したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

とある英雄譚のようです

1名無しさん:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0

荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。

まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。

骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。

魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。

人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。

ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。

83名無しさん:2018/04/22(日) 23:09:08 ID:G.gIoQVo0

しかし試合開始の数分後、観客達は一様に自身の目を疑った。
何ら手加減の様子もなく、最強であるはずの雪華騎士団長が両の膝をついたことに。
その正面に立つクールの余裕の表情に。

大歓声とともに最強の名を受け取った王女。
それがなぜこのような場所にいるかといえば、
彼女に負けた騎士団長が自らを責め、その座を辞してしまったことにある。

デミタスは凡百の戦士ではない。
スノウ国にて奉られている歴代の英雄。
その頂きに、いずれ名を刻むとすら言われていたほどの実力者。

それを凌駕するクールこそがむしろ異常であったのだが、
彼は敗北の自責からか誰の説得にも耳を貸さず、
修行の為に山籠もりをするとだけ言い残して姿を消した。

これに困ったのは国王である。
目下スノウ国は平和な状態にあったが、失った戦力の穴は簡単には埋まらない。
幾ら強いとはいえ王女を戦わせることを避けたかった国王は、取り敢えず娘を幽閉することにした。
勿論、騎士団長が破れてしまったことで、力づくで彼女を閉じ込めることが出来る者はいない。
仕方なく牢に入るように話したところ、少女はそれを快諾した。

84名無しさん:2018/04/22(日) 23:10:07 ID:G.gIoQVo0

囚われのお姫様に憧れていたクールとしては、
普通に王女として与えられる待遇に大きな不満を持っていたからである。

ベッドだけが最高級の暗く冷たい牢屋。

彼女がそこに寝起きし始めてから三日が経った。
要求は次第にエスカレートしていき、
クールの今の食事はスノウ国で一般的とされているものよりもなお質素である。

何処から持って来たのか重たい足枷を足首に付け、日がな一日鉄格子の外を眺め続けるクール。
その様子は民衆の代わりに罪を贖う聖女さながらであった。
流石に危機感を抱き始めた国王は、大臣や他の騎士団長などを説得に向かわせるが、
クールは殆ど話すことなく全員を追い払った。

ついに国王が直々に牢屋に向かうが、クールはまともに取り合わない。
緊急会議が招集され、国王と大臣が一堂に会するも、頭を悩ませるばかり。
誰も解決の糸口すら見つけられなかった。

そしてさらに一週間が経過した日の昼間、王城は突然の襲撃者の対応に追われることとなった。
事態に気付いたのは、たまたま窓の外を見ていた従者が即座に報告をしたおかげであり、
それが無ければ誰も気づかなかっただろう。

まるで存在そのものが風景に溶け込んでいるかのように、自然に浮かんでいる男。
誰にも聞こえない声で幾つかの言葉を呟き、その手に持った杖を振り下ろした。
たったそれだけの動作。

85名無しさん:2018/04/22(日) 23:10:53 ID:G.gIoQVo0

王城に存在する幾つかの独房に至るまでの地面が、
音もなくきれいさっぱり消失していた。
暗闇からゆっくりと歩き出てくるクール。男は、それをじっと待つ。

久しぶりの強い光に腕を掲げで光を阻む。
薄目を開けて臨んだ先に立つのは細身の男。

川 ゚ -゚) 「あなたが私を助けてくれたのですか……?」

('A`) 「……は?」

あまりにも斜め上にずれた彼女の第一声に対する男の返答は、短いものであった。
伏し目がちに放たれた言葉は、女性との付き合いをほとんど持ったことの無かった男が、
悪印象を持たれないため十数日間も使って考えてきた会話の内容を全部吹き飛ばした。

男の思考が停止しているうちに、
当番をしていた数十人の兵士と、王城に待機していた副騎士団長がすぐに現場に駆け付けた。

「何をしている。ここをどこか知っての狼藉か」

('A`) 「あ、あぁ……ちょっと待ってくれ」

動揺し取り乱したその姿は不審者そのものであったため、
兵士達は男に向けて槍を構えた。

86名無しさん:2018/04/22(日) 23:11:23 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「……? 何をしているのです。槍を納めなさい」

「し、しかし姫様……」

川 ゚ -゚) 「納めろって言ってるだろ。邪魔をするな」

「はい……」

('A`) 「えー……」

川 ゚ -゚) 「何でもありませんわ。それで、私をどこに連れて行って下さるのですか?
      ここではないどこかへなら、あなた様と一緒に」

('A`) 「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えない」

両手を胸の前に組み、ただ男の言葉を待つ王女。

('A`) 「君は、自らの意思で引き籠っていた王女じゃなかったか」

川 ゚ -゚) 「は? ……な、そんなことはありません!
      私は悪意のある王に閉じ込められていたのです」

87名無しさん:2018/04/22(日) 23:12:04 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「ん、と」

あまりにことに理解が追いつかず、騎士団に説明しろと目配せをする男。
それに対して同情の視線を向けることでのみ応えた副騎士団長であった。

川 ゚ -゚) 「王子様、どうかわたしを連れ去ってい下さい」

('A`) 「えー……」

男の目的は彼女と会って話すことであり、連れ去ることではない。
それを如何にして伝えるか考えている間に、兵士は次々と集まってくる。
騒ぎを大きくすることが目的ではなかった男は、
未だかつて経験したことがない嫌な汗を流しながら言葉を発した。

('A`) 「君を連れ去るつもりはない。話をしに来ただけだ」

川 ゚ -゚) 「ごちゃごちゃ言わずに私のいう事を聞け!」

少女が放出した大魔力の塊が、庭園を吹き荒らす。
兵士達が皆膝をつく中、男だけは平然としたまま立っていた。

川 ゚ -゚) 「!」

('A`) 「お、落ち着いてくれ」

88名無しさん:2018/04/22(日) 23:12:36 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「お前、いや、なんで私はすぐに気づかなかったんだ。……魔術師だな?」

「なっ! 姫様!」

世界中を探しても僅か数人しかいない魔術師。
その力の大きさと存在は知られているものの、世界に姿を現すことは無く、
多数の部族の間でもはや御伽噺となって言い伝えられている。

「魔術師が何の用だ」

剣を構える副騎士団長。
その切っ先には明確な殺意が込められていた。

('A`) 「別に何かをしようってわけじゃない。それを仕舞ってくれ」

「何を根拠に」

('A`) 「俺がその気になればこの国は地図から消えているからだ」

男が指を振るうだけで、騎士団長の剣は砂糖菓子のように崩れた。

「っ!?」

川 ゚ -゚) 「はぁ……。私の計画が台無しだ。王子様だと舞い上がったのが馬鹿みたいだな。
      よくみたら顔もそんなに好みじゃないしな。
      それで、亡霊のような魔術師如きが、私に何の用だ?」

89名無しさん:2018/04/22(日) 23:14:01 ID:G.gIoQVo0

腕を組み、尊大な態度で臨むクール。
それを気にした風もなく、男は話し始めた。

('A`) 「そっちの方が話がしやすくて助かる。顔の話は余計だけが」

川 ゚ -゚) 「魔力量が少なすぎて気付かなかったよ。やっぱり噂には尾ひれがついてるもんだな」

('A`) 「やれやれ、騎士団長を負かしたじゃじゃ馬姫は噂の通りだったか」

川 ゚ -゚) 「さっさと用件を言ってくれなければ、この国から強制的にご退去願うが?」

('A`) 「そう事を焦るな。いろいろと話したいことがあるのだが、ひと先ずは俺と一戦交えてもらおうか。
     その方が話も早いだろう」

川 ゚ -゚) 「手加減してやってもいいが、ここではなにかと都合が悪い。
      王都から出て東に平野がある。そこでどうだ?」

('A`) 「構わない。それでは先に言って待っている」

言い終わると同時に男の姿は城内から消えた。
クールの傍にまで慌てて駆け寄ってくる副騎士団長と兵士達。

「姫様! 危険です!」

90名無しさん:2018/04/22(日) 23:14:41 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「すぐ戻ってくるさ」

「ですが……」

川 ゚ -゚) 「あいつも否定しなかっただろ。魔力量では私の方がずっと多い。それじゃ、留守を頼む」

クールはドレスのまま王城の一番高い塔まで跳ね、そこから東に向けて飛び去った。
本気を出した彼女に追いつけるはずもなく、兵士達はただ黙って見送った。

スノウ国の首都から東に数キロ離れた地。
それをわずか数分で駆け抜けた彼女が平野にたどり着いた時、
男は地べたに座って待っていた。

川 ゚ -゚) 「待たせたか?」

('A`) 「ああ、退屈だった」

川 ゚ -゚) 「女の子には嘘でも待ってないと言うものだろ」

('A`) 「そんな殺気を出すなよ。せっかくの可愛さが台無しだ」

川 ゚ -゚) 「このくらいで消えてしまうような可愛さじゃない」

('A`) 「自分でいうとはね。恐れ入った」

91名無しさん:2018/04/22(日) 23:15:12 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「さて、始めようか」

('A`) 「俺を立ち上がらせることが出来れば、君の勝ちでもいいよ」

川 ゚ -゚) 「ふん……」

露骨な挑発に対して、彼女は容赦なく魔力を叩き付けた。
常人であれば蒸発するほどの熱量の光柱が平野に突き刺さる。

川 ゚ー゚) 「馬鹿な奴だ。魔術師相手に加減するとでも思ったのか」

黒焦げになった大地から立ち昇る煙がゆっくりと風に流されて消えていく。
露わになった状況は彼女を驚かせた。

川;゚ -゚) 「まさか」

ドクオが座っていた場所だけが何ら影響を受けておらず、
彼自身もまた無傷のまま座っていた。

('A`) 「なんだ、手加減してくれたのか」

川 ゚ -゚) 「……死体だけは残してやろうと思ったんだが」

('A`) 「流石、王女様はお優しい」

川 ゚ -゚) 「その余裕はすぐに無くなるぞ」

92名無しさん:2018/04/22(日) 23:17:29 ID:G.gIoQVo0

クールは両手を前に向け、目の前の男に集中する。
膨大な魔力に式を与え、魔術として形を与える。
先程の魔力頼みの一撃と違い、術式によって発現する魔術は数倍の威力を持つ。

形成されたのは圧縮された魔力光の鏃。
有り余る魔力とそれを扱う飛びぬけたセンスを持つクールが、自分自身の力で生み出した魔術。

川 ゚ -゚) 「スターライト」

放たれたその風圧は空を裂き、大地を抉りながらドクオへと迫った。
目前に迫った脅威にすら、彼は興味がないかのように杖を軽くふるうだけ。
それだけで容赦ない一撃は霧散した。

川;゚ -゚) 「なっ!?」

('A`) 「納得してくれたか」

川;゚ -゚) 「なんで……いや……」

仕留められない敵はいないと自負していた最強の技が、
ただ杖の一振りで破られたという現実は、クールにとって受け入れがたい事実であった。
その後も闇雲に放った魔術は一つとしてドクオに届かない。

川 ゚ -゚) 「それなら……」

93名無しさん:2018/04/22(日) 23:18:08 ID:G.gIoQVo0

人生で初めての敗北したかもしれないという感情を振り払うために、
クールは魔力に剣の形状を与えた。
初めて形を作り出したにしてはしっくりくる感覚を怪訝に思いながらも、
魔力の密度を高めていく。

ドクオの目の前まで一息に詰め、その首を跳ね飛ばさんと振り抜いた光の剣。
遠距離でだめなら近距離で、そんな子供じみた発想は、剣と共に容赦なく打ち砕かれた。

川 ゚ -゚) 「っ……くそっ……」

魔力を練り込んだだけの剣を精製しては目の前の魔術師に向けて叩き込む。
それら一つ一つを丁寧に破壊するドクオ。
桁外れの魔力を持つクールであっても、回復を上回る消費を行えば底をつくのが道理。
半日にもかけて最上級魔術クラスの魔力を打ち続けたクールは、息も絶え絶えといった状態であった。

川;゚ -゚) 「はぁ……っ……はっ……」

('A`) 「もうやめておけ」

ふらふらになりながらも、クールは魔力を注ぎ込み続けた。
結果、魔術は不発に終わり、前のめりに倒れ込む。

('A`) 「ほら見ろ」

94名無しさん:2018/04/22(日) 23:19:21 ID:G.gIoQVo0

咄嗟に立ち上がった毒男がその身体を支える。

川;゚ -゚) 「はっ……はっ……」

('A`) 「魔力欠乏症だ。少し休めばすぐに回復するが……仕方ねぇな」

ドクオは自身の胸に手を当て、光る珠を取り出す。
それをクールの胸元に掲げると、珠は粒子となって彼女の全身に溶け込んだ。

('A`) 「幾らか楽になったか?」

川 ゚ -゚) 「……その手を離せ。一人でも立てる」

ドクオの腕の中から起き上がり、突き放す。
頼りない足取りで立ち上がり、少し歩いたところでまた崩れかけた。
慌てて駆け寄ってその小さな体を受け止めたドクオ。

('A`) 「おい、無理をするな。他人の魔力と自分の魔力じゃ勝手が違う。
     少し楽に感じるだけで、実際に回復したわけじゃない。
     まぁ座れ」

杖を振るって二つの柔らかな椅子をその場に用意した。
片方にクールを座らせ、自らは反対側に深く腰を下ろした。

川 ゚ -゚) 「勝負は……私の勝ちだな。お前を立ち上がらせたから」

95名無しさん:2018/04/22(日) 23:20:04 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「そういう話だったな。まぁいい。俺の実力は充分に理解できただろ」

川 ゚ -゚) 「それで、私には何の用だった」

('A`) 「今から八年後、お前の……天剣の力が必要になるかもしれない」

川 ゚ -゚) 「それだけ強いのにか」

('A`) 「母親から聞いていないのか?」

川 ゚ -゚) 「母なら七年前に死んだ」

('A`) 「お前に何も話さずにか」

川 ゚ -゚) 「流行病だったと聞いてる……。急に病状が悪くなったとも。
      私が物心ついた時には、母は話すことすらできなくなっていた」

('A`) 「そうか……あいつは優秀な剣士だったな」

川 ゚ -゚) 「母を知っているのか」

('A`) 「一度会っただけだが。となると、お前は天剣の話を聞いていないんだな」

川 ゚ -゚) 「天剣?」

96名無しさん:2018/04/22(日) 23:20:54 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「それを説明するためには、少し時間がかかる。
     城まで送って行ってやるから今日はもう休め」

川 ゚ -゚) 「それを聞くまでは帰らない」

('A`) 「お前に選択肢はない。……そうだな。
     一週間あれば楽に話すくらいには回復するだろう。
     その頃にまたお前を訪ねよう」

川 ゚ -゚) 「待て……まだ」

クールの言葉はそこで途切れた。
少女は椅子ごと姿を消し、ドクオ一人だけが残っていた。

('A`) 「ふぅー……。全く、とんでもない逸材だったな……」

97名無しさん:2018/04/22(日) 23:21:53 ID:G.gIoQVo0

>2


('A`) 「よう」

開け放たれた窓に突如現れた痩せた男。
それが誰だか思い出すまでに少し時間を要した。

川 ゚ -゚) 「……!」

('A`) 「おっと、騒ぐのは無しだ。今日は話をしに来ただけだからな」

起き上がろうとしたクールの身体を目に見えない力が無理やり押し戻す。
それに抵抗するほどには回復しておらず、クールは大人しく首だけを男に向けた。

川 ゚ -゚) 「お陰様で丸三日ずっと寝ていたみたいだ」

('A`) 「ったく、もう起き上がれるのか。
     あれだけの魔力を回復させるのにはまだまだ時間はかかるはずなんだが……。
     さて、何から話すか……。そうだな、取り敢えずこの世界の話をしよう」

川 ゚ -゚) 「世界? 何の話かと思えば」

98名無しさん:2018/04/22(日) 23:22:52 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「まぁそう言わずに聞け。この世界には一つの大きな法則がある。
     五百年に一度、何処からともなくこの世界を消滅させてしまうほどの脅威が訪れるという、な」

川 ゚ -゚) 「なんだそれは」

('A`) 「信じられないかもしれないが、事実だ。
     あらゆる時代のあらゆる英雄たちが、その命をかけて世界を護ってきた」

選ばれた魔術師のみが扱うことのできる、レタリアと呼ばれる手紙の魔術。
一度放てば、災厄に打ち勝てる猛者の元へと光の手紙が届く。
文面は書かれておらず、その光に触れることでのみ、届けられたメッセージを読み取ることができる。

('A`) 「八年後、終焉の時が来る。おそらくクール、お前の力を借りることになるだろう」

川 ゚ -゚) 「……お前に傷一つ付けることができなかった私にか?」

('A`) 「今のままではレタリアの選定基準には届かないだろうな。
     だが、鍛えれば俺に並びうる才能がある」

川 ゚ -゚) 「才能、ね……。私にあるのはこの人並み外れた魔力だけだ。
      独学でいろいろとやってみたが、この前のあれが限界だ。
      とても今以上の力を扱えるとは思えないな」

99名無しさん:2018/04/22(日) 23:24:04 ID:.s4a6Prs0
すんげーーーー良い

100名無しさん:2018/04/22(日) 23:24:16 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「魔力の量は生まれつきの才能だ。
     お前も知っているように、俺の魔力量はお前の半分にも到底及ばない。
     だが、お前にはもう一つ、他の誰にもない力がある」

川 ゚ -゚) 「宗教の勧誘みたいな話だ。生憎、私は神を信じちゃいない」

('A`) 「疑り深い姫様だな。もう一つ、その説明をする前に聞いておこう。
     お前は魔力についてどのくらい知っている」

川 ゚ -゚) 「……人間以外にも多くの種族が扱える力で、魔術を発動させるために必要なもの、だ」

('A`) 「魔力には幾つかの特性があるが、
     そのうちの一つに形を与えることが難しいということがある。
     最上級の魔術師であっても、
     魔力そのもので何かを作り出すことはほとんどできないほどにな」

川 ゚ -゚) 「そんなことは無い。この国の騎士団長クラスであれば、
      魔力で創り出した斬撃を放つことくらいできる」

('A`) 「それは剣を通した簡単な魔術が発動しているだけだ」

川 ゚ -゚) 「魔術には詠唱が必要なはずだ」

('A`) 「必ずしもそうではない。常日頃から鍛錬を怠らなければ、その程度のことは誰でもできる。
     先の戦闘時、お前は魔術を通さずに魔力を剣の形にしてみせた」

101名無しさん:2018/04/22(日) 23:25:05 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「……」

クールは掌を掲げ、その上に光の剣を作り出した。
回復しきっていない魔力のせいで些か不安定ではあったが、魔力が象った両刃の剣。
その鋭さも、強度も、クールの意のままなそれは、数秒後には淡い光となって消えた。

('A`) 「殆どの生物にはそれが出来ない。
     魔力で剣を作ることができるのは、お前の中に存在する特別な力のおかげだ。
     天剣と呼ばれる上層世界の武器のな」

川 ゚ -゚) 「天剣、前にも言っていたな。上層世界とは何のことだ」

('A`)  「この世の理を越えて存在する上位世界のことだ。
      天剣はその世界の武器であり、真の名は■■■■・■■■■」

川 ゚ -゚) 「今なんといった」

('A`)  「そうか■■■■・■■■■の力に目覚めていなければ、
      その言葉を聞くことすらままならないわけだ。まぁいい。
      その力は、妃龍クレシアが殺した天使の身体から生み出された神の剣。
      スノウ建国者の血を引く女性にのみ扱える剣だ」

川 ゚ -゚) 「天使の……剣……?」

('A`) 「お前にはそれを扱えるだけの魔力もある。元気になったのならば、剣技を研くことだ。
     それが必ず力になる」

102名無しさん:2018/04/22(日) 23:25:36 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「荒唐無稽な話だな。証拠もなく、信じるに値しない。
      もし仮に事実だったとしても……私が世界を救うつもりがないと言ったら?」

('A`) 「別にそれならそれで構わない。俺に負けたという事実が残るだけだ」

川 ゚ -゚) 「安い挑発だな……だが、いいだろう。世界の為になんて理由はいらない。
      お前に勝つためだけに天剣を使いこなして見せる」

('A`) 「三日前は剣の腕を見なかったな。その回復だと明日でも大丈夫か。
     前回戦った場所で待っている」

川 ゚ -゚) 「今からでいい」

('A`) 「無理をするな」

川 ゚ -゚) 「いや、すぐに行くぞ」

クールはベッドから立ち上がった。

('A`) 「……運んでやる」

風の魔術を操り、自身とクールを王城の部屋から外に運び出す。
一息つく間もなく、二人は先日の戦いの痕が残る平野に降り立った。

103名無しさん:2018/04/22(日) 23:27:58 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「一つだけ言っておくのを忘れていた」

川 ゚ -゚) 「なんだ」

('A`) 「天剣は使うなよ。死ぬぞ」

川 ゚ -゚) 「……は?」

('A`) 「天剣はお前の命と密接に関係している。
     扱い慣れていないのにその身から引きずり出して、無事なわけがないだろう」

川 ゚ -゚) 「そうか。扱い慣れていれば大丈夫なんだな」

クールが手を掲げ、魔力を込める。
三振りの光り輝く剣が、切っ先をドクオに向ける。

(;'A`) 「驚いた。不完全ながらもう天剣を呼び出すことができるのか」

川 ゚ -゚) 「出来ないと言った覚えはない。
      油断してると痛い目を見るぞ。お前相手にこれを使わなかったのは私の判断ミスだ。
      あの時は天剣なんて魔力を食うだけだと思っていたから使わなかっただけだ」

('A`) 「使いこなせなければ、そうだな。
     さて、それじゃあ俺の知っている中で最も弱い剣士として相手をしよう」

104名無しさん:2018/04/22(日) 23:29:45 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「馬鹿に……するなっ!」

空を奔った三つの剣。眼前に迫ったそれを易々と弾いたドクオ。
その手に持つのは鈍色の鉄剣。表面が申し訳程度の魔力で覆われている。

川 ゚ -゚) 「……っ!」

('A`) 「オーバーライド」

穏やかな青年であったはずの雰囲気はどこかに消え、
纏う雰囲気は往年の剣豪にも引けを取らないほどの鋭さを得た。

('A`) 「行くぞ」

川;゚ -゚) 「くっ……」

一瞬で目の前に迫ったドクオの剣を、辛うじて受け止めたクール。
それが加速魔術ではなく、ただの身体能力によって発揮されたことであることに驚きをながらも、
即座に反撃の為に剣を振るう。

一振りしか持たないドクオに対して、クールが自在に操ることができるのは三振り。
手数の差で負けることなどありえなかった。

川;゚ -゚) (なんで……)

105名無しさん:2018/04/22(日) 23:30:44 ID:G.gIoQVo0

圧倒的なまでの攻撃をすべて直前で捌くドクオ。
触れるだけで致命傷を与えかねない高密度の光刃は、服にすら掠ることがない。
正面から突き出したクールの持つ剣と、死角になるはずの背後から迫る二刀。
それらは躱され、地面に叩き落とされた。

('A`) 「どうした、その程度か」

川 ゚ -゚) 「まだ……まだだ!」

王国最強の騎士団長すら圧倒した力であっても、ドクオを前にしては稚児にも等しい。
それを理解したクールは、自身の力不足を強く認識した。

川 ゚ -゚) (もっと……!)

('A`) 「それでは武器に振り回されているだけだ」

ドクオの一閃。細身の体からは想像もできない程、重く、速い。
打ち砕かれたクールの剣が魔力の残滓となって散らばる。
新たに生成した剣を手に持ち、命を奪おうと迫る銀閃に必死に抗う。

川 ゚ -゚) 「はああああっ!!」

('A`) 「おいおい……」

一際高く飛び上がったクールの背に煌めく刃。
魔力の集合体である剣は、その数を五つに増やしていた。
それらは自在に空を掛け、ドクオを包囲する。

106名無しさん:2018/04/22(日) 23:31:51 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「本当に……面白れぇな」

川 ゚ -゚) 「吹き飛べッ!」

周回運動から解放された剣が無作為にドクオを襲い掛かり、その呼吸を乱す。
隙を見て砕いたはずの剣は、瞬きする間に元通りになる。

('A`) 「こっちもギアを上げようか」

ドクオの背後に現出した二つの剣。
銀の煌めきがクールの五つを圧倒した。

('A`) 「終わりだ」

周囲の大地ごと削り取る一撃が、クールの武器を完全に消滅させた。

川 ゚ -゚) 「…………」

('A`) 「予想以上だ」

川 ゚ -゚) 「その剣士は……お前の知っている中で一番弱いのか」

('A`) 「……そうだ」

川 ゚ -゚) 「そうか。八年後だったな」

107名無しさん:2018/04/22(日) 23:32:20 ID:G.gIoQVo0

('A`) 「正確に言うなら、七年後だ。レタリアに選ばれるかどうかはわからないがな」

川 ゚ -゚) 「待ってろ。驚かせてやる」

('A`) 「楽しみにしているぞ。
     ……なんだ、家まで送ってやろうか」

話している最中にへたり込んだクール。
もう一歩も動けないとばかりに仰向けに倒れた。

川 ゚ -゚) 「頼む。流石に疲れた」

('A`) 「仕方ないな」

108名無しさん:2018/04/22(日) 23:32:51 ID:G.gIoQVo0

>3


川 ゚ -゚) 「……ふー」

女性を囲む十を超える獣。
魔力を扱う上位種であることは、一目見た時からわかっていた。
陽炎のように立ち昇る魔力は、決して小さくはない。

強化された爪牙による一撃は、無防備な彼女の肌を容易く引き裂くだろう。
じりじりと彼女を囲う円を狭める獣。
対して、彼女はただ立ち尽くして待つ。
追い詰められて絶望に震えるような顔ではなく、僅かな笑みさえ浮かべながら。

川 ゚ -゚) 「……」

彼女が自身に宿る魔力を用いれば、それだけで獣達を無力化することもできた。
だが、敢えてそうすることなくただ仕掛けて来るのを待つ。

獣の群れは、目の前の獲物に対して飛びかかった。
合図もなしに同時に動けるのは、自然界を生き抜いてきた強者の証。
多方向からの襲撃に対して、女性は一歩も動かなかった。

草葉が揺れる程度のほんの少しの風が吹き、獣たちの瞳から光が消えた。

川 ゚ -゚) 「討伐完了」

109名無しさん:2018/04/22(日) 23:33:34 ID:G.gIoQVo0

自国領の末端にある小さな村から救援の依頼が入ったのは昨日の事。
突如現れた獣たちが作物を荒らし、村の人間も何人かが犠牲なったと。
それを退治するために準備をしていた、
通産十二回目の修行から復帰直後の騎士団長を一撃で気絶させ、
女性はここまで一息に駆け抜けてきた。

川 ゚ -゚) 「この程度の敵相手に騎士団を動かすのは金のかけすぎだ」

「姫様! ご無事でしたか!?」

川 ゚ -゚) 「わざわざ探しに来てくれたのか」

「もし姫様の身に何かあったら……」

川 ゚ -゚) 「もう終わった。帰ろう」

「は、はい」

女性の足元に転がっているのは血みどろの死骸。
返り血一つ浴びずに佇む女性は、血溜まりを飛び越え村人の後を歩く。

「まさか、姫様が来られるとは……思ってもみませんで……」

川 ゚ -゚) 「気にするな。騎士団が来る予定だったのを私が横取りしただけだ」

「なんとも、女王様にそっくりでございますな」

110名無しさん:2018/04/22(日) 23:35:52 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「母の事を知っているのか?」

「ええ。とても気高く美しく、そして誰よりも強かったのです」

川 ゚ -゚) 「母様の話は父様もあまりしてくれないのだ。もし時間があれば、聞かせてほしい」

「国王様が……。そうですね、わかりました。
 私の覚えている話だけにはなりますが」

川 ゚ -゚) 「気にはしないさ。母様と会ったのはいつだった」

「忘れはしません。十年ほど前の雨の日でございました。
 あのような獣が私達の村を襲ってきたのです。
 討伐に向かった私を含めた数人は深く傷つき、森の中で身動きが取れなくなりました」

川 ゚ -゚) 「まさか、知らずのうちに母様と同じことをしているとはな」

「姫様によく似ていらっしゃいました。戦闘に赴いてきたはずなのに、真っ白なドレス。
 今日の姫様と同じでございました。
 あの日の女王様は、跳ね返った泥で裾などかなり汚れておりましたが。
 一瞬でした。私達が傷一つ付けられなかった獣を倒してしまうのは」

川 ゚ -゚) 「どうやって倒したんだ」

「光の剣がいくつも現れ、それが獣を貫いておりました。
 それから傷の手当までもしていただき、無事に村に帰ることができたのです」

111名無しさん:2018/04/22(日) 23:37:14 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「傷の手当だと?」

「ええ、王女様の手から溢れ出る暖かい光に触れた傷口が、跡形も無く消えたのです。
 魔術の存在は知っておりましたが、見たことは無かったので、それはそれは驚いたものです」

川 ゚ -゚) 「魔術で回復か……」

「私どものような農民に対してもお優しい方でした。
 まさか、あのようなことになるなんて……」

川 ゚ -゚) 「……。父様から母様の話を聞いたことはほとんどない。
      だが、流行病で亡くなったとだけ聞いている」

「それは……怖れながら申し上げますと、事実とは異なります。
 私どもは口封じを言い渡されておりますが、姫様にならお話をすべきかと思います。
 王女様が亡くなられたのは、私どもの村のことでございます。さて、村が見えてまいりましたね。
 この話は家に入ってからにしましょう」

川 ゚ -゚) 「……」

無言で老人の後を歩く。
村の中心にある家に案内されたクールに、
奥から現れた老婆が暖かい飲み物を二人分机に並べる。

112名無しさん:2018/04/22(日) 23:38:32 ID:G.gIoQVo0

「このようなものしか出せませんが」

川 ゚ -゚) 「あまり気にしないでくれ」

手元にあるコップに入った飲み物を揺すり、波立たせる。
拡がった波紋は淵にぶつかり、相殺し合って消える。
老人が話を始めるまで、何度かその動作を繰り返した。

「……王女様は、この村を護って亡くなられました」

川 ゚ -゚) 「母様はどのような最期を」

「老狼エストを退けたのですが、その時の傷が原因で……」

その名にはクールも聞き覚えがあった。

エンシェント・モナク。

数百年の時を生き続け、生物の頂点に位置する王の中の王。
老聖シナ、老樹ロマネスク、老狼エスト、老龍ディオード、老燕リモナ。
人や獣では決して傷つけることはできないと言われる最強種。

川 ゚ -゚) 「まさか……」

113名無しさん:2018/04/22(日) 23:39:53 ID:G.gIoQVo0

「そうおっしゃるるのも無理はありません。
 老狼エスト相手に人間が対等に戦ったなどと誰が信じられましょう」

川 ゚ -゚) 「なぜエストだと?」

「老狼は私どもの村を訪れてきたのです。老狼の子を殺した人間を探して。
 王女様には逃げるように伝えたのですが、話を聞くや否やすぐにその巨体に立ち向かいました」

「二人の戦いは村からさほど遠くない場所で行われたようでした。
 誰もその戦いを見てはいません。王女様が老狼と姿を消してから丁度五日後になります。
 付近の森が静かになった時、私を含めた数人が森へと向かいました」

「血塗れで倒れていた王女様と、真っ黒に染まった老狼の巨体がありました。
 私達は冷たくなりつつあった王女様の身体を急いで村まで運んだのです」

老人が机の上で干乾びた拳を強く握りしめる。

「私どもでは消えかけた命の灯を救うことは出来ませんした。
 本当に申し訳ございません……」

川 ゚ -゚) 「いや、気にしなくてもいい。母様のことが少しでも知れてよかった」

「ですが……私どもにもう少しまともな知識があればと、今でも悔やむのです」

114名無しさん:2018/04/22(日) 23:40:28 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「過ぎたことだ。今更嘆いたところで母様は帰ってこない。
      それでも、私の中であやふやだった母様の姿がはっきりとしたことは、とても嬉しい」

クールは老人の細い手を包み込む。
その隙間から零れ出て来る温かな光。

「おぉ……王女様と同じ光……とても優しく、とても慈悲深い……」

川 ゚ -゚) 「ありがとう」

「とんでもございません……」

川;゚ -゚) 「ッ!」

突如村を包み込んだ強大な魔力。
その存在にいち早く気付いたクールは、老人の制止も聞かずに家を飛び出した。
村中に蔓延した敵意は、呼吸を阻害する程に濃く、
魔力の霧が一寸先すら見えないほどに立ち込めていた。

魔力を通して響く老獪な声。
その主は、自らの名を名乗った。




「我が名はエスト。かつての人間と雌雄を決しに来た」



.

115名無しさん:2018/04/22(日) 23:40:53 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「かつての人間……」

クールの目の前に現れた灰色の靄は、狼の頭を象る。
獲物を貫くような二つの眼球が確かにクールを捉えた。

「汝が……? 幾分幼くなった……か。
 人間とはそのような生き物であるのだろうな」

川 ゚ -゚) 「老狼エスト。お前の相手をしたのは私の母親だ」

「成程……あの人間はどうなった」

川 ゚ -゚) 「死んださ。お前にやられた傷が原因でな」

「そうか、それは残念だ。我を追い詰めるほどの力を持った人間などいるとは思わなかったからな」

川 ゚ -゚) 「私が代わりに相手をしよう」

「くっくっくくく、人間もなかなか面白い冗談を言う」

川 ゚ -゚) 「冗談のつもりは無いんだがな」

煙の狼は牙をむきだして唸る。
それが笑っているのだということは一目見て明らかだった。

116名無しさん:2018/04/22(日) 23:42:39 ID:G.gIoQVo0

「汝の魔力量が尋常ではないのはすぐに分かった。だが、所詮それだけだ。
 あの人間に感じたような異質な雰囲気は汝には無い」

川 ゚ -゚) 「だったら……試してみればいい」

村中を覆っていた魔力の霧を、自らの魔力で吹き飛ばした。
一瞬で晴れた村の中、家々からは何人かの村人が不安そうに顔を出す。
先程までのクールとエストの会話が聞こえていたのだろう。
王女に近寄ってくる者は誰一人としていない。

川 ゚ -゚) 「老狼……私の力を試すのには最高の相手だな」

突如王城に現れた魔術師に敗北してから三年と九十八日。
飲まされた煮え湯のことは一日たりとも忘れたことは無い。
全身全霊をかけて鍛えたのは剣と魔術の技量。
もはや国内どころか、大陸にすら敵がいるかどうかとの自負があった。

しかし、強くなりすぎた彼女の力を証明するはかりは残念ながら王国に存在しない。
ただ闇雲に自らの想う強さだけを目標に走り続けていた。
自分自身を疑うことなく、一直線に。

そんな彼女にとって、老狼の存在はまさに渡りに船。
母親が相打ちに近い状態にまで追い込んだエンシェント・モナク。
それを目の前にして挑まずにはいられなかった。

117名無しさん:2018/04/22(日) 23:43:09 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「来たぞ」

村から三十キロほど離れた森の空き地に、老狼は座していた。
牙の一つが人間ほどの大きさもある巨大な白い狼。
敵意を向けられていない状態であれば、神々しいとさえ思わせる美しさ。

<_プW゚)フ  「愚かな。自らの力量のはかりに我を用いようなどとは」

自身の真意を見抜かれていることに全く物怖じせず、あけすけに答えるクール。
目の前に存在するのは母の仇のはずであったが、
彼女の心中には怒りや恐怖よりも、好奇心と上昇志向が渦巻いていた。

川 ゚ -゚) 「他に相手にがいない」

<_プW゚)フ 「確かにあの女は類まれなる才能の持ち主であった。
          だからといって汝がそうであるとは限らぬ。
          今であれば見逃してやってもよい」

森の出口を顎で指す狼の眼前に、その首を落とせるだけの巨大な剣が突き刺さった。
魔力でできた大剣は地面を食い破り、老狼の視界を遮る。

川 ゚ -゚) 「御託はいい」

<_プW゚)フ 「よかろう。ただし我が手加減するとはゆめゆめ思うな」

川 ゚ -゚) 「されては意味がない。行くぞ」

118名無しさん:2018/04/22(日) 23:44:12 ID:G.gIoQVo0

クールの攻撃手段は、あの日から変わらずたった一つ。
だが、かつてよりも洗練された武器。

超高密度の魔力で創造した光の剣は、
触れるものを悉く断ち切る単純な力の塊。

三年以上の歳月が彼女に与えたのは、魔力剣をただ振り回す以外の運用。
七つの剣がクールの後背に現れ、そのうちの六つが流星のようにエストへと奔った。
放たれた剣にも劣らない速度で喉元を狙うクール。

<_プW゚)フ 「その程度かっ!」

エストは一喝して、前足の一振りで飛来する剣を薙ぎ払う。
その後に続いたクールの刺突は、額の先で見えない壁に防がれた。

川 ゚ -゚) 「ほう」

<_プW゚)フ 「力を出し惜しみしている余裕はない筈だ」

エストの遠吠えと共に、灰色の魔力が無差別に森の中を切り裂いた。
あまりにも広範囲で強力な一撃は、クールを魔力防壁ごと刻んだ。
傷だらけの姿で剣を杖にしながら何とか立つクール。
純白のドレスのあちこちに血を滲ませながら。

119名無しさん:2018/04/22(日) 23:44:54 ID:G.gIoQVo0

川;゚ -゚) 「っ……はぁっ……」

<_プW゚)フ 「愚かな人間よ。王の手にかかって死ぬことを誇るがいい」

何ら前兆も無く、先程の倍以上の密度で吹き荒れた斬撃の嵐。
半径数キロが荒れ地と化し、そこにもはや生存者は存在していないかと思われた。

<_プW゚)フ 「ほう……」

川;゚ -゚) 「くそ、やはり化け物だな……」

<_プW゚)フ 「……。今のを耐えるとは予想していなかったぞ」

川 ゚ -゚) 「全く、ただの人間が耐えられるような攻撃じゃなかったぞ」

深い傷口やドレスの汚れが全て消えていた。
その右手に持っていたのは、今までのように魔力を凝縮した刃ではなく、
生き物の如く魔力を放ち続ける剣。

川η-゚) 「っ……!」

脳内に流れ込んでくる情報の濁流に歯をくいしばって耐え、
空いた手で頭を抑えながら、正面に向き直る。

<_プW゚)フ 「その剣は……やはり親子か。楽しませてくれる」

120名無しさん:2018/04/22(日) 23:45:37 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ー゚) 「はっ……これが……本当の天剣……。
      行くぞ老いぼれ。先程までの鈍らとは切れ味が違うことを知れ」

<_プW゚)フ 「あの女と同じ天使とやらの置き土産か。面白い。
          どこまで抵抗できるか示して見せよ」

川 ゚ -゚) 「その首叩き落としてやる」

先程まで避けることすらしなかったエストは、初めてクールの天剣を明確に避けた。
巨体故に追撃を完全に躱すことは難しく、魔力を込めた爪と剣が火花を散らす。

<_プW゚)フ 「ぐっ……」

川 ゚ -゚) 「どうした?」

<_プW゚)フ 「調子に乗るな人間!」

咆哮は無数のかまいたちを生み出し、クールを削る。
それでも引くことはせず、そのまま天剣を振り抜いた。
緩やかな放物線を描いて、切り落とされた爪は地面に突き刺さった。

川 ゚ -゚) 「爪切りでもしてやろう」

<_プW゚)フ 「爪の一欠けら如きで勝ったつもりか……!」

121名無しさん:2018/04/22(日) 23:46:10 ID:G.gIoQVo0

川;゚ -゚) 「ぐっ!?」

巨大な体躯に似合わない速度は、一瞬でクールの視界を埋め尽くした。
目の前の現れた白い壁が体当たりによるものだと気付いたのは、遥か後方に弾かれてから。

<_プW゚)フ 「消えろ」

一直線に大気を穿つ不可視の空砲撃。

川 ゚ -゚) 「リバーサル!」

強大な魔力の激突は大地を二つに割った。
天剣が生み出す膨大な魔力が創り出した反転の防御魔術。
自分自身に知識がなくとも、それらが用いれることを天剣の現出と同時に理解していた。

<_プW゚)フ 「先程の攻撃も防いだのもそれか」

川 ゚ -゚) 「防御魔術だけじゃない」

天剣を上段に構え、その刀身に刻み込まれた魔術を解放する。

川 ゚ -゚) 「エスキューラ」

刀身から散らばった光が空を埋め尽くす刃となり、一斉に降り注いだ。
豪雨すら生温いと思えるほどの光刃。
だが、多くはエストの毛皮に防がれ、かすり傷を与えた程度に終わった。

122名無しさん:2018/04/22(日) 23:47:14 ID:G.gIoQVo0

<_プW゚)フ 「少しは使いこなせているようだが、所詮その程度か。
          汝の母親は我が唯一認める人間であった。
          もう会えぬとは、なんと人間の脆いことよ。
          少し期待していたのだがな……」

川 ゚ -゚) 「ぐっ……」

エストは両後ろ足に力を込め、瞬発。クールはその姿を一瞬見失った。
背後からの一撃は何とか受けるも、抵抗する間も与えられずクールは空に打ち上げられた。
巨狼すらも掌ほどの大きさになってしまうほどの上空。
眼下に森全体の魔力が集中していくのが見えた。

川 ゚ -゚) 「嘘だろ……」

もはや小さな太陽といっても差し支えないほどの光と熱量を帯びた魔力。
魔術などを介さなくとも世界を滅ぼしうる純粋な力の塊。
その威力にわざわざ考えを巡らせる意味はない。
およそ生物であれば容易く蒸発させてしまうであろうことは明らかだった。

川 ゚ -゚) 「っ……!」

迫り来る死を圧縮した光。
悪戯に引き延ばされた時間の中で、
避けることも、防ぐこともできないと理解した。

123名無しさん:2018/04/22(日) 23:47:54 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「だったら……」

天剣は人間の命を鞘にした、人間を超える武器。
たとえ相手がエンシェント・モナクであろうと、それに劣る理由は無い。
少なくとも自分の母親は、この相手と対等に戦ったのだという事実を信じて意志を叫ぶ。

川 ゚ -゚) 「突破する!」

天剣を抜き放ったと同時に、数多の記憶が脳裏に流れ込んできた。
強大な存在と向き合っていたからこそ、それら全てを素直に飲み込む。

川 ゚ -゚) 「リバーサル……!」

ありったけの魔力を込めた反転の魔術。
二つの巨大な力は空中でぶつかり、混ざり合って爆ぜた。
その衝撃で、クールの軽い身体は塵芥の如く吹き飛ばされる。

着地したクールの視線の先には、猛然とと駆け寄ってくる白い巨体。

エストとの距離はおよそ数百メートル。
瞬きの間すら許されないはずの苛烈な戦いの最中にありながら、
クールは穏やかな表情で剣を握る。

エストの唸り声が周囲一帯に低く響く。
その怒りの矛先から逃れようと、木々は葉を散らした。

124名無しさん:2018/04/22(日) 23:48:42 ID:G.gIoQVo0

老狼エストは少女目掛けて、飛び込んだ。
力強い踏み込みは大地を砕き、大気を貫く。

およそ肉眼ではとらえられない速度に対して、クールは一歩も引かなかった。
その半歩先の足元から打ちだされた魔力弾に、天剣の切っ先を向けたクール。
迫り来る命の危機を畏れずに瞼を閉じ、暗闇の世界に飛び込む。

<_プW゚)フ 「っ……」

華奢な身体を引き千切ろうと大口を開けていたエストは、
直前にさらにもう一歩踏み込んでクールを飛び越えた。

川 ゚ー゚) 「どうした」

剣を構えたままのクールは、何一つ動作を行っていない。
防衛魔術を組むことも、攻撃魔術を唱えることも。
その命を奪うはずだった一撃を、止める必要などなかったはずなのに。

<_プW゚)フ 「ちっ……」

質問には答えない。否、答えることができない。
攻撃を躊躇った理由は、エスト自身が最も疑問に思っていたことだからだ。

川 ゚ -゚) 「お前はこの剣を恐れたんだ」

125名無しさん:2018/04/22(日) 23:49:10 ID:G.gIoQVo0

<_プW゚)フ 「馬鹿なことを。その剣の使い手を既に一度屠っているこの身だ。
          いまさら何を恐れる必要がある!」

大口を開いたエストは、古傷が発する小さな痛みを無視して魔力を集中させる。
咆哮と共に放つ大口径の魔術砲撃。
漆黒の魔力は、直線上の何もかもを焼き尽くす。

<_プW゚)フ 「消えろ!」

莫大量の光塵が散り、墨で描いたかのような黒撃が樹木を飲み込んで一直線にクールに迫る。

川 ゚ -゚) 「……」

その一撃に抗う術を、クールは既に知っていた。

自身の中に眠っている力を無理やり引き出すために、敢えてその身を危険に曝す。
瞼を閉じて訪れた焼けつくような暗闇の中で、閃光の様に迸る過去の映像。
魔術師と戦い、初めて敗北を経験した苦い感情が蘇る。
と同時に、胸の奥底で一際強い鼓動を確かに感じた。

川 ゚ -゚) (これが走馬灯……全く、ここまでしなければまだ難しいか)

指先まで余すところなく包む重力を全て認識して、全身の感覚を手放す。
重しを失った精神は、あらゆる時間の過去が混じり合った光景を通り過ぎ落下していく。
全身が燃え尽きそうなほどの熱風の中で、闇の底にある巨大な光へと手を伸ばす。

126名無しさん:2018/04/22(日) 23:50:21 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ー゚) 「ふっ……ははははっ!」

目前にまで迫った老狼の一撃が頬を焦がす。
それでも溢れ出て来る笑いは止まらなかった。




川 ゚ -゚) 「天剣! ナインツ・ヘイブン!」




叫びと共に空に向けて掲げた天剣が、その影に姿を与えた。
力を分け与える分裂ではなく、まったく同じ性能を持つ複写ではなく、
異なる九つの力を、真に扱うことのできる天剣として。

127名無しさん:2018/04/22(日) 23:51:24 ID:G.gIoQVo0

クールよりも一足先に五つの天剣がエストの魔力と衝突。
それぞれが発したリバーサルの魔術が相互干渉を引き起こし、
強力な魔力が行き場を失くし暴走、消滅した。

その衝撃波を潜り抜け、クールはエストの首元目掛けて突貫した。

川 ゚ -゚) 「貫けっ……! ペネトライト!」

流星の如く地面に突き刺さった光の柱。
余波だけで周囲の木々を薙ぎ倒した強大な魔術は、
真名が解放されたナインツ・ヘイブンの持つ九つの魔術のうちの一つ。
その中で最速にして最も鋭い一撃。

飛び散った血液が大地を赤く染める。
クールの生存に気付いたエストが咄嗟に身体を動かし、
光の刺突はその片目を奪うにとどまった。

<_フW゚)フ 「くっく……どうやらその力の真価を発揮したようだな。
          これでようやく母親と同じ土俵に立ったわけだ」

奪われたはずの視力を一切気にすることなく、老狼はその身に纏う魔力をさらに濃くする。
クールが構えた一つと、宙に浮かぶ五つの切っ先がエストを狙う。

川 ゚ -゚) 「……まだ戦うか」

128名無しさん:2018/04/22(日) 23:52:18 ID:G.gIoQVo0

<_フW゚)フ 「あぁ、勿論だ。これだけの高揚感は久しぶりだ。
          最後まで楽しませろよ、人間」

戦いの余波で荒れ地となった森の中で向かい合う一人と一頭。
どちらも、睨み合ったまま一歩も動かない。

川 ゚ -゚) 「……ふっ!」

先に動いたのはクール。
顕現させているだけで膨大な魔力を発生させる天剣は、
扱い方を間違えれば逆流によって自らを傷つけかねないほどの出力を持っている。
扱い慣れていない現状で、相手の出方を窺うにはあまりにも不利だと判断しての事だった。

真正面からの剣筋に対し、エストがとったのは魔力壁の精製。
目に見えない壁がクールの剣を阻む。

<_フW゚)フ 「もう限界と見えるがな」

じりじりと壁の圧力が増し、クールは後ろへと押され始めた。

川 ゚ -゚) 「はっ……そっちも大技撃つ余裕がないのはわかってる」

<_フW゚)フ 「それはどうかな」

エストの全身から噴き出した白銀の靄。
それが狼の頭へと変化し、クールに襲い掛かる。

129名無しさん:2018/04/22(日) 23:53:05 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「くそっ」

瞬間的に召喚した五つの天剣で辛うじて防ぐも、
正面の力押しに割いていた神経が削がれた。

川;゚ -゚) 「ぐっ……」

はるか後方に弾かれ、大樹の幹にぶつかって止まった。
肺からすべての息が溢れ出たせいで行動不能に陥った一瞬の隙をつき、
エストは大樹ごと噛み砕いた。

<_フW゚)フ 「何処に……」

粉々になったのは大樹の欠片だけで、人間の身体はそこには無かった。
脅威を感じて飛びずさったエストの後ろ足に深く突き刺さった天剣。

<_フW゚)フ 「ぐぅっ……」

川 ゚ -゚) 「でかい身体というのも不便だろう」

動きが鈍った巨体の足元で、天剣に魔力を注ぎ込むクール。

<_フW゚)フ 「馬鹿が、何の対策もしていないと思ったか」

130名無しさん:2018/04/22(日) 23:53:46 ID:G.gIoQVo0

川;゚ -゚) 「なっ!?」

全身から噴き出したのは高熱の魔力。
それを防ぐために、クールは攻撃の為に貯めた魔力を消費せざるを得なかった。

<_フW゚)フ 「これで……終わりだ」

縦に飛び上がったエストは、眼下にクールを見た。
咄嗟の攻撃に対処したせいで、、もはや魔術を練り込む余裕は無い。
その身体に残るのは僅かな魔力のみだと確認し、エストは最大の一撃を叩きこむために吼えた。

<_フW゚)フ 「もはや天剣すら維持できんか! 粉々になれ!」

エストは全身に残った魔力のすべてを込め、
落下の勢いを利用してクールに叩き付けた。
轟音と爆炎。砂埃が舞い上がり、一帯は一歩先すら見えない。
ゆうに数十秒もかかり、ようやく落ち着いてきた更地に見える二つの影。

<_フW゚)フ 「な……に……」

その腕はクールに届かず、空中で身動きすらできないエスト。
首元から背中まで貫通した巨大な光の剣を視認し、自身の敗北を知った。

川 ゚ -゚) 「ギガンテア」

131名無しさん:2018/04/22(日) 23:54:15 ID:G.gIoQVo0

<_プW゚)フ 「魔力は……もう切れていたと思ったのだがな……」

川 ゚ -゚) 「はっ……その通りでもう空っぽだ。
      ギガンティアは天剣の持つ魔力を解放する技だ。
      細かなコントロールは当然きかないし、大きすぎて普通の敵には当たらない」

<_プW゚)フ 「ははは……!! なかなかに面白かったぞ小娘!
          汝が母親を超えているのは魔力だけだと思っていたが。我を倒すとはな……。
          技術でももはや勝るとも劣らん……よ。見事……だ……った……」

エンシェント・モナク、老狼エストは目の前で力を使い果たしたクールを称えると、その命を失った。

132名無しさん:2018/04/22(日) 23:56:56 ID:1ulbFvwQ0
君主か

133名無しさん:2018/04/22(日) 23:58:20 ID:G.gIoQVo0

>4


川 ゚ -゚) 「そろそろ来る頃だと思ってたよ」

王城にある自室で紅茶を飲んでいたクールは、唐突に誰もいない空間に声をかけた。

('A`) 「数撃てば、と思っていたが本当に成し遂げるとはな」

応えたのは何処からともなく現れた黒いローブの男。
自らの丈を超える長杖を傍らに抱き、
部屋の主である女性に許可を得ることなくベッドに座っていた。

川 ゚ -゚) 「待たせすぎではないか」

('A`) 「こちらもいろいろとあってね」

川 ゚ -゚) 「そんなことはどうでもいい。それで、私を約束の丘に連れて行ってくれるのか?」

('A`) 「ああ、そうだ」

川 ゚ -゚) 「……そうか」

かつての少女は、笑みとも哀しみともつかぬ表情で呟く。
目標を達成できたことに対する自らの感情を図りかねていた。
今や女性らしく成長したクールの儚い麗しさに、男は動揺を心の奥底に押し込める。

134名無しさん:2018/04/22(日) 23:59:46 ID:G.gIoQVo0

川 ゚ -゚) 「……変わらないな」

数年ぶりにあったにもかかわらず、男の姿はクールの記憶にある当時のままであった。

('A`) 「自分の時間を止めているだけだ」

川 ゚ -゚) 「そんなこともできるのか……」

('A`) 「俺ほどの魔術師になれば容易いことだ。
     それにしても君は変わったな。あのお転婆姫が……嘘みたいだ」

川 ゚ -゚) 「ふふ……あれから七年か。
      強くなることばかり考えていたせいで、色々と失ってしまったが……」

('A`) 「遊んでいたかったか? 普通の人間として」

川 ゚ -゚) 「いや、私が望んで歩んできた道だ。後悔はしていない。……するわけがない」

クールは強い否定の言葉と共に首を横に振る。
両腕を胸の前に掲げ、光る九つの小さな剣を呼び出した。

135名無しさん:2018/04/23(月) 00:00:16 ID:rAv1D0mY0

川 ゚ -゚) 「あの時、お前と会わなければこの域まで至ることは無かっただろう」

('A`) 「ナインツ・ヘイブンか……それも完成させたんだな。
     母親にも負けない大したお姫様だよ」

川 ゚ -゚) 「褒められたくてやったわけではない。ただひとえに、お前に勝とうと思えばこそだ。
       だが、今日会って分かった。お前と私の間にはまだ差があるようだな」

('A`) 「お前が感じているのは実力の差じゃない。経験の差だ。
     俺は追いつかれたと、そう感じているんだからな。
     本当に、天剣使いの女には驚かされる」

川 ゚ -゚) 「以前会ったときに、母の事を知っていると言っていたな」

('A`) 「ああ」

川 ゚ -゚) 「教えてくれないか」

('A`) 「いいだろう。だが今じゃない。向こうに着いてから話すとしよう。
     もう城内の人間に別れは済ませたのか?」

川 ゚ -゚) 「たった一年間の留守だ。今更の事だ。別に誰も怒りはしないさ」

悪戯っぽい笑みを浮かべるクール。
ドクオはそれに合わせる様に苦笑した。

136名無しさん:2018/04/23(月) 00:00:41 ID:rAv1D0mY0

('A`) 「訂正だ。お前は昔から全く変わってないよ。さて、そろそろ……ん?」

クールは何も言わずに椅子から立ち上がり、ドクオの目の前に立つ。
そのままドクオの肩を抑え、ベッドに押し倒した。

(;'A`) 「なん……だ……?」

川 ゚ -゚) 「自分でも不思議なんだが、今を置いて他にないと耳元で私が囁くんだ。
      わかるか……? あの頃の私はな、ずっと待っていたんだ」

('A`) 「何を……」

川 ゚ -゚) 「私よりも強い人間を。それがどうだ、現れたと思えばすぐにどこかに消えてしまった。
      あの時のお前にとって私は、ただの可能性の一つでしかなかったんだろうな」

('A`) 「……そうだな」

抵抗をしないドクオに覆いかぶさると、長い髪がその頬に触れた。
それは部屋の中にいた二人をさらに狭い空間に閉じ込めた。
互いの息遣いが聞こえるほどの近い距離。

川 ゚ -゚) 「でも私にとっては違った」

('A`) 「……」

137名無しさん:2018/04/23(月) 00:01:58 ID:rAv1D0mY0

川 ゚ -゚) 「絵にかいたように可愛いお姫様だった私が、求めてやまなかったのは物語の王子様。
      我ながら夢見がちな乙女だったよ」

('A`) 「自分で言うか……」

川 ゚ -゚) 「それでも、その夢の中に現れたんだ。
      あの頃の私にとって、ただの憧れだったのか、
      それ以上の存在だったのか、今はもうわからない」

('A`) 「夢は覚めたか?」

川 ゚ -゚) 「いや、残念ながら時間経過でより深く沈んだ。逃げ出せないくらいに。
      あの時と同じことをもう一度言おう」

('A`) 「傷つくから遠慮しておく」

川 ゚ -゚) 「駄目だ。拒否権はない。全く同じ状況で、お前と全く違う人間が現れたとしても、
      同じ結果に陥ってたように思う。
      それでも、今の私にとって特別なのは、仮定の誰かじゃなくて、ここにいるお前だ」

('A`) 「俺は……」

零れかけたドクオの言葉を人差し指一つで押しとどめる。

川 ゚ -゚) 「言うな。別に気にしないさ」

138名無しさん:2018/04/23(月) 00:04:59 ID:rAv1D0mY0

('A`) 「……まったく、強引で自分勝手で……我儘なお姫様だ」

川 ゚ -゚) 「褒めても何も出ないぞ」

('A`) 「ああ、そうだろうな」




川 ゚ー゚) 「一つだけ聞こう。……私の勝ちか?」



('A`) 「…………お前の勝ちだよ」



.

139名無しさん:2018/04/23(月) 00:05:55 ID:rAv1D0mY0



・・・・・・

140名無しさん:2018/04/23(月) 00:06:51 ID:rAv1D0mY0
今日はここまでです。続きは近いうちに。
読んでいただいた方、支援していただいた方、どうも有難うございました。

141名無しさん:2018/04/23(月) 00:26:20 ID:jDNNE6SM0

面白かった

142名無しさん:2018/04/23(月) 00:37:19 ID:bpFci.RQ0
続きが待ち遠しすぎ

143名無しさん:2018/04/23(月) 01:14:33 ID:nunSBhSU0
乙乙
完結まで結構長そうだな

144名無しさん:2018/04/23(月) 07:15:00 ID:lZYQLZ1Y0
めっちゃすき

145名無しさん:2018/04/23(月) 08:34:40 ID:36M8FEJg0
川 ゚ -゚)の勝ち=立たせること
何が立ったのか…

146名無しさん:2018/04/23(月) 09:23:32 ID:nunSBhSU0
そらナニだろうな

147名無しさん:2018/04/23(月) 13:35:05 ID:msTnvtcY0
乙乙!
面白かった。キュートはどこに絡んで来るのやら

148名無しさん:2018/04/23(月) 20:31:13 ID:erpuxcHw0
乙です

149名無しさん:2018/04/24(火) 08:51:54 ID:xZGVhIGg0
すげーいいなこれ

150名無しさん:2018/04/24(火) 11:55:49 ID:JZ..YL360

少女はその柄を強く握り、地面から引き抜いた。
朽ちていた刀身は砕け、鉄粉となって舞う。
月の光に照らされた丘の上で、少女は立ち尽くす。

o川*゚ー゚)o 「夢じゃ……無いのかな?」

柄と刀身の一部しか残っていない剣は、
夢の中で女性が振り回していた武器にとても良く似ていた。
それを否定する事実は、手の中にあるズシリとした重さ。

o川*゚ー゚)o 「誰だったんだろう、綺麗なお姫様……」

その顔だけが微かに思い出せた。
ぼうっとする頭の中に浮かび上がる笑顔は、何故かとても心に響く。
知っているのに知らない人。
それが妙に少女の心をざわつかせた。

o川*゚ー゚)o 「私の夢? それとも……私が見ている夢?」

一度覚醒してしまえば、泡沫のように消えてなくなる夢の足跡。
頭を捻ってみたところで、もはやほとんど思い出すこともできなかった。

o川*゚ー゚)o 「これ、どうしよう」

なんとなく大事なモノのような気がし、そっと地面に置く。
すでに崩れかけていた刀身は音を立てて地面に散らばった。

151名無しさん:2018/04/24(火) 11:56:17 ID:JZ..YL360

o川*゚ー゚)o 「……鉄だけど、魔力……?」

重量も質感も、全てが鉄であることを示している。
それなのに、目の前で崩壊した剣は明らかに魔力によって創り出されていた。

o川*゚ー゚)o 「はーっ……どうなってんだろ」

今まで気にも留めていなかった事実が、次々と少女の心に押し寄せてきた。

この箱庭のような場所に、何故たった一人なのか。
自分は一体、何処から生まれてきたのか。
一人の骸と、四つのシンボルが何を意味するのか。

o川*゚ー゚)o 「っ……」

溢れそうになる涙をすんでのところで抑え込んだ少女。
ほんの少しでも泣いてしまえば、もう堪えられそうになかったから。
何処までも続く荒れ地に、たった一人っきりだという事実に。
せめて涙を流さないようにすることだけが、少女にできる唯一の抵抗であった。

o川* ー )o 「もうやだぁ……誰かぁ……」

呼びかけに応える者はいない。
少女は膝を抱えて蹲る。見たくもない現実から目をそらそうと。
そうやって自分の中へと逃げ込む。

152名無しさん:2018/04/24(火) 11:56:37 ID:JZ..YL360

誰にも邪魔されることがない、自分だけの場所。
自分だけが許された領域へと。
少女の心の中を映し出したかのような、暗く、広く、何もない空間。

o川* ー )o 「っすん……ひぐっ……」

逃げ込んだところで、彼女は致命的に、絶望的に一人だった。
親もなく、友もなく、自分さえもあやふやで信頼出来ない。
この寂しさを紛らわしてくれる存在を、少女は願った。

o川* ー )o 「…………」

無限に広がる夜空に浮かぶ星。
その輝きを受けて、地面から生えた牙が淡く光る。

o川*゚ー゚)o 「……?」

吸い込まれるようにふらふらと歩く少女。その様相はまるで意思無き人形。
小さな瞳に映っているのは燦然と輝く夜空と、水晶のような牙。
牙の足元にまでたどり着いた少女は、糸が切れたかのように倒れ込んだ。

153名無しさん:2018/04/24(火) 11:57:57 ID:JZ..YL360

>1


雑多な植物が生い茂った道もない森の中、少年はひたすらに走る。
逃げるために。道なき道を真っ直ぐに。
木々を薙ぎ倒し、草葉を踏み潰し。

(#・∀・) 「ああああっ!!!」

怒りに任せて発した叫びが、森を穿つ。
それと同時に、少年を中心に半径数メートル分の付近の植物が分解された。
出来上がったばかりの道を駆け抜ける。

(#・∀・) 「っ……! くそくそっ……! 」

どれだけ走ろうと、どれほど逃げようと、脳裏に浮かぶのは得体のしれない呪術師の男。
その見た目は村中で噂されていた通りの黒いスーツに白のネクタイ。
白の帯が巻かれたシルクハットを目深に被り、
その手に持つのは宝石の埋め込まれた歪なステッキ。

あまりにも不気味で一目見れば二度と忘れることは出来ない。
死神をも驚かせるような恰好の男は、獣の使い手達の間では有名な要注意人物。
敵国の保有する最強の戦力であり、獣の使い手に取っては死の象徴である。

そんな男が自陣の最奥に突然現れ、告げられた父と母の死。
男の纏う雰囲気にのまれた少年に、言葉の真偽を疑う余地などなかった。

154名無しさん:2018/04/24(火) 11:58:23 ID:JZ..YL360

恐怖という感情に身体を支配され、自らの起こした行動すら理解するのに数分を擁した。
即ち、全てを投げ捨て脱兎のごとく森の奥へと逃げ出したことに。
森の奥へは決して向かうな言われていたことなど、頭の中には無かった。

一週間もの間、昼夜を問わず走り続けた。
食事も休憩も一切取らずに。
その結果辿り着いた場所は、少年が想像だにしていなかった世界。

( ・∀・) 「どうしよう・……」

少年は愚直に信じていた。
森の奥にはより深い森が拡がっていると。
この森に果てなどないのだと。

だが、突きつけられた現実は違った。
少年の眼に映るのは煙に埋め尽くされた灰色の空と、赤黒く輝く荒れた大地。
見たこののない風景と、嗅いだことのない臭い。
強烈な初めてに当てられた少年は、言いようのない感覚に襲われていた。

まるで境界線でも引いたかのように唐突に終わっている森。
炎の海から吹き込む熱風が頬を焦がす。

155名無しさん:2018/04/24(火) 11:59:52 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「戻らなきゃ……」

引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。

(;・∀・) 「あ……あぁ……」

灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。

/ ,' 3 「ほう、森の獣か……」

(;・∀・) 「ひぅ……」

/ ,' 3 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」

灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。

( ^Д^) 「油断したなっ!」

起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。

/ ,' 3 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」

156名無しさん:2018/04/24(火) 12:00:37 ID:JZ..YL360
>>155はミスです

157名無しさん:2018/04/24(火) 12:01:13 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「戻らなきゃ……」

引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。

(;・∀・) 「あ……あぁ……」

灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。

|(●),  、(●)、| 「ほう、森の獣か……」

(;・∀・) 「ひぅ……」

|(●),  、(●)、| 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」

灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。

( ^Д^) 「油断したなっ!」

起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。

|(●),  、(●)、| 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」

158名無しさん:2018/04/24(火) 12:01:52 ID:JZ..YL360

灰龍は少年に背を向け、起き上がった緑色の龍を睨む。
既に戦闘態勢を整えた小柄な龍が牙をむき出しにして突進をかける。

(#^Д^) 「殺すッ!」

|(●),  、(●)、| 「殺せんよ」

飛び込んできた龍を灰色の龍が力づくで組み伏せた。
頭を大地に半分以上沈められ、口を開くこともままならい。

( ^Д ) 「ぐっ……!!」

|(●),  、(●)、| 「大人しくしておれ」

その首を抑えつけられた緑色の龍は微かな抵抗を見せていたものの、すぐに気を失った。

|(●),  、(●)、| 「さて、話に邪魔が入ったな。
             生半可な距離ではあるまいて。なぜ龍の国に訪れてきたのだ?」

鎮圧した龍から腕を離し、再び少年と向かい合う。

( ・∀・) 「龍……国……? 知らな……くて……」

159名無しさん:2018/04/24(火) 12:02:40 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「はて……迷子か。にしては随分と遠くまで来たものだ。
             親は何処におるのだ」

( -∀-) 「父さんと……母さんは……」

俯いた少年に対して、龍は何も言わずに鼻先で撫でる。
最初は驚いた顔をしていた少年も、害意はないと悟ったのかされるがままになっていた。

|(●),  、(●)、| 「大変だったのだろうな……」

返事の代わりに、空腹を訴える音が長々と響いた。
驚き、苦笑した龍はその背を少年に向ける。

|(●),  、(●)、| 「乗りなさい。すぐ近くに私の住処がある。食べるものくらいはあるだろう」

( ・∀・) 「えっと……」

|(●),  、(●)、| 「私の名前はダディクール。君の名前は何という」

( ・∀・) 「モララー……モララー・ドライト」

|(●),  、(●)、| 「ほう、良い名ではないか。かつての龍王と同じ名であるとは」

160名無しさん:2018/04/24(火) 12:03:18 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「龍王……?」

|(●),  、(●)、| 「強く気高い王であられた。…………」

言葉を切り、懐かしむように遠くを眺めるダディクール。
モララーは何も尋ねず、灰龍の背に飛び乗った。
それを確認したダディクールは巨大な翼を広げて急上昇する。

( ・∀・) 「……あの龍は」

|(●),  、(●)、| 「放っておけばよい。気絶をしているだけだ」

( ・∀・) 「……」

|(●),  、(●)、| 「愚かな空位の龍王、その小間使いだ。十や二十おったところで敵ではない」

( ・∀・) 「空位の龍王……?」

|(●),  、(●)、| 「……いらんことを言うたな。忘れてくれ。
             見えてきたぞ」

ダディクールが着地したのは、熱風を噴き上げる真っ赤な湖の中心にある山。
その背から飛び降りたモララーはとめどなくあふれる汗を拭う。

161名無しさん:2018/04/24(火) 12:04:12 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「森の住人には暑すぎたか。少し待て」

灰龍の息吹がモララーを包み、肌を焼くほどの熱は消えた。

( ・∀・) 「あ、りがとうございます」

|(●),  、(●)、| 「食事は……食べれそうなものを食べればよい」

家よりも大きな机の上に並べられた様々な食材。
モララーは燻製にされた肉を千切り、口の中に放り込む。。

( ・∀・) 「む……」

龍族の肉は想像よりも堅く、呑み込むまでにかなりの時間をかけていたが、
その味はむしろ好みなくらいであり、すぐに次の一欠片に取り掛かった。
その様子を見ながら、ダディクールは真っ赤な液体を飲み込む。

|(●),  、(●)、| 「…………」

じっと見つめられていることを気にもかけず、一心不乱に食事に取り込むモララー。
到底食べきれるはずのない量があった肉を、殆どすべて平らげた。

( ・∀・) 「うぷ……」

|(●),  、(●)、| 「水を飲みなさい」

162名無しさん:2018/04/24(火) 12:04:50 ID:JZ..YL360

爪で押し出された器には、溢れんばかりの水が注がれている。
それは周囲の気温に影響を受けず、差し込んだ手を焦って引くほどに冷たい。
自身が泳げるほどの大きさがある器に顔を沈め、のどを潤した。

( ・∀・) 「はぁ……」

|(●),  、(●)、| 「落ち着いたか」

( ・∀・) 「はい」

|(●),  、(●)、| 「なぜ国境まで来た」

( ・∀・) 「村が……敵に襲われて……父さんと母さんが……」

|(●),  、(●)、| 「森の住人達は戦争をしておったのだったか。
             そんなことを耳にした記憶もあるが……君の父と母は勇敢に戦ったのだろう」

( ・∀・) 「でも、殺されたって……」

|(●),  、(●)、| 「呪術師の一族か……。何とも異様な集団よ。
             我らが同胞も何度か殺されておる。
             特に一人、破格に強いのがおるらしいが……」

163名無しさん:2018/04/24(火) 12:05:38 ID:JZ..YL360

全種族の中でも最強とうたわれる龍属。
正面から戦ってこれを打倒できる個は、世界中を探しても数えるほど。

|(●),  、(●)、| 「森の住人にも強き夫婦がいたな。
             名を確か……フサギコとペニサスといったか。
             たった二人で彼らの住処を襲った破龍を狩りおった……」

( ・∀・) 「父さんと母さんが?」

|(●),  、(●)、| 「そうか、彼らが君の両親だったか……。
             その身に宿す獣の力もさることながら、とても勇敢な戦士だった」

( ・∀・) 「そう…………だったん……」

龍の食卓に座っていたモララルドは突如倒れ込んだ。

|(●),  、(●)、| 「ん……なんだ寝てしまったのか。
             今はゆっくりと休め。これからのことは起きてから決めるがよい」

寝息を立てるモララルドの小さな身体を柔らかな羽毛の上に運び、
灰龍も目を瞑った。

164名無しさん:2018/04/24(火) 12:05:58 ID:JZ..YL360

>2


|(●),  、(●)、| 「目を覚ましたか」

( ・∀・) 「ここは……」

|(●),  、(●)、| 「三日間も眠り続ければ、もはや忘れてしまったか」

( ・∀・) 「いえ……どうも、ありがとうございました。帰ります」

|(●),  、(●)、| 「何処にだ?」

( ・∀・) 「……」

|(●),  、(●)、| 「君が寝ている間に、森の方を少し調べてきた。
             ……残念だが、今は帰らないほうが良いだろう」

( ・∀・) 「っ……」

|(●),  、(●)、| 「君さえよければ、すこしここで暮らしておくといい。
             呪術師とて、虐殺をするのが目的ではなさそうだ。
             そのうち普段通りの暮らしができるようになる」

165名無しさん:2018/04/24(火) 12:06:54 ID:JZ..YL360

(; ・∀・) 「でも……っ!」

|(●),  、(●)、| 「では今戻って、無駄に事を構えるのか?
             獣使い最強であった君の両親を殺した敵と。
             敗北は必定。無意味に命を散らすことはあるまい」

( -∀-) 「……」

|(●),  、(●)、| 「どうする?」

龍は問いかける。
少年が望む答えを与えてやることをせず、返事を待つ。

( ・∀・) 「強くなりたい。父さんと母さんの仇を取れるように」

|(●),  、(●)、| 「……復讐のための力か。それでもよかろう。
             わしも手が必要でな。見た所、才能も過大にある。鍛えてやろう」

(; ・∀・) 「えっ!?」

|(●),  、(●)、| 「何を驚く。君が望んだことだろう」

( ・∀・) 「あなたの目的は何ですか」

166名無しさん:2018/04/24(火) 12:08:18 ID:JZ..YL360

個が最強である龍属は集団を作って生活することは好まない。
生まれたばかりの子であっても、一ヶ月ほどで独り立ちをさせられるほどに。
モララーもその程度のことは知っていた。

|(●),  、(●)、| 「君は自身の力に気付いておらんのだな。獣の身で龍を宿すその力に。
             この前に少し言った空位の龍王のことは覚えておるか」

( ・∀・) 「いえ……」

|(●),  、(●)、| 「そうか。それなら龍族の歴史はどのくらい知っている」

( ・∀・) 「……全く知らないです」

|(●),  、(●)、| 「一から話すのはなかなかに面倒だが……納得はせまいな」

灰龍は壁に大きな傷跡をつける。
描かれた図形は楕円形が二つ。。
それぞれが赤と青に魔力で色付けされた。

|(●),  、(●)、| 「二千年以上前、妃龍クレシアの御代。
             その時を境に龍属に二つの派閥ができた。
             それぞれは旧派、新派と呼ばれていたが、特に大きな争いは無かった。
             だが……」

赤い円が少しずつ肥大化し、青を飲み込み始める。

167名無しさん:2018/04/24(火) 12:10:35 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「初めはほどんど同規模であった二派。
             二千年という時は、均衡を崩すには充分だった。
             時は過ぎて、旧派の龍属はわずか十数頭。それに対して新派は百を超えていた」

|(●),  、(●)、| 「今から百年ほど前、旧派のモララー・ラインバウが龍王となった。
             並みいる龍属の中で最も力が強かったからな。当然のことだ。
             最初は反対の声も多かったが、温厚な性格の彼のもとでうまくまとまっていた」

微かに明滅していた光は、次第に弱くなっていく。
暫くして、赤の円の中に残っていた青の光は完全に消えた。

|(●),  、(●)、| 「ほんの十年前まではな」

( ・∀・) 「十年前……僕が生まれた年だ」

|(●),  、(●)、| 「龍王モララーが殺された」

(; ・∀・) 「え……王様なのに?」

|(●),  、(●)、| 「龍王とは言え不死身ではない。
             私は実際に見てはいないが、百を超える龍の大軍だったらしい。
             地形が変わるほどの大戦争だった。
             その戦闘に参加して生き残った龍属は一頭もいない」

168名無しさん:2018/04/24(火) 12:11:23 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「えっ……」

|(●),  、(●)、| 「その反乱の首謀者……轟竜ローアング。
             自ら戦わずして龍王の座に就く痴れ者よ。
             私の目的は奴を殺すこと。君と同じ敵討ちだ……」

( ・∀・) 「僕の力が本当に必要なの?
        最初に会った時だって、他の龍なんか相手にならなかったのに」

目の前で打ち倒される巨体を忘れたわけではない。
灰龍はいともたやすく同族の意識を断ち切った。

|(●),  、(●)、| 「あれはただの雑魚だ。新派のほとんどは王によって消されたとはいえ、
             未だ旧派の数倍の戦力がある。私一人では手に負えない」

( ・∀・) 「だからって……」

|(●),  、(●)、| 「自分自身の力の大きさすらも知らないとは、
             随分と甘やかされて育ったようだな」

( ・∀・) 「僕の……ちから……?」

|(●),  、(●)、| 「さて、では教えてやろう。背にのれ」

169名無しさん:2018/04/24(火) 12:12:17 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「うん……」

モララーは灰龍の背に飛び乗り、その棘の一つを掴む。
灰龍は体を起こし、山腹をくりぬいたかのような巣から飛び立つ。
魔力で強化した翼を力強く羽搏き、みるみる上昇していく。

瞬く間に雲の間を通り抜け、空に沈む。
吹き抜ける冷たい風が肌を削るような速度。

(; ∀・) 「かっ……」

|(●),  、(●)、| 「堪え切れずに落ちるかと思ったが……よく耐えている」

大きな円を数度描き、急降下。
上昇時よりも数段速い速度を得て、雲を突き抜けた。

|(●),  、(●)、| 「死ぬなよ?」

( ・∀・) 「…………!!!」

一瞬の空白の後に生まれた爆風は、付近一帯の雲を微塵に吹き飛ばした。
時間を止めたかのような完全な停止。
予測していなかった挙動によって生まれた慣性に耐えきれず、
モララーは音速を超える速度で地面に投げつけられた。

170名無しさん:2018/04/24(火) 12:14:00 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「さて、どうだ」

(  ∀ ) 「無理無理……助けて! 父さん! 母さん!」

意識を失っていなかったことが、モララーの命を辛うじて繋いでいた。
地面に衝突して潰れた果実の様になるまで、残り僅か数十秒。

( -∀-) 「もう……駄目……」

今までにないほど脳みそを使ったところで、
生存への道を見出すことは出来なかった。

優秀な両親と違い、モララーは獣解放すら身に付けていない。
この状況を解決できる手段を持ち合わせてはいなかった。
もっとも、彼が特別に劣っていたのではなく、彼ぐらいの年ではできないことが普通であったのだが。

( ・∀・) (あ……もう地面が……死ぬ……)

肉塊となった自分の未来を想像し、できるだけ痛みが無いように願いながら瞼を閉じた。
生を投げ捨て、死を受け入れた瞬間から、強張っていた全身から力が抜けていく。
手を伸ばせば届きそうなほど近く、地面に生えていた赤黒い花の美しさを認識して、
モララーの意識は途絶えた。

|(●), 、(●)、| 「くっくっくく……」

遥か上空で円を描きながら浮かんでいた灰龍は笑っていた。
地面に叩き付けられて、真っ赤な花を咲かせた少年を見て。

171名無しさん:2018/04/24(火) 12:15:00 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「私の感覚は間違っていなかったようだ」

炎の海が吹き飛び、赤黒い溶岩が同心円状に大きく隆起。
まるでバラの花の様に捲れ上がっていた。

中心で蹲る少年を透明な魔力の骨格が覆う。
巨大な翼と、頭部にある角は青みがかっており、長い尾は左右に揺れている。
強靭な四肢はその巨影を支えて立つ。

( ・∀・) 「……僕は」

|(●),  、(●)、| 「初めてにしてはまずまずといったところか」

( ・∀・) 「死ぬかと思った」

|(●),  、(●)、| 「死んでもいいと思っていたからな。生きていて何よりだ」

( ・∀・) 「くっそ!」

灰龍に飛びかかったモララー。
その透明な龍の首は、一撃で分断された。
切り離された頭部は霞となって消え、切断面からは泡が零れだす。

172名無しさん:2018/04/24(火) 12:16:29 ID:JZ..YL360

(メ・∀・) 「がっ……」

|(●),  、(●)、| 「痛かろう。その身体は君自身なのだからな。
             不完全な状態だが、十分だ」

( ・∀・) 「……覚えておいて。僕の力があなたを上回った時があなたの命日になる」

|(●),  、(●)、| 「そのくらいの気持ちが無くてはな。
             五年で君を並び立つ者のいない龍にしてやろう」

( ・∀・) 「は……ははは……」

モララーを覆っていた魔力骨格が消え、震える両手を見つめる少年だけが残った。
触れれば怪我では済まなかったであろう灼熱の大地の上に、
躊躇いなく腰を下ろす。

|(●),  、(●)、| 「さ、帰るぞ」

灰龍は地上に降りることなく、頭を巣の方に向けた。

( ・∀・) 「え?」

|(●),  、(●)、| 「自力で戻ってこい。これも特訓の一環だ」

( ・∀・) 「嘘だろ……もう立てない」

|(●),  、(●)、| 「陽が落ちる前までに帰ってこなければ、今日は何も食えぬぞ。
             その辺に生えている草は、まだ君では食べられんだろうからな」

173名無しさん:2018/04/24(火) 12:16:56 ID:JZ..YL360

振り返ることなく飛び去って行く灰龍。
その姿を眺めながらモララーは立ち尽くしていた。

( ・∀・) 「くそ……!」

頭上を見上げて太陽の位置を確認し、その後に目指すべき先を見据える。
灰龍が拠点にしている山は煙に覆われ、その影しか見えない。

( ・∀・) 「行くしかない……か」

後ろを振り返ったところで、森との境界は見えない。
逃げ出す手段も場所もなく、前に進むことでのみ生き残ることができる。
最初はゆっくりと歩きながら。
魔力を両足に込めて、跳ねる様に溶岩の海を駈けた。

174名無しさん:2018/04/24(火) 12:17:39 ID:JZ..YL360

>3


|(●),  、(●)、| 「もう一度」

(#・∀・) 「っ! ……リベレーション!」

魔力の奔流が少年を包み込み、外殻を構成する。
頭から尾の先までが流線型の白。翼は薄く、尾の先は三つに分かれている。
灰龍の半分ほどの大きさであり、対照的な柔らかい肉質。
甲殻という龍属の鎧を捨て、速さと機動性に特化した形状。

|(●),  、(●)、| 「随分と形になってきたものだな」

( ・∀・) 「あんたのおかげでな……」

|(●),  、(●)、| 「口も悪くなってしまったのは残念だが。昔の方が可愛げがあったもんだ。
             まぁよかろう。完全な龍化もできるようになったのだ。そろそろ次の段階だな」

( ・∀・) 「次?」

|(●),  、(●)、| 「何、丁度いい相手が必要だろう」

突如として起きた大地の鳴動。
灰龍の拠点を貫いて聞こえてきたのは、叫び。
洞窟は大きな亀裂が入り、ダディクールとモララーは外に飛び出した。

175名無しさん:2018/04/24(火) 12:18:49 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「うーんと、全部で十二か。若いのも多いが……随分と増えたものだな」

( ^Д^) 「引導を渡しに来たぞ、骨董品!」

|(●),  、(●)、| 「やれやれ、あれから二か月ほどしかたっていないだろうに。
             プギャーよ、何を焦っている?」

( ^Д^) 「っ! もうすぐ死ぬてめぇには関係ねぇよ。……何だその不格好な龍は?」

ダディクールの隣に並ぶ白い龍。
その身慣れない姿に戸惑いを浮かべる龍属。
それも当然だろう。

龍の死が無ければ、龍は生まれない。
強すぎる種族である彼らには、生殖によって繁栄する術を持たず、
世界中を探し回ったところで、常に二百を少し超える程度の数だけである。

|(●),  、(●)、| 「先の大戦で殆どの龍が眠りに入っておる。
             新旧の争いはもはや無意味。もうやめんか」

( ^Д^) 「はっ、たかだか一頭増えたところで……」

言葉を途中で区切る灰龍の放った一撃が、若い一頭の半身をかき消した。
命を失って崩れ落ちた龍の残った僅かな肉片は溶岩に飲まれる。

176名無しさん:2018/04/24(火) 12:19:59 ID:JZ..YL360

|(●),  、(●)、| 「これで一頭減ったが」

(#^Д^) 「くそがっ!! かかれっ!」

呆気にとられていた龍達が号令に従い襲い来る。
正面から、集団の中心を一直線に飛びぬけたダディクール。
数で勝るはずの新派の龍群は、弾かれたかのように四方に散らばる。
接敵の衝撃で数体は地面にまで叩きつけられた。

( ^Д^) 「っ!! 集中砲火!」

十を超える光が一直線に灰龍に迫った。
一つ一つが巨大な岩盤すら貫くような魔力による一撃。

|(●),  、(●)、| 「嵐灰陣!」

ねずみ色の嵐が灰龍を覆い隠し、全ての光は遮られた。
ただの一つもダディクールには届かない。

|(●),  、(●)、| 「灰の飛礫」

うねりをあげて嵐はその姿を変える。
無数の乱刃となって、灰龍を囲む龍達に降り注ぐ。
溶岩にすら耐える甲殻をずたずたに引き裂き、さらに数体が地に伏した。

177名無しさん:2018/04/24(火) 12:20:39 ID:JZ..YL360

(#^Д^) 「逃げるな! 戦え!」

距離をとっていて無事だった龍達は次々と戦線を離脱していき、
残ったのは以前ダディクールに倒された一体だけ。
プギャーと呼ばれた濃い緑の鱗で全身を覆われた龍。

|(●),  、(●)、| 「さて、どうするプギャー」

( ^Д^) 「てめぇの首を持って帰らなきゃ俺が殺されんだよ……ッ!」

|(●),  、(●)、| 「ローアングは元気にしているか」

( ^Д^) 「はっ……てめぇを殺せるくらいには回復してる」

|(●),  、(●)、| 「だったら自分から出向いてくればいい。
             相変わらず卑怯な奴だ」

(#^Д^) 「っ!」

|(●),  、(●)、| 「そうだな。見逃してやってもいいが、どうだ。
             こいつと戦って勝てたらな」

( ・∀・) 「は?」

灰龍が顎で示したのは戦闘に参加していなかった小柄な白龍。

178名無しさん:2018/04/24(火) 12:21:39 ID:JZ..YL360

( ^Д^) 「そんなチビと……? 舐めるな! 相手にならん!」

|(●),  、(●)、| 「意外とそうでもないかもしれんぞ」

( ^Д^) 「……まがい物の龍と戦えなどと。見縊られたものだな」

|(●),  、(●)、| 「おい」

( ・∀・) 「な、なんだよ」

|(●),  、(●)、| 「あいつに勝ってみせろ」

(; ・∀・) 「そんな無茶な……」

|(●),  、(●)、| 「なに、今までの無茶と比べれば……ふむ、まだ二倍も難しくはないぞ」

( ^Д^) 「何をごちゃごちゃ言ってやがる」

( ・∀・) 「ったく……」

ダディクールは山の頂上に降り、それと入れ替わりにモララーが空に飛びあがる。
自身よりも一回り大きい巨体を前に、一歩も引くことなく。

179名無しさん:2018/04/24(火) 12:22:25 ID:JZ..YL360

( ^Д^) 「お前は……何だ?」

( ・∀・) 「獣の使い手。他所の部族はみんなそういう」

( ^Д^) 「はっ……あの一族か。それが龍の姿かたちをどうやって得た」

( ・∀・) 「僕だって知りたいさ」

( ^Д^) 「成程。だが、誇りのあるこの力をお前如きが扱うのは我慢ならん。
       今この場で死んでもらおう」

( ・∀・) 「好き勝手言いやがって!」

( ^Д^) 「すぐに楽にしてやる」

プギャーの全身から零れだす深緑の霧。
それらは圧縮されて球体になる。

( ・∀・) 「えっ……」

( ^Д^) 「消えろ」

放たれた魔力弾はモララーに届くことなく空中で停止した。
一際強く輝くと、小さな粒が分裂し、肥大化していく。

180名無しさん:2018/04/24(火) 12:23:23 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「まさか」

初めは一つだったものが、百を超える数に。
戦場に散らばった魔力の塊の一つが、モララーの翼に触れた。
ただそれだけで、翼は煙をあげて腐敗していく。

(; ・∀・) 「ぐっ……」

翼の先を切り落とし、魔力を使って空中でのバランスをとる。

( ^Д^) 「腐敗球! 触れれば骨まで朽ちる。
       ここまで拡散する前に、何の対策もしなかったお前はもう生き残れない」

( ・∀・) 「そんなのはまだわからないだろ。お前もこれで近づいては来れない」

( ^Д^) 「やれやれ、生意気なガキだ。でかい口は生き残ってから叩け」

( ・∀・) 「なら、そうさせてもらう」

モララーは龍化を解き、地面すれすれまで落下。
着地の直前に再度龍化し、掲げた頭の先に魔力を集中させた。

(; ^Д^) 「なっ……」

181名無しさん:2018/04/24(火) 12:24:18 ID:JZ..YL360

( ・∀・) 「吹き飛べっ!」

放たれた龍砲は拡散し、多様な軌道をとる。
空中に浮かんでいるプギャーの魔力が込められた爆弾を、乱雑に破壊していく。

( ^Д^) 「成程、確かに甘く見ていたのは俺だったな」

黒い霧が晴れた後、無傷のプギャーがモララーを見下ろす。

( ^Д^) 「獣如きが……!」

急降下するプギャー。
魔力を込められた巨大な爪の鋭利さは、モララーの命を奪うには充分である。

( ・∀・) 「っ!」

寸前までモララーが立っていた地面が大きく抉れた。

( ^Д^) 「小賢しいっ!」

( メ∀・) 「がっ……」

そのまま跳ね上がり、体当たりでモララーの身体を吹き飛ばした。
鎧の様な甲殻に覆われたプギャーと比べると、倍近い体重差がある。
ぶつかり合っただけでもモララーにとっては、致命の一撃。
百メートルは吹き飛ばされて、地面に転がった。

182名無しさん:2018/04/24(火) 12:26:20 ID:JZ..YL360

( -∀・) 「げほっ……」

( ^Д^) 「死ね」

追い討ちをかけるようにその頭を踏み潰す。
龍化を解いて躱し、すぐさま距離をとったモララー。
一息つこうとしたその身体を、太い尻尾が薙ぎ倒した。

(  ∀ ) 「がぁっ……!」

( ^Д^) 「ふん、二度も同じ手が通じるものか。
       見ろ、ダディクール。相手にもならなかったな」

|(●),  、(●)、| 「ふむ……」

( ^Д^) 「龍もどきが本物に勝てるわけがないだろう」

|(●),  、(●)、| 「何をそんなに怖れている?」

( ^Д^) 「俺が? 怖れている?」

|(●),  、(●)、| 「後ろを見てみろ、まだ終わっていないぞ」

( ^Д^) 「……先程の一撃を耐えたか。
       人間サイズと甘く見たな」

溶岩の中から立ち上がったモララー。
身体中の至る所から血を流し、息も絶え絶えでありながらも、
なおその瞳から光は消えていなかった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板