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あと3話で完結ロワスレ

51メモリーズ・ロスト ◆6XQgLQ9rNg:2012/12/15(土) 23:43:45
 ◆◆
  
 小さいな、と殊子は思う。
 腕の中にあるこの温もりは、まだとても小さい。
 こんな小さい身なんだ。あれだけの悲しみと絶望に襲われたら、潰れてしまうに決まっている。
 トトリの髪に、そっと触れる。
 震え、怯え、泣きじゃくるトトリの頭を、優しく撫でる。
 声にならない声で喚くトトリを、抱き締める。
「ごめんね……」
 殊子は謝罪する。
 分かってあげられなかった過去を。
「ごめんね……」
 直せなくなるまで壊れてしまったというのに、それでも涙一つ流せない現在を。
「ごめんね……」
 そして、宣言通りに酷いことを行う、未来を。
 殊子は、謝罪する。
 トトリの柔らかい髪に触れ、撫で、温もりを感じる。生命がある。『想い出』をくれた、たましいがある。
 壊してしまうのは簡単だ。少し力を加えれば、この細い身はあっさりと砕け散るだろう。
 けれど、そうしたくはなかった。
 だって、この子がいたから。

 ――私は、みっちゃんがいなくなっても、私でいられたんだ。世界を好きだって、思うことができたんだ。

「ありがとう、トトリちん」
 告げる。
 そして、殊子は目を閉じる。
 心の中に潜り、欠落に手を伸ばす。
 そこはかつて、世界があった場所。
 城島鏡によって奪われた世界――虚軸<キャスト>、目覚まし<ハラハラ>時計が居座っていた場所。
 触れる。
 世界の残滓――殊子が握り締めてきたジョーカーに、触れる。
 晶も硝子も里緒もネアも、もういない。
 舞鶴蜜――大事な義妹も、もういない。
 それに、もうこの身は長くない。先ほどの強力な爆弾は、殊子の身を焼き血液を垂れ流させていた。
 故に、惜しくはない。 
 虚軸<キャスト>を奪われ、たった一度しか使えくなった力。
 それは抗うことのできない、圧倒的な精神操作だ。
 世界の残り滓を、引き摺りだす。
 懐中時計の姿をした世界が、トトリの頭の上に浮かび上がった。


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