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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

396 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/16(日) 13:25:43
サヤシの思想は変わりつつあった。
はじめは「自分たちに危害を与える者は殺してでも止める」というスタンスであったが、
今では「命まで奪う必要はない」と考えるようになった。
実際に食卓の騎士クマイチャンと対峙することで、死の恐怖を存分に味わったからこその変化だろう。
しかしいくら考えが変わったとしても、刀を振るう感覚まではそう簡単に変わらない。
ゆえに、元来の殺人剣をいかに弱めるかという点においてサヤシは苦労していた。

(これくらいか?えいっ!)

居合刀は一瞬にしてハルの胸を傷つける。
研ぎ澄まされた名刀による一撃なので、当然ハルは激痛を感じる。声も出ない。
だが上記の理由もあってか、斬撃がやや鈍っていたのがハルにとって不幸中の幸いだった。

(めっちゃ痛い!涙が出そうだ……でも生きてる!
 ハルの竹刀捌きでサヤシさんの刀を打ち落としてやれば勝てるんだ!)

ハルは寝っ転がった姿勢のまま上半身を起こし、
サヤシの小手に竹刀「タケゴロシ」を思いっきりぶつけようとした。
居合術こそ怖いが、刀さえ無ければ戦力を大幅に落とせるとの判断だ。
ところが、ハルが打った先には既にサヤシは居なかった。

「え!どこに……」
「後ろじゃ!!」

ハルが起き上がろうとする一瞬の隙に、サヤシは背後に回りこんでいた。
ダンスで鍛えた足捌きを活用すればこれくらいは容易い。
ましてや相手がハルのような若輩者であれば、威圧されてパフォーマンスを妨害されることもほとんど無い。
相手はクマイチャンではないのだ。
あれほどのプレッシャーを経験した今、サヤシはちょっとやそっとでビビったりはしない。

(刀は加減が難しいけぇ……じゃけん蹴りならどうじゃ!!)

サヤシはボールをキックするように、ハルの頭を思いっきり蹴飛ばした。
エリポンのようにスポーツが得意だったり、カノンのようにローキックに長けていたりする訳ではないが、
後頭部への強打が効くのは当たり前。
ハルは目が飛び出るような痛みを感じ、更に耐え難い吐き気まで催してしまう。

「ぐうっ……ハァ…ハァ……くそっ!苦しい……」


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