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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

1 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:22:52
ずっと前にマーサー王や仮面ライダーイクタを書いてた者です。
マーサー王物語の数年後の世界が書きたくなったのでスレを立てました。

2007年ごろに書いた前作もリンク先に掲載しますが、
前作を知らなくても問題ないように書くつもりです。

SSログ置き場
http://jp.bloguru.com/masaoikuta/238553/top

304 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/07(火) 08:37:26
ガチャン、ガチャンといった金属音を鳴らしながら闘士は接近してくる。
両手にはナックルダスター、両脚には金属製の義足。
そして鋼よりも硬く鍛えられた肉体美こそがキュート戦士団団長、マイミの武器なのだ。
脂肪を極限まで削ぎ落としたその肉体は他の誰もが追いつけないほどの瞬発力を産む。
一回の戦闘で特大ステーキ1枚分のカロリーを消費するほど燃費が悪いのが玉に瑕だが
それを差し引いてもマイミは強すぎた。
これだけの戦士を雇うことから、ハルナンの万に一つも王座を逃したくないという思いが伺える。

「やばいよタケちゃん……メイたち、ここで死んじゃうの?」
「それはない。私たちは全員生き残るよ。」
「ほんと!?」
「ただ、死んだ方がマシかもしれないけどな……」

タケの言うように、マイミは番長らの命を奪うつもりはさらさらなかった。
常に死を意識して強くなったクマイチャンと違って、彼女は味方と共に生きることで強くなることを信条としている。
苦しいサーキットトレーニングをみんなで乗り越えることを生きがいにもしているため、
出来ることならば番長らにもそれを強いて成長してもらいたいと思って来たのだ。
ただし、それはあまりにもスパルタすぎていた。
同じ食卓の騎士であるキュート戦士団の部下でさえもマイミとの訓練時には嘔吐するほどなので
それよりは明らかに弱い番長たちがどうなるのかは想像に難くない。

「私語を謹め!まだブートキャンプは始まったばっかりだぞ!」

マイミは倒れていたタケの胸倉を掴み、強制的に起き上がらせた。
理由はもちろん苦しんでもらうため。
立派に生きて欲しいという愛情をこめて、タケの腹へとラッシュを決める。

「100発!」

マイミは1秒間に10発という超高速の左ジャブをタケのポニョポニョのお腹に叩きつける。
途中で吹き飛ばされないように胸倉を掴み続けるあたりはさすが名トレーナーだ。
一撃一撃の威力を抑えているためタケの腹が突き破られることは無いのだが
10秒間も地獄の苦しみが続くのを思えば、一撃で殺してもらった方がずっと楽かもしれない。
全てのラッシュが完了した時、タケは胃の中の全てを完全に吐き出してしまう。
マイミの身体にもいくらか嘔吐物が付着してしまったが、彼女はそれを全く気にしない。
むしろ吐くほど頑張ってくれたことを嬉しく感じているのである。
これならば番長らの更生も近い。そう心から信じていた。

「よし!タケは休憩ーっ!!次はどいつだ!?」
「「うわあああああ!!」

305名無し募集中。。。:2015/07/07(火) 09:21:59
怖えええええ!

306名無し募集中。。。:2015/07/07(火) 09:30:16
ブートキャンプってwできっと満面の笑みでしてるんでしょこれ?トラウマになるわ・・・

307 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/07(火) 20:44:59
メイとカナナンは必死で逃げようとしたが、マイミの俊足の前では無意味だった。
手足に金属を装着しているというのに、あっという間に追いついてしまう。
そしてマイミがメイを目掛けて手を伸ばしたことから、次のターゲットも明らかだった。

(私ぃ!?やだやだやだ!!)

メイは頭をフル回転させて、誰に演技すればこの状況を回避できるか必死に考えた。
はじめに浮かんだのはマイミと同じ食卓の騎士のクマイチャンだったが、すぐに却下する。
クマイチャンの強さはあの巨体と長刀があってこそなので、メイが演じても何にもならないのである。
ではモモコはどうかとも思ったが、そもそも演じるのに十分なほど観察していない。
フクになってフクダッシュ……したところで俊足には勝てないだろう。
タケに変身……しても無意味だ。張本人が吐かされたばかりなのだから。
カナナン……頭の良さまでは真似できない。
リナプー……影の薄さはトレース出来ても透明化術は使えない。犬もいないし。
三舎弟の誰か……まだ早い。(メタ的にも)
マロ……むしろ弱くなりそう。あのスタイルで強いのはマロ本人だけだ。
アヤチョ王……行けるかも!?と思ったが、周りにはテンションを上げる美術仏像グッズが存在しない。

(うわあああ!誰を演じてもダメじゃない!)

気づけばメイはマイミに胸倉を掴まれていた。
このままタケのように100連ラッシュを受けるしかないのだろう。
気が重すぎるが受け入れるしか道はない。

(こうなったら仕方ない、覚悟を決めるか。)

メイは決心した。
とは言ってもただ諦めるという訳ではない。
全て受けきる覚悟を決めたのだ。

「ちょーっとだけ待ってもらえませんか!」
「なんだ?長くは待たないぞ。」
「ヘアメイクの時間だけください!」

メイはノーメイクだった。
演技の幅が狭まるのを嫌うため、いつでもフラットでいられるように常日頃からすっぴんで生活しているのである。
しかし、やらねばならない時だけは話は別。
ここぞという時にはマロ・テスクから教わった化粧をして気合を入れるのだ。
そのメイクの名は「ヤンキータイプ」。
スケバン風の塗りに加えて、髪型をオールバックにした今のメイは迫力満点。
まさに番長という肩書きに恥じぬ見た目へと変貌した。

「こっから本気で行かせてもらうんで、世露死苦ぅ!」
「お前、さては不良だな!更生しがいのある奴め!」

308 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/08(水) 07:46:39
今から数年前のとある日。
旧スマイル王国(現アンジュ王国)の裏番長カノン(現マロ)は他の番長らを呼び寄せていた。

「今日はあなた達にメイクを教えてあげる。お年頃の女の子はみんなするものよ。」
「アヤはメイクしたことないよ!」
「アヤチョは黙ってて!向こうでユーカとでも遊んでなさいよ!」
「ユーカちゃんはもういないよ……」
「あっ!……ま、まぁそれは置いといて、今から教えるメイクは特殊なメイクなの。
 かつて食卓の騎士が束になってようやく倒せたくらいの、超超強い剣士が得意としていたのよ。」
「あははは、食卓の騎士より強い人間がいるわけないじゃん!」
「ほんまやで、カノンさんたまにアホやわぁ」
「いたの!!」
「クマイチャン様よりー?」
「んー、クマイチャン様よりちょびっとだけ強かったかな。」
「カノンさん、この前クマイチャン様が世界で一番強いって言ってたのに。」
「うるさい!とにかく教えるわよ!
 まずタケちゃんにはスポーツタイプを教えてあげる。」
「スポーツ!?私にピッタリ!」
「カナナンにはガリ勉タイプかな。」
「なんですかそれー!」
「リナプーは道端タイプね。きっと使いこなせるはず。」
「み、道?……」
「それとメイメイは、消去法でヤンキータイプ!」
「消去法!?女優タイプとか歌手タイプとかないんですか!!」
「無いわ、我慢しなさい。」
「まぁいいですよ、私はプライベートでメイクなんて一生しませんもんね。
 私がする化粧は舞台化粧だけです!!」
「まぁいいから覚えるだけ覚えときなさい。いつか役に立つ日が来るんだから。」

時は戻って現代。
メイがヤンキータイプになったのを見て、タケとカナナンは当時のことを思い出していた。
そして、自分たちの化粧が汗で流れ落ちていたことにも気づきだす。

「あれ、フクちゃんと戦ったときはちゃんとしてたのに……」
「化粧直しせなあかんな。メイが時間を稼いでる今のうちに!」

今のメイは10秒間のラッシュをちょうど受け終えたところだった。
苦しさのあまり血反吐を吐いているし、膝もガクガクと笑っているが
マイミを睨む目だけはキッとしていた。

「自分まだ全然余裕なんスけどぉ!!」
「私の連打を耐えただと?……面白い奴だ!もうニ百発!!」

309名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 08:52:29
やっぱりあの人の技だったか…リナプー道端w番長達にピッタリなメイクだわ

310名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 12:33:26
なんだろ?

311 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/08(水) 13:00:36
メイの飛躍的な耐久力向上はマロから教わったメイクによるものだが、
体内に取り入れるジュースでもあるまいし、化粧自体に身体能力を強化させる効果は無かった。
では何かと言うと、メイクの真価は自己暗示にあったのだ。
スポーツ風、ガリ勉風、ヤンキー風のメイクを自らの手で行うことによって
自分の中のそういった面を平常時以上に脳が引き出しているのである。
ただ、リナプーの道端タイプに関しては他のメイクとは意味合いが異なってくるため、
これについてはいずれ説明することにする。

「押忍!もっと気合い入れたいんでぇ!これも着けていいっすかぁ!!」
「なんだそれは、ガラスで出来た仮面か?……
 これ以上やる気満々になるなんて素晴らしいじゃないか!着けてみろ!」
「押忍!でもそしたら顔はやばいよ、ボディーにしな!ボディーに!!」
「お、おう、割れたら危ないからな。」

メイは尊敬する70年代〜80年代女優のセリフを真似してみたが、マイミには伝わらないようだった。
それはさておき、メイミが持ち出したのは「キタジマヤヤ」と名付けられたガラスの仮面だ。
普段武器を持たないメイにとって、これが唯一の武器と呼べるかもしれない。
仮面自体には効果は何もないが、これを顔につけることでメイは自分を大女優だと思い込むことが出来る。
そう、メイクと似た効力を持っているのだ。
いつも他人の演技をするときもガラスの仮面を着けているのだが、
今回はそこに更にヤンキータイプが加わっているので、思い込みと思い込みの相乗効果が発生する。
ただでさえメイはアヤチョについていって一緒に滝に打たれるほど根性が有るというのに。
ここまでしたら彼女の忍耐力は留まることを知らない。
ヤンキーを通り越して伝説の総長クラスの演技になるだろう。

「よーし仮面をかぶったな!じゃあ改めて200発!」
「マイミさん、もう100とか200とかまどろっこしいのは辞めにしましゃうや。」
(なんだ?……また雰囲気が変わったな……)
「これは女と女の勝負っすよ。ぶっ倒れるまで思う存分やってくださいよ。
 死ぬ気で持ちこたえてみせますんで、
そこんとこ世露死苦。」

この時マイミに電撃が走る。
はじめは国を脅かす小悪党に見えたが、ここまでの男気、いや女気を魅せてくれるなんて思いもしなかった。
これほどの根性の持ち主は食卓の騎士にも珍しい。
だからこそマイミはその思いに応えることにした。

「よく言ったぞ!ならば無限のラッシュを見せてやる!!
 女と女、どっちが先に音を上げるかの勝負だ!!」

312名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 13:53:10
やめてー!メイメイ死んじゃうーw

313名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 13:55:21
マイミの背中に鬼の貌が!

314名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 14:14:49
マイミこえーよ

315名無し募集中。。。:2015/07/08(水) 14:38:26
マイミの本気が見れる?

316 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 02:57:07
マイミはさっき以上の高速連打をメイの腹筋にぶつけていく。
100発もらっても200発もらっても終わることのないラッシュパンチはさぞかし苦痛だろう。
実際、メイの表情はヤンキータイプになったにもかかわらず、どんどん曇っていっていた。
だがいくら苦しくても音を上げるわけにはいかない。
その理由は、タケとカナナンがまだここに留まっているからに他ならなかった。
いくらでも逃げられる隙はあったのだが、二人はメイの行動に心動かされたのだ。

「タケちゃん、身体休めながらでええから少し教えたって。」

カナナンは左手に大きなソロバンを掲げながらタケに問いかける。
このソロバンこそがカナナンの武器。その名も「ゴダン」と言う。
見た目の通り、この武器の攻撃力は全くの皆無であるが、
これを弾きながら考え事をする時のカナナンは百人力だとタケは思っていた。

「カナナン本気なんだな……分かった、なんでも聞いてよ。」
「じゃあ早速。マイミ様の攻撃法がパンチだけなのはどないして?
 あんなに立派な金属の脚をつけとるんやから、キックしたらええのに。」
「それはな、マイミ姉ちゃんの蹴りが強すぎて義足の方が持たないんだよ。
 うっかり壊して困ってるのをよく見たことある。」
「耐久性より軽さ重視ってことか?」
「いや、なんか鉄だとモモコ様を相手にする時に困るって言ってた。」
「ふぅん、なるほど……じゃあ次の質問いくで。
 タケちゃんが本気でマイミ様を殺すとしたら、どこを狙う?」
「殺せるわけない。」
「それは感情論?」
「いや本当に。あの肉体はマジで鋼だよ。私の鉄球を100回ぶつけてもピンピンしてると思う。」
「そうか、なら最後の質問や。タケちゃんの野球の師匠は誰やったっけ?」
「知ってるだろ。マイミ姉ちゃんだよ。野球の世界でもバケモノだぜ。」
「なるほど。じゃあタケちゃんと違って野球のルールには詳しいってこと?」
「なんだよ私と違ってって……まぁ、詳しいと思うよ。
 細かいのは把握してないっぽいけど、まったく知らなかったらあんなに上手いわけない。」
「そうかそうか、よし分かった。」
「分かった……って?」
「マイミ様を倒す方法、分かったで。作戦Uや!」

ソロバンの球をパチンと弾くと、カナナンはマイミを指差していく。
そこでは限界を迎えたメイがちょうど膝から崩れ落ちるところだった。
こうなったメイに対して追い打ちをかけることなどマイミは決してしたりしない。
次に鍛えるべきは他のメンバーだと思っているのだ。

「逃げずに待っていたのは立派だな。さすがあの不良の友達だ。
 次はソロバン少女、お前の番か!?」

カナナンにラッシュを仕掛けようと近寄るマイミだったが
その前に、先ほど打ちのめされたばかりのタケが立ちはだかる。
作戦名を聞いただけでタケはカナナンの意図を理解していたのだ。

「マイミ姉ちゃん!私と野球で勝負だ!」
「!?」

317 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 13:26:31
タケが鉄球「ブイナイン」を握って振りかぶれば。そこはもうピッチャーマウンドだ。
マイミもバットが無いなんて野暮なことは言わない。
拳に装着したナックルダスターでホームランを決めてやろうと考えているのだ。
普通の人間なら鉄球をパンチで打つなんて無理な話だが、食卓の騎士であるマイミになら問題なく出来る。
なんなら頭や肩でも軽々と場外まで飛ばすことだって可能だろう。
それも全部承知の上で、タケが第1投を放っていく。

「おりゃぁっ!!」

久々の野球に胸を躍らせたマイミだったが、タケの投球を見てガッカリしてしまった。
その結果はなんと大暴投。球はあさっての方向に飛んで行ってしまったのである。
もしも審判が居ればボールの判定をするはずなので、マイミは深追いをしなかった。
そして、怒りの表情でタケへと詰め寄ってくる。

「なんだその気の抜けた投球は!従姉妹として、そんな風に教えたことは一度もないぞ!!
 あの不良の後だから何かやってくれると思ったが、とんだ期待外れだな。
 お仕置きに無限ラッシュを喰らわせてやる!!」
「気の抜けた?それは当然でしょ。遊びなんだから。」
「な、な、なんだと!真剣勝負に全力で挑まなかったというのか!」
「真剣勝負なんかじゃない。私がやったのはただのキャッチボールだよ。」
「……なに?」

この瞬間、マイミはあることに気づいた。
さっきまでタケの近くにいたはずのカナナンが消えているのだ。
こと戦闘においてマイミが敵を見逃すことはありえないのだが
バッターがピッチャーに集中しないのは失礼にあたるため、
マイミは周囲に対して一時的に注意を払っていなかったのだ。
ではカナナンはどこか?
タケのキャチボールの相手がカナナンだとしたら、その居場所は……

「後ろか!」

マイミが振り向いたその時、カナナンはタケから受け取った鉄球を投げようとしていたところだった。
さっきまで慌ただしかったマイミも、その様を見て少しホッとする。
いかにもか弱そうなカナナンの投球なんて全然怖くないし、
そもそもマイミの身体は鉄球を何発も受けようがビクともしないのだ。
第一、勉強ばかりやってそうなカナナンがボールを真っ直ぐ投げられるかどうかも怪しいものである。
そういったマイミの一つ一つの決めつけが、番長らに有利に働いていく。

(おや?このソロバン少女、投球フォームはなかなかどうして綺麗じゃないか。)

マイミが頭の中で思う通り、カナナンは完璧に近いフォームでボールを投げていた。
そしてそれに見惚れるあまり、自分にボールが迫ってきてもマイミは動けなかった。
近くまで来ても、すぐそこまで来ても
そして、ぶつかる寸前でボールの軌道が真下方向へと変化しても動くことが出来なかった。
気づいた時にはもう遅い。
マイミの身体の中で最も脆い、「義足」が鉄球との衝突で壊されてしまったのである。

「な、なんだと!こんな事が……!」

片足とは言え、脚を破壊されたのだからマイミはその場で転倒してしまう。
全てはカナナンの計画通り。
マイミが野球に真摯に向き合ってくれたからこそ、この成果があるのだ。
マイミは人を見た目で判断したことを恥じながら、カナナンに問いかける。

「待ってくれ、そのフォームはどこで習得したんだ!?」
「尊敬するプロからみっちり教えてもらいました。後は地道な反復練習の賜物です!」
「そうか……どうやら私はお前達を見誤っていたようだな……」

318名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 14:52:06
まさかの上原かw

319名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 15:32:34
上原フォームくるとはw

320 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/09(木) 21:02:41
カナナンは感激していた。
自分の考えた作戦で、伝説とも言うべき食卓の騎士を倒せたことがとても嬉しいのだ。
しかも相手はキュート戦士団長のマイミ。これはもういくら自慢してもし尽くせない。
だがこれも自分だけの成果ではないことをカナナンはよく分かっていた。
メイが苦しみに耐えながら時間を稼いでくれたこと。
タケがマイミを倒すための情報を教えてくれたこと。
どれ一つ欠けても勝つことは出来なかっただろう。
なので、カナナンは感謝の気持ちを伝えることにした。

「ありがとな、タケちゃん。」
「おう!で、次の作戦は?」
「ん?」
「焦らすなよ、時間はそんなに無いんだぜ。」

ここでカナナンは変だなと感じた。
たった今マイミを倒したばかりだと言うのに、何を言っているのだろうか。

「作戦ってなんのこと?マイミ様ならもう……あっ!」

ここでカナナンは見てはいけないものを見てしまった。
出来ることなら見間違いであって欲しかったがそうにもいかない。
マイミが片足で立ち上がり、ケンケンで接近してくる姿は紛れも無く現実だった。

「さぁお前達!これからラウンド2が始まるぞ!
 次は何をするんだ?フットサルなんか面白いかもな!!」

あまりの光景にカナナンは呆然としてしまった。
だが考えてみれば当たり前のことだった。
伝説の存在があの程度でリタイアする訳が無かったのだ。

「お、おいカナナン、ひょっとして策は無いんじゃ……」
「無いわ!こんなん逃げるしかあらへんやろ
!」

カナナンは白目で気絶するメイを担いでは、ソロバンを靴の裏にセットする。
そして地面を蹴ることで、あたかもローラースケートのように滑りだしたのだ。
そのスピードはソロバンだからと馬鹿にできるようなものではなく
タケの全力疾走に並走する程度は速かった。

「待てお前ら!もっと筋肉と語り合おうじゃないか!」

どうやらカナナン達はすっかりマイミに好かれてしまったようだ。
台風のような殺気を放たれるよりはマシかもしれないが、これはこれで逆に怖い。
しかもケンケンのテンポも段々と早くなっていっているような気もする。

「おいカナナン!このままじゃ追いつかれちゃう!」
「やばいな、とりあえずそこの部屋に逃げ込むんや!」

321名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 22:17:24
筋肉と語り合うってwだんだんマイミが松岡修造に見えてきたww

322名無し募集中。。。:2015/07/09(木) 22:57:34
笑顔でケンケンして追いかけてくるのめっちゃ怖いわw

323名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 00:12:51
マイミ暑苦しいわw

>なんか鉄だとモモコ様を相手にする時に困る
これはどういうことだろう?
後々わかるのかな

324名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 00:18:43
>>323
>>272
鉄の義足でこれやられたらって考えたら…w

325 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:18:33
確かに修造化してますねw
違いは晴れ男か雨女かってとこくらいでしょうか、、、

鉄製ではないくだりはいつか話すとは思いますが
皆さんのご想像の通りです。

326 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:46:57
とある部屋に飛び込むや否や、カナナンは扉を施錠する。

「間一髪助かった……さすがにもうこれで安心やろ。
 いくらマイミ様とは言っても、扉を破るほどの破壊力は持ってへんはずや。
 何発も殴られたメイがまだ生きてるのがその証拠。」

そう言いながらカナナンはメイの頭をなでていく。
苦痛のあまり気を失ったメイだったが確かに息をしている。
マイミはスピードこそ脅威ではあるが、攻撃力自体は並だとカナナンは踏んだのだ。
しかし、タケはその意見に反発する。

「あれがマイミ姉ちゃんの本気なわけないだろ……本気の時は、もっと、こう。」

タケが説明しようとしたその時、扉からバリバリバリといった異音が聞こえ始める。
その音の正体がマイミによるものだということはすぐに気づくことが出来た。
だが、二人ともせいぜい怪力でドアノブを壊した程度を想像していたのだが
現実はもっと酷かった。

「ひぇぇ……ド、ドアが……」

なんとマイミは全力で扉を開けようとするあまり、ドアそのものを捻じ曲げてしまったのだ。
しっかりした構造の扉がグニャリと歪み出したのでカナナンとタケは恐怖した。
これがマイミのフルパワーなのである。
補足しておくが、タケやメイを殴るときは決して手を抜いていた訳ではない。
その際は相手の腹筋を鍛えるために力を微調整していたのだ。
流石は世が平和になった時に「いっそ就職をするとなったならインストラクター?」と思っただけはある。

「ど、ど、ど、どないしよタケちゃん!」
「待てカナナン!なんか音が止まってないか?」

タケの言うとおり、バリバリといった扉の捻じ切れる音はいつの間にかしなくなっていた。
おそらくはマイミ自身も扉を壊したことにショックを受けて、どこかに謝りに行ったのだろう。
マーサー王国の扉はマーサー王およびマイミ対策で頑丈に出来ているので、少し気の毒な話ではある。
なんにせよ、怪物から逃走することに成功した二人はホッとした。

「よかった〜ウチら助かったんやな。」
「あぁ、マイミ姉ちゃんさえ居なけりゃもう怖いものは無いぜ!」

一息つく二人だったが、その安息の時間も僅かなものだった。
もともとこの部屋にいた人物に話しかけられることで事態は急変する。

「タケちゃん、カナナン何やってるの? そこで倒れているのはメイメイ?」

声の主は、アンジュ王国の王、アヤチョだった。
同じく部屋にいたユカニャ王とともに目をパチクリさせている。
そう、タケとカナナンが逃げ込んだ部屋は作戦室だったのである。
マロの言葉を思い出したのか、アヤチョは鬼神の表情で二人を睨みつける。

「ハルナンを裏切ったんだってね!許さない!許さない!許さない!」
「「うわああああああああああ!!」

327 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 12:52:25
★おまけ

マイミ「参ったなぁ〜扉を壊してしまった。……ん!あそこで一人歩いているのは番長の誰かじゃないか?
 顔はよく覚えてないが背格好が似てるし間違いない!おーい!」
???「え、な、なんですか?」
マイミ「やっと捕まえたぞ!さぁ筋肉との対話だ!」
???「え、え、え、え」
マイミ「もうアンジュの番長は一人も逃がさん!朝までトレーニングだ!」
アユミン「わたし番長じゃないんですけど〜〜!?」

おしまい。

328名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 12:57:23
番長…不幸過ぎるw

アユミンも不幸…てかユー○と間違うって!wてか一時期王国で雇ってたはずなのに

329名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 13:11:03
アユミンが間違われるのは鉄板ネタ化しつつあるなw

330名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 13:20:44
なんか色々とカオスにw

331 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/10(金) 21:29:48
ー モーニングラボ。
そこにはマーチャン・エコーチームの統括する技術開発部制作の最新武器がズラリと並んでいた。
ところが責任者であるマーチャンの武器は意外とローテク。
なんと彼女は木刀を使うのだ。
それを取り出したマーチャンを見て、オダは頭を抱えだす。

「分かってはいましたが本当にやるんですね……ここ、密室なんですけど。」
「うふふっ、だってマーチャンは曇りの剣士だもん。」

そう言うとマーチャンは木刀「カツオブシ」にマッチで火を点け始めた。
木製の剣はとてもよく燃えて、よく煙を焚いてくれる。
これこそがマーチャンが天気組の中で「曇りの剣士」と呼ばれる所以。
彼女は黒雲のごとき火煙で相手をいたぶることを得意としていたのだ。
特に今回のような密室ではマーチャンの攻撃は「熱い」「煙たい」では済まされない。
煙の充満が一定量を越えると、相手に一酸化中毒を引き起こすことも可能だ。
こんな武器が他に存在するだろうか?
だからこそマーチャンは剣士でいながら、切れない剣を好んで使用しているのである。

「あとねー、今日は試してみたい武器がいっぱいあるんだ。
 なんかミチョシゲさんにお願いされてね、マーチャン頑張って作ったんだよ。」

マーチャンは木刀を最も好んで使用する。
だが、使うのが木刀だけとは誰も言っていない。
試作品である「スケート靴」「忍刀」「両手剣と投げナイフのセット」をこの場でテストしようと考えているのだ。

「なんですかそれは……」
「知らない。いつか使うんじゃない?」

332名無し募集中。。。:2015/07/10(金) 23:35:37
マーチャンはレイナの「カツオブシ」を使うのか!アレンジしてあの技の欠点を補ってるだと?

そしてついにあのメンバー達の武器(仮)が…イメージ通りだけどさてどんかカラクリがあるのやら

333 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/12(日) 14:26:23
はい、マーチャンの木刀は前作から受け継いだものになります。
他の武器についてはノーコメントでw

334 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/12(日) 15:54:36
火煙と、多種多様な武器。
それだけがマーチャンの強みではないことをオダ・プロジドリは知っていた。
取り返しのつかなくなる前にマーチャンを倒すために
オダは「レフ」と名づけられた幅広のブロードソードでマーチャンに斬りかかる。

「たぁ!」

研修生時代、トップクラスの成績を収めていただけあってオダの突き出しは見事なものだった。
基本に忠実なのはもちろんのこと、更にワンポイントのアレンジを加えている。
この一工夫によってオダの攻撃は「回避不可能の一撃」へと昇華されるのだ。
オダの狙いはマーチャンの首。
ブロードソードではギロチンのように切断することは難しいが
首を深く傷つけることによって戦意を喪失させることはできるだろう。
オダの「回避不可能の一撃」ならばそれは容易い作業だ。
ところが、マーチャンがそうはさせなかった。

「オダちゃんの攻撃、丸見えだよ。」
「あ!……」

マーチャンはスケート靴の片方を拾い上げると、素早くブロードソードにぶつけていく。
このスケート靴の裏側のエッジ部分は刀剣の刃のように鋭く、
斬撃を防ぐことが出来るようになっているのだ。
アテが外れて青ざめているオダを見ながら、マーチャンが問いかける。

「オダちゃん、オダちゃんの剣を作ったの誰だっけ?」
「マーチャンさんです・・・・・・」
「そう、マーチャン。だからその剣の弱点も全部知ってる。
 ちょっと部屋を暗くしたら、その剣はもうただの剣だよね。」
「・・・・・・」

確かに今のモーニングラボは薄暗かった。
これはマーチャンがオダの特殊技能対策として、あらかじめ照明を絞っていたためである。
現在のこの部屋の明かりはマーチャンの木刀で燃える火のみと言っても差し支えないレベルだ。
この程度の光では、オダ・プロジドリは輝かない。

「それとね、オダちゃんの攻撃、覚えたよ」
「くっ・・・・・・」

オダが危惧していたマーチャンの最大の特徴。
それは異常なまでの学習能力だった。
どんな攻撃だろうと、一回経験すればマーチャンは次からは対応出来てしまう。
そのためオダは真剣による攻撃を覚えさせる前に倒したかったのだが、それが叶わなかった。
毎回異なる攻撃法を繰り出さなければ、マーチャン・エコーチームを倒せない。

335名無し募集中。。。:2015/07/12(日) 18:07:39
チート杉だろw

336名無し募集中。。。:2015/07/12(日) 20:44:36
聖闘士マーチャンだなw一度見た技は通じないとか…さすが天才

337 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 02:47:15

(参ったわ、これじゃあ私はただの一流剣士・・・・・・)

得意技を封じられたオダは困り果ててしまった。
こうなってくると持ち前のセンスとテクニックで対応するしか無くなってくる。
だがオダ・プロジドリはここで敗北して、ハルナンとの約束を破るわけにはいかなかった。
"ハルナンが選挙に勝った暁には、すぐにでも帝王を斬らせてくれる"
この約束はオダにとってそれほどに魅力的なのだ。

(だから決してしくじるわけにはいかない。どんな手を使おうとも!)

オダは行儀悪くも棚をガン!と蹴飛ばし、そこに乗っていた武器を床へと落とした。
ここに並ぶ数々の剣はちょっとやそっとの衝撃を受けたくらいで壊れるようには出来ていないのだが
そこはやはり開発者のサガか、マーチャンはそちらに注意を向けずにはいられなかった。

「あ!オダちゃんなにするの!」

スケート靴にかけられた力が弱まったことを確認したオダは、
マーチャンが落下物に目を配っているうちに瞬時に背後へと回り込む。
そしてブロードソードをマーチャンの背中へと思いっきり振り落としたのだ。

(くらえ!)

「武器の乗った棚を蹴られた経験」は無いためにマーチャンは簡単に背後を許してしまったが
「背後に回りこまれて模擬刀を背中に当てられた経験」なら訓練中にあった。
少しでも過去の経験に該当していればマーチャンは記憶を辿って思い出すことが可能だ。
模擬刀と真剣の違いゆえに100%一致とはいかないが、斬撃の矛先を背中から脇腹へとズラすことが出来た。
それでも痛いことには変わりないが。

「痛い!!・・・・・・オダちゃんめ・・・・・・」

背後にいるオダを追っ払うためにマーチャンは左手の木刀をシュッと後ろに振る。
それによって火の粉が飛散し、オダの服の胸部が焼かれていく。
秘密の処刑係という立場上、硬い鎧を堂々と着れなかったのが仇になったのだ。
このまま炎を受け続けるのはまずいと、オダは慌てて後方へと下がる。

(後ろからの攻撃まで避けるなんて!・・・・・・一応当てはしたけど効果は薄いよなぁ。
 しかも、今の攻撃も絶対覚えられちゃってるし・・・・・・)

マーチャンは今回、「背後に回り込まれて真剣で脇腹を斬られた経験」を覚えた。
平和な時代ゆえに真剣で戦う機会の少なかったマーチャンにとって、
オダとの真剣勝負は、己を成長させるにはとても都合が良かったのだ。
しかもマーチャンが覚えるのは決して受動的なものだけではない。能動的なものもどんどん覚えている。
今回の例で言えば「スケート靴を持って攻撃を受け止める経験」などのことだ。
貪欲なマーチャンはもっともっと経験を詰みたいと考えている。

「右手に忍刀、左手に木刀、これでマーはどんな経験が出来るのかな?
 オダちゃん・・・・・・簡単に負けたら許さないよ。」

338 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 02:53:28
マーチャン・エコーチームの学習能力はとても強力ですが
主には以下のような弱点があります。

★覚える前に倒されると無意味。
 例)クマイチャンの強力な一撃を受けたら覚える前に死にます。

★攻撃方法が謎すぎると覚えられない。
 例)モモコの攻撃の正体を暴かないと、覚えることが出来ず死にます。

★身体的・物理的に不可能なことは対処できない。
 例)マイミの高速ラッシュを覚えたとしても、身体がついていかないため対処できず死にます。

たぶん他にも弱点あるかも・・・

339名無し募集中。。。:2015/07/13(月) 06:31:57
ようするに自分の能力を大きくかけ離れた攻撃は学習出来ないって事だね

340 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 15:49:45
忍刀と木刀を握ったマーチャンを前にして、オダは次の攻め方を考える。
マーチャンの新武器である忍刀については詳しくないが
刀にしてはやや短めの刀身を見るに、近距離専門の武器なのだろうと推測できる。
軽量化によって一撃の振りを軽くしているのかもしれない。
となれば遠く離れることが対策に繋がるかと思ったが、そういう訳にもいかなかった。
マーチャンはいざとなれば火のついた木刀を勢いよく振ることによって
火炎を遠距離の的に当てることが出来るからだ。
つまり今のマーチャンは遠近両方をカバーしていることになる。
これではかなり攻めにくい。

(木刀が燃え尽きるまで待つってのはダメだよね……
 その頃には部屋中に煙が充満してたいへんなことになっちゃう。
 じゃあどうやって攻めればいい?早く決断しないと!)

急がなければ一酸化炭素中毒でオダは御陀仏。
かと言って焦って中途半端な攻撃をすれば、覚えられてしまい取り返しのつかないことになる。
このジレンマにオダは相当悩まされていた。
マーチャン自身はパワーもスピードも体力も並程度だと言うのに
どんな屈強な戦士よりも切り崩しにくいと感じているのだ。
だがオダもオダでこれまでの蓄積がある。
窮地に岐路を見出すことくらい、何度も経験してきたのだ。

(常に新しく、かつ威力の高い攻撃……これしかない!!)

オダはダッシュでマーチャンの方へと接近していった。
とは言っても目的はマーチャンそのものではない。
マーチャン制作の新武器、「両手剣」を拾い上げることこそが狙いだったのだ。
本来この「両手剣」は「投げナイフ」とのセットを想定して作られているのだが
二つ同時に扱えるわけがないのでオダは両手剣のみを選択する。

「あ、ドロボー!」
「放火魔に言われたくないですよっ!」

オダは両手剣を持つと同時に、マーチャンのお腹へと思いっきり振り上げた。
かつてサユ王の同期が使っていたグレートソードほどの重量はないが
この両手剣もなかなかの重さを誇るため、オダの腕にかかる負担は相当のものだった。
だがこの攻撃が絶対的に有効だと知っているからこそ、力もみなぎってくるものだ。
マーチャンは覚えた攻撃への対応力はピカイチだが
逆に初見の攻撃にはめっぽう弱かった。
作ったばっかりの新武器で斬られた経験なんて当然ないため、モロに受けてしまう。

「!!!」
「どうですか!自分の作品の切れ味はっ!」

オダはマーチャンの腹の深くまで刃が入ることを期待していた。
いくら不安定な体勢から切り上げたとは言ってもダメージは相当なはずなのだ。
実際マーチャンの瞳孔が開ききっていることからも、ひどく痛がっていることがよく分かる。
ところが、おかしなことが一点あった。
それは斬られたはずのマーチャンが腹から出血していないということ。
オダはまたマーチャンが何か仕掛けたのかと思ったが、そうではなかった。
問題はオダの扱う両手剣にあったのだ。

「なにこれ……刃が鈍すぎて切れたもんじゃない!
 これじゃあまるで金属の棍棒……!」

オダの言う通り、その両手剣は剣と呼ぶには鋭さが足りなかった。
これでは相手を殴ることは出来ても、斬ることは出来ない。
そのためにオダの思ってたような結果を出せなかったのだ。
そして、イメージと違うのは両手剣だけではない。
マーチャンの右手に握られていたものが、忍刀ではなく長めの紐に変わっていたことにもオダは気づきだす。

「マーチャンさん……刀はいったい何処に!?」
「どこだと思う?」

こんな質問をしてはいたが、オダは忍刀の所在に気づいていた。
ただ、認めたくなかったのだ。
音もなく自分の左肩に突き刺さり、激痛を起こさせていることなど、気のせいであって欲しかったのである。

「どういうこと……」
「ふふふふふ、マーチャンを殴ったバチが当たったんだよ……」

341 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/13(月) 15:50:35
339
はい、そのような理解で大丈夫です。

342名無し募集中。。。:2015/07/13(月) 22:05:45
まーちゃん強い!


さゆ王誕生日おめでとうございます

343 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/14(火) 12:58:23
ここでマーチャンの作った三組の武器について解説しなくてはならない。
一組目はスケート靴。
剣と呼んでよいのか怪しいが、ブレード部分は非常に鋭利になっていて、殺傷能力は申し分ない。
だがその特殊さゆえに、素人が履いたところですぐに転倒してしまうのがオチである。
幼少からスケートを訓練した者でなければ使いこなせないだろう。
二組目は忍刀。
小さく軽いその刃は、投てき武器としても使える優れものだ。投げたら付属の紐で回収すれば良い。
だがこの刀の真価は、あまりの軽さによって実現された「無音切り」にある。
どんな音も聞き分けられる才能を持った者でなければ使いこなせないだろう。
三組目は両手剣と投げナイフのセット。
重量感たっぷりの両手剣と、どこまでも飛んでいく投げナイフによって、遠近の両方をカバーしている。
しかし普通の人間は両手剣を持つだけで精一杯なので、両方を同時に扱うことなど出来やしない。
投打ともに優れた二刀流の怪物でなければ使いこなせないだろう。

「ま、マーチャンは全部使えるんだけどね。」

自称する通り、マーチャンは持ち前の学習能力で全ての武器をそれなりに扱うことが出来ていた。
本来の想定される持ち主と比べたらさすがに劣るが
どれもだいたい80点くらいのレベルで使いこなすことが出来るのである。
実際、今回もオダに気づかれずに忍刀を肩に突き刺していた。
これは忍刀の特色である「無音切り」を上手く引き出した証拠だろう。

「オダちゃん痛くない?可哀想!いま抜いてあげるね!」
「ちょっ!」

マーチャンは忍刀に付属の紐を容赦なく引っ張った。
もちろん親切心からの行動なわけがない。
刀を引き抜くことで、激痛と出血の両方をプレゼントしてやりたかったのだ。
ブシュウと湧き出る己の血液に、オダは青ざめる。

(まずい!クラクラしてきた……)

オダが眩暈を起こした理由は2つある。
一つは出血多量によるもの。
そしてもう一つは、部屋に溜まってきた煙によるものだ。
血液は身体中に酸素を送り込むのだが、この部屋にはその酸素が絶対的に足りていない。
そして僅かな酸素を運ぶ血液も、今のオダには足りていない。
まさに絶体絶命。
すぐに決着をつけなくては命が危ういだろう。

(すぐにマーチャンさんを倒さなきゃ……
 もっと意外で、もっと強力な攻撃……なにがあったっけ……」

344 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/14(火) 22:00:04
マーチャンは右手で紐をシュンシュンと回しながら、オダから距離を取っていく。
少しでも近づこうものなら紐の先に括り付けられた忍刀をぶつけるつもりなのだろう。
今のオダにとって、時間を稼がれているこの状況は非常にまずい。
なんせ立っているだけで気を失いそうなのだから。

「オダちゃん、これでもうマーには近づけないよ。」
「……」
「でも終わりじゃない。」
「……?」
「オダちゃんならきっとなんとか出来るよ!
 だってオダちゃんの強さ、よく知ってるもん。
 ねぇ、早く見せてよ!ここから逆転するところをマーに見せてよ!
 そしたらマーチャンもね、もっと強くなれるんだから!!」

誰よりもオダに期待しているのは、他でもないマーチャンだった。
八方塞がりの状況を突破する姿をしっかり見届けることで
その経験を持ち前の超学習能力で習得するのが狙いなのである。
つまるところ、ここでパタリと死なれてもらったら困るのだ。
そうは言いつつ、忍刀を振る速度は全く緩めないマーチャンを見て、オダは苦笑いする。

「まったく仕方ないですね。分かりましたよ。
 一流剣士の逆転劇、とくと目に焼き付けてください。」

オダに気力が戻ったのは、マーチャンに勇気付けられたというだけの理由ではなかった。
モーニングラボが、オダお得意の「必中の一撃」を放てる環境に変化したことが大きい。
では以前と今とでこの部屋の何が変わったのか。
答えは、明るさだ。
薄暗かった部屋の明かりはマーチャンの木刀に灯った炎のみであるが
時間が経つにつれて、火力が強くなっていったのである。
これだけ燃え広がれば、「必中の一撃」を放つには十分だ。
オダはブロードソード「レフ」の、鏡のように磨かれた刀身をマーチャンの側へと向ける。
こうすることで、炎の明かりをマーチャンの目へと反射させていく。

「うわっ!!」

わざわざ自分の炎をちゃんと見てはいなかったマーチャンにとって
薄暗い世界に舞い込む微弱な光は、目を焼くほどに眩しかった。
これこそがオダの「必中の一撃」の正体。
目をつぶる一瞬の隙に仕掛けることで、回避させずに斬ることが出来るのだ。
オダ・プロジドリは光を使役することにかけては帝国剣士随一だろう。

(でも、これだけじゃマーチャンさんには通用しない。)

マーチャンは過去にオダの「必中の一撃」を受けた経験があった。
目が見えないために回避行動をとることは難しいのだろうが
これまでの例を見る限り、なんらかの対応をしてくるのは確実だろう。
だからこそオダは決して気を緩めなかった。
常に新鮮な体験をマーチャンに味あわせるために、更にもう一工夫を加える。

345 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/15(水) 14:37:33
目を潰されたその瞬間、マーチャンは反射的に両手をグルグルと回していた。
この激しい回転によって、忍刀と火炎はあちらこちらに飛び回る。
入り込む余地の無いほど、メチャクチャにブン回すことが「必中の一撃」対策だったのだ。
視力の低下は一時的なものなので、少しの間だけ凌げば反撃へと転じることが出来る。
そうなったらマーチャンはもう無敵だ。
なんせ「火炎の光を反射される経験」も覚えたのだから。

(オダちゃん来なよ!もう時間ないんでしょ!?)

マーチャンは暗い世界の中でオダの攻撃を待ち構えた。
少しでも何かに当たる感覚があればそこに対して集中砲火することを考えているのだ。
そしてオダはマーチャンの期待通りにすぐ仕掛けてきてくれた。
長引くほどに不利になるので、当然と言えば当然だろう。
ところが、その攻撃はマーチャンが想定するものよりずっと「重い」一撃だった。

(ぎゃ!なんだこれ!)

何か硬くて大きいものが、忍刀や炎を跳ね除けながらマーチャンの胸へと飛んできた。
この重量感の正体はなんと両手剣。
オダは目の見えないマーチャンに対して、これを思いっきり投げつけたのである。
「真っ暗闇の中で両手剣を投げつけられた経験」なんてこれまでに無かったので
マーチャンは全く避けることが出来なかった。

「うぁ……あ……」

弱っているオダが投げたとは言え、やはり鉄の塊をぶつけられるのは非常に痛い。
これまでのダメージの蓄積も相まって、マーチャンの胸部の骨はポッキリと折れてしまった。
泣きたくなるほど辛いが、だからこそしっかりしなくてはならない。
やっと目も慣れてきたのだから、反撃はここから始まるのだ。
勝利を収めるためにマーチャンはカッと目を開く。

「あれ……オダちゃん……」

目の前すぐそばにオダが立っていたため、マーチャンは驚いた。
二刀流を投げたばかりなので遠くにいると思っていたが
実際はこんなにも近くにいたのだ。
これこそがオダの更なる一工夫。
両手剣がヒットしたとしてもそこでモタモタしたら、次にそこにいるのは新たに学習したマーチャンだ。
そうなったらさっき以上に攻撃を当てにくくなるだろう。
だからオダは両手剣を飛ばすと同時に、自分もマーチャンの方へと走っていったのだ。
両手剣が跳ね除けてくれたおかげで、今なら宙を舞う忍刀も火炎も存在しない。
ならばオダの一撃は通る。

「私の勝ちです!」

周到に練られた一閃を、マーチャンは回避することは出来なかった。
オダの肩以上の血を胸から吹き出し、ガクリと倒れこむ。
思えば経験のない攻撃についてはほとんど直撃を受けていた。
まだ息はあるとは言え、もう戦うことは出来ないだろう。

「はぁ……はぁ……オダちゃん、やっぱり強いね……」
「次、戦ったら分かりません……それに。」
「?」
「マーチャンさん、きっと木刀だけで戦った方が強いですよ。」
「えーーー!?……それ早く言ってよぉ……」

346 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/16(木) 12:53:31
名目上はオダ・プロジドリの勝利だろう。
処刑担当として見事に裏切り者のマーチャンを倒したことになる。

(勝ちはしたけど、もう戦えそうにないな……)

まだ身体が動くうちに、オダは出来る限りの対処をしなくてはならない。
まずは消火だ。転がる木刀を踏んづけることで火の出どころを断った。
次は部屋からの脱出。煙で朦朧とする意識の中、マーチャンを担いで外へと出て行った。

「オダちゃん、マーが重くてごめんね。」
「それ、カノンさんに聞かれたら怒られますよ……」

廊下の新鮮な空気を吸ったオダはいくらか楽になったが、それでもまだ身体の調子は戻らない。
だからオダはそこらにいる兵士に助けを求めることにした。
若い女性なので、おそらくは研修生なのだろう。

「すいません、そこの人、助けてくれませんか?」
「わぁ!大丈夫ですか!!とてもびっくりしました。」

帝国剣士であるオダとマーチャンが血まみれでHelp me!と言ってきたので、研修生は驚嘆する。
研修生だった時期がギリギリ被っていないのでオダはその子を知らないようだが、
研修生は有名人である2人のことをよく知っていた。
こうしてはいられないと思った研修生は背中にしょっていた両手剣と投げナイフを床に捨てて、
オダとマーチャンの2人を担ぎだした。

「ありがとうございます……細いように見えて意外と力持ちなんですね。」
「褒められて、とっても嬉しいです。大大大好きなサユ王様のためにいつも鍛えてるんです。」

そう言いながら研修生は2人を医療室にへと運んでいく。

347名無し募集中。。。:2015/07/16(木) 13:00:48
とってもさんきたー!てか普通にあの武器持ってるしw

348名無し募集中。。。:2015/07/16(木) 15:32:35
今ならケガした帝国剣士2人倒して成り上がれそうだがw

349 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/17(金) 12:58:58
マーチャンとオダを助けてあげた研修生が大大大好きなサユ王は今、
同じ研修生であるクールトーンをギュ〜ッと抱きしめていた。
目の前で繰り広げられる食卓の騎士の大激突から守るという名目で、だ。

「喰らえモモ!!」
「まったくクマイチャンは……私には通用しないってまだ分からないの?」

頭上高くから斬撃が降りかかってくるが、モモコは全く恐れずそこから離れない。
むしろ自身の小指を上へと突き出し、襲い来る長刀へと当てるのだった。
普通に考えれば小指は潰され、そのまま腕ごと切断されてしまうのだろうが、そうはならなかった。
斬撃は小指にぶつかる直前に軌道を逸らされ、床へと落下していく。
さっきからこれが何度も続いているのでクマイチャンもウンザリだ。

「また!?もう、しつこいなぁ!」

クマイチャンはモモコとは10年以上の長い付き合いにはなるが
その戦闘スタイルについては完全に把握しきれていなかった。
直線的で単純なクマイチャンに対し、モモコの戦い方は曲がりくねっていてゴチャゴチャしている。
戦士として恵まれた身体を持っているとは決して言えないが、知恵と暗器によってそれを補っているのである。
だがそんなモモコも人間だ。
完全無欠のロボットではないのでミスを犯すこともあるだろう。
暗器では防ぎきることの出来ない攻撃だって存在するだろう。
クマイチャンには流星のように強力な必殺技があった。それならば通用するかもしれない。

「これならどうだ!私の必殺!!」
「クマイチャン、辞めておいた方がいいと思うよ。」
「今さら命乞いなんてさせるか!たぁっ!!」

そう言うとクマイチャンは地面を蹴って空へと舞い上がった。
先ほど自分で開けた天井の穴を通過し、あっという間に最高点へと達する。
これでクマイチャンの必殺技、「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」の準備は整った。
隕石の如き勢いと速度で落下するのだから、ここから放たれる斬撃の威力はとてつもないものになる。
フク達と戦った時は床に攻撃をぶつけたが、モモコには何の遠慮もいらない。
そのまま直撃してやろうと流星ガールは降下していった。
ところがモモコはこの技に対する策も用意していたのだ。

「ツグナガ憲法……"派生・謝の構え"」

落下直前、クマイチャンは刀を振ってモモコへと叩きつけようとした。
ただ落ちるだけでも威力は十分すぎるのだが、
そこに更に剣の振りを加えることで殺傷能力を増加させているのである。
これを喰らえばどんな相手でもひとたまりもない。
当たらなくても周囲への被害は甚大なものになる……クマイチャンはそう思っていた。
ところがその時、クマイチャンの耳に不吉な声が入ってくる。

「許してニャン」

350 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/17(金) 13:00:23
マーオダを倒すとサユ王が悲しみますので、研修生は手を出せなかったというか
そもそもその発想がなかったというか、、、w

351 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 20:50:56
今気づいたけど「ツグナガ憲法」じゃなくて「ツグナガ拳法」ですね・・・・・・
訂正します。

352名無し募集中。。。:2015/07/19(日) 22:12:33
脳内変換してたんで大丈夫w

それにしても前作にはなかった技が次々とww

353 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 22:32:26
「!?」

剣を振り降ろそうとする先にモモコはいなかった。
地上へと落下する流星を撃ち落すために跳びあがっていたのだ。
長刀を握るクマイチャンの手に向けて、ビンタを当てていく。

「えいっ!」
「!!!」

モモコのビンタ自体はただのビンタだ。
ただし、それを当てられるクマイチャン自体が超高速で落下していたために
クマイチャンの手とモモコの掌が衝突するインパクトは凄まじかった。
味方していたはずの勢いやらスピードが、すべて自分に牙を向いたので
クマイチャンは耐え切れずに吹っ飛ばされてしまう。

「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」

モモコの必殺技「ツグナガ拳法、"派生・謝の構え"」は相手の必殺技を無効化する。
むしろそれを利用して相手に反撃までするのだから驚きだ。
技を産むまでの過程を嘲笑うかのような技であるため、
使用者であるモモコも胸が痛いのか、事前に「許してニャン」と謝罪することからその名は来ている。

「クマイチャン様、すごく痛そう……」

ビンタをぶつけられたクマイチャンの右手はグシャグシャに潰れていた。
その様を見るだけでよほどの衝撃だったことが理解できるだろう。
あまりの痛々しさにクールトーンは目を覆いたくなってしまう。

「それにしても凄いですね、クマイチャン様の必殺技を素手で止めるなんて……」
「いや、モモコのことだから手に何か仕掛けているわ」
「仕掛け?……あ!だからモモコ様は無傷なんですね。」
「それも違う。モモコが負傷していないと考えるなら大間違いよ。」
「???」

354 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/19(日) 22:33:48
前作キャラの派生技が生み出されるまでの過程は、たぶん説明されないと思いますので
いろいろと想像してみてください。

355 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/20(月) 17:09:10
クールトーンにはサユ王の言うことが理解できなかった。
クマイチャンが床の上でのた打ち回っているのに対して、
モモコは平然な顔をして立っているために、負傷しているだなんて信じられない。

「普通に考えて、あの落下を直接受けて無事で済む訳が無いでしょう?
 きっと今頃モモコの腕の骨はバラバラになっているはずよ。」
「で、でも全然平気そうな……」
「そう、それがモモコの凄いところ。
 あの子はクマイチャンや他の食卓の騎士のような超人的身体能力をもたない代わりに
 人間離れした精神力とプロ根性を持ち合わせているの。
 きっと全身の骨を粉々にされたとしても、表情を崩すことはないはずよ。」

そんな人間が実在するなんて思いもしなかったので、クールトーンは驚いた。
きっと自分だったらちょっと怪我しただけで痛がってしまうだろう。
ただ、そんなモモコを凄いと思うと同時に、一つの疑問を浮かべていた。

「凄いと思います……でも……」
「でも?」
「表情を崩さないのって戦闘の役に立つんですか?……それってただの我慢じゃ……」

クールトーンの問いかけはもっともだった。
クマイチャンの超パワーや巨躯、マイミの超スピードやスタミナが戦闘に直結するのは理解できるが
モモコの強みが「表情を崩さない」と言われてもいまいちピンと来ない。
だが、サユは己の回答に自信を持っていた。

「効くの。相手が単純バカ……もとい、直情タイプの戦士なら特にね。」
「それって、クマイチャン様みたいなタイプのことですか?」
「そう、かつてモモコは私の同期と戦ったこともあったんだけど、その同期もクマイチャンに似ててね。
 無表情のモモコが何を考えているのか、次に何をしてくるのかほとんど読むことが出来なかったそうよ。
 ポーカーフェース。それがモモコの最も恐ろしいところなの。」
「は、はぁ……その同期さんより強いってことは、モモコ様はサユ王様より強かったってことですか?……」
「それはない。」
「え、でも」
「ありえない。」

356 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/21(火) 13:34:31
右手の激痛に苦しまされながらも、クマイチャンは立ち上がることが出来た。
剣だって左手さえ残っていれば持つことが可能だ。
モモコの放った謎の石が刀身に付着しているおかげでかなり重いが、
持ち前の超パワーならば剣を振るうのに問題はない。
むしろ、目の前の相手がまったくの無傷に見えることの方が問題だった。

(やっぱりモモコは強いな……血のにじむ努力をしてきたのに、まったく歯が立たない。)

このまま戦えば十中八九敗北するであろうことはクマイチャンも自覚していた。
モモコの謎の行動によって剣速は遅くされるし、
床の破片をブチまけても一つも当たらないし、
一方的に自分の右手だけを破壊されるし……と、散々な目に遭っている。
騎士としての位で言えばモモコとクマイチャンは同格であるが
実力差はかつての副団長と一団員だった頃と変わらないのかもしれない。
だが、いくら相手が格上だからと言って諦めるわけにはいかなかった。
その思いは食卓の騎士としての誇りから来るものではない。
ハルナンからの依頼に応えたいという理由でもない。
格下であるフクやサヤシ、そして番長らが自分に立ち向かったことに感銘を受けたからこそ
ここで負けてられないと考えたのだ。

「行くよ……」
「ん、どした?」
「必殺技行くよ!たぁっ!!」

クマイチャンは先ほどと同じように天高くへと跳び上がった。
本日3回目の「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」を行うのは誰の目にも明らかだった。
しかしその技はついさっきモモコに打ち破られたばかりだ。
まったく同じ攻撃をするとしたら、同様に打ち破られてしまうだろう。

「はぁ……またクマイチャンに謝らないといけないのね。
 どうか許して……ください!」

ベリーズの団長がこの場に居れば「そこ言わんのかい!」と思いたくなるような謝罪をしながら
モモコも「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」で流星ガールを迎撃しようとする。

357 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/22(水) 23:14:06
クマイチャンの飛翔が完了するまでに時間はそうかからなかった。
上昇時には敵対していた重力が、ここからは心強い味方へと変わっていく。
高さとは力。
圧倒的なまでの高度が生む破壊力は膨大であることを知らしめるため、流星は地に落ちる。

「ぬあああああああ!!」

常人ならば失神するかもしれない落下速度だってクマイチャンはへっちゃらだ。
幸いなことに高さには慣れているのである。
彼女に高所恐怖症は似合わない。
電気にも似たピリリとした空気摩擦を全身で浴びながら、
落下点にいるモモコへとジリリと迫っていく。

(行くぞモモコ!もうさっきまでとは違うんだ!)

地に落下する寸前、やはりモモコはクマイチャン目掛けて跳び上がってきた。
ビンタでクマイチャンの左手を潰したように、今度は右手を破壊しようとしているのだ。
いくらクマイチャンが化け物のような存在だとしても、両手を潰されたら剣を握ることは出来ない。
そうなればモモコの勝利は絶対的なものになるだろう。

(だったらそこを利用してやる!)

右手を狙うモモコのハイタッチを、クマイチャンは拒絶した。
衝突する直前に剣を上方向へとグイッと上げることによって
モモコの掌が叩き込まれる打点を少しズラしたのだ。
結果、モモコの手がぶつかった部位は「肘」。
右手を壊そうという思惑を打ち破っただけでなく、超高速落下の勢いのついた肘打ちまでお見舞いしたのである。
いつものように単調な攻撃が来ると思ったところで変化を見せてきたので、モモコは驚いた。
表情こそ変化はないものの、腕を壊され、床に撃ち落とされてしまう。

「くうっ……!!」

肘打ち、そして床への落下。
これはクマイチャンが今回の戦いで見せた初めてのクリーンヒットだった。
いくら超人的な肉体を持たないとはいっても、モモコも食卓の騎士であるため
この程度では命を落としたりなどはしない。
だが、そんなモモコも無敵ではないことが分かったたけでもクマイチャンにとっては大収穫だ。
痛む肘も気にならないほどに気分が高揚してくる。

「どうだ!」
「どうだって……ちょっと当たったくらいではしゃがないでよ!」
「あ、モモ動揺してる?」
「してない!」

358 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/22(水) 23:15:23
来週のナカイの窓が今から楽しみです。

359名無し募集中。。。:2015/07/23(木) 06:50:58
ついにクマイチャンメートルの謎が明かされるかw

モモコの謝罪3部作見事に取り込んでるなぁ〜

360 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/24(金) 12:56:44
クマイチャンは手応えを感じていた。
顔からモモコの状態を察することは非常に難しいが
肘打ちで骨を粉砕した感覚なら確かにあったのだ。
しかもよくよく観察してみたらモモコの腕は両方とも上がっていない。だらんとしている。
シューティングスターを1発防ぐにつき1本の腕を犠牲にした結果、こうなったのだろう。
クマイチャンは自身の肘にも相応のダメージを受けたためまともに剣を握ることも困難であるが
今が好機なのは間違いないため、すぐさま追撃を加える。

「もらった!」

負傷した片手による攻撃ながらも、その振りは好調なものだった。
流星の勢いには遠く及ばないが、ひと1人を殺めるには十分すぎるほどの勢いだ。
両腕を壊した結果ノーガードなモモコにこれを叩きつければ、その瞬間真っ二つにすることが出来るだろう。
己がそうなることを想像した者は誰もが震え上がり恐怖の表情を浮かべるはず。
ところが、モモコは此の期に及んでもその顔を崩さなかった。
この程度、窮地のうちには入らないのである。

「あれ?……体が動かない……」

刃がモモコの胸に突き刺さる直前、クマイチャンは自身に起きた異変に気づき始めた。
なんとクマイチャンの身体と、さっきまで振られていた刀がピタリと止まってしまったのだ。
不思議な現象ではあるが、その原因はハッキリしている。
モモコが何かした以外に考えられない。

「……なにした?」
「馬鹿正直に話すと思う?」
「……」
「それにしてもさすがクマイチャンね。そこいらの子とは鍛え方が違う。
 ここまでにもう6個も暗器を使わされちゃった。」
「!?」

モモコの武器は暗器7つ道具。
状況によって個数や種類が変動することもあるが、基本的には7つを使用している。
そのうち既に6つも使ったの言うのだから、クマイチャンは驚かされた。
いつ、どのタイミングで何をされたのかほとんど把握出来ていないのだ。

「そして今から最後の1個を使うね。特別だよ?」

361 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/25(土) 17:31:59
モモコはこれまで不思議なことを何回も起こしてきた。
鉄に貼り付く石を投げて剣を重くしたり、
自分に飛んでくる床の破片を棒立ちのまま回避したり、
斬撃の軌道を小指一本で逸らしたり、
クマイチャンの動きを完全に止めたり、と様々だ。
思えば流星ガールの位置まで到達した跳躍力もおかしいし、
それを受け止めても(骨折したとはいえ)腕が千切れず残る耐久力も異常だ。
おそらくそれらの全てがモモコの暗器'14によるものなのだと推測できる。
だが、上に挙げたものの中には直接相手にダメージを与えるようなものは無かった。
実際、モモコが用意した暗器のうち攻撃的な性質を持つものは一個しか用意されていないし、
今回はまだ使用していない。

「これ、準備が必要なのよね。スキが大きすぎるから。」
「!!……まさかアレを!」
「そう、クマイチャンの動きを封じた今、やっと"モモアタック"が使える。」

今のモモコに腕は使えない。
ただし、尻ならフリーだ。
以前に簡単な組み手で"モモアタック"を受けたことがあるため、クマイチャンは知っていた。
どういう攻撃かも、どれくらい危険かも。
これを喰らえばひとたまりもないことを理解しているため、クマイチャンは慌てて全身を動かそうとする。
今、自身を止めている暗器は透明のリナプーや犬らが抑えつけていた時と感じが似ていた。
つまりはフルパワーを出せば動けないこともないのだ。
早々にこの呪縛から逃れてモモアタックを回避しなければ敗北は必至。ならば必死にもなる。
しかし、体を動かそうと力を入れるほどに、節々に激痛が走り出す。
なんと肌の露出した面のいたる箇所に、無数の切り傷が発生していたのだ。
まるで何か細いものに食い込んで、千切れてしまったかのよう。

(これは……糸?)

見えない攻撃の正体に気付きかけたクマイチャンだったがもう遅い。
その一瞬の躊躇いをついて、モモコは跳躍していた。
狙いはクマイチャンの腹。武器は己の尻。
暗器によってコーティングされたお尻で無慈悲なまでのヒップアタックを叩き込む。

「モモアターーーック!!」
「あぐっ!!…………」

お尻なのに何故か鋭利で尖がったような感触。
それを受けたクマイチャンは激痛に耐え切れず、意識を飛ばしてしまう。

362名無し募集中。。。:2015/07/26(日) 00:31:02
最後はそれかいw

363 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/26(日) 21:55:00
「凄い……本当に倒しちゃった……」

クマイチャンがズシンと倒れゆく様を見て、クールトーンは思わず言葉を漏らす。
こんな大きい人間が敗北する光景なんて見たことないのだから無理もないだろう。
そんな良い経験をした少女を、サユ王は微笑ましく見守っている。
食卓の騎士同士の戦いは研修生には刺激が強すぎるため、
もしかしたら漏らしたり、嘔吐したりすることもありえると思っていた。
それらが自分にかかったとしても、サユは王としての寛大な心で受け入れようともしていた。
だが、クールトーンはそんな粗相などせず立派に最後まで見届けたのだ。
(ある意味では少し残念だが)これはとても喜ばしいことだと王は考える。

「さてと、決着がついてすぐのところ悪いんだけど」

サユ王はクールトーンを床に降ろしては、勝者モモコへと近づいていく。
大事な話をするためだ。

「なぁに?サユ王様。」
「弁償。」
「んー?」
「訓練場の床と扉と天井の修理代、請求しておくから」
「……えっと、なんで私に?どっちかと言えばクマイチャンじゃない?」
「いろいろ手を出して小金持ってるんでしょ?知ってるんだから。」
「え、え、それ誰に聞いたの?」
「あなたのところの団長(キャプテン)から。手紙で。」
「はぁ……やっぱりバレてたのね。侮れないわー。」
「だから、修理代。」
「それとこれとは別でしょ。クマイチャンに払わせなさいよ。」
「訓練場は早く修理しないといけないの。来月あたり使う予定があるのよ。
 だからすぐ入金できるモモコに払ってもらう方が助かるんだけど。」
「そっちの都合じゃないの!」
「あーあ。じゃあ今回の単独行動をシミハムに報告しようかなー。モーニング帝国帝王として。」
「ええー!?許してニャン許してニャン。」

サユ王とモモコが対等に話しているのもクールトーンにとっては不思議だった。
改めて元プラチナ剣士であるサユ王の凄さを思い知らされる。

364 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/27(月) 12:54:38
「そ、そんなことよりあの子のテストの結果はどうなったの?」

モモコは苦し紛れにクールトーンを指差した。
攻撃法を一つでも見破れなければクビ。その約束を覚えていたのだ。
ここで最もドキリとしたのはもちろんクールトーン本人。
速記したうちの一枚を取り出しては、おそるおそるサユに提出する。

「自信があるのは一つだけです……どうですか?」

サユとモモコはクールトーンのちぎった一枚に注目した。
そこには読みやすい綺麗な文字で「モモコ様がクマイチャン様の剣に磁石のようなものを投げつけた。」と書いていた。
実はこれは大正解。
モモコは超強力な磁力を発する電磁石を複数くっつけることで
クマイチャンの長刀の重量を重くしていたのである。
クマイチャンの馬鹿力だからなんとか持つことが出来たが
並みの剣士ならば5, 6個も付与されたら剣を振れなくなるだろう。
剣士でなくても鉄製の武具を扱う者であれば容易に無力化することも可能だ。

「おめでとうーよく私の暗器を見破ったねーパチパチー」
「えへへ、ありがとうございます。」

クビを免れた安堵感でクールトーンはホッとするが
課題を与えたサユ王はあまり面白くない顔をしていた。
というのも、モモコの戦法において磁石の使用は基本中の基本であったため
出来ればそれ以外の暗器についても解明して欲しかったのである。

(まだ研修生だし、まずはこんなもんか……)

サユの憂いとはうらはらに、モモコはクールトーンを必要以上に褒め称えた。
実はモモコは(サユ王とは違った意味で)子供好き。
子供に読み書きを教える資格までこっそりと取得したとの噂だ。
年端もいかない少女が頑張るのを見ると応援したくなってくる。

「この短時間によくこんなに書いたわね。見せてもらえる?」
「えっ、全部ですか?」
「うんうん。私の戦いをどんな風に見てくれたのか気になって。見せて見せて。」
「ちょっと恥ずかしいですけど……はい。」

そう言いながらクールトーンは数十枚単位のメモを手渡した。
はじめはにこやかなにそれらを眺めていたモモコだったが、
読んでくうちにその表情は真剣なものになってくる。

「あなた……気づいていたの?」
「えっ?」
「サユ。相変わらず油断出来ない人ね。ほんとに。
 今までこんな子を隠してきてなんて……」
「えっ?」

365 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 08:26:21
クールトーンが書いたメモには以下のように記されていた。

・モモコ様が強く地面を踏みつけるとブーツの上部から風が吹き出すようだけど、何かは分からない。
・モモコ様の小指の周りに半透明で見えにくい何かがついているようだけど、何かは分からない。
・モモコ様がジャンプする時は脚が急に伸びて少し背が高くなるようだけど、何かは分からない。
・モモコ様の掌に銀色の防具が付いていて、それがクマイチャン様の腕を壊したようだけど、何かは分からない。
・クマイチャン様を縛った糸は手じゃなくて足で操作しているように見えたけど、何かは分からない。
・モモコ様のお尻が急に尖ったように見えたけど、何かは分からない。

どれも「何かは分からない」で締められてはいるが、クールトーンは暗器の全てを認識していた。
知識不足ゆえに詳細まで突き止めたのは電磁石のみとなったが、眼で見た全てを速記する才能は、ありのままを紙に写していたのだ。
モモコはいつどのタイミングで仕掛けたのか分からないように戦ったつもりだというのに
全てが見透かされていたことに恐怖を覚える。
もっともクールトーンがこれだけ見えていたところで、モモコと一騎打ちで勝利できる確率はゼロパーセントだろう。
万に一つも勝ち星はあり得ない。
最悪全ての暗器を捨てたとしてもモモコは決して弱くはないからだ。
だが、もしもクールトーンがクマイチャンに肩入れしていたらどうなっていただろうか?
クマイチャンでなくてもいい、他の食卓の騎士クラスの戦士に情報を教えてしまえば
途端にモモコの強みは消え去ってしまう。
故に、モモコは手に取ったメモを容赦なく破り捨てた。

「あぁ!なにするんですか!」
「あーごめんごめん、手が滑っちゃった。」
「せっかく書いたのに……」

クールトーンはともかく、サユ王はモモコの発言を鵜呑みにしたりはしない。
珍しく焦りを見せるモモコを面白がりながらも、クールトーンの成長を実感する。

「へぇ、折れた手で破り捨てなきゃならないほど大事なことが書いてたんだ。」
「別に?……そもそも怪我なんてしてないしね」
「ふふ、ところでモモコ。うちの書記係は凄いでしょう。
 いろいろ経験させてきたけど、やっと食卓の騎士の戦いを見れる程度に成長したの。」
「はぁ……私とクマイチャンをダシにしたってこと?」
「ダシだなんてとんでもない。プレミアライブをアリーナ席で見せてくれてありがとね。」
「……ちょっと羨ましい。」
「え?何が?」
「私もいま何人か育ててるんだけどね、ワガママな子ばっかりで……
 すぐにルールを破るから罰としてセロリ食べさせたりとか工夫してるんだけど
 なかなかうまくいかないのよね。帝国の教育メソッドを教わりたいもんだわ。」
「へぇ、そっちも結構大変なんだ。」

366 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 08:32:47
オマケ

モモコ「教え子の中の一人にサユのファンがいて……」
サユ「まぁ嬉しい」
モモコ「1日何十枚もサユの絵を描いたり、サユと同じ服を収集してたりしてる。」
サユ「えっ怖い。その子、変態?」

クールトーン「そういえばこの前、見知らぬお姉さんに服をプレゼントされました。サユ王様と同じ服って言ってたような……」
モモコ、サユ「「え!?」」

367名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 08:58:44
つゆ姉さんw

368名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 20:31:16
メンツーユか

369名無し募集中。。。:2015/07/28(火) 21:52:41
今日のニコ生みたら「ワガママの子ばっかりで…」って言葉がリアルに実感できたわw

370 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 22:36:43
同時刻、訓練場近くの通路では犬と猿が喧嘩していた。

「くそっ……すばしっこい犬だなぁ!」
「ププとクラン!ちゃんと名前で呼んで。」
「くそっ……すばしっこいププとクランだなぁ!」
「よし。」

サユキ・サルベは二匹の小型犬ププとクランに手を焼いているようだった。
リナプーのように動きがゆっくりな相手ならば神経を研ぎ澄ますことで透明化を見破ることが出来るが
ププとクランは廊下中を縦横無尽に駆け回るために集中することが難しい。
小型犬ゆえに噛み付きの威力自体はさほど無いが、これが蓄積していくのは危険だろう。
現状を打破するため、サユキはジュースを出し惜しみせず使用することにした。

「よし、ジュースで乾杯だ。」
「お、バナナジュース?」
「レモンジュースだよ!!」

チャチャを入れられながらもサユキはジュースをゴクリと喉に通していく。
即効性抜群のジュースはすぐさまサユキの身体にある変化をもたらす。
その効力とは「身体が軽く感じる」というもの。
マロがアヤチョ戦でレモンジュースを飲んで喜んだように
サユキも自身が軽くなることが何よりも嬉しい。
これで毎朝サウナスーツを着てランニングをする必要はなくなった。

「身体が軽い……こうなった私は重力を消せる!!」

地面をバシッと蹴ると、サユキはふわりと浮いてしまった。
まさに「AH こうして無重力」。
とは言っても本当に重力を消したというわけではない。
長年鍛えたカンフー(自己流)の蹴りの力強さによって
身体ごと宙へと浮かせたのである。
自身を軽いと思い込んだサユキはぐんぐん高く上昇し、
やがて天井へと到達する。

「ここだ!ハァッ!!」

いつの間にか靴を脱いでいたサユキは、足の指で天井に設置された照明をつまむことに成功する。
通常の人間ならばそんなこと出来ないだろうが
カンフー(自己流)を極めた達人サユキならば可能なのだ。

「信じられない……」
「どうだ!犬はこんな高いところに登ってこれないでしょ。」
「似てるとは思ってたけど、本当にお猿さんだったんだ……進化できなかったの?」
「おいっ!!」

371 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/28(火) 22:40:01
ニコ生やってたんですね。
カントリーのメンバーが桃子を心から尊敬する日はいつかくるのでしょうか、、、

372名無し募集中。。。:2015/07/29(水) 14:26:16
リナプー煽りまくりかw

373 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/29(水) 19:18:44
「思ったけど、そっちも私に攻撃できないんじゃないの?」

リナプーの言う通り、天井の照明にぶら下がるサユキの攻撃は下には届かない。
ヌンチャクを目一杯伸ばしたとしても子犬どころかリナプーの頭にすら到達しないだろう。
投てきのように武器を投げればヒットするかもしれないが、球数は1発のみなので後が無くなる。
ゆえに、今のサユキには何も出来ないとリナプーは考えたのである。
だがその程度はサユキも想定済みだ。

「当たるよ!こうすればね!」

サユキは照明を掴んでいない方の足で天井を思いっきり蹴り付け、
その勢いで人間大砲のようにリナプー目掛けて飛んで行った。
クマイチャンの流星ほどの迫力や威力はもちろん無いが、
同時にヌンチャクをブンブン振ることで十分なほど強力な特攻になっている。
この攻撃法を見るのは初めてだったので、リナプーは対応に遅れてしまう。

「いやっ!!」

逃げようとしても完全には避けきれず、リナプーの右肩はヌンチャクによる強打を受ける。
普段は透明化しているために、まともに負傷するのは久々だったのか
リナプーは必要以上に痛がってしまう。
だがその悲痛さが、かえってププとクランを燃え上がらせた。
主人に害をなす猿を退治するため、怒りながら二匹で突進したのだ。
小型犬とは言え、捨て身の体当たりを二発も貰ったらカンフー(自己流)の達人でもひとたまりもないだろう。

「でも、それは届かないよ。」

二匹が衝突するよりも速く、サユキはまたもや地面を蹴った。
理由は宙へ舞うことなのは言うまでもない。
サユキの得意戦法はヒットandアウェイ。
それも「天井」という安全圏から仕掛けるのだからタチが悪い。
高木に登って優位を主張する猿のように、サユキ・サルベは敵を見下すほどに強くなる。

(うう……さすが猿、次の行動が読みにくい……)

374 ◆V9ncA8v9YI:2015/07/31(金) 08:42:33
数年前の合同演習プログラムでは、リナプーとサユキは同じ班に属していた。
そのため互いに認識はあったのだが、当時と今とでは戦闘スタイルが異なるので
まるでまったく違った人間と戦っているような感覚に陥っている。
過去のリナプーは犬を使わず素手で戦っていたし、サユキもジュースは飲んでいなかったのが主な違いだろう。
では何故リナプーよりもサユキの方が有利に戦いを進めているのか。
それはリナプーの強みである透明化術を知っていたからに他ならない。
リナプーはマロから教わった「道端タイプ」と言われるメイクを日頃からしているのだが
その化粧には「私を見るな」という本能に訴えかけるメッセージがサブリミナル的に刻まれている。
つまり姿の見えない彼女を見ようとすればするほど、脳が感知を拒否する仕組みという訳である。
それを知っていたサユキは、リナプーを見ることをはなから諦めていた。
そしてその代わりに音を聴くことに集中したのだ。
サユキには絶対的な音感が備わっているとは言えないが、KASTの中では非常に優秀な方であり、
ボイスを聞き分けるトレーニングを欠かしたことは一度もなかった。
かつて帝国のサユ王が世話になったトレーニング講師が、最近果実の国に来て指導をしているというのも役立っているだろう。
つまりサユキは「見ざる」代わりに「聞かざる」ことはしないことでリナプーの居場所を突き止めたのである。

(犬の音まで聞き分けるのは大変だけど、空にいたら問題ないよね。
 身体が軽くなった私に敵はいないんだ!)

音を聞き分けられて、且つ空間も自在に操るサユキを切り崩すのは困難だろう。
だがそんな彼女にも突け入る隙は存在した。
それは自慢気で、思ったことはなんでも口にしてしまう性格ゆえに
「言わざる」ことまでは徹底できなかった点にあった。

「番長ってのも大したことないね。強いのはアヤチョ王くらいかな?」
「……なんで王の話が出るの?それにマロさんだってアレでなかなか強いし。」
「え?マロさんならさっきアヤチョ王にボコボコにされてたけど。」
「!?」

375名無し募集中。。。:2015/08/02(日) 12:30:42
乙でありんす

読む時間が無くて30レス位放置してたが
いざ読み始めると引き込まれてあっという間に読み終えてしまった

376名無し募集中。。。:2015/08/02(日) 13:32:13
これを聞いてリナプーがどう動くのか?

377 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/03(月) 14:11:10
いろいろ立て込んでて最近書けてませんでした、、、これから書きます。

読むのを再開してくださる方がいるのは嬉しいですね。
ゆっくりゆっくりですが、まずは第一部完(帝王が決まるまで)を目指して書き続けます。

378 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/03(月) 14:43:01
姿は見えないが、リナプーが動揺するのは感じ取ることが出来た。
掴み所のない彼女の精神を揺さぶる唯一の手段であると判断したサユキは、
連絡担当として、作戦室で起きたありのままを伝えることにした。

「びっくりでしょ、アヤチョ王はこの城に来てたんだ。
 そして、ハルナンを裏切ったマロさんに激怒して、容赦なく切り捨ててたよ。
 他の番長たちも許さないって言ってた。怖いね。ウチのユカニャ王とは大違い。」

一国の王が自国の戦士たちに斬りかかるなんて普通はあり得ないが
アンジュ王国のアヤチョ王ならやりかねないと、リナプーは納得する。
むしろそうなって当然だろうとも思っていた。

「じゃあ、私も王にやられちゃうってことか」
「そうとも限らないんじゃない?」
「え?」
「アヤチョ王は裏切り者を許さないんであってさ、
 だったら裏切るのを辞めれば不問なんじゃないかな。」
「私がマロさんじゃなくて、王の方につけばいいって言ってる?」
「そう。」

サユキは戦闘に飢えてはいたが、あの時のようにリナプーとまた共闘したいとも思っていた。
隊長こそ居ないが、サユキ、リナプー、ハルが組めば「73隊」の復活だ。
当時最強の小隊だった「ゴールデンチャイルド」と呼ばれたフクやタケを、
73隊で倒せる日が来ると思うとワクワクしてくる。
リナプーを倒すよりも、味方につける方がずっと楽しいとサユキは考えたのだ。
ところが、リナプーの返答はノーだった。

「辞めとく。今日はマロさんにつくわ。」
「なんで!?マロさんはもう戦えないんだよ!つく意味ないじゃん!
 そんなに尊敬してるってこと?ちょっと意外……」
「いや、全然尊敬してないけど」
「え、じゃあなんで。」
「教えてもいいけど、これみんなにバラしたら怒るよ。」
「バラさない。」
「……カナナンが、タケが、メイが必死だから。それだけ。」

そう言うとリナプーは四つん這いになりだした。
特に脚部の負傷は見られないのに立つのを辞めたので、サユキには不思議に思えた。

「何やってるの」
「決着を急ぐ理由が出来た。本当はやりたくなかったけど、早く王を止めなきゃ……」

379 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/04(火) 03:13:33
サユキはリナプーの感じが何か変わったことには気づいたが
聴覚から取り入れる情報だけでは、具体的にどう変化したかまでは分からなかった。
いくらサユキが音を聞き分ける訓練をしたと言っても、
相手の心理状態や考えなどを読み取ることは不可能なのである。

(ダメだ、考えるのは苦手……私は私のできることをやるだけだよね!)

サユキは天井を蹴飛ばし、リナプー目掛けて落下する。
この攻撃は当たろうが外れようが大した問題ではない。
ヒットすればもちろんそれは嬉しいのだが、
例え外したとしても、もう一度天井に上がって、また下がればいいだけの話だ。
AH このままエンドレスさ、何度も何度も繰り返し天(井)まで登れ!
ブラックバタフライ、ブラックバタフライのように軽くなった自分は、
蹴りによって生じる風に吹かれてゆらりゆられて大空へと飛んでゆける

(根気と根気の勝負だよ!リナプーが急ぐってんなら全力で邪魔してやる!)

想定していた通り、サユキの初撃はリナプーには当たらなかった。
姿は見えないが、おそらくは直撃寸前で回避したのだろう。
もちろんそんな簡単に行くとは思ってなかったので、次当ててやろうと気持ちを切り替える。
ところが、ここでサユキの耳に異音が入ってくる。

(来てる!……2匹の犬か!)

サユキが地に着くタイミングでププとクランは体当たりを仕掛けていた。
また上に登られる前にぶつけてやろうと、虎視眈々と狙っていたのだ。
これが決まればリナプーに時間を与えることが出来る。そう2匹は考えていた。
しかし、カンフー(自己流)の達人サユキにはそれすらも通用しなかった。

「見くびられたもんだね。私が消せるのは重力だけじゃないよ。
 どんな力だって消せるんだ!!」

サユキは右手をププに、左手をクランに当て、衝突するタイミングで勢いを殺すように手を引いていた。
どんな攻撃でも当たる瞬間に対象物に逃げられたら威力は半減してしまう。
以前トモがタケを殴ろうとしたときも、この技術を応用したのである。
カンフー(自己流)は凄い。まさに攻防一体の万能格闘技だ。
その気になれば脚が地にぶつかる際の衝撃を消すことで、無音で走ることだって出来る。
アヤチョ戦でマロもレモンジュースを飲んでいたが、
「身体を軽く思い込むジュース」はカンフー(自己流)と組み合わせてこそ真価を発揮するのである。

(これで犬は私を邪魔出来ない。あとはゆっくりリナプーを倒すだけ!!)

380名無し募集中。。。:2015/08/07(金) 18:17:54
サユキの絶好調ぶりが不安にさせる
大きな落とし穴があるのではないかと楽し・・・いや心配

381 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/08(土) 13:19:26
最近更新滞りがちで申し訳ありません。
今日の夕方から夜にかけては書けそうです。

382名無し募集中。。。:2015/08/08(土) 18:46:13
無理しないでね

383 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/08(土) 19:05:07
もう一度天井へと跳びあがろうとした時だった。
子犬2匹ではない、それらとは全く異なる足音が聞こえるのをサユキは感じる。
2匹よりも速く、そして大きな足音は耳に入れるだけで恐ろしい。

(なんだこの音!?ひょっとして、3匹目の犬か!!)

新たな足音は小型なププとクランと比べて、明らかに「大型犬」だった。
かと言って機敏さに劣るわけではなく、スピードも据え置きだ。
このまま激しい勢いを保ったままサユキにぶつかるつもりなのだろう。

(私には力を消す技術がある。でもこの力強さ……消し切れるか?)

突如現れた援軍であるために、サユキには情報が不足していた。
いくらカンフー(自己流)に自信が有るとはいえ、このまま考えなしに突っ込むのは愚の骨頂だろう。
ならば少し様子を見ればいい。
サユキには自分の身体ごと天井へと連れて行く蹴りがあったのだ。

(しばらく観察させてもらうよ!えいっ!!)

空という安全圏がある限りサユキは優位に立つことが出来る。
好きな時に攻撃できて、好きな時に休めるなんてまるで理想郷だ。
だからこそ、「3匹目」はその理想郷を破壊することにした。
走りの勢いを全て上方向に変換し、サユキのいる天井へと飛び上がったのだ。
姿の見えにくい3匹目が迫ってきているなんて思いもしないサユキは、
無防備のまま横っ腹を食い千切られてしまう。

「ぎゃっ!!!!」

強烈な痛みを感じたサユキは思わず地へと落下する。
まさに猿も木から落ちるといった感じだ。
ププとクランがサユキを待ち構えているがその必要はない。
何故なら3匹目が渾身の突進をするだけで事足りるからだ。

「ひぃっ!!」

サユキは何をされたか分からないうちに地へと落とされ、
なにをされたか分からないうちに体当たりを貰い、
そのまま身体を壁にぶつけられてしまった。
全身打撲ゆえにもう立つこともままならない。
サユキは精一杯の力で顔を上げて、
いつの間にか透明化の解除されていたリナプーを見上げながら言葉を発する。

「リナプー……私は何をされたの……」
「教えない。」
「私を噛んだ犬はどこ?姿も音も無いんだけど……」
「教えない。」
「リナプー?なんでリナプーの口は血だらけになってるの……?」
「教えない!私もう急ぐの!!」

そう言うとリナプーは2匹の犬を連れて作戦室の方向へと走っていった。
自国の王、アヤチョをどうにかして止めるためだ。

384 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/09(日) 00:55:05
「ハルナン、待って!」

フクとサヤシは作戦室へと向かうハルナンを追いかけていた。
ハルナンさえ止めれば全ては終わる、そう信じて走っているのである。
あとちょっとで追いつくといったところで、フクは少し動きを止める。
もちろん、ただ停止した訳ではない。
お得意の移動術で一気に距離を詰めるために、下半身に力を入れだしたのだ。

「フク・ダッシュ!それならあっという間じゃ!」
「うん、私が抑えつけてるからサヤシも早く来てね。」

ハルナンが帝国剣士団長とは言っても、戦闘能力はフクに相当劣っている。
そこにサヤシまで加えたら完全に制圧することが出来るだろう。
それをフクとサヤシは十分理解していた。
そして、フクの背後に迫っている存在もそのことをよく分かっていた。

「させるかっ!!」

その存在の正体はハル・チェ・ドゥーだった。
手柄を総取りするため虎視眈々とチャンスを狙っていたハルが、
このタイミングでフクの背中に飛び蹴りをかましたのだ。
体重差ゆえにダメージは無いに等しいが、突然の一撃ゆえに体勢を崩してしまう。
こうなってはフク・ダッシュでハルナンを追う願いは叶わない。

「ハル!……私たちの邪魔をするというの?」
「邪魔?それどころじゃ済みませんよ。 二人の首、取りに来たんで。」
「……本気で言っちょるんか? 誰を前にしてそんな口が叩けるんじゃろうか。」
「……」

実際、ハルの感じる威圧感は半端なものではなかった。
相手はQ期組団の団長とエースの二人だ。怖くないはずがない。
だが、今日のミスを帳消しにするにはこれくらいのことをしないと釣り合わないのである。
それに、一人で二人を倒すわけではない。
ハルにだって味方はいる。

「紹介します。ハルの仲間、アーリーちゃんです。
 断言しますよ。アーリーちゃんはフクさんを完全無効化する力を持ってます。
 だから、ハルがサヤシさんさえ倒せばこっちの勝利なんだ。」
「ほぉ、一騎打ちなら勝てると?」
「はい、サヤシさんの決定的な弱点、知ってますよ。」
「なんじゃと……」

385 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/10(月) 15:27:05
柱の陰に隠れていたアーリーは、ハルの言葉に驚いていた。
確かに自分の力なら敵を拘束することが可能だが、
その相手がフクほどの達人であれば上手くいく保証が全くないのだ。
そんな不安そうなアーリーに対して、ハルが目配せをする。

(アーリーちゃん、やるしかないんだ。ハルが手本を見せてやるから見てな!!)

ハルは「タケゴロシ」と名付けられた竹刀を取り出しては、素早い速度でサヤシに斬りかかる。
天気組でハルナンが「雨の剣士」、アユミンが「雪の剣士」、マーチャンが「曇りの剣士」と呼ばれているのに対して、
このハル・チェ・ドゥーは「雷の剣士」と賞されている。
その強さの秘密は圧倒的なまでの「手の速さ」だ。
他の剣士らが扱う金属製の剣と比べると、ハルの竹刀は非常に軽い。
ゆえに振りのスピードは目視が困難なまでに速くなっている。
一撃一撃の威力はもちろん弱いのだが、その代わりハルは雷撃のような連打を実現しているのだ。
ピシャリピシャリといった破裂音もカミナリを彷彿とさせる。

「どうだサヤシさん!ハルの本気を受けきれるか!!」
「チッ、相変わらずうっとおしいのぉ……」

正直言ってこの攻撃でサヤシが簡単に負けることはありえないが、
さっさと片付けてハルナンを追うために、フクも助太刀することを決める。

「待っててサヤシ!今助けるね!」

ハルの背中はガラ空きなので、そこに装飾剣「サイリウム」で切りつければ対処は完了だ。
フクとハルの実力差を考えればそれは容易に終わるはずであった。
しかし、ハルの勇敢さに感銘を受けたアーリーが突進してきたからこそ、上手くはいかなくなる。

「か、覚悟〜〜〜!!」
「!?」

アーリーはフクに攻撃を仕掛けるでもなく、ただ抱きつきにやってきていた。
戦場でいきなりハグされたので、フクは正常な判断が出来ず、それを受け入れてしまう。
普段であればこんな美少女に抱きつかれるのはフクにとって喜ばしいことなのであるが、
アーリーのそれはそんなに良いものではなかった。

「ハルさん!私がフクさんを止めます!!」

そう言うとアーリーは全身全霊の力を込めてフクの骨を折りにかかった。
まるで万力のような圧迫感に、フクは激痛を感じてしまう。

「うぁっ……こ、この力は……」

アーリーは戦闘能力で言えばトモ、サユキ、カリンには遠く及ばない。
しかし、その怪力さに限って言えば誰もが認めるNo. 1だった。
一度ハグさえ成功すれば、食卓の騎士クラスの相手だろうとグルングルンに回してみせるだろう。

386名無し募集中。。。:2015/08/10(月) 16:17:10
あのシミサキやミヤビもグルングルンだったもんなぁw

387 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/11(火) 16:32:17
アーリーによる圧力は凄まじいが、決して耐え切れないレベルのものではなかった。
そこいらの兵であれば簡単に骨を折られてしまうのだろうが
フク・アパトゥーマは全モーニング帝国剣士の中でNo.2のパワーを誇っているために
抱きしめられる内側から押し込むことによって、ある程度耐えることが出来るのである。
しかしそれでもアーリーの腕を振りほどくことまでは出来ないし、
この状態をキープし続けるだけで疲労が溜まってくる。汗も滝のようだ。
せっかくタケとの戦いでの体力を回復したというのに、このままではまた消耗してしまう。

「フクちゃん!」

事態が緊迫しているフクへと目を向けるサヤシだったが
その瞬間、自分の鼻先を竹刀がかすめたので慌てて視線を戻す。

「余所見している暇なんてないですよ!」
「くっ……」

ハルは片手間で応対していい相手ではない。サヤシはそう認めざるをえなかった。
非力ゆえに決定力はゼロに等しいが、息をつかせぬ振りの乱打はなかなか馬鹿にできない。
もちろんサヤシの居合刀「赤鯉」の刃を竹刀に当てればそれだけでぶった切れるのだが
剣士というよりは剣道家のハルは小手や胴を狙ってくるのでそれも難しい。

(あくまで鍔迫り合いはしないつもりか……だったら!)

サヤシは足の力を一気に抜き、背中から床へと落ちた。
もちろんこれは降伏の意思表示などではない。得意のダンスでハルを翻弄しようとしているのだ。
ブレイクダンスの要領で自身に回転を加え、敵の背後に回りこめば切り込むことが出来る。
回転力の加わった居合いを受ければ、体の弱いハルはひとたまりもないだろう。
たったそれだけでサヤシはフクの元へ助けにいけるはずだった。
しかし、このタイミングで何故かハルまでも体勢を低くしたことでサヤシの思惑は外れることになる。

「そう来ると思いましたよ、サヤシさん」
「……!?」

ハルは寝っ転がったサヤシの肩の上あたりに掌を強く叩きつける。
この状態はまるで「床ドン」。
覆いかぶさるように、ハルはそのベイビィフェイスをサヤシの顔に近づけていく。

「焦らないでくださいよ、ゆっくりやりましょう?」
「ひ、ひ、ひやああああああああああ!」

ハルの考えるサヤシの決定的な弱点。それは異性に対する免疫力の低さだった。
異常なまでのストイックさゆえに居合いの達人として成長してきたのだが、
その代償か、男性とまともに話した経験が家族と親戚くらいしかなかったのだ。
よって、ハルが男性的な面をちょっとでも出せばこうも簡単に崩れてしまう。

「サヤシさん可愛いですよ、刀を捨てればもっと可愛いかも。」
「ひゃ、ひゃい……」

388 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/11(火) 16:34:18
はい、アーリーのグルグルはBerryz×Juiceのナルチカネタです。
バレバレですねw

389 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/12(水) 19:59:15
フクとサヤシは絶体絶命だった。
敵対するアーリーとハルはどちらも格下だというのに、相手のペースに完全に飲まれてしまっている。
こうも容易くリードを許す時点で、修行が足りていないのかもしれない。

「サヤシさん、さぁ、刀を床に捨てて。」
「……」

顔が火照って、頭がボーッとするサヤシは言われるがままに居合刀を置いてしまった。
刀は剣士の命だというのも忘れるくらいなのだから、よほど正常な判断が出来ていないのだろう。
それを見たハルはニヤリとした。
ここでサヤシの刀を奪い取ることを彼女は躊躇しない。罪悪感も感じない。
目の前のチャンスをただ見逃す方が戦士として二流以下だと考えているからだ。

(まともにやり合ったらサヤシさんには太刀打ちできない。それは認めるよ。
 でも使えるものを全部使えばハルだって勝てるんだ……この勝負、もらった!)

ハルはサヤシに覆いかぶさったまま刀を掴み、相手の脇腹へと突き刺そうとした。
手入れの行き届いている名刀なので、ほんの少し力を入れるだけでバターのように肉を切ってくれることだろう。
そうすればサヤシは戦闘不能、ハルの勝利……となるはずだった。
突然の乱入者が現れるまでは。

「させん!」

その者はこちらに走ってきては、刀を掴みかけたハルの手を思いっきり踏んづけた。
骨に異常をきたしたハルは激痛のあまり絶叫し、刀を奪うどころじゃなくなってしまう。
そして乱入者はそのまま走りを止めず、フクを拘束するアーリーの元へと急ぐ。

「え?え?……なんですか?」

アーリーが戸惑うのも構わず、その者はフクを縛る腕をギュウッと掴みだす。
そして信じられないことに、果実の国No.1の怪力の持ち主であるアーリーの腕をフクから剥がしていったのだ。
自分より力強い人間を見たことがないので、アーリーの混乱は益々促進する。

「やめたってください!誰!!誰なんですか貴方は!!」

アーリーは知らないようだが、ハルにはその正体が分かっていた。
そしてもちろん、フクとサヤシも彼女をよく知っている。
フクよりパワーのある帝国剣士はその人しか存在しないのだ。

「誰って?通りすがりの魔法剣士っちゃん。」
「「エリポン!!」」

390名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 08:40:24
エリポン颯爽に登場!こりゃサヤシのエリポンガーと奥様の惚気必須だなw

元ネタわかるのが嬉しい 前作読んだときはまだ詳しくなかったから過去動画見まくった思い出…w

391名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 12:40:02
心憎いコラボw

392名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 14:32:04
イクサじゃなくてディケイドだなw

チャラーって例の音楽が流れたw

393 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:03:16
エリポン・ノーリーダーの登場に、フクは感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。
アーリーに抱きしめられていたままならサヤシを救うことが出来ず、ひどく後悔していたかもしれないからだ。

「エリポン……来てくれてありがとう!」
「エリはフクの右腕やけんね。いつどんな時でも助けに来るよ。」

そう言うと、エリポンはサヤシの方に視線を向ける。
己を恥じてうつむいてしまっている同期に、にやけながら声をかけるのだ。

「ちょっとサヤシー?結構ピンチやなかったー?」
「う、うるさい!」
「ガッカリさせんでよ。そんなもんだった?サヤシの実力は。」
「分かっちょる……もう、相手に飲まれたりしない。」

この状況にハルは危機感を覚えていた。
単純に敵の数が増えたというのもピンチなのだが、
それ以上にハルのハニートラップもアーリーの拘束も通用しなくなったことがまずいのだ。
特に、サヤシが完全に正気に戻ったのが痛すぎる。
おそらくはエリポンが居る限りは決して崩れたりはしないだろう。

(くそっ!アユミンのやつ、足止めに失敗したのか……
 エリポンさんも結構負傷しているみたいだけど、2対3でどうにかなるのか!?)

1人現れることでこうも形成が変わるなんて思ってもなかったので、ハルは冷や汗をかいてしまう。
そして不安に思っているのはアーリーも同じだった。
どうしていいのか分からずに、棒立ちのままハルの方をチラチラと見ている。
そのような焦りを感じ取ったのか、たたみ込むようにフクが鬨の声をあげだす。

「よし!3人で協力して2人を倒そう!みんなで力を合わせれば必ず勝てるよ!」

フクの言うことが正しいことは誰が聞いても明らかだった。
敵であるハルとアーリーでさえ不安に押しつぶされそうになっている程だ。
3人のチームワークを見せつければあっという間に制圧できることだろう。
だが、サヤシはフクの指示に反対だった。

「違うじゃろ。フクちゃん。」
「えっ!?」
「ここはウチとエリポンが抑える。だからフクはハルナンを今すぐ追いかけて!」
「!!」

サヤシの言葉にはエリポンも同感だ。
口には出していないが、その自信気な表情が物語っている。
カノンがフクの盾ならば、エリポンとサヤシは二本の刀。
その刀が主を先に行かせてくれると言うのだから、フクは信じるほかない。

「分かった!……任せるよ、二人とも。」
「「おう!」」

394 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:04:52
はい、コラボレーションは意識して書いてますw

395 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/15(土) 22:29:50
ハルとアーリーはフクをみすみす通すことしか出来なかった。
追いかけようとしても、エリポンとサヤシがプレッシャーをかけるので簡単に阻止されてしまうだろう。
だが、ハルはある意味ではこれをよしとしていた。
自分たちの目的は「フクを倒すこと」や「ハルナンを守ること」ではなく、「フクの票を減らすこと」だ。
ならばフクを深追いせずとも、目の前の2人を確実に仕留めることが出来れば十分。
もっとも、それが難しいのだが……

(ハルさん!ハルさん!)
(どうした?アーリーちゃん。)

アーリーがハルに対してアイコンタクトを送り出した。
女性に対する気配りバッチリなハルは、それを100%解読することが出来る。

(このエリポンって人には私の力が通用しません!
 だから戦う相手を交換しませんか?サヤシさんならまだ抑える自信があります。)
(ダメだ!それはダメだ!)
(えっ、どうしてですか?)
(エリポンさんにはハルのイケメンパワーが全く効かないんだ……
 何故なら自分が一番カッコいいと思ってるからね。)
(そんな……!)

強靭な肉体を持ち、且つ自意識過剰気味なエリポンは2人の天敵とも言える存在だった。
また、エリポンの登場によって気を張り詰めたサヤシだって簡単な相手ではない。
2対2である限りは不利なのである。
では、どうするべきかというと。

(エリポンさんは怪我をしている!アユミンが残した成果だ。
 そこを一気に突こう!)
(二人掛かりってことですね!)

ハルとアーリーは同じタイミングでエリポンに飛びかかった。
手負いのエリポンを奇襲でさっさと片付けて、その次にサヤシを倒そうという策なのである。
だがハルは焦りのためか大事なことを忘れていた。
本気を出したサヤシはモーニング帝国剣士の中で「最速」であることを。

「これ以上好きにさせるかっ!!」

サヤシは不意打ちにも戸惑うことなく、ハルにの左脚にスライディングによる蹴りをぶつけた。
線の細いハルが突然の横槍に耐えられるはずもなく、その場で転倒してしまう。

「しまった!」

二人掛かりでエリポンに仕掛けるはずが、アーリー単騎で突っ込む形になってしまった。
すぐにでも続きたいハルだったが、それは無理な話だ。
激昂したサヤシが今すぐにでも刀を振り下ろそうしているのだから。

「安心せい、命までは奪わん!!」
「ひっ!!」

396 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/16(日) 13:25:43
サヤシの思想は変わりつつあった。
はじめは「自分たちに危害を与える者は殺してでも止める」というスタンスであったが、
今では「命まで奪う必要はない」と考えるようになった。
実際に食卓の騎士クマイチャンと対峙することで、死の恐怖を存分に味わったからこその変化だろう。
しかしいくら考えが変わったとしても、刀を振るう感覚まではそう簡単に変わらない。
ゆえに、元来の殺人剣をいかに弱めるかという点においてサヤシは苦労していた。

(これくらいか?えいっ!)

居合刀は一瞬にしてハルの胸を傷つける。
研ぎ澄まされた名刀による一撃なので、当然ハルは激痛を感じる。声も出ない。
だが上記の理由もあってか、斬撃がやや鈍っていたのがハルにとって不幸中の幸いだった。

(めっちゃ痛い!涙が出そうだ……でも生きてる!
 ハルの竹刀捌きでサヤシさんの刀を打ち落としてやれば勝てるんだ!)

ハルは寝っ転がった姿勢のまま上半身を起こし、
サヤシの小手に竹刀「タケゴロシ」を思いっきりぶつけようとした。
居合術こそ怖いが、刀さえ無ければ戦力を大幅に落とせるとの判断だ。
ところが、ハルが打った先には既にサヤシは居なかった。

「え!どこに……」
「後ろじゃ!!」

ハルが起き上がろうとする一瞬の隙に、サヤシは背後に回りこんでいた。
ダンスで鍛えた足捌きを活用すればこれくらいは容易い。
ましてや相手がハルのような若輩者であれば、威圧されてパフォーマンスを妨害されることもほとんど無い。
相手はクマイチャンではないのだ。
あれほどのプレッシャーを経験した今、サヤシはちょっとやそっとでビビったりはしない。

(刀は加減が難しいけぇ……じゃけん蹴りならどうじゃ!!)

サヤシはボールをキックするように、ハルの頭を思いっきり蹴飛ばした。
エリポンのようにスポーツが得意だったり、カノンのようにローキックに長けていたりする訳ではないが、
後頭部への強打が効くのは当たり前。
ハルは目が飛び出るような痛みを感じ、更に耐え難い吐き気まで催してしまう。

「ぐうっ……ハァ…ハァ……くそっ!苦しい……」

397 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:39:24
二人掛かりで飛び込んだはずが、気づけば自分一人だったためアーリーは焦りだす。
しかも標的であるエリポンはひどく好戦的な目をしている。
今更謝ったとしても逃してはくれないのだろう。
もっとも、逃げる気などさらさら無いのだが。

「どうする?力比べでもする?またエリが勝つっちゃけど。」
「それはしません!負けるのは嫌です。」
「ふぅん、じゃあ何をするって?」
「私本来のスタイルで戦わせてもらいます!!」
「ほぉ……」

アーリーが背中から取り出したのは二本で一組のトンファーだった。
右手と左手の両方に持つこの武器を、彼女は「トジファー」と名付けている。
トンファーを構えることによって、ただでさえ大柄のアーリーのリーチが更に伸びたので
エリポンは巨大な籠に囲まれたような感覚に陥ってしまう。

「なるほど動けん。エリ、閉じ込められとる?」
「はい、女性ならハグして拘束するんですが、男性にはいつもこうしてます。
 男の人に抱きつこうとするとメンバーに怒られちゃうんで……」
「いや、エリは女っちゃけど。」
「わー!そういう意味じゃないんです!あなたにはハグは効かないなって思っただけで……」
「いい、いい、分かっとるから。」

アーリー自身はこんな調子であるが、戦術自体は脅威だとエリポンは感じていた。
右に動けば右にトンファーを、左に動けば左にトンファーをぶつけてくると予測されるので、
エリポンはまったく動かずにアーリーを仕留めなくてはならない。
しかもエリポンのすぐ後ろには廊下の壁が迫っているため、後方移動だってさせてもらえない。
そして面倒なことに、此の期に及んでアーリーがまた奇妙なことをし始める。

「ジュースで乾杯!」
「は?……」

アーリーは他のKAST同様にジュースを飲むのだが、エリポンにはその意味が分からなかった。
だがそれがただの水分補給ではないことには勘付いている。

(ドーピングの類?この子が筋力強化とかしたらやばかね……)

となればエリポンの採るべき策は先手必勝しかなかった。
ドーピングが効く前にアーリーを斬り倒すのが最も有効だと考えたのだ。
エリポンの打刀「一瞬」による斬り込みの速さはその名の通り一瞬だ。
師匠の音速には届かなくても、それに近いだけの速度は出すことが出来る。

「お腹、ガラ空きっちゃん!!」

アーリーは両手を大きく広げていたため、胴体に隙があった。
そこに高速の刃を打ち込めば早々に決着はつくだろう。
ところが、自信満々に振られた一撃はアーリーには通用しなかった。
音速寸前の打刀より速く、右手のトンファーが護りに来ていたのだ。

(えっ!?速すぎる……!!)

ぼーっとしているように見えて俊敏なガードを繰り出すアーリーにエリポンは面食らう。
そして速いのはガードだけではなかった。
空いている方の左トンファーが既にエリポンの胸へと接近している。

「しまっ……」

今しがた攻撃体勢に移ったばかりのエリポンがすぐに防衛に回れるはずもなく、
シュルシュルと回転したトンファーを胸にぶつけられてしまう。
そう、アユミン戦で斬られた胸を更にえぐられてしまったのだ。

398 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:58:58
過去ログを見返しましたが、エリポンはアユミンに胸を斬られてませんね、、、
最後の一行は削除します。

399名無し募集中。。。:2015/08/17(月) 06:53:44
トジファーw結局あのトマトはどうなったのか…

400 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:12
アーリーの飲むジュースはメロンジュース。
マロが以前飲んだように、「どんな些細な動きも捉える眼」を得る効力を持っている。
視野が著しく狭くなるのが玉に瑕ではあるが、範囲内の動きは絶対に見逃さない。
例えエリポンが高速の斬撃を繰り出そうと思っても、アーリーは筋肉の動きから攻撃の初動をキャッチ出来るのだ。
こうなればスピードはまったく意味をなさなくなる。
どんな技だろうと発動する前に防御してしまうのだから。

「大人しくした方がいいですよ。抵抗しても無駄です。全部防ぎますから。」
「くっ……」

エリポンにはアーリーの防御術のカラクリは分からなかったが、単調な攻撃が通用しないことは理解できた。
となればお次は魔法だ。
各国のスポーツを取り入れたエリポンの魔法ならばアーリーを出し抜けるかもしれない。

「喰らえ!風の刃!!」

エリポンは床が砕けるような勢いで、打刀「一瞬」を足元に叩きつけた。
これはアユミンを攻撃した時のように、アイスホッケーを応用したもの。
どこから飛んでくるのか予測困難な攻撃ならば通用すると考えたのである。
ところが、これは悪手だった。

「魔法?ホッケーですよね、それ。」
「!?」

同じKASTのトモがアーチェリー競技を嗜んでいたことから分かるように、
果実の国では(アンジュ王国ほどではないが)スポーツが盛んだった。
アーリーもアイスホッケーには疎いが、エアホッケーなる遊戯は得意中の得意。
自身に破片が到達するよりも速く、右手のトンファーで打ち返してしまう。

「そりゃーー!!」

細かな破片とは言え、それら全てが勢いよく自分の身体に返ってきたので
エリポンは血反吐を吐いてしまう。
アユミンとの戦いのダメージも残っているため、どんな微弱な攻撃も致命傷に思えるのだろう。

「言ったじゃないですか!だから大人しくしましょう。」
「ハァ……ハァ……なんで?」
「え、何がですか?」
「なんで、君は自分から攻撃を仕掛けんと?さっきから受け身ばっかやん。
 エリ、こんなに虫の息なのに……チャンスと思わんの?」
「!」

エリポンの指摘にアーリーはドキリとした。
そして、エリポンはその表情の変化を見逃さない。

「なるほど……付け入る隙、そこにあるかな?」

401 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:46
トジファーは残念ながらお亡くなりに…

402 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/18(火) 12:58:35
アーリーはエリポンが視野の外に出ることを恐れていた。
メロンジュースで一時的に発達した「眼」ならば敵の動きを全て把握できるが、
何らかの拍子で相手を見失えばその通りではなくなってしまう。
いくら優秀な眼を持ったとしても、見えないものまで見ることは出来ないため
アーリーは常に相手から眼を離さない体勢を取り続けなくてはならないのである。
余計なことをせず、ただ相手を囲むことだけに専念する……
それが完全なるディフェンスの条件だったのだ。
そして、エリポンはなんとなくだがその事に気付き始めている。

「さすが果実の国の戦士。さすがの防御力っちゃん。やけん、弱点あるね。」
「!!……弱点、ですか?」

全ての攻撃を事前に防ぐアーリーではあるが、音速の攻撃までは防ぐ事は出来ないとエリポンは見抜いていた。
「音速の攻撃」とは言っても、師匠のように本当に音の速さで刀を振ることを指しているのではない。
エリポンは文字通り「音」。つまりは「声」で攻撃しようとしているのだ。
両手を広げた体勢ではアーリーは耳を塞ぐことは出来ない。
ならば精神的に追い詰めるような言葉を防ぐ手段はないということになる。

「君のやり方だと1人しか相手に出来んよ?エリしか囲めない。」
「十分です!エリポンさんを抑えるのが私の役目ですから!」
「ほんと?すぐ後ろからサヤシが刺そうとしとるけど。」
「!?……」

エリポンの言うことはでまかせだった。
あわよくばアーリーの注意を逸らせるかもと思って言ったのだ。
しかしまだ幼くてもさすがは戦士。恐怖こそ感じても決して後ろは振り向かなかった。
エリポンを抑えるのが役目、という言葉に嘘は無いようだ。

「ごめん今のは嘘。サヤシは来とらんよ。」
「はぁ……良かった。」
「でもね、そんなにビビったってことはハルが負けてると思ったってことやない?」
「え!?いや、その……」
「君の防御、凄いよ。でもそれは強いお仲間がいたらの話。
 いつもは果実の国の戦士たちと共に戦っとるんやろ?そりゃ信頼できようね。
 でもぶっちゃけ、ハルって信頼できる?」
「出来ますよぉ!」
「あの子、帝国剣士の中で最弱っちゃけど?」
「えっ……」
「ほら、君からは見えんかもしれんけど、今もこうしてサヤシにボコボコにされとる。
 うわ痛そう……泣いてる、可哀想可哀想」
「嘘をつかないでください!もう騙されませんよ!!」
「それが、今のだけは嘘じゃないんだよなぁ……」

403名無し募集中。。。:2015/08/19(水) 01:04:55
三味線を使いよるか


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