したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

283名前が無い程度の能力:2013/08/11(日) 14:28:04 ID:o81nE0Vs0
>>275 遅咲きの花

彼女の身体で一番好きな部位を挙げるとするならば、私は迷わず彼女の手を選ぶ。
雪のように色白な手。しなやかな指はとても器用に動いて、得物のナイフを演武のように扱っていた。
そして、銀色のナイフよりも目を惹く薄紅色の爪。私が彼女に「しっかり磨きなさい」と躾けた身だしなみの一つだ。
彼女はその言い付けを遵守し、いつもヤスリで丁寧に磨いていたのを私は知っている。
だから、こうして横たわっている彼女の生気を失いつつある手を握っていると、その儚さに胸が痛んだ。
オパールのように輝いていた薄紅色の爪も今は乳白色に濁り、指先は逆剥けと罅割れてが生じていた。
「咲夜……」
私は聞こえるかどうか分からない幽かな声で咲夜に呼びかけた。重たげに瞼を開いた咲夜の群青色の瞳に、光は宿っていない。
ある日、突然病に倒れた咲夜。決して逃げる事の出来ない「死」の影が、彼女の運命を蝕んでいた。
いつも冷たい咲夜の手が、今はさらに氷のように冷たい。
『手の冷たい人間は、心が温かいのですわ』
昔、咲夜が云っていた言葉が思い出される。咲夜の嘘つき。貴女は冷たい。私を置いてあの世へ逝こうとしている。
どうしようもない宿命に私は思わず強く咲夜の手を握った。痛かったのか、咲夜が辛そうに顔を顰めた。
「あっ、ごめん……」
慌てて離れようとする私の手を、咲夜が縋り付くように握り返した。その握力の弱々しさに、私はハッと咲夜の顔を見つめた。
「いいのです、お嬢様……痛いと言うのは、まだ生きている証ですから………」
そう云って微笑む咲夜の額には玉のような脂汗が滲んでいる。呼吸も苦しげで、もう彼女が長くは持たないと私は悟った。
痛みがあるからこそ、苦しみがあるからこそ、生きていると実感できる。負の感情への不感症は、死んでいると同義だ。
ならば、私は……


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板