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ξ゚⊿゚)ξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです
1
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/13(金) 23:12:00 ID:WVkvC8.U0
・書き終わり済み。
・百合、GL、おねロリ要素過多。
・投下は週一か二程度。
255
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 18:31:57 ID:mPuzPAtc0
(´・ω・`)ちんぽ
256
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 18:34:14 ID:XNW9ut5U0
乙あああああ
257
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:39:56 ID:53.STGpE0
25
.
258
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:40:53 ID:53.STGpE0
とある時期を境にツンは激変したと噂される。
それはクーの故郷から帰還を果たしてすぐだった。
朝は目覚めが早く、食事には文句の一つも言わず、勉学には今まで以上に熱心に取り組む。
その姿勢は嘗ての変化――三年前のそれとは比較にならない。
何が起きたか、何があったのか、と誰もが疑問を抱いたが問いを向けることはしなかった。
更にはツン嬢と言えば芸術や音楽等以外にも新たな分野へと食指を伸ばす。それこそは――
ξ;゚⊿゚)ξ「えいっ、やぁっ!」
――剣術、そして軍事学。
これにクーは大反対をした。
何を思ってうら若き乙女が剣を取り軍(いくさ)の何たるかを学ぶ必要があるのか、と。
しかしツンはクーの意見を無視する。
講師を招くと剣の指導を願い兵法を学んだ。
クーは常々ツンの傍にいたが、ツンの必死な様子には不安も覚えた。
だがツンは止まらない。
寝る間も惜しむように本を広げ、夜分にもかかわらず部屋の明かりは消えない。
時折様子を見やりに従者達が通りがかれば、そこには机に向かい筆を走らせる令嬢の姿あり。
どうしてしまわれたのか――皆の口癖だった。
今までだって十分に立派と呼べた。齢十三とは思わせない所作や風格も確かにあった。
だが彼女はそれよりも更に高みを目指そうとする。
259
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:41:54 ID:53.STGpE0
令嬢に完璧は求められない。これは絶対だ。極めてはならなかった。
それは勉学にせよ芸術、他音楽等、兎角様々な分野において知識を広く持つことは求められたが程々が望ましかった。
それは男性の尊厳云々ではない。
それが可愛気というやつであり、足らないことこそが人の関心を引く。
だのにもかかわらずツンはまるで男子の如くに剣を振るい始めるのだから世間は騒ぐ。
恐らくは未だ帰らぬ父を憂いてのこと――如何に御令嬢と言えども名高きティレル家。
然らばティレル卿のお力となるべくその意思をお示しになられたのだろう、と世間は判断する。
だが近くで見る者等の思うことは違う。それは一心不乱の何もかもで、見ていて不安を駆り立てられた。
川 ゚ -゚)「お嬢様、失礼します」
ξ゚ -゚)ξ「ん……」
その日の夜、クーは温かい飲み物を持ってツンの下へと訪れた。時刻は丁度日を跨いだ頃合いだった。
だがツンは筆を走らせることに集中し、返事も素っ気のないものだった。それにクーは何とも言えない表情になる。
クーは彼女の傍へと近寄ると紅茶を手元へと置いた。
そうして瞳を伏せ一つ呼吸を置くと改めて主の名を呼ぶ。
川 ゚ -゚)「お嬢様。お茶で御座います」
ξ゚ -゚)ξ「うん……ありがとう……」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ゚ -゚)ξ「ん、なに……?」
川 ゚ -゚)「お茶で御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「……クー?」
260
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:42:38 ID:53.STGpE0
集中の程は驚異的――目を見開き食い入るように資料を見つめるツン。
その空気感は、或いは狂気をも醸す程だったが、けれどもクーはツンの手に己の手を重ねる。
そうするとようやくツンは意識を完全にクーへと向ける。
伝う体温を感じてツンは己の体温が酷く低下していることに気付いた。
空気は未だに冬で、当然夜分は冷えた。
寝間着のみで羽織るものもなく、思い出したように身震いをするとクーを見つめた。
ξ-⊿-)ξ、「ごめん、もしかして心配させたかな……」
川 ゚ -゚)「……いいえ。真面目に取り組まれているところに邪魔をして申し訳ありません」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、有難う。止めてくれて……」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
クーは何処となく憂うような表情でツンを見下ろすと傍へと寄り、温かな羽織を着せた。
包まれるような温もりを感じるとツンは不思議な程に安堵し、ついで肩に乗るクーの手を握りしめそれを己の頬へと寄せる。
ξ゚⊿゚)ξ「……訊かないんだね、何も」
川 ゚ -゚)「……憚られることで御座いますれば」
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな。でも心配なんでしょう?」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ゚ー゚)ξ「言わなくても分かるよ。クーのことくらい……」
上目使いを寄越されたクーは唇を噛みしめた。
261
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:43:25 ID:53.STGpE0
川 ゚ -゚)、「……お嬢様。流石にこんな調子ではお身体を壊します」
ξ゚ー゚)ξ「ん……でも、今のところは大丈夫だから」
川 ゚ -゚)「今は、です。何があったのか、どうして急に様々なことに熱心になられたのか……それを問うことはしません」
ξ゚ -゚)ξ「……うん」
川 - ,-)「ですが……お願いで御座います、お嬢様。どうかご自愛くださいませ……」
ξ゚⊿゚)ξ「クー……」
若干の震えた声にツンは胸が締め付けられる。
クーの手から伝う温もりに絆されつつ、ツンは彼女を正面へと招いた。
そうして己の腕を広げると申し訳なさそうな顔をして、けれども照れを思わせる表情で言葉を紡ぐ。
ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、クー。温めて」
川 ゚ -゚)「っ……」
ξ^ー^)ξ「酷く冷えちゃったみたい。紅茶も美味しいけど……クーがいいの」
川 ゚ -゚)「……お嬢様……」
クーは恐る恐ると腕を伸ばし、ツンの華奢な背を抱き寄せる。
密着するとツンの身体が大層疲れていることが感覚から分かった。
首は凝り固まり背は軟く、腕の動きはぎこちない。
クーは己の胸の中へと顔を埋(うず)めたツンを見下ろすと、尚更に悲しい表情をしてツンの頭を撫でた。
262
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:44:08 ID:53.STGpE0
ξ-⊿-)ξ「……ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「……なんでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「前に言ったよね。わたしの気持ちに応えることはできない、って」
川 ゚ -゚)「……」
事実だった。自身の気持ちを答えはしたが、それでもツンの気持ちに応えることはできないと彼女は口にしている。
それを寄越されてもツンはめげもせず、日々愛を紡ぎ、唇を重ね、時に人には言えないような劣情の景色に二人して沈んだ。
だがそこから先はない。愛を交わしはするがそれだけで、二人は、結局は他人の間柄、主従関係でしかなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「クーは頑固だから、だから……わたしの命令でも首を縦にはふらないでしょう?」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ、でもそんなところが好き。ねぇ、大好きなの、クー」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
ξ*^ー^)ξ「だからね……頑張るんだぁ。絶対にクーを幸せにするんだ。だって相思相愛なんだもん。だったら叶えたいよ。
夢はね、クー。叶えるものなの。わたしはそう信じてる」
川* - )「っ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「心配をかけてごめんね。でも、大丈夫だから。止まる訳にはいかないし、クーを手放したりも、しないっ……」
川 ゚ -゚)「……? お嬢様?」
263
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:45:01 ID:53.STGpE0
クーはツンの息遣いを聞くと嫌な予感が過った。
急いで身を離すとツンの額へと手を宛がう――と、同時にその熱量に思わず驚いてしまう。
体躯は未だに冷たいが、それは内部に熱が籠っているからだった。
ツンの吐息は荒く、更には熱っぽかった。瞳は潤み、それは単純に疲弊を物語る。
ξ; ⊿ )ξ「げほげほっ……ああ、もうっ、我慢してたのにっ……」
川;゚ -゚)「お嬢様っ。まさかお気づきになられていたのでっ」
ξ; ⊿ )ξ「そりゃあ、自分の身体だもん……げほっ。うぅっ……」
川;゚ -゚)「これは大変っ……至急医者をお呼びしますっ」
思考が恋する乙女から侍女のそれに切り替わると彼女はチャームを鳴らす。
その音を聞くと直ぐ様に女中が駆けてきてツンの部屋へと飛び込んできた。
「なにごとですかっ」
川;゚ -゚)「そこのあなた、至急お医者様をっ」
「クー様っ。お嬢様は如何なされたのでっ」
川;゚ -゚)「風邪です、咳もありますっ。症状は高熱と咳だとお医者様に先だってお伝えなさいっ」
「はっ、畏まりましたっ」
忙しなく駆けていく女中を見送るとクーはツンを抱きかかえてベッドへと運ぶ。
まるで思い出したようにツンの身体は汗をかき、クーは寝かせたツンの額を拭いつつ、他の従者を呼ぶと氷と水を持ってくるようにと命令を下した。
264
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:45:54 ID:53.STGpE0
ξ; ⊿ )ξ「もうっ、おおげさだよ、クー……げほっ……」
川;゚ -゚)「何を仰いますかっ……大袈裟だろうがなんだろうが、こうもなりますっ……」
ξ; ⊿ )ξ「クー……」
川;゚ -゚)「無茶ばかりだからです……身体を壊しては本末転倒なのです、お嬢様っ……」
ξ; ⊿ )ξ「たかだか風邪だよ……そんなに、そんなに……悲しそうな顔をしないで、クー……」
クーの性格からして、恐らく彼女は自責の念に駆られていた。
己の管理が行き届いていなかったと。それがレディースメイドの役割であり、それを怠ったが故に主は風邪をひいてしまったのだ、と。
だがツンはそんなクーの頬へと手を添えると微笑んだ。
ξ; ⊿ )ξ「ねぇ……どうしていつもそうなの、クー」
川;゚ -゚)「何がですかっ……」
ξ; ⊿ )ξ「どうしていつも……わたしをそんなに心配して、大事にして……愛してくれるの」
川;゚ -゚)「っ――……」
その問いを向けられたクーは数瞬挙動を失う。
が、彼女は己の頬へと添えられたツンの手を取り握りしめ、毅然と言葉を返した。
265
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:46:48 ID:53.STGpE0
川; д )「あなた様を心底、心底っ……慕い、愛し……欲するが故ですっ……」
支えになるべく――それは転じれば、その者なしでは生きていけないのと同義だ。
ツンは眼を見開いた。クーのその返事はあまりにも幸せで、それと同時に彼女の覚悟の全てを見た気がしたからだ。
川; д )「あなた様が全てなのです……あなた様と出会ったあの日から、私の中にはあなた様しか存在しないっ。
映る世界にあなた様がいるから……だから意味があるっ」
ξ; - )ξ「クー……」
川。 д )「我が生涯は全てあなた様に捧げたのです。それでいいと思えたから、だからこの立場を欲した……
あなた様を御守りし、支えることが私の生きる意味ですっ……」
ξ;。 - )ξ「っ……」
川。 д )「お願いです、お嬢様……お願いですから、もう無茶は止めてくださいっ……」
零れた雫――涙を見てツンも感情が溢れた。二人は声を漏らすこともなく、静かに冬の雨に包まれる。
騒ぐ回廊からは、じきに医者がみえる。
だが如何なる薬を持ち寄ったとて、恐らくこの病だけは治せまい――ツンとクーは最早後戻りはできないと実感をする。
ξ。 - )ξ(ああ、わたしは、本当にクーのことを――)
川。 - )(……もう、誤魔化すことはできない。私は、ツン様のことを心の底から――)
不治の病とは、つまりは恋煩いを言った。
ξ。 - )ξ((愛してるんだ……))( - 。川
乙女と佳人はこの瞬間、初めて互いの心が一つになった気がした。
266
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:47:31 ID:53.STGpE0
Can't stop.
.
267
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:47:51 ID:53.STGpE0
26
.
268
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:49:12 ID:53.STGpE0
インド攻略の一幕、ティレル卿は凱旋を果たす。
未だシパーヒーの抵抗が続く最中でのこの事態にクイーンですらも如何したかと慌てた。
が、彼――ティレル卿は必要な者は立ててある、心配は無用だと述べ、バッキンガム宮殿からそのまま馬車に乗り付けて己の城館へと帰還する。
従者達は慌てふためいた。
帰還の報せは半月前に寄越されたが何を思っての凱旋なのかが謎だったからだ。
よもや先の騒動――ツン嬢の家出紛いが知られたか、と皆は恐れおののいた。
しかしそんな皆の恐怖や心配は杞憂に終わる。
クイーンをもして恐怖させた彼の冷徹な空気感こそは、つまり、愛する嫡女が体調を崩したが故だった。
(; ^ω^)「ツン、大丈夫かお!」
彼は出迎えの者等すら無視をし、更には自身の歳も鑑みず駆け出すとツンの寝室へと飛び込んできた。
ξ*゚⊿゚)ξ「お父様っ。お帰りなさいっ」
( ^ω^)「おぉ、ツン! 僕の愛する天使……うぅん、大丈夫だったかお? 体調はもういいのかお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「もうっ、風邪を引いたのは半月も前の話だよ、お父様?」
( ^ω^)「おぉ、そうだったおねぇ。いやさ、ツンが風邪を引いたと聞いたらもういてもたってもいられなくておぉ……
別の者に指揮を任せてすっ飛んできたお」
つまり、彼は親馬鹿だった。
此度の帰還の真実はツンを心配したが故で、それを誰に告げるでもなく、己の執事(バトラー)を連れ立ってきた。
情報は逐一彼から知らされていた。初老の眼鏡をかけた彼はブーン・ティレル卿の後ろに控え、ツンへと深く頭を下げる。
269
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:51:02 ID:53.STGpE0
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……もしかして帰ってきた理由ってわたしだったの……!?」
( ^ω^)「お? そうだお?」
その台詞にツンは呆け、更には彼女の傍に控えていたレディースメイド――クーまでもが呆然とし愕然とまでした。
驚きの真相とはこう言うものが常であり、これでは探偵も仕事がないな、とクーは思うことで何とか平常心を保つ。
( ^ω^)「お、クー。久しぶりだおね」
川 ゚ -゚)「はっ。お帰りなさいませ、マスター……」
クーは視線と言葉を寄越されるとその場に膝を突く。
するとティレル卿は楽にせよ、と紡ぎ、クーは立ち上がると再度礼をする。
川;- ,-)「申し訳ございません、マスター。わたくしがついておりながら……」
( ^ω^)「おぉー……なにかお、君は罪の意識でも抱いているのかお?」
川;゚ -゚)「当然のことで御座いますっ。
我が命、そして我が意味意義こそはツンお嬢様の生活全てを支え完全とすることにありますっ」
(; ^ω^)「うむむ、相変わらず君はどうも真面目過ぎるお……話は聞いてるお、クー。そして……ツン」
と、彼はクーの様子を宥めつつもツンへと厳しい目を向けた。
( ^ω^)「ダメだお、皆を心配させては。夜遅くまで勉強して、しかも日中には剣の稽古や兵法まで学んでいたと」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……な、何でそれをっ……」
( ^ω^)「我が執事を侮ってはいけないお、ツン。僕の前で隠し立てなんて無意味だお。
ましてや愛する娘のことだ、全て……全て知っているとも」
その台詞はまるで死神が鎌首を擡(もた)げる様を思わせた。ツンもクーも顔を蒼褪める。
よもやハートフィールドでの出来事までをも知っているのか――
270
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:52:12 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「ツン。何を目的とするんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……え?」
( ^ω^)「分からないと思うかお、僕が。急に剣や軍事学にまで食指を伸ばす……何を思っているんだお?」
ξ;゚ -゚)ξ「っ……」
流石に先の事件は知らない様子だった。が、しかしティレル卿はツンに鋭い眼差しを向ける。
何やら彼は勘付いている様子で、それを彼女に問うのだ。
まるで見透かされたかのような感覚に陥ったツンは、暫し顔を俯けると傍に立つクーの手を握る。
川 ゚ -゚)「お嬢様……?」
ξ;゚ -゚)ξ「…………」
ツンがハートフィールドから帰ってきてからの変化。
結局、何を目的としているのかは誰にも不明で、ツン自身もそれを口にすることはなかった。
( ^ω^)「我が娘、我がツン。僕はお前の父親をしている。
傍にいることが出来なくてもお前のことをずっと想い、常に心配を寄せていたお」
ξ;゚ -゚)ξ「…………」
( ^ω^)「そんなお前がここ最近では男児の如くに様々なことに取り組んでいると言う。
これを不審に思わない者がいるはずもないお。だが皆には分からない。お前が何を思うのかを」
ξ;゚д゚)ξ「……お父様」
( ^ω^)「もう一度言うお、ツン。僕は君の父親をしている。
ティレルの家督を継ぎ、貴族として……侯爵として君の父をしている」
ξ; - )ξ「っ……!」
271
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:53:39 ID:53.STGpE0
その言葉にツンは顔を跳ね上げた。その瞳は鋭く、額には脂汗が滲む。
対してティレル卿の双眸は揺らぐこともなく、ツンの顔を真っ直ぐに見据えた。
川;゚ -゚)(まさか、お嬢様は――)
先の問い。結局それを口にすることは叶わず、真相を確かめることも出来なかったクー。
だがティレル卿の言葉、そしてツンの態度でいよいよ氷解した。
ツンがここ最近目覚ましい勢いで勤勉になった事実、覚醒するに至る発端――理由を。
ξ; - )ξ「お父様……端的に言うね」
( ^ω^)「なんだお」
一度呼吸を置いたツン。クーはツンの手が強張っていること、そして震えていることに気付く。
握りしめられる手から伝わるのは汗で、ツンは大層に緊張と恐怖をしていた。
クーはツンを止めようと思った。
その一言を紡ぐとあれば、後に待つ未来は恐ろしく絶望的だと悟るが故に。
だがしかし、ツンのその瞳を見た時、クーは閉口するのだ。
それは怯え、恐れ、泣き出しそうな、そんな弱々しさを思わせる。
だのに、その眼光だった。
退かないと決めた者の目だ。
決意をし、前へと進むと決めた者の目だ。
そして戦うことを選んだ者の目だった。
ツンの小さな唇が動きを見せる。
そうして空気が震え、今、ツンはその一言を――
272
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:54:02 ID:53.STGpE0
ξ゚⊿゚)ξ「ティレル家の家督。わたしに頂戴」
.
273
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:55:17 ID:53.STGpE0
――爵位継承権、並びに家督を全て寄越せとのたまうのだ。
場には緊張が走った。それは口にしてはならぬ――否、実現することはほぼ不可能なことだからだ。
何よりとしてティレル卿はそうならない為にと彼女をネラア家に嫁がせるつもりだった。その意思も三年前に本人に告げていた。
だが彼女はそれに首を振った。縦にではない、横に振ったのだ。
では如何するか――となるのが普通だが彼女は更に己がこの家を継ぐと申した。
前代未聞――そう言う訳でもない。
軽く触れたことだが、英国に限っては女性にも継承権が発生する。
それにはクイーンの同意が必要となる。つまり彼女を説得しなければならない。
だがそれさえ完了すれば女性でも爵位を賜ることが出来る。
ツンはそれを望んだ。
己は何処にも嫁がぬ。騎士として、貴族として、軍(いくさ)を従え展開する者として家督を継ぐと。
故に剣術から兵法、更には経済軍事、他政治等の知識を求め、それの師事を仰いだ。
クーは目を見開く。想像していた台詞だった。だが出来れば杞憂であって欲しかった。
川 ゚ -゚)「――なりません」
ξ;゚⊿゚)ξ「クーっ……」
ティレル卿が何かを言う前にクーが言葉を発する。
ツンはクーを睨むのだ。だがそれに対してクーもツンを睨む。
川 ゚ -゚)「あなた様はそのような立場になるべきではありません、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「わたしが決める」
川 ゚ -゚)「なりません」
ξ゚⊿゚)ξ「わたしが決めるの」
川 ゚ -゚)「お嬢様」
274
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:56:24 ID:53.STGpE0
ξ#゚⊿゚)ξ「わたしが決めるのっ!」
頑として聞かぬ――そんな態度にクーの中で怒りが燃える。
川 ゚ -゚)「お分かりにならないので。父君のお気持ちが、お考えが」
ξ#゚⊿゚)ξ「分かるよ。きっと平和って、そうなんだと思うよ。
誰かの庇護の下で平安な暮らしをすることがきっと幸せで苦労もないんだと思うよ」
川 ゚ -゚)「なら――」
ξ#゚⊿゚)ξ「けどね。わたしはそんなの嫌だ」
ティレル卿の眉間に皺が寄り、奥で控えていた執事の顔にも感情が走る。
だがツンは二者の反応には目もくれず、クーと対峙するように立つ。
ξ#゚⊿゚)ξ「好きでもない人の下で生活をして、好きでもない人と愛を偽って、そうして……子供を産んで、
誰とも知らない従者達に世話を焼いてもらう。それって何がいいの」
川 ゚ -゚)「良し悪しでは御座いません。そうすることが正しさなのです」
ξ#゚⊿゚)ξ「正しさ? 何が? ねぇ、わたしの感情はどこにあるの? 何で勝手に決めつけるの?」
川 ゚ -゚)「聞き分けてください、お嬢様」
ξ#゚⊿゚)ξ「嫌だ」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ#゚⊿゚)ξ「絶対に嫌だ」
川#゚ -゚)「――っ……お嬢様……!」
クーは怒りをいよいよ露わにするとツンの肩を掴む。
だが対してツンは一歩も退かず、いっそ迎え撃つようにして真正面から睨んだ。
275
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:58:58 ID:53.STGpE0
川#゚ -゚)「何故わからないのです……幸福とは、生きることにより初めて実現するのです! 家督を継ぐと仰いましたね。
それの意味するところを理解出来ていないお嬢様な訳がありません。ましてや名高きティレル家の御息女とあれば尚のこと……!」
ξ#゚⊿゚)ξ「うん、分かってるよ……当然でしょ。だから剣を習ってるの、だから軍事学を習ってるの」
川#゚ -゚)「それは己から絶望へと迫る愚行です! 侯爵の位を得て立ちたいと仰るのですか!
最前線に、虎口前に! それは戦の場に立つことを意味すると知っているはずです……!」
ティレル家とは大英帝国が誇る一の槍。武家、騎士の家系として古くから王家に仕え戦場では武功を挙げその地位を得た。
戦況がどうであれ勝利を得るまで退くこともなく、また、如何に不利な状況に陥ろうが前進のみを旨とした。
軍の能力は突撃。
白兵戦術を得意とし、後に陸軍統括の地位を得るが――これは後の世の話。
兎角、家督を継ぐとあればツンはこの先、常に戦場を臨むことになる。
それは自然的な死が待つ景色ではない。怨嗟渦巻く、そして殺意渦巻く深淵の底を言う。
禍(まが)つ景色に何故麗しの乙女を立たせたいと思うか――だからティレル卿はネラア家と取り決めを交わし、そんな彼の気持ちを理解したからこそにクーは仮面を用意した。
しかしツンはそんな二人の気持ちや思いやりをも喰らい言うのだ。己こそがこの家を背負って立つと。
川#゚ -゚)「何も知らないのです、あなた様は……戦場が如何程に恐ろしいのかを! そこに絶対的な安全などありはしない!
マスターが何故戦の話をしないのか知らないのですか! それはあなた様を怖がらせない為……あなた様の想像する以上に人は簡単に死ぬ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「っ……分かってるもん、知ってるもん! 先生に聞いたもんっ……人を子供みたいに言わないでよ!」
川#゚ -゚)「分かっていなから言うのです! あなた様は、あなた様はっ……死にたいとでも言うのですか!」
ξ#。゚⊿゚)ξ「っ――そんな訳ないっ!!」
その叫びにはその場にいた皆が驚いた。対峙していたクーまでもが目を見開き、数瞬挙動を失う。
ツンは大粒の涙を零し、それは頬の上に線を描く。嗚咽を噛み殺そうとするが、しかし漏れる声からしてそれは叶わない。
だがツンは真っ直ぐに立つ。クーを見据え、拳を握りしめ、食い下がるように、必死になって叫び散らす。
276
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:00:58 ID:53.STGpE0
ξ#;⊿;)ξ「分かってるもん……怖くて、人がいっぱい死んで、安全だって呼べる場所がない……それが戦場だって分かってるもん!!
それでもわたしはなるって決めた、覚悟してない訳じゃないもん、だから毎日頑張ってたんだもん!!
知らないくせに、わたしのこと、なにもっ、なにもぉっ……しらないくせに!!」
川#゚ -゚)「っ……ならっ、ならっ……選ばないはずです、分かっているのなら、そんな恐ろしい場所に立つと分かっていたのなら、選ぶわけがっ――」
ξ#;⊿;)ξ「クーがいればいいよっ!!」
川;゚ -゚)「っ……!」
クーの言葉が詰まる。
ξ#;д;)ξ「クーがっ、クーがずっと傍にいて……ずっと一緒にいられるなら、何も怖くないよ!! 誰かのとこになんていきたくないよ!!
だったら頑張って侯爵になって、何だってする!! クーと一緒にいられるならどんな怖いことも辛いことも飲み干すよ!!」
川; - )「そんなのっ……そんなの一緒だっ……一緒なんです、お嬢様! 嫁いだ先でだって、わたくしは傍にっ――」
ξ#;д;)ξ「クーが笑ってくれないなら嫌だ!!」
――ツンにとって、そしてクーにとって、お互いは唯一無二で、互いの存在がなければきっと生きていくことは不可能だ。
いずれツンが嫁ぐことになってもクーは彼女の傍に立つ。ティレル卿から直々に頼まれている。ずっと彼女の傍にいてくれと。それにクーは頷いた。
だがツンはそれを幸せだとは思わない。
己の気持ちを殺し、感情を隠し、誰かと偽りの関係を築いて、そんな傍に立つ愛する者を思えばこそ、それは間違いなく絶望の景色だと彼女は悟る。
ξ#;д;)ξ「クー、そんなの幸せじゃない!! クーは泣くでしょ、クーは傷つくでしょ!! ずっと感情を殺して、心を殺して生きていける訳ない!!
そんなクー見たくない!! 傍にいたってお互い傷付くだけだよ!!」
川; - )「っ……」
ξ#;д;)ξ「だったらわたしがクーを幸せにするんだ!! ずっと傍にいて、ずっとずっと愛を囁く!! どんな戦場だって怖くないよ!!
クーがいるならそれだけでっ、それだけ、でぇっ……!! いいんだもんっ……!!」
277
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:02:48 ID:53.STGpE0
ツンのその叫びを受けてクーは涙を零した。
その一言はあまりにも幸せだった。だがそれはツンを絶望へと突き落とすことと同義だった。
だが、二人が言い合う様子を黙して見つめていたのは――ブーン・ティレル卿。
( ^ω^)「……どういうことかお、クー」
川; - )「マスターっ……」
( ^ω^)「君は、もしや……ツンとそう言う間柄にでもなった、と……?」
川; - )「っ――」
犀利なる瞳――それは殺しを根底に置くような、冷徹の一言に尽きる瞳だった。
蛇に睨まれた蛙のようにクーは身動きが取れなくなる。更には呼吸までもが止まり、彼女は死を連想する。
しかし、そんな彼女の前に立ちはだかったのは――
ξ#;⊿;)ξ「そうだよ、なにがおかしいの、お父様……!!」
( ^ω^)「ツン……」
――ツン・ティレル嬢。
涙を流しつつ、嗚咽を漏らしつつ、それでもツンは己のレディースメイドを――否、愛する佳人を護ろうとする。
そんなツンを見てクーは面を伏せた。己の主は、誠、実のところ、大層に胆が据わっている御方だ、と。
例え実の父と言えど鬼のティレル卿を前に臆すこともなく、更には睨み返すその態度。流石はティレル卿の愛娘と呼べた。
ξ#;⊿;)ξ「お父様、わたしを叱るならいいよ……でもクーを怒らないでっ。
クーはわたしの為にずっとずっと我慢し続けてきたんだよ……わたしを護る為に、支える為にって……!!」
( ^ω^)「……本当かお、クー」
川; - )「マス、ターっ……」
事実だ。それはハートフィールドで告白をしている。
だがそれをティレル卿に問われるとクーは恐れた。
己は殺される――そう思うのだ。
けれどもクーの頭中では様々な想いが駆け巡っていた。
278
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:04:17 ID:53.STGpE0
川; - )(本物なんだ。このお方は……ツンお嬢様は本物の愛を抱き、私にくれる。
どこまでも真っ直ぐで、そこまでも純白で、どこまでも敬虔なんだ……)
果たして己はなんなのだ、とクーは自問をする。
ずっと誤魔化し続けてきた。今まで上手くいっていた。
だが感情、そして心が解放されてからの日常は――
川; - )(幸、せ……)
戸惑うことばかりで、恐ろしくも思った。
この景色は夢が見せるもので、目覚めたらいつものように景色は冷え切っていて、己は一歩も二歩も引いた位置からツンを見守るのだろう、と。
だが夢は覚めない。夢は見るものではなかった。
クーはそれを教えられた。それを与えられた。全ては愛する乙女、ツン・ティレル嬢がくれたものだった。
日常が愛しくなった。一日一日が惜しくなった。
共に過ごすと景色はそれだけで輝きを見せ、己の鼓動すらも愛しく思えた。
そうしてツンと見つめ合い、手を取りあい、唇を重ねると、死んでもいいと思えた。
川; - )(愛って……そういうものなのか)
死んでもいい――どうなったっていい。そう思えた。
例え自身が絶望に見舞われたとて、愛を別つ存在が幸せでいてくれるならばそれだけで十分だと思える。
だがそれを別つと、互いは貪欲になり、願わくば愛する者にも幸福を、と願う。
そうして気付く。その考えに至りクーはツンの想いをようやく全て理解した。
川 - )(私は……私はっ……)
クーを愛し、幸福を与える為にツンは決意をした。
それは恐ろしく、絶望ばかりだ。だがそれでも構わないとツンは思う。それは愛情だ。
ツンを愛し、幸福を与える為にクーは決意をした。
だがそこにツンの意思はない。それは彼女の自己完結によるもので、クーは彼女の身を案じるばかりで、本当の意味での幸福を思った時、クーは己を鳥籠のようだと思った。
279
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:05:51 ID:53.STGpE0
それとはまた別に、果たしてツンの意思はクーを傷つけるか否か――傷つける。
結局はこれも独善に等しいものであり、クー自身はツンが傷つくことや苦しむことを望まない。
だがツンは信じていたし、確信をしていた。“己はクーだけのものだ”と。
だからツンは己が誰かの下へと嫁いだら、二人の絆は二度と戻らないと悟った。
川 - )「……申し訳ありません、マスター」
世に善悪、正否と呼べる事柄は、実を言えばない。だがツンの想いこそは真実で、それは純白だった。
クーはそんな彼女と対すると気付く。己は意思を示すことも出来ず、彼女の愛情に報いることも出来ないのか、と。
応えることは憚られた。
それはツンの幸福を破壊することで、きっと、互いに優しい未来は待ち構えていないと悟るが故だった。
だが、もう、彼女は逃げるのをやめた。
正面から対峙した二人。そして正面から自身と対峙したクー。
本当の幸福とは何か。
それはきっと、互い、本当は、求めることは同じだった。
傷つけない為に、そして護る為に――幸せになってくれるようにと願いをこめる。
だがそんな幸福の帰結は、本当は、とても単純なことだったのかもしれない。
川 - )(一緒に生きること……それがどれだけ幸福か。それはとても難しいことだ。でもそれは、願いは、夢は、本当は叶うんだ。
ずっと怖かった、それを口にすることが。そうしたらきっとお嬢様は傷つく。でも、きっと……きっと、どんな絶望だって、二人なら乗り越えられるんだ……!!)
彼女はツンの手を取り、ティレル卿を真正面から見つめる。
瞳には強い意思があった。それはツンと同等の覚悟を秘めたものだ。
そうして彼女は毅然と立つ。己と言う存在と対峙し、そして真実を求め、答えを得て、応える為にと決意をすると――
280
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:06:23 ID:53.STGpE0
川 ゚ -゚)「私はツン・ティレルお嬢様を愛しております」
.
281
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:07:19 ID:53.STGpE0
――そう、口にする。
その言葉にツンは驚き振り返るとクーに抱きしめられた。
川 - )「ずっと……ずっと、愛しておりました、お嬢様。ずっと逃げ続けて、ずっと背を向け……あなた様の愛からも、自身の感情からも目を背け。
ですが……あなた様はどこまでも真っ直ぐで、恐ろしいくらいに純白で……」
クーは静々と涙を零す。
温かなそれを受けてツンも再度静かに涙を流した。
川 ; -;)「気付くのです……己の幸福とは、そしてあなた様の幸福とは何なのかを。私は……あなた様を失いたくない。
誰にも手渡したく……ないっ。そう気付いたら、もう、もうっ……もう、止まれないのですっ、お嬢、さまっ……」
ξ;⊿;)ξ「クーっ……!!」
いつの日かツンが口にした台詞――“誰かの言うことや、世界の定めたものに従い続けるだけじゃ永遠に手に入らない何かもある。己達は偶々そうだっただけだ。”
偶々と言う言葉がクーは好きだった。それは運命性、或いは因果性を思わせる。
つまり、言外に、そして意識せずにツンはクーに対して純粋な愛を紡いでいた。
それを思い出すとクーは胸が温かくなり、それは自信となる。
己は真実の愛を向けられている。そして己はそれに今、確かに応えたいと願っている、と。
( ^ω^)「……偽りはないのかお、クー」
川。゚ -゚)「……はい。申し訳御座いません、マスター」
( ^ω^)「そうかお。了解したお」
282
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:08:33 ID:53.STGpE0
クーは覚悟をした。殺されるにしても、それでも己は愛する者の想いと心に応え、確かに報いることが出来た。
だからここで滅ぼされても、己には意味が生まれ、確りと愛する者の胸に気持ちは刻まれたはずだと。
彼女はアリスを抱きしめたままにその時を待つ。
或いは剣、ないしは銃、ともすれば他の凶器――何で殺されるにしても構わない。
( ^ω^)「ツン。継承権を寄越せだのなんだのと……この僕の意思をくみ取れない程に君は愚かだったかお」
ξ#゚⊿゚)ξ「……愚かなのかどうかは、やってみなきゃ分からないでしょう」
( ^ω^)「やらせる? 何をだお? 軍(いくさ)の指揮を? 君は人の死を受け取められるのかお?
自身の死や、責任や、それを差配する立場になることを?」
ξ#゚⊿゚)ξ「っ……覚悟は、できてるもん……!!」
( ^ω^)「……そうも単純で、簡単なことじゃ――」
ξ#゚⊿゚)ξ「なくったって!!」
ツンは叫んだ。クーの手を握りしめながら、震えつつも、それでも愛する父へと気持ちをぶつける。
ξ#゚д゚)ξ「クーを笑わせる為なら、クーを幸せにする為なら、わたしは歩いていける!! クーと一緒に、どこまでだって行ける、なんにでもなってみせる!!」
その言葉にブーン・ティレル卿は瞳を伏せた。
ツンとクーは息を飲み彼の反応を待つ。
( ^ω^)「……そうかお。そこまで……いや、やはり君達はそうも愛し合っていたのかお……」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、やはりって……」
川;゚ -゚)「き、気付いていらしたんですか、マスター……?」
ティレル卿は、まるで後悔するように息を吐いた。
ツンとクーはその様子に若干の驚きをみせる。
283
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:10:13 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「僕を誰だと思ってるんだお、お前達。ツン、お前は僕の娘だお?
そしてクー。君を雇い、レディースメイドに任命したのは僕だお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「お父様……?」
川;゚ -゚)「マスター……?」
( ^ω^)「噂はよぉく聞いていたし、戦争に行く前からお前達は常々仲がよかっただろうお。決定的だったのは婚姻の話だおね。
あれをしたら二人とも大層様変わりして……あれで確信したけど、今思えば酷なことだったろう。そればかりは謝ろう。済まなかったお……」
そう言ったブーン・ティレル卿だが、二人の愛の関係に対して反対するでもなく、そもそも驚愕すらなかった。
同性での恋愛、ましてや主従の間柄だと言うのに、彼の反応にツンとクーは若干の混乱をした。
ξ;゚⊿゚)ξ「え、と……お父様……? その……お話、理解してる……?」
川;゚ -゚)「わ、私たちは、女同士で、そのっ……」
( ^ω^)「お? 何が可笑しいんだお? よもや歴史を知らんわけじゃないだろうお?
クー、古来より貴族王族とはどう言ったものか……理解しているだろうお?」
川;゚ -゚)「え……あっ」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、なになにっ、どういうことなのっ」
川;゚ -゚)「……その、お嬢様。古来より、その……まぁ、なんと言いますか……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なに、なんなのっ。気になるよ、早く教えてっ」
川;゚ -゚)「端的に申しますが、あの……多かったのです……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なにがっ」
川;- ,-)「同性愛、および……同性での性的趣味趣向が……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」
284
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:11:44 ID:53.STGpE0
事実だ。それは古今東西、如何なる地方だろうが紛うことなき史実。
特に衆道(しゅどう)――男性同士のこれは大流行し、王族のみならず貴族にすら男妾は控え、一般でも男娼は存在した。
更には女性――暇を弄ぶ姫君、令嬢方はやはりコンパニオンや侍女と関係を持つことがままあった。
つまり、どうあっても貴族王族にとって同性愛というのは歴史的に見ても切っても切り離せない内容だった。
十九世紀頃になると同性愛も鳴りを潜めるが、しかし歴史ある御家柄とは、つまりは理解力を意味する。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……ぇえ!? そうなの!?」
川;゚ -゚)「はい、事実……王家の歴史でも、やはりそう言ったお話はあります……歴代のクイーンも然り……」
ξ;゚⊿゚)ξ「お、お父様、それ本当!?」
( ^ω^)「おっ、本当だお? 何か可笑しいのかお?」
ξ;゚⊿゚)ξ((感性が古い人だった!!))(゚- ゚;川
首を傾げるティレル卿を見てツンとクーは内心でそんなことを思う。
が、しかしティレル卿は二者の愛の関係を受け入れはするが――
( ^ω^)「しかし家督云々についてはお。そればかりは……頷くことは出来んお」
ξ;゚ -゚)ξ「っ……」
( ^ω^)「けれども……そうも頑固だって言うのなら、見せてみるといいお、ツン」
ξ;゚⊿゚)ξ「え……?」
( ^ω^)「何を呆けているんだお? 君は我が娘、我がティレル家が嫡女。貴族とは斯くあり。
貴族とは……働かず、出歩かず。しかして――紳士淑女として“足る者であれ”」
ツンはその言葉に恐る恐ると顔を上げる。
285
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:13:05 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「然らば……“それを手に入れなければ足らぬ”のであれば、“足る者”になればいいお。
欲しいのなら示さねばお。違うかお、ツン?」
ξ;゚⊿゚)ξ「お父様……!」
( ^ω^)「認めた訳ではないお。だが英国人(イングリッシュ)としての矜持くらい……持たずして何がティレルの嫡女かお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「それって……!」
川;゚ -゚)「マスターっ……!」
ティレル卿は言う――ならば頷かせてみろ、と。
現実の一つも知らず、歳若く拙いツン。そんな彼女はやはり、戦争の全てを知る訳ではない。
だが、彼女が見せた意思、或いは情熱の全てを受け、彼は無碍にするような外道は、実に紳士らしくない、と完結する。
願わくば愛娘には平和の中で安寧に包まれてほしい――だがそれを己の意思で拒むのであれば、現実と対峙しようと言うのであれば、鬼のティレルとして受けて立つべきだ、と。
( ^ω^)-3「まったく、誰に似たんだかお……ネラア卿にも話を通さんとお、少しばかり話を待つように、ってお」
ξ*゚⊿゚)ξ「お父様……!」
( ^ω^)「おー、クーが僕の言いたかった台詞を全て言ってしまったからお、もう言葉を用意していないお。
まったく、昔からクーはよくできた子だおね。今度またピアノを聴かせてもらえないかお?」
川 ゚ -゚)「はっ。畏まりました」
ティレル卿はそこで一度息を吐くと、途端にくたびれたような顔をした。
286
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:14:14 ID:53.STGpE0
(; ^ω^)「はーあぁ、もう、帰って早々にこれだお……疲れたし風呂に入ってくる。そうだ、食事は用意できているのかお?」
川 ゚ -゚)「はっ。いつでもご用意は可能で御座います」
( ^ω^)「ん、了解したお。では風呂からあがったら今一度食事の席で続きでもしようかお、ツン?」
ξ*゚⊿゚)ξ「っ……! うん……!」
感触的に悪くはない――ツンはここからが正念場だと悟る。
だが不思議とやる気に満ちるのは、傍に立つ愛する者のお蔭だろうか。
兎角、ツンとクーは互いに笑みを向けると、部屋から出ていこうとするティレル卿を見送るのだが――
( ^ω^)「ああ、それと……ツン」
ξ*゚⊿゚)ξ「え? なぁに?」
287
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:14:39 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「いいところだろうお……ハートフィールド。僕も好きなんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「「――えっ!?」」(゚- ゚;川
.
288
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:15:15 ID:53.STGpE0
( ^ω^)ノシ「おっおっ。それじゃ、また後でおー」
そんな驚きの言葉を残して彼は湯浴みへと向かった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ねぇ、お父様って地獄耳なの……?」
川;゚ -゚)、「分かりません……ですが、本当にお優しいお方で御座いますね……」
ξ;-⊿-)ξ「うん……あぁ、心臓に悪いよっ、もうっ……」
緊張から解放された二人。
ツンを椅子へと腰かけさせると、クーは労わるように言葉を紡ぐ。
が、ツンと言えば未だに腫れた目元のままにクーを正面へと手招いた。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ*゚⊿゚)ξ「もう一度……もう一度聞かせて?」
川 ゚ -゚)、「っ……お恥ずかしゅう御座いますのでっ……」
ξ*゚⊿゚)ξ「ダメだよっ。ついに応えてくれたのに……ねぇ、お願いっ」
川 ///)「……一度、だけですよ……?」
ξ*゚⊿゚)ξ「うんっ!」
クーはツンの前に跪く。それはまるで忠誠を誓う騎士のような姿だった。
それを前にツンは黙す。ただ一言、何よりも幸せな一言を待った。
289
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:15:47 ID:53.STGpE0
川*゚ -゚)「愛しております、お嬢様。あなた様を……心の底から愛しております」
ξ*。゚ -゚)ξ「クーっ……!!」
.
290
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:16:09 ID:53.STGpE0
ツンはクーへと抱き付く。堪えていた涙を零し、その小さな体で必死でクーを抱きしめる。
それを受け止めるクー。彼女はもう迷わない。
己の全てを解放し、心に従い、そして愛する者の為にと決意をした彼女はもう揺るがない。
.
291
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:16:35 ID:53.STGpE0
ξ*;ー;)ξ「愛してる、クーっ……ずっとずっと、ずぅっとっ……一緒にいてねっ……」
川*。゚ー゚)「愛しています、お嬢様っ……ずっと、ずっと……あなた様と共にっ……」
.
292
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:17:09 ID:53.STGpE0
誰の邪魔もなく、そして何の柵もなく。二人は愛を誓い合った。
羞恥もなく、戸惑いもなく。二人は唇を重ねる。
それは音もなく、静かで、穏やかで、けれども二人はこの時、真実として永遠を約束し、夢を叶えた。
.
293
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:19:13 ID:53.STGpE0
Girls and sugar “Magik”...
.
294
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:03 ID:53.STGpE0
Outro
.
295
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:27 ID:53.STGpE0
梢にとまった鳥が朝の調べを奏で、軽やかな旋律は霧に包まれたロンドンに新たな一日を告げる。
季節は冬。湿度と低い温度も相まって霧の都は今日もドレスを纏った。
川 ゚ -゚)「お嬢様。起きてくださいませ、お嬢様」
霞に包まれた白い屋敷がある。ロンドン市近郊にあるその館はティレル侯爵の持ち物だった。
十八世紀頃に建てられた館はヴィンテージな佇まいをしている。
館の一室では一人の侍女が声を出した。
侍女の眼下には金色の髪をした少女が寝息を立てている。その姿を見る侍女の瞳は何も語らず、声色も平淡だった。
侍女は無感情な表情のまま、一度瞳を瞬かせる。再度見開かれた瞳は黒い輝きを見せ、先よりは柔らかく見受ける。
川 ゚ -゚)「お嬢様。ツンお嬢様。朝で御座います」
ξ-⊿-)ξ「ん……」
侍女の澄んだ声に金髪の乙女は反応を示した。
微睡む意識を引きずりながら瞼を擦って穏やかに覚醒をする。
起き上がった少女は霞む視界のピントを修正しながら、大きな瞳を侍女へと向けた。
ξ-⊿゚)ξ「……おはよう、クー」
川 ゚ -゚)「お早う御座います、お嬢様」
ξ-⊿-)ξ「うん……」
ツンと呼ばれた少女は返事をするが、未だ完全には覚醒を果たしていない。
そんな己の主を見た侍女――クーは、それでも無表情のまま、何を言うでもなく不動に立つ。
296
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:49 ID:53.STGpE0
ξ-⊿-)ξ「……もう少し寝てもいいかな、クー」
川 ゚ -゚)「いけません。朝食の用意も整っています」
ξ-⊿゚)ξ「んー……だめ?」
川 ゚ -゚)「なりません」
ξ-⊿゚)ξ「昨日は夜遅くまで起きてたの……だから眠くて眠くて……」
川 ゚ -゚)「遅くまで明かりがついていたのは存じておりました。しかし、朝は起きるもので御座います、お嬢様」
_,
ξ-⊿-)ξ「んんー……」
ベッドの上で猫のように伸びをするツン。
背を鳴らす少女を見るクーは何かを言いたそうにするが、しかし表情は変わらずに無のままだった。
ξ-⊿-)ξ「ふあぁ……」
川 ゚ -゚)「お嬢様」
ξ-⊿゚)ξ「……起こして、クー……」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ-⊿-)ξ「お願い……」
うつ伏せのまま言うツンにクーは数瞬沈黙をするが、ややもすると静かにツンへと近づくと――
297
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:21:23 ID:53.STGpE0
川 *- ,-)「んっ……」
ξ*゙ -゙)ξ「んむっ――」
クーはツンの唇へと己の花弁を宛がい、そうして刹那を永遠に求めた。
ツンはその温もりと柔さを得ると次第に覚醒し、そうして動く腕でクーを抱きしめる。
ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ。お目覚めのちゅー?」
川 ゚ー゚)「はい。何せ眠り姫は……こうして起こすものだと教わりましたので」
ξ*-⊿-)ξ「そうなんだ? でも……まだまだ眠いなぁーっ」
川;゚ -゚)「……お嬢様。折角マスターからチャンスを得たと言うのにもかからず、朝からそうも――」
紡ぎかけたクーの唇を塞いだのはツンだった。
クーはそのままツンの手によりベッドへと引きずり込まれる。
それに抗いもしないクーも、やはりツンと同じ気持ちだった。
298
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:22:02 ID:53.STGpE0
ξ*゚ー゚)ξ「……好き」
川*゚ー゚)「……好きです、お嬢様」
ξ*゚⊿゚)ξ「ねえ……クー?」
川*゚ー゚)「なんでしょうか?」
ξ*^ー^)ξ「……愛してるよ」
川*^ー^)「……私も、愛しております」
ξ*-⊿-)ξ「ずっとずっと、永遠に……愛してるよ」
川*゚ -゚)「……私の方が先に老けますよ?」
ξ*゚⊿゚)ξ「いいよ、別に。クーが好きなの」
川*- ,-)「……勿体無い、お言葉です」
ξ*゚ー゚)ξ「ふふっ……ねぇ、それじゃあ、朝の授業をお願いしてもいい?」
川*゚ -゚)「どうせまた、保健体育が云々と仰るおつもりでしょう?」
ξ*゚⊿゚)ξ「ううん? 今日はねぇー……生物学っ」
川;- ,-)「……呆れてものも言えません、お嬢様……」
ξ*^ー^)ξ「ふふーん、いいもーんだっ
299
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:22:48 ID:53.STGpE0
ロンドン市近郊にある白亜の館にはティレル侯爵の一人娘が住まう。
その娘の名はツン・ティレル。背の低い、華奢な十三歳の少女だ。
長く柔らかな金髪を持ち、瞳は大きく碧眼で、顔立ちは誰が見ても認める程に可憐で美しい。性格も明るく笑顔がよく似合う。
そんなツン嬢の身の回りの世話をするレディースメイドがいる。
普段から不愛想で、何を考えているかも謎だった。声には感情の一つも宿らないが、その美貌は類見ない程だった。
彼女の長い黒髪と大きな黒い瞳、そして描かれた純白のような肌の美しさは、さながらに美の象徴とも呼べた。
二人は長らく心を別ち、素直になれないままでいた。
だが二人は己の気持ちと向き合い、また、互いの心と向き合い、そうして次第に秘めていたはずの感情を解放する。
そんな二人は愛を交わす関係となり、後の世でツン・ティレル“卿”は名将として名を轟かせるに至るが――
.
300
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:23:14 ID:53.STGpE0
ξ*^ー^)ξ「「愛してるっ……」」(゚ー゚*川
.
301
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:23:34 ID:53.STGpE0
――今は未だ、乙女達は夢の心地のままに愛を交わすのだ。
.
302
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:24:04 ID:53.STGpE0
The end.
.
303
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:24:47 ID:53.STGpE0
読了、お疲れ様です。以上で「ξ゚⊿゚)ξξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです」は了となります。
作中、「アリス」だの「シャロ」だの人物名が出てきて「は?」と思った方々もいらっしゃると思います。
実はこのお話は某所で掲載していた「アリス嬢と寡言なシャロ」と言う一般文芸をブーン系に編集したものでした。
これもまた数年前のお話で、拙い部分が目立ちますが、それもまたいいかな、と思いあまり手直しはしておりません。
ですがミスの連発は流石に言い訳もできません――名前のミス等――ので、改めてお詫び申し上げます。
こちらと同時に投下していた「( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです」も終わりましたので、
よろしかったらそちらにも目を通して頂けたらば、と思います。
それではお付き合いいただきありがとうございました。
おじゃんでございます。
304
:
名無しさん
:2019/12/08(日) 12:15:14 ID:mmaBRlmA0
今更ながら読んだ乙
良質な百合だった
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