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ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです

1名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 20:57:11 ID:WM1TjCNg0


 たとえば『人外』と聞いて人はどういうものを想像するのだろうか。
 細かな辞書的あるいは専門的定義を抜きにするのなら『怪異』や『妖怪』や『魑魅魍魎』でも構わない。
 だがにべどころか取り付く島すらなさそうな言い方である『化物』だけは私個人的には止めて欲しいものである。
 兎にも角にも今から綴られる文章はそういった世の理を外れた……
 いや存在している以上は物理法則ではなくとも何かしらの法則には基づいている。
 基づいているのだが、そんなことは健全なる読者諸君には関知し得ないことであろうことである故指摘しないでおく。
 だからつまりこれは――夜の理に生きる人以外の者々の物語。
 より正しくは人と人以外のモノの関係によって引き起こされる問題を集めたもの、ということになる。

 問題を集めた、問題集。
 フィクションではなくノンフィクション。
 フェイクではなくファクトな物語だ。



.

207名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:35:07 ID:RqAuxQOc0

 所謂「かいちょーお願いします」ってやつ?


(#゚;;-゚)「あの会長さんは、それほどまでに幅広い知識を有しているのでしょうか?」

ミセ*-ー-)リ「淳校の一会長四委員長は箱●学園ほどじゃないけど、それぞれ凄い人らしいよ?」


 風紀委員会委員長。
 自治委員会委員長。
 保健委員会委員長。
 図書委員会委員長。
 そして、生徒会執行部の『一人生徒会』。

 ……まぁ実際は風紀委員長・自治委員長・生徒会長のインパクトが強過ぎて残り二人の影が薄くなってるけど。
 「超高校生級」という言葉があるが、その三人は「超人間級」というような、希●ヶ峰学園に在籍してても全くおかしくないような天才だ。


ミセ*-ー-)リ「その三人に訊ねて分からないことがあるとしたら……多分、この高校の誰も分からないと思うし」


 勿論、教師陣も含めて、だ。


(#゚;;-゚)「そうなのですか……。なら最初はその三人に当たるということでよろしいでしょうか?」

ミセ*^ー^)リ「私の顔が効きそうなのは会長だけだし、会長からにしよっか」

208名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:36:03 ID:RqAuxQOc0

 他の二人は……どうだろう。
 どちらも「淳校の全生徒の顔と名前を覚えている」と言われているので、会いに行けば分かってもらえるとは思うが。
 それは快く協力してくれることとイコールではない。

 いや、協力はしてくれるだろうけど、あまり親しくない相手に頼るのは最後の手段にしたい。


(#゚;;-゚)「では、向かいましょう」

ミセ*^ー^)リ「会長の手を借りるとか……なんだかいきなり反則使う感じになっちゃって、ごめんね?」


 あの人の二つ名の一つは『歩く校則』だが、私としては『歩く反則』の方がよっぽど相応しい気がする。
 それくらいに会長はなんでも出来てしまう人だ。


(#゚;;-゚)「構いません。私は、謎解きがしたいわけではないのです」


 と、でぃちゃんは言って、続けた。


(# ;;-)「私はただ……あの人がもう傷付かなければ、それで良いのです……」

209名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:37:07 ID:RqAuxQOc0
【―― 12 ――】


 我が校の黒神●だかこと『一人生徒会』は、用事がない限りは淳校で最も空に近い場所――旧生徒会室にいる。
 五階六階に相当するその一室は天使を想起させる魅力と天上を連想させる名前を持つ生徒会長には相応しい場所なのかもしれない。

 なんて、そんなことを思った。


(#゚;;-゚)「ミセリさんは会長さんと親しいのですか?」

ミセ*^ー^)リ「まーねー。結構前だけど、駅前の美味しいオムライスのお店の近くで出逢って、友達になった感じ?」

(;#゚;;-゚)「……オムライスですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「会長、好きらしいよ? オムライス」


 雑談をしながら時計塔へと続く廊下を進む。
 ふと前を見ると、こちらへと一人の少女が歩いてきている。

 最近流行りの多人数のアイドルグループにいそうな普通に可愛い感じの子だ。
 一重でシャープ気味な顔立ちに、纏めた部分だけを伸ばしたツインテールのような黒のツーサイドアップ。
 彼女は、こちらに気付くと目礼をした。

210名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:38:07 ID:RqAuxQOc0

 そうして向こうが道を譲ろうと脇に避け。
 その時に、彼女が思い至ったように口を開いた。


リi、゚ー ゚イ`!「あー、生徒会長にご用ですか? だとしたら今は不在みたいですよ」

ミセ;*゚ー゚)リ「え?」


 立ち止まり、その少女の方へ身体を向け訊く。


ミセ;*゚ー゚)リ「会長……いないの?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうみたいです」


 やべぇ。
 早くも詰んでしまった。

 楽をしてはならないという神様からのお叱りだろうか?
 ばんなそかな。
 そんなわけはないけれど運が悪過ぎる。

211名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:39:16 ID:RqAuxQOc0

 と、振り向き私がでぃちゃんと顔を見合わせた――その時だった。


リi、゚ー ゚イ`!「……あー、それってクイズですか?」


 その女の子が私の持っているノートの一ページに気付いた。
 興味があるの?と訊ねると「兄が好きなんです」とはにかむ感じで微笑んだ。
 確かに連想クイズにも見えなくはない逆マインドマップが書かれた紙を彼女に渡す。

 ……私はゲーセンのQ●Aでも連想クイズは苦手だけど、ああいうのって分かる人には分かるらしいし。
 ダメ元で意見を求めてみる。


ミセ*゚ー゚)リ「その答え、何か分かる?」


 少女はなんてことはない風に笑って、言った。


リi、゚ー ゚イ`!「…………分かった、と思います。そのクイズ好きな兄が特に専門とする分野の方なので」


 人物名ですよね?と少女は確認するように曖昧な笑みを浮かべる。
 私は思わず思った(冗語法的表現)。

 ―――神様、グッジョブ。

212名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:40:16 ID:RqAuxQOc0
【―― 13 ――】


 午後六時前後の日の入り間近から日没直後の一時のことを『逢魔時』と呼ぶ。

 その黄昏時は怪しいモノ達が活発になる時間帯だという。
 ギコさんは言った。
 「『黄昏』って言葉はね、『たそかれ(誰そ彼)』から来たって説があるんだよ」と。

 『誰そ彼』――「そこにいるのは誰ですか?」。
 そんな風に訊ねてしまうくらいに薄暗く怪しい時間。

 「そこにいるのが誰かは分からない、分からないんだけど誰かがいる――もしかするとそこにいる人は怪異なのかもね」。
 なんて続けてギコさんは笑う。
 「元々『黄昏』は『こうこん』と呼ぶ漢語の言葉です、無関係なのです」。
 そう返してでぃちゃんは笑わなかった。


 ……この三つの単語、『逢魔時』『黄昏』『誰そ彼』がどれかからの派生ならば、どれが最初だったんだろう。 
 もし無関係なんだとしたら、それはなんて偶然だろう。

 結局そこにいた人は誰だったんだろうか。
 人間か、怪異か。
 いやもしかすると――そこにいた人間がいつの間にか怪異に変わってしまったのかもしれない。

213名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:41:03 ID:RqAuxQOc0

 私達は子どもの頃に「暗くなる前に戻って来なさい」と教わるけれど。
 それは、あるいは。

 人間と怪異と。
 昼と夜と。
 此方と其方。
 境界線の上で子ども達が迷ってしまわないかと、昔の人が心配していた名残りなのかもしれない。

 そう――私達は現代でも、線を引く度に迷ってばかりだ。



(,,-Д-)「……行き止まりだよ」



 田舎道で、山道だった。
 トンネルの出口、闇が途切れるその場所にギコさんは立っていた。

 紅く黄色く染められる世界の中で。
 闇と光の境界線を渡るようにして立っている。
 不思議とそんな姿がよく似合う。

 職業はともかくキャラ的には完全に光サイドだと思うのに、どうしてなんだろう?

214名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:42:22 ID:RqAuxQOc0

 そして――相対するその人はトンネルの中で足を止めた。



(  ゚¥゚)



 電灯の類がない短いトンネル。
 薄暗いその場所に、一人の男性が立っている。

 ここから(ギコさんの後ろ)ではよく見えないけれど、なるほど確かに西洋っぽい服装だ。
 それに「なるほど」なことがもう一つある。
 その人の輪郭はぼんやりと揺らいでいて、その人の姿形は透けていたのだ。

 幽霊。
 死霊。
 ……彼はきっと、夜の世界の人間だ。


ミセ; ー)リ「っ……」


 そんな風に私が思った瞬間――私の頭の中に小さくだが、奇妙な音が響き始めた。

215名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:43:21 ID:RqAuxQOc0

 聞いたことのないような、でも何処かで聞いたことのあるような、奇妙な旋律。
 その美しいのに何故か妖しい音は彼から伝わるイメージか。
 どうやら私も認知だけではなく、多少は共感もできてしまうらしい。

 ギコさんも音が聞こえるようで目を細める。
 だけど、すぐに続けた。



(,,-Д-)「君の……あなたの名前は―――フランツ・アントン・メスメル。科学と魔術が線引きされていなかった時代に生きた、医者だ」



 フランツ・アントン・メスメル。

 独逸人。
 医師。
 そしてニューエイジのある書物で思想の重要性を説かれた人物の一人。

 ……聞き覚えのない人の方が多いだろう。
 だけどクイズ好きじゃないとしても、ある分野を学んだ人ならば聞いたことがあるかもしれない。
 きっと答えを教えてくれた女の子のお兄さんもそうだった。
 だから彼女も知っていた。

216名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:44:25 ID:RqAuxQOc0

 メスメルは動物磁気法という治療法を編み出し、次々と様々な病気の患者を診察し回復に導いたという。
 その中で最も有名な逸話の一つは「盲目のピアニストを治療した」というものだ。

 また彼は治療を行なう中で、グラス・ハーモニカを演奏していた。
 それはガラスを擦り共鳴させることで音を出す楽器。
 今私の中に響いている音楽や、ギコさんがあの儀式場で感じた旋律はそれによるものなのだろう。
 グラス・ハーモニカが精神をおかしくする悪魔の道具だと法律で禁止された後もメスメルは演奏を止めなかったという――それほどまでに、大事な。

 ……しかし何人もの患者を治癒させた彼は、祖国を追放され、当時の科学アカデミーにも理解されないまま生涯を終えた。


(   ¥)『――――』


 彼が口を開く。
 その言葉は肯定か否定か、分からない。

 私は気付く。


ミセ;゚ー゚)リ「(そっか……! 向こうはドイツの人だから、こっちが何言ってるか分からないんだ!!)」


 次いで気付くのが遅過ぎたことにも気付いた。

217名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:45:28 ID:RqAuxQOc0

 たとえ相手が誰か分かったとしても、どれほど説得材料を揃えたとしても。
 それは「言葉が通じる」「会話ができる」という前提があってこそ有益なものであり、この状況では全く意味を成さない。

 でぃちゃんは気付いているのだろうか。
 いやそれよりもギコさんだ。
 対話を試みている本人が気付いてないはずがないんだけど……。

 そして―――。



(,, Д)『……はじめまして。会えて光栄です』



 ―――次の瞬間には。
 不思議なことが起こっていた。

 会話ができていた。


(  ゚¥゚)『分かるのか……私の言葉が?』

(,, Д)『なんとなくですが、一応は』

218名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:46:30 ID:RqAuxQOc0

 ギコさんの言葉に相手が答える。
 そんな当たり前なことが可能になっている。

 しかも――周囲で聞いている私達にもその意味が分かるのだ。


(  ゚¥゚)『ならばそこを退いてくれ。私は唯一の後悔を、無念を果たしに行く途中だ』

(,,-Д-)『できません』


 それは頭の中に響く声で。
 それは心に語りかける声だった。

 直感的に理解する。
 ……これは、ギコさんの力なんだ。
 『共鳴能力』とまで言われる霊的感受性を最大限にまで生かし、周囲の人間にまでイメージを伝播する――そんな能力。

 だから。


(,,゚Д゚)『一つだけ言わせて下さい。あなたは間違ってなんかいなかった』

(  ゚¥゚)『…………』

219名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:47:27 ID:RqAuxQOc0

 きっとその人にも、多少のニュアンスの違いこそあれど伝わるはずだ。


(,,-Д-)『あなたの技術は魔法ではなかった。ひょっとすると、科学でさえなかったかもしれない』


 だけど。
 そうだったとしても。


(,,゚Д゚)『でも――あなたがいたことで、心理学は少し進歩した。解析不能な症状に苦しむ人達が沢山助かった』


 そう。
 そうなんだ。
 彼の名前は心理学を学ぶ人間なら誰でも知っている。

 ジャン・マルタン・シャルコーと並び、心理学における催眠療法の祖となった人物であると。
 投薬でも手術でも治癒しない、悪魔祓いに頼るしかなかった数々の精神病が治せるようになったのだと。

 だから。


(,,-Д-)『だから、あなたは間違ってなんかいなかった。……それだけは覚えていて欲しいんです』

220名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:48:09 ID:RqAuxQOc0

 そう言ってギコさんは黙った。
 彼も黙ったままだった。

 やがて、世界が夜に染まり始めた頃――口を開く。


(  -¥-)『…………そうか。なら、あの後悔は後悔のままで、良いのかもしれない』


 そう一言呟いて。
 彼は背を向ける。
 最早こちらとの境界は闇に溶けなくなってしまったけれど、彼はここに来ようとはしなかった。

 ただ背を向け。
 歩き出し。



(   ¥)『ありがとう。……世話をかけたな』



 そうして闇の向こうへと――消えて行った。

221名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:49:10 ID:RqAuxQOc0
【―― 14 ――】


 後日談というか、本日のオチ。

 あの後、でぃちゃんは後始末が残っていたギコさんと別れ一人で帰ったらしいが、帰る途中に会長と会って話したらしい。
 今回の件の概要を聞いた会長はまた見透かしたような見通したような笑顔で知った風なことを語ったようだ。

 そうそう、あの廊下であった女の子は自治委員会委員長の妹さんだった。
 会長よりも物知りだという自治委員長なら、心理学の発展に多大な貢献をした医師のことを知っていてもおかしくはないだろう。
 そして妹であるあの子が話に聞いていたとしても妙ではない。

 そして――私の話。


ミセ*゚ー゚)リ「…………あれ?」


 交霊会は占いの為に開かれるものだ。
 なら現代の占い師である、あの心理学に詳しそうなお爺さんならどう思うのだろうと次の日に会いに行くと――そこにはもう、誰もいなかった。


ミセ*゚ー゚)リ「まさか、実はあの人も怪異でしたーってオチ?」

( ・∀・)「……よ!」

222名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:50:07 ID:RqAuxQOc0

 そんな風に考える私に後ろから声がかかる。
 振り向くと、そこにはあの紅い人。

 いつだったかギコさんを手伝っていた悪っぽい感じのイケメンさん。
 請負人、何でも屋である彼が立っていた。
 時間も空いてしまったことなので先日あったことのさわり(御用ではない意味)を話すと、お兄さんはなんとも悔しそうな顔をする。


( -∀-)「うわー、マジかよ。俺も会いたかったのに……そんなに早く成仏しなくても良いのになー」

ミセ*^ー^)リ「お兄さんも心理学に興味があるんですか?」

( ・∀・)「興味があるも何も俺の大学時代の専攻って心理学」


 なるほど、そういうことか。


ミセ*゚ー゚)リ「大先輩ってわけですねぇ」

( ・∀・)「そーだな。俺は催眠療法は使えねーけどさ。それでも、どんだけ凄い人かは知ってるさ。たとえピアニストを治すことはできなかったとしても」

ミセ;*゚−゚)リ「え?」

223名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:51:11 ID:RqAuxQOc0

 あれ?
 おかしいな?

 盲目のピアニストなら治癒したんじゃ……?


( ・∀・)「『治癒した』んだっけ? 俺の知る限りじゃ『治療を試みたが精神を害したと訴えられた』って話なんだが」

ミセ;*゚ー゚)リ「え、そうなんですか?」

( -∀-)「そーだよー? ま、どっちにしろ裁判沙汰になったのは確かだよ。有名な話だし」

ミセ;*゚ー゚)リ「あれ……じゃあ、もしかして……」

( ・∀・)「どうかしたか?」


 すみません、またいつか!と私は別れを告げて駆け出していた。
 お兄さんの引き止める声を置き去りにして走り出す。

 メスメルは盲目のピアニストを治療した。
 治ったのかは分からない。
 けれど、最終的には「精神を病んだ」と訴えられてしまった――なら。

224名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:52:06 ID:RqAuxQOc0
【―― 15 ――】



 ―――先輩、知っていますか?

 メスメルというお医者様は「人間の身体には『流体』が流れていて、それが滞ることで病気になる」と考えていたんです。
 鉄の棒を使ったり磁石を使ったりしていたのは、その流れをどうにか正常に戻そうと試行錯誤していたからだそうで。

 あー、東洋医学的に言えば『気』になるんでしょうか。
 そう言えば患者の自己治癒力を促進するって考え方は西洋では珍しいものですよね?
 そういう意味でも先進的と言えるかもしれません。


 私達は人間には『気』なんてものはないって知っています。
 ……あー、いやあるかもしれないですけど、現在の科学では立証されていないですよね?

 東洋医学における気を刺激するツボはリンパ腺を刺激するツボです。
 押して症状は良くなりますが、でもそれは『気』は関係ない。


 でも、ちょっと面白いと思いませんか?
 何故って?

 だって――リンパ腺って、つまり『流れ』じゃないですか。

225名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:53:16 ID:RqAuxQOc0

 血管だってそうですよね。
 あれは血液が流れる管です。

 他には……私達の意識に関係するアルファ波とかベータ波とか、ああいうのだって電流なんだから『流れ』ですよね?

 脳内の電気信号で言えばてんかんだってそうですよ。
 てんかん発作はてんかん放電という異常活動により神経が過剰に反応することで起こるらしいです。
 ……あー、神経系だって『流れ』ですかね?

 私達の身体の根幹である心臓だって『流れを生み出す機関』と考えることもできますね。
 血液を送り出し、鼓動を刻む。
 その音が乱れる時って不整脈とか、あるいは心停止みたいな病気です。
 これも『流れ』と言えると思いませんか?


 他にもあります。
 会話が滞りなく流れていかなければ二人の間には異常が生じている、とか。

 あと、社会学における閉鎖系(外部との交流がない組織)は不健全なコミュニティとして知られているんですが、これは「人の『流れ』がない」ということ。

 人間関係は影響の与え合いとも言えます。
 気持ちが伝わることが大切。
 だとしたら相互理解もできず共感も不可能な関係では心の『流れ』が断絶している。

226名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:54:10 ID:RqAuxQOc0

 私もメスメルさんが言っていたことの全部が全部正しいとは思っていません。 
 でも、比喩としてなら的を射ていると思います。

 斯く言う私達だって、ああいう人達が生きた歴史の先に、歴史の『流れ』の中に生きているんですから―――。



ミセ; ー)リ「―――……はぁ、はぁ、はぁ…………」


 私の脳内で。
 血液と共に記憶が駆け巡った。

 遥か昔にドイツで生きた医師のことを教えてくれた女の子の言葉が駆け巡った。


ミセ; ー)リ「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 ……熱い。
 心臓が張り裂けそうだ。
 久々の全力疾走は辛過ぎて、死にそう。

 疲れるのはえっちぃことだってそうなんだけど、走るのは辛いだけで全然気持ち良くない
 マラソンランナーは一体何考えて走ってるんだろう?

227名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:55:11 ID:RqAuxQOc0

 私はあの人が立っていたトンネルを抜けて、あの時私達が立っていた場所も過ぎて、その先に立っていた。
 そうして少し盛り上がった道の上から、そこを見下ろした。

 そこにあるのは――隣町の特別支援学校。


ミセ;*^ー^)リ「……ははっ。っは、はっはっは……!」


 思わず笑いが出てしまった。
 肩で息をしつつ笑う。

 ああ、そうか。
 そうなのか。
 「後悔」とか「無念」とかそういう言葉の意味は「当時社会に認められなかったから現代で見返してやりたい」ってことだと思っていた。

 だけど違ったのだ。


ミセ*^ー^)リ「どうでも良かったのかもなー……そんなコト」


 医者とか学者さんには偏屈な人が多いと聞くし。
 自分が社会に受け入れられたかなんて、どうでも良かったのかもしれない。

228名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:56:07 ID:RqAuxQOc0

 だけど、だけど、だけど。


ミセ*-ー-)リ「お医者さんなんだから、そうだよね……。自分の治療で苦しんだ人がいたと思ったなら後悔するよね……」


 後悔するし。
 無念だっただろう。
 だから。

 ……私はあえて、その先の言葉は口にしなかった。
 少し野暮だと思ったし、本人が考えていたこととは全然違うかもしれないと思ったからだ。


 空を見上げると光が眩しい。
 宇宙から見る限りではこの地球には国境線はないらしい。

 ただ一つ私にも言えることは――全てに等量に降り注ぐこの光の中には、神様から見た世界の中には、境界線なんてないってことだけだろう。






【――――そこまで。第三問、終わり】

229名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:57:08 ID:RqAuxQOc0


 「今は斯く さみだるるのみ 藤葛」


【歌意】
私の人生ももう終わりだ、五月の雨が降るばかり、今となってはもうひたすら藤や葛が乱れているだけだ。
(古語ではこれだけの意味だが、藤と葛が心理学における『葛藤』の由来になったことを踏まえれば「私の心はとかく乱れている」と解釈できる)

【語法文法】
冒頭の『今は斯く』は「今は斯う」とも書かれ「最早これまでである」「今となっては」「別れの時だ」というような意味の決まり文句。
『さみだるる』はラ行下二段活用「五月雨る」の連体形。掛詞であり、同じくラ行下二段活用の「さ乱る」と掛かっている。
前者は文字通り「五月雨が降る」という意味。対し、後者は「乱る」に接頭語の「さ」が付いたもので「乱れる」という風に訳す。
この接頭語の『さ』に意味はない。語調を整える為に付けるか、意味を強めるか、くらいのもの。
次の副助詞『のみ』は様々な用語に付き、また意味も多い。限定用法としては「〜だけ」「〜ばかり」となる。
強調では「特に」「とりわけ」と訳し、用言を強める場合には「〜しているばかりだ」「ひたすら〜である」で、ただの断定として「〜だけだ」を意味する。
今回は『五月雨る』に対しては限定用法として、『さ乱る』に対しては用言を強める形で訳してみた。
また『葛』は古典世界では一般的に秋を表す植物であり『五月雨』は田植えの季節(旧暦の五月)に降る雨のことなのは留意すべきだろう。

【特記】
参考にした歌は和泉式部日記より「おほかたに さみだるるとや 思わらむ 君恋ひわたる 今日のながめ」。
事前知識がなければ歌意が分からない和歌は多いが、この歌も藤と葛が『葛藤』と関係していることを理解しないと真意が分からない。

余談だが、何かの動詞や体言に「る(り)」を付けて新しい動詞としたり「〜している」と訳すのは割と昔からある文化で、言葉の乱れとは言えない。
「五月雨」に「る(り)」を付けて動詞化する、というこの方式は「Google」に「る(り)」を付けて「ググる」という動詞を作るのと同じである。
昔から日本人はこんな感じだったようで、古文でも外来語(当時の漢語)に「る(り)」や「す」を付けでっち上げた動詞が出てくることがある。

しかし「さみだる」で「五月雨が降る」って昔の人凄いな……。

230名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 16:58:44 ID:RqAuxQOc0

交霊会と言えばチャネリング、チャネリングと言えばニューエイジ、ニューエイジと言えばヒーリング・ミュージックやメスメル。
そういった感じの連想ゲームで今回の話は出来上がりました。
興味のある人には結構馴染み深いキーワードばかりの話だったんじゃないかなー。


世の中には不思議なことが沢山あって、例えば暗示とか催眠で疾患なり病気なりが治るなんてことは信じられない人には信じられないでしょう。
「オカルト」「非科学的」と切って捨てる人もいるかもしれません。

でも自分は、そういう『不思議な現象』を解き明かすのが科学の一つの楽しさだと思います。
この作品は高校生や受験生の勉強になるものを書こうと思って作りました。
今回の話には自然科学・人文科学・社会科学の要素を少しずつ全部入れたつもりなので、一度また進路について考えて欲しいなー、なんて。

231名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 17:01:12 ID:L1lF1DqI0
おつ!
すっごい面白い!ちょくちょく入る英語が勉強になるわ
さみだるって今で言うJKみたいな略語みたいね
昔の人も言葉略すの好きなのかな

232名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 01:57:16 ID:TKwlA3tY0
おつ。

233名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 13:51:47 ID:.3E.WvDo0
乙!乙!

234作者。:2013/05/26(日) 16:03:10 ID:ddSiRgaw0

>>222

御用ではない意味→誤用ではない意味


あと和歌なんですが、一つ補足を忘れていました。
「五月雨」の単語には「葛藤が五月雨のように繰り返す」という意味が込められてます。

235名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:33:31 ID:ddSiRgaw0



 第三問。
 模範解答。





.

236名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:34:13 ID:ddSiRgaw0

・《降霊術(交霊術)》
 占いなどの目的の為に死者の霊を呼び出す魔術のこと。「交霊術」と書く場合は概ねウィジャ盤などを用いる交霊会で行われる儀式のことを指す。
 世界中に似たような文化が分布しており、日本の場合は巫女やイタコが行なう『口寄せ』に相当する。 
 交霊会が流行った背景には疫病や戦争があり、親しい相手を不慮に亡くした人々は、もう一度だけで良いからその人に会いたいと真剣に願っていたのである。
 その為、ヴィクトリア朝(植民地紛争後)や第一次及び第二次世界大戦後は特に盛んだったと言われている。

 一般に『降霊術』と呼ぶ際は招致するモノは死者の霊である。
 悪霊や悪魔を呼び出す儀式は『召喚魔術(喚起)』とする。

 馴染み深いものでは『コックリさん』と呼ばれるものも降霊術の一種ではあるが危険なので興味本位では行わない方が良い。
 余談だが、西洋召喚魔術で地面や羊皮紙に魔法陣を描くのは「何かを呼び出す為」ではなく「術者の身を守る為」であるとされる。
 コックリさんが危険なのは呼び出した人間の身を守る方法がないからだとも考えられる。


・《オートマティスム》
 先述した降霊術で「意識に関係なく身体が動くこと」をこう呼ぶ。
 日本語では『自動筆記』『自動書記』などと訳され、英語での別名は『オートマチック・ライティング』。
 この状態は「何かに憑依されている」と表現されることが多い。

 ちなみに心理学においても使われる用語であり、この場合は純粋に「無意識で身体が動く症状のこと」である。
 分かりやすいものは『他人の手症候群(エイリアンハンド・シンドローム)』という片方の手が意識を離れて動いてしまう病気。
 これは高次脳機能障害の一種と考えられている。

237名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:35:21 ID:ddSiRgaw0

・《チャネリング》
 非科学的な(若しくは超科学的な)手段を用いて特定の相手とコミュニケーションを取ること。
 チャネリングを行なう人を『チャンネル』または『チャネラー』と呼ぶ。
 降霊術にも近いが、このチャネリングの場合は霊以外に宇宙人や未来人などを対象にすることもある。
 そもそも最も有名なニューエイジ運動のチャネリング(リーディング)で対象とされたアカシックレコードはただの概念である。


・《霊媒》
 霊的存在と直接に媒介することができる人物のこと。また魔術では単純に霊的な触媒もこう呼ぶ。
 前述の言葉で表現すれば『チャネラー(チャンネル)』と呼ばれる人々のこと。
 超心理学やサイ科学においては心霊的能力を持つ人全般をこう呼び、チャネリングを『心理的霊媒能力』、その他アポートなどを『物理的霊媒能力』と言う。

 口語的には「霊媒体質である」と言う場合には霊的感受性が高い、つまり思念や瘴気に影響を受け易いという意味になる。
 戦没者の慰霊施設などに塩が置いてあるのは平均よりも霊媒寄りな人間の為である(心霊的な意味でも、無論心理的な意味でも楽になるらしい)。


・《グラス・ハーモニカ》
 別名『アルモニカ』。通称『悪魔の楽器』。
 グラス・ハープ(グラスに水を貯めそれを擦り音を出す楽器)を改良したものでガラスの方が回転しているので使いこなせば和音を奏でることも可能。
 『悪魔の楽器』と呼ばれている割には音色は天使のように美しい。

 この楽器が忌避されるようになった背景には長いストーリーがあるのだが、ここでは省略する。
 後述する医師メスメルが精神病の治療で用いたことでも有名。

238名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:36:04 ID:ddSiRgaw0

・《フランツ・アントン・メスメル》
 『動物磁気法』と呼ばれる治療法を編み出したドイツの医師。
 ニューエイジ系の書籍や疑似科学の文脈で言及されることも多いが、彼はそもそもは普通の医師である。
 グラス・ハーモニカや鉄の棒を使った一風変わった手法で患者を治療したと伝わる。
 彼の逸話の中で最も信じられないもの(言い換えればオカルト的な話)は「盲目の人間の視力を回復させた」という話だろう。
 ……だが、そんな彼が最後の二十年間、何処で何をして過ごしたのかは記録に残っていない。

 メスメルは人間の身体の中には流体が流れており、その流れが滞ることで病気が起こると考えていた。
 彼の『動物磁気法』は対症療法中心の西洋では珍しい患者の自己治癒力を高めることを主眼に置いたものだった。

 現代の精神医学や心理学的に解釈すると、メスメルは内因性または心因性の疾患に対し催眠をかけることで治療したのではないかと考えられる。
 実際、現在の催眠療法では患者を変性意識状態(トランス状態)に置く為に音楽を流すことは方法の一つ。
 その人生は報われたとは言い難いが、その存在は今の心理学に繋がっており、それは彼の名前が“催眠術(mesmerize)”の由来になったことからも窺い知れる。


・《ニューエイジ》
 アメリカ西海岸発祥の社会運動であり社会思想。単なる宗教よりは一回り二回り広い概念(というよりも『宗教』の定義自体に議論がある)。
 特徴だけを述べると「物質的な思考だけではなく精神的な思想を踏まえることで科学技術や現代社会を見直そう」というもの。
 カウンターカルチャーの一つであり現在の政治思想的に言えば自由主義に属する。

 「精神性を重視する」という考え方に関連してチャネリングなどオカルト的な手法を取ることもあるが、それは一側面に過ぎない。
 エコロジー運動や女性の権利向上運動、人間性回復運動なども有名で、やはり『宗教』というよりも『思想』という方が正しい気がする。
 ……しかし一方でニューエイジからカルト宗教が派生発生することがあるのも事実ではある。
 ちなみに、メスメルが触れられるのは『ニューエイジ 〜四つの重要な予兆』という本の中でである。

239名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:37:03 ID:ddSiRgaw0

・《カントールの楽園》
 数学における集合論の異称。現代数学の父とされるダフィット・ヒルベルトの言葉から。
 対角線論法で有名なゲオルグ・カントールは集合論を提唱するのだが、周囲の数学者からは理解を得られないままにこの世を去る。
 そして集合論を擁護する為にヒルベルトが言ったとされる言葉が「カントールの作り出した楽園から我々を追放することは誰にもできない」という一文である。

 先進的な発想が主流派に拒絶されることは昔からよくあることだ。 
 極めて論理的な数学の世界でさえそうなのだから、仕方のないことなのかもしれない。

 余談だが、カントール死去直後の時代においても似たような事例がある。
 ガロア理論の提唱者であるガロアは当時他の数学者に受け入れてもらえなかったと伝わっている。
 ……こういった人々の研究は死後五十年くらいで再評価されることが多い。


・《黄昏》
 日没直前から直後の暗くなる時間帯のこと。『黄昏時』とも言い大体『逢魔時』と同じ意味合い。
 「相手の顔がよく見えなくなる一時」のことであり、昼と夜、現世と常世の境が曖昧になる時間なので怪異が活発になると伝わる。
 元々は漢語であり、『黄昏(こうこん)』と読み、『たそがれ(誰そ彼)』とは無関係な言葉だったらしい。
 その為、古文の中でも平安以前と以降で意味が違う(平安時代以前での「たそかれ」は文字通りに「あなたは誰ですか?」という意味である)。

 余談だが明け方のことは『彼は誰時(かはたれどき)』と呼ぶ。
 ちなみに、この単語も「る(り)」を付けた『黄昏る』という動詞型がある。

240名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 16:38:49 ID:ddSiRgaw0

・《催眠》
 暗示を受けやすい変性意識状態のこと。またその状態に至らせる技術のこと。
 勘違いされている方も多いが、催眠状態はオカルトでもなんでもなく現在においては脳科学で検証できる現象の一つである。

 歴史上において催眠で有名な人物はメスメル以外にはフランスの神経科医ジャン・マルタン・シャルコーがいる。
 元々が神経科医であり神経病を専門としていたシャルコーは医長として膨大な患者のデータを収集する過程で催眠療法や解離のデータを集めた。
 また精神分析の祖であるフロイトの師でもあり、メスメルやシャルコーがいたからこそフロイトがおり、フロイトの次にユングが存在し、遥か先に現在の精神医学がある。
 こういった催眠療法が確立されるまでは精神病は悪魔祓いに頼るしかなかったことを考えれば、その影響の絶大さは語るまでもない。

 世間一般でこの催眠の評価が低い理由としては二つ考えられる。
 一つ目がショー催眠などの見世物で、やらせを行った人間が多く存在したため。
 もう一つがカルト宗教などで悪用されることがあるためだ。


・《線引き問題》
 別名「境界設定問題」。『科学』と『科学ではないモノ』の線引きを何処でどうするか、という科学哲学における問題。
 一般的には「検証ができる」「反証可能性がある」という二つの条件があるが、分類に苦しむグレーな分野は数多く存在する。
 近年でもフロイトの精神分析などの精神医学や心理学は科学ではないという意見もあった(今もあると言えばある)。
 現在では、脳科学の進歩によって催眠状態の脳波が計測できるようになったので、精神医学や心理学の多くの部分は科学とする見方が一般的。

 この問題を語る上で極めて重要なことが二つあり、一つ目が「『科学』は現在も進歩し続けており現在の常識が覆されることも十二分にありえる」ということ。
 もう一つが、「検証する科学者も人間なので心情・世相・常識・思想・周囲といった諸々のことに影響を受ける」ということである(尤もこれは社会科学的な視点なので異論もあるだろう)。

241名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 00:26:58 ID:10mQ6EgAO
あとがき難解すぎる、本編はそこまでないんだが 
 
この先を読めるかもなのでブログ覗いてみることにする 


242名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:49:52 ID:cSkX3lNM0




ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです



※この作品には性的な描写が(たまに)出てきます。
※この作品は『天使と悪魔と人間と、』他幾つかの作品と世界観を共有しています。
※この作品は推理小説っぽいですが、単なる娯楽作品です。
※この作品はフィクションです。実在の逸話を下敷きにした記述が存在しますが現実とは一切関係ありません。





.

243名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:51:08 ID:cSkX3lNM0




 第四問。
 証明問題編。

 「不完全犯罪」





.

244名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:52:41 ID:cSkX3lNM0




 命だに 絶えてなからば 悲しからまし





245名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:57:29 ID:cSkX3lNM0
【―― 0 ――】


「―――因果応報なんてものがあるけど、アレほど当てにならないものもないと思わない?」


 学校の屋上だった。
 時刻にして六時半過ぎだった。
 二人の人間。

 ぼくと――その人。


「小説なんかが良い例だよ。結局ああいうのは作者の、あるいは読者の『こうなるべきである』というのの集大成みたいなものでしょ?」


 夕陽を背にして立つその人はこの学校の一応の頂点――生徒会長。
 対し、ぼくは一介の生徒。


「だからね、世の中が因果応報……『こうなっているのが正しい』という世界なら、小説なんて流行ってないと思うんだよ」

246名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:58:10 ID:cSkX3lNM0

 呼び出された時点で、分かっていた。
 ここに来た時点で気付いていたのだ。 

 でも、来てしまった。
 ぼくは、ここに。
 やって――来てしまった。


「悪い奴は見つからないし、見つからないから改心しないし、改心しないからずっと誰かが傷つくハメになる」


 生徒会長は微笑んでぼくを見ている。
 見透かしたような笑み。


「僕としてはそんなことはどうでもいいんだけど……でも一応これは言っておかないと、って思って。様式美だよね」


 背後には屋上への出入口がある。

 逃げてしまおうか?
 いっそ、今ここで背を向けて帰ってしまおうか。

247名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 05:59:13 ID:cSkX3lNM0

 ……いや、無理だ。
 無理というより、無駄だそれは。 
 だって。

 だって――――会長は。


「うん。じゃあちょっと恥ずかしいケド……言うね?」


 そうして会長は、ポケットに入れたままだった右腕を緩やかに上げ。
 その白く嫋やかな指。
 人差し指で呪うようにぼくを指し示し。

 詠うように。
 いや、謳うかのように――言った。

248名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:00:10 ID:cSkX3lNM0



「―――犯人は、お前だ」




 逃避も。
 弁解も。
 謝絶も。
 無意味で無駄で無価値だった。

 だって会長は、ぼくが犯人だと分かっていたんだから。

249名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:01:08 ID:cSkX3lNM0
【―― 1 ――】


 可愛らしい新入生諸君は高校にも慣れ段々と小憎たらしくなってきている、六月も初め。
 そしてそれも終盤に差し掛かり過ごしやすい気候が続いている。

 ここ、VIP州西部は温暖多湿。
 四季がはっきりとしていて風流な地域と言えば聞こえはいいものの、実際は梅雨はじめじめしていて冬は雪がやたらと降って、それが毎年となると本当に嫌になる。
 だからこんな朗らかな季節の合間のすぐに過ぎ、一週間もしないうちにあの鬱陶しい梅雨前線がやって来るのだろう。

 というか現在でもこの無意味に広い学校の一部の場所では床が湿って滑りやすくなっていて危険だ。


ミセ*-3-)リ「ホント、嫌になっちゃいますよねぇ」

(;^Д^)「…………えっと水無月さん、それで何か俺に用事ですか?」


 学校の正門、その前。
 小さな花壇になっているそこに腰掛けている私を大学の研修だったか研究だったかで来ているらしい雨斎院先生(イケメン)が困り顔で問いかけてくる。

 しかし分かってない男だ。
 尤もらしく話しかけているが用事なんてないに決まっている。
 私はイケメンを漁りに来ただけ。

250名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:02:09 ID:cSkX3lNM0

 イケメンを漁りに来ただけ!
 ……大事なことなので二回言いました。


ミセ*^ー^)リ「やだなぁ、先生」


 と、私は魅力一杯の笑顔を作り。


ミセ*゚ー゚)リ「私は先生と話がしたいから……ここにいるだけですよ」


 サラリとそんなことを言ってみた。
 下校時刻も過ぎ、校門には部活動をやってる生徒が散見されるのみ。
 つまり実質二人きり。

 このチャンスを物にしない道理がない。
 私の性的魅力溢れる身体でイケメン大学生を虜にするのだ。


ミセ*゚ー゚)リ「それとも先生はこの後ご用事でも?」

(;^Д^)「いや、それはないんだけど……。あー……まあ、いいか。相談事は受けてやれって言われてるし」

251名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:03:09 ID:cSkX3lNM0

 軽くワックスをつけているらしい髪を弄りながら呟いていた雨斎院先生は時計を一度確認すると、「よし」と一言。
 その気怠そうな印象が拭い切れてない顔を上げて私の方を向いた。


( ^Д^)「まあ三十分程度なら……」

ミセ*^ー^)リ「やったっ!」


 私は跳ねるように勢い良く立ち上がり、ついでに先生の腕を絡め取った。
 そうしておいて、さも無自覚な風に胸を当てる。
 胸元が見えやすいように予めボタンも一つ外してあるし……うん、完璧だ。

 私が自意識過剰な小娘でない確たる証拠。
 やらしー身体の美少女である証明、早速の効果として。


(;*^Д^)「うぐ……」


 という小さな呻き声を聞きつけ、これはいけるんじゃねーのひょっとしてこの先生巨乳好きかコラとか思っていた私のその背後から。

252名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:04:07 ID:cSkX3lNM0


「―――雨斎院さん」


 やや尖った感じのする、でも心地の良い声。
 心当たりがあって振り返る。


(-、-トソン「雨斎院さん、宝ヶ池先生が探してらっしゃいましたよ」


 ノンフレームの眼鏡。
 鋭めの目元。
 でもそれぐらいじゃあ隠し切れない、ふんわりと香る可愛らしさを持つ女性。

 女性にしてはかなりの長身とスレンダーで引き締まった白い四肢。
 味のある黒髪を軽く一纏めにしたその人、雨斎院先生と同じく研修か研究だったかで来ている病葉先生がそこに立っていた。

 『病葉(わくらば)』という単語は普段はあまり見ないけど、確か「色付き始めた葉」とかいう意味だ。


(;^Д^)「あー、そうだった! うん。水無月さん、悪いね」

253名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:05:09 ID:cSkX3lNM0

 私にそう言い、「危なかったありがとう」と顔に出まくりで彼女に手刀を切る。
 当然腕も振りほどかれた。


ミセ*-3-)リ「え〜……」

(;^Д^)「ほら! トソさ……トソンさんが相談事とか雑談なら相手してくれるから! じゃっ!」


 そうして、思わずアヒル口になる私を残しイケメンは校舎へ走って行った。

 ……逃した。
 くそ、あるかないか分からないレベルの貧乳が邪魔しやがって。


(^ー^*トソン「何か言いましたか?」

ミセ;゚ー゚)リ「…………い、いえ。ナンニモ?」


 とてつもなく可愛いのに何故だか背筋が凍りつく笑みが向けられ、私は硬直した。
 なんだろう、口には出してないはずのことに返事をされた気がする。

254名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:06:11 ID:cSkX3lNM0

(-、-トソン「次に『まさかねぇ……』とあなたは言う」

ミセ;-ー-)リ「まさかねぇ…………ハッ!」


 いや。
 いやいやいやいや――「ハッ」じゃねーよ!
 我ながら!

 なんだこの人!?
 何いきなりジョ●ョネタ使ってみてんの!?

 乗ってる私もアレだけどさ!
 驚きだ。
 "unbelievable"である。


 ……この人、苦手なんだよね。
 凄い可愛いけど、なんか。

255名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:07:08 ID:cSkX3lNM0

ミセ;゚ー゚)リ「病葉先生……何者?」

(-、-トソン「水無月さん、一つ言っておきますが」

ミセ;゚д゚)リ「仮にも生徒の問い掛けをガン無視ですか!?」


 アンタそれでも教員を目指す人間か。

 ……流石に今度のツッコミ(心の声とも言う)は分からなかったのか、病葉先生は気取った動作で眼鏡を上げると物憂気な溜息を一つ。
 女性なのにスカートも履かずかっちりとしたスーツを着こなす彼女には似合いそうな仕草なのに、この人にはあんまり似合わない。
 もっと可愛いのが似合う気がする。


(゚、゚トソン「雨斎院さんは、アレでも恋人持ちなので誘惑するのは……」

ミセ*゚ -゚)リ「むぅ」

(-、-トソン「無駄――ではなく、その二つの膨らみはこれ以上ないくらいに彼に有効ですが、できれば止めて欲しいかなと……」


 ……有効なのかよ。
 有効なのかよ!

256名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:08:07 ID:cSkX3lNM0

 それはまた、病葉先生の中の雨斎院先生の認識がなんとなく分かる言い回しだった。
 今回の活動でたまたま一緒になったわけではなく、私生活でも普通に友達なのかもしれない。
 彼女さんなのかな?

 しかし、そうか。
 彼女……いるんだ。


ミセ*-3-)リ「くっそぉ……なんだよなんだよ」

( ^ν^)「おう、水無月。その顔じゃまた上手く行かなかったんだな?」 

ミセ#゚д゚)リ「またとはなんだ!」


 通りかかった知り合いの茶化しを一喝。
 大丹生のウザったいザラザラした声も今日は一段と鬱陶しく感じる。 


*(‘‘)*「もぉ、さっさと行こうよ。誰、その子?」

( ^ν^)「単なる知り合いだって。じゃあな水無月ー」

ミセ*-3-)リ「はいはい。せいぜい彼女と仲良くね〜」

257名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:09:08 ID:cSkX3lNM0

 追い払うようにひらひら手を振り、バカップルに別れを告げる。
 いちゃいちゃと私に見せつけるように腕を組み二人は学校前の坂を下っていく。
 大丹生と……沢尻?とかいうあの二人は付き合って半年くらいだが、倦怠期はまだまだ先らしく今日も幸せそうだ。

 …………忌々しい。
 ちくしょうめ、"Damn it"。


 よくよく思い出してみれば最近は学校に慣れてきた新入生の中に混じり、仲睦まじげに歩く男女(そして偶に男々、女々)が見て取れた。
 春も過ぎたが恋するお年ごろな私達は熱に浮かされてばかりなのだ。
 そんな中で私は一人……ということで気紛れで適当に彼氏でも作ろうというのが今日の趣旨だったのだが。

 でぃちゃんもギコさんとラブラブみたいだし、なんだか取り残されてしまった気がする。


ミセ*゚ー゚)リ「私も彼氏、欲しいなあ。ねぇ先生」

(゚、゚トソン「…………」

ミセ*゚ -゚)リ「先生?」

258名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:10:14 ID:cSkX3lNM0

 何処となく爬虫類系な目を細め、形の良い唇を引き締め立っていた病葉先生は「そうですね」と如何にも相槌といった感じの返事をした。
 いわゆる、生返事。

 何か悩み事かな?と一応は悩み事を相談するという名目で話していた私が思っていると。


(-、-トソン「……ですが、『皆がそうだし』みたいなゆるゆるな理由で彼氏を作ろうとするのはやめた方が良いですね」

ミセ*゚ー゚)リ「せんせい?」

(゚、゚トソン「まあ真摯過ぎる愛も考えものですが、でもやはり恋愛は清くあるべきだと思います」


 人差し指を立て、それを唇の前に持って行って、「シーッ」みたいな仕草。
 浮かべるのは思わず息が止まってしまう蠱惑的な笑み。
 私が男子だったならば、いや女子である今でもゾクゾクしてしまうような笑顔。

259名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:11:08 ID:cSkX3lNM0

 ……ああ、そうか。
 何かこの人おかしいと思ったら、魅力だ。

 ペニちゃんが持っていたような人を惹きつける訳の分からない力――そういうのがふんわりと漂っている。



(゚ー゚トソン「先生との、約束ですよ?」



 だから私は。
 その子供扱いな言い方にも何も言い返せず頷くしかなかったのだ。

260名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:12:09 ID:cSkX3lNM0
【―― 2 ――】


ミセ*-3-)リ「…………と、言われててもなぁ……」


 欲しいものは、欲しいのだ。

 夕方、HRで先生からの来週授業参観がありますとかだるいことこの上ない連絡を聞き流しながら私はぐでーっと机に突っ伏した。
 授業終わりの教室は時間のせいだろうか、涼しくて心地良い。
 他のクラスメイトは「ええー」とあからさまな不満の声を上げたり、近くの席の友達と「サボタージュしようぜ」と小声で言い合っている。
 私はと言えば、どうせ誰も来ない私には関係のないことだと伸びをしていた。

 知り合いが誰も来ないとしても、それでも教室の後ろとか廊下とかに人がいるのは変な感じ……。
 というか鬱陶しいし嫌なので授業参観は研究授業に次ぐ嫌いな学校行事の一つだ。
 彼氏をどうするかをぼんやりと考えながら「その日はサボろう」と心の中で決定する。

 そこらの不良と違ってなまじ半端に頭の良い不良である私などはちゃんと出席日数を計算して自主休講するという姑息っぷり。
 そして計算の上では一日二日休んでもまだ何ら問題はない。

261名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:13:10 ID:cSkX3lNM0

 学校生活で私に問題があるところとすれば……まあ色々あるけど。
 色々あるけども!
 けれど私自身が困っている問題は勉強する気が全く起きない理科と数学の成績だけなのだった。


 ……ところで「研究授業」って、他の学校でもあるんだろうか。

 他の学校の先生達が授業参観みたいに他校の授業を見に来る学生にとってはいい迷惑なあの行事。
 行事っていうか……風習?


ミセ*゚ー゚)リ「ね、でぃちゃんの中学では研究授業ってあった?」

(#゚;;-゚)「え?」


 律儀に先生の話をメモ帳に書き留めていた隣の席の女の子は一度手を止め、小首を傾げる。


ミセ*^ー^)リ「だから、研究授業だって。なんか先生が沢山来る」

262名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:14:07 ID:cSkX3lNM0

 女の子、朝比奈でぃ。 

 顔に残る傷、右頬に薄く残っている斜めの傷痕などは化粧で隠せるだろうが、鼻の上を通るようにある一文字の傷は誤摩化しようがない。
 けれどそんなものでは何ら損なわれることがない清楚な顔立ちは正直羨ましいほど可愛らしい。
 セミロングくらいの長さの髪をポニーテール状に一纏めにした髪型は、彼女が真剣を振り回すところを見たせいか、何処か昔の剣客っぽく思えた。

 尻尾のように揺れる黒髪の束は触ったら心地良さそうだ。
 もちろん「尻尾のように」というのは比喩、専門用語で言うところの直喩法だが、彼女の尻尾を私は知っているのでまあ結構、現実味のある喩えと言えるかもしれない。


(#゚;;-゚)「研究授業……ですか、」


 幾度か頷き、咀嚼するように言葉を繰り返すでぃちゃんは人ではない。
 より正しくは「完全な『人間』ではない」。
 人間と猫又のハーフである彼女は漫画によく出てくる『半妖』というものであるらしく、気を抜いてる時や有事の場合は猫の耳と尻尾が出、瞳が縦に裂けるのだ。

 嘘のような本当の話。怪異。
 その目で見なければ信じられない――それなのに限られた人でしか見ることが叶わない――彼女の秘密。

263名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:15:11 ID:cSkX3lNM0

 私は色々あって彼女のそれを見ることができてしまい、色々あった後に彼女と少しだけ仲良くなった。


ミセ*゚ -゚)リ「やっぱなかった? 私の通ってた中学だけの行事だったのかなぁ……」

(;#゚;;-゚)「あ、いえ、というか……。その……」


 馴れ馴れしい感じな私の話し方に、リアルに「美少女が刀を持って化物と戦う」というアニメみたいな設定を持つでぃちゃんはおどおどとしている。
 あの日の勇ましい姿が嘘のよう、今時珍しい奥床しい系の女の子。

 いやでも、あの竹刀を英語に訳したタイトルの漫画に出てくるちっこい剣道少女も普段はこんな感じだったし、強い人は普段は抜けているものなのかもしれない。


ミセ*-ー-)リ「(そういやあの時に会った剣士さんも……普段はぼけぼけな人だった)」

(;#゚;;-゚)「……あの、」


 遥か彼方の遠い昔。
 私を救い出して、荒唐無稽な私の体験談に唯一真面目に耳を傾けてくれた彼女のことを思い浮かべていると、でぃちゃんに袖を引かれた。

264名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:16:08 ID:cSkX3lNM0

 とても控えめなその動作に耳を近づけることで返す。


(# ;;-)「……これは一応秘密のことなのですが、」

ミセ*゚ -゚)リ「ふむふむ」


 無茶苦茶小さい声に身体を傾け、目を閉じ耳を澄ます――その次の瞬間。


⌒*リ´・-・リ「…………プリント」

ミセ;゚д゚)リ「ふわっ!?」


 前の席から無造作に回されてきた紙が鼻にぶつかり、思わず妙な声を上げてしまう私。
 それはざわざわと騒がしかったHRの教室でも際立ってしまって「水無月さん、どうかしましたか?」と担任に訊ねられてしまう。


ミセ;^ー^)リ「いえ……別に。すみませんでした」


 嫌味じゃなくて本気の心配だから余計に困る問い掛けに対して笑顔で会釈し返した。

265名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:17:08 ID:cSkX3lNM0

( -∇-)「どーせまたしょーもない冗談を朝比奈さんに言ってたんだろ」

ミセ#^ー^)リ「なつる、小指折ってあげようか?」


 振り向き、でぃちゃんにプリントを手渡しながらの些細な言葉に割とマジなトーンで返す。

 コイツはいつも私を苛立たせることしか言わない。
 お前それでも私の幼馴染かよ、もうちょっとなんかないのか。

 私達のいつものやり取りを深刻に受け取ってしまったのか、でぃちゃんはおずおずと口を挟み。


(;#゚;;-゚)「魚群さん、ミセリさんに話しかけたのは私で……」

( ・∇・)「いーんだよ。どーせ、コイツ常日頃から電波なことしか言わないんだから」

ミセ#^ー^)リ「…………覚えてろよ?」


 ……くそ。
 この野郎好き勝手言いやがって……。

266名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:18:07 ID:cSkX3lNM0

(*^ー^)「―――はいはい! 皆さんそこまで、HR終わりますよ。質問はありませんね?」


 担任の手を打つ音で私達の会話を始めとした教室中の雑談が一時中断される。
 文系進学科十一組の可もなく不可もないメンツはどちらかと言えば天才肌の人間が多いので、授業を真面目に受けている人間は少ないものの、こういうところでのケジメはしっかりしていた。

 「情けは人の為ならず」という言葉をちゃんと正しい意味で理解し、実践している連中だった。
 要するに小賢しい。
 つまり自分達が静かにしていればHRがさっさと終わることを知っているのだ。


(*゚ー゚)「ではこれで連絡を終わります。他のクラスでは階段から落ちた人や車に轢かれかけた人もいるそうです。新学期にも慣れてきたからといって気を抜かないようにしてください」


 アンタもなロリ顔教師、と多分クラスの全員が思っていた。

 横目で窓の外を伺う。
 中庭の一角、授業参観の際には保護者の駐車場として使われるその場所には、先日学校を出る時にスリップしたとかで派手に傷が残った担任の愛車があった。

267名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:19:07 ID:cSkX3lNM0
【―― 3 ――】


 放課後。
 クラスメイト達との雑談も終わり、机に置いたままだった手提げを持って廊下に出ると、窓辺で格好つけてなつるが立っていた。

 「格好つけて」は流石に言い過ぎだったかもしれないが、少なくともいつもの様子とは違った。
 外をぼーっと眺めて。
 なんだか悩んでいるような、そんな。


( ・∇・)「よっ」

ミセ*゚ -゚)リ「あれ、なつる。今日部活は? 軽音部」

( -∇-)「なんか中止だってよ。いつも通りの部長の我侭。……ったく、大掃除終えての三日ぶりの部活だったのに」

ミセ*^ー^)リ「そ」


 話しかけるかどうか悩んでいたら先に話しかけられてしまい、そのまま雑談をしつつ二人で廊下を歩く。
 一応さっきまで私は怒ってたわけだからフツーに一緒に下校しようとしているのはおかしいかもしれないけれど、まあそこら辺は長い付き合い故の阿吽の呼吸みたいなものだ。

268名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:20:10 ID:cSkX3lNM0

 魚群なつる。
 私のファースト幼馴染。

 中学校時代にできた初彼氏で、初ちゅーの相手でもある。
 笑ってしまうような理由で別れて、疎遠になるかと思っていたら特にそういうわけでもなく、今も週一レベルでいちゃいちゃ――セフレとして遊んでいる。
 そういう傍から見れば無茶苦茶変な関係なんだけど、それでも切れないのが私達だった。


( -∇-)「まっ、その掃除もほとんど部長のカノジョ……沢近さんがやったんだけどさ。おかげで最早模様替え後状態、何が何処にあるか分かんねー」

ミセ*゚ー゚)リ「アレ? あの人そんな名前だったっけ?」


 沢尻じゃなかったのか。


( ・∇・)「そうだよ。沢近。あの部長に毎日弁当作ってきて、挙句の果てに今度旅行だってよ。フグ食べに行くんだと」

ミセ*>ー<)リ「いいなあー! 焼酎と一緒に食べると美味しいよねぇ」

( ・∇・)「お前未成年だろうが……とにかく、あの二人は仲良いんだよ。こないだも部長、俺に彼女から貰ったっていう香水自慢してきて……」

269名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:21:09 ID:cSkX3lNM0

 心の底からどうでもいい話をしながら階段を下りていく。
 幼馴染。
 もう彼氏ではないけれど、それでも一番心を許せる相手はコイツなのかもしれない。

 ……まあ、身体なんか許しまくりだし。
 はっはっは。


( -∇-)「はあ、もう。お前といい、熊谷さんといい……どうして俺の周りには風紀が乱れまくりな奴しかいないのかね」


 やれやれ、と言った具合に手を広げる。
 こっちからすると「お前も私というセフレ作ってんじゃねーか人のこと言えねーよ」なのだが。


( ・∇・)「…………そんなんだから」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」


 冗談めかした言葉の中に、一瞬の本気。
 ほんの刹那の深刻なトーンが気になって踊り場で振り返る。

270名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:22:07 ID:cSkX3lNM0

 「どうしたの?」と訊く私。
 「なんでもねー」と返す彼。

 ……こういうことがあると昔ほど許し合えてはないことを実感する。
 昔は何でも話せていたのに。
 いつからか、至近距離な間合いに微妙な溝ができていた。

 どうしてだろう? 


ミセ*-ー-)リ「(『どうしてだろう?』って、それはもちろん私がビッチになっちゃっただからだろうけど)」


 自分の幼馴染が清楚とは言い難いものになってしまっていては、コイツとしても何かしら思うところがあるのだろう。

 ……まったく。
 うじうじ悩んでるくらいならもう一度私に告白して自分のモノにしちゃえばいいのに。
 流石に彼氏ができたら浮気はしないよ……多分。

 世の中には女子高生なのに人妻な子もいるんですぜ、なつるさん。

271名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:23:08 ID:cSkX3lNM0

( ・∇・)「というわけで、今日は一緒に帰るか」

ミセ*゚ー゚)リ「え? 私は既にそのつもりだったんだけど……」


 階段に落ちていた雑巾を避けるように飛んで、一気に一階まで。
 落下。
 じーん、と足が痺れる感じ。

 性的に恥知らずになったこと以外は全く変わらない私に何を思ったのか。


( -∇-)「……そうだな。俺も、そのつもりだ」


 なつるは呆れたように。
 けれど安心したようにそう呟いた。

272名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:24:08 ID:cSkX3lNM0
【―― 4 ――】


 その後も、部長の大丹生は虫嫌いだから暖かい季節は不機嫌だとか、
 今度軽音部で一曲演奏してやるよとか、
 そう言えば実習生(研究生?)の人達はそろそろ終わりだねとか、
 病葉って先生は凄い美形で最初見た時男だと思ったとか、そんな感じの世間話をしていた。

 幼馴染で帰り道も同じだけど、こうしてダラダラとしゃべるのは久しぶりだった。
 コイツ(というか地域環境研究会の男子勢)、少し前は遊ぶどころじゃないほど調子が悪かったしね。


( ・∇・)「……そういやお前、俺が腹痛で死ぬほど苦しんでる時見舞いどころか心配すらしなかったらしいな」

ミセ;゚ー゚)リ「ぎくっ」

( ・∇・)「効果音を口に出すほど図星か」


 いやいやいやいや……心配はしてましたよ?
 それよりも好奇心が優っていたけれど。

273名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:25:10 ID:cSkX3lNM0

 でも、もう数日ぐらい寝込んだままで病状が深刻になっていってたら、多分相当狼狽しただろうとは思う。
 あんな部活はどうでもいい。
 だけど、この幼馴染は大切だ。

 絶対に本人には言わないし普段は意識しないけど。


ミセ;^ー^)リ「…………それだけ信頼してるってことです」


 そう言って適当にはぐらかして追及を避けて、自分の心に蓋をする。
 無理に冷静になろうとして逆に冷酷になるような、なんだか改めて考えると酷く不器用な私の精神。 

 なつるが倒れた時は「へーそう?」くらいだったけれど。
 実際コイツが死ぬ時は、それこそ死ぬほど泣き叫ぶんだろうなーとも思う。 
 要するに素直になれないのだ。

 どうすれば、もう少し自分に正直になれるだろうか。


ミセ*-ー-)リ「(今度、でぃちゃんにでも相談してみようかな)」

274名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:26:11 ID:cSkX3lNM0

 ふと、思いつき。
 自転車を取る為に校舎の角を曲がって―――。



ミセ*゚ー゚)リ「あ。」

(#゚;;-゚)「……どうも」



 いつかのようにまた出会った。

 自転車小屋近く、所在なさげに佇んでいるのはでぃちゃんだった。
 私に恭しく会釈する彼女はいつだって奥床しい。
 「もう授業終わって結構経ってるけどまた本でも読んでたのかな」と、私がイメージに基づいた勝手な推測をしかけた時、その後ろにいる人が見えた。

 実習だか、研究だかでこの学校にやって来ている大学生。
 雨斎院先生だった。

275名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:27:09 ID:cSkX3lNM0

ミセ*゚ -゚)リ「でぃちゃん……と、何してるんですか?」


 校舎裏で密会?
 口説き中?
 ひょっとして邪魔しちゃった?


( ^Д^)「いや、ちょっとね。久々に会ったから、久し振りって声掛けてただけ」

ミセ*゚ー゚)リ「久々って……先生、でぃちゃんと知り合いなんですか?」

( ^Д^)「知り合いっていうほど知り合いではないか。顔見知り程度」


 そうなのです、とでぃちゃんも同意する。
 ……どうも浮気と見られていないか心配らしい。


( ^Д^)「そう言えば、この間から言おうと思ってたんだけど、俺は別に『先生』じゃないぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「へ?」

( -∇-)「あー、なるほど。教育実習生だから先生見習いってことですね」

276名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:28:08 ID:cSkX3lNM0

 なつるの言葉に納得するが、直後に「そういうことでもない」と先生は笑いながら否定する。


(;^Д^)「アレ……説明されてないのかな? 俺やトソさんは教育実習生じゃなくて、スクールカウンセラーの仕事を見学する為に来てるんだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなんですか?」


 研究とか研修とかで来ているとは聞いていたけど……。
 そう言えばそんな説明も、あったような、なかったような……。

 先生(じゃない人)は続ける。


( ^Д^)「あと、研究って面もある。今の高校生はどんな生活してて、どんな悩みを持っているのか……みたいな。そんな感じ」

( -∇-)「大学生は大変っすね。皆そんなことやってんのか……」

( ^Д^)「いや全員が全員、そういうことやってるわけじゃないと思う。それぞれだよ、それぞれ」


 あと二年も先には、私達もこの人のように大学生をやってるわけだ。
 思えば「大学生って大人だなぁ」と漠然と考えていたけど、自分も数年後にはそうなってるわけで。
 ……多分。

277名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:29:10 ID:cSkX3lNM0

 いや合格するよ?
 浪人はしないよ?

 どの大学に行くかは決めてないけど……とにかく、二年先の私は大学生になっているはずだ。
 花の大学生、夢のキャンパスライフの為にも苦手な教科だって少しずつで良いから勉強して行かないといけない。
 深く考えると憂鬱だけど、未来に目を向ければ頑張れる気もする。

 ふと思いつき、私は訊ねた。


ミセ*゚ー゚)リ「先生は、何になりたいんですか?」

( ^Д^)「え……? どうだろうな、俺は何になりたかったんだろう。今は何になりたいんだろう。分からないからこそ、こういうことやってるのかも」

( ・∇・)「ははっ、いい加減っすね」

( ^Д^)「でも何者かにはなりたいよな。誰だってそうじゃないか?」

ミセ*^ー^)リ「そうですね……」


 と、私が呟いた――――その瞬間だった。

278名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:30:08 ID:cSkX3lNM0
【―― 5 ――】



 ―――ガシャンと、聞こえてきたのは何かが割れる音。

 ほぼ同時に誰かの叫び声。

 そしてドンドンドン!と激しく扉を叩く音。



(;#゚;;-゚)「ッ!」


 瞬間、佇んでいたでぃちゃんが猫のように――猫の動きで見を翻し、一目散に走り出す。

 彼女が半妖であることを知った際についでに知ったのだが、猫又の血を引くでぃちゃんは人間の状態の時でも相当耳が良いらしい。
 あの体育館裏で会った時も人の殴られる音を聞きつけて……って。


ミセ;゚ー゚)リ「それ、なんかヤバくない……?」

279名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:31:08 ID:cSkX3lNM0

 見れば先生も彼女を追って駆け出している。

 なんだ?
 何が……?

 頭に浮かんだはてなマークはなつるも共通だったのか、顔を見合わせ、次の瞬間には二人で後を追っていた。
 言葉などいらなかった――これも阿吽の呼吸みたいなもの。


 さっき来た方向とは反対に向けて走る。

 少し先を走る先生を追うように。
 角を曲がって、渡り廊下。
 無駄に広い校内の中にある幾つもの校舎、その一つに飛び込む。



『―――ぃ! 大丹生!おいッ!!』



 野太い声の誰かがドアを乱暴に叩きながら怒鳴っている。
 そこへ行く途中、小柄な誰かとすれ違った。

280名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:32:07 ID:cSkX3lNM0

ミセ;゚ー゚)リ「今の……」


 顔面蒼白になって走っていったのは大丹生の彼女、沢近だった。

 見ればここは西校舎の一角。
 私にはあまり馴染みのないこの場所は、なつるには通い慣れたあの場所だ。


 雨斎院先生。
 でぃちゃん。
 なつるの先輩の大男、熊谷さん。

 その全員がいる場所――――その扉は。


(;・∇・)「俺の部室じゃねぇか……!」

(;・(ェ)・)「お前のじゃねぇよ!!」

ミセ#>д<)リ「そこはどうでもいい!」

281名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:33:12 ID:cSkX3lNM0

 そう、ここは軽音部部室前。
 騒音対策の為に校舎の端に割り振られた部屋の前。
 端過ぎて誰も近寄らないこの場所。

 こんな状況、説明されずとも大体分かる。
 扉が開かないのだろう。

 そして、中で――何かがあった。


(;・(ェ)・)「そうだお前! 部室の鍵はどうした!?」

( ・∇・)「今日は部活ないって言うから教室に置いてきましたけど……」

(;・(ェ)・)「鍵を置きっぱにするなよ!何考えてんだお前!?」


 物凄い最もなツッコミをする軽音部の先輩に「じゃあ先輩鍵どーしたんですか」と逆切れ気味に訊ねるなつる。
 ……言葉に詰まらせた所を見るにこの人も持ってないらしい。

 人のことは言えない。

282名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:34:08 ID:cSkX3lNM0

(;#゚;;-゚)「部室の中で大きな音と叫び声が聞こえて……でも扉が開かないそうなのです」


 場も弁えず口喧嘩を始めた軽音部二人を放置し、でぃちゃんが私に事情を説明した。
 どうやら沢近さんは職員室か事務室まで鍵を取りに行ったようだ。
 クリップを伸ばして鍵穴に突っ込んでいる先生はピッキングを試みているらしい。

 彼女や熊谷さんが焦っているところから推測すると、中にいるのは軽音部部長の大丹生なのだろう。
 あの男が一人になりたいからと言って部室に閉じ込もるのは中学時代から変わらないが、こういう場合は面倒なことになる。

 以前も部室に蜂が出たとかで大騒ぎして、でもその時はすぐに中から開いたから大事には至らなかったんだけど……。


(;^Д^)「くそっ、もうちょい兄貴にちゃんと習っとくんだった……これじゃあ扉を蹴破った方がまだ早いか……?」


 と、焦って素の口調が出始めた先生の肩に手が乗る。

 結婚指輪が嵌められた白く美しい指先。
 僅かに残った傷さえも彩りとなっているような、その人は。

283名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:35:08 ID:cSkX3lNM0


(-、-トソン「……何をグズグズしてるんですかプギャーさん」



 騒ぎを聞きつけてやって来たらしいその人――病葉トソン先生は、事情を知らない故か極めて冷静な様で雨斎院先生を押しのけた。
 退いてください、と冷たい声音で言いつつポケットからバタフライナイフを取り出す。


(゚、゚トソン「こういうのはですね、」


 クル、カチッ。
 手馴れた動作で展開された刃渡りほんの数センチの凶器が彼女の双眸を写す。
 爬虫類みたいな、その瞳。

 艶かしい光彩と――纏われた呪力。


(ー トソン「こうすれば――――いいんですよっ!」


 妖怪や化物よりもよほど恐ろしいその力に私が驚いている最中で彼女は自然に、ほんの少し本を読もうかとページを開くような、そんな日常の一部にのように。
 思い切り、刃を鍵穴に突き刺した。

284名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:36:09 ID:cSkX3lNM0

 金属と金属が擦れる嫌な音が響くのも構わず、病葉先生は無理矢理手を回し――同じく無理矢理に鍵を開けた。




 ―――密室が、開かれる。




 そこで私が見たのは。

 開け放たれた扉。
 アパートの一室のような長方形の部室。
 綺麗に片付けられた室内。
 一番奥にはソファー。
 正面には大きな長机。
 並んで、周りにはパイプ椅子。
 上には筆記具が刺さったスタンドと束ねられた楽譜。
 左手には幾つかの楽器が鎮座していて右手には棚。
 天井に近い一番上の段にはカップが二つ。
 棚の前には古びた踏み台があって、踏み台の近くには割れたカップとガラス製の容器。
 
 その破片、キラキラと輝く欠片、近くにドロドロと――――血。

285名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:37:07 ID:cSkX3lNM0

 ソファーの前にあるアンプの角にこびりついた血。
 そして。




(  ν)




 頭から血を流して仰向けに倒れている中学時代からの先輩の姿だった。

286名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:38:08 ID:cSkX3lNM0
【―― 6 ――】


 病葉先生が指示を飛ばす。
 なつるへは保健室の先生を呼んでくるようにと。
 熊谷さんには救急車を呼べと。

 その間、雨斎院先生は大丹生の近くに行き、散らばった破片に気をつけてしゃがむと頭部を動かさないようにハンカチで頭を抑えた。
 続いて伸ばされていた両の手、右手を取って脈を測る。

 それと同時にソファーの上の窓が割られた。
 沢近さんは鍵を取りに行くよりも外から窓を開けた方が早いことに気づいたらしいが、そのせいで血塗れの恋人を近くに見ることになって絶叫した。


(;#゚;;-゚)「っ……」

(; (ェ))「もしもし!? ここ学校で……あの、友達が血塗れで……。はい、お腹を押さえて意識もないみたいで、今先生が見てるんですけど……」

ミセ;゚ -゚)リ「嘘…………え、だって」


 私は思わず駆け寄ろうとして、それをでぃちゃんに引き止められた。
 首だけで振り返ると、ふるふると彼女が首を小さく振った。

 指を指す。

287名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:39:07 ID:cSkX3lNM0

(#゚;;-゚)「…………あそこ」

ミセ;゚ー゚)リ「っ!」


 息を、呑む。
 倒れ伏した大丹生のだらりと伸びた腕には蛇が巻き付いていた。

 刺青などではないし、本物でもない。
 靄のように朧気な蛇の霊。 
 濃い紫の色合いの邪悪な蛇は大丹生に噛みつかんとしてなのか顔に近づいていく。

 このままでは大丹生だけではなく雨斎院先生までも危ない――と。


(-、-トソン「……まったく」


 そんな心配は杞憂に過ぎなかった。
 私を引き止めたでぃちゃんが動かなかった理由は、ここが学校だから半妖とバレるかもしれない行動は慎みたかった、などではなく。

 単に――動く必要がないと知っていたからだったらしい。

288名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:40:07 ID:cSkX3lNM0

 脇に立っていた病葉先生は上品に屈むと、牙を見せ威嚇してくる蛇の頭をナイフで一突き。
 ストン。
 床を指す小さな音と共に地面に縫いつけてしまった。

 蛇の霊はしばらく苦しそうに悶えていたが、やがて空気に溶けるように消えて行った。


(-、-トソン「なんですかなんなんですか、この現代で憑き物とか。憑物語ですか」


 馬鹿らしい、と。
 霊的存在であるはずの蛇の憑き物を単なる力技、呪文とか魔除けとかそういうアレコレを使うプロセスをすっ飛ばし、何事もないかのように殺してしまった彼女は短く溜息をついた。
 言わば幽霊を殴って成仏させたようなもの――常軌を逸している。

 なんだ……この人は。
 なんだこの人!

289名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:41:08 ID:cSkX3lNM0

( ^Д^)「…………トソさん」

(゚、゚トソン「分かりました。水無月さん、熊谷さんに電話を変わるように伝えてください」


 辺りにもう蛇の霊がいないことを確認して、病葉先生は私に言う。
 熊谷さんから携帯を受け取るとお礼を言って、そして。


(-、-トソン「ええはい。そうですね、警察は必要ないと思いますよ?」


 こんなのはただの不慮の事故ですから、と全く感情のこもっていない声でそう言った。

290名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:42:07 ID:cSkX3lNM0
【―― 7 ――】


(,,-Д-)「彼女は『病葉トソン』といって……なんて言うかさ、僕達専門家の界隈では鬼札みたいに扱われてる存在なんだよ」


 もう宵闇も濃くなってきた街の外れの元診療所でギコさんはそんな風に語った。

 教師陣、救急車や警察も駆けつけての事件。
 当事者である私達も簡単に事情を聞かれた後、一度帰るようにと言われた。

 大丹生は……駄目だったらしい。
 雨斎院先生の話では、部屋に入った時点で既に脈はなく。
 救急隊員も手の施しようがなかった、そうだ。


ミセ*゚ー゚)リ「…………」

(,,゚Д゚)「触れないものは殺せない。ならば触れるものは、殺せる。そういう目――『魔眼』と呼んで差し支えない霊能力を持っててね、だから強引な祓い方ができてしまう」


 私がここ、でぃちゃんの自宅である元高岡診療所にいるのは、私が今日一人であったせいだ。
 保護者である伯父さんは家にほとんどいない。
 あんなシーンを見て精神が不安定になっている学生を一人にするのはまずいということで、私の及び知らない場所で何らかの相談が行われた結果、こうしてこの家に泊まらせてもらうことになった。

291名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:43:08 ID:cSkX3lNM0

(,,-Д-)「……と、まあ」


 こんな話、今日はいいや。
 私の正面に座っていたギコさんはそう言うと、続けて「もう休みなよ」と私に勧める。


ミセ*゚ー゚)リ「…………え、でも」

(,,^Д^)「気づいてる? さっきからさ、ミセリちゃん、全然表情動いてない。笑顔のまんまだ」


 いつもはあんなにコロコロ変わるのにさ、と彼は言って。


(,,-Д-)「それが君の処世術なのかもしれないし……そうであるなら否定はしないけれど、でも俺は」


 でも俺は。
 辛い時は泣いた方がいいんだと思う――と。

 そんな風に言った。

292名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:44:08 ID:cSkX3lNM0

 ……人は自分の為にしか涙を流せないという。
 泣く、という行為は、何か悲しい出来事を見て感情移入した自分自身を「可哀想だ」と思っているに過ぎないんだ。

 だけど、それでも。

 泣くことを我慢し続けて、緩やかに壊れていくのは、誰も望んでいない。
 そんなことは、誰も。
 そうであるくらいならば自分の為でもいいからちゃんと涙を流すべきなんだ、と。


(,, Д)「……君はまだ泣けるんだからさ」


 それだけを私に告げて。
 彼は部屋を後にした。


(# ;;-)「…………あの、」


 入れ違いのように入ってきたでぃちゃんは私の隣に座ると、聞いてしまいました、と無礼を詫びた。
 盗み聞きされて困るようなことは言ってなかったはずなんだけど、何故だか酷く恥ずかしい。

 泣きそうに――なっていたからだろうか。

293名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:45:09 ID:cSkX3lNM0

(#゚;;-゚)「私は、学校に行ったことがなかったのです」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」


 これでも妖怪ですから、と続けて。


(#゚;;-゚)「だから中学時代の話を訊かれても、何も言うことはできません」

ミセ*゚ー゚)リ「…………」

(#゚;;-゚)「ミセリさん。あの大丹生さんという方は、中学時代からのお知り合いだったのでしょう?」


 コクリ、と頷く私に優しく微笑んで彼女は更に言う。
 私には全く分からないことなんですが、なんて申し訳なさそうに前置いて。


(#゚;;-゚)「学校にほとんど行ったことのない私にはそういう――先輩とか、後輩とかはよく分かりません」

294名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:46:09 ID:cSkX3lNM0

 でも。


(#゚;;-゚)「でもほんの少しでも言葉を交わし、同じ時間を過ごした人が辛い目に遭って……それは悲しいことだと思います」


 そして悲しい時には。
 泣くべきなんだと思います、と。

 その言葉は、とても。


ミセ* ー)リ「あーあ……」


 ……あーあ。

 本当に、もう。
 べっつに友達とかじゃなかったんだけどなー……あんな奴。

 ノリはウザいし、ベースは下手だし。
 っつーかつまらない。
 面白い系の男子には致命的なほどギャグのセンスがなくて、どうしようもない奴だったし。

295名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:47:08 ID:cSkX3lNM0

 だけど、なあ。 


ミセ* ー)リ「あんな奴……ただの先輩で、友達ですらなかったけど」


 高校に入学した当時、あの馬鹿みたいに広い敷地で迷っていた私を見つけて。
 「お、水無月じゃん」とか後ろに“www”が付きそうなかっるいノリで話しかけてきて。
 バイト代が入ったところだとか缶コーヒーとか奢ってくれて。

 ちゃんと一年生の教室まで送り届けてくれたのは、あの人だったのだ。


ミセ* ー)リ「あのチビ、ノリはウザいしムカつくし……良いところなんて何もないような奴だったけどさ」

(#゚;;-゚)「…………」


 だけど。
 それでも。

296名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:48:09 ID:cSkX3lNM0

 でも――やっぱり。


ミセ*;ー;)リ「そーんな馬鹿でも……死ぬと悲しいものなんだねぇ……」


 ああ……忘れてたな。

 別に幼馴染とか。
 そういう特別な存在じゃなかったとしても、人が死ぬと、悲しい。



ミセ*っー;)リ「ちっくしょー……」



 しとしとと雨が降り始めた中。
 私はつい最近友達になった相手に、そんな当たり前なことを思い出させてもらったのだった。

297名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:49:10 ID:cSkX3lNM0
【―― 8 ――】



(;^Д^)「あのトソさん……いやこれ、マズいんじゃないっスか?」

(-、-トソン「何を今更。マズいに決まっています」


 深夜に勝手に事件現場に入るだなんて。

 非常識な私でも流石に分かる。
 「これって表向きは事故なんだから無問題♪」とかそういうことではなく、人が亡くなった現場に入るのは常識的に考えて如何なものかと。

 それ以前に学校自体への不法侵入罪。
 大学にバレたら多分、マズい。
 口にした時の「マズい」よりも遥かに重いレベルで良くない。


(゚、゚トソン「でもですよ、プギャーさん。よく考えてみてください」


 血を避けるようにソファーの前まで飛んで、次いで振り返り一回生の頃からの友人をニックネームで呼んで続ける。

298名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:50:12 ID:cSkX3lNM0

(゚、゚トソン「犯罪をすることが罪なのか、罪が犯罪なのか」

(;^Д^)「は?」

(-、-トソン「人を殺すのが悪いことなのは『人を殺すと法を犯したことになるから』ですか? 違うでしょう?」


 倫理→法律。
 法律→倫理は……少し頷きかねる。

 より正しく言えば、倫理1+倫理2+…+倫理x という風に個々人の価値観を束ねていった結果として法律があるんだと思う。
 他にも色々要素はあるだろうがとりあえずはこれで正しいはずだ。
 だから人によっては法律で決まっていることでも「悪くない」と思う。
 その個人の価値観で行動すると――これは誤用の方でも、誤用じゃない方でもどちらでもいいんだけど――確信犯という風に呼ばれる。

 さて、それを踏まえて考えた場合。


(゚ー゚トソン「法律には規定されていなくとも、大多数の人間が『悪い』と思うことは……果たして罪なのでしょうか」


 たとえば魔法。
 現代ではそれで人を殺しても法律を犯したことにはならない。

299名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:51:09 ID:cSkX3lNM0

 が、それでも悪いことは、悪いはずだ。


(-、-トソン「つまりは……そういうことですよ」

(;^Д^)「いや分かりましたけど、トソさん。それって今あなたが不法侵入してることとなんの関係もないですよね?」

(゚、゚トソン「ないですね」

(;^Д^)「言い切った!?」


 うるさいですね、あなたも共犯なんだから捕まりたくなかったら黙ってください――なんて、ややキツい言葉を浴びせつつ私は調査を開始した。

 別に正義感の為ではない。
 早々に事故と断定してしまった警察の代行ではない。

 ただ単純に――興味深いのだ。


(-、-トソン「(なんとなくだけど……犯人は分かっている)」

300名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:52:08 ID:cSkX3lNM0

 確信があるのだ。
 これが事故ではなく事件である確信が。

 殺人犯がいるという確信が。


 机の上に散らばったポップスの楽譜を眺め見る。
 視線を移しながら、未だドアの前から動こうとしない友人に私は訊いた。


(-、-トソン「この部屋って、私が鍵を壊すまでは密室だったんですよね?」

( ^Д^)「ええ、まあ。開かなかったですし……最初から壊れていたーみたいなオチがない限りは鍵が閉まってたんでしょうね」

(゚、゚トソン「合鍵はどうですか?」

( ^Д^)「本来は二つみたいですね。事務室にある予備と、顧問から部長が預かっていたものと」


 ソファーに座るには絶妙に邪魔な位置(足が伸ばせないのだ)にあるアンプを調べながら、「本来は?」と鸚鵡返し。
 角度的にも位置的にも血痕的にも、これで頭を打ったのは確からしい。

301名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:53:09 ID:cSkX3lNM0

( ^Д^)「ほら、よくあるじゃないっスか。部室の鍵を勝手に複製するのって」

(゚、゚トソン「ありますか?」

( ^Д^)「ありますよ、割と。……んで、そういうので部員全員が持ってたらしいです」


 もう一度血を避けるように、今度は大きく跨いでそのまま棚の前の古びた木製の踏み台に乗る。
 「古びた」というより「古い」踏み台だったようで、私が乗ると軋んだような音がした。
 壊れないか心配だが、よく考えれば多少小柄ながら男子高校生が乗っても壊れなかったものなのでまあ大丈夫だろう。

 ……私が被害者の男の子より重いなんてことがなければ。
 それはゾッとする。いやさ――ゾッとしない。


(-、-トソン「……っと。じゃあこれ、密室殺人でも何でもないじゃないですか」

(;^Д^)「事故直後に全員から鍵は――あの子達が言った通りの場所、一人は教室、もう一人は自宅から回収されているので……ってだからこれ密室殺人じゃないですって」


 棚の一番上は引き戸になっていて、中はお菓子などが入っているようだ。
 二段目、私の頭くらいの高さの棚はティーセットが納められていた。
 不自然に空いたスペースは被害者の子が倒れた拍子に中身を落としてしまったのか、事故の時には足元に陶器の破片とガラス片が落ちていたし。

302名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:54:08 ID:cSkX3lNM0

 ところで軽音部なのになんで当たり前にお茶する為のものが一式揃っているんだろう。
 コイツらは放課後にティータイムか。


(゚、゚トソン「じゃ、その自宅に鍵を置いてた子が犯人ですね。『自宅から持ってきた』と言って、実は最初から持ってたんですよ」

( ^Д^)「あー、それはないでしょ。だって鍵持ってきたの母親らしいですし、その時あの子達事情聴取されてましたし」


 そう言えばそんな光景も見たような気がする。
 事件直後、その母親が初老の刑事さんに鍵を直接渡している場面。


(-、-トソン「……部長の子の鍵は?」

( ^Д^)「制服のポケットの中でした」

(゚、゚トソン「なら最初に駆け寄った人がそれとなく鍵を……」

(;^Д^)っ「いや最初も何も、遺体に近寄ったのは俺とトソさんだけですよ。その後は保健室の先生と……それで救急隊員の人と」

303名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:55:13 ID:cSkX3lNM0

 三段目には楽譜の束。
 四段目にはその他のもの……収納されているものに特におかしなところはない。

 ふむ……。


(゚ー゚トソン「一応訊いておきますけど――キミ、犯人じゃないよね?」

(;^Д^)「さりげなくドラマのパロディを使わないでください! そして俺が犯人なわけないでしょ!?」


 陶器の破片はカップ。
 ガラスの方は……被害者の男の子がチョコレートが好きらしいから、それの容器だろう。
 曇りガラスで中が見えないってことは中を見なくても良いってことで、きっとあの子は同じ種類のチョコしか食べないのだ。

 いやぁ、なるほどなあ。
 ……そんなこと推理してどうするって言うのだ。


( ^Д^)「……そもそもトソさん。これが事件だったとしても、それが呪いの結果なら証拠なんて見つかりようがないですよ」

(-、-トソン「まあ、そうですね。呪いの実物見ちゃってますし」

304名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:56:13 ID:cSkX3lNM0

 ああ、そうか。
 あの蛇を殺さずに後を追えば呪いの犯人は掴まえられたのか。
 しまった。
 

(゚、゚トソン「でもですよプギャーさん。目の前で人死にが出たわけです。思うところはないですか?」

(;^Д^)「いや確かに犯人には捕まって欲しいと思いますが……どうしようも、ないでしょ」

 
 否定の言葉は弱々しかった。
 彼は私のように人の死に慣れた人間ではない、無理なからぬことだろう。

 様々な経験で、自殺にも殺人にも慣れ過ぎている私とは違うのだ。


(-、-トソン「……申し訳ありません。やはり私は死神です」

(;^Д^)「いやそんな! そんなことは……」


 ソファーに散らばったガラス片――こちらは叩き割られた窓の方――を見つつ、探偵に協力していた一般人、くらいの微妙なポジションの友人を見やる。
 目の前で人が死ぬのは、嫌なものだ。
 死んでいたとしてもまだ温もりのあるうちに……脈を測らないと死んでいるかなんて分からない状態の人間を。

305名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:57:08 ID:cSkX3lNM0

 ……む。
 話は戻るけれど、あの時あの蛇を殺したのは正しい判断だったのか。

 まだ死んでいるかどうか分からなかったんだから。


(-、-トソン「……でも安心してください」

( ^Д^)「え?」


 落ち込み気味のプギャーさんに、私は言った。


(゚ー゚トソン「犯人。掴まえられるかも知れませんよ?」

(;^Д^)「本当ですか!?」

(-、-トソン「法で裁けるかどうかは微妙ですが……少なくとも、自白と反省くらいはさせられるでしょうね」


 ぐるりと大きく部屋を回って、考える。
 扉の前まで戻ってきて、手近にあったケトル(瞬間湯沸し器)が置かれた小さな棚に手を置いて、黙考。

306名も無きAAのようです:2013/06/22(土) 06:58:13 ID:cSkX3lNM0

 状況の意味。
 密室ができる時は何かの意図があるはず。
 今回は「呪殺ではなく事故に見せかける為」が一番妥当な線だが、そもそも人を呪い殺すのなら密室なんて作らない方が良い。

 怪しいじゃないか。
 どう見ても。


( ^Д^)「あ、それなら分かりますよ」


 私の言葉でやや元気を取り戻したのか、一歩踏み出すようにして彼は言う。


( ^Д^)「部長の子は最近陰湿な嫌がらせをされてたらしいです。生徒に聞いたんですけどね」

(゚、゚トソン「嫌がらせ?」

( ^Д^)「はい。なんか悩み事とかがあると鍵閉めて閉じ込もる子だったらしくて……そういうことでしょうね」


 要するに……偶然?
 呪いを掛けた人間は密室を作る気なんてなく、ただ被害者が鍵をかけてしまった?
 それで、この奇妙な状況?


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