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●事情によりこちらでSSを投下するスレ 3●
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プロバイダー規制や本スレの空気などでSSを投下できない人が、
本スレの代わりにこっちでSSを投下するスレ。
sageるとIDが???になるので恥ずかしい人にはお勧め。
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「……あ、あたしも。……ってぇーっ! 何よ、このむず痒空間! ああもうっ、痒い痒い痒いっ!」
「おまーから始めたんだろーが」
「ううう……あ、ああーっ!?」
「今度は何だ。破水でもしたか?」
「まだ妊娠すらしてないッ! ……た、種はいっぱい仕込まれたケド」
だから、そういうことを赤い顔でごにょごにょ言うな。
「じゃ、じゃなくて! 時間っ! 遅刻!」
「はっはっは。余裕を持って起床→朝食のコンボを決めたのに遅刻なわけぶくぶくぶく」
「時計見ただけで泡吹くなっ、ばかっ!」
「ぶくぶく……いや、あまりの時間の過ぎっぷりにびっくりして。これは好きな人と一緒にいると時間が早く過ぎてしまうというウラシマ効果に相違ありませんね?」
「ウラシマ効果じゃないけど……そ、そう。す、好きな……ああもうっ! アンタ恥ずかしい台詞言いすぎっ!」
「ゲペルニッチ将軍」
「だからといって全く意味のない台詞を言えってコトじゃないっ!」
「よく俺の言わんとしたことがすぐに分かったな。流石は俺の嫁」
「う……うっさい! そ、そんなこと言われても、別に嬉しくなんてないんだからねっ!」
「今日も俺の嫁は可愛いなあ」
「う……うぅーっ! 可愛いとか言うなッ!」
「分かった、分かりましたから殴らないで。顔の形が変わります」
この嫁は照れ隠しに人をたくさん殴るので、俺の命が日々危機に晒されるスリル満点の新婚生活と言えよう。普通の新婚生活がいいよ。
「ともかく、遅刻するので行きましょう」
「わ、分かったわよ。それより血拭きなさいよ。血まみれよ」
ハンケチで顔をぐいぐい拭われると、それだけで血が止まった。この特異な能力があるおかげで今日も僕は生きていられます。ていうか毎日殴られた結果備わってしまったのだけど。
「ん! 今日もいいおと……ぶ、ぶさいくね!」
「旦那に向かって今日も失敬だな、おまいは……」
「う、うっさい! ほら、行くわよ馬鹿!」
かなみに手を引っ張られ、今日も登校する俺たち夫婦なのだった。
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こんな嫁が欲しいです
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ちょっと婚姻届もらってくる
と思ったら履歴書を持っていた
なにを言って(ry
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デート中とかそんなの。
元ネタなんて誰も分からなくてもいい。
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1595.jpg
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かわいいいいいいいいい
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んーなんだっけ、赤いスイートピーの歌詞?
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起きたら二つもGJきてた!ヤッタネ!
ちょっと時計を投げ捨てながら婚姻届もらってくる
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俺がいない間に素晴らしいGJが!!
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寝る前に良いものが見れたぜ!
というわけで4レスほどいただきます
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「うっし、そろそろ寝るかな〜」
『ふむ、私も寝るとするか』
「な〜尊そんじゃさっ!いっし・・・!!」
『却下!』
「・・・却下すんの早ッ!?てか、まだ具体的なこと一言も言ってないぞ!?」
『ふん、どうせお前のことだから「一緒に寝ようぜ〜」とか「尊の布団入ってもいいかな〜」とでも言うつもりだったんだろう?』
「ぐっ・・・よ、よくわかったな尊・・・!」
『何年一緒にいると思ってるんだ。お前の単純な思考回路などとっくの昔にお見通しだ』
「それはさりげない惚気と受けとってもよろしいか?」
『勘違いするな。単細胞な男に長年付き纏われ続けた女の悲しみの叫びだと知れ』
「うわ、ガキの頃からの幼なじみになんて言い草だよ!?というかこれでも一応お前の夫なんだぞ?」
『ああ、 一 応 な』
「ううぅ・・・お母さん・・・新婚だっていうのに嫁がめちゃくちゃ冷たいです・・・」
『なんと言われようが嫌なものは嫌だ。何が悲しくてお前と一緒の布団で寝なければいかんのだか。
・・・・そもそもだ、事あるごとに一緒に寝ることを強要してくるが、お前は人を抱きまくらか何かと勘違いしてるんじゃないか!?』
「だって尊抱いて寝ると、温かくて柔らかくて気持ちいいんだもん!特に頬っぺたとかスリスリするt(バキッ)・・・ぐほぉっ!!?」
『ひっ、人が寝ている間に何しているんだこの変態が!!恥を知れ、恥を!!////』
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・ひっ、酷い・・・ただの夫婦のスキンシップじゃないかぁ・・・」
『夫婦とはいえ人の寝込みを襲うとは度し難い男だな貴様は!・・・ああ、実に気分が悪い!先に寝かせてもらう!!(バサッ)』
「あっ、ちょ、尊!?」
〜選択肢〜
・諦めて一人で寝る
・それでも諦めない
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「・・・・・まっ、本気で嫌みたいだし今日はこれくらいにしておくか」
『えっ・・・!?』
「お前も疲れてるだろうに悪かったな。そんじゃお休み!(バサッ)」
『なっ、タカシちょっと待っ・・・!!』
「・・・・ぐ〜・・・ぐが〜・・・」
『・・・お、おい、わかりやすい狸寝入りはやめろ!まだ私の話は終わってないんだぞ!?(ゆさゆさっ)』
「ぐご〜・・・ぐご〜・・・」
『ほ、ホントに寝てる・・・・・・くっ、くそっ、なんて空気の読めない男なんだコイツは!?そ、そこはもう少し・・・・食い下がるところだろうが!!』
『さすがにもう一度お願いされたら私だって考えてやらなくもなかったというのに!!この軟弱者め!!』
『今日ぐらいは頬っぺたをす、スリスリするぐらいなら許してやろうと思ったのだかな!後で後悔しても遅いんだからなっ!!』
「・・・すぴ〜・・・すぴ〜・・・」
『うぅ・・・・くぅぅぅ・・・・せっかくのチャンスだったというのにぃ・・・!////』
『はぁ・・・今日は一人で寝よう・・・(しょんぼり)』
BADEND
〜次の日、心底不機嫌な尊に叩き起こされる〜
-
ニア・それでも諦めない
「なぁ、どうしてもダメか尊?」
『・・・・・・』
「頼む、この通りだ!俺と一緒に寝てくれよ尊!!」
『・・・・・本当にうるさい奴だ。そんなに私と寝たいのか・・・?』
「うん、寝たい!!」
『幼稚園児かお前は。はぁ・・・なんでこんな男と結婚してしまったんだか・・・』
「とか言ってさ、プロポーズされた時泣いて喜んでたじゃんかw」
『あ、あれは・・・・忘れろ!私の人生の中でも1番の汚点だ///// ・・・・だがまぁ結婚してしまったからには責任を取らなければいけないか・・・』
「!! ということはっ!!」
『ほら、さっさとスペースを空けろ。念の為に言っておくが、私はこんなことはしたくは無いんだからな!お前がどうしてもと言うから、仕方なくなんだからなっ!!』
「ええもう、そんなことは重々承知してますとも!(ニヤニヤ)」
『・・・なんだそのにやけ面は。気持ち悪いぞ』
「へーへー、そいつはすみませんでしたね〜」
『・・・ほら、もっと離れないか。肩が触れているだろうが』
「おいおい、肩が触れるぐらいいいじゃないか〜」
『気を許せば何をされるか分からないからな。用心するに越したことはない』
「えらく信頼されてることでw・・・・とりあえずスペースの確保はこれぐらいにしとこうぜ?」
『ん、そうだな。ほらさっさと寝ろ!私早く自分の布団に戻りたいんだ』
「大丈夫大丈夫、もう寝ますよ〜。・・・ってなんで背中向けて寝てるんだ!?」
『・・・別に。お前に顔向ける必要もないだろ?』
「ふぅ・・・ま、いいか。んじゃ電気消して(パチッ)お休み、尊!」
『ああ、お休み・・・・・我慢だ、我慢だぞ尊!コイツが眠ったら早急に自分の布団に戻るんだ!それまでの辛抱だ!!』
「尊ゴメン、少し黙ってもらっていいかなw」
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〜30分後〜
「予想はしてたけどさぁ・・・」
『くー・・・・・むにゃむにゃ・・・・・』
「誰だよ、俺と一緒じゃ眠れないとか言ってたのはwめちゃめちゃぐっすりじゃないか」
『すー・・・すー・・・(ぎゅっ)』
「しかも、がっちり抱き着かれてるから身動きも取れないしwさてさてこれはどうしたもんか」
『んー・・・・すりすり・・・♪』
「ははっ、尊言えないよなぁ・・・寝ぼけてると自分から頬っぺたすりすりしてくるなんてさ。知ったら発狂するぞ、コイツw」
『くぅ・・・いい気持ち・・・!』
「・・・でもマズイ、この状態じゃ俺が眠れない。明日朝早いしなぁ。仕方ない、俺が尊の布団で寝るしかない・・・・ってうわっ!?」
『コラッ・・・どこに・・・行くつもりだ・・・?・・・お前は・・・黙って眠っていればいいんだ・・・(ぎゅうぅぅぅ)』
「ちょ、み、尊!?」
『ふふふっ・・・タカシの腕の中・・・暖かくて・・・すごい気持ちいい・・・』
「!?」
『こんな風に眠れるなんて・・・私は・・・幸せ者だなぁ・・・ふふふふっ・・・』
「・・・やれやれ、明日の朝絶対文句言われるんだろうなぁ。ま、こんな尊の姿が見れるならそれもいいか(なでなで)」
『えへへ・・・////』
END
〜次の日、上機嫌な尊と一日をすごす〜
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God job
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great job
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excellent
job
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Perfect
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Amazing
-
(自炊)男の進路が気になるツンデレ
高校2年の2学期ともなると、そろそろ卒業後の進路を考えなくてはいけない時期だ。
3年生は理系と文系でクラスが別になるので、まずはどちらに進むか。そして、自分の
成績と照らし合わせて、志望校や志望学部なんかも進路指導調査票に書いて提出しなけ
ればならない。しかし、提出が明日だというのに、ボクはまだ、どうしようか決めかねていた。
『別府君てさ。どこの大学……第一志望だっけ?』
新学期最初のクラス委員会が行われた帰り道。副委員長の別府君と並んで歩きながら、
ボクは聞いた。すぐに、ぶっきらぼうな返事が来る。
「美府理科大の理学部だって前にも教えなかったか?」
もちろんボクは聞いている。しかも回数が3回だって事も、いつどこで聞いたかも。
だけどボクは、不機嫌そうにこう答える。
『確かに聞いたかも知れないけど、覚えてないよ。その場の興味で聞いただけなんだし、
君の事にそれほど興味ないもの』
「じゃあ聞くな。答える方が面倒くさい」
多分、冷静に考えれば彼の方が正しいんだろう。けれど、内心では気になって仕方が
ないボクとしては、冷たく突っ撥ねられると、どうしても苛立ちを抑えることが出来なかった。
『いいじゃない。別に聞いたって。答えたからって何かが減る訳でもないでしょ?』
「そうだな。しゃべった分だけ、俺のカロリーが減るかな」
別府君にしては珍しく、ウィットに富んだ返事をして来た。それとも、ただの嫌味な
のか。いずれにしても、ボクが全く面白みを感じなかったのは事実だ。
『ああ。そうなの。それが嫌だったら、一生ずっとしゃべらなければいいじゃない。誰とも』
ケンカ腰のボクの態度にも、別府君は憎たらしいほどに冷静に答える。
「別に減るのが嫌だとか言ってないだろ。委員長が何かが減る訳じゃないって言ったか
ら、減りそうなものを言っただけだ」
『でも、聞かれるのは嫌だから答えたんじゃないの? 嫌味たらしい。言っておくけど、
人間誰しも、別府君みたいに効率よくは生きられないの。悪かったね。フン』
畳み掛けるように言うと、別府君はボクを少し見つめてから視線を逸らし、小さくた
め息を吐いた。それっきり言葉は無く、ボク達は少しの間、無言で並んで歩いていた。
-
――何よ、もう。いいじゃない。それくらい、面倒くさがらずにしてくれたっていいのに。
確かに、何度も聞くボクも悪いのかも知れない。だけど、やっぱり思ってしまうのだ。
万が一にも、理系じゃなくて文系へ――出来れば、ボクの志望出来そうな大学へ――進
路変更してくれないかと。
『……よく、理系なんて行く気になるよね。面倒くさいのに』
不貞腐れ気味に言うと、別府君は意外そうに答えた。
「そうか? 先の事を考えると、文系の方がめんどくさいと思うけどな」
『何で? だって、理系ってそもそも勉強が難しいし、勉強だけじゃなくて実験とかも
多いじゃない。文系の学生なんて、遊んでる人の方が多いくらいなのに』
多少、偏見が混じっているかも知れないけど、でも、ボクの意見は間違っていないは
ずだ。大体、誰に聞いても大学の勉強は単位を取るのが主目的で、後はバイトだとかサ
ークル活動だとか、本来の意義とは違う方に精を出す学生が多く、真面目に勉強の為に
通ってる人なんてほとんど見かけないそうだし。
「特に目的も無く、単に就職の手段としてしたくもない勉強に精を出す方が、考えよう
によっては余程大変だと思うんだがな。その点、理系なら自分の専攻した学問に集中出
来そうだし、やることが決まってればその方が楽でいい」
ハァ、とボクは小さくため息を吐く。言われてみれば確かに、一つの事に集中出来る
方が楽なのかもしれないが、それでもボクにとっては、あの複雑な計算式とか、実験と
かを考えると、承服し切れない所もあるのだ。
『でも、文系だからって必ずしもいい加減って訳じゃないじゃない。学者になる人だっ
て大勢いるんだし』
そうだそうだ、と自分の言葉に自分で頷く。国文学だって英文学だって、或いは経済
学や法学にせよ、一つに取り組んで勉強できる事は文系にだってたくさんある。
しかし、別府君は、ボクの言葉をあっさりと一蹴した。
「興味の持てる事があればな。けれど、生憎俺は、現代文も古文も英語も苦手でな。進
む道が分からないのに、楽する為だけに適当に選べば、結局後で苦労するだろ」
『で、でも歴史は得意じゃない。世界史とかさ。そういうのはどうなの?』
何とかリカバーしようと試みたが、これも即座に切り捨てられた。
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「史学は人による解釈が様々だからな。同じ史料を読んでも全く違う解釈をする学者が
いるし、どの史料が正しくてどれが間違いかを正確に判断出来るなんて無理な話だし。
仮説から検証なら、物理の方が数字で導き出せるだけに、曖昧さはないしな」
何となく、別府君の言っている意味は分かる。分かるけど、何故かボクは納得したくなかった。
『だけど、めんどくさいとかめんどくさくないとか、そんな事で進路を決めちゃってい
いの? それとも、何か研究テーマとか、もうやりたい事あるの?』
まるで先生のような言い草で、ボクは別府君を問い質した。もし、これでやりたい事
があるとか言われたら、もう別府君の気持ちは翻しようがない。無言の別府君を、ボク
はドキドキしながら見つめて返事を待った。
「いや。今んところはまだ決めてないな。とりあえず、物理が得意だから、そっち方面
がいいかなって思ってるくらいで……」
『ほら。いい加減じゃん。その程度の事で進路を決めたりしたらダメなんじゃないの?
大学に行くだけだったらそれでもいいかも知れないけど、将来の仕事の事とかもちゃん
と考えないと』
ちょっとホッとしたボクは、ここぞとばかりに別府君に反論する。しかし別府君は、
ちょっと困った顔で視線を逸らした。
「……別に、委員長に俺の将来を心配して貰う必要なんて、ないと思うんだけどな」
その言葉に、ボクはハッとして思わず口を押さえた。体がカッと熱くなるのを感じる。
『べ、別に別府君の将来を心配して言ったわけじゃないってば!! その、何ていうか、
一般論っていうか……あくまでちょっとした忠告として言っただけで、ついおせっかい
って言うか……別に、ボクは別府君がどうだろうと関係ないんだけどさ』
慌てて言い訳をすると、別府君は視線を前に向けたまま、ぶっきらぼうに言った。
「じゃあ、何も俺の進路を、そうムキになって否定する事ないだろ? 大体、今は理系
志望者は減ってるからな。むしろ職に就くにも有利なんじゃないかとも思うんだが。そ
れに、上手く行けば研究室に入って、そこから紹介して貰えるしな。そうすれば、スー
ツ着て汗だくになりながら、何社も説明会に回らなくて済むかも知れないし」
『う…… まあ、確かに別府君に、就活なんて似合わなさそうだけど……』
-
ボクの兄が去年だか一昨年だかに就職活動をしていたけど、似合わないスーツを着て
会社説明会や面接に出掛けたり、ネットでいろいろと情報集めたりエントリーしたり、
友達と情報交換したりしていたりして、本当に地道で大変そうだなと思った。あの兄が
出来て別府君に出来ないとは思えないけど、でもやはり想像は付きづらい。
「悪かったな。それに、どのみち進路票の提出って明日だろ? 今更変えるのもバカバ
カしいしな。俺には多分、こっちの方が合ってるんだろう」
別府君の言葉に、もう答える気力も無く、ボクは俯いて歩く。このままだと、別府君
は間違いなく理系クラスに行ってしまうだろう。ボクの進路とか関係無しに。いや。気
にする方がおかしいのかも知れないけど、それでもボクは気にして欲しかった。
「ところで、委員長は進路票はもう出したのか?」
何気ない問いに、ボクは反射的に顔を上げて別府君を見つめた。真顔でボクを見下ろ
すその視線とまともにぶつかってしまい、一瞬ボクの思考から全てが飛んだ。
『え……?』
「いや。だからさ。進路票、出したのかって」
その言葉に、ボクはようやく我に返る。慌てて視線を逸らし、俯いたまましばらくど
う答えようか迷ったが、結局ボクは、正直に答えてしまった。
『えっと……その……まだ……』
「珍しいな。委員長が、提出物をギリギリまで出さないなんて。いつもは出したか出し
たかって、人にせっつく方なのに」
ちょっと驚いた声の別府君に、ボクは顔を上げて睨み付ける。
『うるさいな。さっきも言ったけど、進路ってすごく重要な事なんだから、ただ書いて
出せばいいってもんじゃないの。君みたいに適当には決められないんだから。分かる?』
すると、別府君の口が一瞬開きかけ、そして閉じた。何か言い返そうとでも思ったの
だろうか。でも、少しして別府君の口から出た言葉は違っていた。
「委員長はさ。英語が得意なんだし、言語学とかそっちの方に進んだ方がいいんじゃな
いか? 好きなんだろ? 英語」
『そんな、得意だからとか好きだからとか、その程度で短絡的に決めるものじゃないで
しょ? 言ったじゃない。進路って将来の人生に係わる重要なものなんだから。大学は
それでいいかも知れないけど、語学が生かせる職なんて限られてるんだし』
-
別府君の意見に、そう説教しつつ反論すると、別府君は鞄を持ったまま、器用に両手
を組んで後ろ頭に当て、ストレッチをするように体を逸らす。
「そんな、深く考える事もないと思うんだけどな。英語ってそれだけでスキルになるじゃ
ん。選びようによっては、役立つ分野だと思うけどな」
『別府君みたいに、ボクは単純な思考回路じゃないの。こればっかりは、ちゃんと考え
て選ばなくちゃいけないんだから』
偉そうに言うと、別府君は肩を竦めて言った。
「ま、こればっかりは俺がどうこう言う問題じゃないからな。まあ、しっかり考えてか
ら決めればいいんじゃないのか? どうしても提出期限に間に合わなさそうなら、先生
にでも相談すりゃいいし」
『言われなくても、ちゃんと考えて決めますよ。別府君と違ってね』
最後につい、余計な一言を付け加えてしまったが、別府君はただ、もう一度肩を竦め
ただけだった。
その夜、進路希望票を机の上に置きつつ、ボクは何度もため息を吐いていた。
『……どうしようかな……』
昼間、別府君には偉そうな事を言ったが、ボクは未だ、文系か理系かすらも決めてい
なかった。決められなかった。
『どう考えても、成績的にはこっちなんだけどな……』
ボクの成績は、圧倒的に英語と古文、現代文に偏りがちである。歴史の成績は世界史
日本史問わず水準以上。一方、理数系となると平均点を取るのがやっとである。
『どのみち、センター試験受けるから、全部勉強はしなくちゃいけないんだけどさ……』
いや。もっと楽な方法もある。先生は、ボクの成績なら推薦で合格出来るんじゃない
かと言っていた。勧めてくれた大学は、私立だが、そこそこ難関に位置する大学だ。
『別府君なら、迷わず推薦選ぶよね……』
また、彼の顔を思い出して呟く。そう。ボクがこんなに悩んでいるのも、全部別府君
のせいなのだ。
『別府君は……平気なんだろうな…… 3年になって、理系と文系でクラスが分かれて、
ボクと違うクラスになっちゃっても……』
-
椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げて深いため息を吐く。人には将来の事を
ちゃんと考えろとか言って、一番直近の事しか考えていないのはボクの方だった。
『別府君のことだもの。違うクラスになったら……違う大学になったら…… どんどん
ボクの事なんて忘れちゃうんだろうな……』
所詮、ボクなんて、別府君にとっては単なるクラスメート。おせっかいで、よく話し
掛けて来たりするだけの女子に過ぎないんだろう。
『ボクは……ボクなりに、頑張ってるつもり……なんだけどな…… でも、憎まれ口ばっ
か叩いてるから、そっちの印象の方が強いよね……』
体を起こして、もう一度進路票に向き合う。このまま、彼に心を置き去りにしたまま、
自分の得意な方に進むか。それとも……
『ダメだ…… ううん。分かってる。分かってるんだけど……正解は……だけど、けど……
絶対、後悔するから…… それも分かってるから……』
結局、夜が白み始めるまで、ボクはシャープペンを弄ぶ事しか出来なかった。
二日後の帰りのホームルームの後だった。
『一杉さん。帰る前に、ちょっと国語科準備室、寄ってかない?』
まるでお茶にでも誘うような口調で先生に言われた。
『え? あ、はい』
ボクはすぐに頷く。クラスの誰も、ボクと先生のそんなやり取りに注目する人がいな
いのも、ボクが委員長で先生からの呼び出しなんてしょっちゅうだからだろう。だから
ボクも慣れっこなはずなのだが、今日はさすがにちょっと緊張している。先生の呼び出
しがなんなのか、分かっていたから。
『悠。先生の用事ってすぐ終わりそう? だったら、待ってよっか?』
友香がそう言ってくれたが、ボクは首を振る。
『ううん。もしかしたら時間、掛かるかも知れないからいいよ。先帰ってて』
一つには、帰り道に余計な詮索をされるかも知れないのを危惧して、ボクは断った。
しかし友香は、にんまりと意地の悪い笑顔でこんな事を言った。
『あら? 今日はあたしを追い払っても、愛しの別府君とは一緒に帰れないわよ。だっ
て、もう先帰っちゃったみたいだし』
-
だけど、いい加減その程度のからかいでは動じなくなっているボクは、抜く手も見せ
ずに友香のおでこにベチン、とデコピンをしてから文句を言い返した。
『全く。別府君は関係ないっていつも言ってるじゃない。たまたまタイミングでも合わ
ない限り、別に一緒に帰る必要なんてないんだから。今度そんな事言ったら承知しない
からね』
『あーうー…… もう十分痛いってば……』
懲りるという言葉を知らない友香には、これくらいやってもバチは当たらないのだ。
ボクはフン、と一つ、荒い鼻息だけ残して教室を出て行った。
続く
全部で3回くらいになる予定。
-
出来ればこちらが悶え死ぬ前に投下して頂けるとありがたい
gj
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久しいな、僕っ娘委員長
楽しみにさせてもらう
-
気になるぅぅ!
-
(自炊)男の進路が気になるツンデレ その2
『はい、どうぞ』
『あ、すみません』
国語科準備室に行くと、本当にお茶とお茶菓子が出て来た。もう出されてしまったも
のを断る訳にも行かないし、ボクは恐縮して頷く。
『これ、主任先生の出張みやげで“なごやん”っていうお菓子なの。先生も食べたけど、
美味しかったからさ。食べて食べて』
『い、頂きます……』
一口、お茶を飲んでからお菓子を一つ貰い、封を開けて口に入れる。カステラみたい
な生地のお饅頭で、中は白餡が詰まっており、和菓子独特のほんのりとした甘さが口の
中に広がる。
『どお? 美味しいでしょお? まだあるから、遠慮しないでね』
『あ、はい……』
口直しにお茶を口に含みつつ、ボクはうっかりすればまだ高校生に見えなくもない、
童顔の担任を見つめる。一瞬、用事と言うのは、本当にお茶をご馳走する為だけに呼ば
れたのかと思ってしまうくらい、何かのんびりした気分にさせられてしまう。すると、
油断した所で、先生がいきなり切り出した。
『それで、今日呼んだのはね。先生、ちょっと一杉さんにお話があるの』
『え? あ、はい』
うっかり緩みそうになった心のタガを締め直すと、ボクは姿勢を正して先生を見つめ
た。すると先生は、笑顔で手を軽く振る。
『そんな、緊張しなくってもいいから。もうちょっとリラックスして』
『は、はい』
そうは言っても、進路の話だって分かってる以上、緊張せずにはいられない。先生は、
書類の束から、一枚の紙を抜き出した。
『話って言うのは、これの事』
先生が、ボクに進路希望票を示して見せる。そこには、一昨日の夜に、朝までかかっ
て悩んだ末に書いた進路先が書かれている。
『はい』
-
ボクが頷くと、先生は真面目そう、というよりも、ちょっと残念そうな顔をした。
『本気なの? 美府理科大って。先生、一杉さんは、絶対英文学とか外国語の方に進む
と思ってたんだけど』
ボクは、小さく頷いた。
『はい。今、得意だからとかそういうのだけじゃなくて、将来の事もいろいろと考えて、
悩んだ上で選んだ事ですから』
『でも、一杉さんって、物理とか得意じゃないじゃない。あなたの学力だったら、文系
なら六大学も狙えると思うんだけど。ちょっと、もったいなくない?』
『それももちろん考えました。そういう事も含めて、ちょっとチャレンジしたいなって。
苦手だから嫌いっていう訳でもないですし』
先生の質問が分かっていただけに、ボクの答えは淡々としていて明快だった。もう、
何度も頭の中でシュミレートしていたから。本当は今でも、理数系の何が面白いのかは
理解出来ないけど、理解したいとは思っている。それが、別府君を理解する事にも繋が
るのなら。
『分かった。先生からしてみると、すっごく残念だけどぉ…… でも、一杉さんが頑張
るって言うなら仕方ないっか。どーせ、あなたの事だもん。先生が何て言ったって、聞
かないでしょーし』
『はい』
ボクは、ちょっと笑顔になって言った。先生が認めてくれて、ちょっとホッとしたの
だ。多分無いだろうとは思っていても、もし反対されて親を巻き込む事態になったらど
うしようという不安もあったのだ。
『ま、一杉さんならあと一年あれば何とかするでしょ。いっそ、明治の理工学部とか狙っ
ちゃう?』
本気とも冗談とも付かない笑顔で言うものだから、ボクの方が思わず引いてしまった。
『そ、それはさすがに無理かと…… でも、美府理科大は、今のところの実力を考えて
の事ですから。来年、進路を決める時には、もっと上の大学を狙えたらいいな……とは、
思ってますけど……』
『そうねそうね。さすが一杉さん。頑張れっ♪ ファイトッ♪』
こんな可愛らしい応援されると、ボクとしては、理由も理由だけに何となく照れ臭く
なって、身を縮み込ませてしまうのだった。
-
準備室を出ると、友香が待っていた。
『お疲れ様。悠。お勤めご苦労様』
『先に帰ってていいって言ったのに……』
ため息を吐くボクに、友香は笑顔を浮かべ、唐突に肩を抱いて来た。
『冷たいこと言わないの。親友なのにさ』
『普通、自分で親友とか言っちゃうかな…… とにかく、うっとうしいから、離して』
肩を揺らして拒絶の反応を示すが、友香は全然意にも介さなかった。
『まーまー。良いではないですか。これも、親愛の証ですよ』
だけど、ボクには分かっている。こういう態度の友香は、絶対に何か含みを持ってい
るに決まっている。それも、ボクにとっては非常に不都合な事だ。
『言っとくけど、先生に何を言われたかは話さないからね』
先手を打って釘を刺す。しかし友香は首を振った。
『聞かないわよ。そんな事』
意外に思って友香の顔を見つめた途端、友香はニンマリと笑顔を見せて言葉を続けた。
『だって、分かってるもの。進路の事でしょ?』
『へ……っ?』
驚いて友香から体を離そうとするが、肩をがっちりと掴まれてしまい、ボクは体を動
かす事が出来なかった。友香はクスッと微笑み、ちょっと得意気に語る。
『だって、昨日進路票を提出したこのタイミングだもん。それに、どんな理由かも分かっ
てるし。悠ってば、理系の学部を選択したんでしょ?』
『何で知ってんの!?』
さすがにボクも、驚きの余り叫んでしまう。しかし、友香はさも当然と言った感じで頷いた。
『幼馴染を舐めちゃいかんぜよ。だーって、悠が進路で悩んでるって言ったら、それし
かないもん。どーせ、別府君が理系の大学に進学するからでしょ。ま、そーいうのも良
いわよね。好きな男の子と、同じ大学に行きたいってのもさ。羨ましいな。悠は』
『違うってば!! 別に別府君の進路なんて、ぜんっぜん、まっったく、関係なんてな
いんだから!! あくまでその……ボクが、ボクの将来のことまでじっくり考えて、考
えて、考えた挙句の結果なんだから。そんな……友香が考えてるような浮ついた気持ち
は、全然ないんだからねっ!!』
『じゃー、別府君が文系だったとしても、悠は理系を選択したんだ』
-
『あ……当たり前じゃない。そんな事……』
『今、ちょっと声のトーンが下がったね?』
『下がってない!! 友香は先入観持ち過ぎなの。勝手にカップリングして妄想するの
はともかく、それをボクに押し付けないでよね』
どうして友香には、いつもいつも、ボクの心が見透かされてしまうんだろうかと、ボ
クは不思議に思う。単にボクが単純なだけなのだろうか。それとも、さすがに付き合い
が長いだけに、ボクの性格を隅々まで知り尽くされているからだろうか。
『はいはい。じゃあ、そういう事にしとくとして、一つだけ教えて?』
すんなりと頷くと、友香は人差し指をピトッとボクの鼻の頭に当てて、軽くクリクリ
と弄る。ボクはそれを振り払おうと身悶えしたが、肩を抱きかかえられていては、腕を
自由に動かす事すらままならなかった。まるで、連行されている捕虜みたいだ。
『ボクの顔をおもちゃにしないでってば!! とりあえず、離してよね。話はそれから』
そう言っても、友香は全然腕に込めた力を緩めようとはしなかった。
『悠がちゃんとあたしの質問に答えたら、離してあげる。でないと、逃げられちゃうか
も知れないしね』
『逃げたりなんてしないってば。それにどうせ、今逃げたからって、この先も友香から
は逃げられないんだから』
不機嫌極まりない口調で答えると、友香はウンウン、と頷く。
『さすが、付き合い長いだけあるわねー。褒めてあげるわ』
今度は、頭をグリグリと手で撫で回された。さすがのボクも苛立ちが頂点に達する。
『鬱陶しいっての!! いいから、質問あるなら、早く言ってよ』
声を荒げて急かすと、友香は片手でまあまあという仕草をしつつ、頷いた。
『ゴメンゴメン。じゃ、聞くけどさ。悠の志望校って、美府理科大じゃない?』
『何で知ってんの?』
咄嗟に聞き返して、ボクは心の中でしまった、と思った。案の定、友香はしてやった
りの笑顔を浮かべて、ボクの肩をポンポンと叩く。
『ほうら。やっぱり別府君と同じ志望校じゃん』
友香の指摘に、ボクの顔がカーッと熱を帯びて行く。
『そ……それはたまたまなだけだってば!! ボクの今の学力だと、美府理大がちょう
どいいくらいなんだから、そうしただけで……』
-
『でもさ。別府君の志望校は知ってたよね? あたしが知ってたくらいなんだし』
友香の指摘に、グッと言葉が詰まってしまう。知らなかったと言いたかったけど、ど
うせウソ臭くなってしまうし、友香に掛かればあっさりと見破られてしまうだろう。だ
けど、沈黙は頷いたも同じだった。
『やっぱり。知ってて書くって事は、やっぱり意識したんじゃないの?』
ボクの肩から手を離すと、友香はクルリとワザとらしく回ってボクの前に立ち、人差
し指で顔を指した。ボクは、うううっと唸りつつも、反論を何とか試みる。
『だ、だって別府君が同じ志望校だからって、変える方が悔しいじゃない。大体、そこ
まで嫌じゃないし。それに受かるかどうかも分からないでしょ?』
友香は、うんうん、と頷きながらボクの言葉を聞く。それから、大げさにため息を吐
いて言った。
『ま、悠がどんな理由だろうと構わないけどね。でも、やっぱり親友より男を取るかあ……
いーな。恋愛にそこまで賭けれるってさ。あたしもそんな恋、したいよ』
『人の話、これっぽっちも聞いてないでしょっ!! この、バカ!!』
友香の勝手な言葉に、ボクは真っ赤になって怒鳴った。友香は、アハッと可愛らしく
笑ってそれをかわすと、ボクの顔を見つめて聞いてきた。
『……ところでさ。悠、今日は暇よね?』
『さも当然のように言わないでよ。まあ……暇だけど……』
何かちょっと、認めるのが悔しいなと思いつつ、ボクは頷く。すると友香は、笑顔で
こう提案してきた。
『それじゃさ。今から悠の頑張ろう会って事で、ミスド行こう。ね?』
『は?』
ボクは思わず怪訝そうに聞き返す。ボクの頑張ろう会って、意味が分からない。来年
が受験生なのは、友香も同じなのに。
『いや。だからさ。恋の為に敢えて茨の道へと踏み出す悠をさ。励ましてあげないとっ
て事よ。うん』
腕組みをして頷く友香に、ボクは噛み付かんばかりに反論する。
『だから、恋の為じゃないってば!! 何度言ったら理解すんのよ!!』
しかし、友香は頷いただけで、ボクの怒りをサラッと流してしまうと、ボクの手を握っ
て歩き出す。
-
『とにかく行こっ♪ あたし、お腹空いちゃったからさ。ドーナツ食べたくてしょうが
ないんだ。ね?』
『ちょっと待ってよ。それって単にドーナツ食べたいだけじゃないの?』
ボクの言葉に、友香は振り向くと首を振った。
『ノンノン。ちゃーんと、悠にはたっぷりと励ましやらアドバイスやら、差し上げます
から安心して』
『それって、ボクを単に話のネタにしたいだけのクセに……』
半ば諦め混じりの呟きに、友香はとんでもないとばかりに首を振った。
『そんな事無いってば。あ、そうそう。睦とか葉山さんとか呼ばないとね。こんな美味
しい話を独り占めにしたら怒られるわ』
『やっぱりそうじゃない!! ていうか、呼ばないでよね!!』
しかし、抵抗空しく、友香の電話は無事に二人に繋がってしまい、ボクはミスドで、
3人の女子によるハードな尋問を受けるハメになってしまったのだった。
続く
ちょっと不調気味なのか、台詞と台詞の繋ぎに苦労する……
-
をつ
-
すごくいい
-
(自炊)男の進路が気になるツンデレ その3
数日後の放課後。久し振りにボクは、別府君と帰る機会を得ることが出来た。いつも
のように隣に並んで歩き、今日は何を話そうかと考えていると、意外なことに、別府君
の方から話し掛けてきた。
「あのさ。お前――」
『え? 何?』
自分からはあまり話さない別府君がいきなり口を開いたものだから、ボクは驚いて聞
き返してしまった。すると別府君が、真顔でボクを見返して来る。何となく、別府君が
このまま話題を打ち切ってしまいそうな気がして、ボクは慌てて前言を打ち消す。
『いや、いいよ。その……続けて』
「あ、ああ」
別府君は頷くと、何となく言いにくそうな感じで口を開く。
「その……さ。お前、美府理科大にしたんだって? 志望校」
『な……何で知ってるの?』
一瞬、驚いて聞き返す。しかし、ボクがその事について考える間もなく、別府君が答えた。
「いや。千早から聞いたから」
『ああ……』
友香の顔が浮かび、ボクは、諦めに似たため息と共に頷く。こないだはミスドで、三
人で勝手に人の恋をダシにして盛り上がってたっけ。いくら否定してもちっとも聞かないし。
『で、他には何か言ってたの?』
ちょっと不安になって、別府君に尋ねる。余計な事をベラベラとしゃべられたとした
ら、恥ずかしくて別府君の前に顔なんか出せなくなってしまう。
しかし、ボクの不安は当たらなかった。別府君は、首を左右に振って、それを否定した。
「いや。何か、ニヤニヤしながら、どうしてか知りたかったら、お前から直接聞けって
言われただけだ。自分から、言うだけ言っといてな」
ボクは、小さく安堵の吐息を吐く。まあ、それはそれでいかにも友香らしい。相手の
興味をくすぐるだけくすぐって放置する辺りが。
『で、何? 理由とか……知りたいの?』
-
別府君の顔色を窺いつつ、聞いてみる。が、別府君はボクの顔をチラリと見ただけで、
頷きも否定もしなかった。ちょっと間を置いてから、口を開く。
「いや。ちょっと興味はあるけどな。別に知りたいって程じゃない。言いたくなければ
別にそれでいいぞ」
相変わらずの淡白さ。こうなって来ると、何だか逆に、こっちの方から突っ込みたく
なってしまう。
『興味……あるの? ボクの進路に?』
自分で言ってから、自分の言葉にドキリとしてしまう。もし、別府君がボクの事に、
少しでも興味を示してくれたのなら、それはそれで進歩なのかも知れない。
ボクの質問に、別府君は僅かに頷く。
「ああ。まあ……委員長は、文系の大学に行くと思ってたからな。ちょっと意外だなっ
て思った。それだけだけどな」
『イメージだけで、人の進路まで勝手に決めつけないでくれない? そういうの、良くないよ』
ちょっとお説教口調で言うと、別府君は困ったように頭を掻いた。
「いや。俺ならそうするってのもあるからな。得意科目があるなら、そっちを選択した
ほうが楽だし。古文や英語が得意なら、俺も文系に進んだと思うぞ」
『進路を決めるって、そういう物なの?』
ちょっと呆れた口調で聞き返す。この間、将来の事が云々かんぬん言っていたけど、
それは嘘だったのだろうかとも思ってしまう。しかし、別府君はあっさりと頷いた。
「ま、俺にとってはな。特にしたいものも分からないのに、より努力の必要な方に行く
なんて、有り得ないし」
『人生にはチャレンジだって必要なの。若い時の苦労は買ってでもしろって言葉、聞い
た事ない?』
しかし、ボクの言葉に、別府君は首を傾げただけだった。
「さあな。いずれにしても、俺には縁が無いな」
あっさりと答えられて、ボクはまた、ため息を吐く。
『だよね。大体、志望校にしてからが、美府理大だもん』
すると、ボクの言葉に別府君が僅かに怪訝そうな顔をした。
「何だ、それ。美府理大で何かマズい事でもあるのか?」
-
ボクは、大仰に首を左右に振ってそれに答える。
『別に。ただ、楽してるなーって。別府君なら、もうちょっと上の学校を狙えるのに。
本来なら、滑り止めに選ぶ所じゃないの?』
「何も、無理してレベルの高い大学を狙う必要はないだろ。受験料も無駄になるしな。
俺は、確実性の高い大学を選んでるだけだ。浪人して、もう一年勉強漬けになるのは勘弁だしな」
別府君らしい合理性だとは思う。それに美府理大は、別段低レベルと言う訳でもなく、
施設も揃っているし、何人かは有名な教授もいるらしい。ボクも、志望校に選んだ以上、
さすがにその程度は調べた。とはいえ、引っ込みの付かなくなってしまったボクは、別
府君の言葉に納得するわけには行かなくなっていた。
『だったら、せめて一つは、チャレンジする大学を受けてみてもいいんじゃないの? 今、
ここで勉強しておく事は、絶対無駄じゃないと思うんだけど』
「受験の為だけの勉強が、将来に役立つとは思えないな。それに、上の大学はセンター
必須だろ? 英語や国語が足を引っ張るから、どうせそこで上には行けないさ」
サラリと言ってのける別府君を、ボクは意地でも説得したくなった。意味のないとこ
ろでムキになるのは悪い癖だと自分でも分かってはいるのだけど、どうしてもしないで
はいられなかった。
『苦手なものがあるなら、克服しないと。ボクだって、そうしたいから理系に進むんだ
もの。キミ一人だけ、逃げようとするなんて、ズルイと思う』
「は? いや。よく意味が分からん。俺が、何に逃げてるって?」
『だから、苦手な物からだってば。今の実力じゃダメでも、一年努力すればどうなるか
分からないのに。最初から限界を決め付けるとか、そういうのは、良くないと思う』
ボクは、別府君の進路を遮るように前に立つと、両手を腰に当て、いかり肩で別府君
を睨み付ける。別府君は立ち止まると、困った顔でボクを見つめる。
「じゃあ、何だ。委員長は、俺がどこの大学を受験すれば気が済むんだ? そこを受け
るって言えば気が済むのなら教えてくれ」
その言葉から、ボクは別府君がこの場を適当に流そうとしていると感じて首を振った。
『別に、どこの大学ならなんてのはないよ。けれど、別府君の実力なら、もっと高いレ
ベルの大学が目指せるはずだと思ったから、そう言っただけだもの。具体的な大学名は、
先生にでも相談して決めてよ』
-
そう言って、ボクは別府君に背を向けてゆっくりと歩き出す。しかし、心が落ち着い
てくると、今度は何だか複雑な気分になった。別府君に努力して欲しいのは確かだけど、
でも、もし彼が頑張って成績を上げたら、今度はボクの手の届かない学校に行ってしま
うかもしれない。
――それは……イヤだな…… せっかく、別府君と同じコースを選択したのに……
別府君と同じ大学に行きたい。だけど、別府君が頑張る姿も見たい。矛盾しているの
は分かっているけど、どっちもボクの本心だった。
「……あのさ」
ボクの横を、同じようにゆっくりと歩いていた別府君が、声を掛けて来た。
『何?』
冷静を装いつつ、ボクは聞き返す。本当は、別府君に何を言われるのかと、かなりド
キドキしているのだけれど。
「努力しろとか、苦労しろとか言うけどさ。そんなの、どこで分かるんだ?」
『え……?』
ボクは、顔を上げて別府君を見つめた。別府君もこっちに軽く視線を流しているが、
表情はいつもと同じで、何を考えているのかは全く読めなかった。
「いや。委員長にさ。俺が努力したとして、それをどう分かって貰えればいいのかなって思って」
『そんなの、ボクにアピールすることじゃないでしょ? 自分の為の努力じゃない。ボ
クを満足させる為にとか、そんなのおかしいから』
突き放したようにボクは答えた。ボクの為に頑張るって言うなら、それはそれで嬉し
いけど、でも、何となく違うような気がする。大体、ボクが別府君に何かを頼んでいる
訳でもないし。それに、別府君の事だから、どうせボクからうるさい事を言われるのが
うんざりだからとか、そんな理由に決まっているし。
「けれど、委員長からそう言われて努力するなら、少しは認めて貰えないとな。努力し
たからって成績が上がる保障はないし、それでまた、頑張ってないだの努力が足りない
だの、結局楽したんじゃないかとか思われたら、バカバカしいからな」
『う……』
-
その言葉に、ボクは思わず考え込んでしまった。もちろん、ボクは別府君が努力すれ
ば、絶対それに気付くと思っている。だって、いつもちゃんと見ているもの。だけど、
別府君からすればそんなの分からないし、確かにボクなら、いかにも言いそうな言葉で
はあったからだ。
「成果も上がらないし誰からも認められないんじゃ、そんなの結局無駄な努力って事に
ならないか? まあ、目標があるなら、それに越した事は無いけど、努力する為に目標
を作るってのもおかしな話だしな。だったら、自分の出来る範囲でやった方が――」
『ま、待ってよ』
言い負かされそうになって、ボクは慌てて言葉を途中で遮った。
『だったら……せめて、ボクが努力したって認めてあげればいいの? もっとも、本当
に別府君が努力したなら、だけど』
すると、何故か別府君は視線を逸らし、鼻に親指を当てて軽く擦る仕草をした。
「まあな。委員長が言ったとおり、それもおかしな話だけど、でもまあ、努力しろって
言った本人に認められれば、まあ仮に結果が出なかったとしても、胸の空く思いはするな」
『だったら、ボクが見てあげればいいんでしょ?』
咄嗟に出た言葉に、ボク自身が驚く。別府君も、ちょっと驚いた顔でボクを見つめた
ものだから、ボクは恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。
「見るって……どう、見るんだ?」
別府君が聞いてくる。そんな事、考えてもいなかったからボクはどうしようかと一瞬
迷った。だけど、すぐに思いつく。ボクと別府君の間なら、これしかないと。
『……毎週木曜か金曜に……図書室で勉強しよう? そうすれば、ボクも別府君がどれ
だけ勉強してるかとか……分かるし。委員会とかで時間が取れなかったら、その……土
曜日に図書館で、とかでもいいから』
弱気になりそうな心をグッと堪えて、ボクは提案する。男の子にこんな約束をするな
んて、ボクにとってはそれだけでも物凄い勇気の必要な事なのだ。今、勢いに流されて
いなければ絶対言えなかっただろう。そして、言い終えた今は、死にたくなるくらい恥
ずかしかった。断られたらどうしようと、泣きたくなる想いで、ボクは返事を待った。
「……ハァ……めんどくせーな」
『……え?』
-
ちょっとうんざりした別府君の口調に、ボクは顔を上げた。どうとも判断の付かない
言葉だが、臆病なボクの心は、不安の方に気持ちがぐら付く。しかし、別府君はすぐに
言葉を続けた。
「ま、受験とかってそういうものだしな。いっそ強制的に時間とか決められた方が、自
己管理しなくて楽でいいか。それに、委員長がいれば、英語や古文も教えて貰えるしな」
『ちょっと!! 何、それ? 誰も教えてあげるなんて言ってないじゃない!!』
そう抗議したが、ボクは内心、すごく嬉しかった。別府君がボクの申し出を受け入れ
てくれた事に。そして、これから毎週一回は、彼と一緒に二人だけの時間を過ごせる事に。
「分からない所があれば、調べるなり人に聞くなりするのも努力のうちだろ? だった
ら、得意な奴に聞くのがもっとも手っ取り早いだろ」
正論ぽく押し込まれると、ボクは頷かざるを得なかった。もとより、ボク自身が本当
は、頼りにされるのは嬉しかったから。
『う……それはそうだけど…… でも、最初からボクを頼りにするのはダメ。どうして
も分からなかったら、その時は仕方なく教えてあげるけど、でも、ボクに聞くのは最後
の手段だからね。いい?』
強がってそう言うと、別府君は頷いた。
「分かってる。あんまり頼りにすると、それはそれで、また怒られるからな。それは鬱
陶しいし」
別府君の言葉が、ザクッと胸を刺す。自分でも何となく分かってはいるけど、ボクの
お説教は、やっぱり鬱陶しいのか。しかし、その心を隠して、ボクは強気に言い返す。
『ボクだって、したくてお説教してるわけじゃないの。別府君がだらしなかったりいい
加減だったりするから、ついつい言っちゃうんだから。自分が悪いんだからね。ちゃん
と反省してよ』
「はいはい。分かってるって。反省すればいいんだろ?」
『ほら。またそうやって適当に流す。別府君はそういう所が一番いけないんだからね』
「ちぇっ。全く、どう言えば委員長に許してもらえるんだか」
苦り切った顔の別府君に、ボクは思わず顔を綻ばせそうになってしまう。それをグッ
と堪えると、また厳しい顔つきに戻って言った。
『あと、英語や古文を教えるのはいいけど、その代わり、別府君もボクに数学や物理を
教えてよね。ボクだって、少しでも上の大学に行けるよう、努力するんだから』
-
「分かってるよ。イヤだって言っても聞いてくるんだろうし、俺もそれで教えて貰えな
くなったら困るからな。ちゃんと、委員長でも分かるように教えてやるから」
『何それ? まるでボクが理数系はまるでダメみたいな言い方じゃない。失礼しちゃう』
ボクの抗議に困った顔をする別府君に、とうとうボクはおかしくなって笑顔を見せてしまった。
『ま、いいよ。とにかく、楽しないで、ちゃんと努力する所を見せてよね。分かった?』
「分かったよ。ま、出来る範囲で、だけどな」
別府君と別れてから、ボクは浮かれた気分で家への道を歩いていた。しかし、途中で
フッと、その気持ちが不安に変わる。
『努力……かあ…… 偉そうな事、言っちゃったけどな』
動機で言えば、ボクの努力は不純だとも思う。だって本当は、別府君と一年でも長く、
同じクラスでいたいから。そして、出来れば同じ大学に入って、最低四年は一緒に過ご
したいから。
『けど……ボクも、逃げちゃいけないんだよね……』
将来に想いを馳せれば、それでも、あと五年半しかない。もし、一緒の大学に行けな
ければ、一緒にいられるのは一年半だ。その一年半で、週に最低一度、二人きりの時間
を作ることが出来たのは、神様がくれたチャンスなのかも知れない。
『ボクも……努力、しなくちゃね。勉強じゃなくて……ちゃんと、ボクの気持ちを……
別府君に、伝える努力を……』
その結果がどうだろうと、だ。浮かれ気分を引き締め、心臓に拳をグッと強く押し当
てて、ボクは心に誓ったのだった。
おしまい
-
乙ぅぅぅぅ
-
をつ
続編として
勉強会の様子をば
-
電車でニヨニヨしたじゃないか
-
>>532
久々だな。GJ!
-
線路に上がってたSS素敵でした。
心から、GJ。
-
落書き貼って寝る。
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1600.jpg
-
カウンタも1600いったか。
記念&ツンデレさんと嫉妬は相性いいよね
-
友ちゃんは貰っていく
-
線路って何ですか?
-
>>541
専用アップローダー。
>>538とかが使ってるやつで、スレのテンプレにもある。
http://tunder.ktkr.net/up/
-
>>524
ありがとうございます
-
素直にお礼も言えないとは
なんというツンデレ
-
今気づいた。なんというツンデレw
>>543かわいいよ>>543
-
ああああああああ間違えたああ
>>542
ありがとうございます
-
こうですか?わかりません。
恥ずかしいから、面と向かっては言えない。
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1601.jpg
-
おれが超かわいくなってるwww
-
>>547
こんな風にお礼言われたら普通に死ねる
-
規制解除が原因か避難所が閑散としてる…
まぁ正しい姿ではあるんだが
-
つんでれ流甘え奥義『ちなみんホールド』
ちなみんがタカシ・あるいは自分のうちで一緒にいるとき眠くなると無条件で発動
無意識のうちにタカシの背中、あるいは正面によじ登り、両手足を使ってがっちりホールドしたまま熟睡する
(参考画像:http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1612.jpg)
おやすみなさい
-
なんだろう、バカバカしいのにすげえエロいwwwwwwwwwwwww
-
絵師って前からいる人みんなうまくなってきてない?
-
そりゃ描き続けてれば上達もしますよ
-
>>551
これはもう完璧にちゅーしてますね本当にごちそうさまですだからちなみんそのバールをしまってくたさいおねが
アッー!!
-
【婦警さん】
近頃朝方が寒いので布団のありがたみも増し、結果寝坊。こいつは大変にいけないと思いながら自転車を必死に漕いでたら、交差点で何かとぶつかった。
「いたた……こらーっ! 危ないじゃないの!」
「あーっ! おまえはさっきの転校生!」
「違うっ!」
「確かに。順番と職業と年齢を間違えた」
俺がぶつかった相手は同い年の転校生などではなく、青い制服に身を包んだ婦警さんだった。警察学校を出てすぐなのだろうか、俺とそう変わらない歳のように見える。向こうさんも自転車に乗っていたようで、近くで自転車が転がっていた。
「気をつけろ……機嫌を損ねると腰のマグナムが俺の心臓を撃ち抜くに違いねえ!」
「マグナムなんて物騒なもの持ってないわよ! ていうか、そもそも撃たない! キミねえ、あんまり変なこと言ってたら公務執行妨害で逮捕するわよ?」
「うっうっうっ……」
「泣きながら両手を差し出すなッ!」
「どうしろと言うのだ」
「こっちの台詞よ……はぁ、朝から変なのに捕まっちゃったなあ」
婦警さんは疲れたように肩を落とした。
「警官なのに捕まるとは洒落が利いてる。はっはっは」
「うるさいっ! もーいーから行きなさい。キミ、学生でしょ? いいの? 遅刻しちゃうわよ?」
「婦警さんに誘惑されたと言い張って遅刻から免れるから大丈夫だ」
「ちっとも大丈夫じゃないっ! ていうか、そんなので遅刻は免除しないと思うわよ!」
「どんなエロい誘惑をされたか、先生に詳しく説明するから大丈夫だ。なに、こう見えても趣味で小説を書いてる。そういった描写は得意だ」
「誰もそんな心配はしてないっ! あーもーっ、早く行けっ!」
「警察官に追い払われるとは。なかなかに悲しい出来事だ」
「いーから早く行きなさい。まったくもぉ……あ痛っ!」
失意のどん底に落ちながら自転車に乗ろうとしたら、婦警さんが突然声をあげた。
「どしました?」
「な、なんでもないのよ、なんでも。いいからキミは早く学校行きなさい」
婦警さんは俺の目から逃れるように右足を後ろに回した。だが、その程度で俺からは逃れられない!
「ククク……婦警さんもまだまだ甘いようで。この俺様に隙を見せるとはなぁ……」
「な、何よ。何をする気よ!」
「弱って動けない獲物を前に、何をするかだなんて……答える必要もあるまい?」
-
「ま、まさか……や、やだ、ちょっと、冗談でしょ?」
「それは……自分の身体に聞いてみなッ!」
「き……きゃあああああああッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
中二病を存分に発揮しながら婦警さんを抱き上げたら、いっぱい叩かれた。
「ヤだヤだヤだヤだ! おかあさーん!」
「痛い痛い。動くな。せめて殴るな」
殴られながらもずしーんずしーんと移動し、近くの公園へ。
「はい、ちょっとここで大人しくしてろよ」
「ううう……う?」
婦警さんをベンチに下ろし、近くの水道へ。ハンケチを水で濡らし、戻ってくる。
「はい、ちょと痛いヨー」
「痛っ!? ……あ」
ニセ中国人を装いながら、怪我した膝にハンカチをちょんちょんとあてる。砂などが取れたら、もう一度ハンカチを濡らし、膝にあてる。
「ん、これでよし。交番に戻ったらちゃんと手当てしろよ。んじゃ、俺は学校行ってくる」
「え……あ、え?」
「ばーいびー」
そのまま颯爽と自転車にまたがって去れたらそれなりに格好もつくのだろうが、生憎と徒歩で公園まで来たので、てってこ走って公園から逃げる。やれやれ、恥ずかしい。
遅刻した言い訳に嘘エロ小噺を担任にしたら余計に怒られ、放課後、一人で教室の掃除をするよう言いつけられてしまった。
「あー……疲れた」
どうにか終わった頃には、既に5時を回っていた。さて、帰るか。
だらだらと自転車を漕いでると、朝に事故った交差点に出くわした。……まさか朝の婦警、いやしないだろうな。
「……あーっ! き、キミ! そこのキミ!」
「ん? ぐあ」
「……そ、そう。こっち振り向いて今まさに電柱にぶつかったキミ」
「……それはつまり俺のことだな」
朝と同じように地面に転がりながら答える。
「あ、あははー……ごめんね? 私が声かけなかったらぶつからなかったよね?」
「全くだ。あいたた……」
-
むっくら起き上がり、声の主を確かめる……までもなく、奴だ。朝の婦警だ。
「それで、何用だ? くだらん用件だと殺す」
「おまわりさんだよ!?」
「しまった、図に乗った。……でも、まあ、いいか!」
「よくないっ! ……じゃなかった。え、えっと、えっとね?」
「なんだろうか。やっぱ捕まえるの? 嫌だなあ。まあいいや、はい」
「違うっ! すぐに両手を差し出すなっ! ……え、えっと、これ」
そう言いながら、婦警さんは何やら布っきれを差し出した。なんだろう。なんか見覚えあるな。
「は、ハンカチ。朝、キミが貸してくれたの」
「ああ、そうそう。思い出した。記憶のピースががっちと一致した。ああすっきりした。じゃあ俺はこれで」
「待って待ってまだ話終わってない!」
「なに? 捕まえるの?」
「なんでキミはそう捕まえられたがるかなあ……」
「基本的にビクビクして生きているもので」
「何かの虫みたいだね、キミ」
酷い言われ様だ。
「そ、そうじゃなくてね。あ、あの、え〜っと……ほ、ほら! 警察官を助けたで賞を授与しないといけないの!」
「うわ、超頭悪ぃ」
「警察官に酷い暴言を!?」
「しまった。俺って奴はいつもこうだ。はい、どうぞ」
「だから、すぐに両手を差し出すなっ! ホントに逮捕しちゃうぞ!?」
「昔そんなアニメがありましたね。いや全然知らないので踏み込まれると何もできなくなるので気をつけて」
「う〜……そんなのはどうでもいいのっ! 朝のお礼をしたいの! で、でも、言っとくけど、好意とかじゃないから勘違いしたらダメだよ? ただの警察官としてのお礼なんだからね?」
「知らん。ていうか、礼とかいいです」
「いくないの! あのね、ちゃんといいことしたんだから、お礼を受けるのは当たり前なんだよ?」
「そんな大層なことをした覚えはないんだが……」
「…………」
「ん? どした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔、いわゆるハト豆な顔をして」
「そんないわゆるなんてないよっ! じゃなくてね、……ううん、まあいいや!」
「?」
-
「いーの! こほん。……え、えっとね。ほ、ほら、私……じゃないや。本官は警察官なので、本官を助けてくれたキミにお礼しないといけないの」
「さっきも言ったけど、礼とかいらないのですが」
「いいの! しないといけないの! キミは黙ってお礼されたらいいの!」
「まあくれるというなら貰うが……一体どんなお礼を?」
「え? え、えーっと……」
……何も考えてなかったな、コイツ。
「ま、待って! すぐ! すぐ考えるから!」
「もういいよ。なんか疲れたし帰る」
「待って待って帰らないで! すぐ思いつくから!」
「いい。帰る」
「待って待って待ってー!」
そのまま回れ右して帰ろうとしたのだが、ありえないことに婦警さんは俺の腕にしがみついて動きを遮った。
「ええい、離せ!」
「お礼するまで離さないー!」
「じゃあもうその乳の感触がお礼ってことにするから離せ」
さっきから腕にほにょんほにょんとそれなりの大きさの乳の感触が踊っていてお兄さん嬉しいです。
「え……え、えっち!」
「ぐがっ」
なんか脳天にすげぇ衝撃。超殴られたっぽい。
「いてて……お、お前なあ、恩人を殴るか?」
「う、うるさい、ばかっ! えっちなこと言うキミが悪いんだからね!」
婦警さんは少し離れた場所から顔を真っ赤にして叫んでいた。
「子供の戯言と流せよ……」
「なんかキミ私より年下とは思えないんだもん! 留年しまくって二十歳超えてたりする?」
「酷い侮辱だ。新聞に投書してやる」
「う、うそ、うそ! 私が幼すぎるだけだよ!」
「知り合って間もないが、よく知ってる」
「冷静に肯定されちゃった……」
なんか打ちひしがれている。
-
「まあそう落ち込むな。大丈夫、体つきはそれなりに大人だったぞ!」
「嬉しくないっ!」
ずびしっと親指を立ててウインクしてやったというのに、婦警さんときたら先ほどより顔を赤らめるばかり。
「ううう……と、とにかく! お礼するから、ここに住所と名前と電話番号書いて!」
そう言って、婦警さんは懐から手帳を取り出した。
「個人情報保護の観点から断りたいです」
「う、ううう……」
「泣きそうになるなッ! 分かった、書くよ、書きゃーいいんだろっ!」
半泣きの婦警さんから手帳を奪い取り、手早く書く。ほんとに大人か、この人。
「な、泣いてなんかないからねっ! ちょっと悲しくなっちゃっただけなんだから! 大人がこんなすぐ泣くわけないじゃないの!」
「いばるな。ほい、書いた」
手帳を返すと、婦警さんは顔を輝かせた。
「へへ……。じゃあ、思いついたらお礼するから! 忘れないからね! 覚えててね!」
「知らん。ていうか、いいと言ってるのに」
「私の気が済まないの!」
「超面倒臭え」
「面倒臭いとか言わないの! ……あ、ああーっ! もうこんな時間! 大変、先輩にまた怒られる!」
ふと腕時計を見て、婦警さんは素っ頓狂な声をあげた。
「また、って……お前はいっつも怒られているんだなあ」
「……た、たまにだよ? ホントに」
「こんな信頼できない台詞初めてだ」
「ホントに! ホントなの! そんなへっぽこじゃないの!」
「いーから早く行けへっぽこ婦警。早くしないと先輩とやらに怒られるぞ」
「酷いあだ名つけられた!?」
なにやらぶちぶち言いながら、婦警さんは自転車に乗って去っていった。
「あー……なんか超疲れた。……あ」
そういや、ハンカチ貸したままだ。……まあいいか、なんかまたお礼するとか言ってたし、その時で。
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>>560
GJ
しかしなんだ、お前の世界の大人は先生しかりダメな人ばっかりだなwwwww
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>>560
ディ・モールト!!
お前が神、いわゆるゴッドか。
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>>560
GJ!!
この婦警さんは警察官に向いてないので、早く退職して俺の嫁になった方がいいと思う
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>>560
God job
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【眠くなると甘えて来るツンデレ】
まつりが遊びに来たので遊んでやったら夜になりました。
「さてお嬢さん、ボチボチ夜も更けてきたのでそろそろ帰っては如何かな?」
「う……うな……」
いかん。そろそろどころか、こっくり船を漕いでいる。一刻も早く帰らさなければ……!
「ま、まつり。なんなら俺が家まで送っていくし、それが嫌なら親御さんかメイドさんに連絡して迎えに来てもらっても」
「うるさいのじゃー……なんだかわらわはとっても眠いのじゃー……ふわあああ……」
いかん。船が小船から豪華客船に進化を遂げている。このままでは……!
「むぬー……ん、のー。のーのー」
まつりは薄っすら目を開けると、身体を斜めに傾けつつ、手をくいくいして俺を呼んだ。嫌な予感を感じつつ、もそもそとまつりの元へ向かう。
「んー……かくほ!」
確保された。具体的に言うのであれば、突然抱きしめられた。
「確保らないで」
「んー……との、わらわは眠いのじゃ」
「はぁ、それは見れば一目瞭然家内安全七転八倒ですね」
「むぬ……? うん、まあそんな感じなのじゃ」
何がだ。
「での。眠いと枕が必要なのじゃ。なぜなら寝るから!」
「はぁ。じゃ、貸してやるよ」
「だーめなーのじゃー! 抱き枕が必須なのじゃ!」
まつりはイヤイヤしながら枕を取ろうと立ち上がりかけた俺を揺さぶった。揺さぶられておえええって感じになり、ふらふらになりながら再びぺたりと座り込む。
「そんなわけでの? 特別にお主を抱き枕の大役に命じてやるのじゃ。感謝するのじゃぞ?」
「いいえ、結構です」
「感謝のあまりむせび泣いてもよいのじゃぞ?」
「いいえ、結構です」
「そゆわけでの、わらわは寝るのじゃ。おやすみなのじゃ♪」
「全部断ったのに何一つとして気にせず眠るだと!? この娘、やる……!」
「すぴゃすぴゃ、なのじゃ♪」
「起きてませんか?」
「起きてないのじゃー。わらわは寝てるのじゃ。起こしてはいかんのじゃよ?」
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「返事してませんか」
「してないのじゃ。ふわあああ……ぬー。んじゃ、本当に寝るのじゃ。お休みなのじゃ、ぬし殿♪」
「いや、ちょっと待って。勝手に寝ないで。お休まないで」
「ふにゅふにゅ……」
結局最後まで俺の話なんてちっとも聞かずに、まつりは幸せそうにふにゅふにゅ言いながら眠りに就いた。
「はぁ……なんちうか、なんちうか」
色々思いながらも、携帯でまつりのメイドさんを呼ぶ。
数分後、俺に向かってしきりにお辞儀をするメイドさんに連れられ、まつりは車で帰っていった。何もしてないのに超疲れた。
んで、翌日。
「わらわのせいじゃないぞ!?」
「うわあっ」
登校するなり朝からまつりが超やかましい。
「あーびっくりした。いきなり何の話だ」
「き、昨日の話じゃ、たわけ!」
「あー。物凄い迷惑を受けたが、同時にふにゅふにゅ言ってる可愛い生物を愛でられて大変満足しております」
まつりが真っ赤になった。
「ひ、人を生物とか言うなッ! ……あ、あと、可愛いとか言うでない、おろかもの」
何その後半の可愛らしい抗議。
「と、とにかくの。昨日の出来事は全て忘れるのじゃ。なかったことにするのじゃ」
「ええっ!? まつりが眠くて船漕いでたのも、『かくほ!』とか可愛らしく俺に抱きついてきたのも、もふもふしてきたのも全部忘れろと? そんなのってないよ!」
「全部言わんでいいわい、たわけっ!」
まつりが顔中赤くしながら半泣きで怒った。
「ううう……とにかく、忘れるのじゃ! 命令なのじゃ! わらわの言うことを聞くのじゃ!」
「うーん……じゃあ、今日また遊びに来るなら忘れる」
「ぬ……わ、分かったのじゃ。しかし、しかしじゃ! わらわは学習するのじゃ! 愚かで愚劣で常にわらわに劣情を催しておる貴様のことじゃ、昨日のことのようなことを期待しておるようじゃろうが、二度と先のようなことは起こらぬと思え!」
そのまた翌日。
「わらわのせいじゃないぞ!?」
なんか昨日見た光景がリピートされてる気がします。
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>>566
近頃こんな可愛い老成さんは見たことないぞ
GJ!!
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相変わらずかわいらしい老成さんでなによりです
つまりはGJ!
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【ツンデレ妖狐】
夜、ノドが乾いたので近所のコンビニに向かい、缶コーヒーを買う。
「ん……?」
そのままなんとなく近所をぷらぷらと散歩してたら、ある家屋が目に付いた。いわゆる幽霊屋敷という奴で、俺がガキなら探検ぼくの町といったところだろうが、何やら様子がおかしい。
普段であればその門にでかい南京錠がかけてあるのだが、今日はどういったわけかその物々しい鍵が外されていた。
首を伸ばして中を窺うが、薄ぼんやりとした闇に包まれており、どうにも判然としない。ただ、いつもは閉まっているドアが開いていることだけは分かった。
どこかの悪ガキが季節外れの肝試しでもしているのかもしれない。少し興味はあったが、それ以上にからまれたら超怖いので回れ右しようとくるりと後ろを向いたら、ぴきぴきと何かが割れる音がした。
「お?」
そしてすぐに、視界が真っ暗になった。いや、違う。落ちてる。超落ちてる。俺がまっさかさまに落ちている。
「なんとぉぉぉぉぉ!?」
なんで!? 地盤沈下? 一般的な住宅街にまさかのクレバス発生? いやなんでもいい、絶対死んだよコレ!
思いつく限りの悪態を吐いたが未だ終着点には着かない。ていうか結構落ちてるけど……まさかマントルまで行かないよなげぼがばぐば。
「………………っぷはあっ!」
必死に泳いで水面に顔を出す。どうやら地下水が溜まってできた湖に落ちたようだ。おかげで命拾いした。
「あー……どんだけ不運なんだ、俺。いや、生きてるから幸運なのか。……分からん」
とにかく、ここから脱出しないと。とはいえ、困った。明かりが一切ないので、何も見えない。さっきは必死に泳いだ先が偶然水面だっただけで、運が悪ければ今頃ぼくドザエモンになっていたやも。
まあいい。泳げばその先に地面があるはず。というわけで、すいすい泳いで陸地を探す。……しっかし、真っ暗な湖ってのは超怖いな。何も見えねえ。
「……うん?」
しばらく泳いでると、少し先に何か薄ぼんやりとした明かりが目に付いた。こんな地下に……なんだ?
明かり目掛けてわっせわっせ泳ぐ。しばらく泳ぐと、陸地についた。そのまま明かり目掛けてしばらく歩くと、目的の場所に辿り着いた。古びた祠だ。
「こんな地下に祠……やばい匂いしかしねえ」
しかも、祠自体が光を放つという超常現象が起きている。何コレ。放電現象?
触ったら呪われそうだが、周囲があまりにも真っ暗すぎて生物の本能として明かりを求めずにはいられないので、恐る恐る祠に手を触れる。
途端、光が満ちた。あまりのまぶしさに咄嗟に目をつむる。
『やっとか。どれほど時が流れた』
「お? ……お?」
声が聞こえる。だけど、まだ目がチカチカして目を開けられない。
『聞こえておるな、そこな童。この祠を破壊せい』
「暗闇にやられて幻聴か? ……まずいな、早くどうにかして脱出しないと」
-
『おい、童。ワシの声が聞こえているなら返事せい。おい』
「しっかし、困ったなあ……ちょっと前にあったチリの落盤事故はたしか地下700mくらいだったけど……ここはどのくらい深いんだろうか」
『ワシの話を聞けッ!』
どうにも幻聴がうるさい。それはそうとして、そろそろ目が治ってきた。ゆっくり目を開けると、薄ぼんやりとした女の子が目の前に。
「うわあっ!?」
『わひゃあっ!?』
俺がびっくりしたら、それに呼応して女の子も驚いた。
『な、なんじゃ、なんじゃ!?』
「いや、目を開けたら人がいてびっくりした。終わり」
『そ、そうなのかえ……あー、びっくりしたのじゃ』
女の子はほっと胸をなでおろした。中学生くらいだろうか。白い袴のようなものを纏っている。どうしてこんな地下にこんな子が? ……実際に聞くか。
「ていうか、なんでこんなところに人が?」
『人ではない。妖狐じゃ』
「ようこそようこ?」
『ぬ?』
……いやいや、何を普通にボケているか。そうじゃない。妖狐……妖怪? 狐の?
「ここでまず信じる信じないの選択があるのだろうけど、面白そうなので信じる一択で!」
どうしてだろう、そこはかとなく妖狐が引いてる気がする。見ず知らずの妖怪を引かせる己の会話センスに惚れ惚れする。
『そ、そうかや。それなら話は早いのじゃ。死にたくなければ祠を破壊せい』
「まあまあ、その前に質問させてくれ。妖狐ってのはアレですか、玉藻前に化けた九尾の狐とかっていう有名なアレですか」
『ああ、この島国でそういうのがおったらしいのぉ。ワシは大陸におったので詳しくは知らんが、噂は届いておったぞ』
大陸……中国か。てことは中国産の妖狐か、コイツは。
「その大陸の狐がどうして日本の地下深くにいるんだ? 祠ってことは……封印か何かされてんのか?」
びくん、と妖狐が一瞬はねた。
『な、なんのことかちっとも分からんのじゃ。さっぱりなのじゃ』
「嘘が下手すぎです」
『う、嘘なんかじゃないのじゃ! 封印もされてないのじゃ! それとは全然関係ないのじゃが、祠を破壊するのじゃ!』
「祠を壊すと解放されるんですね」
『ぬなっ!? き……貴様、ワシの心が読めるのかや!?』
「妖狐ってのもピンキリでダメな妖狐もいるんだなあ。初めての妖怪がダメなのかぁ。少し残念だ」
-
『ダメとか言ってはダメなのじゃあーっ!』
「はっはっは。あー愉快だった。さて、んじゃ俺は帰るな」
『帰ってはダメなのじゃ、ダメなのじゃーっ! その前に祠を、祠をーっ!』
妖狐は俺を掴んで引きとめようとした。だが、その手は俺の身体を通り過ぎ、虚空を掴んだ。
「…………。うわあああーっ! おーばーけーっ!!!」
『違わいっ! 幽体だけ外に出してるだけじゃ! 本体は未だ封印されてるのじゃ!』
「ああやっぱ封印されてるのか」
『はうわっ!? ぬ、ぬぅ……この童、神童かや?』
「あー、ちょっといいか? さっきから人を童々といってるが、俺は子供ではないよ?」
『何を言ってのじゃ。1000歳をゆうに越すワシからすれば、人など皆童じゃ』
「うわっ、超ババアだ!」
『ば、ばばあではないのじゃ! 人生の先輩に失礼じゃぞ貴様!』
「ババアだババア、スーパーババア! ビームとか撃てる?」
『撃てんのじゃ! ……びーむってなんじゃの?』
ちょっと小首を傾げて訊ねる超ババア。あら可愛い。
「なんかビーってしてるの」
『全く分からんのじゃ……』
「詳しくはググれ」
『また分からん単語を! 貴様こっちは封印されとるってことを念頭に入れて話すのじゃ!』
「googleで検索しろってことだ」
『説明されたのに分からんのじゃうわーんっ!』
「ああ泣かしてしまったこのロリババアは可愛いなあウヒヒヒヒ」
『全く慰めておらんっ! 尋常ならざるほど怖いのじゃ! 寄るな、痴れ者!』
妖怪に怯えられた。悲しい。
「まあいいや……ともかく、帰るな。んじゃ、元気で」
『だから、待つのじゃってば! ……ああそうじゃ。貴様、どうやって帰るつもりかえ?』
「え?」
『ここは地下深き我が閨。どうやって地上まで戻るつもりかえ?』
妖狐は余裕を取り戻したようで、ゆったりした所作で俺に伝えた。
「どうって……いや、普通にワープして」
-
『わーぷ?』
「ここから地上まで一瞬に移動する技術だ。それを行える道具が今、俺のポケットの中に入ってる」
『え……えええええっ!? えっ、今の技術ってそんなに発達してるのかや!?』
「うん」
当然そんなわけありませんが、話のイニシアチブを渡さないために嘘を吐く。あと、その方が楽しそう。
『ど、どしよ……え、えっと、で、でも、準備に時間がかかったりする……じゃろ?』
「一秒もいりません。あ、秒ってのは、……ってくらいの時間だ」
『すぐではないかや!? あ、あの……わ、わーぷ? する前にの? ちょちょっと、祠を破壊してはくれんかの?』
「破壊するとお前の本体が解放されるんですね」
『さっ! さ、されんのじゃよ? え、えっと、景観が悪いから壊して欲しいだけなのじゃ。ほ、ほんとじゃよ?』
「嘘だったら解放された瞬間に1ピコにまで分解する」
『なんかまた分かんない単位出されたけど分解ってのは分かっちゃってとっても怖いのじゃうわーんっ!』
当然そんな凶悪武器なぞ持っていないが、そんなことは妖狐は知らないので全部信じて泣いちゃってあら可愛い。
「ああまた合法ロリを泣かしてしまった。この合法ロリは可愛いなあウヒヒヒヒ」
『ううう……ちょっとは慰める努力を見せるのじゃ、愚か者ッ! なんだかずっと怖いのじゃ!』
「はいはい、ごめんな」
触われはしないが、見た目は頭がある箇所をなでなでする。
『ぬー……あ、あの、の? 本当は、祠を壊すとワシの本体が解放されるのじゃ。う、嘘じゃったが、いま本当のことを言ったから分解せんの? の?』
「そうだな。本当のこと言ったし、特別に半分解にしとくよ」
『半分されたら充分死んじゃうのじゃ、あほーっ! ぬーっ!』
「あーはいはい。分解しないよ」
『よかったのじゃー。解放されたはいいが即分解では、何のために何年も封印されたか分からんでのぉ』
「あ、そだ。封印っつってるけど、なんで封印なんてされたんだ? 何か悪さでもしたのか?」
『ふふ……よく聞いてくれたのじゃ。時の権力者に憑りつき、悪政の限りをつくしたのじゃ! いやー、楽しかったのー♪ ……ま、まあ、見つかって封印されたが』
「にゃるほど、悪か。やっぱ封印しとこ」
『あああーっ!? ちっ、ちが、違うのじゃ! え、えっと……お、お花畑を荒らした……のじゃ?』
「あら可愛い。それなら封印を解いてあげる……わけねーっ!」
『ひゃうわーっ!?』
一瞬すごい笑顔になった妖狐だったが、ものっそい驚いていた。
「ていうかだな、嘘がお粗末すぎだ。もうちょっと頑張れ。じゃないと分解する」
-
『怖いのじゃ怖いのじゃ怖いのじゃーっ! 人をすぐに分解しようとするでない、たわけっ!』
「人じゃないじゃん、お前」
『妖怪を分解するでないっ!』
「ああ、それならいい」
頭付近をなでなでする。だが、実体がないのでどうにもこうにも。
『ぬう……の、のう。さっきからしてるそれ、なんじゃ?』
「ああ、なでなでだ。頭をなでると女性は喜ぶらしいのだが、生憎と未だ幽体にしかしたことないので効果のほどは未だ分からずだ」
『そ、そうかや。……ま、まあ、封印から解かれたら特別に受けてやってもよいぞよ?』
「何年封印されてるのか知らないけど、埃まみれだろうし嫌だからお断りします」
『貴様は悪魔かや!?』
「人です」
『うぬぬ……ふんっ! じゃあもういいのじゃ! なでなでなどされたくもないわいっ!』
「そうか。まあそれはそれとして、ぼちぼち俺は帰」
『だから、帰ってはいけないのじゃーっ! それではワシはまた何百年と待たねばならぬではないか! もう一人ぼっちは嫌なのじゃあーっ!』
今度こそ本音らしきものが出た。
『こんな真っ暗なところで、ずーっと一人だったのじゃあ……。一人は嫌じゃ、嫌なのじゃあ……』
ぐすぐすとぐずりながら、少女は俺に訴えた。多少なりとも良心が痛む。
「うーん……解放してやりたいけど、でもなあ。さっきの話を聞いた限りじゃ、また悪行を働かない保証もないしなあ」
『しないのじゃ、もうしないのじゃ! 絶対しないのじゃ! 約束するのじゃ!』
「信用してやりたいが、口約束じゃあなあ……うーん、何かいい方法はないものか」
『ぬうう……あっ、そうじゃ! あのの、ワシが貴様の使役獣になるのじゃ!』
さも名案だ、とでも言いたげに妖狐は目を輝かせた。
「何スか、使役獣って」
『ふふーん、そんなのも知らないかや? 貴様はアホアホよのぉ♪ ……あっ、ちっ、違、違うのじゃ! ワシがアホアホなのじゃ! じゃから衣嚢を探ってはいかん!」
ポケットを探って分解装置を探すフリをしたら死ぬほど怯えられた。
『え、えっと、の? 使役獣というのは、人がワシら妖怪を扱えるようにする術じゃ。本来は人が行う術なのじゃが、ワシはすごい妖怪なので貴様にその術を教えてやるのじゃ。感謝するのじゃよ?』
「扱うってコトは……お前の行動を俺の意思で制限できたりするってことか?」
『そうじゃ! なんじゃ、呑み込みが早いではないか。そしたら貴様はワシの悪行を防げるから問題ないし、ワシも解放されてお互い大喜びじゃ! じゃから、いいじゃろ? の、の?』
「ふむ……」
それが本当なら、断る理由もない。あと、女の子を使役するって超楽しそう。
-
「よし、じゃあそれをしてみよう。あ、一応言っておくが嘘だったら分解」
『嘘じゃないのじゃ! すぐに分解しようとしてはいかんのじゃ! 貴様は軽く言っておるがこちらは毎回怖くて泣きそうになるんじゃぞ!?』
「わはははは!」
『わはははじゃないのじゃーっ! もーっ、いいから使役の契約をするのじゃ! この祠に手を置くのじゃ』
「ん、こうか?」
『そう。そしてこう唱えるのじゃ』
少し間を置いて、妖狐は小さな声で呟きだした。
『……一二三四五六七八九十 布留部 由良由良止 布留部』
「え、えっと……ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
奇妙な言葉の羅列を紡ぐ。意味は分からないが、何か懐かしいような、心に染み入るような、不思議な言葉だ。
「熱ッ!?」
そんなことをぼんやり考えていると、手に衝撃が走った。見ると、手の甲に何やら紋様が浮かんでいた。
「うわ、中二病だぁ……」
『また分からぬ単語を……これで、ワシは貴様の使役獣じゃ。不本意じゃが、以後よろしくの、ええと……貴様のことをなんと呼べばいいかの?』
「ご主人様一択で」
『…………』
とても不本意そうだが、俺は大満足。
『と、とにかく契約を果たしたので、早く出してほしいのじゃ。とっととこんな暗がりからおさらばしたいのじゃ!』
「あー……まあいいか」
ちょっと怖いが、契約とやらをしたので大丈夫だろう。祠をガンガン蹴って破壊を試みる。
『そうじゃ、その調子じゃ! 頑張るのじゃ、ご……ご主人様!』
「フヒヒィ、フヒヒィ!」
『怖いのじゃあーっ! 明らかに契約相手を間違ったのじゃあーっ!』
なんか言ってるけど、ご主人様ぱぅあーにより祠の支柱の破壊に成功。
『おおっ! ついに……ついに解放される日が来たのじゃ!』
妖狐の幽体が祠に吸い込まれ、そして次の瞬間、盛大に煙と祠の破片を撒き散らし、祠から妖狐が姿を現した。
「ふふ……ふわーっはっはっは! とうとう、とうとう解放されたのじゃあーっ!」
「うるさい」
「ふぎゃっ!」
目の前で嬉しそうに叫んでる迷惑な妖怪の頭を軽く叩く。
-
「ううう……痛いのじゃ、ご主人様」
「我慢しろ。さて、脱出するか」
「そじゃの。ご主人様、“わーぷ”をするのじゃ」
「あ」
そっか。そういやそんなこと言ってたな。
「どしたのじゃ、ご主人様? わーぷせんのかえ?」
「あれ、嘘」
「……え?」
「そんな装置まだ発明されてねえ。あと、分解とかも嘘。そんな殺人兵器持ってねえ」
「な……なんじゃとおーっ!? えっ、じゃあワシは騙されて主従契約しちゃったのかえ?」
「やーいばーかばーか」
「な……なんでそんな嘘つくのじゃーッ! 今すぐワシを解放するのじゃーッ!」
「祠からは解放されたからいいじゃん」
「ちっともよくないのじゃ! あっ、そうじゃ! ……こほん。ワシを解放せぬと食い殺すぞよ!?」
「契約したらお前の行動を制限できるらしいが、そのうえで俺を食い殺すことできるの?」
「できないのじゃうわーんッ!」
「ああまた泣かしてしまった。何度見てもそそるなあウヒヒヒヒ」
「幽体を通してではなく生で見るとより一層気持ち悪いのじゃうわーんっ!」
失敬な。ともあれ、可哀想なので頭をなでてなぐさめる。
「ぐすぐす……ううーっ、もういいのじゃ。騙されてしまったが、こんな真っ暗で何もない所で独りでいるよりマシなのじゃ。……しかし、妖怪を騙すとは妖怪より悪辣よのぉ」
不愉快なので妖狐のほっぺをぐにーっと引っ張る。
「ふにーっ!? ふににーっ!?」
「さて、妖狐さん。お前の力でこっから脱出できない?」
「ふにに……ふがっ。なんでワシのほっぺを引っ張るかや!?」
「引っ張りたいと思ったから。で、どうなんだ?」
「ぬぅ……ま、まあできなくもないぞよ。やってほしいかや? あっ、そうじゃ! やってほしいならワシとの契約を白紙に戻すのじゃ。これは取引なのじゃ!」
「知らん。いいから俺を上まで運べ。命令です」
「了解なのじゃご主人さまーッ!」
なんか半泣きで叫びながら、妖狐は俺を見た。
「ぐすぐす……じゃあ、ワシに掴まっててほしいのじゃ」
-
そう言って、妖狐は狐の耳としっぽを生やした。これにはちょっとびっくり。
「すげぇ! 妖怪みたい!」
「だから、妖怪じゃってば! ってば!」
「二回言うな。まあいいや、こうか?」
むぎゅっと妖狐のしっぽを無遠慮に握る。
「ふにゃ!? ち、違うのじゃ、違うのじゃ! 今から変化するから、それから掴まるのじゃ! ……あ、あと、しっぽは触ってはいかんのじゃ。しっぽは大事なのじゃ」
妖狐はしっぽを振って俺から逃れると、自ら抱きしめるようにしっぽを持って俺に訴えた。
「分かった、聞き流す」
「なんというご主人さまに当たってしまったのじゃー……」
絶望に身を震わせながら、妖狐は身体を縮ませた。すると、俺の目がおかしくなったのか、一気に身体が膨れ上がり、同時に全身から毛が生えた。気がつくと、妖狐は身の丈5mを越す巨大な狐になっていた。
その巨大な狐は俺を軽く咥えると、自分の背中に乗せた。
「すげぇ! 毛深!」
『狐じゃから当たり前なのじゃ! それよりご主人さま、今から一気に駆け上がるので、しっかり毛を掴んでてほしいのじゃ。落ちても知らんのじゃ』
「え」
という暇もあろうか、妖狐は滑るように湖面を走り、そして俺が落ちた穴の真下までくると、そのまま重力を無視して駆け上って行った。
すさまじい風と重力が俺に襲い掛かる。とてもじゃないが目なんて開けてられない。振り落とされまいと、ただ必死で妖狐の毛に掴まるだけだ。
そのうち、穴を抜けた。そのままの勢いで空に飛び出す。下を見たら……うお、人がゴミのようだ。超高え!
しゅるり、と毛が俺の手の中で小さくなっていく。気がつくと、狐は少女の姿になっていた。
「おお……月じゃ。何十……いや、何百年ぶりの月かのぉ。何年経とうとその姿は色褪せず美しいのぉ」
「あのー、それより妖狐さん。絶賛落下中なんですが」
上昇の勢いはすでに消えて久しく、ゆっくりと重力に引かれている真っ最中です。
「……助けて欲しいかの? じゃあ、ワシを解放するのじゃ!」
「知らん。いいから俺を安全に地上に下ろせ。命令です」
「うう、ううう、ううううう……了解なのじゃご主人さまーっ!」
半泣きで魔術的な何かを唱える妖狐。途端、俺たちの落下スピードが目に見えて減速した。
「これで大丈夫なのじゃあ……ぐすぐす。酷い話じゃ。ワシはもう二度と解放されんのかのう」
「大丈夫。俺が寿命で死ぬのが早いか、お前が過労死するのが早いかのチキンレースが今始まったんだ。たかだか70年程度、妖怪ならヘッチャラさ☆」
「もっかい地下で封印された方がマシなのじゃあーっ! うわーんっ!」
半泣きどころか全泣きの妖狐の叫びが闇夜に吸い込まれていった。
-
>>576
隅っこもちゃんと見てるぜ☆GJ!!
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>>576
アニメ化決定まだー??
-
>>576
GJ!! 面白すぎだろw
ところでgoogleですみっこって入力すると変換候補に…
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アニメ化映画化はまだか!
GJ!
-
ババアかわいいwwwww
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>>576
これはいいwwwww
しかしあれだな、>>561も言ってるが
お前さんの世界は年齢を重ねるほどダメな人になる世界かw
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そういや、名前忘れたがJCの子はしっかりものだったな
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>>576
某妖怪漫画好きの匂いがする…GJ。
もっとなでなでもふもふするべき。
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いずみんに手ぇ繋ごうって言ったら
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1691.jpg
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>>585
GJ!!
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さむ…
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1740.jpg
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>>587
とりあえず、ストーブ(という文字の部分)に頬擦りしたwwwww
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色塗りはめんどくs…時間かかるからとりあえず線画だけ
http://tunder.ktkr.net/up/log/tun1742.jpg
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