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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

28麻生 結弦 ◆GM.MgBPyvE:2019/05/02(木) 06:47:01
弾丸が頭部を突き抜ける感触。
硬い骨を破り、柔らかい部分を通って再び骨を破る、そんな聞きなれた音がして。
突き抜けた弾丸が更に浅い角度で壁を擦り、向かいの壁に当たって止まる、そんな音に耳を傾け意識を彼に戻した時、僕は冷水でも浴びせられた気分になったんです。
田中氏が棒立ちのまま、静かな笑顔で僕を見ていたから。
黄金の瞳はそのまま。
眉間の穴から噴き出す血液は真っ黒で、それが鼻脇を下り、口元の皺に沿って流れ落ち、その雫が床を跳ねて。

「どうして……どうしてそんな顔が出来るんです!?」

僕は叫んでいた。頭がどうかなりそうだった。
ヴァンパイアは――ヴァンプって生き物はこうじゃない!
銃を向けたら逆上するのがヴァンプだろ!? 撃たれたら反撃せずには居られない、それがヴァンプの性(さが)だろ!?

「殺しに来てくださいよ! 化け物なら化け物らしく!」

さらに向けた銃口が火を吹いた。狙いは胸。心臓の位置を避けた鎖骨付近。
田中氏は避けない。黙って弾丸を受け、微笑を顔に灯したまま。

更に4発。
腹と肩、上腕と大腿に弾を受け、流石によろめいた田中氏が低く唸った。
草履履きの足を開いてバランスを取るように血だまりの床を力強く踏みしめる。
額に受けた傷はすでに治癒している。
胸の傷も癒えたのか、出血は止まっている。
黒く染まっていた羽織が……まるで霧が晴れるようにその色を取り戻していく。
背筋が凍った。
急所を狙う事が出来ないんです。心臓につけた狙いが勝手に逸れる。
それは田中氏がさっき僕にしたような技を使ったから、じゃない。僕自身の意思なんです。

「間違ってなどおりません。自身の『芸』を理解し、称賛する相手を殺せるものでは無い」
「僕はヴァンパイアハンターだ……。化け物退治が僕の使命なんです」
「ハンターである前に、貴方は『芸を嗜む者』。解ります。同じ道を歩む者として、貴方のお気持ちは良く」
「……同じ? 田中さん、貴方は一体――何者なんです?」

一歩、一歩と歩を進める田中氏。壁を背にしている僕は詰まっていく間合いをただただ見守るだけ。
見るからに質のいい羽織。肩に散りばめられた桜の綻びは被弾した痕だろう。
後ろ手にしていた右手を銃に添える。残る弾は1発。
諸手で銃を握る僕に構わず歩み寄る田中氏。その胸の真ん中――心臓の真上に銃口が押し当てられる。
絹独特の滑らかな肌触りと、衣擦れで軋む音。トリガーにかかる指は迷ったまま。

「……急く事もない。私の話をお聞きになられた後でもよろしかろう」

こんな時、魁人なら躊躇なく引き金を引いただろう。
でも僕は田中さんの――同じ芸を嗜む者という言葉がどうにもこうにも引っかかって、それがハンターとしての決意を挫いたんだ。


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