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マト ー)メ M・Mのようです

467名も無きAAのようです:2014/02/15(土) 06:48:34 ID:SQZb1LYQ0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 顔立ち、特に目元が超能力の研究をしていたと言われる科学者『都村トソン』及びその娘に似ている。

468名も無きAAのようです:2014/02/15(土) 06:49:16 ID:SQZb1LYQ0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・NO DATA


【手に入れた物品諸々】

・NO DATA

469【第八話予告】:2014/02/20(木) 14:00:32 ID:FBkACFcw0

「ミィ、お前は何処の国の人間なんだろうな。
 どの国で生まれ、どの社会で育ち、どの血や氏に連なる人間なんだろうな。
 ……自分の家族はまだしもそんなこと大して興味ないって?
 そんな風に言うもんじゃないお、国家や民族は個人に大きな影響を与える重要なファクターなんだから。

 例えばな、かつて西欧でルネサンスが盛んになった理由は、一説には『西洋人のルーツ探し』だと言われてるんだお。
 自分達が何から始まった何者であるのか……それを知りたくなったんだ。

 ただ残念なことに西欧人のルーツは西欧には存在しなかった。
 西欧に存在する物の大半は中東、主に肥沃な三日月地帯辺りとアジアから伝わった物だ。
 そりゃそうだお、そもそものところ文明のルーツ自体がメソポタミア、エジプト、インダス、黄河と、あとアメリカの先住民にしかないんだから。 

 だから西欧に西欧人の起源なんてあるわけがなかった。
 『自分は何者であるか』を西欧人は探したが、それで見つかったのは『自分は何者でもない』という真実だった。
 あれほど大切にしている神様や宗教すらユダヤから伝わったものだから当然と言えば当然だお。
 あるいはルーツが存在しないからこそ神話に本質を求めたのかな。

 西欧人はよく個人のアイデンティティはどうとか言いたがるが、それは民族に確固たるオリジナリティがないことの裏返しなのかもしれないお。
 …………あ、おいコラ、僕に勉強してること話せと言っといて寝るんじゃねーお―――                                」



 ―――次回、「第九話:Meaningless Monster」

470名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 14:01:30 ID:FBkACFcw0

次回、第九話は2月24日の夜〜深夜投下予定です。
予定は未定。

安価は十話の最後になると思いますので、九話はほどほどにというか。

471名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 15:17:12 ID:dAXYI6lMO

きたい

472名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 15:20:27 ID:a92X5hlI0

待ってる

473名も無きAAのようです:2014/02/21(金) 03:31:37 ID:jThVflRAC
予想外に話が展開してた、結末も( ^ω^)もは安価しだいということか

474名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:14:09 ID:4cu/qweg0


  僕は一体、彼女に何ができるのだろう?

  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。
  僕と彼女が一緒に過ごしたのは、肌寒い風が頬を撫ぜ始めた頃のほんの一時だった。

  ほんの数週間。
  一ヶ月にも満たない短い間。
  それが僕と彼女が作った『過去』だった。


  僕は一体、彼女に何ができたのだろう?

  こうして僕の語る物語もいよいよ終わりに近付いてきたが、実のところ、この物語における僕の出番はもうほとんど残っていない。
  失くした『過去』と対峙する為に旅立った彼女を僕は見送って、その後のことはもう、人伝に聞いた話でしかないのだ。

  あの月曜日以降は彼女の物語ではなく、彼女と僕、二人の物語なのだと彼女は言っていた。
  けれど、そうだとしても、結局その真実の待つ場所へと彼女は一人で赴いたのだから、やはり僕の語る物語は彼女が主役の彼女の物語なのだ。
  僕は所詮何者でもなく、この物語においてだって狂言回しに過ぎなかった。

  無理にでも彼女を引き止め、殴ってでも説き伏せて、意地でも最後まで彼女と一緒にいたならばどうなっていただろう?
  いつだったかも述べたようにそんな夢想をしたところで過去も現在も変わりはしない。
  それでも時折ふと、僕はそんな『もしもの可能性』に思いを馳せてしまう。

475名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:15:01 ID:4cu/qweg0

  時間の長さが関係の深さに直結するとは思わないが、僕と彼女が共に過ごした日々があまりにも短いことは確かで。
  僕が語るのは彼女の物語。
  ここから先に僕の出る幕なんてない。

  ああ、だからこそ思うのだ。
  何者でもない僕は――あの時出逢ったひとりぼっちの少女の何かになれたのだろうかと。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第九話:Meaningless Monster」




.

476名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:16:01 ID:4cu/qweg0

 「朝なんて来なければいいのに」。

 僕も人の子なので恥ずかしながらそういう風に思ったことが何度かある。
 苦手な数学のテストの前日や父親が仕事へと戻る前の晩。
 幼い日の僕はそんな時によく、今日がずっと続いていけばいいのにと願っていた。
 叶わぬ望みだとは分かっていても僕は朝なんて来て欲しくなかった。

 今も、そうだ。
 今ならはっきりと言える。
 僕は朝なんて来て欲しくなかった。


(  ω)「……朝なんて、来なければ良かったのにな」


 ああそうだ。
 今ならはっきりと言える。

 僕は父の死の真相なんて見つからなくていいと思っている。
 できることなら知りたいし、それなりの覚悟はしてきたつもりだ。
 だけど、僕ではなく彼女が傷付くというのなら過去なんて知らないままでいい。

 『現在』よりも大切な『過去』なんて、あるわけがない。

477名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:17:09 ID:4cu/qweg0

 都村トソン、お前の言う通りだよ。
 僕は立ち止まる最後のチャンスを放り捨てた。
 こうして後悔することになった。

 きっと知らないままでも良かったんだ。
 見て見ぬフリをしてても許されたんだ。

 そりゃそうだろう。
 物事に対する意味を人間が付ける以上は、僕の出来事には僕しか価値を付けれないなら、幸せな『現在』を続けることも一つの答えだったんだ。
 緩やかに続いていった先の『未来』にも確かな価値があったんだ。
 それなのに。


(  ω)「……でも、どうすりゃ良かったんだろうな。なあ、『殺戮機械』」

(#゚;;-゚)「なんや」

(  ω)「神様目指してるお前なら分かるか? 僕は真実を知りたくて、傷付くことも覚悟してて、でも彼女を失うのは嫌で……」


 知るか、とディは一言吐き捨てた。
 僕の泣き言を切り捨てた。

 これも「そりゃそうだ」という話だった。

478名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:18:10 ID:4cu/qweg0

 夜明け前の薄暗さが消え去っていく。
 朝焼けに街が染められていく。
 僕がどんなに願っても、時が止まることはなく、物語は続く。

 時間が戻ることはないし、戻ったとしても変わらない。
 この現在は過去の僕達の選択の結果なのだから。
 そう、何度やり直したとしてもあの日の僕達はあの時と同じ選択をして同じ場所へと辿り着く。
 自分で選び続けたからこそ、そのことはよく分かる。

 だからもう、これはどうしようもないことだった。


(#゚;;-゚)「……あのな。兄さんが何を悩んどるのかは知らんし、知るつもりもないし、知りたくもないけどな」


 慰めるのではなく、ただただ思ったままを述べるように。
 朝日に目を細めて和傘の少女は言った。


(#゚;;-゚)「もう始まってしまって、それは取り返しが付かないことかもしれんけど、まだ終わってしまったわけやないやん」

(  ω)「…………」

(#゚;;-゚)「兄さんの両目に関しては……残念やったけど、少なくとも兄さんが今心配しとる嬢ちゃんは五体無事や」

479名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:19:03 ID:4cu/qweg0

 そう、か。
 それは確かにそうだ。

 続けて彼女は言う。


(#゚;;-゚)「嬢ちゃんを『信じとる』って言うたんは兄さんや。なら、後悔するのはまだ早いと思う」

(  ω)「……そうだな」


 その通りだよ、と僕は自嘲する。
 後悔するにはまだ、早い。


 彼女の言う通りだった。
 まだ何も終わっちゃいない。
 ミィを信じると言ったのは他ならぬ僕だ。

 だとしたら、僕はこれまでを後悔する前に、これからやるべきことがある。
 後悔は後からでも――後からしかできないのだから、だから、今は。

480名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:20:01 ID:4cu/qweg0

 と。



マト ー)メ「―――その通りですよ」



 その時、後ろから誰かが僕を抱き締めた。
 コツンと小さな頭を背中に当てて、白く細い腕を腰に回す。


マト ー)メ「『信じてる』と言ってくれたじゃないですか。だったら、ちゃんと信じてください」


 彼女が誰かなんてわざわざ口にするまでもない。
 その声も、その温度も、その匂いも。
 何もかもを僕は知っている。

 僕の後ろに立つのは誰でもない彼女。
 世界の何処にも、他の記録にも記憶にも残っていないとしても、彼女は確かにここにいる。

 過去の全てを失くした少女は――僕の付けた呼び名と共に、ここに立っている。

481名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:21:10 ID:4cu/qweg0

( ^ω^)「……そうだな。何を不安になっていたんだか。お前は僕が選んで、信じた相手なんだから」

マト-ー-)メ「はい。私が選んだブーンさんが選んだ私です。私が信じたブーンさんが信じた私です」

( ^ω^)「ああ、そうだお。だから僕は言う」


 何も心配することはなく。
 何も後悔することもなく。
 ただ、信頼だけをして。

 だから僕は言うのだ。



( ^ω^)「―――無事に帰って来いよ、ミィ」

マト^ー^)メ「―――もちろんです」



 それが、旅立つ彼女と交わした最後の会話だった。

 僕は彼女と再び出逢えることをただ信じ。
 彼女はこれまで幾度となく見せたあのふわふわとした笑顔を残し、一人で歩き出す。

482名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:22:04 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


全ての過去を失くした彼女にも分かっていることが幾つかある。
その一つは、「自分はどうやら反則染みた力を持っているらしい」ということだった。

彼女、ミィの持つ『未来予測』の異能。
天啓のような予知ではなく現状の分析からの高度な予測であるその能力は無敵と言っても過言ではない。
その下敷きにある知覚能力も演算能力も並の能力者とは一線を画す。

凡百の兵など相手になるはずもない。
どころか、遭遇することすらありえない。

「信じてください」と口にしたのは自信があってのこと。
向かう場所が何処であろうと、あの『クリナーメン』以外の相手ならば問題なく切り抜けられる自信があったのだ。
あるいは『クリナーメン』さえいなければ彼を庇いながらでも進めたかもしれない。
一緒に行きたいと思っていたのは彼、彼女がブーンと呼ぶ彼だけではなく、ミィも同じだった。


マト-ー-)メ「さてと」


目的地の近くまでやって来た彼女は目を細める。
ここからはもう本当に、一人の勝負だ。

483名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:23:06 ID:4cu/qweg0

出で立ちはいつもと変わらず、ボーイッシュな装い。
いつもと違う点があるとすればニット帽をやや目深に被っていることだろうか。
気休めばかりの変装だった。

「ここからはもう本当に、一人の勝負だ」。
もう一度、今度は心の中で呟くのではなく自らに言い聞かせるようにして、小さく声に出す。

だがそんな風に決意を新たにした瞬間にミィは一つのことに気付く。


マト゚ー゚)メ「あの人は……」


偶然?
そう思ったが、彼女が見つけたその人物は明らかにこちらに向かって歩いてくる。
偶然のわけがない。

装備はあの時と同じく腰に拳銃を二丁。
懐に予備の一丁と小さなナイフ。
ニット帽とジャケットも変わらない。
違う点を挙げるとすれば、傷はまだ癒えていないのか右腕の動きがぎこちないということだ。

秋風の吹く地方都市の街並みに馴染んでいるようでいて、その隙のない身のこなしは見る者が見れば只者ではないと一目で分かる。
こうして日の光の下を歩く類の人間ではないと雰囲気だけで分かる。

484名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:24:12 ID:4cu/qweg0

そして男は街角に佇んでいたミィの隣に立つ。


( `ハ´)「久しぶりだな」

マト^ー^)メ「そうですね」


ブーンがかつて「映画に出てくる三合会の殺し屋のようだ」と評した中国人。
数週間前に、ミィの元へ刺客として送り込まれ、彼女によって撃退されたその人だった。


マト゚ー゚)メ「今日は報復ですか?」

( `ハ´)「……それも良かったかもしれないがな」


男は困ったように首を振り、そうして続けた。


( `ハ´)「私の国の人間は情に厚く、恩を返すのが大好きなのでな。つまりはそういうことだ」

マト-ー-)メ「ブーンさんの言っていた通りです。民族としての特徴は確かにある……それとも、ドライではないのはお金持ちではないからですか?」

485名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:24:59 ID:4cu/qweg0

無礼にも取れる少女の言葉にも「かもしれないな」と男は短く返した。
そんな反応だけでも、彼が悪意を抱いていないということは明白に読み取ることができた。
次いで男は言う。


( `ハ´)「あの建物に行くのだろう? 手筈は整えてある。ついて来い、途中までは付き合おう」

マト゚ー゚)メ「?」

( `ハ´)「察しが悪いな。仕事だよ。お前と一緒にいた男から頼まれた」


一瞬ミィは驚き、すぐに納得して微笑んだ。

あの時と同じなのだ。
たとえ同じ場所にはいないとしても、ミィのことを想っている。


マト^ー^)メ「……やっぱり、私の信じたブーンさんが信じた私の信じたブーンさんは、私が信じた通りです」

( `ハ´)「言っていることはよく分からないが……かつて自分を襲った相手に仕事を頼むなど正気の沙汰とは思えないが。信じられない」

マト゚ー゚)メ「それも単純に、プロとしてのあなたを信じたんでしょう」

486名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:26:04 ID:4cu/qweg0

( `ハ´)「……参ったな」


ミィの言葉に男は呟く。
苦笑して、「そんなことを言われては裏切れない」と。


( `ハ´)「では契約通りに事を運ぼう。目標は、あそこだな?」

マト゚ー゚)メ「はい、あの場所です」


二人の視線の先には白を基調とした建物があった。

塀の向こうにあるのは巨大で広大な施設。
一面、見渡す限りに広がっている。
地方都市の一画に鎮座するそれはある多国籍企業の研究施設だった。

そう。
ブーンの父親が働いていた製薬会社の支部だ。

あの研究施設の最下層で、『クリナーメン』と名乗った少女と――そして全ての真実が待っているのだ。

487名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:27:04 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


 そこは小じんまりとした広場だった。

 平日の地方都市の鉄道駅。
 人影は疎らだ。
 しかしその規模や新装されたところらしいモダンなデザインを見るに、混雑時には多くの利用客が賑い、ターミナルの役目を存分に果たしているのだろう。

 そんな建物に併設された公園に僕はいた。
 いつだったかミィと訪れた駅とその時の出来事を思い出し、懐かしく思いながらベンチに腰掛ける。


(#゚;;-゚)「じゃあ、うちの役目はここまでやな」

( ^ω^)「ああ、ありがとう。悪いな、僕まで送ってもらって」

(#゚;;-゚)「一人送るんも二人送るんも変わらんやろ」

( ^ω^)「そうかもな」


 ディは「それじゃ」と背を向けかけて、再度僕に声を掛けた。

488名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:28:04 ID:4cu/qweg0

(#゚;;-゚)「なあ。この場所が嬢ちゃんとの待ち合わせ場所って言うんは分かった。研究所からも近いし、分かりやすい」

( ^ω^)「ああ、ここまで送ってくれて感謝してるお。アニメでしか見たことなかったような貴重な体験もできたしな」

(#゚;;-゚)「やけど……今からずっと、待っとくつもりなんか?」


 僕は目の前の少女の言葉を捉えかね、目を細めた。
 ディは言う。


(#゚;;-゚)「いつ帰ってくるかも分からんのに、ずっとここで?」

( ^ω^)「……答えるまでもないお」


 そうだ。
 そんなことは答えるまでもないことで、だから一瞬、何を言っているのか分からなかった。
 僕は信じると言ったのだから、彼女が帰ってくるまで信じて待っている。
 それだけのことだ。


( ^ω^)「……できることなら、最初に出逢った公園や印象深い建物を待ち合わせ場所にしたかったんだが」

489名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:29:05 ID:4cu/qweg0

 現実はドラマじゃないのだ。
 どれほどドラマティックな物語であったとしても、上手く行かないことはある。


(#゚;;-゚)「うちがおらんくなってしばらくしたら、兄さんの目はまた見えなくなるんやで」

( ^ω^)「……そうか、それもそうだお。ならミィが帰ってくるまで一緒にいてくれないか?」

(#^;;-^)「嫌に決まっとるやろ。そんな気の長いことやってられへんわ」

( ^ω^)「なら、仕方ないな。大人しく待ってるよ。僕が何も見えなくともミィは僕を見つけてくれるだろうから」


 僕の言葉に、ディはなんとも言えないような表情を浮かべた。
 強いて言うならば「理解できない」だろうか。

 彼女は言った。


(#゚;;-゚)「さっぱりやで。うちには兄さんのことが全く分からんわ」

( ^ω^)「かもしれないな。でも、そういうもんだろう?」

490名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:30:00 ID:4cu/qweg0

 僕にはこの『殺戮機械』のことを理解できなかった。
 彼女が、あるいは彼が、どんな背景を持ち、どんな経緯で今に至り、どんな未来を目指しているのか……。
 終ぞ僕には分からなかった。

 でも、それはそういうものだろう?
 誰だって他人のことは分からないんだ。

 分かるのはいつだって自分のことだけで。
 もしかしたら自分のことすら分かっていないのかもしれなくて。
 それでも僕達は自分である為に、自分になる為に必死で思考し選択する。
 そういうものなんだ。

 だから僕は言った。


( ^ω^)「どんな超能力を使っても僕の気持ちは誰も分からない。一つだけ言えるのは、僕もお前と同じように生きてるってことだお」


 誰にも理解はされなくて、誰にも共感もされないかもしれないけれど。
 それでも、その場その場で必死に考えて選んでいる。

 それだけのことだった。

491名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:31:01 ID:4cu/qweg0

(#^;;-^)「ふぅん、そうか」


 僕の言葉に対し彼女はフッと微笑んだ。
 そうして背を向ける。


(# ;;-)「じゃあな、兄さん。何もかもが終わったらまた会うこともあるかもな」

( ^ω^)「……なあ。今からでもいいから、良かったらミィを助けに行ってくれないか?」

(# ;;-)「兄さんが手配した奴等みたいに……か?」


 そうだ、と頷く。
 僕は少しばかりの助力としてミィの助けになりそうな人間を送り込んでおいた。
 その人達と同じようにミィに手を貸してくれたなら嬉しいと僕は言う。
 と言うか百人力だ。

 しかし生憎と答えは芳しくないものだった。
 振り返って彼女は告げる。


(#゚;;-゚)「一つ言っとくけどな、うちが兄さんを助けたんはちゃんと理由がある」

492名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:32:16 ID:4cu/qweg0

( ^ω^)「ミィと一緒にいれば『クリナーメン』とかいう奴と会う機会があるかもと思ったからだろ? だったら、」

(#゚;;-゚)「それだけやない。恩返しや」

( ^ω^)「恩返し?」

(#゚;;-゚)「前に会った時に金借りとったからな……そのお返しや」


 ああ、と思い出す。
 そう言えば前にこの『殺戮機械』と戦った時にはそんなこともあったか。
 言っちゃ悪いが帳簿に書くまでもないような大した金額じゃないからすっかりと忘れていた。
 あんな程度の金銭では花束やケーキくらいを買うのが限界だったと思うが……。

 彼女は続ける。


(#゚;;-゚)「そういう事情があったから手を貸しとっただけや。そんで、恩返しはもう終わり」

( ^ω^)「でも、恩云々を抜きにしても、ミィと一緒にいれば『クリナーメン』の能力を奪う機会だってあるかもしれない」

(#^;;-^)「そうやなぁ。けどな、うちからすれば嬢ちゃんの方を襲ってもええんやで?」

(;^ω^)「それは……」

493名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:33:17 ID:4cu/qweg0

 コイツは『未来予測』も『確率論(クリナーメン)』も欲しいと思っているのだ。
 敵と手を組みミィを襲うことも、漁夫の利を狙うことも可能。


(#^;;-^)「だからうちに頼むのは得策とは言えんなあ。嬢ちゃんがどうなってもええって言うんやったら構わんけど」

( ^ω^)「そんなわけないだろ。本末転倒だ」

(#゚;;-゚)「やったら、ここでお別れや」


 今度こそ彼女は背を向け歩き出す。
 気儘に、和傘をクルクルと回しながら。
 もう振り返ることはない。


(# ;;-)「じゃあ、さいなら」

( ^ω^)「ああ」


 別れの挨拶を簡潔に交わし合った直後に『殺戮機械』は視界から姿を消した。
 都市伝説へと戻った彼女が何処へ行ったのかは僕にはもう、分からないことだった。

494名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:34:16 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


研究施設への潜入は驚くほどスムーズに進んだ。

男はトラックの運転手に、ミィは荷物の中へと隠れて施設内へ侵入。
建物内に事前に潜り込んでいた別の人間と入れ替わり、資材の搬入を終えたように見せかけて車を外へと移動させる。


( `ハ´)「今から三時間後と六時間後にもう一度トラックが来る。上手く時間を合わせて荷台に乗り込んで脱出する。それが今日の段取りだ」

マト-ー-)メ「間に合わなかった場合は?」

( `ハ´)「私は待つつもりはない。自力で脱出しろ」


施設内を進みながら男は簡潔に計画を説明した。
会話を続けつつ、二人は躊躇いなく先へ。
ミィの持つ『未来予測』の能力で何処にスタッフがいるかは知覚できる。
後は上手く遭遇を避ければ良いだけだ。

主要な通路には監視カメラも設置されているものの、金銭を扱うような施設ではないのでその数は多くなく、躱すことは十分に可能だ。
また扉の前と言った必ず映ってしまう場所のシステムには事前に手を加えてある。

495名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:35:08 ID:4cu/qweg0

( `ハ´)「(気休めとして指定の制服を用意したが……この分では必要なかったか?)」


変装の出来如何など、誰ともすれ違わなければ問題にならない。
決して人がいないわけではないのだが、ミィの力を以てすれば避けることは容易かった。

それでも油断なく周囲を警戒しつつ、男は言った。


( `ハ´)「私が依頼されたのはお前をこの施設の地下、最奥まで連れて行くことだ。送り届けた後は先に戻り脱出の手筈を整えておく。それで良いか」


男には目的地が分からない為に案内のしようがなく。
護衛としても異能の力を持つミィに必要があるとは言えないのだ。


マト゚ー゚)メ「構いません」

( `ハ´)「依頼人の事情を深く詮索するつもりはないが、私は何処まで連れて行けば良い? 図面の上では地下六階まで存在するらしいが……」

マト-ー-)メ「…………」

( `ハ´)「まず、お前は目的地が分かっているのか?」

496名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:36:02 ID:4cu/qweg0

地下へと続く薄暗い、それでいて綺麗な階段を降りていく。
病院と同じく白を基調している為かこういった研究施設は何処か不気味に男は感じる。
廃墟や貧困街よりも余程おどろおどろしい。
作られた清潔さという物は一定を過ぎると違和感しか生まない。

男がそんなことを考えていると、少し前を歩いていたミィが立ち止まった。
何事だと訊ねる前に彼女は言った。


マト-ー-)メ「この施設の奥へ行けば行くほど、何故でしょう、視界に靄が掛かったように段々と見にくくなっています」

( `ハ´)「……能力のことに関しては私にはよく分からないが、それは大丈夫なのか?」

マト゚ー゚)メ「近くのことはよく見えているので大丈夫です。原因が分からないことが気掛かりですが、きっと近付いているということなんでしょう」

( `ハ´)「近付いている?」

マト^ー^)メ「警備が厳しい場所は重要な物があるのと同じことです。私に妨害を仕掛けてくるような相手がいる近くには、きっと私の探す何かがある」


そう、少女はふわふわと笑って見せた。

目指すべき場所は地下七階。
『未来予測』の能力を以てしても知覚できない暗闇の底だ。

497名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:36:58 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


 人は何故暗闇を恐れるのだろう。
 死を連想させるから?
 でも人が生まれてくる子宮の中だって真っ暗のはずだろう?

 目蓋越しに感じる光でまだ約束の時間には程遠いのだということが分かる。
 視覚の障害には色々と種類があると聞くが、僕も暗闇は得意な方ではないから、何も見えないとしてもこうして光が感じられるだけで幸いだった。

 だけど、こんな状態になってこそ気付いたことがある。
 人は暗闇を恐れているのではない。
 何も見えない状態が内包する『分からないこと』を恐れるのだ。
 『分からないこと』が人間は怖いのだ。


 どんな暗闇であったとしても母親や恋人の腕の中で恐怖に震えることはない。
 そこが何処か、どんな場所かを知っているからだ。

 同時にどんな光に満ちた空間であったとしても分からないのならば恐怖を覚えることはある。
 天国というものがあるとして、死後はそこに行けると確約されたとして、それでも多分、僕は死ぬことを怖がる。
 分からないから。
 余程に信心深い人間でなければ恐怖こそ抱かなかったとしても完全に不安を拭い去ることはできないだろう。

498名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:37:59 ID:4cu/qweg0

 身近な例えで言えばまあ、転校の前の晩は誰だって少しは不安を覚えるはず、というだけの話だ。


「……『分からないこと』は、怖い」


 闇夜に現れると伝わる妖怪や幽霊といった物々は『分からないこと』の化身なのだ。
 未知への恐怖を擬人化した存在。

 だからこそ、ああいった伝承は科学の発展によって『分からないこと』自体が減っていくほどに数を減らしていった。
 人間の認識のキャパシティがミィのそれのように優秀でない以上は完全になくなるということはないだろうが、それでもきっと増えることはない。
 減り続けるばかりだ。

 僕の周りで魑魅魍魎の話を好んでしていたのは民俗学だか文化人類学だかのゼミの連中だけだった。


 ところで学者という人種は世間では物知りだと捉えられているらしい。
 だが実際のところ、あの手の人間は無知も良いところだ。

 これは「知らないことがあることを知っていることが尊い」とかそんな話ではない。
 大学はそもそも知らないことや分からないことを研究する施設であって、知っていることや分かっていることを理解しているのは前提に過ぎないということだ。
 知っていることや分かっていることだけを評価する段階は高校までで終了してしまっている。
 故に学者の価値は生徒の優秀さで決まるのではなく、研究成果の如何で決まる。

499名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:39:09 ID:4cu/qweg0

 だから学者とか研究者とかいう人種が尊敬されるべき点があるとしたら、その一点。
 『分からないこと』に付き合い続けることができるという点がそうなのだろう。

 そう、『分からないこと』は怖い。
 恐怖ではないとしてもストレスが溜まる。
 付き合い続けるのは難しい。
 それに付き合い続けることのできる稀有な人種が大学に残り続ける。


 閑話休題。

 こうしてぼんやりと考え続けるのは好きな方だが、聴き手がいない為に話が支離滅裂になりがちだというのは欠点だ。
 一人だから仕方がないが。


 人間は『分からないこと』を恐れる、という話だった。
 多分僕の今の心境はその一言で説明できる。

 周囲が何も見えないから。
 ミィがいつ来るか分からないから。
 だから、僕は不安だし落ち着かない。

 目蓋なんて下ろしていた方が間違いなく楽なはずなのに目を閉じたままだと不安になる。
 不思議なものだ。

500名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:40:07 ID:4cu/qweg0

 気分転換に周囲を歩き回りたいが、何も見えないものだからそれも叶わない。
 この場を離れている間にミィが戻ってきたら困るというのもある。

 よくよく考えてみると懸念を抱くべきは彼女がいつ帰ってくるかではなく、今後の生活はどうすればいいか、だと思うが……。
 目が見えなくなったところだというのに女のことを考えるなんて我ながらとんだ女好きになったものだ。
 今後の生活をどうするか以前にミィが戻ってくる前にトイレに行きたくなった場合に僕はどうすればいいのだろう。


 トイレのことはともかくとして、僕が冷静さを保てるのは実感がないからかもしれない。
 今は確かに何も見えないが、何かの切っ掛けで治るかもしれない。
 現実逃避的にそんな風に考えていたのだ。
 大怪我を負った人間の陥りがちな思考ではある。

 実際、失明のことをあまり深刻に捉えていないのはミィと交わした会話のためかもしれない。


マト^ー^)メ『全部が終わったら――今度は、ブーンさんの目を治しに行きましょう』

( ^ω^)『え?』

マト-ー-)メ『きっと世界の何処かにはいるはずです。人を治癒する能力を持った、なんだか私達にとって都合の良い能力者が』


 あのふわふわとした笑みを浮かべ、そう彼女は言った。

501名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:40:58 ID:4cu/qweg0

 いるだろうか、そんな能力者は。
 以前なら迷いなく首を振っていただろうが、この数週間で四人だか五人だかの条理の外の力を操る人間を見たものだから、いるような気がしている。

 いたとしても見つけられるだろうか?
 彼女がいつまででも付き合うと言ってくれたことだけが救いだった。


「…………ミィ」


 僕は彼女の名前を、呼んで。
 彼女のあの笑顔を思い出す。

 今頃、彼女は何処にいるだろうか?
 いくら信じてると言っても心配なのは変わらない。
 もう本当の本当に僕には何もできない。
 ここでこうして無事を祈りながら待っていることしかできないのだ。

 僕は一体、彼女に何ができたのだろう?

 思考が途切れると、そんなことばかり考え始めてしまう。
 僕は彼女にとって何かになれたのだろうかと。

502名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:41:58 ID:4cu/qweg0

 と。




「―――ずっとこんなところに座っていると、風邪を引きますよ」




 何分間か、何時間か。
 ずっと彼女を待ち続ける僕に誰かが声を掛けた。


「お隣に失礼します。いえ、その前に名乗った方が良いでしょうか」

「……声で分かるお」


 誰か――いや、彼女は僕の隣に腰掛ける。
 分からないはずがなかった。
 そう。

 彼女は。

503名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:43:15 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


地下五階から六階へと続く階段を二人は歩いていた。
男が、厳密には情報屋の女が事前に入手していた地図によれば地下六階は倉庫スペースだ。
普段は使わない物品や震災に備えた非常食などが保存してある。

話に聞く限りでは、この先にはミィの探す物は何もない。
況してや彼女が知覚したその場所――地下六階の更に奥、地下七階などあるはずがない。


マト゚−゚)メ「(何も見えないのは地面だからとか、そういうことではない)」


『未来予測』を支えるのは現状を知覚する能力だ。
より多くの情報を認識すれば、より正確な予測が可能。
故にミィの知覚能力は常人を遥かに超えるどころか神と言っても差し支えないレベルに達している。
壁の向こう側が見えることは一つの異能であるはずなのに、その異能をミィは呼吸でもするかのように当然に使う。

地下七階に相当する場所、コンクリートで隔てられているからと言って、たかだか数メートル下方のことを彼女が分からないはずがなかった。
通常時ならともかく、瞳の色を変え、見ようとしても見れない――そんな状況は異常でしかなかった。

例えるなら、あの『ウォーリー』という能力者の力がフロアを中心に広がっている状態だ。
こうして階段を歩いているだけでも視界に靄が掛かっているようで、ミィは無駄だと分かりつつも目を擦った。
そしてお目当ての地下七階は完全に闇に包まれ何があるのかさえ分からない。

504名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:44:02 ID:4cu/qweg0

何かがあることは分かっている。
だが、それが何かが分からない。
だからこそ、地下七階というその場所に自分が探す何かがあると分かった。

そして地下六階を目前にして。
彼女は立ち止まった。


( `ハ´)「……どうした?」

マト-ー-)メ「ここまでで結構です。後は、私一人で行きます」

( `ハ´)「…………分かった」


突然のミィの申し出に意外にも男は何も訊かずに頷いた。
が、直後にこう続けた。


( `ハ´)「了承したのではない。お前の意図が分かった」

マト゚ー゚)メ「!」

( `ハ´)「次のフロアに何かがあるのだな? 恐らく、何か良くない物が」

505名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:44:59 ID:4cu/qweg0

そうして男はミィを追い越し階段を降りていく。
ミィの意図を見透かし、危険があることを承知で、それでも歩みが止まることはない。


マト;゚ -゚)メ「待って……待って下さい。そんな、どうしてですか?」

( `ハ´)「仕事だからな。この先に危険があるとしても関係ない。いや危険があるとしたら尚更、行かなければならないだろう」

マト;゚−゚)メ「私をその先に送り届ける為に……ですか? どうして、そこまで……」

( `ハ´)「言っただろう、仕事だからだ。他意はないよ」


まあ、と男は足を止め、続けた。


( `ハ´)「私個人としてはお前ならどんな相手と遭遇しても問題ないと思うのだがな。恨むならお前と一緒にいたあの男を恨め」

マト;゚−゚)メ「ブーンさんを……?」

( `ハ´)「そうだ。奴は言っていたよ。『ミィが前触れなく帰れと言ったら、きっと先に何かがあるから、どうか力になって欲しい』と」

506名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:46:04 ID:4cu/qweg0

それが今、ということだった。
少女の思考を読み切って――見切って出しておいた指示。
この数週間、ずっと隣にいたからこそ分かったこと。

男は言う。


( `ハ´)「どんな目を持っていたとしても、やはり子どもだな。嘘が見え見えだ」

マト -)メ「嘘なんて……吐いてませんよ」

( `ハ´)「そうだったか? まあ、なんでもいいがな」

マト -)メ「この先は、本当に危険ですよ?」

( `ハ´)「知っているとも。安心しろ、これでも退き際は弁えているつもりだ。お前が気にすることはない」


そして男は階段を下り終え、その扉の前に立つ。
フロアへのドア。
恐らくはこの先に地下七階への入り口があるのだろう。

無論。
何の障害もなく辿り着けるとは思っていない。

507名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:47:21 ID:4cu/qweg0

それでも、男は迷わず扉を空けた。

視界に広がるのはだだっ広く、薄暗い空間。
コンクリート製の柱とダンボールに入った荷物だけが点在している。

いや、違った。
このシェルターと呼べるような地下倉庫にはもう一つ何かがあった。
明確に二人に敵意を向ける白い何かが。



(* ∀)



誰かが――いた。
かつてミィが戦った白いセーターの女。
初めて会った時とは異なり異様に静かだが、それでもあの時と同じように敵意をミィに向けていた。


( `ハ´)「……なるほど、待ち構えられていたか。ならば是非もなし。幸いなことにこういった場面にお似合いの台詞を私は知っている」


フッと笑みを浮かべて男は言った。
「ここは私に任せて先に行け」と。

508名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:48:16 ID:4cu/qweg0

マト;゚ー゚)メ「でも……!」

( `ハ´)「いいから行け。それとも、お前の目には私が負ける未来でも映っているのか?」


そんなことはなかった。
ミィの瞳は数秒後の未来しか見えず、戦いの結末なんて知りようがない。
目の前の男がどうなるかなんて分からないのだ。

だが、それでも一度は敵同士だった相手として力量は理解していた。
だから一瞬間だけ悩み、ミィは言った。


マト -)メ「…………なら、あなたも一緒に戦ってください」

( `ハ´)「……ん? 何を言って、」

マト ー)メ「ここまでずっと気付かないフリをしてあげたんです。それくらい、してくれても良いでしょう……?」


そう、虚空へと呼び掛けた。

前方に立ち塞がる白セーターの女は門番のようにその場から動くことはない。
状況には何も変化はない。

509名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:48:11 ID:KfBOluu.0
支援!

510名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:49:05 ID:4cu/qweg0

その瞬間だった。



( ^ν^)「―――恩着せがましいですねー。『気付かないフリをしてあげた』と言いますかー」



ミィ達が立つすぐ後方。
倉庫の入り口に黒いスーツの男が立っていた。
何の前触れもなく現れた男は、少しズレたスクエア型の眼鏡を押し上げつつそう言った。


(;`ハ´)「貴様、いつから……。いやそれよりも、その異能、『ウォーリー』か……?」

( ^ν^)「最初からですー。そして、その通りですー。私はただ、その少女の監視をしていただけなんですが……」

マト-ー-)メ「『ウォーリー』さん。お金なら後で払います。だから……」

( ^ν^)「そう言っても払うのはあのあなたの大切な人でしょうに。ですが、そういうことならば構いませんよー。こうなることも予測はしていましたからー」


協力とか趣味じゃないんですがねー、と一方はフランクに笑い。
私もだよ、ともう一方は無愛想に呟いた。

511名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:50:22 ID:4cu/qweg0

( ^ν^)「では、さっさと行ってくださいー。私達もさっさと片付けて先に帰っておきますからー」

( `ハ´)「そういうことだ。じゃあな」


奇妙なものだ。
この二人の男とミィは以前出会った時は紛れもなく明白に、『目に見えて』敵同士だった。
それが今は事情こそあれど彼女を守る為に戦おうとしている。

こんな未来を誰が予想しただろう?

あのブーンという男だって「後で助けてもらおう」などと考えながら人と関わっていたわけではない。
その時々に必死で生きてきただけだ。

そう。
これはただの偶然。
同時に、これまでの選択が作り出した必然だった。


マト゚ー゚)メ「(こんな未来は私にも見えなかった)」


結局は未来なんて誰にも見えない。
人との縁も、それによって紡ぎ出される結末も――きっと、誰にも見えやしないのだ。

512名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:51:23 ID:4cu/qweg0

マト-ー-)メ「では、また会えることを祈っています」


心許りのミィの言葉に、二人は顔を見合わせる。
二人共が何を言っているんだかと言わんばかりの表情だった。
その横顔が語っている。
「次に会う時はまた敵同士かもしれない」と。

そう。
それもまた真実だった。
だからこそミィは最大限の感謝を胸に、走り出す。



(#* ∀)「ひゃ――あぁぁぁああ!!」



白のセーターの女が向かってくるミィに応じて右腕を巨大な鎌へと変え、振るう。
それを軽やかに躱し、敵の背後にある出口へと向かう。

目指すはこの先の地下七階。
真実の待つ場所だ。
無事に帰る為に今は振り返らず走る。

513名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:52:07 ID:4cu/qweg0

ミィがすぐ脇を抜けたことが分かると、当然セーターの女も追撃を行おう振り向こうとする。
だが、その隙を彼等が見逃すはずはなかった。

暗い倉庫に発砲音が連続して響いた。
飛来する弾丸に咄嗟に女は左腕を盾に変え防御。
女は焦点の定まらない瞳で、前方に立つ二人の男を睨み付ける。



( `ハ´)「行かせんよ」

( ^ν^)「彼女を追うのは私達を倒してからにしてもらいましょうかー。……私はこの台詞を言ってみたかったんですよねー」



それが合図だった。
セーターの女は標的を二人の男に変え、猛然と襲い掛かる。

戦いが始まったことが分かっても、ミィは決して振り返らなかった。

514名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:53:09 ID:4cu/qweg0

 *――*――*――*――*


階段を降り切った先は長い通路だった。

先ほどと同じように薄暗く、壁に点々と等間隔で小さな灯りが設置してあるだけだ。
無機質な白い道の先、一番奥には大きな扉がある。
エレベーターにある物と似たような左右に開くタイプの扉だった。

普段ならば、このくらいの距離になればその先に何があるのか分かるのだが、この場所に至ってはミィの異能は全く機能していなかった。
廊下までは確かに見えているのに、その扉の向こうは黒く塗り潰されたようになっており何があるのか全く分からない。


マト゚−゚)メ「…………」


ミィは足を止める。
そうしてアカイロに染まった両目で真正面を見据えた。
淡く光を放つ双眸は、この場にあってもやはり美しかった。

もしかしたら彼女の魔眼はいつになく好調なのかもしれなかった。
扉の先に何かあるか分からないのは、単に『見えていないから』なのかもしれなかった。

515名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:54:09 ID:4cu/qweg0

そう、この時の彼女に先のことなんて見えるはずがなかった。



ミセ*^ー^)リ「―――来てくれると思ってたよ、『プロヴィデンス』」



ミィが目にしたのは真実の待つ扉の前に立つ少女。
『クリナーメン』と名乗り、ミィの大切な人を傷付けた相手が扉の前に立っていたのだ。

他のことが目に入るわけがなかった。

目を奪われ。
目の色を変え。
そして――心底に目障りに思う相手がそこにいたのだから。


ミセ*^ー^)リ「この距離まで近付くと、私の些細な妨害もまるで意味を成さないみたいだね。流石『プロヴィデンス』だよ、奇跡的だねぇ」

マト −)メ「…………」

ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの? 怒ってるの? 私だって怒ってるんだよ? ずっと待っていたのに、ずっと帰ってきてくれないから」

516名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:55:12 ID:4cu/qweg0

ミィはこの少女を初めて目にした時、あまりの鮮烈さに少女以外の色が世界から消え失せたようだと感じた。
その熾烈で強烈な、人間が決して抗えない『運命』と言う名の絶望を形にしたような少女に、恐怖した。
生まれて初めて……ではなかったとしても、記憶を失ってから初めて、何かを怖いと思ったのだ。

【記憶(じぶん)】を失って何も残っていたなかった彼女が、初めて――何かを失うことに、その恐怖に震えた。


ミセ*^ー^)リ「もしかしてさっきの階にいた子のことを考えてるの? ダメだよ、あの子は失敗作。失敗作の癖にあんまりにもウルサイから何も考えられないようにしちゃった」


今も少女の姿は変わらない。
あの時と変わらぬ装いに変わらぬ態度で、いとも無邪気に微笑んでいる。

その在り方は何も変わっていない。
初めて会った時と比べてまるで変化がない。
まるで時が止まっているかのように。

いや――ミィはただ、「まるで死んでいるみたいだ」と思った。


ミセ*^ー^)リ「どうしたの? なんで何も喋らないの? どうして? ねぇ。ねぇねぇねぇねぇねぇ―――」

マト −)メ「…………あなたは、」

517名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:55:59 ID:4cu/qweg0

少女を前にして初めて口を開いたミィは直後に「……いえ、お前と」と言い直す。
あの時とは違い、少しも恐怖はない。

だから続く言葉など決まっていた。
この相手が何であろうとも。
扉の先に何が待っていようと。

彼女は、ただ―――。



マト#゚−゚)メ「……お前と話すことなど何もない。私はお前を許さない。私の瞳に映るのは――お前を殺す、未来だけだ!!!」



他のことなど何も目に入らなかった。
他のあらゆることが眼中になかった。
あのふわふわとした笑みなど何処にもなかった。

ミィは――普通の少女のように大切な人を傷付けられたことを、それだけを考え、憤っていた。
この場にあっても相も変わらず無邪気に微笑む少女は、笑みを崩すことはなかった。

そして全てが終わり、そして全てが始まった。

518名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:57:44 ID:4cu/qweg0


  僕は信じていた。
  この選択が未来を作っていくことを。
  僕と彼女の想いが通じ合っていることを。
  そして僕や、彼女や、誰かの人生が世界にとって無駄ではないということを。

  物語の僕達は確かにそこに生きていた。
  何の記録にも残っていないとしても、誰の記憶にも存在しないとしても――ここにいる僕達自身が、その証明なのだ。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第九話:名もなき怪物」





.

519名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:59:13 ID:4cu/qweg0

というわけで第九話は以上です。
文量多くなったので分割しました。
安価は次回、第十話の最後に実施します。

……多分。



先立って安価のルールを説明しておきます。

通常の物とは異なり、多数決です。
次回の最後に選択肢が出現しますので良かったら選んで書き込んでみてください。
予め規定した時間までに集まったレスの数で結末を決定し、そのエンディング用の次回予告を投下します。

こんな感じです。
ではまた、次回。

520名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 22:53:30 ID:7mlkwPhg0

おもしろい。

521名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 23:40:22 ID:09qUGsDQ0
ニュッくんまで乗りますかーいいねー

522名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 23:57:14 ID:D4AtV/HI0
おつ!

523名も無きAAのようです:2014/02/25(火) 02:58:10 ID:XhZGys4wC
先生のやつでこんなに次回が待ち遠しいことは今までなかった 
次回楽しみ、安価も参加する

524名も無きAAのようです:2014/02/25(火) 02:58:59 ID:XhZGys4wC
先生のやつでこんなに次回が待ち遠しいことは今までなかった 
次回楽しみ、安価も参加する

525名も無きAAのようです:2014/02/25(火) 03:00:25 ID:XhZGys4wC
二重投稿すまんこ

526名も無きAAのようです:2014/02/25(火) 12:34:51 ID:Z3SZpCSMO
うおお乙!
次回安価が楽しみ

527名も無きAAのようです:2014/02/26(水) 14:11:05 ID:6kfp9oK.0
熱い展開じゃないですかもー!おつ!

528名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:50:37 ID:H5YVOsVI0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト ー)メ
・名前:不明
・性別:不明
・年齡:不明
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:不明    
・外見的特徴:不明
・備考:特になし

529名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:51:17 ID:H5YVOsVI0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・NO DATA


【手に入れた物品諸々】

・NO DATA

530名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 02:02:20 ID:TZIt5f8MC
おいっ、今の時間からやるのかよ 
寝られなくなったじゃねぇかよ

531【第九話予告】:2014/03/06(木) 06:39:51 ID:Cv8eFBik0

「ブーンさん、『終わり良ければ全て良し』という言葉をどう思いますか?
 いえ、というよりも……終わり良ければ全て良しだと言うのなら、『終わりが悪ければ全て台無し』だと思いますか?

 私の両目は未来を見る力を宿しています。
 これは現状からの高度な予測ですが、『終わりを見る異能』だと表現することもできると思います。
 相手の行動の終わり、あるいは勝負の終わりを先に見る力だと。

 ですが、人間、いえ全ての存在の『終わり』とは即ち『死』です。
 だとしたら『死』を哀しいものだと意味付けする以上、あらゆるものの終わりは悪いと言えます。

 どんな物語の終わりもそう。
 『その後、お姫様は王子様と結婚し幸せに暮らしました――そして最後には死にました』。
 お伽話の結びがこんな風ならそれこそ台無しです。
 でも、形あるものはいつかは滅びるということは変えることのできない世界の真実。

 私達がどんなに必死に生きたとしても、いつかは死んで、私達の子孫や私達が生きた社会も滅びて、この世界さえも消えてしまう。
 そう考えると少しだけ、切ないです。

 ……でもね。
 形あるものは必ず滅びて、後には何も残らず、私達の生きた価値とか意味なんてなくなってしまうんだとしても……きっと、それでも私は―――」



 ―――次回、「第十話:Mournful Missinglink」

532【第九話予告】:2014/03/06(木) 06:41:08 ID:Cv8eFBik0

次回、第十話は3月10日の夜〜深夜投下予定です。
予定は未定。

頑張って三月中には終わらせますよー。

533名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 12:24:20 ID:MYWq1dM20
だいぶ遅れてしまった…
熱い展開で先に期待が高まってる


534名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 14:52:16 ID:4bEIrzCc0

待ってる。
いよいよか……

535名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 14:54:00 ID:4bEIrzCc0

待ってる。
いよいよか……

536名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 18:11:41 ID:Vaoy8pUMO
おお……乙
三月で終わると思うともう寂しいな

537名も無きAAのようです:2014/03/06(木) 23:49:31 ID:5bBESuvQ0


楽しみにしてる

538名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 12:54:22 ID:Jrq6YhUE0
期待…

539名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:10:46 ID:N78RRPuQ0


  ……今から少しだけ前のこと。
  個人の本質も人生の意味も、人間の全てが決まっている時代があった。

  職業も、恋人も、思想も、あるいは幸福でさえもが周囲によって決定された世界。
  僕達に選択権はない。
  抗う権利どころか従う権利もなく、あるのは『運命』と呼べるような決まり切った在り方だけだった。

  ほんの少しだけ昔の話。


  時が経って、色んなことが起こって、世界は変わった。
  変化した世界ではある概念が大事にされ始めた。

  ―――『自由』。

  ついこの間までは存在しなかったはずのものなのに、それは瞬く間に僕達に浸透していき、今ではわざわざ語るまでもないような当然の概念となった。
  職業について、恋人について、思想について、僕達は様々な権利を手に入れた。
  きっと一言で言えば『未来を選ぶ権利』。
  僕達は自分の選択で、自分の未来を選ぶようになったのだ。

  そう、僕達は生き辛さを感じることも多いけれど、昔の人達に比べれば遥かに自由に生きられている。

540名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:12:02 ID:N78RRPuQ0

  だけど、ある時一人が言った。
  「私達には一つだけ選ぶことができないものがある」。
  何処かの誰かが言い出した。

  名前だとか、神様がいるかいないかとか、何処の国の人間だとか、男だとか女だとか、ありとあらゆることを僕達は選べる。
  実際に選ぶことができるかは置いておくとして、選ぶ権利を与えられている。

  そんな僕達にも一つだけ選べないものがある。
  それは『「選ばないこと」を選ぶ権利』。
  選ばないことを選んでしまった時点で選んでいることには違いないから選ばないことは結局選べない。
  これだと言葉遊びになってしまうから、端的に言い換えよう。


  時代は変わった。
  僕達は少し前の世界に戻ることができなくなったのだ。


  僕達は自由だ。
  だから選択しなければならない。
  職業も恋人も思想も幸福も、自分に関わる何もかもを自分で選択しなければならない。

  少し前までは当たり前みたいに個人の場所が用意されていたのに、今じゃ誰も自分の生まれた意味を教えてくれない。
  『運命』に従っているだけで良かった時代は消えてしまった。

541名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:13:04 ID:N78RRPuQ0

  僕達は『自由』になった。
  だけどその結果、選べないけれど与えられていた本質や意味を失った。

  まるで失楽園だと笑ってしまう。
  何もかもを自分の力の及ばない大きな存在が決めていた場所から追い出され、苦しみながら果てのない荒野を彷徨う。
  進学と職業選択の自由が生み出したのは自分探しをする若者達。  
  誰も自分の生まれた意味だなんて教えてくれない。


  『自由』。

  僕達に与えられたのは呪いか救いか。
  「人間は自由であるように呪われている」という言葉が正しいとしたら、現代を生きる僕達は全員呪われているのだろう。

  僕達は生まれながらに自由と因果に繋がれた囚人だ。
  自分が何者であるか、その行動がどんな結果を招くのかも分からぬままに選択を繰り返す。
  繰り返さなければならない。


  救いなのか、呪いなのか。
  自由であることは確かに苦しく辛い。

  ……でも、こんな風に語ってしまったけれど、やはり僕は――『自由』は素敵なことだとも思っている。

542名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:14:09 ID:N78RRPuQ0


  さて。
  僕のつまらない雑談はここまでだ。
  じゃあ、最後の話を始めよう。
  
  僕がこれまで語ってきた、あの彼女の物語を――終わらせよう。
  記録と記憶を巡る少女の物語もそろそろおしまいだ。


  秋の足音が近付き、肌寒い日が頬を撫ぜ始めたあの日、僕は一人の少女に出逢った。
  その少女は自分の記憶を、過去を失っていて、その代わりとでも言えば良いのか未来が見える瞳を持っていた。

  それから、僕と彼女は旅をした。
  真実を探す旅だ。
  僕が彼女と一緒に過ごしたのはたった数週間、ほんの一時だった。 
  その時の彼女は何者でもないけれど誰でもない彼女で、その時の僕も同じく何者でもないけれど他でもない僕だった。

  そう。
  他の記録には残っていないとしても、誰の記憶にも残っていないとしても、物語の僕達は確かにそこで生きていた。
  そのことはここにいる僕達が証明している。

543名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:15:08 ID:N78RRPuQ0

  僕は一体、彼女に何ができたのだろう?
  僕は彼女にとっての何かになれたのだろうか?
  きっとこれから先も、何度でも秋が訪れて彼女との日々を思い出す度に、僕はそんなことを考えるのだろう。

  結局、その答えは訊かなかったまま。
  だから僕はただ目を閉じて、あの時僕の隣に立っていた彼女の笑顔を思い出す―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第十話:Mournful Missinglink」




.

544名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:16:02 ID:N78RRPuQ0

二人対一人の戦いにおいては、単純に考えれば数で勝る二人側の方が圧倒的に有利だ。
同時に逆方向へと走り、相手が片方に引きつけられたところでもう一方が死角から攻撃する。
もしも逡巡したならば両側からの挟み撃ち。
人間の手足の数、関節の可動域、凡その視野、つまりは人体の限界として複数人を相手取るのは困難だ。

しかし近代近接戦闘においては必ずしも数で勝る方が有利だとは言えない。
いや、間違いなく有利ではあるのだが、二人だろうが何人だろうが複数人側は考えて動く必要がある。

近代において戦場での主兵装は銃火器だ。
それ故、挟み撃ちを行う場合でもポジショニングを誤ると味方の弾に当たることがありえるのだ。
「なら弾を外さなければ良い」という結論には至らない。
命中した弾丸は身体を貫通することも多いからだ。
敵に遮られ射線が把握できない以上、こちらの方が深刻な自体を招くかもしれない。

二人対一人の戦いにおいては当然二人の側が有利だが、その立ち回りは容易ではない。


( ^ν^)「(即席タッグの上、私の能力は他の全員の視界から消えるというものですからねー……。気を付けなければ)」


柱の陰に隠れ、周囲を伺いつつ『ウォーリー』は考える。

生憎なことに彼の武器も、即席タッグの相手である中国人の武器も拳銃。
常に誤射をしないように気を付けて動かなければならない。

545名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:17:09 ID:N78RRPuQ0

対し、



(#* ∀)「ひゃ――あぁぁぁああ!!」



相手の白いセーターの少女。
腕を刃渡り二メートルほどの刀に変えるような相手を「少女」「彼女」と表現して良いのかは疑問だが、彼女は自分以外の全てが敵という状態だ。
『ウォーリー』の側のように余計なことは考えず、動くものを全て破壊していくだけで構わない。

現に今もニット帽の中国人を追い掛け、凶器に変えた両腕を滅茶苦茶に振り回している。
コンクリートが砕け、ダンボールが吹き飛ぶが、幸いにも今のところはニット帽の男はかすり傷一つ負っていない。


( ^ν^)「(見事な立ち回りですねー。凡百の軍人では相手にならないでしょうー)」


それとも。
こういう存在を相手取ることを専門にした裏稼業の人間なのだろうか?
だとしたら身体を変形させるような化物を目の前にしても冷静に洗練された動きで対応していることにも納得できる。

敵に回したくはないですねー、と『ウォーリー』は一人笑った。

546名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:18:09 ID:N78RRPuQ0

『ウォーリー』と言えば裏社会ではかなり名の知れた何でも屋だ。
彼の能力である『知覚阻害』の発動中、他者はまず彼を見つけることができない。
透明になるわけでもなく擬態するわけでもなく、ただただ知覚されず認識されることがない。

彼自身は人殺しを好まないが、能力自体は極めて暗殺向きの、しかもほとんど無敵と言って構わないようなものだった。
人を殺すと決めたならば、ただ力を使って、対象の近くまで歩いて行き、その首元を切り裂けばそれでいい。


( ^ν^)「(ですがああいった相手の場合、それができないんですよねー……)」


今の敵である白いセーターの少女は無茶苦茶に暴れ回っている状態。
迂闊に近付けば破壊に巻き込まれてしまう。
見えていようが見えていまいが彼はそこに存在しているので、身体の周囲を薙ぐように攻撃する相手には近付くことがまずできない。

さて、と『ウォーリー』はニット帽の男が敵の視覚から逃れた瞬間を狙い、彼の元へと向かう。
黒のアタッシュケースの中には何を入れてきただろうと思い出しながら。


( ^ν^)「どうもー」

( `ハ´)「……ああ、お前か。驚いたな」

( ^ν^)「驚いたようには見えませんがねー」

547名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:19:01 ID:N78RRPuQ0

能力を解除し、柱の陰で息を潜める男に声を掛ける。
命懸けの追いかけっこをしていたというのに息の上がった様子はない。
心配する必要はないようだった。

むしろ考えるべきは能力を解除したことで自分が相手に見えるようになったことですかね、と自嘲するように笑い、『ウォーリー』は言う。
少女は正気を失ってこそいるが敵が隠れたことは理解しているらしく柱の陰を確認して回っている。
「壊して回っている」と言い換えてもさして問題はない。
その破壊音さえなければ話し声ですぐに二人の居場所が分かったはずなので、彼等にとっては彼女が気が狂れていることは幸運だった。


( ^ν^)「逃げながらも観察されていたみたいですが、何か分かりましたかー?」

( `ハ´)「見えている攻撃には両腕で対応されるな。加えて弾丸を一発二発打ち込んだ程度では死なないらしい。……そちらは?」

( ^ν^)「同じ結論ですー。付け加えるなら、相手は正気を失っている、というくらいでしょうかー」


フロア中に破砕音が響く。
虱潰しに柱を壊して回っているらしい。
ということはそろそろこちらに気が付くなと冷静に思考しつつ、『ウォーリー』は続けた。


( ^ν^)「……あまり時間を掛けていると、この階ごと全員でぺしゃんこでしょうねー」

548名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:20:02 ID:N78RRPuQ0

男の言う通りだった。
既に多くの柱が破壊された場所では、壁や天井までもを見境なく攻撃しているのもあり、部分的な崩落も起こっていた。
やがてフロアごと潰れる、ということはないだろうが、それに近しい事態は起こるだろう。
既に地上階では研究員達が異常に気付いているかも知れず、そうなると時間経過に比例して脱出が難しくなる。

さて、どうするべきか。
上手くいくかは分かりませんが、と『ウォーリー』は切り出す。


( ^ν^)「私に一つ、考えがありますー。その細工の為に今から消えますが、気にしないでくださいー」

( `ハ´)「その言葉は『弾に当たっても文句は言わない』という意味か? それとも『一人で逃げるから後はよろしく』の意味か?」

( ^ν^)「残念ながら前者ですー。私にも事情がありましてー」


そうか、とニット帽の男は小さく呟いた。


( `ハ´)「なら精々、信用してみることにしよう」

( ^ν^)「お互いに死なないように頑張りましょうー」


そう言って、二人の男はそれぞれ別方向に走り出した。
それは第二ラウンド開始の合図となった。

549名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:21:09 ID:N78RRPuQ0

 *――*――*――*――*


 僕の隣に腰掛けた彼女は以前会った時と変わらぬ静かで、冷たく、けれど美しい声音だった。
 きっとその瞳も変わらず夜の湖畔のように静謐で優美なのだろうとあの時のことを思い出す。

 そう、僕の隣にいるのは、ミィのことを「よく知っている」と語った唯一の相手――都村トソンだった。


「私のことは見えないのでしょうか」

「生憎と。美人が隣に座っているって言うのに横顔すら見れなくて残念な限りだお」

「ありがとうございます」


 世辞に対して都村トソンは意外にも素直に礼を述べることで応じた。
 対応はクールそのものだが、感謝の言葉が皮肉ではないのはなんとなく分かる。
 これ以上ないほどに美しく整っていたその顔立ちと佇まいを思い出す。
 花や鳥というよりは銃や刀のそれに近い魅力だが、それでも、目を奪われたことは確かだった。

 彼女は、そんな母親譲りの美貌をどう思っているのだろう。
 かつては僕の父も、彼女の母親である『都村トソン』をこういう風に褒めたのだろうか。

550名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:22:09 ID:N78RRPuQ0

「さて……。何も、世間話をしに来たわけじゃないだろう? 僕も訊きたいことがいくつかある」

「ではその訊きたいことの一つを当ててみせましょうか?」

「……なんだって?」


 都村トソンは言う。


「あなたが私に訊きたいことの一つは……『私が何故、あなたが失明したことを知っているか』」


 僕は押し黙る。
 その通りだったからだ。

 今、僕は確かに何も見えていないが、何故彼女は僕が失明したということを知っていたのか?

 仕草や態度で分かったから?
 そうかもしれない。
 だが都村トソンは最初に『先に名乗った方が良いか』と問い掛けた。
 それは何も見えない相手に配慮した言葉であり、相手が何も見えていないと知っていなければ出ない言葉だ。

551名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:23:03 ID:N78RRPuQ0

 だから彼女はこうして僕の隣に座る前から、僕が失明したことを知っていた。
 それは何故か。

 彼女は淡々とその解答を口にする。


「あなたの疑問にお答えします。あなたの状態を知っていたのは単に、私の同僚が優秀だからです」

「同僚?」

「斥候や調査班と表現しても良いかもしれません。あなたと一緒にいた少女……彼女と同じような能力で、あなたの身体状況を把握させて頂いただけです」


 尤もあれほどまでに際立った能力ではありませんが、と都村トソンは付け加えた。


「へえ。それは、どうもだお。その際立った能力を持つミィを容易く捩じ伏せた相手に言われるとどう反応したらいいのか困るが……」

「彼女が自らの能力の使い方を理解していればあのようには行かなかったでしょうね」


 意味深なことを口にしたかと思えば、今度は彼女が押し黙る番だった。
 その横顔は見えないが、それでも僕には都村トソンが何か悩んでいるように見えた。
 ただの推測だが、彼女にとって『黙る』とは『悩む』とイコールで結ばれた動作である気がするからだ。
 会話での駆け引きで沈黙を選ぶことは少ない、況してや意味もなく黙り込むなどということはありえないだろうと。

552名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:24:02 ID:N78RRPuQ0

「お前の同僚には精神干渉を得意とする能力者もいるらしいな」


 沈黙を破るようにして僕は訊ねた。
 都村トソンは言葉に動揺した風もなく「はい」と肯定する。 
 嘘を吐いているとは思えない。

 だから、一拍置いて。
 意を決して、僕は続けて問い掛ける。



「……単刀直入に訊こう。お前が、ミィの記憶を奪ったのか?」



 今度は「はい」とすぐさま答えることはなかった。
 また、暫しの沈黙。
 そして都村トソンは口を開く。


「その問いに答える前に、失礼を承知で、質問を質問で返したいと思います」

「え?」

553名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:25:07 ID:N78RRPuQ0

 彼女は言った。


「私は何故、あなたの前に再び現れたのだと思いますか?」

「それは……」


 問い掛けられてはっと気付く。
 僕は都村トソンに訊きたいことが山ほどあった。
 けれど考えてみると、彼女の方には僕に会う理由がないのだ。

 この駅で下りたところ、たまたま僕を見つけたから話し掛けた、なんてわけがない。


「あなたに倣い、私も単刀直入に言いましょう。私は――あなたに全ての真実を伝えにきた」

「なっ……!」


 絶句した。
 まさか、そんな。
 驚きのあまり、見えないというのに思わず彼女の方を向いてしまった。

554名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:26:07 ID:N78RRPuQ0

 都村トソンは素知らぬ風に続ける。


「先ほどの問いの答えは私が真実を話す過程で明らかになるでしょう。故に今は答えないでおきます」

「……どうして、いきなり話すつもりになったんだ? あの時は、あんなに『手を引け』と説得してきたのに」


 そうだ。
 それが理解できず、僕は驚愕したのだ。

 「別にいいじゃありませんか。過去なんて分からずとも」。
 「過去が分からなくても生きていけます」。
 どちらも他ならぬ彼女の言葉だ。

 あの時の彼女は実力行使に出てまで真実を探す僕達を止めようとしたというのに―――。


「『どうして』と訊かれたならば、『あの時と状況が変わったから』としか言いようはありません」

「どういうことだお」

「あなた方が私の忠告を無視し、真実に辿り着きつつあるから、です。遠からず明らかになるというのなら、今明かしてしまっても良い。余計な誤解を防ぐことも兼ねてです」

555名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:27:07 ID:N78RRPuQ0

 僕は思考する。
 告げられた言葉を反芻し、思案する。
 もう決して間違わないように。

 僕の隣に座る彼女。
 都村トソン。
 その言葉は信じるに値するのか、聞くに値するのか。
 彼女は真実を語るなどと口にしているが――彼女が全ての黒幕という可能性だって、十二分にあるのだから。


「私の言葉を信じるかはあなた次第です。あなたがどう思ったとしても、私はあなたに危害を加えるつもりはありません」

「……それはそれは、重畳だお」


 おどけたような返しに対しても都村トソンは淡々と続ける。


「立ち塞がるというのならば容赦はしませんが、現状、あなたは私の脅威にはなり得ませんから」

「僕なんてミィと同じように一捻りだって?」

「はい。物理的に」

556名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:28:07 ID:N78RRPuQ0

 え?と一瞬間、思考が停止した。
 どうやら今の一言は都村トソンなりのジョークだったらしい
 超能力で空間を歪めることをできる彼女なりの冗談。

 「物理的に一捻り」ということは、つまり、あの時僕が手にしていた銃のように僕をグシャグシャにするということだろうか?
 ……冗談だとしてもキツ過ぎる発言だ。


「私の話を聞くか、それとも聞かないか。どうなされますか?」

「……どうするかな」

「では二つ、先に述べておきましょう。まず私は軍に務めていますが、所属はグリーンベレーやデルタフォースのような特殊部隊の所属なので、まず普通には会えません」

「普通じゃないやり方なら会えるのかお?」

「あなたが国家が揺るがすようなテロリストになれば会うことができるかもしれませんね。その場合、命の保証はできませんが」

「そうかお」


 まったく。
 都村トソン、お前の冗談はミィのジョークと同じで全く笑えない。

557名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:29:07 ID:N78RRPuQ0

「では二つ目です。あなたが頼ったというあの情報屋の女性は優秀ですから、やがては真実に近いところまで辿り着くかもしれません。ですが、」


 一呼吸置いてから彼女は続けた。


「私は、あなた方の探す真実の関係者です。それ故に、私しか知らない真実もある」

「…………そうか」


 だとしたら。
 お前が関わっているというのならば、僕の答えなんて決まっている。

 僕は言う。


「なら、聞かせてもらうお。お前の語る真実ってやつを」

「分かりました。ですが、その前にもう一つだけ。……今のあなたは、後悔していますか?」


 自嘲するように鼻で笑ってから、強がって僕は呟く。
 「後悔してるし、だから、後悔してないよ」と。

558名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:30:12 ID:N78RRPuQ0

 *――*――*――*――*


そして全てが終わり、そして全てが始まった。

ミィは脇目も振らず真っ直ぐに少女へと突撃していく。
対し、『クリナーメン』と名乗る相手はまるで握手でも求めるかのように右腕を前へと出す。
―――パチン。
広い通路に乾いた音が響いた。

次の瞬間、『何かがどうにかなった』。
そうとしか表現できない現象が起こった。


ミセ*^ー^)リ


いや。
実際には何も起こっていない。
破裂音が響いただけだ。

少女の『呪い』とも称するべき確率操作を音に数瞬先んじるようにしてミィが回避したからだった。
故に結果として何も起こり得なかった。

559名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:31:17 ID:N78RRPuQ0

ミセ* ー)リ「あははははは―――!」


次々と音が響いていく。
二打、三打と繰り返される不可視の攻撃は何も引き起こさない。
それでもミィは回避と後退を余儀なくされた。

両の瞳を紅に染め上げて、薄暗い空間にアカイロの線を引きながらミィは思考する。


マト゚−゚)メ「(『確率論(クリナーメン)』は存在確率制御の能力。量子の不確定性に干渉し極小単位で事象に変化を加えマクロ世界に影響を与える力―――)」


ミィは量子力学のことなど理解していない。
知覚したまま認識しているだけ。
『未来予測』という知覚の異能とも言える力を持つ彼女にとってはそれは当然のことだった。
人間が視力を有している以上は理屈が分からずとも空の青さは子どもにだって分かる。
それと同じことだった。

高速という表現でも生温い演算速度で現在を知覚し未来を予測しつつ、紙一重で何も引き起こさない攻撃を躱しながら、ミィは考え続ける。


マト −)メ「(本質的にはあの都村トソンの能力と同じ。一種のサイコキネシス。空間座標を設定し、そこに力を加えている―――)」

560名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:32:07 ID:N78RRPuQ0

座標とは、ある点の位置を明確にする為に設定された数の組であり、点によって定まる関数の組のことだ。
都村トソンの異能は「空間を歪める」という風に説明されることが多いが、厳密には四次元時空に設定した任意の点の周辺に力を加えて歪曲させるというもの。
対し『確率論(クリナーメン)』の能力はその任意の点が量子単位(プランク長レベル)――より精密で難解なのだ。
具体的には電子のような素粒子に影響を与えることで事象を引き起こしている。

つまり、『確率論(クリナーメン)』は、例えばミィの身体を構成する素粒子を狙い定めて発動している。
「狙い定める」と表現すると簡単に思えるが、それは素粒子が何処に存在しているかを演算し予測して能力を使う必要があるということ。
そしてそれは三次元に時間を足した程度の空間の理解とは訳が違う。

要するに――ミィが予測した場所にいなければ『全く何も起こらない』。
拳銃と変わらないと言えるかもしれない。


マト −)メ「(だから壁や柱のような物体には容易く発動できるが、人間のような意思を持ち動き回る存在には当て難い―――)」

ミセ*^ー^)リ「ねぇ、どうして黙ってるの? ねぇ、ねぇって」

マト −)メ「(けれど、そもそも量子レベルで世界を把握するような能力の発動には『未来予測』と同程度の知覚能力と演算能力が必要。だから―――)」


敵から十二分に距離を取りミィは押し黙る。

そう。
彼女の予測した通りだった。

561名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:33:00 ID:N78RRPuQ0


ミセ*^ー^)リ「ねぇ――ほら、もっと近くにおいでよ」



この『クリナーメン』という少女は――ミィと同じく、短期的な未来を予測できるのだ。

だからこそ『確率論(クリナーメン)』の能力は人間にも脅威となり得る。
次に相手が何処に動くかを予測し、その上で確率操作という能力を発動させれば、それは必中にして必殺の異能となる。
回避することはできず、一度でも直撃してしまえば何が起こるかが分からない。

対処の仕様がない。
それは運命のように人間にはどうしようもない『絶望』だ。


マト ー)メ「(……ずっと前に、私はブーンさんに『私の能力は特別なことができるわけではない』と言いましたね)」


『未来予測』という能力は人間ならば誰でも行っている行為の延長線上に存在する。
ボウリングでストライクを狙う時、拳銃の照準器を覗く時、あるいはゴミを少し離れたゴミ箱へ投げ入れる時、人間は要素を考慮して未来を予測する。
ミィの場合、その精度が極めて高いというだけで、未来を思うという行為は誰でも行っていることだ。
彼女は決して特別なことができるわけではない。

そして、彼女の目の前に立つ敵は――彼女にはできない、特別なことができる。

562名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:34:00 ID:N78RRPuQ0

……単純な戦闘能力的価値で言えば「上位互換」になるのかもしれない。
今現在、ミィが『クリナーメン』の絶え間ない猛攻を避けることができるのは演算速度、つまり未来を予測する力が優っているからだ。
相手が一秒先のミィを予測しても、ミィは一秒先の自分を予測した相手を予測しているので攻撃を回避できる。
けれど予測精度で優っているのは相手が『確率論(クリナーメン)』の能力の発動を同時に行っているからでしかない。

キャパシティは十と十で同等。
ミィが全てを防御(予測)に注ぎ込んでいるのに対し、単に相手は攻撃と予測に五ずつ使用しているというだけのことだった。


マト −)メ「(加えて『確率論(クリナーメン)』の能力は演算が複雑過ぎて射程が短い。それが唯一の弱点らしい弱点……)」


かつてミィはブーンに「私の能力の性質的にどんな能力を相手にしても決して負けない」と語った。
それは紛れもない事実で、『クリナーメン』がミィの動きを予測しようとすれば攻撃に割いている力を全て予測に回す必要があり、そうなると攻撃ができない。
だがそれは同時にミィは決して勝つことができないということを示している。

そう、ミィは負けない。
同時に――決して勝てないのだ。


ミセ*^ー^)リ「ねぇ、どうしたの? そんなに遠くに行っちゃって。もう諦めちゃったの?」


形を成した『絶望』が一人の少女に語り掛ける。

563名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:35:08 ID:N78RRPuQ0

 *――*――*――*――*


 都村トソンは言った。


「あなたから見て、彼女……『ミィ』はどんな少女でしたか?」

「え?」

「彼女の過去や正体といったことは考慮せずとも構いません。ただ、少しの間でも彼女の隣にいた人間として、彼女のことをどう思いましたか?」


 それは唐突な問いだった。
 真実を聞かせてくれるというものだから聞く体勢に入ってしまっていたが、都村トソンがまず始めにそんなことを問い掛けた。
 彼女について。

 いや――僕の記憶の中の彼女について、だろうか。


「どんなって、普通の……そんなことはないな。初めて会った時からおかしな奴だと思っていたお」

「おかしな奴――とは?」

564名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:36:03 ID:N78RRPuQ0

 脳裏に思い浮かべるのはミィと出逢ったあの公園。
 ちょうど今の都村トソンのように、僕の隣に座ってきた彼女。


「無一文で、記憶も帰る場所もなくて、それなのに平然と缶ジュース飲んでて……。煙みたいにふわふわして掴みどころのない奴だと思ったよ」


 変わった髪の色で。
 服は普通過ぎてちぐはぐで。
 敬語を使ってるはずなのに敬意は全然感じられなくて。
 一人称があやふやで。
 言動がかなり滅茶苦茶で。

 何処をどう見ても、とても『普通の少女』とは思えなかった。


「実際、普通とは言い難い能力を持っていたし。それをすぐに目の当たりにしたから、なんだか納得しちゃったお」

「そうでしょうね。何か一つでも一般から大きく乖離した要素があれば性格や言動の異常さは理解しやすいものです。違う人種の人間なんだな、と理解できる」

「超能力があるとか、お金持ちだとかかお?」

「仰る通りです」

565名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:37:08 ID:N78RRPuQ0

 彼女の言う通り、そういうものだ。
 能力的に秀でた人間の性格が特異であった場合、「あの人は天才だからああいう感じなんだろう」と理解するのはおかしなことではない。

 だから僕もミィと会ったばかりのことは「彼女は違う世界の人間だ」と思っていた。
 言動が奇妙に思えるのは生まれ育った世界が違うからだと。
 尤も、彼女は記憶を失くしているから、何処でどんな風に生まれどういう風に育ったのかは分からない。

 だけど。


「でも……しばらく彼女と一緒にいて、気付いたことがある」

「それはなんですか?」

「ミィが何処で生まれ育ったのかは分からないけれど、彼女も一人の女の子だってことだお」


 華奢な体躯をしている癖に食いしん坊だったり。
 服くらい何着でも買ってやると言ったのにずっと悩んでいたり。
 シャワーやお風呂が好きだったり。
 その割に髪を乾かさず所々がいい加減でガサツだったり。
 人から貰った物を大切にしたり。

 僕の隣にいたのはそんな風な性格の――女の子だった。

566名も無きAAのようです:2014/03/10(月) 21:38:01 ID:N78RRPuQ0

 ああ、そうだ。
 彼女はずっとふわふわと笑っていたけれど――本当に楽しい時に浮かべる笑顔と困った時の微笑は少しだけ、でもはっきりと違うのだ。 
 僕はそのことを知っている。

 他の誰もが知らなくても、そのことを、僕だけは知っている。


「考えてみれば、自分とは違うのは当たり前なんだ。だって違う人間なんだから。多いか少ないかってだけで、多少の違いがあるのは当たり前なんだお」

「……そうですね」

「だから他の誰かがどう思うかは分からないが、少なくとも彼女と一緒にいた僕はこう思う」


 そうして僕は言った。



「ミィは、普通じゃないとしても――やっぱり一人の、可愛い女の子だって」



 普段なら気恥ずかしさに顔を赤く染めてしまいそうな言葉が呼吸をするように言えたのは、きっと。
 これが偽りのない、心の底からの僕の本心だったからだろう。


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