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Key Of The Twilight

751ジル:2017/04/02(日) 22:00:18
【ポセイドン邸】

「痛いなぁ・・・」

蹴りを受けた腹を抑え、ジルはアブセルを睨む。が、彼の目に入ったのは膝を付き動かなくなったアブセルの姿だった。
毒針を受けてもなお動くことに驚いたが、毒針は着実にアブセルの身を蝕んでいたようだ。

「よかった、バケモノでも人間と同じ毒にやられるんだね。」

言いながらふと視線を後方へ向ける。逃げ出さないようにか、未だアブセルの式神に加えられたままのユニは諦めたようにその場に留まっている。

「・・・」

式神はアブセルの氣で動いているはずで、つまりは主である彼の息の根を止めれば、自ずとユニも手に入る。

「早くカタを付けよう」

ジルの周りの空気が固まり、大きな刃の形を模す。
標的は暫く動けない。狙いを定めるのは簡単だ。

"意味を成さない妬みなんて持ってないでさ、君がこの子を護ってあげなよ。"

遠き日に一度きり出会っただけの少年の言葉など、アブセルは覚えてはいないだろう。
しかしその言葉はアブセルの心を少なからず動かしたようだ。くだらない嫉妬心から奉公先の子の身を危険に晒したあの時の少年は、今はその子を必死に護ろうとしている。

こんな形で再会などしたくなかった。

「ごめんね」

具現化した刃がアブセルへ勢いよく放たれた。

しかし、

「!!」

真っ直ぐに放たれた刃は寸での所でアブセルから狙いをはずしあらぬ方向で爆ぜた。
アブセルの方へ駆け寄る人物の姿が目に入り、驚いたジルが瞬時に方向を変えたのだ。

「何・・・してるの?」

ジルが気付かなければ刃は彼女諸共貫いていたはずで。
ジルは普段の彼から検討も付かぬ苛立ちをその顔に浮かべた。

「危ないじゃないか、ヨノ。」

アブセルとジルの間に立ったヨノは負けじとジルを睨みつける。
彼女は葬儀場にいたはず・・・騒ぎを聞きつけやって来たにしろ、この中に割って入るのは無謀過ぎる。

「死にたいの?」

「ジル・・・、貴方こそ何をやってるの?」

何をやっているのか、それは一目瞭然だろう。
両者は睨み合ったまま暫し時が止まった。

「アブセルちゃん」

先に動いたのはヨノのほうだった。あろう事かヨノはこの状況下でジルへ背を向けて、アブセルの身を案じたのだ。

「大丈夫?」

そこはポセイドンの血筋なのか。毒にやられてると察した彼女はアブセルへ治癒を施そうと手を伸ばす。
しかしそれは叶わなかった。

「!?」

ヨノの周りを風が舞い、ふわりと彼女の身を持ち上げたのだ。

「邪魔しないで」

ヨノはもがいて抵抗を謀るが、彼女が動くとより風は彼女を強く拘束する。風はそのまま彼女を攫い、近くの壁に縫い付けた。

「ジル!これ嫌・・・放して!」

ヨノは訴えるがジルは聞き入れない。
彼女が現れてからというもの、明らかにジルの様子がおかしい。
彼は明らかに苛立った様子で無理作った笑顔をアブセルへ向けた。

「命拾いして良かったね。」


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