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仮投下スレ

1144ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:20:37 ID:8hW82z.c0

『何故おめおめとしているミッドバレイ。
 もう二度と好機は現れないぞ』


天使か悪魔か、それともヴァッシュに憎悪を抱いていたGUNG-HO-GUNSの忠告か。
残り短い命を秤の片側に乗せても、恐怖という分銅が置かれた皿は下がったままだった。

早くナイブズの手が届かない、競技場とは真逆へと向かおうと気が急く。

葉巻を懐へ忍ばせ、キーは車に差したまま離れる。
発車の音でナイブズに気づかれないようにしたかった。

この選択が自分を生かすか殺すか。
相手のいないロシアンルーレットをしているも同然だ。

車から三十メートルほど離れたところで、音界の覇者たる耳が、絶望の音を捉える。
ナイブズとは違うベクトルの、髪の毛すら逆立ち弥立つ恐怖が降ってきた。

白濁の風が、今しがたまでいた場所に刺さる。
垂直落下し奇襲をかけてきた黒い巨体を避けられたのは、鋭敏な耳の賢明な判断によるものだった。
咄嗟に避けてから、趙公明が両断した男と同じ道を辿るところだったのだと思考が追い付いた。
もうもうと土煙が立つはずの地面はみぞれで湿っており、巨体の姿を隠してはくれなかった。

「……楽しめる人間ではあるようだな……」

死神の如き剣を抱えたソレは、ミッドバレイから一切の希望を奪い去った化物そのものだった。
寒夜のせいで化物からは湯気が沸き立ち、好戦的な殺気と共に放っていた。

「来ないのであればオレから――」

化物の言葉など最後まで聞かなかった。
勝ち目など、頭の隅にもない。
ただ真っ先に、最も適当だと思われる行動を取っていた。

サックスのマウスピースをくわえ、肺腑に空気を溜める。
後退、すなわち車へ向かいながら、金管へ息を吹き込んだ。

ミッドバレイと化物を中心に、無音地帯が広がる。
化物の言葉が途中から途切れた。
声が通らないことに多少の驚きを隠せなかったのか、マイクのテストでもしているように喉を振るわせていた。
おおかた「あーーー」とでも言って無音状態を試していたのだろうが、化物の姿では読み取れなかった。

そして、奴は笑った。
笑ったように見えた。
化物はミッドバレイに、戦闘する価値を見出だしたのだ。
音を武器とする者は多くないと踏み、化物にとっては未知の力であろう無音を作り出し時間稼ぎに使った。
音で攻撃するより無音にした方が、状況理解に時間がかかり少しでも長く足止めできるだろう。

読みは的中したのだが、ミッドバレイがした行為は、手袋を投げることによく似ていた。

サックスを吹きながら車へ一散走る。
呼吸の乱れを無音空間の揺らぎにしないように、走る姿とは裏腹に恐ろしく繊細に奏でる。
焦燥と恐怖に駆られながらも、ナイブズからの逃亡には理由ができたといらぬ考えがよぎった。

車の更に先に、工場から出てきたもう一つ影があった。
闇夜で確認しづらいが、まだ少年の域を出ない年の若い男だ。
そいつも何かから追われるように走っている。ナイブズとでも一悶着あったのだろう。


だが。
辞めろ。
来るな。

遂にマウスピースから口を離し、大声で叫んでしまった。



「車を……取るなああああああぁぁっっ!!!!」



ミッドバレイとまだ子供にしか見えない男は同時に車へ着いた。
しかし車の鼻先が工場側に向いていたのが災いした。
運転席へ座ったのは子供の方で、ミッドバレイが助手席のドアを開けて子供を突き飛ばそうとした時には、既にエンジンがかかりアクセルが思いっきり踏まれていた。


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