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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

1V3:2015/05/12(火) 09:33:12 ID:GO60ug8o
2014/10/09(木) 20:34:42 ID:a1f1bb1b9
タイトル通り、好きな小説をじゃんじゃんバリバリ語りましょう!

4019うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:37:50 ID:LNssCYN6
そなたはモレルさんという名を何度か口にしたが、その人はこの悲惨な事件に関して
どんなことをしたのかな?

ダンテスの雇い主で、誠実で勇気があって献身的な人がやることをしました
やつのために20回も嘆願しましたよ
父親の家の暖炉に財布を置いていったことを話しましたね
あの財布のおかげで爺さんの借金も払えたし、葬式も出せた
赤いレースの大きな財布でね 手前がまだ持っとります

そのモレルさんという立派な方はきっとお幸せなんだろうね

手前同様お幸せですよ

なんだって?!不幸なのか! どうしてだね?

2年のあいだに5隻の船を無くし、破産寸前ですよ
エドモンの乗っていたファラオン号
あの船がもしも今度戻ってこなかったら破産だ
もうおしまいです

モレルさんにご家族はおられるのか

聖女のような奥様とお嬢様そして陸軍中尉の坊ちゃんでさあ
お嬢さんは心に決めたお人がいるんだが、その両親は破産寸前の家の娘を嫁にしたがってないらしいです
こんなときは家族がいるほうが苦しいもんです
なぜって、ひとりなら頭にピストルぶっぱなせばそれで終わりです

なんということだ

先ほど申し上げあことを除けば、なにひとつ悪くない手前は貧乏のどん底
ところがフェルナンとダングラールは黄金を枕というわけでさ

ダングラールはどうなったのだ
一番悪い奴だ そそのかした奴だ

4020うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:39:12 ID:LNssCYN6
マルセイユを離れ、スペインの銀行の手代となりました
そして戦争でフランス軍の軍需品を扱ってひと財産つくって
株取引で何倍にも増やした
そして銀行家の娘と結婚し、やもめになったら今度は未亡人と再婚だ
いまやダングラール男爵ですよ
モンブラン通りにお屋敷があります

ほう?では幸せなのだな?

大金持ちが幸せっだってんなら、奴は幸せなんでしょうよ

では、フェルナンは?

こいつはまた話が別です
でもよくわからんのですよ 奴の一生は秘密だらけなんでしょうよ、きっと
フェルナンはナポレオン復帰の少し前に招集されましてね
前線で将軍の部屋の伝令任務についてました
ところがこの将軍はイギリス軍と内通しておりまして、フェルナンも誘ったわけです
ナポレオンが王位につたままだったら軍法会議ものですがね
ブルボン王朝のもとでは推薦状でさあ
奴は少尉になって帰ってきました
そして例の将軍のおぼえもめでたいわけで、大尉になった
ダングラールも同じころ最初の投機をしておりました
その後フェルナンはスペインへ派遣され、ダングラールとかたらってなんだかうまいことやったらしい
要するに功績をあげたんですよ
大佐になってレジョン・ドヌール勲章と伯爵の称号持ちです
モルセール伯爵、これが奴の名前
そしてギリシャ独立戦争の義勇軍に参加しました
しばらくして奴が軍事顧問としてアリ・パシャに仕えていると聞きました
アリ・パシャは殺されましたが、死ぬ前に奴にかなりの金を与えたらしい
その金をもって奴がフランスに戻ってきたときは、中将ですよ
今ではパリのエルデ通りに豪壮な屋敷を持ってますよ

ではメルセデスという娘は?

今じゃ、パリ一流の大貴婦人でさ
メルセデスははじめのうちは絶望していました
兄と慕っていたフェルナンが出征するとひとりぼっちになっちまった
そこへフェルナンが少尉となって戻って来た
フェルナンは嫌われていたわけじゃない
愛されてなかっただけ
メルセデスはエドモンのためにもう半年待ってくれと言った
そして半年後に結婚式が行われました
貴婦人になるための勉強もがむしゃらにやりましたよ
そんなに頑張るのも気を紛らすため、忘れるためだったと思います
いまじゃ金持ちの伯爵夫人ですよ
でも・・・あんまり幸せじゃないと思うんです

どうしてだね

手前はこのとおり貧乏のどん底で、昔の友達が助けてくれやしないかと思いましてね
ダングラールの家では中にも入れてくれませんでしたよ
フェルナンは召使に100フラン持ってこさせましたっけ

ではどちらとも会えなかったんだな

ええ、でもモルセール夫人は、メルセデスは手前のことを見ました
屋敷の外へ出たときに、上から財布が落ちてきたんでさ
上を見たらちょうどメルセデスが窓を閉めるところでした

ヴィルフォール氏はどうしたね?

あの方は友達じゃありませんので存じ上げません

あの人がエドモンの不幸にどんな役割を演じたかも知らない?

存じません
知っているのはエドモンが逮捕されてからサン・メラン侯爵のお嬢様と結婚して
マルセイユを離れました
きっとダングラールみたいに金持ちになって、フェルナンみたいに尊敬されてるんだ
手前だけが貧乏でみじめ 神様からも忘れられてる

それはちがう
神は必ず思い出しになる
これがその証だ
このダイヤを受け取るがよい そなたのものだ

なんですって?手前ひとりのものだと?
冗談はよしてください

このダイヤはエドモンの友の間で分けられるべきものだった
だが、友はひとりしかいなかったということだ
私は、幸せがどういうものか、絶望がどういうものか知っている
人の心をもてあそぶことなど決していたさぬ
受け取るがいい
だがそのかわり、モレル氏がダンテス老人の暖炉の上に置いて行ってくれたという
その赤い財布を私にくれないか

4021うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:40:18 ID:LNssCYN6
テペデレンリ・アリ・パシャ
オスマン帝国時、ギリシャを支配した半独立専制君主
デュマ作の小説、『モンテ・クリスト伯』(1844年〜1846年)には「アリ・テブラン」(Ali Tebelin)の名で言及され、彼の暗殺をめぐる物語はこの作品の重要な要素を構成している。登場人物のひとり、エデ(Haydée)はアリの娘という設定で、父の死により奴隷に身を落とした彼女は、暗殺の手引きをした者を捜している。

ウィキペディアより(^^)/

4022うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:41:59 ID:LNssCYN6
31,2歳くらいの身なりの良いイギリス人がは、マルセイユ市長のもとを訪れた
ローマのトムスン・アンドフレンチ商会の代理人と名乗り、モレル父子商会の情報が
欲しいと言う
市長は、モレル父子商会が不運に見舞われていることは事実であるが、それ以上のことは言えない、モレル氏は厳格なまでに誠実な方である、とだけ答える
そして、より詳しいことが知りたければ刑務監査官のボヴィル氏を訪ねるとよい、と言った
氏はモレル商会にかなりの投資をしているはずだから、と

イギリス人はボヴィル氏を訪ねた

わたしはモレル商会に20万フラン投資しています
もし15日までに彼の持ち船のファラオン号が帰らない場合には返済は不可能です
支払い停止です

それでは私がその債権を買い取りましょう

あなたが?でも相当割り引かれるんでしょうな?

いえ、20万フラン、現金で

どう考えてもその6%も戻ってきませんよ

わたしはトムソン・アンド・フレンチ商会の代理人です
わたしにわかっておりますことは、債権譲渡と引き換えにその金額をお支払いする用意があるということだけです
ただし、仲介手数料はいただきます

ええ、ええ、手数料はふつう15%ですが、もっとお望みですか?
おっしゃってください

わたしの手数料というのはもっと別の性質のものです
あなたは刑務監査官でいらっしゃいますね
収監簿をお持ちですね
それを見せていただきたいのです
わたしの恩人ファリャ神父がシャトー・ディフに収監され、そこで亡くなったと聞きました
その方の死の模様を知りたいのです

イギリス人は収監簿をめくる
ファリャ神父の綴り
そしてエドモン・ダンテスの綴り
すべての書類がそろっていた
密告状、検事調書、モレル氏の請願書、ヴィルフォールの添え書き
イギリス人は密告状をそっとポケットに入れる
調書を読み、ノワルチエの名が書かれていないのを見る
「エドモン・ダンテス、熱狂的ボナパルト支持者
エルバ島脱出に重要な役割を果たす
厳秘に付し、厳重な監視下におくこと」
ヴィルフォールの手になるものであった

刑務監査官ボヴィル氏は、ファリャ神父が亡くなった日に、ひとつの事件があったという
エドモン・ダンテスという囚人が神父の遺体と入れ替わり脱獄しようとした
しかし、シャトー・ディフの埋葬方法を知らず、海の藻屑となったのだと
「死亡証明がありますよ ダンテスに肉親がいれば死んでいるのか生きているのか知る必要があるかもしれませんから」

4023うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:43:57 ID:LNssCYN6
>>4022
のボヴィル氏ですが、わたしの語りでは省きましたが、
シャトー・ディフにエドモンが収監されてまもなくの頃
監査にやってきた人物なんですね
つまりエドモンとは一度会っているのですが、気づきません
そしてボヴィル氏はそのときにエドモンの願いを聞き入れ、
再度調書をあたってみることを約束し、実際そのとおりにするのですが、
ヴィルフォールの記述を読んで、「これでは仕方がない」と結論づけた人物です

4024うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:44:54 ID:LNssCYN6
悪い人ではないです
エドモンと面接したときに同情を覚えたものの、形式通りにさらっと調べただけってとこですね
ヴィルフォールのごまかしにまったく気づかなかったと

ヴィルフォールはいわゆる送検をせずにエドモンを牢獄へ送ったので
裁判所側の資料を調べれば矛盾に気づいたかも、というような内容があったような・・・
シャトー・ディフの囚人をきちんと面接したということだけでもめずらしいみたいですよ
この後、物語ではもう登場しないかもw

4025うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:47:32 ID:LNssCYN6
モレル商会の内部を知り、数年前にマルセイユを離れ、今われわれが到達した時期にこの商会にまた足を踏み入れた者は、大きな変わりように気づいたであろう
使用人として残っているのは今やたったふたり
片目の会計係の老人コクレス
23,4歳の青年エマニュエル・レモン
エマニュエルはモレル氏の令嬢ジュリーと恋仲であった
両親がなんとかして商会を辞めさせようとしても頑として残っていたのである

トムスン・アンド・フレンチ商会から派遣された男は、ボヴィル氏との面会の翌日、このモレル商会を訪れた
14年の歳月はこの立派な商人に大きな変化をもたらしていた
50歳になろうとしていた彼の髪は白くなり、額には苦労のしわがよっている

明らかに同情のまざった好奇心を見せるこの英国人の眼差しに苦しさを覚えていたモレル氏であった

何か私にお話しになりたいことがおありとか

トムスン・アンド・フレンチ商会は今月及び来月中にフランスで3,40万の支払いをせねばなりません
手前どもでは、あなたの支払いがきわめて正確であることを知り、あなたの署名のある手形を見つけ得る限り集めました
そして手形の期限が来次第、お宅で現金化し、それを支払いに当てるよう申しつかっております

(深いため息とともに)
どのくらいの額になりましょうか

刑務監査官ボヴィル氏から譲渡を受けた20万フラン
これとは別の手形が3万2500フラン
そして有価証券で5万5000フラン
合計いたしますと28万7500フランです

28万7500フラン・・・

そうです
ところで率直に申し上げますと、マルセイユ中に広まっている噂では、あなたは取引に対処できなくなっているとのことですが

父が35年間経営しそれを受け継いで24年、モレル商会の署名のある手形で支払われなかったものはただの一枚もございません

4026うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:48:32 ID:LNssCYN6
もちろん承知しております
しかし、名誉を重んずる男同士、率直にお話しいただけませんか
あなたはこの度のこれも同様に正確にお支払いになれますか

そのように率直におっしゃられますとこちらも率直にお答えします
お支払いいたします
そうあってほしいと思っています 
私の船ファラオン号が無事に帰港さえすれば・・・
ただ不幸にしてそれがかなわない場合は、私は支払いを停止せざるをえないと思います

そのような場合に助けてくれる友人はおられない?

取引に友はいません
よくご存じではありませんか
あるのは取引だけです

それはそうですね
ではファラオン号が最後の望みですね

そうです
その望みの糸が切れれば・・・完全に破産です

私がお宅へ参りましたときに船が一隻入港してきましたが?

あれはボルドーのジロンド号です
ファラオン号の情報を持ってきてくれるかもしれませんが・・・
こんなに遅れるのは尋常ではない
ほんとうなら1か月も前に着いていなくてはならないのです

階段からどやどやと足音がした
ジロンド号に助けられたファラオン号の船員たちが到着したのであった
ファラオン号はやはり沈んだ
船員は全員助かったと聞いて安堵するモレル氏
水夫頭のペヌロンから嵐の様子を聞き、よく頑張った、みんな立派だとほめるモレル氏
契約通り、200フランの給料を出すから良い雇い主を探すように言う
船員たちは支払い猶予で構わないというが、モレル氏は会計係コクレスに支払いを命じる

船員たちと共に部屋の外へ出される際、娘のジュリーは心からの哀願の眼差しを、隅のほうですべてを眺めていたトムスン・アンド・フレンチ商会の代理人に投げかけた
男はそれにかすかな微笑みで答えたのである
冷静な観察者ならば、その氷のように冷たい顔に、そのような微笑みがほころぶのをみて、
意外の感に打たれたことであろう

男ふたりだけになった

なにもかもご覧になったとおりです

拝見しました
ほかの不幸同様、まったく不当な不幸がまたひとつあなたを襲ったことをね
そこで、私があなたにとって好ましい男になりたいという気になったのです
私はあなたの主たる債権者でしたね

少なくともあなたは支払い期日のもっとも近い手形をお持ちです

期日の延期をお望みですか

延期していただければ私の名誉はすくわれます したがって私の命も

どの程度の延期を?

・・・2か月

結構です 3か月お待ちしましょう
ではこの手形をすべて書き換えてください
9月5日午前11時に(このとき時計はちょうど11時をさしていた)参上いたします

階段の途中で、英国人はジュリーに会った
彼女は降りるふりをして実のところ待ち構えていたのである

お嬢さん
いつか「船乗りシンドバッド」という署名の手紙が来ます
中に書いてあることがどんなに奇妙なことでも、
必ずその手紙のとおりに行動してください 
そうすると約束してくれますね

誓います

結構です ではさようなら いつまでも今のまま正しく清らかにいてください
そうすれば神様がきっと、エマニュエルを夫としてお与えくださいますよ

中庭で、英国人は水夫頭ペヌロンに会った
「一緒にきてくれないか 君に話しがある」

4027うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:49:31 ID:LNssCYN6
エドモンによってもたらされた3か月の猶予によって、モレル商会は人々の予想を裏切って着実に支払いを続けた
そんな中、モレル氏はファラオン号の船長ゴマールのもとを訪れた
怪我のため他の船員より遅れて帰国した船長を見舞ったのだった
そうでもしないことにはゴマールは給料を受け取りに来ないとわかっていたからだ
玄関先で出会ったペヌロンは、上から下まで新調の服を着ており、ばつが悪そうであった
新しい主人を見つけたのだな、皆が幸せになりますようにとモレルは思った

順調な支払いもついにはどうにもならぬときがやってくる
モレルはその日、馬車でパリへと向かった
本能的な反駁によって、取ることを控えていた方法をついに取ったのである
ダングラールに会いに行ったのだ
彼がスペインの銀行へ転職する際、モレルは少なからぬ労をとってやったのだった
いまや彼は大富豪であり、多大な信用の持ち主である
しかしその本能的な反駁は正しかった
モレルは屈辱的な拒絶にあって、うちひしがれて帰宅した

とうとうこの家ももうおしまいかもしれない
モレル夫人とジュリー嬢は軍人である長男のマクシミリヤン・モレルに手紙を出した
マクシミリヤンはしっかりとした青年であった
モレル氏は息子に自由に道を選ばせたのだ
彼の母と妹はやがて見舞われる不幸な事態に心の支えとなってもらおうと呼び寄せたかったのである

モレル商会に残された現金は7、8000フラン
9月5日までの入金は4、5000フランである
つまり28万7500フランの手形決済にたいして1万4000フランしかない
9月4日
モレル氏は落ち着いていた
二人の女性にはかえってそれが恐ろしかった
エマニュエルは懸命に安心させようとするが、力はない
寝室にとじこもるモレル
夫人は遺書を書いているのだと悟る
お父さまをけっしてひとりにさせてはいけないとエマニュエルはジュリーに言う

9月5日8時
マクシミリアンが帰宅した
そのことをジュリーがモレル氏に知らせようとしたとき、ひとりの男が1通の手紙をもってやってきた
「ジュリー・モレル様ですね」
ひどいイタリア語訛りのその男は
「この手紙をお読みください お父様の浮沈にかかわることです」と言った
ジュリーはその手紙を奪い取るようにして、急いで封を切った

直ちにメラン小路に行き、15番地の家にお入りください
管理人に6階の部屋の鍵をもらい、その部屋に入り、暖炉の隅の赤い絹のレースの財布を取り、その財布をお父上にお渡しください
11時までにこれをなさることが必要です
あなたは私の命令に忠実に従うという約束をなさいました
その約束をお忘れにならぬよう

船乗りシンドバッド

ジュリーは歓声をあげた
イタリア訛りのその男はすでに姿を消していた
そしてもう一度読み直そうとして追伸に気づいた

この役を、あなたご自身おひとりでなさることが必要です
もし誰かをおつれになったり、あなた以外の方が現れれば、管理人は、そんな話は知らぬと言うでしょう

追伸を読んでジュリーはためらい、エマニュエルに相談する

行かなければいけません
おひとりで行くんです 
私が近くの角でお待ちしますから、お嬢様のお帰りが遅ければすぐに助けに参ります

あなた、この手紙の指示通りに行けと言うのね

そうです
お父様の浮沈にかかわることだと言われたのでしょう?

でもお父様の危機って・・・?

一瞬ためらうエマニュエル
今日は9月5日ですね
今日の11時にお父様は30万フラン近くの支払いをせねばならないのです

ええ、もちろん知っています

ところがお父様の金庫には1万4000フランしかない
誰かが手を差し伸べてくれなければ、破産です

ああ、一緒に来てちょうだい

4028うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:50:22 ID:LNssCYN6
そのころモレル夫人は息子にいっさいを話していた
マクシミリヤンはしばし茫然としていた
そして階段を駆け上がっていった

「ああ、こうなるのではと恐れておった」
突然の息子の帰還にモレル氏はうめく

お父さん!なぜ銃をお持ちなんです!?

モレル氏はすべてを息子に説明する
もうすでに万策尽きた
30分後には私の名に傷がつく
お前が母さんと妹を養うのだ それはお前の義務である
お前は昂然と顔を上げ、こう言って生きよ
私は生涯で初めて約束を履行できなくなったが故に自らの命を絶った男の息子です、とな
ああそうだ 大事なことがある
トムスン・アンド・フレンチ商会だけが私に同情的な態度を示してくれた
この商会にまず返済をして欲しい
この人はお前にとってもっとも大切な人であらねばならぬ

モレルは椅子にすわった
まだ彼には7分残されている
銃を手に取った
時計はもうすぐ11時を・・・

お父様!助かったのよ!
お父様は救われたのよ!
ジュリーが赤い絹のレースの財布を手に父の腕の中に飛び込んできた
その財布がかつて自分のものであったことを思い出す
中には28万7500フランの支払い済み手形が入っていた
そしてハシバミの実ほどの大きさのダイヤも・・・
「ジュリーの嫁入り資金」と書かれた紙とともに

モレルは額の汗をぬぐった
時計は11時を打った

ジュリー、説明してくれないか これはお前の財布ではなかろう?

メラン小路の家の中、15番地の6階の部屋の暖炉の隅
ジュリーは手紙を見せる

おまえ、ひとりでここへ行ったというのかい?

エマニュエルがついて来てくれたの
でもおかしいのよ、あのひと、どこかへ行ってしまって・・・

モレルさん、モレルさん!
階段からエマニュエルの声がした
ファラオン号です!ファラオン号が帰ってきた!

なにを言っているのだ、お前は気でも狂ったのか?

今度はマクシミリヤンが部屋にはいってきた
お父さん、なんだってファラオン号が沈んだなんて

舳に白い文字で『ファラオン号 マルセイユ、モレル父子商会』と書かれた
前のファラオン号と同じように紅と藍を積んだ一隻の船が、錨を投げ、帆を絞っていた
甲板の上にはゴマール船長がいた
ペヌロンがモレルに合図を送っていた

顔半分を黒い髭で覆われた男がひとり、遠くからモレルの姿を見守っていた
モレルは見知らぬ恩人の姿を天に求めるかのように、ぼんやりとした視線を空に向けていた

「ヤコポ、ヤコポ、ヤコポ」
男が呼ぶとボートが近づいてきた
船乗りのように身軽に飛び乗ると男はもう一度モレルの姿を見た

高貴な心に幸いあれ
あなたが成し、これからも成されるであろう善行のすべてに祝福あらんことを
そして私の感謝のしるしも、あなたの善行と同じく闇に埋もれたままでありますように
さて、今度は、親切・同情・感謝よ、さらばだ
心を彩るいっさいのそうした感情よさらば
俺は、善人たちに報いるために神の身代わりとなった・・・
復讐の神よ、悪人どもを罰するため、汝の席をわれに譲れ!

4029うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:52:00 ID:LNssCYN6
時は1838年(エドモン変装の英国人がモレル氏の前から姿を消して8年ほど経つ)

アルベール・ド・モルセール子爵 ←フェルナンとメルセデスの息子
フランツ・デビネ男爵

パリの最上流の社交界に属する青年たちは
ローマでカーニバルを楽しむ約束をしていた

イタリア滞在中のフランツはアルベールが到着するまで気ままな旅を楽しむ
ナポレオンの運命をたどり、コルシカ島、エルバ島へ、狩猟をしにピアノサ島へ
狩猟の成果がいまひとつで機嫌を悪くするフランツに船頭はいう

男爵さまがお望みなら、よい猟ができる島がごぜえますよ
あの島でさ
モンテ・クリスト島

でもあの島で猟をする許可は持っとらんよ

そんなものはいりません 無人島です 岩礁で耕せる土地なんか無いんでさ
トスカーナ領ですがね
野生の山羊がおりますよ
ただね
あの島には密輸業者や海賊や山賊なんかが集まるんで、あの島へ行ったことが役人にばれると面倒なんでさ
秘密にしてくださいよ

島には密輸業者と思われる集団がいた
なんのことはない、船頭も多少は知っている奴らなのであった
友好的ではないもののフランツの野営には無頓着な様子であった
ところが彼らの頭(かしら)が、フランツがフランス人だと知ると、夕食に招きたいと言っているという
ただし、頭のいる場所までは目隠しをするという条件で・・・
フランツは受けることにした
船頭の話では、その頭はジェノバ製のヨットを持つ謎の大金持ちの殿様、遊びで旅をしているという

なんという名の人物なんだね?

船乗りシンドバッドと名乗ってる
本名も知らねえし、どこの生まれかもしらねえ
その頭のいる隠れ家は魔法の御殿と呼ばれてる
あっしもその場所を探してみたことはあるんだがまったく見つからねえんだ
__
フランツが目隠しをはずすと、彼は豪勢な家具に囲まれた部屋の中にいた

目のまえにいる男は40歳近くのチュニジア風の衣装を身につけていた
顔色は青白く、はっとするほど美しかった
ただその青さは異常だった
まるで長いこと墓の中に閉じ込められていて、その後二度と生きている者の血を取り戻さぬ男のようであった

アリという名の召使が次々とご馳走を運んできた

このアリは口がきけないのです
一日おきに舌、手、首を切る刑を言い渡されておったのですが、一日目に舌を切られたところで私が救いましてな かねてより唖の召使が欲しかったものですから

フランツはこの温厚そうに見える男の口から出る残酷な話にとまどう
あなたはあのシンドバッドと同じように、航海を続けておられるのですか

ええ、まさかそれを達成できるとは思えなかった時期に抱いた夢でした
ほかにもそんな念願を抱いてますが、いずれ順次達成できるでしょうね
彼の眼は異常に狂暴な光を帯びていた

シンドバッドを観察するうちに、フランツには、彼が社会から迫害を受けて、社会に復讐しようという恐ろしい考えを持った人物のように見えてきた

シンドバッドは言う
あなたのお考えは当たっておりません 私は博愛の徒ですよ
そのうちにパリへ行ってみようと思っています

パリは初めてですか

そうなのです
あまりパリに興味を持たなすぎるように見えるでしょうな
でも私が悪いんじゃありません
ひどく遅れてしまいましたが、いつかきっと、参ります

そのときは僕もパリにいたいと思います
今日の歓迎の御恩返しをいたします

ありがとうございます
しかし、もし参るとしても、匿名でということになりましょうな

フランツはシンドバッドから濃厚な謎のジャムを味わうよう勧められる
それはハッシッシであった
ハッシッシがもたらす快楽から覚めたとき、彼は船頭の待つ場所におり、
シンドバッドは船出をした後であった

4030うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:52:53 ID:LNssCYN6
本土に上陸してしまうと、忙しさにとりまぎれて、フランツはこの出来事を一時忘れていた
そしてローマで友人と会うことしか頭になかった

ローマでアルベールとフランツは落ち合った
手配していた宿の部屋は狭く、ふたりは不満に思う
宿の主人によるとシチリアかマルタのとある大金持ちが他の部屋を買い占めているという
しかもカーニバルの混雑で馬車の手配はできないし、見物しやすいコルソ通りの窓辺の席も確保できないという
さらに満なふたりであった
フランツはアルベールをコロッセオへと案内しようとするが、宿の主人は彼が決めた経路は危険であるという
なぜならあの山賊ルイジ・ヴァンパがいるから、と
主人はふたりに、牧童から山賊の頭となったルイジ・ヴァンパの話を語って聞かせる
その中でルイジが“船乗りシンドバッド”と名乗る旅人と出会ったと聞き、
フランツは驚く
安全な経路をとってアルベールをコロッセオへ連れて行くフランツ
案内人にアルベールを任せて、ひとりぶらぶらしていると
怪しげな二人組の密談を目撃する
カーニバルの日に死刑執行される囚人を救い出す打ち合わせだった
ひとりの男(実はルイジ・ヴァンパ)がもうひとりに言う
「ペッピーノを救ってくだされば、あなたのどんなご命令にも従います
世界の果てからも駆けつけます」
感謝されているほうの男の声に、フランツは聞き覚えがあった
船乗りシンドバッドの声であると思った

フランツとアルベールはオペラ座へと出かける
彼らの正面の桟敷席に素晴らしく美しい婦人が座っていた
ギリシャ風の衣装を身に着けている
その背後に男の姿が見えたが、顔まではわからなかった
第二幕の途中でその男が立ち上がった
フランツはその男があのモンテ・クリストの住人であり、コロセウムで見かけた男だと思った

フランツとアルベールが宿へ帰ると、宿の主人が言う
お隣の部屋のモンテ・クリスト伯爵がおふたりに馬車の席とコルソ通りにあるロスポリ館の窓のお席をご提供するとおっしゃっています
そうこうするうちにモンテ・クリスト伯からの使いがやってきた
明朝ご挨拶したい、と

モンテ・クリスト伯に会うフランツとアルベール
フランツは彼をやはりあの“船乗りシンドバッド”だと思う
伯のほうも気が付いているはずなのに、素振りにも見せない
フランツも、自分から言い出してはいけないような、なぜかそんな気にさせられて、
何も言えない
モンテ・クリスト伯が、本日行われる処刑の観覧を2人に誘う

処刑も祭りの一部なのだ
世界中の処刑を研究し、つぶさに観察してきたが、それも到底罪を償うには値しない
「死は刑罰ではありましょうが、罪をつぐない得るほどのものではありません」
「もしあなたの心からその人を奪われたら、永久にふさがることのない心の空洞ができ、
心に四六時中血を流し続ける傷を残すようなたいせつな誰かを、ある男が、いまだかつて聞き及んだこともないような責め苦の果て、終わることのない拷問の果てに殺したとする。その場合でも、社会があなたに許している報復で十分だとあなたはお思いになりますか」

「行くかい、アルベール」
「行くとも。伯爵の雄弁で決心がついたよ」
伯爵の部屋をあとにするふたり

「アルベール、伯爵をどう思う?」
「どう思うって?好ましい人じゃないか。歓待してくれるし、学識深いし、思慮も深い。
「しかしね。ひとつだけ妙な事に気づかなかったかい?」
「どんな?」
「ばかに注意深く君を観察していたよ?」
「そうかなあ。もう一年もパリに帰ってないから、野暮ったいと思われたのかな」

処刑される囚人はふたり
ひとりはアンドレア もうひとりはペッピーノ
アンドレアは残虐な方法で処刑された
ペッピーノは寸前に赦免された

フランツは椅子に倒れ込み、半ば意識を失った
アルベールはカーテンにしがみつきながら、必死に立っていた
伯爵は悪魔のように勝ち誇ってじっと立っていた

4031うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:53:47 ID:LNssCYN6
カーニバルの仮装行列の喧騒は最高潮に達していた
ふたりの青年は伯爵の提供してくれた馬車に乗り、存分に楽しんでいた
そんな中、異国でのアヴァンチュールを追い求めていたアルベールは謎の仮面の女性に夢中になる
その女性から手紙が届き、逢引にでかけるアルベール
フランツは少し不安に思いながらも彼を送り出す

マント姿の男がアルベールからの手紙をフランツのもとへ持ってきた
間違いなく彼の筆跡で、誘拐されたので身代金を用意して欲しいとの内容
金を届けなければ、アルベール・ド・モルセール伯爵の命はない
ルイジ・ヴァンパの仕業だった

フランツとアルベールの所持金では不足していた
フランツはモンテ・クリスト伯爵を頼る
伯爵はこころよく金を提供しようとする
フランツは伯爵をじっと見つめて言う
あなたが一緒に行ってくれればルイジ・ヴァンパはアルベールを解放するのでは?
ヴァンパはあなたに恩があるでしょう?ペッピーノのことで・・・

天気はいいし、ローマの田園を散歩するのも結構楽しいでしょうな
フランツと伯爵はペッピーノを従えて部屋を出た
武器ももたず、金ももたず

ローマ郊外のカタコンベに山賊の隠れ家はあった
伯爵の登場にルイジ・ヴァンパは驚き、彼を恭しく迎える
「まさか伯爵さまがおいでくださるとは」
「お前は約束したことを忘れたようだな」
「どの約束を忘れたと?」
「わたしだけでなく、わたしの友達にも指一本触れぬということになっていたのではなかったか。今夜お前はアルベール・ド・モルセール子爵を誘拐してここへ連れてきたではないか」
そしてフランツをぞっとさせるような口調で続けた
あの青年は私の“友人のひとり”なのだと
(読者諸兄はエドモンにとって“友人”はどんな意味を持つか気付きましょう(^^)/ )

大慌てで手下を怒鳴りつけるルイジ・ヴァンパ
そしてすぐに伯爵とフランツをアルベールのところへ案内する

アルベールはこの緊急事態に、なんと眠り込んでいた
フランツは彼の肝のすわった態度に同国人として満足を感じた
ルイジ・ヴァンパもアルベールの態度には感じ入っているようである

モンテ・クリスト伯爵が助けにきてくれたことを知り、アルベールは感謝の握手を求める
びくっとしながら手を差し伸べる伯爵に気づくフランツ

アルベールとルイジ・ヴァンパはなんのしこりもなく別れることに同意した
ヴァンパはフランツとアルベールに、気が向けば遊びにきてくれてかまわないとまで笑いながら言い、伯爵にはもう一度詫びを言った

翌朝、アルベールはモンテ・クリスト伯爵に「あなたは僕の命の恩人である」という
伯爵は捕らわれていたときの彼の立派な態度をほめた

「僕の父、モルセール伯爵はフランスとスペインで高い地位についています
いつでもあなたのお役に立ちたいと思っております」
「実はそう言ってくださるのを待っておりました
私はパリへまだ行ったことがありませんでして・・・
パリの社交界に紹介してくださる方がいれば、こんなありがたいことはありません」
「喜んでお役に立ちたいと思います
実はパリから知らせが参りまして、帰らなくてはいけなくなりました
僕も、僕の家族も、伯爵を全身全霊でお迎えいたします」
「ご厚意お受けいたします
こうした機会がなかったばかりに、かねてから考えていながら、計画を実行できなかったのです」

フランツはその計画が、モンテ・クリストのあの洞窟で伯爵がふともらしたものであることを疑わなかった

伯爵は3ケ月後にはパリへ行くと約束する
同じ日、同じ時刻にいかがですか
わたしは誰にも真似できぬほど時間に正確な男です
5月21日午前10時半にパリのお宅へお伺いします

フランツに握手の手を差し伸べる伯爵
その手の冷たさにぞっとするフランツ

あなたもパリへ?
いいえ、わたしはベネチアへまいります
ではパリではお目にかかれませんね

伯爵と別れたあと、アルベールはいう
「フランツ、なんだか君は心配そうだね」
「伯爵は不思議な人なんだよ
君とパリで会うという約束が気になって仕方がない」
「おい、フランツ、君は変だぞ」
「これからする話を絶対に口外しないと約束するかい?」

モンテ・クリスト島への旅とローマのコロセウムでのこと話すフランツ
アルベール、僕が君ならば、どこの国の人なのか、どうやって暮らしをたてていのか、
あの莫大な財産はどうやって築き上げたのか、彼の前半生を知りたいと思うがね

アルベールは気にした様子もなかった
モンテ・クリスト伯爵はきっと慈善家なのさ

4032うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:54:57 ID:LNssCYN6
5月21日
モンテ・クリスト伯爵との再会約束の日
アルベールのもとへダングラール夫人からの手紙が届く
オペラの桟敷席への招待状である
彼にはダングラール家の令嬢ウジェニーとの縁談話が持ち上がっていた

モンテ・クリスト伯との面会に当たり、以下の面々が集まっていた
モンテ・クリスト伯到着までの彼らのむだ話を紹介しておこう(^^)

リュシャン・ドブレ
大臣秘書官
フランスはスペイン王家を牛耳るべく現国王の次子に仏領内で亡命政府をつくらせようとしている
「おや、知らなかったのかい?証券取引所には一昨日から洩れてしまっている
どうやって情報を入手したんだか、ダングラール氏は百万も儲けたよ」
「アルベール、君はいいなあ。君はなにもしなくてよくて」
「腹が減った。早く食べさせてくれよ。夕べはヴィルフォールさんのところで食べたんだ。
検事なんて連中はひどいものを食ってるよ。まるでみんな後ろめたい気持ちがしてるみたいな感じだよ」

ボーシャン
新聞記者
「午前中、衆議院でダングラール氏の演説を聞かなくちゃならなくて、
晩にはダングラール夫人のところで貴族院の悲劇を聞かされることになっている」
(読者諸兄は思い出そう(^^)/ カドルッスの話では貴族の未亡人と再婚したとか・・・)
「ボーシャン、僕とウジェニー・ダングラール嬢との結婚話が持ち上がっていることを覚えてるかい?」
「その結婚はだめさ。国王はあの人を男爵にすることはできた。貴族院議員にすることもできるだろう。だがほんとうの貴族にすることはできんよ。あまりにも貴族的な武人であるモルセール伯爵が、たかが200万くらいの持参金で、身分違いの縁組に同意なんかするものか。モルセール子爵の嫁は侯爵令嬢くらいでなけりゃ」
「それにしても200万は大金だぜ」とアルベール
「結婚すればいいさ。どうせ財布と結婚するんだろう」とドブレ

シャトー=ルノー
名門貴族
「アルジェリア騎兵隊のマクシミリヤン・モレル大尉を紹介させてくれたまえ。僕の命の恩人でね。あとは人柄を見ればわかるだろう。僕の英雄に頭を下げてくれ」
「子爵(アルベールのこと)、もしもの場合には、大尉が僕にしてくれたことを君にもしてくれるようお願いしておきたまえ」

マクシミリヤン・モレル大尉
(読者諸兄は思い出そう(^^)/  モレル父子商会の長男)
「男爵は少し大げさに言っておいでなのです」

4033うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:55:46 ID:LNssCYN6
一同、話題はシャトー=ルノーがモレル大尉に助けられた話へと移る
「僕がアフリカへ行く気になったことは知ってるよね。ピストルが撃ちたくて行っただけの話なんだ。君たちも知っているように、決闘は嫌いになっちまった。僕が事を丸く収めてもらおうと思って頼んだ二人の立会人に、無理矢理親友の一人の腕をぶち抜かされてしまってからね。君たちみんなも知ってる、あの気の毒なフランツ・デビネの腕をだもの・・・」
(読者諸兄は・・・( ゚Д゚)・・・ここでフランツ登場)
「なにがもとで決闘したんだったかな?」とドブレ
「もうあのとこを思い出すのはまっぴらごめんだ」

シャトー=ルノーはアルジェリアにおける戦いに気まぐれで参加して、アラビア人に殺される寸前でモレル大尉に助けられた模様

モレル大尉が微笑みを浮かべながらいう
「あれは9月5日で、父が奇蹟的に救われた記念の日なのです。ですから、私のできる範囲で、毎年この日を記念することにしているのです。英雄的であろうとなかろうと、犠牲的であろうとなかろうと、かつて幸運が私たちにしてくれたことのお礼に、不運に苦しむ人になにかしてあげねばならなかったのです」

アルベールはいう
僕もじつは命の恩人を待っているんだ
その人は10時半きっかりにやってくるはずなのだ

そしてルイジ・ヴァンパに誘拐された話を一同に披露する
そしてその恩人はモンテ・クリスト伯爵というのだと

そんな名前の貴族はいない、と断言する名門貴族出身のシャトー=ルノー

モンテ・クリストは島の名前ですよ、とモレル大尉

そのとおり、その島の領主であり王なのです
トスカーナのどこかで伯爵の称号を買ったのかもしれませんね
伯爵は“船乗りシンドバッド”と名乗って、黄金でいっぱいの洞窟を持っているんだ
あ、この洞窟の話は内緒だよ
フランツが知っている、とアルベール

(船乗りシンドバッドという語に反応しないところをみると、モレル大尉は妹から聞いていないのか?(^^)だが・・・)
私も、ペヌロンという水夫からそんな洞窟の話を聞いたことがあります、とモレル大尉

とにかく、モンテクリスト伯爵は実在するんだよ、とアルベール

時計が10時半を打ち、召使が告げる
「モンテ・クリスト伯爵閣下でございます」

4034うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:56:36 ID:LNssCYN6
伯爵が戸口に姿を現した
最高の仕立て屋による洗練されつくした装いであった

アルベールが友人たちを紹介する
アフリカ騎兵隊大尉モレルを紹介したとき、伯爵は、それまでの丁重かつ冷淡、無感動な様子から一変し、その蒼白な顔に一瞬赤味がさした
アルベールがモレル大尉のことを英雄的な行為をした方であると紹介すると、
「ああ、この方は高貴な心をお持ちなのですね、それはよかった」と伯爵はいう
モレルはあっけにとられてモンテ・クリストの顔をみつめた
その表情は柔和で言葉の調子は優しく、その感嘆の仕方がどれほど異様であろうとも、それで腹をたてるわけにはいかなかった

一同は食堂へ向かう

昨日の朝から何も食べず、馬車のなかではねむっていたというモンテクリスト伯爵に
一同はなぜそんな状態で眠れるのか、と尋ねる

伯爵はハッシッシの話をする
フランツ・デビネ男爵に訊いてごらんなさい、と
そのハッシッシは純度が非常に大切なので、原料は自ら採りに行き、丸薬にするのも自分で行うという
そして実物をエメラルドをくり抜いて作った入れ物から取り出して見せた
皆の目は丸薬よりもその見事なエメラルドのほうに集まった
伯爵が言うには、このエメラルドは同じものが3つあり、あとの2つは大公と法皇に差し上げたという
その返礼に、大公は一人の女の身を自由にし、法皇は一人の男の命を救ってくれた、と

アルベールは「ペッピーノのことですね」という
伯爵はいう「まあ、そんなところです」
話題はルイジ・ヴァンパに移る
伯爵は彼がまだ小さくて羊飼いをしていた頃から知っているという
山賊になった彼が、伯爵の顔を忘れていたのか、襲いかかってきたときに逆に彼を捕まえが、官憲に引き渡さなかったのだと
新聞記者のボーシャンがいった
「もう旅人は襲わないように、という条件をつけて、ですね」
伯爵はこたえる
「違います。私と私の友人には手をつけぬという条件です。
あなた方、社会主義者、進歩派、人道主義者の方々は異様に受け取られるかもしれませんが・・・私は隣人のことなどに心を用いたりしません。私を守ってもくれない社会、さらに言わせていただければ、一般的にいって、私を痛めつける場合にしか私のことを考えてはくれない社会など、私は決して守ろうとはしませんよ」
シャトー=ルノーは叫んだ
「利己主義をこれほど強烈に弁護する勇敢な男の弁を聞いたのは初めてだ。すばらしい」
モレル大尉が言った
「しかし、お言葉ですが、知人でもないモルセールさんを救出なさったことによって、あなたは、隣人と社会に奉仕なさったことになりますよ」
モルセールが叫んだ
「伯爵!僕の知る限りで最も厳格な理論家のあなたが、理論でやっつけられましたね。あなたはエゴイストどころか、まるで逆の博愛主義者だってことがすぐ明らかにされますよ。あなたは持ち合わせてもいない悪徳を持っているかのような顔をし、そなえている美徳をお隠しになる」
モンテ・クリストはいう
「モルセール子爵、あなたは見ず知らずの他人ではありませんでしたよ。ともにカーニバルを楽しんだではありませんか。それにあなたもご承知のとおり、私にはあなたにパリのサロンへの紹介をお願いするという下心があったのですから」

4035うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 16:57:35 ID:LNssCYN6
話題は伯爵のパリにおける住まいに移る
伯爵はたった今パリへと到着したばかりだということだったから・・・

アルベールは自分の住まいを提供するわけにはいかないが手頃な家を一軒世話する、という
ああ、たしかご縁談が持ち上がっているというお話でしたね、と伯爵

父がこの縁談に熱心なんです
ウジェニー・ダングラール嬢です

ウジェニー・ダングラール!
ダングラール男爵のお嬢さんではありませんか、と伯爵

ええ、そうですよ、“新”男爵ですがね、とアルベール

それがなんだというのです
国家に対してそれだけのことをしたのなら・・・と伯爵

ボーシャンが言う
「たいへんな功績ですよ。本心は自由主義者なのに、1828年にシャルル10世のために600万の起債を成功させ、国王に男爵にしてもらい、レジョン・ドヌール勲章を授けられた。その略綬をチョッキのポケットのところにつけていると思いきや、なんど上着の襟のボタン穴に堂々とつけている男です」
アルベールはいう
「未来の岳父の悪口は「やめてくれよ。伯爵はダングラール男爵をご存知なのですか」
モンテ・クリスト伯爵はいう
「いいえ、しかし、近いうちにお見知りおき願うことになるでしょう。
男爵に振り出された、ロンドンのリチャード・アンド・ブラウント、ウィーンのアルシュタイン・ウント・エスケレス、ローマの・トムスン・アンド・フレンチの各商会の信用状を持っておりますから」
モレル大尉は驚く
「トムスン・アンド・フレンチ商会をご存知ですか!ああ、伯爵、きっとあなたは私どもがいくら調べてもわからなかった調査に手を貸していただけると思います。あの照会は私どもの家に恩をほどこしてくれたのですが、どういうわけか、いくら問い合わせをしてもそんなおぼえはないとしか返事をしてくれないのです」
「なんなりと申しつけください」と伯爵は答えた

話題は伯爵のパリでの住まいへと戻る
それぞれ、良い場所を提案する中で、モレル大尉がいう
「メレ街にある洒落た小さなアパルトンマンをおすすめします。妹夫婦が住んでいるのです」
「妹さんがいらっしゃるのですか」
「ええ、素晴らしい子です。夫は私どもが不幸のどん底にいたときに支えてくれた男です。エマニュエルといいます。ふたりとも伯爵が必要となさることはなんでもしてくれますよ。休暇のあいだ、私も住んでおります」
モンテ・クリスト伯爵はいう
「ほんとうにありがとうございます。私は、もしそうしていただけるなら、妹さんご夫婦に紹介だけしていただきましょう。実はもう私の住まいは用意されているのです」
伯爵は説明する
先に執事・召使どもをパリへとやり、彼らは準備万端ととのえて待っているのだという
場所は超一等地の「シャンゼリゼ30番地」だった

皆から、邸宅に召使たち、あなたに足りないのは愛人だけだと冗談をいわれた伯爵

わたしにはすでに女奴隷がいます
ギリシャ語しかしゃべれない女奴隷
あなた方はオペラ座やボードヴィル座で愛人をお雇いになる
私はコンスタンティノープルで買いました、と

伯爵のおもな使用人たちは
このギリシャ人の女奴隷
コルシカ人の執事ベルトゥチオ
召使のアリ(口のきけない)

伯爵いわく
「私の周囲に居る者たちは、誰でも離れていくことは自由です。離れて行けば、私の世話も誰の世話もいらないというわけです。おそらくそれで、私から離れていかぬのでしょうが」

モレル大尉は伯爵に名刺を渡し、メレ通り14番地へ必ず来てください、といった

4036うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:01:21 ID:LNssCYN6
<登場人物>
モルセール伯爵(=フェルナン エドモン・ダンテスの敵)
モルセール伯爵夫人(=メルセデス エドモンのかつての恋人)
アルベール・ド・モルセール子爵(フェルナンとメルセデスの息子)
モンテ・クリスト伯爵(=エドモン・ダンテス)


友人達が帰ったあと、アルベールはモンテ・クリスト伯爵に自分の部屋々々を案内して回る
裕福な若者にありがちな雑多なコレクションの数々
美術、科学あらゆる方面の学識豊富なモンテ・クリスト伯爵にあらためて感嘆するアルベールだった
モンテ・クリスト伯は一枚の絵の前で足をとめた
カタロニアの衣装を身に着けた美しい婦人の絵であった
アルベールによると彼の母を描いたものだという

父伯爵はなぜかこの絵が気に入らず、母が僕の部屋用にとくれたのです
母は僕の部屋へくると必ずこの絵をながめて涙を流すのです
結婚して20年になる両親ですが、この絵だけが夫婦の間に影を落としています

モンテ・クリスト伯はアルベールの表情を鋭く観察してみたが、彼はそれ以上のことは知らないようだった

それでは母屋のほうへご案内いたします
父も母もあなたに会いたがっております

客間に通ずるドアの上に紋章がみえた
モンテ・クリストはこの紋章を注意深くみつめた
「青地に金のツグミが7羽並んでいる。これはモルセール家の紋章でしょうね
私は紋章を読む知識はあるのですが、紋章学となると無知でして。なにしろ、トスカーナ公国の力を借りた成り上がり貴族ですから。しかも、各地を旅するのに持っていると便利だからと人に言われたからという理由でその身分を得ることにしたわけでしてね」
「おっしゃるとおり、これは我が家の紋章です。父の先祖の。赤地に銀の塔は母のほうの先祖の紋と組み合わされています。南仏ではもっとも古い家柄の一つときいています」
モンテ・クリストは答えた
「そのとおりですよ。ツグミがそれを表しています。あなたの父方のご先祖は13世紀のフランス十字軍までさかのぼります。これはたいへんなことですよ」
客間のもっとも目立つところに、勲章を三つつけた軍人の肖像画が飾られていた
その勲章は持ち主がスペインとギリシャにおいてなにか外交上の使命を果たしたことを示してもいた
モンテ・クリストがしげしげと肖像画をながめていると、モルセール伯爵があらわれた
その男は少なくとも50歳くらいにはみえた
その顔には疲労と気苦労が刻み込まれているようにみえた
モルセール伯爵はモンテ・クリストに丁重に例の言葉を述べる
「たった一人の跡継ぎの命をお助け下さり、御恩は一生忘れられるものではございません」

モルセール伯爵家が家系を偽っていることは先刻承知のモンテ・クリスト
「パリ到着早々その日のうちに、名声に背かぬ価値をお持ちの方とこうしてお知り合いになれて、まことに光栄に存じます」
軍務をしりぞき、今は政治と工業の分野に身を置いているというモルセール伯爵を、謙虚で崇高な人物だと熱心にほめるモンテ・クリスト
モルセール伯爵はモンテ・クリストにすっかり魅せられる

アルベールが言った「あっ、母です」

4037うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:02:03 ID:LNssCYN6
モルセール夫人は蒼い顔をして戸口に立ち尽くしていた
しばらく前から夫と客人の会話を聞いていたのだった
モンテ・クリストが振り向くと、戸口に添えていた夫人の手がだらりと下がった

ふたりは恭しく礼を交わした
息子が生きながらえておりますのはあなた様のおかげでございます
あなた様に神様のおめぐみがあるよう祈っておりました
今日は心の底からのお礼を申し上げる機会を、こうしてくださったことを感謝いたします

奥さん
過分なお言葉をいただきました
ひとりの人間を救う、これは善行というほどのことではありません
人としてごく普通の行いです

モルセール伯爵は議会出席のために出かけた
夫人はモンテ・クリストをもてなそうとするが、モンテ・クリストはまだパリに着いたばかりなので、今回は辞去するという
モンテ・クリストが馬車に乗りこむ姿を、夫人はカーテンのかげから見送った

アルベールが母のもとに戻ると、夫人は気付け薬を手に、椅子に座り込んでいた
「お母さん、顔が蒼いですよ。ご気分が悪いのですか」
「モンテ・クリストというお名前は、いったい何なの。苗字、地名、それとも称号?」
「たぶん、称号だと思いますよ。トスカーナ領の島をひとつ買ったのですよ。でもあの人は貴族の家柄だなんてひとことも言ってませんよ。自分を成り上がり貴族と呼んでいます」
「あの方の物腰態度、見事だったわ」
「非の打ちどころがありませんよ。全ヨーロッパのどんな貴族をも凌駕しています」
「アルベール、伯爵さまは外見どおりの方だと思う?生まれをきいているのではなく人柄を聞いているの」
「あの人についてはずいぶんと変わったことを見たもので、僕に言わせるなら・・・
バイロンの作品の主人公みたいな人ですね
不幸が生涯消えることのない刻印を押した人。古い家柄の残党の一人で父親の財産を奪われはしたが、その才能で財を築き、そのおかげで社会の掟を見下しているような人物ですよ。
モンテ・クリストは島の名前で、密輸業者や海賊の巣窟になってます
彼らが礼金を払っているかもしれませんね」
「ありそうなことね」
「でも、なんだっていいじゃありませんか。モンテ・クリスト伯爵は素晴らしい人です。パリ中のサロンで大成功しますよ」

「伯爵さまはおいくつぐらいかしら」
メルセデスは明らかにこの質問を重大な事と考えているようだった

「35,6です」
「そんなにお若いの?まさか」
「でも、そうなんですよ。いろんなお話の中で計算してみるときっちりと合う
あの年齢が無いようにみえる不思議な人はたしかに35歳です」
「あの方はあなたに友情を抱いてくださったのね・・・」
「僕は好きです。フランツ・デビネが何と言おうとね
彼はあの人のことを僕にあの世からよみがえったような人だと思わせようとしたんです」
伯爵夫人は恐怖に襲われたかのようだった
「アルベール、新しい人とのお付き合いには気を付けなさい」
「伯爵のどこに気を付けろというのです?」
「そうね。あなたの命の恩人だというのに、不安に思うのはばかげているわね
ところでお父様はあの方を愛想よくお迎えしたの?」
「それはもう申し分なく。伯爵がまるで30年来の知己のように実に効果的にうまいお世辞を2,3回言ったらすっかり上機嫌になりましたよ」
伯爵夫人は答えなかった
夫人は深い夢想のなかへ沈んでいくようだった

4038うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:02:47 ID:LNssCYN6
モルセール伯爵邸をあとにしたモンテ・クリストはシャンゼリゼ通りの自宅へと戻る
ブーローニュの森近くのとある屋敷を購入するため、売買契約を結ぶべく、公証人を呼びつけていたのであった
モンテ・クリストの有能な執事ベルトゥチオはその物件について具体的には何も知らされておらず、その地名“オートゥイユ”を聞いて青ざめた
彼にはその地における重大な秘密があった

ベルトゥチオのささやかな抵抗を無視し、売買契約を結ぶモンテ・クリスト
公証人と執事を追い払ってひとりになると、ポケットから鍵付きの紙入れを取り出し、首にかけた鍵でそれを開け、中のメモと売買契約書の番地とを照合した
「オートゥイユ、ラ・フォンテーヌ通り18番地
まちがいないな。あとはどうやって泥を吐かすかだ。1時間後にはわかるはず」
「ベルトゥチオ!」
執事がやってきた
「君はパリ郊外を知っているね」
「い、いいえ、閣下存じません」ふるえる執事
「今からオートゥイユへ行くから、付いてくるように」

2人を乗せた馬車は20分でオートゥイユに到着した

屋敷の門番が姿を見せた
モンテ・クリストは、自分が新しい主人であると告げる

門番
「もとはサン・メラン侯爵の別荘でした。ブルボン王家に忠実に使えた貴族様です
一人娘がおありで、ニームやヴェルサイユで検事をなさってたヴィルフォール様と結婚なさいました」
ベルトゥチオは顔面蒼白だった

モンテ・クリスト
「その一人娘のお嬢さんは亡くなられたときいたように思うが」
「そうです。21年前のことでさ」

虚脱状態のベルトゥチオとともに屋敷内を見て回り、庭へと出る
執事の足が止まる
「私は、これ以上さきへは行けません。よりによってここだなんて」
「私は君がコルシカ人であることを知っている。暗い顔でしょっちゅう昔の復讐のことかなにかを思い出していることも知っている。イタリアではそのことを見過ごしてきた。なぜなら、あの国ではそういうことも通用するからね。だが、ここはフランスだ。人殺しというのはきわめて悪い趣味とみなされている。ブゾニ司祭に責任を取ってもらう。司祭が君を私のもとへよこし、君は立派な資質を持っていると推薦してきたのだからな」

(^^)/ 読者諸兄はカドルッス宅へエドモン・ダンテスの遺言を果たしにダイヤと共に現れた司祭をご記憶でしょうか
あの人がブゾニ司祭です 
もちろんエドモン・モンテ・クリストの変装です
ベルトゥチオがニームというところで牢に入っていたときに懺悔をした司祭なのです(^^)/

「なにか盗みでもしたのかね」
「とんでもございません。復讐です。単なる復讐だったのでございます
この屋敷で・・・」
「なんだと?ここで?それは不思議な偶然の一致だな。
君はサン・メラン侯爵に恨みがあったというのか」
「侯爵様ではありません。ほかの男です。あの男が一撃を受けたまさにその場所に伯爵さまは足をとめられた。その先にプラタナスの木があって、その木の下の穴にあの男が子供を埋めたのです。ブゾニ司祭にだけお話ししました」
「私は君を、少しはコルシカ人で、大いに密輸業者のにおいがし、有能な執事だとおもっていたが、どうやらほかの顔もあるようだ。もう君は私の家の者ではない」
「伯爵さま!もしもすべてを話せばこのまま使っていただけるのでしたら、すべてお話しします。ブゾニ司祭様でも一部しかご存知ないのです。ああ、でも、どうかそこにお立ちにならないでください!そこにあなた様がヴィルフォールと同じマント姿で立っておられると・・・」
「なに!ヴィルフォールなのか!」
「そうです」
「ニームの検事であり、サン・メラン侯爵の娘を結婚し、最も誠実、峻厳、過酷な司法官として知られている・・・」
「はい、その非の打ち所がない名声で知られるその人が、とんだ破廉恥漢なのでございます」
「証拠を握っているのか」
「少なくとも握っておりました」
「証拠を失くしたのか。間抜け」
「はい。でもよく探せば見つかると思います」
「すべて話すのだ」

4039うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:03:32 ID:LNssCYN6
ベルトゥチオの話
自分には兄がひとりいた
ナポレオン復活時にコルシカ部隊の中尉だった
ナポレオンの百日天下終焉とともに部隊は解散した
ニームにいったん滞在するから金を届けて欲しいと、コルシカの私のもとに兄から手紙がきた
大好きな兄の頼みなので、密輸で使っていたそのニームの宿屋まで、自分で届けることにした
当時、南仏一帯には殺戮の嵐が吹き荒れていた
ボナパルト派と目された人々を通りで惨殺する集団がいたのだ
ニームの町に入ると、いたるところに死体があった
ボナパルト軍の軍服姿のままであるはずの兄の身を案じた
宿屋に駆けつけると、兄はすでに殺されていた
犯人の仕返しを恐れて住民は口を閉ざすので、フランス司直に訴えることにした
マルセイユからきた検事代理が出世してニームの検事になっていた
ナポレオンのエルバ島脱出をいちはやく政府に知らせたというヴィルフォールだった

(^^)/ 読者諸兄は思い出そう
エドモンがエルバ島から持ち帰った手紙をヴィルフォールが読み、驚愕した
そこには父ノワルチエの名前が書かれていたため手紙は燃され、エドモンはシャトー・ディフへ送られた
この手紙の情報をもとに、ルイ18世の覚えめでたくなり、サン・メラン侯爵の資産を守った

ベルトゥチオは兄殺しの犯人をつきとめてほしいとヴィルフォールにうったえた
ヴィルフォールの回答は、ナポレオン側の軍人なら仕方なし、革命に悲劇はつきもの、政府には何の責任も無い、とけんもほろろの冷たさであった
ベルトゥチオはヴィルフォールに“ヴァンデッタ”(血の復讐)を宣言した
「あんたは、兄がナポレオン派だったから殺されてよかったと思ってるんだ。あんたは王党派だからな。俺もボナパルト派だ。俺は宣言するぞ。あんたを殺す」
ヴァンデッタを恐れて、ヴィルフォールはヴェルサイユへ異動を願い出た
ベルトゥチオはあせらずに機会をうかがい、検事がオートゥイユへこっそりと行くことをつきとめる
オートゥイユの屋敷の持ち主はサン・メラン侯爵だが、侯爵はマルセイユにいた
男爵夫人としか名前のわかっていない若い未亡人に貸しているとかいう話だった
その女性は18,9ぐらいの背の高いブロンドの美人で妊娠していた
屋敷を見張っていたある夜、絶好の機会がやってきた
ヴィルフォールが何かを小脇に抱えて庭へ出てきて、穴を掘り始めた
そして小脇に抱えてきた小さな箱を埋め終えたそのとき、短剣で襲った
箱を穴から掘りだして蓋を開けてみると生まれたばかりの赤ん坊が入っていた
人工呼吸をして蘇生させ、養育院にあずけた
赤ん坊の産着には二つの文字が刺繍されていた
その文字の一つは産着についたままになるように産着の布を切った
男爵冠の下にHとN
故郷へ帰り、義姉に報告した
義姉は赤ん坊を連れてくればよかったのに、と言った
目印があるから、と産着の半分を見せた

4040うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:04:13 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト
では次に聞くが、君がニームの監獄へブゾニ司祭を呼んだとき、何の罪に問われていたのだ?

再び密輸の商売を夢中になって始めた
義姉のくらしを助けるためもあった
しかし、兄が殺されたニームの宿屋はもう使いたくなかった
するとその宿屋のほうがやってきて支店を出したので、そこを使うことにした
ある日、義姉が産着の半分をもって養育院へと行き、赤ん坊を連れて帰って来た
美しい男の子でベネデットと名付けたが、性格は性悪だったが、読み書き計算はよくできた
ある日の密輸取引の際、裏切り者がいたのか、官憲がやってきた
必死で逃げて例の宿屋へたどりついた 
カドルッスとその妻カルコントが営む宿屋
階段下の物置から様子をうかがっていると、カドルッスが見知らぬ男と帰ってきたところだった
男は宝石商人らしい
ハシバミの実ほどもあるダイヤの値段について3人でもめていたが、結局は宝石商人の言い値を飲むことになったようだった
商人は金を払いダイヤをもって宿を出るが、おりしも外は嵐で立ち往生となりふたたびカドルッスのところへ戻って来た
カドルッスとカルコントは恐ろしい企みを抱いたようだった
カルコントとカドルッスは宿の2階へ商人を泊めた
その夜、惨劇は起きた
ピストルの音と悲鳴で居眠りから目覚めた
格闘するような音が聞こえた
頭上の階段に何か重いものが転がって来た
板の隙間から生温かい雨のようのがぽたぽたと落ちてきた
血まみれで青い顔をしたカドルッスが降りてきて、ダイヤの小箱と金を持って闇へ消えた
階段には頭を撃たれたカルコントの死体、2階には包丁で刺された宝石商の死体があった
茫然となっていると、尾行されていたらしく税関吏が踏み込んできた
カルコントの血を浴びていた自分は逮捕された
自分の無実を認めさせるのは困難と思い、カドルッス夫婦と宝石商の会話の中に出てきた「ブゾニ司祭」という人物を探して欲しいと判事に訴えた
判事はブゾニ司祭を探しだしてくれ、ブゾニ司祭はダイヤに関する私の話を裏付けてくれた
カドルッスは外国で捕まり、フランスに戻され、一切を白状(女房の教唆)した
彼は無期懲役、私は釈放された
ブゾニ司祭がモンテ・クリスト伯爵への紹介状を用意してくれた

モンテ・クリスト
君がお姉さんのことも子供のことも私に教えてくれなかったのはどういうわけかな

それはもっとも不幸な思い出につながるからであった
性悪のベネデットが遊ぶ金欲しさに義姉を“拷問ごっこ”と称していたぶり、殺したのであった
ベネデットは金を奪い、姿を消した
「ああ、あのヴィルフォールの血筋というのは呪われた一家でございます」

モンテ・クリスト
「あの惨劇を演じた君にとっては胸をえぐるような恐怖を与えるものが、私には心地よいとさえいえる。これはこの邸に思わぬ価値を添えてくれるだろう」

ふたりはシャンゼリゼの屋敷へと戻る
その後、モンテ・クリストがイタリアでいつも連れていたあのギリシャ美人の若い婦人が到着した。“エデ”という名の。

4041うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:12:43 ID:LNssCYN6
おさらい(^.^)

マルセイユのモレル商会所属の優秀な船乗りであり、カタロニアの美女メルセデスを婚約者にもつエドモン・ダンテスは、無実の罪で14年間牢につながれる
原因となった人物はカドルッス、フェルナン、ダングラール、ヴィルフォールの4人である
(なお、ダングラールとヴィルフォールについては、読者の混乱を避けるためか、ファーストネームは明らかにされていない)

ダングラール
エドモンを陥れるための偽りの告発書をつくり、フェルナンをそそのかした

フェルナン
エドモンからメルセデスを奪うため、その告発状を当局へ送った

カドルッス
エドモンに仕掛けられた罠に気づいていたのに我が身可愛さに何もしなかった

ヴィルフォール検事
エドモンがエルバ島より預かった手紙に自分の父親(ノワルチエ)の名前が書かれていたがためにエドモンを無裁判の監獄送りにし、証拠の手紙を燃やした

4042うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:13:22 ID:LNssCYN6
14年間の牢生活で、エドモンは囚人仲間のファリャ神父の導きにより膨大な量の知識を獲得し、莫大な財宝の隠し場所を知り得る

ファリャ神父の死去に伴い、その遺体とすりかわり、エドモンは奇跡的に海へと脱出に成功

密輸船に拾われ、船長の信頼を得て、地中海に浮かぶモンテ・クリスト島の財宝を手に入れる機会をうかがう

無事に財宝を手に入れ、密輸船と円満に手を切る
エドモンは“英国人のウィルモア卿”としてマルセイユへ帰還
懐かしの我が家を訪問し、カドルッスの行方をつかむ

エドモンは“ブゾニ司祭”としてカドルッスを訪問する
4人の陰謀の全容、恋人メルセデスの現在、父の死の様子、恩人モレル氏の財政状態をつかむ
カドルッスについては、陰謀の実行に手を貸しておらず、エドモンを救わなかったことを後悔していることから復讐の対象からはずし、財宝のほんの一部であるダイヤモンドを与える

エドモンはモレル商会を“トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人”として訪問
恩人モレル氏を破産から救い、氏の自殺を未然に防ぐ
モレル氏の子供たちマクシミリヤンとジュリーは“船乗りシンドバッド”および“トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人”と名乗った人物を、以降、父の恩人として崇め続ける

善行はここまで、以降は復讐の権化エドモン=モンテ・クリスト
その後物語には8年間の空白がある
8年の間にモンテ・クリストは復讐対象3人の周辺を綿密に調査したと思われる
また、エデという名のギリシャ人美女を救った
彼女の悲劇の原因は復讐対象3人のうちのひとりフェルナンにあった
エデとは父娘ほどの年齢差があるが、彼女はモンテ・クリストのことをひとりの男性として敬い愛している
モンテ・クリストは、エデを奴隷として買ったと公言するが(実際にそうであるが)王女のように大切にし(実際、王女だった)、実の父のように彼女を教育・養育している
エデが示す愛情を亡き父への思いと同じものととらえていたモンテ・クリストだが、最後には気が付いた(^.^)

4043うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:14:13 ID:LNssCYN6
≪歴史年表≫(^.^)
1804年 ナポレオンによるフランス第一帝政
1814年 ナポレオン、エルバ島へ追放
4月 ルイ18世による第一次王政復古
1815年 2月 エドモン、シャトー・ディフの牢へ
      3月 ナポレオンの100日天下(〜6月)
      7月 ルイ18世復位
      10月 ナポレオン、セント・ヘレナ島幽閉
1823年 仏軍、スペイン侵攻(ダングラール及びフェルナン、富と名誉を獲得)
      ギリシャのヤニナ陥落(エデの父アリ・パシャ暗殺 フェルナン富獲得)
1824年 9月 ルイ18世死去、シャルル10世王位
1829年 2月28日 エドモン、脱獄成功
      9月5日 エドモン、モレル氏救済
1830年 フランス7月革命 ブルボン朝→オルレアン朝へ
1838年 初頭 ローマにて モンテ・クリスト伯登場
      フランツ・デビネ、アルベール・ド・モルセール(フェルナンの息子)と交わる
      山賊のルイジ・ヴァンパ登場
      5月 モンテ・クリスト伯、パリへ ← 今ここ
      そして10月5日にはなにが?(^.^)

モンテ・クリスト伯は綿密な計画と莫大な資産を使い、着実に敵を追い詰めますが、自ら直接手を下すわけではなく、間接的な手段を取ります
愛するメルセデスを奪われた苦しみ、父親の餓死という形の自殺、この自らが味わった苦しみを復讐対象にもあたえます
目には目を、歯には歯を、のバビロニア方式です
モンテ・クリスト伯は、東洋的(ここでいうオリエント世界はトルコまででしょう)な思考をする人間である、とデュマは描写しています
14年の牢獄生活を象徴するかのような顔色の青白さ、無表情、時折発せられる他人をぞっとさせるほどの深い声の響き、知性と品を感じさせるけれども冷酷な風貌が描かれます
ただ、モレル商会の子供たちであるマクシミリヤン、ジュリーとその夫エマニュエル、ギリシャのエデに対しそそぐ眼差しは温かいです

≪復讐相手4人の家族、末路など≫

カドルッス
一度は見逃してやり、再起の糧となるはずのダイヤモンドまで与えたが、結局ろくでなしのままであった
モンテ・クリスト伯の屋敷へ忍び込み、結果的に・・・
犯人は>>498のベネデット

フェルナン(フェルナン・ド・モルセール伯爵)
汚れた過去を暴かれ、息子アルベールと妻メルセデスに去られる
社会的に破滅する
モンテ・クリスト伯と決闘しようとするが、結局・・・

ヴィルフォール検事
家庭内でつづくある事件および不義の子(>>498のベネデット)のせいでその権威は失墜する
妻エロイーズ、息子エドワールを失い、自身は・・・状態へ
亡き先妻(サン・メラン侯爵令嬢)との間に生まれた娘ヴァランチーヌの運命は?
そして不義の子を産んだ女性は誰なのか?

ダングラール
モンテ・クリスト伯が出現して以来、なぜかどんどん資産が失われていく
娘ウジェニーを金持ちイタリア貴族(>>498のベネデットの経歴詐称)に嫁がせようとして失敗、経済的窮地に陥る
結婚に興味のない娘ウジェニーに去られる
夫人のエルミーヌとの間にそもそも愛情は無く、夫人は捨てられる
パリからローマへ逃げるも、山賊のルイジ・ヴァンパが・・・

4044うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:15:44 ID:LNssCYN6
以上の予備知識をもとに(^.^)
>>4040のつづき
シャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯邸の前に見事な英国馬に引かせた馬車が止まる
乗っているのは銀行家ダングラール
面会を希望するが門番に断られる
トムスン・アンド・フレンチ商会からモンテ・クリスト伯という謎の人物に無制限貸付口座を開くよう要請され、はたしてどんな人物なのか偵察に来たのであった
追い返されるダングラールの馬車を窓から眺めるモンテ・クリスト伯
執事のベルトゥチオに言う

たしか君にはパリで最高の馬を二頭買うように命じたのに、私の馬と同じような馬がまだパリに二頭いて、私の厩にそれらが入っていないとはどういうわけかね

伯爵さま、お話しの馬は売り物ではございませんでした

それだけの代価を払える者にとっては、すべてが売り物であることを知りたまえ

ダングラール様はあの馬に1万6000フランお支払いになりました

それなら、3万2000出さねばならなかったのだ
銀行屋というものは、資産が倍になるチャンスを逃がすものではない
今夜5時、私はある人を訪ねなければならない
わたしの馬車に新しい馬具をつけてあの二頭をつないでおくように

5時になった 馬車には新しい馬がつながれていた

モンテ・クリスト伯爵は執事に次のような指示を与え、馬車でダングラール邸へと向かった
ノルマンディー海岸に港つきの土地を買い、伯所有のコルヴェット(小型軍艦)を停泊できるようにする
伯所有のヨット、汽船と常に連絡を取り合う
その後北仏、南仏の街道沿い10キロごとに中継地を確保する

4045うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:16:22 ID:LNssCYN6
ダングラールと対面するモンテ・クリスト伯
伯を胡散臭い人物とにらむダングラールの態度は横柄だ
モンテ・クリスト伯は慇懃無礼・完全無欠な態度で応戦する
ダングラールは完全に圧倒され、無制限貸付枠を設けることを承知する
初年度の枠はとりあえず600万フラン、さらに入用の場合は上乗せ・・・
まず手始めに明日50万届けていただけますかな?受領書を執事に渡しておきますから・・・

ダングラールはモンテ・クリスト伯を自分の妻に紹介するという
ナルゴンヌ侯爵の未亡人であり、ダングラールと結婚したために身分を落とした妻であった
妻の部屋に案内されるとその部屋にはアルベールの友人リュシャン・ドブレ(>>360)がいた
ダングラールはドブレを「私どもの古い友人である」と紹介するが、夫人の愛人であることは
モンテ・クリストはすでに知っていた

ダングラール夫人は36歳だがその美しさはとくに記しておくに値する
ドブレからすでにモンテ・クリスト伯に関する話を聞いていた夫人は興味津々で出迎えた

伯爵は一年の予定でパリに滞在されるのだが、なんとその間に600万お使いになるとおっしゃるのだよ、とダングラール

いつ、お着きになりましたの?

昨日の朝です

ひどい時期においでになりましたのね
夏のパリはやりきれませんのよ
つまらない競馬ぐらいしかございませんわ
伯爵さま、馬はお好きでしょうか

私は生涯の一部を東方で過ごしました
かの人々は2つのものしか愛しません 馬の気品とご婦人がたの美しさ

小間使いがやってきて、夫人になにごとか耳打ちする
あなた!ほんとうなんですの?

何がだね、と目に見えてうろたえるダングラール

4046うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:17:05 ID:LNssCYN6
馬車にあたくしの馬をつけようとしたら、厩にいないというのです
これはいったいどういうことなんですの?

それはね、まあお聞き

ええ、伺いましょう
ここにおいでのお二人にも聞いていただきとうございますわ
ダングラール男爵は厩に馬を10頭もっています
そのうち2頭はあたくしの馬です 
美しい、パリ随一の馬です
ドブレさんはご存知ですわね、あたくしのあの葦毛を
ヴィルフォール夫人が明日ブーローニュの森へおいでになるのに、あたくしの馬車をお貸しする約束なのに、あの馬が見当たらないのです!
きっと主人があれを売ったんですわ!
ほんとに投機家ってなんていやらしい人種なんでしょう!

あの馬はね、元気が良すぎるんだよ お前の身が心配でならなかったのだ

なにをおっしゃるんですか
あたくしはパリ随一の御者を使っていましてよ

もっと良い馬を見つけてあげるよ
伯爵、あなたにあの馬をおすすめすればよかった
ただみたいな値段で譲ってしまったのですからな

お気遣いありがとうございます
でもじつは今朝、かなり良い馬でしかもあまり高くないのを買いましてね
ほら、ドブレさん、ご覧ください
あなたも馬はお好きとみえますが

ドブレは窓へ近づいた
その間にダングラールは、あの馬を元値の倍で売ったのでその分け前をやろうと夫人を宥める

ドブレが叫んだ
あ!
私の見間違いでなければ、奥さんの馬が伯爵の馬車につながれている・・・

ほんとうに、あたくしの馬だわ!

モンテ・クリストは驚いたふりをする
まさか、そんなことが?

信じられん、と青い顔のダングラール

いかにもダングラールに同情するかのように伯爵はささやいた
ご婦人方というものはまことに恩知らずなものですな
あなたが親切心からしてあげたことにもまったく心動かされない
恩知らずというよりもどうかしている、というべきですかな
一番簡単なのはご婦人方に自分の判断通りにさせておくことです
それで事故が起こったとしても自分の責任ですからね

ダングラールは凄まじい夫婦喧嘩を予感していた
ドブレは嵐の到来を予感してそそくさと帰った

モンテ・クリストはこれ以上長くとどまって、彼が手に入れようとしている立場を損なってはならぬと思い、一礼してすぐ退去した
よし!
これで俺は目的を達した
いまやあの夫婦間の平和は俺の手中にある
そして、夫の心も妻の心も一挙にひきつけてしまうことができる
今日のところはウジェニー・ダングラール嬢に紹介してもらえなかったのが残念だ

4047うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:17:51 ID:LNssCYN6
二時間後、ダングラール夫人はモンテ・クリストから手紙を受け取る
美しいご婦人を嘆かせたままパリの社交界にデビューしたくはないので夫人の馬をお返しする、とあった
馬には馬具がつけられたままで、両耳にリボンがかざってあり、そのリボンには一粒ずつダイヤが縫い付けられていた
ダングラール宛の手紙には、金持ちの気まぐれから夫人に贈り物をしたことを詫び、さらに、東洋風な馬の返し方をしたことを詫びていた

夕方、モンテ・クリストは唖の従者アリを連れてオートゥイユの別荘へ向かった
ここはブーローニュの森へ向かう街道沿いにある
そしてアリは馬の扱いに長けていて、投げ縄の名手である
一台の馬車がやってきた
その御者は必死で猛り狂う馬たちを制御しようとしている
暴走する馬車には、一人の婦人と子供が載っていた
アリが投げ縄で馬の脚をからめとり、馬車を止める
モンテ・クリストは玄関を飛び出して婦人と子供を抱きかかえ、邸内へ入る
気絶したままの子供をみて泣き叫ぶ婦人
モンテ・クリストが小瓶に入った血のように赤い液体を一滴、子どもの唇に落とすと、その子は息を吹き返した
婦人はエロイーズ・ド・ヴィルフォール、子どもはエドワール
ダングラール夫人ご自慢の馬が引く馬車に乗ってみたかったのだと言う
モンテ・クリストは大げさに驚いてみせ、馬の件を説明する

それではあなたがモンテ・クリスト伯爵さまですのね!
エルミーヌ(ダングラール夫人)からお噂は伺いましたわ

ヴィルフォールの息子エドワールをモンテ・クリスト伯は観察する
息を吹き返すやいなや室内をうろつきまわり、伯爵の薬瓶をかたっぱしから開けようとする
どんなわがままも満たしてもらえる子供の態度である
「坊や、さわっちゃいけない。そこには臭いをかいだだけでも危険な薬があるから」

我が子をたしなめながらも、それらの薬瓶に興味をあらわにするヴィルフォール夫人
その様子を、モンテ・クリストは見逃さない

伯爵は夫人とその子どもをヴィルフォール邸へ送り届けてやった
エロイーズ・ド・ヴィルフォールはダングラール夫人にその日のことを手紙に書く
恐ろしい目に遭ったけれど、そのおかげで、あのモンテ・クリスト伯に会えたと

4048うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:18:31 ID:LNssCYN6
この馬車にまつわる一件はその日のうちに知れ渡った
ヴィルフォールはシャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯爵邸へ礼を述べに向かうこととなった

司法界でも最高の地位を占めるヴィルフォール検事
原則として彼は人を訪問したり、答礼の訪問をしたりはしない
「尊大なふりをせよ、さらば汝は尊ばれん」を常に意識している
まるでペテン師か犯罪人に対するようないつもの横柄な態度で、モンテ・クリストに礼を述べる
モンテ・クリストから「当たり前のことをしただけであり、あなたが礼を述べにくる義務など無かったのに」と鼻であしらわれ、驚く
モンテ・クリストの書斎の机に広げられた地図を見て「地理の勉強ですか?私がもしもあなたのように何もしないですむ身分ならもう少しましな事をやりますね」と言う
モンテ・クリストから「なるほど顕微鏡で人間を研究する者にとっては人間など醜悪な蛆虫ですからね。私のことを何もしないですむ身分だとおっしゃるが、あなたはなにかしているのですか?もっとはっきり申し上げれば、“なにか”に価するほどのことをしているとお思いなのですか」
と皮肉られ、さらに驚く
ヴィルフォールは反撃する
「あなたは外国の方だ。我が国では裁判がどれほど慎重かつ着実に行われるものか、あなたはご存知ないのです」と言ってしまう( ゚Д゚) オマエガイウナ
あらゆる国の法律を熟知した自分に言わせれば、反座刑(目には目を・・・のこと)が神のみ心にかなうのだと言い切るモンテ・クリスト
さらに自分は神から果たすべき使命を与えられ、大臣や王などよりも上位に位置する特殊な人間である、と言い切るモンテ・クリスト
モンテ・クリストvsヴィルフォールは続きますが、省略( ゚Д゚)

4049うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:19:06 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは驚愕の域に達してモンテ・クリストにたずねる
「伯爵、ご両親はおありですか」
「いいえ、天涯孤独です」←父は餓死という形の自殺
「それは残念ですな。ご両親がいれば、あなたのその自負心をくじくような光景をご覧になれますよ。あなたは死しか恐れないとおっしゃいましたね」
「恐れるとは申しません。私の歩みをとどめ得るのは死のみだと申し上げたのです」
「では、老衰は」
「年をとる前に、私の使命は果たされていることでしょう」
「狂気は」←ここ重要(^^)
「私はもう少しで気が狂うところでした」←シャトー・ディフでの経験
「死、老衰、狂気以外にも恐ろしいものがあります。脳溢血です。
私の父ノワルチエはフランス革命でもっとも過激な活動をした男ですが、いまや身動きできぬ哀れな老人です。肉体が滅びるのを待っているだけの口もきけない屍です」
(^^)/ 読者は思い出そう。エドモンが預かった手紙に「ノワルチエ」の名があったがためにヴィルフォールは保身のため彼を牢獄送りにした(^^)/
「それはおいたわしい。私には父親の苦しみがその子の精神に大きな変化をもたらすことはよくわかっております。是非お宅を訪問して皆さまの抱える悲しみを拝見して、おのれに謙虚な心を抱かせるのに役立てましょう」
ヴィルフォールは帰った
伯爵は見送りもしなかった

これだけ毒を吸えばたくさんだ
心が毒でいっぱいになった
解毒剤を求めに行こう
モンテ・クリストはエデの部屋と向かった

4050うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:19:37 ID:LNssCYN6
エデは屋敷の一番奥にある東洋風にしつらえた美しい部屋に暮らしている
召使たちは女王に仕えるかのように教育されている
身に着けるものはすべてギリシャ風
ビロードのような大きく黒い瞳、まっすぐな鼻、サンゴのような唇、真珠のような歯
若さの花が今を盛りと咲く、19か20歳
モンテ・クリストはエデの侍女を呼び、エデのそばへ行ってよいか尋ねさせる
もちろんのことその希望はすぐにかなえられた
「なぜ許可などお求めになりますの?あなたはもう私のご主人様ではありませんの?」
「エデ、ここはフランスなのだよ。だからお前は自由の身だ」
「何をするための自由でしょう」
「私と別れてもいいのだ」
「あなたとお別れする!お別れしてどうするというのでしょう」
「多くの人と会うのだ。そして美青年たちの中にお前の気に入った者がいたら・・・」
「私はいままで、あなたほど美しい方にお目にかかったことはございません。
そして父とあなた以外に愛した人もありません」
「それはお前がほとんど私と父上としか話をしたことがないからだよ」
「なぜ他の人と話をする必要がございましょう。あなたは私を“私の愛そのものだ”とお呼びくださいます」
「エデ、お前はお父上のことを覚えているか」
「父はこことここにいます」エデは目と心臓に手を置いて言った
「では私はどこにいるのかね」
「あなたはどこにでもいたるところにおいでです」
「エデ、お前は今や自由なのだ。いたいだけここにいて、外へ出たくなったら外出するがいい。
召使たちはお前の命令通りに動く。ただひとつだけ、お前に頼んでおきたい」
「おっしゃってください」
「お前の出生の秘密を明かさぬこと。過去については一言もしゃべってはならぬ。
お父上の輝かしいお名前と、お気の毒な母上のお名前を口にしてはならぬ」
「私はどなたにもお目にかかりません」
「エデ、パリではそのように引きこもっていることは不可能だ。
ローマやフィレンツェ、ミラノ、マドリッドでやったように、学ぶのだよ。
それはきっとお前のためになる。
私がお前から離れていくことなど決してないことはお前がよく知っているではないか。
花から離れるのは木ではない。
木から花が離れるのだ。
お前の若さをいたずらに失わせるようなまねはせぬ。
お前は私をお父上のように愛していてくれるが、私はお前を娘のように愛しているからね」
「それはまちがっておられます。
私はあなたを父のようになど愛してはおりません。
私のあなたへの愛は、別の愛です。
父は死にましたが、私は死にませんでした。
でも、もしあなたがお亡くなりになったら、私も死にます」

平行線( ;´Д`)

4051うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:20:10 ID:LNssCYN6
伯爵はマクシミリヤン・モレルの招きに応じるべく出かける
恩人モレル氏のふたりの子マクシミリヤンとジュリー、その夫エマニュエルの住むメレ通りへ

モレル商会を引き継いだジュリー&エマニュエル夫妻はその後順調に経営を続けていたが、今後の暮らしに必要な資金を確保したのちそれ以上の利潤を望まず、円満に経営権を他者へとゆずり、幸せに暮らしていた
ジュリーは一族の危機の際に助けてくれた“船乗りシンドバッド”と名乗る人物のことを、モンテ・クリストに話す
神様は天使のひとりをおつかわしになった、と
喜びに胸が震えるモンテ・クリストはそれを隠すかのように歩き回り、ガラスケースに収められた絹の財布を見つける(>>303

さきほどお話しした天使が遺してくれたもので、大事にしているのです
中にはその天使のような方からの手紙も入っております

そのようなことをしてくれた人物は、いまだに誰なのかわからないのですか?

マクシミリヤンは答える
トムスン・アンド・フレンチ商会の代理人と名乗るイギリス人であったということ以外には・・・
伯爵はあの商会と関係がおありでしたね
なにかご存知ありませんか?

モンテ・クリストはジュリーのまじまじと見つめてくる視線を避けながら言う
ウィルモア卿という男を私は知っているのですが、
そういった慈善をほうぼうで行っていると聞いたことがありますが、
おかしな人物でして、感謝などというものの存在を信じていないんですよ

まあ、ではいったい何を信じておいでなのかしら、お気の毒な方、とジュリー

この言葉はモンテ・クリストの心の奥の奥にある琴線に触れた

でもあの時以降、彼もどうやら人の心に感謝というものが存在することの確証を得たかもしれません

4052うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:20:48 ID:LNssCYN6
あの方をご存知なら、私たちを会わせてくださいませんか

もしもその人物がウィルモア卿だったとしても、彼にはもう会えないでしょう
この世でもっとも幻想的な国へ旅立ってしまいましたから
それに、彼ではないかもしれません
もし彼だったならばその話を私にしたでしょうからね

そんな・・・と涙ぐむジュりー

マクシミリヤンはジュリーに言う
伯爵のおっしゃるとおりだよ
お父さんがいつも言っていたじゃないか
『私たちに幸せをもたらしてくれた人は、あれはイギリス人ではない』って

びくっとするモンテ・クリスト
お父さんが、モレルさんがそうおっしゃっていたのですか?

父はあの行為の中に奇蹟をみていました
恩人が私たちのために墓から出てきたと思っていました
懐かしい友、失われた友の名を何回となく口にして夢見ていました
そして死が迫ったとき、もしかしたら?が確信に変わったようなのです
最後の言葉は『マクシミリヤン、あれはエドモン・ダンテスだよ』でした

モンテ・クリストはジュリーに言う
奥さん、ときどきご挨拶にあがることをお許しください
お宅が好きですし、厚いおもてなしに感謝いたします
このような気持ちはもう長い年月忘れていたものですから

そう言い残して去る

エマニュエルは言う
モンテ・クリスト伯爵っていう人は変わったお方ですね

マクシミリヤンは言う
うん、でもすばらしい心の持ち主だと僕は思う
それにたしかに僕たちを愛してくださる

ジュリーは言う
あの方の声が心にしみたわ
それに・・・なぜか、この声は初めて聞く声じゃないって気がしたの

4053うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:21:52 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルはヴァランチーヌを愛していた
ヴィルフォールと先妻のあいだの娘ヴァランチーヌである
身分が違い、到底ヴァランチーヌの相手としてヴィルフォール家へ出入りすることはかなわない
ふたりはヴィルフォール邸の敷地と隣の農地を仕切る塀ごしに言葉を交わすことしかできなかった
ヴィルフォールが決めたヴァランチーヌの婚約者はフランツ・デビネ男爵であった
((^^)/ モンテ・クリストとローマで出会ったフランツです)

ヴァランチーヌはヴィルフォール家内では決して幸せではなかった
父親はあのヴィルフォールだし、継母のエルミーヌは実子エドワールを相続人にさせたがっている
ヴァランチーヌの味方は父方の祖父であるノワルチエだけである
そのノワルチエはヴィルフォールがモンテ・クリストに語ったように、病いのため口もきけず、身動きもできない
だが、瞬きの回数や、辞書を指し示す方法によって、ヴァランチーヌとノワルチエは意志の疎通をはかることが完全にできた(ヴィルフォールもできますが(^^)/ )

父は私にとっては他人同然です
私に無関心です
継母は執念深く私を忌み嫌っています
弟のエドワールを溺愛しているんですの
継母が私を嫌う理由は、財産のことからきているように思います
あの人には財産がないの
私には母の遺産があるし、サン・メラン侯爵夫妻(母方祖父母)の財産もありますから
遺産を半分弟にあげて、それでふつうのお家のふつうの娘になれるのならそうしたいのに

可哀そうに、とマクシミリヤン

私は弱くて、この家につながれているんです
父は私に対して絶対的な力を持っています
非のうちようの無い過去と、ほとんど攻撃しようのない地位に守られているんですもの
ああ、マクシミリヤン、もし戦えば、あなたも打ち壊されてしまうでしょう

4054うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:22:26 ID:LNssCYN6
どうして君はそんなに絶望的になるんだい
昔のフランス王国とは違うんだよ
最も高貴な貴族は帝国の家柄に溶け込んでしまった
大砲の貴族、つまり軍人と一体となったんだよ
ぼくには軍隊での輝かしい経歴と、自由になる財産もある
それに僕の父のマルセイユでの声望は素晴らしいものなんだ
僕たちの故郷では畏敬の念をもって迎えられるんだよ
マルセイユは君の故郷でもあるじゃないか

マルセイユのことは言わないでください
お母さまのことを思い出してしまうの
それに・・・教えてくださらない?
昔マルセイユであなたのお父様と父の間に何かあったのかしら

いや、僕の知る限りそんなことはない
ただ君のお父さんはブルボン派で僕の父は皇帝派だったけど

あなたがレジョン・ドヌール勲章をもらったことが新聞に載った日、
家中の者が祖父の部屋にいたの
あ、ダングラールさんもいたわ
私はいつもどおりお祖父さまに新聞を読んでいて・・・
思い切って貴方の叙勲の記事を読みあげたの
そしたら、父がぎょっとしたようにみえたの
ダングラールさんまで・・・
ただ、お祖父様はあなたの叙勲を喜んでいらしたの

塀ごしの二人の会話は召使の呼びかけで打ち切られる
「お嬢様、お客様です。モンテ・クリスト伯爵さまです」

マクシミリヤンはつぶやいた
どうしてモンテ・クリスト伯爵はヴィルフォール氏と知り合いなんだ?

4055うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:23:02 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト伯爵の訪問はヴィルフォールの訪問に対する答礼であった

ヴィルフォール夫人、ヴァランチーヌ、エドワールが出迎える
ヴァランチーヌはその母である亡きサン・メラン侯爵令嬢ルネゆずりの気品ある美しさをもち、モンテ・クリストの目を引いた

三人を前にして、モンテ・クリストは急に、以前どこかで会っているのではないか、と言い出す
そして、その場所は2年前のイタリア、ペルージアであったという

エドワール君は孔雀を追いかけ、ヴァランチーヌ嬢は庭へ散歩へ出かけ、奥さんだけが葡萄棚の下に座っておられました
私は長いガウン姿という東方的な服装でしたが、奥さんとお話ししましたよ

はっと思い出して夫人は少しうろたえる
あの方がモンテ・クリスト伯爵さまでしたの?
ヴァランチーヌ、ノワルチエ様の食事の用意ができたかみてきてくださらない?
エドワール、あなたは部屋へお戻りなさい

夫人が取り乱した理由は、2年前モンテ・クリストとした会話の話題が“毒物”についてであったからである

4056うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:23:37 ID:LNssCYN6
女性であれほど薬にお詳しいとは、感心いたしました

私は神秘学に興味がありまして、植物学や鉱物学が好きでしたの
ところで、あのときおっしゃっていたことは本当ですの?

何がですかな?

毒物を毎日少しづつ摂取し続けると、やがてその毒に耐えられる身体になるという・・・

本当ですよ
私は今も訓練しておりますからな
いずれは東方で暮らしたいと思っておりますのでね
伯爵は毒への耐性をつける方法を懇切丁寧に教えてやる

夫人は興味津々で耳を傾ける
エドワールを生き返らせてくださったあのお薬は高価なものなのでしょうね
私が使っているこの丸薬も良いものですが・・・

ああ、なるほど、しかしそれは嚥下する必要がありますからな
やはり液体の薬が良いでしょうな
しかし、あの薬は一滴であれば、人を生き返らせますが、何滴も与えると確実に死を招きます
注意せねばなりません

夫人がおずおずとその薬の作り方を所望したい様子をみせると、伯爵はその願いを聞き入れるという

その後、歴史上の毒殺事件などが話題に上る
伯爵は巧みに、毒殺という行為に至った者の心理を理解しているかのように話をすすめ、
夫人を暗に“勇気づける”

ヴィルフォール邸をあとにしながら伯爵はつぶやいた
土地は上々、蒔いた種は必ず芽を出すぞ
翌日、伯爵は頼まれた処方を夫人のもとへ送り届けた

4057うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:24:15 ID:LNssCYN6
その日の夜、パリ・オペラ座

ダングラール夫人
リュシャン・ドブレ(ダングラール夫人の愛人 アルベールの友人)
ウジェニー・ダングラール嬢
3人が座る桟敷席をながめながら、シャトー・ルノーはアルベールに言う
君の婚約者ダングラール嬢はすごい美人じゃないか

しかしアルベールはこの婚約に乗り気ではない
たしかに美人だが、僕はもっとやさしくて女らしいひとがいいのだ、と

(^^)/ ウジェニー嬢は非常に頭の良い、同性愛的傾向の持ち主として描かれ、男性にも結婚にも興味を示しません
音楽仲間の女性とのちに”駆け落ち“したりします(^^)/

モンテ・クリスト伯爵がギリシャのエデを伴って自分の桟敷席に現れる
それを見たダングラール夫人はアルベールにモンテ・クリスト伯爵を連れてきて欲しいと頼む
ウジェニー・ダングラール嬢は、自分の母のそんな様子に何の興味もない

アルベールは言われた通り、モンテ・クリスト伯爵の桟敷へと向かう
モンテ・クリストは、モルセール伯爵(アルベールの父、つまりフェルナンのこと)は来ないのかとたずねる
父はダングラール夫人の桟敷席に今晩来る予定です、とアルベール
ダングラール夫人の隣の美しいお嬢さんがウジェニー嬢で君の婚約者か?と伯爵
そうです、と答えながらも気持ちは複雑そうなアルベール

幕間にモルセール伯爵(フェルナン)がダングラール夫人の桟敷席へやってくる
それを見たモンテ・クリストは、エデを残してひとり挨拶へと向かう
ギリシャの話題にモルセール伯爵が反応し、ヤニナのアリ・パシャに仕えていたこと、
パシャのおかげで財をなしたことなどを話す
モンテ・クリストはモルセール伯爵の姿がエデのいる桟敷から見えるように仕向ける

エデの敵がモルセール伯爵であることが確認された

数日後、アルベールとリュシャン・ドブレはモンテ・クリスト伯爵邸へダングラール夫人の御礼の使いとして赴く
(ドブレはダングラール夫人の意を受けてモンテ・クリストの生活ぶりを観察しに来た模様)
モンテ・クリストは、モルセール伯爵家とダングラール家の間柄に話題をもっていく
アルベールによると

わが父とダングラールさんはスペインで共に働きました
革命で零落した父と、親の遺産など全く無かったダングラールさんが出世の糸口をつかんだのはかの地です
父は政治および軍隊での素晴らしい出世
ダングラールさんは政界及び財界での目覚ましい出世ですね
(^^)/ 革命で零落した・・・とは笑わされるが、アルベールは父の嘘で塗り固めた経歴を知らない(´・_・`)
ウジェニーさんとの結婚は両家でもう決めたことです
でもぼくは、ああいう美しさはあまり好きではないのです・・・
乗り気でないのはぼくだけではありません
母(メルセデス)がよい顔をしないのです
ダングラール家に偏見をもっているようなのです
ダングラール夫人ともほとんど行き来はありません
本当は一か月半前には、話を決めるために両家が集まらねばならなかったのですが、
二か月のばしました
ぼくは母が悲しむのは嫌ですし、ウジェニーは17歳、ぼくは21歳で、急ぐ必要もなかったし・・・
でもその延期期間もそろそろ終わりなんです

アルベールは、母を苦しめないためなら父と喧嘩してでも結婚を避けたいと思っているので、
モンテ・クリスト伯爵に協力してほしいと言う
伯爵は、味方になるとも答えず、横を向いていた

4058うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:24:48 ID:LNssCYN6
ダングラール家の財産のことに話題が移る
ドブレによるとダングラール氏自身もやり手だが、大胆に投機に手を出すのは夫人のほうなのだという

アルベールは冗談でドブレにいう
情報なんてものが便りにならないことは君がよく知っているだろうに
夫人が投機に手を出さないよう教訓を与えてやればよい、という
夫人に嘘の情報を与えて投機させ、翌日新聞がその情報を否定すると夫人は損をする
モンテ・クリストは一言ももらさずこの話に耳を澄ませていた
アルベールにそんなことを言われたドブレの内心の動揺に気づかないモンテ・クリストではなかった

ドブレが帰ったあと、モンテ・クリストはアルベールに言う
オートゥイユの別荘にヴィルフォール家、ダングラール家、モルセール家を招待しようと考えていたのですが、君や君のお母さんが結婚に消極的だとのことなので、モルセール家は招待しないことにいたします
君のお母さんにはぜひ良い印象を持って欲しいから・・・
でもダングラール家の皆さんにモルセール家を招待しないことで文句を言われても困りますので、そちらでもっともらしい先約でも用意しておいてください

アルベールはモンテ・クリストのはからいに感謝する
そして本日は父伯爵も留守で母とふたりだけなので夕食に招待したいという
しかしモンテ・クリストはその申し出を断る
このあと人と会う約束があるからと

アルベールはイタリアにいるフランツから手紙が来た、と言う
モンテ・クリストはたずねる

彼はいい青年ですね
ひょっとしてあの非業の最後を遂げたデピネ将軍のご令息ですか?

そうです
彼はヴィルフォールのお嬢さん(ヴァランチーヌ)と婚約しています
彼の気持ちはぼくがダングラール嬢に抱いている気持ちとよく似ていますよ

4059うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:25:23 ID:LNssCYN6
アルベールが帰り、モンテ・クリストは執事ベルトゥチオに指示する
オートゥイユの別荘を美しく整えること
お客の名前?未定だ
執事はさっそく出かけた
(執事のベルトゥチオは事前に誰が招待されるか、知らないほうがよいのです(^^)/ )

モンテ・クリストが会う約束をしていた人物はふたり
52歳の男と20歳くらいの男
それぞれ別の部屋へ招き入れる
(^^)/ それぞれの男とモンテ・クリストのとんちんかんな会話が続きます
興味ある方はぜひ本編をお読みください
ややこしくて紹介できません(,,;・∀・)ノ
結論申し上げますと、対ダングラールの仕込みです
イタリアの名門貴族バルトロメオ・カヴァルカンティ
その息子アンドレア・カヴァルカンティ
という名の親子を“作り上げました”
しかもこの詐欺男2人は自分たちがそもそも利用されていることを知らず、
それぞれ“ブゾニ司祭”“ウィルモア卿”からモンテ・クリストのもとへ送り込まれました
金持ちのイタリア貴族としてダングラールに紹介される予定です(^^)

4060うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:26:02 ID:LNssCYN6
いつものように塀ごしに会話をするマクシミリヤン・モレルとヴァランチーヌ・ド・ヴィルフォール
ヴァランチーヌの婚約者はフランツ・デビネである
マクシミリヤンは、アルベールから聞いた話として、フランツがまもなく帰国するらしいと彼女に告げる
結婚話が進んでしまうことを不安がるふたり
しかしヴァランチーヌが言うには、継母は結婚には反対のようだと言う
なぜならば、一年前、彼女が修道院に入りたいと言ったときに賛成したからだと・・・
彼女が修道院に入れば、亡き母の遺産も、母方祖父母の侯爵夫妻の遺産も、父方祖父のノワルチエの遺産もすべてが父ヴィルフォールへ集約され、最終的には継母の子エドワールのものになるからだという
彼女が修道院行きを思いとどまったのはひとえに祖父ノワルチエが悲しんだからだった
マクシミリヤンはモンテ・クリスト伯爵がきっと自分たちの力になってくれる、という
彼が伯爵に寄せる絶対的な信頼をヴァランチーヌは全く理解できない
彼女いわく、いまや伯爵がヴィルフォール家の支配者だという
あの気難し屋の父ヴィルフォールが伯爵を尊敬しているし、母はまるで万能者のごとく崇めているし、弟のエドワールまでが伯爵に夢中だという
一方伯爵はヴァランチーヌにはまったく興味をしめさず、儀礼以上のものを感じたことはないと彼女はいう

わたしの味方はたったひとり、ノワルチエお祖父さまだけなのよ

マクシミリヤンはそれでも言うのだった
モンテ・クリスト伯爵は次の土曜にぼくを夕食に招待してくださったんだよ
君のご両親も出席する夕食会に!
これはぼくたちへの素敵な配慮だと思わないかい?

ヴァランチーヌは召使に呼ばれて邸内へと去る

4061うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:26:44 ID:LNssCYN6
脳溢血で倒れて以来、ノワルチエ氏は視覚と聴覚だけで周囲の情報をつかんでいる
腕の動き、声の響き、身体の姿勢が失われても、この老人の漲る活力はその目を見ればわかる
ヴィルフォール、ヴァランチーヌ、忠実な老僕バロワは老人の眼差しからその考えを読み取ることができた

ヴィルフォール氏、ヴィルフォール夫人はノワルチエに報告する
ヴァランチーヌを嫁に出すことに決めた
相手は家柄もよく、財産もある、申し分ない相手
フランツ・ド・ケネル、デピネ男爵である、と・・・
ノワルチエの目に動揺が走る
ヴィルフォールは言う
ヴァランチーヌは父上をことのほか愛しております
結婚後もヴァランチーヌは父上と3人で暮らすように取り計らいます

ノワルチエは苦悩と怒りで爆発しそうな表情を浮かべていた

ヴィルフォール夫人は言う
デピネ男爵も親代わりの叔父上さまたちも喜んでおられます
お母さまは男爵が生まれてすぐお亡くなりになったし、お父様は1815年に殺されておしまいになって・・・ですからあの方はご自分の意志だけでお決めになれますの

フランツの父、ケネル将軍とノワルチエとの間の事情を知りながら、ヴィルフォールは言ってのける
あの事件は謎の殺人事件でしたな

ノワルチエの唇はひきつった

もしあの事件の真犯人が我々のような立場にいて、娘をフランツ・デビネに与えて、かすかな疑惑の痕さえも消してしまえたら、さぞかし嬉しい気がするでしょうな

ノワルチエはその眼差しで「そうか、わかった」と言った
深い軽蔑の色と理知的な怒りをたたえながら・・・

ではお父様、失礼いたしますわ
エドワールをよこしましょうか?

ノワルチエは激しく瞬きした
(受諾は目を閉じる 拒否は何度もまばたきする)
拒否されたヴィルフォール夫人は思わず唇をかむ

ではヴァランチーヌを?
ノワルチエは目を閉じた

ヴァランチーヌがやってくる
彼女はひとめでノワルチエが怒っていることを察する
おじい様は誰に怒っているのかしら?わたしに?
『そうだ』
結婚の話を黙っていたからかしら でもお父様の命令だったの・・・
『ちがう』
じゃあ、どうして怒ってらっしゃるの?
わかった 私を愛してくださってるからなのね
結婚したら私が不幸になるとお考えなのね
『そうだ』
フランツさんが嫌いなの?
『そうだ そうだ そうだ』
私もフランツさんが好きじゃないの
修道院に入りたいと言ったとき、お祖父さまはお怒りになったでしょう?
実はこの結婚から逃げたかったからなの
老人の目から涙が一粒流れた
ああ、この結婚はお祖父さまをうんと悲しませるのね
お父様の計画を二人でやめさせることができたらいいのに!
ノワルチエはいたずらっぽい表情を浮かべる
まるでお前のためにわしにできることがある、と言わんばかりである

ヴァランチーヌは辞書を駆使する方法でノワルチエの指示を仰いだ
こたえは
『公証人を呼べ』であった

4062うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:27:21 ID:LNssCYN6
ノワルチエは遺言状をつくる、という
公証人は誰を相続人とするのか尋ねる
皆の予想を裏切って、ヴァランチーヌではない、という
ヴィルフォール夫人は「ではエドワールでしょうか」と尋ねるが、激しく拒否される
ヴァランチーヌ(彼女は遺産にはもちろん未練はない)は
「お祖父さまは、わたしがフランツさんと結婚することにお怒りで、それで私に遺産を残さないとおっしゃるのね!」と言う

『そうだ』
公証人の、では財産をどうするのか?という問いに『貧しい人々のために使う』とノワルチエ

公証人が利害関係者たるヴィルフォール氏の考えをたずねると、ヴィルフォールは
「父の考えを私が否定することはありません
父の希望どおりにすればよい
私は自分の良心にしたがって自分の決めた通りに娘の結婚話を進めるだけです」

ノワルチエの望み通りの遺言書がつくられた
ヴァランチーヌがデピネ男爵との結婚を止めないかぎり、遺産は与えない、と

(^^)/ ヴィルフォールは、フランツの父、ケネル将軍殺人事件の犯人をノワルチエだと考えています 物語のはじめのほうでそのような会話をノワルチエとしています
そのとき、ノワルチエは多くを語りませんでした

ノワルチエの部屋を出たヴィルフォール夫妻はモンテ・クリスト伯爵の来訪を告げられる
ヴィルフォールの動揺ぶりをモンテ・クリストは見抜き、何があったのかと尋ねる
老人の気まぐれに振り回され、期待していた遺産を受け取ることもできず、娘が不幸になりそうなのだと答えるヴィルフォール

ノワルチエ氏ですか?
口もお聞きになれぬ状態だと確か伺いましたが?

父は、その目で、なんでも語ることができるのですよ
あの目は人を殺すこともできます

モンテ・クリストの前で夫妻の会話はつづく
モンテ・クリストは一言も聞き漏らすまいとしている

「老人の世迷言や子どもの気まぐれが、私が決定した計画をひるがえすことなどあってはならない デピネ男爵は私の友人だった その子息との縁組は最も望ましいものなのだ」
「ヴァランチーヌはこの結婚に反対でした 
お義父さまとふたりで計画したことだとしても意外には思いませんわ」
「この結婚は必ず実現させる」

モンテ・クリストは、フランツ・デピネのことは知っており好青年なのにノワルチエ氏はなぜそこまで彼を嫌うのか?と尋ねる
夫人は、孫娘を手放したくないだけでしょう、と言う
モンテ・クリストは、政治的な理由があるのでは?と指摘してヴィルフォールをぎょっとさせる
お父上はボナパルト派でしたよね、とモンテ・クリスト
常の慎重さを忘れて、ヴィルフォールは苦々しく自分の父が最も過激な共和主義者であったことを口走る

それならそのことでしょうね、とモンテ・クリスト
フランツ君のお父上ケネル将軍とノワルチエさんは政治的な場で会ったのでしょう
将軍はナポレオンの下で働きはしましたが、腹の下では王党派の心情を持っていたのでは?
将軍を同志にできると考えた連中に招かれて、ボナパルト派の集会へ出たあとに殺されたんでしょう?

ヴィルフォールは恐怖にも似た気持ちを抱いてモンテ・クリストを見つめた
(^^)/ まったくその通りだったのです

4063うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:27:59 ID:LNssCYN6
ノワルチエ・ド・ヴィルフォールのお嬢さんがフランツ・デピネ夫人と名乗るのはすばらしいことですね、
と言うモンテ・クリストの腹の底を読み取ろうとするヴィルフォール
しかし、モンテ・クリストは愛想の良い笑みを浮かべているだけ・・・

しかし、失礼ながら、とモンテ・クリストは言う
「自分が嫌悪する男の息子と結婚するからといってノワルチエ氏がお嬢さんの相続権を奪うのはまあわかるとしても、あの可愛いエドワールはべつに責められるべき落ち度もないように思いますがね」

で、こざいましょう?不自然ほど甲高い声で答える夫人(,,;・∀・)
デピネさんにこの話を伝えて、むしろ先方からお断りいただけるよう・・・

そんなことは許されない!
娘の評判に傷がつくし、私が消そうと思っている昔の噂にまた・・・
伯爵の前で、これ以上家の中のことをお見せするのはよさないか

夫人をみつめながらモンテ・クリストは言う
ご主人の言うとおりですよ
フランツ君はちかく帰国するようですが、私がもし忠告できるほど親しければ
このお話がこわれないようにさっさと決めておしまいなさいと言うのですがね

あきらかにうれしそうなヴィルフォール

フランツ君にしても、お宅のように、約束を守り義務を履行するためにそれほどまでの犠牲も厭わないような家族の一員となることに感激するでしょう、とモンテ・クリスト

モンテ・クリストは週末の夕食会への出席をお忘れなく、と言っていとまを告げようとする
ヴィルフォールの「シャンゼリゼのお宅で?」という質問に
「いえ、オートゥイユの別荘です」と答える

動揺するヴィルフォール
オートゥイユ・・・
ああ、そうでした 妻と息子を馬車の事故から助けていただきました
えっ・・・フォンテーヌ通り?28番地ですと?
そ、それではサン・メランの別荘を買ったのはあなた!

サン・メラン侯爵の持ち物だったのですか
それは知らなかったな、とモンテ・クリスト
オートゥイユの別荘は私は好かなくて・・・とヴィルフォール
だからといって夕食会に欠席なさることはないでしょう?とモンテ・クリスト
いや、もちろん、なるべく参ります、とヴィルフォール

実はこれから“信号機”を見学に行くのですよ、と言いながら
モンテ・クリストはヴィルフォール邸をあとにした

4064うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:28:38 ID:LNssCYN6
(^^)/ 読者は思い出そう、モンテ・クリストの執事ベルトゥチオの告白を
兄の復讐をヴィルフォールに対して行ったベルトゥチオは、
その現場でヴィルフォールが赤ん坊を埋めたのを目撃し、その子を救った
ベネデットと名付けたが、性悪に育ち、行方知れず
そして赤ん坊の母親は一体誰?
(^^)/ そして信号機とは(^^)/
この時代、電信信号はもちろん発達しておらず、一定の距離をおいて建てた信号機を常駐番人が操作し、速報をリレー式におくっていた
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51CZxs4UPuL._SX349_BO1,204,203,200_.jpg
この本はキース・ロバーツ『パヴァーヌ』ですが
表紙のイラストに信号機が描かれています
エリザベス1世が暗殺され、スペインによるカトリック支配が行われ、産業革命の無い英国
という史実と違う世界を描いた小説
まあまあ面白かったです(^^)/


“モンレリの塔”と呼ばれる信号機を見に行くモンテ・クリスト
もちろん金持ちの奇妙な趣味で見学に行ったのではない

信号手は庭いじりの好きな平凡な男であった
モンテ・クリストは愛想よく話しかけ、塔内を見学させて欲しいという
ほほう、なるほどこんな仕組みになっているのですな
え?そこをどいてくれないと信号が見えない?望遠鏡で覗かないと?
ねえ、あなた、もっと大きな庭と年金が欲しくありませんか?
私ならそれをあなたに用意してあげられる
え?どいてくれないと罰金を払わなくてはいけない?
その必要はありませんよ
この金をもってあなたはすぐにでも“理想の庭”つきの家へ引っ越せばいいのですよ
そのまえに、ここに書いてある通りの信号を送ってからね

こうしてモンテ・クリストは偽の情報を流すことに成功した

4065うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:29:21 ID:LNssCYN6
信号通信が内務省に届いてすぐ、ドブレはダングラール夫人のもとへ駆けつけた
「ご主人はスペイン公債をおもちですか」
「ええ、600万ほど」
「なりゆきで売ってしまうのです」
「どうしてですの」
「ドン・カルロスがブリュージュを脱出してスペインへ戻ったのです」
夫人は夫のもとへ駆けつけ、ダングラールは仲買人のところへ駆けつけ、
値段に構わず売れと命じた
ダングラールが売りに出たのが知れると、スペイン債はたちまち値を下げた
ダングラールは莫大な損をしたが、債券を全部処分した
夕方ある新聞に記事が載った
「信号通信によると、国王ドン・カルロスはブリュージュの監視の目を逃れ、カタロニア経由でスペインへ帰国 バルセロナは王を支持して蜂起した」
しかし翌日、別紙には
「昨日のドン・カルロスの信号通信は誤報 ドン・カルロスはブリュージュにおり、
スペインは平和そのもの 霧による信号通信の誤読」
債権相場は落ち込み分の倍上昇し、ダングラールの損害はさらに膨らんだことになる

さて、オートゥイユの別荘の夕食会である
ベルトゥチオはモンテ・クリスト伯爵の指示を完璧にこなす
伯爵の言ったとおり、赤い緞子の部屋はさわらずに・・・
(^^)/ ベルトゥチオはヴィルフォールが実は生きていることを知りません

4066うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:29:58 ID:LNssCYN6
招待された人々がつぎつぎとやってくる
マクシミリヤン・モレル
シャトー・ルノー
リュシャン・ドブレ
ダングラール夫人(ドブレに小さな手紙を渡す)
ダングラール(顔色は青い・・・)

召使が告げる
バルトロメオ・カヴァルカンティ少佐殿
アンドレア・カヴァルカンティ男爵様
お着きでございます

ダングラールはモンテ・クリストにたずねる
どういう方たちなのですか?

イタリアの大貴族ですよ
財産を食いつぶすことしか考えていないようですね
あなた宛ての信用状を持っているらしいので、あなたのためになるかと思って招きました
ご紹介しますよ
息子さんのほうはお嫁さん候補をパリで見つけたがっているようですよ

モンテ・クリストはダングラール夫人にたずねる
ご主人の顔色が悪いようですが、なにかありましたかな?

株でもやって失敗したんじゃございません?
誰のせいにしていいのかわからないでしょう

召使
ヴィルフォール様ご夫妻お着きでございます

ヴィルフォールは懸命に動揺を押し隠している
まったく、女だけが心を押し隠す術を心得ている、と笑うモンテ・クリスト

ベルトゥチオがモンテ・クリストに客の人数の確認をしにやってくる
自分の目で数えるがよかろう、と答えるモンテ・クリスト

指示されたとおりに客間を見回すベルトゥチオは驚愕する!
あ、あの女がいる!
あの女とは誰だ?
あの、庭にいた女です、妊娠していた・・・待っていた女です
ベルトゥチオは口をぽかんと開けたまま、ダングラール夫人を見つめていた
誰を待っていたんだね?
ああ、あの人です、あの人は死ななかったので?
ああ、ヴィルフォール検事は生きているぞ
死になどしなかった
さあ、落ち着いて数えるんだ
ヴィルフォール夫妻で2人、ダングラール夫妻で4人、
シャトー・ルノー君、ドブレ君、モレル君で7人、
バルトロメオ・カヴァルカンティ少佐、8人

8人です

待て、よく見ろ
アンドレア・カヴァルカンティ君だ ほら今、振り返った

・・・ベネデット!

ベルトゥチオはよろよろしながらも食事の準備が整ったことを告げる

4067うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:30:34 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはヴィルフォール夫人に腕を与えた
「ヴィルフォールさん、ダングラール夫人のお相手をお願いします」

このオートゥイユの別荘を訪問することに少なからぬ抵抗を覚えた客人たちもいたわけだが、不安よりも、モンテ・クリスト伯爵の豪奢な生活を見てみたいという好奇心のほうが勝ってしまったのだった
晩餐は豪勢なものであった
あらゆる地域からの珍味が信じられない鮮度で供されていた
伯爵に不可能の文字は無い(^.^)

晩餐後に豪華に飾り付けた邸内を客に案内してまわるモンテ・クリスト

執事に言い含めてそのままにしてある“赤い緞子の部屋”
この部屋には本能的に悲劇を感じるので手を入れずそのままにしてある、と説明

ヴィルフォールは黙り込み、ダングラール夫人は長椅子に座り込む

この部屋には庭へと通じる隠し階段があって・・・とモンテ・クリストが説明するに及んで、
とうとうダングラール夫人は半ば気を失った
ヴィルフォール夫人が気付薬を飲ませた
モンテ・クリストは、うまく薬を作れたのですね、と夫人に言う

この騒ぎにダングラールはカヴァルカンティの父親と鉄道敷設計画談義中であった
カネの臭いをかぎつけて( ゚Д゚)

気を取り直したダングラール夫人の手をとって庭を案内しながら、信じないかもしれませんが、私はこの邸で犯罪が行われたと確信している、とモンテ・クリスト
検事さんもおられることだし、説明いたしましょう

検事を庭のとある場所へひっぱっていく
私はここに腐葉土を入れさせようと、掘らせたのですよ
そうしたら
箱、いやむしろ箱の金具ですな
出てきたのです
新生児の骸骨がありました

騒然となる周囲を前に、ヴィルフォールは「犯罪だとは決めつけられないだろう」という
生き埋めにされたと決めつけるわけにはいかないから、と

既に死んでいたというなら庭に埋めるのはおかしい、とモンテ・クリスト
この国では嬰児殺しはどうなりますか?と無邪気にカヴァルカンティ父
そりゃ、ばっさり首を切るだけですよ、とダングラール
そう、私もそう思います、そうですよね?ヴィルフォールさん?とモンテ・クリスト
その通りです、と検事

どうやらコーヒーのことを忘れていたな、私は・・・
みなさんあちらへどうぞ

4068うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:31:08 ID:LNssCYN6
ダングラール夫人にすきをみてささやくヴィルフォール
「話しておかねばならないことがある
あす、検察庁の私の部屋で」
「わかったわ」

4069うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:31:40 ID:LNssCYN6
夜も更けて客人たちは帰り始める
ダングラールはモンテ・クリストがカヴァルカンティ親子を丁重に扱うのを目にして
彼らを、パリの社交界で息子の教育の総仕上げをする大金持ちだと思い込んだ
詐欺親子のほうは、ダングラール銀行から気前よく金が支払われると聞かされているので
愛想良くすることこのうえない
ダングラールは自分の馬車にカヴァルカンティ父を乗せて帰ることにした

息子のほうのアンドレア・カヴァルカンティがひとりで馬車に乗り込もうとしたとき、
みずぼらしい男が近づいてくる
よう!ベネデット、けっこうなご身分だな・・・男はカドルッスだった

4070うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:32:14 ID:LNssCYN6
ダングラール夫妻は帰宅後、派手に夫婦喧嘩をした
そもそもこの夫婦間に愛情はなく、カネだけが二人の間をつないでいた
夫人が浮気をしようが、夫を陰でバカにしようが、ダングラールには何ほどの事でもなかった
彼にとって唯一我慢のならないことそれは、自分のカネが減ること、だった
モンテ・クリストの信号機操作のおかげで、莫大な損をしたダングラールは、夫人の愛人である大臣秘書のドブレが現政府の指導のもとダングララールを陥れたのではないかとすら疑っていた

お前のことに口出ししたことはない
お前もそうしろ
お前は自分の金庫だけでやってくれ
私は他の亭主どもとはちがうぞ
ちゃんと見た、いつだって見てきた
ただのひとつの過ちも私の目から隠すことはできないのだぞ
ヴィルフォールさんからドブレさんまでな
お前が私をおぞましい男とするのはいい
が、笑いものにするのは許さん
私を破産させること、これは特に許さん!!

ヴィルフォールさんですって?それはどういう意味なの?

最初の夫のナルゴンヌ氏は、9か月間家を留守にして帰ってきたらお前は妊娠6か月だった 
相手が検事ではどうしよもなく、苦悩と怒りで死んじまった
なぜ検事を殺さず、自分だけが死んだのか
それはナルゴンヌ氏には守るべき金庫が無かったからだよ
ドブレさんは情報源として役に立たないなら価値はない

ダングラール夫人は夫の前で失神してみることを試みるが、できなかった(´・ω・`)
なによりもまず、気がついたら夫はもう目の前にいなかった・・・

4071うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:32:50 ID:LNssCYN6
この夫婦喧嘩の翌日、ダングラールはシャンゼリゼのモンテ・クリスト伯爵邸を訪ねる
イタリア貴族カヴァルカンティ親子の情報を得るためであった

スペイン債で損をしたと聞きましたが、と尋ねるモンテ・クリストに
ここのところちょっと不運が続いていると愚痴るダングラール
もう4回ほどスペイン債の損害のようなことがあればお終いですね、とモンテ・クリストにからかわれる
カヴァルカンティ親子の財産のことを教えて欲しいと言うダングラールに、モンテ・クリストはあの人のことはよくは知らない、友人のブゾニ司祭からそれとなく聞いた話だけしか知らないと言う

大した財産は持っていないという人もあれば、何百万も持っているという人もありますな

あなたご自身の意見は?とダングラール

私の意見では・・・ああいう古い貴族というのは長子にだけ代々伝えられる財産みたいなのがよくありますからな
でも会ったのは3回ほどなんですよ
ブゾニ司祭のほのめかしでは数百万の財産を資本にしたがってるとか聞きましたが・・・
まあ、当てになさらないでくださいよ
私は責任を負いませんからね

そんなこと問題ではありませんよ
よいお得意さんを紹介していただきました
ところでああいった人たちはご子息を結婚させるのに持参金を持たせるのですかな?

それは場合によりけりでしょう
ははあ、あなたはアンドレアに嫁を世話したいのですな
まさかご自分のお嬢さんではありませんよね
アルベール君がフィアンセでしょう?

4072うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:33:34 ID:LNssCYN6
まあ、たしかに、彼のことは考えてはいますけどもね・・・
つまり、モルセール氏との間では何回か話したことはありますが
モルセール夫人とアルベールは・・・
ところでなぜ、夕食にモルセール家の人々を招待なさらなかったのですか?

ああ、先方から断られたのですよ
モルセール夫人が海の空気を吸うように医者から言われたとかで

海の空気ね・・・そうそう、たしかにあの人の身体にはいいでしょうよ

どうしてです?

あの人は若いころ、海の空気を吸っていたからです

(ダングラールの皮肉にはモンテ・クリストは気が付かないふりをする)
ま、とにかく、お嬢さんほど金持ちではないにしても、アルベールには立派な家名があるではありませんか

たしかに
ですが、私の家名だって私には可愛いですからね

それはそうでしょうが
あなたも頭の良い方だからおわかりになるでしょう
5世紀末から続いている古い貴族のほうが評価されることは・・・

(せせら笑いながらダングラールは言う)
だからこそ、アルベール・ド・モルセール氏よりもアンドレア・カヴァルカンティ氏のほうを選ぶのですよ

モルセール家はカヴァルカンティ家にひけはとらぬと思いますが

ところが彼の名はモルセールではない
私の場合は私を男爵にした人がいる
ところが彼は、勝手に伯爵になってしまったのですよ

まさか!

いいですか、伯爵
モルセールは30年来の知己です
私がただの店員だったころ、モルセールはただの漁師でした

その頃の名前は?

フェルナン・モンデゴですよ

確かですか?

当たり前ですよ
しょっちゅう彼から魚を買ったんだ

それならなぜ、あの家にお嬢さんをやろうとしたんです?

それは、モルセールもダングラールも成り上がりだからですよ
2人とも貴族になり、2人とも金持ちになった
つり合いが取れている
ただひとつ、彼については人が噂し、私については噂しないことがある

いったい何なのです?

いや、なんでもありません

ああ、わかりましたよ
フェルナン・モンデゴという名で思い出したことがあります
その男のことをギリシャで聞きました

アリ・パシャの件で?

その通り

あれが臭いんですよ
わたしも真相を知ろうといろいろやってみたんですがね

どうしてもお知りになりたいのなら簡単ですよ
ギリシャに取引先をお持ちだと思いますが

もちろん

ヤニナにも?

ええ

それではヤニナの取引先に手紙を書くんですな
アリ=テペレンの悲惨な末路にフェルナンというフランス人がとう関わったのか
問い合わせてごらんなさい

なるほど!
今日さっそく書きますよ

で、もし醜悪な内容の返事を受け取られたら・・・

お伝えしますよ

ダングラールは飛ぶように帰って行った

4073うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:34:17 ID:LNssCYN6
裁判所にヴィルフォール検事を訪ねるエルミーヌ・ダングラール夫人
ふたりきりで話すのはずいぶんとひさしぶりである
ヴィルフォールは亡き妻ルネ・ド・サン・メラン侯爵令嬢との婚約発表の場で
ナルゴンヌ氏の妻であったエルミーヌと出会った模様である

昨日のモンテ・クリスト伯爵の夕食会ではずいぶんと罰せられましたわ

ヴィルフォールは夫人の手を握りながら言う
気の毒に・・・
でもそれ以上に打ちのめされることがあるのです・・・
モンテ・クリスト氏は、あの木の下を掘ったところで、
子供の骨も、箱の金具もみつけたはずはない
なぜなら、あの木の下には、そのどちらもありはしなかったはずだから

なんですって?でも、あの子をあそこへ埋めたのではなかったの?
わたくしを騙したの?

この20年間私が背負ってきた重荷を、いま話そう
私たちは赤ん坊が死んでいると思った
私は箱にその子を入れ、庭に穴を掘り、埋めた
私が土をかけ終えたそのとき、あのコルシカ人の男に襲われた
決闘の傷だと偽って、私は三ケ月間、死と戦った
どうにか命をとりとめ、さらに半年間マルセイユで療養した
その間に、ナルゴンヌ氏の未亡人であるあなたはダングラール氏と結婚したね
私はパリへ戻るが早いか、あのオートゥイユの家に残された私たちの痕跡を一切隠さなくてはと思った
あのコルシカ人は、私が庭に埋めるところを見たかもしれないと思った
だから庭を掘り返してみたんだよ
でも、いくら掘り返しても見つからなかったのだ・・・

なんですって・・・?

一瞬、気が狂ってしまえばいいと思った・・・
私はなぜあの男が死骸を持ち帰ったのだろうと考えた
もしも我々を脅すためならば、当局へ持ち込むだろう

・・・どういうことなの?

もっと致命的な、さらに恐れねばならぬなにかがある
たぶん、あの子は生きているのだ
あの人殺しが、あの子を救ったのだ

ダングラール夫人が凄まじい叫び声をあげた

誰かが私たちの秘密を知っているのだ
モンテ・クリストは私たちの前で、あの子がもはや埋まってはいなかった場所からあの子を掘り出したと言ったのだから、この秘密を知っているのは、それはあの男だ

正義の神様の復讐だわ・・・
夫人はつぶやいた
あの子は?あの子の行方は?

あの夜、育児院にひとりの赤ん坊が預けられたらしい
男爵冠半分とHの文字のついた布にくるまれて

まちがいないわ、私の名、エルミーヌ(Hは発音しない)・ナルゴンヌの頭文字よ!
ああ、坊やは生きていたのね!

だが、私が育児院へ行った半年ほど前に、ひとりの女が布の半分を持って、子供を引き取りに来たらしい
その後の行方はわからない
だが、私はもう一度捜査を再開するつもりだ
私を駆り立てるものはもはや良心ではない、恐怖だ

でもモンテ・クリスト伯爵はなにもご存知ないのでは?
知っているならあんなふうに私たちに交際を求めるかしら

いや、人間の悪意というものはきわめて底の深いものだ
われわれに話をするときのあの男の目に気づいたか?

たしかに不思議な目だけれど
れよりも私がおかしいと思ったのは、あの素晴らしいご馳走に、あの人がまったく手をつけなかったことよ

あの男には何かたくらみがある
一週間以内にモンテ・クリスト氏の正体をつきとめてみせる
彼がどこから来たか、これからどこへ行くのか、なぜ我々の前で庭から赤ん坊が掘り出されたなどと言ったのか

4074うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:34:52 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールとダングラール夫人が話し合っていたその同じ日、
モルセール夫人(メルセデス)と息子のアルベールは保養先の海辺から帰って来た

アルベールはさっそくモンテ・クリスト邸を訪問し、自分と母親抜きで行われた夕食会の模様をモンテ・クリストにたずねる
ウジェニー・ダングラール嬢との結婚話が不発終わるような手助けをしてくれたか、と無邪気にたずねるアルベールにモンテ・クリストは素っ気ない

思いがけない展開はあったかもしれない
ダングラールさんがアンドレア・カヴァルカンティ君と食事を共にして・・・

ああ、あのイタリアの貴公子ですか
(貴公子とは大げさですな・・・と言葉を濁すモンテ・クリスト)
(^^)/ モンテ・クリストはダングラールに対しても
「カヴァルカンティを自分は積極的に推すわけではない」という態度をことあるごとににじませています(^^)/

アルベールは自分の母親が理想の女性であることを熱心に語る
ウジェニー嬢にはまったく魅力を感じないと・・・

あ、そうそう、フランツがもうすぐ帰国しますよ
ヴィルフォールさんに呼ばれてね
ダングラールさんがウジェニー嬢を僕に嫁がせるのと同じくらい熱心ですよ
ヴィルフォールさんはヴァランチーヌ嬢をフランツに嫁がせようとしています
彼はまじめですからね
ヴィルフォール家に対して敬意を抱いていますから

モンテ・クリストはダングラール嬢との結婚を嫌がるアルベールに言う
君はほんとうにうぬぼれ屋さんですね
ほっといても、ダングラール嬢との結婚の約束を引っ込めるのは、たぶんあなたのほうじゃありませんよ

えっ!
アルベールは目をむく

4075うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:35:26 ID:LNssCYN6
ダングラール氏はね、別の男に惚れこんじまったのですよ

いったい誰に?

私は知らない
よく見、よく考え、なにか暗示が目についたら、すかさずとらえて活用することですね

わかりました
ところで、母が、じゃなくて父がこの土曜日に舞踏会を開くつもりでいます
それから、カヴァルカンティ父子への招待を引き受けてくださいますか

カヴァルカンティの父親のほうはもうパリを発っているでしょう

ご子息は残っておられるでしょう?
ご子息を連れてくるのを引き受けてくださいませんか

いいですか、私は彼のことをよく知らないんですよ

あなたがご存知ない?

3,4日前に初めて会っただけです
彼のことは保証できませんよ

でもあなたはあの人をお招きになったじゃありませんか

私の場合は違います
ある立派な僧侶が私に紹介してきたのです
彼のめがね違いかもしれません
直接ご招待しなさい
彼がダングラール嬢と結婚するようなことになると、あなたは私のやり口を咎めるでしょうからね
そして、私と決闘なんてことになるかもしれません
それに私自身、行けるかどうかわかりません

なぜ来てくださらないんですか?

まだお招きを受けていないからですよ

ぼくはわざわざ自分でお招きにきたんですよ

ああ、それはどうも御親切に
しかし、さしつかえがあるかもしれません

母がお願いしているんです

モルセール夫人がですか(ぎくっとする)

土曜日には来てくださいますね
母とぜひお話しなさってください
母がこんなふうに興味を示したのはあなたが初めてです

夫人がお望みならば、わかりました
ダングラールさんは?

お招きしました
ヴィルフォールさんもお招きしたいのですが、どうもこれは絶望的です

怒ってらっしゃいませんか?
私はダングラールさんのことなど話すべきではなかったですね

とんでもない、いくらでも聞かせてください

ところでフランツ君はいつ着くのですか?

5,6日後くらいです
サン・メラン侯爵夫妻が着き次第、結婚式でしょう

デピネ君がパリに着いたら、ぜひ連れてきてください

モンテ・クリスト伯爵はアルベールを見送る
後ろにはベルトゥチオが控えていた

どうだった?

夫人は裁判所にいらっしゃいました
1時間半ほどいてから家に帰りました

それではベルトゥチオ、ノルマンディーへささやかな土地を探しに行ってもらおうか

4076うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:35:59 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールはモンテ・クリスト伯爵がどのようにしてオートゥイユの事件を知ったのか調査を始めた
もと刑務監査官でいまや治安当局上部に昇進したボヴィルという男の報告によると
「モンテ・クリスト伯爵と呼ばれている人物はウィルモア卿ととくに親しく、
ウィルモア卿は裕福な外国人であり、時折パリに現れ、現在パリ滞在中である
モンテ・クリスト伯爵はまた同時に、
シチリアの僧ブゾニともとくに親交がある
ブゾニ氏は中近東方面で数多くの善行をほどこし、かの地では高名な僧である」

ヴィルフォールはブゾニ司祭とウィルモア卿のパリでの居所を調べさせ、直接訪問する

4077うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:36:37 ID:LNssCYN6
ブゾニ司祭 vs ヴィルフォール

あなたはモンテ・クリスト伯爵をご存知でしょうか

ザッコーネ氏のことを話しておられるのかな?

ザッコーネ!ではモンテ・クリストという名ではないのですか

モンテ・クリストというのは土地の名、岩礁の名で、苗字ではない

ではザッコーネ氏についてお伺いしますが、その方をよくご存知で?

存じている

どのような人物ですか?

マルタの大きな船造りの倅でな

その噂は知っておりますが、当局としては噂だけで満足するわけにはいきません

しかし、その噂が真実ならばそれに満足するしかなかろう

お言葉に確信がおありで?

私はザッコーネの父親を存じている

は、はあ

幼い頃、その息子とよく遊んだものだ

しかし、伯爵のあの称号は?

そんなものは金で買うことができる

あの人物に友達はいますか?

あの男は知り合いになった者はすべて友達と思っている

しかし、敵もいるでしょう?

一人だけいる

その人の名は?

ウィルモア卿だ

その方からもお話しはうかがえるでしょうね?

あの人はザッコーネと時をおなじくしてインドにおったから、重要なことをな

あなたはそのウィルモア卿と仲がよくないのですか?

私はザッコーネが好きだし、あの男が嫌うので、そのため疎遠になっている

モンテ・クリスト伯爵は今回パリへ来た以前にも、フランスへ来たとことがありますか?

いや、一度も来たことはないな 
半年前私のところへ色々教えて欲しいといってきたほどだから
でも私はいつまたパリへ戻れるかわからないので、バルトロメオ・カヴァルカンティ氏を差し向けた

よくわかりました
では最後に、名誉と人類愛と信仰の名において率直にお答えください
モンテ・クリスト伯爵はどういう目的でオートゥイユの家を買ったのですか

よく知っている
あの男は私に話したからな
ビザン男爵がパレルモに創設したような精神病院にするためだよ
評判は聞いておられるかな?
すばらしい施設だ

ヴィルフォールは自宅へ戻り、1時間後ウィルモア卿のもとへ向かう
ヴィルフォールはあらかじめ手紙で面会を求めていた
それに対しウィルモア卿は10時に会う約束を与えていた
ヴィルフォールが10時10分前にウィルモア卿の家に着いたとき、卿はまだ帰宅していなかったが、時計が10時を打てば必ず帰るという
時計が10時を打った

4078うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:37:09 ID:LNssCYN6
ウィルモア卿 vs ヴィルフォール

ウィルモア卿は赤茶けた顎鬚に白髪のまじった金髪
イギリス風の服装
(モンテ・クリスト伯爵は黒髪でした(^.^) )

ウィルモア卿の話
モンテ・クリストは若い頃、当時英国と戦っていたインド土候の軍隊に身を投じた
ウィルモアが彼に出会ったのはかの地で、ふたりは戦った
ザッコーネは捕虜となりイギリスへ送られ、牢獄として使用された廃船に乗せられたが、泳いで脱出した
ギリシャの反乱が起こり、彼はギリシャ人側についた
その際に銀鉱を発見した
これが彼の財の源である
フランスに来た理由は鉄道で一儲けするためである
彼は有能な化学者であると同時に物理学者でもあるので、新しい信号装置を開発し、その実用化をはかっている

一年にどのくらいの金を使う男でしょうか?

せいぜい5,60万フランでしょう けちな男ですよ

彼のオートゥイユの家について何かご存知でしょうか?

ええ、もちろん
あの男は夢みたいなことをいろいろやってみては破産するタイプの投資家です
ドイツにあるような温泉宿にするつもりなんですよ
湯脈を掘り当てようと庭中掘りまくってます
そのうち周囲の家も買いまくるのでしょうよ
わたしはあの男を憎んでますから、あいつの破産がみたくて後を付け回してます

なぜあの男を憎んでおいでなのですか?

あの男が私の友人の細君を誘惑したからです
あの男とは3回も決闘しましたな
今も私は射撃の練習を欠かしておりません

ヴィルフォールが帰ったあと、ウィルモア卿は寝室へ入った
出てきた姿は、黒髪と艶のない肌のモンテ・クリスト伯爵であった

ヴィルフォール検事はこのふたつの訪問でやや安心した
安心材料があったわけでもないが、さりとて不安になる材料もなかったのである

4079うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:37:51 ID:LNssCYN6
土曜日がやってきた
モルセール伯爵邸の舞踏会の日である
ダングラール夫人はひどく不安に感じていたので、欠席しようかと思い始めていたが、途中ヴィルフォール検事の馬車とすれ違い、検事から出席するように言われる

舞踏会はメルセデスの趣味の良さが発揮されて素晴らしく趣向がこらされている
ダングラール氏
ダングラール夫人
ウジェニー・ダングラール嬢
ヴィルフォール夫人
ヴァランチーヌ・ヴィルフォール嬢
マクシミリヤン・モレル
アンドレア・カヴァルカンティ

アルベールはモンテ・クリスト伯爵を迎える
ダングラール氏がモンテ・クリストに挨拶に来る
モンテ・クリストはドイツのとある富豪の信用不安について教える
ダングラール氏は青くなりながらもアンドレア・カヴァルカンティに媚を売りに向かう

メルセデスはモンテ・クリストの様子を観察している
アルベール、伯爵様は何も召し上がらないことに気づいた?
伯爵は小食なんですよ
好き嫌いがおありなのかしら?
さあ、でもローマでお会いしたときはなんでも食べてましたよ
アルベール、あの方に何かおすすめしてみてちょうだい

アルベールは伯爵にアイスクリームをすすめた
伯爵は頑固に辞退した

4080うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:38:55 ID:LNssCYN6
庭での夜食の用意ができて、招待客は誘導される
メルセデスはモンテ・クリストに言う
伯爵さま、腕をお貸しくださいませんこと?
ふたりはそのまま腕を組んで庭の奥の方へ散歩に出る
メルセデスは温室へと案内し、マスカットをひと房摘んで伯爵へ差し出す
奥さん、申し訳ないのですが、私はマスカットは食べません
ため息をつきながら、メルセデスは次に桃を差し出す
伯爵は断る
アラビアには同じ屋根の下でパンと塩を分ちあう者は永遠の友となる、と言いますわね
ここはアラビアではありませんし、フランスにはパンと塩を分かち合うことも、永遠の友もありません
私たちはお友達ですわね、とメルセデスは詰め寄る
もちろん、どうしてそうでないわけがありましょう、と答える伯爵
しかしその口調はメルセデスが期待していたものとはまるでちがう

伯爵様はほうぼうを旅して、苦労もなさったと伺いましたけど
ひどい苦労をいたしました、たしかに
今はお幸せですのね?
私の今の幸せは過去の苦しみと同等のものです
伯爵様、ご家族は?
誰一人おりません
この世につなぎとめるものがなくて、どうして生きていけますの?

奥さん、私のせいではありません
マルタに愛する女性がおりましたが、戦争がつむじ風のようにそのひとを奪ってしまいました
私はその娘がわたしを待っていてくれると思っていましたが、私が帰ってみると、娘は結婚していました
よくある話でしょうが、私はおそらく他の男よりも心が弱いのでしょう
ひどく苦しみました
それだけの話です

わかりました
今でもその女性への愛情が残っておりますのね
その方にはお会いになりましたの?

いいえ、一度も
その人のいる国にはその後一度も戻りませんでした

その方があなたを苦しめたのをお許しになりましたの?

その人のことは許しています

あなたをその方から引き離した人たちのことは今でも憎んでおいでなのですね

夫人はモンテ・クリストの正面に立つ
その手にはまだマスカットの残り房がある

召し上がってください

奥さん、わたしは決してマスカットは口にしません

メルセデスは絶望的な身振りでその房を茂みへ投げ捨てた

そのときアルベールが駆け足でやってきた

4081うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:39:32 ID:LNssCYN6
たいへんです
いまヴィルフォールさんが夫人とお嬢さんを迎えに来られました
サン・メラン侯爵夫人がたった今パリへお着きになったのですが、
侯爵がマルセイユを発って最初の宿で亡くなったというのです

屋敷へと歩き出したメルセデスは立ち止まり戻って来た
アルベールの手とモンテ・クリストの手を重ね合わせて言った
私たちはお友達ですわね

モンテ・クリストは答えた
あなたのお友達だなどと、そんな大それたことは私は求めません
ですが、どんな場合にも、私はあなたの従順な僕(しもべ)です
__
ヴィルフォールはモルセール邸での舞踏会へも行かず、書斎にこもっていた
過去の記録を念入りに調べなおしたが、オートゥイユの事件を利用して復讐を図る者にはたどりつかない

サン・メラン侯爵夫人が倒れ込むようにやってきて、夫侯爵の死を告げる
まったく突然のことで、医者が言うには脳溢血らしいと

ヴィルフォール家の悲劇は続きます( ゚Д゚)

4082うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:40:04 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌは祖母である侯爵夫人に付き添っていたが、ノワルチエのもとへ呼ばれる
侯爵夫人は疲れたためか眠りにおちていた
ノワルチエは『お前には私がついているから大丈夫だ』と目で訴える

ヴァランチーヌが侯爵夫人のもとへ戻ると、夫人は父ヴィルフォールを呼べという
ヴィルフォールがやってきた

ヴァランチーヌのお婿さんはフランツ・デビネさんというのですね
私たちの味方だったデピネ将軍のご子息ですね
簒奪者(ナポレオン)がエルバ島から帰った数日前に殺されなさった・・・

そのとおりです

ノワルチエさんの孫娘との結婚がその方の気に障ることはないのですね

もう昔の敵意など消えてしまいましたよ、幸いなことに
私の知る限り、もっとも優秀な男の一人です

それでは、結婚を急がねばなりません
私はもうそんなに長くは生きていられないから

おばあさま!

この子には母がいないのですから、結婚には祖母が祝ってやらねばなりません
わが娘ルネの代わりにわたくしが!

おばあさま、おじいさまがお亡くなりになったばかりなのにお式をすることをお望みなんですの?

そんな月並みなことはどうでもいいの
私は死ぬまでに婿の顔を見ておきたいの
私の孫を幸せにするように命じておきたいの
昨夜の私の眠りはひどいものでした
いまヴィルフォールさんが立っているその場所に、あなたの奥さんの化粧室に通じるあのドアから白いものがはいってくるのを私は見たのよ!
そこにあるコップが動く音を聞いたの
あれは主人の魂です
私を呼びに来たのよ
デピネさんがお着きになったらすぐ知らせなさい
そして公証人を呼んでちょうだい
私たちの財産が確かにこの子へいくようにしなくては
喉がかわいたわ
そのコップのオレンジエードを飲ませておくれ

ヴァランチーヌは、夫人が動く音を聞いたというそのコップを気味が悪そうに渡した
夫人は一気に飲み干した

ヴァランチーヌは夫人にマクシミリヤン・モレルとのことを打ち明けようと思ったが、この誇り高い貴族の女性に許されるとはとても思えない

4083うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:40:33 ID:LNssCYN6
公証人がやってきて夫人の部屋へ入った

そしてダブリニー医師がやってきた
ヴァランチーヌはサン・メラン侯爵が亡くなり、侯爵夫人は寝込んでいるので診て欲しいと説明する
ダブリニー医師はサン・メラン侯爵夫人が幻覚を見ていると聞き、不審に思う
そのような気の弱い女性ではないのに・・・

ヴァランチーヌは、庭へ出て、例の場所へと向かう
マクシミリヤン・モレルがすでにいた
ヴァランチーヌは、祖母がフランツとの結婚に賛成し、挙式を急がせていると話す
マクシミリヤンはヴァランチーヌに駆け落ちを迫る
(^^)/ 愁嘆場がつづきますが、はっきりいってどうでもいいので省略(^^)/

ヴァランチーヌは、夜、闇に紛れてマクシミリヤンと落ち合うことを承諾する
ふたりが駆け落ちを決めたその翌々日、マクシミリヤンはヴァランチーヌから手紙を受け取る
今夜9時に結婚の契約が交わされるという
祖母の容態が悪くなってきたとも

駆け落ちは今夜と決まった

マクシミリヤン・モレルはモンテ・クリスト伯爵邸へ行く
フランツ・デビネが結婚の報告をモンテ・クリスト伯爵に告げにきたという
マクシミリヤンは伯爵にすべてを打ち明けたくなったが、我慢していた

4084うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:41:08 ID:LNssCYN6
夜になり、マクシミリヤンは馬車を用意してヴァランチーヌを待つ
しかし、9時を過ぎても彼女は現れない
ついに彼は屋敷内へと忍び込み、屋敷の異様な静けさに不安になる
正面階段に男がふたり現れ、マクシミリヤンは会話を立ち聞きする

男はヴィルフォール氏とダブリニー医師だった

なんと、なんと恐ろしい死に方だ!

ヴィルフォール君、君を慰めるためにここへ呼んだのではない 
その逆だ
侯爵夫人は確かに高齢ではあったが、健康状態はすこぶる良かった

悲しみのあまりに死んだんだよ
40年も侯爵と一緒だったのだから

夫人のあの症状は、植物性の毒物だよ
おそらく多量のブルシンかストリキニーネ・・・

そんなばかな!

夫人が死んで利益を得る者は?

ヴァランチーヌだけが遺産相続人だが・・・そんなことをちらりとでも考えたら
私は自分の心臓に短刀を突き刺すよ

例えば老僕のバロワは?
ノワルチエの水薬を夫人に与えたとか・・・
ブルシンをノワルチエの治療に私は三か月前から用いている

バロワは夫人の部屋に入ったことなどない
君の言葉はいつだって信頼しているけれども、けれども・・・

もうひとり信頼できる医者を呼んで、解剖させてくれないか?

ああ、なんということを言うのだ、ダブリニー
君以外の者に知られれば、捜査の対象となってしまう
この私の家に捜査が入るなどと!
そんなことはあってはならない!
君は私に何も言わなかった
そうしてくれ、お願いだ・・・

ダブリニーはしかたなく、ヴィルフォールの頼みを受け入れる

ふたりを見送ったマクシミリヤン
ある部屋のバルコニーに愛しいひとの姿を見つけ、邸内へ忍び込む
ヴァランチーヌから聞いていた邸内の様子を思い浮かべ、彼女がいる部屋へ

侯爵夫人の亡骸の横たわる部屋で、ヴァランチーヌは驚きもせず彼を迎えた
フランツ・デビネが来る前に夫人は息を引き取ったので、結婚契約はまだ交わされていなかった
ヴァランチーヌは彼女の唯一の味方ノワルチエのもとへマクシミリヤンを連れて行く

4085うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:41:42 ID:LNssCYN6
おばあ様が亡くなったいま、ノワルチエお祖父さまだけが私の味方だと言って、マクシミリヤンを紹介する

わたしはこの方を愛しています
この方以外のものにはなりません
もしどうしても他の人のもとへ嫁ぐよういわれたら自殺してしまいます

辞書とペンと紙を使って、マクシミリヤンはノワルチエと会話する
ヴァランチーヌをさらっていって結婚するつもりであること
いずれヴィルフォール氏が許してくれるのではないかと

ノワルチエの返事は『それはならぬ』だった

では、フランツ・デビネ君のもとへ行きます
そして彼と決闘する

ノワルチエの返事は『それもならぬ』だった

ではどうすればよいのですか!

ノワルチエの返事は『わたしが』だった
ノワルチエは成功することに確信があり、責任を持つ、というのだった

僕たちは待つしかないのですか?
『そうだ』
結婚の契約書はどうなるのですか?
微笑み・・・
署名は行われないとおっしゃるのですか?
『行われない』

マクシミリヤンは老僕バロワに案内されてヴィルフォール邸をあとにした

4086うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:42:19 ID:LNssCYN6
サン・メラン侯爵夫妻の葬式が行われる
参列者のアルベール、ボーシャン(新聞記者)、シャトー・ルノーは口々に夫人までが亡くなったことを不思議がる
フランツ・デビネはヴィルフォール家の一員と同じように扱われて、参列していた
参列者の中にマクシミリヤン・モレルがいた
アルベールはフランツを紹介する
マクシミリヤンは心のうちをなにひとつ悟られないよう努力し、挨拶を交わした

葬式を終え、ヴィルフォールはフランツと話し合う
侯爵夫人のいまわの際の言葉はヴァランチーヌの結婚を滞りなく行うことであり、夫人の遺産はすべてヴァランチーヌが相続することになっている、ついては今日にでも結婚契約を交わしたい、と

フランツは喪中であることでヴァランチーヌの心中を思いやっていたが、父親のヴィルフォールが万事支障ないというので、それではそのように、と回答する
ただし、署名時の証人としてアルベールとシャトー・ルノーに同席してもらいたいと言い、ヴィルフォールは了承する
その2人が来るのを待って、署名することと決定された

ヴィルフォールは家人たちに30分後に署名すると告げる
ヴィルフォール夫人はエドワールを抱いて青ざめた様子である
ヴァランチーヌはノワルチエの老僕バロワに絶望的な眼差しをおくった

4087うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:42:53 ID:LNssCYN6
フランツ、アルベール、シャトー・ルノー、および公証人がやってきた

公証人はフランツに説明する
ノワルチエの遺言状では、ヴァランチーヌがフランツと結婚すると財産を相続できないとされている

ヴィルフォールは
父の遺言に異議をとなえるものはこの家にはいない
他の誰との結婚でもノワルチエは気に入らない
ヴァランチーヌを手放したくないのだから、という

フランツは
ヴァランチーヌの財産について調べたことはない
自分が望んでいるのはただ幸せだけである、と述べる

そのとき、老僕のバロワがやってきてノワルチエがフランツに会いたがっていると告げる

ヴィルフォールはぎくっとした
ヴィルフォール夫人は膝からエドワールを滑り落とした
ヴァランチーヌは真っ青だった
公証人はヴィルフォールのほうを見た

そんなわけにはいかぬ、とヴィルフォール
いますぐ、とのことでございます、とバロワ

4088うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:43:31 ID:LNssCYN6
フランツはいった
ノワルチエさんがお呼びになったのはこの僕なのですから、誰よりも僕がお望みのとおりにしなくてはならないと思います
この機会に敬意を表することができれば幸せに思います

いや、それにはおよびませんよ、と慌てるヴィルフォール

フランツは毅然としていう
ノワルチエさんが僕に対して抱いておられる嫌悪が、どれほど誤ったものであるかということを証明できる機会を逃したくありません
__
ヴィルフォール、ヴァランチーヌ、フランツの3人はノワルチエの部屋を訪れる
ノワルチエは老僕バロワに指示して、手紙のようなものをフランツに渡し、読むように伝える

「1815年2月5日開催 サン=ジャック通りのボナパルト派クラブにおける議事要録」

フランツは読むのをやめた
1815年2月5日!父が殺された日だ!
このクラブを出てから父は行方不明になったんだ!

要録にかかれたいきさつ

エルバ島のナポレオンより、ケネル将軍(フランツの父)はナポレオン政権に対する献身的忠誠を抱いていると思われることからボナパルト派クラブに迎え入れよとの指示があった
ケネル将軍のもとへクラブから出席要請状が送られた
会合の場所は知らされず、道中目隠しをされること、永久に会合場所を知ろうとしないことを名誉にかけて誓うように要請された
ケネル将軍は要請を受諾した
決して強要されたものでなはなく、将軍の意志であったことを明確に記しておく
クラブの会長は将軍に、ナポレオン派を支持するのか確認する
エルバ島の思惑と違い、将軍はあくまで王党派であった
国王陛下を裏切ることなど絶対にできない、と将軍は述べる
会長は言う
では、我々のクラブについて絶対に他言しないことを名誉に誓っていただこうか
謀反の企みを見過ごせというのか!それを紳士の行動だと言うのか!
できないならば生きては帰さぬ、と言わんばかりの雰囲気に、将軍は我が子のことを考え、しぶしぶ誓う
帰り道、目隠しされながら馬車の中で将軍は、同乗していた会長を思わずののしってしまう
会長は侮辱された、と受け止めた
馬車にいたのは4人
4人は川のそばで馬車から降りた
会長と将軍は決闘することとなった
会長が勝った

立ち合い人の署名とともに、ケネル将軍は正当な決闘で斃れたのであり、伝えられるように、罠にかけて暗殺されたのではない、と証明されていた

4089うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:44:11 ID:LNssCYN6
フランツは息子にとってはあまりに恐ろしいこの朗読を終え、涙をぬぐっていた
ヴィルフォールはこれ以上騒ぎを起こさないでくれ、とノワルチエに懇願しようとしたとき、
フランツはノワルチエにたずねた

あなたはこの痛ましい事件を詳細にご存知なのだし、立派な署名でそのことを明らかにされています
どうか教えてください
このクラブの会長の名前を!
父を殺した者の名前を!

ヴィルフォールはうろたえたようにドアのノブを探った
ヴァランチーヌは誰よりも早く、老人がなんと答えるかがわかり、一歩あとずさった

ノワルチエさん、お願いです!
『よし』とノワルチエが答え、辞書をみつめた
フランツは辞書を取り上げ、震える声でアルファベットを読み上げMまで唱えた
『それだ』
青年の指が単語の上を走る
だがどの単語にも老人は否定の答えをする
ヴァランチーヌは両手に顔をうずめていた
ついにフランツはMOI(私)という単語に到達した
『それだ』と老人は答えた
フランツが叫んだ
あなたが!あなたなんですか!私の父を殺したのは!
『そうだ』ノワルチエは威厳をこめた眼差しで答えた
ヴィルフォールはドアを開けて逃げ出した

4090うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:44:49 ID:LNssCYN6
アンドレア・カヴァルカンティはパリの社交界にうまく食い込みつつあった
ダングラール家に完全に入り込んでいた

モンテ・クリストがダングラール家を訪れた
ダングラール夫人はオートゥイユの別荘でのこと以来、モンテ・クリスト伯爵の名を聞くだけで背筋が凍るような気もするのだが、かといって伯爵が姿を見せないと不安になるし、実際に訪問を受けたらその魅力的な笑顔にたちまち虜となってしまう有様であった
ウジェニー嬢は相変わらず素気なく、アンドレア・カヴァルカンティは彼女の気を引こうと苦労している様子である
ウジェニーは女友達の音楽家とピアノ室にこもりっきりである
そんななか、ダングラールが帰宅した
ダングラールはピアノ室のドアを自ら開けて、アンドレア・カヴァルカンティを招き入れた
ダングラール夫人はモンテ・クリストに、その朝またミラノの取引先の破産で3,40万損をしたのに平気でいる夫の太っ腹な態度を誉めるのであった
モンテ・クリストは思った
『よし、もう損を隠すようになったな。一か月前は損を吹聴したのに』

いや、奥さん、損などダングラールさんは株で取り返してしまいますよ

主人は投機はいっさいいたしませんのよ

ああ、そうでした
ドブレさんが言ってました
投機のデモンに身をささげているのはあなただと

今はもう興味を失くしてますの

それはよくありませんよ
わたしが銀行家の妻ならば、いや事業なんて幸運か不運だけですし、夫の幸運だけにすがらずに自分の財産を確保しようとしますね

夫人は話題を変える
ヴィルフォールさんはほんとうにお気の毒だったわ

なにがあったのですか

ご存知でしょうに
サン・メラン侯爵夫妻はお亡くなりになるし、お嬢さんのご結婚だって・・・

え、フランツ・デピネ君がお相手でしょう?

昨日の朝、フランツさんが、無かったことにしてくれ、とおっしゃったそうです

それはまたどうして?

ダングラール氏が戻って来た
いや、なかなかの好青年ですな、伯爵
カヴァルカンティ公爵は・・・ほんとうに公爵なんですよね

わたしは保証しかねます
父親のほうを公爵だと言って紹介はされましたが

あなた、もしモルセールさんがいらして、ウジェニーの部屋にアンドレアさんがいるのを見られたらどうなさるの?

あの男はめったに顔を出さんじゃないか
アルベール君は娘をそんなに好きじゃないんだよ

でも私たちの立場では・・・

アルベール・ド・モルセール子爵さまがお見えでございます

4091うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:45:17 ID:LNssCYN6
夫人はウジェニーへ知らせようと立ち上がったが、夫は
「ほっておけ」
夫人は驚いて夫の顔をみつめた

ダングラールの冷たい態度は直接アルベールにも向けられ、アルベールも皮肉にやり返す

ダングラールはモンテ・クリストに、アルベールのフィアンセとしての冷たい態度を訴える

たしかに、冷たいですな
でももう約束なさったんでしょう?

たしかに約束しましたよ
でも娘を愛してもいない男にくれてやるとは言ってません
あの男、親爺そっくりの傲慢さだ

私のあの青年への友情が私を盲にしているのかもしれないが、彼は好もしい男ですよ
きっとお嬢さんを幸せにしますよ
なんといってもお父さんの地位が高いですから

ですかね?

どうしてそんな、怪しそうな顔をなさるんです?

昔のことがありますからな
あのうさん臭い

父親の過去など息子に関係ありませんでしょう

おおありですよ!

一か月前は、あなたもこの結婚は申し分ないと思っておられたじゃありませんか
いや、私は困惑してるのですよ
あのカヴァルカンティ君にあなたが会ったのは私の家ですからね
私は彼のことはよく知らないのですよ
重ねて申し上げておきますが

私はよく知ってます、それで十分です
ひと目でわかりますよ
あなたはあの青年について公平な見方はなさらんのですなあ

4092うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:46:04 ID:LNssCYN6
モルセール家との約束を知りながら、わきから割り込んで財産にものを言わせるというのはどうも見苦しい

世間では日常茶飯事ですよ

とはいえ、このまま破談にするわけにはいきませんよ、ダングラールさん
モルセール家のほうは、すっかりその気になってますからね

その気になってますかね?

はっきりしてます

それなら、そう言えばいいんだ
伯爵、ちょっとその旨、あの家の父親にお伝え願えませんか

お望みなら、よろこんで

明確に、最終的な申し入れをしてほしいんですよ
娘をほしい、日取りはいつ、金銭的な条件をはっきり
合意するならする、駄目なら駄目とね

いいでしょう、お伝えしましょう

召使がダングラールを呼びにくる
お茶をどうぞ、と夫人が言う
ダングラールが興奮した面持ちで戻ってくる
モンテ・クリストの問いかけに答える

いま、ギリシャから郵便がとどきましてね

横目でアルベールを見るダングラール

アルベールとモンテ・クリストは共に帰宅する

伯爵、ギリシャからの知らせってどういう意味なんですか?

どうして私にわかるというのです?

だってあなたはあの国に詳しいから

アルベールはウジェニーに挨拶をしに行った
入れ替わりにダングラールがモンテ・クリストのもとへ

いやあ、いいご忠告をくださいましたよ
フェルナンとギリシャのヤニナ、この2つには恐るべき話があるのです

ほう!

いつかお話ししますよ
あの青年を連れ帰ってください
私はもうあの男と一緒にいるのはかないません

4093うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:46:42 ID:LNssCYN6
帰りの馬車の中で、アルベールは言う

僕の競争相手がダングラール家に入り込んだな
あなたが庇護なさってるアンドレア君ですよ

良くない冗談ですよ
私はアンドレア君を庇護などしておりません、少なくともダングラール氏に対しては・・・
ダングラール氏は君のことがお気に入りですよ

あの人が?とんでもない!

それは君の思い違いですよ
私はダングラールさんに対して最終的な申し込みをするようモルセール伯爵に伝えるように頼まれたのです

ああ、伯爵、そんなことはなさらないでしょう?

私はちゃんと伝えますよ
約束したんだから

モンテ・クリストはアルベールに屋敷に上がるよう誘う

エデの奏でるグズラ(楽器の名)の音が聞こえてきて、自然と彼女の話題となる
モンテ・クリストはアルベールに
エデは私の奴隷だが、あの国で最も地位の高い王女であると告げる

そんな方がなぜ奴隷に?

戦争の落とし子ですよ、運命のいたずらです

お名前は秘密なのですか

君は私の友人だし、口外するなと言えば、黙っていてくれるでしょう

名誉にかけて

君はヤニナのアリ・パシャの話を知っていいますか

アリ=テペレンのことですか?
もちろんですよ
父はその方に仕えて財を成したのですから

ああ、そうでした、忘れてました
エデはその娘です
なんですって?
アリ=パシャとあの美しいヴァジリキ妃との間の娘?それでいてあなたの奴隷?

そう、可哀想に
ある日、コンスタンティノープルの市場を通りかかったときに買ったのです

伯爵、こんなことを言うのはいかにも不作法なのですが、
僕に王女様を紹介してくださいませんか

喜んで
ただし2つ条件がある
誰にも私があの子を君に紹介したことを言わないこと
君の父君があの子に仕えていたことを言わないこと
そして
直接ものを尋ねてはいけませんよ
訊きたいことがあればまず私に言うこと

わかりました

4094うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:47:19 ID:LNssCYN6
エデの部屋にモンテ・クリスト以外の男性が足を踏み入れるのは初めてだった
エデはギリシャ語でモンテ・クリストにたずねた
どなたをお連れに?ご兄弟、お友達、ただの知り合い、それとも敵?
モンテ・クリストはギリシャ語で答えた
お友達だよ
何語でお話ししましょうか?
イタリア語にしなさい

アルベールはエデの美しさに圧倒されながら、何の話をしたらよいかとモンテ・クリストに訊ねた
なんでもお好きなことでかまいませんよ
この子の国のことや、幼い頃の思い出とか・・・

エデは5歳のときにギリシャを離れた
アルベールはモンテ・クリストに彼女の身の上話を聞きたいと言う
あなたは僕に父のことを話してはならぬとおっしゃいましたが、
この方はきっと話してくださると思うんです
こんな美しい口から父の名が出たら、どんなに僕は嬉しいか!

モンテ・クリストはエデのほうを向いて、特に注意して聞くようにと眉で合図しながら、
ギリシャ語でこう言った
「オ父上ノ身ノ上ヲオ話シ タダシ、裏切リ者ノ名ト裏切リニツイテハ話シテハナラヌ」

なんとおっしゃったのですか、とアルベール

「君は私の友達だから、君に対しては何も隠さなくていいと言ったのですよ」

エデは4歳のある晩、闇にまぎれて父アリ・パシャ、母、警護の者たちと宮殿を脱出し隠れ家である湖上のあずまやへたどりついたときのことを話し始める
ヤニナの宮殿の守備隊が、父アリ・パシャを捕らえるためにスルタン(トルコ皇帝)が派遣した軍司令官と手を結んだからであった
そこで父は、全幅の信頼をおいていたフランス人のある将校をスルタンのもとへ派遣してから隠れ家へと引退する決心をした

その将校を、その名を覚えておられますか?とアルベール
モンテ・クリストとエデは素早く視線を交わす

いいえ、思い出せません
もう少ししたら思い出すかもしれませんから、そのときにはお答えします
アルベールが自分の父の名を言いそうになったが、モンテ・クリストは制止した

4095うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:48:04 ID:LNssCYN6
隠れ家は湖のあずまやであった
地下室には金貨や火薬が大量に備蓄されており、パシャの命令で妃とエデは地下室にこもった
ある朝、父パシャから呼び出しがあった
「もう少しの辛抱だ
今日ですべては終わる
スルタンからの勅命が今日とどく
わしの運命が決まる
完全な赦しがえられれば、堂々とヤニナに帰ることができる
悪い知らせであれば、今夜逃げるとしよう」

湖を複数の船が渡って来た
「いよいよ我々の運命が定まるときがきた
30分後には皇帝の返事がわかる
エデをつれて地下へ戻れ」

地下室へ戻るとき、母はコンスタンティノープルへ派遣され、父が全幅の信頼をおいていたあのフランス人の姿を認めていました
護衛の者が言うには、短剣をよこされた場合にはスルタンが赦免を拒否したことを意味し、指輪がよこされた場合は赦免されたことを意味すると言いました
そして短剣を渡された場合は即座に火をつけると

地下室に男がやってきました
その男は
「スルタン万歳、アリ・パシャは完全に赦された」と言いました
その男は父が派遣したフランス人でした
護衛の者はあくまで指輪の提示を求めました
フランス人は指輪を見せ、それを確認した護衛は槍の火を消しました
消すやいなや護衛は兵士5人に刺殺されました
母は私を抱いて、私たちしか知らない隠し階段へ逃げました
羽目板の隙間から父の様子が見えました
金文字で書かれた書面を手にした男が父に向って言いました
「皇帝陛下の上意を伝えに来た。陛下は汝の首を所望だ」
父は突然高笑いし、義勇兵たちと共にピストルと新月刀を持って戦いました
最後は20人の男が父に襲いかかりました
母は気を失い、私は床に転がされました
母が意識を取り戻したとき、私たちはスルタンが派遣した軍司令の前にいました
母は言いました
「私を殺してください。ただ、アリの妻としての名誉だけはお守りください」
「わしに言っても駄目だね」
「誰に言えばいいのです」
「そこにおる、お前の新しいご主人様にだ」
そう言って、父の死に対して最も功績のあった者のうちの一人を指さしました

アルベール
では、あなた方はその男のものとなったのですか

いいえ、さすがにそれはできず、その男は私たちをコンスタンティノープルへ行く奴隷商人に売ったのです
私たちはギリシャを渡り、スルタンの城門までたどりつきました
そこには父アリの首がさらされておりました
母は衝撃のあまり倒れ、死んでしまいました
私は市場に連れて行かれ、アメリカ人に買われました
いろいろ教育してくれて、私が13歳になるとスルタンに売ったのです

モンテ・クリストは言った
そして私が前にも言ったように、スルタンから買ったのですよ
ハッシッシの丸薬の入れ物と同じエメラルドでね

アルベールは今聞いた話に呆然となっていた

4096うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:48:42 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールはフランツから次のような手紙を受け取った
「今朝あのような事情をお明かし下さった以上、
ノワルチエ・ド・ヴィルフォール氏は同家とフランツ・デピネ家の縁組がよもや可能とは思われますまい
フランツ・デピネは、
今朝語られた事件につきご存知であったとお見受けするヴィルフォール氏が、
事前にこのことについてお知らせくださらなかったことをきわめて遺憾に存じます」

ヴァランチーヌはマクシミリヤン・モレルに破談を報告した

そしてヴィルフォール夫人はとある行動をとった
ノワルチエのもとへ行き、
デピネ家とは破談になったのだからヴァランチーヌに財産を返してやって欲しいと言ったのである

ノワルチエはヴィルフォール夫人の心を探ろうとしたのだが、
見極めることはできなかったのである

ノワルチエは公証人を呼び、遺書を作成しなおした
ヴァランチーヌが自分から引き離されることはないという条件のもとに、
全財産を孫娘に遺贈したのである
サン・メラン侯爵夫妻の財産を相続し、
いままた祖父からの遺贈を受けたヴァランチーヌは
将来莫大な年収を得ることとなった

4097うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:49:27 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはダングラールからの依頼事を実行するべく、
モルセール伯爵家を訪問した
その結果、モルセールはダングラールのもとへ正装して赴いたのである

「ダングラール男爵、やってきましたよ
どうも長いあいだ、昔の約束事をうろうろしていたが」

ダングラールはそっけない
「どういう約束だったかな、伯爵」

あなたは形式を重んずるんだな、といってモルセールは深々と頭を下げて言う
「私は、息子アルベール・ド・モルセール子爵の妻としてウジェニー・ダングラール嬢を
いただきに参上したことを光栄とするものであります」

ダングラールは眉をひそめた
「返事をする前に少々考えたいんだがね」
「考える?この話をしてから8年になるのに、考える時間が無かったのかね」
「もう一度考え直す必要のある事は毎日のようにあるさ」
「いったいどういうことなんだ?わけがわからんぞ!」
「ここ2週間ばかりの間に新しい事態が・・・」
「はっきりさせようじゃないか。モンテ・クリスト氏に会っただろう?」
「しょっちゅうお会いする。友人だからな」
「あの人に、私がこの縁談について態度がはっきりしない、と言っただろう?」
「その通り」
「だから、私は来たのだよ。あなたの約束の履行を促しにね」
ダングラールは無言だった
「そんなに急に気持ちが変わったのか?私を馬鹿にしているのか?」
「なによりも私が苦しんでいるのだ。やむにやまれぬ事情があってな」
「なにが言いたいんだ。いずれにせよ、私の家との縁組を拒むんだな?」
「拒んでいるんじゃない、心を決めかねているんだよ」
「まさか、あなたの寵愛が戻るのをおとなしく待っている私だとは思わんだろうね」
「それじゃ、あなたが待てないというんなら、この話はなかったことにしようじゃないか」
モルセールは怒りで爆発しそうになっていた
「ダングラール、我々も古い付き合いだ。お互い思いやりを持つべきだろう
あなたが倅に好意的でなくなったのにどんな事件があったのか教えてもいいだろう」
「子爵個人のことではないんだ。これ以上言わないのをありがたく思うんだな」
「私には聞く権利がある
家内に文句があるのか?
私の財産が十分ではないというのか?
政治的意見が違うからか?」
「そんなことではない
そんなことは承知のうえで約束したんだから、あれこれ理由を探すのはやめたまえ
延期、という言葉を使おう
時がすべてを解決してくれる
一日のうちにひどい中傷がはたと止むこともある」
「この私を中傷する者がおるのだな?!」
「せんさくは止そうといっておるのだ。この私のほうがつらいんだよ」
モルセールは怒り狂って帰って行った
ダングラールはモルセールが一言も「自分のせいではないか」と言わなかったことに気づいた

翌朝、ダングラールは新聞『アンパルシアル』を手にした
ボーシャンが編集主幹をしている新聞である
『ヤニナからの通信によれば』という記事を確認し、にやりとする

4098うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:50:08 ID:LNssCYN6
これと同じ頃、
アルベールは興奮の面持ちで、シャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯爵邸を訪ねた
モンテ・クリストは射撃の練習に出かけたという
アルベールは練習場へ向かい、伯爵をつかまえる

アルベールは友人のボーシャンに決闘を申し込むので、
モンテ・クリストに介添え人になって欲しいと言う

いったいどうしたんです?理由は?
名誉を傷つけられたからですよ
これを読んでください

『ヤニナからの通信によれば
今まで知られていなかった、少なくとも公表されていなかった事実が明らかにされた
ヤニナの町を守っていた各城砦は、アリ=テペレン太守が全幅の信頼を寄せていた、
フェルナンというフランス人将校により、トルコ軍に引き渡されたものである』

この記事のどこが君を傷つけるんですか?

どこがって・・・僕の父、モルセール伯爵はフェルナンという名前なんです

それで、アリ・パシャに仕えておられた?

つまり、ギリシャ独立のために戦っていたんです
中傷もはなはだしい!

論理的に話をすすめましょうか
今のフランスで、士官フェルナンがモルセール伯爵と同一人物であることなど、
知っている者がありますか
1822年だか23年だかのヤニナのことなど今さら関心を持つ者が?

だから陰険なんですよ
僕は父の名を受け継ぐ者として、この名にかすかな疑惑の影さえ漂うことを許しません
ボーシャンに取り消させます

ボーシャン君は取り消さないでしょうね

4099うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:50:41 ID:LNssCYN6
それじゃあ、決闘です

よく考えてみなければいけませんよ
私が思うには・・・私の言うことに腹を立ててはいけませんよ
私はね、報道された事実は真実だと思う

父の名誉にかかわるそんな推測は息子としては容認できません

ボーシャン君のもとに介添え人を送る前に、情報を集めることです

誰から?

たとえばエデからでも
この件の真相をあきらかにして、もしも万一、君のお父上が不幸にして・・・

伯爵、ぼくはそんな推測は容認いたしません
拒否します

どうしても?
では最後にもうひとつ
介添え人を送るのではなく、ボーシャン君に君自身で会いに行きなさい

どうして僕が自分で行かねばならないのですか

そうすれば、問題は君とボーシャン君の間だけのことになる
もし、ボーシャン君が取り消す気になっている場合は、
彼に善意からするのだという余地を残しておいてやらねばなりません
もし逆に取り消しを拒めば、その時こそ、他人を介入させるときです
相手の自尊心にかかわることをさせようとするなら、
ほんのわずかでも相手の自尊心を傷つけてはいけない

わかりました
僕一人で参ります

ほんとは全然行かないにこしたことはないんですがね

そんなことはできません
もし、万策尽きて決闘ということになったら、介添え人になってくださいますよね

モンテ・クリストはそれまで見せなかったほどの真剣な表情で言った
「子爵、時と場合によっては、私が君に対して身をなげうつ覚悟でいることは、
君もご覧になったはずです
しかし、君が今私に求めていることは、私が君にしてあげられる範囲を逸脱しているのです」

なぜなんですか

いつかわかります
でもそれまでは秘密にしておくことを許してもらいたい

わかりました

4100うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:51:14 ID:LNssCYN6
アルベールは新聞社のボーシャンのもとへ向かう

やあ、アルベール、なんでまたこんなところへ?

記事の取り消しをして欲しいんだ

君が記事の取り消しを?いったいどの記事だ?

ぼくの家族の一員の名誉を傷つける記事の取り消しだ

なんだって?そんな馬鹿な

ヤニナからの通信だよ

ヤニナ?誓って知らんぞ
(アルベール、新聞を見せる)

この士官が君の親類だというのか?で、ぼくにどうしろと?

君の新聞が僕の家族を侮辱したんだよ
取り消しを要求する

君はどうも話の仕方をしらんな
とにかく、フェルナンというのは誰なんだ

僕の父だ
20もの戦場を駆け巡ったフェルナン・モンデゴ・モルセール伯爵
その名誉にけがらわしい泥を塗った!

君の父上?それなら君の憤激もわかるな
もう一度読み直してみよう
で、どこにフェルナンが君の父上だと書いてあるんだ?

書いてなくとも他人はそう思うだろう
だから取り消しを要求する

うん

よかった!

だが、ぼくがこの記事が誤報であると確認してからだ

なんだと!

私は敵の脅迫など我慢なりませんし、友人からならなおのこと
誓って申し上げて私がまったくあずかり知らなかったこの記事を取り消せと言われるんですな?
さもなければ決闘ですか

そうだ!(アルベールは興奮のあまりなにがなにやらわからなく・・・)

私はあなたが脅迫しに来られたことにより、この記事の内容に興味を持ちました
この記事は権威ある筋より否認されるなり確認されないかぎり取り消されません

では、介添え人を差し向けます
今夜あるいは遅くとも明日には・・・

とんでもない
どうしても必要となったときに僕は決闘場へ行く
三週間待ってもらおう
三週間後には「そうだあの記事は誤報だった」「あの記事は事実だった」
どちらかの答えを用意してあいまみえましょう

三週間!その間、名誉は汚されたままだ

以前のように君が友人だったら「我慢しろよ、アルベール」と言うところだが、
今はこう言わせてもらう
「そんなこと知ったこっちゃありませんよ、こちらは」

決闘日は9月21日となった

4101うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:51:50 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルはノワルチエから呼び出しを受けた
ヴァランチーヌが代弁した
ノワルチエはこの家を出るつもりであり、老僕バロワが今、適当な部屋をさがしていること
ヴァランチーヌはノワルチエのそばを離れるつもりはないので一緒に住むこと
父ヴィルフォールが同意すれば、すぐにこの家を出ること
同意しなければ、成年に達するまで1年半、待つこと
そしてマクシミリヤンとの結婚の約束を守ること

老僕のバロワはマクシミリヤンを迎えに急いで走ったため、汗びっしょりだった
ノワルチエは自分が飲んだ残りの水差しのレモネードに目をやった
ヴァランチーヌがグラスに注いでバロワに勧めた

それを飲んだバロワはひどい神経障害にみまわれて倒れた
屋敷内は大騒ぎになった

おりよくダブリニー医師が来ていた
ヴァランチーヌとヴィルフォールは医師を探しに行った
ヴィルフォール夫人がやってきた
彼女がまず見たのはノワルチエだった
夫人は顔色を変え、その老僕からその主人へといわば跳ね返った
ノワルチエは奥の奥まで見通すような視線を夫人に浴びせていた
ヴァランチーヌはマクシミリヤンに騒ぎに紛れて帰るように言う

ダブリニー医師にはなすすべがなかった
患者がレモネードを飲んだと聞き、その現物を押さえるべく調理場へ突進し、あやうくヴィルフォール夫人を突き飛ばすところだった

バロワは死んだ

ダブリニー医師はヴィルフォールに告げた
サン・メラン侯爵夫妻も急死した
君の家では皆急死してしまうね、ヴィルフォール

ダブリニーの分析により、レモネードからは植物毒が検出された

4102うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:52:29 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールが叫ぶ
私の家には死神がいる

ダブリニーは言う
犯人がいる、と言いたまえ
犯人の狙いはノワルチエだったのだろう
ノワルチエには治療薬として毒物が処方されているので身体が慣れているのだ
サン・メラン侯爵夫妻も本当は殺されたのではないか?
ノワルチエの遺産相続のことを考えても、ヴァランチーヌ嬢に疑いがかけられるだろう
私は告発する
君の義務を果たしたまえ

ダブリニーに泣きつくヴィルフォール
ならば、二度と私をこの屋敷へ呼ばないでくれ
たとえ君が毒を盛られたと思ったときもね
こう言い残してダブリニーは帰った

4103うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:53:04 ID:LNssCYN6
アンドレア・カヴァルカンティはダングラール邸を訪問して、ダングラール氏に
ウジェニー嬢に対する恋心をほのめかす

はやる心を押さえながらダングラールは言う
しかし、結婚は早すぎやしませんかね
あなたのお父さんはもう帰国してしまわれたし・・・

このパリで僕が花嫁を見つけたら逃がすことのないように
身分証明やら必要な書類は全部用意しておいてくれてるんですよ

二人は持参金の話やら、アンドレアの母の遺産やら
もっぱらビジネスの話で盛り上がる

ダングラールはたずねる
それはそうと、あなたの社交界における後ろ盾であるモンテ・クリスト伯爵は、
この私どもへの申し込みにどうして一緒にいらっしゃらないのです?

僕はきょう、伯爵の家から来たのですが、あの人はいい人ですが変わってましてね
結婚の申し込みなんてことにいままで責任をとったことはないし、これからもないからというのです
まあ、公的にはなにもしたくないが、あなたが話をなされば、そのときには答えるとのことです

アンドレアは、来月はいろいろと入用なのでといって、モンテ・クリストの署名のある手形をダングラールに渡す

こんな手形ならいくらでも引き受けますよ、とダングラール

ダングラール邸をあとにしたアンドレアはカドルッスと落ち合う

カドルッスがダングラールやモルセールと知り合いだときいて驚くアンドレア
しきりに金をねだるカドルッスは、アンドレアの”金の生る木“を教えろという
アンドレアは、パリにおける庇護者のモンテ・クリスト伯爵が実は自分の父親であり、
遺言状に相続人として自分の名前を書いてくれたと言う

その伯爵はそんなに金持ちなのか?
自分の財産の総額もわからないくらい金持ちだよ
屋敷の間取りを教えろとせがむカドルッス
うすら笑いを浮かべながら、アンドレアは間取り図を書いてやる
週に2,3回オートゥイユの別荘に伯爵は行くんだけど、使用人がいなくなったら物騒で泥棒に入られますよって俺は言ってるんだけどな
『泥棒に入られたとしても、私にはなにほどのことでもない』らしいよ

アンドレアは去っていった

ベネデットの奴め、遺産を相続して悪い気はしまいて
その日を早めてやった奴は悪い友達にはなるまいよ

4104うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:54:07 ID:LNssCYN6
カドルッスとアンドレア(=ベネデット)の密談の翌日

執事のベルトゥチオがノルマンディーから戻って来た
モンテ・クリスト伯爵の指示どおり、ノルマンディーのル・トレポールに家を準備し、
伯爵所有のコルヴェット艦の入港手続きも終え、いつでも命令在り次第出航できるように整えてきたのだった

ベルトゥチオ、よくやった
フランス滞在もあと一か月以上にはならないはずだ
すみやかに出発の準備をととのえておくように
それから
パリからル・トレポールへは一夜のうちに行かねばならない
街道8カ所に代え馬を用意しておくように

すでに万事手配ずみでございます

モンテ・クリストはオートゥイユへと向かった
そこへ手紙が届く
差出人不明で、その内容は
シャンゼリゼ通りの伯爵邸に男が侵入する
その目的は化粧室の机にあると思い込んでいる書類である
警察を介入させずに解決するのがよいだろう
というものであった

モンテ・クリストはこの手紙は自分の命を狙う罠であると察知する
そしてシャンゼリゼの屋敷に残る召使たちを全員オートゥイユへ集め、邸内を無人の状態にしたうえで、モンテ・クリスト自身と唖の忠実なる召使アリはこっそりと戻った

その夜
男がひとり寝室に侵入してくる
屋敷の外には様子をうかがう男がもうひとりいる
隠し部屋から観察するモンテ・クリストは侵入者がカドルッスであると知り、おどろく

「カドルッス君、こんな夜更けに何のようだね」
とびあがるカドルッス
「ブゾニ司祭さま!」
「どうやら、いつまでたっても性根は直らぬとみえる。人殺しめ!」
「ちがいます!あの宝石商をやったのは女房でして。あっしは懲役をくらっただけで」
「では刑期を終えたのか」
「ある人に助けられたんで」
「脱獄したのか!悪質な累犯だな」
「いや、つい出来心で、食うに困って・・・お願いします、もう一度お助けを」
「本当のことを言えば、見逃してやってもよい。誰に監獄から出してもらった?」
「ウィルモア卿というお方で。いや、そのお方はベネデットというコルシカ人を助けたんですが、あっしも一緒に・・・」
「そのコルシカ人はどうなった?」
「知りません。いや、ほんとうに」
そう言いながらじりじりとカドルッスは司祭に近づいた
「嘘をつけ!今でもその男と仲間なのであろう」
「いや、あの、そのベネデットはこの屋敷のモンテ・クリスト伯爵の倅になっちまって」
「ベネデットが伯爵の息子だと?」
今度は司祭が驚く番だった(ははん、読めてきたぞ)
「で、今はその男はなんと名乗っておるのだ」
「アンドレア・カヴァルカンティ」
「ああ、あのダングラール嬢と結婚の予定だという男か!
その男に前科があるのを知ってだまってるつもりか」
「仲間の出世を邪魔する必要はありませんや」
「そうだな、知らせるのはお前ではなくこの私の役目だ」
「やめてくださいまし。わしら、おまんま食い上げになっちまう」
「ダングラール氏になにもかも説明しよう」
「くそっ」
カドルッスは短刀を伯爵の胸に突き刺した
ところが短刀は刃こぼれしてはね返ってしまった
伯爵はカドルッスの腕をひねりあげ、床へねじふせた
「どうかお慈悲を!」
司祭はカドルッスを立ち上がらせ、慈悲を与える代わりに、これから言う通りの告白書を書けという
『あなたがお邸に出入りさせ、お嬢様を嫁がせようとなさっている男は、
私とともに、ツーロンの監獄を脱獄した前科者でございます。
あの男の囚人番号は59号、私は58号でございました
奴の名はベネデット
両親には一度も会っていないため、本名は奴自身知りません』
ダングラール男爵様、銀行家、ショセ・ダンタン通り
カドルッスはしぶしぶ署名した

4105うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:54:46 ID:LNssCYN6
司祭は入って来た窓から帰れ!と言う
カドルッスが窓から降り始めると、司祭はろうそくをかざした
屋敷の外で待ち受ける男に見えるように

カドルッスは外塀にたどりつき乗り越えた
その刹那、彼の背中に向けて振り下ろされた腕
第二の攻撃は脇腹
そして三回目は胸に・・・
「助けてくれ!」
その絶叫を聞いて、アリとその主人が駆けつけた

司祭さま、た、たすけてくだせえ
モンテ・クリストはアリに指示して、ヴィルフォール検事と医者を呼びにやる
カドルッスよ、お前はもう助からぬ、刺した奴を知っているか?
ええ、知ってますとも・・・ベネデットだ
モンテ・クリストは例の秘薬を2,3滴カドルッスに飲ませる
お前の供述書を書いてやる
お前は署名するだけでよい

『私は、ツーロンの監獄での仲間、囚人番号59号、コルシカ人ベネデットにより殺害され、
死んでいくものであります』
モンテ・クリストはカドルッスにペンを持たせ、彼は最後の力をふり絞って署名し、気を失った
薬瓶をかがせると、ふたたび目を開けた

4106うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:55:25 ID:LNssCYN6
あの男は伯爵にお前を殺させようとしたのだよ
伯爵に密告したのだ
伯爵が不在だったので私が代わりにお前を待ち受けていたのだ
あいつはお前のあとをつけてきた
あっしがここを出るとき、あっしが殺されるのをあんた知ってたんだ!

私はベネデットの手に神の裁きを見たからだ

神のお裁きだと?そんな話聞きたくねえや!

神はお前に健康と力と十分な仕事、そして友達さえも与えた
だがお前は、ただ怠けて酒に溺れ、最良の友を裏切った
友を裏切ってからお前は貧困に陥った
これは神の警告だ
神が私の手を通して奇蹟をお前に与えたとき←(^^)/ ダイヤのこと
お前はそれを手にしたとたん、もう不足だった
人殺しによって財産を倍にしようとした
だから神はお前を人間の裁きの場へ引き出し、財産を取り上げた

あれは・・・女房がやったことだ!
それに、終身刑だなんて・・・

お前は死刑ではなく、終身刑となったとき、神のお慈悲に喜んだはずだ
そしてひとりの英国人により再度お前に奇蹟が行われたのだ
お前は人並みの暮らしができたはずなのだ
なのにお前は第三の罪を犯した
神も疲れた
お前を罰し給う

ベネデットは・・・奴は逃げちまう!

ベネデットも罰される

あんただって罰されるぞ!坊さんならあっしを見捨てていいわけがない!
俺は神さまなんて信じねえ!

私を刺し殺そうとしたくせによくもそんなことが言えるものだな
神は存在する
こうして私がお前のまえに立っていることがその証拠

あんたいったい何者なんだ・・・

わたしの顔をよく見るがよい

ブゾニ・・・司祭
(モンテ・クリストは司祭のかつらを取る)
おっ、あのイギリス人の・・・あんたはウィルモア卿だ!

私はブゾニでもウィルモアでもない
おまえの若い頃を思い出せ
よく見るのだ

昔あんたを知ってたような気がする・・・だが、誰だ
俺を知ってるんならなんで見殺しにする・・・

それはお前の傷が致命傷だからだよ
もしも助けられる傷ならば、そこに神の慈悲を見出しただろう
父の墓にかけてお前の命をもう一度だけ助けただろう

息も絶え絶えのカドルッスは言った
父の墓にかけて・・・だと?いったいあんたは・・・

伯爵は今まさに死のうとする男を悲しげに見つめながらその耳元でささやいた
「私は・・・私は・・・」

カドルッスは最後の力を振り絞ってその手を上にあげた
神よ、主よ、あっしをお許しくださいまし
あっしをみもとにお召くださいまし・・・
最後の吐息とともに彼はこときれた

ヴィルフォール検事と医師がやってきたとき、そこには祈りをささげるブゾニ司祭の姿があった

4107うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:56:01 ID:LNssCYN6
その後の2週間、パリではモンテ・クリスト伯爵邸に盗みに入った男の噂でもちきりだった
カドルッスの持ち物は発見されなかったチョッキ以外はすべて裁判所に押収された
モンテ・クリストはこの件について尋ねられると、事件は自分がオートゥイユ滞在中に起こったことであり、友人のブゾニ司祭から聞いた話以外はわからない、と答えた
ブゾニ司祭は伯爵の蔵書の中にある貴重本を探しに来ていたのだと

ベルトゥチオはベネデットの名前が出るたびにびくびくしていたが、もとより彼に注目する者などいない

ヴィルフォール検事は職務に忠実に捜査をしていたが、3週間たっても成果はなかった

パリ社交界はこの事件にあきはじめ、話題はダングラール嬢とアンドレア・カヴァルカンティとの結婚話に移り始めた
ウジェニー・ダングラール嬢はもとより結婚というものに興味はなく、アルベールを遠ざけるためにアンドレアを近づけただけであったので、明らかにこの結婚話には反撥し始めていた

4108うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:56:32 ID:LNssCYN6
ボーシャンとアルベールの決闘の期限が迫っていた
モンテ・クリスト伯爵がアルベールに言ったように、記事の人物を父親と結びつける者はいなかったが、アルベールの誇りが著しく傷ついたことには変わりない

ある朝、アルベールのところへボーシャンがやってきた
アルベールは挑戦的な態度で彼を迎えたが、ボーシャンは穏やかだった
ボーシャンは自分の足で確かめてきたのであった
ギリシャのヤニナへ赴き、現地で聞き込みをして、記事中の“フェルナン”はまちがいなくアルベールの父親であると確信してきたのであった
証拠となる書類とともに・・・

アルベールは打ちのめされた
ボーシャンはこの話は二人だけの秘密にすることを提案する
アルベールは証拠の書類を燃やした

心の中でなにかが崩れてしまったと嘆くアルベールに、勇気を出せとボーシャンは言う
この裏には秘められた悪意があるぞ
君はやはりダングラール嬢と結婚するのか?
なぜならこの縁談の成否と今回の問題にかかわりがあると僕は考えている

なんだって?君はダングラール氏が・・・?
いや、勘ぐるなよ、僕はただ、縁談はどうなったのか聞いただけだ

縁談はこわれたよ

そうか・・・
アルベール、気晴らしに出かけよう
そうだ!モンテ・クリスト伯爵に会いに行こう
あの人みたいに、人にうるさく質問しない人というのが慰め方の一番上手い人なんだよ

4109うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:57:07 ID:LNssCYN6
二人の青年が仲良く現れたのを見て、モンテ・クリストはうれしそうな様子だった
どうやらすべて終わったようですな
私のほうはといえば、厭な午前中を過ごしていましてな

なにをしておられるんですか?書類の整理?

カヴァルカンティ氏の書類ですよ

カヴァルカンティ?

ボーシャン、君は知らないのか?伯爵が世に出してやろうとしている青年さ
僕の代わりにダングラール嬢と結婚する男だよ

いや、誤解してもらっては困る
私は誰も世に出してなんかやらない
ましてやカヴァルカンティ氏なんて・・・

なんだって?ダングラール嬢と?
伯爵、あなたが縁談をまとめたのですか?

とんでもない
逆に私は反対しましたよ

ああ、アルベールのためにですね

ちがうよ、僕はこの縁談を壊してくれと伯爵に頼んだくらいだ

いいですか、私がこの縁談をすすめたのではない
私はあの青年のことは何も知らないんですよ
人は金持ちで名門だというけれど、噂にすぎないんでね
ダングラール氏に口がすっぱくなるほどそれは言ったのですがね
もうひとつ重大と思えることがあって・・・
あのアンドレア君の父君が10年間息子を知らなかったということですよ
幼い頃に誘拐されたのかなんなのか知りませんがね
10年間の息子の行状も不明です
でもダングラールさんは気にしないようですな
ところでアルベール君は浮かない顔をしていますね

頭痛がするんです

そんなときによく効く方法がありますよ
土地を変えるんです
私もいらいらしているところだ
一緒に行きませんか

伯爵、あなたがいらいらなさってる?

ボーシャン君、あなたも自分の家を捜索されてみればわかりますよ

ああ、そうでしたね
あのカドルッスという男は何者なんですか?

さあ、プロヴァンスのほうの出身みたいですが、ヴィルフォール検事もダングラール氏も見知っているようですよ

伯爵はアルベールをノルマンディーへの旅に誘った
ボーシャンはアルベールの事件が広がりをみせないか見張る必要があるということで
旅への参加を断った

アルベール君、君のお母さんが反対なさらなければ、だがね

伯爵、うちの母はあなたを好いていますよ
まだおわかりにならないのですか
母は自分の気持ちを大切にしてめったに人を好きになりません
でもいったん好きになったら、もう永久に変わらないんです

ああ、なるほどね
モンテ・クリストはため息をもらした

4110うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:57:39 ID:LNssCYN6
ノルマンディー地方のル・トレポールまでの旅は馬車でわずかに8時間
執事ベルトゥチオの準備は完璧である
モンテ・クリストとアルベールは海辺で釣りをし、狩をした
そんな生活も3日目のこと・・・

庭石を蹴散らす馬のひづめの音
昼寝から目覚めたアルベールは、自分の召使フロランタンの姿をみた

ボーシャン様からのお手紙をお持ちいたしました
手紙と新聞を差し出す召使
読んで目の前が真っ暗になり、倒れそうになるアルベール

モンテ・クリストはつぶやいた
かわいそうな青年だ
父の罪は孫子の代までも及ぶさだめなのか

伯爵、おもてなしありがとうございました
しかしパリへ帰らなければならなくなりました

いったい何が起こったのだね

馬を貸していただけますか
そして僕が出発したあとでこの新聞をお読みください
恥ずかしさに染まるぼくの顔を見られるのは嫌ですから

アルベールは出発した

『アンパルシアル紙上に報ぜられた、ヤニナ太守アリに仕え、ヤニナの城を敵に渡したばかりではなく、その恩義ある主をもトルコ軍に売り渡したフランス人士官は、同紙の報じた通り、当時実際にフェルナンという名前であった。しかし、その後、この士官はその洗礼名に貴族の称号ならびに領地の名を冠した。
彼は今日、モルセール伯爵を名乗り、貴族院の一員である』

ボーシャンが闇に葬った秘密はまたしても亡霊のように姿を現したのであった

4111うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:58:14 ID:LNssCYN6
アルベールはボーシャン宅へ飛び込んだ

その記事をのせた新聞は政府与党のものであるだけに事態は一層深刻だった
ボーシャンはすぐにその新聞社の支配人をたずねた

支配人は言う
モルセールの記事、あれは面白いとおもわんか?

おもしろすぎて名誉棄損になるかもしれんぞ

なるもんか
証拠は全部そろってるんだ
モルセール氏はおとなしくしているしかあるまいよ

誰がそんな詳しい情報を提供したんだ?
口火を切ったのはわが社だがその後は黙らざるをえなかったのに

向こうから飛び込んできたのさ
昨日ヤニナから来た男が、膨大な資料を持ち込んだんだ

ボーシャンはしかたなくその新聞社を出た
そして、記者として委員会を傍聴し、アルベールに報告する

その日の貴族院ではこの記事の話題でもちきりだった
ところが悲しいことに、モルセール伯爵自身はこの記事をまったく知らず、いつものように傲慢な様子で議会へ登場したのだった
一人の議員が演壇にたち、ヤニナ、フェルナン大佐という言葉を発した
モルセール伯爵は思いもかけぬ打撃に打ちのめされた
議長は調査の可否を求め、採決の結果、調査が行われることになった
モルセールは「必要な書類いっさいを提出する」と宣言した
調査委員会が開かれた
モルセールは書類を持参していた

このとき守衛が委員長に一通の手紙を渡した
委員長は開封しながら、モルセールに発言を許可した

モルセールは、アリ・パシャがトルコ帝国との交渉をする役目をモルセールに与えたという書類を持参し、アリ・パシャがモルセールに全幅の信頼を寄せていた証拠であると主張する
そして指揮権の象徴である指輪も見せた
パシャが封印に使用していた指輪であり、モルセールが後宮へ入れるように与えたものだった
モルセールによると、不幸にして交渉は失敗し、恩人の身を守るために戻ったときはすでにオアシャは死んでいたという
パシャは最愛の寵姫とその娘を自分に託すほど、自分は厚い信頼を寄せられていたのだと

委員長はモルセールの発言の間にその手紙を何度も読み返していた

モルセール伯爵、あなたはパシャが妃と娘をあなたに託したと言いましたね

はい、しかし私が戻ったときにはすでに、妃のヴァジリキと娘エデは姿を消していたのです

伯爵、そのことについて証人を出すことはできますか

残念ながらおりません

委員諸君ならびに伯爵、いま私が手にしているこの手紙には、妃とその娘のその後について証言できるという証人がいるという情報が載せられています
その証人はパシャの死に際にその場に居たとのことです
この証人をこの場へ呼ぶべきでしょうか

4112うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:58:47 ID:LNssCYN6
モルセールは顔色を変えた
委員たちは賛成!をとなえた

召使を連れた、全身をヴェールで覆った夫人が現れた
委員長の頼みに応じ、ヴェールを取ったその姿はギリシャ風の衣装をつけた美女であった

ああ、あの人だ、エデだ・・・とアルベール

モルセール氏はね、その人を恐怖のまなざしでながめていたよ

エデは自らの出生証明書と自分と母とが売られたときの証拠書類を提出した

「皇帝との恥ずべき取引に際して、戦勝の分け前として、恩人の妻と娘を譲り受け、40万フランで売ったのです」

モルセール伯爵の顔は蒼白だった

エデが提出した書類は、モンテ・クリストがトルコ皇帝御用商人からエデをエメラルドで買ったときのものであり、そこにはエデが奴隷となったいきさつが明確に記されていた
「エデはコンスタンティノープルへ到着の際死亡したその母とともに、7年前、フェルナン・モンディゴなる太守アリ・テベレンに仕えていたフランス士官により私に売却されたものである」
トルコ皇帝の玉璽まで押されている書類であった

委員長はいった
モンテ・クリスト伯爵を喚問することはできませんか

私の第二の父である伯爵はノルマンディーに滞在しております
フランスへ足を踏み入れて以来、私はいつでも父の敵をうつことを考えておりました
モンテ・クリスト伯爵は私に父親のように配慮してくださり、世間で起こる出来事はすべて知ることが出来るようにしてくださいました
ですから私は自分であの手紙を書いたのです

するとモンテ・クリスト伯爵は今回のあなたの行動にはいっさいかかわりがないと?

あの方はなにもご存知ありません

モルセール君、あなたはこのご婦人をアリ・テベレンの娘であると認めますか

いいえ!罠だ!これは私の敵によって仕組まれた罠であります!

おまえは私に見覚えがないのか!
おまえはフェルナン・モンデゴ、お父様の軍の教育に当たっていた士官だ!
ヤニナの城を敵に渡したのはお前!
母と私を奴隷商人に売ったのもお前!
人殺し!お前の額にはまだお前の主人の血の跡が残っている!

モルセールは思わず額に手をやった

お母さまはおっしゃいました
あの男をよくごらん、お前は王妃にもなれる身の上だったのに
おまえを奴隷にしたのはあの男
お父様の首を槍にさして高く掲げたのはあの男
あの男の右手をみてごらん、大きな傷があるでしょう
もしあの男の顔を忘れても、奴隷商人から金貨を一枚一枚受け取ったあの手をみれば思い出すでしょう
さあ今こそ、私に見覚えがないかどうか、言ってみるがよい!

モルセールは右手を隠した
実際に傷がついていたのであった

モルセール伯爵、さらなる調査をのぞみますか?ヤニナへ派遣しますか?

別になにも、モルセールは言った

このご婦人の弾劾を事実として認めるのですね?

モルセールは無言で議場をあとにした

諸君、モルセール伯爵を、反逆、裏切り、卑劣の行為あるものと認めますか

異議なし!異議なし!

エデはふたたび顔をヴェールで覆うと委員たちに挨拶し威厳のある足取りで出て行った

4113うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:59:20 ID:LNssCYN6
アルベールは涙にぬれた顔をあげた
ボーシャン、僕の人生はもう終わりだ
どんな奴が僕に憎悪を抱き続けているのかつきとめる
そして僕がそいつを倒すか、そいつが僕を倒すかだ

アルベール、ぼくがヤニナで調査をしていたときのことだ
ある銀行家をたずねたときに例の件をしゃべりかけたら、みなまで言わないうちに向こうが言うんだよ
ああ、どんなご用でおいでになったのかわかりました、と
どうしてですか、とたずねたら
二週間ほど前に同じことを聞かれたから、というんだよ
誰に聞かれたのかとたずねたら・・・ダングラールさんだった

あの男が!

アルベールとボーシャンはダングラール邸へ向かう
アルベールはダングラールに決闘の申し込みをする勢いである

「あなたのお父さんの名誉が汚されたからといって、それが私のせいですかね」
「恥知らず、きさまのせいだ!」
「私のせい?気が狂ったんじゃないのか?
この私がなんでギリシャのことなんか知るものか
私があんたの父親をそそのかして城を敵に売らせたり、裏切らせたりしたというのかね」
「かげで口火を切ったのはお前だ!」
「私が!」
「そうだ、あなただ、どこから秘密がもれた!」
「どこがって、ヤニナでしょうよ」
「父のことを誰がヤニナに問い合わせたんだ!あなただろう!」
「たしかに書きましたよ
娘を嫁にやるときに父親がする当然の行為でしょうよ
でもね、誓っていいますがね、私はヤニナへ手紙を書こうなどてんでおもいつかなかった
アリ・パシャの悲惨な最期など私が知るわけないでしょうが」
「誰かに言われたのか?」
「あなたのお父さんがどうやって財を成したか、今もってわからぬと言ったら、その人がどこで財を成したのかと聞くから、ギリシャだと答えた
そしたらその人が、じゃあヤニナへ手紙を書けばいいと言ったんですよ」
「それは誰なんです?」
「モンテ・クリスト伯爵ですよ」

アルベールとボーシャンは顔を見合わせた
ダングラールによると、ヤニナからの返事をモンテ・クリスト伯爵にも見せたと言う
伯爵はモルセール父がフェルナン・モンデゴという名であることも知っていると言う

ヤニナからの返事が届いた翌日、モルセールさんがモンテ・クリストさんにすすめられて、正式に娘をくれといって来たが、当然お断りした
モルセール氏の名誉・不名誉など私になんのかかわりがある?
そんなもので私の収入が増えるわけじゃない

アルベールはモンテ・クリスト伯爵邸でエデの話を聞いたときのことを思い出していた
モンテ・クリストはすべてを知っていたのだ

4114うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:59:51 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト邸へ向かうアルベールとボーシャン
だが、モンテ・クリストは不在だった

帰宅後、アルベールは母メルセデスに言った
お母さんはモンテ・クリスト伯爵が我が家で何も口にしないと言ってましたね
東洋の連中は心おきなく復讐ができるように敵の家では何も食べず、何も飲まないのですよ

モンテ・クリスト様がわたしたちの敵だというの?
あの方とは仲良くしてほしいの、アルベール

アルベールは皮肉な微笑みを浮かべた
__
その夜のオペラ座
アルベール、ボーシャン、シャトー・ルノー
3人はモンテ・クリストの桟敷席へと向かう
彼らが扉を開けたとき、モンテ・クリストの心構えはすでにととのっていた
同席していたマクシミリヤン・モレルは嫌な予感がした

わが騎士がついにゴールインということですね
ようこそ、モルセール君

我々は偽善的な社交辞令や、心にもない友情の言葉などを交わしにきたのではありません
伯爵、我々はあなたに弁明を求めにきたのです

まさかオペラ座で弁明を求められるとは思ってもみなかったな

しかし居留守を使って会いもしない相手と会おうとするなら、会えるところに行くしかないからな

私に会うのはそんなにむずかしくはありませんよ
現にあなたは昨日まで私のところにおられたはずだが?

昨日は・・・あなたがそんなに腹黒い人だとは知らなかったからですよ

それでもあなたは社交界の人士ですか
とても良識ある態度とはいえませんね
大声でわめきすぎる
ここは私の桟敷席だ
私だけが他人よりも大きな声を出す権利を持っている
帰りたまえ

ぼくはあなたをこの桟敷席から出してみせる!
アルベールは震える手で手袋をにぎりしめながら言った
伯爵はそれを見逃さなかった
(^^)/ 手袋を相手に投げつけるのは決闘の合図(^^)/

なるほど
挑戦する際にやたらと騒ぎ立てるのは君の悪い癖だ

アルベールは手袋を伯爵の顔に投げつけようとしたが、モレルがその手を押さえ、
ボーシャンとシャトー・ルノーは後ろから引き留めた
だがモンテ・クリストは座ったまま、ただ片手を伸ばし、アルベールの握りしめた指の間の
くしゃくしゃになった手袋を掴んだ

私はあなたの手袋が投げつけられたものとみなします
私はそれに弾丸をくるんでお返ししよう
さあ、ここから出て行ってください
さもないと放り出させますよ

ぞっとするような声音であった

4115うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:00:27 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルは伯爵にたずねた
いったい彼に何をしたのです?

私がかね?少なくとも個人的には何もしていない
あの青年はモルセール伯爵の件で頭に血がのぼっているんだよ

あなたはあの件とかかわりが?

議会で証人に立ったのはエデなのだ
あの娘がアリ・パシャの娘であることは事実なのだ

アルベールをどうなさるのです?

彼をどうするか、だって?
私は明日10時までに彼を倒す
それが私のすること

ああ、伯爵、彼のお父さんは彼のことをあれほど可愛がっているのです!

そんなことを私に言うな!
あいつを苦しめてやるのだ!

マクシミリヤンはあっけにとられた
そのとき扉がまた叩かれた
ボーシャンだった

こんばんは、ボーシャン君、まあお座りなさい

さきほどのアルベールの態度は良くなかった
ですから僕は自分の判断でお詫びにきたのです
でも、紳士であるあなたはヤニナの件で説明なさることを拒否なさらないと思うのですが

私は君たち新聞記者が書きたてるように、変り者なんですよ
説明?
とんでもない、ご冗談でしょう

しかし、ときには誠実さというものが・・・

ボーシャン君、
モンテ・クリスト伯爵に命令できる者はモンテ・クリスト伯爵なのだ
だから、そのようなことは一切口にしないでもらいたい
私はしたいことをする
そして私はつねに、ものの見事にやってのける

それではあとは決闘の取り決めをするだけです

あなたが介添え役を務めるあの青年に侮辱されたのは私のほうだが、
どうせ変り者の私のこと、武器の選択は任せますよ
剣だろうがピストルだろうが、なんだったら、くじによる決闘でもかまいませんよ
どのように決まろうと、これだけは変わらない
私は必ず勝つ

必ず勝つ?

そうです、私はモルセール君を倒す
そうしなければならないのです
必ずそうなります

武器はピストル、場所はヴァンセンヌの森です

結構です
あとは静かに音楽を聴かせてください
君の友人アルベール君にお伝えなさい
今夜また来るような馬鹿な真似はするなと
あんな馬鹿で粗野な真似は彼のためにならないと
帰って寝ろ、とね

ボーシャンは出て行った

4116うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:00:59 ID:LNssCYN6
伯爵はモレルに言う
君とエマニュエルに介添えを頼めるかな

もちろんですよ
でも僕が本当の原因を知ることが必要だと思うのですけれど

本当の原因かね?
あの青年自身、盲のまま歩いているのだ
真の原因など知らずに
真の理由、をれを知っているのは私と神だけだ
だが、誓って言うが、それをご存知の神は私たちの味方になってくださるだろう

4117うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:01:31 ID:LNssCYN6
その夜
モンテ・クリストは室内で射撃のできる特製の銃で射撃の練習をしていた
召使が来客を告げた
訪問者はメルセデスだった

「エドモン、私の子どもを殺さないで」
「なんという名を口にされたのです、モルセール夫人?」
「エドモン、メルセデスです」
「奥さん、メルセデスは死に、いまではそんな名前の人を私は知りません」
「メルセデスだけはあなたにお会いしたときすぐにあなただとわかりました
いえ、エドモン、お声の調子だけであなただとわかりました
私には、モルセールに加えられた攻撃が誰によるものかなどと考えてみる必要はありませんでした」
憎悪のこもった声でモンテ・クリストは言った
「フェルナン、とおっしゃいなさい
我々はいま、すべての名前を思い出そうとしているのですから」
「お願い、私の子どもの命を奪わないでください」
「フェルナンの倅が公衆の面前で私に手袋を投げつけるところだったのを見たでしょう」
「父親を襲った不幸をもたらしたのがあなただということをあの子も見抜いたのです」
「私がモルセールを叩きのめしたのではなく、神が彼を罰したのです」
「なぜあなたが神の代理をするの、エドモン、あなたになんのかかわりがあるのです
アリ・テベレンを裏切ったからといってフェルナン・モンディゴがあなたに何をしたというの」
「おっしゃるとおり、その件はフランス士官とヴァジリキの娘との間のことで、私には何のかかわりもない
私が復讐を誓ったのは、漁師フェルナン、カタロニアの娘メルセデスの夫に対してだ」
「ああ、もしあなたが誰かに復讐しないといけないのなら、その相手は私です
あなたがいなくなって、ひとりぼっちに耐えられなくなった私に対してなのです」
モンテ・クリストは叫んだ
「だが、なぜ私はいなくなったのだ?あなたがひとりぼっちになったのはなぜだ?」
「あなたが逮捕されたからですわ、エドモン、牢に入れられたからです」
「では、私はなぜ、逮捕された?牢に入れられた?」
「それは、私は存じません」

そう、あなたはご存知ない
少なくともそうあって欲しいと私は思う

モンテ・クリストはボヴィル氏の書類ばさみから手に入れた手紙をメルセデスに見せる
ダングラールが書き、フェルナンが検事へ密告したあの手紙である

この手紙がもたらした結果は?

私は逮捕された
だが、あなたが知らないのはその期間だ
14年間、あなたから1キロしか離れていないシャトー・ディフの地下牢で
毎日毎日復讐の気持ちを新たにしながら
しかし、私は知らなかった
あなたはフェルナンの妻となり、父は餓死していたとは
私は、私は復讐してみせる

あなたは、あのフェルナンがたしかにそれをしたとお思いなの?

私の魂にかけて、そうです
フランスに帰化しながら英軍に走り、スペインの生まれでありながらスペイン軍と戦い、
アリに雇われながらアリを裏切り、殺したことにくらべれば
あなたが今読んだ手紙など恋の手管のだまし討ちにすぎない
その男と結婚した妻はこれを許すべきだろう
だがしかし
その女性と結婚するはずだった恋人には赦すことはできぬ
フランス軍は謀反人に復讐しなかった
スペイン軍は反逆者を銃殺にしなかった
死んだアリは逆臣を罰せない
だが私は神の恩寵により、墓穴から出てきた
私は復讐をしてその恩に報いねばならない

エドモン、あなたを今でも愛しているこの私のために許してください
メルセデスは跪いた
モンテ・クリストは彼女を椅子に座らせる
女の哀願の前に揺れ動くモンテ・クリストは自分の憎悪をかき立てようとする

私は復讐せねばならない
14年間苦しみ、14年間涙を流し、呪い続けたのだから
メルセデス、私は復讐せねばならない

復讐なさい!
でも、あの人とこの私に復讐してください!
あの子には復讐なさらないで!
エドモン、私の心の鏡にたえず映っているあなたの高貴で清らかな面影を曇らせないで!
祈ることと涙を流す以外に、この私に何が出来たでしょう
あなたが死体とすりかわり、海に投げ込まれたとき、あなたが発したという叫び声
私は10年の間夢に見続けたのです
岩礁のうえで妙な形の何かを揺り動かしている男たちの夢・・・
ああ、信じてください
たしかに私は罪深いけれど、私だってほんとうに苦しんだのです

あなたは自分のいない間に父親に死なれたことがあるか?
自分の愛していた女性が、自分が奈落の底で喘いでいるのに、
仇に手をさしのべるのを見たことがあるか?

メルセデスは絶望的な声音で叫んだ
ありません!
でも私は、私が愛していた人が、私の子どもの殺人者になろうとしている姿を見ました・・・!

嗚咽の声が伯爵の喉を引き裂いた
獅子は手なづけられ、復讐者は敗れた

4118うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:02:02 ID:LNssCYN6
よろしい、ご子息は生きながらえるでしょう

ありがとう、エドモン、やはりあなたは私が愛し続けていたとおりのあなたでした

死者は墓穴に戻りましょう
亡霊はまた闇の中へ帰るのです

何をおっしゃるの?

あなたがそれを命ずるのだから、死なねばならぬと言っているのです

どういう意味ですの?

わたしは公衆の面前でひとりの青年に挑戦された
メルセデス、あなたの次に私が最も愛したもの、それは私自身だ
つまり、私の誇りだ
決闘は行われる
ただ、大地が吸うはずだったあなたのご子息の血が流れる代わりに、この私の血が流れることになるだけだ

あの子は死なずにすむとおっしゃいましたのね
あなたは本当に立派な方、本当に偉大なことをしてくださった
私は苦しみのために年をとりました
昔あれほどあなたが見つめていてくださったメルセデスをもうあなたに思い出させることはできない
私は色あせ、目の輝きは失せ、美しさは消え、顔かたちは昔のメルセデスではありませんけれど、
心は昔のままの心だということが、やがておわかりになるでしょう
エドモン、もう私には神様にお願いすることなどありません
昔どおりのあなたに会えたのですもの
さようなら、エドモン、そして、ありがとう


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