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あと3話で完結ロワスレ
1
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は
>>2
を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!
2
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:56:49
【ルール1:前提】
このロワは、
・すでに287話が書かれ
・膨大なフラグが積み重なり
・参加者100名のうち、94名が既に死亡しているロワ
・参加タイトルに関しては自由で、死亡キャラについては設定してもしなくてもよい
です
【ルール2:条件】
・残り6人の中にマーダーが1人残っている
・対主催ルートが基本で、ビルの屋上で主催自らがラスボスとして待っており、生存者は全員すでにビルの中にいる
・あと2時間で現在いる場所は禁止エリアとなる
・生存者の6人のいずれかに、以下の状態異常を振り分けること。一人に押し付けても構わない。
【右腕使用不可(欠損でなくともよい)】【限界寸前(無理な行動をとると死にかねない)】【フラッシュバックによる無力化の可能性】
・武器は自由、不死身や無限回復などのチート能力でなければ制限も解除(ただし297話やっても破綻してないという前提の戦力配分が望まれる)
・首輪爆弾は解除できていない。主催を倒した場合のみ、解除が可能。
【ルール3:結末】
・どんな結末でも構わないが、必ず3話で完結まで持っていかなければいけない
・1人で三話書くのが基本だが、設定だけ考えて他人に書かせる、3話でリレーしちゃう、1話を見てから作者に頼んでアナザーを2話書くなどのイレギュラーな執筆方法も認める。むしろたった3話で出来る事の可能性を見せてほしい。
3
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:57:39
第298話(1話目)投下前に必ず以下のテンプレに記入してから投下をしてください
<<ここからテンプレ>>
【ロワ名】
【生存者6名】
【主催者】
【主催者の目的】
【補足】
<<ここまでテンプレ>>
<記入例>
【ロワ名】例:「アケロワ4th」
【生存者6名】例:1.ラグナ=ザ=ブラッドエッジ(ブレイブルーシリーズ)【右腕使用不可】、2.アドラー(エヌアイン完全世界)、3.如月千早(アイドルマスター)【フラッシュバックによる無力化の可能性】、4.ラッキー=クローバー(KOFシリーズ)、5.ワルパッカ(マジカルビート)、6.スーパーソニックブラストマン(ソニックブラストマン)【限界寸前】
【主催者】例:ハザマ(ユウキ=テルミ)(ブレイブルーシリーズ)
【主催者の目的】例:確率事象(コンティニュアムシフト)の一部で、マスターユニット・アマテラスを混乱させるための実験
【補足】例:アドラーは一度転生をしているため、外見はボーナス君(わくわく7)です
4
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:58:44
テンプレは以上です
まずは参加表明やら雑談やらしていただいて結構です
ルールに例え穴があっても気にしないで下さい
見つけた穴を悪用やら曲解したってかまいません
どうせ、あと3話で終わってしまうロワなのですから……
5
:
六代目
:2012/12/09(日) 22:04:32
勢いで立てた。反省はしていない。あとはええと、ほら、みんな最終決戦書きたいだろ?
6
:
六代目
:2012/12/10(月) 01:24:58
しばらくダベったり妄想垂れ流すといいと思うんだ僕ァ
7
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 16:28:45
この企画のまとめwikiとか要る?
8
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 16:32:04
ttp://www.twitlonger.com/show/k9nmag
ツイットロンガーも乗せときますね、締切りはスレには書かれてないみたいなんで。
9
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 17:02:46
年末飛び込みぶっこみ企画で締切は一応年内って感じか。
実際にやってみて面白そうだったらいくらでも延長されそうな気もするけどw
10
:
六代目
:2012/12/10(月) 18:17:22
>>7
とりあえず一発ネタのつもりだったのでwikiとか考えてなかった
自分のサイトにまとめようかと思ってた
そもそもワタクシ、wikiの編集がほとんどできません……ので
作っていただいてもいいけど、更新できませぬ
>>9
年内と思ったけどさすがに無理だと思うので1月いっぱい
理想は2月中にまとめきって、3月までにラジオとかしたいと思っています
11
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 19:03:56
>>10
ラジオやるなら是非ともねとらじでオナシャス!
ユースト聴けねえんだこれが……
12
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 22:12:17
6人中マーダーが複数でもOKですか?
あと、主催者の本拠地はビル以外の建造物でもいいでしょうか?
例:ジ・エーデルがソーディアンでドヤ顔してるのがイラついたのでマーダー2人とも一致団結して殴りこみの真っ最中。
13
:
六代目
:2012/12/10(月) 22:17:54
>>11
ユーストのことよくわからないのでいつものようにねとらじですかね
放送用のソフトどこいったか覚えてないけど!
>>12
問題ないです。ていうかそんな縛りにしたら纏まんないと思ったから1にしただけで
6人全員マーダー(対主催全滅済み)とかだっていいんだぜ……
あと、ビルじゃなくてもいいです。同じ場所に全員がいて、その一番上とか下とかに
ボスがいるという状況でさえあれば問題ないです
ただ「この山にボスが……!」とかすると見つけるまでに禁止エリアになるだろという話です
ボスまで一直線であれば大丈夫です
14
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 22:19:48
ボスが固有結界とかで決戦場をつくっちゃうのはありですかね?
屋上までは行くけど、最上階で発動みたいなあれで
15
:
名無しロワイアル
:2012/12/10(月) 22:31:39
質問です。
・この企画は、実際に開催されたパロロワだけでなく、
実際に存在しないロワの最後3話を創作しても良いのですか?
・【ルール2:条件】で、生存者6人に振り分ける状態異常の他に
更に状態異常を振り分けても良いのですか?
16
:
六代目
:2012/12/10(月) 22:36:39
>>14
問題ないと思います
実際にビルで実際に屋上だとファンタジー組とかはせまっ苦しくなると思いますので
あくまでこの「ビルの屋上でボスが待ってる」というのは「わかりやすく目標地点が定まっている」
ということの一例だと思ってもらって結構です
>>15
>実際に存在しないロワの最後3話を創作しても良いのですか?
むしろそのためにある企画です。
頓挫した自ロワを救済するのもアリですが、基本的には妄想にとどめておいた
マイナーだったり壮大すぎだったり、実際にはできないであろうネタをぶち込んで
思う存分完結させていただきたいと思います
>更に状態異常を振り分けても良いのですか?
もちろんOKです。
状態異常の縛りは、最低限これくらいのギリギリ感で挑んでもらわんと困るよチミぃ
と言うだけの話で、それ以上にキツい状態ならいくらでもやってください
むしろ全員HP1からの逆転とかだってむしろ見てみたいのです
17
:
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:11:33
ツイッター経由でなんかの村から来ました。
参加します。
「こういうのはアリなのか」という疑問を込めて7レスほど投下します。
18
:
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:12:46
【ロワ名】DQFFロワイアルS XIII
【生存者6名】
・バッツ(FF5)【右腕欠損】 装備:氷の刃(DQ9)、+α(何か持ってますが出番はありません)
・ロラン(DQ2/ローレシアの王子) 装備:隼の剣改、+α
・リュウ(DQ2/竜王のひ孫)【限界寸前】装備:なし
・マリア(DQ5) 装備:プリンセスガード(FF7)+「なげる」のマテリア
・チャモロ(DQ6) 装備:裁きの杖、フレイムシールド(FF6)、+α
・ライト(FF1/WOL)【フラッシュバック】装備:ブレイブブレイド(FF5)、+α
【主催者】クジャ(FF9)
【主催者の目的】
・自分より長く生きる連中がむかついたので殺し合わせる事にした。むしゃくしゃしてやった。反省はしてない。
・死ぬのが怖いので、ゲーム開始から三日後に無の力を呼び出し、舞台や参加者ごと消滅する気でいる。
・三日以内に優勝者が出た場合は願いを叶えると言っているし、実際にその気もある。
【補足】
・FFDQ板で続いているシリーズ『FFDQロワ』の派生で、継続期間の短期化という目的から
昔の携帯電話にも優しい『状態表を除いた一話を1レス以内にする』制限を課せられたロワの13作目です。
※ただしFFDQ板での話という設定なので、このスレでは『20行×2レス=40行』を1レスと換算します)
・首輪は解除できていませんが、カーバンクルのルビーの光を使うことで主催者側の爆破操作を反射して爆発しなくなりました。
ただし全員リフレク状態の為、回復・補助魔法が実質的に使えません。
・現在時間は三日目22時です。
あと二時間で今いる場所(というより世界全て)が禁止エリア(というか無)になります。
・ビルの中から開始ということで、298話時点の参加者は神羅ビルに似た20階建のビルの20階にいます。
なお、屋上はFFによくある宇宙っぽいラスボス空間になっています。
19
:
298話:風の止む時
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:13:57
――志は一つのはずだった。
首輪は外せていないが、カーバンクルが命の終わりに放った真紅の輝きに守られ、もはや爆破される心配はない。
『無の力』というタイムリミットは迫っているが、階段を駆け上がれば、僅か数分で忌々しい主催者と対面できる。
……そのはず、だった。
「何をしているんですか! バッツさん!」
荒れ狂う氷の刃を炎の盾で受け止めたチャモロが、悲痛な叫びを上げる。
「血迷ったか……!」
竜の本性を曝け出すほどに満身創痍の身でありながら、リュウはマリアとライトを庇って前に出る。
だが、バッツと呼ばれた青年は、静かに答えた。
「悪いな、みんな。俺は最初から一人で生き残るつもりだったんだ」
朗らかなはずの笑みを暗く歪め、左腕で凍てつく切っ先をかざす。
蒼く輝く氷の刃は、彼の魂を示すかのように、血の色に染まっていた
そして、彼の視線の先にあるのは――リュウの盟友たる、ロトの勇者。
「ロラン……お前が殺したレナを生き返らせるためになあッ!」
交錯は、一瞬だった。
仲間達が制止の手を伸ばすよりも早く、殺意を纏った風が奔り。
けれども、片腕を失い威力を欠いたその一閃は、勇者が持つ細身の剣で容易く防がれる。
そして返す刃が、隼の飛翔のように舞い――青年の心臓を、狙い違わず貫いた。
20
:
298話:風の止む時
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:14:34
「すまない……バッツ」
鮮血を吐き、うめき声を上げて倒れる青年の身体を支えながら、ロランは呟く。
『誤解だ』とは言わなかった。
共に一日を過ごした仲間を、治療するどころか看取るしかできなかった以上、弁解の余地など無いのだから。
そしてバッツもまた、口を開かなかった。
諦めの表情だけを遺して逝ったのは、不意打ちを防がれた時点で、レナを救えない未来に気付いていたのだろう。
「……行こう、みんな」
バッツを横たわらせ、隼の剣を二振りし、ロランは仲間に向き直る。
ライトは、小刻みに震える手を抑え、無言で頷く事しか出来なかった。
もしもこの場にいたのがバッツとライトだけだったならば、彼は剣を抜くことすらできずに斬られていただろう。
人に刃を向けることへの恐怖。今は亡き想い人、セーラの豹変と裏切りが刻んだ心の傷。
だが、彼は、自らの弱さを叱咤するだけの精神力を持っていた。
(苦しいのは、本当に苦しんでいるのは、私ではないだろう……!)
人を殺めなければいけなかったロラン、傷ついたリュウ、守るべきチャモロとマリアの前で、弱音など吐けない。
その自負と信念が、折れかけの心を捻じ伏せ、彼を突き動かした。
目を閉じ、祈りを捧げてから、五人は屋上への階段を上っていく。
後には命を失った身体と、静寂だけが遺された。
【バッツ 死亡】【残り 5人】
21
:
299話:最終決戦
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:15:12
そこは不可思議な空間だった。
彼らが駆け抜けた、灰色の床と壁とは打って変わり、星々が煌めく夜空の光景が広がっている。
けれど、足元にはどこまでも広がる透明な床があり、落ちることも果てに辿りつくことも無いように思えた。
呆然と周囲を見回す五人の耳に、乾いた音が響く。
「おめでとう。
ここまで辿りついた君達には、素直に賞賛を送らせてもらうよ」
声の方角に振り向けば、そこには、100人を殺し合いに導いた男――クジャがいた。
微笑を浮かべ、優雅に拍手を鳴らす様に、リュウが吐き捨てる。
「受け取りたくもないわえ」
「それ以前に、貴様と交わす言葉などない」
ライトが言い放ち、マリアが震えながらも気丈に睨みつける。
「例え神や夫が『許せ』と仰っても……憤怒の罪科で煉獄に落とされようとも、貴方だけは許さない!」
「全くです。最も、ゲントの神は、貴方という邪悪を裁けとこそ、命じるでしょうがね」
チャモロが杖を鳴らし、最後に、ロランが剣を抜き放つ。
「お前の首を持って凱旋しなきゃ、サマルやムースやご先祖に、会わせる顔が無ぇんだよ」
彼らの宣戦布告に、クジャはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「無粋だねぇ……戦いで決着をつけようなど、優雅さの欠片も無い」
踊るように宙を舞い、道化じみた所作で腕を広げる――その姿が、不意に掻き消える。
息を呑むマリアの首筋を、背後から、冷たい手がそっと撫ぜた。
「お望み通り始めようじゃないか。『無』に至る前に、最終章に相応しい惨劇をね」
22
:
299話:最終決戦
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:15:45
「マリアッ!!」
可憐な命を散らさんとする死神の手に、誰よりも早く反応したのはライトだった。
硬直するマリアを突き飛ばし、死神から放たれた破壊の光球を己の体で受け止める。
だが、爆ぜた光は、ライトの脇腹を臓器もろとも吹き飛ばし、抉り取った。
血の海に沈むライトの姿に、我に返ったマリアが悲鳴を上げる。
「人のダンスに割って入るなんて、礼儀がなってないねぇ」
せせら笑いながら、クジャは追撃せんと両手を振りかざし――大木のごとき巨竜の尾が、鞭となってそれを阻む。
「トカゲの分際で邪魔をするのかい」
「男と女の仲を裂く……野暮な猿には言われとうないわ」
ぜえぜえと息を吐きながら、それでも投げかけられた嘲笑は、クジャの神経を逆撫でた。
「なら、お望み通り先に死ぬんだね。フレアスター!」
ターゲットをよろめく竜に切り替え、死神は漆黒の炎を手に迫る。
身を守らんとする翼をも焼きつくしながら、その腹に一撃を与え――
だが、元より瀕死であったリュウのどこにそんな力が残っていたのか。
半身を炭化させながらも、彼はクジャの手を掴み上げ、残った生命全てを声に変えて吠えた。
「我が友らよ! やれいッ!!」
その叫びに応えた者は二人。
「リュウちゃん――後は任せろォ!!」
「……グランドクロス!!」
一人は覚悟を定め、剣を奮う。一人は眼鏡の奥に涙を浮かべ、虚空に十字を切る。
そして、ロランとチャモロが放った二重の刃が、リュウもろともクジャを捉えた。
23
:
300話:光は消えない
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:17:08
「ぐうっ!!?」
破壊神をも破壊する膂力と、邪悪を滅する神風の刃に切り裂かれ、鮮血をまき散らすクジャ。
だが死神にはまだ余力が残っていた。
「調子に……乗るなァああああああああああ!!」
光を纏わせた右腕の一振りで、残っていた竜の上半身を粉々に吹き飛ばし、銀髪を朱に染めながら中空に飛ぶ。
剣の届かぬ空の高みで、クジャは両手を天にかざし――その掌に魔力を集め始めた。
「何を……!?」
「決まってるだろう? 全員跡形もなく消してやるんだよォッ!!」
大気が震えだすほどの膨大な魔力に狼狽を隠せない戦士達に、クジャは狂笑を浮かべる。
しかし、その高笑いを切り裂いて、一条の光が彼の胸を射抜いた。
「な……!?」
たまらず血を吐き、バランスを崩す死神の耳に、二つの声が届く。
「剣を振るえずとも……守る勇気がある限り……光は……消え……ない……!」
「戦う力を持たずとも……彼の手を支える事は、できますっ!」
ライトに寄り添っていたマリアが、彼と共に、ブレイブブレイドを投げたのだ。
そして、クジャがそのことに気付いた時には、既に、チャモロとロランが動いていた。
24
:
300話:光は消えない
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:18:33
果たして、クジャは予測できただろうか?
地を這うだけの、人にすぎぬ勇者が、自分と同じ高みへと昇ってくるなどと。
だが、パラディンとして武道の研鑽を積んだチャモロにとって、ロランを投げ飛ばすことは難しいことではなかった。
そして卓越した身体能力を持つロランにとって、仲間の助力があれば、空へと駆けることは難しいことではなかった。
「ロランさん!」「ロ……ラン……!!」「ロランくん!」
三人の声を背中で受け止め、先に逝った95人と盟友の想いを乗せて、ロランは剣を振りおろす。
「舞えェエエッ! 隼ァアアアアアアアアアアッ!!」
魔法を使えず、技を放てず、それでもなお勇者と呼ばれた王子の剣は。
死神の体を、深く、深く切り裂いた。
――薄れゆく意識の中でライトは聞いた。
首元で鳴った、カチリという金属音を。
そして確かに見た。ロランの。チャモロの。マリアの足元に、二つに割れた首輪が落ちたのを。
空間を満たした柔らかな光の先に、青い空と草原が広がっているのを――
(……ああ……終わったのだな……)
草原の彼方から、クリスタルを携えた黒魔道士が、驚いた様子で駆け寄ってくる。
彼が殺し合いに呼ばれなかった仲間だと気付いたライトは、安堵の笑みを浮かべ、ゆっくりと瞼を閉じた。
96の命を奪った悲劇の結末を見届けて、彼は――光の戦士は、その使命と生涯を終えた。
【竜王のひ孫、ライト 死亡】
【ロラン、マリア、チャモロ 生還】
【生存者 三名】
【DQFFロワイアルS XIII 完】
25
:
◆Wue.BM1z3Y
:2012/12/11(火) 12:19:36
以上で投下を終了します。失礼致しました。
26
:
六代目
:2012/12/11(火) 15:33:49
スレッガーさんかい!?早い!早いよ!?
ということで一人目の投下ありがとうございます。
独自に設定されている「こういうロワである」という縛りに関しては全く問題ありません。
というか、ルール2の条件設定以外に関してはほぼ自由にしていただいて結構です。
つーか、たとえどんなのを投下されようとも、3話で完結してたら審議とか破棄とかありませんから
安心してどんどん投下ください!
で、投下作品についてですが、「こういうこと」です。
意図を汲んでいただけたことを嬉しく思います。
最後の3話でマーダーは動くのか動かないのか、決着はつくのか、どう戦うのか
残り94人の話は入るのか、どこまで掘り下げるのか
そういうものを取捨選択していただく企画であることをご理解いただき
感激の極みです。
内容的にも「やりきった」感が溢れていますし、これバッツは今までどんなモノローグ抱えて
297話過ごしてきたんだとかすごく興味の湧くお話でした。
文章的にはすっきりまとめていますが、もともと設定されている独自ルールのおかげで
なるほどこの文章量にまとめなくてはならないとなればこのくらいの描写に落ち着くのだな
と腑に落ちる感じです。
ともあれトップ投下ありがとうございました!
27
:
六代目
:2012/12/12(水) 14:35:05
おいもっと雑談していいんやで(震え声
28
:
名無しロワイアル
:2012/12/12(水) 14:45:18
雑談可と聞いて。
最終話から考えるっていうのも面白いけどいざやるとなると形にならなくて難しいなぁw
ロワに出たことない作品使ってステマしたい(キリッ
29
:
名無しロワイアル
:2012/12/12(水) 15:27:07
三話っていう縛りで、各書き手が「1話」にどの程度詰め込むかが見えるかもね。
最初の投下のを見たら、自分が書いてるのなんて298話目で最初の投下より文量多いしなwww
説明口調にならず、フラグを自然に出すのって難しいわ
30
:
名無しロワイアル
:2012/12/12(水) 15:33:38
長いと途中で力尽きるからこういう長さを制限するルールがあるって発想は上手いと思ったなぁ。
ロワ終盤付近の長文化に慣れてるだけにああいうふうにやったのはすごいと思った(小並感
それでいてしっかりメリハリつけて話の内容自体も面白いと来て。
31
:
名無しロワイアル
:2012/12/13(木) 17:26:43
今ちょっとプロットこねくり回してるけど…最高5人で主催&ラストマーダー戦こなすのって結構難しいなw
ガチバトル要員ばかり詰め込んでも面白くないからレパートリー付けようとしても悩む悩む…
32
:
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:48:59
二番手、参加させていただきます。
締切りまでに完結させられるかどうかは分かりませんが……頑張ります。
33
:
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:49:35
【ロワ名】まったくやる気がございませんロワイアル
【生存者6名】
トージャム@トージャム&アール【フラッシュバックによる無力化の可能性】
少年B@少年B【限界寸前】
リック・ストラウド@リアルバウト餓狼伝説2
フェイ@FINAL FANTASY USA -MYSTIC QUEST-
ソード(主人公)@DRAGON QUEST SWORD 仮面の女王と鏡の塔【右腕使用不可】
風見幽香@MMDで関節技講座(マーダー)
【主催者】ペプシ本社コンピュータ@ペプシマン+真獅子王@風雲SUPER TAG BATTLE
【主催者の目的】強者と戦う
【補足】昔、非リレースレでやろうとしていたもののリサイクルです。
地図:ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0159.jpg
名簿(折角あるので)
1/20【リアルバウト餓狼伝説シリーズ】
○リック・ストラウド/●李香緋/●アルフレッド/●テリー・ボガード/●アンディ・ボガード/
●ジョー・ヒガシ/●不知火舞/●ギース・ハワード/●ボブ・ウィルソン/●ブルー・マリー/
●フランコ・バッシュ/●ダック・キング/●秦崇秀/●秦崇雷/●ビリー・カーン/
●ローレンス・ブラッド/●ヴォルフガング・クラウザー/●EXアンディ・ボガード/●EXビリー・カーン/●EXブルー・マリー
1/11【トージャム&アール】
○トージャム/●アール/●魔術師/●ワイズマン/●オペラ歌手/
●いたずら小悪魔/●ブギーマン/●芝刈り親分/●凶悪ドクター/●郵便ポストのオバケ/●もぐら
0/9【レッキングクルー('98含む)】
●マリオ/●ブラッキー/●クッパ/●なすび仮面/●スパナゴン/●オニギリ/●女の子/●オヤジ/●土偶
0/8【テトリス武闘外伝】
●ハロウィン/●ミルルン/●プリンセス/●アラジン/●ニンジャ/●オオカミオトコ/●ドラゴン/●グランプリンセス
0/7【がんばれギンくん】
●ギンくん/●ハムくん/●ガツガツ/●お姉さん/●ひろみ/●ダルマさん/●牛
1/6【DRAGON QUEST SWORD 仮面の女王と鏡の塔】
○ソード(主人公)/●セティア/●ディーン/●バウド/●ナッジ老師/●魔王ジェイム
0/5【風雲SUPER TAG BATTLE】
●ロサ/●キム・スイル/●ショー・疾風/●マックス・イーグル/●影獅子王
1/5【FINAL FANTASY USA -MYSTIC QUEST-】
●ザッシュ/●カレン/●ロック/○フェイ/●レッド
0/5【Oh! スーパーミルクちゃん】
●ミルク/●テツコ/●大家/●大統領/●アイパッチ博士
1/5【少年B】
○少年B/●火星に辿り着いた時に先に居たクラスメイト/●先生/●校長/●犬
1/5【MMDで関節技講座】
●初音ミク/○風見幽香/●時報ちゃん/●重音テト/●GUMI
0/5【ニコニコ動画】
●松岡修造/●クワマン(桑名信義)/●ユリウス・ベルモンド/●マクシーム・キシン/●曙太郎(チャド・ジョージ・ハヘオ・ローウェン)
0/4【降魔霊符伝イヅナ】
●イヅナ/●シノ/●ミツモト/●シズネ
0/2【SPYvsSPY】
●ヘッケル(白スパイ)/●ジャッケル(黒スパイ)
0/2【ペプシマン】
●ペプシマン/●ムービーに出てくるオッサン
0/1【マイケル・ジャクソンズ・ムーンウォーカー】
●マイケル・ジャクソン
34
:
298話:傷あとをたどれば
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:51:06
――――そして、この私の声を聞いている者、六人の強き者達よ。
時は満ちた、今こそ全てを明かす時。
北に聳えるビルの最上階で会おう。
では、さらばだ。"強者"たちよ。
この悪魔の武闘会が始まってから、70時間が経つ。
生きる者に残されし時間は二時間、二時間後には全区域が禁止エリアとなる。
一秒でも過ぎれば、この場にいる全員に等しく科せられた首輪が爆発して命を奪い去っていく。
誰がどう見ても絶望の未来しか見えない状況に、悪魔は一つの声を流した。
自分はここにいると、そこでこの悪魔の武闘会の全てを明かそうと。
最終局面まで立っていた全ての人間にそう告げた。
そして、この場の残りの命が悪魔の舞台に揃う。
幕が、開ける。
.
35
:
傷あとをたどれば - A Side 最愛の友 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:51:36
階段を登る。
今にも息絶えそうな一人の少年を背負い、一歩一歩を踏みしめていく。
体を造る全ての要素が悲鳴を上げながら、彼の三本の足を止めようとする。
だが、それでも彼は階段を登ることをやめない。
意地か、根性か、気合か、そのどれかは最早わからない。
ただ彼は足を動かし、一段一段積み上げられた階段を乗り越えていく。
「おい」
異星人、トージャムの小さな背中に背負われた少年がぽつりと呟く。
その声は弱弱しく、今にも消えてしまいそうである。
「降ろせ、もういい」
全てを滅ぼす史上最悪の存在、魔王ジェイド。
自分が焼き殺した壮年の男、バウドから聞いた話よりも何倍も何倍も恐ろしい姿の存在。
それはクノイチの少女シノの体を依り代とし、自分達の目の前に現れた。
彼女が妹のように可愛がっていたイヅナの命を始めとし、ザッシュ、ユリウス、マイケルの命と自分の体力の殆どを奪い去って行った。
もし、アンディが影を手にすることに失敗し、少しでも遅れていれば自分もトージャムも命を落としていただろう。
彼の手によって、自分とトージャムは「生き延びる」事が出来た。
少なくとも、形の上では。
「死人同然の人間に世話焼いて、生きてるやつがくたばるなんて、バカらしい話があるかよ」
もう残りどれだけかわからない体力を使いながら、言葉を続ける。
捨て置けと、そしてお前だけでも先に進めと。
少しの沈黙を置いてから、異星人は上りながら口を開く。
「俺はさ、自分の家で大好きなファッジサンデーを食べながら、アールと一緒にバカやってるだけで良かったんだよ」
その言葉は、誰に向けられたものでもなく。
「友達ってのは何時も傍に居て、何気なく日々接していても、大事さってのは分かんないモンなんだよな」
ただ、ただ紡がれていく。
「でもさ、居なくなるとすげー寂しいし、辛いし、耐えられないんだよ」
この場で失った多くのモノを忘れないように。
「ボロボロボロボロと皆死んで行ってさ、残されたやつの事なんて微塵も考えなくってさ」
一人一人、思い返していく。
この殺し合いに巻き込まれてから最初に出会った、かなりやかましいブーメランの男を。
華麗なダンスで皆を楽しくさせてくれた、白いタキシードの男を。
どういうわけか空を飛ぶ、不思議なライスボールの事を。
何時も明るく笑いながら接してくれていた、兎のような生き物の事を。
そして目の前でゴミクズの様に死んでいった、大親友の事を。
「決めたんだ」
異星人が、先ほどとは違う決意を込めた声を出す。
「もう、これ以上友達を無くさない」
その時に踏み出した一歩は強く。
「ミルルンの友達は、俺の友達だ」
しっかりと、背中の少年へ伝えていく。
「だから、お前は俺の友達だ」
これ以上失いたくない存在がある、今それを背負っている。
「友達置いて、どっか行くやつがいるかよ」
だから彼は進む、足がどれだけ悲鳴を上げようと、彼は進む。
「……勝手にしろ、死んでもしらねーぞ」
――――キミとミルルンは、これからず〜っと友達だよ!
「友達」なんて居ない、だから全てを燃やし尽くすと決めたはずの少年は。
そんな事を言いながら自分に近寄ってきた、兎のような生き物の事を思い出し。
静かに、涙を零した。
そして異星人の足は、大広間へと辿り着く。
.
36
:
傷あとをたどれば - B Side 一本の剣 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:53:18
無言。
"スグレモノメカ"と呼ばれた巨大な機械の残骸が横たわり。
曲芸飛行の達人は壁に赤い華を咲かせ。
狼の姿を持つ侍は体を二つに引き裂かれ。
神に仕えし少女は文字通り"平面"になり。
一組の男女は言葉を交わすことはなく。
コツコツと靴の音だけが響き渡り。
一本のレバーが落とされ、ガチャンと一際大きな音を立て。
少年はゆっくりと女の傍へと歩み寄る。
「行くぞ」
ただ、それだけ。
表情も無く、感情も無く、事務的に少女へと告げていく。
金髪の女、フェイは即座に立ち上がり、少年の胸倉を掴む。
「それでいいの?」
その目に涙を浮かべながら、少年の体を大きく前後に揺さぶる。
「セティアは、セティアは、どんな気持ちでアンタを……!!」
少年は、本来ここにいないはずだった。
圧倒的な力を誇る"スグレモノメカ"に見せた一瞬の隙を突かれ、巨大な足に踏み潰されて終わり。
そんな少年の命を救ったのは一人の少女。
とある国で将来を有望視されていた、僧侶の少女。
彼女がその身を呈し、少年を救った。
――――ねえチャッピー。
踏み潰される少し前、彼女は少年に向けてそう言った。
言葉には続きがあったが、それが語られることは無い。
一瞬、笑顔を見せた後に彼女は"平面"になった。
フェイの究極魔法が完成したのは、それとほぼ同時だった。
少年、ソードは掴まれた手を振り払い、小さく告げる。
「終わらせるまで、振り返ってる暇なんて無い」
少年には一つの決意があった。
自分の世界で魔王が蘇った時も、同じ事をした。
一本の剣を掲げ、一本の剣を背負い、一本の剣を振るう。
敵を裂き、魔を裂き、悪を裂き、平和へ導く。
だから、この場でも同じ事をするまで。
あの悪魔を斬るまで、立ちはだかる者は全て斬る。
剣を振るった先に、平和はあると信じているから。
「ディーンを斬った時から、決めた事」
だから、友を斬った。
始まりの地、そこで見せしめのように殺された女王の姿に怒り狂った友を斬った。
狂いに狂いきり、自分に刃を向けてきた友を斬った。
立ちはだかる存在だったから、斬った。
平和を阻害する存在だから、斬った。
自分にとっての敵だったから、斬った。
目の前に立ちはだかる全てを斬り伏せてきた。
何も考えない。
まだ、事は達成していないのだから。
全てが終わってから、振り返ればいい。
今、振り返っている時間なんて、一秒も無いのだから。
「行くぞ、アンタの"ペプシの知識"は必要だからな」
前へ進み、立ちはだかる者を斬り捨てるだけだ。
かつかつと歩き出すソードの背を見ながら、フェイは思わず壁を殴りつけてしまう。
分かっているのだ。
そんなことに構っている暇など無いことほど時間がないことぐらい、分かっている。
分かっているから、分かっているからこそ辛い。
この地で長く行動を共にした、セティアの気持ちが伝わらないことが。
「ちょっと待っててね」
彼女は誓う。
今は、ソードと共に全てを終わらせる。
その後、彼女の気持ちを必ずソードに伝えると。
静かに、誓う。
動き出したビルのエレベーターが、ゆっくりと大広間へ辿り着いていく。
.
37
:
傷あとをたどれば - C Side 不屈の心 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:54:00
唯一のビルの最上階へ通じるエレベーターがある大広間。
三つの死体の傍で一枚の硝子に開いた大きな穴を眺めながら、男は一人静かに佇む。
小さくため息をついた時、ゴゥンとエレベーターが起動する音を聞き、結果はどうあれソード達は成功したのだと認識する。
オオカミオトコの掴んだ情報通りなら、この一基のエレベーターの辿り着く先に、あの悪魔がいるはずだ。
計算外のことはたくさんあったが、なんとか決戦の地へ向かうことが出来る状況は揃った。
ふと、この場にある三つの死体を作り上げた女の最後の言葉を思い出す。
――――さよなら、"殺人者"さん。
ビルの中層から落下し、命を落とそうとしている時に。
もう一人のブルー・マリーは、ギース・ハワードのように不敵に笑い、その言葉を残しながら死んでいった。
言われてみれば、その通りだ。
人を殺したくないなんてことを言いながら、もう何人かはこの手で殺している。
直接的にも、間接的にも。
大本の原因はこの殺し合いを開いたあの悪魔だが、実際に手を下したのは自分である。
何故か? 生き残りたかったからだ。
「人を殺さず、一人でも多くの人間と生きて帰る」
なんて、所詮夢物語でしかなかったのか。
足下に転がる失われた命達を守ることすら出来ず。
襲われたと言う大義名分を掲げ、今もマリーを殺して生き延びている。
結局、自分も我が身が可愛い存在でしかなかったという事なのだろうか。
初めから人を殺すことを選んでいれば、こんなにも悩まずにすんだのだろうか――――
――――初志貫徹、良い言葉だよね。
自分の初めの思いを、まっっっすぐ、こうぐぅ〜っと貫き通す!
そうすれば、自分の思いは届くよ!
声が聞こえる。
――――心が弱ければ、見れる明日も見れない。
だが逆に言えば、心を強くしていれば見れない明日はない。
だから、どれだけ負けても光を見れる!
土壇場の裏切りで、命を落としていった者たちの声が。
――――自分を信じて前を行く。
シンプルだけど、難しいナス。
でも一本芯が通ったモノは、すごく強いナス。
それでも前へ、未来へ進んでいった者たちの声が。
そう、初めに決めたのは"一人でも多く生き残る"事。
まだ、生き残っている命がある。
ならば思い通りではなくとも、まだ向かうべき未来があるのだから。
この思いを、貫き通す。
絶対に諦めず、前を向き続けた者たちの分まで。
自分の足で、先へ進む。
それまでは、絶対に諦めない。
「オレは"未来"へ進む」
握り拳を作り直し、まっすぐにガラスへと突き出す。
再確認した自分の気持ちと、折れない心をその手に乗せて。
「お前みたいに、命を奪って悦に入る"殺人者"じゃない」
決別と否定の一言と共に、穴の空いたガラスから目を背け、エレベーターへと目を向けた。
ちょうどその時、一基のエレベーターが大広間にたどり着き、少年を背負った異星人が大広間へつながるドアを開けた。
こうして、残り六つのうちの五つの魂が、このクッパビルの大広間に集った。
38
:
傷あとをたどれば - Get → Set → Ready -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:54:25
駒は揃った。
軽めの自己紹介、情報交換、支給品分配を経て。
その手は最後の扉を開く。
押されるボタンに従い。
轟々と仰々しい音を立て。
箱は導いていく。
この殺し合いの終わりの場所へ。
チン、と軽い音がなる。
そして、重々しく開いた扉の先には。
「あら、遅かったじゃない」
魔人が、悪魔の上に立っていた。
.
39
:
傷あとをたどれば - EX Side 魔人降臨 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:55:01
ビルの最上階。
伸びる青龍の爪を駆使し、持ち前の怪力を使って、ビルの外壁から"無理矢理"入ってきた人間が一人だけいた。
「ははぁ〜ん、大層な趣味だこと」
目を細めながらあたりを見渡し、一言呟く。
エレベーターから真っ直ぐに伸びる絨毯の先で、玉座に座る獅子王へ向かい。
ゆっくりと歩く彼女の靴音がかつ、かつ、かつと一歩ごとに響く。
他には何も無い広大な空間、動くものは彼女一人。
「これで待ってるのがカワイイ女の子だったら……最高なんだけど。
現実はムサい筋肉質の男、なのよねぇ」
明らかに落胆している様子のため息を一つこぼしながらも、彼女はかつかつと靴音をならしながら前へ進む。
両者の距離が程良く詰まったところで、獅子王が重く閉ざしていた口を開く。
「まさか……初めの来訪者が貴様で、しかも一人で来るとはな」
「あら、そんなに意外? 予想できてたんじゃないの?」
いたずらっぽく笑ってみせる女に対し、獅子王は眉の一つも動かさない。
小さくため息をついてから、女は問いかけをする。
「さて、こんなところに呼び寄せて何のつもり?
わざわざ目立つ場所に自ら赴いて来るってことは……」
言葉は、そこで止まる。
獅子王がゆっくりと立ち上がり、剣を抜いて突きつけてきたからだ。
「ここまで生き残った力、私に見せてみよ」
その一言に、反応するように女は笑う。
「やっぱり、ね」
予想通りの答えだった。
主催自ら参加者を呼ぶということは、参加者に何かしらアクションを取りたいということ。
殺し合いを開いてまで成し遂げたかったこと、それは戦闘だ。
幾多もの命を奪いながら生き残るほどの強者と戦いたかった、といったところだろう。
そこで、自らの設けたタイムリミットが近づいてきたのであわてて参加者を呼び寄せたということだ。
今日はカンがよく冴える日だな、などと思いながら女は笑い、拳を握り直す。
「ムサい男と戦うのは趣味じゃないから、一瞬で終わらせるわよ」
火蓋が、落ちる。
女が駆ける。
王が吠え、全身全霊を込めた拳を突き出す。
女が拳を真正面から捕らえる。
空気の流れを生かし、ほんのわずかに王の拳の軌道を逸らす。
一瞬の風圧で手には無数の裂け目が生まれ、頬に綺麗な赤一文字が描かれる。
気を全て攻撃に使っていることを察し、思わず頬をゆがめる。
深く踏み込んだ一歩から、空気を振るわす掌底を王の原へと突き出していく。
びくり、と強靱な筋肉に包まれた肉体が浮き上がる。
そして流れるように突きだしていた右腕に絡み付き、息をつく間もなく間接を極める。
いや、極めるのを飛び越し"破壊"していく。
獅子王の顔が苦痛に歪んだと同時に、女はすり抜けるようにもう片方の腕へと絡みつき"破壊"していく。
それだけ、たったそれだけだった。
40
:
傷あとをたどれば - EX Side 魔人降臨 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:55:43
「これほどまでとは、な」
腕をだらりと垂らしながらも、片膝を突くだけに留まりつつ、王は女へと語り駆ける。
「白々しい、最初からそのつもりだったんでしょ?」
呆れたような声を出し、笑いながら女は一冊の巻物を王の目の前に放り投げる。
「じゃなきゃこんなの支給しないし、あの放送でヒントも言わないわよね」
"秦秘伝書"と書かれた煤けた巻物達は無造作に放り出され、地面を転がっていく。
かつて、ギース・ハワードが「ゴミ」だと称したこの三冊の巻物は、実は続きがあった。
数十年後の未来、それを解き明かし本当の秘伝書を発見した獅子王は書によって力を得ようとしたが、書の極意を習得するには至らなかった。
そこでこの獣神武闘会を開き、書の極意を習得する者が現れることを願いながら、支給品に仕込んだのだ。
「お見通し、か」
そして、書の極意を習得した者は現れた。
自分が夢見た"この上ない強者"と戦う事も叶った。
「満足した。これで、悔いはない」
もう、この薬漬けのボロボロの体を捨てるときが来たのだ。
最後の最後で自分の望みが叶えた事を噛みしめながら、王は男として最後の言葉を残す。
「私の負けだ、この獅子王のサングラスにこの下の階にあるシステムのマスターコードが記されている。
停止させて首輪を解除するなり、好きにしろ」
強者への手向け。
約束していた元の世界への帰還は、この獣神武闘会を管理していたペプシシステムの仕事だ。
そのマスターコードがあれば、自在にペプシシステムを操ることができる。
あとは、勝者のすること。
自分のすることは、無い。
もう片膝を付き、ゆっくりと体全体を地面に預けるように。
獅子王は、息を引き取った。
女はくるりと体を翻し、自分の歩いてきた道を引き返す。
かつ、かつ、かつと再び靴音だけが響く。
何歩目かの事だ、靴音とは違う"チン"という音と共に目の前の扉が開く。
ゆっくりと広がっていく光に対し、彼女はこう言った。
「あら、遅かったじゃない」
幕は、まだ降りない。
41
:
傷あとをたどれば - EX Side 魔人降臨 -
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:56:20
【真獅子王@風雲SUPER TAG BATTLE 死亡確認】
【クッパビル最上階/早朝】
【風見幽香@MMDで関節技講座】
[状態]:不死身の完全体(?)
[装備]:空龍@RB、海龍@RB、麒麟の篭手@イヅナ、蒼天の靴@イヅナ、蒼龍の爪@FFUSA
[道具]:秦の秘伝書@RB、真獅子王のサングラス、基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:????
[備考]:秦の秘伝書を解読しました。呼び出した空龍、海龍は彼女が"力ずく"で従えています。
【クッパビル中層大広間→????/早朝】
【トージャム@トージャム&アール】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]:トマト@トージャム&アール
[道具]:基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:決戦へ
[備考]:マイケル・ジャクソンのダンスを習得済み
【少年B@少年B】
[状態]:疲労(極)、九割の火傷、色彩感覚喪失、肋骨骨折、ダメージ(大)
[装備]:(シークレット)
[道具]:基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:決戦へ
【ソード(主人公)@DRAGON QUEST SWORD 仮面の女王と鏡の塔】
[状態]:健断絶(右腕)、右目失明、ダメージ(大)
[装備]:エクスカリバー@FFUSA、わんこベスト@DQS、オリハルコンのさじ@DQS
[道具]:基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:決戦へ
【フェイ@FINAL FANTASY USA -MYSTIC QUEST-】
[状態]:MP消費(小)、ダメージ(中)
[装備]:にゃんにゃんクロウ@DQS、神弓@イヅナ
[道具]:人力矢@イヅナ、基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:決戦へ
[備考]:ペプシシステムについての知識を、ペプシマンから聞きました。
一人メドローアを習得済みです。
【リック・ストラウド@リアルバウト餓狼伝説2】
[状態]:疲労(超)、脇腹に感電跡、ダメージ(中)
[装備]:拳
[道具]:基本支給品、(その他、幾つかの支給品)
[思考]:決戦へ
42
:
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 21:57:35
投下終了です。
主催死亡→首輪解除までにもうワンプロセスを仕組んでみたりなど、ちょっとスレスレなところもありますが……。
ルールに課せられた制限はしっかりとかけてあるつもりです。
しかし、実際にいざ「クライマックス!」をいきなり書くのは難しいですね……w
43
:
◆eVB8arcato
:2012/12/13(木) 22:09:25
そして遅れましたが、感想をば。
>>DQFFロワイアルS XIII
投下乙です。
40行という短文という縛りの中、スマートに表現されていて、
なおかつこれまでが鮮明に想像できるような鮮やかな描写で面白かったです。
「何があったのか」が分からないけど、それがいい、本当に面白かったです。
44
:
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/14(金) 02:55:58
時間がないけど備忘と決意のためにテンプレだけ投下!!
【ロワ名】リ・サンデーロワ
【生存者6名】
黒兎春瓶(呪法解禁!!ハイド&クローサー)
鉢かつぎ姫(月光条例)【右腕欠損】
霊幻新隆(モブサイコ100)【フラッシュバックによる無力化の可能性アリ】
ハクア(神のみぞ知るセカイ)【マーダー:桂馬の復活が目的】
蝉(魔王、waltz)【マーダー:岩西復活を含む魔王世界の存続が目的】
恋川春菊(常住戦陣!!ムシブギョー)【マーダー:ムシブギョー世界の存続が目的】【大量出血。現在止血できているが傷が開けば命の保証はない】
【主催者】
ゼクレアトル(ゼクレアトル 神マンガ戦記)
【主催者の目的】
最も優秀なマンガを残し、仙人サンデーへ移籍させる
【補足】
●週刊少年サンデー、クラブサンデー、裏サンデーから参戦のロワです
●特殊ルールとして消失(デスアピア)が採用されています。
・同じマンガから参戦している者が一人もいなくなった時点でそのマンガの存在そのものが世界から消え失せます。
・世界観や登場人物、彼らに関する記憶までが消滅するため、消失(デスアピア)に気づくことも出来ませんが
ルールとして周知されたため消失(デスアピア)の恐怖は参加者に浸透しています。
・眼前で1タイトル最後の参加者が死亡→消失(デスアピア)の場合のみ、視認していた者に数十秒記憶が残り、
その間に他人に情報を伝えたり筆記して情報を残すことは可能です。
●誰が言い出したのか、全ての話のサブタイは「離散」「りっぱなカバさん」「理解と決別」「リストレイト」「ring a bell!」など「り」から始まります
本編投下は来週くらいになりそうです。
45
:
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/14(金) 10:22:25
今気づいたけどwaltz入れるならゲッサンも入るのか
46
:
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:40:56
【ロワ名】それはきっと、いつか『想い出』になるロワ
【生存者6名】
1.ヴァージニア・マックスウェル@WILD ARMS Advanced 3rd【右腕使用不可】
2.カズマ@スクライド
3.クマ@ペルソナ4 ザ・ゴールデン【フラッシュバックによる無力化の可能性】
4.トトゥーリア・ヘルモルト@トトリのアトリエ
5.速水殊子(はやみことこ)@レジンキャストミルク
6.ブルー@サガ・フロンティア【限界寸前まで損耗】
【主催者】ベアトリーチェ@WILD ARMS Advanced 3rd
【主催者の目的】様々な世界の夢から想い出を吸い取り、新世界を作る
【補足】
・会場は電界25次元と呼ばれる夢の世界ですが、ここでの出来事は現実にも反映されます
・ブルーはルージュとの融合後です
・その他参戦作品
ヴァルキリープロファイル
FINAL FANTASY 8
ブレイブリーデフォルト
断章のグリム
マクロスF
47
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:41:32
そこは象牙色をした大理石で造られた、豪奢な城だった。
赤絨毯の敷かれた細長い廊下には等間隔で柱が並び、そのすべてに麗しい装飾が施されている。
白亜の壁には埋め込まれた様々な模様のステンドグラスが、硬質な無機質さを和らげていた。
荘厳と言うよりは、メルヘンチックで美しい内装だ。
けれどこの城には、拭いきれない薄気味悪さで満ち満ちていた。
見上げても天井は見えない。遥かな高みに暗闇だけが溢れかえっていて、根源的な不安を抱かせる。
ステンドグラスからは一筋の光も射し込んではこない。その先にあるのは、ノイズ交じりの真っ黒な世界だ。
城内を照らすのは、金色の燭台で揺れるか細い炎のみ。
頼りない光が照らす廊下はほの暗く、息づくものを拒絶するようだった。
だからこそ、生きている者はよく目立つ。
――相変わらずの雰囲気ね。
足を動かしながらも、ヴァージニア・マックスウェルはそう思う。
内装や造りはかなり違う。部屋の数も階層も増え、以前に来た時よりもかなり広くなっている。
けれどこの不気味さを、ヴァージニアは覚えていた。
ナイトメアキャッスル。
夢魔ベアトリーチェの居城であり、この悪夢の終着駅だ。
やがて廊下は終わる。
立ち止まったヴァージニアの前に、玉座の間へと通じる扉と、その先から漂う夢魔の気配がある。
「ようやく到着か」
隣でカズマが右手で拳を作り、左掌に叩きつける。
「ええ。この先から、ベアトリーチェの気配を感じる」
ヴァージニアは振り返った。
「本当は万全のコンディションで挑みたいけど、時間がないわ。簡単に準備を済ませたら……行くわよ」
「ここまで来たんだ。やれるだけのことをやろう」
ブルーの返答に、ヴァージニアは強く首肯する。
ここに来るまで、彼はかなりの魔力を損耗している。
まだ術は使えると本人は言っているが、無理をすれば生命が危ういだろう。
だがそれだけに、その返答は頼もしかった。
視線を動かす。
「クマも……いいわね?」
問うと、もはや見慣れた着ぐるみがびくりと震えあがった。
「ま、まだ、コトチャンが戻ってきてないクマよ……? それに、トトチャンも……」
声は震えていた。瞳は不安で濁っていた。
先ほどトトリが残した言葉がクマを苛んでいるのは、明らかだった。
けれど、ヴァージニアは彼には頷けない。
「ダメよ。立ち止まってたら、殊子が残った意味がない」
「でも……」
クマの言葉は尻すぼみになり、外には出てこない。俯くその様は、とても小さく見えた。
「あの女が簡単に終わるハズがねェ。終わりやがったら、俺が許さねェ……ッ!」
「殊子を信じよう。1時間後に追い付くって言ってだろう?」
ブルーの言葉と同時に時間を確認すると、殊子と別れてから経過した時間は30分弱だった。
だからヴァージニアは、クマの頭にそっと左手を乗せた。
「ん……分かったクマ……」
「うん、ありがとう」
その言葉だけを投げかけ、ヴァージニアは扉へと向き合った。
左手を、右腰のホルスターに差し入れる。
銃把の硬さを確かめ、握り込み、取り出す。
バントライン93R。
右手に馴染んだその銃を、左手で握り締めて。
ヴァージニアは、目の前の扉を蹴り開けた。
【ヴァージニア・マックスウェル@WILD ARMS Advanced 3rd】
[状態]:右腕使用不可
[装備]:バントライン93R@WILD ARMS Advanced 3rd、プリックリィピアEz@WILD ARMS Advanced 3rd
[道具]:基本支給品、その他支給品
【カズマ@スクライド】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、その他支給品
【クマ@ペルソナ4 ザ・ゴールデン】
[状態]:疲労(大) SP消費(中) トトリ、殊子が心配 トトリの言葉により精神不安定
[装備]:エアガイツ@FINAL FANTASY 8
[道具]:基本支給品、その他支給品
【ブルー@サガ・フロンティア】
[状態]:JP消費業(極大) 強力な術は生命力を消費する
[装備]:聖杖ミスティック・ワイザー@ヴァルキリープロファイル
[道具]:基本支給品、その他支給品
48
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:42:13
◆◆
大広間に爆音が鳴る。
火薬臭さと煙の臭いに目を顰め、強烈な耳鳴りに不快感を覚える。
常人離れした感覚もこんなときには不便だなと思いつつ、速水殊子は硬い床を駆ける。
煙の向こう、絶え間なく飛んでくる物体が見える。
稲妻形の爆弾と雪だるま形の爆弾と束ねられたダイナマイトが、纏めて飛んでくる。
「容赦ないなぁ」
爆発物の群れを前にしても、殊子の呟きには緊張感がなく、顔には軽薄な笑みが浮かんでいた。
「よっ、と」
爪先に力を込め、靴裏で床を叩く。
かつっ、という靴音は一瞬にして三種類の爆音に飲み込まれる。
熱を帯びた爆発と氷を撒き散らす炸裂と電撃の破裂が耳障りな狂騒を奏で、石造りの床を抉り取った。
三種の爆発を横目に、相手の無茶苦茶っぷりに戦慄を覚えていた。
「もう、ちょこちょこと鬱陶しいなぁ」
悔しげな声が耳鳴りの向こうから届く。可愛らしい声の主へと、殊子は視線を送った。
頬を膨らませるトトゥーリア・ヘルモルト。
その容姿はなでなでしたくなるくらいに愛らしい。だが、両手いっぱいに抱えられた大量の爆発物があまりにもミスマッチだった。
違う。
本当にミスマッチなのは、トトリが躊躇も呵責も戸惑いもなく、初めて出会ったときと変わらない様子で、殊子を殺そうとしている事実だった。
「えーいッ!」
クラフト、フラム、レヘルン、ジオストーン、地球儀。
トトリお手製のアイテムは、確実に殊子の命を奪うべく投擲される。
走り、跳び、転がって回避し、ときには不定量子の反発力場を展開してやり過ごす。
アイテムによる弾幕は、殊子を完全に拒絶しているようだった。
「初めて会ったときもちょっと拒絶され気味だったけど、ここまで酷いとちょっと傷つくにゃー」
ベアトリーチェによる殺戮の悪夢が始まり、トトリと最初に出会った時のことを思い出す。
その記憶が引き金となり、彼女と過ごした時が殊子の脳裏に浮かび上がる。
恐怖に苛まれパニックに陥っていたトトリを抱き締めた温もり。
錬金術について語っていた、楽しそうなトトリの声音。
家族のことを幸せそうに話していた、トトリの横顔。
早乙女アルトを弔ったときのトトリの涙。
舞鶴蜜の死を突き付けられた時に抱き締めてくれた、トトリの優しさ。
覚えている。
この短い間で得た、トトリとの『想い出』を、殊子は覚えている。
トトリと過ごした時間は悪いものではなかった。会えてよかったのだろうと思う。
けれど、それは殊子側の感想だった。
――私じゃなきゃ、よかったんだろうな。
思う。
もしも自分以外の誰かと、トトリが最初に出会っていれば。
たとえば、ヴァージニアやカズマと出会っていれば。
きっと、トトリは壊れなかった。
もっときちんと、トトリの大切な人の死を、正しく悲しんであげられる人が彼女の傍にいればよかったのだろう。
大切な人を何度も何度も何度も亡くしたトトリの傷を。
大好きな姉の死を目の前で見せつけられたトトリの痛みを。
誤魔化さずに癒せる人が、彼女の隣にいればよかったのだろう。
――あるいは、私がもっと早く気付けていればよかったのかな。
思う。
もしも殊子が、もっと早く世界への好意を自覚していたなら。
心に空いた欠落を埋めようとせず、向き合おうとせずに捨て置いていたから、殊子は悲しめなかった。
トトリがどれだけ悲嘆に暮れようとも、結局はどうでもいいのだと思ってしまう自分がいたのだ。
そんな出来損ないの自分のせいで、トトリの大切なものが、致命的なまでに壊れてしまったのは間違いない。
もっと早く、世界が好きだと気付いていれば。
世界は、殊子が思うほど、目覚まし<ハラハラ>時計の思い通りになりはしないのだということに、もっと気付いていれば。
――止めよう。そんな仮定をするために、私はここに残ったんじゃない。
アイテムの猛攻は止まない。
ベアトリーチェが壊れたトトリに与えた特製秘密バッグは、夢の世界にありながら、現実のトトリのアトリエにアクセスできるらしい。
今トトリは、自分のアトリエにたっぷり貯め込んだアイテムを自由に取り出せるのだ。
ならば、アイテムが尽きるまで逃げ続けるのは不可能と言っていい。
それでも、殊子には勝算がある。
この悪夢が始まってから握り締め続けてきた、一枚きりのジョーカーを、殊子は未だ隠し持っているのだ。
それを切ってしまえば、この場は簡単に乗り切れる。
49
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:42:55
けれど。
「トトリちんッ! 私の声が聴こえる? 私が誰だか、分かるッ!?」
けれど殊子は、呼びかける。
爆音に掻き消されないよう、大声でトトリに言葉を投げる。
「知ってるよ。殊子さんでしょ」
当たり前でしょ、とでも言いたげな気安さで、トトリは返答する。
「大うそつきの殊子さん。わたしを騙した殊子さん。お姉ちゃんじゃないのに、お姉ちゃんのフリをした殊子さん」
トトリの声は穏やかだった。糾弾するでもなく、激昂するでもなく、ただ事実を述べるかのように穏やかだった。
「クマさんと同じくらいに許せない、殊子さん」
そして、まるでプレゼントをねだるかのように、トトリは小首を傾げて願うのだ。
「殊子さん。早く、死んで。わたし、ベアちゃんと約束したの」
秘密バッグに手を入れ、
「みんなを殺したら、また会わせてくれるって」
トトリによく似合う可愛らしい鞄をごそごそとまさぐり、
「ジーノくんに、メルお姉ちゃんに、マークさんに、ステルクさんにミミちゃんにクーデリアさんにイクセルさんにゲラルドさんにロロナ先生に」
いつしか顔中を涙で染めて、
「お姉ちゃんにもッ! お母さんにもッ!!」
溢れ出す感情で顔を歪ませて、
「会わせてくれるって、約束したのッ!!」
隕石を束にしたかのような巨大な爆弾を、取り出す。
痛々しかった。
誰も傷つけたくないと願い、誰かの死に心から涙するトトリを知っているだけに、痛々しかった。
きっとこんな感情は、欠落を抱え世界に飽き飽きしていた殊子なら、抱きようがなかった感情だ。
「ねえ、トトリちん。ベアっちが見せるのはさ、夢なんだよ」
それでも別にいいじゃんと、そう思わなくなったのは、世界で生きていくことに意味があると、教えてもらえたからだ。
「私は、トトリちんにそんな生き方をしてほしくない」
だって。
「私は、生きているトトリちんを知っているから。ちゅーしたくなるくらいに可愛いトトリちんを、知ってしまったから」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いなんて、ないよ」
「そうだね。私には、お説教をする資格なんてないって分かってるんだ。だからさ」
もはやトトリは治せない。彼女の願いを叶えても、致命的に壊れてしまった彼女の精神は戻らない。
治せるであろう人は、もうこの世には、一人としていない。もしもまだ、そんな人がいるのなら。
きっとトトリは、壊れていない。
「私が一人でここに残ったのは、トトリちんを説得をするためじゃないんだ」
もはや言葉は届かないから。
私はね、と前置きをして、殊子は笑うのだ。
軽薄そうに、チェシャ猫のように。
「――君に酷いことをするために、ここにいるんだよ」
本気でいるときに見せる獰猛な笑みを殊子が浮かべた瞬間、トトリは、巨大な爆弾を叫びながら投げつけた。
50
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:43:17
◆◆
地響きにも似た爆音が去り、残響が聴覚を痺れさせる。
アランヤ村の住人が全員集まってもまだまだ埋まらないほどの大広間が、焦げ臭い煙で溢れかえっていた。
けほり、とトトリは咳を漏らし、舞い上がり付着した埃を払い落す。
一級品のヒンメルシュテルンは、トトリの自信作の一つだった。
魔物の群れを一掃するためではなく、強敵一体を倒すために特性も厳選して作った一発だ。
もはや骨さえも残ってはいないだろう。
これでいい。あと四人だ。
近づいた。
大好きなみんなに会えるまで、もうちょっとだ。
――まずはクマさんを殺そう。もちろん他も殺すんだけど、クマさんは許せないから真っ先に、っと。
目に痒みを感じる。涙がこぼれてくる。
もうもうと広がる煙が沁みるせいだろうと、トトリはすぐに結論付ける。何せ、錬金術で失敗した時にも、よくあった。
それにしても痒い。痒い。痒い。
目尻に手を当て涙を拭う。
それでも、痒みは収まらない。
こんなことをしている場合じゃないと分かっている。時間はないのだ。
早くしないとと思う。
けれど、目の痒みと涙は止まってくれなくて、トトリは瞳を両手で覆う。
掌で、溢れる涙を必死に拭う。
何も見えなくなる。
視界が暗くなる。
真っ暗になる。
――いや……。
涙は止まらない。
ぐじぐじと、じくじくと、目の奥から溢れて零れていく。
――こわい……。
ひぐっ、と、喉の奥で湿っぽい吐息が詰まった。
世界が暗い。
真っ暗が怖い。
理屈はない。思考もない。何が怖いのかすら分からない。分からないから余計に怖い。
根源的な恐怖が心の底から浮かび上がってきて、弾け、トトリを掻き乱していく。
――いや、いや、いや、いや、いや。いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやッ!!
涙が止まらない。
止まらない涙を収めるには、瞳から両手を離せない。
両手からは臭いがする。
とてもいやな、臭いがする。
「――つかまえた、っと」
どこかで聞いたような声がした。
誰かの声がした。
柔らかいものが体に触れた。
温かいものが全身を包んできた。
鉄の臭いがした。けれど、いい匂いもした。
目を、開ける。
どこかで見たような顔が、すぐそばにあった。
51
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:43:45
◆◆
小さいな、と殊子は思う。
腕の中にあるこの温もりは、まだとても小さい。
こんな小さい身なんだ。あれだけの悲しみと絶望に襲われたら、潰れてしまうに決まっている。
トトリの髪に、そっと触れる。
震え、怯え、泣きじゃくるトトリの頭を、優しく撫でる。
声にならない声で喚くトトリを、抱き締める。
「ごめんね……」
殊子は謝罪する。
分かってあげられなかった過去を。
「ごめんね……」
直せなくなるまで壊れてしまったというのに、それでも涙一つ流せない現在を。
「ごめんね……」
そして、宣言通りに酷いことを行う、未来を。
殊子は、謝罪する。
トトリの柔らかい髪に触れ、撫で、温もりを感じる。生命がある。『想い出』をくれた、たましいがある。
壊してしまうのは簡単だ。少し力を加えれば、この細い身はあっさりと砕け散るだろう。
けれど、そうしたくはなかった。
だって、この子がいたから。
――私は、みっちゃんがいなくなっても、私でいられたんだ。世界を好きだって、思うことができたんだ。
「ありがとう、トトリちん」
告げる。
そして、殊子は目を閉じる。
心の中に潜り、欠落に手を伸ばす。
そこはかつて、世界があった場所。
城島鏡によって奪われた世界――虚軸<キャスト>、目覚まし<ハラハラ>時計が居座っていた場所。
触れる。
世界の残滓――殊子が握り締めてきたジョーカーに、触れる。
晶も硝子も里緒もネアも、もういない。
舞鶴蜜――大事な義妹も、もういない。
それに、もうこの身は長くない。先ほどの強力な爆弾は、殊子の身を焼き血液を垂れ流させていた。
故に、惜しくはない。
虚軸<キャスト>を奪われ、たった一度しか使えくなった力。
それは抗うことのできない、圧倒的な精神操作だ。
世界の残り滓を、引き摺りだす。
懐中時計の姿をした世界が、トトリの頭の上に浮かび上がった。
52
:
メモリーズ・ロスト
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:44:33
「トトゥーリア・ヘルモルト」
自我境界線の侵食が始まる。
それは殊子にできる、今のトトリを救う唯一の方法だった。
「君は、生まれてからずっと――」
たとえその行為が、トトリの精神を凌辱するものであったとしても。
「ずっと、ずっと、ずっと。独りぼっちで、生きてきた」
たとえその強制催眠が、トトリのたいせつな『想い出』を奪うことになるのだとしても。
「独りぼっちで、生きてきたんだ」
『想い出』に振り回され、現実を壊してしまうくらいならば。
「たいせつな人なんていなかった。大好きな人なんて、いなかった」
一度捨ててしまった方が、救われると思えた。
「だから――」
この催眠は、危険だと分かっていた。
大切な人がいないということは、大好きな人がいないということは、トトリを、かつての殊子にしてしまいかねない。
目覚まし<ハラハラ>時計に出会う前の殊子のように、世界を憎み呪い忌み嫌ってしまうかもしれない。
けれど。
「だから、君は、何もなくしてはいないんだ。なくしてなんか、いないんだよ――」
殊子は、思うのだ。
トトリなら。
悪夢の中で出会ったのに、こんなに綺麗な心を持つ女の子なら。
きっと大丈夫だと、殊子は思うのだ。
きっとこれから、たいせつな『想い出』を作っていけると、そう思うのだ。
ぽん、と。
懐中時計が弾けて。
トトリが、嘘のように泣き止んで。
速水殊子の身は、どさりと崩れ落ちたのだった。
――ごめんよ、みんな。私、追いつけそうにないや。
眼を閉じたまま、仰向けに倒れ込んだ殊子が最期に感じたのは。
頬に落ちる、涙の感触だった。
【速水殊子@レジンキャストミルク 死亡】
【トトゥーリア・ヘルモルト@トトリのアトリエ】
[状態]:記憶改変。独りぼっちでいきてきた
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ベアトリーチェ特製秘密バッグ(トトリが想い出を失ったため、アトリエに接続ができなくなった)
53
:
◆6XQgLQ9rNg
:2012/12/15(土) 23:47:58
以上、298話投下終了です。
レジンキャストミルクの専門用語が出てきてしまい、恐縮ですが……
どこまでキャラに触れたりフラグを昇華したりとかの塩梅が難しいですねー。
54
:
名無しロワイアル
:2012/12/16(日) 00:05:26
う、うおぉ……かっこいい
レジンキャストミルクの元ネタ知らないのが悔やまれますが、十分に状況が理解できる
あと強制催眠で精神安定させるために「独りで生きてきた」の凄まじさ……
これは残り297話も読みたくなる…
クマ何したんだろうなあ……
55
:
名無しロワイアル
:2012/12/16(日) 04:56:04
これって、一度に三話投下しなくてもいいんか
56
:
FLASHの人
:2012/12/16(日) 15:19:36
>>55
いいです
その場合は何ロワか判断できるようにだけお願いします
トリだけだとどの続きか一瞬わからなくなりますので
投下前に【●●ロワ】の2話目投下します
くらいでいいと思います
そろそろまとめ作るかしら
57
:
名無しロワイアル
:2012/12/16(日) 20:10:47
おわあ…これはオレのハードル上がりっぱなしやでえ…
58
:
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:19:25
上でテンプレだけ投下した「リ・サンデーロワ」の298話を投下します
59
:
reserve hunt
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:21:02
そこにあったのは扉だ。
貴族の館にあるように華美で、銀行の金庫にあるように重厚で、巨人の城にあるように巨大で……そして、舞台の書き割りのように嘘臭い扉だ。
しかし、逆にその嘘臭さが、その扉の役割を際立たせている。
これはまさに舞台装置。開ければ終局へと向かう一つの切欠。
作られた終わりへの始まり――
扉の前に佇む人影のうちの一人、蝉は明らかに苛立っていた。
「扉があるなら開けるしかねえだろ。割らずに卵は食えねぇんだ」
その言葉とは裏腹に、彼は率先して扉に手をかけるようなことはしない。
自分達の誰かが開けてくれるのを待っているようだった。
あわよくば、そいつが自分の苛立ちにも答えを与えてくれるのではないか。
死んでしまった相棒の岩西の代わりに、この漠然とした気持ちに指向性を持たせてくれるのではないかと期待していた。
「だいたい……っんだよこれは!」
先ほどの言葉に誰も答えないことに更なる苛立ちを募らせ、手に持った武器に向かって悪態をつく。
彼の手にあるのは一本の果物ナイフだ。
このゲームが行われている島、その島に立ち並ぶ廃墟のひとつから見つけ出して、ずっとバッグにしまっていたものだ。
ナイフ使いの名手である蝉にとっては十分に凶器足りうるものではあるが、あくまでそれは一般人相手の話。
これではこれから挑もうとしている相手はおろか、ここにいる残り五人相手にすら心許ない、そんな攻撃力の装備品である。
「おかしいだろ!こんな、こんなイカれたゲームの、最後の最後まで残ったってのか?俺が?果物ナイフ一本でか?」
「だからそれは……」
その名の如く徐々に大きく響いてきた蝉の声に、思わず声をかけたのは黒兎春瓶だ。
「わーってるよ!」
しかし春瓶の言葉を遮るように蝉はさらに鳴く。
「消えてるんだろ!記憶も!人も!武器も!わかってんだよ!でもよ!」
「納得は……難しいわよね」
呟いたのはハクアだ。
彼女もまた、これから戦う相手を考えたら全く使い物にならないであろう、小型の爆弾一つを手の中で弄んでいる。
「んじゃ、どうするんだ?」
春菊の問いかけに答えるものはない。
ここまで来て、止めるという選択肢はない。
それなのに、ありはしないその選択肢に彼らがずっとカーソルを合わせ続けてしまっているのはひとえに戦力不足によるものだった。
60
:
reserve hunt
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:22:29
相手は仙人ゼクレアトル。
人より次元の高い存在だ。
この場合の次元とは、強さが途方もないとか、防御が破れないとか、そういう話ではない。
紙の中に描かれた絵は、描いている人間を攻撃できない。
そういう意味での次元の違い。
奴がもし果てしなく遠い場所にいるだけなら、いつかはたどり着くだろう。
では、どこにもいないとすれば?いることを認識できないとすれば?
ありもしないゴールに向かっては走れない。
今の彼らにはそのゴールを手繰り寄せる何かが必要なのだ。
だというのに、彼ら六人の手にあるものといえば、殆どが現地で調達できる程度の日用品の類。
使い方次第で武器になるものかもしれないが、どう使っても武器にしかならないものと比べるようなものではない。
かつては、このゲーム会場にはもっとずっと強力な武器や防具、アイテムが溢れていた。
妖怪を殺すための槍。
斬った相手の妖力を吸収する大刀。
オリハルコンで作られたナイフ。
攻防一体の多機能マント。
精霊「ジン」を宿した金属器。
星すら破壊する暗黒の魔剣。
etc...
どれか一つくらいは、次元を超えて仙人に届きそうな、超常の力を秘めたアイテムの数々が確かにあった。
しかし、それは全て消えうせた。
正確には、生き残った六人の世界にあるものと、もともとこの島にあったもの。
それ以外は消失(デスアピア)したのだ。
しかし、生き残った六人ですら、自分達がかつて何を持っていたか思い出すことは出来ない。
消えたのはアイテムだけではないのだ。
人も、世界も、想いも、記憶も、誓いも、祈りも、嘆きも、恐怖も、悲しみも、何もかもが消失(デスアピア)したのだ。
だから、ゼクレアトルかた伝えられた「参加者が全員死んだ世界は消える」という情報に基づいて漠然と、「自分が何かを失ったこと」だけを抱えて、先ほどの蝉のように言い知れぬ不安と役立たずの武器を抱えたまま扉を開けられないまま佇んでいる。
61
:
reserve hunt
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:22:57
先ほど、かねてからの怪我による失血が危険域に達していた石島土門が死んだ。
それによって、彼の属していた世界が消失(デスアピア)した。
彼の世界からは、多くの魔道具と呼ばれるアイテムがこのゲームのために集められていた。
それも、全て消えた。
今、扉の前で逡巡する六人も、最後に残った超常的な武器である魔道具に頼った戦略を立て、この場までやってきていたのだ。
そこに吹いた消失(デスアピア)という名の一陣の風。
風の後に、土門のことも、魔道具のことも、覚えているものは一人もいなかった。
「いっそ……全員ここで殺したら、ゲームは終わるんだよな」
「それは……!」
先ほどまでの大声から急落して、低く、小さく呟いた蝉の声に鉢かつぎが焦りを見せる。
彼女は、この中でも彼女だけは殆ど徒手空拳にて戦える実力があるが、右腕一本を失った今、蝉を止められるかどうかはわからない。
「冗談だっつーの……俺は依頼を終わらせるまでは……くそっ!!」
呟いて、蝉はまた苛立ちを顕わにする。
彼が受けた依頼。
プロの殺し屋としてのプライドにかけて何よりも優先すべき事項。
それが「主催者の抹殺」だった。
だが、思い出せない。
誰に依頼されたのか、報酬はいくらなのか、おそらく消失(デスアピア)した何者かによって、強く強く請われたその事柄について、蝉は一切の記憶がな
い。ただ漠然と「依頼だらか主催者を殺す」という思いだけが胸に渦巻いていた。
「引き返しても同じなんだろ」
ずっと口を閉ざしていた霊幻が吐き捨てる。
彼も、思い出せない大事な約束があった気がしていた。
蝉と彼だけではない。
ここにいる六人全てが、何かしらの誓いを携えてここを目指していた。
だからこそ、あれだけゲームに積極的だったハクアや恋川も同じ方向を向いているのだ。
この大きな扉を超えたら最後の戦いになる。
それだけはわかる
それ以外は、何もわからない。
「誰かわからないけど、彼を信じるしかない」
「……覚えちゃいない相手を信じろって言われてもね」
春瓶の言葉にため息をつくハクア。
「それでも、他に道はない」
「ねぇな」
霊幻の呟きに同意する恋川。
「蝉様……」
「……クソッ!」
鉢かつぎの呼びかけに対する答えの代わりに、蝉の拳が扉に叩きつけられた。
ギィ、という見た目よりもずっと軽い音が響いて、扉が開いていく。
放送のたびに空に大写しになっていた、あの生意気そうな顔が見える。
不安を入念に踵で踏み潰しながら、六人は扉の先にゆっくりと進む。
「遅ぇよ。あんな長い心理描写いらねぇんだ。クドいだろ。読者が飽きる」
ゼクレアトルが、そこにいた。
62
:
reserve hunt
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:23:30
【黒兎春瓶@呪法解禁!!ハイド&クローサー】
[状態]:疲労(小)
[装備]:式紙・末吉 式紙・為吉@ムシブギョー
[道具]:基本支給品一式
[思考]:ゼクレアトルを倒し、元の世界に戻る
【鉢かつぎ姫@月光条例】
[状態]:疲労(中)、右腕欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]:ゼクレアトルを倒し、元の世界に戻る
【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:各部に擦り傷、フラッシュバックによる無力化の可能性あり
[装備]:ニューナンブ(残り2発)@現実
[道具]:基本支給品一式、ゼクレアトル 神マンガ戦記 1巻
[思考]:ゼクレアトルを倒し、元の世界に戻る
【ハクア@神のみぞ知るセカイ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:火薬玉「紫陽花玉」@ムシブギョー
[道具]:水、PFP(ゲーム機)
[思考]:ゼクレアトルを倒し、元の世界に戻るor全員を殺して桂馬を生き返らせる
【蝉@魔王、waltz】【マーダー:岩西復活を含む魔王世界の存続が目的】
[状態]:左脇腹に銃創(止血、弾摘出済)
[装備]:果物ナイフ@ムシブギョー
[道具]:未確定支給品1
[思考]:だれかの依頼により、主催者を殺す
【恋川春菊@ムシブギョー、常住戦陣!!ムシブギョー】【マーダー:ムシブギョー世界の存続が目的】【大量出血。現在止血できているが傷が開けば命の
保証はない】
[状態]:腹部に大きな裂傷(止血済みだが傷が開けばまもなく死亡する)
[装備]:カッターナイフ@現実
[道具]:握り飯、酒瓢箪
[思考]:ゼクレアトルを倒し、元の世界に戻るor全員を殺して自分の世界を再生する
【補足】
消失(デスアピア)により、参加者全員が死亡した作品は世界ごと消えます。
消失(デスアピア)した人物に関する記憶、その世界のアイテムも全て消滅します。
消失(デスアピア)前に、筆記などによって残された情報は有効ですが、それをきっかけに消失(デスアピア)した人間や世界を思い出すことは不可能で
す。
63
:
◆nucQuP5m3Y
:2012/12/18(火) 03:24:20
投下は以上です。
本当に書きたいのは次のなんで、頑張ります!
64
:
名無しロワイアル
:2012/12/18(火) 23:35:54
おお・・・支給品とか、
死んだ仲間の思いが消失するってのはなかなか絶望的な状況だ・・・
面白そう
65
:
名無しロワイアル
:2012/12/19(水) 17:53:55
なるほど、死んだ仲間たちの想い出が消える方ばかりに俺は注目してたけど、支給品消失もかなり辛いんだな
これは面白い
そして仙人は波旬クラスってことか、やばいな
66
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2012/12/21(金) 21:33:59
【ロワ名】剣士ロワ
【生存者6名】
1.タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版) マーダー
2.トゥバン・サノオ@海皇紀
3.ゼロ@ロックマンXシリーズ(漫画版設定有)
4.魔龍騎士ゼロガンダム@SDガンダム外伝シリーズ(クラブ・オン・エース)
5.オキクルミ@大神
6.スプラウト@ファントム・ブレイブ
【主催者】
1.幻魔大帝アサルトバスター(死亡)
2.刃斬武(天翔狩人三兄弟・逞鍛)
3.司馬懿サザビー
【主催者の目的】
・蟲毒の儀にて闇を育て、光を闇へと堕転させ、常闇の皇@大神の復活の生贄とする。
そして、その力で以って世を闇へと閉ざし、永く続いた光と闇の戦いに終止符を打つ。
・剣士ばかり集めたのは中心人物のアサルトバスターの意向による。
【補足】
・全員が首輪を解除、トゥバン以外全員が「力の正義でなく、正義の力を」示すべく団結。
・アサルトバスターは司馬懿の姦計により、既に常闇の皇の生贄に捧げられている。
・タクティモンは主催者にスカウトされ、強力すぎて支給品にもされず封印されていた蛇鉄封神丸も返還された。何時でも抜刀可能。
・スプラウトは肉体が闇の力に侵され過ぎ、そして馴染み過ぎており、洗脳フラグが常に立っている。
備忘録&これから書くという意思表明として。
……俺が書くより先に、このネタで誰か書いてもいいんですぜ?
67
:
◆XksB4AwhxU
:2012/12/24(月) 18:11:50
よし、じゃあ俺も参加表明だけはやっちゃうぞ!
【ロワ名】虫ロワ
【生存者6名】
1.王蟲@風の谷のナウシカ【重傷・限界寸前】
2.黒谷ヤマメ@東方project【右腕・両足欠損】
3.ティン@テラフォーマーズ
4.シアン・シンジョーネ@パワポケ12秘密結社編【トラウマによる無力化の可能性あり】
5.虫愛づる姫君@堤中納言物語「虫愛づる姫君」
6.モントゥトゥユピー@HUNTER×HUNTER【メルエムの死に動揺】
あとは、本文中で明かされることになると思う
68
:
SLBR: TRAILER
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:07:00
昨日と同じ今日。
今日と同じ明日。
世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。
だが、人々の知らないところで、すでに世界は変貌していた。
世界を変えしは、たとえば社会の闇に潜む忍者。
すこし遠い歴史の影に消え、それを操ってきた亡霊どもと、黒社会に生きるもの。
繰り返し滅びを刻む『箱庭』の救世主と、かれと同じく、世界を成立させるべく造られたものたち。
超人と人の狭間で生きる『オーヴァード』。ある雪の日、世界すべてに隠さんとしていた存在を叫ばれたもの。
様々な世界より集められた者は、終われぬ戦いを終わらせるものとされた、最後の魔戦に向かっていく。
『素晴らしき小さなバトルロワイアル(Splendid Little B.R.)』
そうして彼らの幾人かは、いつしか現し世のしがらみを忘れた。
持ち得た力への疎ましさや不満を、憤りを、信頼を、振るった腕に溶かし込んだ。
またある者は、おのが生への執着さえも振り払い――小児的な正義感で戦える、いまこのときを愉しんでいる。
69
:
SLBR: REGULATION+
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:07:41
【ロワ名】素晴らしき小さなバトルロワイアル(Splendid Little B.R.)
【生存者6名】
1.アカツキ@エヌアイン完全世界【フラッシュバックによる無力化の可能性】
2.完全者@エヌアイン完全世界
3.ムラクモ@エヌアイン完全世界
4.藤林修羅ノ介(ふじばやし・しゅらのすけ)@シノビガミ・リプレイ戦【右腕使用不可】【限界寸前】
5.加賀十也(かが・とおや)@ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・クロニクル 彷徨のグングニル
6.花白(はなしろ)@花帰葬
【主催者】血盟「影弥勒」
1.☆アカツキ@エヌアイン完全世界【フラッシュバックによる無力化の可能性】
2.☆完全者@エヌアイン完全世界
3.☆ムラクモ@エヌアイン完全世界
4.☆藤林修羅ノ介@シノビガミ・リプレイ戦【右腕使用不可】【限界寸前】
5.「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム
6.黒須左京(くろす・さきょう)@ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・クロニクル 彷徨のグングニル
【主催者の目的】
「忍神」の血を引くとされる忍者のみならず、異能者たちをすべて殺して世界に安寧をもたらす。
――という表向きの【使命】・流儀のもとに、それぞれの【秘密】や【真の使命】を胸に戦いを終わらさんとしている。
当初は異能者を葬る儀式忍法の規模を拡大するため、百人の異能者に対して百人の生贄たる者どもが集められていた。
生存者のうち「影弥勒」にも所属していた者については、主催者一覧における名前の頭に「☆」が付いている。
このうち、儀式忍法の持ち主は『迷宮』の最奥にて他の生存者を待ち受けている。
【参戦作品一覧】
『エヌアイン完全世界』『花帰葬』
『現代忍術バトルRPG シノビガミ −忍神−』『シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム』
『ダブルクロス・リプレイ(オリジン、アライブ、トワイライト、クロニクル)』
【補足】
※戦いの場所は、プライズ『迷核』@迷宮キングダムの力で作りだされた「交錯迷宮」の最奥部です。
※エニグマ【封鎖結界(偽装:命の器、解除条件:二つの陣営の生き残りが十人以下になる)】は解除されました。
主催者側との決戦<クライマックスフェイズ>に突入できます。
※エニグマ【分断(偽装:迷核、解除条件:発見時に自動で解除)】が配置されていました。
主催者側との決戦<クライマックスフェイズ>において、参加者はふたつの戦場へ分割されます。
エニグマは解除されているため、敵勢力を無力化した側の生存者は別の戦場に移動可能です。
※儀式忍法『新神宮殿』『綾鼓ノ儀』の存在が「公開情報」になっています。
70
:
SLBR: REGULATION+
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:08:14
【新神宮殿(あらがみきゅうでん)】
――神器の力を手にし、我欲と力に溺れて世界を壊す「偽りの忍神」。
彼らを世界より追放する儀式忍法『棄神宮殿(きしんきゅうでん)』@シノビガミの術式を組み替えたもの。
斜歯忍軍の神器・未来を見透す『神鏡』と、人の心を解体して得られるという『理想の見る夢』――。
神器と「部品」の両方を神の死体に宿した者は、世界の未来を見透しても揺らがず、神となってなお夢を手放さない者となる。
上記の儀式を完遂すれば、願いを叶えることの出来る秘法・天上天下を手にした「真の忍神」をひとり生み出せる。
ただし、あくまで棄神宮殿の術式を下敷きにしているため、最後の生き残り以外はすべて儀式の贄となる。
また、天上天下の秘法では「真の忍神」自身の願いを叶えることだけは出来ない。
【綾鼓ノ儀(あやつづみのぎ)】
ムラクモ@エヌアイン完全世界の手にした儀式忍法。
未来を見通したがゆえの呪詛と絶望を練り上げた『天魔伏滅の法』が変奏。
この儀式忍法が発動している間、『理想の見る夢』は真の力を顕すことが出来ない。
※『天魔伏滅の法』@シノビガミ乱
複雑な手順を繰り返すことで、広い範囲に効果を及ぼす忍法のひとつ。
この儀式忍法の持ち主がいるシーンで【生命力】がゼロになった者は必ず死亡する。
儀式忍法の持ち主を無力化するか術式そのものを攻撃して破壊すると、この効果は失われる。
71
:
◆6KdnbjZpWY
:2012/12/27(木) 23:09:06
しん、と張り詰めた空気が、空より和らぐ場所であった。
風待ちが匂草(においぐさ)の、こぼれゆくさまはひどくまぶしい。
空なき迷宮の一室に舞い込んでいるのは飛雪とも、桜とも見まごうほどの白梅だ。
それが、いま、ある箱庭において滅びをもたらすものと忌まれた雪とともに、遊んでいる。
「……東風吹かばってやつかね」
その花弁のひとひらを、苦もなく掴む左手があった。
節の目立つ五指のあるじは、糸のように細い目をした少年である。
墨を思わせる黒に塗れたシャツの一枚だけで雪交じりの風を受けていながら、彼は寒さに震えもしない。
全身に刻まれた、傷とも呼べぬ衝撃――。萬川集海と呼ばれる忍法の秘伝書に同化している少年が、自分自身の
かたちをとれずに巻物へ呑まれる状態が迫っている状態においては震えることすら贅沢であった。
「こいつがアンタの《希望》なら、桜か菊かなあって思ったんだけどさ」
今さらどうでもいいか、そんなこと。
花の白にさす萼の赤を、面白くもなさそうな顔で瞥した少年の瞳は、鋼玉を思わせて紅かった。
月光の、したたるような微笑で応じた男――菊の御紋が襟に輝く軍人の双眸もまた、血の赤をしている。
「英断と言うべきか。熟慮のうえで此方を選んだようだな。伊賀の末裔、藤林修羅ノ介」
「へぇ。俺の名前、覚えててくれたんだ」ぱたぱたと音をたててはためくネクタイを、修羅ノ介と呼ばれた
少年は胸ポケットに挟んでいたピンで留めた。鍍金の安い輝きが、瞬間瞳に映り込む。
「『皆平等に殺す』なんて言ってたらしいのに、ありがたい話だぜ。なあ……ムラクモさんよ」
空を砕いた石の床も、助勢を断ち切る厚い壁も埋め尽くすほどの白。
ともすれば茫洋とした心地を呼ぶ場にあって、潜めた呼吸が数度にわたって刻まれた。
沈黙を支配していたのは怒気か、あるいは別のなにかであったのか。
「ま、それもどうだっていいんだ。
だって俺には、アンタたちと敵対する使命なんざないんだもん」
刀の鍔を鳴らしたムラクモへ向けて、修羅ノ介は即座に両手を挙げてみせた。
「ここにいるヤツは全員『異能者』の生き残りで、『影弥勒』の側にもついてるんだ。
だから『敵』に立ち向かうために単独行動も出来るし、『敵』だけど殺し合う義務もない。そこを褒めてくれたんでしょ」
「本当に、お前がかの血盟に賛同しているかは知れんのだがな」
「便利な言葉だ。……そっくりそのまま返せそうだぜ」
若く張った響きの声に含まれたものの意味を感じ取った修羅ノ介は、喉奥にと笑いを押し込める。
真っ白な世界の差し色であった瞳を細めた、少年は爪が剥がれて紙と変じた親指でもって背後をさした。
「そこのは、アンタが殺したの?」
追って日々の挨拶と同じような口ぶりの言葉が、ムラクモに向けてほうられる。
修羅ノ介の指が示した先にあるのは、うつ伏せに倒れ込んでいるヒトの、肉体だ。
銀花の冷気に青みゆく、肉はだらりと緩んで、かおれる雪へ埋もれた、髪は花よりおぼろな彩りを晒している。
皮の一枚もやぶれてしまえば、そのまま石床にさえ解けていきそうに果敢ない輪郭をした――肉。
いかに修飾しようと、究極的には肉塊と言うより他にないものへ視線をやったムラクモの、色のない髪に雪がからんだ。
「息をしているのかどうか、己で確かめてみるがいい」
「ヤだ」試すような言の葉を、修羅ノ介は即座に断った。「天魔伏滅の法……あの全殺しの呪いも、ついさっき感じた
ばっかなんだ。迷宮じゃ死んだヤツの記憶以外が蘇るからって、死人を再殺するようなヤツらもいるんだぜぇ」
風が吹く。無彩色の雪が舞う。風が鳴く。無彩色の花が重なる。
風が煽った白梅が萼の、赤はかくれて、綾をなした無彩色は白銀の途とつらなる。
「だから決めた。そっちのヤツが『なんとか・オブ・ザ・デッド』とか呼ばれるまでに、俺は速攻でお前と戦う」
時の流れが体現に一瞥もくれぬまま、帝國陸軍武官の前に立つ少年は、つよい調子で言葉を継いだ。
72
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:10:11
「なぜって俺は……藤林だから」
静謐で予断を許さぬ響きが示すは、世界に対する強制である。
さながら魔法使いと呼ばれるものが、刻印を刻んだ物語を魔法とするように。言法(げんぽう)と呼ばれるほどに
洗練された言霊術の使い手が、言葉の意味をよすがに他者の意味をも解体するように。
「そう。俺は私立御斎学園が中忍頭のひとり。伊賀の末裔たる藤林の、修羅ノ介だ」
藤林が忍術秘伝、萬川集海の一部となって久しい少年は、
この場の誰に聴かせる要もない言葉と、妄執の焔でもって、
奥義書そのものとなった身体に、真実を刻み込もうとしていた。
「この迷宮の核を起動させたヤツが、あるいは花を舞わせるアンタが、ここを迷宮だと信じるように」
もはや道具のひとつも使うことすらままならないはずの指は、しかして止まらない。
達人の領域にまで昇華した火術の練度と、己のよすがたる過去をもって、彼は彼の真実を自身に示す。
藤林修羅ノ介。かつて忍神に出逢ったことのある男。その事件で家族を喪い、彼らを蘇生する法を求めて
萬川集海の断章を集めた少年。無機物を依り代としたがゆえに、喪失の時から止まってしまった愚か者。
愚か者。亡くしたものしか要らないことの、いったいなにが悪いのか。そんな思いを疑わず抱いた頃もあった。
その考えが正しいと思うこともあれば、二度と手に入らないものをしか求めぬ者に嫌悪をおぼえた瞬間も、あった。
――だから分かるんだよ。お前だって、なくしたものしか要らないんだろうが。
東風吹かば、火勢はかえって勢いと、秘伝書に刻む情報のするどさとを増した。
春を忘るなと梅花に告げたものの思いが分かるからこそ、藤林修羅ノ介はここにいる。
そうと思った瞬間に、ばらりと腕が巻物となって崩れんとするような体であろうと。いいや。そうした状態に
あるからこそ、この自分は、単身ムラクモたちのいるとみた場所に駆けることを選んだのだ。
血盟のものが迷宮を『分断』した時点で戦うほかない現実も、自分が奥義書に呑まれかけている事実も分かっている。
それでも、ひとえに残る者たちの力を信じて、彼らがより大きな戦力で倒すべきものを打倒することに懸けたのだ。
「この迷宮の構造を、迷いや力で歪ませて『交錯』させちまったヤツの、それ以上に」
眼前ではムラクモが、修羅ノ介の姿を見つめていた。
熱に煽られて動じぬ相手の赤い瞳は、かりそめの不死を得た少年のそれとよく似ている。
少年と男の違いを挙げるとするなら――完全者たる敵手は、死してなおも同じ表情で蘇る。死の過程において
敗北しているからこそ、これ以上、心のありようをゆがめもしないということくらいだろうか。
――けど、それにしたって問題ないさ。お前はそんなに本気なんだからなッ!
天魔伏滅の法。
くしくも、ムラクモ自身の織り上げた儀式忍法こそがいま、彼の不死を封殺している。
真水(しみず)がごとくに研ぎ澄まされた、術者の精神。生贄として、胸を貫かれたものどもの呪詛。
生き汚くあがくものの命脈を立つべく送られる配下。自他に向けて明らかにした急所と、倒すと定めた敵手の力。
加えて呪詛が祈りともなるほど密に、氷に触れたかのような熱を含んで編まれた呪文――。
綾鼓ノ儀を成すために行われた儀式は、致命の一撃を受けたものが、なお生き延びるという未来を徹底的に殺していた。
なればこそ、この鉄火場にある誰にとっても次などない。
それは転生の法を手にした完全者も、無機物に依って生きる藤林修羅ノ介とても同じことだ。
この一点にこそ《希望》と、ありったけの《気力》を込めて、彼は想いを結実させた成句をたからかに、
「俺、は――」
放とうとして、息が、音を伴わぬまま歯列をすり抜けた。
続く言葉を紡ごうとして、意思が、かたちを成さぬままに脳漿を滑り落ちた。
いいや、いいや。脳漿など、もはや、この身体にはないはずだ。それよりも自分は、この男になにを
言おうとした。いいや違う。自身を取り巻く世界に向かって、いったい、なにを言おうとしていた。
思いが力になるという迷宮を信じ、この男と萬川集海とに対抗すべく――。
藤林修羅ノ介は、いまの自分がもつべきを、なにと定義しようとしていたのだ?
73
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:10:55
「……っは、あ、ぁ……ぐぅッ」
無いはずの肋骨を開かれ、心臓に手をかけられるような、それは空白がもたらす喪失の衝撃。
問いがないところに、答えを導かんとする行いに対する裁きのような圧力が、火を操る術に練達した
修羅ノ介の手許を狂わせた。燃え移ることこそなかったが、術を解いてなお反動が激しい。
脳漿などないと知れた身体が呼吸をしても、もはや息さえすることが出来ない。
藤林修羅ノ介。
忍神に家族を奪われた、伊賀の末裔。そんなことはもう「知って」いる。
萬川集海の断章たる『六道の書』。御斎学園の生徒会長だけが持てる奥義書を求めて、六道祭と呼ばれる
魔戦に挑戦してきた『エターナル二年生』。そんなことは先ほどから、嫌になるほど「思い出して」いる。
数えて五回、生徒会長になれず、あのときもまた負けを喫した。そんな思い出は真っ先に「刻んだ」。
では、それではなにをこの身に灼いて――。
二度と忘れることのないように、焼き付けてしまいたかったというのだ。
自分の《気力》を奪おうとする無力感でなく、《希望》の対となる絶望などでもなく、
負けた記憶を手にして、次などない場所でこの武官たちに勝つための、なにを。
「絶対失敗<ファンブル>か。萬川集海との争いも、そろそろ終わりが近いようだな」
含みを帯びて艶めいた声を見上げてみれば、そこに男の憐憫があった。
見上げて、いるからだろうか。激情を抑えて深く刻まれた眉間の皺も、眼頬溝におちている翳も、秀でた
額から束をなして落ちる髪も。ムラクモの顔に影を落としているべきすべてが、双眸に浮かぶ一切を隠さない。
不死のあらわれたる瞳の赤は、いま。鋼のような印象とかけ離れて、沁み入るような光を帯びている。
そこに疲労と紙一重の憂いを見出したからこそ、修羅ノ介には、その色がいやに濡れてみえた。
「ならば、この手でヴァルハラへ送ってやる。そう言うべきなのだろうが」
開いた口から放たれた声が、明らかに耳ではない箇所を伝わって少年に届く。
しかし、いったいなにが起きて、自分は彼を見上げることになったのだろうか。仰向けに倒れ込た覚えもない
少年は、間の抜けた思考に舌打ちすることもかなわぬ状態に陥っていた。
萬川集海。自分が力の源泉としていた秘伝書が、脚と言わず腕と言わず、元の形に戻ってしまったのだ。
「――その死線を乗り越えたならば、あの女の秘蹟も目にすることがかなうだろう」
「は、ッ。やっぱそういうカラクリかよ……!」
しかして自身の望みや形を忘れてさえも、彼はムラクモの言う女の存在だけは忘れていなかった。
完全者ミュカレ。魔戦が繰り広げられた地にあって、いくたびもの転生を繰り返してきたという魔女。
乗り心地がよい身体だと、御斎学園の申し子だった少女の見目で告げられたことは鮮やかに「憶えている」。
――だけど、こいつらをどうにかするには、なにが必要……なんだっけ。
びょう、と激しさを増した風が、修羅ノ介であった秘伝書を揺らした。
流れた命のうえに止めどなく降り注ぐ六花と梅の香が、思考を白く染めあげてゆく。
かすむ意識を、今にも手放してしまいそうな自身に――より正確には自身の敗北に対する諦観は、先ほど
空白に対して覚えた恐れと紙一重の恍惚を意識に運んできた。
「……生き残りたければ祈るがいい。
希望が人に力を与え、思いが人を動かす場が迷宮なのだと言うのならな」
「その、さ。――祈りって、なんだっけ?」
転瞬、武官の漏らした失笑が、石床の上にも伝わる。
「神になにかを願うことだ。もっとも、お前の神はすでにいないが」
「なんでだよ。『忍神』とかなら、これから生まれるかもしれねぇだろ……」
ムラクモの答えを受けた少年は、彼に応じながらも、まったく別のことを考えていた。
簡単だった。まったく簡単なことだった。改めて考えるまでもなく、自分はいつもやっていたではないか。
問いの無い場に答えを見出すよりも、誰かに問いをかければ良い。
お前は誰だ。
朝が来て、目覚めるたびに、自分はその問いを発していた。
そうと問えば、必ず答えが返って来た。瀧夜叉。家族を取り戻したいと願った自分が従えていた屍人の、
無機質なくちびるの動くさまを「追憶」して、修羅ノ介は、あの儀式を思い出す。
萬川集海に自らを定義する過程を、思い出して、ここでは無理なことだとかぶりをふる。
74
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:11:13
敵意さえ交錯する迷宮において、下手なものに問いをかけたなら、答えを喉元に突きつけられかねない。
どのような答えであっても、問いをかけたからには受け取れということになれば、自分は誰より無力になる。
信じてしまえば、刻みつける真実を間違えてしまえば、傷つき命を落とすことすら正答にされてしまうのだから。
「ああ――」
意味をなさず、どこにも続きはしない音の、振動が花を散らした。
散らしたところで延々と、ふたつの花は焔の余韻を掻き消すように咲き乱れる。
神の見放した世界にあって、孤独にだけは陥らないのが、無機物にとっての救いであった。
【交錯迷宮・咲乱の間】
【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:【人類の敵】、転生中、???
[備考]:転生の法@エヌアイン完全世界は、『天魔伏滅の法』の発動前に効果を表しています。
【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:【人類の敵】、???
[装備・所持品]:神鏡@シノビガミ、???
[秘密]:???
[備考]:儀式忍法『天魔伏滅の法』と、その変奏『綾鼓ノ儀』を発動させています。
この儀式忍法が発動している間、【生命力】がゼロになったキャラクターは必ず死亡します。
【藤林修羅ノ介@シノビガミ・リプレイ戦】
[状態]:【右腕使用不可】、【限界寸前】、達人:火術、???
[装備・所持品]:萬川集海@シノビガミ・リプレイ戦、???
[思考]:萬川集海による侵蝕。能動的な行動が出来なくなりつつある
[備考]:修羅ノ介の体を構成しているのは、萬川集海@シノビガミ・リプレイ戦です。
※白梅の鮮華(Heartless Memory)
交錯迷宮・咲乱の間には、こぼれる雪と白梅が舞い遊んでいます。
.
75
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:11:29
◆◆
せかいの嘆きが、聞こえていた。
せかいは、ただ嘆いているだけで、僕の声なんて聞かなかった。
◆◆
.
76
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:11:54
迷宮。
天井と壁で区切られた空間に、雪が降っていた。
各所に配された灯り星の光を受けて、六花は端正なつくりの結晶を透かせている。
迷宮化現象が世界の全域に広がった『百万迷宮』においても、こうした光景は珍しいものではない。
世界を我が物にせんとした災厄王を、迷宮――罪人がつながれる牢獄に幽閉すべく発動した魔法が世界全土に
広がった結果、迷宮は空や星をも飲み込んでしまったからだ。
迷宮災厄以前には人の手に届かなかったと言われている星など、今では料理や生活、迷宮の探索に欠かせぬ道具や、
うかつに手を出してはならない強敵として、百万迷宮の民に広く認識されている。
それは雪にしても同じだ。百万迷宮を開拓し、平穏を求める民に応えて王国を創成するランドメイカーが迷宮の北に
向かったなら、雪うさぎの吐く氷の息や広範囲を切り裂く葉っぱで歓迎を受けることは想像にかたくない。
すくなくとも、災厄王の子孫にして騎士たる「落下ダメージの」テトリス――。
民なき者<アデモス>として百万迷宮を放浪している少年にとって、これらはすべて親しい事例であった。
「しかしあいつは……よっぽど、雪や氷に思い入れでもあったのか」
そうであるからこそ行き着いた可能性を吟味して、彼は口から細く息をついた。
凍りながらもほどけてゆく呼気でぼやけた眼鏡のレンズを拭えば、猫のような黒耳もひくつく。
同じ血盟『影弥勒』にありながら、つねに単独で行動する黒須左京から、そうした話を聞ける時などなかった。
加えて、北極海から蘇って任務を遂行せんとしたアカツキや、萬川集海が断章を手にすべく臨んだ魔戦を極地と
変えてのけた藤林修羅ノ介など、ここには大なり小なり雪に縁のあるものが存在している。
――むろんというべきか。
それは、埒もない考えを弄ぶテトリスとて例外ではなかった。
彼と雪を最も強くつなぐのは、あの、荒野を目指した日。
猶予期間を過ぎて、騎士のまま居着いていた暗黒不思議学園を「卒業」した春のことである。
王になって戻ると約束を交わした乙女と別れたその日にも、迷宮の一角には時期はずれの雪が降っていたのだ。
ウマトカゲの背で揺られつつ、ロケットに収めた乙女の肖像画を折にふれて眺めていた――あのとき。
学園の方角からやってきたように思えた雪風巻の出処を、少年は、ただ一度だけ振り返って確かめていた。
身に浴びた雪の色合い、勢い。風の鳴る音。鼻孔をついて郷愁を喚起する冷気などは、いまも鮮やかに思い出せる。
「ん〜。……そんなに深く考えなくてもいいと思うんだけどな。僕、こういう雪は嫌いじゃないし」
愚考に耽るという猶予期間を断ち切ったのは、やはり、雪に関するものであった。
少年と青年の狭間にある男声が迷宮の壁に反響して、台詞にそぐわぬ深みとゆらぎを醸す。
声のあるじに視線をやれば、彼は満面の笑みを浮かべて、薄紅の髪を雪の舞う風に鳴らしてみせた。
「ね、テトリスって言ったっけ。きみはここを『交錯迷宮』って言ってたよね。
強い力を持ってるヒトがいたら、ダンジョンマスターじゃなくても世界を塗り替えられるんだって」
「ああ。だから、交錯迷宮には強敵や複雑な通路、広い部屋に……罠なんかも生まれてしまうらしいんだが」
盟友の書いたものとはいえ、さすがに手紙の内容を諳んじることまでは出来ない。
それ以前に、いまのテトリスには優先すべき事柄があった。
「お前が、この部屋の罠だったってことでいいのか? 花白。『箱庭』とやらの救世主様」
「へぇ? ……きみがそれを言うのは、ちょっとおかしいんじゃない?」
硝子のように透き通った刀身の剣を構えた花白の、笑みの質が変化する。
他人の返り血に濡れたまま、どこか遠くを見ていた少年は、テトリスへの険を隠そうともしない。
「この迷宮の核を持ってるのも、殺し合いを始めたのも『影弥勒』の側だったろ。
それで、ここじゃテトリスが『影弥勒』。僕が生き残り。敵同士だ、なんて考えるまでもないから」
低めた声に憤懣を押し込めた少年が纏うは、たとえば、空から降る白い花。
救世主と呼ばれる存在が、世界を救うと同時に花へ変えてゆくとされる雪の、ひとひらだ。
桜と見まごうほどに、救世主とされた少年を包む天花は果敢なく透き通っている。
けれども、そこにあるのは神々しさでなく痛ましさだった。
みずから選んだ孤高でさえない、孤独に追い込まれた者の姿であった。
77
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:12:24
凄絶なまでに強く、世界を憎むものが生みだした、美しさと紙一重の行き止まり――。
「違うッ!」
その滑稽を目の当たりにしたテトリスは、瞬間視界が赤く染まるほどの怒りを覚えて叫んだ。
「そうじゃない。ボクが言いたいのは、そんなコトじゃない!」
雪。『箱庭』では世界のすべてに忌まれたという、世界に近づく滅びの証。
騎士の抜いた大剣は、これまで積み重ねてた武勇を示すように、風に逃げてゆくはずのそれを断ち割る。
「ここでお話? わざわざ前後不覚になってくれるの? 僕は、別にそれでもいいけど……さッ!」
「あいにくだが、ッ、こっちの質問はひとつだよ」
騎士の乱舞に繋がる突撃を、花白は身を翻して避け、さらに大剣の横腹を蹴りつけていなした。
体幹がぶれたところに襲いかかった感覚的かつ正しい薙ぎ払いを、テトリスもまた飛び退って避ける。
「どうして、『影弥勒』じゃないお前が、加賀十也を殺した?」
「……ああ」
問いに返って来たものは、ころころと表情の変わる花白の、破顔一笑というべき顔だった。
「『真の忍神』とかいうヤツに、願いを叶えて欲しいから?
アイツがかみさまの器だとは思わないけど、うっかり横合いから取られちゃったら厄介でしょ」
けれども彼は、自分の口にした言葉をまったくと信じていない。
それだけではなく、目だけがかたくななまでに、笑っていなかった。
雪に映える髪と同じ薄紅の双眸は、ずっと敵意で満たされていた。『分断』された迷宮の最奥部。双子の部屋の
片方で、敵手を潰す最後の戦い<クライマックスフェイズ>を始めた五人の交錯から――いまこのときにおいてさえ。
「それを信じたら、お前は満足するのか」
「まさか」
気負いなく剣を携えているようでいながら、花白の表情にはひどく余裕が無い。
自分の一言一句に眉を跳ね上げるさまを見るに至って、テトリスもムラクモの考えの正しさを認めざるを得なかった。
――命の器が壊れかけているいま、世界の嘆きも最大限に高まっているはずだ。
……その、嘆きの声とやらが聞こえる『救世主』。
黒須左京の展開した交錯迷宮に干渉し、そこを銀世界に塗り替えるだけの力を扱う花白を真っ先に落とした
ならば、この盤面は一気に整理されるだろう。
「こんなので食い足りるわけなんかない。僕には、かみさまに伝えたい願いだってない」
いまにも泣きそうな顔した少年は、血の凍って貼り付いた剣を振るうこともなく、
「だけどさ。だけど……思ったよ。
どうしてアイツらは、あんなに優しいままで、相手のことを『殺す』だなんて言えたの?」
自分自身にこそ叩きつけるような声音であまく、せつなく、腐り果てるしかない思いを告げた。
その言葉がもつ意味は、息を呑んだテトリスも、『影弥勒』が一員として可能な範囲で理解していた。
《タッピング&オンエア》。迷核を起動させたダンジョンマスターでもあり、純血の雷使いである黒須左京が
『影弥勒』の面々に流していった映像は、血の匂いを思い起こせるほど鮮やかに焼き付けられている。
玄冬が、花白を殺そうとしていた。
花白は、玄冬に殺されようとしていた。
まるで、先刻の十也と左京が見せた光景のように。
ただし、彼らよりは少しく穏やかに、落ち着いて終わりを迎えようとしていたのだ。
彼らふたりの生きた箱庭において、玄冬は、救世主たる花白にしか殺せない。
魔王たる玄冬を殺したならば、命の器に嘆きが満ち、終わらぬ冬に滅ばんとする世界に四季をもたらせる。
人々が争いを繰り返し、命の器が限界に近づいて、次の玄冬や花白が生まれ巡りあうそのときまで。
だが、玄冬を裁くべきとされた今の救世主――花白は玄冬の顔を知ってしまった。
彼の優しさを、彼の拘泥を、彼の抱いた罪悪感を知って、そこにある嘆きを思ってしまった。
――なあ、花白。ふたりで……死のうか。
玄冬の、涙も流せず乾いた声が、耳に蘇るようだった。
あの青年を殺せなくなった花白にとり、あの提案は、ひどく優しいものだったのだろう。
けれどもあれは、あれを愛と呼ぶのなら、そんなものは無くなってしまえと言いたくなるような愁嘆場だった。
それでもあれは、「茸ドラゴンにでも食わせてしまえ」と言い捨てるだけでは忘れられない夢でもあった。
花白が玄冬を殺しても、なにも終わらない場所でもなければ、玄冬は花白を殺そうとしなかったであろうから。
78
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:12:44
「あのときは、すごく嬉しかった。……嬉しかったんだよ。
だってずっと、玄冬は僕に。玄冬を好きな僕に『自分を殺してくれ』って、そればかり言ってたんだもの」
続き続いて、終わることのない嘆きに、流されないためにだろうか。
無防備な少年へ打ち込もうにも打ち込めないテトリスは、黙して大剣の柄を握りこんだ。
好きなものを、ただ好きだって言うためにだって、他の誰かに血を流させなきゃいけなかったんだ。
騎士の吐息に色がつく。こんなものが分かってしまうなら。吐息についたは、呆れだった。誰を好きになりたい。
それが望みであったなら、目の前に立つこの少年が他者を裁く救世主になどなれるはずはない。
人はすべて虜囚とも言われる百万迷宮においてさえ、他者を裁けば、その者に《敵意》が向くというのに。
「なのに、なんでだろ……」寒いね、とこぼした花白の、声は怒りに震えていた。「どうして、僕は玄冬を信じて、
一太刀受けてやれなかったのかな。それで全部が終わった。僕たちの中だけで終われたのに」
自己嫌悪を胸に、力なく首を振る花白からは、もはや鬼気など感じ取れない。
「結局、僕が全部壊しちゃったんだ。
あの世界にいた皆を殺そうとしなかったのは、綺麗な手で世界を掴めるのは、玄冬だけだった。
アイツなら……ひょっとしたら『真の忍神』を殴ったあとにでも、なにか願ってくれるかもしれなかったのに」
『もったいないだろ』なんて、言いながらね。
そうしてうそぶく花白は、いつまで経っても終わらない。
終わればそこで玄冬を忘れるのだとばかりに、あの瞬間から動かない。
止めどなく流れ続ける救世主の言の葉を、テトリスは途中から聴き流していた。
世界を恨み、憎み呪って紡ぐ言で、誰より先に花白が虚しさにとらわれていると知れたからだった。
それを分かってしまったからこそ、そんなことは、ここで終わりにしてやらなければならないとも思えた。
「ああ。そうだな。お前は、たとえ創世主になっても、平和や幸せを願えない」
「そうだね。人を殺さなくても成り立つ世界だなんて、僕には想像出来ないや」
幸せという単語にこそ、花白は殴られたような衝撃を受けていた。
いっとき血の臭いが消えたことに安堵すれども、少年には、その場所が楽園や――自分が育って巣立つまで
居続けられる学園だとさえ感じることが出来ないだろうと、テトリスにさえ信じられる。
だからこそ、つかの間の息継ぎを終えて、花白は剣を構え直した。
「玄冬の剣を僕は避けた。……だから、もう他のヤツには斬られてやらないよ」
「死ぬわけにいかないってのは、ボクも同じだ。諦めを知らぬものが騎士なんだからな」
騎士ではだめだと乙女に告げたテトリスは、だからこそ花白に名乗りをあげる。
「その様子だと、騎士なんざ嫌いなんだろうが……それで剣を振るえるなら、もう一度聞いておけ。
ボクは『落下ダメージの』パジトノフ侯爵テトリス九世。『災厄の王子』だとも、いつか人に呼ばせてみせるさッ!」
スキルとしての意味をなさぬ名乗りであろうとも、それはテトリスに力を与えてくれる。
救世主が諦め、すでにして救われないと決まっている世界の果てにあってさえ、
ともしびは、消えない。
【交錯迷宮・合咲の間 Side.B】
【「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム】
[状態]:災厄の王子
[装備・所持品]:大剣@迷宮キングダム、希望の魔除け@ラストレムナント
[思考]:花白と戦い、彼を終わらせる
[備考]:血盟忍法【二人袴】を修得しています。
血盟「影弥勒」の誰かが【感情】を抱いたとき、同じ対象に同種の【感情】を抱くことが出来ます。
【花白@花帰葬】
[状態]:【人類の敵】、右肘に擦り傷、自動回復中
[装備・所持品]:救世主の剣@花帰葬、幽命丹@シノビガミ
[思考]:この箱庭の創世主を殺す。それまでの障害になる者を殺す。諦めた者を殺す。玄冬を殺した者を殺す
[備考]:エンディング『約束』後の参戦。救世主としての力は失っていません。
◆◆
.
79
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:13:31
現人神たるムラクモと、萬川集海に呑まれた藤林修羅ノ介。いまだ目覚めぬ完全者。
「落下ダメージの」、あるいは「災厄の王子」テトリスと、喪失を前にに立ち止まり続ける花白。
最後の戦いにあたり、優しさがゆえに殺された「探求の獣(クエスティングビースト)」加賀十也。
ふたつに『分断』された戦場のなか、六人の去就が定かになった。
残るふたり。アカツキと黒須左京は、盤面のどこに位置することを選んだのか。選べたのか。選ぶ余力が残っていたのか。
謎を解く鍵は、盤の土台となった迷核を手にする『交錯迷宮』のダンジョンマスター・黒須左京――。
レネゲイドと呼ばれるウィルスがもたらす力に適合し、それゆえにすべてを貫く槍となった少年が握っていた。
◆◆
風をはらんだ布のたてる音が、迷宮の壁を滑っていった。
壁に反響しているのは、なにもかもを断ち切り灼き尽くす紫電の轟きだ。
――いつか、この手でお前を殺す。それが俺の責任なんだ。
……加賀十也。
超常の力を得て、なおも守りたいもののために戦った、人にも超人にもなれぬ半端者。
オーヴァードとしてのコードネームを呼ばれることを嫌い、日常にあり続けようとした少年。
オーヴァードとしての誇りゆえに道を違えた黒須左京に向けて、そこまで言うことのできた唯一の人間。
人とオーヴァードの共存を目指した組織、人類の盾たるUGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)と、
彼らに敵対する者ども双方にとっての裏切り者となった黒須左京。
人類の敵と己を定義した「マスターレイス14'」の、日常にただひとつ残していたよすが。
そこまで思える『絆』を喪った寂しさの底を抜けて、雷は雪を呼ぶ。
空より奏でられる花の、熱にほどけてゆくさまに、視線を遣ることなど、なく。
「ふっ。巧く割り込んだものだな」
鼻にかかった笑い声に、皮肉げな言葉つきが追随した。
眼鏡の下の三白眼と、青ざめた唇の引き結ばれるさまは、いずれも剃刀のようにするどい。
触れれば切れるいでたちは、完全教団の兵士が纏う白い服の、しわひとつない着こなしにも表れている。
それとまったく同じことが、黒須左京に相対しているアカツキのいでたちにも言えた。
雪白に染まった迷宮にあって、彼らの衣服もまた、雪に隠れてしまうほどに白い。
「お前が『影弥勒』を抜けてまで、テトリスの側を引き寄せるとは思わなかったが」
花白が十也を殺し、左京が自失するほどの怒りを表した瞬間――。
アカツキがとっさに使ったのは、血盟に属したものの覚えられる忍法・外連であった。
同じ血盟の者と間合を入れ替える技。とっさの裏切りや不意討ちの防止にも役立つがゆえに、アカツキは
『影弥勒』に入ることを選んだあと、奥義書からこの忍法を修得すると決めた。
だが、それが完全に嵌ったこの瞬間においても、アカツキには分からない。
さほど耐久力があるようにも見えない左京が、どうして騎士との一対一「から」やろうとしたのか。
この戦いに勝てる保証もないというのに、どうして、友人の仇となったはずの花白からやろうとしなかったのか。
「ああなった花白を殺そうとして、一体なんの意味がある」
左京の声は疑問のすべてを切り捨てるほどに強く、叩きつけるような響きをしていた。
「腐っても、あれはひとつの世界の救世主だ」救世主という言葉は、さらに強い調子でつむがれる。「アイツの仇を
とろうとして、いちどきに切れる札をなくせるほどの余裕は、俺に無い」
「……人と超人の間に線を引く。それがお前の『欲望』だったな」
「そうだ。あれは――加賀十也は、その考えを理解しても、俺に刃を向けることがかなうヤツだった」
眼鏡の奥の瞳が泥のように濁りながら、それでもいっとき雷を映して輝いた。
80
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:13:58
「だから、な」
電光被服の指先から散る紫電の、彩りは文字どおりの紫である。
「俺は、アイツ以外の人間はもう見ない。人として殺してやる約束を交わすのは、後にも先にも、アイツだけだ」
絆をあらわす此の糸を、左京はみずから握りつぶした。
「花白の様子を見ただろう。あれも俺の怒りを煽って……ダンジョンマスターの人体が迷宮化することを狙っていた
のかもしれないが。まだ、ジャームと変わらん魔物になるには早すぎる」
転瞬。風に体温を奪われて、紙のように白くなった頬が、引きつるように持ち上がる。
「アカツキ。アカツキ、試製一號。救世主が放った『光』で、自身の歩む理由をも忘れた愚か者」
削られる体力を、ただ意地と誇りで支えた左京は、唇を横に引き伸ばしてみせた。
「俺は、お前を殺したい。
この戦いを終わらせられる『王』と成りかねんテトリスを守った、お前を殺さねばならない」
獣と変わらぬその顔を目にした、アカツキは無言で一歩を踏み出す。
誰よりも大切な標的として歴史の亡霊を選んでみせた少年の意志に応じて、彼を滅殺するために。
交錯する憎しみと裏切りの生んだ、これが、最後の絆(ロイス)のかたちだった。
【加賀十也@ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・クロニクル 死亡】
【交錯迷宮・合咲の間 Side.A】
【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:【フラッシュバックによる無力化の可能性】、疲労(中)、脇腹打撲、内出血
[装備・所持品]:試作型電光機関@エヌアイン完全世界、理想の見る夢@シノビガミ
[思考]:己に課した義務を果たす
[秘密]:???
[備考]:花白@花帰葬が使った「白の光」で、【フラッシュバック】は一時封じられています。
血盟忍法【外連】を修得しています。血盟に属する仲間と間合を入れ替えられます。
【黒須左京@ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・クロニクル】
[状態]:侵蝕率148%〜、右肩脱臼(処置済み)、疲労(大)、激しい怒り、ダンジョンマスター(人体迷宮化が進行中)
[ロイス・タイタス]:アカツキ(Sロイス・憐憫/◯殺意)、加賀十也(タイタス化)、アリサ・トツカ(同左)
[装備・所持品]:電光被服@エヌアイン完全世界、迷核@迷宮キングダム
[思考]:オーヴァードと、それに類する者(自身を含む)をすべて殺す
[備考]:E・ゾルダート@エヌアイン完全世界のデフォルトカラーと同じ服装をしています。
血盟『影弥勒』を離脱しました。以降は『影弥勒』・生存者とは別の陣営のものとして扱われます。
アカツキへのロイスを『Sロイス(スペリオルロイス)』に指定しました。
Sロイスをタイタスに昇華することで、「完全回復」「攻撃時のダメージ上昇(ダメージバースト)」
「使用回数制限のある能力を1回分回復(再起)」のいずれかが使えます。
いかなる場合でも、Sロイスを複数持つことは出来ません。
※戦闘系トラップ【決闘場】@迷宮キングダムが発動しました。
交錯迷宮・合咲の間の敵軍本陣には、ダンジョンマスターである左京と、彼以外の誰かひとりしか入れません。
※エニグマ【分断】@シノビガミが設置されています。
ふたつの戦場を行き来するためには、相手の勢力を無力化する必要があります。
※モンスタースキル【人類の敵】を所持している者(完全者、ムラクモ、花白)は、けして《民》にはなりません。
81
:
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:16:06
以上、ロワの概要と288話の投下を終了します。
タイトルは『#288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>』でした……。
長々といってしまってるので、見るのが面倒ならトリでNGかけてくれればなどと
思ったのですが、うっかり「#」を冒頭に使ってしまいました。
ご寛恕いただければ幸いです。
82
:
名無しロワイアル
:2012/12/28(金) 20:42:07
投下乙ですー。
文章から感じる全体の雰囲気というか、やわらかく降り積もる絶望というのか、
まさに雪が似合うという場面。こういうの素敵で憧れる。
そこに立ち向かっていくアカツキの姿もかっこいいなあ……
と、差し出がましいようですが、指摘というか気になった点がひとつ。
参加者の中の支給品に、参戦作品のものではないものが混ざっているんですが、
それは大丈夫なのでしょうか?
具体的に言うとラストレムナントの支給品が混ざっています。
【交錯迷宮・合咲の間 Side.B】
【「落下ダメージの」テトリス@シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム】
[状態]:災厄の王子
[装備・所持品]:大剣@迷宮キングダム、希望の魔除け@ラストレムナント
[思考]:花白と戦い、彼を終わらせる
[備考]:血盟忍法【二人袴】を修得しています。
血盟「影弥勒」の誰かが【感情】を抱いたとき、同じ対象に同種の【感情】を抱くことが出来ます。
ここですねー
83
:
◆MobiusZmZg
:2012/12/28(金) 21:19:58
>>82
ありがとうございます、テンプレから抜けてました。
>68の参戦作品一覧には、『ラストレムナント』も入っています。
【参戦作品一覧】
『エヌアイン完全世界』『花帰葬』『ラストレムナント』
『現代忍術バトルRPG シノビガミ −忍神−』『シニカルポップ・ダンジョンシアター 迷宮キングダム』
『ダブルクロス・リプレイ(オリジン、アライブ、トワイライト、クロニクル)』
修正すると、こんな感じになりますか。
プロット組んでるうちに生存者6名の一覧からはラスレムの登場人物は
漏れてしまったのですが、あれも非常に面白いゲームです。
そして、まとめについて。
>1氏がそろそろ作ろうか、とも仰っておられましたが、まとめサイトがWikiでなく
HTML形式でしたら、自分のロワについてはまとめなくて大丈夫です。
自前でまとめを作りたい――正確には投下した後で気づいた誤字脱字を、負担をかけずに
直してしまいたいので。まとめサイトに載るのも憧れだったのですが、今回は見合わせておきます。
84
:
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:40:25
テンプレ及び288話投下します。
【ロワ名】絶望汚染ロワ
【生存者6名】
1.マジック・ガンジー@ランス・クエスト・マグナム
2.アリス・マーガトロイド@東方Project【右腕使用不能】
3.キン肉スグル@キン肉マン
4.シュテル・ザ・ディストラクター@リリカルなのはGOD【限界突破】
5.ブロントさん@東方陰陽鉄【フラッシュバックによる無力化の可能性】
6.海東大樹@仮面ライダーディケイド
【主催者】アム・イステル@ランス・クエスト・マグナム
パステル・カラー@ランス・クエスト・マグナム
システムU-D@リリカルなのはGOD
【主催者の目的】バトル・ロワイアルによって生まれる負の感情を全世界に拡散させ、
大量の完全汚染人間を生み出し神を殺す。
【補足】・参加者達がいるのは「バベルの塔@ランス・クエスト・マグナム」
別々のタイミングで突入したために何組かに分かれている。
・会場全体に「魂の枷@ランス・クエスト・マグナム」の力が拡散しており、負の感情を貯めるごとに魂の汚染率が上がっていく。
汚染率が70%を越えるとネガティブな感情ばかり生まれ、80%を越えると「汚染人間」となり破壊衝動に襲われる。
100%になると魂を神が回収できない「完全汚染人間」という不死の存在となってしまう。
名簿
ランス・クエスト・マグナム 1/13
●ランス/●リセット・カラー/●リア・P・リーザス/○マジック・ガンジー/●香姫/
●見当 かなみ/●鈴女/●クルックー・モフス/●上杉 謙信/●マリス・アマリリス/
●魔想志津香/●マチルダ・マテウリ/●柚原 柚美
キン肉マン 1/10
○キン肉スグル/●テリーマン/●ロビンマスク/●バッファローマン/●ステカセキング/
●アシュラマン/●サンシャイン/●ザ・ニンジャ/●バイクマン/●マンモスマン
キン肉マンⅡ世 0/10
●キン肉万太郎/●テリー・ザ・キッド/●ケビンマスク/●ガゼルマン/●ジェイド/
●チェックメイト/●ハンゾウ/●スカーフェイス/●イリューヒン/●ボルトマン
東方Project 1/10
●博麗霊夢/●霧雨魔理沙/●紅美鈴/●レミリア・スカーレット/●フランドール・スカーレット/
○アリス・マーガトロイド/●上白沢慧音/●藤原妹紅/●射命丸文/●姫海棠はたて
東方陰陽鉄 1/7
ブロントさん/●汚い忍者/●内藤/●痛風/●糞樽/●ファイナルタツヤ/●十六夜咲夜
魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY- 1/10
●高町なのは/●フェイト・テスタロッサ/●八神はやて/●ユーノ・スクライア/●クロノ・ハラオウン/
●リーゼロッテ/●リーゼアリア/○シュテル・ザ・ディストラクター/●レヴィ・ザ・スラッシャー/●ロード・ディアーチェ
仮面ライダーディケイド 1/10
●門矢士/●光夏海/●小野寺ユウスケ/○海東大樹/●鳴滝
●剣崎一真/●紅渡/●ガイ/●月影ノブヒコ/●ドラス
戦場のヴァルキュリア3 0/10
●クルト・アーヴィング/●リエラ・マルセリス/●イムカ/●ジュリオ・ロッソ/●アニカ・オルコット/
●カリサ・コンツェン/●セルベリア・ブレス/●ダハウ/●リディア・アグーテ/●ジグ
D.C. 0/10
●朝倉純一/●朝倉音夢/●芳乃さくら/●白河ことり/●天枷美春/
●鷺澤頼子/●月城アリス/●工藤叶/●霧羽香澄/●杉並
D.C.Ⅱ 0/10
●桜内義之/●芳乃さくら/●朝倉音姫/●朝倉由夢/●白河ななか/
●天枷美夏/●沢井麻耶/●高坂まゆき/●アイシア/●杉並
85
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:42:12
『あ―――崩れる……私が、みんな、が――!』
「いいえ、何も壊れませんよ。ただ、少しだけ眠るだけです……おやすみなさい、ユーリ」
綺麗だな、と。
虚空へと融けていくシステムU-Dの姿を見ながら、シュテル・ザ・ディストラクターは思いを馳せた。
今は亡き門矢士やアイシアの推測が正しいのであれば、このシステムU-Dと自分が知っているユーリは別次元の存在であるはず。
故に感傷を抱くことなどありはしないはずなのだが、シュテルは自らの胸に湧き上がる気持ちを抑えられなかった。
ふと、視線をずらす。
「……申し訳ありません。貴方達を殺害した相手に、私は心を揺らされています」
そこに並んでいるのは二つの死体。
共にシステムU-Dと戦い命を落とした、その二人の表情は何処か微笑んでいるように見えた、
まるで、シュテルのことを慰めるかのように。
「ああ―――なるほど、私、泣いているんですね」
【システムU-D@リリカルなのはGOD 消滅】
◇
「おーいシュテルちゃん! そっちは大丈夫だったかー!」
感傷に浸っていた気持ちをぶち壊すようなダミ声で、背後から呼びかけられる。
小さく溜息を吐き、後ろを振り返ろうと―――
「――あ」
全身から力が抜ける。
何とか持ち直そうとするが、指の一本も動かすことができずその場へと崩れ落ちてしまう。
「のわー! 大丈夫かー!?」
「あ……はい、頭は打っていませんから」
慌てて駆けつけてきたキン肉マンへと返すが、大丈夫には見えないだろうなと自分でも思う。
倒れた時に痛みすら感じなかった。痛覚が、全ての感覚が失われているかのような錯覚すら覚える。
これはシステムU-Dとの戦いだけが原因ではない、死の間際に譲り受けた高町なのは、そしてフェイト・テスタロッサの膨大な魔力がシュテルの許容量を越え、
その躯体が耐えられなくなっていたのだ。
「スグル、申し訳ありません。私はこれ以上は戦えないようです。
システムU-Dは止めましたが、フェイトとリエラも死亡しました。
貴方だけでも先へ」
86
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:42:46
行ってください。
そう続けようとするが、それよりも先にキン肉マンに抱き上げられてしまう。
「それ以上言わんでくれ……フェイトちゃんとリエラちゃんは気の毒じゃが、君だけでも連れて行くぞ」
「何を……私を連れて行ったところで、足手纏いにしかなりません」
「私はこの戦いで数え切れない程の仲間を失った。
もう、これ以上誰かを見捨てたくないのだ」
そこでようやく気づいた、キン肉マンの目に涙が溜まっていることに。
彼とフェイトは長い間行動を共にしていたと聞いた、ならば、彼女の死に思う所はあるだろう。
だが今の状況では亡骸を弔う余裕などありはしない、それはこの三日間で嫌というほど思い知らされた。
「だから、君は私が必ず守る……だって、私達は友達じゃないか」
「……ナノハといい貴方といい、優しすぎます。――ですが、今は少しだけ……甘えさせてください」
◇◆◇
―――その男は、酷い人間だった。
利己的で、ワガママで、暴力的で、スケベで、自分の事ばかり考えていて。
それでも、男に惹かれる者は多く。
その男自身も、周りへと向ける感情に変化が現れ。
きっと、近い未来には英雄と呼ばれるに相応しい男となっていたであろう。
そんな男が―――
「ラン、ス……?」
そんな男が、目の前で死んでいるという事実を、マジック・ガンジーはすぐに受け入れることができなかった。
「嘘、よね……」
どのような戦いが繰り広げられたのだろうか、周囲の通路は壁・天井・床と破壊されていない場所を探す方が難しい程に荒れている。
だが通路が荒れ果てていることになど気づいてすらいない様子で、マジックはふらりと倒れ伏したランスの下へと歩み出す。
「だって、放送じゃ貴方の名前なんて……そ、そっか、死んだふりでもしてるんでしょう?
貴方のことだから、そんな趣味の悪い冗談ぐらいやるわよね……」
「マジック……」
ピクリとも動かない体へと呼びかけ続けるマジックへと、アリスは何も言葉をかけられない。
こうしている間にもタイムリミットは近づいている、今も尚海東大樹の足止めに徹しているブロントのことも気がかりだ。
今生き延びている者達で頂上に一番近いのは自分たち、ならばここで立ち止まっている暇などないことは、二人共理解していた。
それでも、その足は動かない。
「ねえ、何とか言いなさいよ……いつもみたいに、グッドだーとか言ってよ……」
語りかけることに意味が無いことなど判っている。
一秒足りとも無駄にできないことも理解している。
それでも彼ならば、どんな神にも起こせない奇跡すら起こして蘇るかもしれないと。
そんな馬鹿げた希望すら抱く程に、マジックにとってランスという存在は大きかった。
87
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:43:36
(けど、このままだと……)
そっと、クルックーから譲り受けた汚染度カウンターをマジックへ向ける。
その数値は瞬く間にに上昇し、70%を指し示したところでようやく停止した。
(クルックーに聞いた話だと、魂の汚染から戻れるボーダーラインが70%……!)
「マジック、気持ちはわかるけれど、今は時間がないわ。先に進みましょう」
猶予がないことに気づいたアリスは慌ててマジックを先へと促す。
大切な人物の死だ、できれば喪に服す時間を与えてあげたい。
だが、この空間でのそれは魂の汚染を早める行為、この場では誰かの死を悲しむ間さえも与えられないのだ。
「……無理よ」
「マジック……!」
「無理よ! もう、みんな死んじゃったのよ!? 鈴女さんもリセットちゃんも、貴方の仲間だって!
私達だけで、導く者を倒せるわけがない……! ……ランスに、無理だったことを……私なんかじゃ……!」
嗚咽混じりの叫びに、アリスは背筋を凍らせる。
目の前にいる少女は本当にマジックなのか、これがアリスに「本気」を出させる覚悟をさせたあの気丈な彼女だというのか。
アリスが見るのは初めてであったが、魂の汚染が進んだ人間は皆一様に負の感情に囚われてしまう。
ここにいるのがクルックーやリセット、霊夢だったならば汚染度を下げることができただろう。
だがアリスにはその手段がない、七色の魔法にも魂を癒す魔法は存在しない、魂の枷の影響を甘んじて受けるのみだ。
「……だけど私達がやるしかないわ。それこそ、みんなの死に報いるためにも」
「貴女は知らないからそう言えるのよ! ランスは魔人だって倒す程強いの! そんなランスが勝てない相手、私達じゃどうしたって倒せない!」
捲し立てるマジックへと二の句が継げない。
元より話術に長けているというわけでもないのだ、この様な状況の相手にどんな言葉をかけるべきかなど解らなくて当然である。
戸惑うアリスの頭に浮かんだのは、今も一人で戦い続けてるであろういけ好かない一人の騎士。
(貴方なら、彼女にどんな言葉をかけるの? ブロント……)
◇◆◇
『ATTACK RIDE BLAST!』
「下段ガードを固めた俺に隙はなかった!」
ディエンドの銃撃を盾で防ぎながらブロントさんはカオスを振るう。
だがその斬撃がディエンドを捉えることはない、ディエンドは確実にブロントさんの間合いから離れ、決定打にならない散発的な攻撃を繰り返すだけだ。
「ちぃ! 狩人が銃を撃てるのは卑怯!」
「狩人は猟銃を撃つものだろう? いい加減面倒だね」
『KAMEN RIDE ILLUSION!』
疲れの混ざった声と共にイリュージョンのカードを発動、三体の分身と共にブロントさんを包囲する。
「っ、空蝉とかお前絶対忍者だろ……!」
『狩人だったり忍者だったり忙しいのう』
「うるさいよ馬鹿! ――バックステッポォ!!」
一々ツッコミを入れてくるカオスを怒鳴りつけ、左右からの銃撃を回避する。
続けざまに放たれた背後からの攻撃へは盾をかざし弾く、だが最後の正面からの銃撃を回避しきることができず地に膝をついてしまう。
88
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:44:06
「君も馬鹿だね、僕の力のいくらかは聞いているはずだろう。だというのに一人で残って勝てると思っていたのかい?」
「……あまり調子こくとリアルで痛い目を見て病院で栄養食を食べる事になる。
元々俺の目的はお前の足止めなんですわ? ナイトは役割を選ばない」
「まったく、君は本当に愉快だね。あの二人にアム・イステルを倒せるはずがない、君のやっていることは完全に無駄さ」
嘲るような海東を、ブロントさんは怒りを隠そうともせず睨みつける。
「人のフレを馬鹿にする奴は心が醜い。アリスもマジックも俺が認めたLSメンなんですわ?
黄金の鉄の塊の絆で出来た俺たちがあんこくw装備の導く物に負けるはずがにい!」
「絆、友情、君たちはいつもそれだね。いい加減に理解したまえ、そんな物に価値はない、無意味だ」
「たいがいにしろよカスが! お前にだってフレはいたはずだろうが!」
「僕に友なんていない!!」
激昂し銃口をブロントさんの額へ突きつける。
それが目に入っているのか、ブロントさんの視線は一瞬もブレることなく海東を睨み続けていた。
「……いいだろう。なら、その絆とやらの力を見せてもらおうじゃないか」
「何……?」
『KAMEN RIDE BLADE!』
「っ!?」
ディエンドによって呼び出されたライダーを見て、ブロントさんは息を飲む。
現れたライダー、それは一匹の甲虫がモチーフとなった銀と青の姿。
「そいつは……!」
「そう、仮面ライダーブレイド……『君が殺した』剣崎一真の変身する仮面ライダーさ」
「―――っ」
『来るぞブロント!』
カオスの声に反射的に盾をかざしてブレイドからの攻撃を受け止める。
目の前のブレイドからは、ブロントさんが以前戦うこととなったブレイドキングフォーム程の力は感じられない、
だというのに一方的に攻められるばかりで、一向に反撃の糸口が掴めなかった。
「おいやめろ馬鹿! 剣崎の力をこんな事に使うんじゃねえ!」
「なら君が止めてやればいいだろう? 簡単さ、ブレイドを『もう一度殺せばいい』」
「こ、の……!」
『TACKLE』
「うぉわ!?」
『目の前の相手に集中せんか! お前さんがやられたらワシここに置き去りよ?』
海東の言葉に動揺し出来た隙に、ラウズカードによる攻撃を加えられてしまう。
攻撃だけでなく防御すら疎かになってしまっているブロントさんへ、見かねたカオスが助言するが効果がない。
この空間でブロントさんがたった一度だけ犯した罪。
『剣崎一真の殺害』がブロントさんの心に残した傷は深く、強固な意思で無理矢理に覆い隠していた壁も剥がされてしまった。
グラットンソードや魔剣カオスの魔力にも耐えるブロントさんの心。
それは、友と呼んだ男との約束によって崩されようとしていた。
89
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:44:56
◇◆◇
誰よりも強い友情を胸に秘めた正義の超人は、今にも消えそうな闇の欠片と共に頂上を目指す。
気丈に振る舞ってきた二人の魔法使いは、目的地を目前にしたこの瞬間に絶望の淵へ足を踏み入れた。
強い絆を築いてきた騎士はその絆に縛られ。
孤高の怪盗は自ら自身を縛っていることに気づかぬまま力を振るう。
「ふふ、みんな必死ね」
そんな様子を魔法ビジョンで眺めながら、アム・イステルは微笑を浮かべる。
「―――どうせ、みんな神の玩具でしかないのに」
90
:
288話:絶望の終わり/始まりの時
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:45:15
【バベルの塔・35階/深夜】
【キン肉スグル@キン肉マン】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、魂汚染度30%
[装備]:なし
[道具]:ベアクロー@キン肉マン、バナナ×5房@現実、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、フェイスフラッシュが最後の希望……!
[備考]:ゲイツによってフェイスフラッシュが封印されました。この戦い(バトル・ロワイアル)が終わるまでフェイスフラッシュは使用できません。
【シュテル・ザ・ディストラクター@魔法少女リリカルなのはGOD】
[状態]:意識混濁、限界突破、なのは・フェイトの魔力を吸収、魂汚染度45%
[装備]:ルシフェリオン@魔法少女リリカルなのはGOD
[道具]:無し
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、ユーリ……
[備考]:なのはとフェイトの魔力を吸収したことで二人の魔法が使えるようになりました。
【バベルの塔・60階/深夜】
【アリス・マーガトロイド@東方Project】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)、右腕使用不能、魂汚染度60%
[装備]:上海人形@東方Project
[道具]:ミニ八卦炉@東方Project、さくらのお守り@D.C.Ⅱ、基本支給品
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、マジックを慰めたい
3、これからは「本気」を出す
4、ブロントのことは意地でもさん付けしてやらない
【マジック・ガンジー@ランス・クエスト・マグナム】
[状態]:茫然自失、魂汚染度70%(軽度汚染)
[装備]:バルフィニカス@魔法少女リリカルなのはGOD
[道具]:ハニーの欠片@ランス・クエスト・マグナム、さくらのマント@D.C.、基本支給品
[思考]:
1、????
【バベルの塔・55階/深夜】
【ブロントさん@東方陰陽鉄】
[状態]:疲労(中)、インビンシブル1時間使用不能、フラッシュバックによる無力化の可能性、魂汚染度45%
[装備]:魔剣カオス@ランス・クエスト・マグナム、ガラントアーマー一式@東方陰陽鉄、ケーニヒシールド@東方陰陽鉄
[道具]:ブレイバックル@仮面ライダーディケイド、ヴァール@戦場のヴァルキュリア3
[思考]:
1、導く者を倒し元の世界に戻る
2、海東を止める
3、剣崎……!
4、カオスはどこかで捨てたい
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
[状態]:疲労(小)、魂汚染度65%
[装備]:ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
[道具]:ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、世色癌箱@ランス・クエスト・マグナム、基本支給品
[思考]:
1、最後まで生き残り各世界のお宝を手に入れる
2、ブロントを倒す
3、友情に価値なんてない!
91
:
◆c92qFeyVpE
:2012/12/30(日) 13:45:49
以上で投下終了です。
92
:
名無しロワイアル
:2012/12/31(月) 01:38:19
精神汚染とはまた厄い設定だな
ところで、
>>84
十六夜咲夜の出典が間違ってませんか?
93
:
◆c92qFeyVpE
:2012/12/31(月) 08:55:45
いえ、陰陽鉄出典の咲夜さんということですね。
ブロント語でレミリア達を困惑させたりファイナル分身で激闘を繰り広げたりしてたんです、きっと
94
:
名無しロワイアル
:2012/12/31(月) 11:55:42
名簿見てネタ枠と信じてたブロントさんに謎の可能性を感じる……
これはいったい……
95
:
名無しロワイアル
:2012/12/31(月) 13:16:03
>>94
陰陽鉄出典の彼はまさに主人公だからな…w
96
:
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/02(水) 19:14:37
あけましておめでとう御座います。
『それはきっと、いつか『想い出』になるロワ』 の299話を投下いたします。
97
:
Memoria Memoria -想い出を求めて-
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/02(水) 19:16:09
踏み入れる。
僅かな明かりだけに照らされる、薄ぼんやりとした玉座の間へと踏み入れる。
床にも赤絨毯にも壁にも柱にも調度品にも、汚れ一つ見当たらないその様は生活感が一切ない。
衛兵はいない。侍従はいない。家臣はいない。この城には民などいない。集合無意識の海にたゆたう夢の国に、人民などはいない。
いるのは――たった独り、玉座に座る悪夢の支配者のみだ。
「ようこそ。わたしのお城へ」
幼い声色が、夢の城に響き渡る。
巨大な玉座に座す、あどけなさすら感じさせる少女の声だ。
彼女の髪とワンピースは、暗闇を吸い込んだかのような深い黒だった。その黒とは対照的なほどに、その肌は透き通るように白い。
「また貴方と相見えることなるとは思わなかったわ――ベアトリーチェッ!」
ヴァージニアが銃口を向ける。
それでも、幼子の姿をした夢魔は怯えなどおくびにも出さず、人形めいた美貌に笑みを浮かばせる。
くすくすくす、と笑うその様は、ベアトリーチェ以外の全てを嘲笑うようだった。
「貴方達はあのとき、ネガ・ファルガイアを滅ぼした。同時にわたしも、確かにあのとき滅びたわ」
けれどね、とベアトリーチェは目を細め、ヴァージニアを睥睨する。
「神様は夢を見たのよ。夢魔<わたし>の夢をね」
神の夢。
全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに存在する、全知全能の概念上の神が見る、夢。
白野蒼衣が語った神のことを、ヴァージニアは思い出す。
「イザナミとおんなじ、神様……」
クマの呟きに、ベアトリーチェは笑みを深くした。
「神様の夢は、わたしを再誕させてくれた。そして、全知全能の夢は、わたしに新たな力をくれた」
ベアトリーチェの身が、玉座から浮かび上がる。見下すような視線を投げかけてくる。
「集合無意識を渡り夢を手繰り、あらゆる世界へ繋がる<アクセスする>力。
この力を以って、今度こそ世界を創世するッ!
貴方たちの『想い出』を最後のエネルギーとして、わたしの世界<ファルガイア>を創り出すッ!!」
ベアトリーチェの姿が、変貌する。
白磁の肌からは血の気が薄れ、青に近い白へ。
小さな掌が人の頭部などゆうに握り潰せそうなほどのサイズへと肥大化し、手の甲には紅玉のような宝石が埋め込まれる。
爪は触れたものを切り裂き貫きそうなほど先鋭化し、刃のような煌めきを放ち始め、漆黒の髪からは色素が抜け落ち、生命力を失したような青白さとなる。
右の眼球は落ち窪み、真っ暗な眼窩で金色の燐光が瞬く。その瞳は、夜空に一人取り残された星のようだった。
変容したのは容貌だけではない。
闇色のワンピースは、ウェディングドレスによく似た衣装となり、その衣服の随所に青紫色の薔薇が咲いていく。
青紫色の薔薇はドレスだけでなく、ベアトリーチェの髪をも彩る。髪に開いた大輪の薔薇に添い、もがれた片翼のような髪飾りがはためいていた。
変容を遂げたベアトリーチェは、おぞましさと美しさを同居させた芸術作品のようだった。
そんな夢魔を前にして、カズマが強く床を踏む。
「回りくどい話はいらねェよ。つまりアンタは、俺らの『想い出』が欲しいんだろ?
俺らから『想い出』を奪うために、こんなご大層な真似をしてくれたワケだ」
カズマは嗤っていた。
野獣めいた獰猛な笑顔を浮かばせていた。
「アンタは俺から色んなモンを奪った。ダチを、仲間を、大事なモンを奪った」
カズマの周囲の床が音を立てて弾け、分解され、塵となる。
「もうこれ以上は奪わせねェ」
分解された床は再構成され、金色の装甲となり、風車状の羽となり、カズマの右半身を覆っていく。
髪が、燃えるように逆立った。
シェルブリット・第二形態。
閉ざされていたカズマの右目が、開眼する。
「俺が刻んできた『想い出』だけは、絶対ェに奪わせねェッ!」
カズマの咆哮に合わせ、ブルーが聖杖ミスティック・ワイザーで床を叩く。
「カズマは回りくどいと言っているがな。『想い出』による世界創世とは、なかなか興味深いとは思う」
ブルーの表情に色はなく、怜悧な瞳は凍てつく刃のようだった。
だが、かつん、と聖杖で床を叩く手には力が籠っている。
「しかし俺の『想い出』は俺の――僕たちのものだ。貴様の糧となるために『想い出』を手にしているわけではない」
枯渇しつつある魔力を巡らせ、意識の力を魔力に置換していく。
「手にしようと願うならばかかって来い。ブルーとルージュ、二人分の『想い出』は決して安くはないぞ」
98
:
Memoria Memoria -想い出を求めて-
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/02(水) 19:18:02
ブルーの視線を追うように、クマは宙を漂うベアトリーチェを見上げる。
「ベアチャン、空っぽだった頃のクマと同じクマ。独りぼっちだから自分が分からなくて、寂しくて、寂しくて……」
大きな瞳に涙を溜め、震える拳でエアガイツを握り締め、
「でも、こんなのはダメ。ダメだって、クマは思うクマ!」
そんな真っ直ぐで汚れのないクマの想いを受け、ヴァージニアが前に出る。
「『想い出』は、貴方がどうこうしていいものじゃない」
銃把と弾丸と引鉄は重い。
「やっぱりわたしは貴方を許せない。命を、『想い出』を、野望のための供物だとしか思っていない貴方を許せないッ!」
けれどそれは足を引っ張る邪魔な重みではなく、頼もしさと懐かしさをくれる重みだとヴァージニアは思う。
「わたしは何度でも貴方の前に立ちはだかってやるッ! 貴方が、その野望を捨てない限りッ!」
信念の鼓動を胸の奥に感じる。ヴァージニアが抱く折れない正義が、血潮を通して体中に沁み渡って行く。
だから戦える。
たとえ右手が動かなくとも、戦える。
返って来るのは笑い声だった。
くすくすと、可笑しそうにベアトリーチェが笑っていた。
「好きに喚きなさい愚か者ども。吼える自由くらいは与えてあげる。だってそれは、最期に言い残す言葉になるのだから」
異形と化した両手を広げ、ベアトリーチェは高笑う。
「わたしは夢魔ベアトリーチェ! 神の悪夢をも従えて、あらゆる『想い出』を飲み干して、貴方達の現実を終わらせてあげるッ!!」
「はンッ!」
カズマが五指を広げた右手を突き付け、人差し指、中指、薬指、小指、親指と、一本一本順に指を握り込んでいく。
完成した握り拳を引き絞り、全力で床へと叩きつけ、跳躍する。
「その人を食った薄ら笑いも、そこまでだァ――ッ!」
ベアトリーチェよりも高く昇り上がり、宙で身を捻り、右腕を引き絞る。
爆発的な加速がカズマの右腕で炸裂し、推力となり、その身をぶっ飛ばす。
速度の乗った一撃が行く。
無数の壁を叩き潰し殴り壊しブチ抜いてきた拳が、ベアトリーチェへ肉薄する。
余裕を浮かべたままのベアトリーチェの矮躯へと、直線軌道で飛んでいく。
硬質な金属めいた拳が直撃する寸前、ベアトリーチェの姿が、霧のように掻き消える。
「――ッ!?」
カズマの拳は空を切り、その推進力のままに床を叩き壊す。
クレーターのような大穴が刻まれ砂埃が舞い上がる。大理石の破片が、ぱらぱらと飛び散った。
「や、やったクマ!?」
「違うッ! 手応えがねェッ!」
瞬間、砂煙の奥で無数の黒がうねった。
黒の群れは触手の姿を取り、しなり、伸び、カズマへ殺到する。
舌打ちを落として飛び退る。
だが、触手の動作は吐き気がするほどに速かった。
触手はカズマを包囲し捉えるべく追い縋る。
背後で銃声が連続した。
右を、左を、頭上を、足元を、銃弾が疾走し、下がるカズマと擦れ違う。
銃撃は正確無比な精度と速度で触手を打ち抜いた。
触手が爆ぜる。胃液が逆流しそうなほどの、嫌な臭いが広がった。
「影じゃ、ない……?」
ヴァージニアの呟きに応じるように、爆ぜた触手は枝分かれする。
違う。
枝分かれではなく、寄り集まっていたものが解けていく。
それは、髪の毛だった。
影のように見えた触手一本一本は、束ねられた漆黒の髪の毛だった。
解け数を増したそれらは、先端を針のように尖らせる。
そして、来る。
ぞぞぞぞぞぞぞぞ、と、髪の毛の集団が波濤のように押し寄せてくる。視界を覆い尽くすほどの髪の毛は、生理的なおぞましさを喚起する。
それはまさしく、夢魔に従う神の悪夢だった。
「く、クマ、毛は間に合ってるクマぁーっ!」
「身勝手な神め……! 悪夢を斬り捨てるから夢魔に付け込まれるッ!」
喚くクマの隣で、ブルーがミスティック・ワイザーを掲げる。
聖杖の宝石が瞬いた瞬間、眩い球体が髪の毛の波を阻むように顕現する。
漆黒の髪とは対照的な球体の輝きは、黒を眩く照らし上げる。
球体から、力が放射される。その力は、太陽の輝きの色をしていた。
陽術――超風。
高温の豪風が、髪を迎撃する。
豪風は髪の軌道をねじ曲げ反らし、高熱はか細い髪を一瞬で溶かしていく。
波濤を溶かし切ると同時に風は止まり、光球は残像を残し消えていく。
玉座の間に充満するタンパク質の焼けて溶ける臭いは、ひたすらに不快だった。
99
:
Memoria Memoria -想い出を求めて-
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/02(水) 19:19:34
「く――ッ」
だが、ブルーが呻いたのは、悪臭が原因ではない。
ナイトメア・キャッスルへ通ずるゲートの開放と、おびただしい数で迫る異形殲滅戦にて、ブルーの魔力はほぼ枯渇している。
ベストコンディションであれば難なく使用できる術であっても、消耗した彼にとっては大きな負担となる。
「だいじょぶか、ブルー……?」
「問題、ない。それよりも……」
喘ぐような呼吸を繰り返すブルーを覗き込むクマに、ブルーは頷く。
彼は額に浮かぶ不快な汗を拭い、意識して足腰に力を入れて、告げる。
「自分の心配を、していろ……ッ」
「くすくすくすくす。心配なんてしている暇、あるのかしら?」
応じたのはクマではなく。
背後からの、愛らしささえ感じる声だった。
振り返る。
余裕の表情を崩さず宙をたゆたうベアトリーチェが、異形の手を翳す。
瞬間、床を、天井を、壁を、柱を喰い破り、髪の毛の群れがその身を晒す。
あらゆる平面から髪が突き出るその様子は、決して嘘のつけない愚直な虚軸<キャスト>を連想させた。
「何だよ……ッ!」
カズマが声を絞り出す。
「何なんだよ、これはッ!! 何だってんだよッ!?」
「舞鶴蜜と共にいた貴方なら知っているでしょう?」
そんな彼に向けて、ベアトリーチェは得意げに、
「これは壊れた万華鏡<ディレイドカレイド>の『想い出』」
あたかも玩具を見せびらかす子供のように、
「神の悪夢を混ぜ込んで、わたしの言うことを聞かせるようにした『悪夢たる想い出』」
罪悪感の欠片もなく、
「集めた『想い出』は、創世の生贄になるだけじゃない。わたしのために戦う武器にもなるのよッ!」
ひたすらに嬉しそうに言ってのけた。
『想い出』を奪い、犯し、従わせ、使い潰す。
ベアトリーチェは、そう言っているのだ。
「ベアトリーチェッ! あなたは、自分のしていることが分かっているのッ!?」
激しい嫌悪感と拒絶感が、ヴァージニアを叫ばせる。その言葉を制するように、カズマが右手を真横に翳した。
「ああ……そうかよ。つまりそいつは、アイツじゃねェんだな」
翳した右手を握り締める。
わなわなと腕が震えるほどに強く。
アルター能力により鋭くなった爪を、掌に突き立てるように、強く。
「そいつは、てめェが好き勝手にぐちゃぐちゃに引っ掻きまわしやがった、舞鶴の『想い出』だって、そう言いてェんだな」
彼の声もまた震えていた。
胸の内で暴れ回る激情を滲ませるように震えていた。
「もういい。分かった。てめェのやってることはよく分かった」
そして。
「ぶっ飛ばしても物足りねェ。覚悟しろよ糞ガキ。泣いても謝っても、俺は、絶対ェに――」
握り締めた拳を、輝かせる。
強く激しく、憤怒を滾らせ燃やすように。
「てめェを、許さねェ――ッ!!」
怒りを胸に。感情を右腕に。
再度、カズマが疾走する。
「傲慢ね。貴方たちなんかに許してもらおうなどと、思っていないわ」
吐き捨て、ベアトリーチェが指を振るう。
応じるように、髪の群れがびくりと蠕動して。
四方八方から、殺到した。
100
:
Memoria Memoria -想い出を求めて-
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/02(水) 19:20:01
◆◆
髪が舞う。
緑の黒髪一本一本が、編まれた髪束が、意志を持った刃物のように乱れ舞う。
あらゆる平面から縦横無尽に伸びる髪の挙動は不規則で読み辛い。
「クマッ、クマクマッ!」
正面の群れを、クマが腕の一振りで叩き落とす。身に巻きつこうとする集団を薙ぎ払う。
貫きに来た髪を吹き飛ばすべく、跳躍して横回転。そのままブルーのすぐ横を落下しつつ、彼の詠唱の邪魔をする。
「何をするッ!?」
「術は禁止クマ! クマにまかせんしゃい!」
「こういうときのための術だろう!」
そんなことは、クマだって分かっている。
だが、それよりも更に分かっていることは、これ以上ブルーに負担を掛けられないということなのだ。
「ダメクマ! ダメったらダメダメよ!」
沸くようにして溢れる髪には際限がない。際限なく溢れる髪で形成される層は分厚く、カズマやヴァージニアとは完全に分断されていた。
カズマの突破力で、層に穴を開けることはできる。
だが、彼の拳は基本的には一点突破に向いた力だ。
進行方向にあるものはまとめて薙ぎ倒せても、空間を埋め尽くすものを完全に一掃するには向いていない。
「ブルーは休んでるクマ! すごいの使ったら、ブルーが、ブルーが……っ」
クマは跳び、跳ね、両手を回し、両足を振って髪を迎撃する。
必死のその様は格好悪く、無様な足掻きにも見えた。
「だったら――どう突破するのかしら?」
神経を引っ掻かれるような、不愉快極まりない声がした。
道を作るように髪の群れが横に別れていく。空いた空間からは、ベアトリーチェの視線が落ちてきた。
右目とは違い、左目は人のそれと同じ様相だ。だが、蠱惑的な妖しさを孕んだ左の瞳は紅く、魔性が宿っている。
その左目に、映り込む。
クマの姿が、映り込む。
クマを包む全身の毛が、文字通り総毛立った。
「残念だわ。貴方は、わたしを分かってくれると思ったのに」
差し出されたその言葉を聴いてはいけないと、本能的に察した。
「ペルソナッ!」
半ば反射的に、叫ぶ。星のアルカナが浮かんで爆ぜ、クマの頭上にペルソナ――カムイが顕現する。
丸いその身がくるりと回り、透き通った氷の壁を生み出した。
氷壁はベアトリーチェへと殺到する。その口を閉ざしてしまおうとするように。その身を封じ込めてしまおうとするように。
「冷たいのは、嫌いだわ」
ぼう、と。
黄昏色の火が灯ったのは、ベアトリーチェが呟いた瞬間だった。
忠誠を誓う姫君の命に従い参じた騎士のような火は踊り、舞い、逆巻いて、轟々と燃え盛り火炎となる。
ベアトリーチェを取り巻いた火炎――『悪夢たる想い出』<バーン・ストーム>は、身を挺してカムイの氷を受け止めた。
氷は音を立て、次々と蒸発していく。髪が乱れる玉座の間に水蒸気が溢れ、視界が湿った白で満たされる。
見えなくなる。
まるで霧の中にいるように、あたりが見えなくなる。
「貴方は言ったわね。かつての貴方とわたしは似ている、って」
優しげで、蕩けそうで、甘くて、心の表面を撫でられるような声が、不意に、クマの耳元で囁かれた。
「わたしもそう思うわ影<シャドウ>。抑圧された人の心が生み出した、空っぽな真っ暗闇さん」
「い、今のクマはッ! 空っぽじゃないクマよッ!!」
声の発生源を目がけ、がむしゃらに拳を振るう。
拳の先にベアトリーチェの姿はない。中空を滑り余った勢いは、クマの身を転倒させた。
くすくすくす。
「ええ、そうね。今の貴方は空っぽじゃない。でも、思わない?」
眼前に、現れる。
目を細め、口角を吊り上げ、嗜虐的で凄絶な微笑みを浮かべたベアトリーチェの顔が、だ。
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