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ξ゚⊿゚)ξお嬢様と寡言な川 ゚ -゚)のようです
202
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:33:05 ID:GyYSCP1M0
川 - )(けど……)
それでも心の中は穏やかだった。まるで溢れた涙がそのままに彼女の中に蓄積された濁りやらを流したかのようにも思えた。
当然羞恥はあるし、後悔もある。だがそれ以上に満足感のような、或いは達成感のような、はたまた爽快感のようなものまであった。
未だにクーはツンを抱きしめていた。既に正常を取り戻しているのにもかかわらず、それは彼女の意思でやっていることだった。
それに対してツンは抵抗をしないし、むしろ受け入れている。
落ち着くのだ。お互いはお互いの熱を感じると、それだけで満たされた。
それは心の傷を癒すが如く、或いは凍てついた心臓を温めるが如くだった。
お互いの柵はこの日この時に完全に消え去った。
ただ、それでも慣れるまで――今一度自身の気持ちや感情、そして心を受け入れるまでには時間がかかるかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「……なんでしょうか」
ξ*゚ -゚)ξ「出会った時から、好きでいてくれたの?」
川;゚ -゚)「っ……」
その質問にクーは心臓が跳ね、再度熱が頭中(ずちゅう)を掻き乱す。
若干の焦燥、を通り越した混乱に見舞われたクーは、跳ね起きるとツンを真っ直ぐに見据え、肩を引っ掴みしどろもどろとする。
川;゚ -゚)「いえ、その、あれは違うのです。そう言う気持ちに似た何かを抱いていた、というだけで、そんな、まさか、いや、でも――」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……何でそんなに焦るの?」
川 ゚ -゚)「っ……何故笑うのですか」
ξ゚ー゚)ξ「だって、あんまりにもクーが必死だから」
それまで空気には若干の緊張があったが、けれどもツンが笑みを零すとその空気は和らいだ。
クーは慌てふためいて言葉を探すが、しかしツンの態度に少なからず腹を立てる。
ふざけているつもりはないし、彼女は長らく封じていた気持ちを曝け出した。その踏み出した一歩は本人にとってはとても大きなものだった。
203
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:33:43 ID:GyYSCP1M0
ξ;゚⊿゚)ξ「ねぇ、怒らないでクー。お願い、本当のことを聞かせて?」
川 ゚ -゚)「……嫌です」
ξ;゚〜゚)ξ「もうっ……ねぇってばっ」
川 ゚ -゚)「また笑いますので」
ξ;゚⊿゚)ξ「笑わないってばっ」
川;- ,-)「……はぁ」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、溜息だっ。それいけないんだよ、人前でしちゃダメだって前にクーが言ってたんだよっ」
川 ゚ -゚)「……そうでしたか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「そうだよっ」
ツンは聞きたかった。
今一度、クーが己をどう思っているのかを。
その気持ちをいつから抱いてくれたのかを。
ξ;゚ -゚)ξ「クー……」
川 ゚ -゚)「……本当です。あなた様と出会った時から……ずっと、その……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……その……?」
川//-/)「……恋い焦がれていました……」
ツンの頭の中に雷電が駆けた。それと共に視界には星が浮かび、身体は妙な浮遊感に包まれる。
そうして自重は自然と後方へと移り、危うく倒れるところだったが――
204
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:34:50 ID:GyYSCP1M0
川;゚ -゚)「お嬢様っ」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ……ご、ごめん……」
クーはそんなツンを抱きしめ、なんとか倒れるところを救う。
二人は床の上で向かい合って抱きしめ合う。
行儀の云々はこの際別として、ツンは改めて座したままにクーを見つめた。
川;゚ -゚)「大丈夫ですか?」
ξ゚ー゚)ξ「うん……少し驚いちゃった」
川 ゚ -゚)「驚く、で御座いますか?」
ξ*^ー^)ξ「うん。だって、倒れそうにもなるよ。こんなに幸せな気持ち、初めてだから……」
川 ゚ -゚)「っ――」
そう言って、ツンは赤く染まった顔で照れたように笑う。
それを見るクーは胸が高鳴り、不意に彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
が、理性が勝り、そんな衝動を封じ込めることに成功する。
ξ*゚ー゚)ξ「そっかぁ……そんなに前からだったんだね」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ*^ヮ^)ξ「……ふふっ。嬉しいね。幸せだなぁ……」
夢心地のような表情のツンは、そのままにクーの胸の中へと顔を埋める。
やってきた少女の柔さ、そして重みをクーは愛しく思った。
けれども未だに抵抗があるのか抱きしめようとする腕は葛藤を繰り広げ、ツンの背ではクーの腕が交差を繰り返す。
205
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:35:30 ID:GyYSCP1M0
ξ゚ー゚)ξ「……好き?」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ゚ー゚)ξ「今も?」
川//-/)「っ……はい」
ξ^ー^)ξ「そっか……そっかぁっ」
ツンは更にクーに強くしがみ付く。
ξ゚⊿゚)ξ「後悔、してる?」
川 ゚ -゚)「……正直、少しばかり」
ξ゚ -゚)ξ「だよね。そう言う性格だもんね」
川 ゚ -゚)「……わたくしは、どうあっても従者で御座いますれば。この気持ちも、心も、打ち明けることはないと思っていました」
ξ゚ー゚)ξ「でも言ってくれたね」
川 ゚ -゚)「そうさせたのはお嬢様です」
ξ゚ー゚)ξ「恨んでる?」
川 - ,-)「いいえ。それは有り得ません」
ξ゚⊿゚)ξ「でも後悔してるんでしょ?」
川 ゚ -゚)「……だって」
ξ゚⊿゚)ξ「だって?」
ツンは視線だけをクーに向ける。
そうするとクーは恥ずかしそうにそっぽを向くと――
206
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:36:06 ID:GyYSCP1M0
川 ///)「……歯止めが……きかなくなったら、壊れてしまいます……」
そんな台詞を口にし、ツンはその表情を見て言葉を聞くと、最早我慢ができなかった。
ξ; - )ξ「クーっ――」
川; - )「――んっ……!?」
触れ合うのは唇と唇だった。新雪の雪解けのように、それは柔らかく、清らかな口付けだった。
伝う熱と鼓動が互いの命を意識させ、更には脈拍こそが互いの気持ちを安易に伝えた。
ツンはそのままにクーの首へとしがみつき、幾度も唇を重ねる。
ξ; - )ξ「ずるいよ、クーっ……そんなのずるいっ……」
川; - )「お嬢様っ……」
ξ; д )ξ「壊すのも、壊れるのも、いつもいつもクーじゃないっ……」
川; - )「っ……何を、そんなのっ……お嬢様こそ、わたくしの気持ちも知らずに、いつもいつもっ……」
ξ;。 д )ξ「分からなかったもんっ……言ってくれなかったくせに、クーのバカっ……」
そう言い合う二人だが、けれども刹那の空白すらも埋めるように花弁を重ね合う。
蕩けた瞳はただただ互いのみを映し、この世界には二人だけしか存在しなかった。
クーはツンの細い体躯を抱き寄せた。それに一瞬驚いたツンだが、けれども己も負けじとクーに強くしがみつく。
207
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:36:45 ID:GyYSCP1M0
ξ; д )ξ「好き……好きなの、クーっ……」
川; - )「お嬢様っ……」
ξ; - )ξ「ねぇ、言ってよ……聞かせて、お願い……」
川//-/)「っ、っ……好き、ですっ……」
ξ; - )ξ「好き……?」
川; д )「好きです、お嬢様っ――」
ξ; д )ξ「あっ――」
クーは貪るようにツンの唇を求めた。
これが大人の力――ツンは今更ながらにそれを感じる。互いの歳の開きは十と幾つか。子供と大人――その差は大きく。
ツンは押し倒される。纏うのはカーディガンのみで、肌蹴た部位からは彼女の上気した肌が見えた。
薄く浮いた汗が珠を結び、花蜜を思わせるツン特有の薫香が花開く。
視覚からは劣情を駆り立てるようにツンの媚態があった。
身を捩り、不安のような、けれども期待を抱いたような雌の貌がある。
その瞳は真っ直ぐにクーを射抜き、小さな手がクーの腕を掴む。
ξ; - )ξ「ねぇ……さっきの命令、覚えてる……?」
川; д )「はぁっ……はぁっ……」
ξ; - )ξ「……あれ、お願いでもいいかな……?」
構わない、どちらでも構わない――クーの頭の中は最早大混乱で、正常は完全に砕けて消えた。
その台詞を待っていた。先のツンの暴走――その時に紡がれた一言を今一度求める。
208
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:37:44 ID:GyYSCP1M0
ξ* - )ξ「抱いて……くださいっ……」
消え入るようなか細い声。だが内容は確かにクーへと伝わった。
クーの頭の中で何かが途切れる音が響く。
この数年間、延々と耐え続けてきた彼女だが、制御の術である柵は解き放たれていた。
故にこの日、彼女は久しく手にした異常的にも等しい愛情を、今、ツンの柔肌に突き立てようとする。
川; - )(申し訳ありません、マスター。私は……ダメなメイドで御座います)
欠片ほど残っていた正常は己の雇い主であるブーン・ティレル卿に謝罪を述べる。
果たして本人に届くか否か、と言うのはまた他所に、クーはいよいよその手をツンの衣服へと伸ばす。
川; д )「床でいいんですかっ……」
ξ; д )ξ「いいよっ……」
川; - )「っ……申し訳ありません、お嬢様。はしたない女でっ……」
ξ; д )ξ「ううん、そうさせたのはわたしだから……それに、嬉しいから。だから、ねぇ、好きにして、クーっ……」
川; - )「っ――」
ξ; д )ξ「ずっとずっと、我慢させて、耐えさせてごめんね。ここには誰もいないから、何の邪魔もないから、だから――」
その先の台詞をクーは待てなかった。
暴走そのものだった。彼女は野獣の如くに瞳を光らせると、そのままにツンを喰らおうと――
209
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:38:09 ID:GyYSCP1M0
( ´∀`)「――ただいまぁー。今帰ったモナ、クー!」
( ‘∀‘)「ツンお嬢様ぁー? お腹は空いていませんかぁー?」
ξ; д )ξ「「っ!?」」( - ;川
――したその時。帰宅をしたのはクーの父と母だった。
ツンとクーはそれを捉えると即座に冷静になり、クーは急いでツンを抱えると二階の自室へと駆け上がる。
( ´∀`)「モナ? クーかモナ? 何してるんだモナ?」
川;゚ -゚)「なっ、なんでもないっ。ないからっ」
父は珍しく足音を響かせて階段を上るクーに大きな声でそう問う。
クーは適当な返事をし、自室の扉を開けるとツンと共になだれ込んだ。
川;゚ -゚)「はぁ、はぁっ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、危なかったぁー……」
息も荒く、クーは扉の前に座り込むと腕の中にいるツンの言葉を聞いて頷きだけを返した。
そうして二人は動悸を静めるのだが――
210
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:38:45 ID:GyYSCP1M0
川;゚ー゚)「……ふふっ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……? どうしたの、クー?」
川;゚ -゚)「いえ、だって……」
ξ;゚⊿゚)ξ「んん?」
川;-ー-)「おかしいな、と思いまして」
ξ;゚⊿゚)ξ「おかしい?」
川;゚ー゚)「はい……おかしいです」
ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ。そうだね……おかしいねぇ。あははっ」
――笑いがこみあげてくると、二人は暫くそうして笑いあった。
ツンは久しくそれを聞いた。クーの笑いを。
それは何も取り繕うことのない自然なもので、ツンはそれを聞けただけで満足だった。
川 ゚ -゚)「でも……応えるとは言ってませんからね、お嬢様」
ξ゚ー゚)ξ「ふふん、いいもーん。その気にさせるだけだもんっ。それに……覚悟も出来ましたっ」
川 ゚ -゚)「……? 覚悟?」
ξ゚ー゚)ξ「ふっふっふっ……まぁそれはいいのっ。それより、そろそろ下にいかないと怪しまれるかもだよ?」
川 ゚ -゚)「そうですね。それではお召し物をご用意します」
211
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:39:22 ID:GyYSCP1M0
ξ゚ー゚)ξ「……続き、いつしよっか?」
川 ///)「っ――げほげほっ! なっ、何をいきなりっ……」
ξ^ヮ^)ξ「あははっ。もう、クーってば大袈裟だなぁ」
川 ゚ -゚)「……お嬢様。今夜は野菜、多めに出しますね」
ξ;゚⊿゚)ξ「えぇっ!? あぁっ、そんな、慈悲もないよそんなのっ。ごめんってば、クーっ!」
ツン嬢と寡言なクーには秘密がある。
それは誰にも言うことの出来ない、秘められた愛だった。
Break.
212
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:39:46 ID:GyYSCP1M0
21
.
213
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:40:08 ID:GyYSCP1M0
四日目の昼。
昨夜、互いの気持ちを打ち明けたツンとクーと言えば――
川 ゚ -゚)「つまり、この当時のイングランドはフランスへと攻め入る際に……」
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー?」
川 ゚ -゚)「何でしょうか、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「あのね……なんでお勉強してるのかな?」
まるで昨日のことなどなかったかのように、いつも通りの日常を過ごしていた。
その日、ツンは目覚めると直ぐ様にクーの部屋へと向かった。
初日以降、宛がわれた部屋で過ごしていたツン。
クーの口から本心を告げられた昨夜はどうしても夜を共にしたかったが、しかしこれをクー本人に断られた。
何故駄目なのか、と諦めきれずに食い下がったツンだったが、その返答としての――何を仕出かすか分からない、と言う台詞と赤く染まったクーの表情。
果たしてそれはどちらの正常を問うのか、と思ったりもする。
が、しかしツンは仕方なく客室へと引き下がると、こうして明けた日になり直ぐ様クーの下へと向かう。
早朝のクーの態度は普段通りだった。ハートフィールドにきてからは毎朝彼女が朝食を作り、それをツンは黙々と食べた。
食事が済み、洗い物も済み、掃除も済み、さあいよいよ昨日の続きをしよう――と逸ったツンだったが、クーは教鞭を持ち出すと、勉強をしましょう、とだけ言った。
そうして昼の今に至るまで延々と国史が続いた。
最初はツンも我慢をした。これもクーの照れ隠しで、未だに彼女は心の整理がついていないものだと思った。
しかし教鞭を振るう彼女と言えばまるで城にいる時のようで、もしかしたらこれは、昨夜の件を有耶無耶にするつもりなのでは、とツンは思う。
214
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:40:37 ID:GyYSCP1M0
川 ゚ -゚)「何故、で御座いますか」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「うんっ」
川 ゚ -゚)「時が惜しいのです」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「何も惜しくないよっ。休暇中でしょっ」
川 ゚ -゚)「素養を得ることに休みは御座いません、お嬢様」
_,
ξ゚〜゚)ξ「ぐぬぬっ……だからって本広げて教鞭まで持ち出すことはないよっ」
川 ゚ -゚)「お気に召しませんか」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「そう言う問題じゃなくってっ」
あっけらかんとするクー。
その態度にツンは煽られ、ふくれっ面をして反抗の意思を示す。
が、そんなツンだったが――
ξ゚⊿゚)ξ(……あれ?)
気付くのだ。今更になって。
今日のクーはいつも通り、普段通りのようにも見えるが若干の違いがある。
一体何が違うのか、と疑問を抱きつつもツンはクーをよく観察すると――
215
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:41:06 ID:GyYSCP1M0
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー?」
川 ゚ -゚)「何でしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「シャツなんだけどね」
川 ゚ -゚)「はい」
ξ゚⊿゚)ξ「……ボタン、かけちがえてるよ」
川 ゚ -゚)「……はい?」
そう言われてクーは己のブラウスを見る。
確かにボタンが一つずれている。
ξ゚⊿゚)ξ「それとね、クー」
川;゚ -゚)「な、なんでしょうか――」
ξ゚⊿゚)ξ「綺麗だね、お化粧」
川;///)「っ……!」
本日のクーは少々可笑しかった。
身に纏うブラウスのボタンは掛け違えていたくせに、何故かメイクは丁寧で、いつも以上に美に磨きがかかる。
ちぐはぐだ、とツンは思ったが、いつも通りを意識しすぎて逆に覚束ないクーを理解すると、胸の中には愛しさが溢れ、更には抱きしめたい衝動に駆られた。
216
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:41:51 ID:GyYSCP1M0
ξ゚⊿゚)ξ「……いつもより綺麗だね。なんで?」
川;///)「あ、いや、これは、その」
ξ゚⊿゚)ξ「お家の中なのに」
川;///)「……その、後で少しでかけようかと思っておりまして」
ξ゚⊿゚)ξ「本当に?」
川;///)「……はい」
ξ゚ー゚)ξ「本当の本当にっ?」
川;///)「…………」
言葉を失ったクーは顔を赤くして俯く。
その反応があまりにも可愛らしいので、ツンは更に捲し立てたくなった。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー。意識してるの?」
川;゚ -゚)「……何のことでしょうか」
ξ゚〜゚)ξ「もうっ、またそうやってとぼけるっ。二人きりの時くらい素直になってよぅ……」
川;- ,-)「……お嬢様。そうは仰られますが、このクー、何度も言うようにあなた様の従者で御座いますれば。
そうなれば如何なる感情や理由があろうとて、それ相応の態度で――」
_,
ξ*゚⊿゚)ξ「襲ったくせにっ」
217
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:42:23 ID:GyYSCP1M0
川;゚ -゚)「っ……人聞きの悪い言葉です、それは。あれはお嬢様がそうせよと申したのです」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、それ責任転嫁って言うんだよっ」
川;゚ -゚)「誘い受けたのはお嬢様で御座います」
ξ;゚〜゚)ξ「ま、まぁ、確かにそうだけどぉ……」
昨日の光景を思い出してか、二人の顔は同時に赤くなる。
そうして顔を背けた互いだったが、少しばかりの静寂が流れるとクーが言葉を紡いだ。
川 ゚ -゚)「……あなた様はわたくしをどうしたいのですか」
ξ゚⊿゚)ξ「決まってるでしょ。分かってるでしょ」
川 ゚ -゚)「……それは叶わないことです」
ξ゚⊿゚)ξ「でも相思相愛だよ」
川;- ,-)「っ……気持ちだけでは、どうにでもなる訳では――」
ξ*゚⊿゚)ξ「なるんだよねぇ、これが!」
川;゚ -゚)「……はい?」
何故か誇らしげに胸を張るツン。
そう言えば昨夜も何やら妙なことを言っていた気がする、とクーは振り返るが、果たして予想はつかなかった。
218
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:43:17 ID:GyYSCP1M0
ξ゚⊿゚)ξ「今まで……今までずっとわたしの為に我慢してたんだよね、クー」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ-⊿-)ξ「なら、今度はわたしがそれに報いる番なんだっ。だから改めて言うよ、クー。
わたしはクーが好き。大好き。そんなクーを手に入れる為なら、なんだってする!」
川 ゚ -゚)「……お嬢様?」
愛の告白――何度聞いても慣れず、クーの顔は茹でた蛸然り。
しかしどうにもツンの考えていることが分からないクーは、もしや何か悪巧みでもしているのでは、と勘繰る。
ξ゚ー゚)ξ「応えることはできないって言うけどね、クー? 答えを貰ったわたしは絶対にあきらめないよ。
クーを幸せにするし、絶対に手放さないもんねっ」
川 ///)「っ……そんなに言わないでくださいませ、お嬢様っ……」
ξ*゚ー゚)ξ「え? あ……ふふっ。耳まで真っ赤だよ、クー?」
川 ゚ -゚)「……やはりあなた様は酷いお方です」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうかな?」
川 - ,-)「そうです……」
クーの胸中にあるのは憎しみや怒りではない。それとは真逆(まさか)の感情――幸福だった。
夢に見ていた。ずっとそうありたいと願い、思っていた。
隠し、秘密にしていたその愛情をツンへと伝え、いつか互いに気持ちを共有できたなら――そんなことを夢に見た。
しかし夢は夢では終わらない。
いつの日かクーは自身の口から夢は見るものであり叶えるものではないと言った。
皮肉か否かはさておき、今の彼女は確かに夢を見て、更には叶えていた。
219
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:44:02 ID:GyYSCP1M0
川 ゚ -゚)「……絶頂、か」
ξ゚⊿゚)ξ「え? なに?」
川 - ,-)「いえ、なんでも御座いません」
呟きの意味こそはつまり彼女の幸福の度数を物語る。
一つ咳払いをしたクーは再度ツンへと向き直る。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、クー。ちょっとこっちにきて」
川;゚ -゚)「……お嬢様」
ξ*゚ -゚)ξ「お願いっ」
川; - )「……っ」
断りたい――でも断りたくない、とクーの心の中で葛藤が生まれる。
理性と知性が本能に歯止めをかけるのだ。きっと己の主は愛を求めていると悟るが故に。
だがそれに従いたいのが彼女の本心であり、彼女もそれに飢えていた。愛情――愛する者に触れたいと思う。
結局、クーは俯いてしまうが、その足はツンの下へと向かう。
近くにまで迫ったクーの手を取ったのはツンで、接触した二人は同時に互いの顔を見た。
220
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:44:46 ID:GyYSCP1M0
ξ*゚ -゚)ξ「……やっぱり真っ赤だね」
川 ///)「……お嬢様も人のことを言えません」
ξ*゚ -゚)ξ「そんなに赤い……?」
川 ///)「はい。とても」
ξ* - )ξ「それはクーもだよ。ねぇ、もっとこっちに……――」
川; д )「あっ、ダメっ、お嬢様っ……――」
手を引かれたクーはツンの膝元に迫る。
互いの顔は超至近距離で、興奮の為か両者の息遣いは荒かった。
ツンは手をクーの頬へと伸ばす。触れられたクーの瞳の奥では瞳孔が開いた。
長い睫毛は震えをみせ、紅潮する頬は初心な生娘の体現だった。だがそれが尚更ツンの激情を煽る。
クーの頬に手を添え、無理な力を加えずに見合うように顔を向ける。
見上げるクー、見下ろすツン。互いはそのまま惹かれあうようにして唇を重ねた。
ξ*///)ξ「んっ……ふぅっ、んっ……」
川;///)「ぁっ……んんっ……」
まるで色に狂うが如く――クーは熱っぽい頭でそんな事を考えた。存外脳の芯は冷静で、不思議な程に思考が巡る。
クーはツンを味わう。肌の温もりを得て、薫香を聞(き)き、心音を聞くと途端に幸福が胸の中に溢れる。
川; - )(――……私、このままだと、本当に……)
ダメになる――そう思う程、それは夢心地だった。
いっそこのまま抜け出せないのならば、それが最上の幸福とも呼べるのかも知れない。
だが唇の接触は十秒程度で、静かに熱を別った二人は、潤んだ瞳で互いを見つめる。
221
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:45:13 ID:GyYSCP1M0
ξ* - )ξ「……ダメだった……?」
川 ゚ -゚)「……聞かないでください……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、もうっ。そっぽ向かないでってばっ」
川 ゚ -゚)「……いやです」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……クーって、意外と子供っぽいところあるよね」
川 ゚ -゚)「そんなことはありません」
ξ゚ー゚)ξ「あるよ。昨日も――ううん……前からそうだった」
川 ゚ -゚)「……前?」
ξ-⊿-)ξ「うん。昔から……ね?」
川 ゚ -゚)、「そう、でしたか……?」
仮面を装着する前――その当時、クーはツンとよく笑いあった気がする。
だが己がどう言ったように接していたのか、それは遠い記憶に思えた。
自身の過去に困惑するクーだが、しかしツンはそんなクーを見ると、やはり変わらないままだ、と一人で安心をする。
ξ゚⊿゚)ξ「だから好きになったんだろうなぁ」
川 ゚ -゚)「え……?」
ξ゚⊿゚)ξ「だってね、クーっていつもそうでしょ。いつもいつも……わたしのことを真っ直ぐに見て、大事に思ってくれて……
優しかったり厳しかったり、わたしを愛してくれてるでしょ」
川 ゚ -゚)「っ――」
そう言われるとクーは再度顔を赤熱に染め上げた。
果たしてそれは愛情故の態度だったか、と問われたらば、彼女は頷く他になかった。
222
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:45:59 ID:GyYSCP1M0
ξ゚ー゚)ξ「そりゃ好きになるよ、惚れるよ。そもそもわたしだって一目惚れみたいなものだったんだもん。
そんなわたしを大事に大切に可愛がって……罪なのはどっちかなぁ、クー?」
川;゚ -゚)「うっ……いやしかし、それは、だって、お嬢様っ。わたくしはレディースメイドな訳で――」
ξ゚ー゚)ξ「それで、そういうところ。その可愛いところ……やっぱりずるいのはクーだよ」
そう言いつつも、ツンはクーの隙をついて彼女の唇に優しく花弁を宛がった。
一瞬の接触。だが伝う熱と感触は確かなもので、クーは困ったように俯くが、実際はこれ以上恥ずかしい表情を見られまいとしたが為だった。
ξ*^ー^)ξ「……好きだよ、クー」
川//-/)「……っ」
クーを抱きしめるツン。
愛を向けられ、更には与えられ、一体子供はどっちなのだろう、とクーは思う。
既に気持ちは知られている。
今更取り繕ったところでどうなる――そこまでクーは考えると、一つ、二つと呼吸を整え、そうして一つの決心をした。
川 ///)「わたくしも……好き、です……」
ξ。゚⊿゚)ξ「クー……!」
それは初めて自発的に口にした愛の言葉だった。ツンはあまりの嬉しさに涙が込み上げてきた。
そうして二人は改めて抱きしめ合い、互いの気持ちを今一度噛みしめ、その温かな幸福を胸の中に大切に仕舞うのだが――
223
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:46:27 ID:GyYSCP1M0
川 ゚ -゚)「ですがお勉強は続けますよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「げっ」
川 ゚ -゚)「お気持ちは嬉しく思いますが……必要なことは済ませねばなりませんので。さあお嬢様、筆を」
ξ;゚д゚)ξ「もうっ、本っっっ当にクーってずるいよね!」
クーは空気に流される訳にはいかぬと己に鞭を打ち、なんとか色呆けた頭を冷静にする。
ツンと言えば大きく溜息を吐くと机に突っ伏し、誠、このメイドは容赦の一つもない、と呟く――
川 ///)「……ご褒美を、さしあげますので……どうかお嬢様……」
ξ*゚⊿゚)ξ「――やるっ!」
――わけもなく。
さて、勉強を終えたらどのような願いを口にしてみようか、とツンは褒美ばかりを待ち遠しにした。
Break.
224
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:46:51 ID:GyYSCP1M0
22
.
225
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:47:18 ID:GyYSCP1M0
ツン・ティレル嬢は扉の前に立つ。
ξ;゚ -゚)ξ(……大丈夫。大丈夫だよ、ツン……落ち着いて、平常心っ!)
夜半、人の気配はない――否、あることはある。だが住人は皆寝入っている。
とは言えこの住まい――クー邸にはクー本人をのぞいて父母のみしかおらず、城に住まう数と比べればある意味では無人に等しくも思えた。
そんな静寂の中、ツンは何やら決心をすると扉に手をかけ開いた。床を軋ませて一歩を踏み出し、そうして室内へと踏み込む。
川 - )「…………」
ξ;゚⊿゚)ξ「……クー?」
その部屋はクーの自室で、彼女はベッドに腰かけていた。
ツンが入ってくると何故か一瞬身を跳ねる。遠くから見える彼女の後姿――その耳は赤く染まっていた。
名を呼び、ツンは更にクーへと接近した。
ξ゚⊿゚)ξ、「えっと、その……呼ばれた通りにきたけど……?」
この夜、ツンはクーに呼び出された。
従者が主人を呼び立てるとは何事か――と、ツンが怒ることはない。
招いた理由こそは昼頃の褒美の件だった。
本日、ツンは目覚ましい勢いで熱心に勉学に取り組み、その姿勢にクーは甚く感動をする。
日頃勉強を嫌うツンだが、褒美一つでここまで変わるのか――そう思う程で、クーは自身が口にした手前、褒美の件をどうにかせねば、と悩み続けた。
そうして夕餉になるまで内容は思い浮かぶことはなく、はて、どうすべきか、と更に思考を巡らせると、彼女は一つの答えに行き着いた。
226
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:48:07 ID:GyYSCP1M0
川 ゚ -゚)「……夜分、お呼び立てして申し訳ありません、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、それはいいけど……」
クーはベッドから立ち上がるとツンを見る――ことはなかった。
瞳は伏せられている。更には顔は赤く染まり、手は組まれているが落ち着きなく動いている。
その様子を見たツンだが、疑問を抱くことはなかった。
ξ*゚ -゚)ξ(やっぱり、これって……それだよねっ……)
確信に等しいものがあった。
それと言うのも先刻、湯浴みを済ませた彼女にクーが紡いだ台詞――夜、部屋に来ていただきたく、と言う言葉。
これだけでツンは悟り、心音はその頃から怒鳴(がな)りたてた。
先まで扉の前に立っていたツンは扉を押し開くことすら躊躇し、何度も取っ手を握っては放し、握っては放しを繰り返した。
一つ、二つと呼吸を整え、いざ、と決心をして踏み込めば、件のクーの態度はこれだった。
最早これでは落ち着くことも出来ない、とツンは更に緊張をし、クーの顔を真っ直ぐに見ることも出来ない。
川;゚ -゚)「…………」
ξ;゚ -゚)ξ「…………」
寡黙にならざるをえない――生まれた静寂に居心地の悪さを覚える二人。
果たしてそんな空気を先に崩したのは――
川;゚ -゚)「お嬢様……」
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
クーだった。
クーは赤い表情のまま、それでも瞳を開くとツンを見つめる。
向けられた眼差しにツンは殊更に心臓が跳ね、全身の脈が急く。
227
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:48:53 ID:GyYSCP1M0
川;゚ -゚)「昼頃の取決め……約束ですが。その、ご褒美の件なのですが……」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」
川;゚ -゚)「申し訳ありません。何分、この田舎ではお嬢様に見合う物品と言うのも数少なく、
更には歳若いあなた様にとっては価値のないものばかりで御座います」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そうなんだぁー……」
川;゚ -゚)、「それで……なのですが」
熱っぽい瞳を僅かに伏せるクー。その仕草にアリスの心は掻き乱れ、視界には星が瞬く。
呼吸は矢継ぎ早になり、興奮は徐々に増した。
そんなツンの様子を瞳に映すこともせず、クーは言葉を続ける。
川; - )「その……お嬢様が先日仰っていた、その……そのっ、続き、と言うもの、なのですがっ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ……うん……」
川; - )「……その……」
ξ;゚ー゚)ξ「うんっ……」
じりじりとツンはにじり寄る。対するクーは完全に面を伏せ、その赤熱した顔を見られまいとする。
しかしそれ故にクーはツンの接近に気付いていない。そうして気付かぬままに――
川; - )「わたくしで、そのっ――」
ξ; ー )ξ「最高のご褒美だね、クーっ……」
川;゚ -゚)「えっ――」
眼前まで迫っていたツンに無理矢理に唇を奪われてしまった。
228
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:49:33 ID:GyYSCP1M0
川; - )「お嬢様っ……」
ξ; ー )ξ「可愛いよね、クーは……そう言う態度、凄くっ……」
ベッドに押し倒されるクー。
まるで背の差や歳の差など関係ないとばかりにツンは彼女に迫り、覆い被さると口付けを幾度も交わす。
既に互いの抱く熱と言えば冬らしからぬ程で、薄く浮いた汗こそが興奮の度合いを物語っていた。
ツンは野獣のような瞳でクーを射抜く。向けられた双眸にクーは一瞬呼吸が止まる程だった。
川; - )(獣みたいな瞳……)
そうなると己は供物か、と妙なことを考えてしまうクー。
だがそれも悪くない――そう思う程に正常の箍は緩んでいた。
ξ; ー )ξ「献身的だね、クー。自分の身体を差し出すの……?」
川; - )「……差し出せるものがこの身しかありません」
ξ; ー )ξ「本当に……?」
川; - )「本当です」
ξ; ー )ξ「そう? 本当は……そう言うことがしたかったのかと思っちゃった」
川;///)「っ……何をっ……」
ξ; ー )ξ「だって、凄く……可愛い顔してるもん」
川;///)「っ――」
赫灼(かくしゃく)に染まるクーの貌。
その様子にツンの中にある嗜虐心が顔を覗かせ、口付けをやめるとクーの首元へと顔を埋(うず)めた。
229
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:50:22 ID:GyYSCP1M0
ξ; - )ξ「んっ……いい匂いっ……」
川; - )「なに、をっ……」
ξ; д )ξ「わたしね、クーの匂いが大好きなの。花みたいな香りが凄く好き」
川; - )「然様で、御座いますかっ……」
ξ; д )ξ「それと――んっ……」
川; д )「あっ……!」
クーの首筋にツンの小さな歯が突き立てられた。
柔肌をなぞる劣情はそのままに行方を下方へと滑らせ、首元を通り過ぎると鎖骨にまで至る。
ツンの頭が丁度目の前にくるとクーはいよいよ羞恥の所為か涙を浮かべ、小さな声でツンの名を呼んだ。
川;///)「お嬢様っ……」
ξ; ー )ξ「……知らないでしょ、クー。シャロってね、凄く……おいしいんだよ?」
川;///)「なにを、仰ってっ……」
ξ; д )ξ「本当のことだもん――んっ、あむっ……」
川; д )「ひぅっ……!」
か細い旋律が漏れ出し、ソプラノを耳にしたツンの胸が締め付けられる。
同時に臍の奥では坩堝が火炎を増大させ、脈打つ度に劣情が蜷局を巻く。
230
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:53:37 ID:GyYSCP1M0
クーの肌――ツンの唾液で濡れるとそれは嫣然(えんぜん)と照りをみせた。
白磁を髣髴とされる肌の質感。色彩は雪の大地が広がり、それ等の情報だけで如何にクーが佳人足るかと言うのは明らかだった。
ツンは若干身を起こすとクーを見下ろす。
その表情は誰が見ても分かる通りに濃艶で、息の間隔は短く、シーツを掴む手が尚更劣情を煽る。
扇情的なその姿にツンの心臓は爆発しそうになった。
だがそれでもなんとか正常を保ちつつ、褥(しとね)に沈むクーの髪を撫でつける。
絹の心地を地で行くその質感にツンは蕩けた。物寂しそうなクーの唇に吸いついては愛の言葉を紡ぎ、そうして二人は更に沈み込んでいく。
ξ; - )ξ「好きっ……好きだよ、クーっ……」
川; д )「ぁっ……お嬢様、お嬢様ぁっ……」
ξ; - )ξ「可愛いよ、クー……凄く凄くっ……」
川;///)「やだっ、そんなっ……耳元で言わないでくださいっ……」
クーの耳朶(じだ)から中耳(ちゅうじ)へと甘い声が届き、脳が揺れる。
視界は潤み、それでもその向こうに見える愛しい少女の表情――ツンの貌を理解すると興奮と安堵が駆け巡った。
既にクーに正常と呼べるものは皆無で、ただただ抵抗もせずにツンを受け入れるばかりだった。
ξ; д )ξ「好きって言って、クーっ……」
川; - )「好きっ……好きです、お嬢様っ……」
ξ; д )ξ「っ……好きだよ、クーっ……」
川; д )「好きっ……大好き、お嬢様っ……」
ξ; д )ξ「クー……クーっ……!」
231
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:54:24 ID:GyYSCP1M0
果たしてその光景を褒美と呼べるか否か――それはどちらに対する褒美か。
クーはツンに対する褒美として自身を差し出したが、しかしそれは己の欲を満たす行為なのでは――クーの微かな理性がそんなことを思う。
しかし既に時はこの只今で、如何に理屈やらを持ちより並べようとも、本能に抗うと言うのは難しいことだった。
川 - )(卑しい女だ、私は……)
少女を愛した。そんな少女に貪られるかの如く、さりとて彼女は愛を交わす。
永遠に叶うことはないと思っていた望み。夢とは見るものであって叶えるものではない――そう諦観していた。
だが全ては現実になった。それも人の目の届かぬ地で、こうして秘密の関係を持ち、互いの思いをぶつけ合う。
それは幸せだった。心のどこかでは勿論恐怖や焦燥、そして罪悪感もあった。
だが幸福を得ると、これが思った以上に容赦がなく、彼女の罪悪感を和らげ、本能に従えと令を下す。
何よりとしてクーはツンを受け止めるべきだと思ったし、先日は両親の邪魔立てがあったが故に互いは不完全燃焼だった。
ξ ー )ξ「……綺麗だよね、クーって」
川 - )「……お嬢様も、可憐で御座います」
ξ ー )ξ「そうかな」
川 - )「はい」
ツンは再度クーに覆い被さり見下ろす。
重なる互いの視線は互いのみを映す。
232
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:54:51 ID:GyYSCP1M0
ξ ー )ξ「ご褒美……それってどこまで?」
川 - )「……それはお嬢様次第かと」
ξ ー )ξ「……ねぇ、わたしをどうするつもり?」
川 - )「どうする、とは」
ξ ー )ξ「狂わせるの?」
川 - )「……お互い様で御座います」
狂いそうだった――そう、クーは先日ツンに伝えた。それ程に己はあなた様を愛している、と。
それをツンもこの瞬間に感じた。
ξ* ー )ξ「愛しくて、可愛くて……壊しちゃいそう」
川 - )「……お嬢様にそうされるのならば、それを受け入れるまでで御座います」
ξ* ー )ξ「……壊して欲しいくせに」
川 - )「お嬢様こそ。壊れたいくせに」
ξ* ー )ξ「ふふっ……口答えまでする。本当、今までの鉄面皮はどこにいったの?」
川 - )「あなた様に奪われました」
ξ* ー )ξ「嬉しい?」
川 - )「……複雑です」
233
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:55:22 ID:GyYSCP1M0
ξ* ー )ξ「今も?」
川 ///)「……訊かないでください」
正否、善悪――それを定めるとすれば、この関係に正義はないのかもしれない。
だがもう止まることは出来ない――クーはそう思うと顔を背ける。
ξ ー )ξ「……でもね、クー。わたしはこれでいいと思うの。幸せを得るって、そう言うことだよ」
川 - )「……どういうことでしょうか」
ξ - )ξ「誰かの言うことや、世界の定めたものに従い続けるだけじゃ……永遠に手に入らない何かもある。わたし達は偶々そうだっただけだよ」
川 - )「…………」
ξ - )ξ「不安なの?」
川 - )「…………」
そう訊かれたクーだが、それには首を横に振る。
234
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:56:03 ID:GyYSCP1M0
川 - ,-)「否で御座います。わたくしは如何なる状況であれ……不安を抱くことはありません」
ξ - )ξ「……強いんだね」
川 ゚ -゚)「あなた様を護り、支える為にと精進してきましたから」
ξ ー )ξ「流石はわたしのレディースメイドだね?」
川 ゚ -゚)「はい。だから……大丈夫です、お嬢様」
ξ - )ξ「っ……」
不安なのはツンの方だった。
彼女は段々と緊張と共に恐怖を覗かせた。
それはクーの身体に触れ、いよいよ衣服に手を掛けようとしたときだった。
ξ。 - )ξ「……それでもね、クー。わたしは……クーと一緒がいいっ……」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ。 д )ξ「絶対に、絶対にっ……どこにもいかないでよ、クーっ。傍にいてっ……」
川 - ,-)「……お嬢様」
熱を別ち、触れ合い、そうしてその先へと行けば――もう後戻りは不可能だ。
それは幸せの道だ。だがそれと同時に虎口へと向かうことになる。
父を裏切り、皆に背を向けることを意味する。
それは恐怖で、不安で、ツンは実感を得ると涙を零してクーにしがみつく。
そんなツンを受け入れたクーは静かに彼女を抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
235
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:56:36 ID:GyYSCP1M0
川 - ,-)「お許しを、お嬢様。こうすることを……お許しくださいませ……」
ξ゚ー゚)ξ「……久しぶりだね、こうしてくれるの」
川 ゚ -゚)「……そうでしょうか」
ξ-⊿-)ξ「うん。昔は……よくやってくれたね。わたしが泣くと、こうして抱きしめて、撫でてくれた」
川 ゚ -゚)「……そうでしたね……」
ξ-⊿-)ξ「ふふっ……最高の、ご褒美、だなぁ……」
ツンはそうしてクーの腕の中で寝息を立てる。
そんな愛しい想い人の寝顔を見つつ、クーは頬へと口付けをした。
川 ゚ -゚)「……あと、一日」
残る日数。ハートフィールドでの五日間は濃く、それにより得たものは多かった。
だがそんな愛しい日々も、残るところ、僅か一日だった。
Break.
236
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:58:31 ID:GyYSCP1M0
23
.
237
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 17:58:58 ID:GyYSCP1M0
目覚めた時、ツンは夢と現とを勘違いする。何せ目の前には愛しの佳人がいた。
佳人――クーは静かな寝息をたてていた。瞼は深く閉ざされ、口元は若干緩い。
ξ*゚⊿゚)ξ「…………」
川 - ,-)「すーっ……すーっ……」
見惚れる程にその寝顔は美しく、ツンはクーを隈なく観察する。
長い睫毛、雪のような肌、桃色の小さな唇――それらだけでも既に完璧と呼べた。
クーの長い黒髪がベッドに広がる。それを指で梳くとあまりの心地のよさにツンは微睡む気分だった。
が、そうしていると佳人に変化が起きた。
川 - ,-)「んっ……」
小さな呻きを漏らしたクー。その様子にツンは内心で焦ったが、しかし窓から射し込む陽の光を見やり、時刻を凡そで判断する。
つまり、彼女の髪を弄んだり、或いは表情を観察したりせずとも、彼女――クーは自然的に目を覚ます時分だった。
そんな彼女の緩やかな覚醒を目の当たりにするツンは朝から役得である、と内心で歓喜した。
ξ*゚⊿゚)ξ「おはよう、クーっ」
川 ゙ -゚)「……お嬢、様……?」
薄く目を開いたクーに朝の挨拶が寄越される。
紡がれたソプラノにクーは呆けたような返事をするが、間もなく驚いたように彼女は跳ね起き、己の隣で横になっている主を見下ろした。
川;゚ -゚)「なっ、何故ここにっ」
ξ;゚⊿゚)ξ「何故って……昨日のこと、覚えてないの?」
川;゚ -゚)「昨日のことっ……」
と、言われてクーの脳内で昨夜の出来事がフィードバックする。
その内容たるや華々しく芳しく、婀娜(あだ)の一言に尽きる情景で、クーは刹那で取り戻した記憶を辿ると目覚めてすぐに顔を紅潮させ、静かにベッドに沈んだ。
238
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:00:05 ID:GyYSCP1M0
ξ;゚⊿゚)ξ「ク、クー……?」
川;- ,-)「……忘れてくださいませ、お嬢様」
ξ;゚⊿゚)ξ「えぇっ、そんなに恥ずかしいのっ」
川;- ,-)「当然のことで御座います……」
疑う余地もなく襲われている光景――どころか迎え入れ誘い受けるかのようだった己の態度。
昨夜のそれは戯れか、或いは一時の狂いであったと彼女は思うことにする。
しかし唇、首筋、他各所に残るツンの感触――寄越された情熱は焼き付き、彼女の心までをも燻る。
赤熱したままのクーはツンに背を向けると僅かに身を捩り、湧いてきた興奮を鎮めた。
川;゚ -゚)(私としたことがっ……)
後悔する程だった。だがそれに反して胸の高鳴りと言えば素直だった。
初めて唇を奪われた日とはまた違う淫靡な景色。確かに互い同じ気持ちを抱き、間違いなくそれを互いに向けていた。
状況は途中で終わりを迎えたが、それでも愛のある行為と言うのは気持ちのいいものだった。
クーは身体の疼きを誤魔化すように自身の身体に喝を入れ、ベッドから起き上がり身形を整える。
ξ゚⊿゚)ξ「……クーってさ。切り替え早いよね」
川 ゚ -゚)「当然のことで御座います」
ξ゚ー゚)ξ「けど取り繕うのは下手だよねぇ」
川;゚ -゚)「っ……」
未だに赤いままの顔は誤魔化しがきかない。とは言え見られまいとする彼女はツンに背を向けるのが精一杯だった。
だがそんな彼女の袖を引くのはツンで、クーは呼びかけに対して静かに振り返るのだが――
239
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:00:53 ID:GyYSCP1M0
ξ*- ,-)ξ「ちゅっ」
川; - )「――っ!」
ベッドの上で膝立ちになっていたツンはクーの唇を奪う。
あまりにも手慣れた動作、よりも不意を突かれたことにクーは驚き、更には焦る。
だがツンを支える為にと差し出された両の腕は、流石はレディースメイドと言ったところかもしれない。
ξ*^ー^)ξ「えへへっ。お目覚めのちゅー、いっただきーっ」
川;///)「お嬢様っ……」
ξ*゚⊿゚)ξ「ダメだった……?」
そう上目使いで問われるクー。心臓は早鐘を打ち脳内は乱れ、正常を早々に手放す羽目になる。
クーはツンを支えつつもその腕でツンを迎え入れ、静かに、そして優しく抱きしめた。
更にはツンの耳元へと唇を寄せると――
_,
川*゚ -゚)、「困りますっ……」
ξ*゚ -゚)ξ「っ――……」
そう、悩ましげな声で思いを告げる。
寄越された抱擁と言葉にツンもまた顔を赤く染め上げ、茹でた蛸と言った具合になると静かにクーから身を離し、再度正面から見つめた。
240
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:01:32 ID:GyYSCP1M0
ξ*゚ -゚)ξ「……ずるいよね、クーって」
川;゚ -゚)「……何がでしょうか」
ξ; ⊿ )ξ「そんな台詞言われたら、無理矢理にでもしたくなっちゃうよっ……」
川; - )「っ……駄目です、お嬢様。もう朝で御座います」
ξ; ⊿ )ξ「朝じゃなかったらいいの……?」
川; - )「そういう意味ではありませんっ……」
クーの手を引くツン。対してクーは抵抗をするが、しかし力は弱い。
ツンの胸元へと引き寄せられた彼女はそのままに胸の中へと招かれる。
迫ったツンの小さな胸――ツンの薫香を聞(き)くと不思議な程に安らぎを得る。
ツンの胸の中へと沈むクーは、再度夢の心地に浸る気分だったが――
川; д )「だからっ、もう朝で御座いますのでっ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「わわっ」
このまま流されてはいけない、と立ちあがり、逃げるような足取りで自室から出ていった。
そんな彼女を見送る形になったツンは、早朝の部屋の中、少々呆けた後――
ξ* - )ξ「――……わたし、やっぱり壊されちゃったよ、クー……」
止まぬ胸の高鳴りをどうにか落ち着かせようと、ベッドの上で深呼吸を続けた。
そんなツンの努力を知らないクーと言えば、既に一階で朝食の準備を始めていた母の手伝いに混ざる。
241
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:02:25 ID:GyYSCP1M0
( ‘∀‘)「おはよう、クー」
川;゚ -゚)「お、おはよう、お母さん……」
母の顔を直視できないクー。その理由こそは後ろめたいことがあるからで、昨夜の情事が聞こえていなかったかと胸中は穏やかではない。
が、そんな心配も杞憂だった。母は特に怪しんだり訝しむ素振りもなく、手慣れたように食器を用意し食材を並べる。
( ‘∀‘)「ところで、本当に今日帰っちゃうの?」
川;゚ -゚)「え? あ……うん」
本日が五日目――つまりは最終日だった。
昼頃に御者が迎えにくる算段で、それまでにクーは己とツンの分の荷物の準備を完了させる予定だった。
( ‘∀‘)「そんなに急いで帰らなくったっていいのに……」
川 ゚ -゚)「そうもいかないよ。お嬢様がいらっしゃるんだから」
( ‘∀‘)「いいじゃないの、もう一週間くらいは」
川;゚ -゚)「ダメに決まってるでしょっ……もしもこのことがマスターに知られたら……」
想像するだけで生きている心地がしない――クーの素直な台詞に母は苦い笑みを浮かべるのみ。
242
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:03:22 ID:GyYSCP1M0
( ‘∀‘)「でも、ツンお嬢様ってばすっかりこの村が気に入った御様子だったわよ?」
川;゚ -゚)「……だとしても、早く帰るに越したことはないよ。寧ろ五日間も滞在できたことが奇跡だよ……」
( ‘∀‘)「そう言うところは田舎でよかったと思わざるを得ないわねぇ」
川;- ,-)「思えないっ」
( ‘∀‘)「ふふっ……ねぇ、クー。なんだか久しぶりね、その感じ」
川;゚ -゚)「……え?」
紡がれた言葉にクーは包丁の操作を止める。
( ‘ -‘)「ここ数年、あなたってば帰ってきても上の空で、反応の一つとっても……何だか妙っていうか、らしくなかったから」
川 ゚ -゚)「……そうだった?」
( ‘∀‘)「そうよっ。それこそ無理をしているみたいで、こっちは心配だったんだからっ」
川 ゚ -゚)「……心配……」
仮面を用意し、己の気持ちをひたかくし続けたこの数年間。
それはどうやら城の外――ツンの傍以外でも他者に不信感を与えていたらしい。
( ‘∀‘)「けどよかったわ。ツンお嬢様と一緒に戻ってきた時はすっごく驚いたけど……昔の頃みたいに、分かりやすくて素直な子に戻ったわねぇ」
川 ゚ -゚)「……何だか単純な人間って言われてる気がするけど」
( ‘∀‘)「何か可笑しい?」
_,
川 ゚ -゚)「可笑しいでしょ……」
243
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:04:35 ID:GyYSCP1M0
とぼけるような母の態度にクーは呆れの溜息を一つ。
そんなやり取りをしつつも母はスープを完成させ、クーは副菜等の準備を完了させていた。
それ等を持ちテーブルへと運ぶと、丁度朝に弱いクーの父が起きてきた。
( ´∀`)「ふあーぁ……おはようだモナ、母さん、クー……」
川 ゚ -゚)「朝くらいちゃんと起きてよ、お父さん」
( ´∀`)「そうは言うけど、特に冬の朝は辛いモナねぇ……ふあーぁ……」
尻をかきつつ歩いてくる姿にクーは眉間に皺を寄せる。
朝から寄越された娘の蔑んだよう眼差しに父は困ったように頬を掻くが、しかしそんな彼の言葉を待つこともせず――
ξ*゚⊿゚)ξ「おはよう、クーパパさんにクーママさんっ」
( ´∀`)「おぉっ、お早うございますモナ、ツンお嬢様!」
( ‘∀‘)「あらあら、今日は早起きですわね、お嬢様!」
階段から駆けおりてきた己の主へと意識を向け、即座に瞳は鋭くなり姿勢までもが正される。
そんな変化に父母は何も言うことはせず、今朝も早くから元気溌剌とするツンに朝の返事をした。
川 ゚ -゚)「……お嬢様。朝から駆けてはいけません。階段は落ち着いて降りてくださいませ」
_,
ξ゚ 3゚)ξ「ぶーっ、いいでしょっ、落ちもしなかったんだからっ」
川 ゚ -゚)「結果は別の問題で御座います。これはマナーの問題です、お嬢様」
_,
ξ゚〜゚)ξ「むむぅーっ……!」
朝から睨み合う両者――これも毎朝のこと、と父母は思うが、しかし当人達にしか分かり得ない変化もある。
それの一つこそは距離感で、ツンはクーに纏わりつくのだ。
それをいなすクーと言えば手馴れていたが、しかしその自然な様子は、やはり二人にしか叶わない光景だった。
244
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:05:06 ID:GyYSCP1M0
そんなこんな、賑やかしい一家の朝は皆で卓を囲むことで始まりを告げるのだが――
( ‘∀‘)「そう言えばクー。今年はピアノ、弾かないのね?」
川 ゚ -゚)「えっ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ん……?」
その一言でクーは思い出す。
クー邸にはクーにとって大切な宝物がある。
それは彼女が幼い頃からあったもので、彼女はそれを愛し、日々を共にした。
アンティーク調の外観をしたそれの名前はスクエアピアノ。
ξ*゚⊿゚)ξ「あぁーっ! それっ、聴きたいっ! 見たいよクーっ!」
川;゚ -゚)「す、すっかり忘れてた……」
ツンはいつの日か聞いたその話を思い出すと大きな声をあげてクーの肩を掴んだ。
当の本人――クーと言えば、この目まぐるしい五日間、すっかり宝物のことなど忘れていた。
Break.
245
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:05:27 ID:GyYSCP1M0
24
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246
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:06:08 ID:GyYSCP1M0
佳人は指を鍵盤におく。配置は通常と変わらない。
足を動かしペダルの感覚を確かめる。踏み込むとその軟さに感慨が浮かぶ。
指をおき、足を動かす――当然の動作だった。
だが全ては懐かしく、それは時の経過した現在でも変わることは何一つなかった。
川 - ,-)「…………」
クーは瞳を伏せる。いつも通りに寡言な彼女だが、しかしこの景色の中、彼女はその頬を緩め、目元は優しげだった。
彼女は己の宝物に久しく触れていた。
それはスクエアピアノだった。黒の一色に染め上げられたヴィンテージな外観。弦は軽くペダルも軽い。
いっそ叩き、或いは踏み込むと笑みが零れるくらいに動きは曖昧だった。
古い。特別高価な訳でもない。造りは一般的に普及する程度のもので、木材からしてもボディの鳴りは大した程度でもない。
だが、それが素敵で、それが彼女の全てだった。それでよかった。
彼女は懐かしさに包まれると、冬の木洩れ日の中、思うがままに指を動かした。
川 - ,-)(――ああ)
鍵盤の上を舞うように指は自然と動く。
ペダルの感触には違和感があったが、その違和感があるからこそに彼女は余計に楽しかった。
即興で奏でる音楽。彼女はアドリブを好む。
例えば題目があり、曲を求められたらそれに応えることは可能だ。
だが彼女が自然と指を動かす時には彼女の感性のみが働く。
247
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:06:39 ID:GyYSCP1M0
川 - ,-)(Gmaj7……A6……Bm……A6……)
テンションコードをふんだんに使う。テンポはミディアム。
儚い旋律は景色を彩り、クーの心の世界が構築されていく。
川 - ,-)(――E7sus4、D6add11、Bm11……D6……)
この五日間、怒涛とも呼べた。封じた心は解放され、愛を紡がれ、けれども――それに幸福を得た。
未だに胸中に迷いはあった。後悔も当然あり、焦燥や不安、そして恐怖も顔を覗かせる。
だがそれでも、彼女の心の奏でる音楽はそれを掻き消すかのように優しい音を奏で、柔らかく、温かい景色を描き出す。
冬の木洩れ日の中、心を奏でる佳人は笑んでいた。そのしなやかな指は全てを制し、その心は全てを受け入れ全てを愛した。
迷い――それでもいいと思えた。
もう彼女は心を誤魔化すことが出来ない。全ては真実で、全ては純白だった。
だからこそに、彼女の心はその音楽を奏で、それを愛する者へと――
ξ゚ -゚)ξ「っ……」
ツン・ティレル嬢へと捧げた。
ツンは傍に立ち、彼女の全てを見て、世界を感じると静かに涙を零した。
ツンの笑みは優しく、心の温かさは音に現れる。
それは全てを許し、全てを包み込むよかのような母性に溢れていて、それに近づき心を開くと、ツンはクーの心の中を垣間見た気がした。
空気はマイナーでテンションはミディアム。
何となし儚い印象なのに、それでも不思議な程にその音楽は優しく、朗らかで、寛大で、何よりも慈愛に満ちていた。
ツンは瞳を閉じ、心でクーへと歩み寄る。
世界にはツンとクーだけで、広がる冬の景色は心地よかった。
寄り添う二人は自然と笑みを浮かべ、そうして互いの顔を見合い――
248
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:07:13 ID:GyYSCP1M0
ξ*^ー^)ξ「愛してるよ、クー」
川*゚ー゚)「愛しています、お嬢様」
.
249
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:07:58 ID:GyYSCP1M0
そんな言葉が響いた。
それが夢か現かは定かではない。
けれども、音楽が止み、瞳を開いたツンはクーの背に抱き付くと静かに嗚咽を漏らした。
ξ - )ξ「……聴こえてたよ、クーっ……」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
ξ。 - )ξ「ありがとう……ありがとうね、クーっ……」
川 - ,-)「……勿体無い、お言葉で御座います……」
その場には父母も居合わせていたが、空気を察した二人は静かにその場から立ち去る。
木漏れ日の中、泣きじゃくるツンを抱きしめ頭を撫でるクーの姿は、まるで女神のようだった。
そんな彼女に泣きつくツンは、誰がどう見ても天使のようだった。
250
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:08:33 ID:GyYSCP1M0
◇
ツンとクーはまとめた荷物を馬車へと詰め込み、両親に別れの言葉を告げると五日前にきた道を再度辿る。
長かったようで短かったこの五日間。その内容は濃く、まるで一日一日は白夜のそれと同義にすら思えた二人。
ξ*゚⊿゚)ξ「いいところだったなぁ、ハートフィールド……」
川 ゚ -゚)「……お気に召しましたか、お嬢様」
揺れる車内でツンは言葉を零す。
クーに寄り添うように座るツンは惜しむような素振りで、その様子にクーはどうしたものかと悩んだ。
ξ゚⊿゚)ξ、「ねぇ、やっぱり今から戻ろ――」
川 ゚ -゚)「なりません」
_,
ξ゚〜゚)ξ「ぶーっ……クーのけちっ」
川 ゚ -゚)「けちで結構で御座います」
村を発つ際、ツンは涙を零した。
クーの両親に別れを告げたはいいものの、その時になるとやはり寂しさを覚える。
己の生まれ故郷ではないにせよ、ハートフィールドでツンは多くの人々と関わり、皆に愛され、また、多くの思い出を手にした。
その思い出で一際輝きを見せるのは、やはりクーの関係する瞬間だった。
251
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:09:33 ID:GyYSCP1M0
ξ゚ -゚)ξ「ねぇ……またきたいよ、クー」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ゚ -゚)ξ「やっぱりダメ……?」
川 ゚ -゚)「……お嬢様。何度も申しましたが……再度、と言う訳にはいきません」
ξ - )ξ「……だよね……」
ツンは何度もそう口にした。
必ずまたこの村に戻ってくる――その言葉を向けられた父母や村の住人達は満面の笑みを浮かべて彼女を送り出したが、しかし皆は二度と彼女がこないことを察していた。
今回は一つの事件――皆は理解をしている。
だがそれでも見て見ぬふりをし、更には彼女を迎え入れ、この五日と言う時間を最高のバカンスにしてあげようと村ぐるみで考えた。
名高きティレル家の令嬢――されども自由を欲しがるだろう時分だ。
鳥籠を飛び出して何が悪いのか――そう言う人々にクーは呆れるばかりだったが、しかしその心意気に救われもした。
結果的に何の問題もなく五日間は終わりを告げたが、過ぎてしまえば一瞬で、さりとて思い返せば愛しい日常のそのままだった。
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ゚ -゚)ξ「クー……?」
しょぼくれるツンを見たクーは心が痛む。だが気の利いた台詞の一つも思い浮かばなかった。
しかし愛する主人を放っておくわけにもいかぬ、とクーは必死で考えると、ツンを抱きしめて名を呼んだ。
252
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:10:15 ID:GyYSCP1M0
川 ゚ -゚)「……気安く触れることをお許し下さいませ」
ξ゚ -゚)ξ、「ううん、咎めるつもりなんて……」
川 ゚ -゚)「その……酷く傷ついている様子でしたので」
ξ゚⊿゚)ξ「……その為に抱きしめてくれたの?」
川 ゚ -゚)「要らぬ世話かもしれません。ですが……これしか術を持ち得ません」
貴族とは斯くあり――貴族は働かず、出歩かず。
今回のことがティレル侯爵に知られたら関係した者等がどうなるかは分からない。
如何に優しいティレル卿とは言え、愛娘が見知らぬ土地で生活をしたと知れば当然御冠になる。
下手をしたらば失業者が大量に生み出されるかもしれない。
箱入り娘、籠の鳥――そう揶揄されることがしばしばの令嬢方だが、けれどもそれもまた親の愛情だったりする。
クーはツンの気持ちを察しはするが、やはり仕えるマスターの意思こそが全てであるのは変わりがない。故にツンの外出の願いには頷けない。
ただ、それでもクーは身を寄せると静かに言葉を紡ぐ。
川 - ,-)「……わたくしが傍におります」
ξ゚ -゚)ξ「っ……」
川 ゚ -゚)「寂しくないように、怖くないように……辛くないように。このクーが……あなた様の傍におります」
ξ。゚⊿゚)ξ「クーっ……」
253
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:11:05 ID:GyYSCP1M0
それがレディースメイドだから――と、言葉を続けることはなかった。
クーは瞳を伏せ、ツンを強く抱きしめる。
そんな彼女の行動にツンは言葉を失うと大粒の涙を零し、まるで縋るようにしてクーに抱き付いた。
ξ。 д )ξ「楽しかったねっ……すごく、すっごくっ……幸せだったよっ……」
川。 - )「はい、お嬢様……」
馬車は揺れる。景色に広がるのは草原と田畑。
見飽きたような情景と言えたが、しかしクーはその景色を捉えると瞳が潤んだ。
そうして二人は身を寄せ合ったまま、名残惜しむように景色を瞳に焼き付け、ロンドンへと帰参を果たすのだった。
Break.
254
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 18:11:31 ID:GyYSCP1M0
本日はここまで。
こちらのお話も次の投下で最後になると思います。
それではおじゃんでございました。
255
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 18:31:57 ID:mPuzPAtc0
(´・ω・`)ちんぽ
256
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 18:34:14 ID:XNW9ut5U0
乙あああああ
257
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:39:56 ID:53.STGpE0
25
.
258
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:40:53 ID:53.STGpE0
とある時期を境にツンは激変したと噂される。
それはクーの故郷から帰還を果たしてすぐだった。
朝は目覚めが早く、食事には文句の一つも言わず、勉学には今まで以上に熱心に取り組む。
その姿勢は嘗ての変化――三年前のそれとは比較にならない。
何が起きたか、何があったのか、と誰もが疑問を抱いたが問いを向けることはしなかった。
更にはツン嬢と言えば芸術や音楽等以外にも新たな分野へと食指を伸ばす。それこそは――
ξ;゚⊿゚)ξ「えいっ、やぁっ!」
――剣術、そして軍事学。
これにクーは大反対をした。
何を思ってうら若き乙女が剣を取り軍(いくさ)の何たるかを学ぶ必要があるのか、と。
しかしツンはクーの意見を無視する。
講師を招くと剣の指導を願い兵法を学んだ。
クーは常々ツンの傍にいたが、ツンの必死な様子には不安も覚えた。
だがツンは止まらない。
寝る間も惜しむように本を広げ、夜分にもかかわらず部屋の明かりは消えない。
時折様子を見やりに従者達が通りがかれば、そこには机に向かい筆を走らせる令嬢の姿あり。
どうしてしまわれたのか――皆の口癖だった。
今までだって十分に立派と呼べた。齢十三とは思わせない所作や風格も確かにあった。
だが彼女はそれよりも更に高みを目指そうとする。
259
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:41:54 ID:53.STGpE0
令嬢に完璧は求められない。これは絶対だ。極めてはならなかった。
それは勉学にせよ芸術、他音楽等、兎角様々な分野において知識を広く持つことは求められたが程々が望ましかった。
それは男性の尊厳云々ではない。
それが可愛気というやつであり、足らないことこそが人の関心を引く。
だのにもかかわらずツンはまるで男子の如くに剣を振るい始めるのだから世間は騒ぐ。
恐らくは未だ帰らぬ父を憂いてのこと――如何に御令嬢と言えども名高きティレル家。
然らばティレル卿のお力となるべくその意思をお示しになられたのだろう、と世間は判断する。
だが近くで見る者等の思うことは違う。それは一心不乱の何もかもで、見ていて不安を駆り立てられた。
川 ゚ -゚)「お嬢様、失礼します」
ξ゚ -゚)ξ「ん……」
その日の夜、クーは温かい飲み物を持ってツンの下へと訪れた。時刻は丁度日を跨いだ頃合いだった。
だがツンは筆を走らせることに集中し、返事も素っ気のないものだった。それにクーは何とも言えない表情になる。
クーは彼女の傍へと近寄ると紅茶を手元へと置いた。
そうして瞳を伏せ一つ呼吸を置くと改めて主の名を呼ぶ。
川 ゚ -゚)「お嬢様。お茶で御座います」
ξ゚ -゚)ξ「うん……ありがとう……」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ゚ -゚)ξ「ん、なに……?」
川 ゚ -゚)「お茶で御座います」
ξ゚⊿゚)ξ「……クー?」
260
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:42:38 ID:53.STGpE0
集中の程は驚異的――目を見開き食い入るように資料を見つめるツン。
その空気感は、或いは狂気をも醸す程だったが、けれどもクーはツンの手に己の手を重ねる。
そうするとようやくツンは意識を完全にクーへと向ける。
伝う体温を感じてツンは己の体温が酷く低下していることに気付いた。
空気は未だに冬で、当然夜分は冷えた。
寝間着のみで羽織るものもなく、思い出したように身震いをするとクーを見つめた。
ξ-⊿-)ξ、「ごめん、もしかして心配させたかな……」
川 ゚ -゚)「……いいえ。真面目に取り組まれているところに邪魔をして申し訳ありません」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、有難う。止めてくれて……」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
クーは何処となく憂うような表情でツンを見下ろすと傍へと寄り、温かな羽織を着せた。
包まれるような温もりを感じるとツンは不思議な程に安堵し、ついで肩に乗るクーの手を握りしめそれを己の頬へと寄せる。
ξ゚⊿゚)ξ「……訊かないんだね、何も」
川 ゚ -゚)「……憚られることで御座いますれば」
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな。でも心配なんでしょう?」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ゚ー゚)ξ「言わなくても分かるよ。クーのことくらい……」
上目使いを寄越されたクーは唇を噛みしめた。
261
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:43:25 ID:53.STGpE0
川 ゚ -゚)、「……お嬢様。流石にこんな調子ではお身体を壊します」
ξ゚ー゚)ξ「ん……でも、今のところは大丈夫だから」
川 ゚ -゚)「今は、です。何があったのか、どうして急に様々なことに熱心になられたのか……それを問うことはしません」
ξ゚ -゚)ξ「……うん」
川 - ,-)「ですが……お願いで御座います、お嬢様。どうかご自愛くださいませ……」
ξ゚⊿゚)ξ「クー……」
若干の震えた声にツンは胸が締め付けられる。
クーの手から伝う温もりに絆されつつ、ツンは彼女を正面へと招いた。
そうして己の腕を広げると申し訳なさそうな顔をして、けれども照れを思わせる表情で言葉を紡ぐ。
ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、クー。温めて」
川 ゚ -゚)「っ……」
ξ^ー^)ξ「酷く冷えちゃったみたい。紅茶も美味しいけど……クーがいいの」
川 ゚ -゚)「……お嬢様……」
クーは恐る恐ると腕を伸ばし、ツンの華奢な背を抱き寄せる。
密着するとツンの身体が大層疲れていることが感覚から分かった。
首は凝り固まり背は軟く、腕の動きはぎこちない。
クーは己の胸の中へと顔を埋(うず)めたツンを見下ろすと、尚更に悲しい表情をしてツンの頭を撫でた。
262
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:44:08 ID:53.STGpE0
ξ-⊿-)ξ「……ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「……なんでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「前に言ったよね。わたしの気持ちに応えることはできない、って」
川 ゚ -゚)「……」
事実だった。自身の気持ちを答えはしたが、それでもツンの気持ちに応えることはできないと彼女は口にしている。
それを寄越されてもツンはめげもせず、日々愛を紡ぎ、唇を重ね、時に人には言えないような劣情の景色に二人して沈んだ。
だがそこから先はない。愛を交わしはするがそれだけで、二人は、結局は他人の間柄、主従関係でしかなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「クーは頑固だから、だから……わたしの命令でも首を縦にはふらないでしょう?」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ、でもそんなところが好き。ねぇ、大好きなの、クー」
川 ゚ -゚)「お嬢様……」
ξ*^ー^)ξ「だからね……頑張るんだぁ。絶対にクーを幸せにするんだ。だって相思相愛なんだもん。だったら叶えたいよ。
夢はね、クー。叶えるものなの。わたしはそう信じてる」
川* - )「っ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「心配をかけてごめんね。でも、大丈夫だから。止まる訳にはいかないし、クーを手放したりも、しないっ……」
川 ゚ -゚)「……? お嬢様?」
263
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:45:01 ID:53.STGpE0
クーはツンの息遣いを聞くと嫌な予感が過った。
急いで身を離すとツンの額へと手を宛がう――と、同時にその熱量に思わず驚いてしまう。
体躯は未だに冷たいが、それは内部に熱が籠っているからだった。
ツンの吐息は荒く、更には熱っぽかった。瞳は潤み、それは単純に疲弊を物語る。
ξ; ⊿ )ξ「げほげほっ……ああ、もうっ、我慢してたのにっ……」
川;゚ -゚)「お嬢様っ。まさかお気づきになられていたのでっ」
ξ; ⊿ )ξ「そりゃあ、自分の身体だもん……げほっ。うぅっ……」
川;゚ -゚)「これは大変っ……至急医者をお呼びしますっ」
思考が恋する乙女から侍女のそれに切り替わると彼女はチャームを鳴らす。
その音を聞くと直ぐ様に女中が駆けてきてツンの部屋へと飛び込んできた。
「なにごとですかっ」
川;゚ -゚)「そこのあなた、至急お医者様をっ」
「クー様っ。お嬢様は如何なされたのでっ」
川;゚ -゚)「風邪です、咳もありますっ。症状は高熱と咳だとお医者様に先だってお伝えなさいっ」
「はっ、畏まりましたっ」
忙しなく駆けていく女中を見送るとクーはツンを抱きかかえてベッドへと運ぶ。
まるで思い出したようにツンの身体は汗をかき、クーは寝かせたツンの額を拭いつつ、他の従者を呼ぶと氷と水を持ってくるようにと命令を下した。
264
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:45:54 ID:53.STGpE0
ξ; ⊿ )ξ「もうっ、おおげさだよ、クー……げほっ……」
川;゚ -゚)「何を仰いますかっ……大袈裟だろうがなんだろうが、こうもなりますっ……」
ξ; ⊿ )ξ「クー……」
川;゚ -゚)「無茶ばかりだからです……身体を壊しては本末転倒なのです、お嬢様っ……」
ξ; ⊿ )ξ「たかだか風邪だよ……そんなに、そんなに……悲しそうな顔をしないで、クー……」
クーの性格からして、恐らく彼女は自責の念に駆られていた。
己の管理が行き届いていなかったと。それがレディースメイドの役割であり、それを怠ったが故に主は風邪をひいてしまったのだ、と。
だがツンはそんなクーの頬へと手を添えると微笑んだ。
ξ; ⊿ )ξ「ねぇ……どうしていつもそうなの、クー」
川;゚ -゚)「何がですかっ……」
ξ; ⊿ )ξ「どうしていつも……わたしをそんなに心配して、大事にして……愛してくれるの」
川;゚ -゚)「っ――……」
その問いを向けられたクーは数瞬挙動を失う。
が、彼女は己の頬へと添えられたツンの手を取り握りしめ、毅然と言葉を返した。
265
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:46:48 ID:53.STGpE0
川; д )「あなた様を心底、心底っ……慕い、愛し……欲するが故ですっ……」
支えになるべく――それは転じれば、その者なしでは生きていけないのと同義だ。
ツンは眼を見開いた。クーのその返事はあまりにも幸せで、それと同時に彼女の覚悟の全てを見た気がしたからだ。
川; д )「あなた様が全てなのです……あなた様と出会ったあの日から、私の中にはあなた様しか存在しないっ。
映る世界にあなた様がいるから……だから意味があるっ」
ξ; - )ξ「クー……」
川。 д )「我が生涯は全てあなた様に捧げたのです。それでいいと思えたから、だからこの立場を欲した……
あなた様を御守りし、支えることが私の生きる意味ですっ……」
ξ;。 - )ξ「っ……」
川。 д )「お願いです、お嬢様……お願いですから、もう無茶は止めてくださいっ……」
零れた雫――涙を見てツンも感情が溢れた。二人は声を漏らすこともなく、静かに冬の雨に包まれる。
騒ぐ回廊からは、じきに医者がみえる。
だが如何なる薬を持ち寄ったとて、恐らくこの病だけは治せまい――ツンとクーは最早後戻りはできないと実感をする。
ξ。 - )ξ(ああ、わたしは、本当にクーのことを――)
川。 - )(……もう、誤魔化すことはできない。私は、ツン様のことを心の底から――)
不治の病とは、つまりは恋煩いを言った。
ξ。 - )ξ((愛してるんだ……))( - 。川
乙女と佳人はこの瞬間、初めて互いの心が一つになった気がした。
266
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:47:31 ID:53.STGpE0
Can't stop.
.
267
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:47:51 ID:53.STGpE0
26
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268
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:49:12 ID:53.STGpE0
インド攻略の一幕、ティレル卿は凱旋を果たす。
未だシパーヒーの抵抗が続く最中でのこの事態にクイーンですらも如何したかと慌てた。
が、彼――ティレル卿は必要な者は立ててある、心配は無用だと述べ、バッキンガム宮殿からそのまま馬車に乗り付けて己の城館へと帰還する。
従者達は慌てふためいた。
帰還の報せは半月前に寄越されたが何を思っての凱旋なのかが謎だったからだ。
よもや先の騒動――ツン嬢の家出紛いが知られたか、と皆は恐れおののいた。
しかしそんな皆の恐怖や心配は杞憂に終わる。
クイーンをもして恐怖させた彼の冷徹な空気感こそは、つまり、愛する嫡女が体調を崩したが故だった。
(; ^ω^)「ツン、大丈夫かお!」
彼は出迎えの者等すら無視をし、更には自身の歳も鑑みず駆け出すとツンの寝室へと飛び込んできた。
ξ*゚⊿゚)ξ「お父様っ。お帰りなさいっ」
( ^ω^)「おぉ、ツン! 僕の愛する天使……うぅん、大丈夫だったかお? 体調はもういいのかお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「もうっ、風邪を引いたのは半月も前の話だよ、お父様?」
( ^ω^)「おぉ、そうだったおねぇ。いやさ、ツンが風邪を引いたと聞いたらもういてもたってもいられなくておぉ……
別の者に指揮を任せてすっ飛んできたお」
つまり、彼は親馬鹿だった。
此度の帰還の真実はツンを心配したが故で、それを誰に告げるでもなく、己の執事(バトラー)を連れ立ってきた。
情報は逐一彼から知らされていた。初老の眼鏡をかけた彼はブーン・ティレル卿の後ろに控え、ツンへと深く頭を下げる。
269
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:51:02 ID:53.STGpE0
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……もしかして帰ってきた理由ってわたしだったの……!?」
( ^ω^)「お? そうだお?」
その台詞にツンは呆け、更には彼女の傍に控えていたレディースメイド――クーまでもが呆然とし愕然とまでした。
驚きの真相とはこう言うものが常であり、これでは探偵も仕事がないな、とクーは思うことで何とか平常心を保つ。
( ^ω^)「お、クー。久しぶりだおね」
川 ゚ -゚)「はっ。お帰りなさいませ、マスター……」
クーは視線と言葉を寄越されるとその場に膝を突く。
するとティレル卿は楽にせよ、と紡ぎ、クーは立ち上がると再度礼をする。
川;- ,-)「申し訳ございません、マスター。わたくしがついておりながら……」
( ^ω^)「おぉー……なにかお、君は罪の意識でも抱いているのかお?」
川;゚ -゚)「当然のことで御座いますっ。
我が命、そして我が意味意義こそはツンお嬢様の生活全てを支え完全とすることにありますっ」
(; ^ω^)「うむむ、相変わらず君はどうも真面目過ぎるお……話は聞いてるお、クー。そして……ツン」
と、彼はクーの様子を宥めつつもツンへと厳しい目を向けた。
( ^ω^)「ダメだお、皆を心配させては。夜遅くまで勉強して、しかも日中には剣の稽古や兵法まで学んでいたと」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……な、何でそれをっ……」
( ^ω^)「我が執事を侮ってはいけないお、ツン。僕の前で隠し立てなんて無意味だお。
ましてや愛する娘のことだ、全て……全て知っているとも」
その台詞はまるで死神が鎌首を擡(もた)げる様を思わせた。ツンもクーも顔を蒼褪める。
よもやハートフィールドでの出来事までをも知っているのか――
270
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:52:12 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「ツン。何を目的とするんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……え?」
( ^ω^)「分からないと思うかお、僕が。急に剣や軍事学にまで食指を伸ばす……何を思っているんだお?」
ξ;゚ -゚)ξ「っ……」
流石に先の事件は知らない様子だった。が、しかしティレル卿はツンに鋭い眼差しを向ける。
何やら彼は勘付いている様子で、それを彼女に問うのだ。
まるで見透かされたかのような感覚に陥ったツンは、暫し顔を俯けると傍に立つクーの手を握る。
川 ゚ -゚)「お嬢様……?」
ξ;゚ -゚)ξ「…………」
ツンがハートフィールドから帰ってきてからの変化。
結局、何を目的としているのかは誰にも不明で、ツン自身もそれを口にすることはなかった。
( ^ω^)「我が娘、我がツン。僕はお前の父親をしている。
傍にいることが出来なくてもお前のことをずっと想い、常に心配を寄せていたお」
ξ;゚ -゚)ξ「…………」
( ^ω^)「そんなお前がここ最近では男児の如くに様々なことに取り組んでいると言う。
これを不審に思わない者がいるはずもないお。だが皆には分からない。お前が何を思うのかを」
ξ;゚д゚)ξ「……お父様」
( ^ω^)「もう一度言うお、ツン。僕は君の父親をしている。
ティレルの家督を継ぎ、貴族として……侯爵として君の父をしている」
ξ; - )ξ「っ……!」
271
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:53:39 ID:53.STGpE0
その言葉にツンは顔を跳ね上げた。その瞳は鋭く、額には脂汗が滲む。
対してティレル卿の双眸は揺らぐこともなく、ツンの顔を真っ直ぐに見据えた。
川;゚ -゚)(まさか、お嬢様は――)
先の問い。結局それを口にすることは叶わず、真相を確かめることも出来なかったクー。
だがティレル卿の言葉、そしてツンの態度でいよいよ氷解した。
ツンがここ最近目覚ましい勢いで勤勉になった事実、覚醒するに至る発端――理由を。
ξ; - )ξ「お父様……端的に言うね」
( ^ω^)「なんだお」
一度呼吸を置いたツン。クーはツンの手が強張っていること、そして震えていることに気付く。
握りしめられる手から伝わるのは汗で、ツンは大層に緊張と恐怖をしていた。
クーはツンを止めようと思った。
その一言を紡ぐとあれば、後に待つ未来は恐ろしく絶望的だと悟るが故に。
だがしかし、ツンのその瞳を見た時、クーは閉口するのだ。
それは怯え、恐れ、泣き出しそうな、そんな弱々しさを思わせる。
だのに、その眼光だった。
退かないと決めた者の目だ。
決意をし、前へと進むと決めた者の目だ。
そして戦うことを選んだ者の目だった。
ツンの小さな唇が動きを見せる。
そうして空気が震え、今、ツンはその一言を――
272
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:54:02 ID:53.STGpE0
ξ゚⊿゚)ξ「ティレル家の家督。わたしに頂戴」
.
273
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:55:17 ID:53.STGpE0
――爵位継承権、並びに家督を全て寄越せとのたまうのだ。
場には緊張が走った。それは口にしてはならぬ――否、実現することはほぼ不可能なことだからだ。
何よりとしてティレル卿はそうならない為にと彼女をネラア家に嫁がせるつもりだった。その意思も三年前に本人に告げていた。
だが彼女はそれに首を振った。縦にではない、横に振ったのだ。
では如何するか――となるのが普通だが彼女は更に己がこの家を継ぐと申した。
前代未聞――そう言う訳でもない。
軽く触れたことだが、英国に限っては女性にも継承権が発生する。
それにはクイーンの同意が必要となる。つまり彼女を説得しなければならない。
だがそれさえ完了すれば女性でも爵位を賜ることが出来る。
ツンはそれを望んだ。
己は何処にも嫁がぬ。騎士として、貴族として、軍(いくさ)を従え展開する者として家督を継ぐと。
故に剣術から兵法、更には経済軍事、他政治等の知識を求め、それの師事を仰いだ。
クーは目を見開く。想像していた台詞だった。だが出来れば杞憂であって欲しかった。
川 ゚ -゚)「――なりません」
ξ;゚⊿゚)ξ「クーっ……」
ティレル卿が何かを言う前にクーが言葉を発する。
ツンはクーを睨むのだ。だがそれに対してクーもツンを睨む。
川 ゚ -゚)「あなた様はそのような立場になるべきではありません、お嬢様」
ξ゚⊿゚)ξ「わたしが決める」
川 ゚ -゚)「なりません」
ξ゚⊿゚)ξ「わたしが決めるの」
川 ゚ -゚)「お嬢様」
274
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:56:24 ID:53.STGpE0
ξ#゚⊿゚)ξ「わたしが決めるのっ!」
頑として聞かぬ――そんな態度にクーの中で怒りが燃える。
川 ゚ -゚)「お分かりにならないので。父君のお気持ちが、お考えが」
ξ#゚⊿゚)ξ「分かるよ。きっと平和って、そうなんだと思うよ。
誰かの庇護の下で平安な暮らしをすることがきっと幸せで苦労もないんだと思うよ」
川 ゚ -゚)「なら――」
ξ#゚⊿゚)ξ「けどね。わたしはそんなの嫌だ」
ティレル卿の眉間に皺が寄り、奥で控えていた執事の顔にも感情が走る。
だがツンは二者の反応には目もくれず、クーと対峙するように立つ。
ξ#゚⊿゚)ξ「好きでもない人の下で生活をして、好きでもない人と愛を偽って、そうして……子供を産んで、
誰とも知らない従者達に世話を焼いてもらう。それって何がいいの」
川 ゚ -゚)「良し悪しでは御座いません。そうすることが正しさなのです」
ξ#゚⊿゚)ξ「正しさ? 何が? ねぇ、わたしの感情はどこにあるの? 何で勝手に決めつけるの?」
川 ゚ -゚)「聞き分けてください、お嬢様」
ξ#゚⊿゚)ξ「嫌だ」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ#゚⊿゚)ξ「絶対に嫌だ」
川#゚ -゚)「――っ……お嬢様……!」
クーは怒りをいよいよ露わにするとツンの肩を掴む。
だが対してツンは一歩も退かず、いっそ迎え撃つようにして真正面から睨んだ。
275
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:58:58 ID:53.STGpE0
川#゚ -゚)「何故わからないのです……幸福とは、生きることにより初めて実現するのです! 家督を継ぐと仰いましたね。
それの意味するところを理解出来ていないお嬢様な訳がありません。ましてや名高きティレル家の御息女とあれば尚のこと……!」
ξ#゚⊿゚)ξ「うん、分かってるよ……当然でしょ。だから剣を習ってるの、だから軍事学を習ってるの」
川#゚ -゚)「それは己から絶望へと迫る愚行です! 侯爵の位を得て立ちたいと仰るのですか!
最前線に、虎口前に! それは戦の場に立つことを意味すると知っているはずです……!」
ティレル家とは大英帝国が誇る一の槍。武家、騎士の家系として古くから王家に仕え戦場では武功を挙げその地位を得た。
戦況がどうであれ勝利を得るまで退くこともなく、また、如何に不利な状況に陥ろうが前進のみを旨とした。
軍の能力は突撃。
白兵戦術を得意とし、後に陸軍統括の地位を得るが――これは後の世の話。
兎角、家督を継ぐとあればツンはこの先、常に戦場を臨むことになる。
それは自然的な死が待つ景色ではない。怨嗟渦巻く、そして殺意渦巻く深淵の底を言う。
禍(まが)つ景色に何故麗しの乙女を立たせたいと思うか――だからティレル卿はネラア家と取り決めを交わし、そんな彼の気持ちを理解したからこそにクーは仮面を用意した。
しかしツンはそんな二人の気持ちや思いやりをも喰らい言うのだ。己こそがこの家を背負って立つと。
川#゚ -゚)「何も知らないのです、あなた様は……戦場が如何程に恐ろしいのかを! そこに絶対的な安全などありはしない!
マスターが何故戦の話をしないのか知らないのですか! それはあなた様を怖がらせない為……あなた様の想像する以上に人は簡単に死ぬ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「っ……分かってるもん、知ってるもん! 先生に聞いたもんっ……人を子供みたいに言わないでよ!」
川#゚ -゚)「分かっていなから言うのです! あなた様は、あなた様はっ……死にたいとでも言うのですか!」
ξ#。゚⊿゚)ξ「っ――そんな訳ないっ!!」
その叫びにはその場にいた皆が驚いた。対峙していたクーまでもが目を見開き、数瞬挙動を失う。
ツンは大粒の涙を零し、それは頬の上に線を描く。嗚咽を噛み殺そうとするが、しかし漏れる声からしてそれは叶わない。
だがツンは真っ直ぐに立つ。クーを見据え、拳を握りしめ、食い下がるように、必死になって叫び散らす。
276
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:00:58 ID:53.STGpE0
ξ#;⊿;)ξ「分かってるもん……怖くて、人がいっぱい死んで、安全だって呼べる場所がない……それが戦場だって分かってるもん!!
それでもわたしはなるって決めた、覚悟してない訳じゃないもん、だから毎日頑張ってたんだもん!!
知らないくせに、わたしのこと、なにもっ、なにもぉっ……しらないくせに!!」
川#゚ -゚)「っ……ならっ、ならっ……選ばないはずです、分かっているのなら、そんな恐ろしい場所に立つと分かっていたのなら、選ぶわけがっ――」
ξ#;⊿;)ξ「クーがいればいいよっ!!」
川;゚ -゚)「っ……!」
クーの言葉が詰まる。
ξ#;д;)ξ「クーがっ、クーがずっと傍にいて……ずっと一緒にいられるなら、何も怖くないよ!! 誰かのとこになんていきたくないよ!!
だったら頑張って侯爵になって、何だってする!! クーと一緒にいられるならどんな怖いことも辛いことも飲み干すよ!!」
川; - )「そんなのっ……そんなの一緒だっ……一緒なんです、お嬢様! 嫁いだ先でだって、わたくしは傍にっ――」
ξ#;д;)ξ「クーが笑ってくれないなら嫌だ!!」
――ツンにとって、そしてクーにとって、お互いは唯一無二で、互いの存在がなければきっと生きていくことは不可能だ。
いずれツンが嫁ぐことになってもクーは彼女の傍に立つ。ティレル卿から直々に頼まれている。ずっと彼女の傍にいてくれと。それにクーは頷いた。
だがツンはそれを幸せだとは思わない。
己の気持ちを殺し、感情を隠し、誰かと偽りの関係を築いて、そんな傍に立つ愛する者を思えばこそ、それは間違いなく絶望の景色だと彼女は悟る。
ξ#;д;)ξ「クー、そんなの幸せじゃない!! クーは泣くでしょ、クーは傷つくでしょ!! ずっと感情を殺して、心を殺して生きていける訳ない!!
そんなクー見たくない!! 傍にいたってお互い傷付くだけだよ!!」
川; - )「っ……」
ξ#;д;)ξ「だったらわたしがクーを幸せにするんだ!! ずっと傍にいて、ずっとずっと愛を囁く!! どんな戦場だって怖くないよ!!
クーがいるならそれだけでっ、それだけ、でぇっ……!! いいんだもんっ……!!」
277
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:02:48 ID:53.STGpE0
ツンのその叫びを受けてクーは涙を零した。
その一言はあまりにも幸せだった。だがそれはツンを絶望へと突き落とすことと同義だった。
だが、二人が言い合う様子を黙して見つめていたのは――ブーン・ティレル卿。
( ^ω^)「……どういうことかお、クー」
川; - )「マスターっ……」
( ^ω^)「君は、もしや……ツンとそう言う間柄にでもなった、と……?」
川; - )「っ――」
犀利なる瞳――それは殺しを根底に置くような、冷徹の一言に尽きる瞳だった。
蛇に睨まれた蛙のようにクーは身動きが取れなくなる。更には呼吸までもが止まり、彼女は死を連想する。
しかし、そんな彼女の前に立ちはだかったのは――
ξ#;⊿;)ξ「そうだよ、なにがおかしいの、お父様……!!」
( ^ω^)「ツン……」
――ツン・ティレル嬢。
涙を流しつつ、嗚咽を漏らしつつ、それでもツンは己のレディースメイドを――否、愛する佳人を護ろうとする。
そんなツンを見てクーは面を伏せた。己の主は、誠、実のところ、大層に胆が据わっている御方だ、と。
例え実の父と言えど鬼のティレル卿を前に臆すこともなく、更には睨み返すその態度。流石はティレル卿の愛娘と呼べた。
ξ#;⊿;)ξ「お父様、わたしを叱るならいいよ……でもクーを怒らないでっ。
クーはわたしの為にずっとずっと我慢し続けてきたんだよ……わたしを護る為に、支える為にって……!!」
( ^ω^)「……本当かお、クー」
川; - )「マス、ターっ……」
事実だ。それはハートフィールドで告白をしている。
だがそれをティレル卿に問われるとクーは恐れた。
己は殺される――そう思うのだ。
けれどもクーの頭中では様々な想いが駆け巡っていた。
278
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:04:17 ID:53.STGpE0
川; - )(本物なんだ。このお方は……ツンお嬢様は本物の愛を抱き、私にくれる。
どこまでも真っ直ぐで、そこまでも純白で、どこまでも敬虔なんだ……)
果たして己はなんなのだ、とクーは自問をする。
ずっと誤魔化し続けてきた。今まで上手くいっていた。
だが感情、そして心が解放されてからの日常は――
川; - )(幸、せ……)
戸惑うことばかりで、恐ろしくも思った。
この景色は夢が見せるもので、目覚めたらいつものように景色は冷え切っていて、己は一歩も二歩も引いた位置からツンを見守るのだろう、と。
だが夢は覚めない。夢は見るものではなかった。
クーはそれを教えられた。それを与えられた。全ては愛する乙女、ツン・ティレル嬢がくれたものだった。
日常が愛しくなった。一日一日が惜しくなった。
共に過ごすと景色はそれだけで輝きを見せ、己の鼓動すらも愛しく思えた。
そうしてツンと見つめ合い、手を取りあい、唇を重ねると、死んでもいいと思えた。
川; - )(愛って……そういうものなのか)
死んでもいい――どうなったっていい。そう思えた。
例え自身が絶望に見舞われたとて、愛を別つ存在が幸せでいてくれるならばそれだけで十分だと思える。
だがそれを別つと、互いは貪欲になり、願わくば愛する者にも幸福を、と願う。
そうして気付く。その考えに至りクーはツンの想いをようやく全て理解した。
川 - )(私は……私はっ……)
クーを愛し、幸福を与える為にツンは決意をした。
それは恐ろしく、絶望ばかりだ。だがそれでも構わないとツンは思う。それは愛情だ。
ツンを愛し、幸福を与える為にクーは決意をした。
だがそこにツンの意思はない。それは彼女の自己完結によるもので、クーは彼女の身を案じるばかりで、本当の意味での幸福を思った時、クーは己を鳥籠のようだと思った。
279
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:05:51 ID:53.STGpE0
それとはまた別に、果たしてツンの意思はクーを傷つけるか否か――傷つける。
結局はこれも独善に等しいものであり、クー自身はツンが傷つくことや苦しむことを望まない。
だがツンは信じていたし、確信をしていた。“己はクーだけのものだ”と。
だからツンは己が誰かの下へと嫁いだら、二人の絆は二度と戻らないと悟った。
川 - )「……申し訳ありません、マスター」
世に善悪、正否と呼べる事柄は、実を言えばない。だがツンの想いこそは真実で、それは純白だった。
クーはそんな彼女と対すると気付く。己は意思を示すことも出来ず、彼女の愛情に報いることも出来ないのか、と。
応えることは憚られた。
それはツンの幸福を破壊することで、きっと、互いに優しい未来は待ち構えていないと悟るが故だった。
だが、もう、彼女は逃げるのをやめた。
正面から対峙した二人。そして正面から自身と対峙したクー。
本当の幸福とは何か。
それはきっと、互い、本当は、求めることは同じだった。
傷つけない為に、そして護る為に――幸せになってくれるようにと願いをこめる。
だがそんな幸福の帰結は、本当は、とても単純なことだったのかもしれない。
川 - )(一緒に生きること……それがどれだけ幸福か。それはとても難しいことだ。でもそれは、願いは、夢は、本当は叶うんだ。
ずっと怖かった、それを口にすることが。そうしたらきっとお嬢様は傷つく。でも、きっと……きっと、どんな絶望だって、二人なら乗り越えられるんだ……!!)
彼女はツンの手を取り、ティレル卿を真正面から見つめる。
瞳には強い意思があった。それはツンと同等の覚悟を秘めたものだ。
そうして彼女は毅然と立つ。己と言う存在と対峙し、そして真実を求め、答えを得て、応える為にと決意をすると――
280
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:06:23 ID:53.STGpE0
川 ゚ -゚)「私はツン・ティレルお嬢様を愛しております」
.
281
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:07:19 ID:53.STGpE0
――そう、口にする。
その言葉にツンは驚き振り返るとクーに抱きしめられた。
川 - )「ずっと……ずっと、愛しておりました、お嬢様。ずっと逃げ続けて、ずっと背を向け……あなた様の愛からも、自身の感情からも目を背け。
ですが……あなた様はどこまでも真っ直ぐで、恐ろしいくらいに純白で……」
クーは静々と涙を零す。
温かなそれを受けてツンも再度静かに涙を流した。
川 ; -;)「気付くのです……己の幸福とは、そしてあなた様の幸福とは何なのかを。私は……あなた様を失いたくない。
誰にも手渡したく……ないっ。そう気付いたら、もう、もうっ……もう、止まれないのですっ、お嬢、さまっ……」
ξ;⊿;)ξ「クーっ……!!」
いつの日かツンが口にした台詞――“誰かの言うことや、世界の定めたものに従い続けるだけじゃ永遠に手に入らない何かもある。己達は偶々そうだっただけだ。”
偶々と言う言葉がクーは好きだった。それは運命性、或いは因果性を思わせる。
つまり、言外に、そして意識せずにツンはクーに対して純粋な愛を紡いでいた。
それを思い出すとクーは胸が温かくなり、それは自信となる。
己は真実の愛を向けられている。そして己はそれに今、確かに応えたいと願っている、と。
( ^ω^)「……偽りはないのかお、クー」
川。゚ -゚)「……はい。申し訳御座いません、マスター」
( ^ω^)「そうかお。了解したお」
282
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:08:33 ID:53.STGpE0
クーは覚悟をした。殺されるにしても、それでも己は愛する者の想いと心に応え、確かに報いることが出来た。
だからここで滅ぼされても、己には意味が生まれ、確りと愛する者の胸に気持ちは刻まれたはずだと。
彼女はアリスを抱きしめたままにその時を待つ。
或いは剣、ないしは銃、ともすれば他の凶器――何で殺されるにしても構わない。
( ^ω^)「ツン。継承権を寄越せだのなんだのと……この僕の意思をくみ取れない程に君は愚かだったかお」
ξ#゚⊿゚)ξ「……愚かなのかどうかは、やってみなきゃ分からないでしょう」
( ^ω^)「やらせる? 何をだお? 軍(いくさ)の指揮を? 君は人の死を受け取められるのかお?
自身の死や、責任や、それを差配する立場になることを?」
ξ#゚⊿゚)ξ「っ……覚悟は、できてるもん……!!」
( ^ω^)「……そうも単純で、簡単なことじゃ――」
ξ#゚⊿゚)ξ「なくったって!!」
ツンは叫んだ。クーの手を握りしめながら、震えつつも、それでも愛する父へと気持ちをぶつける。
ξ#゚д゚)ξ「クーを笑わせる為なら、クーを幸せにする為なら、わたしは歩いていける!! クーと一緒に、どこまでだって行ける、なんにでもなってみせる!!」
その言葉にブーン・ティレル卿は瞳を伏せた。
ツンとクーは息を飲み彼の反応を待つ。
( ^ω^)「……そうかお。そこまで……いや、やはり君達はそうも愛し合っていたのかお……」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、やはりって……」
川;゚ -゚)「き、気付いていらしたんですか、マスター……?」
ティレル卿は、まるで後悔するように息を吐いた。
ツンとクーはその様子に若干の驚きをみせる。
283
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:10:13 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「僕を誰だと思ってるんだお、お前達。ツン、お前は僕の娘だお?
そしてクー。君を雇い、レディースメイドに任命したのは僕だお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「お父様……?」
川;゚ -゚)「マスター……?」
( ^ω^)「噂はよぉく聞いていたし、戦争に行く前からお前達は常々仲がよかっただろうお。決定的だったのは婚姻の話だおね。
あれをしたら二人とも大層様変わりして……あれで確信したけど、今思えば酷なことだったろう。そればかりは謝ろう。済まなかったお……」
そう言ったブーン・ティレル卿だが、二人の愛の関係に対して反対するでもなく、そもそも驚愕すらなかった。
同性での恋愛、ましてや主従の間柄だと言うのに、彼の反応にツンとクーは若干の混乱をした。
ξ;゚⊿゚)ξ「え、と……お父様……? その……お話、理解してる……?」
川;゚ -゚)「わ、私たちは、女同士で、そのっ……」
( ^ω^)「お? 何が可笑しいんだお? よもや歴史を知らんわけじゃないだろうお?
クー、古来より貴族王族とはどう言ったものか……理解しているだろうお?」
川;゚ -゚)「え……あっ」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、なになにっ、どういうことなのっ」
川;゚ -゚)「……その、お嬢様。古来より、その……まぁ、なんと言いますか……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なに、なんなのっ。気になるよ、早く教えてっ」
川;゚ -゚)「端的に申しますが、あの……多かったのです……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なにがっ」
川;- ,-)「同性愛、および……同性での性的趣味趣向が……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……えっ」
284
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:11:44 ID:53.STGpE0
事実だ。それは古今東西、如何なる地方だろうが紛うことなき史実。
特に衆道(しゅどう)――男性同士のこれは大流行し、王族のみならず貴族にすら男妾は控え、一般でも男娼は存在した。
更には女性――暇を弄ぶ姫君、令嬢方はやはりコンパニオンや侍女と関係を持つことがままあった。
つまり、どうあっても貴族王族にとって同性愛というのは歴史的に見ても切っても切り離せない内容だった。
十九世紀頃になると同性愛も鳴りを潜めるが、しかし歴史ある御家柄とは、つまりは理解力を意味する。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ……ぇえ!? そうなの!?」
川;゚ -゚)「はい、事実……王家の歴史でも、やはりそう言ったお話はあります……歴代のクイーンも然り……」
ξ;゚⊿゚)ξ「お、お父様、それ本当!?」
( ^ω^)「おっ、本当だお? 何か可笑しいのかお?」
ξ;゚⊿゚)ξ((感性が古い人だった!!))(゚- ゚;川
首を傾げるティレル卿を見てツンとクーは内心でそんなことを思う。
が、しかしティレル卿は二者の愛の関係を受け入れはするが――
( ^ω^)「しかし家督云々についてはお。そればかりは……頷くことは出来んお」
ξ;゚ -゚)ξ「っ……」
( ^ω^)「けれども……そうも頑固だって言うのなら、見せてみるといいお、ツン」
ξ;゚⊿゚)ξ「え……?」
( ^ω^)「何を呆けているんだお? 君は我が娘、我がティレル家が嫡女。貴族とは斯くあり。
貴族とは……働かず、出歩かず。しかして――紳士淑女として“足る者であれ”」
ツンはその言葉に恐る恐ると顔を上げる。
285
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:13:05 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「然らば……“それを手に入れなければ足らぬ”のであれば、“足る者”になればいいお。
欲しいのなら示さねばお。違うかお、ツン?」
ξ;゚⊿゚)ξ「お父様……!」
( ^ω^)「認めた訳ではないお。だが英国人(イングリッシュ)としての矜持くらい……持たずして何がティレルの嫡女かお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「それって……!」
川;゚ -゚)「マスターっ……!」
ティレル卿は言う――ならば頷かせてみろ、と。
現実の一つも知らず、歳若く拙いツン。そんな彼女はやはり、戦争の全てを知る訳ではない。
だが、彼女が見せた意思、或いは情熱の全てを受け、彼は無碍にするような外道は、実に紳士らしくない、と完結する。
願わくば愛娘には平和の中で安寧に包まれてほしい――だがそれを己の意思で拒むのであれば、現実と対峙しようと言うのであれば、鬼のティレルとして受けて立つべきだ、と。
( ^ω^)-3「まったく、誰に似たんだかお……ネラア卿にも話を通さんとお、少しばかり話を待つように、ってお」
ξ*゚⊿゚)ξ「お父様……!」
( ^ω^)「おー、クーが僕の言いたかった台詞を全て言ってしまったからお、もう言葉を用意していないお。
まったく、昔からクーはよくできた子だおね。今度またピアノを聴かせてもらえないかお?」
川 ゚ -゚)「はっ。畏まりました」
ティレル卿はそこで一度息を吐くと、途端にくたびれたような顔をした。
286
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:14:14 ID:53.STGpE0
(; ^ω^)「はーあぁ、もう、帰って早々にこれだお……疲れたし風呂に入ってくる。そうだ、食事は用意できているのかお?」
川 ゚ -゚)「はっ。いつでもご用意は可能で御座います」
( ^ω^)「ん、了解したお。では風呂からあがったら今一度食事の席で続きでもしようかお、ツン?」
ξ*゚⊿゚)ξ「っ……! うん……!」
感触的に悪くはない――ツンはここからが正念場だと悟る。
だが不思議とやる気に満ちるのは、傍に立つ愛する者のお蔭だろうか。
兎角、ツンとクーは互いに笑みを向けると、部屋から出ていこうとするティレル卿を見送るのだが――
( ^ω^)「ああ、それと……ツン」
ξ*゚⊿゚)ξ「え? なぁに?」
287
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:14:39 ID:53.STGpE0
( ^ω^)「いいところだろうお……ハートフィールド。僕も好きなんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「「――えっ!?」」(゚- ゚;川
.
288
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:15:15 ID:53.STGpE0
( ^ω^)ノシ「おっおっ。それじゃ、また後でおー」
そんな驚きの言葉を残して彼は湯浴みへと向かった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ねぇ、お父様って地獄耳なの……?」
川;゚ -゚)、「分かりません……ですが、本当にお優しいお方で御座いますね……」
ξ;-⊿-)ξ「うん……あぁ、心臓に悪いよっ、もうっ……」
緊張から解放された二人。
ツンを椅子へと腰かけさせると、クーは労わるように言葉を紡ぐ。
が、ツンと言えば未だに腫れた目元のままにクーを正面へと手招いた。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー」
川 ゚ -゚)「……はい」
ξ*゚⊿゚)ξ「もう一度……もう一度聞かせて?」
川 ゚ -゚)、「っ……お恥ずかしゅう御座いますのでっ……」
ξ*゚⊿゚)ξ「ダメだよっ。ついに応えてくれたのに……ねぇ、お願いっ」
川 ///)「……一度、だけですよ……?」
ξ*゚⊿゚)ξ「うんっ!」
クーはツンの前に跪く。それはまるで忠誠を誓う騎士のような姿だった。
それを前にツンは黙す。ただ一言、何よりも幸せな一言を待った。
289
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:15:47 ID:53.STGpE0
川*゚ -゚)「愛しております、お嬢様。あなた様を……心の底から愛しております」
ξ*。゚ -゚)ξ「クーっ……!!」
.
290
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:16:09 ID:53.STGpE0
ツンはクーへと抱き付く。堪えていた涙を零し、その小さな体で必死でクーを抱きしめる。
それを受け止めるクー。彼女はもう迷わない。
己の全てを解放し、心に従い、そして愛する者の為にと決意をした彼女はもう揺るがない。
.
291
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:16:35 ID:53.STGpE0
ξ*;ー;)ξ「愛してる、クーっ……ずっとずっと、ずぅっとっ……一緒にいてねっ……」
川*。゚ー゚)「愛しています、お嬢様っ……ずっと、ずっと……あなた様と共にっ……」
.
292
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:17:09 ID:53.STGpE0
誰の邪魔もなく、そして何の柵もなく。二人は愛を誓い合った。
羞恥もなく、戸惑いもなく。二人は唇を重ねる。
それは音もなく、静かで、穏やかで、けれども二人はこの時、真実として永遠を約束し、夢を叶えた。
.
293
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:19:13 ID:53.STGpE0
Girls and sugar “Magik”...
.
294
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:03 ID:53.STGpE0
Outro
.
295
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:27 ID:53.STGpE0
梢にとまった鳥が朝の調べを奏で、軽やかな旋律は霧に包まれたロンドンに新たな一日を告げる。
季節は冬。湿度と低い温度も相まって霧の都は今日もドレスを纏った。
川 ゚ -゚)「お嬢様。起きてくださいませ、お嬢様」
霞に包まれた白い屋敷がある。ロンドン市近郊にあるその館はティレル侯爵の持ち物だった。
十八世紀頃に建てられた館はヴィンテージな佇まいをしている。
館の一室では一人の侍女が声を出した。
侍女の眼下には金色の髪をした少女が寝息を立てている。その姿を見る侍女の瞳は何も語らず、声色も平淡だった。
侍女は無感情な表情のまま、一度瞳を瞬かせる。再度見開かれた瞳は黒い輝きを見せ、先よりは柔らかく見受ける。
川 ゚ -゚)「お嬢様。ツンお嬢様。朝で御座います」
ξ-⊿-)ξ「ん……」
侍女の澄んだ声に金髪の乙女は反応を示した。
微睡む意識を引きずりながら瞼を擦って穏やかに覚醒をする。
起き上がった少女は霞む視界のピントを修正しながら、大きな瞳を侍女へと向けた。
ξ-⊿゚)ξ「……おはよう、クー」
川 ゚ -゚)「お早う御座います、お嬢様」
ξ-⊿-)ξ「うん……」
ツンと呼ばれた少女は返事をするが、未だ完全には覚醒を果たしていない。
そんな己の主を見た侍女――クーは、それでも無表情のまま、何を言うでもなく不動に立つ。
296
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:20:49 ID:53.STGpE0
ξ-⊿-)ξ「……もう少し寝てもいいかな、クー」
川 ゚ -゚)「いけません。朝食の用意も整っています」
ξ-⊿゚)ξ「んー……だめ?」
川 ゚ -゚)「なりません」
ξ-⊿゚)ξ「昨日は夜遅くまで起きてたの……だから眠くて眠くて……」
川 ゚ -゚)「遅くまで明かりがついていたのは存じておりました。しかし、朝は起きるもので御座います、お嬢様」
_,
ξ-⊿-)ξ「んんー……」
ベッドの上で猫のように伸びをするツン。
背を鳴らす少女を見るクーは何かを言いたそうにするが、しかし表情は変わらずに無のままだった。
ξ-⊿-)ξ「ふあぁ……」
川 ゚ -゚)「お嬢様」
ξ-⊿゚)ξ「……起こして、クー……」
川 ゚ -゚)「……お嬢様」
ξ-⊿-)ξ「お願い……」
うつ伏せのまま言うツンにクーは数瞬沈黙をするが、ややもすると静かにツンへと近づくと――
297
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:21:23 ID:53.STGpE0
川 *- ,-)「んっ……」
ξ*゙ -゙)ξ「んむっ――」
クーはツンの唇へと己の花弁を宛がい、そうして刹那を永遠に求めた。
ツンはその温もりと柔さを得ると次第に覚醒し、そうして動く腕でクーを抱きしめる。
ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ。お目覚めのちゅー?」
川 ゚ー゚)「はい。何せ眠り姫は……こうして起こすものだと教わりましたので」
ξ*-⊿-)ξ「そうなんだ? でも……まだまだ眠いなぁーっ」
川;゚ -゚)「……お嬢様。折角マスターからチャンスを得たと言うのにもかからず、朝からそうも――」
紡ぎかけたクーの唇を塞いだのはツンだった。
クーはそのままツンの手によりベッドへと引きずり込まれる。
それに抗いもしないクーも、やはりツンと同じ気持ちだった。
298
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:22:02 ID:53.STGpE0
ξ*゚ー゚)ξ「……好き」
川*゚ー゚)「……好きです、お嬢様」
ξ*゚⊿゚)ξ「ねえ……クー?」
川*゚ー゚)「なんでしょうか?」
ξ*^ー^)ξ「……愛してるよ」
川*^ー^)「……私も、愛しております」
ξ*-⊿-)ξ「ずっとずっと、永遠に……愛してるよ」
川*゚ -゚)「……私の方が先に老けますよ?」
ξ*゚⊿゚)ξ「いいよ、別に。クーが好きなの」
川*- ,-)「……勿体無い、お言葉です」
ξ*゚ー゚)ξ「ふふっ……ねぇ、それじゃあ、朝の授業をお願いしてもいい?」
川*゚ -゚)「どうせまた、保健体育が云々と仰るおつもりでしょう?」
ξ*゚⊿゚)ξ「ううん? 今日はねぇー……生物学っ」
川;- ,-)「……呆れてものも言えません、お嬢様……」
ξ*^ー^)ξ「ふふーん、いいもーんだっ
299
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:22:48 ID:53.STGpE0
ロンドン市近郊にある白亜の館にはティレル侯爵の一人娘が住まう。
その娘の名はツン・ティレル。背の低い、華奢な十三歳の少女だ。
長く柔らかな金髪を持ち、瞳は大きく碧眼で、顔立ちは誰が見ても認める程に可憐で美しい。性格も明るく笑顔がよく似合う。
そんなツン嬢の身の回りの世話をするレディースメイドがいる。
普段から不愛想で、何を考えているかも謎だった。声には感情の一つも宿らないが、その美貌は類見ない程だった。
彼女の長い黒髪と大きな黒い瞳、そして描かれた純白のような肌の美しさは、さながらに美の象徴とも呼べた。
二人は長らく心を別ち、素直になれないままでいた。
だが二人は己の気持ちと向き合い、また、互いの心と向き合い、そうして次第に秘めていたはずの感情を解放する。
そんな二人は愛を交わす関係となり、後の世でツン・ティレル“卿”は名将として名を轟かせるに至るが――
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300
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:23:14 ID:53.STGpE0
ξ*^ー^)ξ「「愛してるっ……」」(゚ー゚*川
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301
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◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 23:23:34 ID:53.STGpE0
――今は未だ、乙女達は夢の心地のままに愛を交わすのだ。
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