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あと3話で完結ロワスレ

98Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:18:02
 ブルーの視線を追うように、クマは宙を漂うベアトリーチェを見上げる。
「ベアチャン、空っぽだった頃のクマと同じクマ。独りぼっちだから自分が分からなくて、寂しくて、寂しくて……」
 大きな瞳に涙を溜め、震える拳でエアガイツを握り締め、
「でも、こんなのはダメ。ダメだって、クマは思うクマ!」
 そんな真っ直ぐで汚れのないクマの想いを受け、ヴァージニアが前に出る。
「『想い出』は、貴方がどうこうしていいものじゃない」
 銃把と弾丸と引鉄は重い。
「やっぱりわたしは貴方を許せない。命を、『想い出』を、野望のための供物だとしか思っていない貴方を許せないッ!」
 けれどそれは足を引っ張る邪魔な重みではなく、頼もしさと懐かしさをくれる重みだとヴァージニアは思う。
「わたしは何度でも貴方の前に立ちはだかってやるッ! 貴方が、その野望を捨てない限りッ!」
 信念の鼓動を胸の奥に感じる。ヴァージニアが抱く折れない正義が、血潮を通して体中に沁み渡って行く。
 だから戦える。
 たとえ右手が動かなくとも、戦える。

 返って来るのは笑い声だった。
 くすくすと、可笑しそうにベアトリーチェが笑っていた。 
「好きに喚きなさい愚か者ども。吼える自由くらいは与えてあげる。だってそれは、最期に言い残す言葉になるのだから」
 異形と化した両手を広げ、ベアトリーチェは高笑う。
「わたしは夢魔ベアトリーチェ! 神の悪夢をも従えて、あらゆる『想い出』を飲み干して、貴方達の現実を終わらせてあげるッ!!」
「はンッ!」
 カズマが五指を広げた右手を突き付け、人差し指、中指、薬指、小指、親指と、一本一本順に指を握り込んでいく。
 完成した握り拳を引き絞り、全力で床へと叩きつけ、跳躍する。
「その人を食った薄ら笑いも、そこまでだァ――ッ!」
 ベアトリーチェよりも高く昇り上がり、宙で身を捻り、右腕を引き絞る。
 爆発的な加速がカズマの右腕で炸裂し、推力となり、その身をぶっ飛ばす。
 速度の乗った一撃が行く。
 無数の壁を叩き潰し殴り壊しブチ抜いてきた拳が、ベアトリーチェへ肉薄する。
 余裕を浮かべたままのベアトリーチェの矮躯へと、直線軌道で飛んでいく。
 硬質な金属めいた拳が直撃する寸前、ベアトリーチェの姿が、霧のように掻き消える。
「――ッ!?」
 カズマの拳は空を切り、その推進力のままに床を叩き壊す。
 クレーターのような大穴が刻まれ砂埃が舞い上がる。大理石の破片が、ぱらぱらと飛び散った。
「や、やったクマ!?」
「違うッ! 手応えがねェッ!」
 瞬間、砂煙の奥で無数の黒がうねった。
 黒の群れは触手の姿を取り、しなり、伸び、カズマへ殺到する。
 舌打ちを落として飛び退る。
 だが、触手の動作は吐き気がするほどに速かった。
 触手はカズマを包囲し捉えるべく追い縋る。
 背後で銃声が連続した。
 右を、左を、頭上を、足元を、銃弾が疾走し、下がるカズマと擦れ違う。
 銃撃は正確無比な精度と速度で触手を打ち抜いた。
 触手が爆ぜる。胃液が逆流しそうなほどの、嫌な臭いが広がった。
「影じゃ、ない……?」
 ヴァージニアの呟きに応じるように、爆ぜた触手は枝分かれする。
 違う。
 枝分かれではなく、寄り集まっていたものが解けていく。
 それは、髪の毛だった。
 影のように見えた触手一本一本は、束ねられた漆黒の髪の毛だった。
 解け数を増したそれらは、先端を針のように尖らせる。
 そして、来る。

 ぞぞぞぞぞぞぞぞ、と、髪の毛の集団が波濤のように押し寄せてくる。視界を覆い尽くすほどの髪の毛は、生理的なおぞましさを喚起する。
 それはまさしく、夢魔に従う神の悪夢だった。
「く、クマ、毛は間に合ってるクマぁーっ!」
「身勝手な神め……! 悪夢を斬り捨てるから夢魔に付け込まれるッ!」
 喚くクマの隣で、ブルーがミスティック・ワイザーを掲げる。
 聖杖の宝石が瞬いた瞬間、眩い球体が髪の毛の波を阻むように顕現する。
 漆黒の髪とは対照的な球体の輝きは、黒を眩く照らし上げる。
 球体から、力が放射される。その力は、太陽の輝きの色をしていた。
 陽術――超風。
 高温の豪風が、髪を迎撃する。
 豪風は髪の軌道をねじ曲げ反らし、高熱はか細い髪を一瞬で溶かしていく。
 波濤を溶かし切ると同時に風は止まり、光球は残像を残し消えていく。
 玉座の間に充満するタンパク質の焼けて溶ける臭いは、ひたすらに不快だった。


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