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獣人総合スレ 避難所

1名無しさん@避難中:2009/03/17(火) 20:14:12 ID:/1EMMOvM0
獣人ものの一次創作からアニメ、ゲーム等の二次創作までなんでもどうぞ。
ケモキャラ主体のSSや絵、造形物ならなんでもありありです。
なんでもかんでもごった煮なスレ!自重せずどんどん自分の創作物を投下していきましょう!
ただし耳尻尾オンリーは禁止の方向で。
エロはエロの聖地エロパロ板で思う存分に。

獣人スレwiki(自由に編集可能)http://www19.atwiki.jp/jujin
あぷろだ http://www6.uploader.jp/home/sousaku/

獣人総合スレ 5もふもふ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236878746/

【過去スレ】
1:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220293834/
2:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224335168/
3:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227489989/
4:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1231750837/

549名無しさん@避難中:2010/08/07(土) 20:39:24 ID:Z6V69uyE0
変身?つーことは変身前の姿もあるとか!?


ないないw

550名無しさん@避難中:2010/08/07(土) 21:14:19 ID:Us2Os4KMO
>>549
鎌田は最近、能力者だらけの別スレに飛ばされて大変な目にあってたりする。

551名無しさん@避難中:2010/08/09(月) 17:04:37 ID:TpYK1FJcO
本スレ11
この二人の関係いいなあ。いい友達だ。
優しすぎるはせやんの教え子になりたい。

552わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:30:19 ID:dX3QTLsM0
この日に投下したいので。

553夏の海から ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:30:58 ID:dX3QTLsM0
港に城が現れた。鉄(くろがね)で組み立てられ、街のどの建物と比べても大きく見える。
人々は仕事の手を休め、安らぎを忘れ、じっとその城を見ていた。
「帰って来たぞ!」
「おかえり!」
「いつ振りかねえ。『双葉』が帰って来たのは」
街の人々と、港の城は顔見知り。この街で生まれ、この国で育まれ、この大洋を駆け巡る、八嶋の国の自慢の戦艦『双葉』。
海軍工廠の建物と並び、波は白い泡を立てて洗い、船は長旅の疲れを癒しているかのように人々の目に映った。

「おかあさん!軍艦が帰って来たよ!」
「そうね。それじゃ、和豊さんも帰って来たのかね。この間絵はがきが届いてたしね」
丘の上に立つ小さな家屋。屋根に上ったネコの少年は、土間で回覧板を隅々まで読んでいた母親に「軍艦、軍艦」と叫ぶ。
屋根の下の畳の部屋では、少年の姉が小さな手帳に短くなった鉛筆で、せっせと書き込んでいた。
久しぶりにご馳走が食べられると、少年は目を輝かしながら屋根の上でピョンと飛び跳ねる。
青い空に少年の毛並みの白さが、雲と重なっていた。眩しい夏の光を全身に受けて。

「この間さ、笠置のねーちゃんが港の近くを飛んでて、憲兵さんに怒られたんだって」
「久しぶりのお天気だから、翼が黙ってなかったんだろうね。ハヤブサって子は」
「でも、笠置のねーちゃんが軍の機密を……」
と、言いかけた途端に母親の視線を感じ、ヘビに睨まれたカエルのように固まる。
ずり落ちそうな足を踏ん張りながら、なんとか話題を変えようと。

「この間のご飯はお腹いっぱいだった!」
「まずかったよね」
縁側に顔を出した姉が耳をたたんで目を細めた。
手にしている手帳にはぎっしりと文字が並んでいた。
「何言ってるんだよ。あれは『楠公飯』ってね、少ないお米であんたたちをお腹いっぱいにする不思議なご飯なんだよ」
「お母さん。あれ、手間は掛かるけど……あんまりね、味は」
強火で玄米を倍の水でそのまま炊き上げ、一晩寝かす。そしてさらに炊くと乏しい食事事情の時代でも、満腹になる『楠公飯』の出来上がり。
だが、味の保障はない。毎日は到底食べられない、とスズ子は大地の有り難味に愚痴る。
でも、人々は船の帰りや大海原に安らぎが訪れることを祈り続けていたことは、変わらないのであった。
「スズちゃん!読み物書いている暇があったら、回覧板を早くお隣に回してちょうだい。小説なんてね!あんた……」
「はーい。でもさあ……いずれね、この国は読み物でいっぱいになる時代が来るよ。きっと」
ゆらゆらと母親の尻尾が、五つの大洋を駆け抜ける艦隊の旗のように揺れていた。

―――その日の夕方、父母、姉弟は揃って夕方の涼しい風に当っていた。
縁側から居間に風が吹きぬける。虫が誤って入ってきた。姉弟揃って虫を追い駆けて天井を見上げるが、そこには板はない。
爆撃弾が引っ掛かるのを防ぐ為だ。この間、傷めた腰を庇いながら父親が取り払ったのだ。
時間が経つのを感じながら、誰かの帰りを待ち続け、夜空と星に浮かんだ『双葉』の影を遠くに望む。

554夏の海から ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:31:22 ID:dX3QTLsM0
「泊瀬谷一等兵、帰宅しました」
子供たちが若々しい声を聞くなり、玄関に駆け出す。彼らが飛んでいった先には、海軍の軍服姿の若人が姿勢を正して玄関で敬礼をしていた。
その脇で父の姉が彼の側に申し訳なさそうに立って、同じように小さく敬礼。
「和豊、お帰り」
「お兄ちゃん!ねえ、アレやってよ!アレ!」
少年は和豊の尻尾に飛び掛るや否や姉に自分の尻尾をつかまれる。
「春男、和豊さんは入湯上陸で帰って来たんだから、ゆっくりさせてあげなさい」
「お姉ちゃんも見たいくせに!バーカ!」
べーっ、と舌を出して姉のスズ子は弟をあしらうが、和豊には微笑ましく映った。
潮風に洗われた和豊の毛並みは、不思議と垢抜けて見えた。

その日の夕飯はいつもと比べて格別に豪華だった。居間を包む香りがいつもとは違う。
真っ白いご飯に、野菜を煮たもの。どれも、彩が豊か。子供たちも争っておかずに群がるが、母親から尻尾をつかまれる。
和豊にとってはご馳走続きの一日だ。なぜなら、昼は昼でカフェにおいて『入港ぜんざい』を口にしたからだ。
しかし、このことは子どもたちに知られるとうるさいので、泊瀬谷家では「機密事項」である。
「和豊、軍艦はどうだ」
「仲間も上官も、みな良い人ばかりです」
久しぶりに実家に戻った和豊は兄の横顔を伺う。もう、どのくらい会っていないんだろうか。
地面が揺れていないなんて、和豊にとっては海軍学校を卒業して以来のことだった。
一方、兄は国民学校の教師だ。腰を痛めているので、地上で黙々と働くことが彼にとっては誇り。
この瑞穂の国を背負うお子たちを育て、教鞭を振り、繁栄させるのだと、兄は口にはしないが目で語っていた。

夕飯も終えて、それぞれがゆっくりとした時間を過ごしていると、家の外を出ると一つも物音さえしない夏の夜が広がっていた。
折角だからと家に帰って来た和豊と兄は、配給で少しばかり手に入れた酒を酌み交わしていた。
「ネコに入湯上陸だなんて、上官も洒落たことを賜りますね」
「海軍は昔から洒落ているのだ」
水の貴重な軍艦では風呂に入るために、上陸を許可する。それを『入湯上陸』と呼ぶ。
部屋の奥から「お風呂が沸きましたよ」と、声が飛んでくる。和豊はこの言葉でさえ懐かしい。
そのころ、和豊の姉が和室に蚊帳を広げていた。
スズ子は相変わらず手帳に文字を書き続け、春男は和豊の尻尾に絡み付いていた。
天に白鳥が羽ばたき、星の一粒一粒が眩い。誰もが星空が恒久に変わらぬことを願いつつ、『双葉』に一筋の願いを託していた。

「まあ、お前は海軍で散々使われるんだな」
「兄さん、ひどいですよ。ぼくが三毛猫だからって」
「お誂えだよ。『オスの三毛猫が船に乗ると沈まない』って昔から言うからさ」
兄に酒をゆっくりと酌みながら、和豊は頬を赤らめた。
「じきにお前はすぐに出世するよ」
「ご冗談を」
「教師は昔から洒落ているのだ」

また、ご馳走を食べたいなと願いつつ、子供たちは蚊帳の中に潜っていった。
和豊は自慢の三色の毛並みを夏の風に揺らして、風呂場に向かう。


おしまい。

555わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:33:14 ID:dX3QTLsM0
投下終了。ですよ。

556名無しさん@避難中:2010/08/15(日) 20:52:59 ID:hoNycA2IO
ケモノ達も戦争とかするのかー
平和になると良いのう

557名無しさん@避難中:2010/08/23(月) 00:01:25 ID:34.QbA5sO
藪田ネタで極悪非道の超ド外道が出る話を妄想してたけどあまりにケモスレと毛色が違うんで封印したというのを思い出した。

558名無しさん@避難中:2010/08/23(月) 21:25:04 ID:ZBGCHK96O
おお清志郎君だ
なんかかわいい顔してんなー
この世界の陸上競技って一体どんなレベルなんだろうな

559名無しさん@避難中:2010/08/29(日) 10:42:45 ID:fq3ezfG.0
ぬーん、いろいろ代理投下したけどチラ裏で済ませたほうがいいのか本スレに落としたほうがいいのか迷うものがちらほら……。
投下する際にはチラ裏か代理希望か明記してくれたらいいかなぁ、と思います。

560名無しさん@避難中:2010/08/29(日) 12:35:31 ID:aPIBOmKc0
本スレに投下するには何だか忍びないし(ネタが)、人もあまり居ないなあと
思ってしまい、ついチラ裏に。避難所に投下した絵は本スレに貼っても
大丈夫です。必要であればチラ裏の文章も。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1278173977/109

561名無しさん@避難中:2010/08/30(月) 21:23:26 ID:U1p.V7jMO
英先生素敵やー
夏は本当に大変そうだよね

562名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:25:48 ID:KoVNe6eQ0
 ―― 昼休み、部屋中に響くサン先生の大きな声。
「……でさあ、ボクが『明日、臨時の健康診断があるよ』って言った時のいのりんの顔ったら!」

 エアコンの良く効いた室内で、昼食を済ませた教師たちが話に花を咲かせる、
そんないつもの職員室である。そこにはいつもの、リラックスした空気が流れていた。
外では相変わらず蝉の声が響き渡り、まだまだ夏が続いている事を感じさせる。
サン先生の天敵女性教師2人は何かの用で席を外しており、しばらくの間は
サン先生のターンが続きそうな気配であった。

「他にも何人か危なさそうなヒトもいるんじゃないの?」


「おや、私の事ですか?」

そんな空気の流れる職員室での会話に口を、いや長いヒゲを挟んできたのは、
地学(地質学・プレートテクトニクス専門)担当の要石震次郎(かなめいししんじろう)先生である。

「私ももうすぐ五十ですからねえ、健康に気を遣わないとなあ」
「あれ?要石先生がこっちに来るなんて珍しいじゃないですか」
「この暑さじゃフィールドワークも大変でしてねえ、さすがに少し涼みに来ようかな、と」
「先生もいい年なんですから、あまり無理なさらない方が」


 この要石先生、自分が受け持ちの授業は生徒を引っ張りまわしてのフィールドワークが多い。
そのため佳望学園高等部の生徒たちは、学園周辺の地質について必要以上に詳しくなっていた。
その性格は顔相応に温厚。しかし怒らせると非常に怖いらしい。
 はるか昔、彼が学生だった頃。
何かのいざこざで彼が体育館の裏に呼び出されたことがあったそうなのだが、
怒った彼の尾が地面を一打ち。その途端、周辺の部室小屋が半分以上倒壊したという
伝説が残っているとか。他にも「佳望学園の現校舎(築27年)が現在の形になったのには、
若き日の彼が一枚噛んでいた」という噂も……

そんな闖入者に、帆崎先生が声を掛けた。


「ええ、今じゃ昔のように地中に潜って活断層の探索、なんて芸当はとても」
「最近の暑さで英先生も気が立ってますから、自重してくださいよ?」

話が若干危険な方向に向きかかる。
そんな危険な気配を感じてか、単なるネコの気まぐれか。

563名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:27:23 ID:KoVNe6eQ0
「そういえば、要石先生は水泳部の顧問じゃないんですね」

泊瀬谷先生が話題を逸らした。その視線の先には、窓を通して見える校庭のプール。
そしてそこで水しぶきを上げている、がっちりむっちりした体格の影がひとつ。

「いやあ、引き受けたいのは山々なんですが、どうにもプールの塩素がキツくてねえ」

唐突な話題の転換に、要石先生が応えた。

「体表を保護しようとして粘液が出ちゃうから『プールに入るな』って、生徒から不評なんですよ」


 要石先生の体表は普段から微妙な光沢を放っており、触ると妙にしっとりとした感触である。
生魚のようなぬらぬらした感触では無いし、低い体温もあって鬱陶しい感じはしないのだが、
いかんせん全体に湿り気を帯びている。満員電車で隣に来て欲しい相手ではないだろう。
 それにプールに入ると消毒用の塩素の刺激で粘液が過剰に出てしまうのは避けられない。
魚人や両生人の生徒がプールで泳ぐ際には全身を覆う水泳ウェアを着用する事も多いのだが、
当然の事ながら動きにくい。それを嫌ってプールに入らないことを要石先生は選択したのだった。


「そうなんですか…」
「水泳部は水島先生が引っ張ってらっしゃるし、私には漕艇部がありますから」
「そうてい…部?」

“そうていぶ”の意味が分からず、首を傾げる泊瀬谷先生。


「あー、そういえばそんなのあったよね!競艇部!」
「部活動でギャンブルやったらマズいでしょう」

混ぜっ返すサン先生に、すかさず帆崎先生がツッコミを入れたが、

「でもザッキーさ、この間塚本くんと競走馬の名前で盛り上がって」
「あ、あれは!古文の単語を塚本に分かりやすく教えるのにですね!」

サン先生の返り討ちに遭った帆崎先生。そしてそのまま2人は普段の会話に戻っていった。


一方、要石先生はそれを気にするでもなく話し続け、

「皆、川の水で毛皮を濡らすのが嫌みたいでねえ。魚人と両生人ばかりの弱小チームですよ」
「はあ…」

泊瀬谷先生は今ひとつ事情を飲み込めていないようだった。

564名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:28:43 ID:KoVNe6eQ0
 そこへ掛けられた声ひとつ。

「し、失礼します…要石先生は、こちらに…」

職員室の入り口に高等部の制服を着た生徒が一人、立っていた。


「お、噂をすれば。平庭くん、こっちこっち」

と要石先生が手招き(ヒレ招き?)する。

「はい……」


やってきたのは、気弱そうな声に似合わず凶悪な顔をした小柄な魚人。
喉元は赤く染まり、緑色をした短めの髪はラメでも散らしたようにキラキラと光っている。
そんな彼がおどおどと、辺りを見渡しながら近付いてきた。

「この子が漕艇部の1年生エースでね、平庭輝男(ひらにわてるお)くん」
「ひ、平庭です…」

声の調子といい、その振る舞いといい、明らかに彼は怯えているようだった。
傍目にはどう見ても運動部のエース、という感じではない。


「で、何か用?」
「あ、新しいオールがぶ部室に届いたので…ほ報告してこいと先輩から言われましてその」
「ああオール届いたか。報告ありがとうって、皆に伝えといて」
「はいっ、し失礼しますっ」

周りの教員たちにもぺこぺこ礼をしながら、平庭くんは去っていった。
平庭くんの様子を見ていた泊瀬谷先生が心配そうに尋ねる。

「あの子、他の生徒からいじめを受けていたり、してないですよね…?」
「なに大丈夫ですよ。あの子は人見知りする子でしてねえ、部活の時は元気一杯なんですが」

要石先生は笑いながら言った。
それでも泊瀬谷先生、心配そうに

「大丈夫なのかなぁ……」

とつぶやくのだった。

565名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:29:58 ID:KoVNe6eQ0
 その日の放課後、学校の下を流れる佳望川の築堤の上に泊瀬谷先生の姿があった。
河川敷では漕艇部員たちと思しき生徒たちが20人ほど、準備運動をしている。
彼らを眺めていた麦わら帽子姿の要石先生が、歩いてくる泊瀬谷先生に気付いて声を掛けた。

「おや泊瀬谷先生、見学ですか」
「ええ、少しだけ」
「まあ大した事もやっていませんが、そちらの木陰へどうぞ」

蝉の音が響く中で要石先生が示したのは、川岸に生えた柳の群落の下である。
そこには“佳望学園漕艇部”と書かれた大きなクーラーボックスが幾つか置かれていた。
照りつける日差しを受け止めて優しい影を落とす木陰に、思わずほっと一息。

「そのボックスに入ってる水、勝手に飲んじゃって構いませんので」
「すいません、いただきます」

クーラーボックスの中から水の入った広口のペットボトルを取り出す泊瀬谷先生。
ひんやりと肉球に気持ち良い感触。少し口をつけてみる。普通の、けれどもおいしい水だった。
ふと思う。魚人や両生人の運動部員だと、こんなに水が必要になるんだ……


 準備運動を終えた部員たちが築堤を越えて細長いボートやオールなどを運び始めると、
要石先生は部長らしい蛙人の生徒と話をしながら柳の下へやってくる。
泊瀬谷先生の方をちらりと見た後、要石先生はクーラーボックスから水を一本取り出した。
そして、「残りは持って行っちゃって良いよ」と蛙くんに声を掛け、麦わら帽を脱いで腰を下ろす。
蛙くんは泊瀬谷先生に会釈してボックスを持って行き、中身を部員に配り始めた。
自転車で上流へ向かう部員、水分を補給する部員、その間を蛙部長が歩き回っている。
どうやら、しばらくの間は部長の彼に任せても大丈夫らしい。

「特等席、ですね」
「眺めが良いでしょう?夏場は暑いので、この木陰には助けられています」

そう言うと、要石先生はペットボトルの水を一気に飲み干した。
川面を撫でる風が木陰を吹き抜ける。泊瀬谷先生は思わずつぶやいていた。

「風が気持ち良い…」

要石先生は少し微笑み、部員たちの動きを眺めている。しばしの沈黙が流れた。

566名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:31:51 ID:KoVNe6eQ0
「……この川は昔、河川改良工事で大きく流れを変えられたんですよ」
「はあ」
「三面コンクリート張りのそれは、まるで巨大な排水溝のようでした」

まるで独り言のように、要石先生は話し始めた。

「ところが後になって、自然の回復という号令の下、川を固めていたコンクリートが除かれた」
「はい」
「洪水防止のため築堤は残りましたが、ひとが手を入れるのは最小限に止められたんです」
「そんな話を聞いたことはあります…」

確か、今から半世紀ほど前の話だと学生の頃に聞いたような……

「それから時間は経ちましたが、まだまだ先は長いし、それでも完全に元に戻る事は無いでしょう」
「どうして…ですか?」
「ひとの生活がありますからね、どこかで折り合いを付けなければいけません」
「いちど失ってしまったものは、取り戻す事ができないんですね……」

泊瀬谷先生が少し悲しそうにつぶやく。また風が吹いた。柳の葉が音を立てる。


「それでもね、泊瀬谷先生。まだまだ先は長いんですよ」
「え…どういう事ですか?」
「自然が止まる事はありません。あと何万年かしたら、ここは地層の中ですよ」
「はあ…」
「私たちは“未来の地層”の数ミリメートル、その中に立っているんです」
「未来の地層……」
「その頃には私たちの学校はどうなっているんでしょうね?何の痕跡も残っていないのか、
 それとも過去の遺跡として発掘されているか、あるいは数万年後も立派に残っているのか」
「…それを目にするのは、どんなひと達なんでしょうね」
「もちろん“人知れず埋れたまま”という事もありえますよ?」
「あら怖い」
「一つだけ確かな事は、私たちの力なんて自分で思っているよりもちっぽけなものだ、って事です」
「…はい」
「川は時間を大地に刻んでいくんです。私たちが何かしたところで、全てを消し去れる訳じゃありません」
「すごくスケールの大きいお話ですね……」
「ははは、百武先生の活動領域に比べれば可愛いもんですよ」

少し強く風が吹き抜ける。


 エアコンの効いた室内とは違う涼しさに、泊瀬谷先生は要石先生の今の気持ちが
少しだけ分かったような気がした。塩素で清潔に保たれた私たちのプールよりも
太古の昔から母なる大地を流れ続けているこの川を、要石先生が愛している理由が。

567名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:33:47 ID:KoVNe6eQ0
「先生ー!こっちも構ってくださいよー!」

水上の4人乗り艇から声が掛かる。
教師2人が話していたのはせいぜい20分、そろそろ要石先生の出番らしい。

「心配するな宗田!今日は鰹節が大好物な先生も来ているから、気合入れていけよ!」

と要石先生が返すと、艇上の彼は急に落ち着かない様子になった。


 要石先生は麦わら帽子をかぶりなおし、トランシーバーを手にして川岸の方へ歩いて行く。
泊瀬谷先生はこのまま木陰に居ても良かったのかもしれないが、後についていく事にした。
水のペットボトルが汗をかき始めていたので、ハンカチ越しに持ちなおす。肉球が冷たい。


その後数分の内に2艇が上流に向けてスタートを切り、残るは平庭くんの艇のみだ。

「彼は基本的に、個人種目のシングルスカルと2人で漕ぐダブルスカルをやっています」

泊瀬谷先生に説明する要石先生。川岸を吹く風を受け、その長いヒゲは楽しそうに揺れている。

 やや下流の方を見れば、細長い2人乗りのボートに乗るライフジャケット姿の平庭くん。
彼は相方と息を合わせて、相変わらず神経質そうな動きでゆっくりと艇を漕いでいた。
川縁のところどころで、白いススキが訪れつつある秋の気配を感じさせている。
泊瀬谷先生には風に揺られるそれが、彼女が良く知る生徒の尻尾のようにも見えるのだった。

どうやら準備は整ったらしく、要石先生が川岸から声を掛ける。

「平庭ー!分かってると思うが、池田の体力も考えろよ!」

艇上の2人がそれに答えるように、オールをこちらに向けて振った。
平庭くんの髪が風に揺れ、キラキラと緑色に光った。

568名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:34:59 ID:KoVNe6eQ0
 艇上の相方が平庭くんに合図する。

「それじゃいくぞ、オー…エス!」

オールが水面を叩き、辺りに水音が響いた瞬間。平庭くんの表情は変わった。
全身で闘志をむき出しに。力強く、なおかつ凄まじい勢いでオールを漕いでいる。
喉元の赤い色も心なしか濃くなっており、さながら返り血を浴びたよう。


「オラオラ池田ァ、スタートが遅いぞォ!もっと速く漕げェ!」
「ハァ…ハァ…分かってるよ…分かってるけど……」

池田と呼ばれた鯉の彼もかなりのピッチで漕いでいるのだが、明らかに平庭くんに
ピッチを合わせるのに精一杯という様子だった。

「オラオラもっとアゲていくぞぉォ!」
「ひいぃぃ……」


 未来の地層の中に立つ2人の教師の前を、猛スピードで艇が通り過ぎていく。
トランシーバーでゴール地点との連絡を取っていた要石先生は、通信を終えると

「あの通り実力はあるんですが、ペアの相手と息を合わせるのが大変でしてねえ」

苦笑しながらヒゲを撫で、少し悩むように言った。

「やっぱりシングルに絞った方が良いかなぁ…?」
「そ、そうなんですか……」


平庭くんの性格の変わりように、泊瀬谷先生はただ呆然とするばかり。
思わず手に持ったペットボトルがずり落ちそうになって、慌てて持ち直した。

川面を通り過ぎた風は、少しだけ秋の気配を含んで涼しかった。




とりあえずおしまい

569名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:36:07 ID:KoVNe6eQ0
いちおう脊椎動物だけどケモノとは呼ばないしでも外骨格のヒトも市民権得てるみたいだし
自分では納得できてもお借りしたキャラがキャラ崩壊してたら迷惑かかるし……
などと、本家に投下すべきか迷ったので、とりあえずこっちに。

もしお借りしたキャラクターで描写のおかしい所などありましたら、平にご容赦を……
あと一応キャラ紹介。


平庭くんはピラニア。
いつもは臆病だけど、血の匂いとか水面を叩く音に反応して性格が変わります。
要石先生はナマズ。
普段は岩の隙間でボーっとしてるんだけど、実は顔に似合わず結構凶悪だったり。

以上、お目汚し失礼しました

570名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 23:58:32 ID:/i.BHO1k0
新規さんかな?面白かったよー、おつ!

571名無しさん@避難中:2010/09/11(土) 03:59:23 ID:JqZTtiJ6O
要石先生素敵じゃないか
こういうお爺ちゃん好きだぜ

572名無しさん@避難中:2010/09/11(土) 18:26:43 ID:oEnbLKDUO
素敵なお話だ。
要石先生、いいなあ。
水分が欠かせないとか、細かい設定が上手いなあ。

573名無しさん@避難中:2010/09/12(日) 22:25:58 ID:EvKXo3pU0
>>569
http://loda.jp/mitemite/?id=1378.jpg
骨格を無視するのでなかなか難しいですね。

574名無しさん@避難中:2010/09/12(日) 22:48:01 ID:vtzeyzeQO
>>573
うおおすげえイラスト化したよ!
なるほどよいおじいちゃんだ

575573:2010/09/12(日) 23:01:00 ID:EvKXo3pU0
読み返したら私の文章は何やら否定的に読めます、申し訳ないです。

今日の夕刻にNHKでレガッタの放送が有ったのですが、この動きをするには人間の骨格そ
の物じゃなくっちゃだめだなーと悩みつつ描いてみましたところ、わたしの技術ではここ
まででした。 生物は陸上に上がったときに変わってしまったんですね。

地学担当だと百武そら先生と同じかな。おじいちゃん先生って、良いですよね。

576名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 00:02:28 ID:RD1ATwK.0
要石せんせーーーー!おれだーーーー!カッコイイです。

577名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 21:37:00 ID:yTFQUnPI0
>>573
SSよりも要石先生の雰囲気が出ていて、イメージが広がりました。
老先生の枯れた感じというか、人生の先輩みたいな雰囲気には憧れますよね。
我が駄文がこんなに素晴らしい絵になるなんて夢のような……
本当にありがとうございます!

百武先生は天文が専門分野みたいですし、ナマズの先生ならやっぱり断層とか
プレートとか詳しそうなので一つの教科に分野別の先生がいても良いかな、と。

魚人の骨格とかについては、歩行のための骨格構造だのヒレの強度だの考え始めたら
いつしか思考の迷宮に迷い込んでしまったので、結局は人間の骨格をベースにするのが
手っ取り早いという前提で書いてます。イルカとかクジラ系の獣人はどうなるんだろう?

578名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 23:03:14 ID:RD1ATwK.0
要石先生と百武先生がいれば怖いものなし!
ああ、蛙部長とリオとの部費を巡ってのバトルもいいな……

579名無しさん@避難中:2010/09/14(火) 21:31:30 ID:WT5/bqls0
http://loda.jp/mitemite/?id=1387.jpg

より、佐々山先輩。
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/579.html
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/576.html

580名無しさん@避難中:2010/09/14(火) 22:07:31 ID:WT5/bqls0
あ、コピペミスで日本語がヘンになってたorz

581名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:43:19 ID:9NIv.WY20
 「……という訳で、認められた部費を考えると、アレの購入に回せる費用はこれだけだ」
「これって……今回も?」
「ああ、残念だが各人の自発的協力を願わざるを得ないだろうな。皆、すまん」

 佳望学園漕艇部の部室内には重苦しい空気が立ち込めていた。
普段は練習メニューなどが大書されているホワイトボードには、数字の列が並んでいる。
その前に部長の雨宮 跳(あめみや ちょう)が立ち、顔を青くしていた。
……まあ元から青緑色なんだが。

このような重苦しいミーティングが開かれているのには理由がある。
彼らにとっては非常に重要な戦略物資の供給に、大きな問題が生じていたのだ。


―― 龍川大学(りゅうせんだいがく)生協限定、ドラゴンマークの高濃度酸素水。
同大学研究室謹製のそれは溶存酸素量が多く、主に魚人族や両生人族の間では
パフォーマンス向上効果が高いとされ、運動部所属の彼らにとって垂涎の的となっている。
それに容器のペットボトルも広口で、飲みやすい形状なのが嬉しい。

その一方で、魚人や両生人も肺呼吸である以上、その期待される効果に科学的根拠が乏しいという
意見も存在し、水の加工品である事から法令上のカテゴリは炭酸水と同じように「清涼飲料水」。
「ミネラルウォーター」に比べてなんとなく軽薄な印象を受ける言葉の響きではある。

しかも価格が価格であり、唯一の入手場所である龍川大学へのアクセスも良いとは言えない。
佳望学園の最寄り駅から電車を乗り継いだ場合、片道45分。自動車なら倍近く。
しかし幸いにして「美味しいもののためなら協力は惜しまないよ」との要石先生の発言もあり、
自動車による運搬は可能である。佳望学園所有のマイクロバスに満載して運べば、2ヶ月は持つだろう。

従って問題は、購入費用と移動時間の確保、要するに周囲の理解を得る事にあった。
……この場合「周囲の理解」というのは、部活動の予算に対する認可、という事である。
そしてその理解が得られない事が、部室内に漂う重苦しい空気の原因なのだった。

582名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:44:10 ID:9NIv.WY20
「俺も嫌というほど説明したんだがな……あの堅物委員長、今回も意見を曲げなかった」
「って事は当然、バスも動かせないのか?」
「ああ、龍川大漕艇部との交流行事でもせん事には、バスで乗り付けるなんて夢のまた夢だな」
「あの強豪大学とウチみたいな弱小が交流?」
「他所のチームと合同でなら……いやそれだと生協前がえらいことになるな」
「だいいち、部員の大半があのバスに乗ることになる訳だから……」
「あ、そっか……俺らで背負って帰るのと大して違わなくなりそうだな……」

佳望学園の保有するマイクロバスは26人乗りであり、もし漕艇部員が全員乗り込めば
余分のスペースはそう多くない。まあ確かに背負ったり自転車で運んだりするよりは
効率的と言えるかもしれないが、そこまでするのは必死杉だろ……という判断が働いたのである。
そんな訳でこの日のミーティングは、毎四半期恒例の「戦略物資確保作戦会議」へと
切り替わったのだった。


「やっぱ遊撃買出し部隊か?」
「小口輸送を断続的に、って事だな」
「いつも通り、一人あたり25kgってところか」
「うわー、キツそうだな」
「ああ今月の小遣いが……」
「まあ、これもロードワークだと思えば」
「電車に乗るロードワークなんて聞いたことないぞ」
「じゃあ走って帰るか?俺は嫌だけど」
「なるほど、ロードワークを名目にすれば大義名分も……」
「ちょwおまw殺す気かwww」
「晴れた日なら干物になれる自信があるぞ」
「当然、買出し部隊には特配があるんだろうな?」
「何?そんなもん自腹に決まってるだろ」
「ああ俺のコミック・モッフ……」

室内には部員たちの発言が飛び交い、ちょっとした混乱が起こっていた。

「あー、こんな予算押し付けてくる委員会が恨めしい」
「先生の自家用車は使えないの?」
「あの年季の入ったジムニーに積める量を考えるとな……先生にそこまでさせる訳にはいかんよ」
「確かに、俺たちで行った場合と大して変わらないかもな」
「そっか……それもそうだよね」
「じゃあ皆、いつもの通りクジ引きで」

「……せーの」

583名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:44:56 ID:9NIv.WY20
―― そんな訳で数日後、部長本人を含めて運の悪かった5人から成る小部隊が電車に揺られていた。
隊長は雨宮。彼が率いるのは三年の鮫島。二年の桝川、井森。そして一年の鰻田である。

目的地はもちろん龍川大学。電車を降りて長い坂道を登った先の門を入る。
その目の前に広がるのは、名門の名も高い龍川大学のメインキャンパスである。

そこを闊歩する高校生5人。既に勝手知ったる本部棟で、生協のおばちゃんとも顔馴染みである。

「こんちはー」
『あら。今日あたり来ると思ってたら、やっぱりね』
「いつもの500mlボトルを48本ずつ、5人分お願いします」
『いつもありがとうねぇ。間仕切り板は要る?』
「はい、お願いします」

『荷造りはそこの空いてる所でね、分かってると思うけど』
「分かってますよー。この生協についてなら、ここの新入生よりも詳しいんですから」
「雨宮ー、そんなに常連なら価格交渉とかやらないのかー」
「何を言う、今でも便宜を図ってもらっているんだぞ?これ以上要求できるか」
『あら物分りの良い子ねぇ、おばちゃん嬉しいわ』


幸いにして“本日に限っては”、龍川大学生協の水の在庫は豊富であり、
佳望漕艇部・買出し部隊の半個分隊は当初予定通りの戦果を挙げる事ができた。
それどころか、部隊長たる雨宮がこう言い出したのである。

「よし!この際だから追加調達といくか」
「えーと、それって……」
「うむ、ついては皆に調達資金の分担を願いたい。あ、おばちゃん!12リットル分追加ね」
「おいちょっと待て俺たちはまだ同意した訳j」

『はーい、毎度ありがとうねぇ』

「……オケラになった……」
「ああ俺のコミック・モッフ……」
「帰りの電車賃、残ってるかな……」
「部長……酷いよ」
「心配するな、追加分は俺が担ぐ。お前らは24kg、俺は36kgだ。文句あるまい」
「いやそういう問題じゃなくて……いや、もうやめよう」
「そうか、それじゃ話がまとまったところで帰るぞ。おばちゃん、また2週間後は頼むよ!」
『はいはい、分かってますよ!』

―― かくして特攻野郎Fチームの面々は意気揚々と引き上げるのであった。
……全5人中、約4人を除いては。

584名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:47:16 ID:9NIv.WY20
 かなり大きな荷物を連れて帰る電車の中、雨宮は仲間たちを落ち着かせようとしていた。

「そう怒るな、追加分だって後で部員全員で負担するんだから」
「だからといって俺たちの同意も得ずに……」
「まあ聞け。夏の大会が終わってその後だ。学園祭の前には秋の大会が始まるよな?」
「大会前の練習と大会での消費を見込んで、ですか」
「そしてその後には冬が来る」
「ふむ、冬場へ向けての備蓄という意味合いもあるのか」

少し納得した様子の4人。変温動物かつ体表の湿度が高い生徒が多い佳望漕艇部にとって、
寒くて空気が乾燥する冬場は試練の季節である。


「……冬、か。嫌な響きだ」

「……確かに去年の冬は地獄だったな」
「毎年の事とはいえ、寒さと乾燥のダブルパンチは厳しいよなあ」
「あの寒さの中で動ける奴は池田と桝川と俺くらいだったもんな……」
「屋内練習での気合の入らなさは覚えているだろ?」
「ああ、部長も冬眠しかかってたな」
「……冬眠で済むヒトたちが羨ましいですよ」
「確かに、熱帯出身の奴だと寒さが命に関わるもんな」
「でも鰻田さー、お前は体にプラグでも着けて発電すれば」
「……井森先輩?ガルバーニの実験、もう一回体験したいんですか?」
「いや、遠慮しとく」

「冬」という単語で嫌な記憶が蘇った一人から声が漏れ、それに呼応するように話が進んだ。


「そこで、だ」
「ん?」
「今度の大会で少しでも良い成績を残せば、次の部活動費会議でも皆の心証を良くできる」
「……そうなれば部活動費の認可も下り易くなる。あわよくば暖房費の手当てを、ってところか」
「つまり士気向上のために水を多く仕入れたのか?」
「お察しの通り」
「雨宮、お前ってホント策士だな」
「どうも。それから買い増した分は要石先生に保管してもらうので、そのつもりでな」

ここで電車が駅に到着、荷物の中身が“ちゃぽん”と声を挙げた。
5人は荷物を背負ってホームへ降り立つ。
合計132リットルの水の重みと夏の日差しが5人の背中にのしかかった。


―― そのまま部室まで帰るはずだったのだが、その途中での事。
彼らは思わぬものを目にする事になる。

585名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:48:13 ID:9NIv.WY20
「おい、あれって風紀委員長じゃ」
「あ、本当だ」
「普段の真面目そうな格好とは雰囲気違うなぁ、ああいうのも結構可愛いかも」
「おい鮫島そういう問題じゃ……ってアイツ何やってるんだ?」
「え?普通に本屋へ入っていっただけじゃ」
「それにしては妙に周囲を警戒していると思わんか?」
「そう言われれば確かに……」
「よし、俺が確かめに行く。荷物は頼む」
「あっ!雨宮ズルいぞ!」
「何を言う、奴と交渉するのには俺が一番慣れているんだ。それじゃ後は頼んだぞ!」

「……行っちまいやがった。なんて面の皮が厚い奴だ」
「そりゃ部長には何を言ったって『蛙の面に何とやら』って奴ですよ」
「確かに、蛙だもんな」
「……ここで突っ立ってても仕方ない、行くか」
「チクショー、重たいなー」
「今日ばっかりは雨宮と買出しに来たのを後悔するな」
「うちのチームじゃ1・2を争うパワーの持ち主ですしね……」
「それに交渉も上手いし。伊達に部長やってません、って事か」

かくして運の悪かった部員4人は各々33kgの重荷を背負って、部室までの道を
辿っていったのである。

「この先3ヶ月はこんな事を繰り返すのか……」
「じゃあ今度、はづきちか風間に自走台車作ってくれって頼んでおくか?」
「そりゃ良い。丁度ここにパワープラントもいる事dあばばばば」
「……イモリの黒焼き、一丁あがり」


その一方。単身本屋に潜入した部長の雨宮はというと……

586名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:49:25 ID:9NIv.WY20
「よう、風紀委員長じゃないか」
「っ!?……あ、ああ、漕艇部の」

 雨宮は確信した。なんとか取り繕ってはいるが、この慌てっぷり。何かがあるに違いない。
これは思わぬ金鉱を掘り当てたのかもしれんな。鮫島には礼を言わねば……

「それで、私に何か用でも?」
「いや、たまたま見かけたんで声を、な。確かその先は漫画本のコーナーだったな」
「……そうみたいね」

 目の色が一瞬変わったように見えたのは気のせいだろうか。
それに後ろに回した両手、何を持っているのやら。この線で少し攻めてみるか……

「そういや、今日はコミック・モッフの発売日だ、って鮫島がはしゃいでたな」
「……そう」
「ファンとしては、発売日に買いたいのが当然の心理なのかな」
「……人によるんじゃないかしら」

 ふむ、当たり障りの無い返答だ。しかし、この話題から逃げたがっているような印象。
少し別方向から攻めてみて様子を……

「俺も部長やってるから、部員の言動には気を配らなきゃいけないんだよな」
「それは良い心掛けね」
「まあ一年生部員も落ち着いたし、安心して秋季大会に臨めるって訳だ」
「そう、せいぜいがんばって」

 少し安心したか?きっと、ここからが見ものだぞ。

「鮫島の奴、お前の事が気になるみたいだったぜ?」
「……それで?」
「お前ら、良いカップルになれるかもな」
「なっ何言ってんのよ?」
「まあ似たもの同士って奴だな」
「っどっどこが似てるって言うのよ!」

 思ったとおり、安心した所へ放り込んだ球がストライクだったらしい。
ここまで慌てるか。しかし後ろに持った荷物をこちらに見せないとは、良く訓練された奴だ。
あまり追い詰めるのも可哀想だから、この辺で手を緩めるか。

「ま、風紀委員長も周りに気を配る事だな」
「……いつもやってるわよ」
「それじゃ、今度の予算委員会、またよろしく」


 雨宮は心の中で小躍りしていた。
どうやら風紀委員長は他人には知られたくない趣味を持っているらしい。
その事を知っているらしい相手に対し、どこまで強気になれるかな……?
これはますます大会で良い成績を収めなければならんな。

587名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:50:31 ID:9NIv.WY20
―― ある晴れた秋の日の放課後、佳望学園の一室で開かれた会議。
四半期ごとに行なわれる、部活動費に関する小委員会である。
この会議には、風紀委員や教師陣からも数名がメンバーとして参加していた。


「……それでは次、漕艇部ですね。代表者は」
「はい、いつも通り部長の雨宮です」


今回提出された要望書は次のようなものだった。

1.漕艇部が屋内トレーニング場を使用する時間を多めに割り当ててもらいたい
2.部員の体調管理に関して、学校側の協力を願いたい。ある程度の費用を補助できないか
3.部室のロッカーがかなり錆びているので、新しいものと入れ替えたい
4.新たに屋外用の高機能保温服を導入したいが、その費用の一部を学校に補助してもらいたい

この要望に対し、委員会のメンバーとの質疑応答が始まった。要望が認められるかどうかは
会議の数日後に返答が来るのだが、雨宮には目的のものを手に入れる自信があった。


「第2項に部員の体調管理に関する協力とありますが、具体的には」
「主に屋内の暖房です。ご存知の通り、我が部は寒さに弱いメンバーが多いものですから」

「では、なぜ暖房と書かないのですか?」
「それに、この希望額は何です。温室でも作るんですか?」
「そんな贅沢は言いませんよ。他にも体調管理のための諸経費を見込んであります」

「しかし要望の別項には“高機能保温服の購入補助”といったものが見られますね」
「部員の体調管理とは別なのですか?明確な説明をお願いします」
「それは屋外用の保温服です。屋内練習での体調管理とは分けておきました」


―― その理由を尋ねられた雨宮は説明した。
これまで冬場は厚着をして屋外練習をしているが、ボートを漕ぐような激しい動きをするのが
難しい事。問題の保温服は宇宙用素材を使っているため薄手で軽くて動きやすいが、
高価である事。従って部員全員分の保温服を用意するのは難しいであろう事。

よって、冬場は屋外練習所時間を減らし、屋内トレーニング場の器具を使った体力作りと
部室小屋内での練習を主に行う計画である事。
そこで、第1項ではトレーニング場の使用時間の割り当てを望んだ事。
その他にも部室小屋の屋内環境を整えるのが重要であり、それを第2項に盛り込んだ事。
そして屋内練習での要望に関する第2項を優先し、保温服に関しては別項とした事。


彼の説明には説得力があり、委員会のメンバーも一応納得した様子ではあった。

588名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:51:35 ID:9NIv.WY20
「……言いたい事はだいたい分かりました」
「では問題の第2項ですが、内訳を」
「まあ大部分は空調費ですね。我々の場合は湿度も重要ですから、その分の費用も見込んで」

「部室にエアコンと加湿器を付けろ、という事ですか?」
「まあそういう事です。夏の暑さが苦手な部員は少ないですから、ストーブでも構いませんよ。
. できれば温度20℃以上、湿度75〜80%は欲しいですね」

「それから?」
「あと水分補給も欠かせませんね、我々の場合は。秋季大会の事は覚えて頂いてるでしょうか?」

「……団体で4位入賞、部門別で優勝と3位がそれぞれ一つ、でしたね」
「この好成績も選手の体調管理、特に水分補給で妥協しなかったからこそだと、私は考えています」

「では部活動費の内、水分補給に関する予算はどの程度を見込んでいるのですか?」
「まあ、全体の1割から2割ってところでしょうか。何しろ気候による変動が大きいもので」

「その他には」
「ちょっと汚い話で恐縮なんですが、実は部室小屋のトイレの修繕費用なんかも含まれています。
. 換気扇が壊れてしまったので、その交換費用。あと配管の水漏れ修理費用なんかですね」

「……あちこち壊れているみたいですねえ」
「そりゃまあ、あの部室小屋も相当古いですから。この際一緒に直しておきたいな、と。
. それに我々の場合、微量のアンモニアでも皮膚の炎症を起こすには充分ですので」

「検討しておきましょう」
「ところで秋季大会での水分補給についてなんですが、特に重要な点g」


そのとき、部屋の反対側から声が挙がった。

「あんまり無茶な要望は考えもんどすぇ?」
「……あ、ああ新聞部の烏丸部長ですか」
「あんさんにも色々と考えはおありでっしゃろうけど、悪い事だけは考えたらあきまへん」
「悪い事、ですか?」
「良からぬ企み事とかは、どないに隠そうかてバレてしまうのが世の常」
「ええ、まったくで」
「そないな企み事があったら、この烏丸京子が見逃しまへんからなぁ」
「……ええ、分かってますとも」


そう、彼は忘れていた。神出鬼没の天駆ける黒い影の事を……
その日の放課後もだいぶ遅くなった頃、部室に現れた雨宮部長の顔はいつになく青かったという。
……まあ元から青緑色なんだが。

589名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:53:23 ID:9NIv.WY20
 その後の通知によると、漕艇部の屋内トレーニング場の使用時間は確保された。
もちろん暖房も使える。これで暖かい室内で体力作りに励める訳だ。

部室小屋のトイレも修繕され、臭う事はなくなった。錆びたロッカーはペンキを塗り直され、
蝶番には油も差された。見た目には新品そのものである。

部室の一角にはダルマストーブが設置された。もちろん燃料は学校側が用意してくれる。
冬になればストーブの上でヤカンが湯気を立ち上らせ、部室内の湿度を上げる事だろう。

さらに、壁には良く目立つ温湿度計が掛けられた。これで部員の体調管理も大丈夫である。


 部活動費に関しては、いつものように増額は認められず。
むろん高価な保温服など導入できるはずもなく、今年も着膨れした部員が目立ち始めた。
戦略物資の確保のため龍川大学に泣きながら足繁く通う彼らの姿は、当面消えそうにない。

590名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:55:57 ID:9NIv.WY20
以上投下終了。リオさんと烏丸部長をお借りしました。
どこか変なところがあったら、見なかったことにしておいて下さい……

大気湿度低下→皮膚からの水分蒸発量増加→体温低下のコンボは最強。
いっそ冬場は電熱服でも着せるべきか……
あと、「戦略物資」の価格は山小屋のソフトドリンクくらいを想定してます。
今はヘリで運ぶのがほとんどだけど、昔は山小屋まで100kg近くの物資を背負って
運び上げる専門職があったとか。それに比べれば雨宮部長の背負った36kgなんて軽い……よね?

591名無しさん@避難中:2010/10/01(金) 08:51:03 ID:lW4IV4CYO
虫さん大変だけど魚さんたちもっと大変だなオイ
会議とかすげーリアルだ

592名無しさん@避難中:2010/10/09(土) 13:11:26 ID:JNKmpIDQO
今VIPのケモナースレで本スレが晒されてる…

杞憂で終わるといいけど件のスレがまとめられると嵐が来るかもしれない
というわけで今からスルー力の強化を推奨します

593名無しさん@避難中:2010/10/09(土) 23:42:46 ID:vt/4CwI60
http://loda.jp/mitemite/?id=1454.jpg
また、描いてみた。

594名無しさん@避難中:2010/10/10(日) 17:31:59 ID:oYtmbv9Y0
何これ素敵
何やってんのさ白先生ww

595わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:32:47 ID:734v/LZk0
>>535
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1281.jpg

は。こんなお話。あと、某チラ裏の設定もお借りします。

596ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:33:32 ID:734v/LZk0
1「ている」め 『いっしょにいてあげる!』


ガラリと教室の扉を開くと、教室に相応しくない光景がぼくの目に入る。
ぱんつはいてない!
制服のワイシャツをだらりと羽織り、裾からすらりと伸びるのは白く長い脚と、掴めば手が埋まらんばかりのイヌの尻尾。
夕暮れの光が差し込み、茜色に全てを塗りつくす時間。扉を開いたぼく・目(さがん)賢吾には、たそがれる余裕さえない。
だって、ぱんつはいてない!
「あら、ごめんなさいね」

ぼくと同じイヌなのに、どうして尻尾が自慢げなのか。
ぶるんとたわわな尻尾が揺れると、ワイシャツの裾が露になる。
しかも、ぱんつはいてない!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!

ぼくのイヌミミがピクン!足元がくらっ!そして、尻尾は……ない。
ぼくの尻尾はない。

          #####

この春に、ぼくは高校2年生になった。
学年が変わる。友達も変わる。何もかも変わる。でも、ぼくはずっと変わらないのかも。
それほど新生活に期待せずに、クラス割が掲示されている中庭へと控えめに第一歩を踏みしめて臨んだ。
平穏無事に生きて生きたい。できれば、これ以上なにごともなく。小さくクラスに溶け込めればいい。
みんなから注目を浴びるヒーローはいつだって疲れるもの。ならば、ヒーローの背後でこぶしを振りながら応援する
名もなき一般人のほうが、いくらか気楽で息も長い。『ゲゲゲ』なメガネのサラリーマンや、ラーメン大好きKさんをみてごらんなさい。
敵を作ることなく、ある程度みんなに慕われているじゃないか。いつもの一般人はそつなく毎日を暮らす名人なんだよね。
そのためにはクラスのみんなと同じように振る舞えば、たいていのことは上手くいく。頭飛びぬけたらおしまい。
そもそも、そのためには『寸分の狂いのない毎日を送ることができれば』っていう前提があるんだけどね。
しかし、美しいもの、対称的なもの、整然としたものはこわれやすく、それを好きこんでやる者もいる。

597ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:34:01 ID:734v/LZk0
「さがんくん!同じクラスだよ!!」
脆くも本当にささやかな願い事が一人の少女の声で吹き飛ばされる、記念すべき高校生活2年目の初日。
ネコの少女・扉田鈴音(とだ・すずね)がそそくさと照れくさそうに近づいてきた。ぼくと同じく春風に似合う制服は、お互い恥ずかしい。
だって、ぼくも鈴音も小さい頃を知っているし、恥ずかしいことも知っている。でも……知らないこともあるのだ。
とにかく、彼女とぼくが同じクラスになるのは、小学校以来だった。
「わたしのこと、覚えてくれてるよね」
「う、うん」
「あの事件。ドッチボールでさ、さがんくんだけが残ってチャイムが鳴るまで逃げ切れば、ウチらのクラスの勝ちだったのに」
目のイヌミミがぴくんと動く。
「さがんくんの尻尾に当って……。どうしたの?怖い顔して」
「なんでもない!ほら、あの教室がぼくらのクラスだよ」
短くなった尻尾を隠すことに必死なぼくは、話題をすり返るようにすっと校舎の窓を指差して、ぎこちなく笑顔を取り繕った。

ぼくに変わりはないよ!
きっと、ない。
でも、見つけないで。
探さないで。
探し物など見つからないほうが良い。

「さがんくん!」
「はいっ」
「一緒に教室に行こっ」
チェックのスカートが眩しい。ここの高校って、制服で選んで入る子もいるらしいから、女子には人気があるんだろな。この制服。
鈴音が玄関に向かって駆けると、ふわりと春風にスカートが乗る。自然とぼくの目に入るのは……言うまでもない。
しかし……あの、その。
「きゃっ!」
今更のようにスカートを押さえても、ぼくの視線に突き刺さる「ふわっふわっ」が目に毒だ。

          #####

教室に鈴音と一緒に入ると、ちょっとばかり男子の声が色めきたっていることにぼくのイヌミミが揺れた。
これからよろしくのクラスメイトたちに乗り遅れたようで、なんだか悔しい。危うし一般人。だが、その輪の中に入ることは、
ぼくの袖を引っ張る鈴音の爪をキラリと光らせることになってしまうのだ。それだけは避けたいが、気になる。
出席番号順、男女別の列ということは。
「やったー。さがんくんとお隣の席だあ」
小学生のようにはしゃいで鈴音は席に飛びついた。
そして、気になる男子たちの声は鈴音の席の前の子の噂だと分かってきた。即ち、ぼくの席の斜め前。
席に着く前に、その子をちらと。

「はじめまして」
大人だ!大人の挨拶をしてきた!イヌの少女はにこりとはにかんだ。ぼくと彼女はもちろん面識はない。
言葉遣いだけならず、ふんわりとした雰囲気に甘い香りが仄かに毛並みをくすぐるシャンプー。
そして、すらりと短いスカートから伸びた長い脚に紺のハイソックス。ぼくと同じ新2年生なのに彼女の方が年上に見える。
ふわっと、ゆるっと先輩風味。あら、さがんくん。わからないことがあったら、お姉さんが教えてあげる。って、なんて言いそうだ。
彼女の耳がぼくの方に向いていることは、きっとぼくには悪意がないってことだ。なんだか、ラッキー。
だが、彼女の肩越しにはカキ氷を一気に食べたような痛くも、冷たい目線を送る鈴音が見えた。ほえー。

598ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:34:25 ID:734v/LZk0
初めてのHRが終わり、解放されたぼくたちは、いそいそと帰り支度を始める。帰りの予定は今のところナッシング!
学校のお世話になるのは、きょうはここまで。新生活に浮き立つなか一人鈴音だけが沈んでいた。
「さがんくん」
声が心なしか小さい。
「なに?どうしたの」
「帰る前に、付き合って欲しいところがあるの」
せっかくのかわいい制服には、涙は似合わない。世の中の男子の百人中百人はそのように思っているはずだ。
断る理由なんかは皆無。ざわざわと木の香りを楽しむクラスメイトたちを残して、ぼくらは教を後にした。
ちょっとだけ、ほんちょっとだけ気になるのは……斜め前のイヌの少女だけど。ね。それはそれは内緒なお話し。

鈴音に連れ出されてやって来たのは、クラス割の掲示が残されたままの中庭だった。
桜の花が冷たく咲き誇り、ぼくらを見守っている。ぱんぱんっとベンチのほこりをはたくと、一緒に並んで座る。
何年ぶりだろう。こんなシチュエーション。鈴音も随分と大人っぽくなったような気がする。
小学生の頃、ぼくが自信満々に描きあげた「うんこ」の絵を見て鈴音が「バーカ」の一言で捨てたのも、またこれは遠いお話。
あ。これはぼくがまだまだ子ども過ぎたからか。鈴音は鈴音ですこしずつ大人になっている。それに追いついていないぼくだったのだ。

「そういえば、前の席の海影さんだっけ。あの子、大人っぽいよね」
「海影紫さんのこと?」
ぼくから見て斜め前のイヌの子。海影紫(みかげ・ゆかり)のことだ。
彼女はオスのイヌのぼくから見て、かわいいではなくカッコイイだ。
あまりカッコイイ女の子は女の子から浮いてしまう。それを見ている男子は放っておけない。
知らず知らずにその美貌の罠に嵌められてしまうんだろうか。鈴音の目が寂しそうだ。

「わたしっ、クラス委員に立候補するからね!」
「えっ?なにそれ、意味わかんない!」
ぼくにそんなことをされても困る。いや、逆に考えろ。逆だ、逆。ぼくに宣言するべき理由が何処かにあるはずだ。
でなければ、ここでいきなり出馬宣言ってシナリオはないからね。しかし、鈴音の目は真剣そのものだった。
「委員長になるのはわたし!」

鈴音が子どもじみて見えてきた。
どうして、こんなことをしたのか尋ねるのも面倒だ。面倒なことはしない主義。
目の前にネコジャラシをふらふらふらってやっても、オトナのネコは引っ掛からない。
それはネコジャラシに構うことが面倒なことを知っているからだ。つんとしていても、ネコジャラシを振っているのは。
鈴音だ。
「今度のHRはクラス委員の選任があるのよね。クラス委員になって、あれもできちゃう、これもできちゃう……。
そして、ね!さがんくんにもあれができちゃう、これができちゃうって!!お願いね、さがーんきゅんっ」
ぴっと立つ鈴音の尻尾が視界に入るたびに、気が遠くなる。
痛い!思い出す!

599ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:35:13 ID:734v/LZk0
          #####

その日の帰りは無論、鈴音と一緒だ。
高校2年生になった。ちょっと先輩になった。大人っぽくなった鈴音の横顔。
日に日に何もかも変わってゆく。そして、ぼくの尻尾は変わることはない。
と、横目で鈴音をちらちらと見つめていると、いきなり表情を変えて叫ぶ。
「いけない!忘れ物!プリント教室に忘れてた!」
「ええ?今なら間に合うから、ぼくがダッシュで!」
「悪いよ」
「いいのいいの!あそこのハンバーガー屋で待ってて」
忠犬・さがんは途方にくれた鈴音の為なら、どこまでも走る勢いです!お任せを!と、ぼくは走る。
しかし、バカ正直はどこかで損をするっていることを痛感するのだ。まだまだ大人になりきれていないなんて。
出すぎたヒーローの末路なんて、大抵悲惨なものだってことをすっかりと忘れていたのだ。
そんなことを考える暇もなく、通い始めた校舎に着く。幸い玄関は開いている。
一段飛ばしで階段を駆け登り、ぼくらの教室を目指す。誰もいない廊下、静かなグラウンド。

ガラリと教室の扉を開くと、教室に相応しくない光景がぼくの目に入る。
ぱんつはいてない!
制服のワイシャツをだらりと羽織り、裾からすらりと伸びるのは白く長い脚と、掴めば手が埋まらんばかりのイヌの尻尾。
「あら、ごめんなさいね」
クラスメイトになったばかりの海影紫がぱんつはいてない!

ぶるんとたわわな尻尾が揺れると、ワイシャツの裾が露になる。
しかも、ぱんつはいてない!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!

ぼくのイヌミミがピクン!足元がくらっ!そして、尻尾は……ない。
ぼくの尻尾はない。
わーっ!尻尾なんて嫌い!嫌いだよ!でも、ちょっとぱんつが見えない、いや尻尾丸見えですけど!

ふわーっ!尻尾が嫌いだ。立派な尻尾を見ると、とても嫌になる。自己嫌悪ってヤツだ。

「さ、さ……さがんくん?」
薄れゆく意識の中で、天井が見えてくる。鼻柱が熱い。そして、星が廻る。宇宙の夜空を見ながら消えていったクドリャフカの気持ち。

後で聞いた話、海影紫は「ぱんつはいてない」ところを見られたから目を廻したと思っていたらしい。
いや、違う。あなたの尻尾です。
そして、ハンバーガー屋にて一人で「遅いなあ!」ヤケ食いしている鈴音から「さがんくんのおごりだよね」と詰め寄られるのだった。


つづく ?

600わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:36:14 ID:734v/LZk0
とりあえず第一話、とか書いてみたのよ。
投下おしまい。

601名無しさん@避難中:2010/10/17(日) 10:31:34 ID:eLw851bU0
投下きてたー
続きが気になる!

602 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

603名無しさん@避難中:2010/12/08(水) 05:41:57 ID:s2m0.muEO
雑談スレにリオww
ロボスレとのコラボが来る日も近い!

604名無しさん@避難中:2010/12/15(水) 22:10:32 ID:HT68QT1YO
リオとはづきちのちゅっちゅな絵をきゃっきゃうふふなスレに
投下したいのですが、はづきち作者さま。良いでしょうか?(´`)

605名無しさん@避難中:2010/12/15(水) 23:04:50 ID:yzTxDWok0
http://loda.jp/mitemite/?id=1601.jpg

606604:2010/12/16(木) 01:17:11 ID:Kc2vPPsg0
>>605
わぁい、有難うございます!

607わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:26:06 ID:WPm8e4Mo0
間に合った。
はづきち!はづきち!

608うさぎの夜 ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:26:49 ID:WPm8e4Mo0
大晦日の夜なのに、ウサギの男性教師・跳月はクラシックの流れるコンビニで買い物かごを腕にぶら下げていた。
同世代の者たちは今頃きっと、可愛い嫁や子どもたちと暖かいこたつの中でミカンをむきながら年末恒例のテレビ番組を見ていたり、
翌日の初詣のことやご近所や親戚の話しでもしているのではないか、と一人身ならではの考え事が脳裏をよぎる。
暮れギリギリの買い物は、おなかがすいたときの買い物とよく似ている。買い足りないかとついつい普段は躊躇うものでも
買い物かごの中身を増やしてゆく。壁に架けられたコンビニのロゴ入り時計の短針が、徐々に頂点へと縮まってゆく。
正月飾りで彩られた窓ガラスからは、今年が消え去ることを惜しむように行き交う人々。尻尾の揺れ具合が心なしかそわそわと。

コンビニでは跳月の長い耳がそわそわと。
「買っておくか、買っておかざるべきか」
一度手に取ったロールちゃんを再び棚に戻すべきなのか。となりで幸せそうな虎の男女がプリンを同じように買うのかどうか悩んでいる。
跳月の長く垂れた耳がその声でいやでもなびかせる。三十路を過ぎた男子からすれば、ふたりはハナタレ小僧。
オトナの余裕とは、小僧の垂らす洟をそっとチリ紙で拭いてやることなのだ。と、言い訳。
結局、ロールちゃんは跳月のかごの中へと、転がってゆく。

そろそろ懐具合も心配なので、レジに向かうとイヌの青年が尻尾を振って雑用をしていた。
かごに商品を詰め込んでレジに近づく跳月に気付くと、慌てて『お隣のレジをご利用ください』の立て札を慣れた手つきで退ける。
「こちらのレジにどうぞ」と誘われて、ドンと机に跳月がかごを置くとメガネ越しに青年の名札を確認した。
(この間と、同じ青年だ)
当たり前だが「いらっしゃいませ」の声が同じ。手際よく彼は、弁当に、飲み物、そしてロールちゃんのバーコードを読み取って、
余りにも日常的な動きできょうが大晦日だということを忘れさせてくれている。
一週間前の夜。世間一般では『クリスマス・イヴ』と言われる夜も、彼が同じレジに立っていて、同じようにお会計に携わってくれたのだ。

「そういえば。この間会ったときも、きみだったね」
コンビニの制服姿の青年の目。
事務を超えた旧知のような声。
積み重なるレジの液晶画面のお会計。

「大変だね。こんな日なのに」
「この曜日はシフト通りだとウサギの者が遅番だったんですけど、来年はうさぎ年だからぼくと代わったんです」
そういえば、店内を見渡してもウサギは自分ただ一人。このコンビニだけではない。途中立ち寄った本屋も、街を走る路面電車の職員も、
ウサギだったという見覚えが一切無い。そう、来年はうさぎ。この世のうさぎたちはみな、うさぎの年を迎えようと、自由にのんびりと過ごす。
「最近はそうなんだ」
「はい、お客さま」

609うさぎの夜 ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:28:17 ID:WPm8e4Mo0
跳月がコンビニから出ると、高校の教え子の因幡リオが中学生ぐらいの少年と一緒に歩いているところを見かけた。彼女もうさぎ。
学校の制服を脱いで、コートを羽織り、ショートブーツを鳴らす音はぎこちない。近づくか近づかないかの距離で、少年は気まずそうな顔をしていた。
「因幡、デートか」との跳月の問いかけは、リオの長い耳の根元を赤くさせる。
黒タイツ晒した短いスカートと反して、リオは学校では真面目な風紀委員長。この時間、この組み合わせ、そして大晦日。
「は、はづきち!ぜったい、ぜったい勘違いしてるでしょ?お年頃の男子と一緒に歩いているからさ、
『ははーん、特別な夜は特別な人と一緒なんだな』って自分勝手な妄想駆り立てて、オトナってずるいよお!センセのばかばか!」
「誰も言っていないぞ。落ち着け」
「あ。因幡の弟のマオです。姉がお世話になっています」
学校の外で教師に会うことは、スカイプでヲタ話しをしているのを親に聞かれるぐらいの破壊力を持つ。
それは、リオが弟を紹介しようとして「もうしたよ」とマオからたしなめられたことから伺えるではないか。

「はづきちは、今夜も一人で?」
リオはふくれたコンビニの袋を見て、白い息を吐く。
「うるさいな。茉莉子は海外だ」
「一人っきりに慣れっこですからね」
「三十路を舐めるなよ」
大切な人が遠い土地にいるという事実を掴まれていた跳月。精一杯の反抗で大人ぶる。
マオはわざと姉は教師から叱られようとしているな、と目を細めるしかなかった。
「ぼやぼやしてたら、二度目の成人式ですね。あ、数回目の七五三の方が先でした!」
跳月のげんこをボブショートの頭にねじり込まれらているリオは、心なしかレジの店員の目と似ていた。
「マオ!行くよ!今年の大晦日は大切な日だからねっ」
「う、うん。姉ちゃん」
そう。弟とは言え、大切な人といえば大切な人。リオはむしろこの世の中では果報者。跳月は一回りも下な小娘を嫉妬する。
もうすぐ、うさぎが夜を跳ねる。星空たちも羨むような、立派な年越しにしてやろう。と、うさぎたちは12時を心待ち。
跳月は跳月で、来年こそ大切な人とこの夜を過ごしたいと、手に食い込むビニル袋の痛さを堪えていた。。
そう言えば、レジの店員が「割り箸は一つでよろしいですね」と尋ねたことを思い出しながら。


おしまい。

610わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:29:32 ID:WPm8e4Mo0
投下納めー!

611名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 14:53:12 ID:CC7koesA0
規制されてるのでこちらにばれんたいん!

酔っ払いとぽっちー
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1761.jpg

612名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 20:52:37 ID:JcFUKMpI0
この、しあわせものめ!

613名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:36:19 ID:pmGf8C/.0
くそう、まだ規制中なので以下の文を本スレに代理お願いします…


もうすぐ猫の日(2/22)ということで、当日に忘れない内にフライング。
ケモ学用に初めて作ったキャラも猫だったので、ザッキー。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1776.jpg


仁科学園のwiki(http://www15.atwiki.jp/nisina/)TOP絵を描いて
思い出したのですが、スレを初利用する方にもっと覗いてほしいなーなんて願いつつ
こちらもwiki用ナンチャッテTOP絵など。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1777.jpg

614名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:43:43 ID:53voDYpI0
行って参ります!

615名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:46:28 ID:53voDYpI0
行ってきました。代理ってこんな感じでいいのかな・・・

616613:2011/02/18(金) 18:10:40 ID:pmGf8C/.0
>>615
有難うございます!そんな感じで大丈夫ですよー、助かりました!

617わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:09:27 ID:f1BDlGTk0
本スレでも「ネコの日」ネタを投下しましたが、ここでもしちゃうよ!
もうひとつのネコの日。

初めてさんへの、出てくる人紹介。

  淺川。   http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/635.html
  ハル子。  http://loda.jp/mitemite/?id=1593.jp

618淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:10:17 ID:f1BDlGTk0
期待通りの写真が撮れなかった。
フイルムをまるまる一本損したような気持ちに苛まれ、写真が生業の淺川にとっては、悔やみきれない一日だった。早く過ぎ去って欲しい。
期待してやってきた港町。思うようなものが撮れない。誰のせいにすることも無く、淺川は愛車V-MAXのシートに腰掛ける。
鉄の馬は大人しく主人の命令に従いつつ、長い道を駆け抜けるときを待ちつつひと時の間羽根を休め、
銀色に輝くエンジンが海辺の風に晒されて、跳ね返る日の光が淺川と一つとなってコンクリの岸壁に落とす。
ただ、しおっからい空気は愛車にとってはよろしくない。できればここから早く立ち去らせてやらねば。
「おれの尻尾のように、何もかもひんまがっているんだ」とひがむ淺川も同じく、潮の香りがネコの毛並みを傷めていた。

早く今日の日が過ぎ去れ。
風に流れろ。
冬が消えて、急いで春になれ。
もう、2月だぞ。
だから、なんだ。
ネコのいいところは、イヤなことをすぐに忘れること。だけど、手に馴染んだ愛機を手にすると言い訳にしかならない。
とにかく、誰にも話しかけられたくないが、そういうときに限ってどこかの誰かが絡みつく。
「ネコの日だよ!」
「知ってる」
「淺川!いいの?こんなところに居て!!写真家なら、ネコの日の町並みを撮ったらどうよ。鉄塔とか、電柱とか」
知らない町でいきなり自分の名前を呼ぶ者が居るとすれば、そいつは自分のことを非常に知っているやつだ。
一度会ったことのある子。ネコにはない長い耳、ネコと違った短い尻尾。彼女はウサギ。

「ハル子、変わらんな」
「淺川のくせに生意気なこと言うな!」
「ガキから説教食らうとはね。今度、みんなに自慢しようかな」
干支を一回りしたかしないかのお年頃のハル子は、大きなカメラを首からかけてメガネ越しに淺川を見つめた。
彼女はわざわざここにやってきたのは「フイルムを買いに」と言っていた。わざわざ渡船を使って本土へやってきた。
コンビニさえ無い内海に浮かぶ島は、文明の利器を使いこなすには不便すぎる。ただ、街の情報だけはやたら詳しい。

619淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:10:53 ID:f1BDlGTk0
「ネコの日って、あれでしょ!夜中にネコさんたちが集まって、いっしょに……いろいろしたり!」
「よく知ってるな、ウサギのくせに」
「だって、ググったんだもん!画像とかいっぱいあったよ!」
得意げなハル子の顔。しかし、浅い。現代っ子といえば通りがいいのだが。
足元も街の子も顔負けのスニーカー。子ども用とはいえ、品がいい。袈裟懸けしたバッグもしっかりとした作りだった。

「22日だよ!今日だよ!」
「ふーん。早く23日にならねえかな」
「どうして?ネコの日なのに」
潮風が淺川の前髪を揺らした。悪気はない。
ただ、淺川の言葉を止めたということは褒められるべきなのか。二の句を続けない淺川にハル子は戸惑う。

「わたしの住んでる島って、ネコの人がいないでしょ!」
「知ってるよ」
「だから、ネコの日のお祭りって……ネット動画でしか見たことないし、すんごい楽しそうなのに……」
視線を落としたハル子は沈黙の後、淺川の顔に自分の言葉をぶつけた。
「だって!だって!淺川ったら、ネコの日のことを……!」

ネコになりたいな。
ネコになって、みんなでネコの日のお祝いをして、楽しく遊んで……。
そして、ネコになって淺川とネコの日を過ごしたかったな。
ネコになりたいな。
子ウサギはぶら下げた大きなカメラをぎゅっと握る。
ネコの日の一切れを、カメラに焼付けたかったな。
なのに、淺川ってば!
ハル子は自分が子どもだということに奥歯をかみ締めた。

620淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:11:21 ID:f1BDlGTk0
「ハル子、知ってるか?」
「なに!」
「おれ、写真家やってるってこと」
反射的にハル子はタン!と足で地面を踏んだ。例えるならば、自分の気持ちを伝えたいのに伝えられないもどかしさを知っているくせに、
それなのに「それじゃあ、告っちゃえよ!」と悪気を持たずに背中を叩かれたときと同じようなお節介。
それが分からないハル子はまだまだ子ども。

「写真なんか生ものだぜ。夕焼けなんか撮ってみろよ、満足のいくようなカットが見つからないからってうろうろしてたら、
ほれ見たことかすぐに真っ暗になっちまうだろ。だからさ、おれはネコの日だからとかかんけーねえの」
「……淺川のくせに!」
「ハル子のくせに。ところでなあ、おれ……どんな写真を撮ればいいか分からなくなっちまってよ。ハル子さあ、教えてくれよ」
ハル子は笑いを忘れぬ淺川の悩みごとに戸惑う。素直に答えても、淺川を困らせるだけ。
「わたしにだって、分からない」
「だろうな。ハル子だし」
「もう!!」
不毛な言い争いは空しくさせる。そんな時間あれば、写真の一枚ぐらい撮りなさい。
とにかく、うだうだ言っているうちに時間は過ぎる。いくらのんびり波が岸壁を洗おうとも、そよ風が船着場をくすぐろうとも、
淺川はそんなことはお構いなしだと愛車に跨りミラーにかけたヘルメットを持ち上げる。

「どこ行くの」
あえて返事はしない。それは行き先を決めていないから。それが普通だから。淺川に行き先を尋ねるのは愚問の極み。
まるで耳を塞ぐようにヘルメットを被り、愛車のエンジンをかけるとハル子はぽんと後ろに跳んだ。
ネコの日から逃げるように淺川のバイクはそのまま島を臨む船着場から走り去った。
ハル子は淺川が残した「ハル子のくせに」という声で、必ず再びここで出会うことを感じつつ、もう一度「淺川のくせに」と呟いた。


おしまい。

621わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:12:06 ID:f1BDlGTk0
世界中のネコさんに幸せあれ!

投下おしまい。

622名無しさん@避難中:2011/02/24(木) 03:58:12 ID:NArH2Cpo0
投下乙!
屋根の下の猫さんも、お天道様の下の猫さんも、皆が幸福でありますように。

ところで、避難所の連投制限数ってどのくらいか分かる方、いますか?
いま書いてるのが4部構成で結構な長さになりそうな予感なもので……

623名無しさん@避難中:2011/02/24(木) 09:18:59 ID:DsDL9cBEO
避難所は連投規制なかった気がする。…多分。

624名無しさん@避難中:2011/02/25(金) 01:14:40 ID:nXsQmZOUO
いっそのことテキストファイルで投下するのもありかも

625名無しさん@避難中:2011/02/25(金) 06:04:17 ID:9hp2dmHMO
本スレでも00分跨ぐと連投がリセットされて結構投下できる。

626名無しさん@避難中:2011/02/26(土) 00:07:24 ID:uaqJhEAU0
>>623-625
上の方にある魚人ネタなので、避難所の方で投下したいな、と。
分量が多いと言っても1部あたり5〜6レス程度だから、
各編ごとに分割して投下すればいいのかな。皆さんアドバイス感謝です。

627名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:53:41 ID:AkyvWBeo0
――― Milagre Dos Peixes 〜春編〜 ―――


 冬は嫌いだ。
これは変温動物族に共通する意識だろう。
冷たい外気に体温が奪われ、肉体活動が低下する。
肉体活動が低下すれば、運動で発生する熱も少なくなる。
運動による熱発生の減少は、更なる体温の低下をもたらす。
まさに悪循環だ。冬眠できる連中が羨ましい。
この悪循環が恐竜絶滅の原因のひとつに挙げられているのも納得できる。
体温維持ドリンクが無かった時代、冬の到来は種の存続にも関わる重大事だったのだ。
 ところで自分は池田 昇(いけだ のぼる)という。先程の愚痴から分かるとおり、
変温動物族の鯉人だ。そう、魚人の場合は冬場の悩みがもうひとつある。乾燥である。
皮膚の乾燥を放置すれば最悪の場合、魚人や両生人の命に関わる事態になりかねない。
そうでなくても実に不快だ。だから子供の頃からずっと冬は嫌いだった。

 その嫌な季節の一大イベントといえば。
クリスマス、正月、節分、バレンタインデー。王道の答えはこんなところ。
そして自分と同学年の高校生にとっては、受験シーズン。
ああ、これほど精神的に圧迫される事が今後の人生に存在するだろうか。
あるいは存在するのかもしれないが、そんなの今は知った事ではない。

 ところが、そんな嫌な季節でも乗り越える方法があるらしい事を知った。
それは、――

628名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:54:39 ID:AkyvWBeo0
 その前に、話は遡る。
まだ桜の花が散って間もない頃、新しいクラスにも慣れてきた頃である。

 その日の目覚めは、いつもよりもぼんやりとしていた。
自分は生暖かい空間を泳いでいた。浮遊感に身を任せ、気の向くままに飛び回る。
この先、もっと良い事が起こりそうな感覚。ぼんやりとした幸福感に包まれていた。
その直後、急に不安感がこみ上げる。ここはどこだろう?何が起こっているのだろう?
自分が置かれている状況が分からない。危険が迫っている?それとも安全なのか?
訳も分からず移動を試みたが、勝手が先程までとは違う。じれったくなるような緩慢な動き。
だんだん体が重くなる。だんだん生暖かい空間に沈んでいく。だんだん意識が遠のいていく……
 そして、目が覚めた。ぼんやりとした頭で周りを見る。
部屋が明るい。もう起きる時間だと、時計が叫んでいた。ぼんやりとした頭でアラームを止める。
ぼんやりとした頭で寝床から出て、ぼんやりしながら布団を畳み、寝室を出た。
少しぼんやりしながら朝食を食べて、洗面所へ向かい、そして制服に着替えて登校した。


 休み時間に、後ろの席に座っている谷川が尋ねてきた。
「ショーちゃん、もう志望校は決まってる?」と。
成績は良かったし、いちおう優等生で通ってはいたが、この先の進路は深く考えていなかった。
ただぼんやりと、進学するのかな、程度のものだ。もちろん志望校など決まっていない。
だから、「まだ決まってない」と答えた。
そうしたら谷川は「部活にかまけて成績が下がるような事があったら許さないからね」と言う。
「なんだか教師か保護者みたいな事を言うなあ」と返したら、
「獲物はおとなしくハンターの言う事を聞きなさい」ときた。何なんだそりゃ。

 ―― とりあえず谷川の事について少し触れておく。
谷川 翡翠(たにがわ ひすい)。近所に住む幼なじみ。カワセミ人の女性である。
その小柄で華奢な体格に似合わず、まっすぐな気性の持ち主だ。
周りに流される事の多い自分とは大違いで、いつも奴には振り回されている。
運動神経もなかなかに優れている。水泳部に所属しており、高飛び込みの代表選手として
インターハイにも出場したほどだ。それでいて頭も良い。成績では自分といい勝負だ。
なぜ分かるのかというと、向こうの方から「いざ、勝負!」とか言いながら、返ってきたテストの
答案用紙を見せに来るのである。
要約すると、容姿端麗・頭脳明晰・明朗快活。ということで奴を狙っている男子連中も多いらしい。

 ところで。先程、性格が明朗快活といった。訂正する。子供っぽいのである。
登校中に油断していると、奴が後ろから飛んできて頭を嘴で挟まれるのだ。
本人としてはちょっとした悪戯程度のつもりらしいのだが、あまりいい気分はしない。
あと自分が子供の頃、奴に嘴で思いっきり突つかれた事があった。痛かったの何のって、
幸いにして頑丈な鱗のおかげで怪我をせずに済んだが、忘れられない事件である。
まあ今となっては他愛もない子供のケンカではあるが。

629名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:55:53 ID:AkyvWBeo0
 さて、その日は部活動が休みだった。それでも漕艇部の副部長としては部長の雨宮と
打ち合わせておきたい事があったので、放課後になって彼の青緑色の顔を探していた。
教室には見当たらない。鮫島や彼の友人に尋ねても居所がつかめない。職員室にもいない。
本格的に探そうと思い、部室に寄って荷物を置いてきた。
 そうやって探し回っているうち、プールの近くまで来てしまった。冬場には各種微生物の
培養槽と化していたプールも、寒中限定水泳部の有志による大掃除の結果、今では元通りの
清潔な姿を取り戻していた。そよ風と共に、カルキ臭のかすかな刺激が皮膚をなでる。
この刺激があるのでプールは好きじゃない。自然の川の方が性に合っている。

 雨宮の携帯にメールを送ってみたが、いつまで経っても返事が無い。
30分待って電話を入れてみた。『……電源が入っていないか、電波の……』
どうやら今日の打ち合わせは諦めるしかないらしかった。
 彼が入学祝に買ってもらったという携帯電話、そろそろガタが来ているのだろう。
自分のも同じようなものだ。長持ちするようにと防水機能の付いたものを選んだのだが
それでも2年間を経過すると、ときどき前触れも無く電源が落ちたり、反応が悪くなったりしている。
やはり武人ならぬ魚人の蛮用には耐え切れないらしい。……まあ雨宮は両生人だが。
とにかく湿気と精密機器は仲が悪いのだ。

 「何か探し物かい?」
突然、声を掛けられて振り向いた。立っていたのは水泳部顧問の水島先生。
「ええ、ウチの蛙部長なんですが」と答える。「ああ、雨宮くんね。私は見なかったな」との事。
「そうですか、他を探してみます」と言って、立ち去ろうとしたのだが。
 水島先生が「確か谷川くん、君の友達だったね」と言い出した。どうも声の調子が怪しい。
「ええまあ、幼なじみですが」……この一言が決定的だったのかもしれない。というのも、その返事は
「そうかそうか、それじゃ一緒に水着姿の君の幼なじみに会いに行こうじゃないか!」というものだったのだ。
……どうでもいいけど水島先生、鼻の下が思いっきり伸びてます。

 かくしてカルキの刺激の中、プールサイドに連れてこられた。どうも居心地が悪い。
最後の望みを込めて、水島先生に「あの、雨宮の奴を探しているので……」と言ってみた。
「そうだろう?だからウチの部員連中にその事を聞こうと思って君を連れてきたんだよ」との事。
どうやら自ら退路を断ってしまったらしい。まさに俎上の鯉である。それに、つい数分前には
探すのを諦めていたはずの雨宮をダシに使うとは、どうにもフェアではない。やりきれない気分だ。

630名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:56:31 ID:AkyvWBeo0
 水島先生に連れられて、プールサイドを練り歩く。
放課後に雨宮と廊下ですれ違った、といった話を部員から聞き出し、その度に自信満々で
“役立つ情報が得られただろう?”といった風な顔をしてみせる水島先生。
それだけ見れば頼りがいのある笑顔なのだろうが……どうもピントがずれている。
あと、水島先生が部員に向ける視線の種類が、男子に対するものと女子に対するものでは
違うように見えるのだが、気のせいだろうか。
 犬人やスナドリネコ人やペンギン人やラッコ人の部員たちが水しぶきを上げる横を通って、
飛び込み台の近くまで来た。カルキで皮膚がピリピリする。こんな所へ準備も無しに来るんじゃなかった。
雨宮の居所は分からないままだ。当然だろう、奴もこんな所で長居はすまい。


 ふと上を見ると、谷川が飛び込み台の上に立っていた。その姿は普段よりも細く、
まるで研ぎ澄まされた刀のように見える。次の瞬間、飛び込み板の先端から身を躍らせた。
鮮やかな色彩が複雑に回転しながら降りてくる。そして、一直線になって水の中に吸い込まれた。
あれほど高い所から飛び降りたのに、水音も水しぶきも驚くほど小さい。
跳んでから水に入るまでの時間が、まるでスローモーションのように長く思われた。

 どうも、頭がぼうっとする。きっと、塩素に、あてられたのだろう。こんな所で…長居をしすぎた。
気分が……悪い……
そして、立ちくらみ。
倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。鮮やかな色彩の誰かがこちらの様子に気付いて、
プールから上ってきた。「水島先生!こんなところに皮膚呼吸するヒトを連れてきたら……」
最後まで声が聞き取れない。誰かの肩を借りて、どこかへ連れて行かれた。

631名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:57:12 ID:AkyvWBeo0
 ……水の流れる音。草の匂い。
気が付くと、川沿いの木の下に座っていた。人の影が少し長い。日が傾きかけているのだろう。
「気分は良くなった?」と、聞き覚えのある涼しげな声。谷川だった。
とっさに(事情を説明しなければ)とか(自分はどの位の時間、前後不覚になっていたのだろう)
とか(誰がここまで連れてきてくれたんだ?)とか幾つかのキーワードが頭の中を駆け巡ったが、
口から出てきたのは「……すまん」という一言だけだった。
 改めて彼女の方を見てみた。乾かしたばかりのように見える頭の羽毛、さっぱりとした制服姿。
横にカバンが二つ、片方は自分のものだ。そういえば、持っていたはずの部室の鍵が無い。
「鍵なら返しておいたわよ」と言われ、また「……すまん」と一言。

 どうやら意識が朦朧としていたのは30分程度らしい。
たまたま保健室の窓から様子を見ていた白先生が駆けつけてくれて、「塩素酔いが抜けるまで
しばらく空気がきれいな所で休ませておけばよろしい」との診断を下したのだそうだ。
「部活はどうした?」と尋ねたら、谷川は「今日は高飛び込みの練習は前半だけだから、
下校時間としては予定通りよ」と、涼しい顔をしていた。そのまま数分間、ぼんやりと川面を見つめていた。
まだ柔らかい草が互いに触れ合い、かすかな音をたてる。まるで時間の流れが止まったような感覚だった。
しばしの沈黙を破って、「……帰ろっか」と谷川が言った。

 帰り道、谷川が唐突に「ショーちゃん、私に惚れた?」と言い出した。悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「まさか、お前に?」と返す。いったい、いきなり何を言い出すのだ。
「でも顔、赤くなってるよ?」と谷川。どこまで本気で言っているのか分からない奴である。

―― これは変な感情なんかではない、塩素の影響に決まっている。その事は分かっているだろうに。
そう反論しようとしたが、しなかった。反論すればするほど信用されないと思ったから。

632名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 21:00:40 ID:AkyvWBeo0
投下終了。
以後季節に合わせて投下するかもなので、気長にお付き合いいただければ幸いです……

633名無しさん@避難中:2011/04/22(金) 23:47:21 ID:7fuEiPpE0
うわあ甘酸っぱい。青春っていいねえ!

634名無しさん@避難中:2011/04/29(金) 04:21:10 ID:QvvOqnGEO
新シリーズがいろいろ投下されて胸が熱くなるな……!

635 ◆bEv7xU6A7Q:2011/05/04(水) 03:04:43 ID:ULrZkOes0
http://loda.jp/mitemite/?id=2042.jpg

636名無しさん@避難中:2011/05/04(水) 03:19:34 ID:t7tKomUQ0
初等組!かわいい

637名無しさん@避難中:2011/05/04(水) 03:23:18 ID:eSQCKk/20
描いちゃきたぁ!

638 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

639名無しさん@避難中:2011/05/26(木) 20:50:35 ID:4tsMsMLM0
http://shindanmaker.com/72664
幼女「ぐすん…えーんえーん!」
あなた「どうして…泣いてるの?」

リオの場合→幼女「えーんえーん!ぐすん…リオがわたしにイタズラするぅ!だれかたすけてぇ!」
白先生の場合→幼女「えーんえーん!ぐすん…白先生さん…ぜったいなんにもしないってゆったじゃない……」

640名無しさん@避難中:2011/05/29(日) 08:15:17 ID:mN5Yj.Ec0
いつもアップローダーに絵を上げてくださる絵師様へ
Wikiの方にも絵を載せたいのですが、アップローダーに上げるだけでは載せて良い物なのかどうか判断ができません。
載せても良いのかどうか、その旨を教えてください。
またお願いなのですが、創作発表板ですので本スレか避難所に投稿して「発表」してくださいませんか?
よろしくお願いします。

641名無しさん@避難中:2011/05/29(日) 21:05:49 ID:SXDlBHHk0
>>640
もしかして私のことだとしましたら、アップローダに有るものは自由にしていただいて構いません。
とりあえずほぼ「furryXXX.jpg」と言うファイルだと思います(一部間違った名前のものも有りますが)。

なお、本スレが無かったので避難所の方に一つあげておきました。

642名無しさん@避難中:2011/05/31(火) 00:32:12 ID:2jt/ipms0
>>641
返答ありがとうございます!
Wikiのほうにも上げさせていただきます。

643わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:20:44 ID:tyz8ZPUI0
こちらに投下します。はい。

644カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:21:32 ID:tyz8ZPUI0
 リオのスカートが風でふわっと舞い上がる。調子に乗って自転車のたち漕ぎをしたからだ。
土曜の午前中なのが幸いしてか、人の目線は気にならなかったのことがせめてもの救い。鉄壁スカート崩壊の危機は免れた。
 吹き抜けるひんやりとした梅雨の中休みの空気が、ニーソックスからはみ出した太ももの白いウサギの毛をやさしく冷やしていた。
太ももから腰、短い尻尾、背中を人差し指でなぞられたような。川の冷たい水で指を浸す。命の源である水は生き物に寛大だ。
その濡れた指で無防備なリオの体を触るか触らないかの感触でゆっくり爪をたてる。瞳の奥から涙が滲む。太ももを無意識に合わせる。
 「ひんっ」
 だけど、特別な人からされるんだったら、それはとっても嬉しいかも。と、リオは前向きに受け取っていた。

 休みの日に行く学校だから、いつもと違って自転車に乗ってみた。
 休みの日に行く学校だから、いつもと違って河原を通ってみた。
 ウサギの因幡リオは、自転車の前籠に荷物を載せて学園までの道で風になる。衣替えしたばかりの半袖から
澄んだ初夏のにおいがする。いつも乗っている市電の中から見る空と違って、遠くまで透き通る風が心地好い。
気持ちのいい青空のまま、帰りはショッピングとしゃれてみたい。行く先はもちろん同人ショップ。薄い本が待っている。
でも、学校の制服のままだと誰かに見られたら乙女心が傷ついてしまうから、きょうはちゃっかり着替えを持ってきた。
市販されているブランド物のよそいき制服。メガネを外しても大丈夫なようにコンタクトレンズも忘れずに持ってきているし、
着替えて真面目で通している「因幡リオ」という風紀委員長の証を消してしまえば、誰かからの人目を気にせず思う存分
自分だけの妄想ライフに閉じこもり、お咎め無しの同人ショッピングができるんだ、と夏の雲のように浮かれていた。
 
 それに、学校へ行く用事のもう一つ。跳月先生から借りていた本を返すこと。
 化学教師から借りていた理数系の本。根っから文系のリオは目次を見ただけで頭を痛めるような内容だったものだった。
リオが今までと違う世界の本が読みたいと言い出したので「ぼくが小さい頃に夢中になって読んでいた本でもどうだ」と、
貸して頂いたものだった。ハードカバーの角が丸みを帯びてきて、ところどころ日に焼けた跡がある。表紙を開くと、薄い紙が出迎える。
 「いつの本なんだろう」と読み進めているうちに、文系だったはずのリオも数字の世界に巻き込まれていた。

 数字の世界ってきっと石頭なんだろうという、文系少女・リオの既成概念を打ち破る。だが、数字とはいえ、所詮人が作りしもの。
読みすすんでいくにつれて「数学のこと」「この本を書いた人」に俄然興味を抱くようになってきた。つまり『数学萌え』。
気取って理解を遠ざける専門用語なんか一言も使わず、平坦な言葉だけで精密機械のような理数系の世界を紐解く。
この敷居の低さがリオには理数系というヤツに親近感を覚えてくるようになっていった。食わず嫌いをリオは恥じた。
 読後。リオは全ての数字の世界を理解したような気になっていた。たとえ、それがフェイクでも一人でも数字に興味を持った者が
増えたとすれば、その本の著者としては非常に喜ばしいことだ。そして、この本を与えくれた跳月にも感謝……。
 リオは本を返すことと、理数系からの温かい出迎えの喜びを跳月に伝える『用事』が出来たことに、胸を高鳴らせていた。
その本を紙袋に入れて「すごく、面白かったです!」と跳月の顔を思い浮かべてセリフの練習をしながら、佳望川のほとりを走る。

 学園近くを流れる佳望川。広く豊かな水量を誇る一級河川。この土地は佳望川によって育まれたと言っても過言ではない。
川は人に親しまれ、人は川を愛する。大きな川は学園の生徒にも愛され、漕艇部が船を浮かべたり、吹奏楽部が河川敷で
練習をするのに利用されている。川に架かる佳望橋を自転車に乗ってリオは走り抜ける。川の上なので空気が気持ちよい。
 橋の上を走ると空の色が青いことが幸せに感じる。空の色とあわせた鉄骨が橋を支え、街に溶け込む風景を作り出していた。
なんでもない街の顔に気にすることなく、リオはぐいと上流に堤防伝いに自転車を漕ぎ続けると川は向けて二股に分かれる。
佳望川に流れ込むもう一つの川、天秤川。流れは比較的緩やかで、もっと遡ると川遊びも楽しめる優しい憩いの川だ。
学園に行くには天秤川の側を走る方が幾らか早く着く。正面の校門より裏の坂道から登るのは少々骨だが、ウチからならこちらが近い。
春になると桜の花で埋め尽くされる河川敷に自転車と一緒に降りると、意地悪な風が懲りずにリオのスカートをなびかせているが許す。 
 そんなときに限って、学園で見覚えのある一人の男子を発見。

645カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:22:07 ID:tyz8ZPUI0
 雨宮だ。雨宮跳だ。
 彼はカエル。新緑の青葉のような色の雨宮が川の浅瀬に立っていた。足元を涼しげな流れで洗い、気をよくしていた雨宮は
喉をけろけろと鳴らしている。川の流れに沿って風が吹き抜けると、岸辺に置かれた雨宮が持って来たと思われる紙袋が倒れた。
慌てて雨宮は紙袋を捕まえる。
 「はっ。もしかして……雨宮にスカートの中、見られたかも」
 紙袋が風に倒されたことで、なびいたスカートを思い出す。今更裾を押さえても、仕方がないことだ。
だけれども、それをしないと落ち着かない。
 堤防の上から雨宮をじっと観察しているうちに、リオは男子の気軽さが羨ましくなってきた。髪が風に吹かれて口元に張り付くと、
そっと摘んで整えた。
 「委員長じゃん。いたの?」
 「あ、あ、雨宮っ」
 カエルは今、気付いたようなそぶりを見せたので、とりあえずリオはあまり大きくない胸を撫で下ろした。

 「何してるの」
 「川の水温を計ってたんだよ。そろそろ水が気持ちいい季節になってくるからな」
 「ふーん」
 「お玉じゃくしだった小さい頃を思い出すんだよな。ウチの水槽よりも広いから思う存分泳げるし。委員長もしただろ?」
 「しないし」
 水を雨宮が蹴上げるとほおずきの種のように辺りに水が撒き散らされる。ぱしゃっと音を立てて、水面に同心円が広がり崩れる。
漕艇部である雨宮は川とずいぶんと親しいし、これからもずっとカエルである限り親しんでゆくつもりだ。水の中にいるときは
まるで遠くて近い故郷の胎内へ帰還したような安堵感を雨宮は感じている。
 「ウチの部もそろそろ補正予算案出さなきゃね。委員長」
 「お金の話はいやよ」

 嫌なことを思い出した。リオは個人的にはあまり実績の上げられない部については、さほど予算を気にしていなかった。
だが、いざ話し合いとなると他の委員たちが雁首並べてうんうん言うので、リオもその気になって首を縦に振ってしまったのだ。
それもこれもみんなの委員長だから、穏やかに話を終わらせたい一心での消極的賛同。
 「頼むよ。龍川大のミネラルウォーター、欲しいし」
 「わたしに権力ないし」
 リオを玩ぶように雨宮はケロケロと笑った。ふんっと捨て台詞を残してリオは学園へと自転車を漕いでいった。

646カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:22:39 ID:tyz8ZPUI0

   #
 
 委員会の仕事は楽しい。だけど、予算の話し合いはあまりリオは好きでない。紙の上の数字と、現実の数字は相容れないことが悔しい。
 金の話だからだ。新学期に終えた部活動の予算配分の委員会、そして夏に向けて各部活動は補正予算を組む準備に入る。
迎え撃つのはリオたち委員会。どの部活も財布のことになると真剣になってくるのでリオはそれが恐かった。だが、仕事は仕事。
やるべきことはきちんとしなければと、真面目のまー子はせっせと過去の補正予算の議事録をダンボールに詰め込む。
知らない名前が並ぶ資料はリオの先輩たちが積み上げてきた学園の歴史。それを処分するのは忍びないが、溜め込むのもよくない。
いままで倉庫に眠っていた過去の書類を片付けることから、きょうの仕事は始まった。そのためにリオはやってきたのだ。
 「ごめんね、ミサミサ。委員会の仕事のお手伝いお願いしちゃって」
 「わたしも部活動で登校していたので、因幡先輩の力になれば幸いです」
 ただの書類整理なのに、ついてきてくれる委員の後輩にリオは感謝した。たっぱのある後輩は軽々と段ボールを抱え上げる。
詰め込まれた破棄予定の書類は束になると厄介なくらい重たいのだ。なぎなた部のエースでもある後輩は、リオの頼りになる存在だ。
凛々しい瞳に麗しい長い黒髪に惹かれて、同姓のリオでさえ惚てしまいそうである。素直なウマの娘・番場道産子(ミサコ)は
文句の一つも零すこともなく、委員会の者が負う任務を忠実に全うした。
 
 「重くない?」
 「いいえ。仕事ですから、喜んで」
 こんな仕事、暇な男子にさせればいいのにと少しでも考えたリオはミサコの仕事熱心さと比べて自分が恥ずかしくなってきた。
ミサコがリオのあとをに続くと、ミサコの部活動仲間であろう女子から黄色い声が飛んだ。その声がリオには痛い。
 「それにしても、結構あるね。捨てる書類」
 「はい」
 「5年前の資料だね」
 保管期間を過ぎた紙の束、ガムテープで厳重に封をする。学園のいちページを刻んだ証は役目を終えて行くべきところへ向かった。

 「おい、因幡」
 二人の足が止まる。教師に呼び止めるられたからだ。
 垂れたウサギの耳とよれたTシャツ。その上から羽織った白衣がいささか枯れて見える。
 「時間、あるか」
 「わたしたち、今から……」
 「因幡先輩。このあとはわたし一人でも大丈夫ですので、跳月先生の要件を……」
 ミサコの計らいに甘えて、リオは跳月に呼び出しに応じた。気を効かせたような、とリオはぐっと口元をかみ締める。
 要件がわからない故、不安を抱きながら化学準備室へ入と、相変わらず生活感のない部屋が迎えてくれた。無機質な電子部品が
机に散乱し、読みかけであろう分厚い本が開いたまま俯せにされている。リオと跳月で二人っきりの部屋。恋人でもないのに、
ましてや相手は教師だぞ。何故かリオは口の中を甘くしていた。この時間を崩したくなかったから。

647カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:23:08 ID:tyz8ZPUI0
 「委員会の仕事、お疲れ」
 跳月の労いに無言で答える。
 「お前ら、部活の予算の話し合いさ。よく頑張ってると思うぞ」
 「はい。各部活動に不満が出ないように、それぞれの委員会から意見を出してますから!」
 「それでも、不満が出る。何故か」
 崩したくない時間を跳月がいとも簡単に崩してしまう。リオが苦手なお金の話。みんなで決めたことだから恨みっこなしだ。なのに。
 「聞いた話、一部えこひいきしてるんじゃないか、とな」
 「そんなことしてませんっ」
 「ぼくも信じてる。お前はインチキできるほど、度胸もないし器用でもないだろうし」
 正直な意見にリオは胸を突かれた。

 「ただ、数字は正直者なんだ。数年前から各部部費の増減が激しいんだ」
 「わたしだけじゃありません!委員は」
 「わかってる。だがな、ある部はこの年度は倍に増え、ある部は次の年度で大きく削られる」
 「実績があったか、なかったかでしょう」
 「因幡、わかるか。ぼくが言いたいのは、感情に流されるなってことだ」
 リオは跳月の言葉の意味を噛み締めた。まるで委員会が悪者にされているのではないのかと、一度は跳月の冷たい目に逆らおうと
思ったものどうしても跳月の目を真っ直ぐ見ることのできないリオがいたのもまた事実。瞳に熱いものがこみ上げるのがくやしい。
ただ、濁すことなく自分のことを評価することに対してもリオは特別な感情を抱いていることに変わりはなかった。
 「誤解しないで欲しいんだけど、ぼくがお前を呼んだ理由。お前は委員の中でも仕事はよく頑張る方だ。ただ、お前さ」
 跳月か冷たくされればされるほど、リオは跳月に素直になれる。だから、跳月の二の句がよく分かる。
 「流されやすいだろ」
 「ひんっ」
 「日和見主義なところがあるだろ。もう少しわがまま言ってもいいんだぞ、委員長だろ」
 自分の欠点を素直に指摘されることは辛くもあり嬉しくもある。
 「因幡だけじゃないだろうけど、お前は特にそういう傾向にありすぎるんだ」
 「うう……」
 「悪く思うな。ひねた大人の意見なだけだ」
 「ありがとうございます……」

 どうしてだろう。何でもいいからぶち当たりたい気持ちになってきた。自分のせいだとわかっていても、溜め込んだものを
あたりにぶっ放したい。リオは跳月に丁寧にお辞儀をして学園から帰る準備をしていた。
本を返すこと、そして感想を伝える暇もなくなってしまったことさえ頭の中から消え去っていた。
 悔しい。どんな数式を使っても、底からこみ上げる熱い血潮を説明できないなんて。文系だったら説明できるだろ。
と、数学に被れたリオは文系やら理数系と言い訳がましく目に涙を堪えていた。

648カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:23:42 ID:tyz8ZPUI0
  #

 帰り道は暗かった。まだ昼だというのに。初夏の日光が眩しければ眩しい程、気持ちが暗くなってゆく。
 朝、出掛けのときのテンションはどこぞへと消えてしまった。寄り道なんかしてないで、早くベッドに飛び込みたい。
 ふかふかの布団は優しくリオを包んでくれるし、愛用の枕はいくら抱きしめても文句のひとつもこぼさない。
そうだ。誰でもいいから自分に構って欲しいんだ。今なら、例え相手が感情を忘れたハリネズミだってでも、ぎゅうっと自分を痛めながら
抱きしめることだって出来る。もしかして、氷のように閉ざされたリオの病んだ気持ちに針が突き刺って砕いてくれるかもしれない。
 ペダルを踏む度に髪が揺れて、太ももがスカートから見え隠れする。前籠に入れた紙袋が跳ねる。買ったばかりのよそ行き制服が
いまだに紙袋に入ったまま。着慣れた指定の制服に見を包んだまま。そして、河原には雨宮がたたずんだまま。
 浅瀬の雨宮は涼しげだ。朝出会ったときと変わらない表情を浮かべて、水と戯れるカエルがリオには心底羨ましい。
笑ったり、怒ったり、落ち込んだり、泣いたり。ウサギは忙しい。金属が軋む音を立ててブレーキを握る。堤の上から雨宮を見下ろす。
雨宮に声をかけたいけれど今一歩踏み出せない意気地無しのリオ。

 「あれ?委員長」
 「雨宮、まだいんの?」
 「へへっ。これから暑くなるしね」
 ただでさえすかっと突き抜けるような快晴に憎たらしいのに、カエルにまで笑われるだなんて。
 自転車を止めると雨宮の方へ駆けつけるためにリオはサドルから跳んだ。川辺に置かれた雨宮の紙袋からオレンジ色のものが見える。
風に倒された紙袋、飛び出したのはおもちゃのウォーターガン。小さな子が扱うにはかなり大きい本格的なものだった。
パステルカラーが夏の水遊びにお誂え。丸いフォルムの筒型タンクが装備され、ピンク色の銃口はむしろ厳しさすら匂わせない。

 「なにこれっ。子供?」
 「夏と言ったらこれだろ」
 「言わないし」
 けろけろと笑いながら雨宮はウォーターガンを手にすると、意外と大きなものだと改めて分かる。もしかして、自転車一台は軽く
吹き飛ばしてしまうんじゃないかというほどとは言いすぎだが、漕艇で鍛えた雨宮でも片手で持つにはしんどく見える。

 「ちょっと、待って。雨宮」
 河原のブロックに腰掛けてよく磨かれたローファーを脱いで、ニーソックスを膝から太もも、そしてくるぶしに掛けて丸める。
季節外れの白い雪がじわじわとリオの脚の上で広がってゆき、ぱあっと花咲いてゆく。くしゃくしゃになったニーソックスは
踵から離れて丸く縮まる。その間、リオはスカートの中を雨宮に見られていないか気にしていた。そのうちに、両足が裸足になる。
 腰掛けていたブロックにニーソックスを並べて掛けると、リオは雨宮のいる川の中へと駆け出した。丸い石が足の裏をくすぐる。
脛を清い川の水がくすぐる。そして、妨げのない川の上の風がリオの短い髪をくすぐる。夏はいつでもくすぐったい。
 「雨宮!そのウォーターガン、わたしに貸して」
 「ん?」
 「いいから!早く!カエル!!」
 表情を変えずに雨宮はリオにおもちゃの水鉄砲を手渡すが、思ったより重かったのかリオは水面に吸い込まれそうになった。
水の音を足元で立てながら、リオは体勢を直して両手でしっかりとウォーターガンを構えていた。

 ペンは剣よりも強しと言うが、ペンばかり持ってても力は授からない。それがおもちゃの水鉄砲だとしても、本だけで得た知識よりも
大きな力を手にしたとリオは勘違いのような錯覚に陥る。本だけの理屈ではない、見えない力。
 「使い方分かる?手動のポンプで空気を圧縮するんだ」
 「わかってるって!」
 「へへへ。よくご存知で」
 汗ばむ日差しの中でどうして必死に水鉄砲ごときにかかりきっているのか。
 それでも夢中にリオは空気を圧縮し続けた。


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