したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

157:2014/06/02(月) 22:26:15 ID:r7CkAjHg0
こんなところで第二話終了です
このお話でキャラが何名か増えましたが、現在の力量でうまく調理できるか少々不安です
今回までがドクオの異世界での生活スタート編、次回からは渡辺やしぃ、異世界の深いところを書いていけたらいいなと思います
次回投下は今週の金土のどちらかになりますので、よろしくお願いいたします

158名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 23:17:09 ID:vsQC/TvkO
レベル高いな、期待大です

159名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 21:26:50 ID:7yReHsCs0
俺の中で今一番おもしろいブーン系
俺もファンタジーバトル系の作品書きたくなってきた

160:2014/06/04(水) 09:40:29 ID:pZYGFIl20
本日また一つ歳とった1です
予定よりも早く第三話が書き終わりそうなのでそのご報告です
このままなら木曜日、遅くとも金曜日までには投下できると思います
なんだか風呂敷広げすぎて収拾つかなくなりそうだなぁと不安に思いながらの書き込みです

161名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 09:43:28 ID:LInul8V.0
誕生日かい?おめでとう!
投下速度早いなwww

162:2014/06/04(水) 09:44:35 ID:pZYGFIl20
>>158ー159
地の文たっぷりのわりに文章の勉強中なんで読んでいただけるだけで幸いです
おまけに面白いだなんて言われた日にゃ爆発します
今後もちまちま頑張りますのでよろしくお願いします

163:2014/06/04(水) 09:46:14 ID:pZYGFIl20
>>161
はい、祝ってくれる方がいない孤独な誕生日です
ありがとうございます
文章が書けない人間は速さで勝負という感じです

164名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 12:44:45 ID:3Sr0blsk0
おめでとう
創作板内でみても平均以上の文章力も、読者を引き込む力もあると思うがなぁ
この上更新まで早いなら言うことないわ
期待作品やで

165名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 13:43:34 ID:uwYXRvKc0
誕生日おめでとう〜!
文章がしっかりしてるので分かりやすくて面白い

166:2014/06/04(水) 15:51:43 ID:pZYGFIl20
>>164>>165
いやはや催促したみたいで申し訳ありません(チラッチラッ
そしてありがとうございます
そんな風に言ってもらえると、作者冥利に尽きます
この作品には私の全てが詰まっているのでなんとか完結させたいものです

167:2014/06/05(木) 13:41:30 ID:/R87psA.0
今日夜遅くに投下しますねー
具体的な時間は多分日付が変わる前後かと思われます

168名も無きAAのようです:2014/06/05(木) 18:55:51 ID:vzhTrc9k0
やたー!
ワタナベかわいいよワタナベ

169:2014/06/05(木) 23:08:24 ID:V0EQBG/A0




第三話「魔法使いの流儀・前編」



.

170:2014/06/05(木) 23:12:59 ID:V0EQBG/A0
ニダーとの戦いから数日後、行きつけのお店や細かなルールなどを覚えてきたドクオはようやくこの世界での生活に慣れ始めていた。

やはり同じ人間たちの住む世界である以上そこまで変わったルールなどはなく、意識せずとも一つの街中ぐらいなら問題はないようだった。

しかし、そんな中でもドクオが驚いたことがいくつかある。まず一つ目に物価だった。始めはお金の価値や物の価値がよく分からなかったが、渡辺やしぃの協力もあって大体の目安などを覚えることができた。そして自分の世界のものと比べてみると、その物価や税金の額はおよそ二倍ほど違うことが判明したのである。何より驚いたのは煙草の値段である。日本円にすると二十本で百円なのだ。つまり一本一円以下。

愛煙家であるドクオにとってこの事実は何よりも嬉しいことであった。むしろこのために異世界に来たのではないかと疑ってしまうほどに。

話がずれたが、ドクオが驚いたことその2は交通手段である。この世界は当然ながら電車や飛行機、車といったものはない。ではこれだけ広い町の移動はどうやっているのか?

その答えは魔法である。

これだけ魔法が広く流通しているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、こちらではバスやタクシーの代わりに魔法での移動が可能となっている。所定の場所で切符のような魔法紙を購入し、様々な場所に設置された魔方陣に乗ると、それだけで思い描いた場所の近くまで転送されるという優れものである。しかも値段は場所を問わず一律の値段だ。

もちろんこれは王都ヴィップ内のはなしであって、他の街や別の大陸に行くには異なる方法が必要になるらしい。それにともない値段も変わるのだとか。

最後に、これが最も驚いたことなのだが、なんとこの世界では電気が生活に浸透していないのだ。

別に電気という概念がないわけではなく、あくまで生活に使われていないだけの話だ。ドクオのいた世界では何をするにもまず電気が必要だったが、こちらではそれに変わる魔力というエネルギーがあるのである。

魔力は世界中のどこにでもあるもので、枯渇することがない。しぃ曰く魔力の源泉が世界中の至るところにあり、そこからものすごい量の魔力が涌き出ているそうだ(どれぐらいの量なのか単位を用いてしぃは説明してくれたがドクオには理解できなかった)。

こうしてドクオの生活も二人の尽力あってか様になってことで、ドクオはようやく平穏無事に生きていくことが出来ているのだが、現在そのことが逆に不満をもたらしていた。

('A`)「やることがねぇ」

171:2014/06/05(木) 23:13:44 ID:V0EQBG/A0

ドクオの不満とはまさにこの一言に尽きた。

騎士団の寮に厄介になってから働かなくても金が入ってくるし、食うものにも困らず嗜好品にさえ手を出せるようにまでなってしまった。つい最近まで食うに困っていたはずなのに、である。

元々大した勤労意欲など持っていなかったドクオではあるが、それにしたってこの暇さ加減はいかんともしがたい苦行のように感じられる。元のアパートには暇潰しに最適なパソコンとネットという偉大な道具があったのだが、こちらにはそんな大層なものはない。ドクオに魔法の知識とそれを応用する技術があればインターネットをこの世界で再現できるかもしれないが、それこそ夢幻である。

とにもかくにもドクオは現在暇をもて余していた。渡辺は最近学校に行ってなかったらしく、ここ数日ずっと学校に籠りっぱなしだし、しぃにしても騎士団の仕事があるので構ってもらえない。年下のしかも女の子に構ってほしいというのも情けないものだが、ドクオの交遊関係なんてそんなものしかないのだ。

('A`)「バイト、とか出来ないのかねぇ」

自分の立場を考えると、まず不可能だろう。あくまで騎士団に囲われてる身でしかない以上、下手をすれば関わった一般人にまで被害が及んでしまう可能性もある。ともなれば、やはりドクオはこうしてごろごろと時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

('A`)「ねらーのみんなが懐かしいぜ。釣りスレ立てて馬鹿やってたのになぁ」

もうあの日々はやってこないのかと思うと少し寂しい気もするのは何故だろうか。あちらでは自分の存在など路傍の石か、それ以下の価値しかないというのに。

と、そんな折に傍らに置いてあった連絡用携帯端末が音を立てる。以前ショボンにもらったものだが、やはり見た目通り携帯電話のような役割を果たしている。難点はインターネットが出来ないことくらいだ。

('A`)「もしもし亀よ」

(;´・ω・`)『それは何かの呪文かい?』

172:2014/06/05(木) 23:14:52 ID:V0EQBG/A0
電話(といってもいいのか疑問ではあるが)の相手はショボンだった。寮に入る際顔を見て以来である。騎士団のナンバーツーとして様々な仕事を抱えているはずの彼から連絡がくるなどと予想していなかったドクオは思わず面食らってしまった。

('A`)「あまり気にしないでください。ただの発作です」

(;´・ω・`)『そ、そうか。その様子だと大分暇なようだな』

('A`)「ええ、そりゃあもう。飯食ってゴロゴロする以外何をしていいのか分からないくらいです」

(´・ω・`)『それなら丁度いい暇潰しを提案しよう』

('A`)「この無限地獄から解放してくれるのなら何でもしますよ」

(´・ω・`)『ほう、なんでもするか。ならば今から寮の入り口に来るといい。きっと君を満足させられる』

ショボンはそれだけを言って通信を切った。一体何をさせる気なのだろうか。ドクオにしてみれば暇を潰せればなんでもいいのだが、ショボンのような偉いかたから連絡が来るとどうも身構えてしまう。

('A`)「ま、行ってみりゃわかんだろ」

ドクオは深く考えず、簡単に身支度をすると部屋を出た。これがそもそもの間違いだったと気付くのはそれから間もなくのことである。

173:2014/06/05(木) 23:23:17 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとぉ、これとこれとぉ、あとはぁ〜」

渡辺は魔法学校にある図書室で黙々と資料を探していた。次の昇級試験で使う論文をまとめるためだ。

魔法使いというのは基本的に階級制で、渡辺がいるのは一番ランクの低い見習いである。その上に魔法使い、大魔法使い、魔導師、大魔導師と続いていくのだが大半の学生が卒業する際に授かるランクは大魔法使いだ。そこからは個人で国が指定する試験をパスすることによってランクをあげていくこととなる。

大魔導師以上になってくるとそこから専門的な分野の階級を冠することが多く、錬金術ならばアルケミストだったり魔法と剣技を両立するならマジックナイトといった具合だ。

通常魔法使い見習いなどというランクは入学当初から一年かそこらで卒業するものだが、渡辺は入学してもう三年ほどの月日を経ていた。三年も経つのにまだ見習いにいる理由としては、渡辺の頭が悪いということではなく、単純に彼女の境遇にある。

渡辺は所謂<忌み子>と呼ばれる存在であり、<忌み子>とは破滅と絶望を振り撒く悪魔として忌み嫌われている。

以前ニダーが言っていた話を渡辺は独自に調べてみたのだが、どこを調べても似たような記述しか載っておらず、結局は同じ答えに行き着いてしまう。

だから渡辺は周りの学生と同じように一年の間切磋琢磨できるような友人に恵まれず、失敗や間違いを一人で繰り返し、ようやく見習いを卒業できるところまで漕ぎ着けたのだった。

それだけにこの昇級試験は渡辺にとって大きな意味を持つ。渡辺という存在は否定されても、身に付けた技術や知識が一定のところを越えさえすれば誰かに認めてもらえるのだから。

だからこそ渡辺はドクオとのコミュニケーションもそこそこに昇級試験の準備を進めているのだが……。

从'ー'从「あれれ〜? 資料が一つ足りないよぉ〜?」

174:2014/06/05(木) 23:23:58 ID:V0EQBG/A0
渡辺が得意とする炎系の魔法の技術書がどこにも見当たらなかった。図書室は属性や構築する魔方陣、詠唱する言語によって棚が別れているのだが、渡辺の探す一冊だけがどこを探しても見つからない。

渡辺はどこかに放置されていないかと周囲を見渡した。しかし、室内は司書によって綺麗に整理整頓されており、放置された本は一切見当たらない。

代わりに見付けたのは、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて渡辺を見つめる数人の生徒だった。

从 ー 从「……」

また、だ。

渡辺の存在は学校内では有名だ。漆黒の髪を持つものは一人しかいない。一人しかいないということは否が応でも目立ってしまう。

極めつけに<忌み子>という、呪いにも似た言葉はどこに行っても渡辺に付きまとってくる。

渡辺は無言で図書室を立ち去ろうとして、思わず立ち止まった。

ξ゚?゚)ξ「取り返さないの?」

175:2014/06/05(木) 23:24:48 ID:V0EQBG/A0
渡辺の前に巻き毛の少女が立ちはだかった。意思の強そうな瞳が渡辺をじっと見つめている。

从;'ー'从「えと、きっとあの人たちも必要なんじゃないかなぁ」

渡辺は何故か言い訳のようにそんなことを口にした。

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿じゃないの。あいつらあんたのこと見て笑ってるわよ」

巻き毛の少女は怒りを露にしてそちらを睨み付ける。見た目通りの性格をしているらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「私が取り返してきてやるわ。ちょっと待ってなさい」

从'ー'从「あ、ちょっと……」

渡辺が止める間もなく少女は行ってしまった。静かだったはずの図書室に怒声が響き渡り、数人の生徒が迷惑そうな視線をこちらに向けている。

そんな中を少女は気にした様子もなく、本を手に取りこちらに戻ってきて、

ξ゚⊿゚)ξ「ほら。使うんでしょ? ああいうやつらにはガツンと言わなきゃ舐められるだけよ?」

とあっけらかんとそんなことを言った。

从'ー'从「あ、あの、ありがとう……」

ξ゚⊿゚)ξ「別に礼を言われることじゃないわ」

何でもないと言った風に彼女が背を向けたのを見て、渡辺は何故か、自分でもよく分からずに声をかけていた。

从'ー'从「あの、もしよかったら、お茶でもしませんか?」

少女が振り向く。少し間を置いて、笑顔を作り、

ξ゚⊿゚)ξ「仕方ないわね。暇だから付き合ってあげるわ」

と言った。

これが渡辺と少女━━ツンの初めての出会いだった。

176:2014/06/05(木) 23:26:19 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`/)「もう勘弁してください」

(;*゚ー゚)「体力ないですね」

げっそりとした顔でドクオはしぃに懇願した。これ以上は無理だ、一歩も動けない。

ショボンに連れられてやってきたのは騎士団の演習場である。そこでドクオは暇潰しと称した訓練に参加させられたのである。半ば強引に。

(´・ω・`)『君は今後も敵に狙われたり事件に巻き込まれるだろう。今のうちに体を鍛えておけば何が来ても対処できるぞ』

とはショボンの談である。

確かに先日の事件はニダーという魔法使いが引き起こしたものだが、その裏では他の者が暗躍していたのではないかというのが騎士団内部でまことしやかに囁かれていたようだ。

かくいうドクオも同じ意見で、いくらニダーが自尊心の高い傲慢な人間といえど、街中で人目も憚らず暴れ狂うなどとは考えられなかった。

ましてや騎士団本部のある王都なら尚更である。

そういうわけでドクオは騎士団が普段こなしている訓練と同等のものを今しがた終えたわけのだった。しぃの監視のもと。

('A`/)「俺は頭脳労働メインなんだよ。体力ばっか有り余った体育会系と一緒にしないでくれ」

(*゚ー゚)「これくらい騎士団なら普通ですが」

同じメニューをこなしたとは思えないほど涼やかな顔をしたしぃにそう言われてはドクオもこれ以上何も言えない。一体この小さな体のどこにそんな力が隠されていたのか甚だ疑問である。

('A`)「まぁ実際暇潰しにはなったけどさ、こんなの毎日やってたら死ぬぞ俺」

(*゚ー゚)「慣れですよ。それに、ドクオさんもなんだかんだいいながら最後までついてこれたんですし、なんならこのまま正式に騎士団になればいいと思います」

('A`)「それは勘弁してください。なんか周りの視線が怖かったし」

ドクオが訓練をする傍ら、他の騎士団員とすれ違うことが多々あったのだが、その誰もが腫れ物でも扱うかのような視線を向けていたのである。

始めはただの好奇心なのかとも思ったのだが、途切れ途切れに耳にした内容はどれもドクオを快く思っていないように聞こえた。

それをしぃに告げると、

(*゚ー゚)「それは多分ドクオさんの髪の色でしょうね」

との答えが返ってきた。

('A`)「髪? そんな珍しいのかこれ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは<忌み子>と同じ髪の色をしていますからね。黒髪の人間はこの街広しと言えど、ドクオさんと渡辺さんくらいしかいませんから」

177:2014/06/05(木) 23:27:24 ID:V0EQBG/A0
言われてみればそんな気がする。こちらの世界では金髪がほとんどで、それに混じって他の髪色がちらほらといるが黒髪というのは渡辺以外見たことがなかった。

('A`)「そういやその<忌み子>ってなんなんだ? 前にニダーもそんなこと言ってたけど」

以前しぃに聞こうと思っていたことを思い出し、ドクオは尋ねてみた。

(*゚ー゚)「簡単に言ってしまえば畏怖の対象です。黒髪の悪魔が破壊の限りを尽くし、討滅され、生き残りが人との間に子を成した。という昔話があるんですよ」

('A`)「それだけ?」

(*゚ー゚)「それだけでも皆さんが恐れてしまうのも無理はありません。何しろ神に匹敵する力を秘めているんですから」

('A`)「けど俺はともかくとして、渡辺なんかは人畜無害じゃん。なんか悪いことしたってんなら分かるけど」

(*゚ー゚)「ドクオさんの言いたいことは分かります。ですが、実際問題としてこういった話はごくありふれていますからね。ましてやこの話を信じているのは一人や二人ではありませんし」

少ない人数であれば<忌み子>という単語自体大した意味は成さなかったが、世間に浸透してしまえば真実などいとも簡単にねじ曲げられる。この場合正しいか間違いかではなく、信じるか信じないかなのだ。

それに、としぃは言葉を続ける。

(*゚ー゚)「この話がより真実味を増した話がありますからね」

しぃの声のトーンが一つ下がる。ドクオは思わず身構えた。

178:2014/06/05(木) 23:28:23 ID:V0EQBG/A0
('A`)「なんかあったのか?」

(*゚ー゚)「今から十五年ほど前に全世界を巻き込んだ大きな戦争がありまして、始めは大陸同士の争いだったそうです。しかし、その戦争はいつの間にか人ではない別の何かを相手に戦うことになっていたのだとか」

('A`)「なんでそんな曖昧なんだよ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは体力がないだけでなく、頭もお馬鹿さんなのですか? 十五年前に私は産まれていませんよ」

言われてみればその通りだった。騎士団の連中が軒並みガタイがいいのでしぃも同じカテゴリに括ってしまっていたが、しぃは見た目通り十四歳である。

('A`)「んで、その戦ってた相手ってのが悪魔なのか?」

(*゚ー゚)「それが分からないんです。その戦争で生き延びたのはほんの僅かな人数で、ほとんどの人達が戦死してしまったと公式にはっぴょうされていますから」

('A`)「なんだよそれ。訳のわからないものだから悪魔って決めつけて、その矛先を渡辺に向けてるってことになるじゃねえか」

(*゚ー゚)「間違いではないと思います。悪魔という伝承の認知度も去ることながら、戦争の規模も歴史上で五指に入るほど大きいものですからね」

('A`)「それだけひどけりゃ余計にってことか」

ドクオには戦争というものがどれほどのものかは想像できない。たくさんの人間が血を流し、戦い、死んでいったのだろうということしか分からないが、それだけ悪魔という存在が人々にとって畏怖や破滅の象徴ということなのだろう。

だからといって一人の少女をよってたかって後ろ指を指すのはどうかと思う。だってドクオは知っている。彼女は誰よりも心根の優しい、人を傷付けることをよしとしない日向に咲く蒲公英のような温かい人間なのだから。

179:2014/06/05(木) 23:29:38 ID:V0EQBG/A0
それを知りもしない、知ろうともしない他人が自覚のない悪意をぶつけるならばドクオはそれを何とかしたい。

例え叶わぬ願いだと知っていても、願わずにはいられない。

(*゚ー゚)「気持ちは分かりますが、ドクオさんがどうこうしたところで群衆心理はそうそう変わることはありませんよ」

あまり表情を出さないしぃが嘆息するのを見て、ふと疑問が浮かんだ。

('A`)「しぃちゃんはあまりそういうの気にしてないみたいだけどさ、しぃちゃんから見ても渡辺はそういう存在じゃないのか?」

三人で街に繰り出した際も、しぃは渡辺と対等に付き合っていた気がするのだ。ドクオは二人を見て、まるで姉妹のようだと感想を抱いた記憶がある。

(*゚ー゚)「私にとって、悪魔や忌み子というのは空想上の存在です。悪魔なんて見たことがありませんし、渡辺さんが私に危害を加えたわけでもありません。私から見れば渡辺さんは私と同じ女の子です」

しぃの言葉は淡々としているが、どこか慈愛に満ちた優しい口調だった。

しぃにしても、今の渡辺には思うところがあるのかもしれない。

('A`)「みんながそう感じてくれればいいんだけどな」

それにはきっかけがいるだろう。一度外れた歯車はそう簡単に元に戻せない。誰かが手を差し伸べ、元の位置に嵌めてやらなければ。

この世界の住人ではないドクオに、それが出来るだろうか。

180:2014/06/05(木) 23:30:29 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

ショボンは上がってきた報告書に目を通しながら、時計塔広場の事件の推測を立てていた。

報告書の内容は極めて事件の概要を事細かに記載しているものの、ショボンには何かが欠けているように思えるのだ。

ニダーという魔法使いがやたらと忌み子に噛みついていたことは知っていたが、それが今回の動機に繋がるだろうか? というのがショボンの率直な意見である。

さらにニダーは貴族の出であるということも事態の整合性を歪めていた。ショボンは貴族の生まれではないが、同僚である騎士の中には大勢いる。彼らはみな口を揃えて貴族は下々に慈悲と慈愛を持って接し、上に立つものとして道を示さねばならないと豪語していた。もちろんその言葉が嘘ではないことをショボンは知っているし、そのための努力を惜しんでいないのもこの目で確かめている。

ならばこの違和感はなんなのだろう。ニダーも若輩者とはいえ貴族の端くれ、一般人が多い時間帯と場所であんな騒動を引き起こすとはどうしても思えなかった。

(´・ω・`)(やはり、黒の魔術団か)

思えばドクオというイレギュラーを抱えてから不自然な動きが頻発している。表だったものは結界の消失と今回の騒動だが、他にも魔物の大量虐殺や小さな集落での集団失踪など挙げていけばキリがない。

181:2014/06/05(木) 23:31:13 ID:V0EQBG/A0
加えてニューソクを治める王、ロマネスクの動きもまるでドクオが来ることを予測していたかのような周到さだ。正直、ロマネスクの目的の全てを知っているわけではないので、ショボンにはロマネスクですら信じることができていない。

(´・ω・`)(騎士団失格だな、僕は)

信じたくはない、信じたくはないがロマネスクと黒の魔術団は繋がっている。確かな確証はないが、ドクオを中心として考えると、そうとしか考えられないのだ。通常ドクオ個人がこちらの世界での生活に慣れていくための支援を国がここまでやるだろうか。その時点から大分怪しい。

カップに口を付けて液体を飲み干す。喉の渇きは癒えないしあまり旨くはないが、これ以上の贅沢は言えない。

ショボンがお代わりを取るために立ち上がった時、静かにドアがノックされた。

(´・ω・`)「入れ」

「失礼します」

若い新兵が新たな書類を持って部屋に入ってきた。

「モララー様から中隊を動かす承認を頂きたいとのことです。こちらがその書類になります」

(´・ω・`)「中隊を? 何かあったのか?」

新兵から手渡された書類を捲りながら、ショボンは眉を潜めた。ここ最近大きな事件が立て続けに起きてはいるものの、取り立てて隊を編成する事案は結界消失以外なかったからだ。

隊を編成する、ということは本格的な戦闘を行うという意思表示でもある。魔物でも、人でも戦略を必要とし時間をかけず、効率的に敵を攻め落とすために然るべき戦力を投入するということはそれだけでことは大きくなる。

「はっ。そちらの書類にも記載されておりますが、黒の魔術団と思われる集団のアジトを発見したとのことです」

(´・ω・`)「ほう。ほぼ間違いない、と言えるだけの材料が揃ったということか」

この短時間でモララーもよくやってくれたものだ、とショボンは部下の有能さに心で称賛を送った。

しかし、この状況で中隊を投入するという選択は些か早計すぎやしないか、とも思う。

現在王都にはまとまった戦力が残っていない。治安維持のための組織はお飾りのようなものだし、学校にいる教師も戦力としては心許ない。何かあった場合、再び成長仕切っていない生徒達を投入しなくてはならないというのは、あまり好ましくない。

となれば、ショボンが取れる選択肢は━━

182:2014/06/05(木) 23:32:34 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「隊は出せない。だが、代わりの戦力をこちらから出そう」

「は? と言いますと?」

(´・ω・`)「最近やってきただろう。騎士団に所属してはいないが、戦力になる人間が」

結界消失時、命をかけて避難所の人達を守り、時計塔広場で大立ち回りを演じた忌み子と同じ髪の色の男。

「まさか、例の男ですか? お言葉ですが副団長、彼は騎士団内部でもよく思われてはおりません。戦力としては申し分ないかもしれませんが、統率がとれるか……」

(´・ω・`)「何、それに関しては問題ないさ。私とドクオ、それにモララーが出る」

「副団長!? 正気ですか!?」

(´・ω・`)「多くの兵が遠征に行っている以上王都を手薄にするわけにはいかない。兵の代わりはいないが、私の代わりに指揮を取れるものはごまんといる」

「しかし……」

(´・ω・`)「話は以上だ。詳しい話はモララーとドクオを含めてすると伝えておけ」

ショボンがそう締め括ると、新兵は不安げな顔をして部屋を出ていった。

悪いことをしたかな、とも思うがショボンは大して気にもとめず、今度こそ飲み物を取りに立ち上がった。

183:2014/06/05(木) 23:33:36 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

渡辺とツンはヴィップラ地区のオープンカフェでお茶をしていた。もちろん誘ったのは渡辺からで、あわよくば学校での話し相手くらいにはなれないかなぁと淡い期待を抱いていたのだが……。

从;'ー'从(ふえぇーん、会話がないよぅ)

二人の間には一切の会話がなく、渡辺はひたすら紅茶のお代わりを頼むしかなかった。

ξ-⊿-)ξ「……」

正面に座るツンは始めに自己紹介をしたきり口を閉ざしたままである。話しかけるなといったオーラは出ていないが、この巻き毛の少女、なかなかに勝ち気そうな見た目をしていて渡辺のようなチキンハートには話しかけづらい雰囲気を漂わせているのだ。

かといって誘った手前、何かを話さなきゃと話題を探すのだが、同年代の友人などいない渡辺は何を話せばいいのかわからないのである。しぃは騎士団とはいえ年下だったので気兼ねなく話せたのに、こうも勝手が違うのかと渡辺は半ば泣きそうになっていた。

184:2014/06/05(木) 23:34:20 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ「あんた馬鹿ね」

カップをテーブルに置いたツンが、不意に口を開いた。その姿はどこか気品があり、深淵の令嬢なんて言葉がしっくり来るような振る舞いだった。

ξ゚⊿゚)ξ「私とあんた、年齢なんかほとんど変わらないのに怯えすぎよ」

从;'ー'从「あぅぅ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた例の忌み子でしょ? だから気を使ってるってわけ?」

从'ー'从「っ……」

<忌み子>という言葉をツンが口にした瞬間、渡辺はこの場から逃げたしたくなった。

本当は心のどこかで期待していたのだ。あの時自分を助けてくれた彼女なら、そんな言葉など関係なく一人の人間として接してくれるのではないかと。

学校という閉鎖された場所で、そばにいてくれる存在になってくれるかもしれないと。

だが、ツンは口にしてしまった。絶対に聞きたくなかった言葉を。

从 ー 从「あはは、ごめんなさい。私みたいな忌み子が、生意気に━━」

ξ゚⊿゚)ξ「だから馬鹿だっていってんのよ」

从'ー'从「!?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた<忌み子>って言葉に甘えすぎてない? そんなだから周りに舐められるのよ。自分は自分だって強く持てないから馬鹿にされるの」

从;'ー'从「で、でも、私は」

ξ゚⊿゚)ξ「でももへちまもないっての。自信のなさが体全体から滲み出てる。学校であんたのこと何回か見たことあるけど、いっつも下向いて全部の不幸を背負ったような顔をして、私そういうやつ嫌いなのよ」

从 ー 从「だって、仕方ないよ。私は<忌み子>で、許されない存在なんだもん。周りに不幸をばら蒔いて、破滅をもたらす人間で……だから……」

ξ゚⊿゚)ξ「けど、あんた人を救ったわよね。結界が消えたとき、身を呈してさ」

从'ー'从「ふぇ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ひょろっちい冴えない顔した男のこと庇って戦ってたじゃない。それこそ沢山の魔物に囲まれて、勝ち目の薄い戦いに」

从'ー'从「それは……」

ξ゚⊿゚)ξ「なかなかできることじゃないわ。誰だって自分の身が可愛いものよ。それでもあんたは戦った」

ツンはどこまでも真っ直ぐに、渡辺の瞳を見つめる。渡辺はその視線から目を反らせない。

ξ゚⊿゚)ξ「もういいんじゃない? 自分を卑下するの。自信持ちなさいよ」

185:2014/06/05(木) 23:35:05 ID:V0EQBG/A0
从'ー'从「……」

ξ゚⊿゚)ξ「私さ、あの時近くにいたの。魔物が沢山沸いてくるなか、どうしていいか分からなかった。本物の戦場を見て何も出来なかったの。死んじゃうかも知れないって思ったら足がすくんじゃった。普通の人だったらみんなそうだと思う。あんな大きな魔物を見れば誰だって怖いわ」

从'ー'从「あれは、どっくんが……」

ξ゚⊿゚)ξ「理由なんてなんでもいいのよ。命をかけて戦った、この事実はどうやったって変わらない。あんたは胸を張っていいの。<忌み子>だろうとなかろうと、ね」

渡辺はツンの言葉を心の中で反芻する。戦った理由は些細な理由だ。初めて触れた優しさにすがっただけの、偽善、依存。けして褒められたものではない。

けれど、目の前の少女はその事実でさえ認めてくれている。お前はよくやった、と。誰にも真似できないことをやってのけたんだ、と。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、私はあんたと友達になりたいなって、ずっと思ってたんだけど、あんたは<忌み子>だからって拒否するの?」

从'ー'从「私といたら、きっとツンちゃんも変な目で見られるよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「勝手に言わせとけばいいじゃない。肝心な時に何もできない腰抜けどもより、私はあんたのことをもっと知りたい。<忌み子>だとか言われても、誰かのために動けるあんたと私は一緒にいたい」

ツンはそう言ってにこりと笑った。渡辺の全てを知り、それでも渡辺を知りたいのだと言ってくれた。

この手を、取ってもいいのだろうか。

信じてもいいのだろうか。

一人で歩くことしか出来なかった自分は、誰かと共に歩いても許されるのだろうか。

从'ー'从「私は……」

それでも、心が求めている。暗く深い孤独の道から解放されることを。

誰かと繋がっていたい、誰かと話してみたい。

それを理解した瞬間、渡辺は溢れる涙を止めることが出来なかった。

从;ー;从「ふえぇー」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ここは泣くとこじゃないわよ。笑顔でよろしくっていうとこでしょ」

从;ー;从「よろしくだよぉ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう、これ使いなさい。まったく、子供じゃないんだから」

ツンがハンカチを差し出してくる。そんな些細なことがどうしようもなく嬉しかった。

186:2014/06/05(木) 23:36:18 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`)「で、説明をお願いします」

日が完全に沈み一番星が輝きだした頃、ショボンの執務室に呼び出されたドクオはいの一番にそう尋ねた。

この場にいるのはドクオの他にモララーとショボン、プラス監視役のしぃ。誰も彼も難しい顔でドクオは居心地が悪い。

( ・∀・)「副団長の前だ。もう少しシャキッとしろ」

('A`)「俺は騎士団じゃないんですが」

(´・ω・`)「構わん。そのまま聞いてくれ」

椅子に深く腰かけたショボンが近くにあった端末を操作すると、三人の前にいくつかの文字が浮かび上がった。

(´・ω・`)「今回君たちを呼び出したのは、王都の近くに潜伏している黒の魔術団のアジトの襲撃のためだ」

('A`)「は」

あまりに物騒なショボンの言葉にドクオは思わず絶句した。

( ・∀・)「ま、申請書を出した私からしてもこうなるんじゃないかと薄々思ってましたよ」

('A`)「ちょ、ちょっと待ってください。今襲撃って言いましたよね? なんで俺が呼び出されたんですか?」

あまりにも予想をかけ離れた話に、ドクオは狼狽する。自分はたまたま巻き込まれただけで、戦闘力など皆無である。戦いかたなどほとんど分からない。

(´・ω・`)「それも含めて私から話そう。以前からモララーに頼んでいた黒の魔術団の動向についてなのだが、モララーの力によって潜伏先が判明した。しかし、皆も知るように現状王都には戦力が少ない。残っているのは殆ど魔法が使えるだけの非戦闘員だ」

( ・∀・)「ジョルジュ団長達が遠征に行っていますからね」

(´・ω・`)「残り少ない戦闘員を使ってしまっては王都の守りが薄くなってしまう。そこで、私は少数精鋭にて短期決戦をかけることにした」

(*゚ー゚)「それがこのメンバーということですか?」

187:2014/06/05(木) 23:37:29 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「うむ。敵の有する戦力が未知数である以上、下手な戦力では逆に返り討ちにされかねないからな」

('A`)「だからどうして俺がいるんですか」

( ・∀・)「お前はここに来てから二回の戦闘を経験してるだろ。どっちとも並みの実力じゃ生き残るのは難しかった」

(´・ω・`)「加えて、君には不思議な力がある。報告書で読んだよ。なんでもニダーの魔法を消したそうじゃないか」

('A`)「……」

確かにドクオの記憶違いでなければそんなこともあったような気がする。とは言え、過去の戦闘は偶発的に巻き込まれ、たまたま生き残れたに過ぎないとドクオは思っている。

(´・ω・`)「こんな状況だからな、我々騎士団もあまり多くの選択肢がない。力を貸してはくれないだろうか」

ショボンは立ち上がると、深々と頭を下げる。

('A`;)「いや、あなた偉い人でしょ? 頭下げちゃ駄目じゃないですか」

( ・∀・)「それくらい切羽詰まってるってことくらい分かれ。騎士団のナンバーツーが頭下げるってことは、そういうことなんだよ」

(*゚ー゚)「やはりお馬鹿さんですね」

('A`)「なんか俺が悪いみたいになってるんですけどー」

どうやら逃げ場はないようだ。それに、こちらに来てから何から何まで世話になっている。

ドクオは深々と溜め息を吐いて、

('A`)「まぁ分かりましたよ。とは言っても、あんまり期待できないと思いますよ? ろくすっぽ運動なんてしたことありませんし」

(´・ω・`)「構わないさ。不確定な要素も多分に含んでいるからな。さて、ドクオの了承も得られたことだし、具体的な話に移ろう」

ショボンが浮かんだ文字と地図を用いて話を進めていくが、ドクオはあまり頭に入っていなかった。

何せド素人である自分が本格的な戦場に赴くのだ。気が気ではない。

('A`)(確かにこういう展開を妄想しなかった訳じゃないが、なんかなぁ)

話し合いが進むなか、ドクオは自分の命ってなんだろうとつくづく思うのだった。

188:2014/06/05(木) 23:38:27 ID:V0EQBG/A0




話し合いが終わり、ショボンとモララーだけが部屋に残っていた。先程のような張りつめた空気はどこにもない。

( ・∀・)「しかし、本当にあいつを使うつもりなんですか? 言っちゃ悪いですが、足手まといですよ」

モララーは何でもないように言うが、実際は不安でならなかった。異世界から来た謎の男、加えてその実力は未知数。戦闘に関しては昼間の様子では期待できそうもない。

おまけに黒の魔術団の目的が彼の持つ魔剣であることは一目瞭然。もしかしたらドクオそのものも目標に入っているかもしれないのだ。そんなものを連れて歩いてはこちらに危険が及ばないとも限らない。

(´・ω・`)「お前の言いたいことも分かるさ。だが、どうにも胸騒ぎがするんだ」

( ・∀・)「と言いますと?」

(´・ω・`)「ドクオは、いや魔剣は、本当に黒の魔術団だけが狙っているんだろうか」

( ・∀・)「はい?」

(´・ω・`)「お前も変だと思わないか? ここまで、彼を中心に全てが動いていることに」

189:2014/06/05(木) 23:39:14 ID:V0EQBG/A0
( ・∀・)「ま、確かにそれは俺も思っていたことではあります。ですが、仮にそれが本当だとすれば、俺たちは何を信じて剣を取ればいいんでしょうかね」

騎士団とは国を守り、街を守り、人を守るための組織だ。悪を挫き、弱きを守る、そのために手段は撰ばない。

しかし、仮にその悪が守るべきはずのものだとしたら、騎士団とは何のために戦えばいいのか。

(´・ω・`)「もちろん杞憂であることを願うばかりだが、それでもその時が来たときのことを覚悟しなければならない」

( ・∀・)「俺達は騎士団である前に一人の人間です。いつだって自分が可愛いもんですよ」

(´・ω・`)「それも真理だな。しかし僕達が持つ誇りや信念が嘘ではないと民衆に啓蒙しなければならない。それが出来なければ騎士団なんていう組織は必要あるまいさ」

( ・∀・)「副団長ともあろう方がそんなことを言っていいんですか? 下が聞いたら泣きますよ」

(´・ω・`)「何が大切かを自分の意思で決められないのなら、死んでいるも同然だ。そんな腰抜けなどこちらから願い下げだ」

( ・∀・)「そいつはごもっともですね。俺だったらその場で打ち首です」

(´・ω・`)「そのためにも僕達は確かめなければならない。すでに賽は投げられている」

( ・∀・)「裏目に出ないといいですがねぇ」

(´・ω・`)「その時はその時さ。あちらではジョルジュがブーンに接触を図ったと聞くし、面倒ごとはあいつがなんとかするだろう」

( ・∀・)「上に立つ方々は背負うものが多いですね。俺はこれ以上持てませんよ」

そう言ってモララーは背を向ける。

(´・ω・`)「お前も気付かない間にこうなるんだよ」

ショボンの言葉に、モララーは何も言わずに部屋を出た。

190:2014/06/05(木) 23:41:01 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとねー、それでどっくんがねー」

渡辺と話すようになってから数日、ツンは何度も聞いたどっくん━━ドクオの話に辟易していた。

今までろくに人付き合いのなかった渡辺にはどんな話題が適切なのかもよく分からないのだろうが、それにしたって口を開けばドクオドクオ、たまに魔法理論というのはいかがなものか。傍目にはノロケにしか聞こえない。

それに文句も言わず付き合う自分もどうかとは思うが、楽しそうに話す渡辺を見ると、一生懸命に気を引こうとする子犬のように見えるのだ。

要するに、可愛い。

ξ゚?゚)ξ「あーもう、ドクオの話は分かったわよ。それよりもあんた昇級試験の資料は出来上がったの?」

从'ー'从「えー、ここからがいいところなんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「ってまだ半分くらいしか出来てないじゃない。このままじゃまた見習いのままよ?」

从'ー'从「うー、でもでも、頭の中ではもう完璧に出来上がってるんだよぉ〜」

ξ゚?゚)ξ「だったらそれをきっちり書け! 手を抜くな! この年で見習いだなんてあんたくらいのもんよ?」

从'ー'从「はぁ〜い」

少し膨れた渡辺が再び資料に向かうのを見て、ツンはクスリと笑う。表情がコロコロ変わる彼女は見ていて飽きない。

周りは<忌み子>だ<悪魔>だと騒ぎ立てるが、彼女を知れば知るほどそんなものとは無縁の存在だと感じる。元々が心根の優しい子なのだろう。自分とは正反対だ。

191:2014/06/05(木) 23:41:43 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ(羨ましいな。私はこんな風になれない)

よってたかって虐げられて、それでも健気に前を向けるだろうか、と自問する。自分には無理だ。プライドの高い自分はきっと周囲の期待通り世界を憎み、他人を怨み、心の底から全てをぶち壊してやろうと動き続けるだろう。

それほどに、<忌み子>という悪習は深く根を張ってしまっている。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺、あんたは……」

言いかけて、やめた。

聞いたところでそんなものは自己満足だ。こうして渡辺のそばにいること自体どうしようもなく後ろめたいのに、さらに恥を上塗りしてどうするというのか。

从'ー'从「なぁに〜?」

ξ゚⊿゚)ξ「救いようがないくらい馬鹿だって言おうとしたのよ」

从'ー'从「さっきから馬鹿馬鹿言わないでよぉ〜」

この心地よい時間がいつまでも続けばいいのに。

そんな願いは絶対に叶わないことをツンは知っている。

そのために、ツンはここにいるのだから。

192:2014/06/05(木) 23:42:37 ID:V0EQBG/A0




王都からそれほど離れていない小さな廃村に、数人の魔法使いが集まっていた。ドクオがよく見るような三角帽子にマントといった格好ではなく、各々好きなファッションに身を包んだ━━どちらかと言えば厨二的なファッションである。元いた世界であれば彼らはドキュンと評されるだろうなとドクオは思う。

('A`)「いっぱいいますよ、あれ」

後方にいるモララーは奇襲のために使う設置型の魔法陣をそこかしこに設置しながら心底どうでもよさそうに答えた。

( ・∀・)「よかったな、沢山遊んでもらえるぞ」

('A`)「この場合男である俺はどんな目に合うんでしょうか」

( ・∀・)「なぁに死にはしないさ。死んだ方がましだろうけどな」

('A`)「俺なんでここにいるんだよ」

モララーはそこで興味をなくしたらしく、ドクオの言葉に返事をせず、代わりに偵察から帰ってきたショボンとしぃに声をかける。

( ・∀・)「どんなもんですか?」

(´・ω・`)「予想通りってところか。大がかりな陣を組んでいるところを見ると、それなりに重要な拠点だろうな」

(*゚ー゚)「しかし、いるのはしたっぱばかりな気もします」

('A`)「大事なところを留守にするっておかしくないか」

193:2014/06/05(木) 23:43:45 ID:smIulIUk0

(´・ω・`)「何、さっさと終わらせて吐かせればいい話さ」

( ・∀・)「まったくもってその通り。最近書類とのデートばかりで運動不足なんだ。派手に踊らせてもらうぜ」

(´・ω・`)「では、そろそろ所定の位置につこうか。合図はモララーに任せるぞ」

( ・∀・)「了解」

(´・ω・`)「ドクオはモララーから離れるな。万が一が発生したら身を隠して動くなよ。連絡手段は分かってるな?」

('A`)「了解」

(*゚ー゚)「副団長」

(´・ω・`)「ああ。行くぞ」

二人が所定の位置に付いたらドクオの端末に連絡が来る。あとはモララーのタイミングで突入だ。

('A`)「一応付け焼き刃の戦闘法は教わったけど、どこまで通用するのやら」

この数日、みっちりと剣術を叩き込まれたがはっきりいってうろ覚えである。構えだとかの基本をすっとばしてひたすら打ち合いをさせられた。あれが本番だったならドクオは軽く三桁は死んでいるだろう。

194:2014/06/05(木) 23:45:01 ID:smIulIUk0

( ・∀・)「あんなんでろくに戦えるわけあるか。お前は黙って隠れてりゃいいんだよ」

('A`)「だったら連れてこなきゃいいだろうに……」

悪態を吐いて、ドクオは煙草に火をつけた。命のやり取りだ、落ち着かなければ。

('A`)y━・~~「うまー」

こちらの煙草は値段が安い分味もマイルドであまり吸った気にならないが、ないよりはましだ。

( ・∀・)「なんだお前も煙草吸うのか。どれ、一本寄越せ」

('A`)y━・~~「モララーさんも喫煙者なの?」

( ・∀・)y━・~~「ふー。今はあんまり吸わないけどな。昔は戦場でよく吸ってた。気持ちが昂っちまうから落ち着くために、って感じでな」

('A`)y━・~~「似たような理由なんだな、どこも」

二人の煙草が根本まできっちりと灰に流れた頃、ドクオの端末に作戦開始の合図が入る。

( ・∀・)「さってと、派手に暴れさせてもらうか」

モララーが魔法陣を発動させる。そこから大小様々な球体が打ち上がり、眼下にいる魔法使い達に向かっていった。

( ・∀・)「いっくぜぇ!!」

爆音。周辺で巻き起こる爆発に敵は混乱し、右往左往している。その隙にモララーは空高く舞い上がり、持っていた多節式の槍を組み上げた。

( ・∀・)「ショウタイムだっ!!」

195:2014/06/05(木) 23:45:45 ID:smIulIUk0
◇◇◇◇

アジト襲撃の連絡を受けた彼女はクスクスと笑う。ここまで思い通りに動くともはや笑うしかない。何処までも愚かな連中だ。

川д川「作戦は順調、そしてここに恐れるものはいない。狙いは一つ、すでに手は打ってある」

彼女の視界にいるのは何も知らず、朗らかに過ごす一人の少女。今も幸せそうに最近出来た友人と喋りながら歩いている。

从'ー'从ξ゚⊿゚)ξ

自分が何者で、どんな存在で、何のために生きているのか。無知は罪だ。無知は言い訳にならない。

川д川「うふふ。これからが本当のパーティーよ。素敵な輪舞を踊りましょう。何から何まで仕組まれた絶望の輪舞を、ね」

196:2014/06/05(木) 23:46:29 ID:smIulIUk0
第三話 終

197:2014/06/05(木) 23:53:04 ID:5DeVuywY0
これにて第三話終了です
今回前後編にしてみました
できる限り短くしようと思うのですがどうにも一つの話がながったらしくなってしまいます
他の作者さんは短く綺麗に纏めてるのになぁと実力不足を痛感します
さて、次回投下はこのままいけば日曜日か月曜日になるかと思います
また予定が早まればその都度顔を出しますのでよろしくお願いします

198名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:54:53 ID:ZX6CGXVc0
おもしれー!!!
続きも期待してます
乙です

199名も無きAAのようです:2014/06/07(土) 03:04:37 ID:xsqt5PpkO
投下ペース早くていいね。勢いあるから余計に面白い。

200:2014/06/07(土) 04:33:26 ID:jU5rjelI0
なんか自分が思い描くように執筆が進まない……
これじゃない感が半端ないです
もしかしたら月曜日に間に合わないかもしれません

201名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 03:29:48 ID:fmAwUd.U0
>>200
無理せずマイペースでいいと思うますw
のんびり読ませて頂いてますよ〜

202:2014/06/08(日) 17:42:50 ID:0Jfq5erY0
どうも1です
やっと筆がのって来まして現在半分ほど書き上がっております
ただ調子にのって余計なこと書きまくってたので、推敲後もあまり短くはらなければまさかの前中後編になるやも……
とりあえず明日には間に合いそうだということのご報告です

203:2014/06/08(日) 17:44:41 ID:0Jfq5erY0
>>201
いらっしゃいませ
無理せず書いていきたいと思っておりますが、やはりスピードを意識してしまいます
売れない作家はスピード命なのですよ

204名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:28:07 ID:I9fNWMOY0
何かうまく言えないが
自分がおもしろいと思うものの本質を思い出したわ
ありがとう

205:2014/06/08(日) 23:47:56 ID:SOKdFUyk0
本日二回目の登場となります1です
今しがた第四話を書き終えたのですが、文章量が通常の1.5倍となってしまいました
ですので上のレスにある通り、今回は前中後編の三話編成でいきます
ろくに計画を立てられない作者ですいません
第四話の投下は明日の21時から24時の間に行います
それではまた

>>204
そう言っていただけると作者冥利につきます
今後も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします

206名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 03:15:50 ID:5jgAuYLcO
ω・)乙。これがブーン系初投下とか信じられないうまさだ。

207:2014/06/09(月) 06:11:11 ID:jAl3WcRQ0
>>206
自分ではあまりそう思えませんが、そう言っていただけるだけで小躍りしたくなります
今後もそう言っていただけるだけようひたすら書いていきますのでよろしくお願いいたします

ちょっとした提案なんですが、ブーン系が元々vipで書かれていたということですので
今後時間があればvipでも投下していきたいなぁと思っているのですが、皆様いかがでしょうか?
稚拙な文章をさらに大勢の方に晒すことになるのでちょっと緊張しますが
自分もブーン系作者としてデビューしてしまったので、多少なりとも貢献しようかと思っているのですが……
皆様の意見を頂ければ幸いです

208名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 12:31:30 ID:jgdEf9/w0
貢献とか気張った事は考えなくても、もっと多くの人に見てもらいたいとかなら投下したら良いと思うよ
でもこっちでも読みたいから、アモーレみたいにvipに投下しつつ創作板にも投下するとかのがいいかと

209名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 15:58:45 ID:/ZzRx.nI0
ヴぃp投下に不満はないけど投下するときはこのスレのURL貼った方がいいと思う まとめが付いたらそれでもいいと思うけど

210:2014/06/09(月) 23:20:51 ID:Q3Oqlw1I0
>>208>>209
見てもらいたいという気持ちはありますが、反応とか気になるんですよね……
vipってそういうとこ厳しいですし
とりあえず五話まで終わったら試験的にvip投下してみます
vipと創作の二重投下がよさそうなんで、そのようにします
あとはスレのURLですね
一応五話投下終了までは意見をお待ちしてます

では四話はっじまっるよー

211:2014/06/09(月) 23:22:46 ID:Q3Oqlw1I0




第四話「魔法使いの流儀・中編」



.

212:2014/06/09(月) 23:24:06 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

( ・∀・)「オラオラァァァァァァァァ!! やる気あんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怒声を浴びせながらモララーは多節式の槍を振るうと、前方にいた数人の魔法使いは為す術もなく一瞬で首を切断され絶命した。さらにモララーの後方からは閃光が迸り、地面を抉りながら周囲を殲滅していき、敵の兵士が悲鳴をあげながら熱に焼かれ、骨一つ残さず塵と帰した。

砂埃が舞い上がる中、疾走。一人の男が呆然と立っている。モララーに気付くと慌てて剣を構えたがすぐに身体を両断されて地に伏した。

と、モララーは身を屈める。次の瞬間四方八方から魔法弾が頭上を掠めていった。そのまま地を蹴り高く跳躍すると柄の節を分解し、広範囲を纏めて吹き飛ばす。着地と同時にモララーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、幾何学的な文字から複数の光弾が帯を引いて敵を穿つ。

本来であれば人のいない寂れた廃墟が建ち並ぶ村は、たった一人の男によって悲鳴と怒号が飛び交う鮮血の舞台へと変化していく。

モララーの声が聞こえる度に爆発、土煙、悲鳴があがるのはそれだけ圧倒的だということだ。

それにしても。

( ・∀・)「最っ高に昂ってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`)「人変わりすぎだろ、あれ」

普段の冷静沈着で少し皮肉屋なイケメンは、こと戦場に置いては過激で危険なちょっと尖ったナイフのような男になるらしい。ちょっと、どころの話ではないような気もするが。

少し離れてモララーの後ろをついて行っているが、近付きすぎれば攻撃に巻き込まれるし離れすぎては敵に狙われるというジレンマでドクオは身動きがとれなくなっていた。

ドクオも戦えないわけではないが、つい最近まで命のやり取りを経験していなかった一般人としてはごめん被りたいところである。

そもそもこんなところまでドクオが来る必要があったのかと問われると、正直口を閉ざすところだ。陽動として動いているものの、その役目はモララー一人で十分にお釣りが来る。始めに設置した自動迎撃型の魔法が有効に働いていることも理由の一つではあるが、何より設置した本人が怒濤の勢いで戦場を荒らし回っているからだ。

傍若無人に暴れまわっているように見えて意外にドクオ位置を計算して攻撃しているし、それを踏まえて効率よく戦力を潰していく回転の早さはまさに鬼神、彼の通った道には草木どころか道すら残らないかもしれない。

それにしても、とドクオは周囲を見渡した。

('A`)(たかだか一人にここまで苦戦するものなのか?)

213:2014/06/09(月) 23:25:15 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオは本当の意味で戦争というものを知らないが多少の知識くらいはある。ドクオから見てもモララーの強さが異常だということは分かる。比較対象は渡辺やしぃくらいだが、その二人が足元に及ばないレベルだろう。

だが、敵の数はざっと見ただけで百人を優に越えている。然るべき戦術に適切な人数を投入すれば撃破できない、というほどの差は感じない。ドクオというお荷物を抱えているのなら尚更だ。

にも関わらず、ここまで一方的な戦いになっているのはどういうことなのだろう。

('A`)(敵にとってそこまで重要な場所じゃないのか? それとも単に指揮をとる人間が無能ってことか?)

どちらにせよここを死守しようとする意思が感じられない。このままでは敵方の被害は大きくなるばかりで、意味のない戦いをしていることになる。

そもそもこの戦いの目的はなんだろうか。ドクオ達は黒の魔術団の手懸かりを掴みにここにいる。

もし、仮にここが重要な拠点であれば敵もそれなりの戦力と戦術でこちらを潰そうとするだろう。

ではそうでないとしたら?

ここには何もなく、戦うことが目的なのだとすれば、その意味はなんだ?

('A`)(……時間稼ぎ)

ドクオの脳裏に嫌な予感がよぎる。

予想が当たっているとすれば、敵の意図は別にあるということだ。

ならばそれはなんだ? どこに着地点がある?

ドクオは考える。自分が持つ知識と経験の中に思い当たる節はあるか。

ドクオが巻き込まれた事件は二つ。こちらの世界に来る切っ掛けとなった結界消失事件。王都中に大勢の魔物が出現し、王都にも甚大な被害が出た。二つ目は時計塔広場でのニダーとの交戦。結界消失の際、渡辺に異常とも言える執着心を見せていた。

214:2014/06/09(月) 23:26:49 ID:Q3Oqlw1I0
そして今回の件。この三つに共通しているのは全てにドクオと渡辺が関わっていること。加えて時計塔広場の件を除き、黒の魔術団が関連している。

例えば、そう例えば、自意識過剰の可能性もあるが、黒の魔術団の狙いがドクオだとしたら? ドクオと言わず、ドクオが持っている剣が目的だとしたら?

('A`;)「……まさか」

思い過ごしの可能性だってある。確信はないのだ。だが、この奇妙な一致は偶然で片付けられるのだろうか。

思えば初めてこの世界に来たときから魔物はドクオの周りに集中していた。その背後に何があったのかは分からないが、今でははっきりと黒の魔術団が関連していることを知っているのだ。

ここまでくれば勘違いではない。もはや限りなく真実に近い推測だろう。

('A`)(けど、なんでここにいるやつらは俺を狙ってこない?)

ここにドクオをとどめておくことに意味があるのか、それともここにドクオがいることに気付いていないのか。そのどちらかである可能性が高いが、前者ならば本命の意図が不明だ。だが、恐らくここにいる意味はない。

ドクオはこの考えをショボンに伝えるためポケットに入れた端末を取り出そうとして━━

━━ドクン

( A ;)「がっ……」

がくりと膝を折った。

頭が割れるように痛い。何かが流れ込んでくる。

ニダーとの戦いで感じたような衝動に似た痛み。ドクオの大切な部分に直接働きかける何か。

不快感が体を這いずり回り、胃液が逆流しそうになる。絶対に合わない部品を強引に合わせようとするような違和感がじわじわと広がって、ドクオの意識は闇へと引きずり込まれていく。

その間際、黒く塗りつぶされた王都が見えた。渡辺と、見たことのない巻き毛の少女も。

( A ;)(なん……だ、これ……)

二人が動き出す瞬間、ドクオは意識を手放した。

215:2014/06/09(月) 23:28:07 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

从;'ー'从「はっ、はっ……」

渡辺はただひたすらにヴィップラ地区を走っていた。運動不足だからではなく、走ることしか出来ないからだ。本来の移動手段である箒は魔力の伝達がうまくいかずにその辺に捨て置いた。あんなものを持ちながら走るなんてとんでもない。

渡辺の後方からは見たことのない生き物のような物体が追いかけてきている。楕円形で中心に赤い瞳のようなものがついており、背と思われるところからは羽がついているものの、それを羽ばたかせて飛んでいるわけではないようだ。

その物体は渡辺が射線上に入ると瞳から短いビームを放つので、渡辺は出来る限り距離をとりつつうまく攻撃を交わしている。

从;'ー'从「ふえぇー、なんで追いかけてくれるのよぉ〜!!」

渡辺が思いきり叫んでも楕円形の物体は容赦なく攻撃を放ってくる。言葉を解さないことを考えても、あれは魔導人形の一部なのかもしれない。

だとすれば操っている術者が近くにいるはずだが、渡辺が襲われた地点から大分離れている。術者も一緒に追いかけてきているのか、はたまた自律型のものなのかは渡辺には理解できなかったが、あれが渡辺を確実に狙っているのはわかっていた。

もし仮にあの物体は渡辺のマナを覚えていてそこからこちらの姿を追ってきている場合はアウトだが、そうでないなら━━

从;'ー'从「こっちだよぉ〜」

人気の少ない裏通りの曲がり道を左に曲がり、さらに右に曲がる。ヴィップラ地区は商業区であるため店が立ち並んでいるのだが、それはあくまでメインストリート周辺に限られているのだ。奥に行けば行くほど人も立ち寄らないし、以前開業したはずの店も客足の悪さに閉店しそのまま放置された空き家が多い。渡辺はそこに身を潜めることにしたのである。

216:2014/06/09(月) 23:29:01 ID:Q3Oqlw1I0
元々この周辺は渡辺の庭だ。幼少期からあまり人と接することの出来なかった彼女は人気の少ないこういう場所しか出歩けなかった。

从;'ー'从(反撃したいけど、魔法が使えないんだよぉ〜。困ったなぁ)

事の起こりは王都を覆う結界の異変だった。なんの前触れもなく唐突に、結界は黒く変色したのである。そして、それを境に王都の至るところで魔法が使えないという報告が相次いでいるようだ。

その時渡辺は資料の完成を祝うためにツンと街に繰り出しており、結界が黒くなる瞬間を見ていたのだが、それと同時にあの飛行物体が襲撃してきたことで渡辺はツンとはぐれてしまったのだった。

ツンも心配だが、とにかく今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。魔法が使えない以上、今の武器は土地勘だけ。

ならばそれを精一杯利用してあれを無力化するしかない。

廃墟から少し顔を出して辺りを窺うが、動くものはないようだ。どうやらあれはマナや魔力で標的を探索するタイプではないらしい。そばによらなければ追ってはこないだろう。

从'ー'从(でも、なんで私の事狙ってたのかなぁ)

王都の内部で魔法を使えなくする、というのは分かる。王都が抱える戦力の殆どが魔法使いである以上これは最も効果がある。

だが、王族や騎士団の重鎮を狙うのではなく何故渡辺なのかがさっぱり分からない。思い当たる節があるとすれば自分が<忌み子>だからだろうか。

だとして、こんな大がかりな仕掛けを施す理由は?

普段あまり使うことのない頭をフル回転させるが理由は見当たらない。そもそも渡辺が目にしたのは自分が狙われているという事実だけであり、他の場所で別の人が襲われている可能性も否定はできないのだ。

217:2014/06/09(月) 23:29:56 ID:Q3Oqlw1I0
从'ー'从「やっぱり、もう一回街に戻って様子を見てきた方がいいかなぁ」

渡辺が廃墟から一歩出ようとして、すぐにやめた。

从'ー'从(……誰?)

足音が聞こえる。魔物のような大きい足音ではない。コツコツとヒールが石畳を叩くような音だ。

川д川「隠れてないで、出てきたらいかが?」

若い女の声が聞こえた。誰に向けての言葉なのか、渡辺には判断ができない。他に誰かがいるのかもしれない。

渡辺は体を強ばらせてじっと耐える。出来ることなら自分に気付かないでくれ。そう願いながら。

川д川「クスクス、かくれんぼなんて歳でもないのだけれど、いいわ」

女の周りでひゅんと何かを振る音がした。大丈夫、今王都で魔法は使えない。

川д川「見つけてあげる」

女の声を合図に、周囲の建物が崩れ始めた。渡辺は慌てて廃墟を飛び出すが、女はこちらを見付けるとにやりと笑い、持っていた杖から魔方陣を呼び出した。

从;'ー'从(魔法は使えないはずじゃ……)

一瞬の思考が渡辺の行動を遅らせた。女が放つ黒い光が渡辺に当たると、ぱっとはじけ、途端に渡辺は地面に倒れこんだ。

从;'ー'从(か、体が、重い……)

まるで地面に縫い付けられたように体があがらず、立ち上がることはおろか指を動かすことすら出来なかった。

川д川「ふふふ、残念だったわね。貴女に恨みはないけれど、私達のために死んでいただけるかしら?」

渡辺は反論したかったが、声がでない。少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。

川д川「<忌み子>だなんて言ったところで所詮他の人と何も変わらないのに、悲しい話だわ。きっと貴女を殺すのは私ではなく、そう願う他人の悪意。恨むなら世界を恨みなさいな」

女はそれだけを言うと杖をこちらに向けた。こんな至近距離で魔法を使われれば、待っているのは確実な死である。

逃げようと渡辺は体に命令を下すが、なんの魔法なのか体は言うことを聞かない。どころか徐々に悲鳴をあげて筋肉からぶちぶちという音と共に刺すような痛みが走った。

川д川「さようなら、不幸な仔猫ちゃん」

死を覚悟し、目を閉じる。残された策はない。最後にドクオの顔を見たかった。

从 ー 从(さよなら……)

218:2014/06/09(月) 23:31:29 ID:Q3Oqlw1I0
ξ#゚⊿゚)ξ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの怒号。そして爆発。渡辺は爆風で吹き飛ぶが、誰かに抱えられて衝撃はなかった。

从'ー'从「ツンちゃん!?」

ξ゚⊿゚)ξ「話はあと!! 逃げるわよ!!」

ツンは渡辺を抱き抱えたまま宙を舞う。そのまま一気に加速すると、景色が早送りのように流れていった。

川д川「少しおいたが過ぎるんじゃないかしら。━━のく━━」

女の声が遠くから聞こえてきたが、最後まで聞き取ることは出来ず、やがて意識は途絶えてしまった。

219:2014/06/09(月) 23:32:18 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

彼女はいつも一人きりで、彼女の知る世界は使用人が数人と広い大きな屋敷の中だけだった。外の世界があることは知識として知っていたが出たことはない。

屋敷の中には同年代の者はいなかったし、彼女には常にやるべきことがあったから年相応の遊びを知らぬまま育ったのですることといえば魔法の勉強と書庫にある読書だけ。おかげで使用人達より博識になったし、その知識を応用できるだけの基礎は身に付いたと思っている。

しかし、彼女はたくさんの使用人に囲まれながらいつも孤独だった。

使用人と言葉を交わすのは必要なことと勉強中の質問だけ。故に独り言を口にするのがいつの間にか癖になっていた。

屋敷の中から見る外の景色はとても美しく、本の中の登場人物は皆イキイキとしていて自由に生きている。することのない屋敷の中なんて彼女にとってみれば牢獄も同然だった。そんな彼女だから外の世界というものに憧憬を抱くのは必然といっても過言ではなかったのかもしれない。

そんなある日、彼女はどうして自分は外に出てはいけないのかと使用人に尋ねてみた。普通の子供は外に出て友人を作り、日が暮れたら家に帰ってその日の出来事を話しながら家族と団欒を築くものではないのか、と。現に屋敷の周辺には多くの子供が遊びに来ていた。楽しそうに追いかけっこをして、朗らかに笑っているのを彼女は屋敷から見たことがある。

使用人の一人は彼女の問いに対し、あなたは選ばれた人間で周りの平凡な人間とは異なる道を歩まなければならない。それがあなたのためで、あなたはそのために生まれてきたのだ、と答えた。

自分だって子供なのに、他の人と違うなんてことに彼女は到底納得できるものではなかったが使用人が困った顔でそんなことを言うものだから彼女はそれ以上追求することが出来なかった。

220:2014/06/09(月) 23:33:10 ID:Q3Oqlw1I0
しかし、その日から使用人達と会話をする機会は格段に増えたように思う。彼女が寂しいと感じないよう、他人と違う生活をしていることに疑問を抱かないようにとの配慮だったのだろう。それから彼女はあまり孤独を感じることはなかった。

その数年後、彼女の人生に転機が訪れる。

彼女は両親が不在の理由を知らなかったし知ろうともしなかったのだが、その日は使用人達が朝から騒がしかったことから、何か重大なことがあったのだと推測していた。あの日から人が変わったように優しくなった使用人達に迷惑をかけたくなかったのだ。だから彼女は何かあれば使用人から話してくれるのを辛抱強く待った。今ではそれが間違いであったと酷く後悔している。

使用人達はその日からよそよそしい態度になり、彼女とあまり口を利かなくなってしまった。それは今だけだと彼女は信じていたが、それから使用人と会話をした記憶は、彼女が屋敷を出る最後の日だけとなる。

使用人との会話がなくなった翌週のことだった。彼女はいつも通りに起きて、いつものように勉強と読書に明け暮れていたのだが、お昼を回った頃に一人の男が訪ねてきた。今日から彼女の雇い主なのだという。

訳が分からず話を聞こうと使用人に説明を求めると、彼女の両親が亡くなったこと、お屋敷や他の土地などの資産は売りに出されてしまったことなどが明らかになった。つまり、今まで彼女は貴族と呼ばれるものだったが、彼女も気付かない間に落ちぶれ、全てを失っていたということだ。

221:2014/06/09(月) 23:33:58 ID:Q3Oqlw1I0
全てを知り、彼女は何も言わなかった。いや、言えなかった。彼女には知識が沢山あったが、見たことも聞いたこともない両親や自分の立場はどこか作り物のように感じられて現実感がまるでなかったのだ。使用人達は涙をこぼしながら謝罪の言葉を繰り返していたが、彼女はそれすら無感情に、機械的に返事をするだけで終わってしまった。

屋敷を後にしてから彼女の生活は一変する。今までのように勉強と読書だけでなく、炊事に洗濯掃除とやることは山のようにあった。しかし彼女は辛いとは思わなかった。屋敷の中から見ることしか出来なかった外の世界を出歩けたという満足感に満ち溢れていたから。どんな理不尽も、この空の青さを見れば耐えることができたのだ。

彼女が使用人として生活を始めてから一年後、今度は住む家そのものがなくなった。

彼女を雇っていた男が人身売買組織の親玉として検挙され、呆気なく騎士団に拘束、そのまま投獄されたのだ。彼女の他、彼に雇われた使用人達は屋敷を追われ食料を口にすることすら難しい生活へと身を落としてしまう。

彼女が昔思い描いた外の世界とはこんなにも無情なものだっただろうか。空は青く、空気は澄んでいて、人の心は暖かかったはずなのに、自分がいるこの場所はどうしてこんなにも醜いのだろう。

そんなことを考えながら、一人また一人と元使用人の仲間達が倒れていく。彼女は再び孤独になった。

最後に食事をしたのは何日前だったのかも分からなくなった頃、彼女は一人の少女と出会う。

住む家があり、食事も出せる。しかし一人では広すぎる家は寂しいし、自分は友達すらいない。よければ友達になってほしい。

人の温もりに触れ凍った心が雪解けの水のように流れていくのを感じた。彼女はこの恩を忘れない、どれだけ時間がかかったって必ず返すと約束して少女の友達となった。

それから一月も経たず、彼女は黒の魔術団の道具として生きることを余儀なくされた。

かつての友達に別れを告げられず、ありがとうさえ言えないままで。

222:2014/06/09(月) 23:36:39 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

(うA-)「んっ……」

意識が戻り、体を起こす。いつの間にか廃屋に放置されたボロボロのベッドのようなものに寝かされていた。モララーか誰かが避難させてくれたのだろう。

辺りを見渡すが、敵も味方もいない。静寂だけが漂っている。足音も、声も聞こえない。戦いはどうなったのか。

('A`)(くそっ、こんなことしてる場合じゃねえってのに……)

意識が途切れる瞬間、様々なものが流れ込んできていた。それは王都の情景、渡辺とその傍らにいた女の声まではっきりと。

そして一番ドクオが気になっているのは━━

('A`)(巻き毛の女の、あれは過去か?)

見たことのない場所と人がいたなかで、ドクオはその場の全てが手に取るように分かっていた。使用人の感情も、心の声も、後悔も、少女の絶望や憎悪、そして、初めて触れた優しさに、彼女がどれだけ救われ、報われたかも。

('A`)(やっぱりこれは時間稼ぎだ。しかも狙いは俺じゃなくて、渡辺。俺が本命なんだろうが、その準備ってとこか)

動かした感じでは体に異常はない。ここに来てから見ていただけなのだから当たり前だ。

('A`)「とにかく王都に戻んないと。取り返しが付かなくなる」

ドクオが外に出ると、壊れて廃れた村はさらに破壊を撒き散らされて見るも無惨な姿へと変わっていた。しかし動く者はなく、全てが終わったあとなのだと言うことを暗に悟ることが出来た。

( ・∀・)「よう」

223:2014/06/09(月) 23:38:31 ID:Q3Oqlw1I0
声の方を見ると、廃屋の屋根に腰かけたモララーと目があった。傷一つなく、程よい運動をした後のような爽やかさだ。

('A`)「戦いは?」

( ・∀・)「お前が寝てる間に終わったよ。世話かけさせやがって」

('A`)「悪い」

( ・∀・)「ま、あとは副団長の報告待ちだ。本調子じゃないなら休んどけ」

('A`)「そういうわけにはいかないんだ。急いで王都に戻らなきゃならない」

( ・∀・)「何?」

ドクオはこの戦いが時間稼ぎだということ、倒れる前に見た映像のこと、全てを丁寧に話していく。モララーは黙ってそれを聞いていたが、やがて。

( ・∀・)「駄目だ。お前が王都に行ったところで何ができる」

('A`)「戦える」

ドクオは問いに即答するが、モララーは槍の切っ先をドクオに向けて、さらに口を開いた。

( ・∀・)「お前は騎士団の人間じゃない。ただの一般人だ。戦う力だってあんのかどうかも分からない。今まではたまたま生き残れたけど、今度は? 残ってる連中もバカじゃあない。今頃対策を練っているはずだ。その上で、お前が行かなくちゃならない理由って、あるのか?」

('A`)「……」

モララーの言っていることは至極当然のことだ。いくら戦う力があるとはいえ、ドクオはあくまで守られる側の存在。そのために騎士団があり、魔法使いがいる。そこにドクオが割って入るということは、彼らの仕事を全て奪うことを意味している。誇りや矜持を、ドクオは否定するのだ。

( ・∀・)「やらなきゃならないことなら騎士団がやる。今回だって、要は大義名分のためなんだよ。本来ならここにいるべきじゃなかった」

モララーはそこで一度深く息を吸うと、はっきりと、凛とした声で

( ・∀・)「お前を行かせることはできない」

そう、言った。

( ・∀・)「連絡はいれとこう。王都がヤバイかもしれないってな。だから」

('A`)「関係ねえよ。大層なご高説ありがとさん。でも俺は行く」

224:2014/06/09(月) 23:40:09 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオはモララーの言葉を遮り、しっかりと彼の目を見据えて言い切った。

(# ・∀・) 「よく聞こえなかった。でももう言わなくていい。疲れてんなら休め」

('A`)「なあモララーさん。あんたも分かってると思うけど、俺はいつの間にかここにいた存在だ。騎士団が掲げるような大層なもんは持ってない」

いつだって逃げ出して、努力すら否定して、目を反らして生きてきた。ドクオはそんな自分が今でも嫌いだ。

('A`)「けど、ここで見たもの聞いたもの、触れたものや感じたものは俺を変えてくれたんだ。いや、まだ変わってなんかいないかもしれない。でも、きっかけをくれた。自分の今までを全部壊せるくらいすごいきっかけだ」

この世界に生きる彼女は、不幸な境遇でも諦めず、自分のように腐らず、真っ直ぐに前を見据えている。

('A`)「俺はその恩を返すために何かがしたい。王都なんて関係ない。そんなのは騎士団が守るものだろ。なら俺はたった一人のために、すごく大きくて、小さい一人のために行くんだ。そのために、力を貸してほしい」

言い終えて、ドクオは頭を下げる。モララーは槍を肩にかけ、沈黙した。

どれくらいの時間がたったか、長かったのか、短かったのかも分からない静寂の中、一枚の紙がドクオの足元にヒラヒラと舞い降りてくる。

( ・∀・)「王都に戻るマジックアイテム落としちまった。緊急用なんだよなぁ、いやぁどこで落としたんだろうな。しかもドクオは体調不良で先帰っちまうし、不幸だなぁ。まいったまいった」

顔を上げると、モララーは明後日の方を向いてけらけらと笑っていた。男のツンデレとかはやんねえよ、と思いながら、ドクオは感謝を口にする。

('A`)「終わったら飲みにいこうぜ。あんたの奢りで」

( ・∀・)「お前の奢りだろばかたれ」

それだけ言ってドクオはマジックアイテムを手にして、強く願う。

('A`)「俺をあいつのもとに連れてってくれ」

ドクオの体は淡い光に包まれ、視界がノイズのように荒れていく。

( ・∀・)「精々気張れよ」

モララーの声を背にして、ドクオは王都へと単身乗り込んだ。

225:2014/06/09(月) 23:40:54 ID:Q3Oqlw1I0





光となって王都へと飛んだドクオを見送って、モララーは煙草に火をつけた。

( ・∀・)y━・~~「ふー。で、いつまで隠れてるんです、副団長」

モララーが声をかけると、隣の廃屋からショボンがひょこりと顔を出した。しぃも一緒にいる。

( ・∀・)y━・~~「盗み聞きなんてらしくないですよ」

(´・ω・`)「声をかけるタイミングを逃してしまってな」

ショボンはそう言うと、モララーと同じように煙草をくわえる。そう言えば彼も愛煙家だった。

(´・ω・`)y━・~~「ふー。さて、我々も帰るとしよう。ここには大したものはなかった。また一から情報を集めないとな」

( ・∀・)y━・~~「俺にお咎めはないんですか? 重大な規律違反ですが」

(´・ω・`)y━・~~「私は何も見ていない。つい先程ここに到着したばかりだからな。そうだろう、しぃ」

(*゚ー゚)「はい。転送魔法のようなものがこちらに来る際に見えましたが、それだけです」

(´・ω・`)y━・~~「だそうだ」

( ・∀・)y━・~~「都合がいいですね。それに助けられる俺も俺ですが」

(´・ω・`)y━・~~「この間言っただろう。我々は騎士団である前に一人の人間だと。僕には大事なものを守るために、無くしてはならないものを守るために戦う誰かの願いを無下には出来ないよ」

( ・∀・)「精々死んでないといいんですがね」

(*゚ー゚)「……馬鹿というのはしぶといものです。簡単には死にません」

(´・ω・`)y━・~~「だが、馬鹿じゃないと守れないものは沢山ある。組織という枠組みに嵌まっていては、絶対に届かないものがね」

(*゚ー゚)「……私には分かりません」

( ・∀・)「女子供じゃ分からないだろうよ。これは大人の男にしか理解出来ないんだ」

(*゚ー゚)「はぁ」

そう言って、モララーは空を見上げる。空は今日も青かった。

226:2014/06/09(月) 23:41:55 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

ツンと渡辺はヴィップラ地区の外れにある小屋に身を隠していた。魔法物体が未だ巡回しているため出歩くことも出来ないが、しばらくは時間を稼げるだろう、とツンの助言からである。

現在ツンは治癒魔法をかけてくれているが、口を利こうとはしなかった。何か事情を知っていそうではあるが、暗い顔で唇を噛みしめ、今にも泣いてしまいそうだ。

渡辺はわざと明るい声を出して、笑顔を作った。

从^ー^从「ツンちゃんありがとう〜。私死んじゃうかと思ったよぉ〜」

それに対し、ツンははっとしたような顔をするが、すぐに頭を横に振って、

ξ ⊿ )ξ「ごめんなさい。あんたが怪我をしたのは、私のせいだから、お礼なんか言わないで」

从'ー'从「でもでも、助けてくれたのもツンちゃんだよぉ〜。だから、やっぱりありがとうだと思うなぁ〜」

それだけのやり取りを終えると、ツンは再び口を閉じてしまった。いつの間にか治癒は終わっており、痛みはなくなっている。ツンは手持ち無沙汰になり、忙しなく視線を泳がせていた。

渡辺には、そんなツンが何かを言おうとして、どうすべきか分からない子供のように見えて、つい彼女の頭を撫でた。

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

从'ー'从「あのね、私は何が起きてるか分からないけど、ツンちゃんがそんな顔をしてると私も悲しくなるんだぁ〜。だからね、よかったらツンちゃんの抱えてる物、私に話してほしいな。何ができるか分からないけど、力になるよ。だって」

渡辺は笑う。今度は作った笑顔じゃなく、心の底から。

从^ー^从「友達だもん」

227:2014/06/09(月) 23:42:43 ID:Q3Oqlw1I0
その言葉に、ツンは目を見開きぱくぱくと口を開閉する。そして、耐えきれなくなったのか、ついには涙が溢れてきた。

ξ;⊿;)ξ「ごめん、なさい!! 私のせいで、貴女がこんな目に……」

渡辺はツンを優しく抱き締めた。子供をあやすように。

从'ー'从「大丈夫、大丈夫だよ。だから、何が起きているのか、話してほしいな」

渡辺の胸に顔を埋め、思いきり泣いたあと、ツンはぽつぽつと語り始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、黒の魔術団に所属しているの。今回、渡辺に近付いたのは、ドクオという男を捕らえるため」

从'ー'从「どっくんを?」

ξ゚⊿゚)ξ「あいつは、黒の魔術団が行った召喚魔法によって他の世界から呼び出された人間なの」

从'ー'从そ「ええー、そうだったんだ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「……そして、私の役割は渡辺をあいつから遠ざけるようにすることと、王都の結界に細工してこの街で魔法を使えないようにすることだった」

ツンはさらに詳しく話していく。王都の近くに分かりやすい囮を起き、そこで騎士団の連中を相手取り時間を稼ぐ。その隙に王都に残った連中を無力化し、ドクオを捕獲する手筈だったらしい。

しかし、ツンの狙いは外れ、ドクオは囮の方へと向かってしまった。しかも黒の魔術団の上司である先程の女━━貞子というらしい━━は何故か渡辺を狙っている。

ξ゚⊿゚)ξ「私が聞いた作戦内容とはまったく別の展開になってて、私は慌ててあんたを探してきたってわけ」

从'ー'从「そうだったんだ〜。あれれー? じゃあツンちゃんは味方じゃないの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、だからそう言ってるじゃない」

从'ー'从「それじゃあなんで私を助けてくれたの? ツンちゃんが敵なら私を助ける理由ってなかったんじゃないかなぁ〜」

228:2014/06/09(月) 23:43:31 ID:Q3Oqlw1I0
ツン、いや黒の魔術団の狙いがドクオならば、渡辺という少女が一人死んだところで特に問題はなかったはずだ。最終的にドクオが手に入ればツンの役目は終わるのだから。

危険を犯してまで、上司に反抗してまで渡辺を助けるメリットははっきり言って、ない。

ξ ⊿ )ξ「それは……」

ツンは再び言い淀み俯いた。しかしすぐに顔を上げると決意を秘めた瞳を渡辺に向ける。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺。私の顔、どこかで見た覚えはない? ずっと昔、貴女が魔法使いになる前の話よ」

229:2014/06/09(月) 23:44:26 ID:Q3Oqlw1I0
第四話 終

230:2014/06/09(月) 23:49:16 ID:Q3Oqlw1I0
これにて第四話終了です
次で渡辺の話は終わりの予定です
最近渡辺を書いているときのイメージが具体的に出てきてしまってにやにやしてます
どっくんとかも具体的な構想はあるんですが、めんどくさいので書きません
さて、次回投下は金曜日か日曜日です
今週は何かと忙しいので長い目で見ていただけると幸いです

231名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 23:55:58 ID:Cr2B2rhE0

続き楽しみにしてます

232名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 00:53:45 ID:2zaFXjO60
ドクオと渡辺の組み合わせはsnegな魔法少女思い出すな

233名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 02:37:49 ID:LqOITU7.0

ワタナベの友達増えて嬉しい
この作品のワタナベは幸せになって欲しいわー

234名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 07:11:02 ID:3Saa5kdY0
ええこや....

235名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 20:39:13 ID:CdJYFnog0
ワタナベと友達になりたいわ
黒の魔術団さん俺とか召喚してくれませんかね?

236:2014/06/12(木) 19:22:41 ID:tutYy7xU0
どうも1です
忙しくてなかなか顔を出せずすいません
投下の予定ですが、やはり日曜日で確定になります
いつも通り日付が変わる頃に投下しますのでよろしくお願いいたします

237:2014/06/15(日) 07:59:57 ID:uuUF14NA0
今日の夜21時から23時の間に投下します
1週間も投下しませんでしたが、これからしばらくはまた3日に1回程度の頻度になると思いますのでよろしくお願いいたします

238名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 10:02:53 ID:yeJ/gH3g0
きたきたー!

239名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:34:09 ID:XnLDIZkI0
待ってた

240名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:44:56 ID:2reeD9yE0
一週間くらい週刊誌だと思えばなんてことないやw
続き読ませてもらおうか

241:2014/06/15(日) 21:01:20 ID:aSUQjz8I0



第五話「魔法使いの流儀・後編」


.

242:2014/06/15(日) 21:03:10 ID:aSUQjz8I0
◇◇◇◇

渡辺の最初の記憶は沢山の人に囲まれて罵詈雑言を浴びせられたところからだった。皆口々にお前は悪魔の子だ、何故産まれてきたんだ、と心ない言葉を言う人達の表情は皆一様に醜く歪んでいた。

子供心に、自分がこんなことを言われるのは親がいないからだと思っていた。渡辺を育ててくれていたのはもう顔も覚えていない初老の男性だ。彼は初めに渡辺の親は亡くなっているのだと教えてくれたことを、はっきりと覚えている。

彼の口癖は、今は辛くとも必ずどこかに君の理解者がいる。その人が現れるまで負けちゃいけない。優しい心を忘れてはいけない。笑顔を絶やさず、誰かに優しくすれば、いつか世界は答えてくれるから。という根拠もない綺麗事だった。

渡辺には彼の言うことが漠然としか分からなかったが、笑顔でいること、人に優しくするということが幼い彼女にとってある種の指針になったのは間違いなかった。

それから渡辺はどれだけ石を投げられても、どれだけ酷い罵りを受けても笑顔でいたし、人に優しくすることを止めることはなかった。誰も彼女を認めてくれることはなかったけれど、それでも彼女は真っ直ぐでいられたのだ。

けれども渡辺は人知れず何度か泣いてしまったことがある。意地の悪い貴族の子供たちに集団で暴行を受けたとき、大切に見守っていた子猫達が近所の子供たちに殺されていたのを見たとき、そして、自分を育ててくれた初老の男性が亡くなった時。

一人でも生活出来るほどの歳になってはいたが、生まれて初めて見る人間の死というものを間近で見て、渡辺はどうしようもなく悲しくなった。この世界で唯一自分を人として見てくれた彼の存在は、渡辺の心の支えになっていたのだ。

寝たきりになり、口数の少なくなった彼は、それでも渡辺に笑顔でいろと、優しくいろと何度も何度も言っていた。

彼が亡くなる直前に言った言葉は今でもはっきりと思い出せる。

『世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだ。君が誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる』

そう言って動かなくなった彼のためのお墓は、土に埋めて目印である木片を立てる簡単なものでしかなかった。

それから彼女は彼の教えの通りに絶望せず、人を恨まず、険しい道のりを歩いてきた。渡辺と彼女が出会ったのはそんな時だ。

同じくらいの年齢なのに、みすぼらしくガリガリに痩せた少女は、渡辺の遊び場となっていたヴィップラ地区の裏路地で、虚ろな目をして壁に背を預けていた。

渡辺は迷わず彼女に食料を分け与え、身寄りがないことを知ると一人で住むには広すぎる家に招くことにした。嫌でなければずっとここにいてもいいよ、と言葉を添えて。

それから彼女とは友達になった。寂しかったのかもしれない。誰にも認められず、孤独な日々は渡辺に温もりを忘れさせていたから。

彼女が家に来てからは毎日が楽しかった。何をするにも一緒で、楽しいことも辛いことも彼女がいたから乗り越えられた。

共にいた一月ほどの時間は、今でも彼女の宝物だ。生まれて初めての友達だったから。

けれども、二人の楽しい日々は、呆気なく終わることとなる。

彼女は一人買い物に行ったまま、二度と戻ってくることはなかった。

買いに行った品物だけが、渡辺はどうしても思い出せない。

243:2014/06/15(日) 21:13:54 ID:ZFOD1W1k0
◇◇◇◇

王都に戻ったドクオは、結界が黒く変色している中をひたすら走っていた。道中楕円形の飛行物体にレーザーを撃たれたがすぐに粉砕して先を急ぐ。

('A`)(渡辺はどこにいるんだ!? 早く見つけないと、取り返しがつかないことになる!!)

現在どこにいるのかは分からないが、意識が断絶する瞬間に見た景色はヴィップラ地区なのだということは分かっている。記憶にないはずの光景なのに、何故かドクオはそう確信していた。

妙に冴え渡る頭と、走っても走っても尽きない体力、とてつもない運動能力は人間の範囲を越えている気もするが、それでも今はありがたい。そのおかげで誰かを救うために動けるのだから。

('A`)(どこだ、どこにいる。あの場所からそう離れてはいないはずだ)

川д川「あらあら、随分とお早い帰還ね」

('A`)「誰だ」

足を止めて声の方へと振り替えると、髪の長い長身の女が立っていた。杖を持っているところを見ると、魔法使いのようだ。

244名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 21:24:13 ID:k5sBsVUEO
きたか支援

245:2014/06/15(日) 21:25:33 ID:DLxT8URU0
川д川「初めまして、魔剣の主。私は貞子、あなたをこちらに呼び出した黒の魔術団の一人よ」

深くお辞儀をして、貞子はくすくすと笑う。前髪に隠れて目は見えないが、口元が嫌らしく歪に曲がっている。

('A`)「いきなり黒幕のお出ましとは運がいい。お前を倒せば結界も元に戻るんだろ?」

川д川「さあ? 試してみてはいかが? もっとも、その間にもあなたの探す女の子が醜い肉塊になっているかもしれないけれど」

('A`#)「ってめえ!!」

ドクオは怒りに任せて斬りかかるが、貞子の姿は陽炎のようにゆらりと揺れて見えなくなった。

川д川「随分と元気がいいのね。でも、今のあなたでは私の足元にも及ばない」

ドクオの背後から黒い塊が飛んでくる。慌てて剣を振ってそれを消し飛ばし、貞子へと踏み込むが、またも実体を掴めず、攻撃は空を切った。

('A`)「くっ、ちょこまか動きやがって」

再び貞子へと突撃し、攻撃、空振りを繰り返す。その間にも貞子の攻撃は激化し、徐々にではあるがドクオは押され始めていた。

('A`)(集中しろ。次の攻撃はどこから来る? どの位置なら俺に隙がでる?)

当たらぬ攻撃を何度も繰り返しながら、ドクオは考える。貞子の攻撃はいつも死角から。こちらの機動力を上回っているからこその行動。そこに付け入る隙はあるはずだ。

川д川「これ以上やっても無駄よ。元気のいい子は嫌いじゃないけれど、少し元気すぎるわあなた」

空振り。しかしドクオはすぐさま反転。
数歩の距離に貞子はいた。

('A`)(捉えた!!)

地を蹴り、爆発的な速度で距離を詰める。

川д川「あら」

('A`)「らぁぁぁぁぁ!!」

246:2014/06/15(日) 21:26:56 ID:DLxT8URU0
が、貞子は杖で剣を受け止めた。何の変哲もない、木の杖で。

('A`)「なっ」

川д川「まだまだね。その程度では」

魔方陣が浮かび上がり、瞬間、黒い帯がドクオを包んだ。

( A )「がっ」

外側ではなく体の内側を抉るような痛みに、ドクオはついに膝を折った。立ち上がっても、足が震えてバランスをうまく保てない。

結局、ドクオは倒れてしまった。

( A )「く……そ……」

体がうまく動かない。貞子に顔を向けて睨み付けるのが精一杯だった。

川д川「だらしないのね。もう少し楽しませてくれてもよかったのに」

そう言って、貞子は背を向けた。体がだんだんと透けていく。

『今日は顔見せだけで済ませておくわ。次に会ったときは楽しく踊りましょう』

('A`)「待て!! 渡辺はどこにいる!? お前らの目的はなんだ!?」

『ふふふ、自分の力で探してみなさい。あなたにはそれが出来るだけの力がある』

('A`)「なっ」

『私は一足先に目的を達するとするわ。ごきげんよう』

その言葉を最後に貞子の声は聞こえなくなる。

('A`#)「くそっ、早く渡辺を見つけないと」

しかし、これではっきりした。今回敵の目的は渡辺だ。ならばドクオのやることは一つ。

('A`)「待ってろよあの女。てめえらの好きにはさせねえぞ」

傷だらけの体を気合いで起こし、ドクオは再び王都を駆ける。まだ終わっちゃいない。体は動く。ならば、ここからが本番だ。

247:2014/06/15(日) 21:27:46 ID:DLxT8URU0
◇◇◇◇

ツンから全ての話を聞いた渡辺は震えが止まらなかった。買い物に行くと言って行方知れずだった少女が、大好きで大切だった彼女が、生まれて初めてできた唯一の友達が、今目の前にいる。

从;ー;从「あ……あぁ……」

生きていてくれた、再会できた。ずっとずっと会いたかった。

从;ー;从「ツンちゃん……ツンちゃ
ーん!!」

ξ;⊿;)ξ「渡辺!!」

二人はどちらともなく抱き締めあう。数年ぶりに見る彼女は大人の女性だが、記憶の片隅で息吹いている少女の面影は確かに残っていた。少しつり目になっているところも、なかなか素直になれないところも、全部全部昔のままだ。

从;ー;从「会いたかったよぉ!! 沢山探したんだよ!!」

ξ;⊿;)ξ「ごめんね、ごめんね……」

从;ー;从「ふえぇーん!! 許さない、許さないんだからぁ!!」

彼の言うことは間違っていなかった。人に優しく、笑顔でいれば、いつか世界は応えてくれる。この瞬間、いや、本当はずっと前から世界は渡辺に応えていたのだ。

ツンが生きていてくれたことが何よりの証拠。もしかしたら二度と会えないかも知れなかったのだから。

从うー;从「ツンちゃん今まで何してたのよぉ。ずっと心配してたんだよ?」

ξ;⊿;)ξ「私だって、会いたかった!! 今日まで生きてきて、あんたのこと忘れたことなんてなかった!!」

从;ー;从「私だって忘れたことないよ!!」

渡辺にとって、彼が亡くなってから初めて自分と対等に話が出来たのは、人として真っ直ぐに接することが出来たのはツンだけなのだ。忘れることなどできなかった。忘れようとしたって簡単には消えない大切や思い出だ。

ξ;⊿;)ξ「ほんとはずっと声をかけたかった、ちゃんと話をしたかった。勇気がでなくて、騙すようなことして……ごめんなさい……」

从;ー;从「いいよ、そんなの。ツンちゃんが今こうして目の前にいるんだもん。私は、それだけで十分だよ」

248:2014/06/15(日) 22:19:33 ID:7492edUQ0
これから沢山の話をしよう。ツンがいなくなったあとの話だ。魔法使いになったこと、友達ができたこと、きっと全部を話す頃には世が明けてしまうだろう。でも、そんなことは些細なことだ。だってこれからは隣にいてくれる。渡辺も隣にいる。

あのたった一月は、そう思えるほどに尊く、大切な日々だったから。

しばし二人で互いの存在を確認しあうように抱き合い、やがてツンは体を離した。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりあんたは変わってないわね、昔から。ずっと優しいままだわ」

从'ー'从「ツンちゃんだって、ずっと可愛いままだよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがと。でも、今はお互いを誉めちぎってる場合じゃないみたい」

从'ー'从「ほえ?」

ツンが渡辺を庇うように前へでる。辺りには誰もいないように見えた。

川д川「あら、意外に勘がいいのね。気付いていないのかと思ったのだけど」

やがて何もないはずの空間に黒い影が浮かんだかと思うと、ぐにゃりと歪んで人の形を作る。そこから、まるで旧友を訪ねるかのような気さくな態度で貞子が現れた。

从;'ー'从「嘘……」

249:2014/06/15(日) 22:34:51 ID:aSUQjz8I0
ξ゚⊿゚)ξ「こいつにとって距離なんて関係ないのよ。対象のマナさえ分かればどこにだっていけるし、現れる。私が今まで逃げ出せなかったのは、そのせいよ 」

川д川「逃げるだなんて、あなたを一人前に育て上げたのは誰だと思ってるのかしら」

心外だ、とばかりに貞子は言葉を投げるが、ツンは唾を吐き捨てるように忌々しそうに、

ξ゚⊿゚)ξ「人の命を道具としてしか見れないあんたに、育てたなんて言う資格あるわけないでしょ」

そう、はっきりと告げた。

川д川「反抗的な目つきね。一応、聞いておくわ。その娘を渡しなさい。そうすれば、今までのおいたも目を瞑ってあげる」

ξ゚⊿゚)ξ「断る! 私はあんたに利用されてたけど、この魂、プライドまで売り渡したわけじゃない! 渡辺はね、私を救ってくれた! 自分だって辛い目に合ってるのに、それをおくびにも出さずに私の手を取ってくれたのよ!? その恩も返さず、いなくなった私をまだ友達だと言ってくれる!」

ξ゚⊿゚)ξ「人を人だとも思わないようなあんたに、この気持ちは分からないでしょう! だから、私は渡辺を守る!」

ツンは声を張り上げ、高らかに宣言した。

対して貞子は余裕を崩さず、口元をにやりと歪め、

川д川「交渉決裂、ね。いいわ、少し痛い目を見て思い知りなさい」

持っていた杖を構えると、彼女の周囲からいくつもの黒い波動が巻き起こった。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺、離れてて。私が絶対に守ってあげる」

そして、二人の魔法使いは戦闘に入った。

渡辺はそれを見ていることしかできない。魔法が使えないことがこんなにももどかしいと思ったのは初めてだった。

从'ー'从(ツンちゃん……)

250:2014/06/15(日) 22:35:45 ID:aSUQjz8I0


ツンは手をかざし、魔法陣を幾つも作る。そこから黒い球が現れ、レーザー状の攻撃を貞子へ放った。

当たるとは思わない。貞子はツンに闇魔法を教えた人間だ。対策やこちらの考えはお見通しだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(けど、こっちだって貞子のやりそうなことは分かってる。それに、あっちは私のもう一つの魔法を知らないはず)

貞子はレーザーを軽々と避けていくと、杖を鳴らした。魔法陣がツンの上下から挟むように出現。すぐに前方へと走り、再び魔法。

貞子は接近戦も心得ている。ツンでは到底敵わないだろう。ならば次の手次の手で追い込むしかない。

ξ゚⊿゚)ξ「食らいなさい!!」

複数の魔方を同時に放つ。一つは貞子の後方から上下左右に黒い網を展開させ、二つは貞子の両側面に爆発する黒球。正面に自身の体に魔法を纏わせるための強化魔法。

貞子は網を破ろうと魔法の準備をしていたようだが、ツンの接近に気付き数瞬動きが遅れた。

ξ゚⊿゚)ξ「はぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの両手から膨大な黒い波動が放出され、その魔力が両隣の球を誘爆させる。後方には網があるため威力は落ちないはずだ。

しかし、それだけでは貞子を倒せないのはわかっている。今のうちに他の魔法を張っておく。

ξ゚⊿゚)ξ(大事なのはこちらの手を読ませないことよ。大丈夫、私ならできる)

設置型の魔法は貞子が触れると発動し、ダメージを与え、さらに魔力を奪うタイプのものだ。ツンでは彼女の魔力を根こそぎは奪えない。少しずつ、少しずつ力を使えないように手を打っていくのが精一杯だ。

魔法を設置し終え、次の行動に移ろうとツンが動いた時、図上に大きな魔法陣が出現。貞子だ。

ξ゚⊿゚)ξ(くっ、渡辺!!)

ツンや貞子が使う闇魔法は防御系の術が使えない。つまり攻撃することしか出来ないのだ。

急いで渡辺の元へと走り、手を引いてその場を離れる。建物や床がメキメキと引き剥がされ、塵となっていく。あの広さと威力ではツンが仕掛けた魔法も意味を為さないだろう。

从'ー'从「ツンちゃん、ごめんね。私も戦えれば……」

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。元々私が撒いた種よ。それに、私はあんなのに絶対負けないから」

振り返ると崩落したフロアの中心に傷一つなく立っている貞子の姿が確認できた。あれだけの瓦礫の中無傷で立っていられるのだから、ツンは自分と相手の差を突きつけられた気がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「化け物め」

川д川「相変わらずつまらない攻撃ね、考えさせる暇もないくらい、大きく攻撃すればそれで終わりなのよ?」

貞子はさらにツンと渡辺の周囲を取り囲むように陣を置いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「なんの真似よ」

251:2014/06/15(日) 22:36:36 ID:aSUQjz8I0
川д川「私は貴女を壊したくないの。まだまだ利用価値があるからね。だから、その娘を渡しなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「断るって言ってんでしょ、あんたしつこいわ」

川д川「私は望んだものを全て手に入れないと気がすまないの」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる。だから私はここにいるのよ」

ツンは今までの生活を思い出す。貞子はツンを人間としてではなく、道具として様々なことを叩き込まれた。人を騙したし、殺しもした。誰も自分を誉めてくれなかった。それでも今日まで生きてこれたのは渡辺との思い出が彼女を人間たらしめた。

だからこそツンは渡辺だけは守ると決意している。たとえその結果、自分が死んでしまうとしても。

ξ゚⊿゚)ξ「それに、あんたなんか勘違いしてない? これで追い詰めた、なんて思ってるのかしら?」

川д川「まだ何か策があるとでも?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。策と言えるものじゃないわ。けど、あんたの言ったことは一つだけ間違ってない」

ツンは手を高くあげ、

ξ゚⊿゚)ξ「策を与えないほどでかい攻撃で勝負は決まるってこと」

巨大な魔法陣が浮かぶ。

ξ゚⊿゚)ξ「私がまだ使用人と暮らしてた時に見た魔導書がこんなときに役立つなんてね」

貞子が一瞬だけ狼狽えるのが見えた。ツンはやつを出し抜けたことに思わずにやけてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ「禁呪を食らいなさい!!」

魔法陣からツンが持つ魔力が放出され、暴走する。床も、建物も、何もかもが一瞬の内に蒸発し、塵すら残さない。凄まじい魔力の風がツンの体を叩き、立っていられずツンは近くの壁に激突してしまった。

自分で放った魔法にやられるなんて情けない、とは思っても、完成していない魔法を必要以上に誰かを傷つけることなく行使出来たのは僥倖としか言いようがないだろう。

それにこれだけの魔力の奔流に打たれたのだから、いくら貞子とて生きてはいまい。

魔力の暴走が収まり、辺りに静けさが漂い始めた。禁呪を放った場所は何もない。何かを使って綺麗な楕円形にくり貫かれたかのように、そこだけが他と切り離されている。

从'ー'从「ツンちゃん!!」

252:2014/06/15(日) 22:38:02 ID:aSUQjz8I0
いつの間にか渡辺が駆け寄っていた。見たところ大きな傷はないようだ。細かい石などで肌を浅く切ってはいるが、痕は残らないだろう。

ξ;-?゚)ξ「や、やってやったわ……。ごほっ」

渡辺の肩を借りて立ち上がるも、ツンは遂に血を吐き出す。さすがに禁呪と呼ばれるだけのことはあり、マナがごっそりと減って体内の機能すら低下しているようだった。筋肉は軋み、内臓も本来の動きをしていない。

从;'ー'从「すぐにお医者さんのところに連れていくね!! 死んじゃやだよ!?」

ξ;-?゚)ξ「全部終わったんだから大丈夫よ。あとは、王都の結界を元に戻せば……」

ツンはそこまで言って、自分を襲う衝撃に身を委ねるしかなかった。

甘かった。

敵は道具として自分の隅々まで知り尽くしている女だ。禁呪のことも分かっていて、打たせたと言うのか。

だとしたら、あの狼狽振りも、演技としか思えなかった。

床を何度も転がり、ツンは緩慢とした動きで先ほどの場所を睨み付ける。渡辺は無事だったが、近くには、やつがいた。

川д川

ξ;+?゚')ξ「渡辺!!」

川д川「さすがに今のは驚いたわ。予想よりも凄まじい威力ね。でも」

貞子は言いながら杖をツンに向ける。同時に、ツンが放った禁呪よりも規模は小さいが、同じものが放たれた。

ξ ? )ξ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

死なない程度に加減されたのか、体はまだ残っている。意識もある。しかし、もう動けない。骨は何本も砕け、内臓を傷つけ、呼吸すらままならない。放っておけば自分が死ぬだろうことは簡単に予想できた。

从;ー;从「ツンちゃん!! お願い!! 私はいいからツンちゃんをいじめないで!!」

渡辺が立ち上がり、ツンの前に立ちはだかった。魔法も使えない、運動も得意ではない彼女が。

从;ー;从「あなたの狙いは私でしょ!? 好きにしていいから、ツンちゃんは助けてよ!!」

ξ ? )ξ「渡辺……何を……」

ツンには渡辺が何を言っているのか分からなかった。何故魔法も使えないのに立ちはだかるのか。

253:2014/06/15(日) 22:39:35 ID:aSUQjz8I0
从;ー;从「もう嫌だよ!! 私のせいでツンちゃんが傷つくのなんて見てられない!! 私一人の命でツンちゃんが、みんなが助かるなら、こんな命いらないよ!!」

渡辺のせいじゃない。これは自分のためだ。渡辺には生きてほしいから。日溜まりの中で、笑っていて欲しいから戦っているのだ。

ξ ⊿ )ξ「やめて……それじゃあ、私が戦った……意味が……」

なのに、救おうとしている本人にそんなことを言われたら、もう何も出来ないじゃないか。

从;ー;从「ツンちゃん、私のために戦ってくれてありがとう。でも、もういいよ。休んで大丈夫だよ」

大丈夫じゃない。渡辺の声は震えている。こんなにも誰かに優しい人間が死んでいいわけがない。

ξ;⊿;)ξ「やめて、お願いだから……」

まだ戦える。心は折れていない。なのにな、何故体は動かないのか。目の前で大切な友達がいるのに。

川д川「泣かせるわね。友情のために命を差し出せるなんて、すごいわ。尊敬しちゃう」

从;ー;从「貴女にはきっと分からないだろうね。人を傷つけることしかしない貴女なんかには一生分からない」

从;ー;从「魔法は誰かを傷つけるための力じゃない。大切な人を、心を守るために力ない人が学ぶものなんだ」

从;ー;从「魔法使いだから魔法が使えるんじゃない。誰かを守りたいから魔法使いになったんだ」

从;ー;从「だから、魔法を使えないからってツンちゃんがやられるのを見てることなんてできない。それが━━」

254:2014/06/15(日) 22:40:16 ID:aSUQjz8I0






从;ー;从「魔法使いなんだ」





.

255:2014/06/15(日) 22:41:08 ID:aSUQjz8I0
川д川「……そう。言いたいことはそれで終わりかしら? ならば、お望み通り殺してあげる!!」

貞子が初めて語気を荒らげた。なのにつも冷静沈着で、余裕を崩さなかったあの貞子が。

渡辺の言葉は、きっと渡辺にしか言えないことだ。ツンだってそんなこと言えるわけがない。

人を殺し、傷つけ、騙してきた自分にはきっと言えない。

でも、それを信条とする彼女の力にくらいなってあげたっていいじゃないか。そばにいて、支えてあげるくらいはさせてくれたっていいじゃないか。

なのに、何故こんなにも現実は無情なのだろう。肝心なときに助けてくれないのだろう。あの子は何も悪いことをしていないのに、どうして酷い目に合わなくちゃならないのか。

渡辺はいつかツンにこう言った。

世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだよ。誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる。

ξ ⊿ )ξ「なら、応えてよ」

渡辺はもう十分に誰かのために戦った。そして今尚誰かのために戦っている。

貞子が杖を振るうのが見えた。特大の魔方陣が現れ、魔法が発現していく。

ξ;⊿;)ξ「渡辺のために、誰か応えなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その時だった。彼女の願いに呼応するかのようにそいつが現れたのは。

魔法が渡辺を飲み込む間際、

(゚A゚)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

紅い剣を持ったひょろい男が雄叫びをあげて魔法を消し飛ばした。

256:2014/06/15(日) 22:48:13 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

ドクオは剣を構え直し、渡辺と、その後ろで傷だらけになっている少女を見る。流れ込んできた映像に出てきた少女だ。確か、ツンと呼ばれていた。

数年前に渡辺と友達になり、すぐに別れてしまった少女。

彼女はきっと渡辺のために戦ったのだろう。綺麗なはずの肌はボロボロで、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。それでも彼女は最後まで戦おうとしていた。他の誰でもない、渡辺のために。

そして渡辺はそんな彼女のために、命をかけた。何もできないことを知りながら、せめて盾になろうと駆け出した。

誰もが出来ることじゃない。他人を思い遣り、その上で命をかけようだなんて、簡単に出来ることじゃないのだ。

( A )「お前がツンを傷付けたのか?」

川д川「ええ」

( A )「お前が渡辺を泣かせたのか?」

川д川「そうよ」

( A )「お前はこれからも誰かを傷つけるのか?」

川д川「必要ならば」

( A )「そうか。もういい」

ドクオは貞子をしっかりと見据えると、腹に力を入れ、思いっきり叫んだ。

(゚A゚)「てめぇは泣いて謝ったって許さねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板