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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

631それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:06:44 ID:YrRABrO.
日本という異文化である点以外は特殊性のカケラも無く、やっぱりただの民家だったのだ。

「ハァ・・・・・・」

命を捨ててくる覚悟で挑んだつもりが、主催者は見当たらず、この民家に関しても何かが隠されている様子も無い。
それによる落胆と苛立ちからスエゾーは狭い廊下でため息を吐いた。

「・・・・・・!」

そんな中、小トトロがスエゾーの一本足を引っ張って、何かを催促する。

「ん、どしたんや小トトロ?」

スエゾーが自分に気づいてくれたのを見ると、小トトロはある一方を見つめる。
何気なく小トトロが見つめている先をスエゾーも見ると、そこには2階へと続く階段があった。

「おお、こんな所に階段があったんかいな」

見つけ次第、すぐに階段の近くまで移動するスエゾー。
今度こそ、主催者がいること・何かがあることを期待している。

「・・・・・・小トトロ、何が潜んでいるかわからへん、今まで通りにワイの後ろにいてくれや」

スエゾーの指示通りに、小トトロは背後に回る。
これから踏み出す2階には何が待っているかわからないため、小トトロを前に立たせるわけにはいかなかった。
頭に血が昇っていても、仲間への気遣いを忘れてないのはスエゾーらしいと言える。
そして二匹は、気を引き締めながら2階・・・・・・正確には屋根裏部屋へと上がっていく。
一本足でぴょこぴょこと一段づつ上がっていくスエゾー、一段上る度に緊張が高まっていき冷や汗が流れる。
果たして、階段を上りきった先にあるのは−−





「なんや、何もあらへんで?」


−−何もなかった。
家具の一つも置かれていない、ただの薄汚れた屋根裏部屋があるだけだった。
何かあると思っていたスエゾーは、苛立ちを通り越して呆れすら覚え始めていた。

632それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:09:19 ID:YrRABrO.


(本当にこの屋敷には何もあらへんのか・・・・・・?)

この屋根裏部屋をもって、この家屋はあらかた調べつくしたことになる。
生活感こそはあったものの、得られたものは何もなく、結局主催者たちも見つからなかった。
ここまでくると、この家屋は本当に主催者たちとは何も関係ないのではと、いいかげん疑わしくなってくる。
玄関口にて見つけた草壁の表札も、今となっては主催者たちが施したイタズラにしか思えなくなってくる。
そうなると、テレポートが失敗したかもしれない可能性と消化できない主催者への怒りで、頭に血が昇ってくる。

「クソッ!
どこにおるんや草壁たちは!
結局、このボロ家はなんなんやねん!」

苛立ちからスエゾーは怒りの限り、誰に向けてでもなく言い放つ。
あまりの怒気に、後ろにいる小トトロが怯えているが、そんなことはお構いなしだ。
さっきから爆発寸前の怒りをある程度、発散させないとスエゾーの身が持たないのであり、スエゾー自身も自覚している。
できるなら抑え込みたいが、元々の性分がそれを許してくれないである。
今はただ、怒りに委ねていたい衝動に駆られる。
誰かが止めなくては、スエゾーは感情のままに喚き散らし続けるだろう。

・・・・・・だが。


ざわ・・・・・・
 ざわ・・・・・・


「ん?」

・・・・・・何かがいる。
そんな気配をスエゾーは感じ、言葉を吐くことを中断して、気配の正体を探ることに専念し始める。

気配は辿っていくと、近くの壁にできていた僅かな隙間の中に、『何か』がうごめいていた。
それをすぐに発見できたスエゾーは、その壁から少し距離を取り、警戒を強めて臨戦態勢に入る。

「何かいるで!
 小トトロ、ワイから離れんな!」

次に仲間である小トトロに注意を呼びかけ、下がらせる。
小トトロが自分の後ろに隠れたのを確認すると、スエゾーは壁の中にうごめく『何か』を睨みつける。

「なにもんや!
 正体を見せい!!」

633それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:10:49 ID:YrRABrO.
怒鳴りつけるように正体を問うが、向こうは答える素振りを見せない。
ただ、静かにうごめいているだけなのである。
スエゾーの見たところ、裂け目の中にいるのはまるで虫のようであり、流石に草壁や長門ではなかろう。
気配を感じた時から少しばかり立ったが攻撃などはしてこない。
だが、攻撃をしてこないからといって、無害とも限らない。
スキを見せれば襲いかかってくるかもしれないし、主催者が用意した罠の可能性だってあるのだ。
何より部屋の暗さが手伝って、正体が掴みづらいのだ。
これらのことを踏まえて、スエゾーは警戒を一瞬でも怠るわけにはいかなかった。

しかし、相手が何もしてこないことも返って不気味だ。
何かを企んでいる可能性も十分ある。
そういうことから、スエゾーは逆に自分から相手を刺激して見ることにした。

「『ツバはき』!!」

スエゾーは口から唾の塊を、例の隙間に向けて放つ。
遠巻きから放ったため、何かの攻撃や罠があった場合でも、それなりに対処できるだろう。
ちなみに唾を吐いただけのようにも見えるが、これはれっきとした技である。
そして唾は壁に当たり、『何か』は反応を示した。


ぶわーーーっ!!


「うわあ!?」
「!!」

刺激したためか、黒い物体が隙間の中から物凄い勢いで飛び出し、滝が逆流するかの如く、上へと昇っていく。
それによる見た目のインパクトはスエゾーの神経を尖らせ、小トトロをびっくりさせるほどだった。

・・・・・・しかし、黒い『何か』はスエゾーたちを攻撃するでも無く、逃げるように裂け目から天井へと昇っていき・・・・・・やがて消えていった。

いや、一つだけ、『何か』が降りてきた。

「な、なんやコレ?」

『何か』は黒くて小さい、ケサランパサランのように毛むくじゃら、さらにつぶらな眼が二つついている、謎の物体あるいは生物だろうか?
それが重さを感じさせないように、ゆっくりと宙を漂うように降りていき、やがてスエゾーの足元の近くに落ちた。

「ほんと・・・・・・なんなんやコレは?」

うごめいていた『何か』の姿を確認したものの、その生物(?)の不可解さに余計に首傾げるスエゾー。
一見、害の無さそうな姿形から、こんな形状をしたモンスターがいただろうか、それとも異世界の生物なのだろうかと悩む。

634それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:12:09 ID:YrRABrO.

スエゾーが悩み出したすぐ後に、黒い物体は再び宙を漂いだし、スエゾーの下から逃げようとする。

「あっ、コラ待てやぁ!」

逃げようとする物体を、スエゾーは舌を伸ばし、巻き付けて捕まえる。
コレは草壁の表札がついた屋敷にいた、つまり、断定こそできないが、主催者たちと何か繋がりがあるかもしれない以上、スエゾーは見逃すわけにはいかなかった。

「・・・・・・オエッ。
 あんやホレ、アズ・・・・・・(なんやコレ、マズ・・・・・・)」

捕まえたは良かったが、物体が埃に似た味をだしていることを、スエゾーは舌を通して感じていた。
そこで一度、巻いていた舌を広げてみる。

「うわっ、舌が真っ黒や!?」

物体を捕らえていた部分が、ピンク色の舌を黒く染まっている。
さらに、例の物体までいずこへと消えていた。

「アイツはどこへ行ったんや?
 確かに捕まえたと思ったんに!」

捕まえた瞬間の感触はあったが、気がつくと物体は無くなっていた。
死んだのか?
どこかへとテレポートしたのか?
スエゾーにはわからない。
わからないことづくめの事態に、スエゾーは小トトロと一度眼を合わせるが、小トトロもまた首を傾げるだけであった。
ただ舌の上には苦い味が残っているだけである。

いつまでも呆けているわけにもいかないので、舌を口の中へしまい込んだスエゾーは、ペッペッと唾液と共に埃または灰のような汚れを吐き出し、一息つく。

「ふぅ・・・・・・」

一度、スエゾーは状況を整理してみる。
草壁の表札がついていたこの屋敷を見つけ、屋敷を隅々まで探索していった結果、さっきの黒いケサランパサランのような生物らしき物体を見つけた。
『物体』自身からは特に何も見つけられず、気配も完全に消えてしまったが、主催者と関わりがあるかもしれない屋敷見つけたという点は大きい、確かに何か秘密がありそうな可能性はあるのだ。
すなわち、屋敷とこの周囲を探索していく価値はあり、その内に討つべき主催者とあいまみえる可能性だってある。
スエゾーは、その可能性にかけてみたくなり、探索の続行を決意する。

「やっぱり、ここら辺には何かあるハズや。
もうちょい探り続けて見るで」

635それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:13:48 ID:YrRABrO.
探索を続ける道を選んだスエゾーは、一階へと降りる階段の近くへと移動する。

「この屋敷はあらかた調べ尽くしたし、次は外の方を探してみよかー」

この家で見つけられそうなものは、もうなさそうだと感じたスエゾーは、一路、家の周囲を調べる段階に移った。
そのためにまずは一階に移動するべく、階段を一段一段ずつしっぽで降りていく。


先を行くスエゾーに小トトロも小さな足でついていくが、何かに躓いて転んでしまう。
自力で床から立ち上がり、身体を打って痛かったのか少しウル目になりながら、自分を躓かせた原因の物を見る。

−−そこには、塊・・・・・・もっとも小トトロのサイズでの話だが、金属のような物があった。
これはなんだ? 小トトロは興味深そうにそれを拾う。
スエゾーのものらしき唾液がついているということは、スエゾーが捕まえようとした『黒い物体』−−・・・・・・いや小トトロは知っているかもしれないのでここでは『まっくろくろすけ』と言おう−−が持っていたのだろうか?
さらによく見ると、金属は機械のような物がついている。
・・・・・・こんな小さな機械は小トトロやスエゾーたちが元いた時代や世界では作成できないオーパーツだろう。
機械知識皆無の小トトロには、その価値や意味がまったくわからなかった。
だが、興味だけはあったため、小トトロは誰とも知れずその『金属のようなもの』を回収し、もふもふとした毛皮の中へしまい込んだ。


「小トトロー?
 何しとるんや、はよこんかい!」
「!」

一階では、中々降りてこない小トトロにスエゾーが催促をかける。
呼ばれた小トトロは、すぐに階段を降りていき、スエゾーを追いかける。

−−−−−−−−−−−

636それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:15:15 ID:YrRABrO.

家屋から出た二匹。
今度は家屋の周囲を調べてみるべく、探索を開始する。

目の前に広がる夜の森。
静かで豊かな自然が広がっているが、さっきの黒い物体同様、何が飛び出すかさっぱりわからないので、スエゾーは今まで通り一つ眼を凝らして全周囲への警戒を怠らない。
・・・・・・しかし、スエゾーが注意をしていたのは、人物や罠に対するもの。

ドカッ
「痛ッ!」

−−まさか、『景色とぶつかる』など、スエゾーは思わなかっただろう。

「な・・・・・・ここに見えない壁でもあったんか?」

いきなり壁か何かにぶつかったスエゾーは、小トトロと共に目の前の景色へと注意を向ける。
そこで彼は、今まで気づかなかった景色への違和感に気づくことになる。

「・・・・・・おかしい、おかしいで、この真ん前にある景色は何かがおかしいで!」

上下左右を見回し、『見えない壁』を舌で舐めたりして、違和感の正体を探る。
わかったのは、この感覚をどこか別の場所で知っていること。
そしてスエゾーは、一つの答えに辿りつく。

「こりゃあ・・・・・・まるで、晶が扱っていたパソコンの画面とそっくりやないかい!!」

よく調べ、その質感を感じることで、ようやく『景色』の正体がわかった。
一見すると、景色の前に見えない壁があるだけのように見えるが、実際には壁の中に『景色がある』のだ。
詳しく述べると、画面の中に景色が映っている・・自然が広がる夜の森に見えたそれは、精巧な『映像』だったのだ。
晶や雨蜘蛛と共に、パソコンのディスプレイを見てきたスエゾーだからこそわかったことである。

自然の映像を映し出した非常に大きな画面が、スエゾーの目の前に壁としてたちはだかっている。
それだけではなく、一度、景色の正体を見破ったスエゾーは、感づき始めていた。
正面だけで無く、前後左右に映し出された遠くの景色は、全て巨大な画面に映し出された映像。
月夜を映す空すら、映像にしか思えなくなってきた。
ここは四方を画面に囲まれた大きな部屋であり、そこに家屋や草や木を置いてあるのではないか。
頭が良い方では無いスエゾーにも、なんとなくそれがわかるような気がしていた。

637それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:17:49 ID:YrRABrO.
「ワケがわからへん・・・・・・こりゃあ一体・・・・・・」

スエゾーとしては、疑問に思うこと、ツッコミたいことが山ほどある。
なんでわざわざ景色を映した画面に囲まれた部屋を作り、その中に人が住めそうな家屋を用意したのか。
虚像に囲まれた部屋に意味はあるのか?
映像を使ってまで自然を再現するぐらいなら、普通の自然の中に家を建てた方が早いんじゃないだろうか。
そもそも、どうやってこんな箱庭を作りあげたのだろうか?

「アカン、考えだしたら余計に混乱してきてもうたわ・・・・・・」


わからない以上、意味や理屈を考えた所で答えは導き出せない。
元々、常識的にも人物的にも、不可解さや理不尽さを持つ敵なので理解しようとするだけ無駄だろう。
あまり、深くは考えず、敵はこんなものを作り出せる凄い奴らなんだ、と頭に入れておけば良い。
それが驚きと戸惑いを隠せないスエゾーの結論となった。

この空間の景色は、映像で作られていることは理解した。
いちおう、探索は進んだことになるんだろう。
その空間の中で、まだ探せるものはないかとスエゾーと小トトロは、自然の映る壁を伝い、草を掻き分けながら移動する。

すると、スエゾーと小トトロは、また何かを発見することになる。

638それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:18:36 ID:YrRABrO.
「今度はなんや? こんな所に木の棒が立ってるで?」

進んだ先には、スエゾーが言った通りに、細長い木製の角材が立っていた。
ただ、木の棒が突っ立っててあるだけにも見えるが、この空間の中で不思議なものを見てきたスエゾーには、それも何か秘密がありそうに見えるのだ。

「おっ、やっぱり何かあるで〜」

木の棒が刺さっている下を見てみると、何かを埋めたように、地面が盛り上がっていた。

「よし、掘ってみるで」

また主催者に関わる物が発見できるんじゃないかと、興味が湧いたスエゾーは埋められた部分を掘り返してみることにした。
腕の無いスエゾーは、しっぽを使って器用に掘り進んでいく・・・・・・


−−−−−−−−−−−

639それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:19:30 ID:YrRABrO.

スエゾーが地面を掘り、埋められていた物が顔を出した。


「な、な、な・・・・・・」
「・・・・・・!!」

だが、さっきまで興味を持って掘る作業をしていたスエゾーは一つ眼を丸くして動揺している。
言葉を出そうとしているが、呂律が回らず、上手く捻り出せない。
スエゾーと同じく、小トトロもガタガタと震えている。
彼らの目線の先には何があるのか?
その答えは、ようやく具体的な言葉を捻り出せるようになったスエゾーが語ってくれる。


「−−なんでコイツが、 草 壁 タ ツ オ がこんなところにおるんねん!?」


スエゾーの驚愕。
掘り返した結果、現れた物は一つの死体。
そう、木の棒が建てられていたその場所は墓だったのだ。

問題なのは、そこが墓だったことではなく、墓を暴いて見つけた死体である。
どこにでもいそうな平凡そうな成人男性の顔つき、それはゲーム開始時に見た草壁タツオそのものだった。
違いと言えば、死んでからそれなりに時間が立っているのか、肌には血の気が抜け白く、酷く腐敗臭がすること。
そして表情は、放送の時の、人の命を弄ぶこのゲームを、楽しそうに笑っていた顔ではなく、化け物にでも襲われたように苦悶に満ちていた。
骸に多少の差異はあったが、原形はほとんど留めていたため、それが草壁タツオだとスエゾーにはわかった。

−−だが、これが草壁タツオだとしたら、大きな疑問が残る。
繰り返すが、この死体は外見上、どう見ても草壁タツオのものだ。
ならば、長門有希といざこざでもあって殺されのかと言うと、それも違うだろう。
スエゾーに医学知識は無いが、死体の状態からして、だいぶ前に殺されたことぐらいはわかる。
さっきまで参加者に、放送を通して元気な姿を晒していたのに、死んだとはいえ、小一時間程度で鼻をつくほどの腐臭はしない。

640それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:21:06 ID:YrRABrO.
・・・・・・だとすれば、今まで草壁タツオだと思っていた人物は誰なのか?
主催者として放送をしていた草壁タツオと、ここで死んでいた草壁タツオは別人だとしたら、不可解さを通りこして不気味な話である。
まるで、亡霊を相手にしているようではないか。
途端に、主催者・草壁タツオの存在がスエゾーの中で得体のしれないものとなり、何がどうなっているのかわからないことに対してスエゾーは混乱せざるおえなかった・・・・・・








「−−そこで何をしているんだい」
「!!」

背後から突然、聞き覚えのある男の声が聞こえた。
とても混乱しているさなかで、今、その存在について考えていた者に声をかけられ、スエゾーと小トトロは心臓を跳ね上がらせる。
二匹は、背後にいる者の正体を確かめるべく後ろを振り向く。

「草壁・・・・・・タツオ!!」
「やぁ、こんばんわ、スエゾー君に小トトロ君」

背後にいた者は主催者の一人・草壁タツオだった。
驚くスエゾーと小トトロとは対象的に、まるで友人に挨拶するかの如く、フレンドリーな態度と姿勢でタツオは二匹に接してきた。
されど、口は笑っていても、眼鏡のレンズが光ってその先にある二つの眼がどんな形をしているかわからず、表情は窺い知れない。

(さっきまで気配はなかったんに・・・・・・コイツはほんまに幽霊か何かなんか!?)

タツオが現れたこと自体にも不可解な点があり、声をかけてくるまでは気配などなかった。
テレポートでもしてきたのかのように現れたのだ。
印象としては、パッと現れたと言うよりは、闇の中からヌルリと現れたようだが。
それが余計にスエゾーを混乱させ、不気味さに恐怖すら覚えさせる。

一先ず、スエゾーはタツオへ問い掛ける。
答えを求めているというよりは、率直な気持ちを吐き出すように。

「こ、・・・・・・ここで死んでいるヤツはなんなんや!?」
「・・・・・・」

土の中に埋まっていたタツオとそっくりの死体について問う。
しかし、タツオは微笑み面のまま、答えない。
確かな不安を感じつつ、スエゾーは問い続ける。

641それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:22:36 ID:YrRABrO.

「今、ワイの目の前におるオマエは・・・・・・いったいなにもんなんや!」
「・・・・・・」

それでも、タツオは微笑み面のまま、答えない。
スエゾーは不安を募らせ、表情にも現れはじめる。

「答えろやぁ!!」

今度は語気を強くするが、そしてようやく、タツオは微笑み面で答える。
だがそれは、スエゾーの疑念に対する答えではなく、解答拒否だった。

「残念だけど答える気にはならないね。
 −−今から死んでいく君には」
「・・・・・・ぐっ」
「長門君と一緒に見ていたよ、君が僕たちを叩くために転移できる技を使った瞬間をね。
 『制限』をかけていたから、どうせ僕らの元へは辿りつけないと思っていたけど、会場を捜してみても君はどこにもいなかった。
 まさか、本当に『制限』を打ち破ってここに辿りついたとは思わなかったよ。
 スエゾー君の力を過小評価しすぎてたみたいだ、いやぁ〜失敬失敬、はっはっはっはっは」
「な、何をワケわからんことを言っとるねん!」

あくまで放送していた時と同じ飄々とした態度で物を言うタツオ。
人を小ばかにしたようなその態度がスエゾーのカンに障る。

「・・・・・・だけど、ルール違反には違いないよ。
 君は僕たちへの反抗を企て、テレポートを使ってそれを実行しようとしたんだからね。
 あぁ残念だ、楽しませてもらったのに、ここで殺してしまわないといけないなんてね」

態度やノリは呑気で軽いが、銃口を向け、冷たい空気を辺りに呼び込むように、スエゾーに死刑を宣告する。

一方でスエゾーは、タツオ放つ不気味な雰囲気、さらにその存在自体への不可解さに闘志を鈍らせ始めていた。
生物は正体のわからない敵には本能的に恐怖を感じるようにできている。
スエゾーもまた、タツオの得体の知れなさに、少なからず恐怖を感じているのだ。

(結局、ワイが今、敵にまわしているコイツはなにもんなんや?
 そもそもコイツはホンマに『草壁タツオ』なんか?
 見た目は人間やが、実はトンでもない化け物とちゃうんか!?
 わからへん・・・・・・コイツの正体も、コイツの力も、コイツに勝てるのかも・・・・・・)

やがて草壁タツオが恐ろしいものに見え、プレッシャーは加速していく。

642それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:23:51 ID:YrRABrO.


ところが、スエゾーは恐怖一つで戦いをやめてしまうほど、ヤワなモンスターではない。

(・・・・・・わからないならそれでもええ。
 最初からワイは知るためにここへきたんやない、戦うためにここへきたんや!!)

一時は曇っていた眼にはすぐに闘志が戻り、戦う態勢を整えるべく身構えると、スエゾーは不適に笑う。

「おや?
 武器も無しに僕と戦うつもりなのかい?」
「おう!
 てめーみたいなヒョロくさい眼鏡野郎をシバき倒すには、素手で十分やねん!!」

タツオを相手にスエゾーは挑発をする。
そんなスエゾーを見て、小トトロは小さな身体で足を引っ張ってスエゾーを止めようとする。

「どうやら、彼は力量の差ってものがわかっているみたいだね」

小トトロはスエゾーとは違い、タツオの存在を臆し続けているのだ。
タツオはそれを見抜き、嘲笑っている。

「どけ!! 小トトロ!!」

小トトロがスエゾーを止めようとしているのは、単なる臆病かもしれないし、仲間が殺されるのを嫌う優しさからかもしれない。
どっちにしても、スエゾーには邪魔でしかなかった。
だから、小トトロを怒鳴りつけ厳しくあたり、邪魔させないようにする。
スエゾーの目論み通り、気迫に負けた小トトロはスエゾーとタツオの戦いを、第三者として傍観できる場所まで離れた。
止められない戦いを見守る立場に徹したようだ。

「さぁ、邪魔者はもういないで!」
「う〜ん、彼は賢明だったと思うんだけどなぁ〜。
 でもまぁ、それでも君の死は決定なんだよね。 ああ、素直にこのゲームに乗って優勝すれば、友達を生き返らせることもできたかもしれないのに・・・・・・勿体ない勿体ない」
「クサレ外道どもの思惑に乗って、殺し合いに乗るほどスエゾー様は落ちぶれちゃあらへんで!!」

スエゾーの怒りに触れてもなお、人を馬鹿にしたような皮肉を言うタツオ。
スエゾーの怒りのボルテージは上昇していき、同時に身体は桜色のオーラに包まれていく・・・・・・
それをタツオは興味深そうに眺める。

「それはガッツというものだね、つくづく君は面白いものを見せてくれるよ。
 だから−−」

タツオは懐から銃を取り出すと、ニッコリと微笑みながら銃口をスエゾーに向ける。

643それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:24:34 ID:YrRABrO.

「−−わざわざここまできてくれた君に敬意を払って、僕が直接殺してあげるよ」

首輪を使えばスエゾーを液体と化させ、いとも簡単に殺すことができる。
ただただ、自分の怒りに動じた気配もない、タツオの余裕がスエゾーには気に入らなかった。
また、その余裕に付け込んで一気に叩きのめせるチャンスであるとも感じていた。

「本当に良いんやな?  首輪をつこうて殺さなかったことを後悔させたるで!」

主催者が首輪を使わずに戦おうとしてくれることにより、同じ土俵に立てると意気込むスエゾー。
だが、彼は知らない。
タツオの持つ銃が絶対に狙いを外さない銃であること、それだけなく、まだまだ未知の能力があるかもしれないこと。
能力だけでなく、最後までタツオの正体もわからなかった。
しかし、実力を知っていたとしても、例え自分よりも実力が上だとしても、タツオの正体が想像を絶するものだとしても、彼は戦うのだろう。
スエゾーを突き動かすのは桜色の怒り。
失った親友たちのために・自分の心の在り方のために敵を叩きのめし、この馬鹿げたゲームを開いたことに対して謝罪をさせる。
そのために、後先のことや自分が負ける可能性はあえて考えない。
某二等兵のような投げやりな考えではなく、不器用な男なりの不器用な戦い方であり、覚悟でもあるのだ。
故に今は戦うことだけに集中する。

644それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:25:44 ID:YrRABrO.

(相手がどんなヤツだろうがワイはただ、うつべし・打つべし・討つべしや!!
 ホリィ、モッチー、ゲンキ・・・・・・きっと勝ってみせるからな)

心の中で自分を奮いたたせ、あの世で見守っているであろう仲間へ勝利を約束する。
ガッツも身体をまわりきり、肉体も精神も戦う準備は万端だ。

「小トトロ・・・・・・」

もうすぐ、いつでも戦いが始まりかねない緊張の中で、スエゾーは最後に小トトロに声をかける。
小トトロは、闘志と怒りで燃えているスエゾーと眼を合わせる。

「よ〜く、見とれよ」

小トトロと眼を合わせつつ、スエゾーはしっぽに力を込めていく。

「これが!」

しっぽだけではなく、声も大きく張り上げることによって気合いを充填。

「漢の!!」

瞬時に視線を小トトロからタツオへと移す。

「闘いやあああああああああああああああ!!!」

腹から出した大きな声とともに、力を溜めていた足をバネのようにして、タツオに飛び掛かる!!


ここに、スエゾーと草壁タツオの戦いは切って落とされた!!

645それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:29:41 ID:YrRABrO.

「主催者への明確な反抗を確認、首輪を用いての排除を開始」
ピッ



パシャッ



怒りと覚悟を込めて、飛び込んでいったスエゾーは、とある少女の声と共に、オレンジ色の液体−−LCLと化した。

それでもスエゾーとして形を象っていた頃の慣性は失われておらず、鉄砲水のようにタツオへと襲いかかっていく。
まるで、スエゾーの魂の如く・・・・・・

・・・・・・しかし、それもタツオの前に現れたバリアーのようなもの−−A.T.フィールドにより、一滴もタツオに届かないまま弾かれ、地面を濡らすだけに留まった。
まるで、無念のまま墜ちていく魂のように・・・・・・

こうして、漢の闘いは、終わった・・・・・・
いや、闘いにすらならず、意思も誓いも、一方的に踏みにじられただけだ。
第三者として小トトロの眼に映ったのは、無情と絶望だけ・・・・・・



【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜 死亡確認】


そして、いつの間にか、もう一人の主催者・長門が草壁タツオの隣に現れていた。


−−−−−−−−−−−

646それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:30:47 ID:YrRABrO.

「ちょっと長門君、せっかく良いところだったのに、割り込むなんて意地悪じゃないか」

顔と口調は穏やかだが、戦いの邪魔をされ、さぞかし不服そうに長門へ文句をつけるタツオ。

「本拠への侵入者は即排除が優先されている。
 私はこのゲームの管理者の一人として当然のことをしたまでに過ぎない。
 むしろ、今まで連絡を入れず、あまつさえ私闘をしようとしたあなたの方に問題がある」

長門はあくまで機械的に分析し、タツオの責任問題を述べる。
そのことをタツオも素直に受け入れたように、笑顔で謝罪をする。

「ごめんごめん、僕もついつい、悪ノリしちゃったみたいだ」
「以後気をつけるように」
「はい、反省するよ」

タツオは、本当に反省しているかどうかわからない軽いノリで長門に言葉を返す。

小トトロを涙を流しながら、物言わぬ液体と化した親友の下へと駆け寄り、どうにかして元に戻らないかと慌てふためいている。
その様子を見ながら、会話をかわす呑気なタツオと鉄面皮の長門。

「それにしても驚きだったねぇ〜。
 まさか制限を打ち破って自力で僕らの休憩室までこれる参加者がいたとはね〜」
「不確定要素『ヒノトリ』の力は、ゲーム開始前には解析不可能だったので仕方なかった。
 ヒノトリにより、力が制限を超過したのだろう、結果的にここへの空間転移を許してしまった」
「う〜ん、スエゾー君ってヤツは面白い奴だったね〜
 でも首輪であっさり死んじゃうのはがっかりだったなぁ〜」

獣に過ぎない小トトロには、主催者たちが何を言っているかさっぱりだったか、気にしてられるほど心に余裕はない。
今はただ、無念のまま散った友のために涙を流してあげたいのだ。

「だが、あなたのせいで、我々のゲーム運営に支障が出そうになった」
「別に僕は負けるつもりはなかったし、スエゾー君もちゃんと殺すつもりだったよ?」
「・・・・・・違う。
 スエゾーがもし、あなたと真正面から戦うことを選ばず、また空間転移を使って会場へ戻り、参加者に我々の内情を一言でも言えば、それだけでゲームに否定的な者が増え、最悪誰も殺し合いに乗らなくなる」
「誰も殺し合いに乗らないって言うのはいくらなんでも言い過ぎじゃないかい?」
「可能性はなくはない・・・・・・それに」

647それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:32:06 ID:YrRABrO.
長門がタツオを見つめる。
その瞳は睨みつけているようにも見えなくはない。

「あなたはいい加減で、非効率的な面が目立つ。
 この待機室をこんな風に飾る必要も無い、『草壁タツオ』の死体の処分も墓など建てる必要も無いのに建てた。
 スエゾーに関しても同じく、自分が愉しむために途中までわざと泳がせていたようにしか思えない。
 私に会場の監視を任せて、侵入者の排除に行ったと思ったら、勝手に私闘をする始末。
 内情に触れる参加者がいなかった今までは進言しなかったが、今は言わせてもらう」
「アバウトな点はオリジナル譲りだから許してくれない・・・・・・かなぁ?」
「今後は、その性格でゲームの運営に支障が出さないで欲しい。
 あなたは本来、表面上だけで『草壁タツオ』を装えば良いのだから」
「はいはい」

タツオのアバウトな返答を皮切りに話は別の段階に移る。
二人の視線が小トトロへと向けられる。

「ところで小さい彼の処分はどうするんだい?」

ピクリと、視線と言葉の意味に気づいた小トトロの身体が硬直する。

「小トトロは、生物とはいえ支給品扱い。
 参加者とは違う適切な処分は送還、または我々が所持することにあると思われる」
「それもそうだねぇ、でも・・・・・・」

勇気を持って振り返った小トトロは銃口を向けられることに気づく。
小さな身体が恐怖でガタガタと震え冷や汗がとめどなく流れる。
さっさと逃げ出したいのに、腰が抜けて思うように逃げられない。
本能までがタツオの弾丸からは逃げられず、死は目前まで迫っていることを悟り、「諦めろ」とすら言っているようだった。

「どうせだったら、スエゾー君と同じく反抗を企てていそうな晶君たちへのみせしめとして、小さな彼を無惨な姿で送還しようと思うんだ」

恐ろしいことを微笑みながら、さらっと言うタツオ。
口調は軽いが、向けられた銃口と空気は重い。

「だめ、私たちは必要以上に参加者たちへ介入するべきでは無い」

怯える小トトロに救いの手が差し延べられた。
差し延べたのは皮肉にも、親友を殺した長門。

648それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:33:01 ID:YrRABrO.
「わかってないなぁ、これはゲームに乗ろうとしない全ての者への懲罰なんだよ?
 ただ単に、僕らの強さを見せつけるんじゃなくて、殺し合いに乗った方がより効率的に生を手にできるってことを教えてあげるんだよ。
 それに、まだ5時間近く後にある放送よりも、見せしめはすぐに見せて、できるだけ残酷な仕打ちを加えた方が効果があるんじゃないかい?
 キョン君のようにアメを与えてばかりじゃなくて、たまにはムチも与えないと殺し合いは停滞してしまうよ?」
「・・・・・・」

タツオが一言何か言う度に、心臓が止まりそうになる。
長門の沈黙が怖い。
息がつまるどころが、息が止まりそうな恐怖の中、小トトロは長門の慈悲を信じるしかなかった。




「ゲームの停止はさせるべきではない、懲罰なら仕方ない、支給品なら問題ない。
 ゲームの運営のために必要ならば、やらぬべきでは無い」


希望を打ち砕かれた小トトロの肉体を、無慈悲な弾丸が貫いた−−



−−−−−−−−−−−

649それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:34:51 ID:YrRABrO.


長門が次元間の穴らしき物を開く。
きっと、それは会場に繋がっているのだろう。

「これより送還を開始する」

長門の足元には、スエゾーの首輪と小さな小さな麻袋。
ともに、入ってはいけない領域に踏みいってしまった者の成れの果てである。
それを長門は拾い、穴の中へと放り込む。

「送還完了」

ひとこと言うと、次元の穴は閉じ、作業が終わる。
その周りにはタツオが、なにやら楽しそうにニコニコ笑っている。

「これを見た晶君と雨蜘蛛君がどんな反応をするか楽しみだよ〜!」

同行者たちはどんな顔をするだろうか。
そんなことを思い浮かべて楽しめるのは真っ当な感性の持ち主では理解できないだろう。
はしゃぐタツオとは対象的に、長門は何の感情も抱いておらず、あくまで事務的に行動する。

「私は待機室の修復作業をする、あなたには引き続き会場の監視を任せる」
「わかった!
 この気持ち、最近の若者の言葉で言うなら、wksk・・・・・・じゃなくてwktkって奴かな長門君?
 ああ、とってもとっても楽しみだ!
 では早速モニタールームへレッツラゴー!」

悲劇を、今から好きなアニメでも見る子供のようにワクワクしながらタツオはどこかへと消えていった。


長門は、そんなタツオを見送り、スエゾーに荒らされた休憩室または待機室の修復に移る前に、地面の上に浮いているスエゾーのLCLを見る。

「あなたは己の感情に負けて、反抗する時期を見誤った。
 もっと大局を見なかった結果、己を滅ぼし、同行者を悲惨な合わせ、さらに別の同行者まで精神的な負荷を加えようとしている」

誰に言うでもなく、返事などしないLCLを見ながら、ぶつぶつと長門は一人語る。

「こうなったのはあなた自身のせい、あなた自身の責任、あなたが悪い・・・・・・でも−−」

ふと、上から見下ろすようにLCLを見ていた長門がしゃがみ込み、そして、

「−−ごめんなさい」

ただ一言、謝った。
顔は相変わらずの無表情だったが、醸し出す雰囲気に、さっきの機械のような色はなくなっていた。
少なくとも、その一瞬だけは・・・・・・


−−−−−−−−−−−

650それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:35:42 ID:YrRABrO.


場所は変わって、会場に設置された博物館。
スエゾーと小トトロがテレポートする前にいた場所。
その入口のど真ん中には、麻袋と首輪が置かれている。

突如、麻袋がもぞもぞと動き出し−−中から現れたのは小トトロであった。
そう、小トトロは生かされていたのだ。

タツオの良心が働いたのか、武士の情けをかけられたのか−−そんな理由ではない。
麻袋から出た小トトロを見てみると、白い毛皮は所々が血で汚れ、今もまだ腹の辺りから出血している。
つまり小トトロは瀕死の身体のまま、返されたのだった。

出血の度に失われていく自分の命、断続的に続く撃たれた腹の痛み、主催者への恐怖が小トトロへ襲いかかってくる。
これだったら殺した方が慈悲と言えるくらいの仕打ちを、小トトロをその身に受け続けているのだ。
なんのために?
小トトロが一秒でも多く苦しむほど、悲劇性が増すからだろう。
それをタツオが愉しむためか、主催者に抗おうとする者たちの感情を揺さぶるには死体より瀕死体の方が効果があるとでも思ったのか。
いずれしろ、残虐極まりないことに変わりない。

小トトロ自身もまた、このままでは助からないと自覚しているためか、床に血を垂らしながら晶と雨蜘蛛がいるであろう部屋へと向かう。
一秒でも早くそこへ辿りつき、二人に助けてもらわねば生きる道はないだろう。

同時に、心は主催者二人への恐怖心に支配され、あの二人には何をしても勝てないような絶望感に支配される。
親友をあっさりと殺され、凶弾を受けた身であるからこそ、そう思えるのかもしれない。
何より彼は獣、ひょっとしたら本能的な面でも恐怖を刷り込まれてもおかしくはない。
ゆえに、今は心の寄りどころでもある仲間に会うことしか頭にない。

スエゾーの形見である首輪も入口に置き去りにしてきた・・・・・・仕方ないことだ。

自分の毛皮の中には、まっくろくろすけから拾った小さな『金属のようなもの』が張り付いたままであることも忘れている・・・・・・仕方がないことだ。

651それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:39:36 ID:YrRABrO.
【H−8 一日目・夜】

※小トトロの状態は以下の通りです。
・腹部に銃創、出血、主催者への恐怖心。
・『金属のようなもの』所持(忘れている)。
・晶や雨蜘蛛に会って助けてもらおうとしています。

※まっくろくろすけから入手した『金属のようなもの』がなんなのかは次の書き手さんにお任せします。
※まっくろくろすけに何の意味があるかは、次の書き手さんにお任せします。
※草壁タツオの死体を発見しました。主催者をしている草壁タツオは、『草壁タツオ』の偽者のようです。

652 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:45:38 ID:YrRABrO.
これにて投下終了です。
主催者に大きく触れる内容であり、可能な限り議論チャットの内容から外れないように書いたつもりですが、正直、これで良いのか自信がありません。
以前のチャットに参加していた書き手様方の意見が欲しいです。
ご指摘等お願いします。

653Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:35:59 ID:HUBhMMTs



空気というものはここまで変わるものなのか。
何故人はこうも容易く苛立ちや暴力的衝動に流されるのか。

(それはヒトの宿命、陳腐かつ永遠の課題)

今回のケースも同様だ。
ほんの数十分前、和気藹々とピザを囲んでいた雰囲気は既に無い。
顔ぶれも変わった、二匹の消失とその後の軋轢は大きな負の遺産を生み出した。
きっかけは放送、しかし始まりが何であれ分裂という最悪の結果を選択したのは紛れも無く彼ら自身であった。

先程の結束は砂のお城だったのか、仮初めの形だけの存在だったのか。
だとすれば崩れるのは当然の成り行き、やがては跡形も無く平らに戻る。
しかし時には固く締まりそのまま岩と化す事も起こりえる。

ただ見守ろう、崩れた城の行く末を。

―――残骸は、まだ辛うじて形を保っていた



『第一幕:仮面劇』


重厚な博物館の奥の院、そこにあるのは島を繋ぐ端末の一つ。
残された者はただ黙って画面の動画を眺めていた。

深町晶と雨蜘蛛、生まれも育ちも正逆の二人は先程から一言も言葉を交わしてない。
特に晶は雨蜘蛛の方を見ようともしない、時折肩を震わせるのは尚も感情を抑えきれない為か。
対する雨蜘蛛は静かだった、まるで柳のように向けられる感情を受け流している。

今再生されているのは『森のリング』の記録だった。
されど続くのは森に開けた芝生の光景、時々聞こえてくるのは小鳥のさえずり。
まるで環境ビデオを思わせる癒しの世界、肝心のイベントはまだ先らしい。

早送りするか、と雨蜘蛛がマウスに手を伸ばす。
だがポインタを合わせて後はクリックという状態でその動きが止まる。
代わりに空いている掌が画面の前で上げ下げされた。

―――コイツ、全然前を見てやがらねえな

腕を払いのけも抗議も発しないガイバーの反応に雨蜘蛛は確信する。
これから見るシーンに晶の知識が必要にならないとも限らない、世話を焼かせるなと苛立ちつつマウスから手を離す。
いつまで女みたいにウジウジしてやがんだ、と怒鳴りかけたその瞬間、

「……便利過ぎるんです」

いきなり晶が声を発した。
搾り出されたのは彼の中をずっと駆け巡っていた疑問。

654Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:37:16 ID:HUBhMMTs

”スエゾーは何故テレポートが出来たのか?”

主催者への苛立ちも含まれていた、もしテレポートが完全禁止されていたのならばスエゾーが死地に向かう事も無かったのだ。
ガイバーの制限に悩み、一方で仲間の能力を制限しろとは何とも理不尽な話だがそう思いたくもなるものだ。

「俺のガイバーは空を飛んだり壁を砕いたりと強力に見えますが……本来よりかなり力が抑えられてます。
 理由はいろいろ考えられますが、反逆を抑える目的があるだろうって事ぐらいは俺にだって判ります!」

晶は勢いのまま喋り続ける。
この怒りや訳のわからない現象をどうしても胸に溜めておけなかったのだ。
何故か雨蜘蛛は黙ったままだ、好きに吐かせて気が済むようにさせた方がやり易いという考えだろうか。

「それがさっき喚いてた制限って奴か? 俺にはそんな縛りは感じられないがな〜」

いや、雨蜘蛛も何の気まぐれか口を挟む。
それは独り言にみえて問い掛け、話を進める為の撒き餌だろうか?
そして晶には答えが想像できた、恐らくは雨蜘蛛も判っていて言わせようとしているのだろう。

「全員に同じ縛りがあるとは考えられません……ガイバーや恐らくギュオーのように強過ぎる道具、人物に限って制限されているんじゃないでしょうか」
「ま、それなら納得だわな。てぇ事は何だ? スエゾーの奴がテレポート出来たのはおかしいんじゃねえかって思ってんのかよ?」

晶は無言で頷いた、わだかまりは残っているが他の感情がそれを上回る程に強いのだ。
ここにきて雨蜘蛛も晶が焦った理由に気付く、制限の存在とテレポートへの影響、そのまま聞き流すには惜しいと男は考える。
映像に未だ人影は現れない、視線だけは前を見ながら男達の話は続く。

「確かにね〜、居所のわからない連中の元へ行き来できるような能力が使えるなんざ不自然だわな」

スエゾーや小トトロの生死など雨蜘蛛にとってはどうでも良い、しかし主催者がそのような抜け道を許すかどうかについては関心がある。
晶のガス抜きも兼ねて男は付き合う気分になる。

「考えられるケースは二つ……狙い通り主催者の元へ飛べたか、それ以外の場所に行ってしまったかです」
「前者なら成功だがまず帰ってこれねえわな、後者なら何処まで飛んだのかって問題だわな〜。禁止エリアなんつー可能性もあるんだよな〜」

心から心配そうに語る晶に雨蜘蛛は茶化す。
晶は突っかかる気にもなれなかった、心配の余りギュッと拳を握り締める。

「閑話休題だ。こっちもようやくお出ましだぜ〜、見れば懐かしい顔じゃねえか」

ここにきて画面にも変化が訪れた、初めて見る蛇の怪物と二人にも見覚えのある0号ガイバーが現れたのだ。
その指が揃っているのを見て雨蜘蛛は一人ほくそ笑む。

一端会話が途切れるが様子がおかしい。会話の内容や立ち振る舞いからして彼らは主従関係と直ぐに知れた。
仲間割れの様子も無い、だとすればリングで戦う相手は誰なのか?
その相手を待つ間に話の続きが行われる。

「ま、連中がよっぽどのマヌケでも無い限り懐に入り込むのを許す筈が無いよなぁ。今頃奴はどっかで悔しがってるんじゃねぇのか〜」
「……むしろその方が良いです、少しでもスエゾー達が無事でいられる可能性が有るのなら」

雨蜘蛛の言う通りだ、贔屓目に見てもスエゾーが本当に敵の本拠地に飛び込めた可能性は低いだろうと晶も思う。
それがどれ程無念だろうが生きててさえくれればきっとチャンスは来る、そう信じている。

655Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:37:46 ID:HUBhMMTs

―――だとすればスエゾーは何処に行ってしまったのか?

晶は腕を組み、冷えてきた頭で考える。
これは制限から推測するしか無い、まず既知の例を挙げてみる。
ガイバーに掛かっているそれは『威力、出力の制限』と『回復力、消耗度の悪化』、いずれも身をもって経験した事だ。
テレポートに当て嵌めれば前者は移動距離の制限、後者はより疲労するという事だろう。

その場合許される距離が問題だが島の端から端まで移動できるとは思えない。
数エリア、いや一エリアに抑えられても厳しすぎる事は無い。
連続使用も難しい筈だ、便利さを考えればマラソン並みの消耗を課されてもおかしくない。

それならばスエゾーは案外近くに居るのではないか、長距離のテレポートが出来ないなら禁止エリアにも引っ掛からない筈だ。
待ってれば諦めて戻ってくるかもしれない。
そんな希望を抱きかけるがどうしても晶の胸からは不安が消えなかった。

「もしスエゾーが本当に連中の元へテレポートしていたとしたら……、そうじゃなくても未知の制限がかかっていて何か問題が……」

つい独り言のように呟いてしまう、何故だろうかこの胸騒ぎは。
恐らくスエゾーの気合の入れ方を見てしまったからだ、万が一制限の枠を超えたのだとしたら考察には何の意味も無くなる。
そう考えるとまた居ても立ってもいられない気持ちになる、これでは堂々巡りではないか。

「……静かにしろ晶」

突然冷たい声が掛かる、気が付けば雨蜘蛛が晶の腕を掴んでいた。
まるで氷に触れたように冷え冷えとした感触、感情さえも削ぎ落とされるような―――
思わず意地を張っていたのも忘れて雨蜘蛛に顔を向けて気付く、男は警戒態勢に入っていた。

一体何に気付いたのか、雨蜘蛛は銃を抜き扉の方を向いていた。
だが動画はそのままでボリュームも絞られていない、気付いた事を知らせない為だという事は晶にも判る。
晶もすぐ扉に向き直り警戒した、背後の音声が空しく二人の間を通り抜ける。

―――スエゾーが帰ってきたのか?

その可能性が真っ先に浮かんだ。
しかしそれなら一声ぐらい有ってもいいはず、落胆してるとしても主催者への罵りぐらいは言うだろう。
だとすれば―――敵か。

もはや二人に動画の事など頭に無い。
雨蜘蛛は銃を、晶はヘッドビームを何時でも撃てるように構えながら無言で入り口を注視する。

(スエゾー……でしょうか雨蜘蛛さん)
(俺に聞くな、ツラを拝めばすぐにわかる)

とん、と僅かに扉が揺れた。
間を置いてもう一度揺れる、先程より力が強くボールがぶつかったような音がした。
―――続けて間違いなくその向こうには何かがいる。

しかし数分経過しても扉は空かない。
襲撃ならとっくに済ませている筈、さすがに雨蜘蛛も不審に思う。
一つの可能性に気付いて晶が動く。

656Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:38:27 ID:HUBhMMTs

(もしかして誰かが助けを求めているのかもしれません、俺が行って開けてみます)
(声も出せない程重傷って訳か〜? お前さんの好きにしな)

都合良く自ら先鋒を買って出た晶の背後に雨蜘蛛は続く。
ドアノブに手を掛けて一気に開け放った次の瞬間、世界から時が消えた。

またしても空気が変わる。
鉛の様に重かった空気は凍えるように凍りつく。

誰も見ていない映像は尚も空しく流れ続けていた―――





『第二幕:罪と罰』




おお、何故我らはこれ程苦しまねばならぬのだろう。
因果はあるのか、我らが一体何をしたというのか、神は死んでしまったのか―――


晶の予感は当たっていた。
そこに居たものは確かに助けを求めていた。
『彼』が、声を出さなかったのもやはり体調が原因であった。

だが何故晶は『彼』を励ましたり手当てしようともしないのか。
何故これ程までに驚き、畏れ、立ちすくんでいるのか。
何が―――晶と雨蜘蛛の元へやって来たのか。

それは、来訪者を知っていたからこその反応。
それは、あまりにも予想だにしない展開だったからこその驚き。
静寂が、暫くの間続いた。

扉が開け放たれた途端、ゴロリと室内に転がり込んできた毛むくじゃらの存在。
蛍光灯の直下に晒された生き物の姿に晶のみならず銃口を突きつけた雨蜘蛛ですら絶句した。

『彼』がずりずりと床を這う。
やがて、ガイバーの脚に触れるとそれが何かを確かめるように肌を擦り付けてくる。
恐らくそれで理解できたのだろう、『彼』が上向くと混濁した単眼が晶を見上げた。

「ス……エゾー……? お前、なのか?」

震える手でその肌に触れる、斑に生えた毛の感触が感じられる。
そうであって欲しい、欲しくないとの相反する願いが晶の胸中で交錯する。

”スエゾーであって欲しい、また会えて良かった”
”スエゾーの筈が無い、こんな事ってあんまりだ”

彼もどう受け止めていいのかわからないのだ、あまりにも―――救いの無い結末に。

657Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:39:01 ID:HUBhMMTs

スエゾーがこんな姿をしている筈が無い、だって白い毛なんか生えてなかったじゃないか。
第一スエゾーは一つ目なんだ、確かに正面の眼は大きいけど脇に豆粒ぐらいの目玉が有る。
ほら、手だって付いている。変な位置に脚だって生えている。あいつはしっぽみたいな足しか無かった。
口だってこんな口唇裂みたいに裂けてないし……

そんな思いもプルプルと弱弱しい震えが伝わるとたちまちの内に瓦解した。
理屈でなく直感で理解する、『彼』は間違いなくスエゾーだと。
スエゾーと小トトロはやはり主催者の元へ飛べなかった、失敗して戻ってきた。


―――ひとつの身体に解け合って


晶は昔見た映画を思い出す。
『ザ・フライ』というタイトルのそれは科学者とハエがテレポーテレションの失敗で融合するというものだった。
人間の姿を失い、文字通りの化け物と化していくそれを見た時は面白さしか感じなかった。

だが、現実に起こったこれは面白さなど一片も存在しない。
晶自身まだ腕が震えている、あまりの辛さにスエゾーを直視すらできない。
それでも―――見なければならなかった。

眼と眼が遭う、まるで視線を感じない。
赤く濁り切ったそれは既に視力が失われていた、脇の小さな眼は本来小トトロのものだったのだろう。
晶や小トトロを気遣って元気付けてくれた口からは意味のある言葉一つ聞こえない。
いくら語りかけても返ってくるのはうーうーといううなり声のみだ。
融合で多くの器官が正常に機能を果たせなくなったのだろう、恐らく内臓にも重篤な疾患を抱えている。
時々苦しそうに身体を震わせるのがその証拠だ。

遺伝子が損傷した場合、多くの生物は短時間で死に至る。
それが胎児なら畸形として生まれてくる、今のスエゾーのように。

そして、生まれた直後に死んでしまう。
機能しない肉体は生命を維持出来ないのだ。
キメラと化したスエゾーはそれだけではない。

ある細胞は遺伝子の損傷で癌化、また別の細胞は増殖すらできず次々に壊死して腐ってゆく。
これが禁じられた力を使った報い、スエゾーに与えられた罰。

「あう……うううううううっ、あう……」

晶の腕の中で変わり果てたスエゾーが泣いている。
見えない巨眼から血交じりの涙を零し、先走った己の愚かさを悔いている。
自分の我が侭で小トトロをはじめ全員に迷惑を掛けたと今の彼にも解るのだろう。

晶には掛ける言葉が無かった、何を言っていいのか解らなかった。
ただガイバーの腕の中で抱きしめてやるぐらいしか出来なかった。
何時までそうしていたのだろう、気が付けば雨蜘蛛がリボルバーを晶に差し出していた。

658Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:39:32 ID:HUBhMMTs

「楽にしてやりな、晶。それがこの場合情けってものだぜ」
「……ッ!!」

怒りが込み上げて差し出された手を振り払う。
どうしてもそんな真似はしたくなかった。

「スエゾーは、スエゾーと小トトロは死なせません! 俺が必ず助けます!」

今度こそ譲るつもりは無かった。
何が出来るか解らないが絶対にスエゾーを救うと晶は決意する。
恩知らずと罵られようが構わない。

「てめぇはまだわからねえのか? そいつの苦しみを長引かせるだけだぜ〜?」
「……だとしても殺すなんて嫌です! スエゾーを治せる人だって何処かにいるかもしれない!!」

晶に引く様子が無い事を見て取った雨蜘蛛は自ら銃を向けた。
これ以上足を引っ張られたくない、さっさと片付けるとばかりに引き金を引きかけるが出来なかった。

ガイバーがビームを放ったのだ。
額の金属球から放たれたそれは雨蜘蛛の真横を掠めて壁を穿った。
狙いは威嚇だったが次がどうなるかはわからない。

一気にその場が緊張する。
このまま決裂に至ると思われたその時、またしても予想外の事態が起こる。
雨蜘蛛、スエゾーを抱えた晶と三角形を描く位置に一人の少女が出現した。

それは灰色の髪にセーラー服、その上にガーディガンを纏った小柄な少女。
名を長門有希、れっきとした主催者の一人が其処に居た。




『第三幕:救いと絶望』




「主催のガキ……!」
「長門! よくもスエゾーを!」

突然の乱入者に雨蜘蛛も晶も動きを止めざるを得なかった。
雨蜘蛛は放送で語っていた主催者の制裁を警戒し、晶はスエゾーを巻き込みたくないという思いが何よりも上回った。

対する長門は場違いな程涼しい顔をしている。
まるでケース越しに水族館を見るように、自分が安全圏に居る事を確信しているかのように。

「私は貴方達の邪魔をする気は無い、その人の事で来た」

彼女の視線は晶の腕の中に向けられていた。
雨蜘蛛も晶も他に心当たりが無い以上、それを素直に受け入れた。

659Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:40:03 ID:HUBhMMTs

「だったらさっさと済ませやがれ、言っとくが俺はそいつの行いには関わりがねえぜ〜」

雨蜘蛛は対象がスエゾーと知るや、銃を下ろして傍観の構えを見せる。
念の為自分がスエゾーの反抗とは無関係とアピールする事も忘れない。

「スエゾーを、これ以上スエゾーをどうするつもりなんだ!!」

晶はスエゾーを腕で隠し守りながら長門の意図を問い詰める。
戦闘や逃亡は選択出来なかった、この場でスエゾーを救えるとしたら敵である彼女しかいないと解っているのだ。
プライドもへったくれもなく頭を下げて救いを求めてもいいとさえ晶は思った。

長門はじっとしたままその場を動かなかった。
警戒する晶に対し静かにスエゾーの身に起こった事を説明する。

「彼のテレポートは本来禁則事項、まさかガッツの力で制限を打ち破るとは思わなかった」
「……やっぱり!」

やはり便利すぎる力は禁止されていたのだ。
その言い方から晶は今回の事が主催者にとってもイレギュラーなのだと気付く。

「でも彼の努力もそこまで、力で制限を破ろうとしてもその分大きな反動が返ってくる。
 一度素粒子に分解された彼と小トトロは本来の復元力が働かず混ざり合ってしまった」
「てな事は知らずに俺がテレポートさせてたら全員がミックスつー事かよ、やらなくて良かったわ〜」

長門の言葉に雨蜘蛛が安堵する。
逃がしたと思ったお宝能力は実はトンでもない爆弾とは何が幸いするか解らない。

「じ、じゃあのこの結果はお前達も望んじゃいないんだな!? だったらスエゾーと小トトロを助けてくれ!!」

一縷の望みを抱いて晶は頼んだ。
タツヲの正確からすれば参加者が戦わずに脱落する事は避けたい筈、予想外のトラブルが原因なら尚更だ。
スエゾーの意志はこの際関係ない、後で怒鳴られようと助けたい!

「貸して」
「お願い、します……」

迷ったが他に選択肢は無い、晶は断腸の思いでスエゾーを手渡した。
おいおい助けちまうのかよ、とその様子を見ていた雨蜘蛛からツッコミが入る。

しかし長門はじっとしたまま動かない。
スエゾーを抱えたまま晶と雨蜘蛛を交互に見た。

「ここからは彼だけと話を進める、貴方達にはその間眠ってもらう」

何一つリアクションする猶予は無かった、その言葉と同時に突然二人が床に沈む。
その意識が無い事を確認してようやくスエゾーの身体が輝きだした。
ガッツとは違う光、それは長門の全てを思うままにする力。

やがて―――コブから小さな塊が分離した。

660Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:40:35 ID:HUBhMMTs


晶は夢を見ていた。
いや、本当にこれは夢なのだろうか?

「はぁ、はぁ……」

もう何日歩き続けただろうか、少なくとも太陽が四回以上昇っただけは覚えている。
雲一つ無い大快晴の空から注ぐ灼熱の陽光。
風と共に舞う砂埃、乾ききった熱い風……

顔を上げると―――地の果てまでに砂が広がる世界であった。
ガイバーの内側が絶望に歪む、既に飢えと乾きは極限に達している。

苦しい。
なのに死ねない、ガイバーが死ぬ事を許さない。
そもそもこの状態が奇妙なのだ、飢え知らずのガイバーを殖装して苦しむなど。
これも制限なのか、と朦朧しながら晶は思った。

村上さんの事もスエゾーの事も遠い昔に思えてくる。
このまま見知らぬ砂漠で野たれ死ぬのか、と諦めかけた―――が踏みとどまる。

「こんな所で終わってたまるか……!」

必死に自分を鼓舞しながら蒸し釜の上を歩く歩く。
遠くには逃げ水が見えた、何度も追いかけては膝を突いたそれは死の淵で一層美味に見えた。

「み、ず……」

フラフラと手が伸びる。
それだけでも肉体は悲鳴を上げ、ゆっくりと意識が遠くなっていった―――



雨蜘蛛もまた見知らぬ世界で死の淵を足掻いていた。
男が気が付いた時には深い森、そこは血に飢えた猛獣、獣化兵の闊歩する修羅場であった。

「ちっ!! これで弾は残り一発……また死ぬのはおぢさんごめんだね〜」

マスクもコスチュームも既に無残な男が軽口を叩く。
だが覗いた素顔は蒼白だ、それは食い千切られた左腕の出血によるものだった。
もはや立ち上がるのも億劫だ、なのに全周囲からは獣の方向が迫っている。

事態を把握してから極力弾丸を温存し逃げに回っても結局は死ぬ―――これで5回目。
奴らはどんな手掛かりからも追ってきた、間も無く獣の群れが半死の身体を引き裂くだろう。

「嫌だね〜、どうせ死ぬならポックリといきたいわ〜」

ザッザッと足音が迫ってくる、今度はもっと上手く逃げてやると誓いながら雨蜘蛛は銃をこめかみに当てた銃を引いた。
瞬間、途切れる意識。
だが少しのまどろみも許されずに目が覚める。

そこは変わらず森の中、服も装備も全てが元通り。
獣の咆哮が聞こえるのも同じ―――

661Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:41:08 ID:HUBhMMTs


彼らの悪夢が続く間、長門の措置は終わっていた。
パタパタと跳ね回る小トトロ、キョロキョロと周囲を見渡すスエゾー。
そして―――無言で二匹を見詰める長門有希。

「オレは……助かったんか、ホンマに元に戻ったのか?」

スエゾーは暫く戸惑っていた状況を把握するにつれ喜びを露にした。

「ハッ、アハハハハハハ!!!!!! なんちゅーいい気分や! なあ小トトロもそう思うやろ!!」
(こくこく)

だがそれも長続きはしない、スエゾーはすぐに怒りに顔を歪ませて長門に向き直る。
小トトロはその迫力に押されるように後ろに下がった。

「言っとくがな……お前に感謝なんかこれっぽっちもせえへんで! そもそもオマイら無理矢理オレ達を連れてきたのが原因やないか!!」

ツバを吐きながらスエゾーは長門をさんざんに罵倒した。
あれだけの目に遭いながら反抗の意志は失われて無いらしい。
それでも、長門は鉄面皮のように表情を変えなかった。

「貴方への対応については私達の間でも判断が別れた。本人が無意識に制限を破った行為をどう裁くかが問題になった」
「ああ?! 何ゆーとんじゃ、ボケェ!! ゲンキ達に謝らんかい!!」

スエゾーは訳の解らない事を言い出した長門に耳を貸さなかった。
このまま謝らなければ噛み付いてやるわ、といつでも飛びかかれる体勢をとる。

「結果は有罪、貴方にはここで死んでもらう」
「その為にわざわざオレの事を戻したっちゅうわけか!! 上等や、お前らの好きにされてたまるかい! 返り討ちにしたるわ!!」

先手必勝とばかりにスエゾーが飛び掛る。
だが、その一撃が当たる事は無かった。

「何や!! 何処に行ったんや!!」

スエゾーが気付いた時長門は部屋の反対側にいた。
それはまさしくテレポート、完全にスエゾーのお株を奪われる。

「貴方の相手は、彼」

長門がバチンと指を鳴らす。
その瞬間、スエゾーの背後からブチブチという異音が発生した。
視界もいきなり暗くなる、まるで巨大な影に包まれたかのような―――

「な、何や! お前ら、小トトロに一体何をしたんや!?」

増大する質量、異常な速度で形成される筋骨隆々とした肉体。
四つの瞳に黒光りする鍵爪、その体躯は雪の様に白く―――とてつもない凶暴さを内に秘めている。

662Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:43:09 ID:HUBhMMTs

「し、小トトロ!! 気をしっかり持てや!! オレや! スエゾーや!!」

叫びながらスエゾーは既視感を覚えていた。
こんなモンスター見たことあらへんと思いながらやがては心当たりに辿り着く。
それはほんの数時間前、食料探しに博物館内部を巡っていた時にとある部屋で見た人形の姿。

「そ、そうや! あの展示品にソックリやないけ! 確か……エンザイムっつー名前やったで!!」

既にその姿はガイバーの体格を上回り、天井に届くまでになっていた。
スエゾーが最後にみたもの、それは視界を埋める巨獣の拳であった。




「う……ん、砂漠じゃない……俺は、戻れたのか?」

ぺちぺちと小トトロが顔を叩いている。
何かべっとりとしたものが顔に付いている。

晶は自分が博物館の硬い床に寝ている事に気付くとようやく悪夢からの帰還を悟った。

「スエゾー……? 雨蜘蛛さん……?」

まだ視界ははっきりとしない、寝ていた筈なのに身体もやけに疲労している。
どうやら長門は去ったらしい、小トトロが起こしてくれたという事はスエゾーも助かったのだろうか。

霧がかかったような視界を動かすと赤いシミのようなものが眼に留まった。
やがて視力が戻るに従い、そのシミが次第に輪郭を明瞭にする。
そして―――凄まじい血の臭いに気が付いた。

「あー……おじさん酷い夢みたよ〜」

雨蜘蛛も目を覚ましたらしく頭を抑えて起き上がる。
その声からするに晶に負けず劣らずの体験をしたらしい。

そこで雨蜘蛛は見た、壁を見て呆然と立つガイバーの姿を

壁は―――ある一点を中心に蜘蛛の巣のにようにひび割れが走っていた。
その一転は真っ赤で、今尚ボドボドと赤い液体を滴らせていた。
その直下に歪んだわっかが落ちていた。

破損しているが色形からして一目で首輪とわかる。


それは即ち、窪んだ穴にめり込んだ煎餅の様な肉塊が―――スエゾーである事を意味していた。

663Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:43:40 ID:HUBhMMTs


【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜 死亡確認】
【残り25人】



【H-8 博物館/一日目・夜】


【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:パソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロ達と情報交換する。
3:晶を利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)。出発は22時。
4:22時までは博物館で時間を潰す。
5:晶の怒りを上手く主催者側に向ける事で、殺し合いの打開の一手を模索する。
6:水野灌太と決着をつけたい。
7:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
8:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
9:キョンを利用する。
10:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。


【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。
※『主催者は首輪の作動に積極的ではない』と仮説を立てました。



【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(中)、強い自己嫌悪、主催者への強い怒り、雨蜘蛛に対して…?
【持ち物】 首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、デイパック(支給品一式)
      手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:スエゾー…小トトロ…無事でいてくれ…!!
2:ひとまずパソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロと情報交換。
3:22時に博物館を出発し、雨蜘蛛に同行する?
4:雨蜘蛛を受け入れて仲間にしたいが……
5:やはり、どうにかしてスエゾーと小トトロを探したい。だが……
6:もっと頭を使ったり用心深くなったりしないと……
7:巻島のような非情さがほしい……?
8:スエゾーの仲間(ハム)を探す。
9:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
10:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
11:巻き込まれた人たちを守る。


【備考】
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
  以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。
※雨蜘蛛から『主催者は首輪の作動に積極的ではない』という仮説を聞きました。

664 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:38:36 ID:7QWhozu2
修正部分をこちらに投下します

本スレ>>106
俺とスバルは元々一緒に行動をしていた、もとい、させられていたのだし、
ギュオーのおっさんを振り切ったあと偶然同じ方向に向かったとしても不自然じゃない。
あの真っ黒正義感がいないのをみるとはぐれたか、正義の味方よろしくおっさんの足止めに残ったと考えていいだろう。
さらに言えばスバルのヤツは俺を追ってきた可能性だっておおいにありえる。

この部分を

俺とスバルは元々一緒に行動をしていた、もとい、させられていたのだし、
ギュオーのおっさんを振り切ったあと偶然同じ方向に向かったとしても不自然じゃない。
あの真っ黒熱血漢がいないのはやっぱりあの時ギュオーのおっさんにやられちまったみたいだな。
偉そうなことを言ってた割にあっけないもんだな。ざまあみろ。
さらに言えばスバルのヤツは俺を追ってきた可能性だっておおいにありえる。

とします


以降、各人の状態表です

【G-2 温泉の外/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
1:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
2:スバル…すまん。
3:採掘場に行ってみる?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:ハルヒの死体がどうなったか気になる。
6:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。
※スバルの声は、精神的に不安定な状態にあったため聞き逃しました。
※今回「スバルを救う(歪んだ方向に)」という感情から一時的にガイバーの殖装が復活しました。以降どうなるかは分かりません。
※キョンがどちらへ向かうかは次の書き手さんにお任せします


【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。

665 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:39:18 ID:7QWhozu2
【G-2 温泉内部・脱衣所/一日目・夜】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(中)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、落胆
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、キョンくんのことにもっと気を配っていれば……。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。
※古泉がキョンとハルヒに宛てた手紙の内容を把握しました。
※スバルとキョンが同じ方角から来たことから、一度接触している可能性もあると考えています。
※キョンの記憶喪失については、一応嘘の可能性を考慮していますが、極力信じたいと思っています。

【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、身体全体に火傷、落胆
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
1、キョン殿のことは残念でありますが、スバル殿が無事で良かったであります。
2、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
3、タママやドロロと合流したい。
4、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
5、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、後でDVDも確認したい。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

666 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:39:55 ID:7QWhozu2
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(小)、魔力消費(特大)、失意
【装備】レイジングハート・エクセリオン(修復率70%)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【服装】浴衣+羽織(子供用・下着なし)
【持ち物】ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)、
     リインフォースⅡの白銀の剣十字
【思考】
0、もう迷わない。必ずこのゲームを止めてみせる!
1、スバルが無事で良かった…リインフォース……
2、冬月、ケロロと行動する。
3、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
4、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。
※リインからキョンが殺し合いに乗っていることとこれまでの顛末を聞きました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(回復中)、疲労(中)、魔力消費(大)、気絶、覚悟完了
【装備】 メリケンサック@キン肉マン、
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
     
【思考】
0:………………。
1:キョンが殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:何があっても、理想を貫く。
4:人殺しはしない。ヴィヴィオと合流する。
5:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
6:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7:中トトロを長門有希から取り戻す。
8:ノーヴェのことも気がかり。
9:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)


※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
 がトトロについていったか部屋に残ったかは後続の書き手さんにお任せします


以上になります。
修正が遅くなってすみません

667 ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:29:29 ID:Hjfhj94g
規制に巻き込まれてしまったので、こちらに投下します

668カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:30:31 ID:Hjfhj94g
F-5。この地に存在した神社は、今はリングへと姿を変えていた。
そしてそのリング上では現在、漆黒の姿を持つ戦士と漆黒の魂を持つ戦士が死闘を繰り広げている。
正義超人ウォーズマンと、獣神将リヒャルト・ギュオーである。


◇ ◇ ◇


「フハハハハハ!! どうした、ウォーズマン! このリングの上こそが、貴様のホームグラウンドではなかったのか!」
「クッ……」

序盤、試合のペースを握ったのはギュオーだった。彼は遠距離から重力指弾を連発し、ウォーズマンを近づけさせないという戦法を取ったのである。
超人レスラーとしてはオーソドックスなタイプであるウォーズマンは、遠距離から攻撃する術を持たない。
また威力よりも連射性を重視して出力を抑えているとはいえ、ギュオーの重力指弾はそれなりの威力。
被弾覚悟で無理に近づいて接近戦に持ち込むのも、得策とは言えない。
すなわち、現状ウォーズマンは手詰まりと言える状況であった。
しかしウォーズマンとて、「ファイティング・コンピューター」と呼ばれた男。いつまでも自分が不利な状況に甘んじているわけがない。
彼の明晰な頭脳は、すでにこの戦況の打開策を導き出していた。

(ロビンマスク……。あなたの策を使わせてもらうぞ!)

敬愛する師匠の教えを脳内に再生させながら、ウォーズマンは脚に込める力を強める。
そして、ある軌道に沿って走り始めた。

「ロビン戦法、円は直線を包む!」
「何ぃっ!」
『あーっと! ウォーズマン、ギュオーの周囲をグルグルと回り始めたー!』

そう、中トトロの解説の通り、ウォーズマンはギュオーを中心に円を描くようにして走っているのだ。
狙いを定めることが出来ず、ギュオーはわずかに狼狽の色を顔に浮かべる。

「ええい! この程度で私をかく乱できると思ったか!」

それでもギュオーは、すぐさま冷静さを取り戻す。だがそれまでのわずかな隙があれば、ウォーズマンが反撃の口火を切るのには充分であった。

『ウォーズマン、回転運動からドロップキックに移行だー! ギュオー、避けられない!
 ウォーズマンの両足がギュオーの胸板を捉えるー!』

ドロップキックの直撃をくらい、よろけるギュオー。そこにウォーズマンは、ナックルの連打を叩き込む。

『いった、いった、ウォーズマンがいったー!!』

興奮気味に中トトロがプラカードを掲げるが、いつまでもこんなワンサイドゲームを許すほどギュオーも貧弱な存在ではない。

「調子に乗るな!」

拳の雨の合間を縫い、ギュオーはおのれの右脚を振るってウォーズマンの左脚に叩きつけた。
その一撃でバランスを崩したウォーズマンに、さらに右の拳が叩き込まれる。

「グムッ!」

短い声と同時に、ウォーズマンの体が後方へと吹き飛ばされる。だが彼はすぐさま体勢を立て直し、両の足でマットを踏みしめた。

(なるほど……。やはり重力波による攻撃だけが頼りというわけではないか……。
 肉弾戦だけに限定しても、おそらくバッファローマンレベルかそれ以上のパワー……。
 正面からやり合っても分が悪いだろうな……)

攻撃を受けた箇所からは、強い痛みが発せられている。だがウォーズマンはその痛みに取り乱すことなく、冷静にギュオーの強さを測る物差しへと変える。

669カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:31:14 ID:Hjfhj94g
「何をぼさっとしているのだ! まだまだ決着はついていないぞ!」

分析を進めるウォーズマンに、ギュオーの重力指弾が襲いかかる。
だがウォーズマンは、大きく跳躍してそれを回避。
距離が空いたといっても、その距離は先程までと比べれば微々たるもの。
一回の跳躍で簡単に肉薄できる程度の間だ。
空中で大きく開脚したウォーズマンは、その脚でギュオーの顔を挟み込む。
そして体のひねりを利用して、ギュオーの巨体を投げ飛ばした。

『メキシコ殺法、コルバタが炸裂ーっ! しかしギュオー、平然と立ち上がります!』
「くだらん。こんなちゃちな投げ技で、私を倒せると思ったか!」

余裕の笑みさえ浮かべながら立ち上がったギュオーは、すぐさま反撃に移る。
しかしウォーズマンはその攻撃を軽々と回避し、逆にフロントスープレックスでギュオーを投げ飛ばした。
さらに、ウォーズマンの攻撃は止まらない。

『ボディースラム! サイドスープレックス! 一本背負い! ウォーズマンの投げ技が次々とギュオーに炸裂するー!』

しかしウォーズマンの猛攻も、ギュオーに致命的なダメージを与えるにはいたらない。

「効かぬと言っているのがわからんのか!」

連劇の隙を突き、ギュオーが再び攻勢に出る。
だがウォーズマンもギュオーの猛攻をしのぎつつ、打撃を繰り出しギュオーの手足にダメージを蓄積させていく。

「その程度か、ウォーズマン! そんな蚊の刺したような攻撃で、私に勝とうとは片腹痛いわ!」

自らの優勢を確信し、ギュオーは吠える。だが、ウォーズマンは焦らない。
なぜなら、ここまでの展開は全て彼の計算通りだからだ。
超人レスリングは、ただ大技を連発すればいいというものではない。
どんなに強力な必殺技も、相手が万全の状態では強い抵抗を受けその威力を最大限に発揮することは出来ない。
まずは小技を多用して相手の体力を削り、ここ一番でフィニッシュホールドを繰り出す。
これこそが超人レスリングの常道である。
今、ウォーズマンはそれを忠実に実践していた。すなわち一撃でギュオーを倒そうとするのではなく、ギュオーを消耗させることに専念しているのである。
だが、口で言うほどそれは簡単ではない。
ギュオーの攻撃力は、ウォーズマンを優に上回る。当たり所が悪ければ、一撃でK.Oもありうるだろう。
敵の体力を削りきる前に自分の体力が尽きてしまったのでは、笑い話にもならない。
相手の攻撃は直撃を許さず、こちらの攻撃は確実に当てる。それは技術的も精神的にも、非常に困難な戦略である。
しかし、ウォーズマンなら可能だ。正確無比なコンピューターの頭脳と、百戦錬磨の経験を併せ持つウォーズマンなら。
とは言っても、相手はこのバトルロワイアル内で屈指の戦闘力を持つギュオー。
一瞬の判断ミスがすぐさま敗北に繋がる、ウォーズマンの能力を持ってしても薄氷を踏むような戦いである。
だが、今のところ致命的なミスはない。ギュオーが圧倒しているように見えて、実際に場を支配しているのはウォーズマンである。

『あーっと! ギュオーの一瞬の隙を突いて、ウォーズマンがギュオーの首を捉えたー!
 そして、すぐさまフロントネック・チャンスリー・ドロップー!』
「ぐおっ!」

マットに叩きつけられ間の抜けた声を漏らすギュオーだが、すぐさま体勢を立て直して距離を取る。
だがウォーズマンもすぐさま距離を詰め、遠距離戦に持ち込むことを許さない。

(おのれ、たいした攻撃もできんくせにしぶといやつだ……。残された時間は決して多くないというのに!)

ギュオーは焦りを感じつつあった。このデスマッチには、偶然の産物とはいえ制限時間がもうけられている。
神社のあるF-5が禁止エリアに指定される19時までの間に決着がつかなければ、二人揃ってLCL化という結末が待っているのである。
いや、別のエリアに移動する時間を考えれば、試合時間はさらに短縮しなければならない。
戦いに勝ったのに死ぬなどという、間抜けな結末を迎えるのはごめんである。

(これ以上時間を浪費してたまるか……。プロレスごっこに付き合うのはもうおしまいだ!)

決着を急ぐギュオーは、拳を大きく振りかぶる。だがそれは、ウォーズマンに対してみせるにはあまりに大きな隙だった。

670カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:32:15 ID:Hjfhj94g
「もらった! マッハパルバライザー!」

ここぞとばかりに、ウォーズマンは温存していた大技を繰り出す。
高速回転しながらの突進により両の腕で相手の体を穿つ打撃技、マッハパルバライザー。
至近距離からの発動ゆえ充分に加速できず威力は半減しているが、カウンターで放ったがゆえにそれでも破壊力は充分。

「ぬあああああ!!」

攻撃のことしか考えていなかったためにバリアを張ることもままならず、胸を抉られたギュオーは苦悶の声をあげる。

(さあ、ここからは反撃の時間だ……。一気に勝負を決めさせてもらうぞ、ギュオー!)

痛みがギュオーを硬直させている間に、ウォーズマンは股抜きスライディングで相手の背後に廻る。
そしておのれの両手両足を全て使い、ギュオーの四肢をホールドした。

『こ、これはー! ウォーズマンの伝家の宝刀! 超人界の名門・ロビン一族に代々伝えられてきたとされる至高のサブミッション!
 パ ロ ・ ス ペ シ ャ ル だ ー!!』

興奮気味の中トトロの前で、ウォーズマンは容赦なく両手両足に込める力を強めていく。

「貴様相手に、ギブアップに追い込もうなどという中途半端な心構えは命取りになる。
 ギュオー、貴様の手足を破壊させてもらうぞ!」
『パロ・スペシャルが、さらにギュオーの体に食い込んでいくー! これはウォーズマンの勝利も時間の問題かー!』
「脱出しようとしても無駄だぞ。このパロ・スペシャルは、別名『アリ地獄ホールド』と呼ばれている。
 抜け出そうともがけばもがくほど、技はさらに極まっていくのだ!」

ウォーズマンの言葉を証明するように、彼の手足はさらにギュオーの体を締め付けていく。
だがこの状況においても、ギュオーはその表情に余裕を残していた。

「ククク……。アリ地獄ホールドだと?」
「なんだ……。何がおかしい!」
「アリ地獄にかかったのは貴様の方なのだよ、ウォーズマン!」
「何を言って……」

ウォーズマンがギュオーの言葉に異を唱えようとした、その瞬間。彼の体は、急激な圧力の増加により木の葉の如く吹き飛ばされていた。

「ハーハッハッハ! 私が重力使いであることを忘れていたのか?
 重力指弾だけが私の技ではない! 自分を中心に、重力波を全方位へ放射することも可能なのだ!
 相手に密着する技を選んだのが、貴様のミスよ!」

自らの技で大きく変形したリングの上で高笑いをしてみせるギュオーだが、その息は荒い。
自分にかかる負担も大きい技を使用したのだから、それも当然のことである。
だが、ウォーズマンのダメージはそれ以上に深刻だった。
ロープが絡まってリングアウトは避けられたが、それが些細に思えるほどの重傷だ。
至近距離から避けることも出来ずに重力波を受けたせいで、ダメージは全身に及んでいる。
そしてダメージで破損した機械部分が皮膚を突き破り、血とオイルを吹き出させていた。
超人としての驚異的な生命力がなければ、とうに死んでいておかしくないほどの状態である。
一撃。たった一回の攻撃で、ギュオーはウォーズマンの体をここまで破壊したのだ。

(くそっ、俺としたことが……。やつの実力を把握しきれていなかった……。まだ仕掛けるには早かったのか……!)

どうにか体を起こすウォーズマンの脳内には、後悔が渦巻いていた。
一瞬の判断ミスが命取りになることは、十分に理解していたはずだった。
だというのに、そのミスを犯してしまったのだ。全ては、ギュオーという男の器を計り損ねた自分の責任だ。

(だが……! まだ勝負は決していない! 正義超人が、悪に屈してたまるか!)

671カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:32:58 ID:Hjfhj94g
きしむ体を引きずり、ウォーズマンは改めてギュオーの前に立つ。
その体からは、未だ勝利を諦めぬ気迫の炎がみなぎっていた。
だがそんなウォーズマンの姿も、ギュオーの目には滑稽としか映らない。

「哀れだな、ウォーズマン。それほどの深手を負って、まだ私に勝てるとでも思っているのか。
 ならばこの私が直々に引導を渡し、そのわずかな希望を粉砕してくれる!」

醜悪な笑いを浮かべながら、ギュオーはウォーズマンに殴りかかる。
その拳を回避しようとするウォーズマンだが、脚へのダメージが回避運動を遅れさせる。

『あーっと! ギュオーの豪拳が、ウォーズマンの顔面に直撃ーっ!
 ボロボロのウォーズマンに、これはきつい! 勝負が決まってしまったかー!』

プラカードを掲げる中トトロの顔に、汗が浮かぶ。だが彼の予想とは裏腹に、ウォーズマンはギュオーの拳を受けてもしっかりと立っていた。
その代わり、その一撃はウォーズマンの象徴たるものを葬り去っていた。
ウォーズマンの顔面を覆う、漆黒の仮面。先程の重力波ですでにヒビが入っていたそれが、完全に粉砕されたのである。

「ほう……」

あらわになったウォーズマンの顔を、ギュオーはまじまじと見つめる。その顔に浮かぶのは、侮蔑という感情だ。
ひときわ目をひく、作り物めいた眼球。むき出しの基盤。密集した機械の中に組み込まれた、赤い筋肉。
ギュオーが目撃したウォーズマンの素顔は、目にしたものが十中八九嫌悪感を示すであろうグロテスクなものだった。

「なるほどな。貴様の仮面は、その醜悪な素顔を隠すためのものだったか」
「ああ、否定はしない」

嘲りの色を多分に含んだギュオーの言葉に、ウォーズマンは淡々とした口調で答える。

「たしかに俺が仮面を付けたのは、醜い素顔を衆目に晒すのがいやだったからだ。
 俺は自分の素顔を疎み、幼い頃からずっと素顔を隠して生きてきた。
 だが今となっては、俺の仮面はただ素顔を隠すためのものではない。
 貴様が砕いた仮面は、伝説超人(レジェンド)ウォーズマンとしての誇り。
 長年身につけて悪と戦ってきた、俺の体の一部だ。それを破壊したつけ、ただで済むと思うな!」

咆吼と共に、ウォーズマンは跳躍。ギュオーの顔面目がけ、跳び蹴りを放つ。
だがそのキックは、ギュオーの腕にあっさり防がれてしまった。

「貧弱だなあ、ウォーズマン! こんな蹴りでは、私を殺すのに100年かかるぞ!」

自信に満ちたセリフとともに、ギュオーは空中のウォーズマンに対し空いた片腕から重力指弾を飛ばす。
宙を滑る重力の弾丸は吸い込まれるようにウォーズマンに命中し、その体をはじき飛ばした。

「終わったな……」

勝利を確信したギュオーは、余裕の笑みをその顔に浮かべる。だが、その笑みはすぐに消え去る。
マットに伏したウォーズマンが、すぐさま立ち上がったのだ。

「終わっただと? 何を言っているのだ、ギュオー。貴様の相手は、こうして貴様の目の前に立っているではないか」
「貴様ぁ……」

今にも息絶えそうな無惨な姿でありながら、飄々とした台詞を吐くウォーズマン。
その態度は、ギュオーの怒りを掻き立てる。

「なぜだ! 貴様はもう、立っているのがやっとのダメージのはず。なのになぜ、そんななめた口がきける!」

激情のままに、ギュオーはウォーズマンへ幾度も拳を振るう。だが、ウォーズマンはボロボロの腕を盾にしてその拳を受け止める。
そのたびに彼の腕はさらに傷つき、赤い液体と黒い液体が飛び散る。それでも、ウォーズマンは一切苦痛を表に出さない。

672カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:33:30 ID:Hjfhj94g
「なぜ、か……。偉大なる正義超人の先人は、こんな言葉を残している。
 『常識では計り知れない奇跡を起こすのも、ひとえに正義のなせる業だ』とな。
 俺の心に正義がある限り、そう簡単に俺は倒れない。まあ、これは奇跡というほどのことでもないかもしれんがな」

それにあいつが起こす奇跡は、こんなものじゃない。
戦友のひょうきんな顔を思い描きながら、ウォーズマンは反撃のミドルキックをギュオーに叩き込む。
ギュオーの顔がわずかに歪むが、すぐにそれは憤怒に飲み込まれる。

「死にかけがえらそうに……! ならばその奇跡とやらで、このリヒャルト・ギュオーを倒してみるがいい!
 出来るはずもないがなあ!」

ギュオーの放った重力波が、今一度ウォーズマンの体を吹き飛ばす。
抵抗も出来ぬまま宙を舞ったウォーズマンは、コーナーポストに叩きつけられマットに沈んだ。

「これはおまけだ!」

さらにギュオーは、重力指弾を連射。グロッキー状態のウォーズマンの体を、さらに蹂躙する。
ウォーズマンの皮膚が裂け、肉が抉られる。だが、彼の心には未だ闘志が燃えさかっていた。
痛みなど、苦痛など、心を折る要因にはならない。ウォーズマンはただひたすらに、おのれが勝つ方法だけを考えていた。

(どうする……。やつは強い。俺は傷を負いすぎている。さらに、時間もない。
 冷静に分析すれば、俺の勝ち目などないに等しい。だが、ゼロではない。
 俺に残された全ての力を、一回の攻撃に込めれば……)

ふいに、ウォーズマンはリングサイドに置いていた自分のデイパックに手を突っ込む。
そして、そこから粒状の何かが入った小瓶を取り出した。
迷いのない手つきで小瓶の蓋を開けたウォーズマンは、取り出した中身をリング外へ放り投げる。

「……どういうつもりだ?」

いぶかしんだギュオーが思わず攻撃の手を止める中、ウォーズマンはさらにペットボトルを取り出し中の水を地面に撒く。
すると、地面から猛烈な勢いで数本の木が生えてきた。突如出現した木は、2メートルほど伸びたところで成長を止める。
そう、ウォーズマンが撒いたのは彼と同じく正義超人であるジェロニモの所持物である、タムタムの木の種。
わずかな土と水さえあれば成長するこの種を、ウォーズマンはリングのすぐそばに育てたのだ。

「わけがわからん……。いったい何を考えている、ウォーズマン!」
「ふむ、この程度の水の量ではたいして伸びないか……。だが、これだけの大きさがあれば充分だろう。はあっ!」

ギュオーの問いかけを無視し、ウォーズマンはタムタムの木に向かって跳躍した。

「トリャトリャトリャトリャー!」

さらにウォーズマンは、蹴りの連射を木に浴びせる。頑丈なタムタムの木もこれには耐えられず、次々と細かく砕け散っていった。

「さっきからなんなんだ……? 死を目前にして、気でも触れたか?」

ウォーズマンの行動が何を意味するかわからず、ギュオーは怪訝な表情を浮かべる。

「あいにくだがギュオーよ、俺はいたって正常だぜー!」

ウォーズマンの奇行は、まだ終わらない。彼は適当な大きさの破片を手に取ると、手刀でそれをさらに削っていく。
やがて、ウォーズマンの手の中には8本の木串が生み出されていた。
そして彼は、その串を自分の手の甲に突き刺す。

「強度に不安はあるが……。これで即席ベアークローの完成だ」
「ベアークロー……? ああ、そうか。貴様はそんな武器を使うのだったな、ウォーズマン。
 手元にない武器を、即興で再現したというわけか。まあ、そんな付け焼き刃でこの私に勝てるとはとうてい思えんがな。
 さあ、来い。今度こそ引導を渡してくれる」

673カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:34:26 ID:Hjfhj94g
余裕綽々といった様子で、ウォーズマンを挑発するギュオー。それに対し、ウォーズマンは両手を高々と上げながら答える。

「言われなくてもいくさ……。そして、これで終わらせる」
『ま、まさか! あの体勢はー!』

中トトロは、ウォーズマンが何をしようとしているのか気づいた。
超人レスリングに魅せられた彼がチェックした、過去のウォーズマンの試合。
その中に、今とそっくりのシーンがあったのだ。

「俺の超人強度は100万パワー……。ベアークロー二刀流で200万パワー!」

ウォーズマンがコーナーポストを蹴り、大きく跳躍する。

「いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワーっ!」

空中で、ウォーズマンが改めてベアークローを構える。

「そしていつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の……」

ウォーズマンが、きりもみ回転をしながらギュオー目がけて降下を始める。


「1200万パワーだーっ!!」


一体いかなる原理なのか。高角度でリングへと突き進む漆黒の超人の体が、まばゆい光を放ち出す。
その姿は、まさに――

『あ〜っと、ウォーズマンの体が1200万パワーの光の矢となったーっ!!』

そう、その勇姿は天空から放たれし聖なる矢のごとし。一本の矢と化したウォーズマンは、邪悪を滅ぼすべくギュオーに狙いを定めて前進する。

(な……なんだこれは!)

ギュオーは、大きく目を見開いて驚愕をあらわにしていた。その様子に、つい数十秒前まで満ちあふれていた余裕はまったく残っていない。
ギュオーの五感は、ことごとく警告を放っていた。あの矢に貫かれれば、自分は死ぬと。
死にかけの生物が絞り出したとは思えぬ莫大なエネルギーに、ギュオーは戦慄していた。

「ふざけるな……! 勝つのはこの私だ!」

ギュオーは雄叫びと共に、残された体力を振り絞って重力のバリアを展開する。
そのバリアに、ウォーズマンは真っ向から激突。それでも、光り輝く竜巻の勢いは止まらない。
バリアを突破すべく、ひたすらに回転を続ける。

「突破など……させてたまるかあああああ!!」

ギュオーは、こめかみの血管が切れそうなほどの気迫をバリアに込める。もはやここまで来れば、精神力が頼みの綱である。
その気迫が功を奏したのか、バリアは少しずつウォーズマンを押し返していく。
バリアと直接接している即席ベアークローはすでに過半数が折れ、腕そのものも滅茶苦茶に破壊されている。
だが、それでもウォーズマンは諦めない。

「出し惜しみなどしていられる状況ではないな……。キン肉マンよ、力を貸してくれ!
 火事場の……クソ力ーっ!」

674カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:35:16 ID:Hjfhj94g
「火事場のクソ力」。その言葉を口にした瞬間、ウォーズマンから放たれる光がさらに輝きを増した。
火事場のクソ力とは、何もキン肉族王家の専売特許ではない。全ての超人、いや、全ての生き物が少なからず似たような力を持っている。
ただキン肉族王家の火事場のクソ力は、他者のそれより並はずれて発揮されるパワーが大きいというだけなのだ。
ウォーズマンもかつて、バッファローマンとの試合で一度だけ火事場のクソ力を使用していた。
だが、彼にとって火事場のクソ力とは諸刃の剣であった。
ウォーズマンの機械の体には、火事場のクソ力はあまりに負担が大きすぎるのだ。
それ故ただでさえ30分というリミットがある彼の戦闘時間が、さらに短縮されてしまう。
あまりに大きなデメリット。それを危惧してウォーズマンは、バッファローマン戦以降火事場のクソ力を封印した。
しかし彼は、ギュオーという強敵に勝つためその禁断の力を解放したのだ。
ただでさえボロボロだったウォーズマンの体は、さらなる負荷がかかったことでますます崩壊していく。
体の至る所からはスパークが起き、肩口からは黒煙が吹き出している。それでもウォーズマンは、前に進むことをやめない。
もはや彼は、己の命を捨てることすら覚悟していた。たとえ自分の命と引き替えにしてでも、ギュオーは倒さなければならない。
ウォーズマンは、ギュオーをそれほどまでの脅威と認識していたのだ。

「うおおおおおお!!」

気合いの雄叫びをあげながら、ウォーズマンはバリアに突っ込み続ける。
限界を超えた即席のベアークローが、砕け散る。さらに指が、手が、吹き飛んでいく。
それでもなお、ウォーズマンは止まらない。

「両手がなくとも、スクリュードライバーは決められるわー!!」

先端を失った両腕で、ウォーズマンはバリアに挑み続ける。そして、その執念はついに結果を引き寄せた。
傷つき回路と骨と肉とがむき出しになった腕が、バリアを突き抜けたのだ。
それに続き胴が、脚が、バリアの向こう側へと抜けていく。

「ば、馬鹿な! 私のバリアがこんなやつに……!」

最後の砦を突破され、もはやギュオーになすすべはない。
立ちすくむ彼の頭上から、光に包まれた正義の鉄槌が振り下ろされる。
勝った。ウォーズマンは、心の中でそう確信していた。


だが、現実は非情である。

『あーっと! なんということだー! ウォーズマンの決死の一撃は、ギュオーの肩を抉っただけだー!!』

あまりにも強大なバリアとの激突。それはスクリュードライバーの軌道を大幅にずらしていた。
そのために心臓を狙った一撃は大きく狙いを外し、ギュオーの肩に命中することになったのである。

「はーっはっはっは! 自慢のコンピューターも最後の最後で計算が狂ったようだな!」

勝利の高笑いと共に、ギュオーは右の拳をウォーズマンの腹に叩き込む。
すでに裂傷だらけだったウォーズマンの体は、拳の侵入を易々と許してしまう。
拳は勢いそのままに背骨を粉砕し、背中から飛び出した。

「さんざん苦しめてくれたが……。勝ったのはこの私! リヒャルト・ギュオーだ!」

ウォーズマンを貫いた腕を、ギュオーは乱暴に振り回す。
もはやぴくりとも動かぬウォーズマンの体は勢いに吹き飛ばされ、天井に設置されたケージの中に叩き込まれた。


神社リング・シールデスマッチ
勝者:リヒャルト・ギュオー

675カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:36:13 ID:Hjfhj94g
◇ ◇ ◇


終わったなあ……。
戦いが終わったリングの上で、僕は試合の余韻に浸っていた。
ギュオーは禁止エリアが解除されるとすぐに、ウォーズマンの荷物を回収だけして大急ぎで走り去っていった。
あいつの身体能力なら、F-5そのものが禁止エリアになる前に脱出できるだろう。
まあ、途中で力尽きなければだけど。さっきの戦いで、ギュオーもほとんど体力を使い切ったはずだからね。
さて、あと2分か……。時刻を確認して、僕は小さく溜め息を漏らしていた。
あと2分で、19時。ここが禁止エリアとなる。そうなれば、檻の中で眠っているウォーズマンの亡骸もスープになってしまう。
僕としては偉大なる超人レスラーの死体ぐらいは残してあげたいんだけど、それは叶わぬ願いだ。
僕の小さな体じゃ、彼の体をタイムリミットまでにエリアの外まで運ぶなんて出来やしない。
僕はもう一度溜め息を漏らす。
その時だった。僕の頭上から、ガタリと物音が響いたのは。

え……?

僕は、自分の目を疑った。てっきり死んだと思っていたウォーズマンが、動いていたのだ。
彼はケージから出ようと、無惨に傷ついた体を閉じた出入り口にぶつけていた。
たしかにもう試合は終わっているのだから、彼がケージから出ても何ら問題はない。
だけど、出たところでどうにもならない。あと2分……いや、1分半でエリア外まで移動するなんでいくら超人でも不可能だ。
たとえ移動できたとして、それからどうする。両手を失い、腹に穴まで開けられた体で、この先のバトルロワイアルを生き抜いていけるわけがない。
そんなこと、ウォーズマンほどの超人ならわかっているはずだ。なのに、なんで。

『どうして君は、こんな絶望的な状況でも諦めないの?』

思わず、僕はそんなことを書いたプラカードを掲げていた。
それにウォーズマンは気づいてくれたらしく、生と死の狭間にいるにもかかわらず答えを返してきた。

「悪に敗れ……ただそのまま黙って倒れているやつなど正義超人とは言えん!
 たとえ生き残る可能性が0.1%だろうと、悪に屈せず最後まで戦い続ける。
 それが……正義超人だろう!!」

僕に向かってそう叫んだウォーズマンは、ボロボロの体だというのにすごく格好良く見えた。
ウォーズマンは、なおもケージに体当たりを続ける。
けど、神様は彼にこれ以上の奇跡をもたらしてはくれなかった。
やがて、時計が19時を示す。それと同時に、ウォーズマンの体はスープとなって溶けた。
それは数々の激闘を戦い抜いてきた伝説超人としては、あまりに静かであっけない最期だった。

もう、ファイティングコンピューターはこの世にいない。だけど、僕は彼のことを忘れない。
彼の最期を見届けた唯一の存在として、僕はずっと彼のことを覚えていよう。
この中トトロが、ウォーズマンという勇気ある超人が生きたという証人だ。
本拠地へ帰還する僕の肩には、黒く輝く金属片が担がれていた。
試合中に砕け散った、ウォーズマンの仮面の破片だ。
これを持ち帰ることに、深い意味はない。
ただ、ウォーズマンを弔うために形のあるものが欲しかった。それだけの話だ。


◆ ◆ ◆


LCLとなりその命を散らす寸前、ウォーズマンは幻を見た。
それは己が伝授した秘技「OLAP」で万太郎を破り、チャンピオンベルトを手にする愛弟子・ケビンマスクの姿だった。
その光景はウォーズマンの願望が見せた、単なる幻覚だったのか。
あるいは運命の女神が気まぐれで見せた、未来の光景だったのか。
それを知る者は、誰もいない。


【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ 死亡】

676カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:37:09 ID:Hjfhj94g


【F-5周辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、
     毒入りカプセル×4@現実、博物館のパンフ 、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、
     クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー 、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、
     日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。

※ギュオーがどの方向に向かったかは、次の書き手さんにお任せします

677 ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:41:06 ID:Hjfhj94g
以上で投下終了となります
どなたか、本スレへの代理投下をお願いします

それから容量がwiki収録路に分割になるか微妙なところなので、
もし分割になった場合は>>671の「終わったな……」からを後編としてください

678 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:01:33 ID:wOPEoI2k
規制に巻き込まれたようなので、自分もこちらに仮投下します。

679鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:02:34 ID:wOPEoI2k


さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。
草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。
明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。
この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。
そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。
草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。
異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。
泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。
熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。
そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。
辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。
無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。
不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。
遂に、己の『根』をも手放しつつあった。

「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」

嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。
たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。
体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。

「――――●∴→!! φ〆!!!」

のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。
はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。
何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。
そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。

680鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:12 ID:wOPEoI2k
                 .....
(そうだ……俺は、最初に何をした!?)

気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。
この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。
それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。

(SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!?
 うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、
 都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!!
 仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。
 って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、
 殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、
 なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!?
 畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ?
 【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人!
 だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。
 怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから!
 でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、
 おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!)

激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。
鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。
力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。
それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。
痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。
そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。
心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。
だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。
血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、
口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。

「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」

うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。

681鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:49 ID:wOPEoI2k


「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」

自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。
がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。
背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。
だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。

「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア〜♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』

「よりにもよってお前らかよ……」

『キョン』。
それは、"中身"の名前ではない。
それでも、今現在の"中身"にとっては。

『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』

最も心地よい、呼ばれ方だった。

「ヴォー?」

「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」

682鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:04:32 ID:wOPEoI2k




「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」


少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。
全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。
まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。
忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。
さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……?

「ヴォー」

おいおい……また見逃すつもりか。
今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。
本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。
だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、
御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。
そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。
その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。
今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。
どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。

『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』

「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」

『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』

「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」

『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。
 貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』

「いや。もう、俺は戻れない」

683鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:07:16 ID:wOPEoI2k

ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、
皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。
しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか?
マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、
こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎!

「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」

「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」

全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。
罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。
と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。
あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。
御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。
だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。

「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。
 軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか?
 最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。
 涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、
 学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。
 俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。
 でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。
 だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、
 その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」

『……』

「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。
 で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。
 長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に
 全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、
 雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」

684鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:08:28 ID:wOPEoI2k

『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』

「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。
 ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、
 あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、
 くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。
 でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、
 まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。
 だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。
 芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」

『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。
 貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。
 しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』

「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、
 更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、
 俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、
 長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。
 それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。
 その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。
 俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。
 だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ?
 もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」

『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。
 貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。
 Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。
 死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。
 死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。
 Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。
 それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』

「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか?
 俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ
 おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。
 俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には
 分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。
 俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。
 スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」

『……』

685鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:09 ID:wOPEoI2k


川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。
キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。
あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。
御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。
会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。
大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。
俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。
と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。

『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、
 客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、
 デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで
 Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、
 貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、
 それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。
 貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。
 Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』

「う……」


キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。
多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、
機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。
が……我らが御主人様は、違う。

「ヴォーヴォーロォーーー!!!」

『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』

686鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:54 ID:wOPEoI2k

翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。
『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。
ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。
こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。
お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。
さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。
忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を
比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、
ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。

『Mr.ライガー……?』

「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」

俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。
キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。
不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。
消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。
もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに
付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。
御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。
その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。
俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。
御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。
俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。
友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。
いや――最後はあえて、こう呼ぼう!


さらば、我が友!

687鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:11:27 ID:wOPEoI2k





狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。
ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。
もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。
殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。
襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。
で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。
狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。

「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」

「ガウ」

俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。
それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。
強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。
もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。
まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。
その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。

あれ?

それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。
死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。
あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。
全くどうして……。

「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」

答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。


【G-5 草原/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力
【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
【思考】
1:もう何も考えたくない。
2:誰か俺を導いてくれ。
3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。
【備考】
※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※あと3〜4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。
※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。

688鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:14:32 ID:wOPEoI2k


『Mr.troll、何故……?』

「ヴォー……」

『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』

温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。
……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか?
Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。
Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。

『Ms.ヴィヴィオ……』

Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。
これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。
Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。
言うべきか、言わざるべきか……。

インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。

【G-4 草原/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。

689 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:15:15 ID:wOPEoI2k
以上で投下終了となります
どなたか、本スレへの代理投下をお願い致します

690 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:09:32 ID:Uw68TWIc
ちょっと不安があるため、一度こちらに仮投下します。

6913・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:11:59 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

6923・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:12:50 ID:Uw68TWIc
「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

6933・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:13:42 ID:Uw68TWIc
「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

6943・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:14:22 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

6953・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:02 ID:Uw68TWIc
このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『All Right』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

6963・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:34 ID:Uw68TWIc
アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

6973・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:16:20 ID:Uw68TWIc
「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることで威力を上げたり光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし
 あるに越したことはないんだけどね」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

6983・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:17:23 ID:Uw68TWIc
「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、とか直感的に思った。
あと『正義超人』という肩書きもあたしに言わせれば非常にうさんくさい。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

6993・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:17 ID:Uw68TWIc
そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

7003・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:57 ID:Uw68TWIc
「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

7013・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:19:33 ID:Uw68TWIc
「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

7023・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:20:46 ID:Uw68TWIc
「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes.』

ヴィヴィオの胸元のブローチが金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

7033・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:21:26 ID:Uw68TWIc
そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

7043・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:02 ID:Uw68TWIc
「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆

7053・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:52 ID:Uw68TWIc
「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。

朝倉は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。
そのためか、相手の外見にとらわれず冷静に相手の性質に気付くことができる。
ギュオーもゼロスも直感的にただの人間ではない、
もしくは人間ではないと気付いたのはそのためだ。

そんな彼女がヴィヴィオに抱いたわずかな"違和感"。
最初は『異世界の人間だからだろう』ぐらいにしか思っていなかった。
だが、どうも違うと確信したのはリナと出会ってからだろうか。
同じく『異世界の人間』で『魔法を使う』存在でありながら彼女には"違和感"を感じなかった。

こうやってその違和感の正体を突き止めようとしているのは単純に知的好奇心からだけではない。
疑問や迷いは咄嗟の判断を遅らせる。
そしてこの"違和感"というノイズは有事の際に自身の判断を鈍らせるかもしれない。
だからこそ、彼女を守り通すためにはそれを知っておくのも必要なことだと結論付けた。
とは言っても本人やバルディッシュに
「ヴィヴィオちゃんは普通の人間と何か違う。その理由を教えて♪」
と言えるわけもなく、一時的にリナにヴィヴィオを預けこういう行動に出たのだった。

7063・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:25:27 ID:Uw68TWIc
そして、朝倉はヴィヴィオの肩書きを見る。

"魔法学院初等科所属、聖王の器"

「聖王………の…器?」

「器…とはまた面妖な表現でござるな」

朝倉もドロロも怪訝とする。
『聖王』というだけならまだ理解できるのだが…『器』の意味がさっぱり分からなかった。
だが、わざわざここに特記事項として書かれているのだ。
"違和感"の正体の鍵は、この言葉が握っている可能性が高い。

(機をうかがって、本人かバルディッシュに聞いてみればいいかな)

「ありがとう、もういいわ」

朝倉はそう言いマウスを手離した。
溜息を吐きつつ、ドロロがそのマウスを握る。

「ここで出会う女性は押しが強いでござるな…」

苦笑しながら、ドロロはマウスを操作し始めた。


【D-02 遊園地(スタッフルーム)/一日目・夜】

【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。主催者が首輪をあまり作動させたがらない事も気になる。
6.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。

【備考】
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※晶達から、『主催者は首輪の発動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※参加者プロフィールにざっと目を通しました。



【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大) 、ダメージ(中)、自分の変質に僅かに疑問、ドロロとリナに対してちょっと不快感?
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     綾波のプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ディパック(支給品一式)、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS、遊園地で回収した衣装(3着)
【思考】
0.ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.武器もないので、気は進まないが鬼娘専用変身銃を使う事も辞さない。
3.キョンを殺す。
4.長門有希を止める。
5.古泉を捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
6.基本的に殺し合いに乗らない。
7.ゼロスとスグルの行方が気がかり。
8.『聖王の器』がどういう意味なのか気になる。
9.できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※遊園地で適当な衣装を回収しました。どんな服を手に入れたかは次回以降の書き手さんにお任せします。
※kskコンテンツはドロロが説明した参加者情報しか目を通していないため
 晶たちといる雨蜘蛛が神社で会った変態マスクだと気づいていません。

707それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:26:41 ID:Uw68TWIc
◆ ◆ ◆


「わぁ…きれい…」

あたしの隣でメイド服に身を包んだ美少女、ヴィヴィオちゃんが感嘆の声を漏らした。

あたしたちを乗せた船は水上をゆっくりと移動し、
色とりどりのイルミネーションをあたしたちの視界へと運んできてくれる。

近くで突如水が噴きあがった。
何者かが潜んでいたのかと慌てて呪文を唱えながら身構えるあたしだったが、取り越し苦労だったようだ。
何色ものイルミネーションに水しぶきが照らされ、空間が虹色になっている。
空中に散った水により本物の虹まで見えていた。

周囲の幻想的な雰囲気にあたしの戦いで荒んだ心も癒されていく。


勘違いがないように言っておくと、あたしたちは決して遊んでいるわけではない。
遊園地の調査をするといったが、昼間に来た時に既にドロロと二人であらかた調べたのだ。
しかし、『使えるようなものはないだろう』と思って調べなかった箇所がいくらかある。
それがこういったアトラクションだ。

やがてあたしたちが乗っていた船が発着点に到達する。
このアトラクションにも、仕掛けらしきものも見当たらなかった。

「リナさん!次はあれに乗ろうよ!!」

そういってヴィヴィオちゃんは指差したのは―――馬や馬車の彫像が円上をぐるぐる回るもの。
やれやれ、とあたしは苦笑しながら
ヴィヴィオちゃんに手を引かれそちらのほうに移動し始めた。

落ち着いてこそいたが、情報交換のときに明るい表情をすることはほとんどなく、
話にもほとんど参加してこなかった(会話の内容が彼女が付いてくるには難しかったからかもしれない)。
そんな彼女が…あくまで"表面上"ではあるが
楽しそうに、そして友好的に話しかけてくれることは好ましいことではある―――

だけども。

大事なことなので2回言っておく。

「まったく、仕方ないわねー」

あたしたちは決して遊んでいるわけではない。

708それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:27:22 ID:Uw68TWIc
● ● ●


「ねぇ、リナさん…」

その後もいくらかのアトラクションに乗ったがめぼしい発見は何もなく
次はどの乗り物に乗ろうかと思案していると、
さっきまでのトーンとは打って変わった声で
ヴィヴィオちゃんがためらいながらも後ろから呼びかけてきた。

「私…リナさんから見て、みんなに迷惑掛けていると思いますか?」

尋ねてきた内容はそれだった。
『そんなことないわよ』と軽く返そうかと思ったが、振り返った先にいる
彼女の表情は、深刻な顔をしていた。

「ここに来てから私は色々な人に会いました。
 けれど、誰も助けることはできませんでした。
 私がどうにかできるほど世界は優しくない―――そう涼子お姉ちゃんに言われました」

ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。
風が彼女の後ろからあたしのほうへと吹き抜け、あたしたちの髪をなびかせる。
あたしは黙って彼女の言葉に耳を傾けた。

「私にできる最善のことをしていた―――涼子お姉ちゃんはそうも言ってくれました。
 けど、それじゃダメなんです。
 どんなに私が頑張っても、それでも迷惑をかけるんじゃ…ダメなんです。
 だから―――」

「で、あたしが『迷惑だ』って言ったら…ヴィヴィオちゃんはどうするの?」

あたしはわざと彼女の言葉に割り込みこう言った。
子供の愚痴に付き合ってあげるほどあたしは暇でもなければ優しくもない。

「だから、私は"今の"私よりももっと強くなりたいと思ってます」

「口だけなら何とでも言えるわ。
 …問題はどうやって強くなるかよ」

今度は語気を強めてちょっときつめに言ってやった。
アサクラも言っていたが、人が『強くなる』のは簡単なことではない。
もしこの程度で折れるぐらいなら彼女が強くなることはないだろう。
ここらへんで殻を破る必要がある。
たぶん、アサクラもそう思って短時間とはいえあえて別行動させたのではないか。
あたしはそういうふうに考え始めていた。

709それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:28:15 ID:Uw68TWIc
「そこで、リナさんにお願いがあります」

ヴィヴィオちゃんはあたしを見た。
オッドアイの瞳に宿る光が力強い。
彼女が何を言いたいのか予想はついている。
おそらく、こう言うだろう。

「私にレリックを譲ってください!!」

『私に魔法を教えてください!!』と―――って…あれ?
目の前でメイド服のヴィヴィオちゃんが頭を下げているが―――ちょい予定外。

「………レリックって何?」

「リナさんが持っている赤い宝石のことです」

おそらく、あの魔力が詰まった宝石のことだろう。
レリックというらしい。
どうやら、ヴィヴィオちゃんに縁があるもののようだが―――

「嫌よ」

あたしはきっぱりと言った。

「アレがどういったものかは知らないけど、
 あたしなりにアレは有効活用しているし、ないと困る。
 残念だけどヴィヴィオちゃんにあげることはできない」

「でも、あれがあれば私は―――」

『Stop』

そこで割り込んでくる機械的な第三者の声。
ヴィヴィオの胸のバルディッシュだった。

『Ms.インバース。ヴィヴィオにレリックを渡してはいけません』

「バルディッシュ!!」

バルディッシュが強めの口調で言い、
それに対してヴィヴィオちゃんが珍しく語気を強めた。
今まで必要がないと喋らなかったバルディッシュが割り込んできたということは
どうもただ事ではないようだ。

『レリックは超高エネルギー結晶体です。
 その性質故、魔力波動などを受けると爆発する危険があります。
 かつて、レリックが原因の周辺を巻き込む大規模な災害が幾度か起きました』

ゲゲッ…両手に握って魔力の回復なんかに使っていたが、そんな危険物だったのか。
これからは注意して使うようにしよう。

710それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:29:14 ID:Uw68TWIc
『ヴィヴィオ。貴女が持つには危険すぎます。
 また、レリックを埋め込まれた貴女が何をやったか忘れたわけではないでしょう』

「っ…それは…」

『それに、我が主が望んでいない。そう思います』

「………。…ずるいよ、そんなの」

バルディッシュの説得に、ヴィヴィオちゃんは反論したが最後のほうはか細く、
風上にいればほとんど聞こえなかっただろう。
確か、バルディッシュは彼女の母親が使っていたデバイスだったか。
バルディッシュの言葉にどれほどの重みがあったのかはあたしには分からないが…
それっきりヴィヴィオちゃんは黙ってしまった。

次に向かうつもりだったアトラクションのほうへと歩き出す。
一応、ヴィヴィオちゃんも後ろをとぼとぼと付いてきてはいるが…

うーん、こりは気まずい。
さっきまでのほのぼの〜とした雰囲気が見事にぷち壊れてしまった。
さてどうしたものか。


◆ ◆ ◆ ◆


ヴィヴィオはひどく落ち込んでいた。
一時的とはいえ大人の身体になり、レリックまで見つけた。
これならきっと自分の身を守れる。それだけじゃなく、涼子お姉ちゃんやなのはママだって守れる。
周りにいる大事な人たちを守る力を手に入れることができる。

そう思ったのだが―――。

(バルディッシュまで…あんなこと言うんだもん)

きっとバルディッシュなら自分の想いを分かってくれる、協力してくれる。
ヴィヴィオはそう信じていたが現実は甘くなかった。

フェイトママが望んでいない。

確かにそうかもしれない。
でも、ママが間違っていると言っても自分で考えて正しいと思ったことは
やらなくちゃいけないのではないか。

ヴィヴィオは落ち込み半分、恨めしさ半分の眼で胸元のバルディッシュを見た。
考えていることを知ってか知らずか、当然無反応である。

711それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:30:09 ID:Uw68TWIc
「…ーー…ー……ーー…」

そのとき、ヴィヴィオの前方から声が聞こえてきた。
リナが発した言葉なのは間違いないが―――何と言ったかはさっぱり分からなかった。

「身の程を過ぎた力は身を滅ぼすわよ」

突然、リナが言った。
ヴィヴィオのほうからは前方を歩いている彼女の表情を窺い知ることはできない。

「あたしも経験あるのよ。
 自分じゃ扱えないような魔法を無理やり唱えて、危うく世界を滅ぼしかけたこと」

もはや身を滅ぼすとかいう次元ではないが
とりあえず誰もツッコミを入れず黙って聞いていた。

「あなたが過去にレリックで何をやらかしたのかは知んないけど―――
 もしここで厄介なトラブルを引き起こしたりなんかしたら
 あたしもドロロも、もちろんアサクラも、下手すればみんな死ぬわ」

あまりにそっけないリナの言葉。
そのそっけなさが、逆に『死』が身近なものと感じさせ
ヴィヴィオの背筋を凍らせる。

「アサクラも言ってたけど、人が一段階強くなるのは簡単なことじゃない」

リナは歩みを止め、振り向いた。
それまでの厳しい基調とは裏腹に、彼女は優しい顔をしていた。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 あなたはあなたができる精一杯を全力でやればいいのよ。
 ヴィヴィオちゃんにしかできないことだってあるんだから。
 みんなを魔法で守る、なんてのはあたしに任せときなさい」

親指をグッと立てたリナの優しい言葉が染み込むが―――それじゃヴィヴィオは納得できなかった。

「…私にしかできないことってなんですか?
 今までも、情報交換のときもそうでした。
 私にしかできないことなんて全然―――きゃっ」

712それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:31:07 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオの言葉は途中で中断された。
―――何を思ったか、リナがでこぴんしたのだ。

「じゃ、あたしがヴィヴィオちゃんが使える
 とっておきの魔法を教えてあげるわ。
 いい、よく聞きなさい。



 ――――――『頑張って!』」

「………はい?」

リナの突飛な行動と突飛な発言により、ヴィヴィオの思考が一時停止させられる。

「オトナってものはね、肝心な時にどーでもいいこと考えていたりするわけよ。
 ものすごく強い敵を相手に『こりゃ勝てないわ』と戦う前から諦めたり、とかね。
 そういうときに『勝てるよ!頑張って!!』って魔法かけてあげなさい。
 本当に力が湧いてきちゃうんだから。
 可愛いコにしか使えない高等魔法なのよ」

リナはヴィヴィオの肩をぽんぽんっ、と叩きながら笑った。

     負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。
     たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦うっ!

これはかつてリナが言った言葉。
しかし、本当に絶望的な戦いのときはリナさえもそれを忘れかけることがある。
それをみんなに思い出させるのには"不屈の心"を示すことが必要だ。

あるときは叱責かもしれない。
あるときは開き直りかもしれない。
あるときは応援かもしれない。

それを示す鍵が何か分からない。
でもヴィヴィオならそれをみんなに伝えられるんではないか。
それが彼女のできる、彼女しかできないことなのではないだろうか。
根拠なんて何もないけど、リナはなんとなくそんなことを思ったのだった。

713それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:32:06 ID:Uw68TWIc
どれくらいの時間が静かに過ぎただろう。
しばらく呆然としていたヴィヴィオだったが、少しずつ顔が綻んでいく。

「えへへ…ありがとう、リナさん」

胸のつっかえがひとつ取れたような笑顔。
遊園地ではしゃいでいた時よりも幾分清々しいように思える。

「私、みんなに"魔法"かけるよ」

力強い少女の声が朗々と響いた。

「でも"魔法"かけても恥ずかしくないように私も頑張る。
 もっと強くなる。少しずつでも、ちゃんと順番追って強くなってく。
 リナさんや涼子お姉ちゃんに迷惑かけないように。
 なのはママにエヘンと胸を張って会えるように。
 フェイトママにもう心配させないように!」

爽やかな笑顔。オッドアイの瞳に映る確かな輝き。
まだまだ小さい彼女に言うには少々難しいことだったかもしれないが―――
どうやら余計な心配だったらしい。
一回り大きくなったかな、とリナは思った。

「…ーー…ー……ーー…」

再びヴィヴィオに背を向けたリナが、ゆっくりと言った。先程言っていた謎の言葉だ。
ヴィヴィオにはさっぱり理解できなかったのだが―――

「炎の矢(フレア・アロー)!」

リナが『力ある言葉』を放つと同時に、リナの目の前に燃え盛る炎の矢が生まれた。
そのままにしておくことも消すこともできないのか、とりあえず手近な地面に放つ。
レンガ造りの地面を一か所を黒く焦がし、炎は消え去った。

「この魔法の詠唱は訳すと『全ての力の源よ 我が手に集いて力となれ』ってとこね。
 呪文は短いから丸暗記できるだろうし、割と実用的な魔法よ」

そう言ってリナはもう一度ヴィヴィオのほうを見た。
ニヤッともニコッともとれる、不敵な笑みを浮かべて。

714それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:33:36 ID:Uw68TWIc
「ちょっとヴィヴィオちゃんが考えていたような順番じゃなくなっちゃうかもしんないけど―――
 覚えてみる?」

「―――よろしくおねがいします!」

深々と頭を下げ、ヴィヴィオが言った。
すぐに使えるようになるかどうかはリナにも分からないし
そもそも余計なお節介かもしれないが…リナ=インバースにそんなこと関係ない。


【D-02 遊園地/一日目・夜】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.遊園地を調べながらヴィヴィオと行動する。
2.20時が過ぎた頃にはスタッフルームに戻りドロロ達と合流する。
3.朝倉の正体が気になる。涼宮ハルヒについても機を伺い聞いてみる。
4.当分はドロロと一緒に行動したい。
5.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
6.草壁サツキの事を調べる。
7.後で朝倉と首輪解除の話をする。
8.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
9.時間ができれば遊園地のkskコンテンツにしっかりと目を通しておく。

【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※市街地の火災の犯人はもしかしたらゼロスではないかと推測しました。



【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、16歳程の姿、腕章を装備、メイド服の下に白いレオタードを着ている。
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱  メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱 
     ディパック(支給品一式)、ヴィヴィオが来ていた服一式
【思考】
0.誰かの力になれるように、強くなりたい。
1.リナと一緒に行動する。
2.なのはママが心配、なんとか再会したい。
3.キョンを助けたい。
4.ハルヒの代わりにSOS団をなんとかしたい。
5.スバル、ノーヴェをさがす。
6.スグルとゼロスの行方が気になる。
7.ゼロスが何となく怖い。
8.涼子お姉ちゃんを信じる。

【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンはガイバーになったことで操られたと思っています。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。
※炎の矢(フレア・アロー)を教わり始めました。すぐに習得できるかどうかは不明です。

715 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:35:08 ID:Uw68TWIc
以上で投下終了です。
指摘がありましたらよろしくお願いします。

ちなみに題名は仮題ですので変えるかもしれません。

716 ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:49:18 ID:Uw68TWIc
本投下しようと思ったのですが
今日に限って規制くらってしまいました。
こちらに投下しますので、申し訳ありませんがどなたか代理投下よろしくお願いします。

717彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:05 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

718彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:46 ID:Uw68TWIc
あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

719彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:24 ID:Uw68TWIc
「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

720彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:57 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

721彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:52:43 ID:Uw68TWIc
あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『Yes』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

722彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:53:38 ID:Uw68TWIc
竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

723彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:11 ID:Uw68TWIc
「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることでそれを収束・増幅して威力を上げたり
 光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし、あるに越したことはないんだけど」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

724彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:48 ID:Uw68TWIc
「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、と直感的に思った。
あと肩書き。
先程の悪魔将軍みたいなのが『人を超えた』とか名乗るのはまだ納得いくのだが
こんな不細工な奴が『超人』、おまけに『正義』なんか名乗っていたら胡散臭さ大爆発だ。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

725彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:55:31 ID:Uw68TWIc
ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

726彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:56:20 ID:Uw68TWIc
「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

727彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:57:20 ID:Uw68TWIc
「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes』

728彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:58:37 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオちゃんの胸元のブローチがきらりと金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

729彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:13 ID:Uw68TWIc
その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

730彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:48 ID:Uw68TWIc
「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆


「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。


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