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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

1名前が無い程度の能力:2008/11/26(水) 00:23:45 ID:qDu.RquQ0
安価の人のお題で自分の好きなキャラの妄想をするスレ。

【例】

お題:煙草 キャラ:パチェ

「ここじゃ吸っちゃダメだよな…?」

「図書館の中は禁煙よ」

「…だよな、ちょっと外散歩してくるよ」

「えっ?」

「ほら、パチェも喘息持ちだし、な」

「だ、大丈夫よ、小悪魔、窓を全部開けてきて頂戴、あと○○(名前)に灰皿も」

「…大丈夫か?」

「へ、平気よ。ほら、早く座って、本の感想でも聞かせて頂戴」

「そうか…じゃあここで吸っちゃうぜ」

「え、えぇ」

(…むきゅー)

243名前が無い程度の能力:2011/11/25(金) 00:42:52 ID:arq5Fo7o0
>>239-240
賢将対策士と言ったところでしょうか。
このままスレで流れてしまうのが惜しいと思いました。
公式の続きみたいな感じで非常に良かったです。争いの後に宴会っていうのも幻想郷っぽくてグー

>>242
この短さでオチがちゃんと付いているのがすごいと思いました。
起承転結がしっかりしているし、結の部分での逆転の発想もうまいと思いますw
ショートショートの片鱗のようなものを感じました。

と、稚拙ながら感想を書かせていただきました。
文を書けばやはり感想が欲しくなるもの。
せっかく読ませていただいたのに感想を残さないのは勿体ない。
ということで、つらつらと思ったことをそのまま。

244名前が無い程度の能力:2011/11/25(金) 02:00:11 ID:Zc3/iDtg0
>>242 オチがうまい!

2451/2:2011/11/25(金) 23:13:38 ID:zS91v5bQ0
>>241
「試験」

霜月も半ば、迷いの竹林にも肌寒い風が吹いている。
そんな日の午前十時五分前。永遠亭の一室では緊張した雰囲気が漂っていた。
ホワイトボードを背に、厳めしい表情で教壇に立つ八意永琳。手にはストップウォッチを握っている。
その傍らには蓬莱山輝夜が椅子に座って火鉢に手を翳しながらにこにこと不敵な笑みを浮かべている。
そして、永琳と対峙するかのようにフローリングの床に机が三つ、縦に並べられている。
手前から鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐ、メディスン・メランコリーの三名が静かに座して待機していた。
「……はい、時間よ。これから問題用紙と答案用紙を配布するわ」
午前十時二分前。永琳の凛然とした指示に従い、三人はそそくさと配布された問題用紙と答案用紙を机の上に伏せる。
各々、違った表情を浮かべながら眼前の真っ白な問題用紙の裏面をじっと見据えている。
「では、これから期末試験を始めます。三人とも、私の弟子として恥じない点数を期待しているわ」
「トップの子には素敵なご褒美が待ってるわ。逆に最下位にはお仕置きが待ってるからがんばってねぇ〜」
真面目な表情で激励する永琳と、他人事のように笑って手を振る輝夜。
(はぁ〜、どうしよう全然勉強してないよ……何とかヤマが当たればいいけど……)
不安げな表情でテキストの内容を思い出そうとしているのは、鈴仙・優曇華院・イナバ。勤勉だが試験の雰囲気に吞まれるタイプである。
(ふぁあ〜、眠い。師匠の思いつきだが姫様の暇潰しだかしらないけど、まぁ適当にやれば良いでしょ)
欠伸を噛み殺しながら辟易とした表情を浮かべるのは、因幡てゐ。楽観視して一夜漬けでテストに臨んで自滅するタイプである。
(わぁ、テストって初めてだから緊張するなぁ。ちゃんと名前書かないとダメなんだっけ……)
無邪気にワクワクとした表情で消しゴムを転がしているのは、メディスン・メランコリー。不思議ちゃんで未知数なタイプである。
「制限時間は六十分よ。では、始めっ!」
カランカランカラン――
輝夜が手に持っていた鐘をチャイムにして、永遠亭期末試験は幕を開けた。
一斉に問題用紙を捲る三人。抱き合わせて配布された答案用紙に名前を記し、問題用紙に目を移したのだが…

2462/2:2011/11/25(金) 23:15:47 ID:zS91v5bQ0
『問.ウイルスに関する記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
 a ウイルスは、細菌に感染しない。
 b RNAウイルスが有するマイナス鎖RNAは、直接mRNAとして使われるRNAである。
 c レトロウイルスは、逆転写酵素をウイルス粒子内に保持する。
 d 重症急性呼吸器症候群 (SARS) ウイルスは、コロナウイルス科に属する。
  1(a、b) 2(a、c) 3(a、d) 4(b、c) 5(b、d) 6(c、d)』
『問.細菌の毒素に関する記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
 a 内毒素は、グラム陽性菌外膜に存在するリポ多糖である。
 b ウェルシュ菌のα毒素は、ガス壊疽を引き起こす。
 c ボツリヌス毒素は、内毒素に分類される。
 d ジフテリア毒素のAフラグメントは、ADPリボシル化活性を有する。
  1(a、b) 2(a、c) 3(a、d) 4(b、c) 5(b、d) 6(c、d)』
※この問題は第九十六回薬剤師国家試験問題から引用
(うわぁ……ガチで分からん! 一体どうしたら……はっ?!)
ヤマ勘が完全に外れて困惑する鈴仙の作りものっぽい耳に、背後から鉛筆の走る音が飛び込んできた。
カッカカカッカッカカカッカッカカッカ―――
淀みなく流れる鉛筆の音は、ライバルが順調に解答している証左である。
瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず。振り向く事など出来ないが、鈴仙は自分が出遅れた事に焦っていた。
(うわぁマズイ、このままでは確実にビリだ。どうしよう、どうしよう……)
不安と緊張に押し潰され、鈴仙の脳内は真っ白になっていた。

(ふふっ、鈴仙ったら思惑通り罠に引っ掛かってくれたわね……)
動揺する鈴仙の背中を垣間見ながら、てゐはニヤリと腹黒い野心家のような笑みを湛えた。
実は、てゐも問題はほとんど分からなかったのだ。しかし、そこで動転しないのがてゐの底力。
「点数を稼ぐ」から「ライバルを蹴落とす」と瞬時に思考を切り替え、気弱な鈴仙に陽動作戦を仕掛けたのだ。
試験開始直後、てゐは机に向かって鉛筆を連打した。リズムを変え、まるでスラスラと答案用紙に解答を記入しているように。
果たして、作戦は功を奏した。鈴仙は焦燥し、早々に戦線から離脱していった。
しかし、そんな策士なてゐにも一つ誤算があった。それは……
(ドクウツギの主な毒成分はコリアミルチン、ドクゼリはシクトキシン……なんだ、簡単じゃない!)
毒薬に関する知識がメディスンに備わっていた事であった。
結局、メディスンが満点でぶっちぎりトップ。鈴仙とてゐは同率ブービーで仲良くお仕置きされたそうな。【完】

鉛筆連打の兵法は高校時代に社会科の先生から教わったものです。
でも、実際の大学受験ではマークシートだったので無意味でした(笑)。

247名前が無い程度の能力:2011/11/27(日) 12:10:06 ID:yZIB2EdU0
>>236より、お題「時計」

丁度、太陽が沈もうとしていた時だった。
西日を受け、普段よりもさらに紅い姿を晒す紅魔館。

――ねえ、咲夜
――はい、なんでしょう?

その主、レミリア・スカーレットは戯れに問う。

――貴女は何故、この私に仕えているの?

その問いが向けられたのは、この館で唯一の人間のメイド、十六夜咲夜。

――.一時の、気の迷いですわ

紅茶を出し、用済みになった盆を小脇に抱える。
服のポケットから僅かに覗いた、懐中時計が一瞬の煌きを見せる

――フフ、そう――

その言葉は、主の微笑を引き出すには充分だった。
幻想郷に来る前から、彼女の時計は止まっている。そんなことは分かりきっていた。

時計塔の鐘が鳴り響く。夜の始まりを告げる音。

――では、お夕飯の支度があるので
――楽しみにしているわ

248名前が無い程度の能力:2011/12/04(日) 06:34:30 ID:lyCbitqU0
>>226 >>234
萃×マミ『種』『イワナ』『餅』


神霊の騒ぎが収まり、春の陽気に桜が舞う曇天の午後。
幻想郷の東端に位置する博麗神社の境内で、鬼と狸が酒を酌み交わしていた。
鬼の名前は伊吹萃香。かつて酒吞童子として京の都を牛耳った大鬼である。
狸の名前は二つ岩マミゾウ。佐渡島からやってきた辣腕の化け狸である。
鬼の生まれは燕市にある国上寺、狸の根城は佐渡市。どちらも越後の出身だ。
同郷の者同士、ウマが合わない訳がない。マミゾウの手土産の『柿の種』を肴に、小さな酒宴が催された。
『柿の種』のカリッとした歯ごたえと米菓特有の香ばしさ、そして醤油の風味が酒を進ませる。
ピーナッツなど無粋なものは入っておらず、あくまで『柿の種』一本で勝負する潔さが心憎い。
すっかり意気投合した2人は故郷の銘酒『長者盛』を熱燗で吞み交わしている。
七輪で火を熾し、湯を沸かした鍋に銚子を投入する古風な熱燗からは、酒精の馥郁な香りが立ち昇る。
「おおっ、そうじゃ。今日は萃香殿にとっておきの酒を馳走しようぞ」
「ほぅ、そりゃ楽しみだね。一体どんな酒だい?」
思い出したように傍らの籠を漁るマミゾウに、萃香は身を乗り出して籠の中身を覗き込む。
「ほれ、これじゃよ」
そう言って自慢げにマミゾウが取りだしたのは、旬には聊か早いが身の引き締まったイワナだった。
命蓮寺の台所で捌いてきたのだろう、新鮮なイワナは既に内臓を取り除かれ串刺しにされている。
「おぉ! と言う事はマミゾウ、もしかして……」
じゅるりと垂涎の表情を浮かべ、円らな瞳をキラキラ輝かせている。
その萃香の表情に満足そうな笑顔で頷きながら、マミゾウはイワナを七輪の網に乗せた。
「左様、イワナの骨酒じゃよ。さて、魚が焼ける間に餅でも焼こうかのう……」
2人の周りには、七輪が3台も動員されている。どれも熱燗をつくる鍋が乗せられていた。
マミゾウは鍋を下ろし、代わりに網を乗せて餅を焼き始めた。
もち米でも最高級の『こがねもち米』をした新潟自慢の杵搗きの切り餅だ。
それが七輪で熱せられた炭火で、こんがりと黄金色に焦げ目が付きふっくら膨らんでいく。
数分後、香ばしく焼き上がった餅をマミゾウは素手で掴んで皿に移した。
手早く餅に醤油を浴びせ、予め七輪で炙って短冊状に裂いておいた佐渡産の海苔を巻きつける。
「ほれ、磯部巻の出来上がりじゃ。故郷の懐かしさを存分に味わうのじゃぞ」
もち米の香ばしさと海苔の風味、そして程よい塩梅の醤油が一体となって萃香の口全体に広がる。
「うひゃあぁ、こりゃ美味い! 霊夢もこの餅で年を越せるんだったら幸せ者だよ」
はふはふと熱い餅を口の中で転がしながら、萃香は感嘆の声を上げた。
そんな萃香の横顔を見ながら、優しい笑みでマミゾウは餅にきな粉を塗して食している。
「ふむっ、そろそろイワナも焼けた頃かのう」
チラッと目配せをしたマミゾウは、串に刺さったイワナを七輪から降ろした。
やや焦げ目のついたイワナを、用意していた湯呑に投入し、どぼどぼと銚子から熱燗を注ぐ。
すると、焼けたイワナの身から旨味エキスが浸み出し、酒はじわじわと黄金色に変わっていった。
「さぁ、仕切り直しの乾杯といこうではないか萃香殿」
「あぁ、同郷の妖怪に出逢えたんだ。懐かしい味を思い出させてくれたマミゾウには感謝が尽きないよ」
焼いたイワナが丸々一匹入ったダイナミック骨酒。その湯呑を軽くかち合わせ、2人は豪快に骨酒を呷った。
日本酒の甘味とイワナの旨味、それを引き立てる脇役はイワナに振った岩塩だ。
それらが丁度良い具合に融和して、舌から迸る味覚や鼻腔を突き抜ける薫りが旬な酒の愉しみ方を教えてくれる。
「ぷはぁー、美味い! そして懐かしい!!」
目尻に一粒の涙を滲ませ、萃香は餅と柿の種を肴に骨酒を存分に味わった。
湯呑から取り出したイワナに齧り付けば、出涸らしとは思えない魚肉の濃厚な旨味が弾ける。
桜が舞い散る。新潟ではまだ残雪のある景色を思い起こしながら、マミゾウはそっと湯呑を口に運んだ。

249名前が無い程度の能力:2011/12/06(火) 21:39:46 ID:aZTFKISkO
>>241『お暇をいただきます』

「−ということは、私めはもう必要でないと」
主人の座の前に立ち、唇を噛み締めながら十六夜咲夜は、そのかすれかけた声で口にした。
「いや、そういうわけではないのよ」
領主は苦笑いしながら応えるものの、潤んだ瞳の主にはほとんど耳には入っていなかった。
「私が人々の間でどういう立ち位置であるか、お嬢様には分からないわけではないはずです」
咲夜はあたかも歯ですり潰したような言葉を領主にかける。
「いや、だからそんなに堅苦しく考えなくていいのよ」
領主は苦笑いをしつつ、彼女をなだめようとした。しかし、あくまで領主がなだめているつもりなだけであって、彼女には懐柔の言葉にしかならなかった
「いえ。分かっております。所詮私は蝙蝠。人にも妖にもなれぬ身分。蝙蝠は両者からはじかれ惨めな死を選ばざるを得ぬことくらい、存じております。
 たまたま、それが今日訪れただけであって、私はまた、蝙蝠として闇の中で、目を閉じ、自分の都合のいい音のみを聞き分け、
 そしてどちらからも疎まれながらその生涯を終える日々に戻るだけのこと。むしろ、それが私の正しい姿なのです。
 そのような蝙蝠に、一滴の血と暖を分け与えていただいたこと、感謝こそすれど、一瞬でも怒りを覚えたことに恥を覚えなければなりません。
 『お暇をいただきます。』とは言いません。むしろ、ここまで愛おしんでいただき、ありがとうございました。」
一通り喋り終えると、スカートの端をつかみながらゆっくりと会釈すると、何食わぬ顔のまま、部屋へと出て行った。
領主は手に顎を乗せ、苦笑いをしながら溜め息をつくと、誰おらぬ広場に向かい、ゆっくりと口を開いた。

「−有給取って数日間遊んできたら、って言っただけなのにねぇ」

<了>

久々に書いたらうーんこの内容
お題:【賃金】【妖怪の山】【遅咲きの花】

250名前が無い程度の能力:2011/12/08(木) 00:52:57 ID:46BM6U0.0
お題【賃金】

「そう言えば美鈴。貴女今まで門番として働いた分の賃金貰った事あるの?」

 ある日の夕食後、唐突に思い出した様に十六夜咲夜はそんな疑問を口にした。
 屋敷内の妖精メイド達への給与の管理は当然のことながらメイド長たる彼女の役目なのだが、それでは同様に屋敷の門の番や庭の手入れを担当している紅美鈴には一体誰が賃金を支払っているのだろうか、と。
 問いを向けられた当の本人はえ、と一瞬だけ硬直し、それから少しだけ困った様な表情を浮かべる。

「いやあ、それが賃金を貰っても今一つ使い途が思いつかなくて……」
「もしかして、貰った事無いの?」
「はい」

 あまりにもあっけらかんとした門番妖怪の返答に、咲夜は唖然とした。
 確かに普段から眠りこけている彼女は職務怠慢として減給をされても不思議ではないかもしれないが、しかし一切賃金を支払われないというのは幾らなんでもおかしい。
 ちなみに何時から貰っていないのかと尋ねると、自分がこの屋敷に世話になるようになってからずっと、という返答が返って来た。彼女がこの屋敷で三番目か四番目に古株である事を知っている咲夜は、妖精メイドに支払っている賃金基準でそれが一体どれ程の額になるのかを計算してみて軽く頭痛を覚えた。

「貴女、それはおかしいわよ。どうして賃金を受け取らないの?」
「あー、お嬢様にも昔同じ様な事を聞かれましたねぇ……」

 昨夜の問いにしみじみと呟く美鈴。どうやら彼女達の主であるところの吸血鬼からも同じ事を問われたことがあるらしい。

「ほら、あれです。幾ら貰っても正直私欲しい物とかやりたい事とかなーんにもありませんから」
「それでも、賃金を受け取らない理由にはならない筈よ?」
「そうですかねぇ…」

 うーん、と美鈴はひとしきり悩んだ後、

「でもほら、この屋敷の皆さんが毎日を平和に、笑顔で過ごしてくれているという結果が私の仕事の報酬みたいなもんですから」

 などと言う事をあっけらかんと言い放った。
 唖然とする咲夜を尻目に、じゃあ私門番に戻りますねー、と言い残して立ち去っていく美鈴。
 その後ろ姿を見送りながら、彼女は溜息を吐いた。

「分かっていた事だけど、随分お人好しな妖怪ですわ…」

 今度彼女の好物でも作って労ってやろう、とメイド長は一人決心するのだった。


初めて書いてみた。
お題:【雪】【聖夜】【散歩】

251名前が無い程度の能力:2011/12/11(日) 09:38:58 ID:yy3FGHag0
>>236 >>241
「夜」「雪」
※既に消化済みだけど「雪融け」の要素も含んでます

肌寒い冬の夜。私は妹と二人で銀色の雪原を歩いていた。
空には赤銅色に染まった満月。遠くでは百鬼夜行の騒擾する気配を感じる。
凍みた雪は世界を覆い、遥か遠くの地平線まで白く塗り潰している。
私たち姉妹はその果てしない銀世界を、ただ黙って歩いていた。
それは、私なりの贖罪でもあった。妹と向き合ってこなかった私の背負った罪。
いつ赦されるか分からない。それでもこの子といつか分かり合えるなら。
隣を歩く妹の息遣い。誘った時に浮かんだ驚きと、微かな喜悦の表情。
横目で垣間見ながら、私はただひたすらに歩き続けた。
「……ねぇ、お姉様」
ふと、妹が私に声を掛けてきた。半歩先に歩いた私は、そっと後ろを振り返る。
随分と遠くまで来たようで、紅魔館の明かりは星屑の燐火のように瞬いていた。
妹は首に巻いたマフラーで口元が隠れている。門番の美鈴が見送る時に巻いてくれた臙脂色のマフラーだ。
「なに、フラン……」
私の言葉は、唐突に手を握られた事で遮られた。華奢な妹の手は、指先が微かに冷たい。
ハッとして私は眼前の妹を見据えた。絹のような金色の髪がしなやかに揺れ、緋色の瞳が物悲しげに潤んでいる。
「手……つないでも、いい?」
しなだれかかる妹の重さを腕に感じる。その重さは、私がずっと拒んできた妹の存在そのものだった。
歪なガラス細工のような翼が、星影に煌めく。私はそっと妹の手を握り返し、静かに妹の身体を引き寄せた。
「えぇ、いいわよ……」
他にもっと言いたい事があったが、私はそれだけしか言えなかった。
その言葉で十分だったのか、妹は静謐に微笑むと私の手をしっかりと握ってきた。
「ありがと。お姉様、だいすき……」
「…………そう」
“私も大好きよ”という言葉が熱く感じられて、喉から出てこなかった。
その代わりに流れた涙は温かく頬を伝う。滲む視界に赤い月が笑っているように見えた。
あぁ、もしこれが狂った月蝕のもたらした偽りの運命だとしても。
私はこの一瞬を愛しく思うのだ。いつか、この子と笑い合える事を夢見て。【完】

252名前が無い程度の能力:2011/12/11(日) 17:33:03 ID:yy3FGHag0
>>236 >>249
「散歩」 「妖怪の山」 秋姉妹


「ねぇ、散歩に出掛けない?」
姉に誘われたのは、師走の気だるい午後の事だった。
炬燵に入り、今まさに剥いたばかりのみかんを口に運ぼうとしていた私は、ぽかんとした表情で姉の方を向いた。
姉はいつもの赤いワンピースの上にクリーム色のダッフルコートを着込み、浅黄色のマフラーと手袋を装備している。
「散歩って……こんな寒い日に?」
「寒い日だからこそよ」
そう言ってニッコリ微笑んだ姉の腕には、私のコートとマフラーが抱かれている。
姉は周囲のイメージとは裏腹に、頑固者で融通が効かない。私が嫌だと言っても聞く耳など持たないだろう。
これから豆炭炬燵で足元を温めつつ、箱根駅伝のガイドブックでも読もうと思った私の午後は水泡に帰した。
「はぁ……しょうがない、付き合ってあげるわよ」
「ふふっ、それでこそ私の妹神よ」
重い腰を上げ、私は姉から差し出されたコートを羽織って支度した。マフラーと手袋は姉が編んだ手製の品だ。
姉に促されるようにして私は外に出た。ガラガラと古めかしい玄関の引き戸を開けると、重苦しい曇天が広がっている。
「うぅ〜、寒い!」
秋の涼しさはとうに過ぎ去り、凍てつく冬の寒さが北風に乗って吹き荒れる。
姉が手入れしている自慢の日本庭園も、紅葉が散って寂寥とした印象を受けた。
池で泳ぐ錦鯉の緋色や金色だけが、今の庭に彩りを与えている。
「それで、お姉ちゃんは何処に行きたいの?」
「うぅ〜ん、別に行先は決めてないんだけど……まぁ、取り敢えず南へ」
「……アバウトだなぁ」
行先も決めずに散歩へ行こうと言いだしたのかと私は辟易したが、それも姉に手を掴まれて霧消した。
姉と手をつなぐのは何となく照れ臭かった。だけど、久しぶりに姉の手の温もりを感じる事が出来たのは嬉しい。
私たちはそれから、家でも出来るような雑談を時折交わしながら山道を歩いた。
山はすっかり冬景色に移ろい、単調な色彩に変わっていた。
里に続く道の両端に広がる田園は、刈り終わった稲の株がひっそりと春を待つ。
風が強い。遠く山の稜線から雲が私たちの頭上を追い越し、また遠くの世界へ流れていく。
冬の曇天は、夏の夕立のような急かされる勢いはない。ただ生命の終わりを象徴する鉛の蓋ような重苦しさがある。
夏が苛烈であるならば、冬は冷酷だ。
未熟な青い春は夏の熱病で熟れ、老いた白い秋は冬の寒波で枯れる。そうして四季は廻る。
「……あっ」
「えっ?」
突然に姉が立ち止り、私は蹈鞴を踏んだ。危うく姉の華奢な背中に追突するところだった。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「……見て、穣子」
そう言って姉は天に手を翳した。それに倣って私も鉛色の空に視線を移す。
ゆっくりと、綿のような雪が舞い落ちる。それは幻想郷に訪れた初雪だった。
吸い込まれそうなほど低い空から降る雪が、私の頬を冷たく濡らした。

―――もう秋も終わりだね

そう思った瞬間、私は姉の手が微かに震えている事に気付いた。
ハッとして姉の横顔を見る。姉は天を仰ぎながら、切実な表情で泣いていた。
声を殺し、唇を噛んで、ただぽろぽろと大粒の涙が色白な姉の頬を伝う。
「………お姉ちゃん」
「……ごめん、穣子」
私に声を掛けられて、姉はコートの袖でやや乱暴に涙を拭った。気丈に振る舞う姉の、泣き腫らした容貌が切なかった。

―――秋の心と書いて『愁い』と読むの

かつてそう教えてくれた姉の言葉が思い出される。
ならば、私もまた愁いているのは姉と同じ事だ。私たちは暫く肩を並べ、じっと空を見つめていた。
「……私たち、あとどれ位の秋を過ごす事が出来るんだろうね」
私は姉のか細い手を握り返して、静かに問いかける。その問いに、姉が応える事はなかったけど。
「……冷えて来たわね。人間の里で甘酒でも買って帰りましょう」
「お姉ちゃん、最初からそれが目的だったでしょう?」
「てへっ、バレたか」
苦笑いする姉に脱力しながら、私は静かに歩き始めた。私たちの足跡が、真新しい雪の上に残っている。
厄災の相次いだ今年も半月で終わる。時の流れは残酷に平等に、人々を癒す。
その過程で故郷や信仰が失われても、きっと失われない誇りがあると信じながら、私たちはこれからも人間に祀られていく。

253名前が無い程度の能力:2012/01/03(火) 20:54:10 ID:rXgjSejI0
お題まとめ
香水・ぬこ・眼鏡+しみじみ・無礼講・中二病・米粉・そば・ラーメン
朝露・衣替え・暖の取り方・談話・遅咲きの花・聖夜

254名前が無い程度の能力:2012/02/08(水) 19:23:18 ID:ODJkUShI0
過疎るからな。お題は前の投稿者が出すようにするといい。

255名前が無い程度の能力:2012/02/11(土) 22:26:11 ID:YnQuYmIY0
>>253
お題『ぬこ』


ぬえちゃんが仔猫を拾ってきました。
ある小春日和の午後の事です。
わたくし、幽谷響子は命蓮寺の門前を雪かきしていました。
「ねぇ、響子。ちょっと来て…」
スノーダンプで雪の塊と奮闘していると、ぬえちゃんが私を呼んで手招きしています。
「? どうしたんですか?」
私は除雪の手を休めて、ぬえちゃんの方へ歩いて行きました。
ぬえちゃんは後ろ手に何かを隠していて、にやにやと不敵な笑みを浮かべています。
「ほら、ぬこ拾った!」
そう言ってぬえちゃんは後ろ手に隠していたモノを私に見せつけました。
私の目の前に、小さな仔猫が姿を現しました。それはそれは毛並みの良い三毛猫でした。
「わぁ! かわい…もがぁ!?」
私が感嘆の声をあげようとした瞬間、ぬえちゃんは慌てて私の口を手で塞いでしまいました。
「しぃー! 響子ったら、大きな声で叫んだらみんなにバレちゃうじゃん!」
ぬえちゃんは腕に仔猫を抱えたまま、そう言って不機嫌そうに苦言を呈します。
「もがぁ、ほがぁ……ぷはぁ、ごめんなさい」
ちょっと鼻詰まり気味だった私は呼吸が苦しくなり、ぬえちゃんの手首を掴んで引き剥がしました。
だけど、さっきのぬえちゃんの声の方がよっぽど大きかったと思うのですが…
「ところで、その子は何処で見つけたんですか?」
私が改めて質問すると、ぬえちゃんはパッと表情を明るくして仔猫に頬擦りしながら答えました。
「へへっ、お寺の縁の下に居る所を見つけたの。きっと母猫が産み捨てたんだわ」
お寺の境内は先週みんなで雪かきしたので、恐らくその後に雪を避けて母猫が潜り込んだのでしょう。
仔猫は円らな瞳でじっと私やぬえちゃんを見つめています。時折、眠たげに欠伸をする仕種はとても愛らしいです。
ぬえちゃんはすっかり魅了されたらしく、顔がデレデレと緩んでいます。それを見て私も和やかな気持ちになりました。
「ねぇ、お寺でこの子飼おう! みんなもきっとOKしてくれるよね!?」
「ええっ、そうですね……あっ」
命蓮寺の仲間になって日の浅い私でも、白蓮様を筆頭に皆さんが優しい方々なのは承知していました。
なので快くこの子を迎え入れると思ったのですが、ひとりだけ反対しそうな人物を思い起こしたのです。
「……ナズーリンさんは鼠なので猫は苦手なんじゃないですか?」
「えっ? 大丈夫だよ、既に虎が居るじゃん。響子だって犬っぽいし、今さら猫が増えても気にしないって」
そうこう言っていると、噂の本人がこちらにやって来ました。隣には茄子紺の唐傘を携えた小傘ちゃんも居ます。
「おぉーい、聖がお茶を淹れたから休憩にしよう……って、何をしてるんだい?」
ナズーリンさんは怪訝な表情を浮かべて私たちを見つめています。小傘ちゃんは何故か嬉々とした表情ですが。
「あっ、丁度良かったナズ。ほら、可愛い仔猫!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!?」
その時のナズーリンさんの絶叫は、山彦である私の声量を遙かに凌駕していました。
目を見開き、顔を蒼白にして飛び上がったナズーリンさんは一目散に逃げ出してしまいました。
「やったぁー! なずりんがあんなに驚いてくれてお腹いっぱい! じゃあ、私帰るね!」
隣に居た小傘ちゃんはこうなると予想していたのか、満足げな笑みを湛えて山の方へ飛んで行ってしまいました。
「……ナズーリンさん、戻ってくるといいですね」
「……うん」
どうやら仔猫が受け入れられるにはもうしばらく時間が掛かるようです。
私とぬえちゃんは互いに顔を見合わせ、少し苦笑してからお寺の中に入りました。【終わり】

お題:明晰夢

256名前が無い程度の能力:2012/02/14(火) 21:38:00 ID:NLU6nj3Q0
別人ですがちょっと付け足します。

白蓮「寅と猫とは動物形態学上、似てるというだけで遺伝学的
には全く別の種ですからね。それに嫌いな動物を急に出されたら
誰だって吃驚しますよ」

白蓮「そもそも幻想郷の猫はお燐や橙たちの情報を元に
データベース化されていて、野良猫など居るはずがありません」

白蓮「話を聞くと小傘が事情を知ってたみたいですが、
今度確認してみねばなりませんね」

お題:明晰夢

257名前が無い程度の能力:2012/02/16(木) 01:03:32 ID:EMd8e7p60
お題『明晰夢』

霊夢は人間の里でばったり阿求と会った。
お呼ばれして夕飯をご馳走になる事に。
阿求「これから作りますのでしばらく休んでいてください」
霊夢「手伝おうか?」
阿求「いいえ、あまり手のかかるものではないので30分もあれば
できますから」

今日も結構歩いたせいか、けっこう疲れた。
ちょっと横になろう・・・・・・・・・

魔理沙「おい霊夢、キノコがこんなに採れたぞ。
一緒に食わないか?」
霊夢(あれ?阿求の家では?・・・ははあ、これが明晰夢ね)

魔理沙「ほらほらどんどん食べてくれ、マッシュルームエスカルゴ
クリームソースだ」
魔理沙「舞茸とあさりのケチャップ煮だ」
魔理沙「どんことどんこの味噌仕立てだ」
霊夢(変なメニューばかりね。いいわ、どうせ夢だからどんどん
食べちゃいましょう)

霊夢と魔理沙は腹一杯きのこ料理を食べた。

霊夢「もうお腹一杯よ。これ以上食べられないわ、うふふふふ」
霊夢(あれ?何か可笑しい)
魔理沙「ありゃ?悪い悪い笑い茸が入ってたようだぜ」
霊夢(冗談じゃないわよ。変な夢ね)「うふふふふふふー」

「・・・むさん」
阿求「霊夢さん、ご飯が出来ましたよ。楽しい夢でも見てたんですか?」
霊夢「あっごめんなさい、ついうとうとと・・・お夕飯はきのこじゃ
ないわよね?」
阿求「いいえ、蟹と玉子の雑炊ですよ」

二人は楽しく夕飯を食べた。

霊夢は帰宅した。


それから数十年・・・霊夢は平凡ながらも充実した人生を
送ってきた。佳い男性とめぐり合って結婚もし、子も孫もできた。
そしていよいよ臨終の床・・・

「霊夢、霊夢〜およよよよ」
(紫ね、色々お世話になったわ)

「私より先に行くなんて悲しいぜ」
(魔理沙ね、もうあの頃の人間で生きてるのはあなただけに
なってしまったわね)

「おばあちゃん、おばあちゃん・・・」
(孫たちの声がする、心残りだけど仕方ないわね・・・
意識が薄らいでいく、思い返せばいい人生だったわ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)







「・・・むさん」
阿求「霊夢さん、ご飯が出来ましたよ。悲しい夢でも見てたんですか?」

258名前が無い程度の能力:2012/02/26(日) 10:27:34 ID:KuKqcfwc0
>>253
『眼鏡+しみじみ』


如月。立春が過ぎて暦の上では春だが、幻想郷はいまだ雪深い。
それでも、久方ぶりの晴れ間は清々しく、澄んだ青空が広がる。
暖かな日差しによって、木々に被さる雪がどさっと崩れ落ちた。
その音を耳にしながら、森の古道具屋の店主は朝から雪掻きに勤しんでいた。
「ふぅ、今年も豪雪だったな……」
首に巻いた手拭いで汗を拭いながら、店主はスコップにもたれて一息ついた。
店主の名前は森近霖之助。銀髪に痩身、半妖半人の青年である。
彼は今、店舗の横にある倉庫の脇に積もった雪山を切り崩しにかかっていた。
すでに屋根の雪は片付けているので倒壊の恐れはない。しかし、巨大な雪山は皐月になっても残りそうな量だった。
「取り敢えず、倉庫の出入口だけでも確保しないと困る……」
霖之助はそう独り言を呟いて深呼吸すると、アイドリングしていたエンジンを再稼働させた。
雪に突き刺したスコップから、鋼鉄製のスノーダンプに武器を持ち替え雪山に挑む。
引き締まったザラメ雪にスノーダンプを喰い込ませ、ブロック状に切り分けて運び出す。
ぎゅっぎゅと力強く雪を踏み締め、密度の高い雪の塊を身体全体で外に押し出す。

30分くらい作業を続けた霖之助は、ふと雪山にぽっかりと洞穴のような空間が出来た事に気付いた。
雪山全体を切り崩すのではなく、倉庫の出入口に向かって一点集中して雪を搬出していたからだ。
それで遊び心を刺激されたのか、霖之助はいつしか雪掻きよりもカマクラづくりに熱中し始めていた。
ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン―――
里の外れにある命蓮寺の鐘の音が聞こえてくる。12回打ち鳴らされた鐘の音は、時刻が正午であると告げた。
カマクラは約3畳ほどの広さに拡張され、高さも九尺(約90㎝)と大人でも十分入れる。
「うむっ、もうお昼か……さて飯はどうするか」
「おぉーい、香霖!」
霖之助が空腹感を覚えながら昼食のメニューを思案していると、森の小道から少女の声が聞こえてきた。
自分を屋号で呼ぶ少女は幻想郷でひとりしかいない。霖之助は小道を振りかえる事無く声の主を判別できた。
「やぁ、いらっしゃい魔理沙。こんなお昼時にどうしたんだい?」
そう言いながら霖之助はゆっくりと振り返る。そこには案の定、白黒の衣服を着た顔馴染みの少女の姿があった。
少女の名前は霧雨魔理沙。豪奢な金髪に小柄な身体つきの普通な魔法使いである。
「この前ウチの雪掻き手伝ってもらったお礼を持って来てやったぜ」
ニカッと爽やかな笑みを零しながら、魔理沙は手にしていた風呂敷を誇らしげに差し出した。
「ほう、珍しい事もあるもんだね。道理で今日は二月に似つかわしくない暖かい日だと思ったよ」
「へへっ、日頃の善行のおかげだぜ。中味はにとりからもらった猪肉や川魚だ」
にとりとは、魔理沙と交友のある山の河童である。機械いじりが趣味で、香霖堂にもしばしば訪れている。
霖之助はその中味を知って、ふとあるアイディアが思い浮かんだ。
「……そうだ、どうせならこの即席のカマクラで食べないかい?」
「おぉ、それは風流だな! 私も遠慮なくご相伴に与からせてもらうぜ」
「じゃあ、台所から七輪と豆炭、それとマッチを持って来てくれるかい? 僕は煙突と茣蓙を用意しよう」
「承知だぜ!」
そう言って魔理沙は元気よく店の中に駆け込んでいった。その後ろ姿を眺めながら、霖之助も店の中に入った。

1時間もしないうちに霖之助と魔理沙はカマクラで肉や魚を炙りながら焼きおにぎりを頬張っていた。
香ばしい肉や醤油の香りと、パチパチと豆炭の焼ける匂いが立ち込め、煙突から外へ流れ去っていく。
カマクラの天井を見上げると、雪の白にぽっかりと空の青が覗いている。白雲がゆったり流れる、穏やかな蒼穹だ。
「なんだか……のんびりしていて心地良いよな」
パリッと焼けた醤油味の焼きおにぎりを頬張りながら、魔理沙が満面の笑みで言った。
「あぁ……きっと、こういう時間が一番楽しい時間なんだろうね」
脂の滴る猪肉を肴に、霖之助はクイッと酒を呷る。辛口の酒が肉の旨味と融け合い、馥郁な酒精の香りが鼻腔を吹き抜けた。
凪いだ日常。異変も冒険も無関係な青年の、静かな一日が今日も半分終わった。そうして世界は廻っていくのだ。
傍らには、自分を慕ってくれる少女が食後の番茶を啜っている。いつか、自分を追い越して先立って行く儚い人間。
霖之助は今の何でもない日常を謳歌できる幸せをしみじみと噛みしめながら、切ない思いを酒と一緒に腹の底へ沈ませた。
冬が終わって春が来る。半妖半人の平坦な人生が、また巡ってくる。どこかで山鳩の暢気な鳴き声が聞こえていた。【完】

259258:2012/02/26(日) 10:31:21 ID:KuKqcfwc0
よくよく考えれば「眼鏡=香霖」って安直だったかしら…?
マミゾウさんと絡ませればよかったかな?

お題:風船

260名前が無い程度の能力:2012/03/07(水) 05:40:23 ID:yK/wuR7M0
お題:風船

少し前、幻想郷で宝船が出るという異変が起こった。
今ではその騒動も収まり宝船は妖怪の寺となっている。
これもまた...ある「船」のお話。

長い白銀の冬が終わり幻想郷に春風が吹き始めた。
まだ、肌寒く感じるがすっきりとしていて気持ちのいい朝だ。
そんな事を思いつつ、布団から這い出して着替えを済ませた。
「殆ど雪もなくなったし久しぶりに無縁塚にでも行こうかな」
そう言い、古道具屋「香霖堂」の店主は無縁塚へと足を運んだ。

真っ赤に染まった彼岸花の毒が、彼の行く手を阻んだ。
血で染まった様に紅い彼岸花に守られたこの場所は、この世の物とは思えない
不思議な場所だ。
ここは冥界との壁が薄いせいか、外の世界とも近い場所である。なので、ここ
には見た事のない物が多く落ちている。
「ふむ、あまりめぼしい物は落ちてないな....ん?」
もう、帰ろうかと思っていた彼の目に奇妙な物が入った。
それは青く、ツヤツヤとしていて、穴が空いており、手触りは前に見たゴムと
似ていた。
「名前は風船....空気を入れて飛ばす船か、とても僕の知っている船と同じ物に
は見えないが...」
勿論、彼はそれを見た事も聞いた事もないが、彼は見た物の名前と用途が分か
る能力を持っている。その能力故に珍品を扱う店「香霖堂」を作ったのだが、
肝心な使い方がわからず、売れ行きは好調とは言えない。
他に気になる物もないので彼は風船を持っている帰路についた。

「あら、お帰りなさい」
家に着くと中で紅白の少女がお茶をすすっていた。
「ああ、ただいま...って、勝手に家に入るなって言ってるだろ」
「また何か拾って来たの?」
これだ...この少女は人の話を聞かない。
「これは風船、空気を入れて飛ばす船らしい」
「・・・船には見えないわね」
確かにどこからどう見てもとても船には見えない。
「そういえば、船に関係してる妖怪なら見たことあるわ」
「(海のない幻想郷で船に関係する妖怪なんて珍しいな)」
「たしか...水難事故を起こす様な妖怪だったわ」
それじゃあ船とはそこまで関係してない様に思うが...

それからまた話し合い、彼女の「ためにし飛ばしてみよう」という意見を聞き
入れ、空気を入れると思われる穴から息をいれて見た。すると、風船は元の大
きさより何倍も膨れて浮かび出した。まるで自分から空に飛ぼうしている様に
感じる。
触らせてくれという彼女に手渡そうとした時、突然風が吹いた。どうやら、天
狗が出した風らしい。
それに怒った彼女が逃げる天狗を追いかけて行くのが見える。ふと空を見ると
さっきまで持っていた風船が風に乗り飛んでいた。それは妖怪などの飛び方と
は、どことなく違って見えた。
その時、僕は風船を見た時から感じていた疑問の答えがわかった気がした。
普通、船は海などを渡るのに、なぜこの「風船」は飛ぶのだろうか、という
疑問だった。
きっとこの「風船」という船は名前の通り空という海の中で、風を渡る船な
のだろう。
その時、幻想郷の青空いっぱいに沢山の風船が飛んで行く景色が思い浮かんだ
。(糸冬)

お題 : 星

261名前が無い程度の能力:2012/03/17(土) 02:40:52 ID:7D91.lng0
お題:星

「見て小悪魔、輝く星々の中でいっとう煌めくあの星を」
「パチュリー様、お身体に障ります。夜なんだからさっさと寝てください」
「そして尚大きく光を放つ、あの月を見て」
「パチュリー様、窓から身を乗り出すと危ないです。昼間は窓に近づこうともしない癖に」
「当たり前じゃない、髪が傷むわ。見てこの艶を、努力の賜物を」
「パチュリー様、引きこもりが過ぎて埃まみれです。目元のクマも酷いので寝たほうが良いですよ」
「見て小悪魔、あの星が落ちる頃、私も死ぬのね。美人薄命だわ」
「パチュリー様、憎まれっ子世に憚る、です。私、明日も早いんでもう寝てもいいですか」
紅魔館の夜は更けていく……。

お題:穴

262名前が無い程度の能力:2012/03/24(土) 10:24:48 ID:rbb5KJ260
>>253
『ラーメン』


ぼぉーん、ぼぉ−ん、ぼぉーん………

執務室の壁に掛けられた振り子時計が重厚な鐘を鳴らす。時刻は午後7時を指していた。
窓の外はすっかり夜の帳が下りている。私はひとつ伸びをすると、上司の閻魔様が申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね、こんな時間まで残業に付き合わせちゃって……」
「あぁ、いえ……これがお仕事ですから」
私は恐縮して答えると、再び書類の整理に取り掛かった。既決になった『旧都開拓事業報告』という公文書を裁断する。
死者の魂を裁く司法機関・是非曲直庁の書記局に私が特命書記官として入庁したのはつい先月のことだ。
幻想郷の歴史を編纂してきた御阿礼の子。その9代目に当たる私も、2冊目の歴史書を記し終えて天寿を迎えた。
次の10代目が産まれるまで約1世紀、私はこうして幻想郷を管轄する四季映姫・ヤマザナドゥ様の下で働いている。
「まったく、あの子は何度言ってもサボり癖が直らなくて……」
「ははっ、小野塚さんはマイペースですからね……」
閻魔様の愚痴に、私は愛想笑いを浮かべながら相槌を打った。すると、噂をすればご本人が執務室に駆け込んできた。
乱雑なノックと、間を置かずに扉が開け放たれる。茜色の髪の死神が、書類の束をふらふらと私の机に置いた。
「あひぃー、四季様これで終わりました〜!」
「何ですか小町、騒々しい! 忙しい時ほど落ち着きなさいと何度言ったら……!!」
目くじらを立てて自分より大柄な死神に説教をする閻魔様。実のところ、このお説教も残業が生じた要因の一つなのだが…。
世渡り下手じゃない私はそんな指摘は微塵も声に出さず、彼女らの仲裁に割って入った。
「まぁまぁ、お仕事も一段落した事ですし、中有の道でご飯でも食べてから帰りませんか?」
私の提案に、御二方ともピタッと動きを止めました。そして、「くぅぅ〜」とお腹の鳴る音が執務室に響きます。
「……こほんっ、ええ、そうですね。時間も遅いですし、みんなで一緒に食事へ行きましょうか。小町のおごりで」
「ちょっ!? なんであたいの奢りなんですか!? 普通、上司が部下に奢るもんでしょ?!」
「おだまりなさい小町。貴方がサボらなければとっくに帰宅できてたのですよ!」
四季様の正論に小野塚さんはぐうの音も出ないようです。もう小野塚さんが奢る事は確定していました。

それから30分後、私たちは中有の道の屋台に並んで腰かけていました。
目の前では屋台の主人が手際よく麺を茹でています。大きな鍋には鶏ガラのスープが煮込まれています。
ここは生前に里でちょっとした話題になったラーメンの屋台です。中でも厚切りのチャーシューは絶品だとか。
「へい、チャーシューメン特盛りに半ライスお待ち!」
ごとんと大きな器いっぱいにチャーシューが盛られたラーメンが四季様の前に出されました。
意外な事に、四季様は小柄な体躯で結構な大食家なのです。庁内の食堂でも定食+デザートはペロリと平らげます。
「あらっ、これは美味しそうですね。ではいただきます」
四季様は嬉しそうな笑みを湛えながら丁寧に合掌すると、割り箸で特盛りチャーシューを切り崩しにかかりました。
「へい、チャーシューメン2つお待ち!」
間を置かずに私の小野塚さんの注文したチャーシューメンが出てきました。量は特盛りの半分ほどでしょうか。
小野塚さんの財布はスッカラカンなのでしょう。チャーシューメンに胡椒を振りながら溜め息をついています。
「はぁ……今月は金欠なのに参ったねぇ……」
「はふはふ……これを機に少しでも反省する事です。もぐもぐ……小町、貴方はサボり過ぎるとあれ程……ずるずる」
お説教をしつつも、汗を額に滲ませながら美味しそうに麺を啜りご飯を頬張る四季様に、私たちは苦笑しました。
何だかんだ言って面倒見の良い閻魔様と、マイペースだけど忠愛のある死神。
素敵な凸凹コンビの下で働く愉快さを噛み締め、私は煮干しの匂いが漂うラーメンを味わいました。

お題:石油

263名前が無い程度の能力:2012/03/24(土) 12:48:34 ID:rbb5KJ260
お題まとめ
香水・無礼講・中二病・米粉・そば・朝露・衣替え
暖の取り方・談話・遅咲きの花・聖夜・穴・石油

264名前が無い程度の能力:2012/11/11(日) 20:52:22 ID:W3UNPllA0
『そば』

蕎麦の旬は晩秋から初冬にかけてである。凩吹く霜月、幻想郷の田んぼでは二毛作の蕎麦が収穫の時季を迎えていた。
収穫した蕎麦の実を天日で干し、石臼で引けば香ばしい風味が漂う蕎麦粉が出来上がる。
あとは新鮮な蕎麦粉を麺にして新蕎麦を頂くだけだ。食事としても酒肴としても価値の高い一品になるだろう。
しかし、そんな新蕎麦を巡って里の外れにある命蓮寺では、ある種の冷戦と称すべき対立が生じていた。
「……………」
「……………」
居間のテーブルを隔てて向かい合うのは、命蓮寺の管理者・聖白蓮と居候・二ツ岩マミゾウ。
マミゾウはいかにも不機嫌さが滲む表情で、丸眼鏡の奥の瞳は鋭利な視線を対峙する白蓮に向けている。
一方の白蓮は柔和な笑みを崩してはいないものの、それは普段の温かさなど微塵も感じられない冷徹な仮面であった。
他のメンバーは、その一触即発の剣呑な様子を恐る恐る遠目に見守っている。
「……ね、ねぇマミゾウ。何もそんなに怒らなくても……」
「そ、そうよ。聖もここは矛を収めて……」
「やかましいぞ、ぬえ。此れは儂と白蓮の問題じゃ……」
「お黙りなさい一輪。今回ばかりは私も笑って済ませられないの……」
それぞれ宥めようと声を掛けた2人に、白蓮とマミゾウは厳しい言葉で仲裁を遮る。
そして、マミゾウがテーブルに肘を乗せ前のめりになって威圧的な口調で白蓮に詰め寄った。
「のぅ白蓮、儂は今日の昼飯は新蕎麦だと言うから楽しみにして天ぷらを揚げておった」
「えぇ、ですからちゃんと此処にみんなで一生懸命打ったお蕎麦があるじゃないですか」
「こんなボソボソした物体の何処が蕎麦じゃ!!」
ダンッとマミゾウが拳で思いっ切りテーブルを叩いた。食器が揺らぐが、幸い引っくり返ることはなかった。
その音に驚いた幽谷響子が肩をビクッと竦ませ、不安げに目を伏せた。他のメンバーも緊張した表情を浮かべる。
「そんなに声を荒げるから、みんな怯えていますよ。このお蕎麦の何処が不満なんですか?」
「蕎麦は布海苔を使ったコシと喉越しの良いツルツルっとした食感が命じゃ! こんな出来損ない、子供の粘土細工じゃ!」
「それは越後のローカルルールではありませんか。これは正当な信州のお蕎麦、海藻なんか入れる亜流とは違うのです」
「なんじゃと!」
「なんですか!」
激流のようなマミゾウの怒号と湖面のような白蓮の反論。睨み合う両者の放つ険悪なムードに、居間全体が重くなる。
「あっ、あのぉ……」
そんな重苦しい空気の中、戦々恐々として挙手したのは毘沙門天の代行代理・寅丸星であった。
「なんじゃい」
「なんです、星」
険しい目つきで星へ視線を移す2人。その眼光にたじろきそうになったが、星は何とか堪えて2人に意見を申し立てた。
「私は蕎麦より饂飩の方が……それにつゆも塩辛くて出汁の風味が全然ないですし」
寅丸星。彼女は熱狂的な阪神ファンにして情熱的な関西人であった。隣でナズーリンが辟易とした表情を浮かべる。
その後、幻想郷を巻き込んで「蕎麦・饂飩異変」が幕を開けるのだが、それはまた別の話。【END】

265名前が無い程度の能力:2012/11/12(月) 00:33:54 ID:tKvm3.160
『衣替え』

「衣替えです、総領娘様」
「……はぁ?」
唐突に言われ、私室のベッドで寝転がりながら雑誌を読んでいた天人の比那名居天子は怪訝な表情を浮かべた。
視線の先には、飄然とした涼しげな表情で微笑む竜宮の使い・永江衣玖が豪奢な綾羅の羽衣を靡かせ正座している。
「……一体全体、何を言い出すのよ衣玖」
「ですから、世間的には衣替えのシーズンなのです」
眉ひとつ動かさず、衣玖は再び同じような主張を繰り返した。天子は気だるそうに起き上がり、眉を顰めて衣玖を見返す。
腰まで伸びたコバルトブルーの髪を掻き上げ、天子は首を傾げながら反論した。
「衣替えって……気候が穏やかな天界では必要ない行為じゃない」
天子の言う通り、夏はやや暖かく冬はやや涼しくなる程度の天界では衣替えなど必要ない。天子は半袖で一年中暮らしている。
「ええ、確かに天界で衣替えの必要はありません。あの異変以来、総領娘様が地上に赴く事も滅多になくなりましたし……」
「だったら別にいいじゃない。片付ける手間がないから楽だs」
「そう、それです!」
天子の言葉を遮るようにして衣玖はビシッと指を突き立て牽制した。その威勢に天子が眼を丸くして少し仰け反る。
「総領娘様はそう言って部屋の片付けをまったくしていないではないですか!? 御覧なさい、この有様を!」
衣玖はそう叫びながら両腕を広げて空間、即ち天子の私室を見渡すよう彼女に促した。
しかし俯瞰するまでもなく、天子の私室は文字通り足の踏み場もないほど散らかっている。
床に四散する下着や衣服、雑然と山積みにされた古雑誌、使いかけの化粧品や果てには菓子の残骸まで無秩序に打ち捨てられていた。
「あぁ〜、衣玖は気ままな独身ライフをフィーバーしているくせにそういう所はきっちりしてるもんね……」
「それとこれとは別問題。兎に角、少しは片付けないと心身ともに衛生的な環境ではありません。ほら……」
衣玖は説教じみたセリフを言いながら衣類の海へ手をまさぐり、するするっとシンプルなデザインの空色のブラジャーを釣り上げた。
「この見栄と虚勢を張って購入したBカップのブラなんか、涙が止まらなくなる……」
「うっ、うるさいわね! ちょっとした見込み違いだもん! これから大きくなるんだもん!!」
顔を真っ赤にしながら天子は衣玖からブラジャーを引っ手繰った。ちなみに天子の適正なサイズはA級の絶壁である。
そんなわけで天子は衣玖に促され、不承不承で久しぶりに部屋の片付けに着手することになった。

――――― 少女清掃中 ―――――

「……ねぇ、衣玖」
「なんでしょう、総領娘様?」
「私たち、部屋の片付けをしていたんだよね?」
「ええ、今も片付けている最中ではありませんか。」
天子の問いに、衣玖はきょとんとした不思議そうな表情で答える。その手にはヘアブラシが握られていた。
「だったら、なんで私がツインテールになってメイド服なんて着てるわけ?!」
フガーッと猫が威嚇するような甲高い声で天子は抗議した。だが衣玖は馬耳東風、いそいそと次の衣裳を見繕っている。
部屋の片付けはいつの間にか、衣玖が発掘した衣類(天子の衝動買いによる)のコーディネートに趣旨が変わっていた。
今、天子が身に纏っているメイド服も彼女自身が特に理由なく買い漁った衣服の一群に過ぎない。
「あぁ、空気を読んで、お題に沿って『衣玖が天子を着せ替えで遊ぶ話』略して『衣替え』ってことでオチを……」
「そんなオチでまとめようとしないでよ!」
「えぇ〜、でもほらこれなんかも可愛らしくて総領娘様にぴったりだと思いますよ。今度は髪を三つ編みにして」
「ふぇ……そ、そう? それじゃ仕方ないわね。私が可愛いのは当然だけど、衣玖がどうしてもって言うなら着てあげるわ」
衣玖の巧妙な褒め殺しでホイホイと着替える天子。結局、部屋の片付けはさっぱり進捗しなかったが、今日も天界は平和であった。

266名前が無い程度の能力:2012/11/14(水) 06:06:01 ID:ZroGS9XAo
いいスレを見つけた。こういうお題があった方が、遊べて面白いぜ。
それでは思いつきで『香水』を。微グロ注意かも?


 ──良い香りだ。ツンときつく感じるが、ほのかな甘さも混じった香り。願わくば全身に浴びてみたい、と思いつつも、さすがにそれは異臭になるか、と思い直す。
 私は鼻歌を奏でながら、手のひらに液体を乗せた。両手を合わせて満遍なく広げる。クシュクシュと摺りあう音。広がる香りが鼻孔をくすぐる。
 香りを楽しみながら入れ物を見る。
 床に転がったそれは、閉じられていない口から液体を溢れさせていた。ついさっき、私が手を勢いよく振った時に倒したのである。
 もったいない。だが、大体いつもこんな感じ。
 少量で十分だとわかってはいるが、この匂いを嗅ぐとつい欲が出る。あと少しあと少し、を繰り返す。最終的には床に倒し、派手にこぼし、手や服はびしょ濡れ。抑えを知らない子供のようだ、と苦笑する。
 もう何度目になるのか、またそれを繰り返した数分前。では数分後はというと、頬を赤くしたメイドが、私に向かって笑顔を浮かべている未来が見える。
 ……ああ、足音が聞こえてきた。物音を聞きつけて、彼女がやってくる。
 私は両手を広げ、情け無い笑顔を浮かべて、彼女を出迎えよう。

「レミリアお嬢さま。私は、何度も申し上げたはずです」
 ほら案の定。
 十六夜咲夜は目端を吊り上げ、私に対して説教をする。床の掃除も服の洗濯も入れ物の始末も、咲夜がやっているのだ。甘んじて受け入れよう。
「お食事の時は、ご自分の許容量を超えないように、と」
 違うわ咲夜。これは食事じゃなくてお化粧よ。
 こう言えば、きっと咲夜は怒り狂う。だから言わないことにした。
「まあ……その、後始末はいつも通り、私にお任せを」
 咲夜の視線は、私の足元に向かう。私は牙を剥き出して笑い、右足を軽く振った。
 床に転がった入れ物の脇腹を蹴り上げ、私に相応しい香水をまき散らさせる。
 ツンと漂う鉄のような臭い。ほのかに混じったかぐわしき香り。うん、やっぱり良い香りだ。
 やはり私は、吸血鬼なのだ。両手を赤く染め、衣服を紅く染め、哀れで愚かな狩人を倒し、喉を潤す。この一連の行為がたまらなく好きなのだ。
 蹴り上げた際に飛び散った血は、床に落ちた。壁を染めた。咲夜の頬に当たった。白いエプロンを汚した。美しい銀の髪に触れた。
「香水を、あなたにおすそわけ」
 私の言葉を聞いた私の大好きなメイドは、私の大好きな香りをまとい、壮絶なまでに美しい笑顔を浮かべた。
 やらなきゃよかったし、言わなきゃよかった。あの時見えた未来は、確実にすぐそばまで迫っている。
 私に学習能力が無いのは、まあ、外見が幼いからということで、大目に見てほしい。
 だって、抑えを知らない子供って、時として可愛く見えるものでしょう?


ごめん。ホラー系統好きだからこうなった。
自分からのお題は、『カウントダウン』で。

267名前が無い程度の能力:2012/11/17(土) 18:56:04 ID:RtzoFuik0
>>264マジレスするとひじりんが封印される前の時代で蕎麦と言えばそば粥とか蕎麦がきで
現代の切り蕎麦は無かったかも
だから蕎麦でマミゾウさんと対立してるところまで読んでてっきり切り蕎麦を期待したマミゾウさんに
蕎麦がきでも出したのかと思ったw

2681/4:2012/11/19(月) 00:30:21 ID:KtuKTfFMO
>>263から『談話』

してやられた。
はたては今さら流れてきた汗を拭うと、大きく息を吐いた。
暑いわけではない。木枯らし舞う季節、いかに気候の安定した地底と言えどもこの地霊殿という建物の空気は当然それなりには冷えている。
よもやつい頭に浮かんだ「文には負けない」という思考を読まれ、付け込まれるとは予想していなかった。
以前文に見せられた写真――月のお姫様が繰り出したとかいう弾幕が、目の前で再現されたのだ。
撮影には成功したが、それでも全く勝った気がしない。
「……負けは負けですよ。さすがですね、降参です」
被写体の古明地さとりは事も無げに言ってのけると、ふわりとホールの床に降り立った。
「取材がご希望でしたね。さ、こちらへどうぞ」
抑揚に乏しい声。さとりは背を向けるとさっさと歩き出した。そのまま置いて行かれる気がして、はたても慌てて降りる。
だだっ広いエントランスホールに二人分の足音が響いては、遙か奥の暗がりに吸い込まれて消える。
例の間欠泉騒ぎで巫女や魔法使いが突入した際には、全速で飛行して最深部まで四、五分かかったという話だ。
規則正しく並んだ床面のステンドグラスが、灼熱地獄跡の光を受けて辺りをぼんやり照らしている。
気温の上昇を感じて、ああ床暖房なのね、夏はどうしてるのかしらなどと考えるはたてに、さとりは先を歩きながら声をかけた。
「この間いらした天狗さんは撮影だけ済ませたら早々にお帰りになりましたけど」
「文はそういう奴なんです。何でもてきとーで嫌になっちゃう」
また有ること無いことでっちあげて記事にするつもりなのだろう。いつものことだ。
「……あなた方は姉妹みたいにそっくりだったり、まるで正反対だったり、面白いのね」
振り返ったさとりが三つの瞳ではたてを見つめていた。

2692/4:2012/11/19(月) 00:33:21 ID:KtuKTfFMO
通されたのはこじんまりした応接室だった。
多めのランプと暖炉の光で、ホールとはうって変わって明るい。
はたてが所在なく重厚な雰囲気の調度品を眺めていると、お茶の用意をしたさとりが戻ってきた。
使用人の類は置いていないらしい。さとりは洋菓子が盛られた皿を並べ、二人分のカップにコーヒーを注いだ。
「どうぞ。さて、」
はたての向かいの席に着くと、さとりは薄く笑ってカップを手に取る。それと同時に膝元に赤黒い毛並みの猫が飛び乗ってきた。
さとりと一緒に入室したであろうその猫は、膝の上で盛大に伸びをすると、くるりと身を丸めた。
「もう、この子ったら。危ないでしょう?……あら、お燐とも遊んでくださっていたのね」
確かにはたては以前このお燐と呼ばれた猫を取材していた。危険な猫だ。
だがそれ以上に自分の思考が間断なく読み取られているらしいという現状にはたては慄然とした。
「……そんなに警戒なさらないで。普段はほんの表層しか読めないんですけど。さっきの弾幕遊びで仕掛けた暗示がまだ効いてるようね」
「いつの間に……」
それらしい素振りがないか、注意はしていた。
「最初から」
お燐の背を撫でながらさとりはにっこり笑った。
「興味や関心が少し表に出やすくなっているだけですよ。取材なさるんですから、むしろ好都合ですわ」
ここではたては腹を括った。開き直ったと言ってもいい。
「それじゃあ聞き取りを開始しますけど」
「ええ、あなたの質問に私が答える、そういう形式でいきしょ」

2703/4:2012/11/19(月) 00:38:21 ID:KtuKTfFMO
#はたての取材ノート(はたてにしか読めない速記文字が並んでいる。極最近まで出番の無かったものだ)
―今般話題の間欠泉センターについて、ご存知のことがあればお聞かせください。
「間欠泉センター、ね。あの施設にそんな呼称を与えるなんて、山の神様はおふざけがお好きなのね」
―やはりあれの建造には旧都も絡んでいる?
「そりゃあねぇ。底面は灼熱地獄跡にまで到達する大深度建造物です。私達に話を通さずにやられたら困っちゃいますから」
―どういった経緯で?
「基本構造は先に山の神様、洩矢様でしたっけ? が作ったらしいのです。事後承諾ですね」
―あー、うん。やりそうなこと…
「それで、地上の河童の皆さんがぞろぞろ入り込んで作業始めたあたりで、これは一度しっかり折衝しておかないと、と」
―どのような取り決めがなされたのでしょう。
「設計は地上の皆さんにお任せしますから、建造と保守管理は土蜘蛛衆で行いたいと私が直接八坂様にお話しました」
―うわぁ強気。
「こちらとしても勇儀さん…鬼の差配で進めてることにしないと御山の過剰な干渉だって意見、収まらないんですよ」
―地底で勝手は騒動の火種になると。守矢神社はあくまで御山の技術革新だ、と喧伝していますが。
「先進の技術がかなり投入されていることは確かです。結局融合炉は河童の皆さんの手を借りないと運用できないのが現状ですし」
―底部に設置されているという機械ですね。詳しくお願いします。(ビンゴ! の文字が乱雑に二重線で消されている)
「……慌てなくても結構ですよ……ああ、お空にもお会いになっているのね……それで察しがついたと」
―いや、まあ…ははは。間欠泉のためとすると大仰過ぎる力だなぁって。
「お考えの通り、熱水を吹き上げるのは二次的な機能にすぎません。あれの実態は核融合による実験炉です」
―本当の目的は何なのでしょう。
「八坂様曰く新たな生活基盤エネルギーの創出、そのための実験だそうです。……かなり情報が絞られているようですね」
―河童に直接取材してものらりくらり…箝口令でも出てるようで。
「それがあの方達のやり方みたいです。この件に関しては運用が軌道に乗ったら大々的に発表するのでしょう。守矢主導のエネルギー革命って」

2714/4:2012/11/19(月) 00:44:55 ID:KtuKTfFMO
―地上の人妖の生活に大きな変化をもたらすような計画が密かに進行しているわけですね。
「地上の? 私達地底の者にとっても、ですよ。ですからあのまま座視はできなかった」
―実用化に際しては恩恵に与ると?
「それはもう当然に。立地や建造以前に、炉心そのものが古明地家の物ですから」
―核融合の力は守矢二柱の物だと伝え聞いていますが。
「いいえ。お空はうちの地獄鴉、古明地家の人工太陽ですわ。断じて守矢の実験炉ではありません」

地上に戻る頃には陽は沈み、彼方の山の端を赤く染めるのみとなっていた。
風は冷たい。天蓋の上層に広がる雲が千切れながら走っていく。明日は一雨くるかもしれない。
はたては中空に静止すると、髪を靡くに任せながら今回の取材を反芻していた。
お世辞にも上手くいったとは言えない。聞き出すというよりは、一方的に押し付けられたようなものだ。
それでも、無駄であったとは思わなかった。
あの談話が事実であれ虚構であれ、相手は何故あのような話をしたのかを慎重に見極める必要がある。
大天狗に報告するか、独自に記事にするか、傍観に徹するか…どれを期待され、私はどうするのだろう。
「中立公平清く正しい射命丸、か」
はたては文のモットーを思い出して苦笑した。なるほど、だからこそ事実としての写真とどうでもいい憶測のみで紙面を構成するのだろう。
それと共に地霊殿のホールでさとりに言われたことも脳裏に浮かんでくる。
(――姉妹みたいにそっくりだったり、まるで正反対だったり――)
何故、文の後追いになるのを承知でこの取材行を始めたのか。
思考を打ち切ると、はたては妖怪の山へ向けての飛行を再開した。
もう夜回り組の目敏い白狼天狗に見つかっているだろう。いちいち詮索されるのも面倒だ。はたては速度を上げた。


長々すまぬ。お題追加『硬貨』

272名前が無い程度の能力:2012/11/24(土) 06:32:36 ID:iR2xfLME0
>>268-271 great!

『暖の取り方』

その日、森近霖之助はすこぶる不機嫌だった。霜月も半ばの、凩吹き荒れる肌寒い曇天の昼下がりである。
普段からあまり愛想の宜しくない容貌をさらに顰め、憮然とした表情で頬杖を突いている。
「……なぁ香霖、いつまでそうやって拗ねてるんだよ」
そう話し掛けたのは、彼の顔馴染みの魔法使い・霧雨魔理沙である。
彼女は霖之助とは反対に愉快そうな笑みを浮かべ、声色にも喜悦の調子が混じっていた。
「うるさい、誰のせいでこうなったんだと思っているんだ……」
霖之助はずり落ちそうな眼鏡を煩わしく掛け直しながら、厭味ったらしく魔理沙を睨んだ。
「香霖だって何の疑いもなく食べたじゃないか」
彼の視線を意に介さず、魔理沙はビシッと人差し指を名の通り正面の人物に突き立てた。
一旦は反論しようと口を開きかけたが、その口からは深い溜め息が洩れただけで霖之助は口を噤んで目線を逸らした。
「はぁ……まったく、ちゃんと元に戻れるんだろうな」
霖之助は再び溜め息をつきつつ、自身の手をじっと見つめた。青年の手にしてはあまりに小さい、幼児のような手を。
比喩ではなく、将に霖之助は今現在『幼児』になっていた。年齢にして5〜6歳と言ったところか。
原因は勿論、目の前にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている金髪の少女にある。
彼女が持参した毒キノコを、昨晩不覚にも警戒せずに食べてしまったからだ。その結果が肉体の『幼児化』だった。
「ふふっ、にしても子供になった香霖はなかなか可愛いじゃないか。私を『お姉ちゃん』と呼んでも良いんだぜ?」
「お寒い冗談は止してくれ……」
「いやぁ、でも流石『年の数茸』だぜ。噂通り、キノコのサイズ通りの年齢になった……ハックション!」
自身の収穫したキノコの成果を満足げに語っていた魔理沙の言葉は、少女らしからぬ豪快なくしゃみによって中断された。
「うぅ〜、そういえば今日はやけに冷えるな……」
「あぁ、ストーブを点けていないからね」
そう言って霖之助は壁際に鎮座する古めかしいダルマストーブを一瞥した。それを聞いて魔理沙が不満な声をあげる。
「えぇ〜、なんだよ早くつけてくれよ。寒くて仕方ないぜ」
店内の温度計は10℃を示している。霖之助も出来れば火を熾したい所だったが、魔理沙の言う通りに動くのは癪だった。
「いやだね。こんな身体じゃあ、動き回るのも億劫だよ」
霖之助はブカブカになった自分の衣服を手繰り寄せて身を固めた。何重にも衣類を巻いて、民芸品の人形のようだ。
「むぅ、なんだよケチ」
魔理沙はストーブの点け方を知らない。しばらく腕を組んで考えていたが、ふと何か思いついたのかドタドタと土間に上がり込んだ。
怪訝な表情で霖之助は彼女を見送る。すると、魔理沙は春秋用の薄手の毛布を一枚抱えて戻って来た。
「なんだ魔理沙、押入れから引っ張り出してきたのかい。それだと防寒には心細いと思うが……」
「へへっ、だからこうするのさ」
霖之助の指摘に対して、魔理沙は毛布を羽織るとそのまま霖之助を抱きかかえて近くの椅子に腰を下ろした。
いくら身体が幼い子供になったとは言え、魔理沙に軽々と抱きかかえられてしまった事に霖之助は眼を丸くしている。
「おぉ、あったかいぜ。やっぱ子供って体温高めだからな、人間カイロの出来上がりだ」
茫然としている霖之助を魔理沙はしっかりと両腕で抱き締める。今の霖之助では少女の抱擁すら容易に振り解けないだろう。
ぴったりと密着しているせいで、霖之助の身体へ魔理沙の柔肌の感触、少し膨らみ始めた胸の柔らかさが伝わっていく。
少女特有の甘い香りが毛布の中に籠る熱で温められ、沸き立つように霖之助の鼻腔をくすぐった。
ずっと年下である少女の膝の上に乗せられ抱き締められている気恥ずかしさで霖之助は押し黙った。顔は心なしか赤らんでいる。
だが、同時に彼は懐かしさと安らぎも感じていた。それは、母の御胸に抱かれた記憶が遙か遠い昔となった彼の感傷だ。
「………まぁ、こんな日もあって良いのかもしれないな」
少女の温もりに包まれながら、霖之助は不機嫌だった表情を少し和らげて静かに眼を閉じた。
「んっ、香霖寝るのか? じゃあ、私も……おやすみ」
そう言って魔理沙もまた眼を閉じ、自分に身を委ねる霖之助の身体を優しく抱きとめた。
冬が始まる。厳しい寒さを乗り切るには、文明の利器よりも人肌の温もりの方がいいのかもしれない。【FIN】

273名前が無い程度の能力:2013/01/01(火) 17:21:08 ID:F/F5j4Hc0
>>202より、コイン+さとり+賭け+白蓮+眼鏡+しみじみ+お茶+シリアス。
一年越しだとかその間にお題が既に消化されているだとか一部お題を曲解しているとか、
いろいろ問題はありますが、一つよしなに。

「alternative」

 池にいつかの巫女の姿は無かった。その代わり、真白い蓮の花が咲いていた。
 僕は池のほとりに座って、金貨をポケットから取り出した。それを、宙めがけて思い切り親指ではじき上げた。
(表が出たら実行する、裏が出たらやめておく)
 そう自分に言い聞かせつつ、もう何回同じことを繰り返しただろう。表が出てはやり直し、裏が出てはやり直し。
(まったく、これじゃあコイン占いの意味が全然無いじゃないか)
 心中自分に文句を言って、地面に落ちたコインを確かめもせずポケットに戻した。
 僕達八人がこの楽園に迷い込んでから、もう二年が経とうとしている。
 楽園は僕達に、立派なお屋敷と肥えた畑、そして衣食の蓄えを与えてくれた。ご丁寧に、庭の井戸はたっぷりと清水を湛えていて、辺りの森は山の幸の宝庫だった。これで何不自由ない暮らしを送れる。そう言って皆喜んでいた。
「こうして三度のご飯にありつけて、おいしい紅茶までいただける。それが一番幸せなことだよ」
 口を開けばシニカルなジョークばかりのあいつが、真面目な顔をしてそう言った。
「ああ、もう危ない真似なんかしなくていいんだ。なんてありがたいんだろう」
 理屈屋のあいつが、眼鏡をずらして涙をぬぐいながら、しみじみそう言った。
 確かにあいつらの言う通り。これからは活計[たつき]に事欠くことはない。今までのような無茶をする必要もない。それはきっと、素晴らしいこと、感謝すべきことなんだ。でも、僕はそんな気持ちになれない。何かが足りない、満たされない。
(何が足りないんだろう、一体何が……?)
 考えながら、蓮の花を見遣る。清らかな純白の花。清浄という徳目が花となって咲いたような、穢れ無い美しさだ。
(確かに美しいよ。でも、あの巫女程じゃない)
 僕が魅せられたのは、そう、あの巫女の舞。まるで二色の蝶のように、白い袖で空を裂き、真紅の裳裾を鮮やかにひるがえして舞う、紅白の巫女だ。
(どうしてなんだろう。あの巫女にあって、この蓮に無いものって……?)
 目の前に咲く蓮と引き比べようと、巫女の舞姿を追憶した。脳裡に結んだ幻像を凝視する。白い蓮、紅白の巫女、真紅の裳裾、その鮮やかな赤い色。遠ざかってしまったその色が、妙に懐かしい。
(……ああ、そうか)
 天啓のようにひらめいた。
 赤の色。刺激的で、焼けつくように甘美で、享楽と罪業にまみれた色。
 それは、二年前までの僕らそのものじゃないか。僕は、そんなかつての暮らしが恋しかったんだ。
 安逸に浸る仲間達にとけこめず、けれど自分が何を求めているかも分からなかった。分からないから、現状を壊せないまま、徒に逡巡ばかりを繰り返していた。だが、もう迷いはない。
 これは賭け。しかもすこぶる分の悪い賭けだ。なにしろ、自ら仲間と楽園――約束された安楽とを捨て去るのだ。でも悪くない。そんな鮮烈な刺激を求めて、僕は生きているのだから。
 もう一度金貨を思い切りほうり上げた。表が出たら実行、裏が出ても実行。落ちたコインをやはり確かめずにポケットに戻すと、僕は立ち上がって歩きだした。

274名前が無い程度の能力:2013/01/01(火) 17:30:08 ID:F/F5j4Hc0
連投失礼。>>202より和歌+ネタ。
不比等は俺のy(ry……嘘です。本当はもう少し輝夜を前面に出そうとして失敗しました。

「pleasure」

「私と恋をしませんか?」
「およそ自分が袖にした男に対して言う科白ではありませんね。今度は一体何を企んでいるのです?」
 招かれざる客が浮かべる天女の如き微笑みを、私は能う限りの渋面で出迎えた。突如私の私室に現れたのは、姿形だけ見れば完全無欠なる麗しの姫君。かつての私の求婚相手だ。ちなみに、彼女を邸に招じ入れた覚えなど、私には一切無い。まったく、我が家の警衛共は何をしているのか。
「ご挨拶ね。最近、歌に凝っているの。だから、その題材作りのためにね」
「歌、ねえ……」
 聞く限りでは人畜無害なことを考えているようである。だが、この姫はかつて人間の成長が云々というよく分からない理屈で国家規模の事件を引き起こしかけている。油断はならない。
「ほら、私が『野守は見ずや……』とやったら貴方が『妹が憎くあらば……』っていう風にね」
「あれは空想によって作ったものなのだから、何も実際に恋をせずともよいでしょうに」
「気分の問題よ、気分の」
 話に怪しい点は無い。歌詠みに入れ込んでいるだけなら大した害もあるまい。少々傍迷惑ではあるが。
「どうやら、本当にただ趣味として歌の題材探しをしているだけのようですね。天下国家に仇なさんという訳ではなくて」
「どうやって歌で国家転覆を謀るのよ。あ、歌の才でもって帝をたぶらかして宮中を牛耳る、とか?」
「それは良いことを聞きました。早速我が娘にも歌の素養を身に付けさせましょう」
 それでは今から、とばかり立ち上がり、姫を無視して部屋を出た。彼女が何か物騒なことを目論んでいるのでなければ、私がこれ以上彼女にかかずりあう理由は無い。
「つまらない。いいわ、朴念仁を何とか振り向かせようとする片思いの女の子の歌でも詠んでいるから」
 はいはい目的達成慶賀の至りと気の無い返事を振り向きもせず返して、さっさとその場を後にした。

 警衛の頭の者を一通り叱って自室に戻ろうとしたところで、娘に呼び止められた。
「お父様、わたくし、歌を詠みましたのよ。聞いて下さいまし」
 巷で流行ってでもいるのか、今日はよくよく歌に付き合わされる日である。しかし、さっきの話ではないが、やがて成長の暁には宮中に上がる可能性もある娘が、歌の一つも碌に詠めないようでは話にならない。
「うむ。しっかり修練しなさい。お前は――」
「それで、今宵は月がとてもきれいでしたから、それを初めに詠み込んで、それから……」
 私が話しきらないうちに、娘は勢い込んで自作の歌の説明を始めた。得意気な顔をして、目を輝かせて喋っている。
 娘は、楽しんでいるのだ。
 ――お前はいずれ、帝の妃になるのだから。
 そんな父の思惑などお構いなしに、歌を詠むことそれ自体に、胸を弾ませているのだ。
 少し、娘をうらやましく思った。それから、今頃片思いの歌とやらを詠んでいるであろう、あの姫のことも。
「前栽の秋草が大層おもしろう咲いていましたので、それをですね……」
 娘の講釈はまだ終わらない。
 久しぶりに、私も一首詠んでみようか。題材は――そう、かつて喧嘩別れした女性が今更恋しくてならない、情けない男の心持ちでも。

275名前が無い程度の能力:2013/01/04(金) 07:50:06 ID:0/8oYg3A0
>>273-274 寂寞とした雰囲気が素晴らしい

お題まとめ
無礼講・中二病・米粉・朝露・硬貨
遅咲きの花・聖夜・穴・石油 ・カウントダウン

276名前が無い程度の能力:2013/01/20(日) 03:46:31 ID:0gyoUVHA0
お久しぶりに場所をお借りします。
リハビリな上、旧作であり、少々自己設定込ですがご了承頂ければ。

お題:硬貨



「銭をばらまくなんて、随分と豪勢なのね」
 振り返ると、金髪の少女が木にもたれ掛かっていた。
「なんだい、死神エリーが、死神に何か用でも? 」
「元死神、が正しいわ。もう、だいぶ前にやめちゃったからね」
「そりゃ羨ましいね。あたいもさっさと辞めたいね」
「やめてどうするのよ」
「毎日寝て過ごすさ」
 にやり、と笑いかけると、エリーは真面目そうなため息をひとつついた。

「しかし、足元にあるものをお構いなしに投げるあんたに、投げるものについてとやかく言われたくはないもんだな」
「いちいち用意しなくてもいいし、回収しなくてもいいから便利じゃない」
「でも今じゃ、タイル貼りなんだろう? タイル飛ばしたら、後の修理は大変じゃないのかい」
「うっ」
 ちょっと視線を背けるエリー。そんなんだから、霊夢に負けるんだよ、と言いたくなるが、抑えておく。
「で、でも、あなただって、それは変わらないんじゃないの? 第一、渡し死神にとっては、銭なんてなにより大切じゃない。拾い集めるの、面倒じゃないの?」
「あー、それはな。そのままだから、大変じゃないんだ」
「ええっ!」
 エリーは、ずい、と顔を寄せてくる。
「あなたまさか、銭ばらまいて、それそのまんまなの?!」
「あ、ああ」
 その気迫に思わず気圧された。
「あなた、馬鹿じゃないのホント。閻魔に知られたらタダじゃすまないわよ」
「ああ、そりゃもう遅い」
 すでにバレているんだな、これが。そして、たっぷり説教だって食らったさ。
「ああ」
 エリーは、右手で目を押さえてふらついた。死神が目眩とは、本当に体が鈍っているらしい。こんど、風見幽香に通報しといてやろうか。
「ホント、規格外ねあなた」
「だから、あんたに言われたかないよ。フランス生まれの「元」死神さんよ」
 そう、彼女はすべてが規格外だ。フランスからふらふらやってきた討伐専門の死神で、しかも今は死神を辞め、風見幽香の夢幻館で、門番としてのんきに暮らしている。そんな死神が、規格通りだとでもいうのか。
「そりゃ、そうだけど」
 言うと、エリーは少し言葉に困ったようだった。
(続く)

277名前が無い程度の能力:2013/01/20(日) 03:47:09 ID:0gyoUVHA0
(承前)
「どうだい、あんたも、戻ってくるつもりはないのかい? こっちに」
「ないわね」
 即答である。当然だろう。
「なぜだい? 戻ってくれば、あんたはエースになれる。あの比那名居だって、壊滅させられるだろうさ」
「それを、あなたが言うのね」
 エリーの目線は、普段の温和な彼女とは思えないほどに、厳しい色を帯びていた。まさに、死神。
「そうやって、私は何人もの天人を、仙人を、地獄へと蹴り落としてきたわ。文字通り、命を懸けてね。逆に殺されかけたことだって、一度や二度じゃなかった」
 天界に行ったまま、帰ってこない死神というのも、決して少なくはない。死神不足が慢性化しているのも、そういうことなのだろう。
「逆に小町に聞くけれど、そうした果てに、私達はなにを得られるの? 死神である私達は、どうやって救われるの?」
「さて、あたいに聞かれてもねぇ」
 それは、閻魔に聞いとくれ、といったところ。あたいは、首を振る。
「そもそも、曲りなりにも"神"であるあたい達に、何か変化が起こるとは思えないんだな、これが」
「つまり、永遠に殺し続けると?」
「それは違う。閻魔に言わせれば"救い続ける"だ。天人や仙人の魂を、な」
「殆ど変わらないわ」
 そりゃそうなんだが、是非曲直庁では"そういうことになっている"。
「私はね、幽香さまの所で初めて平穏を得られたの。"戦うの久しぶり"なんて思わず叫んだ時には、自分でも驚いたわ。この私が、それほど戦闘してなかったなんて、死神やってた頃からしたら、ありえなかったもの」
「そりゃそうだな」
「私は、そういう場を与えてくれた幽香さまに感謝しているし、そういう場所から出ていくつもりは、さらさら無いわ」
 決意が、その言葉には重く染み込んでいた。
「まして、あいつらは、幽香さまに"長く生き過ぎた"なんてふざけたことを言ったのよ」
 それは、私も知っている。別に映姫さまが、悪意を以て述べてはいないことも、知っている。閻魔というのは、私情とは関係なく、正しいことを言う。あたいらとは、根本から違うものなのだ。
「そんなところに、戻りはしないわ」
「そうかい」
 あたいは、ほっとした。
「ま、あたいも本当にあんたに戻って来い、とは言わないよ」
 あたいだって、うんざりしているのだ。死神というやつに。
「そうでもなきゃ、わざわざ銭なんて投げないさ」
 そう、銭を投げるのは、ささやかなる抵抗、ちょっとした憂さ晴らし。
 別に、映姫さまに恨みがあるわけじゃない。映姫さまには良くしてもらっているし、なんだかんだと目を掛けてもらっていることはあたいだってわかっている。でも、それを知っていてもなお、閻魔や是非曲直庁に対しては、やはりいろいろ考えざるをえないのだ。
「え?」
 だから、閻魔の連中や、是非曲直庁への、ちょっとした意趣返し。連中が何よりも価値を置き、かつ集めるもの。それが、この硬貨だ。そういう、最も大切なものを投げてやる。豪勢に散りばめて、そのまま打ち捨ててやるのだ。渡し死神のあたいには、それくらいしかできない。
 だから、あたいはいつまでも銭を使ってやる。


 困惑して立ち尽くすエリーを他所に、私はしばらく昼寝をすることにした。



  了

278名前が無い程度の能力:2013/02/05(火) 17:48:06 ID:Lbz/oE5o0
お題:けねもこ ※しかし、妹紅は受け。其処は何が合っても譲れない。
お願いします。

279名前が無い程度の能力:2013/02/06(水) 00:56:26 ID:GF7igMvE0
>>275
>>273-274の者だけど、遅ればせながら、感想ありがとう
そしてまとめ乙です

280名前が無い程度の能力:2013/04/29(月) 14:06:27 ID:KMlUlD2k0
保守

2811/2:2013/06/23(日) 23:31:50 ID:VcR/E8FY0
お題【穴】【けねもこ】

「……ぅ、…こう、妹紅!」
「!? わぁ、なんだよ慧音」
藤原妹紅は耳元に響いた大声に慌てて振り返った。
振り返った先には上白沢慧音が不機嫌そうに腕を組んで妹紅を見詰めている。
「なんだよじゃない。人が何度も呼んでるのに無視するなんて……」
「えっ……? そ、そうか悪い。聞こえなかったよ……」
慧音の窘めるような口調に、妹紅は頭を掻きながら詫びた。
だが慧音は尚も不満そうな表情を浮かべ、ぐいっと顔を妹紅の耳元まで近づけた。
「な、なんだよ慧音……」
「妹紅、お前は普段から髪で耳を隠しているが、耳掃除はちゃんとしているのか?」
千年以上生きる蓬莱人の妹紅にすら慧音は寺子屋の生徒を叱る時と同じ態度で接する。
それは不老不死という業を背負った妹紅にとって距離の近しい、それでいて心地良い間合いだった。
「えっと……私は耳をいじるのはあまり得意でなくて……」
「むぅ、それはいかん。きちんと耳掃除をしておかないと音が聞こえなくなるぞ」
歯切れの悪い妹紅の釈明に慧音はそう断言すると、半ば強引に腕を引っ張り妹紅を畳に横たわらせた。
こうなれば妹紅は到底敵わない。妹紅は慧音の膝に頭を乗せ、されるがままになっている。
「んぁ……慧音、くすぐったい」
耳を隠している髪を掻き上げられただけで妹紅はくすぐったそうに身を捩った。
「少し我慢しろ……うわっ、なんだこれは!? 垢で耳の穴が塞がりかけているぞ!」

2822/2:2013/06/23(日) 23:33:00 ID:VcR/E8FY0
灯りを手元に寄せて妹紅の耳の穴を見た慧音はあまりの惨状に思わず叫んだ。
妹紅も慧音の言葉に目を丸くした。まさか自分の耳がそこまで非道い状況だとは思っていなかった。
と同時に、妹紅はいくら信頼する慧音の手とは言え他人に耳をいじられるのが少し怖くなった。
「け、慧音! やっぱり今回は勘弁して……」
「いや駄目だ。これは大仕事だな……いくぞ妹紅!」
臆病風に吹かれた妹紅の言葉など耳を貸さず、慧音はもう母性全開で耳掃除に熱中していた。
毛玉が付いた竹製の耳掻き棒を慧音は慎重に妹紅の耳の穴に挿入していく。
「ひゃぁあ!? みみぃ……はいってるぅ……」
Jの字になった棒の先端が耳の壁に触れただけで妹紅の背筋にぞくぞくと電流が走る。
「んあぁ……あぁん……はぁぁん……」
手で口元を押さえ、妹紅は身体を小刻みに震わせながら必死に快楽に耐えていた。
棒の先端が穴の奥に潜む耳垢を掻き出す。何度が先端で突っつき、慧音はなんとか耳垢を引き剥がした。
その掻き出す時の圧力と、コリコリと穴の中で響く音が妹紅の快楽を余計に昂らせる。
もう妹紅は瞳は熱っぽく潤み、銀色の長髪は乱れて汗ばんだ額に張り付いている。
ゼリーのように湿った唇は半開きで、悩ましげな嬌声が甘い吐息と共に漏れていた。
そんな快楽攻めに身悶える事約5分。粗方の耳垢をちり紙に掻き集めた慧音が満足げに頷いた。
「よし、これで綺麗になったぞ」
「はぁはぁ……やっと終わったの……?」
慧音の膝枕に横たわったまま、もうノックアウト寸前の妹紅は弱々しく慧音に尋ねた。
「いや、このぽわぽわで細かい耳垢を取り除けば片耳は終わりだ」
「えっ……いや、ぽわぽわはいやぁ〜!!」
棒の反対側についている綿の毛玉で優しく耳の穴や耳たぶを愛撫され、妹紅の身体がビクビクと跳ねた。
その後、妙に肌のつやつやした満足げな慧音のおかげで妹紅の耳の聞こえは良くなったそうだ。【終わり】

283名前が無い程度の能力:2013/08/11(日) 14:28:04 ID:o81nE0Vs0
>>275 遅咲きの花

彼女の身体で一番好きな部位を挙げるとするならば、私は迷わず彼女の手を選ぶ。
雪のように色白な手。しなやかな指はとても器用に動いて、得物のナイフを演武のように扱っていた。
そして、銀色のナイフよりも目を惹く薄紅色の爪。私が彼女に「しっかり磨きなさい」と躾けた身だしなみの一つだ。
彼女はその言い付けを遵守し、いつもヤスリで丁寧に磨いていたのを私は知っている。
だから、こうして横たわっている彼女の生気を失いつつある手を握っていると、その儚さに胸が痛んだ。
オパールのように輝いていた薄紅色の爪も今は乳白色に濁り、指先は逆剥けと罅割れてが生じていた。
「咲夜……」
私は聞こえるかどうか分からない幽かな声で咲夜に呼びかけた。重たげに瞼を開いた咲夜の群青色の瞳に、光は宿っていない。
ある日、突然病に倒れた咲夜。決して逃げる事の出来ない「死」の影が、彼女の運命を蝕んでいた。
いつも冷たい咲夜の手が、今はさらに氷のように冷たい。
『手の冷たい人間は、心が温かいのですわ』
昔、咲夜が云っていた言葉が思い出される。咲夜の嘘つき。貴女は冷たい。私を置いてあの世へ逝こうとしている。
どうしようもない宿命に私は思わず強く咲夜の手を握った。痛かったのか、咲夜が辛そうに顔を顰めた。
「あっ、ごめん……」
慌てて離れようとする私の手を、咲夜が縋り付くように握り返した。その握力の弱々しさに、私はハッと咲夜の顔を見つめた。
「いいのです、お嬢様……痛いと言うのは、まだ生きている証ですから………」
そう云って微笑む咲夜の額には玉のような脂汗が滲んでいる。呼吸も苦しげで、もう彼女が長くは持たないと私は悟った。
痛みがあるからこそ、苦しみがあるからこそ、生きていると実感できる。負の感情への不感症は、死んでいると同義だ。
ならば、私は……

284名前が無い程度の能力:2013/08/11(日) 14:28:41 ID:o81nE0Vs0
「咲夜、私の手に爪を立てて。私が咲夜と一緒に生きているって証を見せて……」
一瞬咲夜は困ったような哀しい表情を浮かべたが、すぐに私の要求に応えた。
小刻みに震える手。崩れてしまいそうなほど弱い握力で、それでも綺麗に磨かれていた爪が私の皮膚の表面を切り裂いた。
紅い血が一筋、私の手の甲を伝ってシーツに滴り落ちる。それは雪原に咲く薔薇のように鮮やかだった。
『私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きている間は一緒にいますから』
かつて不老不死の人間と対峙した時、不老不死になってみないかと言った私に咲夜が答えた言葉が頭の中に響き渡る。
あの時、私の言葉は冗談半分だった。まだ咲夜の背後に「死」の影なんて視えていなかったから。
だけど私は不思議と後悔していない。今、こうして咲夜と痛みと苦しみと生きている実感を共有できた瞬間が嬉しかった。
花は咲いた瞬間、後は萎れて枯れて散る運命だ。そうだ、私たちの主従関係はこれまで青い蕾だった。
それが咲夜の死に際に高らかに咲き誇った。今この瞬間、私たちは確かに絶対的な絆で結ばれていた。
「愛しています、レミリアお嬢様……」
それが咲夜の遺した最後の言葉だった。嗚呼、遅咲きにもほどがある。私は力を失った咲夜の手をそっと自分の頬へ触れさせた。
冷たい手の平。私のために紅茶を淹れ、ナイフの弾幕を扱い、優しく頭を撫でてくれた手。私が愛した咲夜の手。
「バイバイ、咲夜」
穏やかな表情で永久の眠りに就いた瀟洒な従者へ、私が手向けた餞別の言葉は簡素だった。
バイバイ、咲夜。今やっと花開いた貴女との絆、貴方と過ごしてきた掛け替えのない時間は、このレミリア・スカーレットが死ぬまで咲き誇り続けるでしょう。【END】


きっと咲夜さんの手はお嬢様の涙で濡れていたと思う。

お題:お茶(種類を問わず)、剃刀、夏の終わり、ブランコ

285名前が無い程度の能力:2013/08/23(金) 22:38:19 ID:IO5HaAKk0
>>275 石油

開け放った窓から風が吹き込み、手元の灯りが明滅した。見上げると、ランプの炎が静かに揺らいでいる。
私は薬のデータを書き留めていた手を休め、愛用の万年筆を机の上へ置いた。時刻はもう午前二時を回っている。
この薬品臭い診療室が私の仕事場であり、個室でもある。窓の外は淡い月明かりに照らされて青竹が神経質に震えていた。
凝り固まった腰をほぐすように私は立ち上がり、窓辺まで歩いて行った。風は涼やかで、秋の気配がすぐ近くまで感じる。
この夏は熱中症の患者が多かった。幻想郷は42℃という最高気温を記録し、人間はもとより妖怪や妖精までへばっていた。
屋敷に住む妖怪兎たちも過半数がダウンし、弟子の鈴仙まで目を回した。あの子もまだまだ修行が足りないようだ。
ふと強い風が舞い込み、部屋の中で渦巻いた。バインダーに固定された書類がバサバサと音を立てている。
「んっ……ぅん」
紙の擦れる音が耳障りだったのか、机の真向かいにあるベッドの上で眠っていた人影が寝返りを打った。
揺らぐランプの炎で艶やかな黒髪が照らされる。真っ白なシーツに散るその黒髪は水墨画のように幽玄だった。
この永遠亭の姫君・蓬莱山輝夜が私の寝台を占領するのは、決まって藤原妹紅と一戦を交えて帰ってきた日の事だ。
服装は血と泥で塗れ、ほとんど炭化している。私は輝夜がベッドに辿り着いた直後に衣服を脱がして床の隅に置いておいた。
蓬莱の薬で瑕疵ひとつない、玉のような色白の肌だ。長い睫毛の刷いた瞼、薄紅色の唇。その寝顔は見蕩れるくらい可憐だ。
「……すぅすぅ」
私は肌蹴る輝夜の裸体にそっとタオルケットを掛け直した。華奢な四肢がランプに照らされ、小さな寝息が聞こえてくる。
ランプは石油を燃料にしているから炎は安定している。何億年前の生物の死骸で生成された『燃える水』。
私はふと、その石油の原料となった生物たちを偲ぶ気持ちになった。彼らが生まれるのを私は月から見届けているのだから。
輪廻から外れた不老不死の業を背負う者。石油どころか腐葉土にすら成れない逸脱者。それが私たち蓬莱人だ。
生きている者が死んでいく儚さを美しいと思うのは、不老不死の驕慢だろうか。私はそう思い少し苦笑する。
この診療室で、どれだけ多くの生命の終わりを見送ってきただろう。死の影を見つめる為に私は医者の真似事を始めたのだ。
死の影を哲学的に思う時、石油ランプのオレンジ色の灯火を通じて太古の生物たちすら愛おしく感じられる。
平和とは現状維持と同義だ。しかし、私たちの平和は光陰矢の如く過ぎ去り、容赦なく変質させるだろう。
終わりのない私たちを置き去りにして、見知った者たちの人生が終わっていく。それは妖怪でも同じ宿命だ。
私は最近、不老不死が自分だけだったらと仮定した世界を考えてしまう。輝夜が傍にいない世界を想像してしまう。
「輝夜……」
おもむろに私は眠っている輝夜の頭をそっと撫でた。絹糸のような髪の肌触りが、36.5℃の温もりが、確かに掌へ伝わる。
石油が切れかけているのが、ランプの炎は徐々に燻り始めた。そのまま炎が自然に消えるのに任せて今日はもう眠ろう。
私は大して広くないベッドに横たわり、そっと輝夜を抱きしめた。不変と言う浅はかな願いを込めて、私は目を閉じた。【了】

お題:かがり火 逃げ水 宿り木

286名前が無い程度の能力:2013/10/15(火) 15:09:15 ID:P0rOaYUQ0
ageついでにお題投下
「台風」「不作」「おみくじ」「ベッド」「買い物」「衣替え」「勝負」「風物詩」「流行り」「天気予報」
「来年やってみたいこと」「少女の嗜み」「好み」「劇場」「下剋上」「片付け」

とりあえず話題だけ投げておきます

287名前が無い程度の能力:2013/10/15(火) 16:34:28 ID:uZjHBbjM0
>>278ですが、>>281-282さん
ありがとうございます!!
情景描写が詳しくて素晴らしかったです。感想が遅れてすみませんでした。

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292名前が無い程度の能力:2014/04/13(日) 00:20:15 ID:1xY9johI0
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