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あと3話で完結ロワスレ
72
:
288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン>
◆MobiusZmZg
:2012/12/27(木) 23:10:11
「なぜって俺は……藤林だから」
静謐で予断を許さぬ響きが示すは、世界に対する強制である。
さながら魔法使いと呼ばれるものが、刻印を刻んだ物語を魔法とするように。言法(げんぽう)と呼ばれるほどに
洗練された言霊術の使い手が、言葉の意味をよすがに他者の意味をも解体するように。
「そう。俺は私立御斎学園が中忍頭のひとり。伊賀の末裔たる藤林の、修羅ノ介だ」
藤林が忍術秘伝、萬川集海の一部となって久しい少年は、
この場の誰に聴かせる要もない言葉と、妄執の焔でもって、
奥義書そのものとなった身体に、真実を刻み込もうとしていた。
「この迷宮の核を起動させたヤツが、あるいは花を舞わせるアンタが、ここを迷宮だと信じるように」
もはや道具のひとつも使うことすらままならないはずの指は、しかして止まらない。
達人の領域にまで昇華した火術の練度と、己のよすがたる過去をもって、彼は彼の真実を自身に示す。
藤林修羅ノ介。かつて忍神に出逢ったことのある男。その事件で家族を喪い、彼らを蘇生する法を求めて
萬川集海の断章を集めた少年。無機物を依り代としたがゆえに、喪失の時から止まってしまった愚か者。
愚か者。亡くしたものしか要らないことの、いったいなにが悪いのか。そんな思いを疑わず抱いた頃もあった。
その考えが正しいと思うこともあれば、二度と手に入らないものをしか求めぬ者に嫌悪をおぼえた瞬間も、あった。
――だから分かるんだよ。お前だって、なくしたものしか要らないんだろうが。
東風吹かば、火勢はかえって勢いと、秘伝書に刻む情報のするどさとを増した。
春を忘るなと梅花に告げたものの思いが分かるからこそ、藤林修羅ノ介はここにいる。
そうと思った瞬間に、ばらりと腕が巻物となって崩れんとするような体であろうと。いいや。そうした状態に
あるからこそ、この自分は、単身ムラクモたちのいるとみた場所に駆けることを選んだのだ。
血盟のものが迷宮を『分断』した時点で戦うほかない現実も、自分が奥義書に呑まれかけている事実も分かっている。
それでも、ひとえに残る者たちの力を信じて、彼らがより大きな戦力で倒すべきものを打倒することに懸けたのだ。
「この迷宮の構造を、迷いや力で歪ませて『交錯』させちまったヤツの、それ以上に」
眼前ではムラクモが、修羅ノ介の姿を見つめていた。
熱に煽られて動じぬ相手の赤い瞳は、かりそめの不死を得た少年のそれとよく似ている。
少年と男の違いを挙げるとするなら――完全者たる敵手は、死してなおも同じ表情で蘇る。死の過程において
敗北しているからこそ、これ以上、心のありようをゆがめもしないということくらいだろうか。
――けど、それにしたって問題ないさ。お前はそんなに本気なんだからなッ!
天魔伏滅の法。
くしくも、ムラクモ自身の織り上げた儀式忍法こそがいま、彼の不死を封殺している。
真水(しみず)がごとくに研ぎ澄まされた、術者の精神。生贄として、胸を貫かれたものどもの呪詛。
生き汚くあがくものの命脈を立つべく送られる配下。自他に向けて明らかにした急所と、倒すと定めた敵手の力。
加えて呪詛が祈りともなるほど密に、氷に触れたかのような熱を含んで編まれた呪文――。
綾鼓ノ儀を成すために行われた儀式は、致命の一撃を受けたものが、なお生き延びるという未来を徹底的に殺していた。
なればこそ、この鉄火場にある誰にとっても次などない。
それは転生の法を手にした完全者も、無機物に依って生きる藤林修羅ノ介とても同じことだ。
この一点にこそ《希望》と、ありったけの《気力》を込めて、彼は想いを結実させた成句をたからかに、
「俺、は――」
放とうとして、息が、音を伴わぬまま歯列をすり抜けた。
続く言葉を紡ごうとして、意思が、かたちを成さぬままに脳漿を滑り落ちた。
いいや、いいや。脳漿など、もはや、この身体にはないはずだ。それよりも自分は、この男になにを
言おうとした。いいや違う。自身を取り巻く世界に向かって、いったい、なにを言おうとしていた。
思いが力になるという迷宮を信じ、この男と萬川集海とに対抗すべく――。
藤林修羅ノ介は、いまの自分がもつべきを、なにと定義しようとしていたのだ?
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