[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
('A`)は異世界で戦うようです
1
:
名も無きAAのようです
:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。
過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。
テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。
そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。
大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。
よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。
*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。
261
:
1
:2014/06/15(日) 22:53:13 ID:y0WfqNpk0
ドクオは貞子の動きに戸惑いを隠せなかった。先程まで小出しにしていた魔法が急に威力の高い魔法に切り替わったのである。
長い詠唱や広範囲で複雑な魔法陣を使わないことから大技ではないことは分かるが、それでも意図の分からないこの行動はドクオからすれば不気味でしかたがない。
('A`;)(これでまた振り出しかよ)
魔法を打ち消し、距離を詰め、貞子を追う。依然決定打は与えられない。
さすがに体力が減り始めていた。息も上がってきている。しかし貞子の攻撃は止まず、どころか熾烈さを増すばかりであった。
と、前方に魔法陣が浮かぶ。黒い流星がいくつも舞い飛び、ドクオは一つ残らず消し飛ばし、次の攻撃に構えるが━━。
貞子はドクオより少し距離を置いて目の前に魔法陣を作っていた。
勘が叫ぶ。今までで一番大きな魔法だ。つまり、これを防げばこちらの勝ち。
('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」
巨大な魔法陣から解き放たれたのは黒の濁流だった。ドクオの視界を埋め尽くし、ひたすらに破壊を撒き散らしていく。
後ろには渡辺とツンがいる。迎え撃つしかない。
剣を上段から一気に振り下ろすと、さすがに一発で消えてはくれなかった。容量が大きすぎて消しきれないようだった。
('A`;)(踏ん張れ、踏ん張れ俺!!)
262
:
1
:2014/06/15(日) 22:54:42 ID:y0WfqNpk0
ずずっと足が後ろに押されていく。こらえきれない。せめて軌道をそらすことさえできれば……。
('A`;)(なんのためにここまできたんだ……誰も守れない力なんて意味があるのかよ!?)
ドクオは弱い人間だ。努力もしなかった、現実から目を背け続けて不平ばかり漏らしていた。
('A`;)(渡辺はツンのために力がなくとも前に出た!! ツンは敵わない相手に命をかけて戦った!!)
人は二人を馬鹿にするかもしれない。命を粗末にする大馬鹿者だと笑うかもしれない。だが、ドクオは、ドクオだけはそれを笑うことなんてできない。
二人は自分の大切なものを、無くしちゃいけないもののために立ち上がっただけだ。それを失ったら、もう前を向いて歩くことができないから。
('A`;)(なら俺だってそれに応えなきゃ、そうじゃなきゃ二人の頑張りを本当だって、胸を張って言えやしない!!)
ドクオは一歩を踏み出す。腕だけでなく、体を使って。
('A`;)(もう逃げねえ!! 二人のためにも、何より俺自身のために!! 今やらないで)
('A`#)「いつやるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ドクオは思いきり体を横に捻る。甲高い音を立てて黒い濁流がドクオの横を流れていった。
('A`#)「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」
貞子へ向かってドクオは剣を振る。貞子は俯いて動かない。力を使いきって動けないのか、それとも他に何かがあるのかは分からないが、ドクオが先に斬ってしまえば終わりなのだ。
川゚д゚川「あはははははは!! これで終わりの訳がないでしょう!?」
あと二歩のところまで来たとき、貞子は目を見開き大口を開けて笑った。
ドクオは剣を振り下ろすが、何かの障壁に阻まれて体ごと強引に弾かれてしまう。
('A`;)「今度はなんだよ」
空中で体勢を立て直して着地。貞子の体から黒いオーラが禍々しく噴出していく。辺りの物という物を砕き、抉り、同時に大気が揺れた。
ξ ⊿ )ξ「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時、ツンの悲鳴が聞こえる。振り返ると、ツンの体から貞子と同じような黒いオーラが噴き出していた。唯一貞子と違うのは、ツンから出ているものはひたすらに貞子へと吸収されていることだ。
从;'ー'从「ツンちゃんしっかりして!! どうしたの!? ねぇ!?」
渡辺が声をかけるがツンの叫びは収まらず、体が不自然に反り返っている。見えない何かに引っ張られているかのようだ。
('A`#)「てめえツンに何をしやがった!?」
貞子はにやりと笑いながら杖をかざす。たったそれだけの行為で至るところに黒雷が降り注いだ。
263
:
1
:2014/06/15(日) 22:55:43 ID:y0WfqNpk0
川゚д゚川「王都の結界が吸った魔力は私とその子に集約させている。私達がこの状況下で魔法を使えるのはそのため」
('A`;)「はっ?」
川゚д゚川「そして、このシステムはツンの体に刻まれた魔法陣と同期させている。彼女のマナを消費してね。けれどもうその子は戦えない、使えない。ならば、このシステムを利用してあの子の力を全て私に向けるようにすればいいと思わない?」
('A`;)「まさか……」
川゚д゚川「つまり、あの子の魔力も、命も、私に吸収されている。そしてシステムの要である彼女の力を吸い付くした時、ツンは━━」
264
:
1
:2014/06/15(日) 22:56:40 ID:y0WfqNpk0
川゚д゚川「死ぬ」
.
265
:
1
:2014/06/15(日) 22:57:46 ID:y0WfqNpk0
(゚A゚#)「てめえは、人の命をなんだと思ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
この女は本当に人間なのかどうか、ドクオにはもう判断ができなかった。私利私欲のために命を食い潰すなど、神にでもなったつもりなのか。
こいつは生かしてはおけない。ここで倒さねば何人もの命がツンのように弄ばれる。
川゚д゚川「さあ来なさい魔剣の主!! あなたに本当の絶望を教えてあげる!! そして悔やみなさい、私に楯突いたことをねぇぇぇぇぇ!!」
ドクオと貞子の最終決戦が始まる。
266
:
1
:2014/06/15(日) 22:58:31 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇
貞子の攻撃は先程と比べるまでもなく威力と速度を増していた。ドクオは四方八方を動き回る黒い魔法を目で追うことすらできなかった。
だが、ドクオはそれを正確に打ち落としていく。見るのではなく、周囲を漂う魔力を感じるのだ。ドクオの集中力は極限まで高まり、それすら容易く可能にさせる。
だが、やはり貞子へは簡単に届きそうにない。溢れ出す魔力もドクオを邪魔するが、貞子から発せられている波動がドクオの動きを著しく阻害している。魔力ではない別の物なのか、ドクオの剣ですら消すことができなかった。
川゚д゚川「さっきまでの威勢はどうしたのかしら!? 誰が誰を許さないって!? 身の程を知りなさい!!」
前方から黒球。それを横薙ぎに消し飛ばし、上からの雷を横に飛んでかわす。さらに右から来る黒い手の一本を斬り飛ばすと両側面から黒い槍がいくつも踊り狂う。
('A`;)「くそっ……らぁっ!!」
大振りに剣を薙ぐと、魔法はまとめて消滅した。だがすぐに第二波が押し寄せてくる。
ξ ⊿ )ξ「あっ……がっ……」
从;ー;从「しっかりして!! 負けちゃやだよう!! 頑張って!!」
267
:
1
:2014/06/15(日) 22:59:39 ID:y0WfqNpk0
貞子が魔法を使う度にツンの生気のない声と、渡辺の涙声が聞こえる。早く終わらせなければならないのに、ドクオは近付くことさえできない。
飛んで跳ねて斬り飛ばして、時間だけが過ぎていく。その間にもツンの命は縮まっていくのに、ドクオは何もできない。
('A`;)(俺よりもあの二人のが辛いんだ!! とにかく早く……)
ドクオは魔法の中へと走り出す。様々な魔法がドクオの肌を焼き、切り刻み、衝撃を与えるが、そんなものは気にしていられない。
川゚д゚川「近づいたところで無意味なのよ!!」
貞子へとあと一歩までのところで、暴力的な黒い風がドクオを軽々しく吹き飛ばし、宙を荒れ狂う黒雷がドクオの体を貫いた。
( A )(んだよこれ……こんなのチート過ぎんだろ……)
地を転がり、ドクオはとうとう力尽きる。始めから全力で動かしていた体は限界をとうに越えていた。元々があまり丈夫ではない体なのだ、ここまで動けたことが奇跡に等しい。
( A )(なんだよ、これ。こんなのが現実だっていうのか? 救いはないのかよ)
立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れていく。足に力が入らない。
( A )(俺はなんのためにここまできたんだよ。誰かを、渡辺を守るために来たんじゃないのかよ)
それでもドクオはふらふらになりながらもしっかりと二本の足で地を踏んだ。吹き荒れる黒の嵐を何度もその身に受けても、きちんと立ち上がった。
( A )(ここで俺がやらなきゃ、応えなきゃ、二人は世界に絶望したまま死んでくんだ)
剣を握る。腕をあげる。体はまだ、動く。魂も折れちゃいない。
(゚A゚)「まだ終わりじゃねえぞ!!」
268
:
1
:2014/06/15(日) 23:00:30 ID:y0WfqNpk0
ドクオは走り出す。魔法をいくつも消し飛ばし、貞子だけをしっかりと見つめて。
もう小細工は終わりだ。正面からぶつかる。貞子が使うのは間違いなく魔法なのだから、剣で消せない訳がない。
自動迎撃の魔法かもしれないが、攻撃される前に懐に入って攻撃すれば問題ない。
(゚A゚)「はぁぁぁぁぁぁ!!」
川゚д゚川「馬鹿の一つ覚えね!!」
黒い風が再びドクオを襲う。横一閃。膨大な魔力が消滅していくのが剣を通じて伝わってくる。
振り抜いた。貞子を覆っていた黒いオーラはなくなっている。今しかない。
ドクオは体を捻り、逆袈裟に貞子を斬る。
(゚A゚)「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
川゚д゚川「マナは何度でも補充出来る!! 舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ」
しかし、貞子の周囲では一切動きはない。黒い風も、雷も炎も槍も何もない。目の前には油断した貞子の体があるだけだ。
川д川「どういう……」
ドクオはそのまま剣を振り抜き貞子の体を両断した。
川д川「はっ……」
269
:
1
:2014/06/15(日) 23:15:54 ID:y0WfqNpk0
(*゚ー゚)「メインの炉を捉えました。いつでもいけます」
(´・ω・`)「ありったけの魔力を注ぎ込むぞ」
王都の郊外では三人の騎士が王都解放のための策を打っていた。ショボンが手をかけ、魔力が大量に流れると炉は煙をあげてすぐに壊れた。
( ・∀・)「王都の結界の消失を確認。これで中に入れますね」
(´・ω・`)「急ぐぞ」
270
:
1
:2014/06/15(日) 23:17:45 ID:y0WfqNpk0
貞子からは血も出ず、肉が剥き出しになることもなく、切った部分から少しずつ消えていく。まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れては透明になる。体の魔力が消滅しているのだろうか。
('A`;)「はっ、はっ、はっ」
最後の一撃の間際、貞子の攻撃が来ると思ったのだが、予想に反して何の抵抗もなくすんなりと攻撃が通ったのはどういうことなのだろうか。ドクオは消えていく貞子を見て、それを聞くのをやめた。
('A`)「……お前は死ぬのか」
川д|「そうね。魔剣は魔力やマナを食うの。人間じゃ生きてなんていられないわ」
('A`)「……最後に一つ教えろ。この剣はなんだ。なんのために俺が持ってる」
川д|「……少しだけ教えてあげる。その剣は魔剣アポカリプス。世界の創造と破壊を撒き散らす神の片割れの武器よ」
('A`)「神の片割れ?」
川д「あなたが持っている理由は、特にない。あなたじゃなくても誰でもよかった。魔剣を持たせることが最大の目的だったから」
貞子の体はほとんど残っていない。間もなく彼女は消滅する。
('A`)「そうかよ。お前を殺したこと、俺は後悔しねえぞ」
川「結構。最後の最後に楽しく踊れたし、私は満足よ」
それだけ言って、貞子は完全に消滅した。
271
:
1
:2014/06/15(日) 23:18:30 ID:y0WfqNpk0
何もなくなった空間を見て、ドクオはようやく緊張の糸を解いた。渡辺を狙う敵はもういない。ツンの命を脅かす者も消えた。
終わったのだ、全部。
('A`)「ふぅ……」
ドクオは力を抜いて地面に身を投げ出した。もう動きたくない。帰って気持ちよくぐっすりと寝たい気分だ。
もちろん考えなきゃいけないことは山積みで、名前が判明した魔剣アポカリプスのことや黒の魔術団の目的。そのどれもが解決はしていない。
だが、それでも今は二人を守ることができたことを素直に喜ぼう。
从'ー'从「どっくーん!」
渡辺の呼ぶ声がしたが、ドクオは答えることをせず、空を見上げる。
黒かったはずの空は、いつの間にか結界ごと消えており、鈍い赤色に染まっていた。
('A`)(ショボンさんたちがやってくれたのかもな)
それだけ考えると、ドクオは深い眠りに身を落としていったのだった。
272
:
1
:2014/06/15(日) 23:19:28 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇
王都とは違う別の街の建物の中で、三人の人間が集まっていた。皆一様に黒いフードを目深に被り、表情は見えない。
一人の男が口を開いた。
『貞子がやられたか』
『仕方がないんじゃないか? あいつは結果をすぐに求めようとしてからな』
『アポカリプスの進行速度は半分ほどか。だが、今回奴は自信をつけただろう。再びあれを除くのは至難の業だな』
『しばらくは様子を見た方がいいかもしれん。こちらも全ての準備を終えているわけではないし』
『それもそうだ。今回計画の要として使用するはずのヴィップの結界も消えてしまったし、貞子の野郎余計なことを』
『何、すぐに計画は再始動する。それまで束の間の平穏を楽しませておけばいい』
『それに今回収穫がなかったわけでもないしな』
『なに?』
『貞子が使っていた結界を利用して魔力を吸収する術式は非常に面白い結果を見せてくれた。これを使えばもっと面白くなる』
『何をするつもりだ?』
『なぁに、ちょっとしたゲームさ。ドクオとかいうあの男、なかなかに見所がある』
『あまり羽目を外しすぎないようにな。あの男は計画の要だ。殺してしまっては魔剣も失われてしまう』
『分かっているさ。それでは準備をするため失礼させてもらう』
男が部屋を出ると、それを見ていた別の人間がぽつりと呟いた。
『神の前でゲームなどと、愚かなことを』
その声に、誰も気付くことはなかった。
273
:
1
:2014/06/15(日) 23:21:09 ID:y0WfqNpk0
ヒロユキ大陸の北東部、荒れ果てた遺跡の最奥部にブーンは一人立っていた。侵入者を迎撃するための罠を掻い潜り、たどり着いたのは小さな空間だった。
( ^ω^)「陛下はこれで何をするつもりなんだか……」
彼の目の前には一本の杖が奉られている。伝承によればこの杖は魔剣アポカリプスと対を為す神器の一つ、創造を司るらしい。
ブーンには装飾すら施されていないこの杖にそんな力があるとは思えなかったが、それでも依頼は依頼。これを回収してジョルジュに渡さなければならない。
杖に手をかけた瞬間、眩いほどの光が辺りを包む。
( ;^ω^)「ちょ、何が……」
光が収まり、ブーンが目を開けると、そこには杖と、
川 - )「」
一人の少女が宙に浮いていた。
( ;^ω^)「ど、どうなってんだお」
少しずつ高度を下げ、やがて床に着くと彼女は力なく倒れこんだ。意識はない。
( ^ω^)「……こりゃまいったお。あいつになんて説明すりゃいいんだお?」
このまま放っておくのはさすがに目覚めが悪い。少しだけ迷うが、ブーンは少女を背負い、杖を取ると遺跡を後にする。
帰ったらジョルジュにどんな文句を言ってやろう。それだけを考えていた。
274
:
1
:2014/06/15(日) 23:21:55 ID:y0WfqNpk0
第五話 終
275
:
1
:2014/06/15(日) 23:28:54 ID:y0WfqNpk0
これにて第五話終了です
途中重大なミスのせいでちょっと書き直してお時間とらせてすいませんでした
そして、今回自分の語彙力のなさに絶望してます
戦闘シーンの描写ってのはやはり難しいですね
同じような表現というか文章になってしまうので自分としては今後の反省点です
渡辺とツンの話はある程度やりたいことやれたなぁって感じですかね
それと、第六話からVIPで投下しようと考えていましたが、文字数や改行制限やらあるのでもうしばらくこちらでやっていきます
もしVIPでも投下することになりましたらまたご報告にあがります
276
:
1
:2014/06/15(日) 23:32:57 ID:y0WfqNpk0
>>240
私としては意外にも1週間というのは長く感じました
というか書きたくて投下したくて仕方がありませんでしたねw
皆さん支援ありがとうございました
次回投下は早くて18日、遅れれば19日になるかと
次の話は軽く読めるような話です
本日も読んでいただきありがとうございます
ではお疲れ様でした
277
:
名も無きAAのようです
:2014/06/15(日) 23:57:53 ID:MfiS.5Jc0
乙
278
:
名も無きAAのようです
:2014/06/16(月) 00:10:19 ID:eZ2qzSsE0
ぬはー 乙
しつこくない程度の厨二加減で読みやすい
早く他の強敵とのバトルもみたいぜ
渡辺ペロペロ
279
:
名も無きAAのようです
:2014/06/17(火) 05:00:13 ID:Hj3RQb7w0
次の話が楽しみ
280
:
名も無きAAのようです
:2014/06/17(火) 20:13:21 ID:9nFWPFJY0
全何話くらいの構想なんだろ
未処理の伏線や話の煽りからするとまだ全体のストーリーの3割もいってないように感じるが
281
:
名も無きAAのようです
:2014/06/17(火) 20:38:05 ID:ryL2PJNw0
('A`)が叫びすぎなんだよなー
もっと叫び声のパターン増やさないとな
282
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 08:09:40 ID:Ns.CtIic0
(゚A゚)「むきゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
283
:
1
:2014/06/18(水) 10:33:55 ID:NTh1vHqs0
どうも1です
今日も日付が変わる頃に投下します
第六話は軽い話で短い予定だったのですが
色々と書いてる内にちょっと長くなったので二話分に分けようと思います
>>277
あなたの乙がとてもうれしいです
>>278
ありがとうございます
今後も黒の魔術団との戦いは繰り広げられますので楽しんでいただけるよう頑張ります
>>279
ありがとうございます
>>280
予定では30話くらいのはずだったのですが、話が長引いたりしてるのでもしかしたら50話は越えるやも……
話的にはそろそろ3割の終わりが見えてきたところですかね
>>281
確かにドクオ叫びすぎですねw
読み返していると恥ずかしいですw
もう少しバリエーション増やすか叫ばせないようにしないと単調になりますね
>>282
戦闘中にほんとに叫びそうですねw
284
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 17:52:51 ID:1GQ3ml1A0
気付いたら投下予告来てた!
めっちゃ楽しみ!
285
:
1
:2014/06/18(水) 22:43:54 ID:pMo3TmyQ0
第六話「戦いの後で」
.
286
:
1
:2014/06/18(水) 22:46:32 ID:pMo3TmyQ0
◇◇◇◇
貞子による王都、もとい渡辺襲撃から早くも二週間が経過しようとしていた。
あの件で最も被害を被ったツンは、以前のドクオよりも酷いマナ欠乏症だとかで目下入院中である。何度かお見舞いに行ったのだが、少女らしい可憐さはどこにもなく、肌はカサカサでヒビ割れており、目の下にも隈が大きくできて初め誰だか分からないほどだった。
とはいっても、ドクオがツンと直接的に会ったのは病院が初めてである。記憶が流れ込んで来た理由は分からないが、そのおかげで彼女を一方的に知っていたというだけでまともな面識はなかった。それはツンも同様で黒の魔術団としてドクオの情報はあったが会話をするのはやはり初めてだった。
ツンに見舞いの果物を持っていったところ、彼女は力なく笑ってただ一言「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。黒の魔術団には戻れないし、こんな大怪我を負わせたのは自分だとドクオは思っていたが、ツンにも思うところはあったようでそれ以上の言及は避けておいた。
ただ、これからどうするかというのは気になるところだったので尋ねてみると、
ξ゚⊿゚)ξ「一応魔法学校に入学出来るみたい。渡辺と同じクラスから、ね」
というのが騎士団側から提示されたらしい。
魔法の扱いは独学ながら目を見張るものがあるし、一つだけとはいえ禁呪と呼ばれる魔法をも習得している。今でも充分一線で戦えるだろうが、彼女のこれまでの人生を鑑みて一度学校に入った方がいいだろうとショボンが口を利いてくれたそうだ。
なんせツンの経歴は悲壮の一言に尽きる。親の顔を知らず、気づけば奴隷として売られ、黒の魔術団では道具として使われていた。
ツンが全てを明かしたのかは知らないが、今までの彼女の人生に騎士団としても温情があったのかもしれない。これからは渡辺という友人もいるのだから、精一杯楽しんで生きていってほしいとドクオは思っている。
287
:
1
:2014/06/18(水) 22:47:30 ID:pMo3TmyQ0
ちなみに渡辺は無事昇級試験に受かったようで、見習いから正式な魔法使いとして認められることとなった。ドクオは見習いと魔法使いがどう違うのか具体的に分からなかったが、渡辺の説明によると勉強する魔法のレベルがあがるのだという。
今までは簡単な魔法しか使えなかったが、他の魔法陣の勉強も出来るようになりバリエーション豊かになるのだと喜んでいた。今のままでも十分な気がするのはドクオが魔法を使えないからかもしれない。
そんな渡辺は毎日ツンのお見舞いに通っているようだった。小さな頃に別れた唯一の友達なのだ。積もる話は山ほどあるだろう、とドクオはここ最近二人の邪魔をしないように大人しくしている。渡辺と顔を合わせたのはこの二週間で数回であることを考えれば、やはり野暮なことはしたくなかった。
代わりにドクオは騎士団の訓練に精を出すようにしていた。貞子との戦いでは力不足を痛感したからだ。あとで聞いた話だが、貞子が最後に無抵抗のままだったのはショボン達が裏で結界を消してくれたからで、あれがなければドクオはあの場で敗北し、渡辺とは二度と口を聞くこともできなかっただろう。
ショボンはドクオがいなければもっと大変なことになっていたんだし、持ちつ持たれつさ、と言ってくれたがドクオは素直に頷くことができなかった。
それだけにもっと強くならなくてはならない、とドクオは決意新たに訓練に汗を流しているのである。
('A`)「貞子と戦ったときは結構強くなったのになぁ、俺」
288
:
1
:2014/06/18(水) 22:48:21 ID:pMo3TmyQ0
訓練所で休息を取りながらそうぼやくと、傍らに座っているモララーが鼻で笑う。
( ・∀・)「その剣、アポカリプスだったか? それの力で強くなったように感じただけだろ。基本がなってないんだから弱くて当然なんだよ」
モララーの言うことはもっともだが、ドクオとしては反論したいところだ。そもそもこんな世界に来て戦って生き抜いているだけでもすごいことではないだろうか? 魔法も使えないただの一般人としては、という条件ではあるが。
( ・∀・)「言いたいことは分かる。けど、戦いってのはそんな甘くない。お前が一般人だなんて相手にゃ分からないんだ。死に物狂いでお前を殺そうとするんだぞ?」
('A`)「……分かってる。自分の力量くらい分かってるさ。出来ることと出来ないことの分別はついてる」
だから、出来ることを増やさなければならない。ドクオがこれまで逃げてきた現実と戦うためには、努力を惜しんではいられないのだ。
('A`)「黒の魔術団はこの剣を狙ってる。そのために俺を生かして、周りの人達を狙ってんだろ? 俺のせいで誰かが傷つくのは、渡辺じゃないけどやっぱりいいもんじゃない」
この力は望んだものではないかもしれないが、もう巻き込まれたなんて言い訳が通用するところはとっくに過ぎている。敵の目的はまだはっきりとしていないが、これからもドクオを、魔剣を狙ってくるというならそれに抗わなければ先はない。
誰かのためではなく、自分が生きるために。渡辺やその他の人達が自分のせいで死んでしまったら、ドクオは間違いなく後悔する。自分のことを許せなくなる。
そうならないためにも、ドクオは強くならなくてはならない。
( ・∀・)「きっちり考えがまとまってるようなら俺も安心だよ。さて、俺はまた見回りに行かなきゃならないから、今日はあがるぜ」
('A`)「ああ、お疲れ。俺はもう少し走ってからあがるよ」
( ・∀・)「やりすぎると体壊すから程ほどにしろよ。焦ったってろくなことはない」
('A`)「分かってる」
それだけ言ってモララーは訓練所をあとにした。先日消してしまった結界が未だに修復されていないため、騎士団は現在王都の見回りを交代で行っている。モララーは今日の当番のようだ。
289
:
1
:2014/06/18(水) 22:49:58 ID:pMo3TmyQ0
モララーが去ったあと、ドクオは訓練所を何周かし、あがろうと荷物をまとめていると、不意に声をかけられた。
訓練所で何度か目にしたことのある騎士が数人ドクオを囲んでいた。丸腰なのを見ると敵意はないようだ。
('A`)「なんか用か?」
少しだけ警戒しながらドクオは質問した。自分が騎士団内部であまりよく思われていないことはしぃから聞いていた。もしかしたらリンチにでも合うかもしれない。
「お前、この間の件を解決したんだってな」
騎士の一人がそんなことを言った。
('A`)「……俺が解決したわけじゃない。ショボンさんとかモララーがいなきゃ俺には何もできなかった」
「それでもお前がいなきゃ王都は陥落してたかもしれない。そんな中俺達はあたふたしてて、何もできなかった」
申し訳なさそうに言う騎士達はばつが悪そうに頬をかき、ドクオに手を差し出す。
「すまなかったな。お前は何も悪くないのに、勝手に忌み子だなんだって騒ぎ立てて。見直したよ」
騎士達は皆一様に友好的な笑みを浮かべている。ドクオはどうすべきかを考えて、その手をとった。
('A`)「あんたらは悪くないさ。現に俺がいなきゃこんな事件は起こらなかったんだ。だからおあいこだよ」
これは本当のことだと思う。巻き込まれたことは事実だが、魔剣の持ち主としてここにいる以上ドクオはどこまでも当事者だ。王都に留まらず、旅にでも出れば誰にも迷惑をかけずに済んだかもしれない。
けれど、ドクオはもうそれが出来ない。大切なものを見つけてしまったし、それを自分の手で守るのだと覚悟を決めてしまった。
「お前はすごいやつだよ。よかったら、今から飲みにでも行かないか? 友好の証ってやつさ」
意外な申し出に、ドクオは目を白黒させる。少しくらい態度が丸くなってくれれば、と今のやり取りで思ってはいたが、これは些か進みすぎではないだろうか。
「何、王都の英雄を労るのも俺達の仕事さ。嫌だっていっても無理矢理連れていくぞ」
あまりにも屈託のない笑顔に、ドクオも釣られて笑みを浮かべる。こうまで言われては断るのは野暮というものだ。
('∀`)「……喜んでお供させてもらう」
この日、ドクオはまた一つかけがえのないものを手に入れた。
290
:
1
:2014/06/18(水) 22:51:37 ID:pMo3TmyQ0
◇◇◇◇
从'ー'从「はぁ……」
ツンのお見舞いの帰り、渡辺は一人溜め息を吐いた。この日の渡辺はとても落ち込んでいた。具体的にどれぐらい落ち込んでいるかというと、行きつけのスイーツ店のジャンボ苺パフェ一つ完食出来ないほどである。いつもならば軽くふたつはいけるのだが、今日はそんな気分ではなかった。
落ち込む原因となったのはツンの些細な一言である。
ξ゚⊿゚)ξ『あんたドクオのこと好きでしょ?』
この一言は彼女にとって天と地がひっくり返るほどの衝撃だった。確かに自分はドクオを好いている。しかしそれが愛かと聞かれれば返答に困ってしまうのだ。
一度ドクオとしぃが連れ立ってツンのお見舞いに来たことがあった。その時の二人と来たら仲睦まじく、まるで恋人のよう(少なくとも渡辺にはそう見えた)にお喋りをしていたのだ。
ツンが言うにはあれは出来の悪い兄と優秀な妹のような関係だ、とのことだが、渡辺はどうも胸の辺りがムカムカとして居心地が悪かった。
今でもあの光景は渡辺の瞼にしっかりと焼き付いて離れず、思い出しては何かに当たり散らしたくなる衝動を抑えるのに苦労するほどである。
そんなおりにツンの一言が渡辺の心に拍車をかけたのだ。自分でも分からない感情を友人に指摘されて、渡辺はどうしていいのか分からなくなってしまった。
从'ー'从「好きかといわれてもなぁ……」
そもそもドクオは自分をどう思っているのだろうか。少なくとも嫌われてはいないとは思う。貞子との件でもドクオは身を呈して助けに来てくれたのだから、好意的に見られていると受け取ってもいいだろう。
それに、貞子が言っていたドクオは異世界から呼び出されたという事実。ドクオに面と向かって聞いてはいないが、しぃに確認をとったところほぼ間違いではないとの回答だった。騎士団がどうやってその真相に至ったか定かではないが、二つの組織からそのような答えをもらった以上彼は信憑性は高い。
もちろんそれが渡辺の気持ちに歯止めをかけているわけではないし、そんなことは彼の人柄を図るにあたっては小さなことだ。
つまるところ、渡辺は自分の感情をもて余していて、それに対する明確な答えがどこにあるのかが分からないのだった。
自信を持って彼を好きと言えれば、気が滅入ることもないのに、と渡辺は一人ごちてみる。
人を好きになるというのは動物を好きになるということとは違ったものであることは渡辺にだって分かる。けれどその好きという感情にきちんとした線引きができない。どこからが異性に対する好きで、どこからが違うのか。ツンに聞いても答えは返ってこなかった。
从'ー'从「よく分からないなぁ、こういうの」
人と接することが極端に少なすぎたせいか、はたまた人生経験なのかは知らないが目下渡辺の頭を悩ませるドクオという存在は彼女の目の上のたんこぶのようなものになっている。
せっかく見習いを卒業できたというのに、次から次へと問題が舞い込んでくるのは自分の体質なのだろうか?
日が傾き、暗くなってきた道を一人歩く渡辺は、また一つ溜め息を吐くのだった。
291
:
1
:2014/06/18(水) 22:52:35 ID:pMo3TmyQ0
◇◇◇◇
(´・ω・`)「やぁドクオ、昨夜はお楽しみだったね」
起き抜けにショボンからそんなことを言われて、ドクオはたまらず飛び起きた。
辺りを見渡せば自分の部屋。どういう経緯でそうなったかは知らないが服が脱ぎ散らかされている。
('A`)「……どうしてこうなった」
自分の体を見ればいつの間にやらパンツすら身に付けておらず、全裸。そこにショボンがニコニコと笑って立っているということは━━
('A`;)「あんたそういう趣味だったのかよ!?」
(;´・ω・`)「何を勘違いしているかは予想がつくが、それは誤解だ。君は昨夜のことを覚えていないのか?」
('A`)「は?」
ショボンにそう言われて、ドクオは思い返してみる。確か昨日は訓練所で知り合った何人かの騎士と飲みに繰り出し、途中からショボンや非番だった他の騎士も混じって大きな飲み会になった気がする。
そのあとも何軒か店をはしごして朝まで飲もうぜ! と意気込んだところまでは覚えているが、その先はどうも思い出せない。
(´・ω・`)「君はそのあと酔い潰れてね、僕が君をここまで送り届けたのだが、部屋に着いたとたんに君は吐き始めたんだ。おかげで僕は眠ることなく君の粗相の始末をするはめになったのさ」
(゚A゚)「」
なんということであろうか。まさか騎士団のナンバーツーに送り届けてもらったどころか不始末の処理までさせてしまうとは。いくらドクオと言えど全裸で土下座は当然に思えた。
(;´・ω・`)「いや、僕は今日も非番だから構わないが、君は少し酒の飲み方というものを考えた方がいいぞ。あまり強くないようだしな」
('A`)「オッシャルトオリデスハイ」
(´・ω・`)「僕も久々に楽しく飲めた。君が来てから心休まる日が少なかったしな」
('A`)「あれ? 俺遠回しに責められてる?」
292
:
1
:2014/06/18(水) 22:53:41 ID:pMo3TmyQ0
(´・ω・`)「それに、今の君とはもう一度話してみたかったしな」
全裸で土下座をしていたドクオは頭をあげた。話がしたい、とはどういう了見だろうか。
服を着なさい、とのお達しだったのでとりあえず寝間着に使っている元の世界からの相棒スウェットを着用し、ドクオはベッドに腰かけた。ショボンはいつの間にか用意していたコーヒー(名前は違うがドクオから見ればコーヒーそのもの)を口に含み、煙草に火をつける。
(´・ω・`)y━・~~「何、大した話じゃない。これは騎士団のショボンとしてではなく、あくまでショボン個人としての話さ」
('A`)「はぁ」
気のない返事をすると、ショボンが君もどうだい? と煙草を勧めてきたのでドクオもご同伴に預かる。
(´・ω・`)y━・~~「君はこれまで三つの戦いに身を投じて来たわけだが、その戦闘力ははっきり言って並の騎士では歯が立たないレベルだ」
('A`)y━・~~「モララーにはまだまだ弱い、怒られますが」
(´・ω・`)y━・~~「確かに我々からすればまだまださ。だが、君は元々魔物や魔法なんかとは無縁の世界の住人だろう」
('A`)y━・~~「……気付いてたんですか」
(´・ω・`)y━・~~「まあね。もちろんこの答えに至るまで紆余曲折あった。間違いないと確信を持ったのはやはり先日の戦いだったよ」
ショボンはその場で見聞きしたわけではないが、渡辺やツンが貞子から聞いたことを報告として受けたこと、他にも様々な推測をドクオに語ってくれたが、決め手は貞子が言っていた魔剣のことだと言った。
(´・ω・`)y━・~~「魔剣アポカリプス、これは僕達の世界の伝承に出てくる神器だ。全てを破壊し、食らい尽くす絶望の権化。伝承によれば魔剣はこの世界ではないどこかに封印されているはずだったんだが、何故か君が持っている」
その事実はやはり看過できないものだった、とショボンは続ける。
293
:
1
:2014/06/18(水) 22:54:36 ID:pMo3TmyQ0
(´・ω・`)y━・~~「魔法の中には召喚魔法というものがあってね、通常はこの世界のどこかにある物や人物を呼び出す魔法なんだが、特定の条件下と特別な術式があれば異世界に干渉できるかもしれないという研究結果も出ている。仮説の段階ではあるが、できないことではないんだ」
('A`)y━・~~「だからこそ俺が異世界からやって来たのではないか、という説が有力だったわけですか。てことは最初から記憶喪失だなんて言わなくてもよかったんですか?」
ショボンは灰皿に煙草を押し付けて火を消し、少し考えてから、
(´・ω・`)「それはどうだろうな。あの状況下で君が違う世界から来たとなれば余計な混乱を招いたかもしれない。ただでさえ結界が消えるなんてことは滅多に起こることではないんだ」
('A`)y━・~~「そんな中異世界から来ましたーなんて言えばそれこそ俺が疑われるのは当然の結果、ですよね」
そう考えると記憶喪失という設定は最善の策だったように思えた。もちろんドクオもこの設定がいつまでも通るとは思ってはいなかったし、折りを見て打ち明けるつもりではいたのだから、それが早いか遅いかの違いでしかなかったのだろう。
(´・ω・`)「話が逸れたが、君がそういうものとは無縁であった以上、本来ならば被る必要のない戦いばかりだった。にも関わらず、君は剣を取り、体を張っている。僕は、その理由が知りたい」
('A`)y━・~~「……理由?」
何故今になってそんなことを聞くのだろうか。ドクオからすればこれまでの戦いは全て巻き込まれた、といっても過言ではない。確かに逃げることはできたし、他人の命など関係ないと切り捨てればそれで済んだことではあった。最初の戦いにしても、ドクオはこの世界というものを理解してはいなかったし、ましてや命をかけるに値するような感情など持ち合わせてはいなかった。
どこまでいっても他人。ここに来た当初はそんな思いが確かにあっただろう。
だが、ドクオは渡辺に出会った。優しく、可憐で強い少女に。彼女の姿はドクオにとって今でも憧れの対象だ。
('A`)y━・~~「俺は、救われたんですよ」
煙草を消して、ドクオは大切な思い出を語るようにゆっくりと口を開いた。
294
:
1
:2014/06/18(水) 22:55:26 ID:pMo3TmyQ0
('A`)「俺は元の世界じゃ負け犬でした。他人なんて関係ない、自分さえよければそれでいい。その時その時を乗りきれればあとは知ったこっちゃないって、現実から目を背けてました」
勉強も運動も人より劣り、努力からも逃げていた少し前までの自分。この世界に来なければ未だに同じことを繰り返していただろう。
('A`)「けど、こっちに来て、渡辺に出会って、騎士団の連中に出会って、それじゃだめなんだなって感じたんです。逃げてたって変わらない。変わらなきゃならなかったのは自分なんだって、渡辺や他のみんなを見て、気付いたんですよ」
渡辺は誰よりも辛い状況の中で、笑顔を忘れず、他人のために動いていた。騎士団のメンバーは己の信念に基づき剣を取っていた。
その中でドクオは、自分という存在がとても矮小で醜いものにしか思えなかったのだ。
誰もが手にしているはずのものを、ドクオだけは持っていなかった。
('A`)「それを気付かせてくれた人に、追い付きたいし、恩を返したい。世の中儘ならないことも多いけど、俺が救われたようにまだまだ捨てたもんじゃないって胸を張って言ってやりたいんですよ」
本当に辛いときに、ドクオは何も言ってあげられなかった。言わなきゃならなかったのに、言えなかったのだ。
ドクオはその事を一生後悔し続けるだろう。もっとまともな人生を歩んでいれば簡単に伝えられたはずの言葉は、あの時のドクオでは、いや今だって口にする資格なんてありはしない。ドクオはまだ全てをやりきってはいないから。全てが終わったときに、ドクオは彼女に言ってやるのだ。
君の存在は、歩いてきた道は無意味なものなんかじゃない。
('A`)「だから俺は戦うんじゃないですかね。それが、無力だった男が力を手にして出来ることなんじゃないかと俺は思ってます」
他人からしてみれば下らない理由だろう。笑われるかもしれない。命をかけるなんて馬鹿げていると指を差されるかもしれない。
それでもドクオが掲げたものは彼にとって何よりも重い。絶対に曲げてはいけない信念であると自信を持って言える。
ドクオが語り終えた時、ショボンは小さく笑っていた。
295
:
1
:2014/06/18(水) 23:24:19 ID:cfE26c6g0
(´・ω・`)「なるほど。やはり君は僕が思った通りの男だよ。いや、信じていたとも言えるな」
('A`)「何がですか?」
(´・ω・`)「騎士団というのは、信念がなければ機能しないんだ。自分以外に守るべきものがなければ戦う理由もないからな。だからこそ我々は自分自身に厳しいルールを設けている」
例えば弱きものを傷つけない、誰かを見殺しにしない、仲間を疑わない、小さなものなら食べ物を粗末にしない。
ショボンがあげていくルールは生きていればどれも当たり前に守られるものだった。もっと言えば常識、人として最低限のマナー。
(´・ω・`)「こんなものは守られて当然のものだ。けれど、人というのはどうして、簡単なものであってもちょっとくらいならという軽い気持ちであっさりと越えてはいけないラインを越えてしまう。だからこそ我々はどんなに小さなことであっても決めたことは絶対に守ってきた」
(´・ω・`)「騎士団とは秩序であると同時に人を守るための盾であり剣。それを根幹の部分で理解していなければ立ち上がることさえできない。新人にはまだ分からない者も多い。その点君はその辺りをしっかりと持っている」
('A`)「……よくわかりません」
(´・ω・`)「君は君の信じる道を行くべきだ、ということさ。周りがどうあろうと、上から下までしっかりと通った芯はそう簡単に折れやしない」
ショボンはそう言って腰をあげた。
(´・ω・`)「僕は君と知り合えてよかったと、心から思う。これからもよろしく頼むよ」
扉が閉まる音だけが部屋に残る。ドクオはしばし呆然としていたが、自分の腹の音を聞いて朝食がまだだったことを思い出した。
('A`)「住む世界が違うと意識も違うもんだな」
それ以上考えることは止めて、ドクオは腹の虫を収めるために冷蔵庫を漁るのであった。
296
:
1
:2014/06/18(水) 23:25:37 ID:cfE26c6g0
◇◇◇◇
本日は学校がなく、久々の休日である渡辺は朝早くからツンのお見舞いに向かっていた。ここしばらくドクオと顔を合わせてはいないが、何だか今は会いに行けるような心境ではなかった。
それよりも今は大切な友人を見舞いたい、と心のなかで言い訳のように唱えてみるが、どうしてか罪悪感が募るばかりで渡辺は早々に気を落としてしまう。
(*゚ー゚)「随分と元気がありませんね」
その矢先、病院の前でしぃと出くわしてしまった。もちろん渡辺の心に彼女のことなどちっともなかったのだが、思わず渡辺は全身をびくりと強張らせてしまう。何もやましいことなどありはしないのに。
(*゚ー゚)?「どうかしましたか?」
从;'ー'从「あ、ううん、なんでもないよぉ! まさかこんなところで会うとは思ってなかったから」
(*゚ー゚)「はぁ」
怪訝そうに眉を潜めるしぃに、渡辺はどうしてか申し訳ない気持ちになった。彼女は悪くないのに、自分の気持ちも分からないのに勝手に嫉妬している。それが渡辺の心を大きく揺さぶっているからだ。
(*゚ー゚)「今日もツンさんのお見舞いですか?」
从'ー'从「うん。しぃちゃんも?」
(*゚ー゚)「いえ、私はツンさんの入学資料を届けに。退院次第即入学ですからね」
从'ー'从「そっかぁ。えへへ、ツンちゃんと一緒に学校通えるんだ」
とても喜ばしいことだ。と、そこで疑問が浮かぶ。
从'ー'从「そういえば、ツンちゃんとは学校で会ったけど、入学はしてなかったのー?」
(*゚ー゚)「ええ。籍はありませんでした。元々ツンさんの戸籍自体が抹消されていましたから。新たに騎士団側で用意させていただきました」
黒の魔術団に所属していたツンのこれまではどのようなものだったのだろう、と渡辺は考える。ツンは道具として扱われていた、と言っていた。
人ではなく道具。渡辺の持つ箒や、物を食べるときに使うスプーンやフォークのような扱い。壊れても代えがきくただの物。
そんな中で生きてきた彼女が今、長いときを得てようやく普通の女の子として生きることができるのだ。これほど喜ばしいことはない。
从'ー'从「……」
ないはずなのに、どうしてこんなにも嫌な気分になるのだろう。
297
:
1
:2014/06/18(水) 23:29:44 ID:Crg8TgR60
それはきっとツンを取り戻すために戦ったのは自分ではない他の人間だったから。普通の女の子としての道を用意したのが自分ではない他の人間だったから。
どこまでいっても自分は役に立たない人間なんだと、気付いてしまったから。
ニダーは言っていた。自分は人間じゃない、悪魔だと。不幸を撒き散らすだけの存在なのだと。
渡辺にはその言葉が間違いではないように思えた。こんなにも嫌らしく醜い感情を抱く自分は果たして人間と言えるのだろうか。
(*゚ー゚)「どうかしましたか? 顔色が悪いようですけど」
随分と長く考え込んでしまったようだ。しぃが不安げに顔をのぞきこんでいる。
从'ー'从「ううん! 何でもないよ! あ、私用事を思い出したから、今日は帰るね。それじゃまたねー」
渡辺は逃げるようにその場を去る。しぃが呼び止めていたが、彼女のそばにこれ以上いるのは不可能だ。
从;ー;从(だって、涙が止まらないんだもん)
渡辺は自分が分からない。分からないけれど、この気持ちがどんなものかは知っている。
それは彼女が生まれて初めて、はっきりとした形を持った醜い醜い嫉妬だったから。
298
:
1
:2014/06/18(水) 23:30:32 ID:Crg8TgR60
◇◇◇◇
('A`)「まさか食い物がないとは」
ショボンが帰ったあと、空腹を満たすために冷蔵庫を見てみると物の見事に空っぽだった。唯一ストックがあったはずの保存食もいつの間にか食べてしまったらしく、部屋にいては以前のようなみすぼらしい生活を思い出してしまうため、なくなく買い出しに出ることにしたのだ。
一応ドクオは料理ができる方である。長い一人暮らしで身に付けた家事スキルは物価の安いこちらの世界でも役にはたっているのだが、元来の性格ゆえなのかはあまり活かされてはいない。もちろん気が向けば台所に立つのだが、それも一週間の内に一回あればいい方である。
('A`)「まぁ、なにもしなくても金が入ってくるってのは人を堕落させるんだな。いい勉強になるよ、ったく」
適当な所で食事を済ますか、それとも買い出しをして部屋で食べるか迷うところだが、出不精な上に元々コミュ力のないドクオにとって知らない人と長い時間顔を合わせるのはできる限り避けたいところだった。
('A`)「いつもの店でいっか。この時間だと顔馴染みもあんまいないだろうし」
ダメ人間はどこまでいってもダメ人間なのである。ショボンと先程交わした熱い語り合いも、喉元過ぎればなんとやら、今大事なのは腹を満たすことなのだ。
ヴィップラ地区を歩くこと数分、いつもの店に入ろうとしたとき、ドクオは見知った顔を見つけた。
('A`)「あれ? 渡辺じゃん。なにやってんだあいつ」
299
:
1
:2014/06/18(水) 23:31:41 ID:Crg8TgR60
渡辺はこちらに気付くことなくドクオの横を走り去っていく。どうやら周りに目を配る余裕もないようだった。心なしか泣いているようにも見える。
追いかけるべきか否か。
さすがのドクオと言えど、渡辺ほどの交友度があればそれくらいは考える。
しかし時とは考える間にも過ぎていくもので、渡辺の背中はあっという間に遠ざかっていく。
見えなくなる間際、ドクオは、
('A`)「おーい、渡辺ー」
思いきって声をかけることにした。
从うー;从?
从'ー'从……
从'ー'从そ
が、渡辺はドクオを確認すると逃げるかのように駆け出した。いつもの彼女からは想像もつかない俊敏さである。
('A`)そ「ちょ、何で逃げるし」
わけも分からずドクオはその背中を追うことになる。いくらドクオの顔が見るに耐えないグロ面だとしても、逃げることはないのてはないか。そもそもことあるごとに顔を合わせているのだから今さら気持ち悪いなどとはあんまりである。
心の中で滝のような涙を流しつつ、ドクオは渡辺を追いかけた。普段の訓練の賜物かは知らないが、意外にあっさりと渡辺は捕まった。
('A`)「なんで逃げるんだよ」
从;'ー'从ゼハーゼハー
あまりに疲れすぎて喋ることができないらしい。しばし息を整える。
('A`)「……まぁいいや。飯食ってないなら一緒にどうだ? そろそろ昼になるし、今日は奢るよ」
渡辺は少しだけ迷う素振りを見せると、やがてこくりと頷いた。小さな声でアイス、とのおまけも添えて。
300
:
1
:2014/06/18(水) 23:32:32 ID:Crg8TgR60
しぃが病室に入ると、珍しい客が来たものだと驚いた様子のツンが出迎えてくれた。確かにあまり出入りはしないが、少しばかりしぃは不機嫌な顔を作る。
ξ゚⊿゚)ξ「そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しじゃない」
(*゚ー゚)「お世辞はいりませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「相変わらずの無愛想っぷりね。子供は子供らしく、素直が一番よ」
(*゚ー゚)「子供のままでいられるほど騎士団は甘くありませんから」
ξ゚⊿゚)ξ「大人ぶっちゃって。それで、今日はどうしたの? あんたが来るくらいだから、顔を見に来たってわけじゃないでしょ?」
ツンに促されて、しぃは持っていた鞄からいくつかの資料を取り出した。
(*゚ー゚)「入学案内を届けに来ました。退院次第すぐにでも入学可能ですよ」
そう言うと、ツンは満面の笑みを浮かべてそれらを受けとる。彼女にも人並みの憧れというものがあったのだろう、ペラペラとページを捲りながら時折フフフと怪しい笑い声が漏れていた。
(*゚ー゚)「一応渡辺さんと同じ担当にしていただけるよう口を利いておきましたが、あまり期待はしないでください」
ξ゚⊿゚)ξ「そこまでは望んでないわ。一緒に学校いけるってだけで夢のようだもの。それで十分」
301
:
1
:2014/06/18(水) 23:41:08 ID:Crg8TgR60
(*゚ー゚)「以前より顔色も大分よくなりましたし、もうすぐですね」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、ね。けど、私の体にある魔法陣のせいで長くは生きられないだろうけど」
(*゚ー゚)「まだまだ先の話ではないですか」
ツンの体に刻まれた幾多の魔法陣は彼女に力をもたらすと共に、大きく寿命を削るものだとはしぃも聞いていた。
いくつか魔法陣を見せてもらったが、どれもこれもまともな神経で生身の体に描くなんて到底考えられないものだった。黒の魔術団という組織がどれだけカルトじみているのかがうかがい知れるいい見本だ。
ξ゚⊿゚)ξ「でもね、私はあいつらにも少しだけ感謝してる」
(*゚ー゚)「どういうことですか?」
あんなものを付けられて、感謝なんて言葉が出てくることにしぃは驚いた。自分だったら間違いなく怒り狂い、修羅の道をゆくことは想像に固くない。にもかかわらず、ツンがそんなことを言う意図が掴めずしぃは言葉を濁した。
ξ゚⊿゚)ξ「あいつらに利用されて使われなければ、私は二度と渡辺には出会えなかったと思うのよ」
(*゚ー゚)「浚われなければ渡辺さんと今も仲良く暮らしていたかもしれませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ「それは無理。だって、あの子の境遇や価値観は普通に生きてたら絶対に理解できるものじゃないもの。辛い思いをして、それでも誰かのためにだなんて正気の沙汰じゃないわ」
それにはしぃも同意せざるを得ない。人に疎んじられ、見下され、それでもなお世のため人のためと他人に尽くすことのできる人間など聖人君子でもなければ不可能だろう。通常の神経をしていたら人を憎み世を恨み、血を血で洗うような残虐非道な犯罪者になっていてもおかしくはない。
ましてや渡辺という人間は育ての親こそいたようだが、両親の存在が見当たらないのだ。戸籍には載っているが、ツンと出会う以前から両親と係わった記録は一切ない。
そんな人と違う人間があそこまでまっすぐに育ったのはまさに奇跡としか思えなかった。
見る人が見れば忌み子としてではなく、彼女の存在そのものを気味悪がるものは大勢いるだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなあいつの隣にいられる人間は、やっぱり同じような人間か、もしくはもっと酷い境遇の人間か、それくらいのもんよ。私だったらその異常さに気が狂ってたんじゃない?」
(;*゚ー゚)「仮にも親友と呼ぶ人をそこまで言いますか」
302
:
1
:2014/06/18(水) 23:41:57 ID:Crg8TgR60
ξ゚⊿゚)ξ「親友だからこそ言えるの。あいつの生き方は到底理解されるものではないから。ま、そういう意味ではドクオの存在は大きいんじゃない? あれもあれで十分変人だし」
(*゚ー゚)「それは言えてますね」
ツンの評価はしぃから見ても正当なものだと思う。以前の生活がどんなものかは知らないが、身に余る強大な力を手にしてなおそれを正しく使おうとする様は渡辺とどこか似ている。
騎士団のように大層なものを掲げているわけでもなく、あくまで個人として戦っているのだから、偽善者と言われても否定はできないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「似た者同士、なんだろうけどね。ちょっと妬いちゃうわ」
(*゚ー゚)「ツンさんにはツンさんにしかできない立ち位置があるように思えますけれど」
ξ゚⊿゚)ξ「なんていうのかな、根っこの部分で私と渡辺は違うから理解をしてあげられないのよ。例えばの話、渡辺を殺そうとしたやつがいるとする。そいつが命の危機に晒された時、渡辺は迷いなくそいつを助けようとするわ」
(*゚ー゚)「なるほど」
恐らく、ツンはそれを認めることができない。助ける必要があるのかと疑問を持ってしまうと言いたいのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオはそんな渡辺の生き方を肯定するんじゃない? 少し話をしたけど、あいつはそういうやつだなって思った」
ツンという人間は意外にも洞察力に優れているらしい。こんな短時間でここまで分析できる人間はそうそういない。しぃだってドクオという人間をはかりかねている。
ショボンやモララーはドクオを一定の位置で評価しているようだが、しぃにとってはただの馬鹿な大人くらいにしか思っていなかった。
かと思えば人のために危険を省みずに死地へ赴く度量を持っていたりするので、やはり分からない人間だ。
ξ゚⊿゚)ξ「だから私はここまで堕ちて、あいつの気持ちや考え方を少しでも理解できるんじゃないかって思う。お手本のような馬鹿もいるし、ようやくイーブンよ」
(*゚ー゚)「私には難しい話です」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたもその内分かるんじゃない? 何事も経験よ経験」
それからしばらくツンと渡辺やドクオの話をしたが、しぃには彼女の言いたいことを真に理解することができなかった。
自分がもう少し大人になったとき、彼女の言葉を理解するのだろうか?
そうすれば、しぃも騎士団として立派に胸を張れるんだろうか?
彼女の疑問に答えるものは、ここにはいなかった。
303
:
1
:2014/06/18(水) 23:42:47 ID:Crg8TgR60
第六話 終
304
:
1
:2014/06/18(水) 23:48:11 ID:Crg8TgR60
すごいぶつ切りな終わり方ですが、切りどころがなかったので場面転換で終わらせていただきました
今回みんながみんな好き勝手に喋ってるだけなんでそんなに分量多くならないはずだったんですが……
またも技量のなさが浮き彫りになる結果ですね、すいません
ちなみに今回の話でドクオが渡辺を呼ぶところはかなり好きなシーンになりました
渡辺可愛いよ渡辺
では次回投下は金曜日か土曜日になりますので、その時お会いしましょう
今回も読んでいただきありがとうございました
305
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 23:49:36 ID:HLEYq1WQ0
乙乙
306
:
名も無きAAのようです
:2014/06/19(木) 00:01:38 ID:nITpBi820
ドクオの評価は変人かよwwww
男と女の差がでかいな
307
:
1
:2014/06/20(金) 17:56:37 ID:sGdf9Tao0
どうも1です
今日の投下は無理そうなんで明日の夕方くらいに投下したいと思います
ではでは
308
:
1
:2014/06/21(土) 14:23:14 ID:rYvQKNY60
本日16時から投下致します
軽い話がどうしてこうなったのか……
なんか伏線ばらまいただけな気がしてなりません
309
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 16:22:45 ID:xggAIUxs0
>>308
待ってたщ(゜▽゜щ)バッチこいこい
310
:
1
:2014/06/21(土) 16:31:44 ID:YKMrFccY0
第七話「束の間の平穏」
.
311
:
1
:2014/06/21(土) 16:33:02 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
( ΦωΦ)「先日の件、ご苦労であったなショボンよ」
謁見の間にてヴィップを治める王、ロマネスクより労いの言葉を受け、ショボンは仰々しく頭を下げた。
( ΦωΦ)「ジョルジュからも例の物を手にいれたとの報告も来ているし、吾が輩は有能な部下を持って鼻が高いのである」
(´・ω・`)「もったいなきお言葉」
( ΦωΦ)「だが、あのドクオという異世界人、気に食わぬな。魔剣があるとは言え調子に乗りすぎているのである」
ロマネスクは忌々しそうに肩をいからせながら、不満をぶちまけた。
また、だ。この男は自分の気に入らないことがあるとすぐに感情を剥き出しにする。ましてや臣下の前でそんなことを口にすれば自分の首を絞めると何故分からないのか。
(´・ω・`)「……陛下の心中お察しいたします。しかし、彼が王都のために尽力していることもまた事実。ここは穏便に」
( ΦωΦ)「……そうであるな。すまぬ、取り乱した」
平静を取り戻し、ロマネスクは要らぬ事情をぺらぺらと喋り始めた。我が儘な王妃が高価な調度品を購入しただの、庭園に大きく手を入れただの、ショボンにはどうでもいい話だ。
その金を出しているのが国中の血税だということも理解していない愚図な王の自慢話など聞くに値しない。
愛想笑いと適度な相槌をうちながら、ショボンはこの王の首を取るための方法を考え出していた。
もちろん、そんなこと出来るわけがない。尊敬はなくとも、彼は一国の王。首を跳ねれば国が傾いてしまう。
そして自分は王を守るための盾であり剣。全てを投げ出すにはあまりに多くを背負い込みすぎた。
(´・ω・`)「……陛下、そろそろ本題を」
( ΦωΦ)「おお、前置きが長くなった。今回貴公を呼んだのは少しばかり問題があるのである」
312
:
1
:2014/06/21(土) 16:33:47 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「と、申されますと?」
( ΦωΦ)「異世界人にやってもらうことができた」
(´・ω・`)「ドクオに? 計画に彼は必要ではないはずですが」
( ΦωΦ)「もちろんあの男は必要ではない。が、あの魔剣に用ができた」
どういうことだろうか? あれだけ嫌悪するドクオと魔剣を今さらどう使うというのか、ロマネスクの意図が掴めず、ショボンはさらに聞き返す。
(´・ω・`)「用とは、どのような?」
( ΦωΦ)「最近になって様々な事件が王都周辺で頻発しているのは知っているな? その中に混じって一つ不可解な件があるのである」
ショボンはここ最近で起こった事件を片っ端から掘り起こしていく。どれも妙ではあるが、特に計画の妨げになるようなものは見当たらなかった。
( ΦωΦ)「悪魔の目撃である」
(´・ω・`)そ
ショボンはあまりの衝撃に思わず立ち上がりかけた。
313
:
1
:2014/06/21(土) 16:34:39 ID:YKMrFccY0
あり得ない、悪魔など存在するわけがない。そんなものはお伽噺にしか出てこない架空の存在だ。
( ΦωΦ)「仮にこれが本当だとすれば、吾が輩の計画に支障を来す可能性がある。そして、あれは神器でしか滅することができないのである」
(´・ω・`)「……ドクオを当て馬にするということですか?」
思ったよりも醒めた声でショボンは尋ねた。自分の声に驚きながらも表情は崩さない。いつの間にか張り付けていた仮面は、この男の前では絶対に外すわけにはいかなかった。
( ΦωΦ)「魔剣があるのなら苦戦はしまい。もっとも、本当の悪魔なのであれば甚大な被害が出ることになるのであろう」
そんなところにドクオを行かせるというのかこの男は。騎士でもない、巻き込まれたに過ぎない人間を、悪びれもせずに。
ショボンはいつの間に固く固く拳を握っていることに気付いて、すぐに力を抜いた。大丈夫、気付かれてはいない。この男に他人の感情を目敏く指摘するような気概はない。
( ΦωΦ)「……ショボンよ、貴公は少々あの男に感化され過ぎてはいないか? 貴公の役目を忘れるな」
(´ ω `)「……分かっております。私は陛下の剣であり盾、陛下の覇道を邪魔するものは全て斬るのみ」
( ΦωΦ)「分かっておるのならよい。何が大切で、何を守るべきかを履き違えるな。吾が輩は貴公を信頼している」
信頼している、などと簡単に言ってくれる。その黒い腹の内では自分など、いやこの国や世界ですら便利な道具にしか思っていないくせに。
( ΦωΦ)「吾が輩のために、やってくれるな?」
(´・ω・`)「……仰せのままに」
( ΦωΦ)「この計画はもはや止めることはできないのである。いや、止めたとしても止まらない」
(´・ω・`)「……では、私は作戦の準備に入ります」
ロマネスクに背を向け、ショボンは逃げるようにその場を去った。ここは自分のような弱者が留まっていい場所ではない。早く帰って夢に浸ろう。
願わくば永遠に醒めぬ夢を見れるように。
314
:
1
:2014/06/21(土) 16:35:28 ID:YKMrFccY0
城を後にして、ショボンは大きく息を吐いた。あの王を前にすると気分が悪くなる。体調ではなく、心の底から滲み出る嫌悪感が体を這いずり回るのだ。
ロマネスクは信頼などという方便を巧みに操って人を束縛する。使命感や倫理観を根本的な部分で掌握するのだ。あんなことはそこらの詐欺師でも滅多にすることではない。少しでも良心があるのなら一歩を踏み出すことにすら躊躇うはずなのに、奴はその分水嶺をいとも簡単に越えてくる。
近くのベンチに腰かけて煙草をくわえた。ここ最近本数が増えている。元々そんなに吸うような人間ではなかったのに。
(´・ω・`)y━・~~(僕は、なんのために戦っているんだろうな)
今朝方ドクオと話したことが甦る。彼のように自分の道をしっかりと見定めて、胸を張って歩くことはどこまでも難しい。もしかしたらショボンでは一生かかっても無理なのかもしれない。
(´・ω・`)y━・~~(騎士として、か)
まるで免罪符のように扱っている言葉だが、許されることではない。騎士だから何をしてもいいわけではなく、最低限の誇りや矜持があって初めて意味を持つ。王という立場も同様のはずなのに、何故ここまで違ってしまったのだろう。
(´・ω・`)y━・~~(あの方が変わられたのは、やはり十五年前だろうな)
あの戦争では多くのものを失った。人がゴミのように宙を舞い、どこまでも続く鮮血と臓物の海。あそこはまさしく地獄、それも人の手によって作られた人工的な墓場だ。
(´・ω・`)y━・~~(いっそあそこで死んでいた方が楽だったのかもな)
315
:
1
:2014/06/21(土) 16:36:14 ID:YKMrFccY0
風が吹いて灰がショボンの前をさらさらと流れていく。人の命も吹けば飛ぶように儚いものだと知ったのは、まさにあの時、あの瞬間だった。そこには大切なものが確かにあったはずなのに、ショボンの手をすり抜けて消えてしまった。
もう二度と戻らない。未だに夢の中で助けを求めてくるのは、きっとショボンが十五年前から歩くのを止めてしまったから。こんな世界のために自分は戦っただなんて、信じたくはなかった。
( ・∀・)「辛気くさい顔してますね、らしくもない」
と、後ろを振り返ればモララーが立っていた。そう言えば彼は見回りの当直だったか。
自分が今どんな顔をしているのか、普段はどんな顔をしているのかが分からなくて、ショボンは困って苦笑を浮かべる。モララーは何も言わずに隣に座った。
(´・ω・`)「僕にも色々と考えることがあるのさ」
( ・∀・)「ドクオに感化されすぎてんじゃないですか? 以前のあなたならそんな顔しなかった」
(´・ω・`)「どうだろう。やるべきことは何も変わってはいない」
( ・∀・)「そりゃそうでしょう。変わったのは心ですから」
(´・ω・`)「……」
自分は変わったのだろうか? 以前の自分はどんなだった?
( ・∀・)「ま、変わったのは俺もですけどね」
316
:
1
:2014/06/21(土) 16:37:12 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「良くも悪くも、ドクオの近くにいる人間は変わるのかもしれないな」
( ・∀・)「そりゃあいつが戦う理由をはっきりと持っているからでしょう。迷いがある剣は鈍る。あなたが教えてくれたことですよ」
(´・ω・`)「……モララー、君は何のために剣を取る」
( ・∀・)「決まってます。自分のために」
(´・ω・`)「……僕も同じように思っている」
モララーは何も言わずに立ち上がる。代わりにショボンに背を向けた。
( ・∀・)「俺はもう帰って寝ますよ。今のあなたと話してても何の得もない」
手をひらひらと振るモララーの姿は、他の騎士達が見たら大激怒だろう。それほどに礼節のない不躾なものだった。
しかし、ショボンはその背中に何も言えなかった。
モララーに指摘されるまでもなく、分かっていたから。迷いがあることくらい、不満があることくらい、とっくに知っていた。
けれどもその不満をどこにぶつければいいのか、この迷いをどうすればいいのかが分からない。自分の立場や周りの人間は、ショボンにたくさんのものを求め、ショボンはその期待通りにことを成してきた。それは誰かのためになると分かっていたからで、誰かを傷付けるものではないと知っていたから。
ショボンも子供ではない。必要とあらば命を奪ったし、傷付けもした。そこにあったのは戦いの不文律であって、嬉々として剣を振るったわけではない。
(´・ω・`)(分かっている。分かっているんだ)
ぎゅっと拳を握りしめて、ショボンは腰をあげる。もう何も考えたくない。
そう言えば、今日は徹夜だったことを、ショボンは今さら思い出した。
317
:
1
:2014/06/21(土) 16:37:56 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
('A`;)(俺は何かしたんだかろうか)
隣にいる渡辺は先程から一向に口を開こうとせず、何かを期待するような目でこちらを見ながらアイスを食べている。たまに目が合うとすぐに逸らしてしまうのだが、彼女の目の奥には確かな葛藤のようなものがある……気がする。
そう言えば渡辺を見かけた時もドクオから逃げようとしていたし、本当に気付かないうちに何かしてしまったのかもしれない。
だが、ドクオは元の世界にいたときに読んだことがあった。こういう場合、自分が何をしたかも把握せずに謝ると女性は火に油を注いだが如くさらに不機嫌になるそうだ。ここは慎重に何があったかを聞き出し、問題があったなら速やかに消化すべきだ。
ドクオはそう判断すると、渡辺がアイスを食べ終えたのを見計らって口を開いた。
('A`;)「ええええええっttttttと、そそそそそそそそののののののの、わ、わた、渡辺しゃん!!」
こんな状況に慣れていないドクオは盛大に噛んだ。しかも自分ですら何を言っているのか分からないほどに。
从;'ー'从「……え、どうしたの?」
('A`)(めっちゃ引いてますやん)
困惑した顔でこちらを覗きこむ渡辺は、やはり可愛い。元の世界でこんな噛み方をすれば即警察にしょっぴかれるところだった。いや、もちろん渡辺もかなり驚いている、もとい引いているのでドクオの心に絶大なダメージを与えたことには変わりはないのだが。
318
:
1
:2014/06/21(土) 16:38:46 ID:YKMrFccY0
('A`)「あー、いや、その、なんか落ち込んでいるというか、さっき俺のこと見て逃げ出したから、どうしたのかなって」
噛まずに言えた。ボッチで年齢イコール彼女いない歴日々更新中の自分が。
ドクオの中で今日はある意味記念日になった。異世界の暦がどうなっているのか分からないが、とにかく今日は記念日である。
从'ー'从「えっと……それは……」
言いにくいことなのか、はたまたそれほど酷いことをしてしまったのか。ドクオは一瞬にして気が気でなくなる。脇汗がドバドバ出ているし、体中の穴という穴から冷や汗が噴き出している。
正直、貞子と相対したときよりも緊張していた。命の危機はないのかもしれないが、社会的に死ぬ可能性もゼロではない。
周囲の喧騒がやけに耳障りで、ドクオはコップに口をつける。渡辺は俯いて何も言わず、かと思えばドクオをしっかりと見つめて、何かを言いかけてまた俯く、の繰り返しだった。
このままでは先に進まない。そう判断したドクオはさらに口を開く。
('A`)「俺はさ、渡辺が困った顔してたり、泣いてるのを見るの嫌なんだ。初めて会ったとき助けてくれたし、それからもずっとそばで支えてくれてたから。だから、出来れば俺も渡辺の力になりたい。助けてもらってばっかりじゃなくて」
途切れ途切れだし、大きい声ではっきりとは言えなかったが、言いたいことは伝えられた。あとは渡辺がどう出るか、もしこれでも話してくれないのならツン辺りに相談するしかない。ドクオの話術ではどうしようもないのだ。
やがて、渡辺がおずおずと語り出した。
从'ー'从「あの、ね。私、最近変なんだ。どっくんがツンちゃんを助けてくれて、しぃちゃん達騎士団の人がツンちゃんに学校に入れてくれて。嬉しいはずなのに、嫌な気持ちになるの」
('A`)「……え?」
从'ー'从「それで、さっきしぃちゃんに会ったんだけれど、嫉妬しちゃって逃げちゃったんだ」
ドクオは渡辺の告白に頭をフル回転させる。彼女が言っていることの意味も、リユウモ分かった。単純に嫉妬しているのだろう。確かに貞子と戦った際、渡辺は魔法を使えないという制約の中で何もできなかったのかもしれない。だが、それはあくまで戦うということについてであって、渡辺がいなければ目も当てられない状況になっていただろう。
彼女が身を呈してツンを庇っていなければドクオだって間に合わなかったし、ツンが貞子と戦う理由はなかった。もしかしたら貞子と共にドクオと戦っていた可能性も十分にあった。
そんな絶望的な場面で、渡辺のした功績は多大なものだとドクオは思う。
319
:
1
:2014/06/21(土) 16:39:30 ID:YKMrFccY0
その後の処理は一介の学生である渡辺には難しい話だし、ましてやドクオだって貞子と戦った以外はなにもしていないのだ。
('A`)「渡辺はなんか勘違いしてるぞ、それ」
从'ー'从「ほぇ?」
('A`)「あの時渡辺がいなきゃ俺は間に合わなかった。しかもツンの狙いはおれだだったわけで、渡辺が王都にいなかったらツンは貞子と戦う理由はなかったんだぞ?」
从'ー'从「でも、ツンちゃんに何もしてあげられなかったのは事実だよぉ」
('A`)「そんなことはないだろ。魔法が使えない状況で、渡辺はツンのために盾になってた。文字通り命をかけてたじゃん」
从'ー'从「……」
('A`)「何もしてないなんて言うなよ。ツンは入院しちまったけど、みんな生き残れたんだ。恥じることなんて何もない、渡辺は胸を張っていいんだよ」
ドクオは自分の言える精一杯を口にする。こちらに来て初めて会ったとき、ドクオは彼女に慰めの言葉すら言えなかった。けれど、今は違う。数回の戦いはドクオにとって少しの自信と勇気をくれた。そしてそれをくれるきっかけになったのはいつでも渡辺なのだ。
渡辺がいつも誰かのことを思って動いているのは知っている。そのために何をすべきかも理解しているだろう。ならばあの状況で彼女がしたことは最善で間違いのないものだった。
从'ー'从「……でも」
('A`)「それに、ツンの入学とかそういうのは俺達にはどうしようもないことだと思うぜ。渡辺は学生、俺は一般人、騎士団の連中とは役割が違う」
騎士団の本懐は王都に住む民のために、そして守るべき王族のために動くこと。ならばツンの処遇については自分達にできることなんてたかが知れている。
('A`)「嫉妬するのも分かるけどな。それだけ渡辺にとってツンは大事な友達なんだろうけど、渡辺がいたからツンも学校に通えるんだ。十分だろうよ」
从'ー'从「そうなのかなぁ……」
('A`)「ツンは渡辺に感謝こそすれ、悪態なんて吐いてなかったぞ」
320
:
1
:2014/06/21(土) 16:40:17 ID:YKMrFccY0
きっと、渡辺は人が良すぎるのだ。誰かのために、人のためにと考えるその姿は立派だが結果を求めすぎている。何がベストかなんて、終わってからしか分からないのに、その時点で先々まで考えてしまうのだろう。
それが悪いとは言わないが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。
('A`)「嫉妬なんてみんなするもんだ。けど、それが悪いことかって言われればそうじゃない。俺だってもっと強ければツンは傷つかなかったかもしれないって考えたらモララーやショボンさんに嫉妬する」
('A`)「けど、俺はそんなに強くないからさ、今出来ることしか出来ないんだよ。そこは折り合いをつけるしかないんじゃないか?」
ドクオにとって人生とは妥協の連続だった。努力をしていないからこそすぐに諦めることが出来たが、もし努力をしていれば何かができたかもしれないと今でも後悔している。
だが渡辺はそうじゃない。やるべきこと、すべきことをきちんとした上でも出来ることと出来ないことがあっただけの話。いわば適材適所なのだ。
('A`)「諦めろとは言わないけど、そこまで気に病むことじゃないだろ。一人が出来ることはそう多くはない」
こういう考え方は渡辺の過去、<忌み子>として生きてきた背景もあるのだろうが、それにしたって思い詰めすぎだ。
从'ー'从「……人のためって難しいね」
('A`)「難しいよ。誰かにとってほしい答えはそれぞれなんだから」
从'ー'从「私は、ツンちゃんがしてほしいことしてあげられたのかなぁ」
('A`)「それは間違いなく出来たじゃないか」
从'ー'从「……うん」
渡辺はそう返事したまま遠くを見つめる。彼女の心は、瞳はきっとまだまだ先を捉えているのだろう。
ドクオはそんな彼女に何をしてあげられるのか、未だに分からない。分からないが、やるべきことは決まっている。
('A`)(俺は渡辺を守る。そして、恩を返し続けるだけだ)
それだけが、今のドクオに出来ること。
321
:
1
:2014/06/21(土) 16:41:02 ID:YKMrFccY0
店を出ても渡辺の胸の取っ掛かりは取れず、もう一つの話をドクオにすべきか迷っていた。
从'ー'从(私が、どっくんをどう思っているか)
しぃと仲良く話すドクオを見て、嫉妬していたのは間違いない。だが、その嫉妬はどういう類いの想いなのか、渡辺は判断できずにいる。
ドクオに話を聞いてもらって、答えを聞いて、全てを納得したわけてはないが、話をしてよかったな、とは感じていた。
正直に言えば、ドクオは頼りになる男だと思う。渡辺が困っているときに助けてくれるし、こちらのことを気にかけてくれている。もしかしたら兄という存在が渡辺にもいればこんな人間だったのかもしれない。
もっとドクオのことを知りたいと思うし、自分のことを知ってほしいとも思う。だが、そういった感情は人より経験が少ないからこそ生じてしまう勘違いのようなものではないかとも思うのだ。
他人から見ればそれは恋だと言うのかもしれないが、そう断言するには渡辺の心はぐちゃぐちゃで纏まりがつかない。
ならばいっそ、本人に尋ねてみようか。ドクオならば自分の望む答えを出してくれるかもしれない。
从'ー'从「ねえどっくん」
隣を歩いていたドクオがんあ? と間の抜けた返事をする。
从'ー'从「どっくんは恋とかしたことある?」
(゚A゚)「ぶふぉっ!!」
ドクオが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。変なところに入ったようでげほげほま蒸せ返っている。
('A`;)「い、いきなり何を言い出すんだよ」
322
:
1
:2014/06/21(土) 16:41:47 ID:YKMrFccY0
从'ー'从「私、そういうのよく分からないからどっくんなら知ってるかなって」
('A`;)「いや、まぁ俺も恋ぐらいは……」
言いかけて、ドクオははたと立ち止まる。渡辺も気付かなかったが、そう言えば彼はまだ記憶喪失という設定のままだった。
从'ー'从「あ、あのね、どっくんが違う世界から来たっていうのはツンちゃんに教えてもらったんだ。だからもう記憶喪失だって言わなくても大丈夫だよぉ」
渡辺がそう言うと、ドクオはばつが悪そうな顔をして、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いていた。
('A`)「あー、そっか。ツンは元々黒の魔術団だっけ。騎士団の連中にもばれてるみたいだし、もう隠す必要ないか」
从'ー'从「どっくんが違う世界の人でも、どっくんはどっくんだからあまり気にならないよぉ」
('A`)「そっか。あー、んで、恋をしたことがあるかって話だが、ないことはないよ。成就したことはないし、その人とはまともに話したこともないけど」
从'ー'从「どんな感じなのかなぁ、恋って」
('A`)「んー、その人のことがずっと頭から離れなくて、どうすれば仲良くなれるかとかよく考えてたなぁ。結局挨拶を数回交わしただけで進展しなかったし」
从'ー'从「ふむふむ」
それには当てはまる気がする。気がつけばドクオは何をしているのかと考えることは割りと多い。
('A`)「あとは、そうだなぁ、その人が違う異性と仲良くしてるとやっぱり嫉妬してたかな。俺もそんなに経験ないからこれくらいしか言えないや」
从'ー'从「……」
从'ー'从(やっぱり、私はどっくんに恋してるのかなぁ?)
今のところドクオが言ったことは全て当てはまっている。ということは、そういうことなのだろうか?
ツンにもそう言われたし、これは確定、でいいのかもしれない。
('A`)「けど、これはまぁ受け売りなんだけどさ、恋とか愛だのっていつの間にか気付くものなんじゃないか?」
从'ー'从「いつの間にか?」
('A`)「そうそう。あいつ気になるなぁとか思ってても、実際は違う感情だったりするんじゃないか? 例えばペットを飼っているとする。当然愛情もって育てるよな」
从'ー'从「うんうん」
323
:
1
:2014/06/21(土) 16:44:01 ID:YKMrFccY0
('A`)「けど、人間相手の好きとは違うわけだ。同じ好きでも条件が違えばまた別のものだと俺は思う。やっぱそういうのは少しずつ育っていって、いきなり気付くものなんだよ」
从'ー'从「いきなり、かぁ」
('A`)「最初は気になるなぁ、それからそいつのことしか考えられなくなって、ある日突然やっぱりこの人のこと好きなんだってなる。人の心なんて計算や理論で紐解けるようなもんじゃないよ」
从'ー'从「……」
('A`)「だからこそみんな立ち止まって、振り返って、何度も挫折しながら歩いていくんだ。そんな簡単に何でも分かったら誰も苦労しないだろうし」
何となく、ドクオが言いたいことが分かった気がする。
人を想う気持ちはそう簡単に理解できるものではない。故に考える。考えて考えて、その先に人は気付くのだろう。
もしかしたら考えるのをやめて、少しだけそのことを忘れた頃に答えはやってくるのかもしれない。
だとしたら、今は分からないままでいいのだ。
从'ー'从「そっかぁ、やっぱりどっくんは頼りになるねぇ」
('A`)「褒めてもなんも出ないぞ」
从'ー'从「素直な気持ちだよぉ〜」
渡辺はにっこりと笑ってドクオの前に出る。
从^ー^从「どっくん」
('A`)「あん?」
324
:
1
:2014/06/21(土) 16:44:47 ID:YKMrFccY0
从^ー^从「大好き」
('A`;)そ「ファッ!?」
渡辺はそのまま前を向いて走り出す。今はこれでいい。その内あちらの方からやってくるだろう。そうしたら、きちんとドクオに伝えよう。
呆然と立ち尽くすドクオに、渡辺はもう一度声をかける。
从'ー'从「置いてっちゃうよぉ〜」
('A`;)「いや、今のどういう意味だよ!? え、何新手のジョーク? それともいじめ?」
慌てて追いかけてくるドクオに捕まらないよう渡辺は走り出す。
きっとこれからも渡辺はドクオのことが大好きだ。どんな感情かは分からないけれど、それだけはずっとずっと変わらない。
从^ー^从「えへへ」
('A`;)「待てって! おい渡辺さん?」
二人は王都をどこまでもどこまでも駆けて行く。渡辺が疲れはてて、彼に捕まるのはそう遅くはなかったけれど。
325
:
1
:2014/06/21(土) 16:45:33 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇
王都とは遠く離れた小さな集落で、一人の男が目の前に作られた光を見て満足そうに頷いた。
「これは素晴らしい。やはり貞子が残したあの術式、無駄ではなかったな」
魔力を集め、人のマナですら集めたあの術式は大いに利用価値がある。貞子はあくまで予備電源のような使い方をしていたが、あれでは宝の持ち腐れだ。
マナとは人が生きるために最も効率化された魔力である。そして人はその身にマナを生成する機構までも備えているのだ。
ならば、マナを操ればその機構を作ることも可能であるということ。
人の存在とはかくも神秘的で、不可思議なものだが、彼女はその可能性を見出だしてくれた。
「楽しい、これは楽しいな。もっともっとシステムを効率的に回せば魔剣に頼らずとも大陸くらいなら簡単に治められる」
男はさらに術式を稼働させる。すると近くにいた人間は消滅し、きらびやかな光へと変換された。
「ふむ。まだまだ改良の余地があるな。人が持つマナはこんなものではないはず」
幾人もの人がマナに変わり、その場所に男一人だけになった頃、男は口元を歪ませながら集めたマナを術式に入れる。
「もう少し足りない。あと少しだけだ」
先日作り上げた実験体は失敗だった。出力をあげすぎたせいか言うことを利かず、挙げ句の果てには自壊してしまったのだ。
「まぁ材料はいくらでもある。もう少し見直してみよう」
男は術式を消して、誰もいなくなった集落をあとにする。
【+ 】ゞ゚)「これからが楽しいゲームの始まりだ、魔剣の主よ」
彼は棺桶死オサム。人の死を操る者である。
326
:
1
:2014/06/21(土) 16:46:19 ID:YKMrFccY0
第七話 終
327
:
1
:2014/06/21(土) 16:50:28 ID:YKMrFccY0
今回は短いですが終わりとなります
元々一話分の話を二つに分けたので大分短くなりました
今回は軽い話でバトルバトルしてた本編を少しでも和らげたかったのですが、見事に失敗です
けど渡辺の可愛らしさが前面に押し出されたと思うのでそこそこ満足です
次回からまたバトルバトルな話になりますので、お付き合いいただければと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました
次回投下は恐らく水曜日か木曜日になりますのでよろしくお願い致します
328
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 18:01:46 ID:SL0DJFQ20
乙乙
329
:
名も無きAAのようです
:2014/06/21(土) 19:40:47 ID:xggAIUxs0
乙でした
330
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 01:10:56 ID:4Sa1iQMY0
乙 良かった
331
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 09:38:30 ID:GgNBW1HE0
乙
早漏すなあ
332
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 18:37:56 ID:OCDgRO9M0
この渡辺はドクオに押し倒されても文句言えない
333
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 23:20:39 ID:BzfvGRiU0
乙
ところでしぃってロリ枠でいいの?
334
:
1
:2014/06/25(水) 03:24:40 ID:ha7Lbg220
夜分遅くにこんばんは、1です
本日夕方以降暇を見て投下していきたいと思います
いつもたくさんの乙をありがとうございます
おかげで執筆意欲がもりもり湧いております
>>331
自分でもそう思います
皆さんをあまりお待たせするのもあれなんでできる限り間隔を短くしてお送りしております
>>332
渡辺さんは今までぼっちでしたんで、男がどういう生き物か分かってないだけなんです
許してやってください
>>333
14歳ですよ?リアルだとjcですよ?
BBAとは言わせません!!
それではまた投下の際にお会いしましょう
335
:
1
:2014/06/26(木) 04:21:56 ID:vhAPCg.Q0
てすと
336
:
1
:2014/06/26(木) 16:10:17 ID:AXRm0dFE0
第8話「ゲームの始まり」
.
337
:
1
:2014/06/26(木) 16:11:41 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
('A`)「なぁ、一体どこに連れてくつもりなんだ?」
ドクオは先程購入した魔法紙を手で弄びながら、前を歩くモララーに声をかける。早朝だというのに街はすでに活気に溢れ、朝の特売か何かなのかヴィップラ地区の方から威勢のいい声が飛び交っていた。
( ・∀・)「どこって、そんなの決まってるだろ。仕事だ仕事」
('A`)「仕事って、俺騎士団じゃないよな?」
名目では一応騎士になるのだろうが、ドクオは正式に任命を受けたわけではない。そもそも騎士寮に厄介になっているのもそちらの方が王都や騎士団にとっても都合がいいからである。言ってしまえばドクオはなんちゃって騎士だ。
戦う力はあるものの、それだけの男に仕事とはどういう了見だろうか。確かに部屋の中で暇を持て余すよりは随分と建設的な気もするが、何も分からず魔法が飛び交う戦場に立たされるのは正直いい気持ちではない。
( ・∀・)「んなこと言ったって、陛下からの勅命なんだ。俺に言われてもどうしようもない。反逆罪で打ち首になりたくなきゃ大人しく言うこと聞くしかない」
('A`;)「反逆罪って……」
なんと無茶苦茶な。ヴィップを治める王の話を何度か聞いたことはあったが、皆口々に素晴らしい統治者だと言っていた。民の声を親身になって聞いてくれるとのことだったが、異世界人であるドクオの声には耳を傾けてくれないようだ。
('A`)「で、こんなのまで買わされたってことはもしかして王都を出るのか?」
( ・∀・)「ご名答。今回は遠征とまではいかないが、ちょっと遠い。詳しい話は道中でしてやるよ」
モララーはそう言って移動用魔法陣の前で立っていた二人の騎士に向かって小さく手を振った。
('A`)「今回もこのメンバーか」
その二人の騎士、しぃとショボンを見てドクオは溜め息を吐く。
(´・ω・`)「我々だけでは不満かね?」
その様子を見てショボンがここぞとばかりに発言する。ドクオは慌てて、
('A`;)「いえ、そういう訳じゃなくて、なんていうか……」
このメンバーだとろくなことにならない。と口にしそうになるが、すんでのところでドクオはそれを飲み込む。
ショボンもモララーもしぃも実力は折り紙付きだということは分かるのだが、彼らほどの実力者が出向くということは、それほど危険が伴う仕事だということ。ドクオとしてはもう少し穏便な仕事をさせてほしいと切に願っているのだが、世の中世知辛いものである。
代わりにドクオは気になっていたことを聞いてみることにした。
('A`)「というか、ショボンさんは副団長でしょう。王都を離れていいんですか?」
前回の件でも王都を離れたが、あのときはそんなに距離がなかった。今回の話だと、なんだか相当遠くまで行かされそうな雰囲気である。
338
:
1
:2014/06/26(木) 16:12:49 ID:AXRm0dFE0
(´・ω・`)「これも陛下の勅命でね。今回は私が同行しないとならないくらい大きな問題なのさ」
('A`)「……マジすか」
(´・ω・`)「マジ? どういう意味かね?」
('A`)「いえ、何でもありません」
副団長直々に出なければならないほどの問題。それはつまり貞子と同等、もしくはそれ以上の危険が伴うということ。
ドクオはこの時点で全てを投げ出して逃げたい衝動に刈られた。あんな女がそう何人もいるとは思えないが、ドクオは黒の魔術団とやらに狙われている以上、奴等に襲撃されるとも限らないのだ。
もちろん、それらを考慮しての布陣なのだろうが、どうにも不安を掻き立てるメンバーであることに違いはない。
(*゚ー゚)「毎度思うのですが、ドクオさんは顔のわりに小心者ですね」
ドクオの顔を観察していたのか、しぃは小さくそんなことをのたまった。顔のわりにとはどういうことだ。どこからどう見ても幸薄そうな一般人だろう。豪胆な顔をしているとは思えないのだが。
( ・∀・)「ま、話してても先に進まない。さっさと目的地に行きましょうか」
(´・ω・`)「そうだな。全員魔法紙は持ったか?」
('A`)「そう言えば、前回は歩いて目的地まで行きましたけど、今回はどうやって行くんですか? さすがにこれに乗ったら到着ってわけじゃないでしょう?」
ドクオは王都でも移動魔法陣を利用したことがない。というのも、ドクオの移動範囲が極端に狭いことに起因している。
ドクオが住んでいる騎士寮は商業区であるヴィップラからさほど離れていない場所にあるため、徒歩で十分に行き来できるためだ。この世界での娯楽は何度か耳にしたことがあるものの、基本的にめんどくさがりなドクオは一度王都をくまなく歩いたくらいで、一日のほとんどを部屋で過ごし、あとは訓練所に顔を出すだけだった。
そんなドクオだったから、この移動術式は以前説明を受けたくらいで利用したことがなかったのである。
( ・∀・)「ああ、とりあえずそれ貸してくれ」
モララーに促されて魔法紙を渡すと、彼はその紙に何事かを記すとこちらに返してくる。
ドクオにはこちらの文字は分からないため、この言葉がどんな意味をなすかは神のみぞ知るというやつだ。モララーのことだから悪いようにはならないと思うが、少々不安ではある。
(´・ω・`)「さて、準備は整ったかな? 時間も差し迫っているから行くぞ」
ショボンの号令で一人、また一人と魔法陣に乗っては消えていく。残ったのはドクオとショボンだけだ。
339
:
1
:2014/06/26(木) 16:13:42 ID:AXRm0dFE0
('A`)(うわー、なんか怖いなぁこれ。乗りたくない訳じゃないけど、モララーに貰ったあれも大概だったしなぁ)
黒の魔術団のアジトから王都に戻ったときのことを思い返し、ドクオは思わず胃液が込み上げてくるのを感じた。移動系の魔法は渡辺の魔法と魔法アイテムくらいしか経験したことはないが、あれは酷いものだった。
一瞬にして視界が歪み、三半規管を掻き回すような感覚を得る。それに耐えて視界が正常に戻ると王都に到着していたのだが、ドクオはすぐに嘔吐した。
(lii'A`) (憂鬱だ)
思い出し下呂をしそうになって、ドクオは魔法陣に乗るのを躊躇っていると、いつの間にか後ろに回っていたショボンが背中をさすってくれた。
(;´・ω・`)「大丈夫か? 少し休んでからでも構わないぞ」
(lii'A`)「いえ、大丈夫です」
(´・ω・`)「まぁ、転送系の魔法はなかなか慣れないものだからな。私も始めは何度も吐いたよ」
(lii'A`)「やっぱりですか」
(´・ω・`)「転送魔法陣も開発されたのはここ二十年ほどのことだからね。開発当初はもっと酷かった。本当に死ぬかと思ったほどだ」
これでましになった方だということは、乗り心地(?)はこれが限界ということなのだろう。今後この世界で生活していくのなら避けて通れぬ道だが、仕事と称して連れていかれる度に転送魔法陣を使うとしたら前途多難である。
(lii'A`)「覚悟決めるしかないか……」
ドクオが気合いを入れて魔法陣に乗ろうと構えたときである。
(´・ω・`)「ドクオ」
と、ショボンが呼び止めた。
340
:
1
:2014/06/26(木) 16:16:14 ID:AXRm0dFE0
('A`)「はい?」
せっかく意思を固めたところでいきなり呼ばれたため、ドクオは興ざめしたがショボンの顔は何か大事なことでも言おうとしているのか、こちらを真っ直ぐ見つめている。
(´・ω・`)「すまないな。本当ならば、君をこんなことに巻き込みたくはないんだ。ただでさえ異世界から偶然呼び出されて大変だろうに」
ショボンはそう言って頭を下げる。前回も、そして今回も組織で権力を持つ彼に謝罪をされると、何だか申し訳ない気分になる。
('A`)「……頭をあげてください。ショボンさんは何も悪くないでしょう」
(´・ω・`)「いや、騎士団の副団長なんて肩書きがあっても、一般人が戦いに行かざるを得ない状況を変えることさえ出来ないほど無力な自分を、私は許せないんだ」
('A`)「……確かに、なんで俺が戦わなきゃならないんだって思いますよ。けど、戦わなきゃ守れないものもある。黒の魔術団もどんなことをしでかすか分かったもんじゃないし。それに、今の俺に出来ることはこんなもんしかないから」
ドクオは自分に出来ることを知っている。戦いについては素人かもしれないが、それでもドクオは渡辺を、他の人を守る力がある。それを知りながら指をくわえて見ているだけなど、こちらに来る前と何も変わらない。
それじゃいけないのだ。ドクオだって死にたがりの馬鹿じゃない。けれど立ち向かわなきゃならない現実が目の前にあるというなら、動かなければ後悔するのは目に見えているから。
ドクオがそう言うと、ショボンはようやく頭をあげた。
(´・ω・`)「恩に着る。ただ、君は絶対に死んではいけない。何かあればすぐに逃げるんだ。いいな?」
('A`)「分かりました」
そう約束をして、ドクオはようやく魔法陣へと踏み出した。
前回のように渡辺が狙われることも今後あるのかもしれない。ツンだって黒の魔術団を抜けた身だ。いつ追っ手が来るかも分からない。
その時、貞子よりも強大な敵が立ちはだかるのだろう。ドクオはそんなやつらとも戦わなければならない。
きっと騎士団が用意してくれる実戦はドクオの血肉になる。何事も経験だ。
そこまで考えたところで、ドクオの目の前が歪み始めた。
341
:
1
:2014/06/26(木) 16:16:56 ID:AXRm0dFE0
渡辺は現実に嫌気が差して、逃避と言わんばかりに机に突っ伏す。このまま机と一体化して沢山の人の役に立てるなら本望だ。もうこんな俗物にまみれた世界なんて必要ない。
ξ゚⊿゚)ξ「なに現実逃避してんのよ。そんなんじゃいつまでたっても進級出来ないわよ」
向かいの席に座ったツンがため息混じりにそう告げる。長い入院生活も終わり、ツンが魔法学校に編入という形で入学したのはつい先日のことだ。体調はまだ本調子ではないようだが、日常生活に支障はないということでようやく渡辺と肩を並べて学生生活を謳歌できるようになった。
从'ー'从「だってぇ……今回の課題は難しすぎるよぉ」
渡辺達はつい先程まで学校で講義を受けていたのだが、講義を修了した証として課題の提出を求められたのである。
この学校は一つの講義を修了する度に課題を出されるのだが、その難度はまちまちで魔法術式の構築だったり実技試験だったりと内容もバラエティーに富んでいた。そして、今回の講義は錬金術という魔法使いにとってはもはや珍しくもない使えて当たり前のものだが、出された課題に使う媒体が問題だった。
从'ー'从「魔導鉱石の原石なんて簡単にてに入らないよぉ……」
魔導鉱石とは錬金術においてよく使う基本的な媒体の一つで、その用途は様々である。加工を施して燃料にしたり、数が多ければ形にして商品にしたりとかなり応用が利く便利なものだ。
これだけ世に浸透しているものなのだから手に入れるのはそんなに難しくはない。ヴィップラの出店でも覗けば簡単に手に入る代物なのだが、原石となると話は違う。
342
:
1
:2014/06/26(木) 16:19:42 ID:AXRm0dFE0
元々魔導鉱石は特定の鉱山でしか採掘されず、扱いも国家資格が必要なほどに危険なものなのだ。採掘時には小さな塊で見付かることが少なく、鉱石自体が魔力を多分に含んでいるためちょっとした刺激で簡単に暴発してしまう。
そのため市場に出回っているのは塊を小さく砕き、きちんと魔力が漏れないよう特殊な加工をしてようやく出荷となるため、課題で原石を持ってこいなどとは前代未聞だった。
从'ー'从「でも課題をこなさなきゃ単位取れないよぉ……」
ξ゚⊿゚)ξ「大きさは砕いたものでいいんでしょ? お店では売ってないと思うけど、出荷元に行けば譲ってくれるんじゃない?」
从'ー'从「そんな簡単に貰えるかなぁ……」
魔導鉱石の値は一介の学生でも買えるほどお手頃な価格だ。ならば現地に行けば元値で売ってくれる可能性もないことはない。
だが、その場所に行くまでが大変なのだ。
从'ー'从「箒で行ったらどれくらいかかるかなぁ」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そこは飛行馬車を使いなさいよ」
飛行馬車とはこの世界において最もポピュラーな移動手段だ。移動術式が開発される前まで街中を移動する際は飛行馬車が利用されていた。しかし、短距離での使用はコストパフォーマンスが悪いために現在では街と街を移動する際に使われているのと、大量の物資を運ぶ際に使われているくらいだった。
343
:
1
:2014/06/26(木) 16:20:42 ID:AXRm0dFE0
从'ー'从「う〜、ツンちゃんも一緒に行こうよ〜。一人じゃ心細いよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「とは言ってもねぇ、実際どれくらいかかるか分からないじゃない。私だって課題やらなきゃならないし……」
从'ー'从「お願いします〜。あんな遠いところまで一人旅なんて嫌だよぉ〜」
渡辺が半分泣きながら切実にそう言うと、ツンは黙ってあれこれと考え始めたようだった。
ξ;-⊿-)ξ=3「はぁ、仕方ないわね。分かったわよ、ついてってあげる」
ついに折れたのかツンはため息を吐いて了承した。
从'ー'从「ほんと〜? やったぁ〜、それじゃあ早速準備しなきゃだね」
ξ゚⊿゚)ξ「甘いなぁ、私。甘やかしたりするのはドクオの仕事なのに……」
ツンの言葉に渡辺は、
从'ー'从「酷いよぉツンちゃん。どっくんはそんなに甘やかしたりしないよぉ」
ξ゚⊿゚)ξ「うっさい。ったく、それじゃあ買い出しでもしましょうか。長い旅になりそうだしね」
从^ー^从「えへへぇ〜、ツンちゃんと旅行だなんて、なんだか夢みたいだねぇ」
ξ//⊿//)ξ「な、ば、馬鹿じゃないの!? 私達は課題のために行くんであって、遊びに行く訳じゃないのよ!?」
从'ー'从「えー、折角外に出るんだもん、ちょっとくらい遊ぼうよぉ」
ξ//⊿//)ξ「そ、そこまで言うなら少しくらいなら、つ、付き合ってもいいけどね!」
从'ー'从「よぉーし、それじゃあお買い物にしゅっぱぁーつ!」
腕をあげて渡辺が歩き出し、その後ろを何かをぶつぶつと呟きながらツンがついてくる。遊びじゃないのは分かっているが、それでも胸の高鳴りを抑えることができない。
それはツンが隣にいるから、あの時叶わなかったことを、今度は出来るから。
渡辺は笑って、これからのことを考える。
いい旅になりますように。
344
:
1
:2014/06/26(木) 16:23:30 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
移動術式をくぐったドクオは早速だが吐き気に襲われ、近くの茂みでげろげろと胃のなかを吐き出していた。やはりあの感覚は慣れるものではない。
しぃが魔法で多少吐き気を抑えてくれているものの、根本的にそういう意図の魔法ではないためすぐに回復というわけにもいかないようだ。
(lii'A`)ゲロゲロー
(;*゚ー゚)「す、すごい勢いですね」
(lii'A`)ゲロゲロー
しばらくしてようやく吐き気が治まったのを見て、しぃが魔法を止める。胃が空っぽになったせいか幾分すっきりした気分だ。
少し離れてドクオを待っていたモララーとショボンは若干呆れ気味に声をかけてくる。
( ;・∀・)「お前ほんと大丈夫かよ」
(lii'A`)「まぁなんとか。もっかい移動術式を使うならもう少し待ってほしい」
こんな状態でもう一回など正気の沙汰ではない。そんなことをすれば二度と目覚めぬ奈落の底へと堕ちていくに決まっている。
ドクオはよろよろと近くに設置されたベンチに腰掛け、しぃが買ってきてくれた飲み物に口をつけた。爽やかな飲み心地の液体が、弱った胃にすーっと溶けていく。生きているって素晴らしい。
345
:
1
:2014/06/26(木) 16:24:14 ID:AXRm0dFE0
(´・ω・`)「もう移動術式を使うことはないから安心してくれ。ここからはあれを使う」
ショボンが指差した先にあったのは馬車のような乗り物だった。ようなというのは馬がなく、代わりに後方から車などについているマフラーがあり、下部にはゴテゴテとした機械が取り付けられている。本来馬が引くはずの部分にはハンドルらしきものがついていた。
('A`)「なんか、馬車のなり損ないっていうか……」
(*゚ー゚)「見てくれはあんなですけれど、乗り心地は割りといいですよ」
( ・∀・)「そうそう。静かだしな」
口々に馬車の乗り心地を褒める二人にドクオはそこはかとない危険を感じる。あの二人が結託して自分を騙しているのではないか、と不安になった。
(´・ω・`)「そう身構えるな。あの二人が言うように、移動術式を使うよりはいいぞ」
('A`)「……まぁ、そこまで言うなら信じますが」
( ・∀・)「俺達の言うことは信じられないってのかよ」
(*゚ー゚)「私はそんなに信用ないですか?」
('A`)「そういう訳じゃないが……あ、モララーは別な」
( ・∀・)「え、何それ酷くない? 俺達親友だろう」
('A`)「いつから親友になったんだよ。初耳だ」
( ・∀・)「この野郎一晩中飲み明かした仲なのに」
おどけるモララーを一瞥して、ドクオはショボンが指を差した場所へと歩き出した。モララーは何事か文句を言っていたようだが、そんなものを相手にしていたら日が暮れてしまう。
346
:
1
:2014/06/26(木) 16:24:57 ID:AXRm0dFE0
ショボンが店の人と短い会話をしたのち、一つの馬車を差してからそれに乗り込んだ。やはり馬車は人が運転するらしい。
ショボンが一つの馬車に乗り込むのを見てから対面にドクオが座り、その隣にしぃ、モララーがその向かい側。最後に乗り込んだモララーは扉を閉めて座った。
(´・ω・`)「いいぞ。出してくれ」
ショボンが言うと奇妙な浮遊感と共に馬車が浮かんでいく。
('A`)「おお」
扉の窓から外を見ると、徐々に地面が離れていくのが見えた。こんな簡素なものが空に浮かぶという事実にドクオは少なからず感嘆する。魔法というのは本当に底が知れない。
発信してからしばらくの間は米粒のようになった地表を眺めて楽しんでいたが、そのほとんどが青々とした森林ばかりで長時間見ているというのはやはり飽きてきた。その頃合いを見計らってショボンが口を開く。
(´・ω・`)「さて、今回の任務を説明しよう」
ショボンの言葉にしぃとモララーが神妙な顔付きで頷いた。釣られてドクオも顔を引き締める。
(´・ω・`)「今回の任務は鉱山都市モ・トコ周辺に出没した悪魔の殲滅だ」
('A`)そ「悪魔!?」
347
:
1
:2014/06/26(木) 16:25:43 ID:AXRm0dFE0
予想外の言葉にドクオは大声をあげた。悪魔と言えば、確か以前しぃが説明してくれた伝承にしか描かれていない破壊と絶望の象徴。十五年前の戦争でも現れたというが、そちらの信憑性は定かではない。
そんな伝説上の存在が、何故今頃になって現れたというのか。しかもそれを殲滅ということは、ドクオ達が戦わなければならないということだ。
あまりの出来事にドクオは開いた口が塞がらない。しかしそれとは対照的に他の二人は落ち着いている。
(´・ω・`)「ドクオも話くらいは聞いていたか。とは言ってもそんなに大袈裟な話じゃない。モ・トコ周辺で悪魔と思しき生命体を見かけたため、その真偽を確認し、もし本当に悪魔だったなら討滅といった具合だ」
('A`;)「なんだ、脅かさないでくださいよ。そんなのと戦わなきゃならないなんてさすがに荷が重すぎる」
( ・∀・)「とは言っても、周辺住民の話によればほぼ間違いないらしいけどな」
モララーがあっけらかんと言う。それならなんでこんなに落ち着いているのだろうか。勝てるかどうか、どころか生きて帰れるかどうかすら怪しい存在と一戦交えなければならないのに。
(*゚ー゚)「モ・トコの周辺の集落ではすでに何人かの住民が襲われているようで、被害はかなり拡がっていますね。自警団や派遣されている騎士も交戦したそうですが歯が立たず、生存者はゼロ。状況は絶望的です」
('A`)「そんなのと戦うの?」
(´・ω・`)「戦闘中に送られてきたとされる音声があるんだが、こちらの攻撃は全て無効化されているようだった。魔法が効かないのか術式を破壊しているのかは分からないが、かなり厳しいな」
聞かされる言葉にドクオは思わず頭を抱える。王都でショボンが頭を下げたのはこれが原因だったのか。
348
:
1
:2014/06/26(木) 16:26:40 ID:AXRm0dFE0
('A`)「そんな相手にどうするんですか? いくらショボンさん達が行ったところで攻撃が効かないんじゃやられるだけじゃ……」
( ・∀・)「ばぁか、何のためにお前を連れてきたとおもってんだよ」
('A`)「……魔剣か」
(´・ω・`)「そうだ。既存の攻撃手段では歯が立たないが、ドクオの持つ魔剣はどうやら魔力やマナを消滅させるようだからな。ましてや伝承にさえ書かれている代物だ。もしかしたら対抗手段になり得る可能性がある」
と、言うことはだ、その化け物を相手にするのは必然的に━━
('A`)「俺がやるのか」
(´・ω・`)「うむ。私達も出来うる限りのサポートはさせてもらうが、最終的に君に頑張ってもらう必要がある」
( ・∀・)「責任重大だな」
(*゚ー゚)「私達の命はドクオさんにかかっていますから」
('A`;)「ちょっとプレッシャーかけないでくれます? もう逃げ出したいくらいなんだけど」
(´・ω・`)「とは言ってもモ・トコに直接行くわけではない。周辺の街の被害状況や出没地域も確認しなければならん。モ・トコには明日の夕方に到着予定だ。今日は近くの街に宿を取ってあるからそこで一泊、のちに二つ三つほど他の街で情報を集め現地入りという形だな」
ショボンが他にも細々とした注意事項などを説明してくれたが、ドクオの耳には入ってこなかった。
とんでもない仕事に連れてこられたものだとドクオは心中で呟く。自分の成否がそのまま他の仲間の命を左右するなど、ドクオの人生で初めてのことだった。
('A`)(いや、そうでもないか。初めてこっちに来たときも俺があの魔物とやりあってなかったら色んな人が死んでた)
349
:
1
:2014/06/26(木) 16:27:24 ID:AXRm0dFE0
ニダーと戦ったときもそうだ。あの時もドクオが最後まで戦わなかったらしぃも、渡辺も怪我じゃすまなかったかもしれない。貞子の時は渡辺も、ツンも下手を打てば死んでいた。そう考えれば状況は変わらないように思う。
いつだってぶっつけ本番で立ち向かったのだ。いつも通り、そういつも通りでいい。ドクオには戦況を正しく判断できる戦術眼などないし、便利な魔法もない。あるのはいつの間にか手に入れた古代の伝承。そして、一月かそこらで身に付けた体力と力。
('A`)(俺だって少しは成長したんだ。やれないことはないはず)
窓の外を見つめながら、ドクオは言い聞かせる。たとえ悪魔がどれほどの力を持っていようが、同等の力がドクオの手にはあるのだ。
ドクオは何も言わずにぎゅっと拳を握り締め、来るべき戦いに想いを馳せる。
350
:
1
:2014/06/26(木) 16:28:08 ID:AXRm0dFE0
从'ー'从「荷物多くなっちゃったねぇ」
ξ#゚⊿゚)ξ「あんたがあれこれ必要のないものを買うからでしょうが。ちょっと貸しなさい、私が選別する」
从;'ー'从「あ、ダメだよぉ、それは私のおやつだってばぁ〜」
ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! 遊びに行く訳じゃないんだから、こんなにいらないでしょ!?」
从'ー'从「あー、それもダメぇ〜」
大きく膨れ上がり必要なものも入らなくなった渡辺の荷物を逆さにしてツンはあれこれと物色すると、大量のお菓子類をひたすらに仕分けていく。よくもまぁこんなにお菓子ばかり入れたものだと呆れを通り越して感心するばかりだが、今回の旅に関しては少しきつく言わねばなふまい。
何しろニューソク大陸の北端まで行くのだ。いくら飛行馬車で一日かからず行けるとはいえ、お遊び感覚では痛い目を見ることは火を見るより明らかだ。
王都周辺は騎士団が守りを固めているおかげか魔物もあまり活発ではないが、王都から離れていくのに比例して魔物は強力になっていく。自分達の天敵である人間の絶対数が少ないため、数を増やすと共に魔物同士の縄張り争いなどかわ頻発し、進化を遂げていったのだ。
飛行馬車は空を走る場所であるため、当然だが陸の魔物と出くわすことはないと断言できるが、北の方は空を飛ぶ魔物の数が比較的多い。黒の魔術団にいた頃、飛行馬車が魔物に襲われていたのを何度か目撃しているツンとしては出来る限り危険を減らしいたいのだ。
351
:
1
:2014/06/26(木) 16:28:58 ID:AXRm0dFE0
ξ゚⊿゚)ξ(まったく、お菓子よりも身を守るものを持ちなさいっての)
鞄から出されるお菓子達を抱き締めながら渡辺は血の涙を流していたが、これも渡辺のためだ。もちろんツンの鞄も多少の空きは確保しているので、お菓子全てを持っていけないわけではないが、今はこれくらいして渡辺にも危機感を持ってもらわなければならない。
あらかた整理の終わった鞄に、課題で使うものを片っ端から入れていく。ツンがどうして渡辺の課題に必要な道具類を知っているのかと言えば、友情の力がなせる技、とでも言っておこうか。ただ単に渡辺が心配だったため、ツンが下調べなどを行っただけなのだが。
ξ゚⊿゚)ξ「ま、こんなもんでしょ。って、あんたはいつまで泣いてるのよ」
从TーT从「だってこんなにも沢山のお菓子が……」
ξ゚⊿゚)ξ「帰ったらいくらでも食べられるわよ。んなことより明日に備えてさっさと寝る!! 何のために私が泊まってると思ってるの!?」
从'ー'从「はぁ〜い」
渡辺が寝床に入り寝息を立てるのを見届けてからツンも布団を被る。とりあえずの準備はこれでいいだろう。あとは明日の朝早くに王都を発てば夕方には現地入りだ。
ξ゚⊿゚)ξ(そういえば、モ・トコ周辺で事件が起こってるって話だったけど、大丈夫なのかしら)
もし何らかの重大な事件が発生してい場合、学生や一般人に検問をしている可能性もある。だとすれば行ったところで街に入れなかったり、飛行馬車の運行自体されていないかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ(その時は、その件が落ち着くまで二人でのんびり旅行ってのも悪くないか)
いつも慎重に動くはずの自分が、渡辺といるだけでこんなにも変わるものなのか、とツンは驚いた。自分も少しずつ変わっているのかもしれない。
だがこの変化は決して悪いものではない。凍り付いた心がゆっくりと溶けていくような、人の温もりや優しさがツンを包んでいる。
それに身を任せてみるのはけして悪いことじゃない。
そんなことを考えている内に、いつの間にかツンの意識は微睡みに落ちていくのだった。
352
:
1
:2014/06/26(木) 16:29:42 ID:AXRm0dFE0
◇◇◇◇
夜、モ・トコより二つほど離れた街にドクオ達は滞在していた。途中小さな集落に立ち寄ったが、悪魔に関する情報は得ることができなかった。
というのも、その集落にはそもそも人がいなかったのである。人が住んでいた形跡は確かにあるのに、まるで唐突に消えてしまったかのように集落だけが残っていた。つい先程まで日常生活を営んでいたはずなのに、人だけがいないという異常な様相はドクオの胸に不安だけを募らせていく。
('A`)(それに、村の中心に魔法陣を描いたような痕跡があった。まさか、悪魔を召喚でもしたんだろうか)
あんな目立つところに魔法陣を描けば、否が応でも他の人々が気付くはずだか、村のどこにも戦闘が行われた形跡はなかった。
つまり、その集落は突然、なんらかの形で村人全員が死亡、もしくは消失したということだ。しかもその異常を誰にも気付かせず、ごく自然に。
それ以上のことはどれだけ調べても分からなかったが、この街に到着して話を聞いたところによれば同様のことが他の集落でも起こっているようだった。
('A`)(なんか嫌な予感がするな)
353
:
1
:2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0
街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。
悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。
もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。
ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。
('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)
わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。
以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。
354
:
1
:2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0
('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)
腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。
煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。
ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。
腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。
(*゚ー゚)「あ」
ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。
355
:
1
:2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0
('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」
(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」
('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」
剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。
(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」
('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」
(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」
しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。
隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。
356
:
1
:2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0
二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。
しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。
('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」
何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。
ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。
個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。
だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。
言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。
(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」
それから、とつとつとしぃは語る。
魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。
だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。
周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。
そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。
357
:
1
:2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0
(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」
行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。
(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」
けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。
('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」
(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」
しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。
('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」
そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。
だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。
(*゚ー゚)「……はい?」
('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」
(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」
358
:
1
:2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0
('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」
自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。
('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」
(*゚ー゚)「……そう、ですね」
('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」
(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」
('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」
しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。
(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」
('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」
その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。
359
:
1
:2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0
(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」
残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。
('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」
しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。
最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。
(*゚ー゚)「……約束ですよ」
('∀`)「おう」
にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。
(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」
('A`)「はは、悪い悪い」
嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。
どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。
('A`)「……おい」
360
:
1
:2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0
ドクオの声にしぃも顔を険しくする。
(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」
辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。
武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。
('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)
汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━
('A`)(来たっ!)
▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」
犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板