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( ^ω^)ヴィップワースのようです

1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/07(火) 00:59:11 ID:iULO39J.0

タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html

無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす

216以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:53:27 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「私は……”火刑の準備をしろ”……そう言ったよなぁ?」

( ▲)「ッ!」

(#≠Å≠)「それが何だ……貴様、魔女の肩を持つとは、まさか貴様も異端者かぁッ!?」

( ▲)「……滅相も……ございません」

(≠Å≠)「フン……魔女認定など、この私の裁量を持ってしてこの場で与える」

( ▲)「すぐに……火刑の準備を……」

審問官イストの言葉に深く頭を垂れると、
彼の前から逃げるようにして、ローブの男は足早に去っていった。

だが、無理からぬ事だろう。今やこのロアリアを実質的に支配しているのが、
このイスト審問官。それにあっては、同じ信仰心を持つであろう街の住民を、
自ら命を絶たせる程の責め苦に貶めている自分達の行為に、今日のように
違和感を覚える者もいるはずなのだ。

だが、異端認定の権限を持つイストに対して、皆恐怖に飼いならされた
子羊のように従順に、あるいは心を殺して、従う他ない。

それが、自分が間違えた行いをしていると、認識できていたとしてもだ。

(≠Å≠)「疑わしきは裁く……それでいいのだ」

217以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:53:52 ID:cEOPo.UM0

拷問狂なのか、と水面下では決して本人に悟られぬように囁かれてはいた。
あるいは、それは盲目故に捻じ曲がった、信仰心であるのかも知れない。

異端として裁く為ならば、身体の機能を生涯奪う事であっても厭わず、
糞尿を巻き散らして死を懇願する妊婦の前でも、眉一つを動かさずに
淡々と拷問を続け事ができる、氷のような心を持つこの男は───

発言出来る者など決していないが、誰の眼にも明らかな、狂人だった。

ふん、と鼻を鳴らし、肩口にぽつりと雨粒が落ちたのを感じて、
黒衣の修道服をはためかせながら、イストは踵を返した。

時折どこからから悲鳴ともつかぬ呻き声が漏れる、聖堂の中へと消えていった。

───

──────

─────────

───ロアリア市街───

忽然と人が消えたように静かな街を時折見渡しながら、男と少女は歩く。

( ゚д゚ )「いつから……こんな、静かな街になったんだ?」

川゚-゚)「わかんない。おそとであそんだこと、あんまりないの」

218以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:54:22 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「友達とか、いないのか?」

川゚-゚)「まえはね、よくおうちにきてた子がいたんだよ?……でもね」

( ゚д゚ )「でも……?」

川゚-゚)「おとうさんのしごとのつごうで、もうあえないって、とうさんがいってた」

( ゚д゚ )「……そうか」

本当に、この娘の両親は真実を告げたのだろうかと、ミルナは内心深く息をついた。
露天商が多く、市場が賑わっている街だという噂を聞いたのが、3年ほど前。

それが今では、これほどまでに外を出歩くのを恐れ、住民は皆戸を閉め切っている。
明らかに異常な事態だというのに、領主や他の町の人間は何とも思わないのか。
そんな事を考えながら歩いているものだから、少女の言葉も自然と耳から抜けていく。

うんうんと相槌を打ちながらも、頭の中では別の事を考えていた。
そして、その考えは、いつになく険しい表情をしている自分の顔にも、表れていた。

川>-<)「いたっ」

突然立ち止まったミルナの背に、顔面ごとぶつかって尻餅を付くクー。

219以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:54:50 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「雨、か……」

少しずつ雨粒が増えてゆく空を一瞬見上げると、頬を膨らましていた
背後のクーの様子に気づいて、すまんな、と手を差し伸べて身を起こした。

川;゚-゚)「さむい……」

( ゚д゚ )「冷えてきたな……どうする、自分の屋敷で待ってた方が、いいんじゃないのか?」

川゚-゚)「それはやだもん、おとうさんとおかあさんに会う!」

( ゚д゚ )「そうか……ま、もうすぐだ」

( ゚д゚ )「ただな、少しばかり怖い目に合うかも知れないぞ?」

川゚-゚)「どうして?」

( ゚д゚ )「これから、クーの父さんと母さんを連れて行った、悪い奴らを懲らしめるからだ」

川゚-゚)「……いっぱい、こわい人がいたよ?」

( ゚д゚ )「それでも、できるさ」

川゚-゚)「まもって、くれる……?」

( ゚д゚ )「そうだな、俺の背中に居れば、安全だ」

220以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:55:15 ID:cEOPo.UM0

そうしていくつか会話を交わしながら、やがて二人の足は、一つの建物の前で止まる。
白い外壁に、赤茶色の屋根の頂上に、大きな十字架が掲げられた、聖ラウンジ聖堂の前に。

この建物の周りだけ、何かを焼いたような、すえた臭いが鼻に付く事に、二人とも
少し顔をしかめた。そして、ミルナだけは感じ取っていた。

寂しげに佇むこの聖堂の締め切られた扉から既に、人の悪意のようなものが流れ出ているのを。

( ゚д゚ )「少し、うるさくなるぞ」

そう言って、こちらを見つめるクーの顔を見ながら、門扉の正面に立って片足を上げた。

そして、クーがミルナの言葉に頷くよりも少し早く、上げられた片足は、
門扉の裏側であてがわれていたであろう閂すらもへし折る程の力で、
次の瞬間には扉ごと蹴破り、門扉は勢いよく開け放たれる。

広い聖堂内に、轟音が鳴り響いた。
その音に、祭壇に祈りを捧げていた多数の黒衣の信者達が、全員こちらを振り向く。

( ▲)「何事だ!?」

全員が全員、ずかずかと中へ上がりこむミルナへ、視線を集中させた。
浮き足立つ者が殆どだが、数名は即座に走り出し、壁のラックにしまわれていた
鎖で鉄球を繋いでいる、フレイルの柄へと手を伸ばしていた。

221以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:55:42 ID:cEOPo.UM0

( ▲)「貴様……何という事を!ここは神聖なる聖ラウンジの神のおわす所ぞ!」

( ゚д゚ )「……神聖、ねぇ」

言って、くっくと含み笑いを不敵に隠そうともしないミルナの姿に、
フレイルを手にした信者達が、じりじりとにじり寄っていく。

( ゚д゚ )「神が?……こんな、掃き溜めにか?」

( ▲)「なんと……我ら聖ラウンジを、愚弄するかぁ!」

( ゚д゚ )「笑わせるな、俺は、この子の両親を連れ戻しに来ただけだ」

自分の背中にぴったりと張り付き、少しだけ震えるクーの肩を掴むと、
ミルナは黒衣の信者達の前に、その顔だけ向けさせた。

川;゚-゚)「……このひとたち、だ」

その言葉を引き出すと、怯えるクーの瞳をしっかり見据えて、
ミルナは一度小さく頷いた。そして、すぐにクーを自分の背中に戻す。

( ゚д゚ )「……だ、そうだ。貴様らがこの娘の両親を連れ去ったのを、認めるな?」

 「…あれは、確かルクレール家の…」

   「娘がどうしてこんな男と……いや、それよりも……」

( ▲)「何者だ、貴様?」

222以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:56:03 ID:cEOPo.UM0

ミルナとクーの前に立つ黒衣の信者の後ろでは、少しずつ声高に、
まるで呪詛を唱えるかのように、一つの言葉がぽつぽつと囁かれ始める。

   「異端者……」

    「そうだ……イスト様に認定を頂くまでもない……」

  「そうだ、紛う事なき、異端者……」

「異端者、異端者、異端者」

二人を扇状に取り囲むようにして、十数人もの黒衣の信者達は、糾弾を始める。
がっしりと背中に取り付くクーの体が、小さく震えているのがミルナには分かっていた。

だが、だからこそ。

震える少女を安心させるために、この異様な光景にも一切怯まず、言い放つ。

( ゚д゚ )「”ミタジマ流喧嘩拳術”……」

( ゚д゚ )「”男闘虎塾”門下が一人、”ミルナ=バレンシアガ”!」

聖堂中に響き渡る程の大声に、一瞬信者達はびくっと身じろいだ。
若干の沈黙の後、背中のクーを少しだけ手で遠ざけて、フレイルを携える
幾人もの黒衣の信者達の前へと、ずかずかと歩み出た。

( ゚д゚ )「通りすがりの、冒険者だ」

223以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:56:24 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「生憎と俺はよそ者なんでな、多少の無茶は、押し通させてもらおう」

( ▲)「…このッ、図々しく!」

言い終えるや否や───左方から飛び出た一人がミルナの側面から、
その側頭部を目掛けて、唸りを上げてフレイルを振るった。

( ゚д゚ )「……言っておくがな」

人間の頭部など軽々と陥没してしまうであろう鉄球は、すぐ間近。

だが、それに気を取られる事も無く、口では言葉を紡ぎながら、
ミルナは左手を自分の顔のあたりまで持ち上げて、左方へと突き出した。

自分の頭部目掛けて振り下ろされた、フレイルの鉄球に対して。
次の瞬間、鈍く重い金属音が、鳴り響く。

この場にいる誰もが、致死に至る一撃だと確信していただろう。
良くて昏倒する、ミルナの姿を想像していたはずだ。

( ▲)「……ぷごぉ、うッ…」

だが───中空で堅く握り締められたミルナの拳は、その鉄球を弾いた。

勢い余って、それはフレイルを振りかざした信者の顔面へと叩き返される。
同じか、それ以上の質量を持って弾かれた鉄球の勢いは凄まじく、
振り下ろした当の本人は顔面こそ潰れてはいないが、鼻と歯ぐらいは折れただろう。
すぐに膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れこんだ。

( ゚д゚ )「”鉄撃”………俺の身体は、全身が凶器だ」

224以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:56:49 ID:cEOPo.UM0

驚愕の光景を目の当たりにした信者達は、皆ローブの下で驚嘆の表情を浮かべているだろう。

( ゚д゚ )「”1000日の稽古を鍛とし、10000日の稽古を錬とす”───」

( ゚д゚ )「そうして、いつしか己の身は鉄にも劣らぬ硬度と、強度を帯びる」

( ゚д゚ )「ま……ミタジマ流喧嘩拳術においては基礎だが、貴様ら相手なら十分だろう」


   「み、見たか今の……!?」

       「手だけで、いとも軽々と……」


  「うろたえる事はない……囲んでしまえば……」

ざわついていた信者達を尻目に、後方からは一人の男が歩み出ようとしていた。
肩を掴まれた信者の一人が硬直し、それを視認した信者達に、次々に動揺が走る。

(≠Å≠)「……ほぉ〜?……随分とまた、潔い異端者だな。これは」

審問官、イストだ。

心底物珍しそうな視線を、ミルナに対して投げかけていた。
その手に握られているのは、拷問にも使われる鋼杖。
先端には、鋭利な装飾が施されている。

225以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:57:16 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「そうだな……この頃の働きぶりのおかげか、審問も減ってきた」

(≠Å≠)「こいつを今この場で裁けば、諸君らの良い余興にもなるだろう」

首をごきごきと鳴らした後に、勿体を付けるようにして、命令を出した。
不敵に、口元ではにやにやと口角を吊り上げている。

自分以上に傍若無人な印象を受けたその男を睨みつけながら、
ミルナは初めて外套を取り去ると、背後のクーへと投げ渡した。

( ゚д゚ )「そのマント、預かっててくれないか」

偉そうな立ち振る舞いのこの男を見るなり、クーが今まで以上に
怯えはじめたのにふと気づくと、その心情を察し、一瞬気にかけた。

川;゚-゚)「あぅ……あ、あの……ひと」

( ゚д゚ )「(……相当、心に大きなキズとなっているのか)」

そんな二人のやり取りなどお構いなしに、一寸だけ考え込んだ振りをして、
仰々しく大手を振りかぶり、この場の信者全員の注目を、自分へと向けさせた。

そして、高らかに宣言する。

(≠Å≠)「……よろしい、私の権限を持ってして、今この場で特別に許可しよう!」

(≠Å≠)「叩き潰せ……そうだな、”肉塊の刑”だ」

226以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:57:36 ID:cEOPo.UM0

ミルナに対して執行されるべき刑をイストが口にしてから、
武器を手にした信者達の動揺はおさまった。再び、全員がミルナに注視する。

今、彼らの中に芽生えている感情は、恐らく恐怖だけだろう。

( ゚д゚ )「教えてやる……ミタジマ流の極意は、技にあらず」

( ゚д゚ )「”心”、それこそが、”芯”」

( ゚д゚ )「己の信念、”志”だけは、絶対に曲げぬという事だ」

(#≠Å≠)「うひゃひゃひゃぁッ!断罪しろぉぉぉッ!」

イストの号令と同時に、武器を手にした信者達が一斉にミルナへと飛び掛る。
その真っ只中、最奥で狂笑を浮かべる黒衣の修道士、イストへ向け────

(# ゚д゚ )「年端もゆかぬ幼子から両親を取り上げる、貴様らの様な外道に対してなぁッ!」

───ミルナ=バレンシアガは。堅く拳を握り締め、ど真ん中を突っ切っていった。

227以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:58:04 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )(一対多の争いならば、頭を押さえてしまえば……)

そう考えた所で、にやにやと気色の悪い笑みを浮かべる色白の男、
一際異彩を放ったいでたちのイストを、ミルナは標的として見定めていた。

だが、十数人もの人の壁に阻まれれば、そう易々と近づく事は出来ない。

( ▲)「取り囲め!」

イストの前に立つ黒尽くめの一人が、部下達に檄を飛ばす。
瞬時に僧兵達は散開し、ミルナの斜め後方からも襲いかかれる布陣を整えつつあった。

(# ゚д゚ )「どけッ!」

そこへ、力強く一歩を踏み込んだ。

たったそれだけの動作で、5〜6歩は間合いの空いていたはずの、
正面に立っていた一人の眼前にまで一気に距離を詰める。

(;▲)「───ッ!」

慌てふためき、すぐにフレイルを振りかざそうとする。
が、瞬時の反応に、あまりにも違いがありすぎた。

すかさず顔面へと叩き込まれた拳は、僧兵を後方まで吹き飛ばす。

228以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:58:33 ID:cEOPo.UM0

( ▲)「……おのれェッ!」

一人が倒された時点でようやく攻勢へと転じた周囲の僧兵が、
数人がかりで、ほぼ同時にフレイルを振り下ろす。

( ゚д゚ )「ふん、ハエが止まるぞ?」

次々と脳天を目掛けて振り下ろされる破壊力の塊だが、
それらはまるで陽炎を叩こうとしているかのように、かすりさえしない。

後ろにも目があるかのように、斜め後方からの攻撃にも身を傾け、
前方からの三つはそれぞれ掻い潜り、さらには直後に反撃すらこなしてみせる。

(# ゚д゚ )「はぁッ!」

(;▲)「ぶぐッ!?」

大きく仰け反った一人がまた崩れ落ちるも、後方に控えていた僧兵が
すぐに穴の開いた布陣を補強するかのように躍り出た。

再びの睨み合い。今度は更に多くの人数に囲まれたミルナは、両手を
前方で軽く交差させ構えながら、周囲の気配に気を張り巡らせた。

この尋常ならざる腕っ節に、僧兵らは大多数を占めながら、明らかに逡巡していた。

( ゚д゚ )(とはいえ……)

見れば、フレイルを構える僧兵の後ろには、短刀を携える者の姿も見えた。

振りかぶらなければ攻撃の動作を行えない、溜めの大きなフレイルならば容易い。
が、それに紛れて様々な武器でこられれば、この人数相手では無傷というのは難しい。

229以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:59:01 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )(この人数……やはり簡単にはいきそうにないな)

ふと思い当たり、後方で震えているクーの様子を肩越しに覗き見た。

川;゚-゚)「…ふぇぇ……」

( ゚д゚ )(……待ってろ、すぐに終わらせてやる)

少しばかり弱気の虫に食われそうになった自分を、戒める。
再び強い意志を込めた視線を、最奥──壇上に立つイストへ向けてぶつけた。

(≠Å≠)「………!」

先ほどから、ミルナの一挙手一投足をただただ無言で眺めていた。
だが、そこで二人の目と目が合った時、イストはハッとしたような顔を見せる。

( ゚д゚ )「………?」

一瞬、ミルナにはそれが理解出来なかった。
しかし、イストが頭上を越えた自分の後方を指差した時、事態を察知した。

(≠Å≠)「───その娘を捕らえろッ!この異端者と同じ、同罪人だッ!」

イストの本意など、考える事に時間を割くまでも無く知れた事だった。
ご大層な大義名分を掲げて、自分達が両親を奪ったこの娘っ子を、人質に取る。

そして、ミルナの動きを止めるのが狙い──確かに、相対するのが
この正義感の塊の様な男ならば、あまりにも合理的な方法だ。

230以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:59:23 ID:cEOPo.UM0

ミルナの張り裂けんばかりの怒声が聖堂に木霊し、僧兵達の耳を劈く。

(# д )「───きさ……まらぁッ!!」

それに一瞬たじろいだのは、僧兵達。
ミルナの怒気に対しても、また、イストの命令に対しても、だ。

(#≠Å≠)「どうしたァッ!?”審問官からの指令が下された”ぞ!?」

( ▲)「………!」

狼狽しつつも、僧兵達が動き出す。
イストの掲げる正義に、臣従せざるを得ない子羊達が。

ミルナの後方、クーの立つ場所に一番近い僧兵の一人が、手を伸ばす。

川;゚-゚)「いやっ!」

(# ゚д゚ )「───クーッ!!」

勢い良く身体の向きを反転させると、クーの叫び声の聞こえた方へと
疾駆した。周りに居た僧兵達が武器を振るって来たが、それらは全て
激情に駆られたミルナの駿足の下に、空を斬るに留まった。

(;▲)「くっ……このッ」

川;゚-゚)「やだ!助けてっ!」

クーの腕が掴まれた所で、辛くも間に合った。

231以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 03:59:44 ID:cEOPo.UM0

(# ゚д゚ )「───せりゃあッ!!」

ミルナの剛脚が即座に僧兵の頭をすぱんと打ち抜く。
一瞬で意識が飛ばされたであろうその身は、中空で大きく後方に回転すると、
勢いそのままに、体の正面からもろに地面へと叩きつけられた。

川;゚-゚)「おじさん!」

胸元へと駆け寄るクーを、両手で受け止める。

( ゚д゚ )「……すまんな」

眼を大きく広げて胸元でおののくクーに、一言呟いた。
その背後では、鎖が擦れ合う金属音。

(;▲)「う……うわぁぁぁぁッ!」

一人が、喚きながらミルナの背中へと走り寄って来ていた。
すぐに振り向き、身をかわす事は容易だった。

( ゚д゚ )「………チッ」

だが、それをしてしまえばクーの身が危うい。
迎撃しようかとも迷ったが、そのまますぐに思考を停止させる。

結果、大きく助走をつけたフレイルの鉄球は、ミルナの背中へ
唸りをあげて叩きつけられた。

( д )「がッ、は………!」

232以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:00:05 ID:cEOPo.UM0

目の焦点がぶれ、意思とは無関係に膝の間接ががくの字に折れ曲がる。
だが、倒れるのを堪えるようにして、背中を丸めてクーの身を抱きかかえた。

辛うじて、脚を踏ん張る。

(;▲)「はぁ……はぁ……どうだ!」

(#≠Å≠)「続けてかかれッ!粉々に粉砕しろッ!」

甲高いイストの叫びを耳にしながら、抱きかかえていた両腕を離し、
ミルナはそっとクーを自分の身から押しやり、遠ざけた。

川;゚-゚)「おじ……さん?」

( д )「─────のか」

喚き散らしながらさらに襲い来る僧兵達。
常人ならば背骨が砕ける程の威力をその身に受けながら、
なおもミルナは再び振り返ると、それらの前に立ち塞がった。

( д )「───貴様らの騙る”神”は」

( ゚д゚ )「こんなか弱い命すら、奪おうというのか───」

233以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:00:28 ID:cEOPo.UM0

目の前には、イストによる強烈な圧力とミルナへの畏怖がせめぎ合い、
ローブの下で半ば狂乱に満ちた瞳を浮かべる多数の僧兵達が、武器を振りかざす姿。

( ▲)「ウオオオォォォォッ!!」

一人が振るったフレイルは、ミルナの頭上に影を形作っていた。

(#゚д゚ )「────ならば、神など死ねィッ!」

その叫び。その気合と同時に、砲弾のような破裂音が鳴り響く───

かと思えば、鉄球を叩き落したはずの男の拳は、目の前にある。
尚且つ、フレイルの柄から繋がった鎖の先端部が千切れており、
重量感のある鉄球の姿そのものは、忽然と鎖の先から消えていたのだ。

( ▲)「………えっ………?」

聖堂に居た全員ともが、その時何が起きたのかわからなかっただろう。

(≠Å≠)「─────ッ!」

が、僧兵の振り上げたフレイルから消えたはずの鉄球は、イストの背後。

祭壇の上空で掲げられていたはずの、巨大な聖十字の象徴の中心へと、
深々とその全体をめり込ませていた。

次の瞬間には大きな亀裂を全体へと走らせ、すぐにその姿を無残な瓦礫に変える。

234以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:00:47 ID:cEOPo.UM0

(;▲)「そん……な……」

崇める”象徴”が床へゴトゴトと崩れ落ちてゆく、その様に、
僧兵達は口々にか細く、ため息めいた弱弱しい声を口の端から漏らした。

彼らの身を竦ませるのには十二分過ぎるほど、文字通りの圧倒的な衝撃。
それは、すぐに落雷が伝うようにして一瞬の内に彼らの胸の内に恐怖を伝染させた。

川;゚-゚)「すご……い」

あんぐりと口を開けるクーの網膜には、その光景が強烈に焼き付けられていた。
その前には、腕っ節がめっぽうどころではなくばか強いその一人の男が、不動のまま。

(# ゚д゚ )「立ち塞がるなら───もう手加減はせんぞ」

─────「バカなッ!!」─────

”瓦礫”が全て崩れ落ち、中には呆然と口を開けて武器を取り落とす僧兵も居る中、
ただ一人、イストだけは断じて認めない、とばかりにミルナの方を指差していた。

(;≠Å≠)「こんッ……こんな事はあり得ない……認めんぞォッ!」

声がしゃがれるのではないかという程に、ただ一人、驚愕に叫ぶイスト。

( ゚д゚ )「後悔するんだな」

言って、壇上で半狂乱に「奴を殺せ」と騒ぎ立てるイストに、近づいてゆく。

235以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:01:12 ID:cEOPo.UM0

これほど人間離れした業を見せられては、イストに圧力をかけられた僧兵達の
戦意も、もはや完全に消えうせてしまっていた。

(;▲)「………ひっ」

ミルナの行く手を今まで遮っていた人の壁。
それらが、今ではまじないを掛けたかの様にすんなりと道が示される。

( ゚д゚ )「この身に飼いならす”螺旋の蛇”を呼び起こさせたのは、貴様らだ」

やがて、ミルナがイストの目の前に立ち止まった。
互いの鼻息がかかるほども、距離が近い。

(;≠Å≠)「あ……ひっ」

( ゚д゚ )「この娘の両親はどこだ?あと、貴様らが拷問にかけている住民達もな」

(;≠Å≠)「ち……地下……でスゥ……」

胸倉を掴み顔を引きずり寄せると、先ほどまではあれほど不遜な態度だった
イストも、自分の瞳を真っ直ぐに射抜くミルナから視線を背けながら、
絞り出すようなか細い声で、あっさりと口を割った。

いつの間にかミルナの傍らに居たクーが、後ろで大声を上げる。

川*゚-゚)「おかあさん!……おとうさんにもあえるの!?」

236以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:01:41 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「………」

初めてミルナが目にした、瞳を輝かせたクーの顔を見つめると、
イスト審問官の胸倉を掴み上げながら、無言で浅く頷いた。

多種多様の表情を浮かべながら、こちらのやり取りを伺っていた僧兵達を
追い払って人払いを済ませると、クーを引き連れて、襟首を引っつかんだままの
イストの案内のもと、聖堂の地下室へと続く階段を一歩一歩降りていった。

─────────


──────

───

237以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:02:08 ID:cEOPo.UM0

─────────

──────

───

等間隔に、松明の炎が妖しく照らし出す暗がり。
階段を下りるにつれて、幾重にも重なった呻き声が耳に届く。

神の名を称える聖堂の地下に、決して地上の光が当たる事のない拷問場。

その雰囲気を感じ取っているのか、傍らのクーは次第に不安げな表情を浮かべる。
歯軋りしながらイストを引っつかむミルナの手にも、次第に力が入っていた。

川;゚-゚)「………なんか、こわい」

( ゚д゚ )「悪趣味だな……ここが貴様らの拷問場所という訳か?」

(;≠Å≠)「ここは私のし、神聖なる審問場だ……グエッ」

思い出したように強気を口にしたイストの襟首を一層強く締め上げ、
紡ごうとしていた言葉を中断させる。

長い階段をようやく下り終えた時、やはりそこに広がっていたのは、
思わず目を塞いでしまいたくなるような、惨たらしい光景だった。

238以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:02:32 ID:cEOPo.UM0

鉄格子に囲われた部屋が何棟もあり、その一室では多数の死体が折り重なっている。
暗闇を照らす松明の橙色が、皮膚が剥がされて赤黒く露出した傷口を、不気味に染め上げる。

(; ゚д゚ )「惨い……」

見れば、逆さに釣られた状態で、身をよじらなければ水槽に頭部が浸かってしまう者や、
毛髪を一本残らず抜かれ、顔には幾度も焼きごてを押し付けられた女性が、うな垂れている姿。
どれも、極限まで心身を追い詰められ、力尽きてしまう寸前の人間ばかりだった。

川;゚-゚)「……おかあさん!おとうさん!」

突然ミルナの脇をすり抜けて走り出したクー。
すぐに後を追おうとしたが、自分が締め上げるイストの存在が気に掛かった。

ふと、そこらに散らばっていた鉄の手錠に視線が留まり、それを拾い上げる。

( ゚д゚ )「そこから、動くなよ」

(;≠Å≠)「………ふん」

イストの身を後ろ手に手近な鉄格子へと押し付けると、手錠を掛け、すぐにクーの後を追った。

239以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:03:01 ID:cEOPo.UM0

クーは鉄格子の中の一人一人へ、声を掛けてまわっている。
その中の一人の女性が、クーの言葉に反応したようだ。

「ア……」

川;゚-゚)「おか……おかあさん?」

( ゚д゚ )「クーっ!」

「……アンタァァァーッ!」

格子の外から語りかけたクーの方へと、女性は一直線に飛び掛かる。

「私をここから出せェッ!こんな…こんな顔にしやがってッ!」

「殺してやる、呪ってやる」格子を挟んでそう怒鳴り散らしながら、
がちゃがちゃと鉄格子を掴み揺らすその女性の瞳には、もはや正気はなかった。
一瞬呆然と立ち尽くしていたクーの目を塞ぎ、ミルナは身体を割って入れた。

( ゚д゚ )「……違うか、お前のお母さんではないな?」

川;゚-゚)「……う、うん」

驚いた様子のクーの頭を抱え、背中をぽんぽんと叩きながら落ち着かせる。

もし神とやらが本当にこの世にいるのならば、せめてこの娘と両親を、
五体満足に会わせてやって欲しい───そう、ミルナは願った。

限りなく絶望的な、儚い願いかも知れないが、
そんな事があるのならば、神に祈るのも悪くはないというのに。

240以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:03:24 ID:cEOPo.UM0

───不意に、背後の鉄格子の中から、一人のしゃがれた男性の声がした。

「……まさ、か………」

( ゚д゚ )「………?」

声の方へと目をやると、そこには格子の奥で壁にもたれて寄り添う、二人の男女。
そのうちの男性の一人が、次に口にした言葉に、目を大きく見開いた。

「その、その子は………クー、か………?」

川;゚-゚)「おと、おとうさんの声だ……」

( ゚д゚ )「!!」

クーの両親に間違いない、そう確信したミルナは、すぐに鉄格子へ駆け寄る。
外側から掛けられた錠を確認すると、高々と掲げた手刀をそこへ全力で振り下ろした。

(# ゚д゚ )(─────”緑閃刀撃”ッ)

鉄錠が呆気なく真っ二つに叩き割られ、かちゃりと地面へと落ちると、
錆付いた鉄格子を開けきるよりも早く、クーは両親の元へと駆け出していた。

川;-;)「おとうさん……おかあさん!さびしかったよう……!」

241以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:03:47 ID:cEOPo.UM0

「本当に……クーだ……私は……夢、でも……?」

背中をもたれる父親の胸元へ飛び込み、今まで堪えていた涙の分まで、
全力で泣き続けるクー。父親はその頭をぎこちなく撫でながら、ミルナへ視線を送った。

「あな……た……が?」

( ゚д゚ )「……ああ。ここで拷問にかけられている人々を、助けに来た」

「……どうやって……感謝の意を……送れば、いい、か……」

喉を焼かれているのか、まだ自分とそれほど歳も変わらぬ若年の喉からは、
老人のようにしゃがれた声で、言葉がどうにか搾り出される。

そして、クーと再開して虚ろな瞳に若干の生気が戻ってはいるが、
立ち上がりクーを抱きかかえる事が出来ない理由に、気づいた。

(; ゚д゚ )(手足の腱が……全て切られている……)

もう、立ち上がる事も、物を掴む事も一生かなわないであろう父親の胸で、
それに気づく事もなくクーはえんえんと泣き続ける。

一度深く視線を落としたミルナだったが、すぐに隣で壁にもたれる
クーの母親の様子が気に掛かり、その傍にしゃがみこんだ。

242以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:04:12 ID:cEOPo.UM0

(; д )「─────ッ」

「……かの……じょ……は……」

川 - )

息を、していない。
端正な目鼻立ちのその女性は、眠ったような横顔をたたえているだけだ。

「さっきから……語りかけても……返事、が……」

川;-;)「ねぇ、おとうさん……おかあさんは?」

娘のその言葉に、父親はゆっくりクーの首元に腕を回して引き寄せると、
肩を小刻みに震わせ、歯をかちかちと鳴らしながら、嗚咽を堪えている。

突然仲を引き裂かれ、この娘は親の死に目にも会えなかったのか。
その大きな心の傷を抱えて、生きていかねばならないというのか。

断じて───そんな不条理、納得できる訳がない。

( д )(今の俺に、出来るかはわからんが……)

生気の抜けたクーの母親の前に立つと、呼吸を整えて精神集中を試みる。
修行に明け暮れていたあの時から、腕は鈍っていないはずだ。

( д )(”ミタジマ流”は活殺自在の拳撃流派……)

( ゚д゚ )(人の、生きる力を引き出す事も出来る、そのはずだ)

243以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:04:47 ID:cEOPo.UM0

目を閉じ、両手を前へ突き出すと、クーの母親の身体を、
その手を透して見やるかのように、全力で何かを探っていた。

( д )(僅かだが───感じるぞ)

全神経を集中させたミルナに、周囲の何もかもの雑音は、今や届かない。

( д )(この女性の身体には、まだ”気”が残っている───)

( ゚д゚ )(─────ならばッ!)

突然かっ、と目を見開いたミルナは、クーの母親を引き寄せると、
両の手から数本の指を突き出し、彼女の首元へ深く挿し入れた。

( ゚д゚ )(ミタジマ流孔術……"湧泉孔"ッ!)

身体の至る場所に点在する”孔”には、人体の活力を司る箇所がある。
それらの点を的確に突く事により、人を生かす事も、殺す事も出来る技だ。
これはその一端、生命力を再び湧き上がらせる為の、活の秘孔だった。

クーの母親の首を指で押さえたまま微動だにせず、ミルナはその
険しい表情を緩めない。次いで、二度、三度、手付きと箇所を変えていく。

だが、幾度”湧泉孔”を確実に突こうとも、クーの母親が息を吹き返す気配は無い。
そうして、五度目の孔を突いた所に、隣にいた父親がミルナへ声を掛けた。

「……もう……いいんです……彼女、は……」

244以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:05:07 ID:cEOPo.UM0

川;゚-゚)「おかあさん……は?おかあさんは……どうしたの?」

(; д )(俺の孔術では……手に負えない、か……)

変わらず寝顔をたたえるその顔を再び見つめると、がくりと肩を落とし、
ミルナは立ち上がると、やるせなさそうに彼女に背中を向けた。

(;゚д゚ )(ミタジマ流の看板を背負って立つ一號生と言っても……所詮はこの程度……)

このロアリアの街に来てから初めての事だった。
自分の心に影を落とす暗い想念に、ミルナの心は初めて目の前の現実に屈した。

生命の原動力である”気”も───もはや彼女の身体から感じ取る事は出来ない。

悔しさに下唇をかみ締めると、さらに憎らしい程に込み上げてくるのだ。
いくら精神と肉体を鍛えたからといって、幼子一人救ってやれない自身の無力さが。

だが───

”神”は、いじらしい娘子の気持ちを、汲み取ってくれたのだろうか。
断じて、それはこんな自分のように情けない男の、我が儘の為ではないだろう。

川 ' -') 「─────クー……?」

今にも消え入りそうなその声、だが、確実にミルナの背で聞こえた。

245以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:05:28 ID:cEOPo.UM0

川*゚-゚)「───おかあさん!」

( ゚д゚ )「………ッ!」

自らの孔術によって蘇生したなどと、自惚れはしない。
ただその奇跡に、驚きの形相を浮かべてミルナは振り返る。

川 ' -')「……まさか、もう一度……逢えるだなんて……」

川l;-;)「あいたかった、あいたかったんだよう……おかあさん!」

顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙が頬を伝うのも構わず、今度は母親の胸に飛び込むクー。

だが、腹の底からどうにか搾り出しているかのような声色の
クーの両親の衰弱具合は、どう見ても尋常なものではない。

クーにとってはあまりに無慈悲な事実であろうが、
両親ともに、長くは持たないであろう事を───悟ってしまった。

「アン……ナ?……なんという……奇跡だ……!」

川 ' ー')「よしよし……迎えに行けなくて……ごめんね……?」

( д )「………」

246以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:06:03 ID:cEOPo.UM0

あの審問官達の拷問により、心身共に極限にまで追い詰められているはずだ。

だが、それでも───咽び泣く我が子の頭を二人して撫で上げ、その顔に
優しげな笑みを浮かべながら二人して見守る姿に、ミルナは心を打たれていた。

──────親というものは、強い。自分などより、よほど。

どれほど鍛錬を重ねて、その身に奥義の数々を会得しようとも、
どれほど激情に身を任せ、裂帛の気合を込めた咆哮をあげようとも。

親が子を想うこの気持ちには、決して自分などではかなわない───
この状況にあって、そんな、複雑な感情の波が心に押し寄せていた。

残された時間は、わずかだった。

両親にとっては、自分達の愛の結晶を愛でる事の出来る、最期に残された短い時間。
クーにとっては、自分が両親に愛されていた証を、最後に胸へ刻み付ける為の短い時間。

せめてクーが泣き止むまで、自分のような邪魔者は消えよう。
そう思って、ミルナは三人を残して格子の一室を立ち去った。

部屋から出ると、格子に繋がれた自身の手錠をがちゃがちゃと
揺らしていた、イストの姿があった。

(;≠Å≠)「………ちっ」

247以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:06:28 ID:cEOPo.UM0

ミルナと目が合うなり、ばつの悪そうにそっぽを向く、イスト。

( ゚д゚ )「………貴様が、あの娘の両親をいたぶったのか?」

(;≠Å≠)「ふん、いかにも……ルクレール夫妻に異端認定を下したのは、この私だ」

(≠Å≠)「だが、それがどうしたッ!?」

( ゚д゚ )「………」

(≠Å≠)「この大陸には、神を信じぬ不心得者の輩ばかり……」

すぅっと息を吸い込むと、この階下の鉄牢全体に響き渡る程の
大声で、イストは声を荒げてミルナに叫ぶ。

(#≠Å≠)「他人を殺してのうのうと日々を生きている者が、一体何人居るッ!?」

(#≠Å≠)「他者に生活の糧を奪われ、嘆きながら命を落とす者が何人居るのだッ!!」

(≠Å≠)「ならば、全部裁いてしまえばいい………」

(#≠Å≠)「”疑わしきは裁く”……この私の行いにより、邪教徒はこの街から一掃されたのだぞッ!!」

( ゚д゚ )「……それでも、裁かれるべき人間を決めていいのは、お前じゃあない」

( ゚д゚ )「お前は、”神の代弁者”を気取って行使する力で、優越に浸っていたに過ぎん」

248以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:06:49 ID:cEOPo.UM0

(#≠Å≠)「……グ、違うゥゥッ!取り消せ貴様ァッ!」

( ゚д゚ )(……最初は、そうでなかったのかも知れんがな……)

イストに聞こえない程度の小声でそう呟くと、一度視線を外した。

自分の言葉は、恐らくこの男の琴線に触れたのだろう。
依然として鬼の形相から視線が向けられているのを感じたが、
単純に憎むべき男、というだけにも今のミルナには思えなかった。

ある意味では、この男も哀れな一人の子羊なのかも知れない。
いつしか後ろ盾である神の信徒という力が強まって行った中で、
この男の信じる正義は、裁くべき対象を見失ってしまったのだろう。

───「歪んでしまったんだよ、お前は」と、心の中で呟く。

そして、イストの目の前に立つと、最後の言葉を投げかけた。

( ゚д゚ )「残された時を……お得意の神とやらに懺悔しながら生きればいいさ」

(#≠Å≠)「貴様のような流れ者などにッ!何を言われる筋合いもないわぁッ!」

ミルナの二本の指がそっと突き出されると、今にも噛み付かんばかりの
剣幕で吠え立てるイストの首元へとあてがわれると、ずぶりと挿し入れられた。

(#≠Å≠)「取り消せ、先ほどのッ………んぐむッ?」

249以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:07:08 ID:cEOPo.UM0

一拍の間を置いて、言葉に詰まったイストの首が、異様に膨れ上がる。
顔を真っ赤に染めたまま地面に崩れ落ちたが、まだその視線はミルナへ向けられていた。
何か言いたげに言葉を紡ごうとするが、顔には太い血管が浮き上がり、
意思と反するように、四肢はじたばたと暴れさせている。

( ゚д゚ )「………じゃあな」

その言葉が、口の端から泡を吹いているイストの耳に届いたかどうかは、定かではない。

だが、どの道この男も、そう長くは持たないだろう。
これは、真に鍛え抜かれた肉体でなければ、命の危機に関わる程に危険な秘孔だ。
人の潜在能力の極限までを引き出す、”螺旋孔”を突いたのだから。

顔の赤みは更に増していき、身体は次第に痙攣、間接は硬直を始めた。
その姿を見下ろしながら、少しだけ自嘲気味な笑みを浮かべる。

( д )「───俺も───」

「歪んでいるのかな」

そう言いかけた口の動きを、ねじ伏せる。

闘争が日常であっても厭わない自分は、命のやり取りに微塵も恐怖を感じないのだ。

これまで修行の日々で培ってきた鋼の心は、今日のように他者の命を
生かすのにも、あるいは殺すのにも───あまり深く考える事はしなかった。

250以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:07:28 ID:cEOPo.UM0

だが、身近な人の死を見せられた、残された人間の心には、
それが果たして、どれほどの痛いほどの悲しみをもたらすのか。

ミタジマ流拳撃術道場───”男闘虎塾”筆頭一號生、ミルナ=バレンシアガ。

生れ落ちてから23年、日々を闘いに明け暮れてきた彼の心に───
この時、ふとした気の迷いが生まれた瞬間であった。

─────

──────────


───────────────

この日を境にして、ロアリアの街から聖ラウンジへの一切の信仰が失われた。
民衆へ非道の限りを尽くした異端審問団の行いも、住民の直訴の下、ついに明るみとなる。

251以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:07:54 ID:cEOPo.UM0

聖ラウンジ教の大本営を賜る聖教都市ラウンジ、時の司教”アルト=デ=レイン”
彼は、真偽の調査を行うため、すぐさま教徒ら十数名を調査団として組織し、派遣した。
その先で住民達の口から聞かされる、異端審問団によるあまりに惨たらしい仕打ち。

それらはどれも説得力に満ち溢れ、アルト司教が審問団から一切の権限を奪い、
自分達聖ラウンジの庇護から切り離す事を決意させるのに、さほど時間は掛からなかった。

聖堂の地下で発見されたイスト=シェラザール審問官を殺害したのが何者なのか、
結局それだけはわからなかったが、敵対する極東シベリア教徒の一部の者であろう
という噂話は、住民達の間でまことしやかに囁かれていたようだ。

今でも時折極東教会の人間がロアリアへ巡礼に訪れるが、それも、住民達の信仰に対して
訝しむ視線の数々に気圧されて、ごくごく稀にしかその姿を見る事は無くなっていった。

この街の人々はみな信仰を捨てて、今では、自分達の力だけを信じるようになっていた。

─────

──────────


───────────────

( ゚д゚ )「随分と、遠くまで来たな」

252以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:08:30 ID:cEOPo.UM0

川 ゚-゚)「そうだな」

高々と聳える山岳の頂上付近からは、うっすらと雨雲がその上を覆っている
ロアリアの街が、今では遥か遠くに見える。

あれから───もう1年もの月日が流れているのだ。
最近では、クーに自分の無骨な口調が映ったか、言葉を真似するようになっていた。
無愛想な娘に育ってしまうのではないかという事を、少しだけ危惧する。

あの事件の後、縁者数人らが集まり、ルクレール夫妻の葬儀はしめやかに執り行われた。
身分を隠して、ミルナ自身もそれに立ち会っていたのだ。

あの時のクーの表情は、今でも忘れられない。
精も根も尽き果て、一生分の涙をすでに流してしまったのではないかと、心配した。

ミルナ自身も一番信用できそうな人柄に感じた、ルクレール当主の弟。
彼はクーを引き取り、自分が死ぬまで面倒を見ると、ミルナを前に力強く語った。

だが、その場に居たクーはその申し出を押しのけると、
ミルナまでもが思わず目を剥いてしまうような事を言い放ったのだ。

253以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:08:48 ID:cEOPo.UM0

川゚-゚)「ミルナおじさんに……ついてく!」

周りからの猛反対の中、強情に自分の考えを曲げようとしないクーの意思を
尊重して、結局折れたのは自分だった。半ば強引にクーを連れ、ロアリアを発った。
今ではこうして自分の旅に伴っているという訳だ。

( ゚д゚ )「さぁ、後は山道を下れば、ヴィップの街に着く」

川 ゚-゚)「らくしょーだな」

( ゚д゚ )「甘く見るな。山は登るよりも、下りの方が大変なんだ」

クーに様々な事を教えながら、寝食を共にする。
たったそれだけの事だけで、ここ最近では自分の荒んだ冒険の日々にも
ずいぶんと安らぎが与えられているのは、クーのおかげでもある。

幼くして旅に出るきっかけとなった両親の死を、乗り越えつつあった。

容姿も端麗な娘だ。
が、きっとそれ以上に───「芯の強い娘に育つ」

そう、思えた。

254以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:09:21 ID:cEOPo.UM0

だが、幾夜をクーと共にする内、自分自身の中で芽生えていく感情に
心が揺さぶられて、どうしても寝付けない夜が何度かあった。

ある夜、クーは寝言でこんな一言を漏らしたのだ。

川 - )「…ん……おかあ……さん……」

( д )「…………」

─────”罪悪感”─────

クーの両親を救えなかった───その事実が自分を攻め立てるのだ。

いつか、クーにその事を責められる時が来るのではないかと、考える度に影を落とした。

無論、自分がいなければ、クーが両親と再会を果たす事はかなわなかっただろう。
だが、自分がもっと早く現れていれば、あるいは、自分の孔術にもっと人の活力を
取り戻す効力を秘めていれば───クーの両親が命を落とす事は、なかったかも知れない。

自惚れも過ぎたものだ、などと自分自身を気恥ずかしくも思う。

しかし、クーが寝床の枕元を涙で濡らしている場面を見るたび、心をちくりと刺す感情。

確かにクーと一緒の日々は、今までとは違う、自分にとって満たされる日々だった。
だが、冒険者という風に吹かれて消えてゆくような───そんな存在の自分が

彼女という太陽に依存しては、いけない。
また、彼女自身も、自分のような者に依存してはいけないのだ。

255以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:09:52 ID:cEOPo.UM0

せめてクーには普通に人生を歩み、普通に幸せを掴み、
そしていつか子宝を授かる、そんな普通の人生を歩んで欲しいと願うようになった。

自らの罪悪感を切り離す為ではない、そう自分の胸に言い聞かせながら、
この日は朝から決意した事があった。

( ゚д゚ )「見えてきたな……ヴィップだ」

川*゚-゚)「おっきぃ街だなっ」

───夕刻 交易都市ヴィップ───

ミルナは何度か来たことがある冒険者宿、”失われた楽園亭”を今晩の宿にした。

川*゚-゚)「ふかふかのベッドが私を待ってるんだっ」

席に着くなり夕食を済ませると、早々にクーは二階の寝室へと上がっていった。

客もまばらになった夜分を見計らって、久方ぶりの酒に頬を紅潮させながら、
ミルナは宿のマスターへ、ある頼みごとをした。

( ゚д゚ )「………そういう訳だ、どうにか、頼めないだろうか」

(’e’)「まぁ構わんが……女々しい男だな、お前さん」

( ゚д゚ )「…………女々しい、か」

256以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:10:16 ID:cEOPo.UM0

マスターが言っている事の意味は分かる。
確かに、クー自身がおくびにも出そうとしない過去の出来事を、
彼女を傷つけまいと何よりも一番気に掛けているのは、自分の方なのだろう。

やはり自分は、罪悪感を切り離そうとしているだけに過ぎない。

今は純粋な笑顔を自分へと向けてくれる彼女に、いつかどこかで
自分を恨む気持ちが芽生える事を、恐れているのだ。

たとえそうだとしても───もはや決めた事だった。

少しばかり酔いの回った自分は、皿洗いをしていたマスターの前に拳を突き出す。
それに気づいたマスターも、濡れ手に拳を握ると、自分のものへと軽くぶつけた。

こちらの頼みごとを、快く承諾してくれた、その合図だった。

その後、泊まり客の誰もが寝静まった中、木板の階段をゆっくりと軋ませながら
二階へ上がると、クーが先に休んでいる寝室の扉をそっと押し開ける。

川 - )「むにゃ……」

( д )(……恨んで……当たり前だろうな)

その安らかな寝顔を見届けると、胸元から取り出した一枚の羊皮紙を
クーの眠るベッドの枕もとへ置いて、ミルナはまた静かに寝室を後にした。

( ゚д゚ )(だが……いつまでも共に過ごせる訳でも、ないんだ)

257以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:10:35 ID:cEOPo.UM0

────

────────

────────────

川 o )「ふぁ……あ〜ぁ」

翌朝クーが目覚めると、彼女はそこに、いつもの光景がない事に気づいた。
毎日自分より遅くに目を覚ます、ミルナの姿だ。

川 ゚-゚)「ミルナ………?」

いつも自分より遅く眠りについて、遅くに目が覚める、ミルナ。
そんな日常の光景が自分の周囲に見当たらない事に、若干の違和感を感じる。

川 ゚-゚)「買い物にでも……行ったのかな?」

あくびをしながら目を擦り、ベッドから出ようと手を伸ばした所で、
手元に膨らんだ麻袋と一緒に、書き置きのようなものがある事に気づいた。

川 ゚-゚)「あれ……なんだろう、これ」

ミルナが忘れていったのだろうか、麻袋の方には銀貨が随分な重量分
詰まっているようだった。普段金銭を見せびらかさないミルナが、
これほどの金額を持っていたのは知らなかった。

258以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:10:54 ID:cEOPo.UM0

そして、傍らに置かれていた羊皮紙の文字に、たどたどしく目を通す。

川 - )「………え?」

羊皮紙に書かれていた全文を読み終えた時、ついぞ、そんな一言が口を突いた。
まだ幼さを残すクーには、そこに書かれていた現実が、一瞬理解できなかった。

受け容れる事が出来ないほどに衝撃的な内容が、一文字一文字に含まれていた。
何度も読み直し、一縷の期待を込めて裏面をめくってみるも、そこには何もない。

川;- )「嘘だよ!……そんなの、嘘だと言ってよ……ミルナ!?」

手紙の内容には極めて簡潔に、こう書かれていた。

259以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:11:16 ID:cEOPo.UM0


 ”目が覚めたら、この宿のマスターについていけ。

  身寄りが無いお前の面倒を見てくれる孤児院へ、案内してくれるはずだ。
 
  また、何か困ったら遠慮なくマスターを頼るんだ、彼の人柄は俺が保障する。”


また、手紙の最後は、こう締めくくられていた。


 ”それと───俺のようには、なるな”


川;-;)「こんなの……ひどいよ、ミルナ……」

数百SPもの銀貨と一枚の手紙だけをクーの枕元に残し、
ミルナ=バレンシアガは、彼女の元から立ち去ったのだ。

ミルナからの手紙には───極めて簡潔に、用件しか書きこまれていない。
しかしそれは紛れもなく、クーの人生を憂慮しての、苦悩を交えた決断だった。

260以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:11:50 ID:cEOPo.UM0

────それからしばらくして ”現在”────


────────


────

彼女に再び訪れた、大事な人が自分の元を去る悲しみ。
やがてその痛みが癒えて、また自分で歩き出せるようになるまでには、
やはり心の傷は大きく、幾月もの歳月を要した。

しかしその後の彼女はというと、悲しい過去を吹き飛ばすかのような
活発さに満ち溢れた女性となった。ちょくちょくヴィップの孤児院を抜け出すと、
女だてら、子供だてらに冒険者を志すという事は、周囲の人間に話していた。

15の時にはついに”失われた楽園亭”で依頼を受け、宿で帰りを待ちながら
頭を抱えるマスターの元に、初の依頼で見事に依頼完了の知らせを届けた。

その後もヴィップを拠点として、一端の冒険者と言えるだけの経験を重ね、
冒険者仲間の間でも、そこそこ顔の知れた人間となってきたようだ。

その彼女を、屋敷の階下で依頼を共にする同僚が、今も呼んでいた。

261以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:12:31 ID:cEOPo.UM0

「今行く」

そう階下の同僚へ伝えると、かつて父が書き上げた彼女自身の
肖像画を、置かれたイーゼルへそっと戻した。

ロアリア周辺の地質調査の依頼はもう完了しており、
あとは依頼人の元へと帰るだけだった。

その道すがら、変わることなくこの場所に建っていた自分の生家。
やはりこの家に来れば、様々な過去を思い出して複雑な想いを抱いた。

当然、あの人物の事も。

川 - )「(人は何度も挫けて……)」

川 - )「(……それでも、また何度でも歩き出せるのかな……?)」

川 ゚ -゚)「──────ミルナ」

旅を共にしたのは短い月日ではあったが、ミルナの存在は、
失った時を境に、日増しに彼女の中でさらに大きくなっていった。

それが、今こうして”クー=ルクレール”が冒険者として存在する理由でもある。

262以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:12:54 ID:cEOPo.UM0

─────

──────────

───────────────

旅の途中でたまたま通りすがった、自分の生まれた地。

同僚とともに屋敷を後にすると、振り返る事もなく、
クーは次の目的地である依頼人の元へ向かい、帰路を歩む。

川 ゚ -゚)(いつか……また会えるんだろう?)

心の中で呟き、どこまでも続くこの灰色の空を見上げた。
きっと、今もどこかの地を踏みしめているであろう、ミルナの事を想って。

────そうして、また彼女は歩き始めた。

263以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:16:01 ID:cEOPo.UM0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(5)

        「行く手の空は、灰色で」


             ─了─

264以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 04:25:38 ID:cEOPo.UM0

明日、遅くとも明後日にはすいこーして1話を投下します。
2話は書きかけで、3話もちょっと話は考えてあるのでこれまでより早く投下できるといいな。

>>2-13 「序幕」
>>14-29 ブーン編 0話(1)
>>33-64 ショボン編 0話(2)
>>67-115 フォックス編 0話(3)
>>121-190 ツン編 0話(4)
>>191-263 クー編 0話(5)

となっとりやす。ブーン編の手抜きっぷりがすげぇ。

265以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 09:08:45 ID:erRXyL/MO
乙だっじぇ
地の文書き方好きだなあ

266以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 18:16:34 ID:XAtpXvSYO
乙!
こっから新章か、wktk

267以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 18:43:29 ID:LJ9JVpYg0
地の分がすごく好み・・・
何かものすごいスペクタクルになりそうですね
文章とか何気に参考にさせてもらいたい

268以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 20:46:33 ID:bQyh92m.O
読み終わった 
読むの二回目だったのに ショボン、ツン、クー、頑張れと感情移入しまった 
新章楽しみです

269以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/15(金) 21:40:29 ID:cEOPo.UM0
>>265-268
ちょいちょいうんこな文章になるこんな自分に……うれションした。
1話は正直、多分クソ。今日からの休日使って改修作業に入りやす。

だけど2話以降から少しずつ話からませて、面白くしていきたいな。

270以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:08:45 ID:qXDhOR0g0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第1話

         「名のあるゴブリン」

271以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:10:03 ID:qXDhOR0g0

ヴィップの街からおよそ2日を歩いた距離。
マスターによればそこに、”リュメ”の街はあるという話だった。

馬車を使えばわずか1日で辿り着ける道のりなのだが、
そんな贅沢な事は楽園亭のマスターに、朝晩と散々ツケで
飯を食わせてもらったブーンの懐具合では、出来ようはずもない。

己の見聞を広めるためにも、冒険者にとっては結局、自分の足で歩くのが一番なのだ。

この道は、リュメの街から交易都市ヴィップ、そこから更に北の城壁都市、バルグミュラーのある
ブルムシュタイン地方へと行商して歩く商人達が多く行き交う。

その為治安も悪くは無く、時折道すがらでは一般人の姿も目についた。

早朝に宿を出立してからというもの歩き続け、気づけば、
木々の合間からは漏れる陽光が、燦燦と頭上を照りつけていた。

( ^ω^)「暑くなってきたおね。もう、昼かお」

272以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:10:48 ID:qXDhOR0g0

これまで一度も休憩を挟むことなく、道のりにすれば、4分の1も踏破した所か。
ここらで少し休むとしようか、と近場の樹木にもたれて腰を下ろした。
身に着けていた腕甲や手甲の紐を緩め、熱の篭っていた身体に外気を取り入れる。

念の為、所持品なども再度点検しておいたが、問題無い。

毒にも薬にもなる”コカの葉”や、万一怪我をした時に塗りこむ薬草も常備している。
携帯する食料は、マスターからツケで貰い受けたわずかばかりの干し肉だけだが、
2日程度の道のりであればそれでも問題ないだろう。

何しろ、50spしか持たずに故郷の村を発ったはいいが、その後全財産の入った
銀貨袋を落として、ヴィップを目指して旅歩く3日もの間を、沢の水だけで飢えを
しのがざるを得なかったぐらいだ。

( ^ω^)(ありゃあキツかったお……もう御免だおね)

虫や鳥達の声を耳にしながら、そんなつい最近までの自分を振り返っていると、
向こうの方からどこか飄々とした長い銀髪の男がこちらへ歩いて来た。

273以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:11:43 ID:qXDhOR0g0

特に何も思わずその姿を見送ろうと思ったが、自分と目が合ったその男は、
「よう」と馴れ馴れしい口調で片手を軽く向けると、傍まで歩み寄って来た。

「ちょいと、隣に失礼していいかい?」

( ^ω^)「…………」

そう言って、突然自分の隣に座り込もうとするその男。

爪'ー`)「あぁ……その、なんだ」

ブーンの目には実際それほど危険そうな男には見えなかったのだが、
どんな時でも、多少の警戒心は持っておいた方が良い。

そして、自分でも気づかない内に彼に訝しげな視線を送っていたようだ。

爪'ー`)y-「まぁ、そう警戒しなさんなって」

「こいつで一服つこうと思っただけさ」と、一本の煙草を口にくわえると、
取り出した火打ち石を叩いて火を点け、上を向いて煙を吐き出した。

274以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:12:24 ID:qXDhOR0g0

爪'ー`)y-「あー……休憩してるとこ悪いね、邪魔だったか?」

( ^ω^)「いや───気にしないお」

どうやら、とても軽々しい口調ながら、悪い人柄の男では無さそうだ。
少しだけ強張っていた体の硬直を、片足を前に投げ出して、まただらりと解きほぐす。

爪'ー`)y-「お前さん、ヴィップから来たのか?」

( ^ω^)「そうだお。これから仕事の依頼を片付けに、リュメに行くんだお」

爪'ー`)y-「そいつぁ……俺と全く反対だなぁ」

( ^ω^)「ヴィップを、目指してるのかお?」

紙巻煙草の煙を深く吸い込みながら、その横顔を覗き込むブーンの視線に気づくと、
男はあどけない笑みを浮かべて、それをブーンに向ける。

爪'ー`)y-「ああ。実は、冒険者家業を始めようかと思ってね」

( ^ω^)「冒険者……それなら、僕も一緒だお!」

そういうと、銀髪の男は少しだけ幼さの残る笑顔に加えて、
一段と瞳を輝かせると、ブーンの元へと詰め寄ってきた。

爪'ー`)y-「へぇ……あんた、冒険者なのかい?」

275以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:12:51 ID:qXDhOR0g0

「それなら、武勇伝の一つでも聞かせてくれよ」
そう言いながら、彼はさらにブーンに向けてずいっと顔を近づけてきた。
瞳をどことなく煌かせるその姿は、冒険者という職業に対しての憧れが滲み出ている。

(;^ω^)「あ…いや……」

爪'ー`)y-「その鞘に納まった長物……見た所俺と歳も変わんなそうだけど、
     さぞかし危険な冒険の数々に挑んでるんだろうなぁ」

(;^ω^)「それが、違うんだお。実は僕もまだ駆け出しで、今は
       初めての依頼をこなそうとしている所……なんだお」

爪'ー`)y-「ありゃ……な〜んだ、そういう事か」

呟いて元の位置へ腰を下ろすと、銀髪はまた上を向いて煙を吐き始める。

爪'ー`)y-「初の依頼ね。ま、成功を祈るよ」

( ^ω^)「頑張ってみるつもりだお」

「さてと……」と身体を伸ばしながら重そうに腰を上げると、
銀髪の男は葉巻を地面へと指で飛ばし、休憩を終えたようだ。

そこで、思い出したかのように、また質問が飛んできた。

爪'ー`)y-「そういやさ、ヴィップでおすすめの冒険者宿ってあるか?」

276以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:13:21 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「”失われた楽園亭”だおね……料理も旨くて、最高だお」

爪'ー`)y-「なるほど……参考になったぜ。ありがとな」

「”フォックス”ってんだ」
煙草を靴の裏でにじり消しながら、ブーンに言葉を投げかける。

爪'ー`)「またどこかで会うことがあれば、そん時ゃよろしく頼むぜ」

( ^ω^)「”ブーン”だお。また、どこかで……」

こちらへ視線へ向けながら肩越しに一度親指を立てると、
来た時と同じように、自分が歩いてきた方へと去っていった。

その背中を見送り終えると、取り外していた装備品を、再び身に付ける。

あまりぐずぐずしてもばかりいられない。依頼人の心証を損ねて
報酬が減額されるなんて事になって、マスターへのツケの支払いが
滞ってしまったら目も当てられない。

( ^ω^)「さて……明日の分の道のりも、前倒してしまうかおね」

所々が縫い合わせられ、かなりの使用感が滲み出ている麻袋を
背中に背負うと、ブーンもまた再びリュメの街へと繋がる道を、歩き出した。

277以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:14:37 ID:qXDhOR0g0

────【リュメ】────


その後の道中では、一度の野宿と3度の休憩を挟みながら歩き続けると、
少し深くなってきていた森を抜けた先で、ようやくその光景は広がった。

リュメの街───山間部にある街で、かつては歓楽街とも呼ばれていた。
当時この小さな集落で集まり、今日のリュメへと開拓していった人々から、
多くの人々が移り住み、繁栄する事を嘱望されていたからだ。

だが、今となっては盗賊ギルドが幅を利かせており、
夕刻には宿の前で客を呼び込む、多数の娼婦達の姿が見られる。

富は一部の成金に集約され、多くの者は貧しい生活を強いられる為、非行へと走る若者も多い。

ヴィップのように煌びやかな建物はほとんど無く、
家々も小ぢんまりとした平屋ばかりが多く立ち並んでいる寂しげな景観。

やはりヴィップと比べては数段も寂れた印象を受ける町並みではあるが、
そこらへ腰を下ろして談笑している人々や、店に呼び込もうとする商店の
主らからは、爽やかな活気が生まれているのを感じる事が出来る。

( ^ω^)「さってと……依頼人を探すとするかおねぇ」

278以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:15:13 ID:qXDhOR0g0

冒険者として、手引きに沿った忠実な行動を取る事とする。
依頼を受ける為に依頼人にその仕事の内容を聞き、そこで受諾するかの判断だ。

さほど広くは無い街だが、名前しか聞かされていないその依頼人を、
まずは聞き込みによって探し出さなくてはならない。

そこらで走り回っていた少年達を呼びとめ、声を掛ける。

( ^ω^)「あー、フランクリンっていう人を知らないかお?」

ブーンの言葉に首を傾げる少年達だったが、一人が
ぱっと閃いたかのように、言葉を返した。

「ここいらの大人たちはみんなお酒が楽しみなんだ、酒場に行ったら分かるかもよ」

( ^ω^)「酒場……ちなみに、それはどこにあるかおね?」

「”烏合の酒徒亭”だったっけ……あれさ」

そう言って指差す先を見やると、目と鼻の先にあった酒場の看板を確認する。

( ^ω^)「おっ……ボク達、ありがとうだお!」

「ちぇっ、駄賃もくれないのかよ」

そうこぼした子供達に大きく手を振り、ブーンは颯爽と酒場の中へと入って行った。

279以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:16:00 ID:qXDhOR0g0

────【烏合の酒徒亭】────

冒険者宿では多くの街で見られる形態である酒場、兼、宿。
だが、どうやらこのこの酒場では依頼の受付などを兼ねてはいないようだ。
あくまで酒を飲ませる食事どころとして、商いをしている。

(;^ω^)「活気ある店だおね」

厨房ではマスターがせせこましく鉄鍋を振るい、炒め物をする姿。
その必死な姿には鬼気迫るものがあり、一見の客である自分などには
酒など頼みづらい雰囲気がビリビリと伝わってくる。

( `ハ´)「…らっしゃいアルーっ!!適当にそこらにかけてくれアルっ」

こちらの姿に気づいた店主が、大きな火力を御しながらこちらへ叫ぶ。

手持ちに一枚たりとも銀貨を持ち合わせていない自分は、
早々に用件を済ませて立ち去るのが得策だろう。

そそくさと卓を囲んで酒を飲んでいる数人に、聞き込む。

( ^ω^)「あの……」

( "ゞ)「ん?」

280以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:16:39 ID:qXDhOR0g0

ブーンの言葉に振り返った、一人の男。
目を病んでいるのか、少し白く濁った瞳のその男は、
しかししっかりとブーンの瞳を見つめながら、受け応える。

( ^ω^)「この街で、フランクリンって人を知らないかお?」

( "ゞ)「……お前さん、ここいらで見かけないツラだな」

( ^ω^)「仕事の依頼でこの街に来た、冒険者なんだお」

( "ゞ)「ふぅん……まぁ、いいけどな」

「さ、出しな」

そう言って手を上に向けて差し出し、わきわきと握っている。
ブーンには最初、その行動の意図する所が理解できなかった。

( ^ω^)「………おっ?」

男の手と、その顔を幾度か見比べた後、小首を傾げるブーンは、
それが握手を求めているものだと理解して、手を差し伸べようとする。

そのやり取りの最中苛立ちを募らせた男は、席に踏ん反り返って、椅子ごと向き直った。

281以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:17:40 ID:qXDhOR0g0

(;"ゞ)「だぁぁーっ!……わっかんねぇ奴だな、情報料だよ、情報料!」

卓を囲む男達の服装をよくよく見てみれば、胸元にナイフを忍ばせる者、
また腰元には様々な開錠鍵や、小道具をぶら下げている者などもいる。

皆一様に細身の身体つきだが、かと言って無駄な脂肪も感じさせない。
ぴっちりとした黒のベストに身を包み、様々な小道具を隠し持っているであろう
その雰囲気から、彼らがかの”盗賊”という人種か、という事にようやく思い至った。

( "ゞ)「見てわかんねーか?俺らは、盗賊ギルドのもんだ」

(;^ω^)「……盗賊ってのは、そんな事ぐらいでお金取るのかお?」

( "ゞ)「あぁ、慈善事業なんてやんねーぞ。こちとら情報は命なんだぜ?
    対価も払わない奴にゃあ、知ってる事も教えられんね」

確かに正論かも知れない、とブーンは思う。

ここまでの旅をしてくるにあたり、正しい情報というものの重要さは、
山道で幾度も道を間違え、極限状態に近い状態にまで追い込まれた自分にしてみれば、
やはり重要なものだという事が、骨身にしみて感じていた。

通常、盗賊ギルドのネットワークを生かした収入源の一つとして、
情報というものは冒険者達などに向けて売り買いされてもいるのだ。

282以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:18:21 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「その……フランクリンの情報ってのは、いかほどだお?」

( "ゞ)「払う気があるのは結構な事だ。そんぐらいならまぁ……3spでいいぜ」

(;^ω^)「3sp……あいにくと、こちらは1spも持ち合わせていないお」

( "ゞ)「あー、だったら帰った帰った。自分で探し───」

( ^ω^)「だから、せめて───”これ”で勘弁して欲しいお」

そう言って、麻袋から取り出した干し肉を手づかみすると、
ひらひらと手を払う盗賊の手を取り、その中へ直に握らせた。

一瞬あんぐりと口を開け、ブーンと、自分の手の中の干し肉を見やる盗賊。

( "ゞ)「……なんだ?こりゃあ」

( ^ω^)「干し肉だお……僕が今晩夜食にするはずだった……大事な大事な……」

(;"ゞ)「お前……こんなもんで……」

あきれ返って言葉も出ない、といった彼の言葉を遮って、人目もはばからず
”こんなもの”と言われた干し肉を指差し、急に怒気を荒げるブーン。

283以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 01:19:01 ID:qXDhOR0g0

( #^ω^)「こんなもんとは何だお!マスターが作ってくれたこの干し肉は
       この上なく風味豊かで、外側はカリカリながらその実、中は───」

(;"ゞ)「あー………面倒くせ。もういい、分かった分かった!
    教えてやるから、とっとと俺の前から消えてくれ」

握らされた干し肉の旨みを熱弁し出したブーンに、完全に調子を崩したようだ。
盗賊は頭を掻きながら、渋々ながら指先で外の通りを描くと、道案内を始めた。

( "ゞ)「酒場を出たらそこの通りを突き当たって、左手の角から3軒目の裏手だ……」

( ^ω^)「おっおっ!そこがフランクリンさんの家かお?」

( "ゞ)「あぁ……面倒くせぇからとっとと行ってくれ。
    お前さんの顔見てたら、なんだか酒がまずくなりそうなんでな」

( ^ω^)「恩に着るおっ!」

(;`ハ´)「あっ、あんた注文もせずに帰るアルかーッ!」

”烏合の酒徒亭”のマスターの怒号をその背中に受けながら、必要なだけの
情報を受け取ったブーンは、来た時と同じように、颯爽と酒場を後にした─────

284以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:08:49 ID:.XiQnGG.0
支援

285以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:17:08 ID:qXDhOR0g0
一休みしてる間に支援が!

286以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:18:07 ID:qXDhOR0g0

───【フランクリン宅 前】───

あの男に教えられた通りの道順を辿ると、言っていた通りの場所に
外壁の表面が少しだけ剥がれ落ちた、寂しげな邸宅があった。

盗賊というのも、なかなか話せる人種ではないか、とブーンはその場で一度頷いた。

早速、話を伺うべくドアをノックしてみた。

見ず知らずの他人の家に上がりこむのだ、仕事を請け負う以上、
最低限の礼儀は欠かしてはならないだろう。

( '_/') 「はい?」

身だしなみを確認している内に、扉を開けて出てきたのは利発そうな一人の男性だ。
こちらと目が合うと、それだけでブーンが訪問してきた意図を察したらしい。

( '_/')「もしや、失われた楽園亭の冒険者の方ですか……?」

( ^ω^)「その通りですお。その件で、お話を聞かせて聞かせてもらえますかお?」

( '_/')「そうでしたか……!さぁ、中へお入り下さい」

家の中は、外からも想像できる通り殺風景な作り。
無駄な物は置かれておらず、切り詰めた生活をしているのか、生活臭は希薄だ。

287以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:18:48 ID:qXDhOR0g0

依頼人のフランクリンの案内に従うまま、応接用の小さなソファに腰掛ける。

( '_/')「ご挨拶がまだでした、私は依頼人のフランクリン。そして……」

ノ|| '_') 「妻のマディです」

( ^ω^)「冒険者の、ブーンですお」

依頼前にしっかりと依頼内容、また報酬の内容などを確認しておくのは重要な事だ。
一言一句聞き漏らさず、依頼が終了した際にトラブルなどを起こさぬためにも。

そう思ってか、ブーンは座り直してしっかり話を聞く体勢に入った。

( '_/')「依頼内容というのは、ゴブリン退治なのです」

( ^ω^)「あの……下級妖魔のですおね」

ゴブリンというのは、大陸全土の至るところに出没する妖魔だ。
基本的には非力で、体格も人間の子供ほどのものだが、武器を用いる頭脳はある。
また繁殖力が強く、常に群れを成して行動している事から、時に人間が襲われる事もある。

もっとも、ゴブリンがらみで一番多いのは、家畜や農作物への被害だが。

( '_/')「えぇ。このリュメの西側にある森、その奥にぽっかりと穴を開けた洞窟があるのです」

( ^ω^)「その洞窟の中のゴブリンを一掃する、それが、依頼内容ですかお?」

288以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:19:23 ID:qXDhOR0g0

( '_/')「ですが……その、生息しているゴブリンの数までは把握出来ていないのです」

ノ|| '_') 「5〜6匹、いえ、もしかしたらそれ以上いるかも知れません」

( ^ω^)「………」

そこまで話を聞いてから、一度考えを整理する。

通常、村で生活している人間がゴブリンのような下級妖魔に襲われて命を落とすという話はあまり聞いた事がない。
クワや棒切れなどを持った農民などでも、十分に対抗できる程度の相手だからだ。

まして、冒険者として行動する上で自分の身を守る手段の一つに、剣を帯びるブーン。
なおさら、立ち向かう事の容易な相手だろう。

いかに武器を用いる知能があるところで、人間の子供程度の体格しかない妖魔だ。
しかし、いち早く解決してもらいたい依頼人としては、依頼が断られるような危険が潜んでいるとして、
それをわざわざ事前に冒険者へ伝えるような事は、よほど良心のある人間でなければしないだろう。

”依頼前の受け答えで、依頼における依頼人の本意を見抜く”
したたかさを持った熟練の冒険者は、危険の潜む依頼を避けるためにそうあるべきなのだ。
もちろん、使命感や誇りを持って、逆にそういった依頼を拒まない者も一部には居るが。

289以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:19:55 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「それを……この街の領主には、訴え出たりはしなかったんですかお?」

( '_/')「以前から、私達は何度も訴え出ました。ですが、領主に謁見する事もままなりません」

ノ|| '_')「何度行っても門前払い……、領主は、このリュメなどどうなってもいいのです」

( '_/')「そう、富はあるべき所へ集められ、凋落の一途を辿るばかりの私達の生活など……」

( ^ω^)「………」

事情を聞いているうち、フランクリンの話に熱が入りかけたところで、
一歩引いて冷静に話を伺っていた自分の視線に気づき、彼はまた平静を取り戻した。

( '_/')「失礼しました……無関係のあなたに、お聞き苦しい事を……」

( ^ω^)「気にしてないですお。事情は大体理解できましたお───で、確か報酬は」

ノ|| '_') 「無事依頼を終えて戻られた際には200spを。私達の今持てる蓄えの、全てです」

290以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:20:20 ID:qXDhOR0g0

依頼の内容に不満は無かった、一人とは言え、たかだか下級妖魔のゴブリン。
5〜6匹までなら、よほどの事が無ければ命を落とすほどの危険はないはずだ。
だが、話を聞いてる内にふと生まれた一つの疑問が、どうしても気になって止まない。

それは、領主に直談判にまで行って、西の森のゴブリンを退治する”理由”だ。
冒険者としてのあるべき本分よりも、好奇心の方がやや勝り、それを尋ねてみた。

ノ|| '_')「それは、あなたから……」

( '_/')「ふむ……お聞かせします、なぜ私達がゴブリン退治に拘っているのかを───」


─────

──────────

───────────────

291以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:20:53 ID:qXDhOR0g0

───【リュメ 西の森】───

結局、あのフランクリン夫妻の依頼は引き受けた。

これまで安らぎながら旅歩いてきた時と違い、今はこれから達成しなければならない
依頼に向けて、身体中をほどよい緊張感が支配している。

旅の疲れはもちろんあるが、まだ日の出ている今日の内に依頼を終えてしまいたかった。

森の中ほどまで歩き続けたところだろうか、鬱蒼と生い茂る木々を掻き分けた先に、
少し開けた岩場が見えた。どうやら、これが夫妻の言っていた洞窟のようだ。

ブーンのすでに歩調は慎重になっている。
木々に背を持たれ、身を隠しながらゆっくりと洞窟へと近づいてゆく。

( ^ω^)(外側からじゃ……中の深さはうかがい知れないおね)

遠巻きにぽっかりと口を開けたその洞窟の入り口を覗き込んでいると、
そこから緩慢な動作で姿を表した存在を視認して、すぐさま頭を低くかがめる。

( ^ω^)(………!)

洞窟の入り口からその姿を現したのは、緑色の肌に、窪んだ眼窩の奥で赤く濁った瞳。

────1匹のゴブリンだ。

292以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:21:19 ID:qXDhOR0g0

歩哨としての役目を担っているのだろうか、洞窟の周辺へと目を配っているようだ。
集団で生活する習性を持つゴブリン達は、同じ種同士でこういった連携を取る習性がある。

(#℃_°#)「キキッ」

雑木林に囲われた場所だが、入り口までの距離には木々が少なく、洞窟側からは開けた視界。
それにより、洞窟内に篭って外敵から身を守る側としては有利だろう。

( ^ω^)(まだこちらには気づいてないようだお……)

茂みに身を隠しているブーンの姿は、今はまだ歩哨の一匹には視認されていない。
だが、気弱なゴブリン達の事だ。もしその姿が見つかれば、すぐに仲間達へ報せるだろう。

そうなれば、洞窟内で多数のゴブリンに迎え撃たれる可能性がある。

( ^ω^)(最善なのは、仲間の誰にも気づかせずに排除する事……だおね?)

背の鞘から抜きかけていた剣を一度しまうと、手近な石ころを掴み取った。
歩哨の動きに注視し、機を見計らいながらそれを手元で弄ぶ。

そして、洞窟側へと歩哨が背を向けた瞬間に、その石を少し離れた茂みの奥へと投げ込んだ。

293以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:21:51 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「キキッ……!」

がさがさと枝の何本かを揺らしながら、石ころはブーンの目論見どおり、
ゴブリンの注意を引く事に成功したようだ。

( ^ω^)(………よし)

音がした方の様子を見ようと、歩哨が洞窟の入り口から離れ、ブーンに背を向ける。
その隙を突いて、出来る限り音を立てずにその場から駆け出した。

(#℃_°#)「………キキィ?」

先ほど石ころが投げ込まれた茂みの方を眺めながら、ゴブリンは首を傾げている。
───その背後に立ち、鞘からゆっくりと長剣を抜き出すブーンの存在に気づくことも無く。

(# C_ ;#)「キ────グゲゴッ!」

そして、胴と首が分かたれる瞬間に一寸呻き、すぐにその身は倒れ伏した。

(;^ω^)「………まず、一匹」

294以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:22:18 ID:qXDhOR0g0

妖魔とは言え、剣で何かの生き物の命を奪うのは、やはり良心が咎める。
降りかかる危険から身を守る為に今までも幾度かあった事だが、今は依頼の達成だけを考えなければならない。

刃に付着した血を、剣を振るう事で地面へと払い落とした。
ここからは中に入ればすぐに戦闘が控えているかも知れない。

心に迫る鈍い感情を押し殺しながら、剣を片手に携えたまま、ブーンは洞窟内へと足を踏み入れた。


────【ゴブリン洞窟 内部】────

壁面沿いに身を隠しながら、ゆっくりと深部へと進んでゆく。
まだ外は日が出ている為、わずかながら日の光が洞窟内にも届き、差し込んでいる。

だが松明などの明かりを持って来ていない為、日が沈むまでにはカタをつけなければならない。

( ^ω^)(思った以上に、暗いお)

壁を手で伝いながら、逆の手で握る長剣の柄には力が入る。
いかに最下級の妖魔とは言えど、その巣の中にいるのだ。

295以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:22:46 ID:qXDhOR0g0

『ゴブリンといえど、油断はできんぞ』
ヴィップを発つ前に、そう自分に忠告してくれた楽園亭の冒険者宿のマスターの言葉が、不意に頭を過ぎる。

しかし、ここまでは順調。
誰にも気づかれずに住処の中へと侵入できたのなら、後は隙あらば一網打尽にする機会もある。

だが、洞窟深部への注意をし過ぎるあまり、足元への注意が散漫になっていたのだろう。
ぱきっと音を立てて、靴底でかすかに枯れ枝がへしゃげた感覚が伝わった。

気を取られる事なく歩き続けようとしていたブーンのすぐ近くから、それに反応が返ってきた。

「キキッ………?」

自分の腹下あたりだ。
声の方向に、すぐに視線を落とした。

(;^ω^)「………!?」

(#℃_°#)「────キッ!」

出会い頭だ、一匹のゴブリンに姿を見られてしまった。

なまじ体格が小さなものだから、すぐには気づく事ができなかった。
向こうもかなり驚いていたのか、自分の姿を見上げながら、目を剥いていた。

すぐにブーンに背を向けると、仲間を呼びに行こうと走り出している。

296以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:23:19 ID:qXDhOR0g0

(; ω )(させ………ないおッ!!)

ここで逃げられれば、後々大きな不利に働くだろう。
逃がす訳には、いかない。

大きく踏み込んで、がむしゃらな体勢から右腕一本で長く突きを繰り出した。

(# C_ ;#)「……ギ……ゴォ」

辛うじて刃が届くか届かないか、ぎりぎりの所だった。
首の後ろから差し込まれた長剣の刃は、そのままゴブリンの喉元を刺し貫く。

ばたばたと暴れさせていたその手足から、すぐに力は抜けていった。

(; ω )「ふぅ………これで、2匹」

夫妻の話ではあと3〜4匹かも知れないが、ここは多く見積もっておくべきだろう。
中に入ってみて初めて分かったが、外から見るよりも、かなり広々とした洞窟だ。

これまでは一本道だったが、どうやらこの先は道が枝分かれしている。
その先が部屋のようになっているとしたら、どこかで複数のゴブリンに遭遇してもおかしくない。

一匹一匹の固体は弱いといえど、武器を扱う知能もあるだけに、やはり油断は出来ない。

297以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:23:44 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)(………東の、方からかお?)

次にどう動くべきかを思案している内に、ごそごそと聞こえる何かの物音に気づいた。
どうやら、複数のゴブリンが一部屋にまとまっていると考えて、相違なさそうだった。

( ^ω^)(上手く不意を突いてやれば……一網打尽に出来るかも知れないお)

ゆっくりと、音の聞こえた方へと歩を進めてゆく。
その先にあったのは、大人一人が通るのがやっとのような、一つの縦穴だ。

当然ながら、中の様子は伺えない。ここまでくれば日の光もほとんど届かず、
あとは暗くおぼろげな視界の中で剣を振るうしかない。

( ^ω^)(………初っ端から、打って出るかお?)

身を屈めながら、その縦穴へと身を潜り込ませてゆく。
ここにたどり着くまでに、自分という侵入者の存在には気づいていないはずだ。

事態を把握されるより前に、派手に暴れるもよし。
出来るだけ気づかれないように、一匹ずつ仕留めるのもよし。

そう考えている内に、縦穴の出口にたどり着いたようだ。

298以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:24:06 ID:qXDhOR0g0

────思った以上の静けさ。

中のゴブリンは寝てでもいるのだろうか、そうであればありがたいが。
一瞬気後れはしたが、思い切って部屋の中へと躍り出た。

ようやく動きやすい体勢になり、しっかりと両手で剣を握り締める。
まだ完全に洞窟の暗さに慣れていない眼を皿にして、辺りを見渡す。

( ^ω^)(………いない?)

おかしい、先ほどは確かに物音が聞こえたはずだ。
──ーなのに、一匹のゴブリンの姿も見えない。

とんっ

しばし呆然としていたブーン。
その足元へ、何か小さなものが当たった音が聞こえる。

(;^ω^)「………矢?」

地面に突き刺さっていたそれを見た時───すぐに、頭の中では警鐘がかき鳴らされる。

(#℃_°#)「キキッ!!キキーッ!」

299以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:24:30 ID:qXDhOR0g0

視線を再び上げた瞬間、ようやく今自分が置かれた状況に気づく。
あまりにも───遅すぎた。そう思う余裕すらもなかった。

暗闇の中自分を見下ろす、幾つもの赤い瞳。

それに紛れて輝きを放つのは、自分を目掛けて引き絞られる弓矢の、矢じりだった。

(;`ω´)「ッ───おおぉ!」

すぐさまその場を横っ飛びに飛びのいて、狙いを逸らす。避ける事が、出来た。

ほぼ同時に、先ほどまで自分が立っていた位置を次々と穿つ矢を見て、背中からは冷や汗が噴出した。
まさか、弓矢まで扱う種族だとは思わなかった。

だが、それよりも───

(; ω )(こっちの侵入が、感づかれていたのかお…?)

最下級妖魔と侮り甘く見ていた驕り、やはり、それが自分の中にあったと言わざるを得ない。
だがそれに関しての反省は、この場をどうにかして切り抜けてからだ。

300以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:25:00 ID:qXDhOR0g0

また次なる矢が降り注がれるかと思い身構えたが、それはなかった。
今度は、目の前から2〜3匹のゴブリンが一度に駆け出して来ていた。

(#'℃_°'#)「グオオォッ!」

木製の棍棒を持つ一匹は、傍目からもわかる程に明らかに巨躯。
恐らくは、これがリーダー格のような存在だろう。

狙う相手は、既に決まった。

(#^ω^)「ふおおぉッ!!」

巨躯のゴブリンは、一直線に自分の元まで来るとすぐさま棍棒を振り下ろした。
だが、避けるともせず、その腕ごと両断するつもりで、ブーンもまた剣を振り上げる。

(#'℃_°'#)「グ……ゥッ!」

だが、ブーンの一刀は棍棒の中ほどまで刃が食い込み、止められた。

並みのゴブリンの打ち込み程度であれば棍棒ごと叩き斬る自信はあったが、
他の倍はあろうかという体格のこのゴブリンは、ブーンの膂力を耐え凌いだのだ。

(;^ω^)「………っ!」

301以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:25:31 ID:qXDhOR0g0

人並み以上の腕っ節の他に誇れるものはない、自分の打ち込み。
それがゴブリン風情に凌がれた事実が、ブーンの心の中に焦燥を産み落とした。

このまま剣が封じられてしまう事を恐れ、すぐに力を込めて剣を引く。
捻りを加えながら乱暴に引っ張ったが、棍棒を手放させる事は出来なかったようだ。

(#'℃_°'#)「……ガウゥ……!」

ゴブリンの群れに紛れ、怯んだリーダー格が後退していくのが見えた。

ゴブリンというのは極めて気弱な種族だ、拠り所となる存在がいなくなれば、
その下っ端たちは士気が下がり、混乱を与える事が出来たかも知れない。

だが、今の好機を仕損じてしまったのは、いかにも痛い。

舌打ちしていたブーンの両側面からは、すでに手斧をもったゴブリンどもが迫っていた。

(#^ω^)「来いお!」

弓矢による攻撃は怖かったが、味方がこれだけ近くに居れば撃てないだろう。
気迫を込めた言葉とは裏腹に、頭の中ではまだ冷静にこの場での立ち回りを整理出来ている。

302以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:26:01 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「キキッ!キーッ!」

もっとも近くの左方の一匹に向き直り、剣を構えてじりじりと距離を詰める。
数では勝っているものの、ブーンの気迫に気圧されてか、後退している。

小さな石斧と自分の持つ長剣では、一対一では端から勝負にならない。

それゆえ後退を余儀なくされる一匹へと距離を詰めるが、背後から迫っている
もう一匹の気配を、背中越しに肌で感じ取っていた。

二匹のゴブリンに前後を挟まれているのだ。一匹に隙を見せれば、もう一匹に付け込まれる。

だが、それに対抗する策はあった。
この自分の身の丈ほどの長さを有する、長剣だからこそ成せる業が。

挟撃を真っ向から受け入れ、機を伺っていたのはブーンの方だ。

( ^ω^)(前後────)

(#℃_°#)「ゥ……ギキキィッ!!」

前方の一匹へと踏み込む素振りを見せた瞬間、背中に浴びせられるもう一匹の声。
一匹に気を取られたブーンの背後へ向けて、石斧を振りかざさんと飛び出している。

だが、まるで気にもくれず、ブーンはただ目の前の一匹に向き合い、深く腰を落とした。

( ^ω^)(────同時ッ!)

303以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:26:45 ID:qXDhOR0g0

思い切ったように、そのまま眼前のゴブリン目掛け大振りの横薙ぎを繰り出す。
ぶおん、と耳にまで聞こえる風切り音が、刃から唸りを上げる。

あまりに間合いが遠すぎたのか、あご先すれすれという所で────それは空を切る。

しかし、振るわれた剣の軌道は、半月を描いてもまだ止められる事がなかった。
半月はそのまま満月へと軌道を描き、ブーンの体の真後ろまで、全力で振り切られたのだ。

当然、背後まで迫っていたゴブリンは、背中に石斧を振るおうとしたばかりに
ブーンの剣の届く位置にまで近づいていてしまったのだ。

予想もつかない方向から襲い掛かった刃は、抵抗も出来ないままのゴブリンの上半身を吹き飛ばした。

(#^ω^)「───ふぅッ!」

その短い断末魔を聞き捨てながら、剣を振り回した反動を利用して、
身ごと大きく駒のように回転すると、そのままもう一度前方のゴブリンへと大振りを見舞った。

(# C_ ;#)「アバッ」

どうやら顎から上を吹き飛ばしたようだが、その確認は柄から手元へと
伝わった感触だけで十分だ。それよりも、すぐに残りへと対処しなければならなかった。

304以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:27:09 ID:qXDhOR0g0

二度満月の剣閃を描いたあと、こんどは勢いよく背後へと振り返る。

(#'℃_°'#)「ギィィッ!ギィッ!」

広場の中央に立っていたのは、先ほどのリーダー格だ。
剣の打ち込みによって欠けた棍棒を掲げて、叫びを上げていた。

( ^ω^)「………?」

”弓を射て”という合図か───そう思ったが、違う。
先ほどまで弓を引き絞っていたゴブリン達が、広場の上層に位置する高台から続々と降りて来ている。


 「ギキキィッ!」 (#℃_°#)

   (#℃_°#)  「ギキッ」  (#℃_°#)

   「キャキィッ!」 (#℃_°#)


その数、4〜5匹は居るだろうか。
リーダー格の一匹が、不利な今の状況を考えて、自分の身を守らせるつもりなのだろう。

305以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:27:41 ID:qXDhOR0g0

暗闇の中ではおぼろげにしか見えないそのシルエット。
その中に、これまでに倒してきたゴブリン達と比べて、違和感を覚える1匹の姿があった。

 /__\  
〈 (℃_) 〉「………」

腰みのを身に着けているだけの他のゴブリンとは違う。
僧侶などがよく着ているような、ローブを纏う一匹の亜種。

頭部が異様に肥大しているのか、頭に被っているフードも膨れ上がっている。

( ^ω^)「ッ…!」

そして、獣のように低く吼え声を上げる、他のゴブリンよりも細身なもう一匹の姿。

(ζ_/ )「うがううぅぅぅ……っ」

そして───広場の中心、自分の目の前には、総勢5匹ものゴブリンが集結した。

(;^ω^)(帰ったら……報酬の値上げ交渉、やってみるかお)

ため息をつく間も無く、それを生唾とともに飲み下した。
高台から降りて来たゴブリン達が、ブーンの前に散開してゆく。

306以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:28:06 ID:qXDhOR0g0

(#'℃_°'#)「ギィィィィィィッ………」

中央には、巨体の一匹。

 /___\  
〈 (℃_) 〉「………」

その後方には、ローブを纏った一匹。

やがて最後尾に控えたローブのゴブリンが、ブーンの方へを指を指し示す。
すると傍らに付き添っていた小型のゴブリン同様、リーダー格のゴブリンも動き始めた。

(#'℃_°'#)「ギィィィィィッ!!」

まず、リーダー格が襲いかかってきた。
大声で喚きたてながら、ただ闇雲に棍棒を自分の頭の上に振るい落とそうとしている。
仮にまともにもらってしまえば昏倒して、総出で袋叩きの肉塊にされるだろう。

だが、自分の剣のリーチの方が、遥か勝る。

(# ^ω^)「ふッ………!!」

今ばかりは、先ほどのように力比べをする余裕はない。
遠い間合いから浅い手傷を負わせるよりも、より確実に仕留めるための一撃が必要だ。

307以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:28:40 ID:qXDhOR0g0

腰を落とした状態で、ゴブリンの棍棒が届くぎりぎりの所まで、引き付ける。
寸前にまで迫ったその時を見計らって、後ろに引いていた剣を、横一文字に薙いだ。

(#'℃_°';#)「―――ギャッ、ブゥッ!」

ゴブリンの振るった棍棒は僅か届かず、耳元で唸りを上げるだけに留まった。
確認するまでも無いが、リーダー格のゴブリンの胴体には一本の赤い線が走っている。

傷口からぼたぼたと零れる血で地面を汚しながら、斬られた痛みに苦痛の呻きを漏らす。
その場でたたらを踏んではいる瀕死の状態ではあるが、手の中の棍棒はまだ離そうとしない。

(#'℃_°';#)「……ウ、ウゴォォォッ!」

(;^ω^)「!」

最後の力を振り絞ってか、もう一度棍棒を振りかざそうとしている。
剣を向けたまま、後方へ飛び跳ねて素早く距離を取た。

もう一度斬るべきか────そう逡巡しているわずかな間に、
低い断末魔を一度上げると、自分の血溜まりの中へ膝から崩れ落ちて、それきりだった。

(;^ω^)(よしッ、これで………!)

これで、残りのゴブリンの士気はガタ落ち───思惑では、そのはずだった。

308以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:29:20 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「ギキィーィッ!」

2匹のゴブリンに既に接近されていたにも関わらず、一瞬剣を下ろしたのがまずかった。

右翼から回り込んで来た一匹が振るった、石斧。
それを自分の右肩へ叩き込む程の隙を、許してしまっていた。

(; ω )「ッ……うぐッ!?」

鈍い痛みが電撃のように右肩より下へと迸り、たちどころに機能を麻痺させる。
剣の柄を力強く握り締めていたはずの右手が、思うように上がってくれないのだ。

肉を断ち切るような鋭利さは無いにせよ、肉と骨の調度継ぎ目──当たり所が、悪かった。
骨を震わした衝撃は、もはや力を込めて両手で剣を振るう事をさせてはくれない。

(; °ω°)「!……うぐッ、おぉぉぉッ!」

それでも、左手一本で剣を振り回した。
自分の右肩に石斧を穿ったゴブリンの肩口から、胸元までを切り裂く。

目の前に残るのは、あとたったの5匹─────

309以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:30:13 ID:qXDhOR0g0

右腕を使えなくなる前と後で、随分と冴えない太刀筋になってしまったと、また舌打ちした。
鈍重なゴブリンであっても数匹同時に襲って来られたら、今のように反撃できるかは分からない。

左手一本で持つには、この長剣は重過ぎるのだ。

(;^ω^)(リーダーを倒したはず……なのになんで、逃げないんだお?)

重い感覚しかもたらさない右腕を宙にだらりと投げ出しながら、長剣の切っ先を突きつける。
その相手────ローブのフードを深く頭に被るゴブリンの口は、驚くべき言葉を紡いでいた。

 /___\  
〈 (℃_) 〉【──カラ、ダヲ ハシル…マリョク ノ ホン…リュウ 】

たどたどしいが、よく聞き覚えのある言葉だ。
はっきりとした共通言語もあるのかどうか分からない妖魔の口が発しているのは、確かに───

(;^ω^)「じ……人語、かお!?」

あまりの驚きに思わず大声を上げたその時に、気づいた。
取り巻きの雑魚ゴブリン4匹がまだ威勢を失っていないのも、群れの長の存在からだ。

先ほどの巨躯のゴブリンが助けを求めていたのは、このゴブリンに対してだったのだ。

310以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:31:04 ID:qXDhOR0g0

(;^ω^)(完全に……さっきの奴がリーダーだと、思い込んでいたお)

見れば杖のようなものしか持っていないが、先ほどの巨体が群れを守る”力”だとすれば、
このゴブリンは人語を解する程の知恵を持ち合わせ、”頭脳”として機能しているのだろうか。

本当のリーダー格がこのローブのゴブリンだと、遅まきながら気づいた。

人語を発するだけで驚きだが、群れを纏め上げる以上、他に何かしらの力もあるはずだ。
肥大化した後頭部以外はさほど他のゴブリンと体格差はないが、更に警戒を強める。

石斧の攻撃を受けた右腕の痺れは、すぐには取れそうに無い。
危機的状況であるが、この場を左手一本で看破するしかないのだ。

(;^ω^)(落ち着くお……あと5匹。それだけ倒せば……)

自分を負傷させて調子付いたか、4匹のゴブリンは自分の周囲をぐるぐると旋回しながら、
少しずつその包囲を狭めつつある。完全に四方を囲まれた状況にあって、左腕一本では
満足な力が入らず、さっきのような回転斬りを繰り出しても掻い潜られる危険性がある。

(;^ω^)(なら……本当のリーダー格がこいつと分かった以上、狙うは──)

311以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:31:27 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°;#)「キィッ!?」

完全に包囲の距離を詰められて袋叩きにされる前に、頭を抑える為、危険を承知で一直線に駆け出す。

進路を塞ぐゴブリンはそれに身構えたが、走りこみながら、横腹を思い切り蹴飛ばして脇に転がす。
後ろから慌ててブーンを追いかけるいくつもの足音が聞こえたが、構っている暇などない。

狙いはただ一匹、ローブの一匹だけだ。
だが、ブーンがその目の前にまで迫った時、その場に異変が起きた。

(;^ω^)「な………!?」

何が起こっているのか───分かるはずも無い。
動揺し、思わず剣を振るのを躊躇してしまった。

光もほとんど差し込まないこの暗い洞窟の小部屋を白く染め上げる、光。
それがローブのゴブリンの手から放たれているものだという事を理解するのに、しばしの時間を要した。

その口からはまるで呪詛のように、人のものではない奇妙な声で、言葉が紡がれる。

312以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:32:07 ID:qXDhOR0g0

 /___\  
〈 (℃_) 〉「【チカラ…カタチ ナシ…マヲモッテ ウチ、ツラヌケ】」

刹那、ゴブリンの手の中で収束してゆく光は、瞬く間に凝縮し、形を為した。
それがやがて一本の矢のような姿を形作ると、その先端は、ブーンへと向けられていた。

(;`ω´)「まッ………」

急速に時間の流れが遅く感ぜられ、様々な考えが頭を巡る。
実際に見たことはないが、これこそ”魔法”というものなのだろうという事に、合点がいった。

魔術師といえば悪の代名詞。幼馴染達と、役柄を決めてそんなごっこ遊びをしていた。
無から有を生み出し、武器を持った人間であろうとも、いとも簡単に倒せてしまう術。

その術を───まさか、ゴブリンのような下級妖魔が使いこなすというのか。

故郷での憧憬が一瞬頭の中に過ぎると、走馬灯のようにまとわりついてきそうになった。
だが、それごと振り払おうと、左方へと全身を投げ出した。

飛んだ先は岩場だが、光の矢の軌道上を逃れるためだ、一も二も無く飛び込む。

(; ω )「────だおぉぉっ!」

313以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:32:41 ID:qXDhOR0g0

ほぼ、同時だった。

飛び出す瞬間、自分の立っていた位置を通り過ぎた光から、背中越しに強い熱を感じた。
光弾は影を引き連れながら、洞窟内部の闇を突き抜けてゆく。

一瞬の後、ブーンはしたたかに身体を岩場へと打ちつけ、全身の痛みに顔を歪めていた。
ほぼ無意識に素早く身を起こすと、追撃に備えて再び剣を手に取り、立ち上がる。

(# C_ ;#)「……ゴブッ…ギ……」

ブーンが身をかわした事で、その背後に居たであろうゴブリンの一匹が、光の矢に穿たれたようだ。
抑えている胸板には風穴が開き、一寸の間を置いて、大量の出血。

傷口を押さえながら力なく倒れるその姿を見ながら、背筋には冷たい汗が伝った。
もしあれを食らっていたら、自分もああなっていたのか、と。

だが、これが魔法なのだとしたら、二の足を踏んでいる場合ではない。
魔法を唱えるためには、前もって何かしらの手順が必要なはず。

(;^ω^)(さっきぶつぶつ唱えていたのが、必要な前準備……なのかお?)

もしそうだとするならば、少しの時間も与えてはならない。

314以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:34:24 ID:qXDhOR0g0

 /____\  
〈 (℃_;) 〉「グ………!」

ローブのゴブリンもまた、自分が放った光の矢が避けられた事に動揺を見せていた。
運良く同士討ちとなってくれた事もあり、残るゴブリンは雑魚を含めても───4匹。

再びあの魔法が来るよりも早く攻め込めば、もう依頼の達成は目の前にぶら下がっている。

(#^ω^)「───おぉぉッ!!」

全身の痛みを庇うよりも、剣を手に再びローブのゴブリンの元を目指した。。
ごつごつとした岩場で挫いてしまいそうな足を、ただ前へ前へと走らせる。

(#℃_°#)「ギキッ!ギキッ!」

そのブーンの進路へ、また一匹が立ち塞がる。

(#^ω^)「邪魔だおッ!」

重心が損なわれ、剣を振るった左腕に全身が振り回されるようになりながらも、一息にその首を刎ねた。
まだその場に立ち尽くす首から下だけのゴブリンを肘で押しのけながら、突き進む。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【ッ…チカラ カタチ ナシ マヲ……マヲモッテ】」

315以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 02:35:15 ID:qXDhOR0g0

また、先ほどと同じようにあの言葉を紡いでいる。

既に自分はローブのゴブリンの眼前───剣の届く距離にあるのだが、
一刻を争う際どい状況に、会心の一撃を繰り出すためには左腕の力だけで剣を振るうのでは、足りない。

ついに至近距離で相対し、互いに目と目があった。

仲間を次々と倒した人間が、ついに自分の目の前にまで現れ、戦慄しているのか。
だが、ゴブリンの手からは再びあの光が、発現し始めていた。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【ウチツッ…ツラヌ…ケェェッ!】」

(; °ω°)「────ふぅ……ッ!」

自分もまた、左腕に握った剣を肩越しに背中へと回していた。
上体を弓のようにしならせて、振りかぶった勢いをそのまま剣を振り下ろす力に変える。

魔法が発動するのと、自分が斬りかかるのとは、ほぼ同時だった。




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