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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

252名前が無い程度の能力:2011/12/11(日) 17:33:03 ID:yy3FGHag0
>>236 >>249
「散歩」 「妖怪の山」 秋姉妹


「ねぇ、散歩に出掛けない?」
姉に誘われたのは、師走の気だるい午後の事だった。
炬燵に入り、今まさに剥いたばかりのみかんを口に運ぼうとしていた私は、ぽかんとした表情で姉の方を向いた。
姉はいつもの赤いワンピースの上にクリーム色のダッフルコートを着込み、浅黄色のマフラーと手袋を装備している。
「散歩って……こんな寒い日に?」
「寒い日だからこそよ」
そう言ってニッコリ微笑んだ姉の腕には、私のコートとマフラーが抱かれている。
姉は周囲のイメージとは裏腹に、頑固者で融通が効かない。私が嫌だと言っても聞く耳など持たないだろう。
これから豆炭炬燵で足元を温めつつ、箱根駅伝のガイドブックでも読もうと思った私の午後は水泡に帰した。
「はぁ……しょうがない、付き合ってあげるわよ」
「ふふっ、それでこそ私の妹神よ」
重い腰を上げ、私は姉から差し出されたコートを羽織って支度した。マフラーと手袋は姉が編んだ手製の品だ。
姉に促されるようにして私は外に出た。ガラガラと古めかしい玄関の引き戸を開けると、重苦しい曇天が広がっている。
「うぅ〜、寒い!」
秋の涼しさはとうに過ぎ去り、凍てつく冬の寒さが北風に乗って吹き荒れる。
姉が手入れしている自慢の日本庭園も、紅葉が散って寂寥とした印象を受けた。
池で泳ぐ錦鯉の緋色や金色だけが、今の庭に彩りを与えている。
「それで、お姉ちゃんは何処に行きたいの?」
「うぅ〜ん、別に行先は決めてないんだけど……まぁ、取り敢えず南へ」
「……アバウトだなぁ」
行先も決めずに散歩へ行こうと言いだしたのかと私は辟易したが、それも姉に手を掴まれて霧消した。
姉と手をつなぐのは何となく照れ臭かった。だけど、久しぶりに姉の手の温もりを感じる事が出来たのは嬉しい。
私たちはそれから、家でも出来るような雑談を時折交わしながら山道を歩いた。
山はすっかり冬景色に移ろい、単調な色彩に変わっていた。
里に続く道の両端に広がる田園は、刈り終わった稲の株がひっそりと春を待つ。
風が強い。遠く山の稜線から雲が私たちの頭上を追い越し、また遠くの世界へ流れていく。
冬の曇天は、夏の夕立のような急かされる勢いはない。ただ生命の終わりを象徴する鉛の蓋ような重苦しさがある。
夏が苛烈であるならば、冬は冷酷だ。
未熟な青い春は夏の熱病で熟れ、老いた白い秋は冬の寒波で枯れる。そうして四季は廻る。
「……あっ」
「えっ?」
突然に姉が立ち止り、私は蹈鞴を踏んだ。危うく姉の華奢な背中に追突するところだった。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「……見て、穣子」
そう言って姉は天に手を翳した。それに倣って私も鉛色の空に視線を移す。
ゆっくりと、綿のような雪が舞い落ちる。それは幻想郷に訪れた初雪だった。
吸い込まれそうなほど低い空から降る雪が、私の頬を冷たく濡らした。

―――もう秋も終わりだね

そう思った瞬間、私は姉の手が微かに震えている事に気付いた。
ハッとして姉の横顔を見る。姉は天を仰ぎながら、切実な表情で泣いていた。
声を殺し、唇を噛んで、ただぽろぽろと大粒の涙が色白な姉の頬を伝う。
「………お姉ちゃん」
「……ごめん、穣子」
私に声を掛けられて、姉はコートの袖でやや乱暴に涙を拭った。気丈に振る舞う姉の、泣き腫らした容貌が切なかった。

―――秋の心と書いて『愁い』と読むの

かつてそう教えてくれた姉の言葉が思い出される。
ならば、私もまた愁いているのは姉と同じ事だ。私たちは暫く肩を並べ、じっと空を見つめていた。
「……私たち、あとどれ位の秋を過ごす事が出来るんだろうね」
私は姉のか細い手を握り返して、静かに問いかける。その問いに、姉が応える事はなかったけど。
「……冷えて来たわね。人間の里で甘酒でも買って帰りましょう」
「お姉ちゃん、最初からそれが目的だったでしょう?」
「てへっ、バレたか」
苦笑いする姉に脱力しながら、私は静かに歩き始めた。私たちの足跡が、真新しい雪の上に残っている。
厄災の相次いだ今年も半月で終わる。時の流れは残酷に平等に、人々を癒す。
その過程で故郷や信仰が失われても、きっと失われない誇りがあると信じながら、私たちはこれからも人間に祀られていく。


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