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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

272 ◆V9ncA8v9YI:2015/06/29(月) 23:25:36
クマイチャンは一つ、また一つ瓦礫を踏みつけながら前へと進む。
長い脚からなる彼女の歩幅なら、フクのところに辿り着くのはあっという間だった。
そしてそれは同時にフクの死が近いことを意味する。
もはやフクも今更抵抗したところで無駄だということは承知しているのだが
ただ一つだけ、結末を変えたかった。

「クマイチャン様、一つだけ良いですか?」
「……なに?」

ここで問答無用で斬るのは簡単だが、それはクマイチャンの騎士道に反する。
殺戮が目的ではないので、辞世の句くらいは読ませてやりたいと考えているのだ。

「えっと、私の命と引き換えにそこにいる皆を見逃して欲しいんです。」
「……!」
「きっとハルナンに言われて遥々ここまでいらっしゃったんですよね?
 ハルナンの目的を叶えるには私の死だけで十分なはずです。
 だからサヤシと、アンジュの番長たちは助けてあげてください。」
「分かった。約束するよ。」
「良かった……」

フクは心から安心する。
未練がないといえば嘘にはなるが、最悪の事態からは抜け出すことが出来た。
もっとずっと長生きしたかったがこれも仕方のないこと。
戦士として生き、戦士として死ぬことが出来るなんて喜ばしいじゃないか。

(願わくば私のヒーローに再開したかったなぁ、生まれ変わったら会えるのかなぁ)

フクが大人しくなったので、クマイチャンは長剣を天高く掲げだす。
このまま一気に振り下ろし、一瞬で命を奪ってやろうと考えているのだ。
痛み無く殺してあげるのがせめてもの情けになるのだろう。
ところがここで事態は急変する。
クマイチャンの剣が突然重くなって、持っていることが出来なくなり、地面へと落としてしまったのだ。

「うわぁっ!!重い!!」

クマイチャンの長刀は元から重かったが、今の重さは通常時の倍はある。
その原因は刀身に十数個もこびりついている謎の石だった。
音も無く、衝撃もなく、いつのまにか剣にくっついていたのである。

「これは、まさか!」

次の瞬間、訓練場の室温が一気に下がったのをフクやサヤシ、そして番長らは感じる。
いくら秋とは言っても、いくら屋根が壊れたと言っても、この凍えるような寒さは異常だ。
それもそのはず。この冷気は錯覚なのだ。
クマイチャンの殺気が一同の身体を鉛のように変えたように、
新たにここに現れた人物は、全てを凍てつかせる程の存在感を放っていたのである。
とても嫌な空気ではあるが、フクは嫌いではなかった。
フクの目からはまた涙がこぼれ落ちてくるのだが
その涙はもう悲しみの涙ではなかった。
待ち望んでいた人物に会えたことによる、喜びの涙なのだ。

「来てくれたんですね……私のヒーロー……!!」
「うちのクマイチャンが迷惑かけちゃって……すぐ反省させるね。」


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