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あと3話で完結ロワスレ

36傷あとをたどれば - B Side 一本の剣 - ◆eVB8arcato:2012/12/13(木) 21:53:18
無言。
"スグレモノメカ"と呼ばれた巨大な機械の残骸が横たわり。
曲芸飛行の達人は壁に赤い華を咲かせ。
狼の姿を持つ侍は体を二つに引き裂かれ。
神に仕えし少女は文字通り"平面"になり。
一組の男女は言葉を交わすことはなく。
コツコツと靴の音だけが響き渡り。
一本のレバーが落とされ、ガチャンと一際大きな音を立て。
少年はゆっくりと女の傍へと歩み寄る。

「行くぞ」

ただ、それだけ。
表情も無く、感情も無く、事務的に少女へと告げていく。
金髪の女、フェイは即座に立ち上がり、少年の胸倉を掴む。
「それでいいの?」
その目に涙を浮かべながら、少年の体を大きく前後に揺さぶる。
「セティアは、セティアは、どんな気持ちでアンタを……!!」



少年は、本来ここにいないはずだった。
圧倒的な力を誇る"スグレモノメカ"に見せた一瞬の隙を突かれ、巨大な足に踏み潰されて終わり。
そんな少年の命を救ったのは一人の少女。
とある国で将来を有望視されていた、僧侶の少女。
彼女がその身を呈し、少年を救った。

――――ねえチャッピー。

踏み潰される少し前、彼女は少年に向けてそう言った。
言葉には続きがあったが、それが語られることは無い。
一瞬、笑顔を見せた後に彼女は"平面"になった。

フェイの究極魔法が完成したのは、それとほぼ同時だった。



少年、ソードは掴まれた手を振り払い、小さく告げる。
「終わらせるまで、振り返ってる暇なんて無い」
少年には一つの決意があった。
自分の世界で魔王が蘇った時も、同じ事をした。
一本の剣を掲げ、一本の剣を背負い、一本の剣を振るう。
敵を裂き、魔を裂き、悪を裂き、平和へ導く。
だから、この場でも同じ事をするまで。
あの悪魔を斬るまで、立ちはだかる者は全て斬る。
剣を振るった先に、平和はあると信じているから。
「ディーンを斬った時から、決めた事」
だから、友を斬った。
始まりの地、そこで見せしめのように殺された女王の姿に怒り狂った友を斬った。
狂いに狂いきり、自分に刃を向けてきた友を斬った。
立ちはだかる存在だったから、斬った。
平和を阻害する存在だから、斬った。
自分にとっての敵だったから、斬った。
目の前に立ちはだかる全てを斬り伏せてきた。

何も考えない。
まだ、事は達成していないのだから。
全てが終わってから、振り返ればいい。
今、振り返っている時間なんて、一秒も無いのだから。
「行くぞ、アンタの"ペプシの知識"は必要だからな」
前へ進み、立ちはだかる者を斬り捨てるだけだ。



かつかつと歩き出すソードの背を見ながら、フェイは思わず壁を殴りつけてしまう。
分かっているのだ。
そんなことに構っている暇など無いことほど時間がないことぐらい、分かっている。
分かっているから、分かっているからこそ辛い。
この地で長く行動を共にした、セティアの気持ちが伝わらないことが。
「ちょっと待っててね」
彼女は誓う。
今は、ソードと共に全てを終わらせる。
その後、彼女の気持ちを必ずソードに伝えると。
静かに、誓う。



動き出したビルのエレベーターが、ゆっくりと大広間へ辿り着いていく。


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