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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

29麻生 結弦 ◆GM.MgBPyvE:2019/05/03(金) 07:36:36
じっとこちらを見つめる瞳から眼を逸らす。
ヴァンプなら多かれ少なかれ持っている「魅了」の力に負けそうな気がしたから。
銃身にそっと置かれた厚ぼったい掌の重みに任せ……僕はそれを下に降ろす。
優しく笑った田中氏がくるりと背を向ける。
僕は絶対に自分を撃たない、そんな自信がその背にあった。

「『この私が何者か』。齢を聞く者はあっても、それを直に言葉にした者はついぞ居りません。あの伯爵様ですら」

僕は少し面白くなっていた。
正体をどうこう言うって事は、この人がよほどの有名人だって事だからだ。
もちろんあの人材派遣会社の社主だって事は周知だから……もっと……聞けば驚くほどの人物。
僕と同じ「芸を嗜む者」として有名な人。あはは……アニメとか漫画好きの魁人なら海原○山じゃね? とか言いそうだなあ。

「……解る気がします。貴方を見ていると正体を探るのが悪い気が。一体おいくつなんですか? ご出身は?」
「ほう? 当ててみますか」
「伯爵も知らない貴方の正体、是非知りたいですね」
「面白い。でも情報を差し上げよう」

向き直った田中氏が、子供みたいに眼を輝かせる。後ろに控えていた桜子似の女性がチラリとこちらに視線を送る。

「生まれは大永2年。齢じき500に成り申す。堺の片隅にて干魚を商っておりました」
「大永……?」

大永元年が西暦何年に当たるのかなんて覚えてない。けど、でも500歳近いって事は……

「なるほど、織田信長より10歳ほど年上ですね」
「これは驚いた。史実にお詳しいのですな」

大きめの眼を大きく見開いた田中さん。
……いえ、たまたま僕、信長が出て来るドラマにハマってて、生きてたら何歳なのかな、なんて計算した事あっただけなんです。

「ではすでに答えは出ておりますな。私は名を偽っておらぬ故」
「……え……田中って……本名なんですか?」

絶句してしまった。だって……この人は初めから正体を隠してなんか居なかったって事で。
その前に有名人でも何でもなかった?
僕は知らない。田中与四郎なんて……日本史に出てきた覚えなんか……
でもこの人は得意気な顔して「当ててみろ」って…………いや……待てよ?
昔の人達って幼名があったり、格が上がると上の人から名前貰ったりしてた。田中氏もきっとそうだ。
そして……その時代に「芸」で名を上げた人物なんて居たっけ?
1500年代……ルネサンス音楽の最盛期。その頃日本で盛んだった文化と言えば……
信長と同じ時期……芸能……文化……そう言えば信長とか秀吉って茶の湯とかにハマって……茶の湯?
その道で有名な人は一人しか……って……ええっ!?

「貴方はまさか……千利休!!?」

眼を閉じ、満足げに頷く田中氏。僕はしばらく壁に寄りかかったまま、田中氏と女性とを交互に眺めていた。


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