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ξ゚⊿゚)ξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです

124 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:58:22 ID:XAwkQF4U0

 先日の一件からツンが気持ちを隠すことはなくなった。
 クーに対しては正々堂々と、真正面から気持ちをぶつけてやると心に誓った。
 それと対するクーは変わらずに寡言だが、しかし――

川 ゚ -゚)「お気楽な考えです、それは」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうかな?」

川 ゚ -゚)「ええ。楽観です。如何に興味や関心を向けられているとしても、嫌い、と言う感情が逆転する可能性は不明確で御座います」

ξ゚⊿゚)ξ「……確かに、そうかもしれないけど。でもっ――」

川 ゚ -゚)「それもまた一つの可能性。それに賭けるのも悪くはない……そう言いたいのですか、お嬢様」

――彼女はそんな風にツンを否定するが、けれどもツンは先から感じていた。
 クーの手が、握り合う手の感覚が強くなっていることに。
 ツンはクーを見つめる。相変わらずクーの瞳は伏せられているが、その頬には微かに熱が差す。

川 ゚ -゚)「甘えた考えは捨て去るべきで御座います」

ξ゚⊿゚)ξ「そう?」

川 ゚ -゚)「はい。これからはもっと徹底した教育を心がけましょう」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……うん。そうだね」

 間もなく、揺れ動いていた馬車は停まり、その中から可憐な美少女と佳人が姿を見せる。
 馬車から先に降りたのは佳人で、彼女はそのままに握りしめていた手を引く。
 そうして己の主である乙女を抱き留めると、互いの身形を正してから傍らに悠然と立った。




 Break.

125 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:58:43 ID:XAwkQF4U0



 13


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126 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:59:05 ID:XAwkQF4U0

 十九世紀中葉、イギリスはハートフィールド。
 この時代、ハートフィールドの知名度はそうは高くはない。
 が、二十世紀頃にはとある熊の誕生と共に世界的に名が知れ渡り、聖地然と言った具合にもなった。
 兎角、アッシュダウンの森を越えてきたツンとクーはいよいよ目的の場所に到着を果たす。

ξ*゚⊿゚)ξ「ふわぁーっ。大きいお家じゃない、クーっ」

川 ゚ -゚)「……まぁ、一応は一帯を纏め上げる豪農の家系ですので」

 草原と田畑に囲まれるように建つのはクーの実家だった。
 広大な敷地に巨大な家屋。それは屋敷のような外見で、想像していた以上の規模にツンは興奮をそのままに大きな声を上げる。
 纏わりついてくるツンをいなしながらもクーはそう言い、特に誇らしげにする訳でもなく敷地へと踏み入った。
 が、ツンの手を引いたままにいざ帰還を果たそうとするが――

川 ゚ -゚)「……お嬢様、先程も言いましたが――」

ξ゚⊿゚)ξ「特に期待をするな、召使いもいなければご飯も大したものじゃない、もてなしの一つもない……でしょ?」

川 ゚ -゚)「……その通りです」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなの分かってるよっ。それに、そんなのがなくったって、シャロの御家族と会いたかったのも本音だしねっ」

 己の抱え持つレディースメイドの親族――見て聞いて知りたいと思うツンは、果たしてどのような一家なのか、と期待に胸を膨らませる。
 聞いた限りでは兄弟姉妹はいないそうで、この大きな屋敷には彼女の父母のみが暮らしているとのことだった。

 果たして如何なる人物達か――やはりクーのように冷徹で寡黙で感情の一つも見せないのか、とツンは思った。
 それはそれで面白くもあるが歓迎をしてくれるようなタイプではないな、と思い気分が落ち込む。

 が、しかしここまで来たからには前へと進む他に道はない。
 御者は先程村の酒場に行ってしまった。二、三日はハートフィールドに滞在していると言っていたが早速疲れを癒すために憩の場へと出向いた様子だった。
 兎角、彼のことはさておき、ツンはやや緊張した面持ちでクーの手を握りしめ、クーと言えばそんなツンを見下ろすと渋い面をした。
 そうしていよいよクーが戸へと手をかけ、それを開け放つ。

127 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:59:57 ID:XAwkQF4U0

>>126 訂正


 十九世紀中葉、イギリスはハートフィールド。
 この時代、ハートフィールドの知名度はそうは高くはない。
 が、二十世紀頃にはとある熊の誕生と共に世界的に名が知れ渡り、聖地然と言った具合にもなった。
 兎角、アッシュダウンの森を越えてきたツンとクーはいよいよ目的の場所に到着を果たす。

ξ*゚⊿゚)ξ「ふわぁーっ。大きいお家じゃない、クーっ」

川 ゚ -゚)「……まぁ、一応は一帯を纏め上げる豪農の家系ですので」

 草原と田畑に囲まれるように建つのはクーの実家だった。
 広大な敷地に巨大な家屋。それは屋敷のような外見で、想像していた以上の規模にツンは興奮をそのままに大きな声を上げる。
 纏わりついてくるツンをいなしながらもクーはそう言い、特に誇らしげにする訳でもなく敷地へと踏み入った。
 が、ツンの手を引いたままにいざ帰還を果たそうとするが――

川 ゚ -゚)「……お嬢様、先程も言いましたが――」

ξ゚⊿゚)ξ「特に期待をするな、召使いもいなければご飯も大したものじゃない、もてなしの一つもない……でしょ?」

川 ゚ -゚)「……その通りです」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなの分かってるよっ。それに、そんなのがなくったって、クーの御家族と会いたかったのも本音だしねっ」

 己の抱え持つレディースメイドの親族――見て聞いて知りたいと思うツンは、果たしてどのような一家なのか、と期待に胸を膨らませる。
 聞いた限りでは兄弟姉妹はいないそうで、この大きな屋敷には彼女の父母のみが暮らしているとのことだった。

 果たして如何なる人物達か――やはりクーのように冷徹で寡黙で感情の一つも見せないのか、とツンは思った。
 それはそれで面白くもあるが歓迎をしてくれるようなタイプではないな、と思い気分が落ち込む。

 が、しかしここまで来たからには前へと進む他に道はない。
 御者は先程村の酒場に行ってしまった。二、三日はハートフィールドに滞在していると言っていたが早速疲れを癒すために憩の場へと出向いた様子だった。
 兎角、彼のことはさておき、ツンはやや緊張した面持ちでクーの手を握りしめ、クーと言えばそんなツンを見下ろすと渋い面をした。
 そうしていよいよクーが戸へと手をかけ、それを開け放つ。

128 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:00:34 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)「ただいま、お父さん、お母さん」

ξ;゚⊿゚)ξ「おっ、おじゃましますっ」

 踏み入り、帰還の一声を響かせる。同時にツンは挨拶の言葉を口にした。
 こう言った、所謂一般的な家庭にきたことがないツン。友だちがいない訳ではない。
 同じく貴族のよしみで仲良くなった同年代、或いは年の近い娘達とは互いの屋敷や城を行き来したりもした。

 が、果たしてそう言った特殊な環境とは違う一般家庭での礼儀作法と言うのは如何なるものか――これまで培ってきた全ての知識を活かすべく、彼女が紡いだ言葉は、実に一般的な台詞だった。
 兎にも角にも、そんな声が二つ響くと奥の方から忙しない足音が響いてくる。

( ‘∀‘)「あらあら、お帰りなさい、クー」

 朗らかな表情、そしてふくよかな体系をした女性だった。
 歳は壮年か、或いはもう少しいった具合か。クーの名を呼んだ彼女こそがクーの実母だった。

川 ゚ -゚)「ただいま、お母さん」

( ‘∀‘)「あらまぁ、お客さんまで? どうしたの、お友だち?」

川;゚ -゚)、「いや、その……」

 言葉に詰まるクーは、己の背後に隠れたツンへと視線を送る。
 先まで息巻いていた様子とは打って変わり、今のツンは何故か怯えるような、或いは恐怖する感じだった。
 その理由の全ては緊張、そして恥じらいだった。

ξ;゚⊿゚)ξ(わっ、どうしようっ。さっきの挨拶、もしかして早すぎたのかな……て言うか変に思われてるかも!? でもでもっ、次にどう言う言葉を言えばいいのか分かんないしっ)

 完全に混乱しているツン。
 そんな彼女の様子を悟ったクーは、一つ溜息を吐くが――

129 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:01:20 ID:XAwkQF4U0

川;゚ -゚)「私の主様の……ツン・ティレル様だよ、お母さん」

ξ;゚д゚)ξ「ひゃっ、ひゃひめまひひぇっ!」

( ‘∀‘)「……え?」

 無理矢理にツンを己の前へと立たせると彼女の名を口にし、ツンと言えば唐突の出来事に完全に不意を突かれ、改めて挨拶をしたが噛みまくりだった。
 そんな二人のやりとりを目の前で見た母親と言えば――

(;‘∀‘)「なっ……ちょっ、お父さん、お父さーん! 大変! ツンお嬢様がぁっ!」

 何度も目の開閉を繰り返し、更にツンを間近で見ると驚愕に面を塗りつぶす。
 驚愕の限りを尽くすと、躓きながらも旦那の下へと駆けていった。
 玄関に取り残されたツンとクーは互いに大きく息を吐き、そうすると二人して同時に顔を見やる。

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー? 今のは少し酷いと思うよ?」

川 ゚ -゚)「……そうでしょうか」

ξ#゚⊿゚)ξ「そうでしょうか、じゃないよっ。少しくらいわたしにだって準備とか心構えって言うのが必要なのっ」

川 ゚ -゚)「しかし、あまり遅いと不審に思われます」

ξ#゚⊿゚)ξ「だとしても無理矢理立たせたり、そのっ……」

川 ゚ -゚)「……? なんですか?」

ξ#゚ H゚)ξ「……なんでもないっ」

 無理矢理に肩を掴んで引き寄せるのはずるい、と。ツンはそう言おうと思ったがとどめることにする。

 普段、クーはそう言う無理矢理な真似はしない。ツンの嫌がるだろうことは確実にしない。
 だが先のことと言えば、まるで普段の彼女らしからぬ感じで、更にはその横暴ともとれるやり口がツンを動揺させる。

130 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:01:58 ID:XAwkQF4U0

 現在、クーの故郷。
 帰ってきたこともあるからか、今のクーは気が緩んでいると言うよりかは素に近い様子だった。
 もしかしたら、本来の彼女の性格と言うのは、そう言った力任せな部分もあるのでは――と、ツンは思う。

ξ*゙⊿゙)ξ、「いや、そんな、別に恥ずかしいとか、ドキっとしたとかじゃなくって……その、ほら、唐突過ぎてね? そうするとやっぱり焦るでしょう? だから今顔が熱いのも胸が煩いのも、全部驚いたからな訳であってっ」

川 ゚ -゚)「……何を先からぶつぶつと言っているのですか、お嬢様?」

ξ*゙д゙)ξ「にゃっ、にゃんでもにゃいっ」

 人の気も知らずに――そう内心で思うツン。それに首を傾げるクー。
 やはりいつもの関係はいつもの通りかと、今度は落胆をするツンだったが、そんな時だ。

(;´∀`)「わっ、なっ、えっ!? これはどう言うことなんだモナ、クー!?」

(;‘∀‘)「ねっ、ねっ! 言ったとおりでしょ! ツンお嬢様でしょう!?」

(;´∀`)「ああ、間違いないモナ! このお方こそはツン・ティレル様だモナっ……!」

 再度忙しく喧しい足音を響かせてやってきたのはクーの父で、そんな彼の後を追ってきたのはクーの母だ。
 父の背は大きく、顔立ちも整っていた。若い頃はさぞモテただろうな、とツンは思うが、しかし父母と言えばクーに鬼のような形相をして迫り寄る。

(;´∀`)「何がどうなっているんだモナ、クー!」

(;‘∀‘)「説明の一つくらいはしてほしいわよ、クー!」

(;‘∀‘)「「どうしてお嬢様がこんな田舎に!?」」(´∀`;)

131 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:02:49 ID:XAwkQF4U0

 予想の通りの台詞にクーは何とも言えない面をし、そんな彼女の隣ではツンが悪い笑みを浮かべていた。
 果たしてどう言ったものか、とクーは悩むが、しかしややもせずに彼女はこう言うのだ。

川;゚ -゚)「……庶民の暮らしを体験させよう、と……マスターからの令が下ったから……」

 そんな苦し紛れな嘘八百に対し、父母と言えば口を大きく開けると、あのお方は何を考えていらっしゃるのか、と同時に言葉を零す。

川;- ,-)(こっちが聞きたいよ……)

 彼女は心の中でそう呟くと、波乱の待つであろうこれからの景色を思い、再度大きく溜息を吐いた。




 Break.

132 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:03:14 ID:XAwkQF4U0



 14


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133 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:03:38 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)「いいですか、お嬢様。五日間です。五日間だけこの村に滞在します」
  _,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ……」

 夜、クーは自室でツンにそう言った。
 相も変わらずに感情の一つも見せない声色を向けられたツンは、室内にあるベッドの上を転がりながら不機嫌そうな反応を示す。

川 ゚ -゚)「先程、御者に問い合わせたところ五日後には馬を出すとのことでした」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「もっとゆっくり休んでもいいんじゃないかな? 折角の長期休暇を無駄にすることはないと思うよ?」

川 ゚ -゚)「わたくしもそう思っておりましたが、予定が変わりました」
  _,
ξ゚〜゚)ξ「……なんだかわたしの所為みたいな言い方だね?」

川 ゚ -゚)「……はて、どうでしょうか」

ξ;゚д゚)ξ「そこは否定しないんだっ」

 あれから――昼頃にクー邸へと到着をしてから、クーの父母は大慌てだった。
 その理由こそはツン・ティレル嬢の存在があるからだ。

 何の予告もなしにやってきたのは大恩あるティレル侯爵の一人娘。
 しかもその訪問の理由は教育の一環だと言う――これはクーの機転による嘘だった――から更に慌てふためいた。

 こんな田舎の、更には大したものもない家で令嬢を如何に持成すべきか、と二人は頭を抱えた。
 しかしこれにツンは笑みを浮かべながらに、己に対して特別な対応は不要である為何も気にかける必要はない、と言う。

 そうは言うがどうあっても主君の娘を雑に扱う訳にはいかない。
 更には教育となれば尚更に模範となるべくして緊張が生まれ、父母はぎこちなくなった。

134 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:04:10 ID:XAwkQF4U0

ξ゚⊿゚)ξ「でも、優しいご両親だね、クーのお父様とお母様は」

川 ゚ -゚)「……そうでしょうか」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうだよっ。ご飯も美味しかったしっ」

 本日はクーの帰参に伴い彼女の好物が既に用意されていた。
 田舎の料理は量も多ければ品目も多い。ツンは己の前に出された幾つかの料理に目を輝かせて見つめるのだ。

 ロースト肉にサーモンのステーキ、他にも大きなパテ――テリーヌの塊を見るとツンは仰天し、これは美味しそうだと燥ぐ。
 果たして令嬢の舌に田舎の飯は合うか否か――結果から言えば彼女は大層満足した。

ξ*゚⊿゚)ξ「美味しかったなぁ、あのローストビーフっ……鶏肉のテリーヌもすっごく美味しかったっ」

川 ゚ -゚)「お気に召していただけたようで何よりで御座います」

ξ*゚⊿゚)ξ「ね、ねっ。今日のは全部クーの好きな食べ物だったんでしょ?」

川 ゚ -゚)「……? はい、まぁ……そうですが……」

ξ*゚⊿゚)ξ「クーってお肉が大好きなんだねっ」

川 ゚ -゚)「…………」

 そう言われてクーは次第に顔を赤くするとツンから背ける。

ξ;゚⊿゚)ξ「え……どうしたの?」

川 ///)「……はしたないと、思いますか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え?」

川;- ,-)「いえ、その……申し訳ありません、お嬢様。お嬢様の御前で、その……」

135 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:04:46 ID:XAwkQF4U0

 流石に女人が恥じらいもなく肉に喰らいつくと言うのは如何なものか――更には主人の前で臆面なくすると言うのは頂けない。
 クーはそう自責に駆られると深く反省し、ツンに対して頭を下げる。

ξ;゚⊿゚)ξ、「い、いやいや、そんな……なにも可笑しくなんてないよ、クーっ。わたしだってお肉好きだよ?」

川;゚ -゚)「しかし……」

ξ;゚д゚)ξ「もう、だから気にしないでよっ。そもそも、今のクーは帰省してる……仕事から解放されてるんだよ? だからそう言う振る舞いを気にしなくったって……」

川 ゚ -゚)「そうは仰られますが、お嬢様の前であることは事実です」
  _,
ξ;゚〜゚)ξ「うっ……確かにそうだけどぉ……」

 これでは埒が明かない――そう理解したツンは、兎にも角にもクーを手招く。

ξ゚⊿゚)ξ「クー、こっち来て?」

川 ゚ -゚)「……はい」

 そうは言うがそのベッドは元々クーの物で、部屋の主もクーだった。
 が、普段からクーに命令を下す立場なツンは、そんな事実は他所にクーを手招くと隣に座らせる。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー」

川 ゚ -゚)「はい、お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「そのね? その……難しいことだと思うの。わたしを普段から意識して、いつもいつもお世話をしてくれてるから、今更こう言う距離で普通に過ごすって無理かもしれない」

川 ゚ -゚)「…………」

 その言葉にクーは内心で強く、それはもう強く頷いた。

ξ゚⊿゚)ξ「けどね……折角こうして二人きりでお城の外に出られたんだよ? そうなったら、もう……主従の関係はまた別の問題だと思うの」

川 ゚ -゚)「……それは、誠に難しい話で御座います」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり……?」

136 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:05:17 ID:XAwkQF4U0

 如何に状況が別だとしても、ツンを前にすればクーは従者のそれとして徹する。
 そう言う教育をされてきたし、レディースメイドとしての誇りも確かにあった。
 更に言うならば、クーはそれを強く誓っている。

川 ゚ -゚)「“このお方の支えになる”」

ξ゚⊿゚)ξ「え……?」

川 - ,-)「……そう、決めておりますので」

ξ;゚⊿゚)ξ「ん、んー……? 何のこと、クー……?」

 初めてツンと出会った時、クーはそう誓った。
 彼女の為に己は全てを賭し、身を粉にする覚悟までをもかためた。

 それ程までにクーにとってのツンとは神格化されたような存在だった。
 それを普段口に出すことはないが、彼女はやはりツンに忠誠を誓い、己の命をも捧げる勢いだった。

川 ゚ -゚)「息苦しいかもしれませんが、どうかご容赦くださいませ、お嬢様。わたくしはやはり、あなた様のメイドで御座いますれば。如何様な状況であろうとも……こうして接する他に手段は存じ上げません」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「むぅー……なら、いいけど……」

 できるなら本来のクーを見てみたかったツン。
 が、それはそれで戸惑う可能性もあったし、何より、見知らぬ土地だが、よく見知った人物が普段通りに接してくれると、不思議と安心を得る。

川 ゚ -゚)「なので……やはり認める訳にはいきません、お嬢様」
  _,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ! いいじゃんいいじゃんっ」

川 ゚ -゚)「駄目です。同じベッドで寝よう、だなんて……了承できる訳がありません」

 さて、先からクーの部屋に居座るツンだったが、その様子からして出ていく気はないようで、更にはベッドから退こうともしない。
 曰く、それこそは一緒に寝たいから、とのことで、クーはこれを聞くと本日何度目かも分からない大きな溜息を吐き、更には眉間に皺をよせ指を宛がった。

137 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:05:54 ID:XAwkQF4U0
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「何でダメなのっ」

川 ゚ -゚)「お答えするならば、安全性の為で御座います」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「安全性っ」

川 ゚ -゚)「はい。このベッドは見て分かるようにダブルベッドですが、しかし、もしもわたくしの寝相に巻き込まれたら、小さなお嬢様では成す術もなく下敷きになってしまいます」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「クーの寝相が悪いだなんて話聞いたことないよっ」

川 ゚ -゚)「はい。訊かれたことがありませんので」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、少し距離をあけて――」

川 ゚ -゚)「仮に、お嬢様がベッドから落ちたら一大事で御座います」
  _,
ξ゚д゚)ξ「……あれもダメ、これもダメじゃないっ」

川 ゚ -゚)「はい。そうです」

 にべもないクーの態度にツンは頬を膨らませる。
 クーは内心では頼むから納得をしてくれ、と願うのだが――
  _,
ξ゚⊿゚)ξ9mm「……命令です、クー」

川;゚ -゚)「っ……」

 ツンと言えば自身の権限を最大限に活かすつもりの様子で、クーは紡がれた台詞に心臓が跳ね、更には無意識のうちに頷きそうになる。

ξ゚⊿゚)ξ「わたしと一緒に寝てっ」

川;゚ -゚)「お嬢様……」

ξ゚ -゚)ξ「……お願い」

138 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:06:21 ID:XAwkQF4U0

 と、寄越されるのは上目使いで、これにクーはいよいよ陥落してしまった。

川;- ,-)「……今日、だけですよ」

ξ*゚⊿゚)ξ「わーい、やったー!」

 クーはどうあってもこの誘いを断りたかった。全ての理由はツンの暴走だ。
 先日唇を奪われているクーだが、もしも他者のいないこの家で襲われたら、果たしてツンはどこまで突っ走るのか――そんなことまで考えてしまう。

川;゚ -゚)(……何も起きませんように)

 そんな風に祈りながら室内の明かりを消したクーは、隣に身を横たえたツンへと意識を向ける。

ξ-⊿-)ξ「むにゃむにゃ……」

川 ゚ -゚)「…………」

 ベッドインから三分も経っていなかったが、ツンは即座にブラックアウトした。
 その事実に呆けたクーだが――

川 ゚ -゚)「……疲れていたのですね」

 今日一日での経験はツンにとっては大冒険だった。
 可愛らしい寝息を立てるツンを見つめたクーは、静かに笑みを浮かべ、ツンの額を撫でてやる。

川 - ,-)「……おやすみなさいませ、お嬢様」

 この日、ツンは十分に睡眠をとったが、翌朝、目に濃い隈を作ったのはクーで、彼女は“心休まる時はないな”と一人静かに言葉を零した。




 Break.

139 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:06:46 ID:XAwkQF4U0



 15


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140 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:07:10 ID:XAwkQF4U0

 ツン嬢がクー邸に来て二日目の朝。
 ツンはクーの焼いたターンオーバーとベーコン、そしてブレッドを小動物のように貪っていた。

ξ*゚〜゚)ξ「はむはむはむっ……おーいーしーいーっ!」

川 ゚ -゚)「大袈裟ですよ、お嬢様……お水をどうぞ」

ξ*゚〜゚)ξ「んーっ、あひはほーっ」

 水を受け取りつつもツンは一般的な朝食を楽しむ。

ξ*゚⊿゚)ξ-3「んむぅっ……ふへー、なんだろう、いつも食べてるのより味が素朴? 薄い? のかな?」

川 ゚ -゚)「城で揃えている物は全て一級品ですので。やはり味の質は違うかと」

ξ*゚⊿゚)ξっ「でもでもっ、この目玉焼きとベーコンすっごく美味しいっ! なんでだろう?」

川 ゚ -゚)「卵は今朝方取れたものですので。ベーコンは恐らく焼き方が城のコックとは違うのでしょう。我が家のやり方では蒸し焼きです」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうなんだ! うーん、このターンオーバー……しかも見事にオーバーミディアムっ。よくわたしの好みを理解してるね、クー?」

川 ゚ -゚)「レディースメイドですので」

 そう言いつつ、クーも席へとつくと遅れて朝食をとる。
 主人と席を同じくして、更には食事を共にする――どう考えても有り得てはいけない状況だが、これもまた、ツンのお願い――ほぼ命令――となれば、流石にクーも頷きをみせた。

 この日、クーの父母は早くも仕事に出ていた。
 冬と言えど農家にはやることが腐るほどある。つまりは多忙だった。

141 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:07:43 ID:XAwkQF4U0

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……」

川 ゚ -゚)「……? 如何なされましたか?」

ξ゚ー゚)ξ「んー……あのね?」

 ロンドンよりも南に位置するハートフィールド。時期が冬とは言え然程厳しい環境とも言えない。
 そもそも英国の冬は滅多に雪は降らない――地域にもよるが――ので、煩わしいのは肌寒さと高い湿度だけと言える。
 が、ハートフィールドの村は低湿度の様子で、その過ごしやすい環境を気に入ったツンは、早朝の景色に御満悦の様子だった。

ξ゚ー゚)ξ「いいところだねぇ、ハートフィールドって」

川 ゚ -゚)「田舎で御座います」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「そんなことないよっ。のどかで素敵じゃない」

川 ゚ -゚)「娯楽らしい娯楽もありませんよ、お嬢様。明日、明後日と過ごせば早く城に帰参したい、と思うでしょう」
  _,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ……別に、娯楽とかはいいよ。何より……こうして朝、ゆっくりとクーと朝ご飯食べられるのって、奇跡に近いしっ。これだけでも儲けものなのっ」

川 ゚ -゚)「……然様で御座いますか」

 そう呟きつつ、クーはパンを口へと運ぶ。
 そのままに咀嚼をすると淹れたてのコーヒーを啜り、一つ呼吸を置くと再度食事の手を進める。

142 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:08:11 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)「お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「なに?」

川 ゚ -゚)「……サラダ、お嫌いで」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぎくっ」

川 ゚ -゚)「……如何にお嬢様と言えど、よその家で礼儀や作法を欠くと言うのは――」

ξ;゚д゚)ξ「だ、だって、ビーンズ入ってるんだもんっ……って言うかわざとでしょ、これっ」

 賑やかしい朝の景色。
 普段ならば他にも従者やらが傍につき、そんな者等の視線を前にして一人で食事をとる。

 ツンはそれを不思議な光景とは思わなかった。それが生まれながらに当然だったからだ。
 時に父や親しい間柄の誰ぞかと食事の席を囲む時もあったが、そういう時以外――普通に食事をする分には孤独が常だと思っていた。

 だがこうしてクーと適当な会話をしながら食事をしてみれば、不思議な程にツンは胸の中が温かくなった。
 それと共に幸福もあった。

ξ*゚⊿゚)ξ、(なんか、これってあれみたい。その……新婚さん?)

 クーの手作り料理――食すのは初のことで、実のところ、ツンはかなり待ち遠しく思っていて、食事が並べられるとナイフとフォークを鳴らす程だった。
 が、お叱りを受けては料理も冷めてしまう為、ある程度我慢をしつつ、ようやっとよしの合図を得ると、後は先の反応の通りだった。

143 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:08:36 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)「……? 如何なさいましたか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや、そのっ……」

 そしてクーが食事をする様子だ。これにツンは釘付けだった。
 別に見たことがない訳ではない。だがその数も一度か二度、ないしは三度程度だった。

 果たして普段の彼女のマナーや作法と言ったものが如何程の程度かは不明だが、少なからず今見ている限りではツンよりも遥かに気品があった。
 並ぶ料理はどれも簡単なもの、且つ大した内容ではない。
 しかし食器を操作する手の動きから口へと運ぶまでの時間、他、食事の音は――咀嚼等も含め――ほぼ皆無と言える。

ξ゚⊿゚)ξ「……ずるいよね、クーって」

川 ゚ -゚)「はい……?」

 まるで完璧人間――見惚れると同時に嫉妬を抱くほどにクーは極まっている。
 そもそも彼女の所作と言うのは完璧で、例えば歩き方の一つを注目しても文句のつけようはなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「何でも出来ちゃうよねぇ、クーは……超人?」

川 ゚ -゚)「レディースメイドですので。万事完璧にこなすのが役目で御座います」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、模範となるべく、だっけ?」

川 ゚ -゚)「はい、その通りで御座います」

 レディースメイドとは何か。
 それはレディーの――この場合はツンにあたる――身の回りの世話を全て任され、更にはハウスキーパー等の監督役からの指示を無視することも出来る。
 メイドの中でも別格中の別格と呼ばれるが、これを任される者はまず歳若く、それでいて素養のある人物でなければならなかった。
 クーは元より勉強家ではあったが、ツンに仕える為にそれはもう大量の苦労をしてきた。

144 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:09:13 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)(……言えない。絶対に)

 過去のことを思い返すと正に血の滲むような日々だったとクーは思う。
 彼女を扱き上げたメイド長と言えば鬼さながらで、一つのミスも許さなかったし、仮にミスが発生すればお仕置きとして尻が腫れ上がるまで叩かれもした。

 日々涙目になりながらも弛まぬ努力をした彼女は、今、結果的にツンの傍に立つことが出来る。
 そうも必死になっていた理由と言うのは語るも野暮と言うやつだった。
 ツンは先から黙しているクーを不思議そうに見つめるばかりで、視線に今更気付いたクーは何でもないとだけ言葉を紡いだ。

ξ*゚⊿゚)ξ-3「ふぅ、お腹いっぱいっ」

川 ゚ -゚)「お口にあいましたか?」

ξ*^⊿^)ξ「うんっ! どれもすっごく美味しかったよっ!」

川 - ,-)「有難き幸せ……」

 食事を終えたあと、クーはツンの反応を見て少々上機嫌になった。

川 ゚ -゚)(……美味しかった、か)

 そう言われると不思議なくらいに心臓は高鳴る。
 普段から彼女の世話をしているクーだったが、こうした別の土地――普段の生活からかけ離れた場所で、更には自身の料理の感想を告げられると、これが意外と効果覿面だった。

 一人鼻歌交じりに食器を洗うクー。
 さて、そんな彼女の後方から忍び足で迫ってくる少女が一人。お分かりの通りにツンだった。

ξ*゚⊿゚)ξ(こ、これはレアな場面なんじゃっ……給仕服のそれとはまた別に、エプロン着てるクーってすっごい新鮮!)

 桃色のエプロンをするクーに心中穏やかになれないツン。
 彼女は興奮のままに背後からクーへと抱き付こうとしていた。
 しかしそんな彼女に対してのクーの台詞と言えば――

145 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:09:40 ID:XAwkQF4U0

川 ゚ -゚)「そう言えばお嬢様」

ξ;゚⊿゚)ξ「え? な、なにかなぁ?」

川 ゚ -゚)「いえ。折角こうして時間も大量に有り余っているので、どうせなのでわたくしと一緒に――」

ξ*゚⊿゚)ξ「な、なに? 何かするの? あっ、もしかして一緒に遊ぼうとかっ? んふふー、それなら大歓迎――」

川 ゚ -゚)「いえ。お勉強をしましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「……わぁーい……」

 そんな、まったくもって色気の一つもない台詞だった。
 しかしそう言う性格なのはとうに理解していたし、そんな彼女だからこそ好きになったのだろう、と自答したツン。

 間も無く、折角の長期休暇だと言うのにもかかわらず、クーが教鞭を手にツンへ教育を施す景色があった。




 Break.

146 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 23:10:21 ID:XAwkQF4U0
本日はここまで。
こちらの投下量も増やしていこうと思います。完結は十月半ば程度と思われます。
それではおじゃんでございました。

147名無しさん:2019/09/29(日) 23:13:37 ID:TM0k.2620
意欲の鬼か?

148 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:34:11 ID:YaoLVTVA0



 16


.

149 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:34:31 ID:YaoLVTVA0

 冬の午後、アッシュダウンの森に華やいだ声が色づく。
 少女はヒースに覆われた森を駆け抜ける。
 小さな身体を目いっぱいに動かし、頬を赤く染めて白い息を吐いた。

川;゚ -゚)「お嬢様、お嬢様っ」

 そんな少女の背を追うのは佳人――クーだった。
 そうなれば追うのは彼女の主であるツンなのは至極のことで、この日の午後、二人は森へと散歩にきた。

ξ*゚⊿゚)ξ「すごいすごい! ねぇ、クー! 家のお庭の森より素敵!」

 アッシュダウンの森は松とヒースが立ち並び、他には冬の花や枯草が点在する。
 空気は冬の匂いを醸し、それを肺に取り込んだツンは満面の笑みを浮かべた。
 ツンの様子にクーは叱るでもなく呆れるでもなく、小さく笑みを浮かべると立ち止まったツンの下へと向かった。

ξ*゚⊿゚)ξ「広いねぇっ。すごいね、ここっ。なんだか絵本の中の景色みたいっ」

川 ゚ -゚)「地元なので感慨はありませんが……しかしお気に召していただけたとあれば、それはまた栄誉で御座います」

ξ*゚⊿゚)ξ「うん、すっごく好きっ。あ、ほら見てクー。川もあるっ」

 様々な物を発見するとツンは直ぐに駆けていく。
 例えば見知らぬ木や花を見つけるとクーに名前を問い、或いは触れたことのないものには即座に心を奪われた。
 今度のツンは小川へと近づき、橋を渡ると澄んだ川面を覗き込む。

150 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:34:52 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)「落ちないように気を付けてくださいね」
  _,
ξ゚д゚)ξ「大丈夫だよ。そこまで子供じゃないもんっ」

(歳相応で御座いますよ、お嬢様……)

 齢十三となればやはり精神的にもまだ幼い。
 如何に侯爵家の息女として高度な素養を持っていようとも、やはり未知に対しては素直になる様子だった。
 ツンは川の潺に耳を傾け、そうして流れに心を任せた。空では冬の鳥が旋律を奏で、午後の森は穏やかさが匂う。

ξ*゚⊿゚)ξ「この水おいしそう……」

川 ゚ -゚)「飲んではなりませんよ」

ξ;゚⊿゚)ξ、「わ、分かってるよっ……言ってみただけっ」

川 ゚ -゚)「然様で御座いますか」

 透明感のある川を見て、さらに上流へと視線を移せば沢がある。
 ツンは暫し景色に浸るとぽつりと言葉を零した。

 天然の森――こう言った大自然に足を踏み入れたことはなかった。
 決して彼女が外界に疎い訳ではない。年に二度は父の休暇に伴いバカンスに出掛けもする。
 が、行先は決まって栄えた場所だったり、或いは海を臨む景色だったりで、返ってこう言った景色は新鮮味に溢れていた。

151 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:35:31 ID:YaoLVTVA0
>>150 訂正


川 ゚ -゚)「落ちないように気を付けてくださいね」
  _,
ξ゚д゚)ξ「大丈夫だよ。そこまで子供じゃないもんっ」

川;゚ -゚)(歳相応で御座いますよ、お嬢様……)

 齢十三となればやはり精神的にもまだ幼い。
 如何に侯爵家の息女として高度な素養を持っていようとも、やはり未知に対しては素直になる様子だった。
 ツンは川の潺に耳を傾け、そうして流れに心を任せた。空では冬の鳥が旋律を奏で、午後の森は穏やかさが匂う。

ξ*゚⊿゚)ξ「この水おいしそう……」

川 ゚ -゚)「飲んではなりませんよ」

ξ;゚⊿゚)ξ、「わ、分かってるよっ……言ってみただけっ」

川 ゚ -゚)「然様で御座いますか」

 透明感のある川を見て、さらに上流へと視線を移せば沢がある。
 ツンは暫し景色に浸るとぽつりと言葉を零した。

 天然の森――こう言った大自然に足を踏み入れたことはなかった。
 決して彼女が外界に疎い訳ではない。年に二度は父の休暇に伴いバカンスに出掛けもする。
 が、行先は決まって栄えた場所だったり、或いは海を臨む景色だったりで、返ってこう言った景色は新鮮味に溢れていた。

152 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:35:55 ID:YaoLVTVA0

ξ゚ー゚)ξ「知らないものがたくさんあるなぁ……やっぱり着いてきてよかったねっ」

川 ゚ -゚)「……わたくしは未だに認めておりませんよ、お嬢様」

ξ゚〜゚)ξ「もうっ。いいじゃない、そんなに怒らなくってもっ」

川 ゚ -゚)「その態度は鼻もちなりませんよ、お嬢様。悪いことは悪いと認識し、反省を――」

ξ;゚⊿゚)ξ「してる、してるよっ。うぅ……故郷に帰ってからのクーってば、本当に容赦がない……」

 果たしてクーが意識をしているかは謎だったが、事実として帰参してからの彼女は普段よりもツンに対する態度が厳しい。
 が、これは転ずれば、それだけツンを意識していると言うことでもあるので、つまり、事実としてクーはツンのことが心配で仕方がなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「そんなに心配……?」

川 ゚ -゚)「当然です」

ξ゚⊿゚)ξ「……嬉しいこと言ってくれるけど、それは過保護すぎるよ」

川 ゚ -゚)「お嬢様。何度も言った言葉ですが、外の景色と言うのは――」

ξ-⊿゚)ξ-3「危険がたくさんある、でしょ? もう耳にタコだよっ。それに今は……この村にいる間は平気でしょ?」

川 ゚ -゚)「平気なことなど……」

ξ゚⊿゚)ξ「だってクーがいるじゃない」

 その台詞を聞いたクーは目を見開いてツンを見つめた。

153 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:36:20 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)「……何を仰いますか。わたくし一人程度で如何なる危機をも全て排除出来る訳では御座いません」

ξ゚⊿゚)ξ「でも今までずっと平気だよ?」

川 ゚ -゚)「運の問題です。お嬢様、例えば先程駆けている最中、躓いて転んで怪我でもしたら一大事です。今もそうです。冬の川に落ちてしまえば最悪命にかかわる重大な事故になりかねます」

ξ;゚⊿゚)ξ「本当に過保護だなぁ……」

川 - ,-)「過保護結構。お嬢様の身を案じ、お嬢様の生活を支えるべくしてわたくしは存在しているのです」

ξ゚⊿゚)ξ「――現にそうなってるよ」

 その返事はあまりにも早かった。
 寧ろクーの言葉を遮る勢いで、再度クーはツンを見つめる。

ξ゚⊿゚)ξ「クー。わたしはあなたに凄く感謝をしているし、クーのお蔭でわたしの日常はいつだって幸せで楽しいの」

川 ゚ -゚)「…………」

ξ-⊿-)ξ「それってね、クーがいつも頑張ってくれてるからだよ。それをわたしはいつもいつも感じて、理解して、そしてね……いつも、ありがとうって……そう思ってる」

川 ゚ -゚)、「っ……そんな、そんなお言葉……」

 あまりにも畏れおおい――そう言いたかったクーだが、胸が苦しくなり言葉が詰まる。顔は赤らみ、視線は他所へと向いた。
 そんなクーへと面を向けたのはツンで、彼女はクーの手を握りしめた。

154 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:36:52 ID:YaoLVTVA0

ξ゚ -゚)ξ「……ごめんね、無理やりついてきて。怒るのも当然だって分かってる。でもね、それでもわたしだって……気が気でいられないの」

川 ゚ -゚)「……お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「別にね、いいんだ。待つのもとぼけられるのも。けどね、まるで逃げるように背を向けられるのは、なんか……嫌だったから」

川 ゚ -゚)「…………」

 そもそもツンがこの帰省に乗じた理由はクーの気持ちを確かめる為――答えを、返事を得る為だった。
 結局、今の今までその話題に両者は触れてこなかったが、しかしツンが切り出したことによりクーは向き合うことになる。
 クーの手を握りしめるツンの手は震えていた。それは寒さの所為ではなかった。緊張と恐怖を抱くのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「昔は、昔は――って、昔のことばかり最近は思い出してた。クーは昔のこと、よく思い出す?」

川 ゚ -゚)「……どうでしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「自分のことなのに分からない?」

川 ゚ -゚)「いえ。もしかしたら――……」

ξ゚⊿゚)ξ「……? なに?」

川 ゚ -゚)「……いいえ」

155 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:37:12 ID:YaoLVTVA0

 過去を思い出すのではなく、過去に囚われているのは己自身で、未だにその景色と幻影に惑わされているのでは、とクーは思う。
 そうして彼女は正常を保つ。

 今、こうしてツンが自身に触れているのは去来する過去が自身の望みのままに形を持ち、現実を侵食して己を混乱困惑させようとしているのでは、と思う。
 そうでもしなければクーは耐えられない。初めて出会った時からクーはツンのことだけを考え、そうしてある日を境に仮面を装着し、自身の感情を封じ込めた。

 だが今になって封じ込めた感情や望みのようなものが溢れ誘惑する。
 気持ちを曝け出せとせがむ。
 それにクーは抗い、なんとか今まで凌いできたが――

川 ゚ -゚)「……冷たいですね」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

川 ゚ -゚)「手……お嬢様の手は、冷たいです」

ξ゚ー゚)ξ「……うん。そうだね」

 互いの温もり。
 手をつなぎ、川辺に佇む二人はそれを今更ながらに感じた。
 クーの手は温かく、ツンの手は冷たかった。

156 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:37:32 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)「歳若いお嬢様がこうも血行が悪いとは思いもしませんでした」

ξ゚ー゚)ξ「多分、普段からいい物を食べすぎてるんだね」

川 ゚ -゚)「野菜を食べてください」

ξ;゚⊿゚)ξ「うっ……あ、あれは、そのぉ……ほら、動物が食べるものだからっ」

川 ゚ -゚)「わたくしは野菜も好んで食べます」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぬっ……!」

 新情報得たり、と同時に間接的にクーを動物呼ばわりしたことに気付くツン。
 二人のやり取りは普段と似たようなものだったが、けれども確かなのは自然体そのものと言うことで、それはある意味では普段とは違った。
 ツンは微笑み、クーは変わらずの鉄面皮。だが、二人の空気は朗らかで、穏やかで、それでいて温かかった。

川 ゚ -゚)「……そろそろ戻りましょう、お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「ん……もう?」

川 ゚ -゚)「はい。じきに夕暮れです。夕食の用意をせねばなりません」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……野菜たっぷり?」

川 ゚ -゚)「ええ。お嬢様の健康管理も……わたくしの役目でありますれば」

 そう言ったクーはツンへと視線を寄越す。

157 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:37:55 ID:YaoLVTVA0



川 ゚ー゚)


ξ゚ -゚)ξ(っ――)



.

158 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:38:16 ID:YaoLVTVA0

 ツンはそれを見た。久しく見ることの出来たクーの微笑みを。
 それは一瞬にも等しく、本当に分かりにくい程度だったが、それでも確かにクーは微笑んでいた。

川 ゚ -゚)「さぁ……行きましょう」

ξ。 ー )ξ「……うんっ」

 ツンの手を引いてクーは歩き出す。
 そんな彼女の腕にしがみ付く少女は目元に小さく涙を浮かべ、赤くなった顔を隠した。
 ツンの重さを腕に感じつつ、そして胸の中が軽くなった気がしたクーは、レディーをエスコートしながらに帰りの道を歩く。

川 ゚ -゚)(……二つの足跡、か)

 クーは振り返って軌跡を見る。
 地面に描かれた二つの足音は、まるで歩幅の感覚も大きさも異なっていたが、それでも確かに距離は近かった。
 同じように歩く――それは難しいことで、それが自然に出来るくらいには、兎角、二人の距離は縮まる――もとい、戻ったのだった。




 Break.

159 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:38:36 ID:YaoLVTVA0



 17


.

160 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:38:58 ID:YaoLVTVA0

 ハートフィールドは穏やかだった。
 その日、ツンはクーを連れて小さな村を回る。

 彼女を知る者等は即座に出向き礼をするが、対するツンは、どうかこの事は内密に頼む、とお忍びであることを明かす。
 その台詞に村民達はことを察し、御令嬢もそう言う時分だ、広い城と言えど鳥籠の中は窮屈だろう――と皆は笑った。

 彼女は皆に快く迎えられたが、しかしクーはやはり複雑な心境で、綻んだツンを見ると咎めようにも咎められなかった。
 兎角、ツンは今現在、村の一画にある小さな飯屋にきていた。

ξ゚〜゚)ξ「うーん、ハーブティー……独特だね、この味はっ」

川 ゚ -゚)「……お気に召しませんか?」

ξ゚⊿゚)ξノシ「ううん、不思議なくらい気分が落ち着くから好きだよっ」

 先日、距離が戻った二人は午後の茶を楽しむ。
 城の外でアフタヌーンティーをする貴族と言うのも妙な画で、店の主人は何故茶を飲むのだろうか、と首を傾げた。

 アフタヌーンティーの文化はこの時分に生まれたが、それは貴族の内でのみ流行った。
 後の世ではイギリスを象徴する文化となったが、ある意味貴族と言うのは流行の最先端をいくものだった。

川 ゚ -゚)「活発で御座いますね、お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「え? 何が?」

川 ゚ -゚)「いえ。先日のアッシュダウンの森に引き続き、村を見て回りたい、とは……」

ξ゚ー゚)ξ「だってクーの生まれ故郷だもん。見て知りたいと思うよ?」

川 ゚ -゚)「……然様で御座いますか」

161 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:39:20 ID:YaoLVTVA0

 それはどう言った意味か、と問うことはない。どうあっても従者、どうあってもレディースメイドの佳人は瞳を伏せてカップを傾けるのみ。
 対してツンはバターをふんだんに使ったクッキーを齧り、歓喜の声を上げると小動物よろしく頬を膨らませて貪る。

 その様子を眺めながら再度クーは苦悩を抱く。
 先日、距離が戻った事実は内心では喜ばしいが、この状況が問題だった。
 人目に彼女が晒される事実――噂の一つでも立つのが当然だと言える。

 幾ら口を封じようともお喋り好きな者はいる。
 こんな寒村であろうとも噂はたちまち広がり、やがてはロンドンにまで届き、下手をしたらティレル侯爵の耳にまで届くかもしれない。
 気が気でいられない――当然のことで、クーは後悔ばかりをした。
 ツンはこの日、好奇心を抑えられずに村の様子が見たいとクーに願った。
 当初はこれに猛反対した彼女だったが――

( ´∀`)「いいじゃないかモナ、クー。折角こられたんだモナ? 寧ろ是非見て回って欲しいところですモナ、ツンお嬢様」

( ‘∀‘)「そうよ、クー。堅苦しいわねぇ。さぁさぁツンお嬢様、外は冷えますから、温かいお着物を選びましょうね」

――呆れることに彼女の両親はツンの意見を尊重し、クーに対して非難までをもする。
 味方がいないとなっても孤軍奮闘せんとするクーだったが、最終的にツンの瞳に涙が浮かぶと、彼女は溜息を一つ吐き諦めたように頷いてしまう。

 両親はせっせとツンの身支度を進めるが、果たして実の子の帰参に対してそう言った態度は如何なのか、とクーは若干怒りを抱く。
 が、傍目から見ると、まるで孫でもあやす爺(じい)と婆(ばあ)のようにも見えて、クーは何となく両親の気持ちを察する。

162 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:39:51 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)(……孫、か)

 早く結婚して孫の一人はつくって欲しい――いつか言われた台詞が頭に浮かぶ。
 結婚、と言う言葉に触れると彼女の眉間に皺が寄り、次いで瞳には何とも言い難い感情が浮かんだ。

ξ゚⊿゚)ξ「……? どうしたの、クー?」

川 ゚ -゚)「……いいえ。何でも御座いません」

 そんなクーの変化をなんだかんだで見ていたのはツンで、疑問を口にするがそれに対する返答は簡単なものだった。
 少々不機嫌――なのは村に出陣してから変わらない。
 やはり人の前に姿を見せたことを怒っているのだろうか、とツンはしょぼくれた。

川 ゚ -゚)「……別に」

ξ;゚⊿゚)ξ「え?」

川 ゚ -゚)「別に、怒ってはいませんよ、お嬢様」

 が、そんな彼女の気分の沈み様に対し、クーは静かにそう紡ぐ。面をあげ、内心でも読まれたかとツンはたじろぐ。
 けれどもそう言った間柄――既に関係は八年かそれ以上続く訳で、つまり、二人の間において、対する者の胸中と言うのは案外察しが付く。
 更に言えばクーはレディースメイドであるからして、主人の考えを理解するのが当然とも言えた。

163 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:40:16 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)「考えておりました」

ξ゚⊿゚)ξ「何を?」

川 ゚ -゚)「多くのことをです」

ξ;゚〜゚)ξ「曖昧な言い方だね……」

 ツンはそう言いつつ、ハーブティーで唇を湿らせる。

ξ゚⊿゚)ξ「多くのことって……なに?」

川 ゚ -゚)「そうですね。端的に言うならば、将来、で御座いましょうか」

ξ;゚⊿゚)ξ「将来っ」

 また漠然とした台詞だ、とツンは思う。

川 ゚ -゚)「お嬢様は先のことを考えたことはおありで」

ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃ、あるけど……」

 急な話題――更には饒舌な様子にツンは少々戸惑いを抱く。

川 ゚ -゚)「ではその先の未来に……わたくしはいますか」

ξ゚⊿゚)ξ「っ――」

164 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:40:39 ID:YaoLVTVA0

 その台詞をどう判断するのか――難しいものだった。
 普通に考えたら従者として付き従うか否かと言う話題だ。
 だが既に二者は向き合っている。未だ答えは存在せず、明確に意思を示すことはないにせよ互いは互いと対峙している。
 ツンはこの質問を試練だと思った。己は試されているのだ、と。

ξ゚⊿゚)ξ「いるよ。当然でしょ」

川 ゚ -゚)「然様で」

ξ゚⊿゚)ξ「クー意外の人なんて考えられない」

川 ゚ -゚)「然様で」

 ツンのその台詞は上手いと言える。それはどんな意味にも捉える事が出来る。
 従者として彼女以上に素晴らしい者は存在しないと言う意味で、かつ、彼女のみにしか恋情は抱かないと言うのだ。
 それにクーは瞳を伏せるばかりだったが――

川 ゚ -゚)「ではあなた様の隣に立つのは誰ですか」

ξ;゚ -゚)ξ「……っ」

――迫ったその台詞にツンは顔を伏せた。
 ついで口を固く結び、膝の上で拳を握る。
 分かり切っている質問――それは彼女の未来そのものと言える。

165 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:41:07 ID:YaoLVTVA0
>>164 訂正


 その台詞をどう判断するのか――難しいものだった。
 普通に考えたら従者として付き従うか否かと言う話題だ。
 だが既に二者は向き合っている。未だ答えは存在せず、明確に意思を示すことはないにせよ互いは互いと対峙している。
 ツンはこの質問を試練だと思った。己は試されているのだ、と。

ξ゚⊿゚)ξ「いるよ。当然でしょ」

川 ゚ -゚)「然様で」

ξ゚⊿゚)ξ「クー以外の人なんて考えられない」

川 ゚ -゚)「然様で」

 ツンのその台詞は上手いと言える。それはどんな意味にも捉える事が出来る。
 従者として彼女以上に素晴らしい者は存在しないと言う意味で、かつ、彼女のみにしか恋情は抱かないと言うのだ。
 それにクーは瞳を伏せるばかりだったが――

川 ゚ -゚)「ではあなた様の隣に立つのは誰ですか」

ξ;゚ -゚)ξ「……っ」

――迫ったその台詞にツンは顔を伏せた。
 ついで口を固く結び、膝の上で拳を握る。
 分かり切っている質問――それは彼女の未来そのものと言える。

166 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:41:29 ID:YaoLVTVA0

川 ゚ -゚)「……御答えは」

ξ - )ξ「…………」

川 - ,-)「……お嬢様。わたくしの両親は……わたくしに早く結婚をしろと急かします」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……」

 それは親心としては当然の台詞だが、ツンは恐ろしい台詞を耳にした気がした。
 急かされる――それは彼女が他の誰かの物になると言うことだった。

 まるで追い詰められているような気がしてくるツン。
 対するクーは平然と構えるが、彼女の身開かれた瞳には、悲しみの色合いがあった。

川 ゚ -゚)「子を成し、家庭を持つ。それは女性ならば誰もが憧れることです。ですがわたくしは度々見合いの話を断ってきました」

ξ;゚⊿゚)ξ「え……そうだったの……?」

川 ゚ -゚)「はい」

ξ;゚⊿゚)ξ「それは、なんで――」

 と、問いを向けたツンだが――

川 ゚ -゚)「わたくしは、あなた様のもので御座いますれば」

 そう、クーはツンの瞳を見つめて真っ直ぐに答えた。
 その台詞はツンの胸中に垂れこめた暗黒の淀みを掻き消した。
 彼女の眼光がツンに光を齎す。

167 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:41:52 ID:YaoLVTVA0

 そう、クーはツンの瞳を見つめて真っ直ぐに答えた。
 その台詞はツンの胸中に垂れこめた暗黒の淀みを掻き消した。
 彼女の眼光がツンに光を齎す。

川 ゚ -゚)「……わたくしは、ずっとそうして立ってきました。ただ、それだけは知っておいてほしかったのです」

ξ*゚⊿゚)ξ「クー……」

川 ゚ -゚)「あなた様の生活を全う足るものにする為に全てを捧げようと決めております。故にわたくしはあなた様が望む限りは傍にいます」

 だが、と彼女は言葉を続ける。

川 ゚ -゚)「あなた様“も”……いつか、誰かのものになるのです」

ξ ⊿ )ξ「…………」

 当然のことだ。
 それは決められたことだった。

川 ゚ -゚)「御存じでしょう、お嬢様。あなた様は――」

ξ ⊿ )ξ「知ってるよ。分かってるよ。だって“そう言う約束”らしいから。知ってるよ」

――ティレル家と親しい間柄に名高きネラア家あり。
 位は公爵の家系で、特に当代の当主であるティレル卿とネラア卿は親しい間柄だった。
 そんな二人は取り決めをしていた。

168 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:42:18 ID:YaoLVTVA0




ξ ー )ξ「可笑しいよね、一人娘なのにね。わたし……嫁ぐんだもんね。ネラア家に」



.

169 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:42:38 ID:YaoLVTVA0




 それは許婚と呼べるものだった。
 本人たちの意思を無視したその取決めを告げられたのはツンが齢十程度の頃。
 それは、クーが激変した時期と符合する。

170 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:43:48 ID:YaoLVTVA0

















 Break down.


.

171 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:44:24 ID:YaoLVTVA0



 18


.

172 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:44:46 ID:YaoLVTVA0

 それを告げられた時、ツンは戸惑った。

( ^ω^)『いいかお、ツン。お前はいずれ、ネラア卿の御子息の下へと嫁ぐんだお……』

 そう言ったのは実の父であるブーン・ティレル侯爵だった。
 何故一人娘である己が嫁ぐのか、と言うのも疑問だったが、なによりとしてそんな取り決めを交わした覚えが本人にはなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ『なんで? わたしはいやだよ。しらない人のとこになんて……』

( ^ω^)『大丈夫だお。きっとツンも気に召すお。ネラア卿も、そしてネラア卿の息子殿も気に入るお』

 ヨーロッパにおいて女性に爵位継承権は存在しないが、英国は例外的に王女の意を介することにより可能だった。
 しかし、大抵は一人娘だろうとも他家に嫁がせるのが普通だった。

 貴族の結婚、婚姻と言うのは同格が望ましく、このティレル家もネラア家もほぼ同格の家柄であった為、二人は大変乗り気だった。

 そうなるとティレル家の家が絶える、と言う訳ではない。
 それは併合を意味し、女子に継承権はなかろうとも、生まれた子が男児であった場合は継承権が発生する。

 この場合、子には二つの爵位が齎される――侯爵と公爵だ。
 通常は爵位の上位である方を名乗る為、必然的に公爵の地位を賜る。
 兎角、そんな背景はまた別にしてもツンはまったく納得がいかない。

173 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:45:30 ID:YaoLVTVA0

ξ;゚д゚)ξ『いやだよ、お父様っ。わたしが侯爵になるから、だからよそにいきたくないっ』

( ^ω^)『……これもお前の為なんだお、ツン』

ξ;゚⊿゚)ξ『なにをいってるのっ。わからないよ、お父様っ』

( ^ω^)『……貴族とは、爵位を賜ることと言うのは……このティレルの家督をそのままに受け継ぐことと言うのはお、ツン。
      それは……血に塗れることを言うんだお』

 それは彼の願う、唯一の策だった。
 確かに英国では女人に対する爵位継承も可能となるが、ティレル家こそは武家、騎士の家系。
 戦時となれば真っ先にその先頭へと駆り出される。

 そうなれば如何に女人と言えども関係がない。
 それが貴族。それこそが地方を束ねる力を与えらし家柄だ。
 ティレル卿はツンの頭を撫で、そうして諭すように言葉を紡ぐ。

( ^ω^)『幸せを、そして豊かさを、得んが為にと人々は争う。ツン……お前はそんな景色に巻き込まれる必要はないんだお。
      穏やかに、ネラア卿の下で平和に暮らすべきなんだお……』

ξ。゚⊿゚)ξ『わからないよっ……お父様っ。いったいなにをっ……』

( ^ω^)『……クイーンは野心家だお。それは国を育むが……最早英国に血は絶えないだろうお。
      この先の未来……戦火渦巻く世で、お前を絶望から護る為に、これは必要なことなんだお、ツン。それが父の為すべきことなんだお、ツン』

ξ。゚⊿゚)ξ『お父様っ……』

174 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:46:33 ID:YaoLVTVA0

 父の愛情は娘の思いを粉砕する。
 それは悲しく辛いことだが、それでも、死なせるくらいならば恨まれても構わないとティレル卿は判断した。
 幼いツンには彼の思いが分からない。何故好きでもない者のもとへ行かねばならぬのかと混乱をし涙まで流す。
 ツンの頭の中にはクーの顔が浮かんでいた。許婚の件を聞かされて真っ先に彼女を思った。


ξ;⊿;)ξ(いやだよっ……なんでっ)


 恋とはそう言うものではないはずで、自然的で、或いは運命的なものだとツンは幼いながらに理解していた。
 そう、それこそはクーと出会った時のような、まるで夢の心地に浸るような、そんなものであるはずだ、と――

175 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:46:53 ID:YaoLVTVA0



――村から帰陣したツンとクー。
 ツンはクーの寝室に閉じこもり、対してクーは居間で一人寡黙になった。
 両親の姿はない。恐らくは何かしらの作業をしに出かけたと思われる。

川 ゚ -゚)(……言いすぎた、のかな)

 先の問答で口にした台詞。それは従者としては紡いではならない言葉だった。だがクーは後悔をしつつも間違いではなかったはずだと思う。
 現実を忘れるだとか無視することは不可能だ。ツンには許婚がおり、その取決めを破ることも同じく不可能だった。
 許婚――ツンには定められた者がいる、と思うとクーは胸が苦しくなる。
 次いで先程見たツンの泣き顔を思い出すと面は険しくなった。

川 - )「……何をやってるんだ、私は」

 あれではまるで余計に追い詰めたようなもので、それはつまり、主人を傷つけたも同義だった。
 これも必要なことだったと言えるが、彼女は他にも手段があったはずだと思う。無理矢理に叩きつけるのではなく、時間をかけて彼女の気持ちを正すべきだった、と。

 だが急いてしまった。それもこれも、やはり焦りがあるからだ。
 帰省してから三日目の今日、残る二日でツンにしっかりと気持ちを伝えようとしていた。

 それは断りの言葉だ。
 彼女の愛に対して、受け取ることは出来ぬと、己達の関係はどうあっても主従のみでしかないと伝えるのだ。

 既にその言葉は用意出来ていた。
 それは愛を紡がれた日から、ツンが心を解放した時からだ。
 だが今の今まで言い出せなかったが、いよいよ腹を括る。

176 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:47:21 ID:YaoLVTVA0

川 - ,-)「このままずるずると先延ばしにしていたら……もっと大変なことになる」

 故のこの大騒動だ。あのツン嬢がティレル城から抜け出してこんな田舎にまでついてきた。
 暴走――許されざること。それの責任はやはりクーにある。
 曖昧にし続けたツケと呼べる。自身を責めたクーは拳を握った。それを机に叩きつけ憂さを晴らす。

川 ゚ -゚)「……部屋まで占拠されてしまった」

 自身の部屋なのに――そう思うが、悲しみに暮れるツンを思えばこそ、今はそっとしておくべきだと判断する。
 そうして気持ちを落ち着かせたクーは立ち上がるとキッチンへと向かい、簡単に夕食の準備を始めようとする。
 本日はシチューにしよう、と思っていたクーの背後から軋む音が伝う。

川 ゚ -゚)「お嬢様――」

 背後に立っていたのはツンだった。
 振り返り、そんな彼女を見たクーは言葉を失う。

ξ ⊿ )ξ「ねぇ、クー。わたしは確かにそうなるのかもしれないね。やっぱりネラア家に嫁ぐのが幸せなのかもしれないね」

 肌着せぬ美少女の姿がそこにはあった。
 長い金色(こんじき)の髪に碧の目。その目元は赤く腫れ、声も嗄れていた。
 だがその未発達な身体と言えば神秘的で、対峙したクーは後退る。

177 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:47:59 ID:YaoLVTVA0

ξ ⊿ )ξ「なにを驚いてるの。いつもわたしの身体、見てるじゃない」

川 ゚ -゚)「……御召し物をどうか、お嬢様」

ξ ⊿ )ξ「着せてよ。いつもみたいに。慣れてるでしょう、メイドなんだから」

川 ゚ -゚)「……お嬢様……?」

 据わった瞳を理解するとクーは焦燥をする。毎度の如くのツンの暴走――それを悟った。
 だがそれでも本日のクーは何とか正常を保ち、そうして真っ直ぐに立つとツンを見つめ返す。

ξ ⊿ )ξ「ねぇ。命令だよ、クー」

川 ゚ -゚)「何でしょうか」

ξ - )ξ「抱いて」

 衝撃的な台詞。
 ツンはその言葉を紡ぐと静かにクーへと歩み寄り、その細い体躯でクーに纏わりつく。
 が、クーは動じなかった。どころかその瞳を鋭くし、まるでツンを睨むようにする。

川 ゚ -゚)「乙女らしからぬ振る舞いで御座います。お嬢様」

ξ - )ξ「仕方ないよ。もう……仕方ないよ」

川 ゚ -゚)「何が、とは問いません。ですがお嬢様、お忘れで」

ξ ⊿ )ξ「……何を?」

川 - ,-)「わたくしが……如何なる存在かを」

 そう言ったクーはツンの身体を引きはがすと――

178 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:48:22 ID:YaoLVTVA0




川 ゚ -゚)「お許しを。ツンお嬢様」



 平手を、主であるアリスへと叩きつけた。




.

179 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:48:42 ID:YaoLVTVA0

















 Down.

180 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:49:10 ID:YaoLVTVA0



 19


.

181 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:49:31 ID:YaoLVTVA0

 その話を告げられた時、クーは思い知った。
 己は夢を見ていたのだ、と。そして現実から目を反らしていたのだ、と。

川;゚ -゚)『嫁ぐ、で御座いますか』

( ^ω^)『おっ……』

川;゚ -゚)『お嬢様が』

( ^ω^)『おぉ……そうだお、クー』

 返事を寄越すのはティレル侯爵。
 この日、彼はクーを呼び出すとツンの婚姻の話を口にした。

川; - )(嫁ぐ。誰かのものに、なる)

 それは当然のことだ。女に生まれたならばいつかは誰かの下へといくのが常だ。
 時代的なこともあるが一人娘と言えども他所の家庭に入るのが当然だ。

 だがそれをクーは信じられなかった。受け入れることも出来なかった。
 しかし内心では分かっていた。いつかはそんな時が来ると。

川; - )(恋をして、愛を抱く……当然だ……)

 決してその許婚の話題に絶望をした訳ではない。それは一つの切っ掛けであり、クーは今更に思い出す。
 己が恋をしている相手は少女で、結ばれることは永遠に有り得ないのだ、と。

182 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:49:54 ID:YaoLVTVA0

( ^ω^)『……どうしたんだお、クー?』

川; - )『っ……いえ』

( ^ω^)、『顔色が悪いようだけどお……』

 クーの顔が見る間に蒼褪めていく。
 クーは恋をしていた。相手は主であるツン・ティレル嬢。
 出会ったその日から心を奪われ、彼女の為に己は一生を捧げようとまで誓った。

 ツンが好きだった。声の一つ、仕草の一つ――全てが愛しいと思っていた。
 笑顔を向けられると心が締め付けられ、彼女が泣けばクーも辛い思いだった。
 気付けば関係は五年にも及び、二人の間柄は親友にも等しい関係と言えた。

 一方的な片思い――それでいいと思っていた。この思いは死ぬまで心に秘めているはずだったが、認識が甘かった。
 現実と対峙すると彼女は途端に無気力に襲われ、脳内は混乱に陥る。当たり前のことなのに、けれども感情が爆発しそうだった。
 だがそんな狂う寸前の彼女をなんとか正常にとどめる言葉がティレル卿の口から紡がれる。

( ^ω^)『先の話だけどお、クー。できるなら、将来も……ツンの傍にいてあげて欲しいんだお……』

川;゚ -゚)『えっ……』

 驚きの台詞だ。普通、レディースメイドの期間は短い。十年も続けばいい方で、歳をとるとその任から降ろされる。
 だが侯爵は己の手元からツンが旅立った後もツンの傍にいてくれと頼んだ。

( ^ω^)『君はツンのよき理解者。あの子はきっと君を必要とするはずだお。だから、もしも嫌でなければツンのことをお願いしたいんだお』

183 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:50:17 ID:YaoLVTVA0

 その一言でクーは決意した。
 この恋心は叶わない。愛を交わす関係にはなれない。
 けれども、愛するツンの支えになることは出来る。
 一生を賭すことが出来る。

 その瞬間に彼女は仮面を装着した。

川 - )『――了解しました。マスター』

( ^ω^)『……クー?』

 その声には抑揚の一つもない。機械的な返事、そして態度にティレル卿は不安げに彼女の名を呼んだ。
 だが彼女は異常ではなかった。それは正常を保つための手段――感情を殺し、従者として徹するがあまりに、そしてツンを愛するがあまりに生じた変化だった。

川 ゚ -゚)『このクー。命尽きるその時まで……ツンお嬢様に誠心誠意を尽くしましょう』

 以降、彼女の変化にツンは戸惑い、城では鉄面皮と称されるようになった。

184 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:50:44 ID:YaoLVTVA0



 張り手を見舞ったクーはツンを見つめる。
 対してツンは面を伏した。

川 ゚ -゚)「ご自身の立場をお忘れで、お嬢様」

 相も変わらずの冷淡な口調。それに対する返事はない。
 だが構わずにクーは言葉を続けるのだ。

川 ゚ -゚)「あなた様は名高きティレル家の御息女、華の乙女。そんなあなた様が感情に駆られみだりな振る舞いをしてはなりません」

 歩み寄り、クーは己の着込むカーディガンをツンへと着せる。

川 ゚ -゚)「お嬢様。わたくしはあなた様の従者でしかありません。あなた様の愛に応えることは出来ません。
     夢は叶わないのです。もう、大人になる時なのです」

 例え彼女を追い詰める結果になったとしても、もうこれ以上逃げる真似は許されない――そうクーは理解をした。
 ツンの情緒不安定な様はあまりにも問題で、ならばいっそのことこの問題を解決してしまえばいいと判断をする。
 それは彼女の心を傷つけることになるが、だが苦しめ続けるよりもまだマシだと思った。

185 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:51:05 ID:YaoLVTVA0

ξ ⊿ )ξ「大人ってなに」

川 ゚ -゚)「大人は大人です」

ξ ⊿ )ξ「適当言わないでよ」

 しかしツンと言えば接近したクーを見つめ、そうして言葉を紡ぐ。

ξ ⊿ )ξ「ねぇ、クー。私が聞きたいのはね、そんな台詞じゃないんだ」

川 ゚ -゚)「返事はいたしました。お応えできません、と」

ξ ⊿ )ξ「そう。ならいいよ、それで。じゃあ聞かせてよ」

川 ゚ -゚)「何をですか」

 先までの様子とは違う――大人になれ、と言う台詞がツンの逆鱗に触れたか否か。
 兎角として醸す空気は、怒りのそれだった。

ξ ⊿ )ξ「わたしのこと。好き、嫌い……どっちなの」

川 - )「…………」

 ああ、とクーは思った。
 それは、その問いは卑怯だ、と。

186 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:51:31 ID:YaoLVTVA0

川 - )「主としてしか見ません。特別な感情はありません」

ξ ⊿ )ξ「ううん。それは答えじゃないよ。ねぇ、覚えてないの。わたしが聞きたいこと。
      何のためにここまで着いてきたのか……覚えてないの、クー」

川 - )「…………」

 覚えているか否か――クーは覚えている。だからこそ先の言葉を用意した。
 ツンが求めるのは言葉だ。
 彼女はクーに愛を紡いだ。ではクーは己はどう思っているのか。
 それを聞く為にこうしてハートフィールドまでやってきた。

ξ ⊿ )ξ「答えて」

川 - )「できません」

ξ ⊿ )ξ「二者択一だよ。単なる二択じゃない」

川 - )「不可能です」

ξ ⊿ )ξ「知らないの、シャロ。この世は是と非しかないってこと。わたしが訊いてるのはそれだよ」

川 - )「意味を理解しかねます」

ξ ⊿ )ξ「そう。卑怯なんだね。まだ逃げるの」

 逃げる――その台詞にクーの胸が痛む。

187 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:51:53 ID:YaoLVTVA0
>>186 訂正


川 - )「主としてしか見ません。特別な感情はありません」

ξ ⊿ )ξ「ううん。それは答えじゃないよ。ねぇ、覚えてないの。わたしが聞きたいこと。
      何のためにここまで着いてきたのか……覚えてないの、クー」

川 - )「…………」

 覚えているか否か――クーは覚えている。だからこそ先の言葉を用意した。
 ツンが求めるのは言葉だ。
 彼女はクーに愛を紡いだ。ではクーは己はどう思っているのか。
 それを聞く為にこうしてハートフィールドまでやってきた。

ξ ⊿ )ξ「答えて」

川 - )「できません」

ξ ⊿ )ξ「二者択一だよ。単なる二択じゃない」

川 - )「不可能です」

ξ ⊿ )ξ「知らないの、クー。この世は是と非しかないってこと。わたしが訊いてるのはそれだよ」

川 - )「意味を理解しかねます」

ξ ⊿ )ξ「そう。卑怯なんだね。まだ逃げるの」

 逃げる――その台詞にクーの胸が痛む。

188 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:52:15 ID:YaoLVTVA0

川 - )「仰る意味が――」

ξ# ⊿ )ξ「逃げ続けるの、そうやって。ずっとはぐらかして、突然に休暇届出して、
       ここまでついてきたけど……まるで諦めさせようと必死になって。ねぇ、いい加減に向き合ってよ」

川 - )「……向き合いました。あなた様とわたしは、確かに――」

ξ#;Д;)ξ「自分から逃げないでよっ!!」

 叫び散らしたツンは、ついに感情を抑えきれずに涙を零してしまった。

ξ#;Д;)ξ「何でっ……何でそんなに逃げるの、わたしとは向き合えたじゃない!! ならちゃんと自分とも向き合ってよ!!
        自分に嘘ついて、背を向けて……苦しむのはクーなのに!! なんでそんなに自分を殺そうとするの!!」

川; - )「っ……」

――クーはそれに触れられたくなかった。
 だからツンと極力会話を避け、必要な接触のみで過ごしてきた。

 休暇届もその為だ。
 己の感情を殺し、また以前のように鉄の心を用意し、異常をすべて取り除こうとした。

 だが、それが悉く崩された。
 アリスは彼女の心に入り込んでくる。
 殺してきた全てを彼女は愛し、それを大切にしてくれと懇願する。

189 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:52:38 ID:YaoLVTVA0
>>188 訂正


川 - )「仰る意味が――」

ξ# ⊿ )ξ「逃げ続けるの、そうやって。ずっとはぐらかして、突然に休暇届出して、
       ここまでついてきたけど……まるで諦めさせようと必死になって。ねぇ、いい加減に向き合ってよ」

川 - )「……向き合いました。あなた様とわたしは、確かに――」

ξ#;Д;)ξ「自分から逃げないでよっ!!」

 叫び散らしたツンは、ついに感情を抑えきれずに涙を零してしまった。

ξ#;Д;)ξ「何でっ……何でそんなに逃げるの、わたしとは向き合えたじゃない!! ならちゃんと自分とも向き合ってよ!!
        自分に嘘ついて、背を向けて……苦しむのはクーなのに!! なんでそんなに自分を殺そうとするの!!」

川; - )「っ……」

――クーはそれに触れられたくなかった。
 だからツンと極力会話を避け、必要な接触のみで過ごしてきた。

 休暇届もその為だ。
 己の感情を殺し、また以前のように鉄の心を用意し、異常をすべて取り除こうとした。

 だが、それが悉く崩された。
 ツンは彼女の心に入り込んでくる。
 殺してきた全てを彼女は愛し、それを大切にしてくれと懇願する。

190 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:53:13 ID:YaoLVTVA0



ξ#;Д;)ξ「自分すら嫌いになるつもりなの!? そうやって全部殺して、後には何が残るの!!
        絶望しかないんなら、なんでわたしの傍にいるの!! 本当はっ、本当はクーだって――」

川; - )「っ……!」

 その言葉の続きをクーは聞きたくなかった。
 だから彼女は咄嗟にツンの口を塞ごうと手を動かす。

 だがツンは彼女のその手を掴むとそのままに彼女を押し倒し、そうして覆い被さったツンは大泣きをしながら――


.

191 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:53:41 ID:YaoLVTVA0






ξ#;Д;)ξ「幸せになりだいっ、ぐぜにっ……!!」





.

192 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:54:14 ID:YaoLVTVA0

――そう、言ってしまった。
 その言葉を寄越されたクーの目が見開かれる。
 更には心の奥の鉄が融解するような、或いは崩れ壊れていくような音が響く。

 それはずっと隠し、ずっと殺してきた願いで、それは誰もが持つ感情だった。

 クーはそれを抑えることにより正常を保ち続けてきた。
 知らぬふりを続け、いつしか誤魔化すことに慣れ、そうしてそれが通常となったのに、それをツンが粉砕してしまう。

ξ;⊿;)ξ「ぐずっ……うぅっ、ひぐっ……」

川 - )「…………」

 ツンは泣く。クーは上から降り注ぐ彼女の涙を受けた。
 その温もりは凍てついた心臓を温めるかのようで、クーは今、久しく生きている気がした。

 ずっと己を殺し続けると言うのは死んでいることと同義で。
 果たして生きる意味とは何かと問われたらば、それはやはり欲がある訳で、そう言った欲の帰結する答えは幸福だった。
 幸福を拒絶し、ツンの為にと自身を偽ってきた。だのに、もう、クーは、そうはなれそうになかった。

川 - )「ずっと――ずっと……隠していたのに」

 クーの瞳が潤み、そうして涙が零れた。
 それを見たツンは驚きのあまりに泣くのをやめ、彼女をただただ見つめる。

193 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:55:01 ID:YaoLVTVA0




川 - )「そうすることが正しさだと信じ、そうしてあなた様を護り、支え、一生を尽くすのが己の役割だと思っていたのに」


 溢れる涙は止まらない。
 紡がれる独白を聞いたツンは、クーの苦しみをようやく理解するのだ。



川。 - )「報われないと知ったからこそ。未来はないと知ったからこそ。傷つき、傷つけると知ったからこそに……殺し続けてきたのに」



 それがクーの痛みと言えた。
 心を抑え誤魔化すことはどうあっても苦痛であり、それはストレスとなり、つまり、この数年間、クーと言う佳人は延々と苦しみもがき続けていた。

 彼女の涙を見たツンは再度涙を零すと、そのままにクーの胸へと飛び込み、大きな声をあげて泣いた。
 そんなツンの頭を撫でつけるのはクー。ツンの抱え持つレディースメイドだった。

 普段から寡言で、表情は鉄面皮のそれだ。
 何をするにしても完璧で、彼女こそは正に従者の鑑と呼べたが――



.

194 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:55:40 ID:YaoLVTVA0





川; -;)「酷い人、お嬢様。どうして私を解放するの。ずっとずっと誤魔化してたのに。
     ずっと、好きだった。ずっとずっと……出会ったその時から……狂いそうになるほどだったから……殺してたのに……」





.

195 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:56:15 ID:YaoLVTVA0






 そんな彼女も、ツンと同じように大きな声で泣き声をあげる。
 ツンはクーにしがみつき、クーはツンを強く抱きしめた。

 クーの抱擁はとても痛ましく、それはまるで怖がるような、怯えるようなものだった。
 縋る童にも等しい彼女を、ツンは決して離さぬように、強く抱きしめ返し、ただただ彼女を愛した。





.

196 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:57:24 ID:YaoLVTVA0











 Not down.







 The “DAWN”.










.

197 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:58:36 ID:YaoLVTVA0






 “Breaking” the Girl...





.

198 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/05(土) 21:59:00 ID:YaoLVTVA0
本日はここまで。
ミス連発したので首括ってきます。
それではおじゃんでございました。

199名無しさん:2019/10/05(土) 23:34:07 ID:.tmkPhgU0
(´・ω・`)ちんぽ

200名無しさん:2019/10/06(日) 17:31:56 ID:GyYSCP1M0



 20


.

201 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:32:19 ID:GyYSCP1M0

 ひとしきり泣いたツンとクー。
 いつしか泣き声も止み、景色には静寂が生まれた。

ξ。 ⊿ )ξ「…………」

川。 - )「…………」

 無言の両者はいつまでそうしていたのか――床の上で抱き合ったままの二人は段々と正常を取り戻す。
 ツンは冷静な頭で現状を理解する。兎角として、己が肌着一枚で、更にはクーに覆い被さっている事は大問題だった。

 肌を伝うクーの体温を感じてツンは顔が赤熱する。
 羞恥が遅れてやってきたのだ。感情を曝け出した結果とは言え、見ようによっては危うい状況だった。
 そんなツンはクーの胸の中から顔を覗かせると、そのままに窺うような瞳でクーの顔を見るのだが――

ξ゚⊿゚)ξ「……クー?」

川 - )「……何でしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「その……大丈夫?」

川 - )「……何がでしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「色々と……顔、真っ赤だよ……?」

川//-/)「……聞かないでください」

 彼女もツンと同じく、いやそれ以上に顔を赤く染め、更には潤んだ瞳をして後悔のような感情を抱いていた。

川; - )(……言ってしまった。やってしまった……)

 隠し通してきた感情、そして本音をいよいよ本人に向けて紡いでしまったこと。更には本人の前で情けなくも大泣きをしてしまったこと。
 まるで従者らしからぬ――そう思うクー。今の今まで上手くやってきた自負心もあったが、そんなプライドは完全に圧し折れた。

202 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:33:05 ID:GyYSCP1M0

川 - )(けど……)

 それでも心の中は穏やかだった。まるで溢れた涙がそのままに彼女の中に蓄積された濁りやらを流したかのようにも思えた。
 当然羞恥はあるし、後悔もある。だがそれ以上に満足感のような、或いは達成感のような、はたまた爽快感のようなものまであった。

 未だにクーはツンを抱きしめていた。既に正常を取り戻しているのにもかかわらず、それは彼女の意思でやっていることだった。
 それに対してツンは抵抗をしないし、むしろ受け入れている。
 落ち着くのだ。お互いはお互いの熱を感じると、それだけで満たされた。

 それは心の傷を癒すが如く、或いは凍てついた心臓を温めるが如くだった。
 お互いの柵はこの日この時に完全に消え去った。
 ただ、それでも慣れるまで――今一度自身の気持ちや感情、そして心を受け入れるまでには時間がかかるかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー」

川 ゚ -゚)「……なんでしょうか」

ξ*゚ -゚)ξ「出会った時から、好きでいてくれたの?」

川;゚ -゚)「っ……」

 その質問にクーは心臓が跳ね、再度熱が頭中(ずちゅう)を掻き乱す。
 若干の焦燥、を通り越した混乱に見舞われたクーは、跳ね起きるとツンを真っ直ぐに見据え、肩を引っ掴みしどろもどろとする。

川;゚ -゚)「いえ、その、あれは違うのです。そう言う気持ちに似た何かを抱いていた、というだけで、そんな、まさか、いや、でも――」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……何でそんなに焦るの?」

川 ゚ -゚)「っ……何故笑うのですか」

ξ゚ー゚)ξ「だって、あんまりにもクーが必死だから」

 それまで空気には若干の緊張があったが、けれどもツンが笑みを零すとその空気は和らいだ。
 クーは慌てふためいて言葉を探すが、しかしツンの態度に少なからず腹を立てる。
 ふざけているつもりはないし、彼女は長らく封じていた気持ちを曝け出した。その踏み出した一歩は本人にとってはとても大きなものだった。

203 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:33:43 ID:GyYSCP1M0

ξ;゚⊿゚)ξ「ねぇ、怒らないでクー。お願い、本当のことを聞かせて?」

川 ゚ -゚)「……嫌です」

ξ;゚〜゚)ξ「もうっ……ねぇってばっ」

川 ゚ -゚)「また笑いますので」

ξ;゚⊿゚)ξ「笑わないってばっ」

川;- ,-)「……はぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、溜息だっ。それいけないんだよ、人前でしちゃダメだって前にクーが言ってたんだよっ」

川 ゚ -゚)「……そうでしたか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「そうだよっ」

 ツンは聞きたかった。
 今一度、クーが己をどう思っているのかを。
 その気持ちをいつから抱いてくれたのかを。

ξ;゚ -゚)ξ「クー……」

川 ゚ -゚)「……本当です。あなた様と出会った時から……ずっと、その……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……その……?」

川//-/)「……恋い焦がれていました……」

 ツンの頭の中に雷電が駆けた。それと共に視界には星が浮かび、身体は妙な浮遊感に包まれる。
 そうして自重は自然と後方へと移り、危うく倒れるところだったが――

204 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:34:50 ID:GyYSCP1M0

川;゚ -゚)「お嬢様っ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ……ご、ごめん……」

 クーはそんなツンを抱きしめ、なんとか倒れるところを救う。
 二人は床の上で向かい合って抱きしめ合う。
 行儀の云々はこの際別として、ツンは改めて座したままにクーを見つめた。

川;゚ -゚)「大丈夫ですか?」

ξ゚ー゚)ξ「うん……少し驚いちゃった」

川 ゚ -゚)「驚く、で御座いますか?」

ξ*^ー^)ξ「うん。だって、倒れそうにもなるよ。こんなに幸せな気持ち、初めてだから……」

川 ゚ -゚)「っ――」

 そう言って、ツンは赤く染まった顔で照れたように笑う。
 それを見るクーは胸が高鳴り、不意に彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
 が、理性が勝り、そんな衝動を封じ込めることに成功する。

ξ*゚ー゚)ξ「そっかぁ……そんなに前からだったんだね」

川 ゚ -゚)「…………」

ξ*^ヮ^)ξ「……ふふっ。嬉しいね。幸せだなぁ……」

 夢心地のような表情のツンは、そのままにクーの胸の中へと顔を埋める。
 やってきた少女の柔さ、そして重みをクーは愛しく思った。
 けれども未だに抵抗があるのか抱きしめようとする腕は葛藤を繰り広げ、ツンの背ではクーの腕が交差を繰り返す。

205 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:35:30 ID:GyYSCP1M0

ξ゚ー゚)ξ「……好き?」

川 ゚ -゚)「……はい」

ξ゚ー゚)ξ「今も?」

川//-/)「っ……はい」

ξ^ー^)ξ「そっか……そっかぁっ」

 ツンは更にクーに強くしがみ付く。

ξ゚⊿゚)ξ「後悔、してる?」

川 ゚ -゚)「……正直、少しばかり」

ξ゚ -゚)ξ「だよね。そう言う性格だもんね」

川 ゚ -゚)「……わたくしは、どうあっても従者で御座いますれば。この気持ちも、心も、打ち明けることはないと思っていました」

ξ゚ー゚)ξ「でも言ってくれたね」

川 ゚ -゚)「そうさせたのはお嬢様です」

ξ゚ー゚)ξ「恨んでる?」

川 - ,-)「いいえ。それは有り得ません」

ξ゚⊿゚)ξ「でも後悔してるんでしょ?」

川 ゚ -゚)「……だって」

ξ゚⊿゚)ξ「だって?」

 ツンは視線だけをクーに向ける。
 そうするとクーは恥ずかしそうにそっぽを向くと――

206 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:36:06 ID:GyYSCP1M0



川 ///)「……歯止めが……きかなくなったら、壊れてしまいます……」



 そんな台詞を口にし、ツンはその表情を見て言葉を聞くと、最早我慢ができなかった。

ξ; - )ξ「クーっ――」

川; - )「――んっ……!?」

 触れ合うのは唇と唇だった。新雪の雪解けのように、それは柔らかく、清らかな口付けだった。
 伝う熱と鼓動が互いの命を意識させ、更には脈拍こそが互いの気持ちを安易に伝えた。
 ツンはそのままにクーの首へとしがみつき、幾度も唇を重ねる。

ξ; - )ξ「ずるいよ、クーっ……そんなのずるいっ……」

川; - )「お嬢様っ……」

ξ; д )ξ「壊すのも、壊れるのも、いつもいつもクーじゃないっ……」

川; - )「っ……何を、そんなのっ……お嬢様こそ、わたくしの気持ちも知らずに、いつもいつもっ……」

ξ;。 д )ξ「分からなかったもんっ……言ってくれなかったくせに、クーのバカっ……」

 そう言い合う二人だが、けれども刹那の空白すらも埋めるように花弁を重ね合う。
 蕩けた瞳はただただ互いのみを映し、この世界には二人だけしか存在しなかった。
 クーはツンの細い体躯を抱き寄せた。それに一瞬驚いたツンだが、けれども己も負けじとクーに強くしがみつく。

207 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:36:45 ID:GyYSCP1M0

ξ; д )ξ「好き……好きなの、クーっ……」

川; - )「お嬢様っ……」

ξ; - )ξ「ねぇ、言ってよ……聞かせて、お願い……」

川//-/)「っ、っ……好き、ですっ……」

ξ; - )ξ「好き……?」

川; д )「好きです、お嬢様っ――」

ξ; д )ξ「あっ――」

 クーは貪るようにツンの唇を求めた。
 これが大人の力――ツンは今更ながらにそれを感じる。互いの歳の開きは十と幾つか。子供と大人――その差は大きく。

 ツンは押し倒される。纏うのはカーディガンのみで、肌蹴た部位からは彼女の上気した肌が見えた。
 薄く浮いた汗が珠を結び、花蜜を思わせるツン特有の薫香が花開く。

 視覚からは劣情を駆り立てるようにツンの媚態があった。
 身を捩り、不安のような、けれども期待を抱いたような雌の貌がある。
 その瞳は真っ直ぐにクーを射抜き、小さな手がクーの腕を掴む。

ξ; - )ξ「ねぇ……さっきの命令、覚えてる……?」

川; д )「はぁっ……はぁっ……」

ξ; - )ξ「……あれ、お願いでもいいかな……?」

 構わない、どちらでも構わない――クーの頭の中は最早大混乱で、正常は完全に砕けて消えた。
 その台詞を待っていた。先のツンの暴走――その時に紡がれた一言を今一度求める。

208 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:37:44 ID:GyYSCP1M0



ξ* - )ξ「抱いて……くださいっ……」



 消え入るようなか細い声。だが内容は確かにクーへと伝わった。
 クーの頭の中で何かが途切れる音が響く。
 この数年間、延々と耐え続けてきた彼女だが、制御の術である柵は解き放たれていた。
 故にこの日、彼女は久しく手にした異常的にも等しい愛情を、今、ツンの柔肌に突き立てようとする。

川; - )(申し訳ありません、マスター。私は……ダメなメイドで御座います)

 欠片ほど残っていた正常は己の雇い主であるブーン・ティレル卿に謝罪を述べる。
 果たして本人に届くか否か、と言うのはまた他所に、クーはいよいよその手をツンの衣服へと伸ばす。

川; д )「床でいいんですかっ……」

ξ; д )ξ「いいよっ……」

川; - )「っ……申し訳ありません、お嬢様。はしたない女でっ……」

ξ; д )ξ「ううん、そうさせたのはわたしだから……それに、嬉しいから。だから、ねぇ、好きにして、クーっ……」

川; - )「っ――」

ξ; д )ξ「ずっとずっと、我慢させて、耐えさせてごめんね。ここには誰もいないから、何の邪魔もないから、だから――」

 その先の台詞をクーは待てなかった。
 暴走そのものだった。彼女は野獣の如くに瞳を光らせると、そのままにツンを喰らおうと――

209 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:38:09 ID:GyYSCP1M0

( ´∀`)「――ただいまぁー。今帰ったモナ、クー!」

( ‘∀‘)「ツンお嬢様ぁー? お腹は空いていませんかぁー?」

ξ; д )ξ「「っ!?」」( - ;川

――したその時。帰宅をしたのはクーの父と母だった。
 ツンとクーはそれを捉えると即座に冷静になり、クーは急いでツンを抱えると二階の自室へと駆け上がる。

( ´∀`)「モナ? クーかモナ? 何してるんだモナ?」

川;゚ -゚)「なっ、なんでもないっ。ないからっ」

 父は珍しく足音を響かせて階段を上るクーに大きな声でそう問う。
 クーは適当な返事をし、自室の扉を開けるとツンと共になだれ込んだ。

川;゚ -゚)「はぁ、はぁっ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、危なかったぁー……」

 息も荒く、クーは扉の前に座り込むと腕の中にいるツンの言葉を聞いて頷きだけを返した。
 そうして二人は動悸を静めるのだが――

210 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:38:45 ID:GyYSCP1M0

川;゚ー゚)「……ふふっ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……? どうしたの、クー?」

川;゚ -゚)「いえ、だって……」

ξ;゚⊿゚)ξ「んん?」

川;-ー-)「おかしいな、と思いまして」

ξ;゚⊿゚)ξ「おかしい?」

川;゚ー゚)「はい……おかしいです」

ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ。そうだね……おかしいねぇ。あははっ」

――笑いがこみあげてくると、二人は暫くそうして笑いあった。
 ツンは久しくそれを聞いた。クーの笑いを。
 それは何も取り繕うことのない自然なもので、ツンはそれを聞けただけで満足だった。

川 ゚ -゚)「でも……応えるとは言ってませんからね、お嬢様」

ξ゚ー゚)ξ「ふふん、いいもーん。その気にさせるだけだもんっ。それに……覚悟も出来ましたっ」

川 ゚ -゚)「……? 覚悟?」

ξ゚ー゚)ξ「ふっふっふっ……まぁそれはいいのっ。それより、そろそろ下にいかないと怪しまれるかもだよ?」

川 ゚ -゚)「そうですね。それではお召し物をご用意します」

211 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:39:22 ID:GyYSCP1M0

ξ゚ー゚)ξ「……続き、いつしよっか?」

川 ///)「っ――げほげほっ! なっ、何をいきなりっ……」

ξ^ヮ^)ξ「あははっ。もう、クーってば大袈裟だなぁ」

川 ゚ -゚)「……お嬢様。今夜は野菜、多めに出しますね」

ξ;゚⊿゚)ξ「えぇっ!? あぁっ、そんな、慈悲もないよそんなのっ。ごめんってば、クーっ!」

 ツン嬢と寡言なクーには秘密がある。
 それは誰にも言うことの出来ない、秘められた愛だった。






 Break.

212 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:39:46 ID:GyYSCP1M0



 21


.

213 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:40:08 ID:GyYSCP1M0

 四日目の昼。
 昨夜、互いの気持ちを打ち明けたツンとクーと言えば――

川 ゚ -゚)「つまり、この当時のイングランドはフランスへと攻め入る際に……」

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー?」

川 ゚ -゚)「何でしょうか、お嬢様」

ξ゚⊿゚)ξ「あのね……なんでお勉強してるのかな?」

 まるで昨日のことなどなかったかのように、いつも通りの日常を過ごしていた。

 その日、ツンは目覚めると直ぐ様にクーの部屋へと向かった。
 初日以降、宛がわれた部屋で過ごしていたツン。
 クーの口から本心を告げられた昨夜はどうしても夜を共にしたかったが、しかしこれをクー本人に断られた。

 何故駄目なのか、と諦めきれずに食い下がったツンだったが、その返答としての――何を仕出かすか分からない、と言う台詞と赤く染まったクーの表情。
 果たしてそれはどちらの正常を問うのか、と思ったりもする。

 が、しかしツンは仕方なく客室へと引き下がると、こうして明けた日になり直ぐ様クーの下へと向かう。
 早朝のクーの態度は普段通りだった。ハートフィールドにきてからは毎朝彼女が朝食を作り、それをツンは黙々と食べた。

 食事が済み、洗い物も済み、掃除も済み、さあいよいよ昨日の続きをしよう――と逸ったツンだったが、クーは教鞭を持ち出すと、勉強をしましょう、とだけ言った。

 そうして昼の今に至るまで延々と国史が続いた。
 最初はツンも我慢をした。これもクーの照れ隠しで、未だに彼女は心の整理がついていないものだと思った。
 しかし教鞭を振るう彼女と言えばまるで城にいる時のようで、もしかしたらこれは、昨夜の件を有耶無耶にするつもりなのでは、とツンは思う。

214 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:40:37 ID:GyYSCP1M0

川 ゚ -゚)「何故、で御座いますか」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「うんっ」

川 ゚ -゚)「時が惜しいのです」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「何も惜しくないよっ。休暇中でしょっ」

川 ゚ -゚)「素養を得ることに休みは御座いません、お嬢様」
  _,
ξ゚〜゚)ξ「ぐぬぬっ……だからって本広げて教鞭まで持ち出すことはないよっ」

川 ゚ -゚)「お気に召しませんか」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「そう言う問題じゃなくってっ」

 あっけらかんとするクー。
 その態度にツンは煽られ、ふくれっ面をして反抗の意思を示す。
 が、そんなツンだったが――

ξ゚⊿゚)ξ(……あれ?)

 気付くのだ。今更になって。
 今日のクーはいつも通り、普段通りのようにも見えるが若干の違いがある。
 一体何が違うのか、と疑問を抱きつつもツンはクーをよく観察すると――

215 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:41:06 ID:GyYSCP1M0

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー?」

川 ゚ -゚)「何でしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「シャツなんだけどね」

川 ゚ -゚)「はい」

ξ゚⊿゚)ξ「……ボタン、かけちがえてるよ」

川 ゚ -゚)「……はい?」

 そう言われてクーは己のブラウスを見る。
 確かにボタンが一つずれている。

ξ゚⊿゚)ξ「それとね、クー」

川;゚ -゚)「な、なんでしょうか――」

ξ゚⊿゚)ξ「綺麗だね、お化粧」

川;///)「っ……!」

 本日のクーは少々可笑しかった。
 身に纏うブラウスのボタンは掛け違えていたくせに、何故かメイクは丁寧で、いつも以上に美に磨きがかかる。
 ちぐはぐだ、とツンは思ったが、いつも通りを意識しすぎて逆に覚束ないクーを理解すると、胸の中には愛しさが溢れ、更には抱きしめたい衝動に駆られた。

216 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:41:51 ID:GyYSCP1M0

ξ゚⊿゚)ξ「……いつもより綺麗だね。なんで?」

川;///)「あ、いや、これは、その」

ξ゚⊿゚)ξ「お家の中なのに」

川;///)「……その、後で少しでかけようかと思っておりまして」

ξ゚⊿゚)ξ「本当に?」

川;///)「……はい」

ξ゚ー゚)ξ「本当の本当にっ?」

川;///)「…………」

 言葉を失ったクーは顔を赤くして俯く。
 その反応があまりにも可愛らしいので、ツンは更に捲し立てたくなった。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー。意識してるの?」

川;゚ -゚)「……何のことでしょうか」

ξ゚〜゚)ξ「もうっ、またそうやってとぼけるっ。二人きりの時くらい素直になってよぅ……」

川;- ,-)「……お嬢様。そうは仰られますが、このクー、何度も言うようにあなた様の従者で御座いますれば。
     そうなれば如何なる感情や理由があろうとて、それ相応の態度で――」
  _,
ξ*゚⊿゚)ξ「襲ったくせにっ」

217 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:42:23 ID:GyYSCP1M0

川;゚ -゚)「っ……人聞きの悪い言葉です、それは。あれはお嬢様がそうせよと申したのです」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、それ責任転嫁って言うんだよっ」

川;゚ -゚)「誘い受けたのはお嬢様で御座います」

ξ;゚〜゚)ξ「ま、まぁ、確かにそうだけどぉ……」

 昨日の光景を思い出してか、二人の顔は同時に赤くなる。
 そうして顔を背けた互いだったが、少しばかりの静寂が流れるとクーが言葉を紡いだ。

川 ゚ -゚)「……あなた様はわたくしをどうしたいのですか」

ξ゚⊿゚)ξ「決まってるでしょ。分かってるでしょ」

川 ゚ -゚)「……それは叶わないことです」

ξ゚⊿゚)ξ「でも相思相愛だよ」

川;- ,-)「っ……気持ちだけでは、どうにでもなる訳では――」

ξ*゚⊿゚)ξ「なるんだよねぇ、これが!」

川;゚ -゚)「……はい?」

 何故か誇らしげに胸を張るツン。
 そう言えば昨夜も何やら妙なことを言っていた気がする、とクーは振り返るが、果たして予想はつかなかった。

218 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:43:17 ID:GyYSCP1M0

ξ゚⊿゚)ξ「今まで……今までずっとわたしの為に我慢してたんだよね、クー」

川 ゚ -゚)「…………」

ξ-⊿-)ξ「なら、今度はわたしがそれに報いる番なんだっ。だから改めて言うよ、クー。
       わたしはクーが好き。大好き。そんなクーを手に入れる為なら、なんだってする!」

川 ゚ -゚)「……お嬢様?」

 愛の告白――何度聞いても慣れず、クーの顔は茹でた蛸然り。
 しかしどうにもツンの考えていることが分からないクーは、もしや何か悪巧みでもしているのでは、と勘繰る。

ξ゚ー゚)ξ「応えることはできないって言うけどね、クー? 答えを貰ったわたしは絶対にあきらめないよ。
      クーを幸せにするし、絶対に手放さないもんねっ」

川 ///)「っ……そんなに言わないでくださいませ、お嬢様っ……」

ξ*゚ー゚)ξ「え? あ……ふふっ。耳まで真っ赤だよ、クー?」

川 ゚ -゚)「……やはりあなた様は酷いお方です」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうかな?」

川 - ,-)「そうです……」

 クーの胸中にあるのは憎しみや怒りではない。それとは真逆(まさか)の感情――幸福だった。
 夢に見ていた。ずっとそうありたいと願い、思っていた。
 隠し、秘密にしていたその愛情をツンへと伝え、いつか互いに気持ちを共有できたなら――そんなことを夢に見た。

 しかし夢は夢では終わらない。
 いつの日かクーは自身の口から夢は見るものであり叶えるものではないと言った。
 皮肉か否かはさておき、今の彼女は確かに夢を見て、更には叶えていた。

219 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:44:02 ID:GyYSCP1M0

川 ゚ -゚)「……絶頂、か」

ξ゚⊿゚)ξ「え? なに?」

川 - ,-)「いえ、なんでも御座いません」

 呟きの意味こそはつまり彼女の幸福の度数を物語る。
 一つ咳払いをしたクーは再度ツンへと向き直る。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー。ちょっとこっちにきて」

川;゚ -゚)「……お嬢様」

ξ*゚ -゚)ξ「お願いっ」

川; - )「……っ」

 断りたい――でも断りたくない、とクーの心の中で葛藤が生まれる。
 理性と知性が本能に歯止めをかけるのだ。きっと己の主は愛を求めていると悟るが故に。

 だがそれに従いたいのが彼女の本心であり、彼女もそれに飢えていた。愛情――愛する者に触れたいと思う。
 結局、クーは俯いてしまうが、その足はツンの下へと向かう。
 近くにまで迫ったクーの手を取ったのはツンで、接触した二人は同時に互いの顔を見た。

220 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:44:46 ID:GyYSCP1M0

ξ*゚ -゚)ξ「……やっぱり真っ赤だね」

川 ///)「……お嬢様も人のことを言えません」

ξ*゚ -゚)ξ「そんなに赤い……?」

川 ///)「はい。とても」

ξ* - )ξ「それはクーもだよ。ねぇ、もっとこっちに……――」

川; д )「あっ、ダメっ、お嬢様っ……――」

 手を引かれたクーはツンの膝元に迫る。
 互いの顔は超至近距離で、興奮の為か両者の息遣いは荒かった。

 ツンは手をクーの頬へと伸ばす。触れられたクーの瞳の奥では瞳孔が開いた。
 長い睫毛は震えをみせ、紅潮する頬は初心な生娘の体現だった。だがそれが尚更ツンの激情を煽る。

 クーの頬に手を添え、無理な力を加えずに見合うように顔を向ける。
 見上げるクー、見下ろすツン。互いはそのまま惹かれあうようにして唇を重ねた。

ξ*///)ξ「んっ……ふぅっ、んっ……」

川;///)「ぁっ……んんっ……」

 まるで色に狂うが如く――クーは熱っぽい頭でそんな事を考えた。存外脳の芯は冷静で、不思議な程に思考が巡る。
 クーはツンを味わう。肌の温もりを得て、薫香を聞(き)き、心音を聞くと途端に幸福が胸の中に溢れる。

川; - )(――……私、このままだと、本当に……)

 ダメになる――そう思う程、それは夢心地だった。
 いっそこのまま抜け出せないのならば、それが最上の幸福とも呼べるのかも知れない。
 だが唇の接触は十秒程度で、静かに熱を別った二人は、潤んだ瞳で互いを見つめる。

221 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:45:13 ID:GyYSCP1M0

ξ* - )ξ「……ダメだった……?」

川 ゚ -゚)「……聞かないでください……」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、もうっ。そっぽ向かないでってばっ」

川 ゚ -゚)「……いやです」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……クーって、意外と子供っぽいところあるよね」

川 ゚ -゚)「そんなことはありません」

ξ゚ー゚)ξ「あるよ。昨日も――ううん……前からそうだった」

川 ゚ -゚)「……前?」

ξ-⊿-)ξ「うん。昔から……ね?」

川 ゚ -゚)、「そう、でしたか……?」

 仮面を装着する前――その当時、クーはツンとよく笑いあった気がする。
 だが己がどう言ったように接していたのか、それは遠い記憶に思えた。
 自身の過去に困惑するクーだが、しかしツンはそんなクーを見ると、やはり変わらないままだ、と一人で安心をする。

ξ゚⊿゚)ξ「だから好きになったんだろうなぁ」

川 ゚ -゚)「え……?」

ξ゚⊿゚)ξ「だってね、クーっていつもそうでしょ。いつもいつも……わたしのことを真っ直ぐに見て、大事に思ってくれて……
      優しかったり厳しかったり、わたしを愛してくれてるでしょ」

川 ゚ -゚)「っ――」

 そう言われるとクーは再度顔を赤熱に染め上げた。
 果たしてそれは愛情故の態度だったか、と問われたらば、彼女は頷く他になかった。

222 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:45:59 ID:GyYSCP1M0

ξ゚ー゚)ξ「そりゃ好きになるよ、惚れるよ。そもそもわたしだって一目惚れみたいなものだったんだもん。
      そんなわたしを大事に大切に可愛がって……罪なのはどっちかなぁ、クー?」

川;゚ -゚)「うっ……いやしかし、それは、だって、お嬢様っ。わたくしはレディースメイドな訳で――」

ξ゚ー゚)ξ「それで、そういうところ。その可愛いところ……やっぱりずるいのはクーだよ」

 そう言いつつも、ツンはクーの隙をついて彼女の唇に優しく花弁を宛がった。
 一瞬の接触。だが伝う熱と感触は確かなもので、クーは困ったように俯くが、実際はこれ以上恥ずかしい表情を見られまいとしたが為だった。

ξ*^ー^)ξ「……好きだよ、クー」

川//-/)「……っ」

 クーを抱きしめるツン。
 愛を向けられ、更には与えられ、一体子供はどっちなのだろう、とクーは思う。

 既に気持ちは知られている。
 今更取り繕ったところでどうなる――そこまでクーは考えると、一つ、二つと呼吸を整え、そうして一つの決心をした。

川 ///)「わたくしも……好き、です……」

ξ。゚⊿゚)ξ「クー……!」

 それは初めて自発的に口にした愛の言葉だった。ツンはあまりの嬉しさに涙が込み上げてきた。
 そうして二人は改めて抱きしめ合い、互いの気持ちを今一度噛みしめ、その温かな幸福を胸の中に大切に仕舞うのだが――

223 ◆hrDcI3XtP.:2019/10/06(日) 17:46:27 ID:GyYSCP1M0

川 ゚ -゚)「ですがお勉強は続けますよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「げっ」

川 ゚ -゚)「お気持ちは嬉しく思いますが……必要なことは済ませねばなりませんので。さあお嬢様、筆を」

ξ;゚д゚)ξ「もうっ、本っっっ当にクーってずるいよね!」

 クーは空気に流される訳にはいかぬと己に鞭を打ち、なんとか色呆けた頭を冷静にする。
 ツンと言えば大きく溜息を吐くと机に突っ伏し、誠、このメイドは容赦の一つもない、と呟く――

川 ///)「……ご褒美を、さしあげますので……どうかお嬢様……」

ξ*゚⊿゚)ξ「――やるっ!」

――わけもなく。
 さて、勉強を終えたらどのような願いを口にしてみようか、とツンは褒美ばかりを待ち遠しにした。






 Break.


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