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Key Of The Twilight
870
:
アブセル
:2018/12/14(金) 06:15:04
「ーーーーーーーーーッッ!!!」
飛び散る結晶と共に分厚い氷を破って現れたのは、絶叫とも怒号ともとれない声にならない声を、血の咆哮をあげるアブセルだ。
その音の衝撃波は氷を砕くばかりか、空気を爆ぜさせ、暴風の如き波がフロアの天井や壁に傷を刻み、床の石材を捲り上げる。
いまやアブセルの肌は血の気を失ったかのように蒼白になっていた。
両側頭部から伸びる角は更に禍々しさを増し、長く枝垂れる黒髪の間から、血を塗ったような紅い瞳だけが爛々と覗いている。
目尻から本人の意思とは無関係に黒い血涙を流し、身体の内側を闇が暴れ回っているかのような感覚に激痛を抱きながら、しかしアブセルは魔人のごとき威圧と狂気の光を放ってそこに立っていた。
『ご主人、狂化モードは人智を圧倒する強力なものですが、長い時間狂気に身を預けていると魂が闇に染まり二度と正気に戻れない可能性も…!』
「分かってる、速攻で終わらせる!」
返答と同時に、アブセルは持っていた剣を勢いよく投擲する。
あらん限りの力で投げられたそれは、キールに狙いをつけて猛進しーー紙一重の動きで避けられた。
だがその動作も彼女の気を引きつける為ものでしかない。
僅かほんの一瞬、キールの意識が逸れた間にアブセルは一跳びで彼女の頭上を飛び越え…そのまま近場の壁を蹴りつけ身を反転。その反動に威力を上乗せし、真上から踵を振り下ろす。
蹴り足はキールの肩先を掠めて地に落ち、寸前までキールが立っていた場所を轟音を響かせて陥没させた。
相手の防御に一分の隙がないのは、先の攻防で分かり切っていることだ。
だがそれでも尚、アブセルが馬鹿の一つ覚えのように肉弾を繰り返すのは、彼の取れる行動もまた一つしかないからである。
攻撃が通じないなら通じるまで攻め続けるだけのこと。勝利を捥ぎ取るその時まで決して攻撃の手を休めない。
ーー爆散し、飛び散る石片に舞う砂埃。それらを無視し、アブセルの視線は蹴りを避けて後ろに飛び退くキールの姿を追う。
その足が地面につく前に、しなる二本の長い尾が彼女を捉え、全力でその身を引き寄せた。そして、
それが…キールが、手に届く距離まで辿りつく僅かな時間すら待たずに、アブセルは自ら前に出て拳を握りしめると、
「るぁぁあああっ!!」
彼女の腹に渾身の一撃を叩きつけた。
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