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あと3話で完結ロワスレ
76
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:11:54
迷宮。
天井と壁で区切られた空間に、雪が降っていた。
各所に配された灯り星の光を受けて、六花は端正なつくりの結晶を透かせている。
迷宮化現象が世界の全域に広がった『百万迷宮』においても、こうした光景は珍しいものではない。
世界を我が物にせんとした災厄王を、迷宮――罪人がつながれる牢獄に幽閉すべく発動した魔法が世界全土に
広がった結果、迷宮は空や星をも飲み込んでしまったからだ。
迷宮災厄以前には人の手に届かなかったと言われている星など、今では料理や生活、迷宮の探索に欠かせぬ道具や、
うかつに手を出してはならない強敵として、百万迷宮の民に広く認識されている。
それは雪にしても同じだ。百万迷宮を開拓し、平穏を求める民に応えて王国を創成するランドメイカーが迷宮の北に
向かったなら、雪うさぎの吐く氷の息や広範囲を切り裂く葉っぱで歓迎を受けることは想像にかたくない。
すくなくとも、災厄王の子孫にして騎士たる「落下ダメージの」テトリス――。
民なき者<アデモス>として百万迷宮を放浪している少年にとって、これらはすべて親しい事例であった。
「しかしあいつは……よっぽど、雪や氷に思い入れでもあったのか」
そうであるからこそ行き着いた可能性を吟味して、彼は口から細く息をついた。
凍りながらもほどけてゆく呼気でぼやけた眼鏡のレンズを拭えば、猫のような黒耳もひくつく。
同じ血盟『影弥勒』にありながら、つねに単独で行動する黒須左京から、そうした話を聞ける時などなかった。
加えて、北極海から蘇って任務を遂行せんとしたアカツキや、萬川集海が断章を手にすべく臨んだ魔戦を極地と
変えてのけた藤林修羅ノ介など、ここには大なり小なり雪に縁のあるものが存在している。
――むろんというべきか。
それは、埒もない考えを弄ぶテトリスとて例外ではなかった。
彼と雪を最も強くつなぐのは、あの、荒野を目指した日。
猶予期間を過ぎて、騎士のまま居着いていた暗黒不思議学園を「卒業」した春のことである。
王になって戻ると約束を交わした乙女と別れたその日にも、迷宮の一角には時期はずれの雪が降っていたのだ。
ウマトカゲの背で揺られつつ、ロケットに収めた乙女の肖像画を折にふれて眺めていた――あのとき。
学園の方角からやってきたように思えた雪風巻の出処を、少年は、ただ一度だけ振り返って確かめていた。
身に浴びた雪の色合い、勢い。風の鳴る音。鼻孔をついて郷愁を喚起する冷気などは、いまも鮮やかに思い出せる。
「ん〜。……そんなに深く考えなくてもいいと思うんだけどな。僕、こういう雪は嫌いじゃないし」
愚考に耽るという猶予期間を断ち切ったのは、やはり、雪に関するものであった。
少年と青年の狭間にある男声が迷宮の壁に反響して、台詞にそぐわぬ深みとゆらぎを醸す。
声のあるじに視線をやれば、彼は満面の笑みを浮かべて、薄紅の髪を雪の舞う風に鳴らしてみせた。
「ね、テトリスって言ったっけ。きみはここを『交錯迷宮』って言ってたよね。
強い力を持ってるヒトがいたら、ダンジョンマスターじゃなくても世界を塗り替えられるんだって」
「ああ。だから、交錯迷宮には強敵や複雑な通路、広い部屋に……罠なんかも生まれてしまうらしいんだが」
盟友の書いたものとはいえ、さすがに手紙の内容を諳んじることまでは出来ない。
それ以前に、いまのテトリスには優先すべき事柄があった。
「お前が、この部屋の罠だったってことでいいのか? 花白。『箱庭』とやらの救世主様」
「へぇ? ……きみがそれを言うのは、ちょっとおかしいんじゃない?」
硝子のように透き通った刀身の剣を構えた花白の、笑みの質が変化する。
他人の返り血に濡れたまま、どこか遠くを見ていた少年は、テトリスへの険を隠そうともしない。
「この迷宮の核を持ってるのも、殺し合いを始めたのも『影弥勒』の側だったろ。
それで、ここじゃテトリスが『影弥勒』。僕が生き残り。敵同士だ、なんて考えるまでもないから」
低めた声に憤懣を押し込めた少年が纏うは、たとえば、空から降る白い花。
救世主と呼ばれる存在が、世界を救うと同時に花へ変えてゆくとされる雪の、ひとひらだ。
桜と見まごうほどに、救世主とされた少年を包む天花は果敢なく透き通っている。
けれども、そこにあるのは神々しさでなく痛ましさだった。
みずから選んだ孤高でさえない、孤独に追い込まれた者の姿であった。
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