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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

31麻生 結弦 ◆GM.MgBPyvE:2019/06/02(日) 07:28:02
「善きご判断ですな。我らとは敵対せぬ、そうご決断されたと……受け取って宜しいですな?」

満足げに頷きながら田中氏が笑う。
僕は頷き返しはしなかったけど、でもその言葉を肯定する仕草を……つまりベレッタを下に置いた。

電源はまだ落ちたまま。
非常灯にぼんやり照らされた田中氏の顔色は……どんな色なのか全く伺えなくて。
まっすぐに僕を見下ろす二つの眼は、闇にたたずむフクロウのようで。

「伯爵様はお悦びになりましょう。喉から手が出るほど欲しかった貴方が……仲間となる」

言うなり肩を掴まれ、僕は容赦なく引き寄せられた。
僕がワクチン投与済みだって事までは知らないんだろうか?

「貴方ほどの人が何故『伯爵様』と? それほどの器を持っているのに?」
「ははは……私など……今も昔も、只の『同朋』以上になれぬは承知。なれば我が役目は木守り」
「木守り?」
「左様。一族を救い、率いる御方を見出し、見守るが我が務め。いまの伯爵様は正当なる法を以て我等と人間の共存を成そうと
されておいでです。人と我等の共存、それが実現するとなれば、我等が道も更なる高みへと昇りましょう」
「我等が道とは、つまり芸術の道、という事でしょうか? 貴方が求める物とはいったい何ですか?」
「知れた事。正しき義を探るが法学者、真(まこと)を探るが科学者とするならば、美なる物を飽くなく求めるが芸術家ですぞ?」
「……美なるもの……」
「美しき旋律にて、美しき景色にて、或いは美しき仕草にて人を癒すが我等が務めではありませぬか」
「……人を……癒す」
「私と貴方は同類。儚き者達への癒しのため。その為に……共に伯爵様の御許へと」

耳元でするギチリという音は……犬歯がわずかに伸びる音。
熱い息が耳元から喉元に降りてきて、そして牙の先と唇が僕の喉元を捉えた時……
初めて知りました。吸血の際に犠牲者を襲うのは苦痛でも恐怖感でもない、凄まじい快感だって事を。
痺れるような快感が稲妻のように背筋を駆け抜け、この身体を支配する。
硬直する手足と、ともすれば手放したくなる意識。
おそらくそれに委ねた瞬間に……人は隷属するのでしょう。血によるものではない、精神的に奴を「主」と認めてしまう。
僕はそれに抗った。桜子と共に弾いた、ラ・カンパネラの旋律を追った。
基調となるEフラットの音。
Eフラットじゃない、Dシャープでしょう?
いつも笑って君は言ってたね?
だから僕の漏らしたこの声は……誓って快感のためじゃない。

田中氏の顔色が変わった(と思った)。
引き抜かれる牙と引きはがされる身体。
僕の眼を一心にみつめる田中氏の眼は、一見して闇の色だったけど、でもたぶん違う。
緑光のもと、「赤」が「黒」に見えるだけだ。吸血中のヴァンパイアの眼の色は須らく赤。例外はない。

「いま……何を?」

田中氏の声には狼狽の色。

「いま……何をされた? その声は……音は……まさか――」

パラリと振りかかる何かは、剥がれた天井の塗装だろうか。
軽い貧血だろう、フワリと頭が軽くなって――そして座り込んだ僕の上に何者かが覆いかぶさった。


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