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とある英雄譚のようです
1
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0
荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。
まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。
骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。
魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。
人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。
ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。
127
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:51:24 ID:G.gIoQVo0
クールよりも一足先に五つの天剣がエストの魔力と衝突。
それぞれが発したリバーサルの魔術が相互干渉を引き起こし、
強力な魔力が行き場を失くし暴走、消滅した。
その衝撃波を潜り抜け、クールはエストの首元目掛けて突貫した。
川 ゚ -゚) 「貫けっ……! ペネトライト!」
流星の如く地面に突き刺さった光の柱。
余波だけで周囲の木々を薙ぎ倒した強大な魔術は、
真名が解放されたナインツ・ヘイブンの持つ九つの魔術のうちの一つ。
その中で最速にして最も鋭い一撃。
飛び散った血液が大地を赤く染める。
クールの生存に気付いたエストが咄嗟に身体を動かし、
光の刺突はその片目を奪うにとどまった。
<_フW゚)フ 「くっく……どうやらその力の真価を発揮したようだな。
これでようやく母親と同じ土俵に立ったわけだ」
奪われたはずの視力を一切気にすることなく、老狼はその身に纏う魔力をさらに濃くする。
クールが構えた一つと、宙に浮かぶ五つの切っ先がエストを狙う。
川 ゚ -゚) 「……まだ戦うか」
128
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:52:18 ID:G.gIoQVo0
<_フW゚)フ 「あぁ、勿論だ。これだけの高揚感は久しぶりだ。
最後まで楽しませろよ、人間」
戦いの余波で荒れ地となった森の中で向かい合う一人と一頭。
どちらも、睨み合ったまま一歩も動かない。
川 ゚ -゚) 「……ふっ!」
先に動いたのはクール。
顕現させているだけで膨大な魔力を発生させる天剣は、
扱い方を間違えれば逆流によって自らを傷つけかねないほどの出力を持っている。
扱い慣れていない現状で、相手の出方を窺うにはあまりにも不利だと判断しての事だった。
真正面からの剣筋に対し、エストがとったのは魔力壁の精製。
目に見えない壁がクールの剣を阻む。
<_フW゚)フ 「もう限界と見えるがな」
じりじりと壁の圧力が増し、クールは後ろへと押され始めた。
川 ゚ -゚) 「はっ……そっちも大技撃つ余裕がないのはわかってる」
<_フW゚)フ 「それはどうかな」
エストの全身から噴き出した白銀の靄。
それが狼の頭へと変化し、クールに襲い掛かる。
129
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:53:05 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「くそっ」
瞬間的に召喚した五つの天剣で辛うじて防ぐも、
正面の力押しに割いていた神経が削がれた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……」
はるか後方に弾かれ、大樹の幹にぶつかって止まった。
肺からすべての息が溢れ出たせいで行動不能に陥った一瞬の隙をつき、
エストは大樹ごと噛み砕いた。
<_フW゚)フ 「何処に……」
粉々になったのは大樹の欠片だけで、人間の身体はそこには無かった。
脅威を感じて飛びずさったエストの後ろ足に深く突き刺さった天剣。
<_フW゚)フ 「ぐぅっ……」
川 ゚ -゚) 「でかい身体というのも不便だろう」
動きが鈍った巨体の足元で、天剣に魔力を注ぎ込むクール。
<_フW゚)フ 「馬鹿が、何の対策もしていないと思ったか」
130
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:53:46 ID:G.gIoQVo0
川;゚ -゚) 「なっ!?」
全身から噴き出したのは高熱の魔力。
それを防ぐために、クールは攻撃の為に貯めた魔力を消費せざるを得なかった。
<_フW゚)フ 「これで……終わりだ」
縦に飛び上がったエストは、眼下にクールを見た。
咄嗟の攻撃に対処したせいで、、もはや魔術を練り込む余裕は無い。
その身体に残るのは僅かな魔力のみだと確認し、エストは最大の一撃を叩きこむために吼えた。
<_フW゚)フ 「もはや天剣すら維持できんか! 粉々になれ!」
エストは全身に残った魔力のすべてを込め、
落下の勢いを利用してクールに叩き付けた。
轟音と爆炎。砂埃が舞い上がり、一帯は一歩先すら見えない。
ゆうに数十秒もかかり、ようやく落ち着いてきた更地に見える二つの影。
<_フW゚)フ 「な……に……」
その腕はクールに届かず、空中で身動きすらできないエスト。
首元から背中まで貫通した巨大な光の剣を視認し、自身の敗北を知った。
川 ゚ -゚) 「ギガンテア」
131
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:54:15 ID:G.gIoQVo0
<_プW゚)フ 「魔力は……もう切れていたと思ったのだがな……」
川 ゚ -゚) 「はっ……その通りでもう空っぽだ。
ギガンティアは天剣の持つ魔力を解放する技だ。
細かなコントロールは当然きかないし、大きすぎて普通の敵には当たらない」
<_プW゚)フ 「ははは……!! なかなかに面白かったぞ小娘!
汝が母親を超えているのは魔力だけだと思っていたが。我を倒すとはな……。
技術でももはや勝るとも劣らん……よ。見事……だ……った……」
エンシェント・モナク、老狼エストは目の前で力を使い果たしたクールを称えると、その命を失った。
132
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:56:56 ID:1ulbFvwQ0
君主か
133
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:58:20 ID:G.gIoQVo0
>4
川 ゚ -゚) 「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
王城にある自室で紅茶を飲んでいたクールは、唐突に誰もいない空間に声をかけた。
('A`) 「数撃てば、と思っていたが本当に成し遂げるとはな」
応えたのは何処からともなく現れた黒いローブの男。
自らの丈を超える長杖を傍らに抱き、
部屋の主である女性に許可を得ることなくベッドに座っていた。
川 ゚ -゚) 「待たせすぎではないか」
('A`) 「こちらもいろいろとあってね」
川 ゚ -゚) 「そんなことはどうでもいい。それで、私を約束の丘に連れて行ってくれるのか?」
('A`) 「ああ、そうだ」
川 ゚ -゚) 「……そうか」
かつての少女は、笑みとも哀しみともつかぬ表情で呟く。
目標を達成できたことに対する自らの感情を図りかねていた。
今や女性らしく成長したクールの儚い麗しさに、男は動揺を心の奥底に押し込める。
134
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:59:46 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「……変わらないな」
数年ぶりにあったにもかかわらず、男の姿はクールの記憶にある当時のままであった。
('A`) 「自分の時間を止めているだけだ」
川 ゚ -゚) 「そんなこともできるのか……」
('A`) 「俺ほどの魔術師になれば容易いことだ。
それにしても君は変わったな。あのお転婆姫が……嘘みたいだ」
川 ゚ -゚) 「ふふ……あれから七年か。
強くなることばかり考えていたせいで、色々と失ってしまったが……」
('A`) 「遊んでいたかったか? 普通の人間として」
川 ゚ -゚) 「いや、私が望んで歩んできた道だ。後悔はしていない。……するわけがない」
クールは強い否定の言葉と共に首を横に振る。
両腕を胸の前に掲げ、光る九つの小さな剣を呼び出した。
135
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:00:16 ID:rAv1D0mY0
川 ゚ -゚) 「あの時、お前と会わなければこの域まで至ることは無かっただろう」
('A`) 「ナインツ・ヘイブンか……それも完成させたんだな。
母親にも負けない大したお姫様だよ」
川 ゚ -゚) 「褒められたくてやったわけではない。ただひとえに、お前に勝とうと思えばこそだ。
だが、今日会って分かった。お前と私の間にはまだ差があるようだな」
('A`) 「お前が感じているのは実力の差じゃない。経験の差だ。
俺は追いつかれたと、そう感じているんだからな。
本当に、天剣使いの女には驚かされる」
川 ゚ -゚) 「以前会ったときに、母の事を知っていると言っていたな」
('A`) 「ああ」
川 ゚ -゚) 「教えてくれないか」
('A`) 「いいだろう。だが今じゃない。向こうに着いてから話すとしよう。
もう城内の人間に別れは済ませたのか?」
川 ゚ -゚) 「たった一年間の留守だ。今更の事だ。別に誰も怒りはしないさ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるクール。
ドクオはそれに合わせる様に苦笑した。
136
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:00:41 ID:rAv1D0mY0
('A`) 「訂正だ。お前は昔から全く変わってないよ。さて、そろそろ……ん?」
クールは何も言わずに椅子から立ち上がり、ドクオの目の前に立つ。
そのままドクオの肩を抑え、ベッドに押し倒した。
(;'A`) 「なん……だ……?」
川 ゚ -゚) 「自分でも不思議なんだが、今を置いて他にないと耳元で私が囁くんだ。
わかるか……? あの頃の私はな、ずっと待っていたんだ」
('A`) 「何を……」
川 ゚ -゚) 「私よりも強い人間を。それがどうだ、現れたと思えばすぐにどこかに消えてしまった。
あの時のお前にとって私は、ただの可能性の一つでしかなかったんだろうな」
('A`) 「……そうだな」
抵抗をしないドクオに覆いかぶさると、長い髪がその頬に触れた。
それは部屋の中にいた二人をさらに狭い空間に閉じ込めた。
互いの息遣いが聞こえるほどの近い距離。
川 ゚ -゚) 「でも私にとっては違った」
('A`) 「……」
137
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:01:58 ID:rAv1D0mY0
川 ゚ -゚) 「絵にかいたように可愛いお姫様だった私が、求めてやまなかったのは物語の王子様。
我ながら夢見がちな乙女だったよ」
('A`) 「自分で言うか……」
川 ゚ -゚) 「それでも、その夢の中に現れたんだ。
あの頃の私にとって、ただの憧れだったのか、
それ以上の存在だったのか、今はもうわからない」
('A`) 「夢は覚めたか?」
川 ゚ -゚) 「いや、残念ながら時間経過でより深く沈んだ。逃げ出せないくらいに。
あの時と同じことをもう一度言おう」
('A`) 「傷つくから遠慮しておく」
川 ゚ -゚) 「駄目だ。拒否権はない。全く同じ状況で、お前と全く違う人間が現れたとしても、
同じ結果に陥ってたように思う。
それでも、今の私にとって特別なのは、仮定の誰かじゃなくて、ここにいるお前だ」
('A`) 「俺は……」
零れかけたドクオの言葉を人差し指一つで押しとどめる。
川 ゚ -゚) 「言うな。別に気にしないさ」
138
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:04:59 ID:rAv1D0mY0
('A`) 「……まったく、強引で自分勝手で……我儘なお姫様だ」
川 ゚ -゚) 「褒めても何も出ないぞ」
('A`) 「ああ、そうだろうな」
川 ゚ー゚) 「一つだけ聞こう。……私の勝ちか?」
('A`) 「…………お前の勝ちだよ」
.
139
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:05:55 ID:rAv1D0mY0
・・・・・・
140
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:06:51 ID:rAv1D0mY0
今日はここまでです。続きは近いうちに。
読んでいただいた方、支援していただいた方、どうも有難うございました。
141
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:26:20 ID:jDNNE6SM0
乙
面白かった
142
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:37:19 ID:bpFci.RQ0
続きが待ち遠しすぎ
143
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 01:14:33 ID:nunSBhSU0
乙乙
完結まで結構長そうだな
144
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 07:15:00 ID:lZYQLZ1Y0
めっちゃすき
145
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 08:34:40 ID:36M8FEJg0
川 ゚ -゚)の勝ち=立たせること
何が立ったのか…
146
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 09:23:32 ID:nunSBhSU0
そらナニだろうな
147
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 13:35:05 ID:msTnvtcY0
乙乙!
面白かった。キュートはどこに絡んで来るのやら
148
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 20:31:13 ID:erpuxcHw0
乙です
149
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 08:51:54 ID:xZGVhIGg0
すげーいいなこれ
150
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:55:49 ID:JZ..YL360
少女はその柄を強く握り、地面から引き抜いた。
朽ちていた刀身は砕け、鉄粉となって舞う。
月の光に照らされた丘の上で、少女は立ち尽くす。
o川*゚ー゚)o 「夢じゃ……無いのかな?」
柄と刀身の一部しか残っていない剣は、
夢の中で女性が振り回していた武器にとても良く似ていた。
それを否定する事実は、手の中にあるズシリとした重さ。
o川*゚ー゚)o 「誰だったんだろう、綺麗なお姫様……」
その顔だけが微かに思い出せた。
ぼうっとする頭の中に浮かび上がる笑顔は、何故かとても心に響く。
知っているのに知らない人。
それが妙に少女の心をざわつかせた。
o川*゚ー゚)o 「私の夢? それとも……私が見ている夢?」
一度覚醒してしまえば、泡沫のように消えてなくなる夢の足跡。
頭を捻ってみたところで、もはやほとんど思い出すこともできなかった。
o川*゚ー゚)o 「これ、どうしよう」
なんとなく大事なモノのような気がし、そっと地面に置く。
すでに崩れかけていた刀身は音を立てて地面に散らばった。
151
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:56:17 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「……鉄だけど、魔力……?」
重量も質感も、全てが鉄であることを示している。
それなのに、目の前で崩壊した剣は明らかに魔力によって創り出されていた。
o川*゚ー゚)o 「はーっ……どうなってんだろ」
今まで気にも留めていなかった事実が、次々と少女の心に押し寄せてきた。
この箱庭のような場所に、何故たった一人なのか。
自分は一体、何処から生まれてきたのか。
一人の骸と、四つのシンボルが何を意味するのか。
o川*゚ー゚)o 「っ……」
溢れそうになる涙をすんでのところで抑え込んだ少女。
ほんの少しでも泣いてしまえば、もう堪えられそうになかったから。
何処までも続く荒れ地に、たった一人っきりだという事実に。
せめて涙を流さないようにすることだけが、少女にできる唯一の抵抗であった。
o川* ー )o 「もうやだぁ……誰かぁ……」
呼びかけに応える者はいない。
少女は膝を抱えて蹲る。見たくもない現実から目をそらそうと。
そうやって自分の中へと逃げ込む。
152
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:56:37 ID:JZ..YL360
誰にも邪魔されることがない、自分だけの場所。
自分だけが許された領域へと。
少女の心の中を映し出したかのような、暗く、広く、何もない空間。
o川* ー )o 「っすん……ひぐっ……」
逃げ込んだところで、彼女は致命的に、絶望的に一人だった。
親もなく、友もなく、自分さえもあやふやで信頼出来ない。
この寂しさを紛らわしてくれる存在を、少女は願った。
o川* ー )o 「…………」
無限に広がる夜空に浮かぶ星。
その輝きを受けて、地面から生えた牙が淡く光る。
o川*゚ー゚)o 「……?」
吸い込まれるようにふらふらと歩く少女。その様相はまるで意思無き人形。
小さな瞳に映っているのは燦然と輝く夜空と、水晶のような牙。
牙の足元にまでたどり着いた少女は、糸が切れたかのように倒れ込んだ。
153
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:57:57 ID:JZ..YL360
>1
雑多な植物が生い茂った道もない森の中、少年はひたすらに走る。
逃げるために。道なき道を真っ直ぐに。
木々を薙ぎ倒し、草葉を踏み潰し。
(#・∀・) 「ああああっ!!!」
怒りに任せて発した叫びが、森を穿つ。
それと同時に、少年を中心に半径数メートル分の付近の植物が分解された。
出来上がったばかりの道を駆け抜ける。
(#・∀・) 「っ……! くそくそっ……! 」
どれだけ走ろうと、どれほど逃げようと、脳裏に浮かぶのは得体のしれない呪術師の男。
その見た目は村中で噂されていた通りの黒いスーツに白のネクタイ。
白の帯が巻かれたシルクハットを目深に被り、
その手に持つのは宝石の埋め込まれた歪なステッキ。
あまりにも不気味で一目見れば二度と忘れることは出来ない。
死神をも驚かせるような恰好の男は、獣の使い手達の間では有名な要注意人物。
敵国の保有する最強の戦力であり、獣の使い手に取っては死の象徴である。
そんな男が自陣の最奥に突然現れ、告げられた父と母の死。
男の纏う雰囲気にのまれた少年に、言葉の真偽を疑う余地などなかった。
154
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:58:23 ID:JZ..YL360
恐怖という感情に身体を支配され、自らの起こした行動すら理解するのに数分を擁した。
即ち、全てを投げ捨て脱兎のごとく森の奥へと逃げ出したことに。
森の奥へは決して向かうな言われていたことなど、頭の中には無かった。
一週間もの間、昼夜を問わず走り続けた。
食事も休憩も一切取らずに。
その結果辿り着いた場所は、少年が想像だにしていなかった世界。
( ・∀・) 「どうしよう・……」
少年は愚直に信じていた。
森の奥にはより深い森が拡がっていると。
この森に果てなどないのだと。
だが、突きつけられた現実は違った。
少年の眼に映るのは煙に埋め尽くされた灰色の空と、赤黒く輝く荒れた大地。
見たこののない風景と、嗅いだことのない臭い。
強烈な初めてに当てられた少年は、言いようのない感覚に襲われていた。
まるで境界線でも引いたかのように唐突に終わっている森。
炎の海から吹き込む熱風が頬を焦がす。
155
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:59:52 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「戻らなきゃ……」
引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。
(;・∀・) 「あ……あぁ……」
灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。
/ ,' 3 「ほう、森の獣か……」
(;・∀・) 「ひぅ……」
/ ,' 3 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」
灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。
( ^Д^) 「油断したなっ!」
起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。
/ ,' 3 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」
156
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:00:37 ID:JZ..YL360
>>155
はミスです
157
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:01:13 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「戻らなきゃ……」
引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。
(;・∀・) 「あ……あぁ……」
灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。
|(●), 、(●)、| 「ほう、森の獣か……」
(;・∀・) 「ひぅ……」
|(●), 、(●)、| 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」
灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。
( ^Д^) 「油断したなっ!」
起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。
|(●), 、(●)、| 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」
158
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:01:52 ID:JZ..YL360
灰龍は少年に背を向け、起き上がった緑色の龍を睨む。
既に戦闘態勢を整えた小柄な龍が牙をむき出しにして突進をかける。
(#^Д^) 「殺すッ!」
|(●), 、(●)、| 「殺せんよ」
飛び込んできた龍を灰色の龍が力づくで組み伏せた。
頭を大地に半分以上沈められ、口を開くこともままならい。
( ^Д ) 「ぐっ……!!」
|(●), 、(●)、| 「大人しくしておれ」
その首を抑えつけられた緑色の龍は微かな抵抗を見せていたものの、すぐに気を失った。
|(●), 、(●)、| 「さて、話に邪魔が入ったな。
生半可な距離ではあるまいて。なぜ龍の国に訪れてきたのだ?」
鎮圧した龍から腕を離し、再び少年と向かい合う。
( ・∀・) 「龍……国……? 知らな……くて……」
159
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:02:40 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「はて……迷子か。にしては随分と遠くまで来たものだ。
親は何処におるのだ」
( -∀-) 「父さんと……母さんは……」
俯いた少年に対して、龍は何も言わずに鼻先で撫でる。
最初は驚いた顔をしていた少年も、害意はないと悟ったのかされるがままになっていた。
|(●), 、(●)、| 「大変だったのだろうな……」
返事の代わりに、空腹を訴える音が長々と響いた。
驚き、苦笑した龍はその背を少年に向ける。
|(●), 、(●)、| 「乗りなさい。すぐ近くに私の住処がある。食べるものくらいはあるだろう」
( ・∀・) 「えっと……」
|(●), 、(●)、| 「私の名前はダディクール。君の名前は何という」
( ・∀・) 「モララー……モララー・ドライト」
|(●), 、(●)、| 「ほう、良い名ではないか。かつての龍王と同じ名であるとは」
160
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:03:18 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「龍王……?」
|(●), 、(●)、| 「強く気高い王であられた。…………」
言葉を切り、懐かしむように遠くを眺めるダディクール。
モララーは何も尋ねず、灰龍の背に飛び乗った。
それを確認したダディクールは巨大な翼を広げて急上昇する。
( ・∀・) 「……あの龍は」
|(●), 、(●)、| 「放っておけばよい。気絶をしているだけだ」
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「愚かな空位の龍王、その小間使いだ。十や二十おったところで敵ではない」
( ・∀・) 「空位の龍王……?」
|(●), 、(●)、| 「……いらんことを言うたな。忘れてくれ。
見えてきたぞ」
ダディクールが着地したのは、熱風を噴き上げる真っ赤な湖の中心にある山。
その背から飛び降りたモララーはとめどなくあふれる汗を拭う。
161
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:04:12 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「森の住人には暑すぎたか。少し待て」
灰龍の息吹がモララーを包み、肌を焼くほどの熱は消えた。
( ・∀・) 「あ、りがとうございます」
|(●), 、(●)、| 「食事は……食べれそうなものを食べればよい」
家よりも大きな机の上に並べられた様々な食材。
モララーは燻製にされた肉を千切り、口の中に放り込む。。
( ・∀・) 「む……」
龍族の肉は想像よりも堅く、呑み込むまでにかなりの時間をかけていたが、
その味はむしろ好みなくらいであり、すぐに次の一欠片に取り掛かった。
その様子を見ながら、ダディクールは真っ赤な液体を飲み込む。
|(●), 、(●)、| 「…………」
じっと見つめられていることを気にもかけず、一心不乱に食事に取り込むモララー。
到底食べきれるはずのない量があった肉を、殆どすべて平らげた。
( ・∀・) 「うぷ……」
|(●), 、(●)、| 「水を飲みなさい」
162
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:04:50 ID:JZ..YL360
爪で押し出された器には、溢れんばかりの水が注がれている。
それは周囲の気温に影響を受けず、差し込んだ手を焦って引くほどに冷たい。
自身が泳げるほどの大きさがある器に顔を沈め、のどを潤した。
( ・∀・) 「はぁ……」
|(●), 、(●)、| 「落ち着いたか」
( ・∀・) 「はい」
|(●), 、(●)、| 「なぜ国境まで来た」
( ・∀・) 「村が……敵に襲われて……父さんと母さんが……」
|(●), 、(●)、| 「森の住人達は戦争をしておったのだったか。
そんなことを耳にした記憶もあるが……君の父と母は勇敢に戦ったのだろう」
( ・∀・) 「でも、殺されたって……」
|(●), 、(●)、| 「呪術師の一族か……。何とも異様な集団よ。
我らが同胞も何度か殺されておる。
特に一人、破格に強いのがおるらしいが……」
163
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:05:38 ID:JZ..YL360
全種族の中でも最強とうたわれる龍属。
正面から戦ってこれを打倒できる個は、世界中を探しても数えるほど。
|(●), 、(●)、| 「森の住人にも強き夫婦がいたな。
名を確か……フサギコとペニサスといったか。
たった二人で彼らの住処を襲った破龍を狩りおった……」
( ・∀・) 「父さんと母さんが?」
|(●), 、(●)、| 「そうか、彼らが君の両親だったか……。
その身に宿す獣の力もさることながら、とても勇敢な戦士だった」
( ・∀・) 「そう…………だったん……」
龍の食卓に座っていたモララルドは突如倒れ込んだ。
|(●), 、(●)、| 「ん……なんだ寝てしまったのか。
今はゆっくりと休め。これからのことは起きてから決めるがよい」
寝息を立てるモララルドの小さな身体を柔らかな羽毛の上に運び、
灰龍も目を瞑った。
164
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:05:58 ID:JZ..YL360
>2
|(●), 、(●)、| 「目を覚ましたか」
( ・∀・) 「ここは……」
|(●), 、(●)、| 「三日間も眠り続ければ、もはや忘れてしまったか」
( ・∀・) 「いえ……どうも、ありがとうございました。帰ります」
|(●), 、(●)、| 「何処にだ?」
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「君が寝ている間に、森の方を少し調べてきた。
……残念だが、今は帰らないほうが良いだろう」
( ・∀・) 「っ……」
|(●), 、(●)、| 「君さえよければ、すこしここで暮らしておくといい。
呪術師とて、虐殺をするのが目的ではなさそうだ。
そのうち普段通りの暮らしができるようになる」
165
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:06:54 ID:JZ..YL360
(; ・∀・) 「でも……っ!」
|(●), 、(●)、| 「では今戻って、無駄に事を構えるのか?
獣使い最強であった君の両親を殺した敵と。
敗北は必定。無意味に命を散らすことはあるまい」
( -∀-) 「……」
|(●), 、(●)、| 「どうする?」
龍は問いかける。
少年が望む答えを与えてやることをせず、返事を待つ。
( ・∀・) 「強くなりたい。父さんと母さんの仇を取れるように」
|(●), 、(●)、| 「……復讐のための力か。それでもよかろう。
わしも手が必要でな。見た所、才能も過大にある。鍛えてやろう」
(; ・∀・) 「えっ!?」
|(●), 、(●)、| 「何を驚く。君が望んだことだろう」
( ・∀・) 「あなたの目的は何ですか」
166
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:08:18 ID:JZ..YL360
個が最強である龍属は集団を作って生活することは好まない。
生まれたばかりの子であっても、一ヶ月ほどで独り立ちをさせられるほどに。
モララーもその程度のことは知っていた。
|(●), 、(●)、| 「君は自身の力に気付いておらんのだな。獣の身で龍を宿すその力に。
この前に少し言った空位の龍王のことは覚えておるか」
( ・∀・) 「いえ……」
|(●), 、(●)、| 「そうか。それなら龍族の歴史はどのくらい知っている」
( ・∀・) 「……全く知らないです」
|(●), 、(●)、| 「一から話すのはなかなかに面倒だが……納得はせまいな」
灰龍は壁に大きな傷跡をつける。
描かれた図形は楕円形が二つ。。
それぞれが赤と青に魔力で色付けされた。
|(●), 、(●)、| 「二千年以上前、妃龍クレシアの御代。
その時を境に龍属に二つの派閥ができた。
それぞれは旧派、新派と呼ばれていたが、特に大きな争いは無かった。
だが……」
赤い円が少しずつ肥大化し、青を飲み込み始める。
167
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:10:35 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「初めはほどんど同規模であった二派。
二千年という時は、均衡を崩すには充分だった。
時は過ぎて、旧派の龍属はわずか十数頭。それに対して新派は百を超えていた」
|(●), 、(●)、| 「今から百年ほど前、旧派のモララー・ラインバウが龍王となった。
並みいる龍属の中で最も力が強かったからな。当然のことだ。
最初は反対の声も多かったが、温厚な性格の彼のもとでうまくまとまっていた」
微かに明滅していた光は、次第に弱くなっていく。
暫くして、赤の円の中に残っていた青の光は完全に消えた。
|(●), 、(●)、| 「ほんの十年前まではな」
( ・∀・) 「十年前……僕が生まれた年だ」
|(●), 、(●)、| 「龍王モララーが殺された」
(; ・∀・) 「え……王様なのに?」
|(●), 、(●)、| 「龍王とは言え不死身ではない。
私は実際に見てはいないが、百を超える龍の大軍だったらしい。
地形が変わるほどの大戦争だった。
その戦闘に参加して生き残った龍属は一頭もいない」
168
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:11:23 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「えっ……」
|(●), 、(●)、| 「その反乱の首謀者……轟竜ローアング。
自ら戦わずして龍王の座に就く痴れ者よ。
私の目的は奴を殺すこと。君と同じ敵討ちだ……」
( ・∀・) 「僕の力が本当に必要なの?
最初に会った時だって、他の龍なんか相手にならなかったのに」
目の前で打ち倒される巨体を忘れたわけではない。
灰龍はいともたやすく同族の意識を断ち切った。
|(●), 、(●)、| 「あれはただの雑魚だ。新派のほとんどは王によって消されたとはいえ、
未だ旧派の数倍の戦力がある。私一人では手に負えない」
( ・∀・) 「だからって……」
|(●), 、(●)、| 「自分自身の力の大きさすらも知らないとは、
随分と甘やかされて育ったようだな」
( ・∀・) 「僕の……ちから……?」
|(●), 、(●)、| 「さて、では教えてやろう。背にのれ」
169
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:12:17 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「うん……」
モララーは灰龍の背に飛び乗り、その棘の一つを掴む。
灰龍は体を起こし、山腹をくりぬいたかのような巣から飛び立つ。
魔力で強化した翼を力強く羽搏き、みるみる上昇していく。
瞬く間に雲の間を通り抜け、空に沈む。
吹き抜ける冷たい風が肌を削るような速度。
(; ∀・) 「かっ……」
|(●), 、(●)、| 「堪え切れずに落ちるかと思ったが……よく耐えている」
大きな円を数度描き、急降下。
上昇時よりも数段速い速度を得て、雲を突き抜けた。
|(●), 、(●)、| 「死ぬなよ?」
( ・∀・) 「…………!!!」
一瞬の空白の後に生まれた爆風は、付近一帯の雲を微塵に吹き飛ばした。
時間を止めたかのような完全な停止。
予測していなかった挙動によって生まれた慣性に耐えきれず、
モララーは音速を超える速度で地面に投げつけられた。
170
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:14:00 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「さて、どうだ」
( ∀ ) 「無理無理……助けて! 父さん! 母さん!」
意識を失っていなかったことが、モララーの命を辛うじて繋いでいた。
地面に衝突して潰れた果実の様になるまで、残り僅か数十秒。
( -∀-) 「もう……駄目……」
今までにないほど脳みそを使ったところで、
生存への道を見出すことは出来なかった。
優秀な両親と違い、モララーは獣解放すら身に付けていない。
この状況を解決できる手段を持ち合わせてはいなかった。
もっとも、彼が特別に劣っていたのではなく、彼ぐらいの年ではできないことが普通であったのだが。
( ・∀・) (あ……もう地面が……死ぬ……)
肉塊となった自分の未来を想像し、できるだけ痛みが無いように願いながら瞼を閉じた。
生を投げ捨て、死を受け入れた瞬間から、強張っていた全身から力が抜けていく。
手を伸ばせば届きそうなほど近く、地面に生えていた赤黒い花の美しさを認識して、
モララーの意識は途絶えた。
|(●), 、(●)、| 「くっくっくく……」
遥か上空で円を描きながら浮かんでいた灰龍は笑っていた。
地面に叩き付けられて、真っ赤な花を咲かせた少年を見て。
171
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:15:00 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「私の感覚は間違っていなかったようだ」
炎の海が吹き飛び、赤黒い溶岩が同心円状に大きく隆起。
まるでバラの花の様に捲れ上がっていた。
中心で蹲る少年を透明な魔力の骨格が覆う。
巨大な翼と、頭部にある角は青みがかっており、長い尾は左右に揺れている。
強靭な四肢はその巨影を支えて立つ。
( ・∀・) 「……僕は」
|(●), 、(●)、| 「初めてにしてはまずまずといったところか」
( ・∀・) 「死ぬかと思った」
|(●), 、(●)、| 「死んでもいいと思っていたからな。生きていて何よりだ」
( ・∀・) 「くっそ!」
灰龍に飛びかかったモララー。
その透明な龍の首は、一撃で分断された。
切り離された頭部は霞となって消え、切断面からは泡が零れだす。
172
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:16:29 ID:JZ..YL360
(メ・∀・) 「がっ……」
|(●), 、(●)、| 「痛かろう。その身体は君自身なのだからな。
不完全な状態だが、十分だ」
( ・∀・) 「……覚えておいて。僕の力があなたを上回った時があなたの命日になる」
|(●), 、(●)、| 「そのくらいの気持ちが無くてはな。
五年で君を並び立つ者のいない龍にしてやろう」
( ・∀・) 「は……ははは……」
モララーを覆っていた魔力骨格が消え、震える両手を見つめる少年だけが残った。
触れれば怪我では済まなかったであろう灼熱の大地の上に、
躊躇いなく腰を下ろす。
|(●), 、(●)、| 「さ、帰るぞ」
灰龍は地上に降りることなく、頭を巣の方に向けた。
( ・∀・) 「え?」
|(●), 、(●)、| 「自力で戻ってこい。これも特訓の一環だ」
( ・∀・) 「嘘だろ……もう立てない」
|(●), 、(●)、| 「陽が落ちる前までに帰ってこなければ、今日は何も食えぬぞ。
その辺に生えている草は、まだ君では食べられんだろうからな」
173
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:16:56 ID:JZ..YL360
振り返ることなく飛び去って行く灰龍。
その姿を眺めながらモララーは立ち尽くしていた。
( ・∀・) 「くそ……!」
頭上を見上げて太陽の位置を確認し、その後に目指すべき先を見据える。
灰龍が拠点にしている山は煙に覆われ、その影しか見えない。
( ・∀・) 「行くしかない……か」
後ろを振り返ったところで、森との境界は見えない。
逃げ出す手段も場所もなく、前に進むことでのみ生き残ることができる。
最初はゆっくりと歩きながら。
魔力を両足に込めて、跳ねる様に溶岩の海を駈けた。
174
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:17:39 ID:JZ..YL360
>3
|(●), 、(●)、| 「もう一度」
(#・∀・) 「っ! ……リベレーション!」
魔力の奔流が少年を包み込み、外殻を構成する。
頭から尾の先までが流線型の白。翼は薄く、尾の先は三つに分かれている。
灰龍の半分ほどの大きさであり、対照的な柔らかい肉質。
甲殻という龍属の鎧を捨て、速さと機動性に特化した形状。
|(●), 、(●)、| 「随分と形になってきたものだな」
( ・∀・) 「あんたのおかげでな……」
|(●), 、(●)、| 「口も悪くなってしまったのは残念だが。昔の方が可愛げがあったもんだ。
まぁよかろう。完全な龍化もできるようになったのだ。そろそろ次の段階だな」
( ・∀・) 「次?」
|(●), 、(●)、| 「何、丁度いい相手が必要だろう」
突如として起きた大地の鳴動。
灰龍の拠点を貫いて聞こえてきたのは、叫び。
洞窟は大きな亀裂が入り、ダディクールとモララーは外に飛び出した。
175
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:18:49 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「うーんと、全部で十二か。若いのも多いが……随分と増えたものだな」
( ^Д^) 「引導を渡しに来たぞ、骨董品!」
|(●), 、(●)、| 「やれやれ、あれから二か月ほどしかたっていないだろうに。
プギャーよ、何を焦っている?」
( ^Д^) 「っ! もうすぐ死ぬてめぇには関係ねぇよ。……何だその不格好な龍は?」
ダディクールの隣に並ぶ白い龍。
その身慣れない姿に戸惑いを浮かべる龍属。
それも当然だろう。
龍の死が無ければ、龍は生まれない。
強すぎる種族である彼らには、生殖によって繁栄する術を持たず、
世界中を探し回ったところで、常に二百を少し超える程度の数だけである。
|(●), 、(●)、| 「先の大戦で殆どの龍が眠りに入っておる。
新旧の争いはもはや無意味。もうやめんか」
( ^Д^) 「はっ、たかだか一頭増えたところで……」
言葉を途中で区切る灰龍の放った一撃が、若い一頭の半身をかき消した。
命を失って崩れ落ちた龍の残った僅かな肉片は溶岩に飲まれる。
176
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:19:59 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「これで一頭減ったが」
(#^Д^) 「くそがっ!! かかれっ!」
呆気にとられていた龍達が号令に従い襲い来る。
正面から、集団の中心を一直線に飛びぬけたダディクール。
数で勝るはずの新派の龍群は、弾かれたかのように四方に散らばる。
接敵の衝撃で数体は地面にまで叩きつけられた。
( ^Д^) 「っ!! 集中砲火!」
十を超える光が一直線に灰龍に迫った。
一つ一つが巨大な岩盤すら貫くような魔力による一撃。
|(●), 、(●)、| 「嵐灰陣!」
ねずみ色の嵐が灰龍を覆い隠し、全ての光は遮られた。
ただの一つもダディクールには届かない。
|(●), 、(●)、| 「灰の飛礫」
うねりをあげて嵐はその姿を変える。
無数の乱刃となって、灰龍を囲む龍達に降り注ぐ。
溶岩にすら耐える甲殻をずたずたに引き裂き、さらに数体が地に伏した。
177
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:20:39 ID:JZ..YL360
(#^Д^) 「逃げるな! 戦え!」
距離をとっていて無事だった龍達は次々と戦線を離脱していき、
残ったのは以前ダディクールに倒された一体だけ。
プギャーと呼ばれた濃い緑の鱗で全身を覆われた龍。
|(●), 、(●)、| 「さて、どうするプギャー」
( ^Д^) 「てめぇの首を持って帰らなきゃ俺が殺されんだよ……ッ!」
|(●), 、(●)、| 「ローアングは元気にしているか」
( ^Д^) 「はっ……てめぇを殺せるくらいには回復してる」
|(●), 、(●)、| 「だったら自分から出向いてくればいい。
相変わらず卑怯な奴だ」
(#^Д^) 「っ!」
|(●), 、(●)、| 「そうだな。見逃してやってもいいが、どうだ。
こいつと戦って勝てたらな」
( ・∀・) 「は?」
灰龍が顎で示したのは戦闘に参加していなかった小柄な白龍。
178
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:21:39 ID:JZ..YL360
( ^Д^) 「そんなチビと……? 舐めるな! 相手にならん!」
|(●), 、(●)、| 「意外とそうでもないかもしれんぞ」
( ^Д^) 「……まがい物の龍と戦えなどと。見縊られたものだな」
|(●), 、(●)、| 「おい」
( ・∀・) 「な、なんだよ」
|(●), 、(●)、| 「あいつに勝ってみせろ」
(; ・∀・) 「そんな無茶な……」
|(●), 、(●)、| 「なに、今までの無茶と比べれば……ふむ、まだ二倍も難しくはないぞ」
( ^Д^) 「何をごちゃごちゃ言ってやがる」
( ・∀・) 「ったく……」
ダディクールは山の頂上に降り、それと入れ替わりにモララーが空に飛びあがる。
自身よりも一回り大きい巨体を前に、一歩も引くことなく。
179
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:22:25 ID:JZ..YL360
( ^Д^) 「お前は……何だ?」
( ・∀・) 「獣の使い手。他所の部族はみんなそういう」
( ^Д^) 「はっ……あの一族か。それが龍の姿かたちをどうやって得た」
( ・∀・) 「僕だって知りたいさ」
( ^Д^) 「成程。だが、誇りのあるこの力をお前如きが扱うのは我慢ならん。
今この場で死んでもらおう」
( ・∀・) 「好き勝手言いやがって!」
( ^Д^) 「すぐに楽にしてやる」
プギャーの全身から零れだす深緑の霧。
それらは圧縮されて球体になる。
( ・∀・) 「えっ……」
( ^Д^) 「消えろ」
放たれた魔力弾はモララーに届くことなく空中で停止した。
一際強く輝くと、小さな粒が分裂し、肥大化していく。
180
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:23:23 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「まさか」
初めは一つだったものが、百を超える数に。
戦場に散らばった魔力の塊の一つが、モララーの翼に触れた。
ただそれだけで、翼は煙をあげて腐敗していく。
(; ・∀・) 「ぐっ……」
翼の先を切り落とし、魔力を使って空中でのバランスをとる。
( ^Д^) 「腐敗球! 触れれば骨まで朽ちる。
ここまで拡散する前に、何の対策もしなかったお前はもう生き残れない」
( ・∀・) 「そんなのはまだわからないだろ。お前もこれで近づいては来れない」
( ^Д^) 「やれやれ、生意気なガキだ。でかい口は生き残ってから叩け」
( ・∀・) 「なら、そうさせてもらう」
モララーは龍化を解き、地面すれすれまで落下。
着地の直前に再度龍化し、掲げた頭の先に魔力を集中させた。
(; ^Д^) 「なっ……」
181
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:24:18 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「吹き飛べっ!」
放たれた龍砲は拡散し、多様な軌道をとる。
空中に浮かんでいるプギャーの魔力が込められた爆弾を、乱雑に破壊していく。
( ^Д^) 「成程、確かに甘く見ていたのは俺だったな」
黒い霧が晴れた後、無傷のプギャーがモララーを見下ろす。
( ^Д^) 「獣如きが……!」
急降下するプギャー。
魔力を込められた巨大な爪の鋭利さは、モララーの命を奪うには充分である。
( ・∀・) 「っ!」
寸前までモララーが立っていた地面が大きく抉れた。
( ^Д^) 「小賢しいっ!」
( メ∀・) 「がっ……」
そのまま跳ね上がり、体当たりでモララーの身体を吹き飛ばした。
鎧の様な甲殻に覆われたプギャーと比べると、倍近い体重差がある。
ぶつかり合っただけでもモララーにとっては、致命の一撃。
百メートルは吹き飛ばされて、地面に転がった。
182
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:26:20 ID:JZ..YL360
( -∀・) 「げほっ……」
( ^Д^) 「死ね」
追い討ちをかけるようにその頭を踏み潰す。
龍化を解いて躱し、すぐさま距離をとったモララー。
一息つこうとしたその身体を、太い尻尾が薙ぎ倒した。
( ∀ ) 「がぁっ……!」
( ^Д^) 「ふん、二度も同じ手が通じるものか。
見ろ、ダディクール。相手にもならなかったな」
|(●), 、(●)、| 「ふむ……」
( ^Д^) 「龍もどきが本物に勝てるわけがないだろう」
|(●), 、(●)、| 「何をそんなに怖れている?」
( ^Д^) 「俺が? 怖れている?」
|(●), 、(●)、| 「後ろを見てみろ、まだ終わっていないぞ」
( ^Д^) 「……先程の一撃を耐えたか。
人間サイズと甘く見たな」
溶岩の中から立ち上がったモララー。
身体中の至る所から血を流し、息も絶え絶えでありながらも、
なおその瞳から光は消えていなかった。
183
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:27:20 ID:SDticvYA0
昼間から投下だと支援
184
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:27:26 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「……」
( ^Д^) 「そのまま寝ていれば助かったかもしれない命をわざわざ捨てるとは……愚かなガキだ」
( -∀・) 「痛いなぁ……」
( ^Д^) 「死ね」
振り下ろされた爪は、モララーの目前で音を立てて折れた。
欠片は彼方へと弾け飛び、プギャーはその衝撃でよろめく。
( ^Д^) 「なっ……!」
(#・∀・) 「……リベレーション」
白い炎がモララーの全身を包み、大きくうねりをあげる。
大気を揺らさんばかりの魔力は、鋭い爪と牙、しなやかな尻尾、滑らかな全身を構成していく。
巨大な翼を広げ、金色の瞳に意志が宿る。
頭から真っ直ぐ伸びた青のラインは、両肩から三叉に別れ、両翼と尾の先端に向かう。
それは、大戦に参加せずに生き残った龍属であれば誰もが見たことのあるとある王の証。
|(●), 、(●)、| 「ふむ、上出来だ」
185
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:30:03 ID:JZ..YL360
(; ^Д^) 「なっ……なっ……! なぜ……っ!!」
( ・∀・) 「っ……ふぅー……」
( ^Д^) 「龍王モララー!! 確かに死んだはずだ!!」
( ・∀・) 「僕は僕だ。龍王なんかじゃない」
(#^Д^) 「くそがああああ!!!」
プギャーの全身から吐き出された緑の泥は、大気すらも腐敗させながら拡散される。
自身の甲殻すらも溶かしながら、小柄な龍へと突撃した。
( ・∀・) 「風烈槍」
煙に満ちた空を貫いて降り注ぐ蒼色の槍は、プギャーを貫いて紅い大地に縫い付けた。
( メД^) 「がっあああ!!」
全身を引き千切りながらもさらに前へと進むプギャーは、目の前を埋め尽くす光を見た。
それが巨大な魔力の塊だと気付いた時には、もはや逃れることは出来ない距離。
血が上った彼の頭であっても、自身を容易に蒸発させるであろうことだけは即座に理解できた
( ・∀・) 「殲光」
186
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:31:10 ID:JZ..YL360
戦場を覆いつくすほどの強い光が弾け、再び静寂が訪れた。
拡散した微小な魔力が放っていた光の粒子も消え、煙が紅の大地を覆う。
強大な一撃が自身のすぐ隣を通過したせいで、プギャーは前後不覚に陥って動けない。
|(●), 、(●)、| 「殺さなんだか」
( ・∀・) 「……殺す必要はないと思ったので」
|(●), 、(●)、| 「ふむ、ようやく自身の力の深奥を知ったか」
( ・∀・) 「最初から気づいて……知っていたのか、僕のことを」
|(●), 、(●)、| 「半分は勘だ。
もう半分は……そうだな、そろそろ説明してやってもいいかもしれん。
そのためにはまず、龍の墓場に向かうとしよう……っと、なんだ根性のない奴だ」
(; ∀・) 「根性なら……今見せただろ……」
龍化が解けたモララーは、両手両足を投げ出し岩場の上に寝転がる。
( ・∀・) 「怪我が……」
|(●), 、(●)、| 「真に王の力を使いこなせれば、その程度の治癒など造作もない。
仕方あるまい。今回は連れ帰ってやろう」
187
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:31:44 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「そうしてくれると助かる。もう指一本動かせない」
|(●), 、(●)、| 「ふん。プギャーよ。ローアングの手の届かない南に逃げるんだな」
( ^Д^) 「っち……」
ダディクールはその大きな口で少年をくわえ、宙に放り投げた。
ニ、三回転してから広い背中に落下したモララー。
( ・∀・) 「いだだだ……もう少し丁寧にだな……」
受け身すら取れず全身を打ったモララーの小言を無視し、
ダディクールは翼を広げて大空に飛び立った。
188
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:32:46 ID:JZ..YL360
>4
|(●), 、(●)、| 「見えたな……」
( ・∀・) 「……あれが、龍の墓場」
平野に散らばった無数の骨は、殆ど原型を残していない。
散在する頭蓋骨はどれも砕かれており、どれほど激しい戦いが行われたのかを物語っていた。
同心円状に拡がった残骸の中心に鎮座した骸は、一つだけ異彩を放っている。
( ・∀・) 「龍王、モララー」
聞かずともわかるほどの存在感を放つ亡骸。
死してなお失われていない威厳。
|(●), 、(●)、| 「降りるぞ」
ダディクールが降下し、その背からモララーが飛び降りた。
大地に足をつけ、王の遺骸と向き合う。
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「王よ……。ただいま御身の元に戻りました。
長くお待たせして申し訳ありません」
189
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:33:31 ID:JZ..YL360
龍王は灰龍に応えない。
平野を吹き抜ける風が言葉を攫って行く。
( ・∀・) 「ダディクール」
|(●), 、(●)、| 「……君に説明してやると約束したんだったな。
龍の死からしか龍は生まれない。それは覚えているか」
( ・∀・) 「うん」
|(●), 、(●)、| 「その理由はな、龍魂と呼ばれる存在のせいだ。
全ての龍はこれをその身に備えている。例外はない」
( ・∀・) 「龍魂……でも……」
途中で遮られ、モララーは最後まで言うことができなかった。
|(●), 、(●)、| 「なぜか、ということはわかっていない。
ただ、そうであるという事実だけが存在している。
もう一つ、再び龍として生まれてしまえば、龍魂は以前の姿を特定できない」
( ・∀・) 「えっと……つまり、死んだら死ぬ前と別になるってこと?」
|(●), 、(●)、| 「そうだ。存在そのものが完全に変化する。
同じ龍魂から生まれても、以前の記憶も無ければ、姿も違う。
龍属最大の特徴である龍技すら全くの別物」
190
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:34:56 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「龍技……?」
|(●), 、(●)、| 「あぁ、説明していなかったな。
龍の持つ固有の力だ。私の灰の飛礫、以前戦ったプギャーの腐敗球もだ。
強い力を持つ龍であれば、より多くの龍技を扱う。
龍王モララーは七つを使いこなした。これは龍の歴史では最大数だ」
( ・∀・) 「そんなに……もしかして、僕の放った二つも?」
|(●), 、(●)、| 「威力以外は龍王と同じだ
その理由を知りたいんだろう。焦るな。少し歩こうではないか」
そう言うとダディクールの姿は縮んでいき、髭を生やした老人になった。
どこからどう見ても人間そのものの姿。
( ・∀・) 「えっ!?」
|(●), 、(●)、| 「龍化があるのだ。人化があっても驚くことではなかろう」
( ・∀・) 「確かに……」
灰龍の歩幅に合せるように、モララーは少し駆け足で。
並んで歩く姿はまるで老人とその孫のよう。
龍王の屍を見上げる様にして、その周囲を歩く。
モララーは何も言わず、ただダディクールの言葉を待つ。
ぐるりと大きく一周したところで、漸く老人が口を開いた。
191
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:38:08 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「君たち森の獣が戦う時に解放する本来の姿。
それは、生まれながらにして魂に刻み込まれている。
( ・∀・) 「父さんと、母さんも……?」
|(●), 、(●)、| 「君の両親のことは知らぬが、森の獣はただ一人の例外を除いてそうだという」
( ・∀・) 「例外」
|(●), 、(●)、| 「簡単なことだ。魂が本質であるとするならば、
その魂が干渉を受けることによって本質は変化する」
( ・∀・) 「言っている意味が……」
|(●), 、(●)、| 「龍王の魂を得た森の獣がその本質を解放すれば、
龍王と同等の力を操ることも可能ではないか、といった仮説が生まれる。
死んで転生する前の魂を、森の獣の生まれたばかりの子供に授けた」
( ・∀・) 「それが……僕……」
|(●), 、(●)、| 「一体どうやったのかまるで見当もつかない。
いきなり現れた不気味な魔術師が丁寧に説明していきおった……」
モララーは目の前の龍を見上げる。
その静謐な瞳は、静かに少年を見つめ返す。
192
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:38:55 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「……」
胸の奥から湧き上がる熱。
それが意味するところはモララーにはわからない。
だが、確かに感じる強い鼓動は彼の足を前に勧める。
腕を上げて遺骨に触れた瞬間、頭部が崩れ落ちた。
( ・∀・) 「っ!!」
脳内に流れ込む鮮明な映像。
空を埋め尽くすほどの龍群が放つ、多彩な龍砲。
様々な性質を持ったそれらを、ただの一撃で相殺した龍王。
( ・∀・) 「……今のは」
|(●), 、(●)、| 「ほう、面白い」
モララーの目の前にあったはずの骨は忽然と消えていた。
( ・∀・) 「なんだろう……欠けていたものが満たされたような……」
|(●), 、(●)、| 「遺骸に残されていた力を手に入れたのだろう。
これで龍王としての力は全てその身に宿ったはずだ。
どうする。今なら私と対等……いや、それ以上かもしれない」
193
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:02 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「いろいろと腹立たしいことはあったけど、今そのつもりは無いよ。
それよりもこの力、すぐにでも使いこなしたい」
|(●), 、(●)、| 「その心は未だ復讐に囚われているか?」
( ・∀・) 「あれから地獄の方がマシなような特訓を受けてきたんだ。
今、十分な力も手に入れた。もう呪術師だって殺せる」
モララルドが無作為に腕を振るった。
その軌跡を追うように生まれた衝撃波は、龍の墓場を深く抉る。
かろうじて形の残っていた死骸もバラバラに吹き飛んだ。
|(●), 、(●)、| 「ふん……。私との約束を先に果たしてもらえるとありがたいのだがね」
( ・∀・) 「ああ、手始めに僕の座を取り返しに行こう」
|(●), 、(●)、| 「性格まで変わったか」
( ・∀・) 「そんなことはないさ。それで、何処にいるんだ?」
|(●), 、(●)、| 「王の座は、ここから北に向かった龍神峡にある。
そこにローアングはいるだろう」
194
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:33 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「そうか……リベレーション!」
モララーが白竜へと変化する。
身体は以前よりも一回り大きく、内包する魔力の量も質も段違い。
|(●), 、(●)、| 「もう行くのか」
( ・∀・) 「早いほうが良い……ん? なんだこれは」
飛び立とうとしたモララーの眼の前に突如として現れた光の手紙。
( ・∀・) 「邪魔だ」
切り払うように放たれた魔力の刃の直撃を受けてもなお、
手紙は傷一つ無く浮かんでいた。
( ・∀・) 「なんだこれ」
|(●), 、(●)、| 「……手紙の魔術」
( ・∀・) 「知ってるのか?」
|(●), 、(●)、| 「私も人伝でしか聞いたことがない。
その話の内容を聞く限りであれば、触れてみればわかる」
195
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:58 ID:JZ..YL360
爪の先が手紙に触れた直後、弾かれたようにその腕を引っ込めた。
額に皺を寄せながら、モララーは小さなため息をついた。
( ・∀・) 「……ふぅ」
|(●), 、(●)、| 「どうだ」
( ・∀・) 「残りの猶予は一年間という事らしい。
さて、行くぞダディクール」
|(●), 、(●)、| 「急いては事をと言うが……良いだろう」
龍の墓場から飛び立った二頭の龍。
真っ直ぐと北に向かい、霧の中に消えた。
196
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:43:47 ID:JZ..YL360
>5
(#・∀・) 「お前っ……」
手紙の魔術に導かれ、約束の丘にたどり着いたモララーを出迎えたのは、
四人の強者。そのうちの一人は、忘れることもできない呪術師の男であった。
すぐさま白き龍と化し、目の前の男を見据える。
('A`) 「お前は……」
【+ 】ゞ゚) 「驚きました……。まさかあの時の」
(#・∀・) 「お前だけは……お前だけは絶対に殺す」
殺意と魔力を練り合わせ放った一撃は、オサムに直撃する前に霧散した。
ドクオが話しながら組んだ魔術は、強力な一撃を容易く相殺した。
(#・∀・) 「邪魔をするな!」
('A`) 「待て。今ここで戦いを起こされるのは困る。
そのくらいのことは手紙に選ばれたお前ならわかるだろう」
(#・∀・) 「知るものか。ここでそいつを殺すことができるなら、その後なんでどうでもいい!」
怒りに任せて魔力を溜め、オサムたちの座る円卓に向けて吐き出した。
龍王と同等の力を持つはずの一撃は、やはりドクオによって簡単に吹き消される。
オサムは反撃の態勢すら取らず、それが尚更モララーを苛立たせた。
197
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:44:21 ID:JZ..YL360
('A`) 「いいからまずは落ち着け。じゃないと……」
(#・∀・) 「戦えっ! この臆病者! でなければ、死ね!」
モララーは自身に宿る龍王の力、その一端を引き出す。
周囲の空間を捻じ曲げる龍技。
あらゆる防御を正面から叩き潰す龍王にのみ許された王たる術。
( ・∀・) 「圧捩……!?」
内に秘めたる力を全力を発しようとしたその時、モララーは地面に叩き伏せられた。
両翼に痛みが奔り、その後四肢と首の全てが強制的に地面と繋がれる。
( ・∀・) 「こんなもの……っ!」
龍王たる自分を誰が封じ込めることが出来ようか。
モララーの自信は簡単に打ち砕かれた。
川 ゚ -゚) 「うるさいな。いい加減にしろ」
右手に本を持ったまま、その背に降り立った女性は、
龍王など意にも介さないかのように読書を続けた。
198
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:45:11 ID:JZ..YL360
(#・∀・) 「何を……なんで!」
無理やり動こうとしたものの、全身は全く反応を返さない。
('A`) 「いいか。まずはその牙を収めろ。でないと、お互いに損をする」
( ・∀・) 「……くそっ」
多勢に無勢を悟り、モララルドは龍化を解いた。
彼を覆っていた魔力の肉体は彼自身の中へと還っていく。
川 ゚ -゚) 「おっと」
足場を失ったクールは元いた場所に飛び降りた。
我関せずとばかりに、本のページをめくる。
その様子を一睨みし、モララーは正面に立つドクオに向き直った。
('A`) 「まずはお前の話を聞こう。と言っても、俺は大体予測はついているが」
( ・∀・) 「ふん。話すことなんかないさ。その呪術師の男は両親の仇だ」
( ФωФ) 「といっておるが、本当か」
【+ 】ゞ゚) 「本当ですよ。最も、彼の両親には私の仲間もかなり殺されてきたわけですが」
199
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:46:12 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「呪術師と獣使いの戦争か。耳にしたことはあったが。
この場に両者が揃うとはな。何という偶然か」
('A`) 「いや、既定路線だ。
成程。無事に育ったというわけだ、龍王の魂を持つ獣の子」
【+ 】ゞ゚) 「どういうことですか?」
( ・∀・) 「お前は何を知っている……魔術師!」
('A`) 「一つの約束だけだ。龍王とのな」
ドクオは杖を振るい、魔術を発動させる。
それは記憶を引き出し、他人に譲り渡す魔術。
(; ・∀・) 「なっ……!?」
モララーはドクオに与えられた記憶でもって、自身の持つ力理由を知った。
その意味もまた同時に。
('A`) 「龍属における新派旧派の戦いで命を落としたと言われている龍王。
その今際の際に立ち会ったのは俺だ」
川 ゚ -゚) 「あちこちと放浪していたのは知っていたが、そんなこともしていたのか」
200
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:47:01 ID:JZ..YL360
('A`) 「偶然さ。その時に龍王と契約したのさ。
龍王の龍魂を獣の使い手で生まれる子供に授けるとな」
( ・∀・) 「じゃあ、あんたがダディクールの言っていた魔術師」
('A`) 「俺の魔術でも協力はしたが、お前にその力を宿した転生もどきは龍王の力だ。
勘違いで恨むなよ」
( ・∀・) 「むしろ感謝しているさ。あいつを殺すだけの力をもらったんだ」
('A`) 「残念だがな。龍王はお前よりもずっと上手だ。憎しみでその力を扱えない様になっている。
先程の攻撃、思っていたよりも威力が出なかっただろ?」
( ・∀・) 「なんで……」
('A`) 「自らの力が悪用されるのを防ぐためだ」
( ・∀・) 「正当な復讐が悪用だと……!」
('A`) 「少なくとも龍王はそう決めた。
もはや意思もないだろうが、お前の中に彼は確かに存在している」
( ФωФ) 「なぜ龍王は自らの力をその少年に託したのだ」
201
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:48:01 ID:JZ..YL360
記憶を与えられたモララー以外の英雄は、状況を飲み込めないでいた。
('A`) 「俺が龍王に会ったのは、新派旧派の戦いに赴く直前だった。
全面戦争が避けられないと知った龍王は、旧派の龍達を戦わせまいと説得していた。
勿論、旧派の多くは信頼の厚かった龍王と共に戦うと宣言した。
だが、彼はそれを許さなかった。
俺は旧派の龍達を戦いが終わるまで遠ざけておくように頼まれたんだ」
【+ 】ゞ゚) 「龍を遠ざける? そんな馬鹿なことが」
一頭が天変地異クラスの力を有する龍属。
それを抑えておくなどということは、口で言うほど簡単でなはい。
('A`) 「勿論、正面切って抑えるなんて流石に無理だ。
だが、騙すことは出来る。龍王の声を借り、本来の戦いの場とは全く違う場所へと誘導した」
( ФωФ) 「成程。旧派の龍属達が気づいた時には全て終わっていたということだ」
('A`) 「そして俺は龍王との契約を守った。おかげで数体の龍には未だに恨まれているがな。
そんなことはどうでもいい。
そして龍王は俺との契約通り、来たるべき終焉の戦いに力を貸すと自らの龍魂を俺に差し出した」
202
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:10 ID:JZ..YL360
【+ 】ゞ゚) 「なるほど。魂に刻まれた情報を解放して戦う獣の使い手なら、
自らの力を再現できると踏んだわけですね」
('A`) 「そういう事だ」
( ・∀・) 「…………」
('A`) 「お前の復讐心はわかる。
だが、その相手がこれから終焉を戦いに向かう英雄の一人だとは予想できなかった。
どちらも失いたくない戦力だ。それに、憎しみはお前の力にならない」
( ・∀・) 「戦うことが不利だと言いたいんだろ」
人生の大半の間恨み続けた相手が目の前にいるのだ。
平常心で戦うことなどできるはずがなかった。
( ・∀・) 「今は……終末を生き抜くことに協力してやる」
('A`) 「助かるよ。よろしく頼むえっと……」
( ・∀・) 「ふん……モララーだ」
('A`) 「モララーか、龍王と同じ名前だとはね。
名前負けしない活躍を期待している」
( ・∀・) 「協力はするけど、そこの呪術師に手違いがあっても知らないからな」
少年は既に揃っていた英雄達とテーブルを囲うことなく、
少し離れた場所に一人座った。
203
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:54 ID:JZ..YL360
・・・・・・
204
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 13:00:47 ID:SDticvYA0
一区切りかな?おつおつ
205
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:07 ID:ysZ8awxc0
くっそおもしろい
206
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:18 ID:JZ..YL360
o川* ー )o 「はっ……っぅ……はぁ……ぐ……」
胸を抑えて蹲る少女。
突然始まった苦痛によって、夢の世界から引き戻された。
心臓の鼓動は激しく、痛みは身体中を駆け巡る。
o川*゚ー )o 「っ……ぁ……」
巨大な牙から噴き出していた魔力が、少女の身体に染み込んでいく。
少女の内包する魔力と異なる魔力が反発し、苦痛を生み出していた。
o川* ー )o 「……ぅ…………」
わずか数分の出来事であった。
少女にとっては数時間にも感じられた痛みの連続は、
始まった時と同様に唐突に終わりを告げた。
o川;゚ー゚)o 「はぁっ……はっ……」
大粒の汗を額から零しながら、震える腕をついて起き上がる。
潤んだ瞳が捕らえたのは、巨大な影。
陽炎のように揺らぎ、その姿を明らかにしない。
o川*゚ー゚)o 「あなたは……」
207
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:49 ID:JZ..YL360
「自由に生きろ」
ただ一言だけを発し、それは消えた。
まるで最初からなにもなかったかのように。
o川*゚ー゚)o 「どういう……意味……」
ぐったりとした少女は、牙にもたれ掛って空を見上げる。
赤く染まり始めた空は、相変わらず静かで虚ろであった。
o川*゚ー゚)o 「ロマネスク……オサム……クール……モララー……」
樹、十字架、剣、牙。
それぞれに対応する四人の物語。
それらは彼女の問いかけに答えるのに十分ではなかった。
o川*゚ー゚)o 「誰が……何のために……私は……」
誰もいない場所にただ一人生きている少女。
彼女のために誂えたかのような空間。
もはや少女は知っている。
人間が無から自然に生まれることはありえないと。
魔力が込められたこの空間が、偶然に出来上がることはありえないと。
208
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:45:47 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「……」
牙に手を突きながら立ち上がり、足を引きずりながら歩く。
崩れた剣のその横、ぽかりと空いた黒い穴。
子供一人くらいが辛うじて通り抜けられるほどの小さなもの。
光の射さない底部に、それは存在していた。
o川*゚ー゚)o 「……ママ?」
白い骨は人間としての形を崩さずに埋もれていた。
今の彼女ならば気づくことができた。微かに残っている柔らかな魔力に。
それが愛する者を護るための魔術の鱗片だということに。
o川*;ー゚)o 「っ……? なに……?」
零れた滴は、暗闇の中へと消えた。
次々止め処なく溢れ出て来る哀しみ。
その原因がわからず、困惑した表情を浮かべながら俯いていた。
o川*;ー゚)o 「っ……」
209
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:46:44 ID:JZ..YL360
涙と共に全身から漏れ出した純粋な力。
魔力の奔流は、少女の全身から一気に解き放たれた。
無属性の暴風によって少女の世界を覆っていた薄い膜は破られ、
少女を囲んでいた四つのシンボルは瓦礫と化した。
o川*゚ー゚)o 「……何が」
清涼としていた空気は流れ去り、鼻腔を満たすのは焦げた臭い。
肌を焼くような強い日差しと、息苦しいほどの湿気。
おおよその不快を詰め合わせたような環境が、大挙して押し寄せてきた。
o川* ー )o 「っほ……ごほっ……っ……!!」
少女の目に飛び込んできたのは、今まで見えていたものとは全くの別物。
赤黒入り乱れた大地は火を噴き上げて一秒ごとにその姿を変え、
空を覆う厚い雲の中は幾条もの光が迸る。
巨大な氷が音を立てて崩れる傍から、炎が渦を巻き雲すらも貫いて立ち上がった。
空から降って来た塊がいくつも大地にぶつかり、衝撃で地面諸共弾ける。
咽るような熱気と、凍える様な寒気とがまばらに拡がった世界。
罅が入り、歪み、軋んで崩れてしまった、壊れかけの世界。
その時、少女は真実の世界を認識した。
210
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:14 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
およそ生物が生きられるような環境を徹底的に排除したかのような、荒んだ世界。
それが、今彼女が立っている場所であった。
細かい振動と共にひび割れていく不安定な大地。
彼女を護っていた空間は無く、助けを求める人もいない。
o川*;ー;)o 「やだ……もうやだよ……どうなってるの! ねぇ……誰か……。
ママ……! ……誰!?」
頭の中に響く声が少女を呼ぶ。
呼ばれて振り返った先には、光放つ杖。
o川*゚ー゚)o 「……!!」
少女の叫びは地響きの轟音に消え、ついに足元が崩れた。
崩落に巻き込まれた少女は、必死になって上から落ちてきた杖を掴んだ。
211
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:38 ID:JZ..YL360
>1
('A`) 「っあー……さって、次は誰行くかねぇ」
事前に用意したリストに記してある名前は二十を超えている。
バツ印がついているのは、まだ五つ。
世界を三周以上するほどの移動距離と、相応の時間がかかることは容易に想像がついた。
('A`) 「ってもなぁー、めんどくせぇなぁ……」
最も近い地図の印が百キロほど。
彼にしてみれば大した移動距離でもないが、
その後の面倒を考えれば溜息の一つ二つは出るだろう。
強者とは往々にして傲慢であるものであり、
残念ながら過去五回の邂逅は全て戦闘に始まり戦闘に終わった。
リストに名を乗せる彼らは他に類を見ない程の特殊な能力を持つ者や、
ただ一つの特性を愚直なまでに磨き上げた者達。
当然一筋縄ではいかず、命を落としかけたことすらもあった。
それでも彼が強者を訪ねて歩く理由はたった一つだけ。
212
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:48:34 ID:JZ..YL360
('A`) 「この世代で……すべて終わらせる」
迫り来る災厄に対する対抗手段を得るために。
もっとも、この時点で彼はその戦いに参加する権利すら持っていなかったが。
('A`) 「さって、そろそろいくか……ウィングロード!」
魔力を変換し、術師の思い通りの現象を引き起こす魔術。
最も汎用性が高く、最も多くの術者が存在している力である。
難易度の高い魔術の多くは、どの種族でも血によって受け継がれているが、
単純な魔術であれば魔書からでも習得可能である。
ウィングロードは基礎的な移動魔術であり、
魔術師の家系に属する者であれば誰しもが扱うことができた。
ドクオは大空に飛び上がり、鳥も驚くような速度で空を滑っていく。
('A`) 「次は……精霊の森の……古老。今までのとは一つ二つも格が違う。
少しは覚悟しとかねーといけないか」
彼の一族は遥か昔から連綿と続く魔術師の家系。
統合と戦死によって数は減り、今はもう三家しか残っていない。
最大派閥のドレイク家、次いでフォーラン家、そして最も小さいルグ家。
213
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:06 ID:JZ..YL360
魔力を持ち魔術を扱う種族は数多くいれど、彼らと魔術師の間には決定的な差があった。
五百年に一度訪れる終焉に対抗するための唯一の手段。
仲間を呼び集めることのできる呼応の魔術。
彼らこそが、レタリアの発動を許された唯一の種族である。
魔術師達の中で、当代の最も力の強い魔術師だけがそれを扱うことができると伝えられている。
故に、歴代の英雄達には必ず魔術師の名前が刻まれていた。
多くの英雄を輩出した家の発言力は高まっていき、その逆もまた然り。
ドクオの家系では記録に残っている限り一度も無く、
勢力は下降の一途を辿って来た。
昔は同世代に十人はいたはずの競争相手もおらず、
ルグ家から名乗り上げることのできる魔術師はドクオ一人だけ。
('A`) (じっちゃんとばーちゃん元気にしてるかなぁ……)
手慣れた操縦で飛行の魔術を操り、目的の森を目指す。
侵入を阻むための結界を感知し、ドクオはその場に停止した。
('A`) 「んーっと……頑丈というよりは……試しているような感じか」
結界の持つ特性を即座に理解し、製作者の意図に応えるために魔術を一つを組み上げた。
ただの燃焼魔術を何重にも複雑に組み上げ、結界に投げつける。
214
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:47 ID:JZ..YL360
強固な結界に対して小石程度の魔力であっても、
術式を複雑に編み込んだ魔術として発現すれば相応の破壊力を持つ。
人間大の穴が即座に空き、その外周部は再生をを防ぐかのように燃え続ける。
('A`) 「っと、はやいな」
彼の前に現れた数十人の神官。
深緑色のローブを纏い、小型のナイフを一本だけ構えたそれは精霊術師の戦闘態勢。
装備において彼らは、ごく一般的な精霊術師と大差ない。
ただその能力は、こと集団戦闘においては他の追随を許さない。
精霊の森の神官とは、最強の精霊術使い手達のことである
('A`) 「怪我する前に下がったほうが良いぞ」
「何を! 愚かな侵入者が! ここが何処か知っての狼藉か!」
('A`) 「あぁ、勿論だ。ほら、俺はその人を待っていたんだ」
包囲の後ろから現れた小柄な老人。
ドクオを囲んでいたはずの神官達に、より一層の緊張がはしった。
('A`) 「初めまして、ロマネスク」
215
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:51:22 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「こちらの名前は知っているようだが……俺は知らんな」
('A`) 「俺の名前はドクオ・ルグ。魔術師だ」
( ФωФ) 「それはみればわかる。希少な魔術師が何用かな?」
('A`) 「少し話があってね」
( ФωФ) 「ふむ……では他の者には席を外させよう」
「なっ……! このような乱暴者と二人きりにさせるわけには」
( ФωФ) 「大事ない。わざと結界を派手に壊したのも、俺を呼ぶためであろうよ。
このような場所で話すことも無かろう。ついて来るがよい」
('A`) 「流石。話が分かる」
( ФωФ) 「一人前の神官を育てるのには、相応の時間がかかる。
無意味に減らされることは避けたいのだよ」
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
216
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:04 ID:JZ..YL360
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
( ФωФ) 「そうか、他にも訪ねているのか」
('A`) 「誰も彼もロマネスクの名には劣るがな。
ほんと、対面してわかった。化け物どころじゃねーな」
( ФωФ) 「何、安心するがいい。俺にはさほど特殊な力は無い。
心も読めぬし、魔術も使えぬ」
樹の頂点に用意されている薄い盆のような場所。
精霊術によって空中に固定されており、支点やアンカーなどは一つもない。
中心には背の低い台。その上に湯呑と茶菓子が二つずつ。
細い湯気を立ち昇らせたそれは、今し方用意されたばかりのものであろう。
( ФωФ) 「ようこそドクオ。まぁ座るがいい」
('A`) 「そうさせてもらう」
217
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:36 ID:JZ..YL360
遠巻きに見ている神官達の視線を感じながら、
ドクオは床に腰を落とした。
( ФωФ) 「それで、本題に入ろう。ルグの魔術師がわざわざ来るとは何用だ」
('A`) 「そうか、ルグの名は当然知っているよな。まぁ俺の名前はあまり関係がない。
俺が今回の戦いに出る」
( ФωФ) 「今、最優秀の魔術師はヒッキー・ドレイクと聞いているが、
レタリアは彼の手にあるのではないかね」
('A`) 「奪うさ」
( ФωФ) 「随分と威勢のいい話だ。勿論、戦いには最も強いものが出るべきだ。
勝てるのならそうするがいい」
ドクオは驚き一瞬言葉が途切れた。
浮かべていた間抜けな表情を慌てて繕う。
('A`) 「意外だな」
( ФωФ) 「何が」
('A`) 「もう何回も戦いに赴いているあんたなら、
そんなやつに背中は任せられないとでもいうかと思った」
218
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:53:35 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「ふむ、殺すという表現を使わなかったのもあるが。
裏切りそうかどうかなど見て、話をすればだいたいわかる。
それにな……魔術師はどうせ生き残れん」
('A`) 「……そうだな」
( ФωФ) 「俺がレタリアに呼び出され戦ったのは四回。
少なくともその四回の戦いを生き残った魔術師はいない」
('A`) 「……」
( ФωФ) 「どんな相手が来るかもわからんのだ。
人間の身体で戦う魔術師は、簡単なことですぐに命を落とす。
それでも、その座を奪うというのか?」
ロマネスクから教えられた事実。
それは、魔術師達が過去の戦いに対する記録をほとんど持っていない理由であった。
ルグ家を除いて。
('A`) 「やはり、そうだったか」
( ФωФ) 「強がりか」
('A`) 「ルグ家ってのは、確かに一度も英雄を出したことの無い落ちこぼれの家系だ。
他の二家とは違う。もはや絶滅寸前とも言っていい。
だが、一つだけ俺達には他の奴らが持っていないものを持っている」
219
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:54:57 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「なんだ」
('A`) 「情報さ。かつての戦いに関する膨大な量の情報。もともとルグ家の役割は観測と分析。
戦闘用の魔術こそ殆ど生み出しては来なかったが、それらに関しては完全に別格だ」
( ФωФ) 「それは興味深いな」
ドクオが杖を振るうと、彼の背後に光の歪みが発生した。
その中から飛び出してきた本を一冊手に取り、しおりの挟んであったページを開く。
('A`) 「前回の終焉を戦ったのは、老樹ロマネスク、魔術師パラセルト、天剣使いトール、
流星群竜ペルセウス、地殻獣モーグ、そして雨乙女ドロップの六人」
( ФωФ) 「……」
('A`) 「生き残ったのはあんたとドロップの二人だけ。
あんたとドロップ、天剣使いは今までと同様の面子だ。
天剣使いの一族だけはアンタよりも古いな。あの一族に関しちゃまだ調べ足りないが」
( ФωФ) 「天剣使いは……俺と同期だよ。輝龍クレシアの世代だ」
('A`) 「二千年近く前か」
220
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:55:37 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「それで、それだけの情報があると証明して何が言いたい?」
('A`) 「五百年に一度訪れる終末。そんなふざけたことがあっていいわけがない。
神か悪魔か知らないが、この世界を滅ぼしたいのなら毎年でも来ればいいだろう。
なぜそうしない」
( ФωФ) 「その程度の疑問、何千何万回と繰り返されておる。
誰も答えには辿り着けぬし、来たるべき戦いを乗り切るので精一杯なのだ」
頭を振るロマネスク。
質問には答えなどないと、暗に示していた。
('A`) 「今まではそうだった」
それを止めたのはドクオの強い否定。
老樹の瞳は探る様に魔術師を見つめる。
( ФωФ) 「ほう?」
('A`) 「言ったろ。ルグの家系には膨大な資料がある。
人生を何度繰り返しても読み切れないほどの。
だからこそ、俺は一つの魔術を生み出した。全ての知識を直接この身に取り込むために」
( ФωФ) 「新しい魔術を作り出すことはそう簡単ではないと聞くが。
本当に魔術師かと疑うほど魔力量の少ない貴様がか」
221
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:56:17 ID:JZ..YL360
('A`) 「魔力量は魔術を生み出す妨げにはならない。
大量の魔力を用いるのは、効率の悪い出来損ないの魔術だからだ」
( ФωФ) 「では聞かせてもらおうか」
('A`) 「敵が現れる虚空。これが繋がっている先がわかった」
( ФωФ) 「馬鹿な」
('A`) 「あれはいわば門だった。原理も魔術と同じだ。
あれの先にあるのは虚ろ。そこから奴らは産み落とされる」
( ФωФ) 「虚ろだと? そんなものは法螺にすぎん」
('A`) 「そういうと思ったさ。だからこいつを用意しておいた」
再びドクオの背後に現れた波打つ光。
中から四つの杖が飛び出し、魔術師の頭上に浮かぶ。
('A`) 「これらは魔術を一つだけ保存し、発動することのできる杖だ。
俺が持っているこの一本の劣化コピーだがな」
( ФωФ) 「何をするつもりだ」
222
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:57:11 ID:JZ..YL360
('A`) 「何、さほど危なくはない。
同威力の四大属性魔術を同時に放ってぶつけ合うと、
魔力が不安定化して空間の歪みが生まれる」
空中で放たれた火、風、水、地、それぞれの属性を持つ魔術。
互いに激しく反発し、魔力そのものが乱れ始めた。
対消滅を繰り返し続けた中心部に現れたのは、小さく黒い球。
('A`) 「そうしてできた歪みの中心に、重力魔術による回転をくわえる」
四つの属性が激しく回転し、
小さな黒い球は次第に引き伸ばされて薄い円盤状へと拡がっていく。
('A`) 「後はこのバランスを崩さない様に、空間魔術でこの中に小さな無数の空間を作る。
その後、時間魔術によって円盤そのものの時を加速すれば……」
突如弾けた円盤は、四大属性の魔術を放つ杖を飲み込んで黒い穴と化す。
内部では透明な泡が有り得ないほどの速度で生成され、潰れていく。
脳を直接揺るがすような音が響き、黒い穴から魔力が零れてきた。
皮膚に触れただけで、吐き気を催すほどの悪意。
内臓を掴まれる様な嫌悪感。
凶悪にして強大な魔力を持つ境界の向こう側の存在を、ロマネスクは知っていた。
223
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:01:06 ID:JZ..YL360
(; ФωФ) 「っ!!!!」
飛び上がったロマネスクが瞬時に唱えた精霊術。
島一つ程度なら沈めてしまうほどの超高密度の空気を従えた大気の精霊。
手のひらほどのサイズでありながらも、小龍なら圧倒できる威力がある。
呼び出された数体は黒い穴へと一斉に突撃をかけ、そのまま消えた。
( ФωФ) 「はっ……ははは……」
空には何一つとして残っていない。
ドクオの四本の杖も、ロマネスクが呼び出したはずの大気の精霊も。
この世の憎悪を詰め込んだような、むせ返るほど邪な魔力も。
( ФωФ) 「良いだろう。ドクオ・ルグ。お前の言葉、信じてやろう。
それで、お前はこれを確認してどうするつもりだ」
('A`) 「繰り返される終焉に終止符を打つ」
( ФωФ) 「こちらの世界に紛れ込んできた奴らに勝利するのすら精一杯なのだ。
一体どれほどの危険性があると思っている。
下手をすれば今のバランスすら失ってしまう」
224
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:06 ID:JZ..YL360
('A`) 「五百年ごとに一度。毎回乗り越えてきたとはいえ、次も乗り越えられるとは限らない。
このまま続けば、いずれ破滅する」
( ФωФ) 「過去数回は少なくとも、レタリアが届かなかったことは無く、
英雄が現れなかったことも無い。
お前の自己満足で世界を壊すつもりか」
('A`) 「救えねぇ。耄碌したか老樹ロマネスク。
だから俺は世界中を渡り歩いている。終末を数十年後に控えた今」
ドクオが杖を地面に叩き付けた。
魔力に寄って拡散された振動が響き、湯呑の中の水面が波打つ。
足元に浮かび上がった世界地図。
五つの大陸の中に大きな赤い星が五つ。
小さな青い星が十以上輝いている。
('A`) 「老聖、老樹、老狼、老龍、老燕と、それらに匹敵するかもしれない力の持ち主の居場所だ」
( ФωФ) 「ふん、大した情報網だな」
('A`) 「俺はこれから全員に会いに行く。会ってその強さを確かめる」
( ФωФ) 「自分が一番強いつもりか?」
225
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:53 ID:JZ..YL360
('A`) 「いや、この旅の途中で命を落とすことだって覚悟しているさ。
全てはこの世界の為だ」
光の地図は消え、床は通常の状態に戻る。
( ФωФ) 「……ドクオと言ったか。お前の試みを邪魔するつもりは無いが、
わかっているのだろう。避けては通れぬ関門があるぞ」
('A`) 「ヒッキー・ドレイク」
ドレイク家の長い歴史の中で、過去最高の魔術師との呼び名が高い男。
その名前と実力は海を渡って、世界中に轟いていた。
( ФωФ) 「レタリアは間違いなく奴に継承されている。
お前は奴を倒さなければ舞台に上がることすら許されない」
('A`) 「わかっているさ。この旅のもう一つの目的は、経験を積むことだ」
( ФωФ) 「ふん、俺はどちらでも構わないが……お前を気に入った。
再び俺の前に現れるのを楽しみにしている」
('A`) 「急な来訪失礼した。老樹ロマネスク」
( ФωФ) 「その呼び方は好きではない。もし次に会うことがあれば名だけを呼ぶがいい」
226
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:03:15 ID:JZ..YL360
('A`) 「そうさせてもらう。それでは」
ドクオは立ち上がり、目の前に座る老人に頭を深々と下げる。
振り返って杖を掲げ、無詠唱の移動魔術を発動した。
その姿は陽炎に紛れて見えなくなった。
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