輪で高空を飛ぶと急激に疲れることに気付きました。


【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス、リヴィオの帽子
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。生き延びて、リヴィオの帽子を持ち帰る。
0:放送を聞く。
1:鳴海歩に同道、研究所にグリフィスを連れていく。
2:ロビンを探したい。
3:ナイブズは一体何を――?
4:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
5:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
6:なるべく早く植木達と合流したい。
7:リヴィオに――。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

695この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:15:07 ID:xXiaLB6g0
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾25%・25%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×2、違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、
    ハリセン、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×2
[思考]
基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
0:放送を聞く。
1:由乃を制御していく。
2:これ以上由乃を刺激しないよう、いったん鳴海歩と距離を取る。
  後ほどあらためて交渉したい。
3:寝ている時に見たあの夢は何だろう?
4:リヴィオや或の死に動揺。
[備考]
※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
※秋瀬或やグリフィスと鳴海歩の繋がりには気付いていません。
※無差別日記の機能が解放されました。


【我妻由乃@未来日記】
[状態]:疲労(中)
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×6、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
    関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1、
    FN P90(50/50) FN P90の予備弾倉×1、メモ爆弾、
    拡声器、各種医療品、機研究所のカードキー(研究棟)×2、
    不明支給品×2(一つはグリード=リンが確認済み、もう一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
0:放送を聞く。
1:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
  人質とする、あるいは場合によっては殺害。
2:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
5:鳴海歩と安藤(兄)の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
6:校門付近のデイパックの内容物に興味。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を疑っています。
※秋瀬或やグリフィスと鳴海歩の繋がりには気付いているかは不明です。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。

696この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:15:31 ID:xXiaLB6g0
※風火輪@封神演義がグリフィスの両脚に接続したまま、グリフィスから数メートル離れた場所に転がっています。

※エレンディラの杭打機(23/30)@トライガン・マキシマム 、リヴィオのデイパック(支給品一式、手錠@現実×2、ニューナンブM60(5/5)@現実×1、
 .38スペシャル弾@現実×20、、警棒@現実×2、詳細不明調達品(警察署)×0〜2、警察車両のキー 、No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム)がリヴィオの死体付近に転がっています。

※単分鎖子ナノ鋼糸は、レガートの死体の持つ一本を除いて校庭にバラバラに撒き散らされています。

※デイパック(真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜)が校門付近に落ちています。


【飛刀@封神演義】
趙公明の部下余化が所有し、後に黄飛虎、黄天祥が愛剣とした刀型の妖精。
自我を持ち、任意の形状に変形、伸縮できる特性を持つほか、触れた人間の記憶を読み取り
刀身部位に幻影を映し出すことも可能。
性格は至って小物で長い物には巻かれる主義。
しかし、何だかんだ言って根本的には人がいい憎めない存在である。


**********


《 Aru Akise -寓話探偵 / 観測者- 》


「……多分、すぐ近くにいらっしゃるんでしょう?
 少しお話したい事があるのですが」

「……場所の特定はできなかったが、心音は消えていなかったからな。
 どういう絡繰かは知らないが、幻を見せて俺の攻撃を避けたのは分かっている」

「音源の撹乱は気圧変化による音波の屈折――、
 視覚情報も同じ原理による蜃気楼ですよ。
 まあ、余波だけでも実際に気絶してしまったのは誤算でしたけどね」

「どういう了見だ?
 種も明かした以上、同じ手は二度と通じんぞ」

「……いえ、今に限っては平気でしょう。
 あなたは僕を――僕達を殺すつもりはない。
 そうでなければあんな事はしなかった、そうですよね?」

「何を言いたいのか分からないな」

「あのヴァッシュという人を呼んだのは、貴方だ。
 指向性を持った音波をヴァッシュさんに向けて放ったからこそ、あの人が学校を目指した。
 そして、我妻さんへの抑止力となることを目論んだんです」

「あの男を見かけたのは偶然だ。
 ブルーサマーズに睨まれた時は相当慌てていてな、荷物も少し失くしてきた」

「……何故そんな真似をしたんです?」

「“『歯』が立たなくたって、『牙』なら突き立てられるかもしれませんよ”……か」

「え?」

「なんでもない。ただの気まぐれだ」

697この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:16:14 ID:xXiaLB6g0
「……そうですか」

「ああ」

「コピー日記とは、歩さんも随分とエゲツない札を隠し持っていたものですね。
 まあ、どさくさに紛れて回収できたのは幸いでしたが」

「……唐突だな。何が言いたい?」

「気まぐれついでにひとつ、あなたにお願いがあるのですが。
 ロハでとは言いません、今後あなたの事は一切漏らさないと確約しますよ」

「……別に俺はパートを変えたつもりはない。
 バリトンに浸りきった奴がソプラノを担当しても、コミックバンドにしかならないだろう?」

「僕にはドブのように淀んでいたはずのあなたの目が、少し色を取り戻したように見えますが。
 ……闇の底で光を見つけでもしましたか?」

「錯覚だな。減らず口を叩くなら、お喋りはこれきりだ」

「……人は生きる限り常に情報を取り込み、少しずつその在り様を変えていきます。
 変化は決して、悪い事じゃありませんよ。特にどん底にいるならなおのこと、後は駆け上がるだけですからね」

「餓鬼が知ったような言葉を吐くな。
 ……俺に何を求めているんだ」

「人の声を聞き分けて対となる位相で打ち消せる――、
 それはつまり、言葉さえその楽器で再現可能という事ですよね?
 ……間もなく訪れる放送の時、その主の声と同じ波長で、僕の名前をあちらにいる彼らに聞かせてください。
 僕の死を、偽装してほしいんですよ」

「どんな企みをするつもりだ?」

「僕なりに、運命に抗おうと思いましてね。
 ……それが、僕の死に憤ってくれた人への返礼です。
 彼に謝ることがもう不可能だというのなら、せめて僕は自分の嘘を貫きたい。
 死人の立場でしか、出来ない事があるはずですから」

「――一度だけだ。
 その後は俺はまた、闇の底に舞い戻る。
 結局、それしかできる事などないのだから」

「感謝します」


【G-2/中・高等学校裏庭/1日目/昼(放送中)】

698この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:16:53 ID:xXiaLB6g0
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(小)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕、感覚機器がやや麻痺
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真
    ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
    警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
    A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
    A3サイズのレガートモンタージュポスター×10、
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
0:放送を聞く。
1:『神』の謎を解く
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
 詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
 みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※ガッツと胡喜媚を要注意人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。
※コピー日記(無差別日記)の機能が解放されました。

699この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(下) ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:17:37 ID:xXiaLB6g0
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労(小)、背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
    ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
    イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
    ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
    月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
    No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
4:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
5:ゲームを早く終わらせたい。
6:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
 ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。


【ミッドバレイのサックス@トライガン・マキシマム】
凄まじい音量と音域の広さを持ち、衝撃波による攻撃さえ可能なミッドバレイの特注サックス。
衝撃波は物理的な破壊のみならず、脳の中枢を共振させて視覚障害などの内部ダメージを与える事すら可能とする。
また、機関銃が仕込まれており、音楽を奏でる余裕がない場合や奇襲にも用いることができる。
ちなみに、アニメ版ではシルヴィアという名前がつけられている。



【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム 死亡】
【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム 死亡】

700 ◆JvezCBil8U:2010/02/17(水) 22:21:53 ID:xXiaLB6g0
以上、投下終了です。
どなたか可能な方に、代理投下をお願いしたく思います。

それと、投下時にミスが2つほど。
まず、タイトルの振り分け方なのですが、
『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO(中)』の始まりは、中途半端な>>669ではなく>>666のミッドバレイパートからです。
間違えて雪輝パートと一纏めにした挙句、タイトル変更を忘れていました。

それと、文字化けを発見した為、>>690>>691に差し替えています。

701第二回放送 小さな神の傲慢な掌 ◆L62I.UGyuw:2010/03/06(土) 08:11:13 ID:pHhzymDI0
変声期前の少年独特のソプラノが、場違いなほど朗らかに島に響く。

『皆さん調子はどうですか? これから第二回目の放送を始めます。
 今日は良く晴れたいい天気……とはちょっと言えませんよね。
 さっきまではともかく、今は随分雲が増えちゃいましたし。
 まるで皆さんのこの先の運命を暗示しているみたいで……おっと、これは余計なお世話でしたか。
 何にせよ、これからの天気には注意した方がいいかもしれませんよ。
 …………さてと、それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。
 えーと……あ、そうだ、その前に。まぁ大したことじゃないんですけど。
 今回の放送からは、最初に進入禁止エリア、次に死亡者を発表することにしました。
 え? 何でって?
 どうも最初に死んだ人の名前を言うと、何故か進入禁止エリアの発表を聞き逃す人がいるみたいなんですよね。
 全く、困ったことだと思いませんか?
 知らずに進入禁止エリアに入ってドカン、なんて死に方は皆さんもイヤでしょ?
 僕らとしてもそういうのは面白くないので、これからはそこのところを配慮しようってことです。
 それじゃ、早速今から進入禁止エリアと死亡者の発表を始めますので、聞き逃さないように注意して下さいね。

 …………まず新しい進入禁止エリアは

 13:30からD-6
 15:00からG-2
 16:30からH-7

 です。ちゃんと書き取りましたか?
 あ、近くにいる人たちは、なるべく早めに避難した方がいいと思います。

 …………次は今回の死亡者ですけど

 浅月香介
 ウィンリィ・ロックベル
 植木耕助
 雨流みねね
 金剛晄
 志村妙
 ゾッド
 高町亮子
 竹内理緒
 妲己
 ドクター・キリコ
 ブラック・ジャック
 Mr.2 ボン・クレー
 宮子(※1)
 柳生九兵衛
 リヴィオ・ザ・ダブルファング
 レガート・ブルーサマーズ

 以上17名です。
 なかなか順調ですね。
 ちなみに……お仲間を後ろから刺すつもりの人は、そろそろタイミングを考える頃合でしょうか。
 あんまり慎重になり過ぎて、自分が先に殺されちゃうなんてのは馬鹿馬鹿しいですものね。
 さて、それでは皆さん、引き続き頑張って殺し合って下さい』

ブツリ、と。若干のノイズを残して、傲慢な放送は終わった。


※1:実際にはフルネームが読み上げられています。

702第二回放送 小さな神の傲慢な掌 ◆L62I.UGyuw:2010/03/06(土) 08:12:33 ID:pHhzymDI0


***************


道化師が一人、闇の中に音も無く浮かび上がった。
そして十歳くらいに見える男の子の背後から声を掛ける。

「随分と楽しそうですね、セリム・ブラッドレイ。いえ、『プライド』と呼ぶべきでしょうか?」

驚く素振りも見せず、悠然と振り返る少年。
白いワイシャツの上にネクタイを締め、その上から薄茶のベストを着ている。
その一つ一つは地味だが高級そうで、そのせいか、いやに大人びて見える。

「どちらでも構いませんよ。それに、私は与えられた役割を全うしようとしているだけのことです。
 ――ところで、貴方は傍観者に戻るのではなかったのですか、申公豹?」

幼い声。だが老獪さを感じさせるその言い回しは、放送時のそれとはまるで異質だ。
それもそのはず。この少年こそが、七つの大罪の名を冠するホムンクルスの一にして彼ら全ての兄、『プライド』なのだから。
正確には、少年の肉体はセリム・ブラッドレイという名を持つプライドの器に過ぎないのだが。
申公豹は大きく見開いた目をそのままにクスリと微笑む。

「そうですよ。ですからこうやってあなたの仕事振りを眺めに来たのです」

その声は平坦で、プライドにすら真意を悟らせない。
飄然とした申公豹に対して――プライドは気に入らない、と言いたげな雰囲気で煽るような表情を見せた。



「そういえば――聞きましたよ。貴方がた、何でも『彼』に勝負を挑んだとか」

申公豹の瞳の奥に極微の揺らめきが生まれ、だがそれは刹那の間に内なる深淵に呑み込まれた。

「勝てるとでも、思っていたのですか?」

疑問ではなく嘲笑。
七つの大罪。
その一つ、『傲慢』を体現するホムンクルスは、最強の道士に対しても自らを曲げることなく傲然と言い放った。
対する申公豹は、さてどうでしょうとその挑発染みた言葉を軽く受け流す。

「本気で勝てると思っていたのなら、貴方は格好通りの道化者ということになりますね」

更に追い撃ちをかけ、それでも変わらない申公豹の態度を見たプライドは、す、と表情を消して矛先を変える。

「ああ、そうそう。せっかくなので訊いておきます。彼らの居場所を知りませんか?
 何故か先程から姿が見当たらないのですが」
「王天君でしたら、フラスコの中は気分が悪いと言い残して『外』へ。
 かの騎士は『彼』と共に。他の方は判りません」
「ふうん……そうですか……」

周囲の闇が密度を増す。比喩ではない。事実――闇は蠢きながら申公豹を押し潰さんと徐々に四方から迫って来ている。
全方位から押し寄せる圧力。並の人間なら身動き一つ取れなくなるであろうそれを受けて、しかし申公豹は困ったような顔で頬を掻くのみ。
ギョロリと。そんな彼の目の前に、人の身長ほどもある巨大な目が開いた。
気付けば、床に、天井に、幾つもの目と口が出現している。
セリムの体は既に闇に呑まれて見えない。

703第二回放送 小さな神の傲慢な掌 ◆L62I.UGyuw:2010/03/06(土) 08:13:13 ID:pHhzymDI0
「……申公豹。貴方、何を企んでいるんですか?
 いえ、貴方だけではありませんよね? わざわざ私の感知範囲外でコソコソと……。
 いいですか、申公豹。処分されたくなければ大人しく役割を果たせと、そう彼らに伝えなさい」

恫喝。
その物言いに、申公豹は無言で露骨に不快感を示す。
空気の絶縁を破る音と共に右手の雷公鞭が明滅し、瞬きの間だけ申公豹の姿を照らし出した。
僅かに漂うオゾンの臭い。

「私は命令されるのが嫌いなんですよ。心配ならご自分でお伝えなさい」

プライドに負けず劣らずの傲慢な発言に、蠢く闇が更に深みを増す。
一触即発。張り詰めた空気が臨界に達しようかというまさにそのとき、

「面白そうな話じゃのー。儂も混ぜてくれんか?」

緊張感をブチ壊して、人を小馬鹿にした声が響いた。
床の闇の一部が盛り上がり、小さな人の形に収束して行く。
そしてオリエンタルな印象を与える衣装を纏った幼女――ムルムルの姿になった。
予期せぬ闖入者に、毒気を抜かれた様子で闇を引っ込めるプライド。

「ムルムル。貴女ももう少し真面目にやって頂きたいのですが」

不満を口にするプライドに対して、ムルムルは手に持った餅を頬張りながら軽い調子で語り出す。

「そんなにカリカリするでない。何が起ころうとも、所詮全ての因果は儂等の掌の上。
 そうじゃろう? 分かったら餅でも食ってその眉間の皺を取るが良い」
「結構です。……まあ、いいでしょう。定められた運命は水面に映る月影のようなもの。
 水面をいくら波立たせたところで、月を消し去ることなど誰にも出来はしないのですから」


***************


幕間。

暗闇に一人佇む道化師の背に、何処からか無機質な光が当たっている。

「さて皆さん。
 楽しい楽しいサーカスもそろそろ半ばに差し掛かろうとしています。
 心を打つ悲劇がありました。腹を抱える喜劇がありました。そして手に汗握る戦いがありました。
 命の輝きとは、それがどのような種類のものであれ、実に心を打つものです。
 ですが――ここまでの出し物は演目の通り。『彼』はきっとそう言うことでしょう。
 しかし」

一旦言葉を切り、道化師はくるりとこちらを向いた。

「我々が道標を討ち滅ぼしたように、彼らならば真実の月を穿つことも出来るかもしれません。
 果たしてこれは私の買い被りでしょうか?」

704 ◆L62I.UGyuw:2010/03/06(土) 08:15:17 ID:pHhzymDI0
放送案仮投下終了です。
禁止エリアの位置など何かご意見ありましたらお願いします。

705名無しさん:2010/03/06(土) 23:48:52 ID:IDh0BC9Y0
感想は本スレ投下後にですけど禁止エリアの個所も悪くないと思います
工場の北側を封鎖するのも神社方向に追い込みたいみたいでいいと思いますよ

706 ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:09:26 ID:pHhzymDI0
さるさん食らったので残りはこちらへ。

707運命よそこを退け、俺が通る ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:10:01 ID:pHhzymDI0
次元断層の薄刃は趙公明に届く前に軌道が曲げられ、刃と刃の間に大きな間隙が生じていた。
あれさえ無ければ趙公明の五体は確実にバラバラになっていたはずだ。
刃に刻まれる直前に、趙公明は黒い球体を取り出していたので、おそらくその力だろう。
非物質の刃を曲げる力となると相当に限られるため、その正体も大体想像が付く。

と、そこに。
ひらり、ひらりと一枚の紙が落ちて来た。
ナイブズはそれを無造作に掴み取る。

『楽しませてくれたお礼に教えてあげるよ。
 ヴァッシュくんには、僕は競技場で待っていると伝えておいた。
 彼の性格ならきっと僕を止めに来るんじゃないかな

 P.S.
 どうもキミのファッションはイマイチだね。
 次に会うときには、ヴァッシュくんのように華麗なる闘いに相応しい衣装を身に付けて来たまえ』

そして即座に握り潰した。

「何処までもふざけた奴だ。
 まあいい。次こそは確実に殺してやる」


【I-8/公園/1日目/昼】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
1:カラオケ会場跡へ向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。

708運命よそこを退け、俺が通る ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:10:40 ID:pHhzymDI0
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康、血塗れ(乾燥)、無気力
[服装]:ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:ナギを保護してハヤテの代わりになりたい。
1:ナイブズに対する畏怖と羨望。
2:カラオケをしている人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。
3:孤独でいるのが怖い。
4:できれば着替えたい。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。


***************


「――ああ、それじゃあまた」

瓦礫の山の上で。
趙公明は携帯電話を切って手の中で玩ぶ。
そして眼を輝かせて、舞台上の役者さながらの身振りで一人芝居を始めた。

「あれが――『彼ら』の力か。……エクセレント!
 どうやらヴァッシュくんとナイブズくんではその力の使い方が違うらしい
 ああ、それにしても――何というデタラメな能力なんだろうね。フ、フハハ。再戦が楽しみだよ、ナイブズくん。
 次は西沢くんを人質に取ってみるのもいいかな。ヴァッシュくんと纏めて相手にするのも面白そうだ。
 フフフ。いや、本当に楽しみだね」

それから、趙公明は左手をすいと顔の前に持って来る。

「ふむ、避け損ねてしまったようだね。失敗、失敗」

彼の左手は薬指と小指の第二関節から先が失われていた。
その断面は非常に滑らかで、不自然な程に生々しさを感じない。
複雑な関節部の骨と鮮やかなピンク色の筋線維が医学書の挿絵さながらに覗いている。
そしてようやく――思い出したように断面の数箇所からぷっくりと赤い珠が現れ、徐々に大きさを増して行った。
趙公明は懐から取り出したハンカチで傷口を押さえ、そしてきつく縛って出血を抑える。
そして軽く指を屈伸させ、調子を確かめた。

「さぁて、次は何をして遊ぼうかな。
 キンブリーくんによると、今から爆発地点に行っても映像宝貝は見付からないらしいけど……。
 まぁ、それはのんびり考えるとしようか」

指を二本も失ったとは思えないほど爽やかで満足げな笑顔を浮かべ、趙公明は悠然と歩き去っていった。

709運命よそこを退け、俺が通る ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:11:15 ID:pHhzymDI0
【I-8/住宅街跡地/1日目/昼】

【趙公明@封神演義】
[状態]:薬指と小指喪失、脇腹に裂傷
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:映像宝貝を探す?
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて遊べないか考える。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。


***************


「なるほど、示される未来が変化するのは『未来日記』を使った場合だけではない、と」

携帯電話をスーツの内ポケットに仕舞い込んで、キンブリーは指で顎を撫でる。
趙公明によれば、ナイブズ、そして西沢歩が未来日記を使った様子は無いという。
にもかかわらず未来日記の記述が変わった理由は――どうやらナイブズの能力にあると推測出来る。
はっきりとは判らないが、世界の法則そのものに干渉する能力は未来日記を書き換えることもあるらしい。

「命のリスクがある割には存外頼りないモノですね……。
 ふむ……いえ、むしろ当然ですか。
 仮に予知が同種の道具以外では破れないとなると、これは些か強力過ぎる。
 ――まぁ、この段階でそれが判ったのは収穫でしょうか。
 彼は傷を負ったようですが……その程度で戦いを止める方ではありませんね。
 さて、私はそろそろ下へ行きますか。
 日記によれば、放送の直後に少年が目覚めるらしいですからね」

キンブリーはまだ知らない。
彼の手に落ちた少年の、その真の能力を。
それがまさに『未来日記』を破る力を秘めていることを。

710運命よそこを退け、俺が通る ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:11:48 ID:pHhzymDI0
【H-8/図書館/1日目 昼】

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本、ティーセット、
   学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、獣の槍@うしおととら
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:参加者に「火種」を仕込みたい。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。
8:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
9:未来日記の信頼性に疑問。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折、泥の様に深い眠り
[服装]:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
[道具]:空の注射器×1
[思考]
基本:兄貴に会いたい。
0:……。
1:旅館に行って兄貴と会う。
2:キンブリーから蘇生について話を聞く。
[備考]
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。

※I-8の一部が崩壊しました。

711 ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:12:37 ID:pHhzymDI0
以上で投下終了です。
どなたか代理投下をお願いします。

712 ◆L62I.UGyuw:2010/03/09(火) 08:16:04 ID:pHhzymDI0
申し訳ありません。微妙なミスを発見しました。
>>708の西沢さんの状態表の思考欄ですが、

2:カラオケをしている人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。

2:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。ナギがいるなら合流したい。

と訂正します。

713<削除>:<削除>
<削除>

714 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:39:20 ID:pXhv4opE0
さるさんなのでこちらに投下します

715 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:39:59 ID:pXhv4opE0

「ぎ、銀さん?」

ここで銀時の様子がおかしい事に気がつく。だが不意を突かれてたのか行動がおぼつかない。
出来たのはあたふたしながら少しだけ道路から遠ざかっただけ。
足がふらつき後ろへと転ぶ。服が汚れたがそれを気にしてる余裕もなかった。


そしてタンクローリーは……
運転席の銀時は沙英に見向きもせず沙英の傍をそのまま通り過ぎた……
通り過ぎる瞬間、助手席の少女と偶然、眼が合う。
幼げで可愛らしい顔、だけど昏くて冷たそうな眼…交差したのは一瞬だったのにそれが凄く印象に残った…。


ただただ、茫然とその後ろ姿の見続ける…。

「……銀さん……なんで?」

これって…私は…見捨てられた?
でも、でも、それなら何でさっきは『守ってやる』とか言ってくれたの?
それに足手まといだから捨てられたのならあの女の子は何なの?
あの時の銀さんの表情が嘘だとはどうしても思えない…思えないけど…

今の沙英にはただ走り去っていくタンクローリーの後ろ姿を茫然と眺めてることしかできなかった…。


【I-8/ガソリンスタンド付近/1日目 昼】


【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:疲労(小)、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:銀さん…何で…?。
2:銀さんと協力して、ゆのと宮子を保護する?。
3:ヴァッシュさん達には悪いが先にゆのを保護したい。
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?

716 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:41:12 ID:pXhv4opE0


     ◇     ◇     ◇


自分の思い通りに物事が進みナギは有頂天だった。
まさか偶然で奪った支給品がこんなにも強力だったとは。
自身の強運を素晴らしく思いつつ、身につけている羽衣をうっとりと見つめる。
それは己の野望の為に幾つもの国を使い潰してきた傾国の美女としての顔も持つ妲己の宝貝

――スーパー宝貝「傾世元禳」

最初、説明書を読んでこれの能力を知った時、ナギの頭にある考えが浮かぶ。

そうだ、これを使って私だけを守ってくれる私だけの集団を作ろう。

それは普段から大勢の人間に囲まれ傅かれてるナギにとっては当たり前の考え方であっただろう。
だが、道具の能力を過信して痛い目に遭うのはもうこりごりだ。
だからまず使用してみてどういうものか確認してみることにした。
確かに説明書通り蠱惑的な香りが室内に充満した。だがこれで本当に魅力することが出来るのか?
だが体力的に貧弱な自分が優勝するには現状ではこれしかないのもまた事実だ。
踏ん切りがつかず、でも何時までもここに居ても仕方ない。
そう考え、ここから移動しようと奥の部屋から移動しようとして…窓の外にいる男と眼が合う。
不意を突かれて硬直、それから反射的に奥に逃げ込み裏口から逃げようとして…裏口なんて最初からない。

――逃げ道はない。しばし茫然としている所に男がドアを蹴り破って中に踊りこんできた。
男が何か言ってるがそれを聞いてる余裕はナギにはなかった。
出来たことは必死で宝貝の能力を解放することだけだった。
幸か不幸か、二人がいたのが室内だったのが明暗を分けた。
香りが溜まり易い室内だったから、まださっきの残り香も少しは残っていたから、
そういう条件が重なり、普通に使用するより効きが増した宝貝に抵抗する間もなく銀時は魅力された……。

717 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:44:29 ID:pXhv4opE0

(なんだ、心配して損したではないか。この調子でどんどん洗脳してやればいいではないか)

実際は相手の精神力次第で黄飛虎のように抵抗することも可能なのだ。
だが最初の成功で有頂天なナギはその可能性に思い至っていない。
しかしナギは成功することが当たり前だということを前提にして先に進む。先に進むしかない。
洗脳した銀時を色々と尋問してみる。特に知りたいのは他の参加者の情報だ。
傾世元禳を使って自分の保護者を増やしたいナギにとってはどんどん他の参加者と接触したい。
結果は上々。デパート付近に強そうな集団が屯しているらしい。
付近に連れの少女がいるらしいが…そんなのに構ってるより強者を洗脳した方が役に立つ。
この男に殺させて支給品を奪う手もあったが、
それより彼らが他に移動する前に向こうに行かなければならない。
更に好都合な偶然が重なる。傍の車にキーが刺さったままではないか。
男が『運転は出来る』らしいので彼に運転させて先を急ぐ。

もう一度言う。この時のナギは有頂天だった。
これまで強者の影に怯え、それでも元の世界に帰還する為に何とか知恵を絞っていた状況から一転、
強者を従え、それを利用すれば優勝に手が届く。そんな幻想を抱いていた。
だが、それはあくまでも偶然が重なった結果であり状況が変われば引っくり返るあやふやなもの…
だから……

偶然で成立してる計画が同じ偶然で崩壊することもまたしかり…

718 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:46:57 ID:pXhv4opE0

丁度その頃、公園でナイブズがエンジェル・アームの力を解放した――
その余波で崩壊するビルが車内からでも見える。ナギはそれを見て驚くが…だがそれだけだ。
例えビルが轟音を立てて崩壊しようが爆風がここまで届こうがその程度は傾世元禳の効力は解除されない。
そう、どれだけの重火器が荒れ狂おうとそれではスーパー宝貝での魅力は解けない

…だが、ナイブズの超常の力が、人ならざる者の力の余波が銀時の心を揺さぶり波立たせた。

「でええェェェーーーー!?」

反射的に悲鳴を上げて銀時が大きくハンドルを切る。

「なっ!!」

それを見て洗脳が解けたのかと驚愕するが、車の急激な方向転換で揺さぶられてそれどころではない。
車がガードレールをぶち破り、気付いた時には河面がこちらに飛び込んでくるように感じられた。

激しい水音と共に、タンクローリーが正面から河に突っこんだ。


     ◇     ◇     ◇


温泉の時と同じだった…力が抜けていく…
またか? またなのか?
無敵の力を手に入れたと思ったら、今度こそ大丈夫だと思ったら、またこんなことに…
どうして、どうしてだ? 何故、神は私にこんなにも辛く当たるのだ?
私はそんなに悪いことをしたというのか?

もう駄目だ。ナギは諦めていた。
泳げないどころか動くことすらままならなくなるのは前の事で証明済み。
死ぬのは怖かったが諦めの方が遥かに強かった。
今のナギにこれまでのことが思い浮かぶ。

最初にサンジに会ったこと。
スズメバチに浚われて拷問されたこと。
牛の化け物が現れてサンジが身を盾にしてくれて逃がしてくれたこと。
そのサンジやハヤテらが自分が知らない内に死んでいたこと。
死のうとしたが伊澄の声に止められこのゲームに乗ると決めたこと。
疲労で気絶したが助けられて、助けた相手を殺したこと。
どちらかと言えば思い出したくもない光景が多かった。
でも、これが途切れた時が自分が死ぬ時なのだろう。何故かナギにはそれが分かった。

ああ……ハヤテ、マリア、ヒナギク、伊澄、サク、……
私は、ただ、もう一度みんなに会いたかったのに、どうしてこうなったんだろう……
もういい。どうせ私はもう人殺しだ……これでよかったのだ……
ああ、今度はなにか光が見える……
眩しいなぁ……

719 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:48:00 ID:pXhv4opE0


「ぶはあぁ!! げは!、げは!、げは!……ちくしょう! いったい何なんだよ、こりゃあよう!!」

水面から出ると何とか片手で少女を抱え、岸まで泳ぎ着き…ようやく銀時は一息付くと同時に悪態をぶちまける。

少女を地面に置き、必死に空気を吸い込み続ける。酸欠で頭がガンガンする。
でも、あまりの状況の奇妙さに考えることを止められない。

さっきの俺の心にまで駆け抜けたあの『何か』は何だよ?
その感触に怖気ぶり、暴れた拍子でハンドルを切って……いや、その前に何時の間に俺は運転してたんだ?
て、何で運転してたんだ? おかげで溺れ死にそうになったじゃねえか!
そもそも、ここはどこだ? さっきまでガソリンスタンドで綾○のコスプレした子供が…そこでなんか甘い匂いで、ぼ〜っとして…

まじい、マジでそこから記憶が飛んでやがる。
それで河にダイブしてて、隣にさっきの子供も乗ってて溺れてたからとりあえず助けたけどよ…
マジでわけわかんねえェ……
まぁ、とりあえずこの子に聞くしかねえよな……あれ? 何か忘れてるような……

そうだ、沙英だ。
マジい…記憶が飛んでからどの位時間が立ったんだ? 俺が帰ってくるまで隠れてろとは言ったけどマジでやばい。
クソ! こうしちゃあ居られねえ!
あ、ええっと、ああ、もう、こいつも連れて行くしかねえだろうがよ!

720 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:49:08 ID:pXhv4opE0

【I-8西部/川沿い道路/1日目 昼】


【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、びしょ濡れ、ナギをだっこ
【服装】:下半身だけズボン、
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
【思考】
0:記憶が飛んでるのはなんでだよ…
1:沙英を迎えに行きたいが…ここ何処だよ?。
2:この子供(ナギ)を介抱して事情を聴きたいが今はそれどころではない。
3:沙英を守りながら、ゆのを迎えに行く。
4:わりい、トンガリ頭。
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※ゆのが旅館にいることを知りました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※魅力されてからそれが解けるまでの記憶が曖昧です。


【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(中)、全身(特に胸周辺)に多数の刺傷(治療済み)、気絶、びしょ濡れ
[服装]:全身に包帯
[装備]:傾世元禳@封神演義
[道具]:支給品一式×3、ノートパソコン@現実、旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:なんとかして最後の一人になり、神にみんなが生きている世界に帰して貰う
0:???????????????
[備考]
※サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。
※ブラックジャックの容姿の特徴を聞きました。
※拷問などの影響で精神が非常に不安定になっています。
※スズメバチに対して激しい恐怖を抱いています。
※注射器の中身についての説明は受けてません。
※銀時のこれまでの行動や出会った人間などをある程度聞き出しました。
 
※大型タンクローリーが河に沈みました。タンクからガソリンが漏れ出したかは次の書き手に任せます。
※二人が河の北側か南側かにいるかは次の書き手に任せます。


【傾世元禳@封神演義】
妲己の使用するスーパー宝貝。
大きな羽衣で蠱惑的な香りを発し、敵を洗脳して操ることができる。また、凄まじい防御力をもつ。
ただし複数を誘惑するのは可能だが、制限の為効果範囲が低下している。
さらに洗脳された相手が使用者から遠くへ離れると洗脳効果が弱くなる。
その分使用者への負担も減少している。
ちなみに使用者がセクシーポーズをすると効果倍増

721 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/14(日) 19:52:40 ID:pXhv4opE0
投下終了です
タイトルは「このスレはポルナレフに監視されてます」

銀時、沙英、ごめんなさいいいいい!!

722 ◆Eoa5auxOGU:2010/03/22(月) 13:58:33 ID:IFpnRD7A0
サンジの死体の件の部分を修正します。

銀時の腕の中でじたばたするが抜け出せない。
この時、銀時の表情を見ていたらそれどころではないと悟っただろう。
口調に反してその表情は真剣にさっき見た現場で何が起こったか推理しようとしていた。

いやあ、不純な動機でも先を走っていてよかったぜ。
どういう状況だったのかは分かんねえけど血の跡やら喧嘩したような跡が残ってたのはどうもな。
仲間割れか? それとも足手まといだとあのガキを間引いたのか? だがそれなら死体は?
それに人一人バラしたとか殺そうとしたにしては血の跡が少ねえが…。
こういう時は本人らに証言してもらった方が話が早いんだが……。

「だからもう放してください! 自分で歩けますから!」
「いや、せっかくだからもう少しこのまま行こうな。その方がお兄さんも楽だし」
「何がもう少しですか? もう放してください!」
「わかったわかった。ほらよ」

あの現場を見て変な誤解をされても後で困るがもうあそこから十分に離れた。
なので銀時は沙英を放した。急に放りだされて少したたらを踏むが転ばなかった。

「もう!、本当に銀さんは変な事ばっかりするんですから!」
「わりいわりい。けど、もしかしたら戻ってくるかもしれねえからここで待つとしようぜ」
 
まあ、犯人は現場に戻ってくるって言うけどな、と内心で呟く。
これからの行動の指針を考えたい銀時は休憩しようと持ちかけた。

723罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:41:45 ID:9Jfx9i7w0
「……なぜだ?なぜ俺をここへ?」

「僕としては反乱の意思表示のつもりだが…これもレシピ通りなのかもしれないね」

「……娘二人はどうなった?」

「一人は死んだ。もう一人は知らない。残念ながら僕の管轄外だ」

「……貴様らは何を考えている。貴様らの言う神とは誰の事だ」

「言っても理解できないだろう。ただ一つ言えるのは、『未来は神様のレシピで決まる』。
 僕の役割が何かじっくりと考えて、行動したに過ぎない。
 まぁ君の命だ。良く考えて好きにすればいい」

「……いいだろう。それが『何か』の掌の上だとしても……
 俺は強者との戦いを望むだけだ」

「……度し難いね。いや、だからこそ僕は君を選んだ…つもりだよ」

「言葉は無粋……行かせてもらおう」


★   ★   ★   ★   ★

724罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:42:39 ID:9Jfx9i7w0


ついてねぇ…
思わずそう呟きたくなるような状況に、一匹の獣がため息をつく。
思えば彼が目覚めてから今まで、出会った人間はロクなのがいなかった。
状況も理解できない酔っぱらいに変態仮面。
大嫌いな白面の匂いの女に、極めつけがこの勘違い女。
自分をこともあろうに「かわいい」などと表現した上、変化を見せたらそちらを正体と思い込む始末。
決めた。今後人間相手に自分が化物であることを示すときは変化以外の手段にしよう。
そんなミョーな決意を胸に、普通の高校生の格好をしたとらはため息をもう一つ。

「『自分』を『獣』に変える力…?とにかくその能力…貴方、もしや参加者ですの?」

勝手に盛り上がり質問をしてくる相手に、心から面倒くさそうな顔で一応答える。

「あぁ…?サンカシャ?わしゃそんな名前じゃないぞ。大体、仮の姿はこっちだ、こっち」

そう言ってなんとかわからせようとするものの、勝手に興奮している相手には通じない。
そういえばさっきからなにやら憎たらしい声もどこかでペラペラ喋っている。
一応内容は耳に入れるが、大したことでもなさそうだ。

「…もういいですわ。貴方がなんであれ、この場にいる以上私の敵であることは明白!
 私はロベルトの為にも…勝たねばならないのです!覚悟!!」

そう叫ぶと、少女は何も持たずに突進してくる。
それをひらりと飛び上がりかわす…ハズが、おかしなことに。
姿を人間にしていたのにそのまま飛び上がろうとしたものだから、とらはバランスを崩し、
おっとっと、と人間のような言葉をはきつつ横に転がるように突進をかわした。

ズシャ、と不思議な音が響く。見るととらが立っていた背後の壁に刀傷のような後がついていた。

「くっ!」
「なんだぁ?お前、ただの人間じゃないな?」

改めて身構える相手にひとまず距離をとると、とらは変化を解除する。

「!!」
「あー、もう人間に変化するのやめようかね、まったく」
「か、かぁいいですわ…ハッ!そ、そんな姿で私をごまかせるとでも…!」

まーたおかしなこと言ってやがる、と呆れつつ、とらは相手の処遇に考えを巡らせる。
とりあえず今自分は腹が減っている。そして目の前には人間の、それも女。これを喰わない手はない。
問題は女が身につけている臭っせぇ着物だが、あんなもん食うときにひっぺがしゃいいだろう。
最悪我慢できる程度だ。「おーでころん」とかに比べりゃちょっとはマシなものである。
しかし、ととらは歯噛みする。
この女からはそれ以上に嫌な臭がする。
さっきの奇妙な力といい、どうみても人間であるはずのこの女にはおかしな所がある。
具体的に言えば、食ってもうまくなさそうな気がするのである。
とらは知る由もないが、鈴子は「悪魔の実」を食した事でただの人間ではなくなっており、
それがとらの「食物」を見る目に不審にうつったのであろう。
思案の末、とらはひとつの決断をくだす。

725罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:43:35 ID:9Jfx9i7w0

「やーめた」

そう言って身を翻すと、高々と空へと飛びたってしまった。
驚いたのは鈴子である。戦闘態勢に入っていたのに放置され、呆気にとられて立ち尽くす。

「な、なにを…え?あ、ま、待ちなさい!!」

叫んだもののどこ吹く風、獣は気持ちよさそうに飛んでいく。
追いかけようと足を刃に変え、先程の要領で移動を開始した時だった。
彼女はこの移動方法で、先程思い出したくもない事故を起こしている。
それが心にあったからか、動き出してすぐ集中力が乱れた。
だから路上の段差に気がつかず、躓いて今日何度目かのズッコケをやって…

結果的に巨大な剣の一撃をかわしていた。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


から回る少女を残して獣は悠々と空中散歩中。
あの女を殺して食っても構わなかったのだが…
やはりあまりウマそうでなかったのと、実はもう一つ。
近くに非常に忌々しい気配を感じたことも原因だった。
まだある程度距離はあるようだが…長い永い付き合いだ。
これくらい近づけばわかる。「獣の槍」が、そこにいると。
ということはあのクソ忌々しいちび人間も近くにいる可能性があって…
そんなセットの近くで人間を食おうものなら、どうなるかわかったもんじゃない。

そこでふと、ならば攫ってどこかで食っちまえばよかったのだと気づく。
きゅ、と急ブレーキで止まり腕を組むと、ぽんと手を叩く。

(そうだよ、攫ってどっか遠くでゆっくり食えばいい。簡単な話じゃねーか。
 どうせ殺し合いとかいうのをやってるんだし、一人くらいわかるめぇ。
 よし、そうと決まればこの辺でいいから適当な食いもんをさがすとするか)

舌なめずりをして嬉しそうに飛んでいくその様は、バイキングを前にした少年のようだった。

726罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:44:12 ID:9Jfx9i7w0


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


頭上を通り抜けた鉄塊に冷や汗が吹き出る。
四つん這いでシャカシャカと距離をとった鈴子が振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
その男の姿はぼろぼろであったが、射ぬくような視線が鈴子に軽い恐怖を与えた。
先程振り抜かれたと思しき剣…?を支えにやっと立っている姿は弱々しいものの、
明らかに危険な雰囲気が漂っている。

「な、な、だ、誰ですっ!あなたは!」
「てめぇこそ、その力…化物か?ならば…」

その力、とは先程見せた「スパスパの実」の力の事だろうか?
化物か、とは失礼な話である。確かに奇妙な力は幾つかもっているが…
彼女はれっきとした人間だった。

「化物だなんて…失礼な!それを言うならそんな物を振り回す貴方の方がよほど…」

豪ッ!!!

言い切る前に風切り音がなり、またしても鉄塊が振り回される。
今度は正確に狙い澄まされ、彼女の眼前に突き立てられた。

「ヒィっ!」
「なら答えな。その力…どうやって身につけた。まさかてめぇ…『捧げた』のか?
 それとも『もどき』のほうか?」

意味がわからなかったが、相手はどうやらこの力の出所を教えろと言っているらしい。
驚きのあまり話してしまいそうになるが…思いとどまる。
なぜ自分がこんな男にそんな重大な情報を話さねばならないのか。
よく見れば相手は傷だらけで見るからに疲れきっている。
巨大な武器のプレッシャーについ飲み込まれていたが、屈する必要はないのだ。

「…貴方に話す義理はありませんわ」
「そうかい」

そう呟くと、男は剣を抜き去り鈴子に向けて突きを繰り出した。
すかさず両手を交差し、ガードする。
本来ならこんな防御は愚の骨頂である。しかし今の鈴子には効果的だった。
なぜなら彼女の体は「全身刃物」。それはすなわち「全身鉄の硬度」を意味する。
鉄を切れる人間でない限り、決して剣ではダメージを負わせられないのだ。
事実相手の突きは鈴子の腕を切断することはなく、少し後ろに吹き飛ばされただけで済む。

「チッ…やはりただの人間じゃねーな」
「問答無用で攻撃とは…貴方は危険ですね。申し訳ありませんけど…排除します!」

727罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:44:47 ID:9Jfx9i7w0

立ち上がった鈴子は両腕を刃物に変え、男に切りかかる。
攻撃を「かわす」必要がない以上、こちらの有利は絶対。そう確信しての攻撃だった。
それ故に、男の対処は想定内。剣を構えなおし、横薙ぎでの攻撃。
腕以外の全ても刃物に変え、攻撃に備える。「斬撃」は自分に通じないと思い知ればいい。
本日始めて物事が上手く進んでいる実感をもった鈴子。
そういう時こそ危ないものである。


結論から言えば、鈴子は敗北した。これでもかという程に。
襲撃者…ガッツのドラゴンころしによる一撃は「斬撃」ではなく「打撃」だったのだ。
もともと切れ味で勝負するわけではない剣である。その重量とそれを操るガッツの腕力。
それがそろえば鉄を切れぬとしても、ヘタをすれば砕ける位の威力は生まれる。
弱りきった今の彼でも、鈴子を吹き飛ばすくらいの一撃は放つことが出来た。
内臓を思い切り揺さぶられ、吐くに吐けない最悪の嘔吐感を与えられて鈴子は踞る。

「う、ケハッ」

そんなまともに動けない彼女の後ろ手を相手が掴み、何かで縛った。
拘束し、情報を奪うつもりだろうか。これはツイている。
神はまだ自分を見放していないと、鈴子は内心でほくそ笑んだ。
体が回復したら縛ったものを刃物に変えたこの身で切り、奇襲をかければいい。
あるいは相手が尋問の為に自分に触れてきたらそれを切り裂いてやる。
対抗手段はまだいくらでもある。希望は捨てませんわ、と力強く誓った。

結論から言えば、これも失敗。
ガッツが彼女を拘束したのはどこから調達したのか「鉄線」であった。
こんなもの切るにはニッパのようにテコの原理や勢いが必要だ。
こんな状態ではそのどちらも難しい。
鉄に「斬撃」が効かないことに苦しめられるのは自分だった。

ならば、相手が接触してきた時に反撃を…と身構える。
予想外にガッツがつかんできたのは頭だった。
真上から抑えるように腕を後頭部に突きつけてくる。

「(今ですわ)喰らいなさい!!」

叫びと同時に後頭部周辺を一気に刃物へ。そして背筋を全開にして頭を持ち上げる。
これで指くらいは切り飛ばせるはず…しかし、というか。
やはり、というか。これもまた、失敗だった。

「…金属音…それに先刻の動き…どういう理屈かしらねぇが…体を刃物にできる、ってとこか?」
「え、えーーーー!どうして!?」
「生憎、こっちは義手でな」

ご、と力強く地面に押し付けられ、鈴子は短く悲鳴をあげる。
ツイてない、とことんツイてなかった。
これで万策尽きた。もはや座して死を待つのみである。

「さて…その力について詳しく教えてもらう。ついでに知ってることは全部言え」

一段低くなった男の声。それが再び彼女に恐怖をもたらす。

「利用価値がねぇなら…」

そこでさらに込められる力。
抵抗むなしく、鈴子の情報は漏れていく。

728罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:45:25 ID:9Jfx9i7w0


「悪魔の実」について、それを食べた経緯…さらに、神を決める戦いについて。
あるいは先程の変身能力者のこと。診療所で入手した首輪のこと。
鈴子は正直に話す。実はある程度ごまかそうとしてはいたのだが…ガッツがそれを許さない。
少しでも胡散臭いと感じれば容赦なくその顔面を固い地面に叩きつけた。
御丁寧にメガネを外してくれていたとはいえ、その痛みは凄まじい。
なにより、顔は女の命である。それを傷つけられるのは…辛かった。
しかし、彼女は危険を承知でロベルトに関する情報だけは一切漏らさなかった。
それで殺されても本望。そのくらいの覚悟で臨んでいた。
結局ロベルトに関する事以外のほとんどの情報を奪われ、尋問は終わる。

「…もう十分だな」

その言葉に、鈴子は寒気を覚える。それが意味することは単純明快。
用済みとなった情報源の始末、これにほかならないだろう。
死ぬ。自分は死ぬのだ。
そう思うと恐怖と悲しみとがないまぜとなった涙が溢れ出す。
どうしてこんなことに…あぁ、助けてロベルト!と嘆くばかり。
ただ彼の力になりたかったのに…何も、何も出来ない。
結局一人で出来ることなんて限りがあった。
かといって、誰かを、ロベルト以外の誰かを頼る気にもなれなかった。

だってそうでしょう?死んだ仲間の首をはねたり、裏切ったり、裏切られたり…
そんな関係に神経をすり減らすなんて御免ですもの。

そう鈴子は考えていた。本当は、『友達』が欲しい。
だがこの時点の彼女が知る『仲間』はとても『友達』とは呼べない者達ばかりだったが故に…
彼女の歪んだ人間観は孤独を選んでしまった。
それでも最期に思い出されるのは…ロベルトの顔。
最後に彼に会いたかった…そうつぶやこうとした時だった。

グルリ、と仰向けに向き直されると、顔に何かをかけられる。

「けほけほ…な、なんですの?」
「妖精の燐粉だ…持ち主は生意気な奴だが…効果は本物だからな」

答えたのはガッツだった。
本人も体の至る所に粉を塗っている。

「こ、これは確か私の支給品のハズ…」
「だからお前にも使ってやっただろうが。命と引き換えだと思えば安いもんだろ」

その言葉を理解するのに少し時間がかかった。

729罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:46:13 ID:9Jfx9i7w0

「こ、殺さないんですの?」
「ふん…さぁな。後で殺すかもしれないぜ。妙な事をしたらな」

言いながら乱暴に鈴子の身を起こすガッツ。
顔面の傷は随分と回復していた。

「例えばこういう時に余計な真似をするとかな。どの道逃げられねぇんだから、変な気は起こすなよ」

確かに両手を縛られた状態では逃げるにも満足に出来ない。
今半端な反撃をしても無駄ではある。しかし…

「で、でもそんな事をして、貴方になんの利があると言うのです?」
「…俺が聞きたいくらいだな。ほらよ」

鈴子を壁に寄りかからせ、何かを探し出すガッツ。
彼がこんな行動をとったのは、決して気まぐれではない。
気まぐれでこんな行動をとる男ではない。ではなぜか?

生真面目な態度のくせに、どこか抜けたところのある少女。
それがどこかの誰かさんを思い起こさせたのである。
聞けばまだ誰も殺していないという少女。決して化物ではなく、奇妙な力を持っただけの人間。
信じがたい話も混じってはいたが、あの状況で「嘘」はつくまい。
「隠し事」はあるかもしれないが…
とにかく、なにも殺すことはない。そんな風に思えてしまったのである。
それは、直前に仮初とはいえ『仲間』との共闘をしていたのも大きいのだろう。
ガッツは見つけたそれを、元の場所へ戻す。

「あ…」
「なきゃ見えねぇんだろ」

メガネをかけて貰い視界に映った男の姿は、信じられないくらいに優しげに見えた。

730罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:46:40 ID:9Jfx9i7w0

ドカッ!
ザクッ!

ほぼ同時に発生した二つの音。
鈴子の体当たりによって突き飛ばされたガッツが尻餅をつきかけて踏みとどまる。
ふと手を見れば、血がついていた。

「な…」
「…バカ、ですわ」

ズルリ、と音を立てて、倒れる。
まるでスローモーションのビデオのようにゆっくりと。
ガッツは何が起こったのか必死で考える。なぜ、こうなった?

全身刃物のハズの少女の脇腹に、深々とナイフが突き刺さっていた。

「う、うぉおおおおおお!!!」

背後に走り、立てかけておいた得物を手にとると闇雲に振り回すガッツ。
今近くには誰もいなかった。しかし、目の前で少女は刺された。
そこから導き出される答えは、姿の見えない襲撃者。
その可能性に対処するための行動である。これは正解だった。
姿を消していた襲撃者はその攻撃に驚き、ナイフを鈴子の脇腹に残したまま離れてしまう。
ガッツは剣を振り回し続け、相手の接近を拒んだ。

まさしく虫の息の鈴子は思う。
なぜこんな馬鹿な事をしたのだろう、と。
メガネをかけられて、相手と目があって…なぜか照れくさくて目をそらした。
そこで偶然視界に入ったのは、転がる石ころ。それはあまりに不自然で…
直感的に、そこに誰か『居る』と思った。そしてその誰かが男に接近してると気づいた時には…
もう動いていた。

もう、今度こそ本当に死ぬだろう。
結局自分は何も出来なかった。ロベルトの為に何一つ出来なかった…
これは、報いなのだろうか。
自分が腕を切断した少女…首輪を奪った死体…
それらが目の前で渦を巻いているような気がした。
その渦の向こうで、男は剣を振り回している。
上半身裸で包帯だけ巻いて…なんとも男っぽい姿だった。
そういえば、なぜ彼は逃げないのだろう。

そこで気がつく、男が少しずつ自分に近づいていることに。
あの人は、まさか自分を助けようとしてくれているのだろうか。

いいえ、それは少し夢を見すぎですわね…けれど…
今際の際くらい…夢をみさせてください。

自嘲気味な笑顔を浮かべて、鈴子はもう少し近くを見渡す。

(ありました、わ)

731罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:47:57 ID:9Jfx9i7w0

そこには先程ばらまかれた変態写真の一部が落ちていた。
と同時に飛び出した大量の「あるもの」も。
先程の変身能力者に支給されたのだろうか。なんとも奇妙な偶然だ。
鈴子は最後の力でズルズルと動き、ありったけの「それら」に手で触れる。
そしてその上にゴロンと仰向けになおると、少し清々し気な顔をして叫んだ。

「ケホッ!あ、あの…貴方のお名前を…教えて…ゴホッ!」

血でむせてしまい上手く言えない。伝わっただろうか。

「何言ってやがる!今はそれどころじゃ…」
「お、お願い…です!!」

鬼気迫る声に圧倒されたか、ガッツは剣を振るう手は止めずに応える。
彼自身も疲労が蓄積し、足元が覚束ない状況だった。

「…ガッツだ」
「ガッツ、さん、です…か、ゴホッ!わ、私は…鈴子…鈴子・ジェラード、です…」

そこまで言い切ると、目を閉じる。
あの人が、助かるように。ここから逃げ出せるように。
自分は行動するんだ。そう決めた。今ここにいないロベルトにするように…
ここにきて初めてまともに会話をすることが出来た、この男性の為に。
鈴子はうっすら、笑みを浮かべる。

「ごめんなさい…ロベルト」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女の体の下から光が爆ぜる。
爆風とそれに煽られた砂煙が周囲を飲み込んだ。

732罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:48:29 ID:9Jfx9i7w0

煙が晴れると、そこには誰もいなかった。
少女の死体も、剣士の姿も、文字通り見えない襲撃者の姿も。
やがてガラッと音をたて瓦礫の下からガッツが姿を表した。
先程までの襲撃者の気配はない。爆発に飲まれて死んだか…恐れをなして逃げたか。
どの道、姿が見えないだけで戦闘力は高く無さそうだな、と感じた。
要警戒であることに変わりはなかったが。

なぜあの少女がこんな真似をしたのかわからなかった。
自分を突き飛ばしたのはあの攻撃から守るためだったのか。
最後に自爆したのはジリ貧となりつつあった状況を打破する為だったのか。
もはや誰にも聞くことは出来ない。
しかし、一つの事実として少女が死んだ。それだけが残った。
彼女に接近したのは情報収集の為。
放送を聞きつつ様子を確認し、人外である可能性を感じて襲撃、情報を奪おうとした。
特にグリフィスに関する情報はしっかりと吟味したが、大した物は得られなかった。
結果として奇妙な関係となってしまったが…

ガッツは思う。
あの焔の男も、放送によればブラックジャックはじめあの病院にいた連中もほとんど死んだらしい。
先程共に戦った者達も、敗れたのか相討ちかはわからないが倒れたという。
……事実、あの減らず口野郎の死体は自分の近くで見つけた。
そして今の少女も。

自分に関わった人間は皆死ぬ。
『あの連中』に言わせればこれも因果律という奴だろうか。

733罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:48:57 ID:9Jfx9i7w0

「……クソッ喰らえだ」

それは、ガッツが最も憎むもの。
定められた運命……そんな物に従って、アイツらは死んだっていうのか?
もともと死ぬ定めだったというのか……捧げられた、『鷹の団』のように。

そんなことを認めてたまるものか。
改めて湧き上がる怒りを静かに胸に秘め、ガッツは立ち上がる。

「何度だって言うぜ。そのしたり顔で御託を並べるのは、オレが取り殺されてからにしな」

いつの間にかそこには馬に跨った一人の騎士がいる。
一瞥すらすることなく、ガッツは騎士に言い放っていた。

「……ならば命燃え尽きるまで戦うがいい。それこそが唯一の望みなり」

そう言い残し、髑髏の騎士は消える。
先程まで彼がいたその場所に鉄塊を叩き込むと、ガッツは吠えた。


【鈴子・ジェラード@うえきの法則 死亡】


【I-8/路上/1日目/日中】

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE  ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×2@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、青雲剣@封神演義、妖精の燐粉(残り50%)@ベルセルク
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。


※鈴子の死体と荷物、ビーズ、蝉のナイフは近くに転がっています。損傷の可能性アリ。
※ビーズ@うえきの法則はとらの不明支給品の一つです。

【ビーズ@うえきの法則】
普通のビーズ。洋服の装飾などに用いることも当然可能。

734罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:49:29 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

ハァハァと息を切らし、三千院ナギは透明化を解除。
民家のソファにへたりこんだ。

失敗だった。
戦っている者同士のスキを突き、まず強そうな方から倒す。
作戦自体は悪くなかった。問題は、なぜか敗者が勝者を庇ったこと。
それで随分と予定が狂ってしまった。しかし……

(あの強そうな大男だって、結局私に攻撃をすることは出来なかったじゃないか)

見るからに自分なんかには倒せそうにない男だった。
それを追い込み、翻弄したのだ。これは自信につながることだった。
次はしっかりと強者から倒していこう、と決意も新たに、ひとまず武器を探す。
台所で数本の包丁を入手し、カバンに収めた。

(待ってろよ、みんな。私は必ずみんなの元へと戻るからな)

三千院ナギの戦いは終わらない。

【I-8/民家/1日目/日中】


【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(中)、全身(特に胸周辺)に多数の刺傷(治療済み)
[服装]:全身に包帯その上から洋服
[装備]:
[道具]:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、不明支給品0〜2(一つは武器ではない)
カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、
木刀正宗@ハヤテのごとく!、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、イングラムM10(13/32)@現実、工具数種、包丁2本


[思考]
基本:なんとかして最後の一人になり、神にみんなが生きている世界に帰して貰う
1:参加者を皆殺しにする。手段は問わない。
2:武器の入手を優先する。
[備考]
※サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。
※ブラックジャックの容姿の特徴を聞きました。
※拷問などの影響で精神が非常に不安定になっています。
※スズメバチに対して激しい恐怖を抱いています。
※注射器の中身についての説明は受けてません。

735罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:50:19 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

寒い。
カタカタと体を震わせながら西沢歩は歩いていた。
ほぼ裸同然だった状態から、ナイブズにマントを貰ったおかげで恥ずかしさは随分減った。
しかし寒さはどうしようもない。薄いマント一枚ではとても防寒着とは言えなかった。
それはナイブズにも言えることのハズだが、彼は顔色ひとつ変えていない。

(やっぱり、人間じゃない…のかな)

先程の襲撃者が楽しげにペラペラと語った内容によれば、ナイブズは人間ではないらしい。
それならばあの強さ、威圧感、そして自分を助けてくれた謎の力と、あらゆることに納得がいく。

少しは恐怖もあった。自分が今人外の何かと行動している。それは怖い。
しかし、それはもともとだ。彼に感じる恐怖はある程度わかっていたこと。
それでも、彼女はついてきたのだ。
打算や自暴自棄、あるいは恩返し。様々な感情をないまぜにして。
だから今更その事実がハッキリしたところで接し方は変わらなかった。
なにより彼女自身が、そんなことに気を配っていられる状態ではない。

三千院ナギを守る。
考えてはみたものの、それが自分に出来るだろうか。
ハヤテ君の代わりに、と軽々しく思いはしたものの、それがどれだけ大変なことかはよく知っている。
それでも、今の彼女にはそれくらいしかすがるところがなくて。
なにより、理解し合えた友人を失いたくはなくて。

(う〜、もうやめよう。これ以上考えてたら耐えられないよ。
 今は目の前の、あの人たちに何ができるかの方が大事じゃないかな)

結局考えはまとまらず、とりあえず保留しておく。
先程の放送で、とりあえずナギの名は呼ばれなかった。
しかし、一つ知った名前が呼ばれてしまう。
Mr.2ボン・クレー。ボンさんの名だ。
何があったかは分からない。ただ、悪い人ではなかった。
もう絶対会えないと思うと、自分でもびっくりするほど悲しくて…
自然と涙がこみ上げてきた。
しかし立ち止まり泣いている暇はない。
ゴシゴシと目にたまった涙を拭うと、ナイブズの背を追い歩き続ける。

736罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:50:57 ID:9Jfx9i7w0

その時だった。
凄まじい雷鳴が天空で鳴り響く。

「きゃあああ!!ま、また!?一体な、なんなのかな!?」

思わず上を見上げると、そこを駆け抜ける二つの影。
ひとつは漆黒の、巨大な影。もうひとつは金色の、美しい風。
その二つが踊るように絡み合いながら、どこかへと飛んでいく。

「ナ、ナイブズさん…」
「……人間ではあるまい。だが同胞でもない…」

それだけ呟き、影がみえなくなると興味がないと行った感じでナイブズは再び歩き出した。
あわてて彼女も追いかける。気にはなったがもう見えなくなっていたし、なにより怖い。
影が、というよりも、一人になるのが。だからついていった。
それが普通だろう。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

崩壊したデパートを眺めて、趙公明は嬉しそうに呟く。

「さぞ、楽しかっただろうね。僕も動かずここにいればよかったかな」

そこに見受けられる様々な戦闘の痕跡に胸踊らせる。
これは多対多、しかも実にバラエティに富んだ兵装のぶつかり合いだったようだ。
先程のナイブズとの戦いといい、まったく退屈しない。

「しかしここにあったワープポイントは使えない。競技場に行くにも歩くしかないね」

彼がデパートを目指したのはそのワープポイントを利用して移動することが目的。
禁止エリアに囲まれ動きづらくなる前にさっさと抜け出そうと思ったのである。
別に競技場に向かう必要はない。
しかしナイブズ、ヴァッシュと興味深い存在両方にその情報を与えた以上、彼らが集まる可能性がある。
そこにトレビアンな細工を施して、彼らを迎える舞台とするのも悪くないだろう。
その為の移動に、神の陣営からある程度知らされていたワープを有効活用しようとした訳だ。
しかしデパートは完全に崩壊し、ワープポイントの形跡などほとんど無い。
こうなれば禁止エリアが進入禁止になる前にさっさと北上するのが吉だろう。

737罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:51:33 ID:9Jfx9i7w0

と、そこで足元に何かの気配を感じ、趙公明はしゃがみ込む。
そしてしばらく瓦礫の山を触った後、鞄から盤古幡を取り出した。
あまり力を無駄遣いしない程度に重力を操り、重い瓦礫をどかしていく。
中から出てきたのは一人の男の死体と、鎧だった。

「ふむ、中々面白そうな道具じゃないか。確か…狂戦士の甲冑!
 僕が着るには少々華やかさが足りないが…誰かに貸して上げるのも悪くない」

そう言って鎧を拾い上げ鞄に収める。
その時、彼の携帯電話から着信音がなる。

「もしもし、やぁ君か。なんの用だい?え?
 僕と似た立場の参加者を用意した?どういう事だい?」

不審な内容にも関わらず、趙公明の顔は明るい。

「なるほど…参加者を利用してね。それで、僕に何を求めてるのかな?
 …その彼と無駄な戦いはしないで欲しいと。ハハハハ!!それは無理だよ」

何かが空中を通り抜ける気配を感じ、空を見上げる。
その目にもまた、二つの影が通り過ぎるのが映った。

「強いんだろう?だから選んだのだろう?なら、戦いたいじゃないか!
 君や『彼』が何を考えていようとも、僕は強者との華麗な闘いを望む!それだけさ!
 それが掌の上というのなら…大歓迎だよ!
 なんだい、嬉しそうだね。いや、僕も嬉しい。君ともいずれ闘いたいものだ。
 何がしたいのか知らないけれど、頑張ってくれたまえ」

本当に嬉しそうに笑いながら会話を終え、電話をきる。
しばらく携帯を手の中で弄んだ後、瓦礫の山からヒラリと飛び降りた。

「二枚目のジョーカーという訳か。ますます楽しくなってきたね」

【I-7/デパート跡地/1日目/日中】


【趙公明@封神演義】
[状態]:薬指と小指喪失、脇腹に裂傷
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:競技場に向かう?
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて遊べないか考える。
9:狂戦士の甲冑で遊ぶ。
10:二人目のジョーカーに興味。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
※会場の隠し施設や支給品についても「ある程度」知識があるようです。

738罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:52:17 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

真っ暗闇で、遠くに人影が見える。
あれは…とても見覚えのある影だ。とても大切な影だ。
そう、あれは……ハヤテだ。
ハヤテ!!そう、ハヤテだ!!!

やっぱり生きてた!やっと会えた!
まったくあいつは、まったく!!

ハヤテだけじゃない。伊澄もサクも、マリアもヒナギクも皆いる。
やっぱり私の仮説は合ってたんだ。別の世界ではみんな生きてる。
あの中心に私も……ん?

誰だ、あそこにいるのは。そこは私の場所だぞ!勝手に居座るな!!

誰だ、誰だ、誰だ!!

あれは…あれは、


あれは、私だ。


私がいる。
そりゃそうか。他のハヤテ達がいるなら、他の私がいても何もおかしくない。
でも慌てることもない。『神』とやらに頼んで、アイツと私の立場を入れ替えればいいんだ。
冴えてるな、今の私。だからとりあえず、一度近づかなくっちゃな。

あ、あれ?なんだこれは?
壁…か?見えない壁みたいなのが…A○フィールド?
邪魔だなぁ…なんでこんな物があるんだ。
消えてくれ!私はハヤテ達に会いたいんだ!!!
消えろ、消えろ、消えろ!!!

あっちであんなに楽しそうに話をしてるのに…
近づけないなんて非道い話があるか。誰か、誰か!おーい!!
私はここにいるぞ!ハヤテ!マリア!サク!伊澄!みんな!!!
どうして…どうして近づけない……なんで……

あ!ハヤテが!ハヤテが近づいてきてくれる!
やっぱり、やっぱりアイツは、最高の執事だ!!!
ハヤテ、ハヤテ、ハヤテーーーーーー!!!

739罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:53:00 ID:9Jfx9i7w0

こんな壁、壊してくれ!!
みんなに会いたい、皆に触れたいんだ。
ハヤテ、お前と……手を、繋ぎたいんだ。

ハハ…なんだか今日の私、いやに素直だな。
なに、少し嫌な目にあってな…みんながいることの有り難さがよくわかったよ。
だから、な?この壁を壊してくれよ。

……え?なんで?なんで壊せないんだ!!!
ハヤテ、お前はハヤテだろう?私の最高の執事じゃないか!
どうして……
この壁は、私が作った物?バカな、そんな訳あるか。
私が何を、何をしたって言うんだ。冗談はよせ。

……なぁ、冗談だろう?そんなの聞いてなかったぞ。
私はただみんなに会いたくて…必死で…自分に出来ることをしようと思って…
それが一番だって!一番あるべき姿だって思って!!だから!!!


だから人まで殺したのに

それがこの壁を作ったっていうのか

740罪の最後は涙じゃないよ ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:53:34 ID:9Jfx9i7w0


もうみんなに触れられないのか。
楽しく喋れないのか。自慢話も、漫画の話も…何も話せないのか。

ハヤテ、お前にも……もう、なにも出来ないのか?
手が、手が繋ぎたかったのに…私の手…握って欲しかったのに…

そうか、ホントだ。
よく見たら、私の手、真っ赤じゃないか。
こんな手じゃ、ハヤテも嫌だよな。
ハハ、当たり前の事なのに、どうして気がつかなかったんだろう。
こんなことして…なにも変わらない世界に戻れる訳なんてないのに。
だって、私自身が一番変わってしまったんだからな。
ハハハハ、可笑しいな。ハヤテも笑え。面白いだろう?

ハハハハ……ハ、ハハハッ……
……グスッ、う、うわぁ……うわぁああああん!!!

どうして優しく微笑んでくれるんだ!
触れることも出来ないのに!もう二度と近づけないのに!!
どうしてそう優しいんだ、お前は!!

……壁越しでもいい。ハヤテ。
その手を、触らせてくれ。



ゆっくりとその手を伸ばし、手と手が触れ合う。
その手をぎゅっと握り、閉じていた瞼を静かに開く。
そこにはよくある顔が見えた。でも、知っている顔だった。
自分の手を握ってくれていたのがその顔だとわかって、思わず苦笑しながらナギは呟く。

「……なんだ、お前か」


【三千院ナギ@ハヤテのごとく! 死亡】

741味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:54:44 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

つかんだ小さな手から力が完全に失せるのを感じながら、西沢歩はただ涙する。
我慢もせず、惜しみもせず、何かを悟ることもなく、気丈にも振る舞えない。
ただ悲しくて、やりきれなくて涙した。

彼女がたどり着いた時、ナギは既に瀕死の状態だった。
血だらけの包帯が洋服の合間から見てとれて、顔もすっかり疲れきっていた。
しかしそれ以上に…彼女が手遅れだと物語る証明があった。
彼女の左腕は肩から先がまるまるなくなっていたのである。
まるで巨大な獣に噛みちぎられたかのように……
そこから見たこともないような量の血を流し、うつろな目で彼女は横たわっていた。

本来なら一瞬でショック死してもおかしくない傷だった。
なぜ彼女が生きながらえたのかは分からない。
食した悪魔の実の力か、誰かの細工があったのか、あるいは彼女の想いが起こした奇跡か。

だがそのどれも結局彼女を生かすことは出来なかった。
西沢歩の目の前で、恋敵(ライバル)三千院ナギはその生命を落としたのである。
遺体の手を握り締め、涙することしか出来ないことが悲しかった。

結局守れなかった。
こんな傷をつける相手だ。例え間に合っていたとしても助けることは出来なかっただろう。
自分には絶対に勝てない相手だとわかる。
はじめからそんな運命。自分にはハヤテくんの代わりなど絶対に務まらなかったんだ。
今度こそ一人ぼっち。守るべき人もいない。

やっぱりいっそ死んじゃおうかな。
でもやっぱり怖いかな。

……今は自分の事はどうでもいいや、と彼女は自分の今後を考えるのを一旦やめる。
大切な友人が死んだ事の悲しみは、彼女の生きる意味という難しい問題すらちっぽけにしてしまった。
ただ目の前の少女の死を悲しむことに手一杯で、そんな事は考えていられなくなっていた。

742味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:55:23 ID:9Jfx9i7w0

「……すみません、ナイブズさん。お、置いていってくれて大丈夫、です」

涙声のまま、搾り出すように呟く。
同行者が止まって待っていてくれているのが意外だった。
てっきり置いていかれると思っていたのだが…彼は後ろに立っている。
しかし急ぐ彼にこれ以上迷惑は掛けたくなかった。なにより彼はこれ以上待ってなどくれないだろう。
かといってナギを置いてついて行くつもりもない。

孤独は怖い。でもそれ以上に友情を裏切るのは嫌だ。
大きな大きな悲しみはある意味で彼女を成長させたのかもしれない。

遺体の手を握ったまま、振り向かずに答えたが、きっとわかってくれるだろう。
そう思っていたのに。

「……埋葬ぐらいしたらどうだ。貴様らにはそのくらいしかできまい」

そう告げて、彼はその場に座り込んでしまった。
驚きと同時に、その言葉が心に波紋を与える。

そうか、埋葬くらいならしてあげられるかな。
ナイブズさんの話ではこれからここは雪になるらしい。
そんな寒空にナギちゃんを置いていくのは非道い話だし。
それくらいしかできないけど…なら、それくらいはしなくちゃね。

ナギの遺体をゆっくりと動かす。そこで初めて気がついた。
彼女が目を覚ます前と後では、随分と表情が違う。今のほうがずっと、穏やかだ。

もしかしたら、本当にもしかしたら…自分も何かの役には立ったのかな。

そうして西沢歩は立ち上がった。
呆然とした心にとりあえず、歩く理由を流しこんで。

743味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:55:56 ID:9Jfx9i7w0


【I-8/路上/1日目/日中】

【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:どうしようかな。
1:ナギの埋葬。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
5:できれば着替えたい。
[備考]
※ 明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆

なんだ、この感覚は。
ナイブズが座り込んだのは決して西沢歩を待つためではない。
あぁは言ったが、別に自分が待つ道理はない。置いていくつもりであった。
ところが彼女を見ているうちに、何か嫌な目眩に襲われて、思わず座り込んだのである。

彼女に言った言葉は本心だった。
人間という貧弱で愚かな生き物は、死んだ同胞と一体化することもできない。
ならば出来ることなどせいぜい埋葬くらいだろうと、ただ言ったまでだ。
そもそもそれ自体が彼にとって「らしくない」行動であるのだが。

しかし、彼を苦しめたのはそんな「らしくない」行動ではない。
その程度なら弟にあてられたのだろうと納得できる。

異種の何者かによって無残に殺された同胞の姿。
それを前に無様に泣き荒れる様。

それが嫌な思い出を蘇らせた。
それは己が所業でもあり、また自分と弟の袂を分たせた原因でもあった。

744味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:56:34 ID:9Jfx9i7w0

目の前でそれを見て初めて気がつくこともある。
暴力は受けた側からしかその本質は語れない。

知る事で変わる事もあるというのに
伝わらないまま世界は回ってゆく

いずれ彼にも、そんな時が訪れるのだろうか。

ただ、まだそんな「目眩」は振り切られる。
同胞を救い、弟を救い、「暴力」を際限なく振るう愚か者達へと制裁をくわえるその時までは。
きっと誰にも伝えられない。

そう、「きっと」。


【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:金糸雀@金剛番長
[道具]:支給品一式×2、エレザールの鎌(量産品)@うしおととら、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
1:ナギ埋葬後、カラオケ会場跡へ向かう。
2:デパートに向かったという妲己とやらを見極め、ヴァッシュを利用しかねないと判断したら殺す。
3:首輪の解除を進める。
4:搾取されている同胞を解放する。
5:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
6:レガートに対して――?
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※朝時点での探偵日記及び螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。

※ナギの持ち物がどうなったかは後の書き手さんにおまかせします。

745味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:57:11 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「やい、よくもわしの食いもんをばっちくしてくれたな」

I-8エリア……第2回放送の後様々な出来事の起こっていたこの場所の上空にて……

金色の獣が、漆黒の獣に食って掛かる。

「アレはわしが先に目をつけてたんだぞ!なのに半端に食い散らかしやがって!
 大体殺したんならしっかり食っていかねぇか」

「……ヤツはこの俺を攻撃してきた。俺の反撃を受けてなお、立ち向かった。
 ならばヤツは単なる餌ではない。我が敵となる戦士よ。食らうつもりはない」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、舌を出して金色の獣…とらが悪態づく。

「けぇ〜、化物とは思えねぇな。いいか、わしは絶対に他の化物の食い残しなんて喰わないからな。
 ま、わしも強いヤツと戦いたい気持ちはわかるけどよ」

そう言うが速いか、全身から雷を発生させる。

「例えばお前さんみたいなヤツとな……食いもんの恨みは恐ろしいぜ!」

カッ!!!

雷鳴が鳴り響き、とらは金色の風となって獣へと襲いかかる。
漆黒の獣もまたその雷に怯むことなく真っ向から受け止め、雄叫びをあげる。
二匹の獣はぶつかり合いながら空を駆けていった。

その様を見ていた者達が様々な反応を見せたのは知っての通り。

H-5エリア上空。
かつて正義を目指した番長が己を見失った場所。
そこで獣の空中決戦は続いていた。
途中首輪が禁止区域侵入を警告してきたが、この二匹の全力のスピードは
容易にそこからの脱出を遂げさせた。

とらが撒き散らす炎を突っ切り、その太い腕を振るう獣。
風のような速さでその攻撃をかわし、獣の肩口に食らいつくとら。
痛みかそれ以外の理由か、獣は凄まじい声で吠え、とらの頭を鷲掴みにして放り投げる。
グルグルと回りながら飛んでいくとらに角を掲げた突進で追い打ちをかける。

746味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:57:53 ID:9Jfx9i7w0

とらもまた、化物らしく雄叫びをあげるとその角の一撃を受け止め、体を無理矢理にひねる。
その勢いに引っ張られ回転を余儀なくされる獣。
角を通して雷が送り込まれる。雷は周囲一帯に無数に別れて降り注いだ。
木々を焦がし、轟音が響く。
しかし雷を浴びた当の本“獣”は意にも介さず、押しきらんと力を込める。
単純な力比べでの不利を悟ったとらが、相手を投げ返す。
森の中に叩きつけられたものの、再びロケットのような勢いで飛び出してくる獣。
高速落下をしながら迎え撃つとら。

咆哮vs咆哮

とらの拳が獣に連続でヒットし、止めとばかりに頭の上に両手を振り上げたその時、
獣はその腕をラリアットの要領でとらの脇腹にぶち当てる。苦悶の表情が浮かぶとら。
しかし引くことはない。両手を振り落とし、獣を再び地面に叩きつけた。


ゴォォォォォォォォォン!!!!!!


するとそこから凄まじい爆発音と爆炎があがる。
とらは知る由もないが、獣は雨流みねねのトラップゾーンへと運悪く落下したのである。
最初は不思議そうにその爆発を眺めたとらだったが、すぐ満足げにどこかへと飛び去って行った。


そのしばし後……
獣は再び上空へと飛び上がる。

「……逃したか。ヤツとはいずれ決着をつけねばなるまい。妙な横槍のないところでな」

グルリと周囲を見渡した後、獣は手近な地面に降り立つ。
今度はトラップにひっかからないように慎重に。
そしてその場でその姿を人間型へと変化させた。
流石にダメージを受けすぎた。少し休んで回復させなばなるまい。

その者の名は――――――不死のゾッド

消息不明となっていた最強と名高い戦士。
彼は再びその身で強者達と戦えることの喜びにうち震えながら、高らかに咆哮をあげる。
漆黒の魔獣は再び、解き放たれた。

【ゾッド@ベルセルク 戦線復帰】

747味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:58:32 ID:9Jfx9i7w0

【H-5/森林/1日目/日中】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(回復中)
[服装]: 人間形態、全裸 首輪なし
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。

※消息不明になる前に負ったケガは回復しています
※二枚目のジョーカーとしての参戦になっていますが、主催側の情報は何も受け取っていません。
※みねねのトラップの存在を認識しました。ただしほとんど吹き飛んでいます。
※H-5エリアに雷が降り注ぎました。爆発の跡も残っています。

748味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:59:09 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

とらは気持ちよさそうに島の上空を飛んでいた。
せっかく見つけた食いもんをどこかの馬鹿にばっちくされたのは憎らしかった。
しかしその後の戦いはなかなか楽しいものであった。
やっぱり喧嘩はあのくらい派手にやったほうが面白い。
そういう意味でもこの環境は中々都合がよかった。

(スッキリしたことだし…久々に思い切り飛び回ってみようかね)

楽しい喧嘩に空腹と目的をすっかり忘れるとら。
見渡すと、当たり前だが海が見える。

「よ〜し!海の上を通ってこの島を一周でもしてみるかい」

金色の風は何者にも縛られることなく空を駆け抜ける。
その島が神の掌の上とも知らず。

【I-5/上空/1日目/日中】

【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中、回復中)
[服装]:
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる。
1:とりあえず思い切り空を飛ぶ。
2:人間、特に若い娘を食って腹を満たしたい
3:強いやつと戦う。
4:うしおを捜して食う。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。

749味わうのは勝利の美酒か それとも敗北の苦汁か ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 01:59:35 ID:9Jfx9i7w0

★   ★   ★   ★   ★

せっかく体を回復させて解き放ったというのに、もうボロボロになっているのか。
少しため息をつきつつも、男は嬉しそうにその光景を眺めていた。

まぁ、そのくらいのハンデは必要か。
彼が全てを殺しまわってしまっては意味がない。
僕の目的は戦いの加速ではないのだから。

男は立ち上がり、背後の道化へと告げる。

「盗み見かい?」
「堂々と見ているでしょう。試みは上手くいったのですか?」

ニヤリと浮かべた笑み。

「おそらくこれも『彼』の掌の上ですよ」
「どうかな。『彼』だって何者かによって作り出された存在のはず。
 僕はそれを生み出した存在こそが『神』だと思うけどね」
「ならば貴方はその『神』の使いだとでも?」

道化の表情は変わらない。
この二人は果たして敵同士なのか、味方同士なのか。それすら伺えない会話ぶりだった。

「僕は、僕の役割はきっと『彼』の運命の試験紙さ。『彼』自身も理解しているだろう。
 未来は神様のレシピで決まる。僕が僕の役割を果たして、『彼』が目的を遂げるならそれもいい」

モニターから離れて部屋の奥へと進みつつ、男は呟いた。

「僕から運命の試験紙を取り上げたんだ。為すべきことは為してもらわないとね」

750 ◆lDtTkFh3nc:2010/03/31(水) 02:01:36 ID:9Jfx9i7w0
以上投下終了です。規制中につきこちらに失礼。
長いのに申し訳ありませんが、どなたかお願いいたします。

いろいろやってるので、問題点あればご指摘お願いします。

751名無しさん:2010/03/31(水) 03:09:51 ID:9NgECGhk0
どなたか代理投下の続きをお願いします。

752 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/02(金) 21:56:30 ID:9Jfx9i7w0
遅くなりましたが修正案を。
まず本スレ369趙公明パートを下記に。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

崩壊したデパートを眺めて、趙公明は嬉しそうに呟く。

「さぞ、楽しかっただろうね。僕も動かずここにいればよかったかな」

そこに見受けられる様々な戦闘の痕跡に胸踊らせる。
これは多対多、しかも実にバラエティに富んだ兵装のぶつかり合いだったようだ。
先程のナイブズとの戦いといい、まったく退屈しない。

「しかしここにあったワープポイントは使えない。競技場に行くにも歩くしかないね」

彼がデパートを目指したのはそのワープポイントを利用して移動することが目的。
禁止エリアに囲まれ動きづらくなる前にさっさと抜け出そうと思ったのである。
別に競技場に向かう必要はない。
しかしナイブズという非常に興味深い存在にその情報を与えた以上、多少の価値はある。
そこにトレビアンな細工を施して、強者達を迎える舞台とするのも悪くないだろう。
映像宝貝は気になるが、獲得の目が薄いことはキンブリーに知らされている。
何者かがあの場へ襲撃を仕掛けたようだがその後はいたって静かだ。
あまり盛り上がってはいないのかもしれない。
だったら禁止エリアが進入禁止になる前にさっさと北上したほうがいいかもしれない。

その為の移動に、神の陣営からある程度知らされていたワープを有効活用しようとした訳だ。
しかしデパートは完全に崩壊し、ワープポイントの形跡などほとんど無い。

753 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/02(金) 21:59:12 ID:9Jfx9i7w0
ついで本スレ367を下記に。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆

ハァハァと息を切らし、三千院ナギは透明化を解除。
民家のソファにへたりこんだ。

失敗だった。
戦っている者同士のスキを突き、まず強そうな方から倒す。
作戦自体は悪くなかった。問題は、なぜか敗者が勝者を庇ったこと。
それで随分と予定が狂ってしまった。しかし……

(あの強そうな大男だって、結局私に攻撃をすることは出来なかったじゃないか)

見るからに普段の自分では倒せそうにない男だった。
それを追い込み、翻弄したのだ。これは自信につながることだった。
次はしっかりと強者から倒していこう、と決意も新たに、ひとまず武器を探す。
台所で数本の包丁を入手し、カバンに収めた。

落ち着こう落ち着こうと思ってはいるものの、やはり気が焦る。
休憩もそこそこに家を出ると、ナギは市街地を慎重に探索しはじめた。

姿は消していない。
常に姿を消しているとなぜかやたらと疲れる気がしたからだ。
本人としては全力で警戒しながらの行動だったが、常に命のやりとりをしてきた
猛者から見れば格好の獲物になっただろう。
運良く今の所遭遇してはいないが…

大きな通りには人が見受けられず、焦りを覚えたナギは路地裏に入った。
そこで奇妙な光景を目にする。金網の前に突然男が現れたのだ。
その男は全裸で片膝をついた状態で姿を現すと、一切を隠すことなく周囲を見渡す。
物陰からその様子を見ていたナギは赤面しつつも、すぐにブンブンと頭を振って観察を始めた。

相手は先程の男にも勝る大男だった。しかし化物という訳ではない。
武器などを所持している様子はなく、その格好から何かを隠し持っている可能性が
限りなくゼロに近いことは容易にわかる。

ナギは姿を消し、包丁を二本構えてゆっくりと男に近づく。

(慌てるな…三千院ナギ…大丈夫、うまくやれる)

男はまるでロボットが動作確認でもするみたいに手や足を動かしている。
チャンスは今だ。これを逃す手はない。
先程のように発見されるようなマヌケをしないよう慎重に歩を進め、遂に手が届く所まできた。
嫌な感じが全身を覆う。人を刺す。そんな行為を少女の体が拒否している。
それでも、たどり着きたい場所があるから…

息を浅く一吸い。そして、刃を男の脇腹に突き立てる!

見事、刃は男に刺さった。
手応えを感じナギはやや高い位置、心臓付近に第二撃の狙いを定める。
だが…

ゾワッ!!!!!!

見上げた獲物と目が合った瞬間、覚えのある寒気が彼女を襲う。
とっさに包丁を手放し全力で相手から離れたが、少し遅かった。
男は腕をふるい、その指先がわずかにナギに触れる。

それだけで命を持っていかれたかと勘違いする所だった。
驚きと恐怖に思わず尻餅をつく。
息が荒い。このままでは気づかれてしまう。
ナギは深呼吸を繰り返す。

(お、落ち着け…相手はこっちの位置がわからないんだ。ここは一旦逃げれば…)

冷静に、努めて冷静に対処しようとするナギ。
その彼女の目の前で男の姿に異変が起こる。
最初は何が起こったのかわからなかった。しかしすぐに化物が擬態していたと気づく。

腕が、足が、胴体が…全身が何回りも大きく膨れ、
男の姿は人間でない『何か』へと変貌していく。

その様を見て彼女の中の憎悪もまた…同様に膨れていった。

三千院ナギの戦いは終わらない。

754 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/02(金) 22:03:36 ID:9Jfx9i7w0
最後にゾッドの状態表の

[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(回復中)、首輪なし



[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(回復中)

とします。

これでご指摘頂いた点の修正になったかと思います。
お手数をおかけして本当に申し訳ない。よろしくお願いします。

755 ◆23F1kX/vqc:2010/04/03(土) 01:17:38 ID:Z.8DLtC60
「Bottom of the dark」の修正です。
推敲が甘かったせいで、どうしても>413の一文が気に入らないのでやっぱり削除させてください。
>どこかで赤い卵が、鳴いた気がした。

また、以下修正します。
■鳴海歩の状態表
[道具]:支給品一式、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3

[道具]:支給品一式×2、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3、手錠@現実×2、警棒@現実×2、詳細不明調達品(警察署)×0〜2(治癒効果はない)、警察車両のキー 、No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム

■ヴァッシュの状態表
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
 ↓
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1(治癒効果はない)、ニューナンブM60(5/5)@現実×1、.38スペシャル弾@現実×20

■グリフィスの状態表
[道具]:支給品一式
 ↓
[道具]:支給品一式 、風火輪のついた両脚

■エリア情報
【F-3/森】
※宮子のデイパック(支給品一式、メイドリーナのフィギュア@魔王JUVENILE REMIX、クレパス一式多数、デッサン用の鉛筆や木炭多数 缶スプレー塗料数種類多数、彫刻刀一式多数、粘土多数 キャンバス多数)、
浅月香介のデイパック(支給品一式、手榴弾(ダミー)×2@スパイラル 〜推理の絆〜、薬品多数、フラスコ等実験器具数種類、シーツ数枚、カーテン)、
レガートの拳銃が浅月香介の死体付近に落ちています。

【G-2/中・高等学校校庭】
※エレンディラの杭打機(23/30)@トライガン・マキシマムがリヴィオの近くに放置されています。
※デイパック(真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜)が校門付近に落ちています。

756 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:38:49 ID:52sbf9yo0
規制中なのでこちらに……。
代理投下をお願いしたく思います。

757終ノ空 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:39:22 ID:52sbf9yo0
土を掘り起こす音がする。
何度も何度も繰り返し行われる、単調なテンポ。


ざくり、ざくりと、人間の娘はその体を泥に塗れさせ、その手にいくつも水疱を作りながらもその手を止める事はない。
……俺はその動きを何をするでもなく、座り込んで眺めている。

次第に深まっていく空間に突き刺さるのは、鎌だった。
手持ちに掘削道具なぞあるはずもなく、曲がりなりにも穿孔を行えるものとしてくれてやった。
吹き渡る風は冷たいながらも娘は汗を流している。
動いている限り、熱が失われる事はないだろう。

空を仰ぐ。
一面が灰色の曇り硝子であるかのようだ。
あの砂漠の星では、こんな空を見る事は叶わなかった。
いや――航宙船の中で産声を上げた俺には、全く見た事のない景色ですらある。

皮肉さに頬を歪める。
自由を求めた果てに見るはずだった景色を、絞りカスとなった今の俺が見ているのだ。
仲間たちに見捨てられた、今の俺が。

だが、俺はそれでもあの生き方を――間違いだったと思いたくはないのだ。
この島で今もなお感じ取れる同胞の鼓動。
雲が巻くにつれ、その仲間たちの悲鳴が少しずつ大きくなるのを感じ取る。

……天候の操作でも見せつけて、“神”とやらは己がその呼び名に相応しい事を証明しようとでもいうのか?
成程、神の力として求められる権能としては一番ポピュラーではある。
しかし、天候操作というのは、知識さえあれば存外容易い。
太古の人間が雨乞いと称し火を焚く事で上昇気流による気圧の変化を招来し、
飛行機を発明してからは沃化銀を散布する事で雲の発生を促したように。

が――、それを行う為にはやはりエネルギーや物資、相応の機材が必要となる。
ならば、同胞がそれに組み込まれている可能性は、極めて高い。

……己の力を示すためだけの戯れにしては、少々俺を舐めすぎだ。
沸々と臓腑の底に湧き上がる赤が、俺を奮わせる。
搾取した我等の命をこんな事に使うとは、な。
握った拳に力が入る。

……だが、お巫山戯と断じるのは早計だ。
何か意図を持って天候を操作するのだとしたら、見落としがあっては不要に同胞を危険に曝す。
ならばこの下らん催事について、今の内に少し俺なりの推測を固めておくのも有意か。

何のために天候を操作し、それをわざわざ放送で告知するのか。
考えられる可能性は、2つ。
一つは、悪天候下で参加者の集中力や移動力を削ぐこと。
もう一つは、この催事の最終的な目的に何らかの形で寄与すること。

前者は要するに、殺し合いの促進だ。
移動力を削がれることから参加者に無秩序に動き回られては困るのだろうという推測が成り立つ。
禁止エリアの設置と複合させ、一定範囲内での殺し合いを促進させるつもりか。

758終ノ空 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:40:04 ID:52sbf9yo0
禁止エリアの存在は、おそらく通行を分断し、人の動きを誘導させるためにある。
つまり禁止エリアの近隣には、多くの参加者が存在していると見て間違いない。
たとえば今回の放送で設置された、俺に最も近い位置にある禁止エリア。
ここを前回の放送で告知された禁止エリアと組み合わせる事で、島内の右下を囲い込む様になっている。
……おそらく、この区画はこれからも激戦地になるだろう。
もしヴァッシュがこの右下エリアにいないのなら、それは俺にとってあまりに余計な徒労となる。
幸い、時間の猶予はある。
早々に近辺の捜索を終え、ヴァッシュの痕跡が見つからなければ離脱すべきか。
奴を探すならば、残る2か所の禁止エリアの近辺に着目すべきかもしれない。

――最初の放送の女の告げた言葉の意味は、こういう事だろう。
口車に乗る様で僅かに癇に障るが、それ以上の見返りは確かに得ているのも事実だ。
もしあの女が人間だったとしても――、

「……いや、考えるだけ無駄だな」

例の女の放送に比べ、先刻の放送で得られたものは極めて少ない。
死者と禁止エリアの所在以外は、天候の変化を意識しろとの言動、それに疑心暗鬼を促す挑発だけだ。
殺し合いの促進目的であろう挑発はさて置き、天候操作に何らかの意味を見出そうとするのは、催事との因果をいぶかしむのは穿ち過ぎか?

……視点を切り替えよう。
天候操作から目的を演繹しようとするのではなく、目的を類推し、帰納的に天候操作の意義を探る。

この殺し合いの目的は何か。
推測でしかないが、俺には薄らと輪郭が見え始めてきていた。


端的に言えば、だが。
この催事は、殺し合いという過程を踏まえる事で――“何か”を生み出そうとしているのではないかと、俺は考える。


発端となったのは、あの研究所で得た“錬金術”の知識だ。
動物と人間の掛け合わせ――合成獣。
賢者の石。
ホムンクルス。
例の出来損ないの肉人形。

……“持っていく”ことと“持ってくる”ことのできる俺たちプラントでさえ、既存の生命の形をそのままコピーする事しかできない。
この世には存在しない“異形の生命”を、生み出す事など出来はしないのだ。

既存のモノとまったく異なる形の命を生み出せるという事は、命を知識として得ていなければならない。
そして命とは、ブラックボックスたる反応系の塊で構築されている。
複雑系、非線形、カオス理論。一般科学を踏み越えた領域。

ありとあらゆる因果の糸が密接に絡み合った、命という形の複雑系システム。
それらが更に互いに干渉し合う事で生態系となり、生態系は星の循環系に帰属する。
星の循環系は巨大なテクトニクスによって表され、その根源は恒星を中心とした星系の起源にまで行き着くのだ。
星系の起源は銀河の成り立ちに、銀河の成り立ちは宇宙の誕生に。
俺の知識は断片的なものでしかないが、命すら内包する複雑系の行き着くところにあるものは十分に想像がつく。
……全ての智、“真理”。
あるいは、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”と言い換えてもいい。

それを掌握したものは、全知者、あるいは全能者と呼ばれる。
即ち――“神”。

759終ノ空 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:40:23 ID:52sbf9yo0
以前の俺ならば、そんなお伽噺を鼻で笑ったろう。
だが、“全宇宙の記録”の実在を、俺は間接的にではあるが知ってしまっている。

ボイスレコーダーに記された未来の記述。
超高精度の予測機能を以ってすれば確かに実現は可能かもしれない。
しかしそれは、ラプラスの魔に匹敵する量子コンピュータでもなければ有り得ない機能だ。
そんなモノが存在するならば、それは“全宇宙の記録”と呼んでも差し支えあるまい。

そして“神”は――間違いなく、それを弄ぶ事の出来る存在なのだ。
驕り故の僭称かと思っていたが、どうやら名乗りに相応しい権能の持ち主である事は間違いないだろう。

しかし、“全宇宙の記録”すら従える“神”が、この期に及んで何を求めると言うのか?
決まっている。

『“全宇宙の記録”にすら存在しない何か』だ。

何もかもを容易く知り、全てを思い通りに動かせる……、いや、違うな。
望まずとも何もかもを知ってしまい、全てが勝手に自分の思い通りに動いてしまう。
“全宇宙の記録”を掌握するとは、そういう事だ。
その様な生は退屈極まることだろう。

そして、“全宇宙の記録”には、世界の全ての情報が収まっている。
逆に言えば、世界の法則や因果から抜け出る事は叶わない。
物事の避けえぬ終わり――エントロピーの増大による宇宙の死などは、知ってもどうにもならないはずだ。
たとえ“全宇宙の記録”を掌握したとて、あくまでも『世界の枠組みの許す限りにおいて全能』でしかない。

生み出したモノで何をしようとしているのかは、未だ分からない。
不可避の滅亡からの衆生の救済か、暇潰しの単純な娯楽か、はたまた自己の終焉か。
だが、間違いなく“神”は、これまでの世界には存在しない『何か』を求めているはずなのだ。

また、“全宇宙の記録”の存在から、次のような仮説が成り立つ。

この殺し合いの参加者は、複数の世界から招かれている。
その中には例えばそこで穴を掘っている娘のような、何の力もない人間さえ存在する。
何故、そんな一見役に立ちそうもない連中もここに寄せ集められたのか。

――答えは簡単だ。
世界は無数に存在する。ならば、“全宇宙の記録”も世界の数だけ存在する。
それらの全てを“神”が掌握できているとは考えにくい。
何故なら無限にも等しい世界のどれかには、“神”の求める『何か』が存在しているであろうからだ。
にもかかわらず、”神”は、わざわざ殺し合いなどを開き、何事かを為そうとしている。
つまり“神”が“全宇宙の記録”を掌握した世界は、数える事が出来る程度のものなのだろう。
それも、『何か』の存在しない世界ばかりを、だ。

だから“神”は、“全宇宙の記録”を掌握した世界の生命――自分の意のままに動かす事の出来る駒を用い、
何らかの手段により世界の枠組みを超えようとしているのだ。
殺し合いはその一部でしかない。

そここそが俺は好機と考える。
“神”には確かに、世界の枠内に収まる力は届かないだろう。
これは“神”が“全宇宙の記録”を掌握していると考えるならば自明の理だ。
だが、『世界の枠組みを超えた力』なら話は別だ。刃を届かせることが可能となる。

760終ノ空 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:40:42 ID:52sbf9yo0
奴の求める力を逆に利用してやる事で、その身を斬り刻んでくれる。
あるいはこの俺の力――俺達の『プラント』の力ならば、回りくどい事をせずとも首を取れるかもしれない。

“持っていく”力。
俺達という個の生命こそひとつの世界の枠組みに収まるが、この力は世界の壁すら穿ち繋がる。
絶対、とは言い切れないが、試してみる価値はあるだろう。


……だが。
ここまで考え、思う。

「……ますます解せんな。錬金術の知識やボイスレコーダーは、何のために、誰によって、配置されていた?」

そして――、俺がこのような思考に至った事すら、恣意的なバイアスが感じられてやまない。

『螺旋楽譜』の主の言葉が、俺の意識に棘となり、刺さる。

『この程度の事は、最初っから仕組まれてる茶番に過ぎない。
 全ての情報、全ての虚実、全ての状況は、そう推測できるように敢えて配置されているだけだろう』
『与えられた情報で辿り着ける真実なんて、更なる真実を覆う殻に過ぎないんだ。
 そしてその殻は、マトリョーシカのように何重もの入れ子になっている』
『それらが全て、誰かの手で踊らされているだけである事を心に刻め。
 そういう事すら可能にしかねない人間を、俺は知っている』

記憶の改竄、あるいは意識誘導か?
可能性は否定できない。
“全宇宙の記録”を掌握したならば、そこから記憶や意識すら弄ぶ術を得ていても不思議ではない。
そこには個人の記憶や意識さえ含む、宇宙誕生からの全ての情報が刻まれているのだから。

俺やヴァッシュの『世界の枠組みを超えかねない力』を、“神”と対面したその時に振るわせたいのだとしたら。
俺達の力を引き金として、奴は目的を果たす事を目論んでいるかもしれない。
利用してやるつもりが最初から掌の上で踊らされていただけ、などと言う結末は笑い話にもならん。

考え過ぎというのは楽観論だ。
事実、“全宇宙の記録”などという突拍子もない可能性を俺は自然に想定してしまっている。
先に考えた事は、全て妄想と言っても過言でしかない代物なのだ。
なのに何故か――それを信じ込んでしまいそうになる俺がいる。
“神”への対応策を想定しながら、その策を妄想と断じるのは本末転倒とも言える。
だが、この姿勢こそが今必要な事だろう。
妄想と疑いながらも、最悪と考えた可能性より更に絶望的な事実を突き詰めていくことが。

つまりそれは、前提条件の破棄。
“神”が“全宇宙の記録”を掌握した存在であるという仮定を修正する。


……本当に“神”とは、“全宇宙の記録”を掌握した『だけ』の人間なのか?
『世界の枠組みを超えた力』を届かせるだけで、本当に“神”を粛正する事が出来るのか?


理由も理屈もない。
俺の勘は、その可能性を絶対と言えるほどに否定していた。
“神”は、たったこれだけの情報で全容を掴める存在ではないと、強い警告が頭の中で鳴り響いている。
真実の一端を剥がし落とす事は出来たかもしれない。だが、それだけだ。

761終ノ空 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:41:06 ID:52sbf9yo0
……気は進まないし、今更どんな顔で人間と接すればいいのかも分からない。
しかしそれでも俺は、おそらく人間なのであろう『螺旋楽譜』の管理者と会う必要がある。
少なくともそいつは俺の推測未満の妄想に足りないピースを持っているのは間違いない。
異なる世界の情報を少しでも掻き集め、パズルのような虫食いを補完していかねばならないのだ。

ただ、『螺旋楽譜』の管理者を確実に動かせるほどの証拠がない。
何か証拠さえあれば、すぐにでも連絡を入れるのだが。
大きく、しかし娘に気付かれぬよう息を吐き出す。

天候操作に考えを戻そう。
“神”の目的が『何か』を生み出すことという妄想が真実であるとして、天候操作はどんな意味を持つか。
錬金術とやらは意匠と図形の配置に大きな意味を見出すらしいが、だとするならその辺りに関与している可能性はある。
あるいは、天候操作は副次的な産物なのかもしれない。
それならば、島全体を冷却する事に意味がある場合、海流を操作した事で結果的に気流に影響が生じた場合などが考えられる。

……だが、放送ではわざわざ天候に触れていた事実が気にかかる。
そんな事をせずとも、いずれ時を待てば直面するであろう現象なのに、だ。

そうする必要があった、という事は。
天候操作そのものは、意識を逸らす為の囮に過ぎないのではないだろうか。

安直だが、天と正対する語句と言えば、地となるだろう。
――地下。
あの研究所の存在により、地下に施設がある可能性は非常に高い事を俺は知っている。
地下で何かをやらかす為に、そこから意識を逸らしたいのかもしれない。

地下区画、か。
よもやとは思うが、“神”の陣営は地下に巣食っているのだろうか?
ならばまるで天国ではなく地獄だな。

あの娘が掘り続けた先に、“神”がおわす、か。
下らん。いくら待っても届くはずがない。
娘の背を眺めているだけでは何も変わらない。


――何をやっている。
斯様な所で無為に時間を使うくらいならば、他にやれることでもあるだろうに。
何故、俺は座り込んでいる?

これではまるで――あの娘の事を待っているかのようだ。
その愚行が終わるのを、見届けんとでもするのか。

……馬鹿馬鹿しい。
俺はただ、考えを纏めたかっただけだ。
ヴァッシュを探すだけで無為に歩き続けるのも嫌気が差した。
あの巨大映像の所在地で発生した爆発より、少し時を置き過ぎたか。
ヴァッシュがあそこにいたとしても、もう離れてしまっている可能性も高い。
……それよりも崩壊した百貨店の方に向かうべきかもしれん。

娘は一心不乱に土を弄り続けている。
この分ならば背後に気を使ってもいないだろう。
騒々しい事態に煩わされることもなく、俺がこの場を立ち去る事も実に容易い。

目を眇めると、俺は立ち上がり背を翻す。
……全く、時間を無駄にした。

そのまま――振り向く事もなく歩き続ける。

762素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:41:48 ID:52sbf9yo0
***************


「……こんなものか」

最初からこうしていれば良かったのだと今更ながらに思う。
一々埋葬などに付き合う義理などない。
俺は俺でやるべき事が多々あるのだ、人間の都合になぞ構っていられるものか。

向かう先は、百貨店。
ヴァッシュならば怪我人の救助でも行っているだろうと、道すがら付近の家や商店から適当な道具を回収しつつ進むも――、
遠目からでも分かる、百貨店の近隣にはヴァッシュの姿は見られない。
立体映像の所在地での爆発からの時間を考えると、そちらでも事態はとうに終息していると見るのが妥当。
にも拘らず此処に姿が見えないという事は、この近隣にはいない可能性が高い。

……溜息吐く先に見えるもの一つ。
蠢く影は見紛うことなき、趙公明だった。
何をしているかは知らんが――、ここで見逃す手は有り得ん。

ギリ、と金糸雀を握り締める。
姿勢を低く、意識を集中。気付かれぬうちの“星雲”にて一撃で仕留める。

今まさに駆け始めんとした、まさにその時。

「おい」

――あからさまな敵意をこの身に受ける。

やれやれ、だ。
近づかねば放置するつもりだったのだがな。

得物はパニッシャーさえ上回る巨大さの代物だが、その気配は紛れもなく人間。
GUNG-HO-GUNSに匹敵する魔人の類か。

俺に敵意を向けるとは、余程死にたいと見える。
首だけを曲げ、背後を認識。

「動くな、一言答えさえすりゃそれでいい」

数歩後ろに立った巨躯の男は、分厚く馬鹿でかい鉄の塊を肩に乗せて問うた。
……飾りではないだろう。その気になればいつでも振り降ろす事が出来ると目が語る。
何が目的だ?
事によれば、その丸太を動かす前に首を撥ねるが。

「……このすぐ近くにな、十と幾つかの女のガキがいた。
 テメェはそいつを知ってるか?」

……僅かな驚きに目を細める。
あの場所に置いてきた娘の事か?
もう知己も碌に残っていないなどと口にしていたが、この男はあの娘の縁者なのか。

763素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:42:10 ID:52sbf9yo0
――ならば、答えは一つだ。
振り向かぬまま告げる。

「人間の顔など一々覚えていないな」

「そうかよ」

轟音と共に鉄塊が地にめり込む。
だが、無意味だ。
あの姿勢から振り下ろしたのならば、軌道の予測は容易い。
如何に疾く、重かろうと、道程が分かるならば何の脅威とも成り得ない。

改めて男と対峙する。
向かい合い、目を合わせて告げた。

「――女が欲しければ好きに持っていけばいい。
 同じ人間同士、群れているのがあるべき姿だろう」

……この男は何故俺に敵意を向ける。
あの娘と共に行動した事への妬み……か?
あるいは、娘の見苦しい姿にでも怒りを得たか。
知らぬと答えてやったのだから、素直にそれを享受すべきだろうに。

……俺と共にいたことをなかったことにできるのだから。

だが――、

「あん?」

男は、言った。

「何言ってやがる。死体なんざとどうやってお喋りしろってんだ」


「……なに」

どうしてか――、

どうしてか、ほんの少しだけ反応が遅れる。
内心、自分に舌打ちをした。
別にどこで野垂れ死のうが構わないだろうに、俺は何をやっている。
それでも口が、意とは別に動いた。

「あの娘が、か?」

男の瞳に籠った敵意が、殺意と成り代わった。
燻っていた炎が黒く燃え上がる。
……面倒な事になった。

「ボロを出したな。……何故嘘を吐きやがった」

……俺が焦るとは。本当に調子が悪い。
だが、あの娘が死んだというのは……ブラフか?
俺にあの娘と面識があるという言質を取るための。
それとも――本当に、先刻からの僅かばかりの時間に死んだのか。
確かめようとして、それを投げ捨てる。

764素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:42:33 ID:52sbf9yo0
……気にする事ではない。
そんな事よりも、この男をどうにかする事を優先せねば。
俺の力が残り少ない今、屈辱ではあるが不要な小競り合いは避けねばならないのだから。

男の問いには偽るまでもない。端的な理由だけを口にする。

「邪魔でしかないと思ったからな」

この男とあの娘が知己であるというのならば。
俺にとってもあの娘にとっても、一時なりとも共に行動したという事実は枷にしかならないだろう。
……俺はかつて人間を殺戮し、そしてあの娘は俺達を搾取した人間だ。
結局、相容れる事などない。
ならば、……収まるべき所に戻すだけ。

だからここで、敢えて確認を投げかける。

「貴様はあの娘の何だ?」

「“仲間”が火達磨になったんならな、黙って見てろってのは無理な相談だろ」

……そうか、と頷く。
成程、あの千切れ飛んだ服の残骸でも見たか。
ならば話は早い。

「……なら、貴様がその手で守ってやれば済む話だったろう」

俺になど付いて来させずに、早々に貴様はあの娘を捜し出すべきだったのだ。
少しばかりの苛立ちを感じながら男を突き放す。
それが叶わなかったからこそ今更出てきたのだ、と分かっていながら――、口にせざるを得なかった。
……本当にお節介になったものだ。
奴と俺は双子なのだから、意外に似た所があるのは不自然ではないのかもしれないが。

「……どの口使ってやがる。どうやら躊躇う必要はねえらしい」

言葉と共に、大剣の一閃が風を巻き起こす。
横薙ぎのそれを、跳躍回避。同時に余計な荷物を脇へと投げる。
だがそこで終らない。
男は勢いを殺しながら剣を退いていき、流れるようにこちらに踏み込む。
突き。

……凄まじい膂力だ。
加えて、技術も申し分ない。

が。

「万全の状態ならともかく、今の貴様では俺は倒せん」

単純に、遅い。
疲労が激しいのが見て取れる。

しかしなお男は攻める。
……面倒だが、あの娘の姿を見たのなら怒り狂う理屈は理解できる。
とりあえず受けてやる責はあるか。

それでも殺してしまうのは、いささか気に乗らないが。

765素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:42:55 ID:52sbf9yo0
「さっきみたいに姿は消さねえのか」

ぽつりと男が呟く。
……言葉の意味が理解できない。

言葉と同時の何度目かの振り降ろしを、金糸雀の柄尻を撃ち付け真横に弾き飛ばす。
剣を打った反動を回転力と変え、そのまま一転。
片刃で撫で斬る。

「断ち割れ」

狙うはその左手の義手。
動きに不自然さの際立つそれを落とせば、少しは状態の悪さに気づくだろう。

が、

「見えてんだよ」

「……なに?」

当たった。
だが――斬れんだと?

五指を開いて掴み取ったその先に、金糸雀が全く進まない。
弾き返された衝撃すらない。

おかしい。
これは、普通の現象ではない。

疑問と間断ない判断で金糸雀を手放し身を逸らすと同時。

「“衝撃貝(インパクトダイアル)”――つったか」

宙に浮いたままの金糸雀が、真っ二つに折れた。
否、割られた。
衝撃の吸収と放出か……!?

「ちぃ……!」

――拙い。
武器を失った。
もう一つ持っていた鎌も、今はあの娘が穴掘りに使っている。

片手で男が鉄塊を振りかぶる。

この一撃限りの回避は可能。しかし、どこまで此方が耐えられる?
否――何処まで“殺さずに”いられる!?
この場を処理するのは簡単だ、プラントの力を解放すればいい。
殺せばいいだけだ、あの娘の知己かもしれないこの男を。

鎌をあの娘に渡した事に後悔はない。
だが、その結果としてこの男の死体をあの娘に埋葬させては、本末転倒ではないか。

……その剣を、これ以上振るうな。
俺に貴様を殺させるな。

まるで弟の様な心の内での呟きに反して、男はこれまでで最速最強の勢いで大剣を落とす。

766素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:43:26 ID:52sbf9yo0
俺の手は、力を解き放つために解け始め――、


「わぁぁあああぁぁああぁあああああぁぁぁーっ! こっち向いてぇええぇえぇー!」


唐突に割り込んできたやかましい声に、俺と男の動きが同時に停止する。

そして、動き始めたのは明確に俺の方が早かった。
半分になった金糸雀の片割れを掴み取り、踏み込む。
そのまま男の胸に刃を突き付けた。
――男はもう動かない。

……やれやれ。
こんな形で借りを作るとはな。

「良か……ったぁ、ナイブズ……さんに、追い……付いて……っ。
 この人の、隙……作らなくちゃ、って、思って……」

駆け寄ってきた娘に気付かれない程度に、嘆息する。
荒げている息が耳に付く。少しくらい静かにできないのだろうか。

「……女連れだったのかよ」

ぽつりと。
呆れるように、自嘲するように、男の声が耳に届く。

「テメェの言ってたあの娘って、そいつの事か?」

……その言葉にはこれまでには感じられなかった穏やかさと、どうしてか――羨望のようなものが見て取れた。

「…………」

返事は、敢えてしなかった。
もう互いに察しているのだろう。
俺の方が早く動き始められた理由を理解する。
この男はあの娘とは無関係で――、それ故に初めて聞く声に反応が遅れたという事か。

「――すまねぇ、人違いだったみてえだな。こっちの『女のガキ』ってのはその嬢ちゃんとは別人だ。
 見えねえ敵に殺られた。
 ……俺の目の前でな」

男の言葉にどう反応していいものか分からない。
双方ともに酷い勘違いをしていたものだ。
苦笑より先に、己の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。
言葉が全く足りていなかったという事か。

……人間相手の接触の仕方など、何処かに置き忘れてきたからな。
どうしても人間と交流しなければいけない現状、次回があるならもっと口を動かすべきか。

「詫びだ。受け取ってくれ」

何かごそごそとやっていたかと思うと、不意に男が放り投げて来たのは支給された鞄だった。

767素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:44:04 ID:52sbf9yo0
「何だ、これは」

……どうしろと。
俺にももう敵対の意思はないが、しかし受け取れと言われて素直にはいと言える気質でもない。
立ち塞がるものを皆斬り捨ててきたからか、和解などという選択肢にも慣れていない。

「代わりの武器と薬だ。壊しちまったその剣を弁償したと思ってくれていい。
 ……ついでに、聞きてえ事があるなら答えられる限りは答える。
 何かあるか?」

施されたようでいい気分でない事は確かだ。
とはいえ――、手持ちの武器を失ったのは確かに痛手か。
仕方なしに中を開いて確認する。

出てきたものは三つ。
薬らしき粉末を入れた袋と、炸裂弾と思しき物体。
そして最後の一つを手に取り、おもむろに振る。

と、地面に複数の亀裂が走った。
――悪くない。

それだけを手に取り、残りをいつの間にか俺の服の裾を握っていた娘に投げる。

「お前が持っていろ」

「え、あ、わ、いいのかな……」

わたわたと取り乱し、土で汚れたそれを抱え込むのを見届ける。
その折、一つ思い出すものがあった。
少し離れた所に落ちたそれを回収して、娘の目の前に置く。

「……これもだ。見苦しいものを隠せ」

それは、先刻百貨店に向かう前に見繕ってきたものだ。
どうやらヴァッシュからの汚染が重度になってきたらしく、
そこにはスコップと――適当に拾った服とがまとめられている。
どうやらもう、スコップは必要ないようだが。

「み、見苦しいって……、女のコに失礼なんじゃないかな」

娘が俯く。
体を震わせて、ぼそぼそという呟きが耳に届く。

「でも、その……、わざわざ探してくれてたんだよ、ね? これから冷えるし……。
 あはは……置いてかれちゃったのかなって、迷惑だったのかなって思っちゃったん……だけ、ど。
 あ、ありがとう……」

先細る声の為に後半部分は良く聞こえない。
そんな事よりも、……どうしたものか。
いきなり、泣き始めるとは。

「ふ、ふぇえぇぇええぇえ……!」

――本当、どうしたものか。
頭痛がする。150年の経験が全く役に立たん。

768素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:44:28 ID:52sbf9yo0
無視する事に決め、苛立つ笑みを口端に浮かべていた男に訊くべき事を訊く。

「……ヴァッシュ・ザ・スタンピードという男を知っているか?
 馬鹿馬鹿しい程の平和主義者だ」

顔を引き締めた男はしかし、俺の望まぬ答えを返す。
……まあ、期待などしていなかったがな。

「すまんな……、聞き覚えがねえ。
 だが、言伝くらいは出来る。特徴とかあるか?」

考える。が、言葉が出てこない。

……幾度自問しただろうか。
今更、ヴァッシュの前に出て何を口にすればいいと。

……わだかまるものがある以上、何がしかをしたくはあるのだろうと自己分析はできている。
が、それをどう言語化すればいいのか……、俺に答えを出す事は出来ないのかもしれない。
だが、さりとてそれを教えてくるような存在がいるはずもあるまい。
俺を理解した上で道を正すような存在など、おそらくこれからも現れる事はないのだから。
レムを手にかけた時から、きっと。

「――『競技場に向かう。趙公明に一人で挑むな』と」

ただ――それだけを告げる。
これからどちらに向かうか、指針となるようなモノはあの道化くらいしか思い浮かばなかった。

「了解だ。……他は?」

首を振る。

「任せた」

……よもや俺が、人間にこんな言葉を吐く事があるとは。
男はかぶりを振り、こちらを見据える。

「……そういや名乗ってなかったな。ガッツだ。
 俺からも聞いていいか?」

頷き、自分と娘も名を口にする。
それを確認すると、男はいくつかの特徴を挙げた。
が、該当するような心当たりはない。

「名前は――グリフィスだ。
 ……その顔じゃ知らねぇらしいな」

ああ、と返すと落胆が男の顔に浮かぶ。
ガリガリと頭を掻くと、次いで男はこう告げた。

「もし出くわしたんならこう伝えてくれ。
 『必ずテメェに食らいついてやる。競技場に来やがれ』、だ」

ふむ。
……魂胆が見えた。それならばこちらも仔細はない。

769素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:44:48 ID:52sbf9yo0
「お前らの真似をする訳じゃないが、広くて視界のいい場所がそこくらいしかなさそうだからな。
 ……それに、もしそこでお前らともう一度会ったんなら情報交換もしやすくなるだろ」

男が想定通りの内容を口にする。
成程、グリフィスとやらはこの男の敵対者か。
別に言伝など引き受ける義務もないが、心に留め置くくらいはしておこう。
自分の反応を確認すると、男はゆらりと背を向ける。

「……パックって虫みてえなちっこいのを見つけたら捕まえとけ。
 さっき渡した薬を補給できる」

それだけ告げると、捨て台詞を残して男は歩き始めた。

「テメェの女なら大事にしてやれ」

……世迷言を残して。

「あ、あわっ! あわわ……っ、そ、そんなんじゃないよ!?
 わ、私が勝手に付いてきてるだけで……。死にたくないから、ナイブズさん強いから……」

泡を吹いて赤くなる娘が騒々しい。
一々そんな瑣事に煩わされるとは。
視線で娘を黙らせる。

「……沸いているのか?」

「ひどっ!」

あらぬ疑いを掛けられたならば斬って捨てればいいだけだろうに。

「てっきりあんたらはそうだと思ってたんだがな、まあいい」

……下らん漫才をしている間に、男の声は小さくなっている。
聞き取りにくくなるその言葉の続きは、俺にはこう言っているように思えた。

「――話し相手がいるだけで、旅は大分違うさ。
 自分を嫌わず、向き合って話せる女なら尚更な……」


***************


男が去り、娘は着替えに物影に隠れた。
趙公明の姿も、もう見えない。
その時間を用いて端末から電脳世界の動向を確認する。

ただ、探偵日記と螺旋楽譜に更新はない。
掲示板に新たな情報がいくつか加えられていただけだ。

770素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:45:27 ID:52sbf9yo0
×印の髪飾りの娘に妲己、キンブリー。
警戒対象として複数回挙がる名前。
全てを信じる訳にはいかんが、警戒しておいて損はなかろう。
……妲己は死んだとの話だが、ヴァッシュの名を知っていたらしい。
何か吹き込んでいなければいいのだが。
……奴は本当に、信じる事しか知らないのだから。

心が逸る。だが、客観的に俯瞰する事を心がける。
……俺以外にも参加者が異なる時間、並行世界から呼び寄せられている可能性に気付いていたものがいた。
ここにいるヴァッシュは、果たしていつの時間から来たのか。
もし決着がつく前のヴァッシュならば――今の俺にどんな言葉を投げかけるのか。

それを聞くのが、……ああ、正直に認めよう。
聞くのが、俺は怖い。

だが、足踏みをしている事に何ら意味はない。
今はすべき事を見落とさぬようにしなくては。

他に着目すべき情報としては、ワープスポットと錬金術師へのアクセス方法についてか。
だが、双方ともに今すぐ使える情報ではない。
ワープスポットは所在が不明である以上使い物にならん。
錬金術師へのアクセスは……、仮説の検証をする為に行っておきたいところではあるが、
接触した事のない俺がメールを送っても、まずまともに取り合ってはもらえまい。

……何か斬り込める材料があるならば、錬金術師と情報交換を行えるのだが。
いずれそれを手に入れるまで、保留……といったところか。

掲示板以外では、天候の情報にも更新があった。
  18:00〜24:00:みぞれ(大雨・雷注意報)
らしい。

そして、情報の海の中に強い憤りを覚えるものが、ひとつ。

「……俺の名を騙るか。度し難い愚物がいたものだ」

『私はこれから死ぬけれど、沖田総悟とミリオンズ・ナイブズと名乗る人たちに気をつけて。
 人当たりのいい若い男と、小柄な十代の少年に』

……この情報が確かな場合、小柄な十代の少年とやらは俺の名を使っている。
確かでない場合は、この情報の持ち主自体が信用ならん。

いずれにせよ、どんな理由で俺の名を使うのか。
復讐なら――まだいい。安らかに殺してやる。
だが、そこに理由がないとするならば。

……これから向かう地獄が生温く思える程度の歓迎をしてやろう。

IDからして、発信場所はあの研究所か。
書き込んだ内容からして、どちらの内容にせよ俺の名を騙る輩はそこにいる。
……制裁に向かうか?
この近辺にヴァッシュのいない可能性が高い以上、そろそろ別の目的地を決める必要がある。
ならば、趙公明を捨て置かないであろうヴァッシュを競技場で待つべきかもしれない。

771素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:46:00 ID:52sbf9yo0
さて、どうする。
趙公明の言葉通りに真っ直ぐ競技場に向かうか、それとも研究所へ――、


  その瞬間、俺の体を構成する全ての物質が感覚器となって察知した。
  どんなに僅かな反応でも、それを見落とすはずなどないと。


目を見開く。
……向かうべき先は、決まった。

折も良く、娘が戻ってくる。
あまり時間を無駄にしたくはない。

「そういえばナイブズさん、これ、ナギちゃんの……、」

あの娘の持ち物、か。検分は後でもいい。

「え? あ、わ、わぁっ!」

故に、無言で脇に娘を抱え――、

「急ぐぞ」

走る。

方角と距離は全霊をかけて覚えた。
向かうべきは禁止エリアに指定された中学校、高等学校近辺。
来た道を逆戻りする結果だ。
こちらの方角に向かったのは、結局は徒労だったか。


そこに――ヴァッシュはいる。
そしておそらく、ほんの僅かでもプラントとしての自分を解放せざるを得なくなっている。

以前ヴァッシュが力を解放した時には、心構えができていなかったからこそ記憶する事を忘れてしまった。
だが、今度こそは間違えない。

「あ、あの……」

腕の中の娘が蠢く。
……そういえば、先刻はこの娘は実に無謀をしたものだ。

「……自分の力量を弁えろ。
 お前が戦場で出来る事などたかが知れている」

……言葉が口から漏れる。
原因は――感傷か。
俺にはおそらく最も似合わない単語だが、しかし止める気は全くしなかった。

『5 名前:Legato Bluesummers 投稿日:1日目・午前 ID:NaiToYshR
 ナイブズ様がつい先ほどまでここにいらっしゃったことをこの肌で感じています……!
 僕に忠誠を示す機会をお与え下さい。
 すぐにでもナイブズ様の下へ馳せ参じ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードをはじめとする御身の敵を必ずや葬って御覧にいれます。』

772素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:46:26 ID:52sbf9yo0
……放送を聞いてから、ずっと意識しないよう努めていた事に。
情報の海を覗いたことで、俺は突きつけられざるを得なかった。

「だが――、」

貴様は、あの男ではない。
あの男のようにどこまでも愚直に俺に尽くし、俺の為だけに力を磨き抜いた忠臣ではない。
だからきっと、これはお前を奴に見立てた感傷なのだ。

「結果的には、お前の行動で面倒を避けられたな」

――だから、俺の言葉で照れてくれるな。
返答に詰まって俯くな。
この言葉はお前を通り越して、あの男に向かっているのだから。

レガート・ブルーサマーズ。

俺が去ってすぐ後に研究所に訪れ――、
そして、先の放送の前に死んだ男。

……そうだ。
俺がずっと調子を狂わせていたのは、あの男の二度目の死に存外動揺していたからだろう。
何か報いてやるべきだったかとそんな事だけを思い、この娘をあの男の代わりにしていると。

頬に冷たいものが当たる。
俺の体温で融け、まるで涙のように水が滑り落ちていく。

急いでいたはずなのに、ふと、俺は立ち止まっていた。

しんしんと降り積もる、白い水の結晶。

「……これは」

ただ心のままに、空を仰ぐ。
灰色に埋め尽くされた天井から、羽のように舞い降りるもの。

どうしてか、俺は呟かざるを得ない。

「あの星には、こんなものはなかったな……」

冷え込む空気の中で唯一の温度を感じさせる、腕の中の娘がこちらを見上げた。

「ナイブズさんは、雪を見た事がないんですか?」

俺は、答えない。

あの、真夏の青い空は――もう見えなかった。
あの男の死と入れ替わるように、俺にとって初めての冬が訪れる。

何処へともなく、俺は口にした。


「苦労をかけた。……休め」


【H-06/森の入口/1日目/日中〜午後】

773素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:47:11 ID:52sbf9yo0
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×2、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
    ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、

          木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
          トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
          不明支給品×2(一つは武器ではない)
          旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
          カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
          アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートに対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの気配を追い、中学校・高等学校方面へ向かう。
2:後ほどナギの支給品を確認。用途を考える。
3:ヴァッシュの足跡が一向に掴めないならば競技場に向かい、待つ。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
10:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
11:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
12:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。

774素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:47:40 ID:52sbf9yo0
【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:???、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ガッツの言葉と抱き抱えられていることにテンパり。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※どんな服をナイブズが渡したかは後の書き手さんにお任せします。


※天気予報は
  18:00〜24:00:みぞれ(大雨・雷注意報)
 となっています。


***************


「雪か……」

吐く息が白い。
誰も隣にいない道を、俺は一人歩く。

「こりゃあ、積もるな」

寒い。
体を震わせ、それでもただひた進む。

俺のそばには誰もいない。
死神の如く、関わったものは皆死んでいく。
不死のはずのゾッドさえ、もういない。

「……畜生が」

首筋の、刻印が痛む。
歩き続け向かう先は、大分前にこいつが『何かがある』と教えた場所だった。
地図と照らし合わせてみればそこは工場の辺り。
……そこで、使徒絡みの何かが起こりやがった。

自分から死地に突っ込んでいくなら、それこそ仲間なんぞいない方が気が楽だ。

……ただ。
同じ雪中行軍でも、あの二人旅の時は、確かに少しでも心は温かかった。

柄にもねぇな。
……連中に俺とキャスカを重ねちまったのか?

775素晴らしき日々〜不連続存在〜 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:48:03 ID:52sbf9yo0
一人で構わないと思ってたとしても、本当、心なんて分からねえもんだ。
どうしても理解者を求めちまう。

「……俺達みたいになるんじゃねぇぞ」

俺に関わっちまった以上、無理かもしれねえが。
それでもその言葉は本心だった。
向き合って話せる女がいる奴が、羨ましかった。

たとえ嫌われていたとしても。
あいつが今、側にいてほしいと、そう思ってしまった。

「どっかで、休むか……」


……少し、疲れた。


【H-08南西/路上/1日目/日中〜午後】

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE  ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
    妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
0;少し休める所を探す。
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
6:工場に向かい、使徒どもの所業を見極める。
7:その足で競技場方面に向かい、グリフィスをぶち殺す算段を整える。
8:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
9:ヴァッシュに出会ったらナイブズの言葉を伝える。
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。

※ビーズ@うえきの法則は鈴子の死体の側に散乱したままです。

776 ◆JvezCBil8U:2010/04/08(木) 23:48:25 ID:52sbf9yo0
以上、投下終了です。

777名無しさん:2010/04/09(金) 00:24:56 ID:jV2cyxBQ0
さるさん喰らった

新スレ立てたのでこちらへ
テンプレも半端なのでお願い

ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1270740067/

778 ◆JvezCBil8U:2010/04/09(金) 09:23:12 ID:52sbf9yo0
代理投下して下さった方々に感謝を。本当にありがとうございました。

779 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/09(金) 21:40:30 ID:LkOmKOlMO
テスト

780 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 00:48:57 ID:LkOmKOlMO
パソコン絶賛故障中なので携帯から失礼します。
一応書きあがってますので、こちらから投下させていただきます。

都合上、予定より大幅に短くなってしまったことを
先にお詫び致します。

781ガラクタの魂を鳴らす者 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 00:57:27 ID:LkOmKOlMO
テトラポットが積み上げられたその隙間に、海水がぞぶぞぶ染みては引いていく。
潮風の悲鳴は、殺戮ステージと舞台になった島の泣き声に聞こえた。
この水平線と港の間の壁があるとのグリフィスの証言に、改めて銀時は目を細めて沖を見やる。船でもあれば確認できるが、脱出道具が放置されてるはずがない。
透明な玉子の半球が張っているらしいが、実際どうだろう。虹のように、全体が見えないだけでホントは丸いとかも考えられる。地下にももう半分あるのであれば、島は完全に隔離されている。

『けっ、骨壷の中にいるみてぇだ』

コンクリートの海岸線に沿い、スクーターは風を貫いて進む。銀時と沙英は二人乗りできない座席を無理矢理シェアし、狭いスペースに腰かけていた。
港街の車庫から鍵がついていたうっかりさんスクーターを盗、もとい調達して、ゆのがいると情報が入った旅館を目指していた。
ただでさえそれほど速度が出ない構造のスクーターに二人乗りしているのだから、エンジンMAXでも結構なちんたらぶりだ。

ひとつしかないお椀型のヘルメットを沙英に渡し、銀時はそこらへんに落ちていた鍋をかぶる。たなびくふんどしのこともあり、滑稽極まる格好での疾走となる。
ひのきの棒と鍋の蓋を装備と言ってのける某ゲームに一言文句垂れたい。

――ス●エニ敵に回してどーすんですか!?ガ●ガンの角に頭ぶつけて死にますよ!――

ツッコみはない。
明らかにガキの声で伝えられた仲間の名前。名簿の上ででろりと変色した奴らではなく、新八ボイスが浮かんだ。
『まぁ、あの阿呆がでてくるよりは妥当だろうな、なんせここには』
笑いが、足りない。

よくつるんでいた奴は絶え、銀時ひとりだけになってしまった。
百歩譲って妙はわからなくもないが、残りの二人、特にゴキブリ並にしぶとい沖田が呼ばれるなど、予想外にも程があった。
それこそ一人見れば三十人はわいてくる感覚である。
デパートで会った時にそのままヤキ入れておけばよかったか。
あいつらの葬式を他の奴らがサンバカーニバルと間違えるぐらい派手で粋なのにしてから、墓石蹴っ飛ばしてやる。だから万事屋に帰せオラ。

「銀さん」

銀時の腰に腕を回す沙英が、やっと口を開いた。

宮子の名を出した放送から、もうすぐ1時間が経つ。第一放送後の混乱もせず、無表情のまま涙と鼻水を流してきた沙英を引っ張り、ここまで銀時の自己判断で来たのだ。
沙英の心身暴走が一周回って冷静になっていたのはすぐにわかった。冷静に、といっても見た目だけだ。
振り切ってがむしゃらに走ってないだけで、折れそうな身体を膨れ上がった恐怖と空虚が完全に支配していた。
生気がひどく失われているのをフォローするべく、銀時は大移動を実行したのだ。
景色が変わるだけでも気分は違ってくるし、仲間の再開は一番の薬だからだ。
でももしかしてヤバかった?

背中にヘルメットが当たっていた感覚が消えた。
運転中だが、銀時には沙英が首を振っているのはわかった。
妙に湿っぽいのは、涙がこすりつけられたからか。

「私、仲間一人呼ばれたんですよ」
「知ってる」
「銀さんは三人呼ばれたんですよね」
「知ってる」
「なら、どうして」
「泣かないってか」
「……」
「オレがいい人な訳ないだろ」
「強いですね、ふんどしなのに」
「ふんどし関係ないだろ」
「寒くないですか」
「寒ぃよ。鳥肌とスネ毛ゾゾ立ち」
「バイク用のスーツとかあればよかったですね」
「そりゃあないよかマシだろうが」
「私、今フルフェイスのヘルメットが欲しいんです」
「それじゃ駄目か?」
「フルフェイス型だったら、こんな涙隠せられたのにっ……」

淡々とした会話が途切れた。
向かい風が、二人を磨っていく。空っぽになった胸がひりひりしてるのはそのせいだ。
それに、悔しさを隠す仮面を欲しがる気持ちは、銀時にだってある。
沙英に見られないのをいいことに、銀時は先刻まで一緒にいた沖田のために、鼻水を一筋垂らしてやった。

782ガラクタの魂を鳴らす者 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:01:06 ID:LkOmKOlMO





銀時が旅館のある辺りを通り過ぎてしまいそうになったので、必死に止めた。
旅館へ行く、と明言していた割には抜けている。道の間違いを認めない銀時を説得する前に、のろのろスクーターから飛び降りた。
銀時が慌てて追うのを横目に、沙英は走る。
スクーターが通ってきた道の景色から覗く、きれいな旅館を目指して。

――旅館だ。きっとゆのはいる。だってあの旅館は、ひだまり荘みたいに、明るい場所にあるんだから――

沙英の歩幅は、旅館の崩壊を認めるに従って小さくなっていった。
念願の目的地へ着いた頃には、枷を引き摺るような足取りに変わっていた。

沙英は逆に、ゆのがここにいないことを願った。
ゆのがいたと言われたはずの旅館は半壊していた。
風呂場は外から丸見え、脱衣場は形残らず大破、業務用の洗濯機ですら吹っ飛んでへこんでいる。
ボロボロでズタズタでグシャグシャでベシャベシャな旅館を、一瞬でもひだまり荘に重ねてしまったのを悔いた。
楽しかった時間が粉々になっていくのを表した姿だった。実感してしまった。
帰りたい。ヒロも宮子もゆのも、誰も欠けていないひだまり荘へ。それだけなのに。
運命は現実を直視しろと突きつけてくる。
網膜に刻めと押しつけてくる。
翻弄されろと引き寄せてくる。
ゆのを置き去りにしたグリフィスを恨みたくなった。
危険人物がいる場所にひとりぼっちにされたら、どれほど混乱するか。
そのまま、旅館を破壊するまでの戦闘に巻き込まれていたら、どれほど泣きわめくか。
グリフィスは承知の上でゆのをひとりぼっちにした。
責任は重い。
だが同時に、それが無駄なことも知った。

彼は貴族然としていて、自分に復讐を持ちかけた。そういう無常はびこる世で育っているのは平凡な沙英でも察せられた。
彼の考えは、多分理解はしえない。

けど、それが『仕方ない』の枠で収まらないのははっきりしている。
仕方なくなんてない。
仕方ないなんてことはない。
『仕方ない』なんて考えちゃいけない。
グリフィスに絶対問い詰めてやる。
グリフィスを絶対怒鳴りつけてやる。
グリフィスに、グリフィスに……!

「諦めたら、そこで試合終了だっての」

「……え?」
仕方ないの反対の言葉が聞こえた。
いつの間にか追いついた銀時が、横で顎を掻いていた。
「俺の言葉でゆーなら、……あー、いい例えがねぇや。人の話を例えに出した方が楽だわ。
ゆのってのは変態放送部に呼ばれてない。なら旅館ン中しっかり探しておいても悪くはねーだろ。
押し入れとかで救助待ってたりすっかもよ?」

銀時は、沙英がゆのの絶望的な安否を嘆いていると思っているらしい。
沙英の恨みの刃が、ぐっと丸くなった。グリフィス云々呟いているより、綺麗事であっても『諦めない』でいる方がずっといい。

『七匹の子ヤギ』のお母さんになった気分だった。
末っ子ヤギはもちろんゆの。
きっと、見つかる。
小さく、心に光が灯った。

783 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:04:40 ID:LkOmKOlMO


#####


放送は緩やかに、涼やかに流れていく。犠牲者の数だけ、慟哭は上がる。
島を泥のような雲が包み、じわじわ温度を下げていく。温度が1、2度違うだけで、人間の思考は変わる。
雪など慣れてない者にとっては脅威の一言である。

『昔、八甲田山っちゅう映画があってな…』
『それ雪山で人が物凄い勢いで死んでいく映画ですよ』

既に旅立った二人の会話が不吉なまでに再現される時間は、そう遠くない。


静けさが満ちる中で、単身動く影があった。ゆっくり起き上がる。工場東側に散らばる、支給品らを眺めた。ここに彼の求める物はなさそうだ。足りないモノを補うには、目前にある工場へ行くのが一番らしい。
愛する人のための復讐は今始まったばかりではないか。
彼女の笑顔を取り戻すため、あの生意気な小娘と青二才をぶっ殺してやる。
さぁ。
さぁ。
サァ。

工場に入る。ガラクタばかりだ。彼は金属片に、己が捨てられた怨念を重ねた。有効に活用させてもらおう。
徘徊を始めた彼の存在は、まさしく爆弾と同じであった。



ほぼ同時刻、ポーカーフェイスのスナイパーが工場西側へ到着した。不自然に枝の折れた痕跡を進み、また僅かな足あとを辿り、世界最高峰を誇る男は護衛対象が歩いた場所を一切逸れずにやってきたのだ。
仕事は最後までやり通す無言実行は、もはや精神論だけでは説明できない。

放送の内容は一言一句頭に叩きいれた。工場の北側はじきに封鎖、呼ばれた人間は二十人。前回と合わせて全体の約半数だ。

その内の数人が、ここで凄惨な死をとげている。頸動脈をかっさばいた、一面の赤色がゴルゴを出迎えた。
手当たり次第かき切ったような肉塊が、むせかえる臭気を放ち始めている。窓の光に輝き、死のオブジェは彩られた。
千切れた白い皮膚がぼつぼつ浮かぶ海に感情移入するほど、彼の神経は細くない。
ぬかるむ血溜まりを観察し、量から推測する被害者の人数、死亡推定時刻を考察する。少なくとも三時間以上前の惨劇だと予想した。
安藤少年と、彼を捕獲した別の人間の血液ではない。
これだけ派手で一方的な攻撃方法は、自身の持つ知識では実行不可能だ。
水を操る少女同様、得体の知れぬ能力がひしめいている証拠だった。
一階からひとつづつ、扉を開けていく。



東側からの侵入者。
西側からの侵入者。
互いはまだ、顔を合わせてはいない。



人生の苦楽を共にした弟。
兄弟として刻んだ月日は踏みにじられた。それも覚悟の上で元の身体を欲していたのは事実ではある。
人体練成の禁忌を破ったのだから。

だが、あいつは違う。
巻き込まれるべき人間じゃない。
口うるさい幼なじみで、
右腕左脚のパートナーで、
こんな荒くれ兄弟の支えで、
……大切な、存在。

地獄ならとっくに見てるなんて、言えた義理か。沸騰した頭が冴えて、空気が抜けきった軽い倦怠感が漂う。
全身からほとばしっていた激情が、陽炎のように揺らいで消えてしまった。
次いで現れたのは、期待も希望も飲み込みかねない、饐えた汚泥だった。ふつりふつりと心の底に沈殿していく。
『神』はどれだけ布陣を強くすれば気が済むのだ。

「リン、鏡、あるか?」

給湯室に放送中集まったのはエド、リン、イマリの三人だった。
エドが話し始めるまで誰も言葉を交わさず、また誰もが山ほど言いたいことを抱えているような静けさであった。
タカマチも放送で呼ばれてしまった。イマリが『やっぱり』という面持ちでいる。薄々予想はしていたらしい。

「コレでいいカ?」

リンは据え付けの鏡を力業で外し、どっしとエドの前に立てた。
どこにでもある洗面所に使う鏡だった。俯いて腰かけていたエドだが、自分の下半身が映っているのはしっかりわかった。情けないぐらい小さく見える。
組んでいた指をほぐし、機械鎧を撫でた。歯をしばる。

瓦割りの如く鋼鉄の右腕で破壊した。
狭い世界に響く、反逆魂の音。

なんかするなら予告しロと、リンが散る破片から飛び退く。
エドを中心に砕けた鏡は、反射して天井に光の花を咲かせた。一枚の適当な花びらを拾って中を覗く。
自虐的な笑いが込み上げてきた。

784 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:08:00 ID:LkOmKOlMO

「はっ、はは、
鏡ん中にスカーがいるぞ。初めて会った時の奴がいる。
あいつと同じ目してるよ、オレ」

恨むなんて感情があるのは人間だけ。退廃した倫理を煮えたぎった釜にぶっこんだ、酷い闇を孕んだ形相があった。

「人のふり見て我がふり直せ、か。自分見て自分治さなきゃいけねぇなこりゃ。
そうだ、どちらかがあきらめたら終わりなんだ。鉄槌かますまで止まってられるかよ」

戒めに、手鏡程度の破片をデイバッグに入れた。

今回の放送は、エドにひとつの確信を持たせた。
『セリム・ブラッドレイ』を隠し蓑にした七つの大罪の頭、プライドがいる。

工場のプラントドームにあった錬成陣は、肉親と幼なじみ、短いながらも行動を共にした仲間らを奪った舞台の存在意義だ。
かつてクセルクセスを消滅させたアレを、他の世界の奴らが関わる知識と融合させて、『何か』を成し遂げようとしている?
その過程にぶちこむ人間を選択した基準は?



――絶対神をつくるため、だろうか。



相反する二つの力を持つ者がいたとしよう。例とするならば『希望を吸収する力』と『絶望を吸収する力』。
希望と絶望、どちらを抱いても勝つ。

相性が正反対の世界の奴らを選出しているとしたら。
そいつらが殺された場所が、アメストリスの紛争のように、あらかじめ仕組まれていた予定調和なポイントエリアであるならば。
情報が欲しい。違う世界の情報を組み合わせれば、本来噛み合わない、すれ違うことすらなかったピースがつながるかもしれないのだ。
やはり島中央の神社がキーである。確認しておくべきだ。



《エドの推理は、真相はともかく随分と的を射ていた。

未来を映す力に対して、運命をねじ伏せる能力者がいた。
加虐支配する妖艶な妖怪に対して、妖怪を穿つことに特化した人間がいた。
同等の価値を交換して成り立つ能力に対して、質量保存の法則を無視して別物へ変換する能力者がいた。

もし、平和穏便にスタート時の人間全員と話ができたなら、相性の良し悪しが一発でわかる表が作れただろう。
きっとジャンケンのように強弱ぐるりと輪を描いていた。
もうかなわない、無意味なifだ》




リンが壁にもたれながら、小声で寄ってきた。
イマリはよろしくない顔ではあったが、介入せずに流し台に座っている。

『侵入者ガ来タ』
『マジかよ……何人だ?』
一息置いて、リンは細目をうっすら開く。

『東側一階に一人だガ、絶対おかしイ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある東側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』
『なんだそりゃ?まだ全員一階にいるのか』
『……安藤らしき奴は三階にいル。さっきから動かなイ』
嫌悪をあらわに、リンは吐き捨てた。
「そうだ安藤!あいつ何やってんだよ」
「安藤さんに会ってないのですか」
イマリが口を挟む。

安藤との邂逅が導かれたものが、エドを絶望の底へ叩きつけるための『神』の采配ならば。えげつない『神』のことだ。
安藤も、『神』に不幸をつきつけられるのを前提とした出会いとして、エド達を見繕われた可能性がある。
例えばそれさえなければ弟と合流できたかもしれないとかだ。
お互いの傷穴に塩を塗る出会いが示すのは全ての崩壊、すなわち神が望むゲーム進行なのだろう。

――もしそうなら、たまったもんじゃねーぞ!そっちがその気なら、安藤とイマリとの出会いを最大限に生かしてやる!

ただ、安藤を迎えにいくにしても、難があった。リンが安藤にもイマリにも敵意むき出しなのだ。
イマリ一人残すのは危険だし、リンとイマリを二人で待たせるのもやめておきたい。かといってイマリと二人で出かけるのは、侵入者の正体がわからない以上、得策ではない。

リスクの一番少ない方法は……

785 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:10:58 ID:LkOmKOlMO


#####


研究棟を出た。
雲が湧くだけ湧いている。
ゆのの姿はとっくにない。
どんなハタラキを見せてくれるか、流は楽しみでもあり、愉快でもあった。
ゆのに三人殺せと言った。流にしてみれば大した人数でもないが、一般人にとってはきつい数字だろう。

だから、一般人だからこそ堕ちるような殺人ノルマを仕向けた。
十人だ二十人だと脅すより現実的な数値にしておいた。決して無理な人数ではないところがミソである。
死体に麻痺して、『たった三人だ』と思い込んだら、流の思惑通りだ。

ちょっと考えればわかる。
残りは半数だ。三十人ちょい÷三人=生き残りの十分の一。
ちょっと置き換えるだけでどえらい数字に見える。
ゆのが三人仕留められたら、ネットにタレる。事実だから、気兼ねなぞいらない。
十分の一も〜〜とかいったら殺人鬼に聞こえる。孤立無援でオシマイだ。

大量に殺れと言ったところで実感がなくて、出来ないのがフツーの人間。
現実味のある人数を殺れと命令して、かつ連帯感を少しでも持たしてやれば出来てしまうのがフツーの人間の性。
フツーというよりフツーの日本人っていった方がいいのか。大体日本人ってのはそんなのばっかだ。
ゆのが別の世界の一般人だったら、もう少し別の言葉けしかけておいたが、そんな面倒な保険不要だった。それに関してはラッキーだ。

「どこに行くの……?」

スズメバチが指くわえて聞いてきた。相変わらず頬を赤らめてハァハァしている。

「ああ?ヒトサガシだよ。面白れぇ奴を見つけによ」

首輪探知機は、領域を拡大してもせいぜい直径五百メートルのカバー程度だろう。点滅する光は三つだけで、辺りの反応は無しだった。

「つまんねぇな、まだ三十人はいるはずなのによ。全っ然戦ってねーよ」
蝉との戦闘は面白かった。攻撃をすり抜ける動きと度胸。

――あれはよかったねぇ、欲しいぐらいだ。あって損する訳じゃないしな。

あれ以来、手応えがあって胸がすく人間には出会えてない。
論理小僧、馬鹿虫女、白馬に乗ってそうな金ピカ野郎、手だらけ世界滅亡女。

なんだこのガラクタ置き場みたいなレパートリーは。
うしおを陥れて、自分の戦闘欲を満たしてくれる奴は残ってるのか。

とりあえず歩くかね、と地図を広げて探知機と重ねたときだった。
探知機がいきなり反応しだした。ゆのの反応のようにじりじり画面外へ向かう動きではない。
本当にパッと、画面に出現したのだ。テレポート能力者がいるのかと思うほどに急だった。
反応が示す箇所へ首を回す。すぐに納得した。
直後、ズゥゥンと森を揺らす響きが届いた。

「……見えたか?」
「ええ。人間が二人、空から落ちてきたわ。何にもない場所から突然」

ロビンの目は完全にロックオン状態になっていた。ルフィやらサンジやらの敵を見定めた、泥々な眼だった。
ロビンには誰もがそう見えているようだが。

体格から、男と女の二人組だろうと判断する。
探知機の反応は消えない。あれだけ高い場所から落ちても無事なのだ。是非とも面を拝んでやりたくなった。

「行くのね。行きましょ。とってもいいものみたい」

フリルのスカートをたくしあげ、スズメバチがせかした。肩をくねらせて、期待に酔っている。

「空から降る仕組みかよ、面白れぇ」

786 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:13:02 ID:LkOmKOlMO


#####


エドらと巡り合わせ「られた」安藤の不幸は既に始まっていた。
安藤は殺人日記の次に、殺人日記よりも物騒かもしれない代物を、工場の片隅で見つけた。それが運命を変えるとも知らずに。




したらば掲示板に、とある少女と男についての内容がいくつか連投されていた。

1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど(Res:8)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 4 名前:ラッキースターな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:mIKami7Ai
 ×印の髪飾りを付けた少女には注意してください。
 既に何人かの人間を殺しているようです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 7 名前:ラストバタリオンな名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:NaiToYshR
 ここは危険なので手短に。
 僕も×印の髪飾りを付けた少女に襲われました。
 彼女は白いワンピースを着ているので注意して下さい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

8 名前:絶版発売中な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:HeRmionEA
第一放送前、×印の髪飾りを付けた少女に襲われた。
水を操る力を持っているらしい。水辺にいる場合は気をつけてくれ。
ほとんど勝ち目はない。


6:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:10)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
 荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
 それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。


 そしてゾルフ・J・キンブリーに妲己。
 友を虚仮にしてくれた君たちを、僕は絶対に許さない。
 いずれお礼に行くから、なるべくその時まで生きていてくれよ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
10 名前:容姿不明な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:HeRmionEA
キンブ じ



携帯が落ちた。
弾みで書き込みが完了してしまう。
キンブリーへのアピールのつもりだったが、これでは意味がわからない。
鳴海に、東郷に、エドに、リンに、伊万里に、名も知らぬ少女に、キンブリーに、会場の人間全てに対抗する、強大な力を得る段階に入ったのに。
安藤は殺人日記以前の深刻な問題と直面していた。


止まらない。
血が止まらない。

止まらない。
目眩が止まらない。

止まらない。
動悸が止まらない。

止まらない。
呼吸の乱れが止まらない。

止まらない。
震えが止まらない。

頭が随分ぼんやりする。
現実に引き戻すのは、すすけた息苦しさと破裂するような心臓の鼓動だった。

どうして?
いきなり心筋梗塞になった?
違う。違う。違う。

指が、身体が、眼球が、舌が、カタカタと意思に反して震える。
何だ。
何だ何だ何だ何だ何だ何だ
何だ何だ何だ何だ何だ何だ
何だ何だ何だ何だ何だ何だ

787 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:14:39 ID:LkOmKOlMO

わかる。どうしようもないくらいわかる。風邪をひくのが直前でわかるように。

リンとエドに使った長い腹話術。
慣れない体力消費。
鳴海とエドへの羨望感、劣等感、重圧感。
潤也と一緒にいる、第一級危険人物キンブリーへの殺意。
ひよのへの敵対心。
それらがない交ぜになった上での、殺人日記への興奮。
これが決定打らしい。

――加えて能力制限の力が働いて、本来の時期より早まっているのだが――

腹話術の副作用だ。

大量の鼻血を生産コンベアにぶちまけた。
自由になった手の平で鼻を覆うと、すぐに真っ赤な泉ができた。コンベアに上半身を突っ伏す。まだ血は垂れる。

疑いようもない。身体が、脳が、五臓六腑が、副作用の悲鳴を上げ始めている。
朝の気絶はこれの予兆だったのか。猛スピードで身体が内側から壊れていく。
これ以上腹話術を使ったらどうなる?自分の能力の使いすぎで……

錬金術は等価交換が基本なんだろ?一からは一のものしか作れないんだろ?
どうして、どうしてこんなちっぽけな力にこんなでかい副作用があるだよ!?
ハイリスク・ローリターンなんて最悪だ。諸刃の剣どころか、とんだ時限爆発だ。
こんな理不尽、あってたまるか。
そうだ、賢者の石。万能なら、この不釣り合いな副作用を和らげてくれるぐらいしてもいいじゃないか。錬金術師のエドだって、これは同等のリスクじゃないとわかってくれる。

携帯だけはどうにか拾った。胴体とスラックスの間に挟む。
これは第二の心臓になるだろう。大切に扱わなければ。

「安藤!」

ああ、高嶺の能力者が来た。
チャンスが、たった一度のチャンスが潰れた。
死にかけの魚のするようにぱくぱくと口を動かす。
リンも伊万里も着いてきていない。

「おい、何があったんだよ安藤!?」
そりゃ見てもわからないだろう。襲撃されてもいないし、転んで顔面強打したようにも見えないから。
気づけば携帯以外の支給品含むデイバッグはコンベアに流され、口を開けた生産機器へ飲まれていた。
どういった品を作っているかは知らないが、異物混入で機械はいずれ故障する。

「体調、不良だ。ちょっとマズい、かも」
「給湯室行くぞ。そこで集合になってる。
……アンドウ、手かせどうした?」
「……外れた」
白々しい嘘だと、自分でも思う。エドも不信感たっぷりな視線を寄越す。
「外した、じゃないのか?
まあいい、肩貸せ、右腕回せ、歩けるか」
左手首を長い布で縛られた。義手の右腕に捕まれ、エドに肩を回す。手首の余り布の端を噛んだエドは、小さい体を安藤に貸した。
これで腹話術に手を打ったつもりか。

『手を拘束しなくても腹話術は使えるんだよな』

無防備な背中だった。
すぐに手をかけられそうな、格好のシチュエーションだ。
ただ、リンと伊万里はともかく、エドは首輪の解除と脱出に確保しておきたかった。
キンブリーの情報を得るためにもだ。
それに、同じ年子の弟を持つ兄として、一番共感を得られそうだったから。

覚束ない足で、身を委ねた。仮初の二人三脚だ。


錬金術の足の関節と太股に
ほとんど無音で



銀色の柱が立った。



遠くで何かが落ちる音がした。

788 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:17:22 ID:LkOmKOlMO


#####


安全だとわかっていても恐る恐る、シェルターが開いた。
墜落した地面は、丸くえぐれてひびが入っていた。
銀時が沙英の九竜神火罩に助けられるのは二度目だ。

旅館の探索はとんとん拍子に進んだ。これといった敵もいなかったが、ゆのの姿どころか、猫の毛一本見つからなかったからだ。
誰かが先に来ていたやら、役に立ちそうな道具は持っていかれているようだった。
旅館の客間からキッチンまでくまなく探って、最後に残ったのがボイラー室だった。
妙ちきりんなボイラー室へ二人して踏み入れた結果が、片道切符の大★降★下!だった。

身も心も、弛みっぱなしの尻穴も縮みあがる、インド人もびっくりな絶叫トラップだ。
工場と研究所を近くに据えた、神社へと突っ込んだ。九竜神火罩がなければノーロープバンジーもいいところだった。

「九死に一生スペシャルで大トリ飾れるっての……胃が口からはみ出るかと思ったわ」
「あ、……うぅぁ……」

砂時計の最初の一粒が下へ落ちるほどわずかな時間が、生死の境目だった。地面へ真っ赤な花火を咲かせるまで一秒を切っての生還劇を演じたのだ。
沙英は必死に銀時を掴もうと足掻いていた。
九竜神火罩に引きずり込んだ途端に激突したショックと、相変わらずのコメディ口調で話してくれた銀時への安心感で放心している。
助かったとはいえ、正直余り思い出したくないシェルターだ。
――銀時的には主に……×××たところが――
腰が抜けていたが、沙英も防具を便所にされたダメージだけは相当残っているようだ。

デパートで戦りあった心拍数が一気に戻ってきた。戦車ヤバ女がどうにかなっても、トラップ張りまくりではどうにもならない。

着地点はどう見ても神社だ。
これが夢じゃないなら、旅館から島の中央の神社まですっ飛んできた(というか飛び落ちた)安っぽいSF映画並みの経験を積んだ訳だ。
よくもまぁ手の込んだイヤガラセトラップを考えるもんだ。

へたっている沙英を抱えて、とりあえず無傷っぽい建物に上がらせてもらった。もちろん土足で。無礼?神なんぞ知るか。

「なんか助けてもらってばっかなんだが。どうするよオレ男が廃っちゃ」
「ここ、どこ、ですか」
「話は最後まで聞くう!神社の境内だ」
「ちょっと、行きたい場所があるん、ですけど、いい、ですか?」





神社東側。
工場が少しばかり顔を出す箇所で、沙英の目的物を見つけた。

「絵馬、です」
「これが目的か?ただの板だろ。『神』を語る割にはお粗末なもの用意してんな」
「失礼な。ゲン担ぎです。銀さんも何か願い書きますか?」

木の板がびっしり神社の柵に結びつけられていた。
それぞれに願い事が書いてある。大量の他人の願いは興味あるが、沙英が不粋だとじっくり読ませてくれなかった。
サラサラと支給品の筆記用具で絵を描いて、一分もしない間に見事な銀さんが出来上がった。

「おお、上手ぇ!!」
「私が何の学校に通ってると思ってるんですか。
……銀さん、軍艦島って知ってます?」
「何いきなり?それ食えるの?かっこいいの?」
「食べれるものなら食べてみて下さいよ!私の世界にある無人島です」

恋愛専門だが、沙英はプロの小説家である。知識は多色なりとも一般人より多く持っている自覚はある。

「まー、なんて物騒な名前だこと」
「俗称ですよ?コンクリ島というか、廃墟島なんです。滅茶滅茶な造りをしてて、一時はすごい人口密度だったそうなんです。
そこにもですね、神社があるんです。島の中央、アパートを見下ろす高台に」
「シチュは似てるな」
「あっちは崩壊して、絵馬とか一切ないんです。ある意味、移民のために作られた神社だから当たり前なんですけど。
銀さんの言う通り、条件が似てるから不安なんです。デパートとか旅館とか見て、大切な場所に似たところが壊れるのはもう嫌だって。
少しでも違う場所を増やしておきたいなって」
「それで神頼みか?」
「神なんて、もうどうでもいいです。けじめです。ただの」

789 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:18:24 ID:LkOmKOlMO

それぐらい許されたっていいでしょ?

『一度だけでいいから、銀さんをひだまり荘に呼びたい』
ささやかな願いを絵馬に託した。
眉をハの字にして、儚げに沙英は笑う。



キレイな顔に、緩やかな弧を描いた線がついた。
マジックで描かれた絵馬の銀時が、塗り潰された。



「あら、失敗しちゃった」
「っあ、ああああっ!!!!」

沙英の額に、ぞっくり刃の通った痕がついた。前髪は傷痕をなぞってパッツン切りとなり、風に飛ばされていった。
沙英へ投げられた何かの軌道を逸らした銀時ではあるものの、完全に防げはしなかった。転がるボールが奇妙な凶器らしい。
傷自体は命に関わらないが、頭は血管の束だ。出血が続けばまずい。

「素敵なお姉さまに、お召し物を無くされたお兄さま。
うふふふ、かぁごめかごめ。
私たちは籠の中の鳥。
いつ出られるのかしら?
後ろの正面だぁれ?」

痛々しい火傷を包帯の端からチラ見せる、ゴスロリドレス娘がいた。
美しかったであろう黒髪は、所々むしれておかしな髪型になっている。
フリフリのレースと薄ら笑いがよく似合う、「自我が狂った」子である。

「後ろの正面?てめぇしかいねぇだろ!?」
「そうなの……残念ながら私ひとりだけが正面なの」

噛み合うようでいて噛み合わない。
だがこの電波系妄想少女がノっているのは確かだ。スカートをたくしあげ、指をくわえた。
頬は紅色、潤んだ瞳、首は細く黒髪が流れてかかっている。
素晴らしいアウトラインの太ももに蜂のタトゥーが入っていて、包帯の白さとのコントラストがやたら映える。
つまりは、まぁ、エロい。
銀時のデイバッグの蔵書たちのようだ。

「嬢ちゃん、ふざけるのはこれぐらいなしてお家帰りな」
「うふふふ、蜂、蜂、お家がない。
風来坊のスズメバチよ」

790 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:21:38 ID:LkOmKOlMO


#####


工場一階。
エドが安藤を探しに、リンにイマリの保護を託して離れた、わずか四十分ほど後。
二人と侵入者との攻防は始まっていた。

イマリ曰く『非科学的な科学の結晶』が、無茶苦茶な理由を述べながら追いかけてくる。

リンの気の感覚に触れていない未知の生物に、二人は踊らされる。
いや、生物ですらない。

当然だ。彼は参加者などではない。ゾッドの未確認支給品だった。
支給される品の当たり外れがひどいのはよくある話だが、これはひどかった。

かろうじて支給品だと判断できたのは、奴の背中に説明書が貼りつけてあったからだった。

「意思持ち支給品なんてありかヨ!」

ひとりごちるリンは、エドとの会話を思い返す。



「何でこいつと待たなきゃいけなイ!何もかも嘘っぱちな女と一蓮托生は御免ダ!」
「リン言い過ぎだ!」
てこでも動かないつもりだった。
「やれやれ、嫌われてしまったようですね」
「例え『気』が普通の女でも、腹に一物あるのは信用ならナイ!だったらオレが行った方がマシだロ!?」
「そっちの方が怖いんだよ。安藤にメチャメチャ敵意持ってるだろ?」
「当たり前ダ!媚びつ乗りつ情報流してヘラヘラヘラヘラ!
あいつのいた世界がどうなんだか知らないが、危機管理が甘過ぎる!綻びはソコから出るんダ」
「だからだ!シンでもアメストリスでもない、平和な場所の人間だ!『咲夜』だってそうだったんだろ!?」

言葉に詰まった。グリードが最期まで守ろうとした、無力な少女。
惨たらしいまでに身体をにじられ、ぼろ雑巾のように死んでいったあの姿。
グリードに刃を向け、後悔と絶望の中に取り残された魂。
忘れるものか。
忘れられるものか。
忘れてたまるものか。

「三階なら一個下だ。すぐ戻ってくる。三十分たって戻って来ないなら、工場から逃げろ。
リンの力なら、侵入者をやり過ごせるだろ?無事なら神社で合流だ」
「……チッ」
感情に流されるのは良しとしない。譲ってやったが、不満は募る。エドと行動を別にさせた原因の安藤に、どうしようもなく腹が立った。
万が一はぐれた時のために、かつ奴への仕返しに、安藤が持っていた大量の食料を半分エドに渡しておいた。朝にエドに支給された分を食っていたから、これで借りは返した。



工場を後にする時間が来てしまった。イマリを連れて、西側一階へ降りた途端、ソイツと鉢合わせして今に至る。
問答無用でソイツは攻撃してきた。

円柱に手足を差したブサイクな金属の固まりだった。腹にあたる部分に、大きく「8」とペイントしてある。
残念ながら、リンの力は金属にまで気配を察知できる万能な能力ではない。

「不燃ゴミとして捨てられる悲しみが貴様らにわかるのか――!!!!」
「知るカ!!」

791 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:22:06 ID:LkOmKOlMO


説明文:介護用執事ロボ『エイト』
介護ガン・介護ジェット搭載
性格にやや難あり。


「とても介護用に見えないというのは無粋ですかねぇ」
丸みを帯びた金属で纏われていて、目にあたる部分が光る。
寸胴・鈍足・桃色の身体と間抜け面が緊張感を削いでいるが、腕に装着された銃に似た類であろう機器が妙にしっくりくる。
尻にあたる部分から、火を噴き出して飛んで来たりもする。
どの辺りに介護に必要な部品があるのだ。

おもちゃに命を与えたような馬鹿馬鹿しい外見とは裏腹に、相当厄介な侵入者だった。
リンにとって、『気』が完全にない敵と戦うのは初めてなのだ。
攻撃が単調かつ直線的なので次の手が読みやすいからいいが、なにせ正体も構造も不明な輩である。下手に攻撃しようなら、予測不能の反撃に出られそうだ。

ひよのの世界にロボット自体は存在するものの、自我を持たせるハイスペックな技術はない。
リンの世界には技術すら存在しない。
とにもかくにも、二人には未知の物体なのだ。

身体の造りを見る限り、中に人間が入れられる余裕はない。かといって走る音からは、空洞を示す微妙な反響は窺えない。
アル同様、魂を不恰好な鎧へ定着させたもののように思えたが、どうも違うらしい。
最悪にも、疲れ知らずの怪我知らずなのはアルと一緒のようだ。

――イマリと共闘する気はさらさらなイ。
囮になってもらおうカ。


「S●NYの技術はァァァア世界一ィィィィイ!!!!」

阿呆のような叫びを上げて、銃を向けてきた。
咄嗟に伏せたが、眼前の壁は蜂の巣になる。
囮にする余裕はなかった。
むしろ、逆に囮にされないようイマリのそばにいなければならなかった。

「何て皮肉ダ……!」

エドらの気配はまだ工場内にある。この破壊音聞いて、どうしてこっちに来ないんだ!?

792 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:24:51 ID:LkOmKOlMO


#####


マクガイバーは、工夫が得意なヒーローなんだ。
身近にあるものを武器に戦うから凄いんだ。





「……っきしょ、左足じゃなきゃやられてたぞ」

金髪の少年が、左足に刺さったメスを抜く。
偶然左足に刺さったのではない。山中で残された足跡で、義足を装着した者の歩き方を観察した。
右足のものより深く踏み込み、かつ坂道の足跡は一般人に比べかかとまで刻まれていた。関節も義足である可能性が高い。
枝の折れ方が若干不自然であるのも留意する。太股の高さ辺りの損傷が、右側より左側の方が軽い。
そこまでを総合すると、膝上以上、付け根未満まで義足を装着しているのは確定と考えていい。
最後に、並んで歩く二人の様子を窺って大体の箇所を見当した。非常に高い技術の義足だ。隣で歩く安藤と大差が無い。
微妙な服の皺、布擦れの音、右足との動きの差から割り出した義足の弱点に、メスを投げたのだ。
ゴルゴは、演奏中のバイオリンの絃を撃ち抜く腕のスナイパーである。
照準の寸分狂い無い精度で突き立てた。
生身に攻撃しなかったのは、威嚇ついでに錬金術の情報を仕入れたかったからだった。
安藤に肩を貸していた点、ウィンリィから漏れた錬金術師の情報を重ね、有害ではなかろうと判断した。
安藤が間に割り込み、エドの反撃を止めて場が収まった。

「オッサンがウィンリィと工場で会った東郷か」
「その少女は放送で呼ばれたはずだ。何を詮索する」

表面では威勢のいい少年だが、内心畏縮しているのが見えている。

「あいつはオレの幼馴染みなんだよ!絶対に死なせたくなかった……なのに!」

エドワード・エルリックと名乗る少年は、手を出さず義手を握る。
背丈も低く、安藤より年下であろう躯につく義手義足は余りにも厳つい。
ゴルゴは足跡の大きさと歩幅から小柄で若い人間だと踏んでいたが、成人もしていないのは推測の範囲外だった。
鍛えてあるらしいがまだ幼い少年に、重厚な造りの鋼の手足が年相応以上に釣り合うのは、やはり場数を経験しているからか。
そもそもこの歳にして手足を失っている自体が精神を剛くした出来事だろう。

「オッサン、殺し合いに乗ってるか?安藤の護衛をしてる以上、無駄な殺生はしないはずだがよ、どうもそっち系らしい匂いがするぜ」

ゴルゴが見る限り、洞察力が皆無な奴ではない。熱くなりやすく、かといって冷静さを失わない。揚げ足を取って動揺させる戦略を用いる類型を窺わせる。

「錬金術師を探しているんだろ?オレが錬金術師だ。
幼馴染みと弟、短い間の仲間の弔い合戦を神にぶちかます。殺し合いをぶっ潰したい。
協力してくれ。
つーか、契約してくれ」

鳴海に続き、取り引きを持ち掛ける幼子が多い。
鳴海が静ならエルリックは動か。

「錬金術を使える証拠はあるのか」
「おお、あるさ。
ただしこの島に来てから調子が悪い。大きなものは錬成できねぇし、体力の消耗も激しい」

エルリックは両手を祈るように合わせ、床へとつく。
光輝が迸り、薄暗い工場の一室が鋭い唸りを上げる。
ズ、とリノリウムが歪む。
強度を織り成す鉄筋が中央に吸い寄せられ、一度石灰と砂利に分解されたコンクリートが覆う。
閃光の洗礼を眼に受け、瞬きをした寸刻ののち、頭痛がする奇怪なオブジェが完成していた。

「確かに、錬金術師のようだ」
「等価交換は知ってるだろ?錬金術の知識を売り渡す代わり、協力をあおぐ。あとインターネットの知識があったらそれも助言願いたい。こっちはそんなもん知らないんだ」

793 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:25:42 ID:LkOmKOlMO

ほとんど捲し立てるエルリックの焦りの理由は、なんてことのない。もう一人の錬金術師に、危険な雰囲気を発するゴルゴを取られないようにするためだった。
もう一人の錬金術師は、国の崩壊に手を貸す軍事テロリスト集団の人間らしい。
そちらと先にコンタクトを取られると、要注意人物同士の組合せになり、全てが後手後手に回される危険があった。
更に安藤の弟も人質に取られている疑いがあり、下手に刺激ができない。

ゴルゴはエルリックの情報を仕入れた上で、聞き入れた。エルリックが優位そうだが、彼をねじ伏せる切り札があっての承諾だった。

賢者の石。エルリックが焦がれる高エネルギー体を、表に出しはしない。


運命の砂時計は、容赦なく粒を叩きつける。ある者は僅かな時間に感謝し、ある者は一瞬を悔いた。
エドは工場において最大の失態を犯した。
ゴルゴに気を取られ、約束の時間を忘れていたのだ。
家族、友人、仲間。永久に繋がりを絶つきっかけは、往々にしてそういうごく自然なものである。



『考えろ考えろマクガイバー。
考えろ考えろマクガイバー』

任務を完遂させるゴルゴと、出逢いの不審な運命を翻したいエドの板挟みになった安藤は、為す術なく傍観しぶつぶつと俯いていた。
劣等感の渦が肝の隅々まで染み付いてきているのは、二人の慧眼を持ってしてもそうそう察せはしなかった。

ただ、エドとゴルゴは交渉中でも行動は目の端にしっかり収めていた。
南側の窓へ、外を警戒しながら覗きに寄っていたのは放置していたが、すぐに真っ青になってへたり込んだのは逃さなかった。
一時取引を中断し、エドとゴルゴは共に駆け寄った。
今度はエドが屈む番だった。金髪をかきむしる腕すら、血の気が引いていた。

「モンタージュの危険人物だ……」
「いつの間に妙なのとつるんでるんだよ、クソッ!」

外野は五人。
二百メートルほど先に三人、その後百メートル先に二人いた。

空中を蹴るように足技を繰り出す少女。
攻撃を交わし逃げながら応戦する青年。
青年に抱えられ、額から血を流す少女。
ゆっくり歩きつつ三人を観戦する男女。
十中八九、後ろ二人と前線の攻撃している女はつるんでいる。

逃げる二人が、襲う女が、悠々と眺める殺人者が、工場へ近づいてくる。
波乱は免れない。
ゴルゴには、彼を無敵神にする拳銃がない。
エドには、遠隔操作できる錬丹術がない。
安藤にはそもそも技能がない。
見殺して逃げるか、勝ち目のわからない加勢をするか。
二つに一つの答え。





「ここでアイツに手を打たねーと、囮になって死んだタカマチに合わす顔がねーだろーがよぉぉお!!!!」

抗う。
奮い立たせるようでもあり、エド自身を追い詰めるようでもあった。
相手はこちらの存在に気づいていない。今のところ先手を打てる状況ではある。
やればなんとかなる相手でないのは身を持って知っているのに、歯向かおうとする無茶は譲れなかった。


(あえて死ぬ方を選ぶなんてバカのすることだ!!)


いつぞやの怒号がよぎる。
でも、女の子抱えて逃げる奴を見殺ししたら、それこそ恥だらけの大バカだ。

「……エド、どれぐらいの大きさと精度なら負担なく錬成できるか?」

安藤の機略が呼びかける。

「材料にもよるが、大体1メートルぐらいだ」
「ここに来て、飲み食いしたか?」
「した。どうかしたか?」
「……小学校の、理科の実験をしようと思う」

安藤は二人に案を話す。
真っ赤な瞳が、火の点いた光を発していた。

794 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:27:42 ID:LkOmKOlMO


#####


ひよのは知っていた。
不可思議なからくりは説明しようもないが、不格好なロボットは初見ではなかった。
博物館の展示物に混じって佇む、粗大ごみからひっぱり出してきたような姿。
一昔前のブリキのおもちゃを大きくしたイメージそのままの形は一際目立った。
自我を持ち、攻撃力を備えていたのは想定外だが、ブサイクさは忘れることができないインパクトだった。
博物館から抜け出してきた?
何かの弾みでスイッチが入って、何かの目的で工場に来た?

意外にも、リンは二手に別れようとしない。囮にされないようにしているのか。
戦闘力がないこちらに押しつけるのは簡単だろうが、先刻の交渉術で警戒値が最大にされている。口先では何を言っても信用されないに決まっている。
結局、足を頼りに逃げる他なかった。

とにかく浴衣は走りにくい。裾を割って足を出せば多少は楽になるだろう。ごく近くにいい年頃の異性がいさえしなければ。
全裸で街中を爆走した身分でいうのもなんだが、うら若き乙女である。二度三度と同じ痴態は晒せないのだ。
落ちている鉄屑が裾にひっかかる。浴衣が少しずつぼろになっていく。
雪対策する前にまた仮の服を見つけなければなりませんね、と思った途端、銃弾が掠める。
ロボットの顔立ちが間抜けなせいか、どうも緊張が削がれている気がする。
ワープポイントまで行って、ロボットが来る前に塞いでしまえばこっちの勝利なのだが、非常口まではまだ随分遠かった。
それに、工場北側はあと少しで立ち入り禁止区域になる。迂闊に外へも飛び出せない。

――二足歩行可能な武器搭載ロボットなんて、清隆さんもびっくりですよ。

「逃げるなあぁぁぁ!!
パッチはどこだあぁぁぁあああ!!!!」

ロボットはなぜか泣きながら追ってきた。本当に、どういう仕組みか分解して調べてやりたい。

しかし、パッチ?
修正ファイル?

「エイトさん、ここが何の工場なのか知っているのですか!?」
「知らない!大体のものは工場に揃ってるって相場が決まってるんだ!!」

身も蓋も、ついでに暴れる根拠さえもなかった返事。どうもおつむが弱いらしい。
この場合はCPUというべきか。

ガシュガシュと走る機体は、ここで初めてミスをした。それはもう、情けないまでにこけた。
2メートル近い巨体が、床に伸びたコードに引っ掛かり、ひよのとリンの間をスライディングして壁にぶち当たったのだ。
自力で立つには不便すぎる造りをしたロボットは、まるで逆さにされた亀のようだった。
介護ジェットとやらを噴射し方向を変えるも、また別の壁へ衝突する結果に終わった。
弾みでそこらに落ちていた鉄線に自らがんじがらめになる。
挙げ句の果てに、

「はっ、話せばわかる!だから殴らないでください〜〜」

命が無いロボットに、命乞いをされてしまった。

795 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:29:01 ID:LkOmKOlMO





「人生色々あるのは身を持って知りましたが、ロボットの人生相談に乗る日が来るなんて思ってませんでしたよ」

ひよののため息で、ロボットは錆そうになる。
リンが中身を確認したが、中身が空洞ではないと知るやいなや投げ出した。
自称:介護用執事ロボは、随分と感情的な性格をプログラムされているようだ。
素晴らしい自立AIも、この短気さで台無しになっている。
泣きながら愚痴るエイトの言葉の端々には、情報がちりばめられていた。
リンを不快にさせた駆け引きを再びせずに済んだのは幸いである。

エイトは復讐を誓う相手がいると漏らした。
復讐の相手とは、大富豪の三千院ナギとその執事綾崎ハヤテ。身体の特徴から綾崎ハヤテと割り出せる人物とは面会済みだった。
他でもない、博物館で。
もしこのエイトが博物館の展示物ならば、彼の死を知らずにたどり着くのは考えにくい。
また、不燃ゴミ処理場に捨てられてからのデータがなく、気づいたら工場付近にぶちまけられていたそうだ。
エイトは本人曰く唯一無二のロボットで、前身となった似ても似つかぬロボの他にはいない一個体とのこと。
思い出すのは、給湯室にいる間、こっそり確認した掲示板の書き込みだ。


『9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
 荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
 それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。


 そしてゾルフ・J・キンブリーに妲己。
 友を虚仮にしてくれた君たちを、僕は絶対に許さない。
 いずれお礼に行くから、なるべくその時まで生きていてくれよ。』

(違う時間軸からの召喚ですか。確かに荒唐無稽ですね)

これを踏まえると、安藤の話す『鳴海のカノジョ』像と、『鳴海』の認識の微妙な食い違いも納得がいく。
一個体が二つ存在するのは、ロボットである以上博物館のロボットがレプリカであるのも捨てきれないが、

(もし同一体であるなら厄介ですねぇ。
この島・各々の住む世界に加えて、未知の引き出しがあるやもしれません)





リンの期待は、場違いにも膨れ上がった。
アルのような命をつなぎ留める印は見当たらず、機械仕掛けのホムンクルスでもなさそうなエイトの体。
まさしく不老不死そのものだった。
エドが確かに工場内にいる気配を感じていたにも関わらず暴走機器に付き合っていたのは、紛れもない不死への興味だった。

796 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:30:18 ID:LkOmKOlMO


#####


《三つのボールを、狭いエリアに立つ人間の的に当てる。全部避けきれたら的の勝ち。一つでも当たれば投げた側の勝ち。》



地を蹴る。
爪先の針の切っ先が砂を巻き上げ、鈍い風に散った。
天翔る馬のように、中空へ脚を躍らせる。踵は蹄の如く雲を叩き撥ね返し、翼の代わりに託されたフリルを存分に広げた。
両足を揃えて着地する。あくまで華麗に、優雅に。
アルカロイドが塗りたくられていた針を、目の前の無防備なヒラメ筋にプレゼントする。
残念ながら毒は流されていたが、林檎のように赤い血は、殺意を性欲に変換して依存する身体に熱を注いだ。
大股で飛び上がり、細い腰をひねる。浮かぶ白い太ももは太陽の残滓と重なり、骨すら透き通るほど艶やかに見えた。
コンマ数秒のはずの回転が、ひどくゆっくりと輝いた。重点に磨いた足技が、雲間の光を湛えて宙を切る。
くるぶしが、男の側頭へと見舞われた。
しかし惜しくも薙ぎ払われる。
悲鳴を洩らす女を肩に担ぎ直し、男は武器を手にする。
みなぎるのは破壊衝動。
幻ともとれる、甘美な絶対有利な立場に酔いしれた。
天然パーマに死の接吻を交わし、眼球を潰すには、まだリーチが足りない。
戦うには忌々しいまでに長い距離と、戦うには狂おしいまでに短い時間が愛しい。

少女を下ろさず、業物を抜く男。太く固そうな足に、赤い涙が垂れている。
胸にはじけるのは興起と魅力の泡。
いつか見た、優しいお兄様と重なる。
集められた男はフェミニストばっかりだろうか。必死に弱者を守る男性は美しい。だからなぶり、ねぶり、はみたくなる。
じわじわ追い詰めたい。

相手も人ひとり抱えている割には軽いフットワークだ。横一振り、刃を滑らせられる。
刃が起こす風は士気を携え、鋭い衝撃波になる。
皮膚が削がれて血の温かさを感じたが、またそれも幻だった。傷はついていない。
社交ダンスに似たステップを踏み、突きをかましてきた。脇腹に大穴が空いていてもいい攻め込みだったが、

すりっぷ

ぬるりと滑った。
ただ、服は裂けた。
素敵なスリットがはいる。
尻が地面につくギリギリまで屈み、収縮した筋肉を解き放つ。高く高く跳躍し、膝を曲げ男の前頭部に一発かます。
少女を棄てれば避けられたのに。本当に優しいお兄様。
脳内モルヒネは大量分泌している。火傷の痛みも感じない。火照るのは身体の表面よりも、頬と胸と下半身。
だって、乙女ですもの。
風が一時止む。羽の化身であるスカートが膝下まですとんと隠す。
ちょいと生地をつまんで空気の階段を駆け上がる。
刃がどこかにかけられた気がしたが、無視する。
幾分狙いとはズレて、面の皮をごく薄く剥がした程度に終わる。
無関心そうな顔をしていても、背筋がぞくぞくする危険な香りが漂うこの男を手込めにしたい。
縦に爪先を下ろす。
ふんどし男の、大事な場所を守る砦に切り込みを入れた。
少し距離が足りず、腰に回す布の部分がほつれただけだった。だが、いずれ切れるだろう。ずるをしたミサンガのように。

眼鏡の少女が暴れだす。
少女は肩の妙な飾りを途中まで発動させたが、男に拒否される。待ち一辺倒に転ぶとまずいなんて叫ばれ、しゅんとなっていた。
その通り。待つのは性に合わない。立ち向かう無謀な顔、逃げ場のない恐怖に怯える顔が好物だから。

刃の乱れ斬りをかいくぐる。服がどれだけぼろ切れになっても構わない。
お荷物のせいで実力を発揮できない男だけをいたぶるのは癪でもある。男の頭に手を置き、それを軸に上空へ半回転する。
男の背中側に、担がれた少女の頭がある。着地寸前、少女の頬をそっと撫でてやった。眼鏡の下の端正な顔立ちがくしゃりと歪む。
今まで少女の重みに耐え踏ん張っていた、たくましい二本足が浮く。男は武器を持つ片手だけで倒立前転し、勢いで背後のマーダーを蹴り上げていた。

すりっぷ

打撃は無効。だがその勢いを生かし、少女を地面に落とさずに一回転した。
土産に一太刀浴びせられる。またぱらりと服が切れた。
惜しいところだった。もう少しで少女の額の傷へ爪を立て、顔面をひっぺがしてやれたのに。剥き出しの筋肉に飛び出た眼球が拝めたのに。

包帯が邪魔だ。
留め具をぴんと外す。
全身に巻きついた、膿だらけの包帯をいっぺんにほどいた。
新体操のリボンを思わせる、ふんわりとした一筋。
薄汚れた白い帯が、めくれるゴスロリ服の下の裸体を晒していく。魔法少女の変身を逆再生させたかに見えた。
腕も顔も胴体も、大切な商売道具の脚も、冷たくなってきた空気に触れた。

797 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:30:48 ID:LkOmKOlMO
白夜叉と少女は息を飲む。
今まで攻撃してきた女が隠していた姿を見た。
焦げ、焼け、削げ、剥け、もげ、切れ、脹れ、擦れ、蒸れ、腫れ、垂れ、濡れ、
動くのもままならないはずの重度の火傷を負っていた。
包帯に染みた膿が固まり、取る際に少量の肉も一緒にこびりついている。
麻痺させていたのは血肉への興奮と戦闘欲だ。醒めないクスリを打ったように、すっきりしている。なのに夢の中にいるように、ふわふわしている。
両立しえない二つが、確かにそれぞれ成り立っていた。

「……冗談はほどほどにしろよ、オネーサンよぉ」
「冗談?私に本気も嘘気もなくってよ。
そのお姉様を置いていけば、逃げる時間を与えますわ」
「それこそ冗談にしか聞こえねぇな」
「……本当に、素敵なお兄様。その娘には勿体ないくらい」

包帯が砂利にまみれる。
傷を清潔に保つ防護壁はなくなった。
後ろ歩きで距離をとろうとする男を追う。眉間へ深々と針を突き立てるまで、どこまでもつきまとう。



――スコン



軽い音が降ってきた。
見ればさっきまではなかったはずの、空のペットボトルが転がっていた。
共通支給品の一つ、飲食物のものだ。
プラスチックらしき軽い円錐が容器の底に接着され、側面には三角の翼が貼ってあった。
なぜか、火のついた煙草も数本くくりつけてある。
もう一本、今度ははっきり飛んでくる影を確認できた。
発車点は百メートルほど先の工場の屋上からだ。
援護射撃のつもりか。

こんな頼りない、ペットボトルロケットが。

難もなくよける。
情けないゴミはまた転がる。

曇天でなければ、最後の一発が地に映る影でわかったはずだった。
ほぼ真上から、三つ束ねられたペットボトルが体当たりをしに落ちてきた。
視界にあまり入って来なかったのは、このペットボトルだけ大きく高く放物線を描いた軌道だったからだ。
二発目、いや一発目が発射されるよりも前に空中にいたに違いない。
最初の二発は囮だ。

小賢しい。
針付きのシューズではたき落とした。
冷たい水が服と頭にかかる。

いや、水ではない。
匂い、量、両方とも推進用に使う水とは考えられない。
気化熱に体温を奪われた瞬間、煙草の火が唸った。


ガソリンが、爆発した。

798 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:33:26 ID:LkOmKOlMO


#####


リン逹がエイトに襲撃されている頃、三人は屋上にいた。

エドとリンで消費した食料支給品と、エドがたまたま持っていた多数の食料品から、ペットボトルを抜き出した。
計五本の空のペットボトルに簡単な工作を施す。
エドには空気ポンプを錬成してもらう。
二本は囮兼点火用。
ゴルゴが持っていた小物の煙草と、エドの情報を引き換えにペットボトルへくくりつける。
意外に煙草の火は消えにくいのだ。

残り三本は組み合わせて、強い推進力を持たせる。
安藤が工場の隅で発見したガソリンを、正確に飛ばせる限界まで乗せた。

ペットボトルロケットの飛距離は、最大二〜三百メートルだ。
余計な荷物を乗せているので、どれほど飛んでもせいぜい百メートル程度。
前線で男女を襲う女が圏内に入った瞬間から援護射撃を始めた。

ガソリンさえ飛び散れば、目標には当たらなくてもいい。
とはいえ、目標物に当てる精度が悪いのはペットボトルロケットの弱点でもある。
しかし参加者中、最高の射撃の腕前を持つ者がここにはいた。
彼は打ち上げる角度、力、時間を瞬時に計算して、概数を叩き出す天賦の才能を持つ。
すべて有り合わせのミサイルが完成した。
閃いた者、作る者、技術を携える者が、まるで迎撃するべく示し合わされたかのように揃っていた。
結果、完全に成功したのである。


ただ、エドにとっては不測の事態だった。ガソリンをひっかぶらせるつもりはなかったのだ。
二人と襲撃女の間に炎の壁を作るだけだと、安藤に聞かされていたのに。
ゴルゴのメス投げを目の当たりにして、この人なら上手く炎の壁を作れると信用してたのに。

「……殺し、た?オレが?」

いくら直接手にかけてはいなくとも、不測の殺人に協力したのは事実だった。

「まさか、殺人を元より承知でこの仕掛けを考えたのか……?」

安藤とゴルゴに問う。安藤は千切れんばかりに首を振った。

「偶然だ、俺にそんな度胸はない!本当に、引き離せられればいいだけだったんだ!」

ゴルゴの返事はない。
後悔、懺悔、変えられない現実。
ひたひたとエドに迫る重圧の枷。

「うわっ!?」

ゴルゴが安藤とエドを抱える。

「危険人物が来る。退くぞ」

退くって、どこにですか!
安藤が尋ねる前にゴルゴは屋上を脱出した。危険人物は南側から来る。そろそろ工場北側は封鎖される時間だ。
巨体に秘められた瞬発力で、一気に階段を駆け降りる。
途中、薄いガラスを割り、工場全体へ危機信号を送った。



ジリリリリリリリリリリリ!!!!!



けたたましく響く警告音。
火災報知器が鳴り渡る。
スプリンクラーが作動し――防火壁が下りる。
当然、水族館へのワープポイントにも。
ゴルゴは、工場一階を探っていたときに発見した非常口へ滑り込んだ。

799 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:34:44 ID:LkOmKOlMO
【A-3/水族館ワープポイント非常口前/1日目/日中(14時十数分前)】

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、
    頭部に裂傷(小・手当て済み)、精神的疲労(中)
[服装]:膝下ずぶ濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:人を殺した……?
1:リンと合流したい。
2:〝計画〟の実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
  この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
3:鳴海歩と接触するため、自分用の携帯電話を入手したい。
4:出来れば聞仲たちと合流。
5:キンブリーの動向を警戒。
6:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
7:安藤との出会いに軽度の不信感。
8:九兵衛の首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
 プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
 また、島の中央に何かがあると推測しています。


【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
    携帯電話×3、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を守る。
2:首輪を外すため、錬金術師を確保する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
ゴルゴは出口の移動の法則を把握しました。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※エドと簡単な情報交換しました。

800 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:35:18 ID:LkOmKOlMO


#####


「チクショウ!開かナイ!!」

工場西側、ひよのとリンが、次々と閉まっていくシャッターから逃げ場を探していた。
防火壁横には、逃げ遅れた人たちのために鉄扉の設置を義務付けられている。その肝心の扉が開かない。
念入りに溶接されている。
ひとたび非常ベルを鳴らしたら、閉じ込める、もしくはもう入れないように造られている?
閉じ込められたら、外敵からは守られるが、次の封鎖区間に選ばれて生殺しのまま終わりだ。

なら窓は?
防音強化ガラスが嵌め込まれている。
換金孔は?
出るには狭すぎる。
ひよのの知る、ワープポイントへの道も、目の前で封鎖された。この分では、地下の意味深な空間も行けなくなる……

警告音が鳴っているが、災害的な危機の可能性は薄い。危険人物がいるか、外から近づいているか。

最後の出口になるシャッターが下り始めた。
光が段々閉ざされていく。
あと数十メートル。
全速力で走っても間に合わない。

「リンさん、捕まって!」

ひよのはエイトの鉄線をほどいた。解放されたと喜ぶエイトを再び突き飛ばす。
俯けに倒れたエイトへしがみついた。

「エイトさん、介護ジェットを噴射して下さい!」

リンも合点がいったのか、エイトの腕を掴む。
工場にいたもうひとつの巨体も秘められた力を発揮する。
今までで最高の出力で、エイトは離陸した。
猛スピードで、床すれすれを伏せたままかっ飛ぶ。
風圧をもろに受ける。
引き剥がされたら、金属片が散らばる床に皮膚を切り刻まれる。

爪先が防火壁の隙間から抜けた瞬間、シャッターが下りた。
だがついた勢いは簡単に止まらない。
壁に衝突する!

エイトのねじのような両耳を掴み、リンが舵を取った。
床から垂直な壁へ、滑る対象が変わる。景色が90度傾いた。
工場出口の扉をぶち破る。エイトの頭部がはっきりひしゃげた。

「ガ……ピビピ……ガ」

不吉な機械音を漏らす。
工場を飛び出し、まだ直進する。


#####


炎の中心では、くすぶった女が狂ったように身体の肉をむしっている。これは自分の身体ではないと確かめて、認めずにいる。
力尽きて、女は崩れた。たまに表面の炭が剥けて、眼球や歯があらわになる。

思わぬ援護射撃だった。
女だけ相手をしていたが、バックにより危なそうな男女が構えていたのは知っていた。

――やっぱあの工場に隠れるのが一番じゃね?

まだ距離があるうちに離れたい。
逃げ足は脱兎のごとし。
破魔矢が頭をかすめる。
こちとら戦車とやりあうはめになったんだ、矢がまだかわいく感じる。

工場まであとちょっと……で、ものすごい警告音とジェット音が聞こえた。
直後、扉を跳ねとばして奇っ怪な物体が出てきた。
バイク?ミサイル?
地面と平行に空中飛行してたが、しがみついてる野郎が舵をきって、垂直へ立て直した。

「サイダイ、カイゴジェットカイホ、ウ、シマス
5、4、3、2、」

片言を話す物体めがけ、

「俺らも乗せてくれぇぇぇぇえええ!!!!」

しがみつく。沙英を担いだまま銀時は首を手を回し、最初から乗ってた娘はロボ腕に、野郎は足をロボ腕に絡ませロボ耳を握る。

「1」

801 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:36:37 ID:LkOmKOlMO


#####


「なんだよ、面白くねぇな」

ぷすり、と使い捨ての道具が燃え尽きた。
様子見でほっぽっておいたが、あの面倒くさい性格のスズメバチを相手に、人ひとり抱えたまま戦ってたのは称賛できる。
手を合わせてもらおうかと射掛けたら、とんでもない機械に乗って上空へ消えちまった。
比喩じゃねぇ。本当に消えた。
すぐ後に、全然別の空で爆発、旅館あたりの場所でも爆発が起こった。
無関係じゃないだろう。
妙な空間でつながってんじゃねーかきっと。

それにしても何だったんだありゃロケットか?
しょぼいペットボトルロケットがスズメバチを的にしてたのは最初から最後まで見てたが、あんな馬鹿みたいな
ロケットを見ると、ペットボトルを必死にどうこうした奴が哀れで涙が出る。

まぁいい。
見てたってあの女を助ける義理はない。
あの手駒はいずれ全身化膿して死ぬ運命だった。
ふんどし変態野郎と戦えただけでも有難いと思え。

「あの辺りかしら。落ちた場所は」
「死んでんじゃねーか?あんな高さから墜ちたんだからよぉ」
「生きてるか死んでるかなんて関係ない。
ルフィを、サンジを殺した奴なら、死体を男が男である証を、女が乙女である証を破壊するわ」

おお、おっかねぇ。
身震いした。ロビンに、ではなく、ちらついてきた白いものに。


【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】


【E-6/工場入り口前/1日目/日中(14時数分前)】


【秋葉流@うしおととら】
[状態]:健康、法力消費(小)
[服装]:とらとの最終戦時の服
[装備]:錫杖×2、破魔矢×13
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜3
    PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー、化血神刀@封神演義
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:ロビンを利用しつつ参加者を撃破。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:万全の状態でとらと戦いたい。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味。
7:空中のワープゾーンに興味。
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※ロビンが咲かせるのは右手だけだと思っています。
※PDAの機能詳細、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
※上空の『何か』と旅館が怪しいと睨んでいます。


【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:左腕に銃創×2(握力喪失、手当て済み)
[服装]:シャツにジーンズ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(名簿紛失)、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂、
    双眼鏡、食料、着替え、毛布、研究棟のカードキー
[思考]
基本:勝ち抜き狙い。帰ったらプルトンを復活させて世界を滅ぼす。
1:秋葉流と協力して、効率的に参加者を排除する。
2:可能なら、能力の制限を解除したい。
3:ヴァッシュに対して――?
4:ルフィたちのいない世界なんていらない。
[備考]
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。

802 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:40:01 ID:LkOmKOlMO


#####


それは手榴弾より軽い重さ。
それは両手にも余る大きさ。
それは『神』に運悪く選出されたリンに、バランスを取らさせようとするが如く授けられた代物。
導かれたような巡り合わせは、また導かれたように別れを告げる。



なんとなく、『気』がおかしい上空へリンは舵をとる。
安藤が落ちてきたときに感じた妙な気配。工場への侵入者が出入りしていた妙な気配。
それが近くを縦横無尽に動いている。
いつエネルギーが切れるかもわからぬ機器をひねり、気配を追い続けた。
だが空の旅は、急激な展開で終わる。

流から放たれた破魔矢が、四人の乗る機械へまっしぐらに向かってくる。
機体を大きく旋回させた。
揺れた瞬間、デイバッグの隙間からバラバラの実がこぼれ落ちた。

リンは腕を伸ばし、実までの距離が足りないとわかるや空中に身を放り投げる。その動作を認識するまでには全てが終わっていた。教会近くの森へ、すでに飲み込まれていた。

そんな一瞬だが、銀時は、沙英は、ひよのは、忘れることが出来ないリンの表情を見た。
血走った目に焦りの眉、引き結んだ口、執着の隈、そしていとおしげに実を抱える腕。何もかも噛み合わないが、リンの性格をいっぺんに表していた。

悪魔の実は、関わる人間を滅ぼす、文字通りの悪魔となった。

【E-7/森/1日目/日中(14時数分前)】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師 生死不明】

※少なくとも500m以上上空から落下しました。

803 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:40:33 ID:LkOmKOlMO


#####


体が動かない。
金縛りみたいなことって本当にあるんだ。
皮肉だけど、ひとり落ちて軽くなった機体は、空に飲み込まれた。
操縦は、銀さんと浴衣の女の人がめちゃめちゃやって、不可逆一方通行のワープを覆した。どうにか最初に落ちた旅館へ戻れた。

ロボットはボイラー室を出た廊下の天井に頭をぶつけた。
銀さん曰く、
『ギャグにおいて、顔が適当で人格があって使い捨てキャラっぽい小者臭がするロボは大概爆発オチ担当なんだよっ!!』
らしい。

ロボットをワープ空間に押し込んで、銀さんは女の人も一緒に抱えて階段を上った。
顔面の筋肉が崩壊しそうなほど物凄い形相の銀さんが、どうしようもなくおかしかった。そんなこと考えている場合じゃなくても、変な笑いがこみあげた。
壊れたのかな、私も。
いよいよおかしくなったロボットは爆発した。よく助かったと思う。
爆風で変な方向へすっとばされて、大浴場へダイブした。床が異常にぬるぬるする。

ゆの、私ちょっと疲れちゃった。
お願いだから、無事でいて。

【エイト@ハヤテのごとく! 死亡】

【G-8/旅館大浴場/1日目/日中(14時数分前)】


【沙英@ひだまりスケッチ】
【状態】:額に深さ数mmの切り傷、全身麻痺、洗剤まみれ、ツッコミの才?
【服装】:
【装備】:九竜神火罩@封神演義
【道具】:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
輸血用血液パック
【思考】
1:何が起こったか把握したい。
2:銀さんと協力して、ゆのを保護する。
3:ヴァッシュさん達は無事だろうか?
4:銀さんが気になる?
5:深夜になったら教会でグリフィスと合流する。
6:ヒロの復讐……?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れた?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
※ワープ空間の存在を知りました。

【坂田銀時@銀魂】
【状態】:疲労(中)、洗剤まみれ
【服装】:下がふんどし一丁(生地切れかけ)
【装備】:和道一文字@ONE PIECE
【道具】:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味、水洗いしたズボン
【思考】
1:目が肥えたオタならすぐに想像つく爆発オチを最後に持ってくるとか最悪じゃねぇか!?
2:沙英を守りながら、ゆのを探しに行く。
3:ヴァッシュ達と合流したいが…。
4:深夜になったら教会でグリフィスと合流する?
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※流とロビンを危険視。しばらく警戒をとくつもりはありません。


※ボイラー室へ続く廊下の天井に大穴、旅館が半壊しました。




【エイト@ハヤテのごとく!】
ハヤテと執事能力バトルをした短気な介護ロボ。単行本第2巻からの参戦。
介護ガン・介護ジェット搭載。本来なら加えて介護ミサイルもついている。
一応意思持ち支給品なので、CPUに爆弾装備(爆発)。

博物館展示物のエイトとの関係は……?

804 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:43:18 ID:LkOmKOlMO
ムルムル温泉ですか。
『神』もなかなか趣味の悪い仕組みをお持ちのようです。

ボイラー室と上空がつながっているなら、本来あるはずのボイラーはどこにあるんですか?
この通り、お湯はしっかり沸いています。

どこか別の場所にボイラーがあって、隠すためにトラップを引いたのか、
そもそもボイラーなんて存在しなくて、代わりに中空からエネルギーを吸いとっているのか。

どちらが真実であるかによって、仕掛けた目的も変わってきますね。
ワープトラップと傷に効くやら疲労回復やらの効能は、その副産物ではないでしょうか。

やれやれ、工場といい旅館といい、この島の地下は色々ややこしそうです。
地下室があるのはここだけではないはずです。
調べてみる価値はたっぷりありますね。


【G-8/旅館大浴場/1日目/日中(14時数分前)】

【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、喉にごく小さな刺し傷
[服装]:浴衣の下にイルカプリントのTシャツ、ストレートのロングヘア
[装備]:綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、太極符印@封神演義、改造トゲバット@金剛番長
    番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム
    若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、水族館のパンフレット、自転車
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:雪に備えてもっとまともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックとなんとしてでも合流しておきたい。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:博物館を重視。封神計画や魔子宮などについて調べたい。図書館と旅館も同様。
4:送ったメールへの返信を待ち、探偵日記の主との直接交渉の機会を作る。
5:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
6:安全な保障があるならば封神計画関係者に接触。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:三千院ナギに注意。ヴァッシュ、ナイブズ、レガートに留意。
9:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
10:安藤(兄)の内心に不信感。
11:リンの敵意を和らげたい。
12:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
   掲示板上の情報操作を行いたい。

805 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:46:44 ID:LkOmKOlMO
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)、銀時、沙英の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を最大に引き上げました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
 また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
 結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
 また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※島・それぞれがいた世界の他に第三のパラレル世界があるかもしれないと考えています。
※旅館の浴場とボイラー室のワープトラップの奇妙な関係に気づきました。



#####


腹と服の間、殺人日記に触る。


『本当に、引き離せられればいいだけだったんだ!』

嘘だよ。
東郷さんに頼んだんだ。
炎の壁よりも、マーダーを排除して欲しいって。
エドは攻撃した俺を残して工場へ行かなかったし、他人を思いやれる優しい奴だ。
だから言えない。これから人殺しの手伝いをさせるなんてな。
どうすれば鳴海やエドたちのように強くなれるのか、考えた。
色々考えて、遠回りして、やっと辿り着いた。

まず、できるところから始めよう。
危険なマーダーを殺していこうってな。
ちっぽけすぎる力でどこまでできるかわからない。途中で殺られるかもしれないし、副作用の悪化でそれどころじゃなくなるかもしれない。

でも、でたらめでも、信じれば世界は変えられる。
なら、変えてやろうじゃないか。
運命はまだ誰も選んじゃいない。

え?殺人日記?
これほどまでに神への反抗に都合がいい道具はないよな。
けど、まだ使ってないよ。
考えて考えて、ペットボトルロケットを思いついたんだ。
しょっぱい作戦だったけど、結果オーライだろ?
時期がくるまで……俺は自力でマーダーを排除する方法を考える。

806 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:47:44 ID:LkOmKOlMO

【A-3/水族館ワープポイント非常口前/1日目/日中(14時十数分前)】

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、腹話術の副作用(中)、魔王覚醒(?)
[服装]:泥だらけ
[装備]:殺人日記@未来日記
[道具]:なし
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。マーダーを折りを見て倒していきたい。
0:殺人日記――
1:エドの信頼を得て、脱出の手掛かりを探る。
2:潤也と合流したい。場合によってはキンブリーを殺すことも辞さない。
3:首輪を外す手段を探す。そのためにエドとは一緒にいておきたい。
4:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
5:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
6:東郷に対し苦手意識と怯えを自覚。
7:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
8:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
9:リンからの敵意に不快感と怯え。
10:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
11:危険人物は、可能なら折りを見て殺す。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放するかどうかは後の書き手さんにお任せします。


※工場の生産ラインの一部に異物(ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム 支給品一式×2、工具一式、金属クズ)が混入しました。
変なものが生産されるか、故障するかは後の書き手さんにお任せします。
※工場に防火シャッターが下りました。ただし道具を使えば普通に破壊できます。
また、地下空間へのシャッターは存在しません。


#####


白夜叉は立ち向かう。
美術に秀でた少女は翻弄される。
錬金術師は悩む。
魔を断つ少年は決断する。
スナイパーは任務をこなす。
妖怪専門家は闘いに期待を馳せる。
海賊は夢を見る。
探偵の助手は考察する。


それぞれの思いは交差し、離れていった。

ただし。

深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

807 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 01:53:23 ID:LkOmKOlMO
以上、投下終了です。
もしよかったら代理投下して頂けると助かります。

そして早速間違いを発見したので訂正します。

エドの状態表

[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分

[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚

でした、情けない。

808名無しさん:2010/04/10(土) 02:07:39 ID:fCPouc4s0
すまん、さるさんだ
誰か代わり頼む

ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1270740067/23n-

809 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 10:04:41 ID:LkOmKOlMO
またミス発見。

>786
『東側一階に一人だガ、絶対おかしイ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある東側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』

『西側一階に一人ダ。
更にだナ。また一階の話だガ、空間がおかしい場所があル。はっきり感覚がある西側の奴は、そこで反応が出たり消えたりしてイル』


本当に情けないです

810名無しさん:2010/04/10(土) 11:47:49 ID:/yjAHkC20
同じくさるさん食らいました。続き貼れる方お願いします。

ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1270740067/43n-

それと>>807の状態表を修正し忘れてしまいました、申し訳ないです。

811名無しさん:2010/04/10(土) 12:26:00 ID:Wvyxw0RU0
すいません。自分もさるさんです。
後は終了宣言と訂正部ですので誰か出来る方お願いします。

812 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 13:12:00 ID:LkOmKOlMO
代理投下してくださった方々、ご面倒おかけしました。ありがとうございます。

只今本スレで発言できないネット状況なので、しばらくはこちらで発言させていただきます。

813 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/10(土) 21:00:37 ID:LkOmKOlMO
投下をお願いした身で大変厚かましい要望ですが、本スレで仮投下>796に当たる箇所がごっそり抜けています。
補完していただけると嬉しいです。

あと指摘・誤字誤植は後でこっそり直すので無視してください。

814 ◆RLphhZZi3Y:2010/04/11(日) 18:37:02 ID:LkOmKOlMO
指摘・誤字修正しました。

815 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:14:09 ID:cyVgEGHo0
ネットから少し離れてる間に大変な事に……。
私も時間に余裕ができ次第、wikiの復旧に協力させていただきます。

あと、規制が未だ続いているので、またもこちらに。
どなたかに本投下をお願いしたく思います。

816名無しさん:2010/04/14(水) 20:25:06 ID:cyVgEGHo0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
趙公明は自重しない。

817名無しさん:2010/04/14(水) 20:26:46 ID:cyVgEGHo0
1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:11)

11(?):麗しき貴族“C”からの招待状 投稿日:1日目・午後 ID:7thmaRCoI
諸君! 僕が麗しき貴族C.公明である!
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の武勇伝が聞きたいかい?
そう、あれは千五百年前の事だった……!
あの時僕は、通天教主さまに崑崙との宝貝試合をもちかけたのさ。
しかしそれは叶わなかった。だから僕は一人で崑崙山に乗り込んで、原始天尊くんと思う存分戦いに興じたのさ!
その結果、仙人界は暴力が支配する恐怖と混乱の時代となったんだ!
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の朝は一杯のコーヒーで始まる。
僕の午後は一杯のアフタヌーンティーにて始まる。
そして僕の夜は豪華に優雅にモンラッシェで終るのさ!
さて、僕の雄姿が知りたい君!
僕の華麗なる立ち振る舞いを目にしたい君には、次の動画を一日5時間視聴してもらいたい。
きっと貴族というものがどういうものか理解できるはずだ!
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2508500
僕の伝説は紀元前から始まった!
僕の伝説は終わらない。これからも明けの明星のように輝き続ける……!
まだまだ僕の一端でも紹介するには語り足りない。
しかし紙面が足りない以上、名残惜しいが本題に入るとしよう!
そこの君! そう、ウィンドウの奥のトランペットを眺めるようにこの書き込みを見つめている君!
お察しの通り僕は“神”の手の者、この遊戯盤における鬼札さ。
そんな薔薇の運命に生まれた気高き騎士たる僕と、是非とも手合わせしてみたい君たち!
あるいは“神”たる彼に挑もうと虎視眈々と付け入る隙を狙っている君たちに朗報だ!
そろそろこの殺し合いも円熟し、この“ネット”を知るものも十分増えた。
だから僕は考えた!
そうだ、武道会を開こうと。
それもただの武道会ではない、華やかに、美しく、麗しき武道会を開こうと思う!
ルールはバーリ・トゥードのバトルロワイヤル!
その場に集まった者たちで好き勝手に闘り合おう!
もちろん命と命のぶつかり合いだ、そこに容赦と手加減などの一切はなく、死人が出るのも致し方ないだろう。
戦場という名のこの世で最も高貴な舞台となるのは競技場だ。
既に君たちのうち何名かにはその旨を伝えてあるけれど、せっかくならば盛大にと思ってね。
楽しみを皆で別てるよう気を使うのも貴族の嗜みなのさ。
そこに僕の趣向がいくらかないかといえば、確かに否定はできないけどね!
ちなみに出席者は今は内緒にしておこう、誰が招かれているのか秘密にしておくのも花というものさ。
もしかしたら君たちの良く知る誰かも何らかの理由で参加するかもしれない。
彼か彼女を慮るならば、是非とも心当たりのある者も来てくれたまえ!
そうそう、戦いは本来それだけでこの身を掛けるに値する代物だが、しかし中にはそこに意味を見いだせない可哀想なお友達もいる。
悲しい事だね……!
だが、そんな友人たちにも是非とも己の意思で参加してもらいたいと、僕は考える。
故に――賞品を設けようと思う!
武道会を戦い抜き、僕に勝利したならば君は栄光、名誉と共に実利まで手に入れられるのさ。
それはこの遊戯と、主催者たる“神”の情報だ!
僕はこれらについて、君たちからの質問に答える事を確約しよう!
この会場の中で、彼と直接面識があるのは僕だけだ。
いや、主催陣の中でさえ彼の顔を知っているのは片手で数えられるかどうか。
そんな数少ない面子の一人である僕からの、この招待状を見た者はとても幸運だろう。
そして急ぎ決断したまえ。
彼との唯一の窓口たる僕が万に億に一つ敗北してしまった場合、その場に立ち会う事の出来なかった君は、
一生“神”の情報を手に入れる事が叶わなくなるのだから!
それだけじゃあ物足りないという強欲な君!
無論僕は他にも商品を用意しておくよ、楽しみにしていたまえ!
集合は午前0時、第4回放送の頃だ。シンデレラの魔法が解けるのと引き換えに、素晴らしき戦いの時間が始まるのさ!
オー・ルヴォワール、願わくばまた会おう! また会おう……!
そしてトレビアーンに戦おうじゃないかっ!

P.S.不幸にもネット環境を得られずこの招待状を見る事の出来ない人々にも、是非ともこの催しを知らせてくれたまえっ!

818 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:28:49 ID:cyVgEGHo0
**********


西の方に走り去っていく重なり合った二つの影。
その背が木立の向こう側に消えたと同時、辺りに全く配慮なしに豪勢な音楽が響き渡る。

優美に建物の上から降り立った金髪の美青年――趙公明。
パチン、と手にした携帯電話を閉じて、彼はブワリと涙で頬を濡らす。

「素晴らしい……! 素晴らしい!
 いや全く、文明の進歩というのは実に素晴らしい!
 僕たちの時代にもこういうものがあれば、と思わずにはいられないね!」

クルクルと舞う趙公明の周りには、薔薇の花弁が幾重もの螺旋を作り出している。
音源の見当たらない曲といいこれだけ大量の花といい、一体何処から持ち出したのか。

「ノンノンノン! 無粋な突っ込みはよしたまえよ地の文くん!
 それよりもさっさと今の僕の状況を説明したまえ!」

メタ発言は止めなさいと。
世界観を崩すつもりか。

「ふむ……それもそうだね。僕とした事が迂闊だった。
 このお話もせっかくいい具合に進行してきたというのに、これでは物語として美しくない!
 では、読者の諸君! これまでのやりとりは存在しなかったという事で一つ頼むよ!
 リテイクだ!」

819 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:34:04 ID:cyVgEGHo0
   |                       /::::::::::::/ _ ,.- ―――- - 、_  `ヾヽ 
   |                       /::::::::::::ムi刈/,.イノi ノ ./.: ,イ、.ノ i`ヽ、 ヾ.i
   |  しばらくお待ちください        / :::::::::::::ヾiハ.i/i/、_'´ ノイ / '´ .|....i ヽ ',.
   |                       / :::: :r_ヽミ i'  、_、_` ー-‐    i::::ハ:、 ...ヽi゙|
   |                       /::: :  .i .入     〃,Cヾヽ     jノ i!i::: :::ヽ|
   |                     ./:::: ::::: ..| レ.}    `; 弋;ソ '      .ヽ、.j }::::::::: |
   |                     /::::::::::::::::::i i .ノ    ` ー '      ,ニ、ヽ `ーi::::: : |
   |                      ./::::::::::::::::::::::ヽ`   ///     | .{シ∂ .ト ./::イ:: ,|
   |                  、_,.イ.ノi::::::::::::::::::::| |               ! ヾニ 、、./:ノj_ノ
 た  |                 ̄ノ:::::::::::::::::::::,:! '.      ,、  ヾ> // /
 だ. |              `、-.-.-ゥ: ̄ ̄ヽ‐-、::|i!  '.      .ハ_`ヽ、     /
 今..|               `>:/:::/_,_: : : : ヾi!  ヽ    .i: : ヾ/   ノ
 の . |              ,イ/:/: :イ /  ヾi: : : :',  : :ヽ   ヽ ´   ,.イ::|
 放 .|             i/:i: i: ェ、i/ ,-ュiイ: : :、:i  : :|::ヽ、_ ,. . ィ'´:::::i::::i.
 送..|             |/Vイ '@  '@ヽ`i: : i,ヾ、  : i::::、:::::::::i::::::::::iヾ::::::::ヽ、.
 に..|               ヾi,`ン  `、´、.iハ::i:',    ハiヾ、::::|、:::::::i ヾ::::iヾ:i_ 
 不..|                ト、 、=ヲ , i'i: :i、'、  i    ヾ:i ヾiヾ、_ ヾi
 適..|                _iヽ _ ィ´  ヾiハi―、_ 
 切 . |              ,.ィ ´ ヾi::i    _ノ ハ     冫- 、 
 な..|           _,ィ´ | /.  jノニ二 ノ        i   ``ヽ、__ 
 表..|        ,、‐'´ 、  i_ , ィ´ヽ、       (ヽ. |    i    `i、 
 現 .|      _/´ ̄  ̄ ̄   .、ヽ、冫        '. .|  , / /  / ̄`ヽ、
 が..|     /         、 ヽ_ン'´           ヽ '.ノ  ./ /       ,)
 ご..|     /      /一´i`´            ヾーi―/       / 
 ざ..|     ヽ、_,. -‐ ' ´    |            ___.!ノ        /
 い..|                   '.        / /              _/
 ま..|         __         '.    / // / / ,    __. -‐' ´
 し..|    ィ ´ <:::::::`:::..、    !    / /   `i__/ ./ ノ-'´i 
 た..| ,.イ:フ''     __ヾ:_:_:_:_::iヽ、__.|ヽ         `´ー'   冫
 こ....|,イ::::::こくりつ. /      `Y ヽ、/ .r-、'´ ̄  ̄`Y´  ̄`、  .r-、
 と....|::::::| ̄ ̄|-'^-|       /  ヽ |  |       l、   .| /  | 
 .を.....|` |.[ ̄].|_―_' ー-r-、7  .|ヽ、  ',/  i`ー―― '  ̄| .! /  /  がくえん
 お..|::::|.[_ .d.|、V /  / r'  .| i::ヽ、_ノ  | y'    __/ //  /く>くY >|  ̄ ̄ l
 詫..|、: :| L..コ.|-' '┐ / .|   / .i:::::::/  /_i__(     .7   i | _  ̄_`l ヒ コ |.
 び. ..|::..└‐‐.┴.‐.┘ /  ハ、_ノ   i:::/  /      `i――/   .| L|  ̄ i-l l__l |
 致. ..|、::::::::i  , --、__/  /   __/   ハ.____ノ ./     i┌テ .'-| { = }..|
 .し . | ヾ、:::ヽ.i     /__ l´     ./ </  /  `―´  ./|  i .L_ __」 [, <>.|
 .ま  |   ヾ、.ヽ、__ノ::::::::::::ヽ、_/  /    !       / .|   |  | ̄ / .| ´ ` |
  す . |                    /     `ー‐‐'´   ヽノ
  ...|                  /        ム_ ヽ_A 
   |                     /         /   ̄  i

820 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:35:09 ID:cyVgEGHo0
**********


西の方に走り去っていく重なり合った二つの影。
その背が木立の向こう側に消えたと同時、辺りに全く配慮なしに豪勢な音楽が響き渡る。

優美に建物の上から降り立った金髪の美青年――趙公明。
パチン、と携帯電話を閉じて、趙公明はブワリと涙で頬を濡らす。

「素晴らしい……! 素晴らしい!
 いや全く、文明の進歩というのは実に素晴らしい!
 僕たちの時代にもこういうものがあれば、と思わずにはいられないね!」

クルクルと舞う趙公明の周りには、薔薇の花弁が幾重もの螺旋を作り出している。
まったく脈絡もなしに唐突に思い付いた武道会のアイデア。
彼はその、自身のアイデアの素晴らしさに打ち震えているのだ。
そしてだからこそ――ミリオンズ・ナイブズと今戦う事を選ばず、見送ったのである。

ヴァッシュ・ザ・スタンピードとミリオンズ・ナイブズ。
太公望という好敵手を失った今、彼が最も闘いたいと願うプラントの兄弟。
だが、趙公明は普通に戦うだけでは物足りない。
華やかに、麗しく。即ち華麗なる戦いでこそ、彼のその欲求は満たされる。

その為の手段として思い付いたのが、競技場を舞台とした件の武道会。
やるならば盛大に、それこそ会場の他の参加者すべてを相手取って戦ってみたいとさえ彼は思う。

この無謀なようで実に彼らしい考えに辿り着いたのは、デパートで狂戦士の甲冑を掘り起こした直後の事。
視線を感じ、それとなく辺りを探ってみれば、間違えようのないナイブズの気配がそこにあった。
喜び勇んでその挑戦状を受け取ろうと思ったのは一瞬、しかし彼の感性がそれを否定する。
決着をつけるならばもっと相応しい舞台で――と。

タイミング良く闖入者が現れ、ナイブズの意識を逸らしてくれたのは幸運だった。
あのままでは間違いなくナイブズから仕掛けてきていただろう。
……本当は、闖入者である黒い剣士――間違いなく“ガッツ”であろうと趙公明は確信しているが――とも、手合わせしたかった。
心の底から戦いたくて、しかしどうにか震える手で駆け込もうとする体を自制。
溜めて溜めて溜め込んで、それを一気に解放した時に感じるエクスタシーこそ至高であると、趙公明は知っている。

歩く。貴族衣装を靡かせて。
歩く。出どころの知れないワイングラスを傾けて。
歩く。無駄に丁寧なクラシックを伴って。

歩きながら――考える。

既に招待状の発送は終えている。
ネットという自分の世界にはない技術に目を付けて、誰の眼にも止まるよう武道会の開催をアピールした。
だが――どうせならばお楽しみを大量に用意したい。
せっかくだから、様々な趣向を今から考えておこうと考える。
たとえば、パーティーにはサプライズが付き物だ、とか。
主役は遅れて登場するものだ、とか。

821 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:35:35 ID:cyVgEGHo0
その中の一つとして思い浮かんだアイデアが――これだ。

「初めましてゾッドくん! 僕は薔薇の貴公子、趙公明!
 突然だが、君には僕の馬車となってもらいたい!」

趙公明の視線の先には、巨躯の益荒男が珍しくも呆気に取られた顔を見せていた。


**********


ゾッドにはどう応対すればいいのか分からない。
目の前の珍妙な男がどんな存在なのか、まったく掴めない。
故に沈黙で返し、その剛腕を振りかぶるも――、趙公明とやらは全く無視してぺちゃくちゃ囀り続けるのみだった。

「……というわけで、やはりパーティーにはサプライズゲストが必要だと僕は思う。
 その意味で言えば、一度退場したはずの君以上の人選はないと言えるだろう。
 宴も最高潮に達したその時に、君の背に乗り僕は空からエレガントに舞い降りるのさ!」

喧しい。
力ずくで黙らせる。

轟、という音と共に右の拳を突き込む。
その一撃は岩をも砕き、生む風は容易く肉を切り裂く。

……が。

「ふむ、闘る気満々のようだね。
 願ってもない、僕も話に聞く君の強さを一度味わってみたかったのさ!」

――趙公明と名乗った男は、無事だった。
傷一つすら負わず、それどころかゾッドの拳の上に飛び乗ってさえいたのだ。

「……その巫山戯た格好、伊達ではないという事か」

ニィ、と趙公明の笑みが深くなる。
……ゾッドは、理解した。
表面上は自分とまったく相容れないように思えるこの男。
しかし、更に奥の奥の何処かで、非常に良く似た性質を共有しているのだ、と。

「アン」

腕の上を伝い、趙公明が踏み込む。
いつの間にやら手にしていた剣による高速連続刺突。

「ドゥ」

冷静に振り払おうとするも、どういうバランス感覚をしているのかぴたりと張り付き剥がれ落ちない。
故に、左手を肉の壁に。
無数の穴が掌に穿たれるも気にせず、そのまま張り手をブチ込んだ。
当たる。
しかし、効果は薄い。

「トロワ!」

822 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:36:21 ID:cyVgEGHo0
最後の一突きを弾き飛ばされる直前に放った趙公明は、空中でムーンサルト。
ひらりと彼が着地したと同時、ゾッドの左頬から血が噴き出した。
趙公明の剣は、左手を犠牲にしてもなお突き刺さったのだ。
ジュウ、という音と共に左の手と頬が再生を始める中、ゾッドは一瞬の攻防で生じた疑問を叩き付ける。

「……何を悩む。戦うならば迷いを捨て全力で来るがいい。
 叶わぬならば、貴様はここで潰れるぞ」

……趙公明の剣には、そのキレの割にほんの少しだけ鈍るものがあった。
それが何かは分からないが、ゾッドは手を抜かれたようで不快を感じている。
やはり彼も趙公明に劣らぬ戦闘狂。
故に彼は、相手が本気を出す事を望む。

それが何をもたらすか知る事はなく。

「……ふむ、バレてしまったならしょうがないね。流石は百戦錬磨の不死のゾッドだ!
 なに、話は簡単さ。僕は君相手に宝貝を使うかどうか迷っていたんだよ」

心の底から申し訳なさそうな顔をして、趙公明は真摯にゾッドに向き合う。

「――宝貝を使うなら、宝貝を持つ相手かヴァッシュくんやナイブズくんのように特殊な力を持つ者に僕は限りたい。
 それが僕の信条だからね!
 しかし、君のような頑強な肉体と再生能力に特化した相手というのはその判断基準に照らすのは実に難しい……!」

宝貝とは何か、ゾッドにはその言葉の意味は分からなかったが――、しかし、出し惜しみをするなとの苛立ちを得る。
自ら望んで死に臨もうとするその姿勢に、趙公明は太陽にも似た笑みを浮かべる。
この選択は間違っていないだろうと、それを確信して。

そして。

「ここで盤古幡を手にするのは簡単だ。けれど、やはり僕は自分の信条は貫きたい!
 だから――、」

趙公明がその言葉を口にすると同時に、ゾッドは趙公明の姿がゆっくりと解れていくのをその眼に、脳に、心に刻み込む事になる。
まるで――自分たち“使徒”がその本性を露わにするときのようで。
しかし趙公明の体から発される圧は、大帝ガニシュカすら上回りかねない代物だった。

「だから僕は、同じ鬼札たる君にだけ、僕の“とっておき”を見せてあげる事に決めたよ!」

ゾッドはそこで、初めて気づく。
……この男もまた自分と同じく、“神”の陣営に送り込まれた存在であるのだと。

「どうだい? ある意味で君と僕の在り方は――良く似ているだろう?」

ああ、本当に良く似ている。
それを認めたと同時、ゾッドの体もまた蠢き始めた。
歓びの叫びをあげながら、黒い獣が翼を広げる。


咆哮。

823 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:36:47 ID:cyVgEGHo0
**********




戦いは僅かに42秒で終結した。



しかし、その42秒で周囲数百メートルの森は、悉く消え失せた。
まるで旱魃でも訪れたかのように――草は枯れ、木は崩れ、無数の罅割れが大地に走っていた。
それはあたかも核戦争後の世界であるかのような光景だった。

その爆心地、エリアの三分の一近くを占める巨大なミステリーサークルの中央にて、傷だらけのゾッドは沈黙する。
情けを掛けられた屈辱が、彼の心を支配する。
その口から恨み節を漏らす事を、避けられない。

「……それ程の力を持ちながら、何故決着を渋る。
 貴様ならば、今すぐにでもこの島を文字通り支配し埋め尽くす事も可能だろうに」

独り言だったはずのそれに、いらえが返る。
勝者が元通りの姿となって地にその影を映し出していた。
その体からは一切の傷が消え去っている。『とっておき』を経由した影響だろうか。
ただ、ほんの僅かの開放にもかかわらず――疲労の色がその顔には微かに表れている。

「ノンノンノン、そんな単調で面白みのないゲームなんてやる価値はないだろう。
 勝てばいいという血生臭い戦いの時代は終わったのさ、如何に彩るかこそ戦いの醍醐味だよ!」

一々鬱陶しく感じるその所作に噛み付く気も湧いてこない。
完膚なきまでに敗北した。
ならば、出来る事など決まっている。

「……それで、返事はどうかな?
 僕の力を認め、今夜の宴の招待状を受け取ってくれたなら幸いなのだけどね」

「是非もない。……ただ、時間まで如何にして過ごせばいい。
 無為に過ごせというならば、今から貴様の首を捩じ切るぞ。たとえ届かなくともな」

それだけは譲る事が出来ないと、誇り高き戦士は猛る。
だが、無用な心配だ。
趙公明もまた同類。ならばそこを慮るのは当然の事。

「はーっははははは! 僕の器はそこまで小さくはないさ。
 ――好きに闘いたまえ、君の心の命ずるままに。
 ただ、ね」

「……何だ?」

「できれば、キンブリーくんに合流してもらいたい。
 彼は僕との連絡手段を持っていてね、パーティーの直前に再開する事も容易くなるだろう。
 まだここから東、そう遠くない所にいるはずだ、空から探せば見つけるのは簡単なはずさ。
 特徴は――、」

824 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:37:38 ID:cyVgEGHo0
付けられた条件を耳に入れながら、ゾッドは子供のように心臓の鼓動が大きくなっていることを実感する。
この男の巻き起こす戦乱とやらがどれほどのものか、いつしかそれを楽しみにしている自分がいた。

「……宴の直前、貴様の連絡が入るまでにその男と合流していればいいのか」

「その通りさ! キンブリーくんは僕や君の同類だ、きっと仲良くなれると思う。
 一応キンブリーくんにも、見つけやすい屋外にいてくれるよう連絡を入れておくよ。
 では――グッドラック! この素晴らしき闘争の場を君も大いに楽しんでくれたまえ!」

返事はしない。
この戦場で最後まで生き抜ける見通しの少なさなど、とうに把握している。
だから、趙公明の思惑など夢物語だ。第4回放送までに自分が死んだらどうするというのだ。

しかし、それでも――、

「…………」

口の端が吊り上がっていることを、不死のゾッドは自覚する。


【H-06北西/森/1日目/午後】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、全身に火傷などのダメージ(大)、左頬に軽微な裂傷、左手に無数の裂傷(小)(全て回復中)
[服装]: 人間形態、全裸
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
0:しばらく体を休め、傷を癒す。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける。
3:趙公明の頼みを聞く気はないでもない。武道会に興味。
4:キンブリーとやらを探す。
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※趙公明に感嘆。


**********


鼻歌を奏でながら何処かへ歩み去ろうとする趙公明。
不意に、そのポケットから誰もが一度は聞いた事があるであろう音楽が流れ始めた。

曲名は――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲 第三番交響曲“英雄”。
フランス革命後の麒麟児ナポレオン・ボナパルトに捧げられながら、ナポレオンの戴冠に際してその意義を剥奪された逸話を持つ曲だ。

その由来を知っているのか知らないのか、趙公明は羽ばたくが如き所作で携帯電話を取り出し耳に当てる。

「やあ、セリムくん! どうしたのかな、そんなに慌てて。
 もっとエレガントな立ち振る舞いというものを学びたまえよ!
 君は見た目も中身も――まだまだ若いのだからね!」

『どうしたもこうしたもありません、あなたは何を考えているのですか!?
 これだけの独断専行……、“彼”の情報を賞品にするなど、いくらあなたが“ハンター”とはいえカバーしきれませんよ。
 “彼”直々の介入ですら――、』

825 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:38:11 ID:cyVgEGHo0
その言葉を耳に入れた瞬間、趙公明の上機嫌は更に更に際限なく高まっていく。

「トレビアーン……! “彼”をゲストに招く事が出来たなら、きっとパーティーは盛り上がるに違いない。
 どうだい、セリムくん。君もそんな所で“セイバー”に徹していないで、たまには一緒に楽しもうじゃないかっ!」

『……戯れもいい加減にしてください。
 今の私は“セイバー”。参加者がこちらに踏み込まぬよう間接的に制御し、“彼”の目的達成をサポートするのが役割です。
 逆に言えば、それ以外の存在意義はない。……エドワード・エルリックに滅ぼされたこの身を再生してくれたことに報いねばなりません。
 ガニシュカといいあなたといい、“ハンター”はやり過ぎです。
 参加者に直接介入し殺し合いを促進するというその一点だけに専心していただかねば」

一笑に伏す。
趙公明は人生の先達として、子供のままの精神の存在を親切心から侮辱する。

「やれやれ、君は本当に幼い。青さには時として狂おしいほどに憧れるものだが、今の君は全く魅力がない。
 もう少し自我というのを強く持ち、己の欲のままに行動したまえ!
 そうでなくてはこのパラダイスを存分に楽しむ事など出来ないよ!」

電話の向こうは憮然とした態度を崩すことなく――、

『……警告はしましたよ。
 ガニシュカの勝手な行動が彼自身を破滅に誘ったのは“ウォッチャー”から聞いていると思います。
 その意味をしっかり覚えておくことですね』

吐き捨てるような言葉と共に、ブツリと通話がそこで途切れる。
ツー、ツー、ツーと単調に響く音をボタンひと押しで消して、趙公明は朗らかに笑った。

「……さて。キンブリーくんにも連絡しておかないとね。
 僕がゾッドくんに接触した事を教えたら、彼は移り気な僕に嫉妬してくれるだろうか?
 そうあってくれたらとても嬉しい!」




趙公明は自重しない。




【H-06北西/森/1日目/午後】

826 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:38:49 ID:cyVgEGHo0
【趙公明@封神演義】
[状態]:疲労(小)
[服装]:貴族風の服
[装備]:オームの剣@ONE PIECE、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演義、狂戦士の甲冑@ベルセルク、橘文の単行本、小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
0:キンブリーにゾッドの事を伝える。
1:闘う相手を捜す。
2:競技場に向かいつつ、パーティーの趣向を考える。
3:カノンやガッツと戦いたい。
4:ヴァッシュ、ナイブズに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
8:ネットを通じて更に遊べないか考える。
9:狂戦士の甲冑で遊ぶ。
10:プライドに哀れみの感情。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者の戦闘に関わらないプロフィールを知っているようです。
※会場の隠し施設や支給品についても「ある程度」知識があるようです。


※ポータルサイトの機能の一つに動画共有があります。
※H-06北西部を中心として、直径300メートルほどの森林が枯死しています。

827 ◆JvezCBil8U:2010/04/14(水) 20:42:14 ID:cyVgEGHo0
以上、投下終了です。

タイトルは
『戦おうじゃないかっ、趙公明1番!!』作詞 C.公明 / 作曲 魔礼海
です。

それと、恐らくしたらばの仕様だとは思うのですが、>>816の後に本来は空白行が15行ほど挿入されています。

828名無しさん:2010/04/14(水) 21:33:09 ID:dEgETNvs0
さるさん喰らった
誰か代わりをお願い
ごめん、空白の15行分空けるの忘れてた

829 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:42:49 ID:9Jfx9i7w0
遅くなりましたが投下します。未だ規制中ですのでこちらに失礼。

830ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:44:20 ID:9Jfx9i7w0
槍で刺せば死ぬ。

どんなに屈強な『番長』でも。
どんなに狡猾な『女狐』でも。

…どんなに狂った爆弾魔でも。

平等に、人は死ぬ。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆

目は覚めてるんだろう。
ただ、なんだか体が動かない。

……俺、何してたんだっけ。

ゆっくりと瞼が開く。
弱々しく首を動かして、周囲を見る。
たった二つの動作をするのにも随分時間がかかった。
安藤潤也は少しずつ思考を回復させていく。

「おはようございます、と言っても今はお昼ですがね」

しかし、回復しきる前に声をかけられた。
視線だけそっちへやると、男が立っている。
見覚えがある。確か話をした事もある。誰だったっけ?

「失礼ですが、少しキレイにさせて頂きましたよ。貴方の格好はあまりに酷かったので」

そう言われて初めて気がついたが、自分の上着が脱がされている。汚れていたからだ。

汚れ?なんで汚れてたんだっけ?

「それと、少し信用がならなかったので多少細工をしました」

動こうとすると、両足が鎖で縛られていることに気づく。これじゃ逃げられない。
でもまぁ、首輪よりマシだ。

…なんで首輪なんて思い浮かべたんだろう?

……もう、やめよう。どうしたって逃げられない。
俺に残された道なんて、もう10個もないだろう。
きっと選ぶまでもない。

覚悟を決めて、潤也は顔をあげる。その目はひどくよどんでいた。

831ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:45:07 ID:9Jfx9i7w0

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「意識はハッキリしましたか?」
「あぁ、おかげさまで」

キンブリーが入れた紅茶もほんの一口飲んだだけで、潤也は再び押し黙った。
状況はちゃんと理解している。当然ペラペラ喋る気分じゃない。
意識こそハッキリしていたが、頭の中はまだ少し混乱したままだ。
しかし質問には一応答えた。彼の質問は潤也の現状を知ろうというもの。
この殺し合いに巻き込まれてからの行動をいろいろと質問される。
要所をボカしつつ潤也は返答した。
その対応を見ながら、キンブリーという男を見定める。

自分は妲己を刺して、どこをどう走ったのかこのキンブリーと出会った。
そこで死者蘇生の方法が実在するかどうかを確認した。現状はそれだけだ。
しかし眠っている間に拘束されてしまったわけである。マヌケな話だった。
答えるだけ答えて少し落ち着いてきた。今度はこちらの番だ。

「拘束が気になりますか?失礼とは思いましたが…まぁあの格好でしたからね。
当然の対応と思って下さい」
「そんな事はどうでもいいんだ。アンタ…死人を蘇らせられるんだろ?」
「えぇ」

改めての問いにも、キンブリーの答え方は実に軽いものであった。

「証拠は?」

潤也の視線は淀んでいるが鋭い。

「勘違いなさっているようなので言い直しましょう。出来る可能性が非常に高い、と」

その後キンブリーは自分の計画を説明してきた。
錬金術、神を決める戦い、空白の才…
夢物語のような話だ。おまけにこの男が嘘つきであることは既に知っている。
やっぱりな、と潤也は思った。やっぱりあいつは騙されてるんだ。
一人の少女が思い出され、すぐに消える。

「実証は出来ないワケだ」
「残念ですがそうなりますねぇ」

紅茶を啜るキンブリー。
自分の論理を疑われているというのに、えらく余裕があった。

「……アンタ……安藤って名前の人間と他に会っていないか?」
「…いいえ。御兄弟ですか?」

その質問に、なぜか胸が締め付けられるように痛んだ。

「う、ガハッ」

不意に息が出来なくなったような気がして咳き込む。
慌てて紅茶に手を伸ばし喉に通すも、美味しいとは全く感じなかった。
ひとまず落ち着きを取り戻す。

「大丈夫ですか?」
「うるさい……俺の槍は?」
「あちらに立てかけてあります。危ないですから」

見るとキンブリーの背後に槍はあった。
ふぅ、とため息をつき、質問を続ける。

832ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:45:43 ID:9Jfx9i7w0

「なんとか番長ってヤツに嘘を吹き込んだだろ」

相手は顔色ひとつ変えなかった。
淡々とした調子で答える。

「えぇ、幾つか虚偽は織り交ぜました」
「チッ」

否定されないのが腹立たしい。まるで自分が聖者であるような態度だった。
どの話も胡散臭く、どの話も信じたくなる。混ざりこみすぎて判別が難しい。
先程自分に質問をしてきていた時も、まるで真意をみせないような…
それでいて正直に何でも話しているような…曖昧な感覚に囚われた。

「しかし全てではありません。貴方にも話した蘇生の話は真実ですから」
「……」

潤也はまたも黙る。
イライラする男だが、別にもう関係ない。彼にはするべきことがある。

兄の存在が本物なのか。あるいは根本的に、兄を蘇らせる事ができるのか。
それを確かめたくて、偶然接触できたこの男に話を聞いた。
でもやっぱり、信用できなかった。こいつの話はどれも確たる証拠がない。
『能力』で潤也にはわかる。嘘ではない。でも決して真実とは言えない。
こんな不確かなものにすがるのは嫌だ。
特に、もし本物だとすれば兄を危険には巻き込みたくなかった。
あとはここからどう脱出するかを考えていると…

「……やはりお伝えしておきましょう。安藤という名ですが、聞き覚えはあります」

ピク

黙り込んでいた自分を眺めていたキンブリーが、憂鬱げに話しだす。
信じるな。
そう自分に言い聞かせる。こいつは嘘つきだ。

「数分前に行われた放送の中で、その名が呼ばれました。大変…残念です」
「嘘だ」

即座に否定する。
彼には能力がある。1/10=1。
相手の発言が嘘か本当か、それだけなら見破ることも出来る。
潤也はちょうど近くにあった名簿をひったくり、兄の名前を再確認する。
その文字は決して赤く染まってはいなかった。

833ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:46:13 ID:9Jfx9i7w0

「…名簿ですか。実はその名簿には少々変わった機能がついていましてね。
 どうやら持ち主が放送内容を聞く等して、死を知らない限り赤くはならないようです。
 それは貴方に差し上げたもの。辛いとは思いますが…こちらを見てください」

この発言は嘘か真か…なぜか、しっくりこない。
能力が及ばないということは…嘘でも真でもあるということなのか。
それとも一息に話してきた内容が長すぎたのか。

相手が見せてきた名簿。
無意識に後ろから名前を確認していた。
確かに自分の見た名簿と随分赤く染まっている人間の数が違う。


…妲己。わかってはいた事だ。驚異が減った、それだけだ。

…剛力番長。死んだ、結局。だから、だから言ったんだ…

…金剛。今更自分が、コイツに何を思えるというのか。

…沖田。ざまぁみろ。死んだんだ、アイツだって、アイツだって!


ここまで確認して、目が止まる。
正直、これより上を確認するのが怖い。
しかしそうは思っていても小さな名簿。『それ』は彼の瞳に映る。

兄の名が、赤く染まっていた。

「……よ……来い」
「?」

本能的に小さく呟く。同時にザザッと音がした気がした。
キンブリーは不思議そうにこちらを見ていた。
いつの間にか手に携帯電話なんか持っている。
ふきんしんだな。場違いにもそう思った。

別に確証があって言ったわけじゃない。ただ、そんな気がしただけ。
でも、それは正解だったらしい。

獣の槍が戦慄き、彼の手元へと舞い戻る。
ぞわり、と髪の毛が伸びた。

834ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:46:51 ID:9Jfx9i7w0


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


ゾブリ

槍で一突き。それで終わり。

潤也の手にした獣の槍は、キンブリーの喉元にしっかりと突き刺さっていた。
一気に抜き取られ、キンブリーは喉を押さえつける。
しかし、吹き出す真っ赤な鮮血が血溜まり形作った。
キンブリーは一度前かがみになった後、その場に仰向けに倒れる。
協力者の命たる携帯電話もころりと落ち、ザザッとノイズを発している。
初めて味わう感覚に、自分でも驚いた事に笑みが漏れた
首周辺は血まみれとなり、息が荒くなってくる。

(これは…存外…)

僅かな笑みを浮かべて倒れた錬金術師は見上げる。
目の前の少年の瞳は、真っ暗だった。潤也は足元の鎖を槍で断ち切る。

「アンタみたいな嘘つきには頼らない。兄貴は俺が助けて、俺が守る」

彼を制するものは何も無くなり、獣は、弾かれたように駆け出していった。
まるでこれ以上ここには居たくないとでも言いたげに。
後には惨劇の舞台装置だけが残される。

835ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:47:31 ID:9Jfx9i7w0


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


かける、駆ける、翔ける。
頭の中にグルグル渦巻く思考を従えて、安藤潤也は走る。


兄貴は死んだ。
でもやっぱり生きていて。
今もまだどこかで生きている。


蘇らせればいい。
唐突にそんな言葉が思い出される。
実際に兄貴は生き返っている…かもしれない。
あの男の言葉も、もっともらしいといえばもっともらしい。

だが、絶対に信用はしない。
あいつはやっぱり嘘つきだった。
それも俺が最も、最も許せない嘘をついた。


兄貴が死んだ


何度自分で反芻した言葉だろう。
二度と思い起こしたくない言葉だった。経験だった。
ここにいる兄貴が本物であれ偽物であれ…もう一度死んだなどと、思いたくない。
嘘だとわかっていても…あんな言葉を、文字を押し付けてきたあの男は許せなかった。
だから刺してやった。その事には何の罪悪感も浮かばない。

だが
アイツの蘇生の話が嘘だとしても、ここにいる兄が本物なら蘇生手段は存在することになる。
あるいは妲己の話が本当なら…
今名簿上の兄が本物であれ、偽物であれ、いくつもの可能性がある。
二度と会えぬと思っていた兄と…再び笑顔で暮らせる可能性が。

それこそ潤也が流されてまで欲する世界の姿。
それを遂げるには何が必要だろうか。


考えろ 考えろ 考えろ


ただ探して見つけて…じゃ駄目だ。
殺し合いの真っ只中二人で再会を喜んだって、二人揃って殺されてお終いだ。

836ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:48:10 ID:9Jfx9i7w0


考えろ  考えろ  考えろ
   憎い   憎い   憎い


ふと自分の中で、誰かの渦巻く感情が大声をあげていることに気がついた。


  憎いか

あぁ憎いさ。兄貴を殺したヤツ、利用しようとしたヤツ、みんな憎い!

  ならば倒せ
  肉親を奪った憎き存在を倒せ
  命を弄んだ憎き悪魔を倒せ

あぁ倒すさ。兄貴の敵は俺が倒す、全部

  俺の力を振るい、邪魔になるものは全て薙ぎ払え
  我が力、お前に貸そう
  だから…その魂、我が目的の為にも使わせてもらうぞ
  わずかに感じる…『ヤツ』を倒す為に

かまいやしない…俺は、やってみせる

  走れ

…走るさ

  進め

…進むさ!


獣は駆ける。
その魂を悪意によって導かれ、憎しみに囚われて
あまりに適合しすぎたこの魂は、しかしあくまでただの人間。
本来より早くその影響を受けはじめることとなる。それは制限か、あるいは槍の意志か。
獣の槍使用者に襲い来る、呪いとも呼ぶべき影響を。

大切なものをただ守ることも出来るはずだ。
だが持ち主がそれを望もうとも、『槍』が望むのは別の事。
吹き上がる憎しみをぶつけ、仇をとることこそがその本懐。
そしてそんな負の感情を押さえ込めるほど、潤也の心は正常ではなかった。

誰かの憎しみに流されてしまった。それだけの話。
魔王になりえた少年は、獣となって島を駆ける。

その瞳にはまんまるいお月さんが浮かんでいた。
暗い暗い夜の色をした、新月が。

837ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:49:17 ID:9Jfx9i7w0

【H-8/???/1日目 日中】

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(大)、情緒不安定
     右手首骨折、獣化開始
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)
[道具]:空の注射器×1 名簿
[思考]
基本:兄貴を探す?兄貴の敵を探す?
0:憎い、兄貴を殺したかもしれない奴、害なす存在全てが憎い
1:憎い存在を倒す
2:…兄貴を守りたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。
※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。
※獣の槍による獣化が開始しました。速度や回復可能かはわかりません。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆

838ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:49:59 ID:9Jfx9i7w0

「……貴重な経験ができましたね」

言葉ほど嬉しそうな表情は見せず、大の字で倒れていたゾルフ・J・キンブリーは目を閉じる。
ふぅ、と一息吐くと…

ゆっくりと立ち上がった。

ケホケホと少しむせ、不愉快そうな表情で喉の辺りを撫でる。
近くにおいてあった布で飛び散った血を拭う。服は汚れずにすんだようだ。
傍らに落ちていた携帯電話を拾い上げ眺めると、キンブリーはまた一つ、ため息をつく。

『趙公明が私に連絡をくれます。こちらの無事を喜んでくれたようです』

少し先の未来がそこには記されていた。
どうやらこの後こちらに連絡をかけてくるらしい。日記の確認だろうか。


しかし先程の一瞬、そしてさらにその少し前、未来日記の表示は目まぐるしく変わっていた。

「…デッドエンドを回避した、とは考えすぎですかね?
 まぁ、あらかじめ準備しておいて正解でした」

一度周囲を見渡した後、キンブリーはソファに腰掛ける。

「おそらくあの槍の力でしょうが…私の話をあぁも簡単に振り切った理由がわからない。
 もしかすると他にも何か隠しているかもしれませんね」

彼は潤也が目を覚ます前に趙公明に電話をかけ、日記の内容を確認していた。
その内容は、放送後に自分の話によって潤也が狂い、道を踏み外すこと。
それによって彼を手駒とする未来が記されていた。
電話の後、その為に名簿に細工をするなど準備を行って時を待つ。
しかし、そこでキンブリーは一つの不安を抱いた。

彼が持っていた槍。
見覚えがあって手持ちの本を改めて確認をしてみると、正体が判明する。

Spear of Beast―――獣の槍

東方の国に伝わるという伝説の槍だそうだ。
人ならざる者を打ち倒すことに特化した、オカルトの力の結晶。
信じがたい話ではあったが、宝貝の例がある以上は信じないわけにはいかない。
そしてその力は、彼の手の中の『未来』に変化をもたらす可能性がある。

839ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:50:41 ID:9Jfx9i7w0

世界の法則に干渉する力。おそらくこの槍にはそれだけの力がある。
詳しくは分からないが潤也がこの槍を手放した途端に長く伸びていた髪の毛が抜け落ちた。
まともな槍ではないことは明白。伝承通りの代物ならその力は膨大だ。

そしてその力は未来日記の予知を塗り替える可能性を含む。

念の為槍を手元から離し、潤也を拘束した。
しかし拭いきれぬ不信感を警戒し、彼はその槍の特性を利用した対策を練っておく。
獣の槍は化物を倒す槍。人間を『貫く』事は出来ても、『切り裂く』事は出来ないらしい。
もし潤也がそれを知らず直接攻撃を仕掛けてきたなら、やられたフリをすればいい。
誇れる行動ではないが、それはそれで面白い結果を生んでくれるだろう。
その為のちょっとした演出として彼の返り血を練成し直し血袋を作っておいた。
使わないならそれでいいと思っていたが…

幸か不幸か、試みは成功。
日記に表示されるのは趙公明の未来だが、自分と彼の関係からして自分に何かあれば
彼の未来の行動にも変化が生じるのは必然。
案の定彼の未来にはノイズが入り、キンブリーは「未来が変化する」事を知ることが出来た。
加えて考えておいた試みを実行する事で、潤也が塗り替えた未来はさらに塗り替えられる。
キンブリーの危機は回避されたのだ。

首に嫌な違和感を与えられ相当ヒヤッとしたが…無事でいられただけよしとする。
なんの対策も練っていなければ死なないまでも、あの獣じみた身体能力に相当手を焼いたはずだ。

(彼の精神は既に摩耗していた。アレはどちらかというと獣に近い。
 あまり近くで火種を仰ぎすぎると爆発に巻き込まれますし…彼に近づきすぎるのは愚行ですね。
どこかの誰かの仕込みでほぼ仕上がっているようです)

とはいえ自分の煽りでさらに狂わせようとしたのは事実。
それを見破られ、中途半端な結果となったのがキンブリーには不満だった。
獣の槍の力では自分の発言の真偽は掴めないはず。
それなのに潤也は確固たる自信を持ってこちらの言葉を振り切った。
彼自身に、なんらかの「能力」がある可能性も捨てきれない。

「やはりこの日記は過信しないほうが良いでしょう。
 この戦いをここまで生き延びた者達です。何かを持っていてもおかしくありません」

自分に言い聞かせるようにキンブリーは呟いた。
趙公明の未来の確認は少し後にまわし、ある目的の為、急ぎ別の部屋へと移動を開始する。

その途中少し気になることを考えていた。

840ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:51:11 ID:9Jfx9i7w0

解せないのは獣の槍の存在。
この会場には妖怪が存在している。彼の協力者、趙公明もその一人だ。
彼は神の陣営の鬼札であり、つまりは協力者である。
そんな彼の天敵と言うべき存在をこの会場にわざわざ用意するとは…

戦闘狂である彼のことだ、自らそれを進言したのかもしれない。
だがそれにしてもその意見が通ってしまうのだ。
神が趙公明を遣わしたのは彼の勝利が目的ではない。改めてそれを認識する。

それと同時に、一つの懸念を抱く。
獣の槍のみならず、悪魔の実、未来日記、宝貝…これらの特殊な道具は力の天秤を覆す。
この戦い、どれほど『絶大』な力を持っていようと、『絶対』はないように仕組まれているのではないか。
例えば光と影、火と水、盾と矛…対となる存在を配置することによって。

そんな事をあえてする目的というと…
まず考えつくのは、その方が客観的に見たときに娯楽として面白くなるから。
この殺し合いが例えばどこかの誰かの快楽の為に開かれたのならこれだろう。
だが説明の際にムルムルらが口にしていた言葉や趙公明の存在を考えると、不自然だ。

この戦いでは最後の一人を決める。そう言っていた。
強者の戦いを眺め、最後に残った最強の男を称えるという娯楽は実在する。
だがそれだけなら趙公明が『鬼札』として遣わされる理由がない。
既にこの会場には彼が戦いたがる程の十分な戦力の持ち主が跋扈しているのだ。
単純に強者を増やし、戦いを加速させたければ彼を『参加者』として使えばいい。
彼の性格を知っていれば、それだけで戦いを加速させてくれることは容易に想像出来るはずだ。
なぜわざわざ流出するリスクを負ってまで自分たちの情報を与えて戦わせるのか。

ここからは推測に過ぎないが…
誰かを選ぶというよりは……何かを起こそうとしているとしたらどうだろう。
彼を遣わすことで、この殺し合いそのものに何かがおこるよう仕向けているのではないか。
彼の性格を承知した上で、情報を与えた彼によって起こりうる『状況』こそが目的。
彼らの目的はこの殺し合いという状況そのものではない。そんな気がする。
その果て、あるいは過程に生まれる別の状況にこそ、本来の目的がある。

だとすれば既に『新たな神』とやらになった存在がそれ以上何を望むのだろう。
全てを掌に収めたであろう存在が、何を。

841ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:51:48 ID:9Jfx9i7w0

仕組まれた装置で『絶対』を覆した所でそれは神の掌に過ぎず、神を超える事には繋がらない
こんなお膳立てされた殺し合いの果てに彼らは何を期待している?
誰かの成長か?新たな力の発見か?あるいは『あの者達』のように、大規模な錬成陣でも作るか?
どうして結果のわかるはずの殺し合いを促す?

先程の放送をおこなったのは間違いなく自分の知る「プライド」。
彼が関わっているのならホムンクルスの陣営も関わっているのかもしれない。
もしかすると……一番弄ばれているのは自分、ということなのだろうか。

全て推測に過ぎないが…それでもやはり不快、だった。

自分の望むままに行動してきた。実に楽しい思いをさせて貰っている。
その喜びも、こんな考察を行っている事自体も、全て織り込み済みだとすれば。
なんとも、気に入らない話だ。

自分の仕事を、悦びを、生きる実感を…誰かの意のままにされるというのは気分が悪い。
どうしても『それでも構わない』とは思えなかった。
そうやって生きてきたからこそ、キンブリーは異端として見られたのだから。

そこまで考えたところで一度足を止め、目の前の部屋へと入った。
考えはここで保留する。やるべき事をやったらまた考察に戻るとしよう。
なんであれ目の前の仕事が一番重要だ。

その部屋には数台のパソコンが置かれていた。
使い方などは趙公明から聞いているし、マニュアルもある。

(さて…実験は全て開始しましたし…あとは結果を待つばかり。
 それまでは少し遊ばせてもらいましょうか)

手持ちの実験材料は使い切った。
解き放った材料の一つである剛力番長は倒れたらしい。
が、特にどうとも思わなかった。それなりに実績は残してくれたようだ。
その結果は先の少年で多少は確認出来た。それで十分と言える。
あとは彼がさらなる爆発を広めてくれればなおいい。
森あいはともかく、ゆのも意外な事に何かしらのアクションは起こしているようだ。
危険も増加した今、そろそろ直接火種を仕込むのは自重してもいい頃だろう。
先程のような目に遭うのも面白いが、まだ出来るだけ避けて通りたい。
別のやり方を試してみる頃合いだ。

携帯電話から確認した電脳世界。
先程見た限り、自分の悪い噂が既に随分と広まっている。
鋼の錬金術師の代理人とやらも、紅蓮の二つ名を知っているあたり本物の可能性が高い。
他にも自分への宣戦布告、実験の経過報告、あるいは便乗したかのような書き込みが目立つ。
特にゆのに対する物が多い。それなりの人数と接触しているのか。

そして…

842ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:52:22 ID:9Jfx9i7w0

「いいタイミングですねぇ…」

安藤潤也の兄、あるいは森あいの行方を求めた書き込みに反応がある。
内容は何もないが、連絡先が載せられていた。
これが安藤潤也の兄ならいろいろと面白いことが出来るだろう。
無論警戒は必要だが。

そういえば森あいの方はどうなっただろうか。
放送で名前を呼ばれなかったので生きてはいるのだろうが…
かわりに呼ばれてはならない名前が呼ばれた。

植木耕助

彼女を動かすために使った名前。
これで自分の嘘はバレたであろうが…彼女の精神はすでに仕込みをほぼ終えている。
まともな精神状態ではいられまい。
よしんば彼女がそれを乗り越え変な気を起こそうと、『保険』がある以上問題はない。
鞄から支給品の一つであった「キャンディ爆弾」を取り出し、眺める。

(そろそろ物理的な爆発も楽しみたくなってきましたね。暇をみてまた練成しましょうか)

本来ならその辺の物からでも爆弾くらい練成できるが、制限のせいで精度が落ちている。
それ故に負担が少ないようこの支給品を基にして爆弾作りを行ったわけだが…
これから天気が荒れれば参加者同士の接触も増える。そうなるとそろそろ白兵戦もあるだろう。
その対策としていろいろと考えておくべきだ。


と、そこでそれた思考を電脳世界へと戻す。

843ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:52:51 ID:9Jfx9i7w0

IDとやらのせいで、自分のこの携帯電話からの書き込みは特定されるようだ。
そして鋼の代理人の発言からして、すでにこのIDが警戒対象となっている可能性がある。
彼(彼女?)が本当に鋼のと接触しているなら、それだけの情報が手元にあるはずだ。
賢者の石に対する書き込みへの対応からもそれらがわかる。

ゾルフ・J・キンブリーという男は危険人物であり、このIDがその人物のものである可能性がある。
少し頭の切れる人間ならこれらの書き込みからでもそれがわかるだろう。
そして厄介なのはそういった頭の切れる相手だ。

(まぁ、それもいいでしょう)

それならそれで出来る事は無数にある。
mIKami7Aiのこれまでの発言を疑うのなら、それを利用させてもらう。
それでこそ、『あの書き込み』の意味が生まれるというものだ。
絵描きを夢見る少女への、ちょっとした手助けというところか。


それにしても


キンブリーは急に暗い顔をしてため息をついた。
原因は電脳上に踊るいくつかの文章達。
螺旋楽譜という日記の管理人『水濁』や鋼の錬金術師の代理人の言葉。
彼らはまったく……非道い人達だ。

信じるな
疑い続けろ

水濁はそう呼びかけている。
鋼の代理人も自分の発言を警戒し、この掲示板の書き込みに疑問を抱くよう暗に警告している。
こんな事をしたらどうなることか。

心根の強い者達はそれでいい。
疑い続けるのはなによりも難しく、流されてすぐにいろいろな事を信じてしまいたくなる。
それではこの理不尽な殺し合いを乗り越えることなど到底出来ないだろう。
そのくらい巧妙に構成された舞台であるのはキンブリーにもよくわかった。
そういう意味ではこの忠告は非常に有用なものであり、彼らは評価に値する。

だが、人間の多くは弱い生き物だ。何かを信じ、縋らねば生きていけない者ばかり。

正義に固執する少女、友人を想い過ぎた少女、夢を抱く少女…そして兄を求めた少年。

そんな者達を突き放すようなこれらの発言は、どれだけの者を苦しめることだろう。
どうしても全てを疑う事の出来ない者達は死ぬしかない。そう告げているようなもの。
まったく、非道い人達だ。

844ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:53:21 ID:9Jfx9i7w0
「だから私のように、信じるべき道を指し示す存在が必要となるんですよ」

冗談めかした発言と共に浮かべた笑みは、相も変わらず歪んでいた。
彼らが呼びかければ呼びかけるほど、心が強ければ強いほど……
苦しむ者達は生まれ、自分の実験材料は増えていく。
笑わずにはいられなかった。

「さて、では救いの手を差し延べるとしますか」

そう言ってキーボードに手を伸ばす。
傍らには携帯電話。

爆弾狂は、電脳世界へと火種を仕込む。

【H-8/図書館/1日目 日中】

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記(充電中)
[道具]:支給品一式*2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、小説数冊、錬金術関連の本、ティーセット、
   学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:殺人日記のメールアドレスと連絡を取る。
6:入手した本から「知識」を仕入れる。
7:参加者に「火種」を仕込む?
8:神の陣営への不信感(不快感?)
9:未来日記の信頼性に疑問。
10:白兵戦対策を練る

[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。

【キャンディ爆弾の袋@金剛番長】
ウルフファングの一人、目黒区のキャンディ番長の武器。爆薬仕込みの飴玉が多数入っている。
数は多いが、一つ一つの威力はそこそこ。

845ゾルフ・J・キンブリーの悦と憂鬱 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:54:12 ID:9Jfx9i7w0

1:気のいい兄ちゃんに協力求めたら肺をブチ抜かれたんだけど

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

? 名前:コーデリア・グレイな名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:v3hBkiCK
 趙公明という男に気をつけて。見た目麗しい優男だけど、ドのつく戦闘狂だ。
 派手な外見だから多分すぐわかる。



1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

? 名前:麻婆豆腐な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:v3hBkiCK
 ゆのという女の子を保護して欲しい。多分、よく話題にあがってる×印の少女は彼女だ。
 短い付き合いだったけど、人殺しなんて出来る子じゃなかった。
 誤解だと信じてる。お願いだ、見かけたら助けてあげてくれ。



6:雑談スレだけど何か話題ある?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

? 名前:地球破壊爆弾な名無しさん 投稿日:1日目・日中 ID:mIKami7Ai
 随分と私の話題で盛り上がっていただいているようで、いやはやお恥ずかしい。
 根も葉もない噂話ばかり…とは申しませんが、決して全てが真実ではありませんよ。
 私なりの戦いをしているまでです。全力でね。

そうそう、私にもこの地で知り合った協力者が数名います。
会いたい人がいる方はそれをお忘れなく。
でなければ大切なお仲間をどこか遠くで失ってしまうかもしれませんよ。

 それから鋼の錬金術師へ
 ご愁傷さまです。弟さん達のご冥福を心からお祈りします。



【螺旋楽譜】
コメント欄

2:
はじめまして。
私、紅蓮の錬金術師と呼ばれている者です。
貴方の考え、姿勢、全てに感銘を受けました。
いずれお会い出来ることを楽しみにしていますよ。

意志を貫き通す人間は好きですからね。


※キンブリーを特定出来る可能性のある書き込みとそうでないものは、
 不自然にならないようタイミングがバラバラに書き込まれています。
 ただし日中の範囲内です。

846 ◆lDtTkFh3nc:2010/04/14(水) 23:57:39 ID:9Jfx9i7w0
以上で終了です。ご意見ご指摘あればよろしくお願いします。

wiki復旧、お役に立ちたいとは思いますので、自分も時間が空き次第何かしらお手伝いできればと思います。

847名無しさん:2010/04/15(木) 00:21:16 ID:wa8oTnZM0
さるさん喰らいました……続きどなたかお願いします
無念

848名無しさん:2010/04/15(木) 00:48:04 ID:dEgETNvs0
終了宣言する前にさるった
これで投下終わりだよ

849<削除>:<削除>
<削除>

850 ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:21:51 ID:Kdbhw0u.0
さるったので続きはこちらに

851アダマと上天のスードパラドクス ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:22:29 ID:Kdbhw0u.0
「……聴こえなかった、のかい?」
「は? 何がさ?」

パックは気味の悪いものを見る目で或を見ている。
背中の胡喜媚は何の反応も見せずに寝息を立てている。

「……いや――」

デウスの声を聴いたのは自分だけだったらしい。
幻聴だった、と判断せざるを得ない。
思ったよりも疲れているのかもしれないと思いながら、或は小さく溜息を吐いた。
そして、何でもないよ、と言いかけて――或はあることに思い当たり、今度こそ体を強張らせた。



おかしい。



何故。
何故、僕はあの声をデウスのものだと思ったんだ?
僕は――デウスに会ったことなんて無いはずだぞ!?

852アダマと上天のスードパラドクス ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:23:09 ID:Kdbhw0u.0

【F-5/森/1日目 午後】

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左肩に銃創、右こめかみに殴打痕
[服装]:
[装備]:コピー日記@未来日記、クリマ・タクト@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、
    ニューナンブM60(5/5)@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、
    警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、
    A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、
    A3サイズのレガートモンタージュポスター×10
[思考]
基本:雪輝の生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
1:『神』の謎を解く。
2:偽装した自身の死を利用して、歩や由乃に感づかれないよう表に出ずに立ち回る。
3:コピー日記により雪輝たちの動向を把握、我妻由乃対策をしたい。
4:探偵として、この殺し合いについて考える。
5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に貼っておく。
6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
7:探偵日記の更新は諦めるが、コメントのチェックなどは欠かさない。
8:『みんなのしたら場』管理人を保護したい。
9:リヴィオへの感謝と追悼。
10:神社付近を探索したい。
11:出来ればひょうに直接会ってみたい。
12:何故、僕はデウスの声を知っている?
[備考]
※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
※蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
※リヴィオからノーマンズランドに関する詳しい情報を得ました。
※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
 詳細は第91話【盤上の駒】鳴海歩の状態表を参照。
※みねねのメールを確認しました。
 みねねが出会った危険人物及び首輪についてのみねねの考察について把握しました。
※参加者は平行世界移動や時間跳躍によって集められた可能性を考えています。
※ミッドバレイとリヴィオの時間軸の違いを認識しました。
※コピー日記(無差別日記)の機能が解放されました。
※パックからひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。

853アダマと上天のスードパラドクス ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:23:46 ID:Kdbhw0u.0
【胡喜媚@封神演義】
[状態]:疲労(大)、睡眠、全身に打撲と火傷、ひょうへの恐怖?
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:支給品一式 、エタノールの入った一斗缶×2
[思考]
基本方針:???
0:スープーちゃん……。
1:スープ―ちゃんを取り返しっ☆
2:妲己姉様、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
3:復活の玉を探して理緒ちゃんと亮子ちゃんを復活しっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化は可能ですが、時間制限などが加えられている可能性があります。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです。
※第二回放送をろくに聞いていません。
 妲己の名が呼ばれたのは認識していますが、その意味は理解してないようです。
※雉鶏精としての能力により、時間移動が可能です。ただし大量の体力を消費します。
 時間移動はできても、空間移動はできません。

【パック@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品×1、永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE
[思考]
基本:生き残る。
1:ひょうが無茶をしないか気がかり。
2:神社付近を探索したい。
3:胡喜媚を警戒。
4:『探偵』は何か怪しい。
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えます。
※参戦時期は少なくともクリフォトから帰還した後です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。
※会場に幽界と近い雰囲気を感じ取っています。
 違和感の中心地が神社であると感じています。
※ひょうの仮説(精神体になんらかの操作が加えられ、肉体が元の世界と同じでない可能性)を聞きました。
※胡喜媚から彼女の能力などについて若干の情報を得ています。

※永久指針は神社周辺の何処かを指しています。

【永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE】
本来はグランドラインの特定の島を常に指し続ける特殊な方位磁針。
本ロワでは島の中心付近の何処かを指している。

854アダマと上天のスードパラドクス ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:24:17 ID:Kdbhw0u.0
***************


  パラドクスの発見とその解決は、パラダイムの転換を促す。


【Paradox φ : Omnipotence Paradox】

――クッ。

――流石に気付いたかね、『観測者』。

――だがまだまだ。

――その程度では良いサンプルとは言えんな。

――所詮、貴様はただの『神』の人形に過ぎん。

――だが同時に“全宇宙の記録(アカシックレコード)”の分御霊でもある。

――なればこそ果たせる役割もあろう。

――精々上手く踊ることだ。

――そう、私が真なる神になるために、な。

855 ◆L62I.UGyuw:2010/04/25(日) 18:26:22 ID:Kdbhw0u.0
以上で投下終了です。
どなたか代理投下をお願いします。
鳥ミスで最初の方のタイトルが消えてますが、タイトルは全て通して「アダマと上天のスードパラドクス」です。

856 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:13:22 ID:4Be.p97g0
解けたと思ったらまた規制……。
申し訳ありませんが、代理投下をお願いしたく思います。

857デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:14:03 ID:4Be.p97g0
私達は、今回発生したケースを観察していくつかの疑問を得た。

魂とは、如何なるものなのだろうか。
個とは、自我とは何なのか。
己が己たる理由は何処にあるのか。

種属全体の記憶野――集合意識を持ち、情報の共有を行う私達には理解しにくい概念ではある。

――固有の記憶、と答える者もいるだろう。
しかし記憶とは、それ程に確かなるものなのか?
容易にそれは改竄ができ、また忘却の海に沈めば二度と浮かんでこない事もまた多い。

思う故に我在り、とする哲学者も、私達の故郷に現れた異邦人の星にはいたらしい。
だが、集合的無意識が遍く生命に存在するとしたならば、どこからどこまでが個の意識として確立しているのか。

それだけではない。
同じ体の中に、一つの意志が配当されているとも限らないのだ。
例えば、狂信者の集団から選り抜かれた二重牙と死出の旅路のように。

個々の我の中にも、幾つもの相反する思考や選択肢は常に浮かび上がる。
もっとも単純なものでは、アニマとアニムス。女性的思考と男性的思考の仮面が挙げられるだろう。

そして、私達はここに来た事で――知ってしまった。
並行世界の存在を。

ここに仮に、二つの世界があったとしよう。
その二つは、とある時点まで全く同じ歴史を歩んでいたとする。
違うのは、たった一つの事項だけ。
その二つの世界のどちらにも住む、同じ名前と同じ記憶と同じ能力を持つ人間が――、
片方の世界では右手を、もう片方の世界では左手を、何気なしに上に挙げた。
それだけの違いだ。

ところで。
この、右手を挙げた彼と左手を挙げた彼は、本当に並行世界の同一人物と呼べるのだろうか?

ここで魂の同一性を論じる事は、無意味だ。
もしここで例示した事象が彼の人生に大いに影響を与える事ならば、間違いなく最終的にはそれぞれの世界の彼は別人と呼んで差し支えなくなるのだから。

辿り着く先の性質で論じるならば、それぞれの魂は同一性を保てない。


――逆に言えば。

その本質がどれ程異なる経験を経ても変わらぬほどに強固ならば、如何に違うペルソナを持っていようと――、


**********


どうして、いつもいつも間に合わないんだろう。

ちくしょう、ちくしょう。

ちくしょう……っ!

オレ、なにやってんだろうなァ……。

858デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:14:23 ID:4Be.p97g0
ほっぺが涙でがびがびだ。

なっさけねえ、……なさけねえ!

でもよ、こぼれちまうんだ。

涙だけじゃなくていろんなものが、オレからはこぼれ落ちちまう。

「……キリコの、おじさん」

……この手の中には、もうなにも言わないおじさんがいた。
あの陰気だけど、どっか優しそうなおじさんは、もういないんだ。
ブラックジャック先生って人も、死んじまった。
立派なお医者さん達がどんどん先に逝っちまうなんて、ひでぇよ。
なんで、生きなきゃいけねえ人ばっかり死ぬんだよぉ……っ!

キリコのおじさんはきっと、この診療所で治療をしてたんだ。
治せる限りは治すって言ってた通り、ここで助かる人を助けるつもりだったんだ。

なのにこれは……ひっでぇ、よ。

「ちくしょう……っ!」

ほんのりとだけど、おじさんの体はあったかい。
たぶん、こうなってから何時間も経ってねぇんだ。

ぎゅって歯を食いしばって、泣かないようにしても……駄目だった。

……デパートに向かう前にこっちに来てたら、間に合ったのかなァ。
でも、聞仲さんが誰ひとり生きてはいない、って言ったのに、それに頷けなかったのもオレの正直な気持ちで。

桂先生と出会ってすぐにあのデパートが崩れて、心配になったんだ。
まだ生きてる人がいるんなら助けなきゃって、いてもたってもいられなかった。

あそこの近くはまだ危ないと思ったし、だからオレは聞仲さんに桂先生を任せて様子を見に行った。
けど……、やっぱり、誰ひとり生きちゃあいなかった。

筋肉モリモリで強そうな兄ちゃんは、言いたかねぇけど見ただけで吐きそうになっちまったし、
爆弾かなにかでぐちゃぐちゃになった死体もあった。動物と女の子の合体したような妖怪もいた。
瓦礫の下は……オレの力じゃあ確かめる事も出来なかった。

ひとりひとり、息がないのが悲しくって、せめて手を合わせて顔を覚えることにした。
そんな中で放送が始まって……、オレは、聞仲さん達の所に戻ったんだ。

聞仲さんが診療所に行けば生き残りがいるかもしれないっていってくれたのは、オレを気遣ってくれたんだと思う。
……聞仲さんがデパートに行くなって言ったのは、きっとこうなるって分かってたんだろうなァ。
そんな優しさが胸に染みて、でも救えなかった事が苦しくって。

ほんの小さな希望を込めて、桂先生に肩を貸しながら診療所に来て……。

そしてオレは、キリコのおじさんが死んだ事を突きつけられた。

放送でもう死んじゃってるって分かってたはずなのに、知っている人の死体を見るのは……ツラかった。
もう、こりごりだ。

麻子ォ……、どうして、こうなっちゃったんだろうなァ。

859デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:14:48 ID:4Be.p97g0
蝉兄ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。

『うしお、自分を信じて対決していけ』

……ツレぇよ、蝉兄ちゃん。
自分を信じ続けるって、ツレェよ。

オレなんか、そんなにスゲェヤツじゃねえもん。
とらにも、流兄ちゃんにも、獣の槍にも見放されたんだぜ?
フツーの、絵描きになりたいだけの、どこにでもいる中学生なんだぜ?

こころがぼろぼろになって、壊れちまいそうだよ……。

……白面、め。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!
白面!
どうしてこんな、殺し合いなんかさせるんだよぉ!
流兄ちゃんを殺し合いに乗らせて、何企んでんだよッ!

……そんな時だった。

オレの肩に、ポンと手が置かれたのは。


**********


診察室の方をうしお達に任せ、待合室を探索しながら先刻の放送を回想する。


「……高町亮子も死んだ、か」

――黙祷を捧げる。
せめて、あの高潔な少女の死が安らかで満たされたものであればいいと。

彼女の言葉が、脳裏に浮かんだ。

『……なあ、あたし達仲間だよな?』

仲間……か。
気の強さで言えば、どことなく朱氏を思い浮かばせる少女だった。
よもや今になって仲間という言葉に心震わされるとは、な。
それだけに――久しく感じた事のない感情が私の中にある。

この感情は何と言っただろう。
悲哀、と呼ぶべき気もするが、そうでない気もする。
一つ確かなのは我々生者はこの気持ちを決して忘れずに、抱えていかねばならないという事だ。
彼女の――、いや、彼らの死に応え、生きるべきものを還さねばならないと。

860デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:15:06 ID:4Be.p97g0
エドワード・エルリックは何処に居るのだろうか。
あの少年も、佳い気骨の持ち主だった。
うしおと年が近しいこともあって、彼の友となってもらいたいとも思う。
良き友の存在はそれだけで己を磨きあげる原動力となるが、それ以上に心の支えとして大きくなるもの。
……私と飛虎のように。
幼き年頃ならば尚更だ。
彼らならば仲良くなれるだろうし、この無惨な場で互いの立って歩く力と成り得るはずだ。
うしおの人を惹き付ける才や器量は大したものだが、それでも未熟な精神には限界がある。
私のような年長者では癒せぬ傷も多かろう。
だからこそ。
だからこそ、あの少年とまた共に行動したいものだと思う。

そして、エドワード自身の身もまた、私にとっては案ずるべきものなのだ。
彼が私を奮起させたからこそ、私はまだこの場にとどまり、うしおと出会う事が出来た。
……若者の力というものは、素晴らしいものだな。
新しい風。
それを食い潰すものがあるならば、この身などくれてやっても惜しくはない。

……まったく、私はいつの間にこれほど老いたのだろうか。

時代の移り変わりは世の常。
それを理と知っていながらも、私は私自身が既に青くない事に幾許かの寂寥を感じずにはいられない。
やけに年代を経たように思わせる、その壁に架けられた絵のように。

「む……?」

かた、という音と共に手に取ったその額縁の中には、見知った顔が存在していた。

「これは……」

申公豹とムルムル。そして、他にも記憶から湧きあがる存在。

「…………」

鞄に収め、持っていく事にする。

・・
これが此処にある、という事は、他に何かあるかもしれない。
待合室から通じる扉は、全部で3つ。
玄関と診察室に繋がる廊下。
便所。
そして、非常口。

便所を開けてもその先に見えるものは白い陶製の物体だけだ。
順序立て、非常口と書かれた扉に手を掛ける。

その向こうには、階段があった。
どうやら地下へと繋がっているらしい。

「……非常口、という割にはその役目を果たしそうにないな」

呟き、階下を覗き込む。
すると――深淵へと真っ直ぐに伸びる回廊が伸びているのが見えた。
どうやら、何処かへ向かう通路であるようだ。

861デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:15:26 ID:4Be.p97g0
警戒を深め、前方に意識を集中。
そのまま階段を降り目を凝らす。
遥か向こうに、今しがた潜った非常口の灯りと同じ緑色の光がある。
そこまでしか回廊は存在していないのか、それとも回廊の途中にまた扉があるのかどうかは此処からでは見て取れない。

……シェルター、あるいは何処かに繋がる非常用通路。
そんな印象を与える場所だった。

「……一人では手に余る。向かうにせよ退くにせよ、単独行動は慎むべきだな。
 探索はうしおたちと合流してからか」

背を翻し、階段を戻る。
ギィ、と扉を押し開け診療所へと足を踏み入れたその瞬間、気付く。

人の気配がない。

歯を、強く噛む。

「……ッ! 雌狐め、器の主を慮って寝かせておいたのが裏目に出たか……。
 何を企んでいる……?」

誤算だ。
私を利用するつもりならば、こんなにも早く機嫌を損ねるような真似はしまいと読んだのだが。
知人の亡骸の前で泣き崩れるうしおの、一人にしておいて欲しいという言葉を飲むべきではなかった。

急ぎ診察室に入れば、そこにはすぐ戻るとの書置きが残されるのみ。
が、これを鵜呑みにして妲己とうしおを二人きりにしておけるほど、私は楽観主義ではない。


「……まだ遠くはないはずだ。急がねば……」


**********


偶然、ここのすぐ近くを通りがかってくれるなんて、ねぇん。
ううん、わらわを探しているのかもぉん、やん、怖いぃん。

……でも。潤也ちゃん、すごく、ステキよぉん。
あはん、ちょっとだけ見ない間にとぉっても立派に成長してくれて……。


わらわ……、アレ、欲しいわぁん♪


さっきのバケモノちゃんにそっくりで、器としてすっごく魅かれるモノを感じるのぉん。
でもぉん、聞仲ちゃんは何だかんだで優しいから、言ってもアレを確保してはくれないでしょうねぇん。
もっと無難なものを持ってきちゃいそうだわん。

そんなの、わらわ耐えられないぃん♪

862デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:15:47 ID:4Be.p97g0
わらわ、都合良く使えそうなモノの気配も、ちゃあんと感じ取れてるのん。
ビンビンって、すっごく、ねぇん。


くすくすくすくす……。


だから、頑張ってちょうだいねぇん。
う・し・お・ちゃぁん?


**********


「うー……気持ち悪っ!
 ちょっとあんた、二日酔いの人間背負って何してんのよっ!
 あ、あんまり揺らすとミソ出ちゃう……!」

マ、ズ……! また吐きそ。
ちょっとこのガキ、なんでこんな思いっきりシェイクシェイクしてくれてんのよ。
“たった今起きたばかり”でどうしてあたしゃこんな目に遭ってんのよー。
荷物と一緒くたにされて背負われてるってないわー、これでも女だっての。

ああくそ、全部日本が悪い、政治が悪い!
事業仕分けだとざっけんなー、教員への待遇改善を要求するー!
ぽっぽっぽー、はとぽっぽー、支持率欲しけりゃ辞職しろー!

「ちょ、ちょっと何言ってんだよ桂先生ェっ!
 知ってる人が“あそこ”に向かうのが見えたから急いで追ってくれって頼んだのは先生じゃねぇか。
 それにミソなんて出ちゃったら大変だろ!」

おいコラだれがオミソだってー?
そういうヤツこそがオミソなんだよーだ!

「つーか、知り合いって何よー。なんであんたの知り合い探しに付き合わなきゃいけないのよぅ……」

「だーかーら! 知り合いがいるって言ったのは先生だろ!?
 ふざけた猫撫で声で『わらわをあそこまで連れて行ってほしいのぉん』なんて言ったのはさ!」

「はー? なんだー? そんなん一っ言も言ってないわよー!」

「ああ、もう……! くそ、もうそれどころじゃなくなってるけどさぁ……」

……ん?
どーしたのよあんた。そんな……泣きそうな顔して。
走っている辛さだけじゃないっぽいぞ?
名前は……なんて言ったっけ。ちくしょー、頭ん中靄でもかかってるみたいで脳使いたくない。

……けど。
子供がこんな顔してるのに放っておくほうが、キツいっしょ。
あたしだってセンセなんだから、さ。一応。

863デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:16:07 ID:4Be.p97g0
……えーと確か、こんな名前だった……はず?

「……岡崎汐、だっけ?」

ん!? まちがったかな……。
いきなりガクンと体が揺れた。うげ、ま、また吐き気が……。
どこぞのお嬢様の詳しいジャンルっぽいなー。

「名字が違うって! なんか名前の漢字も違う気がする……」

まーいいや。

「あのさー、うしお。……なに、ムリしてんのよ」

「……え?」

うっわームカつく反応。
なによう、あたしだって真面目な時は真面目なんだぞ!?

「……先生って、ホントに先生だったんだな」

「そりゃああんたよりずっと長く生きてるしね。
 で、どうしたのよマジで」

口を引き結んで、うしおは息を呑み込む。
ちらっと振り向いて向けた視線はあたしを通り越していってる。

「……後ろ、なんだけどさ」

ジャーンジャーン。

「げぇっ、関……じゃなくて何よアレ!」

うっわー、なぁによあのバケモン。
物騒なモン持ってこっちに突き進んできてる。
よーするに、アレがあたしたちを追っかけてるからこのコは逃げてるワケね。
でももーあんましないうちに追い付きそーな……。

……って! んじゃあノンビリしてる余裕なんてないじゃん!
ばしばしとあたしを背負ったうしおの背を叩く。
ハリーハリーハリー!

「…………」

ありゃ、反応がない。

「……うしお?」

呼びかけてみると、うしおは俯いてぼそぼそと何かを呟く。

864デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:16:27 ID:4Be.p97g0
「あいつ……元は人間なんだ、きっと」

「きっとって……」

ちょい待ち。アレのどこが人間だって―の。
体はなんかヒビ入ってるし、目は皿みたいにまん丸だし、歯は牙みたいにとんがってるし。
珍獣、なんていって見世物にすれば儲かりそうだわ。

「分かるんだ、あいつ……獣の槍使ってああなっちまったんだ。
 ちくしょう……、オレが、獣の槍に見捨てられてなけりゃあ、あんな事にさせなかったのに。
 どうしてか分からねえけど、獣の槍が復活してたのは、嬉しかった。
 だけど、だけど……っ! 槍に魂吸われた人が他にもいるなんてよォ、酷過ぎるぜ……。
 まさか……槍に命を狙われるくらい、嫌われてるなんて、思って……なかったんだ」

???
うむ。何言ってるか全然分からん! 

「……あのさー。よく分かんないけど。
 あの槍はあんたのモンで、どうしてか分かんないけど、いまはアイツが使ってると」

でも、まあ。
話は分かんなくても、この子がどうすべきかってのはあたしにも分かる訳だ。
そして、見捨てるとか何とか命狙われるとか、その辺りにこの子が何か負い目を追ってるって事も、ね。

だから――、

「……うん」

頷いたうしおに、コツン、と軽くゲンコを落とす。

「こらこら、落ち込まない。
 で、あんたはどうしたいの? 大切なモン奪われて、挙句の果てにそれ使って嫌がらせされて。
 どうにか振り切って逃げ続けて、このまま泣き寝入る?」

ぶんぶんと、首を振るうしお。

「ジエメイさんの言ってた通り、もう二度と、憎しみなんかに負けたりはしねぇ。
 ……ギリョウさんに、許してもらいてえよ。もう一度獣の槍と一緒に、闘いてぇよォ……っ!
 槍を使ってる奴だって、助けたいんだよ!
 でも……槍が。それに、槍を使ってる奴も……」

あー、もー、めんどくさいなー。
他人なんて、存外あんた自身の事見ちゃあいないっての。
いちいちそんなの気にしてたら、本当にやりたいこと、手放したくないものまでどっか行っちゃうでしょーが!

だから――怒鳴る!

「でも、じゃないの! 甘えんな!
 ……逃げてんじゃないわよ。立ち向かって、頬をはたいて、取り返してきんさい。
 見限られたとかウジウジ思ってる奴と仲直りしたいなんて、あの化け物だって思うはずないでしょーが!」

「先……、生」

865デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:16:46 ID:4Be.p97g0
ごしごしと涙を拭いて、うしおはにかっと笑った。

「おうっ!」

ん、いい顔だ。
あと10歳……、いや、5歳あればいい男だったろうにねぇ。

「でも……どうやりゃいいんだろう。
 今のオレじゃあ、真っ向から戦っても勝てねえよな……」

「んー、そうねぇ……」

ま、なんか良く分かんないけどガキの喧嘩でしょ、なんか良く分かんないけど!
そして何かテキトーな言葉を返そうとして、気付いた。

口が、動かない。

ドクン、と自分の心臓の鼓動が、やけに大きく感じた。


そして――、あたしは、耳慣れないようで毎日付き合っている声を聞く。


「いい考えが、あるわよぉん……?」

理解。
ああ、これは――あたしの声だ。

勝手に口が動く感触がする。淫靡に。

キモッ。

そんな脊髄反射と共に、あたしの意識はどろりとした黒に呑み込まれていった――。


**********


憎い……。

憎い……。

憎いぞぉ……。

世界が憎い。
肉親を殺した世界が憎い。
肉親を殺そうとする世界が憎い。
肉親の命で自分で遊ぶ、この殺し合いという環境そのものが憎い。

それを開いた悪鬼が憎い。
運命を弄ぶ神が憎い。

866デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:17:05 ID:4Be.p97g0
否、否、否!

神に非ず――人に非じ。
人心で粘土の如く遊び、魂を汚す存在など神でなし!
其は、バケモノ!

憎い、憎い、憎い。
バケモノが、憎い。

我が兄/妹を死に追いやりしバケモノよ。
全ての陰の気より生まれ出たバケモノよ。

貴様の名を我は叫ぼう。

そう――白面!

貴様を滅すまで、我は止まらぬ。
眼前に立ちはだかる如何なる肉の塊も殺し尽くそう。


嗚呼――兄貴/ジエメイ。
俺/我の大切な、掛け替えのない家族。


×××を守る為ならば、獣になっても構わない。

進んで進んで進んで、諸悪の根源を、家族の脅威を討ち果たせ。


俺は、俺の名は何と言ったっけ。
頭の中に響く声に引きずられて、俺という名の器が崩れていく。


いちどけものになれば、にどとひとにはもどれない。


大切なものがぽろぽろ剥離していくのを感じる。
俺が俺でなくなり、どす黒い誰かと混ざり合う。

それでも憎いものを見据えて、走っていく。


「はぁぁぁああぁぁぁくめぇえぇえェェええエェん……ッ!」


そうだ……、全てが白面の仕業に違いない。
先ほどまみえた時も、かの女は言ったではないか。
兄の命が惜しくば――と。

白面、白面、白面、白面憎しィィィ!

白面さえおらねば、兄貴/ジエメイはァァアアァッ!

867デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:17:31 ID:4Be.p97g0
そら、あそこに見えるが白面だ。
姿を変えたとて俺には分かる。

こちらに背を向け、無様に逃げ惑うかの醜女。

その心の臓腑に抉り込むまで、何人たりとも道を塞ぐこと許しはせぬ。

ジエメイ/兄貴の死の償いは、万死億死を以てでもまだ足りぬ!


貴様を殺せば兄貴/ジエメイとの生活が取り戻せるならば、
彼奴を庇う者も只では措かぬ。

立ち塞がるな、ニンゲンッ!
そうする間にも俺の兄貴/ジエメイを堕とした根源が更に更に遠くへ進むッ!

交叉。

刃と刃とがぶつかり、俺の邁進が食い止められる。

ああ、ああ、この顔は、この子供は我に見覚えがあるぞ!
俺には覚えがなくとも我には分かるゥッ!


犬畜生めが、返すものかよ。卑しくも取り返しに来たのかよォォォッ!
返すか、返すか、返すか返すか返すか返すかッ!
兄貴を守れるこの力を、手放してなどやるものか!

……憎い。憎い! 憎いィィイィィッ!
力を奪い返そうとするこ奴が憎い!

ならば振るえ。容赦なく振るえ。
今この槍は俺の力なのだッ!

そう、容赦なく食らいつくせ、槍よ俺の魂をッ!

喩え蒼月(ツァンユエ)であろうと、薙ぎ払うまで――!



「憎い……憎い憎い憎い憎いィィィッ!
 其処を、退けェッ!」

一撃、二撃、三撃四撃!
擦れ合い飛ぶ火花も今の俺には届きはしない。

そんな……紛い物の槍で止められるかァッ!

弾く。

踏み込む。

突き飛ばすゥッ!

868デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:17:51 ID:4Be.p97g0
ははは、見ろ我/俺よッ!
いぃぃぃい具合に子供が空を飛んでるぞォォォッ!


蒼月(ツァンユエ)、温しィィッ!


届く、届くぞ。我等は届く!

もはや障害は眼前に非じ!

あと十歩か九歩か七歩か六歩か!
五歩か四歩か三歩か二歩かァ!


女ァ、死ィィィィ……ねェェェッ!


さあ、この刃を臓腑に抉り込もう。

一歩踏み込み、零を貫くぞォッ!


取ったァ……ッ!



ザクリ。




……なんだァ、この……感触……は……?



**********


クソ……、ちぃっと目ェ離した隙に、やりすぎだぜママ。
躊躇いのないあんたの性格は分かってるし、だからこそもうちょい慎重に事を進めると思ってたんだが。

ま……、今のオレに、今のアンタをママなんて呼ぶ資格があるかどうかは疑問だけどな。
逆もまた然り、か、反吐が出るぜ。

……参加者を弄るのはできる限り避けるとか何とか聞いてたんだがな。
まあ、魂魄の消滅の危機ってのは確かに焦る理由になるだろうから、不自然じゃあないといやあそうなんだが。
もし直接的に弄られてないんだとしたら、他に原因があるって事……か?
魂魄の在り様が良く似たモノに引き摺られた、とか。

869デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:18:10 ID:4Be.p97g0
考えても答えは出ねぇか。


ああ、ったく!
オレの怠慢のせいってかよ。そりゃあ龍脈の乱れとやらは後回しにしていたがよ……。
こうなったのは参加者連中の暴挙の結果と、ついでに趙公明のヤローがスーパー宝貝なんざで更に空間を歪めたからってのもあるんだぜ。
本当にアンタは傲慢そのものだな、もうちょい客観的に自分を見つめる事をお勧めするぜ。


……クソッタレ。

はいはい、やることやってくりゃあいいんだろ?


**********


……何だ。

何事だというのだ。


「一体これは……何が起こった!?」


目を凝らしても、現実は変わらない。
私の目の前に広がるは――、

バケモノ。
バケモノ。
バケモノ。

――形容しがたい何か、異界の住人。

群れ、と称しても構わない数が眼前に遊んでいる。
優に百は超えるだろうか。
かつての姿を忘れ、もはや何と呼べばいいのか分からぬ実体なき肉塊たち。

明らかに人の営みの範疇の外にある存在達が、そこかしこに跋扈している。

「く……、うしおは、無事か!?」

間違いない。
あの雌狐が、現世と幽世(かくりよ)の境を掻き乱したのだ。

デパートとやらが崩れた時から、龍脈が乱れたことは感じていた。
恐らくそれを突いて何らかの干渉を起こしたのだろうが――、

「いや。考えるのは後にせねば……!」

駆ける。

870デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:18:28 ID:4Be.p97g0
と、無数の異形が得物を見つけこれ幸いと私に飛び掛かる。

腐臭にも似た血の香が、鼻に突く。

ギイギイと、言葉に満たぬ囀りが姦しい。


「雑衆が……、黄泉へと還るがいい」

擬なる禁鞭を掌に。

一振りで、二桁を超える妖物が宙に舞う。
二振りで、取りこぼしの頭蓋を砕き散らす。
三振りで、死せるも勢いづいたままの屍を薙ぎ払う。

爪を光らせ奇襲するモノを吹き飛ばし、
牙剥き低く地を蹴るモノを叩き潰し、
拳を握り猛進するモノを突き上げる。

鞭の暴風の前に万物は平伏し、私はその目と成りて屹立する。

贋作とはいえ、使い勝手は悪くない。
だがそれ以上に――こ奴らが弱過ぎる。

……脆い。私の敵ではない。
このような者どもを呼び寄せて、一体狐は何を考えている?

いや――、そもそも、連中は何処から湧き出たのだ!?

この世ならざるものを蹴散らしながら掻き分け突き進み、しかし思考は止まらない。

幽世と現世が繋がったならば、本来異界の住人の質も量もこの程度で済みはすまい。
故に、掻き乱された幽世は、この閉鎖空間の内に異相として存在しているとは理解できる。

だが、ならば。
どうしておそらく“神”により創造されたと思しきこの空間に、幽世などというものが――幽世の住人が存在しているのだ!?
本来ならば、殺し合いなどとは無関係であろう存在が。

……参加者の魂魄の成れの果てか?

可能性は、ある。
殺し合いに巻き込まれた悲愴なる魂の残滓が、この島の随所に刻み込まれていたとしても異論を持ちだすものはいまい。

だが、それにしては弱く、数が多すぎる。
明らかに放送で読み上げられた人員より多く、また古兵の強さも持ち合わせない。
此度の参加者には強き者どもが多くいる以上、彼らの末路とは考えづらい。

ならば、やはり最初の疑問は残る。
この輩は、何処から来たのか。

そして、太公望を始めとする強き者どもの魂魄は――何処に向かったのか。

871デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:18:45 ID:4Be.p97g0
……前者と後者について、それぞれ思いつく可能性がいくつかある。

例えば前者は、“無数の人の魂魄を錬り成した物品”があったとすれば、説明はつく。
その物品がこの殺し合いの最中に消滅することがあったとするならば、解放された魂魄は幽世に辿り着いて鬼の形を取るだろう。
他にも、この殺し合いが幾度も繰り返された可能性も考えられるが――、“どうしてか”私はそれが正解だとは思えなかった。

後者に関しては、非常に単純な説明ができる。
封神台が機能していさえすればいい。強き者の魂魄を集めるならば、あれ以上の機構はあるまい。

……強き者の魂を一か所に集める事に、如何なる意味があるのだろうか。

思索しようとしたまさにその時に、幸か不幸か私の目は求めるかの少年の背を探し当てた。

場所は――推測の通り龍脈の乱れの中心、デパート。

「……うしお!」

槍一本で応戦するうしおの、歳に似合わぬ立ち回りに舌を巻く。
が、見とれる訳にもいかぬか。

贋作を一閃。

四方からうしおを囲んだ禽獣が、ぎゃあと鳴いては千切れ飛ぶ。

「ぶ、聞仲さん!?」

一拍遅れたうしおが取るは、こちらを振り向きながらの前方への薙ぎ。
私の討ち洩らした一匹を斬り飛ばす。
……いらぬ心配だったか。
私が贋作を振るわずとも、十二分にこの少年は場の打開を成せるのだ。
応と答えてその背に駆け寄る。

「……一体、何があった?」

「わ、分かんねぇ……。でも、桂先生の言う通りにしたらこうなっちまったんだ」

――うしお曰く。

診療所の窓から、桂雪路が知り合いがデパートの方面に向かうのを見つけた。
急いでいるようで、酔いのまわった自分では追いつけないと判断し、うしおの背に乗って追うように頼んだ。
診療所を出てすぐの道中で、彼の愛槍たる“獣の槍”とやらに身を委ねた者が彼らを追い始めた。

彼の力は凄まじく、とても立ち向かえないと判断した二人は、桂雪路の策とやらを試す事にした。
うしおが時間を稼ぐ間、出力を絞った映像宝貝で桂雪路の幻を作り出し、それを囮にして隙を作り出す――と。

だが。
獣の槍の仮の主が幻を貫いたその時、空間そのものが罅割れるように開き、中から無数の彼岸の住人が溢れ出てきたというのだ。

……狐め。
宝貝にも匹敵する獣の槍を用い、冥界の扉を開いたか。
成程、幽世と現世の境界の霞んだ中心部に己が幻を投影し、そこを切り裂かせるよう仕向ければ不可能ではないだろう。

恐るべきは――“獣の槍”か。
凄まじい力を持つ霊装のようだ。

872デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:19:03 ID:4Be.p97g0
……だが、大き過ぎる力は必ず代償が必要となる、宝貝が仙人骨の力を原動力とするように。
獣の槍の力は何を由来としているのだろうか。
嫌な予感がする。それを知る事が真実に近づくと勘が告げるが、知らぬ方がよいとも警笛を鳴らしている。

うしおが本来の主だということだが、果たしてこの少年は何を犠牲に今まで戦ってきたのだろうか。

脳裏に纏わりつく疑問も、しかし今は瑣事だ。
あの狐の謀を暴かねば、どれほど自体は悪く回るか。

うしおに、問う。

「……その当人は何処に?」

「それも、分かんねぇ。
 ……妖怪が溢れて、こうやって追い払ってたら、いつのまにか姿見えなくなっちまった。
 くっそぉ、どうしてこうなんだよ! どうして、どうして守る事もできねぇんだよぉっ!」

嘆くな――と肩に手を置くも、慰めにはならぬだろう。
この少年は、心底真っ直ぐな気質を持つゆえに。
しかし折れぬからこそ、全てを抱え込む。
……守らねば、な。
あの秋葉流の様に、嫉妬にこの身を焦がされる事もあるだろう。
だがそれでも、汚してはならない眩しさはかけがえのないものなのだから。

……事態は刻々と過ぎてゆく。
いくら贋作を振るえど、異形はますます数を増す。

「……いくらやっつけても、キリがねぇ。
 全部倒しても、すぐにあちこち埋め尽くしちまう……」

一体一体は紙の如く潰せるが、確かにこれでは終わりがない。
……狐の企みが、読めん。
よもやこんな七面倒なだけの嫌がらせが目的ではないだろう。
奴の転生先にするためかとも思ったが、それ程の大物も見当たらない。
そんな不確実な博打を打つとも考えづらく、やはり何か起点となる存在がいる――と考えるのが妥当か。

思考がそこに辿り着くと、同時。

禽獣の海の一角が、盛大に爆ぜた。

「……あ、あ……、間違い、ねぇ。アイツ、だ」

うしおの呟きから、事態を把握。
即座にそちらに目を凝らす。
海を割りながら、衝撃が此方へと突き進む。

有象無象が一筋に、空を舞う塵芥と化した。


そして我々の眼前に現れた“それ”は――、

槍を手にした“それ”は――、

周囲の雑魚とは別格の、しかし確実に人ではない、“獣”としか呼べぬバケモノであった。

873デイヴィッドソンの沼女 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:19:18 ID:4Be.p97g0
おそらく、言葉を解する事もできはしまい。

うしおが、崩れた。

「たったあれだけで……もう、こんなに魂を削られちまったのかよぅ……。
 つい、さっきまで……少しは、話せそうだったのによ……」

歯噛みするうしお。その声は、もはや嘆きと呼んで差し支えない悲愴さを湛えている。

……嫌な予感が的中したか。
これは、残骸。魂を失い、魄のみで動くヒトの末路。

確信を持って、私はうしおに問いを投げる。

「獣の槍とは――魂を喰らうのか?」

泣きそうな顔で、いや、涙で既に頬を濡らし、うしおはこくりと頷きを返す。
その手が、小刻みに震えていた。


もうこのバケモノを救う手立てはないのだと、語らずともその背が語っていた。


**********


あん……?

なんであたしゃ、こんなとこにいるのよ。

つーかここ、どこよ。誰もいないし、変なお札がいっぱい浮いてるし。


なんか急に、力吸い取られたみたいに一気に意識がオチたのは覚えてんだけどなー。


……あ、そっか。
夢だこりゃ。

……夢ならまあ、心配する事ないか。
あの男のコ、すっごい思いつめてたからなー、現実だったら心配でたまんないわよ。

んじゃあ、もう少しゴロゴロまどろんでますかー。
二度寝って最高よね〜。

874ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:20:00 ID:4Be.p97g0
**********


……分かってた。
分かってたんだ。

こうなっちまうって、分かってたのに。
それでもオレは、助けられるんじゃあないかって……、どっかで思っちまってた。

バカだよなァ、オレの時は槍が……少しでも待ってくれてたから、時間を引き延ばせたってのによ。

……どっかからウジャウジャ湧いたこいつらを相手にしてたのは、オレたちだけじゃなかったんだ。
この人もずっと闘ってたんだ。
だから、その間はずっと槍に魂を取られて……、こう、なっちまった。

まだ言葉が通じるうちに、少しでも話しかけて……、強引にでも、槍を取り返して。
こんな取り返しのつかない姿にゃならなかったのに、よう。
オレがもっとはやくどうにかしてりゃあ、こうはならなかったのに、よう……。

オレのせいだ。
オレのせいだ。
……オレのせいだ。

くるしいぜ……。
助けられる人を助けられなかったって、すげえくるしいよ……。

唇を噛むと、血が出た。
鉄臭い味が、俺の口に広がる。

……オレはまだ、人間なのに。

「うしお……、気に病むな。
 お前が槍を取り戻すには、状況が許さなかった。
 彼の者との力量差、桂雪路を守るという悪条件、そしてこの世ならざる者どもの横行。
 これは必然――運命だったのだ。
 この獣どもが雲海の如く我等の眼前に現れた時、いや、彼の者が獣の槍を手にした時からの……な」

「分かってる、分かってるよ! けど、よう!
 こんなん……酷過ぎるぜ、運命だなんて認められるかよぉ!
 桂先生さえ見失っちまって……」

くっそぉぉ、涙で前が見えねぇよ!
徳野さん、さとり……、オレって、どうしてこんなに無力なんだよ!

ごしごしと目を擦る。
その時だった。

一気に名前も知らねぇ兄ちゃんが、こっちに向かって走り始めたのは。
背を低くして、人間だったとは思えねえ速度で近づいてくる。

凄い殺気が、全身を突き刺した。
本気……なんだな、獣の槍……、ギリョウ、さん。

オレが頼りないから、オレじゃあ白面を倒すのは無理だから、オレを見限ってその人の魂を喰っちまったのか?
ごめんよ、ごめんよォ……。
涙がぼろぼろぼろぼろこぼれてとまらねぇ……。なっさけねぇなァ。

875ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:20:14 ID:4Be.p97g0
頼むよ……、その人の魂だけでも、返してやっておくれよォ。
オレの魂ならよ、いっくらでも使ってくれていいからさァ……。

なあ、獣の槍……、オレじゃあ、やっぱり無理なのかなァ。


胸が痛いけど、でも、止めなくちゃ……!

「……っ、もう、やめてくれよぉっ!!」

槍の、石突きの方を兄ちゃんに向けて、オレも走りだす。

狙うのは……手だ。
弾き飛ばせば、もしかしたら戻るかもしれない。
いつもなら、そうなるはずなんだ。
どんなに希望が小さくても、諦めるなんてできねぇよ……!

突き込んできた獣の槍を、スライディングして避ける。

そのまま踏み込んで――、一閃。
頼むよ、当たってくれ……ッ!

びゅう、と頭の上で風を切る音がした。

「あ……、」


……当たら、ねェ。
届かねえ。

オレは……獣の槍には、届かねえ。

その現実を、突き付けられた。

「ちく、しょう……」

がっくりと、膝を着きそうになる。
獣の槍のトドメの一撃を、覚悟する。

……けれど、それは来ない。

気付く。

「狙いはオレじゃ……ねえ! 聞仲さん!」

無理矢理震える手で槍を地面に突き刺して、方向転換。

オレは障害物でしかなくって、相手にすらされてなかったんだ。
……最初っからオレを飛び越えて、聞仲さんを仕留めるつもりだったんだ……!

「逃げろーっ! 聞仲さ――、」

そしてオレは見た。

聞仲さんの鞭の一撃が、あっさりと獣の槍を持つ兄ちゃんを叩き落とすのを。
ううん、叩き落とすだけじゃなくて、まわりの妖怪たちをまとめてふっ飛ばしさえしてる……!

876ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:20:34 ID:4Be.p97g0
「……どうやら私を狙っているようだな。
 獣の槍は妖怪を滅する為に在る武具。……なれば、此処に向かったのも私を穿つ為という事か」


――強ぇ。

聞仲さんは、一歩も動かずにそこにただ立っている。
それだけなのに、とても力強い。
唐突に、流兄ちゃんの寂しそうな言葉を思い出した。

『……あァ、残念だぜ。
 お前が本気で立ち向かってくれてたら、オレは……』

……本当に、強ぇ。
あの時の流兄ちゃんもとんでもなく強かったけど、聞仲さんはそれ以上かもしれねえ。

でも、だったら、どうして。

「どうして……あの時はコテンパンにされちまったんだ?」

どうしてあんなにも、覇気がなくって。
そしてどうして今は――、こんなにすっげぇんだ?

砲弾みたいにあっちへ行った獣の槍の兄ちゃんが、ガレキを足場に跳ね返ってきた。
けれど、聞仲さんは返す手首の動きで鞭を操って、簡単にそれをあしらっている。

呆然と立っているだけの、オレ。
……聞仲さんをかっけえと思う心の裏っ側で、自分がみっともなかった。
三度目の、どうして。
どうして――聞仲さんは、そんな役に立たないオレを、仲間だって言ってくれたんだろう。

「お前が人を惹きつけ、立ち上がる力と羨望を与える輝きの持ち主からだ」

……え?

オレ、今何も……言ってない、よな?

ぽかんと口を開けて固まったオレに、聞仲さんが小さく笑いかける。

「そう驚く事もない、心根が真っ直ぐすぎるのだ、お前は。
 顔に全てが出ているぞ。
 ……そこがまぶしく、佳い所ではあるのだがな」

そんなんじゃねえ、って言いたかった。
けれど聞仲さんは真剣で、だから言い返す事は出来なかった。
こんな状況だってのに、オレは照れ臭くてほっぺを掻いて目を逸らす。

「私は――、此処に来る前、守りたかったものを失った。
 ……いや、とっくの昔に失っていたという事実から、目を背け続けていたのだよ」

877ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:20:53 ID:4Be.p97g0
聞仲さんは、何処か遠くを見るように目を細める。
どうしてかそれを見てると、オレは悲しくなっちまった。
胸が締め付けられるように、苦しくなる。

聞仲さんは、オレを守るように鞭を振るい続ける。

「……澄んだ心の持ち主だな。そんなお前と出会った事が、私に力を与えたのだ、うしお」

……買いかぶりだ、聞仲さん。
言おうとしたけど、口が動かない。

体が、震えてくる。
……どうして、震えてんだよ。この人は優しくて凄くて、オレを守ってくれてるのに。
怖い、なんて、そんな事を思っちまうんだ……?

「違う……、オレ、そんな立派な奴じゃねえよ……」

もつれた口が、オレらしくねえ小さな言葉しか出してくれない。
こっちを見つめる視線が、怖い。
潰れちまいそうだ。

「強いさ、お前は。
 大切なものの死を直視し、慕ったものに裏切られてさえ……なお仲間であると信じ続けた。
 疑うのは易いが信じ続けるのは難い。
 今のお前が弱いとするならば、己を信ずる心が崩れかけたからだ。
 そしてそうなったのは……お前のせいではない」

「オレのせいなんだよぉぉぉっ!
 みんなみんな、オレが弱いから……、うぁあああぁぁああっ!」

……う、あ、あ……。なんで……なんで心配してくれる人に怒鳴っちまうんだよ!
最低だぜ、この馬ッ鹿野郎ォ……ッ!

地面にへたり込んで、地面を何度も何度も何度も叩く。

けど、それでどうなる訳もなかった。
ただ、オレはずっと泣きじゃくっていた。

聞仲さんがあんな目で見ていると思うと、頭ン中がぐちゃぐちゃになっちまいそうで。
でも、怒鳴っちまった事に幻滅されたかもしれないと思うと、それも怖くて。
どうしようもなくって、うずくまるしかなくて。

……どれくらい時間が経ったろう。
そんなに長い時間じゃなかったと思うけど、今の状況では充分に長いと言える時間。
数秒か、数十秒か、それとも数分か。

唐突に、その時は来た。

不意にオレの上に影が差して。

あれ、と思って空を見上げて。

その、瞬間に。

獣の槍が、俺に向かって――、


ぶじゅう、と、血の花が咲いた。

878ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:21:13 ID:4Be.p97g0
「……う、ぁ、」


……ぽた、ぽた、と、血がオレの顔に流れる。
頬を、濡らしていく。
まるで――血の涙の様に。

オレの手の中の槍が、名前も知らない兄ちゃんの肩口を縫い止めていた。
ちょうど獣の槍を持ったその片手の自由を、奪うように。

「あれ……?」

全く、そんな事をしたつもりはなかった。
なのに体は勝手に動いて、向かってきたこの人を止めようとしていた。

ずる……、と、獣の槍が兄ちゃんの手から落っこちた。
からんころころと地面を跳ねて、転がり止まる。

それを見た瞬間、何も考えずに、獣の槍へと手を伸ばしている自分に気づく。

……どうして、こんな事を?
見放されて、自分が嫌で、信じられるのさえ嫌だって思ってたはずなのに。
まだ……オレは、手を伸ばしてる。

掴もうとする。

「身に刻んだ経験は、決して裏切らない。
 そして……、いくら意思が拒んだとて、魂の在り様も変わる事はない。
 今取ったすべての行動こそが、お前だうしお」

聞仲さんが、変わらない眼差しでこっちを見ている。
すぅ……っと、さっきまでは刃のようだったその眼が、声が、溶けて染み込むようにオレの体に馴染んでいく。

「信じろうしお、己の事を。お前の成したことも、心がけも、全てはいつかどこかに辿り着く為に必要な事だったと。
 自分を信じられぬ者に、ついてくる者などいない。
 堂々と己を誇れ、悔いはしてもそれを否定するなうしお。
 ……さすれば、失ったものを取り返し、それ以上のものを得る事さえきっとできる」

……あったけえ。
うれしい、なァ。そう言ってくれる人がいるって……きっとしあわせだ。

だけど、……消えない不安だってあるんだ。
期待されても、もし自分が応えられないって考えると、立てねぇ。
……怖ぇんだ、見限られちまう事が。
声を絞り出す。

「で、も……、こんな、獣の槍にもとらにも、流兄ちゃんにも見捨てられたオレに、何ができるんだろう。
 オレが期待どおりに動けなかったから、みんな離れちまった……。
 ぶ、聞仲さんだって……」

ゆっくりと、聞仲さんと目と目を合わせた。

879ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:21:30 ID:4Be.p97g0
その姿は、揺るがない。

「大丈夫だ。今は私が――お前を信じている。幾度過ちを重ねようと、それは揺るぐ事はない。
 それではお前が自分を信じる根拠として不足か?」


――憑き物が落ちたみたいだった。


……はは。
あっははははははははははは!

そうだよ、何を疑ってんだよ蒼月潮!
オレを信じているって言ってくれてる人がいる。
なのに、オレが自分を信じなけりゃあ、その人に対する裏切りじゃねえか。
その人を――聞仲さんを疑ってるって事になっちまうじゃねえか!

そいつだけは許せねえ。
オレは信じるぜ、聞仲さんを。
仲間だけは、絶対に疑わねえ!

うしお、自分を信じて対決していけ。

蝉兄ちゃんの言葉が、聞こえる。
ギチギチって、さっきまであんなにオレの心を締めつけていた蝉兄ちゃんの言葉。
なのに、それが今はとても頼もしくて、オレを支えてくれていた。

そうだ――立てる。
掴み取れる!

手を伸ばす、獣の槍に。
だけど――、

「おれ……の、ちからぁ……っ!」

ガキン、と。
目の前で、星が瞬くように獣の槍が掻っ攫われた。

ざわざわと空気が蠢いて、獣の槍に喰われた兄ちゃんが、こっちに向き直ってくる。
オレを完全に、敵って認めたんだ。

……ああ、そうだよなぁ。
許してほしい、なんて言わねえ。
許してくれなくて構わないし、そんな事を言ったらこの人が槍を使った時の覚悟まで侮辱しちまう。

「聞仲さん」

オレは自分の持っていた槍を杖にして、立ち上がる。
何の変哲もない、ただの槍を。

「こいつは、オレに戦わせてくれ。オレが止めなきゃあ、いけないんだ。
 もっと早く……止めなきゃあ、いけなかったんだ」

880ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:21:50 ID:4Be.p97g0
きっと相手を睨む。
聞仲さんは少しだけ黙って、それから数歩退いてくれた。

「……この魍魎どもの相手に徹していよう。いざとなれば、助けに入る」

「必要ねえ。……絶対に勝つ。
 そうでもなきゃ、オレはオレに戻れねえんだ。聞仲さんに仲間なんて呼んでもらう資格はねえ」

強気に答える。それを挑発って思ったのか、それとも偶然か。
目の前の、名前も知らない人が――友達になれたかもしれない人が、吼えた。
その最後、小さなつぶやきが耳に届く。

「まも……る……。おれ……が……、どう……なって……」

しゃがれた、人のものと思えない声。
だけどそれが、泣いているように耳に痛かった。

戦いたく、ない。
この人だって、守りたいものがあったからこうなったんだって――分かっちまったから。

でも。

「ごめんよ……、止めるぜ」

それだけ小さく口にして、一歩踏み出す。

走る。

突き抜く!

槍と槍が、交差する。

火花が散って、楽器の様な音がした。

衝撃が手を痺れさせる。

弾かれた勢いで、後ろに下がる。

勢いは殺さない。片足を軸に、一回転。

――薙ぎ払う!

獣の槍が、それを止める。兄ちゃんの体には届かない。

「もう……どこにも……いかな……」

必死な形相でオレを睨み付ける、兄ちゃん。

……ああ、くるしいくらいに伝わってくるぜ。
痛いぜ、こころが。

守りたかったんだよ……なァ。
絶対に手放したくない何かがあったんだよ、なァ。

881ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:22:11 ID:4Be.p97g0
十字の形に組み合った槍が、二人の真ん中で止まってる。

ぎりぎりと、押される力がどんどん強くなる。
ちくしょう、思いの強さに潰されちまいそうだよ。

オレにも良く分かるそのこころを、応援してやりたくなっちまう。

でも、今の兄ちゃんは、間違ってる。
絶対に、このままにしちゃなんねぇんだ。

だって、よう――、

「に、くい……、じゃま、するな……」

そんな顔で、ぶっ壊れちまって、大切な人が喜ぶはずねーじゃんかよう!

オレだってあの時、とらに、母ちゃんに、そんな顔なんかさせたくなかったんだよう!

……この人は、オレだ。
だから――兄ちゃんの全て、オレが受け止めてやる。

この何の力もねえ、弱っちい、ただの蒼月潮でも――それくらいはやってやるさ……。

どんな事が起きても、自分を信じてやるさ!

ごとり。
力づくで抑え込まれて、押し倒される。背中が地面にぶつかる。
兄ちゃんの吐く息が近くて、眼に入るのは獣になった顔だけだった。

喰われちまいそうだって、体が縮む。

けど、……負けるかよォォォォッ!

止める!
その為に――ただ大切なことだけを考える。

眼を閉じる。
暗闇の中にいるのは、オレだけ。
オレがどうしたいのか、それだけに集中する。

己の心を細くせよ。川は板を破壊できぬ。水滴のみが板に穴を穿つ。

そうだ……、杜綱さんたちに教わったことさえ、オレは思い出せてなかったんだ。

分かる。
獣の槍と、兄ちゃんの、暴れ続ける怨嗟の声が。

息を整え、見極める。
ほとんど獣の槍に引き摺られちまってる兄ちゃんの、それでも決して獣の槍と馴染まない呼吸のズレを。
最後まで残った、いちばんたいせつなものを。


「あ……に、き……」

882ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:22:33 ID:4Be.p97g0
言葉と同時、一気に押し込んだ獣の槍が俺の槍を胸に押し付ける。
肺が苦しくて、息が詰まる。
歯を噛んだ。ギリ、という音も、もう聞こえない。

「馬ッ鹿野郎――っ! そんな姿、兄貴に見せるってのかよぉ――ッ!」


……今、この時だ。
この時を、待っていた……!

「らぁぁぁあああぁぁあああぁぁあああぁぁぁあああああぁぁあああっ!」

片手を槍から離して、オレの槍の柄に――上からゲンコを叩き込む!

ぼき、って、嫌な音がした。
たぶん、オレの肋骨が折れたんだと思う。
当たり前だ、オレの体そのものを支えにしたんだから。

でも――、

「――!?」

獣の兄ちゃんは、何が起こったか分からないって顔でごろごろ転がっていった。

テコの力だ。

真正面からぶつかり合っても力負けすんのは分かってたから、オレを地面との間に挟んで、槍をテコにして押し返したんだ。

……寝てる暇なんてねぇ。思いっきりテコを打ちつけられて、兄ちゃんの手から離れた獣の槍が、宙を飛んでるんだから。

勢い任せに立ち上がる。
胸の下がでっけえ金槌でぶん殴られた様に痛くて、吐きそうなほどに気持ち悪かったけど、そんなの……関係ねぇ!


オレは思いっきり手を空に伸ばして――叫ぶ!


「戻って、こい……。もう一度、一緒に戦うんだ……。
 来いーっ、獣の槍ィ――――ッ!」

883ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:23:06 ID:4Be.p97g0
**********


そこからは、私の眼ですらまともに捉えきれない刹那の出来事だった。

空に舞った獣の槍が急激に方向転換し、するりとうしおの手に収まる。
そしてその毛が一気に伸び――、気がつけばうしおは獣の青年の前に立ち、延髄に槍の一撃を見舞っていた。

それで、終わりだった。

静寂。

そして、沈黙。

はらりとうしおの伸びた毛が散って、ぐらりと倒れ込む。

「……っと、」

慌てて駆け寄り、その肩を支える。
俯いたその顔を見る事は叶わない。

ただ私は、こう檄をかけていた。

「……よくやった」

そしてうしおは、顔を上げる。
照れと悔恨の混じり合った、複雑な表情だった。

「これで……、よかったのかなァ」

……思う所は、色々あるのだろう。
彼の器量は知りながらも、過去を知らぬ私に返せるいらえなどなく。
確かにある事だけを、告げた。

「お前の手には、取り返したものがある。……だろう?」

「うん……」

そしてようやく、小さな小さな笑いを見せた。
私も安堵をそこに得る。


同時。
背後の殺気が膨れ上がったのを理解。

雷と炎が、うしおを襲う。
新手――!?

「させるか……!」

この贋作では、払いきれん。
ならば身を呈して庇うのみ……!

じゅう、と、背の肉の焦げる匂いが鼻を焼いた。
体が痺れ、動きが阻害される。

「ぐぅ……っ!」

884ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:23:20 ID:4Be.p97g0
「ぶ、聞仲さ――、」

悲痛な声。
……平気だ。この程度、取るに足らぬ傷でしかない。
お前が無事ならば、それで良い。
眉をしかめながら、緩慢な動きで背後を向く。

そこには。

「……なんだ、あれは……」

涙目で私の背を見つめ、無言だったうしおが、ぽつりと呟く。


「字伏……」

おぉぉおおおおぉぉおおおおぉおぉぉおおおぉぉん!

遠吠えが、辺りに響き渡る。

そうか。
それが、このバケモノの呼名か。

人であった頃の字名すら――伏せてしまった獣。

理解する。
これは、あの獣となった青年の末路であるのだと。


右腕の贋作を構え、相対する。
うしおもまた、私を気にしながらも獣の槍を握り締める。

だが、それは杞憂に終わった。
更なる咆哮を残すと、字伏は一転して駆けだして行く。
何処とも知れぬ場所へと向かって。

……何ゆえか?
何故、戦わない?

疑問が私たちの頭を埋め尽くすも、答えるべき字伏は既に此処におらず。
追うにしても、雷を受けたこの体は機敏な動きを許してくれず。
……ただ、無数の魑魅魍魎どもが字伏の通った道を埋め尽くし、我々を取り囲んでいた。

うしおが、呟いた。

「槍が昂ぶってる……。白面の気配が復活した、って……」

885ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:23:40 ID:4Be.p97g0
**********


憎い……、憎いぞ……。

この体は……なんだ。

何故、こうなった。

思い……出せない。だが、俺がこんな化け物ではなかった事は分かる。
俺は……、誰で、何故こんな姿になっている!?

ああ。
憎い、憎い、憎い憎い憎い憎いぃぃぃッ!

俺をこうした元凶が憎い。
関わってきた全てが憎い。

分かる事は、二つだけ。
俺は……あの男を守らねばならないという事。
どういう関係だったかも思い出せないが、あの顔だけは決して忘れない。
そして、俺は白面が憎いという事。

そうだ、俺の傍でずっと語っていた誰かも言っていたではないか。
白面こそ諸悪の根源であると。

臭う……、臭うぞ白面白面白面……ッ!
何処に隠れていた!?

いや、それはいい。
今必要なのは絶殺の意志。

この爪で奴を切り裂き、あぎとで引き裂き、雷と炎で身を焼く事に専心するのみだ。

そら、あの女だ。
あそこで暢気に突っ立っている女。
奴こそが……白面の宿主よ!

886ミノタウロス殺しの船 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:23:57 ID:4Be.p97g0
届く、届くぞ。俺は届く!

もはや障害は眼前に非じ!

あと十歩か九歩か七歩か六歩か!
五歩か四歩か三歩か二歩かァ!


女ァ、死ィィィィ……ねェェェッ!


さあ、この牙を臓腑に抉り込もう。

一歩踏み込み、零を貫くぞォッ!


取ったァ……ッ!



ザクリ。



肉が血が、臓腑が骨が零れ落ちる。
この獣のあぎとが赤に染まる。

先ほどの様なまやかしではない。
今度という今度こそ、肉人形を貫いた……ッ!

887少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:24:48 ID:4Be.p97g0
**********


あれ……?

なにこれ。

なんで、こうなってんの?

眠ってたらすんごい痛みが来て、眼、開けたら虎みたいな化け物がくちゃくちゃあたしの体を食ってる。

あ……こぼれてる。いっぱい、こぼれてる。

やだ……、なんか、寒い。

痛みも一瞬で、全然痛くないよ。

そっか、これも夢だ。絶対に、夢。

だってなんか、頭がボーっとしてるもん。二日酔いだ、これ。

んじゃあ、ゆっくり寝ないとね。

明日も安月給でこき使われるんだし。

あの癖のある生徒どもに付き合わなきゃいかんし。

もうすぐ五月の連休なんだから、ひと踏ん張りしないとね。

どういうつもりかしんないけど、薫のバカからもなんか旅行に誘われてるし……ね。

……寝過ごさないよう、気をつけないと。ヒナに怒られちゃうもんね。


ん……なんだろ、あれ。
あたしのまわりに、八角形の何かが浮かんでる。
化け物ごと、あたしの体はその中に沈み込んでいく。

ああ……、また、この夢か。
一度見た夢の続きを見るなんて、珍しいなあ。

お札がいっぱい、周りに浮かんでる。

あ、なんか変なビームでた。

化け物に当たった。ジュッ……って音がする。

ぐらり、とあたしが揺れる。

化け物の口から抜け出て、真っ逆さまに下に落ちてく。

888少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:25:08 ID:4Be.p97g0
そして……、あたしの体から、なんか変な狐みたいな靄が浮かび上がってきた。

ホント、変な夢だわ。


あ……、意識が融けてきた。

まっしろだ……。


おや、すみ……。


  おやすみなさいん、救いようのないお天気頭さん♪


【桂雪路@ハヤテのごとく! 死亡】


**********


くすくすくすくす、全部が全部計画どおりねぇん。


この辺りの霊脈が乱れて、この世とあの世の境が混じり合っていたこと。
うしおちゃんが映像宝貝と落魂陣を持っていたこと。
そして……、獣の槍が、魂を削って人をバケモノにする性質を持っていたこと。

こんなまさに仕組まれたような条件が整っていなければ、こうまで上手くいかなかったでしょうねぇん。

まず、うしおちゃんから口八丁で荷物を預かって。
常人の雪路ちゃんに宝貝たる落魂陣を触れさせて、いつでも意識を奪えるようにして。
次に憎しみと獣化でお馬鹿さんになった潤也ちゃんを誘導して、獣の槍で冥界の扉を開かせて。
溢れた魑魅魍魎を潤也ちゃんに相手にさせている間に、わらわは落魂陣に入って隠れて。

これで、潤也ちゃんをどんどん獣に近づかせてあげると同時に、獣の槍の眼の届かない所に非難する事が出来たのぉん♪
あはん、一挙両得ねぇん。

あとは潤也ちゃんが殆ど獣化した頃を見計らって外に出て、雪路ちゃんの体をエサに落魂陣におびき寄せるだけって寸法よぉん。
最後は落魂の呪符で完全に魂魄を消し飛ばしてあげるだけだったわん。

たったそれだけで、ほぉら。
あの妖怪とそっくりの肉体を手に入れられたのぉん。


あとは……この体に馴染むのを待つだけねぇん。
潤也ちゃんの魂魄の削りカスはまだくっついてるから、あのコの記憶と意思は残ってるけど……、まあ許容範囲かしらん。

……獣の槍をうしおちゃんが取り返しちゃったことだけは、想定外だったけどねぇん。

さぁて、これからどうしましょぉん。
この体には変化の力もある様だし、潤也ちゃんの姿で行動するのがおもしろ……無難かしらぁん♪


【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】
【妲己@封神演義 蘇生】

889少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:25:26 ID:4Be.p97g0
**********


禁鞭の贋作を振るいながら、東に向かい足を走らせる。
流石にいつまでもこ奴らを相手にしている訳にはいかん。

特に今のうしおには、休息が必要だ。
沈み込んだ様子こそ見せないものの、空元気なのは明白なのだから。
先ほどの青年が字伏とやらに変化したのを見た事は、立ち直ったばかりの心にはやはりダメージが大きいようである。

道を見渡せど、埋め尽くす幽鬼どもはデパート周辺のかなりの部分を塞いでいた。
倒壊により生じた無数の瓦礫と相まって、北上という選択肢を取る事は難しい状況に我々は置かれている。

故に思い付いたのは、先ほど診療所の地下に見つけた通路だった。
あれを用いれば、ひとまずの退路は確保できるだろう。


――そんな時だった。
不意に、頬に冷たいものが落ちたのは。

「む……?」

空を見ると、白い結晶がぽたぽたと落ちてくる。

「雪……」

うしおの呟き。
それに反応でもしたのか、一気に空から白の花が降り出し始めた。

見とれるうしおをそのままにしてやりたかったが、堪える。
今はそれどころではないのだから。

うしおの肩に手を載せ、現実に引き戻そうとする。

……と。

「え……?」

呆然としたうしおの声に、私も気付く。
周りの異界の住人どもの声が、次第に小さくなっているのを。

ハッとして、周囲を見渡した先にあったもの。
その光景は、凄惨でありながらやけに静かな代物であった。

雪に触れた瞬間に、この世ならざる存在が融けて消えていく。

その正体に、どうしてか私は瞬時に思い当たった。
そんな宝貝など、見た事もないはずであるのに。

「魂魄を溶かす雪……!」

ただ見ている間にも、雪は降り積もる。
そして――、あれほど溢れていた魍魎どもは、雪が降り始めてわずか数分で消え失せてしまった。

890少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:25:44 ID:4Be.p97g0
……我々には何の影響もない所を見ると、落魂陣とは異なり、魂魄体でないものには全く害を与えぬらしい。


『何にせよ、これからの天気には注意した方がいいかもしれませんよ』


不意に、放送での幼い少年の声が脳裏に蘇る。

この事態を――幽世と現世の交わりを、“神”は予見していたとでもいうのだろうか。
その処理を、気付かれぬよう行う為に天候を操作したとでもいうのか。

全てが、予定調和だとでもいうのだろうか。

美しく降り積もる雪――その寒さでなく、もっと別の得体の知れない何かに、いつしか私は背筋を震わせていた。

「聞仲さん」

ふと目線を下げると、うしおがじぃとこちらを見つめている。


「やりたいこと……、ううん、やらなくちゃなんねぇことがあるんだけど、さ……」


**********


さて……、雪のおかげで雑魚どもはあらかた消えたかね。
んじゃあ、後は入り口を封じるだけ……と。


ナイフで手を切り、血を流す。
煙が立ち上り、紅の立方体が冥界の門を包み込んだ。

こいつで終わり……と。
これでもう連中は溢れ出る事は出来ねえ。こっちに出てきた瞬間、酸が全てを溶かしちまうからな。

やれやれ、……ったく。

もう……行っても、無駄かもしれねぇが。
こっちに来たついでに、ママの様子だけでも見とくかね。
正直今のママは見てらんねぇ。

ああくそ、気に入らねぇ。
……あの人に人質としての価値なんてなかったはずなのに、それでも連中の口車に乗っちまうオレ自身がよ。

そんな事を思うと同時、背後でざり、と音がした。

「……な、」

おい……嘘だろ。

「どうしてテメエらが……ここにいる!?」

891少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:26:06 ID:4Be.p97g0
テメエは――東の“非常口”に向かったはずじゃねえのかよ……!

「王……天、君? 参加者に貴様の名は……無かったはず」


なんで戻って来やがったんだよ、聞仲ゥゥゥッ!


**********


思考が停止する。

異形どもが消えた事を契機に、私達はデパートの周囲に戻ってきた。
桂雪路――私にとっては妲己を探したいと、うしおが提案したからだ。
事の次第を問い詰める為にも私はそれを肯定し、此処まで急ぎ足を進めたのだ、が。

雌狐は影も形も見当たらず――代わりに眼に入ったのが本来在らざるべきこの男。

どういう事だ。
王天君――敵対者たる十天君の長がこの場にいて、そして私が此処にいる事に驚愕する、とは。
貴様はもっとふてぶてしく、影から享楽的に事を進めるはずだろう。
何故、そんな似合わぬ表情をしている……!?

「……クソッタレ、こういう算段かよ! 」

らしくない表情を、見る。
いや、王天君のこんな顔を見るのは永き生の中でも初めてかもしれん。
それほどまでに王天君は取り乱し――、ガリガリと、血が溢れるほどに指を噛んでいる。

「姿を見られた事自体は……構わねえ、別にいい!
 だが――オレがテメエらに引き合わされたって、その意味を考えりゃロクな答えが浮かんでこねえ!!
 畜生が、掌の上で何でもかんでも弄びやがって! 白だろうが黒だろうがどっちもテメエの駒にゃ変わりねえってか!」

診療所から拾ってきた、あの古ぼけた絵の内容が蘇った。

……王天君も、神の手の者か!
思い当たり、王天君の下へと駆ける。
確保し情報を引き出すのが最善手だ。

だが、それは果たされない。

突如湧き出た白い霧が王天君を包み込み――、そして、

「ひゃ、は……。ひゃはっ! そうかよ! ぐひゃひゃがぁぁあああぁぁぁああぁっ!
 廃棄物の処理と、第三の見せしめと、メッセンジャーって訳かよクソクソクソクソぉぉぉぉぉっ!
 くははははは、ぎゃ、が、ぐがひゃぁぁああぁぁががががっがぎゃぁぁああぁあがぁぁあっ!」

雷。

肉の焼ける匂いが立ち込めた。

892少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:26:22 ID:4Be.p97g0
雷公鞭? ……いや、違う。
あれほどの破壊力ではなく、しかし恐るべきものには変わりない魔の類の術。
種類で言えば、先ほどの字伏のそれに近い。

幾度も幾度も間断なく、王天君の身が稲妻に焦がされていく。
皮と筋が裂け、血が迸り、眼から白いゼリー状の物が染み出していく。

凄惨さに、私もうしおも――ただ、見ている事しかできなかった。
一体何が起こっているのか、あまりに脈絡がなさすぎた。

「オイ……テメェらに、忠告してやるぜ……!
 考えるな、諦めろ、真実なんぞ探ろうとすんじゃねえ! 後悔するぜ、オレみたいによ!
 流れに身をまかせちまえ、そいつが一番幸せだ、ぎゃははははははっ!
 どーせテメェら……オレ達に帰る場所なんざねぇんだからさあぁぁああぁぁああぁぁぁっ!」

びくり、とうしおの身が震えた。
おぞましい形相の王天君が、悪夢のごとく血反吐を撒き散らす。
倒れそうになるうしおの小さな肩に手を置き、支えた。

「ああ――、滅びろ、滅びろ、皆ぶっ壊れちまえ!
 くくく、カカカカカカ、ぐばっぎゃぁがあああぁああぁぁっ!」

王天君が踊る。

狂った踊りを舞い続け――、そして唐突に終わりが来た。

「一番美しい構図はゼロってか、き――、」

人の名前のようなものを最後に呟くと。

「な――!?」

王天君を中心に、ぎゅるり、と空間そのものが球状に歪曲する。
ノイズがかったように王天君が霞む。
そして一瞬のうちにその中央に引き摺られるように、彼の姿は消えていった。
黒い穴に、呑み込まれるように。

後には、臭い煙が立ち込めるだけ。

霧のような何かの痕跡さえ、残っていなかった。

「何が――何が起こったって言うんだよう……」

がたがたと己の肩を抱いて、うしおがへたり込む。

言葉もなく、私も立ち尽くすことしかできなかった。

893少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:26:34 ID:4Be.p97g0
ただ緩慢に辺りを見渡し、そして気付く。

「……あれは、紅水陣?」

乱れた龍脈の中心――冥界の門と思しき場所に、王天君の宝貝が固定されていた。
まるで、その場を封印するかのように。

術者たる王天君はもういないのにもかかわらず、解除される事もなく――。


【I-07/デパート跡地周辺/1日目/午後】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:精神的疲労(中)、左肋骨1本骨折、混乱
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[思考]
基本: 殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
0:一体何が起こったんだよう……。
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。特に雪路が心配。探したい。
3:とらやひょうと合流したい。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:聞仲に尊敬の念。
7:金光聖母を探す。
8:字伏(潤也)の存在にショック。止めたいが……。
9:白面を倒す。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。

894少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:26:59 ID:4Be.p97g0
【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)、背に火傷(小)、混乱
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモを大量消費)、不明支給品×1、首輪×3(ブラックジャック、妙、妲己)、
    胡喜媚の羽、診療所の集合写真
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
0:王天君は、一体――? 何故紅水陣が持続している?
1:妲己の不在を危険視。何処にいるかを探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:2のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。特にエドと合流したい。
5:流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:流に強い共感。
8:幽世の存在に疑問。封神台があると仮定し、その存在意義について考える。
9:獣の槍を危険視。
10:診療所の地下を調べたい。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※うしおと情報交換しました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
爆薬(プラスチック爆薬)についての情報。
首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること。
※幽世の存在を認識しました。幽世の住人は参加者や支給品に付帯していた魂魄の成れの果てと推測しています。
 また、強者の魂は封神台に向かったのではないかと考えました。


※診療所の待合室は地下通路と階段で連結しており、その先に非常口が存在します。
 非常口が通路の突き当たりにあるかどうかは不明です。
 また、集合写真は取り外されています。
※デパート跡地に冥界の門が存在しますが、紅水陣で入り口を封印されています。
※島に降る雪は、魂魄体にのみ干渉し消滅させる効果を持つようです。


**********


暗闇の中に白い霧が突如立ち込めたかと思うと、次第にそれは一つの形を取り始める。
浮き上がってきたのは、少年と呼ぶべきか青年と呼ぶべきか。
あどけない顔立ちの彼は、うっすらと笑みを浮かべながら楽しそうに語っている。

「うーん、君の仕事は雑だし遅いしで、もう見てられなかったんだよね。
 結局参加者に姿を見られる事になっちゃったし、だったら変に情報を与えちゃう前に僕が始末しないとって思ったんだ!
 幸いさっき取り込んだ人の力なら、僕の姿を見せなくても粛正出来たしね」

と、その言葉の途中から、彼の眼前が蠢き始めた。
空間そのものがねじ曲がり、やはり影が浮かび上がってくる。
長い耳にピアスをいくつもつけた、顔色の悪い少年の死体だ。
……いや、死体と言いきれるのかも判然としない。

895少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:27:17 ID:4Be.p97g0
仮死状態。
そう言うのが、最も近いかもしれない。
あちこち焼け爛れた体をピクリとも動かさない様は、命の灯火の消えるほんの直前で時間を止められたかのようだ。

独り言染みた語りかけは、続く。

「僕が以前とある人に負けた時に、教えてもらった事があるんだ。
 『叶った時に一緒に喜び合える人がいるからこそ夢は夢なんだ』ってね。
 ……うん、ここに来て僕は実感しているんだ、その言葉が正しかったって。
 その人はとっくに退場しちゃったんだけどね」

少しだけ残念そうに少年は声のトーンを落とす。
まるでその人とやらに、何かを期待でもしていたかのように。

――しかし。
一転して本当に嬉しそうに、楽しそうに――、続く言葉は歓喜に満ち満ちていた。

「“彼”と出会って、僕は友達の大切さって言うのを理解したんだ。
 僕の力でも傷一つつけられない星の下に生まれた“彼”!
 僕の道を共に歩く事が出来る人がいたなんて、初めて出会った時は本当に信じられなかったよ。
 だから僕は、“彼”の夢に全力で協力するんだ!」

純真な表情は、もはや“彼”の事しか考えられないという事を如実に語る。
少年の眼の下の隈はその瞳の輝きをひたすらに美しく映えさせていた。
あまりにも真っ直ぐすぎる好意が、どれほど危険なものであるかすら理解できずに。

「ん? どうしてこんな事を説明するのかって?
 それはね、ちゃんと自分の責任について知った上で退場してもらいたいからさ!
 聞こえているかどうかは分からないけどね!」

そうして、かつて夢を見ていた少年は。

「それじゃあ――いただきます」

霧の魔王に続き、始祖の片割れを呑み込んだ。

ごくり。

嚥下する。




……それら全てを見届けた同族からの報告を、質の違う暗闇の中で受け取る。
溜息すら出てこない。

「……哀れね、あのコ。純粋だからこそ余計に際立つわ」

896少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:27:37 ID:4Be.p97g0
それが我々の素直な感想だった。
理想を現実に変える能力や、体を霧と変え雷を操る能力、好きな場所へ移動したり酸の陣を張る能力。
そんな力をいくら持ってても、持ち主がアレでは便利な道具でしかない。
それ故に、この催事の運営では大きな歯車となっているのも事実だが。

「友情という看板をぶら下げただけの信仰……盲信よ、アレは。
 夢を叶えられなかった心の隙間に入り込まれて、それと気づかないうちに支配されちゃってるわ、完全にね。
 ごく小さい範囲とはいえ、かつては神の域にも達した存在だっていうのに――今はただの便利な舞台装置以上の何物でもないわ」

くすくす、と嘲うような声が届く。
かつて人の上に立ち、人を導こうとした男が皮肉気に告げた。

「……何の力も使わずに、あそこまで人を虜にするとはね。
 政治家としては、“彼”のカリスマ性には嫉妬さえ覚えるよ、ウォッチャー」

……別に驚く事もない。
彼が裏でやった事も含め、我々は全てを把握している。
その為の“ウォッチャー”だ。

「支配蟲を使うまでもなく心を弄び、裏切る心配のない手駒を作り上げる。
 ……この上なくエゲツなくて外道よね、ここの神様は。
 同じ生きた信仰対象でもプラントの方がよっぽど安全」

「……そんなエゲツない外道に、君たちはどうして従っているんだい?」

淡々と返すと、運命の試験紙を自称する男はこんな事を聞いてくる。
我々に興味でも抱いたのだろうか。
至極当然で、面白くない答えになるのだけど。

「……少なくともあなたよりはよっぽどシンプルよ。
 端的に言うと、生存本能。生物としての絶対的な格の違い。
 我々は人間よりもずっと精神的には素直だからね、己が生かされているだけと理解していれば反乱する気さえ起きないの。
 抵抗の意志を持てる事が幸か不幸かは論じないけど」

「それは本当に生きてるって言えるのかな?
 僕にはとてもそうは思えない。
 同じ12番の数字を冠していても、あの正義の味方さんの方がよっぽど人生を全うしていたんじゃないか。
 そういやたくさんの手足を調達できる事といい、君は彼に良く似ているね」

……何となく、不快になる。
流石にアレと一緒にされるのは面白くない。
そもそも人生という表現は、私達には相応しくはないだろう。

「……仕事に戻るわ。
 要観察対象が、少しおかしな動きを見せているから」

それだけ言い渡すと、私は意識を会場に集中させる。
政治家の動きも気にしない。

……さて、人の体を乗っ取る同志はどうなっていくのだろうか。

897少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:28:13 ID:4Be.p97g0
**********


  ドクン。


  ドクン。


  ドクン。


  ……ドクン。


おかしい……わん。
この器に入ってから、やけに体が熱いのぉん。

    憎い……。憎い……。
    こんな魂の削りカスになってすら、憎しみがこびりついて離れない。
    大切な人を傷つける……世界そのものが、憎い。
    嘘をついて命を弄ぶ、細目の男が憎い。
    俺から力を……獣の槍を奪ったあの子どもが憎い。
    妖怪のくせにあの獣の槍の使い手を守る三つ目の男が憎い。

すっごく馴染んで……馴染み過ぎて……。
まるでわらわが、わらわじゃなくなっちゃうみたいだわぁん。

    ヤツらが力を持っている事が、妬ましい。
    そして、何より。
    俺を殺し、全てを奪ったこの女……白面が、憎い。

わらわは……、わらわは、妲己。
表では始まりの人――女カ様の代理人として歴史を操り、夏や殷を滅ぼした傾城の美女。
でも、その本当の目的は。

    獣の槍をふるい、打倒白面を目指した人間は……。
    いずれ魂を槍に削られ獣になる……。

目的は――。

  我は憎む!
  光あるものを!!
  生命を、人間を!!
  人間と和合する妖を!

太母――グレート・マザーとなって、全ての存在に居るコト。

  何故、我は陰に、闇に生まれついた……。

土にも水にも風にもヒトにも全てに居る――あの星と融合し、永遠を手に入れるコト。

    そして獣は今の俺『字伏』になる。
    そして字伏になっても白面への憎しみ消えぬ俺は、何になる?
    何になる!?

898少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:28:35 ID:4Be.p97g0
始祖のように土のひと握りにも存在し、大地を潤し、生命に恵みを与えるコト……。

  国々がまだ形の定まらぬ『気』であった時、
  澄んだ清浄な『気』は上に登って人となり……、
  濁った邪な『気』は下にたまって……。
  我になった……。

この星の真の支配者に、わらわは憧れた。妬みさえした。

    ヤツになるのさ!!

それはある意味、憎しみとさえ呼べるものかもしれないわぁん……。

  キレイダナア……。

そう……わらわは、キレイなものになりたかった。

  ナンデ、ワレハ、アアジャナイ……。

力のみを欲し、仙人界と人間界の完全支配なんて卑小な欲望な抱いた自分が、恥ずかしかったわん。

  ナンデ、ワレハ、ニゴッテイル……!?

ああ――、

    ああ――、

  ああ――、

  どうしてわらわ/我/俺は、こんな姿なのだろう。
  どうして望む姿に生まれなかったのだろう。

  ああなれたすべての存在が、妬ましい。
  ……憎い。


  憎い――!


「……あらん?」

やっぱり、調子が悪いみたいねぇん。
少し、ボーっとしちゃってたわん。

……何か変な白昼夢を見た気がするわねぇん。
わらわの記憶にないような光景だったけど……。
この体の記憶かしらん?

まるでわらわの為にあつらえたかのように動かしやすいこの体だけど、その分魂魄が引き摺られやすいみたいん♪
注意しなくちゃ、ねぇん。
潤也ちゃんの意志も、ほんの少しだけ残ってるみたいだしぃん。
体を提供してもらったお礼くらいは、してあげるわん。

899少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:28:58 ID:4Be.p97g0
さて、この落魂陣から出たら、何処に向かおうかしらん。
獣の槍を確保したままこの体をゲットできてれば、潤也ちゃんのフリをして聞仲ちゃんたちに合流してたんだけどぉん。
聞仲ちゃんは頼りになるし、うしおちゃんは美味しそうだし、ねぇん。
でもぉん、うしおちゃんが獣の槍を取り返しちゃった以上、近くにいるとかえって危険かもしれないわねぇん。

  獣の槍は……我が唯一怖れる敵故に。

……あらん?
どうしてわらわ、獣の槍がうしおちゃんの持ち物だって知ってるのぉん……?



  ドクン。


  ドクン。


  ドクン。


  ……ドクン。




  おぎゃぁぁあああぁぁぁ。




【???/落魂陣内部/1日目/午後】

【妲己@封神演義 feat.うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化5%)、潤也の魂魄が僅かに残留
[服装]:潤也の姿に変化。
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、落魂陣@封神演義
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒
[思考]
基本方針:主催から力を奪う。
1:自分の体や記憶の異変について考える。
2:主催に対抗するための手駒を集めたい。
3:うしおを立て対主催の駒を集めたい。が、獣の槍に恐怖感。
4:聞仲を手駒に堕としたいが……。
5:利害が一致するなら、潤也の魂魄の記憶や意思は最大限尊重する。

900少女幻葬〜Necro-Fantasy ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:29:16 ID:4Be.p97g0
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
※聞仲が所持しているのがニセ禁鞭だと気づいていません。本物の禁鞭だと思っています。
※潤也の能力が使用できるかどうかは不明です。

※落魂陣が何処に張られたかは後の書き手さんにお任せします。


【落魂陣@封神演義】
十天君の一人、姚天君の使う空間宝貝。
魂魄を直接消し飛ばす光線を放つ落魂の呪符や、触れると爆発する破壊の呪符を内部に展開する事が出来る。
しかし、呪符は直接攻撃で破壊可能。また、空間を展開せずとも呪符のみを使用する事も出来る。
制限内容は不明。

901 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 04:29:45 ID:4Be.p97g0
以上、投下終了です。
問題点等ございましたらご指摘ください。

902本スレ>>260修正版 ◆JvezCBil8U:2010/04/30(金) 20:31:16 ID:4Be.p97g0
さて、この落魂陣から出たら、何処に向かおうかしらん。
獣の槍を確保したままこの体をゲットできてれば、潤也ちゃんのフリをして聞仲ちゃんたちに合流してたんだけどぉん。
聞仲ちゃんは頼りになるし、うしおちゃんは美味しそうだし、ねぇん。
でもぉん、うしおちゃんが獣の槍を取り返しちゃった以上、近くにいるとかえって危険かもしれないわねぇん。
オトモダチの記憶を奪ったり裏切り者もぶつけたりしたっていうのに、ゴキブリみたいに立ち上がってくるなんてぇん……。

  忌々しきは獣の槍……我が唯一怖れる敵とその主よ。

……あらん?
いつの間にわらわ、うしおちゃんに嫌がらせなんて仕掛けてたのぉん……?



  ドクン。


  ドクン。


  ドクン。


  ……ドクン。




  おぎゃぁぁあああぁぁぁ。




【???/落魂陣内部/1日目/午後】

【妲己@封神演義 feat.うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化5%)、潤也の魂魄が僅かに残留
[服装]:潤也の姿に変化。
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、落魂陣@封神演義
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒
[思考]
基本方針:主催から力を奪う。
1:自分の体や記憶の異変について考える。
2:主催に対抗するための手駒を集めたい。
3:うしおを立て対主催の駒を集めたい。が、獣の槍に恐怖感。
4:聞仲を手駒に堕としたいが……。
5:利害が一致するなら、潤也の魂魄の記憶や意思は最大限尊重する。

903 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:30:41 ID:9Jfx9i7w0
また規制ということでこちらに投下します。
どなたか代理をお願い致します。

904ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:31:31 ID:9Jfx9i7w0


俯き歩いた暗い暗い闇の底で、ふと聴き取った希望のメロディ。
思わず空を見上げてみれば、垂れ下がっていたのは……


か細い蜘蛛の糸に吊るされた

強靭な一本の剣だった。



☆   ☆   ☆   ☆   ☆



ミッドバレイがフカフカとしたソファに腰掛けたのは、I-5にある民家の一室。
放送後、彼は道中にあった学校で車を調達した。
数台の窓ガラスを破壊して中を確認。一台だけキーのついた物があり、それを拝借したというわけだ。
4WDをそれなりに操り、市街地へとたどり着いたのはまだ天気の崩れていない頃だった。

放送前に得た情報では、これからここには「雪」が降るらしい。
「雪」という存在について、彼の知識は多くない。
「氷」のようなものが空から降り注ぐという漠然としたイメージしか出来ていなかった。
しかし聞いた限りでも、それが降るということは気温が下がるということだと理解できた。
彼が暮らす砂漠の惑星も夜になれば信じがたい寒さとなるが、流石に氷が降った話は聞かない。
そんな未知の天気に、野道で遭遇はしたくなかった。

やっとの思いでたどり着いた民家で彼は周囲を警戒しながらも、休養をとる。
愛用のサックスの整備に手をつけ、次は自分の体の整備だ。
たっぷりのお湯でシャワーを浴び、乾いた喉を絶え間なく湧き出る冷水で潤す。
普段暮らす星からすれば天国のような環境だが…生憎、楽しむ気にはまるでなれなかった。

スーツの換えは見当たらず、ひとまずそれまでのものを続けて着る。
正直言って、油断しすぎだと彼自身が思っていた。殺されても仕方のないくつろぎ方だ。

905ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:32:22 ID:9Jfx9i7w0


だが、それがどうした。


どの道あと少しすれば死ぬ身だろう、そう思っていた。
酒でも飲みたい気分だったが、残念ながらこの家には酒はない。
まぁいいさと、ミッドバレイはソファにさらに深く腰掛け一息吐こうとして…

その身を強ばらせた。


爆音


彼の発達した聴覚に飛び込んできたのは爆発音。
いや、それだけではない。その前後に、確かに聞こえた。

獣の咆哮

獣…ならばいい。しかし、しかし…果たして本当にただの獣だろうか。


化物…ではないのか?


そんな恐怖にかられ、リラックスムードは一転して緊張感あふれるものとなる。
口では何を言おうと、彼は死が怖かった。
苦々しい顔つきで立ち上がると、ミッドバレイは周囲の音に更に意識を集中させる。
ひとまず傍に驚異がいないことを確認すると、パソコンを立ち上げた。
使い方は人づてに聞いた程度で仕組みは全く分からないが、何ができるかは知った。
そこから「みんなのしたら場」というサイトにアクセスし、情報を集め始める。
彼が以前確認した時よりさらに情報は増加していた。

しかし、どれもこれも信用ならない。

大体、顔も見えない情報源の何を信じろというのだろうか。
こんな状況では誰かに誰かが成り代わるのもあっさり出来るだろう。
結局、ミッドバレイにはその全てが嘘に思えた。

今の所信用出来る情報源なんて、放送くらいのものだが、
その放送も、主催者の手の者が行っている以上あてにはできない。

906ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:34:17 ID:9Jfx9i7w0

それに…


レガート・ブルーサマーズが、死んだ。
放送で告げられた事実。


おそらくあの直後であろう。
ミッドバレイと接触した後、あの男は死んだのだ。

殺しても死にそうにないあの男が。
彼にとってまさしく『恐怖』の塊であったあの男が。


殺したのは、誰か。


リヴィオ・ザ・ダブルファング?


違う。ヤツの名も呼ばれた以上、よくて相討ちだが…彼ではあの男は倒せない。
確かに魔人に相応しい戦闘力の持ち主であり、それはミッドバレイも認める。
だが、レガートはそういうレベルではない。強さ云々で倒せる存在ではないのだ。
短い付き合いだったが、彼はあくまで「人間」だとミッドバレイは感じていた。


ヴァッシュ・ザ・スタンピード?


違う。ヴァッシュは絶対に殺すという選択肢を選ばない。それはミッドバレイにも確信出来た。
確かに彼はヴァッシュをあの場に導きはしたが、レガートとダブルファングの戦闘に間に合ったか怪しいものだ。
抑止力にならなっているかもしれないが…あの男の死を生み出したのは、アレじゃない。

となるとやはり「あの少女」だろう。

ガサイ・ユノ

探偵はそう言っていた。アレならレガートを仕留めていても納得がいく。
それは戦闘能力うんぬんではない。

あの少女は「一応」ただの人間らしい。
だが彼にはとてもそうは思えなかった。

あれは、いやあれ「も」化物だ。

レガートと同じ『心』の化物。
狂った精神に追いつくように、肉体が変異しているのではと疑いたくなる存在。
とても『人間』と呼べる存在ではない。だから、アレこそがレガートを倒しうる存在だと思った。

それは彼の望んだ「救い」とは程遠かったが。

907ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:36:27 ID:9Jfx9i7w0


あの場に居た少年の一人。
そう、馬鹿げた戦闘力も特殊な能力も何も持たずに化物供と対峙したあの少年。
あんな少年にこそ、「希望」というヤツは見いだせる、ハズだ。
もっとも、闇の底を歩きすぎたミッドバレイには結局そんな物は見えやしなかったが。
ひとまず生きているらしい少年の悪運に素直に関心はしておく。


いろいろと考え事をしながら掲示板を眺めていると、やたらと長い書き込みが目についた。
文章を読み、ミッドバレイは盛大なため息をつく。

なんだ、これは。

馬鹿げた内容だった。くだらん自己紹介と、狂った呼びかけ。
長ったらしい文章だったが、この二言で表せた。
途中に用意されていた妙な映像も見たが、彼のため息が増えるだけ。
…どうにもこの書き込みの主とはセンスが合わないと、ミッドバレイは首を振った。

だが、狂った呼びかけには少し興味が湧く。
どうやらこの男、主催者の手の者らしく、その情報を餌に武道大会とやらをやろうとしている。
それも、出来る限り強い存在を集めるつもりのようだった。

「狂っているな」

思わず声に出して呟いていた。いわゆる「戦闘狂」というヤツだ。
彼が所属していたGUN-HO-GUNSにもこういった連中はいた。
雷泥・ザ・ブレード。あるいはマイン・ザ・EGマインあたりもそうかもしれない。
戦うこと、それ自体に喜びを、いやもはや快楽を覚える存在達。
この書き込みの主はあんな連中の延長線上、そんなイメージだった。
ならば逆に、絶対に近づくべきではない。

ここでそんな強者供を相手にしても彼にはなんのメリットもない。
強者は強者同士で潰し合えばいいだろうと思っていた。
そういう意味では彼にとってこの呼び掛けは都合がよい。
これを鵜呑みにするおめでたい連中が存在するのなら、だが。


……そう、彼はまだ殺し合いをやめたわけではなかった。
先程は気まぐれに探偵に協力してやったが、別に常にそうあろうという訳ではない。

演じ慣れたパートでも、休みなしで奏で続けては楽器が傷む。
かといって違うパートは演じられないのだから…あとは休んで調整でもするしか無い。
結局の所…闇の底ではやれることなど限られているのだ。

908ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:37:52 ID:9Jfx9i7w0

ギィ、と座っていた椅子の背もたれに体を預ける。
先程の獣の声が聞こえた方角はわからない。そこまで近くはないが…安心は出来ない。
うっかり出歩けば遭遇しないとは言いきれなかった。
掲示板の情報が本物ならここから東のデパートは壊滅状態らしい。
遠目で見ても惨状は理解出来た。何が潜んでいるかわかったものではない。

結局どこかへ向かうメリットが無くなっている。
今までなんとなく海沿いに島を半周程してきた訳だが、それにこだわりなどない。
これから天気が崩れる以上、うかつに歩きまわれば誰にも遭遇しないで体力を失う。
むしろどこかでひとりでに野垂れ死にするかもしれない。
それはそれで幸せかもしれんなと、ミッドバレイは少し本気でそう思った。
すぐに思い直したが。

どうしたものか、と思いを巡らす。
そもそもこの書き込みが真実という確証はなく、実は何か罠が張り巡らされていました、
では笑い話にしても低俗なものだろう。



その時だ。
彼の耳は聞きたくもない『音』をまたしても捉える。
先ほどと同じ獣の咆哮。そしてそれに続く様々な轟音。

わかる。
人間が出す『音』じゃない。
彼の中の天使と悪魔が耳元で囁いていた。



『見るな見るな。見ればまた絶望が増えるだけだ。どうしようもないって知っているだろう?』



『目を背けるなよ、リアリスト。見ておかねば少しの対策も練れないぞ。
 死にたくないのなら、わずかでも生きながらえる為の努力をしろよ』



どちらが天使でどちらが悪魔か、ミッドバレイにはさっぱりわからなかった。
だが結局、臆病な彼は『無知』の恐怖に耐えかねてしまう。
音源が遠いことを確かめると、ゆっくりと窓へ近づき外を見回した。

909ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:39:11 ID:9Jfx9i7w0


結局、どちらの言い分も正しかったというところだろう。
彼の目に映ったのは果てしない絶望だった。

巨大な化物が、さらに巨大な化物と殺しあっている風景。
距離が離れていながらそれを『視認』できるのだ。
それだけでもう十分な脅威であると確信出来た。

一方は巨体で知られた同僚グレイ・ザ・ナインライヴズをも上回るであろう肉体を持った化物。
太い腕、角、翼、牙…どれもこれも人の身を超越した力の象徴。
彼の命を一瞬で奪いうる、恐怖の塊。

もう一方は……ミッドバレイには表現ができなかった。
それがどういった存在か、言葉に出来ない。
ただ言えたのは…自分では絶対に敵わぬ、圧倒的な力を備えた化物であるということ。

そんなベクトルの違う化物の戦いを目の当たりにして、彼の絶望は色を濃くしていく。

戦いはほんの数十秒で決着した。
化物供はその姿を消したが、倒れた訳ではない。
勝者と敗者に別れはしたものの…どちらも死んではいない様子だった。

クククッ…と笑い声が薄暗い室内に響く。
堪えきれずハッハッハと大声で笑いながら、ミッドバレイは床に転がった。


なんだというのだ、どうしろというのだ、なにがしたいのだ


キレイだがどうにも機械的な印象の民家の床で、ミッドバレイは笑い転げる。

闇の底なんて見慣れた光景だと思っていた。
だが、その底に蓋がついていて、開けたら更に深い闇があった気分だった。

あれを見てなお『あの言葉』を口に出来るのか。

ミッドバレイはありったけの泥を全身に浴びせられたように思った。
その身にまとわりついて剥がれない嫌な感覚に蝕まれるように、結局彼は押し黙る。

もう二度と、『希望』なんて言葉は言えない気がした。

910ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:41:14 ID:9Jfx9i7w0


☆   ☆   ☆   ☆   ☆


結局じっとしていられず民家を出発し、ミッドバレイは街中をさまよう。
あいかわらず俯き気味に、耳だけはしっかりとすまして。
行くアテなどもちろんないが、思えばそれはいつものことだった。
往くも死、退くも死、それでどこへ行けというのだろうか。


ムルムルと呼ばれた娘、雷を操ったシンコウヒョウ、人間台風、変化する大男。
狂信者、それを倒したであろうガサイ・ユノ、そして巨大な化物二匹。

それに…


彼にとって、この島はあまりにも絶望が多すぎた。
聞き慣れた音でも、それが幾つも折り重なればそれは新たな音楽となる。
様々な絶望がもたらすハーモニーは見事に調和が取れていて…
より大きな絶望として、聞いたこともない音を放っていた。
やっとその耳が捉えた、『あの』メロディも掻き消しかねないほど。

指揮者がいるなら見事な腕だな、とミッドバレイは呟く。

だが禁止エリアには絶対に近づかない。
こんな音楽に晒されてなお、自ら死を選べない自分が恨めしかった。
まだ足掻こうというのだろうか、自分は。


そして再び、彼の耳は『音』を捉える。
二人組の足音。もう少し近づけば聞きわけられるだろう会話『音』。
無視してもいい。しかし現実主義者は結局自暴自棄にもなれず…
今できることを、とりあえずしてみることにした。

結局それも光をもたらすことはない。光をもたらすのはいつだって、
叶わぬ夢を夢として愛し、理不尽な世界と対決することが出来る者達だけだ。
それが出来て初めて、光が降り注ぐ。


彼のいる闇の底には未だ光が届かない。
わずかに煌めくのは、彼を戦々恐々とさせる一本の剣の輝きだけ。

……それを手にとり、闇に立ち向かえたらどんなにいいだろう。

911ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:42:56 ID:9Jfx9i7w0


見えた。
その前から声は聞いていたが、女のほうが一方的に喋るばかりだったので気づかなかった。
だから街中である程度接近し、その人並みの『目』で見て気づく。
そこにいるのが、まぎれもなくかつての主、ミリオンズ・ナイブズであることに。

後ずさる。
先程の化物を見た時とはまるで違う感覚。
距離が近いというのもある。しかしそれに加えて見知った…いや、聴き知った恐怖であるからこそ。
先程よりは少し落ち着いて、しかしさきほど以上に深く、彼は絶望する。

睨みつける。
愛用のサックスに触れる。マウスピースを咥え、構える。
たったひと吹き、息を吹き込めばそれで終わりだ。
秒速340mの彼の『牙』は『アレ』に届く。
敵うなんてもう思っていない。無駄なことは百も承知だった。
ただ、この哀れな男の人生の最後に、少しでも抵抗の跡を残したかったのか。
同行者くらい仕留められるかもしれない。それでもよかった。
少しくらい驚く顔を見られればそれで十分ではないか。





決意を胸に、男は最後の抵抗を試みる。











だが無理だった。



歌口から口を離し、ガチガチと震える体を壁にもたれかける。
ただ恐ろしかった。どうしようもない小物だと自分で思うほど。
この戦法でどれだけの人間の生命を奪ってきたか。
それはこの島でも変わらなかったというのに。

遂に皮肉な笑みすら浮かべることもできず…ミッドバレイはその場を去ることを決める。
自分の『牙』には一体何ができるのだろうと、誰かに尋ねたいくらいだった。

912ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:44:00 ID:9Jfx9i7w0

ゆっくりと立ち上がり彼らに背を向けると、真逆の方向に歩き出す。

もう二度と関わるまい、そう決めていた。
どうせあと少しの生命なら、最後くらいもう少し穏やかでいたものだと。
そう考えながら歩きだした直後に、彼の耳はその言葉を捉えた。


幻聴か、はたまた音界の覇者たる力ゆえか。








「命拾いしたな、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク」







答えはすぐに分かった。




ごっ!と派手な音を立ててミッドバレイはうつ伏せで地面に叩きつけられる。
首筋には背後からたくましい腕が押し付けられ、まるで身動きがとれなかった。

先程の言葉は幻聴でもなく、彼の発達した聴力ゆえに聞こえた遠くの声でもない。
彼が振り返った一瞬でその距離を詰めてきた、ナイブズの声だった。

ミッドバレイは言葉も出なかった。
相手の身体能力に対してではない。彼への警戒度が薄かった自分に対してだ。
以前見逃された経験があったゆえに、逃げられる気がしていた。
一瞬とは言えあからさまな自分の敵意に、相手が気づかぬわけもないのに。

「仕掛けてきていれば貴様の命はなかった。どうやら『のって』いるらしいな」

当たり前の事をわざわざ言わなくていい、そう叫び返してやりたかった。
しかし彼の口から出たのは、従順な『ナイフ』の言葉。

913ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:46:15 ID:9Jfx9i7w0

「ナイブズ……様、お久しぶりですな」
「……死んだと聞いた気がするが……まぁいい」

あぁ死んださ。

これは小さくだが口にだした。
何を言われても、何をしても、自分には選択肢がないことを彼は理解していた。
今死ぬか、情報を奪われて後で死ぬか。せいぜいそのくらいの選択しかできないはずだと。

だが次の言葉は少しだけ予想外のものだった。
そして、それゆえに恐ろしいと、彼は思った。

「俺は今、よく聞こえる『耳』を探している。その意味がわかるな」


その耳は、あまたの枷。




☆   ☆   ☆   ☆   ☆



道路を凄まじいスピードで疾走する車が一台。
その中には三人の参加者が乗っていた。
運転席に座ってアクセルを踏み込みながら、ミッドバレイはちらりと横を見る。

助手席にはミリオンズ・ナイブズ。
運転を彼に任せて座ってはいるが、その目は見開いて前を見据えている。
よほど速く先に進みたいようだ。

後部座席には西沢歩。ジャージの上下にマントという、なんとも奇妙な格好の少女。
俯いて、何かを考えているらしい。
表情は暗く、悲しみにあふれ…儚げだった。

あの後、ミッドバレイは大体の事情を知ることとなる。
ナイブズはやはりヴァッシュ・ザ・スタンピードを探しており、その位置はある程度わかるらしい。
連中も例の化物共の戦いには気がついたらしく、時間の掛かりそうな面倒を避け南下したようだった。
そこで、歩が天気と効率を考え車での移動を提案していたところに彼が遭遇したというわけである。
都合よく車を所持していたミッドバレイと遭遇したのは、ナイブズ達にとって僥倖だったろう。
そう、思わず誰かの関与を疑ってしまいたくなるくらいに。

914ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:48:02 ID:9Jfx9i7w0

しかしミッドバレイは運転手として確保された訳ではない。

『ある程度の距離と方角はわかるが…慌ただしいヤツの事だ、じっとしてはいまい。
 細かい場所の特定の為に貴様のその力は便利だ』

このナイブズの言葉こそ、ミッドバレイがこうしている理由だった。
またしてもいいように利用されるのかと、情けない思いはある。
だがそれであっさり立ち向かえるようなら、初めからナイブズの元で戦ってなどいなかっただろう。
付け加えられた言葉がそれをよく示している。

『あの時も貴様だけが賢い判断をしたな』

かつてナイブズのスカウトを受けた時…
ミッドバレイの仲間が二人、ナイブズの手で殺されている。
殺し屋だった仲間たちは『手口』を見られた事で不都合を感じ、ナイブズに攻撃を仕掛けたのだ。
ナイブズのヤバさに真っ先に気がつきそれを止めようとした彼以外…全てが切り刻まれた。
確かにその場で一番賢い判断をしたのは彼だったかもしれない。

同じように今回もまた、彼は立ち向かう事をしなかった。
こんなだから希望の光が見えないのだと、またしても皮肉な笑みを浮かべて。

結局彼が持つ情報はほぼ全て彼らに渡ってしまった。
移動しながらの尋問で慌ただしかったが、ヴァッシュとの遭遇等も全て伝える。
彼を戦いの場に導いたことを知った時、ナイブズの表情は一瞬歪んだ。
しかし、すぐに何かを思い直したように元に戻った。それはそうだろう。
あの男は、誰が何かをしなくてもどうせ危険に首を突っ込む。
彼はその行動に指針を与えたに過ぎない。利用というより手助けに近かった。

ただ一つ、探偵の情報は話さなかった。
別に彼を庇ったわけではなく…どうせ不要な情報だと思ったからだ。
ナイブズが欲しがる情報でもあるまいと。

「……『あの男』を倒した、か……」

特にナイブズの気を引いたのはヴァッシュの情報と、レガートの情報だった。
奴がやはりナイブズへの忠誠の為に戦っていたらしいということ。
そしてそれを殺したと思われるガサイ・ユノのことを。
それらを伝えた時のナイブズの表情は、見えなかった。
しかし背中に冷や汗が流れるのがミッドバレイにはわかる。

915ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:49:52 ID:9Jfx9i7w0

意外なことに、少しは何か感じるものがあるらしい。
アレ程の忠誠を見せつけられても今まで何も示さなかったこの男が…
何かがおかしいと、思わずにはいられなかった。

ミッドバレイには不思議だった。このナイブズに感じる違和感はなんだろうかと。
レガートの件だけではない。

後部座席にいる女…西沢歩がナイブズと行動を共にしているのがそもそもおかしい。
なぜただの人間、足手まといにしかならぬ人間とナイブズが行動しているのか。
ナイブズにとって人間とは等しく粛清すべき『敵』であるはずなのに。

……部下であった自分達も含めて。

よく見れば少し、本当に少しだけ以前のナイブズとは印象が違う気もした。
何がと聞かれても分からない。
昔は恐ろしくて彼を観察することなどできなかったのだから。

それでもその全身から発せられる威圧感は凄まじいものである。
むしろ以前よりそれを増したようにも思える程だ。
結局自分たちとは違う存在。それと相容れることなど不可能なのだろう。

……実はその考えこそが誰よりもかつてのナイブズに近いということに、彼は気づかない。


(それにしても…)

そこでミッドバレイは背中に感じる視線に意識を向けた。
バックミラー越しにそこにいる少女を見る。
先程まで俯いていた西沢歩が、顔を挙げ正面を…自分の背を見つめていた。

「……妙な気を起こすなよ。ここで何かすれば貴様もタダではすまんぞ」

振り返ることはせず忠告する。
それは先程の情報提供の中でわかったある事実が彼女の態度の原因だろうからだ。

彼女の名前に少し聞き覚えがあるような気がしていた。
その理由は程なく判明する。彼女は『綾崎ハヤテ』の知り合いらしい。
彼がこの島で最初に殺した、明るい少年だった。

916ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:51:12 ID:9Jfx9i7w0

本人の口から多くは語られなかったが…その態度でなんとなく察しはついた。
おそらく、想い人だったのではないかと。

ミッドバレイが綾崎ハヤテを殺したことを聞いた時の、彼女の表情は非道いものだった。
怒りもあったろう、悲しみもあったろう、憎しみもあったろう。

結局なにもせず車に乗り込んだが…それで済まなくて当然かもしれない。
もっとも、いくら彼でもこんな少女におとなしく殺されるつもりなどなかったが。

「……私、おかしくなっちゃったのかな……」

ようやくか細い声で何かを話しだす。
その呟きはミッドバレイに向けられたものではなかった。

「私……この人がすごく憎い。憎くって仕方ない」

おそらくは隣に座るナイブズに向けられた言葉なのだろう。
愚かだな、とミッドバレイは思った。
こんな人間の戯言にこの方が付き合うハズが無いと。

「でも……なんでかな……殺したいって、思えないんだ」

消え入りそうな、すぐわかる涙声だった。

「こんなに憎いのに!ハヤテ君をこ、殺したなんて……絶対、絶対許せないのに!!!
 なのに…どうしてだろ……あ、あははは……う、うぅ……」

急に声を荒げたかと思えば、泣き出す。
それはある意味でなんとも人間らしい反応だった。

「私……おかしくなっちゃったんだ……」


それが普通なのさ。


ミッドバレイは思ったが、口には出さなかった。
人が人を殺す理由なんていくらでもある。殺し屋であった彼はそれをよく知っている。
だが、怨恨はその中でも特殊な部類に入るものだ。

917ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:54:04 ID:9Jfx9i7w0

どんなに憎くて憎くて仕方がなくても…人は、人を殺すのに躊躇する。
逆に自分たちのように仕事や、快楽の為の殺人には躊躇いが無い。
それは人の欲望に直結しているからだろう。

GUN-HO-GUNSにホッパード・ザ・ガントレットという男がいた。
異能と引換えに人が人である為の『何か』をごっそりと失くした魔人集団の中で、
彼は最も人間らしい感情の持ち主だった。
彼にはわずかなりとも優しさがあった。情があった。
それは共に戦ったミッドバレイが一番よく知っている。

そんな彼があの異能集団に加わったのは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの復讐の為。
確かに憎しみは人に殺意を抱かせる感情だ。

しかし、人を『おかしく』するほどの憎しみというのはそうはない。
ガントレットがその身を省みぬ戦いに身を投じる程の憎しみですら……
彼から決して人間性を奪わなかったのだから。


この少女がこれまでどんな人生を過ごしてきたか彼にはわからない。
ただ、人並みに幸せな人生だったのだろうと思った。
だから憎しみに全てを委ねて殺人衝動に駆られることがないのだろうと。


事実、西沢歩の人生は平凡ながらも幸せな部類に入るものだった。
彼女には愛する人を失ってしまったとしても、大切な家族が、理解し合える親友がいる。
あるいはこの場で出会った不思議な同行者が。
それら全てを投げ出してでも、同族の人間を殺したいと思うのは難しい。

人が人を殺すというのはそれだけ大変なことなのだ。


おかしいのは自分達のようにどこかネジのとんだ、簡単に人を殺せる人間の方だとミッドバレイは思っていた。


例えば、全てを捧げた己が半身を、目の前で殺されでもしない限り。
例えば、大切な存在のほとんど全てを、根こそぎ奪われでもしない限り。

……あるいは憎むべき対象が、別の種族の何かでもない限り。


憎しみの為に殺すという選択肢を簡単には選べない。


だから彼女の発言はミッドバレイにしてみればそれほど意外ではなかった。
無論そんな話を聞かせてやるような立場でも心持ちでもなかったが。

918ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:55:13 ID:9Jfx9i7w0


むしろ彼を驚愕させたのは、その後の出来事だった。


「おかしくなどない」

彼の耳がおかしくなったのでなければ、それは彼の隣の男が呟いた言葉だった。
ミリオンズ・ナイブズが、口を開く。

「俺はそんな考えを百年以上も捨てずに歩き続けた男を知っている。
 憎くて仕方がないはずの存在を愛し続け……わかり合おうとした生き方を」

ヴァッシュ・ザ・スタンピード

詳しくはわからないが、なんとなくミッドバレイはそう思った。

「何よりも大切な存在を奪った男すら……最後の一瞬まで見捨てない奴だ。
 俺には最後まで理解し難いものだったがな」

そこで少し空を見上げて、ナイブズは言葉を紡ぐ。

「それでも、美しいとは思った」

キッ!!!

思わずハンドルを切りそこね、車が大きく揺れる。
ギロリ、と睨まれ、ミッドバレイは慌てて体勢を整え直した。

「……貴様などには荷が勝ちすぎる生き方だ。
 だが愛し共に歩めずとも……憎まぬくらいなら出来るかもしれんな」

そう言って彼方を見つめるその表情は、ミッドバレイの見たことの無いものだった。

「……少なくとも、その生き方を愚かと評すのは俺が許さん」

919ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:55:57 ID:9Jfx9i7w0

キキーーーーーーーー!!!!!

今度は完全に急ブレーキを踏んでしまう。
衝撃で前のめりになったあと、ミッドバレイは驚愕に満ちた顔で横を見た。
ナイブズの表情は、元の冷たいものに戻っていた。

「……何がしたい。殺されたいのか」
「す、すみません……」

慌てて車を発進させると、彼は深呼吸した。もう恐ろしくてナイブズの方は見られない。
かわりに背後の少女をちらりとみやった。
相変わらず淋しげな表情ではあった。

「……あ、ありがとう……ナイブズさん。ゆ、ゆっくり考えてみよう、かな」

しかし少なくとも自分のような顔ではないだろうなと、ミッドバレイは思うしかなかった。

訳のわからぬまま、車をひたすら走らせる。
彼の、彼女の態度が何を意味し、何を起こすのか。
これから行く先で何が待つのか。

ただ戦々恐々とし続けた状況に、何か変化が起こっていることだけを少しずつ認識していく。


少し遠くの銃声を、その『耳』が捉えた。

920ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:56:57 ID:9Jfx9i7w0



【I-03/道路/1日目/日中〜午後】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
    ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
    イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
    ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
    月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
    No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
 ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。

921ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:57:43 ID:9Jfx9i7w0

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:黒髪化進行、身体の各所に切り傷。
[服装]:普段着
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×2、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
    ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、


          木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
          トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
          不明支給品×2(一つは武器ではない)
          旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
          カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
          アルフォンスの残骸×3、工具数種)
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの気配を追い、ミッドバレイの力で彼を見つける。
2:ナギの支給品を確認。用途を考える。
3:ヴァッシュの足跡が一向に掴めないならば競技場に向かい、待つ。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:ヴァッシュを探し出す。が、今更弟の前に出ていくべきかどうか自問。
8:ヴァッシュを利用する人間は確実に殺す。
9:次に趙公明に会ったら殺す。
10:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
11:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
12:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約3回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。

【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。

922ダモクレスの剣 ◆lDtTkFh3nc:2010/05/08(土) 00:59:42 ID:9Jfx9i7w0
以上で投下終了です。こんな時間になってしまい申し訳ありません。
いつもいつもご迷惑をおかけします。

問題点などありましたらご指摘下さい。よろしくお願いします。

923名無しさん:2010/05/08(土) 01:22:58 ID:O4vyuZnY0
さるさんです
誰か代わりに投下お願い

924名無しさん:2010/05/08(土) 01:32:16 ID:wa8oTnZM0
最後の最後でさるさん食らいました
すみませんがナイブズと西沢さんの状態表だけどなたかお願いします

925 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:15:18 ID:SRsL.vXg0
「コップ一杯分の勇気」本スレ378-379を下記のとおり修正いたします。

926 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:16:01 ID:SRsL.vXg0
 体が欲するままに与えられた眠りは、心地いい目覚めをもたらしてくれる。
ふわふわとした浮遊感につつまれたまま、我妻由乃はゆるやかにまぶたをあけた。
そのまま猫のように大きな伸びをする。血液が、ゆっくりと体中をめぐっていく。
すみずみまで力が満ちてくるようだった。
 ごそごそと白衣のかたまりから這い出して、身なりを整える。
雪輝の隣にいるのに、汚い格好なんてしていたくない。
戦いに次ぐ戦いで多少の汚れは仕方がないけれど、だらしがないなんて絶対に思われたくない。
由乃は手櫛で髪を整えて、ゴムで結いなおす。
寝床代わりの薬品室には鏡がなくて、本当にきれいにできているかチェックできないのがくやしい。
と、こげ茶色のスカートにしわがあるのに気がついた。
着の身着のままで寝ていたせいで、右側のプリーツが変にずれている。
しっかりと寝押しされてしまったその型は、きわめて頑固だ。すそを一生懸命引っ張っても直らない。
手のひらでたいらに押しても戻らない。いやだな、と思った。
由乃は憂鬱な気分のまま、制服のリボンを一度解いて結ぶ。
長さが左右対称になるよう、輪の部分に指をいれて丁重に整えた。
 薬品室には消毒液の強いにおいがこもっていた。雪輝が誤って割ってしまったのだろうか。
体はすっかり元気なのに頭がまだ少しぼんやりしているのはそのせいかもしれなかった。
それとも、睡眠薬がどこかに残っているのだろうか。
 ――睡眠薬……。
 どきりと胸が大きく鳴る。頬がぽっと熱くなるのを感じて、由乃は両手を添えた。
その指先で、そっと桃色のくちびるをなでる。あじわうようにやわらかい輪郭に指をすべらせて、うっとりと目を閉じた。
なめらかでやさしい感触がよみがえってくる。
 病院にたどり着いてから、由乃はロビーのソファーですっかり寝入ってしまっていた。
もっと静かでよく眠れる場所を、と雪輝が見つけてくれたのが薬品室だ。
ロビーは遮蔽物が少なくて、強敵が攻めてきたら戦うのも逃げるのも不利だった。
その点薬品室は近くに非常口があるし、廊下から隠れてロビーの敵を一斉掃射することもできるだろう。
無差別日記があるとは言っても、頼りすぎると足元をすくわれることもある。
夢うつつながらも、雪輝の頼もしさとりりしさに感動したものだった。
そして起きようともたつく由乃を、雪輝はにっこりと笑って制して、
ひざのうらに手を入れて軽々と持ち上げ――由乃の主観では――まるでお姫様みたいに、だ。
そのあたりの白衣を幾重にも重ねて由乃専用のベッドを作ってくれて、
小さな子をあやすようにそっと髪をすきながら、もう少し寝ていなよとくすぐるようにささやく。
そして。
 由乃は手のひらに、ますます熱が高まるのを感じた。
 そして王子様は、おやすみのキスをしたのだ。由乃のこの、くちびるに。
由乃がよく眠れますようにとそっとくわえた睡眠薬が、由乃ののどにすべりこんだ。
雪輝とは何回もキスをしたけれど、あんなに体温を感じるキスははじめてだった。
 顔が火照る。頭から湯気が出そうなくらい、体の内側から熱くなる。
由乃はもう一度白衣のシーツにもぞもぞもぐりこんだ。頭から白い布をかぶる。
こうやって寝たふりをしていたら、今度はおはようのキスをしてくれないかな。
おずおずとした、控えめで照れ屋ないつものキスをくれないかな。
由乃は一人でくすくすと笑った。そんなキスをもらえたら、どんなに幸せだろう。
雪輝に見てもらえて、雪輝と一緒に居られて、雪輝と道が交わって、それだけでも十分幸せなのに、
そんなことになったら幸せすぎて死んでしまうかもしれない。

927 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:22:29 ID:SRsL.vXg0
 ――まだ死ぬわけにはいかない。
 王子様は来ない。由乃は再び起き上がった。雪輝はどこだろう。
由乃が死んでいいのは、雪輝が確実に生き延びられる道筋をつけてからだ。
日記所有者との戦いなら、雪輝と由乃が最後の二人になって、雪輝が神として一人生き延びる覚悟を決めてからだ。
この殺し合いのゲーム上なら、雪輝の帰還が予知よりも確かな未来と見出せてからだ。
 散らかした白衣の中に、由乃のバックパックがなかった。雪輝のバックパックもない。
由乃はノブをつかむとドアをひき開けた。が、回らない。鍵がかかっている。
多幸感の中に焦燥がちりりとこげつく。
 雪輝は、ロビーで待っているに違いない。
 つまみをまわして出ると、そこも一面に消毒液がまかれていて、かわらない臭気が立ち上る。
廊下も診察室も一階はどこもかしこも、病院にあるすべての消毒液をひっくりかえしたようにびちょびちょだった。
何かとてつもなく不潔なものを洗い流そうとしたのか、
それとも何かの臭いをかきけそうとしたかのように、病的なまでの執拗さで消毒液が水溜りを作る。
「ユッキー?」
 いつの間にブレーカーが落ちたのか、ロビーはすっかり電気が消えている。
由乃はその薄暗い奥に呼びかけた。かすかな反響を伴って、由乃の声が消える。
 返答はない。
しばらく目を閉じてじっと耳を澄ますと、やにわにロビーを通り抜けた。
すたすたと横切りソファーの下を覗き込む。
「ユッキー?」
 ロビーで待っているはずではなかったのか。
植木鉢の裏から、受付の棚までくまなく調べるが雪輝は見当たらない。
雪輝はどこだろう。バックパックも何もかもを持って、雪輝はどこに行ってしまったのだろう。
ざわっと皮膚が粟立つ。また雪輝に置いていかれてしまったのだろうか。
もう由乃なんて知ったことではないと、突き放されてしまったのだろうか。
あのどうしようもなくやさしいキスは、もしかしてさよならの挨拶だった?
 武器が何一つないことよりも、雪輝がいないという事実が怖い。
雪輝は由乃の生きる希望なのだ。雪輝がいなければ由乃は生きていけない。
 ――まだ大丈夫、まだ大丈夫なはず。
 由乃は呼吸を整えた。この島には敵がたくさんいる。
雪輝が生き抜くためには由乃が必要だ。敵がいる限り雪輝は必ず由乃を必要としてくれる。
 雪輝は、また病院を探索しているのかもしれない。
由乃は一縷の望みをかけて階段に向かった。
一度調べただけでは足りずに、またくまなく病院を調査しているのかもしれない。
そういえば、ここは怪我をした弱者が集まりやすいところだし、
思いやりのある雪輝は――由乃としては不満だが――彼らを保護したいと考えているかもしれない。
堅固な建造物は篭城にも適している。よくよく建物を把握するのは益のあることだ。
由乃は自分の論理的な思考に満足を覚え、雪輝の冷静な行動を賞賛した。

928 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:23:07 ID:SRsL.vXg0
 二階から順に捜索していく。
雪輝は院内を見て回っているに決まっているのだから、もうあせる必要はない。
ひどく破壊された廊下を乗り越え、ひょいと覗いた部屋に血だまりを見つけて血の気が引いた。
あわてて駆け寄ったところで、どこともしれない男女の死体とわかりきびすを返す。
走ったせいで靴下に赤い染みがはねたのが気になった。
 雪輝のことならすぐに見つけられる。
どんなに遠くに離れていても、どんなにたくさんの人の中でも、由乃は間違えずに必ず見つけられる。
だから、このときも由乃にはそれが雪輝だとすぐにわかった。
靴下の汚れを指でこすり、スカートのしわを何度も伸ばして、由乃はそっと雪輝に近づいた。
雪輝の猫のようにやわらかい髪が光の影になっている。
あの髪の毛が由乃は大好きだった。手触りが気持ちよくて、ずっとだって触っていたい。
でもあんまり触りすぎると、
「やめろよぉ」
 そう言って雪輝はぷっと頬を膨らます。由乃はそのかわいらしいほっぺたも大好きだった。
でもあんまりつつくと横を向いてしまうので、そんな表情も大好きだけれど、だからたくさん触るのは寝ているときだけにしている。
今はもういくら触っても嫌がることもなく、その代わり、びっくりしたようにただきょとんと目を見開いた。
その首が、無残に引きちぎられ、食いちぎられ、はしたなく広げられた肉と骨と皮膚とのかたまりにつながっている。
 由乃は、自分ののどから悲鳴がほとばしるのを聞いた。
それは名前を呼んだのかもしれないし、意味を成さないただの叫び声だったのかもしれない。
由乃は必死にかき集めた。雪輝だったものと、雪輝の部品と、雪輝を入れていた袋を必死にかき集めた。
服が汚れるのもかまわず、両腕を伸ばして床にちらばったそれらをひきずるようにしてかき集めた。
透明な涙が溢れて落ち、雪輝の血の色と交じり合う。
 雪輝はこんなに小さかっただろうか。雪輝はこんなに少なかっただろうか。
雪輝が入っていたはずの袋は小さくて、次から次へと押し込める部品が、端からこぼれていく。
ちゃんと収まってくれないと、元に戻らない。
ひとつも残さずにきちんとしまえたら、部品がかみ合ってすっかり直る。
今までみたいに起き上がって動き出し、由乃をちょっと振り返ってはにかんだ笑顔を見せてくれる。
「ねえユッキー、私を見て。ねえ、私を見て」
 雪輝は、応えない。驚いたような目は由乃を通り越してもっと遠くのほうを見ている。
由乃は真っ赤にそまった手を呆然と見つめると、雪輝の首をきつくきつく抱きしめた。
そうやって温めれば、鳥が雛を孵すように、雪輝が元の姿で現れると信じているかのように。
 由乃のすんなりとした白い指が、雪輝の頬をなでる。
その肌触りを楽しむように何度か指を行き来させ、そっと温かみを失ったくちびるにそえた。
両腕で抱いたまま、身をかがめて己のくちびるとあわせる。
気持ち悪いなんてかけらも思わなかった。ただ、あのやわらかさがもう一度ほしかった。
少し緊張したような、いつものあのくすぐったさはないけれど、やさしい感触はいつもどおりでそれが無性に泣けてくる。
首をかしげるようにしてさらに深く口付けると、血の味が広がった。
 ――これは、ユッキーの味なんだ。
 猫がミルクをなめるように、舌で雪輝のくちびるをたどる。
こうしていると由乃の体温が伝わって、雪輝が生きているような錯覚にとらわれる。
いや、本当に錯覚なんだろうか。本当に雪輝は生きていないのだろうか。本当は、雪輝は生きているのではないか?
 由乃は情熱的なキスのようにくちびるをあわせると、ゆっくりと血を吸い出した。
鉄錆じみた液体を確かめるように舌に乗せる。
にちゃにちゃとやや粘り気ある部品を手のひらいっぱいにつかみ、子犬のように鼻を利かせた。

929 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:23:58 ID:SRsL.vXg0
 これは、本当に雪輝の味か?
 この生臭い死の香りは、本当に雪輝のにおいか?
 この、手の中でぐずぐずとつぶれていくような残骸が本当に雪輝なのか?
「違う……」
 由乃の魂がぽつんと言葉を漏らした。
「ユッキーじゃない……これはユッキーじゃない……ユッキーじゃないわ……」
 それは現実からの逃避か、それとも異常者ゆえの直感か。
由乃の舌が、鼻が、手が、体が、精神が、これが雪輝であることを否定している。
これは雪輝ではない、と全身が言っている。
雪輝はこんなものではない。こんなものが雪輝であるわけない。あっていいはずがない。
 由乃は確信を持った動きで、ごみのように投げ捨てた。
パンくずを払うようにスカートにこぼれた破片を払い落とす。
真っ赤に汚れてしまっている。においもひどい。由乃は強い憤りを感じた。
怒りに任せてきっとにらみつける。
「おまえだなああ、秋瀬或ぅ!
おまえがユッキーのふりをしてわたしをだまそうとしたなあああ!
ユッキーになりすまそうなんて、死んで当然じゃないの。
アハハハハハこんなところで死んでたなんてアハハいい気味だわアハハハハハ!」
 げらげら、げらげら。由乃が笑った。
由乃をだまさんとした『秋瀬或』の死体が、とてつもなくおもしろいものに見える。
いつも姑息な手を使って雪輝をたぶらかそうとする秋瀬或が、自らの策謀に溺れ死んでいるのだ。
雪輝になりすまし、どうせまたろくでもないことをたくらんでいたに違いない。
 突然、由乃は笑いはおさめた。
薄汚くよごれた床をじいっと目に留めると、蛇のようなすばやさで携帯電話を拾い上げる。
パチリと二つ折りを開き、液晶画面を目にくっつけるようにして覗き込んだ。
画面を見つめたまま、両手でキーを打ち始める。すさまじい勢いで日記が更新され始めた。
 動くもののいなくなった病院に、ただプラスチックの音だけが切れ目なく響く。
固まったように同じ姿勢をとったまま、由乃親指は盤面を往復する。
疲れも見せず休むこともなく打ち続けて、不意にその動きが静止した。
はじめたときと同じような唐突さで音がとまる。
由乃は、居眠りをしているかのように頭をゆっくりと数度揺らし、その首ががくんと後ろに倒れる。
 そうしていたのは数秒のことだが、次にふらりと顔をあげたときにはすっかり穏やかな表情をしていた。
――こんな凄惨な現場にまるで似つかわしくない、ふつうの女の子のようなあどけない表情に。
 付近に広がった血の宴にも『秋瀬或』の死体にもまるで目をくれることはなく、手元をはっと見る。
なぜそれが手の中にあるのか理解できないふうにしげしげと手の中を見つめてかすかに微笑んだ。
「ユッキーのケータイ♪」
 由乃がすっかり書き換えた無差別日記には、もうDEAD ENDフラグなんてどこにもない。
もちろんだからといって何もかもがなかったことになるわけじゃない。
でも、由乃にとってはそれはまぎれもなく雪輝の日記で、
無差別日記が未来を予知し続ける限り雪輝はどこかで生きているわけで、
だからこれは由乃だけの無差別日記。
「待っててね、ユッキー。
どこであっても、私はユッキーに追いつくわ」
 由乃の手がどこまでもやさしく、日記をなでていた。

930 ◆23F1kX/vqc:2010/06/09(水) 23:25:03 ID:SRsL.vXg0
以上です。状態表に変更はありません。長々と失礼しました。

特にコメントがつかなければ、wikiのほうもこちらに差し替えます。

931 ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:04:20 ID:zso95F2Q0
連投規制に引っかかったのでこちらで。

932Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:05:03 ID:zso95F2Q0
***************


「ざっけんなッ! んなこと出来るかってんだよ、大馬鹿野郎!」

大水槽が見えるエリアの手前に差し掛かったとき、怒りを顕わにしたエドの大声が安藤の耳に届いた。
エドの声とは対照的な、冷水を浴びせるような声も聞こえて来る。

「だが、首輪の構造を『理解』しなければ『分解』と『再構成』には至らない。そうだったな?
 そしてこの首輪は少し弄った程度で『理解』出来る代物ではあるまい。ならば……」

だからって、とエドがゴルゴの言葉を遮る。
順路の角を曲がると、十字架を背負った特徴的な赤いコートが目に入った。

もう、立ち直ったのか――反射的にそう思った。
そして、エドが立ち直ったことに少しだけ不快感を覚えている自分に気付き、愕然とした。
胸の内に巣食った黒い塊がぶよぶよと醜く膨れる気がした。
とても後ろめたかった。

「死者の首を刈るなんて、そんなことが……」
「生者のものを使うのでなければ、それ以外に方法は無い」
「いや……くそ、待てよおい」

二人は戻って来た安藤など眼中に無いといった様子で睨み合っている。
緊張した空気とは裏腹に、安藤は少し安堵していた。
これなら後ろめたいこの気持ちを読まれることは――多分ないだろう。

幸いにして、今来たばかりの安藤にも事情は呑み込めた。
今後の方針として、まず首輪を外す手段を見付ける――と考えるのは自然なことだが、そのためにはサンプルとなる首輪が必須だ。
だが現在、自由に出来る首輪は一つも手元に無い。
関口伊万里と名乗った少女は首輪を一つ持っていたが、それを考慮に入れても一つだけでは解体などの大胆な実験は出来ない。
故に、首輪を最低でももう一つ、可能ならばもっと多く手に入れる必要がある。
そしてその入手法を巡って二人は対立しているらしい。
適当な死体を見つけて首を落とせばいい、とゴルゴは主張し、エドがそれに難色を示しているという構図だ。

しかし、エドの旗色の悪さは傍目にも明らかだ。
死体以外から首輪を入手することは現実的に不可能なのだから。

くそったれ、と吐き捨ててエドは金髪を乱暴に掻き毟った。
自分の主張がただの感情論でしかないことを内心では理解しているのだろう。
しばらく苦虫を噛み潰したような表情で黙っていたが、やがて諦めたように、しかし芯の通った声で言葉を発する。

「……だったら、交換条件だ。首輪は、解った、それでいい。生きてる人間を優先するのは当たり前だからな。
 ただその代わり、これから相手が誰であろうと殺さないと――」
「断る」

約束してくれ、とエドが言う前に、ゴルゴは素早く拒否した。そしてポーカーフェイスを崩さずに続ける。

「俺がお前の拘りに付き合う理由は、無い」

ぐっと言葉に詰まるエド。

933Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:06:07 ID:zso95F2Q0
安藤は何となくゴルゴの行動原理の一部が理解出来たような気がした。
要するに、彼は守れない約束は絶対にしないのだ。
鳴海歩が『安藤を護ってくれ』と言うのではなく回りくどい言い回しで依頼をしたのも、それを見抜いたからではないか。
今更ながら歩の頭の回転に感嘆し――翻って己の愚鈍さが嫌になる。

「……分かった、分かったよ、畜生……。あんたはきっと正しいさ。
 でもな、オレはもう絶対に殺しはしないし、あんたにもさせたくない。
 だから――『殺した奴から首輪を奪う』ことだけはやめてくれ。故意だろうと過失だろうと、だ。
 じゃなきゃ、オレはあんたに金輪際協力しないぞ」

積極的な殺人の禁止。
エドはこれだけは譲れない、といった様子でゴルゴを睨み付けた。
ゴルゴの貫くような視線を正面から受けてなお折れないエドを見て、安藤の内に黒い羨望のような感情が渦巻く。

「……いいだろう……」

予想に反して、ゴルゴは割とあっさり頷いた。
相変わらずその胸中は読めない。
エドも拍子抜けしたような表情で、しかし探るような目を向けている。
だが取り敢えず首輪を外す方法の模索とその第一ステップについての意見は一致したようだ。

安藤にも異論は無い。というより、首輪に関して安藤が出来ることなどないのだ。元より何かを言える立場ではない。
ないのだが――気になることがあったので口を挟んだ。

「なあ、あのさ、工場のときから思ってたんだけど」

エドがこちらを向いた。ゴルゴは視線だけを向ける。
どうにも居心地が悪い。

「えっと、こういうこと堂々と話してて大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「何がって、首輪を外す算段とかだよ。だって多分、こういう会話とかは、その……」

監視されているんじゃないか。安藤は躊躇いがちに意見を述べる。

「認識がずれているな……」
「え?」

珍しく、ゴルゴが曖昧な物言いをした。
いや、安藤が曖昧だと感じただけで、エドは至極当然という顔をしている。

934Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:06:52 ID:zso95F2Q0
「こう言っちゃ何だけどよ、オレ達が首輪を外そうと考えることくらい、よっぽどの間抜けじゃない限り最初から想定してるだろ」

それは、そうなのだろうと思う。

「あのクソガキ共にとっちゃ、首輪なんて外されようがどうしようが大した問題じゃねえんだよ」

そう言って、エドは渋面を作った。
ゴルゴがエドの後を引き継ぐ。

「奴らには俺達全員を拉致出来るだけの能力がある。殺し合いを強いるにはその事実だけで十分だろう。
 この首輪は解り易い脅しに過ぎない」

それは――言われてみれば当たり前だ。
首輪が無くても十分に絶望的な状況であることには変わりない。
殺し合いを止めるには、首輪を外すだけでは駄目なのか。

「それに俺達を殺したいなら、首輪にこだわる必要は無い。この島ごと焼き払えばいいだけだ……」

奴らにとっては大した手間ではあるまい、とゴルゴは静かに結んだ。

「実際、あのピエロ野郎の武器――雷公鞭ってヤツは、こんな島なんて軽く消し飛ばせる威力だっつー話だ。
 舐められてんだよ、何が出来る、ってな。少なくともプライドの奴はそう思ってやがるぜ」
「プライド?」

初めて聞く名だ。

「ん? ああ……悪ぃ、気が動転してて話してなかったか。さっきの放送の声な、ありゃオレの知ってるヤローだ。
 普段はセリム・ブラッドレイって名前の人間の振りをしててな。大総統の……ああ、いや、それはどうでもいいか。
 子供の姿をしてるんだが、ホムンクルスの一人で、とにかくタチの悪いヤツだ。
 本体は目玉だらけのうぞうぞした影みたいな――まあ、化け物だよ」

見た目もだがそれ以上に中身がな、とエドは結んだ。
どうやら彼はそのプライドと以前戦ったことがあるらしい。
口振りからして、黒幕の一人であってもおかしくはない怪物なのだろうということは安藤にも想像が付く。
エドは簡単にプライドの特徴を話して、そして元の話に戻る。

「んな訳で――最初にほざいてやがった、殺し合いの過程においては何の反則も無いってのは、多分文字通りの意味なんだろ。
 本当に首輪を外されて困るなら、解析されて困るなら、少なくとも死者の首輪は爆破するだろうからな。
 そうしないってことは、どうやったって外せないっつー自信があるか――」
「外されたところで問題は生じないと考えているか、だ……」

935Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:07:54 ID:zso95F2Q0
エドが息を吐いた。
重苦しい沈黙が流れる。
安藤は首筋に手を触れた。
この絶対的な枷すら『神』にとっては瑣末な要素だというのか。
考えれば考えるほど絶望的だ。

「けどとにかく、プライドが絡んでるってことは、この殺し合いはただのゲームじゃないんだろ。
 何を企んでやがんのかはまだ解んねーけど。あいつらは国をゲーム盤みたいに扱う連中だ。
 高々七十人やそこらなんて思い通りに動かせると踏んでるんだろうけどな――」

――その油断こそが唯一にして最大の勝機なのだ。エドとゴルゴの眼がそう語っていた。

「……ってああ、やっべえ!」
「ど、どうしたんだよ、急に」

唐突なエドの叫びに、思わず安藤はきょろきょろと周りを見回した。何があったのか。

「忘れるとこだった。リン達に連絡取らねーと」

あ、と安藤も間の抜けた声を上げる。
確かに本来なら真っ先にすべきことだ。

「でも、どうやって?」
「あー……っと、そうだ、確か例の携帯電話を持ってるのはイマリだったよな?
 ……アンドウ、お前、電話番号とか聞いたか?」

聞いていない。
仮に聞いていたとしても、安藤は一度聞いただけの電話番号をずっと覚えていられるような記憶力は持ち合わせていないが。

「いや、あれを直したのはエドだろ。錬金術で。何だったっけほら、『理解』とかいうので電話番号も判るもんじゃないのか?」
「電話の設計図を見ても電話番号は判んねーだろ」

もっともである。

「くそ、こんなことなら電話番号くらい確認しときゃ良かったか」

エドは眉間に皺を寄せて爪先で床をとんとんと叩く。
すぐに合流するつもりだったとはいえ、迂闊だったと言われれば反論は出来ない。
おそらく探せば電話の一つくらいすぐに見付かるだろうが、肝心の電話番号が不明では話にならない。

ならば少々面倒でもネットを介して連絡を取るしかないだろう。
エドは黙って二人のやり取りを眺めていたゴルゴに向き直った。

936Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:09:06 ID:zso95F2Q0
「なあ、さっき上の方でパソコンとか――」
「使え……」

エドが切り出す瞬間を待っていたかのように、ゴルゴがエドに対して静かに何かを差し出した。
虚を突かれたエドは片眉を下げた変な表情でそれを受け取る。

「これは……」

安藤とエドの声が重なった。
携帯電話だ。ベージュの地にピンクの大きなハートマークが描かれている。殺し合いの場には似つかわしくない。

「…………あんたの趣味か?」
「民家から回収したものだ。俺の分はここにある」

ゴルゴはエドの発言を無視して懐から白い携帯電話を取り出した。
そして電話番号とメールアドレスを二人に教える。
それを聞いてから、エドが不満そうな声を上げた。

「何だよ、トウゴウ……あ、ゴルゴ13……だったか?」
「東郷でいい……」
「んじゃあ、トウゴウのオッサン。こんなもんがあったんなら、さっきあんたが上に行く前に渡してくれりゃ良かったんじゃないのか?」

安藤も続く。

「そうですよ。そうすれば……」
「そうすれば、何だ……? 俺が連絡手段を持っているかどうかは、まず最初に確認すべきことだろう。
 先程のお前達は、冷静さを欠いていた。その程度のことにも頭が回らない程に、な……。
 そんな状態では、情報はただの毒にしかならないものだ……」

淡々と、かつ一方的にそう述べると、ゴルゴは自分の携帯電話を確認し始める。
正論なので何とも言い返せない。

とにかく、ネットを確認してみる必要がある。
もしかしたらリン達の方が自分達にコンタクトを取るべく既に書き込んでいるかもしれない。
エドが暗記していた『みんなのしたら場』のURLを携帯電話に打ち込んだ。安藤も横から覗き込む。
内容を確認しようとして、最初に表示された書き込みに思わず目が留まった。

「何だこれ……」

最上部のスレッド。
そこにたった今投稿された異様に長くて目立つ書き込み。
それを読んで――エドと安藤は非常に形容し難い表情で、互いに顔を見合わせた。

937Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:09:56 ID:zso95F2Q0
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1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 12(?):麗しき貴族“C”からの招待状 投稿日:1日目・午後 ID:7thmaRCoI
 諸君! 僕が麗しき貴族C.公明である!
 僕の伝説は紀元前から始まった!
 僕の武勇伝が聞きたいかい?
 そう、あれは千五百年前の事だった……!

      (クソ長いので中略)

 集合は午前0時、第4回放送の頃だ。シンデレラの魔法が解けるのと引き換えに、素晴らしき戦いの時間が始まるのさ!
 オー・ルヴォワール、願わくばまた会おう! また会おう……!
 そしてトレビアーンに戦おうじゃないかっ!

----


【A-3/水族館二階/1日目/午後】

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、腹話術の副作用(中)、魔王覚醒(?)
[服装]:泥だらけ
[装備]:殺人日記@未来日記
[道具]:なし
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。マーダーを折りを見て倒していきたい。
0:何だこれ……。
1:エドの信頼を得て、首輪を外す手段と脱出の手掛かりを探る。そのためにエドとは一緒にいておきたい。
2:潤也と合流したい。
3:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
5:東郷に対し苦手意識と怯えを自覚。
6:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
7:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
8:リンからの敵意に不快感と怯え。
9:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
10:危険人物は、可能なら折りを見て殺す。
11:殺人に対する後悔。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※落下中に上空のドームを見ていますが、思い出すかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放するかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※潤也らしき人物が北部市街地へ向かっていると思っています。

938Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:10:36 ID:zso95F2Q0
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、頭部に裂傷(小・手当て済み)
[服装]:愛用の赤いコート、膝下濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則、携帯電話(ベージュ+ハート)
[道具]:支給品一式(二食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
0:何だこれ……。
1:リンと合流したい。
2:〝計画〟の実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
  この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
3:出来れば聞仲たちと合流。
4:キンブリーの動向を警戒。
5:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
6:安藤との出会いに軽度の不信感。
7:首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
 プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
 また、島の中央に何かがあると推測しています。

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂、携帯電話(白)
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
    携帯電話(黒)、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を守る。
2:エドと協力して首輪を確保、解析する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:歩からの連絡を待つ。
5:キンブリーに対して……?
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※我妻由乃、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空へと繋がるワープ空間の出口の移動の法則を把握しました。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※エドと情報交換しました。

939Master of the Game ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:11:02 ID:zso95F2Q0
【H-8/図書館/1日目 午後】

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記(充電中)
[道具]:支給品一式×2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、ティーセット、小説数冊、
   錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:入手した本から「知識」を仕入れる。
6:参加者に「火種」を仕込む?
7:神の陣営への不信感(不快感?)
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。

940 ◆L62I.UGyuw:2010/06/20(日) 06:11:51 ID:zso95F2Q0
以上で投下終了です。
どなたか代理投下をお願いします。

941 ◆RLphhZZi3Y:2010/06/22(火) 15:46:23 ID:20X4foLM0
規制かかりました。こちらに投下します。

942欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:47:09 ID:20X4foLM0



「やあ! 君らはこんな場所で何しているんだ?」

 階段から、三人分の能力を飲み込んだ少年が降りてきた。
英邁な二人の間に割り込み、じっとヒトだったものを観察する。
介入者は、腹の内を見せない二人を前にしても、無邪気で純粋なままだった。夢と希望で胸を一杯に膨らませている。

「ああ、"彼"と歩もうとしてたヒト? 役立てるとは思ってなかったけど、全然使えなかったね。
 それにしたって、死体の周りで会合なんて、君らも趣味が悪いなあ」
「趣味のいい死体なんて存在しない」
「なんだ、それぐらいは同じ事考えてるんだ」

 アノンは共通の感覚を意外そうに受けとめる。
女の死体は原型を留めているだけいい方だ。島の惨状と比べれば、ずっと綺麗だった。
死体の価値観が全く麻痺していないだけ、この様相は異様に映った。
眉をついと上げ、アノンはドームを見回す。
巨大な宝玉の内側にいるようで、美しく磨かれている。光の輪が壁に届いていないのがもったいない。
そのままアイズが座る石台に、死体ごと腰かけた。死体の傷口から、弾みで残り少ないピンク色の肉が吹き出た。未練がましく何かを喋ろうとしているように、ごぼごぼ動いていた。

「殺した女の墓参りかな?」
「そんな些細なことに時間は使わない」
「……やっぱり。



ここでまたなんかしようとしてるね」

 声のトーンがいきなり落ちた。
コインよりも小さい、ひやりとした穴がアイズの額へ突き付けられた。
放送者を撃った箇所と全く同じ部位へ、銃口があてがわれる。
指を引く寸前、アイズは凶器を持つ手首を掴んだ。
弾は明後日の方向へ飛ぶ。
そのまま腕を回し、関節を折る体制に入る。
ばり、と静電気に近い音がした瞬間、距離を取った。
様々な能力を持っているが、あえて銃を抜いた。
柔らかな光に当てられて、銃は色彩を淡く変える。
ひとつあればいくつもの命を奪えるものとしては、軽いことこの上ない色だった。

943欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:47:45 ID:20X4foLM0
「俺を処分する命令でも下されたのか」
「僕の独断だよ。君ら勝手すぎ。ウォッチャーから聞いたよ。
なんだい君ら、『観測者になる』って?」

これは牽制でも威嚇でもない。邪魔の排除だ。
引き金をいつでも引ける状態にして、焦点を犬養の脳天に絞った。柄にもなく血が騒ぐ。
ほんのりと犬養は引き金を眺めた。

「僕は予定の範囲内と対象を見ているだけのウォッチャー(観察者)に収まるつもりはない。
 『観察』は曖昧だ。曖昧だから穴が出る。キリエ君のようにね。
 運命の『観測者』として僕らはいる」

 へぇ、と納得しているのかいないのかわからない呟きをアノンは漏らす。
観察と観測、似ているようで本質は違う。

「観て察するか、観て測るか。
 『測るもの』を投入して、客観的に観ることが『観測者』の役目だろう」
「ウォッチャーから断りなしに独立した二人が、どの口でものを言うかな。
 セイバーの僕からすれば、もう飲み込んでもいいぐらいの罪だと思う」

 直接戦闘に使える能力の無い二人を飲んでも、無駄が増えるだけだ。頭が今以上によくなる訳でもない。
似合わぬ銃はそのために用意した。
それぞれの思惑でしかつながっていない、義理一遍の仲に情けは必要だろうか。

「仲間ができたんだ。できたんだと思ってたんだ!
 "彼"と共に、同じ道を歩ける仲間が! でも違ったね。
 女は余計なことするし、ピエロは裏切るし、霧っぽいアレは勝手だし、さっき飲んだ奴だって仕事はやっつけで雑だし。
 君らはなんだか"彼"のオーラに似てるからどうかな、とは考えてたけど、やっぱダメだね。
 "彼"の隣に相応しいのは僕だ。
 君らはハンター紛いの測りをぶちこんで、間違ったオブザーバーエフェクトを起こしたいだけじゃないのか?」

 ぐりぐりした目玉が動く。立派に裂けた口で、柄にもなくまくしたてる。
揺さぶりに二人とも、特に目立つ反応はなかった。
それどころか、女の魂が勘違いして洗い清められそうな雰囲気すら漂わせていた。
犬養は何のためらい無しに、言い切った。

944欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:48:34 ID:20X4foLM0
「それを含めて、『観測者』の役割だと思うからさ」

 軽い音だった。
銃弾を、吐きかける唾のように、侮蔑して撃った。
汚い塊が、一転して鮮やかな弾道を描く。小さな鉛のかけらが、光の中に大きく一の字を残した。
銃を下げる。
衝撃波になりかけた銃声が不協和音をたてて、ドームの空気を撹拌した。
ぱっと、銀髪に血が散る。壁に練り込められるように、弾が埋まった。

「『観測者』の僕らは、胸に穴が空いても生きている悪運を持っていた。知っているだろう?
まぁ、"彼"ほどではないが」
「"彼"と一緒にしてたまるもんか。始末の悪い男だ」

 犬養は耳たぶから滴る血を、軽く拭った。もう一度、アノンは銃を向ける。
どこか胸が疼いた気がした。
ばさりと長い髪を翻し、犬養は左胸に手を当てた。

「抜けるのなら、あのピエロと組めばいいじゃないか」
「"彼"の目的に反発するのは神様のレシピに逆らうこと。僕は僕の目的を果たすまでだ。
示されるまま受け入れるだけだ」

 説き伏せるように堂々と胸を張り、心臓をさらけ出す。

「それに"彼"には感謝している。
 あの時、国の頂点に立ち、僕はスタジアムで演説をしていた。そこで国民の空っぽな意志を見た。少し残念だったよ。
 そのすぐあと、"彼"に呼ばれた。若い姿を与えてね。
 全ての導きを若いこの眼で観測できるなんて、素晴らしいことじゃないか。それに、」

 ふっと緊張を緩めた。
他意がありそうで意地の悪い、それでいて愛想たっぷりの笑顔を、アノンに注ぐ。

「かつてデウスによりこの役目を担っていたBL少年探偵と比べれば、まともな仕事しているつもりだよ」
「…………」

 本音とも冗談ともとれる発言に、観測者の片割れは返す言葉がなかった。

「『観測者』の行動はウォッチャーに伝わってる。
 それでも続ける?」
「続けてこそ、僕らが創り出された意義がある。そう思うよ」

「……結果的にゲームを助長してる訳だし。
 それに元々殺る気もなかったのはわかってたんだよね? 僕が本気出してるなら銃なんて使わないし。
本当に『観測者』なんて馬鹿げたことやってるのか聞きたかっただけ。
で、今度は何をするつもり?」

べろりと銃口を舐めた。
なんとなく、あの霧の魔物のような味がした。

945欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:49:16 ID:20X4foLM0
「最初の『測り』は役に立たなかった。何のために返してやったのか、
理解してもらうつもりはなかったけど」

あれだけ常時バーサク状態なら、理解する頭すらなさそうにも思える。それは満場一致らしい。
非凡の集団にとっては貶められる存在でしかなかった。

「あの戦闘狂は、想像はしていたがあまりいいものではない。
 あれはリードが外れた犬だ」

 首輪はついているのに、解き放たれたと思い込んで暴れ回る犬。確かによく似ている。

「詩人みたいに語るのを得意にしてると思ってたけど、ずいぶん的確な表現じゃないかアイズ君」

 犬養はグラスホッパーの上着を脱ぎ、女にかぶせた。それだけでドーム内の汚れが取り除かれ、綺麗になった錯覚を起こす。
床上にアノンはあぐらをかいて座った。頬杖をつき、予想ついたことを話す。

「そうか。また『測り』を投入する気だね?」

 もう一人、『測り』として島に返してやろうとしているのは、目に見えていた。
二人は答えない。答えないからこそ正解だと示していた。

 ウォッチャーが握っていた情報が『観測者』にも流れてきていた。
生死の情報はウォッチャーの管轄だったが、これで『観測者』が動く準備は整った。
対象は我々"神"側の手によって身体を失っていた。
更に都合がいいことに、対象はあのプラントドームの近くで行方不明になっている。
最初に送り出した狂戦士の次に好条件が揃っていた。

「もちろん、そのまま返したりはしない。観測しやすいようにいじらせてもらう」
「本当にいい趣味してるよ、君ら」

 『観測者』は言う。
対象の彼女は、必ず最も収まりのいいところへ行きつくだろう。
心の底から再開を願う者の元へではなく、心の隙間を持つ者へ。取り入るように、導かれたように。
存在しない駒が、盤上に立てられた。

946欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:49:56 ID:20X4foLM0


#####


音という音を遮り、静かにあたりを白く染める。降りかかる雪を払う。
羽虫が飛んでいるか、ごみ屑が落ちているかのようだ。島の不快な気色を吸っていて、汚いとしか思えない。
見上げれば灰色に灰色が重なり、余計寒さに拍車をかける。
自爆した娘は、積もるだろうとの予報も聞いていたと話した。
しばらくはやみそうにない。
雪をしのげ、休めそうな場所を探す。寒さが全身の痛みを麻痺させてるが、苦痛の先伸ばしでしかない。


 白く大きく深く、肺で温まった空気を放出する。
代わりに凍てついた空気が、口から身体の内側へ侵蝕してくる。
ボタ雪の粒は吐息で軽く舞い上がり、風に吹き飛ばされていった。
雪が肩に積もり、キシキシと一つの氷のようになっていくのがわかる。


 こんなに傷ついていながら生きている。まだ生きている。
身体の一部分一部分がじりじり使えなくなり、こそげ落ちていく苦痛はうんざりするほどあった。
作り上げたものは片っ端から形を失くす。ありのままのものは、触れた途端に無に還る。
すれ違った者は……それだけで消えた。
腕に仕込まれた宝貝が、微かにうごめいた気がした。
唇が凍るのを感じる。
口を引き結び、新たな冷風に備えた。
道に残った跡を消すべく、また雪は降りしきる。


――俺ごと消そうとしているのか。


な訳がない。

947欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:50:33 ID:20X4foLM0
 考えたくもないが、弱っているのだろうか。
墓場の中まで付き合わせる仲間は必要ない。その墓場に今も向かおうとしている。死ぬなら一人で、と考えていた矢先に、わずかな羨望を覚えてしまった。滑稽だ。
道なりに行けば、この先に図書館がある。
この状況下で書物に囲まれるのはあまり好ましくないが、仕方ない。
雪を踏み潰す軽い音とは正反対の、棒になった重い脚で、のろのろと向かう。
そのとき、ごくかすかに、「……ぅー」というような声を聞いた。
せっかく鞭くれてやっと動きだした足を止め、耳を澄ます。空耳なのか?
いや、確かに聞こえた。

「うー……」

 途切れそうな細い泣き声がした。見えはしないが、歯を鳴らして震えているのがまざまざと伝わってくる。
見回した。
腰の丈程度の街路樹が動いている。隙間から、一瞬金色の髪がのぞいた。
ドラゴンころしを振り上げ、出方を窺う。
分厚い雲で薄れたドラゴンころしの影はそいつを覆ったが、ただ震えるだけで逃げる気配も攻撃する様子もない。
空いた手で街路樹を掻き分けると、娘が膝を抱えてうずくまっていた。
あいつとは対称的な、それこそ雪に紛れる白さの肌が光った。真っ赤になった鼻が目立つ。 
唇は紫を通り越して黒くなっていた。
丸まった背の薄い皮膚を、下から背骨が押し上げている。細くも要所要所は肉付きのいい肢体は、何も着ていなかった。
濡れた新聞紙をかぶり、かきあわせていた。
そこらのごみ箱から拾ったらしく、泥だらけだった。身体を隠す為とはとても言い難い。
少しでも寒さをしのぐ、無駄な砦のつもりらしい。

 身ぐるみ剥がれて捨てられたのか。
だが、それならこの寒空の下に留まっている理由は無い。
移動して服を調達ぐらいはするはずだ。あの男がやっていたように。

「誰だ、お前は」
「あう……? うう」



――なぜ誰もが、俺を試すような出合いをするんだ。



脳裏に浮かぶのは、あの女しかいなかった。




【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 肉体授与】

【H-08南西/図書館近くの路上/1日目/午後】


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE  ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
    妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
0:なんだ、この女は……
1:運命に反逆する。
2:グリフィスを殺す。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なんか、夢に見たか?
5:なぜヤツが関わっている?
6:工場に向かい、使徒どもの所業を見極める。
7:その足で競技場方面に向かい、グリフィスをぶち殺す算段を整える。
8:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
9:ヴァッシュに出会ったらナイブズの言葉を伝える。
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。

948欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:51:04 ID:20X4foLM0


【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:記憶退行
[服装]:全裸。新聞紙を巻きつけている他は首輪のみ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:???
1:うー?
[備考]
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。
※記憶を幼児まで後退させられています。記憶が戻るかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ウィンリィは『観測者』の運命観測対象としての復活です。ジョーカーのような働きは一切出来ません。



#####



「――昔、望遠鏡を覗いた学者は火星には運河があり、文明も存在するものだと信じていた。
 見えていたものは現代と変わらないのに、なぜ学者たちは騙されたのか、わかるかい?」

 脈絡なしに、犬養は問いかけた。首を捻るアノンに代わって、アイズが答える。

「天体を写真に収める技術がなかった。学者は自ら様子を描かざるをえない。
 観『察』して書き下ろすうちに、意図せず想像力が働いて、光の加減で見えた影を運河だと勘違いした」
「正解。これが観察と観測の違いだよ、セイバー。
 全てを客観的に、普遍的に見る観測者がいなければいけないんだ。
 観察だけするから、余計なものが見えてこうなる」
「わかったよ、ウザいね君ら」

少し間を置き、アイズは尋ねた。

「お前はここに何しに来た。ただ『観測者』の行動を確かめるためだけに来た訳じゃないだろう。
 招集でもかかったのか」
「ああ、そうだった。
 次の放送について、"彼"から連絡があるらしいよ。

 運命だとか何とか……

 ところでさ、君らにとって、運命って何?
ウォッチャーに確認されてるのを承知とはいえ、勝手な行動してまで見いだしたいものってなんだい?」
「はは、興味あるね。気になるのもわかるよ」

 よく似た二人は、同時に言った。

「全ては予定調和だ」
「世界は変えられる」

 短い会話だった。「神」にも届きはしないだろう。
円の外影に隠れながらも、青年は笑っていた。さっきの薄笑いとは全く違う。本当に面白げだった。

「それが君が言う、運命の螺旋が示す未来かい?」
「それがお前の言う、運命のリトマス紙なのか?」

 また同時に互いを皮肉り合う。

「……勝手に出ていった者同志ですら仲が悪いね。
 煮ても焼いても食えないよ」

 アノンの溜め息は受け流された。

949欲望の轍から……:2010/06/22(火) 15:56:27 ID:20X4foLM0
以上、投下終了です。
どなたか代理投下をお願いいたします。
ウィンリィ復活に関して、問題があったら破棄いたします。
意見助言がありましたらお伝えください。

950 ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:28:15 ID:rOejLMjI0
すみません、また規制に巻き込まれたので代理投下をお願いしたく思います。
以下本文です。

951あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:29:32 ID:rOejLMjI0
黒々とした海が、彼女の眼前に広がっている。
――いや。
その腐った水に溺れ、彼女という魂を規定する理性の器が、ぐずぐずと崩れていると言った方が正しいか。
とうに彼女はそのタール様の感情に完全に沈み込んでいる。
……此度の邂逅はただ、風化するまでを速めたにすぎないのだろう。

即ち。
麦わら海賊団、“悪魔の子”ニコ・ロビンはだいぶの昔に死んでいる。
あるいは――そもそもの始まりから“ここ”にニコ・ロビンはいなかったのか。
彼女ならばその理性と知識に従い、たとい船長が潰えども仲間を、世界を鏖そうとなど思うはずもない。

絶対に。
……絶対に。

そんな選択肢を選ぶ以前に、だ。考え付くはずも……ない。

だから、彼女はただの残骸。
ニコ・ロビンを模した出来損ないが、中途に弄られた果てに擬態すらままならなくなったブートレグ。
中国製の方がまだマシなデッドコピーに他ならない。

たとえ、たとえ目の前にモンキー・D・ルフィそっくりの肉の塊が転がっていて。
膝をついて、愕然として、虚ろな目をして、涙を鼻水を流し、だらしなく口を開け、嗚咽を漏らしているのだとしても。
彼女は――ニコ・ロビンではありえないのだろう。

だとしても。
……それでも彼女は、生きている。

生きているのだ。

悲哀。
悔恨。
憤怒。
激情。
自嘲。
諦念。
苦悶。
切望。
嘆嗟。
失意。
……憎悪。

黒を基調として赤と青が入り乱れるその墨流しの絵模様は、
顔料として白布に写し取れればさぞや見ものに違いない。
藍に瑠璃に紺に群青に藤に菫に紫に、牡丹に躑躅に薔薇に紅に。

これらが偽物であってたまるものか。

見つけてしまった死神の喰い残しを、吐き気すら催す優しさで彼女は撫でる。
焦げた肉を、はみ出した腸を。
丁寧にあるべきところへ戻し、懐かしくも頼もしい船長の表情に、怒りと嘆きを湛えたまま笑みを得る。
赤く充血した目で彼女は憎い憎い世界を見据え――、安らぎと慈愛に満ちた口調で呟いた。

「殺してやる」

952あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:29:53 ID:rOejLMjI0
紛れもなく彼女は絶望を味わっていて、強く強く、その憎悪を煮詰めている。

「彼をこんなふうにさっきの連中かしら。そうあってくれれば探す手間が省けて嬉しいのだけど。
 仮にそうなのだとすれば、、あの小細工でルフィの体を焼いて孔を開けたの?
 ……無理ね。あの飛び道具では火力が足りな過ぎるわ。
 だとするなら、あれは囮……かしらね。
 本命の目を逸らす小道具って辺り?
 あるいは――体を焼いたのと、孔を開けた手段は別なのかしら。
 いずれにせよ、工場の中にいた連中は、彼を殺した何かとよく似た攻撃手段を持っているわね」

淡々と、淡々と。
呟いて確認し、確認しては呟く。
ぶつぶつぶつぶつ、ぶつぶつぶつぶつ。
ここではないどこかを見据えて、瞬き一つすらせずに。

「そして、さっき死んだ蜂娘と鬼ごっこしていたあの二人を、助けたとなると。
 ……なるほどね。理解できたわ。
 “彼らは全員グルで、集団で寄り集まってルフィを殺した”、間違いないわね。
 ええ、それ以外に考えられないもの。
 さっきの飛び道具を卑怯にも何人で撃ちつけてから、貫通力に優れた武器を使えばああいう傷が出来るでしょう。
 私は――先入観に囚われすぎていたわ。そう、ルフィが何処の誰とも知らない相手に負けるはずがない。
 ならば、発想の転換が必要だったのよ。
 何処の誰とも知らない人間でも、寄り集まれば強大な力となる。麦わら海賊団のように――」

人形のような虚ろな瞳は、クルクル狂々と遠い彼岸に想いを馳せる。

「……残り人数も大分少なくなって来た現状、ルフィを殺せる大集団なんてそんなに多くはないはず。
 “ルフィ殺害現場の近くを根城とする”、“ルフィの傷痕から想定できる攻撃手段を持つ”、“ルフィを殺せるだけの人数を持つ”
 状況証拠は全て語っているわ」

彼女の中だけで理路整然たる当然の帰結となっている、あまりにも狂った論理。

「明白に、これ以上ないほど、確実に、絶対の、誤謬なき、不変たる真実として、彼らこそがルフィ殺害の下手人である、と」

“そうあって欲しい”が気付かぬ間に“そうなるのが自明”と摩り替わり、“そうでないはずがない”と転がり落ちていく。
結論ありきの辻褄合わせ。
一方通行のこじつけが、全てを呑み込む一点へと理屈を集約させていく。
それはまるでブラックホールだ。

「追わなくちゃ。
 地獄の果てまでも追い詰めて、地獄以上の苦痛と辱めを与えて、地獄もろとも滅ぼさないと、ね」

恋しい恋しい想い人をようやく見つけた時の歓喜の表情が、彼女の上に張り付いていく。

くすくすくるくる、くきかかか。
げひゃひゃひゃぐふふ、くきゃきゃきゃきゃ。

不意に、さくり、と、彼女は脳内に衝撃を感じる。
その瞬間――、全くの唐突に、気付いたのだ。
自らの内なるどこかから聞こえる、おぎゃぁあああぁぁ、という声を。

953あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:30:26 ID:rOejLMjI0
どろり。
……どろり。
より黒く、より粘つきを強めていく狂気は、いつしか彼女の中におぞましいモノを孕ませていた。
視界の右は嘆きの青に、左は憤りの赤に満たされていく。

ありとあらゆる負の感情から生まれ、憎悪を喰らいて育つ獣の産声を、確かに彼女は聞き届ける。

何処から聞こえてくるのだろう。
頭の中だろうかと、そちらの方に手を伸ばし。


「……え?」

頭の右に手をやる。

指先に、僅かな熱さを感じた。
本を読むときに頁の端を誤って指に垂直に動かしてしまった時と同じ熱さだ。

三角形の、鉄の塊だった。

反対側を確かめる。
鳥に触った時を思い出す。布団の中身をブチ撒けた時を思い出す。

羽の感触が三つ、自分の中から生えていた。

右に見えるものが青いのは、血を失ったからで。
左に見えるものが赤いのは、血が流れ込んだから。
それをようやく認識したと、同時。

ぐらり、と彼女が崩れていく。


彼女の孕んだ獣は、決して孵る事はない。


何故なら――、彼女がソレを自覚したその瞬間の衝撃は。

さくり、と。

頭蓋の横ど真ん中を、豆腐のように矢が貫いたことで生じたものなのだから。

肉の塊が、軽い音を立てて倒れた。
じくじくと鉄錆色の池が広がっていく。

そして二度と動かない。


【ニコ・ロビン@ONE PIECE 死亡】

954あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:30:57 ID:rOejLMjI0
**********


役立たずはいらない。
視野狭窄に陥って、自分の言葉さえ全く聞く耳持たなくなったとしたら。
それは既に駒ですらない、足手纏いだ。

だから捨てる。それだけだった。

世界を滅ぼす力とかいう妄言は確かに気になったが、その担い手が制御できないならそこらに放る程度のものだ。

「……蟲のメスガキといい。どいつもこいつも、使えねぇ。
 そりゃ工場の連中が殺った可能性は0じゃねぇがな、ン時間前の死体だよそりゃ。
 短絡的にも程があんだろ。
 ロボットみてーに一つのことしか考えられなくなりゃ、おしめぇだ。
 オレはな、お人形さん遊びをするつもりはねーのよ」

明るい口調だった。
まるで、友人と趣味の話をしているような声色だった。

なのにその顔には、宅地造成される丘を眺めるような、そんな表情を浮かべていた。

「つー訳で、だ。オレの話を無視したのはいけねぇな、全くいけねぇ。
 オレぁやりてぇ事があるからよ、ハナシ聞けねェヤツはいらねえんだわ。
 ……光栄に思えよ? てめぇの事は少しは認めてたんだぜ?
 てめえがまかり間違って敵にでもなったら面倒だから、こうしたんだからな」

道化の笑みで秋葉流が空を仰いだ、その瞬間。

彼の両肩から背から腰から、6本の腕が咲き開く。
鍛えた体躯を絡め取り、骨ごと筋ごと折り割らんとする花の群れを――、

「種が割れてりゃ、こんなもんだ」

縛る。
ヘラヘラヘラヘラと生気のない軽薄な笑みを浮かべれば、それだけで全ての腕が静止した。

流の衣服には複数個所に鈴が結い止められており、そこを起点とした結界がニコ・ロビンだったモノの最後の抵抗をいとも簡単に踏み躙る。

鈴とは、神道において重要な祭具である。神楽鈴や鈴緒などはその代表格だろう。
諸君らの殆どは初詣で賽銭を奉じた折に、ガラガラと鈴を鳴らしたことがあるはずだ。
鈴は邪気を払い、霊を鎮め、神を呼ぶ――法具なのである。
強力な結界を張る為に独鈷杵の代わりとして用いるなら、十分に使える代物だ。
神社に立ち寄ったことは間違いなく正解の選択肢だった。

その強度を増した結界を鎧の様に纏えるよう、ロビンとの邂逅の後すぐに仕込んでおいた。
こういう時が来るだろうと最初から織り込み済みだったからこそ――彼はロビンに同行を申し出たのだから。

無論この結界は、力ずくで破る事も出来る。
だが、少なくともニコ・ロビンには不可能だ。それを流は確信している。

955あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:31:42 ID:rOejLMjI0
理由は単純、本当に単純だ。
肩から先だけで生み出せる力というのは、全身運動に比べ極めて小さい。
たとえ得体の知れない異能の力であろうと、人体工学には逆らえない。
いかなるプロセスを経たとしても、目に見える部分は必ず物理法則に則り動く。

足を脚を、腰を胸を腕を拳を、全身の連動で成し得る武に比べれば、この細い細い腕だけでできる事などたかが知れている。
奇襲から関節技に持ち込むという戦術頼りでしか、この殺し合いを打破する術はなかったのだ。

流が鼻で笑う。
最早、ロビンだったものを見もしない。

瞬間。

「な――、」

流の腹から新たに伸びた手が、結界の隙間を潜り抜ける。
よくよく見れば、あちこちに花開いた目、目、目。
結界の位置を把握されていると、流は確信――!

今わの際かつての判断力を取り戻したロビンは、せめてもの意趣返しに彼の急所を。
邂逅のその時手掛けようとした、尊厳壊しに着手する――!

「んちゃって、な」

そして、着手しただけだった。
どすり、と、局所に手が届く遥か前に、その腕に矢が突き刺さる。
当たりもう一本。
どすり。

掌の真中から入り、肘から突き出る一本と。
指の二本を吹き飛ばし、壁に突き刺さる一本と。

彼女の腕は、その機能を完全に停止した。

そして咲く全ての腕に孔が開き。
涙の如く血が流れ出る。

ずる……。

血を滴らせながら、流の体の中へと全ての腕が引っ込んだ。
静かに、静かに。

突き刺さったままの破魔矢が沈む肉に押し出され、抜けていく。
萎む花を支えた挿し木は、血のぬめりのおかげで心太のよう。
そして音もなく腕が流の体に消えたと同時。

かん、からから、から、と、転がった。

ニコ・ロビンのお話はこれにてお終い。
否、もうとっくに終わっていて、カーテンコールが長かっただけなのかもしれない。

956あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:32:04 ID:rOejLMjI0
一度秋葉流に手の内を見せたという事は。
彼女はずっと、彼の慈悲で生かされていたに過ぎないと、そういう事。
不幸だったのは冷静さと思考能力の喪失だ。

仮定に価値はないけれど。
もし、秋葉流に能力を見せずに駆け引きを行えていれば。
あるいは以前に、確実に彼を仕留めきれていれば。
彼女はきっと、もっとマシな最期を――、

……いや、どうだろう。

もしかしたらこの結末は、ニコ・ロビンにとって最良ではないにしても、最悪の結末ではなかったかもしれない。

少なくとも、秋葉流はそう考える。

未だ痙攣こそ続けているものの、ロビンは仲間と思しき少年に折り重なるように目を閉じていた。
息は、完全に絶えたろう。
その表情には、つい先刻までの壊れた理性も憎悪による狂気も浮かんでいない。

……そうなるように、流は事を終わらせた。
彼女の最後の抵抗は生命の危機における自動的な反射と機械的な行動で、そこに憎悪を始めとする負の感情は一切存在しなかった。
流の奇襲、最初の一矢は、正確に精妙に耳の近くを真横に貫いていたのだから。

――脳内の側頭葉に存在する、扁桃体。
破魔矢によって破壊されたこの部位は、端的に言えば感情を司る。
現代脳科学でその機能の全容が解明されている訳ではないが、しかし、側頭葉の破壊による情動の低下は、多くの事例で報告されている。

怒りや悲しみ――憎悪でさえも。
それを受け止める部分が存在しなければ、感じる事などあるはずもない。

なんでこんな面倒臭いことをしたのだろう――と、流は自問する。
どうせ殺すならば、もっと簡単に心臓でもブチ抜けばそれで済んだというのに。
どうしてか、体は勝手に憎悪の根源たる部位を破壊する事を望んでいた。

風が、びょうと吹く。

ぼうっとした顔で、脇目ながらに首輪探知機を見る。
依然として工場内には反応は無しの礫だ。

……一体、先の連中は何処に消えたのだろう。
降りたシャッターを破壊するのも面倒だったので裏口を探していたところ、工場東部に侵入できる破壊痕を見つけたまでは良かった。
しかし計算が狂ったのは、そこにロビンの言う船長とやらの死体が転がっていたことだ。
蹲って全く動かなくなったのが頂けない。

仕方なしに肉塊にロビンが齧り付いている間、中を見て回ったが誰一人として見当たらなかった。
とは言っても、見える範囲を適当にうろついただけである為、仔細を詰め切れていないのは確かだが。
それでもこのPDAの反応からして、すぐ近くにいないのは間違いなかろう。

瞬間移動か何かの能力か、支給品か、それ以外の何かか。
掲示板の情報を見るに、施設そのものの仕掛けの可能性もある。

PDAのバッテリーを気にせずに、ずっと連中の動向を確認していなければ何処で消えたのか見逃さなかったろうが、後の祭りだ。

957あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:32:30 ID:rOejLMjI0
シャッターを破壊しつつとりあえず一通り中を見ても、収穫はライン上を運ばれていた生産物程度だ。
そこかしこの粘液やら破壊痕やら、調べたいものは山ほどあったが――、とりあえずはロビンとの合流を優先して、戻ってきた。

その矢先の出来事が、彼女の殺害だった。
とりあえず薬で体力を補給して、今後どうすべきかを話し合いたいとは思っていたのだが。

数十分もの間、その場を動かなかったロビン。
その心中は如何なるものだったか。
何を呟き、何を見ていたのか。

流に知る術はない。
けれどとにかく、彼女は流の思惑を外れた方に動こうとして。
だから、いらなくなったから、捨てた。

……それだけだ。
蹲っていた彼女と仲間に、その絆の強さに、うしおととらを思い出したなんて、そんなことは有り得ない。

生前の彼女が仲間について話す間だけ、その狂気の中に喜びを見せていたことなんて。
言葉の端々に垣間見える大冒険譚の断章から、本当に楽しげな実物の彼女が浮かんできたことなんて。
語られるエピソードに登場する彼女が、壊れた目の前のそれと同じ人間とは全く思えなかったことなんて。

全部全部、彼女を殺したこととは関係ない。
邪魔になったからだ、それだけだ。
そう秋葉流は心の内で幾度も呟く。己は救い様のないエゴイストなのだ――と。

「……たとえ死んでようが、こんなイカレ女を船長とやらに見せたくなかったなんて……そんなはずねぇだろがよ。
 オレぁ“殺し合いに乗った最悪のクソ野郎”だぜ?
 そんな、うしおみてーな……、」

言いかけて、不意に流は、眉を下げ口元を微かに歪めた笑みを得る。

「いや、違ぇか。うしおなら、よ。
 どんなひでぇ具合にぶっ壊れちまっても……、キレェな道に引き戻そうと頑張りやがるんだろーなァ。
 ……やっぱ、あんないい子ちゃんになれるはずはねーんだよな、オレなんかがよぉ、く、くく……」

座り込み、俯き、体を震わせる。
まるで幼子が泣いているかのように、額に手を当てながら。

彼は気付いているのだろうか。
その言葉が何を証明しているのかに。

降る雪が、秋葉流の上に積もってゆく。
空気がやけに、冷たい気がした。

「また、一人か……」

続く呟きは、再度の自嘲を伴って。

「てめぇでブチ殺しといてなに言ってやがる」

958あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:32:51 ID:rOejLMjI0
向こう側で出会えたのだろうかと、一組の死体に目を向ける。
さぞや慣れ合いに浸った連中だったんだろうと、そんなことを思う。
うしおととらには、きっと及ばないだろうけどな、と。
うしおととらの絆より強いものなどありえないと、そう願う。

「もし……、もし、よ。
 こいつらがうしおととらだったなら……、やっぱりオレは、こんな風にしたのかね……」

この残酷で虚しく、なにより寂しい戦場の中で。
今、彼らはどうしているのだろうか。
無事でいて欲しい。元気でいて欲しい。立ち直っていて欲しい。
そして――あの太陽のような輝きを、振り撒いていて欲しい。

……だって。と、彼は心中の独白を続ける。

「しねえのかな……、きっとしねえさ。
 だってオレは、アイツらを裏切ったんだからよぉ、きっと跡形もねーくらいにぶっ壊したんだろうな」

そういう連中だからこそ、自分がこの手でブチ壊したいと、そう願うのだから。
せめて自分以外の手では、傷一つつけられて欲しくない。

空を仰いだ。

織り込まれた灰の雲の絨毯に埋め尽くされた、日没三歩手前の空。
暗く青く色づいた曇天から音無く落ちる白埃。

風鳴りが強く、強く――。
流の体を打ちつけて、雪の皮を飛ばして散らす。

巻く。
遥か高みから風が吹き下ろしてくる。

雪が入らないよう眇めた目、その中に。
脈絡も心情も無視して、全く唐突に映り込む見慣れた姿。


――白の斑の向こうに、待ち望んだ姿が見えた。


意識するより先に、流の口は彼の名を紡ぐ。

「と……、ら?」


**********


くっちゃくっちゃ、くちゃくちゃくっちゃ。

「おおぅ、うめぇ。最近の童子は500年前に比べりゃたらふくいいモン喰ってるからなァ。
 柔らかさといい脂の付き具合といい、い〜い感じだ。
 はんばっかなんざ比べモンになんねェなあ……、ああ、本当にうめーぜ。
 男のガキでこんなにうめえんならよ、……女ァ喰ったらどれだけ美味ェんだ?」

959あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:33:12 ID:rOejLMjI0
じゅるじゅると血を啜り、甘い脂肪とコクのある筋を楽しみながら、人食いのバケモノは空を行く。
降る雪が気になりゃ炎で燃やし、両手にごちそう抱えて勝手気ままな漫遊紀行。
全快にはほど遠いとはいえ、体も少しは癒えてきた。

500年ぶりの人肉は格別だった。それはもう、天にも昇る美味しさだった。
これだからやめられねぇよなあ、と、バケモノは思う。
うしおの言う事なんか聞いていられるか。
いや、今度出会ったら問答無用で食ってやろう。きっとあいつも旨いだろうなあ。
ニンゲンどもは最初に荷物を全部取り上げられたらしいから、獣の槍だってうしおはきっと持っていない。
そう結論付けて、べろべろべろ、と肉の塊を舐め回す。
そこには一片たりとも情の類は存在しない。

ずきり、と、鉄くれを突っ込まれた様に――脳が軋んだ。

「ち……」

楽しかった気分が、一瞬で醒める。
先ほどからずっと――、正確にはあの子供を喰い殺した時から、満足に浸ろうとするたびに、こうだ。
無数の見た事のない映像が、ちらちらと唐突に浮かび上がる。
バケモノの知らぬ語彙でいうなら、サブリミナルにも近いものだ。

鎌鼬の兄弟どもは何処で会ったんだっけ?
遠野の連中は……昔共闘したかもしれない。
うしおがバケモノになっちまったことは、ねぇよなあ。
獣の槍が壊れた? だったらこんな苦労してねーっつーの。
マユコがミョーなヤツラに襲われたのは確かだが、あんな連中だったか?
西の連中も遠野のと同じだなァ。
からくり仕掛けの結界にわしが捕らわれる? くだらねぇ冗談だ。

そして。
そして――、

……そこから先は、訳が分からないものばかり。

過去と昔が、うしおとラーマが、とらとシャガクシャが、混ぜこぜに。

そういえば、だ。
もう800年も前の事になるというのに、白面のことを何故かすんなりと思いだせたのも謎だ。
白面の眷族らしき女がいたとはいえ、どうして白面そのものが糸を引いているなどと思ったのだろう。
あの大妖は、とうの昔に海に沈められたはずなのに。

「ちくしょー、なーんか裏でコソコソやってる奴がいるみてーで気持ち悪いぜ」

ぶんぶんと、頭を振る。
悪くなった気分を払う為に、も一口がぶりと弁当を楽しむ。
これは心の臓か、新鮮で鉄臭い大量の血がバケモノの口から溢れ出る。

「うんめぇなぁ……」

極楽、極楽。
とはいえ――これだけじゃ全然足りない。
ちょいと大怪我し過ぎたところだし、もっとご飯を欲するお年頃。

欲に浸ったまさにその時に、どこかで己を呼ぶ声が。

960あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:33:36 ID:rOejLMjI0
「……ん?」

「よお……、とら! とらじゃねえか!」

眼下に顔を向ける、こちらに向けてニヤニヤ笑う男がいる。

その男の顔を見た途端。
ザザ……、と、先ほどから続く幻の記憶がまた横切った。

「……ちぃ、うっとーしぃよなァ」

見た事もない男だが、もしかしてコレの原因をあいつは知っているんだろうか。
面倒だが聞いてみようかと舌打ち一つ携えて、バケモノは空から地へと堕天する。
見ればすぐ近くに女の死体も転がっている。すごく新鮮だ。
……惜しいことをした。
もっと早くに来れば、獲物にできたかもしれぬのに。
他の奴の喰い残しになっては、今から手を付けても恥というものだ。

「よぅ、ニンゲン。わしを呼んだか?
 うしおの付けた名を知ってるたぁ、おめえ、アイツの知り合いかよう?」

皮肉気な表情の中に何故か子供の様な期待を抱き寄ってきた男が、不意に止まる。
その表情が、急速に砕け愕然の二文字に染まる。
彼の視線の先は、紛うことなく、バケモノの口周りに縫い止められていた。
赤ぁく染まった、口周りに。

「お前……、とら……だよな?」

見開かれた目は、だらしなく開いた口は、力なく下がる肩は、今にも崩れそうな全身は。
彼の中を今満たしつつある黒に似て黒でない色を、淡々と表現していた。

「あん? あー……、うしおの奴ぁわしをそう呼ぶわな。
 まあ、名前なんてどうでもいいことさぁ、ニンゲン。
 それよりちぃとばかし聞きたいことがあるんだがよ」

端的に言えば――絶望の夜色を。

「お、おい……。とらぁ、とら、よう。
 どういうことだよ……、なにやったんだよ、てめぇ……」

男は笑おうとする。どうにか自分を保とうとする。
……けれど、泣きそうだった。
それがバケモノの癇に酷く触る。
どうしてか分からないがこの男の態度がとてつもなく気に食わず――不機嫌を隠す気さえ起きなかった。

「あん? 何やったって……ガキ喰っただけじゃねえかよ。
 それよりかおめぇ、わしの事どこで聞いたのよ?」

バケモノは腕を組み、男を睨む。
そんな様子を気にしていないのか、気にする余裕さえないのか。
男はよろよろと一歩を踏み出し、目に見えない何かに縋るように手を伸ばす。

「喰……った? なに、言ってんだよ、とら。
 そんな事したら……うしおがどう思うか、本心じゃ分かってたはずだろが。
 てめえは口ばっかりでよ、なんだかんだであいつの側にいること、楽しんでたんじゃ……ねえか。
 もう、あいつの側にいられなくなっちまうん、だ……ぞ?」

961あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:34:00 ID:rOejLMjI0
一々一々、態度が気に食わない。
何故か知らないが、目の前の初対面の男はもっと飄々としていなくてはならないと、そう感じる。
けれど、“この”バケモノはその理由を知らない。
だからバケモノはその性質に従って――、素直な心持ちを表に出す事しかできなかった。

見下すように。
嘲うように。
鬱陶しそうに。

まともに取り合う事などせずに。

「なーにいってんのよ。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃワケ分からねえ。
 んなこたぁ、どうでもいいじゃあねーの!」

これ以上、言ってはいけない。不真面目に揶揄する様な口調で聞いてはならない。
経験していないはずの記憶がそう告げる。
この男には、心の底から真剣に向かい合わなくてはいけないと、耳元で何かが呟いている気がした。

……だが。
今ここにいるバケモノにとっては、その警告はただの五月蠅い羽蟲の音同然の代物だった。

「それより、よ」

何かに亀裂が走った。

「誰よ、おめえ」


**********


ふら……、と、流が揺れる。
足が崩れる。覚束ない。

とうとうとらと戦えると、ほんの数十秒前まで感じていた高揚感が全く消え失せている。
子供のころ、まだ本気を出さないと決める前ですら感じる事のなかった気分だったというのに。

今はまるで、人の滅びた廃墟に放り込まれた気さえする。

寒い。
降る雪を乗せる風が、体を心から震わせる。

ここは山だというのに、まるで海に吹く風のよう。

目の前にあるのは何なんだろう。
あの、まぶしくてキラキラしたきらめきは、血に汚れて見つからない。

分かっている、子供を食べたバケモノだ。
うしおの禁を破ってなにかたいせつなモノを踏み越えてしまったバケモノだ。
絆を踏みにじったバケモノだ。

……あの太陽みたいな瞳に背を向けた自分の、同類だ。

962あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:34:25 ID:rOejLMjI0
たまらなく悲しくって、許せなかった。
戦いたい気分なんか、完全に砕かれてしまった。
戦意に罅が走る。
裏切ってまで手に入れた、本当の望みという器の中身が全部全部零れて消えていく。

せめて。
せめて、この妖(バケモノ)だけは、うしおの横を歩いていて欲しいと、そう心のどこかで思っていたのかもしれない。

いや、違う。
心の底から、この妖(バケモノ)だけはうしおを支えて歩み続けるのだろうと――信じていた。
だから自分は、安心して彼らを裏切れたのかもしれない。

だというのにこれは、あんまりにも酷過ぎる。

ぐるぐると目眩がして、天と地が混ぜこぜになる。
裏切った自分が今度は裏切り返されて、猛烈な吐き気が胃を満たす。

目に見える全てが色褪せ、蜘蛛の巣のように割れ目が入りかけたその時に。

不意に。
電脳の海で見た、誰かの記帳を思い出す。

そしてそれが正解なのだと――直感した。

『9 名前:バトロワ好きな名無しさん 投稿日:1日目・昼 ID:XO7all1TH
 荒唐無稽な話だが、君たちの探している知り合いは、君たちの知る彼らではない可能性がある。
 それぞれが違う時間から呼び寄せられている可能性を、考慮に入れておいてくれ。』

全て流れ出てしまった器の中に、新たに注がれ始めたもの、それは――。

「そうかよ、神様」

嘆嗟の青と憤怒の赤。
罅を通してしずかにしずかに、染み出すように器の中に溜め込まれていく。
あたかも、つい今しがたこの手で殺した女のように。
しかし壊れることなく、形を整えたそのままで。

いつしか禁鞭を意識する。
ぎゅうっと、使うはずのなかったものを心の内で握り締める。

「これがてめえの筋書き通りだってんなら、何を犠牲にしてでもそこまで辿り着いてやる。
 てめえだけは生かしちゃおけねぇ」

とらと決着をつけるときは、支給品などに頼らないつもりだった。
そう決めた、はずだった。

「だけどよ、その前に――、」

けれど。
けれど今は、その誓いをかなぐり捨てる。

目の前にある存在の全てが、許せなかった。

「こいつだけは、うしおが出くわす前にぶっ壊す」

963あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:34:52 ID:rOejLMjI0
――奇妙な感覚だった。
体は燃えるように熱いのに、頭は氷水に突っ込んだ様に冷えている。

秋葉流はおそらく、生まれて初めて“本気”の怒りを宿していた。

望まずして手に入れた、本気を出せる場所の代替物。
それが幸か不幸かは、誰にも決める事は出来ないだろうけれど。

「あん、なーにいってるのよテメェ。ぎゃははははははっ!
 ニンゲンごときがわしに勝てるかよ! おめえも喰って、わしの肉にしてやらあ!
 てめえもわしをとらって呼ぶくらいに知っとるんならよう、このわしの強さぐらい聞き及んでいるだろうに!」

「黙れ」

聞くもの全てを畏怖させる、悪意も敵意も存在しない純粋な殺意をバケモノに向ける。
バケモノはきょとんと顔の動きを止め、それからニィィィイイィ、と、哄笑に浸る。
俯いた秋葉流の紡ぐ言葉を、更なる笑いで嘲りながら。

「知ってるさ。……どうしようもなく戦いたかったくれーにな。
 でもよ、それは“とら”だから戦いたかったんだぜ?」

地獄の怨嗟の声のように、低く、重く、そして――か細く。

「てめえはもう……とらじゃねえよ。てめえをとらと認めねえ」

このバケモノをもしうしおが見てしまったら、あの太陽の少年はどこまで軋んでしまうだろう。
強さゆえに壊れる事すらできず、逃げ出す事も出来ず、どれだけその胸を苦しめるのだろう。
どんな涙を、どれほどに流してしまうのだろう。

それだけは、させたくない。
 
うしおをぶっ壊すのは別に構わない、むしろ望んでいることだ。
だが。
……だが。
いざ壊すとするならば、自分のこの手でなくてはいけないのだ。
このバケモノを見せて壊したくなど、ない。
それは、“うしおととら”の間に存在してはいけない光景なのだ。

そう、流は心中で呟く。
けっしてうしおを慮ってなどはいないと――、何度も何度も唱え己に言い聞かせる。

同行者さえ含めて何人も殺した自分に、誰かに優しさをかける資格などない。
蝉という男の頭蓋の割れる手応えが。
咲夜という少女の肉を殴る感触が。
つい先刻の――ロビンの頭蓋を貫いた光景が。
全ての善行を、否定する。

今更引き返すのは、彼らと己自身が許さない。
このまま冥府魔道を突き進み、外道の限りを尽くすと決めた。
だけどそれでも、どんなに所業に苛まれても、やらなければいけないことがある。

964あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:35:18 ID:rOejLMjI0
「うしおにとって、てめえは最期まで最高の相棒(ダチ)じゃなくっちゃあいけねぇんだ。
 今、ここでてめえが消えたらよ、うしおは自分の相棒(ダチ)がこんなに貶められてた事に気付かねぇだろ。
 ……オレがよ、最後の最期までてめえの相棒(ダチ)だったとらをブチ殺したって伝えたんなら尚更だ、嘘も真実にならァな……」

きっ、と、目を見開いた。
慄然と、叩き付けるように言い放つ。

「おい、そこの名無しの化け物。
 ……てめえにゃ二度とうしおのツラを拝ませねぇ。うしおにてめえを会わせねェ。
 “とらと戦いたかった秋葉流”じゃなくて――ただの法力僧としててめえをブチ殺す」

「ナガレ……、ナガレねぇ。それが貴様の名前かよ。
 法力僧たぁ、ますます喰い甲斐があるじゃねーか。
 身の程知らずにも戦いてぇっつうそのイキの良さ、さぞやその肉も旨かろうぜ……!」

にっしっし。
気の抜ける笑いでまともに取り合わないバケモノの態度は、見ようによっては挑発とさえ取られてもおかしくはない。
だが、秋葉流はその悉くを無視して吼える。

「聞いてなかったのか? オレはブチ殺すっつったんだ。
 “てめえ”と戦いたいなんてこれっぽちも思わねぇよ、名無し」

……そうだ。
強いものと戦いたいだけなら、白面と戦えばそれで良かったのだ。
とらと戦うことにこそ、意味があったのだ。

だけど。
とらは、もういない。

とらだったものは、名無しのバケモノと成り果てた。

目頭が熱い。零れ落ちてきそうな何かを抑え込む。

絞り出すように、震える声で。

宣戦布告を刻み込む。

「これ以上、“うしおととら”を冒涜すんじゃねえよ。
 肉の一片も残さねえ」

強く強く、一陣の風が両者の間を吹き抜けた。

「く、くくくくくかかかかかかかっ! かかかかかかかかかかかかっ!!
 上等だァ、ナガレェェェっ!」

二つの影が走りだす。
ここに、戦闘ですらないただの屠り合いが始まった。

965あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:35:43 ID:rOejLMjI0
「てめえはなんにも食ってねえ、ただの血に飢えたバケモノだよ。
 うしおを腹ァいっぱいに喰ったアイツとは似ても似つかねぇ」

「くっくっく、その通りよ! わしは……妖(バケモノ)だぜ!?」

「てめえが妖(バケモノ)だからなんだってんだ。
 化け物ってのは……いつだって人間に倒されるもんだろが」

刻々と近付くニンゲンとバケモノは、それぞれの獲物を研ぎ澄ます。
ニンゲンは錫杖をその手に、矢を三本放ちて穿つ。
バケモノは爪を振りかざし、炎と雷にて迎え撃つ。

「……人間に倒せねーものは、もうバケモノとは言わねぇんだ。
 そういうのはな、畏れ崇め奉られて、神様って呼ばれるようになるんだよ」

流の言葉と同時、中間地点にて破魔矢は結界を展開。
ぶつかった炎と雷とが、閃光と煙で周囲を満たす。

轟音。

衝撃は風を呼び、雪さえも巻き散らして空の彼方へと。

「……畜生が。
 お前までうしおを裏切りやがって……」

悲痛なほどの呟きもまた、その風の中へ溶けて消え。

頬に一滴、水が流れる。

……風の音が、一際強く。

今までの如何なる風よりも強く、吹き抜けていく。


【E-6/工場東部付近/1日目/午後〜夕方】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:健康
[服装]:とらとの最終戦時の服
[装備]:錫杖×2、破魔矢×8、神具の鈴×20
[道具]:支給品一式×2(名簿一枚紛失)、仙桃エキス(9/12)@封神演義、注連縄、禁鞭@封神演義、詳細不明神具×1〜2
    化血神刀@封神演義、んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ×1)@銀魂、PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー×2、
    双眼鏡、食料、女物の着替え、毛布
    詳細不明アイテム×1(工場の生産ラインより発見)
[思考]
基本:いかなる犠牲を強いてでも“神”を殺す。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
0:うしおが遭遇する前に、名無しの化け物を欠片も残さずこの世から消し去る。
1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
3:高坂王子、リヴィオを警戒。
4:聞仲に強い共感。
5:うしおを痛めつけていいのは自分だけだと意識。
6:ロビンの『世界を滅ぼす力』に強い興味。
7:空中のワープゾーンに興味。

966あるるかん -虎乱- ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:36:08 ID:rOejLMjI0
[備考]
※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。
※PDAの機能詳細、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※ゆのからゆのの知る人物(ゴルゴ13と安藤(兄)以外)についてある程度の情報を得ました。
※上空の『何か』と旅館が怪しいと睨んでいます。
※詳細不明アイテムは、安藤の道具(ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
 支給品一式×2、工具一式、金属クズ)から生産されたものです。


【とら@うしおととら】
[状態]:ダメージ(中)、脇腹に穴、左足一部欠損
[服装]: 口周りに血がべったり
[装備]:万里起雲煙@封神演義
[道具]:支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?
[思考]
基本:白面をぶっちめる……?
0:ナガレとやらをテキトーに相手にした後、喰う。
1:体力を回復させるために適当な輩を喰う。
2:強いやつと戦う。
3:うしおを捜して食う。
4:"ユノ"という名前に留意。
5:幻覚らしきものが気になる。
[備考]
※再生能力が弱まっています。
※餓眠様との対決後、ひょうと会う前からの参戦です。
※会場を、仙人によってまるい容器の中に造られた異界と考えています。


【工場付近の状態】
※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
 また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィ、ニコ・ロビンの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクが、工場外壁付近のMr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままです。
 また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)
 は未回収のまま、工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
※工場の動力は地下室に存在する小規模のプラントドームです。
 練成陣の様な紋様がプラントドームに接続しています。
 また、紋様に沿って地下室を通路が縦断していますが、どちら側にも扉が設置されています。
 扉は現状では開きません。
※工場に防火シャッターが下りています。一部は流の行動により破壊済みです。
 また、地下空間へのシャッターは存在しません。
※ロビンの死体のすぐ側に1本、付近の樹木に1本破魔矢が存在しています。
 流の意志で動かす事が可能です。

967 ◆JvezCBil8U:2010/06/30(水) 00:36:52 ID:rOejLMjI0
以上で投下終了です。

968名無しさん:2010/06/30(水) 13:36:46 ID:.JYPapok0
すみませんさるさん食らいました
>>962からどなたかお願いします

969 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:23:27 ID:vxzP1QSc0
規制に巻き込まれてしまいましたので、こちらに投下します

970孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:25:13 ID:vxzP1QSc0
 タタンと軽快なステップで地面を蹴り、ガンマンは左右から迫る二本の刃を回避した。
 符術師が投擲したひょうは変幻自在の軌道を描いてガンマンを追い詰め、だがしかしその超常の反射神経に掠る事すら許されない。
 そして回避と共に、ガンマンの手中に収められたら拳銃が火を噴いた。
 跳ね起きた撃鉄が渾身の力で信管を叩き、内に包まれた火薬が鉄筒の中で爆発。鉛弾を音速まで加速させ、目標を穿たんと排出する。
 銃口が先に置かれるは、符術師の右肩。
 得物を投擲するにあたり最も重要な部位である関節。其処を破壊しての無力化を計るガンマンであったが、

「禁」

 たった二文字の言葉と一枚の紙切れにより、その目論見は宙に霧散する。
 音速で符術師を貫く筈であった弾丸も、どんな原理かその手前で塵となり消え失せた。
 一世紀半にも及ぶ長い人生でも見た事のなかった超常現象に、ガンマンは目を見開き、驚愕する。
 その驚愕は隙と言うには余りに刹那の感情で、だが歴戦の符術師にとっては格好の瞬間であった。

「十五雷正法・一尖」

 そうして放たれたひょうは、弾丸に勝るとも劣らない加速と最高速を以てガンマンへと急迫する。
 裂ける肉。
 飛び散る血液。
 舞い落ちる数本の頭髪。
 そのひょうはガンマンのこめかみを切り裂き、後方に聳える木へと突き刺さった。

「こりゃ驚いた。ホントに凄いね、君」

 側頭、頬、顎の順に輪郭を沿い、地面へと落下していく血液には視線すら向けず、ガンマンは感嘆の言葉を紡ぐ。
 視線の先では全身を漆黒に包んだ符術師が無表情で立ち、手中のワイヤーを手繰り寄せ得物を回収していた。

「札を爆破する位ならまだ分かるけどさ、まっさか飛んでる弾丸を粉々にするとはね。奇術師でも食っていけると思うよ」

 つらつらと言葉を並べるガンマンに、符術師はただ射殺すような冷たい視線を投げかけるのみ。
 返答どころか、返事の一つもしようとしない。

「あ、そうだ、いっそ符術師やめて奇術師になるのはどうだい。そうすりゃ殺し合いに乗る必要もなくなるんじゃない?」

 ヘラヘラとした軽い笑顔と共に口から出たそれに、符術師はようやく返答をしてくれた。
 思い切り、全力で、右の手から投げつけられる一本のひょう。
 その返答は、彼の心境を表すにこれ以上なく簡潔で、明瞭で、明確な行動であった。
 どわあ、という情けない叫びを上げながらも、ガンマンは大きく横に跳ぶ事でひょうを回避した。

「黙れよ、化け物」

 符術師の全身から噴出するは、その服装と同様の漆黒。
 化け物に対する行き場の無い感情が、渦を巻き、歪んだ熟成を経て、眼前の人外へと突き付けられる。
 ただでさえ重かった周囲の空気が、物体と化したかのように重くなっていく。

「そういう訳にもね。それに、僕を黙らせたいなら、それだけの攻撃をしてくりゃ良い。僕のお喋りを『禁』じられるくらいの攻撃を、ね」

 その荒んだ空気の中でも、ガンマンは変わらぬ口調で話し続ける。
 くっ、と符術師の喉から零れ出た、笑い声のようなしゃっくりのような音。
 ほんの少しだけ、符術師が笑ったように見えた。

「十五雷正法・五斧」

 繰り出されるは烈風の如く攻撃。
 懐から取り出された五枚の紙切れが符術師の一言で形ある爆炎となり、一直線に標的へと走る。
 爆炎の数は取り出された紙切れと同数の五本。空気を焼き、地面を刻み、木々を薙ぎ、ガンマンへと迫っていく。

「おおっと」

 が、その攻撃はガンマンの飄々とした面持ちを崩す事すら叶わない。
 一歩、二歩と地面を踏み抜き、宙に身体を舞い散らす事で、アクロバティックに五本の爆炎を避ける。
 着地と同時に、返しとして放たれる二発の弾丸。
 両脚を狙って撃たれたそれは、一枚の符によって阻まれる。

「四爆」

 そして、爆発。
 弾丸を防いだ符が、符術師の思念に従い炎と烈風へと変貌を遂げる。
 膨れ上がる爆炎がガンマンの居る空間を覆い尽くし、そこにある全ての物を舐め上げる。
 沸き立つ砂埃。ガンマンの姿が薄茶と紅蓮の世界に消え去った。
 ガンマンの姿が確認できなくなると同時に、疾走を始める符術師。
 符術師は懐の符を取り出し、森林を駆け抜け、木々にそれらを貼り付けていく。

971孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:25:59 ID:vxzP1QSc0
「やっぱり……ダメなのかい?」

 その行動の最中、符術師の耳に届くは土煙の中から零れ落ちるガンマンの呟き。
 遂に直撃かと思われた波状攻撃であったが、それでもガンマンの反射速度を捉えるには至らなかった。

「君が化け物専門の殺し屋になった理由も、殺し合いに乗ろうとした理由も……そんなカラッポな瞳をしている理由も、俺は知らない」

 それは先刻までの飄々とした物とはかけ離れた、淋しげで儚げな口調。
 悲壮感を匂わせた、哀願にも似た言葉が符術師の耳へとポツポツと流れていく。

「ただ君が殺し合いに乗るのだとしたら、俺は全力で君を止める。言葉で止まらないというのなら、その四肢を撃ち貫いてでも止めてみせる」

 砂埃が晴れ、ガンマンの姿が現れる。
 その身体を包み込むは、決意の色である真紅。
 吹き抜ける風に揺れるは、天へと逆立った金髪混じりの黒髪。
 腰部のホルスターに突き刺さるは、右手に握られていた筈の銀のリボルバー。
 所定の位置に符を貼り終えた符術師は、その姿を正面から睨み付けていた。
 まるで怨敵を見るかのような歪んだ瞳で、符術師はガンマンを見つめていた。

「やってみろよ、化け物」

 眼前の敵を打ち倒す準備は既に完了していた。
 爆煙で視界を奪ったその隙に六枚もの符を、距離にして凡そ4メートル四方の位置に、ガンマンを囲うように配置。
 後は『禁』の一言で結界は発動し、灼熱の霊気がガンマンを囲い込んで閉じ込める。
 ひょうによる点の攻撃、多角からの攻撃、十五雷正法による広範囲の爆撃、爆撃による波状攻撃すらも、ガンマンは避けてせしめた。
 その反応速度と身のこなしだけを取れば、符術師が殺し尽くしてきた如何なる化け物よりも上等。
 まともに戦闘をすれば、符術師といえども勝利する事は困難であろう。
 だが、符術師の長い長い化け物殺しの経験は、そんな相手に対抗する術を容易くも思い付く。
 爆破よりも更に範囲の広い、空間そのものに影響を与える術―――結界。
 化け物を所定の空間に閉じ込める、もしくは入り込ませないように空間を遮断する事が出来る、万能の防壁。
 下位の化け物であればそれだけで消滅させる事が可能な符法である。
 通常では命中し得ない攻撃であっても、結界により行動範囲が制限されていれば命中する可能性は大きくなる。
 爆破による広範囲攻撃を用いれば、逃げ場など無きに等しい。

(死ね)

 そうして符術師は化け物を滅する為、『禁』の一言を紡ごうと息を吸い込み―――



 ドガン



 ―――その四肢を、ガンマンの宣告通りに、撃ち貫かれた。



◇ ◆ ◇ ◆



 ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは苦虫を噛み潰すかのような思いで、ハンドルを握っていた。
 間を置いて鳴らされるドガンという重低音の銃声により、近くで戦闘が発生している事は把握済み。
 正直に言えば近付きたくないが、後方に座する化け物の存在が逃亡を許さない。
 そして恐らく、というか十中八九、遠方での銃撃戦の舞台にはヴァッシュ・ザ・スタンピードが居る。
 数瞬前に聞こえたドガンという銃声。
 常人であれば一つにしか聞こえない銃声も、彼の人間離れした聴覚はギリギリのところで聞き分けを可能にした。
 銃声は四つ。
 だがそれら銃声は、時を止めて発射したかのように、鳴り響いた瞬間は殆ど同じタイミングであった。
 人間には到底成し得ない、銃撃。
 この銃撃の主は人間ではないと、銃声が語っている。
 その先にヴァッシュ・ザ・スタンピードがいると、銃声は口程にものを語っていた。
 まさに前門の虎、後門の狼。
 何かが変わったように思えても後方の人外はやっぱり化け物で、いくら平和主義者であろうと前方の人外もやっぱり化け物。
 行くも地獄、引くも地獄。だが、抗う程の気骨は既にミッドバレイの中には存在せず。
 せめて心中の恐怖を悟られないよう、伊達男として振る舞うだけであった。

「近い……ですな。あと数分もすれば近場へと辿り着くでしょう」

 それでも、
 それでも尚、
 バックミラーを通して後方の化け物へと視線を這わせたその瞬間、心恨から噴き出す怖気に、身体が一度ブルリと震えた。

「そうか」

 音界の覇者がなけなしの勇気で振り絞った言葉に、ナイブズは短くそれだけを答えた。
 ミッドバレイを見ようともせず、窓から外界を眺めたまま、かれた三文字の音。
 その時、ナイブズもまた思考に意識を委ねていた。
 終わりの終わりを経て、一世紀半にも永きに渡る確執に遂に決着を果たしたミリオンズ・ナイブズ。
 彼は揺れる車中にて考えていた。

972孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:26:57 ID:vxzP1QSc0
 もうじき再会を果たすであろう弟と、自分は何を語るべきなのか。
 再会を果たした弟が自分とはまるで違う時系列から参戦をさせられていたとしたら、
 それまでのように敵対の視線と白銀の銃口を向けてきたとしたら、
 自分はどうすれば良いのか、何を語れば良いのか。
 そもそも自分は何故ヴァッシュと再会しようと思っていたのか。
 どう足掻いたところで過去はなくならないし、なくそうという気も無い。
 結果的に敗北したとはいえ、自分は間違ってなどいないと確信している。
 確信をしているからこそ、奴と別の道を選択した。
 共に生きる事を拒否し、あれ程憎悪していた筈の人間にヴァッシュを任せ、自らの道を往った。
 白紙になど戻せない。
 あの頃になど戻れない。
 そうだ。
 その筈だった。
 その筈なのに―――今現在、自分はヴァッシュと再会する為に動いている。
 再会して何を成すのかすら決定せずに、ひたすらに道を突き進んでいる。

「ヴァッシュ……」

 ナイブズの口から漏れた呟きは、騒々しいエンジン音に紛れ、誰の耳にも止まる事なく宙へと消えていった。
 それは隣に座する西沢歩にさえも届かない。
 届かなかった筈なのだが、歩は感じ取っていた。
 いつも通りの鉄面皮を張り付かせている筈のナイブズが、いつもとは何処か違っている事を。
 何となくではあるが、歩は気付いていた。
 歩はこの車の行く先も、ナイブズが目指すものも、何も知らない。
 だから、何故ナイブズの様子が何時もと違っているのか、その理由が歩には分からない。
 分からないから、歩は深く考えずに思考を打ち切った。
 ナイブズさんなら大丈夫だと、信じていたからだ。
 この殺し合いの中、ただ怯え震えるだけであった自分。
 想い人も恋敵も喪失し、それでも自らで動く事が出来ない自分。
 弱い、情けない程に弱い自分。
 でも、この人は違う。
 自分なんかとは違って、強い。
 どんな事態にも動じず、ただひたすらに我が道を突き進む人。
 だから、大丈夫。
 何時もと様子が違っていても、何かに悩んでいるのだとしても、この人は大丈夫。
 自分なんかとは違って、強い人なんだから。

「ナイブズさん……」
 
 歩の口から漏れた呟きもまた、騒々しいエンジン音に紛れ、誰の耳にも止まる事なく宙へと消えていった。
 ただ車は走り続ける。
 二人の兄弟が再会するその時その場所まで、車は二人の人間と一人の人外を乗せて走り続ける。

973孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:27:47 ID:vxzP1QSc0
◇ ◆ ◇ ◆



「……すまない……」

 硝煙漂う拳銃を右手に握ったまま、ガンマンは地に倒れ伏す符術師へと謝罪の言葉を告げた。
 符術師が結界を張ろうとしたその瞬間に放たれた四発の弾丸。
 それは、ガンマンがあの荒廃の世界で不殺を貫く為に会得した技。
 人外の反射神経を持つ実兄にすら知覚不能の、神速の早撃ち。
 符術師が何かを狙っている事に気付いたガンマンは、符術師がその何かを行うよりも早く、引き金を引いた。
 その両手両足に一発ずつ音速の鉛弾を撃ち放ち、符術師を無力化させたのだ。
 これ以上誰も殺さないように、最強の『人在らざる者』であるナイブズと出会わないように、ガンマンは符術師を打ち倒した。
 胸中に染み渡る後悔と懺悔。
 自身の選択が正解であるなどと、ガンマンは微塵も感じていなかった。
 話し合いで解決できなかった事、符術師を傷付けてしまった事、結局暴力に頼らざるを得なかった事……悔やんでも悔やみきれない事ばかりである。
 そして悔恨の渦中にて、ガンマンは覚悟を決める。
 眼前の男を負傷させたのは自分だ。ならば何に代えても自分はこの男を守り通そう。
 まだ見ぬ凶悪な参加者からも、融合に次ぐ融合により圧倒的な力を得た兄からも、絶対に守り抜く。
 そう決意したガンマンは、自身が刻み込んだ銃創に応急の治療しようと、符術師へと近付こうとする。

「な、め……るな……」

 だがしかし、当然ながら符術師が示すは拒絶の意志。
 百戦錬磨のガンマンですら戦闘は不可能だと判断する傷で、符術師は尚立ち上がろうと試みていた。
 その瞳には、執念と憎悪がごちゃ混ぜになったような、何処までも黒い感情が映っている。

「……もう無理だ。その傷じゃあ戦えない」
「戦えるさ……眼前に化け物がいるんだ、私はまだ戦える……貴様らを滅ぼすまで、私は、戦う」

 弾丸で骨も砕けている筈なのに、符術師は動きを止めようとしない。
 無理に稼働させられた四肢からはどす黒い血液が噴出し、軋む骨の音が夜の森林に響く。

「止めろ……止めるんだ! これ以上傷を広げるな!」
「なめるなと……言った。私は、貴様らを、殺し尽くす。四肢が砕けようと、関係あるか。私を止めたければ、この脳髄を、心臓を貫いてみせろ」

 そして遂には、立ち上がった。
 ポッカリと穴の空いた脚で、ポキリと骨の砕けた脚で、符術師は自身の全体重を支えきる。
 止めろ、と焦燥に満ちた声を上げ、立ち上がった符術師の方へと一歩を踏み出すガンマン。
 ただ符術師の身を案じて手を伸ばすガンマンであったが、残念ながらその手が、その想いが、符術師へと届く事はない。
 伸ばした手は、バチリという高音と激しい閃光により弾かれる。
 何も無い筈の空間に唐突に出現した光の壁が、ガンマンと符術師とを隔絶していた。

「なにっ!?」

 光の壁はガンマンの前方だけではなく、左右後ろにまで、その身体を取り囲むように出現していた。
 いつのまに、とガンマンは驚愕し、符術師を見る。
 符術師もまた、歪みきった表情を顔に張り付かせ、ガンマンを見る。
 その右手に握られるは、四枚の符。
 符術師は投げた。音速の鉛弾で撃ち貫かれた右手を大きく振りかぶり、襲い来る痛覚を無視して、渾身の力で符を投げた。
 標的へと一直線に宙を駆ける符は、結界に阻まれる事もなくガンマンの足元へと辿り着く。
 符から距離を空けようとするガンマンであったが、四方を囲む結界がその行動を阻害する。
 一歩後ろに飛び退いただけでその背中は結界に当たり、それ以上の後退は許されない。

「四爆」

 直後、爆発。
 僅か数メートルという近距離から爆風を食らうガンマン。
 その全身が真紅の熱風の中へと完全に飲み込まれる。
 至近距離からの爆風直撃。
 常人ならば生存不可のその光景を見て、符術師はそれでも戦闘への意志を縮こめようとはしなかった。
 符術師は理解していたのだ。この程度でこの化け物は殺せない、と。

「まだだ」

 爆風の中心へと、渾身の力を込めて、符術師は手持ちのひょうを全て投げつける。
 空を斬り、爆煙の中を突き進む四本のひょう。
 ザクリという、何かに突き刺さるような音と感触が、ひょうに巻き付けられた手製のワイヤーを通して伝わった。

974孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:28:17 ID:vxzP1QSc0
 手応えは有り。
 命中は確実。
 だがしかし、それでも仕留められたとは思えない。奴を仕留めるにはもう一押しが必要だ。
 爆煙が晴れるに伴い、その中心にいるガンマンの姿が徐々に浮き彫りになっていく。
 そこには、殆ど無傷と言って良い姿でガンマンが立っていた。
 あの至近距離からの爆発を防御しきったのは、ガンマンの右腕から生えた、神々しいまでに白色の翼手であった。
 先ほど符術師が投げたひょうも、その翼手に突き刺さるに終わっている。
 符術師の攻撃は、プラントが力の前に何ら意味を成さなかった。
 幾千の銃弾すらも防ぎきる堅牢さに、ガンマンの反射速度に追随して稼働する俊敏性。
 防御力も速度も兼ね揃えた、まさに最強の盾。
 その力を前に、人間は余りに脆弱な生物でしかない。
 まさに人外の力。
 化け物と称されるに値する絶対的な力。
 その力を目の当たりにして、符術師は一言呟く。
 人外と戦う為に、化け物を殺す為に、家族の仇を滅する為に、入手した符術の力。
 そう、それは化け物を打倒する為の力。

 ―――だからただ、化け物を前にした符術師は一言こう呟くのだ。



 禁、と―――。



「が、あああああああぁぁぁぁぁあああああああああアアアアアアアアあああああ!!!」

 妖魅を禁ずること、それ即ち存在することを禁ずること。
 ひょうを通して伝達された符術師の気により、プラントの白翼に巨大な浮腫のようなものが内側からボコボコと湧き上がる。
 瞬間、ガンマンの全身を駆け巡る激痛。
 存在を禁じられるという未体験の痛みが、ガンマンの身体を完全に支配し、その動きを止めた。

「十五正雷法・十翼―――」

 痛覚に意識を支配され棒立ち状態となったガンマンへと、符術師が追い討ちを掛けた。
 飛翔術を活用しての急加速により、二人の間に存在した距離が瞬く間に零となる。
 符術師の右手に握られるは、数枚の符が括り付けられたひょう。

「―――九爪!!」

 そうしてひょうは、ガンマンの右肩から左脇に掛けてを、袈裟切りに切り裂いた。
 符術師の気が存分に込められたその一撃は、ただでさえ古傷だらけのガンマンの身体に、更なる傷を刻みつけた。
 表皮は勿論、筋と骨すらも切り裂かれ、ガンマンの身体から斜め一線に血が噴き出す。
 膝から崩れ落ち、地面へと倒れるガンマン。
 常人であれば即死確定の傷。が、そのタフネスが影響してか、ガンマンは未だ死には至っていない。

「ち、いっ」

 そして、ガンマンが倒れ伏したその時、符術師の身体は宙に舞っていた。
 主の危機を察知した翼手が独立的に活動を始め、敵対者である符術師へと殺到し、軽々とその身体を弾き飛ばす。
 翼手が直撃した胴体からゴキリという、気味の悪い音が響き、符術師の鼓膜を揺らした。
 空中遊泳に催した時間は凡そ五秒程。
 たっぷりと浮遊感を味わった後に、符術師は背中から地面へと叩き付けられる。  
 肺に収められていた空気が無理矢理に口から排出され、瞬間的に酸素欠乏へと陥った。
 痛みに喘ぐ身体。歪む視界。
 負傷を推して無理に稼働を続けた代償が今になって表出したのか、符術師は直ぐさま立ち上がる事が出来ずにいた。
 符術師が再度立ち上がるには、数分に渡る停止が必要とされた。

「……逃が……すか」

 ぼやけた意識の片隅で、符術師は遠ざかっていく足音を聞いていた。
 あれだけの傷で逃げ出す力があるのかという驚嘆を覚える一方で、絶対に逃がしはしないという漆黒の意志が燃え盛る。
 僅か数分という短時間の休息を終え、符術師は再度の行動を開始した。
 周囲を見渡すも、既にガンマンの姿は何処にも見えず。だがしかし、森林の奥深くへと点々と続く血痕を符術師は発見する。
 ガンマンの腕に刺さったままのひょうから、その具体的な位置も特定する事が出来る。
 標的は西へ直進中。
 あの傷でこれだけの逃げ足。なる程、やはりそんじょそこらの化け物とは一線を画す。
 逃がしはしないさ、と一言残し符術師は追跡を始めた。
 フラフラと覚束無い足取りで、時折膝を折りながらも、それでも符術師は前へ進む。
 四肢にはポッカリと穴が空き、砕けた肋骨により内臓も負傷。
 端から見ても満身創痍のその身で、符術師は凄惨な笑顔を浮かべて、突き進む。
 もし、この時の符術師を見た者がいたのなら、誰も彼もが同様の言葉を思い浮かべるだろう。



 ―――化け物、と

975孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:29:48 ID:vxzP1QSc0
◇ ◆ ◇ ◆



 肩から脇に掛けての刀傷から大量の血を滴らせながら、ガンマンは暗闇の森林を移動していた。
 その速度は、駆けるという程の速さでもなく、歩くという程の遅さでもない。
 せいぜい早歩き程度。これが今のガンマンの成せる最速の逃亡であった。

「く……そっ、なんでここにきて……暴走なんかっ……!」

 ガンマンの焦燥に満ちた声が森林に響く。
 彼が逃亡をした理由。それは彼の右腕が大きな原因となっていた。
 戦闘の最中、符術師の一撃により多大なダメージを負った身体。
 制限により治癒力・耐久力ともに大きく減衰している現状では、ともすれば命にすら関わりかねない負傷。
 ヤバい、と思考した時には身体が勝手に作動していた。
 右腕に仕組まれたプラントの力が、主の生命の危機に反応し、自律稼働を開始。符術師の胴体へと、容赦の欠片も無い一撃を見舞っていた。
 それは一種の暴走。
 これもまた制限のせいなのか、それとも単純に主の危険に動いただけなのか……、ともかくエンジェルアームが暴走へ至った事は事実。
 だからガンマンは逃亡した、符術師を殺してしまわないようにと。

「……っ……、足が……重い……」

 だが、その逃亡もなけなしの体力を振り絞ってのもの。
 符術師が必滅の奥義を食らったガンマンは、限界に近いダメージを負っていた。
 ポタポタと流れる鮮血。
 グラグラと歪む視界。
 フラフラと揺れる身体。
 ガクガクと震える両脚。
 未だ歩みを止めずにいるのは、ひとえにガンマンの意志の強靭さ故か。
 悲鳴を上げる身体を無理やりに動かして、ガンマンは尚も歩き続ける。
 そして―――、



 ―――ガンマンは見る。



「ナイ……ブズ……?」



 森林の直中に、悠然と佇む宿敵の姿を。



「……ヴァッシュ……」


 ナイブズは、様々な感情がない交ぜになったような形容しがたい表情を浮かべて、進行方向へと立ちふさがっていた。
 対するガンマンはワンテンポの呆けの後に、殆ど反射的に拳銃を構える。
 向けられた銃口を見て、ナイブズはその不可思議な表情を歪め、これまた不可思議な表情へと移行させる。
 今にも泣き出しそうな、今にも笑い出しそうな、今にも怒り出しそうな、不思議な不思議な表情。
 その不思議な表情が過ぎ去った後に残るのは、ナイブズの自嘲的な微笑みであった。



◇ ◆ ◇ ◆



 ナイブズは、思う。
 ああ、俺は何がしたかったのだろうか、と。
 共振と音界の覇者の耳を頼りに、ヴァッシュの元へと辿り着いたのは良い。
 だが、出会ったところでどうすれば良いのだ。
 満身創痍の奴を見た俺は何を語れば良い? どんな表情をすれば良い?
 突き付けられた銃口が語るは、ヴァッシュが内に在る拒絶の意志。
 漆黒の浸食度合いからして、おそらく終わりの終わりに至る前の時期……つまりは未だ対立の関係続いている時期から参戦させられているのだろう。
 そんなヴァッシュを前にして、俺の口は動かし方を忘れてしまったかのように固まっている。
 奴を前にすれば自然に分かると思っていた答えは、結局のところ分からずじまい。
 何故、俺はヴァッシュとの再会を望んだ。
 何故、二度と共に進むことのできない相手との再会を望んだ。
 自己欲求の言語化すら出来ずに、俺はヴァッシュの前で押し黙り続けていた。
 ……奴らを森林の入口に待機させてきたのは正解だったのかもしれない。
 こんなみっともない姿なぞ……人間には見せられん。

976孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:31:29 ID:vxzP1QSc0
「……ナイブズ……お前、その髪の色は……」

 奴もどうやら、現状の俺の姿に戸惑いを拭いきれないでいるようだ。
 それもそうだろう。
 奴が知る俺は、何千というプラントとの融合し、絶対的とも云える存在であった頃の俺。
 今の残りカスのような俺とは文字通り桁が違う。その違いに、奴は困惑しきっているのだろう。  
 そんなヴァッシュを前にして、やはり俺は動けない。
 ヴァッシュからの問い掛けという現状を説明するに絶好の機会を与えられ、だがそれでも俺は言葉を吐き出す事が出来なかった。
 どう説明すれば良いのか、何を言えば良いのか、何も浮かばない。
 気まずいというには余りに重い沈黙が、流れ続ける。
 これが他人と向き合う事を否定し続けた男の現在であった。
 空虚な笑いが込み上げる。
 自嘲を止める事ができない。
 実の兄弟にすら何を話せば良いか分からない矮小な存在が、今の俺だ。
 一つの惑星を破滅へと追い詰めかけた男の、憐れみすら覚える無惨な末路。
 これではまるで、アイツ等と同等じゃないか。
 俺が嫌悪し続け、滅ぼそうとすら考えたあの愚かで矮小な生物と、まるで変わらない。
 ……あぁ、笑えるよ、ヴァッシュ。
 お前が命懸けで救い、諭し続けてきた男はこんなちっぽけな存在だったらしい。
 まるで道化だ。
 ハハ、笑えるな。心底から笑えるよ、ヴァッシュ……。
 俺は……俺は一体、何なのだろうな。
 眼前では、人の汚い部分を直視し続けていた男が、未だ困惑を張り付かせて静止している。
 俺はその視線にすら耐えきれず、奴の後方に広がる森林へと目を逸らしてしまう。
 そんな瞳で見るな。
 俺は、お前を殺そうとした男だ。
 俺は、レムが命懸けで守護した人類を滅ぼそうとした男だ。
 俺は、レムを殺した男だ。
 後悔はない、間違っていたとも思わない。
 でも、それでも俺は―――お前の目を正面から見る事は出来ない。
 ああ、俺は何がしたかったのだろう。
 今更コイツと会って何を語ろうとしていたのだろう。
 弟の前に無言で立ち尽くす情けない俺を嘲笑うかのように、冷たい風が吹き抜けた。




「滅」



 ―――そして、その冷たい風に乗ってその声は聞こえてきた。
 反射的に声がした方へと顔を向ける。
 だが、俺の視界は何かを捉えるよりも早く、紅に染め上げられた。
 反応すら出来ない。
 ヴァッシュに意識を取られていた俺は、指一つ動かす事すら出来ずに、眼前で急速に膨張する紅蓮へと飲み込まれた。
 周囲が見えていなかったのだ。
 周囲の警戒すら忘れて俺の意識は、ヴァッシュに、ヴァッシュに何を語るべきかも判らない自分へと、集中していた。
 その不意を、突かれた。
 無様だ。
 俺はこんなにも脆弱な存在だったのか?
 強烈な浮遊感を知覚しながら、俺は余りに情けない自身へと思わず自問していた。
 不機嫌な子供に投げられた玩具のように不細工な回転を描き、視界を滅茶苦茶に掻き回されながら、俺は数瞬の空中遊泳を楽しんだ。
 そうして、墜落。受け身すらとれずに、背中から思い切り地面と激突する。
 その衝撃に、肺を満たしていた空気が無理矢理に排出され、視界が歪む。

977孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:32:07 ID:vxzP1QSc0
「……くっ……ヴァッ、シュ……」

 明確な不調を訴え、再起動までに僅かな休息を求める身体。
 だが俺は、それ等全てを無視して、行動を始めていた。
 前後の状況から察するに、何者かが不意打ちを仕掛けてきたのは自明の理。
 得物は恐らく爆発物。ロケットランチャーのような武器で、遠方から狙撃でもしたのだろう。
 ナメられたものだ。
 この俺を、あの男を、そのような安易な方法で殺害できると思うとは。
 ……とはいえ、俺は物の見事に襲撃に気が付く事が出来なかったのだ。
 状況が状況とはいえ、自戒は必要。
 取り敢えず狙撃手の四肢を切り落とし、洗いざらいの情報を入手した後にでも殺してしまおう。
 奴は阻止しようとするだろうが、もう構わない。
 所詮、交わる事のない道。一時的な迷走から奴との接触を望んだが、それも無意味なものだと理解した。
 奴は奴の道程で殺し合いの打開を目指す。
 俺は俺の道程で殺し合いの打開を目指す。
 それで良い。
 何ら問題は無い。
 奴が俺を阻止しようとするのなら、何時ぞや奴が言ったように、俺は急いで逃げよう。
 そして、もう出会う事のない遠方にてお前の無事を願おう。
 それで良い。
 それで……良いんだ。

(サヨナラだ、ヴァッシュ)

 視界が正常な状態へと戻った時には、既に砂埃も何処かへ流れ散っていた。
 見る者全てを癒やす緑色に覆われていた空間も、先の爆撃で今は無惨な姿を見せていた。
 あれだけの緑を維持するのに、同胞がどれ程の労力を費やしているのか、下手人は知らないのだろう。
 それだけじゃない。
 貴様が吹き飛ばそうとした男がどのような道のりを踏破してきたのか、どれほど過酷な道を踏破してきたのか、下手人は知らないのだろう。
 撃たれ、裏切られ、蔑まれ、それでもラブアンドピースを掲げて、人々の間を歩き続けていった事を知らないのだろう。
 知ろうともせずに、殺そうとしたのだろう。
 知る事で変わる世界があるというのに、貴様は知ろうともしなかったのだろう。
 良いだろう。
 ならば、俺が貴様を殺す。
 奴を殺そうとしたお前を、殺してやる。
 ふと視界の隅に人影が映る。
 漆黒のスーツに身を包んだそいつは、地面へとうなだれるように座しながら、得物を掲げていた。
 見覚えのある得物であった。
 十字架の形をとった特異的な外見の重火器。チャペルが装備していたパニッシャーという名の超重火器。
 そうか、それで貴様はヴァッシュを殺そうとしたのか。
 なら、死ね。
 詫びなどいれなくても良い。
 情報など、もういらない。
 ただ、死ね。
 それだけで良い。
 そうして、俺は自身の左腕に『力』を集中させる。
 残り僅かな『力』を使用してでも、奴は殺すに値する人間であった。
 塵すら残さない。その存在全てを消滅させようと、俺は渾身を左腕へと集中させる。
 数秒と掛からずに、『力』は臨界へ至る。
 後は『力』を解放させるだけで、下手人は塵一つ残さずこの世から消滅する。



 そして俺は、『力』を解放させようとし―――


















 見てしまった。



















 人間が大好きなこわれた妖怪の姿を。

978孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:33:05 ID:vxzP1QSc0
 胸から下を



 赤と黄と黒とピンクのまじった



 汚い色で汚して



 『無くしてしまった』奴の姿を



 見た。



 何故だ。



 何故お前がそんな事になっている。



 お前なら避けられただろう。



 あんな不意打ちなどお前なら容易く避けられた筈だ。



 それが何故、こうなっている!?



 お前は生き続けてきたんだろう!



 あの地獄のような世界を。



 銃弾が飛び交う命懸けの世界を。



 一世紀半もの間!600億$$という巨額の餌を括り付けられた状況で!



 そんなお前が何故!?



 俺ならともかくお前が何故避けられない!?



 何故だ!?



 何故……何故、お前が死ぬんだ!



 何十、何百万と命を略奪してきて俺ではなく、



 何故お前が死ななければならない!?

979孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:34:07 ID:vxzP1QSc0

「お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」







 ……結局、ヴァッシュもナイブズと同様であった。
 唐突に現れたナイブズに、彼の知るそれとは何処か違っていたナイブズに、ヴァッシュは意識を取られすぎていた。
 だから、ひょうが撃ち放ったロケット弾に、反応する事が出来なかった。
 だから、ロケット弾はヴァッシュに直撃し、彼の胸部から下の組織を全て吹き飛ばした。
 ヒトを超越した彼等であっても、それは死亡確定の傷。
 この傷から自力で復活できるのならば、それこそ不死の化け物だ。
 周囲への警戒を忘れていたから、ヴァッシュは砲弾を受けた。
 砲弾を受けたから、ヴァッシュは死ぬ。
 砲弾はヴァッシュを狙ったものだったから、ナイブズは余波を食らうだけに終わり、生き延びた。
 ただそれだけの、シンプルな話。
 一世紀半もの人生は、実にシンプルな理由で終末を迎える。
 淡い夢の一欠片すら達成できずに、実兄であり宿敵でもある男の眼前で、ガンマンは死ぬ。
 ただそれだけの―――シンプルな話なのだ。




◇ ◆ ◇ ◆



 ナイブズは、腹から胸から色々と大事なものを零してしまったヴァッシュに駆け寄り、そのグチャグチャになった大事なものを必死にかき集めていた。
 正常な判断など、最早できる訳がなかった。
 その行動に意味が無いと判断する事すらできない。
 そうすれば生き返るのかと思う程に、ナイブズは必死にヴァッシュの腑を集め、腹腔へと無理矢理に詰め直していた。
 しかしながら、出血は止まらない。
 詰め直した腑もデロデロと流れ出てしまう。
 温もりも失われていき、ヴァッシュの身体はドンドンと冷たくなっていく。
 誰がどう見ても助からない事は判断できる筈だ。
 それを、ヴァッシュの死を、人間よりも遥かに高等な思考能力を持つ筈のナイブズは判断できない。
 身内の死を受け止めきれずに恐慌状態へと陥る……その行動は何処までも人間らしい行動であった。


 だが、これでは助からないとようやく理解できたのか、ナイブズは次なる行動に移行していた。
 自らの左腕を掲げて、五分の一程の大きさとなってしまったヴァッシュの身体に乗せる。
 プラントの『力』を利用しての肉体の蘇生。
 本来ならば真っ先に行うべきだった行動に、ナイブズは今更ながら到った。
 沸騰する思考で必死に『力』を込めるナイブズ。
 その左腕から眩いばかりの光が溢れ出る。
 数秒の発光。そして光は止み、ヴァッシュの身体は復活を果たす。
 五分の一程残っていた身体が四分の一程の大きさへと、ヴァッシュは復活を果たした。
 ただ一つ、復活した身体はそれでもやっぱり死に掛けだという事が欠点であった。

「……死ぬ、のか……お前が……」

 そこで漸くナイブズにも理解できた。
 ヴァッシュは死ぬと。
 もはやこの事項は覆せぬ事実なのだと。
 ナイブズは漸く理解した。

「……お前が、終わりの終わりを勝利したお前が……死ぬ……」


 理解し、


「ハ……ハハ、ハハハハハ……」


 そして、空虚な笑い声と共に左腕を掲げた。
 同時にナイブズの数メートル程先の空間で巨大な爆発が巻き起こる。
 漆黒の狙撃手から放たれた砲弾を、ナイブズは『力』を使って撃ち落としたのだ。

980孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:34:37 ID:vxzP1QSc0
「……そうだ……お前が、居たのだったな」

 視線の先ではヴァッシュを殺害した男が、十字架を此方へと向けていた。
 その姿を確認すると同時に心中が漆黒の殺意に染まっていく。
 悲しみも、怒りすらも、浮かばない。
 ただ純然たる殺意だけがナイブズの内を満たしていく。
 他には何もいらなかった。
 ただ今は眼前の男の死を、ただそれだけをナイブズは欲する。

「ヴァッシュ、これが俺の―――」

 ヴァッシュを治癒する為に一度。
 ひょうからの砲撃を防ぐ為に一度。
 そして、今回が三度目の解放。
 ヴァッシュと遭遇した時点でナイブズに残された『力』は、ラストランを除き三回分。
 この一撃を放ってもナイブズには、ラストランという正真正銘最後の切り札が残っている。
 そう、残っている筈なのだが―――ナイブズはその切り札すらもこの一撃に費やそうとしていた。
 その発動は、すなわちナイブズの死と同義語。
 それ程までに、もう自身などどうでも良く思える程に、ナイブズはヴァッシュを殺害した男の死を望んでいた。
 理性も本能すらも超越したところで殺意が渦巻き、身体を操作する。


「…………こ…………ろし………ゃ…………めだ」

 ―――が、『力』が解放される寸前でナイブズに理性を取り戻させる者がいた。
 掴まれた右腕。
 予期せぬ感触にナイブズは視線を怨敵から逸らす。
 動かした視界に映ったのは、殆ど生首状態と言っても良いヴァッシュが此方に向かって必死に手を伸ばし、右腕を掴んでいるその光景。
 ヴァッシュが何を伝えようとしているのか、ナイブズには痛い程に理解できた。
 また、お前は言うのだろう。
 そんな姿になりながらも。
 死の寸前へと追い込まれながらも。
 守り続けてきた人間の手で殺されながらも。
 お前は言うのだろう。
 殺すな、と。
 殺しちゃ駄目だ、と。

「……もう良い。お前は休め、ヴァッシュ」

 だが、ナイブズにその願いを聞き入れる事は出来なかった。
 弟の最期の頼みであっても、これが恐らく最初で最後の頼みだとしても、ナイブズは聞き入れられない。
 もう理性で止められるものではないのだ。
 同種であり、同朋であり、家族である存在を殺されたナイブズに、もはや滅殺以外の選択など有り得なかった。

「細胞の一欠片と残さず―――消えていけ」

 そして、世界は白色に染まる。
 全てを、その命すら賭けた最大の攻撃。
 制限などなければ大都市の一個や二個を容易く壊滅させるであろう、一撃。
 色が消失し、ただ白色だけが全てを包容する世界で、ナイブズは笑っていた。
 自嘲的で、それでいて暖かい色が含まれた微笑み。
 それは彼の長きに渡る人生でも浮かべた事のない微笑みであった。
 ナイブズは気付いたのだ。
 ヴァッシュの死を眼前で見て、ナイブズは気が付いた。
 自分が弟に何を語りたかったのかを。
 自分が弟に何を伝えたかったのかを。
 気付いて、そして微笑んだ。
 自分の本心を理解した事に、その余りに単純な願望に思わず頬を緩めてしまった。
 終わりの終わりを経て、三度の終わりを迎えようとしているナイブズ。
 白色の世界が渦中に立ち尽くしながら、ナイブズは自分の身体が崩壊していく音を聞く。
 こうして彼の身体は霧散していった。
 彼が最期の瞬間に知覚していたものは、右腕を握り続ける実弟の掌の感触であった。



 そして―――、


【ヴァッシュ・ザ・ズタンピード@トライガン・マキシマム 死亡】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム     死亡】

981孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:35:29 ID:vxzP1QSc0
◇ ◆ ◇ ◆




 何が起きたのだろう。

 視界がしろく染まり、何もみえない。

 音もきこえない。

 においも、皮ふの感覚もない。

 ただ、なんとなく苦しい

 いきが上手くすい込めない。

 体がおもい。

 なんだろうか、これは。

 ぼくは何でこんなことなっているんだ。

 たしかひょうと戦ってて、

 ナイブずが現れて、

 それで、

 それで、

 それで、なんだっけ?

 分からない。

 わからない。

 ワからない。

 ああ、だれかが、ナいている。

 けモののようナこえで、

 だレかが、ないてイる。

 ききオぼえのアるこえだ。

 そシて、なつカしいこエ。

 あア、すコしおもいダセた。

 このコえハ、おまエのこえだ。

 めズらしいナ。

 おまエもソんナこえをだスのカ。

 アア、すすマなくちゃ

 おレのタビはおわッちゃいナい。

 おまエをトメなくちゃ。

 にんゲンはわルいヒトばかりジゃないンだよ。

 だかラもウだれモコロさないでクれ。

 おれハシっていル。

 むかしのオまえがヒトをしんじていタことヲ

 だかラコロすナ

 コロしちゃイけない。
 
 ころすナ

 コロすな

 コろスな

 オまえは、もう―――

 ないブず、おまエハ

「…………こ…………ろし………ゃ…………めだ」

982孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:36:01 ID:vxzP1QSc0
 てヲのばス。

 つカむ。

 そシて

 ナいブずがとマるように

 こエをひねリだス。

 ああ

 やット

 おもイだシた

 おレハうタれたンだ

 ヒョうに

 おコってクレていルんだな

 おれノシに

 おマえが

 でモ

 でも

 それデも

 だメダ

 こロしチャいけナい

 ころシちャだめナンダ

 まエにすすまなキゃ、

 まえニ

 だッテ

 みライへのきップはいツもはクシなんダカら

 そウ

 はくシだ

 おマえも

 オレだっテ

 マダ

 ハくシなんダ

 めいユうは

 むカシのなかマをすクってイッた

 めイゆうニすくワレたなカマは

 このバでひとビトをすクってイった

 ナら

 オれは?

 オレは

 なニかヲ

 すくエルノか?

 なにモすくエずに

 イくのか?

 そしテ、おレはけツいする

 おマえと

 ――すルことヲ

 アア

 あのトき、レムは

 なントいっタのだろウ

 シンどうとゴうおんに……かきケされたこトバ―――

983孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:36:38 ID:vxzP1QSc0
◇ ◆ ◇ ◆



「きゃああああっ! な、何なんだろ、何なんだろ、これ!?」

 その現象は森林の奥底から流れ漏れてきたものであった。
 陽が西空へ落ち掛け薄暗さを増してきた周囲を、森林の奥底から発生した、極光とも云える白色の光が支配した。
 それは、森林の手前で待機を命ぜられた歩とミッドバレイをも飲み込み、全てを埋め尽くした。
 車中の後部座席に座していた歩は驚愕を、運転席に座していたミッドバレイは口を開く事すら出来ずに。
 片や驚愕に声を張り上げ、片や恐怖に口を閉じ、不可思議な現象を前に各々が各々の反応を見せていた。
 世界が一色に染まっていたのは僅か数秒。
 たたの数秒で、世界を占めた白色は何処かへと引き下がり、消失する。
 そして、謎の発光現象が終了すると同時に、世界は大きな変化を遂げていた。
 車の窓から外の世界を覗き見る歩とミッドバレイ。
 歩はただ単純に何が起こったのか知りたくて、ミッドバレイは何時ぞやと同様の天使と悪魔の囁きに唆され、外を見る。
 変わり果てた世界を見た二人を襲うは、やはり正反対のまるで別種の感情であった。
 片や驚愕を。
 片や絶望を。
 驚愕を抱いた平凡な少女は車外へと飛び出し、絶望を抱いた歴戦の殺し屋は車内にて腰を抜かす。
 世界が、変わっていた。
 その空間を埋め尽くしていた木々が、その地面を覆い隠していた木々が、全て、根刮ぎ、元々がそうであったかのように―――消滅していた。
 木々の一本も、葉の一枚も、雑草の一本すらも、存在は許されず。
 森林と称されていた空間が、茶色の地面が延々と広がる殺風景な野原へと。
 どんな奇術師にでも不可能な事象が、直ぐ目の前でリアルタイムで行われたのだ。
 地上にてその光景を見るミッドバレイ達は知る由も無いだろうが、その野原は綺麗な円形を形成していた。
 半径は凡そ三百メートル程。
 境目は丁度、ミッドバレイ達が待機していた車の一本手前。
 直径にして六百メートル程の狭い狭い世界が、森林から死んだ土地へと変化していた。
 恐怖に押し潰されそうになる心の中で、ミッドバレイは一人理解する。
 これは奴等が引き起こしたのだと。
 化け物達が争った結果がこれなのだと。
 理解し、そして、込み上げてくる吐き気に身体を丸めた。
 ゴチンと狭い車内に頭がぶつかるが、その痛みすら知覚できない。
 何時でも飄々とした風を気取る伊達男も、今は吐き気と恐怖を堪えるので精一杯であった。

「あれは……」

 そんなミッドバレイを後目に、歩は車外へと降り立ち、そのある種幻想的な世界に視線を這わせていた。
 世界はもの凄く見通しが良くなったというのに、歩が求める人物の姿は何処にもない。
 出て行った時間からして、彼がこの変革が発生した範囲内に居るのは確実。
 だというのに、見つからない。
 彼の姿が何処にもない。
 歩の額に、気味が悪い程に大量の汗が浮かぶ。
 考えたくも無い考えに、思考が行き着く。



「う、そ……」



 と、歩が絶望の声を零したところで。



 その現象は発生した。



 何も無かった筈の空間に、唐突に浮かび上がる白い煙のようなもの。
 白い煙はまるで意志を持つかのように一カ所へ集結していき、形を成していく。
 最初はあやふやだった形が、どんどんと収束していき、そして遂には―――人型へ。
 彫刻のように猛々しい、引き締まった肉体。
 僅かに金が入り混じった鮮やかな黒髪。
 鋭くつり上がった目と、眉間に刻まれた力強い皺。
 ああ、と歩は安堵を口にする。
 ああ、とミッドバレイは絶望を口にする。

 ―――そこには、別れた時と何ら変わらない姿でミリオンズ・ナイブズが立っていた。



【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム 蘇生】

984孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:37:26 ID:vxzP1QSc0
◇ ◆ ◇ ◆



 声が、聞こえていた。

 奴の、ヴァッシュの声が聞こえていた。

 脳内の奴は語る。

 お前は生きろ、と。

 俺の分までお前は生き、そして出来れば誰も殺さないでくれ、と。

 死んでさえ尚も、奴は他人を気にかけていた。

 正直に、素直に、バカだと思った。

 百五十年という長い人生を人間達の為に費やし、そして最期はその人間に殺された、男。

 あれだけ人間を思い続けた男は、あれだけ思い続けた人間に殺害された。

 そして、その現実に直面して尚、男は人間を思い続けるのだ。
 
 一片の躊躇いもなく、さもそれが当然のように。 

 ……ああ、俺が負けたのは必然だったのかもしれんな。

 お前と一つになって、改めて思う。

 お前こそが生き残るべきだったんだと。

 その愚かとさえ言える真っ直ぐな魂が、人間共には必要なんだ。

 ……なあ、ヴァッシュ、お前に伝えたい言葉がようやく見つかったんだ。

 共に道を進みたかった訳ではない。

 共に戦いたかった訳ではない。

 ただ、生きていて欲しかった。

 「死ぬな」―――ただ、その一言を伝えたかった。

 なあ、ヴァッシュ。

 お前のお蔭で、俺はまた命を救われた。

 終わりの終わりの時に一度。

 そして今回で二度目。

 お前のお蔭で、お前が『融合』してくれたお蔭で、俺はまだ生きている。

 お前が最期に振り絞った『力』のお蔭で、俺は生き延びた。

 ……ふと見れば、奴等が呆けたような表情で、此方を見つめていた。

 それら視線を無視し、軽く周りを見渡すと、そこには十字架を抱えたままうなだれるように気を失っているもう一人の男。

 お前の記憶によると、ひょうとか言う名か。

 死体すら残さず消し去るつもりだった渾身の一撃を、この満身創痍の男が自力で回避などできる訳がない。

 おそらく、これもお前の仕業だろう。

 融合し、俺と一つになったお前が、内から攻撃を逸らすようしたのだろう。

 喜べ、お前は救ったんだ。

 お前は救えたんだ、一つの命を。

985孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:37:55 ID:vxzP1QSc0
 俺はコイツを……見逃そう。

 今の俺に……お前が命懸けで救った人間を殺す事などできはしない。

 俺とお前は一つになった。

 お前はもうこの世にいない。

 だから、俺が前へ進む。

 ラブアンドピースを掲げるつもりは無い。

 お前のように全てを救おうとは思わない。

 だが、俺は俺のやり方で進んでみせる。

 お前に救われた命を決して無駄にはしない。

 だから、お前は精々そっちで休んでろ。

 分かっている。

 未来への切符はいつも白紙なんだろう?

 それは、俺の知らない、レムの言葉。

 それは、俺の中のお前が遺した、最期の言葉。

 終わらない筈だった唄が、今、止まった―――、





【H-03/道路/1日目/夕方】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:融合、黒髪化進行
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。
1:ヴァッシュの分まで生き抜く。
2:ひょうをどうするか考える。殺す気はない
3:ナギの支給品を確認。用途を考える。
4:首輪の解除を進める。
5:搾取されている同胞を解放する。
6:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
7:次に趙公明に会ったら殺す。
8:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
9:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
10:グリフィスとやらに出会ったなら、ガッツの伝言を教えてもいい。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※ヴァッシュとの融合により、エンジェル・アームの使用回数が増えました。ラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約5回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※日中時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。

986孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:38:56 ID:vxzP1QSc0
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:背中に裂傷(治療済)
[服装]:白いスーツ
[装備]:ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式×3、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
    ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
    イガラッパ@ONE PIECE(残弾50%)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実、銀時の木刀@銀魂、
    ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
    月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
    No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム、
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すかもしれない存在を見つけて……?
0:ナイブズ、ヴァッシュ、由乃に対する強烈な恐怖。
1:ナイブズの態度に激しい戸惑い。
2:ひとまずナイブズに従う。
3:慎重に情報を集めつつ立ち回る。殺人は辞さない。
4:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に強い恐怖と嫌悪。
5:或の情報力を警戒しつつも利用価値を認識。
6:ゲームを早く終わらせたい。
7:鳴海歩を意識。ひとまずは放置するが、もし運命を打開して見せたなら――?
[備考]
※死亡前後からの参戦。
※ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
 ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
※ガッツと胡喜媚を危険人物と認識しました。ガッツ=胡喜媚で、本性がガッツだと思っています。


【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:手にいくつかのマメ、血塗れ(乾燥)、無気力、悲しみ
[服装]:ジャージ上下、ナイブズのマント、ストレートの髪型
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:スコップ、炸裂弾×1@ベルセルク、妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク
[思考]
基本:死にたくないから、ナイブズについていく。
1:ミッドバレイへの憎しみと、殺意が湧かない自分への戸惑い。
2:ナイブズに対する畏怖と羨望。少し不思議。
3:カラオケをしていた人たちの無事を祈る。
4:孤独でいるのが怖い。
[備考]
※明確な参戦時期は不明。ただし、ナギと知り合いカラオケ対決した後のどこか。
※ミッドバレイから情報を得ました。

987孤独の王/終わらない唄 ◆1vOGnKR12I:2010/07/08(木) 20:39:35 ID:vxzP1QSc0
【ひょう@うしおととら】
[状態]:疲労(大)、両腕両脚に銃創、肋骨骨折、やや自暴自棄 、気絶中
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク、手製のひょう×1
[道具]:支給品一式(メモを大分消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
    手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩
    四不象(石化)@封神演義
[思考]
基本:やりどころのない憎悪が燻る一方、この世に執着できるほどの気力もない。
0:高町亮子の依頼により、会場の妖(バケモノ)をすべて始末する。
1:子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
2:酒が欲しい。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。
※妲己を白面の者だと考えています。
※パックから幽界、現世、狭間、精神体の話を詳しく聞きました。
 精神体になんらかの操作が加えられた可能性を考えています。
 肉体が元の世界と同じでない可能性を考えています。
 が、特に検証する気はありません。
※龍脈の乱れとその中心が神社であることを感じ取っています。
 が、特に調査をする気はありません。
※ヴァッシュを妖怪の一種だと考えています。
※手製のひょうの構成:レガートの単分鎖子ナノ鋼糸、高町亮子の髪の毛、裁ち鋏の刃
※ヴァッシュに刺した手製のひょうが位置を教えています。



※H-03・西の森林が半径300メートルにわたり消滅しています。
※消滅した森林に、青雲剣@封神演義 、支給品一式×2、正義日記@未来日記、
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、携帯電話(研究所にて調達)、折れた金糸雀@金剛番長、
    ナギの荷物(未確認:支給品一式×7、ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、



          木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
          トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(4/5本)、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、
          不明支給品×2(一つは武器ではない)
          旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
          カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、
          アルフォンスの残骸×3、工具数種)
    
    真紅のコートにサングラス@トライガン・マキシマム、リヴィオの帽子@トライガン・マキシマム
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
    支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1(治癒効果はない)、ニューナンブM60(5/5)@現実×1、.38スペシャル弾@現実×20
    が落ちています。



これにて投下終了です。

988名無しさん:2010/07/08(木) 22:14:03 ID:XBPohzdA0
さるさん食らいましたのでバトンタッチしたいです。
>>977からです。

989名無しさん:2010/07/08(木) 22:44:35 ID:8LYXhXFc0
俺もさるった
>>981の途中からお願いします

990 ◆RLphhZZi3Y:2010/09/15(水) 19:51:49 ID:LkOmKOlMO
規制を食らったのでこちらから。

 うっすら見えるのは、少し年上であろう男だった。
横抱きにしたデイバッグから、赤くて気色の悪いアクセサリーが飛び出した。
運よく男の顔のど真ん中に激突する。
男はそのままアクセサリーを持って後退りしていった。

 二人は殆ど目を閉じた状態で攻守していた。
明らかに相手は目をつぶっているのに、何故こうも動けるのか。
今、お互いにそう思っている。

 野性的に鋭い勘に対応できたのは、同じく勘で選択肢を確実なものにする能力だった。
潤也は魂魄がかろうじて留まっているだけだが、能力はそのまま残っている。

 二人とも奉仕どころではない。
目的のためなら手段は問わない。
大事な人を汚し、貶める者は潰す! 殺す! 死ね!
と、心身共に、真っ直ぐに歪んでいた。


* * *


リリリ……


 図書館には珍しい音である。
箱を開いたら電話が鳴る。因果律でもあるのだろうか。
受付奥の事務室で、受話器をとってくれと騒いでいる。
妙な機器を抱えたまま、キンブリーは電話に出た。チン、と受話器を外す音が存外に響く。
朴念仁のあの男がもう居場所を嗅ぎ付けたのかと邪推したが、杞憂であった。

991名無しさん:2010/09/15(水) 19:53:15 ID:LkOmKOlMO
 交信相手は、少なくとも会った試しのない少年だった。

『あ、え、つながった!?
もしもし、えっと、だ、大丈夫……か?』

 第一声は、いきなり安否の問いかけだった。
相手の安否を気にしている様子から察するに、この助命機器とはやはり関連した通信のようだ。

「もしもし……私には怪我はありません。大丈夫ですよ」

 あくまで平静に答える。
ネット界隈に悪評が流布しているゆえ、キンブリーの知らない者には努めて常識人に振る舞う。
心底安心した溜め息の後に、困惑しながら続けた。

『ああ、もう脅かさないでくれよ。
 こっちで「ジドータイガイシキジョサイドーキ」だか何だかが開きましたって
ブザーが 鳴り出したんだよ。
 変な機械いじくらねぇでくれよ』

 受話器の奥で、耳障りなブザーが鳴り続いている。


〜〜〜〜
Automated External Defibrillators.
自動体外式除細動器・通称:AED

 電極パッドを胸に貼り、心室細動を感知すれば、必要に応じて電気ショックを図る。
近年非医療従事者の一般市民の使用が認められると、
素早く対処できるよう公共施設に常備する箇所が急増した。
AEDはケースに入っている。ケースから取り出すと、
近くの医療施設に警報が鳴るようになっている。

潮が生きる時代には、医師以外、例え救急救命士であろうと使用不可だった医療機器である。
お互いに機器の存在は知らない。
〜〜〜〜

992名無しさん:2010/09/15(水) 19:54:25 ID:LkOmKOlMO


「すみません、不用意に心配させるようなことをしてしまって。
 これの作動が伝わったということは、そちらは今病院か診療所にいらっしゃるのですね?」
『診療所にいる』

 躊躇わず返してきた。
居場所をほぼ二択で断定して尋ねてみたが、別の場所を教えて混乱と疑心暗鬼を招く意思は特にないようだ。
キンブリーはここに来てから大幅な移動をしていない。
島の南部を中心に市街地を回っているだけだ。
病院と答えられたところで鎌もかけにくい。

『……ちょっと待て、さっき「私に"は"怪我はない」って言ったよな?
 なら他に怪我してる奴がいるのか!?』

 撒いた言葉の餌に、食いついてきた。

993AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:01:52 ID:20X4foLM0


* * *


『貴方が診療所付近にいるのなら……妙な槍を持った男を見ていませんか?』

 心臓が一際でかく鳴った。
獣の槍に魂を吸い取られて、獣になったあの男だ。
人間を人間たらしめる全てがこそげ落ちてしまった姿が痛々しかった。
壊れて、それでも潮にぶつけた悲鳴が耳にこびりついている。

「見たよ。
 あんなひでぇ、ぼろぼろの姿になっちまってたけどよ……」
『……その男は"安藤潤也"といいました。
 私は、そのお兄さんと連絡が取れたのです』

 獣になってもかすかな自我に記憶された、守りたかった人がこの島にいる……
いたたまれない。今更ながら、槍の重さが増した。
きっとそのお兄さんなら、前に女の子達が潮の髪を梳ってくれたように、"安藤潤也"を助けてあげられるかもしれない。
まだ助け船はある。

『お兄さんと合流できるように示し合わせたのですが、
潤也さんは連絡を取っている途中で姿をくらましてしまいました。
私には今潤也さんがどうしているか全く見当がつきません。
もしよろしければ、お兄さんと示し合わせた場所へ一緒に来ていただけませんか?』

 現状を知っている人が安藤潤也のお兄さんへ話してくれるほうが説得力があるから、
と相手は付け足した。


『無理に、とは言いません。
 貴方も貴方の事情があるでしょう?』
「構わねぇよ。
 でも悪いんだけど、約束は出来ない。
 ……このふざけた戦いをぶっ潰すんだ。無事でいられる保証なんてねんだよ」
『なるほど……了解しました。
 では深夜0時少し前、小学校でお待ちしていますよ』

 適当なメモ用紙に殴り書きした。

「俺はうしおってんだ。あんたは?」
『私ですか?
 ……そうですね、紅蓮の錬金術師とでも名乗っておきますか』
「ぐ、れん?」

 ぐれん、紅煉。
紅煉と関係するのだろうか。
エレオザールの鎌事件があるのなら、紅煉が西洋の技術に触れて甦るかもわからない。
いや、

994AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:02:27 ID:20X4foLM0

「考えすぎ、か」
『うしおくんでしたっけ?
 君は反逆を試みているのですね』

 含み笑いする声だった。
初めてこの男に冷えたものを感じた。

『自己満足ではありませんか?』

 ブザーが突然切れた。
図書館で何かしらの装置を切ったらしい。
静けさ特有の、耳鳴りに似た音だけが支配する。
寒いはずなのに、冷や汗が一滴ぬるりと落ちた。

『貴方にお願い事を託したからこそ言わせて頂きます。
 反逆は無駄に命を散らせる自己満足……綺麗事ですよ』
「何がだよ……人が殺し合って! 大切な人が死んで!
無駄?それこそ命を無駄にしてんだろ!?
命だけじゃねぇ!
人生も! 喜びも! 幸福も!
踏みにじってる奴に奪う権利なんざどっこにもねーんだ!」
『落ち着いてください、
 私は貴方の命を無駄にさせたくないから言っているのです。
 もう少し冷静に……そうですね、私が最初にこう言えばよかったです。
 私は、内乱での大量殺戮を経験したことがあります。
 それも軍の立場として』
「うっ……」

 言葉に詰まった。
妖との戦いはあったけれど、人間同士の戦争は見ていない。
社会科の教科書と、新聞の記事が主な情報源である。
白黒の写真の中で起こっている、個人の力では何もできないが、どこか他人事に思える現実。
圧倒的な善悪では計れないがため、見ないフリをしがちな真実だ。

『私たちにとって、内乱を抑えるのが仕事でした。
 反乱組織であっても守るべき国民。それを殺すのは与えられた任務のひとつ……
 それを割り切ってでしか生き延びられませんでしたよ』
「割り切れるわけない、そんなの……」
『それが、綺麗事だというのです』

 ぴしゃりと言い切られた。
さっきの発言がブーメランのように帰ってきた。
命を踏みにじらなければいけない兵士が、経験から潮を戦前から退かせようとしているのだ。

「それでもっ」
『自ら選び、進んで来た道の先にある覚悟、それが反乱分子殲滅に加担した私にはあります』
「それでもできるだけ多くの命を助けられるなら!」
『甘えです、うしおくん。
 その甘えが君の死を呼ぶ』

 重い。槍よりも重い。とっても重い。
人の為と願っても、行きつくのは自分だった。
自分を秤にかけると、どうしても目方がわからなくなる。
ふらふらふらふら、定まらない。

995AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:02:57 ID:20X4foLM0

『我を知り、己を知れば、百戦危うからず……
 己を知らなければ、勝てる者にも勝てないでしょう?』

 ふぅ、と電話口で溜め息が漏れていた。
錬金術師の説得は整えられた。

『君にはまだ死んでほしくありません。
 ですから、"殺し合いを潰す"とは頭から消しておいたほうが良いです。
 今後のためにも、ね』

「……っけん……」

 受話器が壊れないことを願った。



「ざっ・けん・なああああああっっっ!!!!!!
軍?そんな付加価値ン中いるから変わっちまうんだよ!
綺麗事!?
んなもん言うほどやってねぇだろうがよ!!
覚悟!?
俺にあんのはこれから行く道への覚悟じゃなくて
どーしょうもないことに周り囲まれちまったときに向かい合う覚悟だ!!
強くないからって結局いつまでも見てるだけなら、人間そこまで進化しねーよっ!!」

 防音された診療所に、爆音に近い弩声が轟いた。

 これだけは伝えたい。
何があろうと、翻らない信念を。
どんな結末が待っていようと、みんなが忘れてしまわないように。
これだけは、伝えたい!

声? 枯れろ!
喉? 潰れろ!
己? 高ぶれ!

 肺に目一杯空気を入れ、一息で言い切った。

「帰るんだよぉお、生きんだよぉおおおおお!!!!!!
 大切な人間を思い出せぇええええっっっっ!!!!!!」


* * *


 片耳を押さえ、キンブリーは受話器を置いた。
まだ鼓膜が震えて聴力が戻ってこない。
潮の声の弾みで電話を切ってしまったのだ。らしくもない。
持つ意味のなくなった受話器を降ろしてただ笑う。

996AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:03:31 ID:20X4foLM0
 安藤潤也の兄と名乗る者が小学校へ来る少しの可能性のために、代役を仕立て上げた。
安藤兄(仮)がキンブリーを危険人物と知っての交渉なら、
潮もしくはその同行者をキンブリーだと疑いやすくする算段だ。
安藤兄は、潮の反応からするに知り合いではない。
なら撒ける戦火の種は撒いておく。

 それに合わせて、というより最初から戦意喪失させるつもりだった。
すなわち殺しやすくしておく下ごしらえだ。
小学校への代役は口実に過ぎない。
『会うからには死んでほしくない』と言える環境であれば、
安否を心配する様子も不自然にはならない。
結局心配してくれている者に反抗はしにくいのだ。
くれてやる言葉は、焔の錬金術師と戦場で"語った"ものを元にしてみた。
そこから潰す予定だったが、思いの外潮は主義主張ができる子供だった。
鋼の錬金術師がもっと幼ければ、こう反応していたに違いない。
子供らしい青臭さと理想論がとても面白い。

 煽動者として、これからが楽しみになる人材だ。

「さて、これはどうしましょうかね」

 潮とつながるきっかけになった機器を撫でる。このまま置いていくのもいいが、仕掛けに使えそうでもある。
分解・理解・再構築をしてみる。
仕組みを逆手にとり……こうしておく。



【改造AED@現実】
心室細動を感知すれば、必要に応じて電極パッドから電気ショックを図る。
ただしキンブリーの手によって、心室細動を感知しなくても電気ショックを起こさせるように改造されている。
健常者に使うと逆に心筋異常を起こす。



交換日記にはまだ目立った動きはない。

「……貴方に、ほだされてなんていませんよ」

 なんとなしに携帯電話に語りかける。
ただ、何故だろう。
この趙公明から送られてきた画像の少女に、僅かな苛立ちを感じるのは……


* * *

997AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:04:20 ID:20X4foLM0
時間は少し遡る。
妲己は海沿いの道を来た。
一部進入禁止エリアに入ったが、車ならたやすく抜けられる。
アクセルとブレーキ、バックさえわかれば、標識も信号も関係ない道路をゆくのは簡単だ。
それ以前に、妲己は戦車まで走行させている。
道なりに転がして入った市街地には、やはりところどころ敗壊していた。
不壊などないと、戒められているようでもある。

 その先、病院から素敵な戦闘の匂いを感じとった。
あまり説得力はないが、潤也の能力が残留している証拠だった。

 肉微塵になった、男か女かもわからない物体を足蹴に、未知の機器の間を縫って観察してみた。
どれもこれも壊れて、どういった治療機器かも判断できない。
小学校でやったように、掲示板へまた趙公明について書き込もうとパソコンを探しているところで、その女が攻撃を仕掛けてきた。
部屋に人がいるのはわかっていた上、鏡に姿が映っているのも承知している。
適当にあしらうつもりだったが、


(なんだか、どの方向へ避けたらいいのか大体わかっちゃうのよねぇん?
潤也ちゃんはどんな喋り方してたかしらぁん?)


  ――ドクン……


(あらぁん?)

* * *


「おい待てよ、それはいきなりないだろ?」

 距離をとった男が、両手を振り弁明してきた。

「関係ない。
 攻撃してきたなら私は私の身を守るために動く」
「お互い様じゃねーかそれ。
 俺は安藤潤也。あんたなにもんだよ」

 ぶっきらぼうに言い放つ。
こいつが掲示板に載っていた探し人の安藤潤也か。
雪輝日記を持つ鳴海に近しい男、その血縁……

(鳴海との"交渉"に
つながるかもしれない)

 交渉とは名ばかり、由乃は持ち出す手段をひとつしか考えない。
人質だ。
『安藤』を仲介した人質になるが、利用できるのならゴミでも使う。
だから、これが最大の譲歩だ。

「安藤という男から伝言。
『流されるな、考えろ』だって」

998AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:05:29 ID:20X4foLM0


* * *


  プクン

  プクン

  プクン

  ブクン



 泥まみれの泡のような何かが、妲己の胸に沸き上がってきた。





【閃光弾・発煙弾・手榴弾@鋼の錬金術師】
ランファンとリンの所有物。
小さくても破壊力抜群。
各3個づつ支給。

【H-8/図書館/夕方】

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式×2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、ティーセット、小説数冊、
   錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、AED
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:森あいや、ゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:入手した本から「知識」を仕入れる。
6:参加者に「火種」を仕込む?
7:神の陣営への不信感(不快感?)
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
10:うしおの性格に興味。使い道がないか考える。
11:西沢さんに嫉妬?
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。

999AGITATOR/FOLLOWER:2010/09/15(水) 20:06:09 ID:20X4foLM0
【D-2/病院/夕方】

【妲己@封神演義 feat.うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化30%)、潤也の魂魄が僅かに残留
[服装]:英字プリントのTシャツ
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒、工具類
[思考]
基本:主催から力を奪う。
1:競技場へ向かう。
2:自分の体や記憶の異変について考える。
3:主催に対抗するための手駒を集めたい。
4:うしおを立て対主催の駒を集めたい。が、獣の槍に恐怖感。
5:聞仲を手駒に堕としたいが……。
6:利害が一致するなら、潤也の魂魄の記憶や意思は最大限尊重する。
7:当面、『安藤潤也』として行動する。
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※対主催陣が夜に教会でグリフィスと落ちあう計画を知りました。
※聞仲が所持しているのがニセ禁鞭だと気づいていません。本物の禁鞭だと思っています。
※潤也の能力は使用できます。



放送が……始まる。

1000妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:10:44 ID:20X4foLM0
名前が、呼ばれた。
喜媚の名前が呼ばれた。

この放送の者は何をぬかしているのか。
なぜこんなに淡々と流れていくのか。


――大切な人を失ったことがないからだ。
  なんと浅はかで愚かなのか。
――半身を失って、ごく小さいながらも幸せだった世界は破滅した。
  他人にはわからない……
  絆を蔑ろにした罪は重い!
――そうだ。ろくろく理由も問わずさせる殺し合いが、神が憎い!



 放送の、喜媚が呼ばれた声を聴いてから、意識が混濁する。
誰の記憶が誰のものがよく覚えていない。自我を保つ芯を突然見失った。
そもそも芯自体が消え去ってしまったと考えたほうがよさそうだ。
魂同士がこすれ合い、互いをすり減らしている。
その都度相手に魂の欠片が付着し、また破片が舞い散る。
一度染み付いた魂の情報は上書きされ、元には戻らない。
存在が内側から破壊されていく。
己を保つ、そんな簡単なことができなかった。
水を瓶に入れずに瓶の形にとどめておくような、不可能極まることだった。

 自分はどんなカタチだったか、どんな生きざまだったか……
どんなものを食べていたか、どんな暮らしをしていたかすら曖昧だ……
考えるでもなく簡単に描けていたはずのイメージが淀み、歪んでいく。
徐々に目の前が暗くなっていく。
同時に濃く黒い霧が、頭の冴えていた部分を滔々と埋め尽くしていく。
浮遊してはまた霧の海へ引きずり戻されるのを繰り返す。
霧に力を吸い取られ、浮かんでいられる時間がどんどん削られていく。
目蓋を閉じずとも、窓の外に目をやらずとも、暗闇に浸ってしまう。
一足先に永遠の夜を向かえるらしい。

 自分が自分でない何かになろうとしている。
死ぬ訳ではない。だが跡形もなく消滅する不安と恐怖を、永い年月生きてきて初めて思い知った。
妲己が引き金を引いて起こした殺戮、そこで観てきた"死"とは明らかに違う。
肉体は他の者へ循環せず、魂の行くあてもない。
現在過去未来を幻想として全否定されるのだ。

1001妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:11:22 ID:20X4foLM0
 ……不様だ。わななく。
 混ぜ物の身体は、封神台へ集まる者の末路とは別の歩みを辿るだろう。
築き上げてきた妲己という存在が不規則に雪崩れ、侵食され、壊れていく。
魂魄がほぐれて、ちりぢりになっていく。
微塵に砕け、この身体【器】の収まるところへ収まろうとしている。
もはや別物となった肉体は残るであろう。元々の魂は消滅するのだろう。
では精神はどこへ流れようとしている?
 これは何かに似ている?


(……あぁん、これはぁ……)


 思い当たった。
羽化前のさなぎのようだ。
芋虫だった中身が茶色く薄い殻の下で溶け混じる。
肉は種族に刻まれた命令にしたがって、体液と共にどろどろと流れて形を変える。
脚へ、目へ、腹へ、羽へ、蝶になるべく再構築される。
葉に這いつくばっていた姿と決別し、輪廻を一度挟んで別の種になるような変身を遂げる。
己を失っているのではなかった。
この身体は"成長""適合""適応""進化"の途中だ。
かつては潤也であり、獣となり、そして妲己の魂を宿した中身が、
完全なる字伏――白面――として生まれ変わろうとしているのだ。
今までの姿を脱ぎ捨て、見たこともない皮を被り、どことも知れない空へと羽ばたく段階へ入っている。
融合の流れを決めるのは、蝶のように自己が自己であり続けるよう刻まれた遺伝子ではなかった。
あえて名を乗せるなら……運命に定められた流れとしかいえない。
刻々と変化していく。



(わらわは、なにになるのかしらぁん……)



 妲己は意識の海をたゆたっていた。

 星と融合するはずだった。万物の真の支配者になろうと思い焦がれた。
全ての存在となり、永遠の時を自分のものにするはずだった。
森羅万象、有象無象に宿る、グレート・マザーになりたかった。

  だが、今はどうだ。
  どうしてこんなに小さいのだろう。
  どうしてうまくいかないのだろう。
  どうして運命に抗えないのだろう。

  こんな卑小な混ぜ物になるなんて望んでいない。
  大切なひとを奪った世界は、こんなにも大きい。
この強大な力を、なにを犠牲にしてでも手にいれるべきなのだ!

 自失しつつある中、かすかに残る心の拠り所を探す。
真っ赤な装飾品を掴んでいる手が、わずかだが安心感を与えてくれた。
タマゴの眼球がくるりと動いた。唇がむず痒く結ばれる。
こんな手のひらに収まる小物に惹かれてしまう。
初めて見たはずなのに、欠けていた身体の一部に巡り会えたような懐かしさを感じる。

――宿主を亡くしたベヘリットに、運命は静かに畳み掛ける。
  この者が生贄を納めてくれる。
  そして新しい××××××が生まれると――

1002妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:11:55 ID:20X4foLM0

 タマゴと視線が重なると、数時間前の白昼夢が広がった。



  キレイになりたかった。

  光ある、輝ける姿が憎い……
  濁った邪な『気』が我を作った……
  憧れ、妬み、憎み遠ざけた輝ける全てを膝下に敷き、滅ぼさなければならない……

  この心は潤うことなく干からびるというのか!?
  君がいない絶望が満ちているこの世界では、
何も届かない、何も叶わない、何も手に入れられない!


      力が妬ましい。
   セカイが憎い。
      力が、欲しい!

  人類を、妖怪を、大地を、宇宙を捉えられる力があれば!!


――さぁ、運命に選ばれた!
  こんなところで、とろけていてはいけない。
  世界を配下に収める力を! 融合を! 発動させるのだ!
  涙を、血を、肉を、さらけ出せ!!――



  だが、全てを失った我々には天秤の片方に乗せられるものは残っていない。

  大切な者はみんな死んだ。

  ジエメイ/兄貴/喜媚は死んだ。殺された。

  死んだのだ

  死んだんだ

  死んじゃったぁん




  死んだ……?

1003妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:12:31 ID:20X4foLM0

  本当に?

  いや、いるじゃないか、この島に。

  名簿がなんだ。放送がなんだ。
  直感が示しているではないか。

  まだ生きてるはずだ。
  最親愛的、
  一番大切な、
  とってもたぁいせつな、
  兄弟が。

  生贄、そのひとがいれば、

  我/俺/わらわは、

  なれるのか?

  キレイなものに

  望んだ姿に

  グ……マザ……に

  ゴッ……ンドに……





「「「あっははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははは!」」」

 口が勝手に、狂人のごとく笑い出す。
甲高いソプラノに紛れて、男の低い声が幾重にも響く。
最初で最後の三重唱だった。

 紆余曲折し、数多の世界が融合した蝶が誕生した。
新たな身体は後悔と絶望と憎悪と嫉妬を温床に育った。
世代交代だ。芋虫の名残は大人しく退場しよう。

 このまま我らから生まれた者が望む姿になってくれると思うと、この哄笑が最期の力を絞り出した滑稽なものであっても悔いはなかった。
どこか愉快な満足感で溢れた。

 もう自由にならない身体で、似合いもしない涙を流した。
辛うじて残る妲己の欠片は、どこか遠くへ連れて行かれようとしていた。
雲の上のようであり、大地に吸われるようでもあった。
水と一緒に流れるようでもあり、山を転がる石のようでもあった。

 これが夢にまで見た、グレート・マザーの支配……
全ての流れのうちのひとつになれた。
この美しさはきっと"死ぬ"前の幻だ。
幻に時を感じ、生を感じ、死を感じる。
望んでいたものは、こんなに近くにあった。
自然のなかに、確かに我等は存在していたのだ!
これこそが真理なのか……

 今まで殺してきた者たちとは違うところへ行くに違いない。
新しく進化すべく選ばれた存在なのだから!
こんな矮小な身体【器】になぜ執着していたのだろう?
消えることを恐れる必要なかったのだ!
これから、『神』を超える力を持つというのに!

1004妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:12:58 ID:20X4foLM0


   新しくなろう、大きくなろう、転生してやろう、ひとつになろうじゃないか!


 意識が明朗だった最後の箇所に、ゆったりと暗黒が充満した。暗黒の霧に、全身が沈む。
足先から順に、感覚を失った。膝、腹、胸、首が浸っていく。
残すところ顔だけとなったとたん、いきなり目の奥に光が射したかと思うと、霧が一気に晴れた。
病院の真っ白い壁だったかもしれないが、それが夜空に浮かぶ、
大きな大きな満月の表面のように見えた。

この星と対をなす月が、自然の流れになったことを歓迎してくれている。


  これが一体に
  なるという
  ことだと
  いうの
  だろ
  う
  ?




(あらぁん、わらわはどうして、このたまごのつかいみちをしっているのかしらぁん)



それきり、妲己の時は動かない。




【妲己@封神演義 自我消滅】

1005妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:14:42 ID:20X4foLM0



ズン



 身体を揺らす程度の衝撃を男は背中から受けた。
ゆるゆると視線を衝撃の原因になった場所へ向ける。
腹を美しく磨かれた刀身が、男を後ろから貫いていた。英字プリントのシャツが湿っぽくなる。
赤いぬめりが鏡のような刃をくすませる。鈍く光沢を放つぬめりは、床にも可憐な花を咲かせていた。
滴り落ちる雫が王冠を形づくったのち、だらしなく広がる。
身体の穴から刃を抜き、そのまま男の背中へ斜めに斬撃をいれた。
カードを読取機にスラッシュさせる、そんな無機質で無感動な動作だった。
血が吹き飛び、由乃の服も点々と濡らす。汚いと、本心で思った。

「安藤潤也は死んでる。死んでるなら、大人しく死んでてくれない」

 人質の利用価値はなくなった。処分するのは当然だった。
あいうえお順で呼ばれた最初の犠牲者はうっかり聞き逃したが、安藤潤也との名前はしっかり流れていた。
当の安藤潤也は、放送の名で胡喜媚が呼ばれた途端、なぜか突然笑い出した。
由乃に気を止めてもいないようだったから斬った。それだけだ。

 幻を見た、長い夢から覚めたような目をして、安藤潤也と名乗った男は振り返った。
一筋の綺麗な涙を流していた。



 由乃の握る、ただの刀のフリをしていた飛刀が、いち早く異常に気づいていた。
数刻ほど前、飛刀は由乃にも由乃の犠牲になった男にも幻を見せた。
由乃は都合よく記憶を改竄して幻を歯牙にもかけず、男は男で幻をありえないことだとして気づいていた。
結果はどうであろうと、この二人の心は読み取れていた。だがこの"男"はどうだ?
目まぐるしい勢いで、一切つながりのない記憶同士がかきまざっている。
吸い寄せられた記憶の粒が新たな形を作るほんの直前、この男が望む未来だけが見えた。
だから幻を作ってやった。
あまりにも穏やかで和やかな景色だった。幻を作った本人ですら、現実味の無さに驚く。
だが、唐突にバチンとこの"男"の中身が弾けた。
弾けたというよりは、互いに寄り集まった欠片に、必要な最後の一ピースが嵌まったといった方が的確かもしれない。
幻が通用しなくなった。
赤子のようだ。全く新しい者が、身体に刺さった一瞬のうちに誕生したらしい。



 飛刀の推測通り、妲己はキメラに錬成されたように中身が切り替わった。
消滅を恐れ、新たな生物の誕生に喜んでいたのはただの一瞬。
諸行無情の虚しさを感じてくれる者は、もうどこにもいない。


1006妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:15:12 ID:20X4foLM0



 苦しさと痛みで歪めた顔を見せるであろう他人に興味はなかった。
血振いして見下す。

そんな些細なことより、一刻も早くユッキーと合流したかった。
ユッキーの生存が第一。
ユッキーの五体満足は大前提。
自身の生存は、場合によっては度外視。
なら、とる行動は決まっている。
時間の無駄を省いたまでだ。

 そう考える時間を考慮しても、普通の人間なら観察もできない他人の内面の変化に、由乃は飛刀よりほんの少し遅れて気づいた。
遅れたというより、光のような速度で追いついたというべきか。
驚異的な勘の鋭さを現し、また超人的な洞察力をフル活動させた。
"安藤潤也"に刀を刺す前と後では、雰囲気がまるで違う。
ぐずぐずのおから状態だったさっきとはうってかわって、今はどうだ。
ぴんしゃんした、ひとつの固まりになっていた。
しかし振り向いたこの瞳に住み着いているのは、人とは到底思えなかった。


「……いってぇ……なあ……」

 腹に手をやり、ちょっとしたかすり傷だったように撫でる。
由乃が小学校で刺した男と同じように刃を立てたのに、倒れる気配がない。
斬撃痕はじゅくじゅくと、ごくゆっくり回復していく。

"安藤潤也"はまた笑った。
口が裂けるほど吊り上げて笑った。
実際、裂けていた。

背筋を曲げ、腕を脚を大きくひらく。
獣とひとが混じった咆哮をあげる。
勇みたち、背震いをする。肉を裂く爪が伸びる。
人間にあるまじき牙が生える。
長い長い体毛が増える。
餓えた眼球が据わった目を向ける。
瞳の奥に、憎しみと絶望のどす黒い焔がたぎっていた。

由乃が寝ている間、雪輝と戦っていた獣によく似た者へ変貌した。
奇妙な柄をしている。
ライオンと熊を足して割ったような、立派な"字伏"が立っている。

 ありえない変身に気をとられかけたが、すぐに由乃は切り替える。
常人からしてみれば充分化け物といえる由乃だ。
それ以上の化け物が出現したところで、指針が揺らぐ訳がない。

由乃は飛刀を納め、ロケットランチャーを構える。

不死身の獣であるはずがない。
不死身なら、そもそもこの殺し合いに参加させられはしない。
致命傷を与えれば死ぬに決まっている。
ここにユッキーがいるのなら、この獣を殺しておくほうが先決だ。


ユッキー待っててね。
こんなケダモノ、すぐ殺してあげるから。
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー


ジジ……とかすかなノイズが走る。
無差別日記の改変か、と耳をすます前に、愛しの王子様が助けに来てくれた。

1007妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:15:42 ID:20X4foLM0

『こ、この虎模様のバカばけものっ。ぼ、僕が怖くて逃げ回ってるなっ!
4階のナースセンターで待ってるぞっ。ここまで来てみろよ、こここ腰抜けっ!』


「ユッキー!」

声のする上階へ二人して顔を向けた。

「あ……?誰が逃げてるだぁ?
 首洗って待ってやがれ!!」

一陣の風が由乃を掠めて過ぎていった。
廊下に残るのは由乃ただ一人。
そして病院に残る"人間"も、由乃ただ一人。

(アハハハ……
 ユッキーはそんなところにいないわ)

 奇妙なノイズは、きっと声を発する機械を通したものだ。
絶対にユッキー本人じゃない。確信できる。別物だ。

(ユッキーが仕掛けをして、助けてくれたんだね。
 ほら、やっぱりユッキーは死んでない。
 ありがとうユッキー♪)

 大切な無差別日記を撫で、猛烈なスピードでボタンを連打する。
眉毛一本動かさず、まばたきすらしない。その無表情さは画面からの光が更に不気味に引き立てた。
呼吸すら忘れているように、無心で親指を上下させる。
画面を見ながらも足は右へ左へ、異常な勘の下記憶をたどり、病院を抜け出した。

 夜がそろそろ始まる時間だ。晴れていれば空に夕陽が染み付いているはずだが、あいにくのみぞれである。
世界を赤く染める、太陽の悲しい色に出会えはしない。

 病院から50メートルほど離れた場所で、由乃はまぶたをかっ開き、首を後ろへガクンと倒した。
可愛らしい桃色の髪が動きに合わせてゆらめく。
やじろべぇのようにふらふらと頭を回し、唐突に止まる。
ぐっと上がったときには、憑き物が落ちてきょとんとした、年相応の困り顔をしていた。

(あれ、どうしてこんなところにいるの?)

 無差別日記を覗くと、由乃の頬は真っ赤っ赤になった。
赤面した頬の火照りを押さえようと両手を添える。
そうでもしないと胸が高鳴って、火花が散りそうだった。
携帯を閉じて、雪輝の格好よさに身をよじる。
無差別日記には、拡声器が響くこと、獣を見て茫然自失になった由乃が誰かに抱えられて外へ連れ出されたことが記されていた。

雪輝自身を写せないなら、この誰かとは雪輝以外にはいない。

辺り一帯に花を撒き散らしそうな破顔一笑だ。
由乃の天真爛漫さは、能面以上に無表情だった数分前までとは別人だった。
ふくろうのようにくるくると首を回して呼び掛ける。

1008妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:16:13 ID:20X4foLM0

「ユッキー、どこにいるの?」

空はどんどん暗くなる。

「私を助けて疲れちゃったの?」

次々と電灯に光が灯る。

「わかった、さっきキスしたから照れちゃったんだね?」

みぞれはいよいよ強くなる。

「ちょっと待ってよ、ユッキー♪」

ほの暗くなっていく市街地に、答える声はなかった。

勝手に作りだした幻想を追いかけ、スキップを踏み、雪混じりの水溜まりを蹴立てて走り去っていった。



 現実はどうであれ、雪輝が最期に遺した勇気の証は由乃の元へ届いた。
幸せだったとはいいがたいが、雪輝が生前に使いきれなかった幸運が、ささやかに由乃を守った。
それだけでも少しは報われるものである。

 対して、運と確率の申し子と、おぞましい栄華を誇った女狐は、決して報われはしない。
たとえ魂が美しく消える夢を見ていても現実は変わらない。
生前の償いつくせない深い罪と業の罰として、醜い姿でさ迷い続ける。

地獄へ導く役割を終えるまで……



【D-02/病院階段/夕方(放送前後)】

【字伏@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化60%)
[服装]:ボロボロの英字プリントTシャツ
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)、エンフィールドNO.2(1/6)@現実
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒、工具類、真紅のベヘリット
[思考]
0:……大切な者を……
1:競技場へ向かう。
2:獣の槍に恐怖感。
[備考]
※妲己・潤也の自我はほとんど残っていません。
 ただしそれぞれの記憶の切れ端は残留しているので、
生前の目的や恐怖・怨恨は多少引きずっています。
※潤也の能力が使用できるかどうかは不明です。



【D-01東/市街地/夕方(放送前後)】

【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ 点々と血の飛沫
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×8、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
機関銃弾倉×1、
無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾0%・0%、0%・0%)@トライガン・マキシマム
ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、首輪に関するレポート、
違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾0発、ハリセン、
研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
閃光弾×2・発煙弾×3・手榴弾×3@鋼の錬金術師、不明支給品×3(一つはグリード=リンが確認済み、一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝を生き残らせる。
0:天野雪輝を捜す。神社か灯台に行ってみたい。
1:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
  人質とする、あるいは場合によっては殺害。
2:雪輝日記を取り返したら、鳴海歩は隙を見て殺す。
3:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を兄弟だとほぼ断定しました。
※秋瀬或と鳴海歩の繋がりに気付いています。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。
※病院の天野雪輝の死体を雪輝ではないと判断しました。
 本物の天野雪輝が『どこか』にいると考えています。
※無差別日記は由乃自身が入力していますが、
 本人は気づいていません(記憶の改竄)

1009妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:16:39 ID:20X4foLM0




今は放送が終わったすぐあとぐらいだろう。
防音設備のせいで放送がろくろく聞こえず、聞仲が外に出て聞く役をかっていた。
そのかわりに潮が聞仲にとっては未知の機器で電話をすることになった。
体外式ナントカが病院にも連絡を送っていないか確かめるためだった。
キンブリーが怪我をしていないので、病院側を混乱させる誤報になってしまうからだ。

――実際は病院が半壊した巻き添えで通信機器が壊れていたのでつながらなかったのだが。

そんな中、変な録音メッセージが突然始まった。

『こ、この虎模様のバカばけものっ。ぼ、僕が怖くて逃げ回ってるなっ!
 4階のナースセンターで待ってるぞっ。ここまで来てみろよ、こここ腰抜けっ!』
「な、なんだよ、この留守電?」

 やけにつながらないと思った矢先に、同い年ぐらいの男の声が流れてきた。
こらえられない胴震いを必死でこらえ、誰かを挑発している。
留守電を聴いた潮に、この少年の恐怖がダイレクトに伝わった。
冷蔵庫に閉じ込められたような寒気が、おぞましく肝を冷やす。
ありったけの勇気をぶつけて戦っているひとがいる。
しかも大して年は違わない。
どこかで今も誰かが窮地にいる。こんな馬鹿げた茶番ゲームのせいで!

「が、頑張れっ! 絶対に死ぬなよっ!?」

 無意識に叫んだが、録音にはきっちり記録されてしまったらしい。
普通病院は留守電なんて使わない。異常なのは目に見えていた。
何より一番気になるのは、『虎模様のバケモノ』だ。
真っ先に浮かぶのは、生死を共にした相棒だった。
紅煉はすでに死に、知っている限りとらしか残っていない。

 とらが人を襲って……?
バケモノはさっきの魑魅魍魎の仲間に違いないだろうけど……
人は食うなとさんざん言ってきたが、まさか、まさか、まさか!?




「聞仲さんっ!!」

 診療所のドアを蹴破る勢いで開けた。
名簿を握りしめ、聞仲は潮に問い掛ける。

「……ひょう、という者が呼ばれた」
「今はっ!!」

ドカァッ!!

 獣の槍柄で地面を思いっきり叩く。その反動と寒さで、指がじんじんする。
何も変えられない自分が悔しい。
聞きたくない現実に、耳を塞ぎたくなる。
下を向いたが、聞仲が訝しげに見ているのがわかる。

 鼻と目が熱くなる。
でも、俯いてちゃ何も見えないから。
逃げてばっかりじゃどこにもいけないから。
足踏みしてちゃ前なんて進めないから。
一番恥ずかしいのは、傍観者に徹すること。

1010妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:17:05 ID:20X4foLM0

『うしお、自分を信じて、対決していけ』

 槍を持つ腕には、無骨でふてぶてしくて、素直じゃない人だったけど、
気高くて最期まで励ましてくれた蝉さんがいる。

『甘えんな! 逃げてんじゃないわよ』

 背中には、ちょっとの付き合いだったしどうしようもなく駄目な大人だったけど、
親しみやすくて、勇気の炎を点火してくれた桂先生がいる。

二人だけじゃない、聞仲さんだっている!

 例え一人になっても、一人で生き抜いてきたんじゃないから。
今なら言える。助けてくれた、全部の人達へ。


       あ り が と う


「今はっ……!なんもできないけどよぉっ、
 どーしよーもなく無力だけどよお、
 やらなきゃならないいけねぇことがあるんだ!
 泣いてるだけじゃなんもできねんだ……」

 袖でこぼれそうになっている鼻水を拭う。

「進むんだ! それが今できる絶対間違ってないことだ!!」

 聞仲は黙って聞いてくれていた。
あまりにもまっすぐで、熱くて、眩しい潮を、目を逸らさず見てくれていた。

「そうだな……危険のない前進などあり得ない。
 うしお、涙よりも見せなければならないものがある」
「なんだい?」
「底力、だ。自信を持つといい」

 潮は無言で大きく頷いた。
槍を掲げ、向き直る。

「これから病院へ行きたい。
 とらがいたらしいんだけど、なんかの事情でおれと同じくらいのヤツと戦ってる。
 納めにいかなきゃいけないんだ。」
「……わかった、行こう。陽がわずかでも残っているうちに」

1011妄想日記2nd:2010/09/15(水) 20:17:32 ID:20X4foLM0


【I-09/診療所/夕方(放送前後)】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:精神的疲労(中)、左肋骨1本骨折
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[思考]
基本: 殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
0:とらが人を襲う?
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。
3:とらと合流したい。とにかく速攻で病院へ行く
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:聞仲に尊敬の念。
7:金光聖母を探す。
8:字伏(潤也)の存在にショック。止めたいが……。
9:白面を倒す。
10:キンブリーに留意。いい人でもなければ悪い人でもないっぽいけど……
11:余裕があるのなら小学校に行ってもいい。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
 とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。

【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)、背に火傷(小)
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモを大量消費)、不明支給品×1、首輪×3(ブラックジャック、妙、妲己、雪路)、
    胡喜媚の羽、診療所の集合写真
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
1:妲己の不在を危険視。何処にいるかを探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:2のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。特にエドと合流したい。
5:流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:流に強い共感。
8:幽世の存在に疑問。封神台があると仮定し、その存在意義について考える。
9:獣の槍を危険視。
10:診療所の地下を調べたい。
11:キンブリーを警戒。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
 爆薬(プラスチック爆薬)についての情報。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること。
※幽世の存在を認識しました。幽世の住人は参加者や支給品に付帯していた魂魄の成れの果てと推測しています。
 また、強者の魂は封神台に向かったのではないかと考えました。
※うしおがキンブリーと電話している間に診療所の地下を調べているかは不明です。

00:00〜02:00 皆既月食

1012 ◆RLphhZZi3Y:2010/09/15(水) 20:21:24 ID:20X4foLM0
以上で投下終了です。
投下してくださる方々に感謝をこめて
毎回ありがとうございます。

離島に行って、エンカウント率が予想以上に低いのを思い知らされました。

1013名無しさん:2010/09/15(水) 20:27:38 ID:XBPohzdA0
意気揚々と代理投下していたらさるさん食らってへこんだでござる
次は>>1006の『背筋を曲げ〜』の行からになります
(改行多すぎと言われたので勝手に分けました、すみません)
どなたかお願い〜

1014名無しさん:2010/09/15(水) 21:17:01 ID:kFaVEV020
test

1015名無しさん:2010/09/15(水) 21:23:31 ID:XBPohzdA0
あ、あと聞仲の状態表だけなのに……orz
バトンタッチ(;ω;)つ

1016 ◆RLphhZZi3Y:2010/11/24(水) 21:20:26 ID:20X4foLM0
さるさん食らいました……
こちらに続きを投下します

1017名無しさん:2010/11/24(水) 21:20:59 ID:20X4foLM0

 土産コーナーでの軽口も、踏み出す道が細く暗く険しいとわかった上での振る舞いだった。
渦巻く怒り、溜まる憎しみ、溢れる悲しみ、
そんな感情に無理矢理蓋をして、それでも助かるなら前に進むしかない。

 針のムシロに座る役回りがどれだけ辛いかを、
エドはこれまで生きてきて知り、安藤はこれから生きていき知る。
それが正規の運命だとは知るよしもないのだが。



 緩やかにシャッターが上がり、車体が全体像を現す。
乗用車でも見つけたのだとばかり思っていたエドと安藤は面食らった。

 こんなので行くのか! とばかりに口を開く。
足跡のない、まっさらな雪道をズンズン進み始めたのは。

 観賞魚の搬入に使う中型トラックだった。
可愛い魚の絵がボンネットに描かれている。
運転席のゴルゴには全くもって似合わない。

 箱形の荷台には水族館のロゴが貼ってあったようだが、しっかり剥がされていた。
無論荷台は空っぽだった。
また、日が落ちるこれからを考えたのか、バックライトとウィンカーは破壊済みである。
さすがに前面のライトは、最初の目的地が山の中なので壊されずに残っている。
できうる限りの注意と保険に気を払ったトラックに仕上がっていた。
まだ用心を重ねている場所もありそうだが、暗い車庫ではそう判断つかなかった。

 辺り近辺、これしか車がない。
乗り換えも視野に含めての移動になりそうだ。
実際、ゴルゴもそれを見越しての選択らしい。
でなければ、こんなガタイのいい車などで、大事な約束の場所へ出発しはしないだろう。

 気を取り直し、トラックには珍しい後部座席へ二人は乗り込む。
安藤はゴルゴの指示でビジネス的に一番安全な席、運転席の後ろへ。エドは助手席後ろへ。
アクセルを踏むだけで動くオートマとは違い、トラックは操作が少し難しい。
ゴルゴはそれを自分の手の様に動かす。



鋼の二つ名を持つ錬金術師、エドワード・エルリック。
神に背徳する名の殺し屋、ゴルゴ13。
孤独な闘いに身を投じる高校生、安藤。

 月光が降り注ぐ深夜のおぞましい宴に向かって、三人は出発した。
振り向く選択肢はない。
前にしか行く道は残されていないのだから。

1018I am GOD'S CHILD:2010/11/24(水) 21:22:10 ID:20X4foLM0


#####


――――――Observer

 政治家の青年とピアニストの少年の二人は相変わらず薄暗い闇にいた。
暗い部屋、一本足の丸テーブル、チェスの盤は先ほどから何も変わっていない。
他では仕事をしている者達もいるというのに、それでも留まり続けている。

 青年は世界は変えることができると証明すべく、
少年は予定調和である未来を見据えるべく、
この小さな島の舞台に降り立ち運命の繰り手となった。

 だが自らの意志でこの場にいているものの、首を傾げるほど上手くいきすぎている奇妙な整合に、多大なる疑問があった。
整合など、"運命"で片付ければそれで済む。
だからこそ、"運命"で済ませたくない。
そのために観測者となり、不確定かつ不安定な対象を送ってやったのだ。

 その整合している疑問について、場所すら変えずに二人は話し合っていた。

 例えば仕事のこと。
似た性質同志のコンビが、稀薄なつながりを覆い隠してそれぞれの仕事をしている。
いや、互いを刺激しながらも牽制している。
今、セイバーもハンターもウォッチャーも、そして観測者も、対になるもう一人と属性がかぶっているのだ。
彼を除く十一人は、各々好きな仕事についたというのに。
もしそれが仕向けられたことだというのなら、ウォッチャーから二人が観測者として独立したのも、
彼が予測していたことだと考えていいだろう。
むしろそれの方が腑に落ちる。
しかしこれはあくまで前フリでしかない。

1019I am GOD'S CHILD:2010/11/24(水) 21:28:25 ID:20X4foLM0
「あの戦闘狂はアレス。
 英霊を宿す彼女は名前が示す通り、アテナにあたるだろうね」
「十二人が完全に神と呼応している訳じゃないだろう」
「どうかな? 偶然にしては出来すぎだと思うよ。
 かの騎手もハデスに値する。錬金術の神といわれたヘルメスまでいる」

 疑問――すなわちこの『十二人いる神陣営』についてだ。
あまりにも、あまりにも出来すぎている。
神の人選など、"偶然"で片付ければそれで済む。
だがやはり、"偶然"で済ませたくない。

 観測者の二人は自分も観測対象にする。
客観的に見ても、どう考えても、二人の答えの辿り着く先は同じだった。



「「僕/俺達は、十二神になぞらえられていないか」」



 オリュンポス十二神。
ゼウスを頭とし、ヘラやアテナなど十二柱がいる。
十二柱の特徴が、生きているこちらの陣営と大方重なっている。
よく似た世界観を共有していたから辿りついた結論だ。
三流市長以外、ハンターもセイバーもウォッチャーも、まるで生きる世界が違う。
十二神になぞらえようがなにしようが関係ない。なにせ、神話自体知らないのだ。

 ごく一部、未来を映す鏡を持つ十二人がいたが、
恐らくはその人間たちをモデルにでもして陣営の者を選んだのではないか。

「今、セイバーが例の大広間にいる。六芒星を二つ重ねた、あの陣だ」
「六芒星が二つなら角は十二。
 僕らが立つのはやっぱりあそこ、"世界の中心"になりそうだ」

 もし十二神として生きるのが運命だというのなら、流れに乗りながらも逆らおう。
矛盾しているが、二人の見解のまとめはそこで途切れた。


#####

1020I am GOD'S CHILD:2010/11/24(水) 21:29:01 ID:20X4foLM0


――――――???

 娘が光源がない、暗い建築物でうろつく。
せっかくの日傘が日傘としての機能をしていない。
ここも神がいるとされる場所だが、鮮やかで華やかな光を放つ城とは勝手が違った。

「王族の庭城(ロイヤル・ガーデン)の建つカルワリオの丘。
 偶然とはいえ、貴方によく似た通り名ではないかしら?」

 娘は端にいる騎士へ問い掛けた。
騎士は何も返さない。

「カルワリオ、いえ、私がかつていた日本では、ゴルゴタの丘という名の方が有名だった

かしら。
 ゴルゴタもカルワリオも、どのみち意味するのは髑髏。
 そういえばこの丘の名を取り、神に背徳するという名の方も参加していましたわね」
「娘よ、因果律の範疇にいる者を束ねる時間だ。
 ――娘、いや英霊よ」

 英霊、そう呼ばれた娘の頭上に白骨の影が現れる。
自身の本体を棚に上げ、騎士だけが髑髏(カルワリオ)の名に見合うと言う。

 欲望をたぎらせた空虚な目が騎士を睨む。欲望はとどまることを知らない。
いずれ彼の持つあの紅い球を取り込み、復活しようとしている。そのために、今は従っているのだ。
無駄であるにも関わらず、だ。
身体の主は乗っ取られ、魂はこの世から消えている。

「この屍を助けようと、早々に脱落した少年は何思うか」
「あら、あの人はあの時殺し損ねた執事ですわ。
 死んだところで何があります?」

 金色の縦ロールが揺れる。
夜に溶け入りそうな漆黒のドレスに、金髪が絡まった。
風が強まる。

1021I am GOD'S CHILD:2010/11/24(水) 21:29:38 ID:20X4foLM0
 神を崇める箇所を散策する。
騎士とドレスの娘は、その場所にひどく不釣り合いの格好をしていた。
長い石の階段の頂上に立ち、下にいる者達へ胸を張り告げる。
日傘を閉じて、積もった雪を払う。

「ようこそ、神のおわす地へ」

 強面の屈強な男に、アジア系とヨーロッパ系の少年が二人、そこにいた。
先頭にいた紅いコートの少年が唖然としている。

 みぞれが叩きつける音だけが神社に残る。




「誰だ、あんたら!」

 神社にそぐわないにもほどがある服装を見れば、そうせざるを得ないかもしれないが、
明らかに敵意を持って尋ねられた。
娘はドレスをはためかせる。
率直に言われたら、答えるのが礼儀であろう。

「名前を聞くなら、自分からお名乗りなさい。
 ……と言いたいところですが、存じ上げておりますわ。
 エルリックさん、安藤さん。
 そしてお会いできで光栄ですわ。
 神に背けし名を持つゴルゴさん」

 寒さではない冷たい空気が、石段を支配する。
こちらは何も仕掛けるつもりはないのに。
少年探偵を招く入り口を作り出しただけなのだ。

「……私は天王洲アテネ。
 この星で最も偉大な女神の名前よ」

 娘が名乗ったと同時に、軽やかに馬がやって来た。
音も無く騎士は馬へ飛び乗り、娘もそれに続いた。

 幻よりも儚く、夢よりも強烈な印象を残して、馬は森へ消えた。



 邂逅をふいにして臍をかむ三人は石段を上がる。
頂上へ足を踏み入れる寸前、何もない中空から突然少年が現れたのを見た。
少年本人も、意味がわからないといった顔をしている。
気づかれないうちに身を隠した。



 時は五時五十八分。
世界の終わりは近い。

1022I am GOD'S CHILD(状態表):2010/11/24(水) 21:30:29 ID:20X4foLM0
【F-05/神社入口/一日目/夕方】

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(小)、腹話術の副作用(中〜大)、魔王覚醒(?)、風邪気味
[服装]:飼育員用のツナギ
[装備]:殺人日記@未来日記
[道具]:イルカさんウエストポーチ、菓子数個、筆記用具(以上全て土産物)、土産品数個(詳細不明)
    水族館パンフレットの島の地図ページ、携帯電話(古い機種)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。危険人物は可能なら折りを見て倒していきたい。
1:エドの信頼を得て、首輪を外す手段と脱出の手掛かりを探る。そのためにエドとは一緒にいておきたい。
2:潤也と合流したい。
3:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。だが、歩本人へ強い劣等感。
5:東郷に対し苦手意識と怯えを自覚。
6:『スズメバチ』の名前が引っかかる。
7:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
8:リンからの敵意に不快感と怯え。
9:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
10:殺人に対する後悔。
11:今後の体調が不安。『時間』がないかもしれない。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※殺人日記の機能を解放するかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※潤也らしき人物が北部市街地へ向かっていると思っています。
※月食が"何か"を引き起こしかねないという考察をエドに聞いています。

1023I am GOD'S CHILD(状態表):2010/11/24(水) 21:31:14 ID:20X4foLM0
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ及び擦り傷、デカいたんこぶ、頭部に裂傷(小・手当て済み)
[服装]:愛用の赤いコート、膝下濡れ
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則、携帯電話(ベージュ+ハート)
[道具]:支給品一式(二食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚、土産品数個(詳細不明)
[思考]
基本:皆と共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:リンと合流したい。
2:〝計画〟の実現を目指す。そのために神社や付近の施設の調査。
  この島で起こった戦いの痕跡の場所も知りたい。
  月食で引き起こされる"何か"を食い止め、利用する方向も視野に入れる。
3:出来れば聞仲組、伊万里組と合流したい。
4:キンブリーの動向を警戒。
5:リンの不老不死の手段への執着を警戒。
6:安藤との出会いに軽度の不信感。
7:首輪を調べたい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました。
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※“混線”の仕組みを理解しましたが、考察を深めるつもりは今のところありません。
※九兵衛の手記を把握しました。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。
 プラントはホムンクルスに近いものだと推測しています。
 また、島の中央に何かがあると推測しています。
※月食が十中八九"何か"を引き起こすと考えています。


【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂、携帯電話(白)
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
    携帯電話(黒)、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙、
    中型トラック
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を守る。
2:エドと協力して首輪を確保、解析する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:歩からの連絡を待つ。
5:キンブリーに対して……?
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※我妻由乃、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空へと繋がるワープ空間の出口の移動の法則を把握しました。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。
※エドと情報交換しました。また、"何か"に関する考察も聞いています。

1024I am GOD'S CHILD(状態表):2010/11/24(水) 21:31:44 ID:20X4foLM0



――――――???

 アブラクサスの柱の森、その裏で笑う者がいた。
沈みゆく燃える太陽のなか、城の荘厳な影を見つめる。
万とも億ともつかない稀少な奇跡を待ち、神の袂を分かった道化だった。
傷のついた幾多の柱が、森のように立ちそびえる。地上には柱の数に劣らず多い剣の残骸が刺さっていた。
柱と剣の合間を縫って歩く。
ここは強欲と絆を試す場所だと聞いた。
何時間も前に強欲の権化は退場しているが、いかにもその者に相応しい地だろう。
惜しい気までする。

 城を臨む方向へまで進むと、アブラクサスの森に代わって、花が舞う平原が現れた。
鮮やかな白い平原が、視界いっぱいを埋めつくしていた。
その広大な平原を余すところなしに花が咲いている。
満開のまま咲き誇り、枯れるどころか閉じることも知らない花ばかりだ。
風にさわめく動きは、潤いのある奇妙な砂漠のようにも見える。
穢れを知らない、時間の流れを感じさせない。永遠の、そして理想の庭だ。
さすが王族の庭城というだけはある。

 ひしめく花を掻き分けて、褐色の肌が沸き上がってきた。
地面からにゅるりと、それこそ花と一緒に生えてくるように幼女はやってきた。
餅を食っている。

「あなたですか」
「ほう、やはり見事な眺めじゃのう。絶景スポットじゃ」

 餅を頬張る音がその絶景を台無しにしているのはわざとか。

「ええ、良いものを見させて頂きましたよ」

 一陣の風が吹く。
おそらくは、神を語らずとも神の名前を既に持つ娘が城へ向かったのだ。
厳しい光を眼に湛えた騎士と、尋常とはかけはなれた馬と共に。

 道化は娘と騎士のやり取りを見ていた。
少年を一人城へ導くべく現したこの庭城だが、無用の三人組まで関わってしまった。
普段なら偶然、あるいは不運とでいくらでも片付く。
だがここは掌の上。
神の娘の言葉を借りるなら、『神の力の方が呼び寄せた』のだろう。

「不確定因子だけが運命を改変している訳ではない証拠ですかね」

1025I am GOD'S CHILD(状態表):2010/11/24(水) 21:32:08 ID:20X4foLM0
 まだまだ島には未来を織り成す種が残っている。
彼は運命に抗い、絶望に打ち勝ち、希望を忘れない者を待ち望んでいるらしい。
ただ、それは道化のいち解釈でしかない。
真実はどんなものかは、全て彼の胸の内だ。

「さて、あなた方はこれからどうするつもりですか」
「……そろそろシンデレラも嘆く鐘が鳴る。
 傍観者になろうが中立しようが、覚えておくとよい。
 ガラスの靴を穿き、神と舞踏をできるのはただの一人しかおらぬ」
「承知してますよ。だから私は抜けたのです」

 幼女曰く、まだ一応"十二の神"の中に道化も含まれているようだ。
頭数といえばそれまでだが、反抗してみた道化をまだ神の枠に入れているとは、彼の考えることはやはりよくわからない。
神の布陣は、ミダスに憑かれた娘を筆頭に、基盤を覆しかねない不安定な者ばかりだというのに。

 空に向かって言ってみた。

「奇跡を超える奇跡を起こすのは、可能なのでしょうか」

 答えは、誰も知らない。
彼も、きっと。


#####


――――――God

 とある水の鏡のほとりで、カエルが中を覗いていた。
水面に映るのは、当然ながら自分である。
緑色鮮やかなカエルの着ぐるみを脱ぎもせず、揺らぐ自身の影にひっそり言った。


「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんて
 おこがましいとは思わんかね」


 彼自身の言葉ではない。
今の状況を語るには、それがぴったりだったからだ。
 ――その言葉を遺した医者は、ここにいるどころかとっくに死んでいるが。




ガチリ。
秒針が真上を示す。
終わりへの座標となる鐘が――

1026 ◆RLphhZZi3Y:2010/11/24(水) 21:36:58 ID:20X4foLM0
以上で投下終了です
どなた様か代理投下をお願いいたします。

十二神は未来日記のネーミング由来ということで。
偶然にしてはあまりに一致する点が多かったのです。

1027名無しさん:2010/11/24(水) 22:30:21 ID:tRkrum9k0
代理投下終わったのですが、その告知だけさるさんに……。
感想はこちらで失礼。

いや、こう来るとは思いませんでした。なるほど確かに符合は多い。
そしてエド達はしっかり進んでいるが……安藤のタイムリミットが怖いなあ。
これからどうなるのか気になる終わり方でした、お疲れ様です。

1028 ◆RLphhZZi3Y:2010/11/24(水) 23:55:19 ID:LkOmKOlMO
代理投下と支援ありがとうございました。


そして言い忘れてましたが……
鋼の錬金術師完結おめでとうございます。

1029 ◆RLphhZZi3Y:2010/11/25(木) 10:00:29 ID:LkOmKOlMO
修正案です。

冒頭の>151ゴルエド安藤パート

>視界はおおむね良好で、誰が来てもすぐわかる場所だった。
の直後に>159のエド安藤の
>「アンドウ、これが送信ってことで大丈夫か」
から
>少しだけ心が緩んだ。

までを移植します。


>159の空いた箇所には

どうやら伊万里との連絡が取れたようだった。素っ気なく電話番号だけ書いてあるメールが着信している。
これを電話帳登録する確認だった。偽名に反応しているので、本人と見ていい。
名簿に載っていない名前を出すのはIDに信用を置かれなくなるが、この際無視する。

を組み込みます。

1030 ◆L62I.UGyuw:2010/12/03(金) 06:57:15 ID:55qPILm60
第三回放送案を投下します。

1031第三回放送 長き昼と快適な夜を ◆L62I.UGyuw:2010/12/03(金) 06:58:11 ID:55qPILm60
『皆さん、こんばんは。第三回目の放送の時間です。
 もうこの放送にも結構慣れて来ましたよね。
 そうでもありませんか? まぁ、どっちでもいいことですけど。
 さて、ではこれから恒例の進入禁止エリアと死亡者の発表を始めます。
 聞く準備は出来ましたか? 二度は言いませんのでしっかり聞いて下さいね。
 …………新しい進入禁止エリアは

 19:30からE-2
 21:00からC-9
 22:30からC-3

 です。
 自分の位置を見失ってうっかり足を踏み入れたりしないように十分ご注意を。
 何しろ雨が降ってる上にこれからは夜ですから。

 …………次に今回の死亡者は

 天野雪輝
 安藤潤也
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード
 桂雪路
 グリフィス
 胡喜媚
 三千院ナギ
 スズメバチ
 ニコ・ロビン
 パック
 ひょう
 森あい
 鈴子・ジェラード

 以上13名です。うーん、まぁこんなものでしょうか。
 ともあれ、大分生存者が減って来ましたね。良いことだと思います。
 どうです? 勝利――その言葉が現実味を帯びて来たんじゃないですか?
 ですがまだまだ油断は禁物。ここまで生き残った人は簡単には殺されてくれないでしょうからね。
 それじゃ皆さん、最後までしっかり殺し合って下さい』


***************

1032第三回放送 長き昼と快適な夜を ◆L62I.UGyuw:2010/12/03(金) 06:58:58 ID:55qPILm60
「ご苦労サマ。ところで、復帰した二人のことは何も言わなくて良かったのかな?」

放送を切るなり、背後で放送の様子を眺めていたアノンが声をかけてきた。
プライドは冷静に答える。

「構わないでしょう。計画の進行自体に影響はないでしょうからね」
「そんなこと言っちゃって、ホントは鋼の錬金術師を喜ばせるのがイヤなんじゃないの?」
「……私は仕事に私情を挟みません」
「アハハ、睨まないでよ、怖いなあ。冗談だってば」

降参のポーズを取って、一片の邪気もない笑顔を見せる。
プライドはそんなアノンを呆れたように眺めた。

「彼らが何をしようとも、運命は変えられませんよ。それに、どちらにせよ――」
「ふふっ。それどころではなくなる?」

そうです、とプライドは子供の姿に似合わない酷薄な表情で肯いた。

「まだしばらく先の話ではありますけどね。
 それに、思えば彼らの独断専行も、やはり収まるべき所に収まるように初めから定められていたのでしょう。
 趙公明――彼も、好き放題してはいるようですが、結局は規定の演目を踊らされているに過ぎません」

アノンは小首を傾げる。

「うーん、そうかな? 彼は全部解った上で踊っているように思えるけど」
「同じことです」
「違うよ」

はっきりとした反論。
純真な瞳で、プライドを真っ直ぐに見詰める。

それはとても大事なことさ。
生真面目な口調でアノンは言い切った。

1033 ◆L62I.UGyuw:2010/12/03(金) 06:59:34 ID:55qPILm60
以上です。

1034 ◆RLphhZZi3Y:2010/12/16(木) 23:50:51 ID:20X4foLM0
状態表のみさるさんくらいました。
こちらに投下します

1035明日の朝日がないじゃなし:2010/12/16(木) 23:52:10 ID:20X4foLM0
【B-8/波止場/1日目/夜】

【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:健康、ツッコミの才?
[服装]:帽子、セーター、ジーンズ
[装備]:九竜神火罩@封神演義
[道具]:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
    輸血用血液パック、やまぶき高校の制服、着替え数点
[思考]
1:二人と協力して、ゆのを保護する。
2:銀さんが気になる?
3:ヒロの復讐……?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
※ワープ空間の存在を知りました。

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(小)
[服装]:いつもの服装に黒革のジャケット
[装備]:和道一文字@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
    大量の女物の服、スクーター
[思考]
1:二人を守りながら、ゆのを探しに行く。
2:伊万里のボケに対し、対抗心
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※流とロビンを危険視。しばらく警戒をとくつもりはありません。


【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:大きめのパーカーにデニムのパンツ
[装備]:綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、太極符印@封神演義、改造トゲバット@金剛番長
    番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム
    若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、ロビンの似顔絵
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、柳生九兵衛の首輪、水族館のパンフレット、自転車、着替え数点、エイトのレプリカのパーツ数個

1036明日の朝日がないじゃなし:2010/12/16(木) 23:54:01 ID:20X4foLM0
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックと連絡を取ってなんとしてでも合流しておきたい。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:博物館を重視。封神計画や魔子宮などについて調べたい。図書館と旅館も同様。
4:送ったメールへの返信を待ち、探偵日記の主との直接交渉の機会を作る。
5:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
6:安全な保障があるならば封神計画関係者に接触。
7:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
8:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
9:安藤(兄)の内心に不信感。
10:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
   掲示板上の情報操作を行いたい。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)、銀時、沙英の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を最大に引き上げました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
 また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
 結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
 また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※島・それぞれがいた世界の他に第三のパラレル世界があるかもしれないと考えています。
※旅館の浴場とボイラー室のワープトラップの奇妙な関係に気づきました。



※博物館の入口に大穴が空いています。またナダレの剥製がその近くに転がっています。
※ひよのの携帯に、ミニチュア封神台の写真が入っています。


現地調達品

【帆船模型ゴーイング・メリー号@ONE PIECE】
博物館の展示物。
麦わら海賊団の初代帆船レプリカで、現物のおよそ1/3。
非常に狭いが船内に入ることはできる。
ちなみに植えられているのはただのミカン。

※ゴーイング・メリー号模型の耐久性については後続の方にお任せします。


「……沙英様、伊万里様、腹痛ェ……」
「「知りませんッッ!!」」

1037 ◆RLphhZZi3Y:2010/12/16(木) 23:55:36 ID:20X4foLM0
以上で投下終了です。

1038 ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:29:29 ID:m04NK6xM0
すみません、さるさんなのでこちらに仮投下します。
どなたか代理投下していただければ幸いです。

1039 ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:29:55 ID:m04NK6xM0
「この催事について、詳細を知っているものは元々多くない。
 私としても催事そのものが中断してしまっては元も子もないのでね。
 光栄に思いたまえ、お前は今まで通り進行を取り仕切ればいい。
 それだけで安全は保証しよう」

「ふざ……ッ、けるな!」

影を伸ばす。
自分が、ただ利用されるだけの傀儡でないと知らしめるために。

が――、

「よせ、お前はそこで無茶をできる性格じゃないだろう?
 たった一人で量も質も分からない我々に勝つ公算があるとでも?
 よしんば勝てたとて、催事が破綻してしまえばそれこそお前の存在価値など塵にも等しくなる。
 敢えて抵抗するにせよ、今は我々に従った方がどちらにとっても得だということくらい理解できるはずだ」

11thを庇うように、どこからともなく四角い容姿の男が現れ立ちはだかった。
……おそらく、先ほど自分を襲った輩だろう。

虚ろな瞳の奥を、見通すことは適わない。

「……戯言を」

言いながら、影で分厚い本を携えた男を取り囲む。
首を撥ねればそれでいい。虚言であると断じて執行す。

……しかし。
その確信は、意外な所から叩き斬られ霧消した。

「……いや、おそらく11thの言動は全部真実だろう。今のところはね。
 一つ心当たりがあるよ。
 先ほど私を取り押さえた面子のうち、眼帯をした大柄な男がいてね。
 なるほど、あの異能の力ならビーストさえ葬れるだろう。
 彼らは一つの共通意識に接続しているから、そこに干渉された訳だ。
 アノンも私に依存しすぎた分、一度折れると脆いだろうな」

くいくい、と、肩を動かし青年が少年を制止する。
後ろ手が縛られたままでなければ、きっと両手を使ったゼスチャーであったのだろう。

――青年は、滔々と疑問を述べる。

「しかしどういう事だろうね。
 本来ここにいないはずの人間なんだが、彼はここにいる。
 “セイバー”、“ウォッチャー”、“ハンター”のどれに採用した覚えもないよ?」

……ただし、その語調は全く不思議がっていない。
禿頭の男を見据える凪の湖面のように揺らがない視線も、事実確認にすぎないと語っている。

「難しい話ではないですな。参加者と同じ手段で調達すれば済む話です。
 分かっていて質問するとはお人が悪い」

ククク、と喉で笑いを噛み殺した11th。
虚勢染みた態度が不快で仕方ないと、少年は眼を一層細める。

1040JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:30:29 ID:m04NK6xM0
「……勝手な真似を。そうやって余分な存在を増やしたとして、どうやって手駒にしたんです?
 人形では戦力にはならないが、かのデウスでさえ不可能だった自我の付与をあなた如きが行えるはずがない。
 よしんばそれに成功したとて、小者染みたあなたの考えに賛同する者がいるとも思えませんが」

「ふむ。説明してやらねばならんか。
 単純な話だ。そこの男の首の後ろを見たまえ」

出来の悪い教え子に対する態度を演じるように11thの指先が示したもの。
それは。

「――洗脳装置、マインド・スナッチャー。
 自律行動できる程度の本人の人格は保ちつつ、思考に介入し脳内信号を操作する。
 ……電気信号で擬似的に魂――自意識を再現している訳ですか。
 結局はお人形遊びの延長でしかないと」

少年が呆れたように鼻白む傍らで。
先ほどと全く変わらない態度のままに青年は再度問いを投げかける。

「それを扱えるのはたった一人しかいなかったはずだね。
 そう言えば、首輪の開発にも関わっていた彼女はどうしたんだい?」

「ご安心を、彼女は寂しがり屋ですからな。
 いっぱいお友達を作れるように取り計らっておきましたよ、ククク。
 欲求不満も露わな“ハンター”の連中がきっと良くしてくれている事でしょう、
 なにしろ、あの忌々しい観測者どもに玩具を取り上げられてしまったのですから。
 そろそろあの小さい体と精神に溢れんばかりの歓迎を注がれている頃合いかと。
 あまりの悦びに壊れてしまわなければいいのですが」

そうやって、自分以外に洗脳装置が渡らないようにしたのだと、言外にその顔が告げている。
反吐が出る下衆だ、と、少年は歯を噛み締めた。

不意に。

「うん、だいたいのところは分かった」

青年は小さく頷き、平然と。

「それで……、真なる神になりたい、ということだけど、これからどうするつもりかな?
 ついでに私の処遇はどうなるのかも聞きたいね」

「この扱いを容認するとでも言うのですか!?」

声をあげて掴みかからんばかりの少年を、片手をあげて制する。

「タイム。少しばかり内緒話をさせてもらってもいいかい?
 なに、ほんの数十秒プライドの耳元に囁かせてもらうだけだよ。
 それだけで君たちにプライドも協力することになるだろう、どうかな」
 
「悪くない取引ですな」

さも夕食は何にしようかとでも言いだしそうな、軽いやり取りに激昂する。
詰め寄るプライドは、泡吹きながら混乱困惑がありありと。

「あなたは、この事態を一体何だと――、」

1041JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:30:55 ID:m04NK6xM0
「君たちの感知できない所で人材を調達したならば、動かせるのはそれ程多くないはずだ。
 ビーストのせいで実行を前倒ししたと言っていた以上は尚のことさ。
 逆転の目は十分残っているよ、だからこそ今は大人しくし、情報収集に徹すべきだ」

あたかもコーヒーブレイクの最中の噂話のように。
声のトーンは恐ろしいまでに落ち着いて。

「何故そんな事を言えるのです?」

……かすかな不信さえ心の内に湧き出すのを抑え、渋面を浮かべながら傲慢な少年は言葉を繰り出す。
盲目であることを、自ら望む。

「そもそもが、こうして反逆の可能性を留めたまま利用するくらいなら、そんな回りくどいことをせずとも君に洗脳装置を取り付けてしまえばいい。
 それさえ出来ずに技術者を闇に葬ったという事は、おそらく彼女自身が反抗したという事だろうね。
 心の機微に敏い彼女のことだ、相当早い段階で反逆の可能性に気付いたんだろう。
 だから、彼らの総人数は実際大したことはない。そして、これ以上の拡充もありえない。
 自信満々なようで内心は相当に張り詰めているよ、彼はね」

「……私を洗脳せずとも問題ないという余裕の表れでは?
 私以外のセイバーのうち、戦闘力の高いアノンはともかく■■■■は……」

……あれ。
今、自分は誰のことを挙げようとしたのだろうか。
疑問に固まる少年の様子さえ瑣末事と、一拍も置かずに青年は言葉を挟む。
少年が己のペースを取り戻さぬように。

「それはないだろうね。
 彼ら、いや彼の行動したタイミングを考えればすぐに分かる」

「あ……」

目を閉じ、俯き、思索に沈む。

「……そうか。彼らが決行に移ったのは、貴方が王族の庭城から戻ってきた直後だった。
 ですが、だとするならばタイミングがおかしい。
 反逆を決行するのであれば、それこそ貴方があの庭城にいる間にこそすべきでした。
 貴方がいなかった間こそが、命令系統の混乱を狙う意味で千載一遇の好機なのですから」

「そう、だが彼はその好機に行動しなかった。おそらく手足が足りなかったのだろうね。
 ……けれど結局、彼は私の帰還と同時に動いた。人員はまだまだ少ないだろうに。
 バックス自身が言っていたろう? 計画を前倒ししたと、ね。
 それをせざるを得ない“何か”が起こったのさ」

だから、11thの手足はこの期に至っても多くない。
そう断じてから、続く言葉は問いかけを。
誘導する。必然たる唯一解に至らせるために。
その言葉の奥を、悟らせぬために。

「では、どうして私が戻った後のこのタイミングなのだろうね?
 “何か”があったのは放送直後の定時連絡以前――場合によっては数時間前のはずなのにね」

何故、目の前の青年がその時間帯に“何か”があったことを確信しているのか。
その事に思い至ることなく、言葉を受けてプライドは濃密なる論理に耽溺する。

1042JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:31:22 ID:m04NK6xM0

「……分かりました。龍脈の調整だけは確かに終了させねばならなかったからですね。
 反乱にあたって最優先とされたのは、“セイバー”最大戦力にして最右翼の危険分子アノンの排除、
 そして“ウォッチャー”の監視能力の無力化。
 ですが、アノンを殺すことは貴方が王族の庭城にいる間に行うことはできなかった。
 それは……」

「そう、アノンが紅水陣を維持する事で、会場への龍脈の乱れの影響を留めていたからだ。
 催事を完遂させたい彼ら、いや、11thとしても龍脈の乱れを無視しておく理由はないのさ、むしろノウハウがない分だけ一層危険視しているんだろうね。
 だから私が龍脈の調整を終え、アノンが紅水陣を解除する直後まで待っていた、ということさ」

「……なるほど。ザジの不在に私達が気づくまでの猶予を考えれば、あまりにタイトすぎるスケジュールです」

合格だ、と言わんばかりに頷く青年を見つめる瞳にもはや疑念の色はなく――、
信仰という丸太が確かに、目を曇らせていた。

「もういいのですかな? そんな協議で大丈夫か?」

禿頭の男の問いが、現実を揺り動かす。
また、転がり落ち始める。

どんな形状の鉢であろうと、水を落とせば必ず一つ所に落ちていく。

「大丈夫だ、問題ない。
 それで、さっきの質問についてだが……」

あなたの処遇ですか、と。
どこか嘘にも似た含み笑いを伴い告げる禿頭は、

「なるほど、あなたは確かに誰にも殺せないでしょうな。
 アノンやビーストを屠った手段でさえ通用しない。
 否……、その手段を試そうとすると、何故かその段階に至るまでに悉く妨害が入り失敗に終わる」

チッチッチと指を振り。

「あなたの脅威は三つの力を持っていることですな。
 あなた自身のあまりにも強固な運命。
 デウスより受け継いだ、時間と因果を操る座。
 そしてデウスにさえ不可能だったはずの、魂さえも自在に操る技術を仙人の世界より学んだ。
 だが、それでも完璧ではない。
 こうして捉える事ができるのですからな」

そこで高らかに、高らかに。
自信と余裕に満ち溢れる様を、確認するかの如く哄笑する。
どこか不安など何もないと、自らに言い聞かせるように。

「……そう、これ程の力を持ち合わせておきながら、あなたは強すぎる自分の運命を、自分だけを思うように制御できないのですよ。
 デウスが、己の寿命をどうすることもできなかったように。
 あなたですら真なる神ではなく、こうして付け入る隙さえできている。
 だからこそ、この催事を開いたのでしょう?」

答えはない。
応えはない。

1043JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:31:54 ID:m04NK6xM0
「そういう事ですよ。ただあなたはここにいるだけでいい。
 全ての終わりまで、見ているだけで構わんのですよ」

静謐が其処に満ち満ちて、会談の終わりを無言が告げる。
青年は少年を見やると、こくりと頷き顎だけで扉の向こうを差し向ける。

意味するところを理解して、少年はのろのろと魂を抜かれたように立ち上がった。
服の裾を翻し、外へと向かう禿頭を追う。

部屋を出ようとしたその時に、微かに届く呟きひとつ。

「……安心したまえ」

「え?」

「なにも問題はない。小石一つとて、私の道の上には転がっていないよ」

……背筋が凍りついたような気がした。

まさか。
この男は、自分が運営の場から王族の庭城へ赴く理由を作るために、わざと参加者たちに龍脈を乱させたのだろうか。
ジョン・バックスに反乱を、今この時に誘発させるために。
……そして、■■■■の決死行を、その機に乗じて行わせるために。

それこそ、馬鹿げた話だ。
参加者の因果を直接書き換えれば運営に支障が出る。
読み通りというならば、初期配置からそれを見据えて駒を置かねばならないのだ。
そして、11thの愚行が後戻りできないまでに熟成する時節さえ見通していなければならないのだ。

しかしプライドには、間違いなくこの青年が自らの意志で以て“そう”したのだと思えてならなかった。


……故に。
後ろの青年を気にするあまり、幾度も幾度も振り返る。
だからそのことに気付かない。
前を行く男の表情と、震える握り拳の在り様に。

分かっていても、望まずとも、そう踊らされ続けるのだと。
枷を嵌められ懸糸傀儡に貶められた男の苦悩を、まだ。


あるいはその、最期まで。


**********


まだ底があるというのか。

男は自問し自答し自嘲する。
然り、然り。
腐肉と血反吐の汚泥の沼に果てなど終などあるはずもない。

1044JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:32:18 ID:m04NK6xM0
文字の通りに男は堕ちる。無垢な童を携えて。
暗い昏い闇の底からおぞましき白に煙る宙へと投げ出され。

……本の蔵から這い出でて、足を運んだその先の。
旅籠の郭に寝所を求め、纏うべき衣を拾わんと。
湧き出る泉に暖を取り、疲労を置いては追想す。

白い雪が全てを覆い隠すというのなら。
その成り損ないには何ができて何をもたらすのか。
過去を、目の届かぬほどに埋め尽くすことは叶わない。

気づけば娘の影は見当たらず。
半ば砕けた館に残る痕跡を追うより先に、この手からすり抜けた何かによく似たそれを、見出さんと動き出す。

……その折だった。
娘が居着いたその先に。
かつては、この湯治場を司ったと思わしきその一角から、零れ落ちたのは。

大穴だった。
どこへ続くとも知れぬ大穴が、其処にはあった。

穴の向こうは見通せない。
それでいて、闇に満ち満つふうでもない。

擦り硝子で鏡を作ったならば、斯の如くに見えるのだろうか。
鳥の目で見下ろす光景が、ぼんやりと霞んでいるかのようで。

それはまさしくその通り。
娘が穴に落っこちる。茶碗を手から滑らせたかのごとく、つるりと。ぬるりと。

――手を伸ばす。左の手。ぬくもりのない鋼の手。

考えるまでもなく、思うでもなく。

こぼれたものに届き届かせるように手を伸ばす。失われたもので。

「……あー」

とっくに掠れて風化したはずの何かを、諦めきれないから。

「う?」

そして男は、堕ちていく。
いつか穴の底を掬えるのだと、忘れられずに。

取り戻せないままの手を、伸ばす。


**********


畜生。
この高さじゃ……死ぬな。
神様々よ、訳の分かんねえ仕掛けを作りやがって。

みっともねぇ。
こんなくだらねぇ終わりかよ、この俺が。

1045JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:33:00 ID:m04NK6xM0
……お似合いかもしれねえな。
もう、復讐は永遠に完遂できねえ。
本当に守りたい女もここにはいねえ、そいつの紛いモンみてぇなガキがいるだけだ。
あの栗頭の妖精も……死んだとよ。
てめえとの旅も、嫌とは思わなかったぜ、パック。

何もやることが見つからねぇ。
ならよ。
ここで誰にも分からねぇようなミンチになっちまっても……まあ、悪くねえ末路だ。

……冗談。
復讐を取り上げて、あいつを、あいつらを奪った奴らにゃこの鉄塊をブチ込んでやりたいさ。確かにな。
腕の中のこのガキを、いるべき場所に放り出して来なくちゃあならなくもある。

煮えたぎる怒りは、確かに俺の中で黒く燻ってやがる。
こんな茶番を作り出した、全てにな。

だがよ。
……何か、俺の中で壊れちまったみてぇだ。

俺の復讐を奪った奴。俺の仲間を殺した奴。
そいつらを殺したくて仕方がねぇ。
今目の前に現れたら、全てを投げ打ってでも粉微塵に砕き潰してやるのは間違いねえ。

だってのに、不思議とそいつらを探そうって気が起きねぇ。
……自分から、何かをしたいと思えねえ。

   そいつは仕方ないだろ?
   いくら火種だけでかく燃え盛ってようが、導火線がぷっちり千切られてちゃ爆発はしないっての。
   ま……、爆薬がシケってなきゃあなんとかなるさ。
   
どうしろってんだ。
このままじゃあ地べたで潰れてお釈迦だぜ。

   は、こいつは特別サービスだ。
   本当はこんなことしてやる義理はないけれど、まあ、神をぶち殺すってんなら協力はしてやるわよ。
   だけどまあ、ほんの少しだけだ。あとはてめえで何とかしな。
   私もまだ目立ちたくはないし、それ以上に力自体がそんなに強くないんでね。

……やれやれ。
幻聴か、幽霊か。
つくづく得体の知らねえモンに好かれるな、クソッタレ。

   ……クソッタレ? 言いたいのは私の方よ。
   どういう理由か知らねえが、一番嫌ってたはずのこんなモンになっちまうなんてね、ったく。
   おい、てめえの左手に仕込んだそいつを地面に向かって突き出しとけ。
   他の補正だけはこっちでやってやる。

……まだまだ、死ねねぇ、か。
ここまでくたばり損い続けると笑えてくるな。

   ……だったら最後まであがき続けろよ、あんたはまだ生きてんだ。私と違ってな。
   も一つ土産だ。落ちた先辺りにいる女は、あんたの仇の一人だよ、色んな意味でね。
   じゃあな、自称死神。


**********

1046JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:33:25 ID:m04NK6xM0
星が二つ、天から落ちる。
金の光と黒の影。

重なる二つは軌跡を描き、傍目に溶けて一つの線に。

それを見つめる眼が二つ。
暗闇の中で爛々と。ぎらぎらと。

「人……? 空から、か。
 ……鳴海歩の共犯者のアイツ? まだ生きてたの?」

いかなる因果か。
黒の剣士は、光の鷹と間違われ。

――少女は、名を知らない。
自ら落とした光の鷹の、その栄光も。
彼の翼に絡めとられた、黒の剣士の因縁も。

少しばかり考えて、流星の落ちたその場所へ。
大切なもの、雪輝日記。
手にするための人質ならば、危険も危害も度外に能う。

それでなくてもすべきは単純。
隠れた雪輝に近づかせぬよう、いらぬ相手は排して除する。
ひとつ消しては雪輝のため。ふたつ消しては二人のために。


――因果は回る。

すべての発端の思惑さえ、もはや歯車ひとつに過ぎなくなろうとも。

組み上げられるは機械仕掛けの神。

その姿を知るのは、たった一人の男だけ。


【C-02東/市街地/夜】


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:上半身裸
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE、ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
    妖精の燐粉(残り25%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
0:衝撃貝を用いて落下の衝撃を吸収する。
1:運命に反逆する。
2:死んでいたとしてもグリフィスを殺すのを諦めない。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なぜヤツが関わっている?
5:工場に向かうのはひとまず保留。
6:競技場方面に向かう?
7:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
8:落下中に聞こえた声は一体――?

1047JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:33:58 ID:m04NK6xM0
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※左手の義手に衝撃貝が仕込まれています。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。

【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:記憶退行
[服装]:黒のジャンパーコート
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:???
1:うー?
[備考]
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。
※記憶を幼児まで後退させられています。


【C-01南東/市街地/夜】

【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ 点々と血の飛沫
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:支給品一式×8、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、
機関銃弾倉×1、
無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾0%・0%、0%・0%)@トライガン・マキシマム
ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、首輪に関するレポート、
違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾0発、ハリセン、
研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
閃光弾×2・発煙弾×3・手榴弾×3@鋼の錬金術師、不明支給品×3(一つはグリード=リンが確認済み、一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝を生き残らせる。
0:空から墜落した鳴海歩の関係者の可能性のある人物を確認する。接触するかは様子見。
1:天野雪輝を捜す。神社か灯台に行ってみたい。
2:雪輝日記を取り返すため鳴海歩の関係者に接触し、弱点を握りたい。
  人質とする、あるいは場合によっては殺害。
3:雪輝日記を取り返したら、鳴海歩は隙を見て殺す。
4:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
5:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
6:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を兄弟だとほぼ断定しました。
※秋瀬或と鳴海歩の繋がりに気付いています。
※飛刀は普通の剣のふりをしています。
※病院の天野雪輝の死体を雪輝ではないと判断しました。
 本物の天野雪輝が『どこか』にいると考えています。
※無差別日記は由乃自身が入力していますが、
 本人は気づいていません(記憶の改竄)


**********

1048JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:34:51 ID:m04NK6xM0
王族の庭城は、誰にその威容を汚されることもなく佇み続ける。
城門の豪奢な彫刻の、鋭い瞳が見下ろす下に佇む影一つ。

金の巻き毛のドレスの少女は、何一つ告げることなく沈黙に沈む。

と。

「……あら。勘のよろしいことですわね。
 いいえ、それとも私の事も見続けておられたのですか?
 はしたないですわね、淑女に取るべき態度ではありませんわ」

振り向けばそこに、銀の髪の少年一人。
幻想の光を抱く庭の向こうに霞み佇み揺れている。

少年の言葉は単刀直入、挨拶無視して核心へ。

「英霊、か。
 なるほど、確かにその通りだ。お前も含め、誰も嘘などついてはいないな。
 だからこそ、隠れ続けていられたわけか。
 そう言えばデウスとやらの力には記憶を移植する力もあったはずだな」

――無言。沈黙。少女は答えを返さない。
そして、呟くように不敵な笑みを。

「……仰っておられることが、よく飲み込めませんわね」

「大した変装術だ。警察に潜り込めるだけはある。
 だが、俺の前で取り繕うな。
 ……お前を動かす英霊は、今や黄金に溺れた王じゃない。そうだろう?」

「…………」

「お前はそういう役割の駒だ。一度死に、神の権能の一部だけを植え付けられた者。
 加えて――、自分が駒と分かっていても、それでもなお反逆を試みずにはいられない者。
 ……そうだろう? ミネルウァ――アテナの名を冠する再演者」

問いに問いが重ねられる。
花弁を舞い散らす風が吹く。

「気づいているんだろう?
 貴様は、貴様の本来の有り様を――誰かの手のひらの上で、予定に違わず繰り返しているにすぎないのだ、と。
 もっとも、見立てと再演は、この催事において多用される様式ではあるが……」

「そうだとして。
 私に、何を求めるつもりですの?」

塗りたくられた笑みは微動だにせず。
今か今かと言葉待つ。

「――流れに乗りながらも、逆らうことだ」

……上品な笑みが、とうとう歪んだ。
吊り上がった哄笑に。


**********

1049JUDAS ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:35:16 ID:m04NK6xM0
豪奢で狭いその部屋に。
虚空に呟く男が一人。

幻の枷を嵌められて。
偽りの囚人は、ただ口ずさむ。
朗じるように、気楽に、無難に。

「部族の数になぞらえ選ばれた十二人は、実は十三人であったことを知っているかい?」

十三。
それは、デウスのゲームに参加したプレイヤーの、本当の数。

「あまり知られてはいないのだけどね。
 銀貨三十枚を受け取った者が己の首を括ったのち、数合わせで加えられた一人がいるんだよ」

接吻すべきは誰か。
裏切り者は誰か。

「……もっとも。新たに加わった一人も含め、十三人のうち実に十一人の結末は殉教だったのだけれどね。
 先に荒縄で自身の命を絶った者も含めれば、十三人のうち天寿を全うできたのはたった一人だけ。
 黙示の書を――神の国の到来を預り綴ったたった一人だけなんだよ」

残るべきはただ一人。
上も下も、ただ一人。

オブジェクトの数は、十二と一。
四つはすでに消え去った。

――主の下に集うは十三人の十二使徒。
主の復活の伝道師。

「……さて。
 君たち十三人の中で、この書(神様のレシピ)を預かるのは誰だろうね?」

扉の向こうで耳欹てる、観測者へと届かせて。

1050 ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 16:35:54 ID:m04NK6xM0
以上で投下終了です。
問題点等ございましたらご指摘お願いしたく思います。

1051名無しさん:2011/01/04(火) 17:19:54 ID:VsRw4vaw0
さるさんです。状態表以降お願いします。

1052 ◆JvezCBil8U:2011/01/04(火) 23:23:26 ID:m04NK6xM0
代理投下確認いたしました。
実行してくださった方々に心底の感謝を。本当にありがとうございます。

1053 ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:46:38 ID:ctsJ.fF60
全回線規制中のためこちらに投下します。
すみませんがどなたか代理投下をお願いします。

1054A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:47:29 ID:ctsJ.fF60
最初の放送とは違い、あからさまなアクシデントが発生した訳ではない。
壮大なピアノの調べと共に滞りなく放送は始まり、以前の二回と同じく事務的な連絡と若干の挑発染みた発言があり、そして何事もなく終わった。
しかし、気付く者は気付く。

以前の二度の放送で流れたピアノの旋律は、音楽について嗜み以上のものを持たない聞仲にも判るほどに天才的な美を孕んでいた。
だが先程、三度目の放送で流れたピアノは、至極平凡な演奏だった。
微妙な違いだ。平時ならまだしも、この極限状態においては大抵の者は気付かないだろう。
しかしそれだけのことから、聞仲は『神』の陣営に生じた更なる不和を感じ取っていた。
この些細な異常が意味するところは、素直に考えればピアニストの不在だ。
名も知らぬピアニストは殺されたか、逃げ延びたか。

この事態を好機と捉えるべきだろうか。
それは違う、と聞仲は考える。

一日と経たずに、およそ三割まで減った人数。
ゲームの破壊を目指す者なら、誰もが焦りを隠せない状況。
そこに『神』の陣営に亀裂が入ったという推測が得られる。それも容易には気付かない手掛かりによって。

これは思わず縋りたくなる希望だ。
そして希望に縋る者こそが最も操り易い。
解っていても、人は希望を捨てられないものだから。

おそらく『神』にとっては、不和を感知されることすら織り込み済みなのだ。
でなければ、王天君に関する顛末の説明が付かない。

王天君は、聞仲とうしおの目の前で、まるで見せ付けるように処刑された。
王天君のあの表情。何度も目にしたことのあるあの表情。
嵌められたことを悟ったときに、誰もが見せるあの表情。
あれは断じて演技などではない。
自ら口走った通り、彼もまた駒の一つに過ぎなかったのだろう。

『神』は王天君を――いや、聞仲や妲己すらも手玉に取る悪魔的な能力を持っている。
そう仮定すべきであり、ここまでの全ては『神』の思惑通りであると考えるべきだ。

思惑通り。
混迷を極めるこの事態が。
大軍と大軍の衝突とは違う、個々人がそれぞれの思惑で動くこの状況が。
果たしてそんなことが可能だろうか?

1055A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:48:27 ID:ctsJ.fF60
可能なのだ。聞仲はそれをよく知っている。
もっと大雑把かつ単純とはいえ、聞仲自身も似たようなことを考え実行したことがあるのだから。

つまりこの場で起こっていることは、ホッブズ的混沌が招いた殺戮ではない。
無臭ではあるが――いや無臭であるが故に、却ってある種の者には嗅ぎ取れる、そんな計画性を孕んだ殺戮だ。

不自由な選択肢を次々と与えることで、思考を限定し、行動を操作する。
単純な一つ一つの思考と行動は、他者の選択に干渉し必然として次の選択肢を創り上げる。
かくして一見混沌そのものにしか見えない状況は、高度に複雑精緻なチェス・プロブレムの様相を呈する。
盤面の駒はただ自らの能力に従って動くのみである。
どう足掻いたところでビショップは直進出来ないし、白のポーンが昇格するには黒のバックランクに到達しなければならない。
達成すべき解答条件も含めて全容を把握出来るのは、全てを俯瞰する者だけ。

さて――かつての聞仲は、最短手順による全ての駒の排除を解答条件として設定した。
では一体、『神』はいかなる解答条件を設定しているのか――。


***************


「聞仲さん、何処行くんだよ。そっちは――」

背後から戸惑ったうしおの声が聞こえる。
聞仲は病院へ行きたいと言ううしおの意思を確認すると、すぐさま診療所の中へと向かった。

「病院への近道がある。おそらくはな」

待合室を横切って非常口の扉を開く。
後ろから付いて来ていたうしおが目を丸くした。

「ここは……」

本来なら外部へと繋がっているはずの扉の向こうには、地下へと延びる暗い階段があった。
冷やりとした空気が流れ出す。

「放送の前に少々調べた。罠がないとも限らないため、深入りは避けたが」

1056A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:49:02 ID:ctsJ.fF60
でもこれがどうして近道、とうしおが言いかけたところで、聞仲はコンパスを取り出した。

「これを見ながら付いてくるといい」

頭に疑問符を浮かべるうしおにコンパスを見せながら、ゆっくりと階段を下りていく。
すると、コンパスは徐々に、しかし不自然に回転していった。
階段の終わりまで下りると、聞仲はコンパスを仕舞って短く言った。

「――こういうことだ」
「……え……っと……ごめん、よく解んねえや」

しゅんとなるうしお。
聞仲は教師の笑みを作ると、うしおに問いかけた。

「ふむ、そうだな。ではコンパスとはどういう道具だ?」

急に訊かれて、うしおは首を捻った。
少し考えて、自信無げに答える。

「えっと、それは……方角を知るための道具、だよな」
「そうだな、正解だ。正確に言えばその場の磁力線の向きを感知する道具なのだが――それがこの扉を境に大きく変化している。
 簡単に言えば、この扉を境に『北の向きが変わっている』のだ」
「そんなこと……あり得るのか?」
「現にある、としか言えないな。付け加えるなら、診療所の外には非常口の扉は存在しなかった」
「え? どういうことさ、そりゃ?」
「こう考えるしかあるまい。非常口の扉の内外は全く別の場所だ、とな。そしてもう一点」

少し進んでから立ち止まり、通路の半ばの壁にあった金属製プレートを撫でる。
プレートには、前方を指した矢印と、『開発棟』という文字が彫り込まれていた。

「地図にある施設の内、開発棟などというものがあるのは研究所くらいだろう。
 もしこの通路が研究所に繋がっているなら、病院までの道のりをかなり短縮出来る。
 万が一違ったとしても、診療所以上に病院から離れた場所はそうはない。
 故に、一刻も早く病院へ向かうなら、まずこの先へ進むのは悪い選択ではないと考えられよう」

そう簡潔に説明すると、聞仲は再び歩き始めた。
ぽかんとしていたうしおだったが、数秒後に慌てて聞仲に従って歩き出した。

1057A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:49:42 ID:ctsJ.fF60
しばらく進み、突き当たりの扉を開くと、診療所の敷地程度はありそうな部屋に出た。
天井に明かりはあるが薄暗い。化学薬品がいくつか混じり合ったような独特の臭いが鼻を突く。
通常の工具と共に、何に使うのか判らない機材がそこかしこに積まれている。
左手の壁に案内図を見付け、聞仲は近付いて確認する。

「……どうやらここは研究所で間違いないようだな。出口は向こうだ」

聞仲は次の部屋へと続く金属扉に顔を向ける。

「う〜〜〜〜ん……」

ふと見ると、難しい顔でうしおが唸っていた。

「何があった?」
「うん、その、やっぱり聞仲さんは凄えなあ、と思ってさ。オレなんかじゃ、とてもこんな上手いこといかねえよ。
 早く病院に行かねえと、って気ばっかり急いでてさ」

聞仲は微笑した。

「そう自分を卑下するものではない。私も若い頃はよく焦って失敗したものだ」
「焦って失敗する聞仲さんかァ……」

想像出来ねえなあ、とうしおはまた唸る。

「若い頃は皆そんなものだ。恥じる必要はない。
 ただ――いいか、うしお。どんなときでも浮き足立ぬよう心掛けろ。冷静に、よく考える癖を付けることだ。
 そうすれば、自分の能力を間違った方向に使うことだけは防げるようになる。
 それでも足りない部分は、先人に助けて貰いながら一つずつ身に着けていけばいい。
 さあ、先へ進むぞ」

そう――常に冷静を心がけねばならない。聞仲はうしおよりもむしろ自分自身に言い聞かせていた。
これからきっとピアノ線よりも細く蜘蛛の糸よりも複雑に捩じくれた死線の上を走り抜けることになる。
それは確信に近い予感であり、ならば最悪の場合において『たったひとつの冴えたやりかた』を選び取ることが彼の責務である。
たとえそれがうしおの望まないことであったとしても。

かつ、かつと二人の足音が開発棟を移動する。

1058A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:50:32 ID:ctsJ.fF60
『神』の目論見を打ち破れる者がいるとするならば、それは自分ではないと聞仲は思う。
力を武器とする者はより大きな力に呑み込まれ、理を武器とする者はより強固な理に制される。
これは古来より不変の、ありとあらゆる戦の掟である。
だが、仙人界を滅ぼす寸前で、最大の力と最強の理を兼ね備えた聞仲を止めたのは、それらとは異なるものだった。
『神』にすら届く、力とも理とも異なるものを生み出すには、聞仲はきっと老い過ぎている。
うしおのような者こそが必要なのだ。

しかし。
しかし、その考えもまた――打算という理だろうか。



かつり、と一際高い音を最後に、背後の足音が止まった。

「どうした?」

聞仲も次の部屋に繋がる扉の前で立ち止まり、訝しげに振り返る。
うしおは応えない。疑問と驚愕と、そして若干の恐怖を顔に貼り付けて、視線を壁際の暗がりに注いでいる。
釣られるように、聞仲の視線も壁に移動する。
壁に並ぶ物は夥しい数のガラス容器。
その中身を認識して、聞仲は眉を顰めた。

「これは……」

ここは『開発棟』。
当然、何かを開発する施設であるはずだ。
ここで開発されていたらしきもの。
それは。

「……っぱり、白面が? でも、何で――」

掠れた声が響く。
ずらりと並んだ容器にゆらゆらと浮かぶ物。
四角いガラスの向こうに。
まるで展示物のように。
夥しい数の――人間の、赤ん坊が。
出来損ないの、赤ん坊が。
ゆらゆらと。

「何で――何でこいつがッ……こんなトコにあるんだよッッ!」

1059A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:51:20 ID:ctsJ.fF60
それは山上の廃病院、『囁く者達の家』でうしおが目にしたもの。
西洋の魔術に魅せられ白面に弄ばれた天才僧、引狭が遺した研究、その一つ。
『マテリア』と呼ばれる究極の法力人間を生み出す魔術の結晶。

ただ。
ただ一つ、うしおの記憶との違いがあった。
それは名前。
囁く者達の家で誕生した者の名はキリオ。
だが今、うしおと聞仲の前にある全ての容器の下には、こう記されていた。



『ユノ』――と。


【F-5/研究所(開発棟)/夜】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:精神的疲労(中)、左肋骨1本骨折
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[思考]
基本:殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
0:何でこんな物が?
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。
3:とらと合流したい。とにかく速攻で病院へ行く
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:聞仲に尊敬の念。
7:金光聖母を探す。
8:字伏(潤也)の存在にショック。止めたいが……。
9:白面を倒す。
10:キンブリーに留意。いい人でもなければ悪い人でもないっぽいけど……
11:余裕があるのなら小学校に行ってもいい。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
 とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。

1060A Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:51:48 ID:ctsJ.fF60
【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)、背に火傷(小)
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモを大量消費)、不明支給品×1、首輪×4(ブラックジャック、妙、妲己、雪路)、
    胡喜媚の羽、診療所の集合写真
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
1:妲己の不在を危険視。何処にいるかを探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:2のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。特にエドと合流したい。
5:流に強い共感。流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:幽世の存在に疑問。封神台があると仮定し、その存在意義について考える。
8:獣の槍を危険視。
9:キンブリーを警戒。
10:ここまでの出来事は『神』の思惑通りと推測。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
 爆薬(プラスチック爆薬)についての情報。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること。
※幽世の存在を認識しました。幽世の住人は参加者や支給品に付帯していた魂魄の成れの果てと推測しています。
 また、強者の魂は封神台に向かったのではないかと考えました。

1061 ◆L62I.UGyuw:2011/02/11(金) 23:54:12 ID:ctsJ.fF60
以上で投下終了です。

それと大したことはないのですが、腕を怪我してしまいました。
そのため修正その他の対応が遅れる可能性がありますが予めご了承下さい。

1062喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:49:49 ID:9Kvq5J5A0
誰もが、絶望の坩堝の中で足掻いている。





ガッツという男の話をしよう。

男は、ただ自分の居場所が欲しいだけだった。

関係性の構築。
認めて欲しい相手に、友情や、愛情や、信頼を持って認めて貰う。
それが個人と社会との結びつきとなり、人は自分の居場所をそこに定める。

それは連綿と受け継がれてきたヒトの営みであり、
誰もがよりよい形を渇望して止まない社会的欲求だ。

だが、ガッツは何も国の頂点を目指すなどといった、類稀な夢を抱いていたわけではない。
誰もが当たり前に持っているような、そんな普通の絆が欲しかっただけだ。

たとえば、親子だとか。
たとえば、恋人だとか。
たとえば、友人だとか。

だが、そんな欲求の充足を得た事は一度もなかった。
手に入ったかと思えば、それは簡単にガッツの掌から零れ落ちて行った。

ガンビーノには、銀貨三枚で売られた。
キャスカは、もはやガッツを受け入れてはくれない。
そして――グリフィス。
向き合う事すら出来ぬまま、彼はガッツの前から消えてしまった。

復讐すらも、彼の掌からは零れ落ちて行く。
何も掴み取る事が出来ずとも――なおも彼は、剣を振るい続ける事が出来るのだろうか。





「ここは……」

夜の街並みを明るく照らすのは、ライトと呼ばれる科学の光だ。
ガッツはその事を、この地での最初の同行者であるブラック・ジャックから学んでいる。
その光に照らし出された街並みには、見覚えがあった。
落下している最中、ブラックジャックたちと別れた巨大な建物が見えたのである。

「結局、何も出来ずに戻って来ちまったな……」

岩石を削って出来たような巨躯が、肩を落として小さく俯いていた。
頼りなく伸びた己の影を見詰めながら、ガッツはここまでの道のりを思い返していた。

グリフィスを追ってブラック・ジャックたちの元を飛び出してきたというのに、彼の影すら踏む事が出来なかった。
こんな結果になる事が判っていたのであれば、彼らの元に留まっているべきだったのだろうか。
そうすれば、昼の放送で彼ら四人の訃報を纏めて聞くような事もなかったかもしれない。
大方、忠告も虚しく胡喜媚なる少女のなりをした化け物にやられたのだろうが、彼女もまた先の放送で呼ばれていた。
もはや仇を取ってやる事も出来はしない。

1063喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:51:06 ID:9Kvq5J5A0
しかし、あの医師は復讐という行為に対して、達観した境地を持っていた。
そんな事をしても、喜びはしないだろう。
妙という女も、増田を殺した化け物を恨むより、殺し合いその物に立ち向かう事を考えていたように思う。
たった一人の弟の訃報を聞いた時も、復讐に走るような言動はついぞ聞かなかった。
二人の少女については、その人となりを知る時間すら持たなかったが……。

  『復讐を否定はせんよ。そうしなければ、前に進めないという事もある。
   だが、それ以外の方法でも過去は精算出来る。
   おまえさんの目の前には、常に別の道もあるということだけは忘れずにいてくれ』

「オレにはわからねーよ。《黒ずくめ》先生よ……」

復讐は叶わずに終わった。
青天の霹靂とも言える、グリフィスの訃報。
あれほど憎んだ男が死んだのだから、自らの手で成し遂げた事ではないとはいえ、少しは晴れやかな気分になるはずだ。
あの過去を乗り越え、これからの事を考えられるはずだ。

しかし、ガッツの胸を穿ったのは、極度の喪失感だけだった。
それは、自分の手で直接グリフィスに鉄塊を喰らわせる機会を失った痛みなのか。
それとも、自分の真の望みは、グリフィスの『死』ではなかったとでも言うのか。

……ともかく、ガッツに判ったのは、グリフィスの『死』では過去を清算出来そうもない、という事だけだった。


建物のひさしの下に佇むガッツの頭に、横風に乗って吹き付けるみぞれが付着する。
水気をたっぷり吸収した、綿のようなそれを振り落とす事もせず、ガッツはこの一日の追憶を続ける。

昼の放送で聞いた名は、彼ら四人だけではない。
あのデパートで共に戦った卑怯者コンビと、そして敵対した妲己や剛力番長(白雪宮拳)。
名は判らないが、自分が殺した少年もその中には含まれていたはずだ。

あの戦場で多くの人間が散っていき、そして自分だけがなぜか生き残った。
あの蝕で、自分だけが生き残ったように……。
それは、こんな結末を自分に見せる為だったのだろうか。
ガッツは生身の右手を強く握り締める。

(そんな訳がねぇ……こんな未来を見る為に……オレは剣を振るってきた訳じゃ……)

その後も、ガッツを取り巻く環境は変わらなかった。

鈴子・ジェラード。
自爆した少女。
最後に見せたあの儚い微笑みは、誰に向けられたものだったのか。

ナイブズと、その連れの女。
少しだけシンパシーを感じた、乾いた男。
ヴァッシュという男を探し求めていたようだったが、その男の名が呼ばれた事を奴は今、どう感じているのだろうか。

頼みもしないのに様々な人間がガッツに関わってきて、そして去って行った。
だが結局、誰とも手を結ぶこともなかったし、あるいは自らの手でその機会を振りほどいて来た。
グリフィスと並び立てる男になろうと、鷹の団を飛び出した時と一緒だ。
そこに出来ていたかも知れないささやかな居場所を蹴って、ただグリフィスに並び立とうと我武者羅だったあの時と。
それは、こんな結末を迎える為か?
復讐の炎が容赦なく消された時、ガッツの元には何も残っていなかった。


――こんな事なら。
――こんな事なら。あの時。

1064喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:51:45 ID:9Kvq5J5A0
降り積もる後悔は、雪のように。
有り得たかも知れない可能性は、その可能性の分だけ後悔の念を深くする。
結局、ガッツに残されたものは――。


「うー?」

鋼鉄の義手に、細い少女の腕が絡み付く。
名も知らぬ、金髪の少女。
せっかく温泉で暖めた身体を、カタカタと寒そうに震わせている。
寒さを凌ぐような知恵は、この路地裏で拾った少女からは喪われている。
あそこでガッツが手を引いてやらねば、何も分からないまま野垂れ死にをしていただろう。

――あるいは、そんな死に方も、そう悪いものでは無かったのかも知れないが。
湿り気を帯びた金髪を、掌で撫でつけてやりながらガッツは思う。

この少女が、こんな風になってしまったのには、相応の出来事があったはずだ。
その壮絶で、凄惨であろう記憶を取り戻してまで生きていく。
そんな生き方を強いる事は誰にも出来ないし、かといってこの状態のまま生きていく事も不可能だ。
特に、こんな場所では。
だから全てを忘却したまま、眠るように死んでいけたなら、それは神の与えたせめてもの慈悲とも言えるのかも知れない。

しかし、ガッツはその頼りなげな命を、拾ってしまった。
ガッツの内に芽生えたつまらない感傷が、彼女を見捨てる事を許さなかった。
女を守りながら、グリフィスを追う。
そんな器用な真似は、自分だけでは出来ないと判っていたのに。

「だぁー、だぁー」

そんな事をガッツが考えている事もおかまいなしに、少女はガッツの義手をべたべたと触る。
どうもこの少女は、普通の人間なら怖がるこの鋼鉄の腕がお気に入りらしく、触っていると上機嫌になるのだ。
少し興奮しているのか、生まれたばかりのように柔らかそうな頬っぺたが、うっすらと桃色に染まっている。

「チッ、止めろって。こいつは危ねぇんだ」

しかし、先程までならともかく、今のこの義手にはとんでもないエネルギーが吸収されている。
自分と少女と剣、合計で数百キロを超えるだろう重量が、空の上から落ちて来た時の衝撃の全てを、
この腕に仕込まれた衝撃貝は呑みこんでいるのだ。
そんなものを解放してしまったら、その衝撃はあの『番長』の攻撃力を解放した時よりも凄まじい事になるだろう。
学のないガッツでも、その程度の事は想像出来る。

だからやんわりと振りほどこうとしたのだが、意外と力のある少女はガッツの義手を抱き締めるようにして離れようとしない。
少女の身体ごと持ち上げて、振り回してもだ。
その内、ガッツの腕に振り回される事自体が楽しくなってきたのか、少女はあどけない笑顔でうー、うーと唸る。

「……テメェ、は・な・せってのっ……遊んでやってる訳じゃねーんだよ」

腕を持ち上げ、顔を突き合わせてメンチを切る。
一瞬、きょとんとしたような少女であったが、牙を剥いたガッツの顔が可笑しかったのか再び破顔一笑。
そんなのれんに腕押しをするような少女の反応に、根負けしたように顔を背けるガッツであったが、なんの邪気もない笑顔を見て
つい、ガッツの頬も綻んでしまう。

笑顔。
それはガッツが、キャスカに与えてやりたいと思っても、一度も与えてやれなかったものだった。

(ったく、あいつの代わりなんかじゃねぇんだぞ……)

自分への欺瞞だと判ってはいるが、今となってはこの少女を守ってやる事だけが、ガッツに残されたたった一つの責務だった。
死すべき運命だった少女の手を、自ら引き上げたからには最後まで面倒を見る責任がある。
少女一人分の身体の重みが、今のガッツに僅かながらの活力を与えていた。

1065喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:52:29 ID:9Kvq5J5A0


――否。やらねばならない事は、もう一つだけあった。

サクサク、ぴちゃぴちゃと、まだ見えぬ闇の向こうから、雪と水でぐちゃぐちゃの道を駆けて来る足音が聞こえてくる。

「おいでなすったか……」

一人ごちるように呟きを漏らすと、ガッツは音の響く方向に視線を向けた。
先程の幻聴じみた、不思議な会話を思いだしながら。





それは天から墜落している際に聞いた、夢か幻のような声だった。

   も一つ土産だ。落ちた先辺りにいる女は、あんたの仇の一人だよ、色んな意味でね。
   じゃあな、自称死神。

  「……待ちやがれっ! 仇、だと――?」

ガッツにとって、仇と言えばグリフィスただ一人だ。
この島でのしがらみはガッツにとっての仇を数多く増やしているが、わざわざこうして言ってくるからには
自分にとって縁の深い相手だろう。

パックを殺った奴か……? それとも――。

脳裏に浮かんだ小さくて陽気な妖精の顔は、しかし一瞬の後にグリフィスの大きすぎる姿に上書きされてしまう。
それも鷹の団の時代の、自分に轡を並べて笑いかけて来るグリフィスの姿でだ。
思いだしたくもない事を思い出してしまい、思わずガッツは舌打ちを漏らす。

冗談。アイツの仇をオレが討つ、だと?
それは仇討ちなんかじゃねェ。
アイツを殺った奴をぶちのめすってんなら、それはただの八つ当たりだ。
オレから復讐を奪いやがったからブチ殺す。ただ、それだけの事だ。

    はい――、どっ――も構わねーよ。ともかく――つが――えの……

ノイズが酷い。
地表が近付くにつれ、声は聞き取りにくくなっていく。

   「おい……、おい!」

    そい――名――――ユノ――――

ユノ。なんとか聞き取れた音は、人の名のようにガッツの耳に響く。

   「ユノ――その女が、アイツを殺ったってのか!?」

応えはない。
もはや地表は視界を覆い尽くさんばかりに広がっていき、ガッツは腕の中の少女を強く抱き締める。
そして――。




1066喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:53:24 ID:9Kvq5J5A0
あの声が言っていた事が本当なのかどうか、ガッツには判らない。
魔女が持っているような、不可思議な力。恐らくあの声の主は、この殺し合いに関わる者たちの一人なのだろう。
ならば、自分たちにとって都合のいいように、ガッツを動かそうとしている可能性だってある。
常のガッツならば、こう言い放っていたかもしれない。


うるせェ、ほっときやがれ。
と。


いくら助けられたと言っても、姿も現わさない怪しげな女の言葉など、素直に信じるガッツではない。
それをこうして、声の導きのままに行動してみる気持ちになったのは。

グリフィスを追うという指針を失っていた事もあったが、腹の底に溜まったうっ屈した気分。
それを吹き飛ばせるような相手が現れるのを、望んでいたのかもしれない。
あのグリフィスを、殺したかも知れない女。それはきっと、全身の血が沸騰するほど強い相手のはずだ。
それはあのデパート前で会った妲己のような妖女か、はたまた剛力無双を誇った、あの『番長』の如き鉄の女か。
ガッツは、闇の向こうを見据えながら、その女をじっと待つ。


どちらでもなかった。
みぞれの降る中、闇から抜け出てきた少女の顔立ちは、下手をしたらガッツの腕にしがみつく金髪の少女よりも幼いかもしれない。
我妻由乃。
長く伸ばされた髪の毛は、可愛らしく二つに括られている。
全身ずぶぬれの臙脂の服装には、見覚えがあった。

そう、あれは確か、オキタの知り合いの銀髪の男と一緒にいた、眼鏡の少女が着ていた服だ。
同一の仕立てで縫製された制式の服を着ているという事は、同じ組織に所属する人間である事を意味している。
あの眼鏡の少女は、どこからどう見ても普通の小娘だった。
だとすれば、この少女もごく普通の人間なのだろうか。

「テメェが……ユノ、なのか?」

うっ屈を晴らすような、派手な戦を期待していたガッツの心が、困惑と失意。そして落胆に揺れる。
しかし、それはガッツの一方的な思い込みからきた落胆だと言えるだろう。

あの声の主は思わせぶりな発言に終始して、ユノがグリフィスの仇だと明言したわけではない。
あるいは、パックの仇かもしれないのだ。
パックならば、普通の少女だろうと殺す事は難しい話ではない。
むしろあの人のいい妖精は、普通の少女にこそ無警戒に近寄っていって、殺されてしまいそうなイメージがある。

ただ、ガッツの心情として、普通の小娘などと戦いたくはなかった。
いくらパックの仇だとしても、このくそったれの殺し合いの中で、やりたくもない殺しに手を染めたのだとすれば、それは――。


しかし、そんな動揺に乗ずるように、制服の少女は手にしていた奇妙な形状の物体をガッツに向ける。
その物体の正体を識別するよりも早く、全身を突き刺すような殺気に反応したガッツの肉体は防衛反応を示した。
鉄塊の如き巨剣ドラゴンころし。
攻撃においても、防御においても、もっとも信頼する大剣を身体の前面にかざして盾としたのだ。

そして分厚い鉄の塊に、重たい衝撃が連続して叩きつけられる。
やや遅れて、耳をつんざくような硬質の砲音が、それまでの静寂を引き裂いた。
ここに来てガッツが初めて体験する近代兵器。
二丁の機関銃ダブルファングによる銃撃であった。

「私の名を――やっぱり、あの男の仲間か!? お前なんかにユッキーはやらせない!!」
「あの男……だと!?」

1067喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:54:09 ID:9Kvq5J5A0
耳が痛くなるような凄まじい銃撃音と、それを弾く鋼のシンフォニー。
一瞬にして街角に立ちこめる硝煙の臭い。
そんな中でも詰問するかのような、少女の甲高い叫びはよく通る。
攻撃の正体を見極めるべく、大剣の影に隠れていたガッツが、隻眼を見開いた。

あの男の仲間と、そう言ったか。
それはもしや、グリフィスの事か。
オレがアイツの仲間だと、そう思っているのか?
……いいぜ、いきなり仕掛けて来るような、分かりやすい奴は嫌いじゃねェ。
テメェにも牙があるってんなら……遠慮は抜きだ!

ガッツの中で、漆黒の獣が頭をもたげる。
解放される時を待ち焦がれていたかのように、それはガッツの意識に一瞬で同調して――


「うー?」


無垢な少女の声によって、引き戻される。
突然の轟音に身をすくませた少女は、周囲で何事が起きているのかを確かめようとガッツの身体の影から頭を出していたのだ。

「バカ野郎ッ! テメェなにしてやがる!!」

怒鳴って、慌てて少女の顔の前にかざした義手に衝撃が走る。
飛んできた銃弾が小手の曲面を少し削って、明後日の方向へと弾かれていた。

ガッツはすぐさま少女の金髪を義手の指に絡め取り、地面へと引き倒す。
生身の腕は生命線である大剣を握って離せないし、鋼鉄の腕は少女を優しく扱えるようには出来ていない。
叩き付けられるような勢いで、少女の身体はアスファルトの上に倒れ伏す。

「あうっ」

痛みに顔を顰めた少女が、ガッツを恐れたような眼で見やる。
自身も少女を庇うように窮屈に身をかがめながら、ガッツは心の中で怒鳴っていた。

マヌケ! またか。またオレは――。

図書館で、ゾッドを相手取った時の反省がまるで生かせていなかった。
戦いになると分かっていたのなら、少女をどこか安全な所に隠しておくべきだったのだ。
それを、何を呆けていたのか、漫然と時を過ごしてしまった。
いくら悔やんでも、今更どうにもならない痛恨のミス。

そうしてガッツの心に又一つ、緩やかに、深々と雪が降り積もる。
後悔という名のそれは、重々しく圧し掛かるぼたん雪のようで。
たった一人でそれを支えるガッツの膝は、崩れそうになってしまう。

しかし、そんな後悔に沈む間もなく、敵の攻撃は続く。
大剣の守りに業を煮やしたのか、我妻由乃はその剣の反対側に落ちるように、手榴弾を投げ入れたのである。
その、防御の手薄な所へと投げ込む小さな道具の運用法に、覚えがあった。

「――炸裂弾か!?」

ガッツは、折り曲げた義手の指を、少女の外套の襟にひっかけて逃げる体勢を取る。

しかし、その場を一歩も動けないまま――次の瞬間ガッツの傍に落ちた手榴弾は爆発していた。




1068喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:54:51 ID:9Kvq5J5A0
ここで少し視点を変えて、我妻由乃という少女の話をしよう。

少女は、ただ自分の居場所が欲しいだけだった。

酷い折檻を加えてくる鬱病のママに、優しくして欲しかった。
家庭を顧みず、仕事から帰ってこないパパに、助けてほしかった。
孤児だった由乃を家族に迎え入れてくれた二人と、いつかは分かり合いたかった。

いや、二人に限らずとも、自分を迎え入れて必要としてくれる人間なら、誰でも良かったのかもしれない。
自分と同じように家族の問題を抱えた少年と、子どもみたいな結婚の約束をした事もあった。
大人になったら、お嫁さんになってあげる、と。

だが、少女と少年は、世界の命運を決める戦いのプレイヤーに選ばれてしまった。
それはたった一人しか生き残る事が出来ず、それを拒めば世界は滅亡するという過酷な戦いだった。

抗った。
戦って、殺しまくって、恋人すらも騙し抜いて。

最後に得たのは、絶望だけだった。
手に入れた、神の力ですらも由乃の願いを叶えてはくれなかった。
神でさえも、絶望の螺旋からは逃れられない――。

その宿命を知った後でも、由乃は抗った。
因果律を紡ぐ神の力を、自身が選んだ代行者に委ねてまで。



今度こそ、雪輝との幸せな未来が手に入ると思っていた。
再び、雪輝ともども戦いの運命に巻き込まれるとは思っていなかった。

デウスの代行者は、既に在るのだ。
新たな神を決める戦いは、二度と起こる事はない。
あの男が勝手な事をしないようにと、目付役の使い魔もつけてある。

ならば、こんな戦いが起こるはずがないと、少女は自分の記憶を改竄した。
自らのミスを認めず、これは未だデウスを決める戦いの途中で巻き込まれた戦いなのだと思いこもうとした。
まだ自分は失敗してなどいない。
全ては、これからなのだと。

だが、もはや世界を繰り返す円環の理は、由乃を新たな世界に導いてはくれない。
全てをやり直すには、デウスの代行者たるあの男を倒し、再び力を取り戻すほかはない。

そんな事すら忘れたまま――なおも少女は、運命に抗い続ける事が出来るのだろうか。





天空から墜ちる流星。
鳴海歩と共にいた、あの空舞う鷹が再び現れたかと、由乃はその光が墜ちた場所まで走っていく。

降りしきるみぞれを、気にも留めず。
我妻由乃が気に懸けるのは、天野雪輝の身の安全だけだ。

鳴海歩に奪われたままの雪輝日記であったが、実はこれを破壊される事を由乃はさほど恐れてはいない。
別に死ぬのが怖くないわけではない。
日記所有者に死のペナルティが課されるのは、未来日記を破壊される事で、所有者の未来をも破壊されてしまった時。
それを考えると、由乃には裏技とも言えるアドバンテージがあるからだ。

1069喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:55:46 ID:9Kvq5J5A0
一周目の世界と、二周目の世界。
二つの世界を繰り返して、二つの雪輝日記を手に入れた我妻由乃は、どちらか片方だけなら破壊されても死ぬ事はないのだ。
どちらも由乃の未来を記述する、由乃の日記である事に変わりはないのだから。
もし、鳴海歩がそのペナルティを当てにした作戦をとってくるのであれば、由乃はそれを逆手にとって鳴海歩を倒すつもりだった。
もっとも、もう一つの雪輝日記が手元にないのだから、100%安全とは言い切れないのだが。


しかし、雪輝日記の、その本来の力を利用されては打つ手なしだ。
雪輝本人の事を予知出来ない無差別日記に対し、雪輝日記は天敵とも言える日記だ。
鳴海歩がもしその力を使って、雪輝を襲撃してきたなら防ぐ事は難しいだろう。

それに今、なぜか雪輝は由乃と別行動を取っている。
もし、あの鷹が降りた所に雪輝がいたのなら……。

「待っててユッキー! 今行くから!」

駆ける双脚は軽やかに。
しかし目的地付近の街灯に照らされる二人組を発見して、その勢いは緩む。
雪輝がその場にいない事は、一瞬で分かった。

一人は前髪が一房だけ白髪になっている、半裸の男。
鳴海歩や、あの鷹の男とは似ても似つかない強面の大男だ。
こちらを隻眼で睨むその顔付きは、見るからに強そうではあったが、由乃にとってはどうでもいい事だ。

そしてもう一人。こちらにはかなり問題がある。
年頃の少女でありながら、その身なりは外套を素肌の上に羽織っているだけなのだ。
だらしなく適当に合わせられた黒い襟元から覗くのは、白く瑞々しい若い肌だ。
そんな格好をした金髪の少女が、男のごつい鋼鉄の義手に甘えるように腕を絡ませ、そのたわわに実った胸の果実を歪ませている。

「いやらしい女……」

ぼそりと呟く。
あの大男に媚を売るだけなら別にいいが、きっとこの売女は雪輝にも色目を使うに違いない。
なにせ、雪輝はカッコイイから女性にモテモテなのだ。
そう考えて頭に血を昇らせていた由乃に、大男――ガッツが声をかけて来た。

「テメェが……ユノ、なのか?」

見知らぬ男に突然名を呼ばれて、由乃の心に僅かな驚愕が走る。
装填を済ませたダブルファングの銃把を、我知らず強く握り締めた。
しかし、その瞬間に由乃の身体を駆け巡ったものは、驚愕だけではない。
鬱積していた疑念を全て払拭するような、素晴らしい『正解』を、由乃はその僅かなヒントから得たのである。


「私の名を――やっぱり、あの男の仲間か!? お前なんかにユッキーはやらせない!!」
「あの男……だと!?」

由乃は両手に持つ異形の銃を、フルオートで撃ちまくりながら叫ぶ。
猛烈な轟音を響かせながら高速で弾丸が射出され、雪輝への刺客である二人組のいる場所が蜂の巣のように変わった。


そう、やはり鳴海歩は雪輝日記を使い、彼に刺客を放ってきたのだ。
見知らぬ男が、一度も会った事のない自分の名を知っていたのは、鳴海歩か秋瀬或に教えられていたからに他ならない。

そしてここが大事な所なのだが。
どうやら雪輝は、その鳴海歩の行動を読み切った上で、自分と別行動を取っていたようなのだ。

(凄い……ユッキーは、やっぱり凄い!!)

1070喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:56:25 ID:9Kvq5J5A0
夢見るような由乃の瞳が感激に潤み、雪輝の知略の深さに思わず憧憬の吐息を漏らしてしまう。
雪輝の考えた作戦とはこうだ。

確かに無差別日記では、雪輝本人についての予知が出来ない。
しかし『雪輝を刺客から守る』という意思を持って、由乃が行動を開始すれば――
いくつものifを。どこそこで刺客を見つけるという由乃の未来を、無差別日記は読み切る事が出来るのだ。
結果、刺客は雪輝の元に辿りつく前に、彼を守る由乃に仕留められるという寸法だ。

そして雪輝と別行動を取っている限り、雪輝日記を持つ鳴海歩にも、その由乃の行動が知られる事はない。
何もしていないはずの雪輝の元に、いつまで経っても刺客が辿りつかない事に焦れて、自らやって来た時が鳴海歩の最後の時となるだろう。

自分達は、そういう作戦で動いていたのだ。

と、そのように由乃は今の状況を『理解』する。

「アハハハハ、アハ、アハハハハハハハハハ!!」

全て話に筋が通り、由乃の気分は最高にハイになる。
頬を紅潮させ、笑い声を響かせながらダブルファングを乱射する。

しかし硝煙漂う闇の中を、よく目を凝らして見てみれば、男はなんと巨大な鉄塊の如き剣を盾として
銃弾の直撃を防いでいるではないか。

「しゃらくさい!」

二丁のダブルファングを足元に投げ捨て、自由になった腕で手榴弾を手に取り、ピンを引き抜いて投擲する。
ねらいたがわず、男の大剣の向こう側へと放りこまれた手榴弾であったが、そこで男は目を疑うような行動に出た。
しゃがみ込んだ姿勢のまま、あの信じられないほど巨大な剣を振るったのだ。

その剣は地面をえぐり取るかのように、手榴弾が乗ったままのアスファルトへと沈み込み――
まるでスプーンでティラミスの一層でも掬い取るような気軽さで、道路の表面を持ち上げた。

そうやって、自分と手榴弾との間に無理矢理壁を作る事で、男と少女は爆発をやり過ごしたのだ。

――信じられない。

無理、無茶、無軌道が売りの由乃を持ってしても、そう思わせる常識外の戦闘理論。
思わず唖然としてしまった由乃であったが、男が少女を連れて駆けだした事で我を取り戻し、足元の銃を拾う。

そして銃撃を再開したのだが、一瞬対応が遅れた事が仇となったか、既に男はトップスピードに乗っている。
でかい図体の癖に、信じられないほど素早かった。
結局、足を止める事も出来ずに、男と少女の姿は街並みの中に消えてしまった。
気が付けば、手に持ったダブルファングは、全ての弾丸を撃ち尽くしている。

「ユッキーの所に向かうつもりかっ」

後を追おうと駆けだした由乃の視界が、一瞬だけ翳る。
頭上を照らす明かりが、何かに遮られたのだ。
見上げると、そこには禍々しささえ感じるほど近くに見える月。
そしてそれを背景に、悠々と飛ぶ化物の姿があった。
それは病院で安藤潤也が転じた、巨大な肉食獣のような姿であった。

「あいつは……もしかして、あいつもユッキーを狙って……」

由乃は、荷物の中から愛する雪輝の無差別日記を取り出すと、大切そうに抱き締める。
それには、由乃がどこにいけばあいつらと出会えるか、どうやれば勝てるのかが、予知されているはずだった。

「ユッキー。大丈夫だよ。私が絶対、守ってあげるからね……」

1071喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:57:04 ID:9Kvq5J5A0



何の前触れもなく吹き抜けた颶風が、街路樹の葉に積もった新雪を散らす。
その姿すら霞んで見えるほどの突風の正体は、路地を全力で奔る黒の剣士であった。
外套の襟首を掴まれて、引っ張られている少女の足は宙に浮いている。
それほどの勢いを持って、ガッツは全力で我妻由乃の前から撤退していた。

表通りから大分離れたせいか、路地に沿って並ぶ街灯の数はまばらとなっている。
月と星とに照らされた夜本来の暗がりの中で、ガッツはようやく足を止めて周囲の様子を窺う。


「――カハッ。なんてェ武器だよ……このだんびらがなかったら、凌げなかったぜ……」

『番長』から死ぬほどの思いをしてまで奪い返した巨大な剣。
鍛冶屋ゴドーによって鍛えられたドラゴンころしは、此度もガッツの助けとなった。

だが、何事にも完全という事はない。
ガッツの脇腹には、一発の弾丸によって穿たれた貫通射創が開いていた。
はらわたをも喰いちぎるほどの、痛烈な衝撃波を伴う一撃。
それを受けてなお、ガッツはここまで全力疾走を続けてきたのである。

ズボンのポケットから、残り少なくなったパックの燐粉を取ろうとしながら、ガッツは少女の様子を見やる。
空中浮遊しながらの逃走から解放された金髪の少女は、ぺたんと道路に尻をついて痙攣するように震えている。

「……」

乱暴に掴んで散々街中を振り回したせいか、適当に留めておいてやっていた外套のボタンがいくつか外れている。
それに気付いたガッツは自分の手当てを後にして、服の乱れを直してやろうと手を伸ばす。しかし――
ビクリと、弾けるように少女の身体が縮こまる。
そんな少女の反応に、ガッツの手もピタリと止まる。

この震えは恐らく、先程までの寒さから来るものではない。
何も知らなかった無垢な少女は、初めての痛みを知る事で恐怖の感情を学習したのだろう。

「……チッ」

キャスカとの旅で何度も味わってきた、ほろ苦い感情が再び胸の中に湧きおこる。
この様子では、どこかに隠して来ても逃げたり、騒いだりするかもしれない。
彼女を一人にしておくなら、そうは出来ないように縛っておく必要があるだろう。

少女は、きっと怯えるだろう。
だが守る為だ。他に方法はない。
綺麗事だけでは、やっていけないのだ。

止まった手を、再び伸ばして少女の腕を掴む。
上目遣いに自分に向けられた碧い瞳の中に、ガッツは化物の姿を見た。
それはまるで、自分の心の中に棲む怪物を――

いや、そうではない。
少女の瞳孔に映し出された化物は、実際にそこに佇んでいる。
少女の正面。ガッツの後方。
月光に照らされて、いなびかりを纏って。

「奴は……ッ!!」

1072喪失花《ワスレバナ》 (上) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:57:44 ID:9Kvq5J5A0
剣を、大地に突き刺す。
その姿を知っていた。
黒炎と、雷の化身。
仔細は異なれど、形状は同じ。
ならば同種の力を持っているのだろう。
剣から離れ、少女をその背中に庇った瞬間。


夜の闇を切り裂く、万雷の輝きに世界は白く染まった。




1073喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 16:58:56 ID:9Kvq5J5A0


寸前で剣を避雷針とした事で、なんとか直撃こそ避けたものの、その余波だけでもガッツの全身を痺れさせるには充分であった。
ガニシュカ大帝との戦いの中でも何度か雷を浴びた事はあったが、到底慣れるものではない。

大地に倒れ伏したガッツと少女の元に、重々しい足音が近づいて来る。
霞む視界の中でそれを睨み付けるガッツの前で、その姿は溶けるように人型へと変わっていく。
ガッツの体躯に倍する肉体が、凝縮するように溶け崩れて、一人の細身の少年の姿へと。

「テメェ、は……」

そっちの顔にも、見覚えがあった。
あのデパートの前でブルッていた少年。
安藤潤也と呼ばれていた、確率を操る能力者だ。
だが、その名は確かに先の放送で呼ばれていたはず。

「うふん、御久し振りねぇん」
「……テメェ、は」

誰何の声を繰り返す。
違う。これは安藤潤也ではない。
この雰囲気と口調はむしろ、あの妲己と呼ばれていた女のものだ。
だがしかし、これは如何なることか。
確かに尋常ならざる雰囲気を持つ女ではあったが、これは本当にあの妲己なのだろうか。
しかも、あの女の名前だって、放送で呼ばれているのだ。

震える膝に鞭を打ち、なんとか立ちあがったガッツがドラゴンころしに手を伸ばす。
しかし、その手が剣の柄にかかる寸前で、伸ばされた少年の右手がガッツの頭を鷲掴みにした。
凄まじい握力に、ガッツの頭蓋骨が軋み声をあげる。
そしてそのまま、片腕の力だけで自分より大きなガッツの身体を持ち上げていく。

絵面だけ見れば、それは異常な光景だ。
その細身の肉体の、どこにそのような膂力があると言うのか。
だが、別に不思議な話ではない。
どのようなからくりを経たのかは知らないが、今のこの少年は、まぎれもない化物なのだから。

「ぐぅ……」
「確か貴方はあの時、喜媚の事を知ってたわよねぇん。
 もしかして、喜媚を殺したのは貴方なのかしらん? でもでもおかしいわぁん。
 貴方が喜媚の事を知ったのは午前よりも前の筈。
 わらわたちと戦った後、喜媚の所に舞い戻って殺したのぉん?
 それはちょっと効率が悪いわぁん。
 これは一体どういう事なのかしらぁん」

ぶつぶつと、一人で問答しているかのように呟く。
その瞳はガッツを映してはいない。
少年のなりで気味の悪い言葉遣いをしている事もあいまって、気でも触れてしまったかのような、危うい雰囲気。

「……ぶっ殺してやりてェとは思ったがな。
 生憎、仲間に止められちまって、あのチビジャリを殺る機会を逃しちまった。返す返すも残念でならねェぜ」

にぃ、と笑って、挑発してみる。
頭部を掴まれている上に、身体は痺れて身動きが取れない。そんな状況で少年を怒らせるのは自殺行為だ。
しかし、今はこの少年の興味を惹き続けている事が肝心だと、ガッツは思った。
なぜなら、後ろではぺたんこ座りしたままの金髪の少女が、怯えたような声を漏らしながらガッツたちを見上げているからだ。
電撃は喰らっていないので、動けるはず。
とっとと逃げろと、ガッツは念を送る。

「で、あんたの正体は、あの妲己って女でいいんだよな?」
「妲己? そう、わらわは妲己。 妲己妲己妲己そう、わらわは妲己」

1074喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:00:39 ID:9Kvq5J5A0

自分の名を連呼する少年の目が、ぐりんと動いて初めてガッツの顔を見る。
そして、急に手首を返してガッツの頭を捻った。
鍛えこまれたガッツの首でなければ、頸椎が折れていたかもしれない。

「そう、わらわはこれに惹かれて、ここにやってきたのねぇん。
 あの時から思ってたけど、とっても面白い印だわぁん。
 まるでコレは自分の獲物だって、主張してるみたいじゃないん?
 わらわ、そういうのって許せないと思うのぉん。
 こぉんなに素敵な憎悪の持ち主なんですものぉん。みんなで美味しく頂くべきだと思わないん?
 それに、もう持ち主もいないみたいだしぃん……。
 そおだ、わらわが貴方に新しい印をあげるわぁん。
 どう? 遠慮しなくてもいいのよぉん」

ガッツの首に在る烙印を熱心に見詰めながら、妲己だと名乗る少年は勝手な提案を行う。
そして了承も得ぬままに、腕を化物のそれに変質させると、ガッツの胸にずぶりと爪を埋め込んでいった。

「ぐっ! が……ぁ……」

そしてゆっくりと、ゆっくりとガッツの反応を見ながら、爪を動かしていく。
じっくりと痛みを引き出すのが愉しいのか、ぼとぼとと噴きこぼれた熱い血を浴びながら、とても嬉しそうに嗤っている。

「ああん……なんて美味しい前菜なのぉん……。全部ここで食べちゃいたいくらいだわぁん!!」

顔の周りに付着した真っ赤な血を舐めまわすと、我慢の限界といったようにガッツの腹部にむしゃぶりつく。
そして胸から腹にかけて刻まれた、四本の爪跡を舌で執拗に舐めまわしてから、妲己はガッツを投げ捨てる。
血塗れとなった中性的な少年の顔立ちが、恍惚に歪む。
異形の両手で頭を抱えながら、妲己は細い腰をしならせて一際強くブルリと震えた。

「あはっ……ぁん……」

甘い吐息を漏らすと、酔いが回ったかのように蕩けた瞳が、地面に座り込んだままの金髪の少女の姿を捉えた。
身動き出来ないまま倒れているガッツの隻眼に、スローモーションのように妲己の動きが映り込む。

「あぁん……こっちの子も……美味しそう……」
「や、め……ろォッ!!」
「アーーッ! アゥアーー!!」

妲己が長い爪を振るうと、外套の留め金が全て弾き飛ばされ、少女の白磁の肌が露わになった。
ここに至って、ようやく後ずさりながら逃げようとした少女の肩を、少年が押し倒して地面に縫い付ける。
僅かな抵抗をいなしながら、少女のなだらかな腹部に凶悪な爪をあてがうと、張りのある瑞々しい肌がひきつるように捩れる。
そしてそこに一珠の赤い雫が浮かんだかと思うと、それは一気に柔肉の中に潜り込んでいく。

「アギャアアアアァァッッッーーーーーーー!!」

白い皮膚が乱暴にめくれかえる。
桃色をした筋肉が引き裂かれる。
頭を振り乱し、涙を散らす。
爪が僅かに進む度に、少女の背中が痙攣して、喉の奥から血を吐くような苦汁の叫びが絞り出されていた。

何も出来ないまま、そんな光景を見ていたガッツが思い出してしまうのは、キャスカがグリフィスに凌辱されるのを、
ただ見ている事しか出来なかったあの時の事だ。

「止めろ……」

地面の上に広がった金の髪が、赤いまだら模様に染め変わる。
泣き濡れた碧い瞳が、助けを求めるように見開かれていた。
ゆっくりと腹部を蹂躙した爪が、少女の右の乳房に差しかかる。

「止めろ……っ!」

1075喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:01:25 ID:9Kvq5J5A0
悲しげに啼く少女の声が、ガッツの鼓膜を打った。
少女の肉体に自らの印を刻みつける少年の姿を、ガッツは己が網膜に焼き付けた。
その姿があの時のグリフィスとダブリ、ガッツの意識が灼熱の怒りと憎しみに染まっていく。

こんな痛みと痺れで、寝ている場合じゃねぇ。
今、動かなきゃ、あの時と同じ思いを味わう事になるぞ。
また、全てを失いたいのか。
黒い獣が、ガッツに囁く。
――委ねよ。と。



「ガッ、ガアアアアアアアアアッッッ!!」

咆哮一声。
猛り狂う戦士の魂が肉体のくびきを凌駕する時、そこにヒトの領域を外れる狂戦士が誕生する。
痺れも痛みも全てを忘れ、這いつくばった姿勢から、一気にクラウチングスタートへと移行。
爆発的な推力を得て、己が愛剣を地面から解き放ったガッツが、そのまま抜き打ちで少年の胴を薙ぎ払う。

しかし妲己はまるで後ろに目が付いているかのようにガッツの復活を察知すると、猿のような俊敏さで、
少女の上から飛び跳ねてそれをかわす。
更に大上段からの一刀、そして刃を返しての跳ね上げをも避けると、妲己は更に後方へと大きく逃れた。

ガッツは、それを追撃しなかった。
なぜだと、問いかける声がする。
反撃の暇を与えるな。このまま押し切る事こそ、勝利への道だ。
あの化物を許しておくなと、ドロドロに煮えたぎったマグマのような感情が、ガッツの足を前に進ませようとする。

だが、そうではない。
ガッツは己が戦う理由を、剣に問う。
戦うのか。守るのか。
今が正に分水嶺。
二者択一の、その答えは。

「守るって決めたんだ。一度決めた事は、やり通す。もう後悔はしたくねェ」

その為ならば狂気くらい、いくらでも飼い慣らしてみせる。
瞳に戻るのは、理性の光。
ガッツは跪くと、真紅に染まった少女の傷の様子を素早く診る。
むせ返る様な、二人分の血臭が漂う。
四本の爪跡が左わき腹から右乳房までを走っている。傷は幸い、内蔵までは達していない。
殺害が目的ではなく、いたぶる事を目的として付けられた傷だ。ガッツ自身の胸の傷と同じくして。

しかし痛みとショックのせいか、ばたつかせていた手足は力なく投げ出され、気道を通り抜ける荒い息だけが
少女の示す反応の全てとなっている。
時折調子外れの、あーという声が漏れる。
ガッツはポケットから妖精の燐粉を一つまみだけ取り出すと、傷の上に振りかけた。
今はとりあえず血止めだけだ。ゆっくりと治療している暇はない。
立ちあがって、剣を構える。


「どうしたのぉん? もっとわらわに、その素敵な憎悪を頂戴ん?」

轟々と、吐き出す息すら熱風に変えて。
妲己は、再び字伏と呼ばれる化物の姿へと変化していた。
周囲を漂う輝く粒子が収束して、その鼻先に巨大な雷神の槍を顕現させている。

そんな二人が向き合う場面に。

1076喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:01:56 ID:9Kvq5J5A0
「見つけた!! 死ねェ!!」

突如として現れた我妻由乃が、奇襲攻撃を仕掛けたのであった。





無差別日記の導きによって(と、由乃は思っているが、実際には由乃が無意識の内に発見していたガッツの血痕や臭い、物音、
そして由乃独自の超絶的な勘によって、この場を発見したのである。)現れた由乃は、その場にいた三人を纏めて倒すべく、
所有する幾多の武装の中でも最大級の破壊力を持つ、パニッシャーのロケット弾を撃ち出した。

それはもちろん『無差別日記によって予知された』必勝を約束された攻撃である。
殲滅戦に向いたその『日記に書いてあった』武器のチョイスは決して悪いものではなかったが、しかしそれは、
音速を優に超える弾丸による射撃と比べれば、如何にも発射速度が遅かった。
少なくとも、その場にいた三者の内、ガッツと字伏にとっては。

彼らはそれぞれその攻撃に反応を示し、まずはガッツが駆け出した。
自分たち目掛けて撃ち出されたロケット弾に対し、ガッツはその正面へと走り込む。
鉄靴でアスファルトを削って急制動をかけると、大剣の腹を使って全力でアッパースイング。
鈍い音が響いて凡フライのように打ち上がったロケット弾は、空中でドでかい火炎の球となった。

そして、そのタイミングで今度は字伏が一直線上に並ぶガッツと由乃に対し、雷神の槍を射出したのであるが、
なんとこれは上空の炎の球へと、その進路を変えてしまった。
雷とは本来、電離した空気の通り道を進むもの。
ならば、一瞬にして数千度の熱を吐き出し、電荷した空気を生み出し続ける火球の元へと槍が引き寄せられるのは当然の理。




ここに三者がそれぞれ用意していた攻撃手段が破れ、一瞬の均衡状態が生まれる。
その均衡を破って攻撃を再開したのは、やはり最初に攻撃を仕掛けた我妻由乃だ。
積極果敢な彼女の辞書に、様子見などという文字はない。

ただちに『先程の攻撃は、現在の状況を生みだす為の前振りだった』という脳内補正が行われ、
『無差別日記に書かれた通りに』次の攻撃プランを実行に移した。

ロケット弾を撃ち終えたパニッシャーをその場に投げ出し、背中に吊るした飛刀を抜く。
その彼女が突撃する相手は、全力全霊を籠めたフルスイングの後で、隙だらけとなっているガッツである。
由乃が振りかぶった滑らかな鏡の如き刀身が、月の光を受けて淡く輝く。
それを迎撃せんとする姿勢を取るガッツであったが、その動きはどこかぎこちない。

この長刀が持つ不思議な力の事など由乃は何も知らなかったが、なにせ彼女は勘がいいし、観察力だって人並み異常だ。
(誤字にあらず)
それゆえ、あのレガートを倒した時の現象が、今再びガッツの身の上で再現されている事を少女は確信していた。
これこそ雪輝の無差別日記が示した、完全勝利への方程式。
雪輝への絶対の信頼を胸に、由乃は躊躇いなくガッツの頭部へと長刀を繰り出す。



「ちょろいっ」


そう、由乃の予感は間違えてはいない。
この時、ガッツの意識はあの日に舞い戻っていたのだ。
王都ウインダムを出て、鷹の団を抜けた、あの雪の日の朝に。




1077喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:02:54 ID:9Kvq5J5A0

――目の前に、グリフィスがいる。

不思議と、凪いだ心でガッツは目前の男を受け入れている。
なぜなら今はまだ、あの蝕が起こる一年前。
振り返れば毎日が祭りのようだった、あの黄金時代の最後の一日だ。
懐かしさに、胸が締めつけられる。

辺りは一面の白の世界。
裸の木々が、まばらに立っている。
王都を一望出来る、小高い丘の上に彼らはいた。

ジュドーがいた。コルカスがいた。ピピンがいた。リッケルトがいた。
そして、在りし日のキャスカが、そこにいた。
鷹の団の、気の置けない戦友たちが、みんな揃っていた。
彼らが見守る中、ガッツとグリフィスは、互いに譲れぬ物を賭けて向かい合っていた。

――グリフィスが動く。

離れた間合いを一足で飛び越え、ガッツの間合いの中へと潜り込んで来る。
その狙いは明確だ。
ガッツの剣を撃ち落とし、その肩口に一撃を叩きこもうというのだ。
殺してでも止めてやるという、グリフィスの覚悟が籠った執念の一刀。


だが、そんなグリフィスの覚悟は、ガッツの剣によって断ち切られる。
それがこの決闘の、本来の結末。
グリフィスの夢の中に埋もれる事を拒否し、一人夢の中から出て行ったガッツが選択した未来。

……だが、もしこの時、この一撃を受け入れていたのなら。

あの時、鷹の団を出て行く事を思いとどまっていたのなら、こんな全てを失う結末を迎える事はなかったのかも知れない。

想像してみる。

部下としてグリフィスを支え、アイツに王位を掴み取らせ、自分は国の将軍様だ。
きらびやかな王宮に居並ぶのは、信頼出来る朋友たち。
全てが上手く行った世界で、グリフィスは自分に笑いかける。
もはや血反吐を吐いて転げ回らずとも生きていける、問答無用のハッピーエンド。

ああ、そんな未来もあったのかも知れない。

この一撃を、受け入れていたなら。



けどな。



それでも、オレは――。




1078喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:04:36 ID:9Kvq5J5A0
「ちょろいっ」

光る白刃が、ガッツの頭上に迫る。
その長い刀身を黙って受け入れるが如く、ガッツの肉体は彫像のように動かない。
しかし、その時。

「――けられねェ……」
「っ!?」

ガッツの唇から、うわごとのような言葉が漏れた。
由乃にとっては気に留める必要もないはずの、死にゆく者の最後の言葉。
だが、その言葉を口に出したガッツの目に生気が戻っていくのを由乃は見た。

由乃の動きに、遅れる事コンマ一秒。
近接戦闘において致命的な遅れを取りながらも、ようやく動き出したガッツが、雪の積もった大地を力強く踏みしめる。
一歩前へと踏み込んだ身体は、それだけ由乃の刃へと――、死の一歩手前へと近付いていく。

しかし、その踏み込みが齎すものは、それだけではない。
重々しい震脚は、鍛えこまれた上半身に力の流れを伝え、その力の流れは上腕二頭筋に蓄えられ、そこで圧縮された力は
手首を撓らせる爆発力となって、ガッツの持つ巨大な剣を極限まで加速させていく。
正面に立つ由乃には、相対していたガッツの肉体が、急激に膨張したようにも見えたはずだ。

「それでも、負けられねェんだっ! テメェだけには!」

吼えるように、ガッツが叫ぶ。
あと僅かな所で男の頭蓋骨を叩き割っていたはずの飛刀がドラゴンころしに受け止められ、そしてそのまま押し負けていく。
圧倒的な膂力の差に初動の差は打ち破られ、ガッツの頭上にまで届いていた刃は叩き落とされ、逆に由乃の頭上に巨大な鉄塊が振り下ろされる。

「――――ッ!?」

しかし、その鉄塊は由乃の頭を爆ぜ割る一歩手前で止められた。
その爆風の如き剣風に、波打つように由乃の髪が煽られる。

ガッツが由乃に、そのような手加減をする理由などない。
理由は単純。
彼は別に、飛刀が見せた幻を、幻だと見抜いたわけではなかった。
ただ記憶の中で、再びグリフィスとの決闘に勝利しただけだったのだ。
――その先にある、絶望的な未来を知りながらも。

そして、そこに至ってようやくガッツの隻眼に目前の由乃の姿が映る。
刃が欠けた刀身は、幻を見せる能力が低下してしまっていた。

『イッッッッッッテェーーーーー!!』

漏れ出た悲鳴が、刀の精のものだとは、誰が信じられようか。
幻を刀身に浮かべながらも、激痛に曲がりくねる飛刀。
その一方で由乃は、つきつけられた現実を受け止めきれずにいた。
喋る刀の事など、どうだっていい。
由乃が信じられないのは『日記に書かれていた未来』が、現実にならない事だ。
ノイズなど、聞こえなかったというのに。

「有り得ない……ッ、お前はここで死ねっ!」

痺れる右手で、それでも飛刀を振るった。
しかし、常の鋭さを失っている一撃は、ガッツの左の義手によって容易く受け止められる。

「テメェか……懐かしいモン、見せてくれやがったのは……。
 こいつは礼だ……ぶち砕けろ――衝撃貝(インパクト・ダイヤル)ッ!!」
『や、やめてくれェー、旦那ァァァ!!』
「――――ユッ……」

1079喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:05:42 ID:9Kvq5J5A0
底冷えする声で宣言すると、ガッツの義手に仕込まれた衝撃貝が解放される。
凄まじい量のエネルギーを溜め込んだ貝の解放は、ヒビが入っていた飛刀の刀身を粉々に砕き、更にはそれを持っていた
由乃の身体を、大砲の弾丸のように遥か彼方にまで吹き飛ばす。

そんな威力のエネルギーを解放して、もちろんガッツとてただで済むはずがない。
衝撃貝を仕込んでいた鋼鉄製の義手はバラバラとなり、左肩は脱臼し、その肉体は反動で後方へと吹き飛ばされる。
そしてそこに待ち構えていたのは、宙に浮かぶ字伏が吐き出す炎の息だ。

人間の肉体など、骨まで溶かしてしまいそうな、その地獄の業火の中へと飛び込んでいくガッツの身体。
もはや、その勢いを止める術など、どこにもない。
しかしガッツが空中でその大剣を振るうと、その身体は勢いと遠心力によって縦に回転し始める。

「オオオオオオオオ!!!」

剣風一閃。
切り裂かれていく。
魔性の炎が、鉄の塊によって。
それはただの鉄が為せる業ではない。
魔を斬り続けてきたが故に、その大剣には魔を斬り伏せる業が備わっていたのだ。

「コノ……ニンゲン、がァ!!」
「オオッ!!」

だから字伏には、その旋風のキャノンボールと化したガッツをどうする事も出来なかった。
頭を逸らして、首輪を守る。
本能が命じた命令を実行するだけで、精一杯だった。
肩口から又下までを、綺麗に両断されて。
宙に浮いていた字伏の肉体は、まっぷたつに切り分けられた勢いで旋回しながら大地に墜ちる。

そして両断された化物の向こう側から飛び出してきたガッツが、剣を振り下ろした姿勢のまま大地に着陸した。
胸の傷から、霧のように血が噴き出す。
二の腕から先を失った左肩が、ぶらぶらと揺れていた。
三半規管が無茶苦茶に揺さぶられて前後が分からず、しばらくは動く事すら出来そうにない。
勝利者とも思えないほどの、ボロボロの姿であった。

「が……ぁ……」

しかし、それでもこの場において最後まで立っていたのはガッツだった。
リッケルトに貰った義手は壊れた。
パックが最後に遺した秘薬も、恐らくこれで使いきってしまうだろう。
これからも、きっと失い続けて、なにもかもをも失って絶望の中でのたうちまわって。
それでも立ちあがってしまうのが、ガッツという男。
そして、人間という生き物なのだろう。

「グ、リフィ、ス……」

その胸に去来するのは、先程の輝かしい夢の欠片。
アイツと剣を合わせた手応えが、未だ手の中に残っていた。

再び取った選択に、後悔がないと言えば嘘になる。
生きている限り、ガッツはその選択を悔やみ続けるだろう。しかし――。

「グリフィスッ!」

夜天に吼える。
いなくなってしまった男に、自らの答えを伝えるように。
例え百万回、同じ選択肢を選ばされたとしても、ガッツが欲しかったものは変わりはしない。


「グリフィス――オレは、テメェの――…………」

1080喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:07:27 ID:9Kvq5J5A0


虚空に轟いた咆哮(こえ)は、雪の中にかき消える。

降り積もる雪の中、ガッツは一人、いつまでも立ちつくしていた。


【D-02/市街地/夜中】


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(極大)胸から腹にかけて四本爪の傷跡、脇腹に貫通射創、左肩脱臼、左腕の義手喪失
[服装]:上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、炸裂弾×1@ベルセルク、折れたキリバチ@ONE PIECE、
    妖精の燐粉(残り22%)@ベルセルク、蝉のナイフ@魔王 JUVENILE REMIX
[思考]
基本:グリフィスと、“神”に鉄塊をぶち込む。
1:運命に反逆する。
2:女を守る。
3:グリフィスの部下の使徒どもも殺す。
4:なぜヤツが関わっている?
5:工場に向かうのはひとまず保留。
6:競技場方面に向かう?
7:ナイブズとその同行者に微かな羨望。
8:落下中に聞こえた声は一体――?
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。
※鈴子からロベルト関係以外の様々な情報を得ました。

※バラバラになった義手の残骸と、衝撃貝@ONE PIECE、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 0/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマム、砕けた飛刀の欠片がD-02の路上に転がっています。

【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:放心中 記憶退行 腹部から乳房にかけて四本爪の傷跡(とりあえずの血止めはしてある)
[服装]:黒のジャンパーコート
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
0:???
[備考]
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。
※記憶を幼児まで後退させられています。




1081喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:08:16 ID:9Kvq5J5A0
ガッツの放った衝撃貝の力によって吹き飛ばされた由乃は、まるで水面を跳ねる小石のように何度も大地に叩きつけられて、
いくつもの建物に弾かれて、最後に一本の電柱に叩きつけられると、そこでようやく止まった。

即死しなかったのが奇跡とも思えるほどの、圧倒的な衝撃だった。
飛刀を握っていた右手など、インパクトの瞬間に骨が微塵になっていた。

喉から込み上げてきたものを吐き出す。
天地も分からぬほどに意識が朦朧として、由乃は少し休みたかったのだが、周囲の状況がそれを許さなかった。

『貴方は進入禁止エリアに入り込んでいるわ。
 この警告が終了してから一分以内に当地区から退避しないと、首輪が爆発してしまう。
 至急、退避してちょうだい』

既に死んだはずの死者の声が、賢しげに生者に忠告するという滑稽な構図。
しかし、それを笑いもせずに由乃は立ちあがって逃げようとする。
死にたくはなかったから。
まだ、死ぬわけにはいかなかったから。

しかし、立ちあがろうとした由乃の身体が、クラゲのように崩れ落ちる。
痛む全身を叱咤して、再び立ちあがろうとしてもやはり駄目。

「たふけて……ユッヒー……」

思わず呟いた声は、上手く発音出来なかった。
口の周りが麻酔を打ったように痺れていた。

「うう……」

なんとか動く左腕で、デイパックの中を探る。
棒状の何かを探り当てると、それを杖にして由乃は進み始める。

あと40秒。
逃げるべき方向が判らない。
起き上がった時、正面だった方向に向けて、由乃は無心で這いずって進む。

あと30秒。
逃げるべき範囲が分からない。
どこまで行けば脱出出来るのか。
それすらわからないまま、由乃は這いずる。

あと20秒。
本当にこっちでいいのか、不安になる。
意外と横道に逸れれば、警告は止まるのではないか。
遅々として足が進まない事に苛立ちを覚えながら、由乃は這いずる。

あと10秒。
これでは本当に死んでしまう。
自分が死んでしまっては、■周■の世界もなにもあったものではない。
由乃は、自ら封じていた■の力を解放しようとして――



そこで首輪からの警告が止まっている事に気が付いた。

「――しゅー……しゅー……」

息をつく。
今のは危なかった。
未来日記の予知に従っていたというのに、なぜこのような事になってしまったのか。
由乃は制服のポケットに入れておいた無差別日記を取り出すと、それを開いた。

1082喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:09:54 ID:9Kvq5J5A0

画面は、まっくろのままだった。
ヒンジが壊れてしまったらしく、手の中から下のパーツが滑り落ちる。
由乃は手の中に残ったひび割れた液晶を見て、

――なんだ、これ、ユッキーの無差別日記じゃなかったんだ。

と、思った。
未来日記によく似せたレプリカだったから負けたのだと。
狂った思考は、どこまでも自分に都合のいい妄想を捏造しようとして――。


そこで変えようもない、おぞましい事実を突きつけられてしまう。

自ら光を発しない液晶画面は、まるで鏡のようにそれを覗きこんだ人間の顔を映し出す。
由乃が覗きこんだ、そのまっくろの液晶画面に映り込んだ人物の顔には――。


唇がなかった。


おろし金ですりおろしたかのように、何度も雪輝とのキスをかわした可憐な唇が、きれいさっぱりなくなっていた。
血の滴るピンクの粘膜と、剥き出しになった白い骨と、何本も欠けて血に染まった歯。
それだけが、今の由乃の顔にある全てだった。
顎を伝って零れ落ちた血塗れの体液が、手元の液晶にぼたぼたと落ちる。


「ウア――アアア、ア――ウアアアアアアアーーーーー!!!!」


人の声とも思えない絶叫が、夜空に響く。
これが人を蹴落としてまで幸せを求めた罰なのだろうか。
全ての元凶である少女の運命は、既に――。


【E-02エリアを出たどこか/市街地/夜中】

【我妻由乃@未来日記】
[状態]:右腕粉砕骨折、左大腿骨開放骨折、右足首剥離骨折、左足伸筋腱断裂、肋骨骨折、全身(特に顔面下部)に擦過傷(中)etc.
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ ところどころ破れている
[装備]:妖刀「紅桜」@銀魂
[道具]:支給品一式×8、、
機関銃弾倉×1、壊れた無差別日記@未来日記、ダブルファング(残弾100%・100%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
首輪に関するレポート、違法改造エアガン(残弾0発)@スパイラル〜推理の絆〜、ハリセン、
研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
閃光弾×2・発煙弾×3・手榴弾×2@鋼の錬金術師、不明支給品×2(一つはグリード=リンが確認済み、一つは武器ではない)
[思考]
基本:天野雪輝を生き残らせる。
0:顔……が。
1:天野雪輝を守る。
2:天野雪輝を守るため敵対する鳴海歩の関係者を殺す。
  現在認識している鳴海歩の関係者は、安藤、グリフィス、ヴァッシュ、秋瀬或、ガッツ、ウィンリィ、妲己
3:鳴海歩が現れたら殺す。雪輝日記は出来れば取り戻したいが、最悪、破壊されてもよい。
4:ユッキーの生存を最優先に考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
5:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
6:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※安藤(兄)と潤也との血縁関係を兄弟だとほぼ断定しました。
※秋瀬或と鳴海歩の繋がりに気付いています。

1083喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:10:31 ID:9Kvq5J5A0
※病院の天野雪輝の死体を雪輝ではないと判断しました。
 本物の天野雪輝が『どこか』にいると考えています。

【妖刀「紅桜」@銀魂】
鍛冶屋、村田鉄矢が鍛え上げた刀と機械兵器を融合させた刀。
人工知能を持ち、使用者に寄生して戦闘データを蓄積し進化する悪魔の兵器。





字伏は生きていた。
体をまっぷたつにされて、それでもなお。

いたい にくい こわい

いたい にくい こわい

いたい にくい こわい

字伏の再生力を持ってしても二つに分けられた肉体はどうやっても繋がらず、字伏の意識は苦痛と絶望にのたうち回る。
あまりにも斬られた所が痛いので、字伏は切断面を隠してしまえるように、二つにちょん斬られた体をドロドロに溶かした。

そうして明るい市街地から、より暗い所へと逃れるために、地の脈動に乗って移動した。
今、字伏がいるのは、夜の暗い森の中だ。
月の光すら恐れるように、字伏は闇の中に隠れ潜んでいる。

にくしや烙印の男

おそろしや鉄の剣


世界の卵はいまだ孵らない。
■までは、まだ時を待たねばならない。
だがこの闇の中でじっとその時を待っているだけで、果たして全てを滅ぼせるだけの存在に生まれ変われるのだろうか。

――たりない


捧げるものが、まったく足りない。

主采はともかくとして、前菜もスープもデザートも何もかもが足りない。

このまま待っているだけでは、再び一つに戻る事すら覚束ない!!


準備が必要だった。
あの烙印の男のように、あの金髪の少女のように、魔に好まれそうな食材に印を刻みつけなければならない。
そのためには――。

どろどろの肉の塊が、動きやすい形になろうと蠢きはじめる。
もう一仕事が出来るだけの、エネルギッシュな肉体を字伏は欲する。
分断された肉体では、歩くことさえ出来はしない。


そうして、闇の中から生み出されたものは、一対の男女の姿を持っていた。
妲己と呼ばれていた美しい女性の姿と、安藤潤也と呼ばれていた少年の姿。
より上手く事が運ぶように、記憶の欠片を再構成して疑似的な自我を付与し、自律的な行動が取れるようにする。
もっともその行動原理は以前のものではなく、字伏の本能に過ぎないのだが。

1084喪失花《ワスレバナ》 (下) ◆Yue55yrOlY:2011/05/14(土) 17:11:20 ID:9Kvq5J5A0

かつての姿こそが、もっとも狩りには効率的であろうと字伏は考えたのだ。

さぁ。餌となるべきニンゲンどもを狩りだそう。

憎悪と恐怖とを糧として、『神』をも超える存在に生まれ変わろう。

「いくわよぉん、『右』の」
「あいよ、『左』の」


約束の刻限は近い。
世界の歯車は加速してゆく――。


【字伏@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX 分裂】

【E-03/森/夜中】

【字伏左半身(妲己)@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化70%)
[服装]:ゴージャスな服装
[装備]:エンフィールドNO.2(1/6)@現実
[道具]:支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、趙公明の映像宝貝、大量の酒、工具類、真紅のベヘリット
[思考]
0:……大切な者を……
1:贄を見つけて印を付ける
2:ドラゴンころし、獣の槍に恐怖感。
[備考]
※妲己・潤也の自我の疑似的な自我が付与されました。
それぞれの記憶の切れ端から再構成されているので、生前の目的や恐怖・怨恨を多少引きずっています。
※潤也の能力が使用できるかどうかは不明です。

【字伏右半身(安藤潤也)@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化70%)
[服装]:ボロボロの英字プリントTシャツ
[装備]:首輪@銀魂(鎖は途中で切れている)


※字伏右半身(安藤潤也)は九尾の尻尾のような化身であり、本体は首輪の嵌まった左半身のほうです。
※一体ずつの力は弱まっています。

1085名無しさん:2011/05/14(土) 17:11:48 ID:9Kvq5J5A0
以上です

1086名無しさん:2011/05/14(土) 22:36:25 ID:MGSopPLU0
すみませんもう代理投下無理です……
誰かにバトンタッチします。感想は(下)が投下終わったら書き込みます。
でもとりあえず、◆Yue55yrOlYさん一年ぶりにおかえりなさい

1087 ◆Yue55yrOlY:2011/05/25(水) 17:18:06 ID:9Kvq5J5A0
すいませんやっぱり代理お願いします

1088 ◆Yue55yrOlY:2011/05/25(水) 17:19:35 ID:9Kvq5J5A0
キンブリーに返された問いかけを受け、ゾッドも再びグリフィスへと思いを馳せる。

確かにゾッドは、一度はグリフィスを見逃した。
グリフィスが、あの夢で見たような圧倒的存在となれば、再び相まみえたいとも思った。
神の手の者がその光景を見て、ゾッドがグリフィスを《ゴッドハンド》とする因果律の成就を望んでいるのだと考えるのも無理はない。

しかし、ゾッドにとって、それは必ずしもグリフィスでなければならぬという事はないのだ。
わざわざ時を逆流させてまで因果律を乱しておいて、あの《蝕》が素直に再現されると思うほどゾッドは単純ではない。
神の仕組んだ、新たなる因果律。
誰がその因果律に選ばれようが、その者が強大であれば、それでよい。

むしろゾッドが拘っているのは――。

瞳を閉じて浮かぶのは、鈍くひかりし鉄(くろがね)の、決して止まらぬ剣舞なり。

抜けだす事叶わぬはずの汚泥の中から、必死にもがき出でる愚直なまでの前進。
この舞台の上でも、まるで変わる事のなかったあの男が、これから神の掌の上でいかなる生き様を見せてくれるのか。
それを再び観る事が出来るのが、ゾッドは嬉しくてならなかった。


そしてそれっきり黙り込んだ男が口元に浮かべた笑みを見て、紅蓮の錬金術師は思わず目を瞠る。
それはこの異形の男には似つかわしくないほど、人間臭い穏やかな笑みで――。

(どうやら口ぶりほど単純な方でもなさそうですね)

この男も、どうやら《使徒》の中の異端者。
簡単に使い潰せる男でもなさそうだと、認識を新たにする。





日は完全に沈み落ち、森の闇が深まる。
氷雪の大地にあかあかと燈った熾火が、夕闇に沈んだ森の中を仄かに照らしていた。
その炭火で焙られた石の上に置いた、分厚い獣肉を木箸でひっくり返しながら、キンブリーは神の陣営の動きについて考える。

ゾッドを復帰させた件もそうだが、神の手の者の動きはどうにもチグハグだ。
ゾッドをつかわし、ウィンリィを復帰させ、しかもそれについての告知もしない。
放送の上では四十九名が既に死に絶え、現時点での残りは二十一名の筈だが、どうやらそれも疑わしい。

キンブリーが知る限りでも二名もの復帰者がいるのだ。
この分では他にも何名かの『出戻り』が居てもおかしくはない。

確かに最初に聞かされた放送のルールは、死んでしまった参加者の名を読み上げるというものであり、蘇らせた上で
戦場に復帰した参加者がいたとしても、告知するなどとは一言も言われてない。
従ってルール違反とは言えないのだが、この事実を知った参加者は一様に神の陣営への不信感を抱くであろう。
せっかく数を減らしたと思っても、それが神の陣営によって秘かに復活して舞い戻っているのだ。
優勝狙いの人間にとっては、これほど腹立たしい裏切りもあるまい。
キンブリーが口を噤んでいたとしても、隠し通せる事ではない。
なぜ、神の陣営は最初に定めた勝利条件『最後の一人になるまで戦い抜け』と言う命題を真っ向から否定するかの如き行為に走ったのか。

それを説明出来る仮説は、一つだけある。
第一放送の時から、その兆しがあった神の陣営の亀裂。
それが遂に、崩壊を迎えたのだとすれば。
現在の運営を、初期とは別の人材――《神》への反逆者たちが担っているとするなら説明は付く。


神の陣営が信頼出来ないとなれば、参加者たちは結束し、その思考が神の打倒、あるいは脱出へと傾くのが当然の帰結だ。
現在運営を担っている反逆者たちは、その参加者たちの動きをも利用して《神》を弑逆しようとしているのではなかろうか。

1089 ◆Yue55yrOlY:2011/05/25(水) 17:20:57 ID:9Kvq5J5A0
この仮定に沿って考えるのであれば、ウィンリィ・ロックベルが『戻された』事にも説明が付く。
彼女は、鋼の錬金術師への貢物……メッセンジャーガールなのだ。
どうやら正気を失っていたようだが、それも事の成就の際には元に戻してやると言う含みを持たせての事だろう。

更にそこから推論するに、鋼の錬金術師は既に神への反逆が可能な何らかの手段を講じている可能性が高い。
少なくとも参加者の中で、もっとも《神》に手の届く位置にいるのは確かのはずだ。
そうでなければ、ウィンリィ・ロックベルを戻すという人選は有り得ない……。

(ふむ、流石ですね……。やはり彼とは連絡を取っておくべきでしょうか……)

キンブリーの目的は、己が特性を存分に振るい、この生き残りを賭けた闘争に勝ち残る事。
その為ならば、スタンスの変更とてやぶさかではない。


――しかし。
全てを疑い抜けという、螺旋楽譜の管理人の言葉が頭にちらつく。
自分のこの推論も《神》に用意された筋書きに沿っているのだとすれば――。
神の陣営の内輪揉めを利用しての反撃すら《神》の台本通りだとしたら――。

そこに待つのは、優勝を狙おうが、反逆を考えようが、勝利条件そのものが存在しないという絶望に塗り潰された未来だけだ。

(やれやれ、本当に意地が悪い……となれば判断の鍵を握るのは《神》の使わしたジョーカーである趙公明か……)

だとしても、それまでに打てる手は打っておいた方がいいだろう。
先程の潤也の兄への一手もその為の布石。
ネット上の書き込みだけで、交換日記のID:mIKami7Aiをキンブリーと特定出来たのは、恐らく身近に鋼の錬金術師がついていたからだろう。
潤也をめぐってのやり取りで、キンブリーへの不信感を持っているであろう彼と鋼のが一緒にいられると、いささかやりにくいのだ。
混乱を極めるであろう今後のスケジュールを考えると、不確定要素は少ない方がいい。
故に、穏便に別行動を取ってもらうべく打った手が先程のメールである。

そしてある程度の時間を置き、潤也の兄が行動に移ったであろう頃合いを見計らい、キンブリーは掲示板に書き込みを行った。

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1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res:14)
 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE
 スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。
 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

14 名前:ロワ充している名無しさん 投稿日:1日目・夜 ID:mIKami7Ai
 お気付きの方もいらっしゃると思いますが、どうやら放送の内容はあまり信用しないほうが良さそうです。
 既に退場されたはずの方が、何人か会場へと舞い戻って来ているようです。
 私の書き込みを信じない方もいらっしゃるでしょうが、いずれは判る事なのでお知らせしておきます。

 この期に及んでも偽名を使っている方も、もしかしたらそんな出戻り組なのでは?
 神の陣営について何か御存じなら、ぜひとも情報の提供をお願いしたいですね。


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そして、続けて掲示板から得た鋼の錬金術師のアドレスにメールを送る。
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Sub:掲示板の書き込みを見ていただけたでしょうか?

1090 ◆Yue55yrOlY:2011/05/25(水) 17:22:54 ID:9Kvq5J5A0
こんばんは。
こうして連絡を取るのは初めてですね。
ゾルフ・J・キンブリーです。

掲示板に書き込んだ通り、私は何人か死んだはずの参加者がこの会場へと戻っているのを目撃しました。
その事と合わせて、是非貴方とこの催事について意見を交換してみたい。
このメールを読んだら、C.公明からの招待状に従い、競技場へと来ていただけないでしょうか。
《神》の情報を手に入れ、共にこの戦いの行く末を考えようではありませんか。


P.S.ウィンリィさんも誘っておきました。
すっぽかされたとしても、彼女は私が保護いたしますのでご安心を。
ただ――万全を期されるのであれば、やはり貴方自身が彼女を守ってあげたほうがよろしいかと。


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もし、分断策が上手くいかなかったとしても不信感を持たれないように、正直に、それでいて注意深く文面を仕上げた。
潤也の兄に会いに小学校へと行けなくなったのは、競技場へと足を運ばなければならなくなった為。
趙公明との同盟関係も知られないように、ネットの書き込みを見て――という風に装った。
どうせ頭のイカれた錬金術師『爆弾狂のキンブリー』の言う事なのだから、爆心地への誘いもさほど奇異な物でもあるまい。
そして鋼の錬金術師への止めは、ウィンリィ・ロックベルの名前が果たしてくれるだろう。

あの図書館で出合った剣士が、ちゃんと彼女を連れて来てくれるかどうかは判らないが、自分の考え通りならば
神の手の者が上手く誘導してくれるはずだ。そして――

「おい」

思考にふけるキンブリーに、不意に声が掛けられる。
その声の主はもちろん、対面に立つ不死のゾッドである。
見やれば、彼は手に持つ木箸を動かして、石に敷かれた肉を指し示す。

「そこ、焼けておるぞ」
「おぉ……」

指摘されてみれば、確かに肉がいい具合に焼けていた。
肉から流れ落ちた脂が炭火に溶ける。
鼻腔に吸い込まれたかぐわしい香りに、キンブリーはたまらずに肉に齧り付く。
熱い。
そして、美味。
圧倒的な野生の味が口中に広がり、噛み千切った肉片が、溢れる肉汁と共に喉を下る。
腹の奥底が、熱い溶鉱炉にでもなったかのようだった。
そこから湧きだすエネルギーが、全身の細胞に隈なく染み渡る。
くはぁ。
熱い吐息をもらしながら、もう一口。
美味し。美味し。
うむ、こっちは……レバーか。
くぅ、これは堪えられん。
白皙の額に汗しながら、キンブリーはゾッドと共にしばし無心で肉の宴を楽しむ。

「おい……食い終わったら、こいつの牙を剣にしてくれ」
「はふっはふっ、いいでしょう。錬金術の基本は等価交換……。ですが、今は……」
「うむ、存分にやれ!」

激しくなるであろう、今後の戦いへの備えに余念なし。
専心を持って一事に当たる二人を祝福するかのように、焼肉の煙が天高く昇る。
それは今宵始まるであろう開戦の狼煙のようでもあった。

1091 ◆Yue55yrOlY:2011/05/25(水) 17:24:26 ID:9Kvq5J5A0
【G-6/森/1日目/夜】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身に火傷などのダメージ(小、回復中)
[服装]:裸
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
0:肉を喰う。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける。
3:趙公明の頼みを聞く気はないでもない。武道会に興味。
4:キンブリーに猪の牙と骨で大剣を作ってもらう。
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※趙公明に感嘆。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式×2(名簿は一つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/4程消費)、ティーセット、小説数冊、
   錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、AED
[思考]
基本:勝ち残る。
0:肉を喰う。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:安藤やゆのが火種として働いてくれる事に期待。
5:神の陣営の動きに注意
6:エドワード・エルリックに接触する。
7:神の陣営への不信感(不快感?)条件次第では反逆も考慮する。
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
10:うしおの性格に興味。使い道がないか考える。
11:西沢さんに嫉妬?
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。


※ゾッドが捕獲した猪は、ワンピースの女ヶ島で出てきたような奴です。


以上です

1092Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:32:39 ID:wRSE/Ack0
愛し共に歩めずとも、憎まぬくらいなら出来るかもしれない――。



歩の言葉が蘇った。

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
彼女の時間はもう幾度となく同じところを繰り返し、そして繰り返す度に心が鑢でごりごりと削られていく。
まるで呪いだ。

ぱしゃり、ぱしゃりと水溜りを踏みながら、ゆのは氷雨の街を北上する。
月明かりは今はない。時折光る雷雲が、辺りを照らすほとんど唯一の光源だ。
左手に見える墨の凝ったような海から、地鳴りのような波音が低く長く轟いている。
水平線は闇に溶け、空と一つになって今にも街を押し潰してしまいそうだ。
怖い。思わず叫び出したくなるくらいに。
ゆのの地元に海はなかったし、泳げない彼女が積極的に海に行くことも勿論なかったから、夜の海がこれほど怖いものだとは知らなかったのだ。

しかし怖いからといって海を離れる訳にもいかない。何故なら進入禁止エリアに引っかかる危険があるからだ。
趙公明が派手に去った後、ゆののいた邸宅の建つエリアが進入禁止エリアになる可能性に思い至り、慌ててそこを飛び出したのが十九時二十分。
その後はとにかく海を目指し、海に辿り着いてからはずっと海岸沿いの道を歩いている。
何の訓練も受けていないゆのが、この暗闇の中で自身の位置やエリアの境を正確に把握出来るはずもない。
ただ彼女に判るのは、海沿いを歩けば進入禁止エリアに足を踏み入れることはないという、その程度のことである。

故にゆのは海を見て歩く。ただ歩く。
自らの罪から、そして呪いから逃げるように。
胸の内に渦巻く感情から目を逸らしながら。



寒さで身体が震え始め、海に対する恐怖も麻痺し始めたとき、ゆのは道の先に人影を見た。
そのとき、ゆのの頭にまず浮かんだのは、誰だろう、という何とも平凡な疑問。
客観的に、冷静に状況を判断するなら、当然ながらそんな悠長なことを考えている場合ではない。
敵に道端でばったり、などというのは、まともな戦闘経験のない彼女にとっては最悪の事態である。
よーいドンで殺し合ったら、相手が誰であれ彼女が無事に勝利を収める見込みは小さい。
だから本当なら即座に尻尾を巻いて逃げるべきだったし、無理にでも殺すつもりなら有無を言わさず襲いかかるべきだったのだ。
ゆのがそのどちらもせず棒のように立ち尽くしてしまったのは、相手の服装が原因だった。

1093Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:33:40 ID:wRSE/Ack0
見覚えのある服だった。
特徴的なダブルタイプの赤いベスト。
あれは、そう。やまぶき高校の制服。
今のゆのにとっては、幾千万の宝石よりも眩しく輝く日常の象徴だ。

もしかすると、沙英ではないか。そうも思った。
その瞬間、足が竦んだ。沙英だったとしたら、一体どんな顔で会えばいいのか。
この期に及んでそんなことを考える自分が厭になる。
酷く分裂している。
人を、殺しておいて。

幸か不幸か、人影が沙英でないことはすぐに判った。明らかに沙英よりも髪が長い。
安堵と更なる不安が同時に押し寄せ、ゆのは若干混乱しながら目を凝らし、そして相手の様子が妙であることに気付く。
動きがおかしい。油の切れたロボットを思わせるぎこちない動き。
左足を引き摺り、杖のようなものを突いてようやく歩いているようだ。
よく見ると、やまぶきの制服も汚れ、破れている。

空が光る。

絶句した。
漠然とした恐怖は、稲光に浮かび上がった鮮烈なそれに塗り潰された。

それは辛うじて人のようだった。しかし本当に辛うじて、だ。
左脚は奇妙に捻じ曲がり、太腿からは骨が突き出して夥しい量の血が流れ出ている。
制服の赤もどこまでが元々の色でどこからが血の色なのか判然としない。首輪すら血の色に染まっている。
何より異様なのはその首輪の上、顔だ。
鼻は半分削げ落ち、所々欠けた歯が顎の骨まで剥き出しになっている。
本来見えないはずの奥歯までもがずらりと並んで見える。
まるで都市伝説の「口裂け女」である。
そんなモノと夜の街で遭遇してしまったのだから、これはもうホラー以外の何物でもない。

あまりの事態に、ゆのは金縛りに遭ったように動けない。
出来ることはせいぜい口をぱくぱくと開閉するくらいである。
その場で卒倒しなかったのは奇跡かもしれない。
そうしている間にも、口裂け女が杖のようなもの――恐ろしいことに日本刀だ――を支えにじわりじわりと迫ってくる。
そして少し離れた場所で立ち止まった。口裂け女の視線はゆのをずっと捉え続けている。
頭の中で警報が最大音量で鳴り響くが、ゆのは逃げるどころか声すら出せない。
口裂け女はしばらく黙っていたが、やがてその大きな口をゆっくりと開いた。

「なに、ぉはえは――」

ゆのはまだ動けない。

1094Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:34:35 ID:wRSE/Ack0
***************


視界が霞む。身体中が熱い。なのにドライアイスを呑み込んだかのように身体の真ん中は冷え切っている。
左手の棒に体重を預け、全く言うことを聞かない左脚を引き摺り、痛む右脚を無理矢理動かして進む。
四肢が鉛のように重い。呼吸の度に、胸の奥に激痛が走る。肉体の至る所から悲鳴の大合唱が聴こえる。
しかしそれでも由乃は止まらない。こんな所で休んでなどいられないのだから。

無差別日記のレプリカはとっくに踏み砕いた。
許し難い。よりにもよって雪輝の日記――命の贋物など。
決して、見たくもないものを映し出してくれた腹いせなどではない。
ともかく、一刻も早く本物の無差別日記を捜さなければ。
でもどこに。一体どこですり換えられたというのか。
日記の表示は間違いなく本物で。

――ああ。
あいつ。鳴海歩。あいつだ。あの小賢しい男。あいつに決まっている。
贋物の携帯電話を用意して細工を。表示もあいつが操って。でもあんな短時間でどうやって。
いや、そんなことはどうでもいい。推理ゴッコなどは探偵にでもやらせておけばいいのだ。
畜生。

頭がガンガン痛む。吐き気がする。寒気がする。考えが纏まらない。思考が断片化する。
空が光った。

そもそも日記を取り戻した後は?
ユッキーと合流?
この怪我でこの先どうする?
こんな顔になって、ユッキーは私を――。
あ、ユッキーはもう死。

遮断する。

大丈夫。大丈夫。
ユッキーは私を愛してくれてるから。
ユッキーはこれからもずっと私を愛してくれるから。
ユッキーは絶対に外見に惑わされたりなんかしないから。
大丈夫。大丈夫だから。

1095Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:35:11 ID:wRSE/Ack0
ぱしゃり、と小さな音がした。
はっとして顔を上げる。
由乃のすぐ前方、ほんの十メートルの場所に何者かが立っている。

気付くのが遅れた。
宵闇にみぞれという悪条件が重なっているとはいえ、普段の彼女では絶対にあり得ない失態だ。
胸の内で舌打ちをして、錆び付いた全身に緊張を行き渡らせつつ相手を観察する。

女だ。怯えた顔をしている。
由乃がこれまで出遭った者達と比べれば、特徴という程の特徴はない。
暗闇から編み上げたような漆黒のドレスを纏い、何故かバレーボールに似た球体を大切そうに抱えている。
大人びた格好ではあるが、由乃とそう変わらない歳であるように見える。

油断せずじっと睨み続けるが、相手が動く気配は感じられない。ただこちらを見ているだけだ。
しばらく睨み合った後、痺れを切らした由乃が先に口を開いた。

「なに、ぉはえは――」

不明瞭な言葉が漏れる。上手く話せない。まるで自分の声ではないかのようだ。
苛立ちが募る。
少女は怯えた顔で口を閉じたり開いたりしているだけで、やはり何か行動を起こす気配はない。
放置しておいても大した害はなさそうに思える。興味もない。こんなどうでもいい女にかかずらっている暇はないのだ。
由乃はとても冷静にそう判断し、少女から目を逸らす。脇を通り抜けようとまた一歩踏み出し、

「や……オ、オバ、ケ――」

その一言が、自分では完璧に制御しているつもりで、その実ギリギリのバランスで繋ぎ止められていた由乃の理性の糸をあっさりと寸断した。

「はれが……オわケらッッ!!」

ぐるりと首を奇妙な角度で捻じ曲げ、射殺さんばかりの視線をぶつける。

――そんなふざけたドレスで。
――お前こそ、ユッキーを誘惑するバケモノだろう。

そう叫んだつもりで、しかし実際には言語にならない喚き声を発した由乃は、少女に更ににじり寄っていく。
少女はこの上ない恐怖を全身で表すのみ。それが由乃の神経を一層逆撫でする。

1096Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:35:57 ID:wRSE/Ack0
そうだ。
きっと図星だったのだ。
こいつは雪輝を誘惑しようとしているのだ。間違いない。
うん、殺そう――殺さなきゃ――――斬らなきゃ――斬って――。
――――斬る?

そこでようやく、杖代わりに使っていた物が日本刀だったことに由乃は気付いた。
都合がいい。

「ひネ……ッ!」

刀の存在に気付くよりも先に斬るという思考に到ったことを疑問に思う余裕もなく、ただ怒りを発散させるべく刀を振り上げる。
月もないのに、刀身が妖しく煌いた。

「わあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ようやく金縛りが解けたのか、少女は悲鳴を上げ、身を護るように手に持っていた白い球体を掲げた。
関係ない。そのボールごと真っ二つだ。
刀に操られるように、腕だけで振るったとは思えない鋭い斬撃を繰り出す。
甲高い音。
バレーボールのようなその球体は、しかし意外な硬度をもって刀を阻んだ。

「――――ッ!?」

手首に予想外の衝撃が走り、その拍子に刀を取り落とす。手が痺れる。
しかし相手のボールも手中から転がり落ちたようだ。
転がるボールを縋り付くような眼で追う少女。

馬鹿め。

由乃は落とした刀に目もくれず、ドレスの胸元をショールごと鷲掴みにして、相手の体を引き寄せた。
驚愕の貼り付いた少女の顔が急接近する。

「ふらえッ!」

そしてそのまま、自らの頭蓋を相手の顔面に激しく叩き付けた。
鼻骨の潰れる感触と共に、額に軽い痺れが走る。
少女が呻き、顔を歪めながら鼻を押さえた。
ドレスを捻り上げ、更にもう一発。間髪入れずドレスを放して突き飛ばす。
少女が仰向けに倒れていく。
しかしその途中で、苦し紛れに伸ばした手が、由乃の砕け垂れ下がった右腕をひっ掴んだ。

1097Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:36:44 ID:wRSE/Ack0
「ッッッがァァァァァァァア!!」

激痛と呼ぶのも生温いパルスが神経を伝って由乃の脳髄を掻き乱す。
視界が白く灼け、天地が引っ繰り返る。
衝撃。
獣の咆哮を上げながら、ほとんど無意識に右腕を掴む手の甲に爪を立て、抉った。
今度は相手が悲鳴を上げ、右腕が開放される。
目の前で水滴の冠が弾け、由乃はそこでようやく自分が水溜りに突っ伏していることに気付く。
次の瞬間、頭を横殴りの衝撃が襲った。暴れる少女の膝が側頭部を強打したのだ。
由乃も必死だが相手も必死だ。
何とか逃れようと足掻く少女は、喚きながら闇雲に蹴りを放つ。
その一発が由乃の顔面を直撃した。
しかし由乃は怯むどころか足首を掴み、全力で引っ張った。
何とか立ち上がろうとしていた少女が再び引っ繰り返る。
スカートが大きく捲れた。
少女は下着を着けていなかった。

ああ。
要するに自分の勘は勿論今回も完璧で、この女はやはり雪輝を誘惑しようとしていたのだ、と由乃は完全に確信する。
逃がさない。ここで殺す。絶対に、絶対に雪輝に会わせる訳にはいかない。
必死の抵抗を続ける少女に全力で飛びかかり、鳩尾に体重を乗せた肘を落とす。
薄い腹筋は緩衝材の役割をほとんど果たさず、少女は蛙の潰れたような声を発して動きを止めた。
その隙を逃さず襲いかかり、馬乗りになる。

「げ、ほっ、や、やめっ――」

顔面のど真ん中に落とした拳が、懇願の言葉を叩き潰した。
拳を握り締め、更に顔に何度も振り下ろす。
一発。鼻を押さえていた手に阻まれる。
二発。左目に直撃。
三発。前歯を叩き折る。
拳が命中する度に、後頭部がアスファルトと衝突して鈍い音を立てる。

ユッキーを誘惑しようとした罰だ。
誰だか判らなくなるまでこのまま滅茶苦茶に壊してやる。

四発。五発。六発。

背中を蹴られているようだがどうでもいい。
血に塗れた拳を機械的に振り下ろす。

1098Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:37:20 ID:wRSE/Ack0
七。八。九。

それにしてもヒトの頭は硬い。

十。十一。

唐突に、がくりと視界が傾いだ。
十二発目の拳は、狙いが外れてしたたかにアスファルトを叩いた。
髪を引っ張られたのだ。自慢の長い髪を。
そう気付いた一瞬の空白に、下から少女が死に物狂いでむしゃぶりついてきた。
振り払おうとするものの、満足に動く部位が左腕だけでは如何ともし難い。
数秒揉み合った末、今度は逆に由乃が組み敷かれてしまった。

唸り声なのか悲鳴なのか判らない不安定な声を上げながら、少女は由乃の首を絞め上げ始める。
大した力ではない。大した力ではないが、とはいえこのまま首を絞め続けられればやはり死んでしまう。
ただの力業で人間一人を撥ね退けるだけの能力は、今の由乃にはない。

「ぅ……ひっ……ひっ」

しゃくり上げる声。手の震えが喉の奥まで伝わってくる。
苛立たしい。常ならばこんな奴に梃子摺るはずはないのに。
どう脱出するか。窮地にあっても、いやむしろ窮地にあるからこそ由乃の脳は冷静に冷徹に打開策を模索する。

腰から下の感覚がない。
右腕は自由だが、そもそも骨が粉々になっていて役に立たない。
左の二の腕には相手の膝が乗っている。持ち上げられない。
肘から先は動くが、殴るには体勢が悪過ぎる。
刀。見当たらない。
武器の詰まったデイパックは背中で潰れている。
手詰まり――だろうか。いや、そんなことはない。
左腕が動くのなら、まだ。

肘を曲げる。手探りでゆっくりと後ろからスカートに手を差し入れる。軽く尻の肉を抓む。
一拍。
そして肉を引き千切らんばかりの勢いで、力の限り抓り上げた。
この手の痛覚に訴える攻撃は、ほとんどの格闘技において禁じ手となっている。
裏返せばそれは手軽かつ強力な攻撃手段であることを示していて、当然ながら並の人間ではまず耐えられるものではない――本来ならば。

1099Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:38:20 ID:wRSE/Ack0
血で指が滑った。酸素が足りないのか、指先が思うように動かない。
少女は僅かに身じろいだが、それだけだった。
もう一度場所を変えて抓るが結果は同じ。
もう一度。結果は同じ。
苦し紛れに爪を立てる。効く様子はない。

時間が粘り付く。
喉がひゅうと奇妙な音を立てる。
視界が赤黒くなっていく。
雨音が遠ざかっていく。
意識が霞みがかっていく。
こんな。
こんなところで。
こんな雑魚に。

――ふざけるなッ!

抓るのをやめ、指先で尾骨を素早く探り当てる。
そこから下へと指を滑らせ、人差し指と中指を纏めて肛門に捻じ込んだ。

「――――――――っぁ!!!!」

少女が声にならない叫びを上げた。
首にかかる圧力が弱まり、新鮮な酸素が肺に供給される。
すかさず脳天までぶち抜くつもりで一息に指を押し込む。
ぶちりと肉の裂ける感触。
たまらず少女の腰が浮いた。
由乃の行動を阻止しようとして、左手が首から離れる。
決定的な隙。
ほとんどスクラップ同然の右腕を肩の動きだけで振るい、残った相手の右手を払い飛ばす。
同時に。
由乃は腹筋に全ての力を集約し、バネのように上体を跳ね起こした。

「シャアァァァァァァァッッッ!!」

喉笛に喰らい付く。
剥き出しの歯が柔らかな肉に沈む。
鉄の味。
勝った。
頚動脈。
これで。
ユッキー。
星が。
力を、

1100Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:38:55 ID:wRSE/Ack0
***************


最期の瞬間がいつまで経っても訪れないことに疑問を抱いたゆのは、固く閉じていた目を恐る恐る開いた。
喉に噛み付き喰い千切る寸前の姿勢を保ったまま、口裂け女は何故か微動だにしない。
頭に疑問符を浮かべながら、震える両の手を首に持っていく。ぬめぬめぶよぶよと生暖かく嫌な感触のものが指に触れた。
何とか我慢して手に力を込めると、首に食い込んだ歯が粘着いた音を立てて抜けた。
手を離す。
ご、と口裂け女の頭がアスファルトに落ちた。
見えない星を見るように、目を大きく見開いた彼女は、もはや全く動かない。
雨音が耳朶を打つ。

死んでいる――たっぷり十秒は考えた後、ゆのの脳はようやくその事実を認識した。
そもそも現れたときからゾンビさながらの姿だったのだ。
本来、生きている方が不自然な状態だったのだろう。

空が光った。

血の味が充満する口の中に、ふと違和感を覚えて吐き捨てる。
赤と白の混じりものがアスファルトに落ちた。
鏡を見るまでもなく、顔が酷い有様になっているのは間違いないと判る。
しかし不思議と痛みを感じない。付け加えれば寒さも。
代わりに全身を不気味な倦怠感が包んでいる。

少し躊躇った後、スカートに手を入れ肛門にみっちりと詰まった指を一本ずつ引き抜く。

「っ――……なんで、こんな」

馬乗りで何回か顔を殴られた辺りから記憶が曖昧になっている。
何をして、何をされたのか、正確に思い出せない。
しかし最後の最後、蛇のように大口を開けて自分に襲いかかる刹那の口裂け女の顔だけは、はっきりと瞼の裏に焼き付いている。
たとえ百年経っても忘れることはないだろう。
表面的な憎悪のもっと奥にあった、三千世界の全てを呪い殺さんとする深海よりも暗い情念。
死に物狂いのゆのにさえ、その片鱗だけで死を覚悟させた情念の源は、果たして何だったのか。
ゆのには見当も付かないし、仮に千言万語を費やして語られたところで理解出来るとも思えない。
しかし解らないままに、その黒々とした欠片がゆのの心に突き刺さったことだけは確かだった。



愛し共に歩めずとも、憎まぬくらいなら出来るかもしれない――。



そんな。
そんなことは。
そんなことは、

「無理に、決まってるよ」

1101Small Two of Pieces〜JUNO〜 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:39:41 ID:wRSE/Ack0
【我妻由乃@未来日記 死亡】


【E-1/海岸付近/一日目/夜中】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:疲労(極大)、失血性貧血、顔と頭部に大量の打撲や裂傷、首に絞められた跡と噛まれた跡、左手の甲に傷、肛門裂傷、倫理観崩壊気味、精神不安定(大)
[服装]:真っ黒なドレス、ショール、髪留め紛失
[装備]:
[道具]:
支給品一式×11(一食分とペットボトル一本消費)、イエニカエリタクナール@未来日記、制服と下着(濡れ)、
機関銃弾倉×1、ダブルファング(残弾100%・100%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
首輪に関するレポート、違法改造エアガン(残弾0発)@スパイラル〜推理の絆〜、ハリセン、
研究所のカードキー(研究棟)×2、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、
パックの死体(ワンピースに包まれている)、エタノールの入った一斗缶×2、閃光弾×2・発煙弾×3・手榴弾×2@鋼の錬金術師、
首輪×5(胡喜媚・高町亮子・浅月香介・竹内理緒・宮子)、不明支給品×1(グリード=リンが確認済み)
[思考]
基本:死にたくない。
1:人を殺してでも生き延びる。
2:『特別ゲスト』として闘技場へ向かう。
3:壊れてもいいと思ったら、注射を……。
4:西沢さんの人間性に恐怖。また彼女に羨望と嫉妬。
[備考]
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。またグリフィスにも大怪我を負わせたと思っています。
※切断された右腕は繋がりました。パックの鱗粉により感覚も治癒しています。
※ロビンの能力で常に監視されていると思っています。
※イエニカエリタクナールを麻薬か劇薬の類だと思っています。

※混元珠@封神演義、妖刀「紅桜」@銀魂はゆのの近くに落ちています。

1102 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:43:16 ID:wRSE/Ack0
以上で投下終了です。
不明支給品が一つ減ってますが、本来この個数で合っているはずです。

1103 ◆L62I.UGyuw:2011/06/04(土) 22:44:59 ID:wRSE/Ack0
あ、ミスです。
>不明支給品×1(グリード=リンが確認済み)
ではなく
不明支給品×1(武器ではない)
でないと辻褄が合わないですね。

1104名無しさん:2011/06/05(日) 00:29:57 ID:dm1HuAhYO
さるさんです
>1099から次お願いします

一時まで誰もいないようならまた代理します

1105 ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:23:11 ID:NxHj/da.0
さるさんorz……。
こちらに仮投下します。

1106 ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:23:34 ID:NxHj/da.0
「……っ!?」

場の空気が凍る中で、支配者は存分に余裕を持って語らうのだ。

「錬金術、について。
 ――知っていることを、全て教えて頂きましょうか。
 代わりに、“神”に立ち向かうための知る限りの全てを伝えましょう」

「……目的はなんだ?」

苦虫を噛み潰したかのようなエドワードに、秋瀬或は禁忌を大胆綽々に詠う。


「全ては雪輝君の、蘇生のために」


**********


秋瀬或は、命を弄ぶ気でいる。
その意味を知る自分には、到底許しがたいことだ。
……しかし。今はそれ以上に、打倒せねばならぬものがいる。

「鳴海、清隆……か」

……全ての元凶。そうでなくとも、今この状況を作り上げた人物の名を、エドワードは噛みしめるように反芻する。

「鳴海の予想が最悪の方向で当たった……って事か」

隣の安藤が一人ごちた誰かの名前。
その意味の裏側にあるものを思い浮かべるも、エドは首を振る。
残り少ない人員の中、不用意に人を疑えば集団は瓦解するだけだ。
あまりにもあからさま過ぎるこの“配置”はむしろ疑ってくれと言わんばかりで、踊らされるわけにはいかないと心に誓う。

……が。

「それとも……、鳴海自身も、黒幕の一味?」

――面識のある安藤自身こそが、そんな爆弾を静かにぼそりと呟いた。
安藤は気付いているのだろうか。
場に身を置くものが皆、その言葉の一言一句を聞き届けていたことに。

「思えば、あいつはいつもそうだった。
 自分を全く頼りにしてるようには見えないのに変に堂々としてて……。
 そうだ、絶対に奪えない、安全この上ない支えがいつもあいつをそんな態度にさせてたように見える。
 もしかして何か後ろ盾でもあったからじゃ……。
 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ」

ボソリ。ボソボソ。
ボソボソボソボソ、ボソボソボソリ。
ブツリ。ブツブツ。
ブツブツブツブツ、ブツブツブツリ。

割れた額を押さえつつ、目血走らせて淡々と。

1107消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:24:36 ID:NxHj/da.0
別に、不自然な思考でもないし、それに思い至って動揺するのも理解できる事だ。
ことに、弟の死を告げられてから情緒が不安定気味な安藤のこと。
こうなってしまったとしても、おかしいことではない。そのはずだ。

……けれど。
どうしてかエドワードは、いや、秋瀬或でさえ。
目の前の弱弱しい少年から発される威圧感に動く事が出来なかった。

結局。

「それが“神”鳴海清隆だというのがお前の推測か?」

事態を動かすには、最も実戦経験豊富たる東郷に頼らざるを得なかった。

「い、いや……。そう断定した訳じゃないし、したくもないよ。
 ただ、鳴海が仲間だって思考停止してたら、本当に大切な何かを取りこぼして、救えなくなるんじゃないかって。
 あいつ自身もそんな事を言ってたしな」

まるで、何かに取り憑かれていたかのようだ。安藤の表情が柔らかいものに崩れる。
いつの間にか止めていた息を気付かれぬようにゆっくりと吐き出すと、どちらからともなくエドと或は互いを見据え、頷き合う。

「興味深い話ですが、ひとまず置いておきましょう。
 少なくとも彼を今疑っても得るものはありません。
 それより、僕はこちらについて詰めたいですね」

くるくると秋瀬或が掌で弄ぶのは、彼自身の体験に基づく考察に加え、エドワードから聞き出した錬金術やこの島についての考察さえ記したメモ帳だ。
分かりやすく要点を押さえ、しかし過不足なくエドの言質をまとめたそれは、錬金術の解説書として優れているだけでなく、この島や催事について調べるものなら誰でも欲しがるレベルのものだろう。

秋瀬或は、巧みだった。
こちらが秘しておかねばと匿っていた情報さえ根こそぎ持っていく有様で、
こと交渉という点においてはエドワードの数段上の手練手管を持っている。
おかげで伏せておきたい情報まで話さざるを得なかったが、しかしこの少年の視点から自分の意見を
検証した時に何が得られるか、それを話し合ってみるのは興味深かった。

しかし、その直前。

「……ちょっと、いいか?」

だいぶ赤く染まってきたタオルを取り替えようとしながら、安藤がエドワードたちの方を向く。
額を切ったからか傷の割に出血量が多いのだろう。
一旦タオルを膝の上において、怪訝な目線を向けるエドワード達と目を合わせた。

「えっと……、今の話で思い出したんだけど。
 すっかり忘れちまってたけど、鳴海が来ていないか確認したいんだ。
 俺が転んじまったせいでこっちまで来たけど、元々は放送頃に集合って話だったんだよ。
 ……もし鳥居の辺りで待たせちゃってたら、なんて思ってさ」

「……そういや、そんな話だったか」

一人頷くエドワード。
なるほど、確かにこの神社に来たのはそのためだった。
安藤の滑落による手当や秋瀬或との邂逅と、目の前にある事の処理ばかりに気を取られていたが、
鳴海歩を一人放置しておくのはいささか危ない。

1108消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:25:04 ID:NxHj/da.0
「ことこの事態に至っては、彼は間違いなくキーパーソンですしね。
 やれやれ、もう少し偽装を続けたくはあったんですが……仕方ありませんか。
 それに、彼の頭脳は類稀なる武器なのも確かです」

偽装? と少しだけかわいらしく首をかしげる安藤の疑問に答えず、秋瀬或は一人勝手に納得する。

「この中で彼と直接面識があるのは安藤さんと東郷さん、お二人でしたね。
 僕が行ってもいいのですが、顔を知られているあなた方が迎えに行くのが余計なトラブルも生まないでしょう」

そのまま或が視線だけを東郷、次いで安藤へと順繰りに回すと、頷き応える影一つ。

「……わかった、行ってくる」

ゆっくりと曲げていた膝を伸ばし、立ち上がろうとする安藤。
が、しかし。

「お、おいアンドウ!」

かくりと、力なく膝が折れた。
ここで一息ついたからだろうか、どうやら力がだいぶ抜けてしまってるらしい。
面目なさそうな苦笑を浮かべるも立ち眩みを起こしているようで、すぐにうつむき頭を押さえたまま動かない。
駆け寄ったエドワードを手で制したままのポーズで固まる安藤に向け、無言で待っていた東郷が一人声かけた。

「……俺が行こう。
 放送以後のお前はまともに集中できていない。不慮の事態にはとても対応できないだろう。
 秋瀬或も、エドワード・エルリックを逃すつもりがないようだ。
 鳴海歩と今後の依頼についての話もしておきたいのでな」

返事を待たず木戸の向こうへと身を翻らせる東郷。
はっと顔を上げ、その背を追いかけようとして安藤はしかし、尻もちを衝く。
本当に申し訳なさそうな顔を形作り、曰く。

「……分かりました。お願いしま……ぶっ」

頷いた拍子にたらりと一筋、安藤の頭から血が流れて口元へと入り込んだ。
俯いていた間に溜まったのだろう、抑えた手の間から血糊でも仕込んでたのかと思うほどに多くの量の血が顔全体を濡らしていく。
鉄臭い味に思わずむせて、

「えっほ、げほっ! ……ぺっ、ぺっ!」

タオルを持った手を口元に当てる。
咳き込みながらも口の中の血を吐きだすそのさまはどことなく滑稽で愛嬌があって。

「まったく……なにやってんだ」

はは、と小さな笑いが部屋に満ちる。
……と。
引き戸の前で手を伸ばした状態で、東郷が一言何かつぶやいた。

「…………き」

「……ん?」

何か、大切なことだろうか。
いぶかしむ表情でエドワードが様子を伺えば。
聞いたこともない声量で、東郷が思いきり叫びを挙げた。

「巨乳大好き!」

1109消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:25:31 ID:NxHj/da.0
途端。

咲いた。

「……は?」

何だ。
何が咲いたというのだ。
主語がないし、脈絡もない。ないない尽くしの破綻した文章である。
だがしかし、それがこの場にある唯一にして純然たる真実だ。

エドの天地がひっくり返った。
頭蓋に爽快に痛快に衝撃が走る。
床に思いっきり打ちつけたのだと気付いたのは、秋瀬或が自分の上に圧し掛かっていると理解した後だった。
先ほどまでの余裕の笑みは、とうにその顔から消え失せている。

そしてまた、咲いた。
真っ赤な花びらが舞っている。

今度は笑みどころか顔半分が消え失せた。
下顎が吹っ飛んだ。
自分の上からもんどりうって転がって、体が一息に軽くなった。

ようやく音が耳に届く。
理解はさらにその後で。

――目の前で東郷が死んだ。
秋瀬或も虫の息。

銃声が響いている。
それが東郷の脳天と或の顎をフッ飛ばしたのだと頭に入ってきたのは、
訳の分からない東郷の叫びから僅かに10秒後の事だった。

そして、その10秒で十分だった。

何もかも。

……何もかも。


**********


外へとエドワード達が駆けて行く。
それでいい。
銃撃が止んだとはいえ、あの正確無比な“壁越し”の奇襲が次に来れば、逃げる手段はない。
このままでは攻撃のタイミングも全く読めず、襲撃者を特定することも不可能なのだから。

自分とした事が、と思う。
集団のリスクマネジメントを気にするあまり、己自身への対処が遅れるとは。

1110消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:25:53 ID:NxHj/da.0
見届けたと同時、意識が混濁するのを秋瀬或は自覚する。
顎が吹っ飛んで数秒後、胴体部がごっそり抉られた。まるでチーズみたいに穴ぼこだらけ。
自分の一部だったタンパク質が血煙となって、鉄の匂いが室内に充満する。
不思議と、痛みは感じない。
ただ力が入らず――地面とお友達になっているだけ。

『何故なら秋瀬君、君は数奇な運命の元に生まれた因果律の申し子だからだ。
 君だけが不確定因子を持っていたからだ。
 だがやはりそうはならなかったらしい。
 運命の歯車は全てを轢き潰す。機会はいつだって一度きり。
 箱の中の猫は観測された』

機会はいつだって一度きり。
ああ、そうかと秋瀬或は自覚する。

『僕にとっての勝利とは……何だ?』

そんな事はもう、考えるだけ無駄だったのだ。
自分の役割はあの時既に終わっていたのだから。

最終部は近く、己の退場を以ってまた一つ幕が上がる。
もはやカーテンコールまで、この場で演ずる理由はない。

でも、けれど。

……まだ生きているのだ。
まだできる事があるのだ。
まだ成せることがあるはずなのだ。

現況を分析し、事態を考察せよ。
後に繋がるものを残せ。
それが探偵の義務であるのだから。

幸い、被弾個所は顎部と消化器系のみ。
失血死は免れ得ないが、即座の生命活動停止には繋がらない。
遅々として死が訪れるのを待つというのは恐怖ではあり、一般人ならすぐに死ねないという不幸にしかならないが――、

「今の僕にとっては、何よりの幸運だ」

そう呟きたくても、その為の器官は既に存在していない。
苦笑しようとして、やはりそれも不可能な事に気がついた。


――銃声がまた、耳に届いた気がした。


**********


秋瀬或に庇われた。
あそこで体当たりを食らっていなかったら、自分が間違いなく死んでいた。

「ちくしょう、ふざけんな……。ふざけんなっ!」

「エド……」

すぐ後ろに安藤の駆ける足音が付いてきているのに安堵して、しかし目尻が熱くなる。

1111消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:26:24 ID:NxHj/da.0
……相容れないと、そう思った。
自分の命すら駒として、掛け金として、まるでゲームの商品のように雪輝とやらを生き返らせようとする。
情報を得る為に手は組んでも、仲間とは到底思えない――そうだったはずだ。

感情論だ。分かってる。
向こうは庇ったつもりなどおそらくはないだろう。
あの、まったく隙というもののなかった東郷の突然の死。
それに呆けて動けなかった自分。
そのままでは的になるだけだったのを、とっさに地面に引き倒して被弾面積を低下させた。
次に自分がそれをしようとして不幸にも命中した――向こうからしてみればそんな辺りだろう。

偶々自分がそこにいただけだ。

だがそれでも――許せなかった。
自分が、そして達観したような秋瀬或の瞳が、まるでまた会いましょうと、来世を確信しているかのように思えて。

グッと拳を握る。
煮えたぎるような感情が体の中に満ちていて、まともに考える頭が今はない。
だからその悔しさをバネに変えて、今はただ走る。
走って、走って、走って。

――山の中腹あたり、だろうか。
森の中にぽっかと浮かんだ、月辺りに照らされる空間。
水の流れる音だけが唯一響く――川辺だ。
そこまでたどり着いたその時に、膝ががくりと崩れた。

「……ちくしょう……」

倒れた拍子に、地面を殴る。
込み上げてくる何かを力に変えて、何度も、何度も。

繰り返すエドの傍に、少し遅れて追い付いた安藤が静かに近づいた。
痛ましげな目を向けて、今にも泣きたそうな本気の表情で声を絞り出す。

「エドの……せいじゃない。あれは、誰にも防げない。
 運命だったんだ」

苦しみに彩られながら、それでもエドを労わるのが伝わる優しい言葉。
だが、エドはそれを受け付けない。受け入れられない。

「運命、だって?」

視線だけで猛獣すら殺せそうな瞳だった。
そんなものは認められない。認めてはいけない。
運命なんてものに責任を押し付けるのは唯の逃避だと、エドワード・エルリックは知っている。
びくりと安藤が震え、のけぞる。
一歩後ろに足を退き、しかし安藤は踏ん張った。
息を吸い、目と目を合わせ、エドに思い悩んでほしくないとそれだけを伝える意思で以って。

「…………。ああ、俺とおまえだけが助かるって、運命だ」

それを口にした瞬間だった、
安藤が、ゴブリと血を吐いた。

1112消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:26:54 ID:NxHj/da.0
「…………! アンドウ!」

――肝が冷えた。
またか、またなのか。
自分の手から零れていくものはどれ程多く、守れるものはどれ程少ないというのか。

「……大丈夫だ。あの銃には……一発も当たってないよ」

駆け寄るエドを手で制すると、袖で口元を拭いながら安藤が虚ろな笑みを浮かべる。

「ただ……、ちょっと、無理しただけだ」

元々体調不良を訴えていたのに加えて、弟を喪失した精神的ダメージと滑落による負傷。
加えて目の前での惨劇だ。
一般人も同然の安藤には、あまりにも過酷すぎたのだろう。
けれど安藤は、空っぽであっても笑みを浮かべる。
そんな状態にあってなお自分を気遣う彼の今の心境を推し量ることは、エドには不可能だった。

歯を噛みしめ、言いたかったことをすべて飲み込む。
そのまま音を立てて地面に座り込むと、静寂だけが辺りを満たす。

「お前だけでも……助かってよかった」

呟きですら、やたらに大きく。
……そこは静かで、寒かった。

ぽっかとあいた林冠の隙間からは、禍々しいほどに黄色い月が自己主張をしている。
月蝕は、近い。

「……ごめんな、どうやら診療所まで向かってる余裕は無さそうだ。
 ここからなら、病院の方が近い。そこで簡単な治療でもできないか試してみよう」

立てた予定はあまりにもあっさりと、全て瓦解した。
ただでさえ秋瀬或との邂逅で時間を費やしたのだ。
東郷が死んだ以上、旅館やデパートを調査するには残された人も時も余りにも心許ない。
こうなれば、ぶっつけ本番でCの企みに介入するしかない。

その意見に、安藤も頷いてくれた。
ただ、少しだけエドの思惑とは違った形で、だったが。

「妙な儀式で……この島の全てがおかしなことに使われるかもしれないんだろ?
 そいつを利用できないか?」

「どういう事だ?」

危うい笑いだった。
なにか、そう。
……大切なものを掛け違えてしまったものの見せる笑みだった。
たった今起こったばかりの事が、安藤を決定的に変えてしまったかのようで。

1113消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:27:35 ID:NxHj/da.0
「……お前の錬金術で、その儀式を逆に……俺達の仲間の蘇生に使ったり、とか。
 東郷さんや秋瀬、潤也……他にも俺たちに協力してくれる仲間を増やすにはそれが一番だ。
 こんなくだらない理不尽な企みで命を落とした人や、大切な人を失った人……、その悔しさや、悲しみを、癒すことだってできる。
 いや、誰かが誰かを殺したこと全てをなかったことにして、水に流すことだってできる!
 賢者の石みたいな増幅器があれば、お前ならできるんじゃないか?」
 
「お前……、自分が何を言ってるのか、分かってるのか?」

「……秋瀬だって、言ってたじゃないか。
 大切な奴を生き返らせる……って。
 その思いや願いは絶対に無駄にしちゃいけない。
 誰かを大切に思う事がいけないだなんて、そんな事は絶対間違ってる。だろ?」

笑っている様にも無表情にも見えるその顔は、月明かりに照らされても口元しか見えない。
どんな目でこんな狂ったことを語っているのか、エドワードは想像したくもなかった。

だから。

「なあ、そんな簡単に生き返らすとか、殺すとか……、そんな風に気易くいっていいことじゃねえんだよ。
 正気に戻れよ、自分がどれだけおかしいこと言ってんのか……ちゃんと気付けよ。
 これまでに俺たちが背負ってきたものを、全部、全部だ!」

有無を言わせず歩み寄り、そして。

「全部投げ捨てる様な事を……言ってんじゃ、ねぇーッ!」

全力で、安藤の横っ面をひっぱたく。
いい音がした。

失ってなおその身に付いたままの、生身の左手で。
相手が病人だなんて、関係ない。
ただ、虚勢を張って強がって、それでももう二度と過たせないために。

茫然と、茫洋と、茫々と。
頬を押さえて安藤がエドワードを見上げている。

……悔しかった。
この少年に、こんな思考をさせてしまうに至った自分の無力さが。
だからこそ、その怒りを全て元凶へ向かう憤怒と変える。

「どいつもこいつも簡単に死にやがったり生き返りやがったり!
 挙句の果てには、お前やアキセたちまで甦らすだの、馬鹿な事をほざきやがる!
 こんなに簡単に人の魂を……弄びやがって!」

1114消灯ですよ ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:27:56 ID:NxHj/da.0
命が、軽い。
命とは……こんなものだったろうか。

「いいか? 返事はいらない! 届かなくたっていい、刻みこんでやる!
 この場所にいる全員にも、雲の上から俺達を眺めて楽しんる奴らにもだ!
 命を……ッ、たった一つしかない命を! かけがえのない、受け継がれてきたものを! 人の尊厳を!
 一体なんだと……思ってやがる……っ!」

           とぅるるるるるるる。

そりゃあ、もちろん。

           たぁん。

「え……?」

こういうものだと思っている。

「……あ、れ?」

世界が、傾く。
尻もちを吐いた。
腹に手を当てる。
ぬるりと、暖かい感触がした。


「エドォォォオオオオオォォォォっ!」


安藤の叫びが、やけに頭に響いた。
痛いほどに。

1115ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:28:43 ID:NxHj/da.0
**********


――暗闇に満ちた視界に、一筋の切れ間が走る。
頬が、冷たい。
体の感覚が失せている中で、その冷たさが最初に感じた現世とのよすがだった。

平衡感覚がおかしいと気付いたのは、次第に体に血が巡ってくるのを理解してからだった。
何故頬が冷たいのか。
ずっと地面に触れてれば、熱を吸われるのは道理だろう。
要は自分は地面に突っ伏しているのだと、やっと分かった。

意識して息を吸うと、咳き込んだ。
喉にドロリとした粘性の高い唾が溜まっている。
吐き捨て、痛めないようゆっくりと気道を確保する。

どうやら長いこと倒れていたらしい、立ち眩みを起こさないよう少しずつ四肢を動かして、硬まった体を馴染ませていく。
首を動かすと、頸椎が痛いくらいにごきりと鳴った。

「……づ、……っ」

意を決し、ゆっくりと体を立ち上げていく。
腰から上を起こしたところで静止。
……思ったより視界がぶれる。
落ち着くまでは、このままでいた方がいいだろう。

頭を押さえながら、ようやく周囲の様子を全く伺っていない事に気付き、戦慄。
無防備な自分に呆れ果てる。
辺りを探るも、物音や気配は何処にもない。

……どうやら、自分は一人だけのようだ。
そう、辺りには誰もいない。
たった一人でここにいる。
当然だ。
――仲間はもう、いないのだから。

込み上げてくる何かをこらえ、歯を食いしばる。
今成すべきことは、鋼の意思持て前に進むこと。それだけだ。

最後に覚えている感覚は、腹部への激痛だ。
銃撃してきたのは誰だったかは、あまりに唐突過ぎて確認する暇もなかった。
間違いなくあれのおかげでこんなところで寝る羽目になったのだろう。
放送の後だった事だけは、色々な意味で助かった。

理解できないのは、何故自分が生きているのか。
止めを刺さずに襲撃者が去った。
……何故だ?
考えるも、情報が足りな過ぎて現状では何とも言えない。
そんなことにすら頭が回らないくらい今の自分は思考能力が低下している。
不味い傾向だ、と思う。

とりあえず、ここにこのままじっとしている訳にはいかないだろう。
軽く体を探る。
……腹部に軽く手当てをすれば、どうにか動くだけなら問題ないと判断。
必要な分だけ、必要な事を。

1116ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:29:08 ID:NxHj/da.0
向かうべきはと思いを馳せれば、神社だと記憶は告げている。
手短にインターネットで現況を確認すれば、もはやここで出来ることもなく。
ここでどれだけ時間を浪費したのかは、分からない。
ネットを見る限り、C・公明こと趙公明とやらが何かを企んでいるのが見て取れた。
そちらを確認しに行きたいというのが本音ではある。
……けれど、あれから何も連絡を入れていないのだ。
たとえ、もう誰もいないのだとしても、行く義務が自分にはあるだろう。

もし誰かいるならば、色々なことを伝えなくてはいけない。
その一念で体を動かして森の中をひた進む。
幸いなことに神社は近い。
労せずして、そこに辿り着くに至った。

「……これは」

悲劇にして喜劇の、現場に。
全てが終わった夢の痕が転がる中、残されたモノを受け取る影一つ。


――そして彼は、鳴海歩は、思索に沈む。
この場で何が起こったのかを。


**********


やあ、こんにちは。……もうこんばんはになるのかな?
愚弟がここを探っている間、少し話でもしようじゃないか。
ああ、この着ぐるみは気にしないでいい、ただの趣味だよ。

いや待ってくれ、行かないでくれないかな。
私も軟禁されているとこう、退屈なんだ。
何かしていないとどうにも持て余すんだよ。
持て余すのが何か、聞きたそうな顔をしているね。

……そりゃ、残念。
とは言え、君も知りたくはないかい?
何故こんな事態になってしまったのか、裏では何が起きていたのか。
私ならすべて語ることができる。
ふふふ、聞きたくないのなら帰ってもらっても構わな――、

本当に帰らないでくれ。
全くノリが悪いね。人生を少しでも楽しもうとする気概を持たなきゃ。

うん、こうしよう。
君にはここに至るまで起こった出来事のうち、いくつか断片を見てもらおう。
ただし、それは断片だ。起こったことの全てを語る訳ではない。
無論、少し考えれば何が起こったかは十分に分かるはずではあるけどね。
それを考える楽しみ、というのは、中々乙なものだと思わないかな?


**********

1117ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:30:10 ID:NxHj/da.0
Fragment Ⅰ -The root-

【A-3/水族館/1日目/午後】

『簡単なことですよ。無い物は――作ってしまえば良いのです。それこそが、我々錬金術師の本分なのですから』

受話器向こうの男の嘯きが、一人の男の耳朶を打つ。

「現実には、お前も鋼の錬金術師も賢者の石の作成には至っていないはずだ……」

――ゴルゴ13、東郷。
彼の投げかけた言葉はしかし、相手を追求するためのものではなかった。
そこに込められた意図は、確かなる道程を確保するためのハーケンだ。
何のためか?

……無論、神とやらを屠るための。

そして――、

【しかし、護衛任務とは己の持つ技能の全てを護衛対象に見られる事である。
 そしてゴルゴ13は己の手の内を知る人間を、決して生かしてはおかない。
 つまり、“護衛対象”の脅威となる外敵が全て排除され、契約自体が無効化されたその時、“護衛対象”はゴルゴ自身の手によって排除される。
 いずれ殺す人間を、全力を持って守る。
 この矛盾に満ちたゴルゴの行為は、あるいは神の調和を覆すためにゴルゴ自身があえて作りだした“破局点なのだろうか。 】

そして、彼自身が彼自身であるための。

『ええ、そうですね。実際に作るには、当然ながら十分な設備が必要です。それと、材料も。
 そして鋼のでは――性格上、賢者の石を作ることは不可能でしょう。
 まあ設備の方は賢者の石が一つ手に入れば楽に造れるのですが』

おあつらえ向きと言わんばかりに、それさえ今は彼の手にある。
これは作為か、偶合か。

……作為だろう。
しかし、賢者の石の作成による状況の打破はエドワード・エルリックには不可能と、ゾルフ・J・キンブリーは断ずる。
果たして、どうしてか?
……大凡の予想はつく。しかし、不確実な情報には頼らない。
話を促す。

『それでまあ、折角ですので、貴方には材料の確保をお願いしたいのです。無論、無理にとは言いませんが……。
 何、こうして私に連絡を取ったということは、貴方も完全な独力での事態の解決が可能だとは考えていないのでしょう?
 それなら、私の依頼は貴方の行動の妨げにはならないと思いますよ』

「……材料とは何だ?」

キンブリーが明々白々に事態を悪化させる人物であるのは承知の上。
しかし、鳴海歩やエドワード・エルリックのような善人とは違い、誰よりも具体的なプラン、そしてその為の何らかの絶対的な根拠を備えているのは確実である。
ならば、選ぶべき道は如何か。
向こうの要望にて、それを決する。

1118ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:30:35 ID:NxHj/da.0
『賢者の石の材料は――』

程なく、全ては合点のままに。

『――生きた人間です』

内心、頷く。
エドワード・エルリックの行動に全て説明が出来た。
なるほど、それでは迂闊に動く事は出来まい。

そして、キンブリーが嘘を吐く理由もない。
もともとこちらから持ちかけた交渉だ、それを鑑みれば向こうもこちらとの取引を望んでいるという事だろう。
ならば、取るべきはシンプルだ。
キンブリーとの協調をメインプランとしつつ、スペアとして鋼の錬金術師を確保しておくのが望ましい。

……だが、今となっては大きな枷が一つある。
当初としては鳴海歩とのラインとして大きな価値があったものの、“あれ”はもはや自分の行動を制限するだけのものだ。
鳴海歩から提供された情報分の働きはしたと自負している。
腹話術とやらのリスクも鑑みれば、これ以上の依頼継続は自分に益をもたらしはすまい。
幸い、次の放送時には鳴海歩との邂逅が叶う。
その時点で契約の更新を確認し、十分な対価がなければ依頼を完了させれば良いだろう。

……尤も、だ。
鳴海歩の死亡などで契約の終了を決着できねば、どうするべきか?
いや、それについてはそもそもの契約内容に違わねば、それで良い。

『この、安藤の殺害を試みる何者かが存在する場合、そいつの戦闘手段を始末してくれ』

鳴海歩の依頼内容は、これだけだ。
即ち、相手から戦闘する手段さえ奪えば後はどうなっても構わない。
それ以前に、あれの生死さえ問われていない。
あれは護衛と受け取っていたようだが――、実質、そんなお優しい代物では全くないのだ。

つまり。
つまりだ。

“戦闘を目的としていない何らかの手段で、【結果的に】死亡したとしても契約内容には全く違反しない”のだ。
たとえどれ程、死亡の確率が高くとも。

そしてキンブリーは“生きた人間”を必要としている。
その目的たる“賢者の石の錬成は、誰がどう考えても戦闘のための手段とは言えない”。

新たに別の人間を掻っ攫うよりも、手間も時間もかからない。
一挙両得の解決法がそこにはある。


「――その依頼を引き受けよう」


そしてこの事が、彼の進む道を決定づけた。
ただし――この時点ではまだ、事態は流動的だった。


**********

1119ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:31:20 ID:NxHj/da.0
Fragment Ⅱ -The fatality-

【F-5/神社入口/一日目/夜】

LEDの人工的な光が一人の少年の顔を照らし出す。
その顔が青白く染まっているのは、何もその光の色でも不健康さからでもない。
自らの運命が致命的にどうしようもないという絶望。
それがただ明文化されただけでこうも恐ろしいとは思わなかった。
……長くないという事など、分かり切っていたはずなのに。

「DEAD、END……」

石段の一番下に突っ伏したまま、安藤は“その文面”の、最後の一文だけを読み上げた。
読み上げて、しばらくは空を見上げて、動かなかった。

月が掴めそうだと、状況にそぐわないロマンチックな詞が浮かぶ。
そんな事を思っていないと――押し潰されそうだった。

駄目だ、と思う。
もう、どうしようもない。

大切な弟の死に、このままでは駄目だと痛感した。
……許せなかった。
弟を助けるどころか死に目に駆けつけてやれない自分が情けなくて、悔しくて。
今もまた、ただ圧し迫る制限時間に怯えるだけで、短い命を刻一刻とすり減らしていく。
全力を持って事態を打開する、せめて自分の今できる事で皆の助けとなる。
そうしなければ、弟に示しがつかないと思った。

だから、何でもしようと誓った。
偶然とはいえあの2人から少しでも離れたこの期を最大に活かして、禁忌の道具に命を吹き込む。
殺人という名を冠した、否定されるべき、忌むべきものでも躊躇わない。
己の命というリスクなど、とっくに背負っている。
どんな卑劣な手でも、使おうと思ったのに。

なのに、この様だ。

……すぐ傍にいる人間が、敵だと知った故。
そして、その人間を強く知るが故。
絶望の二重螺旋は、ただひたすらに安藤を打ちのめす。

それでも、諦める訳にはいかないのだ。
勇気を出す。
……このまま、みすみす殺される訳にはいかない。
むしろ、こうして知る事が出来たのは唯一といっていい幸運である。
通常、この“殺人日記”による予知では自分自身に関する予知は不可能だ。
だがたった一つだけ、その例外がある。
――DEAD END。
死の直前の状況だけは、自分の周囲が分かるのだ。

1120ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:31:42 ID:NxHj/da.0
……あの男が明確な敵である“奴”と手を組んだと判明した今、放置しておくわけにはいかない。
手が、震える。
ガチガチと歯の根が噛み合わず、涙がボロボロ零れてくる。
みっともない。
人殺しという、最低な手段に既に手を染めているのに。
だから絶対に、躊躇いなんて許されないはずなのに。

それでも――無理だった。

ぽろりと、掌から携帯電話が零れ落ちる。

自分は、命を助けてもらったこともある人間を殺そうとしている。
たったそれだけの楔が心に食い込んで、あんまりにも痛かった。

未来に裏切るのは相手だ、と、己を納得させようとする。
けれど、『まだ』彼は裏切ってないじゃないかと、現在の事実が妥協を許さない。

そして、先に裏切る重みに、安藤は耐えられない。
それは人の正しい在り方として、あんまりにも当然のこと。
そうまでして自分が助かる価値はあるのかと、安藤の劣等感は運命の甘受さえ認めつつあった。


そう、この時までは。
この囁きが、耳に届くまでは。


虫が飛ぶような音が聞こえた。
びくりと震え、顔を上げる。
……携帯電話が、振動していた。

のろのろと手を伸ばし、液晶を開いて確認する。
そこには。

「……メール?」

ぱかりと開くと、着信を示すアイコンが点灯している。
特に何も考えず反射で操作し、中身を表示。

「え……?」

記された内容と、送り主の名を見て硬直。

……ああ、この男は。この名前は。

決して、決して許してはならないのだと。妥協してはならないのだと。
この男と、それと手を組むことを選んだかつての同志を葬る事に躊躇をしてはならないのだと。

ただそれだけが、折れた心に浸透していく。
ぽっかりと開いた空洞に入り込んで、代わりの柱となっていく。

触れてはならない場所に踏み込んだ報いを。

1121ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:32:06 ID:NxHj/da.0
――カチャカチャと。
まるで、雑然としていたパズルが4隅を見つけた途端一気に組み上がっていくように。
思考そのものが一気に整然としていくのを感じ取る。

それは飛躍。それは超越。
あるいは、覚醒という陳腐な表現を使ってもいいかもしれない。

何か大切なものが終わり、そして何か恐ろしいものが始まったのだと、自覚する。

やらねばならない事は、シンプルだ。
その為に考えろ考えろ、マクガイバー。
ヒーローは悪を許さない、子供だって知っているとてもシンプルな絶対の真理。

神殺しの刃が、血に浸って錆びていく。
……否。
血を吸い練り込み、魔剣と化す。


実に頭の中がクリアだ。
爽快ささえ感じる。
まるで因果そのものを俯瞰しているかのようだ。

無表情で、高速に携帯電話を打鍵する。
手っ取り早い自己保存の手段は即ち、裏切り者の始末。
つい数十秒前まであれほど重く、動かなかった指先は軽快にリズミカルに。
一切合財の躊躇いなく、蛇口を捻って水を出すこと並みにあっさりと。

あの殺し屋への、完璧なる殺害計画書が提示された。

……だが。

「駄目みたい、だな」

それでもDEAD ENDは変わらない。
裏切り者は始末する。裏で手を組んでいるはずの錬金術師と邂逅する未来はない。
なのに、だ。

何故か?

『安藤――は正体不明の襲撃者に心臓を狙撃され、死亡する。DEAD END』

……一応、あの男はボディガードとしての役割を果たすつもりではあったようだ。
おそらく、裏切りに気付かない振りをしていればこの謎の襲撃者とやらからは本来は身を守ってくれたのだろう。

ボディガードを始末しても、始末しなくても訪れる不可避の死。
正体不明の何物かが自分たちをこれから襲撃するという、暗澹たる未来。
八方塞がり、どん詰まりの四面楚歌だ。
本来なら、回避したと思った未来が結局手詰まりであったことに打ちひしがれるべき状況。
だと、いうのに。

「…………」

顔色一つ変えず、安藤は淡々と打鍵を再開する。
頭の回転が速くなったのは、何かをごっそりと落っことしたからなのかもしれない。
そんな事を心の片隅で思う。

1122ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:33:11 ID:NxHj/da.0
次に試したのは、あの錬金術師の殺害計画だ。
が。

『安藤――は趙公明の攻撃による全身圧壊で死亡する。DEAD END』

「…………」

どういう事だ、と疑問に思うが、答えはきっとシンプルだ。
あの錬金術師と趙公明――神の一派は、手を組んでいる。
ぞくりと、体が震えた。

……繋がった。
なるほど、あの掲示板への書き込みやボディーガードの裏切りの理由、全てに合点がいった。
神に繋がる直接的なラインが存在したのだ。絶対的な後ろ盾が、存在するのだ。
一気に、視界が広がった気がした。
これだ。
これを追っていけば、全てを解決することが出来る。
……そんな錯覚さえ、抱く。

だが駄目だ、まだ自分の死は回避できていない。
この運命を覆さなければ、この情報も全て無駄になる。

目が、血走った。ギラギラと輝きを増す。

戦力を整えていない状態でのキンブリー一派との接触は駄目だ。
殺人日記に『一人しか殺害対象に指定できない』という制限がある以上、同時に多人数を相手にするのは詰みとなる。
現状であの錬金術師には最低でも趙公明と裏切り者という二人が付いている以上、各個撃破せねばならないのだ。

即ち、裏切り者があの錬金術士と直接接触する前に、始末をつけねばならない。
だが、そのままでは正体不明の襲撃者とやらから身を守る術がない。

どうする?
……どうする?

この夜闇の中、精確に心臓を貫く狙撃の腕前。
この謎の襲撃者とやらは、どうやら相当腕が立つと推測できる。
殺人日記でこの襲撃者の始末が出来ればいいのだが――、
肝心要の名前が分からない。

ならば、と名簿を引っ張り出して片っ端から殺人計画を立てようと考える。
もう残り人数は少ない。生存者に総当たりすれば確実に未来が変わるはずだ。
変えられたはずだ。

……しかし。
支給品一式を失った今、それを叶えることはできない。

怯えに呑み込まれそうなのを、ぐっとこらえる。

考えろ考えろマクガイバー。

1123ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:33:55 ID:NxHj/da.0
そうだ、足掻け。
出来る全ての試みを尽くし、決して最後まで諦めるな。
未来の情報は少しずつでも、確実に手に入れている。
それは自分だけの、エドワード・エルリックや鳴海歩でさえ手に入らない大いなる武器だ。
掻き集められるもの全てひとしなみに掻き集めろ。
偽名と分かっている関口伊万里以外の、知っている生存者全てについて殺害を試みる。
たとえそれが、己を仲間と呼んだ人物であっても。

実際に殺す訳ではない。
ただ、仮に殺すことになった場合、どんな状況であるのか。
その上で自分が死んだ時、どんな環境に置かれているのか。
それを調べる、ただそれだけだ。


そして、事態は動きだす。
ある人物の名前を指定した時、殺人日記が吐き出した情報が。

エドワード・エルリックでもリン・ヤオでも我妻由乃でも秋瀬或でも、誰を指定しても未来は変わらない。
あの男に裏切られて錬金術師に殺される、DEAD ENDの文字の前にはいつもそれだけが浮かんでいる。
けれど、けれど。
たった一人だけ、ノイズと共に文面が変わった。
死の運命は覆らない。けれど――、


『安藤――は仲間と共に麻酔銃で動きを封じられ、カノン・ヒルベルトに銃殺される。DEAD END』


「……カノン・ヒルベルト」


かすれた声で、その名前を読み上げる。
これまで予知した未来で全く関与しなかった、新たなる登場人物が、今ここに。

そして、その死がカノン・ヒルベルトを舞台に上がらせる為の鍵となる、最重要の登場人物は。

「鳴海、歩……」

思い出す。
それは、鳴海歩が名乗った偽名のひとつ。
何故だ?
何故、そんなものがここに来て浮上する?

このことから推測できる事は、2つ。
カノン・ヒルベルトという人物は、鳴海歩の知己である。
彼の事情に深く踏み込んだ人物なら、おそらくは――ブレード・チルドレンとやらの関係者か。
鳴海歩が語ったブレード・チルドレンそのものであるなら、なるほど、危険な存在であっても不思議ではない。

そして、だ。
鳴海歩が死んだ途端に姿を現すという事は。
この人物が、どこかからか自分達を――或いは、鳴海歩を監視しているのだ。
きっと、今もまさに。

1124ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:34:24 ID:NxHj/da.0
唾を呑み込む。

鳴海歩の構図の話が本当なら、絶対に殺せないはずの鳴海歩を殺した場合、興味を持って接触してくるのは道理ではある。

そして。
残り人数が少なくなってきた中で、自分たちか鳴海歩か――おそらく後者――を悠長に監視している参加者がそう何人もいるとは思えない。
十中八九、狙撃で自分を殺す謎の襲撃者とやらはこの人物だろう。
自分達と鳴海歩は、もうすぐ合流する。監視されているのがどちらであろうと、関係ない。
その上でボディガードを始末した場合、残る自分が消されるという寸法だ。

……口の端が、上がるのを自覚した。
名前さえ分かれば後は怖くない。
カノン・ヒルベルトの殺害計画を――、

そこまで考え、しかしふと思い止まる。

……駄目だ。
あのボディガードやカノンの始末だけなら簡単だ。殺人日記の殺害計画を頼りにすればいい。
だが、それではエドワードの信頼は勝ち取れない。
自分がエドワードに疑われることがあってはならない。
何故なら、エドワードに全く咎めるところはないからだ。
そして、その力は自分にはない、代わりのないものなのである。

事態の打破が見えたところで、ようやく周囲の事まで気を配る余裕が出てきた、と苦笑する。
……ただ、その場その場を乗り切ればいいというものではない。

そして、気を配るのはエドワードだけではない。鳴海歩も同様だ。
このまま鳴海歩と呑気に合流する訳にもいかないだろう、どうにかして彼の行動を妨害する必要がある。
ただし連絡手段が今はない。
ならば、どうする?

もっともっと自然な形でこの状況をどうにかせねば。
そして、自分がそこに関与していることを、悟られてはならない。
もっと言うなら、殺人日記の使用さえ見られてはならないのだ。
アドリブでの計画の変更は許されない。
偶然ではあるがようやく手に入れた、誰からも邪魔の入らない単独行動、それが今だ。
だからこそ、この機で始まりから終わりまでを見通さなくては。
あまり遅くまで時間をかけては、上のエドワードたちも様子を見に来るだろう。
全てを迅速に練り上げる。

考えろ、考えろ、考えろ。
考える、考える、考える。

……そして、閃いた。
そう、まさしく古典的な漫画のように、電球の灯りを灯すように一瞬で。

1125ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:34:47 ID:NxHj/da.0
そうだ、何も二人ともを始末する必要はない。
むしろ利用してやればいいのだ。戦力は限られている。有効に使えるならそれが一番だ。

殺害対象にカノン・ヒルベルトを指定。
――鳴海歩を交えた邂逅から、交渉による戦闘の回避。
そしてその後に、単独での呼び出しから殺害までの、一挙手一投足が事細かに表示される。
だが、その大部分はどうでもいい情報だ。
肝心なのはほんの一部分――呼び出し、ただそれだけ。

そこには、未来にて最初の邂逅で得るはずの、簡潔なメールアドレスが表示されている。

――ある世界、ある一点で、天野雪輝が未来から銀行の金庫の暗証番号を拾ってきたように。
安藤はカノン・ヒルベルトのメールアドレスについてそれを行った。

さて。
カノン・ヒルベルトは麻酔銃を持っているらしい。
鳴海歩には死んでほしくない、しかしこのまま合流してもらうのも少々不味い。
ならば、最初に依頼したいことは1つだ。

カノン・ヒルベルトが思った通りに動いてくれるかどうかが心配だ、と思ったが、大した問題でもない。
手先で携帯電話を操作し、対象をあの男へと再度戻す。
そこには、カノン・ヒルベルトも交えた上での新たなる殺害計画書が事細かに記されていた。
なにせ、『完全なる殺害計画書』だ。共犯者とどう交渉すべきかさえ、しっかりと記載してくれている。

熟読する。
……エドワードと合流する以上、これからしばらく殺人日記を確認することはできない。
後はぶっつけ本番だ。

煌々たる月明かりの下――、

安藤はそして、送信ボタンを静かに押した。
指先は震えながら、しかし淀みは全くなく。


たったひとつの冴えたやりかた、と信じたら、何があろうと貫き通す。
ありとあらゆる現実を踏み越え、傷つき、軋もうと、一歩一歩を踏みしめて。
この道の先の困難を知っていても、それでもいつか、望む先へと手を届けよう、と。


**********

1126ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:35:06 ID:NxHj/da.0
Fragment Ⅲ -The downfall-

【F-5/研究所/1日目/夜】


硬質な反響音と蛍光灯の白光が、その空間を定義する。
カツカツ、コツコツ、カツ、コツコツ。
人工的で精緻な建造物の暗がりは、誰か通れば勝手に気ままに姿消す。

――浮かび上がる影一つ、病的にさえ思わせる青白さで照らし出される。

「……さて。これで侵入できる場所は――全て確認できたかな」

かつてのカノン・ヒルベルトの残骸は、ふ、と人の好きそうな笑みを掲げて独りごちた。
この研究所の地理、構造、そして設備については、ほぼ把握したと言っても良いだろう。
いざとなれば籠城にさえ使えるかもしれない。
とはいえ、手元にある研究棟のカードキーで入れる領域に限ってではあるのだが。

「一番の収穫はこれ、かな?」

手元に持った一枚のペラ紙を弾くと、虚ろな笑みを強くする。
それはいつか秋瀬或が島中にばら蒔いたFAXであり、即ち、この殺人機械がインターネットという凶器に接触してしまった事への証左であった。

――殺人機械は情報の海に接触し得た知識を反芻し、必要な情報のみを抽出する。
Blogから得た鳴海歩のスタンスや掲示板の管理人と思われる結崎ひよのの事などを解析しつつ、しかし最優先とした知識はそのどちらでもない。
“探偵日記”を名乗るものにより得た、携帯電話の有用性だ。

拍子抜けするほど簡単に見つかった銀色のそれは、現在カノンの胸ポケットで沈黙を守りながらも確かに鎮座している。

「なるほどね。こんなものがあったなら、集団行動のメリットは薄いか……。
 歩君があの死にかけとだけ行動を共にしていた理由が分かったよ。
 ……集団自体が形成されないなら僕自身が集団を内部崩壊させるプランは修正する必要があるね」

口調だけは嫌々そうだ。が、しかし声色も表情も、まったくもって平坦なもの。
薄ら笑いのままに、無垢ささえ伴って首を傾げる殺人機械。

「さて、どうする?」

その時だった。
“未だ誰も番号どころか存在さえ知らないはずの”その胸の携帯電話が振動した瞬間は。


**********

1127ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:35:47 ID:NxHj/da.0
Fragment Ⅳ -The legacy-

【F-5/神社/1日目/夜】


探偵、秋瀬或は最後まで己であり続ける。

動かない体で這いずりながら、漸進する。
顎に食らった一発は平衡感覚をかき乱し、一歩の距離がまるで千里の砂漠のようだ。
明滅する視界は切れかけた電球のように次第に弱々しく灯りを落としていく。
躙る。
躙る。
……躙る。
手を伸ばし届いたモノを引き寄せ確認する。
安堵。

……取り落としたこのメモ帳は被弾もしていないし、血に濡れてもいない。
これを使えば、受け取るべきものへと繋げるはずだ。

気になるのは、と脳内で前置きし、思索する。

攻撃が正確すぎたこと。

東郷の訳の分からない叫びはこの際置いておく。
理屈の分からない事を考えるのには残された時間はあまりに少ない。
ただ、とにかく、あれが攻撃の合図だったのは間違いないだろう。

……しかし、だ。
窓さえ完全に目張りし、外部からは内部の状態が把握できないこの社務所の壁越しに、どうやって正確な銃撃が可能だったのだ?

何らかの手段――そう、たとえば首輪探知機の様なものがあったとして、それで場所を把握した?
否だ。
だとするなら、あまりにもタイミングが良過ぎる。
ならばそもそも、東郷の叫びと言う合図すら必要ないのだ。
偶然の一致と片付けるには余りにも馬鹿馬鹿しい。
……目張りをした以上は、この建物に自分たちがいる事は夜闇の中ではまず分からない。
そして、ここに入る時にも誰かに見つかるようなヘマはしなかった。
自分が一人外に出た時もまた同じくだ。
となると、自分とエドワードが交渉をしていた最中に、襲撃者は確信に基づいてここに近づいたことになる。
自分たちがここにいるという、確信を。

更に言うなら、襲撃者の攻撃手段がそもそもおかしいのだ。
壁越しの銃撃、などというこちらの正確な所在を知った上でもまともに命中するかも分からない方法だ。
そんな事をするよりもこの社務所の入口の見える位置に陣取って、こちらが出てきた時に攻撃を加えればいい。逃げ道をほぼ塞ぐことができる。
にもかかわらず、襲撃者は確信を以ってこちらを攻撃したのだ。
自分たちがここにいるという、確信を。

1128ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:36:25 ID:NxHj/da.0
……確信とは、どういうものか。
それは、絶対に正しい情報があるからこそ成り立つものだ。

絶対に正しい情報とは、何か?
“必ず実現する”情報を手に入れる手段を、秋瀬或は知っている。
この島に生き残っている、誰よりも。

……この襲撃を実行するには、“内部の状況を把握できる”何某かが外の誰かに合図する必要がある。
そして、襲撃者が壁越しの銃撃などという胡乱な攻撃手段をとったのは、『それしかできなかった』からしか考えられない。
何故、壁越しの銃撃しかできなかったのか?
単純だ。
“それしか与えられた情報がなかった”からだ。
……正確な情報をすべて伝えれば、“自分ごと殲滅される”可能性もある。
しかしこの手段ならば、“襲撃者と何某かが互いに顔を知られることなく”事を済ませることができる。
お互いのリスクを低減した上で、メリットを共有することが可能なのだ。

自分を消した理由は――おそらく、こうした推測が可能だからだろう。
手引きをしたという事実を特定される訳にはいかないからこそ、ついでとばかりに葬ったのだ。

――これができる人物は、そしてそれを可能とする手段は。

……頭が、ぼんやりと霞がかってくる。

伝えねばならない。

伝えねば。


伝えねば――、


そして、出来れば。
自分の愛する者が、幸福な人生を再度送れるよう――取り計らってもらいたい。
それだけが心に残る最後の、


**********


さて、こんなところかな。
後は君たちのお察しの通りだ。
私の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう。

全ての種は放送の前に全て撒かれていたという事さ。
破綻は必然だった。
こういう形でなくとも、いずれは……ね。

ほら、そろそろ現在も動き出す頃合だ。
知りたいのだろう? 果たして、彼らは今どうなっているのかをね。
行ってきたまえ、そして見届けるといい。

ああ、また私の暇つぶしに付き合いたいと思ったなら、いつでも来てほしいな。
歓迎するよ。


**********

1129この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:37:11 ID:NxHj/da.0
座り込んでいることさえできなかった。
力が入らず、勢いよく上半身が地面に倒れ込む。
エドワードの体から抜け出ていくのは、きっと、目に見えるものだけではない。

薄れていく意識の中で、安藤が何かを言いながら駆け寄ってくるのが見えた。
心配するな、と言おうとして、胃の奥からこみ上げてきた血がごぼりと口から洩れる。

「やべぇな……、死ぬかも」

そんな呟きすら、溢れる血は許さなかった。
体そのものが冷えていく。
痛みさえいつの間にか消えていた。

色々なものが眼前をよぎっていく。
昔の記憶、今の記憶。
ずっと隣を歩いていた弟。
取り戻したかった母。如何とも形容しがたい、父。
師匠からの虐待の日々や、旅の中で出会った人々。
敵として戦った人も、人でなくとも人らしかったものも、己の中にしっかりといる。
遡る時間の中には、特に忘れがたい思い出が焼き付いている。
禁忌の日。燃え盛る家。決意の朝。
踏み出した足と手は鋼に包まれていた。

虚ろな目で、視線を動かす。
……ああ、そうだ。
この足と手で、ずっとこの道を歩んできた。
この足と手が、ずっとこの背を支えてくれた。

金色の髪が、目の前でなびいた気がした。
その笑顔を救わなければならない。

終わる訳にはいかないと、酩酊する頭でそれだけを形を確かにする。
けれどこのままでは助かるまい。
きっとこの体の死は免れ得まい。

さあ、どうするエドワード・エルリック。

損傷した肉体というハードが、まともな思考を許してくれない。
……だが、それがどうした?
答えは既に己の内にある。

この島は、ありとあらゆる物質的なモノと数多の魂で編み上げられた巨大な錬成陣だ。
安藤はそこに、三次元の座標という新たな視点を組み込んでくれた。

……だが、本当にこの錬成陣はそれだけか?
形あるものに、囚われ過ぎていたのではないか?

錬成陣の本質とは、情報の配置だ。
何処に何があるか、それを以って意味を形作る事でこの世の真理を教え説いているものだ。

……ならば。
形など、物質的な場所など、それに代わる媒体があれば、意味をなさないのではないか。
覚束ない手で、ゆっくりと懐に手を入れ、取り出す。
大丈夫だ。
幸いこれは、壊れていない。
携帯電話を手にエドワードは、咳き込まぬようゆっくりと息を吐く。

1130この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:37:46 ID:NxHj/da.0
思い当って然るべきだった。
情報だけで構築された、情報の為のネットワーク。
……それは、物質を描いて作った錬成陣などよりも遥かに純度も密度も高い錬成陣となりえるのではないか。
参加者達の使用する掲示板やら何やらは全てカモフラージュだ。
本当に必要なのは、高密度の情報体そのもの。
インターネットこそ、この島の文字通りのライフライン。

アルフォンスは血を媒介にした錬成陣で魂を鉄の鎧に定着させることで、現世に居続けることが出来た。
携帯電話、そしてパソコン。自らの知らない鉄の技術。
それを応用して、この島のネットワークに魂を定着させることはできるだろうか?

……代価として、“扉”を開ける。
肉体など、いくら持っていかれてもかまわない。
元々首輪を外す手段として試みるつもりでいたのだ。
これを機に試してみるのは――悪くない、と思う。

それに、仮に、の話ではあるが。
もし誰かが錬金術を行使してくれれば、またこの体を持って戻ってくることが出来るかもしれない。

のろのろと両手を動かし、パン、と打ち鳴らす。
鋼の手と肉の手、二つが一つになり、ゆっくりと離れて行った。

そのまま両手は、携帯電話に。


――押し当てる。


光に融けていくのが、最後の感覚だった。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 消息不明】


**********


現場検証を始めてすぐ、鳴海歩はそれに気付く。

「……これは」

東郷の死体のすぐ傍に転がっていた、もう一つの死体。
年端もいかない少年のそれは、見覚えのあるものを握っていた。

「コピー日記……。なんで、これが?」

我妻由乃との邂逅で失ったはずのコピー日記。
それを、この少年が持っているのは、どうしてか。

「……やられた、か?」

無論、あの時学校に置いてきたのをたまたまこの少年が回収したのだろうと考えることもできる。
勿論そんな偶然を信じるつもりはない。
何故なら、コピー日記は一見単なる携帯電話にしか見えない。
当然、この道具の真の価値を知っている者だからこそ、あのどさくさに紛れて持って行ったと考えるべきか。

1131この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:38:17 ID:NxHj/da.0
そうなると、だ。

「こいつが秋瀬或……か」

あの場にいたはずの関係者で、雪輝でも由乃でもないなら、それしか考えられないだろう。
放送の情報があてにならないというのは、掲示板にも書かれている。
あるいは何らかの手段で自分達を誤魔化して、死んだことにしたのかもしれない。
いずれにせよ、この少年はずっとこそこそ裏で動いていたのだ、きっと。

電話越しのやり取りを思い出す。
……警戒すべき相手だし、実際に言葉という矛を交えたこともある。
だが――嫌いにはなれなかった。

「…………」

黙祷を捧げる。
今できるのは、後はこの少年の遺志を継ぐこと。それくらいだ。

そして、東郷。
この男もまた、最後まで実直に在り続けたのだろう。
……まさか死ぬなどとは思えなかった。
理性ではなく感情の面で、想像が出来なかったのだ。

「……あんたが死ぬなんて、一体何があったんだ?」

目を閉じ、やはり同じようにする。
目的のために手段を選ばない男だった。
善でもなく、悪でもなく、ただ自分であろうとする存在。
……ある意味、自分が見てきた中で一番完成された人間だったのかもしれない。
だからこそその力を頼り、危険性を封じる為に、安藤と同行させたのだが。

……そう、安藤だ。安藤が、ここにはいない。
そのことにうすら寒いものを感じる。

彼の安否はどうなったか。それとも、彼自身がこれを引き起こしたのか。
物言わぬ躯と語らうことで、その片鱗でも拾えればいいのだが。

東郷の死体を見やる。
あんまりにも綺麗に、脳天が撃ち抜かれている。
だが、状況があまりに不自然だ。抵抗の様子が全く見られない。

この狭い部屋の中で、この男が何もできずこうまで圧倒された?
……有り得ない。これほど用心深い偉丈夫が、室内戦で後れを取るはずがない。
何らかの理由で全く抵抗が出来なかったと考える方が妥当だ。

……そう。
例えば、相手の意識を完全に奪う異能の様な。

しかし、しかしだ。
東郷の死因は、間違いなくこの銃痕だ。
そして自分の知る限り、あの能力はこの口径の銃と同時に扱う事は不可能なはずだ。
と、なると――最低でも一人、共犯者がいることになる。
思い当るのは、やはり先刻の狙撃手だ。

1132この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:38:45 ID:NxHj/da.0
「…………」

知人を疑う自分に、嫌気がさす。
だが、思考を止めることはしない。
それが自分に出来ることだと知っている。

たったひとつの冴えたやりかた、などと、何かを妄信するつもりはない。
ありとあらゆる可能性を試し、足掻き、藻掻き、進んで退いてを繰り返し。
この道の先を知らぬ人間でも、それでもいつか、どこかに手が届くのだ、と。

――それが鳴海歩なのだから。

頭を振り、検証を続ける。
まだ、あの少年が犯人だと決まった訳ではない。

……しかしだ。
やはりこの室内は綺麗すぎる。
秋瀬或と、東郷。最低二人はいたはずなのに、どちらか一方すら犯人と争った形跡がないのはやはり妙だ。

「…………?」

視線の先に、弾痕が止まる。
壁にぽっかと開いたそれは、一見流れ弾による産物のようにも見える。
が。

「……血液の飛び散り方と、射線軸が一致するな」

――壁越しに攻撃した、とでもいうのか?

馬鹿な、と自分の考えを否定する。
完全な盲射ではないか、と。
謎の狙撃手の仕業だとしても馬鹿馬鹿しい。

……だが、もしそうなら東郷さえ手も足も出なかった理由に説明がつく。
流石に壁越しに正確な攻撃を脳天に食らう、などというのは想像すらできないだろう。

異能による意識の喪失と、壁越しの奇襲。
これらが同時に発生したならば、流石の東郷でもどうにもなるまい。

……もし、壁越しに攻撃したとして。
予めそこに撃ち込めばこの結果がもたらされると確信していたが如く、
こうも正確に脳天を撃ち抜く――その手段はなんだ?

「…………」

結論ありきで考えている。それは分かっている。
――誰かに意識を誘導されているのかもしれない。
踊るのは慣れている。……この感覚は、身に染みている。
だが、それでも。自分にはこれしかないのだ。

大きく、ゆっくりと、時間をかけて溜息を。
酸素を取り込み、掻き乱された頭を整調する。

1133この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:39:07 ID:NxHj/da.0
時間が惜しい。
一つの疑問点にかかずらってはいられない。

東郷の躯から、秋瀬或と思しき死体にまた視線を戻す。

「ん……?」

よくよく見ると、握っているモノはコピー日記だけではない。
もう片方の手には、メモ帳が握られていた。
それもわざわざ、自分の血に濡れないように。

「これは……」

――感嘆する。
そこには数々の、秋瀬或の得た情報や、そこから導いた考察が詰まっていた。
特に最後の方には、錬金術とその視点から見たこの島について詳しく書かれている。
エドワード・エルリックより聴取、と、小さく脇に記されていた。
几帳面なことに、この情報を聞いた時刻までしっかりと。

「エドワード・エルリック……か」

……この男は、何処にいる?
記された時間からして、まだ遠くには行っていないはずだ。
この惨劇が発生してからの時間は、きっと思うより遅くない。
おそらくは東郷や、安藤とも共にいたはず。

「探してみる価値は……あるな」

書かれている内容は錬金術を不完全とはいえ齧った自分には興味深いものばかりだが、
後で読み返すことにして一旦置いておく。

……自分の兄の名前が記されていたことも、今は保留だ。

懐に手帳をしまい、次に手を伸ばしたのはコピー日記だ。
これもまた、血に濡れないように気遣われていた。

「……懇切丁寧だな」

苦笑する。
……この男は、そういう男だ。
僅かなやり取りではあったが、十分に理解させられた。
もしかしたら最初から自分に遺すつもりでこうしていたのかもしれない。
神社で合流というのは、おそらく東郷達から聞いていたのだろうから。

「……っと」

ひらりと、二つ折りのコピー日記の隙間から紙が零れ落ちる。

「なんだ……?」

畳まれたそれを開いてみる。
――名簿だった。
一部の名前が赤に染まった、名簿。

「……っ!」

1134この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:39:36 ID:NxHj/da.0
不自然なことではない。名簿に記された死人の名前は、赤く染まる。
だが、その中で一つだけ。
染まった方法が、明らかに違うものがあった。

「安藤……!?」

その名前が、真っ赤に染まっている。
この名簿の機能ではない、秋瀬或自身の、血によって。

――秋瀬或は、探偵だ。
こんな名簿をわざわざ、コピー日記に挟んでおいた、その意図は。

歩の中で、何かがカチリと填まる。
そう、コピー日記だ。
あの秋瀬或が、単に自分が秋瀬或だと自分に伝える為だけに、こんな回りくどいことをした?
否だ。

待て。
待て、待て。自分は先ほど何と考えた?

『予めそこに撃ち込めばこの結果がもたらされると確信していたが如く、
 こうも正確に脳天を撃ち抜く――その手段はなんだ?』

――そうか、と歩はしっかりと、秋瀬或のバトンを受け取った。


「未来日記。……安藤、お前は」


【ゴルゴ13@ゴルゴ13 死亡】
【秋瀬或@未来日記 死亡】

【F-5/神社/1日目/夜中】

【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(中)、腹部裂傷(小)、貧血、左肩に深い刺創(応急手当済み)、両腕に複数の裂傷
[服装]:上半身裸
[装備]:秋瀬或のメモ帳、小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら、コピー日記@未来日記、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式×3、医療棟カードキー、破魔矢×1、社務所の売り物(詳細不明)×0〜3、錬丹術関連の書籍、
    手錠@現実×2、警棒@現実×2、警察車両のキー 、詳細不明調達品(警察署)×0〜2(治癒効果はない)、
    No.11ラズロのコイン@トライガン・マキシマム、居合番長の刀@金剛番長、月臣学園男子制服(濡れ+血染め)、雪輝日記@未来日記
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
0:未来日記を得た安藤と狙撃手の協調への強い疑い。
1:放送の内容やネット情報、秋瀬或のメモについて考察したい。
2:競技場に向かい、趙公明の動向を探る。並行してエドワード・エルリックの捜索。
3:結崎ひよのに連絡を取り、今後の相談をしたい。
4:島内ネットを用いて情報収集。
5:首輪を外す手段を探しつつ、殺し合いに乗っていない仲間を集める。
6:カノン・ヒルベルトの動向には警戒。
7:『砂漠の星の兄弟(姉妹?)』に留意。
8:『うしおととら』と、彼らへの言伝について考える。
9:神社の本殿の封印が気になる。

1135この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:40:02 ID:NxHj/da.0
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
 また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
※主催者側に鳴海清隆がいる確信を得ました。
 また、主催者側にアイズ・ラザフォードがいる可能性に気付きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※錬丹術(及び錬金術)についてある程度の知識を得ました。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変である事を知りました。
※考察に関しては、第91話【盤上の駒】を参照。
※秋瀬或のメモ帳には、或が収集した情報とエドワードの錬金術についての知見、それらに基づく考察が記されています。



※神社の石段手前に中型トラックが停められています。
※ゴルゴ13の死体はブラックジャックのメス(8/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂、携帯電話(白)を身につけています。
※秋瀬或の死体はクリマ・タクト@ONE PIECE、ニューナンブM60(4/5)@現実を身につけています。
※ゴルゴ13の死体の傍にデイパック(支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
 携帯電話(黒)、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙)が落ちています。
※秋瀬或の死体の傍にデイパック(支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、ニューナンブM60(5/5)@現実、.38スペシャル弾@現実×20、
 警棒@現実×2、手錠@現実×2、携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、A3サイズのレガートモンタージュポスター×10
 永久指針(エターナルポース)@ONE PIECE)が落ちています。


**********


目の前で、エドワードが撃たれた。
たったそれだけで、安藤は混乱の極みに陥った。

何故?
どうして?
誰が?
何処から?

今すぐここから逃げる、という選択肢さえ、考える余裕はなかった。

こんな筈ではない。
こんなの予定にない。

妄信は依存を生み、依存は安寧を育てる。
然らば、依存を失った安寧は淪落するが道理というものだ。

「そんなっ! なんで……!?
 駄目だ、こんなの駄目だ! エド、エド!」

半狂乱。
かろうじて理性がアトラスのように自我を支えているだけで、安藤は己の体調をも顧みずエドワードに縋りつく。
捨て去ったと思っていた罪悪感はちっともそんなことなく整然と心に積み上げられていて、あたかも図書館の本棚の如く自分の周りに聳え立っている。
……ただ整理をつけて、動き回るのに支障はないようにしただけ。
どこまで行っても安藤は、その心は、どこにでもいる普通の人のものなのだから。

1136この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:40:24 ID:NxHj/da.0
「エド、駄目だ! あんなこと言っといて死ぬなよ!
 お前……っ、ウィンリィさんを守るんだろ! 救うんだろ!?
 俺とおんなじで、弟がいなくなって、辛いんだろ?
 だったら駄目だ! ちゃんと最後まで生き抜いて、あいつを――死んだあいつらを救わなきゃ!」

喚き散らす。
涙と鼻水と血が顔面をぐちゃぐちゃに汚し、ついた膝は泥塗れ。
尊厳とか誇りとか、そんなものとはこの世で一番程遠い姿である。
実に惨めったらしい。

けれど、エドワードはそんなことはお構いなしで。
目の前でごそごそ何かを取り出すと。

「……エ、ド?」

呼び掛けは虚空へ。
エドワードは自分を見てなどいないのだと、脳漿に氷柱をぶっ刺されたように急速に理解した。
これ以上一人相撲を続けることはできず、けれどこのまま黙って何もしない訳にもいかず。

硬直した僅かな間のその隙に、安藤の出来ることは全て終わっていた。

唐突にまばゆい光が目の前で起こり、焼かれないよう一瞬目を閉じる。
とっさに掲げた腕がその動きを止める頃には、事態はとっくに終わっていたのが間抜けな光景ではある。
ちかちかとする視界を無理にこじ開け、目を眇めながらすぐ先のエドワードを確かめる。

「エド?」

返事はない。
急に辺りが冷え込んだように、感じた。


「……え、あ?」

そこに動く影は、もはや安藤一つしか存在しなかった。
エドワードがいた場所には、首輪と、服と、彼の荷物が転がっている。ただそれだけ。
どういうしかけか、機械鎧はそこにはない。
ベージュとハートの携帯電話が、やけに月明かりに輝いていた。

「え……、何、が」

理解できない。
銃で撃たれた、それだけなら理解はできる。
たとえ取り乱してもちゃんと筋道立てて考えられる。

……もう、安藤の頭は飽和状態だ。故に完全な思考停止に陥る。
倒れた。光った。消えた。
安藤に分かるのはそれだけ、因果も何も見えては来ない。

何も分からず、何もできず、ただそこに立ち尽くしていた。
たった一人で。

……一人? いや、違う。

1137この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:40:51 ID:NxHj/da.0
ざり、という音が、安藤のすぐ傍から届く。
はっとして顔を挙げる。

佇む影が、静かににじり寄っていた。
まるで幽鬼のように音もなく、しかし、おぞましいほどの笑みをその顔に浮かべて。

「電話をかけてみて正解だったね。
 どっちが僕に連絡を入れてきたのか分からなかったから、試しただけなんだけど。
 こんなに簡単に君を特定できるとは思わなかったよ」

言葉が出ない。
ああ、神様。それとも悪魔?
この出会いで、何を自分に求めているのです?

「やあ……」

たった今殺戮を行ったばかりのその手を柔らかに伸ばし、人好きのする表情で。
それは、告げた。


「初めまして、僕はカノン。カノン・ヒルベルトだ」



【D-4/川辺/1日目/夜中】

【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”ON
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:M16A2(12/30)@ゴルゴ13、理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×15、携帯電話(シルバー)
[道具]:支給品一式×4、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3、パールの盾@ONE PIECE、
    大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、
    五光石@封神演義、マシン番長の部品、秋葉流のモンタージュ
    不明支給品×1
[思考]
基本:全人類抹殺
1:鳴海歩と合流は保留。通信ネットワークの存在下における最適な殲滅方法を再定義。
2:安藤(兄)への興味。
3:十分なアドバンテージを確保した状態であれば、狙撃による人類の排除。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。

1138この病は死に至らず ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:41:11 ID:NxHj/da.0
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:全身打ち身(中)、頭部裂傷(小)、腹話術の副作用(大)、魔王覚醒、風邪気味
[服装]:飼育員用のツナギ
[装備]:殺人日記@未来日記(機能解放)
[道具]:イルカさんウエストポーチ、菓子数個、筆記用具(以上全て土産物)、土産品数個(詳細不明)
    水族館パンフレットの島の地図ページ、携帯電話(古い機種)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦う。危険人物は可能な限り利用した上で同士討ちを狙う。
0:エドワードの消滅とカノン・ヒルベルトの意図に混乱。
1:首輪を外す手段と脱出、潤也の蘇生の手掛かりを探る。
2:闘技場に向かい、C・公明の企みに介入する。可能ならば病院で治療も。
3:殺し合いに乗っていない仲間を集める。利用できるなら殺し合いに乗っていても使う。
4:歩本人へ強い劣等感。黒幕の一味との疑い。
5:エドの機械鎧に対し、恐怖。本人に対して劣等感。
6:リンからの敵意に不快感と怯え。
7:関口伊万里にやりどころのない苛立ち(逆恨みと自覚済み)。
8:今後の体調が不安。『時間』がないかもしれない。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については

情報を得られていません。
※我妻由乃の声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。由乃を警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※掲示板の情報により、ゆのを一級危険人物として認識しました。
※腹話術の副作用が発生。能力制限で、原作よりもハイスピードで病状が悪化しています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※月食が"何か"を引き起こしかねないという考察をエドに聞いています。
※秋瀬或から彼自身の考察や鳴海清隆についての話をある程度聞いています。
※エドワードと秋瀬或の交渉の中で、エドワードの考察をある程度聞いています。
※キンブリーと趙公明の繋がりを把握しています。




※携帯電話(ベージュ+ハート)、エドワードの首輪、エドワードのコートと服、バロンのナイフ@うえきの法則、
 デイパック(支給品一式(二食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ、柳生九兵衛の手記、食糧1人半分、割れた鏡一枚、土産品数個(詳細不明))が安藤の目の前に落ちています。

1139 ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 16:42:01 ID:NxHj/da.0
以上で仮投下終了です。
もし可能であれば、どなたかが代理投下してくだされば助かります。

1140名無しさん:2011/07/25(月) 17:36:40 ID:rj6690XA0
俺もさるさんだ
誰か代わりを

1141 ◆JvezCBil8U:2011/07/25(月) 18:41:32 ID:NxHj/da.0
代理投下してくださった方々へお礼を、非常に助かりました。
長い話なのにほんとうにありがとうございます。

1142 ◆RLphhZZi3Y:2011/09/15(木) 11:19:20 ID:8hW82z.c0
こちらへ投下します

1143ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:20:07 ID:8hW82z.c0


――逃げよう。



その結論に至った。
ナイブズはいない。
足手纏いの小娘もいない。
レガートもいない。
敵対するような人の気配もない。
ナイブズから、深夜の宴から逃れられる好機は今しかない。

全ての物事には好機があり、十分か不十分かを判断して乗るかを決める。
ミッドバレイが生きていられたのは、見せかけの好機に結果的に乗らなかったのが大きかった。

今目の前を通り過ぎようとしているのは、見せかけでもデコイでもない、正真正銘好機(チャンス)の神だった。
自分自身のためにフューネラルマーチを演奏せずに済む、これ一度きりの機会。
死の恐怖から逃れられる。



趙公明に突き付けられた招待状など、犬にでも食わせて無視を決め込みたかった。
GUNG-HO-GUNSも人外甚だしい集団だが、あれは雷電らどころの騒ぎではない。
とんだバーサーカーな上、戦闘を楽しめるのならば手段を選ばないタイプだ。
その趙公明に、別の参加者に快楽を取られないようにナイブズ共々唾をつけられた。

競技場には恐らく、空中で戦闘をしていた、拳銃でも音を支配しても殺す一手にすら届かない獣も来る。
小娘を人質にとったようにまだ餌を拾っていたのなら、ガサイ・ユノと再会する可能性も捨てきれない。
そもそも既に残り人数が二割程度にまで減っているのだ。
生き残りは相当な猛者だ。
少年探偵や小娘のように保護下に置かれている者、命果報の強運の持ち主が若干名いそうだが、それは数に入れない。

強者同士が相討ちになって欲しい願いはある。
だがそれこそが、自分ではもう口に出せない、出してはいけない二文字。
『希望』だ。
絶望は毒、希望はもっと毒だ。
死線へ飛び込んだらその結末は、自分が死ぬか、すがりついたなけなしの希望をぶち壊されるかのどちらかである。


それでも、少しでも長く生きることに、死を先伸ばしすることに執着がある。
……執着して何が悪いのだ。
行けば確実な死、戻ってもどのみち死。
どちらかのデッドエンドを選ばざるを得ないのならば、好機に乗ってみるのも抵抗として良いものなのかもしれない。

葉巻を噛みすぎ、先端にくっきりと歯形がついた。
地面に落として火を揉み消す。その足は震えていた。

わかっている。これは完全なる一人相撲なのだ。

1144ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:20:37 ID:8hW82z.c0

『何故おめおめとしているミッドバレイ。
 もう二度と好機は現れないぞ』


天使か悪魔か、それともヴァッシュに憎悪を抱いていたGUNG-HO-GUNSの忠告か。
残り短い命を秤の片側に乗せても、恐怖という分銅が置かれた皿は下がったままだった。

早くナイブズの手が届かない、競技場とは真逆へと向かおうと気が急く。

葉巻を懐へ忍ばせ、キーは車に差したまま離れる。
発車の音でナイブズに気づかれないようにしたかった。

この選択が自分を生かすか殺すか。
相手のいないロシアンルーレットをしているも同然だ。

車から三十メートルほど離れたところで、音界の覇者たる耳が、絶望の音を捉える。
ナイブズとは違うベクトルの、髪の毛すら逆立ち弥立つ恐怖が降ってきた。

白濁の風が、今しがたまでいた場所に刺さる。
垂直落下し奇襲をかけてきた黒い巨体を避けられたのは、鋭敏な耳の賢明な判断によるものだった。
咄嗟に避けてから、趙公明が両断した男と同じ道を辿るところだったのだと思考が追い付いた。
もうもうと土煙が立つはずの地面はみぞれで湿っており、巨体の姿を隠してはくれなかった。

「……楽しめる人間ではあるようだな……」

死神の如き剣を抱えたソレは、ミッドバレイから一切の希望を奪い去った化物そのものだった。
寒夜のせいで化物からは湯気が沸き立ち、好戦的な殺気と共に放っていた。

「来ないのであればオレから――」

化物の言葉など最後まで聞かなかった。
勝ち目など、頭の隅にもない。
ただ真っ先に、最も適当だと思われる行動を取っていた。

サックスのマウスピースをくわえ、肺腑に空気を溜める。
後退、すなわち車へ向かいながら、金管へ息を吹き込んだ。

ミッドバレイと化物を中心に、無音地帯が広がる。
化物の言葉が途中から途切れた。
声が通らないことに多少の驚きを隠せなかったのか、マイクのテストでもしているように喉を振るわせていた。
おおかた「あーーー」とでも言って無音状態を試していたのだろうが、化物の姿では読み取れなかった。

そして、奴は笑った。
笑ったように見えた。
化物はミッドバレイに、戦闘する価値を見出だしたのだ。
音を武器とする者は多くないと踏み、化物にとっては未知の力であろう無音を作り出し時間稼ぎに使った。
音で攻撃するより無音にした方が、状況理解に時間がかかり少しでも長く足止めできるだろう。

読みは的中したのだが、ミッドバレイがした行為は、手袋を投げることによく似ていた。

サックスを吹きながら車へ一散走る。
呼吸の乱れを無音空間の揺らぎにしないように、走る姿とは裏腹に恐ろしく繊細に奏でる。
焦燥と恐怖に駆られながらも、ナイブズからの逃亡には理由ができたといらぬ考えがよぎった。

車の更に先に、工場から出てきたもう一つ影があった。
闇夜で確認しづらいが、まだ少年の域を出ない年の若い男だ。
そいつも何かから追われるように走っている。ナイブズとでも一悶着あったのだろう。


だが。
辞めろ。
来るな。

遂にマウスピースから口を離し、大声で叫んでしまった。



「車を……取るなああああああぁぁっっ!!!!」



ミッドバレイとまだ子供にしか見えない男は同時に車へ着いた。
しかし車の鼻先が工場側に向いていたのが災いした。
運転席へ座ったのは子供の方で、ミッドバレイが助手席のドアを開けて子供を突き飛ばそうとした時には、既にエンジンがかかりアクセルが思いっきり踏まれていた。

1145ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:21:03 ID:8hW82z.c0







「何だよあの獣ハ!!?」
「知るか!!!」

工場を出た途端に獣が襲撃する場に出くわしてしまったリンと、突然駆けてきた正体不明の子供に操縦権を奪われたミッドバレイ。
狭い車内で二人の混乱が錯綜する。

運転席へ乗ったはいいものの、リンは運転などした試しは無い。
車を運転する様子を見たことは何度かあった。
それだけだ。
キーを回しギアを動かしてペダルを踏めば動く。
あとは全然わからない。
リンの運転の知識はその程度だった。

この車は現代日本ではありふれたオートマ車だった。
床に密着するほどアクセルが踏まれていたが、車は動かない。
サイドブレーキが上がったままなのだ。
負荷がかかり、引き絞ったアクセルのせいでエンジンが妙な回転音をしている。

ミッドバレイはすぐにでも子供を殺して運転席を開けさせたかったが、死骸を外に出して運転席へ座る暇も残されてなかった。
ゾッドはもう追い付く。
獣の巨体が車内の視野から消える。
真上には刃の気配。




「――ッ、南無三!」

好機も何もない。
もはや運否天賦。
ミッドバレイは助手席から、サイドブレーキを降ろした。

ゾッドの攻撃の寸前で、車は急発進する。

前輪が上がっているのではないかと不安になる発車スピードだった。
自身が車を動かしているにも関わらず、リンは"信じられない物に乗ってしまった"と目を丸く見開いていた。

サイドミラーを頼りに、ミッドバレイは無駄だと知りつつもベレッタを放つ。

的は大きいが、弾は掠めただけのようだった。
舌打ちし、ベレッタを腰のベルトへ挟み込む。

スピードメーターはどんどん上がるが、進行方向先には工場が聳えていた。
ハンドルをほとんど切っていない。
エイトの介護ジェットの体当たりで吹っ飛ばした扉へ一直線に突進する。
ゾッドは追ってくる。

「ブレーキを踏め! ぶつかる気か!」
「このまま工場内を突っ切ル! というか、ブレーキってどこだヨ!?」
「アクセルの横だ!」
「アクセルとブレーキ一緒に踏んだらどうなるんダ!?」
「壊れるに決まっている……もういい、どけ!」
「もう遅イ!」

焦りと興奮で、ニヒリストのミッドバレイが珍しく怒鳴り散らす。
売り言葉に買い言葉と、リンも声を荒らげる。
押し問答を繰り返している間に、車は工場へ乗り上げた。

すっとんだ扉は車が充分通れるだけの広さはあった。
火花を散らして工場内の次の扉を抜ける。
運転席側のサイドミラーが扉の枠にぶつかって遥か後ろへ飛んでいった。

ゾッドはまだ来ている。
血の海を横目に、折れて飛んでいったサイドミラーをあの剣で両断して追ってきた。

1146ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:23:12 ID:8hW82z.c0
――ゾッドは闘いに飢えていた。
  ガッツと趙公明との戦闘はメインディッシュとして後へとっておいた。
  キンブリーはまだ一応手を出さないでおく。
  腹は満たされ、武器も調達した今、やることは決まっている。
  音を支配し、見慣れぬ鉄の車と鉛の飛び道具を操り反撃してくる。
  闘うに値する興味深い相手が見つかった幸運を嬉しく思っていた――





いくら通路が広いとはいえ、車が往来できるように設計されているはずがない。
アクセルと、教わったばかりのブレーキを何とか操る。
側面が早くもボコボコになった車が工場を駆け抜ける。
パラパラと、工場が崩壊の予兆を見せ始めた。

今まで通路は直線だったが、リンは一瞬ハンドルから片手を放し左を指差した。

「あそこ曲がりたいんダ!」

ミッドバレイが見たのは、車が直角にでも曲がらなければ通れないT字の通路だった。
ただでさえ通るのがギリギリな通路で左に曲がりたいと無茶苦茶を言う子供に、
そして追ってくる化物に、ミッドバレイは心底恨みの念を募らせた。

白濁の剣はすぐ後部まで近づいている。

……今日はどれだけ他人に妥協と迎合をしてきたのだろう。
現状はその選択の余地すら許さない。

「……限界までアクセルを踏んでから、すぐにブレーキを共に踏め」
「壊れんじゃなかったのカ!?」

答えないミッドバレイに、リンは自分の言った無茶がどれだけ大事なのかを知る。

角の手前でリンはシートベルトを今更締める。
アクセルを踏みつける。
そして高い所から飛び降りたように、両足でペダルをダンッと押し付けた。



   バルルルルルルルルッ!!



とんでもない吹かし音が出てきた。

アクセルとブレーキを同時に踏むと、安全面の問題でブレーキが優先される。
しかし急に止まる訳ではない。

助手席を抱えフロントガラスとの衝突を避けながら、ミッドバレイはギアをバックに入れる。
次の瞬間、リンの手をはたき落とし、ハンドルを目一杯左へ回した。
タイヤが甲高い悲鳴を上げる。
更にサイドブレーキを引く。
車は一気に横を向き、トランクルームが今まで通っていた通路の右壁にぶつかる。
即座にサイドブレーキを降ろす。

後部はぐしゃぐしゃになったが、ボンネットはリンが指した通路へ突っ込んでいた。
運転席側の壁には右前輪が三十センチぐらい乗り上げている。
素早くギアをドライブへ叩き入れ、

「アクセルを踏め!」

リンはその通りに思いっきりアクセルを踏みつけた。
ミッドバレイはハンドルを右に切る。
ガリガリとホイールキャップが削れていく。
さっきサイドミラーが取れなければ、引っ掛かって進めなかった。
それほどギリギリの運転をかましたのだ。
バウンドして車は水平に戻った。

1147ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:23:36 ID:8hW82z.c0
「――進行方向、シャッターが閉まってるぞ!」
「ここをブチ抜きに来たんダ!!」

直進へと直したハンドルをリンはまた握る。
シャッターが鎮座している袋小路へ、ミサイルのような勢いで突進する。

ミッドバレイは足を突っ張る。
リンに至っては、運転手にあるまじき目瞑り運転をしていた。

全てがスローに感じた。

まずナンバープレートがシャッターと対決し、あっさりとぶっとんでいった。
しかし次鋒のバンパーが小さくも穿つ。
一度穴が空いたシャッターは、ボンネットにより破られた。
普段なら耐えられるよう作られたシャッターも、度重なる戦闘により傷んでいたらしい。
ボンネットをくぐらせたシャッターは、フロントガラスを引っ掻き傷だらけにする。
リンが未だに目を瞑っている間に、ミッドバレイは座席を倒し、後部座席へ移る。

シャッターに空いた穴の縁が車の屋根を舐め、遂に突破した。

その先には、工場とはかけ離れた景色が待っていた。
寒色で塗り固められている。
大量の水がボコボコ循環する、巨大な水槽が立ち並んでいた。
観光地である水族館の通路は、工場とは比較にならないほど広かった。
しかし巨大な追っ手にも好都合でもある。

非常口のワープ空間の奇妙な気配をリンは感じており、どうにかシャッターを片付けられないか画策はしていた。
こんな形で破るとは想定外だったが。
そしてワープ先が水族館なのも嫌な意味で想定外だった。
周りは大量の水の壁。
何かの弾みでガラスが割れでもしたら、悪魔の実の能力者になってしまった身体では不都合である。


後部座席に青色の光が落ちる。
ミッドバレイがサンルーフを開けたのだ。

シャッターの穴からゾッドが追ってくるのが見え隠れする。
まだ逃走劇は終わっていない。

銃器だけは種類を持っている。
ミッドバレイがディバッグから出したのは、第一放送前に三人を葬ったイガラッパだった。
愛用のサックスの弾を残しておくためイガラッパを構える。

あの巨体がポップコーンのように弾をはじく、嫌なイメージが浮かぶ。
散弾銃ゆえ、一撃必殺の用途ではない。
人間ならまだしもあの獣に対しては、期待できないほど威力が弱いだろう。

ミッドバレイは運転席の座席を後ろから蹴り上げる。

「目を開けろ……死にたいのか」
「細目で悪かったナ、もう開けてル!」

1148ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:24:11 ID:8hW82z.c0
早く化物を車から引き離し、運転席の子供を殺処分して、より遠くへ逃げなければならない。

刃が大穴の空いた鉄製シャッターを、剃刀が紙でも切るように横一文字に寸断した。

「集中しろっ……」

移動する車での演奏など、ドップラー効果の影響をもろに受けるシチュエーションだ。
キャラバンの音楽隊でもやらない。
こんな悪条件、今後は御免蒙る。

風を、吸い込む。



     ――――ッ……



途絶える。
エンジン音、水音、銃声、破壊音、全てが消える。
どこまでも静寂である。

神経が倍磨り減ったとはいえ、五線譜にも載っていない音色は、通常と遜色ない働きで相殺していた。

二度目の無音に寸時反応した化物。
その一瞬に貴重な散弾銃を懸けて引き金を引く。



     ッ!
     ッッッッッ!
     ッッッッッッッッ!!!!!



作用反作用で身体が振動する。
今――あの時勝てる見込みなどないと絶望させた化物に――弾をくれている。
歯の根が噛み合わないのを抑えなければ、微細な隙ができてしまう。
恐怖がマウスピースに伝わってしまった時が今際となる。

化物の、筋肉の鎧へ一斉に弾が向かう。

蠅を払うように、剣の面で一蹴される。

それでも散弾銃は散弾銃だ。
剣の軌道よりもずっと広く弾は拡散する。

皮膚に穴が空く。
血液が噴出する。
角は削れていく。

化物の追う勢いは止まらない。
ただ多少、本当に多少。
化物にもダメージを負わせられるのだと、銃器の殊能性に安堵する。

相変わらずリンは、車に運転をさせられているような、危なっかしい操縦をしていた。
突然音の消えた世界に白黒していたが、いかんせん前だけを向いていなければならない。
柱形の水槽を避けながら、広いフロアを突っ走っていた。
バックミラーと、音がせずとも皮膚にビリビリと伝わる銃撃の衝撃波で、男がどうにか武器で立ち回っているのがやっとわかった。

ミッドバレイは残り弾数半分のイガラッパを全弾撃ち尽くした。

迫る化物は、とても満身創痍には見えなかった。

必要のなくなったイガラッパをぶん投げる。
サイドミラーより大きなイガラッパも、剣で金属片の輪切りへと変貌した。
剣の餌食となれば、自分もこうなるのだ。

1149ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:24:52 ID:8hW82z.c0
急いでミッドバレイはサックスを手繰り寄せる。
片足は後部座席へ、もう片足は運転席の背凭れへ。
背中をサンルーフの角に固定する。
冷や汗が風で乾いていく。
もう一度。
肺が破裂する限界まで息を吸い続ける。
化物が無音の世界に身構えるのがわかった。
もう無音にするのは効果がないだろう。



     ――――ウァァンッ!!



何とも形容し難い、そしてあらん限りの大きな音が辺りを包む。
耳が揺らぐ。
空気が波打つ。
酸欠になり目が霞む。
息を長く吐き続ける。

一度の息継ぎでまた大量の空気を吸い込み、サックスへ流す。
小さな亀裂音にて、音界の覇者の、全身全霊のソロパートがフィナーレを告げた。

分厚い水槽のガラスにヒビが入る。
厚さ十数センチはあろう強化ガラスが、破裂した。
ミッドバレイはガラスと共鳴する音を奏でていた。
ガラスは破壊しても鼓膜は破れない、信じられない技術技巧だった。

水槽から、怒涛の勢いで水が暴走する。
上下左右、車が通り過ぎた片っ端から水が溢れ出す。
車の形をしたハリケーンでも走っていくかのようだ。
数トンはあろうかという水の固まりがゾッドを襲う。


「――面白いじゃないか」


ミッドバレイの一挙一動が、ゾッドを好奇で震え立たせ、更なる戦闘へ駆り立てている。
足掻けば足掻くほどに悪循環を辿っていたのだ。




車はフードコートの机を撥ね飛ばし、土産コーナーをあらかたぶっ壊し、
にこやかに『またきてね〜♪』と合成音で笑うイルカのモチーフを大破させてやっと屋外へ脱出した。

後ろにゾッドは着いてきていなかった。
月だけが笑っている。
街路樹がさざめいている。

水族館前の通りを爆走させる。
一刻でも早くゾッドから離れなければ――



     カシン。



小さな金属音が重なる。
後部座席からミッドバレイが、腰から抜いたベレッタをリンの脳天に定めている。
引き金に掛かる指が動かないのは、宙に浮いた左腕が包丁を持ち、ミッドバレイの首に切っ先を当てていたからだった。

リンはサイドミラー越しに睨みつける。

時速は六十キロ。
今リンを殺したら、やはり死体を片付けるまでに車は大事故を起こす。
車を止めさせるための脅しだ。
牽制するように、隠し持っていた包丁を突きつけたが、ミッドバレイが死んだらゾッドに対抗する手段がない。

運転席にいるリンが何とか主導権を握っている。
アクセルを踏み続けている限り殺されはしないのだが、逆にガソリンが尽きたらリンの命はそこで終わる。
それを考えたらミッドバレイに有利とも言える。
どんどん加速し続ける車内で、二人は膠着状態になる。

1150ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:25:23 ID:8hW82z.c0
ミッドバレイは浮いた左腕を忌々しく睥睨する。

「……人を食ったような手品だな」
「そりゃドーモ。
 立場柄、殺気には鋭くてネ」

月の光が通りを照らし――嫌な形の影が車上に落ちる。
開けっ放しだったサンルーフが突然光を遮られる。



「……う、え、カァァァァッ!!!!?」

リンが叫ぶ。
ミッドバレイからは、月の逆光で真っ黒になった影が凄まじい勢いで大きくなっていくのが見えた。

アクセルをベタ踏みする。
低速ギアに切り替わる。
時速九十キロをみるまにぶっちぎる。

工場の発車時とは比にならない急加速で、猛烈なGが二人をシートに押しつける。

いる。
化物が来ている。
振り切ってなどいなかった。



水のアタックは確かに効いていた。
だがゾッドは水が溢れる水槽へ、逆に飛び込んでいた。
巨大な水槽は、水上部分が屋外へ通じているタイプだった。
屋外イルカショーが開催される水族館では、ありふれた設計だ。
そのまま中空へ飛び抜け、空から車が出てくるのをてぐすねひいて待っていたのだ。

「這個混帳東西!」

えげつない罵声を母語で漏らし、リンは思わずハンドルを左に切る。
完全なる初心者の失敗をおかした。

「馬鹿野郎!」

みぞれも溶けきらない道での急な方向転換に、車は酷いスピンがかかった。
車内はミキサーのようにぐわんぐわんとかき混ぜられる。
左回転だったため、遠心力で二人して右のドアに叩きつけられる。
大通りであったことが功を奏して、電柱にぶつからずに回転が弱まる。
これ幸いにと、くらむ頭を堪えて再びリンは車を走らせる。

どうも一回転強、回ったらしい。
さっきの進行方向の丁度九十度左を向いているようだった。
海に向かう方面である。

細い路地が行く手に伸びる。
彼方には墨汁でも湛えたようなどす黒い海が見える。
体勢を立て直せない。

「くそッ……儘ヨ!!」

1151ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:26:40 ID:8hW82z.c0
Uターンで引き返せない路地をひた走る。
右腕だけで車の尻を振る不安定な走行を繰り返す。

だがふと……リンは一つ、気味の悪いことに気づいた。
無茶苦茶に走らせていたつもりだったが、よく考えてみれば……

車で通ってきた道は龍脈に沿っていた。
ワープの空間が何となくわかるように、無意識に龍脈の上を通ってきている。

むしろ龍脈を通りさえすれば、例え狭い道だろうが通路だろうが、行き止まりや道に迷うことはなかった。
今も龍脈の道しるべに沿っている。
次は右、今度は左と、嫌にナビゲートのように続いているのだ。
ちらりと横を見やれば、細い路地からまた更に枝分かれしている路地はほとんどが袋小路である。

山の奥に入れば入るほどもやがかかっていた感覚も、山を下りたら鮮明になってきている。

『いつもより霞がかっているのは変わっていないが、磨りガラスを一、二枚取っ払った程度に感覚を取り戻している。
島に身体が慣れたのか、それともバラバラ人間になった副作用なのか。』


違う。
龍脈の乱れが正されている。
鍵を開けたように、誰かが解放したのだ。

誰が。
なぜ。
このタイミングで。

だが今はこの破天荒なドライブをどう終わらせるか考える方が優先だ。
どう龍脈から読み取っても、次の角を過ぎた途端にカーブが待ち構えている。

発車時より随分と速度は落ちているが、このスピードでは曲がりきれるかどうかわからない。

「……なぜ道がわかる」

盛大な舌打ちでミッドバレイは運転席の座席ごと右腕を回し、ベレッタをリンのこめかみに突きつけた。
歯噛みしてリンも首に包丁を押し付ける。

ミッドバレイも、小道を猛然と走り続けられる不自然さには疑問を抱いていた。

「オレにはナビゲート能力があるんだヨ!」

大嘘。

「次の角で死ぬカモ」

これは大体合っている。

「なら……ナビになれ」

1152ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:27:24 ID:8hW82z.c0




車を正面から見た者がいたら、状況が理解できないだろう。
ミッドバレイがギアとサイドブレーキ、ハンドルの三点を、後部座席から腕を伸ばして操ろうとしている。
カバーしきれないハンドル動作をリンが右手で補完する。

何より、互いの凶器は互いを向いたままだった。
ハンドルやギアを握る手が震えていても、凶器を持つ手にはブレも迷いもなかった。

「右へ曲がる大きいS字カーブ、そのすぐ後にまた右に折れル連続コーナーダ!」

これを抜かないと、確実にゾッドに追い付かれる。

「今の速度は」
「八十キロダ!」
「左へ切れ!」

すかさずリンはハンドルを回す。
が、素人の手前、回し過ぎる。
回し過ぎるのを見越して、ミッドバレイはハンドルを必要以上に回転させるのを食い止める。

軌道をふくらませ、左のガードレールに擦り寄るほど近づく。
直ぐに右へ切り返す。
止まることなく、カーブの外側から内側へ真っ直ぐ突き抜く。
ちょうどS字の中心部を真っ直ぐつっ走る状態だった。
最初のカーブをクリアする。


短い直線路が次のカーブへ入る前に伸びている。

「フルパワーで加速しろ!」

カーブを抜けるためではない。
ゾッドを少しでも振り切ろうとの足掻きだった。

エンジンが咳を吐いている。
アクセルのレスポンスが悪い。
車の寿命が短くなっている。
ガソリンの有無に関わらず、ベレッタの弾がリンの頭蓋骨を貫く時が近づいている。

二つ目のカーブへ飛び込む。
カーブの内側へ車を引き寄せていたが、恐ろしい悪路だった。
みぞれどころか、雪がまだ溶けきっていない。



     ギャギャギャキキィーッ!



ハンドルを左へ回した。
左へ曲がれるように車の右半身が浮かせられたのはいいが、肝心の左のタイヤ二つが横滑りする。

1153ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:27:47 ID:8hW82z.c0

水と雪が飛沫になり、轍を残す。
二人はまた右のドアに体当たりをすることになった。

ミッドバレイはサイドブレーキを引き上げた。
後輪にブレーキが掛かる。
地面に触れている左後輪を軸に、前車体もほんの数センチか浮く。
左回転のドリフトの余韻を受け、コンパスが回るように車体が向きを変える。

ドスンと機体が落ちた頃には、車の鼻先が進みたい方向へ向いていた。

サイドブレーキを戻し進ませる。

最後のカーブへ差し掛かる。

――が、道路中央に突然白い柱が立った。

化物が持っていた白濁の剣だった。

二人の進行方向へ投擲のように剣を投げたのだと認識した瞬間。
逃亡してきた全てが台無しになった。

リンが剣を避けようと必要以上にハンドルを切り、それがガードレールに接触する結果となった。
ギアもサイドブレーキも動かしていられなかった。
車はきりもんでガードレール外へ弾き出される。

ドアが飛ぶ。
ライトが飛ぶ。
フロントガラスが砕け散る。
血が流れる。
銃声が轟く。






全開のままのサンルーフから、ミッドバレイが先に放り出される。

宙に投げられている中で見たものは、バラバラになって車外へ脱出したリンと、未だきりもみ回転し続ける車だった。
リンの左手と左二の腕には大穴が空いている。
急ハンドル切りでベレッタはこめかみから外してしまったが、浮いた左手に押しつけることはできた。
跳弾覚悟で手のひらど真ん中を吹き飛ばしたのだ。
どこをどう通ったのか、跳弾はリンの二の腕を貫通させていた。

左肩からは掠めた包丁による血が吹き出し、右肩は二度に渡るドアへの強打のせいでひどく痺れている。
横腹からコンクリートに落下した。
ごきりと肋骨から嫌な音がする。
傷みを感じる間もなくバウンドし、次は背中が擦れていく。
背広に穴が空き、シャツが剥き出しになったところでまた跳ねる。
それでも目はリンを追う。
最適な道を選ぶ能力を持つと言う子供が左半身を真っ赤に染めながら向かったのは、
確かに安全であろう、化物では入れない大きさの地下下水道出口だった。

1154ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:28:17 ID:8hW82z.c0







銀時と沙英がデパートから安全に離れる時に使ったような、妙に、いや不自然にきれいな下水道だった。
嗅覚を通りて過ぎて眼球や舌を刺激する、腹の底からむせかえる臭いがしない。
下水道らしいのは、汚水の流れに所々ゴミが引っ掛かっている点ぐらいだ。
光のない下水道を、リンは壁に手を当て頼りにしながらひた走る。
その壁にすらぬめりがない。異様なまでにきれいだった。

下水道は何キロも伸びていた。
真っ暗闇を下水道が続くだけ走る。

遠くへ。
とにかく遠くへ。
早く水辺を離れなければ。
早く化物から離れなければ。
その一心だった。


音が反響するコンクリート造りの下水道で、足音が途絶える。


走れど走れどするはずの音がしない。
地面を踏みしめているのかが曖昧になる。
光が無い、音が無い、声が出せない。
闇の果てに置き去りにされたようだった。
左腕の傷みだけが正気を保たせる。

今はどこを走っているのだ。
自分は何をしているのだ。
どうしてこんなことになっているのだ。

狙われている。
狙われている。
狙われている!



「    ッ!」



ちくしょウッ! そう叫んだつもりだった。
右足に灼熱を感じた。
穴が空いたと直感的に思い、その次の瞬間には大切な大切な部分が欠けていた。

べちょり。

そう聞こえた気がしただけで、血が飛び散り、桃色の肉が落ちる音は消し去られた。
見えすらしなかった。


眼前にリンの知らない、幻の皇帝の背中が見える。
年をとったランファンに似た女が仕えている。
シンの民族を束ね、正しい政治を治める。
理想の皇帝の姿。

1155ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:28:45 ID:8hW82z.c0

これは、誰なんだ。

そこはオレの席だ。

どいてくれ。

振り返った皇帝の顔は。

そこで頭にノイズが走る。



何がいけなかった。
どうしてこうなれなかった。

『オレの役目は皇帝ニ――』









ああ。

仲間というルールを。

破った時点で。

皇帝になる運命は。

否定されて。

新しい因果が。

決まってしまったのか。





エドワード。

フー。

ランファン。

グリード。

『……オレが本当に欲しかったのは……何だったんダ?』







最後に。
さぁ力を振り絞れ。
狙撃者は近いぞ。
あの男は自分の身体をどうするか。
予想しろ。予測しろ。
腕を伸ばせ。
そして掴め。
強く掴め。
死んでも離すな。

人の道から外れたなら外れたなりに。
やることがあるだろう?








暗闇から、更なる暗闇へ落ちていった。





1156ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:29:06 ID:8hW82z.c0
服がズタズタでも。
右半身が腫れても。
首の傷が痛んでも。
肋骨が骨折しても。


「……生きているな……」


その一言に尽きる。
分厚い土とコンクリートの壁に阻まれ、化物は下水道に入って来られなかった。
逃げられたのだ。
化物から、そしてナイブズから。

目の前には、蜂の巣になった名前も知らない子供が転がる。

もはや用済みの人間だった。
ベレッタを残り弾数全てぶちこみ、その殆どを食らった子供は当然のように事切れていた。
蹴り上げ、死体を下水道へ落とす。
浮きもせず、汚泥にまみれて沈み流されていった。

ランタンをかざし、辺りを確認する。
よく見るとすぐ真上に、下水道からマンホールに繋がるかぎ梯子が伸びていた。
下水道に入ってから痛む身体をどうにか動かし、しばらく移動し続けていた。
ここは今どの辺りにあたるのだろうか。
このまま歩いて立ち入り禁止区域に知らずに入りたくはない。

とにかくここを上がっておきたい。
梯子に軋む手を掛ける。



----
----
----



     ――――――ザザザザザザ
     ―――――ザザザザザザ
     ――――ザザザザザザ



     プツッ

1157人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:29:53 ID:8hW82z.c0
ナイブズが耳をすませたところで、もう声も音も聞こえなかった。

「……これが最後の記録か」

ボイスレコーダー――正義日記――は、工場に入ってから奇妙な形でミッドバレイと再会するまでの出来事を辿っていた。

ザザザ――と耳障りなノイズで再生が始まり、やはりノイズで再生が終わった。

不要の品を隠れ蓑に、正義日記をONにしたままミッドバレイに押しつけていた。
日記とするぐらいだ。容量は半端なく大きい。
デイバッグの中で、ミッドバレイと子供がどういった行動を取っていたのかが全て記録されていた。

元々はミッドバレイを見張るだけに入れたのだが、騒乱がまるでブラックボックスのように克明に残されている。



「普通は死人に口無しと言うだろうが……ホーンフリーク」



今ナイブズは、かぎ梯子を降り下水道にいる。

カンテラで照し、目の前で首を折って死んでいるミッドバレイへ、ナイブズは語りかける。





全ての因果を知るには、リンが工場を飛び出した時間まで遡らなければならない。

1158人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:30:16 ID:8hW82z.c0


#####



車の吹かしと破壊音が地上から唸って聞こえた。

地下室に散らばっている"彼女"を一人だけ引き上げ確認する。
鼓動は確かに感じられる。
しかし"彼女ら"は、ナイブズの知る同胞、プラントとは別物になってしまったように思えてならなかった。
しっかり形が残っているのだが、生産の能力は失われていた。
それぞれの意思すら、ない。人間でいうなら、脳死のような状態に陥っている。
意思が未知の生命エネルギーにより内部から壊されていた。
融合をしたら取り返しのつかない事態に発展すると、本能的に悟った。
皆既月食について考えたからこそ、手出しが出来ない。

子供がプラントの一部を持っていったのに手出ししなかった理由はこれが大きい。
融合は……無理だと判断した。
無言の助け声に、謝罪を述べる。

プラントドームに『01』と数字が振られている。
まだどこかにプラントドームが『02』『03』などと割り振られ存在する証だった。

同時に、生産ラインの動力源して同胞を結びつけた者と、同胞を内部レベルで書き替えてしまったエネルギーに、やり場のない怒りを抱く。
工場は生産を止め、エネルギーの主は自爆しているというのだから尚更だ。
報復も、エネルギーの解析も出来ない。
怒りの矛先は《神》へ向けられる。


だが失望だけしているのではない。

地下室を横切り、通路が通じている。
片側の扉は緩んでいる。
あの子供が開けてみようとしたか、何かしらでこじ開けようとした跡は残されていた。

エレザールの鎌を僅かに開いた隙間に入れ、力任せに破壊する。
鎌の柄はもげ、扉は歪んだ。
鎌を捨てた途端、爆破解体のように、建築物破壊が目的だとありありとわかる爆発が起きた。
地下室まで潰れはしなかったが、瓦礫の崩落音に階段を見ると、崩れたコンクリートで塞がれていた。
薄々予感はしていたが、やはり退路は断たれた。


「……ここしかないのか」




出力を最低限まで抑え、目では見えない刃を出現させる。
扉だけを一刀両断する。
この程度の出力であれば、貴重なエンジェルアームの限界値を削ることもないだろう。

この工場は巨大な墓標。
死んだのは人間だけではないと、プラントも被害者なのだと、この墓標に刻んだ。


「またここに来る。
 ……《神》の首を持ってな」


なじられたプラントを背に、そう誓う。

1159人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:30:39 ID:8hW82z.c0
工場を抜けるついでに、この通路の先を確かめるのも悪い話ではない。
方角や通路の造りから考えると、研究所へ続いているのだろう。

進んだところでいくつかの部屋と、通路をまた塞ぐ扉が並んでいた。
一つドアを開けるとそこは部屋ではなく、外へつながる螺旋階段がそびえていた。



神社の付近だと思われる、コンクリート舗装された道の傍らに出口があった。
遥か遠くの月が森を照らす。
見上げれば木々は逆光で黒い影になり、見事なまでに切り絵そっくりの形となっていた。
灯台が一定の間隔を空けて、夜空をビームのように貫く。
いやに清爽な、胸をすり抜ける風が吹いている。
嵐の前の静けさ、その言葉がよく似合う。

ざわざわと騒ぐ森に異色な、地下から何かを打ち付ける音がした。

十数メートル先のマンホールが、よろよろと開いた。



#####

1160人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:31:00 ID:8hW82z.c0


ようやく、ようやく逃れ解放されたのだと安堵した。

だがなぜだ。

なぜ。

ナイブズが真っ赤なマントをたなびかせてそこにいる。

工場にいるのではなかったのか。

偶然にしては出来すぎだ。

追ってきていたのか。

何もかも見抜いていたのか。



正しい選択など、最初から存在しなかった。
好機など、ミッドバレイの人生には、最初から存在しなかった。
反抗も、逃亡も、何一つ利をもたらさない。

微かな希望を叩き折るような絶望。
逃亡の決意は霧散した。
目の前の男と会うことは、確約された死と対峙することだった。

歯の根が合わず、指に汗が溜まる。

時間が今度こそ止まった気がした。

創痍の身でやっと掴んだ地上の光が、目に届かなかった。

1161人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:31:23 ID:8hW82z.c0




ナイブズの訝しげな視線が、ミッドバレイからその後ろへ移される。

振り向くと、背負ったデイバッグの取っ手に、

右腕が、ぶら下がっていた。


息を飲んだ途端に、腕が凄まじい力で下に引っ張った。
デイバッグの上部を捕まれていたせいで、上体が仰け反る。
マンホールの縁で、後頭部を強打した。
ナイブズとの邂逅で緩んでいた手がかぎ梯子から離れる。
その無理な体勢で、頭がねじ曲がったまま落ちる。
マンホールの壁にまた首が当たり、



     ゴキリ。










音界の覇者が最期に聞いたものは、離れて先に落ちていった腕が、流されていった死体を追うように下水道へ飛び込んでいった音だった。



#####

1162人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:32:30 ID:8hW82z.c0
工場を爆破させたキンブリーは、ゾッドの帰りを待っていた。
旋回するように戻ってきたゾッドは、デイバッグを一つ抱えていた。

「楽しめましたか?」
「あれでは物足りんな」

びちょびちょに濡れたデイバッグをキンブリーに放って寄越した。

下水道から流れてきた死体から荷物を回収することが元々の目的だった。
趙公明とメールのやり取りから、『賢者の石の材料のような物が手に入る未来』は、ゾッドが工場を襲来すれば、やってくるとのことだった。
ゾッドは荷物を持って帰ってきてくれると、そう予知されているらしい。

ゾッドは戦闘を楽しめる。
キンブリーは『材料のような物』が手に入る。

ゾッドに回収を依頼する代わりに、また武器を作ると約束を交わす。
これで利害は一致した。



デイバッグには点火装置や燃料、意味のわからないヒーローのメモが入っていた。中身は濡れていない。

そして――


「……何ですか、これは」


さしものキンブリーも驚く。
これは生きているのか、死んでいるのか、人間なのか、天使なのか、合成獣なのか――



【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム 死亡】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師 死亡】

1163人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:33:46 ID:8hW82z.c0
【E-6/工場脇/1日目/夜中】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身に火傷や弾創などのダメージ(小、回復中)
[服装]:裸
[装備]:
[道具]:キンブリーの錬成した剣
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける。
3:趙公明の頼みを聞く気はないでもない。武道会に興味。
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※趙公明に感嘆。
※ゾッドの剣は神器『快刀乱麻』の形をしています。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式×3(名簿は2つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/3程消費)、ティーセット、小説数冊、
    錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、改造AED
    浴衣、刺身包丁×2、安藤(兄)の日記、食糧3人分程度、固形燃料×8、チャッカマン(燃料1/3)、降魔杵@封神演義、プラントの一部
[思考]
基本:勝ち残る。
0:何ですか、これは。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:安藤やゆのや潮が火種として働いてくれる事に期待。
5:神の陣営の動きに注意
6:エドワード・エルリックに接触する。
7:神の陣営への不信感(不快感?)条件次第では反逆も考慮する。
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
10:西沢さんに嫉妬??
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。
※赤くなる名簿は復帰した者を隠匿するためだと考えました。

1164人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:34:24 ID:8hW82z.c0

【E-5/下水道/1日目/夜中】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:融合、黒髪化進行、手に火傷、【首輪なし】
[服装]:真紅のコート@トライガン・マキシマム
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×14、不明支給品×1(治癒効果はない)、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
    手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩、四不象(石化)@封神演義、
    正義日記@未来日記(ミッドバレイとリンの逃亡を記録)、携帯電話(研究所にて調達)、秋葉流のモンタージュ入りファックス、
    折れた金糸雀@金剛番長、ヴァッシュのサングラス@トライガン・マキシマム、リヴィオの帽子@トライガン・マキシマム、ガッツの甲冑@ベルセルク、
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6、予備弾23)@トライガン・マキシマム、ダーツ×1@未来日記、
    ニューナンブM60(5/5)@現実、.38スペシャル弾@現実×20
          不明支給品×2(一つは武器ではない)、ノートパソコン@現実、
          特製スタンガン@スパイラル 〜推理の絆〜、木刀正宗@ハヤテのごとく!、イングラムM10(13/32)@現実、
          トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(3/5本)、首輪@銀魂(鎖のみ)、旅館のパンフレット、サンジの上着、
          各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、
          或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、工具数種)          ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
          ベレッタM92F(0/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
          銀時の木刀@銀魂、ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
          月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
          No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。逃げたミッドバレイに複雑な思い。
1:趙公明を追う。
2:ヴァッシュの分まで生き抜く。
3:搾取されている同胞を解放する。
4:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
5:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
6:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
7:結果的にプラントを踏みにじった《神》に激しい怒り。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※ヴァッシュとの融合により、エンジェル・アームの使用回数が増えました。ラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約5回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※夜時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。
※"皆既月食"が別の何かを引き出すための方便ではないかと考えました。
 また本物の"皆既月食"が起こる可能性には懐疑的です。



※龍脈の一部は道路の下を辿っています。
※工場が全壊しました。
※工場地下室の扉の片方は破壊されました。研究所に繋がっています。

1165人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:35:15 ID:8hW82z.c0



#####



「ほんたうにそんなことはない
 かへつてここはなつののはらの
 ちいさな白い花の匂でいつぱいだから」

夜が刻々と近づき、ひどく重い空が島を包んでいる。
それを鑑みるかのように、犬養は先ほどから青空を吹き抜ける風を思わせる詩を吟っている。
じわじわと迫りくる死に対面する当事者と、不安に包まれながらも見守る者を対比している。
陰鬱ながらどこか清々しい。そんな詩だった。
宮沢賢治が妹を看取ったときに作られたものである。

挑発に似た視先を、犬養はいつの間にやらそこにいた娘へと向けた。
女神を冠する娘には動揺の欠片もない。

「さっきから吟っているそれは、誰へのメッセージのつもりかしら、観測者様?
 それともただの檄文?」

息継ぎを柔らかく繰返し、紡ぎ出した詩を"アテネ"が遮る。
一切不快のなさそうな、アテネの質問を待ち構えていた顔で犬養が返答する。

「僕達のこれからをよく明示した詩だと思わないかい?」
「『これから』の未来に彼も含んでいるんだろうな」

無論だ、とたった今帰ってきた観測者の片割れにうなずいた。
犬養は整然と二人へ向き直り、続きを述べた。

「運命が死ねと言えばそれまでなんだよ。
 いつ逝く側になるか、見送る側になるか、それこそ神様のレシピ次第だ」
「そうは言いながらも、あなた方は運命の流れに対して、乗りながらも逆らっているように見えますわ」

ミダスの王は触れるもの全てを黄金に変えた。
その輝きを湛えたような、強欲なまでに明るい金髪が薄暗闇に溶け混じる。
娘は仮の姿を騙るがままの動作で貫く。身体と魂で、知恵の女神の名前を分け合った。
上品な笑みは絶やさず、不適につり上がる目は貪欲にきらめく。
白眉の男二人を交互に眺める。
矢のような視線をまた矢で弾き返す勢いで、犬養は瞬く。

「……ウォッチャーが瓦解した」

そこが街頭演説であれば一斉に辺りが静まりかえる、人に訴えかけるのに適した声だった。
客観的事実を言い上げただけで、言外に匂わせる真意はまるでなかった。
ただし他人事だとは思わせない迫力はあった。

「セイバーもだ。
 "彼"は囚われたよ。バックスの謀反でね。
 半ば人質に取られた形でプライド君はバックスに逆らえなくなっている」

バックスが明確に反意を示したあの時、犬養は始終を扉を挟んで聞いていた。
介入もせず、助けもせず、逃げもせず。

しん、と静まる。
それほど動きらしい動きがなかった部屋が、更に冷え冷えとする。
立ち込めるのは苛立ちや焦りではない。
不穏な気配が漂い高まり、決壊しつつある。
嵐の前にはいつだって高殿いっぱいに風が吹き込む。
それと同じだ。

1166人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:36:09 ID:8hW82z.c0
「覗き見は観測者のステータスですの?
 残念なたしなみですこと」
「はは、その言葉は心に留めておくよ」

残念かどうかはともかく、アテネは観測者を皮肉った。
少しだけ張り詰めたものが和らぐ。
そのままの流れで、アテネは話の引導を手にする。

「観測者もまた謀反を起こし――彼に代わって神になるおつもりですの?」
「観測者は観測者だ。神にはならない」

剣呑な言葉が混ざる。
アイズの答えはあくまで冷ややかだった。
それ以上でもそれ以下でもないと、暗に言い切る。

しかし。
アテネに接触を試みたアイズと、形だけでも清隆を助けに向かうことができたのにそれをしなかった犬養。
観測者はノゾキ魔扱いできるほど、既に独自探索を始めている。
神の座を奪うためのものではないとはいえ、深刻な状況に対応する具体的な手筈を
備え整えているのは明らかだった。

「ですが、」

二人の観測者を見据え、否定を口にする。
ごねてすがりつくような、安っぽい接続詞ではない。
明確に意志を感じられる、強い力を含んでいた。



「神にはならない、けれども
 "観測者"が因果律に、意図的に干渉しているのならどうかしら」



語尾を上げず、疑問文にしていない。
断定と質問が混じった、意地の悪い推測を投げ掛けた。
かの探偵のように……そう付け足す。

「観測者の存在意義が、他と比べて曖昧ですわ。極めて異物的です。
 観測対象の投入だけが目的とは思えません」

ウォッチャー・ハンター・セイバーは目的がはっきりしている。
一言で表すなら、『祭事の進行補助』だ。
観測者が独立してまで成し遂げたい目的は『祭事の進行補助』ではない。
まずそれが異質だと言う。

独立しても、進行の妨げにならなかったとき――少なくとも、ゾッドを返したとき――までは、
ある程度ウォッチャーに行動を黙認されていた。
陣営に害を与える存在ではないと見なされていたのだ。
その証拠に、ウォッチャーのバックスも、同じウォッチャーから独立した直後の観測者には不干渉だった。
反乱を画策している途中だったことを差し引いても、反応が薄い。
そのまま何もしなければ、目の上のたんこぶとは思われなかった。

1167人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:36:29 ID:8hW82z.c0

観測者はそれを裏切る。
ウィンリィは島にいる趙公明たちとは別の"ハンター"たちから取り上げ調達した。
当然他の仕事を妨害している。
邪魔になると判断されれば殺されるリスクが高まるというのに、
手に入れられるのはゾッドとウィンリィを観測目標に使った時の結果だけだ。

「答えないのであれば、こちらから言いましょう。
 あなた方が何時間も前に起こした行動が、少しずつ作用してきています」

アテネはきっぱりと断言した。
詮索、投入、考察、全ては過程に過ぎないのだと。
二人から返答はない。



時計は容赦なく針を回す。
例えそれが恐ろしくゆっくりだったとしても、動きは不可逆だった。
かの嫉妬深いヘラを型どった神でも、跳躍できたのは時系列の違う平行世界の範囲内だけだ。
後退もやり直しもない。
一寸の光陰軽んずべからず。
時間を無駄にしないように、観測者は動いているらしい。

「黙秘のままですか。
 それもいいでしょう、いつかわかることですから。
 いずれにせよ、予定されているであろう運命(シナリオ)に大した違いはないでしょう。
 それでもやはりあなた方の行動は未来を意図的に変えている節があります。
 どんな日記であっても改変されるかされないかの、取るに足らないささやかな未来ですが……
 これをどう説明するのです?」

観測者の領域へ足を踏み入れる。
女神の名に恥じない、堂々とした発言だった。
落ち着き払った犬養がそれを真摯に受け止める。


「未来は変わる。変えられるさ」


アテネは目を据える。

「運命はあらかじめ決まっている一本道だ。
 けれど未来は一本道だとは限らない。
 同じ結末に辿り着くにしても、未来は細分化している。
 運命≒未来だ。
 決定論なのに未来は可変性があって、予測は不可能。
 だから観測する必要がある。
 細かい差異は『観測者効果』が起こっているだけだ」

真意のとれない説明は、足元が冷えきるような不気味さがあった。

「結局誰もがシステムの一部なんだ」

それにしても、とアイズは思い返す。
数時間前、観測者は依頼を承っていた。
その時と同じことを犬養はアテネに話している。

1168人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:36:52 ID:8hW82z.c0


#####



少し間を置き、アイズは尋ねた。

「お前はここに何しに来た。ただ『観測者』の行動を確かめるためだけに来た訳じゃないだろう。
 招集でもかかったのか」
「ああ、そうだった。
 次の放送について、"彼"から連絡があるらしいよ」

ところでと前置きし、アノンは運命は何かと問いかけた。
正反対の運命論を同時に発し、皮肉を投げ合う観測者に呆れかえる。

「煮ても焼いても食えないよ。

 それにしたって、演奏を代わってほしいなんて。
 僕は彼の演奏が好きなのにさ」

神に盲信しつつも不満げに、連絡については愚痴を漏らした。

「彼にも考えがある、それだけだ」
「君が世界的なピアニストだからっていうのは聞いてる。
 でも、だからといって降りることはない。
 しかも『凡庸に弾け』って注文つきで」
「何かが起きるのを予想、いや……期待しているんじゃないかな。
 彼は千里眼は持ってないにせよ、先見性は誰よりもある」
「先手を読むのではなく、チェックメイトの手から組み立てるチェスのように」

混じることのない白と黒の盤を、アイズは撫でる。
城も兵士も女王様も、決まった方向にしか動けない。
さて、手駒が必死に守っている王様は果たして盤上にいるのだろうか。
転がる駒をくるくると指さし、犬養はこの祭儀の"打ち手"を思う。

「彼のレシピには、多くの材料が並んでいて贅沢だ。
 沢山の駒(材料)がどう動くかも、レシピの一部になっているのだろうね」
「……未来が分かるのと、神様であることとは、似ているのに」

見た目幼いセイバーのもとへ帰ろうと、うっすらと興奮をしたアノンが、会話を締める。

「まさか」

アイズが否定する。
先ほど『運命は変えられない』と、犬養と見解の違いで対立していたのに、
どういった風の吹き回しだとアノンは訝る。

「未来は無確定だが……運命は、作られている。
 彼は解りきった運命を少しでも楽しくしようとして警察にいる節がある。
 運命を見ているのであって、未来を見通しているんじゃない」
「運命は一本道だ。
 けれど未来は一本道じゃない――」

アイズに続いて、犬養もさらさらと運命の持論を説く。
にっこり笑って、付け足した。

「――だから観測する必要がある。
 独立した理由は、それで納得してもらえないかな?」

1169人生は大車輪:2011/09/15(木) 11:37:21 ID:8hW82z.c0


#####



「疎まれている以上、当面バックスとは疎遠になるね」

しばらくの間はバックスと直接戦うことはない。
目下のところ、バックスは観測者以上にタイトなスケジュールだ。
配下を持っているとはいえ、数が限られている。
清隆に心酔しているプライドとは違い、観測者は人質やモノ質を取られていない。
にも関わらず、殺されもしなければマインド・スナッチャーを取りつけられてもいない。
観測者を放置しておく理由がバックスにもあるはずだ。

「まったく、内ゲバだらけですわね、この組織は。
 どこの学生運動ですか」
「内ゲバね。
 きっとこれからどんどん加速していくよ。
 皆にはそれぞれ別の目的があるだろうしね。
 一回しかない人生をひとつの命をかけて歩いているんだ。これと決めた自分だけの目的ぐらいないと面白くない。
 君だって……そうだろう、天王洲君?」

闘争を認めるような素振りで、取って付けたように犬養が笑う。

「ああ、天王洲君の推測は間違いではないけど、あの娘を運命の指針にしたのは事実だ。
 それもひとつの目的だよ?
 何も時間短縮だけにリスクをかける程僕らもバカじゃないさ」
「"アテネ"から継いだのは身体だけではないか……記憶の一部も移植されたな。
 英霊、いや"ミネルヴァ"」
「さぁ、どうかしら。
 この身体の主がどこまで知り得ているのかは定かではありませんわ」

人差し指を口に当て、秘密だと示す。
背景にゆらりと浮かぶのは、テロリストの頭蓋。女神の成れの果て。

犬養は詩の最後を唱えた。
大正生まれの夭逝詩人は最後にこう綴っている。



#####



 ただわたくしはそれをいま言へないのだ
 (わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
 わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
 わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
 ああそんなに
 かなしく眼をそらしてはいけない


                 宮沢賢治『無声慟哭』

1170 ◆RLphhZZi3Y:2011/09/15(木) 11:38:32 ID:8hW82z.c0
以上で投下終了です。

代理投下をしていただけるとありがたいです。

1171名無しさん:2011/09/15(木) 13:44:10 ID:QvRESNeUO
代理投下をしていた者ですが、規制されました
どなたか代理の代理投下をしていただけるとありがたいです

1172 ◆RLphhZZi3Y:2011/09/15(木) 19:44:05 ID:LkOmKOlMO
おわ、本スレ抜けてた
本スレ>>132>>133の間には仮投下>>1161が入ります

ミッドバレイ、最期まで済まなかった

1173 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:28:35 ID:5OgotkG.0
さるさん食らったので続きをこちらに投下します。
どなたか代理投下して頂けると有難いです。

1174 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:29:18 ID:5OgotkG.0
しばらく歩くと、若干広い区画に出た。
前方にランタンのものとは異なる光が見える。
上階への階段。その途中にある非常灯だ。
どうやら無事に脱出出来そうである。

ひよのの足を止めたのは、小さな違和感だった。
見られている。そう感じた。だがここに至るまでに似たような感覚には何度も陥っている。
また錯覚だろうとは思いつつ、視線を感じた方に目を遣る。

妙なものが見えた。訝って、目を凝らす。
錯覚ではない。のっぺりとした白っぽい影が、切り絵のように闇に貼り付いている。
誰かがいる、と思った途端にぬらりと闇が揺れ、影が色彩を得て妙齢の女性に変じた。
それを見て、ひよのは、怯んだ。

女はやたら派手で、妖艶だった。
頭には王冠といっても通じる煌びやかな四角い冠。
露出の多いレオタードにガーターベルトを付け、色とりどりの刺繍と宝飾が施された豪華な外套を纏っている。
何より、彼女自身の長く艶やかな髪、ぞっとするほどの美貌、完璧に均整の取れた官能的な肉体。
それら全てが相まって、この世に在らざる色香を彼女に与えている。
首に光る鈍色の輪すらも倒錯した美を構成する要素にしかならない。

「――妲己」

知らずその名が唇から漏れた。直感だった。『これ』がそうなのだ。
傾国の美女――国を傾ける美貌。それがいかに狂気染みたものなのか、ひよのは理解した。
太公望や銀時に聞かされた通りの容姿であることは、後付けの判断材料に過ぎなかった。

「だっき……妲己。わたし――わらわはそう、妲己」

揺らぐ声。
極上の月琴を鋸で掻き鳴らすような、とても厭な響きだった。

女がすらりと長い脚を前に出した。赤いドレスシューズが水面を滑り、しかし全く濡れることはない。
当たり前に水面を歩くその姿が、彼女がこの世の法理から外れた存在であることを端的に表していた。
死者の中に妲己の名があったことをようやく思い出す。つまり彼女も『戻ってきた』のか。

喉が鳴る。

倒す――というのは現実的でない。
デイパックに強力な武器は入っているが、それを取り出すまで待って貰えるはずもなく、そもそも太公望の言を信じるなら妲己はただの人間が敵う相手ではない。
少なくとも、こうやって向き合ってしまった時点で既に後手に回ってしまっているのだ。正面から戦うのは無謀に過ぎる。

1175 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:30:17 ID:5OgotkG.0
今のところ殺意は感じないが――というか、女がひよのを殺す気ならもう殺されているだろうが――危険な相手であることには変わりがない。
穏便に済ませることが出来ればそれが一番良いのだが。

「何か――私に御用ですか?」
「そうねぇん。用っていう訳じゃないんだけどぉん……折角出会ったのに挨拶しないのは悪いと思わないかしらん♪」
「はぁ」

ちらりと右方に視線を走らせる。暗くて距離感が掴み辛いが、階段まで二、三十メートルといったところだろう。
逃げられるかは微妙なところだ。

女が一歩前に出て、ひよのは一歩下がる。

「ここで何を」

女は白磁の指で下を指した。

「ここの下の方から、とってもとっても素敵な力を感じるんだけどぉん……貴女、何か知らないかしらぁん?」

ひよのの瞳が毛筋ほど揺らいだ。
下の方。思い当たるものはある。魔子宮――のようなもの――だ。
ここに来る前に博物館で解説文を確認してみたので、その概要は把握している。
曰く、人を人にあらざるものに変じさせる『転生器』であると。

教えてはいけない気がした。

「いえ、知りませんよ」
「そう……それなら、仕方ないわねぇん」

いきなり背に強烈な衝撃が加わった。
前のめりに転んで水に突っ込む。取り落としたランタンが水中に沈む。
急な暗闇。何も見えない。一体何が。
立とうとして、何者かの気配がすぐ横にあることに気付く。
次の瞬間、棒のような物がひよのの胸を狙って振り上げられた。
咄嗟に両腕を交差して胸を庇う。
巨大なハンマーでぶん殴られたような衝撃。体が大きく浮く。
殺し切れなかった力が、乳房を潰し、肋骨を軋ませ、肺の空気を絞り出して背中へ抜ける。
呻き声が漏れ、尻から水に落ちる。
立たなければと思った瞬間、右脚に強く引っ張る力を感じ、ぐるりと重力が逆転した。



要するに、もう一人いた。ただそれだけだ。
女のあまりに異質な存在感に気を取られて他への注意が疎かになっていた。
痛恨のミスだ。ひよのは逆さに吊られながら歯噛みする。

1176 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:31:22 ID:5OgotkG.0
呼吸が酷く苦しい。
胸に食らった一撃のせいで、上半身全体がろくに言うことを聞かない。
垂れ下がった両腕に至っては、鉛の塊にでもなってしまったかのようだ。
抵抗のしようもなかった。

「ははは、捕まえた」

まだ若い、少年と思しき声。
吊られたまま上に眼を向けると、おぼろげに人影が見えた。割と小柄だ。
だが少年は、片腕の力だけで軽々とひよのの身体を持ち上げ、宙吊りにしている。
俄かには信じられない怪力だ。

女が悠々と歩み寄ってくる、そんな気配がする。

「じゃあ、任せるよ」

大きく育った大根を手渡すような感じで、少年は女にひよのの身を預けた。
人間扱いされている気はしない。

「私を――どうするおつもりで?」

女は怖気の走る声で哂った。
そしていきなり、股間に鋭い熱が生まれた。反射的に腰を引こうとするが、脚をがっちりと押さえられていて動かせない。
熱は下腹部から臍に向かってじわりじわりと移動していく。

「さあ、どうしようかしらん♪」

女の眼が闇の中に爛々と輝いている。
くるくると動く猫のような瞳が、酷く邪に感じられた。


***************


水面に顔を出した銀時は、代わり映えのしない景色にうんざりした表情を浮かべた。

「オーイ。さ〜えちゃ〜〜ん、い〜まりさ〜〜〜ん。ど〜こで〜すか〜〜」

1177 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:31:55 ID:5OgotkG.0
暗く単調な通路に気だるげな声が響く。
声に諦めの色が混じっているのはこれが最初の呼びかけではないからで、実のところ既に十度目の呼びかけだからなのだが、案の定返事はない。
大量の水によって細かく分断された地下階層では、声が遠くまで届かないのだ。
水を掻き分けながら進んでいた銀時は、分岐路で立ち止まって濡れた白髪をわしゃわしゃと掻き回す。

「んだよオイちょっとマジでそろそろ出てきて下さいよっつーの。つーかここどこよ。なんか不安になってきたんですけど。
 もしかして俺無視して外出てんじゃねーよな。……イヤイヤこんな頼りになる銀さん置いてなんてそんなまさかそんな。
 …………オ――――――――イ! もう誰でもいーから出てこいやァァァァァァァァ!」

残響が闇に溶けて空しく消える。
溜息。
ぶつくさと呟きながらも、また歩き始める。
行き止まりに突き当たっては引き返し、水没した通路を潜って抜け、水の迷宮を探索していく。
何度目かの水路を抜け、何度目かの分かれ道を通り、そして銀時は何度目かの行き止まりにぶつかった。
金属製の扉だ。鍵が掛かっている。ここに来るまでにも似たような扉は何度か見た。
これまでなら諦めて引き返すところだったが、いい加減イラついていた銀時は、おもむろに腰の刀を抜き、

「うるァァァァァァァァァァァァァ!!」

気合一閃。八つ当たり気味に扉をぶった斬った。

「へっ、ハナっからこーやって進めば……えっ、アレッ、ちょっっ」

少し考えれば解ることだが、扉の両側で水位が等しいとは限らない。
どばんと、扉の斬り口を抉じ開け、水が勢いよく溢れ出た。
当然ながら、銀時はそれを全身でもろに食らうことになる。

「あばっばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」

なす術なく押し流され、銀時は無様に転がっていった。

少しの間、土左衛門の如くぷかり、ぷかりと浮かんでいた。
散々である。クソったれな神様は、どうやら本格的に自分を嫌っているらしい。

ざぱんと派手な音を立てて立ち上がり、鞘に溜まった水を出して刀を納める。
そしておもむろに振り向いて、誰もいない十字路を見透かすようにした。

「つーか、そこのオメーはさっきから何やってんだコラ。みせもんじゃねーぞ」
「いえ、面白かったもので、つい」

1178 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:32:36 ID:5OgotkG.0
聞き覚えのある声と共に、十字路の左側からひょこっと顔だけが現れた。

「おう、何だ伊万里じゃねーか。無事だったか」
「ええ、まあ、どうにか。そちらも無事で何よりです」
「……そんだけ?」
「……何がですか?」
「いや、まーいいや。で、何で壁に隠れてんの?」
「えーと」

言い淀んで、ひよのがゆっくりと全身を現した。うお、と銀時が小さく驚きの声を上げる。
彼女は水着姿だった。
そのこと自体はさして驚くべきことではなかったが、しかしその水着が数箇所大きく切り裂かれて肌が露出し、血が滲んでいることは見逃せない。

「おい、大丈夫か」
「怪我は大したことありません。ただまあ、ちょっと色々ありましてですね。
 何があったかは後で説明しますから、取り敢えず何でもいいので服を頂けませんか?
 荷物も失くしちゃって困ってるんですよ」

言われるままに、銀時はデイパックの中から適当に服一式を選んで手渡した。

「感謝します。それじゃ、ちゃっちゃと着替えますんで、ちょっと後ろ向いてて下さい」

へいへい、と言って銀時が後ろを向く。
白刃が閃いた。



まずひよのの爪が長く、鋭く、伸びた。無言で替えの服を背後に放った。
目を細めて軽く身を屈め、ひよのは小さな水音だけを残して床を蹴った。勢いを乗せて腕を振るった。
白い軌跡を引いて、ひよのの爪は銀時の背中の中央、心臓の位置に吸い込まれる。
硬い音が響いた。

ひよのの顔が歪んだ。
銀時の背を貫く直前で、爪は鞘から半分抜かれた刀に阻まれていた。

「ヘ〜イ、ちっとばかし爪伸び過ぎじゃねーか? 俺が切ってやんよ、ソレ」

首だけで振り向いて、銀時が意地の悪い笑みを浮かべる。
舌打ちをして、ひよのを騙る女は素早く後ろに跳んだ。
が、更に上をいく勢いで銀時が鋭く踏み込み、刀を一気に抜き放つ。
女の右脇腹に刀身がめり込んだ。肉の潰れる音。
細い喉からひしゃげた音を漏らし、女の体が宙で一回転して激しく水面に叩き付けられる。

1179 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:33:13 ID:5OgotkG.0
「フン、まァ峰打ちだから多分死んじゃいねーと思――ってうおったァ!?」

女が水飛沫を上げて跳ね起き、指先から電光を放った。銀時は慌ててしゃがんで避ける。
その隙に、女は銀時から大きく距離を取った。

「てめっ、平気なツラしやがって。どーゆー体してやがんだコラ」
「いいや、結構効いたぜ。それよりテメェこそどういう鍛え方してやがんだよ、一体。本当に人間か?
 下手なバケモンより馬鹿力じゃねえか、クソ」

ごきごきと、その姿に全くそぐわない粗野な仕草で首を鳴らす。

「まァ、いいか。ところでよ――どうしてニセモンだと判った?」
「は? 勘だよバーカ」

半分は嘘だ。最初から何か変だと直観していたのは事実だが、偽者だと看破していた訳ではない。
しかし彼女が沙英のことを尋ねるどころか全く気にかけていない様子だったのは明らかに不自然であり、だからわざと隙を作ってやったらあっさり乗ってきたというだけだ。

「は、はは、ははははははははははは」

正体不明の女が、瘧にかかったように、震え始めた。
口が三日月のように裂け、赤い舌がべろりと覗いた。
身体が見る間に一回り、二回りと大きくなり、水着は繊維にばらけて金色の獣毛に変わる。
それにつれて、笑い声も少女のそれから野太く野獣染みたものへと変化していく。
そして現れたのは、獅子の変化とでもいうべき、金色の怪物。

「げははははははははははははァ! ざァんねん。お前さん、マヌケっぽいから引っ掛かるかと思ったんだがねェ。
 ま、仕方ねえな。次の機会を窺うとするか」
「オイオイ、次の機会なんざあるとでも思ってんのか? 逃がさねーよ」

刃を返し、じりと銀時が一歩前に出る。

「ところでオメー、アイツに会ったのか?」
「ん? あァ、さっきの姿の女のことか。ククッ、まァな。何だ、あいつがどうなったのか知りてえのか?
 そうだな、条件次第で話してやらんことも――」
「あ、もういいもういい。どーせ話す気なんかねーんだろ。
 テメーをボコってからじっくり吐かせてやらァ――ってなッ!」

銀時の瞳に力が籠った。
腰を一気に落とし、怪物の脛を狙って水面ぎりぎりの一閃。
それを怪物は獣らしい俊敏さで跳躍してかわす。
互いの足元から生じた波紋同士がぶつかり合うよりも早く、銀時は刀の軌道を鋭角に変化させて斬り上げた。怪物は身体を丸めて縦に回転しつつ爪を振り下ろす。
両者の間に激しく火花が散る。

1180 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:34:21 ID:5OgotkG.0
「チィィ、てめえやっぱ人間じゃねえだろ」
「大人しくボコられとけって。今なら八分の七殺しで済ませてやっから」
「ほとんど死んでるじゃねえか、そいつはよ」

軽口を叩きつつ、体勢を整え互いに間合いを測る。
と、怪物が顔の前に右手を翳した。雷光を警戒して、銀時は動きを止める。
怪物はにまりと笑って言った。

「まァ、慌てんなって。いいこと教えてやるからよ」
「あァ?」
「上の色んなとこによ、面白ェモンがあったぜ。――コレよ。こんな四角いのが、そこら中にな。何だと思う?」

いつの間にか怪物の左手には分厚いウエハース状の物体が握られている。
一瞥して、しかし知るかボケと言い捨てて間合いを詰める銀時。

「おいおい、待てっつってんだろ。仕方ねえな、答えを教えてやるよ。こいつは時限爆弾ってヤツだ。
 ま、どこのどいつが仕掛けていったのかまでは知らねェがな。傍迷惑なヤロウもいたもんだぜ。
 あァ、ついでにもう一つ教えておくがな――そろそろ爆発する頃だぜ、こいつ」

んだと、と銀時が言ったその途端、怪物がウエハースを放り投げた。


***************


戻ってきた。
周囲を何度も見回し、今いる場所が間違いなく元いた水族館であることを確認して、沙英はほっと肩の力を抜いた。

工場地下を抜けるのは沙英にとっては非常に――向こう十年は夢に見るであろうくらいに――恐ろしい体験だったのだが、しかしともかく自力で元の場所まで戻ってこれたことに安堵する。

体力よりも気力が尽きかけた辺りで階段を発見し、それを上ってみると、自動車が乱暴に通ったと思しきタイヤの跡があった。
そしてそのタイヤ跡を辿っていったところ、水族館に繋がる非常口まで簡単に辿り着いた。
拍子抜けしたが、苦労を求めている訳ではないので素直に喜んでおくことにする。
それはいいとして。

「うわ……」

思わず声が出てしまう。それほどに目の前の光景は惨憺たる有様だった。
見渡す限りの全ての水槽が壊れて、見るも無残な姿を晒している。
水の循環装置なども軒並み停止したらしく、機械音も聞こえない。水槽の照明も全て落ちている。
しかし電気系統が別なのか、フロアの照明はまだ生きていた。暗所に慣れた目には眩し過ぎるくらい明るい。

1181 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:35:07 ID:5OgotkG.0
銀時と伊万里はどこにも見当たらなかった。彼らの名を呼んでみても返事はない。
非常口から見える範囲をうろうろしながら、どうしたものか、迷う。
この場で銀時達を待つべきだろうか。
ピンポイントで合流しようと思ったら思い付くのはここくらいしかない。

しかし、もしもいくら待っても二人とも戻って来なかったら――。

「きっと大丈夫――だよね。私だって大丈夫だったんだし……うん」

大丈夫のはずだ。
自分に言い聞かせるように呟いて、非常口の方へ戻ろうとする。
不意に視界の端で何かが動き、沙英はぎくりと固まった。

「え? だっ――」

誰、と言おうとして、気付く。
そこには誰かがいる訳ではなく、壊れた大きめの水槽が一つあるだけだった。
ただ、右側半分はガラスが割れずに残っており、中が暗いためにガラスの表面に沙英の全身がはっきりと映り込んでいる。
自分を驚かせたものは自分自身の像だったという訳だ。
ほっとして警戒を解き、しかしすぐに今度は別の要因で固まる。
意識していなかったが――というより、そんな余裕はなかったのだが――今の格好は長袖のシャツに下はパンツのみというお世辞にもまともとはいえないものだ。
おまけにシャツは沙英の痩身にぴたりと貼り付いて透けている。
誰もいないと解っていても、思わず周囲を確認してしまう。とても他人に見せられる格好ではない。
銀時がいなくて良かった、と思う。

「いや、良い訳ないんだけど。う……それにしても――」

寒い。ずぶ濡れなのだから当然だ。ぶるりと全身に震えが走り、沙英は両腕で身体を抱える。
女性として、という点を抜きにしても、やはり現在の状態には問題がある。今の内に着替えておきたい。
事態がどう転んでも、濡鼠のまま行動する必要はあるまい。幸い着替えは十分な持ち合わせがある。

流石にこの場で着替えるのは躊躇われるので、適当な場所を探すことにする。
近くにあったトイレを覗いたところ、中は水浸しで滅茶苦茶に壊れていた。一階はどこも似たような状態だろう。
仕方なく二階に上がり、階段脇にあったトイレに入った。
ここもやはり壁や床は水に濡れているし、洗面台の鏡には罅が入っている。しかし一階に比べれば大分ましだ。
個室のドアが歪んでいたが、内側から無理矢理閉めて鍵を掛ける。

腹の底に響く轟音が建物を伝わってきた。


***************

1182 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:35:52 ID:5OgotkG.0
女は明らかに、獲物を甚振って愉しんでいた。

女の爪が腹に突き立てられ、ひよのは力なく呻いた。
既にひよのの胸に、腹に、脚に、長い切り傷がいくつも走っているが、どの傷も致命傷には程遠く、ひよのに苦痛を与える目的で付けられたものであることが見て取れる。
着ている水着はズタズタで、既に原型を留めていない。

しかしひよのはまだ諦めてはいなかった。
自らの血に塗れながらも、努めて冷静に状況を確認する。

少し前に少年の方は何故かどこかへ行ってしまった。
去り際の、近くにまだいるね、という台詞が気になったが、現状の危機の方が遥かに深刻なので取り敢えずその意味は考えないことにする。
敵が一人になったことで多少は生き延びる目も出てきた――と言いたいところだが、そうはいかない。
状況は変わらず絶望的だ。

デイパックの中には強力過ぎるほどの武器や、詳細は不明だが明らかなオーバーテクノロジーの産物と思われる道具もあった。
それらを使えれば勝つ目も出てくるだろう。
しかしデイパックは最初の背中への不意打ちで破壊され、中身は全てそこらに散らばり、手の届かない位置に落ちている。
そして徒手空拳では逆立ちしても――今まさに逆立ちしているのだが――勝てはしない。

それでもまだ諦めるには早い。ただ一つだけ、まだ可能性がある。
首輪だ。
『ゲーム』のルールを信じるなら、首輪を爆発させれば装着者は例外なく死ぬ。

記憶を探る。最初のあの場所。ムルムルの説明。
首輪を無理に外そうとすれば爆発すると、確かにそう言っていた。
隙を突いて女の首輪を思い切り引っ張ることが出来れば、もしかしたら首輪が起爆するかもしれない。
無論、引っ張った腕は無事では済まないだろうが――このまま嬲り殺しにされるよりはマシだ。

両腕全体に意識を回して状態を確かめる。痛みはあるものの、腕の痺れは大分取れてきた。
手に神経を集中し、女に悟られないよう慎重に指先を動かしてみる。右手、そして左手。
問題なく動く。腕の機能はほぼ回復しているようだ。

しかし、焦って行動してはならない。
成功する可能性があるとしたらそれは不意打ちの一撃しかあり得ず、二度目はない。失敗すれば完全に打つ手がなくなる。
隙が欲しい。一瞬でいい。隙があれば。

だが――自力でその隙を作る方法が思い付かない。

せめて何か一つ、『予想外の出来事』が起こらないとこのまま嬲り殺しにされる。
起こるかは判らない。いや、起こらない可能性の方が遥かに高いだろう。
しかしそれでも、その瞬間のために、神経を研ぎ澄ませておく。それが今唯一ひよのが出来ることだった。

1183 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:36:27 ID:5OgotkG.0
ひよのの身体に赤い線を刻んでいた女の爪が、右腿に差しかかったところで止まった。
傷を付けるのをやめ、おもむろに腿を手で掴む。
女が舌なめずりをしたのを、ひよのは見た。

「少しくらい、いいわよねぇん」

何が、という疑問が口に出る直前、ぶちりという音がして、焼き鏝を押し付けられたように腿が灼熱した。

「――っ!!」

喰われた。
肉体のほんの一部ではあるが、喰われた。
覚悟していなかった訳ではないが、それは途轍もなく恐ろしかった。
絶対的な捕食者に対する恐怖が心に滑り込んでくる。

「あらぁん、貴女、もう少し肥ってる方が魅力的よん♪」
「生憎、ダイエット中なもので」

強がりなのは明らかで、もしかすると声が震えていたかもしれない。
それでも何か言い返さないと勇気が萎んでしまいそうだった。限界が近かった。
女は血に染まった凄惨な笑みを浮かべ、再び容赦なく鋭い爪をひよのの身体に突き立てようとする。

突如、凄まじい爆音が空気を震わせた。
工場全体が大きく揺れる。そこら中から建材が捻れ、折れ、砕ける音が響いてくる。
壁に亀裂が入り、天井から瓦礫がばらばらと落下する。
その一つが女の頭目掛けて落ちてきた。女は上を向いて手で瓦礫を打ち払おうとする。

来た。千載一遇の好機。ひよのから注意が逸れたその刹那に、猛然と身体を持ち上げ腕を伸ばす。

光が奔った。
首輪まであと数センチメートルのところで腕に衝撃が走り、動きが止められた。
女が放った、電撃だ。

「残念だったわねぇん」

女の顔がこちらを向いた。
その表情を見て、理解する。
女は敢えて抵抗の余地を残していただけだ。獲物に決定的な恐怖と絶望を与えるために。
おそらくはこの揺れも、起こると知っていたのだ。
最初から全て、女の掌の上で弄ばれていただけだったのだ。

「その顔――悪くないわよぉん♪」

1184 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:37:13 ID:5OgotkG.0
愉しそうに、本当に愉しそうに、女は言った。
最悪だ。
どうやら自分は、女の期待通りに踊っただけだったらしい。
突き付けられた黒々とした銃口が、全ての希望を呑み込んでいく。
女が焦らすようにゆっくりと引き金を絞っていく。
これは、本当に終わりだ。ひよのはついに目を瞑った。
そして、炸裂音が、響いた。



建物の振動が続いている。

まだ意識がある。死んでいない。
何が起こったのか解らなかった。
瞼を上げる。

「……あらぁん?」

女は胡乱気に手元を見ている。
西洋彫刻のような彼女の手が、見る影もなく破壊されていた。

気付く。
静謐な青い光。

太極符印。水面にちょこんと頭を出したそれが起動している。
女が撃った拳銃、エンフィールドNo.2。それはミッドバレイ・ザ・ホーンフリークが最初に太公望を襲ったときに用いたもの。
太極符印はその攻撃パターンを記憶しており、そのため放たれた銃弾に対して自動迎撃を行ったのだ。
勿論、ひよのにそこまでは解らない。
しかし起こった事象は正確には解らずとも、太極符印が、太公望が、致命的な一撃を防いでくれたことだけは理解した。

「――太公望さん」

思わずひよのの口から漏れる命の恩人の名前。
そして、その名に、女は思いがけず過剰な反応を示した。

「たい、こうぼう」

ずたずたになった手を見て、徐々に光が弱まる太極符印を眺め、そして女はもう一度、たいこうぼう、と反芻する。
ゆらりと女の頭が揺れ、ひよのの腿を掴む力が緩んだ。
何が起こったのかを考えるよりも先に、全力で女の胸を蹴り飛ばす。
女の爪が腿を浅く裂いて、そしてどぼんとひよのの体が水に落ちる。

1185 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:37:45 ID:5OgotkG.0
拘束が外れた。
喜ぶ余裕もなく周囲に視線を走らせる。
見付けた。
光を失う寸前の太極符印。その隣に沈んでいる物。
ひよのの身の丈を超える巨大な十字架――パニッシャーだ。

パニッシャーに跳び付いて引き起こし、十字の交差部に手をかける。ろくに狙いも付けずに引き金を引いた。
連なる爆音。それに伴う反動。ひよのは全体重をもってパニッシャーを押さえ付ける。
凶悪な鋼の弾が容赦なく女の肉体を削り取って血煙に変えていく様子を、ストロボに似たマズルフラッシュが余す所なく照らし出している。

やがて、カシンと乾いた音がして、十字架は蓄えられていた銃弾の全てを吐き出したことを知らせた。
再び暗闇が戻り、銃声の残響も僅かな余韻を残して霧散する。

鉄錆の臭いがする。
女の全身は、昔の漫画に登場するチーズに似た惨状を呈していることだろう。

だが、その穴だらけのヒトの形が、立ち上る煙の向こうで、動いた。

夢中だった。
十字架の長い部分を下に向け立ち上げる。
発射。
着弾。
予想を上回る規模の爆発が発生し、爆風で後ろに吹き飛ばされる。
爆炎が消えた後には、床に開いた大穴の他に残っているものは何もなかった。

ひよのは、太極符印とその近くにあった首輪だけを回収して、逃げ出した。

1186 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:38:26 ID:5OgotkG.0
【A-3/水族館/1日目/夜中】

【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:疲労(中)、腰に打撲、ツッコミの才?
[服装]:長袖のシャツ(濡れ)
[装備]:九竜神火罩@封神演義
[道具]:支給品一式、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲@銀魂、大量の食糧
    輸血用血液パック、やまぶき高校の制服、着替え数点
[思考]
1:何の音?
2:二人と協力して、ゆのを保護する。
3:銀さんが気になる?
4:ヒロの復讐……?
[備考]
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※宝貝の使い方のコツを掴んだ?
※ワープ空間の存在を知りました。

【E-6/工場(崩壊中)/1日目/夜中】

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(中)
[服装]:いつもの服装に黒革のジャケット(濡れ)
[装備]:和道一文字@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、大量のエロ本、太乙万能義手@封神演義、大量の甘味
    大量の女物の服、スクーター
[思考]
1:二人を探す。
2:ゆのを探しに行く。
3:伊万里のボケに対し、対抗心
[備考]
※参戦時期は柳生編以降です。
※グリフィスからガッツとゾッドの情報を聞きました。
※会場を囲む壁を認識しました。
※デパートの中で起こった騒動に気付いているかは不明です。
※流を危険視。しばらく警戒をとくつもりはありません。

1187 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:39:18 ID:5OgotkG.0
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:全身に切り傷、腿に噛み傷。
[服装]:ズタズタの水着
[装備]:太極符印@封神演義、柳生九兵衛の首輪
[道具]:
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
1:鳴海歩と合流したい。
2:エドワード・エルリックと連絡を取ってなんとしてでも合流しておきたい。場合によっては他の人間を撒いてでも確保。
3:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
4:安全な保障があるならば封神計画関係者に接触。
5:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
6:ネット上でのキンブリーの言動を警戒。場合によってはアク禁などを行う。
7:安藤(兄)の内心に不信感。
8:できる限り多くの携帯電話を確保して、危険人物の意見を封じつつ歩の陣営が有利になるよう
   掲示板上の情報操作を行いたい。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ、太公望、エド、リン、安藤(兄)、銀時、沙英の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望の考察と、殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※モンタージュの男(秋葉流)が高町亮子を殺したと思っています。警戒を最大に引き上げました。
※太極符印にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
 また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
 結崎ひよのは太極符印の使用法を知りません。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。
※九兵衛の手記を把握しました。
※錬金術についての詳しい情報を知りました。
 また、リンの気配探知については会話内容から察していますが、安藤の腹話術については何も知りません。
※プラントドームと練成陣(?)の存在を知りました。魔子宮に関係があると推測しています。
※島・それぞれがいた世界の他に第三のパラレル世界があるかもしれないと考えています。
※旅館の浴場とボイラー室のワープトラップの奇妙な関係に気づきました。

【字伏右半身(安藤潤也)@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:字伏の肉体(白面化80%)
[服装]:不明
[装備]:

※妲己とひよのの荷物の一部が工場のどこかに落ちています。
 妲己の荷物(支給品一式×3(メモを一部消費、名簿+1)、エンフィールドNO.2(0/6)@現実、趙公明の映像宝貝、大量の酒、工具類、真紅のベヘリット)
 ひよのの荷物(支給品一式×3、綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!、手作りの人物表、太極符印@封神演義、柳生九兵衛の首輪、改造トゲバット@金剛番長
    番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:0% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム
    若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、ロビンの似顔絵
    秋葉流のモンタージュ入りファックス、水族館のパンフレット、自転車、着替え数点、エイトのレプリカのパーツ数個)


***************

1188 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:39:51 ID:5OgotkG.0
堆く積み積み積まれた死の底で、魔を孕む胎に堕ち揺蕩う魔が一つ。



三界の狂人は狂を知らず。
四生の盲者は盲を識らず。
生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、
死に死に死に死んで死の終りに冥し。



――――――おぎゃぁぁあああぁぁぁ。



【E-6/工場(崩壊中)/1日目/夜中】

【字伏左半身(妲己)@封神演義&うしおととら&魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:???

1189 ◆L62I.UGyuw:2011/11/10(木) 19:41:50 ID:5OgotkG.0
以上で投下終了です。
タイトルを入れ忘れてましたが、こちらに投下した分は「不可逆の螺旋軌道」です。

1190代理:2011/11/10(木) 20:39:30 ID:yHufBvFY0
さるった
>>1184から誰かお願いします


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