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Key Of The Twilight
841
:
シデン
:2018/05/31(木) 05:43:56
【虚空城】
響き渡る咆哮を正面から浴びて、麒麟はもたげていた首を下ろした。
『…大人しく死んでいれば良いものを』
二つの紅い瞳が映すのは、天翔る巨大な天龍だ。
大気を震撼させる咆哮は、それ自体が重みを持っているかの如く圧迫感を伴い、硬質な鱗に覆われた漆黒の体躯は全身に鎧を纏っているに等しい。
獲物の命を毟り取ることのみに特化した爪牙も、広げられた大翼も、見る者を圧倒させて余りある存在感を放っている。
禍々しくも神々しい威光を放つそれを。
その変貌を遂げた巨龍の姿を眺め、麒麟は僅かに目を細めた。
『しかし、醜い…』
驚くでもなく、ただただ、その顔には不快感だけが刻まれている。
『人の欲には底がないと言うが…、俺は貴様ほど強欲で身の程を弁えぬ人間は見たことがない』
鼻を鳴らし、瓦礫の山を踏み締め、麒麟は相対する天龍を鋭い視線で睨み付ける。
『偽り、騙し、死者を蘇らせ、神を手にかけるだけでは飽きたらず、厚かましくもその神列に名を連ねようとは…、思い上がりも甚だしい』
神をも恐れぬ所業とはまさにこのこと。
素性を偽って黄龍の懐に潜り込み、まやかしの忠誠を誓うそれは、他者を嘲笑い、主の尊厳を踏みにじる信義に悖る行為だ。
愛する女を蘇らせたその手で、神であるワヅキの命を奪った蛮行は、天の原理にツバを吐く忌むべき冒涜だ。
あろうことか自ら人の身を捨て、神の領域に到達せんと求める精神は、傲慢で利己的な、シデンが最も嫌悪する人間の浅ましい本性だ。
誰よりも長く近く天意に侍り、忠を尽くしてきた彼だからこそ、イオリの冒した不徳の全てが我慢ならない。
『その汚穢にまみれた手で次は何をする。
黄龍様を殺め、世界を我が物にでもする気か』
ふいに麒麟は己の両翼を大きく広げた。
その翼にある発電器官が脈打ち。瞬間、白光が迸り、指向性を持ったそれが恐るべき速度で射出される。
中れば人の身など一瞬で蒸発させてしまうであろう白い光が、周りの闇を塗り潰しながら途切れることなく天龍に襲いかかった。
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