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Key Of The Twilight

737マゼンダ ◆wxoyo3TVQU:2017/02/26(日) 15:46:14
【森】

「DD!何やってるんだい!」

その場を動けずにいるDDの横に並び、金属刃が幾重にもつらなった扇子を掲げたマゼンダが叱咤する。

「奴を殺らないと私らが死ぬんだよ!足で纏いになるくらいなら失せな!あんたのせいで犬死にするのはごめんだよ!・・・ヴェント!」

そしてその片手間に地に置かれた槍を拾い上げ力任せに宙へ投げる。ヴェントはそれを掴み取ると同時にオリジンへと切り込んだ。


ヤツキ>>
【おっけー(๑•̀ω•́ฅ)

ヤツキの絵相変わらず勢いあって好き(*ˊૢᵕˋૢ*)】

738ジル ◆wxoyo3TVQU:2017/02/26(日) 16:25:55
【ポセイドン邸】

「へぇ・・・」

ジルの言葉はアブセルを刺激するには充分だった。しかし同時に紡いだ催眠は効かず、むしろ逆効果になってしまった様子。
作戦は失敗。致し方ないか。
切りかかって来たアブセルの鋭い爪をダガーで受け止めながら、ジルは興味深げにその変貌を眺める。

「獣?面白い風格をしているね。」

片手でアブセルの動きを阻止ししながら、自由の効く方の手で新たに取り出したナイフでアブセルの体躯を切りつける。当然アブセルは避けたが、距離を取るのが 目的であったため問題ない。

「その姿をリトは知っているの?バケモノだって罵られてるあの子より、よっぽど君の方が化物だ。・・・変態だしね。」

リトに家畜扱いを受け罵られたいなどと謎の性癖を暴露され、ふざけているのか本気なのか全くもって分からない。ジルは呆れた表情を浮かべながらチラリとユニを一瞥する。
黒獅子がユニを遠くへ連れて行ってしまった。しかし、あの距離であれば"当たらない"だろう。

「オーケー、仕方ないから君と遊んであげるよ。」

懐から取り出す小箱。それを開けたかと思えば数え切れぬ程の針が宙へ浮かび上がった。

「僕のお手製ハズレ無しのクジさ。一つ一つに痺れ薬や睡眠薬やその他もろもろ・・・色んな効能をもった薬が入ってる。どれが当たるかお楽しみ。」

無邪気な顔でニッコリと笑う。

「逝っちゃえ」

その言葉と共に針が一度にあらゆる方向からアブセルへ向かい放たれた。

「この数、全部避けられるかな?」

739リマ ◆wxoyo3TVQU:2017/02/26(日) 17:56:24
イスラ>>729
カッコ内の字www
大学1年の時に友達だった子が腐女子気味の子で面白いゲームがあるって教えてくれたんです。実際やったことはないですが(笑)

藍ちゃんはシャイニング早乙女の投資で作られたロボットなので、シャイニングの莫大な財産を知らしめる為にその設定が必要だったとか?←適当
藍ちゃんルートは感情を知らない子が人の心を学ぶ事をコンセプトとしているので生身の人間で人の心が分からないとかただのクズでしかないからロボット設定にしたんじゃないでしょうか←
ところで藍ちゃんってシャイニングが求める理想のアイドル像を具現化した姿なんですよね。
レイジが良いお兄ちゃんっぷりを発揮してますからね(*ˊૢᵕˋૢ*)10も違うから藍ちゃんが可愛くて仕方ないのでしょう。実際何かのCDで藍ちゃんに「もぅ!可愛いんだからぁ!」って言ったらしいです←藍ちゃんは藍ちゃんで何だかんだレイジに甘えてるから可愛くて可愛くて←

まぁカルナイライブ抽選券が入ってたので大量買いした人らが数しれずいたのも原因ですがね←
てか聞いてください。今度カルナイが二手に分かれてデュエソン出すらしいんですが、そのジャケ?の藍ちゃんが堪らなく可愛いんです。蘭丸パイセンの肩に肘置いてる奴です、是非検索してみてください← 何この勝気な笑顔、生意気で可愛い。あ、見てたら鼻血が・・・←←

藍ちゃんに常識を教えるのはレイジの役目・・・と思ったんですが、レイジはふざけ始めるのでダメですね。常識を教えるのなら蘭丸兄貴の役目でしょう。

疲労かぁ・・・ナディアって疲れるのかな←

ノワールはあれです。自分の容姿と魅力に絶対的な自信を持っているので、その自分を前にして全く靡かなかったセナのことが気に入らなくてムキになってるんです。しかもそんなセナの心を動かしたのがリマみたいなチンチクリンなので余計に自尊心が傷つけられて腹が立って仕方が無いのです。
そして自分、リマとセナのどちらがより相手を好きかを考えてみたのですが、セナはリマのためとあらば殺しだろうが何だろうが顔色一つ変えずにするでしょうし、たとえ突然変異してリマが男になったとしても動じないでしょうから勝負にならないと気づきました←

ナディアは翠です。髪は赤茶です。何か希望の色ありました?変更可ですよ←

どうでしょうwwwただ、ゲームだと動きがないからあんなギャグを醸し出せないかもしれない(;・∀・)

シンドバッドは味方な時も好きになれなかったので・・・←
どうでも良いだと・・・!?個人的に白龍は前髪アシンメトリーの時の方がカッコよかったのに真ん中分けに戻っちゃって残念です。
マギのキャラって実際成長するから凄いですよね(笑)


続きも楽しみに待ってます(*ˊૢᵕˋૢ*)
なるほど!たしかに爺さんになってもあの性格だと嫌ですね(笑)

740フィア ◆.q9WieYUok:2017/03/02(木) 00:32:33
「いやー、間に合って良かったよ。」

741ジーナ ◆.q9WieYUok:2017/03/02(木) 00:34:09
「いやー、間に合って良かったよ。」

そして、焦りを見せない声と共に姿を現したのは、十三人の長老が一人。
異端の長老、ジーナだった。
爆砕し、焼失し、それでも尚、ごく当たり前かの様に蘇るオリジンの姿から目を離さずに、ジーナは長老達へ声を掛ける。

「ホントは出て来るつもりじゃなかったんだけど、状況が変わってね。
ここは僕が……いや、私がヤる。

皆は障壁を張って、防御姿勢を!」

そう言うや否や、ジーナは今まで見せなかった力を全開に。
オリジンが放つ蛇鎖の群れを空間ごと圧縮し、粉砕。
続いて放たれた重力波の渦を、手にする魔導書の背表紙で受け止め、その場で360度水平回転。
重力波をそっくりそのままオリジンへと返し、その姿がフェードアウト。

「……!!」

迫る重力波の渦へオリジンは手を翳し、術式が発動。
純白の翼がその背から伸び、羽ばたくと同時に舞い散る羽が龍となって渦を飲み込んだ。
そして、ジーナの姿を探すオリジンの背後。
姿を現したジーナは抜き手を放ち、オリジンの胸元を貫く。

口腔から溢れる赤に肌を染め、オリジンは目を見開いた。
だが、動きを止めたのは僅か一瞬。
背後から胸元を貫くジーナの腕を掴み、爪を食い込ませてジーナへの侵蝕を試みるが、ジーナの狙い目はソコだった。
抜き手とは逆、空いた左手が魔導書を……“原典”を開く。

開かれた“原典”はその殆どの項を術式符へ姿を変え、オリジンへと殺到。
少女の様な、少年の様な姿を埋め尽くさんとばかりに舞い、貼り付いていく。
そして、その小柄な身体が術式符で埋め尽くされたと同時に、術式が発動。
広がる術式印が極彩色に輝き、色鮮やかな蛇鎖がオリジンを縛り上げた。

更に、呼吸すら封じられたオリジンを、開かれた虚空が呑み込み、その姿は消える。

「……ふぅ、思ったより早く終わったね。
一応は私の術式で封じ込めたけど、力の大半を使っての封印だから、私は暫く動けない。」

殆ど背表紙だけになった魔導書を閉じ、ジーナは大きく息を吐く。
赫々と輝いていた瞳も今は暗く、その表情からは疲労が見て取れた。

「さ、後はちょろちょろっと説明と指示を。
今、この十字世界と表裏一体の表側、現世が黄龍とその他諸々によって滅びかけてるの。

表側が滅びれば、当然裏側も同じ。
そして、表側を救うにはノワールや闇の王子の力が必要。

なので、ノワールと闇の王子には表側を救う方に回って貰います。
その間、裏側の長老達は各自修練とオリジンを倒す策を。

勿論、オリジンを倒すかどうにかするにもノワールと闇の王子が必要なので、表側を救った後には裏側へ戻ってもらって……
その間、オリジンは私が封じ込めておくので。」

以上かな?と、ジーナは一度言葉を切り、長老達の返事を待った。

742フィア ◆.q9WieYUok:2017/03/02(木) 00:37:24
【森】

この期に及んで未だ迷うか。
躊躇いを見せ、動きを止めたDDへとフィアは思いっ切り舌を打つ。
戦闘態勢を取るマゼンダと斬り込むヴェント。
二人のコンビネーションは流石だが、時既に遅し。

僅かな一瞬、DDが見せた一瞬の迷いが致命的な“間”となって、長老達へ襲い掛かる。
フィアの絶対零度を圧倒的な熱量で相殺し、揺らめく大気を斬り裂くヴェントの一撃を指先で受け止め、オリジンは幼い顔を笑みを浮かべた。
無機質な笑みとその瞳は長老達を睥睨し、その足元からは夥しいまでの蛇群が這いずり、長老達を束縛していく。
それはこの世界には存在しない術式の一つであり、如何に長老達であっても破る事の出来ない縛鎖。

ギリギリとその身を縛り上げる蛇鎖から逃れる様にフィアは身を捩るも、抜け出せる気配は無い。
その身に宿す絶対零度も、吸血鬼としての剛力と空間転移能力も発現せず、フィアは顔を歪めた。
見慣れない所かこの世界に存在しないその術式は、長老達の力を封じ込め、吸収していく。
脈打つ蛇鎖がそれを如実に現しており、オリジンは笑みを深くする。

だが、不意にその笑みが物理的に割れ、オリジンの頭部が爆砕。
続く小柄な身体が燃え上がり、足元から伸びる蛇鎖も焼失していく。

743 ◆.q9WieYUok:2017/03/02(木) 00:39:14
くおお投稿ミスった、レス前後してます申し訳ねぇ

744イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/03/12(日) 22:29:41
【黄昏の塔】

熾烈を極める攻防戦を横目に、イスラは燃ゆる翼をはためかせ上空へ上がる。
不思議なことに、言葉を口にせずともお互いがお互いの役割を自然と心得ているようだった。

塔の最上階よりも更に上。下の様子が手に取るように分かる距離まで来ると、イスラは眼下を見下ろし、黒獅子と相対するヤツキの姿を瞳に映した。
久しぶりに見る彼の剣筋は嘗ての頃と一切の遜色なく輝きを放っている。いや、むしろそれ以上のものか。
状況が状況である為、ゆっくり観賞できないのが残念だ。…などと、こんな時にもそのような考えを巡らせていることが仲間達に知れたら「剣術バカ」と呆れられるかもしれない。

沸き上がる感慨も程ほどに、白い息と共に雑念の全てを吐き出し、イスラは一撃に集中する。
額に日輪の印が浮かび上がるのと同時に、刀に宿る力の全てを解放。神刀の目覚めに呼応するように大気が打ち震え、刀身は神々しいまでの輝きに包まれた。

直後、イスラは勢い良く翼を打つ。落下とも下降ともつかない体で一気に中空を疾走する様は隕石の如く。
巻き起こる爆炎ごと、空気も音も斬り裂いて、燃やし尽くして、黒獅子の首筋へ最大火力の一撃をお見舞いした。

「―その首、貰い受けるっ‼」

745アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/03/12(日) 22:31:08
【ポセイドン邸】

「変態は余計だっつぅんだよッ!」

ジルの挑発にアブセルは声を荒げて反論する。
その性格故か、相手の売り言葉に逐一黙っていることの出来ない彼にとって、ジルはある意味で最も相性の悪い相手だといえるだろう。
しかもそれが正鵠を射たものともなれば尚更だ。

しかし実のところ、ジルに化物だとか変態だとか言われても痛いところは何もないのだ。ただそれが"リト"になると話は変わる。
この姿のことを、もちろんリトは知らないだろう。アブセル自身、これはつい先日深淵に潜った際に会得したばかりの力なのだから。

半魔化…または憑依召喚は彼の血族に受け継がれる御家芸の様なものなのだが、アブセルはこれが好きではなかった。
理由ははっきりとしている。そう、化物みたいだから。魔獣を使役するのでさえ抵抗があるのに、あろうことかそれと融合し己自身を魔と変えるなんて化物以外の何者でもない。
よって、祖父が闇の扱い方を教えると言うその都度、アブセルはそれから逃げてきた。リトを苦しめる闇の力になんか頼りたくない、と言う其の実、こんな姿を見せれば彼や彼の姉達に嫌われてしまうかもしれないという怖れがあった。

だがそれも以前までの話だ。ここ最近の騒動でリトを今のような状態にしてしまったのは、そういったことを含めた自分の弱さが原因だったと後悔し、彼を護る為なら己が持ち得る力は何だって使うと、心に決めたばかりだったのだ。…が、不意打ち気味に指摘されるとやはり何かしら堪えるものがある。

心の乱れは動揺を生み、動揺は隙をつくる。
一瞬だが全方位から襲い来る飛来物に対応するのが遅れてしまった。そしてこのような状況下では、その一瞬が命取りになるのはざらである。

身につけているシャツと下穿きの隙間から化物の片鱗が新たに顔を覗かせる。白い毛皮に被われた長い尾が勢い良くしなり、風圧で周囲の針を一掃する。
尾で落としきれない分は身を低くして潜り抜けるように躱すが、始め躊躇したのが原因か、足や肩に数本針が刺さってしまった。
だが―…

「――こんなもんが俺に効くかよっ!」

アブセルはそんなものお構い無しとばかりに、ジルに肉薄し彼の脇腹に回し蹴りを放つ。
半魔化し毒物の類いが効く難くはなっているのは確かだ。だが完全ではない。

「………っ」

蹴りの直後、体勢を直すことも儘ならず、そのまま崩れるように床に膝を付いてしまった。

746ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/03/24(金) 18:53:55
【黄昏の塔】

好敵手として刃を交えたからこそわかる、その強さ。
口にせずとも伝わる意図に頷くヤツキは、自身の連撃から続くイスラの会心の一撃に拳を強く握った。

彗星の如く夜闇を、空を切り裂き。
連続する爆発ごと全てを吹き飛ばす一刀。

その威力は凄まじく、結晶障壁が砕け散る程。
拳を握った手を顔に翳し、ヤツキは噴煙が止むのを待つ。

そして、噴煙を吹き飛ばす咆哮に僅かに顔をしかめた。

(……あれ程の一撃でも倒せないだと!?)

翳した手を下ろし、構えた神刀の切っ先。
頭部損傷、右半身消失、瀕死どころか即死してもおかしくないダメージを受けながらもその動きを止めない黒獅子の姿があった。

咆哮を上げるその姿は、後方に浮かぶ恒星の女神から供給される闇の力によって、秒刻みで再生している。
そう、ここは闇の巣に聳え立つ黄昏の塔。

闇を操る者にとっては、無尽蔵に力を奮える場所なのだ。
女神から黒獅子へ、逆もまた然り。

「どうやらニ体同時に倒さないといけないらしいな……」

しかめたい顔を、目元を歪めてヤツキは黒獅子を睨んだ。
だが、睨むだけで動きはしない。

否、動けない。
イスラと同時に全力の一撃を放てば、どちらか片方は確実に倒せるだろう。

しかし、片方を倒した所でもう片方が再生、蘇生させるのは目に見えている。
ならばどうするか……考える暇は、ない。

足元に落ちる影、それは瞬く間に広がり、破砕音と共に瓦礫の飛礫が舞う。
一拍前まで自分が立っていた場所には、飛びかかって来た黒獅子の姿。

後方へ跳び、着地と同時にヤツキは疾走。
抜きはなった刃と、黒獅子の爪牙が幾度とぶつかり合い、闇と結晶が戦いを彩る。

考える暇は無い、しかし考えなければならない。
矛盾を刃に乗せ、閃光が瞬く。

ヤツキの背から伸びる結晶の翼が羽ばたき、黒獅子が巻き起こす闇の大渦を相殺。
彗星の如く舞い降りる剣士の一閃が黒獅子の半身を斬り捨て、同時に放たれた黒獅子の豪腕が剣士を捉えた。

747ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/03/24(金) 18:55:10
ーーーー

全く、当主が行方をくらましたおかげで一族は衰退、盛り返す為に上層部が手を出したのは制御しきれない“闇の悪神”
アンタ……いや、テメェのせいで一族は滅茶苦茶、俺の息子も弄くりまわされた。

まぁ、今となっちゃあ過去の事だがな。
あぁ?謝るのは許さねェ。

テメェは諦めたが、俺は諦めねェ。
一族最後の当主として、きっかり責任持って一族を滅ぼしてやんよ。

今更話す事もねぇしな、だが、これだけは渡しておく。
俺はもう会えねェが、アンタは“塔”で必ず出会う筈だ。

その時、渡してやってくれ。
そんで一族を捨てた事はチャラにしてやるよ。

頼むぜ、逃げ出したとは言え、アンタは未だ歴代最強の当主として謳われてるんだからよ。

ーーーー

振り抜かれた豪腕の一撃は、見に纏った結晶の鎧を薄氷の如く、薄紙の如く砕き、引き裂いた。
渾身の一刀に対するカウンター、互いに防御を省みないソレは致命傷をもたらす。

しかし、無尽蔵に闇が溢れるこの場所では、黒獅子への生半可な攻撃は意味を成さない。
すぐさま回復し、再生するその様に対して、ヤツキは無様に吹き飛び、転がっていた。

辛うじて受け身を取るものの、左脇腹は大きく抉れ、肋骨の数本は身体を内側から突き破ってその白さを露わにしていた。
刀を支えに立ち上がるも、足元には朱が広がる。

傷口を結晶が被い、塞いで行くもあくまでも応急処置。
たったの一撃、されど一撃は重い。

(啖呵を切ったが、これじゃあ様にならないな……)

血溜まりに目を落とし、ヤツキは小さく息を吐く。
思い出すのは弥都で会った男の言葉。

彼に託されたのは、“二本”の神刀。
手にする月読とは別、腰に刺さるもう一本のソレを、ヤツキは片手で抜き放った。

「神刀“火之迦具土神”
迦具とは輝くの意、即ち輝く火の神が封じられし神器。

あの男……今世の当主は言っていた。
二本の神刀が重なりし時、叢雲の剣が生まれると。
だが、本来ならば天照と月読が重なる事で生まれる剣。

ならば、 神刀火之迦具土神の存在意義は……神器となった月読と、神魂となった天照が重なり合う為の依代。

神器と神魂ではなく、神器と神器。
俺が今から生み出すのは、叢雲の剣ではない。」

小さな呼吸は心身を落ち着かせる為。
抜きはなった二本の神刀を、ヤツキはゆっくりと重なり合わせる。

「出でよ、神刀。
荒々しく雄々しき嵐の神刀、“凄王”!!」

748ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/03/24(金) 18:57:11

「出でよ、“凄王(スサノオ)”!!」

重なり合う二本の神刀は共鳴し、共振し、光が溢れ出す。
眩い光は夜の闇を、溢れ出る闇を切り裂き、その周囲を青白く染めた。

そして、光がその明るさを絞ると同時に。
新たに生まれた神刀を手に、ヤツキは猛々しく声を上げた。

その声は大気を震わせ、闇を相殺し、塔をも揺らす。
蒼を基調にしたトリコロールに蒼碧の宝玉が鍔元を飾る神刀は、絶え間なく振動し、それによって発生する結晶の波動がヤツキを包んでいる。

「仕切り直しだ……行くぞ!!」

言葉尻は後方へ置き去りに。
煌めく光の尾を引き、飛び出す姿は彗星の如く。

黒獅子が放つ闇の大渦へと真っ向から衝突し、蒼白の光が大渦を斬り裂いた。
裂け目からは結晶が噴出。

闇渦を抜けたヤツキは、これは危険とばかりに後退する黒獅子に肉薄し、勢いそのままに刺突を繰り出す。
神刀が宿す燐光が、身を捩って回避しようとする黒獅子の左半身を消し飛ばし、続く結晶の刃嵐が、残る半身を斬り刻んだ。

更に、すぐさま再生し回復する黒獅子へとヤツキは攻撃を畳み掛ける。
神刀が煌めく度に、生まれる結晶刃嵐と蒼白の奔流。

一撃一撃はイスラの全力に及ばないが、連撃となれば話は別。
再生し、回復するよりも迅く。

荒ぶる蒼白の神刀が、黒獅子を肉片一つ残さず、この世から消滅させた。

749DD ◆Hbcmdmj4dM:2017/03/30(木) 21:34:37
【森】

オリジンの脅威はジーナの手によって辛くも防がれた。
そのことに安堵の息を吐くも、しかし、彼の表情は晴れない。

「ありがとう、ジーナ。アナタが来てくれなかったらどうなっていたか…」

先程の自分は明らかに皆の足手まといだった。
オリジンに手を下すのを躊躇したばかりに、仲間達を危険に晒してしまった。
その事実に、DDは自分自身への嫌悪感と罪悪感で胸が一杯になる。

「ごめんなさい、皆。アタシ…次までには確り気持ちを固めてくるわ」

言って、DDは一同に背を向けると、ふらふらと頼りない足取りでその場を後にした。



リマ>
ああ、なるほど。心のない人形やロボットが徐々に成長していく話って何か良いですよね^^
てかレイジと十歳もはなれてるのか…!歳の離れた兄弟みたいですね

マジか…(゜ロ゜;自分にはとても真似できない(笑)金銭的にも情熱的にもw
鼻血ww検索してみました、確かに可愛い(笑)でもそれよりカミュ…だっけ?の色気にときめきました(笑)

疲れないとか、どんだけ超人なのナディアww

あー、ノワールっぽいですねぇ(笑)超かわいい⬅圧倒的かわいい⬅
てかセナの愛が深すぎて凄い(笑)性別変わったら流石に気にしようよw

いえ、そういう訳じゃないですwただイラストで髪色とか分からない場合、いつも適当に塗っちゃてるのでごめんなさい、的な(笑)

確かにwwリマさんゲームの方はしないんですか?

シンさんもシンさんで色々頑張ってるじゃないw
ああ…、何か白龍ダサくなったな、とか思ってたら、そうか髪型が変わってたのか⬅
子供ぽこぽこ産んでますしね(笑)

750イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/03/30(木) 22:20:04

【レイシーとじじいの過去話考えるに当たって、何かこの世界の設定的なものも自分なりに考えてみたので、ちょっと聞いてもらっても良いですか?⬅

なにぶん世界の意志(黄龍、ユニ)がお二人のキャラなので、勝手に考えるのは不味いかな〜とか思いつつ…止まらんかったよね!⬅
まぁただの一案なので、不都合があるようなら言ってください^^


まず、この世界を構成する核が二つあります(核の中に宿っている意志が黄龍とユニ)
ある時その内の一つが何者かによって破壊されるんですが…

【応龍さんの場合】

核の一つが破壊されたことで、惑星のセキュリティシステム的な役割の闇が世界に溢れ出す。

闇と神々の戦争が勃発。
まだ顕在の頃の四神が闇を封印する。

しかし闇の大元である核も一緒に封じられ、惑星のマナを作り出す機能が完全に停止する(マナはマギで言うところのルフみたいなものです。多分)

ただ惑星自体のシステム(エネルギー循環、生命の創造、各生態系の維持など)は起動したままなので、マナの供給を失った星は、一方的に生命力を削られることになる。

生命は星の意志とは外れたところを一人歩きすることになり、混沌の時代が訪れる。星はゆっくりとだが、確実に弱っていく。

セナ達の時代、黄昏の塔での一波瀾で、やっと黄龍さん封印から解放される。

結論「っべーわ、一度世界を壊して、システム組み直して作り直さないと、マジべーわ」⬅今ここ



【ユニさんの場合】破壊された方の核

依り代である核を破壊されたことで、そこに宿る星の意志も消滅の危機に瀕する。
その前に適正のある人間(黄昏の花嫁)の中に宿って、一先ずそれを依り代とする。

闇で荒んでしまった世界を正しい方向へ導くため人々に尽くす。が、裏切られて散々な目に合う。
器自体は人間なので寿命は短い。輪廻転生を繰り返す度に多くの悪意に触れ、人間に絶望する。

黄昏の花嫁であるレイシーに宿る。(ユニ、ふて寝中)なんやかんやあって中身だけバロンの手に渡る。

ユニ(絶賛、記憶喪失)今の肉体はバロンが造ったホムンクルスみたいなものだと思う。
現在の黄昏の花嫁、フェミル(ユニの核になる存在、ユニの辛い記憶は多分ここにある)



…みたいなことを勝手に考えてたんですが…どうですかね?(´ω`;)
頭の悪そうな説明ですみません;

レイシーの過去話でやりたいのは、ユニの過去やバロンの手に渡るまでの話です。
あ、初めの方で惑星の核破壊したのは多分、バロン…かなあ?

もちろん、「その設定はちょっと困るわ〜」とかあったら正直に言ってもらって構わないので!
もし二人が考えている今後のネタとかに支障をきたすようなら不味ですし…、独り善がりの考えなので、とりま意見交換お願いします^^】

751ジル:2017/04/02(日) 22:00:18
【ポセイドン邸】

「痛いなぁ・・・」

蹴りを受けた腹を抑え、ジルはアブセルを睨む。が、彼の目に入ったのは膝を付き動かなくなったアブセルの姿だった。
毒針を受けてもなお動くことに驚いたが、毒針は着実にアブセルの身を蝕んでいたようだ。

「よかった、バケモノでも人間と同じ毒にやられるんだね。」

言いながらふと視線を後方へ向ける。逃げ出さないようにか、未だアブセルの式神に加えられたままのユニは諦めたようにその場に留まっている。

「・・・」

式神はアブセルの氣で動いているはずで、つまりは主である彼の息の根を止めれば、自ずとユニも手に入る。

「早くカタを付けよう」

ジルの周りの空気が固まり、大きな刃の形を模す。
標的は暫く動けない。狙いを定めるのは簡単だ。

"意味を成さない妬みなんて持ってないでさ、君がこの子を護ってあげなよ。"

遠き日に一度きり出会っただけの少年の言葉など、アブセルは覚えてはいないだろう。
しかしその言葉はアブセルの心を少なからず動かしたようだ。くだらない嫉妬心から奉公先の子の身を危険に晒したあの時の少年は、今はその子を必死に護ろうとしている。

こんな形で再会などしたくなかった。

「ごめんね」

具現化した刃がアブセルへ勢いよく放たれた。

しかし、

「!!」

真っ直ぐに放たれた刃は寸での所でアブセルから狙いをはずしあらぬ方向で爆ぜた。
アブセルの方へ駆け寄る人物の姿が目に入り、驚いたジルが瞬時に方向を変えたのだ。

「何・・・してるの?」

ジルが気付かなければ刃は彼女諸共貫いていたはずで。
ジルは普段の彼から検討も付かぬ苛立ちをその顔に浮かべた。

「危ないじゃないか、ヨノ。」

アブセルとジルの間に立ったヨノは負けじとジルを睨みつける。
彼女は葬儀場にいたはず・・・騒ぎを聞きつけやって来たにしろ、この中に割って入るのは無謀過ぎる。

「死にたいの?」

「ジル・・・、貴方こそ何をやってるの?」

何をやっているのか、それは一目瞭然だろう。
両者は睨み合ったまま暫し時が止まった。

「アブセルちゃん」

先に動いたのはヨノのほうだった。あろう事かヨノはこの状況下でジルへ背を向けて、アブセルの身を案じたのだ。

「大丈夫?」

そこはポセイドンの血筋なのか。毒にやられてると察した彼女はアブセルへ治癒を施そうと手を伸ばす。
しかしそれは叶わなかった。

「!?」

ヨノの周りを風が舞い、ふわりと彼女の身を持ち上げたのだ。

「邪魔しないで」

ヨノはもがいて抵抗を謀るが、彼女が動くとより風は彼女を強く拘束する。風はそのまま彼女を攫い、近くの壁に縫い付けた。

「ジル!これ嫌・・・放して!」

ヨノは訴えるがジルは聞き入れない。
彼女が現れてからというもの、明らかにジルの様子がおかしい。
彼は明らかに苛立った様子で無理作った笑顔をアブセルへ向けた。

「命拾いして良かったね。」

752ヴェント、マゼンダ:2017/04/02(日) 23:05:14
【森】

ジーナが話を進めるにつれヴェントは人知れず眉を潜めていく。その気配を察したマゼンダは「ヤバイな」とふと思う。

「・・・ノワールは今、闇の王子と一緒なのか?」

やはり彼が気にしたのはそこか。

「落ち着きな、ヴェント。」

「そいつはノワールを孕ませた相手だろう?」

違う、と否定したかったが、ヴェントの言葉を受け悪戯な笑みを浮かべたジーナを見て、マゼンダはまさしくその相手であることを悟る。しかしヴェントに知られては面倒だ。

「何言ってるんだ馬鹿。ノワールがあっちの世界に行って一体何百年経ってると思ってるんだい?あの時の王子はとっくに逝っちまってるよ。ジーナが言ってるのは力を受け継いだ子孫の事だろう。」

「別に女を作ったと?」

「あーもう、ノワールの事になると面倒だね。ノワールとそいつはクールな関係なのさ。目的は二つの異種なる力を継ぐ子供を作ること。そこには何の感情もないんだよ。」

とにかく、今はジーナの言うと通り各々力を養うしかない。
余計なことは考えるなとヴェントを叱咤しながら、マゼンダは彼を引っ張るようにして部屋を出ていった。

753ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/03(月) 00:47:22
設定と過去話練ってくれてありがとっす!

とと、実は一応イオリ辺りにちょろちょろ喋らせてた世界の根幹設定がありまして……
長くなりますが、イスラさんの案を取り込んで更に設定加えつつ説明しまっす!

前提として、元々この世界自体が欠陥品なんです。
とある世界AのコピーA”が破壊、再構築されたのがa”(この世界)

欠陥部分を埋めてa”をA”にする(出来る)因子を保有するのは、現世四神組+メイヤ+アブセル+リト+ノワール+ジル

理由としては、現世四神組+リト=100年前に開かれた“闇”(世界Aから来た闇を含んでいる)に触れた前四神組の血縁者であるから。
アブセル=その場にいたジュノスの血縁者
メイヤ+ノワール=Aに生きる人物の血縁者

世界Aに生きる(生きていた)人物、Aから来た人物=ルイ+ジーナ+Mr.K
A”を作った者=シン(雷使い)=新雷寺の始祖

因子が濃いのはリト(ルイの加護)ノワール(ジーナの血縁)メイヤ(新雷寺の者)

てな具合で、ジルもまたポセイドンと闇の王子の家系(やんね!?)なので因子持ちと。

二つの核=陰(ゼロ)陽(ユニ)は実は欠陥品の為に完全に機能しない、いつかはシステムエラーを起こす。
バロンが核を壊した=実はシステムエラーが発生しており、壊れた様に見えた。

核と同等の存在物質=魔玉
核に成り得る存在=ジル(核であるゼロが姿を模した故に、ゼロをジルと誤認識する)

とかどうでしょう?自分としては世界は欠陥品で、元々あった世界のコピーの……を前提条件として置いてくれれば因子云々後はお任せで良いかな、と思ってます。

754リマ:2017/04/03(月) 00:50:40
イスラ>>
【しかも藍ちゃんには出生の秘密があるもんだから、心が芽生えたが故に自分の運命に苦しむことになって、嶺二の優しさも信じられなくなって、兎に角涙無しにはプレイ出来ないそうです。
因みに自分、藍ちゃんの歌も中の人の歌も買い漁ってますがただ一つ、藍ちゃんの歌のwinterblossomだけはどうしても聞けないんです。藍ちゃんの遺言書みたいなものなので、聞いてるうちに悲しくなってマジで涙が込み上げて来て最後まで聞けてないんです。結末は知ってるんで藍ちゃんは無事ってことも分かってるんですけどどうしても聞けないんです。(大事なことなので3回も言いました)

まさにそんな感じですね、ダメダメな兄貴としっかり者の弟。弟はいつも兄貴の世話をやいちゃう苦労人だけど、それでも困った時には真っ先に頼っちゃう。可愛い←
ついでに他三人皆成人してる中で1人だけ15歳混ざってるの最高に可愛くないですか←成人に混ざって意味を理解してるのかしてないのかエロい歌詞歌ってるのめちゃくちゃ可愛くないですか←
15歳のいたいけな少年に「跪きなよ」とか歌わせる事務所最高に変態じゃないですか←

自分も同じもの何枚も要らないので買う気はしないです。しかし、この前久しぶりにあった友人にそのライブてっきり行ったかと思ったと言われて、え?ってなりましたwww
え、まさかのカミュwwwまぁあのジャケのカミュが何気にイケメンなのは認めますが・・・自分の中のカミュはお笑い担当なので← やっぱり藍ちゃんが可愛くて一等賞です←

きっとナディアは適当に手を抜いて生きてるから疲れないんです(笑)
てか話逸れますが、ナディアの初恋の相手はトーマと言うどうでもいい設定思いつきました←

圧倒的可愛いとかwwwイスラさんどんだけノワール好きなんですか(笑)
セナは色々無頓着なので←リマを女として好きというより、多分「リマ」が好きなんだと思います(笑)

ゲームはハルカと恋愛させなきゃいけないので・・・←

えーでもやっぱヤダ←
髪型って重要ですね←←
何処かでストックしてくれないとオッサンになっちゃう←


イスラさんの設定の説明が面白すぎて(笑)
自分は大賛成です!その設定のおかげでキャラ達に新たな設定が浮かびそうです(*´罒`*)
ただ、核を破壊したのがバロンとか、今自分の中でバロンが悪いヤツになってる・・・(笑)そしてユニの体がバロン作と知って、あの乳はバロンの趣味なのかと面白くなってます(笑)

何はともあれそんな大規模な設定思いつくイスラさんすごい←】

755リマ:2017/04/03(月) 02:38:04
おお・・・!ヤツキの案でさらに壮大な設定が・・・!!

うんとね、ジルは四神側の血縁ではないんだけど、黄昏の花嫁の血縁ではあるよー。
もともと黄昏の花嫁はレイシーだったってイスラさんの話聞いて思いついたんだけど、歴代の黄昏の花嫁をね、レイシー→ミレリア(リト母)→フェミルにしようかなって。
黄昏の花嫁は純潔な少女である。神の花嫁とされることから、人間の男と婚姻することは許されない→レイシーは爺と関係を持ったことで資格がなくなった→レイシーの血筋であるミレリアが次の器に。しかしミレリアに恋をしたトーマ(ジル父)が彼女を手に入れたいが為に何らかの方法でミレリアから花嫁の資格を奪った(方法は未定)。その際に黄昏の花嫁を生み出す血筋がトーマ側へ移る→フェミル誕生。素質申し分なく、黄昏の花嫁へ。

黄昏の花嫁も世界構築の因子だから、ジルも因子であることに代わりはないのかな?

取り敢えず二人の設定は大賛成です!自分全然思いつかないんで本当すごいなって尊敬しちゃいました(/ω\*)
またまたイメージが膨らみそうです(๑•̀ω•́ฅ)

756ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/03(月) 21:23:45
ジルさんリトナディアの異母(異父)兄弟かはとこ従兄弟辺りだと思ってた、申し訳ないorz
ジルも因子持ち(レミリアが持っていた花嫁の力と一緒に因子も移動した)で良いかな?
因子云々okでたらだけど……

後A”を作った人物=シンは間違いで←
A”を作った人物はa”にてシンライジと名乗った(由来は件の人物のライバル、雷使いのシンと言う人物から)

本編アブセルvsジルが熱かった、是非ともリト+アブセルコンビvsジルも見たいっす←

あ、取り敢えず前下書きした分一応完成したんで投下!
デジタルむずすぎぃ!
imepic.jp/uploaded/20170403/763520/8Frv

757イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/04(火) 01:25:43
二人ともありがとうございます!(^ω^)お二人のおかげでイメージが固まってきました!

なるなる、了解です。
どのみちシステムエラー発生するんなら、バロンが手を出す必要もないかなぁ

ちょっと仮定の話として聞くんですが…
もしバロンが悪役になった場合(この世界を自分の都合の良いように作り替えたいが為、邪魔な黄龍を始末しようと四神組を誘導)、何か不都合とかあります?

いや別段、悪役にしたい。って訳でもないんですが。こういう流れも有りかなーって思い付いたので確認程度に…。

あと黄龍自身は、この世界がコピーの欠陥品であることとか、欠陥部分を埋める為の因子のこととか…は知ってて動いてる感じですかね?


リマ>
そうなのん?そんなこと言われたら、その歌ちょっと聞きたくなるじゃないですか(笑)

まぁ他が成人してる中一人だけ若い子いたら、可愛がりたくなる気持ちも何となく分かりますね
最高に変態ww何を言っているんだ君はww

あれ?リマさんライブ行かなかったの?⬅
え、あの人お笑い担当なんだ?(笑)

(оωо;)マジか、自分の父親と同い年の人を好きになるなんて……、いい!ですね!歳の離れた恋愛好きですよ!⬅

だって、プライド高い子が残念な扱い受けてて、結果としてアホの子みたいに見えるんですよ?ノワール最高じゃないですか⬅
ああ、何か納得(笑)

あれ?そう捉えちゃうの?(笑)
ギャルゲとか乙女ゲーって普通、主人公を自分の分身として見て、疑似恋愛を楽しむものじゃないっけ?(笑)

良かった、賛成してもらえて安心しました^^
バロンは場合によっては悪い人になるかも…
乳に関しては妥協しない男、バロン⬅


ヤツキ>おおぉ!すごい!流石の勢いです、格好いい!
てか今回はデジタルなんですね、次回もお待ちしてますよ^^⬅

758ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/04(火) 13:58:29
イスラ》黄龍は気付いて無いパターンで、死に際とかに「そうか、元より壊れていたのだな…」と言った風な最後を考えてました。
が、闇落ち(?)バロンに真実を突き付けられて絶望とかも面白そうです←

今の所欠陥品云々を知るのはイオリのみで、シデンさんも戦闘中に会話して知るかも?(寧ろもう話した気もする)

悪役バロンの件は俺は良いと思います、終盤でのドンデン返しとか面白そうかと!

いやー、アナログ最強っすわ、タブレットじゃ絵描いてる感覚になれないorz

759ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/04(火) 14:07:53
あ、欠陥品云々因子云々はジーナとルイも知ってる(設定的に)ので、ルイ経由でリトやナディア辺りも知るかも……?で!
この辺はリマさんに任せます。

欠陥品云々の尤もたる所は、四神(本来ならば青龍朱雀白虎玄武)がトールフレイヤポセイドンアマテラス……となっている、で。
この辺も上手く話に使えたらなーとかとか!

760リマ:2017/04/04(火) 21:10:26
ヤツキ>>
いやいや、関係者が身近にいすぎてこんがらがるのも仕方ない(笑)むしろややこしくてごめん(;・∀・)


おお!やっぱヤツキの絵は勢いがあってカッコイイ(*゚∀゚)
デジタルデビューしたんですね!
自分最近書いてないなぁ(;´д`)

おお、ルイは知ってるんだね(*゚∀゚)
じゃあうまいことリトにチクっちゃお←


イスラ>>
凄く綺麗な歌ではありますよ。ただ、「僕は君の中で生き続ける」とかもう泣くしかない←

でしょでしょ?他のメンバーも何だかんだ藍ちゃんのこと可愛がってると信じてます←
いや、変態じゃないですか?いたいけな可愛い美少年に跪きなよって、罵られたい下心の現れじゃないですか?あわよくばそのまま踏まれたいとか←
しかもそれまで楽曲はネット配信のみで顔も公表していなかった謎の天使もとい純情派アイドルを公式の場に初お披露目していきなり跪きなよって←もう跪くしかないじゃないですかや←

行かなかったですよ!wwwチケット当てなきゃいかないし。
ただ、DVDは買おうかなぁって思ってます。

だってあの人初登場でステッキから氷出して地面凍らせたかと思ったらそのままそこをスケートしだしたんですよ←

いいんだ(笑)
なのでナディアは始めから実らない恋なので一生独身なんです←

あーなるほど、たしかにそう言われると可愛そうで可愛いかもしれない(笑)

納得しちゃうんだ(笑)
ただなんでそんなにリマが好かなのか生みの親である自分が分からないんですよね←

さすがバロン、エロ男の鑑←
自分バロンはあのぬいぐるみのイメージしかないんで、例え敵になっても一蹴りで勝てる気がしてならない(笑)←

てか核はユニの体にあってもとの記憶はフェミルにあると考えると、もとはその二人は一つってのことで、そうなると最終的にユニの意思はフェミルに還るの?ってふと思って、つーことはユニであったころのリトへの想いはフェミルに引き継がれるわけだけど、あくまで心はフェミルであってユニでないし、だけど人格はユニになってるからフェミルでもないし・・・って訳わからないこと考えて頭パンクさせました。←
あくまでフェミルとユニは別人という事にします。
ただ実際黄龍だかバロンだかがフェミルとユニを一つにしようとして一悶着あっても面白いかも←

761イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/05(水) 10:50:52
ヤツキ>
そのパティーンか…、了解です。黄龍さんめっちゃ可哀想ですね…

そういえば会話したような…、後で確認してきます(笑)あ、シデンのレスはヤツキ達の戦闘が終わった後にでもしますので、すみません;
あと、次のイスラのレスは恒星の女神をボコる感じのレスで良いんですかね?⬅

ありがとうございます^^バロンついてはまた考えてみます

そうかぁ(笑)まぁ人それぞれですよね、自分はもうデジタルじゃないとイラスト描ける気がしません(笑)


リマ>
自分も頭こんがらがってきた(笑)まぁ記憶云々の話はただ、こうしたら面白いかも。位のノリで考えただけなので、リマさんのお好きなようにしちゃって下さい^^

てかリマさんの「黄昏の花嫁は純潔を失えば力も失う」って話で思い付いたのですが…

爺はレイシーの花嫁の資格を無くす為に、レイシーの純潔を奪った、ってことにすれば良いんじゃね、とか思いました(笑)

取り合えず過去話の魔物騒ぎは、シデンが花嫁の資格ある者を探して起こした感じで。それに勘づいたポセイドンや政府やらも資格を持った人間を捜し始める。

このままじゃいつレイシーの素性がバレて、連れていかれるのも時間の問題と思ったレイシー父は、爺に彼女との共寝を頼む。

レイシーは爺と父親以外の誰に知られることもなく資格を喪失。
ただレイシーの歌の力は彼女が花嫁である所以の力だったので、資格を失うと同時に声も失うことに。

割とむりやり純潔を奪われた上に、大好きな歌も歌えなくなって傷心のレイシー。
この出来事の一切を口外しないという約束の元、爺は罪悪感を抱えたまま本家に戻って以前と同じ生活に戻る。
(多くの人を欺く為にも、爺とレイシーが親しい間柄であったことは隠したかった。
あとこの時代やっぱり身分の違う結婚は難しかったらしい。父親は二人の間に子供が出来ても下ろすつもりだった)

……みたいな。
今自分が考えてる別の案、長いし分かりずらいしで、こっちの方がよっぽど分かりやすいし、しっくりくるんですよね(笑)

762ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/05(水) 11:29:30
リマ》言うて中々絵描く暇ないんだけどね、俺も(笑)
それはもう盛大にチクって下さい、チクる所かネタバレしてやって下さいww←

イスラ》そして最後の最後に自我が芽生えるも死ぬパターン……一期のラスボスは迷いなくラスボスとして散ったから、二期は逆で行こうと思って。
シデンvsイオリ了解す、ステラはフルボッコでお願いします!

763リマ:2017/04/06(木) 22:49:06
ヤツキ>>
どんな感じにチクろうかなぁ(笑)ルイは色々話してくれるタイプじゃないからなぁ(;´д`)

だよねー、前は色々描いてたのになぁ(٭°̧̧̧꒳°̧̧̧٭)


イスラ>>
おぉ!イスラさんの案面白そう!是非そんな感じでお願いします(*゚∀゚)

最初の案も気になるけど(笑)

しかし爺、そんなことしておいて他の女と結婚したのか( ・᷄ὢ・᷅ )ドクシンツラヌケヨ
そしてヨハンは如何にして生き延びたのか←

トーマはどうやってミレリアから力奪ったことにしましょうかね(๑•́ω•̀๑)爺と同じ方法をとる性格でもないし:(´◦ω◦`):多分トーマとミレリアってリマセナの次に清い関係なんですよね(笑)めちゃくちゃ余談ですがリトユニの方が一線超えるの早いと思います(笑)あー悩む←

764イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:16:41
【黄昏の塔】

月下に舞い散るは、闇の花と紅き剣閃。

相対するは暗夜を掻き抱く、恒星の女神…スピカ。

無尽に沸き上がる闇は脈打つかの如く。繰り広げられる破壊行為は息をするかの如く。
上下左右、間断なく放たれる闇の猛襲、その一つ一つが壮絶な破壊の奔流となってイスラの命を脅かす。

吹き荒ぶ闇の刃が。
炸裂する闇の砲弾が。
蹂躙する闇の波濤が。
死を孕む黒き魔手が。

殺意も敵愾心もない。ただただ純粋に目の前の命を壊すことだけを求めるそれに、イスラは灼熱を以て迎え討つ。
流し、受け、斬り返す度に、傷が増え、鮮血が飛ぶ。だがそれでも走る刃に迷いが生じることはない。

空気も、色も、重みも、全てが冷たく暗い漆黒に沈み、息苦しいほどの圧迫感が周囲を満たす中。イスラが刃に乗せるもの、それは剣士としての誇りと…願いだ。

………

剣を握る度に思う。今の自分の生き様はあの時の誓いに添えているのだろうか、と。

全てを救う。何と無謀で欲深い願いだと、聞く者は笑うだろう。だが、その想いを軽々しい気持ちで口にしたことなどなければ、ただ向こう見ずに刃を振るってきた訳でもない。
胸に刻んだ誓い、それこそがイスラの永遠の願いであり、永遠の理想なのだから。

例えその道が、どれほど険しく果てしないものだとしても、自分はそれを果たした先の、向こう側の景色が見たいのだ。

…だから、戦う。

「願わくば」

…だから、前へ進む。

「汝に安らかなる眠りが訪れんことを」

――……

ひとたび上空へ飛翔すれば、燃ゆる暁の出現を祝福せんばかりに、イスラの手の内の二振りが歓喜に打ち震える。

鮮やかな炎が爆ぜ、月明かりの下、天を割るように曇りなき白い刀身が真に顕現する。
天叢雲剣…、まさしくその姿だ。

そして同刻、イスラの背後に並び立つ八つの宝鏡が、ひとえにそれを映し出し…、

「出でよ―…、八岐の大蛇 」

鏡面に映る神刀に、宝鏡が姿を写せば、八つの天叢雲剣が圧倒的な存在感を放ってそこに佇む。
その姿、八つの首を持つ巨大な蛇の如し。

今も尚その勢いや激しく、大挙する闇の猛襲を斬り裂いて、八つの鎌首が女神に振り下ろされる。

そしてその数瞬後、イスラの持つオリジナルが一刀両断に振り抜かれ…、
炎と風が逆巻いて、無音の元に天叢雲剣が宵闇に軌跡を描いた。

765アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:22:24
【ポセイドン邸】

苦しい。息が上手く出来ない。
頭は熱に浮かされたように働かず、視界は狭まり、聴覚は水の中に潜っているが如く濁っている。

だが、それでも目の前で何が起こっているのか位は理解できる。

二人の間に割り込んで自分を庇うヨノ。そんな彼女にアブセルは、こっちに来ては駄目だ、逃げてくれ、と回らない舌で必死に訴えようとする。

しかしそれを言葉とする前に、彼の思考は空白に染まった。
耳朶を突いたもの。ヨノが口にした名に、意識が奪われる。

ジル、と。

途端、怒りで燻っていた感情が、一瞬にして霧散した。頭から血の気が抜け、呆然と目を見開くアブセルの脳裏に懐かしい色の記憶の断片が集められる。

蘇るのは、もう顔も定かではない、しかし名前だけは忘れたことのない、記憶の中の少年の姿。
幼い頃に一度だけ出逢った、少し意地悪で優しい、そんな少年と交わした過去の出来事。

…誰が知るだろうか。幼き日、倒れたリトの傍らで恐怖と罪悪感に震えていたあの瞬間、手を差し伸べて腕を引いてくれた彼の存在にアブセルがどれだけ救われたか。その手がどれだけ心強ったか。

誰が知るだろうか。その少年の言葉が、誰かを信じることを恐れ、たたらを踏んでばかりいた小さな背中を押して、一歩前に歩ませてくれたことを。その言葉が今も心の根幹を支えていることを。

誰が知るだろうか。リトを助けてくれた少年に、そして友を作るきっかけを与えてくれた少年に、アブセルがどれだけ感謝しているか。どれほど感謝の想いを伝えたかったか。

不明瞭な視界に映る青年の姿が引き歪み、幼き日の少年の姿と重なる。その優し気な髪の色も、アメジストの瞳も、纏う雰囲気も、かつて感じたものと同じだ。

「嘘…だ……」

アブセルは混迷に瞳を揺らして、青年を見上げていた。震える唇が空虚な音を生む。

何故。何で。彼が目の前にいて、自分を殺そうとしているのか。ユニを、ヨノを、そしてリトを、大切な人を傷つけようとするのか。

信じられない想いと、信じたくない想い。
目の前の青年と、かつての記憶の中の少年との差違に、アブセルの心は千々に乱れ、

「恩人の兄ちゃ―…」

刹那、視界の外から放たれた光弾がアブセルの側頭部を打った。

その衝撃に、彼の身体が大きく傾く。
何か固いもの同士がぶつかるような音がして、根本から折れた角が血を飛ばしながら、カラカラと床を転がる。
アブセルは地面に崩れたまま、動かない。そして、

「…邪魔者は排除しましたよ」

直後、上がる声。
アブセルを倒した張本人…フロンが廊下に佇み、その顔にたおやかな笑顔を浮かべていた。

一度はジルの元を離れた彼女が、何故また戻ってきたのか。
答えは言わず、フロンは壁に縫い付けられた状態のヨノの側へゆっくりと歩み寄る。

「珍しいですね、ジルさんが任務に手こずるなんて。いつもはもっと無情に残酷に、上手にやってらっしゃるのに。…何か理由があるのでしょうか?」

何が言いたいのか、彼女は意味あり気な笑みをジルと、そしてヨノに見せる。かと思えば、その相好をくしゃりと砕けたものへと変えた。

「なんて、調子が悪い日もありますよね。私も手伝いますから早く済ませちゃいましょう?あまり時間をかけると人が集まって来てしまいますよ」

フロンはその言葉の通り、邪魔者であるヨノを始末しようとする。
手に握る短剣をヨノ胸元に這わせ、それを大きく振り上げた。

766アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/09(日) 01:56:29
ヤツキ>黄龍さんがラスボスなんです?自分的にはコピーの世界が破壊された理由が気になって…、てっきり別に黒幕がいるのかと想像してた⬅

てか黄龍さん死んだらバッドエンドくない?(世界再生できなくない?(笑)


リマ>
それなら良かった^^
でももう口頭で説明したから、文章化はしません(笑)何か生々しくなりそうだし⬅

本当にね(笑)まあ後継ぎやらの問題で、母親が決めた女性と強引に結婚させられた感じです。
因みに割りと早い段階で離婚してます⬅
一人娘もいて後継ぎにしようと躾てましたが、反発されて家出同然に出ていかれました⬅
そして娘はアブセルをつくって爺に押しつけました⬅

ヨハンは…レイシーが下ろすの拒否ったんじゃない?


それなー、自分も良いアイディアが思いつきません(--;)ちょっと考えてみます
リトは何だかんだで、ちゃんと男の子してますもんね(笑)


最初の案は、もう既にレイシーと爺はヤっちゃってるのが前提です⬅(だからもうレイシーは資格を失いかけてる状態)んで…、

そうとも知らず、レイシーの故郷に魔物+シデンが襲来する。

シデンはレイシーの中に眠っているユニを目覚めさせようとしますが、それをレイシー父が阻みます(ユニが目覚めたらレイシーの意識が消滅する為)
レイシーを爺に託して二人を町から逃がす。

爺は追いかけてきた魔物からレイシーを庇い奮闘するも、魔物に囲まれてボロボロになる。
レイシー、寄り代になる決意をし、力を解放する。

が、既に花嫁の資格を失ってるので、解放される力の負荷に堪えきれず、力が暴発する。
このままではレイシー自身を含め、周囲一帯が消し飛んでしまい兼ねない、と思った爺はレイシーの暴走を止める為、声帯に呪いを刻む(ユニとレイシーの意識を繋いでいるのが歌の力なので)

取り合えず沈静化。二人が気を失ってる間にバロンがレイシーの中からユニを回収。

後日談。
レイシーは無事でしたが、爺の呪いのせいで声を失う。しかもその呪い、徐々にレイシーの身体を蝕んでいくタイプです。術者が近くにいるほど進行速度も早くなるので爺はレイシーの元から離れざるをえない。
(因みに爺にもレイシー父にも呪いの解除は出来なかった。よくてレイシー父が進行を留めておくことができる程度)
二人はお別れします→【完】


…色々割愛しましたが、大体こんな感じです;
そしてこっちの方がまだ爺が綺麗です…よね?(笑)
どっちのパターンが良いですか?⬅

767ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/09(日) 10:55:56
リマ》現世に戻る際に土産話を聞かせてやろう、的なのはどうかな?
元々はパレワから続く世界、パレワのコピー世界を再構築した世界だし、パレワの最終戦が世界が産まれる大元となったと言えない事もないしね。

いやはや描こう描こう思っても中々手が動かんよね、仕事もあるし(笑)

イスラ》今の所黄龍がラスボスで、それ以上は考えてなくて、exでオリジン編もあるし……後単にネタがもう無いww

黄龍死亡で陰の核消滅しても、誰かが新しい陰の核に成れば……その為のゼロの姿はジルを模倣した設定です←
もしくは魔玉持ちのリトとか?リトユニで新たな陰陽の核とか?
もしくはジルフェミル?この辺は俺の一存で決めれる部分では無いんで、お二人と相談しつつ……

もしくは世界再生不可→一回消滅させて一から作り直す(ベースはゼロが目指した新世界)
因子が足りないから世界は不安定だったけど、四神組+αが因子持ってるので新しい世界は安定する(その代わり全員生まれ変わる感じで)
自分としてはこっちの終わりが良いかな〜とは思ってます。

コピー世界辺りの説明は……。

まず元々前の板組のオリナリスレでやってた話があって、その舞台が所謂世界A。
話の終盤で、ラスボスが世界を滅ぼす為に世界そのもののコピー(A”)を作って、AとA”をぶつけ合って対消滅させようとしたんです。

それを防ぐ為に主人公達は世界Aを救う為に世界A”を壊した。
壊した世界A”は流星群となってAに降り注いだけれど、大半は行方不明に。

その行方不明となった部分が集まって出来たのがこの世界aと言う訳で。
因みに件の主人公達は吸血鬼編頭で出たMr.Kと長老のジーナ、リトの居る冥界の主ルイで、彼等と戦った件のラスボスの直系の血筋がシンライジです。

……長くなるけどこんな感じです。

あ、そう言えばジーナがラディックにお願いした依頼の内容、もう決まってますか?

768ジル:2017/04/09(日) 23:15:30
【ポセイドン邸】

予想だにしない事態にジルは目を見開く。
それは一瞬の出来事だった。自分がヨノに気を取られているうちに、アブセルが吹き飛んだ。
正直、突然の事で何が起きたのかをすぐには理解出来なかった。アブセルを始末するつもりではあったものの、あまりの事に言葉を失う。

何故この女が此処にいるのか。それすらも考えることを許さずに事が進んでいく。

「・・・やめろ・・・」

フロンの標的がヨノヘ変わった。刃を向けられたヨノは恐怖で言葉が出ないよう。
彼女は関係ない。巻き込みたくない。

短剣がヨノヘ振り下ろされた。

「っ!」

ジルは鎌鼬をフロンに向かって放つ。彼女を貫くギリギリのところで、幸いにして命中したそれが刃を弾いた。

拘束していた風が解け、ヨノは地面へ膝ついた。

「早く行って。」

ジルが退避を促すがヨノはその場を動かない。驚きと恐怖で力が抜けてしまったようだ。

「アブセルちゃん・・・」

そしてアブセルの姿に震えだした。

「ヨノ!」

呼びかけても反応がない。もはや自力で逃げることは無理だろう。

ジルは柄にもなく舌打ち、再び風を起こしヨノを包む。
そして彼女の身を包みこむと、自分の背後へ運び、下ろす。

「ジル・・・アブセルちゃんが・・・」

「死んでないから黙っててくれない?君のせいで面倒なことになった。」

決して彼女に当たりたいわけではないが、彼女が邪魔さえしなければ任務は完結し、おそらくフロンが出てくることも無かったと思うと無性に腹が立つ。
何より、彼女に他人を平気で傷つける汚い自分の姿を見せたくはなかったのだ。

「お願いだからそこで大人しくしてて。・・・どうせ動けないと思うけど。」

自分の背後にいればヨノの安全は保証できるだろう。ジルはヨノにこれ以上邪魔をするなと釘をさし、その鋭い視線をフロンへ向けた。
そこにあるのは完全な嫌悪感。先日の一件からフロンには悪い感情しか浮かばない。
それでも気持ちを抑えながら、なるべく優しげな声色で彼女に語りかけた。

「僕には関係のない人を巻き込む趣味はないんだよ。僕のことを見てたなら分かるはずだけど?君のおかげでその子(アブセル)はもう動けない。任務完了。だから引いてくれない?」

769リマ:2017/04/10(月) 01:02:40
ヤツキ>>
なるほどなるほど。ありがとう、そんな感じにしてみるよ!

新しい核候補にうちのキャラ使ってもらうんは全然いいよ!
ユニがホムンクルスなら、また核持ちのホムンクルス作るのもいいかも?核は魔玉で代行出来る気がする!

みんな生れかわるのはちょっと悲しいなぁ・・・:(´◦ω◦`):二人がそっちが良いって言うなら構わないけども(*º∀º*)


だよねー、学生ん時は授業の時に描いたりしてたけど、さすがに仕事中は描けない(笑)


イスラ>>
生々しいwwwたしかにwww

あー、なるほど!爺も辛かったのね(;´д`)
娘wwwアブセルの母親の方が血筋だったんですね、てっきり父親の方かと思ってた(笑)
てかジュノスの家系ろくなモンいないな(笑)

半ば無理やりでも爺の事は好きだったからヨハンも大事なのか(笑)
そう言えばヨハンって爺が父親って知ってたっけ?

トーマには一体どんな力があったんだ←
でも仮に黄昏の花嫁を無効化させる能力があったとしたらジルにもその力があるはずだからまた物語が進んでいくような気がします(。 ー`ωー´) キラン☆

リトはほんと、何気男の子してますよね(笑)セナとは大違い←

あー!それも面白そうっっ
でも自分はゲス爺が好みなので、新しい案の方で←

770イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/10(月) 02:18:09
二人>そういえばすっかり忘れてた(笑)
セナとノワールの子供にメルフィって子がいたけど、その子も因子に含まれるんですかね?


ヤツキ>そういう話なら核キャラ持ちのリマさんの希望に添おうかな。まぁまだ先のことなので、ストーリー進めながらゆっくり決めてきましょう^^

皆生まれ変わるエンドは綺麗な終り方だけど、自分も何か寂しいです(´・д・`)笑

あー、なるほど。別のスレの話だったのか。二人の会話でちょいちょい、もしかして…って思うことはあったけど(笑)
それはもう完結してる感じなんですよね?

別の舞台の話から繋がるストーリーとか熱いですね!
とりま理解しました!
そして依頼の件はまだ全く考えてないです(笑)


リマ>なんか藍ちゃん消滅でもしそうな曲ですね⬅
踏まれたいとかww
うーん、藍ちゃんが女子だったらなぁ、膝まづいてたかもなのに⬅

ガチ勢はライブ行った上でDVDも購入するんでしょうね(笑)

スケートwwそれは笑うわww

マジか
ナディアって意外と一途なんですね…

そうでしょう?毒吐いてもセナリマには気づいて貰えてない感好き(笑)

えw何か壮大な理由があるのかと思った(笑)

バロンは次登場する時には多分、人形になってますから(笑)

爺も片親ですしね、ジュノスの一族は幸せな家庭を築く能力がないのかもしれない(笑)
ヨハンは爺が父親なの知らないんじゃないかな?
取り合えず爺の口からは教えてません

良いですねぇ、妄想が広がります^^

リトは女の子に抱きつかれたらちゃんと照れるしね(笑)

自分もゲス爺のが好みです(笑)じゃ、それでいきましょう


…余談ですが、ポセイドン家は何故リトを政府に引き渡さなければならなかったか、を考えてみました。

レイシー父が今回の件(魔物騒ぎや、私情でレイシーを花嫁として覚醒させなかったこと)に責任を感じて、何とか衰退する世界を救う方法がないものかと、政府直属の研究機関に相談、協力を要請する。

世界の核を正常に起動させる方法を研究したり、闇の王子の継承者として、自ら人体実験に志願したりする。(レイシー父は公では事故死として片付けられたが、実際は人体実験の末に命を落とした)

レイシー父の死後も研究は続けられる。
ただ途中でワヅキの介入などがあって、当初進めていた研究から、どんどん方向性が違うものになる。

当時レイシー父が政府と交わしていた「闇の管理者は政府の研究に全面協力する」という契約があった為、後任(リト)が産まれたら政府に引き渡すようにと、ポセイドン家に指示が入る。

一応は世界と人類を救うという大義名分の元、行われていた研究ですので、ヨハンも逆らえなかった…ってことで、どうですかね?(--;)

771ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/10(月) 16:08:12
メルフィすっかり抜けてた……リトノワの子だから因子持ちであるけどどうしよう、exオリジン編に回します?

とりま許可頂けたんで、代替もしくは新規の核が必要になった時はリマさんの持ちキャラ達でお願いしまっす!

言うてお話は終盤入った(よね?)位でまだまだ続くし、終わり方も含め案出しつつ進めて行きましょ〜

リマ》パレワで思い出しけど、そろそろ知り合って10年位じゃね…?ww

いやホントにね、次どうレスするか位しか考えられないし、仕事終わって帰っても大変よな(笑)
でも久々にリマのカラーイラスト見たい←

イスラ》正直根幹設定まで出張るつもりもなかったし、イスラだけが知らない話とか申し訳ないな……と思ってたけど、ここまでくればもうやり切るしかねぇ、と(笑)

件の物語は無事完結しとります、三年掛けて9スレ使っての大円満エンドっす!
過去ログ残せてないのがめちゃんこ辛いけど。

ラディックへのお願い、丁度良い具合の思い着いたんで、お願いして良いですか?
黄昏の塔頂上へどうやってナディアリト組に来てもらおうかと思ってたんだけど、空間跳躍出来る吸血鬼、特に長老やその側近なら大人数でも余裕やん!?と……

772フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/16(日) 22:30:26
【ポセイドン邸】

ジルの行動に驚くでもなく、また弾かれた短剣を一瞥することもなければ、フロンはゆるりと首を動かし、真っ直ぐにジルを見据える。

「…ええ、もちろん分かってますよ。私、ジルさんのことずぅっと見てましたから…」

ジルの言う「分かる」とは、どこかニュアンスの違う響きを感じさせて、フロンはその顔に暗い笑みを浮かべている。そして…

「だから、その人(ヨノ)はジルさんには似合いません」

はっきりと言い放った。

ずっと彼のことを見ていたから分かる。
確かにジルは無関係の人間を巻き込むような人ではない。しかしだからといって、その人達を積極的に庇うかと言えば、それも違う。
彼が自身の労力を惜しみなく発揮する時、それは決まって妹のフェミルが関わる時だけだ。

なのに今、ジルはフロンの知らない一面を見せている。上部だけ取り繕ってはいても、焦って、苛立っているのは明らかで、本来ならばその感情の起伏を可能にする人物こそフェミルである筈なのだ。そうでなければおかしいのだ。

しかし今目の前にいるのは彼女ではない。ジルの背に庇われる、あの娘をおいて他にいない。
…あの女は一体なんなのだろう。

フロンは静かにその場から足を踏み出した。

「以前…ジルさんとお話しましたよね?その時に気がついたんです。…やっぱりジルさんは私にとって特別なんだって。今まで好きになった人の中でも一番だって」

一歩一歩、揺るぎない足取りでジルの側へと歩みよる彼女に、引く気など更々ないようで。
フロンは熱の籠った瞳でジルを見つめて、

「ねえ、ジルさん。フェミル様にもその人にも、ご自分のこと、何も話してないんでしょう?
私だけですよ。ジルさんの汚い部分を知っているのは。知った上でそれを含めたあなたの全てを愛しているのは」

息のかかる距離。そこまで来ると、何気なく手を伸ばす。何か繊細なものにでも触れるかのように、ジルの頬にそっと掌を添えた。

「だってそうでしょう?他の誰があなたの汚らわしい本性を愛せると言うんですか?まして自分の父親を殺した男のことなんて…」

そうして狂気染みた笑顔を見せる、それこそが彼女の本性か。フロンは小首を傾げると、二人の反応を楽しむかのように、態とらしい口調で追い討ちをかける。

「うふふ、そうですよねぇジルさん?その女の人のお父様、あなたが殺したんですものねぇ?」

773フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/16(日) 23:08:28
ヤツキ>自分はオリジン編に回しても良いかと思います

今ジュノスとルドラが一応メルフィを捜索すべく動いてる感じなので、隙を見て虚空城からメルフィを救出。…するも何かごたごたがあって三人とも十字界に転移するはめに(不慮の事故的な)

世界に起こる異変のせいで、十字界と元の世界の行き来が不可能になる

そのため世界の問題が解決するまでジュノス、メルフィは十字界で待機〜…みたいな感じで、黄龍編とオリジン編、ごちゃごちゃにならないように線引きでもしときます?
ノワールとメルフィの再会もオリジン編でー、みたいな?

てかジュノスなんですが、今ヤツキとイスラがいる場に参上させようか、どうしようか迷ってるんですが、どうしましょう?三人で軽くお話しでもする?(笑)


9スレとかマジか(笑)そのスレ見たかったかも
過去ログはなぁ…(--;)残念ですよね;

おー、良いですね。了解です^^

774ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/17(月) 11:07:56
んだらば、ラディックルドラの力で一旦塔頂上に全員集合→
虚空城へ転移→
力場的な影響で虚空城の各地に皆散る→
各自フラグ回収なりバトル(ルドララディックジュノスはメルフィ救出の流れで)
後はイスラさんの言った具合に黄龍編とオリジン編の組で分ける、
で行きましょ!

先代組と今代組と全員顔合わせはしたかったんですよね、特に黒十字組とか。

イスラ》正直もうお話忘れてる部分合ったりで辛いっすorz
此処もどこかに過去ログとして置いときたい所……!!後欲言えば併設wikiも(笑)

775イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/18(火) 03:01:44
りょ(^ω^)
シデンの次のレスで世界中に魔物をバラまくつもりなので、手隙の人はそっちを抑えても良いですし


確かに世界観とか各キャラの設定まとめたものとか見たい(笑)
キャラも増えたし、ちょっと忘れてる部分もあるしw

776ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:12:12
【黄昏の塔】

停まることない恒久の破壊衝動。
闇とは本来、この世界の防衛プログラムである。

言わば闇の巣とはその中枢である。
かつての黒十字を背負う者達は世界の防衛プログラムに殉じたとも言えるだろう。

無尽蔵に溢れ出る闇を使役する恒星の女王と、それに従う黒き獅子。
今やその片割れは神刀により斬り伏せられ、闇を持ってしても蘇る事は無い。

恒星の女王……ステラは目を見開き、迫る光刃の軌跡がその瞳を照らす。
逆巻く疾風と火炎、鎌首をもたげ、姿を現す大蛇の数は八つ。

その全てが牙を向き、ステラの身体を斬り刻むのは僅か一瞬。
障壁も、闇の鎧もまるで無かったかの様に。

僅かに聞こえた風切り音と共に、四肢を、下半身を、首と胸元だけとなったステラは地に落ちた。
生々しい音を立て落ちた身体からは漆黒が溢れ、傷の断面からは触手が這いずり回る。

半開きとなった口腔からは呪詛が漏れだし、闇が呪印を象っていく。

「まだ、死ねない……約束を、あの時交わした約束を……」

しかし、その呪印は叢雲の剣とは別の神刀により切り捨てられ、闇霧となって霧散した。
霧散しても尚、再び形を成そうとする闇は結晶となりその動きを停め、黒水晶が月明かりに輝く。

もがき、呪いにも聞こえる言葉を紡ぐステラの眼前には、神刀を手にしたヤツキの姿。

「大丈夫だ、独りで逝かせはしない。
第二候補、スペアプラン……闇の王女。

流星の双子、スピカとレグルス。
二人の魂は我ら黒十字と共に。

恒星となって輝いた命の意味は、しっかりと此処にある。
だから、安心しろ。」

所謂達磨となったステラを片腕で抱き上げ、ヤツキは言葉を紡いだ。
その声は静かで、優しい。

「俺達が100年の時を越え、この世界に蘇った意味。
それは、今この時の為。」

見れば破壊衝動の塊と化していた周囲に満ちる闇はその動きを弱々しいものへと変え、段々と黒水晶へ姿を変えている。

「俺は彼女の魂を連れて行く。
だから、“お前達”はそれぞれの役目全うしろ。」

777ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:13:33
振り返った視線の先。
イスラの後方には、塔を昇ってきた二つの影。

赤髪の少女と、自分と同じ濡れ羽色の髪を持つ青年。
二人の持つ雰囲気は、イスラと自分と似通っている。

「話は聞いている、今代の天照と……シンライジ家の者。」

世代的に曾孫に当たるだろう二人が並び立つ様に、ヤツキはどこか満足そうな笑みを浮かべた。
決して交わる事なく、刃を交えるしかなかった自分達とは違い、共に並ぶその姿は感慨深い。

太陽と月。
天を照らすその光は闇を裂き、必ずや未来を指し示すだろう。

ヤツキは神刀凄王をメイヤへと投げ渡し、彼へと頷く。
言葉は要らない、刀に込められた想いが伝われば良いのだ。

頷き返すメイヤの視線を受けた後、ヤツキは自分の足元へ瞳を移した。
ステラを抱き抱え、立つその足元はゆっくりと、しかし確実に光の粒子となって消えていくのが見て取れた。

もう、時間は無い。
時を越え蘇った身体を動かしていた現世に存在しようとする力、ソレが枯渇したのだ。

視線を足元からイスラへ、イスラからサンディとメイヤへ。
そして、その更に後方へ。

空間を跳び越え、この黄昏の地へ降り立った一団の顔触れに、ヤツキは再び頷いた。
闇の王子と黒十字の幹部、ポセイドンと彼等の血縁者達。

懐かしい顔触れと、見知らぬ面々。
イスラと自分、サンディとメイヤの様に彼等も“そう”なのだろう。

778ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:16:39
「久し振りだな。
だが、思い出話に花を咲かせる時間は無いらしい。」

既にヤツキの身体は膝下が光となって消え、肩先や末端部分も粒子となりつつあった。
言葉通り、時間はない。

「聴いていただろうが、俺は役目を全うした。」

100年前は敵対した者達が、今はこうやって同じ地を、仲間として踏み締めている。
時を越え、世代を越えた力と想いがあれば。

ーー必ずや、上手くいく。

「世界の免疫力とも言える闇が集まり、溢れるこの闇の巣と黄昏の塔。
闇を管理し、使役していたステラが逝くとならば、誰かがその任を継がなければならない。

今はまだ抑え込まれているが、ステラと言う制御系を失えば、この無尽蔵の闇は世界を食い尽くすだろう。
だが、適性を持った誰かが、闇を使役し、この塔諸共地中深くに沈めてしまえば……」

ーージュノス、後は任せる。

「一時的にだが闇は活動を停止する筈だ。
強度と高さは問題無い、沈み込めば地殻を超えて核へ届く。」


ーーセナよ、今こそその力を発揮する時だ。

「幸い、今この場に闇の素養を持つ者は数多く居るようだ。
話し合って、決めるといい。

……素養が無い俺は剣を振るうしか出来なかった。」

闇の素養を持つ者、闇の王子であるセナとリト。
二人に仕えて来たジュノスとアブセル。

吸血鬼であるノワールと、異界の闇を宿していたメイヤ。
人柱になれ、と言うしか無いのは辛いが、今はそうするしかないのだ。

「そろそろ、時間か。」

視界に映る面々を見、ヤツキは静かに目を閉じた。
そして、抱き抱えるステラと共に、その身体は光に包まれる。

その様は淡雪が舞い、溶ける様に夜空へ散り、月明かりがそれらを照らして輝いた。

ーーイスラ、悪いが先にいく。
ーーお前と共に戦えて……




ーーステラ、いや、スピカ。
お前は一人じゃない、大丈夫だ。
俺が居る、だから、安心して眠ろうーー

779ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/20(木) 01:22:32
てな訳で、リト達アブセル達一段落着いたら塔頂上に集合でお願いします、行き方はラディックルドラの空間転移で。

かなーり強引な集合の仕方かつ確定ロルになって申し訳ないorz

780イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/21(金) 02:32:23
ヤツキさん、レスありがとうございます^^

ちょっとこのスレのまとめWikiみたいなものを作ろうかと割りと本気で考えているんですが…、作ったら二人とも参加してくれます…?

取り合えずここの三人しか閲覧、編集できないようにしてー…
世界観とか用語とかキャラクター紹介とか、ストーリー上では説明しきれなかった部分も多分あると思うので(自分はあるw)
まぁそうゆうのも含めて、自由にまとめちゃってください的なページ(笑)…いかがです?

781ヤツキ ◆.q9WieYUok:2017/04/21(金) 11:31:07
>>780
自分は賛成っす、ログもそこに残せたら完璧じゃないすか!
勿論参加しますよー、裏話的な沢山あるし…(笑)

782ジル:2017/04/22(土) 00:19:49
【ポセイドン邸】

フロンはわざとヨノに聞こえるよう、彼女の父親を殺した事実を告げる。
それはヨノを傷つけようとしてるのか、はたまた、彼女を傷付けたくないと願うジルへの当て付けか。

背後で息を飲む気配がした。事実を知ったヨノが衝撃を受けているのだろう。
・・・あぁ、また失った。

「そうだよ。」

フロンはジルの、どんな表情を願っているのだろう。どのような反応を求めているのだろう。
相手の呼吸を感じとれる距離。ジルは取り乱した様子もなく、ニコリと微笑んだ。そして不意にフロンを抱き込んだ。

「君が初めてだよ。こんなにも僕の事を理解してくれているのは。君は僕がどんな人間か知っている。」

そしてその背に鋭い刃を這わせる。

「だから、分かるよね?」

かと思えば、そのままフロンへ押し付けた。鈍い感触がジルの手に伝わった。

「僕は簡単に人を殺せるって。いい加減目障りなんだ。」

愛してる?今まで何度もその言葉を聞いた。寒気がする。

「僕を怒らせないでよ、ほんと疲れるんだ。」

783ジル:2017/04/22(土) 00:20:20
はーい、参加します( • ̀ω•́ )✧

784イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/22(土) 18:53:03
二人ともありがとうございます^^

まだ基本操作とか把握していませんが、取り合えず作るだけ作ってみました
seesaawiki.jp/key-twilight/

このサイトのアカウントを作って、ページ右上の、メンバー募集ってとこをクリックすれば参加申請できるみたいですので
まぁ気の向いた時にでもぼちぼち編集してください^^

あ、多分PC版じゃないと編集できないと思います

785リト、ルイ:2017/04/24(月) 12:23:35
【冥界】

「いつまでそうしているつもりだ?」

痺れを切らし、ルイはリトへと声をかける。
ヨハンが扉の奥へ消えてからずっと、彼は閉ざされた扉の前に座り動かない。ただじっと扉を見つめていた。

「父親が消えて哀しいか?」

「・・・いや・・・」

正直よく分からない。ただポッカリと胸に穴が空いてしまった、そんな物足りなさはある。

「混乱はしてる・・・かも。散々痛めつけてきたくせに、本当は大事だったとか意味わかんない。」

「人間の考えなど予測出来るはずもない。この世の生き物で一番不可解な存在だ。」

ルイは頬杖をつき溜息を漏らす。自分にも思い当たる者がいた。愛するが故に苦しめたい、殺したいと言ってのけた者が。

「・・・なぁ。」

扉を見つめたまま、リトはふと気付きルイへ声をかけた。

「一応父親とは和解した・・・と思う。実際あの人は逝っちゃったし。だから、俺も帰れると思うんだけど・・・」

思い残すことがなくなればあるべき場所へ還るはずだ。何故自分はまだこの場所にいるのだろうか。

「戻りたいか?」

「勿論」

このまま黄泉へ行けとでも言うのか。ルイの問いに若干不審感を抱きながらリトは応える。

「アンヘルに俺はまだ生きてるって聞いた。」

「間違いない」

「なら、戻れるはずじゃないの?」

「お前を思い留める枷が父親の存在では無かったということだろう。」

「は?」

それはどうゆう・・・

訳が分からない、リトは眉を潜め、そして漸くルイへ向き直った。
ルイは再び溜息をつくと、今度は真剣な表情でリトを見据える。

「どちらにせよお前は思い違いをしている。お前の担う役目は世を滅ぼす為の道具でも、闇を管理することでもない。以前教えたはずだ、世界は元来複数存在し、今その均衡が乱れていると。」

言われてリトは思い返す。たしかに聞いた。ルイは手を出せない為、リトに役目を託すと。

「あんたが手を下すと歪みが酷くなるって言う・・・?」

「いい機会だ、特別に全て話してやる。・・・お前にとっては酷な話になるやもしれんが。」

言ってたルイは立ち上がる。

「お前には荷が重いと言うのであれば、このまま生を終わらせるとの選択もある。全て知った上で選べ。」

786フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/25(火) 00:26:34
【ポセイドン邸】

ふいに身を抱き竦められ、フロンは息を呑んだ。
しかしその直後、背に突き刺さる鈍い痛みに彼の行動の意味する所を知る。

「くふッ…」

口から漏れるのは、苦悶とも愉悦とも取れる声。
フロンは唇の端から血の零れる顔を上げ、ジルの瞳をじっと見つめて言った。

「…あなたのこんな姿を、その女の人は見たかったでしょうか…?」

でも。

「私にとっては期待通りです」

あの日ジルと話して確信した。何をしても、どんなに言葉を尽くしても、自分が彼の心の中に入り込むことなど不可能なのだと。

そもそもフロンにとって恋とは、その相手を食べることで成就するものである。食べるとはまさに本当の意味で、肉を貪り、骨を舐り、血をすすって臓物まで自らの体内に取り入れること。
愛しい余りに手にかけるのではない。
愛する者の血肉を喰らい、彼らと一つになることで、彼らの存在はフロンの中で永遠に生き続けるのである。
そしてそれこそがフロンの究極の愛の体現であった。

もちろん、ジルにも同じことをするつもりだった。
しかし、彼は今まで好きになった男達とは違った。
フロンの正体を明かした時も驚かなかったし、彼を咀嚼しようとした時も、悲鳴も上げなければ命乞いをすることもなかった。
元より彼はフロンのことなど眼中になければ、関心を抱いてさえいなかったのだ。言ってしまえば、どうでも良かったのだ。

男の恐怖する反応を期待していた部分もあった為、彼女はその時ほど肩透かしを食ったこともない。
そしてどういう訳か、それがフロンの琴線に触れた。

次第にただ食べるだけでは満足できなくなった。
彼にも自分の存在を覚えていて欲しいと思うようになった。
彼の存在をフロンの中で永遠にするのではなく、彼の中でフロンの存在を永遠にして欲しかった。

だからフロンは彼の記憶に残る為にここにきた。

「…あなたは自分で思っているほど悪人になりきれている訳じゃありません。人を殺めれば少なからず罪の意識を覚えるし、大切な人を失えば傷つきもします」

言ってフロンはジルの胸に頭を、体重を預ける。

「あなたはこの刃の感触を忘れない。その胸の痛みを忘れない。
…私のことを忘れない。この先、あの女の人のことを思い返す度に、私への憎しみを思い出してください」

フロンの目的はジルの心に傷をつけること。そして彼の手で最期を迎え、その傷に自分の存在を刻み付けること。ヨノはその出しに利用したに過ぎない。
まるで呪いか何かのように…それしかジルの記憶に残る術を、フロンは思いつかなかった。

「ねえ、ジルさん…」

そしてフロンは新たな呪言をジルに与える。

「フェミル様を殺した…って言ったら、…どうします?」

嫌って欲しい。憎んで欲しい。愛して貰えなくたって、無関心でいられるよりは、そっちの方がずっとマシだと思える。
どんな形であれ、少しでも彼の心に残ることが出来たのなら、それ以上のことはない。

「ジルさん…、大好きです…」

そしてフロンは偏執的なまでの愛を囁いて、自らの血で赤く染まった唇を、ジルのそれと重ねた。



【リマ>フロンはもう殺してしまって構いませんよー。首とか落とせば流石に死ぬので(笑)
因みにフェミルを殺したってのは嘘です。最後の揺さぶりです。


二人>Wikiの方に相談用の掲示板つくりました!】

787ジル:2017/04/26(水) 14:17:00
【ポセイドン邸】

(・・・は?)

フロンの言葉にジルの思考が止まる。
何を言っているのかと、理解を拒んだ。

この女は今、何と言った?
聞き返す間も与えず、フロンはジルの同意もなく言葉を阻む。
鉄の味が口内に伝ってくるが、そんなものジルにはどうでもよかった。

そして、そんなフロンの行動を遮ったのはジルではなく。
彼の背後で終始を目の当たりにしていたヨノが、気付けば二人に割って入りフロンを突き飛ばしていた。

「あ・・・私・・・」

ジルの背が死界となりフロンがどんな状態であるのかまでは把握していなかったのだろう。
仰向けに倒れたフロンの体から絶え間なく滲み出る赤に思わず口を覆う。

「・・・殺してやる・・・」

思わず意識が遠のきそうになったが、耳についたジルの低い声に正気に戻る。
恐る恐る振り返ると、表情が「無」とかしたジルが血に染まったナイフを握りしめブツブツと呟いていた。
しかしその声はやがて大きくなっていき・・・

「殺してやる!!」

ナイフを振り翳しフロンに襲いかかろうとしたところを、ヨノは必死で押さえた。

「ジル!駄目!!」

「放せ!フェミルを殺した!殺してやる!」

「落ち着いて!お願いだから!!」

「フェミルが!フェミル!死・・・僕のフェミル・・・っ」

気が動転し、感情が昂り、このまま行けば最後には、

「フェミ・・・ゲボっ・・・うっ」

案の定、過呼吸を起こした。
ヨノは自分の服が汚れるのも構わずジルを抱き寄せる。

「落ち着いて、いい子だから」

自分の体にしがみつくジルの手の力が強く痛みを感じる。
彼の背を擦りながらヨノは胸を締め付けられるような気持ちになった。
この子は今までどんな暮らしをしてきたのだろう。きっと、想像を絶するに違いない。

「ジル、ごめんね」

貴方のことを早く見つけてやれなくて。

ジルの体は抑えの限界に来たようで、やがて糸が切れるかの如く意識を手放した。
その体をそっとその場に寝かせ、ヨノはフロンの元へ歩み寄る。
傍らに膝をつき、静かに口を開いた。

「傷が深い・・・ごめんなさい、私の癒しの力は姉より強くはないから、貴女を助けてあげることは出来ない。」

とても冷静で、聞きようによっては冷たく感じるかもしれない。
ヨノは咎めるような、しかしどこか哀れむような目で見据えてそう伝えた。

「最期に教えてくれないかな?フェミルを本当に殺したの?」

死を目の前にした人の前で何の手も施さず、また、その人の身を案じることもなく別の事を気にかける。
自分の知らない汚い面を見た気がした。自分は今、目の前にいる少女を見殺しにしようとしている。

・・・けど、彼の横に並ぶには、ここまで汚れた方が良いのかもしれない。

「ジルの事好き・・・よね?あんなことまでしたのだから。なら傷つけないで。このままだと貴女も楽になれないと思う。本当のことを教えて。」

788リマ:2017/04/26(水) 17:37:09
ヤツキ>>771

10年・・・もうそんなになるのか|ू・ω・` )
そう言えば初めて会ったとき自分はまだいたいけな高校生だった気が(遠い目)
あぁ懐かしき制服・・・てかあの頃勉強そっちのけで話の内容考えてたわwww

うーむ・・・カラーイラスト久しぶりに描きたい気もする。
でもネタが思いつかぬ(๑•́ω•̀๑)


イスラ>>770
実際藍ちゃん消滅仕掛けたんです(٭°̧̧̧꒳°̧̧̧٭)
なんか藍ちゃんと藍ちゃんの元になった人物は実は繋がっていて、藍ちゃんが観るもの感じるもの全てソイツに伝わるようにしてあったんです。ソイツ植物人間ナウで、藍ちゃん作った博士はソイツの叔父なのでソイツを目覚めさせたいがために藍ちゃんを利用してた的な。で、その頃藍ちゃんはレイジが自分とソイツを重ねて見てたことに気付いて傷心中だったので、「皆は本当は僕自身を見てくれてない」「僕は利用されてるだけ」「どいつもこいつも!」ってな感じでブチキレてソイツと繋がっていたプラグ的なのぶち抜いちゃって。そしたら藍ちゃんの命になるマザーコンピュータ的なのが壊れちゃって、一ヶ月後には機能停止するとのまさかの余命宣告。一ヶ月後はライブ?あり。僕死んじゃう。でもハルカの歌歌いたい。→藍ちゃん涙。
で、最期の力を振り絞って当日に歌ったのがその歌なんです。なので遺言書。
その歌、藍ちゃん主演映画「人魚の涙」(だっけ?)の主題歌で、人魚の王子様たる藍ちゃんはその日以来消息不明になりました。

藍ちゃんに踏まれるなら本望・・・いや、藍ちゃんロボットだから見た目に反して激重だった。踏まれたら死んじゃう。←
えー、女子を所望ですか。ではカマテットナイト・・・じゃなかった、是非とも藍ちゃんの女装を検索してみてください。公式で女装した事あるんで。生意気な女子高生姿でカワユイです(笑)

生意気といえば昨日読んだcomicoのマンガ「ロヂウラぐらし」でイスラさん好みのロリ娘ましろちゃんのおめかしした姿に、リマ好みの主人公"にーたん"が照れながら「似合ってますよお嬢様・・・なまいき。」って言ったのが最高にツボで心臓ぶち抜かれました。なまいきって何ぞ?なまいきって何ぞ!?

どこからそんな金が湧き出るのか・・・←

伯爵様はキャラ濃すぎです。コーヒーの中に角砂糖山盛り入れるし。

他にイイ男がいないのも理由の一つですけどね(笑)
幼いながらにトーマに「愛人でもいい」と言ってのけた恐ろしい子です←

ノワール不憫だ・・・(笑)

特に全く理由はないです←

良かった、ぬいぐるみのままだったらどうしようかと(笑)

ある意味呪われた一族ですね(笑)

喜怒哀楽の激しいアブセルが近くにいたお陰でリトはちゃんと情緒を身につけることが出来たんですね・・・(ホロり)
リトの誕生日にエロ本をプレゼントしてたナディアの苦労も報われます←

余談了解しました( • ̀ω•́ )✧
結局爺の業が最後まで響いてるんですね・・・(笑)


あ、フロンどうトドメ刺そうか悩んだんだ結果、上手く表現出来なくてあんな感じにしちゃいました(>人<;
何かフロンの思惑通りになるのも癪だったので← チューされたし←←そのせいでヨノさん激おこですよ←

789フロン ◆Hbcmdmj4dM:2017/04/29(土) 12:35:38
【ポセイドン邸】

血溜まりに沈むフロンは怒りに息を荒げ、傍らに膝をつくヨノに鋭い視線を向ける。

「どうして…邪魔をしたのですか…?あともう少しでジルさんの手で…ッ」

しかし言葉の途中で喀血し、大きく咳き込んでしまう。
どうやら思ったよりも傷が深いらしい。
血を失い過ぎたことで身体も動かせず、最後に憎き女を手にかけることも出来ない自分に情けない気分になる。

…彼女を侮っていた。
父親がジルに殺された事実を伝えれば、彼を拒絶するだろうと思っていた。
これはヨノのことを軽視していたフロン自身が招いた結果でもある。

だが、ジル自ら止めを刺して貰うことこそ叶わなかったものの、彼の憎しみは十分に植え付け、その思惑の半分は達成したと言える。

どうせ自分が死ぬことに変わりはなく、ジルが虚空城に帰還すれば分かることだと、フロンは天井を見上げたまま息も絶え絶えにヨノの望む答えを提示する。

「フェミル様は…生きています。殺そうかと思いましたが…今、あそこには入れない、から…」

フェミルが居る虚空城には強固な結界が張られ、フロンでも浸入することが不可能になっていた。

「でも…遅かれ早かれ、あの子の存在が消えることに変わりはありません…。そう言う…運命、ですから…」

彼女の言う運命とは、フェミルの黄昏の花嫁としての役目のことを指しているのだろう。
そうして兄妹の悲惨な末路を想像し嘲笑うフロンは、口元に笑みを携えたまま、静かに息を引き取った。

790ナディア他:2017/05/09(火) 00:02:39
【ポセイドン邸】

「爺・・・」

どんなに最低な相手で理不尽な態度を取られようと、従者として身分を弁え決して無礼な行動をとらない爺。その彼が、暴動を起こしそうになった一族を次々と力で押さえつけている。
彼らより位が上であるナディアやセナを優先しての行動か、それにしても・・・

「爺、大丈夫か・・・?」

父を静かに見送ってくれと頭を下げる爺の肩は震えていた。実の子ですら彼の死に対し感傷に浸ってやることは出来ないのに、爺は悲しんでいる。父親としては最低な人だったが、上に立つ者としては信頼における相手だったのだろう。貧しい家庭に生活の援助をしていたし、身分に関係なく能力のある相手を迎え入れ仕事を与えていた。リトへの態度ばかりに目がいってしまっていたが、思い返せば他の面では尊敬出来ることが沢山あった。

(ごめん、父さん・・・)

相手に目を向けていなかったのはナディアも同じだったのだ。

「・・・」

子を先に失くす気持ちとはどのようなものだろう。
棺桶にいる人物に僅かに残っていた氣の残滓と、自分を庇い目の前で頭を垂れる男の氣から同じものを感じ取り、セナはこの二人が親子であることを悟る。恐らく公にはされていない事柄だ。
自分も巷では死んだものとして扱われた。唯一の肉親であったらしい父は自分を亡くし、どのような思いでいたのだろうとふと考えを巡らす。リマはとても悲しんでいたと言っていたが、正直良く分からない。父は亡骸が息子の背丈と同じだからと我が子であると信じて疑わず、子の死を受け入れたのだ。本当は生きていたのに。簡単に自分を諦めた父に、果たして悲しむ資格はあったのだろうか。

「セィちゃん・・・?」

どこかぼんやりしているセナに気付き、リマは気遣わしげに声をかける。
リマの声を聞いて同じくその様子に気付いたナディア。具合が悪いのか。休息を促そうと彼の肩に手を伸ばす。

その時だった。

ベルッチオの行動に一時は静まりかけた斎場が再びどよめきだした。
皆入口の方へ顔を向けている。

「え・・・」

何事かとナディアも視線の先に目を向けた。そしてその目に驚愕の色を見せる。

「・・・リト?」

開け放たれた扉の前に立つ人物、それは現在眠り続けているはずの弟の姿で。

(目覚めたのか?いや、と言うか今来られたら・・・)

案の定、周りはセナとリトを交互に見て混乱の色を見せている。
斎場がどよめく中、しかしリトは真っ直ぐに奥へと足を進める。そして、その後ろを白百合を咥えた黒猫が続く。

その様子を見計らったかのようにセナは何も言わず、リトとは逆に出口へ。
すれ違い様にリトはセナを見るも、対するセナは何の反応も示すことなく斎場を出ていった。リマが慌ててその跡を追った。

「リト、あんた・・・」

爺の側を過ぎナディアの横に立つ。無言で棺桶の中を見つめるリトに、ナディアは何か言わなければと考えるも、言葉が思いつかない。

「ホントに死んでたんだな」

そんな中、リトが先に口を開いた。
彼は何処か嘲るように言葉を紡ぐと、連れた黒猫から白百合を受け取り、ヨハンの亡骸に沿える。

「間に合ってよかった。あんたにまだ言い忘れてたことがあったんだ。」

許すことは出来ないけど、理解は出来ると言った。
いつか必ず生まれ変わって、もう一度自分に謝罪し、許す機会を作るよう伝えた。

「約束、守ってよね」

ヨハンの亡骸はなぜだかとても穏やかだ。今まで彼が抱えていた闇から解放された安堵感が伺える。彼も苦しんでいたのだ。

「生まれたことは後悔してない。安心して逝って。さよなら、父さん」

791リマ他:2017/05/12(金) 07:47:31
【ポセイドン邸】

「セィちゃん待ってっ」

斎場を後にするセナを追い呼びかけるが、彼はリマの声に振り返ることなく歩みを進める。

「待っ・・・ひゃっ」

彼が足を止める気はないのだと悟り、ならばと駆け出すも自分の足に躓き転びそうになる。態勢を崩したリマの体をそれまで反応のなかったセナがすかさず受け止める。

「ありがとう」

笑いかけるリマにセナは困惑の色を浮かべた。

「・・・何故、お前はいつも追ってくる?」

「傍にいないと不安なの。セィちゃん、消えちゃいそうで・・・」

幼い頃、セナがいるのが当たり前の日常で、突然彼はいなくなってしまった。
今のセナは何となく、あの頃のセナよりもとても脆く儚く感じるのだ。目を離したら消えてしまう、そんな不安に駆られる。

何を言っているんだ、と思ったが、リマの表情を見ると本気なのだと分かる。
縋るように掴む彼女の手に自分の手を重ね、セナは彼女を見つめた。

「いかない、何処にも。お前が望む限り。ただ・・・」

言いかけ、止まる。

なんだ・・・?

それまで何もなかったはずが、突如、プツンと糸が切れるように、異様な空気が流れ込む。

血なまぐささと、死臭と、異能の気配・・・

(結界が張られていた・・・?)

なんと高度な。セナですら気付かなかった。
しかし驚いている場合ではない。
この異様な気配の渦の中に、見知った氣をいくつか感じるのだ。

「セィちゃん・・・?」

「・・・お前には・・・」

衝撃が強すぎるかも知れない。しかし彼女の力が必要な場合も・・・

セナは苦渋の決断とばかりにリマの手を取ると、そのまま気配の方へ向かった。

-----

予想通り・・・いや、予想以上か。

「・・・っ」

あたり一面に飛び散った血。そして血溜りの中に倒れる少女に、その傍らでドレスを赤く染め呆然と座り込むヨノの姿。
傍には見知らぬ青年が倒れており、その更に奥には・・・

「アブくん・・・!」

同じく血溜まりを作り倒れるアブセルと、嗚咽を漏らすユニの姿を見つけ、リマは駆け寄った。

「アブくんしっかり・・・!」

「ユニのせいです・・・っユニのせいでっアブセルさんがっ」

「大丈夫、まだ息がある」

虫の息だが、辛うじて感じる生命の灯火にリマは安堵する。
生きていれば、助けられる。

リマが手を翳すとあたり一面に光の粒子が現れ、アブセルの体を包み込む。
そしてその光が消えた其処には傷が見る影もなく消えているアブセルの姿があった。
そしてリマはアブセルの口を少しあけ、手で皿を作る。彼女の手皿の中に泉のごとく水が湧きあがり、それをアブセルの口に流し込んだ。ポセイドンの生み出す癒しの力、命の水だ。

「アブくん、起きて。私が分かる?」

792ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/12(金) 12:26:45
【ポセイドン邸】

出過ぎた真似をしてしまったばかりか、よもや当主にいらぬ気遣いまでかけさせてしまうとは。
ベルッチオは下げていた頭を上げると、申し訳が立たないとばかりにナディアに目礼で応じ、今だ震えの止まらぬ手を背後に回し、脇へ下がろうとする。
…丁度その時だ。
突如として広間の扉が押し開かれ、直後、斎場にどよめきが走る。

「…リト…坊っちゃん……?」

扉を潜って現れた人物に、ベルッチオは信じられない想いを抱いた。
他の参列者と同様に、リトとセナを交互に見比べては、その顔に動揺の色を浮かべている。
ただ平静を取り戻すのも早かった。それは彼がこの屋敷に長年仕え、そこに住まう人物の性分を少なからず把握していたからこそだろう。

屋敷に戻ってからというもの、アブセルが何やらこそこそとしていたことは気づいていた。
どのような術を用い、そこにどんな真意があるのかは定かではないが、恐らくはナディア達と一緒になって悪巧みでも企てたのだろう。
そしてこうして見比べてみれば、たった今現れた彼がリトだと、そう確信が持てる程には思うものもあり、
むしろなぜ気づけなかったのかと、恥じ入るばかりだ。

そんなベルッチオの脇をリトが通り過ぎる。

棺の中の父親と向き合うリトに、その口から発せられた言葉に意識を奪われる。
彼がヨハンを父と呼ぶのを初めて聞いた。いや、そもそもリトが一度だってヨハンと言葉を交わしたことがあっただろうか。
父親の死を静かに受け止めるリトの横顔は、湖の水を湛えているかのように澄みきっていて、何故だか全く知らない人のようで…。

不意にベルッチオはその顔を見ていて、思わず泣きそうになった。
今までに抱いたこともない感情が込み上げてきて、堪えきれず瞼の奥に熱いものが集まってくる。
何故そんな風に感じたのかは分からない。何故こんなにも胸が熱くなるのかも。
ただ強く目を閉じて、その波が過ぎるの必死に待った。

…この子はこんなにも堂々としていただろうか、こんなにも吹っ切れたような表情をしていただろうか。

ベルッチオの眼にはいつだって、部屋の片隅で一人、積み木を弄っていた幼子の姿が残っている。
死を待つばかりの儚い存在。もちろん可愛く思わない訳がない。
だがそんな子に下手に情でも抱いてしまえば、"その時"が来たとき、居ても立ってもいられなくなる。

故にずっと目を逸らし続けてきたのだ。
見ないようにして、見ないようして、真実からも現実からも背を向けて。
その間に彼はこんなにも美しく、立派に成長していたというのに。

その母親によく似た顔立ちの中に、確かに宿るヨハンの面影を垣間見て再び心が揺さぶられるのを感じた。

「…最期に、旦那様とお話されたのですね」

彼は努めて平静を装うと、静かな声でリトに語りかけた。
まさかそれが死後の世界でなど、想像にもしないが。

ただヨハンは最後に自身の想いをリトに伝えたのだろう。
だから、リトは今ここに、こうして立っているのだ。

「………」

何を思ったのか、ベルッチオはリトに向けて粛々と頭を垂れた。

言うべきことは沢山あったと思う。謝るべき言葉も、伝えるべき言葉も。
果たしてそれをする資格が自分にあるのかどうかも分からない。だがそうせずにはいられなかったのだ。

道具として生まれ、その存在を隠匿され続けた幼少期。そしてその存在が明るみになるや、今度は悪しきものとして害されることとなった彼の生を、17年という時を経て、ようやく表だって歓迎できることに…

「…お帰りなさいませ、坊っちゃん」

老人は溢れんばかりの感謝の想いを胸に、最大の敬意を込めてリトを迎え入れたのだ。

793アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/13(土) 06:49:41
【ポセイドン邸】

誰かに名前を呼ばれているのが分かった。
どこかで聞いた覚えはあるのだが、上手く思い出せない。
ただ、ひどく心地の良い響きのする、優しい声だった。

その声に呼応するように温かい光が差し込めて、そっと意識を掬い上げられる。
それが現実への帰還を意味することは本能で理解していた。

ふと少しだけ、名残惜しいような想いに駆られる。
このまま眠っていれば、ずっとその声を聞いていられるのに。…ずっと名前を呼んで貰えるのに――。


ぼんやりと瞼を開ければ、まず初めにこちらの顔を覗きこむ何者かの姿が目に映った。

(誰…?お嬢?ヨノ姉?)

ピントが乱れて曖昧なシルエットを探るように、その輪郭を捉えるべく目を凝らす。
ぼやけていた線は次第に明確な形となり、そして一つの姿を導きだした。

「………」

そこに居たのは亜麻色の髪を長く伸ばした少女であった。

「リマね…!?うぇっ…ッゴホ…‼」

それがリマだと分かるや、アブセルは咄嗟に上半身を持ち上げる。
距離を取るべく行動に移すが、動揺と喉の奥に残っていた水分とが相まって噎せかえってしまう。
しかも…。

「うわっ、何だこれ!?」

床に手を置いた途端、ぬめりとした異質な感触を拾い、反射的に手を引っ込める。
見れば両手が真っ赤に濡れていた。

これは一体…。
混乱する頭を必死に回し、アブセルは辺りに目を走らせる。

ユニに、ヨノに…その顔触れを見た途端、ぴしゃりと水をかけられたかのような感覚に陥る。一気に目が覚めた。

「ユニ!ヨノ姉!無事!?」

思わず身を乗り出して、声を荒げていた。
ヨノのドレスは真っ赤に染まってはいるものの、見た限り彼女に傷のようなものはなく、どうやらそれは別人の者の血であることが分かる。

アブセルは二人が無事であることに胸を撫で下ろすも、しかし次にはこの異様な状況に意識が移る。

廊下には血の水溜まりが出来上がっており、周囲は夥しいほどの濃い血の臭いで満ちている。
そして傍らに倒れる二人の人物…。

「これ、何…?どう…なってんの?」

心の内の困惑を隠すことなく、アブセルは疑問を口にした。

794アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/13(土) 06:52:51
リマ>ソイツって言い方に何か敵意を感じる…ww
てか想像以上に重い話でびっくりしました
消息不明イコール消滅したって訳ではないんですか?

重いんだ(笑)そんな藍ちゃんを抱えられるレイジは一体…w
カマテットナイトって何www
いや可愛いけど、そうじゃないんですよ!
女装した男の娘に膝まずくとか、それ何かに目覚めてるだけだから!←

ましろちゃん可愛い(´ω`*)←

角砂糖ww甘党なのか(笑)

ナディアってその頃中学生ぐらいですよね…?
すごい子だ…!
てかエロ本は絶対面白がってやってるだけでしょ(笑)

ヨノさん激おこでしたかwwスマソw←

795リマ他:2017/05/15(月) 13:09:49
【ポセイドン邸】

呆然と座り込みフロンの亡骸を見つめるヨノであったが、近づく者の気配を感じふと顔を上げる。
それがセナだと分かるや、途端張り詰めていたものが解けたかのように震えだした。

「セナくん、どうしよう・・・。お姉ちゃん、人を見殺しに・・・」

あの時点で手の施しようはなかった。しかし、ナディアであったなら助けられたかもしれなかったのだ。すぐに引き返し彼女を呼んでくることも出来た。しかし、自分はそれをしなかったのだ。

セナは彼女の言葉には答えずにフロンへ目を向け、そしてジルへ目を向けた。
先程の結界を張ったのはこの者か。そして、この惨劇を引き起こした張本人・・・

セナがジルを見ていることに気付いたヨノは、震えたままで慌ててセナを止める。

「ダメ!この子は悪い子じゃないの・・・。だから何もしないで、お願いっ」

この状況下で何を言っているんだと感じたが、彼女は必死だった。
ふとリマへ目を向ければ、彼女はヨノの言葉を聞いてやれと目で伝えてきた。

「アブくん、よかった・・・」

リマはセナから視線を戻すと、目覚めたアブセルへ安堵の表情を浮かべる。
その横ですかさずユニがアブセルに抱きつく。

「アブセルさん、ゴメンなさいですぅ!!」

生きててよかった、助かってよかった、ユニは泣きべそをかき続ける。

状況を読み込めない様子のアブセル。しかしそれ以上に今此処へきたリマも状況を把握できない。ユニに聞いても泣くばかりで・・・

「その血はアブくんのだよ。死に掛けてたの。大丈夫?何があったの?」

796アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/05/19(金) 00:37:35
【ポセイドン邸】

「ユニ。お前…、元に戻ったのか…」

泣きべそをかくユニの姿からは洗脳の形跡は見受けられない。
アブセルは彼女が正気に戻ったことと無事であったことに素直に喜ぶも…しかし謝るにしても何もそんなに泣くこともないだろうにと疑問符を浮かべるばかりだ。

その答えはリマの言葉で明らかとなる。
あっさりと死に瀕していたという事実を聞き、アブセルは驚愕の声を上げた。

そんなに危ない状況だったとは。不意をつかれた為によく覚えていないのだが。
どうやら助けてくれたのはリマであるようだ。以前のお礼もまだ返していないというのに、彼女には本当に迷惑をかけっぱなしだ。

「ありがとう。その…リマ姉には度々面倒をかけて申し訳ないと言うか何と言うか…」

そこでふとアブセルは夢の中で聞いた声がリマのものであったことに気づいた。
途端、その時に抱いた感情なんかも一緒に思い出してしまい…
込み上げてくる気恥ずかしい想いに、人知れず身悶えするアブセル。
しかしリマから状況の説明を求められるとその表情も一変。曇ったものへと変わる。

「あー…、えっと、それは…」

口から漏れるのは歯切れの悪い返事だ。
頭を強く打った為に記憶に支障をきたしている…という訳でもなさそうだ。
どうやらそれは問題を起こした人物を庇っているようでもあり…

ふとアブセルはジルを見る。

「ヨノ姉…、その人のこと知ってんの?」

この青年は本当に自分の知る彼なのだろうか。
未だに確信を持てないでいるアブセルは、ヨノに聞けば自身の求める何かが分かる気がして口を開いた。

797リト他:2017/05/28(日) 20:59:04
【ポセイドン邸】

リトの傍らに控えていた黒猫がふと彼の傍を離れる。鈴の音を鳴らし向かう先にはリトを扮したセナに怯えながらも何とかその場に留まり耐えていたミレリアの姿があった。
彼女はずっと震えて目を閉じていたために本物のリトが現れたことも、セナとリトが入れ替わったことにも気づいていなかった。
ふと気配を感じ目を開けると、紫色の瞳に見据えられていた。

「猫ちゃん・・・?」

惹き込まれるような色。綺麗だなと思って見ていると、不意に猫が鳴く。途端、目眩を覚え視界が歪む。
倒れかけたところを慌てて支えてきた侍女がぼんやりとしている彼女に必死に呼びかけて来る。しかしミレリアの耳には、何故か違う者の声が聞こえてきた。

「ミレリア」

それは今はいない、もうこの先聞くことのない愛しい人の声。

(ヨハン様・・・?)

「まだ眠いのか?まったく・・・こいつも母親を見習えば良いものを、まったく寝付かんのだ」

(え?)

ぼんやりとした視界にヨハンが写る。そして彼が苦笑しながら、自らの手に抱く何かを見下ろしていた。お包みの中から小さな白い手が見える。

「その子は・・・?」

「なんだ、寝惚けているのか?」

言ってヨハンはお包みをミレリアに渡す。恐る恐る見ると、真ん丸とした赤子が笑いかけてきた。

「私の赤ちゃん・・・」

「・・・本当は、こうなるはずだった。私が道を踏み外さなければ。悪かった、ミレリア。この子をお前に返すよ。」

赤子を見つめ涙するミレリアの頭をヨハンが優しく撫でる。これは夢。分かってる、しかし何故こんなに鮮明なのか。

「俺は手遅れだが、お前は間に合う。
騙して悪かった、この子は死んでいない。立派に成長したよ。探してやってくれ。」

その言葉を残し、ヨハンは消えていく。
そして、ミレリアの意識は現実へ。

ぼんやりと色を失っていた瞳に輝きが戻る。
ミレリアは慌てて自分の手元を見る。
お包みも赤子もいない。
あれは夢・・・でも・・・

黒猫が素知らぬ顔で欠伸をしている。

ヨハンが伝えたかったこと、それは・・・

「私の赤ちゃん・・・」

必死で辺りを見渡す。ヨハンが今教えてくれた、死産だと聞かされたあの子が生きていると。闇に殺されたはずよあの子は生きている。

「どこ・・・私の・・・」

そして一つの答えに辿り着く。
我が子を奪った憎き闇、恨んで恨んで虐げてきた・・・

ミレリアは一つの人物を視界に捉え、涙を流す。
ヨハンが渡してきた赤子と同じ髪の色、自分と同じ瞳をした少年が棺の中に花を添え話りかけている。

あの子は我が子を殺した張本人、敵、・・・違った。

798リト他:2017/05/28(日) 20:59:37
----

「・・・そうだな。」

何をもって父と会話したのか、おそらく爺は見当もつかないだろう。
しかし何故か確信めいて発せられたその言葉にリトは素っ気なくも肯定を示す。
顔を上げれば自分に恭しく頭を下げる爺の姿が目に入り、その奥で呆気に取られた様子のナディアを捉える。

柄にもなく派手な事をしてしまった。あの時はヨハンの死に目に会うことに頭がいっぱいで、今になって急に小っ恥ずかしさがこみ上げてきた。

「えっと・・・」

何か言わなければ、そう思ったのも束の間、急に何かがぶつかってきた。
そして、それがぶつかったのではなく抱き竦めらたのだと気づくのに時間がかかってしまった。

「は?何・・・」

何故ミレリアが自分を抱き締めているのか。

「ぼうや・・・私の、赤ちゃん・・・」

「え・・・」

困惑の中、次いだミレリアの言葉に耳を疑う。
今、何て・・・?

「奥様・・・今、」

「ごめんね、ごめんなさい・・・見つけてあげられなくて。ずっと目の前にいたのに・・・」

まさか。
そんなはずはないと思いながらも、少なからず期待してしまう自分がいた。

彼女は混乱しているだけ。期待した分、それが間違いであった場合の落胆は大きいだろう。
でも・・・思わず聞きたくなる。

「ねぇ、俺は・・・誰?」

ミレリアの体がピクリと動く。
あぁ、やはり違ったのか・・・聞かなければ良かった。
心の中が一気に重くなる。
突き放される前に離れよう。彼女の腕を離そうと肩に手を伸ばす。

「・・・顔を見せて?リト。」

しかし、その手を止めることになった。
ミレリアが名前を呼んできたから。
「リト」---彼女の子の名前。彼女がその名を口にして優しい笑顔を向けていたのは、自分ではなく古びた人形だった。古びた人形が赤子に見えて、彼女の息子で、自分はその息子を喰らおうとする悪魔。
しかし今、彼女は間違いなくその名を自分に向けていた。
彼女の体が離れたと思えば今度は頬に温もりを感じる。彼女が涙を溜めた目で自分を見つめている。

「母さんそっくりね・・・」

言って彼女は笑った。

「母、さ・・・」

再び彼女に抱きしめられた。胸が締め付けられた。なんとも言えぬ感情がこみ上げてくる。

「母・・・さん」

「うん。」

「俺の母さん・・・?」

「そうよ。」

夢じゃない。呼んでいいの?本当に?
恐る恐る彼女の背に手を伸ばす。彼女は逃げなかった。

「母様・・・っ」

やっと気づいてくれた。見つけてくれた。
リトはミレリアを強く抱き締め返した。

799ナディア:2017/05/28(日) 21:48:32
----

色んな事が1度に起こりすぎて若干混乱が拭えない。

突然のリトの行動にも、ミレリアが正気に戻ったのも驚いたが、何より驚いたのは今のリトの姿かもしれない。

「リト・・・」

先程までの凛とした態度とは打って変わって、柄にもなく母親にしがみついて泣いている。
しかしそこでナディアは思い出したのだ。

強く見えても、どんなに大人びていても、リトはまだ子供なのだ。
耐えて耐え抜いて、耐える事に疲れて自分の殻に閉じ篭ってしまうほどには。外界に嫌気が指して世を拒絶し眠り続けてしまうほどには。

リトを守ると言いながら、リトに子供であることを諦めさせてしまっていた。

「適わないな・・・」

結局自分は姉でしかなくて、彼を甘やかしてやれるのは母親なのだと思い知らされた。
ナディアは苦笑しながら不意に辺りを見る。
おそらく、いや間違いなく、リトはあとで我に返って今の自分の行動に頭を抱えるだろうが、ある意味この姿を公に晒すのは良かったのかもしれない。

リトはまだ庇護すべき子供なのだと言うことを思い出したのはナディアだけではなかったのだ。
リトを忌み子として痛め付けた一族達は動揺を隠せないようで、か弱い子供を大人げなく悠々と虐め抜いていた事に気付かされて気まずそうにしている。

リトはもう大丈夫。長年培ってきた溝を修繕するのは時間はかかるかもしれないが、これからは一族もリトを受け入れるだろう。
そして元は落ち着いた主人格のある性格だ。いずれリトを敬い、彼に付いていくようになるだろう。

ナディアは安堵の意味を込め息を吐いた。
そしてベルッチオの背を軽く叩く。

「良かったな。」

ミレリアをおかしくしたのは他ならぬこの老人で、今更術を解くことも出来ないと嘆いていた。
しかし何があったかミレリアは正気を取り戻し、自らの手でリトを取り返した。

「あんたを許すよ。あとでちゃんと、リトにも謝れよ?」

リトがどう決着をつけるかは分からないが、最後には同じ選択をするだろう。

「いいか?いつかはあの子がポセイドンを率いるんだ。あんたはアブセルがちゃんとリトのフォローが出来るように育てる必要がある。引退なんて野暮なことは考えるなよ?」

800ヨノ:2017/05/28(日) 22:59:51
【ポセイドン邸】

ジルを庇いセナを止めるがセナが警戒心を解く気配はなく、少しでも隙を見せれば彼に手を下しそうで油断が出来ない。

セナと冷戦を繰り広げていたところ、アブセルから声を掛けられた。

「アブセルちゃん、良かった、目が覚めたのね!」

そう笑みを零したのも束の間、続く彼の言葉に表情を曇らせる。

「えぇ、よく知っているわ・・・」

最悪な再会をしてしまったけど、ずっと会いたかった人。

「この子はジルって言うの。アブセルちゃんは会ったことはなかったわね。お父様のご友人のご子息で、私たちが小さい頃はよく一緒に遊んだのよ。」

どうしてこんな事態になってしまったのか・・・でも、きっと何か理由があるはず。

「あなたはどうしてこの子を知っているの?どうしてこんなことになっているの?」

こんなこと、とはおそらく何故敵対しているのか、という事だろう。

ヨノはジルが異能者であったことすら知らなくて、事態を飲み込めていないのは彼女も同じなのだ。

801リマ:2017/05/28(日) 23:19:15
イスラ>>
だってソイツ敵だから←
自分だけ傷ついてますぅって態度で結果的にレイジ苦しめて藍ちゃん苦しめて最悪なんですもん。藍ちゃんと同じ顔してても許せない←
一度は消滅したんですけど、博士がその後藍ちゃんのマザーコンピュータを頑張って復活させてくれて、藍ちゃんは再起動する事が出来ましたヽ(•̀ω•́ )ゝ
藍ちゃんの映画が大成功を収めて幕を閉じた日に、最後の公演で映画館をジャックして、「君はどこにいるの?」って映画の名セリフと共にスクリーンにハルカとの思い出の地の風景を映すんです。それで、藍ちゃんが生きてるって気づいたハルカが慌ててその思い出の地に行くと、藍ちゃんがそこで待っていてめでたく再会、って流れです。
相手がハルカでなければなぁ・・・( ˘•ω•˘ )

ロボットなのでwww
きっとレイジはマッチョッチョなんです。お腹はプヨプヨだけど←
良いネーミングでしょ?←
えー( ˘•ω•˘ )

てか藍ちゃん最近あざとさを増して、一週間前に発売した曲が可愛すぎて吐血して未だに瀕死状態なんですけどどうしたら良いですか←

あれ、ましろの方に目がいってるwww

かなりの甘党です(笑)
藍ちゃんに「それ砂糖入れたコーヒーじゃなくて、コーヒー漬けの砂糖だから。」って言われてますwww

ナディアはマセてますからねぇ(笑)
やべ、バレた←

ヨノはきっと恨んでますね(笑)

802ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/03(土) 13:03:02
まさかこの様なことが起こるなど誰が想像しただろう。
ミレリアに仕掛けた術は強いもので、例えナディアであっても解けぬようにと幾重ものプロテクトを複雑に組み合わせたものであった。
にも関わらず、ミレリアはそれを自力で解いてみせたのだ。

目の前の信じ難い状況に唖然とするベルッチオは、ふいに背中を小突かれ我に返る。
見ればナディアが薄い笑みを浮かべて立っていた。

「…お嬢様は相変わらずお優しい方でいらっしゃる」

罪深い自分に償いの機会をくれると言うのだから。
ベルッチオはナディアの言葉に胸のすく想いで居住まいを正すと、

「この老いぼれで宜しければ、喜んで微力を尽くさせて戴きます」

その恩情に感謝の意を述べる。
…その時にふと昔のことを思い出した。

"死んだ筈"のリトを、ナディアが別邸で見つけ出して騒ぎになった事があった。
死産したと告げられた子が、別の処で幽閉されていたのだ。当然それについて、ミレリアも説明を求めた。

対し、一族の幹部連…先のリトの処遇を決めたメンバーは、ミレリア達をどう納得させるか急ぎ議論の席を設けさせる。
もちろん一族の長であるヨハンも同席するが、その間彼は一度たりとも口を開くことはなかった。

失った筈の我が子を取り戻したミレリアは、もう何を聞かされてもリトを手放すことはないだろう。
記憶操作という案が提議されたのも、自然な成り行きと言えばそうなのかもしれない。
そうして議論の最後、長に決議が委ねられる。
一同の視線が集まる中、ヨハンは瞑目し、静かにただ一言。「そのようにしよう」と口にした。

あの時の彼は一体何を考えていたのだろう。
何にせよ、苦渋の決断だったことに違いはあるまい。
最終的に、ナディアやヨノに洗脳の手が及ぶことは取り下げているのだから。

(…旦那様、見ておいでですか…)

お互いを抱き締め合い涙を流す母と子を見て、ベルッチオは思う。
本当は誰よりもこの光景を見たいと願っていたのは、ヨハンなのではないだろうか、と。

今は亡き主…そしてその母親、レイシーに想いを馳せ、ベルッチオは目の前の光景を生涯忘れぬように、瞳の奥に焼き付けるのであった。

803アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/03(土) 13:05:08
【ポセイドン邸】

「そうなんだ…」

ヨノの話を聞き、アブセルの疑念はいよいよ確信に変わる。
やはり彼は昔、この街に住んでいたのだ。
そしてヨノの語る少年と、あの時に出会った少年はきっと同一人物であると結論する。

「俺がまだ此処に来て間もない頃、皆には内緒でリトを屋敷の外に連れ出したことがあっただろ?
そん時リト、途中で発作を起こして倒れちゃったんだけど…、この人とこの人の家族が助けてくれたんだ」

それが何故こんなことになったのか、正直自分でも分からない。
引っ越したとばかり思っていた少年。いつか再開できればと思ってはいたが…、それがよりによって敵としてだなんて。

彼はリトのことを覚えていないのだろうか。
それとも知った上で襲撃を重ねてきたのか…。

アブセルはジルが自身の命を刈り取ろうとした瞬間を思いだし、戦慄する。

が、その時…。
ふと風の流れを感じた。

見れば倒れ伏す少女の身体に開いた傷口…穿穴から風が吹き込んでいる。
…いや、違う。風なんかじゃない。

声を上げる間もなかった。
それは直ぐに少女の身体を呑み込む程に大きく脹れ上がったかと思えば、空間を歪ませ、強力な重力を発生させる。

「―ッ!」

引きずり込まれる――。

アブセルは剣をアンカー代わりに床に刺し、空いた方の腕で咄嗟に一番近くにいたユニを捕まえる。
同時に阿形と吽形もそれぞれヨノと意識のないジルを保護し、その場から跳び退いた。

だが…、

「リマ姉!!セイちゃんさんっ!!」

それ以上の人数を救出するには手が足りない。
アブセルは漆黒の虚空の中へと吸い込まれる二人を目に映し、己の無力さに慟哭を上げた。

804セナ他:2017/06/11(日) 21:15:15
【ポセイドン邸】

「リト。」

どこで控えていたのか、漆黒のパラソルを風に乗せてノワールがフワリとその場に降り立った。

「やっと戻ったか。感慨に耽っている余裕はないぞ。何やら不穏な空気を感じる。同時に、ポセイドンの娘と闇の王子の氣が消えた。」

「ポセイドンの娘・・・リマのことか?」

ノワールは頷く。彼女の表情から状況がかなり思わしくないと察する。
リトがナディアを見ると、彼女も状況を把握したようでミレリアをリトから離す。ミレリアが名残惜しそうにしているのを宥めた。

「ここは私が締めるよ。終わったら私も行く。申し訳ないけど、先に行っててくれる?」

「・・・分かった。」

黒猫がリトの肩に飛び乗る。リトはノワールを引き連れてその場を後にした。

----

フロンの遺体の周囲を纏う空気が変わる。
それは一瞬の出来事で、膨れ上がった空気が空間を歪ませ、近くにいたリマを捕まえた。

「リマ・・・!」

セナは咄嗟に手を伸ばすもリマを掴むことは叶わず。それどころか、生じた重力の塊は自身への対処も遅れたセナの身体をも飲み込んだ。

その光景を目の当たりにしたヨノが叫びに似た悲鳴を上げる。

「アブセルちゃん!二人が・・・どうしよう、早く助けてあげて!!」

805ジル他:2017/06/26(月) 11:53:55
【ポセイドン邸】

-----

父の書斎で何気なく開いた引き出しに小さな小箱を見つけ取り出した。
中には紫の宝石が付いた金の指輪が入っていた。
窓に向ければ宝石がキラリと光る。

「キレー・・・」

「こら」

指輪に見惚れていると背後から声がかかり、身体を抱き上げられる。

「また父さんの部屋に勝手に入って」

「おとーさま、これ何?おかーさまにあげるの?」

装飾は女性が身につけるもの、そんな認識をしていた幼い我が子はニコニコしながら問いかけてくる。
トーマは苦笑いして見せると、そのままジルを膝に乗せ腰掛けた。

「それは父さんのものだよ。恋人から貰ったんだ。」

「こいびと?」

「うん、お母さんに出会う前に好きだった人。父さんが初めて手に入れたいと願った女性。・・・結局、最後は怒らせてしまって別れたけどね。」

「おとーさま、その人に悪いことしたの?」

「んー・・・。父さんに勇気がなかった事が原因かな?」

ジルは良く分からないと言いたげに首を傾げながら、指輪を元の場所に戻そうとする。
しかしその手をトーマが止め、ジルにそのまま握らせた。

「お前にあげるよ。」

「おとーさまの大事なものでしょ?」

「だからこそあげるんだよ。父さんが恋した人は女神様なんだ。これには魔法がかかっているんだよ。お守りとして持っておいで。」

「おまもり・・・」

「きっとお前を守ってくれる。」

ジルの指にはまだ大きいからと、指輪に鎖をつけて首から掛けてやる。

「ありがとう!」

ジルは嬉しそうに笑った。

-----

「何・・・あれ。」

ヨノの悲鳴が耳につき目を覚ませば目の前にはあまりにも異常な光景が広がっていた。
重力を一点に合わせたような黒い塊にジルは目を見開く。
傍らでヨノが震えていた。

「ジル・・・どうしよう、セナくんとリマちゃんが・・・」

二人がどうしたのか、始めこそ疑問に思うがその答えはすぐに分かった。
彼女が口にした二人の姿はここにない。おそらく、あの塊に引き込まれたのだろう。

「どうしよう・・・死んじゃ・・・」

「僕の前で簡単に死ぬとか言わないでくれる?」

言ってジルは立ち上がる。

「普通に考えなよ。あの二人は御先祖でしょ?あの二人が死んだら君たち消えちゃうから。二人は生きてるよ。」

しかしあそこから自力で出るのは至難の技だろう。
外部からの刺激があればあるいは・・・

「ヨノ!」

そこへ騒ぎを聞きつけ駆けつけたリトが合流する。

「うそ、リトくん・・・?」

「ヨノ、何があった?これ・・・」

「混乱してる子にこれ以上聞いてあげないの。」

ヨノに詰め寄るリトへ、肩に乗っていた黒猫がふいに声を出す。
そしてふわりと肩から飛び降りたかと思えば、突如として少女の姿になった。冥界で出会った少女、アネスだ。

「あんたには分かるの?」

「まぁね。ま、何でこんな所に出ちゃってるのかは分かんないけど。」

「対処出来るか?」

「んー・・・」

806ジル他:2017/06/26(月) 11:54:26

「ちょっと。」

話を進めていく新参者へ、ジルが勝手に割り込むなとばかりに不機嫌な声を出す。

「まさか君たちが解決しようとか思ってないよね?不本意だけどこれは僕が原因だから片付けも僕がやる。放っておいて。」

仕方ないから飲み込まれた二人も助けてあげる。それで文句はないよねと言うジルへ、何かを察したヨノがその腕を掴む。

「まってジル。あなたも危ないわ。」

「僕の心配なんてしないで。あの二人を助けたいんでしょ?」

正直、この引力に逆らえるのは空気や風を操ることの出来る自分しかいないだろう。この中の誰よりも適任なのだ。
自分の身から出た錆にケリをつけたいのもあるが、たとえばこの場でリトに対処させて、仮に何かあればヨノが悲しむ。それは避けたかった。

「戻ってくるよね?貴方がいなくなるのは嫌よ。」

「・・・」

「返事をして。」

「・・・分かったよ」

フェミルがいない世界に未練などない。最悪2人を助けて自分は相打ちになっても良いと考えたが・・・ヨノの願いは頑だった。ジルは諦めたように頷く。

「ジル、フェミルは・・・」

フェミルが本当は生きている、フロンの戯言だったと言わなければ。
しかし口を開いたヨノに、ジルは何も言うなとばかりに悲しげな笑みを浮かべた。

「じゃあね」

そしてジルはヨノの手を解きそのまま塊の中へ飛び込んでいった。

807アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/06/30(金) 21:49:40
【ポセイドン邸】

為す術もなく、目の前でリマとセナが渦に呑み込まれてしまう。
二人を救うことが出来なかった…。あまりの出来事にアブセルは力が脱け、膝から崩れ落ちる。ヨノの声も耳に届いていないのか、脱け殻のように呆けているばかりであった。
しかし直後、新たな人物が場に駆けつける。
目を疑った。

「……リト…?」

そこにいたのは紛れもなく、あのリトであった。

「え、嘘だ…、ほん…もの…?」

驚きを隠せず目を見開くアブセルの瞳にみるみる光が宿っていく。
しかしそんな彼をよそに、話は意外な方向へ向かいつつあった。
ジルがあの渦を処理するというのだ。しかも飲み込まれた二人を救出するとも。
アブセルが諦めていたその時に、彼は解決の手段を講じていたのだ。

「……」

…呆けている場合なんかじゃなかった。リマとセナはまだ生きてる。何もしない内から望みを捨てるなんて馬鹿だった。

アブセルは立ち上がる。リトに歩み寄り、そして両手で彼の身体をしかと抱き締めた。

「リト…ごめん。…戻って来てくれてありがとう」

腕の中に感じる慣れ親しんだ感触。
アブセルはリトの温もりと匂いを思う存分堪能し、ここ最近ご無沙汰となっていたリト成分を充電。ようやく本調子を取り戻す。
リトを離すと、今度はアネスの方へ目を向けた。

「何でお前が居るのか知らないけど…、あの変なのをどうにかする方法があるなら教えてくれないか?
リマ姉とセイちゃんさんを助けたいのは勿論だけど、俺はあの人(ジル)にも聞きたいことが沢山あるんだ」

ジルは放っておいてくれと言ったが、そうはいかない。
彼がこの街から姿を消したのは十年も前。その時にした、リトと一緒に会いに行くという約束も果たしていない。
襲撃するだけしといて、何の説明もなしにまた勝手にいなくなるなんて許さない。

「頼む…」

ジルが漆黒の渦に飛び込んでから、その入り口は急速に縮まりつつあった。
穴が完全に閉じてしまえば、三人とも戻って来れなくなる。
アブセルは真剣な態度でアネスに頭を下げた。

808リト他:2017/07/03(月) 23:51:21
【ポセイドン邸】

いきなり抱き竦められ何かと驚くが、それがアブセルであると分かるや途端抵抗を試みる。
しかし普段なら軽く暴れればすぐ手を緩める彼が、なぜだか一向に放そうとしない。腕力はアブセルがはるかに上だ。結局リトは今回ばかりは抵抗虚しくアブセルの気の済むまで堪能される羽目になった。

「うわぁ・・・」

目の前で男二人の抱擁・・・までは許せたが、同性の少年の髪や首筋など余すことなく匂いを嗅ぎ至福の表情を浮かべるアブセルを目の当たりにしたアネスは顔を引き攣らせる。キモイ。
かと思えばその変態はリトを離すと同時に数秒前の自分が無かったとでも言うように真面目な表情をつくり、自分に話を振ってくる。何だコイツは。

「・・・あれは咎落ちした者の末路。本来死した者はどんな極悪非道な奴だろうと最後には転生の機会を与えられる。けど、世の理を乱した者・・・禁忌を犯した者に待つのは消滅のみ。魂ごと消えるのよ。自らの身から生じたあの渦に呑まれてね。」

で、厄介なのがここから、とアネスは眉を潜める。

「渦は放っておけば消滅するの。だから本来は何もしないのが特策・・・だけど、今回は関係無いのが巻き込まれてる。中はそうね、宇宙空間みたいに終わりのない闇が続いてて・・・餓死とかない限り死ぬことはないけど、自力で戻るのは難しい。」

アネスが話を続けている間にも渦は小さくなっていく。
急がなければ、渦が消えてしまえば救出は困難になる。
しかしアネスは更に難しい表情を浮かべた。

「あのね、多分・・・最初の二人は助けることが出来るの。咎落ちとは無関係だから。だけど・・・」

今入っていった青年は・・・

「ねぇ、あの子・・・何かしてない?人喰い、死者蘇生、神殺し・・・」

ジルに感じた違和感。正でありながら負を思わせるような・・・

「・・・闇堕ち?」

神に通じる存在でありながら闇に身を投じその半分以上を黒く染めている。いつか完全に闇に全てを喰わせ神の力を闇の養分にせんとする・・・

「やばいよあの子、一番のご法度犯してる・・・」

突如として渦の中から竜巻が飛び出してくる。竜巻が消えると、その場にセナとリマの姿が。そこにジルの姿はない。

ジルは戻れない。アネスは呟いた。

そして、その言葉を裏付けるかのように渦が消滅した。

809アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/07/07(金) 20:57:06
【ポセイドン邸】

アネスの告げた言葉は残酷なものであった。
事実、渦より帰還したのはリマとセナの二人だけ。そこにジルの姿はない。
アブセルは二人の無事を確認するも、渦のあった場所…今はもう何の変鉄もない廊下の一角を見つめ、握った拳を戦慄かせた。

「じゃあ…なんだよ。あの人は死ぬまでずっと一人、暗い闇の中をさ迷ってなきゃならないってのかよ…」

リマとセナが助かったことは手放しで喜ぶべきことだ。
しかしアブセルの心は今もなお晴れぬまま、分別もなく縋るようにアネスに詰め寄った。

「なあ、本当にどうにもならないのか?よく分かんねえけど、お前すごい偉い人の娘なんだろ」

アネスに当たるのはお門違いであるのは分かっている。…分かっているのに、この感情の昂りを抑えることが出来ない。
アブセルはやるせなさに強く唇を噛みしめた。

「あの人は宣言通りリマ姉達を救った。なのにその功労者の行く末がそれとか納得できねえよ…」

810リト他 ◆wxoyo3TVQU:2017/07/17(月) 22:45:51
【ポセイドン邸】

「そんなこと言ったって・・・」

無理なものは無理なのだ。たとえばここに、そう、ルイがいたとしても事態は変わらないだろう。

「禁忌を犯した者は管轄外。神様の領域には踏み入れられないの。」

しかし周りの落胆ようは予想以上のもので。
ヨノは泣き出すし、助け出されたリマも複雑な表情をしている。「彼は戻れないことを分かっていた気がする」と。

自分が非情な事を言っている自覚はある。しかし、今の自分には知識も経験も足りない。

「・・・たとえば、そうね。神様の導きがあれば戻れるかも・・・。」

苦し紛れにそんなことを言ってみる。神に頼むなど夢物語も良いところだ。

しかし、アナスの言葉にユニがふと反応する。

「神の・・・導き・・・」

耳の奥で何か聞こえる。これは・・・声?
ふわりと風が舞い、ユニの髪を凪ぐ。
ユニは目を閉じた。

「声が聞こえる・・・」

ユニの様子がおかしい。不審に思ったリトが声をかけるが、彼の声は届いていないようで。
ユニの周りをまとう風が強くなった。そう感じた途端、バサリと彼女の背から大きな翼が広がる。

「祈れ、祈りの先に道拓くだろう」

ユニの体が宙に浮かぶ。開いた瞳は黄金に光り、髪は銀色に輝いていた。
そこにいるのはユニであるはずなのに、普段と纏う雰囲気がまるで違う。

その姿を唖然として見ていたアネスは、ハッと気づいてヨノに詰め寄る。

「ちょっとそこの貴女!さっきの子を取り戻したいならもっと強く願って!早く!」

ヨノはアネスの突然の発言に戸惑いながらも言われたとおりにする。
と、ユニは手を翳す。
瞬間、翳した先に一つの空間が開いた。

「引き上げて!」

アネスが叫ぶ。開かれた空間に人の手が見えた。

一方ユニは糸の切れた人形のようにフッと体の力が抜け、髪も戻り翼も消える。
そのまま落ちてくる彼女をリトが走り受け止めた。

ユニが元の姿に戻ると同時に開かれた空間も閉じかけてくる。消滅は時間の問題だ。

何が起こったかよく分からないが、アネスの様子から一つだけ分かることはある。

「アブセル、その手を引き上げろ!」

おそらく、そこにいるのはジルだ。そして、これが彼を救い出す最後のチャンスなのだろう。

811アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/07/28(金) 22:07:43
【ポセイドン邸】

「!…ああ!」

リトの声に、これが最後に与えられたチャンスであることを察する。
アブセルは飛び付くように渦から伸びる手を掴むや、こちら側へ引きあげようと試みる。

しかし…

「重…っ」

まるでヘドロか何かにでも絡み付かれているみたいだ。
それは禁忌を侵した者を逃すまいとする、何らかの力の働きがけのようにも見える。

(くそっ、世のコトワリが何だっつうんだよ…!)

急がなければ折角開いた穴も塞がってしまうというのに。

思わぬ障害に見舞われたそんな折り、ふと別の者の手がジルの腕へと伸ばされた。
…リマとセナだ。

言葉を交わさずとも彼らの意図は明白であった。
三人は一瞬だけ視線を交わすと、一つの目的の為に力を合わせてジルの救出へと動いた。

「…っせーの!」

812ヨノ他:2017/08/18(金) 07:25:06
【ポセイドン邸】

一人の力ではどうにもならなかったものが新たな手が加わったことで次第にこちらへ引き出されてきた。辛うじて手が見えていただけだったのがその体が抄いだされ、ジルの姿がはっきりと目視出来た。
あと少し、もう一息だと言うのに。彼の体に絡みついた黒いもやのようなものが邪魔をして最後まで引き上げられない。
その間にも開かれた空間は徐々に狭まってきている。時間がない。

「・・・ねぇ。」

暫く考えるようにしながらその様子を見守っていたアナスが驚く程静かな口調で口を開いた。
そして体力を削がれたのか力なく三人へ身を委ねる状態となっていたジルを見据え、問う。

「一つだけ聞くわ。"生きたい"?仮に何かを失ってでも。」

咎落ちの後呑み込まれた者が再び現世に舞い戻るなど奇跡としか言いようがない。どういうわけか、その奇跡をユニが起こした。
そして、この状態になったことで彼を助ける方法が一つだけ見つけ出された。しかし、それは決して善策とは言えないこと。ここで生き延びたとしても更なる地獄が彼を襲うだろう。
それでも彼は命を選ぶか。

「・・・」

ジルは光の宿らぬ目でアネスを見る。そして小さく口を開いた。
彼の選んだ答えは-------

---------

813ヨノ他:2017/08/18(金) 07:25:46
あの目まぐるしく繰り広げられた一件から数時間後。ポセイドン邸は静けさを取り戻していた。
ナディアはヨハンの葬儀を済ませ、後処理があるとかで爺に促されるまま今は書斎に篭っている。
一方、気を失ったまま目覚めないユニを休ませたいと言ったリトはアブセル達を連れ自室へ向かった。あの後リトとアネスが口論となったが、
今は大丈夫だろうか。

「・・・。」

ヨノは器に水を汲みなおしながら思いを馳せる。今となってはあの喧騒が嘘のよう。しかし現実だ。清潔なタオルを持って自室へと向かう。
主は自分であるはずの部屋のドアをノックをするのは、中の人への配慮である。

「ジル、入るね。」

返事はない。ヨノは多少躊躇いを抱きつつも部屋の中へ顔を覗かせる。拒絶の態度は見えない。ヨノは中へ入った。

ジルはベッドから身を起こし窓の外を眺めていた。別に外に興味があるわけではない、気持ちのやり場が無いのだろう。
先程までは呻きを上げていたが今はやけに静かだ。ポセイドンのリマとナディアの尽力の賜物か。痛みが引いたようで良かった。

「他の人じゃ嫌だと思って・・・。私でも心許ないかもだけど、ごめんね。」

言ってヨノは布団を捲ろうと手を伸ばす。しかしその手をジルが掴んだ。

「やめて。」

「でも包帯代えないと・・・」

「放っておいて。」

「やるわ。私がしないで誰がするの?」

ヨノはジルの手を退け布団を引きはがす。そこにある筈の彼の足はない。

「血、止まったね。」

辛うじて残る付け根付近の腿に巻かれた血の滲んだ包帯を解きながらヨノは言う。ジルは黙ったままだった。

「私だったら痛くて卒倒しちゃってたよ。ジルは強いなぁ」

わざと明るく言ってみる。少しでも彼の気が晴れるように。気休めであることは分かっている。けど、そうしたかった。

「醜いでしょ。」

「そんなこと・・・」

「これ・・・」

ジルは自分の指に嵌められた金の指輪をヨノへ見せる。

「父がくれたお守りなんだ。女神様の加護が込められてるって。それで・・・願ってしまった。「生きたい」って。柄にもなく命乞いを・・・。そしたらこの宝石が光って、道が出来た。そこを辿ったら戻ってこれたんだ。」

「お父様が助けてくれたんだね。」

「君のせいだよ。」

「・・・私の?」

「君が戻ってきてなんて言うから・・・。生きなきゃって思ったんだ。君に・・・」

もう一度会いたくて。

「君は残酷だ。どうしてこんな気持ちにさせるの。」

「・・・貴方が楽になるのなら私を恨んでもいい。貴方がどんな姿になってしまっても、私は貴方に生きていてほしい。」

あんな暗い闇の中に独りにさせたくなんてなかった。貴方は本当は、とても寂しがり屋だから・・・

ヨノはジルの包帯を交換し、「休んで」とだけ告げ部屋を出る。

と、部屋の前で佇む人影と目があった。

「アブセル」

てっきり目覚めたリトに歓喜し一緒にいるものだと思っていた。リトの存在を後回しにするなんて珍しい。
アブセルはとても居心地悪そうに、中に入ることを躊躇っているようだった。

「ジルに話があるの?起きてるから入っても大丈夫よ。」

814アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/09/03(日) 00:41:07
【ポセイドン邸】

ジルと話しをする為にここに来たはずだったのに、いざ顔を合わせるとなると、やはりどこか躊躇してしまう自分がいた。
目の前の扉を開けるべきか否か。決めかねていた丁度その時、折りが良いのか悪いのかヨノがその扉を引いて中から出てきた。

「あ…、じゃあ…うん」

もはや退くに退けない状況になってしまった。
アブセルは曖昧な返事を返すと、半ば観念するように部屋の中に足を踏み入れるのだった。

落ちついた雰囲気と女性的な上品さが内包されたような空間の中、彼はいた。
ヨノのベッドに身を沈め、窓から外の景色を眺めている。こちらの存在に気づかない筈はないのだが、彼は現れた来訪者には関心がないのか、一瞥もくれることはなかった。

アブセルは扉の側を離れベッドから遠からず近からずといった一定の距離を置いた場所で立ち止まる。
その視線は自然と彼の足、膨らみの見えない布の上に引き寄せられ…気まずそうに眼を逸らした。

…あの時は無我夢中だった。
「消えて欲しくない」「消させない」その一心で彼に手を伸ばした。
だがジルに対する感情は今もなお複雑で、こうやって面と向かって対峙している間もどういった態度を取るべきなのか分からなかった。
二人の間にある距離は、そのまま心の距離を表しているのだろう。

重苦しい沈黙が無為に時を刻んでいく中、とうとうその空気に堪え兼ねたアブセルがようやくギクシャクと口を開いた。

「えっと……、具合は…大丈夫か?」

……無言。

どうやら出だしから盛大に挫いてしまったようだ。

先の騒ぎでうやむやになってしまったが、そもそも自分と彼は敵対する間柄にあったのだ。私的な感情がどうであれ、その関係は今も変わらない。
ジルにしてもアブセルに気遣われる覚えはないだろうし、捉え方によっては皮肉と受け取られてもおかしくはない。

「…あー…悪い、今のは忘れて。
本当はこんなこと言いに来た訳じゃないんだ」

アブセルは乱暴に髪の毛を掻きむしり溜息を溢す。そして意を決したように顔を上げた。

「あのさぁ、アンタ昔この街に住んでただろ。
…俺のこと、覚えてる?」

ここに来て初めてまともにジルの姿を真っ向から見据える。目を逸らすことなく、記憶の中のかつての少年の面影をなぞるように。

815ジル:2017/10/16(月) 12:33:39
【ポセイドン邸】

アブセルの気配を感じ取るも、ジルが彼の方へ顔を向けることは無い。
本音を言えば今は誰とも顔を合わせたくないのだ。しかしジルが動けない以上、話のある相手には都合が良いのだろう。

「・・・一度会っただけの子を覚えてるわけないでしょ。」

アブセルの問いにジルはそう答えた。
「覚えていない」とは言ったが、彼に「一度会ったことがある」と返したのは、結局のところ「彼を覚えている」と言うことに他ならない。その言葉の矛盾には当然ジルも気づいているだろうが特に取り繕うこともない。単にアブセルの言葉に素直に答えたくなかっただけなのだろう。

「どうして僕が君たちを攻撃するのか、気になる?」

そして、アブセルの胸のうちもお見通しだった。アブセルはジルの正体を知り、確認しに来たのだ。お気楽な彼のことだ、昔自分たちを助けた人物が今では敵対しているという現実が信じられないのだろう。

「僕が四霊の一人であり黄龍の部下だから。君達が僕の邪魔をするから。・・・と言ったところで君は納得しないだろうね。」

実のところ、本当にただそれだけの理由だった。
本音を言えば四神にも、ましてやリトになんて敵意などない。世界の公正など自分にはどうでもいい。
生きていくために黄龍の命に従っているだけ。フェミルの安全を確保しなければ。
更にいえば自分がこの任に就いておけば黄龍が別の刺客を寄越すこともない。あとは適当にやり過ごせば良い。

しかしそんなこと言えるはずもなく。癪だと言うのもあるが、何より自分は彼らの「敵」だから。「悪役」らしくいなければ。

「他に理由があるとすれば・・・・・・」

だから、アブセルが納得しそうな理由を考える。嘘は得意だ。
ジルは漸くアブセルの方へ目を向ける。何処か嘲るような目をして。

「単にリトが嫌いだから。」

リトはどんな絶望的な状況下においても決して光を見失わない。
持ち前の気高さを失うことなく、例えば自分と同じ立場に堕とされたとしても真っ当な道を選び生き延びたことだろう。
そして何より、彼の周りには彼を大切に想い護ろうとしてくれる誰かがいる。
自分にはないものを持っているリトが羨ましい。自分はどんなに望んでも手に入らないから。
自分はリトに八つ当たりをしているのだと、アブセルへ言った。

「興味があるんだ。あの子はどこまでも綺麗で尊い。君たちにとって大切で、宝石のような存在だよね。だから、そんな宝石を踏みにじって、汚して、壊したらどんな気分かなって。君は単なるおまけ。君が必死になってあの子を護るものだから、先に片付けてからじゃないと、リトには手を出せないからね。」

816アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2017/10/26(木) 02:02:19
【ポセイドン邸】

ジルの返答はアブセルの言葉を認めたものと受け取って良いだろう。
だがそれを告げた当の本人は、『だとすればそれが何だと言うのか』とでも吐き捨ててしまいそうな程に冷たい目の色をしていた。

…一体自分は何を期待していたのだろう。
ジルの口からどんな答えが欲しかったのだろう。

ジルの本意を知らぬアブセルは、次々と叩きつけられる心ない発言に奥歯を噛み締め拳を震わせる。
もはや話し合う余地もないと思わせるほどの一方的な拒絶。
それがアブセルの敵愾心を刺激する為のものなら、リトを卑しめるような発言はこれ以上もないほど効果的だろう。
…だがジルは一つだけ勘違いをしている。

「………じゃねーよ…」

彼はジルが思っている以上に"大馬鹿者"なのである。

「見え透いた嘘ついてんじゃねーよ!!
それが本当なら…何で俺を殺そうとした時"ごめん"って言ったんだよ…っ!
何でセイちゃんさんやリマ姉のこと命懸けで救ってくれたんだよ!」

怪我人であるジルに配慮し、一応は大人しい態度でいようとこの会談に臨んだはずたったのだが、今ではもうその考えも及ばぬほど、アブセルはタガが外れたように憤慨し声を荒げる。

「リトが羨ましくて八つ当たりしてたなんて、そんなのガキの頃の俺まんまじゃんか!
昔ガキだったアンタが俺に諭してたのと同じことを、大人になった今になってやってるなんて幼稚過ぎて笑えもしねーっつの!」

たった一度きり、それも幼い時に出会っただけだ。
ジルのことを語れる程、彼を知っている訳じゃない。
まして誰かを傷つけるような事を言う人でも、する人でもないと断言できるべくもない。

だがそれでも、ジルはアブセルの中で間違いなくヒーローだった。

それほどまで盲目的に彼を信じるのは、アブセルにとって"あの日"が何ものにも代え難い特別な意味を持っているから。
例えそれが時間と共に美化された思い出だったとしても。

認めたくないのだ。
彼を、軽蔑したくないのだ。
敵対行為に及んだのは止むない理由があったのだと言って欲しい。

だって、憧れの人はいつまでも、憧れの対象でいて欲しいから。

「それに…っ、アンタにだって大切に思ってくれる人ぐらいいるんじゃないのかよ!
両親とか妹とか…、ヨノ姉だってアンタのことめちゃくちゃ心配してたんだぞ!」

故にアブセルは否定する。今のジルは真実の彼ではないと、全力で否定する。

817ジル他:2017/12/28(木) 21:49:20
【ポセイドン邸】

アブセルを煽ったつもりが、彼からは予想外の反応が返ってきた。
ジルは一瞬呆気に取られた表情を浮かべるも、やがてクスリと笑い出す。

「ほんと、馬鹿なのか何なのか・・・面白い反応をするね。ここまでされて僕を拒絶しないとは。」

そしてふぅと溜息をつき、何処か、幼子を諭すかのような静かな笑みをアブセルへ向けた。

「僕には両親がいない。殺されたんだ、父が親友として信頼していたはずのここの主人(ヨハン)にね。そして僕はその彼に復讐した。だからヨノに気にかけられる資格がない。
僕達の関係は既に破綻しているんだ。君がどんなに否定しようと、今目にしているものが全てだよ。」

ただ・・・そうだな、とジルは続いてわざとらしく考える素振りを見せた。

「それでもまだ僕を信じるなんて馬鹿なことを言うなら、一つだけ教えてあげる。リトを今後も護り続けたいなら、ユニを引き離した方がいいよ。」

黄龍は今ユニを欲していて、ジルが彼女を連れていこうとしたところでアブセルと対峙したわけだが、その彼の口ぶりは今後ユニを奪いやすくするための常套句ではなさそうだった。
リトとユニが共にいてはならない理由があり、彼はそれが何か知っている。

しかし、その答えを聞き出すことは叶わなかった。断りもなくドアが勢いよく開かれたと同時に、ズカズカとアネスが入り込んでくる。
そして、有無を言わさずジルの襟首を掴んだ。

「ねぇ。」

ジルが怪我人であることなどお構い無し。アネスの声音は怒りの色だった。

「お前、何してくれてんの?」

突然の自体にも関わらずジルは驚く素振りも見せず、そして彼女の言わんとしていることが分かったのか、代わりに不遜な笑みを浮かべる。
先程までアナスは彼女のとった行動のことでリトと揉めていた。その延長なのだろう、一呼吸おいてリトがアネスを追ってくる。彼が制止するも、彼女はやめない。

「お前みたいなのがいるから世界軸が歪むんだ。自分の都合で理を破ったツケが何処に来るか、本当は分かってるんだろ?」

「・・・君、この世界の子じゃないね?これも歪みの原因になるんじゃないの?」

「この・・・!」

「やめな!!」

殴りかからんばかりのアネス。そこへ怒号が飛んだ。見れば扉の前で仁王立ちしたナディアがいた。

「怪我人前にして何してんの!騒がしくすんなら出ていきな!!」

つか出てけ!とナディアは一同を追い出しにかかる。ナディアと共に来たリマも退室を促すと、アネスも歯噛みしながら言葉に従う。

「ユニが起きた。何か話したいことがあるらしい。」

出て行き様にリトがアブセルへそう耳打ちする。
一緒に出ろとの意。アブセルはまだジルへ話がありそうな様子で落ち着かない表情を浮かべていたが、ジルはそれを分かった上でわざとらしい笑顔を浮かべ手を振って見せた。

818アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/01/05(金) 00:48:37
【ポセイドン邸】

ジルと話していた最中、アネス、続けてナディアが乱入とも言って良い形で割り込んでくる。

此方としては聞きたいことも言いたいこともまだ消化しきれておらず、正直言うと水を差された気分だったが、ジルについてはナディア達の方が上手くやってくれるだろうという思いもあった為、仕方がない…と指示に従うことにする。
去り際に手を振るジルを指差し、

「良いか!?話しはまだ終わってないからな!
勝手にいなくなったりしたら後が酷いからな!!」

そう息巻いて部屋を出ていく。

そして…

(…結局、詳しいことは何も分からず仕舞いか…)

リトやアネスと共にユニの待つ部屋へ向かう際も、アブセルは解決する所か新たに浮上した疑問に、密かに頭を悩ませていた。

まず、ジルの両親をヨハンが殺したということ。

そしてもう一つ。
リトを守り続けたいなら、ユニを引き離した方が良い。という意味深なあの台詞。

「……リト」

アブセルは不意に立ち止まり、先を行くリトの背中に声をかける。

先程ジルが言ったことを彼に伝えようか。
そう思い悩んだ末、少し間を置いて首を横に振った。

「…いや、やっぱり何でもない」

ジルのことだ。質の悪い冗談ということも考えられる。
確証のない情報を伝え、リトを悪戯に不安がらせる必要もないだろう。

今はいくら考えてみても答えは出ない。アブセルはそれらの疑問を一先ず頭から振り払うと、再び歩みを始める。そして、ふと思い出したようにリトに向けて疑問を口にした。

「…て言うかさ。さっきも思ったけど、何でこいつが此処に居んの?そしていつ帰んの?」

アブセルは屋敷の中に入り込んだ野良猫を眺めるが如く、ぞんざいな態度でアネスに視線を投げていた。
ジルの救出に手を貸してくれたことには感謝しているが、正直彼女に関してはあまり良い思い出がないのだ。

819リト:2018/02/11(日) 22:31:40
【ポセイドン邸】

「何こいつ、すっごい生意気なんだけど」

不満げにリトへ話しかけるアブセルへ、リトの前を歩いていたアネスがひょっこり顔をだし顔を顰める。

「私はこの子の補佐するように言われて来たの。あんたみたいな使えない従者しかいないみたいだし?『自分以外の子と仲良くしないで!』とか、女子か。知ってるんだからね、色々と。」

相手をあまり快く思っていないのはアネスも同じらしい。ベッと舌を出したかと思えばふんっと顔を背ける。
その姿にリトは肩をすくめる。

「補佐ね・・・今のところマイナスしかないんだけど。それとあんま目立つことするな。」

「あら、さっきの式のこと言ってる?私はただあんたに協力してもらう"見返り"として、あの人にかかってた複雑な呪縛を解いてあげただけ。あれは感極まったあんたが勝手に目立ったのよ。」

ニッコリと悪びれもなく笑う少女にリトはそれ以上何も言えなくなる。かまをかけてみたが、やはりあの時母親が正気に戻ったのは彼女が手を加えていたのか。
感謝はしている・・・が、もう少しタイミングを考えて欲しかったと思うのは贅沢だろうか。

リトは何とも言えぬ気持ちで咳払いを一つ、アブセルの問いへ軌道を戻す。

「端的に言うと、闇の扱い方をこいつから学ぶ為に連れてきた。俺は自分の力を持て余してるって指摘されたんだ。不安定で力みすぎて闇を無駄に放散してるって。考えてみればお前には爺がいるけど、俺にはそう言うの教えてくれるような奴はいなかったし。」

どこで、誰に言われたのか、そもそもリトは眠りの中で別の世界へ言っていたことすらアブセルには話していないが、アネスがいることで何となくでも伝わればいい。

闇の管理者などと豪語する以上、その名に恥じぬようもっと闇を上手く扱えるようになりたい。
ルイに説明された「この世界に訪れようとしてる災厄」に然るべき対処をすべく、リトは彼へ師事を申し出たが、それはもうあっさりと断られた。が、代わりにアネスを寄越したのだ。
小娘に何が・・・とも思うが、彼女の知識や技量はリトよりも上であることは認めざるを得ない。

「俺を人柱にしようとした奴らじゃないけど、このままだと俺の価値は本当にただ闇を秘めた器ってことになる。それじゃ気に食わないから。」

言いながら、ふと先程見かけたセナの姿を思い浮かぶ。あの容姿から疑いようはなく、恐らくあれがかの闇の王子なのだろう。
あれから学んだ方が話が早いのだろうが、未だセナに対する負の感情を拭いきれていないリトには素直に教えを請うことは出来そうにない。

「ともかく、だ。お前達、喧嘩はするなよ?俺を煩わせるようならアブセル、今度こそ絶交してやるから。」

舟庭の件は許してやる、充分後悔しているようだからな。だけど二度目はないと思え。
言わずとも、アブセルを見るリトの目はそう物語っていた。

そして一同はユニの待つ部屋へ。
リトは部屋の前で足を止めるとアブセルへ中へ入るよう促した。

「お前だけと話がしたいらしい。」

820アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/02/15(木) 03:04:28
【ポセイドン邸】

使えない従者だぁ…?気にしていることを本人の前でそんなにはっきり言うなよ、傷つくだろうが。
て言うか何人様のプライベートまでしっかり探り入れてやがんだ、このアマァ…。

…と、今にもアネスに食ってかからんばかりのアブセルであったが、絶交するとの言葉を耳にすれば、態度を急変。
かつてない程の素早い動きで、リトの足元に額づいた。

「も、もちろん喧嘩なんかしません!二度と煩わせません!浮気だってしません!一生リトについていきますうぅ‼」

涙目になりながら必死に訴えるアブセル。
アネスがまるでゴキブリでも見るような目でこちらを見てくるが、今は気にもしていられない。
そう、これは己のリトへの愛が問われている瞬間なのだ。それを証明する為ならばリトの足を舐めるのだって吝かではない。と言うか寧ろリトの足なら舐めたい。舐め回したい。

「つーか…、何か変わったなリト…」

跪いたままふとリトを見上げ、アブセルは言う。
これはリトとアネスのやり取りを始め、自分に対する応答や振る舞いなどを見ていて感じたことだった。

何が変わったのか、と聞かれれば返答に困るが。何となく角が取れたと言うか、雰囲気が柔らかくなったように思う。
自分の知らないところで何かがあったのは確実だろうが、その辺は追々聞かせて貰うことにしよう。
とにもかくにも、今焦点を向けるべき相手はユニなのだから。

そうして三人は目的の場所に到着する。
てっきり皆に話があるものと思っていたところ、お前だけ、とリトに告げられアブセルは首を傾げた。

そう言えば最近のユニは少し様子がおかしかった。
先程のジルの妙な忠告もあってか、何だか意味もなく緊張してしまう。

「ユニ?入るぞ」

それらの感情を胸の奥に追いやり、アブセルは扉を軽く叩いてドアノブを引く。ユニのいる部屋へと足を踏み入れた。

821ユニ:2018/03/05(月) 00:30:59
【ポセイドン邸】

「アブセルさん!」

目的の人物が来るまで落ち着かない様子で部屋の中を歩き回っていたユニは、アブセルの姿を見るやすかさず駆け寄ってくる。

「あの、さっきは本当にごめんなさいでした・・・」

相手の術にはまったとはいえ自分が彼を拒んだせいで危険な目に遭わせてしまった。ユニは改めて謝罪の意を述べるが、勿論この為だけに呼んだわけではない。

ユニは椅子を持って来るとそこにアブセルへ座るよう促し、自分も対面に腰掛けた。

「アブセルさん。前に、ユニは知らないことがわかる、見えるはずのないものが見えるって言ったですよね?その・・・あの人・・・今度はアブセルさんを攻撃したあの人のことが見えてしまって・・・」

あの人とはジルの事だろう。敵である人物の話をして良いものか、少し言いづらそうに両手の指を動かしながら話を進める。

「女の子がいるです、誰かは分かりませんが・・・あのお兄さんはその子をとても大事そうに抱きしめたりしてます。お兄さんはよく出掛けるですが、いつも女の子は置いてきぼりです。女の子はそこから出られないみたいです。」

とても抽象的だが、ユニは一生懸命自分が見えたものの意味を考えた。そして答えを導き出した。

「ユニは難しいこと分からないですが、お兄さんはその女の子を守ろうとしてるんだと思います。言うこと聞かないとその子を守れないです。」

ユニはジルが悪い人間であるように思えないのだ。自分を連れ出そうとしたが、決して害そうとしたわけではない。何となく、彼の本意ではないと感じた。

「お兄さんはいつも笑ってます。けど、女の子のいないところでは泣いてるです。小さい頃からずっと・・・。このままだとお兄さんの心が壊れちゃうです。どうすれば良いですか・・・?」

彼は敵なのに、苦しむ姿はとても胸が傷んだ。彼を救いたいとと思った。それに、彼の大事にしている女の子・・・彼女がとても気になるのだ。初めて見る姿なのに、自分は彼女を知っているような気がして。

「その、リト様はユニの力知らないですから・・・アブセルさんにお話をと思いまして・・・」

822アブセル:2018/03/17(土) 23:21:34
【ポセイドン邸】

初めは要領を得なかったそれも、言葉を重ねる内ユニの言わんとしていることが分かってくる。

誰のことを指しているのか、何を伝えようとしているのか。
理解して、アブセルは深い溜め息を吐いた。

「…つまりあの人は誰かを人質に取られてる。だから悪い奴の言いなりにならざるを得なかった…ってことか」

ユニの言う女の子は、おそらく彼の妹のことだろう。
幼い時に見たきりだが、仲睦まじいあの兄妹の姿はよく覚えている。

アブセルは髪の間に指を差して頭を乱暴に掻いた。

「だったら…、何で初めからそう言ってくれないんだよ。何でわざと憎まれるようなことばっかり言うんだよ…っ」

…いや、理由は分かってる。
他人に助けを求めた瞬間、人質の安否がどうなるかなんて馬鹿でも想像がつくことだ。
そしてそれは、今この時をおいても同様の筈で。

「……っ」

あの人は一体いつから、その辛い生活を強いられていたのだろう。
あの日、彼の住む屋敷に訪れた時は家族に囲まれてあんなに幸せそうにしていたじゃないか。

アブセルの中に苦々しい気持ちが募っていく。

ジルが苦しんでいる時、自分は何をしていた。

ジルに憧れだけを押し付けて、さながらヒーローのような完璧な想像に仕立て上げ、ジルの苦悩を知ろうとも分かろうともしなかった。
あの人は一人でずっと苦しんでいたのに。

「助けないと…」

ジルが自分から助けを求められないのなら、こちらが勝手に彼らを救えばいいだけの話だ。
アブセルは小さく息をつき、再びユニの方に意識を向けた。

「…ユニ、よく話してくれたな。
後は俺が何とかするから心配すんな。リトにも俺から上手いこと説明しとくし…」

ユニの肩を軽く叩き、安心させるように言う。
そして、

「で、その女の子は今どこにいるんだ?」

珍しく頼りがいになるところを見せたと思ったら、その数秒後にはこの他力本願である。
これがアブセルがいまいち人から信用されない原因の一つであろうことは、多分本人も知らない。

823ナディア他:2018/04/17(火) 00:15:26
【ポセイドン邸】

「で、君たちは出ていかないの?」

先程まで騒ぎ立てていた輩は出ていったものの、代わりにその場に残った人物にジルは面白く無さげに問いかける。

「当然、あんたに話があるからな。」

「怪我人がどうのって言ったのはお姉さんじゃない。」

「固いこと言わないの。」

不平を述べるジルの態度など気にすることなく、ナディアは鏡台の椅子を手繰り寄せベットの傍らに腰を下ろす。

「ジル。」

不意に発せられたその声に思わず体が反応する。ナディアから自分の名前が出るとは思っていなかったのだ。
応龍として彼女の前に立った時、彼女は自分のことを覚えていないようだった。だから自分も敢えて知らない風を装ったのに。

「・・・ヨノから聞いたの?僕の名前。」

「可愛げのないこと言うなよ。あんたはヨノだけの知り合いじゃないだろ。」

言ってナディアは目を細める。

「すぐに思い出せなくて悪かったよ。何年も経ってたから・・・なんて言い訳にはならないよな、今のあんた、おじ様にそっくりだし。」

「失恋した苦い思い出を記憶から消し去ったんじゃないの」

「ほんと可愛くない」

こいつ、一発殴ってやろうか。
いちいち皮肉ばかり述べるジルに物騒な考えが浮かぶも、怪我人だからと抑える。横道に逸れすぎて本題に入れなくなるのはまずい。

「・・・ありがとうな。」

唐突にナディアなら紡がれた言葉に、ジルは怪訝な表情を浮かべた。

「僕はお礼を言われるようなことはしてないけど」

「リトのことだよ。ずっと気にかけてくれてたんだよな。」

確信めいたナディアの言葉。何故そう思うのか。自分は傍目から見ればリトに嫌がらせをしているようにしか見えないはず。そう見えるように振舞ってきた。

「何で・・・て、理由を聞いても教えてくれないんだろうな。」

言ってナディアは笑う。
そんな彼女の様子に誤魔化しても無駄だろうと察し、ジルは小さく溜息をつく。
そして不貞腐れたように再び窓の外へ顔を向けた。

824ナディア他:2018/04/17(火) 00:15:51

(嬉しかったから・・・)

一つ。単純に、リトが生きてることが嬉しかった。父が命懸けで救い出そうとしたその子が無事で、父の死が無駄じゃなかったと思えた。

もう一つ。幼い心を閉ざしていた彼が自ら言葉を紡ぎ、感情を表に出すようになっていた。歳を重ねるにつれ次期にそうなっていたのかもしれないが、あの日自分が彼に伝えた言葉が少なからず影響しているような気がして、こんな自分でも誰かの役に立てたのだと思えて嬉しかった。

そして、

「・・・単なる気まぐれだよ。」

何よりも、リトが綺麗だったから。
苦行に立たされ、生きるために身も心も汚してきた自分とは違う。リトは苦行の中でも気高さを見失わず、真っ当な道を歩んできた。
アブセルにはそれが気に入らないと言った。しかし本当は違う。彼のそんなところが羨ましく、憧れた。おそらくリトを自分と重ねているのだろう。自分自身を護れなかった代わりに彼を護りたい。いつまでも綺麗でいてほしい。穢されたくない。

しかしこんな気持ちなど他人に漏らしたくはない。ジルは窓を見つめたまま、無愛想に適当な答えを紡いだ。

それが本心でないことは丸わかりで、ナディアは呆れたような笑みを浮かべた。

「私の周りは何でこう素直じゃない奴ばかりなのかね。」

なら勝手に解釈させてもらうよ。
ナディアはジルの頭をクシャりと撫で立ち上がる。

「悪いけど、あんたを帰すつもりはないんだ。四霊の一人を野放しにするのは厄介だし、取り返したあんたを手放す気もない。逃げようなんて考えるなよ?そん時は動けないよう縛り付けてやるから。」

言葉は乱暴だがナディアの顔は笑っていた。
そして部屋を出ていく。

825ナディア他:2018/04/17(火) 00:17:58
「・・・。」

ナディアに伴っていたセナは彼女の背を送り、そして続いてジルへ顔を向けた。
ジルは相変わらず窓を見つめこちらに目を向けようとしない。

「・・・痛いか?」

静寂の中、セナが口を開く。

「あるものがないんだから、当たり前。」

「違う。」

足のことではない。ここだ、と言わんばかりに、セナは自身の胸に手を当てた。

「私は、痛かった。いっそ抉り出したくなるほどに。」

この状況に、セナは覚えがあった。
リマを思い出した時、必死に自分を手放すまいと仲間に訴える彼女を突き放した。再び闇の世界へ舞い戻そうと伸ばされたジュノスの手を取った。
今の彼は、あの時の自分だ。

「しかし私には分からなかった。自分の置かれた立場がどのようなものか・・・気付いた時には遅かった。」

黒十字の存在が悪などと思ってはいなかった。否、あの時の自分には善悪の区別などつかなかった。宗主の言葉が全てで、宗主こそが世界。命令に従いあらゆることに手を染め、人を殺め・・・引き返すには罪が重すぎた。

「・・・お前には分かるのだろう?その痛みの意味も。自身の罪も。」

言ってセナはふとジルの手元に目を向ける。彼の指に光る宝石はポセイドンの力が込められたもの。持ち主を幸運に導く願いが秘められている。

「・・・ポセイドンは人を慈しむが、見境なく加護を施す神ではない。罪人には相応の罰を与える。」

その指輪はジルを救った。その意味を考えろとセナは暗に示していた。
ジルは自身の行いとそれがもたらす結果を認識している分、取り返しがつかなくなる一線を超えることはしていないのだろう。神にとって、ジルはまだ庇護すべき存在として認識されている。

「・・・何で・・・僕にそんなことを言うの?」

はじめこそ反論していたものの、次第にジルの言葉は少なくなってきていた。相変わらず視線を合わせようとしないが、セナはじっとジルを見る。
しばしの沈黙のあと、ジルから声が返ってきた。
か細い声だった。

ナディア達にとってすらジルは親身に対応される筋合いはない。所詮他人なのだから。それがセナとなっては尚更・・・知り合いですらない彼にはジルのことなどどうでも良いはず。なのに何故彼は諭そうとしてくるのか。

826ナディア他:2018/04/17(火) 00:18:38
「別に・・・」

ジルの疑問に、特に答えなどなかった。彼にとってはただの気まぐれなのかもしれない。

「何か・・・言葉が欲しい気がした」

本来なら聖であるはずの力を黒く染めた。神を冒涜する行為ではあるが、そうせざるを得なかった事情があるのだろう。神を恨むほど、傷付いている。
それでも神への情を捨てきれずにいる。
底なし沼の中でもがきながら、必死に手を伸ばしている、そんな印象を受けた。

「お人好しばっか・・・」

もう反論する気すら起きない。
せめてもの反抗としてもう聞きたくないと、ベッドに潜りこみ相手を拒否した。
子供地味だ行為だと分かってはいるが、セナの言葉は耳に痛い。これ以上踏み込んで欲しくなかった。

「セナ、何してんだ?行くよ。」

そこへ、先に部屋を出ていたナディアが再び顔を出す。特に居座る気もなかったらしく、セナはナディアの呼びかけにすぐ対応し踵を返した。

「・・・ねぇ。」

部屋を出ていこうとするセナに、今度はジルが声を掛け呼び止める。
布団から少し顔を覗かせた。

(君はどうやって抜け出したの?)

受け継がれたお伽噺の範囲ではあるが、セナの境遇は知っている。引き返せない場所までいたという彼は、どのようにして本来の居場所に戻ったのか。

「いや、やっぱりいい・・・」

苦しみから抜け出す答えがそこにある気が来た。しかし聞く勇気が持てず、その問いは音を持たず飲み込まれる。

ジルは再び顔を隠す。
その姿を一瞥し、セナは部屋から出ていった。

827ユニ:2018/04/17(火) 00:48:59
【ポセイドン邸】

「ありがとうございます!」

俺に任せろ、との頼もしいアブセルの言葉にユニが安堵の表情を浮かべたのもつかの間、続く彼の言葉にすぐにその表情を困惑の色に染める。

「どこに・・・ですか?」

女の子の居場所・・・正直なところ、正確な場所は特定出来ていない。

「えっと・・・ユニにもよく分からないんです。ただ、何となく此処とは少し違う空間なような・・・」

とても曖昧な答え。しかし、ユニにはそれが精一杯だった。

「ふぇえ、アブセルさん。どうしましょう・・・」

828アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 06:53:08
【ポセイドン邸】

大して期待していた訳でもなかったが、およそ予想通りの返答にアブセルは軽く肩を竦める。

「…ま、そんなことじゃないかとは思ってたけどよ」

ユニもアブセル同様、詰めが甘いのだ。

とはいえ早々に出鼻を挫かれたことに違いはなく、どうしたものかと考える。
ユニが当てにならないのなら、あとはジルに直接聞くしかないが…。

「あの人が素直に話してくれるかどうか…」

想像しただけで骨の折れそうな難事業に、知らず吐息を溢すアブセル。と、そこへ…、

「呼ばれて飛び出てごきげんよう〜。悩み多き青少年の味方、ラディックです☆
お困りの貴方に朗報を持ってきましたよぉ」

「うおっ……え、誰…?」

今まで数々の修羅場を体験してきたこともあって、滅多なことでは驚かない自信のあったアブセルも、派手な煙の演出と共に、忽然と目の前に降って沸いた男の出現には流石に肝を潰した。
しかしラディックはそんな相手の困惑も余所に、にまりと笑うやアブセルに顔を近づけ…、

「ノワール姫の僕の一人…ルド坊っちゃんの一の家臣、ですよぉ」

道化風のフェイスペイントに、変人染みた口調と振る舞い。男の言葉に刺激され、アブセルの頭は無意識に過去の記憶を掘り起こす。

「あぁ…、確かノワールの故郷にいた…」

「思い出していただき光栄ですぅ。
ところでこちらにルド坊っちゃんがお邪魔していると聞いたんですけどぉ〜」

「ルド坊っちゃん…?
ちっこいガキならオッサンと一緒に出てったけど…」

「あちゃぁ〜、入れ違いでしたかぁ〜」

ラディックの主らしき少年はジュノスと共に、ノワールの求めるものを探しに何処かに出掛けていってしまった。
それを聞いたラディックは額に手を当てて天を仰ぎ、ややオーバー気味なリアクションを取る。
が、彼の本来の目的はそれとは別にあるのか、直ぐに「まぁ、それはそれで置いときまして〜」と二本の指で作ったVサインを、アブセルの鼻先にずいっと突きつけ…、

「二週間です〜」

「は?」

「あと二週間で世界は滅亡します〜」


――――…

829アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 07:00:12

その後ラディックの希望で、リト達や、ナディアやセナ、リマといったお馴染みのメンバーが集められ話が為された。
初めは何が「朗報をお持ちしました」だ。…と思ったアブセルも、ラディックの言を一通り聞いた後では、なるほど、そう言うことかと納得できる部分もあった訳で…、

「…つまり、その龍穴遺跡…?っつーのが、全部起動すると、黄昏の塔ってのが地上に張り出してきて、更にその上空に黄龍の居城が出現する、と…」

「はい〜」

「んで、その黄龍の側に、ジル……さんの妹もいると」

「はい〜」

…確かに、ジルの妹の行方は判明した。したのだが…。

「いやいやいや、あんたの話し聞く限りじゃ、それもうアウトじゃん。黄龍っつー奴が出張ってきた時点で、もう世界滅亡一歩手前なんだろ?」

ラディックの話が真実なら、全ての龍穴遺跡が起動してしまうと、封印されている闇が解放されて世界の全てが闇に閉ざされてしまうらしい。
それなら遺跡の起動阻止に向かう方が、よほど優先すべき事柄なのでは、とアブセルは言う。
しかし、それに対するラディックの応えは…、

「今から遺跡の方に向かっても恐らく間に合わないかと〜。全くの無駄足になる位なら、貴方がたにはその間、修行なり戦いの準備なりをして貰っていた方が時間の有効活用になるだろう。…とジーナさんは仰っていましたけどぉ」

「…遺跡が起動するのは確定事項なのか?」

今度の問いには、ラディックは、う〜ん、と顎に指を宛てて思案する。

「遺跡の起動を阻止する為に頑張ってらっしゃる方々もいますけどぉ…、少ぉ〜し厳しいとは思いますぅ〜。
まぁそれに、ジーナさんは常に最悪のことを考えて行動する方ですので〜」

だからこそジーナは、遺跡が起動し塔が出現した後のことを考えて、黄龍との戦いに望むべく万全の準備をしろとリト達に先んじて警告するようラディックに命じたのだ。

「それに私も貴方がたを、黄龍の居城に連れていくように言われてはいますが、現段階では無理です〜。
いくら空間跳躍といえど、次元の狭間に介在している、プラス堅固な結界が張り巡らせてある場所へは流石に行けませんので〜」

詰まるところ、黄龍の目論見を阻止するのも、ジルの妹を助けに向かうのも、黄龍の居城がこの世界に出現、干渉する段階まで来ないと文字通り手も足も出せない、ということらしい。

何と言うか…、当初の、ジルの妹を助け出すという問題から、とんだ所にまで話が拡大してしまったものだ。
アブセルの低スペックの脳みそでは、もう許容オーバー寸前である。
…リトなんかは割りと訳知り顔でいるが。

830アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/07(月) 07:02:03


「…と、まぁここまで長ぁいことお話しましたが、別にこれは強制でも何でもありませんので〜。
貴方がたが世界の崩壊を止める鍵を握っているのは確かですが、ドロップアウトしたい方がいらっしゃれば自己判断でどうぞー、ともジーナさんは仰っていましたぁ。
この先はいつ命を落としてもおかしくはありませんし、過酷な決断を迫られることもあるやもしれません〜。
愛する者と共に世界が滅ぶのを見届ける、と言うのも一つの選択だと思います〜」

他人事のような態度と、のほほんとした口調のせいで、いまいち切迫感が沸かないが、かなりシビアな選択を迫られていることは確かなようだ。
更にラディックは言葉を継ぐ。

「運命を受け入れるのも、最後まで抗うのも、貴方がたの自由です〜。"その時"が来ればまた来ますので、よくよく考えて決断してくださいねぇ」

そしてそう言い残すと、彼は来たときと同じく、忽然とその場から消え失せる。

…世界滅亡まで推定二週間。かくして彼らの下した決断とは…。

831ヤツキ ◆ruQu1a.CGo:2018/05/07(月) 20:06:28
>>778の訂正項です。

「久し振りだが、思い出話に花を咲かせる暇は無いらしい。」

既にヤツキの身体は膝下が光となって消え、肩先や末端部分も粒子となりつつあった。
言葉通り、時間はない。

「聞いていただろうが、俺は役目を全うした。」

100年前は敵対した者達が、今はこうやって同じ地を、仲間として踏み締めている。
時を越え、世代を越えた力と想いがあれば。

ーー必ずや、上手くいく。

「世界の免疫力とも言える闇が集まり、溢れるこの闇の巣と黄昏の塔。
闇を管理し、使役していたステラが逝くとならば、誰かがその任を継がなければならない。

今はまだ抑え込まれているが、ステラと言う制御系を失えば、この無尽蔵の闇は世界を食い尽くすだろう。
だが、適性を持った誰かが、闇を使役し、この塔諸共地中深くに沈めてしまえば……一時的にだが闇は活動を停止する筈だ。
強度と高さは問題無い、沈み込めば地殻を超えて核へ届く。」


ーーセナよ、今こそその力を発揮する時だ。

「幸い、今この場に闇の素養を持つ者は数多く居るようだ。
話し合って、決めるといい。

……素養が無い俺は剣を振るうしか出来なかった。」

闇の素養を持つ者、闇の王子であるセナとリト。
それに仕えてきたアブセル。

吸血鬼であるノワールと、異界の闇を宿していたメイヤ。
人柱になれ、と言うしか無いのは辛いが、今はそうするしかないのだ。

「そろそろ、時間か。」

視界に映る面々を見、ヤツキは静かに目を閉じた。
そして、抱き抱えるステラと共に、その身体は光に包まれる。

その様は淡雪が夜空へ舞い散り、月明かりに融けるようだった。

ーーイスラ、悪いが先にいく。
ーーお前と共に戦えて……良かった。

832シデン:2018/05/11(金) 07:02:26
【虚空城】

恐らく今のイオリが持ち得るであろう、最大最速の刃が抜き放たれる。
鳳凰の"平等"によって、己の能力値をイオリと同等のものへ変じられている今のシデンでは、それに対抗し得る術もなければ時間もない。
反応は出来ても、身体がついていかないのだ。

「―――ッ」

それでも潔く負けを認めるなど以ての外、最後まで精一杯の抵抗の姿勢を見せるところは、流石と言うべきか、恐るべき執念と言うべきか。

だが不十分な重心と体勢、構えるどころか、ただ単に相手の斬撃の軌道上に滑り込ませただけの剣で受け止めるには、その一撃はあまりにも重い。

刹那、室内に快音が響く。

一瞬の停滞もなく、シデンの握る剣が激突する鋼の威力に負けて砕かれる。
もはや、神刀の剣撃を邪魔するものは何もない。

赤熱し、途上の大気すら斬り殺す刃が走り抜け、シデンの胴体を一太刀の元に引き裂いた。

――――…


バルクウェイの街は、不安と困惑の声に満ちていた。

月も星の輝きも存在しない、暗澹とした闇に染まる漆黒の空。いつまで経っても朝は訪れず、昏昏と夜の深みを刻み続ける街。
もはや日常風景の一部となっている鳥の囀ずりも耳にできず、それどころか虫や獣の姿さえ見つけることが出来ない。

…まるで嵐の前の静けさのようであった。
不可解な状況に、住民達は肌でその異常性を感じ取る。

ある者は戸口を締め切って、家屋の中で息を潜め。
ある者は何が起こっているのかを空挺師団の団員に問い質そうとする。

ピリピリとした緊張感を帯びた不穏な空気が、街を…、いや、世界全体を支配していた。

833シデン:2018/05/11(金) 07:04:01

それもこれも、惑星を包み込むようにして形成される外郭によって、世界が閉じられようとしているのが原因であった。
もっとも、その事実を知っているのは、都市の中でも極小数の者に限られていたが。


…知らずに済むのなら、それもまた良いのかもしれない。

間もなく世界が終るなどという、受け入れがたい運命を突き付けられて、平常心でいられる人はきっといないだろうから。

少なくとも、この異変も一時的なのものだと、直ぐにいつもの日常が戻ってくると、先の展望を期待している間は、人々が妙な気を起こすこともない。
事実、大規模なパニックや暴動が起こったという報告はまだされていなかった。

だがそれも、危うい均衡の上に成り立っている仮初めの平穏に過ぎないことに違いはない。
何が引き金となって、その均衡を破ることになるかは誰にも分からないのだ。


「ママ…、何だか怖いよ…」

街の中心部。
いつもは溢れかえるほどの賑わいを見せる街の往来も、今は目で数えられるばかりしかいない。
その中に混じって、隣にいる母親の服の裾を握りしめ、不安げに訴える少女がいる。
それに対し困惑する母親は何も言えない。だが安心させるように怯える我が子の頭に優しく手をおいた。

その時であった。

「見ろ!」

同じく街路に佇んでいた男が何かに気づき、叫び声を上げる。
そこにいた決して多くはない数の人々の足が止まり、一斉に彼が指差す先、上空へと視線が向かう。

「空が…!」

そこには、暗い影を落としていた空が、血が広がっていくかのように赤黒く染まる光景があった。
同時に、未完成の外郭の隙間から僅かながらに差し込まれていた外界からの光も、まるで月が欠け落ちていくかのようにゆっくりと、だが確実に、人々の頭上からその姿を消していった。

834シデン:2018/05/11(金) 07:09:53
【虚空城】

重々しい鐘の音が鳴り響いていた。
それは虚空城に付設する鐘楼、そこに吊るされた巨大な鐘から発せられている。

一つ、二つ、音を重ねるごとに、世界は闇の中へ沈んでいく――。

その鐘楼の下。
城の最上階、外に張り出されたテラスに何者かが佇んでいるのが見える。

白い肌に、丸く大きな紅玉の瞳。少女というよりは、童女といった方が相応しいような年齢の娘。
鐘の音をバックに、美しい金髪を風にたなびかせる彼女の名は、メルフィ。吸血鬼の姫…ノワールの実の娘だ。

メルフィはテラスの縁に立って、長い睫毛に縁取られた瞳で眼前の闇をじっと見つめている。
ふいに口から白い吐息が溢れ、その唇が言葉を紡ぐ。

「…――闇の中に響く時の声に、貴方は絶望を聞いた。
燃え盛る炎へと進み行く人々に、貴方は咎人の葬列をみた」

それは酷く空虚な声だった。
もともと感情表現の豊かな子ではなかったが、普段の彼女を鑑みても、それは異常なほどに無機的なものであった。

「穢れは瞬く間に世界を食らい尽くし、黒き災いの鉄槌は彼らの頭を悉く打ち砕くだろう」

無表情。無感情。
その虚ろな瞳の奥に存在している意思は、恐らく彼女のものではない。

「されど、恐れることはない。主は貴方と共にある。
されど、嘆くことはない。貴方は主と共にある」

まるで何者かに操られている人形のように、メルフィはただただ祝辞とも呪詩ともいえない言葉を綴る。

「眠れ、安らかに。全ての魂は星へと還る」

それを最後に、空気が軋むような悲鳴を上げた。
少女の顔を薄く浮かび出していた光が、徐々に消えてなくなっていく。

"蝕"

遥か昔、神界と人界を、そして多くの神々と人間を屠ったあの時と同じ現象が幾千年と時を重ねた今、再び起こる。

空は血を塗ったように赤黒く染まり、黒い雨が地表に降りしきる。

世界は今、闇に閉じられた。
もはや一片の光も地上には届かない。

――――――…

835シデン:2018/05/11(金) 07:19:39

重厚な鐘の音は、その部屋にも届いていた。

胴を斬り落とされ、上半身と下半身、それぞれ別の方向を向いて倒れるシデンの痩身が部屋の中央に転がっている。

その切断面から夥しい量の血を噴出し。
整えられた黒の頭髪も、上等なスーツも見る影もないほどに穢して。

血河の中に沈み、凄惨たる骸を晒すシデン。
ふとその耳に届く筈のない幼子の声が降りる。

――ピクリと、彼の指が動いた。


『……漸くか……』


直後、どこからか発せられた述懐と共に、凄まじい量の闇が溢れ出す。
息苦しいほどの圧迫間を伴って、もはや暴力的な勢いで室内を駆け巡るそれの発信源は、他でもない、床に倒れ伏せるシデンからのもので――。

…否、そうではなかった。
シデンではない。

そこにいたのは、巨大な獣だ。


『……この時を、ずっと待っていた……』

闇を纏い、底冷えするような声で、深淵から覗き込む二つの赤い瞳。

瞬間、巨大な質量がイオリを凪ぎ払い…、その勢いのまま振りきられたそれが壁面を容赦なく粉砕する。

『ゴミが』

そう吐き捨てたのは、馬と竜を掛け合わせたかのような、幻想的な姿をした獣だった。
鋼色のたてがみに、艶やかな毛皮に包まれた漆黒の体躯。
その堂々たる立ち姿を惜し気もなく披露する黒麒麟は、冷々とした瞳でイオリが飛ばされた先…崩れ落ちた瓦礫の山を睥睨する。

…正直、イオリがここまでやるとは思っていなかった。
少々驚かされたことは事実だが…、

『所詮は他のゴミ共(人間)より少しばかり優れていただけのこと。
愚物の価値に何ら変わりはない』

836シデン:2018/05/11(金) 07:22:11

今となっては窮屈な部屋を、麒麟は背中の両翼を広げて天井ごと周りの壁を破壊する。
降り注ぐ瓦礫をものともせず外に出るや、しなやかな首をめぐらせて辺りに目を向けた。

…外郭は完成。
中央棟の最上階には、闇の管理者とも並ぶ因子の持ち主であるメルフィの姿が。
階下では城の節々で闘いが繰り広げられているのか、噴煙が上がっているのが見てとれる。

麒麟は一度瞑目すると、顔を上げ、再び城の最上階に視線を戻す。
その目には、そこにいるであろう黄龍の姿を思い浮かべているようであり…、

『我が主…、ようやく嘗ての姿を取り戻しました。
これで貴方様の本懐に添うべく、十全に力を振るえそうです』

そう感慨深そうに呟いて、麒麟がその大きな身体を身震いさせれば、抜け落ちた羽根の一枚一枚が魔物と変じ、夥しい数のそれが塔を伝って下界へ殺到する。

それは過去、最大の災厄。
山野という山野を焼き払い、大海という大海を穢し、世界を蹂躙し尽くした破壊の権化。

全ての龍穴遺跡が機動し、塔を支配していたスピカが潰えたことで、最後の闇の封印が解かれ、麒麟と謂われる霊獣もまたその真の力を解放するにいたる。

地上では黒き雨によって濡れて変質した大地より魔物が沸き上がり、上空からは塔を伝って麒麟の分身でもある精鋭が下界へ押し寄せる。

惑星を取り巻くように巡り、人々に恩恵を与えていたレイラインのエネルギーもその全てが陰のもの…、つまり闇の性質に変わる。

それによって生じる世界の法則に乱れ。

風は死に、大地は濃密な瘴気に満ち溢れ。
世界は生気を根こそぎ失ってしまったかのような、闇に沈む。

同時に、闇の力を持つ者にとっては、己の力が最も高まる時であり、
しかし闇と相反する聖の力を持つ者にとっては、一番力の弱まる時…。



世界はうち震える。終わり、再び生まれ変わることを歓喜するように。
鳴り響く祝福の鐘の音が、世界の終焉を言祝いでいた――。

837イオリ ◆ruQu1a.CGo:2018/05/14(月) 17:43:16
【虚空城】
 
神と人、文字にすればたったの一文字の違いだが、その違いは天と地以上。
いくら着飾った所でその魂は神へ至る事は無い。
文字通り、痛い程わかっていた。
瓦礫を押しのけ、イオリは満身創痍の姿を現す。
 
全壊と言っても過言では無い程に破壊されたフロア。
満ち溢れる闇は常人なら息を吸う前に即死するであろう濃度で、イオリは咳き込むと同時に血塊を吐き捨てた。
 
「くそったれが……やってくれるじゃねェか……」
 
朱に染まる口元を拭い、見上げる先。
漆黒の闇に染め上げられた神獣の姿にイオリは毒を吐く。
鍛え、磨き上げられた技術と最上級品の武装を持ってしても、倒せたのは“人”の域を出ないシデンただ一人。
眼前の巨大な獣はまさしく“神”であり、今のイオリに神獣を討ち取る程の力は無かった。
 
先の一撃で蒼炎の火炎鳥を宿す妖刀は折れ、魔鎧もその機能の大半を失ってしまっている。
四霊の一角、鳳凰の違いも“今は”もう無い。
万事休す、人の身のままでは勝てないだろう。
それ以前に、神と戦う土俵にすら上がれないのだ。

そう、“人の身”のままでは。
魔装の残骸を剥ぎ取り、血に濡れたシャツを脱ぎ捨てる。
満身創痍を現す傷だらけの半裸を晒し、イオリは笑った。
信義を失わない限り滅される事のない神獣、黒麒麟。
 
麒麟とは鳳凰と同じく雌雄一対であるとも言われ、また、その身を染める色により強さも変わると言う。
黒端、闇に染まるその個体は取り分け強力だ。
身を震わせ、羽ばたき舞い落ちた羽は百鬼となって、闇に染まる地上に更なる悲叫を齎すだろう。

「よそ見してんじゃねーよ、デコメガネ。」

遥か空、虚空城の尖塔へ紅瞳を向ける黒麒麟へ、イオリは声を投げる。
浮かべた笑みが意味するのは、不屈の闘志。
惜しげもなく晒される、鍛え抜かれた身体に刻み込まれた呪印がその色を黒から赤へ、そして闇よりも深い漆黒へと変化し、輝き出した。

「まだ終わりじゃねーだろ、俺とお前の戦いは。
……知ってるか、シデンよ。」
 
闇色に輝く呪印は瞬く間にイオリの身体を包み込み、周囲の闇をも取り込んで爆発的に増加していく。
 
「限界ってのはな、超える為にあるんだ。」
 
新雷寺一族の最も深い闇、闇の子供達計画。
多くの被験者を犠牲に完成したその技術と計画の完成系、成功者はメイヤただ一人であった。
……今、この瞬間までは。
 
(遺伝子レベルで異界の悪神に適応させたなら、近い遺伝子情報を持つ者なら適応する可能性は高い。
血縁者、メイヤの父親であるなら特に期待は出来る……!!)
 
刻み込まれた呪印が示すのは、闇の悪神、チェルノボーグの封印式。
メイヤの内に封じ込められていたのはほんの一部であり、残りはイオリが回収していたのだ。
 
「穢れた翼でも、空は飛べる。」
 
闇を喰らい、闇に染まる。
爆発的に増幅する闇が鱗を、爪牙を。
大翼を、巨尾を形成していく。
鰐よりも凶悪な、凶暴ながらも猛々しく咆哮を上げるのは、天穿つ巨龍。
 
炎狗、氷狼、雷鴉。
その全てを超えし闇の悪神、封印を解かれイオリを媒体に顕現したのは、漆黒の天龍であった。
 
再度の咆哮が虚空城を揺らし、大翼が闇を打ち据える。
爪牙を煌めかせ、堅鱗をひしめき合わせ。
 
ーー心に翼を持つからこそ、飛ぶんだ。
神の高みまで昇ったからよ、今度こそ決着をつけようぜ!!ーー
 
天龍が、吼えた。

838リト他:2018/05/20(日) 23:17:54
【ポセイドン邸】

世界が終わりの時を迎えようとしている。

「......」

光を飲み込み赤く色付く空をセナは黙って見上げていた。
魔玉が闇に反応している。身体のそこから疼くような感覚。放たれた闇と一つにならんと欲しているような...

「...セィちゃん」

背後からか細い声が聞こえ、振り向くとリマが覚束無い足取りで外に出てくる所だった。足がもつれ倒れそうになった所をセナが支える。

「なんか、気持ち悪い...」

「闇が放たれた...瘴気にあてられたのだろう。」

リマのように純粋な聖の力を持つ者にとって、今は空気さえ毒ガスのようなものだろう。そしてこの濃度が濃くなれば、異能を持たぬ者が生き続けることは困難・・・

セナは自身が身につけていた腕飾りをリマの手に通す。

リマには闇に対する免疫がない。
一時凌ぎではあるが、闇の者が長い間身につけていたものを所持させることで擬似的な闇との接触をつくり症状を緩和させる他ない。

「ありがとう」

少し楽になった。リマはセナの腕の中で力なく笑い、続いて空へ視線を移す。

「あの時と同じ...」

いや、それ以上かもしれない。
リマは黒十字との決戦の日を思い出し、無意識にセナの服を掴む手に力が入る。
あの時も世界が滅亡仕掛けたのだ。平穏を取り戻したはずなのに、封印した闇は再び目覚めてしまった。

あの時はセナを失わずに済んだが、また同じ状況になれば今度こそ彼を失ってしまうのではないか、不安が募る。

ラディックから話を聞いた日、セナも、そしてリトさえも驚く様子を見せなかった。まるでこの時を知っていたかのように、加え、その脱却方法さえも知っているような顔。それを見てリマは胸騒ぎがした。最悪の事態が起こりそうで。

「セィちゃん、あのね...」

「セナ、だっけ?あんた、分かってないかもしれないから一応言っておくけど、」

リマが言いかけた時、後から別の声が割って入る。
アネスがどこか不機嫌そうな顔を浮かべながら二人のもとへ歩み寄る。その隣にはリトもいた。

「あんたに何かあったらリト達が存在し得ないこと、忘れちゃダメだからね」

アネスの不機嫌さはどうやらこの状況にあるようで。空を見上げ、苛立ったように眉を潜める。

「ほんと、世界の終焉って感じ?こんな環境に娘を放り込むとか、うちの父親どうかしてるんじゃないの?」

呟きながら大鎌を顕現させる。

「範囲は?」

「限界まで。」

「人使い荒い・・・」

隣のリトへ何やら意見を求めるも、その答えに更に気を悪くする。かと言って断る気もないようで、手にした大鎌をくるりと回し、柄の部分を力強く地面に打ち付けた。
途端、波動が地を伝い勢いよく広がっていった。

「ポセイドンの管轄域は守ってあげる。私の魔力が続く限りこれ以上魔物が増えることはないわ。」

「かなり広範囲だな。リミットは?」

「私が死なない限り問題ない。」

「ふーん、流石。」

「思ってもないくせに、生意気。」

まぁどうでもいいけど、とアネスは続け、

「出来なくはないけど、なるべく魔力は温存しておいた方が良いでしょ?私は戦力外に。まぁこの邸内を守るくらいはしてあげる。」

「そこは問題ない。・・・ノワール。」

リトの呼びかけにノワールがふわりと姿を現す。

「既におる魔物の討伐は引き受けた。所詮は闇より生まれし赤子のようなもの・・・小物を滅するなど造作もないわ。」

「油断はするなよ」

「指図は無用じゃ」

ノワールは小生意気に鼻を鳴らし姿を消す。目的地へ向かったようだ。

この状況に困惑せず的確に指示を下していくリト。その冷静さは見事だった。

839ナディア他:2018/05/20(日) 23:19:11

その様子を、窓の外から見つめるジル。

「流石だろ、うちの弟は。」

ジルのもとを訪れていたらしいナディアが隣で同じように外を見ながら笑う。

「・・・行くの?」

「まぁな。」

"その場所"へはあの変なピエロが案内してくれるらしい。
ジルはリトから目を逸らさずに、そう、とだけ言葉を紡いだ。

リトはこの事態を収束させる鍵を握っている。そして、その方法も知っているようだ。それは、あまりにも残酷な方法であるが。

「お姉さん、僕は世界を救うために犠牲になっていい命なんてないと思う。誰かの犠牲の上でしか成り立てない世界なら、いっそ無くなってしまえばいい。」

だから、止めて欲しい。あの子がその決断を下そうとした時は。

時折黄龍と意識が繋がることがある。これは彼が自分を模した姿をしていることにも関係しているのか、原因は分からないが、いつか自分の意識はなくなり黄龍に呑み込まれてしまうのではないかと恐怖があった。
しかし、そのおかげで知ることが出来たこともあった。

「あのユニって子。あの子さえ目覚めれば・・・」

「え、何?」

ジルの呟きはナディアには聞こえなかった。
聞き返すが、ジルは教える気はないらしい。

「君たちがこの世界に執着する意味は分からないけど、せいぜい頑張るといいよ。・・・死なない程度にね。」

840アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2018/05/25(金) 05:35:07
【ポセイドン邸】

当主の風格たり得る、堂々としたリトの勇姿を見ていたのはナディア達だけではなかった。

「…リトが格好よすぎて死ねる…。抱いて!いや、抱かせて!」

敬服と変態的な眼差しでリトを見守るアブセル。
不意にその頭に拳骨が落ちる。
…ベルッチオだ。

殴られた頭を抑えながら不満の音を上げるアブセルを無視し、ベルッチオはリトの傍らに歩み寄る。
そして、

「こちらは私共にお任せを。いかな悪鬼共が襲って来ようと、奥様やヨノお嬢様には指一本触れさせません。
坊っちゃんは何らご心配召されることなく、どうぞご自身のお役目にご専念くださいませ。
…貴方様の、皆様のご帰還を心よりお待ちしております」

主への恭順を示すが如く、恭しい仕草で頭を下げるポセイドン邸の老執事。
一方で、今度はラディックが打って変わって陽気な声を上げる。

「ではでは皆さん、此方に集まってくださ〜い。
そろそろ出発しますよ〜」

観光ガイドよろしく、手を上げて面々に呼び掛ける彼は、ふと何かを思い出したのか手を打ち合わせる。
ぽんっと、どこか気の抜ける音が場に上がった。

「そうそう。実はもう既にあちら側に乗り込んでいる方々がいるみたいで…、もしかしたら貴方達のお知り合いかもしれませんねぇ?」

自分達以外にも協力できる相手がいると報せることで、リト達の戦意向上を狙っているのだろうが…、それにしても白々しい。

いつものにやけ面で集った面々の顔を順に見回すラディックは、それについては深く言及することなく「では行きます〜」と出発の旨を告げて技を発動させた。


―――…

空白は一瞬。突然の浮遊感に見舞われた直後、先程まで見ていた光景が切り取られ、別の光景とさし変わる。

慣れない空間跳躍に思わずその場でたたらを踏むアブセルを含めた一行が飛ばされた先は、空中に浮かぶ虚空城をのぞけば、今この世界において間違いなく一番の高みに存在する場所だ。
視界一面に広がる赤黒い空。若干の息苦しさとそれなりの広さを有する塔の頂きには、先程ラディックが言った通り先客ともいうべき数人の者達の佇む姿があった。


「待ってくれ!それではあの時と…、セナの時と一緒じゃないか…!
それを俺達で決めると言うのはあまりにも…っ」

深刻な面持ちで声を上げているのはイスラだ。
しかし、切羽詰まったその声を聞き受ける相手の姿はもう既にそこにはなく、そしてイスラの方も、彼との別れを惜しむだけの余裕はないようであった。

今の時代から遡って百年も前。イスラ達は世界を闇の脅威から救う為、セナを魔玉の代わりにした。
それは決して望むべくして取った選択ではなかったが、今の状況はあの時と一緒だ。

闇諸とも塔を地中深くに沈める役割を負うということは、闇を封じる楔代わりになるということ。
そしてそれは死ぬことも許されず、牢獄のような場所に永遠に囚われ続けることと同義ではないのか。

「そんなこと…、出来る訳がない。他にも何か方法がある筈だ」

誰が犠牲になることもない別の対処方法が。

だがその思考は突如響いたけたたましい獣声によって遮られる。
何事かと仰ぎ見れば、夥しい数の魔物が上空から降ってくるのが見えた。

即座にイスラとサンディが動く。協同で展開させた多数の炎の槍を魔物に向けて飛ばすが…

「…!これは……」

「嘘っ、なんで…!?」

炎槍は魔物に届く前に、その火力を急速に萎め途中で掻き消えてしまった。

どうやら闇が世界に及ぼす影響は、聖の本性を持つ四神の力を弱体化させるまでに至っているようだ。

841シデン:2018/05/31(木) 05:43:56
【虚空城】

響き渡る咆哮を正面から浴びて、麒麟はもたげていた首を下ろした。

『…大人しく死んでいれば良いものを』

二つの紅い瞳が映すのは、天翔る巨大な天龍だ。

大気を震撼させる咆哮は、それ自体が重みを持っているかの如く圧迫感を伴い、硬質な鱗に覆われた漆黒の体躯は全身に鎧を纏っているに等しい。
獲物の命を毟り取ることのみに特化した爪牙も、広げられた大翼も、見る者を圧倒させて余りある存在感を放っている。

禍々しくも神々しい威光を放つそれを。
その変貌を遂げた巨龍の姿を眺め、麒麟は僅かに目を細めた。

『しかし、醜い…』

驚くでもなく、ただただ、その顔には不快感だけが刻まれている。

『人の欲には底がないと言うが…、俺は貴様ほど強欲で身の程を弁えぬ人間は見たことがない』

鼻を鳴らし、瓦礫の山を踏み締め、麒麟は相対する天龍を鋭い視線で睨み付ける。

『偽り、騙し、死者を蘇らせ、神を手にかけるだけでは飽きたらず、厚かましくもその神列に名を連ねようとは…、思い上がりも甚だしい』

神をも恐れぬ所業とはまさにこのこと。

素性を偽って黄龍の懐に潜り込み、まやかしの忠誠を誓うそれは、他者を嘲笑い、主の尊厳を踏みにじる信義に悖る行為だ。
愛する女を蘇らせたその手で、神であるワヅキの命を奪った蛮行は、天の原理にツバを吐く忌むべき冒涜だ。
あろうことか自ら人の身を捨て、神の領域に到達せんと求める精神は、傲慢で利己的な、シデンが最も嫌悪する人間の浅ましい本性だ。

誰よりも長く近く天意に侍り、忠を尽くしてきた彼だからこそ、イオリの冒した不徳の全てが我慢ならない。

『その汚穢にまみれた手で次は何をする。
黄龍様を殺め、世界を我が物にでもする気か』

ふいに麒麟は己の両翼を大きく広げた。

その翼にある発電器官が脈打ち。瞬間、白光が迸り、指向性を持ったそれが恐るべき速度で射出される。
中れば人の身など一瞬で蒸発させてしまうであろう白い光が、周りの闇を塗り潰しながら途切れることなく天龍に襲いかかった。

842リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/04(月) 23:40:02
【黄昏の塔】

「助けなきゃ・・・!」

ラディックの言う先客とは、確かに見知った顔だった。
しかし今は再会を喜んでいる場合ではない。
襲い来る魔物に放った技が無効化されたのを見るや、リマはすかさず助太刀しようと前へ出る。
しかし駆け出そうとしたリマの腕をすかさずセナが掴みそれを阻むと、彼女を胸に抱きながら自由のきく手を翳す。
途端、その手から放たれた闇がけたたましい音を立てながら渦となり、今まさにイスラ達に襲いかからんとした魔物達、及び周辺のそれらを一気に呑み込み爆ぜた。

その威力たるや。

「やば・・・」

ナディアは思わず声を漏らす。
正直なところ、セナと出会ってから今までどこかぼんやりとした彼の姿しか見ていなかった為完全にナメていた。忘れかけていたが、彼はかの時代の闇の王子なのだ。

「・・・って、こんなんしてる場合じゃねぇや!」

呆気にとられたがすぐに我に返り、ナディアは慌ててイスラ達のもとへ。

「おーい!サンディ!大丈夫か!?」

843メイヤ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/11(月) 20:15:20
【黄昏の塔】
 
 炎を掻き消す闇と赤黒い空。
過去と現在、二人の天照大神が放った炎は萎む様に消えたと言う事は、恐らくポセイドンの力も……いや、聖なる属性、陰陽で言えば陽に属する者はその力を殆ど発揮出来ない状態なのだろう。
 
 (確かに、俺の白焔も出せないな……)
 
 対して、陰に属する闇の力は120パーセント以上増幅されているのがわかる。
 鳳の力により焼失した筈の異界の闇が、セナが巻き起こした闇渦に反応して蠢いたのだ。
完全とは言わすとも、ほぼ焼失した筈の闇が励起し、今この瞬間も増殖している事から、上記の事が考えられる。
 
 「セナ…さんだったか?今の一撃で魔物は一掃出来たけど、長くは保たない。
 第二波、第三波と来たらどうしようもなさそうだ。」
 
 魔物を一掃したセナの力に胸の内がざわめき、蠕動するがソレを無視してメイヤは続ける。
 
 「先々代……先の剣士の言葉通り、誰かがこの塔を沈めないとならないし、迷う時間もない。」
 
 吸血姫のノワールと二人の闇の王子。
素質はあれど開花に至らないアブセルと、闇の残滓がこびり付いた器の自分。
 
 メイヤは闇の素養を保つ者を指差し、その名前を呼ぶ。
そして最後に、自身の胸元を左手の親指で指した。
 
 「……だから、俺が行く。
 月は過去からの脱却、未来への好転を示すとも聞いた。
 この塔では一族の者が2人死んだ、いや、3人か。
墓標にするには丁度良い。」
 
 アグルに敗れたユーリと、メイヤ自身が破ったクウラ。
先々代であるヤツキの死地も、ここと言って間違いではないだろう。
 
 「吸血鬼の姫も、闇の王子もここで死んでいい存在じゃあない。
 
 逆に言えば元より俺は存在しなかった筈の人間だし、三回程死んでるから四度目があってもおかしくはないだろう?」
 
 取捨選択と消去法、主観ではあるが問題はないだろう。
 メイヤは頂上に立つ面々を見渡し、言い切った。
 
 「異界の闇を宿していた器であるこの身体は、魔玉に近い性質を持っている。
 他に適任者は居ても、覚悟は出来てないだろう?
 
 だから、皆は先に行け。」

844リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/12(火) 00:07:33
【黄昏の塔】

「駄目・・・」

今一番効率的で効果のある方法はまさに"それ"なのだろう。
しかしそんなメイヤの提案に皆が考える間も与えず、リマの異を唱える声が入る。

「簡単に言わないで。誰も死んで良いわけない。」

言いながら、リマはセナの腕をきゅっと掴み、セナが「その役」をかって出ぬよう無意識に予防線を張る。本当は彼女も得策が何かは分かっているのだ。かと言って認めるわけにはいかない。その方法を認めてしまえばセナも候補の一人となり、メイヤに対し「セナでなくて良かった」などと薄汚い思いを抱いてしまいそうで。そんな卑怯な考えなど持ちたくない。

「キリがなくてもその都度対応して行けば・・・。最終的に元凶を叩けば、必然的にこの闇の暴走も止めることが出来ませんか?」

845サンディ:2018/06/15(金) 04:08:17
【黄昏の塔】

「う、うん…。あたしは大丈夫だけど…」

気遣って駆け寄って来てくれたナディアに力なく応じて、サンディは真紅の瞳をさ迷わす。
その心細そうな視線はメイヤの上でピタリと止まり、そして…、

「どぉでしょうかぁ?
私はあまりオススメしませんけどぉ〜」

リマの提示した代案に、意外な人物からの異論が入る。
横から口を挟んだのはラディックだ。

「元凶を叩くと言いますが、誰がそれをするのですかぁ?現状、四神の皆さんは戦力外と言っていい状態ですよねぇ?
それ以外の残った方々で応戦するには、この先あまりにも負担が大きい…と言うか正直な話、無謀過ぎますよぉ」

小首を傾げ、彼は平常通りのおっとりとした口調でとうとうと言葉を続ける。

「一人の犠牲で四人の戦力が戻ってくるのなら、当然勝算の高い方を取るのが合理的です〜。
それに地上では闇の瘴気と魔物の来襲で、今まさに多くの方々の命が危機に瀕しているのですよぉ。
全人類の命と天秤にかけても、たった一名というのは安い代償ではないでしょうかぁ?」

今こうして話している間にも、そしてその話し合いに時間をかければかけるほど、地上にいる多くの人間の命が失われているのだと、ラディックは言外に語っている。

ポセイドン邸のように、戦える人員が残っている場合はまだ良い。だがその他の地が、それと同じとは決して言い切れないのだ。

ラディックのもっともな発言は、一同を押し黙らせるには十分過ぎるものだった。

誰しもが言葉を詰まらせ、場が沈鬱な静寂に沈む中。ふいにサンディが静かな声音で口を開く。

「……メイヤは、本当にそれで良いの…?」

小さく、どこか弱々しい。
その問いは他でもないメイヤ自身に向けられていて…、

「あの時…、メイヤは明日が欲しいって言ってたよね…?
あたしと、もう一度街を歩きたいって、だからそんな明日の為に戦うんだって…」

俯き、前髪の影に隠れた顔はよく表情が読み取れない。
だが彼女は、何らかの感情を必死に抑え込むように強く拳を握りしめていた。

「あたし、言ったでしょ…?
自分を大切にしてって。人の為に、世界の為に簡単に命を投げ出そうとしないでって。
そう…約束してくれたんじゃなかったの…?」

小さく掠れ、次第に涙声に震える声。
堪えきれず、瞳から溢れた熱いものがサンディの頰を伝った。

「…それが、メイヤの出した答え?」

846アブセル:2018/06/15(金) 04:11:07

「リト、馬鹿なこと考えるなよ」

その様子を眺めながら、アブセルは呟くような声で隣にいるリトに先んじて釘を刺した。

何やかんやと言いつつも、リトがお人好しであるのをアブセルは知っている。
目の前に泣いている者や悲しんでいる者がいれば、うんざりしながらも、いつも最後には手を差し出してしまう。
慰める言葉を持たぬかわりに、彼はいつだって自らの行動で誰かを救ってきた。

…呆れるほど不器用だと思う。不器用で、それと同じくらい優しい。
だから今回も、自分を犠牲にして場が丸く収まるのなら、リトはそれをしてしまい兼ねない。
だからこその予防策だ。

リトやセナが名乗り出るなら、まずその前は自分の番なのだと。

「俺らみてーなのの代わりは沢山いても、お前の代わりはいないんだから」

リトもセナも、この先きっと必要な存在となる。

ましてセナにいたっては、この時代の人間ですらないのだ。もし彼を闇の暴走を抑える贄に選んでしまえば、その子孫であるナディアやリトもどうなってしまうか分からない。
最悪、歴史が変わってしまう可能性だってある。

だから、彼らをここで失う訳にはいかない。

847イオリ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/18(月) 00:45:07
【虚空城】
 
 漆黒の闇に染まる二頭の巨獣。
二つの巨影の容姿は意外にも似通っており、互いの両翼が同時に羽ばたいた。
 黒麒麟が放つのは、迸る白光の波濤。
止むことなく放たれ続けるその白き光は恐るべき威力を秘めており、文字通り光の速さで天龍へと迫っていく。
 対する天龍は再度の咆哮を上げる。
咆哮は闇色の波動となって白光と衝突し、互いにその威力を相殺して消滅。

 「俺はただ、壊すだけだ」
 
 その声は、最大出力を示す極太の光条と共に。
波動で波濤を相殺した後に放つは漆黒の光条。
黒麒麟の放つ光とは違い、天龍が放つソレは明確な指向性を持って迸り、黒麒麟へと迫っていくも……その頭部の真横を通り過ぎていく。
 
 「血塗れの手で掴んだ所で、滑り落ちていくだけだった
 時空をねじ曲げてまで嫁を蘇えらせたのも、全ては今この時の、これからの、そして全て壊し尽くす為だ!」
 
 黒麒麟の真横を通り過ぎた漆黒の光条、その向かう先は虚空城の最上部。
世に溢れ出んとする闇を操る吸血鬼の姫、そのモノが立つ尖塔のテラスへ光条が迫り、着弾。
 一拍の間を置いて尖塔は大爆発を起こし、瓦礫と破片が衝撃波と共に周囲に降り注いだ。
 
 その様子を横目にしながら、天龍はその長く巨大な身体をうねらせ、再び羽ばたく。
 両翼に孕む雷光が、頭部から伸びる二本の捻れ曲がった尖角からは業炎が、そして氷槍となった背毛を揺らし、天龍は黒麒麟へと突進していった。

848メイヤ ◆ruQu1a.CGo:2018/06/20(水) 00:47:17
【黄昏の塔】
 
 セナを庇う様に声を投げるリマと、同じくリトを制止するアブセル。
その様子を見、メイヤの決意は更に固まった。
 ラデイックの言葉通り、選ぶべきは最も勝算が高い方法なのだ。
寧ろ他の選択肢があるのだろうか、在るならば乗り換えたいが、そう上手く行く物事でもない。
 
 「犠牲になっていい人間など居ない、確かにそうだ。
 だけど俺は人間と呼ぶには怪しい存在だよ、自分で言うと悲しくなるけれど」
 
 隣に立つサンディの悲痛な声。
俯く彼女の表情は見えずとも、どんな顔をしているかは簡単に想像出来る。
だからこそ、メイヤは続けた。
 
 「俺は明日が欲しい、だからこそ戦うんだ。
 死にに行く訳じゃあない、明日を得る為に戦いに行くんだ」
 
 前髪の隙間から見える、伏せられた瞳と流れる涙。
メイヤは神刀を床に突き刺し、彼女を抱き締める。
 
 「大丈夫、勝算はある。
 無駄死にするつもりもない、信じてくれ」
 
 そして、彼女だけに聞こえる様に小さく小さく、耳打ちをした。
 
 「サンディ、俺は君の事が好きだ。
 だから、絶対に会いに行く。
 だから……先に行って欲しい」
 
 正直狡いだろうと自分でも思う、だが、この言葉だけは伝えなければならない。
頭一つ背が低い彼女を、一度強く抱き締め、メイヤはサンディから離れる。
 
 遠くに響く轟音、そう遠くない距離に見える虚空城に一筋の黒光が走る。

 「さぁ、皆早く行くんだ。
 塔から城へは外殻を伝って地続きだ、急げ!!」
 
 時間は無い。
ゆっくりだが確実に、闇は濃くなっている。
 一度は失った筈の闇の力。
神刀を手に、メイヤはその姿を闇に染まる巨狗へと変えた。
 
 続く咆哮は別れの言葉か、仲間達への号令か。
物言わぬ黒狗は一度だけ、ゆっくりと目を伏せた。
 
 仲間達の姿を忘れぬ様に、その瞳に焼き付ける様に。

849リマ他 ◆wxoyo3TVQU:2018/06/24(日) 08:07:30
【黄昏の塔】

「リマ・・・」

リマの訴えはあえなくラディックに否定されてしまった。
それでも、とさらに畳み掛けようとした彼女に、セナが声を掛けた。
その声音にリマは息を呑む。
同じだったのだ。幼い頃、我儘を言って駄々をこねて、セナを困らせた時。彼がそれでもリマに言い聞かせる為、泣きじゃくる自分に掛けていた声と。

「駄目!駄目だからね!!」

リマはセナが言わんとしていることを察し、縋るように訴えかける。

「折角戻ってきてくれたのに!もうリマを一人にしないって約束してくれたでしょ!」

駄目だ、今言うべきことじゃないのに我慢出来なかった。リマは自責の念とセナを失いかねない恐怖に堪らなくなり、嗚咽をもらしその場に崩れる。

こんなにも脆い少女が何故四神の責務を負わねばならぬのか、セナは時々分からなくなる。死闘を乗り越え少しは強くなったかと思ったが、根本的には変わらないのだ。いっそ再会などしなければ、彼女は独り立ち出来たのだろうか。

ただでさえ聖の力を持つ者に取って害ある環境で無駄な体力を消耗させたくないのに、セナはリマを慰める言葉が思いつかなかった。彼女の希望を叶えるという言葉だけは言うべきではないのだ。

そこへ、時同じくしてアブセルより制止の言葉を受けていたリトがリマのもとへ歩み寄る。アブセルの言葉に対する返事はないままに。
セナですら差し出すことのなかった手を差し伸べ、リマを支え立たせてやる。

「大丈夫、あんたからこの人(セナ)を取り上げるつもりはないから。」

この時代でセナを失う事は自分たちの存続に関わってしまう。自分はどうでもいいが、姉たちは護りたい。

セナを護ろうとするリマの一方で、これまた大切な人を失いたくないと涙を流す少女が一人。とても残酷な状況だと思う。
少女の傍らに立つ姉と目が合った。何故だか睨まれる。恐らくはアブセルと同じことを言いたいのだろう。誰かが犠牲にならなければ成り立たない状況だと、皆分かっている筈なのに。

リトはふとアブセルへ目を向けた。この世の終わりのような顔をして・・・おそらく自分の言葉を無視して、リトが自ら犠牲になると言い出すと思っているのだろう。
場が丸く収まるのなら自分がやればいいといつも思ってきた。でも、自分の無事を願う者達もいるのだと、今では分かる。

リトはルイの言葉を思い出していた。「鍵を握る者の存在があるが、今はパズルのようにピースが散らかった状態である。ピースがこのまま揃うことのない時、自らを棄てる覚悟を持て」と。だが、「今は"その時"でない」ことも分かっていた。

「俺はまだ死ねない。けど、最後は・・・」

決断せねばならない時が来る。きっと・・・

850サンディ:2018/06/25(月) 03:21:37
【黄昏の塔】

何となく、こうなる気はしていたのだ。
ただの口約束なんかで彼を繋ぎとめて置くことなど出来ない、ということも。

だから、覚悟はしてた。…してたつもりだ。

「………分かった…、信じる」

メイヤに抱かれ、サンディはその腕の中で静かに目を閉じた。

仕方なく贄になるのだと言ったなら、彼女はメイヤを止めていただろう。
だがこれは彼が自ら決断し、己の欲する運命を掴み取る為に選んだ選択だ。
その意志を挫く権利はサンディにはない。

でも…、一つだけ言わせて欲しい。
サンディは顔を上げ、メイヤを見据える。
依然、瞳は濡れたままだが、その声には先ほどまでにはみられなかった力強い響きがあった。

「ただ待っているつもりはないよ。この戦いが終わったら直ぐにメイヤを迎えに行くから」

今の戦いに決着がつきさえすれば、メイヤを塔に縛り付ける理由も消滅し、何か彼を解放する方法も見つかるかもしれない。
…いや、見つからなくても必ず見つけ出してみせる。

「だから、あたしが迎えに行くまで死なないでね。約束破ったら今度こそぶん殴ってやるから!」

サンディはメイヤから離れると、軽く敬礼してみせる。
健闘を祈る、とわざと明るく言って、涙に濡れた顔に下手くそな笑顔を浮かべる。

前に自分の中で密かに誓ったことが二つある。
一つ目は、もう二度と弱音は吐かないこと。
二つ目は、好きな人の前で格好悪い姿は見せない、ということ。

それを最後にサンディは踵を返し、メイヤに背を向けた。
乱暴に涙を拭い、前を見る。

意外にも覚悟を決めた当人達以外の方が、困惑の色が強いようだった。
その胸に占める想いは各々違うのだろうが、どう声をかけるべきか迷っている面々に「大丈夫だよ」と微笑って声をかける。

何が、とは言わない。

自分達のエゴで仲間を見殺しにしたとは思わないで欲しい。
サンディは諦めて彼を送り出したのではないし、メイヤだって自己犠牲の精神で残った訳ではないのだろうから。

彼は此処にいるメンバーに希望を託したのだ。
だから自分達がやるべきことは、それに応えること。
各々の護るべきものの為に、戦うこと。

「行こう!」

自らを奮い立たせるように言って、彼女は階段の如く遥か上へ続く外郭に足を踏み出す。
後ろは振り返らない。
黒狗の咆哮がその背を押すように響いた。

851ナディア ◆wxoyo3TVQU:2018/07/01(日) 02:00:08
【黄昏の塔】

「誰も犠牲にしない」なんて綺麗事だ。
多くの犠牲より一人の犠牲、ごもっとも。不本意ではあるが今自分たちの行動はすべて世界の存続に関わってくる。ここで立ち止まっているわけには行かない。

けれど、

「残酷だな・・・」

ナディアは呟く。
犠牲にならざるを得ない者は限られていて、その誰もを失いたくないと嘆く者がいる。

牽制の意味をリトを睨めつけるも、彼はその視線を逸らす。こちらの意見など聞くつもりは無いようで、何か考えている様子だった。

ナディアは続いて彼の傍らにいる少女・・・ユニへと目を向けた。
大きな瞳が不安そうに動き、遠慮がちながらも確りとリトの衣服を掴んで離れようとしない。

(あの子・・・)

ユニはどう見ても戦力外。当然リトは置いていこうとしたが、それを無理矢理連れてきた。
ジルがユニについて何か仄めかしていたから。彼女がこの件に関係していることは間違いない。それが解決の鍵になるかもしれないと希望を込めて。

「絶対迎えに行こう」

この場はメイヤが引き受けることとなった。
ナディアは先を行くサンディの背を励ますように叩く。

優先すべきは世界の存続、自分も決断する時が来る。
聖の力が弱まっている今、リトの存在を無視することは出来ない。
状況を把握した上で嫌だ、駄目だと意地を張るのは子供の駄々に等しい。
闇の能力者の質としてリトが最後の砦となるのは明白。

ユニの謎が解けぬ限り、リトを手放す覚悟を決めねば。

もう、時間はないのだから。

852レオール ◆ruQu1a.CGo:2018/07/01(日) 07:25:47
【バルクウェイ】
 
一筋の光明さえ差さない、閉ざされた世界。
永遠に続く闇夜の始まり、終焉の幕は下りたままだろう。
元が着くとは言え、バルクウェイは世界政府のお膝元。
世界有数の大都市は生活水準も高く、それを成す程にも都市機能は高い。
 
外殻の完成により世界が闇に閉ざされたと言えども、街の灯りは消える事は無かった。
しかしそれも、永遠に続く事は叶わないだろう。
電力供給に必要な燃料、資源はいずれ底を着く。
日照りを失い、動植物もそう遠くない内にその姿を消し、飢えと渇きの日々と共に世界は終わりを迎えるのだ。
 
「緩やかに滅びを迎える、そう言う訳にもいかないものだな
元より、ソレを受け入れるつもりは更々ないが!」
 
天地の狭間、バルクウェイ上空に浮遊する飛行艇の甲板でレオールは苦い声を出した。
周囲には同じ様に空挺師団の船が舞い、幾千もの魔影と戦いを繰り広げている。 
外殻完成から程なくして降り始めた雨は次第にその勢いを増し、雲無き嵐となって荒れ狂っていた。
風雨と共に魔物の大群を迎撃する空挺師団員の表情は硬いが、悲壮ではない。

地上、街の守護はバッハとビリーの二人の幹部に任せ、レオールは側近のマルトと共に最前線にて指揮を執っていた。
轟雷神と嵐神の魂を持つ二人は今の空挺師団における最大戦力である。
その完成された強さは四神にも勝るだろう。
剣風と共に雷光が、双刃が竜巻を巻き起こす。
文字通り豪雨の様に降り注ぐ魔物の群れを薙払う二人を中心に、師団員達も奮戦していた。

「一匹たりとも地上へ下ろすな!!」

レオールの号令と共に戦士達が剣を掲げ、剣閃が煌めく。
増え続ける魔影を斬り捨てる刃は不屈の光を宿していた。
勿論、号令を飛ばすレオールもまた、剣を振るい続けている。
一閃、二閃、三閃。

剣戟と共に放たれる雷光が、数百の魔物を打ち据え、滅していく。
その背から伸びる雷翼は羽ばたくと同時に轟雷が闇夜を切り裂いた。
無明の闇夜に瞬く雷光は、希望の光か。
雷光を纏い、文字通り光の矢となってレオールは空を駆けた。

その背中を一瞥し、マルトもまた、双刃を握り締める。
派手さはないが堅実な戦いを得意とする彼は、地味と言われながらもその実力はレオールに次ぐ程。
嵐を巻き起こし魔影を一掃したと思えば、真空の刃で取りこぼしを確実に撃ち落としていく。

853 ◆ruQu1a.CGo:2018/07/01(日) 07:26:47
暗天に走る雷光に目を細め、バッハは
その手に握るメイスを振り下ろした。
手に伝わる衝撃と共に魔物の頭部が粉砕され、内容物が飛び散った。
その様子に僅かながらの嫌悪感を現すも、魔物の死骸に目を向ける。

「一段落だな。
第三波以降は殆ど降りてきちゃいない……と言うか降りてこれてない。」
 
しかし、背後から掛けられる声、声の主へバッハは視線を移した。
視線の先、カウボーイハットを被った痩身の男……自身と同じ師団幹部のビリーの言葉に返事を投げる。
 
「あの雷光を見ればわかりますよ、師団長と副団長が揃うあの場を抜けれる者はそうそう居ません。
それこそ、大国の軍勢か黄龍の守護者でなければ。」
 
“個”として最高峰の強さを持つ二人に打ち勝てる者はそうは居ない。
恵まれた異能を存分に振るえる程の技量、それは正に鍛練の賜物だ。

「でもよう、ハナから団長らが乗り込んだら良かったんじゃないのか?
ヴィカルトが裏切ったと言え、数が揃わない四神の連中よりか実力は段違いだと思うんだが。」
 
魔物の死骸に吸いきった煙草を投げ捨て、ビリーが問うた。
ヴィカルトと言う師団の片翼を失ったとは言え、師団の総戦力は小国家程はあるだろう。

「完成されていると言う事は、裏を返せば“それ以上先は望めない”と言う事。
四神の子らはまだまだ成長し、進化する。」
 
確かにレオールは強い。
側近のマルトも総合力で見れば四神に勝るだろう。
しかし、完成された二人に伸びしろはもう無いのだ。

「可能性に掛ける、いや、信じると団長は言っていました。
四神を超え、四霊を超える四聖に成りうる可能性を信じるとね。」
 
アグル達を黄昏の塔へ送り出した後、祈る様に呟いたレオールの言葉をバッハは思い出す。
未来への道を切り開くのは大人の役目だが、未来をつかむのは子供達、若者達なのだ。

「さぁ、休憩が済んだのなら前線に補給部隊を飛ばしましょうか。
戦力の割り振りは七対三ですが、空へと七割を持っていくと言う事はそれ程までの激戦地であると言う事。
補給部隊隊長、任せましたよ。」

再び煙草を吹かすビリーへバッハは声を掛け、自身もまた歩き出す。
戦いはまだ、始まったばかりなのだ。

854??? ◆ruQu1a.CGo:2018/07/05(木) 09:48:53
【黄昏の塔】
 
 「全く、君はこんな所で終わっていい人間ではない事を意識して欲しいですね」
 
 揺れ動く塔の高層階、倒れ長身の青年へ、ぼやく様な呆れる様な、しかし心配している声色で声が掛けられる。
声の主は真白の長外套を羽織り、頭からフードを被っていた。
 
 俯き気味で話すその表情は、梟の面によって見えない。
その声はやや高く、恐らく男性であろうか。
 
 しかし、この場にそれを判別する者は誰一人居なかった。
 
 「君の戦いは終わったとしても、君の役目はまだ終わって居ません。
 まだ暫く、付き合ってもらいますよ」
 
 梟面の人物は、意識の無いアグルへ話し掛け続ける。
返事は無くとも、聴いては居なくとも、ソレは止まらない。
 
 自身より頭一つは背が高いアグルを背負い、梟面の人物がゆっくりと歩き出した。
遠くに聞こえる遠吠えに、梟面が揺れる。
 
 まるで屋敷内にある様な大きな階段を登る途中で、大きな黒犬とすれ違った。
両者は僅かな間、ほんの数秒だが互いに見つめ合い、頷く。
 そこに言葉はなくとも、意思の疎通は可能であった。
 
 「君は、いや君も己の役割を、役目を全うするのですね……」
 
 闇へ消える黒犬へと言葉を投げ、梟面の人物は黄昏の党の最上部、頂上へと歩み出た。
赤黒い空はその濃さを更に増し、グロテスクだ。
 
 「塔が示すのは崩壊、災害、悲劇、悲惨、惨事、惨劇、凄惨、戦意喪失……
 そして、逆さの月が示すのは
失敗にならない過ち、過去からの脱却、未来への希望。」
 
 赤黒い空から視線を遠くに見える虚空の城へ移し、梟面の人物は風を纏った。
 
 「さぁ、行きましょうか。
 遅れた分を取り戻しにね。」
 
 そして、ゆっくりと沈み始めた黄昏の塔を後に、飛んだ。

855キール ◆ruQu1a.CGo:2018/07/05(木) 23:54:40
【虚空城】
 
 虚空に浮かんでいた筈の城が揺れる。
 相違空間の狭間から顕現し、外殻の中心となった虚空城は本来ならば難攻不落。
 
 しかし四霊の半分が居ない今、黄龍の居城はかつて無い程の戦場と化していた。
城の至る所に散らばるのは死体、遺体、死骸。
 
 強化人間である元・処刑人の剣のヴァイトのデータを基にし、“新世界の住人”のプロトタイプとして量産された戦闘兵がその造り出された命を散らしていた。
 それを成すのはイオリが雇った傭兵団員達。
 
 七つの大罪を名乗る彼らもまた、その命を散らしながらも戦いに殉じた。
彼等が欲しかったモノ、それが何かを知るモノは居ない。
イオリからの報酬は何だったのだろうか、それを知る術はどこにも無かった。
 
 「……プロトタイプと言えどもあの戦闘兵をほぼ全滅させ、更には四霊たる私に喰らい着くとは……」
 
 激戦地となった伽藍のエントランスで、四霊の一柱、キールは肩で息をしながら呟いた。
黒のオーダースーツは煤に汚れ、至る所に裂傷が走り、血が滲んでいる。
 
 氷蒼の瞳が映すのは激戦の跡。
禿頭の男、傭兵の頭が姿を変えた火竜が大きな血だまりに沈んでいた。
 
 その側には狼男の遺体と、氷漬けにされた双子と無数の刃物。
 唯一今も生き残っている長髪の男、イオリに似た東方の男は力無く立ち尽くしたまま。
 
 闇に染まる百足を生み出し戦っていたその男は“もう”動けないだろう。
血にまみれ、その身に宿る闇を吐き出し切り、乾いた笑みを浮かべ続けるだけだ。
 
 「ははは、終わりだ。
 俺達の戦いは、終わりだ。
 百足に羽はない、地を、血を這いずりまわるしかなかった、それだけだ。」
 
 立ち尽くす男……ジョッシュは血と共に声を絞り出す。
闇の子供達計画の被験者であり、失敗作ながらもリミッターを着けずに闇を操れる唯一の存在は、闇を出し切った事により、長らく病んでいた精神を正常に戻していた。
 
 血糊でベタつく長い髪が揺れる。
キールの視線の先、ジョッシュの後方。
 
 死屍累々の虚空城へ新たに足を踏み入れた一団の姿を見つけ、キールは溜め息を着く。
 
 「シデンはイオリと一騎打ち、晶騎士と羅刹の王は未だ動かない。
 私一人で四神4人と闇の王子二人にその他を相手どるのは中々骨が折れるのだけど。」
 
 黒から蒼へと色を変えた瞳で新たに現れた一団……サンディ達を見据え、キールは続ける。
 
 「まぁ良いわ、此処で纏めて滅ぼしてあげましょう。」

856シデン:2018/08/07(火) 01:51:35
【虚空城】

衝突し、互いに互いの肉体に爪と牙とを食い込ませ、中空でもつれ合う二頭の神獣。
旋回し、巨躯を踊らせ、空を縦横無尽に駆け巡る様はまるで曲技飛行のようだが、しかし実情はそれとは比べものにならない程の物々しさを帯びている。

雷光が、業炎が、氷槍が、麒麟の肉体を穿ち、溶かし、凍結させる。
羽毛が爆ぜ、肉が焼き潰される中、しかし不死の特性を持つ麒麟は、そのどれの攻撃も歯牙にかけない。
破壊される都度、泡立つ傷口は瞬時に欠損部を修復させ、ものの数秒で元あった形へと再形成される。

『……あくまでも破滅を望むか』

後方で瓦礫の崩れる音が聞こえるが、今となってはそれさえもどうでも良かった。
言うならば、あれ(メルフィ)は使い捨ての道具だ。闇の封印を解くべく鍵…、役目を終えた道具にもはや価値はない。

『つくづく、貴様という人間の思考が理解できん。
破壊を為した先に何がある。それをしたところで貴様に何の益がある』

畢竟、イオリの口にしたそれは四神連中とは違い、人類の為でもなければ、誰を救う為のものでもない。
破壊の先に新たな世界の創造を望む黄竜とも異なり、彼の目指す最終地点は完全なる世界の消失だ。
何も生み出さず、何も得ることのない、完全な虚無だけが存在する空間。

『あれだけの時間と手間暇をかけて手を尽くした割には、その終着点が世界と全人類とを巻き込んだ心中とは……かけた労力と釣り合わぬだろうに』

がっぷり四つに組み合った今の状態は、純粋な力の押し合いでしかなく、戦略も何もあったものではない。
そして単なる消耗戦であれば、不死である麒麟に負ける理由はない。

刹那、麒麟を起点に爆発的な規模の放電が巻き起こる。
しっかりと爪と牙を食い込ませ、麒麟は巨龍を逃がさない。
凄まじい熱量に幾つもの空気の弾ける音が天上に響き、膨れ上がる爆熱が暗黒の世界を蹂躙、周囲一帯を真白に染め上げた。

857イスラ他:2018/08/07(火) 01:59:03
【虚空城】

そこは夥しい数の死が横たわる場所だった。
あちらこちらにぞんざいに転がるのは、壮絶な死に様を晒す骸の数々。
圧倒的な破壊の暴威に晒されたエントランスは見るも無残に荒れ果て、むせ返るような異臭が辺り一面に立ち込めている。
その凄惨な光景に、そして強烈な血の臭いに、イスラは思わず息を呑む。

眼前、フロアの中央に辛うじてまだ息のある男が満身創痍の状態で立っている。
何とか彼を救出できないものかと考えるが…それは、男の正面に佇む女の存在が許してくれない。
明確な敵意を投げてくる相手にイスラもまた警戒心を固め、彼女の動向を窺いつつ慎重に刀の鞘に手を当てる。そして…

「待って」

その直後、横合いから唐突に声が上がった。

「こんな所で全員が足止め食ってたんじゃ、黄竜のところになんていつまで経っても辿り着けないよ。それに地上にいる人達のことを考えても、あたし達には余計なことに時間を裂いている余裕はない……でしょう?」

だから、とサンディは言葉を続ける。

「誰かがあの人の足を引き止めるの。その間に他の全員がこの場を突破して、黄竜の所に向かう……」

「要するに……囮を使うってことか?」

サンディの意図するところを汲み取り、イスラが眉を潜めて懐疑的な口調で確認をとる。
それを聞き、「ああ、なるほど」と遅れて理解に及んだアブセルが指を鳴らした。

「んじゃあ、俺がそれやるよ」

「え?」

その囮の役目を自身が引き受けるつもりで作戦を切り出した矢先、思いがけなく発せられた少年の言葉にサンディは虚をつかれて目を見開いた。
そんな彼女にアブセルは、なぜ意外そうな顔を向けられるのか分からないとでも言うように、片眉を上げる。

「アンタ(四神)達は本調子じゃない。んでもってリトや先生(セナ)はいざって時の切り札。
となれば切れるカードは自然と決まってくる……だろ?」

メイヤが闇を押さえ込んでくれた為、四神にかかっていた力の制限はじきに解除されるだろう。だが、万全に力を振るえる状態に戻るには今しばらく時間が掛かるはずだ。

鞘から剣を引き抜き、依然、敵から目を離さず警戒態勢を怠らないアブセル。
彼の主張は一見、理に適っているように思えるが…しかしイスラ達からすれば、彼の実力は未知数の上、この部屋の惨状を造るのに大いに貢献したであろう黒髪の女と単身つき合わせるのは不安が残るのも事実。

そんな彼らの心中を読み取ったのか、アブセルは不満そうに顔をしかめると、

「なに…?俺じゃ信用ないっての?
俺だってこの二週間ジジイにみっちり鍛えられたから、割りかし強くなった自覚あるんだけど…」

正直、最後までリトについていたかったのが本当のところだが、この状況では我儘を言っていられないのも確か。
それに彼にはナディアやリマも付いているし、リトが無茶をしそうになった時は彼女らが止めてくれるはずだ。その点は半端者の自分よりもよほど確信をもっていえる。

「まあ大丈夫だって。向こうも戦って疲れてるみたいだし、疲弊した相手の足止めくらい楽勝だって。つー訳だから、ほら、さっさっと行った行った」

あえて軽い口調で言うのは、仲間達を不用に心配させないためだ。
アブセルは一同の先行を急かすべく、手で追い払うような仕草をし、そしてリトに対しては信頼の証としてグッと親指を立ててみせた。

858イオリ:2018/08/21(火) 18:31:01
【虚空城】
 
揺れる、揺れる。
虚空が揺れる、世界が揺れる。
虚空に身を潜めてこその城がその姿を顕した時。
終着点もまた、その姿を顕すのだ。
 
雷光が、業炎が、氷槍が破壊の嵐と成って吹き荒れる。
その中心には絡み合い、組み合う神獣の姿。
黒麒麟が天龍に組み付き、天龍が黒麒麟に絡み付く。
 
両者の実力は拮抗しているように見えるが、それは絶妙なバランスの上で成り立つモノだ。
そして、そのバランスを崩すのは黒き麒麟が放つ雷光。

自らの身を滅ぼす程の威力を秘めた放電は文字通り、黒麒麟の身を焦がしていくが、不死の特性を持つ神獣にとっては問題ない。
しかし、組み絡み合う天龍はそうもいかず。
 
尖塔の崩落に巻き込まれたであろう吸血姫の力が弱まり、更に、闇の巣諸共地の底へ沈められた黄昏の塔がレイラインの力を一時的に隔絶させた。
 
それにより、世界に満ち溢れ、世界を閉ざす闇の力が弱まっていく。
即ち、闇によってその身を形成する天龍の巨体を、イオリは維持出来なくなるのだ。
 
闇を真白に染め上げる雷光が巨龍の身体を灼き、焦がし、削っていく。
麒麟も同じく消耗していくが、天龍と違いその身体が滅される事は無い。

主である黄龍が存命する間であれば、まさしく無敵なのだ。
……そう、ゼロが生きている間は。
 
「逆だよ、全部壊すと決めたからこそ、ここまで辿り着けた。」
 
翼が焼け落ち、角が、爪牙が砕け散る。
鎧の如き黒鱗が剥がれ、天龍は苦鳴の咆哮と共に血の滝を吐き出した。
 
だが、その獣瞳に宿る焔は未だに消えず。
邪悪な、しかしどこか悪戯めいた色が薪となって焔に焼べられる。
 
「さて問題だ。
 俺が連れてきた戦力の内、最も強いのは誰だ?
 傭兵団のヤツらを相手取ったのはキールのババアだ。
 羅刹王とキチガイ剣士は動かない、なら、誰がゼロを守っている?
 俺の相手をお前がしているなら、ゼロの側には誰も居ない。
 もう一度言うぜ、俺の手の内で最も強いカードは何だろうな!!」
 
組み合い、絡み合う天龍は再度咆哮し、千切れた翼を炎翼と変えて大きく羽ばたく。
黒麒麟に絡みつく身体を、逃がさないとばかり更に絞り込み、雷光に削られながらも闇へと飛んだ。
 
それと同時に、無敵であり不死身である筈の黒き神獣の身体の再構築が、無限の再生力を盾に自らの身を省みない放電を行っていた身体が崩れていく。
再生自体は止まっていないものの、そのスピードは見るからに、急速に落ちて行くのが分かった。
 
「三闘神、羅刹と夜叉に並ぶ者。
 非天、“生”を否定する者……闘神、阿修羅の存在を忘れてたのはお前の最大のミスだぜ、デコメガネ!!」
 
ーーーーー

859イオリ:2018/08/21(火) 18:32:05
阿修羅、非天とも称されるその語源はa(否)sura(生)であり、生命を否定すると言われる。
羅刹、夜叉、そして阿修羅。
 
彼等はあらゆる平行世界、様々な世界線に置いて唯一無二の存在であり、それを成すのは呪いとも言える魂と力の継承方法だ。
制限が強い反面、その神格、力は桁違い。
 
十字界で麒麟の力を解放したシデンと渡り合ったMr.K……コウガの正体は夜叉王であり、ありとあらゆる未来を見据える瞳を持つラセツもまた、三闘神の内一人、羅刹王である。
そして、彼等に並ぶ阿修羅こそがイオリの右腕、ボルドーだった。
 
「成るようにならあね、相棒が頑張ってるとなると俺もやるしかなかろうねぇ」
 
激戦地は虚空城全域であり、ゼロが座する玉座の間も例には漏れない。
傭兵団とイオリの部下がキールを相手取り、イオリがシデンと死闘を繰り広げているのと同刻。
 
虚空城内で最も堅牢であろう玉座の間を揺るがせながら、ボルドーは袖口で鼻血を拭う。
鮮やかな緑瞳が見据えるのは、砕けた玉座にもたれ掛かるゼロの姿。
 
纏っていた法衣はボロ布となり、流麗な顔にも大きな痣が浮かんでいた。
ボルドーと同じ様に鼻血を垂らし、ゼロはゆっくりと身体を起こす。
 
その動作は緩慢で、余裕と言うよりは単に動きが鈍いだけにも見える。
しかし、次の瞬間には目にも止まらぬスピードで飛び出し、様々な術式を平行起動し纏わせた両腕をボルドーへと叩き付けた。
 
それを受け止めたボルドーの籠手……神器が砕け散り、破片が舞い散る。
双眸が重なる停滞は極僅か。
 
一拍の間を置き、互いに繰り出すのは打撃の応酬だ。
一見乱打に見えるがその実は精緻な読み合いの末に放たれる殴打であり、掌打一つですら堅牢な城壁を粉砕する程の威力を秘めている。
 
掌打から続く指突はフェイント、踏み込んだ足を軸にし水平回転するボルドーが放つのは回し蹴り。
軍靴の踵が空を薙ぎ、真空波が巻き起こる。
 
吹き荒れる烈風の刃がゼロを切り刻まんと迫るが、瞬時に展開された障壁に阻まれ……そこに回し蹴りが着弾。
巨砲の一撃の様な、激烈な蹴りはゼロが張った障壁を砕き、左腕を掲げて防御態勢を取るその身体を大きく吹き飛ばした。
 
「クリーンヒットには遠いが、その身体には中々効くだろう?」

860イオリ:2018/08/21(火) 18:33:31
障壁を破り、掲げた左腕に突き刺さる一撃は着撃と同時にその威力を全解放。
吹き飛び、壁面に大きな陥没痕をつけたゼロの身体は今度こそ、力無く床面に倒れ付す。
 
起き上がろうにも左腕は肩口どころか胸元まで大きく抉れ、紅白にまみれた有機物と無機物の入り混じった内臓面を露わにしていた。

「……」
 
言葉は、声は出ない。
どうやら衝撃で声帯や肺も機能不全を起こしたようだ。

脳内にダメージアラートが響き渡り、秒刻みでエラーが吐き出されていく。
確かにボルドーの言葉通りだろう、このちゃちな義体は戦闘に向かないのだ。
 
向かないと言えども、四神を圧倒する程度の力は備わっている筈なのだが……阿修羅の魂と力を持つボルドーは、規格外に強い。
ドロリとした生温い感覚が左頬から首へと伝い、そこでやっと左の眼底がひしゃげて眼球が破裂している事にゼロは気付いた。
 
機能不全のアラートとエラーを一時的に遮断し、ゼロは身体をゆっくりと起き上がらせる。
左腕を失った事によりバランスも崩れているが、全体で見れば些細な事だ。

起き上がった時点でバランサーは作動しており、ゼロは右手をボルドーへと翳し……紅と金に彩られた漆黒の光が閃いた。
閃光は止むこと無く瞬き、その度に周囲の空間が削れ、砕けていく。

ゼロが放つのは超高密度に圧縮されたブラックホールで、拡張と収縮を瞬間的に行う死の光だ。
しかしそれら全てをボルドーは視えているかの様に……実際に閃光が放たれる地点を“先に”視ており、その虹色の眼光が幾何学的な軌道を描いて疾る。
 
黒輝と虹光が崩落し始めた玉座の間を彩り、散っていく。
その間僅か十と数秒程だが、戦闘時においての十数秒は長い。
 
「悪いな、その身体じゃあ俺は止まらない!」
 
そして、一際大きく光が瞬いた瞬間。
風よりも疾やく、相対距離を走破し間合いを詰めたボルドーの拳が、ゼロの胸郭を押しつぶし、その身体を貫いた。
 
ーーーーーエラー、エラー
ダメージリミットオーバーーーーーー
 リンク停止ーーーーーシステムエラーーーーーー
 復旧マデ100カウントーーーーー

861イオリ:2018/08/21(火) 18:34:36
その咆哮は赫怒か、慟哭か。
天龍の怒号が虚空城を揺らし、身を削る麒麟の雷光が一瞬、止まる。

その瞬間を天龍は見逃さない。
身に纏う闇の黒鱗を爆発させ、自らの身体を燃料に黒麒麟を灼き尽くさんと劫火を燃え上がらせた。
 
そして更に、炎翼を羽撃かせ無明の闇へと飛び立って行く。
勿論、組み合いもつれ合い、絡み合う黒麒麟を放さずに。
 
「悪ぃなデコメガネ、テメェにゃ最期まで付き合ってもらうぜ……」
 
互いの肩に顎を乗せ合うような体勢で、天龍が、イオリが口を開く。

「この世界の果てのその先、戻って来れねぇ様な場所まで飛んでってやるよ!!」
 
そう、初めからイオリの狙いはコレだったのだ。
ボルドーは義体のゼロを機能停止させる程の実力者である。
 
逆に、イオリの実力ではギリギリやれるかどうかだ。
ならば確実に、ゼロを機能停止させ、シデンとの不死のリンクを一時的に切るには……確実な一手を選ぶには。
 
「全部壊す、んなモン嘘に決まってんだろ……俺は今まで戦って来たのは全部、一人息子の為だ。
アイツは何度も死に、生き返った。
 
四神の護衛を命じ一族から遠ざけたのも、吸血鬼を贄に時間を巻き戻したのも全部そうだ。」
 
天龍から亢竜へ、姿を変えたイオリは更にその姿を変化させながら、無明の闇を切り裂いて飛ぶ。
 
「闇に喰われちまうのを防ぐ為に、鳳凰の力を……蘇った鳳凰の力を授けた。
今のアイツは闇を纏う犬なんかじゃない。

神焔(かえん)の翼で明日へと飛ぶ鳳凰なのさ。」
 
亢竜悔い無し。
突き進んだ先が滅びとしても、それはそれで良いだろう。

天の彼方、世界の境界を目前とし、竜はその姿を火の鳥へと変えた。
その中心、イオリの身体は既に光の粒子となって霧散していく。
 
炯々と輝いていた黒瞳は今や光を失い、何も映さない。
だがしかし、瞳は愛する者の姿を……朱莉の姿を捉えていた。

柔らかな感触が身を包み、愛しい囁きが耳を打つ。
そしてーーーーー
 
 光が、

ーーーーー悪かったな、大分待たせた。
許してくれるって?やっぱりお前は優しいなぁ……あぁ?

メイヤはもう大丈夫だ、冥の夜は明けた。
冥夜じゃなくて明夜さ、どんな夜も明けて朝が、明日が来るってもんだ。
 
かっこつけたって良いだろ?孫の姿が見れないのが残念だが、満足だ。
お前もそうだろ、朱莉ーーーーー
 
 爆ぜた。

862リト他:2018/08/23(木) 21:53:02
【虚空城】

いつもの軽い調子で親指を立ててくるアブセルを見て、リトは複雑な心境になる。

アブセルの実力に不安がある訳じゃない。彼なら十分渡り合えるだろう。
だが、万が一「もしも」がないとも言えないのだ。だからこの場で彼に贈る言葉は一つ、「生きて戻れ」なのだろう。
しかし、それが今のリトにはあまりにも無責任な言葉になってしまうことも分かっていた。

「・・・」

リトは身につけていた首飾りをはずし、アブセルの首に掛ける。自身の闇の制御が出来なかった幼き頃にナディアから贈られた瑪瑙の首飾り。今でこそ闇を抑える効力は無くなっているものの、ずっと肌身離さず身に付けておりそれがリトにとって大事なものであることをアブセルは知っているはず。

「・・・あとで返して。」

これがリトにとって精一杯のことだった。
生きろ、とは言えない。この先リト自身が生を選び抜ける保障がないのだ。けれどアブセルには生き抜いてほしい。いずれ自分が死を選んだとしても、形見くらいにはなるだろう。

リトの神妙な面持ちが気に入らずナディアはその空気を払拭するように弟の背を叩く。今生の別れみたいな態度、気に入らない。

「ねぇあの女偉そうでムカつく。アブセルあんた、負けたら許さないからね。戻ったら一つ、うちのリトを好きにしていい権利をやるよ。」

すかさずリトが睨むもナディアは何処吹く風。

「ほら、道草食ってる暇はない。行くよ。」

そしてアブセルを残し先へ進んだ。

863キール ◆ruQu1a.CGo:2018/08/24(金) 14:01:21
【虚空城】
 
本来ならば、この場で全員を相手取り、全力で殲滅するべきなのだ。
しかし、キールはあえてそうせず、走り去るアブセル以外の面々を追い掛ける事はしなかった。
 
足音が遠退き、エントランスホールに一瞬の静寂が訪れる。
だが次の瞬間には、遠くに聞こえる咆哮が、衝撃が周囲を揺らした。
 
「……今生の別れね。
 その首飾り、貴方の墓標に掛けてあげるわ。」
 
揺れるフロアでキールは静かに声を紡ぐ。
その表情はどこか遠く、薄く笑っている様にも……いや、笑っていた。
 
その笑みは絶対零度、氷の笑みだ。
静かに右手を上げ、指を鳴らす。
 
渇いた音が響くと同時に周囲一体が、エントランスホールに凍気の嵐が吹き荒れた。
その中央で、キールが真白の氷鎧に身を包んで佇んでいた。
 
「来なさい、初手は貴方に打ち込ませてあげる。」
 
掲げた右手には氷槍が握られ、その穂先が妖しく煌めいた。

864アブセル:2018/08/31(金) 01:59:10
【虚空城】

託された瑠璃の首飾り。そこに込められた想いをアブセルは理解していた。
故に彼は遠退いていく足音を耳に、鮮やかな青色の宝石を強く握り締める。

その拳の下、胸の奥から込み上げる激情を、何と呼べば良いのか分からない。分からない…が、アブセルは今この瞬間、この世界において、一番満たされている確信があった。

だからこそ、彼がキールに向けて返すのは、彼女の冷たい微笑みとは相反する、血の通った…熱のこもった不敵な笑みだ。
リトが、ナディアが、親愛する者達が信じてくれている。それだけで充分だった。それだけで、アブセルはいくらだって戦えた。

「……悪いな、なんか空気読んで貰ったみたいで。つーか、別に待ってて貰わなくても良かったのに」

殊勝にも相手はこちらの希望通り、一騎打ちの戦いを引き受けてくれた様子。
ならばここは礼儀として、古来よりお馴染みの決闘の作法に則ってやろうではないか。

アブセルは剣を持ち上げ、深く息を吸い込むと、

「俺の名はアブセル・ベルンシュタイン!
リトの一の従者!取り敢えず俺達の愛の前にはいかなる困難も通用しないんで、そこんとこ覚悟しとけっていう!」

刃の切っ先を真っ直ぐ相手に突きつけ、恥ずかしげもなく啖呵を切る。
その傍ら、そんな調子で名乗りを上げるアブセルの様子を両脇から見守る相棒達の姿があった。

『阿)こ…これは…!?ご主人の全身から嘗てないほどの闘気が迸っておりまする…!』

『吽)単なるスケベ心ともいう……』

意気軒昂とした主の姿に瞳を輝かせる白獅子に、そんな両者を眺めて冷静に所感を述べる黒獅子。
仮にも主と呼ぶべき人間に対する評価としてはあんまりな気もするが、その見解はアブセルの性格をよく心得ているといえた。なにしろ今の彼を突き動かしている原動力こそまさしく…

(リトを好きにしていい権利!リトを好きにしていい権利!!勝ったらリトを好きにしていい権利ぃィィ…ッ!!)

…俗っぽい欲望そのものなのだから。
それらの感情を真面目くさった顔で押し隠し…いや隠し切れず鼻息を荒げるアブセルは、声高に気勢を上げれば、

「いくぞ!シロ!クロ!」

『承知!』『はぁ〜い』

「憑依合体!モード・不知火!」

掛け声と同時に霊体化した二頭が、アブセルの身体の内側に潜り込む。

途端、琥珀色の瞳は紅く染まり、爪と牙は獣の如く鋭く、凶悪なものに変わる。
側頭部からは二本の湾曲した角が、そして腰の付け根からは白と黒の二本の長い尻尾が伸びる。
半魔と化したアブセルの周囲には白い炎が舞い踊り、灼熱の舌が荒れ狂う冷気を絡め取っていた。

アブセルは姿勢を低くし臨戦態勢を取ると、キールの厚意に甘える形で先制を仕掛ける。
地面を蹴った反動を推進力に一気に加速、一跳びで相手との距離を詰めた。

もちろん、馬鹿正直に敵の懐に突っ込んだ訳ではない。
その突貫と並行して、キールの影からどっと雪崩れるように無数の腕が湧き出てくる。
それら黒き魔手が、彼女の手足や身体に纏わりついたかと思えば――、捉われ身動きの取れないキールに、アブセルは容赦のない剣撃を叩きつけた。

865レグナ:2018/08/31(金) 02:14:25
【虚空城周辺】

どうやら気を失っていたらしい。

何者かに抱えられる感覚に薄っすらと意識を取り戻し、レグナはぼんやりと瞼を持ち上げた。
直後、目に入ったのは眩しい程のフードの白色だ。
すぐ眼前、頭をすっぽりとフードで覆い、梟の面で顔を隠した男の姿があった。

その自分と同年代であろう青年の声に、レグナは聞き覚えがない。
どことなく気安さを感じる口調から、恐らくアグルの知り合いか何かだろうと推測するも…。と、そこでレグナはようやく、双子の弟、アグルのことを思い出した。

彼は、どうしただろう。
ユーリとの戦闘から一続、身体の主導権は依然レグナが握ったままだ。

レグナは目を瞑り心の中でアグルの名を呼んでみる。しかし返事はなく、また彼の気配を掴むことも出来なかった。

まさか消えてしまったのだろうか。…いや、さすがにそれは考え難い。
もしかすると自分という異物が入り込んだせいで、アグルの意識はどこか表出できないほどの深みへ追いやられてしまったのではないだろうか。
あるいはこの肉体の宿主に取って代わるべく、自分の存在がアグルの意識を呑み込もうとしているか。
いずれにせよ、レグナの本意でないことに違いはない。

「お――」

その深刻な状況に冷静さを欠いたレグナは、降ろしてくれと、青年に訴えようとする。
しかし、そう声を上げようとした時、ふいに視界の端で閃光が瞬くのが見えた。

瞬間、全身に悪寒が駆け巡っていた。気づけばレグナは無意識に…いや、本能的に青年を突き飛ばす。
その一拍後、一筋の雷撃が轟音と共にレグナと青年の間を駆け抜けて行った。
空気を焦がし、大気をも貫く一撃。当たれば一溜まりもなかっただろうことは容易に想像がつく。

驚愕と焦燥感に息を詰めたのも束の間、レグナの身体は青年という支えを失ったことで、重力に導かれるまま闇の中を落下していく。

浮遊感に全身を包まれ、猛風を浴びながら、しかし彼はそんな中、ふと塔と城とを繋いでいた外郭の上に何者かが立っているのに気づいた。

……虎だ。

一瞬、その人影に獰猛な獣の姿を幻視した。

だがそれも直ぐに間違いだったと気づく。
獣だと思ったものの正体は、一人の長身の男だった。

表情はないに等しく、深く落ち窪んだ眼窩はその空っぽの瞼の裏側を閉じ込めるように、糸で縫いつけられている。
着崩した装束……着物の片袖を抜いて露わになった裸身の、首と上腕にも同様の縫合跡がある。
…遠目からでも、その男の威容と異貌は明らかだった。

橙と黒のまだらに染まった髪を風に靡かせて、身幅の広い長剣を肩に担いだ男が、悠然とそこに佇んでいた。

866キール ◆ruQu1a.CGo:2018/09/14(金) 11:27:08
【虚空城】
 
四霊が一角、霊亀が司るのは守護と吉凶。
絶対零度の凍気が生み出す氷鎧は固く、硬く、堅く。
 
「不純物が一切混じらない純度100%の氷、その強度は鋼鉄を遥かに超える。」
 
鬼を取り込み異形と化した青年の、渾身の一撃。
影縛りの類いを発動させ此方の動きを封じた上での、その一撃を受けきり、キールは静かに告げる。
 
「あえて先手を打たせた意味、それは貴方の実力を測る為。
捕縛すると言う事は、初手を必ず当てたい思惑の現れ。
 
必中させたいと言う事は、その一撃に全力を込めると暗に言っている様なモノよ」
 
アブセルの剣戟は身動きの取れないキールの胸元へと直撃していた。
氷鎧が派手に砕け散り、乾いた音を立てて破片が落ちるものの、ダメージは殆ど無い。

キールの身体を縛る影はいつの間にか真白に……凍結され、氷鎧の破片が落下するのと同時に、此方も砕け散っていく。
乾き、しかし澄んだ音の二重奏をBGMに、キールはその手に握る氷槍を無造作に横に薙いだ。
 
横一文字の軌道に沿って、視界を埋め尽くす程の氷の波濤が生まれ、アブセルを飲み込んで行く。
圧倒的、絶対的な質量の前には彼が纏う白炎はタバコの火種程だろう。
 
「最低限、四神の同程度の力が無ければ私と闘うに値しない」
 
吉凶を司るキールは、物事の本質を直感的に吉か凶で分別している。
アブセル自身は前者、吉であり、実力差から見れば言わば無害。

(だけど、あの剣……禍々しいあの刃は凶。
アレは恐らく魔玉と同質の力を持つ、厄介な一振りね……)
 
今の一撃で事が終われば良いのだが……そうは行かないだろう。
白き波濤の先、絶対零度の波濤の先を見据える様に、キールは目を細めた。

867アブセル:2018/09/18(火) 06:42:37
【虚空城】

キールの動きに合わせて、周囲を蹂躙する凍気は更に地獄の様相を見せる。
今や視界は完全に白一色に埋め尽くされ、敵影はおろか伸ばした自身の手の先さえ捉えるのが難しいほどだ。
息を吸えば尋常ならざる冷気に肺が悲鳴を上げ、身体の内側から凍りついてしまいそうな感覚に、しかしアブセルは…

「なに言ってんだ、こんなのまだまだ小手調べだっつの」

絶対零度の向こう側、白い帳を破って飛び出した巨大な拳が勢いもそのままに、真正面からキールを殴り飛ばした。

「頼むぜ、ヘカトンさん!」

それは祖父の指南の元、アブセルが新たに契約した魔物、ヘカトンケイル…の腕の一本だ。

本来なら百本の腕を持つと謂れる巨人も、残念ながら今のアブセルの力量では魔物の全体像を拝むことはおろか、腕八つ分しか召喚することができなかった。が、それでもかの者の持つ破壊力は申し分のないものといえるだろう。

不意打ち気味の巨人の一撃を受け、後方へと弾き飛ばされるキール。そのまま壁面に激突したところへ更に他の腕が猛追。
宙に浮かぶ八つの剛腕が唸りを上げ、壁面ごとキール目掛けて容赦のない乱打が繰り返される。
息をつく間もなく、間断なく襲いかかる巨大な質量の嵐に床と壁はとっくに原形を失い、荒れ狂う雪煙の中、轟音と粉塵が巻き上がる。

普通に考えれば一人の女性を寄ってたかってタコ殴りにしているような状況も、今は一切気が咎めることもなかった。
なにせ相手は普通の人間ではないのだから。
最初の一撃で彼女の鎧の異常なほどの硬度は十分理解した。
むしろこれでも攻撃が通用するかどうか怪しいところなのだ。

(頼むから通じてくれよ。さっさと終わらせねーと、こっちが凍りついちまう…)

相手の属性に対抗すべく取った火炎タイプの魔装ではあるが、四神アマテラスに比べればアブセルの纏う炎はお粗末なものだ。
本当の意味で今のアブセルは、極寒の中に燻る消えかけの種火のようなものなのだろう。

868キール ◆ruQu1a.CGo:2018/10/24(水) 12:15:24
【虚空城】
 
全てを染める、絶対零度の白き波濤。
それを突き破り、眼前を埋め尽くすのは巨大な腕だった。
 
(大きい……!!)
 
細められた黒瞳が見開かれ、視界一般に迫る巨拳。
回避は間に合わず、直撃を受けたキールの身体は大きく吹き飛び場内の壁面へと叩き付けられた。
 
そして更にアブセルは猛攻を、追撃の乱打が凍気を、白磁の大気を貫いてキールへ襲い掛かる。
巨大な質量による叩き付けは単純だがそれ故に強い。
 
破壊に特化した巨拳が唸り、一振り毎に凄まじい衝撃と破砕音が轟き渡った。
しかし……ソレはやがてその勢いを弱めていき、轟音もまた鳴り止んでいく。
 
そして、遂にその八本の巨腕全てが動きを止めた。
 
「……私が司るのは四大元素の“水”
氷はあくまで副産物と言った所ね。
 
分子結合を極限まで高めた氷鎧で受けるには、その巨人の豪腕は重た過ぎるけれど……結合を緩め、変化させ生み出した大量の水、分かり易く言えば水のクッションならほぼ全ての衝撃を、威力を受け切り殺す事が出来る。」
 
動きを停めた巨拳を、凍結したその腕を撫でながら、舞い散る白氷の煙から姿を現し、キールは続けた。
 
「湖程の水量を圧縮した障壁で攻撃を受けきり、その後、巨拳ごと凍結させる。
召喚術は使役しているモノが“こんな”状態でも自由自在に引っ込めたり出きるのかしら?」
 
氷煙を纏うその姿には鮮血の赤。
血染めのスーツを脱ぎ捨て、四霊の一角は薄く笑った。
 
それは自嘲か酷笑か。
血の滲むカッターシャツとシンプルなストレートパンツは無惨な姿になっており、裂け目から覗く肌は……黒。
 
「この姿はあまり見せたくないの。
……醜いから。」
 
四霊が四霊と呼ばれる由縁、その最もたるモノが神獣への形態変化。
麒麟、鳳凰、応龍、そして霊亀。
 
その身に宿す力全てを体現する姿こそが、巨大なる獣なのだ。
傷口から溢れる赤が黒へ、液体が結晶となり、六角形の鱗へと変わる。
 
重なり合う重鱗は堅固な鎧となり、真白の氷鎧ではなく、漆黒の鱗鎧を身に纏い、キールは続けた。
 
「半人半獣、ここからが私の全力よ。」
 
そして、その言葉尻を掻き消すように。
天へと伸ばしたその掌から、泥氷入り混じった瀑布がアブセルへと降り注いだ。

869アブセル:2018/12/14(金) 06:13:53
【虚空城】

巨人による猛打が止み周囲に立ち込めていた粉塵が晴れた時、そこにあったのはアブセルが期待していたような光景でもなければ、この戦いの勝敗を決定付けるようなものでもなかった。

八つの巨拳は白く凍りつき、対峙するキールは衣服こそ損傷しているものの、微塵もダメージを感じさせない佇まいで見たこともない悍ましい姿に変貌している。

それに一瞬でも気を取られてしまったのが不味かった。

突如頭上から強大な重量を孕んだ何かが降りかかってくる。
その衝撃と勢いに容赦なく身体をなぶられ、身を斬るような激痛と、肌の焼けるような灼熱に、アブセルは初め無数の刃の雨に穿たれたような感覚を得た。
だがそれが、唐突に、あまりにも冷たい水の中に沈んだが為に生じたものだと気づいた時にはもう遅かった。

何故ならキールの生み出した瀑布はフロアの空気に触れた瞬間、飛び散る飛沫ごとその総身を氷結させ巨大な氷の柱へと変じたからだ。

そうして極寒の地と化していたフロアの中心に、一瞬にして巨大な氷のオブジェが築かれる。
アブセルは身を守る炎もろ共その分厚い氷の内側に閉じ込められ、身動きが取れない。
もはやこの場に立っている者はキールのみとなり、侵入者達によって破壊され尽したエントランスにようやく元の静寂が訪れた。

見る者がいれば誰もが勝負は決したと確信するであろう状況。

しかしそんな中、全ての異物が排除され、音さえも消え去った絶対零度の世界に、起こり得るはずのない異変が起きたのはそれから間もなくのことだった。

先ほど構築されたばかりの氷柱の表面が小さく小刻みに震えていた。
微小な振動は次第に目に見えて分るようになり、氷の表面にいくつものヒビを生じさせる。
ヒビはやがて深い亀裂を作り、ついには…

冷たく澄んだ音を立てて粉々に砕け散った。

870アブセル:2018/12/14(金) 06:15:04

「ーーーーーーーーーッッ!!!」

飛び散る結晶と共に分厚い氷を破って現れたのは、絶叫とも怒号ともとれない声にならない声を、血の咆哮をあげるアブセルだ。

その音の衝撃波は氷を砕くばかりか、空気を爆ぜさせ、暴風の如き波がフロアの天井や壁に傷を刻み、床の石材を捲り上げる。

いまやアブセルの肌は血の気を失ったかのように蒼白になっていた。
両側頭部から伸びる角は更に禍々しさを増し、長く枝垂れる黒髪の間から、血を塗ったような紅い瞳だけが爛々と覗いている。

目尻から本人の意思とは無関係に黒い血涙を流し、身体の内側を闇が暴れ回っているかのような感覚に激痛を抱きながら、しかしアブセルは魔人のごとき威圧と狂気の光を放ってそこに立っていた。

『ご主人、狂化モードは人智を圧倒する強力なものですが、長い時間狂気に身を預けていると魂が闇に染まり二度と正気に戻れない可能性も…!』

「分かってる、速攻で終わらせる!」

返答と同時に、アブセルは持っていた剣を勢いよく投擲する。
あらん限りの力で投げられたそれは、キールに狙いをつけて猛進しーー紙一重の動きで避けられた。

だがその動作も彼女の気を引きつける為ものでしかない。
僅かほんの一瞬、キールの意識が逸れた間にアブセルは一跳びで彼女の頭上を飛び越え…そのまま近場の壁を蹴りつけ身を反転。その反動に威力を上乗せし、真上から踵を振り下ろす。
蹴り足はキールの肩先を掠めて地に落ち、寸前までキールが立っていた場所を轟音を響かせて陥没させた。

相手の防御に一分の隙がないのは、先の攻防で分かり切っていることだ。
だがそれでも尚、アブセルが馬鹿の一つ覚えのように肉弾を繰り返すのは、彼の取れる行動もまた一つしかないからである。

攻撃が通じないなら通じるまで攻め続けるだけのこと。勝利を捥ぎ取るその時まで決して攻撃の手を休めない。

ーー爆散し、飛び散る石片に舞う砂埃。それらを無視し、アブセルの視線は蹴りを避けて後ろに飛び退くキールの姿を追う。
その足が地面につく前に、しなる二本の長い尾が彼女を捉え、全力でその身を引き寄せた。そして、

それが…キールが、手に届く距離まで辿りつく僅かな時間すら待たずに、アブセルは自ら前に出て拳を握りしめると、

「るぁぁあああっ!!」

彼女の腹に渾身の一撃を叩きつけた。

871 ◆ruQu1a.CGo:2018/12/30(日) 20:07:04
年の瀬に申し訳ない、スマホのデータが飛んだのでwikiの方がわからなくなりました。
なので、お二方どちらかURL貼って頂けないでしょうか…orz

872イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2018/12/31(月) 03:34:11
どんまいw
seesaawiki.jp/key-twilight/d/

873キール ◆ruQu1a.CGo:2019/02/27(水) 22:58:02
【虚空城】

泥氷入り混じる瀑布は大気に触れると同時に氷結し、大気中の水分を喰らって爆発的にその質量を殖やしていく。
エントランスは瞬く間に絶対零度の氷獄へ姿を変え、ありとあらゆるモノの動きを、生命の灯を閉ざした……筈だった。

しかし、怒号か悲叫か咆哮か。
氷結した世界を揺るがす声、赫怒と共に姿を現したのは禍々しい異形の人影。

蒼白な顔と漆黒の血涙、穿つ黒角にキールは目を細めた。

「……醜いわ、実に醜い」

先程までのアブセルは、言わば自身と同じ半人半獣。
しかし、氷の棺を突き破って姿を現したのは魔人とも言える殆どに禍々しく変化したアブセルだった。

赫怒の咆哮を残し、激しく跳び回るその様子に一欠片の品性も無いとキールは顔をしかめるが、その表情は苦悶のソレに変わる。
打凸、打凸、打凸。

アブセルのしつこいまでの打撃はキールの黒鎧の装甲を破ることは出来ない筈、だった。
異形の力は四神と同等と言えども、黄龍とリンクしている今のキールには届かない筈、だった。

だがしかし、そのしなる尾で捕らえられ、腹腔に叩きつけられた拳は確かにキールの装甲を突き破ったのだった。
 

(これは……まさか!)

 
腹部に走る極大の痛みよりも、キールが想うのは君主の危機。
神獣化した四霊は黄、龍とリンクし絶大な力を、無限とも言える力を得る。

四霊の一角、守護を司るキールが得るのは“絶対防御”だが、それが破られたと言う事は……リンクが切れたと言う事は。
黄龍、ゼロの身に危機が迫っているいや、現在進行形で危篤状態なのではないか。

口腔から溢れ出る血塊を吐き捨て、女性とは思えない程の剛力とざらついた鱗鎧刃で我が身を捕らえる尾を引き千切り、キールはアブセルを睨み付けた。

(イオリはシデンと、先の連中がゼロ様の下へたどり着くには早過ぎるなら……失念していたわ、イオリの片腕、あの男を)

睨み付けながらキールは思考を走らせ、ほぼほぼ確かだろう予測を立てる。
そして、その予測が間違っていないならば“こんな所でじゃれ合う暇はない”とばかりに、乱雑にアブセルの顔面へと拳を叩き込み、彼を吹き飛ばした。

「はは、待てよ!俺の事忘れてるだろう!?」

更に、吹き飛ぶアブセルへと追撃の巨槍を投擲しようとキールは腕を振りかざし……その腕が止まる。
見れば腕には闇色の百足の群れが絡みついており、傭兵の生き残りが……イオリやメイヤに似た男、闇を植え付けられたら男が剣を持って立っていた。

暗獄の闇、最も邪悪な龍が封じられし刃はいつかアブセルへと託されたモノであり、それとは別、黒水晶の美しい剣を男は握っていた。
 
魔玉と同じ性質を持つとされるその剣は、闇の因子を持つモノならばその力を引き出せるだろう。

「小僧、お前なら使えるだろう!」

874キール ◆ruQu1a.CGo:2019/02/27(水) 23:00:38


「小僧、お前なら使えるだろう!」

男、ジョッシュは黒水晶の剣をアブセルへと投げ、キールへ向かって疾走していく。
既に限界を超えているであろう身体を動かすのは“闇”

百足を邪龍へと変化させ、ジョッシュは駆ける。
そして、大きく腕を横に薙ぐと共に邪龍の群れがキールへと襲い掛かり、対するキールはその全てを氷結させて爆砕。

氷塊が轟音と共に粉砕され、氷片の嵐が吹き荒れるその中央で、二振りの黒刃で鍔迫り合いを行うのはやはりキールとジョッシュだが、邪龍の力を引き出したジョッシュは意外にも食らいついている……が、それは命の灯火を燃やしているからこその強さ、焼け落ちる前の蝋燭が一際強く燃え上がるソレだ。

「構う暇はないのよ!」

苛立ちを露わにし、キールが手刀でジョッシュの左肩を貫き、その身体を内側から凍結させようと凍気を流し込もうとする瞬間。
ジョッシュは乾いた笑みを浮かべ、アブセルへ視線を投げた。

今だ、やれ、と。

875フェミル ◆wxoyo3TVQU:2019/03/01(金) 08:57:06
【虚空城】

最上階。崩壊が進む中で辛うじて形を保っているその場所で、フェミルは吹き抜けになった紅い空を見上げていた。

「・・・壊れる・・・」

破滅と再生は紙一重。ゼロは均衡を失った世界をリセットし、本来の姿へと創り直すべく手を尽くしていた。

「ゼロ・・・いない・・・」

しかし、突然ゼロの気配が消えた。

「・・・兄さま・・・」

フェミルは呟きぬいぐるみを抱きしめる。
もう一人、帰ってこない者がいる。
ゼロと同じ容貌の、しかしゼロとは違う温かなあの笑顔をずっと見ていないのだ。

「兄さま、幸せ・・・?」

いつも妹達のことを最優先に考えて、自分の幸せなど二の次で。ずっと、彼に幸せになって欲しかった。
だから"あの子"と引き会わせた。兄がとても可愛がっていた子。私にとっても愛しい子。

「・・・?」

今自分は何を考えていたのだろう。時々今のように記憶が混乱する。誰かの意識が自分に入ったかのように、自分の持つ記憶とは別の光景を映し出す。

フェミルは首を傾げた。

876アブセル:2019/04/02(火) 03:49:46
【虚空城】

口角を上げ笑う男の視線の先には、割れた額から流れ落ちる血で顔を黒く濡らした魔人の姿が。

キールに殴り飛ばされた後、直ぐさま身体を反転させたアブセルは、鍔迫り合いを行う二人……偏にキールに向かって突進していた。

空中を舞う氷片に紛れて彼女の背後へ肉薄するアブセルのその手には、ジョッシュに投げ渡された剣がしっかりと握られている。

彼がどこの誰なのか勿論アブセルは知らないし、今はそれを考える余裕もない。

時間の経過と共に侵食する闇は、アブセルの人としての思考力を着々と奪い、狂気の底へと引き摺り込もうと舌舐めずりをしていた。
アブセルは意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって堪え、男の与えた好機を無駄にはしまいと更に踏み込むとーー

「うおおぉぉおおオッ!!」

掲げた剣をキールの首元から斜め下へ、全身全霊の力を込めて振り下ろした。

877イスラ:2019/04/02(火) 03:54:25
【虚空城】

「居た!多分あの子が例の子だ!」

崩壊した城の最上階に一人佇む少女の背後。
ふいに入り乱れる数人分の足音と共に、その声は半開きになった扉の向こう側から発せられた。

リマ、セナと共に部屋の中に駆け込んだイスラは、縫いぐるみを抱く少女…床の上に座り込むフェミルの姿を見て、ほっと安堵の息をつく。

「良かった…無事みたいだ」

エントランスでアブセルと別れた後、一行は過去組、現代組と二手に別れて広い城の中を探索していたのだった。
もちろん捜索対象はジルの妹だというこの少女と、そして黄竜である。

「君がフェミルちゃん……だよね?」

もう大丈夫だよ。と声をかけ、イスラは顔を上げて室内に目を巡らした。

この場には少女一人きりの姿しか見えず、黄竜と思しき者の姿はない。

878アグル:2019/04/18(木) 01:02:17
むかし、むかし。
とある北の王国に悪い王様がいました。

王様は来る日も来る日も他国との戦争に明け暮れ、自分の国にも、そこで暮らす民のことにも関心を向けませんでした。

嵩む軍費に民衆は重い税金と苦役を強いられ、働き手の若い男達は皆、次々と戦場に駆り出されてしまいます。
戦さによって多くの兵が死に、多くの民が苦しもうと、しかしそれでも王様は戦争を止めようとはしませんでした。

いよいよ見兼ねた家臣が王を止めますが、王様はそれすらも国家への反逆行為とみなします。
王の意に従わない者は次々と処刑され、国は恐怖と暴力によって支配されたのです。
もはや王様に逆らおうと考える者は誰もいません。

しかしそんな中、国王を討たんと一人の男が立ち上がったのです。

男は圧政に苦しむ民衆を率いて戦い、国内中の諸侯をも仲間に引き込み、ついに悪い王様を退治します。
以降、男は英雄として讃えられ、新たな国王として民衆に迎えられました。

めでたし、めでたし。


……とはなりませんでした。


玉座を手に入れた英雄はそうそうに政治に飽いて、国政を投げ出しました。

酒に溺れ女に溺れ、日がな一日賭け事に興じては自堕落な生活を送ります。

そうしている内にやがて、民衆の間で王政の廃止を望む声が高まってきます。

もちろん王がそれを受け入れる筈がありません。
しかし今度は彼らも引き下がらなかったのです。

変革の熱は次第に国中を覆い、初めは英雄の味方をしていた者も、一人また一人と彼の元を離れていきます。
ついに英雄は孤立し、革命派との戦いに敗れてしまいました。

捕らえられた英雄は目を潰され、自慢の両腕を斬り落とされ、刑場に引き摺り出されました。
かつて英雄を玉座に迎えた人々が、今度は処刑台に拍手で迎えます。
それを耳にした英雄は何を思ったのでしょう。
顔を上げ、声高々に叫びました。

「祖国に栄光あれ!」

憐れ、その言葉を最後に男は首を撥ねられてしまいます。
広場に喝采が湧き上がります。
もはやこの場には、男の言葉に耳を傾ける者など誰もいなかったのです。

おしまい。

879アグル:2019/04/18(木) 01:05:43
【黄昏の塔】

ーーむかし読んだ絵本の中に、そんな話がある。

雷の国がまだ王政だった時代、最後の国王をモデルに書かれた寓話だ。

何故その話を今この場面で思い出したのか、理由ははっきりとしている。

家に一枚だけ残されていた肖像画、目の前の男はそこに描かれた男と余りにも似通っていたからだ。

アルベルト・ニコロフ・レーヴェンガルド

確か死罪になったのは五十代の頃だったと記憶しているが、しかし目の前の男はどう見ても二十そこそこといった年齢だ。
即位式を上げた当時に描かれたという肖像画と同じ年回りのように見える。

長距離から放たれた雷撃を避け、中空を落下していたレグナは、背中から大翼を広げて大気を叩くと、塔と虚空城とを繋いでいた外核の一部と思しき足場に着地する。

(やはり、似てる……)

顔を上げた先、男との距離は僅か5メートルほど。
近くで見れば見るほど、その容姿の酷似に驚かされるが、しかしそれ以上に彼の異様に圧倒される。

全く生気の感じられない土気色の肌。
首、腕、瞼、身体の至る所に縫合の跡があり、縫い付けられた瞼の下は眼球がないのか深く落ち窪んでいる。

人、なのだろうか。
男の正体も目的も何も分からないが、表情もなく、ただただ圧迫感だけを放つその姿は不気味という他ない。

目の前の説明のつかない状況に困惑するレグナ。
しかしそんな彼の心情を、もちろん相手が汲み取る筈もなく、男は軽く顎を持ち上げるとーー刹那、彼の持つ長剣が音もなく振り落とされた。

「…………!!」

まるで豆腐でも切るかのように足元の固い地面
が両断される。
ガクリと膝が抜けるような感覚に、レグナは咄嗟に後方へ跳び退くも、男は大小様々に崩れた外核の残骸を足場に、更に距離を詰めてくる。

再び風を斬るように、無音の斬撃が真一文字に振るわれる。
レグナは間合いを見極め紙一重でそれを避けるも、見極めた筈の斬撃が何故かレグナに届き、肩、太腿、頰に裂傷が走る。

(どういうことだ……)

躱しても、受けても、いなしても、男の剣撃はレグナに傷を負わす。

届く筈のない間合いに刃が届き、あり得ない方向から斬撃が襲い来る。……男の剣筋は射程も手数も軌道もめちゃくちゃだ。

わずか一閃で幾数もの剣閃が飛び交い、まるで意思でもあるかのように、縦横無尽に不規則な軌道を描いて剣撃が飛ぶ。
しかもその軽い動作からは想像もつかない程に、一撃一撃が重く鋭い。

880アグル:2019/04/18(木) 01:06:51
男が剣を振る度に鮮血が飛び、生傷が増えていく。
今のところ致命傷は負っていないが、レグナは先程から身を守ることに精一杯で反撃に転じられない。

(まともに受けてちゃ駄目だ…!何とかして突破口を見つけないと!)

何度目かの打ち合いの後、男の斬撃の余波よって再び二人の足元が派手な音を立てて爆散、崩壊する。
下から吹きつける礫と土煙。
しかし男はそんなことに気を払うことなく、崩れた足場から跳躍して、その場を離脱ーーレグナの気配を見失って足を止めた。

その傍ら、レグナは翼を広げて中空に留まっていた。
跳ね上がる岩塊の影に紛れ、気配を消して男の背面を取る。
刹那、迸るは雷光のごとく刺突の一撃だ。

男の頭蓋めがけて放たれた槍の切っ先は、そこまでの最短距離を一直線に駆け抜けーー男に直撃する寸前で停止した。

(ーーーッ!?
目ぇ見えてないんじゃないのかよ…!)

剣で弾くでもなく、あろうことか男は素手の左手一本で強引に槍の軌道を止めてみせたのだ。
驚愕に喉を凍らせ、目を見開くレグナ。が、彼はそんなレグナに次の行動に移す間を与えることなく、そのまま掴んだ槍を引き寄せーー

「ごふッ……!?」

得物ごと身を引っ張られるレグナの胴に、蹴りを叩き込む。
内臓を抉る一撃の衝撃にレグナは堪らず身体をくの字に曲げ、それに止まらず後方へ勢いよく吹っ飛んだ。


【アグル(レグナ)のレス遅くなってすみませんでした…!レックスも乱入して貰って構いませんので!】

881リマ他:2019/04/20(土) 20:44:13
【虚空城】

突如名前を呼ばれ、フェミルは声のした方へ視線を向ける。

「・・・誰・・・?」

全くの知らない顔ぶれに、フェミルはおずおずと立ち上がり後ずさる。

「フェミルちゃん、大丈夫だよ。危ないからこっちへおいで?」

イスラに続いてリマも声を掛けるも、フェミルは首を振る。

「知らない人・・・駄目。兄さまか黄龍、迎えに来るまでフェミルお留守番。待ってるよう言われてる・・・」

「お兄さんってジルさんでしょ?お兄さんのところに一緒に行こう?」

リマが優しく宥めようとしてもフェミルはただ拒否するのみ。今にも崩れそうな場内に長時間いるのは危険だ。かと言って無理矢理連れ出すのも・・・

(でも、誰もいない今じゃないと・・・)

対策を考えている暇もないのが事実。ここは荒療治でも致し方ないか、そう結論を付けかけた横で、新たな問題が発生した。
ただ人見知りで警戒しているように見えていたフェミルが、セナの姿を見つけ明らかに顔を引きつらせたのだ。

「悪いやつ・・・やっつけなきゃ・・・」

882キール ◆ruQu1a.CGo:2019/04/23(火) 10:08:44
【虚空城】

嗚呼、終わりは思っていた程重くはないのか。
薄い笑みを浮かべる男に突き刺した手刀へと力を、全力の凍気を流し込むキールはどこか間の抜けた表情を浮かべる。

全力で流し込む凍気は瞬時に男を……ジョッシュを凍結させ、膨大な凍気は彼の身体を内側から突き破り、その凍てついた笑みを爆散させた。
爆発の衝撃がキールの頬を叩き、髪を揺らす。

この男が囮となっているのは知っていた。
背後から、“凶”と目した刃を握り締めて迫るアブセルの動きも感知していた。

しかし、感じ、知ってはいても身体が動かない。
否、動くが、動く事をキール自身が拒否していた。

「……見事ね、とは言わないわ」

その一言は、右の首筋から左脇腹へと抜ける凶刃と共に。
アブセルの振り下ろした刃を避けるでもなく、防ぐでもなく受け入れたキール。
 
黒剣がキールの身体を切断し、二つに分れた彼女の身体が氷結した世界に舞う。
切断面から零れるのは、神獣ではなく人である事を証明する血潮の赤色。

生命力とも言える赤色、鮮血と臓物を撒き散らし、舞い散る赤を凍気が瞬間的に凍り付かせながら、キールはアブセルへと振り返った。
その様子は酷くゆっくりで、スローモーションだ。

「アナタの勝ちではなく、私の負け。
そう言う事にしておきましょう……」

883キール ◆ruQu1a.CGo:2019/04/23(火) 10:09:35
ゆっくりと落ちるキールの身体。
下半身は膝から床に落ち、振り返る上半身も遂に白銀の地に落ちた。

落下の衝撃が黒髪を揺らし、纏う鱗鎧が硬質な音を響かせる。

即死しないのは半獣半人と言えども黄龍に次ぐ神格を持つ四霊であるから故。
しかし、キールはその神格を、四霊である事を自ら手放したのだった。

半獣半人ではなく、神獣となっていればまた違った結果……アブセルと立場は逆転していただろう。
しかし、キールは最後まで“人”である事を捨てようとはしなかったのだ。

黄龍に忠誠を誓えども、真の姿、真の力を解放しなかったと言う事は……彼女の忠誠心は同じ四霊であるシデンには劣ると言う事。
しかしそれはキールが“人”である事の証明でもあった。

後悔は無い、寧ろ今は安堵さえ感じている。
四霊である事は一種の呪縛とも言え、キールはそこから解放される事を、心の奥底では願っていたのだ。

「醜い姿、醜い心。
人であるが故の醜さを、私は捨てきれなかった。

だけど、捨てないからこそ私は“人”として終わる事を選べた。
……でも、なるべくは美しいままで」

既に身体の感覚は無く、視界すら白くぼやけている。
しかしそれでも、キールは左腕を届かぬ天へと伸ばした。

伸ばした掌から……一際輝く左指に嵌まる指輪から光が、氷の花が溢れ出す。
溢れ出す花は蔦を、そして葉を繁らせていき、キールの身体を覆い隠した。
 
そして、氷の花は更なる実りを、白葡萄とカシスの実を結び、氷獄となったエントランスホームランを樹氷の森へと変える。

静寂なる氷の森、自らを氷花に変えて、“守”と“吉凶”、そして“水”を司る四霊はその役目を終えたーーーー

ーーーーさよなら、醜くも美しい世界。

884イスラ:2019/05/21(火) 01:01:16
【虚空城】

セナの姿を見て顔引きつらせるフェミル。
どうしてか彼女はセナのことを敵視しているようで。

「セナ……彼女と逢ったことがあるのか?」

そうセナに尋ねるも、イスラ自身二人に接点があるとは思っていなかった。

一つ可能性を上げるなら、セナと瓜二つであるリトと何らかのいざこざがあったと見るべきだが、それでもリトがフェミルに危害を加えるような行いをしたとは考え難い。

「フェミルちゃん、大丈夫だ。彼は悪い人間じゃない。
それに俺達は君のお兄さんに頼まれて君を迎えに来たんだ」

言ってイスラはフェミルに手を差し出す。

「だから早くこっちに。ここは危険だから」

885アブセル:2019/05/21(火) 01:02:49
【虚空城】

終わったーーー

脱力し、手から滑り落ちた剣が地面に弾んで乾いた音を響かせた。

目の前にはキラキラと光を乱反射させる氷の花木が咲き乱れ、惨憺たる様相を見せていたフロアは、周囲に転がる屍と瓦礫の山をも呑み込んで美しい純白の森へと姿を変える。

その光景を呆けたように見上げていたアブセルは、突如全身に、例えようのない激痛と戦慄が駆け巡るのを感じた。

「ーーーーッぅ!?」

焼けつくような脳の痛み。身体の内側を、ナニかが暴れ回っているような悍ましい感覚に、堪らずその場に崩れ落ち、喉奥から迫り上がってくる熱いものを地面に吐き出す。
見れば大量の黒い血が冷たい地面の上に広がっていた。

「クロ!シロ……!憑依を解いてくれ!早くッ!」

半ば悲鳴のように絞り出した声に、しかし応えは返ってこない。二頭とも完全に自我を手放しているようだった。

そうしてアブセルは、立ち上がることさえままならない状態に至ってようやく、この戦慄の正体を理解した。

ーーこの震えは恐怖だ。
自分という存在が……人間としての意識が、この世から消失してしまうことに対しての恐怖と焦燥。

確かにキールの述べた通り、これはアブセルの勝利ではないのだろう。
キールは人であろうとしたが故に敗れ、自分は勝利を欲したが故に人を捨てた。
だから、これは。当然の報いなのだ。

「嫌だ………イヤ、ダ………」

だが、そうだと分かっていても、その事実を潔く受け入れられるような精神は持ち合わせていない。
心は恐怖に打ち震え、全身は目の前の事実から必死に逃れようと拒絶を叫び続けている。

目を剥き、荒い呼吸と共に口の端から血を垂らすアブセルは、爪を地面にたてて乱暴に床を掻き毟った。
しかしその細やかな抵抗も、アブセルの人間性の欠如を証明するだけに過ぎない。
地面には猛獣のものと見紛うばかりの爪痕が深々と刻まれ、瞳から流れ落ちる涙も、今は黒い血で頰を染めるばかり。

狂気と激痛に思考を蝕まれ、まるで深い闇の底へ落ちていくかのように、次第に暗く、黒くなっていく意識と視界。
その目に、ふと宝石の輝きが映り込んだ。

886アブセル:2019/05/21(火) 01:03:40

先程の戦いで紐が千切れたのだろうか。それは紛れもなくリトの……彼から託された瑪瑙の首飾りだった。

床に転がったそれを捉えて、アブセルははたと目を見開く。
脳裏によぎるのは、ある一つの懸念だ。

このまま自我を失って化け物に身を堕としてしまえば、その時、自分はどんな行動に出るのだろう。
リトを想う執念だけが残っていたばかりに、彼の姿を追い求め、後を追いかけたりはしないだろうか。
そしてそれだけに留まらず、もし訳も分からぬままリトを、ナディア達を傷つけてしまったらーー?

「……それは、駄目だ…。それだけはゼッタイニ……」

朦朧とする意識の中、這うように拾い上げた首飾りを掌の中に収め、アブセルは傍に転がっていた黒水晶の剣に手を伸ばす。
この剣であれば闇に染まったこの身も、きっと苦しむことなく十全に息の根を止めてくれる筈だ。

キールの血でべっとりと濡れたその刃を自身の首筋に当てがい、アブセルは小さく囁いた。

「ごめん、リト……」

本当に、自分は何だっていつもこう情けないのだろう。戻ってこい、とリトもナディアも暗に示してくれたのに。
約束一つ守ることすら出来ないなんて。

だがーー、これ以上迷惑はかけられないから。迷惑をかけないよう終わらせるから。

アブセルは剣を握る両腕に力を込める。
そしてーー

887??? ◆ruQu1a.CGo:2019/05/23(木) 21:03:32
【虚空城】

閃光と剣閃、光が瞬くと同時に巻き起こる斬撃。
斑髪を靡かせる長身の男、その姿を一言で表すならば“異形”

血の気のない土色の肌、縫い付けられ開く事のない双眸。
表情も無く、しかし猛攻を仕掛ける様は異形であり異質。

「気をつけて下さい、あの者の“先”は視えない……」

強烈な蹴りを受け、吹き飛ぶアグル……レグナを受け止め、梟面の青年は風を操り異形の男から距離を取った。
ふわりと着地したのは幾つかある城内の橋桁で、レグナの身体を隣に下ろしつつ背負っていた三叉鑓を引き抜き続ける。
 
「何者か分かりませんが……恐らくは君に、四神に近しい者でしょう。
明確な“敵”であるならば倒すしかありませんが……調子が悪いなら僕が先手を取りましょう!!」

閃光、それは眩い雷。
橙の混ざる髪と雷光から予測するに、先代か先々第のトール、もしくは近しい者だろう。

それが何故こう“敵”として現れたかは不明だが、やるしか無さそうだ。
梟面の青年はレグナの不調を……アグルとは違う動きを取るレグナを不調だと見なし、鑓を構えて高く飛翔する。

大気を叩き、高高度まで上昇してからの反転。
身を捩り、鑓の穂先に乱気流を纏わせながら斑の男へと突っ込んで行った。

乱気流、吹き荒れる鎌鼬を纏う刺突は疾く、鋭い。

888アネス:2019/05/25(土) 12:02:07
【虚空城】

「冥界の皇女アネス・オーガナイズが告ぐ。」

氷に彩られた白の世界。その静寂の中にチリンと鈴の音が響く。同時に、剣を喉元へ据えるアブセルの手を退け現れたアメジストの大きな瞳が、人間から完全な魔獣へと変わりつつある彼の姿を映す。

「血の盟約のもと、かの者を我が使役の魔と為さんことをーーー」

それはアブセルにとって、残酷な姿であっただろう。しかし彼が自らの姿を目の当たりにしたのはほんの一瞬で、すぐにその視界は塞がれる。吐血により染まった口内を舐め取られたかと思えば、左肩に焼けるような感覚が生じた。肩にそれまでになかった紋様が刻まれる。
クスリと軽い笑い声と共に"それ"は離れ、

「鎮まりなさい。」

耳元でそう囁かれれば、アブセルは見る見るうちに異形の姿から元の人間の姿へと変化した。

一連の所業に呆けた様子のアブセル。目の前に現れた少女が見知った人物であると理解するまでどのくらい掛かっただろうか。

「貴方の命は主の物よ、勝手に遂げる事は許されない。」

アブセルの掌から瑪瑙の首飾りを取り上げ、綺麗ね、と呟く。それを自らの首に結び直し、少女---アネスはイタズラ地味た笑みをアブセルへ向けた。

「貴方の主はリト?いいえ、今から私のものよ。醜い獣を使い魔にしてあげたの、感謝なさい。」

889アブセル:2019/06/02(日) 02:19:34
【虚空城】

"それ"は唐突に訪れた。
今まさに己の首を掻き斬らんとするアブセルの前に、澄んだ鈴の音と共に一人の少女が現れる。

まるで魅入られたように動きを止めるアブセルに、少女が近づいて手を触れたかと思えばーー…不思議と身体に巣食う痛みも震えもどこかへ消え去っていった。

何が起きたのか理解できず、アブセルは茫然としたまま顔を上げる。
彼女が何事かを述べているのを目にし、ようやっと口から出た言葉が……

「……はあ?」

ピシャリ、と間髪入れずに頰を引っ叩かれた。

確かにこれ以上ない程のアホ面を晒していただろうことは認めよう。だが例えそうだとしても、何の前置きもなく突然手を出すのは如何なものかと思う。
その理不尽さに溢れた行為につい反射的に物申したくなるも……アブセルは今の衝撃で完全に目を覚まし、自分が元の人間の姿に戻っていることにようやく気づいた。
それと同時に思考も正常に機能し始め、頭の中に数々の疑問点が湧き上がってくる。

何故ここにアネスが居るのか、とか。
その首飾りリトのなんだけど、なに勝手にパクってるんだよ、とか。
てかさっき口の中舐められた気がするんだが、気のせいーー…だよね?うん、きっと気のせい。…とか。

ただ一つ状況から見て確かだろうことは、異形へと成り代わろうとする自分を彼女が救ってくれた、ということ。

そのこと自体は本当に喜ばしいことだ。声を大にして大いに感謝したいところではあるのだが……

「あのぉ……仰っている意味がよく理解できなかったんですけど、使い魔ってどういうことでしょうか…?」

正確にいえば、「理解できない」というより、「理解したくない」といった方が正しい。
アブセルは平身平頭、なぜか敬語で恐る恐るアネスに尋ねるのだった。

890ゼロ ◆ruQu1a.CGo:2019/06/03(月) 07:29:11
【虚空城】

延々とシステムエラーを吐き出し続ける自律神経プログラム、聞こえないダメージアラート。
ダメージレベル240%の表示はその瞳に映らない。

世界を統べし唯一無二の存在である筈の自身が何故、これ程までに追い込まれているのか。
胸元を貫いた阿修羅の剛腕に手を添え、ゼロ……黄龍はうなだれた頭(こうべ)をゆっくりと上げた。

端整な顔は赤にまみれており、双眸も機能不全を起こしている。
しかし、それでも、世界の中心たる存在は停まらない。

「四霊である応龍を模した義体、適応率は高いが……やはり、惜しい」

唯一無二の存在、それは眼前のボルドーも同じ。
イオリの懐刀、切り札であり鬼札のこの男は最も危険であり、現時点で止める術はない。

“現時点”では。

システム復旧まで残り20カウントを無理矢理短縮し、ゼロは手を添えていたボルドーの腕を掴む。
細い手指が込められたら力に負け、音を立てて折れるも痛みなどない。

敵性存在の排除、義体を巡るナノマシンが硬質化し、ゼロの身体から、傷口から、ありとあらゆる“孔”から溢れ出した。
それはさながら致死率の高い悪性伝染病に羅漢した末期の姿の様だが、噴出するナノマシン……ナノメタルは有機無機問わずに触れたモノ全てに浸蝕し、増殖していく。

「コレは……拙いな!?」

右腕を、肘から下の前腕をナノメタルに“喰われ”、ボルドーは思わず声を上げた。
爆発的に増加していくナノメタルから距離を取り、その様子を注視するも、銀の奔流となったナノメタルがボルドーを貫かんとばかりに次々と襲い掛かる。

その間にもナノメタルは虚空城そのものに浸蝕していき、浸蝕しながらもゼロをコアとして巨大な影……銀に輝く巨龍、逞しい四肢と幾何学模様を描く大翼を持つ機械の龍を作り上げていった。

城そのものを“餌”に産まれ出る機械龍、黄龍が今、全てを揺るがす咆哮を挙げる。

ーーーーー

プラチナブロンドの美しい髪を持つ少女に、手を伸ばすのは燃える様な赤毛の青年。
轟く咆哮はBGMで、二人の“間”に入るのは一振りの晶剣だった。

「見つけたぞ」

少女、フェミルへと手を伸ばすイスラの指先を掠める刃。
床に突き立てられたソレを握るのは長い銀髪の男……龍穴遺跡にて、イスラとメイヤに敗れたヴィカルトだった。

男、ヴィカルトは青から銀に色を変えた瞳でイスラを見据える。
崩落する遺跡と共に地の奥に沈んだ筈の男は、身体の内の6割をナノメタルで修復され、再び姿を現した。

ゼロがヴィカルトに与えた役目はフェミルの守護であるも、彼は姫を守る騎士(ナイト)ではない。
強者との闘争を求める凶剣士なのだ。

凶剣士は銀の瞳をフェミルからイスラへと向ける。
そこにはもうフェミルやリトの姿は映ってはいない。

銀瞳に燃える様に鮮やかな赤を映し、ヴィカルトは告げた。

「剣を抜け、“あの時”の続きをやろうぞ」

そして、彼が望む闘争に不必要な存在であるフェミルの身体を無造作に掴み、セナの方へと投げ捨てる。
同時に振り抜かれる刃が、イスラの鼻先で止まった。

891アネス:2019/06/12(水) 18:36:48
【虚空城】

アブセルの反応にアネスは溜息を吐いた。

「馬鹿なのは知っていたけど、ここまで理解力がないなんて・・・」

やれやれ、と態とらしく頭を抱えてみせる。

「あんたはこのアネス様の下僕になったってこと。」

私としてはあんたがどうなろうと知ったことではないんだけど、と前置きした上で話を続ける。

「パパ・・・じゃなかった、我が王にくだされたミッションの一つ。"誰も死なせるな"---リトにとって"護りたいもの"をなくす訳にはいかないの。」

この世界の均衡を保つ為には今の核を安定化させるか、新たな核となる存在を差し出すか・・・そして核の代用と為り得る魔玉を宿す者が二人---セナはこの世のものでない以上、その役目はリトという事になる、が。

「リトは別に正義のヒーローじゃない。顔も知らない誰かのために自分の身を投げ捨てるような聖人の心なんて持ってないわ。大好きな人達がいるからこそ、護りたいと思ってる。あの子にとって世界がどうでもいいものにならないように、誰も欠けてはならない。」

つまり、今アブセルがしようとしていたことは大変迷惑なことであり、リトの足を引っ張ることなのだとアネスは言う。

「ま、死にたくなるほど酷い有様だったのは認めるわ。自分では元に戻れないみたいだったから助けてあげたの。私の弟なら普通に人間に戻すことも出来ただろうけど、私は無理だからあんたが魔獣であることを利用させてもらった。助かったんだから、私に感謝してひれ伏しなさい。」

892イスラ:2019/06/25(火) 01:53:38
【虚空城】

突如として城に轟いたのは、未だかつて聞いたことのない不気味な咆哮と巨大な地響き。
そして、それに驚く間もなく一人の男が目の前に現れる。

「お前はあの時の……」

生きていたのか、とは言外に。イスラは右手を鍔際へ、一息で刀を引き抜き、鼻先に突きつけられた剣を弾いて後方へ距離を取る。

「二人とも、その子を連れてどこか安全な場所へ。どうやらアイツの狙いは俺らしい」

はたして安全な場所など最早この城の中にあるのだろうか。
そうセナとリマを促す内にも、靴裏に感じる揺れは徐々に激しさを増してきている。
イスラは相手の視線から眼を逸らさぬまま、リマ達を背後に庇うように立ち、応戦の構えを取る。

「何故あの子(フェミル)を俺達に?お前は黄竜の仲間ではないのか?」

893アブセル:2019/06/25(火) 01:55:33
【虚空城】

「いや…もちろん感謝はしてるよ。してるけどさ……、お前らは一体リトに何をやらせようとしてるんだよ」

どうやらアネスにはアネスなりの事情があってしてくれたことらしい。
しかし世界の核云々の話を知らないアブセルからしたら、そこで何故リトの名前が出てくるのかと首を捻らずにはいられない。

「それに俺、リト以外の人間に仕える気とか更々ないし……お前の奴隷とかマジでこの先地獄の日々しか想像できないっていうか…。
まあその…あれだ。このお礼は後日必ず別の形でするってことで…」

そこまで言うと、アブセルはガバリと地に額を擦り付け、

「使い魔の契約解除して下さいッ!お願いしまーーって、おわぁっ!?」

直後、城全域を揺るがす咆哮と激震に言葉尻を掻き消された。

894ヴィカルト ◆ruQu1a.CGo:2019/07/10(水) 11:32:34
【虚空城】

激しく揺れる無機質な床、歪む大気と遠く聞こえる破砕音。
轟く咆哮をBGMに、凶剣士は銀の瞳を細める。

文字通り硬質的な、鋼色の視線は依然としてイスラに注いだままで、ヴィカルトは静かに答えた。

「俺が望むのは強者との闘争だけだ。
それ以外のモノは不必要、小娘如きにこの空虚は埋められぬ……」

銀瞳に宿る確かな意志、しかしそれは寂寥感を漂わせている。
剣士としての矜持ではなく、凶剣士としての渇望。

「血肉と骨、そして生死を隔てる刹那だけが俺の中の空虚を埋める。
闘争に次ぐ闘争、無価値な世界においてその一瞬だけが俺の生きる意味」

手に握る晶剣を、後ろに飛び退き距離を取ったイスラへと向けてヴィカルトは続ける。

「砂漠での一戦は実に良かった……これ以上の言葉は不要、いつぞやの続きを。
刃の舞踏を踊ろうぞ!!」

そして、話は終わりだとばかりに剣を一閃。
その背から水晶の翼を噴出させてヴィカルトが前進、相対距離を瞬時に詰めると勢い良く剣による刺突を繰り出し、同時にその切っ先から銀の奔流が……九つに分かれた穂先がイスラ目掛けて飛び出した。

ーーーーー

軋む空間、ひび割れる世界。
轟音と共に揺れる虚空城の一角で、彼女は虹色の瞳で鮮やかな赤毛を見詰めていた。

彼女……三闘神の一人、ラセツは尖塔の頂点から階下を見下ろす。
ゼロの下に集う戦力の両翼、左を担う彼女は待っていた。

覇王の眼。
全ての事象を読み込み、無限の選択肢である未来すら“視る”事が出来る瞳に、“視えない未来”を映し出させる事が出来る存在を待っていた。

「火と水の因子、風と雷じゃないのは残念だけど……」

尖塔の頂点、片膝を立てるラセツは現れた人影……サンディとナディア達に声を掛ける。
その声は無機質な、感情の籠もらない声。

「黄龍の遣いとして、私はアナタ達を足止め……滅さなければならないけど、どうする?」

895イスラ:2019/09/09(月) 01:24:44
【虚空城】

肌で感じる程の濃厚な闘争心とザラついた殺意を向け、立ち塞がる晶剣の剣士。

それと相対するイスラは、腹の底から湧き上がってくる憤りとやるせなさを抑えることが出来ない。

(なぜ……)

九つに別れた銀の奔流を、自身の周囲に張り巡らせた炎鏡の障壁で防ぎ、イスラは男の左側へ体を回転させて刺突をかわす。
それと連動して弧を描く刀が男の左こめかみを狙うもーー驚異的な速度で反応する相手の剣に阻まれ受け止められた。

「この戦いに一体何の意味がある…っ、こんなことをしてる間にも世界は刻一刻と崩壊への道を辿っているんだぞ…!」

鍔迫り合いの向こう側、男の銀色の瞳を真っ向から見据えイスラはそう言葉を放つ。

しかしそれと同時に、この問答がいかに無意味な行為であるか、それも理解していた。

異常な程の闘いへの執着。この男の中にはそれしかない。生死の狭間で互いの命のやり取りをすることでしか、この男は生を実感できないのだと。

本来このような決闘はイスラの望むところではないが、しかし、こちらにも為すべきことがある以上、ここで引き退る訳にもいかない。

そのジレンマに歯噛みするイスラの背後で、不意に鈍い輝きを放つ何かが浮かび上がった。
それーー先の攻防で割れた鏡の破片が無数の鋭い刃となり、一つの意思の元、男めがけて一斉に放たれた。

896リマ:2019/12/02(月) 08:04:37
お久しぶりです。
まとめwikiの方なのですが、突然入れなくなってしまいました・・・
変なところ押したのかな:(´◦ω◦):

897ヤツキ:2019/12/14(土) 18:36:27
んー俺も入れんね。ページロック掛かっとるんかなぁ?

898リマ:2019/12/21(土) 22:58:05
>>897
久しぶり!
マジかァ・・・無くなっちゃったのかな?
キャラ設定とか確認出来るから気に入ってたのに(´;ω;`)

899ヤツキ:2019/12/25(水) 23:52:01
規制される様な投稿してない筈だし、乗っ取りされるようなモノでもないしどうしたんやろうね。
管理はイスラに任せっきりだったから……

っとお久しぶりでー。
メリークリスマスやん、楽しく過ごせた?

900リマ:2019/12/31(火) 20:29:10
ねー・・・ほんとどうしたんだろ(´;ω;`)消えてないならいいんだけど、消えてたらショック・・・

お久しぶりー!今年ももう終わりやね(´•ω•`๑)
超高速で日が経っていく・・・もうじき30歳で絶望(´;ω;`)

901ヤツキ:2019/12/31(火) 23:51:18
本編も返せてない俺が言えた口でもないけどイスラの反応無いのも心配。

高速つかもう10分程で今年終わってまうしなー、でもリマって俺の二個下ちゃうっけ?一個違いか?
30なったらなったで実際そんな変わらんし気にする事ないよ。

今年は死なずに終えれたけど、来年死んでたらごめんな。メンヘラこじらせてやべー事ばっかしてるわ。

て事で来年もよろしくねー

902リマ:2020/01/01(水) 18:04:12
あけおめことよろー
同じく:( ;´꒳`;):イスラさんダイヤかなー・・・

1個ちがいだよー。2個はイスラさんのほうかな??女の30は重いのよ(´;ω;`)可愛い服とか着るのが好きなのに「あの人30超えてるのに・・・」とかなったら嫌じゃね!?さすがにゴスロリとかじゃないけどさ!年齢に見合った服装あるじゃん:(´◦ω◦):

やーめーてー息子ちゃんの為にも危ないことはしないでぇ(´;ω;`)
ストレスはここで発散していきなよ!
今年始まったばかりだけど、来年も同じように新年の挨拶出来るって信じてるからね!!

903ヤツキ:2020/01/02(木) 20:06:40
ことよろー、ここ以外で連絡着かないから音沙汰無いと心配なるよな。

そだったか、もうリマも30かー。知り合って干支一周じゃんww
30でもある程度は好きな服着れば良いんじゃない?どぎついギャルメイクとかゴスロリ甘ロリ以外ならいけるでしょ、寧ろお洒落しないと一気に歳食って見えるよ。

んー、チビさんはきっと大丈夫よ、俺が居なくてもちゃんと育つ環境があるし。
土地有り持ち家そこそこ金持ちの義実家でマスオさんやってるからね、マスオ死んでもタラちゃんは普通に大きくなりそうやん?そんな感じ。

904ヤツキ:2020/01/02(木) 20:27:31
ぶっちゃけストレスつか鬱再発に近い感じで子育てとか色々めっちゃ悩んでるんよ。
嫁さんにも言えない事、それこそ俺だけ家で異物感あるし血繋がってないし私生児だし諸々でしんどい。
母親って存在がとてつもなく苦手で母性向けられるとどうして良いかわからなくなるし、父親居てなかったから目指す父親像がわからん。
とかね、全部話して聞いてくれた人の事はずっと好きで叶わぬ恋だったのに向こうも実は好いててくれてて、期限決めたけどそれまで付き合ってる。
やべーどうしよう、って相談した子とも寝たし色々乱れ過ぎてる。

メンヘラこじらせて爆発させて孤独感ヤバい寒いって泣いた時にぬくめてくれる所に逃げてる、ずっと。
後は夜一人で酒片手に外出て、寝落ちして凍死しかけてる、もうしんどい。

全部吐いたわ、新年早々ごめん。

905リマ:2020/01/03(金) 00:10:18
そうねー・・・個人的な連絡先とか知らんし。せめてSNSだけでも繋がってたら元気の有無は確認出来るから安心なんだけど。
高校の時からの付き合いだからね!言われてみれば干支回っとるわ(笑)自分高校大学の友達とほぼ連絡取ってないからある意味一番付き合い長いかも(爆笑)
さすがにイタイ格好はしてないけどね( ;´꒳`;)ミニスカ履けなくなってきたのと体型崩れてきたのが泣ける・・・せめてシワが出来ないように食い止める!
そうよね!年齢に合わせて地味な格好したらそれこそおばさんになっちゃうよね!!取り敢えず35までは今のファッションでも大丈夫だと信じたい・・・!!

まぁ両親揃っててもウチみたいに母親の精神が子供から成長出来てなくて気に入らないことがあったらキーキー喚く、自分は被害者、悲劇のヒロイン可哀想なの〜な感じでその存在が私のストレスになりかねない人とか、父親が家庭に無関心でほぼ会話なし〜な、家族として機能してない所とかもあるからねぇ:( ;´꒳`;):自分とこの両親は多分他の人とは違うから、私自身人間として色々欠けてるんだろうなぁと思うところもしばしば。私の話は今関係ないのだけども(笑)多分私も俗に言う「普通の家族」って言う環境で育ってはないから、結婚した後に子供との接し方とかで色々悩むんだろうなぁ・・・
マスオさんはたしかに辛いね・・・嫁が義両親と同居するのでもストレス溜まるんだから逆パターンは尚更だよね。相手側がどう思ってるかは分からないけど、家族の中で自分だけ血が繋がってないっていう疎外感はたしかにあると思う。

906リマ:2020/01/03(金) 00:42:13
マスオさんがいなくてもタラちゃんは育つだろうけど、タラちゃんがマスオさんの事好きならいなくなって欲しくないと思うよ。たとえば、どうしようもない親でも情があったら死んで欲しくないよ。この情がなくなったら終わりなんだけども・・・。
まぁその人の人生なんだから「子供のために生きて!」とか無理強いは出来ないけども、生きたい気持ちはあるけど自信がないって感じなら「自分の為じゃなく誰かの為に」って理由付けるのもありだと思う。ここで例に挙げるのもアレだけどうちのセナはそんな感じ。
父親像が分からんくても、想像出来る範囲で父親出来ればいいとは思うよ。子供は案外見てるからね、自分に情はあるんだろうけどこの人はこれが精一杯なんだなって察して、完璧な父親の存在は求めずお互いに苦にならない距離感作ってくと思うよ。私みたいに(笑)現実と創作を一緒にしてゴメンけど、イオリは良い父親だと感じたよ、そんな父親を描けたヤツキは素敵な父親だと思うよ。

女性関係が乱れちゃってるのは取り敢えず置いといて(笑)色々溜め込む私が言えた立場じゃないんだけど、人間って我慢するのが一番危険だと思うんだよね。辛いなら辛いって吐ける場所があるんだったら、甘えちゃうのもアリなんじゃないかなぁと。勿論法に触れない範囲でね!我慢しすぎるといつか爆発して消えちゃうんじゃないかなぁ・・・私も時々糸が切れて「もういいかな」って思っちゃうこともあるから危険(笑)一応ある程度人並みに経験してからがいいので、死ぬ前に1回は結婚しときたいし、子供作ってみたいしって気持ちがあるから踏みとどまってるけど。ヤツキの抱える闇と比べたら私のなんてちっぽけなものなんだけど、私も自分の人生つまらないなぁと思ってる。

自分が何を言いたいのか分からなくなってきた:( ;´꒳`;):的外れなこと言ってごめんね・・・!
取り敢えずね、迷って悩んで落ち込んで、メンヘラ拗らせてるのは良いのよ。ただ溜め込むのだけは危険だからやめてね!
人並みの綺麗事しか言えんけど、ここで吐いてくれたら聞くし!
尾崎豊みたいなことしちゃダメよ!酒飲むなら暖かい室内で!!もしくは人の気配のあるコンビニか病院の前!!

907ヤツキ:2020/02/04(火) 22:38:43
もう1ヶ月経つのか、早いね。
とりま何とか生きてる、メンタル爆発して入院したりしたけど死んでないww

リマの言う「もういいかな」ってのが常あったんよね。
リマも境遇聴くと俺みたいに足りないモノがあるし、きっと近しいんだと思う。

無い物ねだりして、人並みに全部揃ったらソレが実はめっちゃ重たかったり、思い描いてたのと遠かったり、満足してもういいかなって思ったりするかもしれない。
俺がそうだった。

けど多分きっとリマは女性で、自分の中で一つの命を育てて〜とするから、それこそ子供の為に、で生きていけるんじゃないかなとも思う。

取りあえず今はチビさんの為に生きてるのと、9月9日に笑ってバイバイしようって約束したから死なないつもり。って表向きはしてるww
女の人居とるのもバレて怒られたし、緩い自殺ごっこしてたのも白状したから逆にもう逃げ場無いけど。

眠剤処方してもらったから次はガチでとここにだけ言っとこ、でもせめてリマやイスラと飯食いたいねww

めっちゃ自分語りなるからそろそろちゃんとレス返すわ!イスラさん待ってて!
リマも応えてくれてありがとうね、聞いてくれて救われたわ。

っと、インスタのIDを生存確認用に置いとくのでまた覗いてみて。
yatuki0509

908:2022/12/15(木) 21:45:55
二人共生きてる?

909イスラ:2023/08/14(月) 21:20:22

お久しぶりです。イスラです……
今更どの面下げってって感じですが、お二人に謝りたくて久しぶりに書き込みました。

数年前は何も言わず突然失踪してしまい本当に申し訳ありませんでした。
言い訳をさせて貰うと鬱病でした。何かをする気力がなくなり、以前まで楽しめていたものも楽しめなくなり、何もかもがどうでも良くなってwikiの方も消してしまいました…。

お二人が今もこのスレを見ているかどうかは分かりませんが、スレの途中放棄、お二人を裏切ってしまったことに対してただ一言謝りたかったのです。

あと途中放棄した身で言うのもおこがましいのですが、このスレに出会えたこと、そしてお二人に出会えたことは本当に感謝しています。ここでの時間は本当に楽しかったです。
ありがとうございました。そして申し訳ありませんでした。

なんか臨終の言葉みたいですがそのつもりはありませんw
鬱病の方は大分良くなりました。(^^)

910ヤツキ:2023/09/24(日) 22:59:44
>>909
俺はイスラがこうしてこの場所に来てくれただけで嬉しい、本当に。
裏切りだとも思わないし、楽しい時間って言い表してくれたの、物語続けてた意味があったなーって思える。
心が死んだらお終いなんだぜ、って思うし言うけど、ここに来てくれたのは生きてるし終わってないって事なんじゃねーかなってね。
俺も生きてるしイスラも死んじゃいない、後はリマの一言でもあれば万々歳だよ。

911イスラ:2023/10/02(月) 13:48:55
お、お、お久しぶりです…っ
まさか返信してくださるとは…!しかもそんなお優しい言葉を頂けるなんて…(/ _ ; )聖人かよぉ…
ヤツキさんも色々大変そうなのに気を使わせてしまってすみません…
ここ数年でいかに自分がガキでしょーもない人間なのか身に染みて分かりました
なんにせよヤツキさんも元気?そうで良かったです…

912ヤツキ:2023/10/04(水) 08:28:30
ちょこちょこ覗きに来てて良かったぜ……!!
レス増えててるの見た時はベッドから飛び上がったっすわw
名前も顔も知らない文章だけのやり取りの関係性でも、リマは勿論イスラも大事な人なのでホント嬉しいよー。
人生クソみたいな事ばっかでガキだったなって思う事もあるけど、生きてたらそれで良いんじゃないかなって思う。
かく言う自分も鬱で休職療養中ですわーwww

913イスラ:2023/10/09(月) 15:03:35
ありがとうございます…!人間ってちょっとしたことで傷ついたり救われたり面倒くさいけど、人の縁って大事なんだなぁ…と、この歳になってつくづく思い知らされます(ノ_<)
あとお前が言うな感ですが、欲を言えばこの物語を完結させたい気持ちもあります

てかマジかw鬱は無理するのが一番アカンっすから休んで正解ですよー
自分は回復したっぽいからとまた働きに出ましたが既に病み気味ですw

914ヤツキ:2023/10/10(火) 09:06:26
人の縁って中々実感しないけど、いざ感じる時はしみじみと感じる不思議なモノですわ……w
欲を言えば仕事辞めて半年位失業保険で生活したいけど、絶対足りないから年内には復帰せなあかんけど……取り敢えず今月中はゆっくりしやすww

この物語、リマさんも居ないと完結させられないけれど……取り敢えず書ける分の続き書いて行きましょうかね!?

915イスラ:2023/10/11(水) 21:14:11
しんどいっすね…
自分は独り身だからまだ自由がききますが、子供いると人生一気にハードモードになりますよね…

やっちゃいますかー!
つっても文章書くのめちゃ久しぶりだし、ちょっと読み返して思い出したりしたいのでレスは結構遅くなるかもしれません…w

916ヴィカルト:2023/10/20(金) 09:43:24
【虚空城】

 鍔迫り合いの先、交錯する刃の奥で輝く銀の双眸。鋼色の瞳には揺るがな光。

「言葉は要らぬ!」

 イスラの背後で浮かび上がり、此方へ迫る鏡片の群を一瞥し、ヴィカルトは鍔迫り合いのまま大きく踏み込んで右腕を横に一閃。驚くべき剛力からの斬撃でイスラを吹き飛ばす。
 それと同時に鏡片の群れが殺到するも、ヴィカルトは形成し、纏う晶鎧でソレらを防いだ。
 刃と刃の応酬、それだけが晶剣士の望むモノ。
 禍々しくも流麗な鎧と剣を携え、ヴィカルトは力強く踏み込んだ。踏み込む足裏が床面を砕き、舞い上がる破片をスリップストームが巻き込んでいく。相対距離を一瞬で詰めた晶剣士が放つのは、超高速の刺突の一撃。

917サンディ:2023/10/26(木) 01:51:50
【虚空城】

黄竜のもとを目指すサンディ達の前に立ち塞がったのは虹色の瞳を持つ謎の女性だった。

(まぁそう易々と行かせてはくれないよね…)

その異質な瞳の輝きにサンディは生唾を呑みこむ。
立ち姿だけで分かる。彼女は危険な相手だ。

「ここはあたしが…!姉御達は先に行って!」

サンディはナディアやリト達にそう呼びかけると間髪入れずに武器を構えた。

直後、炎を纏った拳サイズの勾玉が数百と顕現し、雨霰と尖塔目掛けて飛来する。

代々アマテラスの力の継承者は三種の神器と呼ばれる"剣、鏡、玉"のどれか一つの加護を授かるものとされている。
剣は破壊力、鏡は防御、玉はリーチや手数に長けているのだが、その中でもサンディに与えられたのは玉の加護。

次々と砲弾の如く襲いかかるそれらに蹂躙され、尖塔は一瞬の内に原形を失った。
しかしサンディはそこで手を休めることなく、炎刃を一閃。

疾る灼熱の斬撃が大気を巻き上げて炎の渦を生み、噴煙上がる尖塔一帯を呑み込んだ。

918ヤツキ:2023/11/22(水) 19:35:54
>>917
スマホ壊れてそこから此処を探すの時間かかってしまったorz
今月中にレス返します!

919イスラ:2023/11/26(日) 10:59:33
急がなくて大丈夫ですよー!
自分も今ちょっと忙しくてレス返遅くなりそうです…申し訳ない…

920リマ:2023/12/26(火) 00:43:39
え、スレ動いてる……感動

921リマ:2023/12/26(火) 00:49:17
皆さんお久しぶりです(´;ω;`)
なんか、「外部からの書き込みは禁止されてます」とか言われてずっと書き込めなくて、ヤツキの生存確認に反応出来なかったの……

かなり久しぶりに開いてみたらスレ動いとるやん!イスラさん帰ってきとるやん!しかも私も書き込めるやん!?

うわぁ……完全に出遅れた、ショック……皆の波に乗りたかった(´;ω;`)

922ヤツキ:2023/12/31(日) 03:18:57
大晦日ですなー、イスラさんレスも少しまって下さい……orz
からの、からの……リマ!!!!
生きてた!!!!
まさかの全員生存してた!
大晦日の奇跡や……

923ラセツ:2023/12/31(日) 13:51:37
>>917

 覇王の瞳。それは慧眼を遥か超越した、万物全ての事象を見定める双眸。ありとあらゆる平行線、並行する世界と未来を見定め、無限とも言える可能性を選択する事が出来るのだ。

 「天を照らす火炎。
 熱く、眩い……けど、それだけだ」

 サンディが放った雨霰の如き炎の勾玉、そして追撃の一閃が巻き起こす火炎の渦。
 焼け落ちた尖塔から遠く離れた位置で、ラセツは小さく呟いた。
 くすんだ金色の髪が熱波によって煽られ、翡翠から虹の宝玉へと色を変えた瞳がサンディを見つめる。
 そして、虹の双眸が二筋の残光を描いた。小柄な姿が纏うのは重厚な鎧だが、重さを感じさせない程の高速移動でラセツは赤髪の少女へと距離を詰め……勢いそのままに、籠手に包まれた拳を繰り出した。

 「私を一手に引き受けるには、か弱過ぎるよ」

924イスラ:2024/01/03(水) 17:49:30
ぉわーー‼︎リマさんお久しぶり!
その節は失踪してご迷惑おかけして誠に申し訳ありませんでしたm(__)m
でもまさか3人揃うとは…!

そして遅れましたが、明けましておめでとうございます!レスもまったり返していきたいと思います。
てか地震とかありましたがお二人とも大丈夫でしょうか…?

925アグル:2024/01/08(月) 21:52:49
>>887

【虚空城】

上方から襲い来る暴刃の嵐を前にしても男は微動だにしない。
ただゆるりと長剣を構え、真っ向から迎え打つ。

刹那、雷と見紛う一撃が放たれた。

大気が唸り、空間を断裂するかの如く疾る剣風が、迫る乱気流を文字通り"引き千切る"。

四方八方に散った風刃の余波が地面を抉り飛ばし、その威力の凄まじさを物語るが、しかし中央に立つ男は無傷同然に、続け様に振るった剛剣で無防備となった青年の刺突を叩き落とした。
そしてそのまま勢いを止めることなく、体勢の崩れた青年の横っ面に蹴りを入れる。


ーーヒビ割れる梟の面。

吹き飛ばされ、地面を跳ねる青年の身体をレグナがすかさず受け止めるも…

「ぁ……」

崩れた仮面の下。顕になったその顔を見て、息を呑んだ。

「お前は……」

見知った顔の、そしてもう二度と逢えないと思った者の顔を目にし、レグナの中で深い眠りの底に沈んでいたアグルの意識が浮上した。

926ヤツキ:2024/01/10(水) 09:01:21
おはようございますー、あけましておめでとうございます
こっちは関西、大阪だから無事っすよー

927案内人:2024/03/31(日) 01:45:17
来てみてガッカリした人へ
harmit.jp

928リマ:2024/05/03(金) 19:13:17
なんか書き込めたり書き込めなかったりする…

今更だけど私も無事ですー、皆にまた会えて嬉しい!
でも本編で自分が何しようとしてたか忘れてしまった……また考えます。

929ヤツキ:2024/05/30(木) 09:08:27
>>928
書き込みクッキーで弾かれる的な……?
俺も時間ある時読み返してレス考えてますわ……焦らずゆっくりで良いんじゃないでしょーか!!


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