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仮投下スレ

1149ロシアンルーレット・マイライフ:2011/09/15(木) 11:24:52 ID:8hW82z.c0
急いでミッドバレイはサックスを手繰り寄せる。
片足は後部座席へ、もう片足は運転席の背凭れへ。
背中をサンルーフの角に固定する。
冷や汗が風で乾いていく。
もう一度。
肺が破裂する限界まで息を吸い続ける。
化物が無音の世界に身構えるのがわかった。
もう無音にするのは効果がないだろう。



     ――――ウァァンッ!!



何とも形容し難い、そしてあらん限りの大きな音が辺りを包む。
耳が揺らぐ。
空気が波打つ。
酸欠になり目が霞む。
息を長く吐き続ける。

一度の息継ぎでまた大量の空気を吸い込み、サックスへ流す。
小さな亀裂音にて、音界の覇者の、全身全霊のソロパートがフィナーレを告げた。

分厚い水槽のガラスにヒビが入る。
厚さ十数センチはあろう強化ガラスが、破裂した。
ミッドバレイはガラスと共鳴する音を奏でていた。
ガラスは破壊しても鼓膜は破れない、信じられない技術技巧だった。

水槽から、怒涛の勢いで水が暴走する。
上下左右、車が通り過ぎた片っ端から水が溢れ出す。
車の形をしたハリケーンでも走っていくかのようだ。
数トンはあろうかという水の固まりがゾッドを襲う。


「――面白いじゃないか」


ミッドバレイの一挙一動が、ゾッドを好奇で震え立たせ、更なる戦闘へ駆り立てている。
足掻けば足掻くほどに悪循環を辿っていたのだ。




車はフードコートの机を撥ね飛ばし、土産コーナーをあらかたぶっ壊し、
にこやかに『またきてね〜♪』と合成音で笑うイルカのモチーフを大破させてやっと屋外へ脱出した。

後ろにゾッドは着いてきていなかった。
月だけが笑っている。
街路樹がさざめいている。

水族館前の通りを爆走させる。
一刻でも早くゾッドから離れなければ――



     カシン。



小さな金属音が重なる。
後部座席からミッドバレイが、腰から抜いたベレッタをリンの脳天に定めている。
引き金に掛かる指が動かないのは、宙に浮いた左腕が包丁を持ち、ミッドバレイの首に切っ先を当てていたからだった。

リンはサイドミラー越しに睨みつける。

時速は六十キロ。
今リンを殺したら、やはり死体を片付けるまでに車は大事故を起こす。
車を止めさせるための脅しだ。
牽制するように、隠し持っていた包丁を突きつけたが、ミッドバレイが死んだらゾッドに対抗する手段がない。

運転席にいるリンが何とか主導権を握っている。
アクセルを踏み続けている限り殺されはしないのだが、逆にガソリンが尽きたらリンの命はそこで終わる。
それを考えたらミッドバレイに有利とも言える。
どんどん加速し続ける車内で、二人は膠着状態になる。


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