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Key Of The Twilight

856シデン:2018/08/07(火) 01:51:35
【虚空城】

衝突し、互いに互いの肉体に爪と牙とを食い込ませ、中空でもつれ合う二頭の神獣。
旋回し、巨躯を踊らせ、空を縦横無尽に駆け巡る様はまるで曲技飛行のようだが、しかし実情はそれとは比べものにならない程の物々しさを帯びている。

雷光が、業炎が、氷槍が、麒麟の肉体を穿ち、溶かし、凍結させる。
羽毛が爆ぜ、肉が焼き潰される中、しかし不死の特性を持つ麒麟は、そのどれの攻撃も歯牙にかけない。
破壊される都度、泡立つ傷口は瞬時に欠損部を修復させ、ものの数秒で元あった形へと再形成される。

『……あくまでも破滅を望むか』

後方で瓦礫の崩れる音が聞こえるが、今となってはそれさえもどうでも良かった。
言うならば、あれ(メルフィ)は使い捨ての道具だ。闇の封印を解くべく鍵…、役目を終えた道具にもはや価値はない。

『つくづく、貴様という人間の思考が理解できん。
破壊を為した先に何がある。それをしたところで貴様に何の益がある』

畢竟、イオリの口にしたそれは四神連中とは違い、人類の為でもなければ、誰を救う為のものでもない。
破壊の先に新たな世界の創造を望む黄竜とも異なり、彼の目指す最終地点は完全なる世界の消失だ。
何も生み出さず、何も得ることのない、完全な虚無だけが存在する空間。

『あれだけの時間と手間暇をかけて手を尽くした割には、その終着点が世界と全人類とを巻き込んだ心中とは……かけた労力と釣り合わぬだろうに』

がっぷり四つに組み合った今の状態は、純粋な力の押し合いでしかなく、戦略も何もあったものではない。
そして単なる消耗戦であれば、不死である麒麟に負ける理由はない。

刹那、麒麟を起点に爆発的な規模の放電が巻き起こる。
しっかりと爪と牙を食い込ませ、麒麟は巨龍を逃がさない。
凄まじい熱量に幾つもの空気の弾ける音が天上に響き、膨れ上がる爆熱が暗黒の世界を蹂躙、周囲一帯を真白に染め上げた。


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