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マト ー)メ M・Mのようです

1名も無きAAのようです:2013/09/28(土) 06:36:56 ID:a0hWVy360


  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。

  僕は今でも夏が過ぎ秋が訪れる度に彼女と出逢ってからのあの数週間の出来事を思い出す。
  もう記憶は所々曖昧になってしまっていて、細部は日記という記録に頼るしかないのだけれど、それでも目を閉じれば彼女の笑顔は浮かんでくるのだ。
  あの最後の時と同じように。


  誰かに友人を紹介しようとする時、何から話し始めるのだろうか。
  彼女について語ろうと思った際に僕は何から話せば良いだろうか。
 
  自分との関係性?――彼女と僕は赤の他人だった。
  その人の職業?――誤解を恐れずに言えば彼女は無職だった。 
  年齡や経歴?――それすら彼女にはなかった。
  なら名前?――そんなものでさえ、僕と出逢った時の彼女にはなかったのだ。  

  あの日、僕が出逢った少女は掛け値なく何者でもない誰かだった。
  誰でもない、彼女だった。
  何の記録も残っていないとしても彼女は確かにそこにいた。

819名も無きAAのようです:2014/05/13(火) 20:22:00 ID:/f0T1bo60


一身上の都合により今日はここまで。
最終話後編は近い内に投下します。

では、最後までよろしく。

820名も無きAAのようです:2014/05/13(火) 22:01:49 ID:zmtHUgfk0
乙。
待ってる。

821名も無きAAのようです:2014/05/13(火) 22:05:30 ID:zXRDhoJs0
うおおきてたのか!
続き楽しみにしてるよ

822名も無きAAのようです:2014/05/14(水) 00:30:04 ID:A4T.yYBcO
おいっ、こっちのほうがいいじゃねえかよまあおれも未来に入れたくちだけど 
続き楽しみにしてるよ

823名も無きAAのようです:2014/05/14(水) 19:18:01 ID:Uym2NcUA0
これはIFじゃなくて2周目のTRUEエンドだな
本当に安価なんてどうでも良かったんや

824名も無きAAのようです:2014/05/15(木) 15:16:26 ID:xgYtPDNU0

一身上の都合で待ってる

825名も無きAAのようです:2014/05/17(土) 22:46:12 ID:mXxeHzQk0
うおおおつきてたんかーい!
幸せになってくれることを祈るぜ

826名も無きAAのようです:2014/05/18(日) 16:44:34 ID:mJXTYfTMO
前編乙
っておいおい完全にこっちがトゥルーじゃんか
わがまま言えば安価なんて下手なことせずはじめからこっちで読みたかったぞ……!

827名も無きAAのようです:2014/05/19(月) 10:48:03 ID:/sBpgFoU0
どっちがtrueとかねえから

828名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 08:34:02 ID:mXFK.XN60
蛇足なんだよなぁ

829名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:49:27 ID:T7e4Lln.0

 *――*――*――*――*


 僕の父が都村トソンに向けて言った言葉。
 「あの中には俺の唯一の成果が入っている」。
 その一言は、「彼女は自分が見つけてきた本物の超能力者だ」という意味だったのだろう。

 この都村トソンの親類にして、あるいは『ファーストナンバー』を脅かしかねない異能を持つ、天然の能力者。
 それが――ミィの正体。


(-、-トソン「……彼女は、私の母方の曾祖母の妹の玄孫に当たります。浅学な私にはどう呼べばいいのかも分からない間柄です」


 都村トソンは言った。
 ミィを連れてきたのは僕の父であること。
 そして、その目的は計画を続行させる為というよりは人体実験を止めさせるためだったということを。


(゚、゚トソン「顔立ちは似ていますが、正直、よく見つけたものだと思います」

(  ω)「…………」

(-、-トソン「直系の長女は『トソン』という名前を付けますが、第二子以降にその縛りはありませんので名前も苗字も違いますから」

830名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:50:45 ID:T7e4Lln.0

 私と彼女の高祖母は同じなので『トソン』という名前だと思いますが、と付け加える。


(  ω)「……どうして、」


 だが、そんなことは僕はどうでも良かった。
 訊きたいことはたった一つだけだった。


(  ω)「どうして、そのことを隠してたんだ……? 仮にも自分の親戚の、年端のいかない女の子を、『兵器』と偽って……!」

(-、-トソン「言ったでしょう? 『真実を知ればあなた方が後悔すると思ったからだ』と」

(  ω)「なにを……!」

(゚、゚トソン「彼女は戸籍上死んだ人間です。彼女の両親はもうこの世にはいません。彼女の家は取り壊されて跡地には別の建物が立っています」


 それどころか。
 唯一残っていたはずの記憶さえも研究所での調整の過程で奪われたのだ。

 分かるでしょう?と都村トソンは言った。

831名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:52:47 ID:T7e4Lln.0


(-、-トソン「元々の彼女はもう――死んだ人間なんです。彼女は独りです。この世界に居場所なんて、ない」



 何もない。
 そう、何もないのだ。

 家族も、故郷も、過去も、名前も、記憶も――何もかもが失われた後だった。
 元の彼女を現在に伝えるのはその顔立ちと二重螺旋のみ。
 しかし、その身体でさえも真っ当な人間のものではなくなっている。

 分かるでしょう?ともう一度彼女は言った。


(-、-トソン「彼女が失ったのは、どうあっても取り戻せないものです。だったら……ただ喪失感だけに苛まれるくらいなら、忘れたままの方がいい」


 知らない方がいい、と。
 都村トソンは小さく呟いた。

 それはあるいは彼女の慈悲だったのだろうか。
 兵器として造り出され、親を失くし、今もなお戦い続けている彼女の。
 精一杯の、想い。

832名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:54:05 ID:T7e4Lln.0

(  ω)「……そんなことがあるかよ」


 だが。
 僕はそんな感情を認めることはできなかった。


(  ω)「そんな……そんな身勝手な救いがあってたまるか。独り善がりな優しさを受け入れてたまるか」


 知らない方がいい?
 忘れたままの方がいい?

 ふざけるな。
 それは確かにそうかもしれない。
 ミィも「知らないままでいたかった」と言うかもしれない。


( #^ω^)「だとしても、その絶望はミィが選択するものなんだ。誰かに勝手に決められるものじゃないんだよ……!!」


 だけど、それでも選ぶのはミィなんだ。
 彼女には知る権利があった。
 どんな絶望的な真実だとしても――その真実を知って、未来を選ぶ為に。

833名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:55:09 ID:T7e4Lln.0

(-、-トソン「……知ってしまえば、知る前には戻れません」

(  ω)「それでも」

(゚、゚トソン「死んでしまいたくなるくらい嫌な気持ちになるかもしれません」

( ^ω^)「それでもだ。知りたくなかったと嘆かれ、どうして黙っていてくれなかったと罵られたとしても――それでも」


 ……都村トソン。
 お前がやったことは、痛みに苦しむ重病人を前にして「辛そうだから殺してやろう」と銃爪を引く行為と同じなんだ。

 それはどんなに辛くてもあってはならないことなんだよ。
 死にたいくらいに苦しくても、僕達は最後まで自分で選ばなきゃ駄目なんだ。
 それが『生きる』ってことなのだから。


(-、-トソン「…………あなたに、いえ、あなたは……」


 都村トソンはそう言い掛けて、口を噤んだ。
 彼女は何を言おうとしたのだろう?
 表情から読み取ることは叶わない。

834名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:56:05 ID:T7e4Lln.0

 その目を細めた様は、太陽の眩しさから目を逸らすようでいて、愚昧な存在を「見ていられない」と言うようでいて。
 あるいは単に、潤んだ瞳を隠し誤魔化すようでもあって。
 彼女の中でも様々な葛藤や逡巡があったのだろう、なんて、僕にはそんなことしか分からなかった。

 僕は知らないけれど、彼女だって数え切れないくらいに誰かと出逢って、無数のことを経験して、これまで生きてきたのだ。
 それだけは確かな真実だった。


(-、-トソン「……なんにせよ、私はこれ以上言うことはありません」

( ^ω^)「…………そうかお」

(゚、゚トソン「あなたの人生は、元よりあなたの選択でできています。私が口出しできるものではなかったのかもしれません」


 彼女の望みは僕達が何も知らずに生きていくことだった。
 そしてそれはもう叶わないことでもあった。

 彼女の望んだ未来はもう、訪れない。


(-、-トソン「ですが……あなたは選択した以上、その責任を負う義務があります」

( ^ω^)「分かってるさ」

835名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:57:04 ID:T7e4Lln.0

 そんなこと言われるまでもないことだった。
 真実は僕の口からミィに伝えよう。
 黙っていることだってできるが、僕はそうしない。
 それが僕の答えなのだから。


(-、-トソン「では、さようなら。私からはもう何も言うことはありません。どうか、いつまでも彼女が信じたあなたのままで」


 そうして彼女は僕を置いて、立ち上がって、歩いて行く。
 それも、わざわざ言われるまでもないことだった。

 自由に選択し。
 選んだ未来で。
 後悔しながら。
 責任を背負い。
 そうして、僕達は生きていく。

 それでも『自分』を選び続けていくことを約束する。
 どんな『未来』が訪れるのだとしても選択をし続けることを約束しよう。
 それが僕の選んだ生き方なのだから。


(-、-トソン「もう二度と会うことはないでしょう。あなたのお父様が望んだように、どうか――後悔なき選択と、幸福に満ちた人生を」

836名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:58:11 ID:T7e4Lln.0

 そんな言葉だけを言い残して、彼女は去って行く。


( ^ω^)「……なあ、都村トソン」


 けれど僕は、夜の帳が下り始めた街並みに、遠ざかる背中を呼び止めた。
 なんでしょうか?と振り返った彼女が瞳で応えた。

 僕は言った。


( ^ω^)「僕達は誰かの言いなりじゃなく、自分で未来を選んでいく。後悔のない選択をしていけば――もしかしたら、お前ともう一度会うこともあるかもしれないな」

(-、-トソン「……その選んだ未来で後悔することになったとしても、ですか?」

( ^ω^)「ああ。それでも、だ」


 そうですか、なんて無愛想に言って、今度こそ彼女は街の闇に消えていった。

 ああ、そうだ。
 たとえこの先に何が待っていたとしても、僕は掛け替えのない『現在』に約束しよう。
 どんなに後悔したとしても、僕達はこうやって生きていく―――。

837名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 22:59:06 ID:T7e4Lln.0

 *――*――*――*――*


都村トソンは街を歩いていた。

彼女が何を考えているのかはこの街の誰も知らない。
時折すれ違う人々も、作り物のように整った顔立ちの女性だという感想こそ抱けど、その瞳の奥にある心にまでは考えを至らせることはなかった。

つまりはいつもと同じ。
誰も、道行く何処かの誰かの気持ちや事情なんて分からないという当然。
それだけだった。


( ^ν^)「随分と待ちましたよー。何かありましたかー?」


街を行く彼女に声が掛かったのは、都村トソンがいつも通りに他人だらけの世界を進んでいるその時だった。
街頭の少ない道路の脇に駐車された車の運転席からスクエア型の眼鏡の男が顔を出していた。

都村トソンは足を止め、黙ってその後部座席に乗り込んだ。


(-、-トソン「……特に何も。お待たせして申し訳ありませんでした」

838名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:00:08 ID:T7e4Lln.0

端的にそう答えると、彼女は足を組み、息を吐いた。
そうして車を発進させた運転席の男に訊く。


(゚、゚トソン「……あの子は、どうなりましたか?」

( ^ν^)「問題なく地下まで送り届けましたよー。その後にどうなったかは分かりませんー」

(-、-トソン「そうですか。ありがとうございます。あなたに頼んだ甲斐がありました」


命を受けて少女を監視していた男は「お礼なんてやめて下さい」と笑う。


( ^ν^)「こっちは脅されて使われている身ですからねー。感謝なんて怖くて仕方ないですねー」

(-、-トソン「なら労いの言葉だけを送っておきます」


都村トソンはそう言い、続けて行き先を告げるだけ告げるとそのまま黙り込む。
鏡越しに彼女の様子を見た男は小さく笑みを漏らした。


(゚、゚トソン「どうかしましたか?」

839名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:01:11 ID:T7e4Lln.0

( ^ν^)「いえ。その様子だと、彼に色々と言い返されてしまったようでー」

(-、-トソン「……そうですね。予想外に鋭く、概ね真相を見抜いていました」

( ^ν^)「彼が見抜けなかったのは『他ならぬ都村トソンが少女を逃がした』という点、ですかねー」


都村トソンは、黙る。
しかし男は饒舌に喋り続ける。


( ^ν^)「『ファーストナンバー』と言えば政府の誇る最強の矛です。子ども一人を逃がすような、そんな失態を演じるなんてありえませんー」

(-、-トソン「私はあの時、現場にいませんでしたから」

( ^ν^)「亜光速で動けるあなたにとって距離なんて意味がありませんー。単に、少しでも不自然さを減らそうとして、その場を離れていただけでしょうー」


そう。
『ファーストナンバー』という唯一にして無二の人造能力者がその場に居合わせたのでは、少女が逃げ切ることなどありえない。
だから、あの時あの場所に都村トソンはいない方が良かった。

何も知らない少女を軍の手に渡る前に逃がす為にはいない方が良かった。
だから都村トソンは。

840名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:02:06 ID:T7e4Lln.0

男は言う。


( ^ν^)「研究員から託されたあの少女が逃げ出したのはあなたの自作自演。あなたが、あの少女を逃がしたんですー」

(-、-トソン「…………」


やりようならいくらでもある。
とりあえず都村トソンがその場を離れてしまえば後はどうとでもなったのだ。
その場にいた部下もグルだったのかもしれないし、自分のような裏稼業の人間に強奪を頼んだのかもしれない。

とにかく、彼女はあの少女を逃がしたかった。
そして実際に逃がしてみせたのだ。

都村トソンは言った。


(-、-トソン「あなたの言う通りだとしても、最早それはどうでも良いことですよ。彼等は真実に辿り着いてしまったのですから」

( ^ν^)「そうですねー。真っ当な人生を歩むことは難しいでしょうー。私や、あなたと同じように」

(゚、゚トソン「…………」

841名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:03:09 ID:T7e4Lln.0

ふと、彼女はあの研究者のことを思い出した。
自分の母の友人であり、彼の父親であり、そして死の間際に他人のことを考え続けていた男のことを。


(-、-トソン「彼も私も、あの子達には自由に生きて欲しいと望んでいた。なのに、どうしてなのでしょうね。こうも上手くいかないのは」

( ^ν^)「……ふふ」

(゚、゚トソン「何がおかしいのですか?」


訝しむ都村トソンに、男は言う。


( ^ν^)「まるで父親のようだと思ったんですよー。上手くいかないのは、単にあなたが思っているよりも彼等が大人になっていただけです」

(-、-トソン「…………せめて『母親のようだ』と言って欲しいですね」


それは失礼、と彼は言った。
運転席の男はもう口を開くことはなく、ただ黙って、彼等のその後を祈った。
そんな願いになんて大した意味はないと分かっていたけれど、それでも黙って想いを馳せた。

都村トソンも黙って流れる街並みに目をやる。
彼等の選択がどうであれ、これからも彼女は彼女の選択をしていくだけなのだから。

842名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:04:13 ID:T7e4Lln.0

 *――*――*――*――*


 都村トソンが去った後も、僕は黙ってベンチに座り込んでいた。
 僕には最後の仕事があるのだ。
 ミィを迎えるという仕事が。

 そして、その時はすぐにやって来た。
 彼女はあの見慣れた、ふわふわとした笑みを浮かべてこちらへと歩いてくる。


(;^ω^)「……しまったな」


 都村トソンと話し過ぎていたのか、ミィが帰ってきたのはすぐだった。
 あんまりにも早くその時がやって来てしまったせいで、彼女にどんな言葉を掛けるか全然考えられていない。

 彼女は何処まで『過去』を知ったのか。
 何を言えば正解なのか。
 分からない。

 だけど、やっぱり、まあ――僕が言いたい言葉は決まっているのだ。

843名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:05:36 ID:T7e4Lln.0

 彼女がどんな存在であろうと、彼女がどう思っていようと。
 僕は今、彼女が帰ってきてくれたことが嬉しい。

 だから僕は口にする言葉は決まっている。



( ^ω^)「―――おかえり、ミィ」

マト^ー^)メ「―――はい、ただいま帰りました、ブーンさん」



 彼女は微笑み。
 僕も笑い返した。
 今はただ、それだけで良かった。

 さて、じゃあ。
 とりあえず。


( ^ω^)「とりあえず……ご飯でも食べに行こうか」

マト^ー^)メ「はい!」

844名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:06:50 ID:T7e4Lln.0

 僕の隣には彼女がいる。
 彼女の隣には僕がいる。

 この『現在』は嘘にはならない。
 辛く苦しく消したい『過去』が決して忘れられないように、この『現在』だって決して失くなったりはしないのだ。
 今、この瞬間は絶対に嘘にならない。

 そう、絶対に。


「何を食べに行こうか」

「そうですね、回らないお寿司がいいです」

「回転寿司でも食ってろ」

「お金持ちの癖にケチなんですね」


 僕と彼女は二人で歩いて行く。
 ひとりぼっちで見た景色はあんなにも冷たかったのに、どうしてだろう、今は街の光がやけに暖かく思える。
 彼女も僕と同じ感想を抱いているだろうか?
 なんて、そんなことを考える。

845名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:08:15 ID:T7e4Lln.0

「まったくお前は金の掛かる女だお。僕がいくら使ったと思ってるんだ」

「安い女よりは良いと思います」

「ま……それもそうか。別に大した金額じゃないしな。そもそも僕のお金じゃないわけだし」


 僕達は二人で歩いて行く。
 どちらも、真実とか過去とかそういったことに触れることはしない。

 分かってるんだ。
 向き合わないといけないってことは。
 話さなきゃならないってことは。

 だけど、だけど今は。


「む、私は大した金額じゃない女なんですか?」

「いや。いくら掛かったとしても、お前が助かったのならそれでいいって話だお。命はお金じゃ買えないんだから」


 この今は。
 どうか神様、今だけは。

846名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:09:07 ID:T7e4Lln.0

 これから先にどんな未来が待っているかは僕には分からない。
 きっと彼女にも分からないだろう。

 未来が希望に溢れているとは限らない。
 もしかしたら僕達はこの後すぐに絶望し、後悔して、失意の内に野垂れ死ぬのかもしれない。
 そうじゃないとしても二人の道は別れてしまって、二度と交わることはないかもしれない。

 だから、というわけではないが、彼女の物語を一旦ここで終わらせてみたい気がする。
 今この時が――悠久の時の流れの中の、二人で歩くこの刹那こそが永遠だと信じていたいから。 




マト^ー^)メ「―――好きですよ、ブーンさん」




 彼女はそう言って。
 はにかみながら、あの見慣れたふわふわとした笑みを浮かべた。
 僕は恥ずかしさを隠すように彼女の手を取る。

 そうして僕達はゆっくり歩いて行く。
 この永遠がいつまでも続くように、ゆっくりと、歩いて行く―――。

847名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:10:18 ID:T7e4Lln.0


  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。
  僕と彼女が一緒に過ごしたのは、肌寒い風が頬を撫ぜ始めた頃のほんの一時だった。

  ほんの数週間。
  一ヶ月にも満たない短い間。
  それが僕と彼女が作った『過去』だった。

  僕は一体、彼女に何ができたのだろう?
  僕は彼女にとっての何かになれたのだろうか?
  きっとこれから先も、何度でも秋が訪れて彼女との日々を思い出す度に、僕はそんなことを考えるのだろう。

  結局、その答えは訊かなかったまま。
  だから僕はただ目を閉じて、あの時僕の隣に立っていた彼女の笑顔を思い出すのだ。


  僕の話は本当にもうこれでおしまい。
  あの後少ししてから僕とミィは別れて、それっきりだ。

  ただ一つ言えることがあるとするならば、あの世界でひとりぼっちだった少女は、もう独りじゃない。
  未来が見える瞳しか持っていなかった彼女は、他にも沢山、数え切れないほど様々なものをその胸に抱いている。
  それはきっと、僕にとっても幸せなことだった。

848名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:11:04 ID:T7e4Lln.0






        マト ー)メ M・Mのようです


        「最終話:私の記憶の中のあなた」










                                                                          「―――ブーンさん?」


.

849名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:12:04 ID:T7e4Lln.0

「………………おかしいな、幻聴か?」

「幻聴じゃないです。私ミィ、今あなたの隣にいるの」

「いや、おかしいだろ。お前、『私は私の故郷に行ってみようと思います。だからここでお別れですね』って言ったじゃないかお」

「そうですね。ブーンさんも『そうか……なら、仕方ないな。契約はこれで終わりということか。じゃあ、元気でな』と強がって激励してくださいました」

「“強がって”ってなんだ!?」

「本当は私と一緒に居たかった癖に、素直じゃないですね。引き止めてくだされば良かったのに」

「僕はお前の選択を尊重しただけだお。そして強がってない」

「でも寂しかったでしょう?」

「寂しかったに決まってるだろ。言わせんな恥ずかしい」

「訊かせんな恥ずかしい」

「お前ひょっとして馬鹿にしてるのか?」

「まさか。そんなわけがありません」

850名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:13:10 ID:T7e4Lln.0

「で、なんでここにいるんだお」

「いえ、よく考えると私は記憶喪失なわけで、パスポートも運転免許証もありません。故郷に行きようがないんです」

「……それもそうだお」

「なので、ブーンさんのプライベートジェットとかでびゅーんと送ってくれないかなーと」

「プライベートジェットを持ってること前提で話をするな。そこまで金持ちじゃねぇお」

「でもブーンさんがお国に帰ってしまわれる前に追い付けて良かったです。この国から出られると私にはどうしようもありませんでしたから」

「そりゃ重畳だ」

「……本当に、どうしてもう少し引き止めてくれなかったんですか?」

「…………悪かった」

「私との別れに今にも泣きそうだったから、泣いてる様子を見られたくなくて、ですか?」

「お前やっぱ馬鹿にしてるだろ!!」

「そんなわけがありません」

851名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:14:06 ID:T7e4Lln.0

「しかしまったく……嬉しくないわけじゃないが、色々と台無しだお」

「何を言ってるんですか。私がブーンさんの隣にいるのは当たり前です。私の居場所も帰る場所も、ブーンさんの隣だけなんですから」



  ……訂正。

  今でも彼女は僕の隣にいる。
  そして、あの見慣れたふわふわとした笑みも、変わらず僕の傍にある。




        マト^ー^)メ M・Mのようです 完







.

852名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:15:21 ID:T7e4Lln.0


以前投下した選択肢②は後ろ向きなハッピーエンド、今回投下した選択肢①は前向きなバットエンドです。
分かりやすい言葉で言えば前者がビターエンドで後者がトゥルーエンドです。

というわけで、このトゥルーエンドのテーマソングはNOVELSのミッシングリンクです。
なんで二つエンディングを作ったかと言えば、個人的にこの作品単体で見た場合は選択肢②の終わり方が良いと思ったからです。
つまり選択肢①の場合はまだ話が続く。
というよりそれを抜きにしてもこのオチはちょっとどうかと思う。

……「見つける」と「見つけた」という選択肢を出しておいて、「『自分』ってのは選んで作り上げるものだよ」という結論なのは中々凄い。
でもまあ、この作品のテーマの一つである実存主義を踏まえると、やっぱ「作り上げる」「選ぶ」が正解だと思います。



そんな感じで『マト ー)メ M・Mのようです』はもう本当におしまいです。
ありがとうございました。
気が向いたら近い内にオマケを投下します。

質問が何かあればどうぞ(感想と区別付ける為にアンカー付けてくれると嬉しいです)。

853名も無きAAのようです:2014/05/20(火) 23:18:09 ID:AIyR6bYo0
おつー

854名も無きAAのようです:2014/05/21(水) 00:18:36 ID:HOrJAkyk0
おつぅうぅぅぅん

855名も無きAAのようです:2014/05/21(水) 00:57:54 ID:6VKAnQIMO
難しいことはわからないがこっちのほうが好き、前は未来に入れたんだけど

856名も無きAAのようです:2014/05/21(水) 14:17:38 ID:asIDfhXc0
おつ!

857名も無きAAのようです:2014/05/21(水) 14:20:21 ID:ISpuRIW20
まじ乙!よかった

859名も無きAAのようです:2014/05/21(水) 17:28:59 ID:kSXO4oGc0
ふぐおおおおつ!
最初からずっとおいかけてたけど超面白かったよ
あんまりバッドって感じしなかったよこっちのほう俺は好きだよ
何はともあれおつ!

860名も無きAAのようです:2014/05/22(木) 18:23:51 ID:lMMErims0
コールの続きはよ

さっさとコール終わらせてくれ

861名も無きAAのようです:2014/05/22(木) 19:34:54 ID:KBhm94R.O

好きだったよ!

862名も無きAAのようです:2014/05/23(金) 00:36:30 ID:XOTw4CIg0

俺はビターエンドの方が良いと思ったな
自ら記憶を捨てたのが涙ぐましくて
ハッピーエンドも悪くないとは思う

863【次回作予告】:2014/05/25(日) 03:17:14 ID:Mq84Mgiw0

「―――さて、物語の続きを始めよう」「俺達に未来なんてなかったんだ」「言ったはずですよ、『立ち塞がるのなら容赦はしない』と」
「トモ、お前が大人になる頃までには……少しはマシな世界になっているといいんだけどな」「駄目だな、弟のことを思い出してしまう」
「…………なら、私があなた達という罪悪を雪ぎます、」「やってられないわね」「都村トソぉぉぉぉンっっ!!!」「なーんちゃって」
「ブーンさんが信じた私を私は信じます!」「死ねえっ!!」「最悪の相手って感じですかねー」「そうだ、これが人間なんだよ、諸君」
「俺はいつだって正しいけど、君達はいつだってそうやって選んでいくんだね」「お前はな、生まれちゃいけない存在だったんだよっ!」
「もう引き返せないんだよ、僕達も君達も」「嘘、だろ……?」「違うな、間違っているぞ」「あなたに出逢えて、私は幸せでした……」
「私にとって何が大切かは私が決めることでしょ!!?」「まさか、ね」「間に合うさ。お前が否定したとしても僕はそう信じてるから」
「都村トソン、対象を撃滅します」「いい呼び名ね。私の大切な人の名前と同じだわ」「私は人間です、当たり前でしょう?」「あーあ」
「『特異点』……だと?」「そんなに沢山の人を犠牲にしてまでやらなきゃいけないことだったのか!!?」「“生きたい”だけなのに」
「先生、泣いているんですか?」「…………正直言って、怖い、です、」「あの人は私達に意味を与えてくれた人、それだけでいい!!」
「ギコハハ」「るっせぇんだよぉ!お前みたいな奴に俺の何が分かるって言うんだっ!!」「多分、後悔しますよ?」「似た者同士、か」


「……それでも、僕は何かを選んでいたいと思うよ」



 ―――This memory is only beginning, their story continues after this...

.

864名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 03:17:56 ID:Mq84Mgiw0


というわけで、続編の嘘予告です。
選択肢①だとこんな風に話が続いていき、二人はこれから先も様々な経験をしていきます。
何度でも何かを失って、でも何度でも何かを選びながら。

予告に始まり、予告に終わったということで、『M・M』は本当にもう終わりです。
今までありがとうございました。

865名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 08:26:23 ID:Z0CfQKGI0
くぅ〜疲れましたw

866名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 09:29:06 ID:zFU6LTu.0
いやマジでくう疲
話は面白いけど、その後の出しゃばり感が強いと思う

867名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 13:28:47 ID:BR48fqeo0
ここまで出しゃばるからには続編も書くつもりなんだろ?

868名も無きAAのようです:2014/06/20(金) 08:44:07 ID:pscxDVTU0
まあ意味不明な嘘予告とか訳のわからん最終回安価指定とかくどくて笑ったけど小説面白かったから次回作期待してるぞ

次の舞台はVIPにしろよ


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