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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
1
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/02/26(日) 08:11:43
タイトル通り、使用武器の資料庫です
それって小銃? サイズは? 口径は? 使う弾は? 威力は? 使い勝手は?
知る限りの情報を記載してください。
注:参加者がいちいちググる手間を省くもので、必ず読まなければ本スレが読めない、というものではありません。
銃に関するエピソード、実際に撃った事ある人はその経験談を載せるのもいいでしょう。
2
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/02/26(日) 08:16:32
記載例
ワルサーPP(Walther PP)
設計:ワルサー社
製造:ワルサー社
口径:.22(5.6mm)、.32ACP(7.65mm)、.38ACP(9mm)
銃身長:99mm
使用弾薬:.22LR弾(5.6mm×15) .25ACP弾(6.35mm×16) .32ACP弾(7.65mm×17) .38ACP弾(9mm×17) 9×18mmマカロフ弾
装填数:8+1発(.32)、7+1発(.38)
作動方式:ダブルアクション、ストレートブローバック
全長:173mm、重量:660g
銃口初速:320m/s
安全装置:
手動の回転式セフティレバーを下げると、セフティレバーがファイアリング・ピンを固定、
ハンマーはシアから解放されるがハンマーブロックが下降し撃発位置までの前進を阻止され、安全装置が掛った状態になる。
セフティレバーを発射位置へ戻してもハンマーブロックは下降したままハンマーの前進を阻止しており、安全性が保たれている。
シクナルピン:
薬室に実弾が装填されると、薬莢の底部の縁にシグナルピンが当たり、ハンマーの上部に露出して、銃を握った時に親指で確認できる。
ただし、.22口径はリムファイヤー式(薬莢の底部の外周を叩いて発火させる)のため、シグナルピンとの接触で暴発の危険があり、省略されている。
スライド・ストップ:
最終弾を撃ち終わるとスライド・ストップによりスライドが後端で保持される。スライドストップを押し下げるレバーは無く、
弾倉交換後にスライドを少し後ろに引いて離せば初弾が薬室に装填されて射撃可能となる。
通常分解:トリガー・ガードを下に引き下げ、そのままスライドを最後端まで引き、上に持ち上げてから前に戻せば抜けるようになっている。
参考:ドイツ将校が好んで使用した拳銃。
(こんな感じ。参考文献はウィキペディア先生)
3
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/03/01(水) 04:17:17
コルトM1903、M1908
設計:アメリカ・コルトファイヤーアームズ
製造:コルトファイヤーアームズ、ブローニングアームズ
口径:.32口径(7.65mm、M1903).38口径(9mm、M1908)
銃身長:127mm
使用弾薬使用弾薬:.32ACP弾(M1903)
.380ACP弾(M1908
作動方式:ブローバック
全長:171mm、重量:675g
装弾数:8+1発(M1903)、7+1発(M1908)
安全装置:二つ。ハンマーがコッキングポジションにあるときのみマニュアルセフティがオンになり、
同時にグリップセフティも握りこむことができるという仕組み。
第2次世界大戦時に高級将校が好んで使用、大日本帝国陸軍でもM1910に次ぐ人気があった。
尚、水流の使用するM1903はサプレッサー機能搭載の上、サイガ式(※)に改造済
※サイガとはロシアのイズマッシュ・サイガ散弾銃のこと。
銃身が長く、タマの軌道がより精密、銃弾の弾速・破壊力も増している。
(水流氏の記載より抜粋)
4
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/03/01(水) 04:40:45
イズマッシュ・サイガ12
設計:イズマッシュ社(ロシア)
製造:イジェフスク機械製作工場
銃身長:580mm
使用弾薬:12ゲージ
装弾数:5/8発
作動方式:セミオートマチック
全長:1,145mm
重量:3.6kg
AK-47をベースに開発された散弾銃。AK-47同様、耐久性、信頼性に優れる。SVDのスコープを付けての使用も可能。
ボックスマガジンを使用しての銃弾の装填が可能なため、散弾銃のマッチレースなどでも注目を浴びている。
(日本で所持ができる散弾銃の1つであり、それには410番・20番・12GAの3種類の口径がある。
日本の法律に合うよう、ピストルグリップからライフルストックの形式に変更されているのが特徴で、
弾倉の装弾数も2発に改造されている。また、ライフルストックでは握りにくいこともあり、
所持者によってはSVDタイプのストックに改造しているものも見られる)
(参考文献:ウィキペディア)
5
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/03/01(水) 05:13:37
M249(ミニミ軽機関銃)
種類:軽機関銃
設計・製造:FN社
種別:分隊支援火器
口径:5.56mm
銃身長:465mm
ライフリング:6条/右回り
使用弾薬:5.56x45mm NATO弾
装弾数:100発・200発(M27弾帯)、30発(M16用マガジン)、100発(C-Mag)
作動方式:ガス圧利用(ロングストロークピストン式)、ロータリーボルト式、オープンボルト
全長:1,038mm
重量:6.9kg(無装填状態)、10kg(200発装填状態)
発射速度:毎分725初(ベルト給弾時)、毎分1,000初(マガジン装着時)
有効射程:1,000m(FN発表値)
肩撃ち・点標的で600m、肩撃ち・面標的、伏射・点標的共に800m(アメリカ軍の方針)
伏射・点標的で400m(オーストラリア陸軍の方針)
ミニミ(MINIMI)とは、フランス語で「小型機関銃」を意味する「MINI Mitrailleuse」を略したもの。
1982年にベルギーで設計された機関銃。現在も製造され、湾岸戦争、イラク戦争ほか多数で使用。バリエーションも多数。
弾帯のほか、小銃用のSTANAG マガジンでも給弾を行えるが、装弾不良が起こりやすいため非推奨。
冷却は空冷式で、銃身交換も容易。
射撃は連発(フルオート)のみ。
二脚(バイポッド)が標準装備。
銃弾の薬室への装填:
ベルト給弾方式の場合は引き金を引くと同時に遊底が前進、それに合わせるように装填機能により給弾が開始、
ベルトリンクから弾が1発ずつ押し出されて薬室に押し込まれ、遊底で固定されセットされた撃針が雷管を叩く。
弾倉方式の場合は遊底部分が直接弾を押し出し、薬室に装填される。
銃把(グリップ)上部に押しボタン式の安全装置が備わる。右側に押し出す(左側から押す)と安全装置がかかり、
左側に押し出す(右側から押す)と解除となる。
(参考文献:ウィキペディア)
6
:
◆GM.MgBPyvE
:2017/12/08(金) 17:31:02
ベレッタBU9 NANO(ナノ)
開発:ベレッタUSA
口径:9mm
銃身長:78mm(3インチ)
装填数:6+1発
作動様式:ダブルアクション、ストライカー、ショートリコイル
全長:143mm
重量562g
携帯性を重視した拳銃(麻生はインサイドパンツホルスターに収納)
アメリカのベレッタUSAが2011年に開発したストライカー方式のポケットピストル。用途は、セルフディフェンスやコンシールドキャリーなど。
ロープロファイルのサイトシステムの採用や、外装式の操作レバーを廃止するなど、携行時に衣類等への引っ掛かりを防ぐために、徹底的に凹凸を無くしたスナッグフリーのデザインとなっている。
作動方式はショートリコイル、閉鎖方式はティルトバレル。トリガーはダブルアクションオンリーで発射する。グロックタイプのトリガーセイフティはあるが、手動で操作できるレバーは無い。スライドストップ機能はあるが手動のリリースレバーは無いので、ホールドオープンを解除するには、直接スライドを操作する必要がある。テイクダウンレバーは無く、フレーム右側にあるネジを薬莢のリムを使って回すことで分解する。フレーム右側後部には、ストライカーをデコッキングする「ストライカー・ディアクティベーター」というボタンがあり、細いピンなどを差し込んで操作する。マガジンリリースボタンは左右で交換が可能。アイアンサイトには、視認性を高めるためのホワイトドットが入っている。レーザーマックス社のセンターファイアレーザー(トリガーガードに固定するタイプのレーザーサイト)も用意されている。
弾倉の装弾数は標準では6発だが、マガジンプレートをエクステンションパーツと交換することで、2発分増やすことができる。
インナーシャーシとポリマーフレームは分割可能で、フレーム左側にはシリアルナンバー確認用の覗き穴が設けてある。銃の購入時には、シリアルナンバーが刻まれたシャーシ側が登録費として課税対象となるので、別売りのフレームカラー(FDE、ODグリーンやピンクなど)を購入しても新たに課税されることはない。
BU9 ナノはマニュアルセイフティを備えていないので、銃規制に厳しいアメリカ・カリフォルニア州では販売することができない。
MEDIAGUN DATABASEより
7
:
◆GM.MgBPyvE
:2018/08/04(土) 11:25:03
コルト・パイソン357マグナム
設計:コルト社
製造:コルト社
口径:.357(9mm)
銃身長:102mm
使用弾薬:.357マグナム弾
装填数:6発
作動様式:ダブルアクション/シングルアクション
全長:241mm
重量1,092g
1955年にコルト社が9mm弾を発射できる高級リボルバーとして発表。
手作業での調整箇所が多く、生産しにくい構造であるため仕上げが念入りに施されている。
その為ライバル社のS&W製品と比べると高価格、リボルバーのロールス・ルイスとも。
魁人の持つパイソンは初期製品で、コルトロイヤルブルーフィニッシュと呼ばれる仕上げを施された骨董品。
彼の祖父の遺品であり、作動方式はシングルアクション。
(参考文献:ウィキペディア)
8
:
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/22(火) 05:27:27
本スレが容量オーバーとなりましたので、以下、続きを投下します
9
:
佐井 浅香
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/22(火) 05:30:03
あたしは外の様子を黙って見つめてた。
菅さんがみんなの前で両膝をつかされて、その姿勢のままマイクを向けられる様子を。
ほんとはわたしも出たかった。たったひとりで群衆に立ち向かう、菅さんの傍に居たかった。
でも二木総理が許さなかった。危険だからって。流れ弾に当たるといけないからって。
その総理が、あたしのそばに寄って来て言ったの。
「菅くんの事が好きかね?」って。
――心臓が飛び跳ねちゃったわよ! 総理ったら、こんな場所でいきなりそんな事!!
総理に遠慮したのか、あたしの両脇に居た黒服が一歩下がる。
「あああのあたしは――」
「慌てなくても、隠さなくてもいい。はたから見て良く解る。彼の力になりたいかね?」
あたしを見下ろす二木総理の優しい笑顔に、あたしも笑顔を返さずに居られなくって、素直になっちゃって。
「ええ」って答えて、そして……あら? って思ったの。
急に総理が大きく見えたから。背丈があって、肩幅もがっしりした感じで。
不思議。気持ちの大きい人は、見た目も変わるものかしら。
「嬉しいね。私も菅くんを買っているからね」
「本当に? 彼、ヴァンパイアなのに?」
「ヴァンパイアだろうが何だろうが、本質という物は変わらんよ。道を外さずには居られぬこの世界で、
彼は実に良くやっている。王道を行く政治家へと成長しつつある。思えば、人の身では難しい。皮肉な事だがね」
そう言って横を向いた総理の、その背中はとっても広くて……なぜだろう。とっても懐かしい感じ。
「二木総理、あたしもっと前から貴方を知っていた気がするの」
「……それはまあそうでしょう。貴方の物心がついた頃には、すでに政治に携わっていたからね」
言いながら、総理の眼が再び外を向いた。最前列にずらりと陣取る記者達の、菅さんに対する「質問責め」が始まったから。
10
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/25(金) 06:22:46
「菅大臣! 貴方はヴァンパイアだそうですが、それは事実ですか!?」
「一体誰に噛まれたのですか!? 貴方の身辺近くにヴァンパイアが居る、と受け止めて宜しいですか!?」
「あなた以外の閣僚、または官僚の中にヴァンパイアが居るとすれば、大変な問題ですが!?」
「今までの業績はすべて、反社会的な意図でなされたものでしょうか!?」
「自身はこれからどうなさるおつもりですか!? お答えください!」
「大臣!」
「大臣!」
ろくに返事も待たねぇで我先にと質問繰り出す記者ども。不味いな、兵どもまでそっちを気にしてやがる。
『如月だ。各自、持ち場に集中しろよな。狙撃、いるか?』
『こちら狙撃班長。伯爵を目標とする3名がジュモク上で待機中』
ジュモクは樹木だ。
議事堂ってのは前が開けっぴろげだからな、狙撃出来る建物なんかありゃしねぇのよ。
霞が関のビル(この位置だと、外務省か国土交通省か?)から狙えばいいって思うかも知んねぇが、そうも行かねぇ。
目標の位置が地面スレッスレで、しかもこの混みだろ? 植え込みも邪魔してぜんぜんだ。
だからその植え込みに自体に登っちまおうってな? 常緑の木ぃ選んで待機させたのよ。
(もちろん普段は無理だ。木によじ登る怪しい奴なんか即刻見つかっちまうからな)
『目標、見えてっか?』
『何とか。記者団が退去すれば狙撃は容易です』
『タイミングはここにヴァンプどもが結集した、その時だ。菅が本性出す前にカタつけんだぞ?』
『りょ……了解』
班長がドモったのも無理はねぇ。狙えって言われた目標は、亡き親父さんの遺志を継いだ政界のサラブレットで、
しかもあの若さで次期総理候補のメンバーのうちの一人って言われてるくれぇの実力者だもんよ。
……っと……女医とクロイツ達が玄関口の奥から外をうかがってやがる。
クロイツとSPに混じって立ってんのは……二木総理か!? なんでんなトコに!?
『ボス。閣僚はぜんぶ官邸だろ? 総理も行かなくていいのかよ』
『私もそう申し上げたのだが、ここで見届けると仰ってな。どうも覚悟を決めておられるようだ』
『覚悟だとぉ? 指示だす訳でもあるめぇし、俺らに取っちゃあ邪魔なだけだぜぇ?』
『君の口は相変わらずだな』
『どうすんだ? 弾当たったら誰が責任取んだよ?』
『もしもの時は担いででもお連れする。君は自分の仕事の事だけ考えていればいい』
沢口がこっち睨みつけてやがる。……やれやれだぜ。
『狙撃。伯爵の後ろ、建物んの奥に総理が居る』
『……何ですって!?』
『いざって時は逃がすらしいが、居たとしても容赦すんな』
『……しかし……!』
『何かあったら沢口が責任取るらしいぜ。てめぇらは目標の頭とドテッ腹に弾ぶち当てる事だけ考えな』
『……了解しました』
ったく……国家の代表サマは意地張ってねぇで下々の立場も考えろってんだ。
『第1小隊は記者の奴ら見張ってろ。サーヴァントが居ねぇとも限らねぇ』
『了解、監視を続行します』
『第3小隊、どさくさで入っちまったパンピーは退避させたか?』
『遂行中です。終わり次第持ち場に戻ります』
『各個、足元と頭ん上にも気ィつけろ? 敵は人間の形してるとは限らねぇ』
言ったとたん、兵どもが慌てて上と下をキョロ見し出した。
ネズミとコウモリが居るかもって意味だったんだが……こりゃ下手に言わねぇ方が良かったかもな。
11
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/25(金) 06:23:32
おっと、大人しく膝ついてた伯爵が男の手ぇ振り払って無理やり立ちやがった。
ごっついクロイツどもが頑張ってるがどうにも抑え込めてねぇ。
だから言ったんだ。あんなワッパ、その気になりゃあ効きっこねぇって。
こりゃ囮に〜なんて悠長な事言ってらんねぇな。
案の定、ゆっくり瞬きした伯爵の眼が金ピカに変わってやがる。
そん時だ。騒ぎがぴったり収まっちまった。
見りゃあみんながみんな、一斉に硬直してやがる。
軽い眼力(がんりき)って奴だ。伯爵クラスなら、この人数相手にすんのもワケねぇはずだ。
ただ佐伯のそれと違ってぜんぜん浅ぇ。心にビンビン来ねぇもんよ。んなしょぼい眼力、脅威でも何でもねぇ。
『……みんな落ち着いとけよ。息を吐け。ゆっくり……そうだ。深呼吸だ』
……軽い操舵ならこんな軽いアドバイスで十分だ。ほらよ、空気がちょっとは緩んでらぁ。
俺ぁ左耳のキー押しながら、自慢の眼ぇ凝らして奴を見たぜ。
『狙撃、出番だ。俺の合図で撃て』
タイミングは奴の眼が金から赤に変わる瞬間(とき)だ。
狙撃はスコープで胸と眉間狙ってかから眼の色なんか確認してられねぇ、俺がGOサイン送ってやんねぇとな。
だがよ?
奴の眼が黒に戻ったんだ。犬っころみてぇな真っ黒い眼にな。
俺ぁその眼に吸い込まれたぜ。……なんて、なんてぇ顔してやがんだ……
悔しがるって顔じゃねぇ、怒ってもいねぇ、泣いてもいねぇ、奴はただ笑ってたのよ。
桜子の屋敷で見た、あの企み顔じゃねぇ。まるで懺悔の時の神父みてぇなジアイに満ちた顔っつーか?
人類を脅かす敵にゃあとても見えねぇ、むしろ救世主みてぇな面なんだ。
俺ぁその姿にイエス・キリスト重ねちまったのよ。
……らしくねぇって?
仕方ねぇだろ。クリスチャンの司令のせいで、俺ん頭の中にも「ありがたい説教」が棲みついてんのよ。
ゴルゴダの丘で十字架にかけられたあのキリストは、ユダっつー弟子にリークされたせいでパクられたんだってな。
死ぬほどひでぇ拷問受けて、とうとう磔にされちまって、それでもキリストは、「許せ」っつったんだ。
自分自身の事じゃねぇ。自分を裏切ったり傷つけたりしたすべての人間を許してくれって神サマに頼んだのさ。
伯爵も同じだ。片腕だと信じてた司令に裏切られて取っ捕まって、なのにあんな……「君達を許す」って顔……
……いけねぇ。俺もどうかしてるぜ。
これぁ奴の手だ。政治家でしかもヴァンプ、人たらしこむワザに長けてるだけだ。この手で人様を味方につけて来たに違いねぇ。
12
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/26(土) 06:43:08
「皆様、どうかお静かに願います。質問にお答えしましょう」
左手首を掴む右の手に力を込め、両の足を肩幅大に開いて姿勢を正す。
一度閉じた目の奥に強く力を籠めつつ……ゆっくりと瞼を上げる。
眼に入ったのは、黄金一色に染まる景色。
そう。これが答えだ。一番最初に受けた、「貴方は本当にヴァンパイアなのか?」っていう質問のね。
凍り付く空気。一心にこの眼を見つめる……瞬きという行為自体を忘れてしまったかの人間たち。
避難勧告が出たんだろう、議事堂周囲を取り囲むいつもの喧騒――行き交う人の会話や靴音、車の走行音の類は一切しない。
その中で、歩行者用の信号だけがはるか遠くで囀(さえず)っている。
ゴクリ……とそばに立つ記者が喉を鳴らす。兵が手にするライフルがカタカタと震えだす。
わたしは力を抜いて、虹彩を人間のそれに戻した。
今のはただ質問に答える為にこうしただけで、「威嚇」じゃない。過剰に刺激したりして、ハチの巣にされるのは御免だからね。
「信じて下さい。わたくしは決してあなた方の敵ではありません」
父から学んだ発声法と会話術。
決して急がず、低くボリュームのある声質かつ出来得る限りの親しみと誠意を籠めて。
順繰りに相手と目線を合わせる事も忘れずに。……まずは……皆の心を捕えなければ。
「次の質問はあれでしたね、わたしをヴァンパイアに変えたのは誰か」
記者達が一斉に頷く。その素振りに少なくとも敵意はない。いい傾向だ。
「答えは『Not anyone』。誰でもない、わたくしは生まれながらのヴァンパイア、いわゆる真祖と呼ばれる者です。
つまりわたくしの周囲にヴァンパイアは居ない。少なくとも閣僚には」
ペンを走らせる記者たち。
戦闘員らはじっと様子をうかがったまま。広場中央、黄金色の馬に乗る如月だけが、こちらとその周囲に眼を光らせている。
おそらくは沢口が大まかな指示を彼に送り、兵の指揮を任せているのだろう。
13
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/26(土) 06:46:43
「では今までの公務についてはいかがですか?」
「と仰いますと?」
「被災地の訪問、法案作成とその決議、その他すべての公務を執行する上で……その……」
「貴方がた人間の不利になるよう画策しなかったか? と?」
「そうです、特にあの吸血鬼被害対策法などは如何ですか?」
わたしは正直に答えたよ。ヤマしい事なんかほんとにありゃしないんだ。
「わたくしは誠心誠意、国の為に尽くしてきましたよ。いやむしろ、政治家としては綺麗なくらいだ。
真祖であるわたくしはほぼ不眠不休で仕事が出来、日々の食糧を必要とせず、身体も汚れを気にする必要もなく、
故に着の身着のまま数日間外を出歩く事が可能です。不老不死であるから、暴力を以て近づく輩の脅しに屈する必要もない。
政治家としてこれ以上の適材はないのではないかとすら思える。
吸対法? もちろんあれは世の為人の為に作った法律ですよ。
ヴァンパイアに対する扱い、弱点、有事の際の支援機関からハンター協会の細かな運営規定に至るまで、記載は正確です。
いまこの場に設置された対策本部も、詰めている自衛隊もSATも、すべて吸対法に基づくものです。
わたくしは決してあなた方に取って、不利となる仕事はしていないと断言いたします」
「ではご自身の進退については如何ですか!? 辞職の意思はありますか!?」
「とんでもない。辞職するつもりなどありません」
「ヴァンパイアに議員、まして大臣になる権利などないのでは!?」
焚かれるフラッシュ。流石にこれには辟易する。
「それについては面白い説を耳にしました。我々ヴァンパイアが――あなた方と全く同じ、人間だと言うのです」
水を打つ会見の場。しかしすぐに騒ぎとなった。
一部のアナウンサーなど、自局のカメラ向き直り、「ヴァンパイアが人間とはいったい!?」などとまくし立てている。
沢口が「何を言い出すんだ」って顔をしてる。
彼は事前に指示したのさ。記者には「潔く辞職し投降する」と言うように。その上で仲間達に命じろ、「即刻この場に集結しろ」と。
わたしが画面に大写しになっている姿を見て、各地のヴァンパイアはどう思うか。助けなければと思い焦るだろうか。
否だ。捕まった者は仕方ない、次の伯爵は誰にしようなどと考えるだけだ。
だが……「命令」となると話は違ってくる。ヴァンパイアに取って「上」の存在は絶対。その命令には本能的に逆らえない。
だから「命じろ」と彼は言った。
そうすれば仲間に危害は加えない。特別会計から衣食住と身の安全を保障する設備の費用を出すからと。
……冗談じゃない。この場の空気、「殺す気」満々じゃないか。これだけの人員に持たせた銀弾……余計な予算つぎ込んだものだ。
14
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/26(土) 06:47:10
「大臣! その説に根拠はあるのですか!?」
「無論あります。一度噛まれた人間がワクチンにより治癒した事例を3例聞いています」
「ワクチン!? ヴァンパイアは何らかの病原体による感染症だという事ですか!?」
「その通り。ヴァンパイアは狂犬病と良く似たウイルスによる伝染病であり、我々はただの伝染病患者、つまりは人間です」
「それを証明するものはあるのですか!?」
「今この場にはありませんが、じきわたくしの秘書が持参するでしょう」
いちいち大げさに反応する記者達が面白いね。
沢口が凄い顔してこっち見てるよ。悪かったね、君の言うとおりにしなくてさ。
『菅さん……これ以上余計な事を言ったら……解ってますよね?』
耳打ちしながらチラッと彼が昇降口の内側に視線を送る。
……そう、彼は万一の為に人質を用意したのさ。逆らえば浅香を殺すってね。
微かな悲鳴と、空を裂く発砲音。
記者達に見える位置ではない、サイレンサー付きの銃声は彼らには聞こえない。
沢口が勝ち誇った顔をする。
『今彼女の腕を撃ち抜いた。次は足だ』
眼の奥が熱い。手足の枷が焼ける。だがまだだ。今はまだ「その時」じゃない。
『命じて下さい。ヴァンプ達に……ここに来いと』
『沢口、君は大きな勘違いをしてるよ』
『……え?』
『彼女は確かに大事な人だ。心底そう思っているからこそ、血も吸わなかった。けどね? わたしは「伯爵」なんだよ。
同胞たちを導き、守る義務がある。彼女の命など、同胞と天秤にかけるに値するものか』
沢口が歯噛みする。……いい顔だ。
『さて……このわたしを殺せるかい? 出来ないだろ? 世にも残酷なショーを……子供達に見せるのかい?』
『黙れ! ピンチなのは貴方の方だ。自由も利かず、たった一人で何が出来る!?』
『出来るさ。わたしなりの戦い方でね』
さらに一歩、前に出る。大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
「先ほど、我々は人間であると申し上げましたが、人間に取って脅威である事には違いありません。
そこで提案があります。
わたしはヴァンパイアと人間が手と手を取り合い、豊かな社会を構築する共同体と成り得ると考えています。
この国は法治国家です。ですからその為の第一歩、施行済みの吸対法を廃棄とし、新たなる法案を提出したい」
遠くの歩行者信号が鳴り止んだ。陽が沈むまで――あと2時間。
15
:
佐井 浅香
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/27(日) 06:04:06
黒服があたしに銃を向けたとこまでは覚えてる。
いきなり誰かに突き飛ばされて、プシュッと音がして、身体を起こして見てみれば総理がうずくまって腕を押さえてるじゃない。
あたしに向けた銃を構えたままの男が、あたしと総理とを交互に見てる。
咄嗟に総理に駆け寄ったわ。銃を向けるそいつを押しのけてね。
撃たれたのは右上腕の付け根に近い場所。貫通してない、つまり盲管(盲管銃創)。
ラッキーだったわ。
何がって、あたしが医者で、一応の処置道具を持って歩いてたこと。
止血帯やハサミはもちろん、血管縫合用の糸も針もあるわ、こんな傷お茶の子さいさい。
――んもう! こいつら、総理がこんなだってのに何で黙って見てんのよ!
って思って口を開いたあたしの口元に総理が人差し指を当てて、首を横に振って外の方をチラッと見るの。
ここは丁度外からは死角。沢口も菅さんも、たぶん総理が撃たれたなんて思って無い。
撃たれたのは佐井浅香、つまりあたしだって思ってる。
そう、あたしが撃たれた事にしときたいのね?
でも……それって……菅さんの為? 沢口の為? 単純に……あたしの為?
考えながら手だけは動かす。こう見えてもあたし、外科専門の闇医者よ。銃創の処置なんか眼を瞑っても出来るわ。
ただ……良く言われるのよね? あたしの処置は乱暴だって。麻酔も滅多にしてくれないって。
ほんと、何言ってんの? って思っちゃう。
いい? 処置はスピードが命なのよ? 乱暴なんじゃなくて、手早いだけ!
麻酔もね? 痛覚断ち切っちゃったらどの神経切れてんのか繋がってんのか解らなくなっちゃうじゃない。
大丈夫。こうやって抑え込めば、大抵の患者は動けない。
幸い苦情は出てないわ。先生のお尻最高! な〜んて喜ぶ人も居るくらい。
総理もね? ギュッと眼を閉じて、左腕の袖を口に咥えて恍惚としちゃって。
(え? 違う? たぶん唸りたいのを堪えてるだけって?)
と・に・か・く
暴れないでくれるのは助かるわ。血管傷つけちゃったら後がたいへんだもの。
……やん……もう……ちょっと……――
コロン、と鉛玉を絨毯に放る。黒服達の眼がそれに集中する。
総理の身体がビクッと跳ねる。
そうなの。縫合する時が一番痛かったりするのよね。
16
:
佐井 浅香
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/27(日) 06:52:24
『腕がいいね、もうほとんど痛みは無いよ』
『あたしが処置したもの、当然よ。でも無理して動かさないで? 油断したら開いちゃう』
『……こんな風に巻かれたらそうしたくとも出来ないが……ありがとう先生。本当に』
『お礼言いたいのはこちらの方よ。でも。でもどうしてあたしを?』
『綺麗な娘さんを助けるのに、理由が要るのかね?』
昇降口からさらに奥へと移動したあたし達。
お互いに顔を耳元に顔近付けて、これ以上ないってくらいの小声で。
流石に外には漏れないだろうけど、でもヴァンパイアは耳がいいから、念のため。
最初は黙って見てた黒服たちも、いろいろと手伝ってくれた。水とか着替え、持ってきてくれたり?
玄関の外から菅さんの声がしてる。あたしが提唱(?)した、「ヴァンパイア=人間」的な事以外は、何言ってんの? って感じ。
そうよあたし、法律用語ってのも苦手なのよねぇ……
そんなあたしと違って、二木総理には菅さんの言ってる事が理解できるみたい。(って当たり前よね!)
熱心に耳を傾けて、うんうんって頷いてる。その顔は何だか……そっか、な〜んか解っちゃった。
「総理も菅さんの事、大好きなんですか?」
「……うんっ!?」
あらら、もし総理がお餅か何か頬張ってたら、喉に詰まらせてたところね。
「突拍子もないことを言うね」
「だってほんとは……あたしを助けたの、菅さんの為だったんでしょ?」
「……そんな事はない。と言いたいところだが、確かにそれもある。私は2度と戦(いくさ)を見たくないからね」
「あはっ! まるで大戦以前の人の物言いね!」
「……ここだけの話、私は年齢を詐称しているのだ。今年で102になる」
「え……?」
「信じるか信じないかは貴方次第だがね?」
そう言ってまた外に耳を傾けた総理の顔は、とても冗談に見えなかった。
「これからどうするつもりですか? 菅さんも何がしたいのか全然わからない」
「菅くんはヴァンパイアと人類の共存を望んでいるのだよ。法律を以て事態を解決しようとしている」
「法律が解決できるの?」
「日本人は法を遵守する意識が高いからね。流石は菅くんだ。政治家の……王道だよ」
「不思議。総理にはヴァンパイアに対する偏見がまるで無いみたい」
「そう見えるならそうなのだろう。現に私の父はそのヴァンパイアなのだから」
17
:
佐井 浅香
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/27(日) 07:40:41
「信じるか信じないかは……貴方次第だがね?」
またまたそう言って、パチンと上手にウインクして見せた総理の顔は、どう見ても……60代。
……ホントかしら。でもわざわざ私に嘘をつく理由なんかないんじゃない?
だから少し突っ込んでみたの。お父さんってどんな人なの? って。
そしたら総理、遠い眼をして言ったわ。
「父はまるでそうとは見えない……人としても大成を極めた方でね」
「大成とはまた大きく出たわね。いったいどんな?」
「やはり『美』に対する執着だろうか。鳥肌が立つほどの執念だ。いつも問われたものだよ、『真なる美とは何か』をね」
「……なんだか、とっても深〜いお話ねぇ……」
「彼は1000の古壺を並べ、そこからたったひとつの『本物』を見分ける眼を持っている。無論、それは壺に限らない。
才能ある人材を探し、集め、派遣会社を作ったのだから。……昔から世の動きに敏い方だったらしい」
「…………」
適当に相槌を打つあたしの顔から、彼は一時も眼を離さない。
そしてその『お父さん』の話はどんどん……あたしにも思い当たる内容になってきて……どんどん……繋がって来て……
だって……お父さんが神戸支部の代表だったなんて言うんだもの!
「総理、そのお父さんって……もしかして500年近く生きてるとか?」
総理はあたしの顔を見たまま答えない。
「もしかして……田中、とか名乗ってない? 田中……与四郎って」
総理はやっぱり答えない。でもそれが答えよね。どうしよう、あたし、眼の前がぼやけちゃって良く見えない。
「菅さんに聞いたの。田中さんはあたしの祖父だって。お祖母ちゃんは言ってたわ。あたしのお父さんとお母さんは死んだって。
でもそれ……嘘だった? ほんとはお父さんは生きていて……そしていつかこうして――」
そっと抱きしめられた。
やっと解った。さっき懐かしいって、逢った事あるかもって思ったのは、その背中が田中さんに良く似ていたからだって。
18
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/01/30(水) 06:16:28
『悪ぃ、狙撃班は次の合図まで待機だ』
……やってくれるぜ。伯爵の奴ぁ武装してやがったんだ。理論って名前の武装をよ。
記者どもとあーだこーだ質疑応答しやがって、挙句の果てにゃあヴァンプが人間だなんて抜かしやがった。
冗談じゃねぇ。俺ら協会の存在意義を真っ向から否定する気かよ。
ワクチンの成功例ってのは俺たちの事だ。女医が教えやがったんだ。
その女医がまるで……恋人でも見る眼で伯爵のこと見てやがる。名実ともにあっち側ってわけだ。
横には総理とSP、クロイツが何人か。
そん時だ。
沢口がけっこうな剣幕で伯爵に詰め寄ったと思ったら、奥の奴等にそれとなく目配せしたのさ。
ピンと来たぜ。
敵位置の女医を生かして、あんなとこに置いといたのは、人質にする為だってな。
今のはたぶん、撃てって合図だ。殺しちまったら人質になんねぇから、彼女の腕か足かを狙った筈だ。
だが……SPの様子が変なんだぜ。
『結弦、どこに居る?』
『正門の外で待機中だよ』
『ちょうどいい。そのまんま西に回って会館に行け』
『会館って衆議院議員会館のこと?』
『そうだ。そっから地下経由で昇降口付近の総理達と合流しろ』
『了解。走りながら聞くけど、何があった?』
『沢口が女医を撃たせたみてぇなんだが、総理付きSPの慌てぶりが尋常じゃねぇ。ややもすりゃあ――』
『総理に当たったかもってこと?』
『女医は伯爵の言いなりだ。あべこべに総理を楯にしたかも知んねぇからな』
『了解。何かあったら連絡する』
今の会話が無線らしくねぇって奴が居るかもだから言っとくが、ハンター同士の無線は双方向通信可能のインカムだ。
電話みてぇな同時通話も出来りゃあ話途中の突っ込みも出来る。
とうぜん隊員らは無反応だ。聞こえてねぇからな。
つまり俺は沢口、各隊員、狙撃班、結弦、合計4つの回線使い分けてるわけ。……誤送には注意しねぇとな。
……おい。伯爵が堂々と胸張って前に出たぜ? 沢口は沢口で押され気味だ。これじゃどっちが主導なんだか。
な〜にが豊かな社会だ、提案だ。薄汚ねぇヴァンプのくせに平和主義気取りやがって。
……ほんと大丈夫か? 記者団うんうん頷いてっぞ? 女記者なんか見ろよ、トロンとしちまって。
おいおい! お前らまで……!?
19
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/02/02(土) 06:00:27
伯爵の「提案」ってのが、これまた気味が悪いぐれぇに記者らの興味を煽るわけだ。
「大臣! その法案は如何なる内容ですか!?」
「我々の社会的な位置づけについて定めるものです。我々はウイルス疾患を患った一患者に過ぎず、工夫次第で社会的適応が可能だ」
「その工夫とは一体どういったものでしょうか」
「まずはこのブレスレットです」
「その銀の……手錠のことですか?」
「あはは……確かに『枷』と呼んでも差し支えないでしょう。身に付ければヴァンパイアとしての力と能力を失うのだから。
この装着を法律的に義務付けるのです。そうすればもはやヴァンパイアは脅威ではなく、人の助けとなる存在です。
とくに夜間の災害時は頼もしい戦力となる」
ゾッとしたぜ。奴等が堂々俺らに混じって会社だの現場だので仕事するってのか?
だから頷いてんじゃねぇよ! いくら首輪が頑丈だからってよ、ライオンと一緒に仕事出来んのか!?
いつ壊れるか知れねぇ枷に頼んのかてめぇらは!?
……って俺、なんで奴の話なんか真に受けてんだ? 俺までペースにハマってどうすんよ。
『ボス。これ以上しゃべらせねぇ方がいい。みんな乗せられちまう』
『……解っている』
『なんなら今すぐ殺っちまうか? 国民の皆様が伯爵の信者になっちまう前によ?』
『待て。伯爵が暴力的手段に訴えぬ以上、こちらから攻撃は出来ない』
『んな事言ってる場合かよ。俺ぁごめんだぜ、ここが死体の山になんのはよ』
『しかし伯爵の話は筋が通っている。いま彼を撃てば、我々が国民にバッシングを受ける事になる』
『言い訳はいくらでも出来らぁ。見ろよ兵達の顔をよ。テレビの向こうの奴等もたぶんおんなじ顔してるぜ』
『……駄目だ。まだ許可は出せない』
沢口が手で記者達の発言止めやがった。しぃんとする会見の場。息つめて伯爵見つめる記者に兵隊。
……どうする気だ?
「私からの質問、宜しいですか?」
「どうぞ」
「大臣は、民主主義という日本の政治形態をまるで無視しておられる」
「仰る意味がわかりませんが?」
「現法律を廃止するにはそれなりの理由と根拠が要り、更に国会の承認が必要だ。違いますか?」
「……もちろん違いませんよ。わたしがそれを無視したと?」
「まるで廃止したかのように話を先に進めるその姿勢に問題があると申し上げています」
なるほど沢口の奴、伯爵とおんなじ土俵でやり合う気だぜ。
話の中身は良くわかんねぇが、今のが反撃開始らしい。伯爵から余裕の笑みが消えたからな。
20
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/02/03(日) 09:27:32
……ため息が出たよ。
大学のキャンバスで、先輩後輩として議論を交わす仲だったわたしには良く解るのさ。
沢口の言葉は明らかな難癖で、そして彼自身そのことを知った上で喧嘩を売ってるってね。
売られた喧嘩は買えば、ここは会見という名の法廷になる。
被告に原告、役者は揃ってる。
判事?
居るだろ。これを見ている人間すべてが審判(ジャッジ)さ。
沢口を見ていた記者達がこちらに視線を移す。
フリーのライター風――黒い帽子を目深に被った男だけがこちらに視線を合わせない。
傾きかけた陽(ひ)が、群衆の――ひとり、ひとりの影を長く伸ばし始める。
ざわめく植木。葉の落ちない木もいくつか。
その一点がキラリと光るのは……おそらく狙撃手。あそこと……あそこにも。
彼らが撃つタイミングは国民のジャッジとは無関係だ。沢口に勝とうが負けようが関係ない。
わたしは依然、薄い氷の上に立っている。
視界が揺れる。気を許せば倒れてしまいそうな心もとない足元。手首が熱い。胸の中から……刺し込まれるあの痛み。
残された時間はあと僅か。
いっそのこと、今この場で楽になってしまおうか。彼らにトリガーを引かせるのは簡単だ。
でも……まだだ。
10年前のあの夜がわたしを変えた。
血に染まるこの手を取って、力強く握りしめてくれた田中さんの手。
駆け寄ってきた同胞達の歓喜と期待に満ちた眼差し。
守ってみせるよ。闇の中、人目を避けて生きるしかない同胞を守ってみせる。
この日本で、我々が堂々とやっていく手段、それは法的権利の確立しかないんだ。
「いいでしょう。この姿勢が問題だと仰るなら、現在施行済みの吸対法を廃止すべきという、その根拠を提示します」
馬上の如月がこっちを見てる。まるで御預け喰らった犬の顔してね。
君はさっさと撃つべきだった。国民がわたしの話を聞きたがる、その前にさ。
もし沢口がわたしに負けたら覚悟しといてよ?
最初の犠牲は如月魁人――君になる。
21
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/02/09(土) 07:14:42
「是非お聞きしたいですね。ご自分が作成した法を否定する理由を」
沢口の、マイク無しでもはっきりと聞き取れる張りのある声音。外さぬ視線。
……君のたいした奴だ。
その言動ひとつで日本の運命が決まる。ひとつ間違えば戦場になるだろうこの局面だってのに。
「では逆にお聞きします。吸対法における『ヴァンパイア』とは何ですか?」
「……流石に関連法規は頭に叩きこんでありますよ」
「では仰ってみてください」
「吸対法第2条第2項、吸血鬼(ヴァンパイア)とは、主に人の血液を摂取し栄養源とする、人型の非独立栄養生物をいう」
「excellent(素晴らしい)! 一字一句間違いない!」
「……茶化さないで頂きたい。この短い一文が何だと言んです?」
「おや? この文言に疑問が無いと仰る?」
「疑問も何も……全くその通りじゃありませんか。ヴァンパイアは人の血を吸う化け物だと」
「そうです。法律上、ヴァンパイアはただその曖昧な一文によって定義されているに過ぎない」
「曖昧ですって?」
「おや? 気付きませんか? 現ハンター協会の元帥ともあろう御方が、字面を追う事しか出来ない?」
ジリジリと頬を焼いていた陽の光が翳る。
……ヒンヤリした空気に混じるのは……微かな「夜」の気配。
「御教示……願えませんか? 当の貴方が御作りになった……その定義の曖昧さについて」
「当時のわたしは大変に勉強不足だったと反省する次第です。生物学的な根拠について全く触れずに済ませてしまった」
「必要でしょうか? 生物学的な根拠など」
「それは必要でしょう。この定義はヘマトフィリア(血液嗜好症)の人間にもそっくり当てはまる」
「ヘマトフィリアの人達は無理やりに人を襲って血を吸ったりはしませんがね」
「どうでしょう。欲しいものを力づくで手に入れるのは、ヴァンパイアだけでは無いのでは?」
「もちろん、暴力を以て欲求の手段とする人間も居るでしょう。しかし彼らは法の下に裁かれ、その行動を規制されます」
「その通りです。我々ヴァンパイアも彼らと同様に裁かれる権利がある。問答無用でこの命を奪う権利は貴方がたに無い」
大型の蝶のような生き物が眼の前をパタパタと横切った。
蝙蝠だ。学校の体育館の裏で良く見かける種だ。彼らの活動時間は我々のそれに近い。
「無い? 御冗談を。問答無用で我々人間の命を奪ってきたのは貴方がたヴァンパイアだ」
「確かに我々には、人を襲いたいという……如何ともし難い衝動がある。しかしそれはこの枷で抑制可能だ」
「人の作った抑制装置などいつか簡単に外れるものです。想定外の事態が起こってからでは遅い」
「我々を原子炉か何かと勘違いなさっていませんか?」
「ある意味、それより質が悪い。貴方がたには人並み、いや時にそれ以上の知能がありますからね」
「知能の有無が問題ならば、アインシュタインやダビンチは危険な駆除対象者、という事になりますが?」
「無関係な人達を引き合いに出すのは止めて頂きたい。彼らは人を襲う凶暴性を持ち合わせていない」
「ですから、我々もこの枷で凶暴性を抑制出来ると言っています」
「……いい加減話を最初に戻しましょう。吸対法を廃止できる根拠は何ですか?」
「簡単です。吸対法自体が日本国憲法に違反しているからです」
「……憲法……違反ですって……!?」
「先ほど申し上げた通り、我々は単なる伝染性疾患を患った人間だ。我々は歴とした日本の国民だという事です。
憲法第14条、すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的
又は社会的関係において、差別されない。同法第18条、何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。
わたくしは吸対法廃止理由を掲げると同時に、この奴隷的拘束を直ちに解くこと、そして本部の速やかなる撤収撤退を要求します」
22
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/02/19(火) 06:06:26
記者団から驚嘆の籠るどよめきの声。顔を見合わせる隊員達。
ギリっと唇を噛んだ沢口が口を開く。
「待って下さい。仮に貴方が人間であればなおさら拘束は解けません。刑法第198条の殺人罪、又は204条の傷害罪が成立します」
さっきと同じどよめきが今度は沢口に向けられる。
まあ……そうだね。そこに気付かなかったら沢口じゃない。
思い出すなあ……。
大学のゼミでさ、沢口が被告の代理人、わたしが原告側の代理人役で演習したことがあったんだけど。
……いやいや、夜が更けても終わらなくてさ。呆れかえった教授にストップかけられた事思いだすよ。
言われたっけ。君達は政治家志望を考え直した方が良くないかって。検事や弁護士に向いてるんじゃないかってね。
実を言えばその気になりかけたんだ。でもそんなわたしを引きとめたのが沢口なのさ。どっちが先に出世するか勝負だ、なんてね。
彼の言うとおり。人であればそれなりの義務も責任も負わなきゃならない。人を殺せば殺人罪、傷つければ障害罪だ。
けどさ……ヴァンパイアって生き物は……哀しいかな、人間を殺さずに生きていくことは出来ないんだよ?
病院で見かけるパック詰めの保存食じゃダメなのさ。
ほんと、あれで事が済むんだったらね? 話の持って行き方が大分違ったんだけどね?
「そこなんですよ。だからこそ、我々を人間だと認めた上での新しい法案――ヴァンパイアの人権擁護法が必要なんです」
「それがさきほど仰った、新法案というわけですか?」
「そうです。ヴァンパイアの行動を制限すると同時に、栄養の摂取手段……つまり新鮮な血液を得る行為を合法とする」
「御冗談を。貴方方の吸血行為を法的に認めろと?」
「ご存知ですか? 世の中には進んで自分の喉を差し出す人間も少なからず居ることを」
記者団の……それぞれの眉間にしわが寄る。
……そうさ。ここからさ。非常にデリケートな交渉が必要になるのはね。
23
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2019/02/19(火) 06:07:22
「この場におられる、いやこの映像をご覧になっているすべての方々は思われるだろう。吸血行為はおぞましい行為だと。
だがこれだけはどうしようも無いのです。我々は生きた動物の血液しか受け付けないのですから!
血液バンクを当てに出来ればどんなに良かったか!
無論、制約はそれだけではありません。
我々は十字架や大蒜、流水などを嫌います。特に日光は大敵だ。大多数は夜に限定された生活を送らざるを得ない。
これは我々の責任でしょうか? 罪でしょうか?
我々は忌み嫌われ、虐げられてきた存在です。正体を暴かれればハンターに追われ、問答無用で駆除される。
1000を超すと言われた我らの数は今や数を減らし、現在はそのコロニーも神戸、新宿を含めて数えるほどだ。
知恵を絞り、人の世に紛れ、かろうじて生き延びてきた仲間を……真祖であるわたくしがどうして見捨てる事が出来ようか?
幸いわたくしは政治に携わる家の長男に生まれました。恵まれた環境と支持する方々が現在の職に就く事を許してくれました。
わたくしがやるべき事はあなた方人間と喧嘩をする事ではない、我らの正当なる権利を訴える事です。我らの居場所を作る事です。
ですからもう一度言います。ヴァンパイアは人間です。多くの障害を抱えますが、その一方で身体能力は人のそれを上回ります。
いいですか? 我々は人類の寄生虫ではない。相利共生(互いに利益を得られる共生関係のこと)が可能な存在なのですよ?
我々を問答無用に淘汰する現在の法体制は……非常に時代遅れで不条理だと言わざるを得ません」
沢口が何事か言おうとして……だが。あともうひと押しか?
「貴方方は覚えているでしょう。40年前、長崎の……とある島で起こった痛ましい事件のことを。
丘の上に立つ教会で、ヴァンパイアも人も、神のもとに平等だと説いた神父が居ました。
彼を慕っていた島民はとうぜんの如く彼の言葉に感銘を受け、支持したと聞きます。しかしその神父がどうなったか?
殺されました。200を超える島民ごとね。皆が皆、喉に傷を負っていた。だからヴァンパイアの仕業だと報道された。
しかし事実は違います。全国に向け、ヴァンパイアの権利を訴え始めた島民の……その影響を危惧した政府が動いたんです。
まるでヴァンパイアの仕業のように見せかけ、闇から闇へ葬ったのですよ!」
肌を刺していた紫外線が……温かな赤い光に取って替わる。こんなにも鮮やかに染まる空を……かつて見ただろうか。
その色を映し出す群衆の眼が赤い。
「ただ一人、まだ幼い少年だけが生き残った。彼は今でも悩んでいる。ヴァンパイアか、人間か……誰を恨んでいいのかと。
当時の内閣を責めるのは簡単です。しかしそうではない。誰が悪いわけでもない、強いて言えば……我々の存在を許した神か。
もう……止めにしましょう。争いはどちらに取ってもマイナスにしかなりません」
空を仰ぐ。一面に染まる血色の空の向こう……遠ざかる3羽のハト。
「もしこの法案が可決されれば、日本はアメリアやロシア、EU諸国に先立つことになる。
追従を常とする日本が世界に先駆ける良い機会だと思いませんか?
この映像はリアルタイムで世界各国に配信されています。おそらく各国は戸惑うでしょう。国連が急遽審議を行うかもしれない。
しかし必ずや賛同し賢明なる決定を称賛するはずだ。闇雲に排斥し合う時代では無いのですから」
ざわめく木々。ざわめく群衆。一人だけ……敵意を向ける男の眼。
馬上の彼の眼だけが闇を映したように黒い。
24
:
名無しさん
:2019/04/13(土) 09:49:56
支援
25
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/04/14(日) 07:39:03
衆議院議員会館に着いた時、玄関前には警備員が二人立っていた。
太めの男と、細めの女性。どちらも薄茶色のサングラスをしている。
歩道を横切る突風が散らばる木の葉をクルクルと巻き上げる。日差しを照り返す会館の壁が灰色に乾いている。
すでに魁人から指示を受けていたのか、女性の方が意味ありげに目配せして僕を促したから……
だから僕は何の疑問も警戒もしないまま、地下へと続く階段を降りたんです。
天井の照明が映し出す壁や床がぬらりと光る地下通路。当然窓は無いし、駅みたいな宣伝目的のポスターなんかも無い。
ほんとに飾りも何もないんだよ。機能重視の日本人らしい内装だよなあ。
同じ仕事をヨーロッパ人にやらせたら、洒落た石畳とか凝った彫刻の壁にするだろうね。
湿った空気と壁材の匂い。真上にはあのビル群が建ってるなんて、あんまり想像したくはないですね。
遠くまで響く二人分の足音の反響。低めのピッチに落ちていくFフラット。
「この地下道、大手町まで続いてるって本当ですか?」
数歩先を行く案内人に声を掛けてみる。本館(議事堂)に続くオレンジ色の廊下に足を踏み入れた、そのタイミングで。
立ち止まって、黙ったまま振り向いた彼女が、おもむろにサングラスを外す。
僕は声を上げかけた。彼女が桜子にとても良く似ていたからだ。特にあの気の強そうなキリッとした眉と、キラキラした眼がね。
もちろん似ているだけ、本人じゃない。鼻筋は彼女より通ってるし、心持面長だ。そんな彼女はフッと表情を緩めて口を開いて――
「本当よ。さらに言えば……もっと先も――」
「え……?」
一帯が真っ暗になったのはその瞬間(とき)だった。
咄嗟に壁を背にして張り付いた。
吊っているベレッタが硬く腰に押し付けられる。
非常灯すら付かない本物の闇。意味ありげな女の台詞。彼女は……敵とみなすべきでしょう。
「確認を忘れていました。貴女の所属と階級を教えて下さい」
左から右へ顔を向けつつ声を出す。本気で訊きたかったわけじゃない。自分の声をソナー代わりに使っただけだ。
12時に位置する彼女のほか、2時の方角にもう一人。距離は約5m。
人間であれば当然聞こえるはずの呼吸音はしない。冷たい夜の気色。2体ともにヴァンパイアには違いない。
……銃を抜くか否か。
抜きざまに片方を撃ったとしても、もう片方が僕を殺す。僕は魁人のように2挺同時に使えない。
その事を敵も承知してる。3体でなく、わざわざ2体出向いたのがその証拠だ。
しかし……いいでしょう。黙って嬲り殺されるくらいなら、1匹片付けて良しとします。
瞬時に抜き、瞬時に撃った。
僕は左腕を前方に伸ばした姿勢のまま硬直した。
……ありえない。
引き金は引いた。火薬の炸裂音もした。しかし、その後に続く音が無かったんだ。
着弾音も、弾が空を裂く音も。
26
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/04/29(月) 06:20:05
目を閉じる。
12時に銃口を向けた体勢のまま、視覚以外のすべての感覚を研ぎ澄ます。
けど――音が拾えない。掌や指や、頬に当たる僅かな空気の流れも感じない。
いつもの匂いもしない。あの――ヴァンパイアと対峙した時にするあのヒリつくような殺気の匂いが。
こんな時に支援してくれる筈のコマンドの気配もない。
太陽光を嫌うヴァンプは必ずこの地下通路から侵入するはずって事で、魁人は相当の精鋭を投入していた筈なんですが。
……切り札を出す前に、もう一度。そう思ったとき僕は驚愕したんです。
ただ左手の人差し指でトリガーを引く、それだけの動きが出来なかったから。
かろうじて息だけは吸えるけど、閉じた瞼を上げる事も、背の壁に添えていた右腕も固まったままで。
――もしかして弾丸も? 大気中に固定されているから着弾音が無かった?
そう思ったとき、もう一人の敵の正体がなんとなく解ってしまった。
ブリーフィングで魁人が言っていた恐るべき相手。
リサイタルの夜、魁人やクロイツ達の撃ち込みを指一本動かさずに防ぎきったもう一人の「伯爵」。
僕は半分観念して……そして昔、桜子に見せてもらった虫入りの琥珀を思い出しました。
艶やかで温かい琥珀色の宝石、その中に封じ込まれたアリやハチ、そしてクモの姿を。
あれが今の僕だ。彼らがどんな気持ちであの中に閉じ込められたか、なんて理解したくはなかったですね。
「御一人……ですかな?」
さっきと全く同じ位置から男の声。
一切の音がしないのに、それだけが鮮明で。
「如月とやらも見通しが甘い。この場に居合わせる敵の戦力を見くびりすぎでしたな」
どうやら魁人が配置したコマンドはこの人に制圧されたらしい。
ゆっくりとこちらに近寄る声の主。若くはない、しかしそれほど歳も感じさせない膨よかな声音。
器の大きい、どこか人を安心させる話しぶり。
やはりあの時――桜子の屋敷で伏せていたあの時に聞いた声と同じ声。皆に「田中さん」と呼ばれていたあの――
……ごめん魁人。
僕は詰まれてしまった。
「ですがよろしゅう御座いました。貴方と腹を割って語り合う機会に巡り合えました故」
「……え?」
27
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/04/29(月) 06:26:28
意外な言葉に思わず反応し、固まっていた空気が緩んだことに気づいた。
足元にコツンと当たる硬い弾。たった今僕が撃った筈の弾頭。
瞼を上げる。変わらずの闇の中、黄金色の二つの瞳がこちらを見下ろしている。
「先日は思わず聴き入りましたぞ? 聞き手と一体となる魂の……生命の息吹を感じ申した」
……彼は……たぶん僕のピアノの事を言っている。……なぜ?
殺そうと思えばすぐに出来るこの状況で、なぜわざわざそんな話を?
不意に非常灯がついた。
緑の薄明りに浮かび上がる人影はやはり二つ。桜子に似た女性と、羽織袴姿の総髪の男性。
女性の眼は冷ややかで、その表情には一切の感情がない。
一方で男のほうは、友好的ともとれる柔らかな笑みを湛えている。意思の強そうな目の光にも殺気はない。
声に覚えはあっても恰好を見るのは初めてだ。せっかくですから聞いておこうか。
「かつての西の伯爵。田中与四郎とは貴方のことですね?」
銃を向けたままの僕を、彼はただ黙って眺め、そして頷いた。銃など脅威でもなんでもない、そんな顔して。
さっきから後ろに回していた右手を、さりげなく壁に這わせる。そんな動作に彼は気づいただろうか。
「僕は――」
「無論存じております。孫娘可愛さに駆け付けたあの会場にて、思いがけず我を忘れ聴き惚れた相手故、それはもう――」
「光栄ですが、僕と貴方は殺しあう敵同士。こんな話に意味などありません」
僕は田中氏の眉間に狙いを定めてトリガーを引いた。
当然防ぐはずだと思って撃った、その弾丸は眉間の正中を正確に撃ち抜いた。
28
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/05/02(木) 06:47:01
弾丸が頭部を突き抜ける感触。
硬い骨を破り、柔らかい部分を通って再び骨を破る、そんな聞きなれた音がして。
突き抜けた弾丸が更に浅い角度で壁を擦り、向かいの壁に当たって止まる、そんな音に耳を傾け意識を彼に戻した時、僕は冷水でも浴びせられた気分になったんです。
田中氏が棒立ちのまま、静かな笑顔で僕を見ていたから。
黄金の瞳はそのまま。
眉間の穴から噴き出す血液は真っ黒で、それが鼻脇を下り、口元の皺に沿って流れ落ち、その雫が床を跳ねて。
「どうして……どうしてそんな顔が出来るんです!?」
僕は叫んでいた。頭がどうかなりそうだった。
ヴァンパイアは――ヴァンプって生き物はこうじゃない!
銃を向けたら逆上するのがヴァンプだろ!? 撃たれたら反撃せずには居られない、それがヴァンプの性(さが)だろ!?
「殺しに来てくださいよ! 化け物なら化け物らしく!」
さらに向けた銃口が火を吹いた。狙いは胸。心臓の位置を避けた鎖骨付近。
田中氏は避けない。黙って弾丸を受け、微笑を顔に灯したまま。
更に4発。
腹と肩、上腕と大腿に弾を受け、流石によろめいた田中氏が低く唸った。
草履履きの足を開いてバランスを取るように血だまりの床を力強く踏みしめる。
額に受けた傷はすでに治癒している。
胸の傷も癒えたのか、出血は止まっている。
黒く染まっていた羽織が……まるで霧が晴れるようにその色を取り戻していく。
背筋が凍った。
急所を狙う事が出来ないんです。心臓につけた狙いが勝手に逸れる。
それは田中氏がさっき僕にしたような技を使ったから、じゃない。僕自身の意思なんです。
「間違ってなどおりません。自身の『芸』を理解し、称賛する相手を殺せるものでは無い」
「僕はヴァンパイアハンターだ……。化け物退治が僕の使命なんです」
「ハンターである前に、貴方は『芸を嗜む者』。解ります。同じ道を歩む者として、貴方のお気持ちは良く」
「……同じ? 田中さん、貴方は一体――何者なんです?」
一歩、一歩と歩を進める田中氏。壁を背にしている僕は詰まっていく間合いをただただ見守るだけ。
見るからに質のいい羽織。肩に散りばめられた桜の綻びは被弾した痕だろう。
後ろ手にしていた右手を銃に添える。残る弾は1発。
諸手で銃を握る僕に構わず歩み寄る田中氏。その胸の真ん中――心臓の真上に銃口が押し当てられる。
絹独特の滑らかな肌触りと、衣擦れで軋む音。トリガーにかかる指は迷ったまま。
「……急く事もない。私の話をお聞きになられた後でもよろしかろう」
こんな時、魁人なら躊躇なく引き金を引いただろう。
でも僕は田中さんの――同じ芸を嗜む者という言葉がどうにもこうにも引っかかって、それがハンターとしての決意を挫いたんだ。
29
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/05/03(金) 07:36:36
じっとこちらを見つめる瞳から眼を逸らす。
ヴァンプなら多かれ少なかれ持っている「魅了」の力に負けそうな気がしたから。
銃身にそっと置かれた厚ぼったい掌の重みに任せ……僕はそれを下に降ろす。
優しく笑った田中氏がくるりと背を向ける。
僕は絶対に自分を撃たない、そんな自信がその背にあった。
「『この私が何者か』。齢を聞く者はあっても、それを直に言葉にした者はついぞ居りません。あの伯爵様ですら」
僕は少し面白くなっていた。
正体をどうこう言うって事は、この人がよほどの有名人だって事だからだ。
もちろんあの人材派遣会社の社主だって事は周知だから……もっと……聞けば驚くほどの人物。
僕と同じ「芸を嗜む者」として有名な人。あはは……アニメとか漫画好きの魁人なら海原○山じゃね? とか言いそうだなあ。
「……解る気がします。貴方を見ていると正体を探るのが悪い気が。一体おいくつなんですか? ご出身は?」
「ほう? 当ててみますか」
「伯爵も知らない貴方の正体、是非知りたいですね」
「面白い。でも情報を差し上げよう」
向き直った田中氏が、子供みたいに眼を輝かせる。後ろに控えていた桜子似の女性がチラリとこちらに視線を送る。
「生まれは大永2年。齢じき500に成り申す。堺の片隅にて干魚を商っておりました」
「大永……?」
大永元年が西暦何年に当たるのかなんて覚えてない。けど、でも500歳近いって事は……
「なるほど、織田信長より10歳ほど年上ですね」
「これは驚いた。史実にお詳しいのですな」
大きめの眼を大きく見開いた田中さん。
……いえ、たまたま僕、信長が出て来るドラマにハマってて、生きてたら何歳なのかな、なんて計算した事あっただけなんです。
「ではすでに答えは出ておりますな。私は名を偽っておらぬ故」
「……え……田中って……本名なんですか?」
絶句してしまった。だって……この人は初めから正体を隠してなんか居なかったって事で。
その前に有名人でも何でもなかった?
僕は知らない。田中与四郎なんて……日本史に出てきた覚えなんか……
でもこの人は得意気な顔して「当ててみろ」って…………いや……待てよ?
昔の人達って幼名があったり、格が上がると上の人から名前貰ったりしてた。田中氏もきっとそうだ。
そして……その時代に「芸」で名を上げた人物なんて居たっけ?
1500年代……ルネサンス音楽の最盛期。その頃日本で盛んだった文化と言えば……
信長と同じ時期……芸能……文化……そう言えば信長とか秀吉って茶の湯とかにハマって……茶の湯?
その道で有名な人は一人しか……って……ええっ!?
「貴方はまさか……千利休!!?」
眼を閉じ、満足げに頷く田中氏。僕はしばらく壁に寄りかかったまま、田中氏と女性とを交互に眺めていた。
30
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/05/06(月) 07:21:20
「驚きました。散々ヴァンプ達を狩ってきましたが、歴史上の人物に出会ったのは初めてです」
心が浮き立ってしまっている僕がここに居た。
ハンターがヴァンプに心を動かされるなんて許されない事だけど、でも……「千利休」ですよ?
表千家とか裏千家とか僕にはさっぱりだけど、でも戦国ドラマとかに良く出てくるし、この人を題材にした読み物も結構ある。
信長や秀吉だけじゃない、大名にもこの人のファンがたくさん居たらしいじゃないですか。
秀吉に「公儀なら秀長、内々のことは利休に頼め」とまで言わせた人ですよ?
そんな人がどうしてヴァンプなんかになったのか、気になるじゃないですか。
ていうか、聞かなきゃならない。この人の目的、どんなつもりで伯爵を補佐してるのか。
無線のスイッチをONにする。
電波の届きにくい地下からどれだけ伝わるか分からないけど、でも僕の音声をリアルタイムで魁人に伝えなきゃ。
「教えてください。僕を……いいえ、我々人間をどうするつもりなのか」
「……どうする、とは?」
「貴方が秀吉にされた仕打ちを思えば、人間を憎む悪鬼と化すのが自然です。伯爵の『共存案』に賛同するとは思えない」
「なるほど。世間では大公が私に腹を切らせた事になっとりますからな」
田中氏が顎に拳を当て、懐かしむような顔をする。
「……違うんですか? 秀吉の朝鮮出兵に反対してその怒りを買った、そんな風に記憶してましたが」
「死を賜ったは事実ですが……なに、子供同士の喧嘩ですな」
「……喧嘩?」
「然様。あの命は大公の本心ではあらなんだ。頭を下げろ、されば許すと仰せであった」
「……謝っていれば済んだ話だったと?」
「この儂が心内(こころうち)では大公に傅いておらぬと気付いとられた。故に心よりの平伏を望まれたに相違ない。当然でしょうな!
茶席にて私を師と仰ぐ武将もあまたなれば、いちいち物申す茶坊主はさぞ腹に据えかねる瘤(こぶ)であったでしょうな!」
高く笑った田中さんは、とても500歳とは思えないほど屈託のない笑顔を見せて、そして――ゆっくりとその腹を撫でた。
「あの日の朝は忘れもしない、押し寄せた黒雲が朝の日の出を覆い隠す、ほの暗き未明。上空にて唸る風の音は相当なれば、
大振りの椿の枝が灯籠を激しく叩いておりました。屋敷を取り囲む兵達が気の毒に思えるほどでしたな。
立会と介錯に訪れた侍が濃茶を啜る中、かねてより支度していた吉光(よしみつ)の……あのすらりと伸びた白刃を眺め、
ようやくに恐怖というものが腹に沁み申した。いやはや……人を殺める「刃」とは……見るに恐ろしいものです」
「なんてことだ……そこでもし切腹を思いとどまっていれば、『千利休』は無駄に死なずにすんだ……」
たまらず呟いた僕に、田中氏は笑顔を向けたまま。
「同じことを立会人も申された。しかし……儂は心を決め、答えた。この死がいずれ我が茶を崇高なるものにしようと。
所詮儂も麻生どのと同じ、数寄者であったという事よ! 我が茶道と美なる意識を高めんが為、死を選んだのです」
「待ってください、貴方と僕の何処が同じなんです?」
そうですよ、どうしてそこで「僕」が出てくるんですか?
なんですか? その「してやったり的」な目つきは!
「おや? 貴方も殉じようとなされたではありませんか。自らの米神にその銃口を押し付ける姿、なかなかの見物でしたぞ?」
「……え?」
この人はあの日のことを言っている。
サーヴァントになってしまったと気付いたあの日、ハンターにもピアニストにもなれない、ならば死のうと決意したあの日のことを。
「芸の為に死を厭わぬ。それこそが我らが道。人を持て成す、その為の技を磨くが我らが悲願なれば、共に研鑽し合いましょうぞ?」
僕はベレッタのグリップを握り直し、ゆっくりとセイフティをロックした。
この人が一体どこに行こうとしているのか……僕にはやっと解った気がしたからだ。
31
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/02(日) 07:28:02
「善きご判断ですな。我らとは敵対せぬ、そうご決断されたと……受け取って宜しいですな?」
満足げに頷きながら田中氏が笑う。
僕は頷き返しはしなかったけど、でもその言葉を肯定する仕草を……つまりベレッタを下に置いた。
電源はまだ落ちたまま。
非常灯にぼんやり照らされた田中氏の顔色は……どんな色なのか全く伺えなくて。
まっすぐに僕を見下ろす二つの眼は、闇にたたずむフクロウのようで。
「伯爵様はお悦びになりましょう。喉から手が出るほど欲しかった貴方が……仲間となる」
言うなり肩を掴まれ、僕は容赦なく引き寄せられた。
僕がワクチン投与済みだって事までは知らないんだろうか?
「貴方ほどの人が何故『伯爵様』と? それほどの器を持っているのに?」
「ははは……私など……今も昔も、只の『同朋』以上になれぬは承知。なれば我が役目は木守り」
「木守り?」
「左様。一族を救い、率いる御方を見出し、見守るが我が務め。いまの伯爵様は正当なる法を以て我等と人間の共存を成そうと
されておいでです。人と我等の共存、それが実現するとなれば、我等が道も更なる高みへと昇りましょう」
「我等が道とは、つまり芸術の道、という事でしょうか? 貴方が求める物とはいったい何ですか?」
「知れた事。正しき義を探るが法学者、真(まこと)を探るが科学者とするならば、美なる物を飽くなく求めるが芸術家ですぞ?」
「……美なるもの……」
「美しき旋律にて、美しき景色にて、或いは美しき仕草にて人を癒すが我等が務めではありませぬか」
「……人を……癒す」
「私と貴方は同類。儚き者達への癒しのため。その為に……共に伯爵様の御許へと」
耳元でするギチリという音は……犬歯がわずかに伸びる音。
熱い息が耳元から喉元に降りてきて、そして牙の先と唇が僕の喉元を捉えた時……
初めて知りました。吸血の際に犠牲者を襲うのは苦痛でも恐怖感でもない、凄まじい快感だって事を。
痺れるような快感が稲妻のように背筋を駆け抜け、この身体を支配する。
硬直する手足と、ともすれば手放したくなる意識。
おそらくそれに委ねた瞬間に……人は隷属するのでしょう。血によるものではない、精神的に奴を「主」と認めてしまう。
僕はそれに抗った。桜子と共に弾いた、ラ・カンパネラの旋律を追った。
基調となるEフラットの音。
Eフラットじゃない、Dシャープでしょう?
いつも笑って君は言ってたね?
だから僕の漏らしたこの声は……誓って快感のためじゃない。
田中氏の顔色が変わった(と思った)。
引き抜かれる牙と引きはがされる身体。
僕の眼を一心にみつめる田中氏の眼は、一見して闇の色だったけど、でもたぶん違う。
緑光のもと、「赤」が「黒」に見えるだけだ。吸血中のヴァンパイアの眼の色は須らく赤。例外はない。
「いま……何を?」
田中氏の声には狼狽の色。
「いま……何をされた? その声は……音は……まさか――」
パラリと振りかかる何かは、剥がれた天井の塗装だろうか。
軽い貧血だろう、フワリと頭が軽くなって――そして座り込んだ僕の上に何者かが覆いかぶさった。
32
:
佐井 朝香
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/14(金) 19:17:34
廊下の赤い絨毯を照らしていた夕暮れの陽が陰り出したのは、菅さんが一通りの意見を言い切ったすぐ後だった。
つるべ落とし、なんて良く言ったものよね。今の時期はほんと、日が暮れたと思えばほら……もうこんな夜。
昇降口から冷たい風が流れ込んできて、さっきまで籠ってた熱気をいっぺんに吹き散らした。
「さむい……わね」
あたしはゾクゾクする両肩を自分自身で抱きしめた。
変ね……遠くで……フクロウか何かの鳴き声がしたような?
「誰かエアコンのスイッチ入れてくれない? まさかここ、暖房とか無い?」
黙ったまま周囲を見回すクロイツとSP。総理もしきりに天井を見上げて首をひねってる。
そうそう、寒いも寒いけど、やたらと暗いのよ。ぜんぜん明りが付かないの。
それどころか、窓から普通入ってくる外の光――街頭とかオフィルの明りも入ってこないの。
時々パシャッと差し込む強烈なライトは報道陣のフラッシュ。そのたびに男たちの横顔がパッと闇に浮かんでは消えて、やだ不気味。
どうして照明つけないの? 中が丸見えになっちゃうから?
なんて総理に訊こうとしたそんな折、廊下の向こうから駆けてくる足音がしたの。
「総理! 本館、官邸、その他永田町や霞が関一帯の電源が落ちています!」
そっか、どおりで変に暗くなったと思ったわ! なんて思いながら、声のする方を見たら……なんか様子がおかしいの。
廊下の向こうはホント暗くて、そいつは只のぼやけた人型にしか見えないんだけど、
息切らしてハアハアしながら、あたし達から距離を取ったまま近づこうとしないの。
「君は何者かね? 顔を見せたらどうかね?」
なんて総理が窘めても……顔を背けてみたり、手で覆ってみたりして。
そんな彼に、SPとクロイツが一斉に銃を向けた。恐る恐る両手を上に上げた男が口を開く。
「待ってください……私は――」
その瞬間だったわ。眩しいフラッシュのライトが、彼の姿をパッと照らし出したの。
流石のあたしもぎょっとした。
だって。だってね? 男の顔は傷だらけの血まみれで、しかも耳と鼻が削ぎ落されていたんだもの!
「撃てええ!!」
誰かの指示が飛んで、あたし、咄嗟に自分の耳を塞いだわ!
だってさっきあたしを撃った時と全然違う、サイレンサー無しの一斉射撃!
議事堂って廊下の天井がとっても高いし、すぐ傍は中央の大広間があるから? 火薬の炸裂音がすっごく良く響くのよ!
んもう! 手で塞いでんのに凄い音! ていうか、たった一人にそこまでする?
33
:
佐井 朝香
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/14(金) 19:18:50
唐突に音が止んだんで、あたしはやっと耳から手を離した。男はたぶん……廊下の向こうまで吹っ飛んでったわね?
でも大丈夫かしら。だって状況から考えたら彼、ただの人間よね?
クロイツは彼を敵だと認識したみたいだけど……それとも疑わしい目標は迷わず撃てって指示が出てるとか?
指示を出していたリーダー格の男があたしに向かって顎をしゃくったんで、あたしはじっと睨み返した。
でも……そうね。医者として確認すべきことはしなくちゃね。
むせかえるような硝煙の煙には、血の匂いが混じっていて……ゆっくり進むとさっきの男が仰向けに倒れてた。
集中的に胸部を狙ったのね。心臓なんか跡形もないけど、その他の部位の損傷はほとんどない。
ペンライトによる瞳孔の反応はゼロ。虹彩の色は濃い茶色。。
体温は……まだ……36度よりやや高め。
Yシャツのボタンを外してみたけど……やっぱりね。首回りはまったくの無傷。
仕立ての悪くないスーツの襟もとには血に染まった臙脂の議員バッジ。
あたしはそのバッジを襟から外して、じっと見守っていた一同にかざして見せる。
「噛まれた痕は無いわ。この人は人間。代議士の一人だったみたいね」
「……」
険しい顔であたしを見つめる総理。クロイツ達の表情も硬い。
……そうよね。ただの人間……しかも議員の一人を殺してしまった。
「これって……どうなるの? 緊急時のどさくさって事で済むの? 済まないの?」
「済むまいね。無論、居合わせた私の責任だがしかし……事は収束には向かうまい」
「え?」
あたしは総理の視線を追って……そして納得した。
硝煙の煙が立ち込める廊下の向こうに……チラチラと赤く点灯している大勢のヴァンパイア達の眼があったから。
その中から一歩進み出た大柄な人物に、とっても見覚えがあったから。
「何のつもりですか……田中さん」
その人に向けられたその声に、あたし、ハッとなって振り向いた。
いつの間に入ってきたのかしら!
外に居たはずの報道陣やら議員やらが大勢居て……そして、その真ん中に、後ろ手に手を拘束されたままの菅さんが立っていた。
34
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/15(土) 17:40:19
伯爵もふざけた野郎だ。
『排斥し合う時代じゃねぇ』なんて、正論ぶちかましやがって。
今まで散々人様の喉喰らいつくして来たくせにどの口が言ってんだって感じだぜ?
広場の連中はすっかり奴の信者だ。奴ぁ……眼力だけじゃねぇ。声とか仕草にも「魅了」の効果があんに違ぇねぇ。
俺には通じねぇかんな?
意味もほとんどチンプンカンプンだったし?
――違ぇよ! 法律に疎ぇわけじゃねぇ!
俺は指揮官として周囲に眼ぇ配ってっからよ? 奴の与太話(よたばな)耳かっぽじって聞くヒマなんかねぇんだよ!
ブルルルル! っと姫が啼いたが、広場の連中は見向きもしねぇ。報道も、沢口含めた議員も、戦闘員もみんなだ。
軽い催眠状態って奴だ。
メディア通して伯爵の映像見た奴らも、同んなじ状態になってるに違ぇねぇ。
(……畜生……対ヴァンプ戦にゃ防音のイアーマフが必須だぜ? 無線だけ使えるタイプのな?)
俺ぁ返り血でも浴びたみてぇに赤く染まった議事堂を見上げた。
この場の奴らに俺の言葉は届きそうもねぇが…………流石に沢口と狙撃は無事だろ。
『ボス、やっぱやっちまおう。いいな?』
『……やる? 何をだ』
『何って……決まっんだろ。伯爵を始末すんだよ』
『待て。こちらは伯爵様の意見を最大限に取り入れる用意がある』
ぞっとしたぜ。沢口の奴、伯爵をサマ付けで呼びやがった。しかも「用意」だと?
見ろよ、吹きっ晒しの野っぱらで鍛えた筈の俺の二の腕に鳥肌が立ってやがる。
赤かった議事堂が見る間に紫に変わっていく。不味いぜ……夜行性の方々の時間になっちまう。
『狙撃! 伯爵の心臓ぶち抜いちまえ! 俺が許す!』
『拒否します! そんな事をしたら伯爵様が――』
――狙撃……お前もか!?
俺は震える手で沢口と狙撃に繋がる無線を引き千切った。
動転したときぁ……大きく深呼吸だ。……そうだ。落ち着け、俺。
35
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/15(土) 17:43:18
肌を刺す夜風。
頭の上を飛び退るコウモリ野郎。
群衆は動かねぇが、フラッシュの音と光は健在だ。
一帯の電気が付かねぇ。奴らが電源を落としたのかも知んねぇ。
そういや結弦が降りた……地下はどうなってる?
そうだ! 地下に配置した奴らが居たじゃねぇか! クロイツと自衛隊から特に射撃の上手い奴を厳選した精鋭部隊!
沢口おすすめの人材(後輩の議員様だと)も何人か置いたらしい。
あそこなら伯爵の演説は聞こえてねぇ!
なんて俺が気を取り直した瞬間、結弦からのコールが来た。さっすが結弦! いいタイミングだぜ? だがな?
『教えてくだ――。僕を――我々人間をどうするつもり――か』
『……は? お前なに言って・』
『貴方が――にされた仕打ちを思えば、人間を――悪鬼と――のが自然――伯爵の――に賛同するとは思え――』
切れ切れにしか聞こえねぇが……どうやら結弦の奴、俺じゃなく他の誰かとしゃべってら。
誰か? なんて分かんねぇが……どうやら人間じゃねぇ。
(人間をどうするつもりかって人間に訊かねぇだろうからな!)
ヴァンプにしても下っ端とんな話するわきゃねぇから……相手は幹部だ。
桜子は死んだから幹部は3体。消去法で伯爵と司令を除きゃあ……田中だ。気功使いの田中大先生しか居ねぇ。
まじぃ。
最初から田中先生が居たとなりゃあ……どんな精鋭も歯は立たねぇ。
おそらく奴ぁ結弦をわざと生かしてんだ。伯爵は俺達ハンターをご所望らしいからな。
結弦はとうぜん仲間になる気はねぇ。じゃなきゃわざわざ俺にコールなんかしねぇ。
俺ぁ出来るだけ耳澄ませてみたが、雑音がひでぇ。
……と、ガチャガチャピーピー言ってたスピーカーがまた音を寄越した。この声は……結弦……か?
「やべぇ! 全隊員、避難だ! 近くの非戦闘員を伴って速やかにこの場を撤退しやがれえええ!!!!」
俺が焦った理由は後から話す! とにかく今は非難が先だ!
だが俺の声はこいつらには届かなねぇ。
全開になった昇降口から、銃撃音がしやがったんだ。少なくとも射手は10名。さっき女医の居た……もっと奥のあたりだ。
スクープだとばかりに報道が中に入ってく。
――畜生! こんな時に限って!!
「おおおおい!!! 入んな!! どけ!!」
俺は奴らに向かって叫んだ。
棒立ちになる姫を必死こいて抑えたぜ。たてがみを掴んで、耳の根っこを捕まえたりしてな。
ピンっ……!! と音を立てて外れた銀のピアスが、キラリと闇に飛んで消えた。
そん時だった。
背を向けて雪崩れ込む連中に混ざる伯爵が一瞬だけ振り向いて……その眼を赤く光らせたんだ。
36
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/16(日) 21:47:59
≪ギュオオオオオオオオォオオオオオオオ!!!!!≫
姫が吠えた。すげぇ声でだ。
「ひ……姫ぇ!?」
俺は姫の首に抱き着いた。
引き絞られるみてぇな振動が胸に直に伝わって、うへぇ……張り裂けそう。
んな俺を横目でギロッと睨んだ姫が、一度眼ぇ閉じてな? ゆっくり瞼を上げたんだ。
金の眼だった。
静かだが底の知れねぇ眼だ。
んで解っちまったのよ。この眼は伯爵だ。麗子さんに乗り移ったそん時の眼だってな。
さっきのあれか? 赤い眼でこっち見た、そん時に姫に入ったってのか?
猛烈な尻っぱねが俺を跳ね飛ばした。反動で結弦と俺を繋いでたインカムもどっかに飛んだ。
あわや地面に激突ってトコでギリで体勢立て直す。水流先輩仕込みのバック転だ。
俺の真上で棒立ちになった姫は……うは……まるで〇塾3号生筆頭だぜ? でっけぇのなんの。
「姫! 悪ぃ!」
しゃがんだまま上に銃を構えた。撃鉄は起立済み。姫の心臓の位置ぁ……熟知してらぁ。
何だ? 空一面、何もんかがびっしり飛び交ってやがるが……
引き金引いたぜ。
同時に2発。
だが弾ぁ2発ども質量のでけぇ盾に阻まれたんだ。
「うわわわわ!!」
俺ぁたまらず後退した。パタパタした小っせぇもんが大量にぶつかって来たからだ。
「やめっ! ぅわっ!!」
小せぇっつったってバカに出来ねぇ。目も口に開けてらんねぇ!
キィキィ言うこれ、コウモリか? 空飛んでたのもこいつらか?
兵士どもの掩護はまったくねぇ。ただぼうっと突っ立ってんのか?
号令かける間もなく俺ぁまたまた吹っ飛んだ。今度は胴体にまともに喰らってだ。
馬の蹴りだ。鍛えた腹筋無けりゃ内臓やられてたとこだ。
着地は……間に合わねぇ。せめて頭守って転がんのが精一杯だ。
攻撃は緩まねぇ。
横っ腹ガンガン蹴られて、そんたびに俺は地面を這いずった。んで仰向けにされたとこをトドメの一発が来たわけだ。
37
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/17(月) 07:16:37
「がはっっっ!!!」
踏みつけられたのはちょうど胃の真上だ。
まともに体重かけられたらペシャンコの筈だが……奴ぁ加減してやがる。
加減して蹄鉄履いた蹄の先っちょでグリグリやりやがった。
……やっぱ伯爵だぜ。今朝も尖ったヒールでこんな風に踏まれたっけ。
俺ぁ気が遠くなりかけながら……利尻の島が水平線の向こうに浮かんでんのがはっきり見えたんだ。カモメまで飛んでら。
……俺、死ぬんかなぁ。
口から溢れてやがるこの熱いもんも……さっき飲んだコーヒーじゃあ……ねぇだろなぁ。
なあ姫。
もしあの世ってもんがあったら……また俺とあの海岸をひとっ走りしようや。
そのまま宗谷岬まで突っ走って、道東まわって道南までぐるっと回んのもいいかもな。
知ってっか? 根室はすっげぇ朝が早ぇんだと。お日様が水平線から昇るのが見えるらしいぜ。
夕陽じゃねぇ……朝日で真っ赤に染まったお前の髪も……なまら……綺麗だろうなあ……
「いてっ!」
いきなり意識がクリアになった。米神をビシッ! っとやられたせいだ。
首を巡らせハッとしたね。俺目掛けて礫を投げた奴が居たもんだ。
見た目はフリーのライターみてぇな恰好だが、俺にはすぐにピンと来た。司令の報道記者バージョンだってな。
司令! いつの間に! って驚くのが礼儀かも知れねぇが、今更だ。神出鬼没は司令の十八番だかんな。
『そんな所で終わる君かい?』
司令の口がそんな風に動く。
でもよ、俺はどっかで……死んでもいいって思ってる。姫は俺の家族だぜ? 可愛い妹で、恋人だ。んな相手に本気になれっかよ。
そしたらボタボタっと、これまた熱い何かが俺の顔に降りかかるわけよ。
何かと思って上を見りゃあ……姫が泣いてやがる。
血の涙だ。金に光る眼が……赤い血で真っ赤に濡れてやがる。
姫……俺……俺は……
「分かったぜ、姫。先に行って待ってろ」
38
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/17(月) 07:20:09
姫が咆哮した。
司令の姿は……ねぇ。伯爵んとこにでも行ったか?
俺ぁヴァンプになっちまったもんの気持ちなんか分からねぇ。
司令が何であん時血の涙流した訳も……さっぱりだ。理解なんか出来っこねぇ。
俺にやってやれるこたぁ……ひとつだけだ。終わらせてやる、ただそれだけだ。
両眼を凝らす。
夜目が利くわけじゃねぇが……平野で鍛えた視力をナメんなよ?
そこここ飛びまわる蝙蝠の金の眼と、どっかで焚かれるフラッシュの光源。
これさえありゃあ……十分だぜ。
左右のトリガーをコンマ一秒の差で引いた。
前は姫の足で塞がれってから……狙いは斜め左と右だ。
何処狙ってるって言われりゃあ、さっきから突っ立って俺ら眺めてる奴等、の持つライオットシールド? あの長四角の楯。
そりゃ真正面からぶち当てりゃあ……マグナム弾だ、あんなん簡単に貫通しちまうが……角度つけりゃあ平気だ。
ガシッと当たって跳ねた弾頭が飛びまわる蝙蝠どもをかいくぐり……後は見ての通りだ。
俺に乗っかる体重が軽くなる。フワッと溶けるみてぇに霧散する身体。
クリーム色の鬣も、肌も、白い蹄も、なんもかんもが消えて無くなった。な〜んも残さねぇでこの世から消えちまった。
「……なんでヴァンプってのは……死ぬとこうなるのかねぇ」
俺の弾当てられた野郎が近づいてきて、俺の手を取った。
眼ぇ覚めたんだろ。流石ですね! なんてほざきやがって。
そりゃまあ簡単にやれる事じゃねぇ。
跳弾使う技術もそうだが、いま肝心だったのは馬の解剖学だ。
馬の心臓のど真ん中――第4から第5肋骨の隙間が何処にあるか知ってねぇといけねぇ。
馬の胸は人と違って縦につぶれた形状だ。正面は頑丈な胸骨ってもんが邪魔で、心臓は狙いにくいのよ。
だから横から狙って脇の下が空いた瞬間を狙ったわけだ。
俺を誰だと思ってやがる。
あの水流先輩の弟子だぜぇ?
跳弾使い(の弟子)の名は伊達じゃねぇ!! 畜生!! 畜生!!!!!!!
39
:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/22(土) 19:15:53
足元に転がるピアス。
たったさっきまで姫が付けてたこれが、彼女の形見になっちまった。
むわっとした生温けぇ風。
この風が吹く時ぁ……決まってる。決まって酷ぇ嵐が来るんだ。いつもそうだ。
俺は胃ん中の溜まり血を綺麗さっぱり吐いちまってから、携帯のクスリを口ん中に放り込んだ。痛み止めと止血剤だ。
さっき俺の手ぇ取ってくれた野郎が目ぇ丸くしてこっち見てやがる。見たとこまだ……10代だが……
へぇ……こいつだけ「他」と違うぜ?
「てめぇ……名前は?」
「え? あ、はい! 宇南山(うなやま)拓斗(たくと)といいます!」
「……見たとこ自衛官候補生だな。歳いくつだ?」
「18ですが……良く候補生だと分かりますね」
「丸で囲った緑の桜はそれ以外にねぇだろ。……奴ら……んなのばっか寄越しやがって」
「伍長! 自分は確かに下っ端ですが、射撃の腕には自信があります!」
ビッと背ぇ伸ばして俺を見る宇南山。……なるほど。いい眼してるぜ?
「すまねぇな。若ぇのは取っとけって意味だったんだが……一応聞いとくぜ。どっちだ?」
「え?」
俺ら囲む奴らが、しまりのねぇ顔して立ってやがる。手に持つ得物にゃしっかりセイフティかけやがってな。
伯爵に銃は向けられねぇってか。
「こいつらと同じ……奴に共感しちまった口か? それともまだ人間の側か?」
「良く分かりませんが……さっきの伍長、凄かったっす。自分は断然伍長に付いていきます!」
「そりゃどうも。いいぜ。特進覚悟があるなら付いて来な」
「ほんとすか? ありがとうございます!」
「……何がそんなに嬉しいんだ? 100パー死ぬって言ってんだぜ? 俺は?」
「そんなの元から覚悟の上ですよ! 伍長の下に付くなんて夢みたいで、俺、思い残す事ないです!」
「あ? いきなり何お愛想言ってやがる」
「お世辞なんかじゃないですよ! て言うかですね? 本作戦、伍長に憧れて志願した人員ばっかですよ?」
「……は? はあ……!??」
「自覚ないんすね。ヴァンプハンターはタマ撃ちの頂点! その中でも常勤の伍長は憧れの的ですよ!」
「そうなの!!!?」
マジかよ。やたらと俺なんかの指示通りに動くと思えば……そういう事かよ。
悪ぃ気はしねぇが……落ち着かねぇな。出来れば聞きたくなかったぜ。こいつら死んだらまるで俺のせいみてぇじゃねぇの。
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:
如月 魁人
◆GM.MgBPyvE
:2019/06/22(土) 19:17:10
「……伍長? どうかしたんですか?」
「悪ぃ。拓斗って言ったっけか。伍長はやめてくれ、魁人でいい。どうせ二人きりだからな」
「いいんですか!? 魁人……さん。って……え? 二人ってどういう事すか?」
「こういう事だ。おい! そこ突っ立ってる中隊長!」
俺より二回りも上だろう、角刈りに白髪が混じった中隊長が駆けて来た。
……ったく……こいつまでメット脱ぎやがって。
「各小隊に指示出しな。とっととこの場から失せやがれってな」
「解散、でしょうか?」
「んな訳ねぇだろ。待機だ。塀の外で俺の合図を待ってな」
「速やかなる撤退、及び敷地外での待機、了解しました」
「急げ。間違っても市民様をこん中に入れんなよ?」
「了解。直ちに行動を開始します」
……基本、指揮官(俺)の言うこと聞いてくれんのは助かるぜ。
てきぱきと各小隊超に指示を出す中隊長。整然と動き出す隊員に機動隊。大勢が動くに合わせて揺れる地面。
いままた……不規則な揺れが混じったな。「あれ」が作動したせいだ。小一時間持つかどうか。
「魁人さん! あれ!」
拓斗の指さす先を見てみりゃあ……コウモリどもが、まるで酔っ払ったみてぇにヨロヨロ飛び回っては落ちてやがる。
「ついに来たか。結弦の仕掛けた地雷の効果がよ」
「地雷? なんのことすか?」
俺は拓斗のポカンとした顔見返して……説明していいかどうか少し迷った。
……だが言わねぇワケに行かねぇな。とりあえずの相棒にな。
どんより曇り出した夜空見上げながら、俺ぁ額の汗をぬぐった。
くっそ……まだギリギリ痛みやがる。
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