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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】
273
:
名前が無い程度の能力
:2013/01/01(火) 17:21:08 ID:F/F5j4Hc0
>>202
より、コイン+さとり+賭け+白蓮+眼鏡+しみじみ+お茶+シリアス。
一年越しだとかその間にお題が既に消化されているだとか一部お題を曲解しているとか、
いろいろ問題はありますが、一つよしなに。
「alternative」
池にいつかの巫女の姿は無かった。その代わり、真白い蓮の花が咲いていた。
僕は池のほとりに座って、金貨をポケットから取り出した。それを、宙めがけて思い切り親指ではじき上げた。
(表が出たら実行する、裏が出たらやめておく)
そう自分に言い聞かせつつ、もう何回同じことを繰り返しただろう。表が出てはやり直し、裏が出てはやり直し。
(まったく、これじゃあコイン占いの意味が全然無いじゃないか)
心中自分に文句を言って、地面に落ちたコインを確かめもせずポケットに戻した。
僕達八人がこの楽園に迷い込んでから、もう二年が経とうとしている。
楽園は僕達に、立派なお屋敷と肥えた畑、そして衣食の蓄えを与えてくれた。ご丁寧に、庭の井戸はたっぷりと清水を湛えていて、辺りの森は山の幸の宝庫だった。これで何不自由ない暮らしを送れる。そう言って皆喜んでいた。
「こうして三度のご飯にありつけて、おいしい紅茶までいただける。それが一番幸せなことだよ」
口を開けばシニカルなジョークばかりのあいつが、真面目な顔をしてそう言った。
「ああ、もう危ない真似なんかしなくていいんだ。なんてありがたいんだろう」
理屈屋のあいつが、眼鏡をずらして涙をぬぐいながら、しみじみそう言った。
確かにあいつらの言う通り。これからは活計[たつき]に事欠くことはない。今までのような無茶をする必要もない。それはきっと、素晴らしいこと、感謝すべきことなんだ。でも、僕はそんな気持ちになれない。何かが足りない、満たされない。
(何が足りないんだろう、一体何が……?)
考えながら、蓮の花を見遣る。清らかな純白の花。清浄という徳目が花となって咲いたような、穢れ無い美しさだ。
(確かに美しいよ。でも、あの巫女程じゃない)
僕が魅せられたのは、そう、あの巫女の舞。まるで二色の蝶のように、白い袖で空を裂き、真紅の裳裾を鮮やかにひるがえして舞う、紅白の巫女だ。
(どうしてなんだろう。あの巫女にあって、この蓮に無いものって……?)
目の前に咲く蓮と引き比べようと、巫女の舞姿を追憶した。脳裡に結んだ幻像を凝視する。白い蓮、紅白の巫女、真紅の裳裾、その鮮やかな赤い色。遠ざかってしまったその色が、妙に懐かしい。
(……ああ、そうか)
天啓のようにひらめいた。
赤の色。刺激的で、焼けつくように甘美で、享楽と罪業にまみれた色。
それは、二年前までの僕らそのものじゃないか。僕は、そんなかつての暮らしが恋しかったんだ。
安逸に浸る仲間達にとけこめず、けれど自分が何を求めているかも分からなかった。分からないから、現状を壊せないまま、徒に逡巡ばかりを繰り返していた。だが、もう迷いはない。
これは賭け。しかもすこぶる分の悪い賭けだ。なにしろ、自ら仲間と楽園――約束された安楽とを捨て去るのだ。でも悪くない。そんな鮮烈な刺激を求めて、僕は生きているのだから。
もう一度金貨を思い切りほうり上げた。表が出たら実行、裏が出ても実行。落ちたコインをやはり確かめずにポケットに戻すと、僕は立ち上がって歩きだした。
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