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あと3話で完結ロワスレ

79288 交錯迷宮<コンプレックス・ダンジョン> ◆MobiusZmZg:2012/12/27(木) 23:13:31
 現人神たるムラクモと、萬川集海に呑まれた藤林修羅ノ介。いまだ目覚めぬ完全者。
「落下ダメージの」、あるいは「災厄の王子」テトリスと、喪失を前にに立ち止まり続ける花白。
 最後の戦いにあたり、優しさがゆえに殺された「探求の獣(クエスティングビースト)」加賀十也。

 ふたつに『分断』された戦場のなか、六人の去就が定かになった。
 残るふたり。アカツキと黒須左京は、盤面のどこに位置することを選んだのか。選べたのか。選ぶ余力が残っていたのか。
 謎を解く鍵は、盤の土台となった迷核を手にする『交錯迷宮』のダンジョンマスター・黒須左京――。
 レネゲイドと呼ばれるウィルスがもたらす力に適合し、それゆえにすべてを貫く槍となった少年が握っていた。


 ◆◆


 風をはらんだ布のたてる音が、迷宮の壁を滑っていった。
 壁に反響しているのは、なにもかもを断ち切り灼き尽くす紫電の轟きだ。

  ――いつか、この手でお前を殺す。それが俺の責任なんだ。

 ……加賀十也。
 超常の力を得て、なおも守りたいもののために戦った、人にも超人にもなれぬ半端者。
 オーヴァードとしてのコードネームを呼ばれることを嫌い、日常にあり続けようとした少年。
 オーヴァードとしての誇りゆえに道を違えた黒須左京に向けて、そこまで言うことのできた唯一の人間。

 人とオーヴァードの共存を目指した組織、人類の盾たるUGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)と、
彼らに敵対する者ども双方にとっての裏切り者となった黒須左京。
 人類の敵と己を定義した「マスターレイス14'」の、日常にただひとつ残していたよすが。

 そこまで思える『絆』を喪った寂しさの底を抜けて、雷は雪を呼ぶ。
 空より奏でられる花の、熱にほどけてゆくさまに、視線を遣ることなど、なく。


「ふっ。巧く割り込んだものだな」
 鼻にかかった笑い声に、皮肉げな言葉つきが追随した。
 眼鏡の下の三白眼と、青ざめた唇の引き結ばれるさまは、いずれも剃刀のようにするどい。
 触れれば切れるいでたちは、完全教団の兵士が纏う白い服の、しわひとつない着こなしにも表れている。
 それとまったく同じことが、黒須左京に相対しているアカツキのいでたちにも言えた。
 雪白に染まった迷宮にあって、彼らの衣服もまた、雪に隠れてしまうほどに白い。
「お前が『影弥勒』を抜けてまで、テトリスの側を引き寄せるとは思わなかったが」
 花白が十也を殺し、左京が自失するほどの怒りを表した瞬間――。
 アカツキがとっさに使ったのは、血盟に属したものの覚えられる忍法・外連であった。
 同じ血盟の者と間合を入れ替える技。とっさの裏切りや不意討ちの防止にも役立つがゆえに、アカツキは
『影弥勒』に入ることを選んだあと、奥義書からこの忍法を修得すると決めた。

 だが、それが完全に嵌ったこの瞬間においても、アカツキには分からない。
 さほど耐久力があるようにも見えない左京が、どうして騎士との一対一「から」やろうとしたのか。
 この戦いに勝てる保証もないというのに、どうして、友人の仇となったはずの花白からやろうとしなかったのか。

「ああなった花白を殺そうとして、一体なんの意味がある」
 左京の声は疑問のすべてを切り捨てるほどに強く、叩きつけるような響きをしていた。
「腐っても、あれはひとつの世界の救世主だ」救世主という言葉は、さらに強い調子でつむがれる。「アイツの仇を
とろうとして、いちどきに切れる札をなくせるほどの余裕は、俺に無い」
「……人と超人の間に線を引く。それがお前の『欲望』だったな」
「そうだ。あれは――加賀十也は、その考えを理解しても、俺に刃を向けることがかなうヤツだった」
 眼鏡の奥の瞳が泥のように濁りながら、それでもいっとき雷を映して輝いた。


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