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【SS】天邪鬼いつまた帰る【二次創作】

1名無し妖精:2016/10/23(日) 14:47:30 ID:hNpbnWLY0
公式での鬼人正邪の復帰を待ちわびながら二次創作で正邪の活躍するSSを書きたい、楽しみたいというスレです
(スレタイはアンソロジー本のタイトルのようなもので、そういう題名の作品がある訳ではありません)
正邪が好きな方ならどなたでも参加出来ます
長文ネタであれば小説形式には拘りません
ギャグ、シリアス、ショートコント等内容は自由ですが、エログロ描写はお控え下さい

規約は読まれましたか?
ではこちらへ…どうぞ

2名無し妖精:2016/10/23(日) 15:15:54 ID:hNpbnWLY0
正邪点描・1


よう、気がついたか?
お前外来人だろ? 身なりを見れば大体分かるよ
こんな所で無防備に寝転がっていたら大抵の人間は妖怪の餌になっちまうぜ。お前は運がいいよ
ん? 私か?
私は鬼人正邪。天邪鬼という妖怪だ
何? 私を知っている?
……んん、何だよとうほうぷろじぇくとって?
……いや、そういえばスキマが何か言ってたな、外の世界の奴等に幻想郷の話を伝えて金やモノをもらっているって…あれ本当だったのか…
あ? そ、そうだよ八雲紫の事だよ
何で私がゆかりんの事知ってるかって? 誰だゆかりんって
私とスキマに繋がりがあるなんておかしい? 知るかそんな事
こっちにも色々あるんだよ
……待て。嫌な感じがする
ここはさっさとずらかった方がよさそうだ
死にたくなかったら私に付いてこい
……あ? そうだ、多分妖怪だよ
それも思いっきり悪意のある奴…お、おい何処へ行く!?
馬鹿野郎、妖怪なら見てみたいなんて言っている場合か!? 食われるかも知れないんだぞコラ!!


(続く)

3名無し妖精:2016/10/23(日) 16:46:00 ID:Y9spWD.U0
1レスが長くなる傾向にあるからアプロダを用意してテキストを上げる形式にしたほうがいいと思う

4名無し妖精:2016/10/23(日) 18:38:40 ID:hNpbnWLY0
正邪点描・2


……ハァ、ハァ…まったく、いらん手間かけさせやがって…
何を惜しがっているんだよ? 可愛い妖怪だったかも知れないのに?
自分の命より可愛い子ちゃんの姿を見る方が大事か
ったく呆れて物が言えねぇ…
ほらさっさと逃げるぞ! 気配が遠退いたとはいえ奴が私たちをつけている可能性はあるんだ
さあ早く!


姫〜帰ったぞ〜
「お帰り正邪…その人誰?…」
外の世界から迷い込んで来た奴さ。明日博麗の巫女の所に連れていく
「明日なの?…」
もうすぐ日が暮れるしヤバい奴に絡まれるかも知れないからしょうがない。
とりあえずこいつの分も飯を用意してやってくれ
「分かった…でも正邪も手伝ってよ」
はいはい……な、うるせえだろ?
あいつが針妙丸。小人族の姫だ
知ってるって?……ああ、確かに私はあいつを騙して利用したさ
それでもまぁ、色々あって今は一緒に暮らしている…いや、暮らさせてもらっている、かな?
そういう訳で不本意ながら今夜はここに泊めてやる。飯食って風呂入ってクソしてさっさと寝ろ
明日は早いぞ。掃除して朝飯の支度も手伝ってもらうからな
当然だろ、お前は招かざる客なんだ
一宿一飯の恩義があるならやる事やれよ
「正邪ー! 早くー!」
あーはいはい!


(続く)


>>3
レスを短めにして小分けにするというのは?
アプロダは扱いが面倒そうなので

5名無し妖精:2016/10/24(月) 00:04:05 ID:rGLYrqkg0
正邪点描・3


「……(ただ今帰った)」
おう遅かったなクソババア。飯は先に済ませたぞ
「……(…客人か?)」
ああ。明日博麗神社に連れていく。それよりさっさと風呂に入ってこい
……ああそうだよ、あれが本物の月人だ
ん? 何で口を開いていないのに喋れたのかって?
お前、あいつの言葉が聞こえたのか?
分かった教えてやる。あいつのそばにいるとあいつの言いたそうな言葉が思い浮かぶ
そしてそれは大体合っているんだ
ただし言葉が思い浮かぶのは妖怪や特殊な能力持ちや霊感の強い奴で、そういうのがない普通の人間には聞こえないらしい
だから人里の中で買い物するときは少々苦労するそうだ
聞こえたという事はお前にも多少の霊感はあるようだな……

(続く)

今日はここまで

6名無し妖精:2016/10/26(水) 01:31:51 ID:qpZj.fg20
正邪点描・4


(翌朝)

おう、起きろ
クソババアは一番鶏が鳴く前に帰ったぞ
何でも報告書とやらを書くのを忘れたとか
ああ、ここに居ついている訳じゃねえ、足しげく月から通っているのさ
地上の食い物目当てにな。本当に変な奴だぜ
朝飯食ったら博麗神社にまっすぐ行くぞ
何? その前に他の所に寄りたい?
幻想入りしたら東方キャラ全員に会うのが御約束だ?
知るかそんな事!!


(続く)

7名無し妖精:2016/10/30(日) 18:03:28 ID:0kbUtl5I0
正邪点描・5


(数刻後)

ほらキリキリ歩け。そんなんじゃ神社に着く前に日が暮れちまうぞ
さっきみたいに飛んで運んでくれって?
お前が針妙丸くらい小さくて軽けりゃ神社まで運んでやれるんだがな
お前が思っているほど「飛ぶ」ってのは簡単な事じゃねえんだよ
自分だけなら自在に飛べるが他人をおぶってなんて状態じゃ勝手が違ってくる
大体高過ぎるから降ろしてくれってビビっていたのはお前じゃねーか
あまり高度を低く取ると木を避けたりしなきゃならないから面倒臭いんだよ
休みたい? しゃーねえなぁ、だが少しだぞ
グズグズしてたらたちの悪い妖怪に絡まれるぞ
それこそ昨日の嫌な気配の持ち主みたいに…
「私ならここにいるよ」


(続く)

8名無し妖精:2016/10/30(日) 21:09:13 ID:qIg0gEHc0
1乙。

ブラック・セイジャ
許可もくそもない、私の家に急患が入った。
「お願いします、貴女の腕ででないと助からないのです!!」
「ふーん、いいよ。ただし手術料は500万だ」
「ひえぇー!!」
「嫌なら竹林のヤブにでも行くんだな」
「分かりました。でも、失敗したら・・・・・・」
「分かってるよ、私はモグリ。失敗したら明日はないさ」
そして、患者の説明が始まった。
「この方は月の実力者です。お腹に大きな腫瘍ができています。しかも、その腫瘍を取り除こうとすると、手術をしようとする者に呪いがかかります」
「はぁ、呪い?バカバカしいな」
「オペをすればわかります。では、私はこのへんで」
そして、患者を連れてきた医者は帰った。
「やれやれ、面倒な事になったが、手術を始めるか」
患者を手術室に移動させ、腫瘍に切断分の印を付ける。その時だ。
(ヤメロ、ヤメロ!!)
「ぐぅ!!」
(コノシュジュツヲヤメロ、ヤメロ!!)
「がぁぁぁ!!」
激痛が頭を襲う。脳を引き千切るような痛みだ。
(オマエモワタシヲコロソウトスルノカ?)
「だ、誰がそんな事言った。お前はこの腫瘍の中に、人間一人分の組織が入っているのを知っている。殺しはしないぞ」
(ホントウカ?)
「もう、黙れ!!時間が惜しい。麻酔で眠ってもらうぞ!!」
(ウググ・・・・・・)
月人の腫瘍除去は終わった。さて・・・・・・。
「今度はお前を人の形にしてやる。お前の体は一揃い揃っている。足りない分は人口繊維で足してやる。だから・・・・・・」
「これでお前も人間になれる」
手術は日の出まで続いた。そして。

1か月後。

「いやぁ、貴女のおかげで患者が無事に退院できました」
「そうかよ、このクソババァ。飯がまずいとかウダウダ言いやがって。金がもらえるなら、まぁいいや」
そして、私は家の中に手を振る。
「姫、こいよ」
人の半分くらいの身長の少女が現れた。
「あのぉー、この女の子は誰ですか?」
「決まってるだろ。ババァの腹の中に居た腫瘍だよ。今は自分で動ける」
そして、姫はババァを蹴りつけた。
「このアッチョンブリゲー!!」
「……(何なのこの子。早く家に帰りたい)」
そして、医者と患者は帰って行った。
「さてと、姫。これから貧乏生活が始まるぞ」
「いいもん、あんなの家族じゃないし。しぇんしぇいのお手伝いする」
そして、私達の奇妙な生活が始まった。それが全ての始まりだった。
私の名はブラック正邪。金さえ払えば何でも治すぜ。

9名無し妖精:2016/10/31(月) 01:03:20 ID:ATL9v46g0
正邪点描・6


うわ!? 何だコイツいきなり!?
…ていうか誰だよお前? 見た事ねえぞ
どうした外来人? 何粟食ってる?
あんな妖怪げんさくげーに居ない?
あんな恐ろしい顔の妖怪がいるはずない?
あのな、何度も言ってるだろ
ここは幻想郷だ。お前の知ってる東方何とかと違うんだよ!
お前の知らない妖怪がいても不思議じゃないだろ!
大体私だってあいつ事知らねえんだ
だがヤバい奴だってのは分かる
(妖怪に)何なんだよお前!?
「霊力の強い人間…私の獲物だ…私には強い力をもらう権利がある…」
ほ〜ら、何かアブない事言ってるぞ
あ? 可愛い女の子の姿じゃない妖怪なんてあり得ない!? まだそんな事言ってんのか!!
さっさと逃げるぞ!!


(続く)

10名無し妖精:2016/10/31(月) 22:52:42 ID:QPBVUVnM0
天邪鬼騎兵最低野郎。
「最終チェック確認。正邪、いつでもいけるよ!!」
「おっしゃー!!今日の獲物はなんだ?」
「バトリングデータ確認、これは……!!シャドウフレア!!」
「……(よもや、ここで。お前と会うとはな)」
「ババァ!!地に落ちたのか?」
漆黒の騎兵が赤い光を放った。
「……(全てを捨ててここに落ちた。今私ができる事は、この鉄火場を血で染める事だ)」
「落ちたなババァ。ならばここをお前の終着点にしてやる!!」
正邪のブルーナイトが起動する。
「ババァ、お前をこのパイルバンカーの錆にしてやる」
正邪の駆るベルゼルカが光を放つ。
「地上の天邪鬼をなめんな!!」

変えられた過去を探し続けて、私は彷徨うこの幻想郷を。
弾幕の匂い染みついてむせる。
さよならは言ったはずだ。別れたはずだ。
最奥を見れば心が乾く。
逃げるのは飽きたのさ。
運命とあれば心も決まる。
ほっといてくれ。
明日に続く今日ぐらい。

11名無し妖精:2016/11/01(火) 21:27:28 ID:PL9CqB5cO
正邪「ババア!何のライトノベルだこれは!」
サグメ「……(冬コミの入稿まで間に合うかな?)」

12名無し妖精:2016/11/01(火) 21:31:30 ID:piq1zaPA0
レッドソルジャー新兵正邪
「これは、新入社員の訓練のはずだった。
「おいおい、あんなところに棒立ちか?派手に花火を上げるぞ!!」
しかし、誘い込まれたのは我々だった。
「どうせ空砲、当たりなどしない。ぐっ、うわあああ!!」
「どうゆう事だ、ぐわあああ!!」
これは、周到に呼び込まれたサバイバルゲームだ。
命など紙より安い。
「生き残りたいのなら俺に付いてこい」
「おい!!、お前!!」
「私の名は正邪。この局面を振り切るぞ!!」
鋼の機甲兵が鉛の嵐を振り切った。
「お返しだ」
正邪のヘビイマシンガンがレッドショルダーを打ち抜く。
「私のATは棺桶じゃないんだ!!」
そして。
嵐吹く、戦場で正邪は生き残る。
何故にこの現状を生き抜いたのかと。

肩を落とした。鉄の背中が響く。
どこまでも果てしなく響く。
穢れちまった。爛れた大地に、ひたすら降り注ぐ。
容赦なく俺達に注ぐ。
肩を喘がせ、爛れた大地を、ひたすら踏みしめる。
散りゆく友に不憫など、どうせ俺達はダニーボーイ!!
奏でる鉄のドラム、そうさ、俺達はダニーボーイ。
吹き飛ばせこの地獄を!!
さぁ、正邪と共にこの地獄を味わおう。

13名無し妖精:2016/11/01(火) 21:33:06 ID:piq1zaPA0
レッドソルジャー新兵正邪
「これは、新入社員の訓練のはずだった。
「おいおい、あんなところに棒立ちか?派手に花火を上げるぞ!!」
しかし、誘い込まれたのは我々だった。
「どうせ空砲、当たりなどしない。ぐっ、うわあああ!!」
「どうゆう事だ、ぐわあああ!!」
これは、周到に呼び込まれたサバイバルゲームだ。
命など紙より安い。
「生き残りたいのなら俺に付いてこい」
「おい!!、お前!!」
「私の名は正邪。この局面を振り切るぞ!!」
鋼の機甲兵が鉛の嵐を振り切った。
「お返しだ」
正邪のヘビイマシンガンがレッドショルダーを打ち抜く。
「私のATは棺桶じゃないんだ!!」
そして。
嵐吹く、戦場で正邪は生き残る。
何故にこの現状を生き抜いたのかと。

肩を落とした。鉄の背中が響く。
どこまでも果てしなく響く。
穢れちまった。爛れた大地に、ひたすら降り注ぐ。
容赦なく俺達に注ぐ。
肩を喘がせ、爛れた大地を、ひたすら踏みしめる。
散りゆく友に不憫など、どうせ俺達はダニーボーイ!!
奏でる鉄のドラム、そうさ、俺達はダニーボーイ。
吹き飛ばせこの地獄を!!
さぁ、正邪と共にこの地獄を味わおう。

14名無し妖精:2016/11/02(水) 21:19:23 ID:JNEwQ0eI0
なんか二重書き込みになっちゃった。ごめん。

15名無し妖精:2016/11/02(水) 21:51:22 ID:w5AnO49gO
正邪in命蓮寺

正邪「ババーッ!拝んでんじゃねーよ!」
オバア「アリガタヤアリガタヤ…ナムダブナムダブ」
正邪「ジジーッッ!アンタもだ!」
オジイ「アリガタヤアリガタヤ…ナムナム」

星「…あれで良いのでしょうか?」
白蓮「良いのです良いのです♪」

正邪「チキショーっ!長生きしやがれ!」

16名無し妖精:2016/11/02(水) 21:54:01 ID:JNEwQ0eI0
天邪鬼騎兵最低野郎
「……(これが、お前の新しい機体。ゼルベリオスだ)」
「ババァ、よくこんなもの用意できたな」
機動性を高め、ブルーナイトをも超えるスペックを持つ装甲騎兵。
「……(本来なら私が乗るはずだったが……。さもありなん、用事が入った。これをお前が使うがいい)」
「ふーん、まさか、勝手に自爆するとか、面白い機構が入ってたりしないよな。えぇーっ」
「……(ギクッ)」
「まぁ、いいさ。勝手に使わせてもらう。で、まさかタダでくれるわけじゃないだろう?」
サグメは呟いた。
「……(地上の反乱分子の制圧。奴らの戦力は不十分だ。鉛玉を十分くれてやれ)」
「そうかよ。まぁ、こんなうまい話がある訳無いと思ったよ。何時から始める?」
「……(準備ができ次第何時でもだ。ただ)」
サグメは言い淀む。
「……(奴らの背後には勢力のある存在がいるらしい。油断するな)」
「ババァに心配されるとは心外だな。じゃあ、早速行こうかね。姫!!、準備は?」
「ATの積み込みは完了だよ。出発は何時でもOK!!」
「よし、いきますか。ババァよ、吉報を待て」
「……」
この時正邪は知る由もなかった。自分を中心にかつてない争いが起こる事を。
250億分の1の、反則生命体としてふるいにかけられているなど、これっぽっちも思っていなかった。
「さて、こいつで散々稼がせてもらうとするか」
ゼルベリオスのパイルバンカーが鈍く光る。それが、争いの始まりを告げる輝きだった。
予告
このお話は、酔っ払いが勢いに任せて書きなぐっております。
続きがあるかは不明です。
次のお話では正邪ちゃんがテスタロッサに乗っているかもしれません。
全てが適当です。
取りあえず今はサグメさんが冬コミの追い込みに入ったようです。
やはり、サグ正の薄いほんになるのでしょうか?

17名無し妖精:2016/11/04(金) 21:31:43 ID:RRN.SBL6O
月の混乱に乗じて幻想勢が進出!動乱の世界で頭角をあらわしたのは、神の国を創らんとする早苗。仏教による平和国家設立を願う星。そして謀略に身をまかせ実は太子の理想を叶えんとあえて汚れてゆく布都。
はからずも反逆者の汚名を着せられ、月を逐われた稀神サグメだか、故郷への想いは忘じがたく…
正邪「ババア!戦争だ」
八雲紫の深謀による、危険勢力追い出しの策と知りつつも、火中に栗を拾う正邪。
針妙丸「さあ、行こう!」
姫のつるぎを指す先は月。
そこには依姫が孤軍を守っている!

18名無し妖精:2016/11/05(土) 22:34:17 ID:/baIn07Q0
天邪鬼騎兵最低野郎
それは言うならば運命共同体。機体と己の技能を信じて、互いに頼り、互いに庇い、互いに助け合あう。
「我のATが一番乗りじゃぁー!!」
「布戸さん、先行しすぎです!!」
「……(しばらく休めると思ったのだが)」
「正邪、敵機6時方向から5機侵入。いずれもライト級ATだよ!!」
「おっしゃー、全員まとめてあの世行きだ」
1人が5人の為に、5人が一人の為に。
だからこそ戦場で生きられる。
分隊は兄弟。
分隊は家族。
一瞬心を併せられる、その様な瞬間に。
心を騙すな!!
嘘を言うな!!
猜疑に潜んだ瞳がせせら笑う。
無能。
怯懦。
虚偽。
杜撰。
どれ一つとっても戦場では命取りになる。
誰か一人が思う事で全てが砂上の城となる。
それらをまとめて無謀でくるむ。
誰が仕組んだ地獄やら、兄弟、家族、仲間が笑わせる。
お前も!!お前も!!お前も!!
だからこそ、私のために死ね!!

「ゼルベリオスか?いい機体だ。悪くない。ただな……」
「ふとした瞬間、あいつが私を見て探っている様な気がするんだ。気のせいかもしれないがな」

19名無し妖精:2016/11/06(日) 00:45:11 ID:vCf9bC2k0
無限の正邪
厚く黒く立ち込める雲が空を覆う。
「何だよ、ババァ。今ので終わりか」
正邪の周囲には、砕かれた数々の剣が散り広がる。
「……」
「意外って顔してやがるな。何時から、偽物が本物に負ける訳が無いと思った」
正邪の握る武骨な剣が、鈍く光る。
過去にて、名刀を超えようとあらゆる刀匠が腕を奮った。
魂を削り、己の命をも捧げ作られた剣達。
それが今、正邪を中心として墓標のごとく大地に突き刺さり、光り輝いていた。
「お前がしようとした事は何だ。居場所を追われて地上を滅ぼそうとした。それは、お前の思い上がりだ」
「……(地上のムシケラが、何を吠える。私の血の系譜に連なるとはいえ、地上の天邪鬼よ。思い上がりも甚だしいな)」
「思い上がりだと。しゃらくせいな。さあ、こいよ。その自慢の剣で、偽物を簡単に切り伏せられると思うな」
「……(時間を無駄にした。お前は、ここで死ね)」
「残念だな。ここで終わるのは、お前の方だクソババァ!!」
正邪の足元から白銀に染まる剣が現れた。
「貪り喰らうもの」
かつて、王家の剣をも超えるべく鍛えられた一振り。
エクスカリバーが正邪の掌に握られる。
「はぁぁぁぁ!!」
気合と共に振り出される太刀。
それは、サグメの剣さえ両断しその身の翼すら切り裂いた。

20名無し妖精:2016/11/06(日) 11:55:53 ID:qW3WOu8g0
正邪点描・7


「逃がしゃしないよ!!」
早く立てよ愚図!! ああ、だから言わんこっちゃない!!
離れろこの野郎!! こいつにかぶり付くな!!
〈バシュン!〉〈ドサッ〉
え!? な、ここは…博麗神社!?
そうかスキマか! あのお節介ババア!
あ、オイまだやってんのかしつこいぞ!!
「邪魔をするな天邪鬼のくせに!!」
〈バキッ!〉
グフッ!……てンめぇ…『くせに』だとォ…?
「何だか知らないけど近所迷惑ね。退治するわ」
あ?…紅白!


(続く)

21名無し妖精:2016/11/08(火) 20:26:02 ID:MqKrbDGk0
天邪鬼騎兵最低野郎
正邪小隊は川の畔で休息をとる。
次のミッションまでの僅かな休息だ。
「ふーう」
川の水で顔を洗い正邪は一息つく。
「しかし、ここまで全員無事だとは……」
度重なる敵の強襲。
正邪達のスキを突くような攻撃の連続だった。
ここまで生き延びられたのは、ひとえにチームとして確的な反応ができたからだ。
いつも自分勝手な行動をする布都が敵を陽動する。
美鈴の確実なクリティカルヒットが敵を穿つ。
ババァの言葉が戦況をひっくり返す。
姫の的確な整備が部隊を安定させ。
そして。
私の操るゼルベリオスが敵に止めを刺す。
「なんだかんだ言っていいチームだな」
だが、ここから先は今までの様にはいかない。
敵の本拠地。敵対する連中が山ほどいるはずだ。
「われのカレーにもっと肉を入れろ!!」
「あぁん、もう勝手に取らないでください」
「……」
「おいしー」
心配するのも杞憂か。
この先、どんな敵が待ち構えているか分からない。だが何とかなるだろう。そう信じよう。
「ゼルベリオス、ここからが本勝負だ。頼りにしてるぜ」
蒼い騎士が鈍く輝いた。

22名無し妖精:2016/11/09(水) 20:32:35 ID:d7lNWszI0
天邪鬼騎兵最低野郎
「妙だな……」
「……(何がだ?)」
「敵が来ない」
「われらの進軍に気おされたのだろう!!」
「確かに妙ですね」
「前回の交戦から15分、確かに何もないね」
今までなら、間を置く事無く襲撃があった、だがそれが無い。
「われらの力に気押されたのではないか?」
「いや……。これは私の勘だが、指揮系統に変更があったんじゃないか?」
「……(頭がすげ返ったのか)」
「油断はできん。ここから先、用心にこした事は……ん?」
山の稜線に光が見えた。あれは、ソリッドシューターの輝き。
「全機散会!!、新手が来やがった!!」
瞬時に散らばる小隊の中心に弾頭が炸裂する。
「ババァ!!、シャドウフレアを売り飛ばしたか?」
「……(いや、あれはお前との戦闘で大破した。この地上に在る訳がない)」
「あれはなんぞや?」
「データ照会確認。あれは、カラミティドック。グリーンバージョンだよ!!」
粉塵を巻き上げながら敵が走る。
「たった1機でわれらに歯向かうか。返り討ちにしてやる!!」
「布都さん、慢心は禁物です」
そうだ、美鈴の言うとうりだ。何だか背中を冷汗が流れる。
「敵ATより交信、正邪あてだよ!!」
ゼルベリオスにその交信が直通される。
「あははははは、ここでその機体と遭遇するとは。運命は残酷ですね」
「だれだ!!」
「私は東風谷早苗。そして貴女に終焉をもたらすもの」
「そいつは大仰だな」
間をおいて早苗が叫ぶ。
「私は知っているんですよ。ゼルベリオス。ブルーバージョン。その機体がどんな最後をむかえたか」
「ふーん、そうかよ」
だが、私は戦慄していた。何かが起こる。その堪働きが今まで自分を生き延びさせた」
早苗が叫ぶ。
「ゼルベリオスは私の支配下になるのです!!」
その言葉と同時に、私のATのコントロールパネルに異常が起きた。
全てがエラー。
火器管制。
動作。
エマージェンシーコード。
「さて、ジェノサイドの始まりですよ」
山の巫女はそう言った。
予告
たぶん正邪ちゃんは、対AT用ライフルで戦うんじゃないかな。

23名無し妖精:2016/11/09(水) 20:35:11 ID:d7lNWszI0
天邪鬼騎兵最低野郎
「妙だな……」
「……(何がだ?)」
「敵が来ない」
「われらの進軍に気おされたのだろう!!」
「確かに妙ですね」
「前回の交戦から15分、確かに何もないね」
今までなら、間を置く事無く襲撃があった、だがそれが無い。
「われらの力に気押されたのではないか?」
「いや……。これは私の勘だが、指揮系統に変更があったんじゃないか?」
「……(頭がすげ返ったのか)」
「油断はできん。ここから先、用心にこした事は……ん?」
山の稜線に光が見えた。あれは、ソリッドシューターの輝き。
「全機散会!!、新手が来やがった!!」
瞬時に散らばる小隊の中心に弾頭が炸裂する。
「ババァ!!、シャドウフレアを売り飛ばしたか?」
「……(いや、あれはお前との戦闘で大破した。この地上に在る訳がない)」
「あれはなんぞや?」
「データ照会確認。あれは、カラミティドック。グリーンバージョンだよ!!」
粉塵を巻き上げながら敵が走る。
「たった1機でわれらに歯向かうか。返り討ちにしてやる!!」
「布都さん、慢心は禁物です」
そうだ、美鈴の言うとうりだ。何だか背中を冷汗が流れる。
「敵ATより交信、正邪あてだよ!!」
ゼルベリオスにその交信が直通される。
「あははははは、ここでその機体と遭遇するとは。運命は残酷ですね」
「だれだ!!」
「私は東風谷早苗。そして貴女に終焉をもたらすもの」
「そいつは大仰だな」
間をおいて早苗が叫ぶ。
「私は知っているんですよ。ゼルベリオス。ブルーバージョン。その機体がどんな最後をむかえたか」
「ふーん、そうかよ」
だが、私は戦慄していた。何かが起こる。その堪働きが今まで自分を生き延びさせた」
早苗が叫ぶ。
「ゼルベリオスは私の支配下になるのです!!」
その言葉と同時に、私のATのコントロールパネルに異常が起きた。
全てがエラー。
火器管制。
動作。
エマージェンシーコード。
「さて、ジェノサイドの始まりですよ」
山の巫女はそう言った。
予告
たぶん正邪ちゃんは、対AT用ライフルで戦うんじゃないかな。

24名無し妖精:2016/11/09(水) 20:43:46 ID:d7lNWszI0
テスト

25名無し妖精:2016/11/09(水) 20:48:00 ID:d7lNWszI0
なんかPCの調子が悪いので二重投稿になった。

26名無し妖精:2016/11/12(土) 14:03:57 ID:8/ECgu0U0
天邪鬼騎兵最低野郎
ここで正邪ちゃん達のAT説明。
正邪ちゃん ゼルベリオス・ブルーバジョン。
布都 スコープドッグターボカスタム。
美鈴 スコープドッグレッドショルダーカスタム。
針ちゃん ライトスコープドッグ。
サグメさん ラビドリードッグ。

「畜生!!、これじゃ動けねぇ。七面鳥にされる!!」
正邪のゼルべリオスが静止する。このままではただの棺桶だ。
「……(ん、何を言ってる。何の為のチームだ。小人、正邪に着きサポートしろ。あとの二人は私の援護に回れ」
瞬時に編成を変える正邪小隊。
「何が何やら、我は不服だ」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょう!!2番機、援護入ります!!」
「やれやれ、我も援護に入る」
三機のATが早苗のカラミティドッグ・グリーンバージョンの前に立ちふさがった。
「……(どうやら奴が、正邪の自由を奪っているらしい。我々との性能差は確実に上だ。それを了解した上で行動する)」
「了解です!!」
「ほぉー、奴め。我らを舐めているな」
「……(奴は単騎できた。我々に負ける訳など無い、と言う自信からな。その隙を突く!!)」
早苗のATがソリッドシューターを放つ。
「・・・・・・(躱せ、接近戦に持ち込む)」
サグメの駆る、ラビドリードックのアイアンクローが火花を放つ。
「正邪、大丈夫?」
「姫か、にっちもさっちもいかねえ!!このままじゃ、お互い的にされるぞ!!」
「今、敵機からの電磁波を遮断してる!!正邪はシステムの再起動を急いで!!」
針妙丸機のバックパックが、EMPにより正邪のゼルベリオスに施されたシステムエラーを振りほどいた。
「持つのは30秒。その間に早く!!」
「ってもよー、何が何だか……ん?」
それは、見落としそうな程の小さなスイッチ。そして、小さな字でこう書かれてあった。
(次のゼルベリオスを駆る者よ。同じ過ちは繰り返さない。 「K」より)

27名無し妖精:2016/11/12(土) 14:10:49 ID:8/ECgu0U0
テスト

28名無し妖精:2016/11/12(土) 21:04:38 ID:8/ECgu0U0
天邪鬼騎兵最低野郎
「何だ、これ?」
正邪がそのスイッチに指をかける。
一瞬後、システムコードがゼルべリオスの全身をかけた。
その指令は、眼前の敵を殲滅する。それしか無い。
「おぉぉう!!」
生き返ったゼルべリオスがパイルバンカーを水平に保ち突撃する。
数秒前。
「……(お前を殲滅する。それがレッドショルダーだ!!)」
「ぬるいぬるい、私の眼には止まって見えます」
「我に任せろ!!」
布都のターボカスタムが早苗の直前で急制動をかける。
「敵が固いなら、柔らかい処をねらえばいいのだ!!」
ローラーダッシュからのピックターン。
布都のATが早苗のATの肘を打つ。
「こちらも、そう!!」
美鈴のアームパンチが右の肘を穿つ。
それは確実に反対の肘を貫いた。
「……(これで終わりだ!!)」
ラビドリードックのアイアンクローカラミティドック・グリーンバージョンのコクピットに突き刺さった。
様に見えた。
「あはははは、あなた達、のスクラップで、私に傷を付けられるとでも思いましたか?」
両肘を破壊されたATが叫ぶ。
「腕が殺されても戦う方法はあります。貴方達など敵でもない。さあ、これからの一方的な殺戮に戦慄しなさい」
その言葉に戦慄するAT達。だが。
「とろとろしてるから治っちまったぜ」
サグメ達の前に立ちはだかるゼルベリオス。
「……(治ったのか!!)」
「おおぉ!!」
「さすが、正邪さん」
ゼルべリオスがパイルバンカーを持ち上げる。
「どっかのお節介が、土産を残してくれた。貴様を串刺しにする!!」
再起動した正邪のゼルべリオスが、早苗のATにパイルバンカーをねじ込んだ。
それは、勝利の凱歌を叫びながら鉄隗とかしたATを振り落とした。
狂戦士の名の元に。

29名無し妖精:2016/11/14(月) 00:34:02 ID:KGMCF6kU0
正邪点描・8

霊夢「悪いけどまとめて撃たせてもらうわよ」〈バシュ! バシュ!〉
マジかよ!? うわっ! 痛ェいてぇ!!
妖怪「ふざけるなこんなもの!」
ケッ、やっと離れやがった…大丈夫かよオイ?
しかし何だあいつ? 弾幕を使わずに巫女に肉弾戦を挑んでいやがる…正気かよ…
「…今日はこれくらいにしておいてやる。だが私は諦めないぞ! 諦めるものか! 諦めたらそこでお終りだぁ!!」〈サッ!〉


(続く)

30名無し妖精:2016/11/14(月) 23:28:59 ID:QO/tfR5oO
正邪「ババアっ!スキマババーッ!」
紫「はいはい、またどうしたの突然?」
正邪「前スレの最後であんたとデートすることが決まったらしい」
紫「今さら?何日前の話よ…ふう」
正邪「私も知るか、だが…あんた疲れてるのか?」
紫「んー、そうかしらね?」
正邪「じゃ、今日は私があんたに何かしてやんよ」
紫「!?…ほんとう?じゃこれで(スキマ開くとベッドが)」
正邪「なっ!…ババア!」
紫「早まりあそばせ…ほら(布団めくるとお茶セット)」
正邪「なんだそりゃ」
紫「保温も兼ねてますわ」

紫「いいお茶ね〜」
正邪「あんたが用意したんだろが」
紫「あら、でも正邪が淹れてくれたもの」
正邪「そうかい」

正邪「よし、肩もんでやるよ」
紫「まあ…んっ…う、上手い…わっ…ん、ね」
正邪「だいぶ凝ってるじゃないか。こちこちだぜババア♪」
紫「…あのね、お姉さんよ?」
正邪「じゃ、肩もみは無しだ。ババアしかやらない」
紫「うっ…も、もうっ!」

31名無し妖精:2016/11/16(水) 22:03:33 ID:jhrEcHFc0
天邪鬼騎兵最低野郎
夕食をとる為に夜雀の屋台による正邪小隊。
「我は腹が減った!!」
「確かにおなかがへりましたねー」
「……(食事は大事だ)」
「なにたべよー」
「女将、酒」
夜雀の屋台のまわりに5体のATが駐座する。
「いやー、こんなに鉄の塊が来られると緊張しますね」
女将が答える。
「いやー、毎日カレーなのもな。私はおでん。はんぺんマシマシ」
「我はチャーハン」
「私もチャーハン」
「……(ニラレバ定食)」
「私は串焼き」
女将が生き生きと答える。
「はいよー。ところで、あの縛られてる早苗さんは?」
「あー、あいつかー。ぶぶずけでもくわせればいいんじゃね」
パイルバンカーに縛り付けられた早苗が叫ぶ。
「私にもごはんください」
「残念だが、何故お前が我々を強襲したのかゲロってくれるまで兵糧攻めだな」
正邪は冷たく答える。
「はいおまちー!!熱々のできたてだよ」
女将の声とともに料理が並ぶ。
その匂いを嗅ぎ大きく腹を鳴らす早苗。
「もう、わかりました。何でも言いますよ」
「で、何で私達を襲った」
「反則生命体って知ってますか?」
「……(何があっても死なない化け物のことか?)」
「私は、それがあなた達の中にいると調べる為に襲撃したんです」
チャーハンをほうばりながら布都が答える。
「我は不死身だぞ!!」
「ノンノン、体質ではなく。そうですね、限りなく悪運が強いといったところですかね」
早苗の言葉に、正邪ははんぺんを取り落とす。
(まさか、私が?)
「正邪、どうしたの?」
「ん、姫。どうもしない。女将、あの山の巫女に串焼きを。私のおごりだ」
だが、その時。正邪は戸惑っていた。
(わたしが、狙われているのか?いやまさかな)
正邪はおでんの卵をほうばり、そして、むせた。

32名無し妖精:2016/11/17(木) 22:01:52 ID:mzMR6GIc0
天邪鬼騎兵最低野郎
その晩私は夢を見た。昔の夢だ。
何かが弾ける音。天を衝くほどの炎。
迫りくる人間達。それらは燃える松明を掲げていた。
耳に響く呪詛の声。
それは私に向けてぶつけられた言葉だ。
私の存在を否定する言葉だ。
どうやって逃げたかも覚えていない。
ただ理解できるのは、私はこの世界に存在する事を許されないという事だ。
あれから、あての無い旅が始まった。
祝福されぬ旅だ。
何の為に生きているのか。
未だ答えさえ見えない旅の途中。
私は目を覚ました。
「たいしさま〜、しばしおまちを〜」
「さくやさんゆるして〜、むにゃむにゃ」
「……(ごくじょうの、極上のスイーツが目の前に!!)」
「すぴー、こここ」
狭いテントの中で小隊の皆が眠りについている。
私は外に出た。
夜明けはまだ遠い。
そして、私が存在する理由が分かるのも先の事だろう。
「なんだろな、私という存在は……」
夜露で濡れたゼルベリオスは鈍く光るだけ。
「この先に私が生きる答えがあるんだろうか?」

33名無し妖精:2016/11/18(金) 21:28:47 ID:Zs/CsUEg0
天邪鬼騎兵最低野郎
翌日。
正邪小隊は妖怪の山の中腹にいた。
「目標は山のてっぺんか」
「……(送られてきたデータどうりならな)」
「我は知っているぞ。2柱の神がいると」
「神様相手に戦闘ですか。きついですね」
だが、その前に相手をしなくてはならない相手がいる。
いるはずだ。
「姫、天狗の動向は分かるか?」
「今の所、不明……。いや、こちらに向かう敵機を確認。データ照合。ブラッドサッカーだよ!!」
パイルバンカーに縛り付けられた早苗が叫ぶ。
「あれは、山の番犬です!!」
漆黒に染められた機体が走る。
「東風谷か。お前に危害を与える気は無い。とっとと逃げろ」
ブラッドサッカーが正邪小隊に肉薄する。
「悪いが、人質は置いてってくれないか。やりずらい」
「人質を盾する気は無い!!お前は誰だ!!」
「山の白狼天狗、ここから先は通さんぞ!!」
正邪はため息をつく。
やれやれ、天狗も相手にせにゃならんのか。
「私の杭の錆になるか。吸血機械!!」
椛のブラッドサッカーが煙を上げる。
「ゼルベリオスか、いい機体だ。前から手合わせしたかった。こい!!」
椛の機体が加速する。
相手のコンマ数秒の隙を突く様な動きだ。
やれやれ。
「こいつは私が相手する。他の襲撃者がいないかどうか、援護頼む」
ブラッドサッカーが白刃を引き抜く。
「カラミティドッグ、前から手合わせしたかった。来い!!」
ゼルべリオスが加速する。
パイルバンカーを引き寄せながら正邪は叫ぶ。
「お前を鉄塊にしてやるぜ!!」
ゼルベリオスが肉薄する。
獲物を穿つために。

34名無し妖精:2016/11/21(月) 00:48:52 ID:WCgvZtpU0
正邪点描・9


…ったく逃げ足の早い奴だ…意地汚ねぇ事言ってないでとっとと諦めろ!
それより巫女、何なんだよあいつは?
「紫が『ヒル女』と呼んでいる奴よ。何でも外の世界の連中がパワースポットとか呼んでいる聖地から癒しの気を吸い取り、入れ替わりに吐き出した穢れが寄り集まってここへ流れ着いて幻想郷の何処かにある“月の石”の影響で具現化したらしいわ」
新種の妖怪かよ…しかし私は知らないのに向こうは私の事を知っていたようだが?
「多分いつだかの天邪鬼狩りのお触れで見知ったんでしょうね。実際アンタ
無駄に有名人だから」
無駄で結構。うだつの上がらない人間よりマシだ


(続く)

35名無し妖精:2016/11/21(月) 22:19:01 ID:wmEucqPg0
天邪鬼騎兵最低野郎
「レーダー作動中。この近くに他の天狗はいないよ」
「今来られても、我らには困るな」
「索敵を続けます。それより正邪さんは?」
「……(さっきの白狼と交戦中だ。まぁ、我々は我々でできる事をしよう)」
「サグメさん、ずいぶん正邪さんの事を信頼しているようですね」
「……(馬鹿を言うな、紅魔館の門番。奴は使い捨ての駒でしかない)」
「でも、反則生命体。もしかしてそれは、正邪さんの事では?」
「……(だと言ってどうなる。それよりも、この小隊にお前がいることが私には疑問だ)」
「いやいや、これはお嬢様の命令でありまして」
「……(お前の本心を問うのは後にしよう)」
小隊の皆が、正邪と椛の争う場所から離れ索敵をしている。
ここは妖怪の山、ほかの天狗達に増援されては困る。
だが反応は無い。
「……(どう言う事だ)」
サグメは冷や汗を流す。
「……(全ては手の平の上と言う事か?)」
土煙を上げながら、正邪と椛の戦闘は続いていた。
椛は愛刀を構え、正邪は一撃必殺の鉄杭を構える。
「お前に予言しよう。あと5合の撃ち合いで勝負が決まる」
「ふん、なめんなよ。お前の自信から全てをひっくり返してやる!!」
だが椛には見えていた。このままでいけばチェックメイトはもうすぐだ。
だが。
嫌な予感を感じる。油断できない。こいつは、何者だ?
ブラッドサッカーは白刃を下段に構え、ゼルベリオスに突進した。

36名無し妖精:2016/11/23(水) 02:04:29 ID:ROeawN1M0
天邪鬼騎兵最低野郎
椛の近接格闘に特化した白刃が、正邪の機体を逆袈裟に閃く。
並みの相手ならば、それだけで両断される程の一撃。
だが正邪は回避した。
椛は困惑した。
(外すつもりは無かった。私に油断は無い。これで決まるはずの一撃がことごとく回避される。何なんだこいつは!!)
間合いを一旦離した正邪が椛に叫ぶ。
「おいおい、王手まであと2手だぜ。どうした山の番犬!!」
今度は決める。奴の行動パターンは分かっている。奴は……。
白刃を肩にかけ、一撃必殺の型をとり椛のブラッドサッカーが加速する。
防御を捨てた必殺の一撃。
だが、それに呼応する様に正邪のゼルベリオスが突進する。
パイルバンカーを突き出し椛のコクピットを狙う。
瞬間、鉄の騎兵同士が火花を挙げ鉄塊が弾け飛んだ。

37名無し妖精:2016/11/26(土) 23:33:46 ID:1pS3hhW.0
天邪鬼騎兵最低野郎
硬く響く音。何かが砕ける音。
椛は愛刀を眺め呆然とする。
「まさか……」
その剣は中程から砕け散っていた。
「お前の敗因は、正確無比な太刀筋だ。確かに早いが、正確すぎて読めればたやすい」
椛の脳天唐竹わりに、パイルバンカーの先端を合わせた。
相手の太刀筋を読んだとはいえ、外せば即死。それを正邪はやってのけた。
「やはり、お前が終末を呼び込む者なのか?」
それに答える正邪。
「終末だと?悪いが私は寿命が来るまで、のらりくらりと生きるんだ。それと」
ゼルベリオスの鉄杭が、ブラッドサッカーのカメラアイに触れる。
「どうして、このタイミングで襲ってきた?本来なら集団で来る天狗がなぜ来ない。どう考えてもおかしい」
椛はしばらく逡巡し、そして答えた。
「山も一枚岩では無い。山頂の二柱に賛同するのか、それとも静観するのか。現在、山のトップは傍観する事としている」
「ふーん。じゃ、お前は反対派か?」
「違う。あれだけの攻撃を受けながらも、生き残り山のてっぺんを目指すお前と手合わせしたかった。それだけだ。命が欲しければその鉄杭を打ち込むがいい」
正邪は鉄杭を降ろした。
「無抵抗の奴を、どうこうする気は無い。それよりも……」
木々の陰からこちらを覗き見る、早苗の姿を確認し正邪は呟いた。
「あの巫女を山の神の処に届けてくれないか。それともう一つ、伝言だ。首を洗って待っていろってな」
「分かった。巫女は責任を持って届けよう。それと……」
「ん?」
「死ぬなよ。今度は勝利する」
「やれやれ、面倒だな。わかったよ、生きてたらな」
ブラッドサッカーは早苗を連れ、山の頂上を目指し走り出した。
その土煙を眺めながら正邪はひとりごちた。
「なんだか面倒な事になってきたな」

38名無し妖精:2016/11/28(月) 00:38:29 ID:zaeJSH9M0
正邪点描・10


「幻想郷のしきたりを身に付ける気など更々ないみたいだし、あいつはブラックリストに載せる必要がありそうね。外来人を餌にしている内は構わないけど…で、こいつは何?」

その外来人だよ。お前に外へ送り返して貰おうと思った連れてきた

「はぁ…よりによってこのタイミングで来るなんて、お茶の時間が台無しだわ。退治するわよ」

何でだよー!? 大体ここへいきなり送り込んだのはスキマのババアだぞ!? 文句言うならあっちに言え!!

「ったく、紫の物好きにも困ったものだわ…とりあえず貴方はそこにいて。結界をゆるめる用意をするから」

ンじゃ後はよろしくな。あばよ外来人
あ? 何で妖怪なのに自分を助けてくれたのかって?
“天邪鬼は人助けなんかしない”というお前ら人間共の思い込みに反逆してみせただけだ。筋は通っているだろ?
もう一つ、幻想郷の可愛い子妖怪に会いたがっていたお前の願いを叶えなかったのもれっきとした嫌がらせだ
しょうがないだろ…幻想郷はそんなに甘かぁねえンだよ
だろ? ヤクザ巫女よ

「私に振らないでよ」


(終)

39名無し妖精:2016/11/30(水) 20:19:02 ID:FVS6x.4.0
天邪鬼騎兵最低野郎
「今までに入手した情報を整理するとこうなる」
山の神が何かを画策している。
天狗達はこの件について詮索する事は無い。ただ、椛の様に単騎で来る者も在る。
山の奥深くまで入り込む。補給は期待できない。
山の者達は反則生命体を探し出そうとしている。
「こんな処だ。最深部に入り込む前に皆に聞きたい。ここから先、ついてくるか?嫌なら引き返せ」
「我は退かん。太子様の言葉もあるが、中途半端で投げ出す気は無い」
「私もです。ここまで来たんです。最後まで戦いましょう」
「……(まぁ、なんだ。行きつく処まで行くしかないな)」
「答なんて決まってるじゃん。正邪、いこう」
皆の言葉を聞き、正邪は答える。
「そうか。なら、ここから先は地獄めぐりだ。泣き言は聞かないぞ」
おう!!と返事する皆に正邪は呟く。
仲間か……。
こういうのも良いもんだな。
正邪の脳裏に過去の記憶が蘇る。
排斥され続けた日々を。
戦うか。この先、この終焉に何が待つのか。
答えは何か。世界が何を私にさせようというのか。
反則生命体。それが私なのか。
耐えてみよう。耐える事で何かが見えるかもしれない。
「んじゃ飯にすっか。今日もカレーだ。文句言うなよ」
その頃。
「早苗が負けたね」
「まぁ、シナリオ道理だ」
「して、次はどうする?」
「レグジオネーターの再生に、生贄がいる」
「例の天邪鬼?」
「250億分の一、不幸かな選ばれた反則生命体。奴の力でこの古き神の力が蘇る」
「うまくいくかねー」
「さぁな。しかし、この機会を逃しはしない」
「おぉー、おぉー、こわいねー」
山の頂点には赤く輝く月が見えた。

40名無し妖精:2016/12/05(月) 00:54:45 ID:eOv0Juko0
ねどこのせれなあで

夜中。住み家で川の字になって寝ている針妙丸、正邪、サグメ

サグメ「……(正邪、起きているか?)」
正邪「……寝ている最中は話しかけてくるな、鬱陶しい」
サグメ「……(私の横に入ってくれないか)」
正邪「ケッ、人を湯タンポ代わりにしようったってそうはいかねえぞ」
サグメ「……(お前は寒くないのか?)」
正邪「寒いもんか。心頭滅却すれば雪もまた熱しだ」
サグメ「……(屁理屈はいい。私を暖めてくれないか)」
正邪「…私にそんな事頼むなんてどうかしているぜ。どうせなら姫に頼めよ」
サグメ「……(寝ている所を起こすのも申し訳ない)」
正邪「私なら起こしてもかまわないってのかよ!?」
サグメ「……(諦めろ。私はそういう女だ)」
正邪「やっぱり月人は汚え野郎ばかりだ…」

とか言いつつサグメさんの横に入る正邪
半身になっている正邪を後ろから抱き締めるサグメさん
夜は更け行く

41名無し妖精:2016/12/05(月) 23:07:10 ID:w0JWAIg2O
正邪「ババーッ!スキマババ…」
紫「はいはいお呼び?」
正邪「早っ!師走なのにヒマなのか?」
紫「スピーディかつ良心的が私のモットーですもの…で、ご用は?」
正邪「ねえよWWW じゃあな」
紫「…私にはあります(猫つかみ)」
正邪「なっ!?おい!(スキマ入り)」


正邪「何だこの品物の山は?」
紫「来る聖夜に配る贈り物よ」
正邪「セイヤ?なんだその、お歳暮ってやつか?」
紫「まあそれは…とにかくこれを仕分けて欲しいわけよ」
正邪「やだね!…ってもやらないと帰れそうもないか」
紫「ご明察ね!じゃ、せこの端からお願いね♪」
正邪(やれやれ、狐の式神や鬼巫女はいつもこんなんに付き合わされている訳か…)

紫「貴女有能ね!思った以上に仕分けが出来たわ!」
正邪「まあな、ところで“くりすます”ってナンだ?(包装用紙を見せながら)」
紫「外の世界の宗教…まあお祭りね。その日は皆が幸せを祈って優しくなれる、かもしれない日なの」
正邪「妖怪にとっちゃ最悪の日だなW…ババア、幻想郷を滅ぼすつもりか?」
紫「それで滅びるなら滅びてしまいなさい、かしらね」
正邪「悪党め!メリークルシミマス、ババア!」
紫「メリー苦しみ…って、貴女無意識に私に復讐しているのね…(苦笑)」

42名無し妖精:2016/12/06(火) 20:51:49 ID:mXzeJ5mg0
天邪鬼騎兵最低野郎
大瀑布を横目で見ながら正邪小隊は前進する。
「ここで襲われたら終わりですね」
「まぁ、いいカモではあるな」
「天狗は手を出さない。と信じて登るしかないだろ」
現在、小隊はアンカーボルトを打ち込みながら山肌を登っていた。
「……(敵勢力は今のところ無しだ)」
サグメのラビドリードッグ、及び他の機体のレーダーにも敵勢力の反応は無い。
だが正邪は思った。
これは待ち伏せじゃないか?
山の天狗は傍観すると聞いたが、あの有名人は何かしら仕掛けてくるに違いない。
先行する布都のレシーバーから声が聞こえる。
「よし、頂上へ到達……。あれは何ぞや!!」
その声を聴き、正邪小隊は大瀑布の頂上に立った。
小隊全てのATが滝の頂上に上がる。
そして。
「はぁ〜、やっと来ましたか。椛がやられたと聞いて、きっとここに来ると待っていましたよ」
「お前、天狗のブン屋!!」
その声を聞き正邪は毒ずく。
「はいはい、私の事はご存知でしょう。さて、皆さんに質問です。何故この先に進むのでしょうか?」
布都が答える。
「この先で調子こいてる神への反逆だ」
「おーおー、怖い事言いますね」
文が続ける。
「彼女らが欲しいのは、250億分の1の反逆生命体。それ以外はただのゴミ。それでもこの先にいくんですか〜?」
「……(悪いが売られた喧嘩は10倍返しだ)」
「怖いこと言いますね〜。でもね」
文が操るストライクドッグが雄叫びを上げる。
「こういうのは、私の主義に反訴るのですが。勝ち目の無い勝負ほどつまらない物は無い。そうでしょう、天邪鬼」
正邪はその言葉を反芻する。そして言った。
「相手が誰だろうと、売られた喧嘩は買う。それが天邪鬼だ」
「そうですか、ならば仕方ありませんね」
文の操るストライクドッグが咆哮する。
「さて、私は今までの相手とは違いますよ」
文の操るATが土煙を上げる。
「神に反逆する天邪鬼。明日のトップの記事を得るのは私です!!」
「……(舐められたものだ)」
「勝負は終わるまでわかりません!!」
「我は強いぞ。心しろ」
「援護は任せて!!」
「さぁて、カラス狩りといくか」
正邪小隊は分散する。
少しでも相手の有利に立つために。
姫が叫ぶ。
「各機、間隔を開けて集中砲火。相手のスピードにのみこまれないで!!」
滝の上で、高速移動する天狗との戦いが始まりを告げた。

43名無し妖精:2016/12/07(水) 21:29:46 ID:o5RjlTVU0
天邪鬼騎兵最低野郎
滝の上での戦闘。足場の不十分な場所での戦闘に聖者小隊は苦戦する。
「足場が滑る。奴めわざとここを戦場としたか!!」
「まぁ、自分にとって有利な場所を選ぶのは、戦士として当然ですね」
美鈴の答えにサグメが答える。
「……(だからと言って引き返す道も無い。奴の独壇場に飲み込まれるな!!)」
その言葉に正邪は思考する。
崖を昇る間にいくらでも襲う機会があったはずだ。この天狗、何かを隠している。
「姫よ!!」
「何!!」
「奴の行動開始時間を教えてくれ!!。できれば情報操作がされた経歴が無いかチェックしてくれ!!」
「了解、5秒待って!!」
正邪はにらんだ。
奴と山の神の間で交信が行われたのではないかと。
「データ照合!!、5分前に山の頂上に向けて交信確認。これは……」
その時、姫のATにストライクドッグの弾丸がかすめる。
「きゃぁぁぁ!!」
銃口から噴煙をたたせながら文が呟く。
「いけませんね〜。こそこそと内情を探られるのは好きじゃないんですよ」
「てめぇ!!」
「……(落ち着け正邪よ。この手の相手は人を煽るのが上手い。飲み込まれるな!!)」
その言葉に正邪は自分を取り戻す。
相手は特殊機であるが1機。こちらは姫を除いても4機いる。
たとえ相手が幻想最速とはいえ、何らかの反撃はできるはずだ。
「全機、相手の速度に飲まれるな!!奴の油断を誘う!!」
ゼルベリオスの銃が、文を狙う。
「威嚇射撃。10秒後、奴の回避に近接攻撃をかける。私を信じろ!!」
各ATが散開する。狙うは十字砲火。
「奴を弾幕で囲む!!いくぞ!!」

44名無し妖精:2016/12/11(日) 21:49:23 ID:DruiXuQg0
天邪鬼騎兵最低野郎
火薬の炸裂する音が響く。
4機のATが手持ちの銃を掲げ、文のストライクドッグに弾幕を張った。
しかし。
「この程度で弾幕とは。私も舐められたもんですね!!」
発射される弾頭。「面」と化した攻撃すらすり抜ける様に、文は前進する。
その相手はサグメ。
「……(来るかっ!!)」
試作機であるストライクドッグが、量産機であるラビドリードッグに肉薄する。
その腕に装備された鉄の爪同士がぶつかり合い火花を散らした。
「……(ぐあぁぁぁ!!)」
サグメのアイアンクローが中程から千切れ飛ぶ。
「おのれっ!!」
「当てます!!」
2機のスコープドッグのヘビィマシンガンが咆哮するが、文の機体に掠める事すらできない。
「あははははは、雑魚はここで終点を迎えますよ。うむっ!!」
文の死角から、正邪のゼルべリオスがパイルバンカーを掲げて跳躍した。
「くらぇぇぇぇ!!」
打ち出される鋼鉄の鉄杭。
だが。
「今更、そんな「点」の攻撃が私に効くと思いますかっ、天邪鬼!!」
文は軽々と跳躍して回避する。正邪の渾身の一撃が外れたかに見えた。
そして。
「効くなんて思っちゃいねえよ。こいつはブラフだ、姫、飛べぇぇぇぇ!!」
正邪の機体を踏み台にして、隠れる様に前進していた針妙丸のATが跳んだ。
最速の天狗とはいえ、鉄の騎兵に乗っていては空中で十分な機動はできない。
文の慢心が油断を呼んだ。
「おのれぇぇぇぇ!!」
天狗の機体が炎と共に鉛玉を吐き出すが、コンパクトに構成された姫のATに掠める事もできず。
先程の借りを返す様に針妙丸は叫ぶ。
「これで終わりです!!」
至近距離からの発砲に、ストライクドッグはその装甲を撃ち抜かれ、行動を停止した。
「ふぅ〜、やれやれ。あまりこんな事はしたくないな」
敵の沈黙を確認し、正邪は大きく息を吐いた。
「さて、次は尋問か。話してもらう事が山ほど有りそうだ」

45名無し妖精:2016/12/15(木) 20:07:47 ID:mOV4eCtE0
天邪鬼騎兵最低野郎
ATから引きずり出された文は、近くに生えていた樹にロープで拘束された。
「ん、んぅう」
気絶していた天狗が目を覚ます。
「はっ、ここはどこですか!!んぐぅ!!」
目を覚ました文を正邪が踏みつける。
「どこですかじゃねえよ。てめぇ、私達をさんざんいたぶっといて、負けたら、さぁ知らねぇだと」
正邪は烏天狗の頭に足をかけながら睨む。
「有る事無い事、全部話してもらうぜ」
その正邪に針妙丸が呟く。
「たぶん……、その人は嘘を言ってないよ」
「どういう事だ姫!!」
針妙丸は天邪鬼に返事する。
「天狗の交信記録と行動時間を調べたんだけど……」
姫は言葉を続ける。
「この山で、正邪が山の巫女に受けた電波障害。それと同じ物、周波数が収集できたの」
ストライクドッグの残骸を見ながら姫は続ける。
「たぶん、ATとのシンクロ。影響を受けやすい機体に乗っていたから、文さんは操り人形になっていたんじゃないかな?」
正邪の背中を冷汗が走る。
それは、それならば……。
「……(この機体は山の神が用意したのか?)」
「は、はひぃい、これに乗ればスクープも簡単だと……」
涙目の天狗にサグメは答える。
「……(お前、これが何か知ってて乗ったのか?)」
「いえぇぇぇ、知りません!!」
ふぅ〜。ため息を残しサグメは呟いた。
「……(これは、月の技術を使用したオーバーテクノロジーが積んである。良かったな、後10分遅ければお前は廃人だ)」
「えぇぇぇぇ〜!!」
驚く文にサグメは続けた。その手にはとあるコードが揺れていた。
「……(これな……、操縦者の能力を高めるコネクタだ。そんな物が有るなんて説明無かっただろうが)」
「そんな、じゃあ、私は使い捨ての駒の一つだと」
「……(それ以外何がある。為政者がよく使う手だ。私も含めてな)」
うなだれる天狗。そして、それを見る小隊のメンバー。
その状況をかみ砕きながら正邪は思う。
この先、何が待っているのか。何が起きるのか?
味方だと思っていた者達に裏切られる可能性も有るのか?」
その時。
「や〜、遅れた遅れた」
山の麓、河童の川のにとりが、仲間を連れダイビングビートルに乗り現れた。
「さぁて、補給の時間だよ!!」

46名無し妖精:2016/12/28(水) 23:02:25 ID:my5mX0cM0
天邪鬼騎兵最低野郎

行間。
諏訪大戦時。

天が騒ぐ。
風が嵐を呼ぶ。
稲光が大地を焼き。
絶望と悲しみが民の上に降りかかる。
「おのれ、倭国を蹂躙してこれ以上、何を望む!!」
あざ笑う答える声にはあからさまな侮蔑があった。
「面白いじゃないか。いと古き神よ」
「私は引かない。ここで敗れたとしても、私の血を引く者が必ず敵を討つ!!」
「そうか……。ならば、ここで果てよ土着神よ!!」
稲光がミシャグジと呼ばれたその神の体を撃つ。
「ハァハァハァ」
「どうした、ここまでか?」
彼女は、諏訪の神は首を振る。
「ここまでか……。ん……」
神の背後に、大地を揺すり、光を放ちつつ顕現する物があった。
「これは……、レグジオネーター!!なぜここに?」
(我は呼び覚まされた。深き悲しみ、諦めざるを負えない苦痛、この場所に生きる民達を守る事ができぬ怒りが、我を呼び覚ましたのだ)
「お前はっ、お前は何をするつもりだ!!」
(我が振るうは魔を断つ剣、神を裁く剣、理不尽なる力を引き裂く剣。さぁ、そして貴女が立ち上がり剣を取るのなら、我はここに咆哮を挙げる)
諏訪子は祈る。
この地に生きる者達を、自然を、このまま外来より来た神に蹂躙させてたまるものか。
「我は祈る。この身を、この魂を、この地に生きる者達を、外なる神々にすきにさせてたまるか!!」
(我はそなたの声を正しく聞いた。汝、神を切り裂く剣となりて我を操り、その本懐を遂げよ)
諏訪子の体が古ぶるしき巨人に吸い込まれる。
「これは……?」
光を放つ鉄の巨人を目の前にして、もう1柱の神は動揺する。
「これは、この鉄の塊すらも国津神だというのか!!」
レグジオネーターと呼ばれた巨塊は天をも裂く剣をかざした。
(我が願うはこの国の安寧。この国を奪い去る者に反する刃。外なる神よ、ここに倒れ伏すがよい)
神の摂理に反する力。
弱者の祈り。
弱者の思い。
弱者より絞り出される願い。
それが光の奔流を纏い流しだされる。

その力に抗う技をタケミナカタは知らなかった。


「はぁー、夢か。ずいぶん古い夢を見たものだ。」
神奈子は目を覚ます。
「あの時私を断罪した機体が、今度は私を救うのか。いや」
神奈子は思う。
「これが、新しい始まりだ。反則生命体を贄に今度は私の力となってもらうぞ」
彼女は眺める。
満点の夜空に星が輝いていた。神々の思惑は、何を導くのか?

47名無し妖精:2016/12/31(土) 21:05:47 ID:M/JJjcHk0
針妙丸「おまたせ〜お蕎麦ができましたよ〜」
正邪「おせーよ姫、ソバ伸びちまってるんじゃねーのか」
サグメ「……(気にするな針妙丸、正邪流の“待ってました”だ)」
針妙丸「はいはい、いつもの事ですから…はいどうぞ」
正邪「クソババアもこんな所で油売ってんじゃねーよ。さっさと月に帰れよ」
サグメ「……(戻れば戻ったで肩身が狭い身の上なのでな…こっちにいた方がまだ気が楽だ)」
正邪「穢れまみれだとかで月から追放されても知らねえぞ…そいじゃいただくか」
サグメ「……(ときに正邪よ)」
正邪「あんだよ」
サグメ「……(これは月見蕎麦な訳だが…何故生卵を落とすのだ? 目玉焼きでは駄目なのか?)」
正邪「ブッ!!」
サグメ「吹くな、行儀の悪い」
正邪「すっとぼけた事言うからだろ!? 丼 ソバに目玉焼きなんて聞いた事ねーよ!」
サグメ「……(だがこれでは白身が汁に溶けてしまう…目玉焼きにした方が効率よく食べられると思うが)」
正邪「効率よくなんて風情がねえな…そういう問題じゃねえんだよ。上手く説明出来ねえけど…」
針妙丸「それ多分雲だと思いますよ」
サグメ「雲?」
針妙丸「汁で温まって白く濁った白身を月の前にたなびく雲に見立てているんです」
サグメ「……(月に叢雲か…成る程。通常月人は月見をしないからそういう発想が中々出来ない。まして料理の表現に活かす事など)」
正邪「…いいからサッサと食えよ。伸びるぞ」
サグメ「……(すまない…正邪よ)」
正邪「あんだよ」
サグメ「……(針妙丸共々来年もよろしく頼む)」
正邪「……うるせえ…///」
針妙丸(んもー、正邪ったら素直じゃないんだから…)



今年は色々御世話になりました
新しい年もよろしくお願い致します

48名無し妖精β:2017/01/01(日) 16:29:11 ID:???0
正邪と4ボスたち

正邪「メリークリスマスだ!正月ボケのお前ら!」
霊夢「相変わらず天の邪鬼な性格ね、あんたは」
メルラン「こっちは今、お雑煮とおせち料理食べてるところよ〜」
文「おまけに正月特番も観ていますしね」
サグメ「…(正邪も参加したらどうだ?)」
正邪「お前なぁ、月人なのになぁに平然とここの奴等と馴れ合ってるんだよ」
さとり「サグメさんも私たちと同じ4ボスなのだから、良いじゃないですか」
八橋「さぁさぁ早くしないとおせち料理無くなっちゃうぞ〜?」
弁々「どうせまだ逃亡の身だからろくな物食べて無いんだろ?遠慮せず召し上がりな」
正邪「別にお前らと一緒に食うつもりはねぇからな!本当だからな!」
ルナサ「口ではそう言ってるけど、参加する気満々ね」

青娥「どう?美味しいかしら?」
正邪「はっきり言おう、不味い!」
リリカ「要するに、『美味い』ということね」
正邪「いちいちうるせぇよ、全く」
魔理沙「相変わらず素直じゃねぇんだから」
村紗「お年玉あるけど、どうしよっかな〜」ヒラヒラ
正邪「いらねぇよ。お年玉なんか絶対欲しくねぇからな!」
パチュリー「凄く分かりやすいわね…」
文「おせち料理食べたあと、どうしますか?やっぱり正月ならではの遊びをしますか!?」
霊夢「あら良いわね。羽根突きに凧上げ、齣回しにカルタ…」
ルナサ「せっかくだから、正邪も一緒に遊ぶ?とても楽しいわよ」
正邪「ふぅむ…悪い話じゃねぇな」
魔理沙「おっ、珍しく乗り気じゃねぇか」
正邪「当たり前だ。私が強いのは弾幕勝負だけじゃないというとこを見せてやるからな!」
村紗「おー言ったね〜。勝負楽しみにしてるよ!」
八橋「私も負けないぞー!」
青娥「ふふふ…正月遊び百戦錬磨のこの私に勝てるとでも?」
リリカ「それ初耳だよ、青娥さん」
正邪「ふん、全員纏めて相手してやるよ。掛かってきな」

さとり「いつも強がっているけど、本当に可愛いですね、正邪さん」
サグメ「…(あいつも正月だとテンションが変わるからな)」


新年明けましておめでとうございます!

49名無し妖精:2017/01/03(火) 20:42:01 ID:u.uZzSwQ0
年明けて、新年を祝う正邪一行。
「・・・・・・・(明けまして)」
「われ思う、ゆえに」
「なーに言ってるんですか、布都さん」
「おぞーに、あるよー!!」
「あーうるせーなー。今年もこの調子かよ」
にとりの持ってきた雑煮を啜りながら正邪は怒鳴る。
「考えてもみろ、私達はこれから山の神に喧嘩を売るんだぞ」
「……(だがまあ、休息は必要だ)」
「われは疲れてなぞいないぞ」
「ここは、全力で休みましょう」
「せいじゃー、おもちまだあるよ」
「あーまったく、緊張感の無い奴らだ」
正邪は呟く。
こんなんでいいんかいな。と

今年もよろしくお願いします。

50名無し妖精:2017/01/04(水) 12:38:22 ID:abvZyrbkO
正邪「我が友よ!(抱き)」
ドレミー「な、なんで??」
サグメ「…(正邪よ、彼女はクリスマス仕様でなく普段着だぞ)」

51名無し妖精:2017/01/15(日) 20:33:30 ID:uRrjDSj60
仮面ライダー正邪

「裏切者が脱走した!!」

「門を閉めろ!!」

「守衛を呼べ!!」

「鍵を掛けろ!!」

「生きて出すな!!」

わたしは、私は何時からここにいるのだろう?。
たしか、幼い頃。いきなりここに連れてこられた気がする。
私の小さな手を引いてきたのは両親だったのか?
それ以来、私はこの牢獄しか知らない。
3度の食事。
小さな窓から差し込む太陽と月。
手のひらに収まるような世界。
それが私のすべてだった。
だが。
ボガゼ、ゲギゴウザザ?「……(お前。適合者か?)」
こいつは、私の手を引き何を言っているんだ?
ダラバ、ボガゼボヅレテ、ソトニゲル「……(ならば、お前を連れて、外に出る)」
こいつの言葉は分からない。ただ、私を連れて外に逃げようとするのは分かった。
警報の音が響く。
沢山の足音も。
建物の外に出た時。
周囲を沢山の者たちに囲まれているのを感じた。

「裏切り者サグメ!!」
「反逆の鬼姫!!」
「ここがお前の終点だ!!」
「異分子まで連れて!!」
「死ぬがいい!!」
だが、私を連れた者の手からは暖かい力を感じた。
「バダシバゴゴマデガ、ガダ、バダラシイチカラハ、デギニレタ(……私はここまでか、だが、新しい力は手に入れた)」
そして、その者は、私に微笑んだ。
「ボマエラシギ、ボマエノイギダガヲズズメ(……お前らしい、お前の生き方を進め)」
あいつは叫んだ。今もその声を忘れない。忘れるはずがない。
「変身!!」
風を呼び、嵐をまき散らし、奴は顕現したんだ。
空我。
それが私に引き継がれた力。
全ての力に反逆する力。

52名無し妖精:2017/02/13(月) 00:53:10 ID:9r9Hz22s0
ハレンチ・バレンタインデー

正邪「ただいま帰らなかったぞ〜。ほれお土産だ」

外出から帰るなり正邪は携えていたバスケットから握りこぶし大の紙包みを数個取り出してちゃぶ台の上に置いた

サグメ「……(これは?)」
正邪「チョコレートトリュフというやつだ。もうすぐバレンタインデーだろ? 人形使いの所へ行って作り方を教わって来たのさ」

サグメの脳裏に嫌な記憶が蘇る
昨年のホワイトデーでアリスにクッキーの作り方を教わった正邪はサグメを騙して泥で出来たクッキーを食べさせていた
彼女はしばらくトリュフの包みを眺めていた
包みからは甘い匂いが漂ってくるが…

サグメ「……(ハズレが入っているな)それなら私はハズレを引く」
正邪「(ギクッ)な、何の話だよ…それにお前、今能力を…」
サグメ「……(間違えるな。私の能力は言った事が反対になる訳ではない。本来私がハズレを引く運命にあったなら来るべき事象は逆転する。そうでなければ言及しても何も起こらない)」
正邪「どっちにしてもハズレは引かれないじゃねえか。汚ねえ野郎だ…」
サグメ「……(それよりお前の企んでいる事は想像がつく。今度は何で出来ている?)」

そこへ外にいた針妙丸が入って来て正邪に呼び掛けた

「お客様だよ。アリスさんが正邪に会いたいって…」

そう言い終わらないうちにアリス・マーガトロイドがズカズカと
上がり込んできた

正邪「よ、よう。何の用だ?」
アリス「知りたかったらそこのトリュフを食べてご覧なさい」
正邪「い、いやこれはクソババアや姫に…」
針妙丸「正邪、今私の事二番目に呼んだね?サグメさんより下なのね〜?」
正邪「こんな時に病まないでくれ!」
アリス「躊躇するという事はやっぱり何かしたのね? 嫌な予感がしたから追ってきたのよ。私言ったわよね、今度は変な材料で作らないでって」
正邪「も、勿論まっとうな材料で作ったぜ…お前もちゃんと見ていただろ?」
サグメ「……(だが何も仕込まないとは言ってない…姑息な奴だ)」

と、そこへ今度は霧雨魔理沙が上がり込んできた

魔理沙「よう! アリスがこっちへすっ飛んで行くのが見えたから後をつけてみたんだ(トリュフを見つけて)これアリスが作ったのか? 一個貰うぜ」

誰も止める間もなく魔理沙は包みを一つ開いてトリュフを口にした
何度か咀嚼した後魔理沙は突然それを吹き出した

魔理沙「何だよこれ!? 中身梅干しじゃねーか!!」
アリス「私じゃないわよ!!」
針妙丸「正邪〜ぁあ?」
正邪「…っだよ白黒の奴…それよりクソババアてめえ…」
サグメ「……(運命を変えればその皺寄せは必ず誰かにゆく…運命を変えれるとはそういう事だ…)」

悟った様な顔でそう言うとサグメは魔理沙同様包みを一つ掴み取りトリュフを口にした
その直後サグメは渋い顔になり正邪を睨み付けた
正邪はその視線に負けじと言い返す

正邪「ハズレが一個とは限らねーぞ」

53名無し妖精:2017/03/15(水) 01:09:58 ID:WDvQHfF.0
正邪「おいクソババア、ホワイトデー終わっちまったぞ。お返しはどうした」
サグメ「……(あんな悪戯にお返しを要求するとは笑止千万。それに私はお前に貸しがある。それでチャラとしてもらおう)」
正邪「何だよ貸しがあるって? 覚えねーぞ」
サグメ「……(ひな祭りだ。楽しみにしていたのに何もしなかったな)」
正邪「いい歳して何だよ!?」
サグメ「……(甘酒…菱餅…雛あられ…食い物の恨みは恐ろしいぞ)」
正邪「……悪かった」

54名無し妖精:2017/03/16(木) 21:45:14 ID:dhupYUSAO
正邪「おいババア!」
サグメ「…(何だ正邪、ん?これは)」
ふきのとうの天ぷらと芹(せり)のごま和え
針妙丸と野原で摘んできたものだ
正邪「まあ食えよ…口に合わないだろうが(ククク)」
サグメ「!(これは美味いな!うむ)」
正邪「何っ!?苦くないのかよ?」
サグメ「…(これくらいの苦さなら私には…うっ)」
正邪「おい?…って鼻血かよ!」
サグメ「…(春の野草か…さすがに地上の生命のエネルギーは強いな。月の民の私には刺激が強すぎたようだ)」
正邪「そういいつつ食ってんじゃねーよ!」

55名無し妖精:2017/04/16(日) 13:14:44 ID:OPX/1uvs0
仮面ライダー正邪 「前兆」
「いやぁ〜姫、悪い。遅くなった」
調理場では針妙丸がふくれっ面をしていた。
私は大きく頭を下げる。ちなみに、私に頭を下げさせるような存在は彼女しかいない。
「もぉ〜、出前が溜まってるんだから!!私だけじゃさばけないでしょ!!」
小さな体で鍋を振るう姫。
ここ、小人の開いた「喫茶ポレポレ」で私は働いている。
行く当ての無い私を拾ってくれたのも彼女だ。
「えぇ〜っと3丁目の田中と佐藤にカツカレー2人前づつ」
「こらっ、お客様を呼び捨てにしないの!!」
「ははっ、いってきま〜す!!」
何か大きな事がある訳では無いこの生活を、私は気に入っている。
ただ一つの心配事は……。

同時刻。博麗神社。
「未確認生命体による事件発生。人間の里を越え、大結界に向かっています」
「いいのか、霊夢このままにしておいて」
黒い魔女が巫女に尋ねる。
「いいわけないじゃない!!何で妖怪以外の事件が起こるのよ、紫は何やってんの!!」
怒鳴る巫女に魔女が答える。
「紫はよくやってると思うぜ。ここんところ急に増えた人間でも妖怪でもない『未確認生命体』による犯罪。その対策にてんてこまいだ」
魔女は貯めた息を吐く。
「だが見逃してたらいけない。奴らは殺戮を楽しんでいるふしが有る。私も行くぜ、霊夢」
黒い魔女は箒にまたがり空を舞う。

「お待たせしましたぁ〜。これからも『喫茶ポレポレ』をよろしく〜」
私は出前をすませ、姫のいる店に帰還する。
生温い、だが幸せな日常……。

「忘れるな、お前は常に修羅にいる」

あれ、誰だっけ?

「お前が進む道の前には、数知れない屍が有る事を忘れるな」

この声は?

「お前は生きている限りこの無間地獄から逃れられない。最後の一匹を倒すまで」

私は立ち止まる。突然胸を襲うこの痛み。これは一体……?
その時だ、大きな影が私の前に立った。
「ボガゼ、ギャマザナ」
いきなり問いかけられ、私は自問する。
いったい、この生き物は何なんだ?
2メートルを超える体躯。歪な容姿。そして……。
「ゲゲルギバブギョウギャダ、グッデギャル」
奴がその咢を開いた時、私の中の何かが弾けた。
そう。私に秘められたこの力は。
この為に在ったんだ。

56名無し妖精:2017/04/16(日) 21:29:28 ID:OPX/1uvs0
仮面ライダー正邪 「変身」

57名無し妖精:2017/04/16(日) 21:58:38 ID:OPX/1uvs0
異形が叫ぶ。
「グガァァァ、ダグバザバニジュグゼエサレルマベニ、ビドリデモニエニ」
異形の一撃が私をかすめる。直撃していたならば頭が吹っ飛んでいただろう。
なぜだ、何故躱せた。
異形の一撃よりも、私の反射行動に私は驚いた。
なにかが、何かが私を救った。
そして声。
「臆するな。お前の力、それこそがお前の真の力だ」
さらに続く。
「お前の力を解放しろ。今のお前ならできる!!」
何かが思い浮かぶ。あれは……。
体内に嵐と激情を取り込む。その姿を私は思い出した。
あれは……。
「ボマエガツギノデギゼイジャカ。バドボダグズ」
思い出した。
あの姿。あの力。
あれは。
この世の不条理に抗う力だったんだ。
私の唇が呟く。
正しく、正確に。
「変身」
私の体を焼き尽くす様な熱が走る。
だが。
それは、歓喜の力だ。解放の力だ。
奴の体に赤銅色の異形が映り込む。
「ボマエハ……、クウガ!!」
私の体が空を飛ぶ。束縛から解放された力が解放の時を待つ。
「オオオオオォオオオー!!」
跳躍が頂点に達し、奴は動く事無く私の足蹴りを受けた。
「グガガァァァ、ク、クウガヨ。オ、オマエハカコノアヤマチヲフタタビグリカエスノカ……」
奴の体が蒼い炎に包まれていく。
そして崩れた。
何時からだ。
小糠雨が私を包む。そして。
「偉いもの見ちゃったな」
そして続く声。
「未確認に敵対する存在……。空我か」
黒い魔女は三つ編みをいじった。

58名無し妖精:2017/07/18(火) 00:30:22 ID:VHrVwj720
『帰らざる河』1

※独自設定を含む内容です




「こんな所にいたのか…どうしたクソババア?」

妖怪の山の麓近く。
その上空を飛んでいた正邪は山裾を流れる川のほとりにいる稀神サグメの姿を認め背後に降り立った。
サグメはチラと後ろに目をやり、すぐまた川に視線を戻した。

「何見てんだよ」と正邪。
「……(川の水が濁っている…)」
「そりゃそうだろう、昨日から今朝にかけての大雨だ。水の量が増えりゃ川底の泥も沸き立つ…知らねえのか?」
「……(月には海しかないからな。濁った流れなど見た事がない)」
「へっ、お目出てぇこった」

月人様めと吐き捨てるように呟く正邪。
だがサグメと共に濁流を見ているうちに妙な感覚に囚われだした。
脳裏に不意に過去の記憶が甦る。

(…そういや“あいつ”と出会ったのもこんな川のそばだったっけ…)


(続く)

59名無し妖精:2017/07/22(土) 00:45:22 ID:QwXMkj4Y0
『帰らざる河』・2

※独自設定を含む内容です



3年前の天邪鬼狩り10日目。
降りしきる雨の中、正邪は最後の追手である八雲紫と交戦中だった。
紫が放つ弾幕の威力が弱いのは雨で熱量が減衰しているからか、それとも意図的に弱くしているのかは分からなかったがその意味を探る余裕などその時の正邪には無かった。
高密度弾幕をかわす為の反則アイテムもことごとく失われ今は身一つで回避している。
紫が更なる攻めに転じたらもう持ちこたえる気がしない。

(ちきしょう…ここまで来たんだ! 捕まってたまるか!!)

そう胸の内で叫んで気力を奮い立たせようとする正邪にハート型の弾幕が蛇のようにうねりながら襲いかかってきた。


(続く)

60名無し妖精:2017/07/23(日) 16:36:14 ID:ylmJOv1.0
『帰らざる河』3

※独自設定を含む内容です



後ろから迫る弾幕を回避しながら飛行する正邪の眼前に急な川の流れが見えてきた。明らかに雨で増水している。
それを見てひらめく正邪。余計な捨て台詞を残す暇はない。
第一そんな事を口にしていたら紫に行動を読まれる危険がある。
正邪は川の上で反転上昇をかける振りをして制動をかけ、そのまま“飛ぶ力”を切って川に落ちていった。

「待って!! 駄目…」

これには紫も虚を衝かれたらしくそう叫ぶのを正邪は川の水に没する直前に聞いた。
弾幕からは逃れたが自分が悪手を打った事を正邪は思い知らされた。
頃合いを見計らって川から飛び出せばいいと思っていたが流れは外から見る以上に強く複雑で正邪の身は川の右へ左へと翻弄された。
力を使う事に集中出来ず、濁った水が目を、口を、耳を鼻を襲う。
溺死という言葉が脳裏をよぎる。
もちろん妖怪が死んでもいずれは復活する。だが正邪にとっては今の自分が生き続ける事に意味があった。

(あんな腐った奴らにいいようにされたまま死んでたまるか!!…)

その心の叫びに応えるかのように必死で水面に顔を出した正邪の目に“命綱”が映った。
川岸の岩に引っ掛かっている流木の枝だ。
正邪は無我夢中で手を伸ばし太めの枝を掴んだ。問題はこれからだ。
流木は川の中場にある大きな岩と岸の岩をつなぐような形で引っ掛かっている。何時ずれて再び流れ出すか分からない。
そうなる前に枝から幹へよじ登って岸に辿り着かなければならないが、疲れきった正邪の身には川の流れに耐えながら枝をよじ登るのは困難を極めた。
ようやく幹の上に上がりそろそろと渡り始めた時、ガクンと幹が揺れた。川の中の岩が川底の支えを失ったのかグラリと転がり出した。それに伴い流木も川の流れに身を任せ始めている。

「聞いてねえぞこの野郎!!」

流木に悪態をつく正邪。その時。

「走れ!! 跳べ!! バッタのように!!」

誰かがそう叫んだ。正邪は本能的にその声に従った。幹が滑るとかそんな事を気にしている暇はなかった。
ジャンプして川岸に着地した直後に流木は流れ出した。間一髪だった。

「ハァ…ハァ…ざまあみろクソ野郎ども…」

息を切らしながらもふてぶてしい笑みを浮かべる正邪。そのそばへ誰かが歩み寄ってきた。正邪の顔に緊張の色が走る。見覚えのない白髪の女だった。

「よぐ無事だったなやぁ。言ったオラもどうなっかと思ったが良がった良がった」

無遠慮だが悪意の無さそうな声で正邪に呼び掛ける女。

「…はて、おめえさのその髪…」
「テメーは誰だ…」
「……誰でもええべ」

女が少し寂しそうな表情でそう言ったのが気になったが正邪の意識はそれ以上持たなかった。


(続く)

61名無し妖精:2017/08/02(水) 01:15:58 ID:/jprLaP.0
『帰らざる河』4

※独自設定を含む内容です



ゆっくりと瞼を開く正邪。見知らぬ天井が目の前に広がる。
いや、天井というより屋根裏といった方が正しいかも知れない。何枚か渡した板の隙間から葺いてある茅がのぞいている。

(どこだここは…)

わずかに頭を持ち上げた正邪の正面にあの白髪の女が立っていた。

「目ェ覚めただな? 腹減ったべ?」

女はきびすを返して土間らしき場所に降り、ややあって年季の入った椀とさじを正邪の枕元に持ってきた。

「ほれ粥だ。食って力つけれ」
「いらねぇ…」
「そうか? ここに置いとくな」

それだけ言って女は再び土間に向かった。

62名無し妖精:2017/08/09(水) 01:11:00 ID:xc3uwQLA0
『帰らざる河』5

※独自設定を含む内容です



正邪は女の目を盗んで粥をかき込んだ後再び眠りに落ちた。
どれほど時が経ったのか。正邪は夢うつつの中で誰かの会話を聞いた。

「…それにしても驚いたわ。彼女を助けてくれたのが貴女だったなんてね…」

一人はあろうことか八雲紫だった。あの軽薄なヘビっぽいしゃべり方は間違いない。
そしてもう一人は…

「…驚いたのはこっちだよ。こんな形であの子と再会するとは夢にも思わなかった」

正邪はいぶかしんだ。声音は高確率で自分を助けてくれたあの女だった。
だがそのしゃべり方にあの素朴な訛りはなく、むしろ理知的ですらあった。
例えば竹林の薬剤師のように。


(続く)

63名無し妖精:2017/08/16(水) 13:16:50 ID:7/hnBV7c0
『帰らざる河』6

※独自設定を含む内容です



「彼女を知っているの?」と紫。
「昔行き倒れの天邪鬼の子を拾って面倒みていた事があった…前髪一房が赤い天邪鬼なんてそうそういるもんじゃないからね。あの子に間違いないと思う」
「その子はどうしたの?」
「天邪鬼だからもちろん利かん気さ…飯は食っても仕事は手伝わないし本当手を焼いた…んである日突然居なくなった」
「喧嘩でもした?」
「まあちょっときつめに叱ったかな…居なくなったのは昼間のような大雨の日だった」
「もしや…川に…」
「その可能性は考えた。だから諦めていたのさ」
「でも彼女は貴女の事を…」
「別にいいさ…生きていてさえくれればそれでいい」

だが正邪は女がそう言った後についた溜め息に失意の念が混じっているのを感じた。

(このババアは私を知っているのか?……)

そう思う正邪だが彼女自身は女の事を全く覚えていない。どういう事なのか。

「で、お前さんはどうするんだい? 自分に楯突いた咎(とが)であの子を殺っちまうのかい?」

正邪は寝床の中で身を固くした。


(続く)

64名無し妖精:2017/08/16(水) 16:33:32 ID:7/hnBV7c0
『帰らざる河』7

※独自設定を含む内容です



緊張する正邪をよそに紫は軽く笑って答えた。

「山の”裏の賢者“の貴女が面倒を見た子ですもの、無体な事は出来ないわ。それに彼女は私の…大切なお友達なの」

気持ち悪い事を言うなと正邪は胸の内で悪態をついた。お前なんかと友達になった覚えはない。
だが紫に自分に対する殺意がないと知って複雑な気分になったのも事実だった。
山でのあの弾幕攻撃はわざと甘くしていたのか?

「まあ縄張りの外の事はよく分からないから、あの子がどうなろうと私は口出ししないよ」

女がそう言った後立ち上がり、自分の元へ歩み寄ってくるのを正邪は感じた。


(続く)

65名無し妖精:2017/08/17(木) 12:15:36 ID:L5nGRJxYO
期待

66名無し妖精:2017/08/19(土) 00:58:12 ID:mHgexiwM0
『帰らざる河』8

※独自設定を含む内容です



女は正邪の布団の傍らに来ると半身になり、肩肘をついて寝そべった。

「無事に生きていた事を喜ぶべきか、大それた事をしでかした事を嘆くべきか…“母親”ってのはいつまで経っても子供に追いつけないものなんだね」

女の横で正邪は寝ているふりをするのに苦労した。この女に面倒見られていた時期は確かにあったかも知れないが、それで母親面されるのは不快だった。
ややあって紫が口を開いた。

「最後にお子さんを亡くしたのはどれくらい前だったかしら?」
「本当の子かい?……どれくらいになるのかね…覚えているのは辛い、さりとて忘れるような罪深い事はしたくない…この世に送り出してやれなかった償いは辛くても忘れずにいてやる事くらいさね」

正邪は聞いたことがあった。山の女…山姥の中には難産になりやすい体質で腹の子が日の目を見る確率が極端に低い者がいると。
この女もそうなのだろうか? 自分の子を育てられなかった空虚感を正邪で埋めようとしていたのだろうか?

「そろそろおいとまするわ。彼女の事、よろしく頼むわね」
「悪いね、大したもてなしも出来なくて。お前さんも達者でね」

女の送る言葉の後、紫の気配が消えるのを感じる正邪。
そして横にいる女の息づかいが顔の間近に迫って起きているのを気付かれたのかと一瞬あせる正邪。しかしそれは杞憂だった。
女は正邪の頭の髪をそっと撫ぜてつぶやいた。

「さて正邪…お前はどう生きるのかね?…どこへ行くのかね……」


(続く)


>>65
ありがとうございます

67名無し妖精:2017/09/03(日) 20:41:20 ID:QD0RjoSs0
『帰らざる河』9

※独自設定を含む内容です



緊張しながらもいつの間にか寝入ってしまった正邪。
次にまぶたを開いた時は陽の光で小屋の中は明るくなっていた。
足元の方からいい匂いが漂ってくる。
むくりと身を起こすとあの女が手製の膳に椀や皿を並べているのが見えた。

「あんだぁー起きただか? 腹減ったべ? こっちさ来て飯食(け)ぇ」

その口調にわずかに苛立ちを覚える正邪。彼女は布団から立ち上がり自分の膳のまえに座った。

「どした? 天ン邪鬼でもいただきます言わねどバチ当たっぞ」
「…夕べ来客があっただろ」
「はぁ、やっぱ起きてただか」
「気付いてたのか?」
「寝息の案配で分かるだよ。どんだけの童(わらし)っこの面倒見てきたと思ってるだ。ほれ、口だけでなく箸も動かせ」

女にせかされ正邪は渋々飯を掻き込んだ。

「…あいつとは普通に喋っていたな。どっちが本当のお前なんだ?」
「どっちも本当だぁ。それに相手は麓の妖怪の賢者様…よそ行きの言葉使って何が悪い?」
「裏の賢者って何だ」
「山の賢者様は忙しくて目端が利がねからな、うちが山の様子を見て回っているだよ」
「わざわざ妖怪の山に入り込んで悪さする奴なんているのか」
「妖怪の山だからこそわざわざ入り込んで悪さする奴らがいるだよ…そこまで言うなら今度はうちが聞いてええが? なして下克上なんて大それた事しようと思っただ?」


(続く)

68名無し妖精:2017/09/03(日) 23:03:24 ID:IRTKNvnUO
楽しみにしてます

69名無し妖精:2017/09/05(火) 23:49:05 ID:aDie5Xcw0
>>68
ありがとうございます
私事の都合で投稿が遅れ気味になってますが、しばしのご辛抱を…

70名無し妖精:2017/09/18(月) 23:25:19 ID:rEslAGew0
『帰らざる河』10

※独自設定を含む内容です



女の言葉に正邪の箸が止まる。

「……確かにスキマ妖怪みたいな胡散臭い奴がのさばっているのは前々から気に入らなかった…だが実行に移す気になったきっかけは最近外から来た連中のせいだ」
「外の?」
「神社ごと外から来た奴らは千年前からいたかのように横柄にふるまっている…その後から来た宗教家たちは宗教戦争と称して路上試合の余興を繰り広げていた…戦争なんて大層な呼び名だが実情はただの人気取り、信者の取り合いだよ」
「ほぉ」
「世のため人のためと言っちゃいるが奴らの目に映っているのは自分に利益をもたらしてくれる者だけだ。弱い妖怪や貧しい人間じゃない」

茶碗と箸を持つ手に力がこもる正邪。
あの頃の苦々しい思いが胸の内に甦る。
そこへクックックッと響く女の笑い声。それを聞いた時正邪はゾクッとした。
これは今、正邪と訛り言葉で話していたこの女の笑い声ではない。
紫の相手をしていたあの女の笑い声だ…。


(続く)

71名無し妖精:2017/09/20(水) 01:09:48 ID:L3gs3Xw.O
期待してます

72名無し妖精:2017/09/25(月) 03:14:19 ID:hQg7n4E.0
『帰らざる河』11

※独自設定を含む内容です



「何が可笑しい…」

正邪は気圧されまいと絞り出すような声で女に問う。

「ああ、笑って済まねえだ…それで今度は自分が世のため人のために立ち上がろうとしただか? おめえも変な天邪鬼だなや」

女はそう言うと一息つくかのように茶碗の飯と漬け物を口にした。正邪も女の次の言葉を待ってそれにならう。

「…それでおめえはどうするつもりだった? ひっくり返した世の中の新しい王様にでもなるつもりだっただか?」
「違えよ…私はただのさばっている奴らに吠え面かかせたかっただけだ…そこまで面倒見る気はねえよ」
「フン、なるほど…だからおめえは負けたんだなや」
「まっ…負けてなんかいねえ!! あの時だって巫女とか邪魔する奴らが現れなけりゃ…」
「邪魔する奴が現れなくてもどのみちおめえは失敗しただよ。自分のやりたい事だけやって後は知らん顔するような奴に誰が付いていく?」
「べ…別に誰にも付いてきて欲しいなんて思ってねえ…」
「それだけでねえ。紫さぁの話じゃおめえ、一番の力になってくれた仲間を見捨てて逃げたんだべ?」
「 !! …それは…」

正邪は緊張した。痛いところを突かれただけではない。
笑顔で語る女の声音が明らかに変調したからだ。

「天邪鬼は悪党だからとおめえは言うかも知れんが悪党にも通さなきゃなんねえ筋がある…それが出来ねえようならおめえが吠え面かかせようとした連中の事とやかく言えねえだよ」
「ンな綺麗事言ってられっかよ! 力のある奴に対抗するには力が必要だ! その力を得るにはズルく立ち回る必要もある! そして形勢が不利になればそれを立て直すために犠牲を払ってでも生き延びなきゃならねえんだ!!」
「虫のいい事言ってんでねえ!!」

理論武装する正邪を女は一喝 した。


(続く)


>>71
ありがとうございます。

73名無し妖精:2017/09/27(水) 23:25:57 ID:/XMCENDYO
お疲れ様です。続きを楽しみに待っています。

74名無し妖精:2017/09/30(土) 18:33:47 ID:8eQD8Fyw0
『帰らざる河』12

※独自設定を含む内容です



「おめえは負けてねえって言うが仲間を見捨てて逃げる奴のどこが勝ってるっていうだ!? そんな屁理屈こねるおめえはぶちのめしたいっちゅう神や宗教家たちと何も変わらねえだよ!」
「なっ…お前に何が分かるってんだ!? 山にこもって生きる世間知らずの山姥に何が!?」
「あいにくこっちがお断りでも向こうから関わってくる場合があるんでな、思われてるほど世間知らずでねえだよ」

女は正邪を見据えながら飯を一箸口にした。対する正邪は身じろぎひとつ出来ず女をにらむだけである。

「仮におめえの言う下克上が果たされたとしてもだ、おめえの志を受け継いで新しい世の中を治めるようになった奴も時が経てば弱いもの貧しいものを置き去りにするようになる…世の中ってもんはそういうもんだ」
「…私の下克上が元の木阿弥になるってのか…」
「そうなったらおめえはどうする? 今度は昔の仲間をやっつけるつもりか?」

正邪はもう何も言い返せなかった。
かつての同志が変節しないという保証は何もないからだ。
正邪の視線は下を向き、ただ膳の上の食器を見つめるだけだった。

(私の…私の望んでいるものも…結局は…)

「ほれ、いつまでも固まってねえでさっさと食(け)え。人は腹を減らすとろくな事を考えねえからな」

無遠慮な女の言葉を聞いた時、正邪の中で何かが弾けた。
言っている事は間違ってはいない。だが正邪にとってそれは爆発的に癪にさわった。

「クソッ面白くねえ!! いらねえやこんなもの!!」

正邪はやおら立ち上がり自分の膳を蹴り飛ばして女をにらんだ。
女は目を見開き顔をこわばらせて床に散乱した茶碗や飯を凝視していた。
荒い息のまま女の出方を伺っていた正邪だが、やがてしびれを切らし「ケッ!!」と吐き捨てると部屋の奥の自分が寝ていた布団に向かい、その上に胡座(あぐら)をかいて座り込んだ。
女はそれでもまだ身動きしない。


(続く)


>>73
地味な話にお付き合い戴いてありがとうございます。
正邪の回想は折り返し地点を過ぎてますが、余裕がある時でないと中々書き進められないので今しばらくのご辛抱を…

75名無し妖精:2017/10/01(日) 18:37:13 ID:7MTfLLwU0
『帰らざる河』13

※独自設定を含む内容です



自分は何をしているのかと正邪は思う。
あれだけの事をしたのである。いつもならさっさと飛び出して女からおさらばしているところだ。
なのにここに留まっている。
まるで叱られるのを待っているかのように。
正邪は背後で女がようやく腰を上げる気配を感じたが、女は正邪の方へ向かって来なかった。
ややあって正邪の座っていた場所の向かいあたりで割れた食器を拾い上げる音が聞こえてきた。
少し迷った後、正邪はおそるおそる振り向いた。
女が床にこぼれた飯を手ですくって口に運ぶのが見えた。
正邪は慌てて前に向き直った。見てはいけないものを見てしまったような気まずさが胸を掻きむしる。

「…正邪よ」

不意に女が声をかけてきた。身を固くする正邪。

「何だよ…」
「それでも納得がいかないというならおめえのやりたいようにやりゃええ。どぅーざらいとしんぐ、自分が正しいと思う事をやりゃええだよ」
「どこの言葉だよ…私のやろうとしている事が正しいと思うか?」
「うんにゃ、一個も思わねえ。だからおめえはまた負ける。負けて追われて野垂れ死にだぁ」

女の余りの言い様。正邪は腰が抜けそうになった。

「何だよそれ! エールを送ったんじゃないのかよ!?」
「心配いらねえ、おめえだけじゃねえだよ。うちもいずれは野垂れ死にだぁ。誰に看取られる事も無くな」

そう言って女はカラカラと笑った。先程の“あの女”ではない、野性的なこの女の笑い声だ。

「…ったく、心臓に良くねえ事ばかり言いやがる…」
「ンな事ぼやく元気があるならもう飯はいらねえべ。文句は言わせねえだよこの罰当たりが」

そう言った後、女は残りの自分の飯を手早くかき込み膳を片付け始めた。
殴られる代わりに飯抜きにされた正邪。これで許されたのかどうかは分からないが、少なくとも女にこれ以上ギスギスした空気を引きずる気がないのは確かなようだった。
さてこれからどうしようかと何気なく胸に手を当てた時、正邪は初めて自分がいつもの服を身に付けていない事に気が付いた。
今着ているのは年期の入った子供用の丈の肌襦袢(はだじゅばん)だった。

(あのババア、どこへやりやがった…)

胸の内で悪態をつきながら正邪は渋々布団の中に潜り込んだ。


(続く)

76名無し妖精:2017/10/15(日) 16:29:24 ID:D5YeOZyc0
『帰らざる河』14

※独自設定を含む内容です



(じれってえ…)

昼近くまでふて寝していた正邪だが、流石に落ち着かない気分が高まってきた。
いつまでもこんな所にいても埒が明かない。正邪は布団から起き上がりあの女がいる土間に向かった。

「おいババア、私の…」
「ああ、起きてきただな。ほれおめえの服、洗って干しておいただよ」

女の指し示した板の間の隅に正邪の衣服がたたんで置かれていた。

「…ったく、勝手に脱がしてんじゃねえよ」

悪態をつきながら正邪はその場で肌襦袢を脱ぎ始めた。女はそれまでしていた鉢で木の実をすり潰す作業に戻りながら言った。

「正邪よぉ」
「あんだよ」
「今朝言った事と逆の話に取るかも知れんが…自分を正しいと思うんでねぇ。何が正しいかそうでないかを決められるのはお天道様だけだぁ。そしてその答えは時に人の望まない形を取る事もある」
「……」
「だから人々ってのは希望のある大きな変化より細かい不満に満ちた平穏を望むもんだよ…うちから言えるのはそんだけだ。後どうするかは自分で考えれ」

女の話に耳を傾けながら正邪は下着を身に付けた後白いワンピースを手に取った。
その下に笹の葉を藁で縛った包みが置いてあった。正邪は女の方を見た。

「おい、これ…」
「行くんだべ? 行くなら陽のあるうちに行け。おめえの分の晩飯は用意しねえからな」

正邪は笹の葉の包みを手に取った。感触から中身が握り飯だと想像できた。

「気に入らねえんならそいつは置いていってええぞ。中身は何も入ってねえかんな」
「ケッ、大きなお世話だ。天邪鬼が置いてけと言われて置いてくかよ」

正邪はそう吐き捨てると土間に置いてあった自分のサンダルを突っ掛けそのまま小屋を飛び出した。
女の顔を見る事もなく、礼も別れの挨拶をする事もなく。


(続く)

77名無し妖精:2017/10/22(日) 21:20:09 ID:Va3iVkAs0
『帰らざる河』15

※独自設定を含む内容です



「……(何をボーッとしている?)」
「!」

サグメに呼び掛けられて正邪は我に返った。一体どれくらいの時間が経ったのか。

「…何でもねえよ…」
「……(本当にそうか? )」

サグメは正邪の両肩を掴み自分の方へ向き直らせた。

「な、何だよ…」
「……(その目は何だ。こうして向き合っていてもお前の目は私でない誰かを見ている…そいつは何者だ…)」

何者だと言われても困ると正邪は思った。よくよく考えれば正邪は山姥という事以外、名前も含めてあの女の事をよく知らない。
そして今となってはどうでもいい存在のはずなのに時折あの女の事を思い出し、その度に心に強い引っ掛かりを覚える。
あんな風に飛び出してはきたが本当は他に何か言っておくべきではなかったのか。
感謝の言葉は天邪鬼には似合わない。だが何か言い様はあったかも知れない。
そしてあの女が別れ際に送ってくれた言葉“後どうするかは自分で考えれ”。
下克上を諦めた訳ではない。だが正邪の中でそれに対するモチベーションが著しく下がっている事は否めない。
外から来た連中は相変わらず好き勝手に振る舞っている。やれロープウェイだのオートバイだの「幻想郷を人間の手に取り戻す!」というプロパガンダ演説だの。
連中はここにいる月の女の仕掛けによる“本当の危機”に気付きもしなかった。
山の神は風祝の女から伝えられて知っていたようだが、直接動かなかったところを見るとたかをくくっていたのだろう。
そんな連中が幻想郷に何をしてやれるというのか。それに幻想郷は妖怪のものだと正邪は思う。
だからこそ守護者、救済者を気取る連中に冷や水を浴びせねばならないと思う反面、あの山姥が言うように下克上で本当に連中にダメージを与えられるのか、それまでの体制を変えられるのかという疑問も湧いてきた。
そもそも自分は弱者の救済などという殊勝な事を本気で考えていたのかどうか。
正邪はついポツリと漏らした。

「…クソババアよ…私は何をしたかったんだろうな…下克上だなんて…」
「…突然何を言い出すかと思えば!…私がそんな事知るか!」

サグメにしては珍しく怒ったような口調で、しかも口に出して正邪の問いに答えた。

「な、何ヘソ曲げてンだよ…」
「……(それはこっちの台詞だ。私は今お前の胸の内を占めている何者かについて尋ねているのだ。それなのにお前は関係無い事を…)」
「もしかしてお前、妬いているのか?」
「……(そういう問題ではない…それに天邪鬼の祖としてお前に嫌われているのが私の密かな楽しみだった…なのにお前は今、何のためらいもなく私に尋ね事をした…それはお前が私を信頼している事の裏返しだ。そんな事があってはならない…)」
「何訳の分かんない事言ってんだよ!! お前少し屈折し過ぎだぞ!! ほら、いつまでも荒れた川をのぞき込んでると流れに呑み込まれるぞ! 姫が飯の用意して待ってんだ! とっとと帰るぞ!」

正邪は慌てて肩を掴んだサグメの手を振りほどき飛び立った。ある程度高度を取ったところで下を見おろすとサグメが渋々飛び立つのが見えた。

(…何だ? 何であいつが付いてくるのを見てホッとしてんだよ私は…)

再び速度を上げながら天邪鬼らしからぬ自分の気持ちに戸惑う正邪。
記憶は失われているが一時期自分はあの山姥に養われた。あの女のしつけが今の自分に影響を与えているのだろうか。真実は分からない。
少なくとも今の自分があの頃…〈逆様異変〉の時の自分と違う事は認めざるを得ない。
小槌の力はもう当てには出来ないが針妙丸は裏切った自分を許してくれた。
そして下等な存在と見下しながらもサグメは地上に於いて自分を頼ってくれている。
嫌われ者で誰とも相容れず孤独とされている天邪鬼だが、今の正邪が独りにになる事に不安を抱くようになったのも事実なのだ。 そして。

(分かっている…下克上は諦めない。でもそれは今じゃない…)



『帰らざる河』 完


※正邪視点の話の都合上あえて名前は伏せていましたが、正邪を助けた山姥はもちろん坂田ネムノさんです。
“裏の賢者”という独自設定は早い段階で思い付きましたが、まさかゲームの新作に本物の幻想郷の賢者が出てくるとは夢にも思いませんでした。

長々とお付き合いいただいてありがとうございました。

78名無し妖精:2017/10/23(月) 15:31:40 ID:zPqEdIDAO
お疲れ様でした。
ネムノさんは賢者ポジションでもいいような気がしますね。

79名無し妖精:2017/10/24(火) 00:12:29 ID:Q7E4J.m60
>>78
ありがとうございます
ネムノさんて粗野だけどミステリアスな所もありますよね。霊夢に誰何された時も素直に名乗らなかったし

80名無し妖精:2018/01/23(火) 00:59:41 ID:wPD78zNM0
正邪「さて馬鹿騒ぎも一段落したわけだが…クソババア、嫦娥見てるかおばさんに後ろに付かれた気分はどうだ?」
サグメ「…(本人が実際に後ろに付いたわけではないから別にどうとも思わん。お前はどうなんだ。最下位でないのは天邪鬼として不本意ではなかったのか?)」
正邪「それはそうだがお前より下だという事でチャラにするわ」
サグメ「…(それより針妙丸はどうする。部屋の隅で壁に向かってブツブツ言ってるぞ)」
正邪「あ、いやー、流石の私もそっとしておこうとしか言えん…」

正邪(しかしよりによってあのババアがwin版キャラのブービーかよ…なんかモヤモヤするぜ…)

81名無し妖精:2018/02/04(日) 00:19:34 ID:lMVtrcHc0
2月3日の夕げ時。

正邪「節分である!! 恵方巻である!!」
針妙丸「絶好調だね正邪」
サグメ「……(ちょっと待て。何だ、それは)」
正邪「だから私が腕に寄りをかけて作った恵方巻だ。こいつが馬の逸物に見えるか?」
サグメ「……(見えるから困る)」
針妙丸「そこまでよ!!……だけど正邪、その恵方巻本当に太過ぎない? 人の二の腕くらいあるよ」
正邪「ご利益のためにはそれなりの苦労はしないとな。さあクソババア、恵方の方角に向かってかぶり付け! 食ってる最中に一言でも喋ったら全てが台無しになるぞ!」
針妙丸「無理だよ正邪…いくらサグメさんでも入んないよ…」

心配をする針妙丸をよそにサグメは自分の翼から羽根を一枚抜き取り、ナイフ代わりにして恵方巻き一本を2センチ厚にスライスする。

正邪「あーーーッ!! てめえ何て事しやがる!?」
サグメ「……(縁起担ぎなど所詮は砂上の夢。それなら私は普通に海苔巻きとしていただく)パクリ」
正邪「信じらんねえ…やっぱりおめえは汚ねえ奴だ!! 芯から汚ねえ奴だ!!」

82名無し妖精:2018/02/06(火) 23:36:27 ID:RPCMRjLkO
正邪「福は〜外!鬼は〜内!」
針妙丸「今さら豆まき?…正邪らしいなぁ」
サグメ「…(とはいえ天邪鬼にとって鬼は天敵だろうに)」
針妙丸「よくやるよね〜おや?」
勇儀「…呼んだ?」
正邪「!?」
針妙丸「ほんとに来ちゃった!」
正邪「真に受けんじゃねーよ!帰れ!」
勇儀「」(涙)
サグメ「…(これはあんまりではないのか…)」

83名無し妖精:2018/02/25(日) 18:48:15 ID:uGuI/8YY0
『秋色バレンタインデー』1



藍「天邪鬼よ、邪魔をするぞ」
針妙丸「あらいらっしゃい。正邪、お客…」
正邪「誰かと思えばスキマの式神か。去れ! ここはお前のような奴の来る所ではない!」
藍「まるで聖地を守る番人のような台詞だな 。白ひげをたくわえて杖でもついたらどうだ?」
正邪「訳の分からねえ事言ってんじゃねえ。何の用だ」
藍「紫様からの言い付けでな、お前に届け物を渡しに来た。紫様の古い知り合いからだそうだ」
正邪「スキマの知り合い? そいつが何で私に…大体何を持ってきたんだよ」
藍「干し柿だそうだ。お前の口に合うかどうかは分からないが」
正邪「干し柿か…くだらねえ。いらねえよそんなもの…」

そこまで言った正邪の胸に刺さるものがあった。

“いらねえやこんなもの!!”

そう言って彼女はかつてある女の好意を踏みにじった。
天邪鬼狩りで追い回され満身創痍になった彼女の面倒を見てくれた女だった。

藍「いらないと言われても困る。持ち帰れば私が紫様のお叱りを受ける事になる」
正邪「知るかよ。それよりその古い知り合いって誰だ」
藍「私は古い知り合いとしか聞いていない。気になるなら紫様に直接聞け。もっともあの方は今“冬眠中”だからその機会は冬明け以降になるだろうがな」
正邪「冬眠中? それがなんで今頃付け届けなんか命じたんだよ」

余計な事を言わせるなといわんばかりに深いため息をつく藍。

藍「冬眠と言っても冬の間ずっとお休みになられている訳ではない。たまにお目覚めになられて羽を伸ばされる事もある。その知り合いの方とは先日会われたようだ」
針妙丸「それにしても何で干し柿なんだろうね? そもそもその人はどうして正邪の事を知っているの?しかも紫さんを通じて付け届けなんて」
藍「私も一応聞いてみたが紫様はその疑問にはっきりと答えてはくれなかった。立場上それ以上踏み込めないのでな、悪く思わないでくれ」


(続く)

84名無し妖精:2018/03/04(日) 16:51:17 ID:n/lAyIC.0
『秋色バレンタインデー』2


古い知り合い、そして干し柿。
藍が詳細を語れなくても正邪は何となく“紫の古い知り合い”の姿が思い浮かんできた。
黄色と赤の秋色をイメージさせる服を来たあの山姥の姿が。

正邪(そういえばスキマの奴、あのババアを“裏の賢者”とか呼んでいたな…)

このキツネが知らされていないという事は“裏の賢者”とは賢者の身内にも素性を明かせない秘密の存在なのだろうか?
しかし何故そんな役回りの存在が必要なのか、賢者ならぬ正邪にはさっぱり分からない。

藍「ちなみに紫様の話ではそれはバレンタインデーの贈り物の意味合いもあるそうだ。返礼しなければならないのだろう? 3月15日が近づいたらまた顔を出しに来るから考えておいてくれ」
正邪「過ぎてるぞ。ホワイトデーは3月14日だ。本当は興味ないな?」
藍「当たり前だ。人間の、それも外の世界の下らない商習慣に何故関心を持つ必要がある? 私の役目は紫様に仕え、命じられるままに動く事だ」


藍が辞去した後、正邪は受け取った荷物を忌々しげに見つめながら佇む。

正邪(あのババア…面倒くさいもの寄越しやがって…)
針妙丸「誰だか知らないけど折角送ってくれたんだからみんなで食べようよ」
正邪「いえ、これは私の問題です。残念ですがこれは…」

正邪がそこまで言った瞬間手にしていた荷物が消えた。
それはいつの間にか正邪の背後に立ったサグメの手の中にあった。

サグメ「駄目だ。“処分”はさせない」

サグメは強い意思を込めてそう言った。あえて声に出して。

正邪「おまっ!…何しやが…」
サグメ「…(行くぞ針妙丸。向こうで食べよう)」

サグメはきびすを返しスタスタと奥の部屋に向かった。針妙丸も正邪を意識しながらその後を付いて行った。

正邪「…っだよあいつら!」

後を追うようにして正邪も部屋に向かった。
抗議するには少々遅く、正邪が部屋に入った時には既に包みは広げられ、サグメと針妙丸は干し柿を口にしていた。

正邪「はえーよお前ら!!」
サグメ「…(四の五の言わずにお前も食え)」

サグメがそう言って干し柿を一個正邪に差し出した。一瞬たじろぐ正邪。

サグメ「…(どうした?…もしかしてお前、干し柿苦手なのか? 月人の私でさえ食べられるのに)」
正邪「うるせえ…見た目が生理的に受け付けないんだよ」

苦々しく打ち明ける正邪。この老獪な月人に弱味を握られたようで面白くなかった。

針妙丸「勿体ないなぁ…こんなに美味しいに」
サグメ「…(で、どうするお返しは? 贈ってもらわないと私が気まずい)」
正邪「勝手に食っておいて何だよその言い草は!? 大体送ってきた奴が誰なのか知っているのか!?」
サグメ「…(知らん。だがお前の反応を見ていれば見当は付く。“例の奴”なのだろう?)」

答えに詰まる正邪。彼女はあの山姥の事はサグメには話せずにいた。
サグメは何故か自分の他に正邪が意識する者がいるのが面白くないらしい。

サグメ「…(必要とあらば金は出す。天邪鬼とて礼を欠いて良いわけがない…もっともひねくれ者のお前がどんな返礼をするかは私も興味がある)」
正邪「他人事だと思いやがって…芯からヤな奴だ」


それから半月あまり返礼をどうするか正邪は煩悶する事になるがそれはまた別の話。


(終)

85名無し妖精:2018/03/11(日) 16:29:20 ID:D.yYQ7Ic0
『春の匂いのホワイトデー』1



「クソッタレめ…どこなんだよ…」

3月14日、妖怪の山上空で悪態を呟く正邪。
この前日、予告通り八雲藍が正邪の元へ再び訪ねてきた。
もちろん“八雲紫の古い知り合い”への返礼の有無についてだが、正邪は自分で直接届けに行くと答えた。
その返事を予測していたかのように藍は正邪にその“知り合い”の住む場所への案内図を差し出した。紫が書き記したものだという。
自分の考えが見透かされているようで面白くなかったが、先方の正確な居場所が分からない以上受け取るしかなかった。
とはいえ山中はまだ深い雪が残り、案内図に記されているような地形や目印を把握しづらくしていた。


それでも何とか正邪は指定された場所に辿り着いた。
藍��というより紫��の話では正午頃に到着出来れば先方が待っているという。

「ババアいるかぁ!?」

林の端に立った正邪は奥の方に向かって声をかけた。しばし待ったが返事はない。
じれったくなった正邪は林の中に足を踏み入れた。

(何やらされてンだよ私は…)

重い包みを左手にぶら下げ、雪に足を取られながら忌々しそうに胸のうちで呟く正邪。
そこへヒュヒュヒュ…という耳慣れない風切り音が急速に近付いて来た。


(続く)

86名無し妖精:2018/03/11(日) 18:29:34 ID:D.yYQ7Ic0
『春の匂いのホワイトデー』2



(やべえッ…!)

正邪は反射的に伏せた。雪の冷たさなど気にしていられなかった。
振り仰ぐと正邪の立っていた場所を細身の十字型をした物が高速回転しながら飛んで行った。
自分を狙って飛んで来たのかと思ったが、それにしては位置が高過ぎた。
下から見ても正邪の頭二つ分くらい上を飛び去ったのだ。
外したのか? それとも私を狙った訳ではないのか?
いぶかしむ正邪の方へ再び風切り音が近付いて来た。
しかしそれは正邪の方ではなく、少し離れたところを通って逆戻りをしてきた。まるで鳥が旋回してUターンしてきたかのように。
林の奥の正邪の死角になった場所で何かを受ける音とともに風切り音が消えた。
誰かがあの飛び道具を受け止めた…。
正邪は林の奥に向かって叫んだ。

「どういうつもりだババア!! 出迎えにしちゃ手荒すぎるだろ!!」
「おめえでねえ!! おめえの後ろにいる奴だ!!」

奥から聞き覚えのある訛り言葉が返ってきた。

「後ろ!?」

正邪は身を起こして自分が今来た方を見た。林の奥ほどではないが木立に遮られて誰かの姿は見えない。

「去れ!! ここはおめえみてえな奴の来る所でねえ!! 」
「……お前がこの地の主か」

サグメの声だった。

「ああそうだ。ここはうちの縄張りだぁ。“空飛ぶ十字剣”の餌食になりたくなかったら…とっととこの地を離れるだ!」

叫ぶあの女の言葉にサグメは答えなかった。
正邪の位置からはどちらの姿も見えない。唾を呑み込み正邪はサグメに呼び掛けた。

「何故付けてきたか知らんが今日のお前は招かざる客なんだよクソババア!!
大人しく失せろ!!」

息を詰めて正邪はサグメの返事を待った。


(続く)

※第1話の「というより紫」の前後、文字化けしてますかね?

87名無し妖精:2018/03/11(日) 23:27:37 ID:luaaVB56O
期待してます

88名無し妖精:2018/03/13(火) 01:09:37 ID:Wkobh6k20
>>87
ありがとうございます
第3話はホワイトデーを過ぎてからになりそうです(汗)

89名無し妖精:2018/03/18(日) 18:26:36 ID:dS132H3Y0
『春の匂いのホワイトデー』3

※独自設定を含む内容です



「そいつはおめえの知り合いけ正邪?」
「知り合いもクソもねーよ!意地汚くて性格の悪い傍迷惑野郎だ!!」
「知り合いなのけ? よくそげな邪気の強い奴と付き合ってられっなや」

悪態をつきながらも正邪は姿を見せないあの女に違和感を覚え始めた。
そもそも侵入者に対して鉈を振り上げ恐ろしい形相で追い払うのが山姥のやり方のはずだ。身を隠したまま飛び道具を使うなど普通ではない。
仮に本気で狙ったとしてもサグメならあの飛び道具を羽根手裏剣で打ち落としたはずだ。勝てる見込みがあったかどうか怪しい。


(邪気の強い奴か? あのクソババアが?…)

恐らく山姥はサグメを警戒しているのだ。それもかなり高いレベルで。
その時サグメがようやく口を開いた。

「…確かに私はある意味邪悪な存在だ。嘘も平気でつく。だが今日ここへ来たのは大事な用を果たす為だ」
「でえじな用だぁ?」
「正邪に干し柿を送ってきたのはお前であろう? 私も馳走になった。その礼を正邪に言付けるのを忘れてな。ここまで何とか付いて来たのだ」

それこそ嘘だと正邪は直感した。サグメの足で正邪に追いつけないはずがない。

「礼を言う為だけにワザワザこんなとこまで来たってのか? クソババアよ」
「もう一つ目的がある。そこの者もただお前から返礼だけをもらって帰しはしないだろう。お前をもてなす用意があるはずだ。叶うなら私も相伴(しょうばん)にあずかりたい」

流石の正邪も呆気に取られた。
会った事もない相手にそうなる宛もないままもてなされる事を期待してやって来るとは図々しいにも程がある。
だが山姥は意外な反応を見せた。
林の中に彼女の笑い声がカラカラと響き渡った。

「いい度胸してんなおめえ…気に入った! ええだよ、正邪と一緒にうちの棲みかに来(け)え」
「マジかよオイ!? 不法侵入者だぞ!? 邪気のある奴を招き入れていいのか!?」

立ち上がった正邪はザクザクと雪を踏みながら歩いて来た山姥に怒鳴った。女は年季の入った丸い網笠を被り獣の毛皮で身を固めている。

「邪気ならおめえだって人の事言えねえべ。そこの御仁ほどではねえだがな。ほれ、二人ともうちの後をちゃんと付いてくるだ。そこかしこに罠を仕掛けているだからな」
「…飛んでは行けないのか」

ようやく姿を現したサグメが爪先を雪面すれすれに浮きながら正邪たちに近付いて来た。山姥は片翼のサグメの姿を珍しそうに見る。

「ああそうだぁ。 飛んでりゃ大丈夫だろうとたかをくくっている奴こそ引っ掛かる罠だかんな」

女は犬歯が目立つ歯並びを見せつけながらニッと笑った。
サグメは雪の上に降り立ち正邪と並んで山姥に付き従った。

「…ったく、お返しだけ渡してさっさと帰るつもりだったのに余計な事しやがって…お前のせいですっかり段取り狂っちまったぜ」
「……(人付き合いとはそう軽いものではないのだ…これはお前にいてもらわなければ話にならない。諦めて最後まで付き合え)」
「何が付き合えだクソババア…」

私の自由と人権はどうなるんだと正邪は納得がいかないようにしきりに首をひねった。


(続く)

90名無し妖精:2018/03/25(日) 17:01:14 ID:WE/XijOM0
『春の匂いのホワイトデー』4

※独自設定を含む内容です



「…ところで“片っぽだけ”の人よ、正邪と話している時のおめえの声な、耳で聞こえるというより頭ン中に直接響いてくる感じなんだがどうなってんだ?」

先を行く山姥の問いにサグメは苦い表情を浮かべて答えた。

「……(故あって声を出して喋る訳にはいかない身でな、普段は考えている事を直接発信している)」
「ほぉ、そりゃ厄介な話だなや」

それだけ言って女は歩き続けた。

「……(気にならないのか? 私がどんな能力を持っているのか)」
「言霊使いみたいなもんだべ? 人を破滅させる不思議な力なんて珍しくもねえだよ。おめえから感じる邪気はその力に由来するもんかもな」
「だとよ。残念だな、初顔合わせした奴がお前の能力にビビらなくて」
「……(ビビるも何もどんな能力か説明していない)」

正邪にはその言葉がサグメの強がりかどうかは分からなかった。
だが話したところで山姥は正邪のいう通り大しておののきはしないだろう。彼女にとってサグメの運命逆転能力は他の災いをもたらす妖怪の能力と同質のものでしかないはずだ。
サグメの苦い顔は運命を変える力を大したものではないとあの女なら言いそうな事に、自分を過大評価しそうにない事にプライドが傷ついているが故なのかも知れないと正邪は思っていた。

「ほれ、あれがそうだぁ」

林がやや開けてきた場所に古ぼけた小屋が見えてきた。
認めたくはなかったが正邪はその佇まいに奇妙な懐かしさを覚えていた。


(続く)

91名無し妖精:2018/03/25(日) 22:33:15 ID:ZTf5hb3MO
お疲れ様です。
続きが楽しみです

92名無し妖精:2018/03/27(火) 00:36:41 ID:XZWtOmQM0
>>91
ありがとうございます
ホワイトデーはとっくに過ぎましたが今しばらくお付きあい下さい

93名無し妖精:2018/04/13(金) 05:33:50 ID:4kowt3fc0
『春の匂いのホワイトデー』5

※独自設定を含む内容です



「はぁ、取り合えずごっそさん。やっぱ山の食い物に旨いもの無しだな」
「……(そんな事を言うものではない…だが…)」

小屋に招き入れられ山姥のもてなしを受けた正邪とサグメ。
ささやかな昼食を終えた正邪はノルマであるかのようにいちゃもんを付け、サグメはそれをたしなめた。

「あんだよ」
「……(…生き物を生きた姿のままで食べるのはちょっと…)」

サグメは口元を押さえながら青ざめた顔でそう言った。

「よく言うぜ。そう言いながら全部平らげたじゃないか」
「バッタの佃煮の事け? 湯がいて糞出ししてあるけぇバッチくねえど」
「……(いや、味は悪くはなかったが…お前はよく平気で食べられるな。干し柿は駄目なくせに)」
「そんなもんケースバイケースだろ。干し柿が食えないのとバッタを食えるのは別の問題だぞ。そういうお前こそ何か不満がありそうな顔で食ってたな?」
「……(もっと冬の旬のものが食べられると期待していたのだが…)」
「あのなぁ、今ようやく春になろうって時期だぞ。大体雪に閉ざされる冬の山に旬のものなんかあるわけないだろ」
「……(そういうものなのか?)」
「…ああ、そういや“浄土”は常春で季節感がないんだっけ? これだから月の連中はよ…」
「…月? “片っぽだけ”の人は月の民なのけ?」
「ああそうだよ、こいつは…」

正邪は胸の内であっと小さく声をあげた。
山姥の今の言葉に険があるのを感じたからだ。
そして思い出した。かつて地上の妖怪たちは月の民に対し戦争を仕掛けた事を。
サグメも何かを感じたのだろう、その目に緊張の色が走った。


(続く)


※長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

94名無し妖精:2018/04/13(金) 23:30:14 ID:zxSMDzGcO
待ってました!
お疲れ様です。

95名無し妖精:2018/04/22(日) 17:02:53 ID:s6WhQTp20
『春の匂いのホワイトデー』6

※独自設定を含む内容です



先にサグメが口を開いた。

「……(お前は第一次月面戦争を知っているのか)」
「話は紫さぁから聞いているだ。もっともうちが山姥になるよりずっと前の戦だから参加はしとらんし、戦死者に知ったもんもおらんから恨みとかはねえだよ」
(“山姥になる”前…?)

正邪は女のその言葉が少し気になった。
確かに山姥という妖怪は人間が出自となっている場合もあるようだが。

「正直、紫さぁにしては馬鹿な事をしたもんだなぐらいにしか思っとらん。ただ…」
「……(何か?)」
「…おめえら月の民、最近地上に厄介なもんを降ろしたべ? 山を荒らす道具を」

サグメはあからさまに驚きの表情を見せた。

「〈デバステイター〉の事か!? しかしあの存在は地上の妖怪には知覚出来ないはず… 」
「紫さぁの話じゃそうらしいな。だが妖怪には見えなくても精霊たちの目は誤魔化せねえ」
「精霊たち?」と正邪。
「山の精霊、大地の精霊だぁ。二年ほど前、山の一部から草木の悲鳴みたいなもんが伝わって来てたが訳が分からんかった…そのうち精霊からお告げがあってな、“近いうちに災いをもたらす大きな虫がやって来るので罠を仕掛けておくように”と言われたんでその通りにしただ」


(続く)


>>94
ありがとうございます

96名無し妖精:2018/04/22(日) 21:32:47 ID:s6WhQTp20
『春の匂いのホワイトデー』7

※独自設定を含む内容です



「ちょっと待て、何の話だ? でばす何とかってお前が送り込んだ機械の事か?」
「……(そうだ…地上を“浄化”し月の民の避難先とするために…)」

サグメは苦い表情で正邪から山姥の方へ向き直った。

「……(それで…“アレ”はどうなった? どんな罠を仕掛けたというのだ)」
「言ったべ? 飛んで進入する者こそ引っ掛かかる罠があるって。その罠の領域に踏み込んだもんは見えない力に体を押さえつけられて動けなくなり、もがけばもがくほど強い力が掛かって最悪死に至るだよ」
「……(…重力の罠か…お前にそんな能力があるというのか)」
「うんにゃ、うちに出来るのは獲物が引っ掛かかる場を用意する事だけ、どんな力を発揮するかは精霊次第だぁ」
「……(…アレは地球以上の重力下で運用する事を想定していない…無理に動こうとして駆動系を損傷したかオーバーヒートを起こしたか…)」
「そんでおめえに聞きてえんだが、あの“鉄の虫”は土に返るのけ?」
「……(土?…いや…アレは性質上特殊金属で出来ているが長期運用出来るものではないからな…年月は掛かるが野ざらしであればいずれは朽ちていく)」
「それならいいだ…なくならないもんなんて山にあっちゃならねえ」

それでいいのか。お前が気にしているのはそこだけでいいのか。正邪は唇を噛んだ。


(続く)

97名無し妖精:2018/04/24(火) 21:51:38 ID:4tzb2tMEO
おお、続きが楽しみです。

98名無し妖精:2018/04/29(日) 22:21:45 ID:4gFtBBdM0
『春の匂いのホワイトデー』8

※独自設定を含む内容です



「物分かりが良すぎるんじゃねえのか? ババアよ」

苛立たしそうに正邪は山姥に問う。

「機械を仕留めたからいいって問題じゃねえだろ! こいつは幻想郷を更地にして月の奴らの高級別荘をおってようとしていたんだぞ。そんな舐めた真似を許す気か?」
「他の理由だったらうちも張っ倒してやりてえところだぁ。だどもそん人は“避難先”と言った。守らにゃならならねえ者たちがいたって事だべ?」
「……(そうだ…厄介な奴に攻め込まれて月の民を一時的に避難させたが、そこも長居出来る状況ではなくなってきたので幻想郷に白羽の矢を立てたのだ)」

訊ねる山姥にそう答えたサグメ。
うつ向いて深く静かに息をはいた後、彼女は絞り出すような“心の声”で言った。

「……(だが実際問題として〈デバステイター〉を地上に送り込んだのはある人に月の窮状を間接的に訴える目的ゆえだ……私はお前の言う通り殴られても仕方ない事をした。悪手であった事は自分でも分かっている。言い訳はしない…)」


(続く)


>>97
ありがとうございます。
心苦しくも今日はここまでです。
GW中にガッツリ書ければいいのですが…

99名無し妖精:2018/05/01(火) 12:43:42 ID:kd2rz5KE0
>>98
訂正します
×= 高級別荘をおってようと
○=高級別荘をおっ建てようと

100名無し妖精:2018/05/04(金) 21:54:02 ID:/WoQuR4o0
『春の匂いのホワイトデー』9

※独自設定を含む内容です
※R-15(?)描写があります



「腹は括っているようだなや…そんじゃ口ン中に唾溜めとくだ」

ドスをきかせた山姥のその言葉にサグメはキョトンとなったが、要領を得ないままも言われた通りにした。

「正邪、おめえちょっとの間後ろ向いとれ」

そう言われた時、正邪の背中に悪寒が走った。嫌な予感がした。

「何だよ。私に見せられないような事する気かよ!」
「はぁ…天邪鬼が素直に言う事聞くわけねえが…心配すんな、別に血が飛び散るような事はしねえ」
「血が出なきゃいいってもんじゃねえだろ! 私は目を逸らさないぞ!」
「好きにせえ。余計なモンが目に焼き付いても知らねえど」

山姥は腰をあげてサグメの傍らに正座した。
サグメもそれに応えるように山姥の方に向き直った。

「覚悟はええな、月の人よ…今からおめえの口を吸うだ」
「な!?」

意外な言葉に正邪は短く叫びサグメは驚いて目を見開いた。
だがサグメはすぐに理解し、それが罰というなら受け入れようと言いたげにゆっくりと目蓋を閉じた。
山姥は両手でサグメの頬を押さえ唇を重ねた。
正邪は我知らぬうちに両手で目を覆った。
もちろん指と指の間を思いきり開けながら。


(続く)

101名無し妖精:2018/05/05(土) 07:06:22 ID:eFNs.uTs0
『春の匂いのホワイトデー』10

※独自設定を含む内容です
※R-15(?)描写があります



月人にとって性的な肉体接触は穢らわしい事だという。
正邪はサグメが痙攣を起こして倒れるのではないかと心配した。
しかしサグメは特に異常を見せる事もなく山姥に身をゆだねていた。
二人の唇の間からつるる…と唾をすする音が漏れてくる。ややあって山姥はサグメから顔を離した。

「ふむ…これが月の民の味と匂いけ? もっと素っ気ない感じだと思っとったが…嫌いではねえな。おめえは大丈夫け? 具合悪くなってねえが?」
「……(穢れには耐性がある方だ。これくらいはどうという事はない)」
「…少なくとも青ざめてはいねえな」

茶々を入れる正邪をサグメは決まり悪そうに睨んだ。確かに顔色は悪くなく、むしろ紅潮しているくらいだった。

「…何か月人らしくねえなぁ。これは生きている事を喜んでいる奴の味と匂いだ」
「……(私は元々地上の出身だ。忌まわしい力を持つ私に月は居場所を与えてくれた…その恩に報いる為に月の行政に尽力してきたのだ)」
「なるほどなぁ、それで納得しただ…うちはおめえを責めねえ。ただしあんな事は二度としねえでくれ」
「……(私はもうアレをどうこう出来る立場ではないが約束しよう…私もこの一件は上には報告しない。どのみち〈デバステイター〉が活動停止した状況と原因が分からなければ同じ手は使わないだろうからな)」
「それを聞いて安心しただ…ンじゃこの話は終わりな。正邪、そろそろ見せてくれねが? 干し柿のお返しってやつを」


(続く)




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