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仮投下スレ

1 ◆ME3hstri..:2009/04/05(日) 21:43:33 ID:5UembPjM0
何らかの事情で本スレ投下が出来なかったり、本スレ投下の前に作品を仮投下するためのスレです。

2 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:23:45 ID:QeyRIrMg0
さるうざいよ。 さる。
というわけで続きはこちらで。

3 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:23:58 ID:QeyRIrMg0
「油断した…。」

サンジはデイパックを持つと、旅館の出口へと向かった。
彼女はきっと外へと逃げているに違いないと思ったからだ。

「やはり殺し合いに乗っていなかったようだった。 しかし、あのままにしておくと、いつか溺れて死ぬかもしれない。 その前に俺が注意しなければ…! 」

旅館の戸を開け、外へと出ると、彼女はそこにいた。

ナギは運動神経がまったくよくなく、50m走っただけでも疲れる人であった。
そんな彼女がここまで走ってこれたのはまさに奇跡であった。
だが、やはり疲れきっていたようだった。

「大丈夫かよ?」
サンジが彼女に話す。

「もう来たのか!」
ナギは最後の力を振り絞り、逃げようとする。
だが、サンジが彼女の手を押さえる。

「触るな・・・! 今すぐ私を逃がしてくれ!」
「だから俺は殺し合いに乗ってないし…」
「嘘をつけ!」
「本当だ。」

ナギが彼を見ると、彼は真剣な表情で見ていた。
それを見る限り、決して悪そうな人ではなさそうだった。

「守ってくれるんだな?」

4 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:24:22 ID:QeyRIrMg0
「…え?」
「私を守ってくれるんだな?」
「ああ。 どんな怪物がきても守ってやるよ。」
「それなら…一緒に行動してもいいぞ。」

誤解が解けて、新たなペアが結成された瞬間であった。

【G-8/旅館付近/1日目 深夜】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ノートパソコン@現実
[思考・備考]
1:ハヤテ達を探す。
2:しょうがないので目の前の人と行動することにする。

【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・備考]
1:ナミなどの仲間を探し、守る。
2:目の前の人と行動する。
3;どうしてスケスケの実があったんだ…?

【スケスケの実@ONE PIECE】
自分の体、およびその体に触れた物を透明にする。
なお、触れたものだけなど一部だけを透明にする事も可能。
ただし、透明になる時間は限られている。
原作ではアブサロムがその能力者。

【ノートパソコン@現実】
バトロワではお馴染みのアイテム。
中には参加者のデータとかが入っているかも…?

5 ◆/mnV9HOTlc:2009/04/12(日) 14:27:15 ID:QeyRIrMg0
不安はありまくりですが、一応投下終了です!
半角なのに、全角で打ってたのでああいう鳥になってしまったんですね。

タイトルは「ハヤテ…改め ナギのごとく!」です。

6 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:42:26 ID:z9PHLzQY0
規制されましたので、こちらで続き投下いたします

7 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:43:04 ID:z9PHLzQY0
(……キリコも、必要な道具は確実に奪われている。
だとすれば、何処か医療設備のある施設かで出会える可能性は高いな……)

キリコも恐らくは、治療と安楽死に必要な道具を調達に走るだろう。
ならばこのまま病院を目指していれば、そこで出会える可能性がある。
彼に安楽死をさせるわけにはいかない。
ブラック・ジャックは、この事をガッツへ告げようとして振り向く……しかし。

「……ガッツ……?」

ガッツの様子がおかしい。
彼は目を大きく見開き、驚愕の表情で名簿を覗き込んでいる。
それは、キリコの名を見たブラック・ジャックよりも更に酷い反応であった。
余程の人物が名簿に載っていない限り、起こりえない反応。


――――――そう、余程の人物が載っていたのだ。


「……おい……どういうことだよ、こいつは……ッ!!」

やがてその表情は、憤怒が入り混じったものへと変質する。

―――彼にとって、誰よりも憎むべき名がそこにはあった。

―――彼にとって、誰よりも倒すべき名がそこにはあった。

―――彼にとって、全ての発端と言える人物の名がそこにはあった。

8二人の黒い疵男 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:43:31 ID:z9PHLzQY0
「何でテメェがいやがんだ……グリフィスッッッッッッ!!!!」


――――――ガッツの最大の宿敵、グリフィスの名がそこにはあった。


【B-5/競技場内/深夜】
【ガッツ@ベルセルク】
 [状態]:健康
 [装備]:キリバチ@ワンピース
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
 [思考]
 基本:殺し合いの主催者を叩き潰し、仲間の下へ帰る
  1:グリフィス……!?
  2:ブラック・ジャックと共に病院を目指す
 [備考]
  ※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
  ※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。

【キリバチ@ワンピース】
魚人海賊団の団長アーロンが扱っていた、巨大なノコギリ刀。
その全長はアーロンの身の丈程ある(恐らくは2メートル程度)。


【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック】
 [状態]:健康
 [装備]:ヒューズの投げナイフ(10/10)@鋼の錬金術師
 [道具]:基本支給品一式
 [思考]
 基本:主催者を止め、会場から脱出する。
  1:ガッツの驚き様に戸惑っている
  2:ガッツと共に病院を目指し、医療器具を入手する。
  3:キリコと合流し、彼が安楽死をせぬ様に見張る。  
 [備考]
  ※コートに仕込んでいるメス等の手術道具は、全て没収されています。

【ヒューズの投げナイフ@鋼の錬金術師】
マース・ヒューズ中佐が愛用していた投げナイフ。
掌に収まるほどの小さなサイズだが、刃には十分な鋭さがある。

9二人の黒い疵男 ◆AO7VTfSi26:2009/04/12(日) 20:45:08 ID:z9PHLzQY0
以上、投下終了です。
ガッツの性格が丸く感じられるかもしれませんが、イシドロ達と出会った後ということで、この様になりました。

10目指す者、守る者、殺す者 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:22:05 ID:wlBo6G0M0
「(つまり……超常現象というわけか)」
ゴルゴ13は片手に持った、握りこぶしより小さめの石を見つめた。
血のように赤い、宝石とも異なる鉱物……鉱物かすら怪しいソレは。
「賢者の石……」

大エリクシル、第五実体、哲学者の石。多くの呼び名と形状を持つ等価交換の原則を無視する奇跡の結晶。
ウィンリィの話に出た、賢者の石そのものだった。
「(可能性はある、か)」
ウィンリィの話をすべて鵜呑みにはしていない。
だが、ゴルゴ13とて、地球上の全てを知るわけではない。

実際ルフィは人間ではありえないゴムの体を持っていた。
そして、超能力者、自我を持つプログラムなど、常識外の存在と対峙したこともある。
もちろん、中にタネのある呪術師などもいたので、錬金術師なるものがどちらに当てはまるのかはわからない。
実際に会い、真偽を確かめることは無駄ではないと彼は判断を下した。
この首輪を外せる可能性を一つでも多くするために、ゴルゴ13は行動を開始する。

だがしかし、なぜゴルゴ13はゲームに乗らなかったのか。
ゴルゴ13は、超A級のスナイパーである。
彼に消された命は数知れないが、その多くが依頼によるものだった。
ゲーム感覚で人の命を奪うことはしない。
もちろん、彼を狙った瞬間にそのルールは対象外となるのだが。
そして何より、自身の命を見世物感覚で奪おうとする輩を、ゴルゴ13は許さない。

「(この見世物の目的が何であれ……あいつは俺の心に火を灯した。
久しぶりに……俺の全てをかけるとしよう……この見世物に対する報復に……)」
先ほど貰ったジャスタウェイを一つ、宙に放る。
地面にジャスタウェイが落ちた瞬間、光、爆音、土煙が起こる。

11目指す者、守る者、殺す者 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:22:46 ID:wlBo6G0M0
「威力は上々……だが扱いには危険が伴う、か」
火薬の匂いから、それが爆弾だと理解したゴルゴ13。
メスとジャスタウェイは、武器を支給されなかったゴルゴ13にとって大いに助けとなる。

いつもの癖で背後の相手に殴りかかってしまったが、無駄な敵を作らずに済んだのは僥倖だった。
「(あのコートは、重量から防弾繊維が使われていたようだが……動きの邪魔となる)」
爆弾の性能を把握したゴルゴ13は、他者が爆発音に近寄ってくる前にその場を離れる。

地球上最強の狙撃手、ゴルゴ13。
だが、彼の想像を超える怪物が多く存在するこの殺し合い。
彼は、報復の対象……ムルムルと再び合間見えることができるのだろうか。


【D-9/協会付近/1日目 深夜】
【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[装備]:ブラックジャックのメス(10/20)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、不明支給品0~1(武器ではない)
[思考・備考]
1:ムルムルに報復する。
2:首輪を外すため、錬金術師に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。

※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※奇妙な能力を持つ人間について実在すると認識しました。


【賢者の石@鋼の錬金術師】
様々な呼び名を持つ錬金術法増幅器。
錬成陣無し及びノーモーションで、「等価交換」の法則を無視した練成が可能となる。
莫大な人間の魂を材料としており、この石も大きさからかなりの人数を使用している。
それでも不完全な賢者の石であり、大規模練成の連続使用で壊れる可能性がある。
制限があるため、首輪を外すことができるかは不明。

【ジャスタウェイ@銀魂】
円柱に2本の棒の手、上部の半球型の突起物に目・口が描かれただけというシンプルな外見。
その実体は接触式の高性能爆弾。
ジャスタウェイの組み立てに関して銀時は高い技能を持っている。

12 ◆1ZVBRFqxEM:2009/04/12(日) 23:23:42 ID:wlBo6G0M0
投下終了です。
残念ながら規制を食らってしまいました。
どなたか代理投下お願いします。

13Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:14:13 ID:RW1ozSEI0
やるのか?

脳内でそう反芻する。できるのか?
見た目こそ普通の人間だが、彼はどちらかと言えば今までの自分とは異なる世界に生きてきた人間だ。
殺し屋より―――具体的に名を出すなら、あの『蝉』よりの人間と言っていい。
しかし。
―――もう俺だって、足を突っ込んだんだ。
既に、潤也の心にためらいは、なかった。
日常を捨て、危険に足を踏み入れる覚悟は、人を殺す覚悟は、既に、した。
本当なら、蝉も自分が殺しているはずだったんだから。

「……なあ、聞きたいことがあるんだ」
少年の頭に向けて、銃口を突きつけながら。
「……まったく最近のガキはしつけがなってなくて困るぜい、人に質問するときはまず名乗ってからってお袋さんに教わらなかったのかい?」
少年は、全く動揺する気配を見せない。
むしろどこか哀れむように、潤也の顔を見て苦笑う。
むっときたが、ここで感情的になるべきではないと考える。
こいつが兄の情報を持っているかもしれない、まだ、まだ殺すべきではない。
「……安藤潤也だ」
「ふうん……立派な名前をお持ちのこって。せっかくだし、俺も名乗っておきますかねい」
少年はやはりペースを崩さず、にやりと笑って口を開く。
それは、潤也にとってわずかに聞き覚えのある名前だった。
「俺は土方十四郎」
土方、歴史にそんな名字の人物が存在していた気がする。
しかし、さほど成績がいい訳ではない潤也には、『聞いたことがある』程度に過ぎない。
更に言うなら、あまつさえ潤也がその歴史的に聞いたことのある人物の名字を聞いて、彼を江戸時代の人間だ、などと判断できるはずもない。
よって、珍しい名字だな、程度の思考でそれは終わった。
「……土方さん、でいいか?……名乗ったしいいだろ。一つ質問させてくれ」
もう面倒なことは早く終わらせたい、と言わんばかりにグリップを握り直す潤也。
少年もそれを見ていたが、やはり、微動だにしない。
やはり彼も、蝉と同類、殺しに慣れた人間に違いないと潤也は確信した。
「……言ってみろい」
拒まれるかとも思ったが、意外にも男はあっさりと質問を承諾してくれた。
もし拒まれたら恒例のじゃんけん勝負にでも持ち込もうと思っていたのでやや拍子抜けしたが、許可が出たならありがたい。
おとなしくその権利を使わせて貰おう。
「……お前は、俺の兄貴について知ってるか?どんなことでもいい、何か知っていたら教えて欲しい」
緊張が高まる。
自然と、心音が高まるのを感じた。
もし、彼が兄のことを知っていたら。
いやそれどころか―――この少年が兄を殺した人物だったら?
そううまくは行かないだろうと分かってはいるが、それでも期待せずにはいられない性。
そして、少年の口から言葉が紡がれる。
「……何か知っていたら、どうするんでい?」
立て板に水を流したが如き、さらりとした回答だった。
「―――っ、し、知っているのか!?それなら教えてくれ!どうして兄貴は死んだ!?お前は兄貴と知り合いなのか!?それとも―――」
思わず声が高くなる。落ち着けと何度も言われていたが、冷静でいられるはずもない。
それが簡単な挑発だということにも潤也に気づかせない。
「おっと、質問に答えろよ。俺は『どうするんだ』、そう聞いたんだ」
土方は潤也を横目で見て嘲笑い(にしか潤也には見えなかった)、再び問いかける。
「どうする……?」
首をかしげる潤也に、土方は意地悪く笑う。

14Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:15:01 ID:RW1ozSEI0
「日本語が分からないとは言わせねえ。つまり、―――俺を殺す気なのかどうか、ってことだ」
土方の性格の悪そうな口角をつり上げての笑みに、潤也は黙る。
「……」
土方は潤也の顔を探るように見、そしてため息をついた。
「……言えねえってことは、殺すつもりがあるってことかい?悪いが、そんなに見え見えな態度じゃ人殺しなんてでき―――」

刹那。
沖田の頬を、銃弾がかすめた。
「……」
もちろんそれは、潤也の撃ったもの。
「……あんたは……」
「ああ、そうだ」
自分の『覚悟』を見せつける。
それが、潤也の選んだ方法だった。
今ので相手が死ぬなんて思っていなかった。外すつもり、威嚇のつもりだった。
自分が舐められている、というのは薄々感じ取っていたからこその行動。
本気で自分が彼を殺すこともある、そう示すためにやったことだ。
『まだ』死んでもらっては困る。少なくとも、兄のことを聞き出すまでは。
しかしまだ銃など数回しか使っていないため、手元がぶれて沖田の頬をかすめてしまったのだ。
しかし、潤也はそれにも動じず、口を開く。
どこか穏やかな気持ちになって、自然と口元が緩んだ。
「……答えによっては、死んで貰うさ」
目の前の土方の表情が、変わる。
その顔は、発砲した潤也に対する怯え―――などは全くなく、獰猛な獣を思わせるものだった。
舌舐めずりでもしそうな調子で、土方は潤也の言葉に一言、返す。
「……へえ、やってみろよ。ただし、やるからには、覚悟が、理由があるんだろうなあ?」

「ああ―――俺は兄貴を殺した仇を取りたい。だから、何か情報を持っていたら教えてくれ。……お願いだ、頼む!」
今度は、先ほどより冷静に頭を下げることができた。
土方の腹だたしい態度が原因に違いない。なんとも皮肉な話だが、潤也に気に留めている余裕などない。
―――本当に、こいつが兄貴のことを知っているなら―――
一縷の望みをかけて、土方の顔をちらりと見る。
土方は、つまらなさそうな顔をしていた。
そして、潤也の視線と土方の視線が交差し、そして―――
「兄?馬鹿じゃねえの?たかが兄貴のために人を殺すなんざ―――馬鹿のすることだぜい」
土方は、言葉を吐きだした。
何の躊躇いもなく、さも当たり前のように。
今の潤也に対する、最高且つ最悪な侮辱の言葉を。

「……たかが、だって!?」
だから、潤也が、その言葉に反射的に反応してしまっても無理はないのかもしれない。
いくら多少『平凡』とは外れているとはいえ、彼のスペックは平均的な高校生男子以外の何者でもないのだから。
挑発されれば頭に血が上っても、彼を責めることはできないのだ。
「ああ、そうだ。くだらねえ、何でたかが血繋がってるだけでムキになってんでい。
死んだんだかなんだか知らないが、死んだらそこまでだ。それ以上何もねえよ。運がなかっただけだ、諦めな」
土方の言葉に、潤也はふつふつと怒りがわき上がるのを感じた。
土方は、確実に潤也の中の何かの熱を上げていく。

15Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:16:23 ID:RW1ozSEI0
たかが、だって?運がなかった、だって?
自分はずっと、ずっと兄と共に暮らしてきた。他に家族なんておらず、家のことは兄に頼りっきりだった。
兄が大変なことに首を突っ込んでいる気はうすうすとしていた。なのに。
自分は最後まで、兄貴が死ぬまで、それに気づいてやれなかった。
結果として兄は理由も分からないまま、無惨な姿で死体として帰ってきた。
もちろん、大切な人は他にもいる。学校に行けば沢山の友人がいるし、可愛くて少し抜けているけど心優しい彼女もいる。
しかし、家族は兄一人しかいないのだ。
潤也にとって安藤は―――唯一の大切な家族だった、のに。
それを否定するこの少年に、冷静に反論できるほど、潤也は大人ではなかった。
「……れ」
「あんた何でい?ブラコンかい?兄貴がいないと生きられないのかい?……気持ちわりい」
瞬間。
「……黙れっ!」
潤也はついに、激昂した。
他人に、自分と兄のことが分かるはずがない。
優しくて、優しすぎて、自分を危険に巻き込むまいとし続けて死んでしまった兄のことなど。
だから自分は、兄の敵を討ちたい。そして、兄の無念を晴らしたい。
「お前に何が分かる!俺が……兄貴は、兄貴はっ!」

だから潤也は、気づかない。
潤也が怒りで視界から土方しか見えなくなったその瞬間、彼の姿が視界から消失した事実に。
「……っ!?」
「遅えんだよ」
しゅん、と風を切る音。
同時にみしり、という嫌な不協和音がはっきりと潤也の耳に届いた。
「……ぐうっ!?」
続いて襲う痛み。しかし潤也は未だ自分の状況が把握できていない。
どういうことだ。何が起こった?
しびれるような痛みが右手首から走る。
「子どもが武器持ち歩くんじゃねえよ。仕方ない、責任もって俺が預かっておくとしやしょう」
そして、ようやく認識した光景は。
土方が、木刀を握ったまま自らの武器である銃をその手に握り、くるくると楽しそうに回し弄んでいる様子だった。
「ふ、ふざけ、っ!?」
潤也は理解した。
先ほどの鈍い痛みは、木刀が潤也の銃を握る右手首に直撃したからのものなのだと。
がむしゃらに打ってきたわけではなく、それが銃を弾き飛ばしたのだと。
危険を感じるより早く、怒りと本能が潤也を突き動かす。
気づいた潤也はすぐさま土方から銃を取り返そうと動く、が全てが遅すぎた。
「やっぱり、遅え」
そして―――
「っ!?」
普通の高校生と、常日頃から修羅場を潜る荒くれもの集団の隊長。
どちらの動きがより早いかは、一目瞭然で。
土方が、潤也の目の前にいつの間にか現れ―――
「ガキは、大人しくおねんねしてな」
潤也の腹に、木刀の柄が高速で突っ込んできた。

そして、潤也の意識は―――闇に消えた。

16Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:17:14 ID:RW1ozSEI0


「……っ、う……」
視界が、ぼやける。
どうやら意識を失ってしまっていたらしい。
……情けない。こんなことでいいのか。
俺は、兄貴の仇を討たなきゃいけないのに。
こんなんじゃ、駄目じゃないか―――
「気が付いたかい。……ちっ、とどめさしてやろうと思ったのに」
土方の聞き捨てならない言葉に、潤也はむっとして顔をわずかに持ち上げる。
そこには、腹立たしいくらい爽やかな土方の笑顔があった。
「……てめえっ……!」
気に入らない。
自分の兄との関係を、今までの絆を、死を否定したこの土方という少年を許したくない。潤也はその顔を一発殴ってやろうと、体を起こすため右手に力を込め―――

「……っがあああああ!?」
叫んだ。
理由は、実に単純明快。
起き上がろうと力を入れた右の手から、激痛が走ったからである。
「…………な、っ……な……」
嫌な予感がした。瞳に涙さえ滲む。高校生にもなってかっこ悪い、と自嘲している余裕もない。
この痛みは何なのだ。潤也は、そっと右手を持ち上げ首を傾ける。
『じゃらり』、と金属音がその後を付いてきた。
なんだこれは、と口にするまでもなく、潤也はすぐにそれを『触って』理解した。
「な……なんじゃこりゃああ!?」
それは、平和な日本でごく普通の学校生活を送ってきた潤也にとって、にわかに信じられない事態だった。
自分の首には、確か銀色の首輪が初めからはまっていたはずだ。
しかし、今は―――その上に、何か別の金属が重ねられている!
もしかしたら、一つ目よりずっと頑丈そうな代物が。
首輪、だ。二つ目の。
しかも―――
「……俺はこう見えても警察のはしくれでねい、悪人はしょっぴく権利があるんでい、悪く思うなよガキ」
今度の首輪は、一つ目とは一味違う。
首輪につながれた、長い鎖。
その先を握っているのは、目の前の憎たらしい笑顔を向ける土方だった。
鏡で見てこそいないが、すぐに分かった。
さながら今の自分の姿は―――飼い主に拘束された狂犬、と言ったところか。
何だ、この悪趣味な展開は。
友人が貸してくれたビデオにあったそういうプレイみたいじゃないか。相手が可愛い女の子でなく男で、しかも腹立たしい相手だなんて、罰ゲーム以外の何者でもないが。

「が、ガキガキ言うな!これはどういうことだ、説明し、」
「俺より年下ならガキに決まってんだろ。それにどういうことも何もねえよ。ただ、お前さんを捕獲させてもらった。それだけだ」
捕獲、だって?
まるで潤也のことを家畜のように言う土方に腹が立って仕方無い。そのへらへらした笑顔をぶん殴ってやりたい衝動に襲われる。
しかし、右手がいかれている以上、それもかなわない。銃まで取られてしまった。
持ちあげるだけで激しく悲鳴をあげる右手を下ろさざるを得ない。
間違いなく、骨が折れている。きっと気絶している間に腕を捻ったのだろう。
悪夢にうなされていたのはこういうことだったのか。
「……冗談じゃねえ!お前に何の権利があって―――」
ごきり、と地面に置いた右手を踏みつけられた。
「……っ、が……あ……」
「言っただろ?俺は警察なんだ。人殺ししようとしている奴を黙って見過ごすわけにはいかねえなあ。大人しくしときゃ命は勘弁してやらあ」
邪悪な笑顔を浮かべながらそういう姿は、どう考えても警察というよりチンピラにしか見えなかった。
嘘吐け、と内心毒吐きながらも、潤也は口をつぐむ。
首輪で身体を拘束され、利き腕をへし折られた今、自分に勝ち目はない。
「ほら、行くぜい、家畜」
ぐ、と首輪を引っ張られ、潤也は土方に見られないように舌打ちすることしかできなかった。

17Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:18:24 ID:RW1ozSEI0


(ったく、何で俺がこんなことしてるんでしょうねい、近藤さん……)
沖田は後ろでわめいている潤也を無視して、虚空に視線を向ける。
思い浮かべたのは、底抜けにお人好しでどうしようもなく愛すべき馬鹿である自らの長のこと。
どうやら、自分も近藤のすっかり汚い褌色に染まってしまったようだ。
殺せばいい。それは言われずとも分かっている。

これはきっとすぐに諦めるタマではない。武器は取り上げたとはいえ、油断していると殺されるかもしれない。
潤也は間違いなく、『やばい』。
どこがどうやばいのか、はうまく言葉にできないが、強いて言うなら野生の獣のような危険さだ。
土方や自分のような人種というより、こちらに笑顔で引き金を引いてきた際のあれは―――どちらかといえばテロリスト・高杉晋助のような香りさえ感じさせた。
決して頭が回るタイプではない。容易に挑発に乗り、感情を爆発させると周りが見えなくなる、典型的な子ども。
しかし、少年の態度は決してそれだけではない、何か闇のようなものを感じさせる。
いくら自分が多少油断していたとはいえ、自分の居場所を初めから特定していたかのような出会いといい。
躊躇うどころか笑顔さえ浮かべて、自分に銃を向け、撃ってきたことといい。
殺し合いに積極的なことも含めて、活かしておいても沖田に利は全くない。

それを分かっていながら、沖田は今のところこの少年を殺す気になれなかった。
もし、時期が違えば。
もし、これが姉を看取った直後でなければ、迷わなかったかもしれない。
とはいっても、既に鬼の真選組に所属して人斬りは何度もしている。タイミングさえあれば、殺人など造作もない。
しかし、今の沖田には、爪の先ほどに小さいものながら、普段とは違う感情が芽生えているのもまた事実だった。
もしかしたらそれは、感情を爆発させた少年の身の上に、何か感じるところがあったからかもしれない。
少年への挑発は、うまくいった。
それはほぼ当然で、何故ならそれは自分が言われても怒るであろうことを並べたからだった。
本当に兄弟思いの人間ならば―――その兄と、姉と自分の生きざまを否定されて、黙っていられるはずがない。
しかし、何故自分はあんなことを言ったのか?
考えても良い答えは出てこない。
たった間違いないのは、自分はすっかり近藤の思い通りらしいということだけだ。
ひりひりと、近藤に殴られた頬がまだ疼いた。

18Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:20:04 ID:RW1ozSEI0

(土方さんの名前を使わせてもらいやしたが、別に問題ないでしょう。あいつがそんな簡単に死ぬとは思えねえ)
沖田が自らの名前を偽り、土方の名を騙ったのには理由がある。
一つは、仮に自分が誰か(潤也のように)に恨まれた場合、土方も被害を被るように。
沖田が少しでも動き回りやすくするためだ。仲間なんだから苦労を分かち合うのは当然ですよねえ、が沖田の持論もとい主張である。かなり無理矢理な。
どうせ自分があれだけ殺しても死なない男だ、どれだけ悪評がついても死ぬまい。むしろ死なれては困る。殺すのは自分なのだから。
姉が愛した男が、自分以外の人間に殺されていいわけがない。
そして、もう一つの理由。
これは沖田が聞けば、間違いなく認めない理由だろうが。
沖田は、姉の願いを叶えると、姉の期待を裏切らないと約束した。
だからこそ彼は―――姉の愛した男の名前を使ったのだ。
屈辱的でも認識しなければいけない一つの事実――-姉を幸せにできるのはあの男だと。
だから、自分もあの男になりたいと思った。
姉を幸せにできる、立派な男に。
それは、沖田自身も全く気づくはずもないことなのだが。

何にせよ、一つ確かなことは。
(まあ、何はともかく、ここで一発で死ぬより、足掻いて抵抗する姿を見ている方が楽しいですからねい。まさか俺に私物が支給されるとは思いやせんでしたが……まあいいぜ、せいぜい足掻いてくれよ、潤也くうん?)
……沖田総悟は、自他共に認めるドSだということだけであった。

ここで、沖田が気づいていない事実が存在する。
後ろですっかりおとなしくなった少年が、不思議な能力を持ち合わせているということに。
それは刃を振るう力でも、炎を操る力でも、精霊を召還する力でもない故に、弱くて一見役立たずに思えるが―――
「10分の1を1にする」という、使い方次第ではあらゆる刃ともなる、狂気に満ちたものだということを。
それに気付かないことが、沖田にとって吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からない。

19Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:20:41 ID:RW1ozSEI0


(くそ、くそ、くそ……こんなとこで足止めなんてふざけるなよ!俺は……)
一方。
沖田に引きずり回される潤也は、心の中で恨み言を繰り返す。
骨をへし折られた右手首は激しく痛む。放っておいても強烈な痛みなのに、たまに沖田にわざと足をひっかけられると更に軋む。抵抗すると首輪――-余談だが、鎖付き首輪を付けられた後だと、はじめに付けられた爆弾入り首輪が可愛いものに思えてくるから不思議だ―――を引っ張られる。どうしろというのだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
―――油断した。
間違いなく、自分の失敗だ。
一番の間違いは、土方に対する態度を、蝉のときのそれと同じようにしてしまったこと。
蝉に銃を渡されたときは、蝉は逃げなかったし抵抗もしなかった。反撃もしてこなかった。それは潤也の行動を試すためだったのだから当然だろう。
それ故にどこか失念していた。……実力者ならば、銃弾を避け抵抗するに違いないと。
(まともに渡り合っちゃだめだ、蝉さんみたいな人と俺じゃ実力が違いすぎる……俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだから)
二重にはめられた首輪の位置を忌々しげに見つめながら、潤也は兄を思う。
(でも……分かった。分かったよ、兄貴……慎重にやらなきゃだめだって。少し遅くなるけど、このままじゃだめだ)
このままでは、兄の二の舞だ。それだけは避けたい。
仇を取るためには、自分が死んでは何の意味もないからだ。
自分はまだ生きている。自由こそ拘束されているが、土方は自分を殺さなかった。
それならば、まだうまくやれるはずだ。

情報を得るためには、他の連中と合流する必要がある。
しかし、彼らと出会い、話を聞いて、兄の仇がその場にいて、自らが銃を向けたらどうなるか。
それで相手を殺せたら構わない。大成功だ。
しかし、敵が土方のようにとんでもなく強かったら?
相手を殺すどころか、自分が返り討ちにあって終わりだ。兄が倒せなかった相手に、自分が真っ向で勝てるだろうか?
まず、無理だ。
自分の特殊な力は、戦闘には全く役に立ちはしない。
(それなら、機会を伺うんだ。殺せそうな時に、そいつを殺す)
そもそも、この場に兄の仇がいるかどうかも分からないのだ。
いないならば、自分はさっさと本来の家に帰り、兄の仇を捜し出す必要がある。
そのためには、人を殺して回ることが手っ取り早い。悠長なことを言っているうちに、情報は逃げていってしまう。
だからうまく殺していくしかない。
いきなり銃を向けてはだめだ。初めは殺しなどするつもりのない人間として振る舞えばいい。
そして情報を可能な限り絞り取り、兄貴のことやマスター、犬養の情報を握っていないと分かったらタイミングを見計らって殺す。
本当は他の人間が罪を被るようにしたいか、そううまく思いつくかどうか。
やっかいなのは目の前の土方だが―――武器を取り上げられている以上迂闊に動けない。殺すなんてもっての他だ。
今のところは大人しく従うべきだろう。いずれ、始末してやる。この屈辱を晴らさないと気がすまない。
兄の仇を討つため、自分の知らない世界に首を突っ込む準備は―――人を殺すための覚悟は―――とうにできていた。
あとは、実行に移すだけ。
いざという時には、この能力もあるのだから。

ここに、潤也が気づいていない事実が存在する。
この殺し合いに、『死んだはずの』兄が参加しているということを。
主催者は、何でも願いを叶える、という形で死者の蘇生も可能である、という可能性もたしかにほのめかしてはいた。
しかし、潤也は信じてなどいない。だから考えようともしない。死人が生き返るなど。
ましてや、兄がこの場にいるなどと、気付くはずもない。
そんなことは、この現実ではありえないことだったから。
そんなことが可能なら、自分は兄と二人暮らしなどしていなかっただろうから。
気づかないが故に、潤也は沖田に従いつつ、虎視眈眈と模索する。
兄ほどの頭脳は持ち合わせていない故に、兄よりも本能的で、且つ兄よりも残酷な手段を。

(兄貴、待っててくれ。俺が必ず、兄貴のできなかったことをやり遂げてやる!)

20Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:22:44 ID:RW1ozSEI0
【G-2/中・高等学校裏】
【沖田総悟@銀魂】
【状態】健康、わずかな悲しみ
【装備】なし(首輪の片方を握っている)
【所持品】支給品一式  木刀正宗@ハヤテのごとく! 首輪@銀魂 
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:この場にいるなら近藤や銀時達知り合いと合流したい。土方?知らねえよ
2:しばらくは潤也を虐めて楽しむ
3:……姉さん、俺は―――

※沖田ミツバ死亡直後から参戦

【首輪@銀魂】
沖田と土方が地愚蔵に閉じ込められた際 (実際は沖田の策略だったが)、二人をつないでいた首輪。鎖部分がやや長め。人間をペットにしたい、ドSな貴方にお勧めです。

【木刀正宗@ハヤテのごとく!】
伊澄の家に伝わる名刀。
デザインが少し凝っている以外、見た目は普通の木刀。
持ち手の身体能力を極限まであげる力を持つが、同時に感情が高ぶりやすくなる。

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】右手首骨折、首輪で繋がれている
【装備】なし
【所持品】支給品一式  イングラムM10@現実 未確認支給品1〜2(本人確認済み、武器はない)
【思考】
基本:兄の仇を討つ。そのためには手段も選ばない。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、できるだけ早急にここから脱出する。
2:初めは殺すつもりがないようにふるまう……?
3:土方に対する激しい怒り
4:兄貴……

※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。自分の能力をどこまで把握しているかは次にお任せします。
※沖田の名前を土方と理解しました。

21Little Brothers! ◆H4jd5a/JUc:2009/04/13(月) 00:25:37 ID:RW1ozSEI0
投下終了です。
潤也の能力に関してはどうしようか(知る前か、知った後か)迷ったのでぼかしてみました。
指摘ありましたらお願いします。

22 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:44:43 ID:BMr8xaZ20
すいません、本スレさるさん食らったので続きをこちらに落とします

23 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:45:01 ID:BMr8xaZ20
「さて……と」
思わぬところで時間を食ってしまったが現状やることは変わらない。
子分達を見つけてこの島から抜け出すのだ。
そう言えば、ここに飛ばされる前に見た影の中に麦藁帽子のような形の頭をした人影を思い出す。
もしもあれが自分の思っている人間だったとしたら、彼らも一緒に捕まってしまったのかもしれない。
そうだとしたら協力出来ないかとも考えていた。
あくまで居ればの話だったが。

地図を広げて地形や建物などを確認し子分たちが集まりそうなところを考えてみた。
「とりあえずはホテルかしらねえ……」
ホテルならバーがあるかもしれないし、そこで自分の気も知らず暢気に一杯やっているかもしれない。
一人ごちりながら地図を仕舞い込み、北へと向かって歩き始めた。



【 F-6中央街道 / 一日目深夜 】
【Mr.2ボンクレー@ONE PIECE】
 [状態]: 健康
 [服装]: アラバスタ編の服 森あいの眼鏡
 [装備]:
 [道具]: 支給品一式 / 不明支給武器(x1〜2)
 [思考]
  1: 待ってなさい、可愛い子分たち!
  2: とりあえずホテルに向かう
  3: 殺し合いなんてどうでも良いけど自分の邪魔する奴は許さない
 [備考]・アラバスタ脱出直後からの参戦
    ・グランドラインのどこかの島に連れて来られたと思っており、脱出しようと考えています
    ・マネマネの実の能力の制限に関しては現状未定
     (一応直接顔を触れた人物→西沢歩)

24 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/13(月) 16:46:41 ID:BMr8xaZ20
支援してくださった方ありがとうございました
タイトルは「西沢歩の受難 〜私と、変態と、変態と〜」でお願いします

25二人の黒い疵男(修正部分2) ◆AO7VTfSi26:2009/04/13(月) 23:02:56 ID:z9PHLzQY0
「そうか……それなら、すまないが少し私に付き合ってはもらえないか?
 向かいたい場所があるんだ」

ブラック・ジャックはデイパックから地図を取り出し、ある場所を指差した。
それは彼にとって、必要な物資を入手できる貴重な施設―――病院である。

「C-2にある、病院に向かいたい。
 ここならば恐らく、医療器具や薬は一通り揃っている筈だ」
「病院……?
 何だそりゃ?」
「ん、病院を知らないか……?
 そうだな、かなりでかい診療所と言えば分かるか?」
「ああ、成る程な……そう言われりゃピンと来るぜ」

病院が何なのか分からない。
普通に考えればおかしい発言なのだが、ブラック・ジャックは然して驚く様子も無く、いたって普通にガッツへと返答した。
と言うのも、彼にとって病院どころか診療所ですら知らぬ相手というのは、別に初めてではなかった。
未開のジャングルに住む原住民族、人語を話せぬ野生児、挙句の果てには宇宙人や幽霊が患者になった事すらあったのだ。
ならばこの程度、どうという事は無い。

「だとすりゃ、俺達以外の誰かが目指してくる可能性は十分にあるな」
「ああ、接触さえ出来れば何かしらの情報も収集できるだろう……引き受けてはもらえるか?」

目的は二つ、治療道具の入手並びに他の参加者との接触。
後者はこの殺し合いをどうにかする為。
そして前者は、治療行為をいつでも行えるようにする為だ。
この舞台では、誰がいつ致命的な傷を負うかは分からない。
一介の医師として、彼はそれを見逃す訳にはいかなかった。
言うなれば、これは医師としての使命感だろう。

26リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:27:11 ID:XZbewnBU0
さるさんに引っかかってしまったので、こちらに投下します。

27リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:27:53 ID:XZbewnBU0
「証拠は?」

王子が話し始めてから初めて、杜綱が言葉を口にした。
声色に感情はなく、背を向けたままの為に表情も読めない。

「証拠はあるのかよ?」

「そう、ですね……」

王子が口の端を僅かに上げて、ふ、一息を吐き出す。

「貴方が偽杜綱さんだから、でしょうか?」

同時。


「え?」


目の前に蛇の体がある。
風を斬りながら、風すら砕きながら、幾百の像を残してブレる。
俺の体を打ち据えた。
ごき、ぼりゅ、ぐちゅ、と肉と骨がひしゃげる音がした。

「が……!」


杜綱は、動いていない。
数十メートルも先にいながら、銃を向けてもいない。
こちらを向いてすらいない。

けれど、たったの一撃で俺を地面に這い蹲らせた。
動きへの備えなど全く無意味に、俺は捻じ伏せられていた。

そのままうねる蛇は止まらない。
俺を先に潰したのは、見たままに俺が戦闘に長けているから。
次に打ち据える対象は只一つ。

――しまった、とでも言いたげな顔で、あまりにも無力に立ち尽くす少年がいる。

「――王子!」


……体が軋む。
内臓がかき回されるような気持ち悪さと、コンクリート塊に上から潰されたような重さによる痛みが混ざり合う。
意識が切り刻まれ、理性が判断を歪ませる。

だが、それがどうした。

――俺は、決めたんだ。
あの人のように生きると。

28リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:28:51 ID:XZbewnBU0
……ニコ兄。
泣き虫リヴィオにだって、きっとやれるよな。

なあ、ラズロ。
お前に押し付けなくたって、俺はやっていけるさ。

どんな生き方だってできるって、それを二人に見せてやる。


「お、あああぁぁあぁああああぁぁああぁぁあああぁぁあぁあぁぁ……っ!」

意識や理性を超えたところにある闘争本能任せに、肉体を行使する。
そう、この肉体はミカエルの眼の極地。到達点。
いかなる傷も再生させ、いかなる攻撃も覚え凌ぐ。
そして、いかなる敵も粉砕する。

手に握るのは一見長いスーツケース。
だが、これはそんなものではない。
これこそ怨敵の使う悪魔の武装。
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの杭打機に他ならない。

何故、こんなものが俺の元にあったのかは分からない。
俺の体を穿った武器を使う事に躊躇いもある。
……だけど。

頭上の感触を確かめる。大丈夫、ここに一撃も食らってはいない。
預かった大切な帽子の感触は確かにある。

――ここに来る直前、これを渡してくれた少年と、目の前の少年が重なった。

縦横無尽に跳ね回る蛇の姿を、初めて捉える。
……異常な長さの鞭が、まるで生きているかのように跳ね回っていた。
少年に迫る鞭を見据え、杭打つ先を狙い済ます。

守ろう。守りたい物を護っていこう。

撃った。
踊る鞭の先に杭が重なり、双方が弾き飛ばされる。


*************************


「逃げたか……」


――危なかった。もし偽杜綱がこれ以上交戦をするつもりだったら、僕が命を落としていた可能性もある。
あんな事を彼に言っておいてなんだけど、僕も少し慎重さを欠いていたかもしれない。

だが、あそこまで彼が攻撃的だとは想定外だった。
いや、攻撃的――というより、情緒不安定の印象を受ける。
それならばそれで説得次第で彼をこちらに引き込めるかもしれないと思ったのだけど、目論見が甘かったようだ。

29リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:29:49 ID:XZbewnBU0
……僕は、彼を慎重で理性的な人間と評した。
ならば、協力関係のメリットとデメリットを推し量り、互いに支障のない範囲で共闘を検討するくらいはすると考えたのだ。
現実にはそこまで話を持っていくことすらできなかったのだけれど、彼は基本的に理性的な人間なのは間違いない。
が、何らかの原因で狂気に取り憑かれているようだ。慎重さと行動のちぐはぐさはそれの表れだろう。
そこが人間の厄介な点であり、また魅力でもある。

……いや、それは今は関係ない。
彼のおかげで永らえたのだから、それに謝意を示さなければならない。

「リヴィオさん、大丈夫ですか?」
「……ああ、心配するな。もう動ける」
「……え?」

返答は予想外だった。
――何故、あんな攻撃を受けてもう動ける?

「俺の体は特別でね、再生速度が普通の人間とは比べ物にならないの、さ……。ぐ……」

成程、確かに傷の治りが早いみたいだ。
――非常識ばかりで驚かされるが、こんな状況でいちいち見入っていても仕方がない。
順応しないといけないな。
それに、

「完治している訳じゃないでしょう、無理はしない方がいいと思いますよ」
「……すまない。いつもより遥かに体の治りが遅いんだ、っ……」

『ただし少しでも公正さをきす為に細工をさせてもらっておる。
身体の動きが鈍いと感じているものはおらんか? 力が使えないと思っているものは?』

――そういう事か。

「何はともあれ、早めにここを離れよう。じっとしてる訳にもいかないだろ?」
「確かに、その通りですね」

今は早急にここを離れなければいけないだろう。
……杜綱と名乗っていた男が戻ってきたら、まず良い結果にはなるまい。
何故あの男が撤退したのか、その理由も分からない以上非常に不気味だ。
あの武器ならば僕達を殺すことなど造作もなかったろうに。
考えられるのは……

「使用に際して、何らかのリスクを追っている……?」
「ん? 何のことだ?」
「いえ……」

言葉を濁す。不確かなことを言っても仕方ない。
……だが、どうやらリヴィオさんには何を考えているのか通じたようだ。

「……そうだな、考えても仕方ないさ。
 おまえはむしろ考えすぎだぜ」
「これでも僕には世界的な探偵になるって夢があるんですよ」

苦笑交じりに答えれば、彼は人好きのする笑みを見せてゆっくり立ち上がった。

30リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:30:29 ID:XZbewnBU0
「王子……、お前って輝いてるぜ」
「それは本物の高坂君に言ってあげるべきですね、喜びますよきっと」

苦笑が続く。
ほんの少し呆けたリヴィオさんを再度、じっくりと見る。
……彼ならば信用に足るだろう。

「――偽名ですよ。偽杜綱さんと同じでね。
 生憎ながら、僕は出会ってすぐの人を信用できる性格ではないんです」
「偽名ね……。そう言えば、杜綱に対してさっき……」
「開始して6時間は、名簿を読めない。
 要するに、6時間は参加者が偽名を名乗っても参加者にその人物がいるか確認する術がないんですよ。
 ……慎重な彼の事ですからね、それに気付かないはずはないと思ってカマをかけたんです」
「……まあ、こんな殺し合いにいきなり連れて来られたら無理もないが……」

頷きつつ、しかし腑に落ちないように彼は僅かに口をもごもごと動かしている。

「それにしては……、いや……」
「――貴方を騙したことは謝罪します。
 ですが、僕は先ほどの貴方の行動で貴方が信用できる人間だと判断しました。
 あらためて自己紹介ですね」

……雪輝君以外の、僕の協力者。
戦闘にも長けるとなれば礼を尽くしておくに越した事はない。
心底丁寧に一語一句を発していく。

「――秋瀬或。探偵です」

考える事は山ほどある。
『神』についての事だけでなく、この会場や、参加者の人選。
あるいは殺し合いの意義や、もっと身近なところでは何故この明らかに外国人であるリヴィオと話ができるか、など。

だが、今すべきはそうではない。
彼と手を取り、探偵として、僕はこの殺し合いの謎に挑んでいこう。
その為に僕は手を差し出した。

「僕と共に、『神』とのゲームに臨んでいただけますか?」

手が取られ、互いにしっかりと握り合う。

「ああ、こちらこそ、だ。或」


【C-02南部/市街地/1日目 深夜】

31リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:31:16 ID:XZbewnBU0
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、各種医療品、不明支給品×2
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
 1:雪輝の捜索及び合流。また、雪輝以外の日記所有者と接触。合流するかどうかは状況次第。
 2:探偵として、この殺し合いについて考える。
 3:リヴィオに同行しつつ、放送ごとに警察署へ向かう。
 4:偽杜綱を警戒。
 5:アユム、蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
[備考]
 ※参戦時期は原作7巻終了時以降のどこかです。
 ※病院のロビーの掲示板に、『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』というメモが張られています。
 ※リヴィオの関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。


【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:左肋骨三本骨折(治癒中・完治まで約4時間)
[装備]:エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。

【エレンディラの杭打機@トライガン・マキシマム】
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの使うスーツケース型の杭打機。
今回用意された杭の数は30本。

32リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:31:53 ID:XZbewnBU0
*************************


「……くそ」

――ちくしょう、ドジったな。
まさかこんな鞭が、予想以上にオレの力を持っていきやがるとは、な。
たった一発でこんなに食うとは燃費悪ィにも程があらぁ……。

まあ、試し撃ちと思えばこんなもんだよなァ。
オレになら使いこなせるさ、そういうもんだからな。

……くそったれ。
あの帽子のヤツ、リヴィオっつったか。
まるで……、まるで、あいつのような顔しやがって……。

全く、何やってんだかなァ。
さっさとあいつらを殺してくればよかったのに、オレはよぉ……。
何でわざわざあいつらの前に出て行ったんだ?

…………。
ああ、そうか。
オレは裏切り者だからなァ、どこのどいつだろうと裏切るって事をうしおに見せ付けてやるのさ。
顔見知りになっておいて、後で思いっきり裏切ってやるつもりだったのによ。

いいさ。とりあえずは、ふんぞり返った連中を喜ばせてやらぁ……。
オレぁ、最低の裏切り者なんだからよ……。


――ああ。
風が、強くなってきやがった。


【D-03西部/森/1日目 深夜】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 1:うしお及びとらの捜索。
 2:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 3:6時間後までは杜綱悟を名乗る。
 4:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮の絶叫を確認しています。その他の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。

【禁鞭@封神演義】
離れた敵を打ち据える事に特化した、聞仲の持つシンプルながら強力なスーパー宝貝。
本来ならば数km先の敵も打ち砕く代物だが、制限の為射程がおよそ100m程度になり、威力も低下している。
その分使用者への負担も減少している。

33 ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:33:31 ID:XZbewnBU0
以上で終了です。
ご支援くださった方々、ありがとうございました。
それと、本スレ>>541にミスがあったのに気づいたのでそこの差し替えだけ投下します。

34>>541差し替え ◆JvezCBil8U:2009/04/14(火) 10:34:24 ID:XZbewnBU0
*************************


――あの人のようになりたい。
……いや、違う。

あの人のようになろう。
そう決めた。

たとえ始まりがヤケクソで、外道の産物でしかない技と体だとしても。
血ヘドを吐いて、友であり兄弟であるあいつと共に練り上げてきた力は、きっと裏切ることはない。

この力で僕は何かを守りたい。
ああ、そうだとも。
あの人の所まで、僕は駆け上ろう。


*************************


風が、吹いていた。
いつも耳の奥で聞こえる、風の――音。

風が吹くのは、何でだろうなあ……。

まあ、分かりきったことだわな。
何でもできるからだ。
オレは何でも簡単にできる。周りの連中が努力して超える壁を、あっさりと。
だから本気を出しちゃあいけねぇ。
何もかも、何もかもがカンタンすぎて面白みもねぇ。

ああ……、ったく。
そんなつまんねー奴を信頼しきってよぉ、間抜けにも程があらァなあ。
見物だったよなァ、俺が裏切ったと知った時の顔はよォ。

……なあ、あんたらよぉ。オレをここに招いたフザけた野郎ども。
オレに何を望む?
……あの甘ちゃんのガキまで呼び寄せて、何をさせようってんだ?

……なんてな。
オレは何でもできるからな、分かっちまうのさ。
どう足掻いてもそれしかできないし、オレ自身がそうしたがってるってのはな。

悪人だよなァ、裏切り者だよなァ。
こんな外道が楽しくてしょうがねえ最ッ低の野郎だよなァ!
ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!


ああくそ。
風が、冷てぇなあ……。


風が……。

35643>>差し替え ◆bUcoocG73Q:2009/04/15(水) 02:01:19 ID:/lWGc2Lg0
 灰がかった黒髪をツインテールに結った少女、竹内理緒は混乱していた。

 突如、己がこのような不可解な事態に巻き込まれたことが第一の疑問点だった。
 『最後の一人の生き残りを決めるための殺し合いゲーム』というこの状況。
 いや、まず何よりも己が選定された理由よりも、疑いを持つべきなのは有り得ない"力"について、だった。

 あの雷の力は何だ?
 ワープとは何だ?
 このまるで漫画やアニメのような超能力は一体?

 そして、この宿命に希望を示すことが出来る存在はただ一人――鳴海歩ただ一人。彼だけだったはずなのに。

 しかし、そのような疑問点を解決するためには、今、乗り越えなければならない障害があった。

「……」
「……」

(これは……まずいことになりましたね)

 静寂。
 最初の場所から一歩も動くことが出来ないまま理緒は相対する少女を見つめた。
 そして同様に彼女も理緒を見る。
 見つめ合う、二人。
 だが両者を結ぶ線は赤い糸でも運命の環でもなく、剣呑な視線の矢だった。
 行き場所をなくした瞳が彷徨い、そして全く同じタイミングで一つの箇所にてピタリ、と止まる。
 そして、またも全く同じタイミングで二人は自分達の置かれた状況を理解した。

(……悪趣味、ですね)

 どちらも表情には一切の変化はなかった。
 いや、二人が顔を合わせた瞬間に、相手へ声を掛けなかった時点で、両者が対峙へと緒至る構図は半ば決まっていたのかもしれない。
 理緒としても擬態を用い、彼女へ接触するという選択肢は十分にあったはずなのだ。
 だが、理緒は一瞬の直感でもってその必要ない、と判断した。いや、むしろソレは決定的な悪手であるという思考にさえ至ったのだ。

 ――つまり、それは完璧なまでに仕組まれた遭遇だった。

 由乃と理緒、彼女達は会場に送られた瞬間、支給品を確認する暇もない鉢合わせをする羽目になった。髪を結い、服装を正し、小さくため息を付く時間さえ彼女達には与えられなかった。
 だが――それは共に"普通"ではない理緒と由乃に関して言えば、些細な問題だったのかもしれない。
 熟考と即断。どちらの選択を行ったとしても、彼女達が取るべき行動は一切変わらなかったはずなのだから。

 そう、身につけた技術は、心に宿した妄執は、彼女達に多くを求めない。極めて最適解に等しい動作と思考を与えてくれる。
 全天候型の大型スタジアム。空は星、雲は揺らぎ、星が煌めく。
 この状況で、二人にとって何より問題であったのは、参加者に対して均等に支給されるはずのデイパックが――

 眼前にて、『二つ』、寄り添うように並べてあったということ。

36>>662>>664差し替え ◆L3YPXWAaWU:2009/04/15(水) 02:04:41 ID:/lWGc2Lg0
「…………ふぅ」

 理緒は長いため息を吐き出した。
 我妻由乃との戦闘を回避出来たのは大きい。
 何とか口八丁で彼女を煙に巻いたが、彼女は拳銃があれば完璧に勝利を収めることが出来るほど柔な相手ではなかった。
 単純な戦闘力ではブレードチルドレンの一人であるカノン・ヒルベルトに比肩するレベルかもしれない。
 まだまだ理緒が自分から積極的な行動を取るには情報が足りなさ過ぎる。
 夜は始まったばかりだ。慎重に事を運ばなければ。

「理緒ちゃん、どうしたのっ☆ 元気ないよっ☆」

 傍らの喜媚が理緒の顔を覗き込んだ。
 結局、二人はしばらくの間行動を共にする事にしたのである。

「あ、いいえ。何でもないです」
「ロリッ☆ だったら喜媚と一緒に妲己姉様を探しに行きッ☆」
「……姉様? 喜媚ちゃん、お姉さんもここにいるんですか?」

 姉、という事はその彼女も特殊な力を持っているのだろうか。

「うんっ☆ 妲己姉様ならぜーーんぶ、何とか出来っ☆」
「……なるほど」
 
 確かに喜媚が信用出来る相手なのかどうかは非常に疑わしい。
 だが自らを妖怪であると自称し、宝貝と呼ばれる不可思議な道具を自由自在に扱う彼女は極めて異端の存在だ。

 例えば、彼女が持っていた『如意羽衣』という宝貝を理緒も見せて貰ったが、手にするだけで身体中の力が抜けていくような危険な感覚を覚えるほどだった。
 おそらく理緒がこれを用い、自由自在に他の物体へ変化することはおそらく難しいだろう。
 技術を必要とする宝貝は道士や仙人ではない人間には扱いにくいと喜媚は言っていた。
 
 そんな彼女が本気になれば、理緒を殺害することなど容易いようにも思える。
 事実、あの時由乃と理緒は共にこの胡喜媚の動向にも細心の注意を払っていたのだ。

 が、そうしないという事は、彼女に人殺しをする意志がない裏付けであるように思えた。
 完全に気を許すことは出来ないが、一時の同行者としては問題ないように思える。
 彼女が何を考えているかは分からないが、互いが利用出来る内は協力関係は成立する。
 重要なのはその分岐点を見極める事だ。
 
 そう、ブレードチルドレンは殺戮の使者と成り得る呪われた子供であるが、あくまで人間に過ぎない。
 ――人間が、人外の存在に打ち勝つことが出来るのか。

(あたしが、ここでやるべき事は……何なのだろう) 
 
 神の作り出した絶対的な運命に囚われた存在、ブレードチルドレン。
 たとえ、決して有り得ない可能性だとしても神の掌の中から抜け出す事は適わない。
 
 それが――抗えぬ螺旋の創り出した宿命なのだから。


【B-2/競技場前/一日目 深夜】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
 [状態]:健康
 [服装]:月臣学園女子制服
 [装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
 [道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
 [思考]
  基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
  1:第一放送までは生存優先。殺し合いを行う意志は無し。
    名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
  2:喜媚と行動を共にする。妲己という人を一緒に探す。
 [備考]
  ※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。

【胡喜媚@封神演義】
 [状態]:健康
 [服装]:原作終盤の水色のケープ
 [装備]:如意羽衣@封神演義
 [道具]:デイパック、基本支給品
 [思考]
  基本方針:???
  1:妲己姉様とスープーちゃんを探しに行きっ☆
  2:皆と遊びっ☆
 [備考]
  ※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。

【如意羽衣@封神演義】
 ありとあらゆるものに変身出来るようになる宝貝(素粒子や風など、物や人物以外でも可。宝貝にも可能)

37 ◆9L.gxDzakI:2009/04/15(水) 15:42:11 ID:5A6vmjKY0
ギリギリ4KB余るはずだったのに一杯になっちまったァァァァ!orz

本スレに投下した「その口はあまたの灯」、あれで投下は以上です。申し訳ない

38名無しさん:2009/04/15(水) 15:45:07 ID:Jsl7CsGk0
乙w

39 ◆9L.gxDzakI:2009/04/15(水) 23:50:28 ID:JYtEa7LoO
拙作「その口はあまたの灯」における地の文を、一部以下のように修正します。

(第1巻>>723
 この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
 そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
 困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
   ↓
 この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
 そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
 困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
 そもそも現在地につく前に、どうやらここで戦闘があったらしいのだが、それにすらも間に合わなかった。
 鞭と大砲のような轟音は聞いている。それでも音の主達を見失ってしまった。のっけからミスを犯しているというわけだ。

40 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:23:31 ID:uuwVtYpE0
規制されたのでこちらに投下します。

41 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:24:22 ID:uuwVtYpE0
(何より……私はまだみんなと別れたくない!!)

そう思い、森は走り出した。
信じられる仲間を探すために。
絶対にいると信じながら。
森あいは暗闇の中をかけて行った。


     ◇


今同じ時、同じエリアで、同じことを思った少年少女がいた。

少年はいないかもしれない幼馴染と自分の兄、信頼できる知り合いを探すために。

少女は絶対いると思っているチームのメンバーを探すために。

もしこの二人が出会うことができれば、心強い味方が出来たかもしれない。

だが、運命とは時に残酷である。

彼らこの時出会うことはなかった。

ひょっとしたら、いずれ出会うことになるかもしれない。

ひょっとしたら、二度と出会うことはないかもしれない。

でもそんなことは、誰にも分からない。

それが例え……「神様」であっても……。

42 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:24:56 ID:uuwVtYpE0
【I-6 南西/市街地/1日目 深夜】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
 ※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【I-6 北東/市街地/1日目 深夜】
【森あい@うえきの法則】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・備考]
基本:植木チームのみんなを探し、この戦いを止める。
 1:とりあえずみんなを探す。
 2:できれば「1st」も探してみる。
 3:能力を使わない(というより使えない)。
 4:なんで戦い終わってるんだろ……?
 ※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
 ※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
 ※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。

43 ◆oUQ5ioqUes:2009/04/17(金) 01:28:29 ID:uuwVtYpE0
投下終了です。
ずいぶんと時間がかかってしまったことをここでお詫びします。
ちなみに本スレでもタイトルは乗っていますが、ここでも一応書いておきます。

タイトルは「2つの想い……重ならず」です。

44 ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:58:31 ID:TSjuqWlE0
仮投下します。
プロバイダの規制に巻き込まれているので誰か代理投下してもらえると嬉しいです。

45ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:59:25 ID:TSjuqWlE0


まだ夜も明けぬ空。
静かに揺れる海岸の前に一人の男が佇んでいた。

彼の名は金剛晄。彼はずっと海の向こうを見つめていた。
平然としているようにも見えたが、彼の心の中はあの薄暗い中で起きた陰惨な光景に対し、
怒りの炎をふつふつと燃え上がらせていた。

「これも親父と兄貴の計画の一つなのか……?いや、それは考えにくい」

晄は多くの番長たちが東京都23区を統一するまで戦いあう、バトルロワイアル
『23区計画』にこのゲームを重ねようとしたが、すぐに否定する。

周りには23区計画に参加していそうな屈強な人影を幾人か見かけたものの、
23区計画参加者の目印である刺青を彫っている人物を見つけることはできなかった。
それになにより、明らかに戦いには向いていないかよわい女性や子供までもがあそこに連れてこられていたからだ。

「だが、これだけは分かる。このゲーム……スジが通ってねぇのは明らかだ」

晄はあの部屋の中で犠牲になった少女と少年を思い出す。
彼らは何の罪があって殺されたというのだろうか。ただ、彼らは殺し合いに反対しただけだ。
それに、彼らは戦う術を持たないただの一般人だ。彼らとは違う力を持つ自分たちはまだしも
彼らを巻き込み、あまつさえ知り合いの目の前で虫けらのように殺してしまうような行為を目の当たりにして
怒りを抑えることは晄には到底不可能なことだった。


晄は砂浜からむき出している大きな岩を見る。
彼はそれに近づくと大玉サイズくらいの岩を両手でつかみ、ゆっくりと持ち上げる。


「ムルムル、申公豹……貴様らの殺し合いなぞ……」

46ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 05:59:49 ID:TSjuqWlE0







     「 知 っ た こ と か  ―――――――――――――  !  !  ! 」







晄は持ち上げた岩をそのまま海の方へ放り投げるかのように勢いよく投げる。
岩はまるで砲丸投げの鉄球のようにきれいな放物線を描き、飛んでいく。
そして、はるか向こうに着水し、大きな水柱が上がる。
それは彼なりの主催者達への宣戦布告だった。

だが、何故か晄の顔は釈然としなかった。
岩を投げたようと試みた時、自分の体に違和感を覚えたのだ。

「……いつもより力が入りにくくなっている。いつもならもっと遠くに飛んだはずだ」

晄は自分の首筋に巻かれている銀色に光る首輪をそっと触る。
あの少女の話によると、首輪に細工がしてあるらしい。

「全力が出せないのもこれが原因か……こいつもどこかではずす必要があるな」

晄が次に気にかけたのは仲間のことだった。
念仏番長や剛力番長のような仲間たちや、陽菜子や月美たちもここに巻き込まれているかもしれない。
もしも、彼らがこのゲームに巻き込まれているとしたら真っ先に合流する必要がある。と晄は考え、
彼はデイバッグから地図を取り出した。
今、自分がいる地点はH-2。海岸の砂浜のようだ。

「近くに学校があるな。誰かがあそこにいるのかもな……」

47ぼっこぼこにしてやろう だからちょっと覚悟しやがれ ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 06:00:41 ID:TSjuqWlE0

小学校と中・高等学校のどちらかに行くか。
ひとまず、晄は北の学校の方に向かうことに決めた。
陽菜子や他の番長がここにいるのなら、ここを目指すだろうと推測したのだ。

「待ってろ、ムルムル、申公豹。このスジの通らねぇゲームは俺がブッ潰す。」

静かな怒りの炎を灯しながら金剛番長、金剛晄は
新たな戦いへと挑む決意を固めた。


【H-2/海岸/深夜】
【金剛晄(金剛番長)@金剛番長】
[状態]:健康
[服装]:学ラン
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合い?知ったことか!!
 1:ゲームを潰す
 2:施設をまわり、情報を集める。
 3:このゲームの参加者にスジを通させる
 4:陽菜子や他の番長たちはいるのか……?
[備考]
※自分の力が制限されている可能性を持ちました。

48 ◆zTb8tEnpHg:2009/04/17(金) 06:01:24 ID:TSjuqWlE0
投下終了です。
問題点・疑問点などありましたらレスお願いします

49 ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:31:01 ID:wycRPsV60
規制に引っかかったので、残りをこちらに投下します。

50カタハネ -クロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:31:46 ID:wycRPsV60
「わ、私は西沢歩っていうんだけど、あなたの名前は?」

口を開きかけ、そのまま閉じた。
後ろを振り向かず、そのままにただ、進み続ける。
名前など教える必要はない。

俺は、今もまだ俺の答えを捨てたくはないのだから。


――――ふと、いつかを思い出した。
青い青い夏の空。
汚物の壺を斬り開いた陽光の下の邂逅、出会い。
あの時も人間が、俺の背後に続いて歩いていた。

無為なことだ。やはり俺はどうかしている。
……いや。お前に狂わせられたようだ、ヴァッシュ。
人間の、それも死んだ男の事など思い返すとは。

なあ、どう思うんだろうな?
……お前の殺したあの男が、今の俺を見たのならば。

――既に亡き男の行動という、答えの出るはずのない問い。



【F-04研究所付近/森/1日目 深夜】

【チーム:12−3(トゥエルブスリー)】

【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化進行
[服装]:普段着にマント
[装備]:支給品一式、不明支給品×2
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:――償う事など、何もない。
1:搾取されている同胞を解放する。
2:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
3:歩達がついてくるのを止めるつもりもないが、守るつもりもない。
4:レガートに対して――?
[備考]:
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※黒髪化が進行している為、エンジェル・アームの使用はラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。

51カタハネ -クロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:32:36 ID:wycRPsV60
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:五光石@封神演義
[道具]:支給品一式、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則
[思考]
基本:死にたくない。ハヤテや知り合いに会いたい。
0:な、名前くらいは教えて欲しいんだけどな……。
1:……もう、レッドでいいや。
2:殺し合いって何?
3:ハヤテくんに会いたい。
4:とりあえず、平坂と二人きりは嫌。
[備考]:
※参戦時期は明確には決めていませんがハヤテに告白はしています。


【平坂黄泉@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:烏避け用の風船の様なマスクと黒の全身タイツ、腰にはおもちゃの変身ベルト
[装備]:エレザールの鎌(量産品)@うしおととら
[道具]:支給品一式、正義日記@未来日記
[思考]
1:コノ怪シイ悪人ヲ監視スル!
2:悪ハ許サナイ!
3:弱キ物ヲ守ル!
4:シカシ、ドウシテ私ハ生キテイルノダロウ?
5:コレデメンバーガ三人揃ッタ!
[備考]:
※御目方教屋敷にて死亡直後からの参戦。

【正義日記@未来日記】
未来日記所有者12th、平坂黄泉の持つボイスレコーダー型の未来日記。
全盲の彼は己の善行を事細かに声という形で残していたため、ボイスレコーダーが未来日記となった。
道のゴミ捨てや老人の荷物持ちからカルト宗教討伐まで『正義』の内容は幅広いが、報告されるのはあくまで彼自身の解釈上での『正義』である事に留意する必要がある。
本来は90日先までの未来が記録されているが、今ロワでは見通せる未来が制限されている模様(詳細は不明)
また未来日記の例に漏れず、このボイスレコーダーを破壊した時点で平坂黄泉は死亡する。

52 ◆JvezCBil8U:2009/04/18(土) 18:33:10 ID:wycRPsV60
以上で投下終了です。

53 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:18:15 ID:kSdBChBo0
規制されたので続き投下します。

死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc

「じゃあ、おじさんも気をつけてな!あ、さっきは殴ってゴメン!でも、あんな言い方、もうやめた方がいいぜ。」
「あぁ、せいぜい気をつけるよ。おまえさんたちも気をつけてな。
 あんまりカリカリしなさんなよ。クックック。」
「うるっさい、死ね!大っ嫌い!」

最後まで騒々しく、バラバラに、3人の男達は別れた。

1人きりになり、ドクター・キリコは夜空を見上げて思う。
人はだれもいつか死ぬものだ。それが自然の摂理であり、抵抗するのは人間だけ。
だからキリコは殺す。自然に逆らい、苦しんでまで生きるくらいなら、いっそのこと穏やかな死を与えることが幸せだと信じている。

だが、だからこそ、こんな殺し合いは認めない。

(こんな事が自然な「死」なもんかね…これでも医者の端くれだ、命が消えるより、助かる方がずっと良いさ。)


この殺し合いの場でも、彼らの生き方は変わらない。

誰かを守れるなら、立って戦う、立ち向かう。それがどんなに苦しく、悲しい道でも…
迷い、悩み、素直になれないけれど…死んだように生きないために、満を持す。
望むのなら、辛いのなら、死を与える。その根底に、命を尊ぶことを忘れることなく。


彼らは出会えるだろうか。
自分の生き方を変えた、定めた、共に歩んだ…半身とも言うべき存在に…


【F-5/神社/1日目 深夜】
 【蒼月潮@うしおととら】
 [状態]: 健康
 [服装]:
 [装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
 [道具]:支給品一式 不明支給品1つ
 [思考]
 基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
  1: 蝉と一緒に病院に向かい、ブラックジャックと会う。
  2: 病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
  3: 殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
 [備考]
  ※ 参戦時期は27巻以降、白面によって関係者の記憶が奪われた後です。流が裏切った事やとらの過去を知っているかは後の方にお任せします。
  ※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
  ※ 悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。

54死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:19:36 ID:kSdBChBo0

 【蝉@魔王 JUVENILE REMIX】
 [状態]: 健康
 [服装]:
 [装備]: バロンのナイフ@うえきの法則
 [道具]:支給品一式 不明支給品1つ
 [思考]
 基本: 自分の意思に従う。操り人形にはならない。
  1: これが仕事なのか判断がつくまで、とりあえずキリコの依頼を受ける。
  2: うしおと一緒に病院を目指す。
  3: 襲ってくる相手は撃退する。殺すかどうかは保留。
  4: 市長を見つけたらとりあえずそっちを優先で守る…つもり。岩西がいたら…?
 [備考]
  ※ 参戦時期は市長護衛中。鯨の攻撃を受ける前です。
  ※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。


 【ドクター・キリコ@ブラック・ジャック】
 [状態]: 健康 ほほに殴られた跡
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 不明支給品2つ
 [思考]
 基本: いつも通り、依頼してくる人間は安楽死させる。かつ、主催者に一泡吹かせる。
  1: ブラックジャック探しと医療道具探しの為、診療所に向かう。
  2: ブラックジャックと会えたらうしおの事を伝え、神社で合流させる。
  3: 助かる見込みもなく、苦しんでいる人間がいたら安楽死させる。
  4: ただし、自殺志願者や健康な人間は殺さない。重傷者も、ある程度までは治療の努力をする。
   [備考]
  ※ 参戦時期は少なくとも「99.9パーセントの水」と「弁があった!」の後。
  ※ 「治療の努力」の程度はわかりません。彼の感覚です。



【エドの練成した槍@鋼の錬金術師】
国家錬金術師の試験等でエドワード・エルリックが練成した槍。
割と頻繁に練成している。しかし、特に秀でた力はなく、登場のたびに壊されているような気も…
彼が練成したものにしては比較的センスがいいと思うのだが…

【バロンのナイフ@うえきの法則】
ごく普通の軍用ナイフ。バロンは能力の基点として使ったが、これ自体に特殊な力は無い。

55死と向き合う者たち ◆lDtTkFh3nc:2009/04/19(日) 01:20:49 ID:kSdBChBo0
以上で投下終了です。
問題点ありましたらお願いします。

56 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:12:44 ID:RW1ozSEI0
【F-7/森/一日目深夜】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(小)、頭痛
【装備】なし
【所持品】支給品一式  ハヤテの女装服@ハヤテのごとく! メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:しょうがないので少女(宮子)の面倒を見る。学校に向かう。
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

【ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!】
ハーマイオニーのあれ。
可愛いだけで特殊効果はありません。

【メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX】
安藤兄のクラスメイト・要が好きなキャラクターのフィギュア。金髪おかっぱ眼帯メイド服。
ただのフィギュアだが、どうにも不気味な印象を与える。
余談だが、このフィギュア、コミック表紙にまでなっている。

【柳生九兵衛@銀魂】
【状態】健康
【装備】
【所持品】支給品一式  不明支給品0〜1 改造トゲバット@金剛番長
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
0:マップの東側に向かい、知り合いを探す
1:とりあえず新八と合流したい。
2:卑怯な手を使う者は許さない
3:妙ちゃんもこの会場に……?
※参戦時期は柳生編以降。

【改造トゲバット@金剛番長】
唐鰤 三信が使う釘バット。
改造済みなので普通の釘バットより威力はあると思われる。

57 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:13:38 ID:RW1ozSEI0


ああ、夢か。
少女・宮子が出した結論はそれだった。
きっと夢なんだ。
また屋根の上で寝すぎちゃったのかなー。
うん、きっといつかゆのっちが起こしてくれるさ。
だから、きっと夢。
そうじゃなくっちゃおかしいってば。
だって、人が死ぬなんてありえない。
あんなサツマイモみたいな髪をした人が現実にいるわけないって。
優しい人みたいなのは分かったけど。

彼女は、どこまでもマイペースに思考する。
真に彼女はそう思っているのか、それともただの現実逃避なのか。
それは、おそらく彼女にしか分かるよしもない。

ああ、でも次に見るなら、もっといい夢が見たいよ。
ヒロさんと沙英さんとゆのっちと三人で、落書きする夢がいい。
そう願いながら。
宮子は再びの眠りについた。

その『夢』から、彼女はいつ目覚めるのだろうか?

【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、ZZZ
【装備】なし
【所持品】支給品一式  不明支給品1〜2 
【思考】
基本: ???
1:ZZZ……お腹空いたあ……
2:これって夢の中だよね?

※現実をいまいち理解していません。目覚めた後に考え方が変わるかもしれません。

58 ◆H4jd5a/JUc:2009/04/19(日) 02:14:51 ID:RW1ozSEI0
投下終了です。
何か指摘ありましたらお願いします。

……さるったOTL

59 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:46:16 ID:9o5UxPTU0
「何故あやつらはこのようなことをする?」

太公望は、何故申公豹が殺し合いを開催したのか理解できなかった。
彼は道化師のような格好を悪く言う者を嫌う、一風変わった美学の持ち主である。
だが、彼の美学が無力な女子供に殺し合いをさせることになるのは、彼の性格上考えられない話である。
仮に殺し合いをさせることを美学としても、自分でわざわざ大掛かりなことをすることも考えられないのである。
封神計画のときもそうであった。彼は殷や周の双方に助言や忠告をする程度で、仙界大戦や牧野の戦いのような大規模の戦いのときも傍観者という立場にいた。
そのため、突然殺し合いを開催すること自体何か裏がない限り信じられないことである。
しかし、彼は常に傍観者の位置にいたため、彼との深い関わりが分からない。結局、結論が出ないままである。

「……とりあえず移動するかのう」

申公豹に対する考察を終了して移動しようと立ち上がった。だが、すぐに動こうとはせず、近くにある木のほうを振り向いた。

「おぬしがそこにいるのは最初から分かっておる。姿を現したらどうじゃ?」

60 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:47:40 ID:9o5UxPTU0

太公望は、自分の後ろにいる人物に語りかけた。
すると、木の陰から一人の少年がでてきた。少年は自分と同じくらいの背丈で、顔つきはどことなく女の子ともとれるような顔であった。

「よく分かりましたね、音は立てないようにしたんですけど」
「姿が見えずとも気配だけで感じていたぞ」
「そうですか。ところでその声、もしかして……」
「いかにも、わしの名は太公望。このようなふざけたことには乗っていないから安心していいぞ」
「僕の名前は綾崎ハヤテです。僕もこの殺し合いには乗っていません。よろしくお願いします」



情報交換を済ませた二人は、近くにある博物館を目指して歩いていた。
二人とも他の人に会うのが目的で、建物に人が集まると考えていたからである。
そのうえ、博物館はいろいろなものが展示されているため、有力な情報が手に入れやすいのである。

61 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:48:31 ID:9o5UxPTU0
(あの人、何か胡散臭いんだよな、そもそも二千年以上も前の人なんて……。でもこの状況だし、信じるしかないのかな。)
ハヤテは、中国の周という時代から来た道士である太公望の話が信じられなかった。
彼を疑っているわけではないが、古代の中国にも関わらず、現代技術を超越する技術のようなものが存在しているなどという話を信じることは出来なかった。
もしこのような状況でなかったら、彼は太公望のことを「頭のかわいそうな人」と思っていただろう。

(それにしても、最初に会った人があのピエロみたいな人の知り合いだなんて……。)
ハヤテは運命と戦う決意をした後、とりあえず他の人に会うため、一番近い建物である博物館を目指して歩いていた。その途中で太公望を見つけたのだ。
だが、その男が殺し合いに乗っていて襲い掛かってくる可能性も否定できなかった。そのため、近くにある木の陰に隠れていたのだ。すぐに見つかってしまったが。
まさか主催との関係者とは思ってもいなかった。情報交換の際にそのことも聞いてみたが、特に有力な情報はなかった。

(……とはいえ、武器が手に入ったのは良かったな。あのままじゃ、戦うこともできないし。)
ハヤテの手には一つの木刀が握られており、柄の部分に『洞爺湖』と書かれている。
その木刀は太公望に支給されたものであるが、武器を持っていないというと、その木刀を渡してくれたのだ。
その代わりに自分に支給された手配書の一枚を太公望に渡した。一人で捕まえるのは難しいので、協力してもらうためである。
また、600億という大金なので、半分に分けても問題ないだろうと判断したからでもある。

(でも大丈夫かな、あんな丸腰で。)
武器である木刀をハヤテに渡してしまったので、太公望の手にはボールのようなものしかない。それでも、太公望は「問題ないぞ」といって渡してくれた。
……気にする必要はないか。ハヤテはそう結論付けた。

62 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:49:17 ID:9o5UxPTU0


(……まさかわしにこのようなものが支給されるとは。)
太公望は、両手にあるボールのようなものを見つめながら歩いていた。だが、それは彼がよく知っている人物のものだった。
このボールのようなものは『太極符印』という元素を操る宝貝である。状態変化や化学反応、挙句の果てには核融合も可能とする、ある意味危険な宝貝でもある。
この宝貝の持ち主は崑崙十二仙の一人、普賢真人であり、太公望のことを「望ちゃん」と呼ぶほどの仲である。
だが、普賢真人はすでに死んでおり、『太極符印』もそのときに自爆したはずである。
最も多くの仙道が死亡した仙界大戦によって。

(そういえばあやつは話し合いで解決しようとしておったな。)
彼は戦いというものを嫌っており、話し合いによって解決策を出そうとしていた。
もし彼がこの状況に巻き込まれたら、同じようなことをしているのだろうか。そう考えると少し笑みがこみ上げてくる。

(だが、わしにはそのようなことは出来ぬ。わしはわしのやり方でやらせてもらうぞ、普賢。)
太公望は大した才能を持ち合わせていないありきたりの道士である。そんな彼が主な武器としているのが策略である。
これによりこれまでの妖怪仙人との戦いや殷郊との戦いを制してきたのだ。そして、この殺し合いでも策略で乗り越えるつもりでいる。
だが、彼は多くの仙道とは戦ってきたが、申公豹とは本格的に戦ったことはない。当然、勝つ確証などない。
そして、そこに至るまでに多くの犠牲があるのかもしれない。

(それでもわしがやらねばならぬ。覚悟しておれ、申公豹!)
これまで多くの犠牲を目の当たりにした道士、太公望。
彼の戦いが今、ここから始まった。

63 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:50:06 ID:9o5UxPTU0

【B-8/西部/1日目 深夜】

【太公望@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:太極符印@封神演義
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×1@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:殺し合いを潰し、申公豹を倒す。
1:ハヤテと行動する。
 2:博物館へ向かい、有力な情報を探す。
[備考]
 ※殷王朝滅亡後からの参戦です。
 ※手配書は渡されただけで詳しく読んでいません。
※ハヤテと情報交換をしました。

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[服装]:トレーナーとジーンズ(第1話終了時の服装です)
[装備]:銀時の木刀@銀魂
[道具]:支給品一式、若の成長記録@銀魂、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:運命と戦う、当面は殺し合いには乗らない
1:とりあえず太公望と行動する
 2:博物館へ向かい何か使えそうな道具を手に入れる
 3:西沢さんを含めた友人達が心配
 4:出来ればヴァッシュを捕まえて賞金を手に入れたい
 5:少年(火澄)の言っていた『歩』は西沢さんなのか、東城歩って人のことなのか、それとも他の歩という名前の人なのか……?
 6:金髪でツインテールの少女(ナギ)が心配
[備考]
 ※第1話直後からの参戦、つまりまだナギの執事となる前です。
 ※参戦時期からわかる通り、西沢・ナギ以外のハヤテキャラとの面識はありません。また、ナギも誘拐しようとした少女としか認識していません。
 ※太公望と情報交換をしました。また、その際に封神演義の世界についておおまかなことを聞きました。ただし、そのことについては半信半疑です。

【銀時の木刀@銀魂】
銀時がいつも通販で購入する愛用の木刀。柄の部分に『洞爺湖』と書かれている。

【太極符印@封神演義】
崑崙十二仙の一人、普賢真人の宝貝。元素を操ることが出来る。

64 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:50:41 ID:9o5UxPTU0
以上で、投下終了です。

65 ◆03vL3Sy93w:2009/04/19(日) 11:53:00 ID:9o5UxPTU0
失礼しました。タイトルを載せるのを忘れてしまいました。
タイトルは「序章の始まり」です。

66 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:02:02 ID:kSdBChBo0
由乃、鳴海歩、安藤兄を仮投下します。

67 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:02:42 ID:kSdBChBo0
ユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー…




実に52回。B-6の道路を走る我妻由乃が一分間に頭の中で彼の名前を呼んだ回数である。
これは彼女が特別優れている訳ではなく、誰もが1人の人間を頭の中でひたすら呼び続ければこうなるだろう。
とはいえ、普通は1人の人間にここまで執着することが難しいのだが…
彼女の、ユッキーこと天野雪輝への愛はそんなことはものともしない。

そんな彼女が、今一生懸命に走っているのは、他でもないユッキーを見つけるためだ。
こんな殺し合いの場で、彼がいつまでも生きていられる保証は無い。
早く自分が見つけて、守ってあげなければ。そうだ、自分が守るんだ。
だってユッキーと私は恋人同士、うぅん、それ以上。家族、そう家族だもの。
守るんだ、ユッキーを、大好きなユッキー、いつでも優しいユッキー、側にいたい、ずっとずっといつまでも…
ユッキーを守れるのは私だけ、私が守るんだ、ユッキーを、大好きユッキー…
ユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキーユッキー…

68 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:05:24 ID:kSdBChBo0

ふと、そこで足を止める。一刻も早く彼を見つけたいが、この広い会場で闇雲に走っても非効率的だ。
なんとしても彼を守る、その一心で彼女は脳内を冷やし、解決策を練る。
そうだ、私の手元には「日記」がある。
ユッキーの行動を逐一記録し続けた「雪輝日記」。彼への愛の結晶。二人を繋ぐ絆の証。
それも、ただの日記ではない。記している内容の未来が読める「未来日記」だ。これがあれば、ユッキーを探すのも容易い。
言ってしまえば、彼の未来はすべて自分の手の中にあるといっても過言ではないのである。
しかし、忌々しいことにこの日記も今はまだ読むことが出来ない。彼と再会するまで使用できないという制限が課されたのだ。
だが、制限されたのは「日記」の能力のみ。
そして、彼女や天野雪輝が持つ未来日記は、俗に言う「ケータイ」に記録されていた。


    ◇     ◇     ◇

場所は変わってD-9教会の中。主催者との対決を決意した二本の剣が、支給品の確認を済ませていた。

「さて、まず最優先で考察すべきは、これだろうな。」

もみあげが特徴的な少年、鳴海歩がそう言って掲げたのは、携帯電話だった。

「だろうな。」

向かいに座る安藤も異論は無いとうなずく。
勘違いしないで欲しい。彼らとて少々変わってはいるが現代を生きる男子高校生。携帯電話くらい知っているし、特に珍しくもない。
今は没収されているようだが、自分用の携帯電話だって持っている。
考察すべきは、そこに添えられていた説明書だった。


【無差別日記】
1st天野雪輝の未来日記。
彼が見たもの、聞いたこと、あらゆる周囲の出来事の未来が書き込まれる。
あくまで傍観者である為、天野雪輝自身の未来は記録されない。
使用するためには、一度本人の手元に渡る必要がある。


これがその全文だった。

69 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:06:11 ID:kSdBChBo0

「ほんと…かなぁ」
「一応それらしい機能があるんだが、ロックがかかってる。そこの注意書きと同じ文章が出てくるよ。」

そういって歩は『日記』を安藤に投げ渡した。

「…ほんとだ。となるとやっぱり本当だと判断すべきか…けどもし…」
「ストップ。現状でそれ以上考えても無駄だ。今は両方の可能性を踏まえて考察しよう。まず、本当だった場合だ。」

安藤の考察を遮り、歩が議論の方向性を戻す。安藤も一端そちらの考察を打ち切った。

「その場合、これは『天野雪輝』に渡すべきか否か。答えは『彼次第』、だな。」
「あぁ、もしこの殺し合いに乗っているんなら、絶対に渡しちゃいけない。逆に反撃するつもりなら、これを届ければ戦力になってもらえる。」

『天野雪輝』がどんな人物かわからない以上、この使い方次第では最強ともいえるアイテムの処遇は決められない。それが二人の結論だった。
情報、特に未来の情報というのは最強の武器であると主張する人間もいる。
それだけの価値が、この支給品にはある。

「この1stってのも気になるな。確か最初の説明の時に…」
「あぁ、呼ばれていた。かなり今回の殺し合いに深く絡んでいるのかも知れないな。コイツは。
 さて、次はこれが偽者の場合だが…」

ブルルッ

そこで『ケータイ』が着信を知らせる振動を起こす。
さすがに二人とも驚いて目を合わせる。どちらともなく頷きあうと、手に持っていた安藤が『ケータイ』に出る。

「も、もしもし…?」

70 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:06:42 ID:kSdBChBo0
    ◇     ◇     ◇

『も、もしもし…?』

ユッキーじゃ、無い。
もちろんこの可能性を考えていなかった訳じゃない。
自分の「日記」とて最初から自分に支給されていたかはわからないのだ。
彼の日記が本人に支給されている保証なんて無かったし、本人支給だったとしても、
危険人物に拘束され奪われていることも考えられる。
だから、電話の向こうの声が愛しい彼の声でなくても冷静に対処する…つもりだった。
だが無理だった。大好きな彼の大事な大事な「未来日記」を、見知らぬ人間が使っているというだけで耐え難い怒りが湧いてきた。

「だれ…あんた。どこにいるの?」
『え、あ、ここは、教会だけど…俺は安…』

そこで相手が電話をひったくられたらしく、会話の相手が変わった。

『失礼、俺はミズシロ・ヤイバ。さっきのヤツは安西。あんたは?』
「どうでもいいでしょ。あんたたちが何でユッキーのケータイを持ってるの?」

相手が変わったのでもしや、と思ってしまったことが、彼女の怒りに拍車をかける。

『すまない、これは俺たちのバッグの中に支給されていた。持ち主は今近くにいないと思う。信じてくれ。』

信じるもなにも、と由乃は思った。
電話の向こうから、彼の声は聞こえない。捕まっているとしても、なんらかの動きを示すだろう。
ユッキーの出す声や音を、自分が聞き逃すことはありえない。
実は、彼が電話の向こうですでに殺されている場合がありえるのだが、彼女にとってそのような未来は絶対にあってはならないこと。
そんな思考になることこそありえない。

71 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:07:21 ID:kSdBChBo0

『俺たちはこれを持ち主に届けたいと思っている。「とても大事なもの」だろうからな。
 少し情報交換をしないか?その感じだとあんたもまだ持ち主の「ユッキー」ってヤツとは会えてないんだろ?』
「…ユッキーはすぐ私が見つける。あんたらが探す必要なんてないから。」

痛いところをつかれ、更に苛立ちが増す。だが、今はそんなことで冷静さを欠いてる場合ではない。
必死で頭を冷やし、今時分がするべき行動を考える。だが、先手を打ってきたのは相手のほうだった。

『そうか。なら、提案がある。こいつは俺たちが責任もって預かる。
 変わりにあんたが「ユッキー」とやらを見つけたらこいつに連絡してくれ。そこで合流場所を決めて渡す。
 下手に合流優先で動き回ると手遅れになりかねない。あんたもそれは御免だろう?』

相手の提案に先をいかれたのはまずかったが、内容は悪くなかった。
話の感じからして、このミズシロという男は殺し合いにのっていないらしい。
少し考え、返答する。

「いいよ、それで。そのケータイ、失くさないでよ?」
『あぁ、わかってる。じゃあ電池ももったいないし、切るぞ。』

話しもまとまり、相手が電話をきろうとする。

72名無しさん:2009/04/24(金) 20:07:53 ID:kSdBChBo0
「待って。そっちも誰か探してる人間がいるなら、聞いておいてあげる。」
『…それはありがたいな。なら竹内理緒ってヤツに会ったら、俺が参加していること伝えてくれ。
 ついでに「落ち着いて、冷静に考えろ」と。』
「…そいつになら会った。競技場にいるから会いに行けば?」

嫌な名前を聞いた。こいつ、あの女の関係者なのか。

『…そうか。ありがとう。また会うようなことがあれば伝えてくれ。「安西」、お前は誰かに伝言はあるか?』

電話口の相手が黙る。同行者の伝言を聞いているのだろう。程なくして、答えが返ってきた。

『…それでいいんだな?じゃあ潤也、って名前の男に会ったら、伝えてくれ。
 「流されるな、考えろ」とな。』

その時、電話の向こうから何かの爆発音が聞こえた。

「なに、今の?」
『わからない。近くで爆発が起こったようだが…危険人物が近づいてるのかもしれない。
 移動するから切らせてもらうぞ。』
「わかった。じゃあね。」
『あぁ、そっちも…』

プツン

通話終了を継げている画面を見つめて、由乃は考察を開始する。
今の電話でわかったことは、ユッキーの未来日記が他人の手にあること。
そしてその機能を相手が一部理解しているらしいことだ。
ミズシロはユッキーのケータイを「とても大事なもの」と表現した。この命のかかった状況で、ただの電話ならこんな言い回しはしない。
自分の未来日記同様、制限や機能に関しての何らかの注意書きが添えられているのかもしれない。あるいは制限が無く既に使えるのか…
だが、相手は多分未来日記のもう1つの重要な秘密には気づいていない。

73 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:09:33 ID:kSdBChBo0
トリ忘れ失礼しました。改めて

「待って。そっちも誰か探してる人間がいるなら、聞いておいてあげる。」
『…それはありがたいな。なら竹内理緒ってヤツに会ったら、俺が参加していること伝えてくれ。
 ついでに「落ち着いて、冷静に考えろ」と。』
「…そいつになら会った。競技場にいるから会いに行けば?」

嫌な名前を聞いた。こいつ、あの女の関係者なのか。

『…そうか。ありがとう。また会うようなことがあれば伝えてくれ。「安西」、お前は誰かに伝言はあるか?』

電話口の相手が黙る。同行者の伝言を聞いているのだろう。程なくして、答えが返ってきた。

『…それでいいんだな?じゃあ潤也、って名前の男に会ったら、伝えてくれ。
 「流されるな、考えろ」とな。』

その時、電話の向こうから何かの爆発音が聞こえた。

「なに、今の?」
『わからない。近くで爆発が起こったようだが…危険人物が近づいてるのかもしれない。
 移動するから切らせてもらうぞ。』
「わかった。じゃあね。」
『あぁ、そっちも…』

プツン

通話終了を継げている画面を見つめて、由乃は考察を開始する。
今の電話でわかったことは、ユッキーの未来日記が他人の手にあること。
そしてその機能を相手が一部理解しているらしいことだ。
ミズシロはユッキーのケータイを「とても大事なもの」と表現した。この命のかかった状況で、ただの電話ならこんな言い回しはしない。
自分の未来日記同様、制限や機能に関しての何らかの注意書きが添えられているのかもしれない。あるいは制限が無く既に使えるのか…
だが、相手は多分未来日記のもう1つの重要な秘密には気づいていない。

74 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:09:51 ID:kSdBChBo0

未来日記が壊されると、その持ち主も死んでしまうということ。

これが由乃にとって最大の心配事だった。
いくら自分がユッキーを守ろうと、未来日記が壊されたら彼は死んでしまう。それだけは絶対にダメだ。
すぐに奴らのいるという教会に向かうことも考えたが、場所が少し遠い。間に合わないだろう。合流を持ちかけても、時間がかかるのは間違いない。
なにより、最優先はユッキーとの合流だ。
幸いなのは、おそらく奴らはこの事実には気がついていないことだ。
相手の話しぶりや、ケータイの受け渡しではなくユッキーの捜索を優先したこと。
それらを総合的に考えて未来日記の能力はまだ使えないし、破壊=死の法則も気がついていない。
だから、大事に扱うように誘導すればユッキーの身に危険が及ぶ可能性は少ない。彼らの探し人を聞いたのは、その為だ。
彼らが少しでもこちらとの連絡手段を失いたくないと思うことで、ユッキーの未来日記の、つまりは彼自身の命の安全に繋がる。
それでも彼ら自身の安否などの不安は尽きないが、やはりユッキーとの直接の合流が優先だ。
由乃自身の未来日記が使えるようになれば、ユッキーの未来日記に迫る危険も自然と察知できる。そうすれば対処もしやすい。

75 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:10:23 ID:kSdBChBo0

とにかく、今はユッキーを探すんだ。そう思い、再び走り出そうとする。
そこでふと、何かにひきつけられるように向く方向を変えた。
その方向をじっと見つめて、呟く。

「ユッキー…」

理由なんて、考える必要すらない。ただ、その言葉で十分だった。
この方角に、彼はいる。
なんの確証も無かったが、彼女は迷わず方向転換し、走り出した。
どこかの『少女』が見たら言うだろう。

『恋する乙女の直感ですね☆』


【B-4/道路/一日目 深夜】

【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:雪輝日記@未来日記、降魔杵@封神演義
 [道具]:デイパック、基本支給品
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  1:ユッキーを探す。強力な武器の入手。
  2:ユッキーを見つけたらユッキーの未来日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  3:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  6:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※制限により、由乃の「雪輝日記」が使用可能になるのは彼女が次に天野雪輝と再会して以降。
   また能力自体に他の制限が掛かっている可能性も有り。
  ※電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。
  ※彼女がどの方角に走り出したかはお任せします。

76 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:11:10 ID:kSdBChBo0

    ◇     ◇     ◇

「とまぁ、こんな感じだろう。」

謎の爆発音を警戒して教会から離れる道中で聞いた鳴海歩の考察に、安藤は感心していた。
よくもまぁ、あれだけの電話でそこまで考えられるものだ。
歩が話した内容はざっとこんな感じである。

・言動などから考えて、相手は殺し合いも辞さないような考えを持っている。
少なくともユッキーという人物(おそらく天野雪輝)に対して執着とも言える強い感情を抱いている。

・こちらでした爆発音が、電話の向こうでは聞こえなかったし、相手も聞いていない。電話相手の現在地はそれなりに遠い。

・ただの電話に使った「とても大事なもの」という表現に何の反応も示さなかった。おそらく電話相手は未来日記について何らかの情報を持っている。

・「1st」や天野雪輝「の」未来日記という表現から、未来日記という道具が複数ある可能性がある。
上記のことと合わせて、電話相手が別の未来日記の所持者である可能性もある。

・相手がこちらの探し人を訪ねてきたのは、おそらくこちらとの繋がりを絶たないようにするため。
この未来日記はメリット以上にどうしても失うわけにはいかない理由があるらしい。

加えて、携帯電話の登録情報から相手の名前が「ユノ」というらしいことだけわかった。
名簿が無い以上確認しようが無いが、女性であることも間違いなさそうなので、多少は判断の材料になるだろう。

77 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:11:49 ID:kSdBChBo0
「彼女が危険人物であることは間違いないだろうが、天野雪輝までそうと判断するにはまだ早い。
 彼との接触の為にも、この携帯は手放すわけにはいかないな。多少のリスクは背負うが、それくらいしないと戦えそうにない。」

安藤もそこに異論は無かった。今の話からするとこの未来日記の信憑性はかなり高まる。
だとすれば、味方にできればとてつもなく頼れる力だ。

「しかし、鳴海。本当によくそれだけのことがわかるな。」

安藤の感心の言葉に、歩は照れもせずに返した。

「わかったわけじゃない。穴だらけの推論さ。それにアンタも十分頭は回ってるじゃないか。
 探し人の情報を聞いたとき、フルネームでなく名前だけ伝えた。遠まわしに危険も伝えてある。」

歩自身も理緒に混乱を与えない為に死人の名前を語り、落ち着いて考えろというメッセージを添えた。
安藤もそれにすぐ気がついて彼女に自分や知り合いが危険になるような情報は洩らさなかった。

「あぁ、苗字を伏せたのはそうだけど、メッセージはその、本当に伝えたかったんだ。
 いるかはわからないし、いないでほしいけど、もし潤也がいるなら…状況や周りに流されておかしな行動をとって欲しくない。」

安藤が伝言を託したのは唯一の肉親である弟、安藤潤也だった。
彼は自分と違って楽観的で、前向きな男だ。とてもこんな殺し合いに乗るとは思えない。
だが、人間心理の恐ろしさなどは、自分もよく知っている。
一人の人間の言葉が、別の人間の生き方を180度変えてしまうこともある。
そんなことになっていないことを祈るばかりだ。

78 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:12:14 ID:kSdBChBo0

「さて、これからどうするかな。理緒を探しに競技場に行ってもいいが、アイツも一箇所に長々と留まっているとは思えない。
移動中にユノと遭遇する危険性もある。できるだけ別の場所がいいだろう。
となると、人の集まりそうな病院がデパート…あるいは警察署か。近いところだと工場かな。なにか案はあるか?」

歩の質問に、安藤は少し考え込むと、1つの提案をしてきた。

「神社…はどうかな。最初の説明の時、ヤツら神がどうこう言ってたろ?かなり核心に近そうな所で。しかも「もういない」とか、「別の神」とか…。
 表現からすると一神教の神だ。そこへもってきて、会場の中央に神社がある。何か妙だと思う…」

やや自信なさげな安藤だったが、歩は真剣に考察する。

「面白い考えだな。その発想は無かった。やっぱりアンタも十分すごいよ。」

歩が顔を上げ、夜空を見上げながら続ける。

「このゲーム、殺し合いに乗っている強者なら人の多い場所に行くのが当然。あるいは武器の入手が優先だろう。
生き残りを求める弱者も同じ。道具の確保と人との接触が最優先。
それをしないでなんの関係も無い施設に行くやつは、よほどの馬鹿か殺し合いからの脱出を考えている奴の可能性が高い。そういう意味でも、神社は悪くないな。」

本来なら、弱者を救う為にそういった危険地帯に飛び込むべきなのかも知れない。一瞬そう考える。
歩も同じ事を考えたのだろう。

「生憎俺たちの手元には戦える武器も情報も無い。
本物なら唯一使えそうなこの『バラバラの実』ってのも、川や湖が点在して周囲を海に囲まれたこの会場で脱出を目指すなら、リスクが高すぎる。
なら、今は俺たちに出来ることをするのが一番だ。」

その言葉に安藤も頷き、方針が固まる。
今自分に出来ること…ちっぽけな自分になにが出来るかはわからないが、今はこの鳴海について行こう。
魔を断つ剣は、まだその役割に気がつくことなく刃を磨く。

79 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:12:36 ID:kSdBChBo0
【E-9/北部/1日目 深夜】

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:健康
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、バラバラの実@ONEPIECE 不明支給品×1(確認済み)
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留
1:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
2:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
3:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 4:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 5:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい
 6:潤也が巻き込まれていないか心配。
[備考]
※ 第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です
※ 我妻由乃の声と下の名前を認識しました。警戒しています。
※ 無差別日記の効力を知りました。

【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記 不明支給品×1 (確認済み)
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
 1:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
 2:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
 3:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 4:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 5:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
 6:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
 ※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
 ※我妻由乃の声と下の名前を認識しました。警戒しています
 ※無差別日記の効力を知りました。

【無差別日記@未来日記】
1st天野雪輝の未来日記。
彼が見たもの、聞いたこと、あらゆる周囲の出来事の未来が書き込まれる。
あくまで傍観者である為、天野雪輝自身の未来は記録されない。
制限の為、使用するためには、一度本人の手元に渡る必要がある。
また、開放された後も本来の機能を有しているか、破壊されると持ち主が死亡するかもまだ不明。
他の連絡先などが記録されているかも不明。

【バラバラの実@ONEPIECE】
食べると体をバラバラにし、足を中心とした一定範囲内で操ることができる悪魔の実。その為斬撃は無効。また、食べると一生カナヅチとなる。
ただし、移動範囲やどの程度バラバラになれるかなどは制限されている可能性がある。
本来ならぶつ切り程度までバラバラになれる。作中では道化のバギーがその能力者。

80 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:14:52 ID:kSdBChBo0
以上です。
本スレに投下しなかったのは、以前チラっと話題になった無差別日記を他人に支給するのがOKかどうかが第一です。
あと、携帯で通話しちゃうのもありかとか…もちろん他にも指摘があったらお願いします。

81 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/24(金) 20:26:26 ID:kSdBChBo0
タイトル忘れてた。「電波は電波にのって」です。

82 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:02:56 ID:kbP/GsaA0
仮投下お疲れ様です、この場を借りて感想を。

頭脳派コンビと由乃の歪みっぷりの対決、いやあ素晴らしいですw
雪輝は自分の命が見えないところで握られている事を知ったら気が気じゃないだろうなあ。
不幸中の幸いは無差別日記を手に入れたのがこの二人である事ですか。
しかし偽名は多分判断ミスだ、由乃は容赦がないぞー……w
ミズシロヤイバと安西が名簿にいないことを知ったときの反応がガクブルものですw


そして、自分も投下を。
アクセス規制に巻き込まれたのでこちらに投下します。
どなたか本スレに代理投下してくだされば幸いです。

83アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:06:21 ID:kbP/GsaA0
みんな! 元気にしてるかい?
大変なことになってるけど、それでもオレは相変わらず元気だぜ!

「うっわあ、参ったぞ! まさか転校早々にバトルロワイアルに巻き込まれるなんて!」

オレの名前は夢小路サトル、ハプスブルグ家の血を引く生粋の江戸っ子(元仏貴族)さ!
ワールドカップを目指すどこにでもいる男子高校生だけど、たくさんのライバルに囲まれて非日常な毎日を送ってる!
やれやれ、アンニュイ学園は地獄だぜ、フゥハハ〜!

「目指せ甲子園のスローガンでようやく不良のバドミントン部の人たちと応援団になれたってのに、すぐにこんな事になるなんて困った事だなぁ!
 はやく帰らないとユミコが家の前で素振りを続けているはずだ!
 北海道名産の『パンチラ』がタダで鑑賞し放題になってしまったら、相馬くんが『パンチ』ド『ラ』ンカーになってしまうに違いないぞ!
 ん? あれはなんだ!?」

「ゾッフィー! ゾフィ、ゾフィ、ゾッフィー!(ゲボッ)」

鳥のようなひょろ長い生命体が口から謎の汁を吐いている!

「とても気持ちの悪い生物! そうだ、ボールは友達、何でも試してみるのさ」

くらえ、シングルスカイラブハリケーンッ!
ッ、がポイントのスーパードリブルさ!

「ゾッフィ〜〜〜〜〜〜!」

直撃!
ん!? 何故かこっちに向かってキリモミ回転んをぉおぉおおお!

「ゾッフィ〜〜〜〜〜〜!」

ごっちーん!

「いててててて、失敗したなあ」
「ゾッフィー?(ゲボッ)ゾフィゾフィゾフィ!!」
「やあごめんごめん! 君も参加者だったのか! よし、お詫びにチームを組もう!」
「ゾフィ!」

そうしてオレたちはチームを組んだのさ!

「ゾフィ? ゾフィ……、ゾフィゾッフィ!」
「やはりスープーくんもそう思うのかい!?」
「ゾフィ〜〜〜、ゾフィ」
「その通り! ピンクの象は青い鳥だってオレは信じてる!」
「ゾフィ!(ゲボッ)」

出会ってすぐに百年来の親友より深い絆を築くオレ達!
自分の出会い運が恐ろしいぜ!

84アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:06:52 ID:kbP/GsaA0
「ゾ……ッフィ〜! ゾフィ!」
「ミックスベジタブルの豆がマズくて嫌いなのは分かった、だがオレは鯨カツの方が好きなんだ!」
「ゾフィ〜……!(ゲボッ)」 
「S県の煎餅の町も嫌い? オレは生協に組み込まれたくない!」
「うはー、もれには何言ってるかわかんねっす」
「ゾッフィー……」
「ドンマイさ!」

いつの間にか一人増えてるぞ、だがそれがいい!
友達たくさんで今日もハッピー×2ダンス!

「よし、みんなでオフサイドの練習だ!」
「ゾフィ!」
「よく分かんないけど、もれ神さまの為にがんばるっす!」
「結城くん結城くん結城くん結城くん結城くん……」

おっと、可愛い女の子もいつの間にか増えてるぞ!

「結城夏野くんはドコッ!? 教えてくれなきゃ血をひでぶっ!」

ぎゃあ! 女の子の頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えた優しそうなお兄さんが立っていた!

「危なかった、そいつは起き上がりなんだうわらば!」

ぎゃあ! お兄さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えた不気味なお兄さんが立っていた!

「あ、危なかったね、そいつは起き上がちにゃ!」

ぎゃあ! お兄さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えたダンディなお医者さんが立っていた!

「……危なかったな、そいつは起きばわ!」

ぎゃあ! お医者さんの頭が弾けたぞ!
驚いている間に声がしたのでそっちを向くと、銃を構えたお坊さんが立っていた!

「間違えました、そいつは起き上がりではない」


そして世界は核の炎につつまれた!!!!!


【夢小路サトル@国立アンニュイ学園 死亡】
【四不象@異説・封神演義 死亡】
【シオ@W?qw?q 死亡】
【清水恵@屍鬼 最初から死亡済】
【武藤徹@屍鬼 最初から死亡済】
【村迫正雄@屍鬼 最初から死亡済】
【尾崎敏夫@屍鬼 死亡】
【室井静信@屍鬼 死亡】

85アン学アニメ化決定記念巻頭フルカラー大増200P号! ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:07:39 ID:kbP/GsaA0
だが……人類は死滅していなかった!!

「NOォ――――――――ッ!」
「あぁ……っ、素晴らしい地獄絵図だわ大統領! さあテツ、貴方の灯火が輝く様を見せて頂戴……!」


【NO-13/上空・プラグマティズム艦橋/1日目 深夜】

【NO!と言える日本国大統領デューイ@サクラテツ対話篇】
[状態]:健康
[服装]:スーツ
[装備]:旗艦プラグマティズム@サクラテツ対話篇、大統領専用?ボタン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:NO!
1:NO!
2:NO!
3:NO!
4:NO!
5:NO!
6:NO!
[備考]:
※会場全域に核爆撃が敢行されました。放射能汚染が深刻です。

【出井富良兎@サクラテツ対話篇】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服にスカーフと帽子
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考]
基本:桜テツを観察する
1:大統領をけしかけてテツをいぢめる
[備考]:
※特になし

86カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:08:42 ID:kbP/GsaA0
***************



「うわぁぁぁ―――――――――ッ!?」


叫び声とともに、一人の男ががばりと身体を起こす。
男の髪の色は、黒。
鴉の様な、宵闇の様な黒の束の中に、金の流星が幾筋も光を放っている。

残滓とも呼べる黄金の髪の煌きは、人工の真白い光源に照らされて確かにその存在を主張していた。

「はぁッ、はぁ、はぁ、はぁッ、はぁ、はぁッ……」

話を始めよう。
一人の男(ガンマン)の話を。
そして思い出せ、その男の名を。その男の伝説を。

「はぁ〜〜〜〜〜〜……っ」

ヴァッシュ。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード!

「な、なな、なんちゅう夢を見てるんだ僕は……」

――その首にかかった賞金額は『元』600億$$!
人類初の極地災害指定を受けて賞金こそ取り消されたものの、関わった事件は200を越え被害総額は20兆$$オーバー!
しかし、その正体を知る者はごく少ない。

彼は、彼こそは歴史の生き証人。
150年にも渡る長きにおいて、ただひたすらに愛と平和を謳い続けたヒトならざるヒト!

「……で、」

彼の人生は波乱に満ちている。
だが彼は決して信じる事を止めたりなどはしないのだ!
たった一人の兄と道を分かち、友を失い、それでもなお不殺を貫く柔らかな笑顔の青年は――――、」

「サッキカラドウシテ横デ人ノ事ペラペラ喋リマクッテルンデスカ、ソコノ人?」

「ハァーッ、ハハハハハハッ! ようやく目覚めたようだねヴァッシュくん!」

……ヴァッシュ・ザ・スタンピードは確信する。
倒れている自分のすぐ横で、こんな調子でずっと喚かれていたからこそあんな酷い夢見だったのだと。
よくよく見てみれば、自分の叫び声のすぐ直前からつい今しがたまでカギカッコで閉じられているではないか。
ラー、ラー、ラーと何処からともなく聞こえてくる豪華な音楽が嫌でも耳に入り込んでくるのは、もはや洗脳と言っても過言ではあるまい。

かつての自分の様な金の髪を持つ青年は、くどい顔を尚更くどく微笑ませて名乗りを上げる。

「僕の名は趙公明。麗しい名だろう? さあ、楽しく華やかに一時を過ごそうじゃあないかっ!」

87カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:09:31 ID:kbP/GsaA0
***************


――デパート2階、地上を臨むカッフェー。
ヴァッシュと趙公明はコーヒーを啜りながら、それぞれの現状を確認していく。
……いや、していきたいとヴァッシュが思っているだけという方が正しい。

「……で、趙公明。君はどうして僕の名前を知っていたのかな?」
「ノンノンノン、急ぐのは良くないな、ヴァッシュくん!
 もっとエレガントに、優美に話を進めていこうじゃないか」

こんな調子でかわされてばかりで、ずっと話が軌道に乗らないのだ。
はぐらかされているのだな、とヴァッシュは思うも敢えて口にはしない。
向こうから接触してきた以上何らかの目的があるはずだ。
少なくとも寝ている間に攻撃されなかったのは確かであり、敵意は無い、と信じたい。
警戒して相手のペースに呑まれない様にすることは怠らなかったが。

食えない男だ、とヴァッシュはひしひしと感じる。
今まで出会ったどんな人間とも異質な存在だ。
自身の兄やその狂信者レガート・ブルーサマーズと手足たるGUNG-HO-GUNS。
……命を散らしていった掛け替えのない戦友や、彼の遺した新たな仲間。
メリル・ストライフやミリィ・トンプソン、ブラドといったノーマンズランドのタフな住人達。
形こそ様々だが、彼らに感じていた何か――、敢えて近い言葉を捜すなら、必死さの様なものを何一つ感じない。

だからこそ、恐ろしい。

たくさんの出会いを思い出すに当たって、ヴァッシュの身体がほんの少しだけ震える。
本当なら今ここでこんな事をしている場合ではないのだ。
方舟――、いや、かつて方舟と呼ばれていたモノすら飲み込んだ、ミリオンズ・ナイブズがもうすぐ砂漠の星に残された最後の街にやってくるのだ。
自分の兄であり、自立種プラントであるナイブズが。
地球からの救いの船を人の目の前で滅ぼし、全てのプラントを吸い上げ去っていく為に。

止める、と、そう誓った。
だがその一方で、譲れない決意がある。

――今そこで人が死のうとしてる。僕にはその方が重い。

あの砂漠の星も、この殺し合いに巻き込まれた人々も。
そのどちらをも見捨てる事なんて出来はしない。
それが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードなのだ。

だからこそ、彼はこの無惨な殺し合いを止めようと心に刻む。
刻み、その為に真剣という言葉すら陳腐に思わせる瞳で趙公明をじぃ、と見つめた。

「僕は――、」
「OK、OKヴァッシュくん! 皆まで言わずとも君のハートフルな想いはよぅく伝わってくるよ!
 非常に心残りだけど、二人きりのお茶会はここまでにして本題に入ろうか」

告げると、趙公明は懐に手を伸ばし、一つのものを取り出す。
鈍く光る黒金の塊、それは――、

88カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:10:19 ID:kbP/GsaA0
「……ッ、俺の、銃……ッ!」

「フフ……、君と出会う前に話した男から譲り受けたのさ」

手に慣れた銃とその弾丸が、趙公明の手の上で踊っている。

「……交換条件か? 何が望みなんだ」

ごくり、とヴァッシュは唾を飲み込む。
あれがあるなら、確かに非常に心強い。
……だが、果たしてそれを聞いていいものか。
真意も何も読めない男の言動に迷わされはしないのか。
どうする、の四文字が何度も何度も浮かんでは消え――――、

「はーッはははは! 心配はご無用さ、ヴァッシュくん!」
「……はい?」

ずっこけた。
何と、あろうことかあまりにも無造作に趙公明は銃と弾丸を机の上に放り出したのだ。

「……えーと」

引きつった顔でヴァッシュは趙孔明を見るも、胡散臭い笑いとともに彼は自分の方を見るのみだ。

「何か仕掛けてあるんじゃないかという顔だねヴァッシュくん!
 よろしい、煮るなり焼くなり好きにいじって確認してみたまえ!」
「は、はぁ……」

訳の分からない展開に頭がついていけないまま、それでもこそこそと店の奥にブツを運んで色々と確かめてみる。
――まったく問題ない、愛用の銃そのままだ。
暴発しかねない危険性も感じられない。

うん、と頷き、距離を保ったまま改めてヴァッシュは趙公明を見定める。

「……あらためて言おうか。何が目的だ」

確認の間のわずかな時間。
ほんのそれだけで、趙公明の身を包む空気が一変している。
ヴァッシュの直感が告げている。
今からここは、戦場となる。

「……フフ」

笑う。陰惨さも卑近さも何もなく、ただ華麗に壮麗に、変わらぬ口調で。
それ故に――、何より傲慢に。

「フフ、ハハハハ、ハハハハッ! ハァーッハハハハハハハハッ!」

趙公明は高笑う。
それが、彼なのだから。

89カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:10:51 ID:kbP/GsaA0
「トレビアーン……、素晴らしいよヴァッシュくん!
 カノンくんの時と同じ様式美で君を彩ろうと思ったのに、それすらさせてもらえないなんてね!
 いいだろう、最初からクライマックスでお相手しよう!
 君相手に手加減は――――、」

趙公明の周囲に、無数の黒球が浮かび上がる。

「失礼というものだ!」

ボコリボコリと泡立つような音を立てて、粘つくように黒球が互いに繋がりあっては離れていく。

「……それは!」

――ヴァッシュはその道具に覚えがある。何を隠そう、それがヴァッシュをしばらく眠らせた原因なのだ。
ヴァッシュが倒れていたのは此処に連れてこられた時の事が原因ではない。
支給されたこの黒い球に触れていたら、いつの間にか意識がトんでいたのが実情だった。
この道具の名前は、そう。

「――――盤古幡。僕の宿敵、元始天尊くんの持つスーパー宝貝さ!」

ビリビリと空間そのものが震える印象すら受ける。
掛け値無しに、ヤバいとヴァッシュは直感した。せざるを得ないほどに、危険な代物なのだ。

「ひ、卑怯だぞ……! 俺が眠ってる間に勝手に持ち出すなんて、それこそ優美とは程遠いんじゃないか!?」

虚勢を張り、言葉で相手の弱い所を突こうとするも、趙公明にそれは通じない。
最初から話を聞くつもりなどないといった方が正確だろう。

「フフフ、残念だったね! 僕は実は悪の貴公子、ブラック趙公明だったのさ!」
「な、なんだって――!」

バサリ、とマントを翻し、その一瞬で趙公明が黒に染まる。染まっただけではあるのだが。
いかんいかんと相手にペースを握られている事を自覚したヴァッシュは敢えてそれ以上ツッコまない。
少しだけ寂しそうな趙孔明を無視し、事態を見据える為に、ぎゅう、と愛銃を握る手に力を込める。
対する趙公明もまた、即座に笑みを取り戻し講釈を垂れ流す。

「本来僕は宝貝を持たない相手に宝貝を使う信条を持ち合わせてはいないのだけどね。
 今回みたいな催しにおいてはまた事情が別さ!
 ……何故ならヴァッシュくん、君のような、宝貝を使わずとも宝貝以上のチカラを持ち合わせる存在が闊歩しているのだから!
 そうした優れた存在に僕は敬意を払う! 敬意を払って、僕の全力をお見せしてあげよう。それが今の僕の役割でもある。
 もちろん特殊なチカラを持っていない存在に対しては話が別だけどね」
「……やだなあ、僕は普通の人間だよ?」
「嘘はいけないよ、ヴァッシュくん。さあ、美しい闘争をしようじゃないか!」

……やはり、と言うべきか。
この趙孔明は、『何故か』こちらの事についてよく知っている。知りすぎている。
もしや……、と何か嫌な予感が頭を掠めたが、今はそれどころではない。

趙公明は既に動き出している。
あまりにも重過ぎる絶望が振り被られた。

「出し惜しみ無しで行こう! 重力百倍、アン・ドゥー・トロワ!」

趙公明の覇の声が、周囲に響き渡る。

90カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:11:29 ID:kbP/GsaA0
だが、それだけだ。

張り詰めに張り詰めた威圧が、その瞬間消滅した。
沈黙が満ち満ちる。
何一つ、何一つとして変化はない。

「……何だって?」

――否。
たった一つ、たった一人だけ、動きを終えた者がいた。
真紅のコートに金と黒の髪。

いつの間にかヴァッシュ・ザ・スタンピードが銃を抜いていた。
趙公明にすらその瞬間が理解できない、神速を更に超えた速度。
銃口から既に立ち昇っている煙が示すのは知覚外の抜き撃ち。

ようやく、銃声が趙公明の耳に届く。

成程、数多の仙人、十天君さえ下す金鰲最強の一角であろうとも出し抜く銃の腕は認めよう。
慣れない武器の扱いに手間取った事も確かだ。

……だが。
ただの銃の一発で、スーパー宝貝が何故無力化される?

「……ハハ、ヴァッシュくん。一体……、キミは何をしたのかな?」

焦りとともにある問いに対し、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは不敵に笑う。
チッチッチ、と指を振り、銃口の煙に息を吹きかける。

「ひみつ。暴れるのやめたら教えてやるよ」

ゆらりと落ち着いた佇まいで、くるくると銃を廻しホルスターに収めた。
いつでもそれを抜ける体勢のまま、趙公明を睨みつける。

対する趙公明は苦笑を隠す事無く、それ以上の表情で顔を塗り潰した。
即ち――、歓喜。

「ハ、ハハッ! ハハハハハハハハッ!
 アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

両腕を天に掲げ、静かに窓際へと歩いていく。
身体に盤古幡を纏わせたまま遠ざかる趙公明に、ヴァッシュは最早警戒を隠さない。

「……何をしたのかはわからないけど、どうやら僕が不利そうだってのは何となく分かる。
 だからとりあえず一旦撤退させてもらうとしよう!」
「……逃げられると思ってるのかい?」

じり、とヴァッシュは摺り足で間合いを詰める。
頭の中に警報が鳴っているのだ、この男を取り逃がしてはいけないと。
殺しはしないが、縄で縛るなり何なりしておかねば甚大な被害が出る、確実に。
それを許す事など出来はしない。

91カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:12:05 ID:kbP/GsaA0
聞いているのかいないのか。
趙公明は芝居がかった動きで頭を押さえ、もう片方の手でヴァッシュに向けて五指を突き出す。

「ストーップ、勘違いはよしてくれたまえヴァッシュくん。
 僕は逃げる訳じゃあないさ、キミの様な素晴らしき好敵手と巡り合えたのにそんな事をする筈がないだろう?
 ……キミは、期待を超えすぎていたんだよ。
 やはりメインディッシュは最後にとっておくべきだ!
 今ここでキミを殺してしまっては、せっかくの殺し合いなのに今後満足を得られなくなってしまうに違いない!
 キミと殺り合うのは――、そう! エクセレントなシチュエーション、物語のフィナーレこそが相応しい……!」

ああ、とヴァッシュは嘆息する。
話し合いの余地は、どうやら全く無さそうだ。

「オー・ルヴォワール、ヴァッシュくん! それでは僕は麗しく脱出させてもらおう!」

言葉と同時。
デパートの階下から爆発音が轟いた。
地面が揺れ、ほんの一瞬だけヴァッシュの姿勢が崩れる。

「!?」

焦げ臭さを認識すると同時、ヴァッシュはすぐに新たに趙公明のいた場所に注意を傾ける。
だが、それは既に意味がない。
一瞬、ほんの一瞬で十分だったのだ。

「ハーッ、ハハハハハハッ!」

何処からともなく、高笑いが響き渡る。
趙公明の姿は最早何処にもない。

ただ、漫画のように人の形に穴の開けた硝子窓がその痕跡を語るのみだ。

「…………」

ふう、と一息をつき、ヴァッシュはその場に座り込む。

「参ったな」

――どうにか、助かった。
もちろん趙公明を逃したくなどなかったが、何の準備もしていない状況ではどうにか一発を凌いでハッタリに頼るのが精一杯だった。
もしかしたら趙公明もそれを分かっていて、だからこそ今は退却したのかもしれない。
生粋の戦闘狂であるなら十分あり得る選択肢だ。

92カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:12:40 ID:kbP/GsaA0
「本当に、参ったな」

趙公明に渡された己の銃を確認するその時間。
その時に1発だけ、銃弾にエンジェル・アームの力を込めておかなければどうなっていた事か。
重力場の発生する出掛かりに対し、その領域が拡大する前にプラントの力で相殺する。
本来は対ナイブズの為に考えていた戦法だが、ぶっつけ本番で成功したのは何よりだ。

今すぐにでも趙公明を追いたい所だが、無闇に追っても何処に行ったか検討もつかない。
あの口調からして、後々自分を狙ってくるというのが分かっているのだけでも行幸だろう。

「……どうか、誰も死なないでくれよ……!」


――――応える声は、何処にもない。


【I-07/デパート2Fバルコニー/1日目 黎明】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(5/6うちAA弾0/5(予備弾24うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
2:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
3:先刻のデパート階下の爆発音が気になる。
[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。


***************


デパートからは東に当たる街道上。
丁度、地図上ではIの07〜08の境目に当たるその場所で。

趙公明は、ワクワクしていた。
ワクワクしながら夜空を見つめ、悦に浸っていた。

この歓びを誰かと分かち合いたい――その感情のままにゆっくりと振り向き、虚空の如き暗闇に向かって呼びかける。

「コングラチュレイション――、ヴァッシュくんは実にコングラチュレイションだ。
 そう思わないかな? キンブリーくん!」

その声に応え、まるで黒い水が染み出るようにゆらりと漆黒が形を持った。
……紅蓮の錬金術師、キンブリー。

「やれやれ、全く以って度し難い酔漢ですねぇ、貴方も」

まあ、私も人の事は言えませんがね、と続けてキンブリーは趙公明に並ぶ。
この男の趣味に付き合って、華麗な脱出とやらを演出してやったのだから。

93カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:13:26 ID:kbP/GsaA0
「……彼、私の存在に気付いてましたね。いやあ、素晴らしい人材(じっけんざいりょう)です。
 そして貴方のその道具を完全に相殺した謎の力――、あのまま殺さなくてよかったですよ。
 何より素晴らしいのが、決して人を殺そうとしないあの態度。
 この戦場の中、どんな風に動いてくれるのか実に楽しみです」

――盤古幡を手にして気を失ったヴァッシュ。
それを最初に見つけたのは、他でもないこのキンブリーだった。
デパートの探索を始めてまもなく、満ちに倒れ伏しているヴァッシュを発見したのだ。
どう扱うか逡巡する間にこの趙公明が声をかけてきたため、ひとまず彼にヴァッシュの処遇を一任する事にしたのだが。
……いずれにせよ拾った銃一つを失っただけの取引としては非常に上々だったろう。
何せ――、

「さて。これから貴方はどう動くおつもりですか?
 『この殺し合いを開いた“神”の手の一人』としては」

趙公明はただ朗らかに微笑を返す。

「ノンノンノン、もっと洒落た呼び名で呼んで欲しいのだけどね。
 そうだな。カードの鬼札にちなんで、ジョーカー、なんてどうだろう!」

このゲームを開いた者たちが、殺し合いを促進する為に仕込んだ触媒。
艶やかに咲き誇る食虫花こそがこの催しにおける趙公明の役割。

彼はそれを隠すつもりもなく、出会って早々にキンブリーはこの男に協力する事を心に決めた。

「やる事はシンプルさ、僕が楽しみながらこの殺し合いを掻き回す。
 いや、掻き回しながら僕が楽しむ、の方が正しいかな?
 別に僕は彼らの走狗になったつもりはないのだからね!」

――情報を聞き出そうとしたものの、趙公明はそれについては答えはしない。
何でも今話したら殺し合いが面白くなくなる、との事で、キンブリーもそれには同意せざるを得なかった。
まあ特に急ぐ事もないので今追及するのは止めておこう。
キンブリーは確信している。
この男は、必要になれば自ずからベラベラと“神”の陣営について話し出す事だろう。
その『必要』が趙公明の価値観に則ってのものであるのが多少厄介だが、この男は性質上自己顕示せざるを得ないに違いないのだから。
そう、情報を得るならただ待ってさえいればいいのだ。

「ハハハハハハッ、ハァーッハハハハハ!」

――おそらくはこの男のそんな悪癖を知っていて、それでも敢えて自らの手駒として使う。
姿も見えぬ『神』に僅かに身体を震わせて、それでもキンブリーの表情に陰りはない。
さて、色々楽しくなりそうだ。

ニィィ……、と、紅蓮の錬金術師の片頬が静かに歪む。
趙公明とは似ても似つかない笑みの形。
両者に共通するのは、月の光に禍々しく映える事だけ――――。

94カタハネ -シロハネ- ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:13:53 ID:kbP/GsaA0
【I-07〜08境目/街道/1日目 黎明】

【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。

【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。


【盤古幡@封神演技】
元始天尊、竜吉公主、燃橙道人と次々に持ち主を変えたスーパー宝貝の一つ。
重力を操る機能を持ち、(封神台も起動させた状態の)元始天尊で1000倍、燃橙道人で1万倍まで重力を操作可能。
最大出力ならばブラックホールまで作り出すことを可能とするが、本ロワではその機能がどの程度まで制限されているかは不明。

95 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 13:15:24 ID:kbP/GsaA0
以上、投下終了。やり過ぎた気もするけれど後悔はしていない。
富良兎はマジメにジャンプ漫画最高のヒロインだと思います。

96名無しさん:2009/04/25(土) 13:48:51 ID:5m6wNXVw0
さるさんなので誰か代わりに投稿願います

97名無しさん:2009/04/25(土) 13:59:01 ID:5m6wNXVw0
とりあえず感想を

最初の部分を見た時は荒らしのSSだと思ったが夢落ちかよw
そして人間台風が珍しく真価は見せた場面ですがロワで誰も死なないは無理なんだよな・・・・
ニコ兄死亡から来たのならニコ兄はいると知った時はどういう行動をするか
そして趙はお前ジョーカーかよと言いたくなったがこいつの性格ならさもありなんw
そしてキンブリーは悪趣味全開だな。確かにこいつならこうするだろうがキンブリーに魅入られるなんて災難だなw
一筋縄ではいかない展開で先が楽しみです

98 ◆JvezCBil8U:2009/04/25(土) 14:37:43 ID:kbP/GsaA0
この場を借りて。
仮投下及び感想、ありがとうございました。

◆lDtTkFh3nc氏の作品ですが、自分は問題ないと思うので移してかまわないに一票です。

99 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:55:48 ID:uz5PWvZk0
あっさりとさるさん食らったのでこちらにorz

100 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:56:14 ID:uz5PWvZk0
みるみるうちに弾丸の軌道がマシン番長へと近づいていた。

「……0.002秒」

マシン番長の足元を追うように土が瞬く間にえぐられていく。

「……0.17秒」

舞い上がる砂埃を気にも留めずにブツブツと呟きながら走り続けるマシン番長。

「さっきから何ブツブツ抜かしとるんじゃ!」
「体温……ヤヤ高メ、呼吸……大キク乱レアリ、カナリノ興奮状態ト推測」
「ああ? そりゃそうや! お前をぶっ壊したろうとアドレナリン出まくっとるからのう!」
「速度収集完了。視因可能ナ全データノ収集終了。現状ノ勝率100%……問題ナシ」

突如、横へと走る一方だったマシン番長が縦へ……すなわちウルフウッドへと急転換する。

「100%とは舐めた事言ってくれるやないけ!」

ウルフウッドも迎え撃つようにバニッシャーを構えなおす。
弾丸の雨を止ませると同時に大きく左へ地を蹴り、空中で再び引き金を絞った。
だがマシン番長も負けてはいない。
蛇行しながら一瞬で間合いをつめ、着地寸前のウルフウッドの背後へと回りこむ。
不快な異音と共にマシン番長の右腕が回転し始めた。

(あかん!)

本能的にウルフウッドは身体を捻っていた。
今までウルフウッドの身体が存在した空間をマシン番長の手刀が通り抜ける。
手に持ったバニッシャーをマシン番長へと叩き付けると、同時にマシン番長の左腕が空間を薙ぎ払う様にウルフウッド目掛けて回され激しくぶつかり合った。
両者の間に激しく火花が散り、反動でお互いの身体が大きくはじかれる。

ウルフウッドは宙を舞いながらもバニッシャーの引き金を絞り
マシン番長も飛ばされながら左腕で地面を掴み、大きく跳ねながら右腕を構える。
学ランを少し吹き飛ばされながらもウルフウッドへとめがけ再び放たれる右腕――ライトニング・フィスト。

「ちいっ!」

眼前に迫り来る拳。
バニッシャーを盾に防ごうと今度は金属音が響くことは無かった。
予想と反し寸前で拳が開かれバニッシャーの銃身を掴むマシン番長の右腕。

「奪い取りにきおったか!」

反射的にウルフウッドがバニッシャーを強く握り締めたその瞬間――ウルフウッドの全身に猛烈な痺れと痛みが襲いかかっていた。
マシン番長の掌から流れ出る200万Vの高圧電流がウルフウッドの全身を覆い尽くす。
間髪入れずに伸ばした腕を巻き取りながら加速するマシン番長。

「『クライシス・キャノン』」

101 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:56:57 ID:uz5PWvZk0

抗うことも出来ずに絶叫を吐き出すウルフウッドの鳩尾に、マシン番長の両膝がめり込んでいた。
身体をくの字に曲げ、ウルフウッドの身体が宙を舞った。

「ゴフッ……」

後ろに聳え立っていた一本の木へと一直線に叩き付けられその衝撃に大きく咳き込む。
意識が飛びそうになるのをかろうじて堪えたものの、戦況は圧倒的にウルフウッドに不利だった。

(ドリルに電気にブースターかい……やりたい放題やなほんま……)

全身がバラバラになりそうな痛みに襲われる。
ゆっくりと立ち上がろうとするも膝が笑って思うように立つことが出来ない。
それでも一切表情を変えることなく近づいてくるマシン番長に対して必死に銃口を向ける。

「諦メロ。ソノ損傷率デハモウ逃ゲルコトモ不可能ダ」

最終通告とも言えるマシン番長の言葉。
だが当のウルフウッドは意にも返さずと言わんばかりに不適に笑っていた。

「何故笑ッテイル。ヤハリ俺ニハオ前ノ行動ガ理解不可能ダ」
「さっきも言ったやろ……機械風情に理解ってもらおうなんて思っとらんわ!」
「……コレ以上オ前トノ会話ニ得ラレル情報ハ無シト判断。コレデ終ワリニスル」
「上等じゃ! ワイもオンドレの顔なんかこれ以上見とう無いわい!」

震える膝を殴りながら自身を奮い立たせるように雄叫びを上げながらウルフウッドが立ち上がる。
そしてバニッシャーを構え、合わせる様に突き出されるマシン番長の拳。
時が止まったかのように静まり返る。
時間にしてみればほんの一瞬しか存在しなかった空間が、一陣の風が吹き、木々が小さくざわめくのを合図に消滅した。

ウルフウッドの指先に力が入るのを見るや否や、マシン番長の姿が掻き消える。
木々を盾にするように移動するマシン番長。
彼の通った後の木々が銃弾に煽られ、木の葉を舞い散らせながら次々と倒れていく。
打って変わって鳴り響く轟音。
降り注ぐ銃弾の嵐。
それをバックミュージックにウルフウッドの拳が、蹴りが。そしてマシン番長の拳が、蹴りがダンスのように交錯し合う。

近づいては離れ、そしてまた離れては近づく。
その都度繰り出される攻撃にお互いが決定打を与えれない。
だが痛みも疲れも感じないマシン番長とは裏腹に、ウルフウッドの身体には確実に疲労とダメージが蓄積されていた。

そしていつの世も終わりが来るのは突然で――決着の時は訪れる。

距離を取ろうとウルフウッドが地を蹴り、空中に飛び上がりながらパニッシャーの狙いを定める。
……だが。

「ちいっ……玉切れかいっ」

今まで絶え間なく降り注ぎ続けた銃弾の雨がピタリとやみ、その言葉に瞬時にして反応して伸ばされた『ライトニング・フィスト』
ウルフウッドはその反応に小さく口元を歪ませ――あろう事かバニッシャーを手放した。

102 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:57:38 ID:uz5PWvZk0


☆    ☆    ☆    ☆    ☆


自分の武器を手放したウルフウッドに疑問を感じるマシン番長。
だが、それについて計算し終わる頃には決着はついている。
何故なら自分の計算ではこの右腕が伸ばしきられれば全てが終わるのだから。
先程防御された分の誤差も含めたスピードで繰り出したライトニング・フィストだ。
計測したデータに間違いは無い。
ウルフウッドが指先に力を込めてから引き金を絞るまでの時間。
弾丸が発射されてから自分へ到達するまでの時間。
咄嗟での切り返しの速度。
その他視てきた全てのデータを総合しても絶対に交わすことは不可能だ。
さらには相手の武器は弾切れ。
この状態からの反撃の要素が無い。
だから彼は計算するのを止め、目の前の障害を排除する点のみに切り替えた。

「なんてな」

……それが誤算。
人間の言う所の油断と言う奴だ。
彼自身は油断などしたつもりは無いだろう。
ただ自分が勝つために何をするのが効率が良いのかを考えた結果だ。
彼がコンピュータであるが故の、経験と言うものを知らなかったため起きた結果だ。
もし計算をし続けていればウルフウッドの狙いが何かわかったのかもしれない。
だが止めた。

ウルフウッドの経験はコンピュータの計算を上回ったのだ。

バニッシャーでガードしようとすれば掴まれてまた電撃が来る。
かと言って防がなければ致命傷になりかねない。
ならば方法は一つ。
バニッシャーで防ぎつつ電流を流されないように仕向ければいい。
全身を縮めると、足の裏がこれから拳が来るであろうコースへと置かれる。
そして彼の両足と右拳が重なる瞬間、その空間に投げ捨てたはずのバニッシャーが現れていた。

「ナニ?」

マシン番長が気づいた時にはすでに彼の右腕はバニッシャーへと当たり、挟み込むようにウルフウッドの足が反対側から蹴りつけられる。
響き渡る重厚な金属音。
同時にウルフウッドの両足に激痛が走る。

(こりゃイっちまったようやな……しゃーない……かっ!)

反動を利用し宙を回りながら浮かんだままのバニッシャーを掴む。
マスター・Cのバニッシャーにつけられた切り札とも言っては過言ではないだろう。
普通の人間が振り回すには余りにも重いパニッシャー。
殴りつけただけでもただではすまない凶器となりうるそれの銃身を覆った部分そのものが弾となり一直線に射出された。

103 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:58:12 ID:uz5PWvZk0

「ナンダトッ」

マシン番長は咄嗟に残った左腕を前に出しガードの構えを出すものの、銃身は左腕ごと彼の身体を大きく吹き飛ばして行った。

「おまけや!」

残された細身の銃身から再び放たれる銃弾。
ウルフウッド渾身のブラフが、マシン番長の身体へと吸い込まれていった。



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



激痛に受身を取ることも出来ず、マシンウッドの身体は地面へと叩き付けられた。

「ごっ……」

衝撃に思わず噎せ返る。

「ったくポンコツのクセに調子に乗りくさりおって、ほんだらぁ」

粉塵で周囲がよく見えないが何かが動く様子は無い。
さすがにこれで終わらなければ今の身体の状況では手詰まりだった。
だが一向に変化が無いことに安堵し、脱力感に襲われ大きく息を吐く。
口元からこぼれる血を乱暴にぬぐいながら先程逃がした少年の姿が思い出されていた。

「あいつ無事やろうなあ」

逃がすためとは言え少々強引な手段をとったことは否めない。
今みたいな奴が他にも居ないとも限らないのだから。
丸腰の身体で同じようなことになったらひとたまりも無いだろう。
それにあの性格だ。一人逃げたことを悔やんでいるかもしれない。

「さっさと追いついて安心させてやるかいな」

新八の逃げた方角に目を見やる。
今から全力で追いかければ自分の脚力ながら追いつけるはずだ。
そう考え立ち上がろうと力を込めるが、足に激痛が走り力が入らない。

「やっぱイっとったかいな……」

軽く触ってみる……が、やはり激痛が走る。
両足の骨が折れているのは間違いなかった。

「あっちゃ……こりゃしばらくは動けへんか」

104 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:58:43 ID:uz5PWvZk0

再生速度がどのくらい落ちているかはわからないがここでしばらく足止めを食らうのは間違いないようだ。
こうなると名も知らぬ少年の事はもう神様にでも祈るしかしょうがなかった。

「けったクソ悪い神なんやろうけどな」

自分達をこんな場所に呼んだ者に祈るのもおかしな話か、とウルフウッドは苦笑する。
強く風が吹き始め、無事だった木々が大きく揺れる。
覆っていた粉塵がようやく晴れ、視界がようやく見渡せるようになって来た。

(……んなアホな)

パニッシャーは直撃した。
終わったはずだ。
ウルフウッドの目が驚愕に見開かれる。
粉塵が完全に晴れた地には、辺りかまわず抉られた地面と、そして左腕を無くしたマシン番長が立ち竦んでいたのだから。

「損害状況32%確認。損害ニオケル影響微々。対象排除ヘノ影響――問題ナシ」

言うや否やマシン番長がウルフウッドへと間合いをつめる。
パニッシャーを探す――が先程の激突でどこに飛ばされたのか、見当たらない。

(ちいっ!)

足を引きずりながらも交わそうとするが、一歩遅かった。
残った右手でウルフウッドの頭を持ち上げるとギリギリと握り締める。

「ぅが……」

締め付けられる痛みに襲われながらも、ウルフウッドは右拳をマシン番長へと叩き付ける。
不十分な体勢からの拳に、何の力も入らなかったのは別っていた。
それでも何度も、何度も、何度も繰り返す。

「無駄ダ、モウ終ワル」

締め付けられる力が強まり、全身から力が抜ける。
嗚咽すら出せないし、意識も遠くなってきた。

(終わる時はこんなあっさりなんなんか……)

白みがかる視界にゆっくりと目を閉じようとした。
刹那、ドンっと自分の頭に広がる振動。
潰されたものではない。
そうだとすれば最早こんなことを考えていられるはずも無いだろう。
そして頭から圧迫感が無くなりそのまま地面へと落とされた。

揺れる頭を抑えながらウルフウッドは思わず目を開け……そして叫んだ。

「なんで戻って来たんやっ!!」

105 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 17:59:40 ID:uz5PWvZk0

今まで自分を掴んでいたマシン番長の右腕。
それは大空へと向けて仰ぐようにまっすぐと伸ばされていた。
だが、その伸ばされた腕に掴まれ抱えられていた一人の少年の姿。
見覚えのあるその姿は今しがた別れた少年、新八の身体。
両手で抱えた大きな石がドサリと地面へと落ちる。
先程の衝撃はこれでマシン番長を殴りつけでもしたためか……ウルフウッドはそう推測しながらも理解出来ない新八の行動に毒づいていた。

「クソガキが……逃げろ言うたやないか……あんなんでわいを助けに来たつもりか? 大馬鹿やでホンマ」
「マッタクダ、オ前ノ行動モ全ク理解出来ナイ」

問われた新八はと言うと、罰が悪そうにウルフウッドから視線をそらし

「逃げましたよ、全力で……。
 怖くて……助けてもらって……逃げて……」

ボソッと呟くと一転、抱えながら不思議そうに呟いたマシン番長を鋭く睨み付ける。

「でもそんなんじゃ姉さんに怒られるって事に気づいたんです。
 こんな情けない姿を見せるために僕は万事屋に入ったんじゃない。
 あの人に少しでも追いつきたかった! 彼のような侍になりたかった!」
「……オ前ノ回答ハ理由ニナッテイナイ。理解不能」

新八の言葉にメモリー内で何かが暴れだす感覚を受けた。

「うるさい! ここで逃げたら命は助かっても僕の魂は死ぬって事に気づいたんだよ!」
「命……魂……同意義。死……生命活動ノ停止。統合性……0。理解不能理解不能」

そのままガタガタとマシン番長の身体が痙攣する。
いきなりの挙動に暴れていた身体を休め、マシン番長の姿を覗き込んだ……瞬間。

「……大量ノ不安因子発生……可能性ヲ排除スル」

ギロリと新八を睨み付け、同時に新八の身体が開放される。
重力のままに地面へと落ちる新八の身体。
だが彼の身体は地面に付く事も無く、回転されたマシン番長の右腕が新八の腹を突き破っていた。

「ガキイイイィィィッ!!」

スローモーション再生のように真っ赤な鮮血が周囲に飛び散る。
目の前の光景にウルフウッドの絶叫が響き渡った。
同時にマシン番長は腕を振り払い、新八の身体をウルフウッドへと叩き付ける。
衝撃に二人の呻き声が重なり、開いた目に飛び込んだ新八の姿。
一目で致命傷なのがわかった。

咽返り、口から血反吐を吐きながらも新八の目は強く光っていた。
ウルフウッドの胸倉を強く強く掴みながら、新八は謝罪の言葉を告げる。

「僕が最初っから逃げずに戦っていればこんなことにはならなかったかもしれないですよね……」
 本当に……ごめんなさい……」

106 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:00:24 ID:uz5PWvZk0

耳に届いた新八の言葉に二の句も出ない。
自分に対して恨み言を言うわけでもなく、紛れもなく訪れている死の恐怖に怯えるわけでもなく、
出てきたのは自分の不甲斐無さを恥じる言葉。

そこでようやく自分が新八を助けようと取った行動が、結果彼の信念を殺す道だった事に気づいた。
恐怖と戦い、自分の弱さに絶望しながらも新八はそれに抗い、戦う道を選び戻ってきた。
それを否定することは彼への侮辱だとウルフウッドは悟った。

「……おいガキ、そういやお前の名前聞いとらへんかったな。……聞かしいや」
「……え?」
「名前や、名前」
「……志村……新八です」
「そうか……なあ新八。すまんがわいには侍ちゅうのがなんなのかようわからん。けどやな、少なくともお前が目指してるもんにはなれてると思うで」

その言葉に新八は目を見開きながら驚いた表情を見せ、薄く微笑む。
同時に彼の身体から力が抜けていったのがわかった。

そして――

一切の表情の変化を見せず二人を観察していたマシン番長が歩を進め、ウルフウッドを見下ろすように立ち止まった。

「オ前ニハ今ノ言葉ノ意味ガ理解ッタノカ?」
「当然やろ」
「何故ダ。私ノデータベースニ一切該当シナイ」
「説明したところで機械風情に理解るわけあらへんわ。もっとも説明する気もさらさら無いけどな」
「……ソウカ。ヤハリオ前トノ会話ハ時間ノロスト判断スル」
「ああそうしとき。せやかてワイももう動けそうにない。好きにしたらええわ」

新八を貫いた手刀が同じようにウルフウッドの身体へと迫る。
逃げようにも自分の意思ではピクリとも動かない身体。

(トンガリ……お前ならどうしたんやろな、ああ言う場合)

鈍い衝撃と共にマシン番長の手刀がウルフウッドの胸を貫いていた。
胸を貫かれた衝撃に全身を震わせながら彼は思う。
自分と正反対だった青年のことを。

(まあ今更考えてもしゃああらへんか……先に行っとる。お前はしばらく来るんやないで……)

その思考を最後にウルフウッドの意識は闇に落ちていった……。


☆    ☆    ☆    ☆    ☆

107 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:00:44 ID:uz5PWvZk0

「対象沈黙生体反応0――任務継続……可能」
このまま続けるのに支障は無いものの、左腕の損傷がやはり気になる。
どこか修理出来そうなところがあれば良いのだが、そう判断した彼は地図を取り出し開く。
「データベース照合……研究所……該当」

二人に背を向けると彼は歩き出した。
任務を遂行するために、目的はただそれだけ。
一刻も早くこのノイズを取り除かなくては。

「死トハ何だ? 生体反応ガ停止スル以外ニ何カ意味ガアルノカ?」

夜空を見上げボソリと呟きながら闇に消えるマシン番長。
彼はまだ気づいていない。
死の間際の二人のやり取りを見てノイズが以前より強くなっていることを……。




【I-4/中心部/黎明】
 【マシン番長@金剛番長】
 [状態]:左腕損失 メモリー内にノイズ
 [装備]:
 [道具]:不明支給品1〜2(未確認)基本支給品一式
 [思考]
  1:殺し合いに勝ち残り脱出。Dr.鍵宮の指令を遂行する
  2:研究所へと向かう
 [備考]
  ※参戦時期は四番長(居合、卑怯、剛力、念仏)殺害後、Dr.鍵宮の指示で月美の部屋に行くまでの途中。


☆    ☆    ☆    ☆    ☆

108 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:01:16 ID:uz5PWvZk0

マシン番長が立ち去ってから数分後――

「これは酷い事になってるわぁん」

凄惨な戦場と化した森の中に響き渡る暢気な声と共に現れた妲己。
言葉とは裏腹に荒廃した惨状を見回しすその目は凛々と輝いており、愉快気にスキップさえ踏んでいる。

「あらあらん?」

一際被害の大きな一角に横たわる二人の人間の姿が目に留まった。
何の躊躇も無く近づくと、まずは小さな身体の方からつんつんとつついてみる。
まったく反応がない。

「ご愁傷様かしらん」

けして死者に向けるべきものではない笑みをうっすらと浮かべながら続けてもう一人の身体をも試してみる。
やはり反応はない。
小さくため息を吐くと興味を失ったように二人の身体から離れようとした直後。

「……ぅ……」

微かに響いた声に思わず振り返っていた。

「驚いた……そんなのでまだ生きてるのん?」

呼吸は荒く、息も絶え絶え。
胸には大きな風穴を開け、全身は細かい傷と火傷で無事な部分など残ってもいない状態でありながらも
ウルフウッドの身体はまだ彼が休むことを許さなかったようだ。
開かれる瞳がうつろに翳りながらも彼は口を開く。

「……奴は?」

その問いにどう反応すべきか少し考え込み……悲しげに表情を一転させた。
怪我をした人間を不安に思い気遣う仕草も忘れない。

「うぅん? 誰のことかは知らないけど、ここにはわらわしかいないわよん?」
「……そうなんか」
「あなたも殺し合いをしてたのん?」
「するつもりなんかさらさら無かったわい。けど向こうさんに殺る気満々で襲ってこられたらしゃあないやろ」

ともすると少なくとも自分の敵ではないと言う事か。
でもこの様子では負けたんだろう。
生き残ったのは良いが弱いんじゃどうしようもないと妲己は溜息を漏らす。

「ふぅん、で負けちゃったのん?」
「うっさい」

苦々しげに呟くウルフウッドを見て悲しそうな演技を続けながら妲己は言う。

109 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:02:05 ID:uz5PWvZk0

「やっぱり殺し合おうなんて考える人もいるのねん」
「あんたはちゃうんか?」
「まさかぁん? こんなか弱いわらわがそんなこと出来るわけないわん」
「嘘やろ」

一瞬眉をひそめかけるが、そ知らぬ顔で妲己はとぼけ続ける。

「嘘? なんのことかしらぁん?」
「隠しとったって空気でわかる。弱いようには感じられへん」
「買い被り過ぎよん。わらわは弱いから誰か強そうな人を探してるのん。心当たりとかないかしらん?」

平静を装う妲己にたいし、呆れ返りながらウルフウッドは答えた。

「……まあええ、強い奴だったら赤いコート着たつんつんした金髪の頭の目立つ奴探せばええ。勿論いたらの話になるけどな」
「あらぁん意外ねえ。そんな素直に教えてくれるなんてえ。その人の事嫌いなの?」
「大っっっっっ嫌いやな!」
「あらぁん可哀想」
「んま……そうじゃなくても隠す必要も無いと思ったからや。ワイの知る限り人間であいつに勝てる奴はまずおらんやろ。
 殺し合うつもりならあいつがあんたを止めるやろうし、そうで無いなら教えても問題ない、それだけのこっちゃ」
「ふうん、そのお友達のお名前は?」
「友達ちゃう、ただの腐れ縁や。……まあええわ。有名人やから名前ぐらい知っとるはずやろうけどな。ヴァッシュや。ヴァッシュ・ザ・スタンピート」
「知らないわねん……でも、ありがとぉん」

ウルフウッドの首筋をなでるような感覚が伝わる。
遅れて襲い掛かった鋭い痛みと同時に噴出す鮮血。

「やっぱりかい……」

反射的にそれを抑えようと両手で首を押さえるが、隙間から流れる血は留まる事を知らない。
自身の手についた血を舐め取りながら妖艶な笑みをこぼす妲己の顔。
一瞬美しいとさえ思ってしまった自分を卑下しながら。
それがウルフウッドの見た最後の光景となった――。

動かなくなったウルフウッドを見ながら妲己は微笑む。

「そう言う訳じゃないけどねぇん。ただ、わらわって壊れた玩具にも使えない兵士にも興味ないのよん」

その言葉を聞くものは最早誰も居ない。
返ってこない返事に少し不満げな表情を見せながら妲己はその場を後にした。


【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム)】死亡
【志村新八@銀魂】死亡

110 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:02:41 ID:uz5PWvZk0

※以下のものは二人の死体のそばに、妲己が回収したか放置のままかはお任せします
 マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身発射済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数8/12)@現実
 支給品セットx2(ウルフウッドと新八の分)
 上記の中にパニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット 不明支給品0〜2



【I-4/中心部/黎明】
【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:支給品一式、再会の才@うえきの法則
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。

【獣の槍@うしおととら】
春秋・戦国時代に中国で作られた、白面の者を殺すための槍。
両親を白面の者に殺されたギリョウ、ジエメイの兄妹が命を込めて作成した。
(妹、ジエメイが溶鉱炉に身を投げ、それを材料に剣を打った兄の体が融合し槍となった)
獣の槍に選ばれた者が使うことで、使用者の魂と引き換えに身体能力、治癒能力が向上する。
ただし、魂を与えすぎると使用者は、とらや紅煉同様の字伏という妖怪に変化する。
選ばれていない者以外が使用した時、選ばれた者でも妖以外と戦う時はその変化は起きない。
妖怪のみを殺す槍であり、人間を刺してもダメージは普通の槍より少ない。
(正確には斬れないため人間を強打や無機物を切り裂くことはしていた。)
ただし、上記の性能がロワ中でなんらかの変更が加えられているかは不明。
獣の槍を封印する布は巻きついている。

【再会の才@うえきの法則】
植木耕助が神の座を争う戦いに勝利した際に、優勝者に与えられる空白の才に書き込んだ才。
文字通り、再会する才能を得ることが出来るが、あくまで才能であって絶対ではない。

111 ◆Fy3pQ9dH66:2009/04/25(土) 18:04:59 ID:uz5PWvZk0
以上です
タイトルは「イノチ/タマシイ/ココロ」で
長めで申し訳ありませんが、お手すきな方代理お願いします

ご指摘ご意見ありましたらお願いします

112 ◆lDtTkFh3nc:2009/04/26(日) 01:28:29 ID:kSdBChBo0
だー!最後でさるった!
どなたかここの>>79を本スレに投下してもらえるとありがたいです。
まぁここにあるのと変わらんわけですが…

ちなみにいじったのは偽名のところです。
指摘を受けてそう考えると鳴海らしからぬミスだな、と自分で思ったので、
鳴海っぽいミスに変えてみましたw

113名無しさん:2009/04/26(日) 01:47:42 ID:RW1ozSEI0
すまん、規制中だ……誰か頼む

114名無しさん:2009/05/04(月) 00:07:47 ID:RW1ozSEI0
正義。
正義とは、どのようなものなのだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼女が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
もっと明白な、精神的な―――正義という存在を求めていた。
「………………」
その正義を掲げて―――ひたすらに歩く少女。
名は、白雪宮拳―――剛力番長。その手には、可憐な外見には似合わぬ、巨大な武器が握られている。
「……正義……正義……正義のために……」
何かにうなされたように、ぶつぶつと呟きながら剛力番長は進む。
その顔は晴れやかとはほど遠く、今にも泣き出しそうにも見えた。しかし、彼女の中の『決意』と『罪悪感』が、ひたすた彼女の足を動かす。
「……私は……キンブリーさんを優勝させなければなりません」
それだけ、呟き前を向く。
ただずっと、道が永遠に繋がっているように思えた。
『本当にそうか?』
問う。誰かが、彼女に囁きかける。
『本当に、お前のそれは正義なのか!?』
知らない、知らない、知らない。誰なのかも分からない。
人間とは思えぬ巨体の、奇妙な髪型の男が、自分の頭の中で叫んでいた。
それは、彼女の『未来』で彼女に真の正義を教えてくれる男。
しかし、今の剛力番長にはそれが誰か、分からない。

―――知らない人が、私の正義の邪魔をしているようですわね。
―――私は、人を殺してしまったことを償うためにも、彼を優勝させなければいけないのです。

幻聴、あるいは、人を殺したことからくる罪悪感故の妄想だろう。
もう、剛力番長は立ち止れない。
正義を成すために進む、彼女にできるのはそれだけだ。
そうでもしないと―――彼女は、今にも壊れてしまいそうだったから。

はた、と足を止める。
視界の片隅、わずかに見知らぬ人間の姿が映った。
首輪をしていたかどうかまでは見えなかったが、この場にいる以上、自分と同じような参加者に違いない。

―――優勝、しなければ。
―――優勝して、あの子を生き返らせないと―――
―――それが、……私の、そしてキンブリーさんの……正義!

唾を呑みこみ―――彼女は、その人影に向かってそっと歩み寄る。
できるだけ、苦しめたくはない。相手に気づかれないように近寄り、心臓か脳を貫いて一発で殺してあげたい。
甚振り痛めつけるなど、剛力番長の『正義』が許さない。
だから、慎重に。
剛力番長は、そっと足を一歩踏み出し―――

「……僕をつけるなんて……何のようかな?お嬢さん」

その男に、声をかけられた。

115Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:08:58 ID:RW1ozSEI0
上も自分です、鳥忘れてました。



運命。
運命とは、どのようなものだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
運命とはいかに『確実』なのか―――それが知りたいだけなのだ。
「………………」
目の前であっさりと変わった『運命』に翻弄されるがまま、森の中を進む少年。
名は、カノン・ヒルベルト―――ブレード・チルドレンの一人。その手には、麻酔銃が握られている。
「……火澄……」
思わず口から、一人の少年の名前が漏れた。
死なない運命だったはずの少年。ここに来る前に、謎の少女と男に『殺された』少年。
―――どうすればいい?
カノンは思考する。なまじ賢く、天才的故に、カノンは今のありえない状況に対して冷静な判断ができずにいた。

―――運命は変えられる?そういうことなのか、清隆?
―――しかし、それなら、それならアイズを殺した僕はどうなる!?何のために今まで戦ってきた!何のために仲間を手にかけたと言うんだ!
―――そんなの、分からない、……理解できるはずがない!

不意に、何者かの視線を感じた。
カノンはそっと麻酔銃の引き金に手をかけ、振り向こうともしない。
振り向けば、自分がその人間の気配に気づいたことがばれてしまう。
あくまで平静に、何も知らないふりを装う。
一歩進む。相手も、それに呼応するかのように一歩、出る。
……明確な殺意、狂気は感じ取れない。
ほんのわずかな足音などから考えて、相手はおそらく女性。敵意があるとは限らない。
しかし、カノンの本能は告げていた。
この相手は、きっと殺し合いに『乗っている』。
このまま背を向けていたら、相手に隙を見せることになる。
こうなれば仕方ない。……先にこちらから手を打とう。
カノンは警戒を怠ることなく背後に向きなおり、自らをつけていた相手をしっかりと確認した。
慌てて木の陰に隠れようとしていた彼女は、しかし少し遅かった。

「……僕をつけるなんて……何の用かな?お嬢さん」

それは、小柄な少女だった。
柔らかな金髪ショートヘアーに花型のリボンという女性らしい容貌とは裏腹に、その身には男子用の学ランを羽織っており、更に手には巨大な得物を握っている。
普通に考えれば、目の前の少女に到底振り回せる代物ではない。
しかし、カノンは知っている。人の見た目は強さと比例するはずがないということを。
そう例えば、あの竹内理緒のように―――

「……用事……というほどでもありませんが……」

少女は、すっと何の労もなく巨大な武器を構えて、言った。
あまりにも、当然のように。
「……私の『正義』のために―――死んでいただきたいのです」

刹那。
少女は、――-動いた。
そもそも武器など存在していないかのように、跳躍し。
質量が存在するのかすら疑ってしまいたくなるほどの速度で。

『それ』を―――カノンの脳天に向けて振り落とした。



命。
命とは、どのようなものだろう?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
自分は、『命』に関してはすでに定義に当てはまらないイレギュラーな存在なのだから。

「……ニーサン、大丈夫かなあ……ここにいないといいけど……」
アルフォンス・エルリックは、いるかどうかも分からない兄の姿を探していた。
そして、幼馴染のウィンリイも。
アルが向かう先は、東。
特に理由があった訳ではない。強いて言うなら、図書館になら今の状況を判断するための情報があるかもしれない、と思った程度だ。
とにかく自分が今すべきことは、知り合いを探すこと。
地図を見る限りかなりの広さがありそうではあるが、だからと言って待っているわけにはいかない。
……自分が能天気にしている間に、知り合いの命が奪われてしまうかもしれないのだから。
もう一時間ほど歩いているのだが、今のところはだれにも
「……ん?」
そして、アルは、視界の先に見た。
それは本当に、偶然だった。
しかし、その偶然も、ある男にかかれば『運命』なのかもしれないが。

それは。
「……え―――!?」
少女が、青年に切りかかるその光景だった。

116Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:11:05 ID:RW1ozSEI0


「……っ!」
それは、カノンの長い経験が生きた形となった。
人間の限界ぎりぎりの反応速度で繰り出されたドラゴンごろしは、カノンによって寸でのところでかわされ、カノンの脇を滑り抜けた。
「……いきなり攻撃してくるなんて……穏やかじゃないよ」
やはり、自分の勘は正しかった。
カノンはそう思う。やはり彼女は、殺し合いに乗っていた。
一瞬たりとも目を離さず、用心し続けて正解だったか。
「殺し合いに乗るのが、君の正義なのかい?」
少女の攻撃を回避しながら、カノンは問う。
その顔は涼しげに―――内心焦りながら。

―――これは、まずいな。

少女の実力は、先ほど対面した相手―――趙公明に匹敵するかもしれない。
そう簡単に抜ける相手ではない。
そしてまず、彼女は自分を逃がしてくれない。
公明は殺人鬼というよりは戦闘狂だった。だからこそ、自分のことを再び追おうとはせずに、後に再戦するということに喜びを見出していた。
おそらく―――初めに会った時も、全力ではなかったのだろう。それは、殺意よりも戦意が上回っていたから、と考えるのが自然。
しかし、彼女は違う。
彼女は、殺し合いに『乗って』いるのだ。
彼女の目的は戦いを楽しむことではなく、カノンを殺すこと。自分が一旦引いても、追ってくる可能性も高い。
そして何より、彼女は『全力』だ。

もちろん、相手が殺し合いに乗っているというのなら、反撃もやむを得ない。
もっとも―――相手を殺すつもりはない。
カノンは鋼よりも硬い意志で決めている。……ブレードチルドレン以外の人間は、何があっても殺さない。
だから、目の前の少女が自分を殺すつもりであったとしても、カノンは彼女を殺すわけにはいかない。
うまく彼女を捲いて逃げたいが、実力的にそれも難しい。
この麻酔銃で眠らせるのが得策だろう。
しかし、カノンはそれを躊躇っていた。
より正確に言うならば。

―――こんな化け物が、ここにはごろごろいるのか……!

―――カノンは、『現実』に戦慄していた。
決して、自分は弱い存在ではない。
それどころか、ブレード・チルドレン最強と常に謳われ、それだけの戦績も上げてきた。
負ける要素など、ないと思ってきた。
なのに、今の自分はどうだ?
いくら武器が心もとないとはいえ、

―――公明に、この少女に、防戦一方ではないか。

「……そうですわ……」
少女は、剣を振るう。
物理法則を軽く無視した高速攻撃が、細腕の少女の手から繰り出される。
「……これが……私の『正義』です!」

だから、方法は一つだ。
―――隙を作り、その一瞬を見計らって麻酔銃を打ち込む。
それ以外に、彼女を殺さずに止める方法が見つからない。

―――彼女に、精神的な揺さぶりをかけることだった。

「……正義?人を殺すのが正義だなんて―――立派な正義だね」
「何とでもおっしゃってください。……私は既に人を殺した―――殺してしまった彼女のために、私は優勝させなければならない人がいるのです!」
ドラゴンごろしが、宙を切る。
それをひたすらかわし、カノンはとん、と両足を地につけた。
もしカノンが普通の人間であったならば―――きっと、既に10度は殺されているだろう。
知らず、呼吸が上がる。今まで攻撃を受けずにいられたことが奇跡なのだ。
対して少女は―――息一つ乱していない。
体力?この違いはそんなものではないだろう。
根本的に、彼女にあって自分にない何か、努力や才能では埋められない何かがある。

(そう言えば―――何かの本で見たことがあるな)
通常の人間の数十倍筋肉を使うことのできる人間。
もしかして―――彼女もその類なのだろうか?

「……優勝させなければ、ならない……人……?」
その言葉が、引っかかった。
彼女は、『自分が優勝したいのではないのか?』
少女が続いて口にしたのは、衝撃的な一言だった。
「……ええ、そうですわ。……私はあの方を優勝させ、『彼に全ての参加者を生き返らせてもらう!』そのために私は人を殺すのです!」

―――全ての参加者を、
―――生き返らせる、だって―――?

117Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:11:38 ID:RW1ozSEI0

「……そんなこと……できるはずがないよ。君は騙されているんだ」
きわめて冷静に、言葉を紡ぐ。
カノンからすれば、それは当然の回答だった。
しかし、剛力番長はそれを否定する。
「いいえ、彼は言いました。できる、と。その証拠に、彼は何もない場所から、人型を作り出したのですよ!彼は、不思議な力を持っている!」
本当は、土を対価として、なのだが、等価交換を知らない剛力番長からすれば無から作り上げたように見えても仕方あるまい。
「……手品の類じゃないのかい?君は気付いていないだけで、そこには何かトリックがあるかもしれな……」
ドラゴンごろしが―――カノンの肩を貫いた。
「……っ!?」
走る激痛。人の首さえ切り落とせそうな大剣に切り裂かれ、肩から赤い鮮血が吹き出す。
しかしこの程度、まだカノンの行動を止めるには至らない。
そう重大な怪我でもない。止血さえすれば数時間で回復できるだろう。
「……貴方が私の言葉を信じないのは構いませんが……どちらにせよ死ぬのならば、納得して死んでいただきたいのです。……貴方は私の正義のために死ぬのだと」

―――何が、正義だ。
少女の言葉に、カノンは言葉にならない苛立ちを覚えていた。
人を殺すことが正義?
この少女は、いつまでそんな戯言をほざくのか。

「……それが、正義?……笑わせるないでくれ」
気づけば。
そんな言葉が、カノンの口から零れ出ていた。
ずきりと肩に痛みが走るが、構っていられない。
「……な、貴方……これ以上私の正義を愚弄すると……」
「何が正義だ……君は知らないからそんなことが言えるんだ。
全ての人間を生き返らせるだって?本当にそれが幸せだと思うのか?
『死んでいた方がいい人間もいる』、それくらい君だって分かるだろう!?」
思わず、語気が荒くなる。

―――そう、例えば。
―――生きていても、人を殺す道しか進めない人間ならどうなる?
―――そんな人間に、生きている価値があるというのか?

「……!?」
少女の顔が、歪んだ。
心当たりがあるとでも、言いたげに。
「君は『悪』もろとも蘇らせるつもりなのか?それで正義と言えるのかい?」
「……そ、そんなこと……死んだ方がいい人間なんて……」
「いない?そう思うかい?じゃあもし、存在するとしたら?このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?」

「……君の行為は、『正義』じゃない―――ただの『エゴ』だ」
それは、まるで自分に呟くように。
そっと、カノンは麻酔銃を抜き取り―――
「……ち、ちが、違います……私は……私は『正義』を……!」
じり、と自分から一歩後ずさる少女に向け、光の速度で引き金を引いた。
それは少女の右胸を貫き―――少女は、そのまま声もあげずに倒れ込んだ。

118Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:12:33 ID:RW1ozSEI0


「……っ……はあ……」
カノンは、草叢に倒れ伏した少女を見、大きく息を吐いた。
何とか、なったのか?
とりあえず、殺さずに済んだ。
さすがに少女が並外れた力を持っているとはいえ、麻酔は効くようだ。
すぐにでも立ち去っても良かったが、しかしカノンはそうしなかった。
その理由は―――

―――くそ……思ったより怪我の状態がよくないな……。

それは、少女に負わされた傷のため。
右肩に受けた斬撃は、一般人なら悲鳴をあげて泣き叫んでもおかしくない程度に深かった。
重要な血管は無事らしいことには安堵したが、それでも少しでも早く治療をした方がいいことには変わりない。
その瞬間は大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、思った以上に事態は深刻だ。
……恐らくは、疲労もあるのだろう。常なら、ここまで吐き気と似た気分の悪さを催しはしない。
止血をしようにも、ふさわしい道具が何一つない。武器は麻酔銃と盾、基本支給品は食べ物とランタン、地図と何も書かれていない白紙の紙。
このままの状態でも今はまだ、いい。しかし再び彼女のような強者と出会ってしまった時に、これでは逃げることも難しくなる。
ましてや―――ブレードチルドレンを殺すのも。
彼らの実力をかい被るつもりはない。もっとも、自分の方が彼らより強い自覚も自負もあるが、100%などとは思えない。体調が万全でないなら尚更だ。
であるから。

―――彼女は、何か道具を持っているかもしれないな。

わずかな可能性かもしれないが、見てみる価値はある。
そして可能なら、少女の武器・ドラゴンころしも奪っておきたい。
銃が一番使い慣れているものの、カノンに使えない武器など存在しない。
見た目通りの重量がネックだが、少なくとも麻酔銃よりは役に立つだろう。
仕組みはよく分からないが、このディパックは入れたものの重さを感じない作りになっているようだ。この中に入れておいて非常時にいつでも取り出せるようにすればいい。
……この武器では、ブレードチルドレンを殺すこともできやしない。

「……」
彼女が起きないことを確認して、カノンはそっと彼女に近づいた。
そして、その支給品を確認しようとし―――

ここで、たった一つ、イレギュラーが存在していた。
彼の銃撃の腕は完璧だった。
外してなどいない。支給品の説明に嘘が書いてあった訳でもない。麻酔銃の威力は理解しているし躊躇いも手抜きもしていない。
問題など、何一つなかった。―――カノンの方には。
完璧で、本人もそれを理解していたが故に、気付かなかった。
問題だったのは―――

「…………な、」

―――針の莚に落下しても死なない剛力番長に、『銃弾など効くはずがない』という、その事実だった。

本能が、一瞬にして全身を駆け巡る。
コンマ0.000数秒の間に、カノンの脳に警告を鳴らした。

―――殺される、と。

「……っあああああああああああああああああああああああ!」

それは、幸運だったのか。
不幸だったのか。
少女は、叫び声を上げ、ただがむしゃらにドラゴンころしを振るい。
カノンは、それに研ぎ澄まされた『経験』で気づき。

そして。
攻撃行動と退避行動が同時に行われた結果。
残ったのは―――



轟音が、鳴り響く。
それを知覚したのは、誰か。

少女の剣が、男の首を切り飛ばそうと刃物を振るい。
男は、それを並外れた直感で回避しようとした。

その瞬間。
それと―――全く同じタイミングで。

『土』が―――隆起した。
それは人間の握りこぶしの形に変わり、そして。

武器を握る少女の体を―――その大剣ごと弾き飛ばした。

119Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:13:21 ID:RW1ozSEI0


「……っ……く…………」
数十分後。
森の中を、一人の人物が歩いている。
「……!」
がくり、と。
その影は、膝を折って草むらに崩れ落ちた。
「……なんだ……これは……どういうことなんだ……」
影―――カノン・ヒルベルトは、常の冷静さを欠いた、青ざめた顔で呟いた。
確かに、怪我は負っている。しかし、そんなことではない。
それが、彼に暗い影を落としている理由になどなりえるはずがない。
このくらいの怪我で追い詰められるほど、彼は柔ではない。
カノンが絶望しているのは、『傷を負った』その事実ではなく。

「…………本当に……本当に彼女の言っていたように……人間を蘇らせる術があるなら……それなら……」
「それなら……僕は何のためにこんなことを……」
自分の前に突きつけられた、『前提』を根本から覆す現実だった。

もはや、否定などできない。
この場には、人間の領域を超えた連中がいるのだということを。
少女は銃をもろともせず―――明らかに人間とは思えない戦いをしてきた。
そしてこの目でしかと見た―――鎧の男が、数秒にも満たない時間で土の物体を作りだしたその瞬間を。
イギリス人と日本人のクオーターであるカノンは、当然というべきか、イギリスの書物はほとんどと言っていいほど読みこなしている。
(錬金術……か……?)
そしてその中には、先ほどの現象を思い起こさせる知識も存在していた。
しかし、それにしても、『あれ』は錬金術と呼ぶには化け物的すぎる。
錬金術、賢者の石、ホムンクルス―――あんなのは書籍上、伝説上の産物にすぎない。証拠とするには弱いだろう。
確かなのは、『自分の目の前で、人間には到底できると思えぬ光景が繰り広げられたこと』、それだけだ。
今思えば―――公明もそうでなかったのか、とすら思える。彼の纏うオーラは、明らかにただの戦闘狂とは一線を画していた。

これも、清隆の仕業だというのか?
これが、『運命』だというのか?
例え清隆であっても、死者を蘇らせることなど、できるはずがない。そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
火澄は死んだ。清隆が言っていた運命は、たやすく覆された。
あの男は―――化け物なのか?
まさか、そんなことはない。いくら清隆でも、そこまでは―――

『本当に、そうか?』
本当にそうなのか?
清隆でもそこまでは不可能だと―――言えるのか?
あの、現実的に起こりえない光景を目の当たりにしてからも?
ブレード・チルドレンだとか、ミズシロ・ヤイバだとか、そんな次元でない、何かだと言う可能性は?

そして、もし本当に人が生き返るのだとしたら。
清隆が本当に、そんなことができるなら?
いや、本人がする必要はない。そのようなことのできる『何か』を、清隆が手中に入れていたとすれば。
ここで自分がブレードチルドレンを殺して―――『何になる?』
ここで、だけではない。自分が殺したアイズも、全て。
全て、何の意味もないのだとしたら。
この『殺し合い』のゲーム自体に、初めから『勝利』などないのだとすれば。

―――自らの『覚悟』は、はじめから無意味なものだったとしたら。

運命は、覆される。

「……そんな……馬鹿なことが……!」
ただの、少女の虚言?
動揺の仕方からして、とてもそうは思えなかった。
それにあの少女は、自分の目的のためには手段を選ばないタイプだった。真っ直ぐで、頑固な―――どこか自分とも通じる信念の持ち主だ。
彼女はきっと、その『正義』を曲げることを許さないだろう。
自分が、病的だと言われようと『ブレードチルドレン以外の不殺』を心がけているように。

かつて、とある国家錬金術師は、とある女にこう説いた。
『翼』を持った人間は、太陽にその翼を焼かれて死んでしまうのだ、と。

それでは。
「……あって、……あってたまるか……っ!」
『片翼』になってしまった『呪われた子供』は、太陽から身を焼かれてしまうのだろうか?

【H-6/道路/1日目 黎明】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康、混乱(大)、右肩裂傷(中)
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×17、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
1:僕は―――
2:歩を捜す
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?

※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。

120Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:14:33 ID:RW1ozSEI0


……油断、しましたわ―――
剛力番長は、強烈な眠気に襲われながら、先ほどの行動を反省する。
自分は動揺して―――あの男に隙を見せてしまった。
その結果がこれだ。……確かに剛力番長の体は丈夫だし、銃弾ごときで倒れはしない。
しかし、―――それは麻酔銃が効かないこととは別問題だ。もしかすると、これも制限によるものなのかもしれないが。
今眠ってしまったら殺されるかもしれない―――その精神力で、剛力番長はインドゾウさえ三秒で眠りに落ちる麻酔に耐え、少年に完全復活は困難だと言える怪我を負わせることに成功した。
殺すことはできなかったが、あれなら止血しなければ近いうちに死ぬだろう。
あの少年が天才的ともいえる銃の腕前の持ち主なのはすぐに分かった。だから剛力番長は、銃弾が当たって眠ったふりをしたのだ。

―――私の正義は……私の我儘だと……?

ずきり、と頭痛がする。
意識が、呑まれる。

―――違います、私は、私の正義は―――

(このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?)

剛力番長は、確かに『正義』のためなら何でも行ってきた。
諸悪の根源はすべて叩きつぶし、笑顔と共にその『正義』を行使してきた。
しかし、彼女は、人を殺したいと思ったことなどなかった。
たとえ悪人であっても、人を殺すことは正義ではない。
邪魔をする人間には、自分の『正義』を分からせてやればいいだけだ。そう思ってきた。

だから、考えたこともなかった。
生きているだけで、『悪』である人間がいるなんて。

本当に、彼の言った通りだとしたらどうだろう。
人を殺して回るような人間は、『悪』だ。
それは今更問わずとも分かっている。正義の名のもとに粛清しなければならない。
そして、その人間に加担するものも悪。当然だ。
……だとすれば。
自分が、その『悪』を生き返らせてしまったら。
それは、自分が『悪』だと言えるのではないだろうか?

悪と善を判別して生き返らせてもらえばいい?
そんなことができるのか?
人のよさそうな外見でも、『悪』を振るうものは数多くいる。
分かるはずがない。

―――そんな、私は―――
ただ、正義のために。
正義のために、人を殺して、生き返らせようとして―――

彼女の思考は、そこまでで。
剛力番長は、糸の切れた人形のように―――意識を失った。

121Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:15:00 ID:RW1ozSEI0


「……どうしよう……この子……」
アルフォンス・エルリックは、こんこんと眠る少女の前で途方に暮れていた。
自分が先ほど、錬金術で吹っ飛ばしてしまった少女―――剛力番長である。

「……困ったなあ……あの人はどこかに行っちゃったし……」
少女が、男に武器を振るう。
それを見て見ぬふりをできるほど、アルは冷血ではなかった。
少女は殺し合いに乗り、男は乗っていないのか。
二人とも乗っており、少女の方が有利であっただけか。
二人とも殺し合いにのっておらず、ただ誤解が生じただけなのか。
アルにはそこまでは分からない、だが、少なくとも身に危険が及んでいる方を助けよう。
そう判断したアルは―――地面にその両手を押し付け、土の拳を錬成し、少女の体を吹き飛ばした。
もちろん、殺さない程度に多少の加減はして。

「……」
今見た状況からして。
この子は、少なからず危険人物であることは確かだろう。
先に考えたように誤解が誤解を呼んであんなことになってしまったとも考えられるが―――そうだとしても、彼女は刃物を人に向けて平然と振るえることには間違いない。
「……だからと言って、放っておくのもなあ……」
ウィンリイや兄と言った知り合いがいるなら、一刻も早く見つけたい。
その気持ちはある。正直、今すぐにでも走り出したい。
しかし、この子を置き去りにしていいのか。

この子を置いて、あとで死なれてしまったら名前も知らないとはいえさすがに心が痛む。殺し合いに乗っているかも定かではないのだから。
……それに、この子が危険人物であるなら、尚更この場に残してはおけない。
目覚めた後再び別の人間を襲い、殺そうとするかもしれない。
そしてそれが―――ウィンリイかもしれないのだ。
兄や自分なら少女に対処できるだろうが、彼女のような一般人には無理だろう。
「……うーん……」
そして、アルの出した結論は。

ちょい、と少女に触る。
つんつんとつついてみる。
……完全に眠っているようだ。いつになったら目覚めるのかも分からない。
「……よいしょ、と」
そしてそれを確認し、アルは―――自らの鎧の頭部を外し、その少女を中に『入れた』。
大人でも入るサイズだ、小柄な少女など造作もない。
そして少女から少し離れた所にあるドラゴンころし(その名前をアルは知らないが)を回収する。
「…………うーん……僕には必要ないかもしれないけど……預かっておいた方がいいよね」
鎧のアルにとって、その剣の重量など全く関係ない。
ただ、ここに残しておくと悪人に利用されるかもしれない、そう思ったが故に、それを拾って自らのバックに詰めた。
「……よし、と。……早く皆を探さないと」
不安要素は、ある。
鎧の中の少女が、暴れ出す可能性だ。
アルの生命は、鎧の中にある兄の地で書かれた錬成陣によって保たれている。もし彼女がそのことに気づき、刻印を破壊したりすれば、アルは死んでしまう。

―――まあ、錬金術師じゃなさそうだし、そこまでの心配はないかな。

いくら彼女が強者とはいえ、武器がなく身動きも取れなければそう危険はないはずだ。
そう信じて、アルフォンスは再び歩き出す。
―――いるかもしれない仲間を探すために。
自分が抱えているものが、爆弾なのか宝箱なのかまだ分からずに。

122Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:16:32 ID:RW1ozSEI0
【I-6/道路/1日目 黎明】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
0:仲間を探しながらひとまずこの子を保護する
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:精神的疲労(中) 、睡眠中、アルの鎧の中
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
0:(睡眠中)
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……?でも……
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。

123Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc:2009/05/04(月) 00:17:18 ID:RW1ozSEI0
以上です。
規制中なのでこちらに落としました。
何かありましたらお願いします。

124 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 14:57:09 ID:RW1ozSEI0
>>117差し替え
「……そんなこと……できるはずがないよ。君は騙されているんだ」
きわめて冷静に、言葉を紡ぐ。
カノンからすれば、それは当然の回答だった。
しかし、剛力番長はそれを否定する。
「いいえ、彼は言いました。できる、と。その証拠に、彼は何もない場所から、人型を作り出したのですよ!彼は、不思議な力を持っている!」
本当は、土を対価として、なのだが、等価交換を知らない剛力番長からすれば無から作り上げたように見えても仕方あるまい。
「……手品の類じゃないのかい?君は気付いていないだけで、そこには何かトリックがあるかもしれな……」

「……っ!?」
その刃が、自らのすぐ横にまで迫っていた。
先ほどよりも、更に早い。
常に冷静なカノンとて、一瞬ひやりとしても仕方ないことだろう。
……もしあれを買わせていなければ、きっと今ごと自分は五体満足ではなかっただろうから。
「……貴方が私の言葉を信じないのは構いませんが……どちらにせよ死ぬのならば、納得して死んでいただきたいのです。……貴方は私の正義のために死ぬのだと」

―――何が、正義だ。
少女の言葉に、カノンは言葉にならない苛立ちを覚えていた。
人を殺すことが正義?
この少女は、いつまでそんな戯言をほざくのか。

「……それが、正義?……笑わせるないでくれ」
気づけば。
そんな言葉が、カノンの口から零れ出ていた。
全身が痛む。直接の攻撃を受けたわけではないのだが、それでもあれだけの攻撃を受けて無傷であるはずがない。
「……な、貴方……これ以上私の正義を愚弄すると……」
「何が正義だ……君は知らないからそんなことが言えるんだ。
全ての人間を生き返らせるだって?本当にそれが幸せだと思うのか?
『死んでいた方がいい人間もいる』、それくらい君だって分かるだろう!?」
思わず、語気が荒くなる。

―――そう、例えば。
―――生きていても、人を殺す道しか進めない人間ならどうなる?
―――そんな人間に、生きている価値があるというのか?

「……!?」
少女の顔が、歪んだ。
心当たりがあるとでも、言いたげに。
「君は『悪』もろとも蘇らせるつもりなのか?それで正義と言えるのかい?」
「……そ、そんなこと……死んだ方がいい人間なんて……」
「いない?そう思うかい?じゃあもし、存在するとしたら?このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?」

「……君の行為は、『正義』じゃない―――ただの『エゴ』だ」
それは、まるで自分に呟くように。
そっと、カノンは麻酔銃を抜き取り―――
「……ち、ちが、違います……私は……私は『正義』を……!」
じり、と自分から一歩後ずさる少女に向け、光の速度で引き金を引いた。
それは少女の右胸を貫き―――少女は、そのまま声もあげずに倒れ込んだ。

125 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:03:15 ID:RW1ozSEI0
>>118



「……っ……はあ……」
カノンは、草叢に倒れ伏した少女を見、大きく息を吐いた。
何とか、なったのか?
とりあえず、殺さずに済んだ。
さすがに少女が並外れた力を持っているとはいえ、麻酔は効くようだ。
すぐにでも立ち去っても良かったが、しかしカノンはそうしなかった。
その理由は―――

―――くそ……思ったより怪我の状態がよくないな……。

それは、少女に負わされた傷のため。
その瞬間は大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、思った以上に事態は深刻かもしれない。
多少の怪我とて侮ってはいけない。そのわずかな隙が命取りになることはよく分かっている。
少女は決してドラゴンころしのみで戦っていたわけではないのだから。
……恐らくは、疲労もあるのだろう。常なら、ここまで吐き気と似た気分の悪さを催しはしない。
軽い治療しようにも、ふさわしい道具が何一つない。武器は麻酔銃と盾、基本支給品は食べ物とランタン、地図と何も書かれていない白紙の紙。
このままの状態でも今はまだ、いい。しかし再び彼女のような強者と出会ってしまった時に、逃げることも難しくなる。
ましてや―――ブレードチルドレンを殺すのも。
彼らの実力をかい被るつもりはない。もっとも、自分の方が彼らより強い自覚も自負もあるが、100%などとは思えない。体調が万全でないなら尚更だ。
であるから。

―――彼女は、何か道具を持っているかもしれないな。

わずかな可能性かもしれないが、見てみる価値はある。
そして可能なら、少女の武器・ドラゴンころしも奪っておきたい。
あれだけの代物―――おそらく、人の首など一振りで落とせるだろう。
少なくとも麻酔銃よりは役に立つだろう―――持てるのならば、だが。
いくら武器の扱いにおいては天才的なカノンとて根本的な武器の重さはどうにもならない。……まともに持つことで精一杯だろうが。
しかし、それでも持っておいて悪いことはないはずだ。
仕組みはよく分からないが、このディパックは入れたものの重さを感じない作りになっているようだ。
この中に入れておいて非常時にいつでも取り出せるようにすればいい。
……この武器では、ブレードチルドレンを殺すこともできやしない。

「……」
彼女が起きないことを確認して、カノンはそっと彼女に近づいた。
そして、その支給品を確認しようとし―――

ここで、たった一つ、イレギュラーが存在していた。
彼の銃撃の腕は完璧だった。
外してなどいない。支給品の説明に嘘が書いてあった訳でもない。麻酔銃の威力は理解しているし躊躇いも手抜きもしていない。
問題など、何一つなかった。―――カノンの方には。
完璧で、本人もそれを理解していたが故に、気付かなかった。
問題だったのは―――

「…………な、」

―――針の莚に落下しても死なない剛力番長に、『銃弾など効くはずがない』という、その事実だった。

本能が、一瞬にして全身を駆け巡る。
コンマ0.000数秒の間に、カノンの脳に警告を鳴らした。

―――殺される、と。

「……っあああああああああああああああああああああああ!」

それは、幸運だったのか。
不幸だったのか。
少女は、叫び声を上げ、ただがむしゃらにドラゴンころしを振るい。
カノンは、それに研ぎ澄まされた『経験』で気づき。

そして。
攻撃行動と退避行動が同時に行われた結果。
残ったのは―――



轟音が、鳴り響く。
それを知覚したのは、誰か。

少女の剣が、男の首を切り飛ばそうと刃物を振るい。
男は、それを並外れた直感で回避しようとした。

その瞬間。
それと―――全く同じタイミングで。

『土』が―――隆起した。
それは人間の握りこぶしの形に変わり、そして。

武器を握る少女の体を―――その大剣ごと弾き飛ばした。

126 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:07:09 ID:RW1ozSEI0
>>119



「……っ……く…………」
数十分後。
森の中を、一人の人物が歩いている。
「……!」
がくり、と。
その影は、膝を折って草むらに崩れ落ちた。
「……なんだ……これは……どういうことなんだ……」
影―――カノン・ヒルベルトは、常の冷静さを欠いた、青ざめた顔で呟いた。
確かに、体調もすぐれなければ、疲労もたまっている。しかし、そんなことではない。
それが、彼に暗い影を落としている理由になどなりえるはずがない。
このくらいの怪我で追い詰められるほど、彼は柔ではない。
カノンが絶望しているのは、その事実ではなく。

「…………本当に……本当に彼女の言っていたように……人間を蘇らせる術があるなら……それなら……」
「それなら……僕は何のためにこんなことを……」
自分の前に突きつけられた、『前提』を根本から覆す現実だった。

もはや、否定などできない。
この場には、人間の領域を超えた連中がいるのだということを。
少女はまともな人間では扱えそうもない剣を平然と振り回し、銃をもろともせず―――明らかに人間とは思えない戦いをしてきた。
そしてこの目でしかと見た―――鎧の男が、数秒にも満たない時間で土の物体を作りだしたその瞬間を。
ドイツ人と日本人のクオーターであるカノンは、外国の書物はほとんどと言っていいほど読みこなしている。
(錬金術……か……?)
そしてその中には、先ほどの現象を思い起こさせる知識も存在していた。
しかし、それにしても、『あれ』は錬金術と呼ぶには化け物的すぎる。
錬金術、賢者の石、ホムンクルス―――あんなのは書籍上、伝説上の産物にすぎない。現実に、しかも現代に存在する証拠とするには弱いだろう。
確かなのは、『自分の目の前で、人間には到底できると思えぬ光景が繰り広げられたこと』、それだけだ。
今思えば―――公明もそうでなかったのか、とすら思える。彼の纏うオーラは、明らかにただの戦闘狂とは一線を画していた。

これも、清隆の仕業だというのか?
これが、『運命』だというのか?
例え清隆であっても、死者を蘇らせることなど、できるはずがない。そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
火澄は死んだ。清隆が言っていた運命は、たやすく覆された。
あの男は―――化け物なのか?
まさか、そんなことはない。いくら清隆でも、そこまでは―――

『本当に、そうか?』
本当にそうなのか?
清隆でもそこまでは不可能だと―――言えるのか?
あの、現実的に起こりえない光景を目の当たりにしてからも?
ブレード・チルドレンだとか、ミズシロ・ヤイバだとか、そんな次元でない、何かだと言う可能性は?

そして、もし本当に人が生き返るのだとしたら。
清隆が本当に、そんなことができるなら?
いや、本人がする必要はない。そのようなことのできる『何か』を、清隆が手中に入れていたとすれば。
ここで自分がブレードチルドレンを殺して―――『何になる?』
ここで、だけではない。自分が殺したアイズも、全て。
全て、何の意味もないのだとしたら。
この『殺し合い』のゲーム自体に、初めから『勝利』などないのだとすれば。

―――自らの『覚悟』は、はじめから無意味なものだったとしたら。

運命は、覆される。

「……そんな……馬鹿なことが……!」
ただの、少女の虚言?
動揺の仕方からして、とてもそうは思えなかった。
それにあの少女は、自分の目的のためには手段を選ばないタイプだった。真っ直ぐで、頑固な―――どこか自分とも通じる信念の持ち主だ。
彼女はきっと、その『正義』を曲げることを許さないだろう。
自分が、病的だと言われようと『ブレードチルドレン以外の不殺』を心がけているように。

かつて、とある国家錬金術師は、とある女にこう説いた。
『翼』を持った人間は、太陽にその翼を焼かれて死んでしまうのだ、と。

それでは。
「……あって、……あってたまるか……っ!」
『片翼』になってしまった『呪われた子供』は、太陽から身を焼かれてしまうのだろうか?

【H-6/道路/1日目 黎明】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康、混乱(大)、疲労(大)、全身にかすり傷
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×17、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
1:僕は―――
2:歩を捜す
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?

※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。

127 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:09:19 ID:RW1ozSEI0
>>120



……油断、しましたわ―――
剛力番長は、強烈な眠気に襲われながら、先ほどの行動を反省する。
自分は動揺して―――あの男に隙を見せてしまった。
その結果がこれだ。……確かに剛力番長の体は丈夫だし、銃弾ごときで倒れはしない。
しかし、―――それは麻酔銃が効かないこととは別問題だ。もしかすると、これも制限によるものなのかもしれないが。
今眠ってしまったら殺されるかもしれない―――その精神力で、剛力番長はインドゾウさえ三秒で眠りに落ちる麻酔に耐えたのだ。
あの少年を殺すことはできなかったのが残念だが―――焦る必要はない。
最終的にキンブリーが優勝できればいいのだ。まだ、時間はある。
あの少年が天才的ともいえる銃の腕前の持ち主なのはすぐに分かった。だから剛力番長は、銃弾が当たって眠ったふりをしたのだ。

―――私の正義は……私の我儘だと……?

ずきり、と頭痛がする。
意識が、呑まれる。

―――違います、私は、私の正義は―――

(このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?)

剛力番長は、確かに『正義』のためなら何でも行ってきた。
諸悪の根源はすべて叩きつぶし、笑顔と共にその『正義』を行使してきた。
しかし、彼女は、人を殺したいと思ったことなどなかった。
たとえ悪人であっても、人を殺すことは正義ではない。
邪魔をする人間には、自分の『正義』を分からせてやればいいだけだ。そう思ってきた。

だから、考えたこともなかった。
生きているだけで、『悪』である人間がいるなんて。

本当に、彼の言った通りだとしたらどうだろう。
人を殺して回るような人間は、『悪』だ。
それは今更問わずとも分かっている。正義の名のもとに粛清しなければならない。
そして、その人間に加担するものも悪。当然だ。
……だとすれば。
自分が、その『悪』を生き返らせてしまったら。
それは、自分が『悪』だと言えるのではないだろうか?

悪と善を判別して生き返らせてもらえばいい?
そんなことができるのか?
人のよさそうな外見でも、『悪』を振るうものは数多くいる。
分かるはずがない。

―――そんな、私は―――
ただ、正義のために。
正義のために、人を殺して、生き返らせようとして―――

彼女の思考は、そこまでで。
剛力番長は、糸の切れた人形のように―――意識を失った。

128 ◆H4jd5a/JUc:2009/05/05(火) 15:10:17 ID:RW1ozSEI0
あと状態表をミスしてたので修正です。

【I-6/道路/1日目 黎明】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み、武器ではない)、 ドラゴンころし@ベルセルク
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
0:仲間を探しながらひとまずこの子を保護する
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:精神的疲労(中) 、睡眠中、アルの鎧の中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
0:(睡眠中)
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……?でも……
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。

129 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:07:48 ID:cAo9lDdA0
深夜の市街地を一人の少女がただ只管に駆ける。
自分が頼れる仲間達を求め、当ても無く……。

「…って、私は何処に向かうつもりなのよ!!」

少女の突っ込みが虚しく木霊する。
自分がどこに向かうのかも決めてなかった事、そしてこの舞台がどんな所であるか確認してなかった事に気付き、デイパックから地図を取り出そうとする。
ガサゴソとディパックを漁ると、まず出て来たのは白紙の名簿。
今は別に気にする必要も無いと思い、地図を探す為に脇にどけようとして思いとどまる。
これが神様を決める戦いの延長だとしたら、そもそも名簿を何故白紙にする必要があるのか?
三次選考でバロウチームとの戦いが終わった今、自分のチーム以外の20人の顔と名前と能力は既に把握済み。

(…あれ、そういや李崩の能力ってなんだっけ?)

訂正、一名の能力以外把握済み。
そんな現状で、名簿を白紙にする意味は?
まず考えられるのは、チーム全員が参加している訳じゃ無い。
……これはどうなんだろうか、確かにあり得るが特に意味のないような。
そうなると、もともと一人しかいないアノンと李崩は強制参加になる上、最悪…

(下手すると、植木チームからの参加って私一人だけ可能性もあり?)

最悪の展開を予想して、森の顔は真っ青になった。
孤立無援で死亡、そんな未来がありありと想像できてしまう。

「い、いいい、いくらなんでもそんな事はありえないよね」

ブルブルと首を横に振り虚勢を張るが、明らかにその声は震えていた。
その予想を覆すべく、何か他の理由が無いか必死で知恵を巡らせる。

(―っ、そうだ、名前)

この殺し合いの説明の時に殺されてしまった人の名前、麻子とミズシロの二つ。
三次選考の中にこの二つの名前と、同じ名前の人物はいなかった。
つまりそれは、一次選考での脱落者もしくはこの殺し合いで新たに参加する事になった能力者がいる、それを気付かせない為に名簿が白紙になっている。
それだ! とばかりに森の顔が綻ぶ。
始めの考察が最悪過ぎた為に、十分に納得できる次の考察を確定事項にしてしまう森。
最も両方とも正しくないのだが、そんな事森が知る由も無かった。

名簿の考察が一段落つくと、ディパックの中を漁り地図を見つけ出す
まずは自分の現在位置を確認する。
自分が居るのはI−6とI−7の境目辺りだろうか、近くにはデパートがある。

130 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:08:37 ID:cAo9lDdA0
「佐野や鈴子ちゃんなら、ここに向かってくるかもしれないよね」

神様を決める戦いに選ばれた中学生、彼らに与えられた異能『変える能力』。
何かを何かに変えるであるのなら、元になる物が必要になるのは当然の事。
最も、中にはヒデヨシの声を似顔絵に変える能力の様に、自前で直に用意できる物もあるが。
だが鈴子のビーズを爆弾に変える能力も、佐野の手ぬぐいを鉄に変える能力もそうはいかない。
後者の場合は民家を何件か漁れば、それなりの量の手ぬぐいを確保できるだろう。
しかし前者であるビーズは、流石に民家にあるとは限らない。
だがデパートならば確実にある。
ビーズや手ぬぐいがそれぞれに支給されているどうか分からない。
なら、デパートの近くに居る自分がある程度確保しておけば、合流した時に皆の戦力もぐっと上がるはず。
そう考えて森は気がついた、そういや自分には何が支給されたんだろう? と。
そう考えてディパックを漁った所、出て来たのは棒状の物体。
武器には見えなくもない……、それなりにリーチがある事から剣の代わりに出来そうだ。
元々殺し合いに乗るつもりのない森にすれば、日本刀が出てくるよりはましであった。
これならばよほど当たり所が悪くないかぎり、相手を殺してしまう事は無いから。

「よしっ、これなら一応私でも戦え……ないよねやっぱり」

相手がただの一般人なら、当たりではないものの外れでもない支給品だろう。
だが、相手が天界人や能力者などの常識を逸した存在では、ただの棒では話にならない。
そこで森は、自分の握っている棒状のものに張り付けてある、一枚の紙に気がついた。
何だろうと思い、手を伸ばそうとして……

「もしかして、そこにいるのは森か?」

声をかけられ振り向くと、そこには自分の探していた人物の一人、植木耕介が立っていた。



「―にしてもまずいなこの果物」

もしゃもしゃと果物らしきものを食べながら歩く少年の名は、植木耕介。
神様を決めるバトルの際、最も成長した人物として空白の才を貰い。
そこに『再会』をかき込み、再会の才を手に入れた少年。

それから約二年後、人間界において繁華街の人間により、人間界の人々の大切な人の記憶が入った、『キューブ』と呼ばれる物が盗まれると言う事件が発生した。
キューブ自体は、自称『犬』である羊のウールの中に封印され、元に戻すには繁華街の唯一絶対の聖地メガサイトと呼ばれる場所へ行く必要があった。
繁華街と言っても、パッと頭に思い浮かぶような繁華街の事ではない。

131 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:11:37 ID:cAo9lDdA0
植木の住む世界、それは人間界・天界・地獄界からなる三界。
それとは元々は一つであったが、遥か昔に三界とは別の道を辿る事になってしまった、『パラレルワールド』である―繁華街。
この二つの世界で構成されていた。
そのパラレルワールドの繁華街に向かう必要があったのだ。

自分の親友達が次々と自分の記憶を忘れて行く中、ただ一人記憶を奪われなかったのが植木であった。
彼の持つ『再会の才』、それは別れた物を再び繋ぐ強力な“出会いの才能”。
それ故記憶を奪われなかった植木は、植木を新たな主人と定めたウールの導きにより仲間達のキューブを取り返すべく繁華街へ向かう。

繁華街の人口の約3/4は能力者である。
繁華街に着いて直に、ミリーという見も知らずの少女を助ける為に能力者と相対した植木だが、手も足も出なかった。
その場はウールのアシストも有り、何とか逃げる事に成功した。
だが変える能力はおろか、天界力を失い神器を使えなくなった植木は、その能力者の前にあまりにも無力だった。
ある特定の道具に特定の効果を付与する『加える能力』である職能力。
植木は職能力の必要性を痛感し、苦難の末に見事職能力を手にする事が出来た。
その後ハイジやソラ、ナガラといった新しい仲間。
彼らの協力もあり決選の場・メガサイトにおいて、人間界で記憶を奪うように指示した人物・プラスからキューブを奪い返す事が出来た。

だがそこで問題が発生した。
プラスはキューブを初期化してそこに『自分のイメージ』を入れる事で、人間界の人間とって唯一自分自身が『大事な人間』となろうとした。
その為にメガサイトでキューブを解放したのだが、それがいけなった。
キューブは人間界で開放しなければならなかった、メガサイトで開放してしまって人間界に持っていけない。

そんな中、ウールから一つの打開案が出される、それは三界と繁華街を再び一つにする事。
その為には、強力な出会いの才能を持つ植木が、100年間メガサイトで二つの世界を繋ぎ留めなくてはならなかった。
植木の性格を知っている者ならば、その後の結末は簡単に想像できるだろう。
植木はメガサイトに残り、100年の時を過ごし二つの世界を一つにしたのだった。

メガサイトで100年の時を過ごした植木、その姿は年老いて見る影も無い……等と言う事は全くなかった。
メガサイト内では全然老けない、お腹もすかない、だからボーとしていたら100年経ったと言うのは本人の談だ。
さらに言えば、繁華街と人間界では100倍の時間差がある、つまりメガサイトでの100年は繁華街と融合した人間界において、一年の時しか経っていなかったのだ。

人間界の時間で一年後、植木は仲間達と再会する――筈だった。
だが植木が人間界に戻った直後、彼はこの殺し合いに連れてこられてしまう。

132 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:12:58 ID:cAo9lDdA0
ならばこの植木と言う少年、元の場所に戻る為殺し合いに乗るような人物であろうか?
それはありえない。
道路に飛び出した子供を助けて車に轢かれ、悪質な借金とりに絡まれた少女を身を呈して助ける。
自分の身を呈して人を助ける。
幼い頃ビルの屋上のヘリから足を滑らせた時、墜落死しかけた自分を救ってくれた恩師がいた。
その恩師の様に、他人の為に身を投げだせる人でありたいと。
そう志して行動してきた、そんな彼が殺し合いに乗る筈も無い。
ましてや自分の仲間達がいるかもしれない現状でだ。
この殺し合いを止め為まずは自分の仲間達を探すべく、人の集まりそうな市街地を進んでいた。

(いくらハイジやソラ達に職能力があるからって、道具を取られてたらやばいだろうし。
 ミリーや今の佐野達は能力自体がねぇし、早く合流しないとあいつらがあぶねぇ。
上手い事、俺みたいに変な力を持ったアイテムが支給されてればいいんだが)

植木の職能力、モップに『掴』を加える能力。
その職能力で使う道具は、普段右手の道具紋の中に納められているのだが、その道具紋の中にモップは無かった。
そんこで植木が初めに目指したのはデパート、自分の職能力に必要なモップ。
他に仲間が必要とするであろう、洗濯機、砂時計、ハンバーガー等を手に入れるためだ。
偶然にも、森と同じ様に仲間が必要とする物を求め、デパートにむかっていた。

支給品の一つである果物を食べながらデパートに向かう途中、前方にどこか見た事ある様な後姿を見つけた。
植木は即座に声をかけた。

「もしかして、そこにいるのは森か?」
「植…木?」

その声に反応する様に目の前の人物が振り返る。
どこか戸惑った様な声で返事をした少女、それは植木が予想したとおり森あいであった。
だが、

(…あれ?)

その森の姿に植木は微妙な違和感を感じた、何というかこう何か微妙に小さいと言うか幼いと言うか。
実際に森は、植木がメガサイトで別れた時から約二年前の時間軸から連れてこられている、少々幼く見えるのは当たり前だ。
だが植木にとっては100年ぶりの再会、森の姿が最後に見たものより少々若返っている事に気がつかなくても、誰も責められはしまい。
しかもそんな些細な違和感など、森と無事に会えた安心感と嬉しさにあっと言う間に押し流されていった。

133 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:14:11 ID:cAo9lDdA0
「よかった、無事だった…」
「そんな始まって早々、訳も分からないまま死ねるか!!」

どこか懐かしいやり取りに、植木の表情が綻ぶ。
だが、直に真剣な顔つきに戻る。

「…それは兎も角、大変な事になっちゃったね。やっぱ神様を決める戦いと何か関係があるのかな?」
「ああ三年前のアレか、……けどな、犬丸がこんな事をするとは思えんが」
「え、三年…前? 犬丸?」
「ん? 三年前だろ、俺達今高一であん時は中一だったから、うん三年前だ。それに新しい神様決める時は、全員一致で犬丸だったじゃねえか」

植木からすれば正確には百二年前なのだが、それはこの際置いておく。
植木は話を続ける、すぐ傍にいる森の表情がどんどん険しくなっていくのに気付かずに。

「いくら佐野や鈴子でももう能力がねぇからかなり危険な筈だ。早く合流しねぇと」
「あんたは…神器があるか」
「神器? 神器はアノンとの決戦で天界力を殆ど使いきっちまったから、使えねぇぞ?」
「じゃあ、あんたも能力なしなんじゃ……」
「いや俺には職能力がある、森もメガサイトで見たろ」

植木と森の間には、連れてこられた時間軸の違いによる時間差がある。
故に森が知らない事を、植木は森も知っている様に語る。
だがそれは仕方のない事、植木の認識ではその事も森は知っているのだから。
そして今その認識の違いから、隣にいる森に自分がどれ程不信感を増大させているか植木は気が付いていない。

「佐野や鈴子、ヒデヨシ以外にも、ハイジやソラ、ナガラが居ればきっと力を貸してくれる。……プラスは微妙だな」
「誰よ……それ……」
「おいおいどうしたんだよ森、ハイジやソラ達ならお前もメガサイトであって……森?」

そこでようやく植木は気がついた、森がどんな顔で自分を見ているのか。
恐怖に怯えながらも明確に敵意の混じった、そんな表情で自分を見ている事に。
その森の口から、震える口調で紡がれる

「あんた……誰よ?」



「もしかして、そこにいるのは森か?」

聞き覚えのあるその声に反応して、森はとっさに振り返る。
そこに居るのは自分の探していた仲間の一人・植木耕介……だと思うのだが何か違和感がある。
微妙に背が伸びているような、逞しくなっているような、些細だけど見逃せない違和感。

「植…木?」

134 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:17:33 ID:cAo9lDdA0
だから自然と言葉が疑問形になる。
はっきり植木だとは断定できない。
それが森には何となくもどかしい。
しかし

「よかった、無事だった…」
「そんな始まって早々、訳も分からないまま死ねるか!!」

そう言った植木と思われる人物の本当に安心した顔に、とりあえず森は警戒心を和らげる。

「…それは兎も角、大変な事になっちゃったね。やっぱ神様を決める戦いと何か関係があるのかな?」
「ああ三年前のアレか、……けどな、犬丸がこんな事をするとは思えんが」

とりあえず目の前の人物を植木と仮定して、森は自分の考えを聞いて見た。
植木があまり考察に向いてないのは分かっているが、植木自身がどう考えているのかも確かめるついでに尋ねてみた。
だが帰ってきた答えは、完全に森の予想外の物だった。

「え、三年…前? 犬丸?」
「ん? 三年前だろ、俺達今高一であん時は中一だったから、うん三年前だ。それに新しい神様決める時は、全員一致で犬丸だったじゃねえか」

神様を決める戦いが、三年前に終わっている?
そんな馬鹿な……あり得ないわ、私はついさっきまでバロウチームと戦っていたのよ。
いつの間にか終わっていたとしても、三年前だと言う事はあり得ない。
それに私は中一だ、高一じゃ無い。
とりあえず三年前の事は置いておくとしても、新しい神様が犬丸? 全員一致で決まった? 嘘だそんなはずは無い。
確かにコバセンより犬丸の方が神様になった方が良いけど、私はそんなの投票した覚えが無い。

「いくら佐野や鈴子でももう能力がねぇからかなり危険な筈だ。早く合流しねぇと」

三年前かどうかはおいとくとしても、バトルが終わっただから能力はもう使えない。
盲点だ、あの戦いに関係ないのならそれもありなのだろうか。
だがそうすると目の前の植木も……

「あんたは…神器があるか」
「神器? 神器はアノンとの決戦で天界力を殆ど使いきっちまったから、使えねぇぞ?」

そういや、植木には能力とは関係なしに神器が……って、えええぇぇぇぇ!!
なによ神器が使えないって、天界力を使い切った? 何時・どこで?
そもそもいつの間にアノンと戦ってんのよ、バロウチームとの戦いの後から今までの間に、そんな時間なんてなかったはずよ。
あれ? でもだとしたら……

135 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:21:22 ID:cAo9lDdA0
「じゃあ、あんたも能力なしなんじゃ……」
「いや俺には職能力がある、森もメガサイトで見たろ」

職能力・メガサイト…私の知らない単語。
こいつはいったい何の事を言っているの。
わからない、そもそもこいつは本当に植木?
たまたま同じ名字の、そっくりさんとか言うオチじゃないよね?

「佐野や鈴子、ヒデヨシ以外にも、ハイジやソラ、ナガラが居ればきっと力を貸してくれる。……プラスは微妙だな」
「誰よ……それ……」

また私の知らない単語、ううん名前よね。
ハイジやソラ、ナガラって誰よ? あとプラス。
知らない、私そんな人達見た事も会った事も無いよ。
ねぇ、貴方は誰?
貴方は私の知っている植木?
それとも貴方がモリって私のそっくりさんと、勘違いしているだけなの?

小さな疑念が積み重なり、目の前の人物を森は植木と認められなくなっていく。
目の前の人物は間違いなく、植木耕介であり目の前人物が言う森は彼女自身である。
だが時間軸の差による、情報の違いから相手の事が他人に思えてしまうのだ。

「おいおいどうしたんだよ森、ハイジやソラ達ならお前もメガサイトであって……森?」

分からない、けど少なくともこいつは植木ではない事は確かだ。
あまりにも言ってる事がめちゃくちゃだし、話がかみ合わない。
もしかして、こいつ能力で姿だけ植木に変えているとか?
さしずめ、自分の姿を他人に変える能力かしら。
前の戦いでは全く役に立ちそうにないけど、今みたいな戦いならある意味かなり脅威よね。
チームを内部崩壊させたり、悪評ばら撒いたりと、色々やりようがあるわ。
そっか、じゃあ神器が使えないと言う話は、自分が植木ではない事をばれない様にする作り話。
天界人じゃ無かったら神器が使えないから、戦闘で神器を使わなかったら凄く怪しくなる。
けど、前もって使えないと理由を添えて離しておけば、それほど怪しまれなくなる。
つまり、こいつは植木になり済まして、何かする気でいるんだ。
戦闘力自体は無いんだろうけど、仲間と思って油断している所を後ろからナイフとかで刺せば、弱くても佐野や鈴子ちゃん達を十分に殺せる。

……させない、そんな事絶対に。

もし森がもっと落ち着いていたなら、いや殺し合いと言う状況でなければ、もっとしっかり話し合う事で、目の前の植木の疑惑を晴らす事が出来ただろう。

だが、下手に特殊な状況下に離れしてしまっていた事が。
互いの持つ情報に齟齬があった事が。
そこから目の前の人物に不信感を抱いてしまった事が。
間違った考察をしていた事が。
森に仲間を守る為に体を張る勇気があった事が。

幾つもの要因が重なり、二人の道は違えてしまった。

「あんた……誰よ?」

136 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:24:01 ID:cAo9lDdA0
一方植木は、先程に森の指摘に答えが出せぬままだった。
だが、理由は分からないが森と自分の間には、何か致命的な齟齬があるのを感じ取っていた。
そのせいで、自分は誤解されているのだと。
とりあえず森を何とか落ち着かせて、誤解を解こう。
そう思いながら、迫りくる棒状の物をよけようとした。
森を抑え込むために、ギリギリで。

ここで二人にとって共通の誤算が発生した。
森の振るう棒は、ただの棒では無かった事。
青雲剣、かつて魔家四将の一人、魔礼青が使用していた宝貝。
その能力は複数の斬撃を発生させる事。

ギリギリでかわすつもりであった植木は、斬撃が分裂した事に虚を突かれ一瞬回避が遅れた。
そして剣を途中で止める等と言う芸当ができるはずも無く、悲鳴を上げ何とか棒を植木から逸らせようとする森。
だが植木はその斬撃をかわし切れずに――

次の瞬間、宙に大量の紅が舞った。



寒い。
植木が感じたのは、まるで体中の熱が奪われていくような、そんな寒さだった。
傷口からはとめどなく血が噴き出し、目の前の森を赤く染める。
目が霞み、体中の力が抜けていく。

(やべぇな)

森は顔を真っ青にしながら、カチカチと歯を鳴らしながら震える。
何で? ただの棒じゃ無かったの? 等、聞き逃してしてしまいそうな小さな声で、ブツブツと呟いている。
きっと、支給品の効果を確認してなかったのだろうと、植木はひどく落ち着いて考えていた。
森が人を殺して平然としていられる性格でない事を、植木は知っている。
もしこのままにしておけば、ショックで混乱したまま、この殺し合いの舞台を彷徨いかねない。

「森……俺の…事は気…にするな。……大丈…夫……死には……しな……い」

だから植木は森に微笑みかける、残っている力を振り絞って。
落ち着く様に、安心する様に、自分は大丈夫だと言う確信持ちながら。
次に目を開けた時にも森はまだそこにいて、今度こそ誤解を解こうと。
そう願いながら、植木の意識は深い深い闇の中に落ち、心臓はその鼓動を止めた。
植木は死ぬその瞬間まで、自分より他人の事を優先した。

【植木耕介@うえきの法則 死亡確認】

137名無しさん:2009/05/05(火) 22:25:31 ID:cAo9lDdA0
【I-7 北西/市街地/1日目 深夜】
【森あい@うえきの法則】
[状態]:健康 混乱 血まみれ
[装備]:血濡れの眼鏡(頭に乗っています)
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1
[思考・備考]
基本:植木チームのみんなを探し、この戦いを止める。
0:私……植木を殺しちゃった!?
1:とにかくこの場から去りたい。
2:とりあえずみんなを探す。
3:できれば「1st」も探してみる。
4:能力を使わない(というより使えない)。
5:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、もしかしたら本当かもしれないと思いました。

138 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:26:25 ID:cAo9lDdA0


森が立ち去ってから数分後。

血溜まりの中に倒れ伏す少年。
彼の体は確実に生命活動を停止していた。
だがいかな奇跡か、その心臓は再び生命活動を開始した。

【植木耕介@うえきの法則 蘇生確認】

「すげぇな、本当に生き返った……」

植木が蘇生した理由、それは彼が食べた支給品・ヨミヨミの実の効果によるものである。
ヨミヨミの実、それは死後に一度だけ復活を約束された悪魔の実である。
そのヨミヨミの実の力で、植木は蘇生したのだ。
最も、その実の能力も制限により首輪が爆発した場合と、首を切断された場合には効果を発揮しない様にされていたが。
だからあの時、植木の首が切断されていたなら、植木はそのまま死んでいただろう。
幸い、青雲剣の斬撃は首を切断するまでには至らなかった。

そもそもヨミヨミの実は、残機が一つ増えるだけで何か特殊な力を得る事もなく、カナヅチになると言う変わった実だ。
普通ならあまり食べたくは無いが、植木は迷わずに食した。

植木は自分の性格をよく分かっている。

『何が他人の為だ、お前の身勝手な考え、他人に押し付けるな!!』
『死ぬな!! あんたの考えてるコトくらい……見え見えなんだから…!!』
『いつもいつも…自分一人で何とかしようとするな!!』
『みんなが助かればそれでいいとかそんなの…いい加減にしろバカヤローーー!!』
『一人で駄目なら私だっている!! みんなだっている!! あんたはひとりじゃない!!』


『だから…だから消えないでよ…』

かつて植木が森に言われた台詞、それらが植木の性格を物語っている。
自分が仲間の命を守る為なら、どんな無茶だって平気な事を。
どんなに止められても、それを聞かない事を。
そして、それが直せと言われても直らない事を。

その結果仲間を悲しませる事になる事も。

だが、それでも植木は無茶をする事を止めはしないだろう。
何よりも仲間を守りたいから。
それ故、無茶をして死んだとしても一度だけ生き返れるこの実は、植木にとって当たりだった。
例え代償に一生カナヅチになっても、そんな事は些細な事なのだ。

首の傷はとりあえず塞がってはいた、蘇生した時に一緒に塞がったのだろうか?
だが、傷のあった辺りが激しく痛む事から、完全に治った訳ではない事を物語る。

辺りを見回すが森はいない。
おそらくこの場を立ち去ってしまったのだろう。
森が持っていた支給品が落ちている。
自分の身を守れる武器を放り出しているから、おそらく酷く混乱しているのだろう。
すぐに追いかけねば。
幸い方向だけは、血で出来た足跡のおかげで分かる。
もっとも、途中で方向転嫁されればおしまいだが。

139名無しさん:2009/05/05(火) 22:28:30 ID:cAo9lDdA0
植木は青雲剣を拾いながら立ち上がり、そのまま駆け出そうとする。
だが体はふらつき力は入らず、思うように歩く事さえままならない。
それもその筈、首の傷は塞がりはしたが、失われた血は戻っていないのだ。
悪魔の実の力故か、意識はあるものの本来なら絶対安静なのだ。
走る何てもってのほかだ。

「……くそっ、血が足りねぇ」

それでも植木は、青雲剣を杖の代わりにして進む。
今にも倒れそうな足取りで、ゆっくりとだが一歩ずつ。
だがその足取りは、確実に森が去った方向に向かっていた。

【I-6 北東/市街地/1日目 深夜】
【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:極めて重度の貧血、カナズチ化
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1、青雲剣
[思考・備考]
基本:佐野やハイジ達の仲間と共にこの戦いを止める。
1:森を追いかける。
2:血が足りねぇ。
3:森と話が合わない、何でだ?
4:モップが欲しい。
※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

【青雲剣@封神演義】
魔家四将の一人、魔礼青が使用する宝貝。
複数の斬撃を発生させる魔剣。

【ヨミヨミの実@ワンピース】
悪魔の実の一つ、一度死んだ後に生き返る事が約束されている。ただし制限の為、首輪の爆発で死んだ場合と、首を切断した場合は効果が無い。原作ではブルックがその能力者。

140 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:34:36 ID:cAo9lDdA0
すいません、誤爆した為に一部抜けてしまいた。
>>136>>137の間にこれが入ります。

熱い。
熱くて赤い何かが私の身を濡らしている。
この赤い液体は何? って、そんなの考えるまでも無い。
現実をしっかり見ろ、私の身に降りかかっているのは――血だ。
誰の? 目の前の植木の偽物のだ。
何で? 私の振るった棒から出た斬撃の一部が、相手の動脈を切り裂いたから。
治療は? って無駄かぁ、こんなにドバドバ血が溢れたんじゃねぇ、医療器具も無いんじゃお手上げだぁ。
つまりあなたは――そう、私は……人殺しだ。

ガチガチガチガチ
森には自分の歯が鳴る音がやけに大きく聞こえていた。
殺すつもりは無かった、そんな言葉はもはや言い訳にしかならないだろう。
手から滑り落ちた棒―青雲剣に目を向ける。

「何で? ただの棒じゃ無かったの?」

そんな事を問いかけても、返事は返ってくる事は無い。

「森……」

名前が呼ばれる、今にも消えてしまいそうな声で。
植木の偽物が自分を見つめている、血の気の失せた真っ青な顔で。
これから彼が発するであろう言葉に、森は恐怖する。
彼が断末魔に残すのは、恨みの言葉か憎しみの言葉か。
だが聞こえて来たのはどちらでも無かった。

「俺の…事は気…にするな。……大丈…夫……死には……しな……い」

そして微笑む、いつも自分を安心させる植木の笑顔で。


だからこそ、森の心を深く深く抉る。


何時も何時も自分の事より他人を優先する、そんな植木の笑顔がそこにはあった。
森は戦慄と共に気が付く、もしかしたら自分は取り返しのつかない事をしてしまったのではないか。
確かにこの男の話す事は信じられない事が多すぎる、だがもっと落ち着いてしっかり話し合えば納得した答えが出たのかもしれない。
そしたらこいつは本当に植木なのかもしれない。
だって、

自分が死ぬかもしれないのに、他人を優先して笑える大馬鹿なんて……植木以外居ないじゃ無いか。


「いやあああぁぁぁぁぁ!?」

森はディパックをひったくる様に掴むと、脇目を振らずその場から駆け出した。
植木を殺したかもしれないと言う恐怖に駆られ、今はただ一秒でも早くこの場から立ち去りたくて。
自分がどこに向かっているかもわからないまま、ただただ我武者羅に。

141 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/05(火) 22:37:19 ID:cAo9lDdA0
仮投下終了しました。

少々話の展開が強引かなと思いましたので、判断の方をお願いします。
また、そのた指摘や意見の方がありましたらお願いします。

142 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/05/06(水) 07:36:36 ID:E4vLzGPo0
さるさん喰らってしまいました。
どなたか残りの代理投下と次スレのテンプレをお願いします。

143 ◆JvezCBil8U:2009/05/08(金) 23:58:50 ID:UcGJK6AA0
規制中なのでこちらに太公望、ハヤテ、ミッドバレイ、ひよのを投下。
内容的な面で仮投下と言う意味合いもありますが……。
問題あるようならご指摘いただければ。

144地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/08(金) 23:59:48 ID:UcGJK6AA0
 
 
――――死体が二つ、転がっていた。


動揺することもなく、見慣れたものとばかりにその光景を彼女は冷静に判断する。

「……もう始まっていると、そういう事ですか」

結崎ひよの――今はこう呼称しよう――が博物館に足を踏み入れたとき。
既にそこには、肉塊が二つ、血の海に沈んでいるのが見えた。

広い、広い博物館。
雑多なモノの織り成す、知識と知恵を体現する文明の集積地。

あたかもその場の展示物であるかのように、動かぬ肉塊は実にその場に馴染んでいた。
ひとつは中心に位置する大ホールから、放射状に分岐する展示室に。
もうひとつはそこから離れて間もない外縁上のギャラリーに。
ちょうど――それぞれがお互いに視界に入る位置で。

鉄錆の香りと静寂が辺りを満たし、結崎ひよのは警戒しつつも展示室の死体に触れる。
触れながら、違和感がないか探り始める。

……一応体温は残っているが既に右手の脈はない。
何故右手かといえば、左手は胴体と泣き別れしているからだ。

展示室とホールをつなぐスペースは防火シャッターによって遮断されており、
向こう側のホールに左手を忘れてきてしまっているのは確認済みだ。

心臓は完全に停止しているし、瞳孔も開いたまま眼筋運動を仄めかす事もない。
彼女の見立てに間違いはなく、目の前の元・ヒトは自分が死体であることを主張するのに余念がないようである。

死因はおそらくは左腕の喪失での多量の出血による外傷性ショック。
その上でトドメとばかりに胸に一撃ブチ込まれている。
凶器は銃器。銃創から判断しておそらく38口径。

「――38口径? ……まさか」

いや、と首を振り、結崎ひよのは検証を進める。
憶測は後だ。今は事実確認を早々に終えなければこちらの身が危ない。
体温が残っている以上、犯行を終えてまだ間もない時間のはずだ。
下手人がまだ近くにいる可能性は少なくない。

「エグいですね。ご丁寧に足に鉛玉をプレゼントしてからシャッターを閉じ、逃走経路を潰したわけですか。
 ……この分だと、シャッターで腕がちょん切られてしまったのは偶然かもしれませんね」

展示室のもう一端、外縁部に近い場所から血の川がホール付近のこの位置まで続いている。
また、そちらの入り口付近にはシャッターの開閉装置が、樹脂製の保護カバーを破壊されてレバーを外気に曝しているのが見えた。

145地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:00:24 ID:UcGJK6AA0
先ほど脈を取った時に気づいたが、あらためて死体を見つめなおすと手に握ったままの道具がどうしても目に付く。

「携帯電話、ですか」

しっかり握り締めたままのその手の指をほぐそうとするも、なかなかに難儀する。
死後硬直はまだ始まっていないのだが、よほど強い力で握り締めていたようだ。
どうにか携帯電話から指を引き剥がして中を確認してみると。

「……ダイイングメッセージでしょうか?」

――ひとつの名前が、血に塗れたディスプレイに浮かび上がっていた。

結崎ひよのに答える声はない。
死者は何も語らない。

だが、だからこそ語るとしようか。
二つのイノチが二つの肉塊に変わるまでの顛末を。



********************



この博物館の構造は、二重円を想定すれば分かりやすい。

内側の円は大ホールだ。
正面入り口から入ればまず、ここに展示された巨大な模型群が出迎えてくれる。
このホールは一番上の階まで吹き抜けになっているため、各展示室とは比較にならない大きなものを飾ることが可能なのだ。
たとえば、そう――ミニチュア封神台とか。

そして外側の円はギャラリーになっている。
ここには絵画が展示されており、モチーフも技法も全部バラバラだが見る人が見れば気づくだろう。
これは、参加者たちの経験してきた様々な物語の1シーンを切り取ったものであると。
――崑崙十二仙が聞仲に手も足も出ず撃破される様が絵の一つに克明に描かれていた。

この2つの円を繋ぐように、内側の円から放射状に伸びているのが各展示室である。
各階を移動するには大ホールに設置されたエレベーターと、ギャラリーに設置された階段を使用する。

……と、ここまでが太公望が把握したこの建物の概要だ。


「うーむ……、しっかしけったいなモノばかりじゃのう」

どうやらこの博物館は自分たちに縁のあるものばかり展示しているらしい。
太公望がそれに気づくまで大して時間はかからなかった。

とはいえ、情報がない以上説明を見ても部分的にしか分かるものがない。
綾崎ハヤテがいるなら――と思うも、彼も似たり寄ったりなものだろう。
それでも別行動をとったのは失敗だったかもしれない。

今太公望がいるのは3F、秘密結社バロックワークスとやらを扱った一角だった。
その設立経緯や構成員について列挙されてる他、等身大の蝋人形や実際に用いた武器までもが展示されている。
何でもこの蝋人形はドルドルアーツとやらの能力で再現されたのだとか。

146地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:01:14 ID:UcGJK6AA0
ただ、何故かMr.2という人物についての記述や情報だけがすっぽり抜け落ちており、
博物館をある程度見終えた太公望はその怪しさから再度ここに訪れたのだが。

「……む?」

そのMr.2に関する欠落以上に、あからさまなおかしさを太公望は感じる。
何だろうか、先刻訪れたときには感じなかった違和感。
つまり――、先ほどから今この時までに、何か変化が起こったという事だ。

あらためて周囲を見渡しつつ、記憶と現在を照合していく。

説明文の書かれたパネル――変化なし。
ガラスケース内部の展示物――変化なし。
構成員の蝋人形――、

じり、とそのうち一体ににじり寄り、にらめっこする。

「……ぷっ」

口を押さえて笑いをこらえる。
何とも見事なカールを描いたその髪に、ついつい笑いが漏れてしまった。

その人形の説明書きに記された名前は、Mr.8。
太公望の感じた変化は、人形の持っていた道具の喪失。

その、失われた道具の名前は――――、


********************


ぶじゅり、と足を動かす度に激痛が走る。
ぼとぼとと血溜まりが足元に広がり、臓腑の奥底から譬えようもない嘔吐感が込み上げて、
しかし口から吐き出すこともできず肉の中をかき回すようにぐっちゃぐっちゃに意識と吐き気が混濁する。

膝の皿を見事にブチ割り、尚且つ体の中に弾をとどめる絶妙な射撃。
いわゆる盲管射創は自分の機動力を大幅に削いでいる。
自慢の健脚は、いまや見るも無残な棒切れだ。

一歩踏みしめると関節のお肉の内側で銃弾の冷たい感触がゴリゴリと自己主張する。
骨と神経とが擦れあっては頭を真っ白にさせ、激痛は中身の異物の形を否が応でも意識させる。

それでも、立たねばならない。
立って逃げねばならない。
たとえたった一歩前に進むのが幾千里幾万里の砂漠行軍に匹敵する過酷だとしても、そうせねばならないのだ。

だけど辛いものはどうしようもなく辛くて、仕方ないから声を上げる。
大きく、大きく。
誰かに自分はここにいると知らしめるように。


「      !」

尤も、その声が誰にも届くことはないのだけれど。
そう――、自分のこの耳も含めて、だ。

147地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:01:49 ID:UcGJK6AA0
どれだけ声を軋めても。
どれだけ叫びを震わせても。

何故か、何処にも届かない。
いや、声だけでなく歪んだ自分の脚の挙げる悲鳴すらもが、この耳に届かない。

――完全な無音の世界。

自分の呼吸の音も、やや五月蝿い空調の音も、とうとう堪えきれずに今こうして無様に地面に転がったその音すらも。
何一つ、ここには存在しない。

騒がしくも奏でられる尋常の世界がどれだけ音に満ち満ちていたのか。
今こうして真の静寂に纏わりつかれていることで、ようやく実感できる。

顔を涙でぐちゃぐちゃにして、引きつる頬を抑えても状況はただ続くばかり。

助けを呼ぶことは叶わない。
それどころか、自分が今ここでこうしていることすら全く気づかない。
誰も、誰一人とて。

だからこそ、仲間のところへたどり着かねばならない。
這ってでもいい、匍匐するように後ろも見ずただ、前に進む。

ただ前へ、前へ。
その意思で綾崎ハヤテは呪わしき運命に立ち向かう。


――つい先刻。
天球の鏡の前で思い出したひとつの誓い。

その直後に一つの出会いがあり、それが終わりの始まりだった。
客人と情報を交換した矢先の事。
客人から得た情報はやはり訳の分からない事ばかりで混乱するだけだったものの、一つ得た利益がある。
自分の持っていた賞金首の手配書を見せたら驚かれ、なんとご丁寧にもその賞金は取り消されていると教えてくれた。
そのことに非常に落胆したのは確かだが、それ以上に客人の仄暗く淀んだ瞳が印象的だった。

だが、何にせよ自分にそのことを教えてくれたのは確かだ。
とりあえず同行者のところまで案内しようとハヤテは背を向ける。
自分も素人ではない、何かあれば対応できるはずだと警戒は怠らずに。

そして、数歩歩いて気づく。

何故か自分の脚が血に塗れていた。


眼に映るのは、膝の裏から開いて表面に僅かに盛り上がりを見せる真ん丸い傷跡。
途端、肉を抉られ血と組織のミックスジュースを作るとき特有の鮮烈な痛みが脳髄を揺るがした。
一気に力が抜け、その場に哀れに倒れ込む。

148地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:02:16 ID:UcGJK6AA0
何故、どうして、と問うも、この明らかな異常事態に頭がついていかない。
銃声は、全く聞こえなかった。
いつ撃たれたのかすらも分からない。
苦悶の叫びを上げようとして、そこでようやく気づいた。
喉に全く異常はないのに声が耳に届かないことに。

「    」

戦場において音が聞こえないというのがどれほど恐ろしく、おぞましい事か。
確かに五感で最も情報が多いのは視覚ではある。
だが、聴覚というのはその視覚で物事を把握するためのきっかけなのだ。
何処で何が起こっているかを知らせてくれる、頼もしい門兵であり、斥候なのだ。
それが働かない事は、即ち無条件でまな板の上に体を横たえるのにも等しい。

警鐘が延々と、延々とやかましいほどに頭の中で鳴り響く。
震えそうになる手を握り締めて、背後を懸命に振り向く。


「  ……!?」

そこにはもう、誰もいない。

それを確認したとき、本当の恐怖を思い知る。

「     !  ……?
 ……    。    !!」

何処に客人――いや、敵が潜んでいるのか。
何処に自分の安息の場があるのか。
一度でも眼を離したが故に、足音も聞こえないが故に、それを知る術はもはやない。

そしてまた、音がない故に対話は完全に絶たれた。
選択肢は二つ。
逃げるか、立ち向かうかだ。

何を迷う必要がある。先ほど、決めたではないか。
ここは立ち向かわなければならない。
失った少女を取り戻すために戦うと、そう決めたのだから。

……けれど、感情は決意をねじ伏せる。

逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、
逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい。

ガクガクと体が震える。
だって、そうだろう?
いきなり脚を潰されて、痛みで朦朧とする頭で戦うなどそれこそ勝ち目は万一ですらない。

そして同時にこうも思う。
この異常を、誰かに知らせなければならない。
声が伝わらない以上、あの太公望もこちらに全く気づいていないはずなのだから。

こんな恐ろしい相手がこの博物館を跋扈している事を、誰かが彼に知らしめなければならないのだ。

そう、だから今から行うのは絶対に逃走などではない。
理に適った行動だ。そのはずだ。

149地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:02:46 ID:UcGJK6AA0
博物館の構造を思い出す。
太公望がいるのは確か階上。
この脚では階段を昇るのは不可能だ。
使えるのはエレベーターのみであり、それはホール側にしか存在しない。

だから使い物にならないはずの脚を必死に動かして、どうにか前に進もうとする。
高いところから一気に落ちたときのような浮遊感ある気持ち悪さと、
病気のときに感じる悪寒を何十倍にも濃縮したような気だるい寒さと、
灼熱した針を千本、同じ箇所に繰り返し突き刺したような余りにも鮮烈な痛みが、立ち上がった瞬間に襲い掛かる。
そして、ミリ単位で足を動かすのと同期してその波が幾度も襲い掛かるのだ。

だけど。

「……   。    。……       !
     !      !!」

前へ、前へ、ひたすら前へ。
びっこな片足を引きずって、口の中に吐瀉物を溜め込んでは飲み込んでの繰り返しをしながらも。


********************


「む。……やっぱり、妙じゃな」

――静か過ぎる。

この博物館とやらはそれなりの広さを持つ事もあり、最上階まで見て回るのにそこそこの時間を要した。
地図に名前が記載されている以上ランドマークとしての役割もあるからだろうが、非常に目立つ建物だ。
だから、自分たち以外にも新たな客人が訪れても全くおかしくはない。

おかしくはないし、実際にその痕跡がある。

だからこそ、妙なのだ。
自分以外に二人もこの建物にいる可能性が高いというのに、そんな騒がしさが全く感じられない。

人というのはそこにいるだけで案外五月蝿いものだ。
流石に呼吸音や心音などといった微細な音は、ヒトの域を超越した音の世界の主でもなければ聞き取れはしないだろう。
だが、たとえば足音などは存外響く上に個性的だ。
人によっては独り言が友であるものもいるし、空気の震えは嫌でも肌に響く。

「不味いの。……少し、様子を見てみんといかんか」

もしかしたら綾崎ハヤテや客人は何事もなく、平穏無事に展示物を眺めているかもしれない。
だが、太公望の策士としてのカンが遠目からワァワァと警報を鳴らしているのだ。
今は警戒に警戒を重ねてなお足りない事態であると。

選択肢は3つ。

このまま息を潜めてやり過ごすか、気づかれぬように逃げ出すか。
そして、どうにかして危機に立ち向かうか。

「わしとしては、出来れば逃げたいトコなんじゃがのー……」

150地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:03:24 ID:UcGJK6AA0
――それが最も賢い選択だ。
未知の恐怖、とはよく言われるが、何故それが恐ろしいかといえばそれこそ『未知』だからだ。
知らないからこそ、人はそれを恐れる。

知らないが故に理解できない。知らないが故に対処できない。知らないが故に抗えない。

単純な話、何がどうなっているか分からないならば手の打ちようがないのだ。
そしてそれこそが太公望のような策を武器とするものにとっての天敵なのである。

「……まいったの」

ここには、誰もいない。
元始天尊も、楊ゼンも、普賢真人も、黄飛虎も、誰も彼も。
太公望にとっては彼らのもたらしてくれる情報こそが要の一つであり、
今の様な全く情報のない事態は正味な話彼にとって明らかに辛い状況なのだ。

「だがのう、未知を未知のまま放っておいてもいずれは正対せねばならんしの」

――この殺し合いが最後まで続けられるならば、たとえどんな相手でもいずれは相見えよう。
望む望まずに関わらず、だ。

……たとえ救えずとも、偵察のつもりで様子を伺っておくべきかもしれない。
綾崎ハヤテには悪いが、救えない公算は少なくない。
だがそれでも、救えるならばそれに越した事はない。

気づかぬうちに歯の根に力を込めながらも、太公望は太極符印を手に一人歩き始める。
友の形見を頼りにして。


********************


「  ……!   ……! ……   !!」

息を切らせて、嘔吐を耐えて、痛みを堪えて、ただただただただひた走る。
否、ひた歩く。
ジグザグにジグザグに、どうにか狙いをつけさせない様に。
それが脚の負担になると分かっていても、自分を侵食する寒さを振り払いながら。

――アテネを、取り戻す。その一念で、ただ綾崎ハヤテは進んでいく。
虎視眈々と今も自分を狙っているはずの狩人は、どうしてか追撃の気配を見せない。
それがあまりにも不気味で、だからこそその手を叩き落とすためにひたすらに。
もし弾丸が不足しているなどの理由で慎重になっているならば、そこに付け入る隙はある!

「      ……!」

その希望に縋る事への当て付けであるかのように。
優しさすら感じさせる無情さでシャッターが静かに道を閉ざしていく。
エレベーターまではほんの十数メートルだというのに、あともう少しだというのに。
脚がどうなろうともかまわないとその覚悟で持って更なる一歩を踏み出した、その時。

「……   !?」

どてっと、ギャグ漫画のように思いっきり転倒した。

151地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:03:50 ID:UcGJK6AA0
ああ、そんなつまらないミスをした自分が、悔しくてたまらない。

霞む頭でもそれでも奮起し、歯の根が合わなくともギリ、と唇を噛む。
血がだくだくと溢れ、口に流れ込んでいく。
立ち上がろうとしても、脚には力が入らない。

まだだ。まだ、諦める訳にはいかない。
だから、這ってでも前に進むのだ。

手を伸ばす。その先にある何かを掴むかのように。
芋虫のように体をくねらせて、閉まり行く扉の向こうへと体を伸ばす。

その先へと、恥も外聞も無視してひたすらに進む。
――ハヤテのごとく。
ハヤテのごとく、誰かの居場所に辿りつく為に。


そんな想いは、決して現実には届かない。
物理的事実は頑としてここに立ち塞がる。

「…………    !!」

伸ばした手の二の腕に、シャッターの冷たい縁が食い込んだ。
ぐりぐりと、ぐりぐりと、皮膚が、血管が、筋が、骨が、神経が圧迫されていく。
急いで引っこ抜こうとした――いや、力で無理やりシャッターの下降を抑え、潜り抜けようとしたその瞬間。

「    !」

もう一度、今度は胸に激痛が走った。
やはり音はなく、……しかし、確実に銃撃と分かる痛み。

心臓が、バクバク言っている音が骨を伝って聞こえた。
久しぶりに聞く音は、自分の命の際を伝える音だった。

動いているということは、心臓は無事だったのだろう。
だが、それだけだ。
信じられない量の血が大量に流れ出している。
動脈を思いっきりやられたようだ。
まるで降りしきる雪に埋もれていくかのように、体が冷えていく。

それと同時に、ごりゅごりゅと自分の腕の皮膚が、血管が、筋が、骨が、神経が切断されていく感触がした。
嘔吐感などともはや呼べない、体の中の臓物が全部表に出てくるような息苦しさだけを感じている。

痛いイタイいたいいたいイタイ痛いいたいいたいイタイいたい痛いイタイ――!

気がつけばシャッターは降りきっており、自分の腕は壁の向こうに消えて無くなっていた。
既に痛みすら感じない。
ただただ、喪失感だけが自分を満たしている。


********************

152地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:04:22 ID:UcGJK6AA0
――――吹き下ろしとなったホール。
そこを臨む通路に出てみれば、異変は一目瞭然だ。

見下ろす階下には、あからさまな異常がしっかと居を構えている。

「いつの間にあんなものが降りておったのだ?」

無骨な鋼色のシャッター。
先ほど見た時には、あんな物が道を塞いではいなかった。

「――――!?」

警報が、いつの間にか警鐘へと成り代わっていた。
耳が痛いくらいに、空気が張り詰めるほどにワンワンと唸りをあげている。

「……腕、じゃと?}

遠目からでも分かる。分かってしまう。
切り落とされた腕が、ついさっきまで生きた人間の体にくっついていた腕が、余りにも無造作に遥か下に転がっていた。

シャッターの向こうからじくじくとじわりじわりと、赤い血溜まりが少しずつ広がっていく。

「く……っ!」


予想を遥かに超える速さで、事態は刻々と悪化していた。
気づかぬうちに転移し再起不能なまでに体を蝕む病巣のように、太公望の知らぬところで早取り返しのつかぬところまで。


それでも見捨てられないと判断した太公望は、果たして賢者とは呼べぬ愚妹の輩だったのか。

それを判断するのは、読者諸氏に任せるとしよう。


********************



どろどろと、どくどくと、だらだらと、びちゃびちゃと、じゅぶじゅぶと。

あかいみずが、たっぷりとながれでていた。

ひとのからだってこんなにみずがはいっていたんだと、それはそれはしんじられないりょうだった。



直感した。

――――ああ、自分はここで終わる。
この出血量は間違いなく、充分だ。
死ぬ為に。

153地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:04:44 ID:UcGJK6AA0
何も出来ないまま、ここで終わる。

絶望が、綾崎ハヤテの心を満たす。


いいのだろうか。

本当に、ここで終わっていいのだろうか。


「……  」

違う、と、そう言ったつもりだった。
だが相変わらず、音は聞こえない。

――その事から、一つ気づいた。
敵は、まだ近くにいる。
自分が死に絶えるのを、待っている。

ごろり、と、力尽きたかのように横転する。
それを警戒したかのように、何かがぴくり、と動くのが見えた。

天球の鏡の、すぐ横で。
その隣に飾られていた、あるものの影に隠れるように。

思い浮かべる、かつて袂を別ち失った一人の少女の事を。
せめて、自分が彼女のことを忘れていないとそれを伝えたくて。


「    ――――!」

片足に力を込めて、渾身の力で飛び掛る!
たとえどれだけ少ない確率でも、失ったものを取り戻すために!
せめて、せめて一太刀ぐらいは浴びせられる様に――!


そして、そこまでだった。


敵は身を隠していた『それ』ごと、飛来してきた綾崎ハヤテを殴り飛ばした。
蹴りか、掌打か、はたまた体当たりか。
綾崎ハヤテからは、『それ』が陰になっていて、何をしたのかも見えなかった。
本当にそこにいたのが敵だったのかも、見えなかった。


ぼきゅごりゅぼき、と、色々と大切なものがイッた感触が妙に生々しく感じた。



********************


結論から言えば。

どうしようもなく、遅すぎた。

154地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:05:10 ID:UcGJK6AA0
「ハヤテ――――!?」


まあ、仕方あるまい。
見えないところで起こった事を知ることができる人間などいない。
ましてや見えないどころか、聞こえないという条件すら加わったのならばなおさらだ。
否、人間に限らず、すべての存在は自分の知覚出来ない場所で達せられた事を知る術などないのだ。
それは仙道であろうとまた然り。

我々に許された感覚情報というのは僅かに5つに過ぎないという事を実感している人は決して多くない。
視覚聴覚嗅覚触覚味覚、我々が外の世界を感じ取るのはこの5つでしかない、
知識ではそう知っていても、世界はそれ以上の情報に満ち満ちているという錯覚は決して拭えない。

だって、そうだろう?
この世界がたった5つの感覚の組み合わせで再現できるなんて、君たちは信じられるか?
脳に電極を繋いで5種類の刺激を送り込みさえすれば、どんな夢物語でも再現できると信じられるか?

話を戻そう。
要するに、自分の見えぬ場所、目の前で起こったのではない事という視覚情報の欠如。
そして、その場で何が起こったかを空気という媒介を通して伝えるはずの聴覚の欠如。
この2つが足りないだけで、人間はあまりに無知なる動物と化すのだ。
残っている感覚情報は嗅覚と触覚と味覚。
この内、触覚と味覚はそれこそ直に接しなければ全く意味のない情報。
少しでも離れた場所のことを教え得るのは、嗅覚だけなのだ。

太公望も良く馴染んだ血の匂いと、彼の時代には存在しない硝煙の匂い。
たったそれだけの情報でどう立ち回れるというのだ?

例えば、そう。

こんな風に心臓狙いの一発が、見事胸のど真ん中を撃ち貫いていた場合には。


「…… 、  ……   ?」


音がない世界――、死の宣告の前兆が全くない世界。
目の前に現れて、あるいは自分の体を貫かれて、はじめて脅威に気づける世界。

血の池に仰向けに浮かぶ綾崎ハヤテを見て、どう動くべきかを思案したその一瞬、だと思う。

確証できないほど静かに、そしていつの間にか、太公望の胸にまあるく一つ孔が開いていた。


肺腑に漏れた血液が流れ込んでいく。
約五億にもも計上される肺胞のひとつひとつを満たすまで、
あたかも雪が降り積もるように見た目にはゆっくりと、実質的にはとても早く、速く。

155地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:05:35 ID:UcGJK6AA0
ごふ、と血を吐いた。
急激な貧血で、目の前がまっしろになった。
今度はまっくろになった。
その次はまた、まっしろになった。
黒と白とが、交互に目の前に現れた。

そして、そのままゆらりと倒れた。
ごとりという音すら、音界の覇者は許さなかった。

ぽっくり、と、そんなオノマトペが良く似合った。

ころころとすぐ傍に転がる太極符印に手を伸ばそうとして――、諦める。
もう済んだ事だ、どうしようもない。

すまんのう、と、形だけ口を動かして、太公望の瞼は花が萎むように閉じられていく。


血の池がもう一つ、健康なエキスに満ち溢れた山水画を作り出した。



********************


ただ空を仰いで横たわる。
いや、空どころか低い天井でしかない。
『それ』を体の上にのしかからせたまま、綾崎ハヤテは自分の呼吸が徐々に小さくなっていくのを実感していく。

のしかかっているものは、立派なトルソーとそれに掛けられた執事服だった。
なんとなく、ちょっと重く感じたので無造作にそれをどかす。
下半身はもう動かないけど、どうにかそれくらいは出来た。

と、その執事服の中に何か硬いものがあるのに気がついた。
ポケットを探ると、その中からプラスチックの塊が一つ。
携帯電話が、転がり落ちてきた。

どうしてそうしようと思ったのかは分からないが、それを開いて電源をつける。
電話帳の一番最初を見てみると、そこには知らない少女の名前が表示されている。
何故か迷うことなくそれを選択し、ゆっくりと耳に当てた。

『――あ、おいお前! どうして私の執事の服と携帯をパクったりなんてしたんだ!』

――覚えのある少女の声が、いきなり自分を弾劾した。
気が強そうだけれど、それでもどこか優しそうな可愛らしい少女の声。
いつのまにか世界に音が戻っていると、その事を知らしめてくれた。
……これは、誰の声だったろう。

そしてもう一つ、いつもどこかで聞いているようで、やはり思い当たらない声の持ち主が電話の向こうに現れた。

『……お嬢様、いきなりそれはマズいんじゃないですかねー、もしかしたら善意の人かも……』

……この少年は誰なんだろう。
知りたいけれど、知りたくもないという矛盾した感情がせめぎ合う。

156地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:06:07 ID:UcGJK6AA0
『だ、だってこいつ怪しいぞ! さっきからなんかハアハア言ってばかりで一言も喋らないんだ』
『ちょっ、お嬢様、切ってくださいそれは! 
 携帯なら契約を切って買い換えればすみますし、それより不審者の手元にお嬢様との連絡手段があるのは危険ですって!』
『……う、うむ。でも、あの携帯は……』
『大丈夫ですって、携帯電話がなくても呼んでくれれば僕はすぐに駆けつけますから』
『ふふ……、そうだな。お前はいつだってそうだもんな』
『え、あ……』
『照れるな照れるな、もっとお前は自信を持っていいんだぞ?』

聞いている内に、何とはなしに少女誰なのかを思い出した。
ああ、この声は――、

『何せお前は、この私――、三千院ナギの執事なのだからな!』


とても嬉しそうに事実を告げるこの声は、自分が誘拐しようとした少女の声だ。

……何故か、安堵の吐息が出た。
誘拐などという最低の行為をしようとしていたのに、その安否を知ったらほっとしたなんておかしいなと思う。

そしてもう2つばかり、湧き上がった感情がある。
嫉妬と羨望。
どうしようもない程に、少女と一緒にいるらしい執事の少年にその感情を抱いてやまなかった。
やっぱり、理由は分からない。
分からない事だらけだ。

どうしてこんな事になったのだろう。
どうして自分はこんなところにいるのだろう。
どうして自分のそばには、誰もいないのだろう。

天王州アテネの事を想い、悲しさを中心とするたくさんの感情がごちゃごちゃになっては消えていった。
西沢歩を始めとする、学校の友人たちがあまりにも懐かしかった。

最後に残ったのは2つだけ。
ただ寂しくて、悔しくて、上を向いて表情を変えないままぼろぼろと涙をこぼす。
後から後から、どれだけ泣いても涙が枯渇しない。
同時に、意識が溶けていく感触がする。
混沌とした暗闇の中に一人、原型もなくどろどろにトロけていく。

自我とやらはもうとっくにはっきりしない。
もしかしたら、今の電話も幻聴だったのかもしれない。


「せめて――、」

最後にたった一つ思ったことは。

「せめて君たちは、幸せに……」

157地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:06:37 ID:UcGJK6AA0
たとえどれだけ望もうと、足掻こうと、過去は過去。
綾崎ハヤテは前に進んでいるようで、結局は既に存在しない絆に縋り付こうとしただけでしかない。

綾崎ハヤテは執事である。
執事とは、他の何に変えても主を護りぬく者である。

だが、彼が選んだ選択は、今ある大切なものを『護ること』ではなく。
失ったものを取り戻そうと『戦うこと』だった。

彼がほんのわずか未来からこの場所に訪れたのなら。
運命と戦うと、執事の本分を忘れた世迷言を望まなかったなら。
新たな誓いを胸に、大切な何かを絶対に護り抜くと、その決意が出来ていたなら。

可能性を論じることに意味はない。
今はただ、一人の少年の結末を淡々と語るとしよう。

殺し合いに招かれた、この綾崎ハヤテは死んだ。
それだけの事だ。

そしてまた、今この場にいる彼の縁者たちはその多くが生きている。
ここに招かれた三千院ナギも、生きている。



Hayate the combat butler  BAD END

158地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:07:08 ID:UcGJK6AA0
********************



デイパックを確認し終えたところで、長い、長いため息を結崎ひよのはゆっくりと吐く。

結局、この仏さんからは重要そうな情報を得る事は出来なかった。
当然のことながら、デイパックの中身もよく分からない文書と手配書という外れであろう組み合わせだ。
もしかしたら武器も入っていたのかもしれないが、たとえそうだとしても持ち去られたのだろう。

「まあ、完全な無駄足ってわけでもないという事にしておきますか」

少なくとも柳生九兵衛という人物の性格や行動傾向、
そして、ヴァッシュ・ザ・スタンピードという人物の顔と、『平和主義者』という備考が分かったのは確かなのだ。
まあ、ヴァッシュという人物は平和主義者という割に何故か高額の賞金首だという意味不明な矛盾が存在してはいるが。

「……600億、ですか。ハイパーインフレの国のご出身なんでしょうか?」

いずれにせよ、だ。
わざわざこれらが支給されたということは、彼らがこの殺し合いに巻き込まれている可能性は決して少なくない。
罠かもしれないという疑いがある以上どこまで信頼できるかは怪しいところだが、情報は武器である。
そして結崎ひよのは情報を扱う事に関してはエキスパートだ。

伝手が出来れば、人の繋がりを作れれば、それだけで取れる手段は大きく増える。
この情報を生かすも殺すも扱い手次第であり、自分や、自分が力となるべき少年の手で紛れもなく力となる。


そしてもう一つ得たものといえば、故人の握っていた携帯電話。
そこに示されていた名前はとりあえず要注意だろう。
この少年を殺した人物の可能性は低くないし、そうでなければ間違いなく縁者なのだろうから。

もしこの電話が使えれば、その人物と連絡が取れるかもしれない。
そう思ってリダイヤルしようと画面を開いてみれば。

「……あら?」

血に濡れたのがまずかったのか、それともバッテリーでも切れたのか。
携帯電話はいつの間にかうんともすんとも言わなくなっていた。
ショートでもして壊れてしまったのなら直しようがないし、バッテリー切れでも充電する道具がない。

「あっちゃぁ、マズりましたね。仕方ないですからとりあえず保留、と」

自分のデイパックにそれを放り込み、パンパンと手を叩く。

「それではあちらさんの方も確認しておきますか。
 死体漁りなんて趣味の悪い事せざるを得ないとは、なんて私は不憫なんでしょう。
 まあ、それもある意味では献身的に尽くしてる事になるんですかね?」

相変わらず警戒は怠らず、静かに、だが迷いなくもう一つの肉塊ににじり寄っていく。
見れば、どことなく中華風の服を着た少年のようである。
すぐ側に転がっているボールが印象的だが、まずは少年の方からだ。

159地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:07:34 ID:UcGJK6AA0
「少年二人が赤い空間で一緒に寝ている、なんて言うとなんか耽美な雰囲気ですねー、私にはそっちの趣味はないですけど」

と、寝ている少年の横まで近寄り、あらためて検分を開始する。

「凶器は……やっぱり38口径弾ですか。
 まあ芸術的なほどに胸のド真ん中をブチ抜いてます、ね……?」

と、そこまで確認したところで疑念の唸りを上げた。

「んー?」 

腕を組み、眉をひそめる。

「んー……」

こくり、と可愛らしく首をかしげる。

「んん?」

軽く額に指を当てる。

「えいや」

肉塊に適度な力加減で蹴りを入れる。

「のわっ!」

肉塊が気の抜ける叫び声を上げた。

「おはようございます」

にこにこと、百点満点の笑みを浮かべる。

「…………」

肉塊はまた沈黙して、面倒臭そうにごろりと体の向きを変える。

「お、は、よ、う、ございますっ!」

にこにこにこにこと、百二十点リミットオーバーな笑みを突きつける。

「……う、うむ。おはよう」

肉塊がちょっぴり面食らったような顔で挨拶を返した。

「……どうして、わしが死んでおったのではないと分かったのだ?」

肉塊――、もとい、少年が疑問を呈す。
それに対する答えは女のカンが第一なのだが、そう答えるのもいま一つ芸がないのでこう答える事にした。

「企業秘密、です♪」

「あー……、うむ。成程な、うむ」
「はい♪」

160地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:00 ID:UcGJK6AA0
「…………」
「…………」

絶句。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「さて、聞かせてもらえますよね?
 ……貴方たちは何者で、一体何があったのか、を」

貴方たち、の、たち、という部分に反応してほんの少しだけ少年――太公望は顔を歪める。
本来は72歳ととても少年などと呼べない年齢なのだが、それはこの際気にしない事にしておこう。

「あやつは……、いや、その口調ならば問うまでもないことであったな。
 ……そうじゃよなあ」

悔しそうに歯噛みし、だが立ち止まってはいられない。
骸の方に敢えて顔を向ける事はせず、太公望は僅かに眼を閉じ、うなずく。

普賢が、わしを護ってくれたのかもしれんのう。

そう心の中で呟く。

銃、という概念は太公望にはない。
だが食らった一撃からどのような攻撃かは類推する事が出来る。
おそらくは金属製の弾丸が、何かの推進力により高速飛翔してくる武器だろう。
殺傷力は高いが直線的で、単発だ。

だから、太極符印の斥力場を直感的に展開させる事でどうにか生き延びられた。
直線的な攻撃ならば、軌道を逸らしてやればいい。
特に急所に正確に向かってくるならば尚更だ。少しズラすだけで急所から外れるという事なのだから。
『心臓狙い』のはずが、『胸のど真ん中』を貫いたのはその為だ。

後は死んだフリをしてどうにかやり過ごす事が出来た。おそらく敵は心臓に命中したと思っていることだろう。
隣でデイパックをガサゴソやられていた時は冷や汗物だったが。
うつ伏せのまま動く事も出来ないのは中々の苦痛だったとはいえ、死よりはよっぽどマシだ。
結局何一つ持っていかれなかったのは、武器らしい武器もなかったからか。
よもやボールにしか見えない太極符印が武器とは確かに思えまいし、まあ、たとえそれが分かっても使えないだろうが。

とにかく、だ。
どうにかしてあの音なき攻撃に対処せねばなるまい。
足音や衣擦れ、飛来物が風を切る音すら聞こえないのはあまりに危険すぎる。
攻撃のタイミングが、つかめないのだ。

例えば、番天印の様な宝貝を思い浮かべよう。
押印したものを100%殺傷するという危険な代物だが、逆に言えば押印という前兆に合わせて相殺すれば無傷で対処できる。

だが、それとは全く反対に、音を奪われた上で死角から攻撃されたとあっては反応する術がない。
だからこそ、その『いざ』を万全にしておかねばならない。

161地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:24 ID:UcGJK6AA0
……すまんのう、ハヤテ。

口には出さずとも、何度も何度も謝罪する。
助けられなかったという重い事実は、太公望の心に確かに刻まれる。
――何度経験しても、死の別離というものには慣れる事はない。

だが、彼のおかげで打開の糸口は少しだけ見えつつある。
それを実行するためあらためて太極符印を手に取り、密かに命令を入力する。

「……と、自己紹介がまだであったの。
 わしはとりあえず太公望と名乗っとく。他の名前もあるがの」

ニョホホ、と笑い、目の前の少女に名乗りを促してみれば。

「そうですねー、それも企業秘密ということでお願いできませんか?」

またも必殺スマイルで回避された。フレンドリィに接したつもりだったのだが。

自分が向こうに転がっている死体を作った犯人でない保証がどこにある?
まあ、信用されないのも無理はない。
少女が自身について迂闊に話さないのは実に鉄則通りと言える。
そこまで修羅場慣れしているようにはとても見えない外見なのが末恐ろしい。

「……食えんのう、お主。どこぞの女狐を思い出させるわい。妲己という名前なんじゃがな」
「あら、そんな傾城の美女に喩えられるなんて、貴方は分かっている人ですね」

――あやつめ。後世にまで存分に悪名を伝えおって。

服装からハヤテと同年代の人間だと充分解るだけに、そんな未来まで残った悪行三昧に嘆息を隠し得ない。
思い切り、息をついた。

「……まあ、信用を得るのは一苦労なのは分かっておるしな。
 当面は聞かぬ事にしておくよ」
「ふむ。当面、という事は人を集めてらっしゃるわけですか。
 どうやら少なくとも、殺し合いを積極的に肯定している立場ではないようですね」
「……中々回転は速いようじゃな。
 おぬしの様な相手に一体どこまで語っていいものやら」
「さぁて、それを決めるのは貴方自身ですからね。
 ただ、出来る限り多くを話してくれた方が、私が貴方を信用する確率は高いですよ?」

にこり。
少女の笑みに、仕方なしに太公望は語り始める。
とりあえず出来る限り多くのことを語らねば信用を得ることはできないようだ。
下手すればハヤテ殺しの下手人として吊るし上げられる可能性すらある。
ここは正直が一番だ。

仙人界を揺るがす、一世一代という言葉すら矮小に思える、演義という名の大河の流れを滔々と、滔々と。

そして、僅かな時間だけの同道者であった、健気な少年に関する口伝を。
全てを伝えるために、語っていく。

162地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:08:45 ID:UcGJK6AA0
【B-8/博物館 外周ギャラリー/1日目 黎明】

【太公望@封神演義】
[状態]:胸部に貫通銃創、貧血(大)
[装備]:太極符印@封神演義
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×1@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:殺し合いを潰し、申公豹を倒す。
 0:……おぬしの死は無駄にはせん。
 1:目の前の少女の信頼を得る。
 2:申公豹の目的は……?
[備考]
 ※殷王朝滅亡後からの参戦です。
 ※手配書は渡されただけで詳しく読んでいません。
 ※ハヤテと情報交換をしました。
 ※ひよのと情報交換をしました。ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。


【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]: 健康 おさげ片方喪失
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式×2、不明支給品1、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
[思考]
基本: 『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。
 0: 言ってる内容がいちいち胡散臭いですねー……。
 1: 鳴海歩がいるか確かめ、いるなら合流したい。
 2: あらゆる情報を得る。
 3: 2の為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
 4: ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
[備考]
 ※ 清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
 ※ 不明支給品1は、少なくともミッドバレイには役に立たないと判断されたアイテムです。
 ※ 手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
 ※ 太公望と情報交換をしました。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
   ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
 ※ 太公望の言動を疑っています。

【綾崎ハヤテの携帯電話@ハヤテのごとく!】
博物館の展示物である執事服のポケットから転がり落ちてきた携帯電話。
動作不良を起こしており、現在は使い物にならない。
少なくともロワに参加したハヤテの持ち物ではないが……?

163地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:09:25 ID:UcGJK6AA0
********************


「……と、そうそう。一つ注意しておかねばならん事があっての」

「はい?」

「……わし達に襲い掛かってきた敵なんじゃがな。
 あ奴が攻撃してくるその直前は、ほんの一瞬だけ何もかもが無音にな」


りおる、と、結崎ひよのには太公望がそう口を続けたように見えた。

まさしく、それこそが無音だった。


太公望の体が、見えない鉄槌に殴り飛ばされた。
全身のあちこちからただでさえ少なくなった血を飛び散らせて。
生ゴミの詰まったビニール袋が車に轢かれて何度も何度も撥ねるかのように。

「  」

つい一瞬前まで太公望だったモノが、何か口を動かしたように思えたけど、何一つ聞こえない。

え? と、自分も口を動かしたと思う。
気づいた時には自分のドテッ腹に腕が通るくらいの孔がこじ空けられていた。

かふ、と、口から真っ赤な湧き水と砕けた臓物の一部がせり上がっては零れ落ちていく。

何一つ思う間すらなくどてりと倒れた。
次の瞬間、ぷっつりと意識が途切れた。
目の前が真っ赤に染まる、というありきたりな表現ですらない。

考える為の脳ミソがそっくりそのままブチ撒けられたのだから当然だ。
大切な誰かを思い出すことすらなく、一人の少女が死肉と化した。


まるで、出来の悪い映画のように。
起こっている出来事が全て唐突すぎて、前後の繋がりが理解できない代物だった。


********************


誰が言った事だったろうか。

銃で撃てば、人は死ぬ。


********************

164地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:09:54 ID:UcGJK6AA0
自動展開した太極符印の斥力場も虚しく、無数の鉄くれが次々と自分の体を蹂躙していく。
それをまるで他人が眺めるような心持ちで、淡々と受け止める事にした。

太極符印の特性として、攻撃パターンを記憶し、それに対処できるように力場を展開するという物がある。
これにより、前回と同じ攻撃ならば完璧に防ぐ事が出来るはずだった。
かつて自分の親友が用いた技だからこそ、太公望はそれに十全の信頼を置いていた。
だが。
銃、というらしい綾崎ハヤテと自分を襲った武器に対し、それを無力化できるよう設定したのがかえって仇となった。

太公望の生きる時代は銃の生まれ出る14世紀末より遥か2500年も前、紀元前11世紀である。
飛び道具など、宝貝によるそれを除けば弓矢や投石といった程度のものだ。

だから、銃といっても先刻自分たちを襲った拳銃以外に、様々な種類が存在する事までは知り得なかった。
狙撃銃、機関短銃、自動小銃、重機関銃、そして――散弾銃。

『高速で正確に急所に飛来する単発の金属弾』という攻撃パターンを防ぐための対策では、
『点でなく面で襲い掛かる無数の小粒弾』を防ぐ事は出来なかったのだ。

いやむしろ、なまじ斥力場で急所を、急所だけを守ったが故に、
それ以外のありとあらゆる部位に弾が食い込む結果となってしまったのかもしれない。

八大地獄すら生温い鮮痛が太公望を刻み尽くし、未知が理不尽に命を刈り取っていく。

――――大量に、血を失ったのがまずかったのかもしれない。
普段の太公望ならば、たとえ未知の武器であっても拳銃の特性から散弾銃を思い描き、対策を練れたのかもしれない。
だが、先刻の胸部への銃撃はたっぷりと太公望から血液を奪っていった。
貧血によって脳への酸素の供給量が低下すれば、当然判断力や発想力は低下するものだ。

全身といっても過言ではない程にあちらこちらで身体が軋む。
肉の内側で弾と弾が擦れる感触が、痛覚神経を直に刺激してある種の快感をもたらすほどの鋭い痛みをもたらす。

苦悶を飲み込んだその瞬間。
何一つ音がないからこそ、少女の胴体が、そのキレイな顔がフッ飛ばされる様がよく見えた。
脳漿交じりの血煙が辺りに立ち込める。
鉄臭い匂いがとても不快だ。
無音の状態が厄介なのは、一度でも無音になった後はいつ次の攻撃がくるか分からないという事だ。
分かっていても、どうしようもない。

相手はプロだ。プロフェッショナルだ。
こうも念入りに殺しに来るとあっては、今度こそ助かるまい。
このタイミングで殺しに来たのは、おそらくもう用済みだと判断されたのだろう。
……自分が話した情報は全部聞かれたと思って間違いあるまい。

一つ、仮説が浮かんでくる。
どうして一度はやり過ごせたはずの敵が、わざわざ自分たちを殺しにかかったのか。

――心音や呼吸音といった、身体の僅かな音すらも拾える耳の持ち主だとしたらどうだろう。

拳銃による一撃は、確かに心臓を貫く軌道だった。
そして太公望による死の偽装もほぼ完璧だったはずだ。
だから、太公望の生存を見抜くには何らかのファクターが必要なのだ。

165地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:10:18 ID:UcGJK6AA0
太公望はそのファクターが音であると推測する。
異常なほどの聴覚が自分の生存を筒抜けに知らせていたのだと。

そして、その耳で以って、この無音の状況を作り出しているのではないか、と。

音とは空気の波であり、逆の位相の波をぶつけてやれば相殺できる。
この一帯のありとあらゆる音を聞き分ける事が仮に出来たならば、それら全てを0にする事は不可能ではない。

宝貝も使わずそんな真似ができたのならば、神技とすら呼べぬ魔技の使い手に相違あるまい。

そして、聞き分けるという事は、それは任意の音だけを選出して響かせる事も出来るという事だ。
敵自身の痕跡だけを消して、自分たちの会話内容を把握する事さえも。

だがそれでも打開する方法は存在する。
例えば今この時のように。

ようやく太極符印が散弾銃を記憶した。
自分に止めを刺さんとする見えざる相手の攻撃は、とうとう完全に防がれた。
取り落として、ほんの数歩先に転がっていても、確かにそれは自分を護ってくれている。

だが、結局はもうとっくに――意味がないのだ。
自分もとうに致命的に血を流しすぎてしまっている。
少女にいたっては絶命しているのが明らかだ。

今までに出会ってきた、様々な人物の顔が頭をよぎる。
自らの師である元始天尊や崑崙十二仙の面々、武王を始めとする周の人々。
黄一家の頼もしい背中や、自分を師と慕う武吉。
ずっと自分の相棒であり続けた四不象に――、いまだ立ち塞がり続ける妲己。

殷王朝も討伐し、これからという時じゃというのに、なあ……。
皆、すまんの。

心の中で謝ろうとして、苦笑する。

――そう思うのは感傷かもしれない。
楊ゼンやナタクたちなら、自分がいなくなってもきっとどうにかしていくことだろう。

この場所で封神台は機能しているのだろうか。
自分が死んだら、魂魄が封ぜられるのだろうか。

……心残りなのは申公豹めを問い詰められんかった事じゃな。
あやつめ、本当に何を考えておったのだ。

ひとり、それだけをごちる。
周の今後はともかく、この場所での後の事があまりにも不安だ。
こんな訳の分からぬ戦いを放って逝くのは少々心苦しい。

166地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:10:44 ID:UcGJK6AA0
だが、希望はまだ、ある。


  ん? おぬし……、珍しいものを持っておるのう。

  これですか? 武器にもならなさそうですし、胡散臭い代物にしか思えないんですけどねー。
  

たった数分前の記憶が懐かしい。
だが、今はそれが唯一の命綱だ。

けれど――、このまま何もしなければ、すぐに敵はそれに気づいて一切合財を台無しにしてしまう事だろう。


「……    」

……残さねば。

「    」

残さねば。

「    ……!」

残さねば……!


転がったままの太極符印まで、血反吐を吐きながらにじり寄る。
一寸がまるで千里のようだ。

それでもゆっくりと、近づく。
近づく。
近づいていく。

そして手を伸ばし――、しっかりと掴む。
指の一つ一つを堅固に絡ませ、引き寄せる。

にぃ、と口端を歪ませて、指運を神速で走らせる。
そして終わりに、確かにこう呟いた。


「後は、頼むぞ」



【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく! 死亡】
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜 死亡】
【太公望@封神演義 死亡】

167地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:11:15 ID:UcGJK6AA0
B-8/博物館周辺/1日目 黎明】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲、イライラ
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
 1: どんな手段でも情報と武器を得る。役に立たないと判断したら足がつかないように殺す。
 2: 強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
 3: 愛用のサックスが欲しい。
[備考]
 ※ 死亡前後からの参戦。トライガン関係者の存在にはまだ気がついていません。
 ※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
 ※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ※ 呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
 ※ 右足の打撲は綾崎ハヤテの最後の攻撃によるものです。

【イガラッパ@ONE PIECE】
 博物館のイガラム人形に持たされていた、散弾銃を組み込んだサックス。
 ミッドバレイ愛用のサックスより出力が遥かに劣るため、衝撃波による攻撃は不可能。
 また展示品のため、予備弾も用意されていない。

168地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:11:50 ID:UcGJK6AA0
********************


ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「おい……フザケんなよ?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「てめえ、それでもオレの――かってんだ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「こんなつまんねぇトコでくたばりやがって」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「――そこまで貴方がイラつく必要もないでしょう。予想された結末です」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「あァ? ……なんでてめえはそんなに落ち着いてんだよ。一応ライバルだって思ってたんだろ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「別に肉体の死など大した意味などないですからね。
 かつてあの計画の影の実行者だった貴方なら当然よく知ってるはずでしょう?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「……チッ。理性と感情は別モノだろうがよ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「尤も――、肉体の、血の二重螺旋という頚木に囚われた方たちもこの場にはいますけどね。
 はてさて、肉体イコール血とするならば、彼等にとっての肉体の死は何を意味するのやら」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「“神”に対する駒としての“悪魔”の子か。皮肉なこったな」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「まあ、確かに私の予想は大幅に狂ってしまいましたけどね、それはそれで。
 ……導なき道に新たに澪標と成り代わった"神”の振る賽は何を示すか。
 座して楽しむとしましょうか」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「地獄とは神の在らざることなり。そして、神は此処に在り。
 ならば、神のおわす今この時は何なのか。
 ……存外、答えを出すのは人間かもしれませんよ。
 神の子を信じて待つ事こそが、信仰であり、希望であり、愛なのですから。
 そして、その中で最も大いなるものは――――」

169地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:12:41 ID:UcGJK6AA0
********************


ぺちぺちと、自分の身体を撫でたり摘まんだりしてみる。
ぼろ切れどころかヒモ水着の方がまだマシなんじゃないかと思うくらいあちこち破れた服は、どうにも寒くてスカスカする。

「……むう」

眉根を詰めて、嘆息する。

「信じがたいですが。
 ほんっとうに信じがたい事ですが、信じざるを得ないようですね」

結崎ひよのは、確かに健在だった。

「……まさか死人を蘇らせるなんて眉唾物が本物だとは。
 これは、自称太公望氏の言動も全て本物と思って行動すべきかもしれませんね」


  それはこの世に二つとはあるが三つとはない代物でな。
  効果は――、まあ、後でとくと話すとしよう。
  今はそれより敵の話をせねばの。


太公望が話を切り替えたあの時、もしもあの道具――復活の玉について詳しく踏み込んでいたら危なかった。
それこそ、蘇生した瞬間にまたも殺されていた事だろう。

「頼まれちゃったなら、まあしょうがないですよね。
 とりあえずは善処するとしか言えませんけど」

今わの際の太公望の最後の力によって太極符印が空気を振動させて伝える、彼のメッセージ。

復活の玉の発動には大量の光が迸り、また、敵の異常聴覚はおそらく蘇生したひよのの生体反応を捉えるであろう事。
それらでひよのの生存を悟られないようにする為に、太公望は太極符印で大気と光の操作を行い、外に漏れないよう押さえ込んだ。

だから、希望的観測に縋るならば、今度こそ見えざる敵は自分たちが全滅したと判断してくれたのだろう。

そしてまた、残されたメッセージがいくつかの推測をひよのに伝えていく。
さらに太公望は、とあるプログラムを太極符印に組み込んでくれていた。
まさしく至れり尽くせりだ。
いつかきっと役に立つ事だろう。

本当は彼への返礼をしたいところだが、死人に返せるものは何もない。
せいぜいが、出来る限り彼の目指したものを推し進める事くらいだ。

「まあ、本当に出来る限りの範囲でしかお手伝いできませんけど、ね」

自分は死者への手向けよりも、生者への尽力を優先する。
たとえ彼に助けられようと、自分が鳴海歩につくという方針はブレる事はない。
覆せない優先順位というのは確かに存在するのだ。
尤も、あの鳴海歩が安易に殺し合いを肯定するはずはないし、その意味では結局太公望の意に沿う可能性は高い。

170地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:09 ID:UcGJK6AA0
そして太公望の言に信憑性が出てきた以上、いくつかの疑問が呈される。


「……封神計画。神の一字の符号は、果たして偶然なんでしょうか?」

彼が実行者だと言うその計画が、どうにも気になってやまない。
今回の殺し合いに関係しているのではないかと女の勘が告げている。

乱れた国を滅ぼし、新たな国を作る。
その為に邪魔な仙人を封じ、妲己という悪女を倒す。
そこまではいい。
彼女も知っている、中国四千年の歴史の一ページだ。

だが。
だが何故、殺すのではなく――封印なのだ?
それも、敵味方を問わず死んだもの全てに等しく行われるのは。

ホールに飾られている、ミニチュア封神台をじっと見る。
けれどそこはただ沈黙したまま、答えを返すことはない。

「……いろいろ裏がありそうですね、その計画は。
 出来れば関係者に当たりたいところですが……」

とりあえずは太公望一人から見た情報だけではとても足りない。
真実とは人の数だけ、彼らの見る方向だけ存在する。
あらゆる方向からの真実を突きつけ合わせる事で、はじめて浮かび上がってくるのが事実だ。

「とりあえず、今は何とも言えませんか。
 未だにさっきの襲撃者が近隣をうろついている可能性も高いですし、とっとと離脱すべきですね」

だが、この場所は後ほど戻ってくる必要があるだろう。
あのミニチュア封神台とやらは、いかにも怪しすぎる。

……それを置いておいても、まだまだ考えるべきことはとても多い。

綾崎ハヤテの殺害に用いられた38口径の拳銃。
自分が灯台で出会った男の拳銃もまた、同じ口径ではなかったか。

携帯電話に名前の浮かんだ三千院ナギ。
綾崎ハヤテのダイイングメッセージだとするならば、彼女(彼?)が襲撃者の可能性もある。

太公望の遺したプログラム。一度きりとはいえ条件さえ満たせば勝手に発動するというのは心強い。
宝貝とやらは、肉体的に一般人の彼女には使えないからだ。

そして――復活の玉。
もしや、の可能性ではあるのだが、あれは一つの希望になりうるのではないか。

171地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:35 ID:UcGJK6AA0
太公望は言った。
あの道具は、二つ存在すると。
一つは今壊れてしまったが、もう一つ手に入れられる可能性があるということではないか?
死んだはずの肉体を、生前以上の状態にまで回復して蘇生させるという道具が、もう一つ。

そして、あの道具を仮に鳴海歩に使ったのなら。
クローン体特有の問題――、寿命や免疫関係の拙さをどうにかできるのではないか?

鳴海歩はクローンとして生み出された存在だ。
行く先が短い運命が決定付けられており、覆す事は叶わない。
叶わないはずだった。
だが、超常の力ならばそれすら克服できるのではないか。

――もちろん、鳴海歩はそれを受け取る事を拒むだろう。
彼は絶望の中でこそ足掻く事を誓ったのだから。

「……でも。それでも……」

ぎゅう……っ、と、握り拳を『結崎ひよの』は俯きながら形作る。
それが役として作ったものなのか、本心からのものなのか。
語るのはやめておくとしよう。

「まあ、さしあたってするべきは……」

俯きをやめ、結崎ひよのは前を見据える。
その顔には既に満面の笑みが花開いていた。

「服の調達ですね♪」

笑みの裏に、弔いの言葉と確かな決意を隠しながら。

「鳴海さんにこんなあられもない格好を見せてしまったら、……うぅむ、それはそれでアリかもしれませんね。
 面白い反応を返してくれそうです♪」


【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜 蘇生】

【B-8/博物館/1日目 黎明】

172地獄とは神の在らざることなり ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:13:57 ID:UcGJK6AA0
【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康、絶好調
[服装]:髪紐の喪失によりストレートのロングヘア、上半身の服が破れて使い物にならない
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、太極符印@封神演義
[思考]
基本: 『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。 蘇生に関する情報を得る。
 0: 服を調達する。
 1: 鳴海歩がいるか確かめ、いるなら合流したい。
 2: あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
 3: 安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
 4: 三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
 5: 襲撃者は先ほど出会った男(ミッドバレイ)ではないか?
 6: 機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
 7: 復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
 8: 太公望達の冥福を祈る。
[備考]
 ※ 清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
 ※ 手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
 ※ 太公望と情報交換をしました。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
   ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
 ※ 超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
 ※ 太公望の考察を知りました。
 ※ 太極符印@封神演義にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
   また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
   結崎ひよのには太極符印@封神演義を任意で使用することはできません。

【復活の玉@封神演義】
四不象がいつも手に持っている玉。
実は仙人界に二つだけ存在する秘宝であり、持ち主が死亡した際に肉体を最高レベルまで引き上げて蘇生させる効力を持つ。
ただし使用できるのは1回限り。
また、本来は発動時の光が及ぶ範囲全てに効果があるのだが、制限により効果が反映されるのは持ち主のみ。


※博物館にはミニチュア封神台が設置されています。機能しているかどうかは不明です。

173 ◆JvezCBil8U:2009/05/09(土) 00:15:52 ID:UcGJK6AA0
以上、仮投下終了。

蘇生ネタが被りましたが偶然です、本当に。
少々長いのと主催関連が心配なので、ご指摘があればお願いします。あと、本投下も可能なら。
分割点は>>162>>163の間です。

174代理:2009/05/09(土) 01:01:32 ID:qXH9dOxA0
さるってしまいました。
誰か残りの投下をお願いします。

175本スレ>>44差し替え ◆JvezCBil8U:2009/05/10(日) 13:40:49 ID:UcGJK6AA0
【B-8/博物館周辺/1日目 黎明】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲、イライラ
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル〜推理の絆〜、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
 1: どんな手段でも情報と武器を得る。役に立たないと判断したら足がつかないように殺す。
 2: 強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
 3: 愛用のサックスが欲しい。
[備考]
 ※ 死亡前後からの参戦。トライガン関係者の存在にはまだ気がついていません。
 ※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
 ※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ※ 呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。
 ※ 右足の打撲は綾崎ハヤテの最後の攻撃によるものです。

【イガラッパ@ONE PIECE】
 博物館のイガラム人形に持たされていた、散弾銃を組み込んだサックス。
 ミッドバレイ愛用のサックスより出力が遥かに劣るため、衝撃波による攻撃は不可能。
 ただし、ミッドバレイが使用する事を想定されていたのか幅広い音域をカバーできるようチューンされている。
 また展示品のため、予備弾も用意されていない。

176本スレ>>45差し替え ◆JvezCBil8U:2009/05/10(日) 13:41:51 ID:UcGJK6AA0
********************


ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「おい……フザケんなよ?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「てめえ、それでもオレの――かってんだ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「こんなつまんねぇトコでくたばりやがって」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「――そこまで貴方がイラつく必要もないでしょう。予想された結末です」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「あァ? ……なんでてめえはそんなに落ち着いてんだよ。一応ライバルだって思ってたんだろ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「別に肉体の死など大した意味などないですからね。
 かつてあの計画の影の実行者だった貴方なら当然よく知ってるはずでしょう?」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「……チッ。理性と感情は別モノだろうがよ」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「尤も――、肉体の、血の二重螺旋という頚木に囚われた方たちもこの場にはいますけどね。
 はてさて、肉体イコール血とするならば、彼等にとっての肉体の死は何を意味するのやら」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「“神”に対する駒としての“悪魔”の子か。皮肉なこったな」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「まあ、確かに私の予想は大幅に狂ってしまいましたけどね、それはそれで。
 ……因果をも操るからこそ、自身を因果の外に置いたが故に、自らの寿命だけは覆せなかった機械仕掛けの神。
 彼の居るべき場所に新たに“神”と成り代わったものの振る賽は何を示すか。
 座して眺めるとしましょうか」

ガリ……ガリ……ガリ……ガリ……

「地獄とは神の在らざることなり。そして、神は此処に在り。
 ならば、神のおわす今この時は何なのか。
 ……存外、答えを出すのは人間かもしれませんよ。
 神の子を信じて待つ事こそが、信仰であり、希望であり、愛なのですから。
 そして、その中で最も大いなるものは――――」

177 ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:28:12 ID:kSdBChBo0
マスタング、妙、BJ、ガッツ、紅煉を仮投下します。
結構長めなのでとりあえずこちらに…

178焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:29:12 ID:kSdBChBo0
男は倒れ伏していた。
それを見下ろす女性。見下しているわけではない。口に手を当て、悲しみと後悔を感じさせる表情を浮かべている。
しかし、男は立ち上がろうとしていた。目の前の女性を、悲しませない為に。
なぜ、このような事態を招いたのか。それは、数分前の話になる……


浴室での首輪の確認を終え、ひとまずマスタングはキッチンに戻った。
この家のキッチンはテーブルが配置され、その場で食事が出来る仕様になっていた。
そのテーブルの上に、何かが置かれている。

「あら、おかえりなさい。何か収穫はありましたか?」
「いや、残念ながら特に…!?」

先ほど出会い、ひとまず行動を共にする事となった女性、志村妙が笑顔で迎えてくれた。
しかし、それどころではない。テーブルに置かれたものは、それどころではないのだ。
言葉を返しながら、目は完全にテーブルの上の物体に釘付けになる。

(これは…一体…?)
「腹が減っては戦は出来ぬと申しますから、とにかく食事でもと思って…
 ごめんなさい。本当はもっと豪華にしたかったんですけど…卵焼きしか作れなくて」

妙の発言から察するに、これは一般に料理と呼ばれるものだろう。
更に言えば、原料は卵であるらしい。
「らしい」というのは、目の前の真っ黒なそれが果たして卵から出来ているのかわからなかったからだ。
ロイ・マスタングは国家錬金術師である。その中でも特に優秀な部類に入る男だ。
それゆえ錬金術に重要な物質の「理解」に関しては人よりも優れた五感と分析力を持つ。
それでも先ほどの首輪のように材質がわからないものはあるが、この目の前の物体もまたその1つだった。

(これを卵から生み出したというのか?一体どんな練成をすればこう…危険な雰囲気を出せるのだ…
 漂う匂いや色が、既に等価交換の法則を無視しているではないか!賢者の石でも持ってるんじゃないだろうな…
 あれを「卵焼き」と呼べるのか?そもそも「卵」と呼んで良いのか?「卵だったもの」の方が近いんじゃないのか!?)

179焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:29:57 ID:kSdBChBo0

様々な考えが頭を巡る。世に知れた「焔の錬金術師」である彼の頭脳をもってしても、この物体は理解しがたいものであった。
これを食せというのは遠まわしに、いやある意味一直線に「死ね」といっているようなものではないか。
そんなことを考えてしまっていると…

「……あの、無理をなさらなくても結構ですよ。自覚はありますから…」

少しうつむいて、妙が言ってきた。
この意味がわからないほど、マスタングは野暮ではない。
そしてこの言葉を無視できないくらいには、彼はフェミニストだった。

「…頂きましょう。確かに、支給された食料は少ないようですからね。現地調達で腹を満たすのは良策です。」

そう言って席に着くと、目の前にあったフォークで物体をすくい、意を決して口に運んだ。

結果は、冒頭の4行である。

絶望的な「刺激」が一通り口の中を駆け巡り終え、一端落ち着くとマスタングは立ち上がった。
無防備な口の中で劇薬を練成された気分だったが、何とか意識を失わずに飲み込むことが出来た。
これもひとえに様々な死線を乗り越えてきた経験の賜物だろう。厳しい部下の叱責にさらされ続けたのも効いたかもしれない。
なんだか視力が落ちた気がするが…気のせいだろう。視力は自分の生命線だ。大事にしたい。
とにもかくにも流れる汗を軽く拭い、引きつりながら笑顔を作り彼女に向けた。

「……この卵焼きは、治療したばかりの私の歯の治療痕には少しばかり甘すぎたようです。ははは…」
「……紳士ですのね、増田さん。どこかのバカ共とは大違いだわ」

見え透いた嘘でも何とか彼女を傷つけずに済んだようだ。
ひとまず安心しようとした、その時…
ゾクリ、と背に走る悪寒。

180焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:31:39 ID:kSdBChBo0
「伏せろっ!」

言うが早いか彼女を伏せさせ、自分も身をかがめる。
二人の頭上を、黒い影が走った。

それはリビングに突っ込むと、もうもうと上がる粉塵の中から、4mはあろうかという真っ黒な姿をあらわした。
虎と人を合わせたような、禍々しい獣だった。

(合成獣かっ!?)

マスタングの世界には様々な動物を人工的に組み合わせ生み出された合成獣(キメラ)という生き物が存在する。
それは大抵自然に存在する生物より強力で、危険な性質を持っていた。
加えてこの目の前の獣、首に自分達と同じ首輪をつけている。

「クク…人間の匂いに惹かれて来てみりゃあ…手を抜いてやったとはいえ、この紅煉様の一撃をかわすとはよぉ…ちったぁ楽しめそうじゃねぇか」

言葉まで発した。どうやらこの馬鹿げた殺し合いの参加者とみて間違いない。
しかも紅煉と名乗るコイツは、ただの合成獣ではなさそうだ。
もしかすると…

「んじゃあ次は、コイツでどうだぁ!!」

紅煉は大きく息を吸い込むと、口から猛烈な炎を吐き出した。
マスタングは妙を反対側に突き飛ばし、自分も転がるようにして炎をかわすと、隣の部屋に身を潜めた。
妙も反対側の廊下の方に隠れられたようだ。

「なんだよぉ、おい。かくれんぼかぁ…?」

先ほどの攻撃で確信した。マスタングが知る限り、炎を吐く生物など実在しない。
奴は現実の獣を合成しただけの合成獣とは違う。特殊な力を付加された存在だ。
そうなると、「ホムンクルス」である可能性がある。

ホムンクルスというのは、錬金術によって人工的に生み出された生命体である。
数多の人間の命を原料に作られた高エネルギー体、賢者の石を核とし、特殊な力と高い再生能力を備えた人造人間だ。
目の前の化け物は人間の形こそとっていないが、その一種である可能性は高い。
だとすれば、願ったりだ。
マスタングは賢者の石を欲している。自分の油断から下半身不随となった部下を治すために。
目の前にそれを持つ可能性がある化け物がいるのだ。対応しない手は無い。
そもそも既にこの家は先ほどの攻撃で燃え出しており、自分のいる部屋は窓もない袋小路。
逃げや待機は「生存」に繋がらない。生き残る為には、戦うしかないのだ。

181焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:34:55 ID:kSdBChBo0

「動くな!」

バッグから取り出した支給品を構え、マスタングは獣の前に立った。

「…クックック…お前、そんなモンがオレに通じると本気で思ってんのかよ?
 それを使ってちいせぇ鉛弾を何発ぶち込もうと、オレは殺せねぇぜ?」

そう笑いながら紅煉が身を低く構えた。獲物を狙う虎のように、鋭い殺気で部屋を満たす。
バカめ、と心中で呟いた。これは時間稼ぎに過ぎない。
紅煉の後ろでマスタングの目の合図を確認した妙が、家の外に飛び出していた。

「死ねぇぇぇ!!!」

咆哮と共に獣が駆け出した瞬間、マスタングが引き金を引く。
その武器の先端から、小さな炎が出現する。そしてその炎を基点として、不思議な光が走っていく。
その光に触れた瞬間、紅煉の周りが爆炎に包まれた。


   ◇     ◇     ◇

「すごいんですねぇ…レンキンジュツシって。」

妙に肩を支えられつつ、マスタングは市街を歩いていた。
マスタングが先ほどおこなったのは「焔の錬金術」。
可燃物周辺の酸素濃度を調節し、爆発や炎上を引き起こす秘伝の錬金術だ。
あらかじめ手の甲に記しておいた練成陣によってそれをおこない、後は点火源があればいつでも発動できる。
しかし、火は彼の背後にあった。そこから練成によって正確に相手の所まで焔を運ぶには少々骨が折れる。
そこで支給品であった拳銃型ライターを使用したのである。

結果は上々。あの化け物はとりあえず焔に包まれ、崩れた天井の下敷きだ。
脱出の際にこちらも手傷は負ったが、たいしたことは無い。
いかに再生能力が高かろうと、あの瓦礫の下で炎に焼かれ続ければただでは済むまい。
このまま相手が死んでしまう可能性は高く、そうなれば賢者の石を手に入れるのは難しいだろう。
本来は生け捕りが望ましかったのだが、そうも言っていられない状況と相手だった。
この結果に満足しないわけにはいくまい。

「とりあえず、遠くに逃げますか?」
「いや、あのくらいの炎ならしばらくすればおさまるでしょう。悪趣味と思われるかもしれないが、死体を確認しておきたい」

妙は一瞬驚いたものの、すぐにその真意を汲み取った。倒しきった確証が欲しいのだろうと。
実際は首輪の回収と、賢者の石が残っているかもしれないという願いが含まれていたのだが…
妙から離れ、マスタングは近くにあったベンチに腰掛ける。なんとか一息ついた。

「お強いんですねぇ…おかげで助かりました。ありがとうございます」
「いや…私も自分の身を守るためにしたようなものです。お気になさらずとも。
 私もここで死ぬわけにはいかないのですよ。大事な目的が待っていますから。
 それに…怖い部下もね」

そこで初めて、妙はマスタングの本音と本当の表情を垣間見た気がした。
先ほどまでに、何度かお互いの状況を話し合った。彼は役人であり、部下や同僚が多くいるらしい。
すかしたナンパ男のように思っていたが、この男もまた大事なものを持ち、その為に戦っているのだろう。
自分や弟が、父から継いだ道場や魂を守って生きているように。

「大変でしょうね、その生き方は…」
「よく甘いと言われますよ」

苦笑しながら答える男の目は、どこかで見た煌きと似たものがある気がした。

182焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:36:48 ID:kSdBChBo0

ガシャーン!

「え?」

そこで聞こえた、奇妙な音。
立ち位置の都合から妙にしか見えていないが、異常が発生していた。
燃え盛る炎をかき分け、黒い物体が姿をあらわす。

「増田さんっ!!!」

妙の叫びでマスタングが異常に気づき振り返ったときには、もう獣は迫っていた。

「くっ、ぐぉぉぉっ!!」

とっさに身を逸らしたものの、傷の影響か今度はかわしきる事が出来なかった。
鋭い痛みが、マスタングの右目に走る。三本の傷痕が刻まれ、鮮血が飛び散った。
右目を押さえ、マスタングも武器を構える。
そこには先ほど仕留めたはずの黒い化け物が、ニヤリと嫌らしい笑いを浮かべて立っていた。

「貴様…あの焔を浴びて…」
「生憎オレは雷と炎の化生でねぇ?あの程度で死んでたまるかよ!」

マスタングのミスは二つある。
1つは相手をホムンクルスのような化け物であると考えた時、無意識にホムンクルスと同じ性質を持っていると思ってしまった事。
紅煉のような化け物、「字伏」は彼が言うように雷と炎の化生。炎に対する耐性はすこぶる高い。
加えて再生能力こそホムンクルスに及ばないが、腕力や耐久力といった身体能力は人間離れしている。
瓦礫の下敷きにされても、脱出できるくらいの能力は持ち合わせているのだ。

そしてもう1つのミスは、紅煉の先ほどの攻撃から彼のステータスを想定してしまった事である。
彼の発言は慢心でもなんでもなく、真実だった。すなわち、手を抜いていたのである。
それは紅煉が戦う上で相手をいたぶる事を好む、残虐な嗜好の持ち主であるからだ。

「俺が手加減してやったのもわからずに…人間風情が、調子にのるなよぉ!」

(クソ、目をやられるとは…最悪だ…)

マスタングは視界を奪われた右目に舌打ちする。
彼の「焔の錬金術」は、発動の際に「距離感」が非常に重要になる。
いわば射程と威力を自在に調節出来るバズーカのようなものだから、射程がわからなければ無関係な場所を攻撃してしまう。
普段なら、離れた相手が咥えている煙草に火をつけるくらい正確に射程を調節できる。
だが突然に片目を奪われ距離感を失った彼に、普段どおりの「焔の錬金術」は使えなかった。

いや、正確に言えば使う事は出来る。しかし、犠牲を払う必要があるのだ。
この状況で焔の錬金術を喰らわせるには、ある程度の距離は関係なく相手を巻き込める爆発を起こせばいい。
かつてイシュバールの殲滅戦でやったように…
しかし、紅煉のすぐ側には妙がいる。そのような爆発を起こせば彼女を巻き込むのは避けられない。
そして今回は、彼女を遠くに逃がす隙など与えてくれそうになかった。

(それが…どうした…!)

183焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:38:53 ID:kSdBChBo0

自分は、死ぬ訳にはいかない。絶対に。
それは、国家の頂点に立ち、全てを守るという野望の為に。
それは、自分の野望を信じてついて来てくれた部下達の為に。
それは、その野望に准じて倒れた、亡き友の為に。

マスタングは引き金を引かねばならない。
先ほど出会ったばかりの女性の為に、全てを諦めるわけにはいかないのだから…


 がこーん!
「ぐぇぇぇ!?」

突如響いた、間抜けな打撃音。
見れば、紅煉の頭を奇妙な棒でぶん殴る、妙の姿があった。

「ふざけんな、ボケェェ!!!てめぇ、2度も後ろから不意打ち決めといて何偉そうにしとんじゃコラァ!!」

呆気にとられたのはマスタングばかりではなく、紅煉もだった。

「増田さんはねぇ、まっすぐ自分の信念貫いて生きてんのよ!お前みたいに中身すっからかんの、武士道もなにもない奴とは違うの!
 あんたみたいなヤツにはね…誰もついてこないわよ!孤独なだけの、魅力のない男!!」

あまりの迫力に黙ってしまう。更に棒を振り回し、紅煉の頭をぶっ叩こうとする妙を見て、
マスタングは少し……笑った。

「…おもしれぇなぁ、女……おもしれぇから先にお前を引き裂いて喰らってやる」

禍々しい笑みを浮かべて、紅煉が妙の方へ向き直す。
鋭い爪が炎の光を照り返し、きらりと光る。
しかし、そこで横槍が入った。

「そんな余裕があるのか、化け物!この程度で私の力を封じたと思うなよ!」

ゆっくり振り返ると、再び右手に拳銃型ライターを構えたマスタングの姿。
片方だけ覗くその目に浮かぶのは、決意と信念。

「チッ、その力はメンドウだな…やっぱり先にてめぇが死ねぇ!」

バチバチッ、と紅煉の額周辺に電気が発生する。雷の化生でもあると言っていたのだ、おそらく稲妻も操れるのだろう。
炎を放ってくれば対策もあったのだが…やはり焔使いにそう何度も炎は使ってこないようだ。
最後の可能性も尽きた。もう、これしかない。
ギリ、と歯を食いしばると、マスタングは引き金にかけていた自分の指を…離した。

「おおおおおおお!!!!!」

左手に構えていた鉄製のナイフ(民家の台所で頂戴していた)を一斉に紅煉目掛けて投げつける。

(思えばお前の十八番だったな、ヒューズ!)

亡き親友の思い出を込めた投擲。それは本当に微かな、だが今の自分に出来る最大限の抵抗だった。
しかし、その願いもあっさりと弾かれる。紅煉の高笑いが響いた。

「ハーッハッハッハ!!女に気をつかったなぁ!?なら、死ねぇぇぇ!!」

幾本もの稲妻が走る。それは無慈悲に…「焔の錬金術師」の身を焦がした。

184焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:40:57 ID:kSdBChBo0


「増田さんっ!!!」

妙の悲痛な叫び…しかし、片膝をつきながらもマスタングはまだ倒れなかった。
全身が焼け爛れ感覚もない。黒焦げの体は、意識が飛ばないのが不思議なほどのダメージ。

しかし、生きる事を諦めるわけにはいかない。なさねばならないことがある。
全てを守ると誓った、青臭い理想が胸にある。

……その為にも、彼女を巻き込むわけにはいかなかった。

あらゆる苦しみを飲み込んで、野望に邁進すると誓った。
多少の犠牲だって乗り越えていく覚悟があった。
だが、それでも絶対に譲れぬ一線があった。

二度と悲劇を起こさぬために、自分が守れる限りの人間を守り、その守った者たちがまた守れる限りの人間を守っていく。
そうやって誰も悲しまぬ世界を作ろうという青臭い理想。それが彼の行動の原点。
その男が、目の前の守れる女性を見捨てるなどという選択肢をどうして選べようか。
その原点を思い出させてくれた、この強き女性を…

生き残る為に、野望を達成する為に、誰かを犠牲にする…
そんな情けない男に部下達が、友が……ついてきてくれるハズがないのだから。

「ほう?粘るじゃねぇか…だがもういい、死ねよ!」
(倒れてたまるか…私は、まだ…)

生きる事を諦めない…マスタングにとって、それは生きるために他の全てを犠牲にすることではない。
譲れぬ理想を守って生きるために、あらゆる手段を尽くすことだ。


彼の決意をあざ笑うかのような咆哮をあげ、闇を纏った獣は迫る。
だが、どれほどの絶望に包まれようとも…マスタングの瞳は、まだ理想を諦めていなかった。
その瞳に、見慣れたきらめきが映る。

ザクッ!
「ぐぁぁぁぁ!!??」

きらめきの正体はアメストリス軍の投げナイフ。それが紅煉の片目を、正確に貫いていた。
そのナイフは、彼の親友、マース・ヒューズ愛用のナイフだった。

(な…に…?)

185焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:43:45 ID:kSdBChBo0

そのきらめきに続くように、轟音をあげ巨大な刃が紅煉を襲う。
振り下ろされた一撃目はかわすも、地面が抉られる。
さらに人間離れした腕力によってすぐさま横なぎに振るわれた刃が、紅煉の顔面に襲い掛かる。
携えた3本の霊刀でなんとか受け止めたものの、軽く後ろに押し込まれてしまう。
刃を振るうは漆黒の剣士。ナイフを放ったのは真っ黒な闇医者。
その姿を捉え、またしても笑みを浮かべると、紅煉は飛び退き周囲を見渡した。

「いいじゃねぇか、とび入り大歓迎だぜぇ…面白そうな連中だしなぁ!」

二人の男が、見知った男によく似て見えて…紅煉は楽しくてしょうがなかった。
なにより、彼らの心が手に取るようにわかる。

「お前ら…こんだけ人数がいりゃあなんとかなると思ってんだろ?カワイイったらねぇよなぁ…!」

下卑た笑いに怯むことなく、剣士は刃を構えなおす。
しかし、紅煉の次の行動は、彼らの予想外だった。

「もう少しいたぶってやろうかと思ったが気が変わったぜ!まとめて消し炭にしてやる!!!」

大きく息を吸い込むと、周囲の敵に向けて放たんと膨大な炎を口元に浮かべる。
何をするのか察した黒い二人組も、身をかわそうとするがもう遅い。

「あばよぉぉ!!!」

叫びと共に放たれる炎。それは周囲を飲み込み、4つの焼死体を生み出す…はずだった。
だが焔は彼の管理下を離れ、口内で爆発を巻き起こす。

「な、なにぃぃぃぃ!!???」

予想外の焔の暴発に、全身と口内を焼かれた紅煉がうろたえる。
ちらりと眼に映った瀕死の男が、してやったりと笑っているように見えた。

そこに一本のナイフが飛び込み、紅煉の腹部に突き刺さる。
不意の攻撃に気を取られた一瞬、ほんの一瞬をついて振るわれる鋸状の刃、キリバチ。
その一太刀は、暗闇のように真っ黒な獣の左腕を…叩き落した。

「ぐおぉぉぉぉ!!キ、キサマら〜〜〜〜!!!」

怒り心頭の声をあげ、しかし状況不利と悟ったか、追撃のキリバチをスレスレでかわしながら紅煉は切り落とされた左腕を拾う。
そして猛スピードで飛び上がると、そのまま漆黒の闇空の中に消えていった。

186焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:45:18 ID:kSdBChBo0


その場に残された4人の中で、真っ先に動いたのは妙だった。

「増田さん!しっかりして!!」

獣の雷を浴びて、全身に傷を負ったマスタングに駆け寄る。
その後を追うように、黒い闇医者も近づいてきた。

「動かすなっ!私は医者だ!私が診る!」

そう言われ、ひとまず妙も動きを止める。
闇医者は患者に近づき、その容態を窺う。

(これは…)

普通人体は表面の2割以上が火傷すると危険だと言われる。
しかし、目の前の患者はその体の7割近くが火傷を負っていた。

(せめて、道具が揃っていれば努力のしようがあったというのに…)

悔しさがこみ上げる。普段の自分なら必ず何かしらの道具を持ち歩いている。
この戦いを開催し、自分から商売道具を取り上げた連中が心底恨めしかった。

「…やめとけ、ブラックジャック。そいつはもう…」

黒い剣士、ガッツの言葉が耳に痛い。わかっている。彼はもう、手遅れだ。

「…先程の攻撃は、君が?」

ブラックジャックが尋ねたのは先程の不可解な爆発。あれによって今自分達は無事であると言ってもいい。
口も動かせないのか、患者は微かに頷いた。

(助けるつもりが、助けられたというわけか…なんとも情けない話だ)

先程の紅煉の炎の暴発は、マスタングの「焔の錬金術」である。
距離感の調節が利かなくとも、火種が相手の元にあるのなら話は別だ。
微妙な射程の調整はせず、可燃性物質を火元近くに適量発生させれば良い。おまけに口の中の無防備さは先刻実感している。
あれが、最後の最後まで狙っていたマスタングの賭けだった。

187焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:47:44 ID:kSdBChBo0
うなだれるブラックジャックの襟首を、マスタングは弱々しくも力強く、掴んだ。

「な…!?」

そのまま何かを訴えかけるような目でブラックジャックを見る。かすかに、口を動かした。

「まだ…死ね…ん……生きね…ば…なら…ない…」

それは、助けて欲しいという意志だった。だが、決して情けない命乞いではない。
むしろ、ここで死ぬわけにはいかない、助けろ、生きたいのだ、という激しい感情だった。
それを真正面からぶつけられたブラックジャックは、激しい衝撃を感じた。

(私は…何を考えた?道具がないからどうにもならない?もう手遅れだと…?)

それは強烈な自責の念。目の前で死に掛けている患者を、助けられない状況を受け入れた自分への怒り。
マスタングは未だ諦めることなく、必死で生きようとしていた。
一度は消えかけた命。しかし、それを救ってくれた亡き友の刃。
それが再び、生への渇望を叫ぶ力となった。
そんな諦めない生命力を前にして、ブラックジャックは先程の自分の思考を恥じた。
グッと拳を握り締め、患者をその背に負う。

「ブラックジャック!なにをする気だ!?」
「この患者を病院まで連れて行く!」
「無駄だ、もたないに決まってるぜ」

ガッツの意見はもっともだ。だがブラックジャックの中にある信念が、それを良しとしない。

「まだわからん!この患者は生きようとしている!それを医者の私が先に諦めてしまう訳にはいかないんだ!!
 それではあの死神にも劣る…医者として生きていくことが出来なくなる!」

そういって患者を背負おうとするブラックジャックを、支える手があった。

188焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:49:09 ID:kSdBChBo0

「あなたは…」
「手伝わせてください。増田さんは、命の恩人です。」

気丈な瞳に強い意志を込め、妙が懇願する。
無言で頷きあうと、協力してなんとかマスタングを背負う事に成功した。

「チッ」

1人そっぽを向くガッツ。だが、彼もこれ以上は止める事をしなかった。
周囲への警戒を行いつつ、共に病院への道を歩みだす。

「諦めん、諦めんぞ…君が決して生を諦めないように、私も君を救うのを諦めない…」

力強く語るブラックジャック。妙は頷き、ガッツはそれをただ眺める。
各々が覚悟を決めて歩み出した、その直後だった。

フッ

「えっ…?」

ズンッ、と突如ブラックジャックの背中の重みが一気に増加した。
まるでその体から、何かがガクンと抜け落ちたように…
妙が、声を震わせる。弱々しくも必死にしがみついていた腕に、力が感じられない…

それは、彼の背中で命が抜け落ちた瞬間だった。

背中の重みに目を見開いて立ち止まり、わなわなと震えだすブラックジャック。
顔を覆い、涙を流し出すお妙。
ただ、視線を逸らすガッツ…

最後の一瞬まで生を諦めず、理想を目指した男の命が今、消え去った。
それは守れる者を守り通した…うつむくことなき、有能な最期…

「私は、なんと無力なんだ…」

それでも闇医者の顔に浮かぶのは悔しさと、憤りばかり…

189焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:52:05 ID:kSdBChBo0

【B-3/道路/1日目 黎明】
【志村妙@銀魂】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 、クリマ・タクト@ワンピース、不明支給品(0〜1(本人確認済))
 [思考]
  0:増田さん…
  1:増田さんを手厚くを埋葬
  2:新ちゃんはいるのかしら?
  3:この黒い二人組みと同行するか考える
 [備考]
  ※ロイ・マスタングと情報交換をしました。 お互いの世界の情報について一部把握しました。
  ※参戦時期は28巻以降です。

【ガッツ@ベルセルク】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:キリバチ@ワンピース
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
 [思考]
 基本:殺し合いの主催者を叩き潰し、仲間の下へ帰る
  0:くそったれ…胸クソ悪いぜ…
  1:ブラック・ジャックと共に病院を目指す
  2:あの黒い獣(使徒?)は絶対に殺す
 [備考]
  ※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
  ※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
  ※紅煉を使徒ではないかと思っています。

【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック】
 [状態]:疲労(小) 強い無力感
 [装備]:ヒューズの投げナイフ(8/10)@鋼の錬金術師
 [道具]:基本支給品一式
 [思考]
 基本:主催者を止め、会場から脱出する。
  0:この場での私は無力なのか…
  1:死者(マスタング)を埋葬する
  2:ガッツと共に病院を目指し、医療器具を入手する。
  3:この女性(お妙)の処遇を考える。
  4:あの黒い獣は許さない
    
 [備考]
  ※コートに仕込んでいるメス等の手術道具は、全て没収されています。


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師】死亡

190焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:53:09 ID:kSdBChBo0


「クソがぁぁぁ…!絶対にゆるさねぇ…」

激しく悪態をつきながらその身を海辺におろす紅煉。
左腕は肘から切り落とされ、右目と腹にはナイフの傷痕が。全身、特に口内には激しい焔によるダメージがあった。
いかに妖といえどこれだけの焔や刃物にさらされては、衰弱は避けられない。

なにより、普段より傷が治る速度が格段に遅い。これが、最初に言っていた制限のようなものだろうか。
そればかりか炎や稲妻も大分威力が落ちていた。それが先程の不愉快な苦戦に繋がっている。
そう、これが彼を怒らせる原因だった。

「このオレの力を制限しやがるとは…フザけやがってぇぇ…!!!おかげで余計な怪我をしちまったじゃねぇか!!
 奴ら…絶対に許さねぇ…この殺し合いが終わったら、必ずぶっ殺してやる…!!」

傷を負わせた者たちよりも、己の快楽の邪魔をする主催者への怒りを募らせる紅煉。
こんな状況でも、彼は自分が負けるとは思っていない。ただ、圧倒的な実力差で相手を蹂躙できないのが不満なのだ。

「ひとまず、体を回復させないといけねぇな…適当に弱そうな人間を見つけて、喰っちまうか。
 それが手っ取り早いだろ。今度は遊ばねぇ…とにかく人を喰らうのが優先だ」

そう呟くと、左腕を布で巻きつけてくっつける。
殴ったり引っ掻いたりは出来ないが、しばらく放って置けばこれでくっつくだろう。
右目のナイフも抜いた。腹のナイフは…自分にここまで傷をつけた連中への褒美として、つけたままにしておいてやろう。

怒りを胸に、空腹を抱えた黒き獣が空を舞う。次の獲物は、誰になるのか…

191焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:53:58 ID:kSdBChBo0

【A-3/海岸線/深夜】
 【紅煉@うしおととら】
 [状態]: 疲労(中) ダメージ(中) 全身、特に口内に激しい火傷 右目、左腕欠損(回復中) 腹部にナイフ
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2個(未確認)
 [思考]
 基本: 他の参加者を皆殺しに、殺し合いとやらを楽しむ。最後に主催者も殺す。
  1:適当に弱そうな参加者を見つけて喰らう。
  2:傷が回復したら皆殺し再開。自分に傷をつけた黒い二人組みと、焔使いは殺すのが楽しみ。
  3: ひょうは自分の手で殺したい
 [備考]
  ※参戦時期は原作32巻、ひょうとの最終決戦以前の時期。
  ※ひょうの存在はOPの場所で確認しました。うしおやとらなどは未だ未確認です。
  ※左腕はくっついてはいますが振り回せば取れます。右目は現在完全に視力を奪われた状態です。どちらもしばらくは回復しません。

192焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:54:36 ID:kSdBChBo0
間違えた。
>>191はこっちです。



【A-3/海岸線/黎明】
 【紅煉@うしおととら】
 [状態]: 疲労(中) ダメージ(中) 全身、特に口内に激しい火傷 右目、左腕欠損(回復中) 腹部にナイフ
 [服装]:
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2個(未確認)
 [思考]
 基本: 他の参加者を皆殺しに、殺し合いとやらを楽しむ。最後に主催者も殺す。
  1:適当に弱そうな参加者を見つけて喰らう。
  2:傷が回復したら皆殺し再開。自分に傷をつけた黒い二人組みと、焔使いは殺すのが楽しみ。
  3: ひょうは自分の手で殺したい
 [備考]
  ※参戦時期は原作32巻、ひょうとの最終決戦以前の時期。
  ※ひょうの存在はOPの場所で確認しました。うしおやとらなどは未だ未確認です。
  ※左腕はくっついてはいますが振り回せば取れます。右目は現在完全に視力を奪われた状態です。どちらもしばらくは回復しません。

193焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/13(水) 22:56:19 ID:kSdBChBo0
以上で投下終了です。
そんなに大佐好きなわけではないのですが、気がついたらこんな話に…


問題点の指摘など、ご意見あればよろしくお願いします。

194焔は選び、闇に消え… ◆lDtTkFh3nc:2009/05/14(木) 23:29:00 ID:kSdBChBo0
案の定おさるさんでした。
よろしければどなたか>>186以降を本スレにお願いします。

195ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:31:37 ID:kSdBChBo0
すみません、規制されたのでどなたか…



    ◇     ◇     ◇

旅館の暗い廊下で、サンジとスズメバチが攻防を繰り返していた。
いや、正確には一方が「攻」を繰り返し、もう一方が「防」を繰り返している。
無論、守りに徹するのがサンジだ。
これは彼のポリシーのみならず、ある作戦の為でもあった。

  『いいかい、奴はおそらく君と同じ悪魔の実の能力者。弱点は水ってことになる』

「うふふふふ、兄様、せっかく帰ってきてくれたんですもの。もっと積極的になって!」

すれすれで攻撃をかわした…つもりが、頬に痛みが走る。
いつの間にか、彼女の靴には一本ずつ針がセットされていた。

(クソ、ますます戦いにくくなりやがったか…ナギちゃんの準備は…?)

  『それなら、風呂に落とすのはどうだ?ここには大きな浴場があったはずだぞ!』

一方、旅館一階の大浴場ではナギが下準備を進めていた。

作戦は単純明快。スズメバチを大浴場におびき出し、隙を突いて浴槽に突き落とす。
囮役はもちろんサンジが務め、姿を消したナギが突き落とす担当だ。
問題は、いかにして彼女をここに導き、浴槽に落とすか。

能力を理解していたという事は、弱点も理解しているだろう。
水場には近づきたがらないはずであるが、もちろんその為の策は練った。


ナギは、正直ワクワクしていた。
よく自分の非力が憎いと思っていた。少年漫画の主人公のように強くなりたかった。
嘘みたいな冒険の中で、かっこいい活躍がしたかったのだ。
その夢が今、叶う。自分は特別な力を身につけ悪に立ち向かうのだ!

これが私の、冒険の夜明け……!!

196ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:32:19 ID:kSdBChBo0


「紳士な兄様!そろそろ鬼ごっこは終わりにして、窒息プレイのお時間よ!」

先ほどまでとは別人のように、瞳孔の開いた目で獲物を追うスズメバチ。
仕込み針によっていたるところに小さな傷がつけられるが、サンジはかろうじて攻撃を回避、距離を絶妙に保つ。
近づきすぎてはやられる。離れすぎれば見失う。
階段を駆け登っても一度停止し、姿が見えるのを待った。

真っ暗な階段から、徐々に徐々に姿を現すスズメバチ…
目が、鼻が、口が…少しずつ見えてくるその全てが、狂気を彩る。

「兄様、あまり逃げ回るようなら…遊び相手を変えてもいいのよ?」

痺れをきらしたか、スズメバチが告げる。
それはつまり、ナギを狙うという宣言だった。

「させるかよ…ここで俺が相手してやる」

覚悟を決め、サンジも身構えた。
お互いにグッと地面を踏みしめると、スズメバチは高く舞い上がり、サンジは右足を振り上げて停止する。

ひゅっ…と風が吹き、スズメバチの針が肩に突き刺さる。一瞬苦悶の表情を浮かべるサンジ。
一方スズメバチは追撃の為か、すぐに針を引き抜き着地の態勢に入る。

それを待っていたかのように、サンジが掲げた足を振り下ろした。
狙いはスズメバチではなく…その着地点の床!

がしゃぁぁぁぁん!!!

木製の床が蹴り抜かれ、地面にぽっかり穴があく。
着地するはずだった地面を失い、蜂は一階へと落下していった。
一階の、大浴場へと…

197ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:32:43 ID:kSdBChBo0

「くっ…」

落下の途中、スズメバチは舌打ちする。
下は浴場、水の宝庫だ。
自分が食べた「スベスベの実」の注意書きにはこうも書いてあった。
「これを食したものは、海に嫌われ永遠にカナヅチになる」と。
『海』には『水の張られた場所』全てが含まれる。

だが、真下は浴槽ではない。タイル張りの床だった。
伊達に空中戦を得意としているわけじゃない。普通に着地をして、さっさと離れればいいだけの話だ。
いつも通りに着地をしようと試みて、足が地面についた…しかし

つるんっ
「きゃう!?」

スズメバチは足を滑らし、バランスを失った。

(そんなっ!こんな普通の着地を失敗なんて…)

それもそのはず、この大浴場の床にはナギの手で一面にファ○リーピュアが撒き散らされていたのである。
タイルの上に大量の洗剤。これで滑らないハズがなかった。。

「やあああああああ!!」

なにもない空間から叫び声が聞こえる。
バランスを保とうと必死になっていたスズメバチの腹目掛けて、透明状態のナギが突進していた。

「落ちろ、蚊トンボォォォォ!!!」

198ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:33:04 ID:kSdBChBo0


やった、うまくいったぞ!           ハァ…驚いちゃった…

私だってやれば出来るんだ!          小さな姉様ね…かわいい…

サンジめ、驚いてるかな?           嬉しそうな顔してる…

ハヤテにも絶対自慢してやるんだ!       私の弱点、知ってるのね?

マリアも、みんなびっくりするぞ!       でも、ご愁傷様…

このまま浴槽に落とせば…           集中して…上下を認識

し、死んだりしないよな            少しだけ加速をつける

まぁ、なんとかなるだろ…ん?         自ら半回転、これでいい

なんでコイツのヒザがここに?         姉様の顔を挟んであげる

うわ、なんだ、どうなってる?         さらに加速して半回転…

あ、あ、体が…浮いてる…!?         お風呂には一緒に入りましょう、姉様?



『ばっしゃーん!!!』



激しい水音と共に、29kgの軽い体が水中に投げ込まれた。

「ナギちゃん!!!」

二階から、事の顛末を見ていたサンジの叫び声が響く。

199ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:33:56 ID:kSdBChBo0

スズメバチは突き落とされる瞬間、自ら体を回転させる事で天地を逆転させたのだ。
それによりヒザでナギの頭を挟み、プロレス技のフランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばしたのである。
完全に油断し、透明化を解除したのがナギの失敗だった。

ナギは彼女のふとももの間で水中に沈み、動けなくなっている。
スズメバチもヒザから下は水に浸かっているので力が抜けているようだが、ナギは全身だ。とても抵抗できそうにない。

「あら、小さな姉様…もしかしてあなたも『実』を食べたのかしら?うふふ、お仲間ね」

余裕たっぷりで笑うスズメバチ。
サンジはすぐに2階から飛び降りた。

つるんっ

「ぬがっ!?」

ファ○リーピュアに足をとられてコケる。
しかし、そんなことはものともせずにすぐ立ち上がった。今はレディの大ピンチ。
ここで立たねば、自分の中の騎士道精神が…

グラァ

「な…?」

だが、意思に反してサンジは倒れる。今度はファ○リーピュアのせいではない。
全身が痺れたように動かなかった。

「うふふ、やっと効いてきたのね。ありあわせで作ったから、随分効くのが遅くなっちゃった」

ハァハァと息を荒くし、スズメバチが動けないサンジを嬉しそうに見ている。

(毒…か…しまった…)

悪魔の実の能力者であることに気を取られすぎて失念していた。
思えばスズメバチの名前で、針を武器に使うのである。最初に毒を警戒すべきだったのだ。

「私が大事に調合した毒を針につけたの…この旅館の周りにいろいろ毒草が生えていたわ。
 紳士な兄様に使ったのは麻痺毒だから死なないの、安心して」

スズメバチの下では、ナギが苦悶の表情を浮かべていた。
最初こそ彼女のスカートの中身に驚いて顔を真っ赤にしていたが、次第にそんな余裕もなくなっていた。
もがこうにも、水の中では力が入らない。

200ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:34:25 ID:kSdBChBo0

甘かった。ナギは後悔していた。
ただ泳げなくなるだけだと思っていた。それなら今までと変わらない、と。
だがこれはそんな生やさしいものじゃない。水に力を、命を吸われているような感覚だった。
必死で止めていたが、少しずつ息が漏れていく…

(苦しい…苦しい…怖い…怖い!!死んでしまう…誰か…だれか!!)

おかしい、なぜこんなことになった?とナギは思う。
無敵の力を手に入れたはずなのに…私は、漫画のように強くなったはずなのに…

怖い…死ぬのは怖い!
死ぬなんて聞いてない!こんな、こんなことって…

徐々に、意識が遠のいてゆく…

ナギは勘違いしている。
まるで漫画のような状況に陥り、自分もまた漫画のような力を得た。
そこで彼女は自分を…「漫画やゲームの主人公」と重ねてしまった。重ねすぎてしまった。

漫画のキャラクターは、死んだ後も元気に雑誌の表紙を飾るし、読み返せば元気に生きている。
だが、現実の死がもたらすのは「無」に他ならない。

そういう意味で、彼女には「死」に対する現実感が不足していた。

201ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:34:46 ID:kSdBChBo0

「ガハッ!」

大きく息を吐き、意識を失ったナギ。
すかさずスズメバチが彼女を浴槽から抱えあげる。

「ねぇ、怖かった?苦しかった…?
 じわじわ『死』に近づいていく小さな姉様、とっても素敵な表情だった……うふふふふ……」

うっとりとした顔で意識のないナギを抱きとめる。

「私、あなたのこと好きになっちゃったわ」

告白と共に両手でナギの頬を挟み、触れ合いそうな距離でじっと見つめる。

「もっともっと遊んであげる…だから、死んではダメよ」

そう言うと、ナギを背負って出口に向かった。

「ま…て…クソ…」

毒によって体がほとんど動かないサンジが必死ですがる。

「ごめんなさい、紳士な兄様。私、この子と遊ぶ事にしたの。遊び終わったら、また会いに来てあげるわ」

それだけ言い残すと、彼女は大浴場、そして旅館を飛び出していった。
その背に夢見る少女を乗せて…

「クソッタレ……!!」

大浴場に響くのは、残されたサンジの悲痛な声のみ…

202ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:35:39 ID:kSdBChBo0


「ハァ…かわいい姉様。意地っ張りで怖がりで…強くて、弱い。とっても楽しく遊べそう。
 やる事はいっぱいあるけど、今はあなたと遊んであげる。ゆーっくり、たっぷり…ね」

そんなことを呟きながらスズメバチは息をきらせて夜を駆ける。

どこか素敵な遊び場はないかしら。道具も要るわ。毒を調合しなきゃ。
ここに生えてるものだけじゃ強力なものは作れないかも知れないけど、遊ぶのには十分。

どうやって遊んであげようかしら。すぐ痛くしちゃうのはつまらないわ。
苦しくして、怖くして、じっくりじわじわ………追い詰めたい。
「死めくくり」は、なんとでもなるもの。

「あぁ…とっても楽しみ…」


夢を…夢をみていた。
自分は不思議な力を持った海賊となり、船と仲間を集めて財宝を探していた。
麦わら帽子を被り、楽しそうに船首に跨っている。
お姉さんのようなしっかり者の航海士…一般人で生意気な狙撃手…喋るペットに、ナンパなコック。
そして最強の執事、もとい剣豪を目指す、1人の少年と共に…
それはそれは楽しく、現実感のある夢をみていた。

目覚めた彼女を待ち受けるのは、現実の夜明けか、日没か…

「ハヤテ……」

彼女の執事はここにはいない。



【G-7/森/1日目 黎明】
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、実の力で美しくなっている。 下半身びしょぬれ
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式
[思考・備考]
基本:皆殺し。帰って仕事を続け、優しい兄様と遊んであげる。
 0:うふふふふ…
 1:小さな姉様(ナギ)と遊ぶ。
 2:姉様と十分遊んだら、他の遊び相手を探してみる。
 3:旅館に残した紳士な兄様(サンジ)とも遊びたい。
 4:興味の無い相手は、遊ばないですぐ殺す。

 ※ スカートはギリギリで見えません、履いてるか履いてないかは…ご想像に(ry
 ※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。


【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)全身びしょぬれ 気絶中
[装備]:なし
[道具]:
[思考・備考]
基本:ハヤテ達やサンジと協力して脱出
 0:ハヤテ…
 1:漫画の主人公のように、この状況を乗り越える。
 2:サンジと一緒にお互いの仲間探し。

 ※ サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。

203ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:36:19 ID:kSdBChBo0



かぽーーーーん


旅館内の大浴場で、1人の男が湯に浸かっていた。

「クソ…俺のせいで…」

先ほど不覚を取った、サンジその人である。
だが、別にただ呑気に風呂に浸かっているわけではない。
苛立った表情が、それをよくものがたっていた。

彼は毒で麻痺した状態で、こんな看板に気がついたのである。

『ここはムルムル温泉じゃ!効能は美容と疲労回復!
 疲労以外にも小さな怪我や軽い毒なら、15分ほど浸かっとればなおるぞ』

這うように動く事しか出来なかったサンジは、藁にもすがる思いでこの温泉に浸かった。
眉唾ものだったが、どうやら効いているらしい。少しずつ体の一部が動くようになってきた。

「ナギちゃん、待ってろよ…」

サンジはこの事態の原因が、逃げを選ばなかった自分にあると責任を感じていた。
このままではナギが危ない。体が動くようになれば、すぐにも助けに行くつもりだった。

「守るって…約束したからな」

大浴場の床に転がる空っぽのファ○リーピュアを見つめて、サンジが拳を握り締めた。


【G-8/旅館内 大浴場『ムルムル温泉』/1日目 黎明】
【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:疲労(中) 左肩に小さな刺し傷(回復中) 毒による麻痺(回復中) 入浴中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ノートパソコン@現実 旅館のパンフレット 不明支給品1〜2
[思考・備考]
基本:仲間や女性を守り、脱出する
 0:ナギちゃん、待ってろ…
 1:スズメバチを追いかけ、ナギを助ける。
 2:その後は彼女を守りながら、一緒にお互いの仲間探し。
 3;どうしてスケスケの実やスベスベの実があったんだ…?

 ※ ナギからパラレルワールド仮説を聞きました。半信半疑です。
 ※ 「ハヤテのごとく」関係の情報を得ました。
   参加者ではハヤテ、咲夜、伊澄について詳しく聞いています。
 ※ 毒は15分ほど浸かっていれば完璧に治ります。途中であがるとどうなるかはわかりません。


【ムルムル温泉】
G-8に存在する旅館の一階にある大浴場。源泉かけ流しの混浴天然温泉。
効果は美容と回復で、疲労の回復を早める他、小さな傷や軽い毒なら15分ほどで回復する。
ただし、この会場に来る前の怪我や病気、あるいは大怪我や強力な毒も治せない。
飲んでもおいしく効果的らしいが、ファ○リーピュアが入っている可能性があるので注意。

※G-8旅館一階の大浴場の床が、ファ○リーピュアで大変滑りやすくなっています。

204ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc:2009/05/25(月) 00:39:44 ID:kSdBChBo0
以上、投下終了です。参考資料:クッキング○パと餓○伝w

何かご指摘ありましたらお願いします。

205 ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:15:16 ID:5A6vmjKY0
規制食らってるので、浅月、宮子分をこちらに投下します

206ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:15:54 ID:5A6vmjKY0
 ざくり、ざくりと足踏みする音。
 暗闇の隙間から差し込む月明は、さながら針穴をくぐる糸のごとし。
 生い茂る木々の合間から漏れる薄光が、少年の足元を照らしていた。
 ざくりと音を立てるのは、木の葉混じりの茶色い地面。
 時折木の根を踏みながら。時には枝を踏み折りながら。
 これぞ森林といった地面を、赤紫の髪の少年が踏破していく。
 出発から約3時間。
 大きな道を逸れるところまでは来た。いいペースと言えるだろう。
 この分なら、夜明け頃には目的地たる高校にたどり着けそうだ。
「……やれやれ……何やってんだ俺は……?」
 にもかかわらず、少年――浅月香介の顔色は冴えない。
 眉間に寄せられた不機嫌そうな皺に、心底うんざりしたような目付き。
 面白くないというその心境を、顔面全体で物語るような顔立ちだ。
 無理もない。
 背中に見知らぬ女の子を背負いながら、しかも起こさぬように気を配りながら森を突っ切るのだ。ストレスが溜まらぬわけがない。
 今でこそ幸せそうに寝息を立ててはいるが、一度目を覚まそうものなら、いきなり騒ぎ立てられてもおかしくないだろう。
 この金髪の娘――宮子はそういう奴だ。少なくとも、浅月の知る限りでは。
 放り捨てるとまではいかずとも、その辺に置き去りにしたいと何度思ったことか。
 だがそれでも、思うだけで行動には移せない。
 九兵衛と交わした約束が、幼馴染の亮子の口うるささが、何より自身の僅かばかりの良心が、最後の一歩で踏み留まる。
 恐らくこいつが自然に起きるまで、自分はずっとこのままなのだろう。
 もう、何となく分かってしまった。これまでの経験に基づいて。
(まぁ、今更嘆いても仕方がねぇ)
 その辺りの切り替えの早さは、やはり彼の苦労人たるが故の慣れなのだろうか。
 そう考えると、また少しだけ、己が情けなく思えた浅月であった。
 敵をいたぶることを好むサディストの傾向こそあるものの、彼は基本的には常識人だ。
 何かと自分を振り回す亮子や変人揃いの仲間達に囲まれた環境では、自然と彼が損な役回りになる羽目になる。
 こんな展開には慣れっこだ。普段からみんなして、あれやこれやと役割を押しつけるのだから。
 閑話休題。
 情けないエピソードはこれくらいにしておいて、今後の予定へと思考の射程をを伸ばしていく。
 現在の目的地は高校。
 幼少より前線に立ち続けた浅月とは違い、最重要ターゲットの亮子は普通の高校生だ。目をつける場所があるとすればそこだろう。
 鳴海歩の方は正直微妙だ。あいつほど頭の回る奴ならば、むしろより実用的な、研究所や病院の方に向かう。
 仮にここに呼ばれていたらの話だが、竹内理緒が来る可能性は五分五分。
 一応月臣学園に通ってはいたが、それ以前の学歴があるかどうかはかなり怪しい。アイズ・ラザフォードはまずいるまい。
 となると高確率で合流できそうなのは、亮子1人だけということだ。
 他の参加者はどうだろう。
 地図上にその存在を明記されている以上は、やはりこの手の施設は他より目立つ。
 自分が神社をそうしたように、何らかの集合場所として用いられる可能性もある。
 そうなれば自分と同じように、殺し合いから脱出を図る面子と出会えるかもしれない。
 ブレード・チルドレン以外と協力するというのは、何ともむずがゆいものだが、今は状況が状況だ。
 使えそうな人間がいたならば、共同戦線を張るのもやむなし、といったところだろう。
 どちらにしても、首にかけられた爆弾を解除できる人間がいるといいのだが。
(こんなことなら、理緒に構造くらい聞いとけばよかったぜ……)
 ため息と共に思い出すのは、かつて歩と対峙した時の記憶だ。
 以前理緒は歩と戦った時、これと同じような爆弾を作ったことがある。
 せめてその内部構造を教えてもらっていれば、解体の時に応用が利いたかもしれないのだが。
 この首輪が外れないことには、あまり派手な行動に出ることはできない。
 いずれあの主催者連中と対決することを考えると、優先すべきは首輪の解除だろう。

207ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:16:33 ID:5A6vmjKY0
 そして、警戒すべきは爆弾だけではない。
 むしろ今真に注意すべきは、殺し合いに乗った連中だ。
 名前の載っている施設は溜まり場にちょうどいい。浅月の読みだ。
 そして殺し合いでの優勝を狙う連中も、遠からず同じ結論に行き着くだろう。
 故に目的地にたどり着いた瞬間、そういった奴らと遭遇し、そのまま戦闘に雪崩れ込む可能性だって大いにあり得るのだ。
(やべ……武器の1つでも分けてもらうべきだったな)
 顔をしかめ、己の思慮の浅さを恥じた。
 現在の浅月の持ち物は、コレクションフィギュアに女物の衣装、それから背中でぐうすか寝ている宮子のみ。
 要するに、丸腰だ。
 先ほど九兵衛と別れる時に、その支給品を確認しておけばよかったと後悔する。
 もう1つ何か武器でもあれば、借りることもできたのだろうが。

 ――こーすけ君のばーか。
 ――香介……お前何アホなミスやらかしてんのさ。
 ――期待通りのヘタレさんですねぇ。
 ――何だ、お前意外と馬鹿だったんだな。
 ――だからお前は間が抜けてるんだ、アサヅキ。

(だーもううるせぇなチクショウッ!)
 脳内で五重奏を奏でる罵倒に、これまた脳内で叫び返す。
 ブレチル3人はまだいいだろう。百歩譲って歩も許そう。ただしおさげの新聞部、何でお前まで出てくるんだ鬱陶しい。
 こっちだって変態扱いされたり投げ飛ばされたりと、それなりに悲惨な目に遭っているんだ。
 あんまりいじめると泣いちゃうぞ、そのうち。
(と……いつまでも馬鹿やってる場合じゃねえな)
 悪態をつくのもこの辺にしておこう。
 優先すべきは武器の確保だ。
 香介自身が持っているはずもない。こんな森の中では現地調達などできやしない。頼みの九兵衛はここにはいない。
 となると、彼が武装するために残された手段は1つ――背中の宮子だ。
 適当な木の幹にもたれさせると、その背中からデイパックを拝借。
 彼が選んだ調達手段――それは宮子の持ち物から、武器になりそうなものをいただくということ。
 正直ギャンブル性も高いし、人の物を盗むようで良心も咎める。
 だが、万が一強力な武器があったならば万々歳だし、この程度の良心の痛みで命が救われるなら安いものだ。
 鞄の口を開け、中を探る。
 2つのランダム支給品のうち、片方は戦闘には使えなさそうなものだった。
 そして残されたもう片方が、見事お目当ての武器だったわけだが。
「……何だこりゃ……」
 最初のリアクションがそれだ。
 彼の右手に握られていたのは、無骨な印象を受ける重厚なピストル。
 それなりに威力もある方だろう。使い慣れた銃器が得物だというのも利点。
 だが、どうしても腑に落ちない部分が1つある。
 その銃の上下に折りたたまれた、アーミーナイフのような刀身だ。
 少し弄ってみる。がちゃん、と音を立て、2つ同時に展開された。
 まるで鋏のような構造。恐らく設計理念もそんなところなのだろう。
「……趣味悪」
 心底そう思った。
 大体何でピストルに銃剣がついているのだ。しかも1つではなく2つも。
 こんな得物で敵を挟み斬るなんて、そんな器用な真似ができてたまるか。漫画の世界じゃないんだし。
 喜ばしい状況には変わりないはずなのだが、素直に喜べない浅月であった。

208ぶっちゃけありえない ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:17:31 ID:5A6vmjKY0
「……ん……」
 と。
 その時だ。
 どこからともなく、女の声が微かに漏れる。
 いいや、出所は分かっていた。彼のすぐ傍の木の幹だ。その声色にも聞き覚えがある。
 金髪の少女の瞼の睫毛が、ふるふると僅かに震えていた。
 意識の覚醒を迎えたのだろう。
 事実として、ゆっくりと開かれていく瞳。
 眼鏡の奥の浅月の目と、視線が重なる。
「よう、起こしちまったか。悪いな」
 極力警戒させないように、フレンドリーに応じた。
 相手だって人間だ。対応のし方さえ間違わなければ、騒ぎ立てるような真似はするまい。
 おかげで目覚めは穏やかだ。先ほどはあれほどパニックに陥っていた宮子も、今は随分と静かなもの。
「んー……?」
 その、はずだった。
 彼女の視線が下がらなければ。



 ――ここで思い出してほしい。
 宮子がこの浅月という少年を、一体どのように認識しているのかを。
 そして今の浅月が、一体いかなる状況に置かれているのかを。
 宮子にとっての浅月は、イモ色の頭を持った変人だ。
 そして彼の手元には、ぎらぎらと輝く刃物が納まっている。
 変人に武器。
 さて、この状況から導き出される結論は――?



「……うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱり変な人だあああああああぁぁぁぁぁぁ!?
 変な人がナイフ持ってるううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「どぅわあっ!? い、いきなり何だよ心臓に悪ぃ!」
「いやーいやー! 殺されるー! こーろーさーれーちゃーうーぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「だああぁぁぁ落ち着け落ち着け! 誤解だ誤解ぃぃぃぃ!」


【F-4/森/一日目黎明】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(中)
【装備】レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
【所持品】支給品一式 、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!、メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:少女(宮子)を落ち着かせ、学校に向かう。
2:学校に着いたら、できれば爆弾を解除できる人間に会いたい
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、パニック
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、不明支給品1(武器ではありません)
【思考】
基本: ???
1:いやああー! 殺されるー!!
※現実をいまいち理解していません。

209 ◆9L.gxDzakI:2009/05/26(火) 10:18:06 ID:5A6vmjKY0
以上です。どなたか代理投下よろしくお願いします

210 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:44:44 ID:u4pKbbmY0
さるさんに引っかかったのでこちらで。
可能ならば、代理投下をお願いしたく思います。

211Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:45:24 ID:u4pKbbmY0
一念を込めて見据える先に。
ドラゴンころしを肩に、少女の皮を被った狂信者が悠然と歩み寄る。


答えは簡単だ。
例えば、首輪の探知機の様な物を持っていたのだとしたら。

いや、それでは無傷である事の説明がつかない。
この道を上がってきたということは、経路上間違いなく地雷原に突っ込んでいる。
なのに何故、煤一つ泥一つ被っていないのか。

それを説明できる道具を、雨流みねねは知っている。


「お前、日記……所有者かぁぁあぁぁッ!」


「――あの道具は、つい今しがたキンブリーさんの協力者に預けてきました。
 私を応援して、手伝うといって下さった方です。
 貴方があの道具を悪用したくとも、ここにはありません……っ!」

ざく、ざくとゆっくり一歩一歩を踏みしめて、狂った正義はにじり寄る。
何を勘違いしたか自分は日記の奪取を狙っているとでも思われたようだ。
まずい、とみねねは感じる。
感じるなどというのは生易しいか、警報が針となってただひたすらに全身を刺し貫いているような感覚すらある。

協力者、それも日記を見ている者がいるとするならば逃亡日記のない自分はまず逃げる事は出来ないだろう。
そしてまた、この女が日記所有者なのだとしても手元にないならば日記の破壊を狙う事はできない。
……まあ、日記所有者でなくとも日記は利用できる。
たまたま主観情報に因らない日記を手に入れただけという可能性は否定できない。

どうする、と、ただひたすらにその事だけを思考。
回答はコンマ単位で弾き出される。
応えは明朗、己が足を用いて疾走。

――疾走! 疾走! 疾走!

「……! また逃げるのですか!? 無駄な足掻きを!」


バーカ、日記所有者相手に逃げられるなんざ考えてねえ。

心の内でそう呟き、背を向けて走り出す。
狙うのは布石。
逃走か戦闘か、決断はそれを果たした後にすればいい。
現状打破の勢い以ちて、みねねは薄ら暗い木々の影へと身を躍らす。
木陰に入りて三々打つ。

瞬間。

「……っ!」

びゅう、と右頬を風が掠める。
ぼこりと、すぐそばの木に真ん丸いクレーターが出来上がった。

212Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:45:50 ID:u4pKbbmY0
散らばる木片が頬に傷を作り出す。
みねねは知る由もないが、それはアルフォンスの残骸を剛力番長が投擲した結果できた物だった。

手ごろな鉄くれは、エネルギー保存の法則の通り投げて当たればとても痛い。
少なくともそこらの硬球なんかよりもよほど暴力的で、当たり所が悪かろうが良かろうが死んでもおかしくない。
だから、使いやすそうなのを幾つか見繕って剛力番長は印地撃ったのだ。
彼女の膂力を持ってすれば、ただの投石でも銃弾より恐ろしい代物となる。

「ちぃぃいいいいい……!」

バケモノが、と口の中の愚痴を押し込めてその瞬間を察知するのに全力を注ぐ。

――二投目。
頭に当たれば即死。
胴体に当たれば内臓破裂。
足に当たれば転倒、追撃が防げない。
唯一腕になら当たってもまだ保険が利くが、片腕になれば余計不利になるのは火を見るより明らかだ。

まあ要するに、どこに当たろうが致命傷モノな訳だ。

ふ、ふ、と走りながらの精神集中は意外にキツい。
特にこの宵闇の中ではいつ転倒してもおかしくない。
どこに木の根が張り出し、石コロが鎮座しているかも分からない状況は、追われる物にとって余りにも厄介すぎるお膳立てなのだ。

だがそれでも逃走のプロフェッショナルたる雨流みねねにとっては瑣事にすら値しない。障害とはなりえない。
意識を研ぎ澄まし、辺りの現象を全て脳髄に叩き込んでいく。

木の葉が擦れて、ざぁ……と微風が凪いだ。
踏み込む腐葉土の感触は柔らかく、湧き出た湿気は汗と交じり合い体の表面を撫でていく。
呼吸はやや荒く、次の息継ぎでどうしてもペースダウンする事だろう。

だから、その瞬間横に跳べばいいだけだ。

「ふッ……!」

回避。
十二分な余裕を持って、あらぬ方向へ砲弾は飛んでいくよ。

「――な、今のは当たっていた筈ですのに……!」

……タイミングの調整は完璧。
十分の一秒前にソコにいたはずのみねねは掻き消えて、瞬間移動したかのようにその隣で足をひたすら前へ前へ。
剛力番長にはそんな光景が見えているに違いない。

とはいえ、追うモノ追われるモノ、彼我の有利不利が覆ったわけではない。
回避行動という余計な動作の有無は間隙を確実に満たしている。
……そもそもが、身体能力に差がありすぎるのだ。
そんな一動作があろうとなかろうといずれは距離をつめられ、背中を刺される事だろう。
刺されるよりも叩き潰されるの方が正しいか。

ざ、ざざざ、ざ、と、藪を駆け抜けていくその間にも距離はじりじりと縮まる。
縮まっていく。

213Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:46:17 ID:u4pKbbmY0
この射程でも先刻同様の投擲へ緊急回避は可能。
されど、回避したとて剛力番長の肉体そのものによる連続追撃の対処は不可。
鉄屑をいなしても次の瞬間には剛力番長が目の前にいる。
それは決定された抗えぬ未来。

――故に、雨流みねねは剛力番長の暴力に踏み潰される。
――故に、齎されるべき必然の結末は死。
――故に、最初の最初から彼女の取ったいかなる行為も無意味。

そう、だから雨流みねねはここで散る。
鉄屑に身を貫かれて脳ミソと内臓と血液とリンパと肉片をブチ撒け惨めに死ぬか。
ドラゴンころしで髄を臓器を砕き割られ、黄色く汚らしい汁を垂れ流して死ぬか。
大して変わりはしまい。

投擲されたならばそれで仕舞いだ。
日記を確認するまでもないDEAD ENDフラグがそこにある。


そして順当な流れのまま、剛力番長が慈悲深い殺意を振り被った。

轟、と、物騒すぎる音と共に鉄くれが金切り声をあげて猛進してくる。
水蒸気の尾さえひいて突き進むそれは余りにも圧倒的な暴力だった。


「……!」

ただそれでも、こんなものでくたばってたまるかよと意地を張る。
当たってやるものかとばかりに、死がその直後に控えていると分かっていながらもみねねは全身のバネを使って回避。
服の一部をフッ飛ばしながら、暴力の塊はみねねの腹のすぐ隣を訪ね貫いていった。

そして、そこまでだ。
暴力の塊すらも生み出す、チカラそのものの権化がみねねの息の届く範囲に“い”る。

それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。

鉄くれすら赤子に感じられる大きさの剣を、チカラの権化は振り被っていた。
逃れる術は、どこにもない。

「……この白雪宮拳が、引導を渡して差し上げます」

哀しそうに目を細め、涙すら浮かばせてそれでも強く強く彼女はこう言い切った。

「お別れですわ」


対するみねねはただ、ぼう……と、鉄塊を見上げている。
そして、辞世の句でも告げるかのように、静かにこう零した。

214Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:46:45 ID:u4pKbbmY0
「やなこった」


にぃ……、と、みねねの口端がしたたかに吊り上げられる。
その掌に握っていた白い物を鞠で遊ぶのと同じ動きで、宙に投じた。

剛力番長には、それが血に染まった紙切れのように見えた。


静かな森の中に、綺麗な爆華が花開いた。
香ばしい火薬のにおいと、瀑布の如き烈音が響く。



「あああぁぁぁああぁぁあぁぁぁああああぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ!」

それすら跳ね除けて、剛力番長の拳が華を散らせた。
拳を振れば、風が起こる。
風は炎を散らし、道を作り出す。

針や剣すらものともしないヒュぺリオン体質。
しかし電気や炎に対しては、完全に防ぐ事はできない。
だというのに、剛力番長はそれを撥ね退けた。

右手の肉を焼け焦げさせ、真皮を露出させながらもブチ抜いた。

「私はッ! 負けないッ! これで負けたなら殺した方に申し訳が立たないッ!
 私は正しい人々を生き返らせるまで勝ち続けるのですわッ!」

「ああクソが! だからトチ狂った奴は嫌なんだよ……!」

窮鬼の如きその表情に苦虫を噛み潰した表情を返しながらバックステップ。
みねねは後退しながら、血を染み込ませたメモを自分の目の前に次々投じていく。
願いましては一枚なり二枚なり、三枚なり四枚なり五枚なり六枚なり。

出来上がるは爆炎のライン。

星座を形作るかのように美しく、焔が暗闇を彩っていく。

「負けない……! 負けない……!
 負けない! 負けない! 負けない負けない負けない負けなぁぁぁぁぁいっ!」 

それら全てを、剛力番長は蹂躙した。
叩き割り、踏み潰して一直線にみねねに突き進んだ。
その姿はあたかも不死鳥。
全身に炎を纏い、熱風とともにひたすら翔け続ける。
たとえ幾度その身を痛めつけられようと、純粋さ故に止まる事を知りはしない。

215Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:47:18 ID:u4pKbbmY0
「そうかい」

――テロリスト、雨流みねねはその生き様を見ても何一つ表情を変えず。
ただ、こう告げた。

「それじゃあ、」

一直線に進む剛力番長。
その足元、脛の辺りに鋭い痛みが走った。

「てめえは夢を見たまま死んでいけ」

仕掛けられたワイヤーが、皮膚に食い込んでいく。
同時、そのワイヤーに巻き付いた紙切れが特大の花火を引き起こす。

「――――!」

悲鳴すら聞こえず、剛力番長は足元から白い灯火に包み込まれた。


――機動力を削ぐ。
みねねの想定していた布石は、初めからそれだけだった。

あらかじめ仕掛けたトラップによる、脚部へのワイヤーによる切断と爆炎の波状攻撃。
ここに誘い込む事だけを最初から想定し、どうにかここまで辿り着いた。
もしこれが日記を持っていた上での行動ならばそれは十分な余裕で回避されていたはずである。

だがこの白雪宮とやらは、自分を探し当てるのに使っていた未来日記をどうしてか誰かに預けたらしい。
なるほど、彼女ほどのヒトを超えた身体能力の持ち主ならば、ちまちま日記に頼るよりもその暴力を存分に振るった方が効率的だろう。
事あるごとに日記を手にしていてはかえって集中力も散らばるし、片手が塞がってしまう。
白雪宮の剛力を考えるならば実に勿体無い。
また、もし本物の日記所有者ならば、日記は剥き出しの弱点ともなりかねないのだ。
これらのリスクを回避する為に安全なところに隠すのは十分考えられることである。
あと、性格面でも日記に頼って策を巡らすほど頭が回るとは思えないというのもあるが。

……だからこそ、そこに付け入った。
自分の突破口は機動力を削いだその先にしか存在しないと、みねねの頭脳はその数多の戦場の経験から導き出していたのだ。
足を斬られて爆破されたならば、どんな人間だろうと最早まともに動けまい。


すわ、想定外だ。
予測の斜め上にも程があった。

「正義はァァアアアァァァアァァアァァアァァ……ッ!!」

それこそ、ワイヤーが全く通じていないとは。

足の肉は半ば炭化しており、表皮に至ってはグジュグジュに崩れて炭屑とすら呼べない有様だ。
なのにそれでも、正義の狂信者はしっかと大地を踏みしめて前進する。
漸進する。
進軍し、蹂躙する。


「必ずゥゥゥ、勝ァぁぁぁァつのですわぁぁぁあああああぁああ……ッ!」

216Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:47:48 ID:u4pKbbmY0
風を切る音は急降下爆撃機のそれにも等しい。ジェリコの喇叭を掻き鳴らせ。
ソニックブームすら発して振り下ろしたドラゴンころしの狙いは力いっぱいのあまり逸れ、みねねの左肩に掠る。
それだけで、彼女の左腕は全て全てハンバーグに丁度いい按配の挽き肉となった。

「ぎ、」

鮮烈な熱さと、体が凍り付いていくという矛盾した感覚が同時にプレゼントされる。
悲鳴が肺腑の奥の奥の奥からせり上がってくる。
それでも唇を血が滲むほどに噛み締め、文字通り生きながらに肉を抉られる苦痛を飲み込んだ。

「畜生、がぁぁぁッ!」


――嗚呼、それはまさしく神の思し召しとやらだったのだろうか。
そんな筈はない。
神は、まつろわぬモノに寛容を示す事はない。

だから、純然たる雨流みねねの意思の行使の結果なのだ。
彼女が純然たる己の力のみで切り開いた、未来への糸口なのだ。



世間に報道されるテロリズムとは、当然の如く非常に歪められた一側面にしか過ぎない。

誰が好き好んで人を殺す?
誰が好き好んで自爆する?
誰が好き好んで――非難されると分かってそれでもテロリズムを敢行する?

偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。
そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。

ルカ福音書、6章42節より。

……テロリズムとは、力の絶対量がどうしても大きくない者がそれでも何かを訴えたいからこそ、
命に代えてでも伝えたいことがあるからこそ最後に取り得る手段。

しかしそんな必死な主張もメディアを通じる際に検閲される。
漉し取られた後、お茶の間に届くのはトチ狂った凶悪犯罪者が酷いことをやってのけました、
そう淡々と惨状を伝えるだけのリポーターと、さも憤っていると言わんばかりの偽善そのもののコメンテーターの声のみ。

どうして誰もが、そのフィルターの向こうにある必死な嘆きを聞き届けようとしないのか。
誰も彼もが、彼らに毛ほども興味を示してさえくれないからだ。

……届かぬ声の無力さに落胆しつつも、それでもなおきっと誰かが自分達を見てくれると信じて声を張り上げる者。
それこそが、そんな意思を強く持ち続けられる者こそがテロリストなのだ。

217Escape 〜逃逸〜 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:48:29 ID:u4pKbbmY0
吼え上がるその大きく開いたクソガキの口に、直感的に握り締めたそれを突き出し引っ掛ける。

「――――!!!???」

剛力番長の目端に映ったのは、アルフォンス・エルリックの首輪だった。


「散ィィり、やがれ――――――――!」


――外そうとしたり強い衝撃を与えても爆発するから気をつけるようにしたほうがいいのう――

そう、首輪は立派な武器をその内側に仕込んである。
この会場にいるどんな存在であろうと、首一つを軽々吹っ飛ばすのに十分な程の爆薬を。

残った右腕に意識を集中。
皮膚を。筋肉を。血管を。血液を。神経を。爪を。
細胞を。骨格を。骨髄を。体液を。産毛を。毛根を。

腕のありとあらゆる構成要素を爆弾と変えて、フッ飛ばす。
たとえそれが、制限によって自滅当然の結果をもたらすのだとしても。
 
 
――新星の煌きが、満ち満ちた。

218鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:49:29 ID:u4pKbbmY0
仰向けで地面に倒れ伏したまま、みねねは静かに息を吸い……、吐く。
それだけで生きている事を実感する。
ただ、ぼう、と、空を仰いだ。
起き上がろうにも腕が両方ともなくなっていて、どう立ち上がったらいいものやら。
流れ出す血が生温いのに体は冷えていて、気持ち悪い感触だな、と感じた。

自分と白雪宮、どちらが正しかったのかとなんとなくそんな事を思う。
正義とやらを否定して人殺しを躊躇わない自分と、
正義とやらを妄信して人殺しを躊躇わない白雪宮。

――そんなことは考えるまでもない。


『勝ッタモノコソ正義!』

「オイ」

……なんであの変態野郎なんだ。
本気でイラついた口調で舌打ちした後、それでも頭を振った後にその言葉に同意した。

「その通りだよ、12th」

決まりきった結論を一人、呟く。

「私も、お前も――、間違ってたのさ」

勝者など、何処にもいない。

……正義は本当はあるのかもしれない。
だけど、剛力番長の言う正義はそんな正義ではない醜いエゴイズムだ。

「救えねぇ」

テメェ自身も含めて誰一人な、と続けようとして――、知らぬ間に横に立っていた一つの影に気づく。


「お久しぶり……でもないわねぇん」

「……協力者って、お前の事かよ」
「やっぱり察しがいいのねぇん、嫌いじゃないわん」

この殺し合いに招かれ最初に出会った女――妲己。
再会の才のもたらす効果だろうか、こんな瀬戸際に出会うことになるとは。

「勘違いしないでねぇん、その子がトチ狂ったのはわらわのせいじゃないのん。
 面白そうな道具をもってたからちょちょいと献上してもらっただけよん」


白雪宮をけしかけたのは自分ではないと言いたいのだろう。
まあ、嘘をついているかいないかはどっちでもいい。
この言動の要旨は、妲己が自分に敵意を持っていないというアピールなのだ。
とりあえず何か目的があるようだし、そっちを優先した方がどちらにとっても得なはずである。

219鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:50:10 ID:u4pKbbmY0
そして、その手でくるくると弄んでいるのは携帯電話。

「……やっぱりかよ」
「あなたに話を聞いておいて正解だったわぁん♪」

――どんな手練手管、口八丁手八丁を用いたものやら。
それを想像することはできても考えるだけ無駄という物だろう、真相は闇の中だ。
見れば、妲己のしばらく後方に犬が三匹、忠誠を誓うかのように座り込んでいる。
それがおそらく日記の特性なのだろう、自分の知らない日記所有者の物のようだ。

「……で、気づいた事とかはあるかしらん? 役立ちそうな情報があれば聞かせてほしいのん」

苦笑する。

「直球だな」
「わらわとあなたが別れた短い間でも、少しは収穫があるかもと思ってねぇん。
 せっかく助けてもらえるかもしれないんだから、チャンスは有効活用しないと勿体無いでしょぉん」

やれやれ、だ。苦笑にさらに苦笑を上書き。
だいぶ血が抜けてきて、口を動かすのも億劫になっているというのに。
さっさと止血でもしてくれればいいのにと思うが、でもまあ、この女はまず情報を吐かなければ動きはしないだろう。

せっかく生き延びる機会が降ってきた、ならばそのくらいは願ったり叶ったりだ。

「プラ爆だ」
「ぷらばく? それは何かしらん?」
「首輪に使われてる爆薬だよ。あの爆発の仕方は十中八九プラスチック爆薬だ、威力は滅茶苦茶だがな。
 ――粘土みたいに自由に成型できて、なおかつ信管の刺激がなきゃまず起爆しない。
 首輪に使うにはもってこいのアイテムだな」
「成程ん、ハンバーグの種みたいにコネコネできる爆薬な訳ねん」
「……ま、そうだな。
 だから、外そうと思うならセンサーか信管を探して取り除け。出来れば信管だ。
 おそらく衝撃や振動、熱とか電気とかに反応するセンサーが信管に信号を送るって構造になってる。
 それを突き止めんのは……、まあ、新しい首輪がないと無理だな」

「……いい仕事したわよん、みねね。ありがたく使わせてもらうわん」

 
ふう……、と、十数秒かけてゆっくり息を吐く。
まだまだ余力はある、他に話すべきことはないだろうか思案する。 

『自分のことは自分で守るしかない。困っても誰も助けてくれない。
 未来は自分の力で掴み取るしかないんだ。私は今までずっとそうやって生きてきたんだからね。
 誰かが何とかしてくれる、神様が助けてくれる。そんなのは幻想でしかないんだよ』


――つい先刻、見知らぬガキンチョに言い放った言葉だ。
全く、その通りだとその思いを更に強める。
現にこの通り、自分は未来を打開した。

220鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:50:40 ID:u4pKbbmY0
たとえ精神的なものであろうとも物質的なものであろうとも。
神様や正義に縋るばかりで、自分の意思と力で障害を打ち破る事を放棄した人間のその末路はあまりにも哀れだ。

とはいえ――、ひとりは、少ししんどいとも思う。
だからだろうか。
なぜか自分に付き纏う、一人の刑事の姿を思い出してしまった。

「そうだ、妲己」
「何かしらん?」

雨流みねね様ともあろうものが、と自嘲する。

「いるかどうかも分からんが、頼みがある。西じ――」


ぽき。

首が180度回転して、後ろ前が逆になってしまっている。
体は仰向けのまま、首から上だけが地面とキスをしている形だ。



そのまま何一つ続きを告げる事無く、あっさりと雨流みねねは死んだ。
最後までその顔には自嘲を浮かべたままだった。



「他人の惚気話なんか聞いてても面白くないのん、時間の無駄よねぇん」

せっかく未来への糸口を切り開いて突き進んでも、扉の向こうは奈落の底になっていた。
良くありすぎる陳腐な話だ。
皮肉にも――みねねの死に方は、ついさっきバラバラに引き裂かれたアルフォンスのそれと全く同種の物だった。
まるで、いくら藻掻いても結局は同じ結末にしか辿り着かないと言わんばかりに。

いくら頑張って頑張って頑張って、結果を出したって立ちふさがる現実には全くの無意味。
どんな想いも自己陶酔でしかない。

この麗しの妲己ちゃんには、そんな役に立たない感傷に付き合ってやる必要などないのである。




【雨流みねね@未来日記 死亡】

221鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:51:18 ID:u4pKbbmY0
 
 
こきこきと手首と指を動かして、一仕事終えた時の気持ちいい伸びをする。

「……とりあえず、重要そうな情報は首輪の事だけねぇん、現状じゃ手に入れられる情報に限界があるわん。
 きっとこのままだと情報量がそのままジリ貧になるわねぇん」

……と、なれば。
やはり今後のプランに少しでも多くこのゲームの情報を増やす方向性を加えるべきだろう。

思い当たるポイントの一つは、やはり“放送”だ。
おそらくゲームの進行に従って、その放送の内容で参加者の行動を制御するつもりなのだろう。
そこを逆手に取る。
つまり――、

「ゲームの進行が早ければ早いほど、“神”から手に入れられる情報は増えていくわん。
 だったら、わらわもそのスピードを加速させてやればいいのよん」

このゲームのスピードの加速とは、即ち参加者の死亡の増加だ。
妲己がみねねやウルフウッドを殺害したのも、そういう思惑が存在したからである。

……とはいえ、死にかけを探して殺しまわるだけでは効率が悪いし、何より華がない。
それは非常に不満の溜まることなので、やはり別の一手を打っておくべきだろう。
積極的に参加者を減らすその為の一手が。

「まあ、わらわ自らが手を下しちゃえば、それはそれで動きづらくなるのよねぇん」

さてどうするべきか。
基本方針は変わってはいないので、下手に参加者を殺してしまうのは信用の面で宜しくない。
思案する為にも、とりあえずみねね達の道具を回収しておこう。
彼女らの支給品次第では妙案が浮かぶかもしれない。

「……この金属の糸を然るべき持ち主に返したら、面白い事になりそうねぇん」

呟きながら、まずはみねねの持っていた金属糸をデイパックに入れなおす。
ついでにメモ爆弾が残っていないかと探したが、どうやら先刻の攻防で使い切ってしまっていたようだ。
なので、次は剛力番長――白雪宮拳のところに向かおうとして、気づく。

「あはん」

「……! ……っ!」

「すごい生命力だわん」


――――白雪宮拳は、生きていた。
両足は焼け焦げて一部は炭化しているし、上半身はそれ以上に酷い。
下顎が半分以上吹っ飛んでなくなっており、顔面は完全に焼け爛れている。
とっさに庇ったのか目の周りだけは綺麗なものだが、その代わり両腕もボロボロだ。
万一生き延びても、きっと顔全体に火傷の痕が残って二目と見られないことだろう。
また、胸付近へのダメージもそれなりだ。
学ランは最早服としての呈をなしておらず、つつましい胸の膨らみが痛ましいくらいに真っ赤に染まって露出している。

222鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:51:54 ID:u4pKbbmY0
そんな有様の剛力番長を見て、いいことを思いついたとばかりに妲己は口を三日月にする。

「……運が良ければ、生き延びさせてあげるわぁん。
 わらわに感謝して、しっかりお仕事に努めて頂戴?」

くすくす、と、まさしく女狐の表情をした妲己がゆっくりと近づいた。
その懐から取り出したるは、小さな瓶。

「さっきの男のところで拾ったものが、こんなにすぐに役立つなんてわらわってラッキーだわん」


――その小瓶の中には、赤い液体金属のような物がぷるぷると蠢いている。

ある人はそれの試作品を、 黒い核鉄と呼んだ。
ある人はそれを、柔らかい石と呼んだ。
ある人はそれを、赤きエリクシルと呼んだ。
ある人はそれを、第五元素と呼んだ。
ある人はそれを、哲学者の石と呼んだ。


――賢者の石。

つい先刻砕け散った鎧の少年、その父親が生み出したホムンクルス。
その分け身たる大罪の一つ、憤怒。

かつてとある男に注入されたはずのそれは、なぜか今ここに形を持って存在していた。


妲己は焼け爛れた剛力番長の胸の、特に深い傷を、尖った爪を差し込みこじ開ける。
そのまま、ちゅうぅぅぅ……っ! と、ぶじゅう……っ! と、静かに、ゆっくりと。
一滴残さず、賢者の石を剛力番長という器に注ぎきった。


沈黙。

沈黙。

……沈黙。

そして。

「キャァアあアァパぱぱパッパパびゃぎゃきゃくあけけぎキキキキきぐぐぐぐばっばば
 ぺきゃっつばびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃじゅじゅぶぐぁがががっががががが
 しししししぎきけってててぶぴゃぅぱぐぅぐぎゃァアアアァアアアアァア――――!」

白目を剥いた。
四肢が吊ったようにピンと張った。
バタバタと、アヒルの玩具のように忙しなく動き始めた。
口から漏れる涎は溢れて止まらず、しまいには蟹の如く後から後から泡を吹いて止まらない。

まるで何かの映画のように、十字架で自慰を始めるような、そんな光景が妲己の目の前で繰り広げられる。

「さて、それじゃわらわは行くわねぇん」

うんうんと満足げに頷いた後、妲己は踵を返してさっさと立ち去る事にする。

223鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:52:33 ID:u4pKbbmY0
……そんな悪魔の所業に反応したのだろうか。

「……っ!」

獣の槍が、またもや妲己目掛けて飛び掛ってきた。
尤も、本来の力を発揮できないこの状況ではやはりあっさりと妲己に止められはしたのだが。

「この槍、やっぱり怖いわぁん」

妲己の手の中で、びくびくと獣の槍が唸りを上げている。
その様子を見ていて、妲己は気づいた。
どうやら槍は、とある方向に向かって飛び去ろうとしているようにも見えるのだ。

……もしかしたら、そちらの方向に本来の持ち主がいるのかもしれない。
それに留意してしばらくそのままにしておくと、ようやく槍はその激情を治めたようだ。

「さて、ちょーっとばかり寄り道をしたけどぉん、あらためてゴージャスにデパートに向かうわよん♪」


剛力番長から妲己が騙し取った、“飼育日記”。
その示す情報によれば、デパートの方には騒動の種がたくさん転がっているらしい。
……実に楽しみだ。

その後は獣の槍の本来の持ち主に会ってみましょうかしらん、と一人呟いて、妲己は今度こそ歩みを再開した。


正義もテロリズムも踏み潰し蹂躙して、威風堂々と我欲の象徴が闊歩していく。



【H-5南東/森林/1日目 黎明】

【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら、飼育日記(α1:健在、α2:健在、α3:健在)@未来日記
[道具]:支給品一式×5、再会の才@うえきの法則、
    マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    金属糸×4@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数8/12)@現実、
    パニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット、不明支給品×3    
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。その後、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極める。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得るために、自分の信用に傷がつかない範囲で積極的にゲームを促進する。
7:金属糸の持ち主を探してみる。

224鬼巫女 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:53:06 ID:u4pKbbmY0
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。

【金属糸@トライガン・マキシマム】
レガート・ブルーサマーズが人体強制操作に用いる微細な金属糸。
これを人体に刺して電流を流すことで、たとえ自壊しようともなお人体を意のままに操る事が可能となる。
また、特殊な電磁場が存在するとこの金属糸は弾かれてしまう。

【飼育日記@未来日記】
未来日記所有者10th、月島狩人の持つ未来日記。
月島の飼育する狩猟犬は3つのグループを作っており、それぞれの群れにはリーダー(α1、α2、α3)が存在する。
この3頭のリーダーへの命令と、そのレスポンスを記録したのがこの飼育日記である。
本来は数十頭もの犬の報告を受け取ることが出来るのだが、今回は制限により群れのリーダーである3頭しか会場には存在していない。
なお、月島はこの殺し合いに参加させられていないため、ここで飼育日記が破壊されれば全く関係ないどこかの世界で月島狩人が人知れず死ぬことになるだろう。
ご愁傷様。


【H-5南西/山道/1日目 黎明】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:下顎半分喪失、眼球付近を除く顔面及び上半身前面に火傷(大)、両足に火傷(中)、両腕に火傷(中)
    精神的疲労(中) 、悶絶中、賢者の石(憤怒)注入
[服装]:学ラン焼失、上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6
[思考・備考]
0:あびゃびゃびゃびゃぐぐぐうぶばが、ァ――!
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……? でも……
5:悪はとりあえず殺す。
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がキンブリーの協力者だと信じています。
※剛力番長が賢者の石の注入に耐えられるかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師】
かつてキング・ブラッドレイに注入された賢者の石。
注入されて、なおかつ生き延びることが出来ればその人間はホムンクルスとなる。
ただし、自我が残っている保証はない。


※H-5を中心とした一帯に無数の爆発音と閃光が確認されました。付近の参加者が感知している可能性があります。
※H-4〜H-5の山道付近に無数のワイヤートラップが仕掛けられています。
※アルフォンスの残骸がH-5〜I-5境界付近の森林部に転がっています。

225 ◆JvezCBil8U:2009/05/30(土) 13:53:53 ID:u4pKbbmY0
以上、投下終了です。
本スレの方で支援してくださった方に感謝の意を。

226 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:07:28 ID:Zd54ubqQ0
いつになっても規制解けず・・・
議論中のところすいません、短文ですが秋山優・桂雪路・とらを投下します
お手すきの方、代理投下お願いします

227 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:08:25 ID:Zd54ubqQ0
(…………何なんだこの人達は…………?)

目の前の女性二人を不可思議に眺める。
自分の事をなにやら言っている様子だが、特に敵意が感じられるわけでもない。
状況は良くわからないのだが少なくとも戦おうとかそう言った内容ですらなんでもないようだ。
改めて内容を聞いていると男としての自分を値踏みされているようで良い気分がするものではない。

(……え?)

そこで唐突に。
向かい合い言い争っていた二人の視線が秋山に移る。
そして片方の――明らかに自分に対して不満を漏らしていた女性が睨み付けて来た。

「お、おい……」

隣の同じ顔をした女性が制止の声を上げているのも聞かず、ゆっくりと秋山に向かって歩を進めた。

「な、なんだ君は?」

背筋をまっすぐと伸ばし、堂々とした態度でまっすぐ近づいてくる目の前の女性。
視線は自分を睨み付けて全く離そうとしないその態度に秋山は思わず身構えていた。
それでも一切の迷いも見せずさらに近づいていく。
そして目の前でぴたりと足を止め……一言。

「何その格好?」
「……は?」

何をするのかと思えば。
両手を腰に当て、伏目がちに目を細めながら放たれた言葉。
緊張した自分が馬鹿らしくなりながらも、向けられた態度に思わずむっとする。
睨み返した秋山を気にも留めずに再び足を動かし、秋山の周りをゆっくりと回りだす。

「その……学ラン? 何でそんな短いの?
 サイズぐらい合わせたら? それともそれが格好良いとでも思ってんの?」

丁度一周した所で再び足を止めるとビシッと秋山の顔面に指差し――

「そもそも何よ、その変なマスクは。趣味が悪いったらありゃしない」
「み、見ず知らずの人間にそんなことを言われるいわれは無い」
「はあ? 馬鹿じゃないの? 外見なんて他人に見せる為にあるんでしょうが。
 それが変だから変って指摘してるわけ。
 何も疑問に感じてないんだったらあんたの周りの人間は誰も言ってくれなかったんでしょ?
 むしろ感謝して欲しいぐらいよ!」

228 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:08:56 ID:Zd54ubqQ0

喧嘩を売られているんだろうか……。
未だかつてこんなことを言われたことは無い。
自分では格好良いと思っていたしポリシーだって持っている。
だがこれでも秋山も年相応の男であった。
妙齢の女性に自信満々に否定されてしまったことにショックを隠しきれない。
もしやみんな、本当に自分に気を使って言い出さなかっただけなのか?
否定的な意見が頭の中にもやもやと浮かび上がりだした。

「ほら、とりあえずその仮面外してみなさいよ」

呆然とする秋山の顔から一瞬でマスクを奪い去る。

「ちょ、ちょっと!」

慌てて素顔を隠そうと顔をそらす秋山だったが腕を掴みそれを許さない。
整った顔立ち、切れ目に少し下がった細目に高い鼻。
顔に自信が無いから隠してるわけでは絶対にないと確信できる。
むしろ美形としか言えないにも関わらず、何故それを隠しているのかが雪路には理解できなかった。

「なによこれ! 素材は良いのにもったいないったらありゃしないじゃないの」

金切り声と共に憤慨した言葉を吐き捨てると、グッと秋山の腕を引っ張りだした。

「っ、なんのつもりだ?」
「つもりもタモリもないわよ。あんたに少しファッションって言うものを教えてあげるわ。
 いいから黙ってついて来なさい」

連れの女性に助けを求めようとチラリと視線を移した……が、肝心のとらはと言うと

「あー、まあなんだ。……諦めろ」

頭をポリポリと掻きため息をつきながら、同情するような生暖かい目で秋山を眺めるだけだった。



☆ ☆ ☆

229 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:09:32 ID:Zd54ubqQ0
コンビニより少し離れた一軒の居酒屋に場所は移る。
店員も客もいないフロアーの一席に座る女性二人と男性一人。

「……大体ねえ、なんで誰も私の魅力に気づかないのよ!?」

すでにテーブルの上には数本の酒瓶が転がっていた。
完全に出来上がっている雪路のテンションを止める事も出来ず、マシンガンのように飛び出す単語の羅列に相槌を打つばかりの時間がただ過ぎていた。

自分は何故ここでこんな事をしているのだろうと項垂れながらただただ雪路の愚痴を聞き続けている秋山。
いつまでここでこうしていなければならないのか。
幾度と無く席を立とうとしたがそのたびにしがみつく様に絡まれ止められる。
無理やり飛び出しても良かったのだが、少し情報が欲しかったのもあった。
自分を騙していると考えを除けば、この雪路と言う女性は番長ではない。
おそらく一般人の部類だ。
そうするとこれは23区計画ではないのかと言う疑問が湧き上がる。
それともただ巻き込まれただけ…・・・?
突っ込んだ話をしようにも男がどうたら酒がどうたらで会話にならない。
まったくどうでも良いのだが、そもそも自分にファッションの指南をするとかで連れて来たんじゃないのか……?
隣に座っているとらと言う女性も見た目は普通なのだが相当酔っているようだ。
化け物だとか二千年生きているとかまともな情報が手に入らない。

秋山が途方に暮れ、なかば自暴自棄になりかけていたその時だった。

ドオオオォォォォン!!

と。
大きな音と共に店全体が大きく揺れた。

「なんだっ!」

とらと秋山が同時に席を立つ。
警戒するように外へ飛び出そうとした秋山の学ランのすそを掴みながら、少しも慌てたそぶりも見せずに雪路はつぶやく。

「でっかい地震でしょ?」
「いや……今の音は何かが爆発したような」
「んじゃガス爆発? 大変ねえ。まあここは何も問題ないみたいだから気にしない気にしない」

まったく危機感を感じさせず、コップに酒を注ぎながら雪路がのほほんと答えた。

230 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:10:12 ID:Zd54ubqQ0

「それより!」

全力で掴んだ学ランを引っ張る。
物凄い力に秋山の身体はバランスを崩し……そして雪路の膝の上へ座る形になった。

「あたしばっかり呑んでさあ、あんた全然呑んでないでしょ!?
 良いから付き合いなさいよ!!」

言いながら一升瓶を手に持つと、秋山の口に押し付けごぶごぶと流し込んだ。

「……ぐっ、ゲホッ」

自分の意思とは無関係に酒が流し込まれていく。
入りきらずに口から漏れ、器官を浸食した液体の感覚に思わずむせ返るが、それを見ても意にも関せず雪路は大笑いを続ける。

顔を引きつらせながらその様子を見ていたとらだったが

「あんたもよ!」

……と、酒瓶を投げつけられた。

下手に機嫌を損ねても、この男の二の舞だなと。
目の前の光景も面白いし酒もうまいからまあ良いかと。
付き合うように酒を浴びるように呑みながら、合わせる様に目の前の光景を楽しむことにした。



☆ ☆ ☆



――数時間後。

酒の匂いで充満した店内で眠りにつく三人の姿があった。

その表情は三者三様に笑顔で満ち溢れていた。

すでに何人もの人間が戦い合い死んでいる中、楽しい日常とも言える時間を過ごせたのは幸せだったのかもしれない。

だが、現実を知らしめる放送が流れているのを聞くことが出来なかった。

それが彼らにとって不幸としか言えないだろう事は間違いないだろう。

231 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:10:39 ID:Zd54ubqQ0


【J-8/居酒屋/1日目 朝】

【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[状態]:泥酔
[装備]:衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE
[道具]:支給品一式、激辛せんべい@銀魂
[思考・備考]
基本:どのような状態でも、自分のスタンスを変えない
 1:雪路のテンションについていけてない
 2:金剛晄(金剛番長)と合流する。
 3:できれば自分の武器も回収したい。
 4:とりあえず、今は脱出することを考える。
 5:もし、金剛番長が死んだ場合は……。
 ※登場時期は、マシン番長が倒される〜23区計画が凍結されるまでの間のどれかです。
 ※金剛番長がいることに気づきました。
 ※桂雪路ととらを双子の姉妹だと思っています。

【とら@うしおととら】
[状態]:泥酔、雪路に変身中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(中身は一切確認せず)
[思考]
基本:自由気ままに楽しむ。
 1:とりあえず飽きるまで雪路に付いていく。
 2:秋山に対して同情心を抱いてます

【桂雪路@ハヤテのごとく!】
[状態]:泥酔
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(中身は一切確認せず)、大量の酒(現地調達)
[思考]
基本:酒を飲む。
 1:覆面外したら少し格好いいじゃないの
[備考]
 1:殺し合いを本気にしてません。酒に酔ったせいだと思っています。



※三人とも眠っていたため第一回放送を聞き逃しました
※殺し合いに関する事や人間関係に関する話はしておらず、どうでもいい雑談しかしていません



【衝撃貝(インパクトダイアル)@ONE PIECE】
空島に存在している貝(ダイアル)の一つ。
衝撃を蓄え、それを自在に放出することができる。
ただし、使用後は体を痛める可能性があります。

【激辛せんべい@銀魂】
沖田の姉・ミツバが真選組に送ってくる、とても辛いせんべい。
しかし隊士曰く「辛すぎて食えない」らしく、評判は良くない。

232 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/01(月) 00:12:40 ID:Zd54ubqQ0
以上です、タイトルは『秋山優――続・卑怯番長の女難』で
放送を越えさせてしまうと言う点に関して不安が残るのですが
その辺の指摘も含めて何かありましたらお願いします

233 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:12:07 ID:glUOAtsQ0
PCが相変わらず規制中なのでこちらに
竹内理緒、胡喜媚で投下します

234 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:13:26 ID:glUOAtsQ0


これからどう動くべきか――。

競技場の壁に寄りかかりながら理緒は考えふけっていた。
少し離れた場所で喜媚が無邪気に走り回っているのを微笑ましく思いながらもため息が漏れていた。
なんと言うか能天気だなあと。
卑下したつもりも無く、純粋に羨ましいと思った。
あんな風に楽観的になれればどれだけ楽なんだろうと自分の性分に嫌気がさす。


(とりあえず――)

視線を空に移し、思考を戻す。

現実的に考えるならここに留まっているのが一番安全だとは言える。
何らかの目的が無ければこの様な所に来ようとは誰も思うまい。
少なくともまず自分なら目指さない。

喜媚の探し人と出会えれば状況が一気に良い方向へ向く可能性はある。
自分の知り合いにしたってそうだ。
清隆様ならこんな状況でも簡単に解決してくれるに決まっている。
仮にどちらの知り合いもいなかった場合や、居た場合は合流するためにどこへ向かうか。
今のうちに候補を絞っておくのは必要と考えた。

自分の知りうる人間が居た場合、彼らはどこへ行こうとするか。
それを想像することが重要となる。
もしも清隆様がいたら? 鳴海歩がいたら?
人の集まりそうな所……たとえばここのように地図に載っている施設が候補に挙がるだろう。
その点で考えると数点の候補は導き出せる。

一番の候補に挙がりそうなのはデパートだ。
必要なものが手に入る、そう考える人間が多いのは間違いないだろう。

次に病院、もしくは診療所。
怪我をした時に備えて薬や医療品を手に入れたいと考える。

この三つは間違いなく人と会うためにならうってつけの場所だろう。
何よりその中の二つが自分達のいる場所から近いのが幸いとも言える。

だが問題もある。
先程遭遇した人間、我妻由乃の事を思い返す。
もしも偶然出会ったのが揚々と襲い掛かってくるような人間だったら?

そんな事を言ったら何も始まらないのはわかっている。
これがもしもはじめに出会ったのが、いかにも私は殺人鬼ですよとでも言わんばかりの容貌の人間だったら理緒も深く考えることも無かっただろう。

235 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:14:52 ID:glUOAtsQ0

自分が抱いてる疑問、『殺し合いとはなんだ?』と言うこと。
まずここにつながる筈だ。
だからまず情報を得ようとするはず、しかしその有用性を気にせずいきなり殺意を剥き出しにしてくる人間が居た。
しかも見た目にはただの女学生としか思えない人間が……だ。
あの時は例に漏れず情報を得ると言う前提でうまく戦闘を回避できたが
一歩間違えれば殺し合いを強制されていたところだったかもしれないのだ。

集まりすぎるところも逆に危険、行くとするなら十分な警戒が必要と考える。

そして他にも理緒には個人的に行きたい場所もあった。
圧迫されたままの首に手をやる。
鉄のひんやりとした感触が全身から血の気を引かせていた。
この首輪を爆破された少年の姿。
弾け飛んだ首に噴出す血しぶき。
その光景を思い返すだけでもぞっとし胃の中のものが逆流しそうになる。
鳴海歩に同じような事をしもしたが、いざ自分がその立場に立たされたとなるととても生きた心地がしない。

この首輪を一刻も早く外したい。
地図を見る限り、工場やら研究所やらが記されている。
ここにいけば使えそうな工具でも見つかるのではないだろうか。

「理緒ちゃん、どうかしたっ?☆」

無言で考え続けていた理緒に、喜媚が屈託の無い笑顔ではにかんできた。
その笑顔の下には同じようにつけられている首輪が光っていた。

ハッと。
ある考えが理緒の頭を駆け巡る。

「喜媚ちゃん、さっき熊の石像に変身してたよね?」
「うんっ☆」

喜媚が自分の前に姿を現した時は見上げるほどの……確かにそうだった。
そして今は……自分で言うのも悲しいが、お世辞にも大きいとは言えない自分と大して変わらないほどの小さな身体。

……何故?

「喜媚ちゃん小さな動物とかにはなれる? 例えば……猫とか鼠とか」
「簡単なのっ☆」

言うや否や先程と全く同じように変てこな呪文を唱え、そして喜媚の姿がぶれたかと思うとその姿がみるみる縮み

――現れたのは真っ白い一匹の子猫。

「どうっ?☆」

そして目の前の子猫から発せられるのは間違いなく喜媚の声。

「凄いですね……」

236 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:15:40 ID:glUOAtsQ0

そう言いながら子猫と化した喜媚の身体を抱きかかえる。
耳の付け根を軽くなでてやると、首をごろごろと鳴らしながらうっとりとした視線を理緒に送っていた。

(本当に凄いです……けれど)

理緒が先程から感嘆しているのは変身に関してではなかった。
それに関してはもう嫌と言うほど感想を出し尽くした。

今理緒が抱いている感情――感嘆と、そして不安。
その正体は彼女の視線の先を追えばすぐにわかるだろう。
一点に向けられているのは、喜媚の首についたままの首輪。
その体型にぴったりと合わせる様にサイズが縮んでいるのだ。
熊だった時の首のサイズと先程の人間サイズでは間違いなく取れてしまうだろうに。
つまりはこの首輪はその時の状況に合わせて大きさを変えると言う事。
これもなんらかの、普通の人間には出来ない力の一つだと言う事で間違いないだろう。

その力に驚くと共に、こんなものに自分の命を握られていると言うことに愕然とした。
そしてそれを自分にどうにか出来るのか不安に駆られる。
急激に得も知れない恐怖に襲われ、身体の奥底から震えが走る。

「理緒ちゃんどうしたのっ?☆」

突然顔を青ざめさせる理緒を抱きかかえられながら心配そうに見上げる喜媚。

(この子だって今は何も考えてないかもしれないですけど、本当なら凄い化け物だって……)

腕の中に抱える小さな身体、でも今なら……。
不意に自分の意思ではない黒い感情が浮かび上がった。

――そのまま力を込めてしまえ。

信号が脳から送られ……握った手に力を込めようと身体が勝手に動いていた。

「え……?」

理緒の顔にザラっとした感触が広がる。
ゆっくりと目を見開くと、落ち着かせるように喜媚が理緒の顔をペロペロと舐め上げていた。
驚きに思わず抱き抱えていた手を離し……支えが無くなった喜媚の身体が地面へと落下する。
衝撃で変身が解け元の姿に戻っていた。

「いたっ☆」
「ご、ごめんなさい。大丈夫……ですか?」

痛そうにお尻をさすりながら、理緒に対して笑顔を向けると

「だいじょうぶぃっ☆ 
 でもどうしてかわからないけど理緒ちゃん悲しそうなのっ☆
 笑わないと何も楽しくないよっ!☆」

237 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:16:23 ID:glUOAtsQ0

「うん……そう……ですよね」

喜媚のはにかんだ笑顔にも心が震える。
作り笑いがどれほど簡単かを知っているから。

自分の中に芽生えた恐怖を打ち消すように理緒も笑い返しす――が

――自然に笑えているだろうか?

そんなことを思う時点で拭い切れてないのは明白なことに気づく。

喜媚を知るものなら彼女の行動に何の裏もないことがわかる。
だが理緒は喜媚の事を何も知らない。



知らないゆえに人は恐れを抱くものだ。
根源が大きければ大きいほど、それはまた強くなっていく。



  この子の心が見えない。
  この子と一緒にいても大丈夫なの?



それを確かめる勇気が理緒にはなかった。
ゆっくりと時が過ぎるのを沈んでいく月の位置だけが教えてくれる。

時折無邪気に話しかけてくる喜媚への対応に、精神を磨耗させていった――

238 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:17:00 ID:glUOAtsQ0

【B-2/競技場前/一日目 黎明】



【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的に多少の疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:第一放送までは生存優先で現状待機。殺し合いを行う意志は無し。
  名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
2:異能力に恐怖を感じています
3:喜媚と行動を共にしても平気か、信用しても大丈夫かを図りかねています。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました


【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様とスープーちゃんを探しに行きっ☆
2:皆と遊びっ☆
3:元気の無い理緒ちゃんが心配なの☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。


【如意羽衣@封神演義】
 ありとあらゆるものに変身出来るようになる宝貝
(素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化については
「制限で出来ない」or「外れた瞬間爆破」等考えましたが、話の中では明言してないので後続の方にお任せします)

239 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/05(金) 17:18:55 ID:glUOAtsQ0
投下は以上ですが指摘等ありましたらお願いします
タイトルは「それは小さな小さな『棘』」で
お手すきの方代理投下お願いいたします

240本スレ>>343差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:12:52 ID:mSY3smPc0
煙幕。
黙々と、モクモクと立ち込める黒と灰色の実体なき壁は、確かに自分たちを別ってくれる。

駆ける。
駈ける。
――翔ける!

クソガキが動揺した、僅かな隙。
虚を突いた今しか出来ない事がある。

みねねの片目に映るはゴミの様に転がった、鎧の欠片がくっついたままのアルフォンスの首輪と彼のデイパック。
一心不乱で少女の傍を走り抜け、その二つをデイパックに放り込みつつ勢いを殺さず突き抜ける。

どんな道具でも、この相手の傍に置いておいてはロクな事になりはしない。
本当は大剣――ドラゴンころし――も回収したかったが、みねねにそんな代物を持ち上げている余裕はない。


結果として。
雨流みねねは何一つ判断を過つ事無く、このガラクタ置き場からの離脱に成功した。




――しばし、後。

煙がゆっくりと晴れていく中に、仁王立ちする影が消えずただ存在を誇示している。

「……逃がし、ません……っ」


テロリストを倒す、と、その事だけを考えていないと、余計な不安がまた鎌首を擡げそうだったから。
故に、名も知らぬ隻眼の少女を殺す事だけを考えて、考えて、ただただひたすらに考える。
今涙が出ているのは決して殺人を決意した自分が悲しいのではなく、煙に目が染みたから。
自らのデイパックに手を伸ばし、とある道具を手に取り頷く。

――不意に思い出したのだ。

もしや、という疑念はいかづちに等しい直感と混ざり合って少女に強い強い確信を抱かせる。

ああ、思い返してみるならば。
自分がテロリストの単語を聞いてすぐに覚醒する事ができたのは、その事が常に引っかかっていたからかもしれない。


雨流みねねというテロリスト。
彼女の名前が記された、この道具を手にしたその時から。



それから、彼女の背後で藪を揺らす、がさり、という音が聞こえた。

241>>347差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:13:50 ID:mSY3smPc0
一念を込めて見据える先に。
ドラゴンころしを肩に、少女の皮を被った狂信者が悠然と歩み寄る。


答えは簡単だ。
例えば、首輪の探知機の様な物を持っていたのだとしたら。

いや、それでは無傷である事の説明がつかない。
この道を上がってきたということは、経路上間違いなく地雷原に突っ込んでいる。
なのに何故、煤一つ泥一つ被っていないのか。

それを説明できる道具を、雨流みねねは知っている。


「お前、日記……所有者かぁぁあぁぁッ!」


「――あの道具は、つい今しがた私の同志に預けてきました。
 私を応援して、手伝うといって下さった――テロリストを絶対に許せないと仰ってくれた方です。
 貴方があの道具を悪用したくとも、私から逃げ出そうとしても、貴方はもはやそれを手にする事もできません。
 ええ、今ここで、私たちが倒すのですから!
 私が追い詰め、あの方が行く手を塞ぐのですから……っ!」

ざく、ざくとゆっくり一歩一歩を踏みしめて、狂った正義はにじり寄る。
何を勘違いしたか自分は日記の奪取を狙っているとでも思われたようだ。
まずい、とみねねは感じる。
感じるなどというのは生易しいか、警報が針となってただひたすらに全身を刺し貫いているような感覚すらある。

協力者、それも日記を見ている者がいるとするならば逃亡日記のない自分はまず逃げる事は出来ないだろう。
そしてまた、この女が日記所有者なのだとしても手元にないならば日記の破壊を狙う事はできない。
……まあ、日記所有者でなくとも日記は利用できる。
たまたま主観情報に因らない日記を手に入れただけという可能性は否定できない。

どうする、と、ただひたすらにその事だけを思考。
回答はコンマ単位で弾き出される。
応えは明朗、己が足を用いて疾走。

――疾走! 疾走! 疾走!

「……! また逃げるのですか!? 無駄な足掻きを!」


バーカ、日記所有者相手に逃げられるなんざ考えてねえ。

心の内でそう呟き、背を向けて走り出す。
狙うのは布石。
逃走か戦闘か、決断はそれを果たした後にすればいい。
現状打破の勢い以ちて、みねねは薄ら暗い木々の影へと身を躍らす。
木陰に入りて三々打つ。

瞬間。

「……っ!」

びゅう、と右頬を風が掠める。
ぼこりと、すぐそばの木に真ん丸いクレーターが出来上がった。

242>>352 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:15:01 ID:mSY3smPc0
風を切る音は急降下爆撃機のそれにも等しい。ジェリコの喇叭を掻き鳴らせ。
ソニックブームすら発して振り下ろしたドラゴンころしの狙いは力いっぱいのあまり逸れ、みねねの左肘から先を掠めて数え切れない風の刃をつくりだす。
それだけで、彼女の左腕はずたずたのぐちゅぐちゅで、肉の中身の白い骨まであちこちから見えている有様となった。

「ぎ、」

鮮烈な熱さと、体が凍り付いていくという矛盾した感覚が同時にプレゼントされる。
悲鳴が肺腑の奥の奥の奥からせり上がってくる。
それでも唇を血が滲むほどに噛み締め、文字通り生きながらに肉を抉られる苦痛を飲み込んだ。

「畜生、がぁぁぁッ!」


――嗚呼、それはまさしく神の思し召しとやらだったのだろうか。
そんな筈はない。
神は、まつろわぬモノに寛容を示す事はない。

だから、純然たる雨流みねねの意思の行使の結果なのだ。
彼女が純然たる己の力のみで切り開いた、未来への糸口なのだ。



世間に報道されるテロリズムとは、当然の如く非常に歪められた一側面にしか過ぎない。

誰が好き好んで人を殺す?
誰が好き好んで自爆する?
誰が好き好んで――非難されると分かってそれでもテロリズムを敢行する?

偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。
そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。

ルカ福音書、6章42節より。

……テロリズムとは、力の絶対量がどうしても大きくない者がそれでも何かを訴えたいからこそ、
命に代えてでも伝えたいことがあるからこそ最後に取り得る手段。

しかしそんな必死な主張もメディアを通じる際に検閲される。
漉し取られた後、お茶の間に届くのはトチ狂った凶悪犯罪者が酷いことをやってのけました、
そう淡々と惨状を伝えるだけのリポーターと、さも憤っていると言わんばかりの偽善そのもののコメンテーターの声のみ。

どうして誰もが、そのフィルターの向こうにある必死な嘆きを聞き届けようとしないのか。
誰も彼もが、彼らに毛ほども興味を示してさえくれないからだ。

……届かぬ声の無力さに落胆しつつも、それでもなおきっと誰かが自分達を見てくれると信じて声を張り上げる者。
それこそが、そんな意思を強く持ち続けられる者こそがテロリストなのだ。

243本スレ>>353差し替え ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:16:21 ID:mSY3smPc0
吼え上がるその大きく開いたクソガキの口に、直感的に握り締めたそれを叩きつける。

「――――!!!???」

剛力番長の目端に映ったのは、アルフォンス・エルリックの首輪だった。


「散ィィり、やがれ――――――――!」


――外そうとしたり強い衝撃を与えても爆発するから気をつけるようにしたほうがいいのう――

そう、首輪は立派な武器をその内側に仕込んである。
この会場にいるどんな存在であろうと、首一つを軽々吹っ飛ばすのに十分な程の爆薬を。
あんまり派手に自己主張して他人を巻き込むのはよろしくないため、爆発は内へ内へと指向性を抱かされているものの。
内側の肉を抉る事だけに専心した仕様のその威力は最小のコストと最大の効果を両立させる。

かろうじてまだ動く左腕、その先端の拳に意識を集中。
皮膚を。筋肉を。血管を。血液を。神経を。爪を。
細胞を。骨格を。骨髄を。体液を。産毛を。毛根を。

拳のありとあらゆる構成要素を爆弾と変えて、フッ飛ばす。
たとえそれが、制限によって自滅当然の結果をもたらすのだとしても。


――新星の煌きが、満ち満ちる。





そして。
デイパックに放り込まれた首輪、その周りに癒着していた鉄くれの内側の血印。
かろうじて魂をこの場に留めていたアルフォンス・エルリックは、今度こそ完全にこの世から消滅した。
生存を気づいてもらう機会すらなく、言い残すべき事すら言えず。




【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師 死亡】

244本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:18:29 ID:mSY3smPc0
仰向けで地面に倒れ伏したまま、みねねは静かに息を吸い……、吐く。
それだけで生きている事を実感する。
ただ、ぼう、と、空を仰いだ。
起き上がろうにも片方の腕が吹っ飛んでしまっていて、どう立ち上がったらいいものやら。
流れ出す血が生温いのに体は冷えていて、気持ち悪い感触だな、と感じた。
不幸中の幸いか、肘の半ばから先が消し飛んだ割には出血は少ない。
爆炎が肉を焼いたのだろう、荒療治だが失血死の可能性は僅かだが減ったわけだ。


自分と白雪宮、どちらが正しかったのかとなんとなくそんな事を思う。
正義とやらを否定して人殺しを躊躇わない自分と、
正義とやらを妄信して人殺しを躊躇わない白雪宮。

――そんなことは考えるまでもない。


『勝ッタモノコソ正義!』

「オイ」

……なんであの変態野郎なんだ。
本気でイラついた口調で舌打ちした後、それでも頭を振った後にその言葉に同意した。

「その通りだよ、12th」

決まりきった結論を一人、呟く。

「私も、お前も――、間違ってたのさ」

勝者など、何処にもいない。

……正義は本当はあるのかもしれない。
だけど、剛力番長の言う正義はそんな正義ではない醜いエゴイズムだ。

「救えねぇ」

テメェ自身も含めて誰一人な、と続けようとして――、知らぬ間に横に立っていた一つの影に気づく。


「お久しぶり……でもないわねぇん」

「……協力者って、お前の事かよ」
「やっぱり察しがいいのねぇん、嫌いじゃないわん」

この殺し合いに招かれ最初に出会った女――妲己。
再会の才のもたらす効果だろうか、こんな瀬戸際に出会うことになるとは。

「勘違いしないでねぇん、その子がトチ狂ったのはわらわのせいじゃないのん。
 面白そうな道具をもってたからちょちょいと献上してもらっただけよん」


白雪宮をけしかけたのは自分ではないと言いたいのだろう。
まあ、嘘をついているかいないかはどっちでもいい。
この言動の要旨は、妲己が自分に敵意を持っていないというアピールなのだ。
とりあえず何か目的があるようだし、そっちを優先した方がどちらにとっても得なはずである。

245本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:18:49 ID:mSY3smPc0
そして、その手でくるくると弄んでいるのは携帯電話。

「……おい、それ」
「あなたに話を聞いておいて正解だったわぁん♪」

――どんな手練手管、口八丁手八丁を用いたものやら。
それを想像することはできても考えるだけ無駄という物だろう、真相は闇の中だ。

いや、そんな事はどうでもいい。
気付く。気付いてしまう。
気付いてしまったが故に、みねねの顔が白く染まった。
ただでさえ流れ出る血液に青くなっていたその顔が、まるでペンキでもぶちまけるかのように。

「……ァ」

「……で、気づいた事とかはあるかしらん? 役立ちそうな情報があれば聞かせてほしいのん」


――みねねは絶望する事すら許されず、ただただ思い知らされる。

自分は最早確固たる自我を持って行動する事など、出来はしないのだと。
それは操り人形ですらない。奴隷ですらない。

イノチも尊厳も何もかもを蹂躙され搾取される、ただそれだけの――家畜となるのだと、ひたすらに暴力的な事実がそこにあった。

「……ァ、あ、…………」


「早くぅん、わらわを焦らすのは許さないわよん。
 わらわとあなたが別れた短い間でも少しは収穫があるかもと思うのん」

みし、と、妲己の手の中の携帯電話が軋みをあげた。
それは即ち、自分の体が『そうなっている』のと同じ意味を持つ。

未来日記とは、逃亡日記とはそういうものなのだ。
みねねの未来を示すのではなく、みねねの未来そのもの。
みしみしぎしぎし、それがいい感じで悲鳴をあげている。

「やめ、」

「余計な言葉なんて必要ないのぉん、……ね?」

「――――!」

ぎり、と歯を噛んだ。
残った右手はぷるぷる震え、握り締めすぎたせいで白くなっていた。
そのくせ足に入る力はなきに等しくて、もし今立ち上がったらまるで豆腐の上に立ったかのようにぐずぐずと沈んでしまう事だろう。

「ほらほらァ、ほらほらぁん」

そして、その一言をきっかけに。
ふっ……、と、全てが一瞬で切り替わった。
憤りも無力感も悔しさも哀しさも、全ての感情のゲージが0となった。

雨流みねねは、雨流みねねとしての動作を全てやめた。

246本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:19:06 ID:mSY3smPc0
能面、と呼ぶべきだろうか?
……否。
能面にだって、表情はある。
般若だって翁だってお多福だって皆、笑っているのは確かだろう?
能面のような表情というのは、つまりそういうことだ。
たとえ空虚なものであっても、何かの表情を形作れてはいるのだ。

だが、今のみねねはそれすら叶わない。
完璧なまでの無表情で、ただただ淡々と情報を搾取される。

……分かっている。
妲己の今の行いはポーズだ、自分を手にかけるつもりは全くない。
ただ、自分に思い知らせるには、日記を弄ぶ行為はあまりにも充分すぎた。
家畜とはそういうものなのだ、と。

淡々と。
淡々と。
……淡々と。

ただ、言葉を放っていく。

「プラ爆だ」
「ぷらばく? それは何かしらん?」
「首輪に使われてる爆薬だよ。あの爆発の仕方は十中八九プラスチック爆薬だ、威力は滅茶苦茶だがな。
 ――粘土みたいに自由に成型できて、なおかつ信管の刺激がなきゃまず起爆しない。
 首輪に使うにはもってこいのアイテムだな」
「成程ん、ハンバーグの種みたいにコネコネできる爆薬な訳ねん」
「……ま、そうだな。
 だから、外そうと思うならセンサーか信管を探して取り除け。出来れば信管だ。
 おそらく衝撃や振動、熱とか電気とかに反応するセンサーが信管に信号を送るって構造になってる。
 それを突き止めんのは……、まあ、新しい首輪がいるな。
 仮にあのボムボムの実のような不思議パワーが関わってたら私にはどうしようもねえ」

それきりみねねは沈黙する。
何一つ洩らす事はなく、それ以上はなすべき事は思い当たらない。

「……いい仕事したわよん、みねね。ありがたく使わせてもらうわん」



『自分のことは自分で守るしかない。困っても誰も助けてくれない。
 未来は自分の力で掴み取るしかないんだ。私は今までずっとそうやって生きてきたんだからね。
 誰かが何とかしてくれる、神様が助けてくれる。そんなのは幻想でしかないんだよ』


――つい先刻、見知らぬガキンチョに言い放った言葉だ。
全く、その通りだとその思いを更に強める。
現にこの通り、自分は未来を打開した。

247本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:19:28 ID:mSY3smPc0
たとえ精神的なものであろうとも物質的なものであろうとも。
神様や正義に縋るばかりで、自分の意思と力で障害を打ち破る事を放棄した人間のその末路はあまりにも哀れだ。

だが。

せっかく未来への糸口を切り開いて突き進んでも、扉の向こうは奈落の底になっていた。
良くありすぎる陳腐な話だ。

いくら頑張って頑張って頑張って、結果を出したって立ちふさがる現実には全くの無意味。
どんな想いもどんな信念も、自己陶酔でしかない。

それでも。

――――それでもみねねは信じている。
信じたいのだ。

無表情の下で、きっと何か、まだ自分を貫ける方法があるのだと。
白面金毛九尾とも呼ばれる女でさえも、出し抜く事ができるのではと。

無表情は絶望ですらない虚無の感情を示す。偽物なんかじゃない。
それは本心だ、みねねは今の状況を哀れなまでに理解してしまっている。

だが、たとえ心の真ん中が虚無になってしまったとしても。
その周りにへばり付く形だけの、表面上だけのどこかで確かに。
たとえ心のほんの一部、皮一枚程度の想いではあっても、みねねは諦めていなかった。

(……まだだ。まだ、終わった訳じゃねえ。
 ここで人生くれてやってたまるかよ、私の命は私のモンだ……ッ!)

「そのくらいでないとわらわが使ってやる価値もないわねぇん、上出来よん」

「…………!」

ただまあ、そんな誰もが考えそうな事は、当然の如く妲己も把握している、というだけの話で。



「それじゃあ引き続き、お仕事の完遂頼むわねん?」

相変わらず悠然と泰然と轟然と、その言葉を言い放つ。


想いなどいくらあっても、現実は、変わらない。



【H-5北東/森林/1日目 黎明】

248本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:06 ID:mSY3smPc0
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:左拳喪失(火傷のため出血は少ない、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[装備]:メモ爆弾×4
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム
[思考]
基本方針:神を殺す。
0:…………。
1:研究所方面、もしくは工場方面に向かう。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返したい、しかし……。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:出血を利用して、メモ帳の残っている限りメモ爆弾を製造する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※未来日記所持者は全員参加していると思っています。死んだ12thが参戦しているとは思っていません。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。

【単分子鎖ナノ鋼糸@トライガン・マキシマム】
レガート・ブルーサマーズが人体強制操作に用いる微細な金属糸。
これを人体に刺して電流を流すことで、たとえ自壊しようともなお人体を意のままに操る事が可能となる。
また、特殊な電磁場が存在するとこの金属糸は弾かれてしまう。


***************


ゆっくりと、とぼとぼと、森の闇にみねねが消えていく。


これでいい。
どうせ自分は治療に役立つような道具など持っていない。
軽い手当てをしてから旅立たせてやっただけでも充分だろう。

どうせみねねに何かあったとしても、その予兆が手にした日記で分かるのだ。
いつまでも仲良しこよしで一緒にいるより、
さっさと当初の使命を果たす――自分の下に人を集める事に専心してもらった方がよほど効率的である。
それ以外に面白い使い道が思いついたなら、彼女の向かう場所に先回りする事も出来るわけだし。

行動を逐一把握できる上に、その生死さえ自由に可能。
あまりにも使い勝手のいい手駒を手に入れたわけだ。
いや、駒を手に入れたというよりは、駒が昇格したといったほうが正しいだろう。

「やっぱり人命救助なんてわらわには似合わないものねぇん」

こきこきと手首と指を動かして、うーん、と、一仕事終えた時の気持ちいい伸びをする。

「……とりあえず、重要そうな情報は首輪の事だけねぇん、現状じゃ手に入れられる情報に限界があるわん。
 きっとこのままだと情報量がそのままジリ貧になるわねぇん」

……と、なれば。
やはり今後のプランに少しでも多くこのゲームの情報を増やす方向性を加えるべきだろう。

249本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:29 ID:mSY3smPc0
思い当たるポイントの一つは、やはり“放送”だ。
おそらくゲームの進行に従って、その放送の内容で参加者の行動を制御するつもりなのだろう。
そこを逆手に取る。
つまり――、

「ゲームの進行が早ければ早いほど、“神”から手に入れられる情報は増えていくわん。
 だったら、わらわもそのスピードを加速させてやればいいのよん」

情報とは、何も口頭で伝えられるものでなくとも構わない。
主催の一挙手一投足全てが状況の判断材料になり得るだろう。
そして、このゲームのスピードの加速とは、即ち参加者の死亡の増加だ。
妲己がウルフウッドを殺害したのも、そういう思惑が存在したからである。

とはいえまあ、あくまでそういう状況が考え得るというだけで、確実なものでないのも確かだが。
あくまでそうなったらいいな、というだけの宝クジ。
しかも死にかけを殺すだけでは効率が悪いし、何より華がない。


それに加えて、いかに自分を信用させるかが問題だ。
人を集めて“神”と渡り合う。そこまではいい。
だが、自分の目的を果たすためにはその集団の長となることが望ましい。
主導権を握るのでなくては自分から人を集める意味がないのだ。
ただ馴れ合いたいだけなのならば、適当な集団を見繕って入り込めばいいのだから。

……とはいえ。
自分はどうしても胡散臭さが消えないらしい。
少なくともそれは先刻のウルフウッドとやらには嗅ぎつけられてしまったようだ。
となると彼と同程度、あるいはそれ以上の実力者が同じことを繰り返す可能性は決して低くない。
強者こそ、妲己が一番欲しい人材こそが、妲己を信頼しない。
往々にしてよくある話で、強者とは我が強い連中が非常に多いのは事実である。
自分が旗印となるならば、彼らから絶対的な信頼を得る手段がどうしても必要だ。

今ここが殷であったのなら、全く問題はない。
妲己のネームバリューは彼女に従うに充分な魅力を持つだろう。
だがここはみねねの様な未来の人間や、ウルフウッドのような知らない世界の人間が跋扈する異相だ。
妲己という存在を知らしめるために、何らかの手を打たねばなるまい。


だから、その為に妲己は考える。
考えて、そのうち思いついた一つに目を向ける。

人間には共通の敵を倒すときに、最も強く結束するという習性がある。
これをどうにか利用できないだろうか?
参加者を無差別に殺し廻る悪者の脅威を、自分が知らしめ協力を呼びかけたならば。
場合によってはだが、その悪者を踏み台に自分の実力を見せつけたのならば。
自分が信頼に足り、皆を指揮するに相応しいとアピールすることにならないだろうか?

とあるSF(すこし・ふしぎ)のお話のタイトルを借りるとするならば。
イヤなイヤなイヤな奴――憎まれ屋が、必要なのだ。

……その人選と、悪役たる悪役と成り代わらせる手段。
そこが一番のネックではあるのだが。

250本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:21:51 ID:mSY3smPc0
たとえばまず、殺し合いに乗っていない参加者全員の敵として“神”を思い浮かべる。
だが、“神”は憎まれ屋を務めさせる相手としては不適格だ。
そもそもが彼ないし彼女と戦うための戦力として人員を募るのであり、その中で実権を握るために憎まれ屋が必要なのだから。
“妲己”という存在をアピールする踏み台はもっと御しやすい相手でなければならない。
それでいて、つわものどもに脅威を与える程度の実力も、兼ね備えていなければならない。

かといって、ここで架空の強力な敵をでっち上げるのも悪手だ。
信頼を得るために行う手であるからして、虚言こそ一番の大敵であるからだ。
それに、たとえば憎まれ屋が襲われた相手が逃げおおせたとすれば、生存者の証言は自分の言葉が嘘ではないという追い風になる。

……とはいえ、憎まれ屋の実力が高すぎれば自分に被害が及ばないとも限らない。
万一の事どころか億一京一の事とはいえ、それを視野に入れない妲己ではない。
難儀な事だ。

けれど、何もその存在に自分が直接相対する必要はないのだ。
自分の知らない所で勝手にくたばってもらっても構わないし、暴れてくれれば強者の選別にもなろう。
要するにお題目でさえあればよく、その裏づけとして適度に証拠を残してくれさえすればいいのだ。

話を戻そう。
結局は、誰に憎まれ屋を任ずるかという問題だ。

「わらわ自らが手を下しちゃえば問題点だけはクリアできるけどぉん、それじゃあ本末転倒よねん」

ならば他の参加者にそれを任せるか?
なるほど、確かに勝手に殺し合いに乗る連中が出てくるのは確かだろう。
だがそれは確実ではなく、自分でも布石くらいは確保しておきたい所である。
そう、対策を充分練ることができるくらいには情報を得ている存在が。

まず該当者として思い浮かぶのはみねねだが、

「……単純にパワー不足よねぇん、それにこんな大味な役を任せるにはもったいないくらい小回りが利くしぃん」

ならば、やはり別の相手を用いて一手を打っておくべきだろう。
参加者に具体的な脅威を知らしめる、その為の一手が。

では、どうするべきか。
思案する為にも、とりあえずそこで倒れてる死体の道具を回収しておこう。
彼女の支給品次第では妙案が浮かぶかもしれない。

哀れな小娘だ、と思う。
みねねを出汁に近づいてみれば、簡単に自分が彼女の敵であると信じてしまったのだから。
みねねに止めをさすのは自分がやりたいと言ったところ、あっさりと逃亡日記を手渡してくれた。

そして剛力番長――白雪宮拳のところに向かおうとして、気づく。

251本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:22:08 ID:mSY3smPc0
「あはん」

「……! ……っ!」

「すごい生命力だわん」


――――白雪宮拳は、生きていた。
両足は焼け焦げて一部は炭化しているし、上半身はそれ以上に酷い。
下顎が半分以上吹っ飛んでなくなっており、顔面は完全に焼け爛れている。
とっさに庇ったのか目の周りだけは綺麗なものだが、その代わり両腕もボロボロだ。
万一生き延びても、きっと顔全体に火傷の痕が残って二目と見られないことだろう。
また、胸付近へのダメージもそれなりだ。
学ランは最早服としての呈をなしておらず、つつましい胸の膨らみが痛ましいくらいに真っ赤に染まって露出している。


そんな有様の剛力番長を見て、いいことを思いついたとばかりに妲己は口を三日月にする。

「……運が良ければ、生き延びさせてあげるわぁん。
 わらわに感謝して、しっかりお仕事に努めて頂戴?」

くすくす、と、まさしく女狐の表情をした妲己がゆっくりと近づいた。
その懐から取り出したるは、小さな瓶。

「さっきの男のところで拾ったものが、こんなにすぐに役立つなんてわらわってラッキーだわん」


――その小瓶の中には、赤い液体金属のような物がぷるぷると蠢いている。

ある人はそれの試作品を、 黒い核鉄と呼んだ。
ある人はそれを、柔らかい石と呼んだ。
ある人はそれを、赤きエリクシルと呼んだ。
ある人はそれを、第五元素と呼んだ。
ある人はそれを、哲学者の石と呼んだ。


――賢者の石。

つい先刻砕け散った鎧の少年、その父親が生み出したホムンクルス。
その分け身たる大罪の一つ、憤怒。

かつてとある男に注入されたはずのそれは、なぜか今ここに形を持って存在していた。


妲己は焼け爛れた剛力番長の胸の、特に深い傷を、尖った爪を差し込みこじ開ける。
そのまま、ちゅうぅぅぅ……っ! と、ぶじゅう……っ! と、静かに、ゆっくりと。
一滴残さず、賢者の石を剛力番長という器に注ぎきった。

この少女なら。
これだけおつむの方がシンプルで、これだけ並外れたチカラを持っていて。
しかも殺し合いに最初から乗っているのならば、まさしく“憎まれ屋”として適格だ。

252本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:22:55 ID:mSY3smPc0
――妲己は理解している。
賢者の石というものが魂魄の塊であり、これを人体に注入した場合、
自我を侵食して死をもたらす事も多い――むしろ器が耐えられないことが殆どなのだと。
だから彼女は、みねねにこれを使わなかったのだ。使い勝手が非常にいいからこそ、こんな賭けで死んでしまっては勿体無い。

だが、剛力番長の場合は別にそれでも構わないのだ。この少女でなくとも憎まれ屋は務まるのだから。
ただ、賢者の石を大人しく注入させてくれる相手などはいないだろうし、いても出会えるとは限らない。
だけど目の前にちょうど無条件でそれを行える相手がいたから、勿体無いとばかりに利用させてもらっただけ。
どうせ、放っておけば死ぬのは間違いないのだから。

それで生き延びて暴れてくれれば裏付けとしては御の字だし、たとえ死んでも賢者の石はどうせ拾いものだ。
知った事ではない。

あとは、剛力番長が危険な敵であると吹聴して廻るだけ。
嘘は言っていないし、唯一自分が彼女と面識があると知っているみねねも命を握られている以上迂闊な事は喋りはしまい。
仮に反旗を翻したとて、協力すると騙って場を切り抜けただけと言えば充分説明できる。
むしろそっちの方が自分が剛力番長の危険性を知っていることに説得力を付加できるだろう。


沈黙。

沈黙。

……沈黙。

そして。

「キャァアあアァパぱぱパッパパびゃぎゃきゃくあけけぎキキキキきぐぐぐぐばっばば
 ぺきゃっつばびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃじゅじゅぶぐぁがががっががががが
 しししししぎきけってててぶぴゃぅぱぐぅぐぎゃァアアアァアアアアァア――――!」

白目を剥いた。
四肢が吊ったようにピンと張った。
バタバタと、アヒルの玩具のように忙しなく動き始めた。
口から漏れる涎は溢れて止まらず、しまいには蟹の如く後から後から泡を吹いて止まらない。

まるで何かの映画のように、十字架で自慰を始めるような、そんな光景が妲己の目の前で繰り広げられる。

「さて、それじゃわらわは行くわねぇん」

うんうんと満足げに頷いた後、妲己は踵を返してさっさと立ち去る。
もし生き延びた時のことを想定して、ドラゴンころしだけは武器として置いていってあげる事にしよう。

253本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:23:14 ID:mSY3smPc0
……そんな悪魔の所業に反応したのだろうか。

「……っ!」

獣の槍が、またもや妲己目掛けて飛び掛ってきた。
尤も、本来の力を発揮できないこの状況ではやはりあっさりと妲己に止められはしたのだが。

「この槍、やっぱり怖いわぁん」

妲己の手の中で、びくびくと獣の槍が唸りを上げている。
その様子を見ていて、妲己は気づいた。
どうやら槍は、とある方向に向かって飛び去ろうとしているようにも見えるのだ。

……もしかしたら、そちらの方向に本来の持ち主がいるのかもしれない。
それに留意してしばらくそのままにしておくと、ようやく槍はその激情を治めたようだ。

「さて、ちょーっとばかり寄り道をしたけどぉん、あらためてゴージャスにデパートに向かうわよん♪」

その後は獣の槍の本来の持ち主に会ってみましょうかしらん、と一人呟いて、妲己は今度こそ歩みを再開した。


正義もテロリズムも踏み潰し蹂躙して、威風堂々と我欲の象徴が闊歩していく。



【H-5南東/森林/1日目 黎明】

【妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:獣の槍@うしおととら、逃亡日記@未来日記
[道具]:支給品一式×5、再会の才@うえきの法則、
    マスター・Cのパニッシャー(残弾数0%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数8/12)@現実、
    パニッシャー(マスター・C)の予備弾丸4セット、不明支給品×3    
[思考]
基本方針:神の力を取り込む。
1:デパートに向かう。その後、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極める。
2:対主催思考の仲間を集める。
3:太公望ちゃんたちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得たい。
7:剛力番長を具体的な脅威としての槍玉に挙げて、仲間を集める口実にする。

254本スレ差し替え>>354以降 ◆JvezCBil8U:2009/06/07(日) 22:23:33 ID:mSY3smPc0
[備考]
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。


【逃亡日記@未来日記】
未来日記所有者9th、雨流みねねの持つ未来日記。
未来の逃走経路を示すため、自分を生存させる為の手段としてはみねねのサバイバル能力も相まってトップクラス。
逆に言えば、これが敵の手に渡ってしまうとみねねとしてはほぼ詰み状態と言える。
また人海戦術に弱く、4thの捜査日記や6thの千里眼日記、8thの増殖日記などとは相性が悪い。


【H-5南西/山道/1日目 黎明】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:下顎半分喪失、眼球付近を除く顔面及び上半身前面に火傷(大)、両足に火傷(中)、両腕に火傷(中)
    精神的疲労(中) 、悶絶中、賢者の石(憤怒)注入
[服装]:学ラン焼失、上半身裸
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6
[思考・備考]
0:あびゃびゃびゃびゃぐぐぐうぶばが、ァ――!
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……? でも……
5:悪はとりあえず殺す。
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がみねねの敵だと信じています(妲己の名前は知りません)。
※剛力番長が賢者の石の注入に耐えられるかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師】
かつてキング・ブラッドレイに注入された賢者の石。
注入されて、なおかつ生き延びることが出来ればその人間はホムンクルスとなる。
ただし、自我が残っている保証はない。


※H-5を中心とした一帯に無数の爆発音と閃光が確認されました。付近の参加者が感知している可能性があります。
※H-4〜H-5の山道付近に無数のワイヤートラップが仕掛けられています。
※アルフォンスの残骸がH-5〜I-5境界付近の森林部に転がっています。

255本スレ436修正版 ◆lDtTkFh3nc:2009/06/08(月) 11:45:26 ID:kSdBChBo0
改めて簡単な自己紹介を終えると、Mr.2の提案で二人は支給品の確認に移った。
九兵衛のほうは既に1つ確認済みだったのだが、Mr.2のほうが未確認だという。

「Mr.2殿は、武器を必要とするタイプではないのだな?」
「やーねい、堅苦しいからボンちゃんでいいわよう」

(やや一方的に)打ち解けた二人は、まず未確認のバッグから調査する。
最初に出て来たのは奇妙なコインケースだった。
中にはコインが12枚入っているが、うち4枚が半分欠けていた。

「5枚目と7枚目…それに10、11枚目が欠けているな。誰かが持っているか、どこかに隠されているか…」
「全部揃えると、何かがおこるのかしらねい。いいわねい、お宝っぽくてワクワクするわ!」

次に出て来たのは、妙に軽いフードと剣。
フードの方はひとりでにフワフワと動いており、普通のものではないのがすぐわかった。

「こっちには説明書がついてるわねい…なになに…」

説明書によると、このフードと剣は風の精霊の力を宿しており、不思議な力を操れるという。
剣は羽箒のようで頼りなかったが、実際に振るってみると数m先の木の枝を切り落とした。
どうやら風を操りかまいたちの類を発生させる武器らしい。
直接攻撃に使うと相手を殺しかねないが、風を巻き起こす力は相手の抑止に役立ちそうだ。
改造バットと上手く使い分ければかなり戦力になるだろう。

今のところ殺さずの決意を曲げるつもりは無い。
胸を張って、護りたい人たちの笑顔を見るために……

「これはあちしには必要ないわねい。アンタにあげるわ」

ボンちゃんはそう言うと、ためらうことなく思考していた九兵衛にそれを投げ渡す。

「お、おいボンちゃん、いいのか…?」
「いいわよう、さっきいろいろヒドイ事言ったお・わ・び!
 それに、アンタの支給品であちしに使いやすそうなものがあったらそっちを貰うわよう」

勝手に九兵衛のバッグをあさりながら返事をしてくる。
彼女の持ち物の1つであるバットは趣味じゃないと既に拒否されている。
彼は「スワンちゃんが欲しい」とよくわからない事を言っていたが…
九兵衛は自分のバッグに、彼にとって役立つものが入っている事を願った。

256 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:53:37 ID:okmMVaXQ0
さるさんくらいました・・・
時間もないので続きこちらに投下します

257それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:54:03 ID:okmMVaXQ0

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。


【エドの練成した槍@鋼の錬金術師】
国家錬金術師の試験等でエドワード・エルリックが練成した槍。
割と頻繁に練成している。しかし、特に秀でた力はなく、登場のたびに壊されているような気も…
彼が練成したものにしては比較的センスがいいと思うのだが…

【バロンのナイフ@うえきの法則】
ごく普通の軍用ナイフ。バロンは能力の基点として使ったが、これ自体に特殊な力は無い。

【禁鞭@封神演義】
離れた敵を打ち据える事に特化した、聞仲の持つシンプルながら強力なスーパー宝貝。
本来ならば数km先の敵も打ち砕く代物だが、制限の為射程がおよそ100m程度になり、威力も低下している。
その分使用者への負担も減少している。



☆ ☆ ☆





――――――――――――――――――――――――――――――――――――

3:10

ユッキーが必死に走ってる。
でもあの男はもう追ってないよ、安心してユッキー!


3:20
疲れきった顔をしてるけど、それもかっこいい!
抱きしめたくなっちゃうけど我慢しなくちゃ。
ユッキーまた困っちゃうよね。


3:30
ユッキーが私のことを心配してくれてる。
嬉しいよユッキー、すぐ行くから待っててね!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

258それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:54:36 ID:okmMVaXQ0

「はあ……はあ……」

グリードさんがこちらを追ってくる様子は無い。
書き変わった予知を見る限りじゃ完全に逃げ切れた……しばらくは安全に休めそうだ。

でもグリードさんが追っていったのは由乃だと言うことを考えると気が気じゃない。
DEADENDが消えたことがせめてもの救いだけどそれでも不安は拭えない。

あの時愛沢さんを撃ったのは由乃の意思じゃない事はわかっている。
少なくとも由乃自身殺すつもりが無かったのはあの慌て方を見ればわかる、反射的に撃ってしまったのだろう。
だからそれは仕方が無いと割り切った。
これは愛沢さんが死んでいなかったから割り切れたのもあったけど、少なくとも由乃を責める事だけはしなかった。
結局ここまで予知通りになってしまったのだから。

そして日記は変わらかなかった。
ならばもう手段は一つしかなかった。

『僕がグリードさんに襲われ、由乃がそれをかばうという状況自体を無くす』

つまり僕らが一緒に行動すること自体がまずいわけでしかない。
由乃は最後までごねていたけれど日記で僕の安全は保障できるからと言う理由でしぶしぶ納得してくれた。

結果論だけ見ればうまく行った訳ではあったけれど、正直自分自身の行動に釈然としない。
別行動を取ったことにじゃない……その後だ。
別れてすぐ未来が書き換わって由乃のDEADENDが消えた時点で、由乃の所に戻ることだって出来たはずなのに。

"僕は弱い"から。
足手まといになることを避けてそのまま逃げた。
その時は最善の選択だと思っていたのに、身体を休めながら冷静になってみると自己嫌悪に踏み潰されそうになる。

『女のピンチに火中だって飛び込むのが男ってもんだろ!?』

7thの言葉が不意に頭をよぎった。
本当に最善の選択だったのかな?
これでもし由乃が死んだら、僕は……僕は……。


携帯を握り締め僕は立ち上がった。
今更ここでこうして悔やんでいたってどうしようもない。
無事合流できることを信じるしかない。
ならばこまねいているよりも可能性が高い行動を取った方が良いに決まってる。

合流場所は中・高等学校と話し合っていた。
グリードさんが病院を気にしていたから向かうのは危険と判断した為だ。
高町さんの事も気になるが今は由乃と合流する方が優先だ。

疲労の抜けきっていない身体に鞭打ちながらも僕は力の限り駆け出した。





僕は由乃を……信じる――




☆ ☆ ☆

259それは信頼か…それとも信用か…  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:55:13 ID:okmMVaXQ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


5:20
ユッキーが私のことを探してくれてる。
疲れてるよねユッキー。
すぐ行くから休んでてくれて良いんだよ!


5:30
ユッキーが笑顔で手を振りながら出迎えてくれたよ! 
ううん、由乃は大丈夫。どこも怪我なんてしてないよ。
待たせちゃってごめんね?


5:40
ユッキーってばぐっすりと眠っちゃった。
今はゆっくり休んでね

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【G-3/西/1日目 早朝】

【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [装備]:雪輝日記@未来日記 違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
 [道具]:支給品一式x2、不明支給品1〜2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  1:由乃の制御。
  2:拡声器を使った高町亮子が気になる。
  3:咲夜の生死が気になる
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。
  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。

【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾75%・75%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  1:ユッキーの未来日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  5:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※ 電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。

【ダブルファング@トライガン・マキシマム】
リヴィオ・ザ・ダブルファングの用いる二丁揃って一つの短機関銃。
しかも一丁が二つの銃を前後両方に発射できるように組み合わせた物であるため、実質四丁の銃を使用できるに等しい。
使い手の力量次第では片方を左右方向、片方を前後方向に向けることで四方全てを同時に射撃可能であるため死角が存在しない。
気配察知や直観力に長けた者が使うならば非常に強力な武装となる。
今回支給されたマガジンは八つと多めに感じる数だが、四つの銃口それぞれに個別にセットすることを考えると実質予備マガジンは二つである。
小型化され、一般人でも使用可能なようにされているがその分殺傷能力は落ちている。

260 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/22(月) 21:58:37 ID:okmMVaXQ0
結構な人数予約したのにつなぎに近くて申し訳ないですが、以上で投下終了です
支援と新スレ立てありがとうございました
転載もお手すきの方いましたらお願いします

咲夜の状態表に傷の度合い書き忘れていたのですが
「急所は外れているが何らかの処置をしないと失血死するレベル」ぐらいに考えています

261前スレ>>582->>583  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:36:02 ID:YBVTLCtg0

「ちっ……逃げ足が早ええっ!」

溢れ出る怒りを撒き散らしながらグリードは叫ぶ。
だがそのそばに、守ると宣言した少女の姿は無い。

『あんまり離れるとあの子が危ないゾ?』
「わかってんよ!」

パニックに陥る咲夜に注意を逸らしていた一瞬の隙に、雪輝と由乃は忽然と姿を消していた。
そしてその結果、咲夜の混乱はさらに増して行ったのだ。


「狙われとるんや。どこからもわからずいきなり攻撃される……もう嫌や嫌や……」

半狂乱になりながら手に持った銃をやたらと振り回す咲夜を制止しせめんとその腕を掴む。
だがそれを振りほどきながら咲夜は叫び続ける。
口吐き出され耳に届くのは、最早言葉にはなっておらず、音と表現した方が正しいかもしれない。
咲夜の表情は涙と鼻水にまみれ、とても見れたものではなかった。

(しょうがねえ……)

顔をしかめ右拳を軽く握り締めると――咲夜の鳩尾へ叩き付けられた。
一瞬の呻き声を零しながら咲夜の身体が支えを失ったようにグリードの身体へと倒れこんできた。

『おイおイ』
「気絶させただけだ、このままだとどうしようもねえだろ?」

咲夜の身体を抱き抱え、近くの木の根元へ横たわらせる。
(俺様の部下にしようとしたことをそのまま返してやるよ)
そう考え、手にした降魔杵を握る手がブルブルと震える。

『で……どうすルつもりダ?』
「決まってんだろうがっ! さっさと奴らがどこに逃げたか教えやがれ!」

そんなやり取りが合った。
冷静さを欠いたグリードの態度に彼の意識の中、リンは呆れた様なため息を漏らす。
されど傍若な理由ではありながらも彼の目的に賛同できないと言うわけではない。
殺し合いと言う行動を遂行している輩を黙認できないと言う点では二人の利害は一致していた。
目を離して一分も立ってない。
遠くへ逃げれるはずは無いのだ。

『左手の方角ダ。二つあった気が離れて一つがこっちに近づいてきていル』
「一人でこっちに向かってきているってか? いい度胸してやがる」
『気を抜くなヨ。もう近いゾ』

その刹那。

断続的な銃声が鳴り渡り、グリードの足元の土がはじけ飛んだ。
反射的に下半身を硬化させながら右へ向かって地を蹴る。
硬化が間に合わず交わしきれなかった数発がグリードの右足をかすめ肉片が弾けとび
今まで居た空間を銃弾が通過し真後ろにあった木へと突き刺さっていた。

「ちっ――」

悔しげに漏れ聞こえてきた女の声が苛立ちを募らせる。
先程の由乃とか言う女の声に間違いは無かった。
そして草木を踏む音が小さく消えていく。

素早く体勢を立て直すと、残響のした方角へと向かって地を蹴ろうと立ち上がろうとする――が
普段なら一瞬で治るはずの足の傷がなかなか再生されるそぶりを見せない。

(……うざってえ。悉く奇襲が好きなようだがな……だが逃がさねえ!)

262前スレ>>592- ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:38:08 ID:YBVTLCtg0

『こっちじゃないナ』
「んあぁ?」
『別の二つの気が合流しタ。そしてあの子が置いてきた場所から動いてル……その二つの場所ニ』
「ふっざけんじゃねえぞ!」

じゃあなにか? 
見当違いの奴を追ってたってことか?
……使えるようで使えない能力だぜ。
示されたのはリンの言うとおりに進んでいた方向とは逆方向……つまりは真後ろ。
慌てて180度身体を反転させると再び駆け出す。

「もっと早く言えよそう言う事はよっ!!」
『無茶言うナ、ただでさえ中から神経磨り減らしてやってるんダ。だったら外に出せって話だろうウ?』
「……けっ」

ウダウダ言い争っていてもしょうがねえのはわかっていたが、俺達が黙りこくったのはそんな理由からじゃない。
ここではない彼方から響いたその音は、リンの奴を、そしてこの俺様をも黙らすには大きすぎる音だった。

『良い予感はしないナ……』

いちいち余計なことばかり言いやがる。
だがリンの奴の言うとおりだ。
自分の想像に苛立ちばかりが募る。


そして暗闇の中、微かに浮かんだ人影に目が留まり……。

雪輝ってガキと由乃って女。

そして二人が見下ろすのは――横たわる咲夜の姿。

「てめえらあああああっっ!!」

己が胸の中に湧き上がる衝動に身体が震える。
叫ばなければその勢いに頭の中が弾け飛んでしまいそうなぐらいにゆでって熱い。

(許さねえ許さねえ許さねえ! 貴様ら二人とも絶対殺してやる!!)

「由乃!」
「でも、ユッキー・・・」
「大丈夫、僕を信じて!」

目の前の二人が言うや否や雪輝が一方へと跳ね、一瞬の躊躇を見せながらも由乃もまったくの逆方向へと駆け出した。

『何か狙ってるゾ、気をつけロ』
「ああ? 関係ねえよっっ!」

作戦なんぞ立ててようが知ったことじゃねえ。
追いついてぶっ殺す、ただそれだけだ。
どちらを追うか一瞬だけ迷った。
二人とも姿はもう見えなくなってたが、由乃って女が少しだが出遅れていた。
女の足だしこっちを追うほうが捕まえやすい可能性が高い。
足に力を込め、全力で地を蹴った瞬間、横目でチラリと咲夜を見やる。

『おい待てヨ、あの子をあのままにしていくつもりカ?』
「あいつらぶっ殺したらすぐ戻る!」
『そんな悠長な事言ってる場合じゃないだロ?』
「うるせえ! お前はいいから黙ってあいつらの場所を教えてりゃいいんだよ!」

生きているのか死んでいるのかわからない。
グリードの中にあったのは、どちらにしろそれ以上の苦しみを味あわせてやる、と言う感情。
頭に血が上りすぎているグリードに対する説得をリンは諦めた。
無作為に自分達が争っても身体の主導権を握っているのは結局グリードなのだ。
彼が咲夜を見捨てる気が欠片も無いことだけはわかっているのだから……。

『……勝手にしロ』


☆ ☆ ☆

263前スレ>>597と>>598の間に差し込み  ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 20:40:05 ID:YBVTLCtg0

一向に姿を捕まえることの出来ない標的に、グリードの苛立ちは頂点を突きぬけていた。
降魔杵を振り回し、周囲の森林に八つ当たりをするようになぎ倒しながら進む。

怪我の影響もあるだろう。

だが一番の誤算は由乃と言う少女をグリードもリンも甘く見すぎていたと言う事だ。
先に出会った咲夜という少女と同じようなただの一般人だと思い込んでいた事。
今追っている少女が殺し合いと言う非日常の世界を生き抜いていた事実を甘く見ていた。
雪輝から聞いたこともどこか子供の戦争ごっこみたいなものを想像していた。
自分達のやっている戦いに比べたら……と言う驕りがあった。

そして追いつけない今もそのことに気づくことは出来てはいない。
怪我と言う責任転嫁をする明確な理由が出来てしまっていたのだから。
さらに不運な事に、現状を深く考えることまでも許さない事が二人の前に起こってしまっていたのだ。

『まずいぞグリード……一……二、三……一人と二人組があの子の所に近づいてル』
「んだとっ!?」
『今追っている気があの女なのはおそらく間違いなイ。
 ただ、お前も足を負傷しているし向こうの足も早すぎル。
 あの子から探知できないぐらい離れたらまずいしこのままだとこっちも離される一方ダ』



何もかもが自分の思い通りに進まない現実。
全てのものが自分の支配物を勝手に弄繰り回す屈辱に耐えられず『強欲』は雄叫びを上げる。
全身を駆け巡る屈辱感をふるい落とす様に身体を震わせながら再び方向を変え走り出した。



(くそっ……どいつもこいつもふざけんじゃねえぞ!!)




【D-3/南/1日目 黎明】

【グリード(リン・ヤオ)@鋼の錬金術師】
 [状態]:右足が銃弾による軽症、グリードの意識
 [服装]:
 [装備]:降魔杵@封神演義
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の所有物を守る為、この殺し合いを潰す。神に成り代わる。
  1:咲夜の安否を確かめる
  2:自分の部下(咲夜)を狙った由乃も雪輝も許さない。
  3:病院に向かいたい。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※咲夜を自分の部下だと認識しました。
  ※異世界の存在を認識しました。
  ※感情優先のグリードと人命優先のリンとの間で多少の摩擦が発生しています
  ※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません


☆ ☆ ☆

264 ◆Fy3pQ9dH66:2009/06/27(土) 21:10:53 ID:YBVTLCtg0
蝉と流の状態表の変更

【蝉@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]: 健康
[服装]:
[装備]:バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:なし
[思考]
基本: 自分の意思に従う。操り人形にはならない。
0:目の前の流と呼ばれた青年に不審感。
1: これが仕事なのか判断がつくまで、とりあえずキリコの依頼を受ける。
2: うしおと一緒に病院を目指す。
3: 襲ってくる相手は撃退する。殺すかどうかは保留。
4: 市長を見つけたらとりあえずそっちを優先で守る…つもり。岩西がいたら…?
[備考]
※ 参戦時期は市長護衛中。鯨の攻撃を受ける前です。
※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。


【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 0:潮にあっさりと会えた事に興奮
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。


潮に関しては前述の通り割愛させていただきました

265セイギニッキ ◆lDtTkFh3nc:2009/07/02(木) 23:40:30 ID:kSdBChBo0
すみません、本スレが規制されたのでこちらに…

投下終了です。マシン番長の状態表を少し弄りました。マズイようでしたら直します。
その他ご指摘、ご意見、ご感想等頂けたら幸いです。

あと、剛力番長の持ち物から支給品一式を消すのを忘れてました。すみません。
前の話で妲己の支給品一式が×5になってたので、もっていかれてるって事ですよね?
だとしたら持ち物はボイスレコーダーのみです。違っていたなら本文もあわせて修正します。

266 ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:39:33 ID:LGCp2ato0
また巻き添え規制……、今年何回目だろう。
蒼月潮、蝉、秋葉流、愛沢咲夜、グリード、エドワード・エルリック、高町亮子、聞仲をこちらに投下させていただくので、どなたか代理していただければ幸いです。
人数が多いのと調子に乗って書いてたらかなり長くなってしまったので、できれば自分で投下したかったんですが……。

267贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:40:58 ID:LGCp2ato0
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

死んでるみたいに生きていたくない。


**********
 
 
ただ、自分の無力さを痛感していた。
 
 
とらと組んでいない自分が、白面の者というあまりにも圧倒的な存在に敵う事などありえないのだと。
獣の槍、ギリョウさんがいなければ、自分など本当にちっぽけな力しか持たないのだと。
二つ――いや、二人がいない自分は、ほんとうにたいせつなたった一人すら助ける事ができないのだと。
今までどれほど、二人の相棒に助けられていたのかと、それを思い知った。

とらは、自分勝手に見限ってしまった。
獣の槍は、自分が憎しみに囚われたが故に砕け散った。


「は、はははははは……」

だから、なのだろう。
少なくとも彼らと路を違える要因となった原因が、実は嘘っぱちだったと、それが分かったのだから。
今の彼にとってはそれこそが真実に思えて、真実に思いたくて仕方なかったのだから。

「あはは、は、は……。なんだよ、とらぁ……。どうして嘘なんかついたんだよ、全く……」

そう、だからこそ蒼月潮は笑うのだ。

「生きてたんだ……。生きてたんだ。生きてくれてたんだ……、流兄ちゃん!
 な、がれ、兄ちゃ……、あ、ああ……」

今まで自分を助けてくれた、大切な人が一人でも生きてくれていた事が、とても嬉しかった。
そしてまた、とらを嫌う理由がなくなったことに安堵して、もはや泣いているのか笑っているのか分からない。

そんなうしおに相対するは、照れたような苦笑で人好きのする顔を綻ばせる青年。

「おいおいひでぇなあ、うしお……。勝手に人を殺すなよ。
 この秋葉流がそう簡単にくたばるかっての」

その心中は、如何ばかりか。
秋葉流は静かに薄笑ったまま、さぞや心配したという口調でうしおに語りかける。

「災難だったな、うしお。……ツレぇよな? ツラくねえはずは、ねえだろ。
 ……あの嬢ちゃんがあんな事になっちまったんだからな」

じぃ、と見つめられ、うしおはびくりと体を震わせる。
たいせつな帰る場所だった、一人の少女の結末を思い出してしまう。

268贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:03 ID:LGCp2ato0
「構えるこたぁねぇ。……お前はよ、泣いて当然なんだ。
 ここに来る前、俺は婢妖に乗っ取られちまっててよ……。
 悪い事しちまった分、オレがそれを受け止めてやるさ」

申し訳なさそうに、悔しそうに眉根を詰める流に、うしおは気丈にも両手を振って気にするなとの意思表示。

「やっぱり……なんだ。え、へへぇ。婢妖に操られていたのか、そうだよな、そうだよなぁ……。
 流兄ちゃんがあんなことする筈、ないもんなァ……」

言葉を言い終える前から、うしおからは堰を切ったように涙がどんどんと零れ落ちてくる。
これまで二回遭遇した、豹変した流の姿は全部嘘っぱちの悪夢だったのだ。
それが、今この瞬間のうしおにとっての真実となる。

「ほら、こっちに来い。……肩ァ貸してやるからよ。
 こんなムサい男ので悪ぃけどな、我慢してくれや」

だって、そうだろう?
こんなにも彼は、こちらを案じてくれているのだから。

「流兄ちゃ……、あ、あ、わぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁ……!」

二度と見られないと思っていた、頼りになる兄貴分のその顔が、言葉が、縋らせてくれるその態度が。
知り合い一人いるかどうかすら分からず、人々の記憶からも、とらからも、獣の槍からも見放され。
――母親からすらも頬を打たれて、大切な幼馴染……それ以上の存在を失ったうしおにとって。
流が生きて今ここにいてくれる事が、ほんとうに心の底から嬉しくて嬉しくて、救いに思えて仕方なかった。
 
 
だから、ぼろぼろと雫を落として駆け寄って――、
 
 
「そこまでにしとけよ。そっちのヤロウも、蒼月もな」


鋭い一声が、感動の抱擁に楔を入れる。
妨げられる。

「……蝉兄ちゃん」

今まさに流の懐に飛び込もうとする体勢で、うしおはぎこちなく声の主へ顔を向ける。
流もうしおを受け止める格好をやめ、ゆっくりと中腰を直立へと移行。
その顔に浮かぶのは、無表情と不快感。

「そいつは誰だ?」

蝉の通り名を持つ殺し屋は憮然と、しかし油断なく淀みなく流を見据え、言い放つ。
その声色には不審と警戒が色濃く漂い、お涙頂戴の雰囲気など雪が溶けるかのように消え失せた。
うしおは一息に緊張したその空気を悟り、慌てつつも名残惜しそうに蝉に相対する。
丁度、流と蝉との中間で。

「話してなかったっけ? 流兄ちゃんって言って、俺の大切な仲間なんだ」

申し訳なさそうな小さな声で放つのは、流にも蝉にも申し訳ないことをしたと思っているから。
流が死んだと思い込んでいたとはいえ、仲間だと伝えなかったのはどちらにも失礼だろう。

「…………」

269贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:27 ID:LGCp2ato0
無言で蝉は流を見定める。
流がうしおにとってどのような存在なのか、蝉にも何となく分かる。
死別した――、そう思い込んでいたのだろう。
それも、何らかの不和の会った形でだ。
だからこそ生存にあれだけ歓喜し、また殺し合いの最中でも信頼を寄せるのだろう。
いや、こんな場だからこそ、だ。

その事がどうしてか蝉には少し妬ましく思え、そう感じる自分に気付かぬ程の嫌気が差す。
だから嫌気を振り払うかのように、少しばかり乱暴に口を開く。

「おい蒼月、知り合いだからってホイホイ引っ付くな。
 油断させてブスリ! かもしれねーぜ。
 ……こんな状況じゃあ、どう考えたって信用できねえよ」

……誰かの操り人形みてえに、何にも考えず殺しに乗った連中もいるに違いねえんだ。
そう続けようとして、蝉はしかし言葉を飲み込んだ。

それは、自分に戒めるべき言葉であるからだ。
少なくとも蒼月はそんな類の人間ではなく、彼に着いていくという依頼をこなすに当たって余計な軋轢を生むのは喜ばしくない。

「でも、流兄ちゃんなんだぜ……?」
「……オレはそいつがどんな人間か知らねーんでな」

無造作に告げると、蝉は音一つ立てずナイフを握り、ゆらりと構えを取る。
怪しげな事をしたのならすぐに処理すると、威圧を込めて眼光迸らせる。

そんな態度に怯えたのを隠したのか、あるいは余裕の表れか。
老若男女、家族単身問う事無く幾十幾百幾千の人を殺め、
数え切れない修羅場を潜ってきた蝉にすらそれを悟らせることなく、流は肩を竦めて一歩引く。

「おいおい、こえーなぁ。んな警戒しなくてもいいだろうよ」

……一瞬。
ほんの一瞬だけ、流れが舌打ちをしたように蝉には見えた。
しかし蛍の光よりなお儚く消えたその光景の真偽を確かめることなどできず、はや残滓も残らない。
その不自然な自然さにますます疑心を育んで、蝉は構えを崩すことをしなかった。

嫌な予感がする、と蝉は歯の根を噛み締める。
嫌な予感がするのに――、不気味な事に、まったく頭の中で警報が鳴ってはいないのだ。
今のところ流の態度を見る限り、疑う要素はゼロなのだから。
それが余計な不安となって、蝉の落ち着きを静かに奪っていく。

「そ、そうだぜ、蝉兄ちゃん……、信じてくれよ。
 大丈夫だって。警戒するのは分かるけど、この人はそんな人じゃねぇんだよ!」

うしおは蝉の態度に気が気でない様子を見せている。
一触即発のその空気が、流に不快さを与えていないか不安、いや、恐怖すら抱いていたのだ。

もし流が、自分たちを敵と見なしてしまったら。
もし流が、自分たちと戦うことになってしまったら。
……その時流は、また豹変してしまうのではないか。

それがうしおは、怖くて怖くてしょうがないのだ。
流の狂気に歪んだ表情ばかりが脳に浮かんで仕方ない。
まるでそれが、確定した未来であるかのように。

270贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:42:55 ID:LGCp2ato0
だが、当の流と言えば。

「……と、そうだった。すまねえ、うしおにゃ悪いが、こんなことしてる場合じゃねぇんだ」

蝉の殺気に近い威圧すら無視し、彼らしくもない慌てた声を上げる。
自分が疑われる事など瑣事でしかないと言わんばかりに、もっと別の、優先すべき事に注目しろと。

「おいうしお。それに蝉っていったか、そこの兄ちゃん。
 手ェ貸してくれ、オレ一人じゃ手に負えねェかもしれねえんだ」

真剣に誰かを案ずるかの如き声色を向けた先は、うしおでも蝉でもない。

「……う、ぁ。ひでぇ……」

――絶句したうしおの前には、見知らぬ少女が息も絶え絶えと言った様子で転がっている。
腕を失い、意識すらも定かでないその少女にうしおは駆け寄り、自分の身内であるかのように泣きそうな顔をした。
おそらく聞こえてなどいないだろうにもかかわらず、だからこそ死の縁から呼び戻すかのように必死になって。

「おい、大丈夫かよ! 死んだらダメだ、絶対死んだらダメなんだぞ!
 もう、誰一人死んだらダメなんだよぉ……ッ!」

そんなうしおに苦笑をこらえ、蝉は視線を流から外して俯き思う。

(嫌な予感は、コレか?)

成程、確かに厄介事だ。
自分たちの目的地が都合よく病院とはいえ、うしおの性格を考えればこれからどうなるかは非常に分かりやすい。
そんな面倒ごとを抱え込むのは、依頼にしてもご勘弁願いたいのだけれども。

ただ、もう一つの懸念は消えていない。
流が危険人物であるという目が出る可能性もある。
だから蝉は、見知らぬ少女を見つめながら鋭く問うた。

「……テメエが殺ったんじゃねえだろうな」

「オレが殺ったんだったらこんなとこでグズグズしてねえって。
 それよりまだこのコは生きてんだ、滅多なこと言うんじゃねえよ」

静かに流に諭され、言葉を失う。

確かにその通りであり、言い返せる台詞はない。
疑念が渦巻き、思考と身体の両方が停止する。

流を信じていいのか、疑うべきなのか。

しばらくの間同道するはずのうしおは、明らか過ぎる信頼を寄せている。
そして、自分にこの男を信じるよう懇願してもいる。
当のこの男も先ほどからうしおと見知らぬ少女を気遣ってばかりで、嘘をついている素振りをはっきりとは見せてくれない。

対し、疑う理由は自分の予感……、直観という不確かな代物だけだ。

(……蒼月のガキの言いなりになってもいいのか? オレは人形じゃねえのによ)

271贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:43:18 ID:LGCp2ato0
……人形であることと、自分の意思で頼まれごとをこなすことは、全く違うのを蝉は知っている。
この場合は果てさて、どっちなのか。
答えを出したくとも――、どうやら依頼の護衛対象は、そんな時間を与えてくれないようだ。

「せ、蝉兄ちゃん! はやくこのコを病院に連れてかねぇと!」

やれやれ、と深く深く溜息を吐いて、それでも蝉は確かに頷いた。

「……分かったよ、しゃーねえな」

それを見届けるなり、うしおは焦って病院に向かおうと立ち上がる。
いまはグダグダしているよりも、一人でも多くの命を救いたいからと、そんな想いを心に刻んで。

握り拳を作るうしおは、しかし歩みを止めざるを得ない。

「おいおいお前ら、勝手に話を進めるなっての。誰が病院なんかに行くって言ったよ」

……そんな、予想すらしていなかった静止の声があがったからだ。

「流兄ちゃん……? な、なにを言ってるんだよ! こんな傷、病院でしか手当できねえよ!」

戸惑いと困惑。
その2つの単語を表情にありありと滲ませながらうしおは踵を返して訴える。
流のことを信じたくてしょうがないから、人を救わない選択肢を告げる彼の言葉を打ち消すために。

そんなうしおに、流は落ち着けというゼスチャーをして苦笑した。
そして目と目を合わせ、告げるのだ。

「うしお、よぅく考えろ。……怪我をしたら病院に行くなんて選択肢はな、誰だって考え付く。
 そんな場所、殺人鬼にとっちゃ格好の餌場じゃねえかよ。
 ……薬だって、全部毒に入れ替えられてるかもしれねえ。
 包帯やガーゼだって、とっくに誰かが持ってっちまってるかもしれねえ。
 だったら行っても危険なだけだ」

「あ……」

……もう少し事態を把握しろと言わんばかりに、冷静で理に適った意見。
それはまさしく、うしおのよく知るキレ者で頼りになる流の姿だった。

蝉もそうだと頷かざるを得ない。
これまでの流の言動はすべて正しくて、信用はできなくても信頼はできるかもしれない。
そんな風に思えるのは、確かなのだ。

272贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:03 ID:LGCp2ato0
ならば、これで見極めよう。
秋葉流という人物が信ずるのに足りるのか、いつまでもグダグダ考えていても仕方ない。
ナイフを下ろして、しかし手から外すことはしないまま、一つのことを問う。

真正面から向き合って、どんな形でも対決するのだ。

「じゃあどーするってんだよ。何かアイデアでもあんのか?
 どっちみちオレと蒼月は病院で人探しする予定なんだぜ」

具体的な解決策を。
そして、自分と蒼月の当初の予定は、どうするのかと。
それに具体的な解答を示せるなら、ひとまず協力的だと見ていいだろう。

「……ああ。ひとつオレに考えがある」

どうすれば少女を助けられるのかと苦悩するうしおを安堵させるかのように、ぽんぽん、と肩を叩く。

「そ、そっか。良かった……」

溜め込んでいたものが開放されたからか、うしおの体から力が抜けて頬が緩む。
よかった、と小さく呟いて、流がいる事に感謝をして、とびっきりの信頼を込めてうしおが秋葉流に笑いかける。

「それで流兄ちゃん……、どうするつもりなんだ?」
 
対する流も、極上の笑みを浮かべて優しく優しくこう語るのだ。
 
 

  
「お前らもこのガキもブチ殺して首輪を奪うんだよ」
 
 
 
 
**********
 
 
 
僅かに、3秒ほどで全ては決着した。
 
 
 
**********

273贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:30 ID:LGCp2ato0
蝉は刹那の間に辺り一帯を飽和させるほど膨れ上がった殺意に、ぞく、と骨の髄まで寒気を覚える。

思考が停止し、視界が真っ白に染まる。

息が詰まるような圧倒的暴力の予兆は、動物の本能に訴えかけて意識の全てを平伏させる。

ヒトがヒトである限り、本質的に逆らえない生まれつきの才能と言う名の絶望の壁。

狂気を糧に限界知らずに練り高められた秋葉流という個の強大さに、蝉の意識は完全に飲み込まれていた。



だが、培った技と業は意識など歯牙にもかけず完璧に仕事をこなす事を蝉に許す。

流が何かをしようと動くのを視界の端に捉えた。

させない、と、一息すらつかず紫電の疾さで踏み込む。

うしおが何か叫んだような気もするが、聞こえない。

むしろ、目の前にいられては邪魔だから、突き飛ばした。

力なくうしおが数歩下がり、座り込む光景すら今の蝉には見えはしない。

躊躇いも迷いも葛藤もなく、糸に操られるかのように。

蝉は、殺し屋としての仕事を全うする。

機械の正確さで氷より冷たく雪より真白く突き出される白刃は、風を切りながら何一つとて障害物に邪魔されることはない。

ただただ、ヒトをコロスものとして秋葉流の全存在を消滅させる。

その為だけに、今の蝉のすべては在る。

そして、ヒトゴロシはその意義を十全に発揮した。

すとんと服と肌を抉じ開け、肉に金属が埋まっていく。

ずぶりずぶりと、胸の中へ中へ。

鏡として使えるほどに研ぎ澄まされた刃の表面が、血の赤と肉のピンクと脂肪の黄色に染まっていく。


そして――――、


とうとう胸の奥の奥の奥を突き破り、背の側からナイフの先っちょがぴょこんと生えてくる。
 
 
愛沢咲夜という銘柄の、肉の盾の胸から。
 
秋葉流が首根っこを掴んで持ち上げた、肉の盾の胸から。

274贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:44:54 ID:LGCp2ato0
「――――!」

なにか、妙な家畜の鳴き声のような音が聞こえた。
 
だが、そんな物に構っている暇はない。

今は一刻も早くナイフを引き抜いて、こんどこそ秋葉流の息の根を断たねば。

撃滅せよ! 撃滅せよ! 撃滅せよ!

自分の意思で彼奴のイノチを奪い、自分たちを騙し、弄び、嘲笑った男に自分は玩具ではないと知らしめねばならない。

自分は自由だ、玩具でも人形でもない!

コンマより短い単位の時間でナイフを引き抜き、そのまま追撃せんと僅かに切っ先を引いた所で、ようやく気付く。


ああ、まだ響き続ける家畜の鳴き声は自分の口から漏れていて。

引き抜いたと思ったナイフは肉に突き刺さったままで、自分の手からすっぽ抜けただけなのだ、と。

夜明けは近い。

いつの間にか仰いでいた空は白み始めていて。

幾十重にもブレる鞭のような影が、せっかくの光景を台無しにしていた。

そして蝉は一つのことを悟る。
 
 
やべ

内臓割れた
 
 
蝉にとってその感触は、あまりにも現実味が感じられなかった。

275贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:45:23 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
うしおはただ呆然としたまま、すべてを見ていることしかできなかった。
否、見ていることしか許されなかった。

……誰に?

当然、決まっている。
秋葉流に――だ。

かたかた、かたかたと、肩を震わせて、泣きそうな半笑いで呟く。

「な、なが……れ、兄、ちゃん?」

「おう」

肉の盾を無造作にぶら下げ、手にした鞭をしまいながら流はへらへらと頷いた。
これは確かに現実なのだと教えるために、何度も何度も。

「え? あ……、せみ、兄ちゃん、は? ……その子は?」

――ようやく、当の蝉が地面にぶつかって転がる音が、うしおの背後から響いてくる。
おむすびころりん、すっとんとん。
幻覚と割り切るにはあまりにも生々しい音だった。

「死ぬぜ、どっちも。オレが殺すんだけどな」
 
呟くようにあっさりと口にすると、流はいきなり口元を吊り上げ、肩を竦める。
僅かに目線を上げ、何もない虚空を見つめ――笑った。

笑った。笑った。笑った。

大きな声で、笑った。

「あァひゃははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははは、」

276贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:45:50 ID:LGCp2ato0
「……ぅ、あ」

「ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははァッ」

ぞくり、と体を震わせる。
耳に届くのは、狂った哄笑だけ。
目に見えるのは、薄明かりの中の歪みきった兄貴分の笑顔だけ。
縋り付いて泣き出したくなるほどに頼もしいはずのその声が、どうしてか一秒たりとも聞いていたくない。
じわじわと、じわじわと、静かにうしおの精神を削り磨耗させていく。

「……どう、して」

つう、と、堪えきれなくなった涙が目の端から流れ、
しかしそれでも、流を信じていると言わんばかりに笑いだけはどうにか形骸を残したまま。
うしおは、恥も外聞もなく懇願した。取り乱した。

「どうして、どうしてだよ、どうしてなんだよ流兄ちゃん!
 いつだってかっくいーバイクに乗って、オレたちを助けてくれたじゃんかよう!
 悪ふざけはやめてくれよォ、婢妖に操られてたんだろ!?
 やめろよ、やめろよ、やめてくれよぅ!
 もう、嫌なんだ! 誰かが死ぬのは御免なんだよォ!」

不気味なまでにぴたりと、哂い声が止んだ。
流はスイッチを切り替えたように無表情になり、うしおを見つめる。

まるで自分を取り戻したかのように目を見開き、うしおの後ろにいるはずの蝉の方へ視線を動かす。
そして、信じられないと、何てことをしてしまったのだと、申し訳なさそうな顔を形作りつつもう一度うしおと目と目を合わせる。

「……オレが、婢妖に操られて……?」

その表情にうしおは、まだ婢妖が取り付いたままなのかもしれない、と、蜘蛛の糸のような希望を見つけ出し――、
 
 
 
「嘘に決まってんだろォォォがよぉぉぉぉ、馬ァぁァァぁぁァァァ鹿!」
 
 
そしてまた、にィぃィィィいィ、と狂気に染まる流の表情に、積み木よりも脆く春の雪より早く一切合切を壊された。


「ああああぁあぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、
 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だぁぁぁぁぁぁ! 流兄ちゃんは嘘をついてるんだよぉぉおぉ!」

277贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:46:20 ID:LGCp2ato0
ああ、そうだ。
今もずっと、認めることが出来ていないのだ。
流が裏切ったのは何かの間違いだ、と、愚直なまでにうしおは流の事を信じ続けているのだ。
このどこまでもまっすぐな少年は、最後まで流の心と向き合う事はなかったのだから。
――秋葉流と相対したのは、彼の相棒である化け物だけだったのだから。

うしおが知っているのは、二度の邂逅だけ。
流が自分たちを裏切ったと告げた、HAMMRに向かう時の奇襲。
そして、とらが流を殺したと『嘘をついた』、“仙嶽”でのやり取り。

そのどちらともが僅かな応対を交わしたに過ぎず、うしおはただひたすらに流が裏切るはずはないと喚いていただけだった。

「だぁからそう言ってんだろ? 相変わらずあったま悪ィよなァ、本ッ当に救えねぇ救えねェようしおぉぉぉ。
 あの時オレはご丁寧に説明してあげたよなあ、秋葉流は白面の側についたってよ!」

ああ、と、うしおはつくづく思い知る。
 
とらは、こんな理不尽をオレに浴びせたくなかったのかもなあ、と。
似合わねえけど、庇ってくれたのかもしんねぇなあ、と。

最高の相棒に絶縁を言い渡したことを、これほどに悔やむことになるとは予想もしなかった。

悪意の泥沼の中で希望を見出して寄りかかった柱こそが、実は腐りきって蛆の涌く汚物の集積だったと知ったとき。
人の心は、真実ぽっかりと穴を開ける。

まだ中学生であるにもかかわらず、うしおはそんな悲しい現実を刻み込まれてしまった。
がくりと膝をつき、生気の抜けた表情で、流に雨中の子犬の表情を向けるだけのモノに成り果てた。
哀れささえ感じる程に顔をくしゃくしゃに歪めさせて、だけど、この表情は確かにまだどこかで流を信じているもので。

「……お願いだよ、流兄ちゃん。やめてくれよぉ……」


そんな少年の無残な有様を見て、流は実に気分がいい。この上ない悦に浸る。絶頂すら感じそうになる。

これだ。これが、見たかったのだ。
すごく、いい。

同時に、まだどこかで自分を信じているうしおのその態度に、妬ましさと悔しさと腹立たしさが湧き上がってくるのを止められない。
それはどうしようもなく卑劣で外道で人でなしな行動に走らせる衝動となって、流を突き動かす原動力となる。

「そうそう、救えねェと言えばよぉ……」

だからそんな想いをまるで見せる事無く、さも平然としているような態度で、腕にぶら下げたソレを無造作に突き出した。

「このガキ、どうしたいよ?」

右胸からナイフの柄を生やして、ゲロと血を吐いて白眼を剥く少女がだらりと四肢、もとい三肢を垂れ下がらせ、それでも生きている。
まだ、生きてしまっている。

――だから、まだ生きているから、うしおはそれを失いたくなくて何一つ為す事が出来ない。

「な、流兄ちゃん……なにを、」

278贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:47:09 ID:LGCp2ato0
うしおはようやくその事に気付いて、涙目で声に鳴らない声を洩らすだけ。
まるで赤ん坊のように、今のうしおはあまりに無力だった。

とらもおらず、獣の槍もなく、母には打たれ、幼馴染は死に、蝉は虫の息で、流に奈落に突き落とされた。
それでも救える命を救いたいと心の底から思う、思ってしまう真っ直ぐな存在こそが、うしおなのだ。

ただ、キリコと名乗った医者の言葉が、何度も何度も脳内で木霊して止むことがない。

本当に、死なせない事が正しいのだろうか?
あんな有様で、生きている方が辛くてしょうがないんじゃないか?
キリコとの邂逅が、最悪の形となってうしおを拘束する鎖となっている。

くるくると、幾十の苦悩の感情が渦巻くうしおは、それを素直に表情に出してしまっている。

「いい事を教えてやるぜ、俺が首輪を集めてる理由をよォ。
 伝えたきゃ他の奴にも伝えていいんだぜ?
 まあ、お前がこの場を生き延びられたら、つまりはこのオレをブチ殺すことが出来たらの話だがなァ」

うしおが流を殺して生き延びる、と、そんな言動にうしおは自分を抱きしめた。
次いで、哀れなうしおを眺めてニタニタと、実に上機嫌に流は伝言ゲームを始めるのだ。

「この殺し合いな、白面のヤロウが裏で手を引いてるのよ」

「……え、」

もちろん嘘っぱちだ。口から出任せ、うしおにある一線を越えさせるための方便でしかない。
少なくとも流は、白面がこの殺し合いに一枚噛んでいるなんて事実は全く記憶にない。
もしかしたら嘘から出た真という可能性もあるが、そんな可能性は知ったことじゃあない。

……だが、効果は覿面だ。

「……また、白面かよォ。なんで……、なんで、皆奪っていくんだよ。
 ちくしょォ、ちくしょォ、ちくしょオちくしょオちくしょオちくしょオぉぉぉ!!」

泣き笑いが歪み、憤怒と激昂と苦渋に彩られる。
それらを統べるのは、いーい具合に熟成された憎悪。
深く理由を考えることもなく、純粋であるが故にうしおはただただ怒りを爆発させる。

そんな、だん、だんと膝をついたまま地面を握り拳で何度も叩くうしおを上から見下ろして、流は淡々と虚言を弄す。

「……でな? この首輪を集めた数だけよ、白面が功績として扱ってくれるのよ。
 生き延びる保障もくれるし、願いだって叶えてくれるかもしれねえ。
 だったらよぉ、やる事は一つしかねぇだろ?」

ああ、そんな理由で酷いことをするのかと、うしおは理解する。
理解しても納得は出来なくて、いろいろな感情でごちゃごちゃになって、もう何をすればいいのか分からなかった。

「まあそういう訳で首輪を集めてるんだがよ、オレ一人じゃ効率が悪ィだろ?
 だからうしお、つるんだよしみで手伝ってくれや」

うしおが地面を向いたまま、耳を塞いで叫びを上げる。

「聞きたくねえ、聞きたくねえよ! 流兄ちゃんの顔でそんな事言うんじゃねえよこの婢妖野郎!
 そうだ、婢妖だ、婢妖なんだよぉ! お前は流兄ちゃんじゃなくて取り付いた婢妖なんだぁぁぁぁ!」

279贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:47:40 ID:LGCp2ato0
うしおが現実逃避をし始めた。
そろそろ、まともに流の言動を聞かなくなる。

次だ。
次の言葉で、うしおにさせたいことを言葉の暴力で叩きつけてやる。
 
 
「そこの男を殺せ。テメエがその手でよぉ、うしお。
 そしたらこのガキだけは助けてやる」
 
 
その台詞を聞いたときのうしおの百面相ったら、もう!
筆舌に尽くしがたい芸術品で、文章に書き起こすのは筆者程度の力量では全く以って不可能だ。
 

「それか、このガキを殺すかだな。
 好きな方にしろよ。どっちを生かすのか選ぶのはお前さんだぜ?」
 
もちろんこれも、嘘。
うしおが実際に少女か男かどちらかを殺そうが、あるいはどちらも殺すまいが、結局残ってれば自分が殺す。
もちろん、うしおの目の前で、だ。

「……まあ、どっちも長く保たねえしなあ、それが優しさってモンだろ?」

ぼそりとうしおに聞こえない小ささで呟いて、クックと含み笑う。

ただ、出来ることならうしおに手を汚して欲しいと、そう願って止まない。
そして、うしおが人を手にかけたその時に、全部全部嘘だと告げたのなら、彼はどんな表情をするのだろう。
ああ、それが楽しみで楽しみで、ゾクゾクワクワクしてしょうがない。
だからその為に、秋葉流は全力を以ってうしおの殺人を支援するのだ。
うしおのいちばんたいせつだったモノを踏み躙って、トラウマをほじくり出して塩水にさらすのだ。

「なぁーあ、うしおー。いーのかよ? 許せんのかよ? 
 このお前らと同じくれーのガキが、テメエの大事な大事な中村麻子みてえによぉ、
 惨めに! 何の意味もなく! 何一つ残さず!
 生きてるときゃどんな姿だったのかすら分からねーくらいに、肉もミソもハラワタもぐっちゃぐっちゃになっちまってもよぉぉぉ!」

そう言うと、ぶるん、と手に持った肉の盾を振り回した。

「あ……!」

衝撃で肉の盾が、ゆっくりと目を開けていく。
が、は、と、溜まっていた血を吐いて、次の瞬間肉の盾は絶叫した。

「あ゛ァぁぁがぁががっががががががが、ぎぎぎがぁぁぁぁ、い゛だだだだああああぁぁぁぁい゛ぃぃぃぃい゛ぃ!
 どぼじ、どぼじでぇっぇ、う゛ぢ、な゛んでごんな゛め゛に゛あ゛っでる゛んや゛ぁぁぁぁ、い゛だい゛、い゛だい゛よ゛ぉぉぉぉぉ、
 な゛ぎ、じゃっぎんじづじ、い゛ずみ゛ざん、ま゛ぎだ、ぐに゛え゛だ、だれ゛でも゛い゛い、゛だずげでぇぇぇぇぇ……」

涙と鼻水と血と吐瀉物とでぐちゃぐちゃになりながら、少女は喚くことしかできない。
腕は半ば消し飛んで血が止まらず、右胸にナイフを突き立てたまま。

「心配すんな嬢ちゃん、右の肺が潰れても左が残ってりゃ息はできるさ。
 死ぬかもしれねえけどそこはご愛嬌だな」

280贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:48:03 ID:LGCp2ato0
暴れることすら出来ない少女をぶら下げるのは気楽な仕事なのか、流は平然と飄々と取り合わない。
ああ、つまりこの子を救えるのは自分だけなのだ、と、うしおはその事を思い知らされる。
だが、それでも。

「殺すなんて、……できねえ。できねえよ……。
 なんで、そんな事しなきゃあならねぇんだよぉ」

現実逃避すら、許されることはなかった。
どう足掻いてもこの少女が目の前にいる限り、流と相対することを選ばなくてはならない。
そして、そんな目に遭ってまで少女を救えないのが悔しくて惨めで腹立たしくて――、
もう、うしおの精神は限界寸前だった。

だから、仕上げとばかりに流は追い討ちをかけるのだ。

「ほらほらほらほらァ、あと3秒数える間に殺らなきゃどっちもお前の目の前で殺すぜ。
 二人殺して自分も殺されるか! 一人殺して自分ともう一人が生き延びるか!
 うしお、選ぶんだよォぉおおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!
 さァぁぁああぁぁぁぁあんんんんン!
 にィぃぃいいいぃぃいぃいいいぃィ!
 いィぃいいいいぃいぃぃちぃぃぃィ、」


考える時間を一切与えない、3秒カウント。
それが、止めだった。
  
とうとう、ぽき、と心の折れる音が、確かに響く。
 
 
「麻子……、あさこ……。麻、子ぉ……っ。
 もう、嫌だ……。
 死んで欲しく、ねぇよ……」


――――木のうろの様に、何一つ、詰まってない。
ぽっかと空ろな表情で、幽鬼じみた挙動で、ようやくうしおがゆらりと立ち上がる。
手にはしっかと槍を携えて。

スーパーの生鮮市場の魚の目で、死体になりかけている蝉を、じぃ……と眺めた。
ああ、そうだ。
キリコも言っていたではないか。
楽にしてやるのも、一つの幸せなのだ、と。

頼りないおぼろげな足取りで、音一つ立てずに蝉に近寄り、見下ろす。
ぎゅう、と、槍を握り締めるのが流の瞳にはっきり映り込んだ。

ケタケタケタケタ、ゲテゲテゲテゲテ。

流の狂った嗤い声が、漣のように木の葉擦れのように、処刑のBGMとしてよく馴染む。

281贖罪のラプソディー ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:48:31 ID:LGCp2ato0
「そうだよ、それでいいのさうしおぉぉぉぉ……。
 テメエもよ、獣の槍で散ッッッッ々! ぶっ殺してきたんだろうが!
 いくら取り繕おうが、いくらイズナとか鎌鼬の兄妹に懐かれようが!
 てめーが連中の仲間を喜び勇んで殺してきたことにゃ変わりねえのさ。
 だったら別に人間一匹殺そうが大した違いなんてねえよ。
 なあうしお、認めちまえよ。
 てめーもオレも、所詮は人殺しの同類なんだよ、なあ!」
 
 
ああ、それこそが本心だったのかもしれない。
うしおも自分と同じで、どこまでもまっすぐ突き進める訳じゃあないと、それをうしお自身に認めさせたかったのかもしれない。
たったそれだけの光景を、見てみたかったのかもしれない。
  
そして流の思惑通り、ゆらりとうしおが槍を振り上げた。
幽かな朝の月の光が刃に反射する。


――そして。


「できねえ……っ! できねえよぉ! 蝉兄ちゃんを殺すなんて、できねえに決まってるだろ!
 その子だって、流兄ちゃんだって、知らない人だって!
 人殺しなんか、できるはずねえよぉ……」

からん。

槍を取り落とす音がする。
うしおはそれでも、人を殺すことを認めなかった。

どれだけ痛めつけようとも、こころを刻まれても、水面のように透き通っていて、太陽のように輝いていた。
それが、蒼月潮だった。

興が冷めた。
急速に失望感が漂ってくる。


もういい、さっさと全員殺す。
皆殺す。
  
鏖す。
  
そう決めた。

目を瞑りながらゆっくりゆっくり息を吐いて、丹田に力を入れる。

そして、あらためて目を見開いてみれば――――、
 

見知らぬ少女が二人の男を従えて、怒鳴っている光景が見えた。
 
  
「……ッなに、殺し合いなんか乗ってんだよあんたらぁ……っ!」

羽蟲を見る目で、流は闖入者たちをぼう、と眺めていた。

282原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:08 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

隙間を探せ。
 
 
**********
 
 
高町亮子、聞仲、エドワード・エルリックの3人は花狐貂から下りた後、人目につかない森の中でしばらく待機をすることにした。
花狐貂に乗り続けてどこか遠くまで向かう、と言う選択肢もあり、エドが興奮してそれをプッシュしたものの結論は却下。
こんな目立つものに乗っていては対空砲火のいい的だし、聞仲の体力もどれほど保つか制限下では不明確。
何より当のエドワード本人の疲労を鑑みて、少しは落ち着く必要がありそうだったからだ。

亮子と聞仲の交代制で見張りながら、エドワードの回復を待つ。
当初は完全に回復するまで動くつもりもなく、しかし場合によってはすぐ動けるよう体制を整える。
もちろんその間に簡単な情報交換も終わらせていた。

三者三様の世界の在り方に困惑し、頭を悩ませ、時には脳をショートさせながらも、
とりあえず自分たちの知らない不思議パワーのある世界と言うことで納得した。することにした。
特に亮子には訳の分からない事ばかりだったものの、エドの錬金術や聞仲の宝貝という能力が実在することははや疑えないのだから。

だから、重視するのは今のところはそれ以外。
人間関係や技術的要素。地理的知識といった物だった。
特に聞仲の言動は、“神”の手の一人である申公豹に関することもあり、一句一字足りとて聞き逃すことは出来はしない。

そして、2時間弱といった所か。

疲労回復とまではいかないものの、エドワードも戦闘に協力できる程度――流石に矢面に立てるほどではないが――には回復した頃。
周囲の警戒をするために斥候を行うことにして、その最初の偵察でのことだった。

大怪我を負った少女を亮子は遠目に見つけたのだ。
いや、それだけではない。
そのすぐ傍で、見知らぬ男二人と一人の少年が何か言葉を交わしていた。

声は届かず、様子を伺ってから協力できるなら歩み出よう、と、そう思ったのだが――、
応酬の最中、男の一人が突然ナイフでもう一人の男に襲い掛かった。

しかし、瞬きするほどの間に全ては決着していた。
ナイフの男の攻撃は、もう一人の男に届かない。
なんともう一人の男は、死に掛けの少女を身代わりにした。
そして彼はナイフの男に鞭の様な何かを叩きつけ――、それで終わりだった。

亮子には、どうしてそうなったのかは分からない。
ただ、どっちの男も危険だと思えて仕方なかった。
機先を制して奇襲を仕掛けた男も、平気で女の子を盾にする男も、傍から見てればどっちもヤバい。

だから気付かれないうちすぐにそこを離脱して、聞仲とエドと、より人目につかない場所へ向かう心積もりだったのだ。
……最初だけは。

283原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:31 ID:LGCp2ato0
一瞬の戦場から離れれば離れるほど、盾になった女の子と、そして呆然とした男の子の表情がチラついて仕方ない。
そして一度気になり始めたらもう、我慢できなかった。
高町亮子のブレード・チルドレンとしての異端さにして信念が、彼らを放っておくことを許さなかった。
だから聞仲たちと合流するとすぐ、彼らに加勢に行く旨を告げて彼らを強引に引っ張り出す。

意外な事に、聞仲はあっさりと乗ってくれた。
どうしてか元々覇気がなくて虚無感すら漂わせている彼のこと、ただ漠然と亮子の勢いにつられたのかもと彼女自身も考え、
その不安定さ故の賛同なら別についてこなくともよい、と告げたのだが。
実の所、彼には彼なりに亮子の話に興味を示す所があったらしい。

それは、迎撃した男の使った鞭について、だった。

その鞭は聞仲の思う通りのものならば、本来は彼の使うべき道具らしい。
……名を、禁鞭。

彼はその武器の特性と威力を、余す所なく亮子たちに語って聞かせた。
そんな重要な、戦力を丸裸にするような――、
軍事機密にも匹敵するようなことを話してしまっていいのかと問えば、彼は苦笑してこう答える。

もはや自分に戦力を口外してはならない理由などないのだ、と。
その言葉の奥に踏み込むことは、亮子にもエドワードにも出来はしなかった。
少なくとも、今の彼らには。

……そして、たとえ武器の能力が知られていようとそうでなかろうと、禁鞭という武器の前には大差ない、と、そうも告げられた。
シンプルで強大なその力は、分かっていてもどうしようもないほどに圧倒的なのだ、と。

だがそれ以上に不気味なのは、件の男が禁鞭を使えるというその事実だった。
その事実が皮膚のすぐ上でぶよぶよと蠢くような、そんな不快感を伴って皆に圧し掛かる。

何故ならば、禁鞭とはあまりにも強力で気位が高い宝貝が故に、生半な力量では扱うどころか持っただけで衰弱死するような代物なのだから。
封神フィールドを張り続けた状態とはいえ、崑崙の主たる元始天尊ですらそれは変わらない。

「もし支給品として与えられただけにもかかわらず、そこまで禁鞭を使えているのならば。
 ……その男は、間違いなく天才だ。
 たとえ制限がかけられたとしても、主足るに見合う才がなければあの禁鞭が認めるはずはない。
 ――警戒して損はないな」

ごく、と、聞仲の言葉に誰ともなく唾を飲み込んだ。


ちなみに、エドワードは文句を言いながらも何だかんだで積極的に彼らに関わる意志を見せている。
良くも悪くも、根っこの所ではお人好しなのだろう。
何となく自分と通じる所があるような気がして、亮子は少しばかり気が安らいだ。
そういえば、病院に彼が訪れたのも自分に警告をするためだった。
少なくともこういう人間が自分以外にいると分かっただけで、希望のようなものが幽かながら浮かんでいる気になれる。

「……なあ、あたし達仲間だよな?」

「この殺し合いぶっ潰す心意気が本物ならな」

ぶっきらぼうなエドの物言いに苦笑するも、それが今は頼もしい。

そして先ほどの死地に飛び込み、場を支配するために咆哮をあげる。

284原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:49:50 ID:LGCp2ato0
「……ッなに、殺し合いなんか乗ってんだよあんたらぁ……っ!」
 
 
―――― 一喝。
 
 
さて、次に来るのは何か。
左右の二人のどちらが殺し合いに乗っているのか、はたまた二人ともがそうなのか。
どちらにせよ攻撃が来るのを覚悟し、三者三様に身構える。
亮子はパニッシャーを盾のように構え、エドは即座に土壁を作れるよう両手を合わせ、聞仲は花狐貂を繰り出さんと。


されどそれは、無為と化す。

「わああ待った待った、誤解だ誤解!」

人の良さそうな飄々とした立ち振る舞いの男が、いかにも困ったと言わんばかりに慌ててみせていたのだから。


「……は?」

訝しげな顔をみせて観察すれど、男の風体からは何一つ読み取れない。
特に、腕の中の少女がそのあやふやな印象を際立たせている。
誰が見ても分かる大怪我を負っており、自分で動くことなど出来そうもない。
人質にも思えるが、助けるために抱えているようにも見えるのだ。

「あたしは高町亮子。こっちはエドワードと聞仲。……あんたは?」

構えた武器を下ろすことも出来ず、さりとてこちらから仕掛けることも出来ず。
一見敵意はないように思えるが、どうしたものかと思案にくれる余裕もない。
気を抜いたら奇襲されるかもしれない状態ではとにかく主導権を握って会話をし続ける必要がある。
だから、とりあえず名乗るのだ。
もしこの男が本当に殺し合うつもりがないのなら、余計な事で関係をこじらせたくなどないのだから。
そしてこの男が殺しあうつもりなら、人質であろう少女の身が危ないのだから。

「オレか? オレは……秋葉流っつってよ、そこの蒼月潮の、まあ、保護者っつーか、時々面倒見てるような感じだな」

流、と名乗った男は遊びに誘うかのような気楽さで膝をついたままの少年に振り向き、なあ? と確認を促した。
それはまさしくよく知った間柄でしかない所作であり、嘘を吐いている印象は全く感じられない。

「え? あ、う、うん……。間違っちゃいねぇけど、よぉ……」

うしおと呼ばれた少年は、僅かに沈黙したあと力なさげに、何かを堪えるようにそう答える。
その目線は、流という男と、もう一人――、
やはり瀕死で転がっている青年の間を交互に行き来して、そして縋るような瞳で亮子たちへと顔を向けた。

その様子から、何となく事情を亮子は察する。
確かに嘘はついておらず、保護者のような存在ではあるはずだ。
うしおの肯定の言葉からも、流という男を信じたくてしょうがない、そんな願いが感じられる。
だが、転がっている男をその様な状態にしたのも、間違いなくこの男だ。

「あんた……っ」

285原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:11 ID:LGCp2ato0
ぎり、と歯の根を噛み合わせて詰め寄れば、少女を抱きかかえる様にして後ずさる。
その様は確かに善良な兄貴分そのもので、

「だ、だから言ってるだろ。誤解だよ誤解。
 殺し合いなんざ乗ってねえって、確かにそこの男を返り討ちにはしちまったけどさ」

本気なのか、嘘なのか。
泥水を入れた風呂の底が覗けないように、何一つ見通すことは能わなかった。

ぼりぼりと頭を掻きながら、参ったとばかりに流は嘆息する。

「そこの男がな、企んでたんだよ。
 集団に入り込んで、隙を見せたら一網打尽――ってシナリオをな」

「……そ、んな。ほんと、なのか? 蝉兄ちゃんが……?」

力ない声で、認めたくなくて、だけども流の言葉を信じたくて。
そんな矛盾した想いがうしおの口から漏れ出てくる。

そんなうしおの方に向き直り、流はすまないとばかりに頭を下げる。
戻した頭には、申し訳なさと少しばかりの悔しさを絶妙に入り混じらせた表情が匠の業で彩られていた。

「うしお、俺があんなことするわきゃねえだろ?
 ……お前ならいくら騙されててもぜってえその男を庇うだろうからな、俺が悪役になるしかなかったのさ。
 まあ、確かにちょっとノリノリになっちまって酷い事言っちまったけどよ」

――そこで、はじめて少しだけ頬を綻ばせる。
この仕草と表情が計算と演出によるものなら、流は役者としても充分やっていけるだろう。

「俺は悲しいぜ、演技だって見破ってくれなくてよ。
 ……自分の体を見てみてくれよ。証拠にお前には怪我一つ負わせちゃいねえじゃねえか」

「あ……」

はっとして、思わずうしおは体を抱きしめる。
だけど一度折れた心は流を疑ってしまい、うしおにはそれが物凄い哀しかった。
流を信じたくとも信じきれず、信じたところでそれは蝉を疑うことになる。

苦しくてこころが痛くてしょうがないけど、それでも流が許してくれるのなら、それはまさしく感動の場面。
真相が明らかになり、悪役を買って出たそのいじましい想いも報われ一件落着、めでたしめでたし。

それをコンプリートする為に流が口を開こうとした、その瞬間。

「百歩譲ってそれが本当だとしてもだ。
 何故、お前にそこの男が計略を企てていると分かった?」


ぴくり、と、流がその動きの全てを止める。

言葉の主は、聞仲。
かつて、殷の太師と呼ばれた男だった。

286原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:38 ID:LGCp2ato0
沈黙。

沈黙。

沈黙を三度重ね、ごう、と風が吹き抜けた。
木の葉が擦れる音が空気を満たし、重く苦しい威圧が地面から滲み出す。

「あァ、それはなぁ……、」

苦笑し、流が肩を竦める。

余りにも空虚なその苦笑に、禁鞭での一撃に警戒を警戒を重ねたその瞬間。


「――――!!?」


聞仲の目の前に、胸にナイフの刺さった、白眼を剥いて血反吐を吐き散らす少女があった。

「な、」

思わず両手を突き出し受け止めようとすると、その瞬間少女が加速。

背骨の折れる、ごき、という嫌な音とともに、“少女ごと”殴り飛ばされた。
自分には脇腹への一発という、オマケつきで。

「か……!」

吹ッ飛ばされるその瞬間、エドワードの叫びが届く。

「バカ、下がれ……ッ!」

やけに長く感じられる浮揚の間隙にそちらを伺ってみれば。

――流は既に、禁鞭をふりかぶっている。
高町亮子がパニッシャーを慌てて流に向けようとするも、自分と少女の存在を気にして撃てず。
そんな亮子を守るために、エドワードが必死になって防壁を作り上げているところだった。

三人と流とのそれぞれの間に、無数の壁が屹立する。

が、がが、が、と、ものの数発で岩の群が打ち砕かれるのを確認した所で、砂煙を立てて地面に墜落した。
 
 
秒の時間すら、保たなかった。

287原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:50:59 ID:LGCp2ato0
**********


簡単に説明するならば、流は禁鞭が警戒されているのを逆手に取った。

肉の盾にしていた愛沢咲夜を、ブン投げたのだ。
それが人一人分の重さを持っているとは信じられないくらいの剛速球。
恐るべきはその身体能力だ。
その踏み込みは投げた肉の盾に追いつき、一撃叩き込む事すら可能とする。

自分が危険人物として警戒されてるのなら、都合のいい人質を最大限に利用するのは非常に理に適っている。
そしてそれが相手が思いも寄らない形なら、対応が遅れるのもまた道理。
特に命を粗末に、ぞんざいに扱う場合なら尚更である。

人質をとって、脅すのではなく。
ただのモノとして、投擲する。

相手が思わず助けようということを一瞬でも考えてしまったならば、充分すぎる隙が作り出せる。
肉の盾を一番厄介そうな男に投擲したらその背後に隠れて接近し、それごと先制の一撃をブチ込んでやればいい。

女とガキは大した手間じゃない、あえて言うなら女の得物に撃たれれば厄介ではあるが。
女の細腕では即座にあのデカい得物を振り回すのは不可能だし、ガキの方は全くの無手。
どちらにせよ、禁鞭を叩き込む方がよほど早い。

要するに、蝉の時と全く同じ展開だった。

亮子たちは主導権を握っているつもりで、その実いつの間にか流のペースに乗っていた。乗らされていた。
聞仲が流に切り込んだとて、それも充分想定されていたこと。

そして、蒼月潮。

少年は、悔しかった。
なのに、何も出来なかった。

何故、彼は動かない?
どうしても流に攻撃できないから?
流一人と殺しあいたくないから、みすみす他の人間を危険に曝したのか?

いやいや、そんな事はない。
うしおは本当に真っ直ぐで、だからこそ純粋すぎるきらいがあるけれど。
やっぱり、誰一人傷ついて欲しくないという思いを強く強く持っていて、その為なら自分を盾にすることも厭わない。

だから、流と戦いたくないという理由以上に、彼の行動を阻むものが一つ。
それは動かないのではなくて――、

「う、ごけねぇよ……! 流兄ちゃん、オレに、何したんだよォ……」

「今更気付きやがるなんて鈍いにも程があるぜ?
 さっき何の為にぺちゃくちゃクソつまんねえお喋りに付き合ってやったと思うのよ。
 テメエを結界でグルグル巻きにして、ちょっとやそっとで動くことが出来ねえよう仕込むために決まってるだろが」

288原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:51:27 ID:LGCp2ato0
それは独鈷などの基点となる武法具がない為に広域に張れはしないものの、ヒトを束縛するのには充分な多重結界。
獣の槍を持たない今のうしおを押さえ込むなど、造作もない代物だった。

加えて人質と、禁鞭と、話術。そしてタイミングと呼吸。

使えるものを徹底して使い機先を得続けることで、自分自身への被害を避けて一方的に攻撃する。
なるほど、実にシンプルかつ合理的。かつ、大胆。

まさしく秋葉流は、天才だった。
 
 
唯一誤算があったとすれば――、

「へぇ……、面白い技使うじゃねえか、チビジャリ」

「誰が豆粒どチ……! ……ッ、これでも、修羅場は相当くぐってきてるんでな。
 あんたみてえな卑怯な事する奴だってそれなりに出会ってきてるのさ」


エドワード・エルリック。

彼の用いる錬金術の防壁さえなければ、3人ともミンチに変えられていたものを。
小ささを揶揄するあからさまな挑発にブチ切れそうになるのを押さえながら、エドワードは冷や汗をかく。

「エド……、ごめん」

「……死んでなきゃそれでいい。それより今は切り抜ける方法をフル回転で考えろ!」

亮子の謝罪は、助けられたことへ向けたもの。
もしあの時少しでも流の方に踏み込んでいたならば、エドの練成した岩ごと無残な有様になっていただろう。

「禁鞭、か。くそ、さっきのヤローといいこいつといい、ホムンクルス以上の化け物ばっかりかよここは!」

本気で、マズい。
もし少女を投げつけられたのが自分だったのなら、まず間違いなく練成が間に合わなかった。
しかも、岩を盾にしてもあまりにあっさりと砕かれる。
聞きしに勝る恐ろしさの源は、実際に相対して身に染みた。

「……だが、付け入る隙はある」

「聞仲……、平気なのか?」

無言で頷き、少女をそっと横たえて立ち上がるのは禁鞭の本来の主。
金鰲島最強と歌われた実力者は、核融合を超える自爆や千倍の重力でようやく有功打を与えられる程の猛者。
肉の投擲と拳の一撃でくたばるほどに弱くはない。

「やはり私ほど使いこなせている訳ではない。
 使っても数秒……十秒未満で、暴れ始めるているな?」

「……よく見てやがるじゃねえか。なるほど、こいつはお前さんの武器ってことだな。
 道理でそこのチビガキの対策が周到すぎる訳だぜ」

「テメ……!」

289原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:51:52 ID:LGCp2ato0
それは如何ともしがたい経験の差。
聞仲が全面的に信頼を置く腹心、張奎ですら禁鞭をまともに使うことは出来ないのだ。
つまりは、使い始めてからの約9秒さえ耐え切れば、再始動するまで付け入る隙が生まれてくる。

――だが、その9秒が果てしなく、長い。
本来スーパー宝具の威力は、僅か数秒で焦土を作り出すことすら出来るのだから。

「あんたはきっと、この鞭をすげえ苦労して使いこなせるようになったんだろ?
 それがどうだよ、オレはちょっと触っただけでもうこんなんだぜ」

げてげてげて。
嘲笑が嫌に耳に障る。

「オレは、何でもできちまうのさ」

心外だが、聞仲は認めざるを得ない。
自分の三百年以上に渡る研鑽の日々。
肉が腐るほどに修行を積んだ過去。

「あんたなら、もしかして分かるんじゃねえか……?」

それら一足飛びに超える速度で禁鞭に認められつつあるこの男の脅威を。
そしてこの男が、自分とどこか似ている匂いを漂わせていることを。

「これ程僅かな時間で武器として実用できている。
 ……大した才覚だ、天才と言ってもいいかもしれんな」

だが、その賞賛ですらある言葉を聴いたとたん、流の顔からニヤニヤ笑いが消え失せた。
凄まじい鬼の形相をほんの一瞬だけ浮かばせ、吐き捨てる。

「オレは天才なんかじゃねえ」

ゾッ……、と、その圧だけで亮子は鳥肌が立つのを実感してしまう。
だから、声を振り上げる。

虚勢を張って、張り上げて、そしてその勢いをホンモノにする為に。

「こいつは……、この男は、野放しにできないよ。
 聞仲、禁鞭ってのを取り返せばあんたなら使いこなせるんだろ!?」

「そうだな」

「……上等! どうせ逃がしてくれるつもりはなさそうだし、逃げられる気もしないし。
 取り返すんだ、殺し合いに乗った連中の戦力が減ってこっちの戦力は増えて一石二鳥!
 幸いこっちは3人いる、どうにかしてやろうじゃない」

「ったく、しょうがねぇ。その賭けに乗るしかねえか」

ガシガシと頭を掻きながらも腰を低くし、準備を整えるエドに苦笑してパニッシャーを構える。
その銃口は、しっかと流の体へと向かう。

290原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:52:22 ID:LGCp2ato0
「口では何とでも言えるよなァ、嬢ちゃん。
 いいぜェ、やってみろよ。やれるんならな」

ごく、と余裕綽々の流に息を飲む。
頼りの戦術は突入前に聞仲が立案した作戦。
本来の持ち主である彼だからこそ見つけ出せた突破口。
こういう状況を想定し、禁鞭の脅威を取り去るために備えておいたものだ。

だが、それでも足が震えそうになるのは変わらない。
なにせ一撃でも当たれば死は確定。
ブレード・チルドレンとはいえ、足が速い以外はなんら特殊な能力も持っていない亮子は間違いなくこの中で最弱だ。

だが、それでも、譲れないものがある。

ツンツン髪の生意気な少年の顔を思い浮かべ、呼吸を整える。

大丈夫だ、と自分に言い聞かせ、さん、にぃ、いち、と声に出さずに数えた。
流に仕掛けるタイミングを読ませないためだ。

On Your Mark,

Get Set,

Ready――
 
 
「GO!」
 
 
亮子の掛け声とともに、時を同じくして3名が一列に並び走り始めた。

先頭を行くのは聞仲。次いで亮子、エドの順番だ。
だが、第一陣を仕掛けるのは先頭の聞仲ではなく、最後尾のエドワード。

ぱん、と両手を合わせ、練成するのは無数の針山。
一部が崩れると用を成さなくなる壁ではなく、硬度を練り高めた針を無数に向かわせることで、
防御力の上昇と攻撃を同時に行うのだ。
ネーミングは当然というか、微妙なものだったが。

「貫け、ハリセンボン!」

だが、既に流は涼しい顔で禁鞭を振り終えている。
ただの一撃で針の殆どはあっさり砕け散った。
木の根や土塊が舞い散り、泥の粉が鼻に入ってくしゃみをしたい衝動に駆られる。

「温ぃなあ」

「……まだだあっ!」

汗を迸らせ、疲弊の苦痛を押し殺してエドワードが剣山を強化。
僅かに残った針の一部が、禁鞭を挟むように急激に肥大。
砕け散った針の残骸を全て飲み込んで、悪趣味な彫刻の施された2列のレイラインが檻の様に取り囲む。
休憩で得た僅かな体力など、台風の中のビニル傘よりあっさりとどこかへ行ってしまった。

291原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:52:42 ID:LGCp2ato0
「だからどーしたよ」

禁鞭の先端がブレると柱全てがひび割れ、一瞬で粉微塵に。
勢いを僅かに弱まらせただけだ。
稼いだ時間はそれぞれコンマ秒単位でしかなく、前後合わせても精々が2秒弱、いや、それにすら満たない。

「……クソ、後は頼んだぜ」

だが、次に繋げる事は出来た。
ただでさえレガート戦の疲労が残っているが故に、エドワードはそこで膝をつく。
吐き気を堪え、苦しさの涙で滲む視界で以って、それでも流を見据えることを止めはしない。
最後の力でこちらに向かう禁鞭と自分たちとの間に、未開の民族の呪術に用いられるような巨大な像を作り出し、蹲った。

「邪魔臭、ぇ……?」

風船が弾ける速度で像の四肢を砕き、脳天から股間までを断ち割る。
そこまでは全て未来予想図の通り。
だが像の向こうにはひとつ、流の予想だにしない光景があった。


「花狐貂……!」

――二番手、聞仲。

像を砕いてすぐ彼の脳漿を撒き散らそうと思っていた流には、本当に伏兵としか表現しようがなかった。
エドワードの時間稼ぎの間に10mもの大きさに伸張し終えた鯨のオブジェから、なにかがひしゃげる無数の激突音が、が、がが、が、と響き始める。
刹那の間だけ何十何百に重なって聞こえた音は、即座に滝の落ちるような連続した一音に変化した。

その裏、流からは目の届かぬ領域で、高町亮子が加速する。

疾走。

疾走!

(……っし、あたしが行くまで耐えてくれよ……!)

――亮子からの報告を聞いたそもそもから、聞仲は件の男が禁鞭を制御できる時間は殆どない、と想定していた。
仙人界ですらまともに使えるものは殆どいないスーパー宝貝。
ここに招かれいきなりそんな物を手渡されたとて、たとえ三大仙人であろうと認められるには時間が到底足りない。
むしろ、数秒もの間制御できる流が異常すぎるのだ。

しかしそんな異常な事態にすら思考が及ぶのが殷の太師としての聞仲だ。
剛性と弾性を兼ね備え、熱兵器や光学兵器すら弾く頑丈さを持つ花狐貂の装甲。
だから数秒を、無理矢理耐え切る。制限された禁鞭ならば一発や二発なら耐え切れない筈はない。
それができずとも、花狐貂に隠れ、回り込み、至近の死角からパニッシャーの銃撃を食らわせる。

亮子は誰かを殺す覚悟なんて持ち合わせてない。
それでも、被害が広まらぬよう立ち向かう覚悟はある。
だから、至近距離から流に致命傷を与えない角度で、流の手か禁鞭本体を撃ち抜く。
そうすれば流石に禁鞭を手放さずにいられまい。
近づかなければいけないのは、中遠距離からの銃弾やロケットランチャーは、禁鞭で叩き落される可能性があるからだ。

――範囲全体に満遍なく襲い掛かってくるようでいて、禁鞭の攻撃は目に見える大部分が目眩まし。
だから、ほんのわずかな間ならば、それを掻い潜って近寄ることは出来るはず。

292原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:53:18 ID:LGCp2ato0
だが、それでもあまりに危険すぎる。
聞仲は、最初は禁鞭の男を仕留める様指示したのだ。
わざわざ相手を生かすなどと高い難度の選択肢を選ぶより、殺した方が安全を確保できる。
それにパニッシャーの殺傷力は充分すぎて、むしろ殺さない方が難しい。
だが亮子は頑なにそれを拒み、どんな殺人鬼であっても生かす事を曲げなかった。

彼女がこの戦術の仕上げを志願したのは、だから当然なのだ。

それがブレード・チルドレンという呪われた運命に反逆するものとしての、彼女の在り方だったのだから。

「――通る!」

目標はちょうど花狐貂の目の前にいるはず。
だから花狐貂の外周から少し離れた円周コースが、流の死角になっているはずだ。

ざぁ、と五月雨の打ちつけるような音とともに、花狐貂がボロボロと崩れていく。
破片が手榴弾のように高速で飛散し、亮子の右肩に浅い切り傷を作った。
さしもの巨体すら上下左右に揺さ振られるその有様は、人間など掠っただけで死を免れない事を否応にも想起させる。

怖い。
亮子は、その感情を正直に顔に出さざるを得なかった。

それでも薄暗い森の中、木の根を踏みしめ石を蹴飛ばし腐葉土を撥ねさせ走る。
翔けて、駈けて、駆けて、そして――、

「ただの時間稼ぎかよ、つまらねェ」

想定していたより遥かに早く。
半壊してもなおそびえ立っていたはずの花狐貂の巨体が、あっさりと空に放り出された。

ふわり、と、まるで紙風船で遊ぶように跳ねて、あっという間もなく小さな小さな元の大きさへ。
音もなく、静かに転がった。

「え?」

まだ、道程の半分も達していない。
一気に開いた間隙に、見つかってはならない男の姿があった。
手には未だに禁鞭が健在。

流と亮子の目と目が、合う。

ぐにゃあ、と、その目を見た瞬間、亮子の世界は捻じ曲がる。

この時、亮子の号令からは僅かに4秒強。

パニッシャーが打ち据えられ、白い破片が鳳仙花のように割れ散った。
亮子ははじめて己の身一つで空を飛ぶ。

293原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:53:43 ID:LGCp2ato0
**********


それは、花狐貂を操っている時に突然起きた。
聞仲の体が突然、がくりと沈んだのだ。

「な、」

先ほど拳を食らった脇腹が全身の動きを一瞬掌握。
力が入らず、聞仲ほどの仙道であろうと1/100秒単位だけ花狐貂の制御を失った。
それだけで禁鞭が花狐貂を打倒するには充分すぎる時間だった。
下から上へ、花狐貂が天に跳ね飛ばされる。

その向こうに見えた流は、蕩けるほどに破顔していた。


――不動金剛力。

法力のこもった流の拳を一度でも受ければ、力はどんどん漏れ出て行くのだ。

理解。
秋葉流は、間違いなく天才だ。

黄飛虎が、人間を超えた力を持つものだとするならなら。
レガート・ブルーサマーズが、人間の力を限界を超えて無理矢理引き出すものだとするなら。
秋葉流は自分と同じ、人間の限界そのものを遥かな高みに更新し続けるものなのだ。

「くぅ、」

聞仲の目の前には招かれざる客、幾十にも分身して見える禁鞭の先端が迫っていた。
着弾。
あまりにも禍々しいその威容に、自分が撃破してきたもの達はこんな代物に立ち向かってきたのかと奇妙な敬意と感動すら覚える。
 
 
 
視界が白く、染まった。
 
 
 
**********

ああ、もう終わりか、と、流は奇妙な喪失感を覚える。
本気を出してみたい、と、流は虚しい寂寥感を感じる。

この心に吹く風を止められるのは、やはり“あいつ”しかいないのか、と。
その“あいつ”を思い出そうとした瞬間、目の端に何かが映るのを確認した。

そちらを見て流は、ほんの少しばかり目を見開く。

ありえない筈の人影が、静かにこちらに歩み寄ってきていた。

禁鞭で以って、打ち倒さんとする。
いざ、薙ぎ払わんとする。

294原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:03 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
蝉は、自分のアパートの台所にいることを自覚した。

窓の外は夕方だ。
車が排気ガスを撒き散らす音、部屋の中にいても聞こえてくるおばちゃんの話し声、
季節外れの石焼き芋屋の拡声器、子供たちが野球か何かを仕出かしている騒ぎ、
遠くから聞こえてくる何かの鳥が鳴く響き、そして、ほんとうに小さな泡の弾ける音。

目の前にはしじみを入れたボウルがあって、ぷかりぷかりと二酸化炭素を吐き出していた。
しじみの砂抜きだ。

蝉は、この光景を眺めているのがとても好きだった。
落ち着くのだ。穏やかな気分になる、と言い換えてもいい。
呼吸という現象が目に見えるだけで、命というのが確かにあることを実感できる。

「ああ、ずっとこうしていてえなあ」

「残念だけどな、そりゃ叶わねえ相談だ」

いい気分が、一瞬で消え失せてしまう。

「岩西」

――気がつけばそこは自分のアパートではなく、見知った岩西の事務所に切り替わっていた。
当然のこととしてそれを受け止め、蝉は不機嫌に憮然と告げる。

「依頼か?」

西日が射す部屋の中で、疑問に対する応答は予想外のものだった。

「知らねえよ。俺はただ忠告に来ただけだ。
 ジャック・クリスピンも言ってるだろうが、人生から逃げる奴はビルから飛んじまえ、ってな」

「は?」

何が言いてえ、と、困惑よりも不快感を表して眉根を詰める。

「取ったんだろ? 依頼。俺のいねえところでよ」

「ああ……」

そんなこともあったなあ、とようやくその事に思い当たる。
あの医者からの依頼は、結局どうしたんだったか。
途中で投げ出したのかもしれないし、あるいは失敗したのかもしれない。
いずれにせよ依頼を遂げることは出来なかった、それだけは確かだ。

「依頼を受けたんならちゃんと最期までこなせよ。
 そうすりゃ、少しは俺の自慢になる」

295原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:32 ID:LGCp2ato0
ふざけるな、と、蝉は思う。
依頼の完遂がもう出来ないのは分かりきっている。
どうしてかは知らないが、それだけは分かるのだ。
それに、いちいち岩西の言動は癇に障ってしょうがない。

「なんでてめえの為に俺が動かなきゃならねぇんだ、俺は人形じゃねえよ」

最期までなんて表現など、まるで自分が死ぬその時まで依頼をこなし続けろと強要しているようだ。

「馬鹿野郎、そうじゃねえ。俺が勝手に自慢に思うだけだ。
 そもそもおまえは、ずっと前から自由だろうが」

散々こき使ってきてそれかよと、蝉は憤慨。
だけど、顔に出すだけで何も言いはしなかった。
岩西に背を向け、入り口へ方向転換。

「見せてくれよ。俺がいなくてもお前が依頼を一人で受けて、最期までこなそうとするその姿をよ」

決めるのは蝉自身だ。
岩西は、ただそれだけを告げていた。
決断という行為は、人形には出来ないのだ。

「ち……」

一歩、歩みだす。
行き先は決まっている。面倒にも程があるが、しょうがない。

「なあ蝉」

岩西に言われたから向かうんじゃない。

「なんだ?」

これは、自分で決めたことなのだから。
 
 
「負けんなよ」
 
 
**********
 
 
「殺すな、殺すなよォ! 命はひとつしかねえんだぞ! 殺すなよ、もう戻ってこねえんだよ!
 やめろよォ……! 流兄ちゃんもそっちの人たちも、殺し合いなんてやめてくれよォ!
 死にたがるような真似なんて、しちゃあいけねえんだよ!
 殺すなよぉ、殺すな、殺すなぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!
 なんで誰かが死んじゃったら、その誰かも周りも悲しいだけなんだってわかんねぇんだよぉぉぉ!
 馬ッ鹿野郎ぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」


蒼月潮が、何かに向かって泣き喚いていた。

蝉が起き上がるその前から、ずっとずっと誰にも聞かれない訴えを繰り返し続けている。
正確には蝉一人がしっかり聞いていたのだけど。

296原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:54:52 ID:LGCp2ato0
こいつはよく分かっているな、と、蝉は素直に感心する。
ただ、殺しちゃいけないって所には仕事柄賛同は出来ないけど。
だけど、その意見の根っこにあるものには、大いに共感できるのだ。

ああ、そうだ。
命は誰にも一つしかなくて、失ったら二度と戻ってこない。
男だろうが女だろうが、年寄りだろうが子供だろうが。
例えば、そんな理由で特定のカテゴリの人間だけは殺さない、なんて言ったら差別になるんじゃないだろうか。
たった一つの命は誰とだって対等なのだ。平等ではないかもしれないが。
この程度の当たり前のことを今の時代、こんなご時勢、実感すらせず無意味に生きている連中が多すぎる。
流されながら考えることを放棄して、誰かの言うなりに動くだけで。

そんな連中は、ほんとうに生きているのだろうか。


頭の中がいやにすっきりしすぎていて、何か大切なものがどんどん削げ落ちているのだろう、と見当をつけた。
目に映るもの全てが静止画のようで現実味がなく、その分どんな微細な変化でもはっきりと捉えられる。

一時期話題になったスカイフィッシュというのがあったが、その正体はハエやカとかの羽虫の残像が写真に入り込んだだけらしい。
今の蝉には目に映る全てがそんな残像を残してゆっくりと動くように感じられる。

「うしお、自分を信じて対決していけ」

音もなく近寄って、それだけを告げた。
ぷっ、と口の中に溜まった血を吐き出せば、砕けた内臓の欠片が思ったより大量に零れてくる。

「……蝉、兄ちゃん? 生きて……」

その先の言葉を聞く事無く、蝉はその通り名に相応しい、飛翔する速度で暴風の中に突っ込んだ。
 
 
5秒。
 
 
秋葉流が目端にこちらを捉える。
躊躇わず鞭を振るい、五月雨のよりなお多く間断なく、何十何百もの鉄槌が降り注ぐ。

流しそうめんみてえだな、と、蝉は思った。


6秒。


その流しそうめんの、全てを掻い潜る。
流を挟んだ反対側では、信じられないといった面持ちでこちらを眺めている誰かの姿が見えた。
どうしてそんな顔をしているんだろうなあ、と蝉は疑問を持つ。
こんなものよりドッジボールを避ける方がよっぽど難しいのに。
少なくとも今の自分にはそう感じられる。

297原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:55:18 ID:LGCp2ato0
7秒。


どうやら向こうの連中よりもこちらに興味が湧いたらしい。
薄笑いを浮かべた秋葉流が真面目な表情となり、そして鬼の形相となって、3人へ回していた分まで流しそうめんをこちらに打ち付けてくる。
対岸は、完全に手透きになったようだ。

「ああ」

だが遅い。
すでに自分は、流の首根っこを掴める位置にいる。
 
 
8秒。
 

そして、急激に目の前に黒ペンキがぶち撒けられた。
体がいきなり、動かなくなった。
口の中にとうとう、鉄臭い味が広がった。
全くもって、唐突な限界だった。
 
「しじみに生まれ変わりてえな」

言い終えた直後。
ぱん、と、軽快な音とともに蝉の頭蓋、鼻から上が弾け飛んだ。

脳ミソとか、眼球の水晶体とか、真っ白な骨とか、リンパとか、脂肪とか、表皮とか、髪の毛とか、
たくさんのいろんなものが咲いた。

ぱくぱくと、しじみのように何度か口を開けては閉じ、蝉だったものは前のめりに倒れ込む。
それきり、ぴくりとも動かなかった。
 
 
 
――――9秒。
 
 
 
【蝉@魔王 JUVENILE REMIX 死亡】


 

「蝉兄ちゃぁぁああああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁん!!」


うしおの叫び……、いや、嘆きと時を同じくして。
禁鞭が異常な動きでぶるぶると震え、流の手からすっぽ抜けた。

298原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:55:46 ID:LGCp2ato0
**********


「……くぅ、」

顔を僅かに流はしかめ、そしてほぼ同時に察知する。

「好機――――!」

バックステップで禁鞭直撃のダメージを軽減した聞仲と、疲労しつつも一撃も食らってはいないエド。
まだ動ける二人による挟撃だ、両者とも既に攻撃態勢に入っている。

亮子から弾き飛ばされたパニッシャーを空中で強引に掴み取り、砲口を向けて引き鉄に手をかける聞仲。
そして大地より無数の岩の手を創造せしめ、こちらを叩き潰さんとするエドワード。

禁鞭を失った時点で両者の織り成す完璧なる連携、必中必滅の斉射を許せばいくら流でも対処は出来はしない。
たとえどちらを潰そうと最早、この場における命運は確定してしまうのだ。

「おおおぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉ……!」
「らぁぁあああぁぁぁああああああぁあぁぁ……!」

聞仲とエドの烈覇の雄叫びが重奏し、命運を確定させるその時を招き寄せる。
先んじるはエドワード・エルリック。
岩の手の群で包み込み逃げ場を完全に奪う初手。
直後の聞仲のパニッシャーで詰みだ。

両手を地面に捺して願えば、土の色の森林が屹立し――、
 
 
「土は黄、黄は中なり、節なり人なり。木剋土、木気を以って土を剋す。方角北西より東南へ」
 

――いくら努力しようとも、いくら偶然に恵まれようとも、なお天才による蹂躙という命運は、覆されることはない。
希望を込めた斉射が日の目を見る事すらなく、圧倒的な奸智と暴力に踏み躙られるという命運は。
 
 
「は?」 
 
エドワードの練成した岩の群が、流を華麗にスルーした。
傍らを通り過ぎては知らぬ所で存在を確定させ、多くは木々や草本に突き刺さって静止した。
そのうち一つが聞仲への直撃コースを取り、聞仲は慌てず回避するも銃口の狙いをブレさせる。


「光覇明宗単独滅殺封印」
 

そして、聞仲の耳に流の紡ぐ呪言が突き刺さった。


「弧月――――」


数え切れない三日月が、聞仲とエドワードにどす、どすと杭打っていく。

299原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:56:13 ID:LGCp2ato0
三日月にぶち当たるごとに、脳を揺さぶられる衝撃が体を走る。
そして三日月は接触した場所に固定され、動きを完全に束縛するのだ。

秋葉流の法力行使は陰陽五行思想に基づくもの。
故に五行に精通する流には、五行のいずれかの属性を強く備えた攻撃は通用しない。
全て逸らされ、撥ね返されるのみだ。
例えばつい今しがたなどは、土の気を持つエドワードの攻撃に対し、周りの木々そのものである木気にて軌道を変えたのだ。

そして、弧月。
それは打撃と封印拘束を周囲全体に対し行う、光覇明宗の法力僧でも天性の才あるものにしか使えぬ術。


禁鞭も策も言動も結界もなにもかも、なにもかもがこの為の布石。
拾った道具に頼ったとて吹く風が止むことなどない。
最初っから秋葉流にとって、己の力を出す事以外の目的にして手段などありはしない。
最初っから複数同時に攻め込んでくるそのタイミングに弧月を叩き込む、それだけが狙い。

聞仲がくの字に体を曲げて沈黙している。
エドが仰向けに空を向いて動かない。
亮子はただただ静かに横たわるのみ。
うしおは顔面を涙でぐちゃぐちゃにして、殺すなと叫ぶだけ。
咲夜は虫の息で、もう目覚めることがあるのかすら不明確。
蝉は何も語ることなく死んでいる。

立っているのは、流だけだ。
たったひとりで6人相手を、傷一つつくことなく圧倒した。


「言っただろ?」 

何度でも言おう。
秋葉流は、天才なのだ。
 
 
「俺にできねえことは、ねえのさ」


「流……兄ちゃぁぁん……」

うしおの声に頬を緩めながら、流は脳ミソがくっついたままの蝉の頭蓋の欠片に足を乗せ、ぐりぐりと踏み躙って嘲った。
そのままゆらりと、流は三日月に囚われ動けぬ聞仲の前に立つ。

「なあ」

呼びかけに聞仲は無言を返す。
それに全く気を害す事無く、独り言のような調子で淡々と静かに、どこか遠くを見ながら流が語る。

「さっき……言ったけどよ。お前にゃオレと同じ匂いがするんだわ。
 空っぽになって、何もできることがなくて、心の中に吹く風を止められねぇ……。
 有り余る力も存在意義も、全部が全部無駄に思えて道に迷ってやがる」

返す言葉も、何もなかった。
聞仲はこの時はじめて秋葉流という男を確認する。

300原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:56:53 ID:LGCp2ato0
自分達をうちのめした筈のその姿は、禍々しい薄笑いを浮かべているのにあまりにも哀しげに感じられた。
どこを見ているか、という事にようやく気付く。

あらぬ方向を向きながら、流の目だけはしっかと蒼月潮に向いていた。

「……お前、ホントはすげえ強ェんだろ? だったら、手ェ抜くなよ。
 オレをあっさりブチ殺すくらいしてみせろよ。惨めじゃねえのか!?
 こんな最ッ低の卑怯者にコテンパンにされてよォ!
 本当は……、自分の力を信じたくてしょうがねえんだろが。
 なりたかった理想の何かがあるんだろうがよ……!」

聞仲が思い浮かべるのは若い風。
理想と聞いて思い浮かべたのは、かつての殷と敵の長。

ああ、そうなのか。
聞仲は理解した。

この男は、その眩しさに耐え切れなかったのだ、と。
夢幻のかつての殷に、自分が歪んでしまったように。

「……あァ、残念だぜ。
 お前が本気で立ち向かってくれてたら、オレは……」

ふ、と息を吐き、そこで言葉を切ると続きを告げることはない。
そして、一拍。


「んじゃ、殺すわ」


まったく唐突に、流の拳が聞仲の顔面にめり込んだ。


「……!」

引き抜くと同時、ぶ、と聞仲が鼻血を噴き出す。

「ひゃ……、ひゃひゃひゃ、」

殴った。
殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。

肩を、顔を、腹を、足を、脚を、腕を、掌を、首を、肘を、胸を。
その剛力で、人体の考えうる全ての場所を殴り抜いた。

301原罪のレクイエム ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:57:18 ID:LGCp2ato0
殴るたびに聞仲の体が震え、弧月の拘束すら流自身の手でひしゃげさせられていく。


「ァアひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ひゃひゃ!
 ひゃぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!
 ひゃァはははははははははははははははははははははは、
 ははは は  はは    は は    はは は
    は  は  は はは    は  はは   
 はは  は     は     は   は
  は     は    は  は   は  は
 は  は は  は は    は   は   は
   は    は    は    は   は
 は    は       は はは      は
  は   は  はは は      はは  は
         は   は は        は
 は  は   は  は    は  は  は  
   は  は     は は   は  はは  
 ははは は は は は  は      は は 
 は   は      は はは はは   は は
   は  は   はは      は  は  は
 は  は   は   は   は  はは は は
   は  は      は   は  は  は 
 は     は   は  は  は     は 
 は   は   は   は は  は は    
   は  は   は はは   は   は  は
 は  は は  は   は  は   は  はは
   は    は    は  は は はは   
 は  は はは  は   は  は  は  はは
    は   は   は  は  はは は   
 は  はは  は は   は  は  はは はは」

哄笑が次第に狂笑へと変じ、は、の一音ごとに拳が突き刺さる。
拳の壁、突きのラッシュ。
誰かの奇妙な冒険でよくある光景が、再現されていた。

302追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:57:57 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
ジャック・クリスピン曰く。

やったら、逃げろ。
 
 
**********


「くそ。やられっぱなしで……たまるかっての」

痛む背中を抑えながら、高町亮子は様子を伺いつつ静かに起き上がる。
――酷い有様だ。
すえた血の鉄臭い臭いが鼻につく。
脳ミソが無造作に散乱している光景は、全く以って教育によくない。

「う……、見るんじゃ、」

なかった、という言葉を続けず、静かに飲み込んだ。
人が死んだ、その結果が目の前にあるのだ。
人を殺すというのはこういう事なのだ。
目を背けてはならない。
蓋をしてはならない。
それは、呪いに負けた自分が起こす光景でもあるのだから。

現状を確認する。
蒼月潮とエドは、それぞれ種類は違うものの結界とやらに捕縛され、動けない。
蝉も、見知らぬ女の子も死んでいる。少なくともそう見えており、全く動くことはない。
聞仲はサンドバックとしてご活躍中だ。

「……あたしだけ、か」

ごく、と唾を飲み込む。
絶望的な状況だ。自分ではここから逆転する目が思い浮かばない。

「このまま、順番に殺されるのを待つだけしかできない?」

……違う。

違う!

まだ、何か出来ることがあるはずだ。
まだ、繋げることが出来るはずだ。

どんな絶望を与えられても、何一つ持たずとも、たった一人暗闇の中で前を向く少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「は、はは……」

脚が、がくがくと震える。
今から自分がやろうとしていることは、ある意味酷い裏切りだ。
今この場にいる全員を見捨てる、という事でもあるのだから。

303追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:58:26 ID:LGCp2ato0
……だが。
それが出来るのは、自分しかいない。
ここで無闇に特攻して死ぬよりも、遥かに後に残せるものは大きいはずだ。
これから後、たとえどれ程、自責の念に駆られるとしても。

「……ッ。あ、ぁぁぁああああぁぁぁあぁぁあああ……!」

陸上部の脚を以って、駈けた。

走る、走る、走る。

そして掴み、今まで以上の速度でひたすらに加速を続けた。
その手に握り締めるのは、流の手から宙に舞った禁鞭。

「こんなモン、これ以上あいつの手に持たせとけないって……!」

後ろを振り向くことはしない。
今こうして、前を向いて走っている間ですら後悔が洪水となって押し寄せてくるのだ。
一度でも止まったら、多分もう戻らずにはいられない。

そんな風に他の人間を心配している余裕など、すぐに消え失せる。

「……な、」

がく、と、一気に体の力が抜けた。

「なん……、これ、ちょ、冗談……ッ!」

信じられなかった。
持っているだけで意識が遠くなる。
自分という存在そのものすべてが、この禁鞭とやらに吸い取られそうな気さえする。

こんなモノをあの男は九秒も振り回し、その上であれだけの立ち回りを見せたというのか?
聞仲の言が、ようやく真実味を帯びてくる。

「〜〜〜〜! ……負け、るかぁっ!」

だったら、だからこそ。
禁鞭を再度流の手に渡すことだけは避けなくてはならない。
今後どれだけの犠牲者がでるか、想像するだに恐ろしい。

トびそうになる意識を理性と根性でねじ伏せて、裂帛の気合で力を体の下部へ。
腰を捻る運動エネルギーを、大腿から膝、脛、アキレス腱、踝、踵、そして爪先へと浸透。

走るだけの機械となるために、全身全霊を費やす。
死んでもいい、できる限りあの男の目の届かぬ所まで、この兇器を持ち去るために。

だから、

「頑張るじゃねーか嬢ちゃん。このオレだって、持ってるだけでもちぃとばかりツレえんだぜ?」

すぐ背後からそんな軽薄な声が届いてきた時、高町亮子は彼女らしくなく泣きだしそうになってしまった。
感動したからでは、もちろんない。

304追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:58:45 ID:LGCp2ato0
**********


「高町亮子は正しい選択をした。
 私達を見捨てたのではなく、この島にいる他のすべての人間を守るためだったのは、充分に分かる。
 ……だが、だからこそ助かったのは私達の方だというのは、皮肉でしかない、な……」

よろりと膝を崩し、その場に座り込むは聞仲。
力が殆ど入らず、既に去っていった彼らを追うのは不可能だろう。
その全身に拳を浴びていない場所はなく、顔はアンパンマン状態だ。

秋葉流は、自分達に止めをさすよりも禁鞭を回収することを選択した。
ある意味当然だろう。
僅か9秒、されど9秒。
それだけの時間行使できるのなら、禁鞭以上に強力な武装はまず存在しまい。
少なくともこの島で有数の武器であるのは間違いないはずだ、手放す選択肢は存在しない。

とはいえ、禁鞭の行使ですらあの秋葉流にとっては数ある戦術の一つでしかないのだ。

全く以って――、腑抜けている。
自分はそんな事にすら気が回らなかったのかと自嘲して止まない。

「ぐ……、」

頬の肉を僅かに動かしただけで痛みが走った。
いくら仙人として最上級の頑丈さを誇るとはいえ、禁鞭の直撃に加えて拳の連打は流石に響く。

こうなったのは宝貝のみに意識を奪われ、流がそれ以外の術理に精通している可能性に思い当たらなかったからだ。

「随分と仙道である事に浸っていたようだな、私は」

かつて、殷の祖である朱氏とともに、そしてある時期より先は一人で積んだ研鑽と鍛錬の日々。
あの頃は自分は普通の人間であり、天然道士ですらなかった。

想いを侍らせ、苦笑する。

305追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:11 ID:LGCp2ato0
今の秋葉流を打倒するには、二段階、あるいはそれ以上のステップを経なければならなかったのだ。
まず第一段階として禁鞭を9秒耐えるか、あるいは流の手から弾き飛ばすか。
彼の成長次第では使用限界時間はより長くなる事だろう。

それを経て、はじめて流本来の戦闘スタイルと相対できるのだ。
おそらくは術と策を駆使したその上で、純粋な暴力を叩きつけるというスタイルと。
どれほど奥の手を残しているのか、推定する事は出来ない。

また、宝貝と術を同時に使用する可能性もある。
とはいえ流石に禁鞭の制御中はそれだけで手一杯だろう。
余程追い詰めない限りは使うまい。

いずれにせよ、しばし体を休めねば。
流の法力の影響が抜けるまでは、満足に戦う事は出来はしないのだから。
その一方で流が戻ってくる可能性を考えるとここに長くいる事も望ましくない。
とりあえずは移動をせねば、と、半壊した花狐貂を回収する。
そして周囲の惨憺たる有様に目を向け、生きているものには退避を促す事にした。

まずは近くにいるものからと、流の結界に囚われた少年を助け出す。
少年は泣き疲れ、それでも悔しそうに手を震わせている。

「ちくしょう、どうしてなんだよ、流兄ちゃん……」

次にエドワード、そして見知らぬ少女を助けようと体を翻した、その時。


「手前らッ! 俺の部下達に何しやがった――――」
 
 
闖入者が助けようとした二人の前で、凄まじい形相で睨みつけてくるのを確認。
 
拙いな、と、聞仲は直感。
本当に拙い事態になった、と。

306追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:33 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
まず、これ、いしき、きえる

くるし、めのまえ、まっしろ、こーすけ 
 
「……なあ、どうしてそんなにまでして頑張るよ?」
 
あきらめたくない、から
まけたく、ない、から

「負けたくねェなら、そんなモン持って走る必要はなかったろうが。
 あのでけえ十字架で後ろからオレを撃ちゃあ、勝てる可能性は0じゃなかったんだぜ?
 ま、その前にツブすけどなァ」

あたし、だれも、ころさない
のろいで、みんな、あたしら、さつじんきになる、おもってる、けど、
そいつらに、ちがう、みとめさせて、やる

おんなじなかまに、あたしのことを、ささえてくれる、やつ、いるんだ
あと、どんなぜつぼうでも、ひとりになっても、わらってみせるやつが、いるんだ
のろいにまけず、あたしだって、まっすぐにいきて、みせてやりたいから

だから、はしる

「誰かの為にどんな絶望でも諦めないってか。あいつに似てやがるな、そいつらもお前も」

まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない
まけない

「……嬢ちゃんはよくやったよ。もう楽になれや。安心しろ、痛くはしねぇよ」

いたいの、こわくない、こわいけど、こわくない
あきらめるのと、うしなうののが、もっとこわい

「そーか」

307追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 11:59:57 ID:LGCp2ato0
**********


グリードは、怒り心頭になりながら苦虫を噛み潰した顔をする。

「くそ……、逃げたか。畜生ッ」

額に目のある男と、槍を持った子供の二人組。
顔はしっかり記憶した。
だが、今はそれどころではない。ここを離れる訳にはいかない。
連中がこの事態を引き起こした可能性は非常に高いが、もっと優先しなければならない事がある。

「どうして、こうなりやがった……! ふざけるなッ、ふざけるなァッ!」

愛沢咲夜。エドワード・エルリック。
彼の部下が二人、意識を失って倒れ伏している。
この二人をどうにか生かさねばならない。
特に愛沢咲夜の容態は、ひどい。

片腕はもう完全に千切れている。
胸のナイフは背の側まで貫通しており、しかもまだ引き抜かれてすらいない。いや、抜くと余計に血が溢れてくるのか。
背骨が折れて胴が捻じ曲がり、腰から下の後ろ前が逆になっていた。
あちらこちらに色々なモノの破片が突き刺さり、激しい戦闘に巻き込まれた事を物語っている。

生きているのが不思議なくらいだ。
ついさっきまで、これ程に助かる可能性が絶望的と思わせる傷は負っていなかったのに。

だがそれでも、グリードは足掻く。諦めない。

「もう二度と、俺の部下は失わせはしねえよ……!」

グリードの脳裏に、前世――タブリスの街の合成獣たちが浮かび上がる。
かつて、部下だったものたち。
今は昔、この世にいないものたち。

もうあの時のように失う事は、御免なのだ。

何か、何かないかと辺りを見渡し、一つのアイデアが浮かぶ。
目線の先に止まるのはエドワード、そして自身の体を順繰りに。

錬金術。
それを用いた、治療の可能性。

ホムンクルスに拉致されるまで、ドクター・マルコーは賢者の石を医学に役立てていたという。
ならば自分の中の賢者の石も、どうにかして治療に使えるのではないか。
エドワードならば可能性はある。

医学は専門ではないとはいえ、エドワードには人体練成の経験があり、役に立たないはずはない。
駄目で元々、賭ける価値はあるはずだ。

ならば一刻も早く、咲夜が死神に連れて行かれる前にエドワードを覚醒させねば。
そう思い立った所で呻き声が耳に入る。

308追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:00:36 ID:LGCp2ato0
「う……」

「咲夜!? おい動くな、そこでじっとしてやがれ!」

すぐに近寄り、体を抑えて安定させる。
顔を覗き込むと、死人の顔のままゆっくりと、咲夜が目を開けるところだった。

「ぅ、ぃーぉ……?」

ぱくぱくと金魚の様に開く口からは、聞き取れぬほどにあまりにも幽かで力のない確認の声。
グリード? と、そう動かしたように見えた。

「ああ、俺はグリード様だぜ。すまねぇ、遅れ、」
 
 
さくり。
 
 
「た」

つい今しがたまで咲夜の胸に突き刺さっていたナイフの柄が、今度はグリードの脳天から生えていた。



**********
 
 
「      」
 
 
わずか数文字の言葉を、秋葉流は静かに呟いた。


――いつしか、川縁にたどり着いていた。
戦闘をこなしてここまで走り続けてきたことで、流石の彼も息が上がってきていた。

目の前の川には、学生服を着た茶髪の少女が背を向けてぷかぷかと浮かんでいる。
  
しばらく見ている間に学生服はどんどん流され、視界から遠ざかっていく。
と、不意にその影が沈み込み、ぽちゃんと水の中へと消えていった。

後に残るのは、男の影が一つのみ。
こぽこぽ、ちょろちょろと、水音だけが静かに染み渡る。
  

 
明けの光が射してきて、眩しいくらいに水面で反射した。
本当に綺麗な光景だった。

309追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:00:56 ID:LGCp2ato0
**********
 
 
どうして――、と薄れゆく意識の中で自問するも、グリードに答えが出る事はない。
どうして、の答えたる過程ではなく、何故、の答えたる原因が提示されるだけだからだ。

「は、はは、は、ウチ……を、裏切った、罰やぁ……。あは、あは。
 タダじゃ……、死なんよぉ。死ねんよぉ。はははは、は。
 あは、は、ウチな、何一つ、残さないなんて、耐えられへん。
 だから、道連れに、したる。は、あは、あはは、あはははははは。
 悔しいやろ、悔しい……やろ、こんな、騙したつもりの、小娘に、タマぁ取られる、なんてぇ、な」

ただ、これだけは分かる。
またも部下を守りきれず、一人にしてこんな目に遭わせてしまった自分が招いた結果がこれなのだ、と。

「あっはははははははははははははは、あはははははははははははははははは!」

咲夜の虚ろな笑い声が、とても寒々しくやるせなく感じられた。

どうにかナイフを引き抜いたけれども、体の制御が利かない。
制限された状況下ではホムンクルスの回復力でも致命傷には追いつかない。
思考能力が低下して、もう、まともにモノを考える事が出来なくなってきている。

……しゃあねえか。惜しいけど、返すぜ。
感謝しろよ? この強欲のグリード様が自分のモノを手放すなんて、滅多にねえ事なんだからよ。

「なあ、咲夜。すまなかったな、守れねぇでよ。
 ……その分は黄泉路で清算してやる。だから、今度こそ俺について来い。
 あっちにいった他の部下連中ともども、閻魔相手に地獄の国盗りしよう、じゃ、ねぇ、か……」


ぷつ、と、スイッチが切れた。
まっくらになる。

父親に還る事無く、本当の意味での死を迎えたのはこれが最初で最後だった。
 
 
 
【グリード@鋼の錬金術師 死亡】

310追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:01:21 ID:LGCp2ato0
**********


ぎゅう、と抱きしめられ、守れなくてすまないと耳元でささやかれた。

「ぁ、あ、あぁ……」

それだけで、咲夜は裏切られてなどいなかった事を悟った。悟ってしまった。
だから、自分が何をしでかしてしまったのかは、聡明な咲夜には明々白々だ。
 
 
「あぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁ
 ぁああああぁぁあああぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ
 あああああああぁぁぁああぁああぁぁぁあああぁぁあああぁああぁあ
 ああぁぁぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁぁあああああぁぁ
 ぁぁぁああぁぁああぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁああぁ
 ああああぁぁぁああぁぁぁぁああああぁぁああぁぁああああぁぁっ!」
 
 
咲夜に最後に残った感情は、この上ない自分への嫌悪と絶望の2つ。

そして、しばらく。
ぷつりとある一時を以って絶叫が途絶える。

後はただ、静かな森が広がるばかり。
グリードの抜け殻と少女の残骸が、転がっているだけだった。
 
 
 
【愛沢咲夜@ハヤテのごとく! 死亡】
 
 
 
**********
 
 
今もこの手に、人を殺した感触が残っている。


「やっちまった……なァ」

朝の陽光が木漏れ日として射す、木の葉の擦れる音と水音以外は何もない森の傍。
枝や葉っぱ、何かの木の実といった雑多なものが時折渓流を流れ落ちていくその様を、秋葉流は畔の岩に座り込んでただ眺めている。

思い描くのは、つい今しがたまで追いかけていた少女のその表情。
それがどうにも、自分を慕う蒼月潮に重なってしょうがなかった。

「男って、一生のうちに何人の女の子の涙をとめてやれるんだろ、か……」

盾にしてしまった少女と、追ってきた少女の二人を脳に留め、刻む。
身勝手な自分が巻き込み、死に臨ませた事を何があろうと忘れないように。

311追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:01:59 ID:LGCp2ato0
「おめえならきっと、望んだ数だけで……」

くく、とここではないどこか遠くを見て――寂しげな笑いを洩らす。

「オレならきっと、誰一人だって無理なんだろうさ」


そうだ、自分は蒼月潮ではなくて、蒼月潮になる事も出来ない。
あれだけ痛めつけても、あれだけ裏切っても。
それでもなお、

「どうして……、まだ、あんな目でオレを見れるんだよ」

最後に見たうしおの表情は、自分を信じたくても信じきれない、というもの。
馬鹿だなァ、と思う。
それはつまり、まだ、『流兄ちゃん』を諦めていない、のだろうから。

「……もう少しだけ、夢を見させてやってもよかったかね」

蝉という男に邪魔されなければ、もう少しだけ優しい流兄ちゃんの演技をしてやっても良かった。
そうすればその分だけ、うしおを絶望させられたかもしれない。

もっと痛めつけるには、どうすればいいだろう?
ふと、一つの妙案を思いつく。

いくら自分でも流石に少し、疲れた。
自分に与えられたもう一つの支給品で多少の回復を図ったとはいえ、焼け石に水だ。
だから、作戦を少しばかり切り替える。

しばらくは戦闘を温存して、うしおの悪評を広めるのはどうだろうか?
蒼月潮とその仲間はペテン師だと、殺し合いに乗っていない振りをして皆殺しを企む凶悪な連中だと。
どこか人の良さそうなグループを取り込んでそんな噂を流してもらうのも悪くない。
うしおはこれから自分が守るべき善良な人々から拒絶され、疑われ、怨まれるのだ。


そうしてうしおを追い詰める算段をする一方で、心のどこかが悲鳴を挙げている。

……演技だったのだろうか?
中村麻子が死んだ事への気遣いも、ニセモノだったのか?

流は、自分の心を確かめる事をそれ以上やめた。

もしかしたらほんとうに、うしおの涙を受け止めてやるつもりだったのかもしれない。
たとえそのあとに裏切る事を決めてても、せめて泣き止むその時までは。

だけどそれを認める訳にはいかない。
それは自分が今までしてきた事すべて、ひいては自分が殺した人間の生き様までも否定する事なのだから。

はじめて殺した相手、蝉という男は何と言っていたか。

「自分を信じて、対決しろ……、か」

312追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:18 ID:LGCp2ato0
いいなあ、と、その言葉を羨んだ。
そんな真っ直ぐな生き方をしてみたかったなあ、と。

流は願う。

自分を信じて対決する。
こんな自分でもそんなことの出来る相手が、現れてくれないかと。

つい今しがた邂逅した聞仲という男は、どこか自分と同じ匂いがした。
もしかしたらどこか切望していた相手かもしれないと、あの男が本気を出す事を心から望んだ。
けれど今のあの男はあまりにも腑抜けすぎていて、自分の期待には適わなかった。

結局互いに本気でぶつかり合える相手として思い浮かぶのは、たった一人、いや、一匹のバケモノだ。

「とらぁ……、今、どこで何してやがる」

風は止まない。
風は吹き抜けていく。

「てめえをぶち殺さなきゃ、うしおだってオレを見限ってくれねぇだろうがよ……」


木の葉を散らせて川面に細波をよせながら、風は、どこか遠くへと。


【E-04/森に面した川辺/1日目 早朝・放送直前】

【秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(中)、法力消費(中)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、仙桃エキス(10/12)@封神演義
[思考]
基本:満足する戦いのできる相手と殺し合う。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 0:興奮と虚しさが同居。
 1:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 2:厄介そうでないお人好しには、うしおとその仲間の悪評を流して戦わない。
 3:高坂王子、リヴィオを警戒。
 4:聞仲に強い共感。
 5:体力が回復するまではどこかの集団に紛れ込むのもいいかもしれない。
 6:とらと戦いたい。
[備考]
 ※参戦時期は原作29巻、とらと再戦する直前です。
 ※蒼月潮以外の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。

313追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:38 ID:LGCp2ato0
【仙桃エキス@封神演義】
体力回復効果のある錠剤。一日3回2錠ずつ服用する事で、体力を約5割回復できる。
つまり1回服用するごとに回復するのは2割弱程度。
連続して服用しても効果は出ず、数時間置きに摂取するのがよい。
また、休息と併用すれば効果はより高まる。
注意点は怪我の治療はできないこと。
あくまで効果は体力や魔力、霊力、法力といったエネルギーの補給のみ。


**********


ふらふらとした力ない足取り。
座り込み眠る聞仲を背後に、蒼月潮は一人どこかへ向かおうとしていた。
ぎゅう、と槍を握り締め、歯を噛み締めて食い縛る。


「……どこへ行く、少年」

眠った、と思ったのは錯覚だったのだろうか。
あるいは眠っていてもほんの僅かな違和感で覚醒できるのかもしれない。

「止めなきゃ、流兄ちゃんを。……おじさん、引き止めないでくれよ」

「今更行っても、無駄だ。私達の現状の戦力で彼に向かっても皆殺しにされるだけだ。
 近づくのは只でさえ愚策なのだし、向かうにしても体勢を整えてから行くべきだろう」

そうだ。
少なくとも、うしお一人で立ち向かって勝てる相手ではない。
だからこそ逃走の一手を打ったのだ。
 
「それじゃあ、あそこにいた人たちが助からねぇじゃんか!
 どうしてそう簡単に諦めちまうんだよ! もう、人が死ぬのは嫌なんだよぅ……」

「ならば尚更だ。向かえば少年自身が死ぬ。それこそ命の無駄遣いだぞ」

諦めた訳ではない。生かせる命を生かしたら、この少年しか残らなかっただけの話だ。
殷の大師として様々な局面で、たくさんの命を切り捨てる選択を聞仲は何度も行ってきた。
そしてまた、自分の手で数々の命を殺めてきた。
だからこそうしおを眩しく思う。
青く、真っ直ぐだな、と。

この少年は生きねばならないと、そう感じさせられる。

なのに、うしおはこう告げるのだ。

「蝉兄ちゃんが、最後に言ったんだ。自分を信じて対決していけ……って」

遺言だから、一人煉獄に身を投げ出すと。

314追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:02:57 ID:LGCp2ato0
「だったら、止めるしかないだろ!?
 ああそうだよ、オレはちっぽけで、獣の槍やとらや、みんなの力をオレ一人の力って思い込んでたよ!
 ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお、ちくしょお!
 麻子も、蝉兄ちゃんも、あの女の子も、みんな助けられなかったんだよ!
 だったら、だけど、このちっぽけな力だけでできることをするしかねぇじゃねえか!
 何もできてねえ自分が、許せねえんだよォ……ッ!」

彼の責任などどこにもないのに、ただひたすらにうしおは自責している。
小さな体が闇に押し潰れそうで、なのにそれでも立って歩くうしおの背中に、思わず聞仲は声を大きくしていた。

「あの青年の言っていたのはそういう事ではないだろう!」

「でも、我慢できねぇんだよ!
 誰かが殺されるのも、流兄ちゃんが誰かを殺すのも!
 オレが死ぬって分かってても、救えるんだったら惜しくねえよ!」

――そうか、と納得する。
あの流という男が歪んだ理由を、今自分は目にしているのだ。
こんな少年を自分と見比べてしまったら。
こんな風に生きてみたいと思ってしまったら。
そして、そう生きるのにあまりに自分は道を進みすぎてしまっていた事に気付いたなら。

似ている。
あの男は、自分とよく似ている。

これまでの生き方を全て否定されているように感じられて、自分が自分である事に固執して。
だから狂ってしまったのだ。
自分のアイデンティティたる殷が滅びに向かうが故に、新しい風を否定した自分と同じ様に。

ああ、だからこそ。
理解できるからこそ。

「そのやり方では、誰一人救えない!」

「だったらどうしろって言うんだよぉぉぉぉっ!」

今もまだ信じたがっているからこそ、この少年にはあの男を止める事はきっとできないだろうから。


「――私が、力を貸す。少年」

自分こそが秋葉流を止めねばなるまい。あの青年はかつての自分なのだから。
そしてこの鮮烈な息吹を守りたいと、そう思う。


「だ、駄目だよ。おじさんまでオレに巻き込めねえよ。
 オレ一人だから、構わねぇんだよォ……」

誰よりも優しく、意地っ張りな少年を。

「少年。あの様な理不尽を許せないのが、少年だけだと思うのか?」

――この少年の行き先を、見てみたいのだ。

315追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:17 ID:LGCp2ato0
「え……?」

「お前には人を惹きつける才がある。
 先ほど皆の力は自分一人の力ではないと言ったな?
 なるほど、確かにそうだろう。
 ……だが」

彼ならば、何かを成し遂げられそうな気がしている。
かつての自分は認めたがらなかった、太公望に感じたものと同じ強さだ。

「皆の力を少年のところへ集わせることはできるだろう」

殷を育て上げてきたのは何のためだったか。
自分が失ってしまった何かを感じ、それでもまだできる事があるのではないか、そう思わされた。

「少年の力が小さなものであっても、正しき矛先を信じ抜くならば、それは叶う。
 ……あの青年も、それを言いたかったのではないか?
 それが、少年の力の用い方ではないか?」

蒼月潮を見ていて感じるのは、自分もまた何かを為したいという願いだ。

――何が変わったわけでもない。
殷は確かに滅びに向かい、黄飛虎ももういない。
かつての夢幻は取り戻せず、それでいてまだ諦めたくないのに結末に理解も納得もしてしまっている。
自分自身が何をすればいいのか、何故ここにいるのかも分からないままだ。

だが、ただ迷って下を向いているのだけは、もう嫌だった。
前を向いてみたいと、秋葉流と、蒼月潮の二人にそう思わされた。

自分を信じて、対決する。

覚悟の行き場を失った自分でも、それができるだろうか。


「……おじさん」

おずおずと、うしおが歩み寄ってくる。

「……できるかな、オレに」

「自分を信じて、対決するのだろう?」

不安げな声にそう告げれば、うしおははっとして顔を上げる。
それからゴツンと額を叩き、彼は思い切り雄叫びを上げた。

「お、おおぉぉおおぉ、おおおおおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおお……!」

316追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:36 ID:LGCp2ato0
――それを見て頷き、うしおに近づく聞仲の足に、何かがこつんと当たる。
うしおが持ってきていた蝉のデイパックだ、口が開いて中身が零れ出ている。

何があるのか、と、何気なしに下を見てみて、驚愕。

「――禁鞭?」

馬鹿な、と続けてそれを手にとってみる。流が持っていた筈の物が何故ここにあるのか、と。

そしてすぐに納得した。
模造品なのだ、本物に比べて負担はさほどなく、また出力もだいぶ低そうである。
制限のない禁鞭本来の威力に比べれば、1/10くらいか。
それでも充分すぎる破壊力はあり、制限下のこの状況では本物との差は縮まっているだろう。

巡り会わせなのかどうなのか。
ただ、ニセモノであれ禁鞭が今ここにある事実を、何も言わず聞仲は受け止めた。
自分の力は、今確かにここにある。
自分を信じて対決しろと告げた男から、確かに受け取っている。

「おおおぉおぉおおおおおおぉおおおおおおぉおおおおぉおおおおぉおおおぉおぉおぉおぉ……!」


――二つの咆哮が、唱和した。

二人は思う。
もう立ち止まっているのは終わりにしよう、と。
何が出来るかは分からない。だが、何かを成し遂げていこう、と。
 
 
 
長い夜は、明けたのだ。
 
 
 
【C-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、精神的疲労(特大)
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式x2 不明支給品×1

317追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:03:56 ID:LGCp2ato0
[思考]
基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
1:病院に向かい、ブラックジャックと会う。
2:病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
3:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
[備考]
※ 参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後〜32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
  とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※ ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
※ 悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。
※ 黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。


【聞仲@封神演義】
[状態]:疲労(中)、右肋骨2本骨折、全身に打撲痕、不動金剛力で力がしばらく入らない
[服装]:
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:うしおを手助けしていく
1:流を自分が倒す。
2:エドの術に興味。
3:何をしたいか目標はないが、何かを成せるようになりたい。
4:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。


【ニセ禁鞭@封神演義】
陽ゼンに指南を与える際、元始天尊が太乙真人に作らせた禁鞭のコピー。
再現度は高く、威力が1/10程度な以外はほとんど本物と見分けがつかない。
その威力にしても充分実用に耐えるので、なかなかに強力な宝貝だろう。

318追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:04:17 ID:LGCp2ato0
**********


朝の日差しに、森の中も赤に染まる。
きれいな朝焼けが二つの影を浮かび上がらせた。
周りの影は木が風にそよぐ度に遷ろうのに、その二つだけは髪の毛以外揺れ動く事はない。

片方は立ったまま、沈黙を続けるもう片方の傍らで立ち尽くす。

「エド。グリードが、死んダ」

答えが返ることはない。
エドはいまだ、気を失ったままだ。

「……不思議な奴、だったナ。もう話す事もないと思うと寂しくなル」

どうして最後に己が消滅してまで賢者の石の力を搾り取ったのか。
その理由は、今自分がここに生きているという事実が物語っている。

「目覚めたら話を聞かせてくレ。
 ここで何があったのか、アイツの部下はどうして死んだのカ。
 俺も俺なりにアイツに借りがあっタ。仇くらいは、とってやるつもりダ」

赤の光が次第に真昼の白へと移り変わっていく。
その美しさをぶち壊すかのように、放送が鳴り響き始めた。

「なあエド……、これから、どうすル?」
 
 
眠るエドワード・エルリックは答えない。
 
 
 
【D-03/森/1日目 早朝・放送直前】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
 [状態]:健康
 [服装]:
 [装備]:降魔杵@封神演義、バロンのナイフ@うえきの法則
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の仲間を守る為、この殺し合いを潰す。
  1:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
  2:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
  3:病院に向かいたい。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※異世界の存在を認識しました。
  ※グリードの意識が消滅しました。ホムンクルスとしての能力もなくなっています。
  ※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません

319追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:04:44 ID:LGCp2ato0
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ、気絶
[服装]:
[装備]:機械鎧
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:この殺し合いを止める。誰も殺させはしない
1:…………。
2:首輪を外すためにも工具が欲しい
3:白コートの男(=レガート)はなんとかしないと……。
4:秋葉流もヤバい。どいつもこいつもバケモンばかりかよ。
5:亮子と聞仲は大丈夫だろうか。
[備考]
※遅くとも第67話以降からの参戦です
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。


※リンたちのすぐ近くに、パニッシャー(機関銃 100% ロケットランチャー 1/1)(外装剥離) @トライガン・マキシマムと
 亮子のデイパック(支給品一式、拡声器、各種医療品 機関銃弾倉×2 ロケットランチャー予備弾×1)が落ちています。
 
 
**********
 
 
ざぁぁぁああぁぁぁ、と、辰砂を転がすような水の音が心地よい。

ここはどこだろうと疑問に思うも、目を開けるのが億劫だ。
今はただ、この気持ちよさにまどろんでいたい。

そうしていると、すぐにまた眠気が訪れた。
意識が流されるままに任せて再度の眠りに身を浸す。

夢の世界への切符を買う直前、ひとつだけ気がかりな事を思い出した。
 
 
どうしてあの男は自分に「生き延びろよ」などと言ったのか、と。
殺す素振りも見せず、ただ武器を取り返しただけで川に放り込んだのだろうかと。
 
 
 
【B-04/河口岸/1日目 早朝・放送直前】

320追憶のノクターン ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:05:05 ID:LGCp2ato0
【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲、背中に打ち身、ずぶ濡れ、気絶
[服装]:月臣学園女子制服(ずぶ濡れ)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:とにかく仲間を集める。
2:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
3:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
4:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
5:そういや、傷が治ってる……?
6:勝手に身体が動いた?
7:エドの力に興味。
8:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
9:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。

321 ◆JvezCBil8U:2009/07/04(土) 12:07:38 ID:LGCp2ato0
以上、投下終了です。
序盤にしては長文すぎだったかも、後悔はしてないけど。

322名無しさん:2009/07/04(土) 20:35:44 ID:g/RVFTjo0
俺もさるさんだ
誰か投下お願い
感想は本スレに書ける時に書きます

323第一回放送 土屋キリエの憂鬱 ◆JvezCBil8U:2009/07/25(土) 21:12:38 ID:fualpYKc0
朝の日差しは眩しく、レンブラント光が目を射抜く。
釣りやハイキングにもってこいのいい天気だ、今日は洗濯物がさぞやよく乾くだろう。

然してさわやかな朝を台無しにするかのような、重苦しい雰囲気の女の声が響き渡った。
マイク特有の雑音とともに、放送は皆に等しく現実を突きつける。

――正確には放送に入る際にリストの"孤独の中の神の祝福"という曲が前置きとして流れたのだが、人の記憶とは後から耳にしたものの方が強く残るものだ。
お茶にごしにすらなりはすまい。

『……第一回の放送を始めるわ。
 今回の死亡者は、……以下の通り。

 

 次に、進入禁止エリアを指定……ね。
 

 以上よ』

必要事項以上のことを口にもせず、放送席にいた女性はそこで沈黙した。

――だが、まだ放送のスイッチ入れられたまま。
すう、はあ、と、何度も呼吸を繰り返す音だけが増幅され、皆に届けられる。

沈黙は続く。
一分だろうか、二分だろうか。
それとも、もっとずっと多くの時間だろうか。

いずれにせよ、10分はかかっていないだろう。
そして唐突に、怒鳴りつけるような声が島中へ轟いていく。


『……ッ、こんな事言っても、連中に組してる私の言うことは信じられないかもしれない。
 でも、聞きなさい! そして生き延びるために考えなさい!
 死ぬな! みんな、生き残れ!
 そして真実を告げるわよ、この殺し合いは、このゲームは――、」


たぁん、という軽いくせにやけによく響く音が、マイクを通じて届く。


そして、それきりだった。
ぶつり、という耳障りなノイズを残して、急に放送が途切れて終わる。


後には木の葉を散らして風が吹き渡るばかり。

324第一回放送 土屋キリエの憂鬱 ◆JvezCBil8U:2009/07/25(土) 21:13:06 ID:fualpYKc0
********************



銀の髪を持つ少年が、放送室に立っていた。
肩を壁に預けて、放送席に座った女性に向かい静かに言葉を紡いでいる。

女性は少年の方すら向かず、静寂を守っていた。


「……どうしてこんなつまらない反逆を試みたのか、俺は知らないし、知るつもりもない。
 ただ、これだけは言える。
 もはや、動き出したドミノの牌を止める術はない。
 結局、俺たちは二重螺旋の運命に縛られた駒でしかなく――、お前の行動も、全て予定調和だったようだ」

「語るのー、詩人じゃのー」

背後からの声に少年が振り向くと、年端も行かない童女がニヤニヤとトウモロコシを加えてコチラを眺めていた。

「どういう心変わりなんじゃろうな、お前は連中の中ではこういう立場とは一番縁遠いと思っとったのにの。
 今更我らに身を委ねた、というのもしっくりこないぞ」

「…………」

「ま、別にええの。お前さんが語った通り、新しい“神”にとっちゃ全て予定通りなんじゃろうしな。
 我々がルールを決め、あの道化師どもが遊戯盤を用意し、そしてお前たちは――、」

「ムルムル」

分かっているとばかりにムルムルと呼ばれた童女を睨みつけ、少年、アイズ・ラザフォードは踵を返した。
ちらりと背後を見れば、そこには彼が兄と呼んだ少年、死んだはずの少年がモニターに映し出されている。

「……運命はもはや、生と死すら弄ぶのか」

言葉には何の感情もこめられていなくて、だからこそアイズがどんな気持ちを抱いているのかはあまりに分厚いカーテンの向こう側に隠されている。

「お前が生きてここにいるのは――、」

その呟きと同時に、放送席に座っていた女性がずるりと崩れ落ちる。
彼女の頭蓋の真ん中には、ちょうど真ん丸な穴が前から後ろまで貫通していた。

アイズは手に持った拳銃をしまいながら、言いかけていた言葉を飲み込み別の台詞を形作る。

「さようならだ、ツチヤキリエ」


【土屋キリエ@スパイラル〜推理の絆〜 死亡】

325 ◆UjRqenNurc:2009/07/26(日) 13:48:20 ID:koPsQxks0
さるさんなのでとりあえずこちらに

【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:左肋骨三本骨折(治癒中・完治まで約2時間)
[装備]:エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
 4:ロストテクノロジーに興味
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。


【F-8北西/森/1日目 黎明】

【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記 不明支給品×1 (確認済み)
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
 1:ゴルゴ13と情報交換する。特に錬金術について聞き出したい。
 2:秋瀬或と情報交換する。 天野雪輝、我妻由乃の情報と錬金術について聞き出したい。
 3:神社を目指す。そこで主催に関する情報と脱出を目指す人間を探す。
 4:ユノから連絡があれば天野雪輝と接触し、危険人物でなければ日記を渡して協力する。
 5:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 6:殺し合いに乗っていない仲間を集める
 7:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
 8:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
 ※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
 ※我妻由乃の声と名前を認識しました。警戒しています
 ※無差別日記の効力を知りました。


【天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真@未来日記】
天野雪輝と我妻由乃の結婚式の予行演習の写真
ウエディングドレス姿の由乃とモーニングコートの雪輝が写っている

【携帯電話@現実】
警察官の私物だろうか。結構新型。
島内の主な施設の電話番号と、ブログのアドレスが登録済み。


【探偵日記@ブログ】
パスワードを入力することで更新出来るブログ
コメントは管理者の認可がなければ公開されない
自分の名前はまだ明かしておらず、とある参加者とだけ書かれているが、関係者にはわかるだろうとも書かれている。
今のところ、偽杜綱についての情報がうpされている。

326 ◆UjRqenNurc:2009/07/26(日) 13:49:11 ID:koPsQxks0
以上です。
ご意見、ご感想、ご指摘などありましたらよろしくお願いします。



探偵日記の内容はちゃんと文章にして書いておいたほうがいいですかねぇ?

327 ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:17:46 ID:pHhzymDI0
さるさん食らったので続きをこちらに

328Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:18:44 ID:pHhzymDI0
***************

生い茂る木々にバラバラに切り裂かれた夜明けの光を受けながら、体を引きずって歩く異形の影が一つ。

「あの、クソガキィ……」

影――紅煉は怒りと憎悪に満ちた怨嗟の言葉を吐く。
ルフィの最後の一撃と爆発によって死にはしなかったものの、被った損害は甚大だった。
体表の大部分が炭化し、右足は半分千切れかけている。霊刀も二本は半ばから折れ、残った一本もヒビが入っている。
おまけに左腕は装備していた宝貝、番天印ごと消し飛んでいた。
もはやこれ以上の戦闘は不可能。それは紅煉にも解っている。
だが、だからといって怒りが収まるわけではない。

――クソがアァ。
まだだ。まだ殺し足りねェ。
ここは退くが……待ってやがれ人間ども。
このオレを本気にさせてただで済むと思うなよ。
殺して殺して殺して殺し――。


「十五雷正法、『四爆』」


突如、紅煉の左脚が付け根から吹き飛んだ。
苦悶の声と共に地に転がる紅煉。その顔は驚愕の色に染まっている。
完璧な不意打ち。
いつの間にか黒尽くめの死神が朝日を背負って紅煉の背後に立っていた。

「て、てめえは……」
「ふ、ふ」

死神――ひょうは底冷えのする笑みを浮かべながら紅煉に一歩、また一歩と近付く。

「ふ、ふふ、はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははは。
 何があったのかは知らないがいい格好じゃあないか。どうした。紅煉。笑って見せろよォ」
「邪魔だアァァ!!」

叫ぶと同時に紅煉は雷を放つ。しかし、

「おまえの自慢の雷もその程度か。力が尽きかけているのは演技じゃなさそうだな」

左手で構えた一枚の符によってあっさりと無効化される。
ひょうは流れるような動作で更に懐から符を取り出し、今度は右脚を膝から吹き飛ばす。
愕然とする紅煉。

「……クソォ。てめえなんぞに、この紅煉がァ」

そんな紅煉を冷然と見下ろしながら更なる符を懐から取り出す。

329Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:20:02 ID:pHhzymDI0
「ダルマにしてやるよ、紅煉」

四肢のうち残った一つ、右腕に狙いを定めたそのとき、

「ちょっと待ってよ。やり過ぎだって!」

たまらずパックがひょうのデイパックから飛び出し、ひょうと紅煉の間に割って入った。
パックにしてみれば紅煉は単なる一参加者に過ぎない。それも人間よりも同族に近いと感じている。
ひょうが紅煉にただならぬ感情を抱いていることは察しているが、だからといって黙っていられるわけはない。

「どけ、妖。さもなくばお前も滅する」

抑えた、それでいて強烈な殺気に、パックがじり、と後ずさる。
しかしパックも伊達にガッツにくっついていたわけではない。負けじと言い返す。

「こいつが何やったのかは知らないけどさ。こんな拷問みたいなことは良くないって」

符を構えながら無言で一歩詰め寄るひょう。その表情は帽子と逆光で読めない。

「だ、だからさ、もう少しやり方ってもんが……」

言葉に詰まるパック。
僅かな沈黙。
何か思うところがあったのか、ひょうは構えた符を懐に収めた。
パックがほっとしたその瞬間、

「馬鹿がァァァ!!!!」

いきなり、紅煉は口から強力な炎を吐き出した。
紅煉に残された力を全て振り絞った炎。この至近距離で不意打ちでは回避する方法も防御する方法も無い。
あっという間にひょうとパックは炎に包まれた。

「げはははははははははははははははははは――」

勝利を確信した紅煉の高笑いが響き渡る。だが、

「――――は?」

ひょうとパックは変わらずそこにいた。
ひょうは驚愕で声も出ないパックをデイパックに放り込みながら淡々と告げる。

「キサマのやりそうなことくらい見当はつくさ。
 既に地面に結界が張ってあったことにすら気付かなかったのか? 滑稽だなァ。
 ――ああ、そうだ。その表情を見たかった。
 数々の絶望を与えてきたお前が絶望する、そのカオをなァ」

にィィ、と口の端を大きく歪めるひょう。
ここに至り、捕食者と被捕食者の関係は完全に逆転した。
憎悪と歓喜が程よくブレンドされたひょうの瞳が昏く輝く。

「ク、クソ。おい黒炎。来い! 何してやがる。オレを助けやがれ! 早くしろクソがァ!!」

そう、黒炎はもう一体存在する。うまくいけば黒炎を囮にして逃げおおせるかもしれない。
藁にもすがる思いで叫ぶ紅煉。

330Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:20:43 ID:pHhzymDI0

「黒炎? ああ、それは『こいつ』のことか?」

ひょうはデイパックから巨大な十字架を取り出し、紅煉の目の前に落とす。
それの意味するところを理解し、紅煉は絶句した。

「あ……グ、ク、クソ、クソォ……」
「はは。あんな木偶に頼るとは、本当に万策尽きたようだな。
 さて……もういいだろう。絶望に死ねよ、紅煉」

凍りついた死刑宣告。

次の瞬間、霊力を練り込んだありったけの符が紅煉の体中に突き刺さった。
ひょうの瞳はもはや現を映していない。

「おい、待てよォ。分かった。分かったって。何でもするからよォ」

――天地より万物に至るまで気をまちて以て生ぜざる者無き也。

「悪かった。もう人は喰わねぇよ。心を入れ替えるって。
 なァ、助けてくれよ。お前人間だろ? な、なァ」

――邪怪禁呪悪業を成す精魅。

「や、やめろ。た、頼む。おい。お、おいって!」

――天地万物の理をもちて微塵と成す。

「ちくしょオォォォ!!!! 死にたくねェェェ!!!!!!」












――禁。













【紅煉@うしおととら 死亡】

331Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:21:58 ID:pHhzymDI0
【E-6/工場/1日目 早朝】

【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、右頬に痣、頭に軽い裂傷
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのコート@ブラックジャック、ブラックジャックのメス(10/20)@ブラックジャック、ルフィの麦わら帽子@ONE PIECE
[道具]:支給品一式×2、工具一式、金属クズ、ひしゃげたパニッシャー(機関銃:80% ロケットランチャー0/1)@トライガン・マキシマム、不明支給品0~1
[思考]
基本:この島から脱出する。
1:エドたちがいるならば探したい。
2:ルフィの仲間を探す。
3:他にもここから脱出するための仲間を探したい。
[備考]
※ルフィ、ゴルゴ13と情報交換をしました。
お互いの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※名簿は白紙ですが、エドとアルもいるだろうと思っています。
※ゴルゴ13の名前をデューク東郷としか知りません。
※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。


【D-7/路上/1日目 早朝(放送直前)】

【ひょう@うしおととら】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:短刀@ベルセルク
[道具]:支給品一式(メモを多少消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー1/1)@トライガン・マキシマム、不明支給品×1、パック
[思考]
基本:???
1: 符術師として、人に仇なす化け物を殺す。
2: 蒼月潮を探す。場合によっては保護、協力。
3: 子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。
[備考]
※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。
※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。

【パック@ベルセルク】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式 不明支給品×2
[思考]
基本:生き残る。
1: ひょうについて行く。
2: ひょうが無茶をしないか気がかり。
3: アイツもいたりして…
[備考]
※浄眼や霊感に関係なくパックが見えるかどうかは、後の書き手さんにお任せします。
※参戦時期は少なくともガッツと知り合った後、ある程度事情を察している時です。
※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。


【番天印@封神演義】
対象に「番天」と書かれた印を付け、その印に向けて誘導ビームを放つ宝貝。マルチロック可能。
本ロワでは仙人でなくても使える代わりに威力減少、チャージ時間有りとなっている。


※工場の一部が爆発により機能停止しました。
※爆音が周囲一マス程度に響き渡りました。
※工場内部のどこかに番天印、乾坤圏が落ちています。
※ウィンリィの近くのどこかにパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/1)@トライガン・マキシマムが落ちています。

332Night And Daylight ◆L62I.UGyuw:2009/07/29(水) 07:23:14 ID:pHhzymDI0
以上、投下終了です。

333 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:20:04 ID:9Jfx9i7w0
規制されたので、とりあえずこっちに投下します。

334Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:20:32 ID:9Jfx9i7w0
「そいつさ、なんかメガネっぽい顔してなかった?」
「メガネっぽい顔ってなんですか!なんかメガネかけた人をバカにしてません?」
「いや、いい意味でメガネっぽいってことよ?」

そんな銀時と少女…冴英の会話に、ヴァッシュは少しだけ心癒される想いだった。

「うーん、顔はよくわからなかったからなぁ」
「……面白い子達ね」

少しだけ、ロビンも笑う。
なんだ、ちゃんと笑うことも出来るじゃんか。

初めて会った時から、この女性には何か不安を感じさせられていた。
情報も巧みに隠し、警戒心も強い。
最初はこんな状況ではそれも仕方がないと思っていた。
だが、一緒に居るうちにわかってきた。彼女は、何かに突き動かされるように動いている。
よく言えば使命感、悪く言えば強迫観念というか……
そんな表れが、先程銀さんたちと対峙した時の行動なのだろう。
だが、今の彼女の笑顔には偽りが無い。彼女も根っからの危険人物というわけではないのだろう。
何より彼女は、そんな使命感を自制できるだけの冷静さを持っているのだ。

最初に会った相手が相手だっただけに、この殺し合いにはかなりがっくり来ていた。
だが、こうしてバカな真似はしないでいてくれる人もいる。それが彼には嬉しかった。
そんな喜びを少し感じて、ヴァッシュは進む。
願わくは、これから会う少年もそんな心の持ち主であって欲しい。

程なくして、少年は発見された。
先程双眼鏡で確認した位置からそれほど離れていないようだ。あれからすぐ力尽きたのだろう。気を失っている。
ロビンが彼の容態をうかがう。

335Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:21:08 ID:9Jfx9i7w0

「……私は医者じゃないからはっきりとは言えないけど、重度の貧血、って感じね」
「鼻血でも出したんじゃねーの」
「……銀さんじゃあるまいし」

少年に外傷はなかったが、顔色が驚くほど青白い。

「輸血用の血液でもあれば理想的だけど」
「さすがにそれはデパートにもなさそうですね」
「肉食うだけじゃダメなの?ル○ンみたいに」

銀時の発言に冴英はふざけないで下さい!と怒ったものの、他に対処法も浮かばない。

「とりあえず病院に連れてったほうがいいんだろうけど、栄養補給もいいかもね」

このヴァッシュの発案で、ひとまず銀時と冴英が物探しの為デパートに引き返すこととなった。
広い建物内でお目当てのものを探すには、デパートという施設にいくらか知識のある彼らが適任だ。
少年をむやみに動かすのは良くないだろうと、ヴァッシュとロビンが付き添う事にした。

ここから動かない、動く場合は行き先を残す、という約束をして銀時たちを見送る。

「私は少し周囲を見回ってくるわ」
「えぇ!女の子1人じゃあぶないよ」

ロビンの提案にヴァッシュが慌てて手を振る。

「ふふ、ありがとう。でも私、これでも身を守るくらいは出来るの。
 狩人さんは彼を守っていてあげてね。すぐ戻るわ」

そう言って、ロビンも闇の中へと消えていった。

「……ちょっと寂しかったりして」

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

336Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:21:51 ID:9Jfx9i7w0
★   ★   ★   ★   ★

「とまぁ、こんな感じですか」

自己紹介と現状の報告を終え、キンブリーが立ち上がる。

「そこで、私にも貴女のお名前と事情を話して頂けたら嬉しいのですが」

少女は少し悩み、口を開いた。

「私は……森あいっていいます」
「なるほど、あいさんですか。よい名前ですね」

優しい口調で話しかけるキンブリーだが、少女の表情は暗いままだ。
そこへ趙公明がどこからか例のティーセットを持ち出し、紅茶を運んできた。

「ははは!お目覚めかい、お嬢さん?僕の紅茶を飲んで、一息つくといいよ」

彼は紅茶を二つテーブルに置くと、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「彼は私の仲間です。変わってはいますがあなたのような人間には無害なのでご心配なく」

次々に起こる出来事に目覚めたばかりの森はついていけず、思わず出された紅茶に手を伸ばした。
暖かい紅茶を飲み、少し落ち着きを取り戻すと、少女は堰をきったようにこれまでの経緯を話しだす。

はじめは、殺し合いに巻き込まれる前に関わっていた戦いの話。
それから、この会場に来てから考えた事。
そして、大事な友人を……傷つけた話。
自分でも初対面の相手に、どうしてこんなに話してしまうんだろうと思ってしまうほど。

キンブリーはじっくりと落ち着いた態度を崩すことなく、話を聞き続けた。
時々うんうんと頷きながら、彼女が口篭っても促したり質問したりすることもなく。
相手のペースに合わせて……
やがて話が終わると、耐え切れなくなった少女の目から涙がこぼれ始める。

「わたっ、私っ……そんなつもりぜんぜん、無くって……ただ、話が合わないの……が怖くって…」

そこで初めて、キンブリーが口を開く。

「非常に申し上げにくいのですが……貴女が目を覚ます少し前に、『放送』がありました。
 そこで確かに、『植木耕助』という名前が呼ばれていましたね」
「!!!!!」

337Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:22:27 ID:9Jfx9i7w0

その言葉に、森の瞳が開き、絶望の色を滲ませる。
わかっていたこととは言え、事実として突きつけられると凄まじく心が痛い。
もはや声すらあげられず、彼女はボロボロと泣き続ける。
うえきぃ、うえきぃ、と嘆きながら……

「私には事情はよくわかりません。ただ、これはどうしようもなかったと思います。
 いくら貴女が非日常に身を置いていたとは言え、こんな異常な状況下に突然置かれては精神が揺らぎます。
 そこへ追い討ちのように友人の異変。仕方のない事でしょう」

喋り終えるとキンブリーは立ち上がり、バッグから乾パンを取り出した。

「少しお腹に入れておいたほうがいいですよ。ゆっくりよく噛んでお食べなさい」

差し出された乾パンを思わず受け取り、戸惑いながらも森は食事を始めた。
再び沈黙に入る。
食事を終え、紅茶を飲み干すと、森は会話を再開した。

「私、気づいたんです。あんな風に、し、死ぬ間際に、人の心配が出来るのなんて、植木くらいしかいないって……
 だからあれはきっと本物の植木で、でも、だとしたら私は……最低のこと、しちゃって……
 もう、どうすればいいのかわかんなくって……それで、ちょうど目の前にあった川に……」

そこで目を伏せる。
重力によって少女の涙は落下し、握り締めていた紅茶のカップに落ちる。

「私、死んじゃえばよかったんです!植木は私をすごく心配してくれてたのに!
 疑ってばっかりで、おまけに、こ、殺しちゃった…・・・」

弱々しい声から急にヒステリックな大声へ。そしてまたか細い声へと。
不安定な彼女の精神を物語るかのように、彼女の声の性質は起伏する。

「私なんかが生きてたって、どうせなんにも出来ないのにっ……!
 いつもいつも守られてばっかりでっ!そのくせ自分から首を突っ込んでっ……
 植木が生きてれば、きっとこんな戦い止めてくれたのにっ!
 あたしなんかがっ!あたしなんか…」

パチン

響いたのは森の頬が叩かれた音。
キンブリーが弱くだが、彼女の頬をはたいたのである。

338Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:23:04 ID:9Jfx9i7w0

「おやめなさい」
「キンブリーさん……」
「自分の生を冒涜するということは、その裏で起こったあらゆる死を冒涜する事です。
 貴女が望むと望まざるとに関わらず、今この場は戦場。他人に死を強制し、強制される場です。
 だからこそ、自らが奪った命を悔やみ、自分の死を望むなどという甘ったれた行為は許されない。
 私は、死への冒涜は絶対に許しませんよ」

今までとうって変わっての厳しい表情に、少女は気おされてしまう。
キンブリーは手を組みなおし、少し声を抑えて言葉を続ける。

「失礼、私も少し感情的になりました。ですが、あいさん。先ほどの言葉は忘れないで下さい。
 貴女は生きている。生きている以上、戦場では戦わなくてはならない」
「戦うって……」
「彼の死を無駄にしないように、主催者に反逆するのもいいでしょう。 いっそのこと、ゲームにのってしまってもかまいません。
 あるいはそんなことすら考えず、ひたすら死なないよう行動するというのも立派な戦いです。
 なんであれ貴女は、生きている限り戦う義務がある。覚悟を決めなさい」

キンブリーの言葉が、杭のように森の心に突き刺さる。
だがその杭に支えられ、ぐらぐらと揺れていた彼女の心は安定を取り戻しつつあった。

「なに、存外やってみるとやりがいのある素晴らしい仕事ですよ。
 死を身近に感じるというのは、生きている実感を与えてくれる。
 それに……もし貴女が戦う覚悟を決めるなら、頼みたいことがあるのです」

泣くのをやめ、森が顔をあげる。
疲れきった、なんとも頼りない表情だが、先程までの死人同然の顔よりはマシだった。

「私に……?」
「えぇ、実は私、優勝を狙っているんです」
「えっ!」

突然の告白に、森が立ち上がる。
いきなり体を動かしたので制御がきかず、よろめいてまたソファーにしりもちをついた。
親身になって相談にのってくれたので、てっきり彼は人殺しなんて考えていない人間だと思っていたのだ。

「1つ言っておきますが、私には目的があります。その為に『戦う』と決めただけです。
 それに、なにも考えず全員を殺そうというわけではない」

キンブリーは、剛力の少女に伝えた自分の計画を目の前の少女に伝える。
自分が優勝することで、最終的に全員を蘇らせる算段。

「私はここにいる人が憎いわけではない。生き返らせることが出来るなら、それにこしたことはありません」
「でも、そんな…そんなことって…」
「言っておきますが、確証はありません。優勝者が無事で済む保証もありませんし、
 賢者の石をもってしても出来ないことはあるかもしれない。
 ですがあいさん。貴女の話を聞いて、私はますますこの思惑が有効である確信を得ました」
「私の?」

不思議そうに森は聞き返す。

「えぇ、あなたたちの戦い、すなわち神を決める戦いの話です。
 全能の神になること。あるいはそれでなくとも、望んだ『才』を手に入れる権利。
 この殺し合いがその戦いの延長なら、それらを駆使すれば作戦は成功するでしょう」

なるほど、確かに彼の言うことには説得力がある。
自分達の戦いの延長にあるのなら、この戦いの勝者は神になる、あるいは神になるものの恩人となる。
神が万能なら、あるいは万能でなくとも強大な力を持つなら、人を蘇らせる事も出来るかもしれない。
あるいは彼の言う『錬金術』の『才』を見返りとして入手できれば……

彼を優勝させることが出来れば、あるいは誰も犠牲になることなく戦いは終わるかもしれない。
だが……

339Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:24:00 ID:9Jfx9i7w0

「でも、それじゃあ……そんなやり方じゃ、多分植木は、喜ばないと思います」
「ふむ…?」

森から発せられたのは、否定の言葉。

「全員を救うために、全員を犠牲にするなんて……誰も傷つかないことを望むアイツなら、
 きっと否定すると思います。だから……」
「貴女は、植木君に喜んで欲しいから戦うんですか?」
「えっ?」

キンブリーの返事に、森は言葉に詰まる。

「それって……」
「私に言わせれば、死者は喜びもしないし、悲しみもしない。それは生きている人間の特権です。
 本当に彼の幸せを祈るなら、彼には生きていてもらわなければならないでしょう?」
「で、でも…それはっ」
「あなたの言い分は、まるで自分のことしか考えていないように思えます。
 蘇らせたとしても、植木君に嫌われたくないという気持ちが見え隠れしている。
 『誰かの為にではなく、自分の為に』といった具合でね」
「そんなっ!違いますっ!」

思わず声を荒げてしまう。
だが、男はその態度を崩すことなく、少女に残酷な道を示し続ける。

「例えば植木君が貴女を庇って死んだとします。貴女は彼を怒るでしょう。
 なぜ人を助けて自分が死ぬのだと。残される側の気持ちはどうなる、と」
「……」

「ですが、それは彼が『自分よりも誰かを優先した』結果です。相手に恨まれようと、怒られようと……
 誰かを助けて、その人の幸せの可能性を繋ぐ。これこそが『人の為に自分を捨てる』ということではありませんか?」
「!!」

その言葉は、今までの何よりも少女の心を抉る。

「先ほどの貴女の言い分は、『皆を助けても自分は嫌われてしまうから、自分だけ生きていたい、あるいは死にたい』
 という事でしょう。それでは、『自分よりも誰かの為に』最後まで行動した植木君の生き方を……」
「やめてっ!」

耳をふさぎ顔を伏せ、森が叫ぶ。
一瞬、キンブリーの顔に笑みが浮かんだ。

「死者であるうちは、彼は喜びも悲しみもしない。ですが、彼の生き方は残る。
 自分が殺してしまった人間の死から目を逸らしてはいけない。向かい合いなさい。
 彼の生き方を否定しないつもりなら、貴女も『誰かの為』に生きねばならないのでは?」

頭を抱え、見た目どおり少女は悩む。

340Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:24:25 ID:9Jfx9i7w0

「……私に、できることなんてあるんですか」
「あります。貴女のような人が私と行動してくれれば、私が優勝を狙っていると思う輩は少ないでしょう。
 少なくとも、攻撃を躊躇させることが出来る。交渉などの際にも、相手を欺きやすい」
「そんな!そんなの卑怯じゃないですか!」
「あるいは、はっきり申し上げてしまえば貴女を盾にだって出来る。これは出来れば避けたいですが……」
「ひどい……!」

思わず顔を挙げ、大声を出してしまう。

「確かに、卑劣かもしれません。ですが卑劣な真似も辞さない覚悟がなければ、確実な優勝などありえないでしょう。
 私は全員が幸せに終わるためならば、卑怯者の汚名でも喜んで受け入れましょう」

全員の幸せの為……
口の中で呟き、またしても俯いてしまう。

思い起こされるのは、とある少年が必死で戦ってきた日々。
自分よりも誰かを優先し、感謝されなくとも、褒められなくとも……
誰かの幸せの為に本気で怒り、必死で戦った少年の面影。
それを誰より側で見つめ続けた、おせっかいな少女の人生。

やがて、少女はゆっくりと顔を挙げた。
その顔は先ほどの頼りなさが消え、思いつめたものとなっていた。

「……わかり、ました。私も協力します。でも、約束してください。
 みんなを救うって……その為なら、私も一緒に……卑怯者になります」
「誓いましょう。必ず優勝し、『みんなの為に』尽力することを」

キンブリーが手を差し出す。
迷った末に、顔をしかめたまま森はその手を握り返した。
キンブリーが反対の手を伸ばし、森の手首の当たりで合わせる。
パリッ、という音と光が発生し、気がつくとキンブリーがつけていた腕輪が森の手首に移動していた。

「これは……」
「同盟の証、といった所です。心が揺らいだ時、眺めてみてください」

そうですか、とだけ呟き、森はその腕輪を撫でた。

「理解していただけて、とても嬉しいです。では私は外の同行者に事情を説明してきます。
 あなたはここで待っていてください。もう一度気持ちを落ち着かせたほうがいい」

そう言って紅茶を注ぐと、キンブリーは部屋を後にした。

★   ★   ★   ★   ★

341Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:25:39 ID:9Jfx9i7w0
☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「とまぁ、こんな感じ」

自己紹介と現状の報告を終え、ヴァッシュが立ち上がる。

「そこで、僕にも君の名前と事情を話してもらえると嬉しいんだけど」

少年の前に移動し、語りかける。少年は少し悩み、口を開いた。

「えっと、とりあえず助けてくれてありがとう」
「いやー、ぶっちゃけまだ助けられてないけどね」

いきなり敵意満点で返されることも覚悟していただけに、少年の言葉は嬉しかった。

「俺は植木耕助。ちょっと事情があって、友達の森って奴を追いかけてたんだけど……
 アイツ、川に落ちたみたいで……そうだ、森を追わなきゃ……」

言い終える前に無理やり立ち上がろうとし、ふらつく植木。ヴァッシュがゆっくりとそれを制する。

「今はやめといた方がいい。詳しくはわからないけどその血、何かあったんだろう? そういう時は焦らない方がいい」
「でもっ!俺のせいでアイツは……」

なおも立ち上がろうとする少年を、今度は力ずくで制す。

「ダメだ!君のその優しさは素晴らしいと思う。でもそれで君が倒れたら、誰も救えない!」
「……ちきしょう。結局俺は、弱いままじゃないか……あれから、少しは強くなれたと思ってたのに……!
 肝心な時に、何にも出来ない……!」

拳を血が出んばかりに握り締め、植木は歯噛みする。

「そんな事はないよ。君がこうしてその子を追ってきたから、僕たちは君に会えた。そして、その子の事を聞けたんだ。
 僕たちも協力する。みんなで探せば、きっとすぐ見つかるさ!だから今は休んだ方がいい。それに……」
「それに?」

ふ、っと夜空を見上げるヴァッシュ。

「どうやらそろそろ、趣味の悪い番組のスタートみたいだぜ」

342Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:26:02 ID:9Jfx9i7w0

【H‐7/森の中の川辺/一日目 早朝(放送直前)】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(6/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/24))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
1:放送を聞く
2:植木君と情報交換。銀さんたちを待ち、合流後は植木君のお手伝い(予定)
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:ちょぉーっとロビンちゃんが心配

[備考]:
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。

【植木耕介@うえきの法則】
[状態]:極めて重度の貧血、カナズチ化 、首に大ダメージ
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1、青雲剣
[思考・備考]
基本:佐野やハイジ達の仲間と共にこの戦いを止める。
1:放送を聞く
2:ヴァッシュと話す
3:森を追いかける。
4:血が足りねぇ。
5:森と話が合わない、何でだ?
6:モップが欲しい。

※+第5巻、メガサイトから戻って来た直後から参戦です。

343Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:27:09 ID:9Jfx9i7w0
★   ★   ★   ★   ★

「やぁ、うまくやったもんだね」
「人聞きの悪い言い方はやめて下さい。私はほとんど嘘は言っていません。
 実際に優勝したら、働き次第では彼女の願いを叶えてあげてもいい。出来るかどうかは別としてね」

やれやれ、といった動作を見せる趙公明。

もちろん、放送は終わるどころか始まってすらいない。
植木が死んだかどうかなんてまだわからなかった。
ただ彼女を引き込むのに都合がよかったので利用させてもらったのだ。
防音の地下室に彼女を追いやったのは、放送を聞かせない為だ。

「後の放送で彼が呼ばれて、彼女が気がついたらどうする?」
「その時には、もう彼女は引き返せませんよ。念のため保険もかけておきました」

キンブリーが腕の辺りを撫でる。

「むしろ、私はその少年と会ってみたいくらいです。
 さすがに直接接触させるのはマズイですが……意志を貫き通す人間は好きでしてね。
 むしろ意外なのは貴方だ。止めないのですか?」

キンブリーの問いに、趙公明は笑顔のまま答えた。

「さっき君が言ったとおりさ。全てが嘘なわけじゃない。嘘から出た真、ってしってるかい?
 それに、僕は君との戦いも楽しみだしね」
「なら、なぜ今仕掛けてこないんです……?」

その言葉を合図とし、二人の間にかつてない緊張が走る。
ピリピリとした空気が、その場にいるものに突き刺さるようだった。
だが、すぐに表情どおりの雰囲気となった趙公明が言葉を続ける。

「君のようなタイプは、じっくり準備をして、確実に美しく勝てると判断した時が、一番強い。
 僕はそんな万全の準備が出来た君と戦いたいのさ。君が勝てると思ったら、いつでも僕に決闘を申し込みたまえ!
 その為には、彼女も必要だろう?ヴァッシュ君とは別の意味で楽しみじゃないか!」
「……余裕、とは思いませんよ。まったく、やはり貴方は度し難い人だ」

344Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:27:33 ID:9Jfx9i7w0

彼らは図書館を出て、話しながら少し歩く。始まるであろう放送をしっかりと聞く為だ。
付近の市街地の一部は、先ほど彼らが訪れた時と同様、ひどく荒れていた。
何者かが戦闘をおこなったとみて間違いないだろう。
その凄まじさは、戦った両者の実力の高さを感じさせる。

「楽しみだね……誰かは知らないが、早くこんな戦いがしたいものだ」

その光景を見て、心から嬉しそうに趙公明が呟く。
強者と強者が命を削りあい、ぶつけ合った美しき舞台。彼にはこの光景がそう見えているのだろう。
自分も早くその舞台に上がりたい。これから訪れる楽しみが、待ち遠しくて堪らない。
そんな気持ちのこもった、美しくありながら歪んだ、笑顔だった。

そして、もう1人の異端者もまた、同じ感情を抱いていた。
しかしそれはこの荒れ果てた光景に対してではない。
先程会話を交わした、実に前途有望な役者(じっけんざいりょう)の少女。

『火種』なんて、人間なら誰でも心に持っている。
それが燃え上がるには、『境遇』という燃料がよく燃える物であること。
彼女を見つけた状況と表情、時々漏れ出る寝言……全てが彼女の『境遇』の可燃性の高さを物語っていた。

自分は少し、風を送り込んであげただけ。
火種は自然と燃え上がり、それは素敵な『爆発』を引き起こしてくれるだろう。
自分の愛するものとはまた別の、だが同じように魅力的な『狂気』という、爆発。
想像するだけで、笑みが浮かんでくる。

「そろそろ放送のようだね!」

その笑顔を言葉にするには……

「えぇ、まったく……楽しみです」


 『歪み』ですら、生ぬるい。

345Men&Girl〜ピカレスク〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:28:24 ID:9Jfx9i7w0


【H-08/図書館/1日目 早朝】
【趙公明@封神演技】
[状態]:健康
[装備]:オームの剣@ワンピース
[道具]:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数
[思考]
基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。
1:闘う相手を捜す。
2:太公望と闘いたい。
3:カノンと再戦する。
4:ヴァッシュに非常に強い興味。
5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。
6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。
7:自分の映像宝貝が欲しい。手に入れたらそれで人を集めて楽しく闘争する。
8:競技場を目指す(ルートはどうでもいい)
9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。
[備考]
※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。
※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品0〜2 小説数冊、錬金術関連の本
   学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数
[思考]
基本:優勝する。
1:趙公明に協力。
2:首輪を調べたい。
3:剛力番長を利用して参加者を減らす。
4:森あいを利用して他の参加者を欺く
5:参加者に「火種」を仕込みたい
6:入手した本から「知識」を仕入れる
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。

【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大) 精神的疲労(大)
[装備]:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:とりあえずキンブリーに同行。
2:彼が約束を破らないか心配。
3:能力を使わない(というより使えない)。
4:なんで戦い終わってるんだろ……?
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました
※キンブリーの話をどこまで信じているかはわかりません



【悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑ほか】
 図書館に収められていた本。それぞれの能力種類と、詳しい説明が載っている。
 ただし、各能力の説明が書かれているだけであり、共通ルールのようなものは記されていない。
 (悪魔の実「泳げない呪い」宝貝「体力消耗」未来日記「破壊=持ち主の消滅ルール」
  職能力「道具紋と効果紋」など)

346Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:10 ID:9Jfx9i7w0
○   ○   ○   ○   ○

「銀さーん!まだですかー!」

デパートのとある階に、冴英のあきれかえった声が響く。

「ちょっと待て……さっき飲んだイチゴ牛乳……多分あれがダメだったんだ……」

声はとある部屋の、とある個室の、とある便座の上から聞こえる。
銀時は今、トイレの中で苦しんでいるのであった。

「もう!せっかく役に立ちそうなもの、見つけたのに……」

冴英たちはデパート内を捜索し、まず念のため医務室によった。
そこはロビンが探索済みのはずだが、見落としがあるかもしれない。
そして案の定、なんとも都合よく輸血パックを見つけたのである。
そもそもデパートの医務室に輸血用血液なんてあるのか、と驚いたが、今はありがたく使わせてもらおう。
彼の血液型がわからなかったので全てバッグに入れたが、不思議なことに鞄が一杯になる気配はなかった。
これなら食料もたくさん入るだろう。何が貧血に聞くのかはさっぱりわからないが。
そこまでは順調だった。しかし……

「その後、調子に乗って冷たいほうじ茶をがぶ飲みしたのも悪かったんじゃないんですかー?」
「そーかもしれん」

売り場の飲み物を拝借しいろいろと飲んでいた銀時が、突如腹痛を訴え、トイレに駆け込んだ。
それからずっとこんな調子である。

はぁ、とため息をつき、冴英はその場にしゃがみこんだ。
さっき会った二人組のことを思い出す。
女性のほうは少し怖い雰囲気だったが悪い人ではなさそうだった。
何よりヴァッシュさんはとてつもなくいい人だった。お人好し過ぎるほど。
一瞬、ここが殺し合いの場であることを忘れそうになった。
倒れていた男の子も、自分より年下に見えが、悪人とは思えなかった。

ふと、真っ暗な売り場に何かが転がっているのを見つける。

「!!」

それは首だった。

ただし、マネキンの。

驚きがすぐに安堵に変わる。
だがそこで急に、自分が今おかれている状況を思い出し、怖くなった。
こうしてのん気にしている間にも、死は自分に襲い掛かってくるかもしれないのだ。
いつ自分が、あのマネキンのような状態になるかもわからない。
ガクガクと体全体が震えだす。グッと拳を握り、歯を食いしばり、耐えようとする。

だが、怖い。
1人になると、どうしようもなく恐怖が襲ってくる。
自分はここで死ぬんじゃないか、大切な友達に、会えなくなるんじゃないか。
怖い、怖い、怖い……
全身が制御を離れガクガクと震え、止まらなくなっていく。
抱え込んだ両膝を更に強く抱きしめ、小さく体を丸める。
転がったマネキンの首が、光のない目でこちらをじっと見つめている気がした。
まるで、自分をそちら側に引き寄せようとするように……

347Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:37 ID:9Jfx9i7w0

ぽんっ

ふと頭にのせられる、暖かい掌。

「夜の建物ってこえーよな。ぜってー出るって」

相変わらずやる気のない目で周囲を見渡す男の姿が目に入る。
だがその細くおろされたまぶたの向こうには、確かな煌き。
優しい瞳が、少女を見下ろしてくれた。

「おでれーたぜ、トイレットペーパーがなくてよ、また千円の出番かとヒヤヒヤしちまった。
 ここは優秀だな、ちゃんと予備があったけど」
「……ちゃんと手、洗いましたか?」

全身の震えが止まる。
彼は何を言うでもなく、するでもなく、側に立ってくれた。

そっか。
自分の側には、頼れる人がちゃんと居てくれているんだ。
どうなるかなんてまだわからないけど……

今はこの出会いに感謝しよう。
願わくは……大切な友人達にも良い出会いがありますように……

「さて、と。夜も終わりみてーだな。スッキリしたところで、悪趣味な放送とやらを聞くとするか」


【I‐7/デパート/一日目 早朝(放送直前)】
【沙英@ひだまりスケッチ】
[状態]:健康
[装備]:九竜神火罩
[道具]:支給品一式 、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲
輸血用血液パック
[思考・備考]
1:銀さんと協力して、ヒロを見つけたい。
2:いるかどうかわからないけど、後輩たちがいたら保護したい。
3:貧血に効きそうな?食料を探す
4:食料と血液を持って、ヴァッシュさん達のところに戻る
5:銀さんが気になる?
6:宝貝?仙人?
7:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は忘れたい



【坂田銀時@銀魂】
[状態]:ちょっと腹痛
[装備]:和道一文字
[道具]:支給品一式 、大量のエロ本、太乙万能義手
[思考・備考]
1:沙英を守りながら、ヒロを探すのを手伝う
2:ヒロを見つけたら、二人を守る
3:ヴァッシュ達と合流する

348Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:29:58 ID:9Jfx9i7w0

●   ●   ●   ●   ●

森を抜け、ロビンは市街地に足を踏み入れていた。

(やはり、私たちとは違う文化……古代ではないわね。なら未来か、あるいは……)

ヴァッシュや銀時たちとの情報交換で明らかになった、世界観の相違。
その差は笑って無視できるような小さなものではない。
学者としての好奇心も刺激されたが、なによりこの殺し合いからの脱出のヒントになりえると確信していた。

(最初の説明で、あの少女に話しかけていた1stという男の子……
 あるいは道化と話していた、『スース』と呼ばれていた男……この辺りとの接触は必須ね)

顔見知りであること、それすなわち、同一の世界から来たと見て良いだろう。
彼らと接触できれば、少しは主催者の背景を知ることが出来る。

(狩人さんといい、あのお侍さんといい……腕が立ち、頭のきれる真っ当な人もいる。
 もしかしたら、脱出も容易なのかもしれないわね……)

あるいは自分を闇から引き上げてくれた、彼らのように。
何に変えても守りたい、彼らのように。

少しだけ笑みを浮かべ、ロビンは足を止める。
時間だ。
噂の主催者様の、最初の放送……

「さぞ悪趣味な放送なんでしょうね」

【H‐7/市街地と森の境/一日目 早朝(放送直前)】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ダーツ(10/10)@未来日記、んまい棒(サラミ×2、コーンポタージュ×2)@銀魂
   双眼鏡、医薬品、食料、着替え、タオル、毛布、包丁
[思考]
基本:麦わら海賊団の仲間が会場にいた場合、何を犠牲にしても生還させる
1:放送を聞き、今後の方針を決定
2:更に情報収集。主に主催者について。特にそれぞれが居た世界の違いを考察する
3:可能なら、能力の制限を解除したい
※自分の能力制限について理解しました。体を咲かせる事のできる範囲は半径50m程度です。
※参戦時期はエニエスロビー編終了後です。
※ヴァッシュたちの居た世界が、自分達と違うことに気がつきました。



こうして彼らの夜は明ける。そこには無数のしがらみがあるが……

夜明けを待つだけの今日が遮るなら、新しい明日を生きればいい。

349代理:2009/08/02(日) 01:33:09 ID:2yxtINz20
俺もさるさんです
誰か代わりに投下お願いします

350Men&Woman&Boy&Girl〜英雄譚〜 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:33:30 ID:9Jfx9i7w0
以上で投下終了です。
人数使って長いくせに内容が繋ぎ程度で申し訳ないです。
代理をしてくださってる方、支援してくださってる方、ありがとうございます。

wiki収録の際には、わかりやすいようにタイトルで分けたほうがいいでしょうかね。

351名無しさん:2009/08/02(日) 01:39:47 ID:2yxtINz20
分けた方がいいかもね

352 ◆lDtTkFh3nc:2009/08/02(日) 01:44:54 ID:9Jfx9i7w0
ゴール間際で再びさる……
たびたびすみません、どなたかお願いします。
代理してくれた方、助かりました、ありがとうございます。

353>>519修正 ◆28/Oz5n03M:2009/08/08(土) 02:17:10 ID:hGX11kGk0
「やーめーてー!殺されるー!殺されるー!」
「だーかーらー!殺さないって言ってるだろうが!」

本日二回目のやり取りである。
もうホントついてねぇよ。殺さないって言っても、全然聞きやしねーし。

「はーなーせー!」
「落ち着けって!!殺さねぇから!ほら!何も持ってねえだろ?
な?殺さねぇってわかっただろ?」

とりあえず、怖がられるから拳銃はデイパックに戻しておいた。もちろん俺のにな。

「でも、そんな変な色の髪の…「これは地毛だ!」うう…」

失礼な奴だな。たかが髪の色が変なぐらいで。
はぁ…。しかし、やっと黙った。こいつを見捨てずによくやったよ、俺。

「とりあえず、自己紹介からだ。俺は浅月香介。お前は?」
「……宮子……」

うん、知らない名前だ、って当然か。この殺し合いの場に来て始めて会ったんだしな。

「ねぇ…」
「ああ?」
「これって夢なんでしょ?」
「はぁ?」
「いや、だから夢なんでしょ?そうだよね、人の首が飛ぶなんてあるわけないもんね」

まさか、殺し合いのこと理解してない?どんだけバカなんだよこいつ!
頭のネジ抜けてんじゃねーのか!
だが、どうする?
こいつにこの場は殺し合いで生き残るのは一人だけなんですよーって教えるべきか?
教えたらまた暴れるんじゃないか?
でもここで教えなかったらさらに厄介なことに…。
ああ、もうメンドクセー!

「おい…」
「なに?」
「いいか、よく聞け。これは夢でも何でもない。本物の殺し合いだ。
一人しか生き残ることのできないデスゲームだ」
「またまた〜、そんなわけ「嘘じゃねえ!」…え?」

354状態表修正 ◆28/Oz5n03M:2009/08/08(土) 02:18:58 ID:hGX11kGk0
【F-4/森/一日目黎明】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、精神的疲労(小)
【装備】
【所持品】支給品一式 レガートの拳銃@トライガン・マキシマム、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく! 
     メイドリーナのフィギュア@魔王 JUVENILE REMIX
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:宮子といっしょに学校に向かう
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後

355放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:02:38 ID:.zfe5Zcg0
朝の日差しは眩しく、雲間から漏れるレンブラント光が目を射抜く。
暖かさを感じさせながらも鋭く地表を貫くその光がもたらすのは釣りやハイキングにもってこいのいい天気。
今日は、洗濯物がさぞやよく乾くだろう。

風、というものは、海と陸それぞれの上に漂う空気の密度差――即ち温度差によって生じる。
昼は陸がより熱されるが故に海から潮の香りを届けられ、夜は海が熱を保つ故に陸から木々の匂いを渡す。
互いに行きかう二つの風は、昼と夜の境目にその役目を交代するのだ。
人はそれを凪と呼ぶ。
風が沈黙し、心乱す何事も起こるはずのない安息地。

今の時間は、まさしく朝凪。
たとえどれ程憎みあう間柄とて、振りかざした武器を下ろす事が約束される時。
……然して。
さわやかな朝を台無しにするかのような、重苦しい雰囲気の女の声が響き渡る。
マイク特有の雑音とともに、放送は皆に等しく現実を突きつける。

この時間はまさしく凪でしかなく、この終わりとともに誰彼かまわず暴風に身を曝すことになるのだと。

――正確には、放送に入る際にリストの"孤独の中の神の祝福"という曲が前置きとして流れてはいた。
しかし大抵、人の記憶とは後から耳にしたものの方が強く強く残り、偉大なる先人の記憶はすぐに薄れ行く。
そこに意味を見出すものを覗くならば、殆どの子羊たちにはお茶にごしにすらなりはすまい。


『……第一回の放送を始めるわ。
 新たなる神にいいように踊らされていて気に食わないでしょうけど、我慢して聞いて頂戴。
 運命の螺旋に屈するのも立ち向かうのも、あなた達それぞれの意思ひとつ。
 掴めるものは、私たちのような存在だって利用しなさい』

話者の女は、そこで一旦言葉を区切る。
何かを誰かに伝えたがるかのように、今の言葉を吟味させるように。

『まず、配られていた白紙の名簿を見なさい。参加者全員の名前が読み取れるはずよ。
 知っている人の名前が少ない事を祈るわ。
 ……そして、そこから更に名前は削れるの。悲しんでも進み続ける覚悟はできている?
 今回の死亡者は、……以下の通り。

 
 眼を背けず、現実を直視して。
 そしてその先も見据えなさい、自分と近しい人たちが生き残る為にどうすればいいのか。
 進入禁止エリアを指定するわ。
 指定した時刻になるまで猶予があるから、そのエリア近辺にいる人は時間に注意して離脱しなさい。
 どういう意図でそこが封鎖されるのか、それも一つの手がかりよ。

356放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:03:38 ID:.zfe5Zcg0
 7:30よりI-6。
 9:00よりF-7。
 10:30よりB-4。 

 以上よ』

放送席にいた女性は、それだけ告げると再度沈黙した。
――だが、まだ放送のスイッチ入れられたまま。
まるで何かを試し、様子を伺っているかのように。

すう、はあ、と、何度も呼吸を繰り返す音だけが増幅され、皆に届けられる。

静寂は続く。
一分だろうか、二分だろうか。
それとも、もっとずっと多くの時間だろうか。

いずれにせよ、10分はかかっていないだろう。
そして唐突に、怒鳴りつけるような声が島中へ轟いていく。


『……ッ! こんな事言っても、連中に組してる私の言うことは信じられないかもしれない。
 でも、聞きなさい! そして生き延びるために考えなさい!
 死ぬな! みんな、生き残れ!
 真実を告げるわよ、この殺し合いは、このゲームは、新たなる神なんて名乗るヤツの――、」


たぁん、という軽いくせにやけによく響く音が、マイクを通じて届く。


そして、それきりだった。
ぶつり、という耳障りなノイズを残して、急に放送が途切れて終わる。


後には木の葉を散らして風が吹き渡るばかり。
凪は、終わりを告げたのだ。



********************



銀の髪を持つ少年が、放送室に立っていた。
肩を壁に預けて、放送席に座った女性に向かい静かに言葉を紡いでいる。

抑揚の少ない台詞の中、女性は少年の方すら向かず、静寂を守っていた。
ただじっと、座り続けていた。


「……どうしてこんなつまらない反逆を試みたのか、俺は知らないし、知るつもりもない。
 ただ、これだけは言える。
 もはや、動き出したドミノの牌を止める術はない。
 結局、俺たちは二重螺旋の運命に縛られた駒でしかなく――、お前の行動も、全て予定調和だったようだ」

357放送案ver1.1 ◆JvezCBil8U:2009/09/06(日) 14:04:36 ID:.zfe5Zcg0
「語るのー、詩人じゃのー」

全くの、不意。
ついさっきまでそこにいなかったはずの、在り得ない存在の声。
しかしそれすら驚くに値しない。
思った通りとばかりに背後からの声に少年が振り向くと、年端も行かない童女がニヤニヤとトウモロコシを加えてコチラを眺めていた。

「どういう心変わりなんじゃろうな、お前さんは連中の中ではこういう立場とは一番縁遠いと思っとったのにの。
 今更我らに身を委ねた、というのもしっくりこないぞ?」

「…………」

「ま、別にええの。お前さんが語った通り、新しい“神”にとっちゃ全て予定通りなんじゃろうしな。
 我々がルールを決め、あの道化師どもが遊戯盤を用意し、そしてお前たちは――、」

「ムルムル」

分かっているとばかりにムルムル――ソロモン72柱の悪魔が公爵の名を持つ童女を睨みつけた少年、アイズ・ラザフォードは踵を返す。
嘲笑うその目つきから逃れるようにちらりと背後を見れば、そこには彼が兄と呼んだ少年、死んだはずの少年がモニターに映し出されている。

「……運命はもはや、生と死すら弄ぶのか」

言葉には何の感情もこめられていなくて、だからこそアイズがどんな気持ちを抱いているのかはあまりに分厚いカーテンの向こう側に隠されたままだ。

「お前が生きてここにいるのは――、」

その呟きと同時に、放送席に座っていた女性がずるりと崩れ落ちる。
彼女の頭蓋の真ん中には、ちょうど真ん丸な穴が前から後ろまで貫通していた。

アイズは手に持った拳銃を収めるべきところに収め、言いかけていた言葉を飲み込み別の台詞を形作る。

「さようならだ、ツチヤキリエ」



じくじくと人の運命を飲み込んで、血の池は静かに広がりつつあった。



【土屋キリエ@スパイラル〜推理の絆〜 死亡】

358 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:38:02 ID:mF0FEiXk0

生い茂った暗い夜の森の中を一組の男女が歩く。
枯れ葉や枯れ枝を踏みしめる音が暗闇の中で意外なほど響いた。
しかし二人ともそれには気に掛けずに先に進む。
そして森の中で、男女の二人組が会話しながら歩いていた。

「そしたらヒロさんったら凄い剣幕で怒るんだよ。こっちから見たらちょっと大人げないと思うのよ」
「おい、さすがの俺もひとんちの体重計に細工とかどうかと思うぞ」
「でもヒロさんは気にしすぎなんだよ。ほら、女は少し太ってた方が抱き心地がいいって言うし」
「いや、そんなこと男の俺に言ってどうするんだよ……」

適当に相槌を打ちつつ、浅月は内心、嘆いていた。
宮子を担ぎながら起こさないように歩く手間が省けたまではよかったがここまでお喋りだとは思わなかった。
念の為に彼女の知り合いが参加してる可能性もあったのでそれを聞こうと水を向けたまではよかったが
そこからマシンガンのように喋る喋る。
やまぶき高校の美術科に所属してること、ゆのっちと言う渾名のゆのという少女のこと、沙英やヒロという先輩のこと。
高校の担任の先生のこと、彼女らが住んでるアパートの大家さんのこと。
ただ容姿や性格など重要な点だけを言ってくれるならともかく普段の付き合いから些細なことまで延々と喋る喋る。

(あー何で俺、こんな時にここまで女のお喋りに付き合ってるんだ?)

さすがにこの広い森で他の参加者にばったり会う可能性は低いだろうが0という訳ではない。
正直、怒鳴りつけてでも止めさそうかと何度も思わなくもなかった。
だが下手に刺激して怯えさせたり落ち込ませるのも得策ではない。
それに、何時また何かのはずみで恐怖で錯乱するかわからない。
この状況で一般人でしかない彼女をまたパニックになって暴れられたら厄介なことこの上ない。
それなら大声でなければ好きに喋らせてそちらに気を反らせてた方がまだマシだ。
そう割り切ってはいた。いたのだが……。
ハタから見れば女の子と二人切りなこの環境も、宮子のマシンガントークに付き合わされる浅月とってはこの上なくキツイ。

359 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:40:03 ID:mF0FEiXk0

(そりゃあ、亮子や理緒に何度も振り回されたけどよ、あいつらもここまで姦しくはなかったはずだ……多分)

――まったく、鳴海さんといいあなたといい、本当に女性の扱いが不慣れなんですねぇ。

(だからなんでお前が出てくるんだチクショウッ!)
脳内で思い浮かぶおさげの少女の茶化しに律儀に脳内で叫び返す。
どうして俺の周りには癖のある女ばっかり集まるんだ?
まあ、担いで歩くよりはだいぶマシだけどよ。

「しかしお前、意外と体力あるな。こんな森の中じゃ男だって歩くのに一苦労するだろうによ」
「へへん、こんな風に夜の森の中を歩くのひっさびさ♪」
「久々?」
「ちっさい頃に夜の山で山菜取りとかよくしたからね♪」
「……なあ、それって泥棒って言わねえか?」

こいつ、どんだけ野生児なんだよ?
それともこいつの田舎じゃ当たり前なのか?
まあ、おかげで遅れずに済みそうで助かるけどな。
この分なら、夜明け前には高校にたどり着けそうだ。

だが高校にたどり着いたと言ってそこで亮子に会えるとは限らない。
あくまでもそこなら会える可能性が高いというだけ。
或いは他の参加者に出会うかもしれない。それが殺し合いを否定してるのか殺し合いに乗ってるのかはともかくとして。
自分一人なら素手でも戦える自信があるし銃器も手に入れた。これなら大抵の相手なら身を守る自信がある。
だが今は宮子という一般人を抱えてる。本来なら人が一人や二人死のうが何とも思わないが守ると約束した手前もある。
浅月にはそれを反故にして彼女を見捨てる選択肢もあるがそれをしたいとは思わなかった。
人を殺すのには躊躇は無かったが彼女を見捨てるのは彼の僅かばかりのプライドが許さなかった

(それに万が一、後で亮子や九兵衛にばれたら最悪だからな)

360 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:41:04 ID:mF0FEiXk0


◆ ◆ ◆


「ところでさ、あさっちの言う知り合いって友達のこと?」
「はあ?あさっちって誰のことだよ?まさか俺のことじゃないだろうな?」
「あさっちはあさっちだよ。はい、今日から浅月くんはあさっちに決定!」
「……はぁ」

……マジで疲れる。
ぶっちゃけこんな風に女と喋るなんて俺のキャラじゃねえぞ。
それに人殺しの俺が一般人とお喋りなんてよ。

だけど。
いつの間にか浅月は胸の内が暖かくなっていたことに気づいた。
変なテンションでも、ぶっちゃけうざくても、相手がただの一般人でも何故か安心出来た。
いや、ただの一般人だからこそ安心出来たのかもしれない。足手まといになる可能性は今のところあるが
裏切られる可能性は低い。

(しかし普通、この状況で初対面の相手にここまで打ち解けられるか?まあ変に警戒されるよりマシだけどよ)

出会いは最悪でその後もごたごたしたが最初に出会ったのが宮子だったのは悪くなかったかもしれない。
これで亮子と鳴海歩、更に上手く物事が進んで理緒と合流して首輪を外す手掛かりが手に入ることが出来たのなら……

「あさっち〜 お〜い 聞いてるのか〜?」
「あ? ああ、俺の知り合いか」
「あさっちの知り合いもここにいると思ってるの?」
「ああ、声しか確認出来なかったがよ、確かにあれは亮子だった。間違いねえ」
「ふうん、亮子さんって言うんだ。ねえ、あさっち……やっぱり心配だよね?」
さっきのテンションと違って恐る恐ると尋ねてくる。

361 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:42:52 ID:mF0FEiXk0


「大丈夫だって、あいつは殺したって死なねえよ。女のくせに気が強くてよ。学校じゃ熊殺しだのなんだの言われてるし」
「へえ、すごいんだね。ところで名前からして女性なんだけど恋人?」
「ぶっ! おま、何言いやがるんだよ! あんな凶暴な女、恋人の訳ない!」
「あは、あさっちって女の子より弱いんだ」
「な、俺だってオオアリクイと戦って倒したことがあるんだぞ!」
「え、オオアリクイと? すごいすごい! その話、詳しく聴かせて〜」
「へ? あ、ああ、別にかまわないけどな……」
(それにしても、この話に喰い付いてきたのはこいつが初めてじゃないのか?)

口では心配してない風だが本当は亮子のことが心配で不安だった。
だがここで同行者へいたずらに不安を煽るようなことを言っても何の得もない。
今は早い段階で合流できると信じて足を速めるしかない。そう割り切るしかなかった。

だから、とりあえず西を目指すことにした。
大きな道や海岸線などに突き当たりさえすれば、大体の場所は分かるだろう。

木立ちの合間を縫うように二人は歩いた。
未だ太陽の光射さぬ森の中、漫才のような会話をしつつも確実に西に向かっていた。
浅月は内心では殺戮者の襲撃を気にしていたが幸いなことにそれらと出会うことはなかった。
時々、短い休憩を挟みながら歩くこと数時間、ようやく二人は深い暗闇の森を抜けた。
やっと森を抜けることが出来たので二人ともほっと一息つくことが出来た。
さすがの浅月も長時間の歩きにうんざりしてたので顔を緩ませた。
だが宮子に油断するなと釘を刺すまでは忘れなかった。
見晴らしが良くなった分、危険人物に見つかる可能性が高くなるからだ。
宮子もそれが理解出来たのか口数を減らし周りに注意を向けつつ学校を目指す。
もっともそれでもライフルのようなもので狙撃されたらひとたまりも無いがそこまで気にしていたら何もできない。
だから浅月はその時はその時と割り切って危険を承知しつつも先を急いだ。

362 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:44:42 ID:mF0FEiXk0

やがて大きな道にぶつかった。
地図や遠くに映る市街地から照らし合わせて学校の北に出たのだと把握する。
そこから道にそって学校へと向かう。
そしてとうとう目標だった高校が見えてきた。


「やっとたどり着いたね。でも夜の学校って怖くない?幽霊とか出そうだし……」
「幽霊ねえ……」

(おいおい、この状況で幽霊とかなに呑気なこと言ってるんだよ?まあ、確かに不気味だけどな)

問題は幽霊よりもここにいるかもしれない参加者と遭遇すること。この殺し合いに否定的な人間ならそれでいいがもし
ゲームに乗ってたらやっかいなことこの上ない。こっちはただの女の子を抱えてる。この状況で戦闘に
雪崩れ込むのは避けたい。

(こいつと一緒の方が信頼されやすいかもしれないが、ひとまずこいつをどこかに隠してから俺一人で
 探索した方がいいかもな。さて、何処がいいか……)
(ここでぼおっと立ってるのも危険だよな。一度、校内に入ってから何処か隠れる場所を見つけるか)

校内に入ってすぐの廊下の壁に学校の案内板があった。
各教室、職員室、校長室、音楽室、美術室、保管室、宿直室、体育館、工具室、プール、etc…
これで大体の場所はわかった。浅月はそれを頭に入れると……

「おお、美術室がある♪」
「お前なぁ、こんな時に何を、こら、一人で行くな」
「いやあ、つい体が勝手に動いちゃって」
「たく、勝手に……そうだな、美術室でもいいか。行くぞ」
「え、いいの?」
「ああ、俺はこれから一人で探索してくる。お前はそこで隠れてろ」
「え、でもあさっち一人だと危ないよ。もし殺し合いに乗った人に会ったらどうするの?」
「だから俺一人で行くのさ。こういうのは戦うにしても逃げるにしても俺一人の方が動きやすいし、
 それに探し物があるからな」
「探し物って何なの?」
「まあ、ちょっとな。とにかく行くぞ」
「あ、ちょっと待ってよ!」

階段を上り薄暗い廊下を歩くこと少し。用心しつつ歩く浅月の後ろを恐る恐るついていく宮子。

363 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:46:37 ID:mF0FEiXk0

窓から差し込む月明と僅かな非常灯の明かりを頼りに美術室へ向かう。
そして目的の部屋に辿り着きドアに手を伸ばし力を込める。
カギはかかってなかった。ゆっくりとドアを開ける。
壁には有名な画家の肖像画や長細い鏡、絵のモデル用の石像やキャンバスの山、筆に絵の具にクレパス、デッサン用の鉛筆や木炭
缶スプレー塗料に彫刻刀や粘土など。特に学校の美術室に普通にあるのもばかりで不審な物はなかった。
宮子は興味深そうに室内を見渡す。浅月も見渡したがやはり変わった物とかは特になかった。

「よし、それじゃあ、俺は学校内を調べてくるからお前はここに隠れてろよ」
「ねえ、あさっち、本当に一人で行くの?」
「ああ、その方が動きやすいからな。それとお前のデイパックと俺のデイパックを交換してくれ」
「え、何で交換するの?」
「俺のデイパックが支給品のせいで空きが少ないからな。必要になりそうな物も確保してくるから空きが
 大きいそっちと変えてくれ」
「なるほど。じゃ、いいよ」

364 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:47:36 ID:mF0FEiXk0

実は空きにかかわらずデイパックより大きな物体を大量に収納することは可能だったが二人とも支給された品が
普通にデイパックに収納出来るサイズの物ばかりだったので二人はデイパックの異常性に気がつかなかった。
こうしてデイパックを交換する二人。無論、浅月のデイパックに入れた拳銃は宮子のデイパックに入れ直す。
それなら中の荷物を交換すればいいだけの話だがそれはしたくなかった。

(こいつならこんなフィギュアやこんなひらひらな服を俺が持ってるのをからかうだろうからな)

「いいか、俺が帰って来るまでここで待ってるんだぞ。下手にうろついて逸れたりしたらシャレにならないしな」
「わかった。気をつけてね、あさっち」
「ああ、それじゃあ行ってくる」

美術室から出てドアを閉めて宮子の視界から外れるとデイパックから拳銃を取り出す。
さて、せっかく学校に来たんだ。他の参加者を探すだけでなく必要な物資を確保しておいた方がいいだろう。
まずは理科室
理緒なら理科室にある薬品で爆薬の一つや二つぐらい作れるだろう。
浅月本人は爆弾を作ったことは無いが理緒といた時に火薬作成にはどんな薬品が必要なのかある程度は知っている。
理緒と合流した時の為に確保しておいた方がいい。
無論そう上手く行くかどうかわからないが確保してて損はないだろう。
次に保健室
医療品を確保しておくのも得策だろう。

(とりあえず必要な物を確保できるだけ確保しておいた方がいいな。何時必要になるかわからないし。
 まず、ここから近い方から先に行くか)

地平線から太陽が姿を現し始め、朝日の光が窓から射し始める。
少しだけそちらに興味を向ける。

(そういえばこんな風に朝日を見るなんて久しぶりだな)
しばし朝日を眺めいたがやがて浅月はしばし目を閉じると深呼吸する。
そして目を開くともう朝日には目を向けず目標の物資のある部屋を目指した。
生きて自分や亮子や他のみんなと共にこのゲームから脱出する為に。

365 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:48:10 ID:mF0FEiXk0



◆ ◆ ◆


あさっちが行っちゃった…
やっぱり一緒に行った方がよかったかな?
でも足手まといになるのは嫌だし…
…あさっち、さっきはあんなこと言ってたけど亮子さんのことが心配なんだよね…
だって心配そうな顔してたし、それにやっぱりゆのっち達もここにいるのかなぁ…
…暗いことばっかり考えてちゃ駄目だ…
そうだ、ヒロさんと沙英さんとゆのっち、それにあさっちや亮子さんとも一緒に落書きすることを考えよう。
道具とかいっぱいあるし。
うん、少しぐらい貰ったっていいよね。


よし、これだけあれば色々出来るな。
それにしてもこれってけっこう物が入るんだ。
あれ?何だろうこれ?
なにか布みたいな……うわ、なんだこの服は。
あはは、あさっちたらこんな服、持ってたんだ。
…どうしよう、この服かわいいな…
…着てみたいな…

いいよね、着ちゃっても。
あさっちも居ないし着替えるなら今のうち……

366 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:48:37 ID:mF0FEiXk0

【G-2/中・高等学校・廊下/1日目 早朝】
【浅月香介@スパイラル〜推理の絆〜】
【状態】健康、
【装備】 レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
【所持品】支給品一式、不明支給品1(武器ではありません)
【思考】
基本:亮子を守る。歩と亮子以外に知り合いがいるなら合流したい。
1:必要な物資を確保しつつ他の参加者を探す
2:ひとまず殺し合いには乗らないが、殺人に容赦はない
3:亮子が死んだら―――
4:殺し合いには清隆が関与している……?
※参戦時期はカノン死亡後
※宮子から「ひだまりスケッチ」関係の情報を得ました。
 参加者ではゆの、沙英、ヒロについて詳しく聞いています。
※中・高等学校の大体の見取り図を把握しました


【G-2/中・高等学校・美術室/1日目 早朝】
【宮子@ひだまりスケッチ】
【状態】健康、精神的疲労(小)
【装備】なし
【所持品】支給品一式、ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!、メイドリーナのフィギュア@魔王 
     JUVENILE REMIX、 筆と絵の具一式多数、クレパス一式多数、スケッチブック多数
     デッサン用の鉛筆や木炭多数、缶スプレー塗料数種類多数、彫刻刀一式多数、粘土多数
キャンバス多数
【思考】
基本: 殺し合いには乗らない
1:この服(ハヤテの女装服@ハヤテのごとく!)を着てみる
2:ゆのっち達いるかなぁ…
3:みんなで落書きしたいなぁ…
※殺し合いについて理解しました。
※浅月から亮子について詳しく聞いています。
 鳴滝歩や他の知り合いまで知ってるかどうかは次の書き手に任せます。
※デイパックの性質に気づいたかどうかは次の書き手に任せます。

367 ◆8dU0BT3JbM:2009/09/11(金) 20:49:25 ID:mF0FEiXk0
矛盾点があるかもしれないのでまずこちらに投下します

368修正版 ◆JvezCBil8U:2009/09/11(金) 21:55:16 ID:FY7jOmbA0
朝焼けももうじき終わり、立ち込める霧も霞んでゆく。
夜は明けた。
――周りには、誰一人とていない。
自分と彼の二人だけ。
ここには、自分たちだけしかいないのだ。

ふう……、と、一息つく。
背負ってきた愛しい愛しいひとをしずかにゆっくりとその場に下ろし、
眠れる王子を起こさぬよう慈しみをもって自分の膝の上に頭を落ち着かせる。

「……ユッキーに膝枕してる。
 ユッキーに膝枕っ♪ ユッキーに膝枕っ♪
 えへへ……」

口元から漏れる笑いを隠す事などなく、安心しきった彼の寝顔を見てニヤニヤする。
こんなに自分を頼りにしてくれて、本当にうれしい。
ぽう、と頬を染めて呟く。

「ユッキー……、大好きだよ」

そして、ごめんね、といたずらっぽく呟く。
ほんとうはただ寝るなら保健室のベッドにでも寝かせてあげるべきなんだけど、
ちょっとだけ役得を楽しみたい。
それに、自分が近くにいた方が安全なんだからこのくらいいいよね、と自己弁護。

くんくんと鼻を利かせる。
大丈夫、誰も近づいてきていない。
もしかしたらさっきまでこの校舎にも人間がいた可能性はあるが、とりあえず今は誰もいないのは確かだ。

……眠った雪輝を背中におんぶしながら歩いてみると、合流したすぐ近くに都合のいい建物が2つ。
中学校と高校、それぞれの校舎だ。
最初は他人の臭いを嗅ぎ分けたから、この学校に落ち着くのはやめようと思った。
特に高校校舎からはよく臭う。
それが残り香なのか現在進行形で誰かいるのかは分からなかったが、そんな所に入り込むのは御免だった。
だけど背中の“恋人”を休ませてあげたかったから、とりあえずは妥協。
それに、放送まであと十数分。
下手に動き回るよりは落ち着いて聞いておきたいところだ。
特に、あのミズシロとかいう胡散臭い人間がどこまで信頼に値するか、名簿を見て確認しておきたい。
なあに、いざという事があれば自分が排除すればいい。

――携帯電話を開く。
やはり、放送について特筆すべき未来は記されていない。
雪輝がぐっすり眠り込んでいるからだろう、ひたすらに雪輝の寝顔の観察日記と化している。
雪輝日記の特性上自分自身が厄介ごとに巻き込めれる可能性こそあれ、雪輝が自然な目覚めを得るまで眠り続けるのは確定事項だ。
今ここで雪輝を起こせば雪輝の放送に対する反応も分かるのだろうが、そんな酷いことはしない。
放送内容や名簿とかいう他人の生死に関わる情報なんかより、雪輝の一分一秒の惰眠の方がずっとずっと価値がある。
ううん、比べる事すらおこがましいというものだ。

それに今ここにあるのは雪輝日記。
これが無差別日記なら誰が参加していて誰が死んでいるのか全部把握できるのだろうけど、自分の未来日記にはそんな機能はない。
……やはり、無差別日記を出来る限り早めに取り戻しておきたい。

とはいえ、雪輝との合流時にミズシロたちの事を話したら、必ず自分に電話を代わって欲しいと言われてしまった。
だとするなら、選択肢は雪輝が起きたその後に連絡を入れる事しかない。
雪輝の意志を踏み躙る事なんて、考え付きもしない。
だって雪輝は自分の事を探し回って疲れたからこそ、これまでの経緯を話し合っている最中にうつらうつらとし始めてしまったのだから。

とりあえず、雪輝日記の記述を見る限りはしばらくの雪輝の生存は保障されている。
ミズシロたちは少なくとも無差別日記を破壊するなんてヘマはやらかさないようだ。

369修正版 ◆JvezCBil8U:2009/09/11(金) 21:57:25 ID:FY7jOmbA0
放送後しばらくまでは、雪輝は眠っている。
今はただ、彼といるこの時を堪能しよう。

「ん……、むっ、ちゅ、んん……。ふぁ、んちゅ、んぁ。
 ユッキー、ゆっきぃ……」


我妻由乃は僅かに体を折り曲げ、そうっと雪輝の唇に自分の唇を重ねるのだった――――。


【H-3/中・高等学校中学校舎1F教室/1日目/早朝(放送直前)】

【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康、睡眠中
 [装備]:違法改造エアガン@スパイラル〜推理の絆〜、鉛弾19発、ハリセン
 [道具]:支給品一式x2、不明支給品×2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  0:ZZZ……。
  1:由乃の制御。
  2:拡声器を使った高町亮子が気になる。
  3:咲夜の生死が気になる
  4:由乃の代わりにミズシロ達に連絡を入れたい。
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。
  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。
  ※雪輝日記によると、放送後もしばらくの間は眠り続けるようです。


【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康 疲労(中)
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾75%・75%、100%・100%)@トライガン・マキシマム、雪輝日記@未来日記
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  0:ユッキーの寝顔を堪能しながら体力回復に努める。
  1:ユッキーが起きたら無差別日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  5:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
  6:ユッキーを寝かせてあげるため、邪魔者は即排除(雪輝の睡眠を相手の命より優先、逃げるなら追わない)
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。

370 ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:41:18 ID:FY7jOmbA0
あー……、やっぱり引っかかりましたね。
支援してくださった方、ありがとうございます。
とりあえず続きをこちらに。

371銀の意志Ⅱ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:41:43 ID:FY7jOmbA0
それは、自分が本当に鳴海歩だという真実だ。

「了解だ。少し長くなるし、到底信じられないかもしれないが、いいか?」

切れるカードを失ったとはいえ、これは相手から十全の信頼を得る機会でもある。
鳴海歩だからこそ、言える言葉。

相手に語るのはブレード・チルドレンの概要と、ヤイバと清隆の所業。
そして自分と火澄の対応関係について。
これならば個人の持つスキルなどを洩らす事はなく、情報流出によるリスクは非常に低い。

話しても痛くない情報を話す事で信頼を勝ち取れるのだから、利用しない手はない。

『え? え、ええ……。
 あなたが歩さんだと確信できれば、それでいい訳ですからね』

淀みない返答に、秋瀬或は戸惑いを隠しきれていない。
いくらこの相手でも、こちらが本当に歩だったとは想定外だったのだろう。
情報の信頼性を高める為、わざわざフルネームで名乗り直す事にする。

「そういや、自己紹介がまだだったな。鳴海歩だ。
 ……いくつかの名前を使い分けてるから、あのユノって子にはミズシロ・ヤイバと名乗ったけどな」

ユノが或に追求しても余計な疑惑を得ないよう予防線を張り、そして改めてミズシロ・ヤイバに端を発する呪われた血脈と神の兄弟の構図について語り始める。


**********

372銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:42:35 ID:FY7jOmbA0
**********


『…………』

「嘘だとでも思うか?」

話を終えても反応がない相手に、軽い口調で話しかける。
とはいえ、その心配はあまりしていない。

『……いえ、こんな嘘をつくのはリスクが高すぎますからね、あなたがそうするとは思えない。
 それに、作り話にしては適度にあやふやで適度に的を射ています。
 これでもう少し設定を作り込みすぎていたり、あるいは破綻していたりしたら遠慮なく突かせてもらっていたんですが』
「それは怖いな。まあ、とっさの創作にしては中々上出来だと思わないか?」
『意地の悪い事を。
 僕があなたを歩さんだと指摘してからの僅かな間に作ったにしては真実味がありすぎますよ。
 ……やれやれ、どうやらあなたを歩さんだと認めざるを得ないようです』

呆れたような口調の相手は予定が外れて心外だとでも言いたげだ。
よほどこちらに対して優位に立ちたかったと見える。
仮定はどうあれ、相手に十分すぎるほどの信頼を与える事は出来ただろう。

『しかし、火澄氏の殺害には示威的なものを感じますね。
 “神”があなた達にとって火澄氏の死がどういう意味合いを持つのか知らなかったとは考えがたい』
「……やはり、あんたもそう思うか」

語調を切り替え、秋瀬或は歩から聞いた話についての素朴な疑問を口にする。
戯れ合いは終わりという事だろう。
歩もまた、自身と同じ結論に或が思い至った事に頷きを返す。

『当然です。しかし、僕にはその意味を推し量るだけの情報が足りない。
 どうです? 全てを語ってしまっては?』
「さあな」

もっと情報をくれという或に対し、素っ気無く返す。
どうやらまだ秘匿している情報があるのはバレているらしい。
自分たちがクローンである可能性や、それを通じて見える兄の目的などについては一切を黙秘している。
当然、個々のブレード・チルドレンの名前や人物評もだ。
ただ、殺し合いに乗っているか否かは別として、或なりに“神”について考えようとしているのは事実のようである。
とは言え、これ以上は流石に迂闊に話すわけには行かない。

と、クスクスと小さな笑いを見せて或はそれ以上追求しない。
最初から期待はしていなかったらしい。

『警戒する事はありませんよ、僕も引き際というものは知っています。
 それに、この情報は秘匿すべき類のものだ。
 とくにあなたを希望と信じている、つまり火澄氏の存在すら知らないブレード・チルドレンに聞かせたならば、彼らの暴走を招きかねません。
 そして、彼らが殺し合いに参加している可能性は非常に高い。
 どこから耳に入るともしれない以上、僕は誰にもこれを語るつもりはありませんし、聞きだすつもりもありませんよ』
「話が分かるな、助かるよ」
『いえ、ただのリスクマネジメントです。
 ……持っている情報から考えても、僕よりあなたの方がこの殺し合いの動機面に関して迫る事には適任そうですね。
 どちらかといえば論理――ロジックの分野ですから、そちらに関してはお任せします。
 僕は危険人物や首輪などについての、具体的な証拠のある目前の脅威の方が得意ですし』

373銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:43:33 ID:FY7jOmbA0
意外な反応だった。てっきり自分で踏み込んでいくかと思ったが。
いや、所詮は口約束だ。おそらく今は、彼にとって直接的に利のある事をより優先させているだけだ。
秋瀬或ならば、言葉面ではこう言っていても彼なりのやり方で“神”について踏み込んでいくだろう。
……場合によっては、彼にもう少し詳しい事を話してもいいかもしれない。
ただ、今がその時でないことは確かだ。

『……そろそろこちらも改めて自己紹介させていただきましょうか。
 秋瀬或。そうですね、世界一の探偵を目指す前途有望な若者、と名乗っておきましょう。
 さて、早速ですがひとつ頼みがあります』

やはり食えない相手だ、と歩は苦笑する。
向こうがこちらを信じた事を示す意思表示として、堂々と頼み事をしてくるとは。
損して得取れを忠実に実行している。
おそらくその頼み事は、今度はこちらに向こうを信じさせる手段でありつつ、なおかつ向こうに多大なメリットがあるものだろう。

「まだ天野雪輝と未来日記のことについて聞いてないんだけどな。
 こっちが鳴海歩である事を示したら、話してくれる約束じゃなかったか?」

先約の確認をして、こちらのペースに乗せられないか試みる。
効果は期待していない。
あくまで単純に先方に唯々諾々と従いはしないという牽制だ。

『もちろんお話します。
 こちらの頼みというのは、まさしくその天野雪輝君と未来日記の話題の核心に関わる事なんですよ』

やはり思ったとおりの展開だ。
王道というのはいつも回避しづらく、そして存外重い。
多分、こちらが聞いてもいない情報まで教える代わりに、頼みを聞かせようとする算段だろう。

「……分かった、聞かせてもらおうか」
『――感謝します。
 頼みというのは他でもない、ガサイユノから彼女の未来日記――“雪輝日記”を手に入れてもらいたいのですよ』

“雪輝日記”――? と、口の中で反芻する。
今の言葉だけでも重要な情報が2つも手に入った。
一つは、ガサイユノも未来日記を持っていると言う事。
もう一つは、
 
「……やっぱり、未来日記ってのは複数あったのか」
『ええ、未来日記所有者は全部で12人。正確には11人+2人1組、ですね。
 その内、ガサイユノは未来日記所有者2ndです。
 彼女の持つ未来日記、“雪輝日記”の能力は無差別日記に比べれば遥かに弱い、と言っても過言ではありません。
 ですが、』

他の所有者について語るつもりはもちろんないのだろう。
しかし、未来日記の数が分かったのは収穫だ。
12〜13個。加えて+αがいくつか。
それだけの数の未来予知の出来る道具が、この会場内にばら撒かれている可能性がある。
相手の言動の内容を分析しつつ、言葉を区切った向こうの言葉の続きを促す。

374銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:44:12 ID:FY7jOmbA0
「どうした? 秋瀬」
『歩さん、あなたは無差別日記の弱点をご存知ですか?』

唐突な問い。
それに対し、コンマ秒単位で答えを見つけ、口に出す。

「――そういう事か」
『ええ、そういう事、です』

雪輝自身の未来は予知できないと言う説明書き。
それは明らかな弱点であり、わざわざこの場でそれを持ち出すという事から導かれるのは実にシンプル。

「……“雪輝日記”、と銘打つだけあって、天野雪輝の予知に特化しているんだな?」

弱点をカバーできる能力についての説明でしか有り得ない。

『ご明察。彼女と話した事があるなら、どんな性格の持ち主かはおおよそ気付いているかと思います』
「……そうだな、言い方は悪いがストーカー気質、って感じだったな」

苦笑して同意する。
殺し合いも辞さず、雪輝のためならばなんでもする、といった印象だった。

『……気質、は付かないんですよね、異常なことに。
 まあ、雪輝君への想いだけは本物ですし、彼もそれを受け入れてしまいましたので元と付けるべきかもしれませんが』

絶句。

「あー……、なんだ。それは確かに警戒すべきだな」
『……言葉になにか実感が篭っていますね。女性関係で苦労しておいでで?』

おそらく天野雪輝は相当に苦労性だろう。
タイプこそ違えど、似たようなのに付き纏われている事から非常に彼に共感できる。
そして同時にそういう女の厄介さも身に染みて理解できるのだ。
とりあえず、地味に人間関係を聞き出そうとする或はしたたかだと判断しつつ、無視する事にする。

『雪輝日記は無差別日記と組み合わせる事で周囲の完全予知を実現します。
 ……そして、あなたからお聞きした限りガサイさんは最初から雪輝日記を手にしている。
 雪輝君の動向は完全に把握されていると思っていいでしょう。
 そう遠くないうちに、雪輝君とガサイさんは合流する事に違いありません』

ここまで聞いて、思い当たった事が一つ。
やはり或は無差別日記に使用制限がかかっている事までは気付いていない。
あるいは気付いていない振りをし、敢えてこちらにどんな使用制限がかかっているかを言わせようとしているのだろう。

「悪い、一つ黙っていた事があるんだが。実はこの無差別日記は制限がかけられてるんだ。
 一度雪輝が所有しないと効果を発揮できないらしい」

仕方ない、その思惑に乗る。
とりあえずは制限については話しておく事にした。
誰に対しても不利益にしかならない情報なら、共通認識として持っておくべきだからだ。

375銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:44:54 ID:FY7jOmbA0
『成程、合点がいきました。
 ある程度の雪輝君の安全は確保できたと思っていたんですが、雪輝日記にも似たような制限がかけられていたならガサイさんの探索効率は著しく落ちる。
 最初から雪輝日記が使用可能なら、彼女と雪輝君にとってアドバンテージが大きすぎますからね。
 ……いい事をお聞きしました。これは僕の方でも何らかの対策を考えねばならないようです。
 あ、お礼代わりにもう一つ未来日記についてお教えしましょう。
 未来日記は所有者の主観情報を反映します。
 従って前提となる主観が誤情報を与えられていた場合、事実と相違する予知がなされるようです』
 
おそらく、未だに雪輝がユノまたは自分と合流していない理由を把握したかったのだろう。
少なくとも一つ分かった事がある。
秋瀬或は意外と律儀だ。信頼度を少しだけ上げる。
しかし、予断は許さない。警戒を緩めることなく疑問を呈す。

「……感謝する。ガサイユノの持つ未来日記については分かったが、一つ聞いていいか?」
『ああ、分かっています。それも今から説明しますから』

先んじられた。
事あるごとに機先を制そうとするのは、秋瀬或にとっては当然のことなのだろう。
この流れで聞こうとしたのは、彼が無差別日記と雪輝日記を交換させたがる理由そのものだ。
何一つ言葉にしていないのに、秋瀬或は的確に端的に説明をしてみせる。

『彼女に対する抑止力が欲しいんですよ』

「抑止力……?」

思わず聞き返した歩に、或は語調を改めてきた。

『……これは、あなたを信頼しているからこそ話す事です。
 僕以外に絶対に他言はしないで下さい。あなたのお仲間も含めてです』

頷く。
これは、相手にとっての切り札だ。
これを聞いたらおそらく自分はこの相手の要求を受け入れねばならないだろう。
だが、その価値はある。
これまでの応答は、良くも悪くも秋瀬或は情報の価値を知っている人間だと理解するに十分だ。
心して、頷いた。

「ああ」

沈黙。
その僅かな間隙の意味するものは何か。
よもや躊躇いという事もあるまいが、それだけ口にしづらい内容なのか。


『……未来日記の破壊は、本来の所有者の死を意味します』


耳に届いた内容は、まさかとは思っていたが流石に実際に耳にすると重みが違う。

376銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:45:23 ID:FY7jOmbA0
「…………成程な。……確かにそれは、十分すぎる理由になる」

この事から分かる事がもう一つ。
秋瀬或は、それだけガサイユノを危険視していると言う事だ。
だが、彼女はそこまでの脅威なのだろうか。

『未来日記……未来の記述を傷つける事は、自分の未来を傷つけるのと同義。
 あなたが今握っているそれは雪輝君の命そのものであり、ガサイさんに関しても同様です。
 あなたが雪輝日記のオーナーとなるなら少しは彼女も自制するでしょう。
 無論、無差別日記と雪輝日記がひとところにあるのは危険だというのも理由のひとつですが』

……嘘は言っていない。だが、全部を話したわけではないとも感じている。
自分だって同じ事をしている以上、それを指摘するつもりはないが。

「俺の事をそこまで信じてしまっていいのか?
 例えば今この場で無差別日記を破壊するかもしれないぞ?」
『そんな無意味な事をあなたはしませんよ。メリットが全くないですしね。
 いい加減、自分を疑えと言わんばかりの言い方はよした方がいいと思いますよ?』

お節介に苦笑する。

「……やれやれ」

とりあえずは、納得のポーズを示す事にした。
今はそれで妥協する――、落とし所としては適当だろう。
真実を全て追究する必要がないのはお互い同意の上だ。

「手段はどうする? 悪いが力づくなんてのは俺には無理だからな」

戦闘能力がこちらにない事を示し、具体案を提示させる。
当然、向こうも織り込み済みだろう。

『無差別日記との交換の形が一番無難でしょう。
 彼女の行動原理は雪輝君を至上としている。実際、彼の為なら平気で命を投げ出した事もあります。
 それに、雪輝君は未来日記を用いた戦闘を一番多くこなしている所有者です。
 日記の使用のエキスパートと言っても過言ではない。間違いなくあなたより有効に活用できるでしょう。
 確かにあなた達が無差別日記を持ち続けるメリットもありますが、それ以上に彼に無差別日記を渡した上で協力関係を築いた方が得るものが大きいはずです』

……言動に綻びがある。命を平気で投げ出すなら、他者による日記の保持は完全な抑止力には成り得ない。
同一人物から発せられた、取ってつけた理由と性格の差異――どちらがより正しいかと言えば後者だろう。
まあ、案そのものはこちらにとっても利点が確かに存在しているので黙っている事にする。
おそらく、少々の矛盾ならこちらは飲み込むと分かっていて相手も論を展開しているはずだ。

『それと、僕とあなたの繋がりは極秘裏に……。
 特に、ガサイさんに対しては気取られないよう気をつけて下さい。
 当然、あなたが未来日記のルールについて詳細を知っている事は伏せた方がいいでしょう。
 偽名ももう使わず、正直に鳴海歩と名乗った方がリスクは減ります』

……そんな黙秘は発覚したときに恨みを買う事に繋がらないか。
一から十まで相手の提案を鵜呑みにするわけにはいかない。逐一検討していく。

377名無しさん:2009/09/13(日) 13:45:43 ID:lnP5bg1Y0
向こうで支援してたら俺も猿喰らったw

378銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:45:53 ID:FY7jOmbA0
「あんたが彼女に電話して直接交渉するって手はどうだ?
 あんたを仲立ちに取引できれば、むしろ余計な誤解を生まずに交換できそうなもんだが」

『それは僕も最初考えたのですが、難しいですね。
 もし僕が彼女に電話したならばいやに敏い彼女のこと、必ずこう考えます。
 “あの秋瀬或が自分の携帯電話に電話する前に、雪輝の携帯電話に電話しないはずがない”とね。
 既に彼女があなたと連絡を取ってしまっている以上、僕たちの繋がりが見えてくるのは自明。
 即ちあなたが先刻よりも未来日記について知っている事まで彼女に悟られてしまいます』

確かに、ちょっとでも頭が回れば誰でも思いつくことだ。

『最大の問題は、あなたの手に無差別日記――雪輝君の命が握られてしまっている事ですね。
 そしておそらく、彼女はあなたが未来日記の破壊=死亡というルールを知らないからこそあなたとの一時協調に乗ったんです。
 だから、ここで僕があなたに未来日記についての情報を与えたと彼女が知ったらどうなるか、全く読めないんですよ。
 僕が恨まれるだけならまだいい。ですが、あなた達まで相当危険な橋を渡る事になるでしょう。
 少なくとも良い方向にはならないのは確かです。
 そして同時に、日記破壊=死亡のルールを把握したあなたに雪輝日記を渡す事も彼女の選択肢から消失します。
 あなたがガサイさんと無差別日記と雪輝日記を交換できるのは、日記破壊のルールを知らない事が前提なんです』

歩は口を挟まない。
ガサイユノとは少し話しただけの彼には、彼女の行動傾向について言えることは何もない。
秋瀬或の話しぶりから、まさしく爆弾のような存在だと窺い知るので精一杯だ。
どこまで本当かはともかく、一度きりの会話から得たプロファイリングにおいては否定する要素は何もない。

『――歩さん。
 いずれ彼女たちから合流の知らせがあった際、あなたから僕のこの番号に連絡して取引場所を教えていただければ幸いです。
 ……僕達は有事に備えてすぐ近くに潜むつもりですので、できれば今僕たちのいる北西エリアから向かえる距離で取引して欲しいですね。
 彼女の暴走を抑えるには雪輝君がどうにかするか、彼女以上の暴力で押さえ込むかしかありませんから。
 幸い、僕には非常に心強い仲間がいます。彼ならばガサイさんを止める事も可能でしょう』

或は取引現場に近づきたがっているとの言質を取った。その意味を考える。

ガサイユノを警戒しているから、取引における暴走を未然に防ぐ?
……それは確かだろう。しかし、この言動が心から自分を心配してのものとは考えづらい。
ただ、自分を騙まし討ちする可能性は、おそらくないとは思う。
それならば無差別日記と雪輝日記の交換の場を設けるよう薦めるなどという回りくどい方法を取る必要はない。
そして、完全な抑止力とならない以上ガサイユノの命である雪輝日記を自分が握る事にも大した意味はないだろう。

ならば答えは一つ。
雪輝日記の直接的な効果こそを、秋瀬或は警戒している。
懸念しているのはおそらく、ガサイユノの雪輝への裏切りの可能性だ。
その一方で、警戒しているガサイユノを殺すという選択肢を匂わせてはいない。
これはおそらく、雪輝からの感情を考慮したものか。
取引現場に近づきたがるのは、その辺りの微調整を場合によっては行う為だろう。
……大きな収穫だ。
少なくとも、秋瀬或は雪輝の敵に回りたがってはいない。
ならば、彼の動向が大きくスタンスを左右するはずだ。

379>>377氏ありがとうございます ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:47:22 ID:FY7jOmbA0
「……そんなに彼女は好戦的で狡猾なのか?
 確かに危うい感じはしたが、雪輝を裏切りそうにはなかったけどな」

だとするともう一人の雪輝に近しい人物、ガサイユノについてのより詳細な情報を聞き出さねばなるまい。
雪輝を愛しているのに裏切りの可能性があるとはどういうことか、カマをかける。


無言。

おそらく、不意打ちだったのだろう。
少しだけ引き攣った声で、秋瀬或が続ける。

『……僕の言動からそこに気付くとは、本当あなたには驚かされます。
 裏切る可能性は……0ではない、といったところです。
 彼女は、自分の記憶を自分の意志で改竄できるんですよ。
 都合の悪い事を、なかった事にできるんです。彼女の中ではね。
 つまり、雪輝君が彼女を拒絶すれば……、後は言うまでもないですね』

「……精神的に相当キてるやつだな」

……そこまでヤバい相手だったとは、流石に想定外だった。
そんな女を受け入れている雪輝にも相応の警戒が必要かもしれない。
その心配を見越しているのだろう、秋瀬或は雪輝のフォローに入る。

『ついでに雪輝君の性格についても、もう少しだけ詳しくお教えしましょう。
 彼は確かに臆病ですが、決断力には欠けてもいざと言うときの行動力はガサイさんに勝るとも劣りません。
 彼もまた必要ならば殺人すら辞さない性格と言えます。
 とはいえ、基本的に彼は常識人です。あまり倫理観に触れる事は望まないでしょう。
 殺人を犯すのは、あくまで必要だと判断したときだけ、です。
 直接的にガサイさんを制御できる唯一の人間という事もあり、彼に的を絞って交渉するのが無難だと思います。
 よほどの事がないと生存を第一に考える人ですから、まずこの殺し合いに乗ってはいないと思いますよ』

雪輝の心配をするなら当然の配慮だ。
しかし、おそらく色眼鏡が入っているとはいえ、作り事とは思い難い。
雪輝がガサイユノに比べ話の通じる人間なのは確かだろう。

『先ほども言いましたが、一応、ガサイさんの愛情だけは本物です。
 それだけが彼女を一つの人格として繋ぎとめているといっても過言ではありません。
 もうお分かりでしょうが、僕は雪輝君の味方として立ち回っているんですよ。
 その意味で彼女は頼りがいのある仲間であり、それ以上の具体的な脅威でもあるわけです。
 下手に殺したくはありませんが、こちらを噛む危険性だけは出来る限り少なくしておきたい。
 これから相対する事になるであろうあなたに警告しておきます。
 彼女には躊躇いというものが存在しません。その癖、判断力や直感は異常に冴えています。
 しかも雪輝日記がある以上尚更危険です。
 予知対象は雪輝君限定とは言え、雪輝君がその場に居合わせるならまず彼女を助けるよう動くでしょう。
 つまり、状況は常に彼女に追い風が吹く形で流動する事になります。
 ですから僕でも次の展開が読めない。
 歩さん、たとえあなたに仲間がいたとしても彼女相手では油断は出来ないんです。
 いや、むしろ仲間がいたならば立ち合わせない方がいいかもしれません。
 こうして僕と対等以上に立ち回れるあなたならともかく、他の方は彼女を刺激しかねない。
 危険な状況になった時、あなたの命も守れるよう尽力します。
 ……僕が取引現場付近で待機する事を許可していただけますか?』

380銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:48:01 ID:FY7jOmbA0
今ともにいる2人を考える。
安藤は信用できる。
……しかし、話の通りのガサイユノ相手では間違いなく場慣れしていない彼を危険に晒す事になる。
東郷はどうか。
彼の性格を考えれば、危険と見なしたら容赦はしないだろう。
先刻の自己紹介で自分の事を臆病だと言っていたが、それはつまり危険の芽を優先して潰す事でもある。
ガサイユノは真っ先に排除対象となるに違いない。
彼はキレ者ではあるが、融通の利かない人間だ。柔軟な立ち回りは期待できない。
生存という優先順位に勝るものはないはずだ。

それらの事から、とある決断を歩はする。

その上で、秋瀬或の提案を検討した。
結論は一つしかない。

「……分かった。その申し出を受ける事にする」

この秋瀬或が信頼を寄せるほどに、相当の実力を持つ仲間がいるのだろう。
そしてまた、約束を破るとも思い難い。

『……ありがとうございます。
 本当は、何事もなく日記の交換を終えられるのが一番なんですけどね。
 その方が僕としても雪輝君と合流しやすいですし』

婉曲的に雪輝を心配していると言う事を仄めかす。
なるほど、合流を目的としているなら自分との繋がりは確かにないほうがいい。
どうやら雪輝に関して心配しているというところだけはかなり信用してよさそうだ。
つまり、一連の提案に関しても嘘の可能性は限りなく低いだろう。
ならば、取引に際して詰めておかねばならない穴も存在する。

「俺が雪輝日記の存在を知った経緯はどう説明するんだ?
 あんたの人物評通りなら、ガサイユノは間違いなくそこを不審に思うぞ」
『ガサイさんも日記所有者であろうというのはムルムルと雪輝君の言動、
 そして無差別日記の存在とガサイさんが己の携帯電話を持っていることから十分推測できる事ですよ。
 カマをかけた事にしておけば不自然ではありません。
 雪輝日記と明言しなくとも、ガサイさんの未来日記と引き換えと言えばまず問題ないでしょう。
 無差別日記はその存在だけで相手にプレッシャーを与え得るアイテムです、無償で手渡すと言うのはむしろ怪しまれる原因になるかと』
「こっちは未来日記という事は推測できても雪輝しか予知できない日記だとは知らない事になるはずだからな。
 ……向こうにとっても利点の方が大きく感じられるわけか」
『……ええ。とにかく、僕との会話は存在しなかったというフリを徹底してください。
 そして、僕との会話で得た情報を最大限に活かせるよう、立ち回ってください。
 あなたならそれが出来るでしょう』

皮肉気に笑う。

「随分と買われたもんだな」
『当然です。この僅かな時間の会話であなたは僕を何度も出し抜いた。
 それだけで賞賛に値する事ですよ。
 いや、尊敬と言ってもいいかもしれませんね』
「それじゃあ、尊敬ついでにもう一つだけ聞いていいか?
 ちょっと有事の際に必要になるかもしれない事なんだが」

381銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:48:27 ID:FY7jOmbA0
未来日記所有者と交戦することになった際に、備えておきたい事。
慎重に慎重を期して損はない。

『…………。どうぞ。
 ただ、質問次第ではこれ以上の情報は差し上げられないかもしれませんが、それでもいいですか?』
「ああ、駄目元で聞くだけだ。
 俺も認めるよ、あんたは賢い。賢すぎるくらいにな。
 だから未だに――、あんたという個人そのものは要警戒だと思ってる。
 情報の確度は別としてな」

……鳴海歩は最後の最後まで、疑う姿勢を崩さない。
そう、だからこそ。

『く、くくくくくくく……!
 よく本人の前でそんな事が言えるものです!
 いや、あなたは本当にもっと自信を持つべきだと思いますよ』

……だからこそ、秋瀬或からすら信頼を勝ち取ったのかもしれない。
敵でもなく、単純な味方でもなく。
敢えて言葉にするならば、敵の敵、という関係だからこそ築ける信頼を。

「褒め言葉と受け取っておくよ。それで、だ。聞きたい事は簡単な事なんだ。
 未来日記に示される未来ってのは、覆す事が出来ないのか?
 例えば死が明示された場合、確定した未来しか示されないのならどんなに足掻いても死ぬ事から逃げられない。
 それじゃあ、ゲームの要素がない。なのに“前のゲーム”とやらでは殺し合っていた。
 その辺りの説明が欲しいんだ」
『“前のゲーム”、と来ましたか。ムルムルの言葉からの推測ですか?』 
「ああ。……これは俺の予想でしかないから話半分に聞いてくれ。
 新しいゲームは前のゲームの見立てになっているんじゃないかと俺は考えてる。
 だったら、前のゲームについての情報を少しでも知っておきたい」

前のゲームと新しいゲームについて、見立てである可能性を言及する。
これは、色々情報をくれた相手への置き土産のようなものだ。
もしかしたら、秋瀬或も見立ての可能性から何かを思いつくかもしれない。

『おそらくは、あなたの推測通りですよ。
 未来日記に示される未来は、記述と異なる行為をした時点で書き換わります。
 未来は可変性です。絶対の運命だって、奇跡を引き寄せたなら覆せるんですよ』


――その言葉が歩にとってどれだけの意味合いを持っていたのか。
多分、僅かなりとも推し量れる人間は多くない。
ただ、歩はこう告げた。

「……ありがとう」

或は気付いていないだろう。
運命は覆せる、という事が保障されるその意義に。

382銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:49:08 ID:FY7jOmbA0
『それでは僕も最後にもう一つだけ。
 今から言うURLにその携帯電話やPCなどの端末からアクセスしてみてください。
 きっとあなたの手助けになるかと。ちなみに、この携帯電話はとある施設で調達しました。
 ……それでは、取引場所に関する連絡を期待していますよ』

置き土産への返礼だろうか。
英字の列を並べ置いた後――、秋瀬或はぷつりと電話を切った。

「自信を持て――、か」

つー、つー、と電子音を呟き続ける携帯電話を耳から遠ざけ、鳴海歩は一人ごちる。


「そいつは無理な相談だ。だって、俺の強さは奪われてきたものの強さなんだからな」


**********


「さて、しばしのお別れだな。お互い無事に再開するまで頑張ろうじゃないか」

風が吹き、少年の髪を揺らした。
すきとおったその瞳はどこまでも真っ直ぐに、ただただ高みを見据えている。

「本当に、大丈夫なのか……? 殆ど丸腰だし、一人なんだぞ」

すぐ傍で安藤は、名残惜しそうに心配そうに、立ち竦んでいた。

「……さあな。何度も言うが、まあ、何とかなるだろ。
 それに、俺が死んでも俺の論理が生き残ればそれは俺の勝利だ。
 必要なのはそれを固める為の手段だ。だったら俺に躊躇いはない。
 じゃあな、弟と再会できるのを祈ってるよ」

片手を挙げて僅かに振り、歩は静かに踵を返す。


――これが、歩の決断だった。

歩がガサイユノ達との取引を終えるまでの、しばしの別行動。
自分が彼らとの交渉役を負う代わりに、彼らには街を探索してもらう。
携帯電話の複数確保も含めて、だ。

或から聞いたURLの行き着く先は、探偵日記という名のblogだった。
おそらく管理人は或本人だろう。
文章からして知り合いには隠すつもりがないようだし、いくつか有益な情報も得られた。

そしてインターネットが機能している事を知った歩は、ネット接続と会話のできる携帯電話の有用性も理解する。
或は携帯電話を“調達”したとわざわざ言っていた。
それはつまり、この会場内でも携帯電話の確保はできるという事だ。
ならば、情報戦を見越して携帯電話を一定数保持していた方が今後は有利に立ち回れる。
仲間が増えるなら重要性は更に増す。連絡手段として一人一台は持っておいた方がいい。

383銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:49:46 ID:FY7jOmbA0
元々東郷はこれから街へ向かうところだった。
ならば、彼と、彼に同行させるつもりの安藤に携帯電話や他の有益な道具の確保を早い内に行わせるべきだ。
リソースは有限なのだ、誰かに独占される前に手に入れておかねば後々の行動に著しい制限がかかる。

神社の探索などは一人でも出来るだろう。
ならば自分が神社に向かい、その後は竹内理緒の足取りを追う事などを目的に動けばいい。
或たちのいるという北西に向かうのも一つの手だ。
とりあえず、安藤は雪輝の携帯電話の番号を記録している。
最初の一台を入手次第連絡を入れてもらえれば、電波が届く限り近況報告は容易なはずだ。
合流も難しくなくなる。
一応、第三回放送の頃に神社に集合、といういざという時の約束事もしておいたが。

こうした、携帯電話を用いた連絡網の構想と、未来日記というアイテムに関する基本的なルール及び所有者の情報。
そして、仮に参加しているならば協力できるかもしれない知人たちの個人情報。
これらの情報を全て用いた交渉で、東郷はようやく安藤への同行へ首を振ってくれた。
これで、安藤の安全はある程度保障される事だろう。

後は、それぞれの役割を果たすだけ。


「……鳴海!」

――背後から、呼びかけられる。

「ん……?」

振り返ってみれば、ぱしりと掌の中に何かが納まった。
確認してみれば、小さな筒状の道具が存在を誇示している。

「これ! お前が持っていってくれ!」

それは武器でも情報でもない、自分たちに支給された支給品。
しかし、いざという時には確かに役に立ってくれるだろう。

――チェシャキャット。

小型キルリアン振動機――いわばバリアーのような物だ。
攻撃力は期待できない、専守防衛の道具。
それでも何もないよりは、持っていた方がずっといい。

「安藤?」
「いや……、お前だけ丸腰ってのは、納得できなくて……」

何故か下を向く安藤に、歩は呆れたような溜息をつく。
きっと何か深い理由があった訳ではないのだろう。
ただ、この別れが永劫のそれになる可能性に思い至って、純粋な心配として身を守る道具を渡したかっただけかもしれない。

「分かった。預かっておくよ」

だからこそ、笑みを浮かべて敢えて歩はそれを受け取った。
自分が丸腰に近いのは確かなのだから。

384銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:10 ID:FY7jOmbA0
「気をつけろよ、鳴海……」

……あるいは安藤は、後ろ暗い思いから逃げるように、そうすれば罪悪感を減らせるとでも言うように。
少しでも彼の力になる事で自己嫌悪から解放され、安堵したかったのかもしれない。
しかし、それは歩には知る由もない。

「そうだな、これはお節介なんだが」

それを悟っているのかいないのか、歩は話題を唐突に切り替える。
“彼女”はブレード・チルドレンの直接の関係者ではないが故に、東郷にも語ってはいない内容だ。

「おさげ髪で胡散臭くてやたらに行動力のある、企業秘密が口癖の見た目幼い変な女と出会ったらの話だけどな。
 まあ、頼りになりすぎるくらい鬱陶しいやつだから、一緒に行動して損はないだろ。
 ……あいつの事だから変装でもしているかもしれないけどな」

台詞とは裏腹のその表情に、自分の弟が恋人と共にいるときの顔を連想する。
穏やかな日々を思い出すと、久方ぶりに安藤は少し明るい気分になった。
その話題に乗って、面白がるような口調で聞きただす。

「へぇ、随分信じてるんだな。もしかして鳴海の彼女か?」
「……安藤、冗談はよしてくれ。
 実際あいつみたいなのが好みだったなら、俺自身余計な苦労を背負い込む事はなかったんだどな」

返事は期待したものとは違い、心底疲れたといった態度がアリアリと。
それでも歩の言葉には確かに信頼が篭っており、安藤はそれを照れ隠しと解釈した。
歩本人にとっては、それは真実有難くなかったかもしれないが。

「じゃあ。――またな」
「ああ。潤也に会ったら、助けてやってくれ」

そして、それきり言葉もなく二人は背を向ける。
きっとこの会話の続きをできるのだと、それを信ずるが故にもはや躊躇いはない。
後ろを向くことなく、数十メートル。
それだけの歩みを経てぽつりと呟く。

「……名前、聞き忘れたな。鳴海の彼女の」

鳴海にしてはらしくない失敗だなと僅かに苦笑を得る最中、安藤の背中に無骨な言葉が静かに届く。
 
「用は終わりか? 行くぞ」
「分かった」 

最初に向かう先は近場の旅館。
その次は未定だが、北か南かの2択ではある。
北に向かえば教会。神社と同じく神にまつわる建物である為、改めて探索してみる価値はあるだろう。
教会を出るきっかけとなった爆発は東郷が原因だったが故に、むしろ安心して行動できる。
南に向かえば街だ。デパートなどもあり、携帯電話などのリソース確保にはもってこいといえる。
ただし、その分危険は大きいだろう。


そして二人の姿は朝の霧に霞み、消えていく。


……安藤の心の中に、黒々とした汚泥を静かに落としこみながら。

385銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:30 ID:FY7jOmbA0
【G-8/旅館付近/1日目/早朝】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
 1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
 2:第一目標として旅館に向かう。その後に北上して教会に向かうか、南下して市街地に向かうかは状況次第。
 3:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
 4:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
 5:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※奇妙な能力を持つ人間について実在すると認識しました。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
 歩の参戦タイミングで生存している人間に関しての個人情報やスキルについても含まれます。
 ただし、鳴海歩自身のクローン仮説や清隆の狙いなど、歩にとっても不確定な情報については黙秘されています。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、
 未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。

386銀の意志Ⅲ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:50:50 ID:FY7jOmbA0
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(小)
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、バラバラの実@ONE PIECE
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
 1:とりあえず、東郷と同行。
 2:携帯電話の調達のため、市街地などに向かう。第一目標は旅館。
 3:軽度の無力感。
 4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 6:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい。
 7:潤也が巻き込まれていないか心配。
 8:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
 並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
 歩の参戦タイミングで生存している人間に関しての個人情報やスキルについても含まれます。
 結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
 また、鳴海歩自身のクローン仮説や清隆の狙いなど、歩にとっても不確定な情報については黙秘されています。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、
 未来日記が主観情報を反映する事、
 未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。


**********

387銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:17 ID:FY7jOmbA0
**********


「――そろそろ、十分離れたか」

未だ薄暗い森の中、鳴海歩は一人立ち止まる。
辺りを見渡し、誰もいないことを確認。
そして、そっと自分の懐に手を入れた。


これまで自分と安藤はずっと同行をしてきた。
それは自分の安全の為というのも確かにある。
目や耳は一つよりも二つ、二つよりも四つあった方が警戒にはちょうどいい。
だが、それ以上の狙いとして安藤の保護というのがあった。
初対面の人間の前で迂闊に自分の能力を喋ってしまう、場馴れの少なさ。
放っておいたり、一人で行動させたりするわけには到底行かなかったのだ。

――しかし、東郷という同行者が現れてくれたおかげで、一先ずそれを解決する事はできた。
だから、ようやくある程度安心して冒険できる。
そもそもが携帯電話という連絡手段が『2つ』ある以上、出来る限り情報を得る為にはどう考えても分散して行動した方が効率がいい。
警戒に関してこそメリットがあるとはいえ、二人ともほぼ丸腰である以上は固まって行動してもひとまとめに殺される可能性が高いのだ。


さて、秋瀬或との駆け引きを思い出そう。
その思考の中で、何故歩は先刻、
『12〜13個。加えて+αがいくつか。
 それだけの数の未来予知の出来る道具が、この会場内にばら撒かれている可能性がある』
と断言できたのだろうか?

答えは単純だ。
鳴海歩は、携帯電話を二つ持っている。

この殺し合いが始まったとき、安藤は直接に教会に転送されたわけではなかった。
……つまり、だ。
安藤が協会を訪れる前、最初から教会にいた歩には時間があったのだ。
至急品を確認し、考察する時間が。

しかしこの事を安藤は知らない。歩が知らせていない。
安藤は、『歩の支給品が無差別日記一つだ』と思っているのだ。
ルール上それは不自然なことではない。

歩のもう一つの支給品。
それは全てを疑う歩の切り札であり、だからこそ現時点で最も信用している安藤にすらそれを伏せている。

「本当に悪いな、安藤。だけど俺は……お前の信用を失う事だって選べるんだ。
 何一つ無くなっても立っている。そんなやせ我慢が、俺の武器なんだから」

……安藤が携帯電話を入手して連絡を入れた後に、歩はこの携帯電話の存在を教えるつもりだ。
いずれ譲渡する事になるであろう無差別日記の代わりの、純粋な連絡手段として。
未来日記などではない、そこらで調達したただの携帯電話と偽って。

『コピー日記』

無差別日記の能力を全てコピーしたが故に、今もまだ沈黙を守り続けているその携帯電話の存在を。

388銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:39 ID:FY7jOmbA0
“コピー日記”を手に取り、再度その能力を確認する。

『日記所有者8thの未来日記、“増殖日記”の効果で未来日記と化したレンタルblogにアクセスできる携帯電話。
 本来の孫所有者は難波太郎。任意の未来日記の内容を現在進行形でコピーできる。  
 ただし、コピーできるのは現在自分が所持している未来日記のみという制限がかかっている。
 一度コピーした未来日記は、別の未来日記に上書きされるまで機能を保持する。
 新しく未来日記をコピーした場合、それ以前に記された内容は全て失われる。
 もちろん通常の携帯電話としても使用可能』

――現在、歩は既に無差別日記のコピーを行っている。
安藤との邂逅前に試したときにblogにアクセスしたら、当然のことながら何も記されていないblogが示されるのみだった。
つまり、いずれにせよ雪輝の手に無差別日記が渡らなければ何一つ効果を発揮しないということだ。
そして今、先刻より深い森の中に入り込んだら今度はアクセスすら出来なくなった。
おそらくは電波が届かなくなったからか。
秋瀬或からの連絡が、あまり森の深い所に入り込む前に繋がったのは僥倖だったろう。
説明にある通りblogこそが未来日記の本体であり、ここにあるのはアクセス権があるだけの携帯電話なのだ。
“増殖日記”が何を指すかは現時点では不明。ただし、blogに干渉できる電脳関係の何か、とは理解できる。

「……出来る限り電波の届く街や道の近くにいたいところだが、そうすると森とか地下に隠れるのは難しくなる、か。
 全くよく出来てるな」

やれやれ、と毒づき、駆け足で今いる森の中を離脱。
山頂に近づく一直線のルート上、いきなり開けた道に面する。
――不意に携帯電話に表示されたアンテナの数が増えた。

「推測通り、道の近くでは使えるみたいだな。
 ……かといって馬鹿正直に道を歩くなんてのはもっての他か。
 罠でも仕掛けてあれば飛び込んでくださいって言ってるようなもんだ」

地図に記された山道から遠すぎず、近すぎず。
そんな距離を保って、歩はようやく座り込む。

直接道からは見えないその場所で、鳴海歩は次なる一手をコトリと打つ。

「悪いがアイデアを盗用させてもらうぞ? 秋瀬或。
 俺はプライドなんて物をかなぐり捨てるのに抵抗はないからな」

呟き、歩は手に持つ携帯電話を操作する。
そしてその手で、“探偵日記”でも“コピー日記”でもない、新たなる電脳世界を立ち上げる。


銀の意志は、揺らがない。

ただただ空の軌跡を追い続け、追い越すために。


【F-6北東/森(山道付近)/1日目/早朝】

389銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:51:59 ID:FY7jOmbA0
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(小)
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:小型キルリアン振動機“チェシャキャット”(バッテリー残量100%)@うしおととら
[道具]:支給品一式、無差別日記@未来日記、コピー日記@未来日記
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める。
 1:天野雪輝とガサイユノからの連絡を待ち、無差別日記と雪輝日記の交換に赴く。
 2:ガサイユノから連絡が入ったら、或に連絡。取り引き場所付近に潜伏してもらう。
 3:神社を目指し、主催に関する情報などを探索。その後北上し竹内理緒を追ってみる。
 4:島内ネットを用いた情報戦に関して、もしいるなら信頼できる相手(結崎ひよの)と接触したい。
 5:首輪を外す手段を探す。
 6:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 7:安藤と東郷が携帯電話を入手したら、密な情報交換を心がける。場合によっては合流。
 8:第三回放送の頃に神社で安藤たちと合流。
[備考]
 ※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています。
  また時系列上、結崎ひよのが清隆の最後の一手である可能性にも思い至っています。
 ※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません。
 ※主催者側に鳴海清隆がいる疑念を深めました。
 ※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
 ※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
 ※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
 ※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
 ※秋瀬或からの情報や作戦は信頼性が高いと考えていますが、或本人を自分の味方ではあっても仲間ではないと考えています。
  言動から雪輝の味方である事は推測しています。
 ※雪輝日記についての大体の知識を得ました。
 ※未来日記について、11人+1組の所有者同士で殺し合いが行われた事、未来日記が主観情報を反映する事、
  未来日記の破壊が死に繋がる事、未来日記に示される未来が可変性である事を知りました。
 ※探偵日記のアドレスと記された情報を得ました。管理人は或であると確信しています。

【鳴海歩の考察】
1:24時間ルールや参加者への制限の存在、ムルムルの言動、優勝への言及がないことなどから、
  誰か一人が勝ち残ることに意味はなく、殺し合いという状況そのものが目的であると推理。
2:実力者と常人が混合して参加している事から、常人こそがゲームにおいて
  鍵となる可能性があると思考。(ただし、現状では妄想程度だと判断)
3:ムルムルの言動や竹内理緒の存在などから首輪の解除や主催者への反逆は可能であり、言論も自由だが、
  そうした行動も最初から殺し合いに組み込まれていると推理。
4:『新しいゲーム』は『前のゲーム』に見立てて行われていると推測。
  『前のゲーム』とは、未来日記を用いた殺し合いである。
5:内通者が存在する可能性を想定。
6:火澄が見せしめにされたのは、火澄がヤイバの弟である事を知る人間へのメッセージと推測。

【未来日記の交換方法についての或の提案】
 無差別日記と雪輝日記の交換を要求する。その際、雪輝日記の存在は状況証拠から推測した事にする。
 歩と或の繋がりは極秘にし、或から得た情報については知らない振りを徹底する。
 偽名も使用しないようにし、有事の際に備えて或とその仲間を取引場所付近に潜伏させる。


※携帯電話用の電波は島の全域をカバーしているわけではなく、町やランドマーク周辺のみが範囲となっています。

390銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:52:19 ID:FY7jOmbA0
【小型キルリアン振動機“チェシャキャット”@うしおととら】
 HAMMR機関の開発した、対妖怪用小型結界発生装置。
 うしおととらにおける結界は物理的強度も有するが、それ以上に霊的存在への効果が高い。
 効果範囲こそ直径3メートル強程度だが、その強度は白面の者を後退させる決め手になるほどのもの。
 本来はPCから遠隔制御する事で使用できる装置だが、今ロワでは専用の簡易リモコン一つで起動できるようになっている。
 ただしバッテリー切れには注意。連続使用した場合、効果は長くとも数十分程度だろう。

【コピー日記@未来日記】
 日記所有者8thの未来日記、“増殖日記”の効果で未来日記と化したレンタルblogにアクセスできる携帯電話。
 本来の孫所有者は難波太郎。任意の未来日記の内容を現在進行形でコピーできる。  
 ただし、コピーできるのは現在自分が所持している未来日記のみという制限がかかっている。
 一度コピーした未来日記は、別の未来日記に上書きされるまで機能を保持する。
 新しく未来日記をコピーした場合、それ以前に記された内容は全て失われる。
 もちろん通常の携帯電話としても使用可能。


**********


かたかたかたかた、かたかたかたかた。

蛍光灯の真白い光の下、打鍵の音が慎ましやかに響く。
ぼんやりとディスプレイが照らし出すのは少年の顔。
眦の中にいくつものウィンドウを映して、ただただ成すべきことを為してゆく。

「……ふむ、どうやら中々目ざとい方がいたようですね」

少年――、秋瀬或は己の開いたblogに目を通し、一人呟く。
既に何件かコメントが寄せられていた。
ファックスを探偵日記の喧伝に使ったのは無事功を奏しているようだ。

寄せられたコメントの多くは、当然のことながら情報の開示を要求するもの。
つまりはコメントの公開だ。
或という蛇口を介すことなく情報を毟り取ろうとしているのだろう。
あるいは、コメント欄という対話の場に縋りつきでもしたいのか。

「――当然、こういう反応も予想通り、と。
 ですが、僕は自らの優位を手放すほど楽観的じゃないんですよ」

或は、確かに殺し合いに乗っているわけではない。
だがそれはあくまで現時点に限っての話だ。
集まった情報次第ではスタンス変更も十分に視野に入れている。
だからこそ、明確な意思の元にコメントの公開を拒絶する。

もちろん積極的に殺し合いを肯定するつもりは毛頭ない。
問題が生じなければこのまま“神”に対抗する手段を探し、人的被害を防ぐ事に尽力するつもりだ。
その為にも一方的に情報を得て選別し、発信する事が必要なのである。
つまり、情報のコントロールだ。
情報を制することで間接的にこの殺し合いに介入し、被害の拡大を止めて脱出路を模索する。
下手にコメントの公開を許してしまえば、必ず誤情報に惑わされる存在が生じる。
特に、悪意を以って偽の情報を流す輩がいる可能性を考えると尚更だ。

或としては、どう転ぼうとも自分が確実な情報ソースとして信頼される事が必要なのだ。

391銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:52:53 ID:FY7jOmbA0
そういう確度の高い情報のみをblogに公開するつもりであり、それ以上の情報が欲しいならば
個人的に連絡を取ってほしいという旨を新たに“探偵日記”の一ページに書き込んでいく。
連絡先にはblogを作成する際に必要だったメールアドレスを使えば問題ないだろう。

ちなみに“探偵日記”を公開しているのは島内ネットワークであり、インターネットには接続できない。
また、blogを作成したサービスは、自分にも見覚えのある代物だった。
未来日記所有者8th、上下かまどの有する“増殖日記”にも用いられているレンタルblogサービスだ。

今のところ、この“探偵日記”は警察署のPCをサーバーとして利用している為に未来日記として働く事はない。
だが、あえてこのサービスがblog作成用に登録されていたのは、何か意味があるかもしれない。
たとえば、上下かまどが“神”の手の物に取り込まれている、とか。

まあ、ひとまずはblogの更新を優先する事にする。
雪輝日記がおそらく機能していない以上、雪輝を探す手段として手を広げなければならない。
その為の文面を書き込もうとして――、気付く。

「……?」

コメントが一つ、新たに加わった。
見れば、URLとともに、ついさっき電話越しにやりあった相手を思わせる口調の一文が並んでいる。

『あんたのやり口を参考にさせてもらった。こいつをリンクに登録しておいてくれ』

――慎重に、そのハイパーリンクをクリックする。
よもやブラクラやウィルスという事もあるまいが、念のため作業に使っていたPCとは別のPCでアクセス。

表示されたページを眺めて、秋瀬或は笑みを浮かべた。
けっして明るい性質の物ではない笑みを。

「ふふ、ふふふ……。やってくれますね……、歩さん」

まさか、こういう手で自分を介さない情報公開の場を設け、こちらの戦略を潰してくるとは。
……これでは、blogはもはやただ情報の提供を受けて発信するだけの窓口としてしか機能しない。
それはそれで十分に意味があるものだが、当初の想定よりも大分重要性は低下しているだろう。

「いいでしょう、あなたの思惑に乗って差し上げます。
 ……あなたならいずれ、僕に頼らなくても“これ”を広める方法を思いつくでしょうしね。
 だとするなら、むしろここであなたに貸しを作っておく方がいい」


先刻のやり取りを思い出す。
鳴海歩は、実に見事な相手だったと言えるだろう。
日記所有者を含めてすら、頭脳と言う点で彼に及ぶものはそういまい。
敢えて挙げるなら我妻由乃だが、冷静さと言う点で彼には数段劣る。
その分彼女は何をやらかすか全く計算できないところが恐ろしくあるのだが。

……だが、自分が負けたわけではない。
勝敗はまだイーブンだ。

392銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:20 ID:FY7jOmbA0
――例えば。
歩は未来日記に関しては、根本的なルールをいくつか知っただけだ。
未来日記の所有者や能力についての情報もないし、DEAD ENDについての知識もない。

何より、“前のゲーム”の目的についての知識すら鳴海歩は知らない。
未来日記に関する一連の事象に関して、自分は彼より遥かに多い情報を握っている。

確かに、自分が由乃の裏切りを警戒していることに気付かれたのは想定外だった。
しかしまだ、我妻由乃が偽者である事についての情報を握っているのは自分だけなのだ。
あの雪輝を直接動かしうる情報を握っている事は、自分の最大のアドバンテージと言えるだろう。

「……ですがね、歩さん。
 僕はあなたに全面的に協力するつもりはありませんよ?
 ただ、あなたの作ったアイデア宣伝の場を紹介するだけです。
 まあ、そのアイデアを実行する人の心当たりが、あなたには無きにしも非ずなようですが……」

その人物がここにいる事を確信している訳ではないのだろう。
つまり、このアイデアはまだ実行に移されていない。
その段階から観察していけば、自分にとっても多くの情報が得られるだろう。
たとえば、彼と自分に同時にタレ込みがあれば、それを示し合わせる事で確度を高められる。
自分と歩の繋がりを内密にするからこそできることだ。

――と、その時。

「或、いくつか使えそうな物を調達してきたんで渡しとくぞ。
 最低限の護身にはなるだろうしな」

ガチャリとドアノブが回り、リヴィオが姿を現す。
手持ちぶたさだと言って、彼は周囲の哨戒を行っていたのだ。
そのついでに使えそうな物を見繕ってきたのだろう。

「助かります。……ふむ、こんな物まで残ってたんですか。
 これは確かに色々と使えそうですね、特に護身には事欠かない」
「ああ、流石にあのオカマの武器は物騒すぎるんでな。もう少し融通の利く武器を選んで持ってきた。
 ――しかし、ここは警察なんだろ? それにしちゃあ備えてある武器が貧弱すぎる気もするが……」
「いえ、十分すぎるほどですよ。それに本来は治安が良かった証拠です」

立ち上がってリヴィオのほうへと向かう或。
彼の持ってきた品物を物色し、その中の一つを手に取る。
目をすがめ、はあ、と嘆息する。

「……ニューナンブですか。成程、やはりここは日本国内のどこかであるようですね。
 まあ、建物の建築様式や使用している文字からしてそうだとは思っていましたが……」
「こいつの名前か? ニッポン……てのはお前さんの生まれたとこだったよな、俺たちはそこにいるのか」

くるくるとリボルバーを弄び、すぐに抜ける位置に収める。
リヴィオの問いに頷いて説明。

「この銃は僕の出身国の官公品なんですよ。お上謹製だけあって、外国にはあまり出回っていないんです。
 性能面でもまあ、そこまで需要がある銃じゃありません。
 ついでに言えばこの銃は生産終了しているので、この島は最新型が配備されていない僻地と見ていいでしょう」
「うーん……。俺はその、ニホン語ってのを喋ってるつもりはないんだがなあ。
 このポスターの文字とかも普通に読めるし」

393銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:39 ID:FY7jOmbA0
リヴィオの目線の先にはにっこり笑みを浮かべる○ーポくんのポスターが張られている。
日に焼けて色褪せたピー○くんは、正直全く役割を果たしているようには思えない。
……それだけのどかな島だったのだろうか、ここは。

「ただ、いずれも状況証拠に過ぎません。
 現状、日本によく似ているだけの平行世界だと言っても信じてしまえそうなくらいですからね」

肩をすくめ、それから再度席に着く。
PCに向かって更新作業の続きを行うのだ。

「どうした或、不機嫌なんだか楽しいんだかよく分からない顔だな」
「いえ、どちらでも正解ですよ。
 ……まさかここまでキレる方がいたとはね。世界は、広い。
 ですが――、」

不敵な笑みを浮かべ、秋瀬或は淡々と告げた。
あたかもそれが確定した未来であるかのように。

「僕の探偵としてのプライドにかけて、鳴海歩さん、あなたより先んじて突き止めてみせますよ。
 このゲームの真実に関してをね」


【C-02/警察署/1日目/早朝】

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2
[道具]:支給品一式、各種医療品、 天野雪輝と我妻由乃の思い出の写真、不明支給品×1(確認済み。説明書が付属するような類のアイテムではない)、
    携帯電話、A3サイズの偽杜綱モンタージュポスター×10、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
 1:雪輝たちから連絡が来たら歩に自分にも連絡してもらい、日記取引場所に潜伏。
   雪輝以外の日記所有者と接触、合流するかどうかは状況次第。
 2:我妻由乃対策をしたい。
 3:探偵として、この殺し合いについて考える。
 4:雪輝と連絡がつかなければ従来の方針通りリヴィオに同行しつつ、放送ごとに警察署へ向かう。
 5:偽杜綱を警戒。モンタージュポスターを目に付く場所に張って置く。
 6:蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
 7:探偵日記を用いて雪輝達の情報を得る。
[備考]
 ※参戦時期は9thと共に雪輝の元に向かう直前。
 ※病院のロビーの掲示板に、『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』というメモが張られています。
 ※リヴィオの関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。
 ※鳴海歩について、敵愾心とある程度の信頼を寄せています。
 ※鳴海歩から、ブレード・チルドレンと鳴海清隆、鳴海歩、ミズシロ・ヤイバ、ミズシロ・火澄、
  並びにハンター、セイバー、ウォッチャーらを取り巻く構図について聞きました。
  ただし、個人情報やスキルについては黙秘されています。
 ※螺旋楽譜に記された情報を得ました。管理人は歩であると確信しています。
 ※鳴海歩との接触を秘匿するつもりです。
 ※【鳴海歩の考察】の、3、4、6について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。

394銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:53:59 ID:FY7jOmbA0
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@現実×2、警棒@現実×2、エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、手錠@現実×2、.38スペシャル弾@現実×20、詳細不明調達品(警察署)×1〜3
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
 4:ロストテクノロジーに興味
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。
 ※警察署内にいたため、高町亮子の声は聞き逃しました。


※島内では接続できるのはローカルネットワークのみです。
 また、上下かまどのblogサービスと同様のサービスが提供されています。


【ニューナンブM60(5/5)@現実】
 警視庁や公安、海上保安庁御用達の日本国製リボルバー。
 S&W M36をベースとして開発しており、装弾数を6発から5発に減らす事で軽量化を図るという設計思想を受け継いでいる。
 シングルアクションとダブルアクションどちらも備えてはいるが、ダブルアクションの性能は良くないらしい。
 威力や命中精度はさておき、使用した時の安定感は日本人にとってはちょうどよく調整されている。
 グリップが大きすぎる、という話もあるが……。

【.38スペシャル弾@現実】
 S&W M36やニューナンブM60に使用できる弾薬。

【手錠@現実】
 手首と手首を連結させ、ある程度の自由を拘束する道具。
 官公品には鋼鉄製のものアルミ合金製のものがあるが、これは前者。
 もちろん鍵とセット。特殊な性癖を持つ人にも大人気。

【警棒@現実】
 アルミ合金製で伸縮可能。
 人を殴る為の道具だけあって扱いやすい。

395銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:54:20 ID:FY7jOmbA0
**********


探偵日記 管理人名:HN:coin_toss

一日目 早朝

こんばんわ。いや、もうおはようございますかな?
とりあえず第二回目の更新となる今回だけど、残念な事に僕の方に目ぼしい収穫はない。
もうすぐ放送と言うこともあって迂闊に動けないしね、生存報告代わりの更新だ。
強いて言えば、この島がどこに位置しているかの手がかりを少し手に入れたことくらいか。

この島の建築様式や生活物資の特徴、使われてる文字の体系から考えて、僕はこの島を日本のどこかでないかと考えている。
日本を知らない人は、知っている人に出会ったら教えてもらえばいいだろう。
住みやすいし治安もいいから、一度は本土を訪れてみて欲しい。
刃傷沙汰を起こす事だけは勘弁して欲しいけどね。

それと、どうやら耳の早い人たちがいたようなのでコメントを抜粋して紹介しよう。
原文そのまま、改変が加わっていない事をコメントを送ってくれた諸君は確認して欲しい。

ああ、ちなみにコメントの抜粋は、このコメントは公開しないでほしい、と言うような内容が含まれていれば一切しないつもりだ。
情報ソースはしっかり守るよ。
抜粋したコメントは公開設定に変えているので、ソースが欲しい人は前の記事を参照して欲しい。


『管理人さんへ。
 面倒なのでコメント欄公開しません?
 情報は共有した方がいいと思いますよ☆』

『俺はフェアな取引を望む
 まずは全てのコメントを公開しろ』

……確かに、君たちの言い分も一理ある。
だけど、出来る限り僕はこのblogを“確度の高い情報”の発信場所として位置づけたいと考えているんだ。
君たちのように情報の扱い方が上手い人ばかりじゃない以上、ここは安心して記述を信じられる場所でありたい。
そして、安心して情報を託せる場所でもありたいんだ。
可能ならば裏を取ってから――それが出来なくとも十分信頼できると判断したらここに記すつもりだ。
画像や音声、動画も場合によっては組み込んでね。
だから、確度の低い情報であっても欲しいならば、出来れば僕に直接メールを送って欲しい。
個人的な依頼も受け付けているからね。
もちろん、情報ソースとなってタレ込んでくれる場合でも大歓迎だ。
ただしその場合は目に見える形のソースをこのblogで提示できないから、皆に知っておいて欲しい情報はコメント欄に書き込むべきだろうね。


そうそう、君たちに耳寄りな情報を。
この会場では、探せば結構物資を補給できるようだよ。
現に僕も携帯電話を調達できた。ネットにアクセスするには手に入れておいたほうがいいと思う。
……これで、少しは信用してもらえたかな?

396銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:54:44 ID:FY7jOmbA0
『あんたのやり口を参考にさせてもらった。
 こいつをリンクに登録しておいてくれ』

……ふむ、確かに僕以外にも情報発信の場はあったほうがいいかもしれないね。
一方的に与えられる情報を危険視するのは上の二人に限らないだろうし。
僕は僕で信頼性の高い情報を発信し続けるつもりだけど、この新たなblogの管理人さんの記事も役に立つかもしれない。
という訳で、リンクに“螺旋楽譜”を登録させてもらったよ。
こんな状況下だからこの人の情報を信頼しろと言えないのが残念だけど、もし情報発信の気概が本物なら頑張って欲しい。


P.S.
君たちはここに招かれた際、シルエットの一人があのムルムルと話していた内容を覚えているかい?
そう、1stと呼ばれていた彼ないし彼女だ。声からして男性だとは思うけどね。
そしてシンコウヒョウと呼ばれた男と対峙した男性も、だ。
僕は彼らがこの状況に関して何らかの手がかりを握っているのではないかと考えている。
だから、彼らについて情報を持っている人は僕に連絡を入れて欲しい。
このゲームに関する重要な手がかりが手に入れば、随時ここで公開していくつもりだ。
代わりに、君たちが欲しい情報があれば優先的に、更に場合によっては独占的にそれを伝える事を確約しよう。


Link:
螺旋楽譜


**********


螺旋楽譜 管理人名:HN:水濁

一日目 早朝


まず最初に言っておくと、このblogは不定期更新だ。
先の“探偵日記”の主みたいにまめに更新していくつもりはない。
もしかしたらこれっきり更新しない可能性もあるわけだが、まあ、沈黙してるからって死んでるとは限らないって事だ。

ついでに言うならここのコメントは全部公開する設定だ、意見があるなら勝手に書き込んでくれて構わないぞ。
代わりに返信するかどうかも期待しないでくれ。

さて、前置きを無駄に喋っても仕方ないしな、伝えるべき事だけ伝えておく事にするよ。

単刀直入に言えば、この殺し合いは首輪を外したり、“神”に反逆する可能性すらも組み込まれて運営されている節がある。
だから、あんたらもこの首輪をどうにかしたり、脱出する為の方策をひたすらに考え続けてくれ。
表面上起こっている事に流されるな。そして、それを実行に移せ。
俺みたいなのでもいいから人手が欲しいんだったら、連絡を入れろ。
ただし役に立つ保証は無いんだけどな、まあ駄目元で頼ってみろとだけ言っておくよ。

397銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:55:28 ID:FY7jOmbA0
保証、と言えばどうしてそんな事が言えるのかっていう保証を求められそうだな。
まあ、確かに確実な保証は無い。
だが少なくとも、あんた達がこれを目にしているって事は、反抗的な言動すらも検閲されてないって事だ。
そして、あの最初の場所でムルムルってやつが言っていた、
『我等二人を除く、この中の人間が最後の一人になればそこでゲーム終了。その過程においては何の反則も無い』
という台詞。
『その過程においては何の反則も無い』
これは暗に、首輪を外したりするような、一見すぐにでも粛清されかねない行動すらも許可される、とも取れるだろ?

あとは、そうだな。
具体的に首輪を外せそうな技術とその持ち主が、この会場には何人か存在している。
たとえばそれが工作技術だったり爆発物知識だったり、錬金術なんて物だったりな。
あんた達の中にも心当たりがある奴がいるはずだ。
あたかも、首輪を外してください、と言わんばかりにな。

その上で、あの時言われたルールを検討してみてくれ。
それぞれのルールがどういう意図の下設定されているのか。
なぜルールにあって然るべきルールが存在していないのか。
そして、どうしてわざわざ言う必要のないことまで連中は口にしたのか、を。
そうすれば、この殺し合いが何を目的としているのか、輪郭が見えてくるはずだ。

……自分でも分かるが、不確かな推測だな。
だが、それでもこの文章を見て多少なりとも希望を持った奴がいるかもしれない。
そういう奴に言っておく。

甘えは捨てろ。
この程度の事は、最初っから仕組まれてる茶番に過ぎない。
全ての情報、全ての虚実、全ての状況は、そう推測できるように敢えて配置されているだけだろう。

与えられた情報で辿り着ける真実なんて、更なる真実を覆う殻に過ぎないんだ。
そしてその殻は、マトリョーシカのように何重もの入れ子になっている。
確かに、首輪の解除や反逆は可能かもしれない。
脱出すらも可能かもしれない。
だが、それだけだ。
単純にここから脱出できたからといって、これまで以上の絶望がその先に待ち構えている可能性は限りなく黒に近い。

結局、俺に言えるのはこれだけだ。
俺たちは全員、運命に絡め捕られた操り人形に過ぎない。

情報を握った事に慢心して、絶対者にでもなったつもりにはなるな。
自分の思った通りに事が推移したからといって、支配者にでもなったつもりにもなるな。

それらが全て、誰かの手で踊らされているだけである事を心に刻め。
そういう事すら可能にしかねない人間を、俺は知っている。

俺の言葉を全て信じるな。
そして存分に考えろ。
自分を救えるのは、自分だけなんだからな。

398銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:55:50 ID:FY7jOmbA0
……ああ、最後にこれは宣伝を兼ねた私信みたいなものなんだが。
もしあんたがここにいるなら、掲示板を作って管理人に納まってくれ。
俺がやるよりもあんたの方が適任だろうしな。
あんたなら十分それを生かせるだろ。
心当たりがあるなら行動に移してくれ、連絡をくれたらここにリンクを張る。


Link:
探偵日記


**********


……さて、唐突な話題ではあるが、一つの事について考えてみよう。

秋瀬或の天野雪輝評には一つ間違いがある。
それは、“よほどの事がないと生存を第一に考える人ですから、まずこの殺し合いに乗ってはいないと思いますよ”と言う一文に関してだ。
成程、確かに『今ここに呼ばれた雪輝』ならば、その言葉の通りだろう。
だが、『今ここに呼ばれた秋瀬或』もまた、知らないのだ。
父母の死により何かのネジの外れてしまった天野雪輝のことを、この秋瀬或は知らない。
変貌を遂げた彼と出会う直前の時間軸から、彼は呼び寄せられているのだから。

例えば、だが。
もし何かの因果によって天野雪輝が父母の死をその耳に吹き込まれたなら。
あるいは、未来に起こる父母の死を知ってしまったなら。
……あるいは。
今度こそ信じ通すと決めた誰かを、目の前で失ったなら。

その時、雪輝はおそらく鳴海歩や秋瀬或を含むこの会場にいる全ての人間にとって、最悪の伏兵となるだろう。
その全知の力を持ってありとあらゆる相手を迷いも躊躇いも容赦もなく陥れ、地獄に引きずり込むに違いない。
新たなる神とやらを蹴落とし、自分がその高みに成り代わる事を目的として。

399銀の意志Ⅳ ◆JvezCBil8U:2009/09/13(日) 13:56:22 ID:FY7jOmbA0
なに? 対策がある、と?
鳴海歩が切り札としてコピー日記を隠し持っているではないか、と?

いやいや、そんな都合のいい話があるはずないだろう?

たとえ鳴海歩が無差別日記を写し取り、“覗き見る”道具を手にしていても、実はそれは全く以って頼りにならないゴミクズだ。
未来日記とは、元々はただの日記の延長機能でしかない。
つまり、手動で偽りの内容へといくらでも書き換える事が出来る。
残るのは本来の所有者だけが一方的に未来の情報を得て、覗き見る出歯亀が哀れにも誤情報に踊らされる惨めな様だけ。
日記本来の所有者でない鳴海歩は、それを知らない。
しかもコピー日記は、その本体である“増殖日記”を破壊されても機能を止める。
彼が切り札と確信する道具は、奈落の上に張った薄氷でしかないのだ。


警告する。
天野雪輝に、無差別日記を渡してはならない。


――しかし、この警告は誰一人にとて届く事はない。
事態は確実に雪輝の手に無差別日記が戻る流れに乗っている。

果たして雪輝の変貌は殺し合いの中で起こるのか。
それが鳴海歩と天野雪輝の邂逅の直後に起こるのか、殺し合いの終焉を目前としたその時に起こるのか。
あるいは、全ては杞憂に過ぎないのか。


未来を語るはずの日記は、今もまだ沈黙を続けている。

400 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:31:56 ID:vXfvemNU0

グリフィスとゆのの二人は当初の目的である旅館を目指し、道に沿いながら北上しつつあった。
あれから、しばらくゆのが落ち着くまで時間がかかったが何とか落ち着きを取り戻していた。


「ぐす……すみません、グリフィスさん。あの牛のおばけを見たら怖くなって……ぐす」
「仕方がない。あんなモノが突然現れれば大の大人でも震え上がる。寧ろ、君は立派だ。あんな出来事があってもこうして毅然としてる」
「い、いえ! 全然立派じゃありません! あんなでっかい牛のおばけに一歩も引かなかったグリフィスさんの方がずっと立派です!!」
「私は何もしていない。ただ向こうが勝手に何処かに行ってくれたおかげだ」

グリフィスはゆのの手放しの称賛を止めさせようとする。

「で、でも、グリフィスさんが居なかったらどうなってたか……本当に凄かったです!」

だがそれでもゆのは称賛するのを止めず、心底尊敬したような眼差しを向ける。
巨大な魔物と睨み合って一歩も引かなかったグリフィスを見て感銘を受けたと言うべきか。
彼女自身が美化してる部分も多分にあっただろがゆのの心を掴んだのは確かだった。
グリフィスは彼女の称賛の言葉に困ったように苦笑を浮かべる。

「それよりゆの、少し聞きたいことがあるのだが?」
「はいっ、何ですか、グリフィスさん?」
「君がさっき言ってた日本のことについて聞きたい」
「え? は、はい。いいですよ」

401 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:33:14 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


グリフィスさん、外国人だから日本のとこが知りたいのかな。
でも日本語がこんなに上手なのにどうして……
あ、日本人から日本のことを直接聞きたいからだよね。
そうだよね。私も英語がペラペラなら一度外人さんにお話したいと思うし。
こんな時だけどこんな風に男の人とお喋りするなんて初めてだな……
もしかしたら生まれて初めてかもしれない……

確かにゆのが男性と、しかもこのように年上の男性と二人きりで会話する機会は彼女にとって初めてだった。
最初の出会いは恐怖に囚われて彼に殺されると思いこみ、酷いことを言ってしまった。
それなのに、そんな酷いことを言った自分に君を守ると言ってくれた。
こんな殺し合いの渦中に放り込まれて、一人ぼっちで震えてた自分を。
もし彼がいなかったら今頃、自分はどうなってたか。
先程も突然、巨大な牛の魔物が現れた時も自分はショックで何も出来なかった。
人は急に思い掛けないことが起きると震えることすら出来ないのだと初めて知った。
でも彼は、グリフィスは違った。
魔物と対峙し剣を突き付ける姿は本当に物語の英雄のようだった。


つり橋効果と言うべきだろうか。もし今のゆのの様子を冷静に見てる者が居ればそう断定したかもしれない。
もっとも、そうなってしまったのもある意味仕方のないことかもしれない。
グリフィスのまるで神がその手で自ら創造したような整った容姿、人を魅了する穏やかで爽やかな口調、
気高い意思を秘めた眼差し、そして本人からまるで滲み出るかのようなカリスマ。
彼女の平凡な、そしてそれほど長くない彼女の人生の中で関わったことのある他人の中で
突然彼女の目の前に現われた彼はそのどれとも違った。
それにゆのは人を憎んだり疑ったりする負の部分が限りなく小さい。
どちらかといえばお人よしな善人を絵に書いたような少女である。
実際に今もグリフィスがゆのを守るのも彼女を利用する為だとは欠片も思いもしていなかった。

402 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:35:54 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


「うう……すみません、グリフィスさん。私、そこまで詳しくなくて……」

グリフィスにゆのの普段の生活や親友のことを聞かれ、最初はゆのも喜んで普段の生活を語ったのだがグリフィスの質問が

『その学校で普段学んでる学問の内容は?』
『皆が皆、この携帯という物を持っているのか?』
『ゆののご両親の御身分は?』

など質問の内容のレベルが上がり始めてから雲行きが怪しくなりさらに

『民主主義? それはどういったモノなのだ?』
『日本にも王族がいるがどうやって政治もしてないのに君臨しているのだ?』

質問が日本の一女子高校生の範疇を超え出すし、ただの少女のゆのにとっては難しい質問になると
ちゃんと答えることができずあたふたするしかなかった。
内容の中には幾ら何でも現代人なら知ってるような内容も含まれていたがゆのがグリフィスを外国人と思いこんでいた為
『日本はこんな国なんだと誤解してるのかな?』『日本にも○○や△△とかあるのに』と思うくらいで特に不審とは思わなかった。

「いや、ゆののおかげで日本のことを色々と知ることが出来た。礼を言うよ」
「いえいえ! 私がもっと詳しく知ってたらちゃんと説明出来たんです! ああ、沙英さんかヒロさんか居てくれたら……」
「ゆの、その二人は君と同じ日本人だね。………その言いにくいことだが………君の知り合いも………」

その言葉を聞いた途端、それまで和気あいあいとグリフィスとお喋りしてたゆのが青ざめた表情で俯いた。

「………グリフィスさん、私、私、………」
「わかってる、ゆの。わかっているよ………だが今は旅館へ向かおう。そして他の参加者を探して合流しよう。
 今できることはそれだけだ………」
「………はい」


………宮ちゃん、沙英さん、ヒロさん………みんな大丈夫だよね………

403 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:36:52 ID:vXfvemNU0


◇       ◇       ◇


こうして二人が歩くことしばし、目的地である旅館に着いた。
やっと着いた。ゆのはほっとした顔をして旅館内へと向かい……その肩をグリフィスに掴まれ止められた。

「どうしたんですか、グリフィスさ……」
「静かに。人が居た形跡がある。私の後ろに下がっているんだ」

グリフィスの低く鋭い声を聞き、ゆのが顔を緊張で引きつらせる。
剣を何時でも抜けるようにしながらグリフィスは旅館内に踏み込む。
ゆのも恐怖でびくびくしながらそれに続いた。



結論から言えば旅館内には誰も居なかった。
館の床には靴が激しく擦れた様な跡、壁に何かがぶつかった様な傷跡があり何か騒動が起こったことを想像させた。
台所には二人分の料理、だが手がまったく付けられていない。
おそらく食事をしようとした。だが手をつける前にここを出て行かざるえなかった。
第三者の襲撃を受けて逃走したのだろうか。だが旅館には大きな血痕や死体らしきものは無かった。
そして料理はすでに冷えきっていた。
旅館を出てから数時間経ったという所だろう。

404 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:37:28 ID:vXfvemNU0

「どうして出て行ったんでしょうね……」

ゆのは力無くそう呟く。
死体やゲームに乗った参加者に出会わなくてほっとした反面、
他の参加者、特にひだまり荘の面々と合流出来るのではという期待が外れてがっかりしたようだ。

「ゆの、この様子ではここに居た人間は帰ってこないだろう。だがここに別の参加者が来るかもしれない。
 私が外で見張るから君は体を洗って来るといい」

そんなゆのにグリフィスは当初に目的を行うよう促す。

「え、でもいいんですか? もし、その……」

だがこの状況でお風呂に入ることを優先出来るほどゆのに度胸がある訳がなく。

「安心したまえ。君を置いて行くような真似はしない。少しは私を信用して欲しいな」
「い、いえ! グリフィスさんを信用しないなんてそんなことしません!」

だがグリフィスに優しく諭されれば反対出来る訳もなく。

「そう言って貰えると嬉しいな。ではまずは君の代わりの服になる物を探そう」
「は、はい!」

結局、グリフィスの言い分が通ることとなった。

405 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:38:06 ID:vXfvemNU0


***


あの大きな牛のおばけはなんだったんだろう……
それに私達を拉致して殺し合えと命令したあの女の子とピエロの人は何者なんだろう……
確かに気がついたらあそこにいてそしたら今度は森の中にいつの間にかいて……
まさか宇宙人? 宇宙人なの?
宇宙人が地球で地球人を拉致して変な金属を埋めこんだりモルモットにしたりするって聞いたことある……
だから私やグリフィスさんを拉致したの!?
で、でもテレビや本で見た宇宙人とは姿形が全然違ってたし……
それにあの牛のおばけも宇宙人なの?
あれ? あれれ?


それに宮ちゃん、沙英さん、ヒロさんもここに連れてこられてるの?
宮ちゃんも沙英さんもヒロさんも私よりしっかりしてて、でも私と同じただの高校生で……
……大丈夫だよね?……私なんかが大丈夫だからみんなもきっと大丈夫だよね?

うん、きっとそうだよ。殺し合えと言われて殺し合うなんて出来っこない。
みんなできっと無事にひだまり荘に帰れる。そして、またみんなで学校に行って絵を描いて遊んで……
絶対、何とかなるよ。うん。

406 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:38:55 ID:vXfvemNU0

着替えの探索は着替えになる浴衣はすぐに見つかったのだがやはり下着までは無かった。
ただ銭湯の入り口付近に無料コインランドリーがあったので洗濯と乾燥は思ったより早く済みそうだった。
ゆのが入浴する段取りが出来るとグリフィスは『では私は外で待っていよう。ここに来る参加者がいないとも限らない』と
言って外で見張ってくれることになった。


グリフィスさんって本当に頼りになる人だなぁ……
強くて、かっこよくて、何でも出来て……
グリフィスさんに比べたら私なんか……
ううん! そんなことない! 私にだって何か出来ることはあるはず……
でも、私に何が出来るんだろう……
グリフィスさんの足手まといになってばっかり……

とりあえずお風呂から上がってから考えよう。


脱衣所で服を脱ぐと汚れた衣服を洗濯機に放り込み、石けんとタオルを持って大浴場へのドアを開ける。

「うわぁ、すごい……絵に描いたような温泉だ(はぁと」

少なくともこの時だけはゲームのことを忘れることが出来た。
そして入ろうと大浴場に一歩足を踏み入れ……ファ○リーピュアに足をとられてコケた。

つるん〜 
「え?」

ゆのは足を滑らし、後ろにひっくり返り……

びったーん。

転倒、半回転してしたたかに後頭部を打ちつける。
しかも、頭から思いっきり、漫画のような擬音語付きで。

「きゅう……」

407 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:39:40 ID:vXfvemNU0

【G-8/旅館内 大浴場『ムルムル温泉』/1日目 早朝】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:朦朧、後頭部に大きなたんこぶ
[服装]:全裸
[装備]:タオルと石けん
[道具]:支給品一式 未確認支給品0〜1、PDA型首輪探知機
[思考・備考] 温泉に入って奇麗になった後、自分に何が出来るか考える
1:きゅう……
2:宮子、沙英、ヒロに会いたい
3:グリフィスさんに守ってもらう。
4:でも守られるだけじゃ嫌。私に出来ることって何かな?
5:まさか私達を拉致したのは宇宙人?


※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします
※脱衣所に彼女のデイパックと浴衣があります。彼女の服は洗濯機の中で洗濯中です

※G-8旅館一階の大浴場の床が、ファ○リーピュアで大変滑りやすくなっています。

408 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:40:38 ID:vXfvemNU0


×       ×       ×


グリフィスはゆのと別れた後、これからのことを思案することにした。

ここに最低二人の誰かは居た。だがすでに数時間前にはここを出て行った。
ここで誰かと出会えるのではと思っていたがあくまでも不確定だったのでそれほど失望はしてはいない。
可能なら合流したかったのは事実だ。しかし当ても無く探索するのは時間の浪費でしかない。
そろそろ夜が明ける。出来れば第一放送までの期間までにどこかの大集団に潜り込むか他の参加者を加えて戦力を充実させたかったが
今まで出会ったのはあの少女と不死のゾッドだけ。
放送が始まれば名簿に参加者が浮かび上がり死亡者と禁止エリアが放送される。

そうなれば自らの仲間や知人を保護しようとやっきになる者、殺された者の敵を討とうと血道をあげる者、
親しい者を殺されて混乱し絶望する者、参加者が減ったことでゲームに乗る決意をする者、
例え、これまでに上手く参加者を纏めることが出来た集団がいたとしても綻びが生まれる。
ゾットのような化け物もいる。その中で生き残るにはその分裂し、混乱しそうな他の参加者らを利用し、あるいは欺き、それらをまとめること。
そして出来るならその集団を指揮するのは自分であるのが望ましい。

グリフィスにはそれが困難であっても不可能だとは思わなかった。
自分には、それらを従えさせられるという自信が、確信があった。

409 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:41:30 ID:vXfvemNU0

それにしてもあの少女、最初はただの娘だと思っていた。いや、実際にはただの娘なのだろう。
だが彼女が語った日本という国、その国での彼女の普段の生活や未知のテクノロジーは彼の知識や想像を遥かに超える。
自分が知らない世界、この世のものとは思えない世界の住人、信じがたいがそういう存在が実在し参加者としてここに
居ることを前提にして行動した方がいいだろう。
そしてもっとそれらの情報を集める必要がある。
更にそんな存在を召還した神と名乗る存在。あのゾッドすらこのゲームの参加者として引っぱり込めるほどの力量だ。
連中はただ神を気取るだけの愚昧な輩では無いのか? 見世物の為にこのようなことをしたのだろうか?
正直、興味を掻き立てられると同時に戦慄を覚える。伊達に神を名乗ってるわけではないと言うところか。
上手く首輪を外すことが出来たとしてもこの島から脱出しようとするなら主催者は必ず立ちはだかるだろう。

(侮れないということだろうな……だが奴らが本当に全知全能の神だと言うのなら私がそれを試してやろう。
 私やガッツをこのようなことの駒にしてくれた礼をしなくてはな)

グリフィスは心中でそう呟く。
例え相手が巨大であろうとも、本当に神であろうとも鷹は羽ばたくのを止めない。
何故なら彼が望むのは神に頭を垂れることでは無く「夢」に向かって羽ばたくことなのだから。


さて、放送までまだ時間がある。
そして放送と同時に名簿に名前が表示される。
ガッツ以外の鷹の団メンバーやゆのの知り合いの日本人の存在を確認する必要がある。
メンバーの再集結や『ゆのの名前』を利用して他の日本人との交渉などやるべきことが幾らでもあるからだ。
そして死亡者にそれらが何人含まれるのかも知らなければ。
本来なら参加者を確認してから行動しても遅くないだろうが足手まといな彼女と一緒で行動するより単独行動の方が何かと都合がいい。
だから彼女に風呂に入るように勧めたのだ。これまであの娘と共に居るのはあくまでもその方が脱出するのに有利だったからだ。
幸いあの娘の心を掴みつつある。もう少しあの娘の信頼を獲得してから単独行動をしたかったが仕方ない。

ゆのが脱衣所へ姿を消すのを確認するとグリフィスは旅館の入り口に出るとデイパックからある物を取り出す。
それは一対の石貨みたいな輪、宝貝人間である哪吒が使っていた風火輪という貝宝。
グリフィスがこれまでこれを使用しなかったのは彼の世界の常識から見れば魔法の道具にしか見えなかった為、そんな物が本当に存在
するとは信じられなかった。

410 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:42:22 ID:vXfvemNU0
だがゆのとの会話や携帯電話のような道具を見てこれが『そういうものがあっても、おかしくはない』と思えるようになった。
説明書には使用すれば疲労すると書いてある。どのぐらい疲労するか不明だがこれを使えば短時間で遠くへ移動することが可能だろう。
時間を掛ければ掛けるほど状況は悪くなる。危険ではあるがここで勝負を賭ける必要がある。


グリフィスは説明書にある手順どおりに風火輪をセットする。
左右の足の下の風火輪が地面から浮きあがる。そしてグリフィスが前に進めと念じたとおり彼の体を上空へと飛ばす。
一瞬、驚きの表情を浮かべたがすぐに平常を取り戻すと南へ向けて飛行する。

ゆのから用途を聞いた設備、西の工場か研究所に興味があったが専門知識まで持ち合わせてない自分が行ってもどれだけ
有益なのかわからない。

北は市街地から離れるうえに『ガッツが教会へ向かうなどありえないな』という思いがあったので南へと決めたのだ。

風火輪でかなりの速度を出しながらグリフィスは南へと向かう。
その先にあるのは破滅か? それとも……


*****


さて、グリフィスはゆのと同行して利用するよりも単独行動を選んだわけだがそれなら何故ゾットと出会って恐慌に陥った
時点でゆのを放置しなかったのか?
彼女から情報を聞き出したかったから?

それもあるだろう。

411 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:43:28 ID:vXfvemNU0

だがそれだけではない。グリフィスはある手を打ってから彼女と別れたのだ。
グリフィスは彼女が脱衣所に姿を消したのを確認してから目に付く場所にあるメモを置いてから去っている。

そのメモの内容は

『唐突で申し訳ない、これから他の参加者や君の親友を保護する為に探索へ向かう。
 危険なので君はここへ隠れて私の帰りを待ってて欲しい。
 もしここが危険だと感じたら北の教会へ向かってくれ。
 可能なら出来るだけ早く君とまた合流出来ることを祈ってる。
 念の為に読み終えたらこのメモは君が持っていて欲しい。私達が再会出来ることを信じて。
 
 追伸 
 支給品には一日分の食料しかなかった。私達や合流出来た参加者の為に料理を作ってくれたらありがたい。
 君や君の親友と共に食事を迎えられたらいいと思ってる』


メモにはゆのの親友を含めた他の参加者を保護することと再会したいことを望む言葉が書かれている。
少なくともこのメモには嘘は書かれていない。
だが何故一緒に行かないのか、何時帰って来るのかまでは書かれていない。
これから放送があり、その放送に彼女の親友の名前があった場合、また彼女が恐慌に囚われる可能性があったのにだ。

グリフィスにとってこの時点でわざわざケアしなければならない足手まといなど要らない。
もし彼女が殺し合いに乗ってない参加者と出会えるのならそれでよし。
上手く行けば彼女の口とメモから『彼女を保護し、他の参加者も保護しようとする参加者』の宣伝が出来る。
だが殺し合いに乗った参加者と出会い、殺されるのなら彼女の運命もそれまで。

412 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:44:03 ID:vXfvemNU0
メモにはグリフィスの名前や行き先までは書かれていないからメモを奪われて読まれてもそれほど痛くはない。

彼女を利用して他の参加者を味方に引き込むのなら、一緒にいて彼女を守る手間よりも危険に巻き込みたくないから別れたという言い訳の方が
グリフィスにとって労力が少ないし相手を丸めこむ自信は幾らでもある。
それに相手がゆのの存在を疑っても彼女とその親友の詳しい情報を知ってるので納得させる自信もある。
無論、不安要素は幾つかあったし彼女が死亡した場合、その判断を他者から責められる可能性はあった。

だがグリフィスは敢えてこの手段を選んだ。
これはこのゲームを制する為の最初の賭け。そう割り切って。

413 ◆Eoa5auxOGU:2009/09/19(土) 01:44:47 ID:vXfvemNU0

【H-8北部/上空/1日目 早朝】

【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:居合番長の刀@金剛番長、風火輪@封神演義
[道具]:支給品一式
[思考] 南の施設を回り、他の参加者を探しまとめる
1:ガッツと合流
2:殺し合いに乗っていない者を見つけ、情報の交換、首輪を外す手段を見つける
3:役に立ちそうな他の参加者と合流しまとめる。ゆのとの再合流は状況次第
4:未知の存在やテクノロジーに興味
5:ゾッドは何を考えている?
[備考]
※登場時期は8巻の旅立ちの日。
 ガッツが鷹の団離脱を宣言する直前です。
※ゆのと情報交換をしました。
 ゆのの仲間の情報やその世界の情報について一部把握しました。
※自分の世界とは異なる存在が実在すると認識しました。


※脱衣所の目の付く場所に彼のメモがあります。
※グリフィスは旅館の南へ向かいましたが
 どの施設へ(デパート、図書館、診療所)向かうか次の書き手へ任せます。

【風火輪@封神演義】
宝貝人間である哪吒が最初に持っていた貝宝
一対の石貨みたいな輪。両足で踏みしめて使用し高速で空中移動することが出来る。

414 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:54:42 ID:RINegf7I0
「……やはり一度市街地に向かうしかないですわね」

捻挫した左足首を氷水で冷やすという、応急処置をとりながら鈴子は呟いた。
捻挫を治療する道具を求め教会内を探したが、運悪く救急箱の類を見つける事が出来なかった。
その代り手ぬぐいを十枚ほど確保できた、もし佐野と合流したなら彼に渡しておこう。
医療品を見つけられなかったので、仕方が無く所で見つけた鍋に水を張って氷を入れ、その中に左足首を突っ込んで冷やす事にした。

しばらくこのまま動けそうにないので、とりあえずこれからの事について考えてみる。

(まずロベルトを生還させるのが最優先ですわね)

この殺し合いが自分達の戦いであろうがなかろうが、ロベルトが参加させられていたならば、彼だけは生還させなくてはいけない。
その為にロベルトや十団の団員と合流して、自分達の戦力をまとめる必要がある。
それと同時に、能力を使用する時に使う道具も十分な量を、出来るだけ早く確保しておきたい。


植木に団員を倒されていき、ロベルト十団も残り六人。
その内の一人、明神の『口笛をレーザーに変える能力』の様に、特に道具を必要としない団員を除いて、私が必要とするビーズの様に確保しておいた方が良い道具は……
佐野―『手ぬぐいを鉄に変える能力』―手ぬぐい
ベッキー―『BB弾を隕石に変える能力』―BB弾とそれを撃ち出す為の銃
鬼―『竹みつを大ばさみに変える能力』―竹みつ
マルコ―『トマトをマグマに変える能力』―トマト……って、六人中明神を除く全員が道具が必要じゃないですか!?


神様を決める戦いに参加している中学生は、基本的に多種多様な才能を持った少年少女である。
まあ、大人顔負けの武術家や暗殺者、兵士や天界人等いたりするが、基本的に参加者は普通の中学生である。
よって、最初に支給されたアイテムによっては、自分に武器がなく相手が強力な武器を支給されていたならば、能力者としてはかなり格下の相手だったとしても、あっさりと殺される可能性が出てくる。

415 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:55:15 ID:RINegf7I0
ロベルトには神器があるので特に道具はいらないから心配ない。
参謀指令のカルパッチョについては能力自体が不明だ。
だが佐野の手ぬぐいの様に比較的手に民家などで入れ易い物ならともかく、自分のビーズやトマトははっきり言って微妙だし、竹みつやBB弾はかなり厳しいだろう。
最悪十団は、全員が合流する前に半壊する恐れが強くなってきた。
いや、いくら佐野の手ぬぐいが手に入れ易くても、スタート地点が森の中だったりしたら話が違ってくるかもしれない、ならば状況なお悪くなる。


これは一度デパートに立ち寄り、必要な道具を手に入れておかなければなりませんわね。でも…


だがそれには一つ問題点があった。
デパートの近くに飛ばされた能力者が、自分に必要な道具を確保した上で、自分の様に道具を求めに来た参加者を狙って待ち伏せしているという可能性だ。
いくら他の十団の団員も向かっている可能性があるとはいえ、わざわざ虎穴に入る様な真似をするべきだろうか?
別の市街地に向かう手もあるが、この地図からでは何処にそう言った手の物が売っている店があるか分からない。
下手に当てもなく彷徨うよりは、素直にデパートに向かった方が良いだろう。


そうね、デパートで道具を確保出来るかどうかが、今回の戦いの最初の分かれ目。
この先の展開を有利に進める為にも必要な事ですわ。
どの道この足では、6時までにデパートに辿りつくは些か厳しいですし。それなら放送後の行動方針の決定に差し支えがありませんわ。
結局の所、後の事を考えればビーズの確保に一度は向かわなくてはなりませんものね。


鈴子にとって最悪なのは、この殺し合いにロベルトが参加しておらず、尚且つ前の戦いと全くの無関係である事である。
鈴子はあくまで自分勝手な他人が信頼出来ないのであり、他人がどうなろうと構わないという非情な人間ではない、むしろ仲間に対する憧憬は十団の中で一番強い。
故に、脱出不可能で他の人間を全員殺していく事には、どうしても抵抗があるのだ。
24時間死者無しの相討ちは、自分の手に負えないロベルトの脅威になるかもしれない能力者を葬る為と、無関係な人間を巻き込む事に対して自分の心を納得させる理由があるからいいが。

416 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:55:43 ID:RINegf7I0
だが脱出を目指すなら目指すで、不安な部分が鈴子にはある。
脱出するには首輪の解除は必須事項だ、その為に爆発物に詳しい人物や装置を解体出来る技術者の協力が必要不可欠になる。


ですが十団の団員以外の人間に信用がおけますでしょうか?


自分の事ばかりしか考えない人間を、一体どれほど信用していいのか。
彼らは十団の様な仲間では無い、自分が不利になれば容易に相手を見捨て裏切るに決まっている。
そんな人物を頼りにしても、こちらの寝首をかかれるだけではないのだろうか?
でもそれはある意味仕方のない事、誰だって命は惜しいのだ。
生きる為なら裏切りの一つや二つ位、平気で行いかねない。

でも自分達は違う。
自分たちロベルト十団は一致団結し、命がけでロベルトを優勝または共に脱出を成功させ……

命? 命がけで…?

ふと、鈴子は自分が何かとんでもない思い違いをしているのに気が付いてしまった。

まず前の戦いでは相手を必ずしも殺す必要はなかった。
気絶させてしまえば、それでリタイアなのだから。
だがこの殺し合いはそうではない。
この場からの脱出が不可能な場合、自分が生き残る為には最後の一人になるまで他の人間を皆殺しにしなくていけない。
そう、例えそれがロベルトであったしてもだ。

そもそも十団は、能力を使うと寿命が一年削られるロベルトの為に、自分達を含めロベルト以外の能力者を排除する事が主な仕事だ。
その代価として、一人勝ち残ったロベルトが空白の才を用いて世界を無にし、団員がそれぞれ理想の地位を与えられるというものだ。

一見何も問題がなさそうなこのシステム、実は幾つも問題があったのだ。
ただ、前の戦いでは無視できるものであって、この殺し合いでは無視できなくなってしまっただけ。

417 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:56:13 ID:RINegf7I0
まず一つ目、最後に残るのはロベルトである必要が無いと言う事。
空白の才―これを手にする権利が誰にあるのかそれを最初に決めておかなければ、お互いに相手を出し抜こうとして纏まった行動はとれないだろう。
幸いロベルトには、誰もが最強の能力者として認められるだけの実力があった。
故に空白の際の権利も、十団の頂点に立つ事もだれも異論が無かった。
だが逆に十団の頂点がロベルトである必然性がないのも確かであった。

二つ目、それは十団として働いた報償はその団員自身が生きていなければ、貰う事の出来ないと言うごく当たり前の物。
まあ、十団には入れ替え制と言う物があるから、ロベルト以外の能力者を全滅させるまで生き残っていなくてはいけないが。

さてここで一番の問題なのが、残りの十団の団員がどれ程ロベルトに忠誠を誓っているかである。
具体的に言えば、自分の命を差し出してでもロベルトを優勝させる気があるかと言う事だ。


私には自分の命を差し出してでも、ロベルトを優勝させる覚悟があります。でも、他の団員は……


そう、他の団員は自分がロベルトに敵わないと知り、それでも自分の欲望を叶えたいと十団に集った自分勝手な人間達。
実際の所は本人に聞いてみないと分からないのだが、今の鈴子は団員がそうであると決めつけてしまっている。
そう、自分の命惜しさにロベルトを裏切るのではないかと。


なんて事ですの……、この殺し合いで心から信頼できる仲間はロベルトしかいないじゃないですか。


単純な戦闘でロベルトが負けるとは微塵も思えない、だがロベルトにも弱点はある。
能力の限定条件だ、後ロベルトの寿命は何年残っているだろうか?
50年それとも10年? どちらにしても残りの寿命が無くなればロベルトは死ぬ、例えどれだけ健康で無傷であろうと死ぬ。
そのリスクを回避する為に十団は存在しているのだから。
しかしロベルトに武器が支給されていない状態で、何にもの能力者に襲われたら?
団員に裏切られ、罠にはまり無駄に能力を使わせられたら?
直接倒される事は無くても、能力の使い過ぎによる死はあるのではないか。

418 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:56:43 ID:RINegf7I0
これはあまりのんびりと行動している時ではないですわ。
とりあえずロベルトが参加していると仮定し、合流したら彼の代わりに戦える状態で無いととても拙いですわ。
ならば……


鈴子はディパックからスパスパの実を取り出す。
応急処置を施したとは言え捻挫した左足はまだ痛む、敵に襲われれば逃げ切るのは難しいだろう。
加えて、いざ敵に遭遇してからこの実が本物かどうか試すのは危険すぎる。
もし偽物だったら、相手に対して致命的なスキを見せる事になるし、使い方が分からなくては碌に戦う事も出来ない。
ならば今この場で効果のほどを確認し、基本的な使い方だけでも覚えておいた方が良いだろう。
そう思い、鈴子はスパスパの実を食べる事にした。

「……うっ!」

一口食べて思わず吐き出しそうになる鈴子。
毒がある訳ではない、悪魔の実は共通して不味いのだ、もの凄く。
吐き出したいのを堪えつつ、鈴子は悪魔の実を完食した。


あれから少しして、スパスパの実の基本的な使い方を覚えた鈴子は、E-9の道路をすべる様に移動している。
いや、実際に滑ってはいるのだ。
スパスパの実は指・肘・膝・足・腕等、四肢の至る所を刃物に変える事が出来た。
能力の関係上、基本的に接近戦を苦手とする鈴子にとっては中々良い能力と言えた。
今はその能力を利用し、左足の足の裏を刃物に変えスケートの様に地面を滑って移動している。
これならば、歩くよりかは左足に負担がかからず、移動速度も上昇して一石二鳥であった。


待っていて下さいねロベルト、直に合流して貴方の敵は私が蹴散らします。
ですから無駄に命を減らさないでください、例え私の想いが片思いだとしても、私はすっとあなたと一緒にいたいのですから……


鈴子はただ只管に、想い人であるロベルトの為に行動する。
だが、この殺し合いにロベルトが参加してないと知れば、彼女はどうするのだろうか?
それはまだ分からない……

419 ◆Nfn0xgOvQ2:2009/09/27(日) 17:57:04 ID:RINegf7I0
【E-9/道路/1日目 早朝】

【鈴子・ジェラード@うえきの法則】
[状態]:疲労(小)、左足首捻挫 、スパスパの実の能力、カナズチ化
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、妖精の鱗粉@ベルセルク 、手ぬぐい×10
[思考]
基本:このゲームが自分達の戦いの延長ならロベルトを優勝させる、そうでないならロベルト及び十団の団員と合流して脱出(最悪ロベルトは脱出させる)
1:ロベルト以外の人間(十団も含む)は信用できない。
2:このゲームが自分達の戦いの延長にあるかを確かめる。
3:ビーズやその他十団の道具を確保する為に、デパートに向かう。
4:情報を集め今後どうするかを考える。特に他の参加者への接触は慎重に行う。
5:(この場にいるなら)ロベルト及び佐野等の十団の団員と合流。
6:(この場にいるなら)植木、ヒデヨシ他の能力者を倒す。特に植木は確実にこの場で倒しておきたい。
7:ロベルトがこの場にいない場合、倒せない能力者がいるなら誰も死ななかった時の全員死亡を狙う。
[備考]
※第50話ロベルトへの報告後、植木の所に向かう途中からの参戦です。その為、森とは面識がありません。
※このゲームが自分達の戦いとは関係ない可能性を考えています。名簿にロベルトや十団の団員及び自分の知る未だ失格になっていない能力者の名前が1つでも無ければ関係ないと判断するつもりです。
※能力者以外を能力で傷付けても才が減らない可能性を考えています。実際に才が減るかどうかは次の書き手に任せます。
※気絶させても能力を失わない可能性を考えています。気絶したらどうなるかは次の書き手に任せます。

420 ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:54:55 ID:MH65b4W.0
巻き添え規制食らったのでこちらに投下ー。

421繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:57:39 ID:MH65b4W.0
 
「……あった――――」

あたしは“それ”を手に取り、ごくり、とつばを飲み込む。
……さすがに、これは殺し合いに乗った参加者の罠とは思いにくい。
この場所に拉致されてから、もうすぐ6時間。
それだけの間あたしたちはここにいて、誰の姿も確認してない。
つまりは、この競技場に何かを仕込むのは誰にも出来ない。

これがここにある、という事は、考えられる可能性は2つ。
あのblogの主が今のところ殺し合いに乗っていない人物であるか、あるいはこのゲームの運営に関わっている人物であるか、だ。
殺し合いに乗っただけのいち参加者が、このアイテムがこんなにも簡単に入手できる事を広める理由はないように思える。
確かにこれを上手く使えば一時的な撹乱はできるだろうけど、それでも最終的なリスクを考えると……自分の喉を絞めかねないはず。

見つけた物品、つまり『携帯電話』を握り締めて、思索に入る。
もちろん警戒は解かない。解けない、といった方が正しいかな。
……自分の中での不安がどんどん膨らんでくるのが身に染みる。
特にあの――喜媚ちゃん、の得体の知れなさについて。

息を吸う。思考を整調化するために。

落ち着け。
少なくともあの子は最初にあたし達を殺すことが出来たろうに、それをしていない。
あたしを殺すメリットも現状思いつかない。
……妲己とスープーという人たち、少なくともその二人を見つけるまでは、向こうにとっても協力しない手はない。
ない、ない、ない。
ないを3つ重ねて、無理やり心の奥底に不安を仕舞い込む。

それに、さっき聞いた話では喜媚ちゃんはあのシンコウヒョウ(申公豹と書くらしい)の知り合いだという。
あからさまに怪しい情報だけど、だからこそ信用できるとは言えないかな。
こういうのは黙っていたら後々絶対にこじれるしね。
それをあたしに教えたという事は、後ろめたいことはない、と言いたいのかも知れない。
……何も考えてない可能性も大きいけど。

競技場は無音が耳に痛いくらいだけど、むしろこの方が音も響いて危険を察知しやすい。
カノン君ほどではないにせよ、あたしだってブレード・チルドレンとして修羅場はくぐってきてる。
喜媚ちゃんみたいに空でも飛んでこない限りは足音の接近は察知できる。
そして、喜媚ちゃんにしてもあの騒がしさだから、猫を被ってるのでもない限りまず接近に気付けるはず。
大丈夫、ここはまだ安全圏。
当の喜媚ちゃんもあたしがblogを閲覧しているあいだ、後ろから覗いてると思ったら散歩と称してどこかへ行ってしまった。
この近くに姉様たちがいないか探しっ☆――なんて言ってたから、それ程遠出はしていないとは思う。
単独行動させるのは色々な意味で不安だけど、あの子があたしと敵対するつもりがないならばとりあえず静観しよう。
今はこの電脳空間を利用して情報を得るのが先だし、機嫌を損ねるのはマズい。
それに酷な言い方だけど、もしそれが原因で死んでしまっても彼女自身の責任だ。

けど。
最初の我妻由乃との駆け引き以後は全く以って静かなものだ。
それはあたしの読みどおりにここに誰も注目していないからだろう。
運良く、平穏にありついているだけなんだ、あたしたちは。

422繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:58:09 ID:MH65b4W.0
……多分、とっくにこの島のどこかは戦場になっている。
照明や空調といった競技場の設備を運用する部屋や事務室――そこで発見したFAXに記された要注意人物が、きっとその証。
備え付けのPCが生きていたのはとても助かった。
そのおかげでここにいながらにして、あたしはいくつかの情報を手に入れられている。

ただ、ほんの少しだけ先陣を切るのには出遅れたみたいだけど。
この手のサイトというのはたいてい古参のサイトほど集客率が大きいから、その意味ではあたしには最初からアドバンテージがない状態といえる。
アイデアを思いついたこの管理人は、その意味で確かにキレ者だ。

この人たちが信用に値するかどうかは別問題として、まずはこの情報が真という前提に立って行動してみよう。
偽だと決め付けて書かれた内容を無視するのはどう考えても得策じゃない。
たとえ撹乱する為の偽情報だとしても、そうするからには必ず裏の意図があるはずなんだ。

あたしとしては、何もせずじっとしているよりこの機会と道具を積極的に生かしていきたい。
特に、参加者全員の名前を把握できない今だからこそ出来る行動があるはずだ。

「……とはいえ、具体的にどう動こうかな」

……あたしの方針上、下手にたくさんの情報を公開して不特定多数にここを特定されるのは避けたい。
場合によっては放送後にここに篭城するのもいい一手になるだろうし。
だからこの二人(自演していなければ、だけど)のように、blogを開設して自ら情報を発信するというのは今のところナシだ。

だから、何か動くとしたらblogになにかコメントを書き込むか、メールでこの人たちに直接連絡を取るか。
つまりこの管理人さんを経由して皆になにかを伝えるか、管理人さんと個人的に連絡を取るか、となる。

要はどっちにしろ、管理人さんたちがどんな人か、が鍵になる。

“探偵日記”と“螺旋楽譜”。
二つのblogを閲覧して得られた情報を吟味してみよう。

まず、探偵日記。
ここの管理人は――、実利的な情報が主みたい。
参加者全員に広めておくべき情報を取捨選択し、送り届ける。
そしてその為に、状況を打開する為の情報を募る。
なるほど、確かに言っている事は理に適っているし、実際役立ちそうな情報が散見できるね。

撹乱情報である可能性は0じゃないけど、それでも要注意人物とか携帯電話とかの物資補給とか、
そういう持っておいて損はない、っていう情報をいくつもくれている。
妖怪の存在を示唆してるあたり、喜媚ちゃんの存在を知っているあたしには当面の状況証拠として十分だ。
そしてそれらの根拠となるソースの提示の確約もしている以上は、とりあえず載っている情報だけは信じてもいいと思う。

けど、人格的な問題には不安が残るかな。
コメント公開の要求をした人たちのコメントを抜粋して、その上で堂々と自分は情報を掌握するのをやめませんよと言っている。
これはこれである種の信頼をできるのは確かだけど、腹の内は読みにくい。
要警戒……だね。

けれど、それでも欲しい情報を優先的、または独占的に提供してくれる、という言葉はあまりに魅力的だ。
だって、絶対にいるはずなのだ。
あたしみたいに相手の思惑に乗っていると承知したその上で、この管理人に接触してみようという人間が。
そうした人々から情報を得られる立場にこの人はいる。
だとしたら。

……踏み込みすぎるのは危険だけど、見返りも大きい。

423繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:58:32 ID:MH65b4W.0
まずはジャブを仕掛けてみるのが吉、かな。

とりあえず、こういうコメントをblogの記事に送ってみよう。
1stや申公豹といった人物の情報を求めているのなら、確実に食いついてくる。


『私は申公豹と面識のある、妲己という女性を探している。
 このコメントを公開した上で、妲己の情報を集めてくれるよう依頼したい。
 今後更新した記事で有力な情報を得た旨を示したら直接連絡を入れる』


……これなら、文体や内容からあたしが特定される事はない……はず。
ついでに、喜媚ちゃんの尋ね人探しにもなって一石二鳥だ。
運が良ければ妲己さん本人がこの探偵日記の管理人に連絡を取るかもしれない。

ぴ、ぴぴ、と携帯電話を操作して、送信。
ふう、と思ったよりも大きく溜息が出てきた。
PCを使わなかったのはIPとかで場所を特定される可能性があるからだけど、少し神経質になりすぎかもしれない。

ただ、あたしが神経質になる理由は十分すぎるほど、ある。
その理由とはもう一つのblog――“螺旋楽譜”の存在だ。

たった1Pの記事をくまなく目を通しただけで、ディスプレイの向こうにはある一人の男の子の姿が浮かんでくる。

「……弟さん、だよね? どう考えても」

徹底して自分を信じるなと告げて、それでも論理に基づいた推測を並べていく。
放任主義なまでに自分の事は自分で面倒を見ろといっておきながら、どうしてか他人を見捨てることもしない。

あたしの知っている“希望”の姿とこのblogの管理人の言動は、確かに重なっている。

「でも――」

でも、と繰り返す。
重なりはするんだけど、

「本当にこれは、あの弟さんなの?」

――微妙な違和感が、完全な一致を許していない。

画面の向こうに見える弟さんらしき人の態度は、確かに自信に満ちているわけじゃない。
奪われ続け、下を向き続けた過去を抱いている姿はよく覚えがある。
だけど。……だけど。
弟さんの持つ未熟さというか、甘えのようなものが感じられないんだ。
気のせいかもしれないけど、あたしが知るよりも多くの戦場を踏み越えたかの様な――、
そして、何か絶対に失わない支えのようなものを手に入れたかのような。
そんな印象を、あたしは感じた。

だから、信じ切れない。
この管理人は、本当に弟さんなんだろうか、と。

424繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:04 ID:MH65b4W.0
……もちろん赤の他人がたまたま弟さんのような文章を書いた可能性もある。
だけど、この内容を鑑みると、その可能性は高くはない、と言える。

「……この首輪解除の下り。あからさまにあたしを意識しているよね。
 他のメッセージもブレード・チルドレンを鼓舞するような事ばっかり。
 そして何より――、」

静かに呟く。

「……弟さん。あなたがこんな事を頼む相手なんて、あの人しかいませんよね?」

――結崎ひよの。
彼女に向けて、掲示板を作り管理しろ、という内容の、分かる人にはすぐ分かるメッセージだ。
同時に、弟さんやひよのさんを知る人たちへの身元保証も兼ねている。

なるほど、確かにひよのさんなら情報戦では無敵といってもいいだろう。
あの人は底の知れないところがあるし、尋ね人や危険人物の所在を書き込んだりできる掲示板があれば鬼に金棒なのは確か。
スペックで言えば弟さんがこういうことを頼んでもおかしくはない。

そう、スペックだけで言うなら、なんだ。

「弟さんは、ひよのさんをむしろ遠ざけたり無関係を装ったりする方向で動いてたはず。
 ……なのに、これは一体どういうことなんだろう」

分からない。仮にこのblogの管理人が本当に弟さんだとして、ひよのさんをここまで頼りにできる理由が分からない。
まるで、あたしの知らないところで弟さんとひよのさんに何かあったかのようだ。
だけどそれは多分ありえない。
弟さんはまどかさんに心を向け続けているし、あのひよのさんへのぞんざいな扱いがたった数日で変わるとも考えにくい。

結局はあたしが文章から勝手に感じ取った事でしかないから、確かな保証はないけれど。
……それでも、自分の記憶と文章のイメージの食い違いを敢えて気のせい以外の理由に求めるのなら。

導かれるのは、何者かが弟さんを騙っている可能性。
blogで管理人=弟さんであると明言してるわけじゃないから、騙っている、というより装っている、の方が正しいかも。

そして、もし誰かが弟さんを装っているとするならば、その誰かというのはかなり絞る事ができる。

まず真っ先に思い浮かぶのは、当然清隆様。あの方なら弟さんを装うのは児戯にも等しいはず。
……でも、間違いなくこれは違う。
だって、清隆様なら違和感を感じさせる事なんてなく弟さんを演じきるはずだ。
それに、何というか……この文章は、清隆様らしくない。
こんなに自分を信じるなと繰り返すのは、たとえ弟さんを演じていても清隆様ならやらないだろう。

だから考えられるのはそれ以外の人。
かつ、あたしと弟さんの対決の中身を知る事ができるくらい近くにいる人だ。
そうでなければ、首輪解除に関する文であたしの存在を匂わせる事なんてできない。
そして多分、その人は首輪が装着者に合わせて大きさが変わる特異な物であることを知らない。
だから、工作技術で解除できるかも、などと書いているのだ。
あるいは、知っていて敢えてそれを書いていないか。

425繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:31 ID:MH65b4W.0
とにかく、それに当てはまりそうな人は数えるほどだ。
ピックアップすると、5人ほどが思い浮かぶ。

こーすけ君、亮子ちゃん、アイズ君、カノン君、……ひよのさん。
多分、弟さん本人以外だとすれば、この5人の誰か。
ただ、こーすけ君と亮子ちゃんはこんな回りくどい手を使うとは考えにくいから、候補は実質三人。

……ただ、アイズ君も可能性は低いかな。
アイズ君はある意味一番弟さんに入れ込んでる。
だからこそ、“希望”である弟さんを装う事があたしたちにはどんな意味を持つかってのもよく知ってるはず。

そうなると、カノン君かひよのさんの二人が黒に近いグレーだ。
この二人なら理由も十分つけられる。
カノン君なら、ブレード・チルドレンをおびき出す為。
流石にこの状況下なら協力し合える余地は残ってるとは思うけど、それでもカノン君の信念はそう簡単に揺らがないはず。
ひよのさんなら、弟さんを装う事でブレード・チルドレンと協力体制を作る事と、弟さんの囮となって彼の動きやすい環境を作り上げる事。
そして、単純に弟さんへの呼びかけ、アピールの為、というので説明可能だ。

……もちろん、あたし達の事を一方的に知っている第三者である可能性も否定できないけど。
果たして画面の向こうにいるのは弟さん本人なのか、カノン君か、ひよのさんか。
可能性は低いけどアイズ君やこーすけ君、亮子ちゃんか。

ただ確かなのは、あたし達の関係者である可能性は、そうでない可能性より遥かに高い、という事。

「……よし!」

だったら、ここで勝負してみよう。
攻めなきゃ、何も得られない。

メール画面を立ち上げて、文字を一つずつ確かに打っていく。
探偵日記の管理人に送ったようなblogへのコメント形式じゃない。
メールによる直接連絡だ。


『このメールを確認したら、折を見て電話で直接連絡してください。
 電話番号は次の通りです。
    ×××-××××-××××  竹内理緒』


――竹内理緒の名前を出して、電話越しとはいえ直接話す段取りを整える。

これが、受け身な今のあたし唯一の攻め手。

この携帯電話はどうせ拾った物だから、電話番号を曝しても痛くも痒くもない。
それに竹内理緒という名前も、どうせ放送が終われば皆に知られる事になる。
だったらむしろ、名簿で確認できるようになる前に自分から竹内理緒を名乗る事で、適当な偽名ではない事をアピールしてしまったほうがいい。

わざわざあたしを暗喩する文章をblogに載せたくらいだから、あたし達からの連絡を待っているはず。
声を聞いて話し合えるならそれに越した事はないし、あたしとしても知り合いとは早めに連絡を取っておきたい。
電話の向こうが誰だったとしても、かなりの収穫が期待できると思う。

426繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 18:59:57 ID:MH65b4W.0
……もうすぐ、放送。
どう転ぶ事になるかは分からないけれど、とにかく今は迂闊に動かず返事を待とう。

願わくば。
願わくば、希望が潰えることなく続きますように。


【B-5/競技場/一日目 早朝(放送直前)】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的に多少の疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、携帯電話(競技場で調達)
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:第一放送までは生存優先で現状待機。殺し合いを行う意志は無し。
  名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
2:異能力に恐怖。
3:喜媚をとりあえず信用すると判断。しかし、どこか信じ切れていない。
4:申公豹の名前を餌に、“探偵日記”を通じて妲己を捜索。
5:“螺旋楽譜”の管理人が電話連絡してくるのを待ち、直接会話してみる。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました。
※早朝時点での探偵日記と螺旋楽譜の内容を確認しました。
※螺旋楽譜の管理人は、鳴海歩、結崎ひよの、カノン・ヒルベルトの誰かが有力と考えています。
 ただし、鳴海歩だと仮定した場合、言動の違和感とそこから来る不信感を抱えています。


***************


「ロリッ☆ 姉様や貴人ちゃん、スープーちゃんは何処っ☆」

ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪ とファンシーな音程の鼻歌が静謐な大気を割っていく。
歌い手の名前は、喜媚。
朝の赤い日の中を踊るように足を踏み踏み、ホップステップターンにジャンプ。
くるんと一回転して、着地。
舗装されてない道土に二つの穴が開く。

「ついでにたいこーぼーも探しっ☆ スープーちゃんは太公望と一緒かもっ☆」

良くも悪くもどんな状況でもマイペースを崩さない彼女は、ある意味この状況に全く似つかわしくない存在かもしれない。
天衣無縫、天真爛漫、縦横無尽。
妲己の陣営の中でも特異な存在の彼女にとって敵味方の区別はあまり意味がなく、
運命の相手の主が太公望というのは彼女の縛られざる気質を最も表している事柄だろう。
それ故に彼女は己の考えで気ままに出歩く事を許される。彼女自身が許す。
ことに、競技場を出てからずっと“こんな変化”をしたままであるなら尚更だ。

「理緒ちゃん、ずっと篭りっきりで心配っ☆ 
 喜媚がこんな変な格好しても、眉毛の間に皺つくったままなのっ☆」

427繰り世界のエトランジェ ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 19:00:52 ID:MH65b4W.0
難しい顔をし続けたままの理緒を笑わせてあげたくて、見つけた面白いものに変化してみたものの。
それでも、理緒はほんの少し笑っただけでまた顎に手をついて考え込んでしまったのだ。
そんな顔を見ているとこっちまで不安になってしまう。
ならやる事は一つ。喜媚は思い付きを口にする。

「だったら、喜媚は理緒ちゃんの友達と弟さんも見つけりっ☆」

――そんな事を、野太い男の声で呟くのだ。

まだ出会ったばかりではあるけれど、新しい遊び相手の為にできる事を。
理緒からはどんな人が友達にいるのかは聞いていないけれど、弟さんと呟いているのは聞こえていた。
理緒ちゃんの弟さんはどれだけちっちゃい子なんだろうと頷いて、心配するのも当然だよねと握りこぶしを作る。
だから、自分が理緒の弟を見つけた上で、新たに仲良くなれる友達を増やせばいい。

「? 何かが流れてくるっ☆」

そして、運命は奇妙な縁を呼び寄せる。
西に向かった喜媚の前には、ご都合主義にも程がある邂逅がもたらされた。
それはつい先刻の理緒と由乃の遭遇のごとく、まるで、誰かに仕組まれた出来事であるかのように。

「喜媚、もう知らない女の子を発見しっ☆ あの子に理緒ちゃんの友達になってもーらいっ☆」

その少女――高町亮子の方に、喜媚は迷いも躊躇いもなく駆け寄っていく。

偶然見つけたFAXに記されるモンタージュ、そこに描かれた“秋葉流”の格好を写し取ったままで。

理緒の仲間である高町亮子。彼女が再度見えるのは、巡り巡って喜媚が変化するに至った“秋葉流”。

果たして、この出会いの向こう側には何がもたらされるのだろうか。


喜媚の耳には、流れ始めた放送の音すら届いていない。


【B-4/河口付近/一日目 早朝(放送直前)】

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康、秋葉流に変化
[服装]:顔は秋葉流だが、服装は不明(変化していない状態では原作終盤の水色のケープ)
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:皆と遊びっ☆
3:元気の無い理緒ちゃんが心配なの☆ 弟さんや友達を探しっ☆
4:あの女の子(高町亮子)を理緒ちゃんの友達にするっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※放送の導入部を聞き逃していますが、どこまで聞き逃しているかは後続の方にお任せします。

428 ◆JvezCBil8U:2009/09/29(火) 19:01:52 ID:MH65b4W.0
以上、投下終了。
流の顔でロリータ台詞というのは書いてる自分でも怖気が……w

429 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:17:04 ID:9Jfx9i7w0
すみません。こちらに投下します。
どなたか代理していただけると助かります。

430 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:17:36 ID:9Jfx9i7w0

「へいへい、と。それよりも…あれ、何でしょうかね?」
「む…」

特に気にした様子も無く、沖田は話題を逸らす。
促された先には、またしても学校のような建物があった。
おそらくこちらは地図に載っていた小学校だろう。校庭に遊具がならび、花壇まであった。

「出番だぜィ、潤也くぅん?」
「…わかってる。あそこに人は……『いる』」

潤也の能力。十分の一を一にする力。
『目の前の小学校に人がいる』『いない』の二択なら、確実に当てることが出来る。
さらに彼が『当てる』事が出来るのはそれだけではなかった。

「次に会う相手は『女』、殺し合いにはのって『いる』」

その言葉と同時に、彼らを包む空気が一気に変わっていった。
高まらせた緊張感を維持しつつ、三人は夜の学校へと踏み込む。
止める、捉える、見極める。バラバラな目的を胸に秘めて。



潤也の能力で小学校への侵入者は2階にいることがわかった。
校舎は三階建てでごく普通の小学校。二階にはいくつかの教室が並んでいた。
ここまでくれば能力等に頼るまでもない。人の気配のする教室へと三人が忍び寄る。

…いや、間違っていた。
「忍び」寄っていたのは二人まで。その潤也と沖田の制止を振り切り、あとの一人、
金剛はずかずかと教室の入り口まで突き進み、全力で扉を開いた。

「!!!」

驚きの表情で固まり、明らかに動揺する金剛。その姿を見て、何事かと二人も駆け寄る。
彼らの視界に飛び込んできたのは、今しがた着替えを終えたばかりであろう体操着姿の少女だった。

431 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:18:21 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

またまた、グー

    ◇     ◇     ◇


金剛達が踏み込んだ教室には、少女がいた。
沖田と潤也がまず驚いたのはその服装。おそらくは現地調達したと思われる、上下の組み合わせ。
上は白の体操服。しかしここは小学校だ。そのサイズはかなり小さい。
少女もかなり小柄ではあったが小学生という感じでもない。少しきつそうであった。

そして下。
今や絶滅種となった紺色のブルマ。もはや語るまい。
これをわざわざ用意したとするならば、この殺し合いの主催者は何を考えているのだろう。
そう思わざるをえないある意味極上の一品だった。

それを着込んだ当人は三人の侵入者に対応しきれず、口をぽかんと開き立ちつくしていた。
幸い着替えの真っ最中という状態ではなかったが、驚かすには充分なタイミングだろう。

「あ、あの…」
「知り合いですかィ、旦那?」

何かを言いかけた少女を遮るように問いかけたのは、沖田だった。
金剛の表情から察するに図星だろう。唐突な質問だが根拠はあった。彼の動揺具合だ。
短い付き合いだが、この男はわかりやすいので性格は多少把握できた。
彼は煩悩の類とは縁遠いタイプだ。
例え遭遇した相手が水着のお姉さん軍団であろうと彼はこれほどまでに動揺することはないだろう。

そんな彼を動揺させる要素があるとすれば何か?
考えられるのは、相手が知り合いであるという可能性。
潤也の能力で次の遭遇相手が殺し合いに『のっている』ことが明示されている。
特殊なケースを除いて、誰もが今だけは知り合いと遭遇したくないと心から思うだろう。
中学校にいた時点で既に地図上に示された施設に自分達の関係者はいないことを確認していた。
しかしあの後に相手が小学校にたどり着いた可能性や、うっかり金剛が挙げ忘れていた知り合いの可能性も充分にある。
それらを考慮して尋ねてみたが、当たっていたようだった。

なんにせよ、ただでさえ複雑なこの状況での仲間との再会は、より微妙な形で起きてしまった。

「……あぁ、俺の仲間だ。剛力番長、お前も巻き込まれていたか」

未だ複雑な表情を浮かべたまま、金剛が一歩踏み出す。
しかし、剛力番長と呼ばれた少女から返ってきた言葉は予想外のものだった。

432 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:18:50 ID:9Jfx9i7w0

「……あの、一体どなたですか?私には貴方のような知り合いはいないのですが……?」
「な、何!?」

そんなバカな、といった表情を浮かべる金剛。
沖田はなんだか面白そうなものを見つけた、といった顔つき。
潤也は潤也で、微妙な表情を浮かべている。

「何を言っている!?俺たちは共に暗契五連槍と戦っただろう!いや、それ以前にお前と俺は一度拳をまみえたはずだ!」
「そんなことを言われましても…暗契五連槍ってなんのことですの?
 そういえば先ほどの方も私をご存知のようでしたけど…あ、もしかして、貝裏鬼のお知り合いか何かでしょうか?」

かみ合わぬ会話。
傍から見れば男女の痴情のもつれのようにも思えるだろうか。
実際にその類だろうと判断し、ニヤニヤと笑っている男もいる。
だが実は、このいさかいはそんな単純な構造ではない。

当人達は知る由もないが、彼らは呼び出された時間が違うのだ。
剛力番長は金剛番長と出会う前から呼び出されており、金剛番長は彼女と共闘した後から来ている。
そのズレが二人の会話をおかしくしているのだ。

「一体どうした!?卑怯は?念仏は?居合いのことは?忘れちまったのか?」
「!! 忘れてなどいません!!私は何一つ忘れていません!!」
「ならなぜだ!!」

ムキになって否定する剛力番長と、思わず大声をあげる金剛。

「忘れてなどいませんが…あなたのことは知りません!!私の記憶は確かです!!
 嘘をついているのは…あなたでしょう!!」
「ちょ、ちょっと待ちなって」

ドンドンヒートアップする二人の会話に、とうとう沖田が横槍を入れた。

「なんだかよくわかんないけど、これだけは言わせてもらうぜ」

そういって息を吐くと、沖田は笑みを浮かべる。
なんとも意地汚そうな、笑みを。

「昔の女にいつまでもこだわるのは男らしくないですぜ」
「……」

433 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:19:24 ID:9Jfx9i7w0

沈黙。
いつもなら誰かしらのツッコミがとんでくるところだが、今はない。
ツッコミ不在の居心地悪さを、彼は実感していた。

「土方」
「わかってますよ。ったく…面白味のない連中だぜィ。
 とにかく旦那、今はそれより確認すべきことがあるんじゃねーですかィ?」

促されて金剛は、複雑そうな表情のままあらためて剛力番長に向き合う。

「……そうだな、その前に確認したい。剛力番長…お前はこの殺し合いに、のったのか?」

駆け引きも何もない、直球の問いかけ。
その瞳に迷いはなく、その言葉に淀みはない。
威圧するような態度でもなく、だが答えねばならない様な気にさせられる。
言葉を無理にあてるなら、威風。そんな聞き方だった。

「……えぇ、そのとおりですわ」

伏し目がちに返される言葉に、金剛の拳がギュウと握りこまれる。

「…なぜだ!!なぜこんなスジの通らねぇ殺しあいに…」

ジャラ

金剛の叫びとも言える問いかけは、奇妙な鎖の音によって中断される。

「えっ…!?」
ゴッ!

剛力番長の背後に回り込んだ沖田が、木刀の柄を彼女の首筋に叩きこんだ。
そのままうつ伏せに倒れこむ剛力番長。鎖の音は彼が握っていた首輪のものだった。

「土方!!何をする!!」
「旦那ァ、さすがに言わせてもらいますぜ。この女は殺し合いにのっていると自分で言ったんだ。
 潤也くんの能力を完全に信頼したわけじゃないが、さすがに言い訳はきかない」
「だが、なにか事情があるのかも知れねぇ」

睨みつけるように、金剛が言葉を続ける。

「事情もわからず相手をぶちのめすのは、あまりスジが通っているとは言えないぜ」
「その事情とやらを聞くのは、こいつをふんじばってからでも遅くはねぇ、違いますかィ?」

沖田は先ほどまでと違い、かなり真剣な表情となっていた。
彼にしてみればこれでも譲歩したほうである。いつもの彼ならこんな生温いやり方ではすまない。

まず、一撃で気絶はさせないだろう。間違えたフリをしながら4〜5発は相手を殴る。
適度に間隔をあけ、相手が何か言い返そうとするタイミングを見計らって叩き込む。
相手が本物の土方であれば4〜5発では済まず、顔面にも叩き込むに違いない。
それでも平然と「間違えた」などと言いながら。

一発で気絶させてやっただけマシでしょう、沖田がそう言おうとした時だった。

434 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:20:11 ID:9Jfx9i7w0

「その必要はありませんわ」

首の裏をさすりつつ、剛力番長は立ち上がった。
ゆっくりと振り返る少女の視界に、しかし沖田は映らない。
その時にはもう既に、彼は敵の背後に回りこんでいた。

ガッ

二発目も躊躇無く叩き込んだ…はずだった。
しかし今度は倒れることなく、逆に振り返り際に裏拳を繰り出してくる。

「やっ!」
「チッ」

相手の反撃をかわし、ひとまず距離を置く。
さすがに二発目がなんの効果も見せなかったことには驚きを隠せない沖田。
彼女が常人よりはるかに頑丈な体質であることを知っている金剛は、多少落ち着いている。

「止せ!落ち着け剛力番長!」
「そちらから手を出しておいて何を!」

今度は金剛のほうに振り返る剛力番長。
その隙を突こうとした沖田を、金剛が制す。

「お前も止せ!土方!」
「旦那、そうはいかないぜ。俺はこれでも警察の人間なんでね。
 これから人殺そうって奴をほっとくなんざ、職務怠慢で減給ものでさァ」

本人は減給なんてなんのその、といった生き方をしていることを棚に上げ、一応は正論を述べる。

「け、警察!?あなたがですか??なんだか納得いきませんわ…」

場違いな驚きを示している剛力番長は放っておき、二人は会話を続ける。

「それは俺も同じだ!こんな場面で人殺しなど、認めてたまるか!!」
「ならいいじゃねーですか」
「だが、ぶちのめすにしても、反省させるにしても、相手の理由は聞いておく!」
「だから、なんでですかって…」
「スジが通ってねぇからだ!!!!!!!!!!!!」

大絶叫。
沖田はもちろん、おもわず潤也も体が固まり、耳をふさぐ。
それを納得とでもとったのか。金剛は剛力番長への質問を再開した。
彼女は彼女で、金剛の迫力に気圧されしたのか、おとなしくなっている。

「さぁ、説明してもらうぞ、剛力番長。一体なぜこんな馬鹿げた殺し合いにのっているんだ」
「……いいでしょう。私の正義をお聞かせして、理解していただければそれに超したことはありません」

まさにやれやれ、といった具合で、沖田もひとまず木刀をおろす。
だがその目はまだ、油断無く真剣さを残していた。

435 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:20:53 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

いかりやチョーすけ、頭はパー

    ◇     ◇     ◇


「アンタ、全然ダメだよ」

剛力番長の告白を聞いて真っ先に口を開いたのは、意外にも潤也だった。

少女の告白―――

全てを壊し、全てを蘇らせる。
錬金術師を名乗ったその男の計画の実現が、彼女の正義。

沖田や、金剛にもなんとなくわかっていた。その男は嘘をついているか、隠し事をしている。
だがその少女の語りには希望というか、なにかすがる様な気持ちを感じさせた。
金剛は警戒心から、沖田は自分に被害がこないように指摘する方法を考えて、言葉を選んでいた。
だがそんな事はおかまいなしとでも言うように、潤也は言葉を放つ。

「ソイツの言ってる事はデタラメだよ。少なくともいくつかはさ」
「なっ…!失礼な!キンブリーさんは…」
「じゃあなぜ俺たちは生きてる?」

潤也の発言に、剛力番長はビクッと体を震わせた。

「俺や土方はともかく…金剛ははっきりと、殺し合いにはのらないって宣言してる。
 さっきの叫び声なんて、気づかなかったなんて言えないぞ。なのに化物に変えられる様子は無い」

さらに潤也は続ける。

「大体、人形を作れたからって人間も蘇らせることが出来るなんて思えないだろ」
「それはっ!先ほども言いましたが、キンブリーさんが言うには賢者の石とかいう…」
「実物、見たのかよ?」
「え?」

不安そうな顔で、言葉に詰まる剛力番長。
少しうつむき気味に話す潤也の表情は、前髪に隠れてうかがえない。

「その賢者の石ってのが実在するか、アンタは確かめてない。たとえ本当に存在するとして、
 それがソイツの言うような力を持ったシロモノかはわからない」

苛立ちを我慢できず、潤也は足をタンタンと地面に打ちつける。
リズムは一定だが、とても心地よいものとは言えなかった。

「そもそも、どれだけアンタが殺してまわろうとも、そのキンブリーってヤツが死んだら意味がないだろ?」
「なっ!」
「結局アンタは、何一つ自分で選んじゃいないんだ。
 ただ自分の失敗を誤魔化したくて、都合よく現れたその男に思考を預けた。
 そいつのいいようにつかわれても、楽だからってそっちを選んだんだ。
 ……それは死んだも同然の、生き方だ」

少しずつ声のトーンが下がっていく。
言いたい放題言われ、剛力番長のほうも黙ってはいられない。
必死で考えを巡らし、あまり得意ではない舌戦を挑もうと試みる。

436 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:21:29 ID:9Jfx9i7w0

「そんなことはありません!私はキンブリーさんの作戦が一番だと思ったんです。
 お話した時間は短かったですけれど、貴方たちと違ってとても紳士で素敵な方でした。
 私は、あの人の言うことなら信じられます!」

「考えろ!!!!」

突如出された大声。
先ほどの金剛の叫びとは違った迫力を秘めた一言だった。
その場にいた3人が、思わず身を強張らせる。

「考えろ、考えろ、考えろ!!!自分の頭で!!!誰かに任せるんじゃなくて!!!
 何も考えないで任せるのは信じてるとは言わない。流されてるってことだ。
 考えろよ!!それをしないで自分のことを正義だの何だの言って暴力を振るうのは……
 俺は、絶対に……許さない」

顔をあげた潤也の目は、修羅場慣れした三人にも恐ろしさを感じさせるものだった。

自分で言っていて、イライラしてくる。潤也は強烈な自己嫌悪に襲われていた。
自分は先ほどまで、この殺し合いからさっさと離脱する方法を考えていた。
兄貴の仇がここにいれば探し出す。いないなら他の全員を殺してでも脱出すると。
だが、それは自分で考えた方法だろうか?

『御主等にはこれから最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう』

無意識にこの言葉に流されていなかったか?
それが、本当にベストな選択か?

自分は土方にあっさりと捕まった。
その土方すらこの金剛に対して警戒感のような、ある種実力を認めているような、そんな態度をとっている。
遠慮や敬意などはほとんど感じられないが、潤也に対する舐めきった態度とは大違いだった。
そしてその金剛と一緒に戦ったという目の前の少女。土方の攻撃にも怯まず反撃してみせた。

こんな連中を、どうやって殺すというのだ。

一人ひとり罠にはめる?
この狭い会場で、既に警戒心を抱かれているのに?
この状況じゃ、罠にはめた一対一だって勝てるかは五分以下だ。
潰しあいをさせる?
バカバカしい。結局は最後の一人をこの手で殺さねばならない。
たとえ疲弊しきっていようとも、そこまで生き延びた実力者をあっさりと殺せるものか。
長い時間をかけて、不意打ちが出来るくらい絶対的な信頼関係を築けていればそれも可能かもしれない。
だが、そんな時間をかけている暇は無い。
それに万一にも失敗は許されない。精神論で『何とかする』なんて言えない。

俺は、一刻も早く、絶対に、兄貴の仇を討たなきゃいけないんだから。

考えろ、考えろ、考えろ。

自分の頭で、誰かの言葉に流されるのではなく……
一番『速く』、『確実』に脱出できる方法を……

437 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:21:55 ID:9Jfx9i7w0


安藤潤也は金剛とは別の方向で一直線な男だ。
自分の決めたことはしっかりと信じるし、流されない。
金剛が濁流を遡る魚なら、潤也は根を張って決して倒れない木、という感じだ。

何一つ離さぬよう、撃ち抜く事に特化した拳。
あらゆる方向に広げられた、全てを掴む可能性のある掌。

潤也は後者。手段にこだわらないからこそ、迷わない。
一度定めた目標の為ならば、あらゆるものを賭けてでも邁進していくことが出来る。
柔軟であるが故の強靭さ。それはさながら風にそよぐ柳のように。
剛力番長の告白を聞き、彼はあらためてその思考の強靭さを発揮しつつあった。

「………!」

ではもう一方の少女に浮かぶのはなにか?
怒りではない。混乱と恐怖の混ざったような顔をしている剛力番長。
今彼女の頭の中にはグルグルと様々な感情が駆け回っているのだろう。
いかにも折り合いがつかないといった感じで、表情が見るに耐えないものへ変わっていく。
思わず声をかけようとでも思ったのか、金剛が一歩前へ踏み出た、その時だった。

「私は、自分が正義だと思ったことを信じて実行してまいりました」

剛力番長は語りだす。顔を伏せているので表情はわからないが、口調は落ち着いていた。
金剛も沖田も、彼女がパニックを起こし暴れだすのではと思っていたので少し安心する。

「私は私です。ここに来てからも何も変わってはおりませんわ。
 ですから、考えるまでもありません。いえ、充分に考えられているんです」

だが、吐き出されたのは決して落ち着いた回答とは言えないもの。
今までしてきた事が正義であるなら、これからすることも正義である。
そんな理不尽な理屈ともとれる発言だった。

「私の正義の実行を妨げようというのでしたら……
 可哀想ですが、力ずくでも納得して頂きます!!」

強く握りこまれた拳が突き出される。
気づいた時には、金剛の体が宙に浮いていた。

438 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:22:45 ID:9Jfx9i7w0

沖田は刹那の中で気がつく。
自分の立っている位置。潤也の立っている位置。その関係性。
金剛の肉体。不可解なほど強い剛力番長とやらの腕力。
このままだと金剛が自分と潤也の間を通って吹っ飛んでいく。
おそらく窓を突き破って校庭へ飛び出すだろう。
不思議と金剛の心配はしなかった。彼ならこの程度なんとも無い。そんな無根拠な確信があった。
だが、自分と潤也の間には鎖が張られていた。一端は自分の手に。もう一端は潤也の首に。
二人の適度な距離が、ある程度の高さを保たせてその鎖を張らせている。
ここで自分が何もしなければどうなるか。それを考えた時、刹那の中で沖田は鎖を手放していた。

目の前を金剛の巨体が吹っ飛んでいく。
それを追う様に、体操着姿の少女が駆け抜ける。
そしてその二つの向こう側に見えるのは、ただの『ヤバイ』少年か、それとも。

沖田は、出会った時のように潤也と対峙する。今の潤也は丸腰だが、彼を拘束するものはない。
鎖を持つ手は離してしまった。
だが、離さなければ鎖は金剛の体で引っ張られ、潤也は首に重大な損傷を負っただろう。

「チッ」

沖田は苛立つ。なぜ自分は手を離したのか。
彼の中に根付く、とある男の性格か。あるいは姉への想いが彼を優しくしたのか。それは本人にもわからない。
確実なのは、それが今の状況を作り出してしまったということ。
鎖で繋がれた狼と、自由な犬。どちらが恐ろしいのだろう。
潤也が口を開いた。

「これで、対等だ」
「あァ?」

沖田が、少し不機嫌そうに返す。

「これで俺とアンタは対等だ」
「寝てるのかィ?寝言が聞こえるぜ。これのどこが対等だって?」

沖田の手元には潤也から取り上げた銃と支給品の木刀がある。
一方潤也の手元にある武器と呼べそうなものは首からぶら下がる鎖と首輪くらいだ。
普通に考えれば、とても対等とは言えない状況。
校庭から轟音が聞こえる。金剛達が派手にやっているらしい。
なんとなくわかっていたが、やはり彼はかなり強いのだろう。

「俺は鎖で繋がれてない。アンタは、もう一度俺を捕まえなきゃいけない」
「それがどうした」
「アンタにとって道具同然だった俺が、今は敵になってる。だから、対等だ」

確かに、先ほどまでと比べれば状況は幾分潤也優位に動いている。
だが身体能力の違いは先の戦闘ではっきりしているし、沖田は潤也の精神を乱す術もわかっている。
沖田は余裕の態度を崩さない。それがこの状況で必要な事をよく知っていた。

「やっぱり寝てるらしいや。今叩き起こしてやるぜ」

木刀を握りこむ。
先ほど剛力番長にしたのと同じように、背後に回りこんで一撃。これで終わりだ。
ヤツはあの女のように頑丈ではない。咄嗟に対応できるような反射神経も、経験もない。
楽なものだ。そうわかっていても、少しも気を緩めないのは経験からか、無意識に相手の危険性を感じ取ったか。

439 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:23:16 ID:9Jfx9i7w0

「アンタの挑発は効いた」

突然喋りだす潤也。
心理戦にでも持ち込むつもりかと、一瞬警戒する。
そんなものに付き合う理由は無い。だが、このまま力でねじ伏せても同じことを繰り返しそうな気がする。
一度完膚無きまでに精神から叩きのめし、従順な犬にでもなってもらうか。
相手の心を乱すキーワードは既に掴んでいる。
なにより相手の精神を責める事に関して、沖田は自信があった。

「俺にとって、兄貴は引き合いに出されたら冷静じゃいられない存在だ。詩織もそうだけど…」
「あぁ、彼女だったか?そいつももしかしたらここにいるかもしれないぜィ」

兄の話題を自分から出してきたので、あえて別の方面から責める。
だが、潤也は無視して自分の話を続ける。

「ずっと考えてた。なんであんなにムカついたのかって。
 きっと、アンタの言い方が凄く巧かったからだ。俺の嫌なところばっかり突いてきた」
「彼女が泣いてるぜ。自分をほっといて彼氏が人殺ししようとしてるなんて知ったらな。
 それとも……もう生きてないかもな?」

沖田も無視して、責める。
非情。我ながらひどい事を言っていると思うが、罪悪感は無い。
今大事なのは気遣いではないのだから。沖田は冷静に、潤也の精神を乱そうとする。

「いつだったか見たテレビで言ってた。人の悪口を言うとき一番巧く言えるのは……
 同じ悪口を言われた事がある人だって」

ピク
沖田が少し反応する。
すぐにそれを隠し、次の言葉をつなげようとした、一瞬の躊躇。
それが潤也に連続の発言を許してしまう。

「それとは違うかもしれないけど…似たようなことなんじゃないかと思った。
 アンタ……家族が、それもたった一人の家族が……」

ドクン
ヤロウ…と心の中でだけ沖田は呟く。
潤也の表情は見えない。うざったい前髪だと、妙な怒りが湧き上がる。
次に出てくるであろう相手の言葉。これは勝負どころだ。
取り乱してはいけない。絶対に。
俺は……真撰組の隊長なんだから。


「その家族が、死んでたりしないか?それも、ごく最近……」

440 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:24:01 ID:9Jfx9i7w0


体中を、怒りが駆け巡る。
無神経な物言い。自分の触れられたくないところに触れてくる図々しさ。
今まで圧倒的にこちらが優位であっただけに、より腹立たしい。

だが、沖田は冷静だった。
握りこんだ木刀を振り回すこともせず。銃を乱射することもなく。
姉にとって自慢の弟は、そんなことをする奴じゃない。
だから、つとめて冷静にこの場を取り繕う。

「『死んでねーよ』。適当なこと言うもんじゃないぜィ」
「それ、『嘘』だ」

『十分の一=一』

潤也の発言を聞いて沖田の頭の中に浮かんだのはその言葉。
途端に彼の体中を巡っていた血が、頭へ昇っていく。
怒りが、集まる。

「てめェ…」
「兄貴か、姉貴…それともそれ以外かはわかんないけど…今の言葉は『嘘』だ」

潤也の質問は、最近家族が死んだかどうか。
そして彼が当てられたのは相手の言葉が『真実』か『否』か。

沖田の失敗は1つ。嘘をついてしまったこと。
しらばっくれれば、はぐらかせば、あるいは黙っていればよかった。
「なんのことだ?」「さて、どっちでしょうかね」「答える必要はない」
そんな言い方をすれば問題は無かった。それを判別する力は潤也には無い。
だが、嘘か真かなら二択。何が嘘かはわからないが、単純な質問と答えならそれも特定できる。
特に、今回のように前フリをしておけばなおさらだ。

なぜ、自分は答えてしまったのか。なぜ、嘘をついてしまったのか。
あるいは真実を述べて、堂々としていれば良かったのかもしれない。
それがどうした、俺は乗り越えたんだ、と。
だが、冷静であろうとしすぎた事、それでありながらも姉の事を指摘されたことで気が昂ぶってしまった事。
相反する二つの感情を整理できるほど、今の彼は完成していなかった。
そしてそれを補ってくれる大切な『友人』も、今はここにいない。

現状はなにも変わっていない。ただ、相手に心を見透かされた。それだけ。
だが、人の心のデリケートな部分というのは、それだけでひどく脆くなる。
相手の罠にまんまと引っかかり、醜態をさらした。
その事実がただ、沖田には腹立たしい。握りこんだ木刀が、『戦え』と命じているように思えた。
沖田は走り出していた。

441 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:24:34 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

正義は、勝つ

    ◇     ◇     ◇

少しだけ前、窓から落ちた金剛とそれを追った剛力番長。
両者なにごともないかのように地面に両の足で着地。
剛力番長はまっすぐ金剛に突っ込んでいく。

「やぁぁぁぁぁ!!!」
「打舞流叛魔(ダブルハンマー)――――――!!!!」

それを迎え撃つのは、鉄の如き高度となった金剛番長の両拳。
必殺の一撃を叩き込まれ、剛力番長は真逆の方向へと吹っ飛ぶ。
本校舎の横にある別棟にぶつかり、止まる。

「お前の事情はわかった」

相手が気を失っていないことを確信しているのか、すぐに話しかける金剛。

「だがな、剛力番長。俺もお前の言ってる事がスジが通っているとは思えねぇ。
 お前にとって辛いこともたくさんあったのかもしれないが、知ったことか。
 それが他人を傷つけていい理由にはならん。悪いが…ぶちのめしてでもお前を止めるぞ」

剛力番長の告白を聞き、潤也の怒りを聞き、出した結論がそれだった。
おかしなこと、わからないことはいろいろとある。
だが、今通さなければならないスジは、彼女を止めることだ。そう思った。

「私は…止めるつもりはありません。私やキンブリーさんに失礼なことを言ったあの人も含め、皆さんを倒します。
 でも、まずは貴方です!!私の記憶を勝手に偽ろうとする貴方を、私は倒すんです!!」

そういって別校舎から姿を現した剛力番長は、巨大な剣を携えていた。剣というよりもはや鉄塊か。
それを片手で持ち上げているのだから、やはりアイツは剛力番長だと、金剛は思った。
反対の手に持っている何かに、少女が呟く。

「今から目の前の男を倒します。彼は私に偽りの記憶を語るなど、非道な男です。
 正義の鉄槌をくだし、絶対にこの手で倒してみせますわ!」

それを鞄にしまい、今度は両手で剣を構える。

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

またしても力任せな突進。だが今回は剣を伴っての突進だ。
さすがにまともに受けるわけにはいかない。金剛は周囲を見渡すと、手ごろな『それ』を引っこ抜く。

442 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:25:39 ID:9Jfx9i7w0
「ぬぅぅぅぅぅん!!!」

『それ』……ジャングルジムを片手で振り回し、突進を受け止める。
さすがの剛力番長も、すこし驚いた表情を見せた。

「くっ」
「こうしてお前と戦うのは二度目か…お前はあの時、力の正しい使い方を知ったはずだ!」
「!! ですから、嘘は、お止めな、さい!!」

距離をとって剣を一度ひき、上段の構えへ。そこから力任せに振り下ろそうという作戦。
剣の重量と少女の力。単純だが、これには遊具などではとても耐えられない。

「キンブリーさん優勝の為…礎になっていただきます!」

しかし構えを変えた一瞬の隙に、金剛番長は既に行動を始めていた。

「知った…」

ジャングルジムを放り投げ、再び鉄と化した拳を握る。
相手が剣を振り下ろすより速く。
そう、単純に速く、力強く、拳を突き出した。

「ことかァぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

本気を出した打舞流叛魔が、叩きこまれる。

443 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:26:30 ID:9Jfx9i7w0

再び教室内。
沖田が動くより一瞬だけ速く、潤也は動いていた。
それでも身体能力の差は歴然。すぐに追いつかれるだろう事は潤也にもわかった。
だから少し遠い廊下への出口ではなく、先ほど金剛が吹き飛んでいった先、割れた窓のほうに向け全力で走る。
一切の躊躇も無く、潤也は飛び降りた。残っていたガラスで少し傷を負う。
ここは2階。下は確か花壇だった。体を丸め、頭だけ守りながら落ちていき、土の上で受身を取る。

「〜〜〜〜〜〜!!!」

全身が痛んだが、耐えられる、なんの問題も無い。
体育の授業は楽しかったから、少し真面目に受けててよかった。そんな事を思った。
だが、すぐに体を転がしてその場から離れる。
予想通り、自分の落ちた花壇の上に、銃弾が降り注ぐ。後を追う様にして沖田が降り立った。
銃と木刀を握りしめ、先ほどまでとは違う意味で嫌な目をしていた。

もう逃げ場は無い。戦っても勝ち目は無い。
コイツは口八丁で煙にまける相手ではないし、騙したりもできない。
自分の能力では相手を逆上させることは出来ても、出し抜いたり、無力化したりは出来ない。
潤也がパーなら、相手はチョキ。どう頑張っても勝ち目は無いのだ。
だから…

「短い鬼ごっこだったぜィ」
「あぁ、もう逃げないよ。俺は目的の為に、戦う」

だから頭を使うんだ。

グーを、味方につけて。

「…どういう事だ、土方」

立ち上がる潤也の背後に、一人の男が姿を見せた。
人呼んで、金剛番長。
スジの通らぬ話が許せない、強くて硬い男だった。

「……チッ」
「答えろ」
「どーもこーも…見たまんまですぜ?」

見たまんま。
それは沖田が丸腰の相手に銃を乱射していることか。
それとも潤也が土と血に塗れて立っていることのほうか。

444 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:27:10 ID:9Jfx9i7w0

あるいは素直に事情を説明していれば、金剛とてバカではない。
喧嘩両成敗とでも言って、なんとか場を収めただろう。
だが、沖田にはそれが出来なかった。今の自分は、人生で一番見られたくない一瞬であると思う。
ひねくれた性格が悪い方へと働いてしまう。強がるように、本音をひた隠す。
そんな態度をとってしまうことまで潤也にはお見通しであったのだろうか。

悔しいが、おそらくそうだろう。ヤツの狙いはこれだ。
自分と金剛の間に亀裂を生じさせること。だが、わかっていても態度というものは中々変えられない。

「旦那、そいつはマジでヤバイ。俺は確信したぜ」
「例えそうだとしても、丸腰の相手に武器使って殺そうとするなんぞ…」
「スジが通らねぇ、ですかィ」

金剛の目は真剣だった。
事情を説明しなければ、共に行動することは適わないだろう。
だが、何を言っても言い訳がましくなるのは目に見えていた。
潤也は一言も発しない。沖田を貶めようとする言葉も、救おうとする言葉も。
あるいはそれは、審判を待っているようだった。
金剛によって、自分と相手の罪を量ってもらっているかのように。
やがて、沖田が口を開く。

「お互い納得できないなら仕方がねぇ…悪いが、別行動させてもらいますぜィ」

クルリと背を向けて、沖田は歩き出す。入ってきた正門ではなく、別の場所にあった門に向かった。

「土方!」
「旦那ァ、忠告しとくぜ。あんまし甘いことばっか言ってると、バカを見るぜ。
 どうしてもそれを貫くんなら…ひねくれた仲間を2人くらい、見つけるんだな」
「……気をつけろよ」
「『警察』にそんなこと言うのは、お門違いですぜィ」

そう言い残して沖田はその場を去った。

445 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:27:45 ID:9Jfx9i7w0
「……」

潤也は、黙っていた。
審判は下された。ただしそれは、正義や悪を比べるものではなかった。
潤也が考えに考えた末に選んだ道は、脱出。
ただしそれは確実で、最速の脱出。

殺し合いに勝ち残るのは難しい。
だが全員で仲良く脱出するのも難しい。
難しいということは、時間がかかるという事だ。失敗の可能性があるという事だ。
だからそんな手段はとっていられない。自分のこのちっぽけな力でも出来る、最大限のことはなにか。
それは強い参加者を何人も味方につけ、自分の能力で導くこと。
無駄を省いた、最速確実の道へ。

沖田の力も役立つものではあった。しかし、彼はこちらを疑いすぎている。
最初の出会いの際にもう少し落ち着いて対処が出来ればまた違ったのだが…
とにかく、これ以上ヤツと一緒に行動していると、思ったように動けない。
しかも本当にいざとなったら、おそらく彼は自分を見捨てられる人間だ。
だから排除する必要があった。
都合よく自分を拘束していた鎖がはずれ、生まれたチャンス。それを最大限に活かし、成し遂げた。
ヤツの性格からして、この状況で言い訳がましく事情を説明するなど、耐えられないはずだとふんでいた。
それがあたった。

だが、今唯一の味方となった金剛もバカではない。自分に対して疑念を抱いているだろう。それでもいい。
それでも彼は潤也を守る。スジとやらを通す為に。それがわかったから選んだ道だ。
兄貴の仇の情報を得る目的も含めて仲間はもっともっと欲しい。
金は無いけど、この状況で必要なのは多分金じゃない。
金じゃない『何か』がきっと仲間を増やす。その『何か』を考えるんだ。

俺は兄貴の仇を討つ。潤也の考える基本的なことはなにも変わっていない。
ただ、『今』一番適した方法が『のる』ではなく、『逆らう』だと判断しただけだ。
その為なら、善意だろうが悪意だろうが利用してやる。
生き延びたい奴ら、帰りたい奴ら、勝ち残りたい奴ら、そして、主催者。
みんな利用して…脱出する。仇を討つ。
そう考え抜いて、決めた。

446 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:28:47 ID:9Jfx9i7w0

「おい、潤也」

金剛が潤也に向き直り、声をかける。
なんとなく察してはいるのだろうが、金剛は事情を聞きたかった。はっきりしないのは好きではない性分。
だが、そこで彼の視界に入ってきた潤也の表情は、驚愕。

「金剛後ろーーー!!!」

振り向けば、大剣を構えた少女の姿。

「正義は、勝ぁぁぁぁぁつ!!ですわーーーーー!!」


    ◇     ◇     ◇

とは、限らない

    ◇     ◇     ◇


金剛は本気の打舞流叛魔を叩きこんだ時点で、相手を無力化したと思っていた。
以前戦った時はそうであったし、なにより確かめる暇もなく仲間の諍いが起きた。
らしくない油断ではあったが、仕方のないことだったのかもしれない。

とにかく、剛力番長はまだ倒れてはいなかった。
それはホムンクルス化の影響か、金剛への制限が原因か。
再び立ち上がるまでには少し時間がかかったものの、彼女はその身を起こし戦闘を再開した。
今度こそ、正義の鉄槌を下す…その一心で、振りかぶった剣を叩き込んだ。

「ぬおぉ!」

間一髪、潤也の指摘で振り向くと、握りこんだ拳で剣を受け止める。
剣自体はそれほど切れ味のあるものではないようで、切断されることはなかった。
だがその重量と力、無事ではすまない。

447 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:29:16 ID:9Jfx9i7w0

「ぐぅぅ!」
「く、まだまだぁぁ!!!」

痺れる両拳を酷使し、金剛は剛力番長の追撃をかわす。
これではしばらく打舞流叛魔は使えない。しかも近くには潤也がいる。
彼を安全なところに逃がさねばならない。
金剛は潤也を脇に抱え、ひとまず逃走を図る。

「ま、待ちなさい!!」

すぐさま相手も追いかけてくる。ところが……

「あ、あらー!?」

打舞流叛魔のダメージか、それとも単純に躓いたか、少女はこの大事な場面でよろめく。
わずかに崩したバランスは、力はあっても小さな体格に不釣合いな剣によって大きな影響を生んだ。

どってーん

古いギャグのような音をたて、少女は思い切り転倒した。


相手が一人コントをしている間に、金剛はとりあえず体育館へと駆け込んでいた。
どこか潤也が隠れられそうな場所は無いか探す。1つの扉が目についた。

「とりあえずあそこに隠れていろ」
「え、ちょ、金剛、あれは…」

そういって金剛がずんずんと扉に近づき、ドアを開く。
そこへ一歩踏み込んだ、その時だった。

「もう逃がしませんわ!!!」

体育館の扉を開き、体操着の少女が入ってきたのは。
よく似合っている上に校庭以上に違和感のない場所にいると、普通のことのように見える。
転んだ際に打ったのか、鼻が赤くなっていた。
しかし、彼女は目を見張る。男達が確かにここに逃げ込んだのは見えた。
だが、ここには誰もいない。自分が入ってきた以外の扉は二つ。
1つは体育倉庫だろうか。そしてもう1つ。こちらが開いていた。

「非常口……またしても外へ…?どこまで逃げるおつもりかしら!」

448 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:29:52 ID:9Jfx9i7w0

そういってその扉に駆け寄ろうとするも、そこでスピーカーから音楽が流れ始める。
ハッ、と気がつき、思わず館内の時計に目をやると、時間は午前六時。

そう、最初の放送が始まる時間だった。
どうするか迷うものの、先ほどの男の言葉が頭をよぎる。

『そのキンブリーってヤツが死んだら意味がないだろ?』

まさか、彼が死んでいるとは思わないが……それでも、ここで放送を聞き逃すのはマズイ。
そう自分に言い聞かせるように、少女は立ち止まった。鞄から『日記』を取り出す。

「……これから、放送が始まります。先ほどの男達は取り逃がしてしまいましたが…
 大丈夫、全てうまくいきますわ…」


【H-3小学校/体育館/1日目 早朝(放送直前)】

【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(中) ダメージ(中) ホムンクルス 『最強の眼』
[服装]:キツめの体操服、紺のブルマ
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]:支給品一式、アルフォンスの残骸×6  ボイスレコーダー@現実
[思考・備考]
0:全員を救うため、キンブリーを優勝させる、という正義を実行する
1:放送を聞く
2:先ほどの男達を追跡する?
3:キンブリー以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
6:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す
7:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録
[備考]
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できるとかろうじて信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報に、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※アルフォンスが参加者だったことに気づいていません。
※妲己がみねねの敵だと信じています(妲己の名前は知りません)。
 二人の会話も聞こえておらず、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。

449 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:30:16 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

潤也は金剛に、その扉は非常口だと伝えようとしていた。
ところが…いざくぐってみれば、たどり着いたのは外ではなく、どこかの室内。
それもかなり広い場所のようだった。何かの店なのか、いろいろなものが並んでいる。

「む、随分と広いな。まぁ隠れるには丁度いい。ここで待って…」
「ちょ、ちょっと待てよ金剛。ここどう見ても学校じゃないって」

金剛の脇から下ろされ、周囲をあらためて確認しながら潤也は告げる。
おかしい。非常口に飛び込んだはずが、なぜ室内、それもまったくつくりの違う建物に繋がるのか。
考えろ、そう思った時、彼の考察を邪魔するかのように音楽が流れ出す。

「これは…まさか、やつらの言っていた放送か?」
「……音楽なんか使って、いい気なもんだな」

暗い室内に、メロディだけが響き渡る。

【I-7デパート/1日目 早朝(放送直前)】

【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】疲労(中)、右手首骨折(応急処置済み)、たんこぶ一つ、体の数箇所に軽い切り傷
【装備】首輪@銀魂(片方の首輪をはめている)
【所持品】
【思考】
基本:兄の仇を討つ。そのためには手段も選ばない。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、確実で最速なやり方でここから脱出する。
2:ひとまず脱出の為に、金剛を始めとした殺し合いにのっていない参加者を集め、協力してもらう
3:その集団を、能力を活かして確実最速な脱出方法へ導く
4:土方に対する激しい怒り?
5:兄貴……


※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※沖田の名前を土方と理解しました。
※能力は制限されている可能性がありますが、まだ気付いていません(少なくとも3分の1は1に出来ます)
※キンブリーを危険人物として認識しました。



【金剛晄(金剛番長)@金剛番長】
[状態]:疲労(中) 両拳に軽い痺れ(数分で回復します)
[服装]:学ラン
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、確認済み支給品×2(武器である事は確認済み)
[思考]
基本:殺し合い?知ったことか!!
 1:ゲームを潰す
 2:施設をまわり、情報を集める。
 3:このゲームの主催者たちにスジを通させる
 4:陽菜子や他の番長たちはいるのか……?
 5:仲間たちにもスジは通させる
 6:剛力番長の様子がおかしいことが気にかかる
 7:土方のことも気がかり
[備考]
※自分の力が制限されていることを知りました。
※主催の用意した武器を使うつもりはありません
※キンブリーを警戒対象として認識しました。



※H3小学校体育館の非常口と、デパートのどこかがワープで繋がっています。

450 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:30:54 ID:9Jfx9i7w0

    ◇     ◇     ◇

まぁ、丁度良かったのかもしれねぇや。
夜道を一人歩きながら、沖田は少し冷静さを取り戻した頭で考える。
潤也の策略にのってしまい、結局彼らから離れざる得なくなった。
これは正直痛いし、悔しい。

あの場で金剛に事情を説明すれば事態は収まったかもしれない。
だが、そうすれば自分の姉の話や、それによって激情してしまった事を伝えねばならなかった。それは我慢ならない。

安藤潤也は危険だ。だが、その危険さは即効性のものではない。
あぁいうタイプが厄介になるのは状況が混乱してからだ。
むしろ今危ないのはさっきのガキみたいな、深く考えずすぐ暴れまわっちまうタイプの方。
金剛の旦那もバカではない。いざとなればヤツをなんとかするだろう。
無理に自分がついている必要もない。

言い訳半分、本気半分という感じで考えていた。
そういえばあのガキはどうなっただろう。
旦那の知り合いらしいが、ちゃんとぶっ飛ばせたのか。
まぁ問題ないだろう。あぁいう男は、身内だからこそ遠慮なく拳をふるえる。
そいつの間違いを正してやる為にも。
数時間前に殴られた頬をなで、うっすらと、今日で一番素直な笑みを浮かべる。

勢い飛び出てしまったが、自分はやるべきことを、否、やりたいことをやるだけだ。
今の目的地は警察署。彼自身に警察としての自覚はほとんどないも同然だ。
しかしそこには武器があるだろうし、いるのなら真撰組の他の隊士も集まる可能性がある。
武器と仲間。このふざけたゲームを壊すのにどちらも必要なもの。
と同時に、今しがた失ってしまったものでもあるのだが。
また当面の危険であるゲームにのって暴れる連中に対処するのにも有効なものだ。

デパートにいるという万屋の旦那のことも気になった。
しかしデパートには金剛達が向かうはず。これも彼らを放って置く理由の一つだった。
あの旦那なら、危ういあの二人もなんとか運転してくれそうな気がする。
そんな期待があったのかもしれない。

(まぁ、あんまり気にしすぎても仕方ねぇや。
 でもな、礼はいつかきっちりするぜ、潤也くぅん?)

やっとらしさを取り戻し、沖田が笑う。
だがその笑顔もまだ、少しぎこちない気がした。


【H-2/大通り/1日目 早朝(放送直前)】

【沖田総悟@銀魂】
【状態】疲労(中)、わずかな悲しみと苛立ち
【装備】木刀正宗@ハヤテのごとく! 
【所持品】支給品一式×2 イングラムM10(10/19)@現実 未確認支給品0〜1(確認済み、武器はない)
【思考】
基本:さっさと江戸に帰る。無駄な殺しはしないが、殺し合いに乗る者は―――
1:警察署に向かい、武器と仲間を探す。特にこの場にいるなら近藤や銀時達知り合いと合流したい。土方?知らねえよ
2:金剛と潤也が気がかり
3:……姉上、俺は――


※沖田ミツバ死亡直後から参戦
※今の所まだ金剛達との世界観の相違には気がついていないようです
※キンブリーを危険人物として認識

451 ◆lDtTkFh3nc:2009/10/05(月) 22:34:50 ID:9Jfx9i7w0
以上、タイトルは「夜明けだョ!全員集合」
タイトルに偽り有。体操服?趣味です。

長いのに投下をミスってすみません。
代理してくださってる方、ありがとうございます。

452代理:2009/10/05(月) 22:40:17 ID:isuiz1lM0
俺もさるった

453本スレ>>403以降差し替え ◆L62I.UGyuw:2009/10/09(金) 01:19:56 ID:pHhzymDI0

首に嵌められた鈍色の枷をさすり、

「――こいつ、か?」

ボソリと低い声。

「首輪?」

リンも自分の首元を確かめる。

「ああ、この首輪に錬金術が通用しないことは確認した。練成エネルギーが通らないんだ。
 いや、というよりは『首輪に練成エネルギーが吸収されてる』って感じだな。
 リン、お前、気の動きが分かるってんなら、首輪周りのエネルギーがどう動いてるか探れないのか?」

肩を竦めて、リンが答える。

「残念だけど、そこまでは判らないヨ。ここに来てから調子が悪くてサ。
 ……でも、そういえばグリードも首の周りが硬化出来ないって言ってたナ」

やっぱりかと呟くエド。
グリードの『炭素硬化』も錬金術の一種であり、発動するためにはエネルギーが必要だ。
首輪周辺のエネルギーを吸収されれば当然硬化は不可能。理屈は合っている。
考えてみれば、首輪の機能が単なる爆弾に過ぎないというのは不合理だ。
エドは慎重に思考を展開し、リンに理解出来る形で必要な部分を説明する。

「それで……もしこいつにエネルギーの吸収機能があるなら、だ。放出機能もあるんじゃないか?
 つまり吸収したエネルギーの情報をヤツらに送るような機能ってことだ。
 その方法ならオレ達の生死を判定するのは簡単だからな。
 ……もしかしたら制限ってやつもこの首輪で一括制御してるのかもな」
「ふーン。……要するに、やっぱりまずこの首輪を何とかしろってことカ?」

リンが簡潔に要点を纏めて、すっくと立ち上がった。
デイパックを腕に掛け、エドが続く。

「ま、そういうこと。オレの予想が合ってようとなかろうと、な。
 どっちにしろこれ以上は情報不足だ。まずは行動あるのみ、だぜ」
「よシ。それじゃ、今度こそ行くとするカ」

木々の隙間から零れる朝の陽射しに向かって、二人の反逆者が歩み出す。

454本スレ>>403以降差し替え ◆L62I.UGyuw:2009/10/09(金) 01:20:33 ID:pHhzymDI0
【E-3/1日目 朝】

【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:なし
[思考]
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:咲夜、ひいてはグリードの仇を討つ。
3:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃と雪輝を無力化したい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※エドと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ
[服装]:
[装備]:機械鎧、バロンのナイフ@うえきの法則
[道具]:支給品一式(ニ食消費)、かどまツリー@ひだまりスケッチ
[思考]
基本:リンと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:工場か研究所へ行く。
2:ウィンリィの保護を優先する。
3:首輪を外すためにも工具が欲しい。
4:出来れば亮子と聞仲たちと合流したい。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
※亮子と聞仲の世界や人間関係の情報を得ました。
※レガートと秋葉流に強い警戒心を抱いています。
※リンと情報交換をしました。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。

【かどまツリー@ひだまりスケッチ】
ひだまり荘の前に飾ってあった、クリスマスツリーと門松の合体事故で発生しそうな物体。名称は適当。
一応凶器として使えないこともない。

455マリオネットラプソディー ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:55:57 ID:hGX11kGk0
そして何でか知らないけど気絶している。
ふと、腰に差している銃を見てみる。

銃――人を×す凶器――――

ああ。私気付いちゃった。

これがあれば――――

そう。私が思ったのは。

「すいません、少しこれ、借ります」

外人さんの腰に差している銃を抜き取って。
私は銃口を頭に向ける。

自殺。

これで頭を撃ち抜けば終わる。

いつ死ぬかわからない恐怖が。

一人という孤独が。

そして。

「ハヤテ君に会える……!」

うん、逃げだってことはわかってる。
でもね。もういやなんだ。
痛いのも。怖いのも。
だから。
ごめんなさい。

ヒナさん。おとうさん。おかあさん。一樹。……ハヤテ君。

456マリオネットラプソディー ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:57:24 ID:hGX11kGk0
「もう疲れちゃったんだ、何もかも」



◇ ◇ ◇



『運命』は皮肉にも彼女を生かす。

西沢歩は知らない。

この銃は麻酔銃で命を刈り取るものではないことを。

そして翼ある銃はいまだに目覚めない。

この先、どうなるのか。

この哀れな少女の行く末は――


【H-5/山道入り口/1日目 朝】

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:肉体疲労(大)、自暴自棄、睡眠中
[服装]:制服
[装備]:五光石@封神演義 
[道具]:支給品一式(一食分消費)、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー
[思考]
基本:???
0:???

[備考]:
※参戦時期は明確には決めていませんがハヤテに告白はしています。
※理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜が歩の手に握られています。

【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:気絶、潜在的混乱(大)、疲労(中)、全身にかすり傷
[装備]:麻酔弾×16、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
0:――?
1:マシン番長の残骸から使えそうなパーツと、デイパックを回収したい。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?
[備考]
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱は収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。

457 ◆28/Oz5n03M:2009/10/11(日) 09:59:14 ID:hGX11kGk0
投下終了です。
途中からさるった……
すいませんが代理投下してくださると助かります。

458パロロワ版スパイラル〜ひよのの電脳開拓史〜 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:34:17 ID:5A6vmjKY0
規制に巻き込まれてしまったので、どなたか代理投下をお願いします。



>1:
>管理人さんへ。
>掲示板の件、了解しました。ご覧の通り、早速立ち上げてきましたよ!
>メールもレンタルサーバーを利用したので、インターネットが繋がっていれば、どこの端末からでも受付可能です。
>そちらも更新頑張ってくださいね。

>Link:みんなのしたら場

>私はいつでも、管理人さんを信じてますよ☆

459 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:35:41 ID:5A6vmjKY0
【B-8/博物館/1日目 朝】

【結崎ひよの@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康、絶好調
[服装]:カーテン一枚、髪紐の喪失によりストレートのロングヘア
[装備]:
[道具]:支給品一式×3、手作りの人物表、若の成長記録@銀魂、綾崎ハヤテの携帯電話(動作不良)@ハヤテのごとく!
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×2@トライガン・マキシマム、太極符印@封神演義、秋葉流のモンタージュ入りファックス
[思考]
基本:『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。蘇生に関する情報を得る。
0:まともな服を調達する。
1:鳴海歩と合流したい。
2:まずは市街地へと向かう。
3:あらゆる情報を得る為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
4:安全な保障があるならば妲己ほか封神計画関係者に接触。
5:三千院ナギに注意。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと柳生九兵衛に留意。
6:襲撃者は先ほど出会った男(ミッドバレイ)ではないか?
7:機が熟したらもう一度博物館に戻ってくる。
8:復活の玉ほか、クローン体の治療の可能性について調査。
9:太公望達の冥福を祈る。
10:探偵日記を利用する。
[備考]
※清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、太公望の外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。
※太公望と情報交換をしました。
 殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
 ハヤテが太公望に話した情報も又聞きしています。
※超常現象の存在を認めました。封神計画が今ロワに関係しているのではないかと推測しています。
※太公望の考察を知りました。
※ 太極符印@封神演義にはミッドバレイの攻撃パターン(エンフィールドとイガラッパ)が記録されており、これらを自動迎撃します。
 また、太公望が何らかの条件により発動するプログラムを組み込みました。詳細は不明です。
 結崎ひよのには太極符印@封神演義を任意で使用することはできません。
※探偵日記と螺旋楽譜に書かれた情報を得ました。
※フィールド内のインターネットは、外界から隔絶されたローカルネットワークであると思っています。

[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、
 最新の放送で発表された死者の一覧、禁止エリアの一覧、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。

460 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:36:57 ID:5A6vmjKY0
最低のタイミングで規制食らっちまったなぁ……ともあれ、投下は以上です。
タイトルの元ネタは、「映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史」です。
デフォルト名無し名は、後続の書き手さんにお任せします。

あと、修正した方では「掲示板の使い方 / 新着をメールで受信 / 過去ログ倉庫 / スレッド一覧 / リロード」の一行が消えていますが、
コピペミスですので、まとめWiki収録の際には追加をお願いします。

461 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 16:52:55 ID:5A6vmjKY0
それからついでで恐縮ですが、したらば掲示板のIDが10文字ではなく9文字だったのを失念していたので、
作中でのひよののIDを、「vIpdeYArE」に修正お願いします。

462 ◆9L.gxDzakI:2009/10/14(水) 17:06:48 ID:5A6vmjKY0
えーっと、すいません。投下自体は自力でできました。
お騒がせして申し訳ありませんでした。

463運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:30:17 ID:Sp8loFX60
変身した喜媚ちゃんは速かった。
翼もないというのに、その身体は風を切り宙を舞う。
あたしたちは、あっというまに市街地に入ると病院を目指して突き進む。
あまり高く飛ぶと発見されてしまうかもしれなかったので、高度は5M程度に抑え
民家の隙間を縫うように飛んでいた。

ここに来て、初めて見る競技場以外の世界。
夜のうちにどれだけの戦いが起きたのだろう。
街のあちこちに残された戦いの爪痕が、戦いの激しさを物語る。

やはり、あそこにいたのは正解だった。
受動的ではあったが、何の脅威もなくこの夜を過ごせた事がどれだけ幸運な事だったか。
亮子ちゃんは、どんな夜を超えてきたんだろう。
あの亮子ちゃんがこんなに消耗して、こんな姿になって。

「絶対、守るから」

あたしは亮子ちゃんの湿った髪の毛を撫でる。
そう、あたしたちは同じ血を分けた姉妹。
運命を共にするもの。
こんなところで死なせないよ。
絶対、みんな揃って未来を掴むんだ。

ビルを、商店街を、民家を飛び越える。
そして遠くに見えるのは病院の赤十字。
でもそのとき、あたしの視界の端に黒い影が映った。


振り向く。
あたしたちを追走するように、屋根の上を走る黒い影。
その手にあるのは冗談じみた大きな剣。
喜媚ちゃんは、ソレに気付く様子もなく楽しげに飛んでいる。

「喜媚ちゃん、避けてぇ〜〜〜〜!!!」

失礼を承知で、スープーちゃんに変身した彼女の角を握りしめ、飛行機を操縦するように
大きく捻りこむ。
急速旋回。
だが、そうはさせじとばかりに黒い影も宙を駆ける。
振り下ろされる大剣。

間に合えっ!

「ガッツ!!」

誰かの叫び声。
剣の勢いが緩む。
これならっ!

避け……きれたっ!

でも、その代償は地面との熱いキス。
目前に迫る大地、あたしは意識のない亮子ちゃんを庇うように抱きしめる。
無茶な回避の結果、すっかり体勢を崩し切ったあたしたちは地面に叩きつけ

ボヨン

られなかった。

464運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:30:53 ID:Sp8loFX60
一瞬早く、地面に投げつけられたクッションが、あたしたちを救ってくれたのだ。
それは子供が使うような、ビニール製のプール。
十分に空気の入ったそれがあたしたちの身体を柔らかく受け止める。

「あなたたち、怪我はなかった? ごめんなさいね。あの人、あの放送で少し気が立っているみたいなの」
「いえ、大丈夫です……このプールはあなたが?」
「ええ、支給品の中にあったから、咄嗟にね。間に合ってよかったわ」

声をかけてきたのは優しそうな着物の女性。
さっきの黒い影……黒い鎧の男の人は、同じく黒いコートを着た男の人と激しく言い争っている。
使徒がどうとか、グリフィスがどうとか言ってるけど、どうやらすぐ襲われる事はなさそうだ。
あたしは現状確認に努めることにする。

まず喜媚ちゃんに、人前で変身をしないよう耳打ちしようとしたが、それは遅かった。
彼女は既に元のロリータな姿に戻り、プールをトランポリンのように使って遊んでいた。

着物の女性は少し驚いているようだったが、おびえる様子は特にない。
彼女もまた、こういう不可思議な体験になれているのだろうか。
どこか憂いを秘めた笑顔で、遊ぶ喜媚ちゃんを眺めている。

男の人たちが戻ってくる。
どうやら話し合いは終わった様子。

鎧の人が凄い眼で喜媚ちゃんを睨んでいるけど、喜媚ちゃんは素知らぬ様子だ。
思わず笑いがこみ上げるが我慢。
コートの人があたしに話しかけてきた。

「突然すまなかったな。
 私はブラック・ジャックという。あの男はガッツ、彼女は志村妙さんだ。」

向こうの自己紹介に対し、話を受け入れるという意思を示すように軽く頷いておく。
とりあえず、先方の話を聞いてみよう。

「突然襲いかかった非礼は詫びるが、我々も先ほど空を飛ぶ化け物の襲撃で仲間を一人失ったところでね。
 彼も気が立っていたのだ。
 君たちのような少女が乗っていることは知らなかったしな」

そこで言葉を切ると、ブラック・ジャックさんは喜媚ちゃんをちらりと見る。

「もっとも、彼女の能力を見るに、君らも普通の人間かどうか私にはうかがい知れんが……」

やっぱり、あれは見逃しては貰えなかったか。
どうしよう、この状況で戦闘になるのは回避したい。
さっきの男の剣は凄かった。
この間合いで次は避けられないだろう。

「だが、君たちに特殊な力があるとしても、それだけの事で殺し合いに乗っているとは私は思わない。
 もし殺し合いに乗っているのであれば、そのように動けない仲間をかばったりはしないだろう。
 だから、君たちが殺し合いに乗っていないのであれば、この手を握り返して欲しい。
 私たちは仲間を欲している。
 このふざけた殺し合いを企画した、あの主催に反旗を翻す仲間をな」

あたしに向かってさし出される右手。
……これは同盟の申し出と受け取っていいのかな?
どうしよう。
確かに突然襲われはしたけど、この人の制止の声と、あの女性の助け船に救われたのは事実だ。
ガッツと呼ばれた男の人もどうやらブラック・ジャックさんたちの制止を押し切ってまで戦う気は
ないみたいだし、信用してもいいかもしれない。

465運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:31:36 ID:Sp8loFX60
もちろん、この一連の流れが彼らの仕組んだ狂言ということも考えられる。
簡単に気を許す事は出来ないが、すぐに襲ってこないなら仲間に入って様子を伺うのも得策だろう。
何しろこちらには自力で動けない病人がいるのだから。
あたしが握り返した手は清隆様みたいに大きくて、温かかった。

「ところでそちらの女の子は大丈夫かね?
 よければ、少し診せてくれ。これでも医者のはしくれでね」



       ◇       ◇       ◇


ブラック・ジャック先生の指示で亮子ちゃんの濡れた服を脱がして、近所の家から持ってきた毛布で包む。
先生の診断は軽度の低体温症と細菌性肺炎との事だった。
とりあえずの応急処置を済ませると、再び喜媚ちゃんがスープーちゃんに変身して亮子ちゃんを乗せてくれる。

「……首の太さの変化に応じて、首輪も大きさを変えているな。
 継ぎ目がない事といい、私たちの知る金属物質とは違うようだ」

「たぶん、いったん輪を広げて頭を通して首に掛けたんでしょうね。
 その制御用の信号が判れば、首輪も外せるんでしょうが……」

先生たちが仲間の犠牲の上、手に入れたという首輪を見せて貰いあたしも自分の知る情報を提供する。
先生は病院でこれをX線にかけたり、聴診器で調べてみるという。
いいアイディアだと思う。
解体が出来ない以上、信管を抜くなどの手段は取れないと思うが内部の様子を
調べておくのは無駄ではないだろう。

「でも一体どんな素材で出来てるんでしょうね……」

誰に問うでもなく発せられたあたしの独り言に、意外な人物が解をくれる。

「そんなの、宝貝合金に決まってりっ☆」

スープーちゃんに変化した喜媚ちゃんが、当然のように答えたのだ。

「!?
 宝貝合金って、この首輪もあの宝貝っていうものの一種なんですか!?
 じゃあ、喜媚ちゃんはこれをなんとか出来るの?」

思いもかけぬところから判明した首輪の情報に色めき立つ面々。
喜媚ちゃんに7つの視線が集中する。
だが、そんな視線をものともしない満面の笑み。
元の姿であれば可愛らしかったであろうそれも、珍獣の顔ではただただ間抜けなだけで……

「喜媚、わかんないっ☆」

この瞬間、皆が一斉に心中で「駄目な子……」と呟いた。


       ◇       ◇       ◇

466運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:32:38 ID:Sp8loFX60
辿り着いた病院もまた、酷い有り様だった。
赤十字。
非戦闘区域として有名な聖域も、このゲームの中にあってはたった数時間でこのありさま。
だが見回りの結果、とりあえずここには誰もいない事がわかりあたしたちは一時の安息を得る。

だがここで一つの別れがあった。
ガッツさんがここでの別れを宣言したのだ。

「やはり行くのか、ガッツ……」

「ま、元々病院までって約束だったしな。後は勝手にやりな。
 俺は俺で好きにやらせてもらうぜ」

「復讐か……」

「……」

「復讐を否定はせんよ。そうしなければ、前に進めないという事もある。
 だが、それ以外の方法でも過去は精算出来る。
 おまえさんの目の前には、常に別の道もあるということだけは忘れずにいてくれ」

「……」

黒い医師の言葉をどう受け止めたのか。
黒い剣士は外套を翻し、あたしたちの元を去る。

だけど、すれ違いざまに彼が呟いた一言は、

「おい、あの化け物女とは早いとこ別れといたほうがいいぜ。
 人間と、化け物じゃ所詮生きる世界が違うんだからな」

あたしの心に呪いじみた楔を打ち込んだのだった……



       ◇       ◇       ◇


仲間たちと別れ、黒い剣士は一人仇敵を探す。
名簿を見た瞬間、ガッツの心を満たした感情。
それは歓喜。
状況を正しく把握してみれば、これはチャンス以外の何物でもなかった。
忌々しくも鷹の団を名乗る新たなるグリフィスの軍団も、この地ではゾッドを始め数人いるかどうか。
そして主催の言葉を信じるのであれば、強者の力には制限がかかっているという。
更には守らなければならない女もこの地にはおらず、後顧の憂いもない。

これ以上は考えられないほどの好条件。
この機を見過ごす手はなかった。

病院に残してきたつかの間の仲間たちの事を、最後に少しだけ思う。
どこか自分と同じ匂いがした黒い医師。
連れを亡くしても毅然としていた女。
そして新たに仲間となった三人の少女たち。
らしくもなく忠告などとは、少しだけ仲間というものに慣れすぎたか。
だがここから先にそんな甘さは必要ない。
結局のところ、極限の場では自分の事は自分でやってもらうしかないのだ。
力が足りなければ、望みを果たす事も出来ずに死ぬしかない。
それがガッツの経験から得られた人生観であった。

467運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:33:03 ID:Sp8loFX60

まぁ、せいぜい上手くやるんだな。
あばよ。

病院に残してきた仲間に手を振ると、黒い剣士は街角に消えていった。


【E-2/道路/1日目 朝】

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:キリバチ@ワンピース
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1個(未確認)
[思考]
基本:グリフィスに鉄塊をぶち込む
0:グリフィスを殺す
1:グリフィスの部下の使徒どもも殺す
[備考]
※原作32巻、ゾッドと共にガニシュカを撃退した後からの参戦です。
※左手の義手に仕込まれた火砲と矢、身に着けていた狂戦士の甲冑は没収されています。
※紅煉を使徒ではないかと思っています。
※妙と、簡単な情報交換をしました。


       ◇       ◇       ◇

468運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:34:22 ID:Sp8loFX60
ガッツさんを見送った後、病院の一室で亮子ちゃんの治療を施すと、あたしとブラック・ジャック先生、妙さんは首輪の解析を試みるべくレントゲン室へと赴く。

ナース役を買って出た喜媚ちゃんだけを亮子ちゃんの傍に残していくのは少し不安だったが、この期に及んで
喜媚ちゃんを疑うのは、あたしの臆病な心の発露でしかないだろう。
状況的に考えて、喜媚ちゃんが亮子ちゃんを手に掛ける必要性など微塵もないのだ。
むしろ爆発物を扱う現場に連れて来て、彼女の持ち前の無遠慮さでデリケートな作業を邪魔される可能性のほうが
ずっと高かった。

宝貝合金についてのノウハウも聞き出したかったが、本当に知らないみたいで彼女にとっては身近な金属であるという事だけしかわからなかった。
彼女の姉である妲己さんと接触出来たら、この事もわかるのだろうか?


そういうわけでしばらく三人であーでもない、こーでもないと首輪をいじってみたのだが……
医療機材による測定は全滅。
あとはブラック・ジャック先生の聴診器での調査を残すのみとなったが、その前に腹ごしらえをすることを
先生が提案する。

なにせ、根のいる作業だから作業中に腹の虫がならないように……
とのことだった。
確かにここに来てから何も食べておらず、もしおなかが鳴ったりすると非常に恥ずかしい。

というわけで支給された食糧を取りだすが出てきた物は三者三様。
あたしの支給された食糧はすぐに食べられるサンドイッチ
妙さんのはおむすび。
だが、ブラック・ジャック先生の食糧だけは、なぜかレトルトのボン・カレーだった。

ボン・カレーはどう食べてもうまいのだと言いながら、温めもせずに食べようとする先生を
妙さんが止め、温めに厨房に行く。

その隙にあたしは少しデリケートな問題をブラック・ジャック先生に相談することにした。
亮子ちゃんの身体の問題である。

「ふむ、若返りの奇病……か」

「はい……そんな事が本当にあるんでしょうか……」

「ない……とは言い切れん、私は何十年も老化しなかったクランケを知っている。
 もっとも、失っていた意識を取り戻した瞬間、それまで止まっていた老化現象が一気に襲ってきて亡くなられたが」

「じゃあ、亮子ちゃんも意識を取り戻せば元に戻る可能性が……」

「どうかな、私が診た所、意識を失ったのは肺炎と疲労が原因だ。
 若返り現象との間に因果関係はないように思えるが……
 まぁ、気長に見てみようじゃないか。
 命にかかわる奇病というほどのものでもあるまい」

「はぁ……まぁそれもそうかもしれませんが……」

先生はどうやら頭の柔らかいお医者のようで、あたしの荒唐無稽な相談を笑いもせずに聞いてくれた。
でも老化しない病気だなんて、そんな症例も世の中にはあったんだ。
あたしをあんまり心配させないためのジョークかもしれないけど。

「……でも、妙さん遅いですね。あたし、少し見てきましょうか?」

レトルトカレーを温めるにしては、少し遅い。
ちょっと神経質になっているのかもしれないけど、こんな場所ではふとしたことで不安の種が育つものだ。
椅子から腰を浮かすあたしを、先生は止める。

「いや、もう少し、一人にしておいてあげよう。
 ……さっきの放送で、彼女の弟さんの名が呼ばれているのだ」

469運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:35:28 ID:Sp8loFX60
       ◇       ◇       ◇

コトコトと、沸き立つ鍋の音だけが厨房を支配する。
湯せんすればいいだけのレトルトカレーを直接火にかけているため、あたりにはカレーの香りが漂っていた。
ゆらめくガスの炎を、椅子に座った妙が呆と見つめている。

一人になれば思いっきり泣けるかと思ったが、長年培ったこの鉄仮面は存外に剥がれないものだ。
ほろりと、申し訳程度に流れる一粒の涙が精いっぱいだった。

「新ちゃん……」

放送で呼ばれた、たった一人の家族。
増田さんの名前も同じ放送で呼ばれた為、信憑性は高いだろう。

侍が不要とされる時代。
それでも侍を志し、真の侍と見込んだ銀さんの元で真の侍道を模索していた自慢の弟。
どんな苦労を買ってでも一人前の侍にしてあげたかった。

その彼が、こんな場所で自分より先に死んだ。
じゃあ、自分はこれからどうすればいい?
復讐?
婿を取り、道場を再興する?

だが、何をどうしたところでこの空白はもはや埋まる事はないだろう。
それが死というものがもたらす永別。
あの優しい弟は……新八は、もういないのだ。

「あなたは……あなたの思う道を貫けましたか……?」

虚空に呟いた声は誰に聞かれることもなく立ち消えた。


       ◇       ◇       ◇


それからしばらくして、妙さんがカレー皿を持って戻ってきた。
その表情は笑顔だが、目の周りが少し赤い。
……同情はしない。
この環境では、いつだれが同じ境遇に置かれるかわからないのだ。

「ほう、スープカレーにしてくれたのか。妙さんは料理が上手いんだな。
 ピノコの奴もこれくらいできるようになってくれればいいんだが……」

――もし、妙の知り合いがこの料理を見たら驚愕するだろう。
いつもの彼女であれば、作る料理全てはブラック・マターと呼ばれる暗黒物質と化すのだが
何の奇跡か、机に置かれた皿からは食欲をそそる香りが漂っている。

「まぁ、先生ったら、お上手なんですから。厨房にあったお野菜も入れてみたんですよ。
 ピノコさんって先生の恋人さん? もしかしたら奥様かしら?」

「とんでもない、まぁ娘みたいなものかな。こまっしゃくれた娘だが、いないと妙にさびしくてね……
 天涯孤独の私だが、それでも支えてくれるような人間はどこかにいるものさ」

「先生……」

「そんな人たちのためにも、私たちはこんなところで死ぬわけにはいかんのだ。
 この首輪を我々に残してくれた、あの勇敢な青年に報いるためにもな……
 さぁ、飯を食ったら首輪の解析を続けよう。」

「……はいっ!」

470運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:36:25 ID:Sp8loFX60

ブラック・ジャック先生の不器用な励ましに、少しだけ妙さんの顔に生気が戻る。
妙さんにもまだいるのだろう。
支えになってくれるような誰かが。

やっぱりお医者さんって凄いな。
心身共に傷付いた人を救う事の出来る癒し手たる職業。
あたしも、あたしに出来る事でそんなお仕事が出来たなら……


ドッ! ガシャッッアアアアアアッ!!


それまでの平穏をぶち壊すような、金属のひしゃげる轟音。
音の出所は、レントゲン室の重い金属扉。
その扉が、まるで事故にあった自動車のようにひしゃげていた。

それをしたのは一目瞭然。
扉の前に立つ男が握るもの。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。

隻眼の黒い剣士。
さきほど別れたガッツさんがそこにいた。


       ◇       ◇       ◇

声をかける暇もなかった。
竜巻のように振るわれたガッツさんの大剣が、扉の一番近くにいた妙さんの頭に撃ち込まれる。

爆ぜた。

仲間を、弟を失いながらも、尚強くあろうとした女性の綺麗なかんばせが西瓜のように砕かれる。
ピンク色の綺麗な何かが、カレー皿の中にポチャポチャと落ちる。

わぁ、おいしそう。

場違いな感想が頭を埋め尽くす。
でも半生を危機とともに生きてきたあたしの身体は、脳が命じなくても適切な行動をしてくれた。

機械の隙間に身を隠し、ベレッタを抜く。
だが、撃つところがない。
異常に巨大な大剣は、盾のように身体を隠す。

「ガッツ!」

それでも牽制するように先生はナイフをガッツさんに投げつける。
キィンと、金属同士が弾きあう音。
翻る黒い外套。
横薙ぎに振るわれる鉄の塊。
室内に破壊の騒音が響きわたる。
バラバラに打ち砕かれる医療機械。
あぶり出されるあたしたち。

騒音をかき消すように狂戦士が叫ぶ。

「LOOOoooッッッ!! ッliイイイイイ!!!!」

471運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:37:17 ID:Sp8loFX60

振り回す。
ブラック・ジャック先生を刀身で貫いたまま。
室内にあった機材を力任せに鉄の塊が叩き壊す。

部品が飛び散る。
それと引き換えのように、むき出しの機械の破片に肉の破片がコーティングされる。
室内は、一瞬にして地獄絵図。
酷すぎる。
狂気のような光景と、悪臭で思わず吐きそうになるのをあたしは必死にこらえる。


身体のあちこちを削り取られた先生は、まだ息があった。
ぴくぴくと痙攣する肉体が最後に机に置かれていた首輪に叩きつけられる。

目と耳を塞ぐ。
爆発。

時計の長針がわずか一回りする間の出来ごと。
あたしが眼を開けると、そこにはもう誰もいなかった……


       ◇       ◇       ◇
あたしは廊下を走る。
なぜ、あたしを見逃したのかわからないが、亮子ちゃんや喜媚ちゃんをも彼が見逃すかはわからない。

ボテっと転ぶ。
演技ではない。

まるで悪夢の中を走っているかのように、身体が上手く動かないのだ。


這うように、病室の前までたどり着く。

祈るように扉を開けると、そこには平穏があった。
薬が効いたのか、健やかな寝息を立てる亮子ちゃん。
そして、その布団にもたれかかるように眠る喜媚ちゃん。



その光景に、なぜか涙腺が緩んであたしは泣いていた。

472運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:38:00 ID:Sp8loFX60
【D-2/病院/一日目 午前】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康 精神的にかなりの疲弊
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13、携帯電話(競技場で調達)
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:ガッツに対し恐怖
2:異能力に恐怖。
3:恐怖に負けず喜媚を信じてみる。
4:申公豹の名前を餌に、“探偵日記”を通じて妲己を捜索。
5:“螺旋楽譜”の管理人が電話連絡してくるのを待ち、直接会話してみる。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。
※首輪の特異性を知りました。
※早朝時点での探偵日記と螺旋楽譜の内容を確認しました。
※螺旋楽譜の管理人は、鳴海歩、結崎ひよの、カノン・ヒルベルトの誰かが有力と考えています。
 ただし、鳴海歩だと仮定した場合、言動の違和感とそこから来る不信感を抱えています。

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康、いねむり
[服装]:疲労(中)
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様やスープーちゃん達、ついでにたいこーぼーを探しに行きっ☆
2:理緒ちゃんと亮子ちゃんは喜媚が守りっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。
※首輪の特異性については気づいてません。
※或のFAXの内容を見ました。
※如意羽衣の素粒子や風など物や人物以外(首輪として拘束出来ないもの)への変化の制限に関しては不明です。
※『弟さん』を理緒自身の弟だと思っています。
※第一回放送をまったく聞いていませんでした。
※原型の力が制限されているようです

473運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:38:21 ID:Sp8loFX60
【高町亮子@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:疲労(特大)、打撲&背中に打ち身(処置済み)、肺炎(処置済み)、睡眠中、若返り
[服装]:裸
[装備]:毛布
[道具]:月臣学園女子制服 (乾かし中)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす。
0:…………。
1:なんで子供に……
2:理緒や喜媚と協力してこの殺し合いを止める
3:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
4:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
5:あのおさげの娘(結崎ひよの)なら、パソコンから情報を引き出せるかも。
6:そういや、傷が治ってる……?
7:勝手に身体が動いた?
8:エドの力に興味。
9:エドや流、うしお、知らない女の子(咲夜)は助かったのだろうか。
10:流の行動に疑問。
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
 また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
※秋瀬 或の残したメモを見つけました。4thとは秋瀬とその関係者にしか分からない暗号と推測しています。
※聞仲とエドの世界や人間関係の情報を得ました。半信半疑ですが、どちらかと言えば信じる方向性です。
※竹内理緒より若干小さくなっています。中1くらい? 元に戻るかどうかは後続の書き手さんに任せます。


※ブラック・ジャックと妙の荷物がレントゲンルームに放置されています。

【ビニールプール@ひだまりスケッチ】
宮子の持っていたビニールプール。
お風呂にも使える?

474運命の螺旋乗り越えて(後編) ◆UjRqenNurc:2009/10/14(水) 23:42:53 ID:Sp8loFX60
以上です……ってここで終わりにしちゃっても大丈夫かな?
舞台裏もきっちり説明しとかないと不味いかな


おっと>>472の前に死亡表記入れ忘れてた…
【ブラック・ジャック@ブラック・ジャック 死亡】
【志村妙@銀魂 死亡】

475代理:2009/10/14(水) 23:48:21 ID:QngjxeCo0
さる喰らいました
誰か代わりにお願いします

476名無しさん:2009/10/14(水) 23:54:24 ID:QngjxeCo0
舞台裏というかネタがあっての展開なら書き手同士で茶でこっそりお話したら?

477 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:35:12 ID:c2RPz3ts0
さるさんが……。
続きはこちらに。

478 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:35:26 ID:c2RPz3ts0
爽やかな朝の風が吹き抜ける。
空は青く、まるで南国の海のよう。
走る街を見下ろして、のんびり雲が泳いでく。
さわさわとコンクリートの上に必死に根を張る雑草が揺れるなか、金剛の首輪から流れる女の声がそれを告げた。

『貴方は進入禁止エリアに入り込んでいるわ。
 この警告が終了してから一分以内に当地区から退避しないと、首輪が爆発してしまう。
 至急、退避してちょうだい』


そして、一分。


ぼぉん。

肺を潰されて、臓物を掻き回されて、脳ミソをシェイクされて。
それでもなお意識を失うことのなかった金剛は、ようやく生き地獄を抜け出す事が出来た。

おめでとう。


【金剛晄(金剛番長)@金剛番長 死亡】



**********


爆発は小規模。
しかし、普通の人間相手なら十分に致命傷だろう。

少なくとも金剛の損傷は思ったより少なくて、死体はだいぶ綺麗ではあるけれど。
首の肉が一部こそげ取られただけとはいえ延髄が吹っ飛んでいるのは確実だ。
どうやらその部分に重点的に爆薬が仕掛けられているらしい。
傍目から見ても間違いなく死んでいる。

「バカジャナイノー」

その余りにもあっけない死に様を見て、何故か潤也はそう呟いていた。
まだ、生臭い。金剛の脳ミソフレーバーは、一生口の中から消えてくれる気がしない。

まるで料金未満の価値しかない映画の感想でも吐き出すかのような潤也とは対照的に、
妲己は依然として今にも鼻歌でも始めそうな調子を変えることはない。
手に持つ名簿をためつすがめつ、一人推論を呟いてみせる。

そこでは、金剛の名前が確かに赤く染まっていた。

「……思ったとおりだわぁん。
 この名簿の死人の名前は、『本人が確かに死亡したのを確認した』その時点で赤く染まるのねぇん。
 つまり、実際に死体をその目で見るか、放送を聞くかしない限りこの名簿は黒字のままってことぉん。
 伝聞情報とかは確度が低いからきっと色は変わらない。死んだ人の名前を知らない場合もきっと同じでしょうねぇん。
 放送を聞き逃しちゃったらそれまでってことかしらん」

479僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:36:58 ID:c2RPz3ts0
知らないところで生き返った場合とかはどうなるのかしら、と洩らすも、考えても分かるはずはない。
それよりもこの名簿は、黒字の上から赤いペンでなぞったり、あるいはその逆をすることで面白い使い方ができるかもしれない。

けれど、今は情報整理が先だ。

「くすくすくすくす。金剛ちゃんのおかげで他にもいろいろ面白い事が分かったわぁん。
 たとえばこの槍の力ねぇん。
 上手く使えば人体に全く影響を与えず、首輪の宝貝合金だけに干渉できるみたいん。
 でも、どこが貫いてもいい場所か、ってのはまだまだ分からないわねぇん。

延髄付近に爆薬がセットされていることは分かったが、斬ってはいけないコードとかが他の場所にある可能性も高い。
破壊に着手するのは時期尚早が過ぎるだろう。
金剛の死に様を見る限り、制限さえ無効化すれば爆破されても耐え切れる見込みは結構高い。
とはいえ肝心の制限を無効化する方法が問題だ。

「この槍を使った方があるかないかも分からない太極図を使うより確実かもねぇん。
 でも、まだまだ情報を集めないとぉん」


如何せん、それは不意打ちに過ぎた。

妲己の背中に影が差す。


たとえ内臓が全部零れて、腹の中が空っぽになっていたとしても。

潰れた肺のせいで酸素が行き渡らず、四肢が壊死し始めていたとしても。

考える為の前頭葉が、破壊しつくされていたとしても。

運動系を支える延髄が、吹っ飛ばされていたとしても。

プラント融合体すら押さえ込む、砂虫の切り札たる筋弛緩系の毒が回っていたとしても。

生物学的に、間違いなく死んでいるのだとしても。


「知った……ことかァ――――ッ!!」


この女だけは、生かしておくわけにはいかないと――――!


「蛮漢魔王陀(バンカラバスター)ぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ」


回避不能。
防御不可。
迎撃無視。
必殺必滅。

潤也にも、妲己自身にも、最早かつて金剛番長と呼ばれたソレを、止めるはおろか減衰させることすら出来はしない。

だから、妲己が生き残る道理はない。

480僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:37:52 ID:c2RPz3ts0
……ただ、まあ。

「死人は動かないものよぉん? 金剛ちゃん。
 それこそ貴方の一番嫌いなスジが通らないことよねぇん」

そんな奇跡が許される道理の方が、よっぽど認められるよーな代物でもないという。


「終わりですわ」

ドラゴンころしが生ける屍にめり込んだ。
それが、今回のお話の終わり。


単純な話だ。
金剛の巨体を禁止エリアに運び込むなんて力仕事、妲己がすると思うかい?
手首を骨折した潤也に出来ることと思うかい?


【I-6〜I-7境界/デパート付近/1日目/朝】

【妲己@封神演義】
【状態】:健康
【服装】:
【装備】:獣の槍@うしおととら、逃亡日記@未来日記
【道具】:支給品一式×6、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム
    マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、
    デザートイーグル(残弾数7/12)@現実、
    マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×4(うち2つは武器)
    詳細不明衣服(デパートで調達)×?
【思考]】
基本方針:神の力を取り込む。手駒を集める。
1:旅館に向かって潤也の兄と接触するか、獣の槍の反応する方に向かい本来の持ち主を見極めてみるか考える。
2:対主催志向の仲間を集める。
3:喜媚たちと会いたい。
4:この殺し合いの主催が何者かを確かめ、力を奪う対策を練る。
5:獣の槍と、その関係者らしい白面の者と蒼月が気になる。
6:“神”の側の情報を得たい。
7:剛力番長を具体的な脅威としての槍玉に挙げて、仲間を集める口実にする。
【備]】
※胡喜媚と同時期からの参戦です。
※ウルフウッドからヴァッシュの容姿についての情報を得ました。
※みねねと情報交換をしました。未来日記の所持者(12th以外)、デウス、ムルムルについて知りました。
※みねねとアル及び剛力番長の一連の会話内容を立ち聞きしました。
 錬金術に関する知識やアルの人間関係に関する情報も得ています。
※獣の槍が本来の持ち主(潮)のいる方向に反応しています。
※みねねから首輪に使われている爆薬(プラスチック爆薬)について聞きました。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があると考えています。
※不明支給品は全て治療・回復効果のある道具ではありません。

481僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:39:10 ID:c2RPz3ts0
【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】
【状態】:疲労(大)、精神的疲労(特大)、情緒不安定、吐き気、
     右手首骨折(応急処置済み)、たんこぶ一つ、体の数箇所に軽い切り傷
【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。
【装備】:首輪@銀魂(片方の首輪をはめている)
【所持品】:空の注射器×1
【思考】
基本:兄の仇を討つ……? 妲己に屈服。
0:旅館に向かって兄の名を名乗る人間が本物か見極めたい。本物なら取引通り妲己に兄を守らせる。
1:兄の仇がこの場にいれば、あらゆる方法を使って殺す。いなければ、確実で最速なやり方でここから脱出する。
2:ひとまず脱出の為に殺し合いにのっていない参加者を集め、協力してもらう。
3:その集団を、能力を活かして確実最速な脱出方法へ導く。
【備考】
※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。
※土方が偽名であることに気付きました。
※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。
※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……?
※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。


【白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
【状態】:疲労(中) ダメージ(中) ホムンクルス 『最強の眼』
【服装】:キツめの体操服、紺のブルマ
【装備】:ドラゴンころし@ベルセルク
【道具】:支給品一式、アルフォンスの残骸×3、ボイスレコーダー@現実
【思考】
基本:全員を救うため、キンブリーか妲己を優勝させる、という正義を実行する。妲己に心酔。
1:自らの意思のままに行動し、自分が剛力番長であるという確信を得る。
2:見知らぬ人間とであるたびに、妲己の集めた仲間であるかどうかを聞く。
3:キンブリーと妲己の同志以外は殺す。
4:強者を優先して殺す。
5:蘇らせた人間の中で悪がいたら、責任を持って倒す。
6:ボイスレコーダー(正義日記)に自分の行動を記録。
【備考】
※キンブリーか妲己がここから脱出すれば全員を蘇生できると信じ直しました。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえばバケモノに姿を変えられるという情報にだけは、疑問を抱きつつあります
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。
※妲己がみねねの敵であり、みねねは妲己に従ったと思っています。
※賢者の石の注入により、記憶が微妙に「自分の物でない」ような感覚になっています。
 正義の実行にアイデンティティを見出し、無視を決め込むつもりですが、果たして出来るかはわかりません。
※ボイスレコーダーには、剛力番長と出会うまでのマシン番長の行動記録と、
 剛力番長の島に来てからの日記が記録されています。

482僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:39:40 ID:c2RPz3ts0
【砂虫の筋弛緩毒@トライガン・マキシマム】
GUNG-HO-GUNSが12、ザジ・ザ・ビーストの切り札。
ミリオンズ・ナイブズ融合体やエレンディラ・ザ・クリムゾンネイルを完全に無力化できるほどの筋弛緩系の毒。
ただしレガートのように無理やり肉体を操作する力の持ち主は封じることは出来ない。
また、ナイブズもプラントの力で毒素そのものを消去することにより行動が可能になった。
投与された場合、意識は僅かに残るが体を動かす事が殆ど出来なくなる。
エレンディラの場合投与されてから約12時間後には後遺症もなく動き回れるようになっているので、持続時間は数時間程度だろう。
注射器に入れられたものが3本セットで支給されているが、直接注射する以外にも食べ物に混入させる、武器に塗布する、などの使い方もできる。


**********


くすくすくすくす。地図なんか取り出してなァにをやってるのん?

あらあらん、どういうつもり? そんな怖い目で睨んじゃってぇん。
わらわ臆病だから、そんな目をされると暴れちゃうかもん。
仲良くしましょう? 貴方の首と胴体みたいに、ね。

さて、もう一度聞くわねぇん。『貴方は誰で、何をやっている』のかしらぁん?


ふぅん、そうなのぉん。正直者でわらわ嬉しいわぁん。
運が良かったわねぇん、気が変わったわん。
あなたのそのチカラ、わらわの為に役立てて頂戴ぃん?


ぅん? 気が変わったとはどういうことかって聞きたいのん?

……もうすぐ、7:30よねぇん。
そしてここからすぐの所に禁止エリアがあるでしょぉん。
つまり、そういう事。
平凡なつまらないコだったら、足手纏いなりに役に立ってもらおうかと思ってたのぉん。

でも困ったわねぇん。時間が圧してるのに、都合のいいモルモットちゃんがいないのぉん。
貴方、何かしら心当たりはないかしらん?


……いいわねぇん、そんな態度、素敵よぉん。
と、なると。貴方には同行者がいるって見た方が自然よねぇん。それも相当の実力者。
貴方一人じゃあ出来ることなんて限られてるのに、わらわ相手に強気に出てくるってだけで十分それくらい分かっちゃうのよぉん?

でも、あなたはもっと賢くなった方がいいわぁん。
わらわにだって選択肢はたくさんあるのぉん。

わらわのご機嫌を損ねたら、決していい事が起こらないのは貴方や同行者の人だけじゃないわぁん。
た・と・え・ば。
これから先、わらわが貴方のご家族――この名簿の同じ苗字の人に出会ったとして。
“偶然不幸な事故を目撃”しちゃう可能性は0じゃないのよん?

483僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:40:18 ID:c2RPz3ts0
なるほど、ねぇん。
あなたの兄貴さんとやら、もしかしてもうとっくに死んでるはずなのぉん?

くすくすくす、ドンピシャリみたいねぇん。
ついさっき名簿を確認してみて、そのせいで動転している、ってとこかしらぁん?

ひとつ、アドバイスしてあげるわん。
たぶんソレ、本物の貴方のお兄さんよぉん。
理由はカンタン。わらわの時代には人を生き返らせる手段が実際にあるんだもぉん。

……まあ、こんな言葉が信用できないのも当然だけどねぇん。
でも、信じようと信じなかろうとどっちでもいいのぉん。
貴方、偽者なら追い詰めて殺してやる、って考えてるでしょう?
負の感情はわらわにはぜぇんぶ、お見通しなのぉん。


なるほど、金剛ちゃん、ねぇん。
そんなに強いなら、首輪の爆発力を試すいい素材かもん。

あらん、金剛ちゃんに義理でも感じているのぉん?
安心して頂戴ん。
わらわ、まだその金剛ちゃんとやらに会ったことないからモルモットちゃんになってもらうと決めたわけじゃないわぁん。
ただ、話を聞く限り、どうにもわらわのお邪魔虫になりそうな予感がするのは確かねぇん。


さぁて、ようく考えてぇん?
考えて、考えて、考えて。
どっちがお得なのか、をねぇん。

わらわを満足させて、空気を吸える喜びを噛み締めて、お兄さんを助ける心強ぉい味方を手に入れるか。
わらわを悲しませて、考えることすらできなくなって、お兄さんに二回も死ぬ恐怖をプレゼントするか。


貴方は、ちゃあんとモノを考えられる子よねぇん?


**********


あらん、また会えて嬉しいわぁん。無事に生き延びられたのねぇん。
もしかして、この“再会の才”とやらのおかげかしらぁん。


……迷うことは無いわぁん。
わらわがあなたの邪魔になると思うなら、好きにして結構よぉん、くすくす。
だって、あとあと生き返らせてくれるんでしょぉん?


他の人はみんな否定したのに、どうして蘇りを信じてくれるのかって?
あたりまえよん。
だって、わらわはあなたの言うことが全部、本当だってわかってるんだからねぇん。
信じるとか信じない、とかじゃなくて、わらわの時代にも蘇らせる力は存在してるのよん。
錬金術、とやらとはまた別にねぇん。

484僕らはみんな生きている ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:40:39 ID:c2RPz3ts0
……どうしたのぉん、不安そうな顔をして。
自分の記憶が信じられないのぉん?

わらわが保証してあげるわぁん。
貴方は、貴方。
思う存分貴方の正義を執行なさいん、それは決して誰にも咎めることなど出来ないのぉん。

誰が否定しても、世界中が敵になっても、わらわ“だけ”は貴方の行いを認めてあげるわぁん。
でもねぇん、だからと言ってわらわは貴方に同行しろとも言わないし、指図なんてするつもりもないわよぉん。
ただ、いくつかの選択肢を教えるだけ。
どの真実をその中から選ぶのか、それは貴方次第なのん。

そうすれば、ちゃんと貴方が自分の意思で決めたことになるでしょぉん?
だったらわらわが口を挟む権利なんかないじゃなぃん。


くすくす、そう、今はわらわを殺さないでいてくれるのねぇん、ありがとぉん。
それでもわらわが貴方を助けた借りには全然足りない?
あはん、それじゃあ数時間前と今――貴方を助けた回数と同じだけ、2つだけお願いを聞いてくれないかしらぁん。

一つは、もしこれから貴方が知らない相手と出会うたびに、
『もしかして妲己の集めた仲間か』、って聞いて欲しいのぉん。
聞くだけよぉん、それ以上は余計な気を利かさなくっていいわぁん。


そしてもう一つは、ちょっとした雑用なのぉん。
今から7:30くらいになるまで付き合ってもらうことになるんだけど、構わないかしらぁん……?
それから後は、貴方の好きにしていいからぁん。

それじゃあ、よろしく頼むわねぇん。

485 ◆JvezCBil8U:2009/10/20(火) 20:46:37 ID:c2RPz3ts0
以上、投下終了です。

名簿の仕様と首輪などについて、ご意見を伺いたいところ。
特に名簿ですが、放送と同時に死者が自動で浮かび上がるという仕様だと、キンブリーの森への作戦などが台無しになりかねないので……。
なので、いつでも正確な死亡者を知る事はできないようにしておきたいな、と。放送の意味合いも薄れますし。
これはポータルサイトの名簿機能にも共通する懸念ですね。

486 ◆9L.gxDzakI:2009/10/31(土) 14:59:41 ID:5A6vmjKY0
遅くなりましたが、拙作「パロロワ版スパイラル〜ひよのの電脳開拓史〜」の修正を。

 レンタルサーバーにメール機能と、死者や禁止エリアの情報。天気予報なんてものもあった。
 しかし情報サイトでありながら、検索エンジンと思しきものがない。
 これは恐らく、検索するほど多くのサイトがない、ということなのだろう。
 外界から隔絶されたこの島では、インターネットも外界とは別物ということか。
 ともあれ今は、その辺りを気にしている暇はない。



 レンタルサーバーにメール機能、天気予報なんてものもあった。
 その他使いようによっては役立ちそうに見えなくも無い機能から、本当にどうでもいいものまでごった煮状態になっている。
 しかし情報サイトでありながら、検索エンジンと思しきものがない。
 これは恐らく、検索するほど多くのサイトがない、ということなのだろう。
 外界から隔絶されたこの島では、インターネットも外界とは別物ということか。
 ともあれ今は、その辺りを気にしている暇はない。
 とりあえず、後で天気予報くらいは確認しておくことにしよう。


[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。



[全体の備考]
※各パソコンのインターネットブラウザのホームページには、フィールド内限定のオリジナルの情報サイトが登録されています。
 正確なコンテンツの内容は後続の書き手さんにお任せしますが、
 少なくとも、レンタルサーバー、レンタルメールアドレス、レンタル画像アップローダー、天気予報が利用可能です。
 また、検索エンジンは用意されていません。

487 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 22:59:09 ID:yt6YM8gA0
どうやら例の影響で本スレに書き込めないらしく……。
こちらに投下させていただくので、代理してくださる方がいらっしゃればお願いしたく思います。

488Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:06 ID:yt6YM8gA0
「…………」

「…………」

重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。

ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。

やはり、あまりにも不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。

直径は約9km。
全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。

要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。

いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。

そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。

いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。

これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。

その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。

489Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:37 ID:yt6YM8gA0
斃すべき相手でしかない“神”の人となりを慮るなど余計な考えに至ったのは、放送と二つのblogという情報源に当たったからか。
……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。

ただまあ、それでも。
価値は認めてやるとしよう。

放送の女は“神”に反逆を試みて――、消された。
何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。

そして、この『螺旋楽譜』。
ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。
だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。
“神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。
少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。

ただ、いずれにせよ彼らの行動の意味を推し量り、信じなければ何の価値もない代物にすぎない。

「――人間を信じる、か」

何という皮肉だろうか。
今の自分は、あまりに無力。
人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、
いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。

その無様さに不思議と嫌悪感は抱かなかったが、ただただ空虚な笑いを堪えるので精いっぱいだった。

ふと立ち返り、静かに目を瞑る。
人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。

――名簿に、目を通す。
見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。
人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。

“ヴァッシュ・ザ・スタンピード”

「お前は今――何処にいる?」

良く馴染みのあるゲートの拓いた感覚を得てからおよそ4時間。
それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。
『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。
コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。
当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。

「……度し難い」

本当は無視してしまいたいところだが、しかしヴァッシュが関わっている可能性もある以上そうはいかない。
とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。
ならば、どうするか。

490Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:00:56 ID:yt6YM8gA0
答えは情けないことだが、様子見の一手だ。
いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。
『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。
あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。
放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。
ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。
ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。
今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。
屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。
――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。

それに利用されているのがヴァッシュとも限らない。
自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。
そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。

“チャペル”

どういうことなのだ、と、一人口の中でその単語を転がす。
いや、彼だけではない。

レガート・ブルーサマーズ。
ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。

最後まで自分への忠義を貫き続けた男と、自分を怖れ逃亡兵となることを選んだ男の二人の名が、確かにここにある。
――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。

偽物かと疑るも、そうである意味はない。
悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。
死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。

“神”は蘇生の力でも持っているというのか?

可能性は0ではない。
……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。
その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。

それよりも現実味がありそうなのは、と一つの考えがナイブズの脳裏に浮かぶ。
かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。
時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。

――並行世界。
そこから彼らは連れてこられたのではないか。
蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。
蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。

ほんのわずかな間だけ、呼吸を止める。
理解している。これはただの逃げだ。

いずれこの殺し合いの場で彼らと巡り会ってしまったその時に――どう向き合えばいいのか。答えは出ない。

いや、そもそも自分は彼らと向き合ったことすらなかったのだ。
ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。

491Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:01:19 ID:yt6YM8gA0
向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。
あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。
その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。

それでも見知らぬ人間としてぞんざいに扱う事の出来る連中はまだ楽だ。
逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。

しかし、しかしだ。
――レガート・ブルーサマーズ。
あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい?
まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。

……既に自分には、人間を滅ぼそうという気もない。
だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。
もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。
今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。

得体の知れない不安のようなものを飲み込む。
馬鹿馬鹿しい。
仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。
きっと、それだけのことでしかない。

そのまま名簿をデイパックに放り込もうとして、最後に一つの名前に目が行った。
西沢歩――確か、そう名乗っていたか。
良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。
あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。
ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。

あの道化男を始末した後、一瞬だけでもあの娘の後を追うなどと考えたこと自体がおかしいのだ。
今更人間とともに歩む道はない。
そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。
いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。

あの男が無事ならば、それでいい。

たとえここに招かれたのが並行世界のヴァッシュであっても、彼はただLOVE & PEACEを高らかに響かせ続けている筈だ。
どこであろうと弟は変わらないという確信がある。
あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。

……いつ以来だろうか、誰かの無事を願ったなどというのは。
ヴァッシュは、生きるべきなのだ。


「あー……、ヤツを殺ったのは、アンタか?」

先刻からずっと、敢えて無視していた存在からようやくのお声がかかる。
自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。
そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。
情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。

道化男の死体の周りをウロチョロしていたようだが、彼奴の同類だというなら先んじて始末しておくべきだろうか?
小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。
人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。
奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。

492Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:01:42 ID:yt6YM8gA0
***************


「おい、無視かよ。このみねね様相手に――」

ぞく……、と。

空気が変質し、雨流みねねは呼吸ができなくなる。
かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。
みっともなく、尻餅をつく。
震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。
抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。
痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

「……人間か。さっさと立ち去れ、俺の機嫌が変わらんうちにな」

それきり興味を失ったかのように、みねねの目の前の男はPCの画面に向き直った。

呼吸が荒い。心臓の音が鐘のように五月蠅く鳴っている。
目の前に血の河が流れたように見えた。
生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。

這いつくばって、ずるずると部屋を離脱しようとして――、

「……逃げ出せるかよ」

このままほうほうのていで裸足で出ていったりすれば、みねね様の名が廃る。
ああ、怖い。確かに怖い。
けれどそれを抑え込む。
自分の人生は戦いの連続だった。
立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。

それに考えようによっては、これは好機だ。
この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。
しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。
ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。

どうすればいい? どうすれば引き込める?
考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。


「生憎だが、私は人間を辞めたのさ」

そう呟いて手近にあった適当な本を手にし――爆破。
男が、目だけをこちらに向けてきた。

493Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:12 ID:yt6YM8gA0
自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。
その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。
一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。

「お互い人外同士、情報交換といこうじゃないか。
 立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。
 そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」

見返りは十二分。
男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。
そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを知っているか?」

ちぃ、と舌打ちする。
おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。

「生憎だが心当たりは――、」

と、仕方なしにそれを告げようとして、何かが引っ掛かった。

「……いや、待った。確かに聞いた。どっかで聞いたぞ」

ある一人の女の顔と、失った自分の手がフラッシュバック。
耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。

「……そうだ。あの女が手当の時に訊いてきやがったんだ。
 どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」

「女? ……何者だ」

目つきを変え、男が俄然と食いついてくる。
態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。

――これは、千載一遇のチャンスだと。
妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。

「妲己っていう自称妖怪のクソいけ好かねぇ女さ。性格的にも実力的にもあいつはヤバい。
 自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。
 今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。
 飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」

「そいつが、ヴァッシュの名を口にしたのか?」

「そうだよ。ついでにそいつの特徴も私に教えて、探すよう言付かったぜ?
 金髪の赤いコート、だっけか」

ニィ、と口端を歪めて証拠を提示。
うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。
妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。

494Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:33 ID:yt6YM8gA0
「何度も言うが、あの女は掛け値なしにヤバい。
 なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。
 ……イカれた命令だよ。
 自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。
 そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」

最後の一言に、男は何を思ったのか。
全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。
みねねを全く無視する形でだ。

「――行くんだったらデパートだ。とりあえずそっちに向かうって言ってたぜ」

そうは問屋が卸さない。あの女を御すために、もう少しこの男に踏み込んでおかねば。

「これだけ教えたんだ。
 見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか?
 ちょっと大切なもんが入ってるのさ」

返事はない。
ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。
二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、

気付いた時には男の姿は影も形もなくなっており、滝のように流れ落ちる汗が自分が生きている事を教えてくれている。
思うのはシンプルなたった一つの事。

……助かった。それだけだった。

「……手はとりあえず、これで一つか。悪くない取り引きだったとは思うが、いかんせん心臓に悪すぎる」

はあ、と思いっきり息を吐き、くずおれる。

「つっても、まだまだこれじゃ足りないな。
 打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」

目線の先にあるのは、男が使ったまま電源が付きっぱなしのPC。
その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。
利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。

「妲己。あんたの知らない私の世界の技術で、あんたを出し抜いてやる。
 のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」

汗まみれで口にしても我ながら説得力はないな――とみねねは愚痴を零し、苦笑した。

それが、命を握られてもなお立ち向かえる強さの証。
生きているから、戦えるのだ。


【F-05地下/研究棟/1日目/朝】

495Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:02:54 ID:yt6YM8gA0
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。


***************


――たぶん、だけど。
夢を見ていたと思う。

どんな夢だったかは思い出せない。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。

痛い夢。辛い夢。苦しい夢。

……怖いよ。

ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。

――孤独。

そう、だ。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。

私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。

496Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:03:16 ID:yt6YM8gA0
ナギちゃんはどうしているだろう。
わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。
大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。

そして、ハヤテくん。
……やめよう。大切だけど、大切だったけど。
だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。

私は、強くない。ぜんぜん強くない。
大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。
大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。

そう、私は強くないんだ。
気絶しちゃって、目が覚めて。
こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。

……普段の私は、自分から死を選べるほども強くない。

この手で命を捨て去ろうとした激情に、体が震えだす。
ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。
私は一体、何をしようとしていたんだろう。

死を選んだんじゃなくて、生を諦めた。
でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。

死ぬってどういう事?
今考えているこの私が、消えてなくなるの?
私は、どこへ行くの?
どこにも行かないの?

まっくろな闇の中でまどろんでいるような感じ?
それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く?
ううん、きっと違う。
そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。
もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。

痛いのと怖いのが嫌だから、私は死のうとした。
確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。

……でも、きっとそこには誰もいない。
私すらいない。
ハヤテくんだっていない。

ごめん、ハヤテくん。
あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。


「私――、まだ、死にたくないよぉ」


…………、皮肉だなあ。

今度こそ助からないって、まさにその時になって気付くなんて。

497Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:03:33 ID:yt6YM8gA0
知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。
5たす5。
十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。

気がついたら、もうこんな状態だった。

自分が死ぬって事がまるで他人事のよう。
だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。
人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ?
なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。
ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。

あはは。
これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。
“神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。

あはは、はは、は……。
私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。

何かがこきりと鳴った。
目の前が薄暗くなってくる。
苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。
ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。
それに驚いても、手は勝手に動く。
お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。
血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。

口から泡が出てきた。つばを飲み込みたくても出来ないんだ。
私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。
少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。
考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。
息ができないって、こんなに苦しかったんだ。

お兄さんは焦点の合わない目で、私でない何かを見つめている。
今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。
なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。

だから、私はぱくぱくと口を動かす。
何を伝えたかったのかは、分からない。

でも、声が出なくても、意識が朦朧としていても。
確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。

――本当に突然だった。
お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。

ごほごほと、咳が出る。
いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。
痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。
もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。

でも生きてる。
まだ私は――、生きてる。

498Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:02 ID:yt6YM8gA0
お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。
頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。
そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。
さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。

「ひ、ぃ……っ」

まだぜんぜん覚束ないのに、お酒を飲んだお父さんのように千鳥足で逃げ出す。
走ろうとする。
早速転んだ。
膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。
また走り始めた。
すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。
後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。
――私は、また逃げ出す。
森の道へと。逃げていく。
体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。

……誰でもよかった。
私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。

「ヒナさん! ボンさん! 平坂さん! ブランドンさん! ハヤテくん!」

涙で顔をぐちょぐちょにして、喉に手形の青あざを作って。どんなにみっともない姿でも。

私は強くないから、素直に気持ちを吐き出してしまう。
ただ、死にたくないから。

「助けてよぉ……っ!」

その瞬間、目の前がオレンジ色に染まった。
花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。

いつの間にか、私は空を飛んでる。
片方の耳が何にも聞こえない。
ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。
鼓膜が破れたのかもしれない。

あ、爆発したんだ。

そう気付いたのは、地面に思いっきりぶつかってごろごろ転がった後だった。
なあるほど、といやに冷静にうなずく。
あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。
燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。

寒い。
服が燃えていたのに、寒い。

何気なく頭に手を持っていってから目の前にかざすと、

べちょ。

「わあ、真っ赤……」

499Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:19 ID:yt6YM8gA0
火が消えたのは、泥のせいなんかじゃなかった。
泥に見えたのは、

「私の……血だぁ」

血で濡れたから、火は燃えなくなった。子供でも知ってる当たり前のこと。
なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。
口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。
ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。
ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。
見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。

なのに、体が何かに触っている感覚が全くない。
触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。

「あは、あはは……」

ずたぼろで使い物にならない服が、血に浸した雑巾になっただけ。
なのに、なぜか涙がこぼれてくる。
私だって、女の子だもの。
ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。
こんな酷い恰好は嫌だった。
こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。

辛すぎて――、なんでか笑ってしまう。
おかしいな。何がおかしいんだろ。
ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。

「あはは、あは、あは。あは……、あははははっ!
 あはっ! あははは、あははははははははっ!」

こんな終わりじゃ、さっきのお兄さんに殺してもらった方がまだましだった。
だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。

こんな誰にも見つけられないような暗い森の中で、おかしくなって独り死んでいく。
それが私の、最期。

……死にたく、ないよ。
でも、生きたいわけでもない。
独りで生きたくなんてない。

「あはははっ! あはは、あは……は……は……、う、ぁは、はぅ、
 ……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」

なんにもなかった私が、今更何を望んでいるんだろう。

「ひ、……ひっ、ひっ、うぇ……、やぁ、うっ、ぁ、やだぁ。
 やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ!
 わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ!
 わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」

……笑い続けるのも限界だった。
自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。

結局私は――、おかしくなれるほどさえ、強くなかった。

500Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:04:52 ID:yt6YM8gA0
ざり、と、まだまともな方の耳に砂の擦れる音が届く。
カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。
相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。

「ぅあ……、あ、ブランドン、さん」

呼びかけても返事はない。
血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。
それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。

「良か……た、まだ、生きて、たん、ですね」

「脆いな」

上から悠然と見下ろされて、一瞬痛みや苦しみを忘れるくらいに圧倒された。
物凄い存在感に、押し潰されそう。
……それも当然か。
ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。

「あは、死んじゃう、みたい……です、私」

けれど、最後の最後で少しだけ、ツキが回ってきたのかも。
嬉しいな。だって――、

「あ、の……お願、いです。私が、死ぬまで、見てて、ほしいん、です。
 独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」

そういうの嫌いだってなんとなく分かりますけど。
そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。

この人はきっと冷徹で恐ろしい人で、もしかしたら平坂さんが言っていたみたいに、悪い人でもあるかもしれない。
でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。
役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。

ゆっくりと、何も言わず。ブランドンさんは手を掲げていく。

「…………」

ブランドンさんの手が、歪んでいく。
目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。
――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。
一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。

「綺麗……」

……ありがとう。って、うまく言えてるかな。
楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。


最後が一人でなくって、よかった。


***************

501 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:06:26 ID:yt6YM8gA0
どこでもない虚空を見つめたまま、カノン・ヒルベルトは頭を抱えて震えている。

「……今。僕は、何を……して、いた?」

途切れ途切れに、口を動かすことすら覚束ず。
まるで冷たいプールに放り込まれた時のように、ガタガタと歯の根がぶつかり合って落ち着いてはくれない。

誰が信じられることだろうか。
こんな捨て猫のような表情でうずくまっているのが、翼ある銃と呼ばれ、全てのブレード・チルドレンの中でも最強と謳われた男だと。

カノンの精神はもはや崖っぷちに立たされている。
……いや、そんな余裕のある状況じゃない。
崖の端っこに手をかけて、どうにか腕一本で奈落に落ちないよう踏ん張っているというべきか。

なにもしてないのに、と、あの女の子は呟いた。
そのおかげで正気に立ち返ることができたのに、自分の行動が原因で怯えた彼女は、文字通りの地雷原に突っ込んでいってしまった。
自分はその間ただ呆けていただけで――、結果起こったのは身も蓋もない爆発だ。
自分が殺したのだ。
殺したのだ。
殺したのと同じ事だ。

助かった見込みは、極めて低い。
だって、今も隣に転がっているカラクリ人形を破壊できるほどの威力なのだ、あのトラップは。
爆発音や目に見えた爆炎、火薬の臭いから、カノンの戦場での経験はまず助かるまいと断言している。

いやいや待て待て。
彼女は、ブレード・チルドレンの可能性が存在した。
だから彼女が死んでも、自分の“ルール”には抵触しない。

そうだ、そうだ!
失礼ながら女の子とはいえ触診させてもらった時、肋骨が一本足りなかったじゃあないか!

「……そうだ、ブレード・チルドレンだ。あの子はブレード・チルドレンなんだ」

何度も何度も、誰かに言い聞かせるように穏やかな口調で繰り返す。
……誰に?
そんな事は言うまでもない。
けれどもカノンは、そうせずにはいられない。

だって、彼女の名前も容姿も、カノンの知る如何なるブレード・チルドレンにも該当しないのだから。

彼女を調べた時に制服から零れ落ちた生徒手帳に記された名は――西沢歩。
何にも知らない、巻き込まれただけの、ごくごく普通に幸せな人生を送るべき少女にしか見えなかった。

分かっている、彼女がブレード・チルドレンである可能性が極めて低い事なんて。
自分たちと同年代で、肋骨の感触が一本足りなかった。
疑う理由はそれだけで、難癖と言っても過言ではない。
でも、そんな理由だけで今の自分を殺人衝動に駆らせるには十分すぎた。

薄っぺらい思い込みと理解していてそれに縋るのは、予感がするからだ。
もし自分が“ルール”を破っていたのなら、蜘蛛の糸が千切れるのにかかる時間はあまりに若い――と。
きっとそのままあたまのなかのたいせつななにかが弾け飛んで、自分が最も忌み嫌い恐れる殺戮者に堕ちてしまう。

502 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:06:50 ID:yt6YM8gA0
ぼう、と少女の落としていったデイパック、その脇に落ちた名簿に目を落とす。
いくつかの名前が真っ赤に染まっていたが、カノンが手に取った瞬間それらは消えてしまった。
代わりとでもいうかのように、西沢歩、と、その名前だけが血の色へと変わる。

「……っ!」

赤い色の名前の意味は、何となくだがわかってしまう。

もう、限界だった。
彼女がブレード・チルドレンである保証が欲しい。
ブレード・チルドレンの中でも年長であるこの自分にも知らないブレード・チルドレン。
そんな都合のいい可能性が存在するのだろうか?

存在する。

カノンは、その可能性を知っている。

名簿の片隅に、その可能性はしっかりと鎮座していらっしゃる。

「“ミカナギファイル”だ……」

セイバー・ハンター・ウォッチャーのいずれの勢力にも所在不明となった13名のブレード・チルドレン。
その行方や個人情報を記し、『オルゴール連続殺人事件』の発端となった禁断の果実“ミカナギファイル”。
その“ミカナギファイル”を受け継いだ所持者が、この殺し合いにも招かれている。

浅月香介。

彼こそが、雨苗雪音より託された“ミカナギファイル”の後継者。

もし“ミカナギファイル”の中に西沢歩の名前がなければ、その時は――、

「浅月に僕を殺してもらおう」

ルールを破ったことを理解してからスイッチが入るまでのわずかな猶予。
だが、浅月ならばその刹那とも呼べる隙に自分を仕留めることは不可能じゃないだろう。
亮子には申し訳ないが、彼女にはできないことでもある。

ブレード・チルドレンの皆殺しを宣言しておいて、ブレード・チルドレンに引導を渡してもらう、なんて虫のいい考えだ。
けれどもうそれしか頼れるものはない。
目標を全く達成できてないのは心苦しいが、それでもただの血に飢えた獣と化すよりは――、


「人間として、兄弟の手で死にたいんだ」

それはきっと、誰にも看取られない獣の死よりもずっとしあわせなこと。




運命はそこまで優しくなんてないけれど。


【H-5/山道入り口/1日目/午前】

503 ◆JvezCBil8U:2009/11/02(月) 23:07:10 ID:yt6YM8gA0
【カノン・ヒルベルト@スパイラル?推理の絆?】
[状態]:潜在的混乱(大)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、“スイッチ”入りかけ
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×16、パールの盾@ワンピース、五光石@封神演義
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー
[思考]
基本:ブレード・チルドレ