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【15周年記念】ジョジョの奇妙な問題集【自由参加企画】
102
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:37:19 ID:MMSVrbOs0
ラッピングの封を切り、初めて対面するヘラジカの肉塊は、想像していたよりも獣臭さは微塵もなく普通のお肉のようにすら思えた。叔父さんは仕留めた時点で、しっかり血抜きして適切な下処理をしてくれていたのだろう。傍迷惑な人である事に変わりはないが、この一点に限っては感謝する他ない。これならこのままステーキにして焼いてもいいかもしれないが……玉ねぎを焼いた以上まずはハンバーグを作るのが先だ。
包丁で切り分けた肉塊をボールに入れると、奏は自身のスタンド能力〈パニック・ソング〉を発動する。その能力は本体の息の中に発現し、息を吹き込んだモノを泡立てる能力。固体を泡立てることでその部分は脆くなるし、生物に使用すれば組織が破壊されてしまう。
破壊する能力として考えれば有用で、夢で見たような物騒な使い方も出来ない事はないかもしれないが……普通の生活を送る上ではあんな使い方はまずしたくない。日常生活で活用するとなれば、それこそ泡風呂を楽しむか、ゴミを細かく処分したり、生クリームを泡立てたり、このように肉ブロックに息を吹き掛けて結合する組織ごと分解して、自家製の挽き肉を作るなどだろう。
ヘラジカの肉を丁度良い具合にミンチ化したら、後はいつものレシピ通り……炒め玉ねぎの微塵切りとパン粉・牛乳・卵・塩・コショウ・砂糖・下ろしにんにくを適当に加えて練り混ぜて、楕円形の形に整えて……慣れしたんだ要領でタネをつくり、油をひいたフライパンに載せて火を通し、両面に焼き目がついたところで、弱火でじっくり蒸し焼きにする。
ジビエだから生焼けには厳禁。しっかりと慌てずに肉汁が出るくらい10分以上かけて焼き上げたハンバーグを皿によそり、フライパンに残った肉汁をベースにケチャップ・ウスターソース・醤油を混ぜ合わせた特製ソースを煮詰めて、出来上がって皿の上では待ちわびでいるハンバーグにかけてあげればこれで完成。
「できたよー!奏ちゃんお手製……産地直送叔父さんからの想い(?)を込めたヘラジカハンバーグのおあがりよ!」
「きゃ〜〜〜!美味しそうじゃない!ヘラジカなんて食べた事ないから実は少し楽しみだったりしたのよね〜!」
「私も楽しみ。叔父さんも血抜きとか下処理はしっかりしてくれてたみたいだから特別な臭み消しはしてないよ。まずは素材のありのままの風味をご堪能あれ」
「は〜い!それじゃ、いただきま〜す!」
「いただきます」
箸で一口サイズに切り分けて、口の中に放り込むと、表面に滲み出ていた濃厚な肉汁と程好い酸味と甘味がブレンドされたソースが出逢い、軽く咀嚼するだけでハンバーグは口の中いっぱいにほどけてしまい――
美味しさのあまり全身が痙攣して、服が飛び散るような脳内イメージが溢れ出る至高(?)の領域にまでは到達していないが……脂身が少ない為、あっさりしているが、他の肉にはない独特の風味があり豊かな味わいが口の中に広がる。
「うん、美味しい!」
「美味しいね……!」
二人ともレポーターではないので、気の効いた感想なんて言えないが、素人の舌先でも十分満足できるヘラジカの肉の味に素直に感動していた。
あっという間にハンバーグを平らげてしまった二人は、これなら他の人にも後ろめたさを感じることなく、自信を持ってお裾分けできると確信すると、奏は母親が調べた次なる料理に挑戦する。
★
「ちょっと張り切って作りすぎちゃったかな」
「大丈夫、お父さんが食べてくれるわ…!」
「お父さん、肉……というか動物全般が苦手じゃない?こんなに食べてくれる?」
「あの人動物が苦手だけのなんちゃってベジタリアンなだけだから平気よ。私や奏が作った手料理はいつも残さず食べてくれるからね」
時刻は正午を回る。あれからヘラジカシチューやしっかり火を通したローストを作り、ようやく1ブロック使いきったが、まだ15ブロックも肉は残っている。お勧めできるレシピを考案したのだから、次はいよいよ本番……お裾分けの時間だ。
「お母さんは友達に連絡してみるね。奏も手伝ってくれる?」
「勿論、ひとまずバイト先の店長に相談してみるよ」
「助かるわ〜!お願いね!それじゃ1ブロックはうちで食べるのに残しておいて、これでブロックは残り14個だから……私と奏で7ブロックずつお裾分けできるようにしましょう!」
「わかったよ」
母親と今後の方針を定めた奏は、一度自室に戻り知り合いに相談する事にしてみた。まずはバイト先の店長にSNSで呼び掛けてみると、有難い事に興味を持ち「いますぐ持ってきてくれ!」と快諾してくれた。早速クーラーバックに、すぐ使えるように加工したハンバーグのネタと切り分けたヘラジカの肉塊を入れて家を出た。彼女の目的地は自宅からそう遠くはなく、徒歩十数分でたどり着ける。
103
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:37:51 ID:MMSVrbOs0
「ここは織井橋七星商店街です」
「ど〜も〜」
商店街の入口に立つスーツ姿のイケメン、いつものように奏は軽く挨拶を交えすと、彼の肩に乗っかっている金貨を抱いた猫型スタンド〈バタフライキャット〉も愛想良く『にゃ〜』と返してくれる。
ここは普通のどこにでもある商店街のようでいて普通ではない。数年前までは郊外の大型店に客を取られ寂れていく気配もあったが、立ち上がった商店街の振興組合の尽力によって活気を取り戻し、古くからの店舗と新しい店舗が適度に交じり合う、地域再生のお手本のような商店街と表向きには謳われているが……実際の所は裏でスタンド使いがひかれ合い、一致団結してしまった日本一奇妙なショッピングストリート『織井橋七星商店街』である。
老若男女様々な人々が商店街を行き交う中、奏では脇目も振らずに普段からお世話になっているバイト先……広島風お好み焼きの店『あくもん』を訪ねた。
居酒屋風の和風チックな内装で、カウンター席に特注の鉄板が設置されており、客の前で美人店長がお好み焼きを作ってくれるのが売りである。
「お待たせしました。いま大丈夫ですか店長?」
「おう!ランチタイムはとっくに過ぎてるから今は丁度暇してたところだぜ!しっかしよ〜!ヘラジカの肉なんて随分気前がいいんじゃあ〜ないの?早く見せてくれよな!」
手を大袈裟に振りながら出迎えてくれた店長は、入口の看板を「準備中」に翻すと、奏をカウンター内の調理場に案内してくれた。
奏でがクーラーバックからヘラジカの肉塊とハンバーグのネタを取り出すや否や、店長は「ナイス気遣い!早速焼こうぜ!」と両目をキラキラ輝かせながらノリノリで、予め整形されていたハンバーグのネタを鉄板の上で焼き始めた。
両面を焦げ目がつくまで焼いたらステーキカバーを被せて蒸し焼きにし、出来立てホヤホヤのハンバーグを、即興で作った和風仕立ての玉ねぎソースをかけて食べれば……快活な舌鼓が打たれる。
「……ゥンまああ〜いっ!!!」
「うん、美味しい」
「おいおいおいおい、こいつは何だか祭りの臭いがしてきたぜ!」
「え?」
「そー言や、ヘラジカのブロックってあとどれくらい余ってるん?」
「私の割当は7個だけど……全部で15ブロックあります」
「えぇのぉ〜!それだけありゃ祭りができる!」
奏と話しているうちに、店長は瞳の中で花火のような煌めきをバチバチ弾かせており……三度の飯より 祭りと遊びが好きな、お祭り女の血が騒いでしまったらしい。
「奏ちょっと顔かしてくれる?」
「いいですけど、何をするんですか?」
「町おこし実行委員会の緊急会議じゃ!」
「……はい?」
ヘラジカのお肉をお裾分けしたいだけったのだが、何やら話は思わぬ方向に進もうとしており、奏は当然戸惑うが、店長はスマホのSNSで誰かに連絡を既にとっており、指先を忙しなく動かして止まらない。
「よし!善は急げだ、来い奏!上手く話が進めばヘラジカの肉全部お裾分けできるかもしれんからな!」
「ほ、本当ですか!?」
「あたぼうよ!旨いもんは宵のうちに食ってやろう!その方が絶対良い!」
互いの利害が一致した二人は、そのまま『あくもん』を出ると、同じ『織井橋七星商店街』にある老舗の薬屋の戸を叩く。中に入れば若い男……この薬屋の三代目にあたる店主がカウンターの内側で無愛想に待ち構えていた。来訪者を一瞥するなり小さなため息を吐いてみせたが、『あくもん』店長もそんなぶっきらぼうな態度等お構い無しに、自分のペースでのらりくらりと立ち回る。
104
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:38:33 ID:MMSVrbOs0
「お待たせ〜博士!文ちゃんはまだ来てない?」
「誰が博士だ祭りジャンキー」
「今来たよ二人とも。それで面白い話とは何かな?」
奏たちより少し遅れてやって来たのは『織井橋七星商店街』で本屋を経営する若い女店主だった。彼女と薬屋の店主は町おこし実行委員会の主要メンバーであり、商店街に関する企画を通す場合、彼等が一番の窓口になってくれるらしい。面子が揃ったので『あくもん』店主は、二人に奏の事を紹介して自分の企みをプレゼンする。
「この娘、うちの店でバイトしてくれてる奏ちゃん。親戚からヘラジカの肉をお裾分けを大量に貰って困ってるんだ。肉の味は私が食べたから保証できるからさ、折角だからヘラジカの肉を使った祭りしない?いや、しよう!」
『あくもん』店長の物言いに、薬屋店主は信じられないものを見るような白い目を向けてくるが、本屋の店主の方は詳細を知りたい様子で奏にも話をふってくれた。
「奏ちゃん、ヘラジカのお肉ってどれくらい余ってるの?」
「実は自宅に5キロのブロックがクール便で16箱も届いちゃって……とてもじゃないけど、うちだけじゃ食べきれないし、保存も出来なくて困ってて、それで店長に相談したんです」
「うわぁ……それはまた災難だったね」
「このままだったら勿体ないだろう?だ・か・ら・……ハっさんやチョーさん達にも一枚噛んでもらってさ。みんなで料理の腕を競ってお客さん達に絶品の鹿肉料理を振る舞い……ヘラジカ料理フェスを開催したいのさ!」
「うーん……でもね。みんな急には出来ないし準備も必要だと思うの。そのうちにお肉も痛んじゃうと思うし……私はその案ノリ切れないかな」
「そこは大丈夫!……『あしながおじさん』ちのワンダーガールちゃんの力を借りればヘラジカ肉の量産体制は整えられる!ジビエ料理を思う存分研究してから、万全の状態で祭りを開催できると思わないか?」
「あ〜なるほど、それなら長期的なイベント計画としてみんなに相談できる話になれそうかも」
本屋の女店主は喫茶店『あしながおじさん』の看板娘が保有するスタンド〈ワンダーガール〉の能力を思いだし、企画に乗り気になりかけるが……今まで押し黙りながらスマホを弄っていた薬屋店主が重たい口を開いてみせた。
「おいおいおいおい、勘弁してくれ。絶対にあり得ない。断言するヘラジカ料理フェスなんて絶対に無しだ」
「な、なんでじゃ〜!?」
薬屋店主に真っ向から企画を否定された『あくもん』店主は、さすがに戸惑い理由を訪ねると、薬屋店主は面倒臭そうに頭を掻きながら、言葉を一つ一つ噛み砕きながら吐き出す。
「そもそも、ヘラジカは日本に生息していない生物だが……口蹄疫という疫病のリスクが懸念されていて、国が輸入を禁止している。いま君たちはこの国に存在してはいけないものを商店街の出し物にしようと話をしているんだ。僕じゃなくてもみんな事情を知れば言語道断だと却下してくるぞ」
薬屋の店主は正論を突き付けながら自分のスマホ画面も奏たちに見せてくれたが、そこには先ほど語られた内容に関連する文面が記されており……奏は顔を青冷めさせながら震えた声を絞り出す。
「あの……そ、それじゃ……私とお母さんと店長が食べたお肉はいったい何なの?」
場が静まり返る中、薬屋の店主は少しだけ気まずそうにしながらも、彼なりのフォローを入れてくれた。
「さぁ?もしかしたらただの鹿かもしれないし……必要以上に知らなくて良いこともある。昔からよく言うだろう。ただより高いものはない……と、僕から言えることはこれだけだ。そのまま食うのか捨てるかは自分たちで決断してくれ」
※この後、慌てて自宅に帰った奏は母に事情を説明して、有り余っていたヘラジカ(?)肉を全て処分しました。奏とお母さん・『あくもん』の店長は〈パニック・ソング〉で念入りにミンチにしたハンバーグやしっかり加熱した料理を食べただけだった事もあり、健康被害はありませんでした。
105
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/23(火) 21:39:18 ID:MMSVrbOs0
【課題名】
屋外プールに行こう
【使用オリスタ】
No.8701 アンリトゥン・ページス
【解答】
夏真っ盛り、晴天の太陽が地表の全てを照らし尽くす真っ昼間の時刻。熱気に包まれたコンクリートジャングルで暮らす都心の人々の中には、清涼さを求めて野外プールに訪れる者も少なくはない。
流水と共にうねりながら滑走するウォータースライダーは子どもだけではなく、大人にも人気なようで童心に帰りながら水遊びを無邪気に楽しんでいるだろう。
勿論プールの楽しみはそれだけにあらず。流れるプールを浮き輪に乗っかりながら、のんびり揺蕩うのもリラックスできて悪くない。公共施設故に多少騒がしいのは致し方ないが、ここは近隣でリニューアルした競合相手に客を取られてしまった事により、隠れた穴場スポットと化していた。
隣り合いながら水流と浮き輪の浮力に身を委ねる少女と女友達も、慌ただしい日常の喧騒を忘れながら、くだらないおしゃべりに花を咲かせているようだ。
「あ〜〜〜良いねこれ。思ったより悪くない」
「だから言ったでしょ。物は試しにってね」
「そうだねー。でも麻奈はクソガキのウンコと接触事故を起してないからそんなこと言えるんだよ」
「アハハハ、それは本当に運がなかったね」
「ウンマルハツキマシタヨー」
「もーちょっと話題が汚すぎるよ」
「ごめんごめん、過去のトラウマが疼いちゃってついね」
少女は幼い頃に訪れた市民プールで勃発した悲しい事件を思い返し、話題として転がしてみたが、当然友達からの反応は芳しくない為、違う話題を振ろうとするが……突如発生した異変に気がついてしまた友達は「何あれ」と、不安を溢しながら指差す。
それにつられて少女も水流が向かう先に目をやると……服を着たまま、お構い無しに入水する無数の人々がいるのだ。プールの中に飛び込んだ人々は、水中に潜り込んだかと思えば、一様に水面をじたばた弾きながら暴れている。
「……ちょっとアレは普通じゃない!逃げよう麻奈!!」
「……もう、逃げられないかも」
クソガキのウンコなんてマシだと思えるくらいの異常事態。少女は狼狽えながらも理性をフル稼働させて、友達の手を引いてこの場から脱出しようとするが、友人の絶え入るような声を耳にして、辺りを見渡せば……服を着たままの老若男女無数の人々が、流れるプールの回りを既に取り囲んでいたのだ。
水に魅入られて取り憑かれたかのように、人々は次々とプールの中に飛び込み、一様に潜水してのたうち回る。しかし、それだけで、まるで彼女たちの事は眼中になく襲ってくるような真似はしてこない。それでも人で溢れ変えるプールに、最早逃げ場など存在せず……集団入水自殺という異常過ぎる事態を特等席で観賞するハメになっている。
「……アンリトゥン・ページスッ!!」
急転過ぎて事態を飲み込みきれていないが……人々の一連の奇行を目の当たりにした少女は、己のスタンド〈アンリトゥン・ページス〉を呼び出した。泡のように多数の透明な玉が飾られた人型スタンドが揺れる水面を殴り付けると、そこから石鹸の泡に類似した無数の泡が溢れ変えるように出現し、一面を泡まみれにしてみせると、水中にいる人々も当然泡まみれになってしまう。
「な、何かわからないけどくらえッ!クリーニングよ!クリーニングぅぅぅぅぅうううううっ!!」
〈アンリトゥン・ページス〉の能力はご覧の通り、殴ったものを「泡まみれ」にするものだが……その本質は「クリーニング」である。
表面に付着した汚れ、細菌、また内部の異物や病原菌など、標的に対し有害・不要なものは泡で包まれ、標的の外部へと流れ落ちる特性を持ち……本人は当然知る良しもないが、この異常事態を解決する最善の特効薬となってしまった。
泡まみれになった人々は体内に潜んでいた「異物」を摘出されて……次々に我に返り水中から飛び出てくると、自分が何でここにいるのか分かっていない様子で、酷く戸惑い混乱していた。
「さ、さすがスタンド使い……原因は何だったの?」
女友達は非スタンド使いだが、少女の特殊能力に自分や周りの人々が助けられた事を悟り、少女に労いの言葉をかけつつ事態の真相を探る。
それに対して少女は苦虫を噛み潰したような顔をしながら〈アンリトゥン・ページス〉の手を操り、泡の中かは異常に細長くて馬鹿でかいハリガネムシのような寄生虫をつまみ上げてみせた。さらに他の泡を掬い上げて、泡を取り除いて見てみれば、何やら小さな粒々とした卵のようなものが沢山見つかってしまった。
これが何かは分からないが、プールに集結した人々は……これに集団で寄生され、水辺に集まってきたのだろう。原因なんて皆目見当もつかない。
「モウ、プールムリ」
「ソ、ソウダネ」
106
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 00:22:22 ID:3vKDtb9E0
ヘラジカが!
嫌がらせのヘラジカが!
美味しく頂かれてる!
107
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 09:59:46 ID:pPurKow.0
【課題名】
ちょっと持っててください!
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
「………む?」
小室光之助は訝しんだ。何故なら、大企業の社長として日頃から大金を稼ぐ彼のような人間に相応しい緑豊かかつ静かな公園に、場違いな小太りの男が佇んでいたからだ。小汚い段ボール箱を持ち、挙動不審にキョロキョロと辺りを見回すその姿は薄汚なく滑稽だった。
そう多くない休日の時間を散歩という形で消費していた光之助は眉を潜め、薄汚いデブから眼を背けて歩き去ろうとしたが遅かった。
「ちょっと持っててください!」
「……何だと?」
軽い衝撃と共に段ボール箱が光之助へと押し付けられた。ふと見ると先程の小汚ないデブが公衆トイレへと駆け込んでゆく姿が映る。
「全く……仕方あるまい。」
光之助は段ボール箱を抱え、小汚ないデブの後を追ってやや早足で歩き始めた。当然ながら相手に気を使った訳ではない。憩いの時間を邪魔した者に荷物を叩き返して文句の1つでも言ってやろう、という苛立ちから来る物である。
やがて光之助は公衆トイレにたどり着き、中に向かって呼び掛けた。
「おい君。いきなり初対面の人間にこんな物を押し付けるなんて、チョイと無用心と無礼が過ぎるんじゃあないか?」
返事は無い。
静まり返ったトイレの中に、今度はカチカチという小さな秒針の音が響く。どうも段ボールから音がするらしいと気付いた光之助が箱を開け、中身を引きずり出すと典型的な形状の時限爆弾が入っていた。残り時間を見てみればあと13秒で爆発するらしい。
「ふん。実に下らん。」
しかし、小室光之助の表情には焦り一つ浮かばない。
…………大企業の社長である彼には裏の顔が存在する。「究極の生命体」を産み出す事を野望とし、その為ならば如何なる事でも成す───という漆黒の意志を宿した者の顔である。
そんな光之助が命を狙われた事など一度や二度では無く、数多の脅威に晒される度に己の能力で危険を退け、敵を打ち砕いてきた。
───故に、彼は今回の窮地も"容易に切り抜けられるモノ"と判断しており、事実彼の認識は正しかった。
「『グラビティ・オブ・ラヴ』」
時間爆弾を手放すと同時に光之助は能力を発動させる。
黒い鎧を纏い、球状の赤い衛星に囲まれた逞しい人型スタンドが触れると同時に、落下する爆弾は空中にピタリと静止した。
正確には「静止しているように見える程」ゆっくりと落下し続けているのだが、どの道光之助が取る行動に変化は無い。
『グラビティ・オブ・ラヴ』はそのまま静止した爆弾を掴み、破壊力Aの腕力をふるって天高く投げ上げた。
ドォォォォォォン!!!
遥か上空に投げ飛ばされた爆弾は空中で爆発を起こし、破片や内部に仕込まれていたとおぼしき無数の釘が飛び散る───と思いきや、その全てが不自然な挙動を描いて"とある1ヵ所の地点"へと降り注いでいく。
それを見た光之助は口の端を僅かに吊り上げ、破片が落下した地点へと歩を進めた。
目的地に到着した光之助が目にしたのは、事前に予想した通り、先程爆弾を押し付けていった小汚ないデブが血塗れで地面に倒れ付した姿だった。
「痛ェ………くそッ……糞がッ……!何で、何で俺がこんな目にッ……………!!」
「ほう、ここにいたか。見た目の割に速い逃げ足じゃあないか。」
背後から声を掛けた光之助に気付いた男が顔を上げ、驚愕と狼狽の入り交じった表情を浮かべる。
「何で……何でお前がここに……?」
「『何故』か。答えてやってもお前如きには到底理解出来ないだろうが…………私が"こうなる運命"を引き寄せたとでも言っておこう。」
光之助は柔和にさえ見える笑みを浮かべながら答えたにも関わらず、男は激しく怯えた表情を浮かべ、ガタガタと震え始めた。
…………これから自分がどんな目に合わされるか、という事を想像出来る程度の知能は残っていたらしい。
「な、なあ…悪かったよ……俺は金持ちで何不自由無く暮らしてて、偉ーい立場も持ってるアンタにちょっとだけ嫉妬しちまったんだよ……本当に済まなかった、反省してる。だ、だから……」
「私は綺麗好きな人間でね。目の前にゴミが落ちているのが我慢ならない性分なんだ。」
男の身勝手な命乞いを遮り、光之助が言い放つ。
「だから、道に転がるゴミは自分の手で徹底的に破壊する事にしているのさ。尤も、壊したゴミの後始末は部下に任せているがね。
──────さて、そろそろ掃除役が来る頃だ。」
光之助が言い終わるのと同時に一台の車が近くに停車し、中から作業服を着た数人が降り立つ。
彼等が倒れ付した男の身体を手早く車内に放り込み、そのまま去ってゆくのを見届けた光之助は、何事も無かったかのように散歩を再会するのだった。
108
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/25(木) 21:23:16 ID:jsH5k6tY0
>>106
最初は80キロもあるから料理の話で『商店街』でネタにできるやん!とか考えてたんですが、途中でヘラジカは日本じゃ輸入できない事を知り、苦肉の策で今回はこうなりました。
話が丸々ボツになりそうでしたが、丁度後の問題に寄生虫を取り扱う問題が出てたのでこのような形にしてみました。神様のレシピに感謝!
>>107
違う解答パターン本当に有り難うございます!
小室社長カッコいいです。問題の性質上、荷物を律儀に持っていてくれているのが、何かギャップを感じて、以降の容赦無い対応と合わせていいなぁと思いました。スタンドの描写も説明的ではなく自然な地の文で書かれているが凄く素敵に感じました。私の解答はオリスタの設定原文をそのまま引用しているが殆どなので、こういう文章の書き方を見習いたいです!
109
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 21:33:23 ID:ml2GuE8E0
>>30
【課題名】
感動二十四時フィナーレ!
【使用オリスタ】
No.6304 アクト・ウロンガー
【解答】
夜が更けたにも関わらず多くの人々で賑わう大都市の駅前。
1人の男がフードを目深に被り、卑屈に身体を縮こまらせながら道を歩いていた。
まるでこの世の全てが自身に敵意を向けている─────とでも言いたげに厳しい目付きでキョロキョロと辺りを見回す男だが、周囲の人間達は誰1人その事に気付かない。
彼等は揃って街頭スクリーンを凝視し、滂沱の如く涙を流していたのだ。
「…………………?」
その異様な光景に気付いた男が見やると、スクリーンの大画面には毎年放送されているチャリティー番組が。
司会の芸能人が慈善事業に尽くす企業がどーだ、マラソンで疾走中の芸人がこーだ………と大した事でもない内容を大袈裟な身振り手振りで涙を流しながら喚いている。
「………………………。」
男が興味を無くしたように顔を背け、表情1つ変えずにその場から立ち去ろうとした瞬間。
突如画面が切り替わり、去ろうとする男の姿がアップで映し出された。
男が見上げた空には1台のヘリコプター。どうやら、上空からの中継映像を流しているらしい。
男がその事実を認識するかしないかの刹那、群衆が泣いていない男の方へと顔を向ける。
一様に同じ黄色のTシャツを着込んだ彼等は訝しげに男を見つめ、大勢でゾロゾロと1人の男を取り囲んだ。
「……………?」
男が立ち止まり、困惑している内に時間はどんどんと過ぎてゆき─────
ゴツンッ……
群衆の1人が男に石を投げ付けた。
「この、人でなしッ!」
頭から血を流してしゃがみこんだ男に対し、憎々しげな表情を浮かべた1人の中年女が泣きながら罵声を浴びせかけた。
それを皮切りに群衆は口々に男を罵り始め、徐々に興奮度を高めてゆく。堪らずその場から逃げ出そうとする男だったが、彼等はそれを許さない。
何人かが男の背を突き飛ばし、倒れ込んだ男の身体を蹴りつけながらますます口汚い言葉で罵りだした。
110
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 21:35:03 ID:ml2GuE8E0
地面に蹲った男が僅かに声を発したのは、それから数分ほど経過した頃だろうか。
「………せぇんだよ…………。」
そんな男の態度が気に入らなかったのか、1人の若い男がより強い力で男を踏みつけようとした刹那。
────鈍い音と共に若者の両足が千切れ飛び、間を置いて絶叫が響き渡った。
「えっ……」「何が……?」「……嘘でしょ………?」
「うっ、うぅぅるせぇんだよォォォォ!!!アアアァァ!やっぱりだ!!やっぱりそうだ!!お、お前ら皆、う、う、嘘泣きなんかしやがってェェ!!!は、ははは!あ、相手が悪かったなァ!!」
何が起きたのか理解出来ずに戸惑いの声を漏らす群衆を無視して男は立ち上がり、焦点の定まらない目を真っ赤に充血させ、口から泡を吹きながら支離滅裂な事を喚き始めた。
男の異様さにある程度の冷静さを取り戻した群衆は、それでも困惑の余り足を動かす事もままならずに男を見つめ続ける。
「お、思い出した……思い出したぞ、ははははァ!騙されねぇぞ、偽善者共ォ…………おま、お前らは去年別の奴にやったみたいに、おお、俺の事も殺そうとしてたんだろ、そうなんだろ!!!!」
周囲から向けられる視線に恐怖が混ざった事にも気付かず、尚も喚き続ける男を見て、恐怖に駆られた数名の若者が彼を拘束すべく走り寄り………手足や頭を吹き飛ばされて地面に転がった。
目の前で人が殺された。
その事実を漸く認識した群衆は口々に悲鳴を上げ、この場から逃げ出そうと試みる……………が、その悉くが不可視の「ナニカ」によって身体を抉られ、千切られ、引き裂かれては痛みと恐怖で泣き叫ぶ無様な肉塊───或いは物言わぬ死体へと変えられてゆく。
「は、はは!ざざ、残念だったな偽善者ども!お、俺はこんな時に備えて、ず、ずっとスタンドを鍛え続けて来たんだ……!!
お前らなんか、お前らなんか何人いたって変わんねぇ!ぜぜ、ぜ、全員ブッ殺してやるッッッ!!!!」
血飛沫と肉片が飛び散る地獄絵図の中、タガが外れたかのように狂気の高笑いを上げる男。
もしも見る目のある者が居れば、男が操る『全身に無数の口と眼球を持つ人型の像』が認識出来たに違いない。
男の正体は常人の目に見えない「スタンド」の使い手。
「正義」の名の元に浴びせられた「悪意」を内に蓄積させ、歪みながらも飛躍的な成長を遂げた彼のスタンド『アクト・ウロンガー』は、群衆が男に向けた「悪意」の際限の無さを体現するかのように、たった今獲得したばかりの災害が如き力を奮い続けた。
───ライブ中継の真っ最中に殺人事件現場を映してしまったチャリティー番組の放送が中断され、スクリーンが暗転した事にも気付かないままに。
チャリティー番組が放送された次の日の朝。
静まり返った駅前のスクリーンにて、キャスターが神妙な顔でニュースを読み上げていた。
「──────警察からの情報によりますと、昨晩○○駅周辺にて発生した殺人事件による死者の数は、少なくとも200名を超えているとの事です。
犯人と思われる男は現在も逃走中であり、警察は周辺区域の住民に厳しい警戒を呼び掛けて──────」
111
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 22:15:20 ID:ml2GuE8E0
【課題名】
コンティニュー
【あらすじ】
スタンド使いのあなたは色々あって死に、幽霊となってしまいました。
自分自身の死を悲しむあなたの元に天からの声が。
曰く、「3日間限定で現世に蘇り、期限内に3人の生命相手に『善行』を為せばそのまま生き返らせてやっても良い」という申し出に同意したあなたは自分が降りたい場所を告げ、健康な肉体を持った状態で現世に舞い戻って来ました。
【クリア条件】
72時間以内に3人の人間、或いは他の動物から感謝されるような事をする。
助ける動物の種類は問わない。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
「あなた」の性格が多少悪くても、「あなた」が人間以外の動物でもチャンスは平等に与えられます。
誰かを助ける為に敵を倒す行為は、相手の命を奪わなければギリギリ許容範囲です。
ただし悪人や外道、犯罪者など「明確な前科」や「特別に邪悪な意志」を持つものにチャンスは与えられないです。
大人しく死んどいて下さい。
112
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/27(土) 23:05:10 ID:EVO5okKQ0
>>109
解答の投稿有り難うございます!
アクト・ウロンガーの本体とこの問題の組み合わせならではの大惨事が起こりましたね。でもこういう解答も全然有りだと思います!本体が吹っ切れて暴走に至る描写が良かったです。
あと問題のレスアンカーいいですね!私は投稿された問題は丸ごとコピペして取り扱っていたので、こういう見やすさへの配慮に欠けていました。是非とも真似させていただきます!
>>111
問題の投稿も有り難うございます!
今までにない感じの問題ですが、企画的には大歓迎なネタです!色々なオリスタキャラを絡めて解答が組み立てれそうで楽しみです。
113
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/29(月) 19:36:08 ID:zwiKgvBA0
【課題名】
パン屋の面接
【あらすじ】
あなたは個人経営のパン屋にアルバイトの面接に訪れました。
優しそうな初老の職人と異様にガタイの良い女性の職人が担当する質疑応答が穏やかに終了した後、「最終確認」との事で近くの公園へと連れ出されます。
そこで手渡されたのは直径およそ80cm、重さ100キロはあろうか……と思われる巨大なアンパン。
初老の職人曰く、「このアンパンを40m先までノーバウンドで投げられたら即採用」との事ですが………。
【クリア条件】
面接合格を目指して下さい。手段は問いません。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
職人2人はどちらもおおらかな性格であり、目の前でスタンドを使われても気に留めません。
あなたが頼めば、筋肉質な女性の職人が投げ方の手本を見せてくれるでしょう。
あなたが彼等を脅迫すれば、筋肉質な女性の職人が即座にあなたを掴んで警察まで投げ飛ばすでしょう。
【課題名】
正義の鉄槌
【あらすじ】
道を歩いていたあなたは、突然やたら威圧的な1人の警官から声を掛けられました。
どうやらあなたを近所で発生した事件の犯人だと思い込んでいるらしく、無実のあなたに粘着質かつ高圧的にアレコレと職質してきます。
結局あなたが無実だと分かった後も警官は謝罪1つせず、「疑われる方が悪いんだ」というような事を吐き捨てて立ち去ってゆきました。
【クリア条件】
この警官を「あなた」の気が済むまでひどい目に逢わせてやりましょう。遠慮はいりません。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
相手は警官なので一般人より強いですが、この時はあなたに背を向けている状態です。
補足情報として、この警官には溺愛するペットの犬が1頭存在します。警官本人が怖ければそっちを狙って下さい。
114
:
名無しのスタンド使い
:2024/01/29(月) 22:58:13 ID:TBWBAPv20
>>113
問題の投稿有り難うございます!
アンパンマンネタいいですね。仕返しネタも全然ありです!オリスタも皆が皆聖人君子ではないので、こういうジャンルに寄り添ってくれるのは解答のパターンも広がるので助かります!
115
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:54:43 ID:KW40acUc0
【課題名】
>>36
カラオケ初日
【使用オリスタ】
No.8578 サンデー・バイオレット
【解答】
町中のどこかにある個人経営のカラオケ店に、高校生くらいの若い女の子がアルバイトとして新しく入ってきた。
「それじゃ、これ7番にお願いね」
「はーい」
厨房の業務を担当する店員の男性は、客から注文を受けたドリンクをトレイに載せて、フロア担当の新人女性店員に受け渡そうとするが……彼女が着る制服は、たわわに実った豊かな胸部が収まるには少し小さいようで、胸元がぱつんぱつんに張った状態となっていた。
初対面からいきなり胸元をチラチラ見てくるスケベのチラ見野郎だとは思われたくない。思わず視線が下向きになりそうなのを必死に堪えて、彼女の目線に合わせようとするが、彼女が動く度に胸部も揺れ動き、普段見慣れない異性の挙動を目の当たりにする男性店員の視線は、自分でも気がつかないうちに下向きにズレてしまう。
これじゃただのスケベじゃない。何度でも本能(性欲)の強さに抗えずに女体を観賞するド級のスケベ、ドスケベガン見野郎だ………………理性と本能に詰め寄られて板挟みに合う男性店員は勝手に苦悩しているようだが、当の女性店員は馴れた様子で特に気にも留める事もなく、注文を待っている客の元へと足を運ぶ。
厨房から廊下へと出ると、向かい合わせに扉がいくつも並び合い、大抵の扉からは様々な音楽と歌声が微かに漏れ出ているのだが……女性店員が訪れた部屋の扉からは音が一切漏れ出ていなかった。
あの部屋に案内した客は確か、1人カラオケをしていた中年女性だったが……女性店員は不思議そうに首を傾げながらノックをし、扉を少しだけ開けて「失礼しまーす!」と声をかけるが、部屋の中からは返答はない。
不審に思いながら女性店員は扉を開けると、そこには誰もいなかった。中に入りよく確認してみると……テーブルの陰から足が見えた。床に倒れているようでうつ伏せの状態らしい。恐る恐る覗き込むと血溜まりを作りながら倒れている中年女性がそこにいた。
「……ちょっと大丈夫ですか?」
悲鳴をグッと堪えて、女性客に声をかけるが返答はない。身体を起こして安否を確認する度胸までは流石になく、自分のスマホを取り出して119番に連絡を入れようとした矢先、藪から棒に向かいの部屋から珍妙な乱入者がやってきた。
「逃げ場はないぞ殺人犯め!」
現れたのは中学生くらいの男の子だが、遠慮なく他人を指差しながら興奮した調子で自分の言い分を勝手に捲し立てる。
「僕は隣の部屋でずっと1人カラオケをしていた中学生探偵・天地 虎太朗!歌の合間に廊下を行き来する人をずっと観察してたのさ!この部屋に入ったのはそこで倒れている女の人とお前だけ!つまり犯人はお前しかいない!真実はいつも一つ!ザッツ・オールッ!!」
「………………はあ?」
接客業をしていれば、ヤバい客にエンカウントする事は稀によくあるが、よりにもよってこの切羽詰まったタイミングでゲリラ戦を仕掛けてくるのは堪ったものではない。女性店員は場違いな素人探偵に苛立ちを隠さず反論する。
「緊急事態よ。お子様はお家に帰りなさい」
「嫌だね!お前こそ大人しく自首しろ!」
「アンタねぇ……何で私が人殺ししなきゃいけないのよ!」
「僕は状況証拠を踏まえた上で事実を突き付けているんだ。犯人じゃないと言うのならお前こそアリバイを証明してみせろ!」
「監視カメラを見れば分かるでしょ!」
「おいおいおいおい、店員なのにここの防犯カメラがダミーだって知らないのか?中学生の僕だって知ってるのに」
「クッ……」
小生意気だが探偵を自称するだけあり、中学生は筋道を立てて一丁前に詰めようとしてくる。年下のクソガキに論破されかける女性店員は苛立ちがピークに達し、我慢ならずに己の能力を発動する。
116
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:55:31 ID:KW40acUc0
「……どーでもいいけど、さっきから人の胸チラチラみてくるの止めてくれない」
「なっ、急に何を言い出すんだ?今は殺人事件の話をしてるんだ。話をすり替えるのは止めろ!」
「私には分かんだよエロガキ。そんなにこれが珍しいか?」
女性店員は自分の胸をわざと叩いて見せると……バルンッ!!
たわわに実る乙女の果実がご立派に揺れ動き、健全な中学生男児には少し刺激が強すぎたのか、「おっふ」と小声を漏らしたかと思えば、突然前屈みの姿勢になり、赤面した顔ごとそっぽを向いてしまった。
「クッ……こんなの無意味だ!」
「黙れエロガキ。今から本当の推理を見せてやる」
巨乳に物を言わせて中学生探偵から会話の主導権をかっさらった女性店員は、自身の能力が発見してしまった真犯人に向けて拳を叩き込む。
勿論、彼女自身の拳ではない。
中学生探偵は気がついていないが、目から胸のあたりまで、目玉の模様が直線状に描かれている人型のスタンド〈サンデー・バイオレット〉は、本体である女性店員の側に寄り添うように立ちながら、この場にあるあらゆる視線を一切合切見落とす事なく感知していた。
彼女が自身の胸を叩いて見せた瞬間、視線が確かに二つ動いた。一つは思春期真っ盛りな中学生探偵と…………ソファの中で蠢く何か!?
「オラァッ!出てこい出歯亀野郎!」
「ヤッダーバァアァァァァアアアア!?」
〈サンデー・バイオレット〉が拳骨一発で粉々に破壊してみせたソファの中から、騒がしい絶叫が響き、中で何かが悶絶しながらのたうち回っている。〈サンデー・バイオレット〉に壊れかけたソファの座面を引っ剥がさせると、中には人一人入るだけのスペースが存在し、その中にはつい数日前に女性店員と面接を行い、彼女を採用したこのカラオケ店の店主その人が、何故か素っ裸で入り込んでいたのだ。
衝動的すぎる事実に女性店員と中学生探偵は困惑して言葉を失ってしまうが、自分の正体を晒された変態はこの期に及んで何かを言い出す。
「ゴフッ……ち、違うんだ。これは私の趣味であって、その……私が私の店で趣味活動を楽しむのは勝手だろう!?」
「色々突っ込みたいけどさぁ……人を襲うのは駄目だよね」
「!?ちょっと待ちなさい!なぜ私がこの女性をオソッタト言うのかね!?証拠は!?」
女性店員に核心を小突かれた店主は目に見えて分かるくらい焦りだし、見苦しく取り繕うとするが、悍ましい怪物の醜態を目の当たりにして、絶句していた中学生探偵は我に返り、真実を再び紐解こうとする。
「最初に言ったつもりだけど……僕は隣の部屋で1人カラオケをしていた。歌いながら廊下を行き来する人をずっと見ていたけど、この部屋に入ったのは被害者とそこのゴリ……お姉さんだけ。最初はこの部屋に唯一出入りしていたお姉さんが犯人だと決めつけていたけど、お前が最初からこの部屋に忍び込んでいたならば話は変わってくる」
「えぇい!?黙れ黙れこのクソガキ共がぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
威勢の良い口振りだが、素っ裸でソファの隠れスペースに入り込んでいた変態は、壊れたソファの素材が歪んだせいなのか、身体が上手い具合にハマってしまい、一向に飛び起きて目撃者を始末するような素振りは見せなかった。
馬鹿は放っといて女性店員は自身のスマホを取り出して、119番に連絡するが、もう一人の馬鹿が後ろから「すごいや!ゴリ姉ちゃん……いいや、師匠!どうやってこのトリックを見破ったんですか!?どうやったらソファをあんな風にぶっ壊せるんですか!?」と瞳を好奇心と羨望で輝かせながら何か喚いている。
女性店員は髪の毛を掻きながら心底うんざりした様子でため息を吐き捨てる。これから警察に事情聴取もあるだろうし、店長は逮捕されるだろうからバイトは辞めざる終えなく、給料も当然出ない。こんな事なら『大瓜ここのつぼし動物園』のバイトにすれば良かったと物思いに耽る他ない。
まだ募集しているだろうか?
今度こそは絶対『大瓜ここのつぼし動物園』にしよう。
117
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/06(火) 22:57:22 ID:KW40acUc0
【課題名】
>>38
手作りドローン『レイブン』
【使用オリスタ】
No.7430 イーヴィル・エンパイア
【解答】
青空に浮かぶ巻雲は風に吹かれながら閑雅に舞い、川の水は遥か遠い海を目指して清閑に流れ往く。晩夏に吹き抜ける涼風に後押しされるように、どこにでもある白昼の河川敷を散歩する男は、ラフな白衣姿で耳にワイヤレスイヤホンをつけて、お気に入りの音楽を観賞しながらご機嫌そうに日光浴を満喫していた。
そこに懐にしまっていたスマートフォンがアラーム音が鳴り響かせながら水を差してくるが、男はその音を待ち望んでいたようでアラームを停止させると、踵を返して帰路につこうとする。
その双眸は稚気に富んだ純粋な輝きを放ちながら、蒼穹に何かを描こうとする浮雲に、見果てぬ世界を投影させているようだが……蒼天のキャンパスに見馴れない異物が入り込んできた事に気がついてしまった。
「あれはドローン?……いや違う」
謎の飛行物体は四方のプロペラで揚力を発生させてホバリングするドローンとは形態が異なる。機体の上に取り付けられた大きなプロペラの動力で上空に浮上・前進し、機体の後方にある小さなプロペラの横向きに働く力で方向変換を可能としている一般的なヘリコプターと同じ機構をしといるが、人が乗れるような大きさではない。
あれは田畑への農薬散布や災害時人が立ち入る事が出来ない場所を観測・物資運搬を目的としている産業用の無人ヘリコプターだ。それが何故こんな河川敷の上空を飛行しているかは分からない。都内の河川敷であれを飛ばすとなれば、河川管理者に許可が必要で色々と面倒な手続きが必要なハズだが……そんな男のロジカルシンキングは一瞬にして瓦解する。
目を細めてよく観察してみればガムテープやら何やらで色々取り付けており、目視で確認できたのは機体正面部にスマートフォン、下方にはネイルガンのようなものがあった。こんな物に管理者の許可とかどうとか無粋な事を考えるのは最早野暮だろう。男は細めていた目を大きく見開き、好奇心を煌々と輝かせながら笑い始める。
「フハハハハハ、実に馬鹿馬鹿しい……でもそーゆーところが面白いんだ。無骨で粗削りだが趣味は悪くない。さぁ……それでどうしてくれる?」
男は改造ヘリに向かって両手を振って見せながら自身のスタンド能力を発動した。ラフな白衣姿は瞬く間に、多数のパイプが生え、各所に髑髏などの様々な『危険』を連想させるマークが付いた全身を包み込む防護服に似たヴィジョンによって覆い尽くされてしまう。
一方、改造ヘリは徐々に高度を下げながら男に迫り、10メートル圏内に入った付近で、機体の下部に取り付けたネイルガンを男に向けて発射しようとするが……男は突如として黒煙に包まれて姿を暗ましてしまう。全身から生えるパイプから物を燃やした時に発生する微粒子の産業廃棄物・煤塵を大量に含む煤煙を一斉に放出してみせたのだ。
辺り一面が大火事でも発生したかのような黒煙に包まれる中、改造ヘリもネイルガンを射出するが手応えはなく、それどころか煤煙に包まれる男は悶え苦しむような咳き込みすらない。
ただ黒煙の中で影響を一切受けていないかのように「レイヴン号と言うのか……意外と可愛いヤツだな。でもネイルガンの機構は実に素晴らしいぞ。連射できるように改造して遠隔操作もしっかりできている……おいキミィ、これはもう立派な銃じゃないか、いけないなぁ〜」と、改造ヘリをどこからともなく観察するねっとりした男の声がしてくる。
人間は得体の知れない狂人と遭遇すれば、大抵の場合は恐怖に感じてその場から立ち去ろうとする反応を示すだろう。改造ヘリは視界不良も相まってその場から急浮上して脱出を図るが、鼬の最後っ屁のように、ありったけの農薬を撒き散らしながら遠方に飛び去ってしまった。
もっとも辺りに煤煙を撒き散らし、自身を纏衣装着型スタンド〈イーヴィル・エンパイア〉で包み込む男には、嫌がらせにすらならない無意味な抵抗であった。
男は自身のスタンド能力を解除すると、今まで周囲を覆い尽くしていた煤煙は、文字通り煙のように瞬く間に消えてしまい、跡には手を振りながらレイヴン号を見送る男の姿があるだけてある。
男は相変わらず純粋な瞳を煌めかせながら、片手でスマートフォンを操作する。地図アプリのような物を開くと、赤く点滅する丸印が画面に写し出された地図表の中でひたすら直進している。黒煙に紛れて取り付けた発信器がしっかり作動している事を確認した男は、静かにくそ笑む。
「そうだな……『隕石の鏃』が人体に及ぼす影響の経過を観察してから会いに行こう」
その瞳は深淵の宇宙を照らす太陽の如く、興味本位で近づけば、全てを燃やし尽くして、それでも平然として揺らぎもしない。
118
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 08:17:25 ID:OpvHeZPs0
>>47
【課題名】
夜回り初日
【使用オリスタ】
No.8849 ブロークン・ニードルス(本体名:刺宮ちゃん)
【解答】
ズドォン………ズドォン………
人っ子1人居ない深夜の公園にて。
矢鱈にガタイの良い1人の女(?)が身の丈ほどもあるスレッジハンマーを振るい、一心不乱に藁人形を木に打ち付けていた。
「怨めしい……怨めしいッ……!」
その口から漏れる声は男と間違うほどに野太く、そして怨嗟にまみれていた。
…………そんな彼女(?)を木の陰から見つめる男女が1組。
「どど、どうしよう刺宮ちゃん…!?アレ、どう見ても不審者だよねぇ………?」
ナヨナヨと頼りない声を発する男に対し、刺宮と呼ばれた女の方は冷静だった。
「どうするも何も……警察に通報しなきゃ仕方無いでしょう。それが私達の仕事なんですから。」
「ちょちょ、ちょっと待ってよぉ!?今携帯なんか鳴らしたらアイツに気付かれちゃうかもじゃん!?」
スマホを取り出した手にすがり付いて来た男に対し、刺宮は明らさまに不機嫌な表情を浮かべて軽蔑の視線を向けた。
一体何なのだろうか、この男は。
先程まではやけに人様の胸をジロジロ見ながら馴れ馴れしく話し掛けて来た癖に、いざ非常事態になるとコレである。先輩だと言うのに頼りがいも何も無く、それでいてスケベ心は未だ失っていないらしい。
「ちょっ………離して下さいよ、今騒いだらそれこそ気付かれ(パキッ!)……え?」
異音が響くのとほぼ同時に女(?)の動きがピタリと止まる。
足元に目をやると、男の足が1本の小枝を踏み折っていた。どうやらその音が原因で気付かれてしまったらしい。
女(?)はゆっくりと振り返り、濃い青ヒゲが目立つ顔に憤怒の表情を浮かべながら木陰を凝視した。
「見ぃぃぃたぁぁぁなぁぁぁ〜?」
「うッギャアァァァ〜!」
女(?)が声を放つのと、木陰に潜んでいた男が悲鳴を上げ、刺宮を突き飛ばして走り出すのはほぼ同時だった。
後輩を、しかも女性を突き転がして逃走する……そんな人としてあるまじき姿に刺宮も女(?)も一瞬呆然とするものの、その隙をついて男は女(?)の横を走り抜け、どんどんと遠ざかってゆく。
「…………あんの野郎〜〜〜ッ!!!」
男への怒りに震え、思わず口汚くなる刺宮。
しかし、女(?)は刺宮の口調など気にも止めず、スレッジハンマーを構えなおした。
「フゥ〜…………ねぇ、アンタ。今そのハンマーを下ろせば見なかった事にするから、そこを退いてくれない?アタシはこれからあのクソ男に仮を返さなきゃならないからさァ!!」
恐怖も吹き飛ぶほどの怒りを瞳に宿し、女(?)に負けず劣らずな形相で吠える刺宮。
しかし、怒りで我を忘れているのは刺宮だけではない。
秘密の儀式を盗み見られ、呪いを妨害された女(?)が構わずにハンマーを振りかぶり、刺宮の頭へと振り下ろした瞬間──────
ズバンッ!!
スレッジハンマーの付け根が"何かに刺し貫かれたように"吹き飛び、急な重心の変化に思わず女(?)はその場でたたらを踏んだ。
「今のは正当防衛だけど、まだ来るって言うなら……………………アタシも手荒に行くわよ?」
「……………??」
全身に鋭いトゲを生やした筋肉質な女性型スタンドを出しながら、刺宮は相手に警告する。
だが、スタンドが見えていない女(?)には余り意味を為さなかったようだ。
へし折れたハンマーをその場に投げ捨てて身を低くし、今度は両手を広げながら突進を仕掛けた。
「仕方ないわね………『ブロークン・ニードルス』!」
ズドドドドドドッ!!!!
眼前に迫る敵に対して、刺宮のスタンド───ブロークン・ニードルスが高速ラッシュを叩き込む。
スタンドが見えない女(?)がそれを防御する事など出来る筈も無く、繰り出される不可視の乱打に堪らず地面へと倒れ伏した。
119
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 08:30:02 ID:OpvHeZPs0
>>118
「フゥ〜………さてと。あのクソ男は何処まで逃げたのかしらねぇ〜?」
女(?)は最早戦闘不能だ。そう判断した刺宮はスタンドを引っ込め、1人で逃げていった男を追って公園出口へと走り出して
──────背後で立ち上がり、追い縋ってくる女(?)を見逃してしまった。
ガシィッ!!
「なっ…………!」
丸太のような腕が刺宮の喉に回され、女(?)の左手が後頭部を押し、ギリギリと刺宮を締め上げる。
所謂「裸絞め」という技であった。しかも素人の腕前ではなく、完全にロックされている。
格闘技などやった事も無い刺宮のような女子高生など、数分もあれば命すら落としていただろう。
しかし、彼女のスタンドは接近戦でこそ真価を発揮する能力を持っていた。
「『ブロークン・ニードルス』」
ズシャッ……!
刺宮の身体と重なるように発現したスタンドから伸びたトゲが女(?)の上半身に突き刺さった。
刺宮が命を奪わないように加減したとは言え、先程のラッシュで蓄積したダメージに加えて密着状態で受けた攻撃……………。
流石の女(?)も耐えられずに昏倒し、今度こそ動かなくなった。
「ゲホッ……ハァ………ハァ…………やり過ぎた、かしらね………?」
やっとの思いで脅威を退けた刺宮は荒く息を付き、クソ男へのお礼参りに行く前に取り敢えず救急車を呼ぶ事にしたのだった。
─────────公園で死闘が繰り広げられた数日後、とある病院にて。
顔中をボコボコに腫らした1人の男が担架で運ばれ、ベッドに横たえられた。
「畜生……刺宮の奴めぇ………ちょっと胸がデカいからって調子乗りやがって………!
………たった一回見捨てただけでここまで殴る事無いだろうが………折角俺の女にしてやろうと思ってたのによォ…………!」
自分が見捨てた相手にその分の仕返しをされただけにも関わらず、男が自分の非を棚上げして身勝手な文句を垂れ続けていたその時。
「その声………何処かで聞いた覚えがあるなァ〜〜〜〜〜?」
「…………え?」
カーテン越しに仕切られた隣のベッドから、聞き覚えのある野太い声が響いた。
「まさか………」
ギシィッ……!ズン、ズン…………
隣の患者がベッドから降り、ゆっくりと自らの元に近付いている。
その事実に気付いた男の顔が青ざめるのとほぼ同時に、見覚えのある巨大な影がカーテンに映し出される。
数日前とは違って何処にも逃げられない状況下、恐怖の余り声にならない悲鳴を上げる男に構わず、やはり見覚えのある逞しい腕がカーテンをはね除けた。
120
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/08(木) 21:10:43 ID:y6QttXTI0
>>119
解答の投稿有り難うございます!
刺宮ちゃん・女(?)・先輩みんなキャラが立っていますが、何よりも女(?)の存在感が終始一貫してオチになっているのが、解答の面白さと構成の美しさが両立しているような感じがして素敵です!
背後を取られた絞め技からの返しもブロークン・ニードルスの能力が文字通り刺さっていて良い解答だと思います。
女(?)と先輩が再び遭遇するラストはroundaboutが脳内で勝手に自動再生されました(笑)
121
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/09(金) 07:56:45 ID:8I346JXQ0
【課題名】
>>21
まだ生きてる寿司
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
大企業の社長という物は基本的に多忙だ。
他の社員を動かすのみならず、時には自ら他社に赴いて商談を成立させねばならない事もある。
例え「究極生命体を産み出す」という突飛な野望を胸に秘めている男とて、それは例外で無かった。
(不味い。……不味いぞッ!)
ある日の正午。とある商談を終えた小室光之助は、寿司屋の中で苦々しい表情を浮かべていた。
不味いというのは取引の事ではない。表沙汰には到底出来ない内容だが、商談自体は光之助が思う通りに進んだのだ。
それに気を良くして入ったのが一軒の高級寿司屋だったのだが、少し「ハイ!」になっていた光之助は店選びに失敗したらしい。
(何なのだこれは!?ネタは生臭くて固い上にシャリもゴワゴワ、おまけに酢の質が悪くてやけに甘ったるい…………こんな物、寿司とは呼べん!)
二、三貫食べた時点で嫌気がさした光之助。
それでも何処ぞの不良とは異なり、ちゃんと金を払うべく会計に向かおうとしたその時。
ズキィッ!!
「ガハッ……!?……オイ………店主!!今すぐ救急車を呼べッ……!早くッ………!!」
突如として激しい痛みが光之助の腹を襲った。
堪らず腹部を押さえて崩れ落ちながらも迅速に状況を判断し、唯一店内に居る店主へ指示を跳ばしつつ出口へ向かう光之助。しかし今回は相手が悪かった。
「えっ!?………ああああ……どうしよぉ……救急車……でも、食中毒なんかバレたら店が……保健所に来られたら………あっ、あのお客さん!!ちょっと待って下さい!!」
余程気が動転しているのか客の前で隠蔽する気満々の独り言を呟きながら光之助に縋り付き、彼の脱出を阻止しようとする店主。
「この、愚図がァァッ!!!!」バキイッ!!
「うぎゃ!?」
渾身の力を込めて店主の顔面を殴り付け、彼を退かせた光之助。しかし、店主はよろめきながら戸口の前に立ち塞がり、意地でも光之助を出さないとばかりに睨み付けて来る。
「………ええい、クソッ!!」
最早脱出は不可能と悟った光之助は踵を返して店内のトイレへと飛び込み、個室の鍵を掛けると同時に己のスタンドを発現させた。
(嘗て、自らの心臓をスタンドに直接掴ませて止めたスタンド使いが居ると聞いた事がある。もしそれが真実ならば、私とて………!『グラビティ・オブ・ラヴ』!!)
黒鎧に身を包んだ人型スタンドがその場に現れ、片手をトイレに、そしてもう片腕を透過させて光之助の腹部へと差し込み、胃の内容物に触れさせた。
(よし………やった………助かったぞ………!)
激しい腹痛と急速に沸き上がる吐き気で朦朧とする意識の中、光之助は己の試みが成功した事を悟った。
─────────かくして腹痛の原因を綺麗さっぱり吐き出して回復した光之助。
降りかかった危機が去ったのならば、後は元凶を叩くだけである。光之助は乱暴にドアを蹴り開けた。
バァン!
「ヒィ!?」
未だに戸口の前で通せんぼをしていた店主だったが、ドス黒いオーラを纏いながらツカツカ歩み寄って来る光之助を見て悲鳴を上げる。
慌てて逃げようとした店主の胸ぐらをひっ掴み、光之助は言い放った。
「そう言えば会計がまだだったなぁ、店主よ?
………今からあの不味い寿司と先程の仕打ちに対する代金を、キッチリと支払ってやろう……!!
…『グラビティ・オブ・ラヴ』!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
漫画にすれば3ページにも及ぶであろう長いラッシュを叩き込まれ、壁にめり込んで動かなくなる店主。
光之助はそんな彼に一瞥も暮れず、保健所と警察に電話をしながらその場を歩き去ったのだった。
122
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/09(金) 21:17:45 ID:24fbwwwk0
>>121
解答の投稿有り難うございます!
小室社長再登場感謝です!どんな相手にも初手は常識人ムーブをしてくれるのが、壮大な野望とは別に人の良さが垣間見れて、やっぱり何か読んでてニッコリしちゃいますね。
自分の体内に入れてしまった毒物の対処法って考えてみると結構限られてきそうですが、グラビティ・オブ・ラブの応用力が光る解答だったと思います(それはそうと社長お労しや)
企画を通して推しのオリスタを動かしながら、設定を掘り下げたり、肉付けしてくれる事を楽しんで貰えたら企画に携わる者として冥利に尽きます!
123
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 22:18:52 ID:uMJlf2Q20
【課題名】
>>62
急行カレー飯テロ事件
【使用オリスタ】
No.4107 スター・キャスケット(本体名:ナナ・シーノ)
【解答】
ナナは激怒した。
必ず、やたら自分を押し退けて隣に座り込み、非常識にも電車の中でカレーを貪り食って咀嚼音やら妙に気になるスパイシーな匂いやらで人に不快な気分を味あわせた挙げ句に靴まで汚していった邪智暴虐な中年男に仕返しせねばならぬと決意した。
怒りに震えるナナには周りの乗客から向けられる異様な視線がわからぬ。ナナはスタンド使いである。能力を使い、暇な時は空を遊覧飛行して暮らして来た。けれども流行やお洒落なカフェに関しては人一倍に敏感であった。
ナナはそれ故、街中に新しくオープンしたカフェでコーヒーや菓子を食べに珍しく急行列車に乗ったのである。
電車に乗っている内、ナナの隣には中年男が座り込んでいきなりカレーを貪り始めた。ごく普通の少女であるナナも、その非常識さに段々とイライラを募らせていった………が、イライラを貯めながらも車内の様子を怪しく思った。
乗客達の誰も、中年男ではなく「男が貪るカレー」のみを見つめている。何人かは口の端から涎を垂らす始末である。車内に充満するスパイシーな匂いのせいだろうか。
ナナが不安になってきた時、男が漸く食事の手を止めて顔を上げた。そして怯えた表情を浮かべる。
男は皿を持ったまま立ち上がり、丁度良く開いていたドア目掛けて走り出し──────
パシャリ、と。
ナナが気に入っていた靴に、カレーのルーをかけていった。
(…………………あの野郎〜〜〜〜〜〜ッ!!!!)
この仕打ちにナナは激怒した。「おい待て、オッサンゴラァ!!」
ナナは真っ直ぐだが、傍若無人な性格であった。閉まりかけたドア目掛けて走り出し、腕を無理矢理挟んで再びドアをこじ開けた。たちまちナナは中年男へと追い付き、どう
124
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 22:30:03 ID:uMJlf2Q20
>>123
途中送信してしまいすみません。出来れば削除お願いします。
【課題名】
>>62
急行カレー飯テロ事件
【使用オリスタ】
No.4107 スター・キャスケット(本体名:ナナ・シーノ)
【解答】
ナナは激怒した。
必ず、やたら自分を押し退けて隣に座り込み、非常識にも電車の中でカレーを貪り食って咀嚼音やら妙に気になるスパイシーな匂いやらで人に不快な気分を味あわせた挙げ句に靴まで汚していった邪智暴虐な中年男に仕返しせねばならぬと決意した。
怒りに震えるナナには周りの乗客から向けられる異様な視線がわからぬ。ナナはスタンド使いである。能力を使い、暇な時は空を遊覧飛行して暮らして来た。けれども流行やお洒落なカフェに関しては人一倍に敏感であった。
ナナはそれ故、街中に新しくオープンしたカフェでコーヒーや菓子を食べに珍しく急行列車に乗ったのである。
電車に乗っている内、ナナの隣には中年男が座り込んでいきなりカレーを貪り始めた。ごく普通の少女であるナナも、その非常識さに段々とイライラを募らせていった………が、イライラを貯めながらも車内の様子を怪しく思った。
乗客達の誰も、中年男ではなく「男が貪るカレー」のみを見つめている。何人かは口の端から涎を垂らす始末である。車内に充満するスパイシーな匂いのせいだろうか。
ナナが不安になってきた時、男が漸く食事の手を止めて顔を上げた。そして怯えた表情を浮かべる。
男は皿を持ったまま立ち上がり、丁度良く開いていたドア目掛けて走り出し──────
パシャリ、と。
ナナが気に入っていた靴に、カレーのルーをかけていった。
(…………………あの野郎〜〜〜〜〜〜ッ!!!!)
この仕打ちにナナは激怒した。「おい待て、オッサンゴラァ!!」
ナナは真っ直ぐだが、傍若無人な性格であった。閉まりかけたドア目掛けて走り出し、腕を無理矢理挟んで再びドアをこじ開けた。たちまちナナは駅のホームに降り立って走り出し、同時に他の乗客達が一斉にナナ………ではなく、カレーを持った中年男目掛けて突進した。
大勢の乗客達が揉み合ってカレーを奪い合い、たちまち騒ぎは大きくなる。理性を失った乗客達に揉みくちゃにされる中年男に、慌てて駆け寄って来る駅員達…………騒ぎは益々大きくなるばかりであった。
「スゥー……………。うん、私知ーらないっ!逃げよ!」
多少の罪悪感を抱きつつ、ナナは(何もかも中年男が悪い!)と開き直ってスタンドを発現させた。
場に居る全員が騒ぎに気を取られる中、誰にも気付かれる事無く大空へと飛び立つ。
当分ここの鉄道は使わないようにしよう。心の中で、そう決意しながら。
125
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/13(火) 23:27:07 ID:hgrY.lXs0
>>124
解答の投稿有り難うございます!
>>123
の投稿は誤りの投稿だと124で明記されており、解答を読むに当たって支障はないと思います。
どうしても気になる場合は『過去ログ倉庫』の真下にある『掲示板管理者へ連絡』から改めて削除依頼をお願いします(※私自身も削除関係は利用した事がないので当てずっぽうで書いてます)
解答に関してはナナちゃんのキャラクターがしっかり地の文で説明されていてオリスタの人となりが分かりやすく描写されているのが良いですね!
大麻入りカレーの争奪戦とかいう地獄絵図から脱出するにはスター・キャスケットの能力は丁度良いチョイスだと思います。
126
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 17:57:21 ID:9alM9wLA0
【課題名】
>>46
敬老初日
【使用オリスタ】
No.8834 レーパーバーン
【解答】
1人の女子高生をヘルパーに雇った町外れの老人ホームにて。
「あぃ、んじゃ〜詳しい仕事の内容はあのジーサンバーサン達に聞いてね、悪いけど私達これから出掛けなきゃならなくて………」
「ウフフ、分かりました〜。留守の間はママに全部任せて下さいね〜」
(………ママ?)
127
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 18:19:25 ID:9alM9wLA0
>>126
何でこう書き込みボタンが途中で押されてしまうんでしょう……
【課題名】
>>46
敬老初日
【使用オリスタ】
No.8834 レーパーバーン
【解答】
1人の女子高生をヘルパーに雇った町外れの老人ホームにて。
先輩従業員達がアタフタと出掛ける準備をしつつ、新人に大雑把な業務説明をしていた。
「あぃ、んじゃ〜詳しい仕事の内容はあのジーサンバーサン達に聞いてね、悪いけど私達これから出掛けなきゃならなくて………」
「ウフフ、分かりました〜。留守の間はママに全部任せて下さいね〜」
(………ママ?)
一瞬奇妙に思いながらも、急いでいるのかそのまま車に乗り込んで去ってゆく先輩従業員達。後にはバイトの女子高生だけが残された。
「さぁ〜て、可愛い子供達のお世話に行きましょ〜♡」
老人ホームに来たとは思えない台詞を口にしながら入ってきた少女を出迎えたのは、ナイフ状に削られた孫の手や歯ブラシで物々しく武装した老人達であった。
「おう、嬢ちゃんが今日から入ったヘルパーさんかい?」
「はい〜。皆さん、始めまして〜!私の名前は……」
「なあ嬢ちゃん。急で悪いんじゃが、儂らの質問に答えてくれんかのぉ?」
車椅子を器用に操り、少女へと詰め寄る老人達。
口を噤んだ少女に対し、老人達は一つの問いを投げ掛けた。
「オセロで強いのは………先攻じゃよなあ?」「後攻に決まっとるよなぁ?」
中途半端な答えは許さない。
瞳でそう語り、殺気を放ちながら自分を見つめる老人達を、少女は───────
「んもぉ〜。皆さん?メッ、ですよ?」
幼子にするように、優しく嗜めた。
「……………は?」「あの、嬢ちゃん………?」
「皆、喧嘩はダメです!しかもそんな危ない物を手に持って…………ママは貴方達をそんな悪い子に育てた覚えはありませんッ!」
「いや、此方もアンタに育てて貰った覚えは無いぞ?」「儂らの母親はとっくに死んどるんじゃが……」
理解不能な事を宣う少女に対し、思わず突っ込みに走る老人達。しかし、その言葉は少女の逆鱗に触れてしまった。
「ウフッ。ウフフフ。ウフフフフフフ……………♡そんな事はありませんよ〜?私は、貴方達の、『ママ』なんです。イヤイヤ期も程々にしないと、ママ怒っちゃいますよ〜?」
128
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 19:00:43 ID:9alM9wLA0
>>127
一方その頃、用事を終えた先輩従業員達は老人ホームへと車を走らせ、車内で何気ない会話を繰り広げていた。
「そう言えば、今日来た新人ちゃんが配属されたグループって何処だったっけ?」
「あー、それなら確か丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんと泥雄(でぃお)爺さんが仕切ってる所に…………ッ!?」
そう言った職員の顔が一瞬で青ざめる。彼の言葉を聞いた他の職員達も、同様に顔を強張らせていた。
──────丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんと泥雄(でぃお)爺さんは長きに渡る因縁の間柄であり、血で血を洗う争いを日夜繰り広げている。
この事実は、老人ホームの職員達にとって職場の危険度を跳ね上げる悩みの種であった。
良い歳こいて妙に元気なジジイ2人は入居初日から何かといがみ合い、お菓子はキノコかタケノコか、某歌番組では赤組か白組か、某国民的アイドルグループではアツコかユウコか……と意見が別れる度に無駄なカリスマ性でホーム内のジジババを纏めて派閥を作り上げ、職員に隠れて危険物を作っては振り回し、大規模な戦争を引き起こすのだ。
入ったばかりの、それもバイトのJKである少女が録な説明も無しに立ち向かえる相手ではない。
自分達が仕出かした事の重大さに気付いた彼等はアクセルを全力で踏み込んだ。
老人ホーム内の惨状を脳裏に浮かべ、後悔に苛まれながら。
──────「それじゃあ良い子の皆〜!『ママ』とオセロで遊びましょ〜♡」
「「「「「ハ〜〜〜〜〜イ!!!!」」」」」
息せききって老人ホームへと駆け込んだ先輩従業員達は、確かに地獄絵図を見る事となった。
…………尤も、想像していた物とは全く内容が異なっていたが。
「ねぇねぇ『ママ』〜!泥雄(でぃお)爺さんとばっかり遊んでズルいよ〜!儂ともオセロしてよぉ〜!」
「喧しいッ!『ママ』は丈酢多亜(じょうすたあ)爺さんなんかより儂と遊ぶ方が楽しいんじゃあ〜!」
「んもぉ〜、喧嘩はダメってママは言ったでしょお〜?」
女子高生相手に揃いも揃って幼児の様な甘え方をする老人達の群れと、満面の笑みで彼等を受け入れる女子高生。
何処までも平和で、しかし紛れもなく地獄と呼べる光景を見た先輩従業員達は一様に思った。
((((…………………何だ、コレ………………………………))))
129
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/14(水) 23:36:47 ID:hSKdnUMc0
>127
解答の投稿有り難うございます!
アドバイスになるかは分かりませんが、私は解答を投稿する時はメモアプリに予め文章を書いて、コピペして投稿しています。
掲示板に直接文章を書いて何かのはずみで誤送信する対策になれば幸いです(見当違いなアドバイスだったらすみませんm(_ _)m)
解答の感想ですがこんなの草の一言に尽きちゃいます。思わず笑ってしまう内容でした!丈酢多亜爺さんと泥雄爺さん彼等はいったい何ものなんだ……
本体と合わせてレパーバーンというスタンド能力のヤバさが垣間見れた解答だと思います!
130
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:01:42 ID:BMcHVbv20
解答投稿前に失礼。
何かスルーしちゃってましたが、解答テンプレへの本体名の記載有り難うございます。
ルールを制定した本人が絶対とは書いてないからええやろと流してましたが、あった方が良さそうだと思いましたので早速真似しちゃいます。
それでは次に解答の投稿を開始します。
131
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:02:26 ID:BMcHVbv20
【課題名】
>>39
サイクリングに行こう!
【使用オリスタ】
No.8034 メルト・イントゥ・ブルー
【解答】
春、満開に咲き誇る桜に誘われるように、人々は桜並木の道を悠々と散策していたが……それは晴天の霹靂の如く、赤黒い血液にまみれた何かが道行く人々の目の前を怒涛の勢いで駆け抜けていった。
あれは一体なんだったんだろう?その瞬間だけ人々は季節の花よりも謎の怪物に目を釘付けにされてしまった。
★
「ばーいしく♪ばーいしく♪ばーいしく♪」
音程が少しズレた調子でもお構い無く、半世紀近く前に発表された古めかしい曲をご機嫌そうに歌う少女は、新品のピカピカな自転車に乗り、春風に吹かれながら桜並木の道を颯爽と疾駆する。
舞い散る桜の花弁はあっという間に駆け抜けてしまった少女を見送る事しか出来ないが、その一つ一つは彼女だけの春の情景として心の奥底に残されるかもしれない……そのハズだった。
うらうらしたうつくしい春の1日は、少女が今だかつて経験した事がない未知との遭遇によりぶち壊されてしまう。
そいつは女性らしい黒いレースのワンピースを着ているが、身長は180cm近くあり、体型はボリューミー。かつて相撲界で活躍したハワイ出身の外国人横綱・曙や武蔵丸程ではないかもしれないが、タレントのマツコ・デラックスやメイプル超合金の安藤なつよりもダイナミックかもしれない……あれは誰だっけ?
少女の脳髄、霞がかった記憶の奥底から彼はのっそりと現れてくれた…………そうだ。あれはよく見ればご存知(?)バタービーンだ。一昔前に活躍した物珍しい肥満体型の格闘家にちょっと似ているかもしれない。
肩まで伸びた脂ぎった茶髪、腹部と共に前に出た胸部が服装と合わさり、辛うじて女性の体を成している。そしてどうやら彼女は信じられない事に三児の母親なのか、小学生低学年くらいと思わしき三つ子の男児を引き連れており、そのうちの一人を「高い高〜い」と声かけしながら宙に放り投げてはキャッチしては、また放り投げるを繰り返している。
あれが……きっとLGBTに配慮した最先端の母親像なのかもしれない。何でこんな桜並木の道端で大道芸紛いの事をしているのかはさっぱり分からないが、関わってはいけない事だけは目に見えてハッキリと分かる。
目に飛び込んできた情報があまりにも奇妙過ぎて、異世界に迷い込んでしまったような言い知れぬ不安感が少女の心の奥底から込み上げてきた。ここは無限に続く地下通路ではないが、いっそのこと引き返した方が良いのだろうかと少女は思案するが……答えを出す前にバタービーンみたいな女が先手を仕掛けてきた。
「高い高〜い!高い高〜い!高い高〜い!…………そぉい!!!」
「えっ!?」
バタービーンみたいな女は上空に繰り返し放り投げていた男児を突如抱え込んだかと思えば……それは意外!あの不自由そうな体型から想像もつかない軽やかな挙動!海老反りになるジャーマン・スープレックスの体制に入ったかと思えば、そのまま男児を剛力任せに自転車に乗る少女目掛けて投げ飛ばしてきたのだ!
男児は自分が投げ飛ばされて他人にぶち当てられる事に何の抵抗感もないのか、真っ直ぐすぎる覚悟でガン極った視線を向けてきて、少女は現状の理解が追いつかず男児と衝突してしまう。
「テンメエエエエエエエエエエ!うちの可愛い可愛い三蔵ちゃんになんて事をしてくれるんだああああああああああい!!!!」
仰向けの状態から背中を浮かし、反り返ったビッグボディを両手両足で支えきってみせるバタービーンみたいな女は、自分が投げ飛ばした男児と少女が激突する瞬間を目視するや否や、鬼気迫る表情且つ迫真の金切り声を張り上げて難癖をつけようとするが……少女に激突しながらも華麗に受身を取り、即座に起き上がってみせた男児の口から突如悲鳴が沸き上がる。
「う、うわあああああああああああ!?母ちゃん大変だ!この人死んじゃったよ!?!」
「は?…………ってガチか」
男児の情けない悲鳴にバタービーンみたいな女は、まゆを潜めながら転倒した自転車と少女の元に近づくと、少女は何故か上半身が弾け飛び、アスファルトに下半身を残して大きな血溜まりをつくっていたのだ。
三つ子の男児たちは、想定していたよりも遥かに虚弱体質だった少女にしこたまビビリ散らし、泣き叫びながらパニック状態に陥るが……プロ(?)の当たり屋にして主犯であるバタービーンみたいな女は、我が子の見苦しい姿を「黙りな馬鹿共が!」と軽く一蹴すると、常人とは到底思えないふてぶてし過ぎる肝っ玉に物を言わせながら作戦を切り替える。
132
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:03:23 ID:BMcHVbv20
「あり得ないッ!そして、これで終わりかい?狸か狐か手品師か何か知らないけど……この程度の虚仮威しで私がびびるとでも?何かしたいのかは分からないが、これで終りならお前のチャリは私のもんだからな!!!あばよッ!!!」
目下に上半身が吹き飛んだ死体があろうとも、バタービーンみたいな女はそれに惑わされる事なく、己の欲望の赴くまま、少女が乗っていた新品の自転車をおもむろに起こしたかと思えば、それに乗ってこの場を後にしようとする厚顔無恥なストロングスタイルを発揮してみせたのだ。
血の繋がった母親(モンスター)の奇行に三つ子たちはさすがに唖然とするが、そんな我が子に対してバタービーンみたいな女は「お前等の帰りは徒歩な!はい解散!」と、暴君の如き身勝手な指示を出して走り去ってしまった。
母親に置いてかれてしまった三つ子は理解が追いつかず呆然としていたが……突如カン高い喧しい悲鳴を一斉に上げたかと思えば、蜘蛛の子を散らすようその場から大慌てで逃げ出していた。
そして、その場に残された少女の下半身も血溜まりと共にいつの間にか消えている。
★
「ふん、ふふん、ふーん、ふふふ、ふんふーん♪」
自分の体重で押し潰しそうな自転車に乗りながら、風を切るように疾駆するバタービーンみたいな女は、気持ち良さそうに鼻唄を唄いながら知り合いの外国人が経営する質屋に直行するが……そんな女が乗る自転車の影をなぞるように、赤黒い血液のような液体が追従していた。
よく見れば自転車のサドルに赤黒い液体が纏わりついており、その後続は金魚のフンのように連なりながら自転車に引きずられていたが、次第に体積は先頭に集約し、バタービーンの女の背後にいつの間にやら赤黒い人型が形成されたかと思えば、彼女の首をぎゅっと握り締めるが……それでも尚、この怪物は怯まない。
「なんだい、ようやくお出ましかい?」
「私の自転車………返してよ」
一般人にも目視可能な赤黒い液状の人型実体……自分の身体を液体化して変幻自在に動くスタンド能力〈メルト・イントゥ・ブルー〉を発動した少女は、液状の身体を血液に擬態したまま、バタービーンみたいな女が強奪した自転車にしがみつきながら追跡し、ようやく彼女の喉元に手をかける事が出来たが……か細い声でバタービーンみたいな女を強迫するだけでは彼女を止められない。
それどころかバタービーンみいな女は正体を表してきた未知なる存在に対してすら、見透かしているのか、或いは単純に恐いもの知らずで増長した態度は一向に崩れない。
「怪物が女々しい寝言を言うもんじゃないよ!せっかく手に入れた銭の種を私がタダで返すワケ無いだろう?いいかい、手前の大事ならものならなぁ!返して欲しけりゃ力ずくで奪い取るもんだよ!出来るもんならやってみなッ!!!」
「そうだね……それしか方法はもうないみたいだね」
「あ…………!?」
背後にいたハズの赤黒い液状の怪物は、突如蒸発したかのように一瞬にして消えてしまう。バタービーンみたいな女もさすがに警戒するが、もう遅かった。少女は再び人型の形態から水の如き不定形に変化すると、自転車の前輪に纏わりつきホイール全体に水膜を形成、路面から浮いた状態『ハイドロプレーニング現象』を意図的に引き起こし、掌握した前輪を渾身の力を込めて揺さぶると、自転車の前輪は制御不能、ブレーキも意味を成さず……バタービーンみたいな女は自転車に乗ったまま、ズガシャーーーーーーン!?と、ド派手な音を立てながら盛大に横転してしまった。
「ひでぶっ!?!」
受け身を取ることすらままならず、その巨体を無防備なままアスファルトに叩きつけられたバタービーンみたいな女は激痛に悶絶、脳内から溢れだす痛覚のアラームは全神経を駆け抜け、転がり踊るかのように、のたうち回る事しか出来ない。
その隙に液状化していた少女は自転車を立て直すが〈メルト・イントゥ・ブルー〉を解除せず、赤黒い血液の怪物のまま一目散にこの場から全力疾走する。
桜並木の道路には当然、彼女たち以外にも一般人や通行人がおり、一目を憚った苦渋の決断だが…………それは後に『桜並木の怪異』『血祭りサイクリスト』『バイシクルトレーサー』なる怪談となり、現代の生きた都市伝説『当たり屋ビッグマム』と双璧を成すようにの語り継がれるのはまた別のお話で……
「ううう、うぐ……新品の、新品の……お父さんに買って貰った私のピッカピカの自転車が……」
周囲の奇異の目を忌々しく感じつつ、赤黒い血液の怪物のままでいる少女は、人知れず涙を浮かべながら、姿をくらますべく自転車ごと近くの河川に飛び込んだ。
133
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:04:07 ID:BMcHVbv20
【課題名】
>>40
グミ初日
【使用オリスタ】
No.5215 バービーボーイズ →本体名『ケン』
【解答】
「こんにちは!新商品『ハイ!&トリッピー↑』食べれば分かる美味しい新感覚グミのサンプルです!良かったら味見してみてください!」
『ケン は みちゆく ひとびと に しんしょうひん の サンプル を わたそうとする▽
・・・・・・▽
しかし だれにも あいてにされない▽』
「ヘイ、バービボーイズ……バイトは始まったばかりだぜ。まだ慌てるような時間じゃあないさ」
雑踏で溢れかえる都会の駅前、買い物カゴいっぱいに入れた試供品を配るサンプリングのバイトをする男『ケン』は、自分の視界に入る範囲で空中浮遊する黒い長方形……コンピュータゲームのウィンドウに酷似したものに表示された文章とそれを朗読する無機質は電子音声に軽口でツッコミを返す。
この現象はケンの身に起こった出来事を実況する彼のスタンド〈バービーボーイズ〉の能力である。当然一般人には見えていないし、電子音声も聞こえていない為、彼は突然謎の独り言を呟くヤバイ人のように映るかもしれないが、他人の奇行にわざわざ興味を示す物好きな人間はそうそうおらず、彼もお構い無く自分のスタンドに時よりぼやいているようだ。
もっとも、そんなことばかりしてサボッていればバイトは終わらないので〈バービーボーイズ〉の実況は無視して、通り過ぎる人々を品定めしながら試供品を真面目に配らなければならない(こっそり捨てたり、ネコババなんてしたら稀にチェックを行う職員にみつかった大目玉をくらうので良い子の皆は気を付けよう!)
バイトアプリでたまたま近場で簡単・楽に金が稼げそうな案件を見かけたので、足を運んできたが、基本的な動きは街頭によくいるティッシュ配りと変わらない。3時間屋外での立ち仕事は暇でキツく感じる事もあるかもしれないが……ゲーマーであるケンにしてみれば、これも一種のゲームとしてむ向き合うことができた。
大抵こういうバイトは在庫を捌ききれば早上がり出来るし、どうすれば相手がサンプルを快く受け取ってくれるのか、通行人の邪魔にならないように立ち振る舞えているか、どういう人が受け取ってくれて、どんな人が受け取ってくれないのか……頭であれこれ考えながら自分なりのコツを組み立てていけば、数撃ちゃ当たるだけの暇な流れ作業で終わらない。
例えば……今回のサンプルは無名のメーカーが売り出すケン自身も知らないグミだが、ただのティッシュやチラシよりかは食いつきは悪くないハズだ。
いかにも強面なヤのつく自由業そうな人や極端に人相が悪い人はまぁ論外、キビキビ動く忙しそうなリーマンや、近づいてはいけないオーラを発する早歩きの歩行者、歩きスマホを止められない依存症患者なんかには空気のようにスルーされてしまうだろう。学生や若者・女性……特に二人以上で行動しているカップルや子連れの親子・友人の集まり何かは狙い目だ。
複数のうち一人でも興味を示してくれれば、あとは未知なるお菓子を、いかに興味を持ってくれるように言葉を並べていけば、好奇心なりネタなり何かしらの理由で受け取り、あとは連鎖的に配給できるチャンスが到来するハズだ。
これまでの経験則に基づいた自分なりの攻略法を
実践に移しているうちに……早速ケンの元にお目当てのターゲットがやって来てくれた。5人でワチャワチャ駄弁りながら歩いてくる男子高校生のグループだ。ケンは愛想良く笑顔を浮かべたまま、彼等の歩みを邪魔しない範囲から話しかける。
「こんにちは!新商品『ハイ!&トリッピー↑』美味しいグミのサンプルです!良かったら味見してください!」
「ハイ&トリッピー?」
「何っすかそれ」
「ハイでトリッピーか……どことなくレッドブルみを感じるな」
「エモいじゃん。美味しいの?」
「これ、ただで貰っていいんすか?」
「勿論サンプルなんでいくらでもどうぞ!良かったら皆で新標品を一足先に味見してみてください」
「フーン、それじゃ折角だから貰っとくかな」
「んじゃ俺も」
「ところでこれって何味?」
ケンの売り文句に興味を示した男子高校生たちはグミのサンプルを次々と受け取ってくれるが……残りの二名のうち一人は何やらスマホを取り出して動画を撮影をしようとしているらしい。この流れは悪くないとケンはニヤリとほくそ笑みながら、学生たちに応対する。
「お兄さん、これ撮影しても大丈夫っすか?」
「俺は別にいいよ」
「やった!これでバズれたら儲けもんだぜ」
「ところで……さっき『いくらでもどうぞ』って言ったよね?本当にいいの?」
「まぁ……いいけど」
「へへっ、男なら二言は無しにしてくださいよ〜、それじゃ全部貰っちゃうぜ!」
134
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:05:06 ID:BMcHVbv20
ケンから言質を取った男子高校生は、ニヤニヤ悪戯そうに笑みを浮かべると、ケンが持つ買い物カゴからグミのサンプルをすべて奪い取り、スマホを構える男子高校生の前に躍り出てゲリラ撮影会おっ始めた。他の仲間たちも呆れつつも笑いながら動画撮影に参加して、駄弁りながらパッケージを開けてグミをバクバク食べはじめ、〈バービーボーイズ〉の実況もいま起ころうとしている事実を告げる。
『ケン は だんしこうこうせいたち に しんしょうひん の サンプル を アピール した▽
だんしこうこうせいたち は きょうみ を もち うけとってくれた が・・・・・・▽
だんしこうこうせいD は スマホ で どうがさつえい を はじめた▽
だんしこうこうせいE は ケン が もっていた サンプル を すべて かっさらって しまった▽
なんと だんしこうこうせいたち サンプル を つかって どうがはいしん しようとしている!▽』
(う、うぉぉぉぉぉおおおおお!?ネ申ッ!!神が降臨なされたぞ!これぞ祝福ゥ!!)
まさか開始早々に動画配信者の目に止まり、サンプルを全て配給出来るとはさすがにケンも思ってはいなかった。突然の僥倖に心底興奮していたが……この場をフラットな観点で実況を続ける〈バービーボーイズ〉は誰よりも先に異変を察知した。
『やった! これで アルバイト を はやあがり できる!▽
こっそり ようす を みにくる しゃいん が みていない こと を いのろう▽
・・・・・・おや!? だんしこうこうせいたち の ようす が・・・・・・・!▽』
「ん?」
……ポケモン?今まで見たことも聞いたこともない〈バービーボーイズ〉の実況に、ケンは眉わ潜めながら改めて男子高校生たちの方に目をやると………いつの間にやら『ギャハハハハ』と馬鹿みたいにハイテンションな笑い声を上げだしたかと想思えば、何をとち狂ったのか急に仲間内で喉元やら顔面に噛みつき始めたのだ。
「え?……いやいやいやいや、ちょっと何これ!?…………バービーボーイズ・ファーストオプション起動!!何よこれ!?」
明らかに普通ではない異常事態に遭遇したケンは、パニックになりかけるも土壇場で〈バービーボーイズ〉の拡張能力を発動する。
『こんにちは ケン▽
ざんねん ですが わたしにも かいもくけんとう つきません▽
ですが かれらは ケン が くばった グミ を たべてから ああなりました▽』
「だ、だよな〜そうだよな〜!?何入ってたんだあのグミはよ〜!畜生!ヤベーよ!やべーよ!?」
『ケン あなたは このきき を のりこえなければならない プレイヤー なのです▽
どうか おちついてください▽
あなたに くばられた カード の なかには まだ きりふだ が のこされています▽
どうか おちついて かんがえてください それが なにより も じゅうよう なのです▽』
今までケンの身に起こる出来事を実況していた〈バービーボーイズ〉は第二の拡張能力〈ファースト・オプション〉の起動共に、ケンの言葉を認識して、慌てふためく彼を宥めるように話しかけてくれた。その甲斐もありケンも徐々に落ち着きを取り戻すが……周囲はサンプルのグミを食べてしまい、気が触れて食人衝動に駆られた者たちで溢れ返り、ゾンビ映画さながら無差別に街行く人々に襲いかかっていた。
焦点の合わない眼を恍惚そうにギラギラ輝かせながら、何を考えているのか窺い知れない狂笑を浮かべたかと思えば、互いに容赦なく犬歯を突き立て、皮膚を食い破り、肉を引きちぎっては咀嚼し、体内から溢れ出る血を全身に浴びながら喉を潤し、一人が力尽きて倒れ伏せれば、それに群がり貪り食いを始める。
血塗れで突然の凶行を目の当たりにしてパニックを起こした人々は当然逃げ惑い、急に道路に飛び出た者は自動車に轢かれ、躓いて転んでしまった者はなす術なく人々に踏み潰され、それにまた食人鬼が群がる……渦巻く混沌は無軌道な勢いを増すばかり。
十年近く前ぐらいにアメリカのマイアミで薬物中毒者が人の顔面を貪り食う凄惨な事件が起こり、インターネットを中心に話題となっていた事があったが……今回の出来事はそれの比ではない。局所的とは言え町中で食人事件が同時多発的に勃発して集団パニックを引き起こしているのだ。
そうこうしているうちに近くで共食いする男子高校生のうちあぶれた撮影者が、スマホを投げ捨てて、近くにいたケンに襲いかかろうとするが、〈バービーボーイズ〉に諭されたケンは冷静に己の手の内に残された唯一の切り札を張る。
「バービーボーイズ!サードブレイク!」
『だんしこうこうせいD が おそいかかってきた▽
たたかいますか?▽』
135
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/20(火) 22:05:53 ID:BMcHVbv20
『→はい いいえ』
ケンのかけ声と共に〈バービーボーイズ〉は実況文を反映させるメインのウィンドとは別に、『はい』か『いいえ』二択の選択肢を選ばせる小さなウィンドが出現、その瞬間……世界は色褪せるように静止する。
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒経過…瞬く間に9秒過ぎ去り、1分が経過しようとしても、食人衝動に駆られた人、逃げ惑う人、道路を走る自動車、空を飛び交う鳥、時計の秒針、時が止まってしまったかのように世界は動けない。この状況を作り出したケン自身も、よだれを撒き散らしながら迫り来る男子学生に相対したまま動けないでいる。しかし、誰もが静止する世界の中で、彼の脳細胞だけが唯一活動していた。
(ま、まにあった〜〜〜!しかし、ここからが本番だぜ。あぁ、どうしたものかなバービーボーイズ……配られたカードで勝負するしかないってのはかねがね同意だがよぉ〜〜リトライ不可のクソゲーを実際にプレイするのはいつだって俺だけだ。こういう時にお前と話し合いたいのによぉ……嗚呼、ソロプレイなんだから愚痴ぐらい好きに言わせてくれよな。お前が気張って足止めしてくれている事はわかっちゃいるさ……スゲーよバービーボーイズ)
〈バービーボーイズ〉第三の拡張能力〈サードブレイク〉は時間を止める第二のウィンドの発生させる。ケンが選択を行う時、『→はい いいえ』などの選択肢ウィンドウが出現するようになり、本体の意識以外の時間が完全に止まり、思考する猶予を与えてくれる。見た目に反して世界規模で影響を及ぼす凄まじいパワーを秘めた能力だが、逆に言うと凄まじい能力に潔く振り切り過ぎており、このようなトラブルに直面した時、本体は知恵と勇気を振り絞り、自力で活路を切り開く他ない。
(クールだ。クールになれケン。いつだってこうやって乗り越えてきただろう俺は!こうなったらもう腹を括るしかねぇ〜〜〜!奴さんの身長は目測170cm、体型は運動不足なのか少し腹が出ており、視力が悪いがコンタクトレンズではなく眼鏡を愛用、色白の肌は体育会系の部活動とは無縁の文化系のように見える。一般的な学生服を着ており、背中には何を詰め込んでいるのか知らないが重たそうな通学用のリュックを背負っているが、俺の方を見るなり顔を突き出しながら単独で突っ走って来ている……ヤベーグミを食べてまともな思考は出来ちゃいない、ただ目の前にいる俺をこのまま押し倒してマウントを取りながら貪り食おうとしている本能で動くモンスターだ。隙を抉じ開けるセクシー・コマンドーは通じないと思った方がいい。しかし、お友達たちはしっぽり互いを食い合ってお楽しみ中……………こいつ一人だけなら何とか切り抜けられるかもしれない。タックルには膝を合わせたくなるところだが、この地獄みたいな状況で悪目立ちしてりゃ他のマンイーターたちに目をつけられちまう!年下のガキにいつまでビビってるんだケン!うぉぉぉぉぉおおおおお!やるしかねぇ!ここはアレをやるしかない!」
目前の静止画の中から情報を必死にかき集め、出きる範囲で相手を洞察、行動を予測した上で攻略方法を組み立てて、必要であれば他のスタンド使いが見向きもしないアビリティすら利用する。そして与えられた思考する猶予の中でケンは覚悟を決める。
どれくらい時間が止まっていたかはケンにしか分からないが、猶予の時を存分に活用して行動に移した彼に、油断や隙・迷いや躊躇いは存在せず、命を懸けた選択に全神経を注ぎ、その集中力は極限まで高まっていた。
『だんしこうこうせいD が おそいかかってきた▽
たたかいますか?▽』
『→いいえ』
迫り来る男子高校生に対して、またケンも真っ正面から向かい合い正面衝突するかのように駆け出そうとするが、激突する間際、大きく前に踏み込んだ右足を軸足に、身体を翻すように回転、男子高校生の突進をいなすように避けつつ、手に持っていた買い物かごを頭に被せて、そのまま抜き去るように駆け抜ける。
『ケンは にげだした!▽』
(やってやた!やってやたぞ!やっててよかった『アイシールド21 フィールド最強の戦士たち』!!)
逃走が失敗した時にアナウンスされる決まり文句を〈バービーボーイズ〉が発する事はなかった。ケンは興味本位で少しだけ遊んだキャラゲーの記憶に感謝しながら人混みを駆け抜けて、今なお食人パニックの収拾がつかない現場から脱出してみせた。
「バイト代……何かもう怖いからどーでもいいや!いのちだいじに!そんでもって交番はどこじゃ〜!」
一先ず目先の危機は乗り越えられたが、これからの事を考えると憂鬱になってくる。そんなケンに〈ファーストオプション〉が起動したままの〈バービーボーイズ〉は静かに語りかける。
『コングラッチュレーションズ▽』
136
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/26(月) 22:46:56 ID:C/G9WmoM0
個人的に好きなキャラ小室社長3度目の出番です
【課題名】
>>64
人類最後の極楽浄土
【使用オリスタ】
No.4507 グラビティ・オブ・ラヴ
【解答】
小室光之助は悲しんだ。何故なら、道に置かれていたトラバサミのせいでつい先日納車したベンツのタイヤがパンクし、人気の無い山奥に1人取り残されてしまったからだ。
道に生える苔やよく分からない植物に隠れたトラバサミは新品のように鋭く、しっかり手入れがされている事を物語っていた。
「クソ、携帯も繋がらん……この辺りには我が社の通信衛星を打ち上げたばかりだと言うのに……」
彼の言う通信衛星は確かにこの地域の上空を飛行していたが、鬱蒼と繁る木々と地形が電波を遮っている事は光之助の知る所では無かった。
しかし、彼はこの状況に絶望していた訳ではない。
新品同様のトラバサミが置いてあるならば、近くに手入れを行う人が住んでいる可能性が高いという事だ。幸いにも道はまだ続いている、これに添って歩けば人里に辿り着けるだろう。
そう気持ちを切り替えた光之助は購入して1週間も経っていないベンツに別れを告げ、悲しみを胸に歩き始めた。
道の先が、自分の求める場所に繋がっている事を祈りながら。
◆
「ハァ……ゼェ………何だ、この村は?」
暫く歩き続けた光之助が目にしたのは、やけに暗く寂れた村であった。
周囲には金網がバリケードのように張り巡らされ、畑と思われる場所には大麻らしき植物が青々と繁っている。それでいて往来には人っ子1人見えず、仮に『院就(いんしゅう)村』と書かれた看板が無かったならば村だとは分からなかっただろう。
とはいえ他に行く宛も無い光之助、取り敢えずは近くの民家に声を掛けようと金網の隙間を潜り抜けたその時──────
カーン!カーン!カーン!カーン!
突如として鐘の音が鳴り響き、それに呼応するように防護服を纏った大勢の人間達がゾロゾロと光之助の前に現れる。
「あぁ、突然お邪魔して申し訳ありません。実はこの先で私の車が故障してしまい、皆さんの助けを「死ねぇ、ゾンビ!!」………は?」ズドォン!
返事の代わりに飛んできた1発の銃弾が光之助の頬を掠めた。
見回せば彼等は手に手に槍や棍棒を握っており、幾らかの村人は猟銃を此方に向けている。
彼等が喚き散らす戯言から「連中は外界での出来事を詳しくは知らないらしい」と悟った光之助が踵を返して駆け出すのと、武器を握った村人達が光之助へと飛びかかったのはほぼ同時であった。
間一髪で攻撃を避けた光之助だが、状況は依然として悪いままである。
1人の光之助に対して追跡者は多数、しかも何人かは飛び道具を持っているのだ。
「くっ……『グラビティ・オブ・ラヴ』!!」
ドガガガガガガガガガ…………
何故かスタンドに地面を殴らせつつ、全力で走り続けていた光之助だが、幾ら彼とて地の利と人数の両方で自身を大きく上回る相手から逃げ回る事は不可能であった。
「ハァ、ハァ……追い詰めたぞ、糞ゾンビ!!」
「地の利は俺達の方にあるんだよ、馬鹿ゾンビがぁ!」
地面に倒れ込んで荒い息をつく光之助を取り囲み、狂気の表情を浮かべながら勝ち誇る村人達。
しかし、勝利に酔いしれる彼等は吊り上げられた光之助の口角にも、そして自分達目掛けて真っ直ぐに墜ちて来る人工衛星の姿にも気が付く事が出来なかった。
◆
「ふむ………やはりこれ程『巨大』な物体を『遠距離』から引き寄せるにはかなりの時間とエネルギーを要するな。」
可能ではあったがね……と、死屍累々と横たわる村人達と巨大なクレーターの前に立ちながら1人呟く光之助。
命の危険に晒され、おまけにベンツと通信衛星までオシャカになったにも関わらず、彼は上機嫌であった。
何しろこの『院就(いんしゅう)村』こそ光之助がわざわざベンツを運転してまで探していた土地だったのである。
「情報漏洩の心配も無く、使い捨てられる『材料』共も大勢居る………
私の野望……『究極生命体の作成』……その為に必要な実験場として、これ程うってつけの村が存在したとはな………!」
──────彼が高笑いしながら村を去った数日後、とある大企業が『院就(いんしゅう)村』という辺境の村を土地ごと買い上げ、村内に建設された『小室生命研究所』なる施設に全ての村人が「雇用」された事実が世間に公表された。
このニュースは地域活性化に貢献する取り組みとして話題となり、インタビューの場で代表取締役──────小室光之助氏はこう語ったという。
「私は村に直接赴き、住民達との交流を経て『運命』を感じたのです!
彼等は私が持つ壮大な願いの礎となってくれる事でしょう!」
137
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/27(火) 14:08:35 ID:90vXfTxE0
【課題名】
サルベージ・フォー・リサイクル
【あらすじ】
深夜の遊園地にて、バイトのあなたは1台のクマ型ロボットと1人で向き合っています。
雇用主曰く「出所不明の壊れたロボットを回収したが、部品を再利用するためのメンテナンスをして欲しい」との事。
工具を取る為にあなたがロボットから目を反らした瞬間、突如響き渡る機械の稼働音。
見れば壊れている筈のロボットが立ち上がり、あなたに襲い掛かって来ました。
【クリア条件】
生き残ってバイトを完遂して下さい。
出所不明なのでロボットを破壊してもペナルティはありませんが、ちゃんとパーツを残して分解出来れば高額のボーナスが貰えます。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
ロボットの全長は2m程度、特別な機能は無いものの金属の塊なので相応に重く頑丈です(某ピザ屋のアニマトロニクスを想像して下さい)。
【課題名】
夜中のステーキは色々と危険
【あらすじ】
あなたは「とある遺跡から発掘された石化した原始人」が保管されている研究施設で警備バイトをこなしていました。
時刻は深夜、お腹が空いたあなたがキッチンでステーキを焼いていると、背後から1つの影が迫ります。
振り向いたあなたの目に飛び込んで来たのは、石化していた筈の原始人がこちらを見つめている姿でした。
【クリア条件】
五体満足で切り抜けて下さい。
ただし、学術的に計り知れない価値を持つ原始人を下手に傷付ける事は社会的な死に繋がります。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
原始人は「柱の男」ほどでは無いものの、現代の人間では到底敵わない位には強いです。
生半可なスタンドで殴れば一蹴されてしまうでしょうが、知能は野生動物並みなので光や大きな音に弱く、また頑張れば手懐ける事も出来ます。
138
:
名無しのスタンド使い
:2024/02/27(火) 22:18:07 ID:e2lZazts0
>>136
解答の投稿有り難うございます!
小室社長シリーズ感謝、今回は社長の野望が進展するお話とまさかの超必殺技がお披露目されて読後に興奮しております。自社の人工衛星を攻撃に転用するという豪快な発想が、大企業の社長とグラビティ・オブ・ラヴの組み合わせでしか出来なさそうな唯一無二感が出てて凄く気に入ってます!
>>137
問題の投稿も有り難うございます!
バイトシリーズ感謝です!バラエティ豊かで助かります。ホラーもコメディーも出来そうな感じで楽しみです!原始人を守る不可視の学術的価値バリアは強い(確信)
139
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:24:06 ID:yditE5Mc0
【課題名】
>>41
ピザ配達初日
【使用オリスタ】
No.7849 カレイドスコープ 本体名→『香山』
No.4172 ジョセフ・ナッシング
【解答】
「それじゃ志望動機を教えてくれないかな」
「えーと…………大好きなピザに関われる仕事がしたくてお」
「オーケー!その心意気が気に入った!採用ォ!それじゃ早速制服に着替えてみようか。うちの制服きっと似合うよ〜香山くん!」
「??!!??」
最近出来たばかりの某ピザ屋の面接にきた少女・香山は、まさかの即時採用に嬉しさ半面、それでいいんだと当惑していた。
原付バイクの免許を持っていなくて、店の電動自転車に乗って配達のバイトはできるから、そこまで採用のハードルは高くないだろう。履歴書に自分のアピールポイントを書き込んだ甲斐があったのなら嬉しいが……彼女の面接を応対した中年男性の店長は妙に陽気な人だった。
用心深い人ならその軽薄さを不審がるかもしれないが、面接にやって来た香山も肝が座っていると言うよりも、いつもぼーっとしているようなマイペースな人柄故に、「そういう人もいるよね」程度に軽く思うだけだった。店長は準備しておいたユニフォームを香山に押し付けるように手渡すと、店内の更衣室に案内してくれた。
一抹の不安を覚えながらも香山は言われるがまま服を着替えて、再びスタッフ専用の控え室に戻ると店長は「あらやだ可愛い!最高に似合ってるよ!うちのユニフォームがグンバツに似合う可愛い女の子が配達してくれる美味しいピザ!お客様は一度に二度お得間違い無しだ!あとはこれを首につくれくれたらパーペキ!さぁつけてみて!」と、香山の事を誉めちぎりながら、リボンをあしらった少し大きめの首輪を押し付けるように手渡し、それを着けるように促してくる。
おだてられて満更でもなくなってきた香山は、警戒することなくそれを自分の首に装着してしまうが……その瞬間、店長は忙しなく動かし続けた二枚舌を厭らしく舐めずり、辛抱堪らず嘲笑う。
「アッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッ!」
「な、何ですか急に?」豹変する店長に香山は当然気味悪そうに驚くが、店長は愉快そうに口角を吊り上げながら、予期せぬ驚愕の事実を打ち明ける。
「君が今つけた首輪には実は爆弾が内蔵されていてねぇ!私のスマホから発信される特別な電波を受信した瞬間、その首輪は君の首ごと爆発四散する仕組みとなっているのだよ!」
「………………はい?」
店長が何を言っているのかさっぱり理解できない香山は、呆けた表情を浮かべながら首を傾げてみせるが、店長はドッキリ大成功と銘打たれた看板を出す素振りは一向に見せようとはせず、現実離れした奇妙な事実を告げるのみ。
「ピザ屋の配達アルバイトなんて最初からなかったのさ!これから君には銀行強盗をしてもらう!命が惜しければ私の命令に従うしかないのだ!」
「えぇと…………えぇ」
突拍子が無さすぎる事態に、いつもぼーとしている香山もさすがに困惑の表情を隠せない。そんな時、控え室のドアが突然開くと、ピザ屋の従業員と思わしき男性が現れた。
「何だか賑やかですね、その子新しいバイトの子…………って、香山じゃん」
「あっ春戸先輩!」
春戸と呼ばれた男は香山と同じ大学に通う1個上の先輩で、サークル活動で知り合い色々とお世話になっている頼もしい人物である。頭の中が年中エイプリルフールみたいなオッサンに銀行強盗をしろと脅迫される最中、彼の登場は香山の心を奮い立たせた。
「先輩、助けてください!このヒト頭おかしいんですよ!私に爆弾つきの首輪をつけさせて銀行強盗しろって――――」
助けを求める香山だったが、ふと春戸の首もとに目をやるとシンプルなデザインの大きめな首輪がついている事に気がついてしまい、思わず言葉を詰まらせてしまう。
春戸は「ちょっと冗談きつくないですか?」と訳が分からず頭を搔きながら店長と香山の間に割って入ろうとするが、この場を支配する卑劣漢はそれを許さない。
「今までご苦労、春戸くん!やっぱり悲劇にはヒーローよりもヒロインが適任だと思わないかい?私はズバリそー思う!だから舞台で踊る役目は香山くんにお願いする事にしたよ!」
「は?――――――」
店長は片手に握りしめていたスマホを操作した瞬間、春戸が身に付けていた首輪が炸裂、乾いた爆発音が周囲に響くと同時に、春戸は血を迸らせながら後方に仰け反るように吹き飛ばされ、力なく床に倒れ落ちてしまった。
一人取り残された香山は店長の戯れ言が妄言でない事を理解しつつ、取り返しのつかない過ちを侵してしまった事を悟ると、頭の中が真っ白に染まり、立つこともままならず床にへたり込んでしまう。
140
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:24:30 ID:yditE5Mc0
しかし、店長はそんな香山の反応も織り込み済みで、他人を舌先三寸で操り支配する話術の駆け引きで、絶望する少女に追い討ちを仕掛ける。
「可哀想だが春戸くんはまだ生きているよ。彼の首輪に仕掛けた爆薬はメインヒロインの君よりも極僅かな量しか用意してなかったんだ。まぁ……首が吹き飛ばなかっただけで十分重傷だがね。君がこのまま私の台本通りに銀行強盗を強制される悲劇のヒロインをしっかり演じてくれる間は、しっかり延命の処置をしてあげよう。春戸くんの命運は君にかかっているんだ香山くん」
「どうして貴方はこんな事をするんですか?」
香山は震えた声を振り絞りながら、目前にいる人の皮を被った怪物に問答を仕掛けるが、店長は大袈裟に両手を広げると、劇場に立つ演者のように長広舌をふるう。
「そりゃあ香山くん、他人に銀行強盗を強制させるヤツの目的なんて金しかないだろう?しかも殺人すら辞さない程なりふり構っちゃいられない。君が私に利用されて都合よく操られるように……私もまた大きな流れに飲み込まれて利用される哀れなピエロという訳さ。ピザ屋のオッサンがこんな危ない玩具を準備できると思うかい?リターンに対して馬鹿デカいリスクを背負い込む銀行強盗なんて誰が喜んですると思う?私は全てを犠牲にしても叶えたい願い事があるから、このイカれた計画に賛同している」
店長はまるで自分も被害者であるかのような口振りだが、その立ち振る舞いに悲壮感といったものは微塵も感じさせない。突然しゃがみ込んだかと思えば床に広がる春戸の血に触れると、指で唇をなぞり口角から頬まで塗りたくり、まるで口が裂けたような笑みを浮かべるメイクを施して、自分がピエロである事を強調すると、虚実の線引きをうやむやにしながら、再び香山の前に向き直ると言葉を紡ぐ。
「君は台本通り舞台で踊るだけでいい。君は私に脅されて利用された哀れな被害者だ。他人を強迫して銀行強盗を強制させた凶悪犯役がいる限り君が罪に問われる事はないだろう。そして、尻拭い役の私が最後にババを引く……これが今回の舞台の筋書きだ」
被害者という立場を免罪符に何をしてもいいと唆し、責任の所在を示しつつも再三自分も被害者である事をアピールして、あわよくば同情を引いて共感を得ようとする。最悪三問芝居を見透かされても首輪の爆弾という切り札を握っている限り、店長は香山を支配し続ける事実は変わらない。
勝ち確定の盤面で自己陶酔した言葉を並べながら、香山の背中を押そうとする店長は最後まで異変に気がつけなかった。
「さて、私は春戸くんの応急処置にとりかかろう。君は机の上に置いてある台本を読み込んだ。一時間後には開え………………」
項垂れる香山に指示を出し、死んでるか生きてるか実はよく分かっていない春戸の安否を確認しようと店長は踵を返すが……今まで床に倒れていた春戸は血溜まりを残し、忽然と姿を消していた。
一瞬まさか生きていたのかと思案するが、すぐにあり得ないと否定して周囲を見渡すが、控え室には自分と香山しかいない。
この場を支配していた自分すら把握しきれない異常事態に店長は全身から冷や汗を噴き出すが、香山の手前狼狽する素振りは見せられない。
「香山くん……春戸くんはどこにいるか知らないかい?君は見ていたんじゃあないか?」
店長は怪奇現象の真相を自分以外の目撃者に訪ねるが、香山は顔を俯かせたまま反応しない。都合の良い奴隷に無視された事が癪に触り、店長は苛立ちを隠さずに彼女に詰め寄ろうとするが……そんな彼の目の前を見なれない蝶々が、色鮮やかな羽を羽ばたかせながら宙を舞っていたのだ。
蝶々はそのまま浮上するので、それに釣られて天井を見上げると……店長は全身から血の気が失せるような感覚に陥り、「うわああぁぁあぁああぁぁああああああッ!!!」と支配者の体裁を保てず情けない悲鳴をあげてしまう。
自分の店の天井に見たこともない極彩色の多種多様な蝶々の大群がびっしりと犇めき合うように密集していたのだが、視線を合わせた瞬間、ソイツ等は爆発するかのように四方八方散り散りに飛び交い始めた。赤、青、黄、緑、紫、ピンク、オレンジ、白、黒、茶色……様々な色をした多用な蝶々がピザ屋の狭い控え室の中を縦横無尽に飛翔する様は、まるで色鮮やかな万華鏡の中に閉じ込められたように錯覚してしまうが、無数の羽ばたきが奏でる騒音はそれ以上に生理的な嫌悪感を掻き立ててくる。
「な、なんだこれは!?止めろ!君の仕業か香山くん!?まさか……君はスタンド使いなのか!?」
141
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:25:09 ID:yditE5Mc0
店長は両腕を振り回し、蝶々を叩き落とそうとしながら、この異常事態の核心に迫ろうとする。しかし、こんな状態で無駄口を叩けば口の中に蝶々が入り込んでしまうのは必至、立ったままでは蝶々の群れに激突し続ける為、いつの間にやら自然とその身を床に這いつくばり、無様に体を丸めながら身を守る事しかできない。
こうなったら一からやり直すしかない……店長は手中にあるスマホを操作して香山に取り付けた首輪の爆弾を作動させようとするが……少女の首が爆ぜる希望の音はいつまで経っても聞こえず、耳障りに羽虫の羽音が鼓膜に延々と纏わりついてくるのみ。
完璧だったハズの計画が不条理に飲み込まれ、一瞬で瓦解した事を理解した店長は惨めな慟哭を上げる事しか出来なかった。
「なぜだあぁああぁあああ!?なんでだよおぉおおおぉおおぉおおお!?うわああぁああああぁぁああ!!!」
蝶々の大群が店長の周りに結界を構成するかのように密集しながら飛び交う最中、混乱に乗じていつの間にか控え室から脱出して、部屋の入り口から店長を見下ろすようにたたずむ香山は、真っ黒い虚ろな瞳でじっと見据え、か細い小さな声で「……嘘つき」と呟いた。
彼女の喉元にあった首輪はいつの間にか消失しており、隣には花を思わせる人型をした彼女のスタンド『カレイドスコープ』が、蝶々の一群を引き連れて彼女たちの周りにはべらかせていた。
『カレイドスコープ』は触れた無生物を、同体積の蝶に変える力を秘めている。蝶は実体化しており、大雑把ながらおよそ本体の意思で操作でき、彼女の首輪も控え室にあったテーブルやイス・デスク・冷蔵庫……様々な物品も一様に姿を変えて操っているようだ。
大群を構成する無数の群の中から基点となる蝶々を天井に向かわせれば、それに続くように他の群も追従する。蝶々の大群で溢れかえっていた控え室は、いつの間にか空き部家のような伽藍堂と化していたが……天井に蝶々の大群が集結した瞬間、姿を変えていた無数の無機物たちは店長の真上で瞬く間に復元され、羽を失い轟音を響かせながら墜落し……他人を支配して操る事に固執したピエロは、断末魔の叫びも肉と骨が潰れた音さえ誰の耳にも届くことなくかき消された。
首輪の爆弾を外し、諸悪の根元も始末してしまった香山は……自分の周りで飛び交う唯一復元させなかった色鮮やかな蝶々の一群を見つめ続ける。蝶々が虚空に想い描く万華鏡のような幻想を延々と、儚い魔法が途切れる最後の瞬間まで、それを見続ける事しかできない。
★
「…………」
誰も浮かばれない悲劇の顛末を人知れず見届けている者がいた。彼は全世界の無法、無政府、無秩序化を理念に掲げる大規模な犯罪組織『ディザスター』に所属する構成員である。
今回は幹部の指令を受けて『ディザスター』に参入しようと画策していた『虚業家』を自称する非スタンド使いの殺し屋の利用価値を見定めるべく監視していたのだが……さほど期待もしていなかった試験の真っ最中、まさか海老で鯛を釣れる事態に遭遇するとは思いもしていなかった。
透明になれるスタンド能力『ジョセフ・ナッシング』を発動して息を潜めながら、香山と呼ばれた女を観察し続けていた男は迷っていた。あのスタンド能力は使えるが、あの状態で本体は使いものになるのか、あの様子じゃ心が折れているか、壊れているかもしれない。
兎に角イレギュラーな事態が発生している以上、こちらの報告を待っている幹部に連絡を入れるべきであるが……部屋の入り口を陣取る香山が邪魔だ。透明化を解除すればあんな小娘、近距離パワー型の『ジョセフ・ナッシング』にかかれば一瞬で屠れるかもしれないが……ディザスターの構成員として場数を踏み、数々の修羅場を掻い潜って生還してきた垂れ目のタフガイは、この場から動けずにいた。
先ほど部屋の中を蝶々の大群が充満していた際、透明化していた男も蝶々との接触は避けられなかった。ここからは憶測だが……もし仮に蝶々に探知能力が備わっているのであれば、透明化している自分の存在も手に取るように分かるハズだ。考えすぎているのかもしれないが……スタンド能力は魂の発露、精神を揺さぶる事態に直面した際、スタンド使いは何かしら成長する事がある。それはシンプルにスタンド能力の破壊力やスピード・射程距離が伸びたり、或いは備わっている特殊能力が拡張したり変質する事も十分あり得る。
目前の少女は床に座り込みながら、生気を失ったように宙を舞う蝶々の群をぼーっと眺め続けているが……スタンドの方はどうだ?
『カレイドスコープ』は透明化して見えないハズの男と『ジョセフ・ナッシング』をじっと見据えているのだ。まるで脱け殻になった本体の怨嗟が乗り移っているかのように……物言わぬ凄みが空気に重くのしかかる。
142
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:26:11 ID:yditE5Mc0
【課題名】
>>43
HIGH SPEED TRAIN
【使用オリスタ】
No.6831 マザーインロー
【解答】
地下鉄のアナウンスが次の停車駅を知らせてくれるが、電車は一向に減速する事なく、目的地の駅を通過してしまった。
真昼の異常事態に乗車していた人々は不安そうにどよめく。先頭車両の運転室に近い座席にいたスーツ姿の男性は、心配そうに運転手の様子を窓から確認するが……驚愕の悲鳴を上げると、その場に尻餅をつくように倒れ込み「だ、誰か!車掌さんを呼んできて!?運転者が倒れてるぅぅうぅううう!?!」と緊急事態を乗客たちに知らせる。何事かと他の乗客たちも様子を窺うが……運転席には血塗りになり、ぐったりと倒れている運転手がおり、運転台も滅茶苦茶に破壊されていたのだ。
「大丈夫ですか!?」
たまたま乗り合わせていた看護士と思わしき中年女性が、運転席に侵入して運転手の安否を確認すると、辛うじてまだ息はあるようだが、とてもじゃないが何か起こったのか確認する事は難しい危険な状態である。
乗客たちは運転手を座席に寝かせて介抱している内に、後方車両から大慌てで若い車掌がやってきた。頭から夥しい量の血液を流し顔面血だらけな運転手を見るなり、一瞬動揺して立ち竦んでしまうが、不安そうな乗客たちの手前、すぐに我に返り運転室に駆け込んだ。
滅茶苦茶に破壊された運転台の惨状を目の当たりにすると、さすがに車掌も何が起こっているのか理解出来ず「なんだこれは!?酷すぎるぞ!!!」と激しくキレ散らかすが、怒りながらもすぐに運転台を冷静に調べる。
常用ブレーキは根本から織れており使い物にならず、藁にも縋る気持ちで非常ブレーキのレバーを引くが……無情には電車は止まらない。
怒りを通り越し、これから起こりうる未曾有の大惨事を想像した若い車掌は、度重なる異常事態でストレスの許容量が超過してしまい嘔気に襲われるが、胃から込み上げてきた内容物を必死に押え込む。顔面蒼白・涙目になりながらも震えた声を絞りだし、辛うじて使用できた無線で運転指令所に現状を報告して指示を仰ごうとしていた。
若い車掌の後ろ姿を不安そうに見守る乗客たちたちも、次第にこれから起こりうる大惨事を予期し、絶望して泣き出す者、理不尽な現実に悪態をつく者、家族に連絡を取る者、奇跡を祈る者……否応なしに迫りくる今際の際に備え始め、そうしている間にも駅で停車する事はなく、鬱屈した沈鬱な雰囲気が場を支配し始めた。
そんな時、先頭車両の遠巻きから事の成り行きを静観していた女性は、重い腰をあげると先頭車両に集まる乗客たちの前に現れた。
愁いを秘めた眼差しと、白く透き通った肌は耽美な雰囲気を漂わせているが……このお通夜ムード全開の状態で彼女はよりにもよって全身真っ黒な喪服を着用しており、彼女を一瞥した高齢の老婆は「死神様……どうか、どうか、堪忍してください」と、呆けたように拝み倒すような素振りをみせて、孫と思わしき少年に窘められていた。
喪服姿は彼女の趣味であり他意はない。当然死神などでもなく、列記とした人間だが……ただの一般人という分けでもない。彼女の歩みと同時に全身が蜃気楼のように揺らめいたかと思えば、仮面をつけている長身の人型のスタンド『マザーインロー』を出現し……近くにいた若者の胸部に手を伸ばし、そのまま肉体を透過したかと思えば、仮面のようなものを引っ張りだしてみせた。
仮面は若者の顔を生き写したようた造形をしているが、どこか祈るような希望に縋る表情を浮かべていた。自分の内側から仮面を引っ張り出された若者は特にダメージを受けている様子もなく、気がついてすらいない様子だ。若者の仮面を手に入れた『マザーインロー』は、それを自身のボディに埋め込むと、別の乗客からも同様の手法で仮面を引っ張り出して拝借する。
143
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/05(火) 21:27:02 ID:yditE5Mc0
喪服姿の女は同様の行為を繰り返しながら運転室に近づく。途中で重傷の運転手とそれを介抱する看護士の前に立つと、先程と同様に彼等の身体から仮面を抜き取るが、それを自分の手に埋め込むように吸収させると……苦しそうな呻き声を上げながら座席に寝そべる運転手に『マザーインロー』は改めて手をかざしてみせた。
すると激痛に堪えかねて呼吸を荒げていた運転手は、突然痛みが沈静したかのように落ち着き取り戻す。未だかつて経験した事がない奇跡を目の当たりにした看護士は分けが分からず呆けてしまうが、すぐに落ち着きを取り戻し、運転手に意志疎通を図ろうと声をかける。
その様子を見た喪服姿の女は再び歩みを再開し、運転室までやって来ると……そこにはうずくまりながら絶望する若い車掌がいた。あれから彼は運転指令所に助けを求め、線路の分岐点で電車を意図的に脱線させて緊急停止させる安全側線に侵入する事を提案されたが……すぐに分岐点に通じる回線の故障によりそれも不可能となり、いよいよ手の施しようがなくなってしまったらしい。
そんな若い車掌に喪服姿の女は目線を合わせるように屈みながら「車掌さん、どうか諦めないで……もう1度だけブレーキを引いてみてください」と、穏やかな優しい声色で伝える。
しかし、車掌の心は既に挫けており「お客様、申し訳ありません。何度も引いたんですけどね……全然停まってくれないんですよ。本当に、本当に、こんな事になってしまい面目ありません。どうか最期の時を……せめて大切な人に、貴方の思いを伝えてください」と弱々しい声で呟くだけで、顔を上げる事すら出来ずにいる。
喪服姿の女性はそんな車掌に、何か言うわけでもなく『マザーインロー』の手を伸ばし、車掌に触れながら能力を発動するが……今回は先程から繰り返していた肉体から仮面を引っ張り出す能力ではないらしい。
『マザーインロー』に直触りされた車掌は、突然目を醒ましたかのように顔を上げるが、そこに絶望に屈服した陰鬱な表情はどこにもなく、力強い目差しで喪服姿の女性を見つめ返し「……何か電車を停める手だてがあるというのですか!?」と、彼女の言葉に一筋の希望を見いだしているようだった。
喪服姿の女性はそれに応えるかのように「この思いは貴方にこそ相応しい」と呟くと、『マザーインロー』は乗客たちから集めた仮面を一つに収束、それを車掌の顔に被せるように押し当てた。
―――刹那、車掌の脳内溢れ出す存在しない記憶……違う。乗客たちの『電車を停めたい』『助かりたい』『皆が無事にいられますように』『車掌さん頑張って』……様々な思いが流れ込むと同時に、仮面は車掌の肉体に埋没し、彼の右手から淡い光が放たれる。しかし、車掌は自分の身に起こった怪奇現象に狼狽する様子はなく、どこまでも落ち着き払いながら立ち上がると、運転台に向かい合い、右手を伸ばして非常ブレーキのレバーに握り締め、今一度引いてみる―――その瞬間、無数の手が車掌の手と重なり合う。
『マザーインロー』の能力は二つある。
一つ目は絶望した車掌に直接的触る事で、彼を再起させた『思い』の方向を変える能力。そして二つ目は看護士や運転手自身の『思い』を仮面として引っ張り出し、マザーインローに吸収する形で『思い』を癒しのスタンド能力へと昇華させて、重傷に苦しむ運転手に鎮痛を施した……『思い』から擬似的なスタンド能力を開発する能力だ。
若い車掌の身体と一体化した仮面も、乗客たちから集めた『思い』を一つに纏め……彼に『暴走する電車を停止させる擬似的なスタンド能力』を譲渡したようだ。
ついさっきまで何度も引いても決して作動しなかった非常ブレーキは、同じものとは思えないくらい呆気なく正常に作動し、金属が掠れ合う喧しい音と共に電車はゆっくりと減速してゆき……次の駅の少し手前ぐらいで完全に停止してくれた。
ある者は嬉しさのあまり泣き出し、ある者はどいしようもない緊張状態から解放され呆けたように座り込み、ある者は親しい親族や知人と、気持ちをわかち合うように抱き合い……車内からは乗客たちの歓喜と歓声で溢れ返る。
「やった!やったぞ!!本当に停まってくれた!?!ううぅうぃう、うぐ、ううう……う"ぉ"お"お"ぉ"ぉ"お"お"ん!!本"当"に"良"か"った"〜〜〜!!!」
若い車掌も奇跡を目の当たりにし、苦難の果てに取り戻した日常の有り難さを噛み締めるように、ボロボロと漢泣き(※号泣)していた。
そんな車掌をそっとしておくように、喪服姿の女性はクールに去る。
144
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/10(日) 09:43:44 ID:Ryeva2Jg0
【課題名】
>>40
ビンを立てる工場の初日
【使用オリスタ】
No.6056 レイザーズ・エッジ
【解答】
「暇だ………」
某有名企業の系列に属する調味料工場の中。
列を成して流れてくる無数のビンの前で、1人の青年がボソリと呟いた。
著しく勤労意欲に欠けた発言に対し、周囲の従業員達は何の反応も示さない。
ただひたすらにビンの列を見張り、倒れた物に手を伸ばして立て直す………簡単だが単調、そして退屈極まりない作業は彼等の精神を磨り減らし、派遣社員の不真面目な態度を咎める気力さえも奪っていたのだ。
「ファ〜〜〜…………」
マスク越しにも分かる程の大欠伸を漏らす派遣社員の青年。
しかし、そんな彼の退屈はすぐに破られた。
「そんなに眠いってんなら、永遠に眠らせてやらァ!」
「うっわ、え!?何!?」
派遣社員の隣で作業に従事していた中年男が突如怒りを露にビンを掴み、青年の頭目掛けて振り下ろしたのである。
幸いにも咄嗟に身を退いて攻撃を避けた青年の目に写ったのは、中年男のみならず他の社員達すらもビンを握りしめ、自身を見つめている姿であった。
「イヤイヤイヤ、急に何なんすか先輩方!そりゃ洒落にならんでしょうよ!」
「ウルセェ!目障りなてめえをボコせば俺達はその間退屈しねぇで済むんだ!!上手くいきゃ仕事も休めるしなぁ!」
危機感の無い表情で窘める青年に対し、訳の分からない理屈を喚き散らす中年男。
周囲の従業員達も同調するかのように下卑た笑みを浮かべ、ジリジリと青年の元ににじりよる。
「っつー訳で………死ねや、この野郎!」
中年男の咆哮と同時に従業員達が青年へと飛びかかったその時。
「『レイザーズ・エッジ』」
ブオッ!!
空中に無数の拳が表れ、従業員達目掛けて突きが繰り出された。
風を切る音と拳に宿る殺意に従業員達は怯み、思わず足を止めるものの、ただ1人を除いてその身体に傷が付く事は無かった。
バキィ! 「ウグャッ!?」
骨が折れる音と先陣を切った中年男の悲鳴によって我に返る従業員達だったが、今度は別のモノ──────拳を返り血に染め、酷薄な笑みを浮かべる青年への恐怖心によって動きを止めた。
「ア〜ァ……折角俺は真面目に働いてたのに………
趣味も我慢して、人並みに頑張って金を稼ごうとしたのによォ〜〜〜………」
青年は独り言を言いつつ中年男へと近寄り、血塗れのまま呻く彼の頭を掴み………
ガゴォンッ!!ゴパキッ!
手慣れた様子で床へと叩き付け、いとも簡単に首を踏み折った。
「フゥ〜〜………ま〜た失敗しちまったぜ、『禁殺人』。まっ、正当防衛って奴だから仕方ねぇよなァ〜〜〜?」
人を殺したにも関わらず、何て事ないと言いたげな笑みを浮かべる青年の姿に従業員達は己の愚行を後悔し、命乞いを試みようとしたものの──────
「お〜し、久し振りに趣味の時間だ、派手にやってやるぞォ〜〜〜!」
彼等が口を開くより先に「ブッ殺す」と決めていた青年は、その瞬間に行動を始めていた。
◆
「アッレェ?何処にも載ってねぇ!あんなに派手にやったのに!」
調味料工場にて騒動が起こった次の日。
自宅でパソコンの画面を見つめ、すっとんきょうな声を上げる青年の姿があった。
「ハハ〜ン?さては派遣会社の奴等が揉み消しに走ったな?ってかそれは良いとして…………そー言えば給料ってちゃんと振り込まれてたよな?」
家を飛び出して近くのATMへと駆け込んだ青年の嫌な予感は、ものの見事に的中していた。
「チッ………仕方ねぇ、給料取りに行くか!こんな事も有ろうかと、社員共の家を調べといて良かったぜ、全く………」
何て事ないかのように呟き、踵を返して歩きだした青年。
その歩みは、迷いの無いしっかりとした物だった。
145
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/10(日) 22:45:52 ID:Qy8QROuM0
>>144
解答の投稿有り難うございます!
殺意を可視化させる能力と禁殺人が趣味な殺人鬼という個性抜群なオリスタの活躍が見れて面白かったです!事件後に社員の個人情報を調べる用意周到さも、軽い調子の本体に殺人鬼のサイコみを感じられて良かったです。
146
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 17:52:36 ID:XSEJ3Njs0
【課題名】
>>137
サルベージ・フォー・リサイクル
【使用オリスタ】
No.8578 サンデー・バイオレット
【解答】
「しっかし……幾ら給料が良いとは言えホントに気味が悪いわね……」
静まり返った深夜の遊園地にて、タメ息を吐く女子高生が1人。
彼女の眼前には1台の機械人形………だったと思われる金属の塊が禍々しいオーラを放ちながら鎮座していた。
ガワの大部分が融けて黒ずみ、ワイヤーや歪んだ内骨格は剥き出しで左目もグシャグシャに潰れたおぞましい形相をしたかつての子供達の人気者は、それを分解すべく訪れたアルバイトの勤労意欲をゴリゴリと削っていた。
(そうよ……これを解体すれば[検閲済]万円……[検閲済]万円の収入が私の懐に入るんだから……)
しかし、彼女は雇用主から提示された破格の給与額を思い浮かべる事で恐怖心を誤魔化していた。
カラオケ店でのバイトは結局タダ働きで終わり、『大瓜ここのつぼし動物園』でのバイト募集も無い以上、今はこの仕事で金を稼がねばならない。
その上、雇用主は再利用出来るパーツを発見出来れば別途ボーナスを払うとまで言い放った気前の良い輩である。
「そうよね、仕事はキチンとしなきゃだもの。それに、既に壊れた機械が動くワケ(ギギィ……)無い………」
空元気を出しながらスパナを取ろうとした少女だったが、そんな彼女の言葉を嘲笑うかのように機械音が響いた。
振り向いた少女の視線の先には力無く座り込み、首を此方に向けている機械人形の姿が。
………そう言えば、部屋には誰もいない筈なのに妙な視線を感じる気が………
「…まあ?そんな訳無いと思うけど?ね、念の為………『サンデー・バイオレット』……ッ!?」
不安と疑惑を振り払うべくスタンドを出した少女だったが、彼女の思惑とは裏腹に『サンデー・バイオレット』は自分に向けられた真っ直ぐな視線とその出所をハッキリと感知してしまっていた。
(この機械人形!私を見ているッ!……何だか分からないけど……コイツは『ヤバい』ッ!)
嫌な予感が確信に変わった少女の行動は素早かった。
此方を見つめる機械人形から視線を外す事無く出入口のドアを開け、退室すると同時に鍵を掛ける。
「ふぅ……これで少しは安心(ウィイン!)……出来なかったか。……不味い状況ね」
(ギギッ……ガシャァ……ガシャァ……)
一安心する間も無く耳に入る機械の駆動音、そして規則的かつ金属質な足音。発生源はたった今飛び出した部屋の中である。
ボロボロな身体の何処にそんな力が残っていたのかは検討もつかないが、あの機械人形が立ち上がって動きだした事は明白だった。しかも確実に此方へと近付いている。
幾らオンボロとは言え相手は金属の塊、正面からでは勝てないと判断した少女は手近な椅子やテーブルで出入口をふさいだ………のは良かったのだが、相手のパワーは少女の予想を超えていた。
(バァンッ!)
鈍い殴打音が響くと共に積まれたバリケードの一部が崩れ、数脚の椅子が吹き飛ぶ。
幸いにもその場から走って逃げ出した少女に直撃こそしなかったものの、今の一撃でドアその物に大きな凹みが生じてしまった。
歪んだドアの隙間から突き刺さる視線を背に受けながら少女は思考する。
(あれじゃあ大した時間は稼げなさそうね。とは言え移動は遅い方だし、準備さえ整えれは或いは……)
◆
(ズガァンッ………!ガラガラ………)
即席バリケードが完成してから1分も経過しただろうか。
スクラップを寄せ集めた怪物が如き外見の機械人形がその豪腕でドアとバリケードを呆気なく叩き壊し、我が物顔でバックヤード内を徘徊していた。
(ガシャン………ガシャン………ガシャン。)
モーター音を響かせ、周囲を見回しながら獲物を探していた機械人形が足をピタリと止める。
笑みを浮かべるかのように細められた眼には、戸棚の前で立ち尽くす少女の姿が映っていた。
一直線に少女の元へと歩み寄って豪腕を振り上げた機械人形に対し、少女は『戸棚の中から』声を投げ掛けた。
「──────ソレは鏡よ、お人形さん?」
そして『サンデー・バイオレット』は機械人形からの視線を感知するより早く、拳を機械人形の頭目掛けて叩き込んだのだった。
◆
「…………あんなに力が強いなんて、視線に気付くのが遅れてたら危なかったわね………。」
一体何だったのかしら、と完全に破壊された機械人形の前でぼやく少女。
どうも殴る時に力を籠めすぎてしまったらしく、ボーナスなど到底貰えそうに無かった。
「ま、お給料と命は助かったんだから十分か……」
とは言え、たかだかバイト1つでこんな目に合っていたのでは命が幾つあっても足りやしない。
早く『大瓜ここのつぼし動物園』のバイトが募集されない物だろうか?
………『大瓜ここのつぼし動物園』もそれなりに奇妙な場所である事を知らない少女は、静かにそう思ったのだった。
147
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 18:41:57 ID:XSEJ3Njs0
【課題名】
黄金のドライバー精神
【あらすじ】
『非スタンド使いの』とある議員(=あなた)は歩道の側に車を停めています。
すると突然車内に見知らぬ他人が乗り込み、「前の車を追え」と偉そうな態度で命令してきました。
当然ながら断ったあなたですが、相手は『奇妙な力』を見せ付け「スタンド使いの私に逆らうな、空いている歩道を走っていけ」と脅迫してきました。
歩道には何も知らない罪なき民間人達が歩いています。
【クリア条件】
不審者を車から叩き出し、道行く民間人の命を守って下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
オリスタキャラは敵として登場させて下さい。
「あなた」は完全な一般人ですが、議員なので不審者を殺しても揉み消せます。
しかし、人々に慕われて議員になったあなたが歩道の民間人を引き殺す事はあってはいけません。
【課題名】
健康志向
【あらすじ】
スタンド使いのあなたは、昼食を取りにうどん屋を訪れます。
注文したうどんを受け取って七味唐辛子をかけようと容器を取った所、突然蓋が外れて1瓶分の七味唐辛子が汁に入ってしまいました。
【クリア条件】
うどんを残さず食べきって下さい。
【使用オリスタ】
なし
【補足情報】
最悪そのまま食べきればOKですが、残すと店を出禁にされます。
148
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/16(土) 22:20:38 ID:.dVjIcD20
>>146
解答の投稿有り難うございます!
これは嬉しい!if設定ではなく、私が書いたサンデー・バイオレットの物語を地続きに書いてくださり有り難うございます!
一瞬の隙を引き出す鏡を用いたトリックが、サンデー・バイオレットの能力と噛み合っていて良かったと思います。動物園も動物園でそれなりに奇妙な場所なのは間違いないですね。
>>147
問題の投稿も有り難うございます!
非スタンド使いの議員を問題の起点にしているのが、難易度が高そうな問題でワクワクしております!
某議員にもボディーガードみたいな運転手がいたから解釈次第でワンチャン狙えそうな気もします。
勝手に全投下問題一つはつまみ食いするチャレンジをしている身としては、七味唐辛子をバチクソぶちまけたうどんもやぶさかではありません。
丁度良かったので告知も失礼。
次回の解答投下日ですが火曜日の19日ではなく、20日にしようと思いますので宜しくお願いしますm(_ _)m
149
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/20(水) 22:31:49 ID:nCdyXWns0
【課題名】
>>45
バスを待つもの達
【使用オリスタ】
No.3803 ギャランドゥ
【解答】
夏休み到来!
炎天下の7月下旬から始まる長期休暇、1学期の終業式を終えた学生たちは、自由に羽を伸ばしながら夏の暑さもはね除けてしまうだろう。
満面の笑みを浮かべながらキャリーケースを引いて歩く少女は、太平洋のど真ん中に浮かぶ離島『星野古島』に学舎を構える全寮制のマンモス校『降星学園』に在学する生徒で、地元の地方都市に帰省してきたようだ。
世界各国から集まる学生たちの為に様々な施設が存在する星野古島と比べると、彼女の地元はいささか閑静過ぎるかもしれないが、家族や旧友の顔を見れるのはここしかない。彼女にはそれだけでも帰省する理由はあるのだ。
学園や島での奇妙な生活を土産話に携えて、実家に帰る最中……彼女は星野古島でも中々お目にかかれない稀有なトラブルに遭遇してしまった。
最も彼女自身に落ち度はなく、フェリーから飛行機・電車に乗り継いだ長旅で疲れもあったが、馴染み深い故郷に降り立った瞬間、嬉しくなってついテンションが上がってしまい……真夏の炎天下も何のその「たまには日焼けもいいよね」と細かい事は気にしない精神で、町中をブラリと歩きながら帰宅する事にしたのが誤りだった。
少女がたまたまバス停の前を通りかかると、時刻表の柱に寄りかかっている男性がいたかと思えば……違和感が襲いかかる。よく見てみれば口を猿轡にされており針金で全身を拘束されながら柱に縛り付けられているのだ。
・・・・・・そーゆーご趣味の方かしら?
こんな真っ昼間の町中のど真ん中で常軌を逸したSMプレイか何かは知らないが……これはやり過ぎだ。真夏の太陽は容赦なく男性に照りつけており、このまま放っておけば命に関わるかもしれない。
少しズレた発想をした少女だが、即座に男性を助けようと手を伸ばすと……「KAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
後方から獣が威嚇するような奇声が響き渡る。何事かと少女が振り替えると、停留所から少し離れた所にある街路樹……そこに出来た日陰に身を寄せ合う老人たちがいた。彼等は何かの催し物に参加でもするのか、一様に小綺麗な礼服やら着物を身に纏い、黒い日傘を持ち歩いている。
彼等は余程、日光に当たりたくないのか、日陰から一歩も出ることなく、男性を助け出そうとする少女に対して、怒声を浴びせながら抗議する。
「止めろ!そいつがいなくなれば、ここに来るバスの運転手が停留所に人がいないと勘違いして、そのまま走り去ってしまうかもしれん!」
「・・・・・・バスの事が心配なら貴方たちがここで待ってればよくない?」
「WOOOOOOOOH !それが出来たら勝手にやってるわ!このダボが!」
「GRRRRRR ……あまり調子に乗るんじゃあないぞガキが」
少女のシンプルな指摘に対し、胡乱な老人たちは異次元の老害ムーブをぶちかまし、話は一向に噛み合わない。
彼等をよく見れば、顔の皮膚は妙に弛んでいたり、目の焦点があっていなかったり、両目とも白眼を向いている者もおり、そもそも皮膚が部分的に緑色に変色しており、色々と様子がおかしい。体臭も気にしているのか、出鱈目に振りかけたような香水の悪臭が微風と共に流れているが……嗅ぎなれている者が嗅げば、死臭を誤魔化している事を看破出来たかもしれないだろう。
しかし、彼等と相対した少女にそのような知識は持ち合わせておらず、それどころか無邪気そうな笑みを浮かべながら、少しズレたお人好しな提案をしてしまう。
「うーん、分かった!それじゃこの人の代わりに私がここで立ってるよ!それならこの人を助けてもいいでしょう?」
少女からの思いもよらない提案に、老人(?)たちも一瞬だけ面を食らった様子を見せるが、すぐに傲慢で醜悪な表情に戻り、互いの顔を見交わしながら生意気で"美味そうな"生娘を陥れる謀略を巡らせる。
「UUUUUUUUM……どうする?」
「立ってるだけなら案山子でも構わんが……まぁ丁度いいんじゃあないかぁ……親方様への手土産が増えるのは良いことだ」
「バスの乗客次第じゃがのう。ワシ等も少しぐらいつまみ食いするなら、数は余分にあって損はないだろう」
「フヒヒ!久し振りじゃのう!若いのは!」
「おい気を付けろ!そんなに舌を伸ばすでない!」
「デヘヘ、スマンスマン」
150
:
名無しのスタンド使い
:2024/03/20(水) 22:32:42 ID:nCdyXWns0
「あっ!バスが来たよ〜!」
老人(?)たちの皮下で何かが脈打ち、興奮するあまり、舌を触手のように伸ばして嘗めずるような異常な仕草をみせてしまうが、そういう時に限って少女は決定的な瞬間を余所見してしまう。
そうこうしているうちに、彼女たちの元にバスがやってきた。バスの扉が開く――――――このままだと時刻表の柱に縛り付けられた男性の近くにいる少女が……まるで、この場所で何かしたいみたいに、バスの運転手から誤解されてしまい、老人(?)たちも口裏を合わせて彼女を陥れ、隙を見計らいバスジャックを決行して"お楽しみ"を始めるだろう。
だが、しかし!
異変は既にずっと前から発生していた!
バスが停車して入り口を開ける運転手は、あられもない姿をしている少女や時刻表に縛り付けられている男を見てもノーリアクションのまま。そうとはしらず老人(?)たちは一斉に少女の元に詰め寄ろうとするが、うっかり日傘を置き忘れてしまい、無防備に日下を闊歩しようした瞬間――――――
「「「「ANGYAAAAH!!?!」」」」
老人の姿を騙る吸血鬼の眷属『屍生人』たちは痛ましい不憫な悲鳴を上げたかと思えば、衣類と悪臭を残しながら、瞬く間に塵へと還ってしまった。
彼等は別に脳味噌まで腐り果てたヌケサクという訳ではない。屍生人には二つ名を手に入れた伝説の連続殺人鬼・強い怨念を秘めた中世の騎士たちのような特記すべき異常性や戦闘力を秘めた個体もいるが、自分達を生み出した吸血鬼のように自力で肉体を再生する事はできず、人間の血肉を食らい欠損や腐食を補おうとする者が殆どだが……食人衝動を隠しながら上手く人間社会に溶け込み、某国の空軍司令官まで上り詰めるような個体もかつては存在していた。
老人の屍生人たちも日光を巧みに避けながら昼間でもお構い無く活動し、主である吸血鬼の為、新鮮な食事を調達しようとしていたのだが……そんなやり手の屍生人が、自分達の生命線でもある日傘をうっかり忘れるような凡ミスを普通犯すハズがない。
彼等は少女のスタンド攻撃を既に受けていた。何故なら……少女は帰郷した嬉しさのあまりにテンションが上がってしまい、いつもの癖で全裸になりながら町中を闊歩していた。
何を言ってるのか、分からないと思うが屍生人たちも何をされたのか分からないまま往生した。日光を浴びた今際の際、彼等は催眠術だとか超スピードだとかそんなものではなく、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったかもしれない。
でも安心してください。彼女のすっごいワイルドな人型スタンド〈ギャランドゥ〉は、本体のピュアでイノセントな生まれたままの姿を全身全霊でフルガードしていただけなんです。そのついでに屍生人たちも細かい事を気にする事ができなくなってしまったようです。
「・・・・・・・あの人たち服だけ置いてどこに行っちゃったんだろう?……まさな同好の士というヤツ!?まぁ、今はお兄さんは助けなきゃ!」
こうして少女はボケ倒したまま、屍生人たちの驚異を掻い潜ってしまった。
151
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:35:29 ID:Rl7Cia1c0
【課題名】
>>46
木こり初日
【使用オリスタ】
No.27 ブレーダー・トレード→本体名『市原』
No.233ピーキー・ソルト→本体名『宇佐見』
【解答】
前略オフクロ様
実家から叩き出されて数ヵ月が過ぎました。オヤジ様から頂いた手切れ金も底をついてしまい、いよいよ今日からアルバイトを始めます。念願の社会復帰ですが、正直始める前から妙な胸騒ぎがして夜も眠れていません。
貴女はそんな俺を見たらきっと呆れるでしょう。イケメンなんだから堂々としろ?女の子と遊んで自信をつけろ?……ナチュラル・ボーン・陰キャでちいかわ(なんか小さくてかわかぶりな息子)な俺には、貴女たちが簡単に思える事も物凄く高いハードルに思えてしまうのです。ぶっちゃけ女子も男子もリアルはみんな恐いから、家に引き込もって一日中遊んでいたい!初期の設定が定まっていない世界観でちいかわになれるならガチでなりたい!
でも……このまま引きこもったままだと家賃も払えず、電気や水道も停められる。背に腹は代えられない状況、夏休みの宿題を最終日近くになって必死に片付けようとするように、ギリギリでいつも生きている俺は……木こりになる事を志しました。
冗談だと思っているかもしれませんが今回はガチです。いやまぁ正確には材木加工工場のアルバイトなんだけど……それが、どうしてこんなことになっているんだろう?
せっかくアルバイトの現場まで足をはこんだと言うのに、工場内の作業場には作業服を着たガテン系のオッサンではなく、厳ついスーツを着こなす堅気ではなさそうな人が屯っていた。
これはヤバいと思い、何も言わずに後退りして逃げ出そうとしたが、たまたま近くにいたパンチパーマのオッサンと目と目が合ってしまった。
「よぉ兄ちゃん、何のようだい?」
どんな生き方をしていたらあんな血走った糞恐いメンチを切れるのか分からない。ありゃもう不可視のビームを出してるメンチ切りだ。出なきゃ俺は蛇に睨まれた蛙みたく動けなくなるハズがない。今すぐにでも颯爽とこの場から逃げ出しているのに……!そうこうしているうちに後ろから伏兵が現れて、そいつは2メートルは軽く超えたスキンヘッドの巨漢で、俺を後ろからがっつりハグするようよ捕まえると、そのまま抱き抱えられてしまった。
「目撃者は……面倒臭ぇな。よし連れてくぞ」
「うす」
「イ、イヤ!!イヤ!!イヤ!!」
「キメェ声だすな。このまま背骨を折られたいのか?」
「わァ…ぁ……」
俺はちいかわになる事しか出来ず、むさ苦しい巨漢に抱っこされながら工場の奥に連れていかれた。そこにはパンチパーマとスキンヘッドのお仲間が屯している。俺を雇ってくれたオッサンの工場長は、ロープで縛られており丸鋸が取り付けられた台……テーブルソーの上で転がっており、顔面蒼白になりながら必死に命乞いをしていた。
「堪忍してください!もうこんなことしたくないんです!ここの設備が切断出来るのは木材だけなんでふッ!?」
まな板の鯉が必死に御託を並べていたが、それを辟易そうに聞いていたオールバックの男は、ついに我慢ならず、工場長の顔面を殴り付けて強引に黙らせると大きなため息を吐き捨てる。
「はぁ……それなりに上手い汁は吸わせてやったつもりだったんだのによぉ〜、ちょっと探りを入れられりゃこのザマか………まぁ、いいや。味噌がついた処理場なんて俺たちも必要ね〜んだわ。お前もきれいさっぱり後腐れなく透明になろう」
「ひいいいぃいいいぃぃぃい!!イヤだ!イヤだ!!死にたくない!死にたくない!死にたくない!もう何でもしますから命だけは助けてください!」
「今さら必死に泣きつけばどうにかなるかとでも思っているのかい?イモ引いた途端に堅気に戻ろうだなんて都合が良すぎるだろう?親父もお前さんに面子を潰されてご立腹なんだよ。落とし前、つけようねぇ」
何があったのかは知らないが、俺の雇い主は裏社会のマフィア的な人たちの逆鱗に触れてしまったらしい。人目も憚らず命乞いを続ける工場長を嘲笑いながら、オールバックの男は裏社会の俺ルールを演説して悦に浸っている。
……どうでもいいけど、何で引きこもりのニートが頑張って社会復帰しようとしている真っ最中なのに、こんな人間ぶっ殺しゾーンに拉致されなければならないのか?現実の非情さに吐き気を催しそうになる中、俺はオールバックの男の前まで連行されると雑に床に落とされた。既に俺は人間扱いされておらず、パンチパーマの男とオールバックの男は俺を無視して勝手に話を進める。
152
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:36:47 ID:Rl7Cia1c0
「すみません尾崎の兄貴、こいつに見られてしまいました」
「飛んで火に入る夏の虫ってのはどこにでもいるなぁ……まぁ、丁度いいや」
「エ……オ…オレ、カンケイナイッスヨ」
「関係無いなら証拠見せよっか」
「エ…エ…エ……」
「大丈夫大丈夫、ここの機材はウチで仕入れたヤツだからね。ボタンを押すだけで台の上の死体を勝手にバラしてくれるんだ。さぁ、この馬鹿と関係無いなら証拠見せようねぇ」
酷薄な笑み浮かべながらオールバックの男は堅気に無茶振りをしてくる。まさか人間ぶっ殺しゾーンで、俺自身が人殺しになる事を強いられるなんて思わなんだ。断れば工場長の身内と見なされ仲良くぶっ殺ろされそうだが……殺人を犯す度胸があるならとっくに引きこもりなんて卒業している。
前門の虎、後門の狼の板挟み状態だが……こうなったら腹を括ってやれる事をやるしかない。ちいかわだってこういう追い詰められた状況で本領を発揮して様々な危機を回避している。俺は…人殺しににはならない。こうなったら俺は…俺自身が「ちいかわ」になるしかねぇーーーッ
工場内には俺と工場長以外に……オールバックとパンチパーマ・スキンヘッドに角刈りとツーブロックの男たちがいる。5人で丁度良い……鎮圧するだけなら5人が本当に丁度良い!俺をただの無職童貞引きこもりの粗チン野郎だと油断(※そんなこと筋もんのお兄さんは知りません)して解放したことを後悔させてやる!
「ブレーダー・トレード!」
俺の能力は至ってシンプル、両手にはめている指輪を相手にはめる。ネット友達のスタンド使いみたくカッコいいビジョンは出せないし、物を破壊するパワーはないが……そんなもんがなくたって揉め事は収められる。
指輪を嵌めた手を対象に向けて、どの部位をはめるか決定した瞬間、指輪は手元から消失……刹那、オールバックの男の両手首は淡い光を放ちながら磁石が引かれ合うかのようにくっつくと、瞬く間に両手を拘束する「指輪」が形成される。続けざまに両足も拘束して手足の動きを封じられたオールバックの男は、何が起こっているか理解できず慌ててしまいバランスを崩して転倒してしまう。これで芋虫の出来上がり!
「兄貴!?」
兄貴分の身に起こった異常事態に舎弟たちはどよめく。ありがてぇ!ここにスタンド使いが一人でもいりゃ間違いなく俺に反撃を仕掛けてくるだろうが……何も知らない素人は奇妙な事態に遭遇して、判断が一手遅れる。その隙にパンチパーマ、スキンヘッドの両手両足を拘束していく。
「ぬおおおおおおおおおおおお!?!」
俺の仕業だと察したのか、近くにいたスキンヘッドは雄叫びをあげたかと思えば、巨体を活かして俺に多い被るように倒れてきて……痛ぇ!?そんなの都合良くホイホイ避けれないって馬鹿野郎!?
「よくやった沼田!坂本と豊田!そいつを今すぐ殺せ!そいつはスタンド使いだ!?」
バ、バレてる!?なんでぇ?……いや、引きこもりでニートの俺ですら運命の巡り合わせでスタンド使いになっているんだ。筋もんの皆様の知り合いにだってスタンド使いがいるかもしれない。俺は必死にスキンヘッドのボディプレスから抜けだそうするが、巨体は岩石のようにびくとも動かない………………沼田あああぁああああぁあッ!
そうこうしている内に角刈りとツーブロックがにじり寄ってくる……俺は巨体に押し潰されて脱出不可能、舎弟二人は兄貴たちの仇をとろうと近づいてくるが……………それでいい。面子や体裁を気にするあまり、援軍を呼ばなかったのは致命的な判断ミスだ。
身体の自由は奪われても辛うじて両手は動かせる……ノコノコとスタンド使いの射程圏内に入ってきた間抜けコンビを〈ブレーダー・トレード〉で拘束するのは容易い。
これで俺は手持ちの指輪を使いきり、能力を発動を発動する事はできなくなった。依然として巨漢のボディプレスから抜け出せず、筋もんさんたちも手足を拘束されて動けないまま全員床に転がってる……何この泥試合?想像してたのと違うよ。お互いに手も足も出せなくなった以上、後は自由に動かせる口で勝負するしかない。
「あ、あの……ホント、俺もこれ以上、何もできないんすよ。皆さんもそーだと思うんすけどね。でも、こーでもしないと俺みたいな無職童貞引き込みりのニート、本職の皆様に舐められてまともに話あ合いが出来ないと思ったから、強行手段を取らせていただきました」―――俺が言葉を紡いでいると、パンチパーマの男が「テメェ!こんなことしやがって、ただで済むと思うなよ!」と凄まじい剣幕で脅しをかけてくる。
153
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/02(火) 21:38:27 ID:Rl7Cia1c0
相変わらずチビりそうになるくらい滅茶苦茶恐いが、ここで食い下がっちゃいられない。相手は筋もんの皆様……この面子も糞も関係ないカオスな状況下であろうとも、きっと面子や体裁を重んじてくるんだろうが……交渉相手として考えればまだ分かりやすい部類なのかもしれない。相手はメンヘラや殺人鬼・無敵の人みたいなキチガイバーサーカーではなく、損得勘定ができるビジネスサディストだ。
「はい勿論!ただで済むなんて思っちゃいませんよ!だから手打ちにさせてください!堅気の俺が貴方たちをどーこうしようだなんて調子に乗った事はしません!何か揉め事があったら呼んでください!この通り戦闘力は皆無ですが……相手の動きを封じるのは十八番です!あ、あと……知り合いに皆様と同じような人たちと仕事をしているスタンド使いがいるんですよ。そいつの事も紹介します!もしかしたら『ここ』の代わりになるかもしれません!」
助かりたいあまり、勢いでネット仲間のスタンド使いの事を売ってしまったが……こんな材木加工工場で材木以外の何かを処理している筋もんの皆様には売って付けの相手だ。友達をヤクザに売ってしまった罪悪感がひしひしと心にのしかかってくるが……ビジネスライクなヤツだから、金の話に通じればきっと許してくれるハズだ!
そんな、なりふり構わない俺をオールバックの兄貴分は……情けなく床に寝そべりながらも、冷ややかな白い眼差しをこちらに向けるながら「兄ちゃん……お前みたいな堅気は中々いないぜ」と呟いた。
★
「かくかくしかしがこーゆーことがありまして、このとーりです。助けてください」
『ハァ?』
あれから数時間後、俺は筋もんの皆様と一緒に黒のセンチュリーに乗りながらネット仲間のスタンド使いの自宅にやって来た。予め電話して事情を説明していた事もあり、スムーズに出迎えてくれたが、玄関先で出迎えてくれた友人「宇佐見」の視線が刺さるように痛い。
俺と一緒にオールバックの兄貴分とスキンヘッドの巨漢、そして彼等の間に挟まれるように工場長も一緒に二階建ての屋内に入るが……最後列で工場長を監視していたスキンヘッドの男が突如「うわぁああああッ」と裏返った悲鳴をあげる。
何事かと俺とオールバックの兄貴分が振り返ると、先ほどまで死んだ魚のような目をしながらとぼとぼ歩いていた工場長の上半身が……人の形をした虫の怪物に貪り喰われている。スタンド使いの俺には宇佐見のスタンド能力〈ピーキー・ソルト〉のビジョンが見えているので、何が起こっているのか理解できるが……スタンド使いではない未能力者たちは、立ったまま上半身が消失していく死体の姿を見て、酷く狼狽して醜態を晒す事はなかったが、全身から冷や汗を吹き出しながら絶句していた。
そんな筋もんたちの様子を冷静に観察する宇佐見は、瞬く間に工場長の死体を〈ピーキー・ソルト〉にペロリと平らげさせると、間を空けずに交渉を畳み掛ける。
「ひとまず……そいつの処理はタダでいい。その代わりそこのクズ野郎の事は許してやってくれ……こいつはヘタレのマザコンの粗チン野郎で、他人を不幸に巻き込んで道連れにしようとも、無自覚な被害者のままでいられる「真の邪悪」だが……まぁ能力は便利だ。都合の良い駒だがら好きなだけ使い潰した方がいい。それはそうと……今後は代金次第で別の死体を処理してやってもいい。俺とアンタたちならお互いにwin-winな関係を築けれると思うがどうだろう?」
罵詈雑言は甘んじて受け入れよう。ぐうの音もでない正論だ。そもそも、本当にそんな酷いことを思っているなら俺は最初から見棄てられているハズだ。……………そうだよね?いいや、そうだ!宇佐見は同じ引きこもりの若者とは到底思えない、ギラギラした邪悪な立ち振舞いで、ヤクザに臆する様子は一切みせない。オールバックの兄貴分もそんな宇佐見の態度と能力が気に入ったのか「相場はいくらだ?」と尋ねると、懐から名刺を取り出している。
やはりプロの自宅警備員(?)は格が違うな。よし……たぶん何とかなった!お偉いさんたちでビジネストークをしてるなら場違いな無職は足早に去るべし。俺はこっそりこの場から逃げ出そうとするが、それを察したのか、何故かスキンヘッドの巨漢は俺の手を握りしめると離してくれない………………沼田あああぁああああぁあッ!
★
……前略オフクロ様
なんやかんやあって最初の社会復帰には失敗しちゃいましたが、別のアルバイトを見つける事が出来ました。
ですが……思いっきり反社的な裏家業で、見慣れない人たちに囲まれていささか戸惑っています。
『おう、市原!仕事だ!打ち合わせをしたいから事務所に来てくれ!』
「わァ…ぁ……」
154
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 13:17:00 ID:HlisFbGs0
【課題名】
>>25
ATMの彼女
【使用オリスタ】
No.1029 ネバー・ゴーイング・ノーウェア
【解答】
奇妙な事の多い人生を送って来ました。
自分には、非スタンド使いが送る生活というものが見当つかないのです。
自分が物心ついた時にはこの愛しい御方が側に立っていたのですが、それが異常である事に気付いたのは、よほど大きくなってからの事でした。
「スーツ姿のカッコいいお兄さん……?アナタ、何を言っているの?そんな人何処にもいないじゃあない。」
子供の自分はその御方が他者の眼にも見えているだろうと信じ込み、幾度となく逢瀬を重ねていました。
成長するにつれて私に想いを寄せる殿方も多く現れたのですが、私が裏で「幽霊と話す変な子」と呼ばれている事を発見しては勝手に醒めているようでした。
まあ、私には彼が居るのでだからどうという事もありませんでしたが。
しかし、「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」。
何処ぞのサザエさんに似た……もとい個性的なヘアースタイルの青年が言及した法則により、私と彼は様々なスタンド使い、若しくはそれに準ずる奇妙な輩に遭遇する事となりました。
今目の前で床にうずくまり、現金自動預け払い機─────都会風に呼べばATMに顔をベッタリと密着させている女性などはその良い例と言えるでしょう。
「あの〜……お金を下ろしたいので、其処を退いてはくれませんかね?」
私の言葉に女は鬼のような形相で此方に向き直って「私とATMくんは愛し合っている」「お前達も恋人同士の引き剥がそうとするのか」と金切り声で喚き立て──────その姿は、私に戸惑いとある種の同族意識を与えました。
つまり、分からなかったのです。
時に現金を預け、時に現金を引き出す為に作られた機械に向けられた、この女のイマキュレート(汚れの無い)な愛情が。
しかし目を充血させながらも涙を浮かべ、ひしとATMに抱きつく彼女の姿は、何処かかつての私自身を想い起こさせるものでした。
恐らく、彼女は不安に苛まれているのでしょう。
自分が抱いている愛情と、世間一般でそう呼ばれている感情が全く以て違うらしい。
周囲からの不理解や否定、嘲笑………私もかつてはその事で思い悩み、時に気が狂いそうになった事すらあります。
「私達の愛を邪魔するなら、ここで死ねェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
などと考えている内に何時しか女は怒り狂い、カッターナイフを手に此方へと突進して来ました。
それでも私は、彼女を傷付ける事が出来そうにありませんでした。人が見れば「下らない事考えてないでサッサと逃げるか殴るかしろよ」と思う事でしょう。
しかし、自分にとってそれは自分自身を否定する行為だったのです。
彼女を殴れば、私自身もまた同じだけ傷付くのです。
155
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 13:17:26 ID:HlisFbGs0
>>154
そこで考え出したのは、私の「愛の形」を彼女に見せ付ける事でした。
カッターを振り回す女からして見ればたった1人の、しかし私の視点では愛しい彼との接吻でした。
ガギィンッ……!
愛しい彼……『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』と唇を重ねた私の腹に刃が突き立てられ────そのまま音を立ててへし折れました。
「えっ?……えぇっ…………?」
それを見た女の顔に、驚きの表情が浮かび上がりました。
ガギィッ!ガギン!
女が折れたカッターナイフを二度三度と私に突き立て、虚しい音が狭い部屋に響きました。
最後などは根元から刃が砕けてしまい、最早使い物にならなくなったほどです。
世間の目に対していつも恐怖に震いおののき、また人間としての自分の愛情に微塵も自信を持つ事が出来ない。
そんな過去の自分を胸の中に思い起こし、呆然とした彼女の内に隠されたナアヴァスネス(憂鬱)に向けて、私は彼から唇を離してこう言いました。
「分かるかしら?………これが、私の愛なの。」
私ならば彼女の苦しみ、その絶望の理解者となれるだろう。
そして彼女もまた、私の愛の形を肯定してくれるかもしれない。
世間からは理解されぬ愛を貫く者同士、互いに心を交わした隣人と成り得るのではないか──────
そんな事を考えている内に、自然と唇が動いたのです。
しかし、嗚呼、残酷な現実!
「な、何を言ってるの……?意味、わかんないわよ………!」
彼女から向けられた困惑の念は、私の幻想を木っ端微塵に打ち砕きました。
『ATM』と『自分自身のスタンド』………矛先は違えど理解されぬ愛を貫く者同士ならば分かり合える。
それが、私の心に宿った微かな希望でした。
しかしそれも砕け散った今、最早私と彼女が対話を行う事は意味を持ちません。
「『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』……さよなら。」
ドガァッ!
愛しい彼の奮った拳が女の頰を捉え、意識を奪い取りました。
そして彼の手を介して伝わるじんじんとした痛みだけが残り、私の心を苛みました。
そうして私はATMから今月の生活費を引き出し、沈んだ気持ちで帰路についたのです。
◆
「………………俺は一体、何を聞かされたんだ?」
「取り調べお疲れ様です、警部。先日拘留された犯人は容疑を認めたんですか?」
「あぁ。でもまあ今回のは正当防衛だし、容疑者が貴重なスタンド使いだってんで特にお咎めは無いそうだ。
二、三日トラ箱に入って貰った後は『アンカー』の方々が詳しい話を聞くんだとさ。もしかしたら勧誘でもするのかもしれん。」
「結構丸く収まりましたねぇ。でも警部、その割に疲れた顔してません?」
「いやぁ、まあ……ちょっとな。………なぁお前さ、愛って何だと思う?」
「………………どーしたんすか、急に?」
156
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/07(日) 22:59:13 ID:BRE2f7eY0
>>154
解答の投稿有り難うございます!
『ネバー・ゴーイング・ノーウェア』本体の心理描写や背景が一人称視点で丁寧に描写されているのと、奇妙な愛と共感という今まであまり見かけなかったテーマがかけ合わさり、シンプルにふつくしいスマートな解答に仕上がっていると思います!
157
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/16(火) 21:38:43 ID:1XjJhfls0
【課題名】
>>47
近海漁業初日
【使用オリスタ】
No.No.8853 ウェアー・ブルー・イズ
【解答】
真夏の熱気も潮風と共に吹き抜ける小さな漁港、港内には漁師や釣り人のお裾分けを狙う人懐っこい野良猫たちが住み着いており、余所者だろうとお構い無く歓迎してくれる。
「なぁ〜」
「よ〜しよしよしよしよし、そんなにじゃれついてきても何も出せないぜ。でも、まぁ……よし!ちょっとくらい魚をつまみ食わせてやるから待っててくれよなぁ〜。俄然ヤル気が出てきたぜぇ〜〜〜海の漢!」
胸元に青いサングラスをかける男は道端で出会った黒猫と一通り戯れ終えると、停めていたロードバイクのサイドスタンドを上げて、目的地に向かって颯爽とペダルを漕ぎ始める。
彼は真夏の長期休暇を利用して一攫千金に想いを馳せる学生だ。ただお金を稼ぐだけなら近場のアルバイトでも十分事足りるだろうが、季節が夏という事もあり海に惹かれ、蒸し暑いコンクリートジャングルから脱出を図り……隣町で募集していた漁師のアルバイトに目を付けて、チャリでここまでやってきたらしい。
(夜明け前に出港して、日の出前に港に帰れる漁師のアルバイト!リミットブレイクした暗黒の始業時間に目を瞑れば、時給はなんと●●●●円!おったまげぇ〜!何よりもお天道様が拝める頃に仕事を上がれるのが良い!乗るッきゃね〜ぜ!この金色のビッグウェーブ!)
男の双眸の向こう側では諭吉と一葉が出会い、見つめあって良い雰囲気になったかと思えば、量産化された無数の英世たちが乱入してきて陽気なミュージカルをおっ始めてるかもしれない。そんなギャグ漫画みたいな謎のテンションのまま、この男は金に目が眩んでしまっていた。
面接場所である漁協組合の事務所を訪ねると、タコ頭にねじり鉢巻を巻いたガタイの良い爺さんが出迎えてくれた。
「あっ!どーも、こんちゃーす!漁師のアルバイトの面接に来たんですけど…」
「おぉ!よぉ来てくれたな兄ちゃん!若いの大歓迎だぜ!チャラそうだが覚悟は出来てるか?」
「ヤル気だけでここまで馳せ参じてきました!漁師のバイトは初めてですが、仕事を覚えてザクザクお金を稼ぎたいんです!」
「……よし、金が欲しけりゃついてこい」
「うっす!」
そのままタコ頭の爺さんの後についていく事になったが、何故か面接をするような応接室や会議室ではなく、漁で使用する道具を保管する倉庫の中に案内された。そこでタコ頭の爺さんは壁にかけていたゴム長ズボンを手に取る。
「よし、兄ちゃん。これを着たら船に乗るぞ」
「えっ?面接は?」
「こんなところまでヤル気があって来てくれるもの好きはそれだけで即採用だよ。でもヤル気だけがあっても漁師は勤まらねぇ……軽く体を動かして船に乗りながらお前さんの…………アレだアレ、適正を判断してやるよ。分かったならさっさと着てくれ」
タコ頭の爺さんはどこか歯切れが悪そうに、もっともらしい事を語りながら男にゴム長ズボンを手渡してきた。
あまりにも早急で事前の説明にない不審な態度、察しの良い人物ならこの時点で違和感に気がついていたかもしれないが……残念ながらこの男は暢気に(一次面接突破ーッ)程度にしか考えちゃいない。
158
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/16(火) 21:39:18 ID:1XjJhfls0
何の疑いもなく手渡されたゴム長ズボンに足を通そうとすると……チクリと鋭い何かがひっかかる。
「痛!……ちょっとこれ何かトゲみたいなのついてるんすけど…………って、アレ?な、何かおかしいよコレ?」
足に軽い痛みを感じた男はさすがに何かがおかしいと気がついてゴム長ズボンを脱ごうとするが、足に上手く力が入らなくなり、その場から動けなくなってしまった。
異常事態に冷や汗を吹き出す男の様子を見て、タコ頭の爺さんは今までにハキハキした口調とは打って変わり、沈鬱な面持ちでアルバイトのネタばらしを始める。
「凄いだろそれ……カサゴの毒を抽出して特別な方法で配合した秘伝の麻痺毒だ。痛みはさほどないが、お前の右足はもう数時間はまともに動かせなくなった」
突拍子もない事を言ってるようでいて、実際に男の右足の感覚は消失しており片足で何とか立っているような状態だ。
状況が飲み込めず混乱している男を余所に、倉庫の外から続々と漁師たちがやってきた。彼等も当然タコ頭の爺さんとはグルらしく、その場で動けずにいる間抜けな男を見るなりガヤを飛ばす。
「さすがぱっつぁん!ベテランの名演技でしたぜ!」
「いやぁ良かった良かった!やっとこさ供物を確保できましたね!」
「これで不漁も収まるだろう。近海の主も鎮まってくれるハズだ」
(………………ワンピース?)
男は漁師たちの発言から自分に一番馴染み深い言葉に一瞬反応してしまうが、すぐに会話の流れと現状を整理して、自分がこれから近海の主の生け贄にされる事を察する。
漁師たちの狡猾な罠にハマリ、片足の自由は奪われてしまったが……男にはこの危機的手段を打破する手段を握っている。
「何か勝手に盛り上がってるところで悪いけどさ……ガキだからって、あまり人様を舐めんなよ」
男は啖呵を切りながら胸元にかけていた青いサングラスをかけると―――その場に居合わせた漁師の一人が、突然蹴り飛ばされたかのように吹き飛ぶ。
それを皮切りに、漁師たちは何が起こっているのか理解できないまま、見えない何かに強襲を仕掛けられた。
青いサングラスをかけた男の視界には、霞のようにぼやけた人型スタンド〈ウェアー・ブルー・イズ〉が出現し、漁師を軽快に蹴り飛ばしていた。
男が瞬きする動作に合わせて〈ウェアー・ブルー・イズ〉は姿を跡形もなく霧散させては、見開かれた男の視点に合わせて再出現を繰り返す。それはまるで神出鬼没な鬼の如く、空中を軽やかに舞いながら漁師たちを次々と薙ぎ倒していく。
「な、なんじゃこりゃ!?」
「お前の仕業か!この野郎!」
何が起こっているか理解できない漁師たちだが、本能的にこの怪現象の犯人を男だと断定し始める。
一人の海士が手に持っていた銛を突進しながら突き刺そうとするが、男はその動きに合わせるように〈ウェアー・ブルー・イズ〉を漁師の目前に出現させて殴り飛ばすが……海士も意地を見せて銛を男めがけて打ち出す!
ゴムの反発力で射出された銛は、男の頭部を掠めて青いサングラスを吹き飛ばしてしまった。
「ゑっ!?」
非スタンド使いの漁師相手に無双して気持ちよくなっていた男は、予期せぬ緊急事態に思わず声が裏返ってしまい動揺を隠しきれない。
漁師たちも見えない何から一方的に振るわれ続けた暴力が、忽然と鳴りを潜めた事に気がつくと……床に落ちた青いサングラスを這いつくばりながら拾おうとする無様の男の元に詰めより、怒気を秘めた冷たい眼差しで見下ろす。
男のスタンド能力〈ウェアー・ブルー・イズ〉は本体の視覚情報を元に、青系統色に見えた物・光景を起点にスタンドを発現させる。良くも悪くも本体が認識する視覚情報に左右され、発現したスタンドの起点から本体が目を離す・瞬きをすると、スタンドは維持出来ず霧散する。
その特性ゆえに本体は青いサングラスをかけて、視界のどこからでもスタンドを出し入れできるようにしているが……それがなくなれば扱い辛い部類に入る能力だ。
発現したスタンドのパワー・スピードは青系統色の面積に比例して上昇し、それに反比例するように持続力は低下するため、衣類の一部に紛れ込んだような青色程度だと無力な小人サイズのスタンドしか発現できない。
「ウェアー・ブルー・イズ……」
「覚悟の準備はいいか、兄ちゃん?」
159
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/16(火) 21:40:21 ID:1XjJhfls0
★
青い空、紺碧の海、近海の大海原を進航する漁船の船首には、頭部にズタ袋を被せられ、ロープで全身を縛り付けられて拘束された男が何も出来ずに寝転がされていた。
あれから男は漁師たちにキッチリお礼参りをされて、近海の主の人身供養として海に放り込まれようとしていた。船が目的地の海域に到着すると男はズタ袋を外される。目前には自分を陥れたタコ頭の爺さんがいた。
「まったく派手にやってくれたな」
「……お互い様でしょ」
乱闘と私刑の影響でタコ頭の爺さんと男は全身に青アザが出来てひどい怪我をしているが、互いに平気な素振りで痩せ我慢をしながら軽口を叩き合う。
「何はともあれ後はお前さんを海に落とせば近海の主の怒りは鎮まる……恨めばいい」
「何だそれ。神だか何だか知らねーが、テメーのご機嫌を他人に取らせるなよ」
「神に人間の常識は通用せん」
「……素朴な疑問なんだけど、こんな時代遅れの迷信マジで信じてるの?」
「……本当にいるからこの時代まで、こんな因習が続いてる。組合の連中を目に見えない不思議な力でボコボコにしたお前みたいなヤツがいるなら……神に近しい存在も本当にいるとは考えられないか?」
「……………」
男は漁師たちの凶行を迷信に囚われた奇習だと決めつけていたが、タコ頭の爺さんの言う通り……スタンド使いみたいな超能力者がいるなら、もしかしたら神だっているかもしれない。自分自身が現実離れした特殊能力を宿しているが故に、男は漁師たちが語る近海の主と呼ばれる存在を否定しきる事ができなかったが……それならば、一つの可能性にかける事もできる。
「なぁ……俺のこと見逃してくれる?」
命乞いをする男を、タコ頭の爺さんはまるで養豚場のブタでも見るかのように冷たい眼差しを向けるのみ……無言の圧を受け取った男はいよいよ覚悟を決める。
「んじゃ俺がそいつをぶん殴ってきてやる。はやく海に放り投げてくれよ」
妙に潔くなった男の態度を見てタコ頭の爺さんは眉を潜めるが、これ以上喋っていれば情に絆されてしまう……タコ頭の爺さんは無言のまま、ロープで縛った男を抱えると海に放り投げる。男は最後まで目を見開いたまま、ボチャリと音を立てたかと思えばほの暗い海中に沈んでいく。
「近海の主よ!お望み通りの人身御供だ!鎮まりたまえ!このクソッタレめ!!」
汚れ仕事をやりきったタコ頭の爺さんは、苦虫を噛み潰したような顔をしながら物言わぬ大海原に大声で語りかける。
神に近しい存在を罵倒しようとも、しきたりに従い生け贄を差し出せば、海はいつも通り穏やかさを取り戻すが………………それは突然!海中から数十メートルはある巨大なウツボが飛び出てきたかと思えば、空の彼方へと吹き飛んでいったッ!
鳩が豆鉄砲を食らったかのように、タコ頭の爺さんは事態が飲み込めず唖然としている最中、海中から巨大な何かがゆっくりと浮上してくる。
それはロープに縛られたあの男だが、どういう分けかそのまま空中に浮遊している。男はタコ頭の爺さんにも目をくれず、海を見下ろしたまま「獲ったどぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ」と雄たけびを上げだす。
男の視界にはどこまでも広がる青い大海原を起点に、巨大な姿で出現した〈ウェアー・ブルー・イズ〉がいたが、火事場の馬鹿力で拡張していた持続力は限界を迎えてしまい、海神の如き巨体は儚く霧散する。
男は再び無防備な状態のまま海中に落ちていくが……それを見捨て去る程、タコ頭の爺さんは近海の主を信奉してはいなかった。
160
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/30(火) 21:36:55 ID:T2Lf3QQ20
【課題名】
>>48
リングボックス
【使用オリスタ】
No.8014 ラブ・ジス・モーメント→本体名『しょう子』
【解答】
蒸し暑い真夏の夕暮れ、街中を行き交う人々に冷たい風がそよ吹けば、茜色に染まった空に暗雲が垂れ込み、天恵とは程遠い土砂降りの大雨が降り注ぐ。にわか雨ならすぐに収まるが……雨足は徐々に激しさを増し、曇天に稲光が閃けば、瞬く間に雷鳴が轟く。
天気予報も予測しきれなかった嵐のような夕立ち。お天道様の気紛れに振り回される人々は、びしょ濡れになりながら雨宿り出来る所に避難する。
「はぁ〜服がびちょびちょ、急に降るなんて最悪」
女子高生の『しょう子』もたまたま近くにあった電話ボックスの中に逃げ込み、豪雨が収まるまで雨宿りしようとしていた。肩掛けのエコバックには彼女の嗜好品(推しのグッズ)がたんまりつまっており、傘を持ち歩いていなかった以上、大切なお宝を冷たい雨に晒したくない。
雨が収まるまで特にやる事もなく、しょう子はスマホで線の細い美男子たちが絡み合うボーイズラブの電子書籍を読み漁り、男同士の友情から発展した尊い純愛、決して現実世界では起こり得ないディープ・ダーク・ファンタジーに感銘を受けていたが……これから彼女は夕立が遥かにマシと思えてしまうぐらい最悪な事態に遭遇してしまう。
「あ^ぁらぁ〜お盛んですわぁ〜デュフフフフ」
誰もいない密室を良いことに、腐女子は他人に決して晒す事の出来ない下品な表情を浮かべていると……それは突然に、電話ボックスに身長190cmはあるであろう金髪碧眼の筋肉モリモリマッチョマンの外国人が断りもなく勝手に入ってきたのだ。
絶句、そして恐怖と絶望にしょう子の全身が押し潰されそうになる。外は大雨、逃げ場のない息苦しい密室に謎の大男と二人っきり……何も起こらないハズがない。それはもうコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実……と、しょう子はこれから起こりうる最悪の事態を予想して顔を青ざめさせていた。
しかし、事態は彼女の予想の斜め上を軽々と突き抜ける。大男はしょう子のことなどまるで眼中になく、力強い足取りで電話ボックスに迫り来る身長2メートルは越えている筋肉モリモリマッチョマンの坊主頭の外国人に視線を向けていた。巨漢もそんな大男に用事があるようで、電話ボックスの中に乱入してきた。
三人用の電話ボックスなど存在しない。2人でも定員オーバーなのに、こんな巨人が入り込んではぎゅうぎゅう詰めである。一番小柄なしょう子は両手で頭を守りながら屈み込み、勇気を振り絞り「ちょっと、な、な、何なんですか!?」と必死に抗議する。
しかし、大男と巨漢は向かい合ってガンを飛ばし合い、やはりしょう子のことなどまるで興味なさそうだ。彼女はてっきりエロ同人みたく乱暴されると本気で肝を冷やしていたので、一番危惧していた可能性が消失したのは喜ばしい事だが……危機的状況は依然として変わりない。
こんな狭い密室にわざわざ入り込んできて、このまま穏便に終わるハズがないと……彼女の妄想力がそう告げている。
161
:
名無しのスタンド使い
:2024/04/30(火) 21:37:31 ID:T2Lf3QQ20
「ここならサイズの差はハンデにならない。むしろ…不利なのはそちら…」
先に入ってきた男がそんな事を言い出したかと思えば………………
ドン!!!!
圧倒的な超暴力が炸裂する!大男の拳が巨漢の口元を殴り付けたのを皮切りに、続けざまに繰り出したアッパーカットで頭部を天井に打ち付け、ハンマーのように振り回す肘打ちの連打で巨漢の体勢を崩すと、後頭部を両手で押さえつけて……失神KOを狙った怒涛の膝蹴りをお見舞いする。その暴れっぷりは凄まじく、極小のリングボックスは大男の暴力の余波を受けて文字通り震え上がっていた。
「きゃああああああああああああああ!!??」
この息のつまる至近距離で大暴れされては、例え暴力が自分に向けられていなくても恐怖を感じる。寧ろとばっちりがいつ自分に飛んできてもおかしくない抜き差しならない状況だ。しょう子は必死に身を屈めて身を守る他ない。
大男の一方的な展開が続くが、巨漢も未だに不沈艦の如く立ち続けている。渾身の力を込めた拳を解き放てば……大男の顔面を真横に掠めて、電話ボックスの強化ガラスを軽々突貫してみせたのだ。
剛力任せの規格外な一撃に大男は驚愕の表情を浮かべ、勢いづいていた連撃の手が思わず止まる。巨漢はあれだけ激しい暴力を受けたにも関わらず、鼻血を流しているだけで顔色一つ変えずに大男を無機質に凝視する。その眼差しにつられて大男も巨漢を睨み付けて………………互いにガンを飛ばしていると、最強の頂を目指す雄たちは今まで感じたことのない感情に襲われた。
『目と目が逢う瞬間に〜♪』
脳内に未だかつて聴いた事のない若い女性の歌声が溢れだしかのような錯覚に陥る。謎の現象に理解が追い付かず、あれだけ暴虐の限り躍動していた肉体は壊れたように静止して………………何故か互いに頬を赤らめていた!それはまるで初恋でもした生娘のように!?
そんな異常事態という名の絶好の隙をしょう子は見逃さず、四つん這いの姿勢で、そろりそろりと大男たちの股下をすり抜けて電話ボックスから脱出してみせた。
相変わらず雄たちは事態が飲み込めずフリーズしたまま、その様子を外から眺めるしょう子は、雨にも濡れることも忘れて、自分の手の内に宿る不思議な力に戦慄する。
「スゴいね……ラブ・ジス・モーメント」
巨漢が電話ボックスの強化ガラスを拳骨一発でぶち抜いた一瞬の隙に、しょう子は羽根の部分がハートの形になった、ピンクのダーツの矢……装備型スタンド〈ラブ・ジス・モーメント〉を両者に射し込み、『一目惚れ』を誘発させ、持続させる毒を打ち込んでみせたのだ。
暴力の応酬を繰り広げていた雄たちは、目の前の雄に一目惚れしてしまった自身の感情を理解できず、どうして良いかわからず初そうに戸惑っているのだ。
汗臭い筋肉達磨たちの相思相愛未満の尊い関係性……なり初めの瞬間を垣間見たしょう子は、涙ぐみながら「…美しい」と呟く。それはまるでこれ以上の芸術作品は存在し得ないと言いたげに……
しかし、その続きまでは現実に求めていない。
しょう子は推しのグッズがつまったエコバックを濡れないように抱えると、しっぽりとお楽しみを始めそうな良い雰囲気の二人に背を向けて、自分だけの深き闇の幻想の元へ帰る(※自宅です)
162
:
名無しのスタンド使い
:2024/05/14(火) 21:36:01 ID:rztmwYXo0
【課題名】
>>49
人体の奇妙な展示会
【使用オリスタ】
No.2210 ウォー・ペイント
No.2452 ラヴ・アフェア・イズ・ビリオンダラー(出逢いは億千万)
No.7271 ディスポーザブル・ヒーローズ
No.4186 ディフィカルト・アート
No.2159 NO3
【解答】
虚空を見つめる瞳はどこまでも暗く虚ろなまま、逞しい筋肉繊維を文字通り剥き出した男性は、ミケランジェロのダビデ像のポーズをとったまま直立している。
これは精巧に作られた蝋人形ではなく、本物の人間を使用した標本だ。肉体に含まれる水分や脂肪分を合成樹脂に置き換える事で、死体を長期間保存可能にしたプラスティネーションと呼ばれる技術で処理されており、腐敗したり悪臭を放つこともないらしい。
ダビデ像のポージングをする標本以外にも、今にも駆け出しそうな躍動感溢れる体勢で固定された者、平均台の上でバッグブリッジバク転の真最中で静止する者、身体を縦に真っ二つに両断されて臓器を晒す者、背中を縦に引き裂かれ、背骨の断面図を晒す者……普段決して見ることの出来ない人体の構造や仕組みを観察できる貴重な標本が、薄暗い博物館内の至る所で展示されている。
この企画は所謂いわく付きの興行で、かつては某国で行方不明になった『アナウンサー』の特徴がいくつも当てはまる『妊婦』の標本が展示されていたり、出所不明な標本の数々が高額で取引されるなど黒い噂が絶えず、各方面から人道・倫理的な観点から問題視されて、長らく開催をされずにいた見世物だったが……どういう訳か『人体の奇妙な展示会』と名を改めてゲリラ的に復活したようだ。
最も博物館内は、平日という事もあり客の数は疎らでそこまで盛況している訳でもなく、閑古鳥が今にも鳴きだしそうだが……数少ない来場者たちが知るよしもない裏事情を知る者たちは、閑散な事を好機と捉え、ある『もの』を血眼になって探していた。
★
高級ホテルの最上階の一室、豪奢な室内でソファにどっしりと座る成金趣味の中年男性は、白目を向きながらうわ言を呟き続けている。
そんな彼を見下ろすように佇むアイドル歌手のようなオーラを纏うイケメンがおり、そのすぐ隣には黄金の獅子をイメージさせる人型スタンド〈ラヴ・アフェア・イズ・ビリオンダラー(出逢いは億千万)〉が能力を行使中だ。
中年男性の頭部に手をかざして何かを掴んではこねくり回すような素振りをしており、その度に男は身体を痙攣させながら個人情報や直近の同行を洗いざらい打ち明け始め……早速イケメンが探し求めていた情報を引き当てた。
彼等の周りには黒服の男女がパソコンや種類に、眼を釘付けにしながら読み漁っていたが、中年男性の口から語られた情報を耳にするや否や、一斉に手を止めて固唾を飲む。
当たりを引けたが状況は依然として最悪だ。イケメンは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、懐からスマートフォンを取り出すと、スピーカーモードに設定して通話を開始する。
「ボス、プロモーターも黒でした。直接対話を試みましたが、パープルヘイズ・ウィルスはそこの展示物の中に潜んでいるのは間違いないようです…………私もそちらに向かいましょうか?」
夥しい量の人間標本が展示される博物館内を足早に散策していたスーツ姿の女性は、着信を受けたスマートフォンを取り出すと、スピーカーを耳に当てながら立ち止まる。
「報告ありがとう。貴方は引き続きバックアップをお願いします。私が直接動いている以上……万が一のことが起こった場合、『アンカー』を取り纏められるのは貴方しかいません。進捗があれば情報を取り纏めて、引き続き報告をお願いします」
『了解しました………………ボス、ご武運をお祈りしています』
最高幹部のイケメンから報告を受け終えた女性…………『アンカー』のボスは現在進行形で直面している問題に立ち向かうため、直々に引き連れてきた組織のメンバーに指示を仰ぐ。
『アンカ―』……それは世界征服という途方もない野望を大前提に掲げる一方で、身の回りの環境を保全していく、地道な草の根活動を鋭意継続し続ける足が地についた組織だ。
環境保全という大義名分を足掛かりに、世界中からパトロンを引き込み、表舞台で合法的な手段で堂々と活動しており、その覚悟が環を広げ、引かれた者達が集うスタンド使いの一大勢力である。
そんな組織のトップが自らチームを編成して現場に足を運ぶ事は異例中の異例。表面化こそしていないだけで事態は緊迫している。
163
:
名無しのスタンド使い
:2024/05/14(火) 21:36:55 ID:rztmwYXo0
「皆さん、パープルヘイズ・ウィルスを内包した標本はここにあるのは間違いないようです。事前の打ち合わせ通り、事に当たりま――――――」
ボスが現場に集結してくれた幹部や構成員たちと向き合う最中、事態は一切の容赦なく動き出す。
閑散とした館内にドサリと何かが倒れるような鈍い音がしたかと思えば、来場者の女性が床に倒れ伏している。
たまたま近くにいた警備員が異常を察知して、即座に女性の元に駆け寄ろうとするが……女性を介抱する間も、触れる間も無く、警備員は全身がトマトの缶詰めみたくグジュグジュに崩れ、煙を噴き出しながら跡形もなく蒸発してしまった。
獰猛な殺人ウィルスの正体を知る者は一様に冷や汗をかきやがら身構える。『パープルヘイズ・ウィルス』……元々はイタリア全域を活動領域とするギャング組織『パッショーネ』に所属するスタンド使いの能力由来する殺人ウィルスだ。
どのような経緯・ルートで入手したかは定かではないが、この博物館内にはそのウィルスを培養して増殖・改良を重ねて細菌兵器化されたものが、標本内部に仕込まれており……その封印は何の前触れもなく解き放たれてしまったらしい。
オリジナルのウィルスは光に極端に弱く室内ライト程度の光に数十秒程度当てれば完全に死滅するが、改良版の細菌兵器もそうとは限らない。
蒸発した死体を食らいつくしたウィルスは空気中に飛散し、新たな餌を貪り喰おうとするが……『アンカー』のボスはみすみすパンデミックの発生を赦さず、誰よりも速く先に動き出す。
「ウォー・ペイント」
ボスの真横に画家のようなマークが刻まれている人型スタンドが並び立つと、神憑り的な速度で床一面に絵画を描く。
それはボスを含めてこの場にいる『アンカー』のメンバーを描いた肖像画だ。その周囲にはドロドロに熔け崩れる死体のようものが描写されるが、『アンカー』のメンバーは誰一人欠ける事なく不変のまま。
〈ウォー・ペイント〉はスタンドが描いた人間の絵を見たモノの内、描かれた絵となんらかの共通点を持つ人間を絵と同じ状態にしてしまう。
今回は特定の個人を明確に描き、実際にウィルスの脅威を目視出来た事により能力の精度・パワーは高まり、パープルヘイズ・ウィルスすら無効化するにまで至った。
しかし、それだけでは根本的な解決までには至らない。ボスを一人だけの力ではパープルヘイズ・ウィルスを抹消することは叶わない。どんなに強力なスタンド使いも一人できる事はたかが知れている。だからこそ彼女たちは……『アンカー』は自分が出来ない事を補うために群れる。
「俺の出番だな」
ウィルスに耐性を得た『アンカー』構成員の男性は、女性と警備員がいた場所に一切恐れる事なく足を踏み入れる。その付近には人体の輪切りの断面図が展示されており、恐らくあれが感染源だ。
男は失った両腕の付け根から発現したスタンド能力〈ディスポーザブル・ヒーローズ〉で、最新の対吸血鬼用紫外線照射装置を取り込み、義手に作り替えていた。スタンド能力故にそのトリガーは彼の意思一つで反応し、周囲一帯に目映い光線が降り注ぎ、館内に広がりつつあった細菌兵器は滅菌していく。
館内に残るその他の来場者は、チョウチンアンコウのように頭から提灯がぶら下がっている人型スタンドと共に並び歩く紳士的な男が、声をかけて誘導し……まとまったところで小一時間程意識を奪い記憶を消失させる閃光弾を解き放つスタンド能力〈ディフィカルト・アート〉を発動して、事件そのものを揉み消してしまう。
「アッハッハッハッハッハ、やはり私たちの出る幕はありませんでしたねぇ」
何でも笑い飛ばせばいいと思っていそうな飄々とした幹部はボスの隣でいつものように笑っている。山場を越えた安堵の気持ちから、ボスも思わず笑みをこぼしながら一言だけ呟く。
「備えあれば憂いなしよ」
164
:
名無しのスタンド使い
:2024/05/28(火) 21:50:18 ID:hqKF9CwI0
【課題名】
>>60
私人処刑
【使用オリスタ】
No.3859 デ・グエロ(皆殺しの歌)
【解答】
静かで暗い夜更けの闇、辺鄙な山道には街灯と呼べる物はなく、夜空を見上げても雲が立ち込め、月明かりすら拝むことができないが……法定速度をガン無視ししながら走行する黒いカローラが今宵の静寂をブチ破る。
田舎でヤンチャしてる農家の倅が、走り屋の真似事でもしているのかもしれないが……車の運転者は碧眼の白人男性で、助手席には若い女性がうつむきながらうたた寝をしているようだ。
真夜中のドライブデートにしては、男の上っ面は氷像の如く、人肌の温かさを感じさせない無機質な顔つきをしており、やましい下心どころか人心すら持ち合わせていなそうで……女性も同様に人肌の温もりは既に消え失せており、物言わぬ亡骸の首元には絞殺の跡がくっきりと残っていた。
彼は女性を殺害して、大胆不敵にも助手席に死体を乗せながら山奥までやってきたのだ。勿論は目的は死体の処理、車のトランクには人体を跡形もなく、綺麗サッパリ透明にしてしまう為の器具や用品が揃っており、今回が初犯であるかのような動揺する素振り全くみせない、外道に堕ちた悪鬼である。
警察の検問に見つかれば、死体を隠す気のない厄ネタ役満のカローラなんて問答無用で1発アウトだろうが、生憎真夜中の辺鄙な山奥に警察の登場は見込めないだろう。
しかし、見透せぬ闇の中で蠢き続ける者は、底知れぬ深淵に潜む者たちに目をつけられてしまう。
夜の帳を引き裂くヘッドライトは、路上で立ち尽くす人影を照らし出す。
男は相変わらず顔色一つ変えはしないが、ブレーキを踏んで急停車する。既に一線を越えてはいるが、自分の足となる車を破損させて人の目に不用意に止まる事は避けたいのだ。
フロントガラスの向こう側には、顔を白い目出し帽で隠し、手にスタンガンを所持した板前姿の人がいた。体つき的に男性のようだが、鍛えているのか筋肉質で屈強な肉体をしている。
謎の板前は車が急停車する事は織り込み済みで、不意に駆け出したかと思えば……拳を振り上げ運転席の窓ガラスを殴打した瞬間、強化ガラスはひび割れが走り崩壊する。
それは力任せの一撃のように見えて違う。板前の拳の中指には翡翠の指輪が嵌められており、強い衝撃を一点に集中させる事で強化ガラスを容易に突破してみせたのだ。ホームセンターで販売している工具を活用すれば同じことは容易にできるかもしれないが……予想だにしない暴力の技術は虚仮威しに丁度いい。
どんなに人を殺めた外道だろうと、これをやられれると怯んでしまう。それは今現在謎の板前の襲撃を受けた男も例外ではなく、砕け散ったガラスに対処も出来ず、鉄面皮に包み込んだ目を丸くさせながら驚いてしまう他ない。
勿論、これだけで板前は止まらない。ガラスを突き破った拳の中に握りしめられていたバタフライナイフを手早く解放すると、事故に備えて男の身を守っていたシートベルトを引き裂き、その流れのまま右肩にナイフを突き刺す。後は怯んだ隙にターゲットを車から引きずり下ろして、スタンガンで締める算段だったが……男もただでは終わらない。
車から脱出するのが手間だったので板前に無理やり引きずり出してもらった。ガラスに全身が引き裂かれたが構わない。その瞬間、男の体は陽炎のように揺らめき……奇妙な形の赤い帽子を被り、全身白一色で目も鼻も口もない人型スタンド〈デ・グエロ〉を出現させると、板前には目視する事が適わないスタンドの拳を振り上げる。
板前は自分が想い描いた順序通りに事が運んでたようだが……そもそもド素人が近距離パワー型のスタンドに接近戦を挑むのは自殺行為に等しい。不可視の暴力に鳩尾を殴り付けられて吹き飛ばされてしまった。板前の手から離れた男は血だらけになりながらも膝をついて起き上がろうとするが……身体か痺れて上手く動かせないことに気がつく。
板前も相手が誰だか分からないまま通り魔のように襲撃していた訳ではない。彼は太平の世・江戸時代から続く、法で裁けぬ悪を挫く暗殺組織【仕事人】の系統を受け継いできた【処刑板前】……法を破る人間を拉致しては拷問をかけつつ処刑する、裏社会では名の知れた厄災にして抑止力、仕事人の一派に数えられるプロの殺し屋である。
彼等はスタンド能力こそ持ち合わせていないかもしれないが、時を越えて研鑽し続けてきた殺人技術は、今こうして人殺しの怪物を追い詰めようとしていた。
男は右肩に刺さったバタフライナイフを忌々しそうに睨み付けながら引き抜く。血液が迸り、大量出血は免れないが、麻痺性の神経毒が塗られた凶器をそのまま放置しておく訳にもいかない。立ち上がる事もままならず、無様に地を這う他ない。
165
:
名無しのスタンド使い
:2024/05/28(火) 21:50:42 ID:hqKF9CwI0
一方の処刑板前は〈デ・グエロ〉の強烈な一撃を受けたにも関わらず、何事もなかったかのようにムクリと起き上がる。〈デ・グエロ〉のスタンドパワーは破壊力に特化していないことも要因に数えられるが、処刑板前の白衣の内側には衝撃を分散するプロテクターが仕込まれていたのだろう。
路上に残る血の痕跡は山林に続いており、処刑板前は神経毒に侵される満身創痍のターゲットを足早に追跡する。
並みのスタンド使いならこの状況は詰みに等しいかもしれないが、処刑板前が狙う男はまさしく怪物……正しい手順で締めなければ、文字通り復活してしまう不死者なのだ。
「逃げるな卑怯者!お前の正体は知っている!12世紀から生き続け、各国に出没した殺人鬼!名を捨て顔を捨て、スタンド能力で生き永らえ続けて何を望む?」
相手の動揺を誘うように処刑板前は吠えていると、暗がりに包まれた木々の隙間から……「Curios」と、短い返答と共に血だらけの男は逃げも隠れもせず幽鬼のように現れた。しかも、神経毒が効いていないのか立ち上って歩き出している。
男を発見した瞬間、処刑板前は前掛けの内側に忍ばせていた白鞘の短刀を抜きながら疾駆、男の目元に狙いを定めて真横に凪払う。男は身を引いて避けようとするが……処刑板前の右手は柄縁から柄尻の頭まで横滑り、短刀の切先は予想以上に伸びて男の光を刈り取ってしまう。
指先の精妙な握力の調節がなせる妙技を受けた男は……痛みに悶え苦しむどころか「クハハハハハハハ!」と発狂したかのように笑い始めるが、すぐに喉笛を引き裂かれ、減らず口を叩くことすら許されず血液を噴出させる。
夥しい量の返り血を浴びる処刑板前は、そのまま男の身体を蹴り飛ばして間合いを離すと、懐からバタフライナイフを取り出して投擲するが……男の前に出る〈デ・グエロ〉はまるで、それが見えているかのように、拳で弾き飛ばしてみせる。
「Curios……好奇心だよ処刑板前」
〈デ・グエロ〉が見えない処刑板前には、スタンドの後方で控える男の姿が見えたが……ついさっき引き裂いたばかりの両眼と喉笛は、既に再生を終えて完治していた。
その面はつまらない娼婦の死体とドライブしていた時のような冷やかな様子から一転……目新しいオモチャを買い与えられた幼児の如く頬を赤らめるが、されど無垢とは程遠く……愛するあまり恋人の凡てを知りたがって欲するような……偏狂の凶笑が浮上する。
「君は……私が君の事を飽きる前に、私を殺し尽くしてくれるのか?縮地の脚裁きに、手品のような殺人術、久しく忘れていた神経毒に侵される感触、そして何よりもそそるのが、憤怒の激情を自在に駆る冷徹な殺意……お前は今までどれだけ人を殺してきた?素敵だ!実に素敵だよ!私を殺してくれるなら……代わりにお前の総てを差し出せ!」
いきなり興奮した調子で捲し立てくるので、ちょっと何言ってるか分からないが……怪物は人の形を保つ為の皮を、膨脹する筋肉で突き破り、無数の手足を生やしながら、夥しい量の眼を開眼をさせて……筆舌し難い文字通りの怪物のような姿に変身してゆく。
精神を直接揺さぶりかけてくる於曾ましい混沌、全身が粟立ち、死線の縁に立たされるような感覚に襲われる。処刑板前は即座にこの場から後退、全速力で逃走する。
アレは処刑板前が知らされた〈デ・グエロ〉の能力とは大きくかけ離れている。本来は本体とスタンドが殺害した者の数だけ、本体の命を増やす異能を秘めており、ストックしている命の残機を消費する事で生命力を活性化させるオプションがあるだけのハズだが……
12世紀からあらゆる他者の命を奪ってきた怪物の生命力の活性化・肉体変化の技術は、いつ頃からかタガが外れてしまい、本来の命の残機として数えられなかった人間以外の生物の特徴を利用するにまで至っていた。
「Hurry! Hurry! Hurry!Hurry!」
無数の口で呻き声をあげる怪物は、内に秘めた無数の命を煌々と燃やし、百足のように地を這い回り、邪魔や木々を凪払いながら処刑板前の追跡を開始する。
外道に裁きを下すのが処刑板前の使命だが……さすがにアレは手に余る。最も強襲による捕縛が失敗した時点で、処刑板前は不死身の怪物を相手取る気はない。後方から猛烈な勢いで接近してくる怪物に、置き土産の閃光弾を投げつける。
野放しには出来ない危険な相手だが……この手合いは正しい順序を踏まなければ殺しきれない。失敗を潔く受け入れて一度身を引かなければ、ジリ貧になりヤツの残機に加わるだけだ。
怪物は限りなく不死身であるが故に、閃光弾も避けることなく脆に食らってしまうが……それでも怯む様子はなく、処刑板前の臭いを頼りに猛進を続けて――
闇夜に暴走する〈皆殺しの歌〉は止まらない。
166
:
名無しのスタンド使い
:2024/05/28(火) 21:52:56 ID:hqKF9CwI0
問題も投稿!
【課題名】
マーティン・ショウ!!
【あらすじ】
貴方は杜王町を歩いていると、60年代のアメリカのクイズ番組の司会者風の自動操縦型のスタンド『
スクラップ・スクイーズ・ボックス』に遭遇しました。
『スクラップ・スクイーズ・ボックス』はスタンド使いの貴方を見るなり、うざ絡みをしながら勝手にクイズを出してきます。
無視を決め込んでも実況兼ストーキングをおっぱじめてきます。クイズに答えようにも意外と難しく、スマホで答を調べようとしたら、それはズルですと必死に俺ルールを発動、巨大なハンマーでスマホを叩き割ってこようとしてきます。
このままクイズに答えられないといずれ貴方も、巨大なハンマーで叩き潰されてしまいます。
【クリア条件】
どうにしかしてください。
澄口夕香(使用オリスタ本体)に遭遇して状況を打開できたらなんか芸術的(ボーナスポイント加算)
【使用オリスタ】
No.328 スクラップ・スクイーズ・ボックス
【補足情報】
ステージは杜王町固定、時間帯は指定しませんが、クイズを出されて日中なら日没まで夜なら日の出までに答えなければ強制的にハンマーで叩き割られてしまいます。
スクラップ・スクイーズ・ボックスに攻撃しようとしても、避けられてしまいます。
【課題名】
\アリだー!!/
【あらすじ】
近所に住むクソガキが大べそをかきながら踞っています。たまたま近くにいた貴方は気紛れで声をかけると、クソガキの全身には至るところに小さな銃創や爆創が出来ていました。
何が起こったのか尋ねると「アリだー!!」と半狂乱気味に叫ぶのみ。そうこうしているうちに雄の蟻が突然羽ばたいてきたかと思えばらクソガキに神風特攻を仕掛けて爆発四散しました。当たりどころかわるくクソガキは意識を失ってしまいます。
何やら異様な雰囲気を感じて、辺りを恐る恐る見渡すと貴方は既に蟻に囲まれていました。
【クリア条件】
兵器化している蟻の群を掻い潜り生き残れ!
【使用オリスタ】
No.3444 ブラック・コーヒー
【補足情報】
ステージは指定しません。
蟻の群はブラック・コーヒーの能力により兵器化しています。詳細は使用オリスタを参照してください。
クソガキは蟻の巣に小便をひっかける等の悪戯をして蟻の怒りを買っていると思います。
167
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/11(火) 21:38:40 ID:RIMBTqJ20
【課題名】
>>61
万博準備初日
【使用オリスタ】
No.4399 フルカラー・プログラム→本体名『藤波』
No.8339 ルーム・トゥ・ブリーズ→本体名『安西』
【解答】
朝日が昇り始める早朝、町中もまだ閑散としているが、駅前のバス停には40人ほど人が集まっており、一様に同じ灰色の作業服を着用している。
彼等はなんと某府で開催される国際博覧会の会場を工事する為の作業員らしい。最も何かしらの資格を有しているプロと言うよりは、どこにでもいるフリーターやくたびれたオッサンが大多数を占めている。元請けの大手ゼネコンが受注した仕事を一次請け・二次請けを介して彼等のような素人集団にも巡ってきたようだ。
しかし、そんな頼りない集団の中にも、面構えの違う者たちがいる。
「……思ったより人いますね」背は高いが少し童顔な男『藤波』は、辺りを見渡しながら先輩に声をかける。
くたびれたオッサンそのものな中年男性『安西』は「そりゃボロ儲けのアルバイトだからな」と煙草を吹かしながら返すと、藤波も合点がいった様子で、軽口を交える。
「あー確かにそうですね。俺も学生の時なら間違いなく食いついてると思います。そりゃもう、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実に」
「ただの優良バイトなら有難いが……上手い話には裏があるもんだ。今回もブラックどころかドス黒い案件かもしれんから気を引き締めとけよ」
「押忍、何かあったら特ダネすっぱ抜いてやりましょう!」
他の作業員たちと一緒に、到着予定の貸し切りバスを待つ彼等はスクープを狙う新聞記者らしく、国際博覧会の黒い噂を聞き付けて、わざわざ作業員に紛れ込んで潜入取材を敢行しているようだ。
しかし、工事現場のバイトにしても、その募集のかけ方が妙に笊過ぎる。履歴書を擬装して潜入している安西たちはそもそも論外だが……大多数の一般的な労働者に紛れて、使い物になるか怪しい老人や訳ありそうな伏し目の女・チャラ男・チンピラ・ボストロール・骨皮筋衛門……どういう基準で採用されているのかいまいち分からないが、数だけ揃えたいなら話は変わってくる。
(やはり……噂は本当なのかもな)
実際に集まっている人々の様子を見て安西の思案は確信に変わっていくが……後ろにいる藤波がまた急にはしゃぎ始めた。
「あっ安西さん、あの娘可愛くないですか?めっちゃ好みです」藤波が指差す方には、虚ろな表情で虚空を見つめる儚げな女がいるが……あれは恐らく薬物中毒者だろう。
「なんだお前、あーゆーのが好みなのか?」
「激マブですね」
「……止めとけ止めとけ、面が良くてもこんな仕事に紛れ込むようなヤツは分けありさんだぜ」
「安西さん、僕は彼女の是非を問うつもりはないですよ……ただ、ありのままの見た目が『ふつくしい』と思っただけなんです」
藤波は口許を手で隠しながら得意の声真似を勝手に披露してくる。彼の近くには小さな妖精の姿をしたスタンド〈フルカラー・プログラム〉が浮遊している。安西も皆まで言うつもりはないが……あまりにも浮わつき過ぎている。
「藤波、そいつを不用意に見せるな」
「あっすんません……でも安西さんと俺のコンビならどんなトラブルも逃げられるから大丈夫ですよ」
「買い被りすぎだよ馬鹿野郎……本当に抜き差しならない状況に陥ったとき、俺とお前だけの力じゃお手上げだよ。そこら辺、気を引き締めて考え直せ」
「…分かりました」
いつもなら軽口を返してくれる安西が、真剣な面持ちで怒っている様子を察した藤波は『フルカラー・プログラム』を解除して、自身のスタンドを虚空に忍ばせると、丁度良いタイミングでバスも到着してくれた。
スタンド能力を宿した新聞記者のバディは、他の作業員たちに紛れ込みながらバスに乗車する。
168
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/11(火) 21:39:30 ID:RIMBTqJ20
バスが向かう現場は■島、某市内で発生した建設土砂等を利用して作られた約390haの人工島は#
1970年代にゴミ処理場として使うため埋め立てたのが始まりだが、1983年に都市開発の計画が持ち上がるも、日本経済のバブル崩壊の煽り請け頓挫、その後は2008年頃に某府がオリンピックを招致する為、■島を選手村として活用する計画も出てきたが招致レースに破れてしまいまたも頓挫、長らく広大な空き地を持て余し続け『負の遺産』と揶揄されてきた。
それ故に今回の国際博覧会の会場となるのは土地開発の悲願であるのだが……一大プロジェクトの雲行きは怪しい。干潟そのものな土地に無数のパビリオンを建築する為に地盤改良は必須、橋とトンネルしかないアクセスの悪さを解消するべく地下鉄を繋げる工事も必要でやる事は山積みなのだが、そこにコロナ禍の影響による準備期間の圧迫、開催する某府の財政問題・底抜けのガバガバ予算問題、仕材高騰による参加国のパビリオン建設撤退・メタンガスの爆発事故・小学生を無料招待を誘導する謎のアンケートの強行等々、様々な追い討ちが重なり、世間からは評判は残念ながら芳しくないようだ。
最も世間の評判で是非を決めるタイミングは既に逸している。問題が噴出しているのは事実だが、開発計画は既に推し進められており、現場の人間は迫り来る納期に間に合うよう粛々と己の仕事を進行しなければならない。
人工島を繋ぐ大橋を通り抜け、いよいよ会場予定地に到着する。すぐに見えたのが建設途中の木製の大屋根、これが完成すれば会場を丸ごと包み込むリング状のシンボルとなるらしいが、このバスに乗る素人集団の仕事は別にある。
バスが停車して作業員たちが下車すると、現場監督の男が作業員の到着を首を長くしながら待っていた。薄ら笑いを浮かべている糸目の男で、コテコテに胡散臭い雰囲気を醸し出している。
「皆さんおはようございまーす!朝早くからご苦労様です!私は本日、皆さんの作業を取り仕切る現場監督を勤めさせていただきます!木更津工務店の青木と申します!皆様の自己紹介はまぁ……後で、早速ですがお仕事ですよぉ!うちの職人が来て本格的な作業を始める前に、パビリオン建設に必要な目測を行いたいので私について来てください!」
ハキハキした口調で喋る若い現場監督は貼り付いた笑顔に、元気を押し売るようなテンションで、早速作業員に指示を出してくる。言われるがまま訳もわからずついて行くと……金属板の橋を下り、地面を掘り起こした大きな穴の中に入るよう求められた。
「ここで何をするんだ?」
作業員全員が入るには、あまりにもギリギリなスペースの為、穴に入る前に安西は青木に声をかけて訪ねてみたが「あぁ〜はい、それは追々、必要な時がくれば皆さんにも説明しますので、今は滞りがないようご協力お願いします!さぁ入って入って!」と適当にはぐらかされるのみ。仕方がなく安西も穴の中に入るが……穴の深さは5メートル近くにあり、自力で脱出するのは難しいだろう。
そんな事を考えていると作業員全員が穴に入ったらしい。その瞬間、穴と地上を繋いでいた金属板の橋はクレーンに吊り上げられて浮遊する。
何の説明も受けていない大多数の作業員たちは騒然となり「これは何事だ!」「何だよこれ!」「ふざけんな出せよコラァ!」と抗議の声と罵詈雑言が噴出するが、しばらくして帰ってきたの青木の慇懃無礼な説明ではなく、もっと冷酷で無機質な―――
ビー ビー ビー
バックします ご注意ください
ビー ビー ビー
バックします ご注意ください
ビー ビー ビー
大型車両のバックブザー音が無慈悲に響いたかと思えば……ミキサー車から生コンが垂れ流されている!?
「ちょ……やっべぇ!安西さん!早く!早くだして!」
「もう出したよ!?ルーム・トゥ・ブリーズ!」
安西の右肩あたりに丁度乗るくらいの大きさの箱が出現する。その小箱には人型の上半身がビックリ箱の仕掛けのように生えており、出現するや否や手を伸ばして藤波を捕まえると、大男の背丈を縮小させながら箱の中に引きずり込んでしまう。
169
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/11(火) 21:40:50 ID:RIMBTqJ20
★
〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉は触れた相手をインタビュールームに引きずり込むスタンド能力だ。そこに引きずり込まれた対象は、本体にインタビューを受ける事を当然と思い込み、どんな人物、どんな状況でも大人しくインタビューを受けてしまう。
一方で本体もまたインタビュアーとしての役割を強制され、能力使用中は部屋に引きずり込んだ相手を攻撃したりといった事は不可能となる。
……それだけの能力である。
40名近くいた作業員たちが生コンの生き埋めに遇う最中、〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉内のインタビュールームを緊急避難用の『パニックルーム』に転用した安西と藤波は酷く暗い面持ちで椅子に座りながら対面していた。
普段ならこの能力で適当にやり過ごしたり、安全圏から活きの良い情報を発信していたが……今能力解除すれば生コンの中に沈むだけ。
〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉はインタビュールームの維持にスタンドパワーを割いており、いくら本体がスタンド内部にいようとも、スタンドを操って深さ5メートルの生コンプールを脱出できるとは思えない。
藤波と〈フルカラー・プログラム〉も本来は安西が〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉を発動成立させる為のインタビュー要因であり、得意の声真似も今は無力に等しく、限りなく詰みに等しい状況に陥っている。
「木更津工務店……やはりヤバイな」重たい口を最初に開いたの安西だ。彼が語りを止めればいずれ精神力が底を尽きて〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉は能力を維持出来なくなってしまう。
「嗚呼、万博を成功させる為の人身御供の噂……まさかこんな一番のガセネタが大当たりだったなんて……色々と酷くて笑えねぇっすわ」藤波も相方の能力は把握しており、彼の助けになるべく、能力を発動させる分けではないが〈フルカラー・プログラム〉を虚空から呼び戻すと、肩に乗せて待機させる。
彼等は決して主役にはなりきれない地味なスタンド使いかもしれないが……今際の際に狂乱する人々の姿・絶叫を目の当たりにした新聞記者たちの顔つきはセメントのような覚悟で固まり、生き残りとしての責務を果たす腹積もりだ。
「まったく、この令和の時代にな………………今俺たちは大勢の人間を見捨てた事で生き延びている。今出きる最善を尽くそう」
「と言ってもどーします。外は生コンまみれの死屍累々……『アンカー』辺りに情報をリークして救助してもらいますか?」
「そうだな……スクープがどうのこうの言ってる次元の問題ではなくなってきている。……それはそうと、そろそろインタビューも並行して始めたい。毎度ながら宜しく頼むぜMr.トークショー」
「……押忍、それで始めのテーマは?」
「貴方の知り合いに『アンカー』と関わりのある人物はいますか?」
「あー、えぇと……確か、■市の町内会で美化清掃係をしてるデッキブラシで武装したヤベーねーちゃんと……「明日やろうは馬鹿野郎」の殺し屋に……便利屋のあんちゃんっ!!俺、あいつの連絡先知ってるよっ!」
「それではその人と連絡は取れますか?」
「取れます!否、取るっきゃないでしょう!」
藤波は懐からスマホを取り出しアンカーの知人に連絡を入れる。生コンで埋められた地下の中だろうと、インタビューという呈を崩さなければ〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉は能力で取材を補助してくれる。
「もしもし、俺だよ俺!詐欺師じゃないよ新聞記者の藤波だよぉ〜助けて便利屋ぁ〜!」
「……さて、持ちこたえくれよな」
安西たちが生き埋めにされてから数分経過、〈ルーム・トゥ・ブリーズ〉の持続力はD判定と心持たないが、B判定の拡張性を誇る成長性……最期まで抗い続けると決めた精神力を滾らせる。
脱出成功まで後………………
【課題名】
万博準備初日
クリア条件はまだ達成されていません。
170
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/24(月) 21:55:35 ID:9QHHsHPQ0
1日早めの投稿失礼
【課題名】
Takashi verurteilt Tiefschwarz(漆黒を断罪するもの、タカシ)
【使用オリスタ】
封印されし冥府の禁書(チュウニノトキニカイタクロレキシノート)
【解答】
赤い満月が地上を見下ろす夜更け、人々が寝静まり静寂が支配する街中に、黒を基調とした本格的なゴシックファッションを嗜む少女が散歩している。
夜空に浮かぶ赤い満月と同様、人ならざる紅い瞳を妖しく輝かせていると、道路に捨て置かれた黒いぼろ切れ……否、見覚えのある和服を発見した。
それは死臭と香水の香りがブレンドされた唯一無二の一張羅……彼女はその和服の持ち主を知っていたのか、驚きに眼を見張らせる。
「『肆ねる古兵(エルダーフォース)』……まさか貴方たちが一人も残らず全滅するなんてね」
謎の造語を囁く神妙な面持ちの裏側には……海千山千老獪極まる四人組の『屍生人』の醜悪な姿が浮上する。数日前から連絡が取れず消息を絶っていた彼女の配下は、根っからの悪人で信頼こそしていなかったが、手段を選ばない行動力と自分で蒔いた種の始末をつけられる狡知と必要最低限の責任感は、それなりに信用しており駒として重宝する事もあった。
最後に会った時には『KAAAAAAAAA!親方様の為にご馳走を用意してきますぞ!』と、長い舌を舐めずりながら息巻いていたが……吸血鬼の少女が知る由もない眷属たちの最期は、あまりにも呆気ないものであったが、それはまた別のお話。
今現在重要なことは屍生人の安否ではなく、屍生人が白昼堂々活動していた街の闇……その諸悪の根源たる吸血鬼を高所から見下ろす者がいた。
「我は輝く御名の代理人、神裁の地上代行者、我が使命は我が神に逆らう暗愚を肉の一片まで灰塵に帰すこと―――」
「?」
何者かが何かを喚いている。吸血鬼の少女は声のした方を見上げると……一戸建ての住宅の屋根の上に、黒い外套で全身を包み、角の装飾が施された黒のフルフェイスヘルメットを頭に被る男がいた。片手には矢を装填したボウガンを握りしめており、どこからどう見ても問答無用の不審者である。スタンド使いが惹かれ合うように、奇抜な格好を嗜むかぶき者たちも互いに引き寄せられてしまうらしい。
「……………」
少女は何か反応する分けでもなく視線を元に戻すと、何事も無かったかのようにその場を後にしようとするが……不審者は「動くな!……と言っても無駄か。恐れをなして逃げ出すのは良しとしよう。だがしかし、『 † 漆黒を断罪するもの(フェアウァタイレン ・ティーフシュワルツ) † 』は、闇の化身に裁きを下すまで追跡する」と、謎の造語を捲し立てながら近くの木に飛び移り……思いのほか素早い身のこなしで少女の元にたどり着いてみせる。
「それ以上動けば貴様の内に秘めし深淵の起源を穿つ……この『 †悪魔殺しの神器(トイフェルイェーガー=アルムブラスト)† 』がな!」
「……………それで私を脅すつもり?」
他人が知る由もない独り善がりな御託を並べながらボウガンを構える不審者、呼び止められた少女はつまらなさそうに振り替えると、冷ややかな紅い視線を突き立てつつ、人差し指を自分の額に当てると「殺すつもりなら……ここを狙いなさい」と、不審者を品定めするような挑発を仕掛ける。
フルフェイスヘルメットを被る不審者の表情はうかがい知れないが……伊達や酔狂だけで人を殺害できる武器を少女に向けていた訳ではない。コメディー要素強めのホラー映画に出てくる冴えない男が困難に直面した際に覚醒する主人公(ヒーロー)ように、或いは社会から孤立して行き場を失い凶行に走る笑い者(ジョーカー)のように……彼は既に弾けていた。
「我は『† 漆黒を断罪するもの(フェアウァタイレン ・ティーフシュワルツ) 、タカシ † 』……この街に巣食う災禍の根を絶てるなら、己の統べて差し出す覚悟は既に出来ているッ!」
その設定は目前の怪物に向けられた言葉ではない。弱々しい己を騙り、恐怖で震える肉体をなけなしの精神力で無理やり操縦する為の自己暗示。
タカシが迷いなく引き金を引いた―――
171
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/24(月) 21:56:11 ID:9QHHsHPQ0
―――刹那
「手前ッ!馬鹿野郎!!今何時だと思ってんじゃーボケーッ!!!」
近場の住宅の扉が勢いよく開いたかと思えば、木製バット片手にパンツ一丁の中年男性が飛び出てくると、怒髪天を衝く勢いのまま怒声を上げる。
鬼の形相で血走らせた眼の下には濃いクマが出来ており、この凄まじい荒ぶりっぷりは、安眠を妨げられて怒り心頭な三徹明けの社畜(バーサーカー)かもしれない。
想像してほしい、例えば労働基準法をガン無視した地獄の三徹明けの夜、ボロボロに疲れ果てた肉体をベッドに沈み込ませて泥のように眠りたいのに、屋根をドタバタ走り回られ、外で馬鹿(バーカーサー)が馬鹿騒ぎおっ始めているのだ……木製バットをフルスイングすることに一切の躊躇はなかった。
しかし、不意打ちの直前で相手に怒声を浴びせるのは悪手だ。タカシは咄嗟に中年男性の強襲を紙一重で避けると「クッ……貴様は闇の眷属かッ!ならばこの『 † 聖剣(ハイリゲス・シュバート )バルムンク † 』が貴様の内に根付いた闇の支配を粉砕してくれる!」と……外套の内側に帯刀していた洋剣(※コスプレ用のレプリカ)を抜いて見せて……怒りで燃え上がる社畜にガソリンをぶちまける。
「 ウ ル セ ー !!!!」
スタンド使いが惹かれ合うように、バケモンとバケモンは互いに吸い寄せられるようにぶつかり合う。………………まさか頭部を矢で射貫かれて倒れ臥した直後、成り行きで放置プレイをかまされるとは予想だにしていなかった吸血鬼の少女は、さすがに状況が読めず困惑していた。
どさくさに紛れて姿をくらますなら今がチャンスだろう。しかし、手ごろな配下を失ったばかりの吸血鬼は、丁度良い配下の候補を見つけてしまった。
「荒ぶる闇の眷属よ!鎮まれい!」
「クソ!ちょこまかと鬱陶しい!」
タカシと中年男性は互いに長い得物を打ち合い、戦況は拮抗している。しかし、このまま馬鹿騒ぎを続けていれば夜更けだろうと人目につき、他の乱入者や警察まで介入してくるかもしれない。新しい配下を確保するならば、今はまずこの状況を収めなければならない。
吸血鬼の少女は頭部に刺さった矢を引き抜くと、ゆっくりと起き上がり、己のスタンドを発動する。すると彼女の手元に鎖と鍵で拘束され、禍々しく装丁された辞書のように分厚い書物が現れる。
しかし、このままでは能力は発動できない。吸血鬼は己に課したスタンド能力の封印を、定められた符牒を詠唱することにより解除する。
「幽波紋の拘束制御状態開放、虚空年代記=禁書目録への接続開始、目標の完全鎮圧までの間、精神干渉虚構法典展開……封印されし冥府の禁書(チュウニノトキニカイタクロレキシノート)起動」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!
詠唱を終えた途端、拘束器具が解き放たれた書物は表紙を開き、目まぐるしく頁が捲られ続け、その動きに呼応するように少女の詠唱も止まらない。
「海の底より深きもの、地の最奥よりも暗きもの、宙の果てより遍くもの、原初の燈より古きもの、忘却の彼方に封印されし星の支配者たちよ、我ここに汝らに誓う、我と汝らが歩む道筋は混沌が揺蕩い、遍く凡てを歪み、狂わせる、統べては外なる神の御心のまま、我と汝は思うがままに災禍を振り撒き、破滅をもたらさん……………禍津凶星群(ディザスターピーシズ)」
ちょっともう本当に何を言ってるか分からないが……この謎の呪文を耳にしてしまったタカシと中年男性は突如電源が落ちたかのように静止して、突如脳内に溢れ出す存在しない記憶―――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
172
:
名無しのスタンド使い
:2024/06/24(月) 21:57:02 ID:9QHHsHPQ0
【題名】
バスターズ2次創作外伝『キルタイムジョーカー&カオスサイクロン』
【あらすじ】
かつて『ラナ=インバーター』が活躍した時代から数百年後の世界、彼女の血を継ぐ子孫の姉弟『ララ=インバーター』と『ナナ=インバーター』は各地を旅しながら賞金稼ぎを生業にしていたが、突如謎の魔族『顔の無い男』の強襲を受けて融合の呪いを受けてしまい、二人で一つの肉体を共有することになってしまった。『ララ』と『ナナ』は困惑しながらも状態を打開すべく魔族の呪いを解く方法を探すが、やがて世界の裏側で暗躍する『顔の無い男』の真の目的を知り―――
【登場人物】
ララ=インバーター
15歳の少女、身長155cm、絶世の美少女で巨乳。かつて世界を救った伝説の冒険者『ラナ=インバーター』の子孫、双子の弟『ナナ=インバーター』と共に旅をしながら賞金稼ぎを生業としている。剣聖『ローランド=キャベンディッシュ』に師事して鍛えた剣術と規格外の圧倒的な魔術センスにものを言わせて、近場の山賊たちを懲らしめて旅銭を稼いでいるラナ譲りの破天荒な人物。『顔の無い男』の呪いを受けて『ナナ』と融合してしまい―――
「〜〜〜〜〜〜〜!!い"ェ"あ"ぁぁあ^ああぁあぁあ"ぁぁあああ^あ"あ"っ!!もういい!もういいからぁ!これ以上は止めてくれぇ〜〜〜!!!」
吸血鬼の少女が紡ぐ呪言と共に中年男性の脳内に押し寄せるの謎の設定、中年男性はとうとう耐えきれず頭を抱えながら倒れ臥し、半狂乱にのたうち回る。
無駄な情報の洪水、それは文章だけでは止まらず視覚や聴覚といった五感を共鳴させて無駄なリアリティーを与えてしまい、共感性羞恥心を多大に揺さぶり、脳髄を文字通りに震え上がらせた。
これこそ彼女のスタンド能力〈封印されし冥府の禁書(チュウニノトキニカイタクロレキシノート)〉の真骨頂。このスタンドはこの世界に存在する人間たちがかつて考え、そして今は『黒歴史』として葬られた設定や物語が全て記載されており、本体の吸血鬼がその設定を読み上げることでその黒歴史が解放され、本体の言葉を聴いた人々の精神を汚染し悶絶させてしまうのだ。
「あ"あ"あ"ぁぁぁああぁああぁああ"あ―――」
呪文の詠唱を挨拶代わりに怯ませて、設定の完全詠唱を開始すれば大抵の一般人は精神汚染に耐えきれず、途中で発狂して最悪の場合は廃人化もあり得るだろう。中年男性も身体を痙攣させながら道路を湿らせて気絶してしまった。
これで邪魔者は無力化できたが、一方のタカシは発狂する訳でもなく、ただ立ち尽くしたまま一向に動こうとしないが……突如「俺がララ=インバーターだ」と世迷言を吐き捨てる。
〈封印されし冥府の禁書(チュウニノトキニカイタクロレキシノート)〉の精神干渉は強力だが、相手が現役の厨二病の場合、本体と波長が合うため精神に与える影響が大きく、黒歴史を「本物」と思い込む作用も発現するようだ。戦闘の心得がある者ならばプラシーボ効果により強くなることもあるが、今回の場合は脳内に溢れ出す中二設定に感化され、浸りすぎてしまったのかもしれない。
一人知れず吸血鬼の少女の正体を看破し、彼女を討伐するために一世一代の大勝負に出た『† 漆黒を断罪するもの(フェアウァタイレン ・ティーフシュワルツ) 、タカシ † 』はもうどこにも存在しない。奇妙な世界に自ら足を踏み入れた代償は……『バスターズ2次創作外伝キルタイムジョーカー&カオスサイクロン』という虚構の設定に自我を塗り潰され、自分のことを『ララ=インバーター』だと思い込んでいる廃人しか存在しない。
「ところで貴女誰だっけ?てか、この頭のヤツ邪魔」
自分の使命を忘れてしまったララ=インバーターは、宿敵の目の前で堂々とフルフェイスヘルメットを取ってしまい、溌剌とした笑顔を振り撒こうとしたが……
吸血鬼の少女は黒い艶やか長髪を蛇のように動かしたかと思えば、ララ=インバーターの額に肉腫のような小さな芽を植え付け、脳髄に直接干渉する洗脳を開始する。
中二病を末期状態まで拗らせた結果、脳内の未使用領域を自力で活性化させて、石仮面を介さずに本物の吸血鬼に進化してしまった新種の怪物は、肉体操作も造作もなく使いこなし、新たな眷属を増やしていく。
173
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/09(火) 21:26:06 ID:v6RlhKNY0
【課題名】
>>63
盗撮魔を探せ!
【使用オリスタ】
No.4943 スザン・レノックス 本体名→『松岡』
No.3109 ウィズイン・テンプテーション
No.3186 フリーズ
No.3084 エレキ・コミックズ
No.3803 ギャランドゥ
No.2837 エンド・オブ・ウィークエンド(週末の終末)
【解答】
壁一面にパネルミラーが設置されたダンススタジオ、数十人の利用者が一同に利用できる規模の大広間だが、今は何故かスポーツブラとショーツしか着てない少女『松岡』が1人だけ……鍛えぬかれたしなやかな四肢と豊満に実る胸部をエネルギッシュに躍動させている。
つま先立ち状態で、左右交互に足をまっすぐ前に出し、クルクルと横回転しながら進むバレエ特有の足裁き『シェネ』から、右足を軸に回転しながら左足と両腕を羽ばたくように広げる『アラセゴンターン』に繋ぎ、両足を開脚した状態で跳躍し、両手がつま先に触れるチアダンス・要の大技『トータッチ』をダイナミックに決める。
柔靱な体幹と手足が織り成す全身運動の美しいコンビネーションは、松岡がチアリーダー部で長年積み重ねてきた努力の賜物だろう。
どれくらい自主練習を続けていたのか分からないが、松岡は全身から玉のような大粒の汗を流し、広間の床は汗まみれになっていた。
「ふぅ……毎度ながら嫌になっちゃうね」
松岡は水分補給を済ませた後、汗ふきシートで全身の汗を拭き取り、転倒しないように床に撒き散らした汗をタオルで拭き取りながら、自身の多汗症体質に忌々しそうな溜め息を吐き捨てる。
彼女が下着姿で練習していたのも多汗症の気がある故に、着替えの衣類をすぐに汗まみれにしてしまうためである。
松岡が所属するチアリーダー部のメンバーはみんな優しく、彼女の体質を受け入れて気にしないでいてくれるが、彼女自身はその優しさに胡座をかいて甘えたままでいることを良しとせず……早朝や深夜帯に部活顧問の許可を得て、他人に気を遣わせない、自分自身も心置きなく練習に励むため自主練を行っているのだ。
小さい頃は男子たちから多汗症をよくからかわれ、同姓の女子からも汗臭いと陰口を言われており、もしかしたら今でもクラスの隅っこで怯えながら身を潜める運動嫌いな女の子のままだったかもしれない………………自分が変われる切っ掛けを与えてくれた『降星学園』と『チアリーダー部』、部長や同級生・顧問の先生、慕ってくれる後輩たちに出合えた僥倖に感謝し、仲間たちの優しさに報いるべく、松岡は『降星学園』生活最後のチアリーディング大会に向けて練習を励んでいた。
「あっ、レッグホールドが少し甘いかなぁ。トータッチももっと跳ねた方が迫力あるよね……よし、もう一回通しでやろう!」
スマホの動画撮影機能で自身の動きを確認しながら修正を加えてゆく、いつもの自主練のルーチンをこなしている最中………………松岡は今まで感じたことのない違和感に襲われる。
(……………誰かに見られてる?)
自分以外誰もいないはずのダンススタジオの中に妙な気配を感じる。松岡は下着姿でチアリーディングの練習を行う羞恥心はとっくにかなぐり捨てており、自意識過剰な被害妄想に振り回されるほどヤワな精神力はではないハズだが……
(1人じゃない……壁や床や天井から至るところから何かが見ているッ!?)
いつの間にやら全身をなめ回すかのようなねっとりとした視線の群が、彼女を包囲しているような感覚に襲われる。しかし、目視で視線の正体を看破することは適わない……ならば"アレ"をしよう。
174
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/09(火) 21:26:46 ID:v6RlhKNY0
彼女は『降星学園』6年生女子―――
太平洋のど真ん中に浮かぶ離島『星野古島』を丸々使った全寮制の超マンモス校は、どこの国にも属さず、世界最高峰の教育を受けられると世界中から生徒が殺到し、その全てを受け入れているそうだが……その実態は特別な才能を発現する可能性を秘めた原石たちを世界中からスカウトして、学園生活を通して能力発現・開発を目的としている。
誰でも受け入れる反面、見込みがないと判断された持たざる者、上っ面の建前だけを鵜呑みにしてやってきたお気楽者は、毎年厳しい篩にかけられて、転校・退学・除籍……何かしらの理由をつけて島から排除されてしまう。
―――彼女はそんな厳しい環境の中で見事『才能を開花』させ、入学して6年間、曲者揃いの在学生・教師・住民たちと交流を深め、時にはしのぎを削り合ってきており、見た目からは想像もつかないほどタフな女だ。
彼女は正体不明の相手に悟られないようにチアリーディングの所作を続け、全身から玉の汗が吹き出した瞬間―――
★
時は遡り……『降星学園』新聞部部室。
長い髪を複数のおさげで纏める特徴的な髪型をした青年・新聞部部長は学生新聞に掲載する記事を作成する為、在学生に取材をしているが……
机を挟んだ先にいるお相手はヤベーことで有名な同級生、揉め事があれば自ら嬉々としながら乱入して暴れまわるトラブルシューター兼トラブル核弾頭、背筋をキッチリ伸ばしながら姿勢正しく椅子に座る狐目スキンヘッドの青年・太極拳部部長の話に耳を傾けていた。
「ところでスザン・レノックスを知ってるか?」
戦闘狂の口から思いもよらぬ言葉がこぼれ落ち、一瞬だけ面を食らってしまうが、取材のため在学生とは一通り取材している情報通の反応は速い。
「ん?何を突然言うかと思えば、確かチアリーダー部に所属してる松岡の能力だったかな?自分がかいた汗を操るだけの能力だろう。それがどうした?」
新聞部部長が知る松岡のスタンド〈スザン・レノックス〉は、限定的な場面で力を発揮するピーキーな性能くらいにしか評価していないようだが、どういうわけは太極拳部部長は違うらしい。
「話が早くて助かる。アレも中々面白かったぞ。あの本体はチアリーディングの才能と身体能力で6年間生存してきたスポーツ特待生とばかり思っていたが……スタンドバトルもかなり、やる。アレ自体のスタンドパワーは破壊力がそれなりにあるだけの低速スタンドだが……松岡の身体能力とチアリーディングの技術が合わさった時に発生する汗の散弾『驟雨』と汗のウォーターカッター『穿汗』は、初見だと俺でも防ぎきれなかった。見てみろよこの傷痕!それに加えて瞬時に体表面を塩分を増幅・硬化させる―――」
……太極拳部部長は頬を赤らめ、何やら饒舌に自身の体験談を興奮した調子で語っている。新聞部部長は適当に相討ちを打ちながら聞いていたが、次第にとんでもない事実に気がついてしまう。
「しゅうう?せんかん?・・・・・・というかちょっと待てお前、チアリーダー部にまで卒業前の百人手合を仕掛けたのか!?」
「Yeah」
バトルハゲは清々しそうに微笑んでくる。こいつは現在6年生で卒業も間際ということもあり、学園中の在学生相手に手合わせを申し出て、スタンドバトルを仕掛けている『俺より強いヤツに会いに行くを地で行くリアルストリートファイター』状態だが……チアリーダー部にまでその矛先を向けるとは流石に思わなかった。
新聞部部長はドン引きしつつ……太極拳部副部長の苦労に満ち溢れたシケ顔を想起してしまう。
「おめーんとこの副部長ちゃん、マジで胃がもたなくなるぞ」
「大丈夫だ、問題ない。あいつはこの程度の揉め事で気を病み、病床につくようなヤワな女じゃない」
「毎日お腹痛そうにしてますけど?」
★
時は現在に舞い戻る。
―――体幹を一本槍の如く真っ直ぐに、肩・腹・尻のラインを水平にして、人体で独楽を再現する回転技術『ピルエット』からなる高速連続回転は、全身の汗を360度全方位に自身の汗を撒き散らす。
その瞬間、松岡と共に横回転する顔の中央に不気味な眼型の模様が刻まれた人型スタンド〈スザン・レノックス〉は眼を怪しく煌めかせて、能力を発動すると……松岡の高速回転により飛び散った彼女の汗にスタンドパワーが加わり、天井や壁・床にギリギリのラインで透過しながら潜む出歯亀の群……
―――目玉に羽と尻尾を生やす群体型の遠隔自動操縦型スタンド〈エレキ・コミックズ〉を汗の散弾が貫いてみせたッ!
175
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/09(火) 21:27:41 ID:v6RlhKNY0
全方位の無差別攻撃故に、数匹は仕留め損ねてしまうが、大多数の一群は姿を維持できず霧散しており、残党は恐れをなして逃走することしかできない。
〈スザン・レノックス〉の能力を活用すれば全滅させることも可能だが……謎の視線の正体を看破した松岡は無駄な追撃をせず、再び己の自主練に集中する。
彼女は〈エレキ・コミックズ〉の事を知っている。アレの本体は確か写真部の部長で、自身の能力を悪用して盗撮を繰り返し、学園生徒の秘蔵写真を秘密裏に売買して一時期は悪名を轟かせていたらしい。しかし、生徒会・風紀委員会から直々に制裁を受け、モデルに面と向かって撮影交渉するグラビア撮影部が台頭してから、この手の悪い噂を聞かなくなったが……
また、こうして盗撮癖を拗らせているなら、自分の写真くらいならくれてやっても良い程度にしか松岡は思わない。チアリーダー部の最後の大会に向けて練習を励む彼女からすれば、窃視障害を患う病人のことは純粋にどうでもよかった。
★
松岡が盗撮魔の正体を看破した同時刻―――
「チッ……無駄なことをしやがって!」
『降星学園』写真部の部室、部長専用のデスクでふんぞり返る小柄で意地悪そうな青年は、自身の群像型スタンド〈エレキ・コミックズ〉の一群が全滅しかけている事を肌身に感じ取り、舌打ちをしながら悪態をつくが、あわてふためき困り果てるような素振りは一切見せない。
〈エレキ・コミックズ〉は確かに〈スザン・レノックス〉に一群の大多数を撃破されたが、それでも本体は血の一滴も溢すことはない。
彼の群像型スタンド〈エレキ・コミックズ〉は島中を徘徊しながらスクープネタを探し回っており、〈スザン・レノックス〉に撃破された群も全体として見れば僅か数%程度の一群でしかなかったらしい。
「やるなら徹底的に!一網打尽にしなきゃ〈エレキ・コミックズ〉は無力化不可能!さぁ〜〜〜て♪覚悟しろよ〜〜〜!手前の痴態を島中に晒してやるからな!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
写真部部長は他人の不幸を食い物にする下劣な笑みを浮かべながら、〈スザン・レノックス〉の無差別攻撃から生き伸びた個体の帰りを待つが……そんな彼の元に帰ってきたのは盗撮魔の飛翔群ではなく・・・・・・すっごいワイルドな人型スタンド。
「えっ」
こいつはいったいどこから沸いて出てきた?悪漢が何かを喚く前に〈ギャランドゥ〉は彼の顔面に拳骨をぶち当ててしまう。
同時刻〈ギャランドゥ〉本体の少女は、寮の自室で裸体のまま爆睡中。島中を飛び回っていた〈エレキ・コミックズ〉たちは、太平洋のど真中から見える満天の星空に夢中になり、地上に眠るいさかいのネタなど頗るどうでもいい様子だ。
一体何が起こっているか、見知らぬスタンドから突然ダイレクトアタックを受けた写真部部長は到底理解できないが………………ことの顛末を見逃すことなくすべて見つめるものがいた。
例えば……ダンススタジオのマジックミラー越し、写真部部室の天井、女子寮の一室……『降星学園』の至るところに防犯カメラと極小の監視カメラが配置されている。その映像は……巨大モニターに同時中継されている。
『星野古島』某所、ここは学園の支配者『理事長』が校内を監視する為に設営された秘密の大広間、これらの設備は彼のスタンド能力から無作為性を排除して、意図的に能力範囲内にいる在校生同士のスタンドを入れ換える為の補助演算装置『天眼機関』である。
『降星学園』は世界中からあらゆる可能性を秘めた原石を全て受け入れているが……次々と才能を開花させていく若者たちのエネルギーは強大で、時に大きな禍をもたらすこともある。そんな学園を運営・管理・統治する上層部は、予期せぬ事態に備えて無数の切り札を用意している。
『天眼機関』もそんな切り札の一つに数えられており、生徒のプライベートをガン無視したとんでもない代物だが、理事長が直接動くことにより、手元に残しておきたい優秀な生徒・能力を守ることができるため重宝されているらしい。
今回の場合、露出狂の本体を日常的に自身の能力で守護する〈ギャランドゥ〉と、幸災楽禍を食い物にする写真部部長は馬が合わず……〈ギャランドゥ〉は『いつものように』暴走し、写真部部長は当面の間は女性のあられもない姿に興味を持てなくなり……松岡も新聞部部長から突き付けられた悪意に興味を示さず無関心のまま。
大画面で一連のいさかいを覗き見して、ついつい干渉してしまった理事長は……冷ややかで醒めた若い男性の外見に反して、瞳だけは夜空に満ちる星空のように耀き、その在り方は聖人にも罪人にも見えてしまう。
奇妙な二面性を内包する男の思案は窺い知れないが……彼は内に眠る『父』と共に『降星学園』を見守り続ける。
176
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/15(月) 14:37:36 ID:yXm4db2c0
【課題名】
>>27
モンキーシャベル
【使用オリスタ】
No.8854 ウェポン・マード・A
【解答】
「空〜♪こぼれ落ちた二つの星が〜♪」
1人の少女が小脇に紙包みを抱え、鼻歌を歌いながら人気の無い道を小走りに駆けていた。
上機嫌で歩く可愛らしい少女─────────ナンパ師にとって恰好の獲物であろう彼女に対し、しかし声を掛ける者は居なかった。
何しろ時刻は深夜。昼間は雑多な人々で賑わう通りと言えど、普通の人間が好き好んで外出する時間ではない。
「…………うん?」
故に、曲がり角で動く物を見付けた彼女が警戒心を抱いたのは当然の事であった。
蹲った人間にも見えるソレの姿に、最近地域で多発している通り魔事件がふと脳裏をよぎる。
数多くの被害者が生きたままの状態で炎に焼かれ、重傷を負っているその事件はワイドショーを賑わせ、犯人には「パイロマニア」なる異名まで与えられていた。
(……もしかして、アレが噂のパイロマニア?……でも、ただ具合が悪いだけの人かもしれないし……)
「あの〜、大丈夫ですか?」
それでも親切心が警戒心を上回ったのか、少女が"ソレ"に声を掛けたその時。
バシャッ!!
"ソレ"が突如立ち上がり、返答の代わりに手に持っていたペットボトルの中身を盛大に少女へと浴びせた。
も
177
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/15(月) 15:42:52 ID:yXm4db2c0
>>176
「うわッ、ゲホ………何、ガソリン!?」
突然の出来事に戸惑う少女の目に飛び込んで来たのは、下卑た笑みを浮かべたガタイの良い男であった。
ガソリンに塗れた少女に嘲るような視線を向けつつ、男はポケットに手を突っ込み、マッチの箱を取り出す。
こうして夜中に出歩くふしだらな若い女を焼き、その悲鳴を聞く事が男の唯一にして最大の趣味………だったのだが。
バァン!
悲鳴の代わりに銃声が鳴り響き、マッチを持っていた男の手には風穴が空いていた。
「こんな事をするなんて、やっぱりアンタが『パイロマニア』って事で間違い無いみたいね?はぁ……最悪………。ど〜してくれんのよコレ?気に入ってた服なのにさぁ?」
思わずその場に崩れ落ちた男を見下ろし、ガソリン塗れの少女がぼやく。先程までの上機嫌は何処へやら、その顔からは何の感情も読み取る事が出来ない。
「ま、先に手を出したのはアンタの方だしさ……コレも正当防衛になるよね〜?」
何も持っていない筈の少女の右手が"武器を握っているかのような"形状に変化した─────その光景を最後に、男は意識を失った。
◆
ドスッ!!
「ッ………!」
「あっ、起きた?おはよ〜。」
激痛によって意識を取り戻した男が最初に見たのは、下着姿で縛り付けられた自身の体に突き刺さる1本の矢と、昨晩自身が焼き殺そうとした少女がニコニコと笑みを浮かべている姿であった。
怒りに任せて眼前の少女を突き飛ばそうとした男だったが、縄で拘束されたその身体はぴくりとも動かない。
「……ッ、………!?」
「あ〜無理無理。猿轡してるんだから喋れる訳無いじゃん?あんまり五月蝿いと口の中も切っちゃうよ?」
椅子に縛り付けられた男に向かい、ニコニコと狂気的な事を宣う少女。
思わず口を嗣んだ男に構わず、少女は一方的に話し続ける。
「今日のニュースで知ったんだけどさ、アンタ本職の消防士なんだって?何か『いつも真面目で現場にも真っ先に駆け付ける素晴らしい部下でした』とか上司っぽい人が言ってたけど。でもさ、自分でつけた火をチマチマ消すより火の元から消しちゃった方が百倍良いよね?パイロマニアさん?」
まだ僅かにガソリンの匂いを残す紙包みを解きながら放たれる少女の言葉は、しかし恐怖に震える男の耳には全く届いていない。
彼の意識は少女が取り出した物───────新品同然のボウガンと無数の矢にのみ向けられていたのだ。
「まぁ服が台無しになったのは悲しい事だけど………アタシの趣味だって大っぴらに出来る物じゃないし、アンタが自分の趣味にアタシを巻き込んだ事は許したげる。」
紙包みから取り出したボウガンに矢を装填し、照準を男の身体にピッタリと合わせながら、少女は恍惚とした表情を浮かべる。
首を激しく左右に振り、涙を浮かべながらうめき声を上げる男に対して放たれた一言は死刑宣告に等しい物であった。
「その代わり、アンタにもアタシの趣味に付き合って貰うからね?もちろんアタシが満足するまで!」
178
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/15(月) 22:06:35 ID:SAP65mOc0
>>176
解答の投稿有り難うございます。
認識できない武器は強い!パイロマニアさんはとんでもない当たりを引きましたね。でもまぁ、JKの趣味活動ならもしかしたらワンチャンご褒美かもしれません(すっとぼけ)
あと課題名と安価が違うようなのでこちらで補足させていただきます。正しくは
>>23
『火事一番乗り』となります。
179
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/23(火) 21:35:25 ID:0oRmKek.0
【課題名】
>>64
人類最後の極楽浄土
【使用オリスタ】
No.7098 サムライドライブ
【解答】
盛夏の炎天下、蝉が奏でる共鳴の調べは、軽快な排気音に突き破られる。
都会から隔絶された片田舎の険しい山道、ライトグリーンのバイク『カワサキ・ニンジャ』は、ろくに整備されていないひび割れたアスファルトの上だろうとお構いなく、爽快に疾駆しながら風を切る。
そんなバイクを駆る女性ライダーは、大和撫子という言葉が自然に過る優美な顔立ちを晒したまま、当然のようにヘルメットを被らず、艶やかな黒い長髪を風に靡かせて、当然のように日本刀を帯刀している……それもおまけに七本も。
犯罪上等・パンク精神を地で行く七刀流のラストサムライ・ライダー・レディ………………属性過多とボケ(?)の渋滞で何からつっこんでいいか分からないが、ツッコミ不在の暴走は思わぬ形で止められる。
悪路に潜む撒菱が、高速回転するバイクの前輪を貫くと、ハンドルが大きく右に逸れる。女性は咄嗟に手を離し、人間離れした軽やかな身のこなしで緊急離脱するが、バランスが崩れたバイクは凄まじい勢いで転倒、道路を滑り大樹に激突して見るも無惨に大破してしまった。
ここまでやってきた移動手段を失ってしまった女性だが、動揺したり慌てふためく様子もなく、涼しい顔のまま山道を歩き続ける。伊達や酔狂でこんな格好している訳ではなく、優美な容姿に潜む眼差しは刀剣の如く、美麗でありながら鋭利な切れ味を忍ばせている。
それからどれくらい歩いたかは彼女にしか分からないが、空が茜色に染まりかける頃、女性は優雅な面持ちのまま移動し続け、山奥の寂れた集落に行き着いた。
古めかしい茅葺の木造建築が散見し、時代に取り残された年寄りが寄り添う限界集落のように見えるが………………その実態は中身を食い潰した虫がウジャウジャ蠢く果実の成れの果て。
木造の簡素な作りの火の見櫓から喧しい警鐘が打ち鳴らされたかと思えば、全身を農薬散布用の防護服で固め、刃先に炎を灯した槍と猟銃で武装する住民(?)たちが、どこからともなくゾロゾロと湧いて出てきた。
これはひょっとしてドッキリ企画か何かと疑いたくなる異常な光景だが……集落に足を踏み入れた女性も女性で、やはりどこかズレており「あのぉ、喉が渇いてカラカラなんです。もしよければ水をいただけませんか?」とマイペースな交渉を仕掛けてくる。
住民(?)たちは顔を見合わせて少しだけ困惑するが、こちらはこちらで、すぐに自らが掲げる身勝手な主張を展開する。
「ここは人類最後の安息地ッ!コロナウィルスにより全人類がゾンビ化した昨今、村に勝手に入り込み病原菌を撒き散らす余所者の存在は断じて許されないッ!!汚物は即刻消毒ッ!!消毒ッ!!」
この集落はコロナ禍の際、ワクチンを危険視した者たちが押し掛けて形成された地獄みたいなコミュニティである。電波の届かない世間から隔絶された辺境の地で、拗らせた妄想を糞で煮詰めたかのように熟成させており、今では部外者を一切寄せ付けない特級呪物クラスのアルミホイル案件と化している。
元々いた住民たちがどうなったかは定かではないが……この愚劣で狂暴な征服者(コンキスタドール)の振る舞いを見れば推し量れるだろう。
「「「「「「消毒ッ!!消毒ッ!!消毒ッ!!消毒ッ!!消毒ッ!!」」」」」」
狂人たちは隊列を組みながら一様に同じ掛け声を繰り返しながら、たった一人の女性を威圧してなぶり殺そうとするが………………令和の時代に日本刀を七本も帯刀して持ち歩く女も大概まともではない。
「あらあら……随分と物騒ね。貴方たちは『覚悟して来ている人』ですか?人に凶器を向けるということは、逆に自分たちも凶器を突き立てられるかもしれないという危険を常に『覚悟して来て』いますか?」
「黙れ!聖域に穢れたウィルスを撒き散らすな!今すぐ殺してやるッ!!」
「ふーん、そうか、そうか、つまり貴方たちはそういう人たちなんですね……よかった」
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、そんな優美な女性がニッコリと朗らかな笑みを浮かべたかと思えば―――刹那、帯刀している刀を一本、超高速で居合抜き、その勢いのままに投擲、虚空に弧を描きながら投げ飛ばされた刀は前列にいた狂人の首を真横一文字にはね跳ばす。さらに、それだけでは止まらず、後続で猟銃を構えていた者の頭部を半分引き裂いた状態でようやく静止する。
狂人たちは何が起こったのか理解できず戸惑う最中、女性は容赦なく刀の投擲を繰り返す。二本、三本、四本……見た目からはとても想像できない圧倒的な膂力にものを言わせて、目前の隊列を瞬く間に引き裂いていく。
180
:
名無しのスタンド使い
:2024/07/23(火) 21:35:56 ID:0oRmKek.0
徒党を組んで息巻いていた集団は、血肉が飛び散る阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。有無を言わせない圧倒的な超暴力が混乱と恐怖を撒き散らし、場を支配しようとするが……狂人たちも自分たちのテリトリーを守るため、雄叫びを上げながら決死の突撃を敢行する。
しかし、その矢先に生き残りの数名が頭や首・胴体を真っ二つに切り捨てられてしまう。
女性は既に刀を投擲することを止めいる。刀を一本だけ手に取り、自分の元にたどりついた槍使いたちと白兵戦を繰り広げるが、それも長くは続かない。
火炎を帯びた鋭い連続突きと薙ぎ払いのコンビネーションで、猪突猛進に攻めていたハズの槍使いたちは、彼女と数回刃を交えた後……彼女が刀剣を振るう前に、勝手に斬り倒されて地に伏してしまった。
まるで『見えざる刃に引き裂かれた』かのように不自然で理不尽な死に振り回される。狂人たちの生き残りは怪現象のタネを看破することができず、次第に怖じ気づいて足を止めてしまう。さらに生き残り一人が彼女の正体に気がついてしまった。
「嗚呼、そう言えば……こ、こいつ……どこかで見たかと思えば!?何でこんなところに来てんだよぉぉおおぉおおおッ!『八つ裂き御前』だッ!●●市で起こった連続猟奇殺人の実行犯!畜生!逃げろみんなッ!!」
『八つ裂き御前』……全国指名手配されている連続殺人鬼の忌々しい異名を耳にした途端、生き残りたちは顔を青ざめ、恥も外聞もかなぐり捨てて、蜘蛛の子が散るように四方八方に逃げ出してしまう。
女性は自分の素性を見破った逃走者を追撃する様子はないが……地面に転がり落ちる頭部の髪を掴んで拾い上げると、恍惚とした表情を浮かべながら、それを躊躇いなく抱きしめる。
「良い……とても良いわ!良い表情で固定されている……素敵よ貴方!そのまま皮を剥いで、肉を削ぎ落としてちゃんと加工してあげるからねぇ」
女性は誰もいないことを良いことに特殊な嗜好を、晒すけだして悦に浸る。
……そんな千載一遇の大チャンス、倒れ伏す死体に紛れ込みながら息を潜めていた猟師は、彼女の背後に狙いを定めて猟銃に引き金を引く。
しかし、放たれた弾丸は虚空に『残留する不可視の斬撃』によって一刀両断されてしまった。
猟師は何が起こったのか理解できず、自棄糞に銃を乱射しようとするが、その前に女性によって投擲された刀に、双眸を両断されて目の前が真っ暗になってしまった。
その様子が面白かったのか……彼女の肩にしがみつく手乗りサイズの落武者みたいな人型スタンド〈サムライドライブ〉は、ただケラケラと嗤うのみ。
襲いかかってくる者たちを自身のスタンド能力で一通り返り討ちにした女性は、ゆっくりと集落を散策してお目当ての『もの』を発見する。民家の裏に広がる美しいケシの花畑……他にも至るところに大麻の元が咲き乱れている。
「これだけあれば……ニンジャを廃車にしても帳消しにしてくれるよね」
組織から支給品された『カワサキ・ニンジャ』を弁償しなくても済むほどの金脈を引き当てた女性は、そっと胸を撫で下ろす。彼女はただの猟奇殺人鬼ではない。全世界の無法、無政府、無秩序化を目指し、弱肉強食な混沌の世界を作り出そうとする大規模な犯罪組織『ディザスター』の幹部を勤める大物だ。
もっとも彼女からしてみれば、組織の幹部役など名ばかりの肩書きでしかない。彼女たちは互いの目的の為に、互いを利用し合う打算的な関係のみで繋がっている。言わば非合法な活動を取り組む犯罪者たちの組合に所属しているだけなのだ。
表舞台に姿を見せない創始者に忠誠を誓う組織の中枢、一部の上級幹部や古参の構成員たちは組織の体裁を保つ為、管理職や裏方の雑務を担っており、首狩りと頭蓋骨の収集を愛好する精神異常者が雇われ幹部になれているのも、彼等にとって都合の良い動かしやすい駒であるからこそ推薦されたのだろう。
今回の彼女の任務は組織の資金調達の為、大麻を人知れず製造する山奥の集落を制圧すること。幹部は組織が指定した構成員を引き連れて、任務に挑む権限を与えられているが、趣味を優先する彼女は単独で任務をこなし、その過程で自身の嗜好を満たしていた。
このように世間の既成概念から逸脱した敵役(ビィラン)たちは、先の見えない暗闇の中で煌々と光輝く恒星……『ディザスター』を取り囲む星屑と化す。巨大な看板の名を借りて自らは駒とかり、黒幕に裏で糸を引かれながら、顔のない多頭の怪物に成り代わり裏社会で暗躍する。
………それはそうと、大方任務を達成した女性だが、集落にあるものがないことに気がつき一抹の不安を覚え始める。
「乗り物ないなぁ……どうやって帰ろうか」
山中の集落は電波が届かず、辺りは暗くなり彼女は徒歩で帰還する覚悟はまだ出来ていない。
181
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/06(火) 21:14:31 ID:AUXxv3.Q0
【課題名】
>>65
怒れる女子高生〜前略、人の家族を馬鹿にするもんじゃあない〜
【使用オリスタ】
No.8815
【スタンド名】
No.8244 バッドサイクル
No.8815 メルティ・ブラッド本体名→『神村楓』
No.8830 エディンバラ・ナイト本体名→『神村(兄)』
【解答】
天の配剤という言葉がある。善行には善果を、悪行には天罰を、因果が適切に手配されるように、人の在り方や機会も、自然の成り行きとは思えないほど適切に配される有り様を表す言葉だが………………すると俺に備わるこの忌々しい能力も、何か意味があって与えられたのだろうか?
俺はそんなことを考えながらクソッタレの『運命』に抗い続ける。悲しいことに現在進行形で。
「待てやコリャーッ!!」
「待っても良いけど暴力反対!まずは話し合おう神村くんっ!」
俺はどこにでもいそうなつまらない学生で、何故だか同級の女子学生に猛追され、学校を抜け出し、町中を全力疾走している。これはもしかして痴話喧嘩?残念ながら違うんだなそれが………
「ボクのことはいくらでも馬鹿にすればいい!でもなぁ……ボクの兄さんを馬鹿にしたことは絶対に許せないッ!!」
「違うんだ!俺は君の兄貴のことを馬鹿にした訳じゃあない!ありのまま起こっていた事実を口走ってしまっただけなんだ!」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!それじゃ兄さんは変態のシスコンだとでもいいたいのか!兄さんがボクのことをストーカーみたくつきまとっている分けないだろう!いい加減にしろ!」
「本当だもん!本当だもん!本当なんだよおぉぉおおぉおお!」
「もういい!絶対に再起不能にしてやる!」
会話がとことん噛み合わなくて泣きそうになってくる。何故こんなことになっているかと言うと、事の発端は休み時間の下らない与太話。
俺を猛追するヤベーボクっ娘『神村楓』は数日前、文化祭の準備で同級生の男子と一緒に買い出しに出かけていたのだが、同行した男子は終始背後から鋭い視線を感じており……非常に良い心地が悪かったようだ。ストーキングされていた当人は謎の追跡者の正体を見破ることは出来なかったようだが……
たまたま現場に居合わせた俺は、『神村(兄)』が実妹と共に行動する男子学生を鬼の形相で睨み付けながら、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで追跡をする様を目撃してしまったのだ。
想像して欲しい、身長2メートル近くある男子学生が実妹に見つからないように1人で勝手にステルスゲームをおっ始めてる様子を……段ボールに隠れながら追跡するのは当たり前、町中の至る所にある隠れられそうなスペースに、謎のポージングをしながらテトリスみたいにピッタリ入り込む、人体で再現したスタイリッシュ・パズル・アクションゲーム(?)みたいなことをしていたのだ。
ありゃ普段クールぶってる癖に、実はとんでもねーシスコンなんじゃねーかと噂話に花を咲かせていたら……その場に偶然、神村楓が居合わせており、赤っ恥をかいて身体を怒りで震わせながら、その矛先を俺に向けて襲いかかり、現在に至る。
『人ハ信ジタイ事シカ信ジネェ・・・・・・男ナラ1発殴ラレテコイヨ。イツマデ徒競走ヲ続ケル気ダ?』
「オメーは俺の味方だろう!?神村の〈メルティ・ブラッド〉は絶対に受けに回って対応しちゃいけねーッ!」
俺と並走しながら軽口を叩いてるのは〈バッドサイクル〉、腹部に矢印で出来た円の形をした模様がある全体的にでっぷりした人型で、自我があり皮肉屋な俺のスタンド能力だ。
スタンド使い同士なら能力バトルに興じるのも一興かもしれないが……神村の〈メルティ・ブラッド〉は軽いノリで相手に出来ない危険なスタンドだ。能力の詳細までは把握しきれていないが、どんなぶ厚い壁だろうと拳のラッシュ攻撃を決めれば粉微塵に粉砕してしまう、恐ろしい破壊力を秘めている。アレに俺の〈バッド・サイクル〉の能力が合わされば………………絶対によくないことが起こる。
神村には見えていないだろうが、俺の身体からは粘着性の黒い泥みたいなものが滲み出てきている。これは恐らく世界で俺だけが唯一知覚して認識出来ている『不運のビジョン』だ。
『不運のビジョン』は、不運な人間ほどたくさん、そして頑固にこびりついており、俺の〈バッドサイクル〉はその不運を引き剥がし、捨てたり他人に擦り付けたり出来るが………………どんなに嫌なことから逃げ出して回避しようとも、不運は人間が少なからず持つ『素養』らしく、不運を全て剥がしたとしても染み出してくる……今現在の俺みたくだ。
182
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/06(火) 21:16:02 ID:AUXxv3.Q0
〈バッドサイクル〉は『俺ニ頼ラナイデ手離シニ運命ヲ受ケ入レタ方ガ楽ニナレルカモシレナイゼ』と言いながらも、俺の意思に同調して、俺の身体から滲み出る『不運のビジョン』を細かく引きちぎりながら後方に撒き散らし、神村にも付着させる。
重要なのはいかに細かくするかだ……ここで匙加減を誤れば、場合によっては人を死に至らしめる致命的な不運を押し付けてしまうかもしれない。
神村楓は人の話をロクに聞かねー、陰気くせー、可愛げのねーヤベー女だが、それでも相手は同級の女子高生だ。楽に致命的な不運を押し付けて始末するってえやり方は、俺自身の心に後味のよくねえものを残す。そして、それは少なからず『不運』の『素養』・〈バッドサイクル〉にも悪い影響を及ぼしかねない。
天の配剤という言葉がある。その言葉を信じるならば……俺は人事を尽くして、このクソッタレみたいな運命(バッドサイクル)と対決する。
しかし、そろそろさすがに息が上がってきた。ここは一旦身を潜めてバーサーカーをやり過ごして体勢を立て直そう。そんなことを考えながら俺が迷い込んでしまった廃工場は……見慣れないピンク色に包まれた人たちがたっくさんいらっしゃるぞ。
「だぁ〜れぇ〜チミィ?」
「ここ、紅鶴會の隠れ家なんですけどぉ、何勝手に入ってきちゃってるのかなぁ〜?」
紅鶴會……と言えば巷で有名な不良グループだ。時代錯誤なカラーギャングなことは間違いないが、ファンシーなピンク色を自身らのパーソナルカラーにしている奇抜なチーマーかと思いきや……それを畏怖の象徴に塗り替えてしまったアンタッチャブルな過激集団である。
メンバーは個性派揃い、その中でも特記すべき面子は、何をしでかすか予測不能な地元最狂不良一家『桐谷三兄弟』、伝説の暴走族『禁求轢怒羅』最後の継承者『錦山 隆二』、男も女もガキや老いぼれ・獣・物体ですら等しく平等に突貫工事を敢行してしまう無差別異常性欲者『姉端 フロイド』……そして、チームを取り纏める自称・現人神(ゴッド)『山本 崇』は別格にヤバい。飄々とした態度を周囲に振り撒くトリッキーな男だが……前述した荒くれ者たちを実力行使で部下に引き入れたり、成金の家で飼育されていたピットブルをステゴロで殺害、因縁をつけてきたヤクザを拉致監禁、凄惨な拷問の末に殺害して海に沈めたり、舐め腐ったスタンド使いをリンチにして殺害した……真偽不明な伝説が絶えない。
幸いなことに彼等は俺の〈バッドサイクル〉には反応していないので、大方非スタンド使いだろうが……徒党を組むタガの外れた連中は並みのスタンド使いよりも厄介だ。
「すんません!どうか見逃して!ただの空気だと思って!」
「どーするぅ、ゴッド?」
「うーん、まずは取っ捕まえて話し合おっ」
「口ダケ動ケリャ問題ナイナ?」
「もーまんたいっ、パパっとやっておしまい」
「よーし、お前らあの馬鹿を誰が先に取っ捕まえるかゲームをしようぜ」
……俺はもう涙が出てきた。何故ならコイツ等は全身に黒い泥を纏わりつかせているのだ。つまり何を言いたいかと言うと……コイツ等は俺と同様、不運がすぐそこまで迫ってきている。
「ボクの兄さんをバカにしやがって!再起不能にしてやるッ!」
不良の溜まり場だろうがお構い無く、怒髪天に身を任せてやって来た神村も、いつの間にか多量の『不運のビジョン』を全身に纏わりつかせているが……当人はその状況を認識できない為、最凶カラーギャングにもお構い無く突撃する。邪魔する者は当然鉄拳制裁。やりたい放題である。
「なんだお…バマッ!?」
「ボクの邪魔をするな!」
「……それはこっちの台詞だ。さっきから何なんだお前らは?」
「待て……よく見りゃ神村の妹じゃないか?」
「アイツの妹?ふーん・・・・・・そりじゃ焼き入れてやっか!」
「上等だ!全員かかってこい!返り討ちにしてやる!」
何やら紅鶴會の面子は神村兄と何かしら因縁があるらしく、彼女のことも知っている様子だ。
もっとも神村自身はそんなこと気にも止めず、全身に血管のような模様がある赤黒い無貌の人型スタンド〈メルティ・ブラッド〉を発現させると、その豪腕を容赦なく振るい、自分に迫り来る紅鶴會の構成員たちを凪払いながら返り討ちにする。
破壊力とスピードに特化した近距離パワー型スタンドなら並の不良集団くらい軽く一捻りできるだろうが……数の暴力に慢心することなく、各々が喧嘩慣れして、裏社会と繋がりのある手練れとなると話が変わってくる。一網打尽にする術がなければ厄介だろう。
有象無象の下っ端を蹂躙して無双状態の神村、敵は無駄に数が多く、何よりも神村楓自身が相手をただの不良、兄を馬鹿にした憎き敵の前座程度にしか認識しておらず―――
183
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/06(火) 21:18:28 ID:AUXxv3.Q0
「シュート!3点ッ!!」
―――下っ端を踏み台に、軽やかで力強い跳躍、山本の容赦ない空中殺法・フットスタンプを頭上からもろに受けてしまった。
……俺は悪くない。血気盛んな馬鹿たちの暴走に付き合っていたら身が持たない。そんな言い訳を自分自身に言い聞かせながら物陰に身を潜め続ける。
俺の代わりに不良たちの標的となった神村は、そのままコンクリートの床目掛けて、頭部を踏み潰されそうになるが、〈メルティ・ブラッド〉は山本の足首を掴み、力任せにコンクリートの床に叩きつける。
神村は辛うじて意識を保ち、崩れ落ちそうな姿勢をギリギリのところで持ちこたえるが……そこにイカレた桐谷三兄弟が邪悪に笑う。両手には市販の打ち上げ花火が握り締められており、悪漢たちは彼女に向けて一斉点火、迸る閃光の弾幕を射出しながら追撃する。
「くっ……!!?」
予想外の遠距離攻撃に流石の神村も怯み、後退を余儀なくされるが、その混乱に乗じて女体に忍び寄る巨漢の魔の手……姉端は気配を殺しながら神村の背後に回ると、腕をV字に組ながら女性の細首を裸締で極めようとする。平時なら〈メルティ・ブラッド〉で容易に反撃可能だが……山本から受けた渾身のフット・スタンプは今なお神村の頭を揺さぶり、スタンド能力の維持すらままならない。
「ヒッヒッヒッ……ヨウヤク、アノ神村ノ妹ヲ味見デキルゼッ」
「グゥ……!?」
「おい姉端、お楽しみはまだ始めるなよ。どうせならあのクール気取りのシスコン野郎の前でおっ始めてやれ」
「そりゃ良い、あの馬鹿がどんな顔をするか見物だぜ。こいつを出汁に脅せばきっと何でもしてくれるだろうなぁ」
「アイツモ、俺ノ、オナホニシテヤル」
手馴れた様子でスタンド使いを手玉にとった悪漢たちは、勝手に勝利したと思い込み下衆な話を始めるが……彼等は神村楓の地雷を踏み抜いてしまった。兄のことを馬鹿にされただけで怒りの猛追跡をおっ始めたバーサーク状態のブラコンが、兄を陥れようとする話を聞いたらどうなるだろうか?
プッツーーーーーーン
密着する女体の柔らかい感触、少し汗くさい生娘の健全なかほり……姉端は気持ち悪いケダモノの貌を恥ずかしげもなく晒しながら興奮、鼻息を荒げ、無力化した獲物をいよいよ絞め落とそうとするが―――
「――――――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!」
「ナッバァダアアアアァアアァァア!?!!」
―――突如、内側から猛烈な拳打の嵐が爆発!勢いよく吹き飛び、壁に激突する!その身にまとう衣類は何故かボロ切れと化し、ほぼ全裸状態になりながら、姉端は汚い尻を晒すように倒れ伏してしまった。
巨漢を吹き飛ばした少女は、満身創痍のハズなのに……兄を思う気持ちだけで再起を果たしたのだ!
無力化したハズの少女から思わぬ反撃に受けた紅鶴會だが、武闘派で名の知れた者たちの行動は迅速だ。桐谷三兄弟は咄嗟に各々の得物を携えて急接近―――
「「「ヒャッハーッ!!!鏖殺ッ!!!」」」
空っぽな頭にLSDを詰め込んでそうな言動通り、彼等のアクションは常軌を逸している。
先陣を切り込む三男は……ロータリー式の芝刈り機を抱えたままエンジンをフル稼働、高速回転する刃先を神村に向けたまま突撃し、その後方には隙を生じぬ三段構え……チェーンソーを振り回す次男、長物の刈払機を構える長男が控える。盛大に仰々しく騒々しい、圧倒的な威圧感と威嚇音を響かせた三位一体の殺戮遊戯(ジェットストリームアタック)を仕掛ける。
さらに別方向、神村の死角となる斜め後方からは、原型を留めていない改造バイクに股がる錦山が、三兄弟に負けじと喧しい騒音を吹き出しながら神村を轢殺しようと突撃する。
しかし、それはすべて悪手だ。神村楓のスタンド〈メルティ・ブラッド〉の破壊能力……否………………例えば、攻撃の際に敵に崩壊の引き金となる『弱点』を作り出す能力ならば……武器使いは容易に無力化できるだろう。
嵐のような拳の連撃で姉端の衣類をボロ切れにしたように、勇ましく稼働する芝刈り機も、喧しい回転音を響かせるチェーンソー・刈払機、オンリーワンな改造バイクも………………兄を守る為に覚醒した〈メルティ・ブラッド〉の獰猛な速業により、凡て均しく塵に返し……後に残るのは真っ裸になりながら情けなく寝そべる敗者のみ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、―――お前たちみたいな、便器に吐き出されたタンカスにも劣るチンピラ共に、兄さんは絶対に手出しさせないッ!!!」
184
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/06(火) 21:20:51 ID:AUXxv3.Q0
紅鶴會の強烈なネームド幹部たちを、孤軍奮闘で返り討ちにした神村を止められる者はいない。傍観する事しか出来なかった他の紅鶴會たちの面々は、倒れ伏す他のメンバーを抱えながら敗走することしかできず……いよいよ俺は神村に追い詰められる。
「隠れても無駄だ……お前も絶対に許さない」
「う、ううう―――」
身を潜める俺を、満身創痍になりながら探し続ける神村には『不運のビジョン』が相変わらず、全身に纏わりついており、いつ何が起きてもおかしくない状況だ。俺自身にも『不運のビジョン』は纏わりついており、不運の塊同士が接触すれば……とてつもなくヤバイ何かが起こる。
『アイツノ言ウ通ーリ、オマエハ無駄ナコトバカリシテルナァ・・・物陰ニ身ヲ潜メテルダケジャア、物語ハ進マネェーゾ』
〈バッドサイクル〉は相変わらず憎たらしい表情を浮かべながら皮肉を吐き捨てるのみ……だが、しかし、確かに〈バッドサイクル〉の言う通りかもしれない。逃げ続けても状況は変わらないどころか悪化するばかり、物言わぬ『不運のビジョン』がそれを警鐘してくれているのだとすれば?
―――逆だ!逆に考えるんだ!こうなったら『再起不能にされちゃってもいいさ』と考えるんだ!なけなしの勇気を振り絞れッ!!行動を起こさなければ『天の配剤』は攪拌すらされないッ!!
「チキショーッ!な、なんとかなれーッ!」
俺は全身にこびりついた『不運のビジョン』を出来る限りの引っ剥がし、半ば自棄糞になりながら、神村に突撃する。
〈バッドサイクル〉は能力主体の近距離スタンドだ。良くて人並みのパワーとスピードしか出せない
。それが典型的な近距離パワー型のスタンドに真っ正面から挑むの自殺行為に等しいだろう。〈メルティ・ブラッド〉の能力を受ければ最悪粉々に崩壊しかねない。
だから俺は、敢えて〈メルティ・ブラッド〉の連打を俺自身で受け止める。俺自身が覚悟を決めて受け止めれば、最悪ボコボコになりながら全裸にされるだけで済むハズだ。
……俺と同じように、神村も心に後味のよくねえものを残すやり方は避けている。一線を越えているなら紅鶴會は全身を粉々に打ち砕かれている。これだけは一か八かの博打ではなく確信だ!
俺は〈バッドサイクル〉の能力をフルパワーで発動、神村の『不運のビジョン』を引き剥がして、明後日の方向に放り投げるッ!!
やれるだけのことをやった俺は、学生服もシャツもパンツもボロボロになりながら吹き飛ばされた。勿論衣類の消失だけで許されるハズもなく、ダメージをしっかり受けており、俺は素っ裸にされながら倒れ伏せる………………あぁ、再起不能だよ。俺はいったい何をしているんだ?
全身に鈍痛が沈み込む。混濁する意識、自分の行動に果たして意味があったのか自問自答する事しかできない最中、それは突然やってきた。
猛スピードで廃工場内に侵入する大型トラック、運転席には……黒泥の怪人……否、『不運のビジョン』に飲み込まれた紅鶴會随一の凶人、仲間に担がれながら敗走したハズの山本崇が狂笑を浮かべているのが見えた!?
神村は……度重なる連戦により蓄積された疲労が限界に達し、兄を侮辱した憎き敵をぶちのめした達成感も相まって、床に大の字になって寝転がっている。咄嗟に起き上がろうにも限界を越えた肉体を精神力で無理矢理動かしてきたツケが今になって返ってきて、起き上がることすらままならない様子だ!
「う、うわああああぁああぁあああッ!!」
俺自身も身体を動かすことが出来ず、どうしようもない無常な運命に対して叫び声をあげることしかできなかったが――――――運命の車輪は既に右回りに動いていた。
暴走する大型トラックの右前輪が突如破裂、猛スピードで神村を轢き殺そうとしていたトラックは、右方にそれてしまい工場内の壁に勢いよく衝突してしまった。
何が起こったのか理解できないでいると―――
「……妹が世話になったな」
いつの間にやら身長2m近くはある大柄な男子学生……神村の兄貴が歩み寄ってきたかと思えば、全裸の俺に自分が着ていた学生服を優しくかけてくれた。あ、あったけぇ…!
妹が文化祭の準備で同級生の男子と一緒に買い出しに行っていただけで、華麗なる(?)尾行劇を繰り広げていた男だ………………妹の危機となればしっかり駆けつけてくれたのだ。
「兄さん………」
まさかの兄登場に、神村楓は気まずそうに口ごもらせるが、兄は何か言うわけでもなく、倒れ伏す妹を抱き抱えると、その身を軽々背負いながら、この場から立ち去っていった。
★
〈バッドサイクル〉本体―――
学生服を失い全裸になるが再起『可』能。
神村兄妹―――
紅鶴會を壊滅に追いやり、地元の不良たちからより一層恐れられる存在となる。
185
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/16(金) 23:28:16 ID:0H5O0b9k0
少し遅れてしまいましたがオリスタ16周年おめでとうございます!まったりと15周年記念企画を継続してきましたが、引き続き16周年目も勝手に遊びながらオリスタを祝福したいと思います。
ついでにもう一つのご報告、今まで2週間に1回の頻度で解答を投稿していましたが、今後は月1の頻度で解答や問題を投稿していきますので宜しくお願いします。
おまけに問題も投稿!
【課題名】
スティール・メイズ・ラン(鋼造りの迷宮走破)
【あらすじ】
貴方はどこかに向かおうとしている道中、No.1303 ミノタウロスの攻撃に巻き込まれて迷宮化した街を彷徨う羽目になりました。
【クリア条件】
迷宮から脱出せよ!
【使用オリスタ】
No.1303 ミノタウロス
【補足情報】
迷宮のスタンドを取り扱う本体を倒すのも可、ただ脱出するだけでも可です。
また迷宮内には自動操縦型スタンドと化したクソデカいミノタウロスが徘徊しています。遭遇すると襲われます。
【課題名】
脱衣ゲーム
【あらすじ】
貴方はNo.4804 ピンク・ノイズの口車に乗っかってしまいテーブルゲームで勝負することになりました。
【クリア条件】
全裸になる前にピンク・ノイズ本体にゲームで勝利せよ!
【使用オリスタ】
No.4804 ピンク・ノイズ
【補足情報】
テーブルゲームの種類は何でも可、ゲームに負けるとピンク・ノイズは敗者の着衣を1枚ひっぺがしてきます。ゲーム中のピンク・ノイズは無敵です。
186
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/31(土) 00:32:46 ID:QXkCwTJg0
【課題名】
>>30
お前の人生はこれで終わりだ
【使用オリスタ】
No.8853 ウェアー・ブルー・イズ
【解答】
高校入試。殆どの少年少女が何れ直面する人生の分岐点であり、積み重ねてきた努力と運を試される場所。
大抵の受験生は入試当日までに万全の準備を行うものだが、それでも時に避けられない不運に見舞われる事がある。
例えスタンド使いであろうと、そこに例外は無いのだ。
パキィィ………ン………
静かな教室内に破砕音が響き渡る。
試験開始の号令と共にシャーペンを持ち、答案用紙に名前や解答を書き込んでいた生徒達はコッソリと周囲を見回し…………やがて下衆な喜びに目を輝かせた。
受験生達が嘲りの視線を向ける先には青いサングラスをかけた1人の青年、そして彼の手に握られたシャーペンの破片があった。
突如として起こったハプニングに、青年の顔色はサングラスよりも青色に染まってゆく。
しかし、「サングラス越しに見る」景色の中に青年の助けとなる物は存在しない。
在るのは静かな教室の中で居眠りをする試験監督、我観せずとばかりに答案用紙に向かう他の受験生達。
…………そして、青年の不幸に対する喜びを隠しきれない受験生達の口元に浮かぶ歪んだ笑みばかりであった。
しかし、受験生達の精神的余裕はすぐに掻き消される事となる。
ボスッ……! ガチャン………! ガンッ……! ゴトッ!
突然彼等が机に置いていた筆箱や時計が「何者かが押しのけたかのように」音を立てながら床に落ち始めたのだ。
散らばる筆箱の中身、遠くへと転がってゆく消しゴム、折れるシャー芯、そして数多の物が床に落ち続けているにも関わらず未だ居眠りを続ける試験監督………
嘲笑っていた他人の不幸が己の身に振りかかり、パニックを起こした受験生達が「床に落ちたシャーペンの1本が宙に浮かび上がり、サングラスを掛けた青年の手元へと移った」事に気付ける筈も無く、青年がシャーペンを答案用紙に走らせる音が耳に入る事もなかった。
〜〜
「いやぁ…………幾ら焦ってたとは言え、まさかあんなに暴走するとは……流石にスタンドは出すべきじゃなかったかぁ?」
冬が過ぎ、ポツポツと桜の花が咲き始めたとある高校の体育館にて。
あからさまに人数の少ない新入生席で、青いサングラスを掛けた青年が密かにボヤいていた。
同室で試験を受けた学生達は誰1人として合格基準点を満たせず、結局自分以外の全員が落第した……という悲劇的な結末が、彼の良心にチクチクと刺さる。
「あんな連中と同級生になるのは確かに嫌だったけど……。でも、ここまでするつもりじゃあ無かったんだよなぁ……」
罪悪感が刺激され、めでたい入学式の場で何度目になるか分からない溜め息を吐く青年。
彼の心とは裏腹に、4月の空は青く澄み渡っていた。
187
:
名無しのスタンド使い
:2024/08/31(土) 22:57:10 ID:QtIJQ4BA0
>>186
解答の投稿有難うございます!
青グラサン君は高校デビュー前にど偉い業を背負いましたね。暴走だからしゃーない(すっとぼけ)
使用したオリスタの『本体の視覚情報を起点にスタンドビジョンを発現する特性』を考慮すると、スタンドと視覚情報を共有していない可能性も解釈できるので、物を掴んで運ぶような精密動作性は意外と得意じゃなさそうなイメージが連想できました。
188
:
名無しのスタンド使い
:2024/09/03(火) 22:17:14 ID:679ozD5g0
【課題名】
>>66
鉄とゴムと人の濁流
【使用オリスタ】
No.8638 ユースフル・ロマンス
【解答】
あれはまだ私の物心がつく前のお話。
幼い頃の私は好奇心旺盛な女の子で、いつも傍にいてくれる友達と遊んでいるうちに、気がついたら両親や姉弟たちとはぐれていました。
家族は心配していたと思いますが、能天気な私は独りでも心細くなることはなく、無邪気に野山を駆け回りながら、未知なる世界を冒険することに夢中になっていました。
茂みを抜けた先に舗装された道路を発見した時は、この道を辿って歩けば人に出逢えるかもしれないと楽観的なことを考えていましたが……世間知らずな幼児はようやく恐怖を思い知ることになります。
地面に伝わる震動、空気を震わせる音、異変を察知して振り向けば、自転車に乗った人たちが猛烈な勢いで迫ってきたのです。
要領が良ければ咄嗟に逃げ出すことも出来たかもしれませんが、初めて見る人の群れが放つ鬼気迫る凄みに腰を抜かしてしまい……まるで自動車のヘッドライトに照らされたウサギのように、私はその場から動けなくなってしまいました。
自動車に乗る人たちも私の存在を予期することは出来ず、ブレーキも間に合いません。迫りくる死、あわや轢き殺される瀬戸際の一瞬、未熟な私の傍にずっとついてきてくれた友達が救いの手を差し伸べてくれました。
それは私だけにしか見えないと思っていた秘密の友達……今は『ユースフル・ロマンス』と呼んでいます。
頭が真っ白になって動けないでいる幼い私に代わり、『ユースフル・ロマンス』は手の内側に忍ばせていた落ち葉を口に加えて息を吹き込ませます。
すると落ち葉は巨大な風船のように膨らみ、『ユースフル・ロマンス』は私を抱えたまま大きくジャンプ!
浮力を得た巨大な風船と化した落ち葉は、私の体重をものともせずに浮き上がり、自転車に乗る人の群れをなんなく飛び越えてしまいました。
今これと同じようなことを出来るかは分かりません。当時は私の中の生存本能が『ユースフル・ロマンス』を突き動かして、窮鼠が猫を噛むような馬鹿力を発揮できたのだと思います。
しかし、一難去ってまた一難、迫りくる全速力の死を回避したのも束の間、巨大風船と化した落ち葉は上昇を続けて、風に流されていました。
私は危機回避の喜びと空を飛ぶ初体験の感動に夢中で、ゆっくりと忍び寄る死の気配に気がついた時にはもう手遅れ……
幼い私は『ユースフル・ロマンス』を長時間維持することが出来ず、落ち葉は魔法が解けたように元に戻り、私は遥か上空から落下します。
はい、普通は死んでいるハズなのですが、私はこうして奇跡的にも、しぶとく生き延びています。
あの時は恐怖のあまり気絶していましたが、幸運にも落ちた先にあった木の枝がクッションになって、致命傷を避けることができ、そこがたまたま動物園の中だったこともあり、発見され次第早急に保護されて………………あの人に出逢いました。
「おや、気がついたのかい?」
「………………」
「いやぁ、まさか空から落ちてくるなんて本当にびっくりしたよ。イヌワシに捕まったのかな?でもそれにしては外傷がない……もしかしたら君はスタンド使い?」
「………………」
「まぁ、それはどうでもいいや。肋骨と左前足の骨が折れているから今は療養に専念しよう。しっかり治療して体力をつけて……まずはそれからだね」
「………………」
「ここがどこだか分からなくて不安だと思うけど、ここは『大瓜ここのつぼし動物園』、君以外にも色々な動物が沢山暮らしている場所だから安心して欲しい。悪いようにはしないから、絶対にね…」
「………………」
物言えぬ私を、彼は優しく介抱してくださりました。私の頭を優しく撫でてくれる手………初めて触れられた時……なんというか……その…お恥ずかしい話ですが、恋…………しちゃいまして………………
治療も無事終わり野に帰されても、あの人をもう一度見たくて………『ユースフル・ロマンス』の能力を利用して人間に化けながら動物園に通いつめ………あの人のことを遠目から眺め続けています。
タヌキと人間、叶わぬ恋であることは重々承知しています。それでも私は……私の命を救ってくれたあの人が、ただ元気で健やかで、ただ幸せそうに笑っていてくれるだけいい。
一緒にいられなくても、遠く離れてしまうことがあっても……私は貴方の幸福を祈り続けます。
189
:
名無しのスタンド使い
:2024/09/03(火) 22:19:26 ID:679ozD5g0
【課題名】
μ3の逆襲
【あらすじ】
貴方は願いことを叶えてくれる教祖が仕切るカルト宗教の噂を聞き付け、そのカルト宗教に潜入しています。何とか噂の教祖と対面して願い事を叶えてもらおうとしますが、教祖である少女はスタンド能力『μ3』を発動してリアル弾幕シューティングゲームを仕掛けてきました。
【クリア条件】
リアル弾幕シューティングゲームをクリアしろ!
【使用オリスタ】
No.8787 μ3
【補足情報】
『μ3』は3分弱の耐久弾幕シューティングゲームを仕掛けてきます。理不尽な密度の弾を避けきれば「勝ち」、被弾したら「負け」です。
第三者の介入があった場合も強制的に負けとする。
負けた者には、ほぼ何でもできるようになる。即死させることも、服従させることも、入信させることもできる。記憶操作もお手のものらしいです。
勝てば、このスタンドの本体に3つの要求ができる。これにも、無理がありすぎない限りは従わねばならないようです。
なお、スタンド使いはこのシューティングで「ボム」が使えるようになる。スタンド使いとして成熟していると回数が増え、範囲も広がる。最大6回。
課題名を回収できたらボーナス点(?)が加算されます。
【課題名】
監禁トークショー
【あらすじ】
貴方はお化けが出ると噂の空き家に肝試しで侵入します。家の中に入った瞬間、灯りがつき中にいた老人の幽霊『ブライス・スピリット』が優しく出迎えて、居間に案内されます。
言われるがまま座るが、老人の与太話は止まらず、痺れを切らして逃げ出そうとしますが、『ブライス・スピリット』の能力の影響で家から脱出することができなくなりました。
【クリア条件】
家から脱出しろ!
【使用オリスタ】
No.1887 ブライス・スピリット(陽気な幽霊)
【補足情報】
ステージは真夜中の空き家。
ブライス・スピリットは本体の生涯を語り終わるまで、対象を半径20mより外に出さない能力を持っています。
ひとり歩きを始めたスタンドに近しい振る舞いをしており、スタンドで攻撃しても本体自身が既に死亡しているため、正攻法(スタンドの直接攻撃)でダメージは与えられないとします。
ブライス・スピリットは本体の生涯について語ってきます。大体は晩年のつまらない与太話で3時間ほどで終わりますが、稀に90年丸々語ることもあり、そうした場合4カ月近くその場に監禁されることもあります。
【課題名】
四天王なのに五人いるっ!!
【あらすじ】
貴方は『ヴァルチャー』と敵対関係に陥っており、ヴァルチャー四天王+自称四天王から襲撃を受けています。
【クリア条件】
ヴァルチャー四天王たちを掻い潜り生き延びろ!
【使用オリスタ】
No.7166インヒューマン・ランペイジ
No.4016 ウォッチ・オン・ザ・ライン
No.3329 クルーシブル
No.2928 デス・メタル
No.2206 デュオ・トーン
【補足情報】
ステージはお任せ
ヴァルチャー四天王たちの基本戦術は、前衛は専らインヒューマン・ランペイジの白兵戦+デュオ・ドーンの認識汚染、後方支援(標的の監視&追跡)はウォッチ・オン・ザ・ライン、多数戦の切り札&潜入工作員のクルーシブル、一撃必殺の本命はデス・メタルと役割分担をしています。
ウォッチ・オン・ザ・ラインの本体を戦闘不能にした場合に限り、No.2255『ノック・オン・エニー・ドア』の本体がプッツン状態で乱入してくるかもしれません。
四天王+自称四天王が全員登場しなくても可としましますが、四天王+四天王が勢揃いした場合はボーナスポイントが加算されます(?)
190
:
名無しのスタンド使い
:2024/09/03(火) 22:23:30 ID:679ozD5g0
課題内容に誤表記があったので再投稿しますm(_ _)m
【課題名】
μ3の逆襲
【あらすじ】
貴方は願いことを叶えてくれる教祖が仕切るカルト宗教の噂を聞き付け、そのカルト宗教に潜入しています。何とか噂の教祖と対面して願い事を叶えてもらおうとしますが、教祖である少女はスタンド能力『μ3』を発動してリアル弾幕シューティングゲームを仕掛けてきました。
【クリア条件】
リアル弾幕シューティングゲームをクリアしろ!
【使用オリスタ】
No.8787 μ3
【補足情報】
『μ3』は3分弱の耐久弾幕シューティングゲームを仕掛けてきます。理不尽な密度の弾を避けきれば「勝ち」、被弾したら「負け」です。
第三者の介入があった場合も強制的に負けとする。
負けた者には、ほぼ何でもできるようになる。即死させることも、服従させることも、入信させることもできる。記憶操作もお手のものらしいです。
勝てば、このスタンドの本体に3つの要求ができる。これにも、無理がありすぎない限りは従わねばならないようです。
なお、スタンド使いはこのシューティングで「ボム」が使えるようになる。スタンド使いとして成熟していると回数が増え、範囲も広がる。最大6回。
課題名を回収できたらボーナス点(?)が加算されます。
【課題名】
監禁トークショー
【あらすじ】
貴方はお化けが出ると噂の空き家に肝試しで侵入します。家の中に入った瞬間、灯りがつき中にいた老人の幽霊『ブライス・スピリット』が優しく出迎えて、居間に案内されます。
言われるがまま座るが、老人の与太話は止まらず、痺れを切らして逃げ出そうとしますが、『ブライス・スピリット』の能力の影響で家から脱出することができなくなりました。
【クリア条件】
家から脱出しろ!
【使用オリスタ】
No.1887 ブライス・スピリット(陽気な幽霊)
【補足情報】
ステージは真夜中の空き家。
ブライス・スピリットは本体の生涯を語り終わるまで、対象を半径20mより外に出さない能力を持っています。
ひとり歩きを始めたスタンドに近しい振る舞いをしており、スタンドで攻撃しても本体自身が既に死亡しているため、正攻法(スタンドの直接攻撃)でダメージは与えられないとします。
ブライス・スピリットは本体の生涯について語ってきます。大体は晩年のつまらない与太話で3時間ほどで終わりますが、稀に90年丸々語ることもあり、そうした場合4カ月近くその場に監禁されることもあります。
【課題名】
四天王なのに五人いるっ!!
【あらすじ】
貴方は『ヴァルチャー』と敵対関係に陥っており、ヴァルチャー四天王+自称四天王から襲撃を受けています。
【クリア条件】
ヴァルチャー四天王たちを掻い潜り生き延びろ!
【使用オリスタ】
No.7166インヒューマン・ランペイジ
No.4016 ウォッチ・オン・ザ・ライン
No.3329 クルーシブル
No.2928 デス・メタル
No.2206 デュオ・トーン
【補足情報】
ステージはお任せ
ヴァルチャー四天王たちの基本戦術は、前衛は専らインヒューマン・ランペイジの白兵戦+デュオ・ドーンの認識汚染、後方支援(標的の監視&追跡)はウォッチ・オン・ザ・ライン、多数戦の切り札&潜入工作員のクルーシブル、一撃必殺の本命はデス・メタルと役割分担をしています。
ウォッチ・オン・ザ・ラインの本体を戦闘不能にした場合に限り、No.2255『ノック・オン・エニー・ドア』の本体がプッツン状態で乱入してくるかもしれません。
四天王+自称四天王が全員登場しなくても可としましますが、四天王+自称四天王が勢揃いした場合はボーナスポイントが加算されます(?)
191
:
名無しのスタンド使い
:2024/10/01(火) 23:20:46 ID:Nr0xrnaM0
【課題名】
>>77
タレント特権
【使用オリスタ】
No.6589 ルック・アライヴ・サンシャイン
【解答】
宵闇が迫る頃、ネオンサインと雑踏に埋め尽くされた繁華街は、賑わいと喧騒が一緒くたに混ざり合う。
街中を往き交う人々の群れは、大抵の場合は互いを干渉せず、無関心のまますれ違うだけだが……今日に限っては様子が異なる。大通りにできている人集りは笑いと拍手・歓声に包まれていた。
キャップ帽を深く被った女の子も、その様子が気になり、興味本位で野次馬に興じてみると……人混みの中心にはお笑いタレントの『鵺 龍之助』がいた。
彼は暴力的なツッコミが持ち味のベテランお笑い芸人、複数のレギュラー番組を抱える売れっ子で……その手には当然のように金属バットが握られており、血塗れになりながら泣き叫ぶ女性を暴行している真っ最中だった。
「痛いよぉ!もう止めて!」
「なんでや?おんどれが始めた物語だろう?やっちまったんなら最後まで走りきらなぁ〜あかんねん!!」
ドカッ バキッ ボコッ
「あー痛い痛い痛い!!!!ねぇわかったわかったわかったよもう!痛いんだよおおおお!」
ガシッ バンッ ドンッ
「痛いのは分かってんだよオイ!オラァァァアアア!!!ワイのファンなんやろ?ストーキングするほど愛してくれてんやろ?段ボールにゴツイもんぎょーさん入れてくれたっけ?色々ご機嫌なサプライズしてくれたやん!」
ガンッ ゴンッ メキャッ
「ねーホントムリムリムリムリ、ねぇ、やー、ふー、うー、ああーッ!!」
「汚ねー手でさわんな!離せよオイ!掴んだら×2、掴んだら×2やからな!!おのれはワイのことが気になって四六時中思っていてくれたやろ?そんなにワイを思ってくれてるならワイとどつき漫才したらええねん!こうやってさ!嬉しいだろぉう?なぁ?ダハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
ゲシッ ボキッ グチャッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「あ^ぁ〜その叫び声、なんか芸術的で素敵やん」
いったい何を見せられているのか……正気の沙汰とは思えない。公開虐待ショーが敢行されているにも関わらず、観衆は女性が暴行される様子を見て、腹の底から面白おかしく楽しそうに笑っている。
ギャラリーの中には警察官の姿もいるが、鵺の凶行を止めるような素振りは一切見せず集団と同調するだけ。この異常事態は即興のコントかネタとして受け入れられており、キャップ帽の女の子だけが異変に気がついていた。
何か勘づいたキャップ帽の女の子は、注意深く鵺を観察するが……彼の周囲にはスタンドのビジョンは浮上していない。試しに自分のスタンドビジョンを発現させても鵺は一切反応せず、「ダハハハハ」と笑いながら女性をしばき倒しているだけ。
女性も女性で血塗れで満身創痍ではあるが、あれだけ金属バットで叩かれても驚異の耐久力で決して倒れず……もしかしたら『仕込み』なのか?
鵺 龍之助の現実と虚構の境界線を有耶無耶にしてしまうショーマンとしての技術、或いはカルト的なカリスマで観衆の感情を巧みに煽動しているのか?何にせよキャップ帽の女の子は、この奇妙な事態のタネを看破できずにいる。
192
:
名無しのスタンド使い
:2024/10/01(火) 23:22:46 ID:Nr0xrnaM0
そもそも自分と彼等は無関係、お楽しみの最中にわざわざ水を差す必要はないが、キャップ帽子の女の子………………新規新鋭の芸能事務所『Z1プロダクション』所属の笑顔が眩しい元気系アイドル娘は、それをよしとしない。
プライベートでお忍び中故に、目立つ行動は本来は避けるべきだが……いずれは世界進出を視野に入れる『Z1プロダクション』のアイドルは、目前で絶望に打ちのめされた人がいるのであれば、その手を取って希望を魅せるくらい出来なければならない。
皆が皆、彼女のようなスタンスでは当然ないが……インディーズ時代から共に辛酸を舐めてきた社長に近しいスタンド使いの初期メンバーたちは、『皆』で掲げた『夢』を夢で終わらせる気はない。
『私たち』が前に出て、世界中から認められることにより、世界中のどこかにいる『孤独な皆』が1歩でも半歩でも前に進めるような世界を作るために。
相対する相手は芸能界の大物、下手を打てばプロダクションの存続の危機に関わるかもしれないが、
性根の腐ったサディストに尻尾を振って迎合しているだけでは、日本の芸能界のトップには到底立てないだろう。
―――対決だ。この状況を止められるのは私だけ!あんな酷いことをしながら、皆の笑顔を引き出そうとするなんて絶対におかしいよ!
彼女はキャップ帽を脱ぎ捨てながら、指先が銃口になっているハートの装飾が特徴的な自身の人型スタンド【ルック・アライブ・サンシャイン】を発動、自分とスタンドの動きをシンクロさせながら人差し指を周囲の観衆に向けるや否や―――
「 ば っ き ゅ ん !!!!!」
その掛け声は彼女の決め台詞にして得意技。
【ルック・アライブ・サンシャイン】の指先から特大のスタンド・エネルギー光弾が放たれる。それは周辺の観衆、鵺龍之介や暴行されている女性、まるごと飲み込み、瞬く間に消失する。
光弾に晒された人々は誰一人傷つき、倒れ伏す様子はないが………………心の奥底に眠る大切な何かが一斉に弾けてしまう!
「ばっきゅん」
「ばっきゅん?」
「ばっきゅんっ!?」
「ばっきゅん!」
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
【ルック・アライブ・サンシャイン】が放った光弾に触れてしまった観衆は、突如姿を現したZ1プロダクション』所属アイドルに魅了され……腕を振りながら彼女の得意技をコールする。
それまで場を支配していた鵺 龍之助は金属バットを投げ捨てて、暴行を受けていた被害者の女性すらアスファルトに倒れ伏しながら「ばっきゅん」「ばっきゅん」と、無邪気に連呼して彼女のファンと化してしまった。
奇妙な一体感に包まれた路上は、さながら彼女の独断ライブ会場となり、こうなるとアイドルは元気な笑顔を振り撒きながら完璧な偶像を演じきる。
「みんなーありがとう!!それじゃ、今度はそこで怪我して倒れている人を助けたいからみんな手伝ってね!ばっきゅん!」
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
( ゚∀゚)o彡゜ばっきゅん!ばっきゅん!
こうして彼女の伝説は積み重なって行くが……それはまた別のお話。
193
:
名無しのスタンド使い
:2024/11/05(火) 23:13:21 ID:htK6Rwvs0
【課題名】
>>78
危険性証明問題 その①
【使用オリスタ】
No.113 アークティック・モンキーズ
本体名:城嶋 丈二
【解答】
アークティック・モンキーズSS1+2 2次創作
危険性証明問題 その①
この物語は、数奇な運命に立ち向かった青年が歩んできた道筋の断片、一欠片の可能性。
父の敵討ちを果たし、とある『組織』を壊滅に追いやった後……底知れぬ邪悪な『怪物』と対決する前のお話。
――― 2025年 9月 ―――
大雨が降りしきる街並み、寄り添うように密集する屋台街の休憩スペースには、赤色の無地の半袖を着た青年『城嶋 丈二(じょうしま じょうじ)』が煙草をふかしながら雨宿りをしている。
フロリダで羽を延ばしていた裏切者に、きっちりケジメをつけさせた後……自分という人間を見つめ直すべく世界を放浪する旅に出てから5ヶ月経過、丈二は日本に残った三島 由佳里(みしま ゆかり)から預かった愛犬・リリィと共に東南アジア諸国を巡り、現在はタイの首都・バンコクに滞在している。
この時期のバンコクは雨季にあたり、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りのスコールが1日に数回は発生する。滞在当初は冠水する道路を目の当たりにし、どうしたものかと頭を抱えていたが……数日経てば現地の人々を見習いこの環境にも適応していた。
雨で濡れても困らないクロックス系のサンダルを履いて、折り畳み傘を持ち歩きながら観光して回り、雨が降れば近場の店や建物に避難して時間を潰してやり過ごす。
自動車を恐がるリリィはまだホテルで留守番してもらっているが、いずれは丈二が下見を済ませた安全な場所を一緒に見て回るつもりだ。
丈二「おっ……ようやく止んでくれたか」
丈二「サワッディーカップ」
おばちゃん「サワッディーカー」
スコールは1時間もしないうちに上がってくれた。丈二はボディバッグから携帯灰皿を取り出して煙草の吸殻をそこに捨てると、雨宿りを受け入れてくれた屋台のおばちゃんに、合掌してお辞儀するタイ式の挨拶『ワイ』を実践してその場を後にする。
現在地はバンコクの旧市街(別名 ラタナコーシン島)、古き良き時代のタイ文化が格式の高い寺院と共に現存する歴史深い場所で、近代的なサイアム地区やシーロム地区とは異なる趣向の観光地だ。
丈二「ここはカオサン通りだよな?うーん……やっぱり地図見ねーと全然分かんねーな。このまままっすぐ歩けばワット…ちゃな……そんくらーむ……につくのか?」
馴染みのない異国の地、道に迷いそうになった丈二は立ち止まると、にらめっこでもするかのようにケータイの地図アプリを注視する。
その様子は端から見れば、どこからどう見ても日本人の観光客にしか見えないだろう。何も知らない二人組みの男はオートバイに乗りながら疾駆、丈二の真横を横切る瞬間、後部座席の男が手を伸ばして丈二のケータイを掠め取ろうとするが―――
刹那、丈二の身体が陽炎のように揺らめいたかと思えば、身の丈ほどもあるギターケースを背負った、小柄な猿のスタンド『アークティック・モンキーズ』が出現、ひったくりの魔の手を払い除けてみせた。
A・モンキーズ『ムヒーッ!』
ひったくりB「うぉっ!?」
丈二「失せろ」
城嶋 丈二は、ただの平和ボケしたジャパニーズではない。彼は『ナイフ』に仕込まれた未知のウィルスから自分の写し身のような守護霊を発現する異能・スタンド能力に覚醒し、8ヶ月前まで血で血を洗う死闘を繰り広げて生き延びた生還者なのだ。
旅先で日本人だと舐められることも度々あるが、大抵の場合は難なく切り抜けてきている。もっとも余計な揉め事は起こしたくないので、バイクのひったくり犯も軽くあしらって見逃したいた。
丈二(なんか最近……妙に多いな)
それにしても最近、丈二はいく先々でスリやひったくり・強盗に遭遇していた。どれも未遂で終わらせているが、さすがに回数を重ねるに連れて違和感を覚え始め……その違和感はこれから起こる奇妙なトラブルに収束してゆく。
丈二は気を取り直して歩み始めると、丁度前方から通行人から近づいてくる。そいつは一見するとマーゴット・ロビー似のマブイ女のように見えたが……………場違いな黒いパーティードレスを身に纏い、右手には厳ついサバイバルナイフが握り絞められており、何よりも不気味な程に無表情……さながら自分のことをヨル・フォージャーか何かだと思い込んでそうなアサシン系の不審者だ。
そいつは丈二を発見するなり、無機質なポーカーフェイスのまま、周りの通行人を押し退け、全力疾走で急接近してくる。
194
:
名無しのスタンド使い
:2024/11/05(火) 23:14:48 ID:htK6Rwvs0
丈二「やれやれ……今日は厄日か?」
見知らぬ女の強襲、身に覚えのない丈二は一瞬困惑するが……すぐに自分が殺害した男『柏 龍太郎(かしわ りゅうたろう)』の姿が脳裏に過る。人類淘汰という狂気の野望を掲げていた男の死により、日本の政界や経済界にまで影響力を及ぼしていた強大な『組織』も瓦解したが……
破滅の引き金を引いた丈二は当然、組織の残党や関連組織、その他諸々・知らない誰かから逆恨みを買う可能性は十二分にありえるだろう。
丈二(何だか知らねーが、降りかかる火の粉は払うしかねーぜ)
A・モンキーズ『ムヒーーーーーーッ!!』
A・モンキーズは丈二の前に立つと、刃物を突き立てようとする女と正面衝突するように突撃する。スタンドの姿はスタンド使いにし見えない為、非能力者が相手なら一方的に倒せるハズだが……
猪突猛進を地で行っていたハズの刃物女は、まるでアークティック・モンキーズの動きが見えているかのように、咄嗟に身を退いてみせると、アスファルトを力強く蹴り出し、鋭い横飛びをしたかと思えば、手に握り締めていたサバイバルナイフを丈二に向けて投擲する。
射線には本来いるハズのA・モンキーズはおらず、呼び戻そうとしても間に合わない。丈二は咄嗟に身を屈めて飛来する刃をやりすごそうとするが……
囮は何時だって悪目立ちして注目を引き、本命はこごぞという時まで息を潜めて隠れている。
丈二が気がついた時には、目前のすぐそこには女性の拳骨が肉薄しており、右頬に強烈なストレートパンチが直撃して吹き飛んでしまう。
丈二(な、何だこいつ……スタンド使いか!?)
歯が折れたのか口から血が溢れ出す。震える脳髄が必死に情報を整理しようとする。丈二は朦朧とする意識を奮い立たせて、対峙する刃物女の行方を探すが……突如、胸ぐらを何かに捕まれて女の前に引きずられる!
よく見れば丈二の胸ぐらを掴んでいたのは、女性の左腕だった。腕の断面からは鋼鉄のワイヤーが伸びており、釣糸のように巻き取られており、その先には刃物女がいるが……サバイバルナイフを握り締めていた右腕からは、光輝く謎のサーベルが露になっている。
丈二「うぉぉおおぉおおおぉぉおおお!??お、お前は一体なんなんだ!?」
丈二はそれが何なのか知る由もない……1938年、世界第二次大戦が幕開けする直前、かつて歴史の裏側で現代に蘇った闇の一族・柱の男と波紋使いたちの闘争を、その中で自分の肉体をサイボーグに改造して、柱の男に立ち向かった誇り高いナチス・ドイツの軍人がいたことを!
彼は最終的に柱の男には及ばず、1942年12月24日
極寒の地獄スターリングラードで孤立する遊軍を救出するべく、他の救援部隊が撤退する中、孤軍奮闘の大立ち回りをした末に名誉の戦死を遂げた。
サイボーグ化した彼の肉体は敵軍に回収されることなく、爆発四散したが、彼を人間武器庫に至るまで改造した当時のナチス・ドイツが誇る世界一の化学力(オーバーテクノロジー)と、彼の部隊が監視していた柱の男の戦闘データは、人知れず裏社会で脈々と受け継がれて研究され……………とうとう新たなサイボーグ化した改造人間が誕生した。
その無機質な瞳に、誇り高いドイツ軍人の魂は当然宿ってはいないが……その機械仕掛けのボディには、当時では再現仕切れなかった柱の男たちの力が備わっている。
改造女「光の流法(モード)……輝彩滑刀、起動」
ブ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ン
改造女の右腕から剥き出しになっている刃は、刀身の表面で鮫の歯のような極小の刃が高速で動き回ることにより、光が複雑に乱反射、氷を彷彿させる冷たく輝く異質な光彩を放ち、その切れ味もオリジナルに匹敵する。
当時から柱の男たちする超越する規格外の握力でガッチリ胸ぐらを掴まれた丈二は逃げられないまま、対象の捕捉に趣を置いた有線(ワイヤード)式のロケットパンチに引き寄せられて―――改造女は右腕から伸びる刃を容赦なく振るう。
ブ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ン
ス カ ア ァ ァ
・・・・・・・・・・・・
ズ リ リ リ リ
グラァッ
ガシャンッ!!
ドクドクドクドク……
195
:
名無しのスタンド使い
:2024/11/05(火) 23:16:07 ID:htK6Rwvs0
たまたま近くにあった道路標識やオートバイに乗って通りすぎようとしていた一般人は、鋭利な切断面を無慈悲に晒しながら崩れ落ちてしまうが……肝心の丈二の姿はどこにもいない。左手に残されたものは赤色の無地の半袖だけ。
改造女は片耳に内蔵された無線の通話機に現状を報告する。
改造女「目標喪失……気流可視化カメラにも反応がありません。どうします?」
???『馬鹿者、それは城嶋丈二のスタンド能力だ!周囲の赤色に警戒しろ!ヤツはそこに潜伏しているッ!』
改造女「あぁ……もう遅いようです」
改造女の周囲には一刀両断に切り伏せたバイカーの真っ赤な血の海が広がっており、改造女が血の海に沈んだかと思えば……
A・モンキーズ『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!』
赤色の無地の半袖に潜伏していた丈二とA・モンキーズは、路上に広がる血の海に移動すると、改造女を赤色に引きずり込んだかと思えば、両手の拳骨から繰り出す必殺のラッシュ攻撃をお見舞いしてみせた。
拳骨の嵐をまともに受けた改造女は吹き飛んで路上に倒れ伏すが……
丈二はあり得ない光景を目の当たりにして驚愕する。確かな手応えはあったハズなのに……改造女は即座に体制を立て直したかと思えば、血の海から浮上した丈二に向かって疾駆する。
丈二「おいおいおいおいおいおいおいおい、マジかよコイツ!?」
改造女「肉体の損傷率64%、活動限界時間までおよそ1000秒………………活動継続のためヒロイック サブスタンス(多幸物質)を脳内に分泌させました。これより炎の流法と風の流法の使用を解禁します」
うわ言のように何かを呟きながら改造女は丈二に向かって突撃を敢行する。背中から突如ロボットアームを露出したかと思えば、前方に突き出した両腕を高速回転させて、今にも何か仕出かしそうな雰囲気をこれでもかとアピールしてくる。
人間を軽く凌駕する吸血鬼を、食料にしてしまう柱の男の力が備わった改造女に、赤い色のものに出入りできる能力しか持ち得ないアークティック・モンキーズの使い手・城嶋 丈二が正面からぶつかれば、到底敵わないだろう。見た目は可愛らしいバービー人形なのに、中身はとんでもくヤベーG.I.ジェーンだ。末恐ろしい。
純粋な戦闘力能力は改造女に軍配が上がる。しかし、スタンドバトルは機知の戦い………………自分のやりたいことだけを相手に押し付けているだけでは、いつか相手に足元をすくわれてしまうのが常である。
丈二「悪いな……何だか知らねーけど、お前はマジで危険そうだからこのヤり方した思いつけなかったんだ……」
丈二は再び血の海に沈んでしまった怪物を見下ろしながら、申し訳なさそうな顔色をうかべていたが……歯茎をみせるにはまだ早い。
赤色の世界
改造女「申し訳ありません、トラップにはまってしまいました。救援を要請します」
???『言われなくても分かっている。Bプランの部隊はすぐに動くだろう。お前は城嶋 丈二が再びアークティック・モンキーズを発動する瞬間に脱出しろ』
改造女「了解しました」
To be continued...
196
:
名無しのスタンド使い
:2024/12/03(火) 23:13:28 ID:bQtobIkE0
【課題名】
>>78
危険性証明問題 その②
【使用オリスタ】
No.113 アークティック・モンキーズ
No.678 アークティック・モンキーズ:ハムバグ
本体名:城嶋 丈二
No.5302 フレンドリー・ファイア
【解答】
アークティック・モンキーズSS1+2 2次創作
危険性証明問題 その②
〜バンコク カオサン通り PM15:17〜
色鮮やかな建物や看板が入り乱れる雨上がりの街並みに甲高い悲鳴が響き渡り、現場は喧騒と混乱に包まれる。
サイボーグ女が突如暴れだし、たまたま近くを通りすぎたオートバイの運転手を惨たらしく一刀両断、路面の水溜まりを血の海に染め上げる。
何も知らない人々は、現場に立ち尽くす半裸の日本人のことなど目もくれず逃げ惑う最中……事の発端を知る2組の男性は、遠く離れた建物の屋上で高みの見物をしている。
男A「尖兵の姿が消失……司令より、Bプランの始動が宣言された」
男B「OK……それで?もう一度確認したいんだが、俺等は突然消えていなくなった機械仕掛けの『メリー・ジェーン』と、これから颯爽と現れてくれるタイ生まれでタイ育ちな『ジャンキー・チェーン』たちの尻拭いをすればいいんだな?」
男A「おい、口を慎め……丸聞こえだぞ」
男B「ハッ、モルモットのお茶目な鳴き声にいちいち反応するリアクターはいね〜ぜ。それとも何だ?そうだな例えば、お仲間は一目惚れしたお相手にストーキングしながら、24時間細やかなスケジュールが記載された観察日記を嬉々としながら送りつけるような気持ち悪ぃド変態……みたいなヤツだって言いたいのか?」
男A「お前はいったい何を言ってるんだ?仕事だ。下らん話しは止めろ」
男B「アイ・アイ・サー」
軽口の狙撃手はスナイパーライフルのスコープ越しからターゲットの様子をうかがう。シニカルな口先とは売って代わり、その眼光は猛禽類のように鋭く、標的の急所に狙いを定めている。
もう一方の寡黙な観測手は、相方の戯れ言を馴れた調子で冷静に捌きつつ、フィールドスコープや光学機器で一帯の状況を数値化しながら俯瞰する。
彼等が共に狙い済ますのは、スタンド使いのジャパニーズだが、そいつはただの日本人ではない。日本を裏で支配していたあの『組織』を壊滅に追いやった英雄にして規格外の怪物。
彼が果たした偉業は、裏社会にも噂となり流布されて……今回のような騒動に発展してしまったのだろう。
世界は広い、様々な人種、様々な思想を持つ人々が、同じ空の下で入り乱れているが、その中にはミュータントを快く思わない者たちも当然存在する。
観測手「ワーカーが動きだした。これより非スタンド使いによるスタンド使い抹殺のテストケースを開始する」
狙撃手「イエッサー」
〜同時刻、カオサン通り〜
喧騒と混乱の真っ只中、騒動に巻き込まれた当事者・城嶋丈二は辺りを見渡し、伏兵の存在を警戒する。様々な死闘を経て身に付けた直感が、生存本能のスイッチを入れる。
謎の襲撃者を血の海に沈めて無力化できたが……サイボーグ化された改造女、アレは個人でどうにかできる兵装ではない。得たいの知れない徒党が裏で蠢いているかもしれない。
丈二(早速お出ましか!)
丈二の予想通り伏兵が現れた。そいつ等は黒いロングコートにサングラス姿の露骨に怪しい三人組の男で、示し合わせたかのようにコートを跳ね除けたかと思えば……散弾銃の銃身を丈二に向けると、容赦無く引き金を引く。
さらに丈二の意識外からも狙撃手の凶弾が襲いかかろうとしている。
射程外から繰り出される散弾銃の3挺同時掃射は、並のスタンドでは流石に捌き切れず、丈二の逃げ場は血の海しかない。
紙一重のタイミングでA・モンキーズに引き込んでもらうが、赤の世界には厄介極まる改造女が潜んでおり……
丈二が血の海に侵入した瞬間……真っ赤な水中内で、改造女は両腕を関節ごと回転、そのふたつの拳から生じる圧倒的な推進力はまさに歯車的渦潮のオンスロート!
赤色の世界に着水したばかりの丈二の無防備な臀目掛けて、人間魚雷と化したサイボーグ女が激突する!
丈二「クッ!?」
改造女「目標との接触に成功、赤色の世界から脱出……完了」
A・モンキーズ『ムヒーーーーーーッ!!』
改造女「ッ…」
赤色の世界から無理やり吹き飛ばされた丈二だが、何とか改造女をA・モンキーズで殴り飛ばして、強引に距離を取る。
しかし、地上にはトリガーハッピーたちの滅茶苦茶な乱射が待ち構えている。近場にはただのアスファルトが広がるだけ、先程まで着ていた赤色の半袖は改造女との攻防で、どこかにいってしまった。目ぼしい赤色は皆無。
丈二は、覚悟を決める他ない。
197
:
名無しのスタンド使い
:2024/12/03(火) 23:14:59 ID:bQtobIkE0
丈二「うおおおぉおおおぉおおおお!!」
A・モンキーズ『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!』
丈二は雄叫びを上げながら駆け出した。A・モンキーズの拳打のラッシュで迫り来る弾幕を弾き飛ばすが、散弾銃の3挺同時攻撃は全て捌けない。
急所は全力で防いでも、手足に散弾の雨粒が食い込む。激痛が全身を駆け巡るが、それでも構わず、丈二は弾丸を避けるため、建物の中に侵入しようとするが……
丈二の動きを先読みした観測手は、狙撃手に指示を出す。
観測手「目標652m、風は左から」
狙撃手「照準良し」
観測手「撃て」
狙撃手「撃て」
遠く離れた屋上から放たれる凶弾は、丈二の右側頭部、筋肉と頭蓋骨を貫通した。激烈な痛みと血液を迸らせながら丈二はアスファルトに倒れ込むが……その瞬間、全身から流れる自分自身の血液に身を沈める。
観測手「ヒット……しかし、スタンド能力により目標消失、まだ生存している!」
狙撃手「チッ、運のいいヤツだ!直前でよろめきやがって!!」
それはまさに不幸中の幸い。A・モンキーズが防ぎきれず、丈二の手足に被弾した散弾は、狙撃手たちの精密射撃を着弾寸前で狂わせてしまった。
そして、この好機を逸した瞬間、とことん追い詰められた手負いの獣は、狩人たちの喉元に容赦なく牙を突き立てる。
改造女「目標発見、活動限界時間まで残り100秒、ワーカーと連携します」
丈二が再び血溜まりから浮上した瞬間、襲撃者たちは相変わらず散弾銃をの波状攻撃を仕掛ける。
それに合わせるように改造女も身に纏う黒いドレスの胸部を引き剥がし、両腕を頭上まで上げて、突然大胆不敵なポーズを披露――否、体内に内蔵していた銃機関砲を露出させ、徹甲弾を連射する!
しかし、飛び交う弾丸の嵐は、丈二の肉体をズタボロにはせず、改造女と散弾銃の襲撃者たちは、いつの間にか互いの銃撃が直撃して、血溜まりを作りながら路上に倒れ伏せていた。
★
その様子を安全圏で観測していた狙撃者たちは当然困惑し、無線越しの男は怒り狂う。
観測手「馬鹿な!いったい何が起こっている!?」
狙撃手「も、もしかしてよぉ〜〜〜あの『組織』を………『柏 龍太郎』を………ぶっ壊した切り札を切ったみたいだなぁ〜〜〜ヤベーぞ」
観測手「仕事は失敗したが……契約は遂行した。速やかに退くぞ」
狙撃者「おう」
指令『待て、敵前逃亡は許さんぞ』
観測手「前金分の働きはした。これ以上アレに関わる理由はない」
狙撃者「おい、やっぱりこいつド級の変態だったな」
観測手「知らん、どうでもいいから早く泥舟からずらかるぞ」
狙撃者「アイ・アイ・サー」
指令『クソッ!どいつもこいつも役立たずばかり!プランCだ!アレを動かせ!』
無線越しの男、ミュータントを忌み嫌う純粋人類至上主義者は、憤慨しながら新たな策を発動する。
★
血溜まりから浮上した丈二と共に並び立つ、人型のフォルムのスタンドは、その手に『Humbug』と書かれたキャンディの袋を抱えているが、非スタンド使いの狙撃者たちにはその変化を正確に認識できない。
『アークティック・モンキーズ:ハムバグ』
それは『アークティック・モンキーズ』の進化形態にして完成体……柏 龍太郎の強大なスタンド能力に対抗するべく、丈二が試練を乗り越えて会得したスタンド能力の極致。その能力はハムバクが生み出すキャンディに触れた者に、丈二が考えたオリジナルスタンド能力を与える。
血の海で沈黙する屍の肩には、小さな人型スタンド『フレンドリー・ファイア』がひょっこり乗っかっていた。味方を同士討ちさせてしまう能力を秘めたオリジナルスタンドは、本体になってしまった男が死亡したため、今にも音もなく崩れようとしている。
生き延びた丈二は狙撃者を警戒して、すぐに遮蔽物の影に身を隠すが、緊張が解けたのか肉体が悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
丈二「痛ぇ……何とか仕留めたがよぉ……ハチャメチャが過ぎんだよ!ラリッてんのか馬鹿野郎!?……あとはどこかに隠れてるスナイパーだけだが……付き合いきれねぇ」
辛勝を勝ち取った生還者は、世界旅行を台無しにされたことにぼやきながら血の海に沈む。バンコク旧市街で勃発した未曾有のテロ、準用参考人である謎のアジア人は一目散に姿をくらました。
この物語は、数奇な運命に立ち向かった青年が歩んできた道筋の断片、一欠片の可能性。
夢見た世界旅行の道中、なんやかんや色々あって、彼女のヒモになってしまった青年の物語。
※謎の指令Xが発動したプランC、ガトリングガンを装備した軽トラくんは目標を見失い、地元警察に確保されました。その③ルート省略ごめんなさいm(_ _)m
198
:
名無しのスタンド使い
:2025/01/07(火) 22:34:34 ID:LQ2IdWns0
【課題名】
>>111
コンテニュー
【使用オリスタ】
No.8438 バギー・ボーイ 本体名『常葉 碧(ときわ あおい)』
No.8462ファイア・イン・マイ・ハート 本体名『凰 明良(おおとり あきら)』
【解答】
……これは酷い。
赤黒い血溜まりの中心には、手足があり得ない方向に曲がり、皮膚から折れた骨が突き出てて、叩き割られたスイカのような頭部を晒す惨たらしい死体がある。
生まれて初めて、アスファルトに脳漿をぶちまける自分の死体をお目にかかることができた。
これが、どうやら死後の世界なのだろうか?
私は確か……いつものように自宅を出て、出勤中だったハズだが……その道中、不運にもトラックに轢かれてしまった。
電源が落ちたかのように、目の前が真っ暗になり、うら若き乙女の人生が儚く終幕した。
と、ばかり思っていたが、どうやらこの世の理は私が考えていたよりも、カオスだった。
何故かって……こうしてるうちにどこからともなく謎の声が聴こえてくる。
『常葉……常葉よ……!』
「その声は……誰?」
懐かしさを感じる女性の声、どこかで聞き覚えがあるような気がしたが……それはすぐに錯覚だと気がつく。
『そんなことは……どうでもいいのです。重要なのは……常葉、貴女の意思よ。今から貴女にチャンスを与えます。貴女はご覧の通り凄惨な事故死を遂げてしまいましたが……3日間限定で現世に蘇り、期限内に3人に『善行』を為せば……特別にそのまま生き返らせましょう』
「は?ちょっと……いったいどういうことなの?」
『聞いたままの通りに受けとりなさい。重要なことはイエスかノー……今この瞬間を決断する貴女の意思表示です………………幸運の女神には前髪しか残されていないのです』
「えぇ……」
『………………』
人(?)のことをとやかく言えないが、この声の主は説明が雑過ぎる。新手の詐偽か何かと疑いたくなるが……目下には物言わぬ私自身の遺体が、差し迫る非現実を誇張してくる。選択肢なんてあって無いようなものだ。
「そ、それじゃあ……イエスで」
『Good!賽は投げられました!その決断と……勇気を称賛して……ささやかながら…助力しましょう。現世に………降りたい場所を貴女自身が宣言しなさい。会いたい人がいるなら……か、顔を思いうかべなさい』
何か知らないけど気に入られたのかしら?……と、言うか何だか口調の歯切れが悪くなってきているような気がすると思っていたら……事態が急変する。
「う、うわああああああああああ!?」
『も、もうじか、がありま、ん。ときわ……碧、あ、あな……のけ、けんと……いのり、ま―――』
あ、ありのままに今起こっていることを言語化すると!明らかに死んでいるハズの私の死体がひょっこり起きあがったかと思えば、私に襲いかかってきた!?
「バ、バギー・ボーイ!こいつを殴り飛ばして―――」
私は自身のスタンド能力……熱帯雨林の植物を擬人化したような姿をしているやや小型の人型スタンド【バギー・ボーイ】を呼び出して、迫り来る私自身の死体(リビングデッド)を引き離そうとしたが……どういう分けか【バギー・ボーイ】は私の死体側に現れて、まるで助けようとはしてくれない!?
「ひっ――――――」
私の死体は全身から夥しい量の弦や根・枝・葉・花が湧いて出てきて、私を抱擁するように包み込み、世界は真っ白に染まった。
★
【バギー・ボーイ】の能力―――直接的・間接的に触れた対象を宿主とし、そこから植物を生やし操る力。
本体の女性『常葉 碧』の不慮の事故で死亡した際、スタンド自身……或は本体の無意識下の生存本能が一か八かの賭けで自分自身に能力を発動した結果……本体の死体から生えた植物は新たなスタンド能力を発現、或は能力が拡張・進化したのかもしれない。
世界のどこかには本体が死亡した後、怨念の力で動き出すスタンド能力も確認されており、今回の事象もその類かもしれないが……死体と産み出された植物は常葉の魂を取り込んだ瞬間、瞬く間に塵となり消え去り、再検証は不可能だろう。
そして、時と運命は歪みながら巻き戻る。
★
「常葉さん、貴女いつからそこにいたの?」
「はっ!?」
ふと気がつくと、目の前には訝しげに部下を見つめる……私の上司、『大瓜ここのつぼし動物園』で園長補佐として働く女性『凰 明良』がいた。
自分自身の死を体験して、未だに何をされたのか分からず、正直頭がどうにかなりそうなぐらい混乱しているからこそ……冷静沈着なこの人に頼るしかない。
「あ、明良さん!私死んじゃった!どうしよ!」
「は?」
……まずは説明からだ。
To Be Continued
199
:
コンテニュー 続き
:2025/02/04(火) 22:20:43 ID:Kh2f.X.g0
小綺麗な内装の園長室、そこに主の姿はないが、きっと動物たちや従業員たちに気を配りながら園内を散歩しているのかもしれない。
その代わりに室内で事務業務をしていた明良さんは……文字通り突然湧いて出てきた私に困惑している。至極全うな当たり前のリアクションである。でもここで臆して引き下がる訳にもいかない。私は重たい口をこじ開けて事情を説明する。
「……あ、ありのままに起こったことを話します!私はいつのように出勤しようとしていたらその道中トラックに轢かれて死んじゃったんです!幽霊になって自分の死体も見ちゃいました。バチクソグロかったです!でも……何か急に謎の声が聞こえてきて、3日間だけ特別に復活してもらえたんですが、その期間中に3人に良いことをしなければ、また死んじゃいそうなんです!助けてください!」
私は可能な限りに自分の身に起こった出来事を分かりすく説明したつもりだ。しかし、まぁ……うん。黙って話を聞いてくれていた明良さんの目、すっごく泳いでる。
「えぇと………………うーん、そっ…かァ……いつも頑張って働いてくれてありがとうね………リフ休とろっか」
「違う、そうじゃない!疲れてるワケでも、ヘラってるワケでもな〜〜い!私の言葉通りのことが今起こってるんですよ!冗談なら4月1日に言いますから信じてください!」
私を朝っぱらから上司に何を話しているのだろうか?普通ならまず信じて貰えない与太話だろう。でも『大瓜ここのつぼし動物園』の職員なら……この手の奇妙な話を無下に扱わないハズだ。
私と同じスタンド使いである明良さんも、私の真剣な様子を次第に察してくれたのか、髪をかきあげながら、真っ直ぐな眼差しを向けてくれる。
「もしかして……新手のスタンド使いから攻撃を受けたのかしら?」
「わ、分かりません。でも……攻撃というよりは、本当にトラックに轢かれた私を助けてくれたような気がします……………ここに来る直前、幽霊の私は自分の死体とバギー・ボーイに襲われたんですけど……気がついたらここに、明良さんの前で復活したんです」
「復活か……まったく、突拍子もない話ね。でも常葉さん、私は貴女の誠実な働きぶりを知っていますし、くだらない嘘を悪戯につく人でもないでしょう。貴女はこれまで積み上げてきた信頼を賭ける心づもりで、私に助けを求めていると認識していいのかしら?」
「はい、勿論です!」
「あ〜ぁ、断言しちゃう……いっそのこと冗談の方が良かったよ。それで、今からどうしようか?私は何をすればいいのかしら?」
互いに真剣な眼差しを向けながら言葉を交わす内に、明良さんはようやく私の話を信じてくれたが、話の内容が取って付けたような話なだけあり、あまり乗り気ではなさそうだ。
しかし、まぁ……交渉の余地が出来ただけ御の字である。あとはこちらがどれだけ要望を示して通せるかだ。
「えーと、まずは、信じてくれてありがとうございます。お願いしたいことがいくつかあります。1つ目はリフ休……じゃなくて可能であれば有給を3日ください。制限時間内に問題を解決できたら早急に復帰します」
「……あぁ、それは構わない。アマゾンエリアのガイドは何とかしよう。遠慮なく休んでくれていい」
「た、助かります!あとお願いはもう一つだけです。期限内に3人の相手に良いことしないといけないようなのですが、私1人だけじゃ手に負えないことが起こったとき……園内のスタンド使いたちに協力を要請できるよう口を利いて貰えないでしょうか!」
「それくらいならお安い御用よ。何かあれば私に連絡しなさい。話は私が通しましょう」
「あ、有り難うございます!こんなに良くしてくれるなんて……感激です!」
「困ったときはお互い様よ。その代わり園に何かあったときには、貴女を頼りにするかもしれないから、そんなことがあるときは宜しくね」
「は…ははァ〜〜ッ!」
明良さんは二つ返事で私の要望を受け入れてくれた。こんなことされてしまっては、お殿様に平伏する家来にならざる得ないだろう。
「何だかよく知らないけど、健闘を祈ってるよ。頑張ってね」
「有り難うございます!そりじゃ、行ってきます!」
私は一礼して園長室を退室した。後ろ楯になってくれる心強い人と早急に出会えたことは紛れもなく僥倖だろう。あとは私が足を使うだけだ。
ひとまず、あの謎の声の言うとおり、3日以内に誰か3人に善行を為してみる他ない。まずは顔馴染みのいる園内を回りながら良いことをしてみよう。
困っていると言えば……いつも困ってそうな子がいたような気がする。確か園内のアジアエリアで展示されている巨大なイリエワニ、あの子はいつも顎が外れていて大変そうだ。
To Be Continued
200
:
コンテニュー続き
:2025/03/04(火) 22:33:56 ID:PtH7r6lU0
【課題名】
>>111
コンテニュー
【使用オリスタ】
追加オリスタ
No.8418 モンスター/スーサイド 本体名『潮(うしお)』
No.8440 ミニドラゴン 本体名『隠岐 亘(おき わたる)』
【解答・続き】
『大瓜ここのつぼし動物園』には多数のエリアが存在する。例えば私が普段ガイドを担当しているアマゾンエリアは、南アメリカエリアに属していて、実際のアマゾン川周辺に生息する動植物を展示している。
これから向かうアジアエリアも複数のエリアで形成される大規模なエリアで、そこに属する東南アジアエリアには『潮(うしお)』……天然バカというべきか……妙な愛嬌を振り撒く巨大イリエワニがいる。
水辺の放飼場には無数のイリエワニが、口を開きながらじっと動かないで日光浴をしているが、一匹だけ様子のおかしいヤツ……『潮』がいた。
『潮』は口をパクパク上下に動かしたり、何かに噛みついたような素振りを見せたかと思えば、急に体を回転するようなことがあり、まるで見えない何かを捕食しているように見えることがある。
この様子が来園客には受けが良く『エア補食』・『夢の中で食事中のワニ』とかなんとか言われたり、ストレスによる異常行動、飼育の仕方がなってない等SNSで叩かれたこともあったが………………でも実はこれ、本当に何かを食べている。
『大瓜ここのつぼし動物園』は世界各国の動物愛護団体と繋がりがあり、保護という名目で不思議な力を宿した動物を引き取ることがよくある。『潮』もその類……私と同じスタンド使いだ。
目を凝らしてよく見れば本体の巨体に紛れ込むように潜伏している……口が二つあるワニのような姿をした『潮』のスタンド『モンスター/スーサイド』は、なんでも食べることができる能力らしい。
ああやって何もないのに何かを食べている素振りを見せる時は、大抵の場合は太陽光や気温を捕食して、変温動物らしく体温を調整しているそうだ。
でも、スタンド能力なら本体が動くこともないのだが、『潮』の場合は、スタンドの動きにつられて本体も体を動かしてしまう癖がついてしまっているらしく、このような事態になっているらしい。
まぁ……太陽光や気温を食べる分には問題ないかもしれないけど、時より『よく分からないとんでもない大物』に食らいつくことがあり、大抵そういう時は顎が外れて戻らなくなる。
例えば、今みたくデスロールなんて厳つい捕食行動を繰り返ししている時は、もしかしたら『大物』の捕食に苦戦しており、十中八九顎なんてガバガバに外れちゃう。
周囲のイリエワニたちは、そんな様子のおかしい群れのボスを目の当たりにして、しこたまビビり散らしながら、放飼場の隅っこに避難しており不憫でしょうがない。
あれを治すには人手がいる。全長8メートル近い筋肉の塊と本能で動く動物スタンドの動きを止めるには、スタンド使いの力が必要になりそうだ。
飼育員も事態を察知したのか、放飼場に人が一人入ってきた。眼鏡をかけた細身の男性スタッフ……南雲さんだ。
「南雲さーん!良かったら顎治すの手伝いますよ!」
「常葉ちゃん!?いいの?すごく助かるよ!」
協力を申し出ると南雲さんは大変喜んでくれた。南雲さんはスタンド使いではないが、スタンド使いの動物と人が集まる動物園で働き続けている古株で、この手のトラブルには馴れているのか柔軟な対応がとらざるを得ないことを知っている。
南雲さんは早速、園内の獣医に連絡を取りしばらく待っていると……肩を落としながら気だるそうな雰囲気をこれでもかと放出する隠岐さんがやってきた。
「やぁ、南雲さん。僕はまた朝っぱらから潮くんと楽しいプロレスをすればいいのかな?」
「い、いつも申し訳ない。でも今日は助っ人に常葉ちゃんが来てくれているからきっと大丈夫!」
「へぇ、こんなところに珍しいね常葉君、どういう風の吹き回しなのかな?」
「ども隠岐さん、これには色々と事情がありましてね。平たく言えば一日三善です。ごはんのことじゃないですよ。善行です」
「ふーん………………そりゃまた殊勝な心がけだね。でもまぁ、僕が一人で潮くんを相手にするのは、骨が本当に折れそうだから助かるよ」
隠岐さんが素直に感謝してくれるのは珍しい。普段どんな荒治療をしているのかは分からないけど、言動の節々が滲み出てくる哀愁か苦労を物語っている。私もこの手の荒事には馴れているつもりだが、気を引き締めなければならないだろう。
この場に集まった人たちで軽く打ち合わせをした後、早速作戦を実行する。
放飼場にいる『潮』を室内の獣舎に誘導し、隠岐さんと私はスタンド能力を発動しながら出迎える。
To Be Continued
201
:
名無しのスタンド使い
:2025/04/01(火) 18:55:43 ID:CJ6GqYVM0
どうも、ジョジョな奇妙な問題集の運営をさせていただいた者です。
今回はコンテニューの続きではなく、本企画から私が一度離れることをご報告しに来ました。
理由としては、単純に私のモチベーションが最近維持できなくなってきてたので、一度離れてまたやる気が沸いてきたら再開しようと思います。
本企画は自由参加スタイルですので、私が不在中であっても、興味がある方はオリスタと問題集で好きなように遊んでくだされば幸いです!
丁度今日は4月1日だけどそーゆーネタではなく、書いてある通りのままですので悪しからずご容赦くださいm(_ _)m
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