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ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/04/13(土) 20:57:11 ID:WM1TjCNg0
たとえば『人外』と聞いて人はどういうものを想像するのだろうか。
細かな辞書的あるいは専門的定義を抜きにするのなら『怪異』や『妖怪』や『魑魅魍魎』でも構わない。
だがにべどころか取り付く島すらなさそうな言い方である『化物』だけは私個人的には止めて欲しいものである。
兎にも角にも今から綴られる文章はそういった世の理を外れた……
いや存在している以上は物理法則ではなくとも何かしらの法則には基づいている。
基づいているのだが、そんなことは健全なる読者諸君には関知し得ないことであろうことである故指摘しないでおく。
だからつまりこれは――夜の理に生きる人以外の者々の物語。
より正しくは人と人以外のモノの関係によって引き起こされる問題を集めたもの、ということになる。
問題を集めた、問題集。
フィクションではなくノンフィクション。
フェイクではなくファクトな物語だ。
.
737
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:47:09 ID:llSprxGo0
既に先輩は愛しのお兄ちゃんの胸に飛び込んで頬擦りしている。
うわあ……。
ブラコンだあ……。
( ^Д^)「まったく……わざわざ迎えに来させんなよな」
li イ*^ー^ノl|「雪吹はねー、昨日もおにーちゃん達の為に頑張ったから! だからいいのー」
( *^Д^)「そうかー。全然なんのことか分からないけど、お疲れ様」
お兄ちゃん訊けよ!?
詳細を!
てか鼻の下伸ばし過ぎ――私が抱きついた時より全然嬉しそうじゃん!!
ちくしょう!
本当になんだこのオチは!?
li イ*^ー^ノl|「大好きだよー、おにーちゃん」
( ^Д^)「ああ。俺もお前等のこと、大好きだよ」
li イ*-ー-ノl|「えへへー」
738
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:48:06 ID:llSprxGo0
―――そんな風に。
雨斎院家の兄と妹は、実に仲睦まじく車に乗り込んで、一緒に帰っていったのだった。
ミセ; -)リ「…………はぁ」
なんだ、このオチ……。
739
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:49:11 ID:llSprxGo0
【―― 16 ――】
警察署の玄関の方に歩き出しその途中で私は振り向いた。
危うく忘れる所だった。
(‘、‘ノi|「ああそうだ、貴様。確かに敬語を使わなくても良いとは言ったが……そういう風には呼んでくれるな」
( ・∀・)「え? 何がだ?」
(‘、‘ノi|「名前だ、名前。貴様、いつも私のことをルイ警視と呼ぶだろう。だがルイは男性名だ」
( ・∀・)「でも父方の名前だと『流依(るい)』なんだろ?」
(‘、‘ノi|「だから男の名前のように聞こえて嫌なのだ、その名前は」
ルイは男性名で女性名ならばルイサやルイスになる。
ちょうど名前の話をしたのだから断っておかなくては。
しかし素人探偵は小首を傾げ言った。
740
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:50:08 ID:llSprxGo0
( -∀-)「いやー、でもさ。警視だって俺のこと『貴様』とか『素人探偵』としか呼ばないじゃん」
(‘、‘ノi|「心の中ではちゃんと呼んでいる」
( ・∀・)「俺も心の中ではちゃんとした名前で呼んでるよ」
しれっとした顔で嘘を吐くな。
(‘、‘ノi|「では改めて自己紹介をし直すというのはどうだ?」
( ・∀・)「まあ、じゃあそれで」
私は両足を揃えて敬礼をし名を名乗った。
どんな意味かは知らないが私の名前であることは確かなそれを。
(‘、‘ノi|「西部警察本部調査官、ルイーザだ。父方の名前では鞍馬流依と言う」
モララーはあえて敬礼を返すことはなく名を名乗る。
そして深々とお辞儀をする。
741
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:51:08 ID:llSprxGo0
( -∀-)「モララー=フォルチュナ。フルネームは『モララー・フォルチュナ・フォン・シギショアラ』。改めて、よろしくお願いします」
ヨーロッパ人なのにお辞儀なんだなと私は笑った。
俺はヨーロッパ人じゃねーよと彼も笑った。
そうして。
( -∀・)+「じゃあな、ルイーザ警視」
(‘、‘ノi|「ああ、モララー。また何処かの現場で会おう」
(;・∀・)「それは警察官が素人探偵に言って良い台詞じゃねーだろ……」
(‘、‘ノi|「冗談だ」
私と彼は別れる。
いつかの再会を予感しつつ。
名前というものはやっぱり大事だな――そんな酷く当たり前な言うまでもないことを思いながら。
742
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:52:08 ID:llSprxGo0
【―― 0 ――】
「―――雪吹ちゃん、君は雪吹ちゃんだね」
人間みたいな化物。
化物みたいな人間。
もし一緒に暮らすとしたら、普通の人はどちらを選ぶのだろう。
特別進学科三年十三組の教室。
廊下に出ようとしたところで会長さんに話しかけられた私はそんなことを思っていた。
li イ*゚ー゚ノl|「何かのなぞかけですか? あるいはロミオとジュリエット?」
「違うよ。君は複雑さが欠片もない――明確なものしかない、って話だよ。僕と同じようにね」
表の世界、裏の世界。
誰がどう言おうと、周囲がどうであろうと関係がない。
正義も悪も同じでしかない。
743
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:53:07 ID:llSprxGo0
僕と同じだ、と会長さんは言った。
知ったような口調で。
「君は――君も、あのナントカさんという先生を殺そうとしていたんだよね?」
li イ*゚ー゚ノl|「…………」
「殺そうとはしていなかったかもしれないけれど……最終的にはそういう手段も考えていた」
どうしてそう思うんですか?
なんの証拠があるんですか?
意味がないので、そんな言葉は言わなかった。
会長さんはいつも通り全部お見通し。
……何より、そんなことを言うと私が犯人みたいだから。
「梓弓って確かに和弓の代名詞だけど……現在は滅多に使わないんだよね」
そう。
現在の弓道ではカーボンやグラスファイバー、あるいは竹の弓が主体だ。
744
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:54:08 ID:llSprxGo0
「持って帰って手入れすることはあるけれど弦は外す」
li イ*-ー-ノl|「…………」
「何より“君は警察に連絡した時、梓弓と鞄しか持っていなかった”――何処の大馬鹿者が雨の降る日に弓を剥き出しにして持ち歩くのかな?」
傘もなく合羽もなく。
早朝から降り続く雨の中、剥き出しの弓と鞄だけを携えて。
考えてみればおかし過ぎる。
そう言えば、でぃちゃんはいつも真剣を竹刀袋に入れて持ち歩いていたなあ。
殺しかけてしまった彼女のことを思い出した。
「警察にずっといたのは鞄の中身がスカスカだったから。学校に来ても仕方なかったから来なかった。置き勉をしてるとでも説明したんだろうケド……」
そんな些細なことまで気がつくんですか。
凄いな、本当に。
「本当はナントカさんを殺した後、弓をへし折って鞄に入れ、学校に来て焼却炉に放り込んだ後に早退でもする気だったんでしょ?」
745
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:55:10 ID:llSprxGo0
弓は傷んでしまっても良かった。
一度だけ使えれば。
交渉が上手くいかなかった場合に一度だけ寄絃を使えれば良かった。
使えなくても良かった、とも言える。
手間は掛かるが徒手空拳でも目的は果たせただろうから。
「わざわざ弓をそのままに通報したのは駆け寄ってUSBメモリを探してしまったからと、疑われることで長く警察にいて、事件の情報を少しでも手に入れる為」
li イ*゚ー゚ノl|「……そろそろいいですよ、会長さん」
私は言った。
彼女が言いたいことが分かったから。
li イ*-ー-ノl|「水無月さんには上手く誤魔化して説明します。だから、安心してください」
「……そう。なら、別にいいけど」
li イ*^ー^ノl|「では、お兄ちゃんが迎えに来るので失礼します」
746
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:56:05 ID:llSprxGo0
腕時計を見て時間を確認。
まだ少し余裕があるけれど、水無月さんに会って説明したらちょうど良くなるだろう。
歩き出そうとした私をもう一度だけ呼び止めて会長が言う。
「君は――家族が、一番大事なんだね」
人間みたいな化物。
化物みたいな人間。
どちらと暮らすかなんて考えるまでもない。
li イ*^ー^ノl|「そんなの当たり前じゃないですか――会長さんと違って、私は家族が大好きなんですから」
裏も表も。
善も悪も。
それ以外の要素も知ったことじゃない。
私は家族と暮らす。
ずっと仲良く、暮らしていく。
747
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:57:26 ID:llSprxGo0
li イ*^ー^ノl|「それじゃ、失礼します」
もう会長は私を引き止めることはしなかった。
私も言うべきことは何もなかった。
―――私の名前は雨斎院雪吹。
雨の降る中に立つ朝顔斎院で「雨斎院」、雪が白魔の息吹のように吹き荒れるで「雪吹」という。
シベリア州にある白魔神社の巫女であり宮司。
淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校高等部三年十三組に所属する高校生。
雨斎院家の次女。
そして――『世界で一番兄を愛している妹達』の片割れだ。
【――――そこまで。第八問、終わり】
748
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:58:27 ID:llSprxGo0
「敷栲の 袖返せども つゆぞ乾かぬ」
【歌意】
夢で良いからあなたに逢いたいと、眠りにつく際にあなたを想って袖を裏返しにしてみるけれども、私の涙は全く乾くことがありません。
【語法文法】
『敷栲』とは寝床に敷く布のこと。そして『敷栲の』は枕詞で、眠りに関係する「枕」「床」「袖」「黒髪」などに掛かる。
次の『袖返せ』はサ行四段活用「袖返す」の已然形か命令形。意味としては「袖を翻す」「袖を裏返す」。
袖や着物を裏返すという行為はおまじないのようなもので寝る時に行えば恋する相手が夢に出てくると言われた。
続く『ども』は逆接確定条件の接続助詞。活用語の已然形に接続し「…けれども」「…のに」という風に訳す。
必然的に前述の『袖返せ』は已然形ということになる。
『つゆ』は名詞で「露」だが、この場合は露を涙の雫に喩えており、更に「つゆ(全然)…ない」というような全否定の副詞としても解釈する掛詞。
お馴染みの『ぞ』は係り結びを作り出す係助詞。強調の意味を持ち最後を連体形で結ぶ。
最後の『乾かぬ』は「乾く」を「ず(ぬ)」で否定したもの。「乾かない」となる。
【特記】
参考にした歌は源氏物語第五帖若紫より「初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ」。
光源氏が若紫の不遇な境遇を知って読んだ和歌である。
この歌では、「夢の中で逢えるようなおまじないをして寝た」のに「涙が全然止まらない」という風に詠まれている。
夢で逢えるなんてことは所詮は迷信だったのか、それとも、夢で逢ってしまったが故に余計に辛くなったのか。
思わず涙が溢れてしまう感情、それはきっと重く長く深過ぎる恋心。
749
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 14:59:35 ID:llSprxGo0
というわけで第八話でした。
武道やってる人は分かると思いますが、基本刀でもなんでもそのままで持ち運ぶことはないです。
『天使と悪魔と人間と、』の読者の方は、幽屋氷柱と鞍馬口虎徹がどんな会話をしたのか考えてみると面白いかもしれません。
この話の被害者である大神は鞍馬口虎徹が師事する居合道の先生の一人という設定なので。
そのやり取りを入れようか迷ったのですが蛇足なのでやめておきました。
続きは十一月です。
>>643
前編の最後で明かしたのは引きにする為ですね。
あと生徒会長の超越性を演出する為と。
七話と八話では生徒会長、幽屋氷柱、絣雪という三人が裏で動いていますが、何処か似たところがある三人でした。
この三人だけが全ての事情を把握した上で他人を動かし自分の望む結末にしようとしていたと。
まあそういうわけで生徒会長の口から「文書=魔導書」が明かされる必要があり、それが自然にできたのがあの場面だけだった、ということです。
750
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 15:13:16 ID:Vr9EvYokO
投下乙
751
:
名も無きAAのようです
:2013/10/04(金) 16:59:16 ID:m3sqItfM0
おつ
でぃちゃんかわいいよでぃちゃん
752
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:41:40 ID:tBsCIy1Q0
第七問&第八問。
模範解答。
.
753
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:42:21 ID:tBsCIy1Q0
・《鳴弦》
矢を番えずに弓を引き音を鳴らすことで邪を祓う退魔儀式。
行事としての名称は「鳴弦の儀」「弦打の儀」であり、平安時代辺りから始まったものとされている。
元は誕生儀礼だったが、やがて夜間の警鐘、邪気祓いとしても使われることになった。
現代では「読書鳴弦の儀」として皇子・皇女誕生後の御湯殿の儀式に残る。
これは漢籍等を読む読書の儀と共に鳴弦を行う行事である。
歴史を遡ると古神道の「寄絃」に至るとされており共通点も多い。
後には、こういった儀式では音の鳴る矢である鏑矢を射るのが主流(「蟇目の儀」と呼ばれる儀式)になり、鳴弦はあまり行われなくなっていった。
・《寄絃(よつら)》
古神道において魔除けの為に梓弓を打ち鳴らす儀式のこと。
祈祷の前に行なわれていたとされ、また「源氏物語」においては光源氏が命じて行わせるシーンがある。
苦しむ葵上の為に光源氏が巫女を呼び寄絃を行うと六条御息所の生霊が登場する……という風に分かりやすく魔除けとして扱われている。
巫女の原型は日本神話の『天鈿女命(アマノウズメ)』とされている。
現在では彼女が弓を並べて叩いたのが和琴の由来であると考えられており、その関係もあって古代日本では弓は神事における楽器の一つだった。
754
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:43:10 ID:tBsCIy1Q0
・《梓弓》
文字通り「梓で造られた弓」のこと。
梓を材料とした弓は現在にはほとんど存在しないものの、かつてはメジャーなものだったとされる。
それは「梓弓」という言葉が弓全般をも指し示し、また掛詞として残っていることからも伺える。
梓弓は合戦で使われる弓というよりかは神事に使われることが多いもので、巫女が持ち歩いていたとされるのもその関係である。
また退魔儀式の道具としての梓弓には様々な作り方があった。
その最も簡易なものが作中に登場した「梓の木の枝を折りそれに弓を張る」というもの。
現在でも当時使用されていた梓弓が納められている神社仏閣が各地にあり最も有名なのは正倉院宝物庫にあるそれである。
・《梓》
カバノキ科カバノキ属の落葉高木。和名は「水目」や「梓樺」。
山地に自生し灰色の樹皮を持ち、サリチル酸メチルを多く含む為に枝を折ると独特の匂いがする。
その匂いから「夜糞峰榛(ヨグソミネバリ)」と呼ばれ、桜に似ていることから「水目桜」とも呼ばれる。
徳仁親王の御印章であり、古くは梓弓を作る際に使用されていた。
なお「梓」は本来この種を指す漢字ではなく、中国ではノウゼンカズラ科のキササゲのことである。
・《拍手(はくしゅ、かしわで)》
両手の手の平を打ち合わせることで音を出す行為のこと。感動や賞賛を表す拍手と神に拝する為の拍手がある。
二拝二拍手一拝などを始めとして様々な作法があるが、意味合いとしてはどれも感謝を表すためや神を呼び出すため、邪気を祓うためである。
755
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:44:11 ID:tBsCIy1Q0
・《人狼》
狼男の別称。
その能力、性質、起源は多岐に渡るが、一般に「人間の姿に変身する狼」と「狼(半狼半人)に変身する能力を有する人間」を『人狼』と呼ぶ。
呪い、あるいは病によって獣人化現象を起こしている人間は『狼憑き』と呼ばれることが多い。
記録として最も古いものでは旧約聖書「ダニエル書」でネブカドネザル王が自らを狼であると想像して七年間苦しむ話がある。
現代精神医学では動物に変身するという妄想、または自分が動物であるという妄想は「狼化妄想症」という症候群の症状の一つである。
ヨーロッパにおいては狼は悪魔の獣とされ恐れられ、中世の魔女裁判において追放刑を受けた者は「狼」と呼称され人のいない森へと追いやられていた。
当時のフランスでは人間社会から追放された彼等を見て「狼人間が走る」と表現していたらしい。
近世では狼男は知能障害、精神疾患、あるいは狂犬病などの感染症と結び付けられ考察されていたと伝わる。
実際の伝承では、人語を話す狼、もしくは人間と同じ大きさの狼という形で伝えられていることが多い。
半狼半人の姿が有名になったのは近世以降のフィクションの影響。
「満月を見ると狼に変身する」「銀の弾丸で撃たれると死ぬ」なども映画で造られた設定である。
……このように西洋において狼は悪魔の使いや呪いの結果、また魔術師や吸血鬼が変化した姿として畏怖されていた。
一方で東アジアや南アメリカでは知性と神性の象徴として捉えられている。
モンゴル人、トルコ人、中国のミャオ族などの一部では狼祖・犬祖伝説が伝わり民族的な誇りとなっている。
またインディアン民族には狼の氏族(クラン)を持つ部族も多く、部族名が「狼」を意味しているものもある。
日本では狼の名称そのものが「大神」を意味し、三峯神社など少なくない神社で祀られている。
756
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:45:12 ID:tBsCIy1Q0
・《螺湮城本伝(ルルイエ異本)》
クトゥルフ神話群に登場する魔導書。人皮で装丁されていると伝わる。
内容はクトゥルフを主にその眷属と海の関わり、異界のモノ達を召喚する呪文、ムーとルルイエの沈没について記述されているらしい。
現代に伝わるのは中国夏王朝時代の「螺湮城本伝」を翻訳したもので更に時代を遡ると人類ではない言語で書かれた粘土板文書に行き着く。
中国語で書かれた巻物、英語訳版、ドイツ語訳版が存在し、十五世紀に魔術師フランソワ・プレラーティが部分的にイタリア語に翻訳したという説がある。
現在の所有者及びそもこれらが現存しているのかどうかは不明だが、イタリア語版はナポレオン・ボナパルトが所持していた。
この作品『怪異の由々しき問題集』では内容を更に転写した文書が登場する。
雨斎院雪吹の兄である雨斎院威織がかつて中国語版を手に入れ、そして焼き払い、後に瞬間記憶能力を使って思い出し再現したデータである。
・《宮司(ぐうじ・みやづかさ)》
神職の一つ。神主の中でも特に宗教法人としての神社の代表役員のこと。
古くは春宮や中宮など皇族(宮)に仕えた人間のことを指していた。
神職(神主)になるには一般に神道系の大学を卒業する、神職養成講習会に参加するなどの方法があるが、宮司になる為には更に所定の研修を受け昇進する必要がある。
作中においては雨斎院雪吹が「雨斎院白魔神社宮司」を名乗っているが勿論現実ではありえない。
757
:
名も無きAAのようです
:2013/10/08(火) 20:46:23 ID:tBsCIy1Q0
以上で第七話と第八話は終了です。
続きは十一月を目標としています。
758
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:13:22 ID:FY4OK5Uo0
落書き。
益体もない些細な出来事。
「本日のオチというか、後日談」
.
759
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:14:07 ID:FY4OK5Uo0
【―― 0 ――】
「―――お葬式ってさ、嬉しくなるよね」
久しぶりに学校の外で出会った会長は黒い服を来ていた。
上下黒の喪服のような服装だ。
話を聞くと、あの殺された大神さんという人の家に線香を上げにいった帰りなのだそうだ。
剣道も嗜む会長は一、二度教えを受けたことがあったらしい。
だとしたら彼女は顔見知りを亡くしたわけだが、それなのにいつものように微笑んでいるのは何故なのだろう?
私が疑問に思っている中、話が一段落したところで会長はそんなことを言った。
表情に対して以上に疑問を抱かせる言葉を。
ミセ*゚−゚)リ「どういうことですか?」
「だってそうでしょ。お葬式に沢山の人が来たってことは、それだけの人との繋がりがあったってことだから」
ミセ*゚ -゚)リ「あ……」
「そこで流された涙はその人への想いの結晶なんだから」
760
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:15:05 ID:FY4OK5Uo0
あなたが生まれた時に周りの人は笑っていたでしょう。
あなたが死ぬ時には周りの人が泣いてくれるような人生を送りなさい。
……確か、そんな名言があったはずだ。
だから会長は「お葬式は嬉しくなる」と言った。
きっと大神という人の葬儀では沢山の人が泣いていたのだろうと考えて。
ミセ*-ー-)リ「お葬式は残された人間の為にやるものだって言葉も、そういう意味なんですかね……」
「そうかもしれないね」
一拍置いて、彼女は続ける。
「アニメとかではさ、主人公の少年が世界の命運を左右したりするでしょ?」
ミセ*゚ー゚)リ「え? まあ、そういう話が多いですね……」
いきなり話が飛んだ?
まあ会長との会話ではいつものことなので先を促す。
761
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:16:05 ID:FY4OK5Uo0
「アレって思春期特有の自己拡散っていうか、『重要な存在になりたい』って気持ちに関係してると思うんだよ」
一時期自分探しというものが流行ったけれどアニメを見る人達は擬似的な自分探しをしているのかもしれない。
自分の価値を見つけたくて、自分の存在を認めてもらいたい。
アニメを見る人間が皆自己投影してるとは言わないけど、だから一人の少年が世界の行方に関わるような作品が売れるのだとは思う。
「でもね。多分だケド……年を取るとね、自分が重要な存在じゃないことが嬉しく感じるんだ」
ちょっと違うかな、と会長は笑う。
そう、自分が重要な存在ではないことを嬉しく感じるのではなく―――。
「『自分は世界にとって不可欠な存在にはなれなかったけど、誰かにとって大切な存在になれたこと』――それを嬉しく思うんだ」
子どもの頃は、自分が死ねば世界が終わってしまうほどに重要な存在になりたかったけれど。
そしてそんな人間にはなれなかったけれど。
年齡を重ねていけば、自分が死んでも世界が続いていくこと――自分の死を悲しんでくれるような人達が生きていることを嬉しく思うようになる。
762
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:17:05 ID:FY4OK5Uo0
誰かの死んでも世界は回る。
だけど、その誰かの存在は他の誰かの心に残り続ける。
あの大神さんという人は誰の心に残ったのだろうと、そんなことを思った。
ミセ*-3-)リ「そう考えると、私はなーんかそういう重要人物じゃなくて良かったなあと思います」
「そうだね。君が死んでも世界は終わらないし」
ミセ;-ー-)リ「ハッキリ言われると傷付きますけどね……」
「たとえばあたしを殺してみろ。安心しろ、それでも世界は何も動かないよ」。
好きなライトノベルにあった台詞だ。
最初に聞いた時はあまりにも切ない言葉だと感じたが、会長とのやり取りでそうじゃないと思えるようになった。
ひょっとして慰めに来てくれたのかな?
そうだったら嬉しいけど。
「誰かが死んで……でも僕達は生きている。それだけなんだ。それだけで、いいんだ」
763
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:18:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 2 ――】
彼女が弓を引く姿は、これ以上なく綺麗だと思う。
足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、そして残心に至るまでが繋がった一息。
「一息の間で行なわれる」ということなのではなく、剣道で言うそれと同じく、挙動が断絶していないということだ。
そして滑らかでありながらも節毎に動作が完結している。
いや、「メリハリがあるのに流れるよう」という表現の方がしっくり来るかもしれない。
その射形に見蕩れている内に道場に弦の音が響く。
冬の早朝の空気のような澄んだ音が。
li イ*^ー^ノl|「どうしたんですか?」
射を終えた彼女が振り返る。
柔らかな笑み。
僕はどう返すかを悩み、頬の古傷を掻いて言う。
(=-д-)「……外れないもんですね」
li イ*-ー-ノl|「良いところを見せられて良かったです」
764
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:19:05 ID:FY4OK5Uo0
丸が幾つも重なったような模様の的――霞的の正鵠に、先ほど射られた矢が刺さっている。
僕の知る限り彼女が射を外したことは一度もない。
彼女、弓道部部長の幽屋氷柱は訊く。
li イ*゚ー゚ノl|「こんな朝早くにどうしたんですか?」
僕はまた少し悩んで答えた。
(=-д-)「はあ、大したことじゃないんですが……。最近、大神先生が亡くなったじゃないですか?」
li イ*-ー-ノl|「そうですね」
(= д)「それで……。はあまあ、上手くは言えないんですが……。悲しいな、みたいな」
li イ*゚ー゚ノl|「分かりますよ。私もあなたと同じように、ほんの数回ですが指導を受けた身ですから」
直接の弟子ではないし、そこまで深い仲ですらない相手だ。
自分も剣道や居合道をやるのでその関係で何度か練習を見てもらったことがあっただけ。
それだけだ。
765
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:20:06 ID:FY4OK5Uo0
でも。
それでも――悲しいものは、悲しい。
上手くは表現できないんだけど。
(=-д-)「偲ぶとかそういうわけじゃないけど……ちょっと剣でも振りたいなー、と思って。そう思ってここに来ました」
しいて言えば。
自分の中に、仮にも自分の先生であった人の影響がどのくらい残っているのかが、気になった。
あの人の剣に自分はどれくらい近付けたのだろうかと。
氷柱さんは言う。
li イ*-ー-ノl|「どうか、偲んであげてください。きっとあの世で喜んでおられると思います」
(=゚д゚)「はあ、そうですかね?」
li イ*^ー^ノl|「ええ。だって、優しい先生だったでしょう?」
(= д)「まあ……そうでした」
766
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:21:06 ID:FY4OK5Uo0
続けて彼女は呟く。
「どうか私の分まで偲んであげてください」と。
まるで自分はその資格がないみたいに。
(=゚д゚)「……今なんて?」
li イ*^ー^ノl|「なんでもありませんよ。鍛錬ならば歓迎しますし、お付き合いします。道場ですから」
ありがとうございますと言うと「構いませんよ」と彼女は柔らかに微笑んだ。
胸の鼓動が早くなる。
僕は紅くなった頬を誤魔化すように目を伏せた。
どうしてこの人はこんなにも魅力的なんだろうか。
彼女が更衣室に向かい、一人きりになった淳高の道場で僕は思う。
(=-д-)「(きっと、真っ直ぐだからだ)」
斬ることだけを追求した刀が美しいのと同じように、真っ直ぐに何かを貫く姿は美しいのだ。
たとえ誰かを傷付けることになったとしてもその美しさだけは真実なのだろう。
767
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:22:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 3 ――】
私がその報せを聞いたのは一週間ほど経った時だった。
自宅の道場で男性が殺害された事件の捜査が打ち切られた。
厳密に言えば打ち切られたわけではない。
別の地方で過去に起きた事件と同一犯だと判明し、今後はその事件の捜査本部が捜査を担当するとのことだった。
一方的な命令だが組織とはそういうものだ。
そういったわけで、私達は初動捜査を済ませた段階でお役御免となった。
(‘、‘ノi|「素人探偵や絣には悪いことをしたな」
捜査に協力してもらったというのに満足な成果も上げられないままに担当を外れてしまうとは。
仕方のないことではあるものの申し訳なく感じる。
医師が全ての患者を救えるわけではないのと同じように刑事も全ての犯人を捕まえられるわけではない。
場合によっては、病気にしろ事件にしろ最後まで担当し続けることが難しいこともある。
当たり前のことだ。
しかしそれでも少しだけ嫌な気分だった。
警察を辞めて探偵にもなろうかと考えてしまうくらいには。
768
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:23:06 ID:FY4OK5Uo0
たとえ私が何かの事件を担当しその犯人を捕まえたとしても全てそれで終わりというわけではない。
そこからは裁判が行われ、裁判が終われば何らかの刑が下される。
あるいは被害者やその関係者からすれば事件が終わることなど一生ないのかもしれない。
そう考えると警察は本質的に無責任だ。
無責任という言い方が相応しくなければ「自らの責任を果たすことしかできない」と言おう。
きっと究極的には、人間そのものがそうなのだろう。
私は私の責任を果たすことしかできない。
私は私の人生を生きることしかできない。
そういうものだ。
だから。
(‘、‘ノi|「(私はせめて、私の意思で犯人が捕まるように祈っていよう)」
そして私は私の責任を果たし続けよう。
私の人生を生き続けよう。
慰めのようにそう思いつつ、私は今日も私として現場へと向かう。
769
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:24:06 ID:FY4OK5Uo0
【―― 4 ――】
結局今回の一件で俺は何もできなかった。
何もしなかったわけではないが、結果を見ればいてもいなくても同じような有り様だった。
俺がいなかったらどうなっていただろう?
きっと俺がいなくても事件は起こって、多分氷柱ちゃんは俺がいなくても上手く対処して文書を取り返していた。
だとしたら俺がいた意味はなんだろう?
でぃちゃんやミセリちゃんに迷惑を掛けただけじゃないのか。
(# ;;-)「……また落ち込んでいらっしゃいますね、憂鬱そうなのです」
(,,-Д-)「うん……。少しね」
真後ろからでぃちゃんの声が届く。
背を向けて座っているので顔は見えない。
だが明るい表情はしていないだろう。
暫く経ったある日の夜。
俺は上半身裸で寝室の椅子に座って手当てを受けていた。
770
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:25:06 ID:FY4OK5Uo0
氷柱ちゃんの寄絃は想像以上に強烈で、服こそ全く被害はなかったが、背中には火傷の痕のような傷が残った。
それ以外にも身体の節々が鈍く痛む。
あんなに冷たく澄んだ音なのに火傷みたいになるなんて可笑しいねと俺が言うと「笑い事じゃないのです」と怒られた。
数日経って痛みは治まったが傷は癒えていない。
当日は仰向けで寝るのが辛いくらいだったのでかなり楽にはなったけど。
(,,-Д-)「(でもミセリちゃんは無傷らしいし、やっぱり人以外のモノを対象にした清めの音だったんだろう)」
だとしたら咄嗟にでぃちゃんを庇って正解だった。
半分は人間と言えど半分は妖怪だし、それにあの時は戦う為にかなり妖怪側に寄っていた。
直撃していればただでは済まなかっただろう。
それにしても、もうほとんど力が残っていない俺なら大丈夫だと思ったんだけど……。
(,, Д)「『人間の成り損ない』ね……」
あの魔術師は誰から俺の正体を聞いたんだろう。
何にせよ言い得て妙だと笑みが零れた。
771
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:26:05 ID:FY4OK5Uo0
巻かれていた包帯が解け、ガーゼが外されて傷跡が空気に晒される。
でぃちゃんは濡らしたタオルで背中を軽く拭いていく。
と。
(# ;;-)「ご主人様……」
その手が止まった。
次いで、後ろから抱き締められた。
鼻腔をくすぐる彼女の匂いや肌に伝わる柔らかさが心地良さを与えてくる。
……俺の背中に彼女の胸が、つまり傷跡に胸部が当たってるわけで、痛いのか気持ち良いのか分からない。
(,,^Д^)「どうしたの? そんなに強くギュッとされると、痛いよ」
(# ;;-)「痛くしています、お仕置きなのです」
そう言うと、彼女は更に俺を抱く両腕に力を込めた。
決して離すまいという意思が伝わる強さ。
772
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:27:05 ID:FY4OK5Uo0
耳元で彼女の声が聞こえた。
(# ;;-)「あまり、無茶をしないでください……。あなたが死んでしまったら、私はどう生きていけば良いのですか……」
縋るような声だった。
泣きそうな声だった。
俺は、静かに言葉を返す。
(,,-Д-)「ありがとう……でもね、でぃちゃん。俺は、でぃちゃんが傷付くのが嫌なんだ。でぃちゃんの代わりになら、俺はいくらでも傷付くよ」
(# ;;-)「それは私だってそうです。同じなのです。私は、あなたの為なら死んでも、いい」
(,, Д)「でぃちゃんがいなくなっちゃったら俺は生きていけない」
(# ;;-)「それも……同じなのです」
ごめん、と俺は言った。
でぃちゃんがいない日々なんて俺は考えられない。
それは彼女だって同じで。
773
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:28:04 ID:FY4OK5Uo0
だとしたら――俺はどれほど酷いことをしてしまったんだろう。
(,, Д)「ごめん……」
もう一度俺は謝った。
もういいですよ、と彼女は笑った。
そうして俺以上に俺を大切にしてくれている人は、俺の背中に口付け、つーとそのまま傷跡を舐め上げた。
淡い痛みとくすぐったいような快楽に思わず声が漏れてしまう。
次いで彼女は色っぽい笑みを小さく漏らす。
こういう部分は淫魔っぽいよなあと感想を抱く俺の耳元で、彼女が囁いた。
(# ;;-)「…………愛しています。あなたが、どんな存在であろうとも」
(,,-Д-)「……うん。俺もだよ」
俺は振り返って彼女を抱き締める。
お返しと言わんばかりに強く。
傷はまだ完治していないけれど、一晩くらい、少しくらい無茶をしても大丈夫だろう―――。
774
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:29:05 ID:FY4OK5Uo0
【―― 5 ――】
本日のオチというか、後日談。
時間という概念はあらゆるものを彼方へと押し流していく。
あの一連の事件から数週間の時が流れ、ニュースでの報道もほとんどなくなった。
私にしたって、あれほどに衝撃的だった出来事はすっかり心の何処かに埋没してしまっていた。
そんな頃のことだった。
学校帰りにショツピングに出掛け、一時間程度買い物を楽しみ、日も暮れてきたのでそろそろ帰ろうかなと思った――その時。
リパ -ノゝ「…………おや、」
私は、あの死神のような少女に再会した。
街を歩いていて向こう側からやって来たものだから思わず「あっ」などと声を漏らしてしまったのが悪かったのか。
驚いて立ち止まってしまったところに声を掛けられた。
775
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:30:09 ID:FY4OK5Uo0
リパ -ノゝ「…………お久しぶりです、」
ミセ;゚−゚)リ「……どうも」
街で出遭った彼女は、清楚というか、大人しい感じの格好をしていた。
服装で目立つのは黒壇のように黒い髪と合わせたような黒のジャケットくらいだ。
無論、刀なんて持ってない。
左目に付けていた眼帯も包帯に変わっていて、全体的に暗いファッションだからメンヘラっぽく見えるかもしれない。
あの時と変わらないのは庇護欲を唆る可愛らしい顔立ちと、蚊の鳴くように小さく砂糖菓子のように甘い声音。
漂わせていた妖刀のような鬼気も薄まっていて、彼女の本性を知らない人ならば気付かないだろう。
ミセ;゚ー゚)リ「なんで、こんな所に?」
リパ -ノゝ「…………あなたも勘違いしていらっしゃるようですが、私達も常時ああいったことを行っているわけではありません、」
ミセ;゚−゚)リ「買い物をしたり、ご飯を食べたり、友達と遊んだりするってことですか?」
リパ -ノゝ「…………そうです。あなたが一緒にいた、あのお二人と同じように、」
776
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:31:07 ID:FY4OK5Uo0
あのお二人――ギコさんやでぃちゃんと同じように。
常に非日常的な仕事をしているのではなく、オフの日には普通に学校に行ったり友達と談笑したりして過ごしている。
彼女、ギコさんからは『ユキちゃん』と呼ばれていた少女は語る。
リパ -ノゝ「…………私はこれでも、数年前まではあなたと同じように学校に通っていました、」
ミセ;゚ー゚)リ「へぇ――って、じゃあ年上!?」
そうです、と事もなげに言いつつ彼女は街路樹の木陰に入る。
私も他の歩行者の邪魔にならないように位置を変える。
……あんな風に人を殺した少女が、立ち話をする為に歩道の端に寄ったということ。
その行動が彼女の発言の正しさを証明しているようだった。
彼女もこうして、普通に生きている人間なのだ。
リパ -ノゝ「…………あなたは私に二度と遭いたくなかったと思いますし、私もできることならば再会したくはなかった、」
私に遭うということは誰かが死ぬということですから、と彼女は付け足す。
誰かが死んで、誰かが殺されなければならない状況に現れる死神のような少女。
777
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:32:04 ID:FY4OK5Uo0
ですが、と彼女は続ける。
リパ -ノゝ「…………こうして縁があり出遭ってしまったわけですから、二つほど、伝えておきたいと思います、」
ミセ;-ー-)リ「はあ……」
私からは何も伝えたいことはないし、言ってしまえば二度と会いたくないどころか顔も見たくないような相手なんだけど……。
そういう機微は分からないのだろうか?
心中を知らずか、それとも察した上で無視してか、彼女は言う、
リパ -ノゝ「…………一つ目に。あの文書を奪おうとした男は雇われですが、その裏には組織があります、」
ミセ*゚ー゚)リ「組織?」
リパ -ノゝ「…………そしてその組織はあなたの過去にも関わっている、かもしれません、」
ミセ;゚ー゚)リ「!!」
私の――過去に?
あの出来事に……?
778
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:33:07 ID:FY4OK5Uo0
ミセ;゚ー゚)リ「あなた、私の過去を……。それ以前にその『組織』って……?」
リパ -ノゝ「…………申し訳ありません、少し調べさせた頂きました。そして重ねて申し訳ありません、私の担当ではないことなので、詳しいことは、」
そして「あくまでも可能性の話です」と彼女は付け加えた。
それでも、私は動揺を隠せない。
しかし彼女は淡々と話を続けていく。
リパ -ノゝ「…………二つ目ですが、あなたの目の話です、」
私の目。
怪異が見えるという瞳。
リパ -ノゝ「…………まず名称をご存知ですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「名称? ええっと、名前ってことですか?」
リパ -ノゝ「…………その瞳は『浄眼』と呼びます、」
779
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:34:04 ID:FY4OK5Uo0
……ゲームやマンガで聞いたことがある名前だった。
微妙にテンションが上がってしまう。
リパ -ノゝ「…………中国の伝承に登場する異能らしいです。曰く、その瞳を持つ者は、『人ならざるモノ』を見る力を持つ、」
人ならざるモノ――怪異。
リパ -ノゝ「…………そもそも魑魅魍魎を視認できる人間は道士等の魔術を専門にする者か、先天的にそういう才能を持つ者に限られます、」
あるいは「自分自身が半分怪異である者か」。
つまり言うまでもないが、普通の人間には妖怪は見えないのだという。
ちなみに心霊スポットで幽霊が見えるのは大体が勘違いで、本当に見えた場合は幽霊側が見せているか、たまたま幽霊と波長が合ってしまった場合らしい。
とにかく。
リパ -ノゝ「…………その瞳は、かなり珍しい代物ということは覚えておいてください、」
ミセ;゚ー゚)リ「分かりました」
780
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:35:05 ID:FY4OK5Uo0
いつだったかでぃちゃんも「ハッキリと怪異が見える人は珍しい」とか言っていた気がする。
素人ではまずありえないレベルの精度のようだ。
まあよく分からないけど……。
街が夕闇に染まり始めた頃。
最後に、彼女は言った。
リパ -ノゝ「…………私の友人にも、仇敵にも、同僚にも。目の能力を持つ人がいました、」
ミセ*゚ー゚)リ「私のように怪異が見える目の人も?」
リパ -ノゝ「…………はい。未来や死あるいは心、因果……視えるものは様々でしたが、完全に普通の人生を送れた人間は一人もいません、」
その目の所為で死に掛けた人間も生命を散らした人間もいます。
彼女は淡々とそう続け、「けれど」と。
リパ -ノゝ「…………ですが、その目があったからこそ見つけられるモノもあると思います、」
あると良いと思いますなんて呟き、彼女は少しだけ微笑んだ。
781
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:36:08 ID:FY4OK5Uo0
そうして彼女は宣言する。
リハ -ノゝ「…………もしも、あなたが自分の目を嫌いになった時。私はあなたの目を殺しに来ます、」
そう言い切って。
でも次いで死神の少女は言うのだ。
「そんな日が来ないことを私は祈っています」と。
それだけを最後に告げて彼女は夜の帳が下り始めた街に消えて行く。
私の帰り道は逆方向、共に歩むことはない。
私はこれから何を見るのだろう?
あの過去に向き合ったところでこの目がなくなるわけじゃないし、況してや人生が終わるわけでもない。
これからも私が生きている限り私の物語は続いていく。
私はこれから何を見るのだろう?
それはまだ分からないけれど、でも生きていこうと――そんなことを私は思った。
【――――落書き、終わり】
782
:
名も無きAAのようです
:2013/11/12(火) 03:37:03 ID:FY4OK5Uo0
というわけで今回の落書きは終わりです。
この落書きは後日談やおまけというか、ぶっちゃけエロ成分補給が主目的のはずなんですが、完全に忘れてました。
でぃが背中の傷を舐めながら手で奉仕するエロシーンは心の目でどうぞ。
次話は十一月中に投下したいのですが……。
期待せずお待ちください。
783
:
名も無きAAのようです
:2013/11/14(木) 15:43:16 ID:9PpjdX4Y0
乙、待ってる。
今回の事件ではそれぞれが何かを感じていた。
それは繋がりだったり、気持ちを改めたり、後味の悪さだったり千差万別。
怪異が見えるミセリの眼について触れられていたので、眼と彼女の過去がどう関係していくのか気になる。
784
:
名も無きAAのようです
:2013/11/26(火) 14:45:42 ID:91sN0hh.C
ミセ*゚ー゚)リは、語り部以外にも重要な役回りがあるのか
785
:
名も無きAAのようです
:2014/12/05(金) 17:36:18 ID:MhKUymVo0
一年たったんですが・・・
786
:
名も無きAAのようです
:2016/06/10(金) 23:37:54 ID:nwk1LE2Y0
今読み終えた、続き待ってます
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